盗賊と凶星の呼び声 (72)


王とは神の代理人である。

王とは神によって与えられた権威、神によって選ばれた者である。

王とは神聖性、ある種の霊威、超自然的な権威を持つ唯一無二、絶対の存在である。

故に、神以外の何者にも拘束されることはなく、何者もその権威に抗うことは出来ない。

とまあ、このような印象を民衆に植え付けることで、絶対王政を布くことに成功したわけじゃ。

それ故に、王は絶対的な権力を得ることが出来た。長きに渡ってな。


先程言ったように、王とは唯一無二。


しかし、王とて不死ではない。人である以上、死に抗うことは不可能じゃからな。

如何に偉大な王であろうと、それだけは変えられん。何故ならば、死とは神の定めたものであるからだ。

それは普遍であり、あらゆる生命の行き着く先。決して曲げることの出来ぬ摂理、終点。


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ただ、終わりの先にあるものは千差万別。

人は生前の行いにより、稀に神聖性を得ることがある。しかし、王の場合は生きながらにして神聖性を持っている。

そうであるならば王が死んだ時、その神聖性はどうなるのだろうか?

神の代理人たる者、王の死が意味するものとは? 死の先にあるものとは一体何なのか?

それは当時、誰もが抱いた疑問だっただろう。


その王はどうしたのか?


