飛鳥「日向に」美穂「鳥の陰」 (9)
某日:公園
飛鳥「・・・」ジャリッ ジャリッ
飛鳥(この公園も久しぶりに来たね・・・プロデューサーにスカウトされてからまともに足を運んだ記憶がないということは・・・まぁ、それはどうでもいいか)
飛鳥(遊具にはしゃぐ子供たち、それを見守る親の集まり、噴水の前で何やら甘い空気を醸す二人組・・・その誰もがボクには気が付いていないようだ。変装もしてるし、気取られても困るし構わないんだけどね)
飛鳥(この公園は夕刻から宵闇が一番映える。その役割から離れ、時折街角からのエンジン音が聞こえる以外には静寂が支配するこの場がなんとも愛おしいものだが、これはこれで悪くはないね)
飛鳥(さて、何とはなしにここに足を運んできたわけだが何をしようか?折角与えられた休暇だ、有効に使いたいものだが・・・ん?)
小日向美穂「すぅ・・・むにゃ・・・」
飛鳥(あれは・・・美穂さん?変装もせずにベンチでうたた寝とは・・・面倒になる前に起こすべきだな)
飛鳥「美穂さん・・・美穂さん、起きてくれ」ユサユサユサコズエ
美穂「んぅ・・・まだ六時だよ・・・すぅ・・・」
飛鳥(15時だが)
飛鳥(確か美穂さんは趣味が日向ぼっこだっけね・・・とはいえ、今人気のアイドルがこんな無防備な姿をさらすとはこれも一種の才能というやつなんだろうか)
飛鳥(いつ暴漢に襲われるとも理解らない。ここはひとつ、ボクがここで隣で見守ろうとしようか」ストン
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飛鳥「・・・」ペラッ
美穂「すぅ・・・すぅ・・」
飛鳥(あれから30分が経過した。鞄に入れてきた小説で暇は潰せたとはいえ、美穂さんはなかなか起きない。そろそろ日も傾き始めたことだし、強めに起こすべきか)
飛鳥「美穂さん・・・美穂さん!起きてくれ」ユッサユッサ
美穂「ん・・・おはよ、ぷろでゅーさーくん・・・」ギューッ
飛鳥「な、ちょっと!美穂さ・・!?」
美穂「今日ももふもふでおっきくて、可愛いね・・・あれ?」ギューッ
飛鳥「や、やぁ美穂さん。目覚めはどうだい?」
美穂「あ、あ、飛鳥ちゃん・・・?」
飛鳥「そう、ボクだ。二宮飛鳥だよ」
美穂「あ、あ、飛鳥ちゃん、わわ、わたし・・・」カーッ
飛鳥「な、何、気にすることはない。人は過ちを犯して成長する。だからこれm」
美穂「ご、ごめんなさーい!」
飛鳥「あ、ちょっと美穂さん!どこへ行くんだ!」
美穂「寮にもどりまーす!!」
飛鳥「律義に応えてる!!クッ、足が速い・・・!」
美穂「はぁ、はぁ・・・」
飛鳥「ゼェ・・・はあっ・・・み、美穂さん・・・」
美穂「何も・・・」
飛鳥「・・・ん?」
美穂「何も、無かった。そういうことにしておいて」カーッ
飛鳥「善処するよ。とはいえ、なかなか忘れられそうにないな・・・」
美穂「あ、飛鳥ちゃん!」
飛鳥「冗談さ。とはいえ、あんなところで無防備に幸せそうな顔を晒していたならば、どうなってもおかしくはないと警告だけさせてもらうよ」
美穂「そ、それもそうだね。そうだ、飛鳥ちゃんはどうしてあの公園にいたの?」
飛鳥「どうして、か。久しぶりの休日にゆく当てもなく風のように流れていた、といったところかな。美穂さんは?」
美穂「あの公園ね、プロデューサーさんとよく散歩に来るんだ。天気がいいといい感じに暖かくて」
飛鳥「ボクとしてはあそこは夜をおススメするね。誰もいない静寂が肌に合うんだ」
美穂「そういえば夜の公園は行ったことがなかったなぁ・・・ふふっ、なんか飛鳥ちゃんっぽいかも」
飛鳥「ボクらしい、か。フム。そういえばボクはキミのことをよく知らないな」
美穂「そういえばそうだね。事務所で顔合わせすることはなんどもあったけど、こうやって話すのは初めてかも」
飛鳥「無理はない。ボクとキミの路線はあまりに違いすぎるからね。とはいえ、ボクの衣装を身に包む美穂さんというものもそれはそれで悪くないんじゃないかな?」
美穂「ど、どうだろ・・・想像つかない・・・」