王は絶対的な権力を失うことを恐れ、神から不死の秘宝を授かったと告げた。

それが嘘か誠かは分からんが、権威や支配力を永続させる為のものであることは確かじゃろう。


王はそれを手にこう言った。

余は、神の意志によって新たな力を与た。

例え、この肉体が朽ちようとも、この魂が滅びることはないであろう。

余の魂は、死を超越して生き続ける。王とは不滅にして唯一無二の存在であるのだから……



老人「……とな」

盗賊「ふむふむ。それで、その秘宝って?」

老人「知るかそんなもん。儂には分からんよ」

老人「秘宝については様々な憶測が飛び交ったが、どれも懐疑的なものばかりじゃった」


盗賊「何で?」

老人「その王は近隣諸国を征服し、一代で帝国を興し、時の皇帝となったと言われておる」

老人「この事実を鑑みれば、その当時の権力たるや凄まじいものであっただろう」

老人「しかし、時の経過と共に王権神授説への批判が高まっていった。徐々に、徐々にな」

盗賊「……どうなったの?」

老人「やがて民衆の心に火が付いた。時代が大きく動き出したんじゃ。そうなれば、もう止まらん」

老人「その後は市民革命や何やらで絶対王政は潰え、民衆が王に抱いていた神聖性も失われた」

老人「権威が地に落ちたとまでは言わぬが、度重なる戦で領土返還を余儀なくされた」

老人「今や発言権は弱まり、政治的支配力も落ちた。よって、レガリアが存在した可能性は限りなく薄い」


盗賊「レガリア?」

老人「うむ、レガリアとは王者の証じゃ」

老人「本来であれば、主に王冠などのことを言うが、この文献ではもっと特別な物を指しておる」

盗賊「別の物って?」

老人「この文献によれば、王冠などではなく不死の秘宝じゃな。あくまで伝説上のものだろうが」

盗賊「何でそう言い切れるの?」

老人「よいか? 不死の秘宝などというレガリアが実在したのなら、王権神授説に異を唱える者など現れはしない」

老人「絶大な権威も王政も揺らぐことはなく、王は神の代理人として今尚も神聖視されていたはずじゃ」

盗賊「あ、そっか。なるほどね……」パラパラッ

老人「……儂には、不死の秘宝の有無なんぞより、お主の方が疑問でならんよ」


盗賊「僕が? 何で?」

老人「お主のような小僧が、何故に不死の秘宝に興味を持つのかが分からん」

老人「本を読むくらいなら外で遊ぶ方が楽しいはずじゃ。その年頃の男の子なら特にな」

盗賊「何に興味を持つのかは人それぞれでしょ? 僕みたいな小僧でも本くらい読むさ」

老人「……フン、可笑しな奴じゃ」

盗賊「それにしても、お客さんが来ないね。閑古鳥も鳴くのを忘れてるみたいだ」

老人「喧しいわ。ウチには流行りの本など置いとらんから仕方ないんじゃ」

盗賊「そうなの? 珍しい本が沢山あるのに勿体ないなぁ。王都の人は見る目がないのかもね」


老人「……最近は本を読む若者も減った」

老人「革命だ何だと談議しておる奴等もいるが、どいつもこいつも知識人ぶった輩ばかりじゃ」

老人「過去を知らぬ者に歴史を作れはしない」

老人「今の若者は目先の物事にばかり気を取られ、過去から学ぼうとする者がおらん」

盗賊「今に必死で振り返る余裕がないんじゃないの? それが若さってやつなんだよ、多分ね」パラパラッ

老人「………」

盗賊「それか、気が付かない内に色んなものを詰め込みすぎて、心に文字を刻む余白がないのかも」

老人「何を生意気な。乳離れしたばかりの小僧が知ったような口を利きおって」

盗賊「そりゃあ、お爺さんみたいな両親と再会間近のお年寄りからしたら、皆がそう見えるだろうさ」


老人「ケッ、可愛げのない奴じゃな」

盗賊「そっくりそのままお返しするよ。お爺さんも、ちょっとは愛想良くしたらどうだい?」

盗賊「これ以上お客さんが減ることはないだろうけど、稼ぎは増やしたいんじゃないの?」

老人「要らぬ世話じゃ。愛想など振り撒かずとも余生を過ごす蓄えはある」

盗賊「そ~かい」

老人「………何故、此処へ来たんじゃ?」

盗賊「ん?」

老人「此処に来るのは余程の物好きか、古本蒐集が趣味の変わり者くらいじゃ。子供向けの本など置いていない」

老人「儂には、愛想の悪いジジイがやっとる古本屋にお主のような子供が来る意味が分からん」

盗賊「自分のお店をそんな風に言っちゃダメだよ。自慢の本が泣いちゃうよ?」

老人「……そうじゃな」

老人「しかしな、幾ら価値のある書物だろうと、それを読む者がいなければ意味が無いんじゃよ」

盗賊「そんなことはないさ、熱心な読者なら此処にいる。可愛げのない小僧だけどね」ニコッ


老人「(変わった子じゃ……)」

老人「(やけに大人びたことを言ったかと思うと、次の瞬間にはそこらを駆け回る子供と同じように笑いよる)」

盗賊「あっ、そうだ。さっき話してた王様ってさ、結局はどうなったの?」

老人「……さっきも言ったじゃろう。如何に偉大な王だろうと、死に抗うことは出来んとな」

盗賊「じゃあ、死んだってこと?」

老人「いいや、王の死については一切記されていない。おそらく、死という表現を避けているのじゃろう」

老人「王座から立ち上がり神の御許へ向かっただとか、偉大なる王の魂は血脈に刻まれただとか、言葉を濁して書いてある」

盗賊「神様はともかく、血脈かあ……子々孫々、王の権力は受け継がれました。ってことなのかなぁ」

老人「まあ、これを見る限りでは、その解釈に至るのが至極自然じゃろうな」

盗賊「う~ん。血脈、血脈……秘宝ってのは、そこら辺に関係してるのかな」

老人「……何じゃ、やけに拘るな」

盗賊「それはそうさ。だって僕は、その秘宝を狙ってこの都に来たんだからね」


老人「狙って? 何を言っておる?」

盗賊「あれ、言ってなかったっけ? 僕は王の秘宝を盗みに来たんだ」

老人「ぬ、盗むじゃと!?」ガタッ

盗賊「うん、此処に来たのも情報を得る為さ」

盗賊「まあ、あんまり進展はなかったけどね。でも、お爺さんの話が楽しかったから別にいいや」

老人「………」ポカーン

盗賊「お爺さん、大丈夫かい? もしかしてボケちゃった?」

老人「呆けてなどおらんわ! それよりお主、本気で言っておるのか?」

盗賊「盗むって言ったこと?」

老人「そ、そうじゃ」

盗賊「勿論本気さ。僕は不死の秘宝がどんな物なのか見てみたい、この手で触れてみたいんだ」

盗賊「王権神授に不死の王、王家の秘宝、神の贈り物。聞いてるだけでわくわくするだろ?」


老人「お主は馬鹿なのか?」

老人「そもそも存在するかどうかも分からぬ物だ。それも、王家から盗むなどと……」

盗賊「まだまだ夢見る年頃なんだ。存在するか分からないからこそ、余計に確かめたくなるのさ」

老人「……王家の話を聞きたいなどと言った時から得体の知れない小僧だとは思っていたが、まさか盗っ人だったとはな」

盗賊「うちは先祖代々、そういう家系なんだ」

老人「それがホラでなければ、とんでもない一族じゃな。いや、ろくでもない一族か」

盗賊「ろくでもないとか言わないでよ。家業を継ぐのは子の務めでしょ?」

老人「そんな家業はとっとと廃業した方が身のためじゃぞ」

老人「お主はまだ子供なんじゃ、まだ遅くはない。悪いことは言わんから別の職に就け」

盗賊「そうだね。その方が良いかもしれない。お爺さんの言う通りだ。でも、それは無理なんだよ……」


老人「何故じゃ? 親に強要されとるのか?」

盗賊「違う違う。どうやら天職みたいなんだ」ニコッ

老人「……ハァ。自ら未来を閉ざした子供、天職は盗っ人か。まったく、世も末じゃな」

盗賊「いや~、血は争えないみたいでね」

老人「……まあよいわ。して、どうする?」

盗賊「ん?」

老人「お主は、これでもまだ盗むと言うのか? あるかも分からぬ秘宝を狙って夢物語を追うのか?」

盗賊「ん~、今のところは考え中。一旦保留」

老人「(盗っ人だと言い出したり、秘宝を狙っていると言い出したり、よう分からん奴じゃな)」

老人「(見たところは普通の子供、見せる表情や態度も悪人のそれとは程遠い。ただの冗談か?)」

盗賊「いや~、しかし古本屋っていいもんだね。積もり積もった埃と古本の匂いが歴史を感じさせるよ」


老人「ハッ、な~にが歴史の匂いじゃ」

老人「それより、埃が目に付くなら掃除でもしていけ。何も買いもせず、何の礼もなく、話だけ聞いて出て行くのは許さんからな」

盗賊「掃除? それくらいなら別に構わないけど、どこから片付ければいい?」

老人「う、う~む、そうじゃなぁ……全部じゃ全部。端から端、隅から隅までな」

盗賊「分かった。じゃあ、窓だけ開けてよ」

老人「ほ、本当にやる気なのか?」

盗賊「何言ってるんだよ。やれって言ったのはお爺さんだろ?」

老人「それは、そうだが……」

盗賊「窓を開けたら、店先に椅子でも出して日に当たりながら待っててよ」

老人「……何か怪しいのぉ。まさか逃げ出すつもりじゃなかろうな」


盗賊「疑り深いお爺さんだなぁ」

盗賊「僕はどこにも逃げやしないよ。だからほら、椅子に揺られて昼寝でもしといてよ」

老人「……分かった。では、儂は外で待っておる。なるべく早く済ませるんじゃぞ?」

盗賊「早くって言われても、店内のあちこちに本の山脈が連なってるんだけど……」

老人「喧しい。いいか、晴天とは言え、あまり外気に晒すと本がーーー」

盗賊「分かった分かった。すぐに終わらせるよ。ほら、掃除出来ないから早く行けってば」

老人「………フン」

カツン…カツン…

盗賊「まったく、お年寄りは話が長くて困るね」

老人『聞こえとるぞ!さっさとせんか!!』

盗賊「………はぁ、やるか。まずは本を移動させないと……ん? これは絵本?」

盗賊「何か場違いだなあ。それに汚れもない。書かれたのは最近? 何で古本屋にあるんだろ?」


我らの王は

自らを神の代理人と言って憚らないが


我らの神は

自らが王を選んだと明言したことはない


王権神授異論 p277より抜粋


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老人「やれやれ、あの小僧の所為で妙な一日になった」

老人「………」ポケー

老人「(こうやって日に当たるのも悪くないかもしれんな。日がな一日、本ばかり読んでいては足腰が弱る一方じゃ)」

老人「(明日から散歩でもしてみるか?)」

老人「(いや、よしておこう。明日からは生誕祭、人が多くては出歩く気になれんわい)」

老人「昔は、それなりに繁盛しとったんじゃがなぁ……」

老人「(今の若者は神話や英雄譚などに興味を持たん。辿ってきた道を、歴史を知ろうとしない)」

老人「(今やミステリだのホラーだのラブロマンスだので溢れかえっておる。胸焼けがするわい)」

老人「もうじき、昼か」

老人「(そう言えば、今日はまだ来ておらんな。大体は昼前には来るというのに……)」

コツコツ…

少女「お爺ちゃん、こんにちは」

老人「(もしや、何かあったのではあるまいな。年頃の娘じゃし、いつも一人じゃし……)」ウーム


少女「お~い、お爺ちゃん。寝てるの?」

老人「んっ? おお、何じゃ来ておったのか。すまんな、気付かんかった」

少女「ううん。お昼寝の邪魔をしちゃったみたいでゴメンね?」

老人「いやいや、昼寝などしとらんよ。たまには外の空気を吸おうと思ってな」

少女「えっ、珍しいね」

老人「珍しい?」

少女「だって、お爺さんが外に出ている所を見るのって、これが初めてだから」

老人「そ、そうだったか……実は、これにはちょっとした理由があってな」

少女「何かあったの?」

老人「あいや、別に大したことではない。ただ、今日はお主の他にも客……のようなものがいてな」

少女「お客さん!? ますます珍し……あっ、ごめん……」

老人「いやいや、別に構わんよ。普段から客が来ないのは事実じゃしな」


>>あっ、やべっ…うわっ!

ドサドサドサッ!

少女「ケホッ、ケホッ……凄い埃……中に誰かいるみたいだけど、何をしてるの?」

老人「その、あれじゃ……」

老人「ちょっと店の中の掃除でもしてみようかと思ってな。さっき入ってきた小僧に頼んでみた」

少女「頼んだって、お客さんに?」

老人「まあ、そうじゃな。客と言えば客じゃな」

少女「………」

老人「どうしたんじゃ?」

少女「私が店の掃除するよって言った時は、全然聞いてくれなかったのになぁ~と思って」

老人「うっ……気持ちは嬉しいが、婦女子に力仕事をさせるわけにはいかんじゃろう?」

少女「だからって、わざわざお金を払ってお手伝いさんを雇ったの?」

老人「まさか、金など払っておらんよ。先程店に来た妙な小僧を扱き使っておるだけじゃ」


少女「妙な小僧……男の子?」

老人「うむ、年の頃はお主と同じくらいじゃな。王家の秘宝について知りたいなどと言っておった」

少女「ふ~ん。そんなことを知りたがるなんて今時珍しい子だね。教えてあげたの?」

老人「うむ、儂が知り得ることはな。何も買わぬようだったから掃除をさせとる」

>>なあ、雑巾ある? 棚を拭きたいんだけど。

老人「机の近くにある。きちんと乾拭きするんじゃぞ? 湿気は本の敵じゃからな」

>>分かったよ。しっかし汚えなぁ……

老人「フン、好き勝手言いおって」

少女「私も手伝う。一人だと大変だろうから」

老人「何? よ、よせよせ! あの小汚い小僧ならまだしも、お主のような女子には……」


少女「大丈夫だよ」

少女「服の汚れなんて洗えば落とせるし、顔が汚れたって洗えばいいだけでしょ? だから平気」ニコッ

少女「それに、お爺ちゃんにはいつもお世話になってるから……お掃除くらいは手伝わせて?」

老人「いや、しかしだな」

少女「何かお返ししたいの。わたしにはこれくらいしか出来ないから」

老人「……はぁ、分かった。そんな顔をされては断れんよ」

少女「やったぁ!」

老人「よいか? 無理をするでないぞ? 中にいる小僧なら存分に扱き使って良いからな?」

少女「あははっ! うん、分かった。あっ、これを忘れるところだった。え~っと、はい」スッ

老人「おお、早いな。もう書いてきたのか。では、待っている間に読ませて貰うとしよう」


少女「……お爺ちゃん」

老人「ん? なんじゃ?」

少女「いつも読んでくれてありがとう。読んだ後も、色々教えてくれて……」

老人「……いいんじゃよ。これは儂が好きでやっとることじゃからな。気に病むことはない」

少女「ホント? ウソじゃない?」

老人「ああ、本当じゃ。大体、嘘を吐いてどうする? 嫌じゃったら、とっくに断っておるよ」

少女「そっか、よかったぁ……よ~し!じゃあ、お手伝いしてくるね!」

老人「うむ、気を付けるんじゃぞ?」

少女「大丈夫だってば。私、お掃除は好きだし、得意なんだから!」ニコッ

コツコツ…

老人「……やれやれ、また妙なことになった」


少女「お~い」

盗賊「ん?」クルッ

少女「やあ、少年。私も手伝うよ」

盗賊「え、キミは誰? お爺さんの孫?」

少女「……う~ん。そんな感じ、かな?」

盗賊「?」

少女「まあまあ、いいからいいから。早くお掃除しよう? 向こうの棚は私がやるか、らっ!?」グラッ

ガシッ

盗賊「危ないなあ……足下には気を付けなよ? 新聞か何かの切れっ端とか落ちてて滑るからさ」

少女「危なかったぁ……ありがとね?」

盗賊「いいって。それじゃ、始めようぜ?」



老人「フッ、子供の相手は疲れるわい」

老人「さて、どんなものを書いてきたのか……ふむ、今回は王を題材にした絵本か」


※※※※

王は神の如く振る舞う。

我々はそれに対し何ら抵抗もせず、平伏するのみである。


我々は神の代理人たる王に対し、何ら抵抗する手段を持ち合わせていない。

もし、あの者が、我々と何ら変わりのない心を持つ人間なのだとしたら……

王という人間は、正に、恐るべき存在である。


神があのような者を選び、あのような者に権威を与えたのだとしたら

おそらく、それは、悪神に違いないだろう。



異端者の日誌


>>>>>

少女「ふ~っ、分かってたけど大変ね」フキフキ

盗賊「そうだね、簡単に引き受けるんじゃなかったよ。ところで、キミは何でこんな古本屋に?」フキフキ

少女「夢を叶えるため」

盗賊「夢?」

少女「そう、夢。私の夢」

盗賊「へぇ、夢かぁ。興味あるな」

少女「そう? 笑わないって誓うなら教えてあげてもいいけど?」

盗賊「僕は人の夢を笑うような男じゃないよ」

少女「男じゃなくて男の子でしょ? まだ子供のくせに格好付けちゃって」

盗賊「それを言うならキミだって子供だろ?」

少女「私は確かに子供だけど、抱く夢には大人も子供も関係ないでしょ?」

盗賊「夢の大きさもね。それで?キミの夢って?」


少女「本当に笑わない?」

盗賊「笑わないって言ったろ?」

少女「そうは言うけどイマイチ信用出来ないのよねえ。君は結構お喋りみたいだし」

盗賊「じゃあ、こうしよう。教えてくれたら僕の夢も教える。これならどうだい?」

少女「いいわよ?じゃあ先に教えて? そうしたら教えてあげるから」

盗賊「……ん~、誰も触れたことのない輝きに触れること。かな」

少女「輝きって?」

盗賊「全部だよ。この世界にある全て。かたちある物、そうでない物、とにかく色々さ」

盗賊「それが僕にとって輝いて見えたなら、無理だ不可能だとか言われても必ず手に入れてみせる」

盗賊「これが夢なのかと聞かれると、ちょっと分からないけどね。でも、いつか触れたいんだ。『それ』に」


少女「………」

盗賊「え、何?どうしたの?」

少女「……子供のくせに」

盗賊「べ、別にいいだろ!? 抱く夢には大人も子供も、夢の大きさも関係ないんだから」

少女「それはそうだけど、もう少し子供っぽい夢を持った方が良いんじゃない?」

盗賊「子供っぽい夢って?」

少女「う~ん、そうねぇ。冒険家とか音楽家とか芸術家とか舞台役者とか?」

盗賊「何かありきたりな夢だなぁ。有名になること前提で話してない?」

少女「男の子ってそうじゃないの? やたら大きい夢を掲げて目立ちたがるものでしょ?」

盗賊「僕は別に有名になりたいわけじゃないからね。それより次はキミの番。キミの夢はなに?」

少女「絵本作家。私、絵本作家になりたいの」


盗賊「絵本作家?」

少女「うん。それでね? 書いた絵本をお爺ちゃんに読んで貰ってるの。色々教えてくれるんだ」