飛鳥「可能性の話さ。・・・ここで話すのも目立つだろう。場所を移そうか」
事務所・屋上
美穂「ここで待ってって言われたけど・・・あ、飛鳥ちゃん!」
飛鳥「やぁ、待たせたね。少し寒いなって思ってコーヒーを淹れてきたんだ。飲むかい?」
美穂「じゃあ、貰おうかな。それにしても、どうして中じゃなくて屋上に来たの?」
飛鳥「あぁ、その疑問ももっともだろう。寒さも少しずつ厳しくなる季節の中、どうしてここなのかってね。ボクにとってここはある種の『聖域』なんだ」
美穂「聖域・・・?」
飛鳥「もっと言ってしまえば『帰るべき場所』ってところかな。事務所自体もそうなんだが・・・ここはことさら特別でね。替えがたい思い出のひとつさ」
美穂「なるほど・・・特別な場所、なんだね」
飛鳥「イグザクトリィ。とはいえ、時が経つにつれここも騒がしくなったものだが・・・まぁ、それも悪くはないね」
美穂「飛鳥ちゃんって、なんか大人っぽいよね」
飛鳥「どうしたんだい、藪から棒に」
美穂「14歳で私より小さいのにおしゃれで、難しい言葉をたくさん知ってて、苦いものがすきで・・・私なんかよりよっぽど大人だよ。なんか憧れちゃうなぁ」
飛鳥「その評価は聞いてて悪い気はしないね・・・けど、それは覆い隠された虚飾というものさ」
美穂「虚飾・・・?」
飛鳥「まず第一に、確かにボクは小難しい言葉選びをするがそれは真に賢いとは言えない。ボクは誰かさんみたいな天才じゃないし、ギリシアの哲学者のような賢人でもない」
美穂「でも・・・」
飛鳥「まぁ、ひとまず全部言わせてくれ。2つ目。ボクがオシャレだなんていうが、今身に着けている服は所詮『ボクが着たかった服』に過ぎない。服の流行だなんて一過性さ。美嘉さんの来ている服だって一年後には時代錯誤なんて言われるかもしれないセカイだ」
美穂「・・・」
飛鳥「そして最後に・・・生憎ながらボクはコーヒーをブラックで飲めるような人間ではないということだ。どうやらボクの苦みに対する生存本能というものはなかなかにやっかいなものでね。そういう訳だ。ボクはオトナなんかじゃない」
美穂「・・・それは違うよ」
飛鳥「・・・なんだって?」
美穂「飛鳥ちゃんのことあまりしらない私が言うのもちょっとおかしいかもしれないけど・・・うん違う、違うよ」
飛鳥「・・・まるでボクの知らないボクのことでも見ているような口ぶりだね。して、その心は?」
美穂「もし傷つけちゃてたごめんね?でも、蘭子ちゃんや美嘉ちゃんが言ってたんだ。周りとちょっと違うけど、素直でまっすぐな子だって」
飛鳥「蘭子と、美嘉さんが・・・」
美穂「それにね、憧れてるのはホントなんだよ?私にないものを持ってる飛鳥ちゃんが羨ましくって、ちょっとだけ嫉妬してたりしたんだ」
飛鳥「自分に、ないもの・・・くくっ、ハハハハハ!」
美穂「あ、飛鳥ちゃん!?」
飛鳥「いやなに、少しおかしくってね。あぁ、美穂さんがって話じゃない。本当さ」
美穂「・・・?」
飛鳥「どうしてこうもボクという人間は短絡的ですぐ見失うのか・・・それは置いとくとして、だ。ボクも同じなんだ、美穂さん」
美穂「と言うと?」
飛鳥「ボクも実は憧れてた、って話のオチさ。アイドルというセカイで自分の輝きを放ち続ける、1人の少女。純真な心。
名前の通り胸に小さな陽だまりをすっと落とすような、ボクにはとても真似できない魂の煌めき。これが小日向美穂なのかってね」
美穂「飛鳥ちゃんが、私を・・・」
飛鳥「とはいえ、この前人間関係について手痛い失敗をしたものでね。上辺だけの理解は共鳴とは言えないという学を得たばかりなんだ。
憧れは理解から最も遠い感情と言うし、しかして1日2日で相手の全てを識ることが出来るほど賢くはない。だから―――」
美穂「友達に、かな?」
飛鳥「おや、これは一本取られてしまったようだ。それで、キミの回答は?」
美穂「―――よろしくね、飛鳥ちゃん!」
以上です、HTML依頼出してきます。
こひなたんおめ
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