盗賊「……あのお爺さんが絵本を読むところなんて想像出来ないな。何でまた、あのお爺さんに?」

少女「えっ、お爺ちゃんのこと知らないの?」

盗賊「知らないよ。そんなに有名な人なの?」

少女「君みたいな男の子でも、摩訶不思議な世界に迷い込んだ女の子の話くらいは知ってるでしょ?」

盗賊「流石にそれくらいは知ってるよ。確か、娯楽の為に書かれた初の児童図書だっけ?」

少女「そう、それよ。そしてなんと!それを書いたのがお爺ちゃんなのよ!!」

盗賊「あの偏屈お爺さんが? 嘘だろ?」

少女「ホントよ!すっごいんだから!!」

少女「絵本作家。児童図書を書いてる人で知らない人はいないわ。誰もが真っ先に名前を挙げる絵本作家よ」


盗賊「そう言われてもなぁ」

盗賊「だって今は古本屋の店主だぜ? そんなに凄い人なら何で絵本を書かないんだよ」

少女「それは、分からないけど……と、とにかく本物なの!」

盗賊「はいはい分かったよ。でも、あのお爺さんが絵本作家だったなんてなぁ……」

盗賊「人を見掛けで判断するなとは言うけど、そんな人だったとは想像も出来なかったよ」

少女「ふふん。そして、私はあのお爺ちゃんの弟子なわけ。どう、凄いでしょ?」

盗賊「凄いの?」

少女「凄いの。お爺ちゃんは弟子を取ったことなんてないんだから。つまり、最初で最後の弟子ってわけ」

盗賊「……なるほどね。だから絵本があったのか」


少女「ん?」

盗賊「こんな古本屋に新しい絵本があるから不思議に思ってたんだよ。この絵本、キミのだろ?」スッ

少女「読んでくれたの!?」

盗賊「いや、読んでないけど」

少女「何だ……じゃあ、後で読みなさい。読んで感想を聞かせなさい。いいわね?」

盗賊「え~、僕はそんなに暇じゃないんだけど」

少女「立ち寄った古本屋の掃除してる子が何言ってんのよ。お姉さんの言うことを聞きなさい」

盗賊「お姉さんって……年なんて大して変わらないだろ。背はキミの方が小さいし」

少女「うるさいなぁ、これから大きくなるからいいの。細かい事を気にしてると大きな男になれないわよ」

盗賊「……分かったよ。後でちゃんと読むから」

少女「ホント!?」

盗賊「ホント。女の子からのお願いだし、約束する」

少女「ん、よろしい。それじゃ、お喋りはこの辺にして掃除の続きをしましょ?」ニコッ

盗賊「はいはい」

少女「ふふ~ん」フキフキ

盗賊「………はぁ」フキフキ


>>>>>>

むかしむかし

とある世界のとある国に、奪うことしか出来ない王様がいました。

王様は手当たり次第、辺りの国に攻め入って、あらゆるものを奪っていきました。

そうしていくうちに国は大きくなり、王様は、世界で一番偉い王様になりました。

すべてを奪って、すべてを自分の物にして、そして遂には、世界でただ一人の王様となったのです。


しかし、満たされることはありませんでした。


この世界の全てを手にした王様は、この世界に退屈して、船に乗って別の世界へと旅立ちました。

王様は、それからも奪い続けました。

次の世界でも、その次の世界でも、そのまた次の世界でも、王様は奪い続けたのです。


けれど、そんな王様にも終わりの時が来ました。

それは幾つ目の世界かも数えなくなった頃、いつも通り、国を奪っている時のことでした。

その国の王女様に助けを求められた、黄色いマントを羽織った旅人が、王様に戦いを挑んだのです。

今まで誰一人として王様に敵いませんでしたが、その黄色い旅人は違いました。

旅人はあっという間に王様が奪ったものを取り返すと、王様の船までも盗みました。


何と、その旅人は泥棒だったのです。


旅人は王様から盗んだ船を使って、全てを返すことにしました。

これまで奪った世界、これまで奪った人、これまで奪ったもの、全てがもとの場所に帰りました。

国中の歓声を浴びる旅人に、王様は言いました。

なぜ、泥棒なのにみんなに好かれているんだ。なぜ、私はみんなに怖れられているんだ。


旅人は言いました。

王様、あなたは全てを手に入れた。何もかもを手に入れた。それは本当に凄いことだ。

でも、あなたは奪うばかりで、誰かに何かを与えようとはしなかった。

倒れた人に手を差し出すことも、慰めの声を掛けることも、誰かと一緒に涙したこともない。

あなたは優しさがない。優しい心がない。だから、あなたは怖れられているんだ。


それを聞いた王様が言いました。

優しさはどこにある。心は誰が持っている。


旅人は言いました。

その二つはどこにでもある。誰だって持っている。きっと、あなたにだってあるはずだ。


王様は立ち上がり、ふらふらと歩き始めました。

これまでの全てを失った王様は、優しさと心を探すため、その身一つで旅に出たのです。

けれど王様は、優しい心を見付けるとは出来ませんでした。

全てを奪った王様でも、自分を奪うことだけは出来なかったのです。

王様は手鏡に映った自分の姿を眺めながら、決して終わることのない旅を続けたのでした。

期待

前作は最高でした。期待

このままだと話を区切りにくいので、区切りやすいように>>1から貼り直します。


【#1】

王とは神の代理人である。

王とは神によって与えられた権威、神によって選ばれた者である。

王とは神聖性、ある種の霊威、超自然的な権威を持つ唯一無二、絶対の存在である。

故に、神以外の何者にも拘束されることはなく、何者もその権威に抗うことは出来ない。

とまあ、このような印象を民衆に植え付けることで、絶対王政を布くことに成功したわけじゃ。

それ故に、王は絶対的な権力を得ることが出来た。長きに渡ってな。


王とは唯一無二。


しかし、王とて不死ではない。人である以上、死に抗うことは不可能じゃからな。

如何に偉大な王であろうと、それだけは変えられん。何故ならば、死とは神の定めたものであるからだ。

それは普遍であり、あらゆる生命の行き着く先。決して曲げることの出来ぬ摂理、終点。


ただ、終わりの先にあるものは千差万別。

人は生前の行いにより、稀に神聖性を得ることがある。しかし、王の場合は生きながらにして神聖性を持っている。

そうであるならば、王が死んだ時、その神聖性はどうなるのだろうか?

神の代理人たる者、王の死が意味するものとは? 死の先にあるものとは一体何なのか?

それは当時、誰もが抱いた疑問だっただろう。


その王はどうしたのか?


王は絶対的な権力を失うことを恐れ、神から不死の秘宝を授かったと告げた。

それが嘘か誠かは分からんが、権威や支配力を永続させる為のものであることは確かじゃろう。


王はそれを手にこう言った。

余は、神の意志によって新たな力を与た。

例え、この肉体が朽ちようとも、この魂が滅びることはないであろう。

余の魂は、死を超越して生き続ける。王とは不滅にして唯一無二の存在であるのだから……



老人「……とな」

盗賊「ふむふむ。それで、その秘宝って?」

老人「知るかそんなもん。儂には分からんよ」

老人「秘宝については今でも様々な憶測が飛び交っておるが、どれも懐疑的なものばかりじゃ」


盗賊「何で?」

老人「その王は近隣諸国を征服し、一代で帝国を興し、時の皇帝となったと言われておる」

老人「この事実を鑑みれば、その当時の権力たるや凄まじいものであっただろう」

老人「しかし、時の経過と共に王権神授説への批判が高まっていった。徐々に、徐々にな」

盗賊「……どうなったの?」

老人「やがて民衆の心に火が付いた。時代が大きく動き出したんじゃ。そうなれば、もう止まらん」

老人「その後は市民革命や何やらで絶対王政は潰え、民衆が王に抱いていた神聖性も失われた」

老人「権威が地に落ちたとまでは言わぬが、その後の度重なる敗戦により、領土返還を余儀なくされた」

老人「発言権は弱まり、政治的支配力も落ちた。よって、レガリアが存在した可能性は限りなく薄い」


盗賊「レガリア?」

老人「レガリアとは王者の証」

老人「本来であれば王冠などのことを言うが、この文献ではもっと特別な物を指しておる」

盗賊「別の物って?」

老人「この文献によれば、王冠などではなく不死の秘宝じゃな。あくまで伝説上のものだろうが」

盗賊「何でそう言い切れるの?」

老人「よいか? 不死の秘宝などというレガリアが実在したのなら、王権神授説に異を唱える者など現れはしない」

老人「絶大な権威も王政も揺らぐことはなく、王は神の代理人として今尚も神聖視されていたはずじゃ」

盗賊「あ、そっか。なるほどね……」パラパラッ

老人「……儂には、不死の秘宝の有無なんぞより、お主の方が疑問でならんよ」


盗賊「僕が? 何で?」

老人「お主のような小僧が、何故に不死の秘宝に興味を持つのかが分からん」

老人「本を読むくらいなら外で友達と遊んだ方が楽しいはずじゃ。その年頃の男の子ならば特にな」

盗賊「何に興味を持つのかは人それぞれだろ? 僕みたいな小僧でも本くらい読むさ」

老人「……フン、可笑しな奴じゃ」

盗賊「それにしても、お客さんが来ないね。閑古鳥も鳴くのを忘れてるみたいだ」

老人「喧しいわい。ウチには流行りの本など置いとらんから仕方ないんじゃ」

盗賊「そうなの? 珍しい本が沢山あるのに勿体ないなぁ。王都の人は見る目がないのかもね」


老人「最近は本を読む若者も減った」

老人「革命だ何だと談議しておる奴等もいるが、どいつもこいつも知識人ぶった輩ばかりじゃ」

老人「過去を知らぬ者に歴史は作れん」

老人「今の若者は目先の物事にばかり気を取られてばかり。過去から学ぼうとする者はおらん」

盗賊「今に必死で振り返る余裕がないんじゃないの? それが若さってやつなんだよ、多分ね」

盗賊「それか、気付かない内に色んなものを詰め込みすぎて、心に文字を刻む余白がないのかもしれない」

老人「何を生意気な。乳離れしたばかりの小僧が知ったような口を利きおって」

盗賊「そりゃあ、お爺さんみたいな両親と再会間近のお年寄りからしたら、皆がそう見えるだろうさ」


老人「ケッ、可愛げのない奴じゃ」

盗賊「そっくりそのままお返しするよ。お爺さんも、ちょっとは愛想良くしたらどうだい?」

盗賊「これ以上お客さんが減ることはないだろうけど、稼ぎは増やしたいんじゃないの?」

老人「要らぬ世話じゃ。愛想など振り撒かずとも余生を過ごす蓄えはある」

盗賊「そ~かい」

老人「………何故、此処へ来たんじゃ?」

盗賊「ん?」

老人「此処に来るのは余程の物好きか、古本蒐集が趣味の変わり者くらいじゃ。無論、子供向けの本など置いていない」

老人「儂には、愛想の悪いジジイがやっとる古本屋にお主のような子供が来る意味が分からん」

盗賊「自分のお店をそんな風に言っちゃダメだよ。自慢の本が泣いちゃうよ?」

老人「……そうじゃな」

老人「しかしな、幾ら価値のある書物だろうと、それを読む者がいなければ意味が無いんじゃよ」

盗賊「そんなことはないさ、熱心な読者なら此処にいる。可愛げのない小僧だけどね」ニコッ


老人「(変わった子じゃ……)」

老人「(やけに大人びたことを言ったかと思うと、次の瞬間にはそこらを駆け回る子供と同じように笑いよる)」

盗賊「あっ、そうだ。さっき話してた王様ってさ、結局はどうなったの?」

老人「さっきも言ったじゃろう。如何に偉大な王だろうと死に抗うことは出来んとな」

盗賊「じゃあ、死んだってこと?」

老人「いいや、王の死については一切記されていない。おそらく、死という表現を避けているのじゃろう」

老人「王座から立ち上がり神の御許へ向かっただとか、偉大なる王の魂は血脈に刻まれただとか、言葉を濁して書いてあるのみじゃ」

盗賊「神様はともかく、血脈かあ……子々孫々、王の権力は受け継がれましたってことなのかな?」

老人「まあ、この文献を見る限り、その解釈に至るのが至極自然のことなのじゃろうな」

盗賊「う~ん。血脈、血脈……秘宝ってのは、そこら辺に関係してるのかな……」

老人「……何じゃ、やけに拘るな」

盗賊「それはそうだよ。だって僕は、その秘宝を狙ってこの都に来たんだからね」


【#2】小さな賊の大きな野望

老人「狙って? 何を言っておる?」

盗賊「あれ、言ってなかったっけ? 僕は王の秘宝を盗みに来たんだ」ニコッ

老人「ぬ、盗むじゃと!?」ガタッ

盗賊「うん、此処に来たのも情報を得るためさ」

盗賊「まあ、あんまり進展はなかったけどね。でも、お爺さんの話が楽しかったからいいや」

老人「………」ポカーン

盗賊「お爺さん、大丈夫かい? もしかしてボケちゃった?」

老人「呆けてなどおらんわ! それよりお主、本気で言っておるのか?」

盗賊「盗むって言ったことかい?」

老人「そ、そうじゃ」

盗賊「勿論本気さ。僕は不死の秘宝がどんな物なのか見てみたい、この手で触れてみたいんだ」

盗賊「王権神授に不死の王、王家の秘宝、神の贈り物。聞いてるだけでわくわくするだろ?」


老人「お主は馬鹿なのか?」

老人「そもそも秘宝など存在するかどうかも分からぬ。しかも、王家から盗むなど……」

盗賊「まだまだ夢見る年頃なんだ。存在するか分からないからこそ余計に確かめたくなるのさ」

老人「王家の話を聞きたいなどと言った時から得体の知れない小僧だとは思っていたが、まさか盗っ人だったとはな」

盗賊「うちは先祖代々、そういう家系なんだ」

老人「それがホラでなければ、とんでもない一族じゃな。いや、ろくでもない一族か」

盗賊「ろくでもないとか言わないでよ。家業を継ぐのは子の務めでしょ?」

老人「そんな家業はとっとと廃業した方が身のためじゃぞ」

老人「お主はまだ子供なんじゃ、まだ遅くはない。悪いことは言わんから別の職に就け」

盗賊「あははっ! そうだね。それはそれで楽しそうだ。でも、それは無理なんだよ……」


老人「何故じゃ? 親に強要されとるのか?」

盗賊「違う違う。どうやら天職みたいなんだ」ニコッ

老人「……ハァ。自ら未来を閉ざした子供、天職は盗っ人か。まったく、世も末じゃな」

盗賊「いや~、血は争えないみたいでね」

老人「……まあよいわ。して、どうするつもりじゃ?」

盗賊「ん?」

老人「お主はこれでもまだ盗むと言うのか? あるかも分からぬ秘宝を……」

盗賊「ん~、今のところは考え中。一旦保留かな」

老人「(盗っ人だと言い出したり秘宝を狙っていると言い出したり、よう分からん奴じゃな)」

老人「(見たところは普通の子供、見せる表情や態度も悪人のそれとは程遠い。ただの冗談か?)」

盗賊「いや~、古本屋っていいもんだね。積もり積もった埃と古本の匂いが歴史を感じさせるよ」


老人「ハッ、な~にが歴史の匂いじゃ」

老人「それより、埃が目に付くなら掃除でもしていけ。何も買いもせず、何の礼もなく、話だけ聞いて出て行くのは許さんからな」

盗賊「掃除? それくらいなら別に構わないけど、どこから片付ければいい?」

老人「う、う~む、そうじゃなぁ……全部じゃ全部。端から端、隅から隅までな」

盗賊「分かった。じゃあ、窓だけ開けてよ」

老人「ほ、本当にやる気なのか?」

盗賊「何言ってるんだよ。やれって言ったのはお爺さんだろ?」

老人「それは、そうだが……」

盗賊「窓を開けたら、店先に椅子でも出して日に当たりながら待っててよ」

老人「……何か怪しいのぉ。まさか逃げ出すつもりじゃなかろうな」


盗賊「疑り深いお爺さんだなぁ」

盗賊「僕はどこにも逃げやしないよ。だからほら、椅子に揺られて昼寝でもしといてよ」

老人「……分かった。では、儂は外で待っておる。なるべく早く済ませるんじゃぞ?」

盗賊「早くって言われても、店内のあちこちに本の山脈が連なってるんだけど……」

老人「喧しい。いいか、晴天とは言え、あまり外気に晒すと本がーーー」

盗賊「分かった分かった。すぐに終わらせるよ。ほら、掃除出来ないから早く行けってば」

老人「………フン」

カツン…カツン…

盗賊「まったく、お年寄りは話が長くて困るね」

老人『聞こえとるぞ!さっさとせんか!!』

盗賊「………はぁ、やるか。まずは本を移動させないとな……ん? これは絵本?」

盗賊「何か場違いだなあ。それに汚れもない。書かれたのは最近? 何で古本屋にあるんだろう?」


※※※※※


我らの王は

自らを神の代理人と言って憚らないが



我らの神は

自らが王を選んだと明言したことはない




王権神授異論 p277より抜粋


【#3】老人と太陽

老人「あの小僧の所為で妙な一日になった」

老人「………」ポケー

老人「(こうやって日に当たるのも悪くないかもしれんな。日がな一日、本ばかり読んでいては足腰が弱る一方じゃ)」

老人「(明日から散歩でもしてみるか?)」

老人「(いや、よしておこう。明日からは生誕祭、人が多くては出歩く気になれんわい)」

老人「……昔は、それなりに繁盛しとったんじゃがなぁ……」

老人「(今の若者は神話や英雄譚などに興味を持たん。辿ってきた道を、歴史を知ろうとしない)」

老人「(今やミステリだのホラーだのラブロマンスだので溢れかえっておる。胸焼けがするわい)」

老人「………もうじき昼か」

老人「(そう言えば、今日はまだ来ておらんな。大体は昼前には来るというのに……)」

コツコツ…

少女「お爺ちゃん、こんにちは」

老人「(もしや、何かあったのではあるまいな。年頃の娘じゃし、いつも一人じゃし……)」ウーム


少女「お~い、お爺ちゃ~ん。寝てるの?」

老人「んっ? おお、何じゃ来ておったのか。すまんな、気付かんかった」

少女「ううん。私こそ、お昼寝の邪魔をしちゃったみたいでゴメンね?」

老人「いやいや、昼寝などしとらんよ。たまには外の空気を吸おうと思ってな」

少女「えっ、珍しいね」

老人「珍しい? なにがじゃ?」

少女「だって、お爺さんが外に出ている所を見るのって、これが初めてだから」

老人「そ、そうだったか……実は、これにはちょっとした理由があってな」

少女「えっ、何かあったの?」

老人「あいや、別に大したことではない。ただ、今日はお主の他にも客……のようなものがいてな」

少女「お客さん!? ますます珍し……あっ……」

老人「いやいや、別に構わんよ。普段から客が来ないのは事実じゃしな」


>>あっ、やべっ…うわっ!

ドサドサドサッ!

少女「ケホッ、ケホッ…凄い埃……中に誰かいるみたいだけど、何をしてるの?」

老人「その、あれじゃ……」

老人「ちょっと店の中の掃除でもしてみようかと思ってな。さっき入ってきた小僧に頼んでみた」

少女「頼んだって、お客さんに?」

老人「まあ、そうじゃな。客と言えば客じゃな」

少女「………」

老人「どうしたんじゃ?」

少女「私が店の掃除するって言った時は全然聞いてくれなかったのになぁ……と思って」

老人「うっ……気持ちは嬉しいが婦女子に力仕事をさせるわけにはいかんじゃろう?」

少女「だからって、わざわざお金を払ってお手伝いさんを雇ったの?」

老人「まさか、金など払っておらんよ。先程店に来た妙な小僧を扱き使っておるだけじゃ」


少女「妙な小僧……男の子?」

老人「うむ、年の頃はお主と同じくらいじゃな。王家の秘宝について知りたいなどと言っておった」

少女「ふ~ん。そんなことを知りたがるなんて今時珍しい子だね。教えてあげたの?」

老人「うむ、儂が知り得ることはな。その見返りとして掃除をさせとるんじゃよ」

>>なあ、雑巾ある? 棚を拭きたいんだけど。

老人「机の近くにある。きちんと乾拭きするんじゃぞ? 湿気は本の敵じゃからな」

>>分かったよ。しっかし汚ないなぁ……

老人「フン、好き勝手言いおって」

少女「私も手伝うよ。一人だと大変だろうから」

老人「何? よ、よせよせ! あの小汚い小僧ならまだしも、お主のような女子には……」


少女「大丈夫だよ」

少女「服の汚れは洗えば落とせるし、顔が汚れたって洗えばいいでしょ? だから平気」ニコッ

少女「それに、お爺ちゃんにはいつもお世話になってるから……お掃除くらいは手伝わせて?」

老人「いや、しかしだな」

少女「私にはこれくらいしか出来ないけど、お返しがしたいの。お願いっ!」

老人「……はぁ、そんな顔をされては断れんよ」

少女「やったぁ!」

老人「よいか? 無理をするでないぞ? 中にいる小僧なら存分に扱き使って良いからな?」

少女「あははっ! うん、分かった。あっ、これを忘れるところだった。え~っと、はい」スッ

老人「おお、早いな。もう書いてきたのか。では、待っている間に読ませて貰うとしよう」


少女「ねえ、お爺ちゃん」

老人「ん? なんじゃ?」

少女「いつも読んでくれてありがとう。読んだ後も、色々教えてくれて……」

老人「……いいんじゃよ。これは儂が好きでやっとることじゃからな。気に病むことはない」

少女「ホント? ウソじゃない?」

老人「ああ、本当じゃ。大体、嘘を吐いてどうする? 嫌じゃったら、とっくに断っておるよ」

少女「そっか、よかったぁ……よ~し!じゃあ、お手伝いしてくるね!」

老人「うむ、気を付けるんじゃぞ?」

少女「大丈夫だってば。私、お掃除は好きだし、得意なんだから」ニコッ

コツコツ…

老人「……やれやれ、また妙なことになったわい」


少女「お~い」

盗賊「ん?」クルッ

少女「やあ、少年。私も手伝うよ」

盗賊「え、キミは誰? お爺さんの孫?」

少女「……う~ん。そんな感じ、かな?」

盗賊「?」

少女「まあまあ、いいからいいから。早くお掃除しよう? 向こうの棚は私がやるか、らっ!?」グラッ

ガシッ

盗賊「危ないなあ……足下には気を付けなよ? 新聞か何かの切れっ端とか落ちてて滑るからさ」

少女「危なかったぁ……ありがとね?」

盗賊「いいって。それじゃ、始めようぜ?」



老人「……フッ。まったく、子供の相手は疲れるわい」

老人「さて、どんなものを書いてきたのか……ふむ、今回は王を題材にした絵本か」


【#4】少年少女は夢を語る

少女「ふ~っ、分かってたけど大変ね」フキフキ

盗賊「そうだね、簡単に引き受けるんじゃなかったよ。ところで、キミはここの常連みたいだけど何でこんな古本屋に?」フキフキ

少女「夢を叶えるため、かな」

盗賊「夢?」

少女「そう、夢。私の夢」

盗賊「へぇ、夢かぁ。興味あるな」

少女「そう? 笑わないって誓うなら教えてあげてもいいけど?」

盗賊「僕は人の夢を笑うような男じゃないよ」

少女「男じゃなくて男の子でしょ? まだ子供のくせに格好付けちゃって」

盗賊「それを言うならキミだって子供だろ?」

少女「私は確かに子供だけど、抱く夢には大人も子供も関係ないでしょ?」

盗賊「夢の大きさもね。それで?キミの夢って?」


少女「本当に笑わない?」

盗賊「笑わないって言ったろ?」

少女「そうは言うけど、イマイチ信用出来ないのよねえ。結構お喋りみたいだし」

盗賊「じゃあこうしようよ。教えてくれたら僕の夢も教える。これならどうだい?」

少女「いいわよ?じゃあ先に教えて? そしたら教えてあげるから」

盗賊「……ん~、誰も触れたことのない輝きに触れること。かな」

少女「輝きって?」

盗賊「全部だよ。この世界にある全て、かたちある物、そうでない物、とにかく色々さ」

盗賊「それが僕にとって輝いて見えたなら、無理だ不可能だとか言われても必ず手に入れてみせる」

盗賊「これが夢なのかと聞かれると、ちょっと分からないけどね。でも、いつか触れたいんだ。『それ』に」


少女「………」

盗賊「な、なんだよ」

少女「……子供のくせに」

盗賊「べ、別にいいだろ!? 抱く夢には大人も子供も、夢の大きさも関係ないんだから」

少女「それはそうだけど、もう少し子供っぽい夢を持った方がいいんじゃないの?」

盗賊「子供っぽい夢って?」

少女「う~ん、そうねぇ。冒険家とか音楽家とか芸術家とか舞台役者とか?」

盗賊「何だかありきたりな夢だなぁ。有名になること前提で話してない?」

少女「男の子ってそうじゃないの? やたら大きい夢を掲げて目立ちたがるものでしょ?」

盗賊「かもね。でも、僕は別に有名になりたいわけじゃないんだ。それより次はキミの番。キミの夢はなに?」

少女「………絵本作家。私、絵本作家になりたいの」


盗賊「絵本作家?」

少女「うん。それでね? 書いた絵本をお爺ちゃんに読んで貰ってるの。色々教えてくれるんだよ?」

盗賊「……あのお爺さんが絵本を読むところなんて想像出来ないな。何であのお爺さんに?」

少女「お爺ちゃんのこと知らないの?」

盗賊「知らないよ。そんなに有名な人なの?」

少女「君みたいな男の子でも、摩訶不思議な世界に迷い込んだ女の子の話くらいは知ってるでしょ?」

盗賊「流石にそれくらいは知ってるさ。確か、娯楽の為に書かれた初の児童図書だっけか」

少女「そう、それよ。そしてなんと!それを書いたのがお爺ちゃんなのよ!!」

盗賊「あの偏屈お爺さんが? 嘘だろ?」

少女「ホントよ!すっごいんだから!!」

少女「絵本作家。児童図書を書いてる人で知らない人はいないわ。誰もが真っ先に名前を挙げる絵本作家よ」


盗賊「そう言われてもなぁ……」

盗賊「だって古本屋の店主なんだぜ? そんなに凄い人なら何で絵本を書かないんだよ」

少女「それは、分からないけど……と、とにかく本物なの!」

盗賊「はいはい分かったよ。でも、あのお爺さんが絵本作家だったなんてなぁ……」

盗賊「そんな人だったとは想像も出来なかったな。人を見掛けで判断するな、とは言うけどさ」

少女「ふふん。そして、私はあのお爺ちゃんの弟子なわけ。どう、凄いでしょ?」

盗賊「凄いの?」

少女「凄いの!お爺ちゃんは弟子を取ったことなんてないんだから。つまり、最初で最後の弟子ってわけ」

盗賊「……なるほどね。だから絵本があったのか」


少女「ん?」

盗賊「こんな古本屋に新しい絵本があるから不思議に思ってたんだ。この絵本、キミのだろ?」スッ

少女「読んでくれたの!?」

盗賊「え? いや、読んでないけど」

少女「な~んだ……じゃあ、後で読みなさい。読んで感想を聞かせなさい。いいわね?」

盗賊「え、そんなに暇じゃないんだけど」

少女「立ち寄った古本屋の掃除してる子が何言ってんのよ。お姉さんの言うことはちゃんと聞きなさい」

盗賊「お姉さんって……年なんて大して変わらないだろ。キミ、小さいし」

少女「うるさいわね、これから大きくなるからいいの。細かい事を気にしてると大きな男になれないわよ」

盗賊「……分かった。後でちゃんと読むよ」

少女「ホント!?」

盗賊「ホント。何より女の子からのお願いだしね。約束する」

少女「ん、よろしい。それじゃ、お喋りはこの辺にして掃除の続きをしましょ?」ニコッ

盗賊「はいはい」

少女「ふふ~ん」フキフキ

盗賊「………はぁ」フキフキ


【#5】王様が本当に欲しかったもの

むかしむかし

とある世界のとある国に、奪うことしか出来ない王様がいました。

王様は手当たり次第、辺りの国に攻め入って、あらゆるものを奪っていきました。

そうしていくうちに国は大きくなり、王様は、世界で一番偉い王様になりました。

すべてを奪って、すべてを自分の物にして、そして遂には、世界でただ一人の王様となったのです。


けれど、満たされることはありませんでした。


この世界の全てを手にした王様は、この世界に退屈して、船に乗って別の世界へと旅立ちました。

王様はそれからも奪い続けました。

次の世界でも、その次の世界でも、そのまた次の世界でも、王様は奪い続けたのです。


けれど、そんな王様にも終わりの時が来ました。

それは幾つ目の世界かも数えなくなった頃、いつも通り、国を奪っている時のことでした。

その国の王女様に助けを求められた、黄色いマントを羽織った旅人が、王様に戦いを挑んだのです。

今まで誰一人として王様に敵いませんでしたが、その黄色い旅人は違いました。

旅人はあっという間に王様が奪ったものを取り返すと、王様の物までも盗みました。


何と、その旅人は泥棒だったのです。

旅人は王様から盗んだ船を使って、全てを返すことにしました。

これまで奪った世界、これまで奪った命、これまで奪ったもの、全てがもとの場所に帰りました。


国中の歓声を浴びる旅人に、王様は言いました。

なぜ、泥棒なのにみんなに好かれているんだ。

なぜ、私は王様なのにみんなに怖れられているんだ。


旅人は言いました。

王様、あなたは全てを手に入れた。何もかもを手に入れた。それは本当に凄いことだ。

でも、あなたは奪うばかりで、誰かに何かを与えようとはしなかった。

倒れた人に手を差し伸べることも、慰めの声を掛けることも、誰かと一緒に涙したこともない。

あなたは優しさがない。優しい心がない。だから、あなたは怖れられているんだ。


それを聞いた王様が言いました。

優しさはどこにある。心は誰が持っている。


旅人は言いました。

その二つはどこにでもある。誰だって持っている。きっと、あなたにだってあるはずだ。


すると、王様は立ち上がり、ふらふらと歩き始めました。

これまでの全てを失った王様は、優しい心を探すため、その身一つで終わりのない旅に出たのです。

けれど王様は、優しい心を見付けるとは出来ませんでした。

全てを奪った王様でも、自分の心を奪うことは出来なかったのです。

王様は手鏡に映った自分の姿を眺めながら、決して終わることのない旅を続けたのでした。


おしまい


【#6】師と弟子と

老人「……ふむ」パタンッ

少女「お爺ちゃん、お掃除終わったよ~」

老人「ん、終わったか。小僧はともかく、お主には面倒を掛けてしまったな……」

少女「そんなことないよ。お掃除も、あの子と話すのも楽しかったからね」ニコッ

老人「……そうか。して、小僧は?」

少女「何か読みたい本があるとか言ってた。子供のクセに難しい本ばっかり選んでさ」

老人「(大方、王家に関する文献じゃろうな。盗人は人一倍勤勉ともいうが……)」

少女「どうしたの?」

老人「あいや、何でもない。それより、儂も今しがた読み終えたどころだ」


少女「ど、どうだった?」

老人「前回までのものとは打って変わって、今回は教育的なものじゃな」

老人「あまり子供向きとは言えないが、親が読み聞かせるには良い本じゃろう」

老人「親がどのように解説し、どのように教えるかで、また違った解釈が生まれる」

老人「子供と言うよりは、寧ろ親に向けた絵本と言うべきかもしれん」

少女「………」

老人「どうしたんじゃ?」

少女「ううん、お爺ちゃんってやっぱり凄いなぁって思って。読んでくれてありがとう」

老人「いやいや、礼は要らんよ」

老人「此方が礼を言いたいくらいじゃ。お主は毎度、興味深いものを見せてくれる」

少女「ホント!?」

老人「うむ。しかし、今回のものは今までのものとは毛色が違う。少なくとも娯楽作品ではない」


老人「この中に登場する王。彼は皇帝を思わせる」

老人「小国である自国の未来を憂い、領土拡大を掲げ、ひたすらに戦を続け、遂には一大帝国を築き上げた男じゃ」

老人「そこから長い長い時が流れ、世代が変わり新たな王が生まれたが、王となった者は戦をも引き継いだという」

老人「終わらぬ戦は悲劇を生み続けた……」

老人「時の王女はその所業に不信感を抱き、王を止めるべく助けを求めた。と言われておる」

老人「いつ、誰に。それは未だに明らかになっていない。王女については記述も少なく事実かどうかも定かではない」

老人「じゃが、後に市民運動が起きたことを考えると王女が何かをしたのは確かじゃろう」

老人「……帝国の終焉と終戦」

老人「領土返還、神の代理人ではなくなった王。つまりは何もかもを失った。この中の王と同じようにな」

少女「………」

老人「儂が思うに、これには王家の歴史さえも組み込まれておる。詳しいようじゃな、王家の歴史に」


少女「えっと、それは……」

老人「そんな顔をするでない」

老人「儂は何も訊かんよ。お主が何を思ってこれを書いたのか、気になることは多々あるがな」

少女「っ、あのね、お爺ちゃん」

老人「なんじゃ?」

少女「…………ううん、やっぱり何でもない。私、今日はもう帰るね。お掃除して疲れちゃったみたい」

老人「お主には無理をさせてしまったな、体はどうじゃ? どこか苦しくはーーー」

少女「大丈夫大丈夫。それより早くお店の中を見てみて? きっとびっくりするから」ニコッ

老人「……そうか、ありがとうよ」

少女「ううん、いつものお礼だから。それ、読んでくれてありがとう。お爺ちゃん、また明日!」

老人「お、おいっ、走ってはならん……行ってしまった……」


老人「……本当に欲しかったもの、か」

老人「(しかし、あの年頃にして王家の歴史を知っているというのは妙じゃな)」

老人「(まして皇帝のことなど文献を読まねば知り得ぬはず。如何にして知り得た?)」

盗賊「あれ、いない。あの子、もう行っちまったのか」

老人「ん? なんじゃ、調べものは終わったのか?」

盗賊「まあね。それよりどうしたんだい?気難しい顔してるけど、あの子と喧嘩でもしたの?」

老人「喧嘩なんぞするか。儂は元々こういう顔なんじゃ。それより、きちんと掃除したんじゃろうな?」

盗賊「疑うなら見てみなよ。きっとびっくりするぜ?」ニコッ

老人「……そうか、なら早速見てみるとしよう。気に入らんかったらやり直しじゃからな」

盗賊「はいはい、分かったから入りなよ。ちょっと冷えてきたし風邪でも引いたらーーー」

老人「分かっとるわ。年寄り扱いするな」

盗賊「そいうところが年寄りなんだよ。椅子は持ってくから早く来なよ?」

トコトコ

老人「……人生、どんな出会いがあるか分からんとは言うが……ふっ、おかしな奴じゃ」カツン

続きマダー?

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