二宮飛鳥「キミのせいだよ」 (19)

・二宮飛鳥のSSです
モバマスでの新カード【黄昏の詩】のSSとなっています。

エピソード、劇場どちらもかわいいので是非見てください。

前作
モバP「あすちゃん」二宮飛鳥「……」
モバP「あすちゃん」二宮飛鳥「……」 - SSまとめ速報
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二宮飛鳥(14)
https://i.imgur.com/NOQTzui.jpg

ボク、二宮飛鳥はプロデューサーと共に秋の山道を歩いている。
ボクと彼は撮影に来ていた。

テーマは『スイートオータム』
撮影は順調に進み、今はその休憩中だ。

暖かい日差し。
綺麗な朱紅葉の木が立ち並ぶ。
燃えるような朱、黄金の色に染まる美しい秋の森。
やわらかな光の下の空気。
そして秋風によって木の葉が舞う。

―これを秋色のセカイというのだろうね。
素晴らしい景色に心を奪われる。
キミが用意する舞台はいつも独創的でボクはそれに惹かれてしまう。

…つまり彼はボクのことをよく理解っているということさ。

彼と歩いていると落ち葉がたんまりと溜まっている場所を見つけた。

…本で読んだことがある、芝生と同じで落ち葉の上で横になると気持ちいい…らしい。

らしいというのはボクが経験したことがないからだ。
子供っぽい発想だと我ながら思う。だが百聞は一見に如かずとも言うしね.

…それに落ち葉のベッドなんて幻想的で心が擽られるだろう?
と誰でもない自身に向けて言い訳をしたところで隣にいる彼に提案をした。

「プロデューサー、此処で少し羽を休めよう」

「ここか?…なにもないぞ」

「何もない、なんてことはないさ」

黄金のベッドに体重を預けて横になる。

んっ、これは確かに心地がいい…。

「キミも来てごらんよ」

「いいよ俺は。スーツ汚れそうだからな」

「そう言わずに…ほらボクの隣においでよ」

と隣のベッドを手でぽんぽんと叩く

「全く仕方ないな」

座るだけだと言いながらも彼はボクの隣に腰を下ろす。
彼の行動に満足したボクは持ってきた詩を読み解くことにした。

今日持ってきたのは一人の詩人が書いた恋の詩だ。


『楽しい春がやってきて色々な小鳥が歌う時、恋しい人の手を取って私は燃える想いを打ち明けた。』

『薔薇よ、百合よ、鳩よ、陽よ。昔、それらをボクは愛したが今ではもう愛さない。』

『ただの一人だ。』

――――――――――――――
――――――――――

「…ん?」
目が覚めると隣にいるはずの彼がいない。

まさかボク一人を置いて先に帰ってしまったのか…?
薄情だね…後でなんと言ってやろうかと悪態を付く。

…休憩が終わる時間になれば彼も迎えに来るだろうと自分で結論付けた。
再び落ち葉に寝転び一人思索に耽る。

――枯れ葉――落ち葉――

―此処に積もっているのは幾重ものオワリのカケラ
ボクは今―そんなセカイに身を沈めている…

「セカイが終わる時の空も、きっとこんな色だ。まるでここだけ他のセカイと隔絶されたようだね」

といつものように痛いことを考えていたその時、声が聞こえた。

『ほう…感じたか。この退廃感溢れる終焉の様を…』

だ、誰だ!?と言葉にするより先に無数の黒い手のようなものがボクの身体を縛る。
一切の身動きが取れず【黒い手】はまるでボクを奈落へと引きずり込もうとしているようだった。

『委ねよ…終わりゆく世界に…その身を完全に…さぁ…』

「なッ!」

『これがお前の求めて続けていた非日常だろう?』

――そうだ、ボクはずっと待っていたんだこういう機会が訪れるのを。
まるで小説や漫画でしかありえないセカイ。
非日常への扉を開けることを。
終わりゆくセカイ…か。悪くないかもしれない

なんて考えとは裏腹にボク自身から発せられたのは拒絶の言葉だった。

「待て…ボクはまだっ…」

――え?

咄嗟に出た言葉が『まだ』だって?
…どういうことだ?
ボク自身が望んていた非日常が其処にある
手を伸ばさずとも、拒まなければ手に入るのになぜ…

埋もれゆく意識の中、最後に思い浮かんだのはプロデューサーのことだった。

―――――――――――――――
―――――――――――

「…ッ!?」
飛び起きると【黒い手】の束縛から解放されていた。

「…は…夢?…だったのか」

どうやら詩を読む間に眠ってしまっていたようだ。
数秒前まで恐怖に怯えていたとは思えない思考が頭によぎる。

「フフッ♪」

「どうした?うなされているかと思えば急に目を覚まして次はにやけるなんて変な奴だな」

どうやら一部始終をプロデューサーに見られていたらしい。

…少し恥ずかしい。

「何、悪夢に飛び起きて『夢か』というシチュエーションをこの身で体験できて気分が高翌揚しただけさ」

「なんだそれ…それよりもうなされるまでは気持ちよく寝ていたがそんなに寝心地良いのか?」

「まぁね、キミも横になるといい。百聞は一見にしかずと言うだろう?」

「……俺も寝転んで見るか」


彼と共にボクも先程まで身体を預けていた落ち葉のベッドにもう一度寝転んだ。
空を見上げ目を瞑り、さっきみた悪夢のことを考える。…悪夢、ね。

『待て…ボクはまだっ…』

ボクの口から出た言葉…あれは一体…

夢とはいえ非日常を求めてきたはずのボクがなぜそれを拒む?
そして夢の最後、なぜプロデューサーのことを思い浮かべた?

「………」
走馬灯のように彼と出逢ってからのことを思い出す。


『ボクとキミでどんな未来が見られるかな?楽しい未来だといいね』

『プロデューサー、キミはボクの…定点観測者だ、だから、其処にいて』

『これからの言葉は、楽園に惑っての操り言。本気にしない方がいい。また、ここへ来たい…キミと』


『見ているか、プロデューサー!キミの見た未来が今此処に在る!』

――ああ、そういうことだったんだ。

…ボクはまだキミと色んな未来を見たい。
キミがくれた翼でまだ羽ばたいていたいんだ。

ねぇと隣で寝転んでいる彼に声をかける。

「空は高いね……キミは近いけれど」

「…当たり前だろ?」

「フフッ、でも当然の出来事を幸せと感じられるようになったんだ。成長だろう?」

「成長なぁ…それよりその本、内容理解できるのか?」

「ん?…ああ、ハイネの詩だよ」

「知ってる。それ恋の詩が書いてあるんだが」

「ボクだって知っているさ、内容はさっきまでは理解らなかったけど今は…自明だ」

「へぇ。さっきってお昼寝してただけじゃないか」

「まぁね。―もし、もしもだ。ボクが偶像という道とは別の非日常に出会ってしまってキミの元を離れようとしたらどうする?」

「ん?…その時になってみないとわからないが今は辞めてほしくないな。まだ飛鳥に見せたい景色が山程ある」

―流石はキミだね。
そう言ってくれると思ったよ、でもボクも同じさ。

キミと見るセカイは何色か。それを何度も何度でも確かめたいんだ。

キミと共に光の果てを見てみたい、そう思わされたあの時から。

「―ありがとう。でもその必要も心配もいらないよ、フフッ」

「ならなぜ聞いたんだよ」

と怪訝な表情をするプロデューサーとは対照的にボクの表情は緩みきっていた。

――全くいつからボクはこんな人間になってしまったのだろうね。

微糖のコーヒーを飲むようになったのも

非日常を前に悪夢だと切り捨てるようになったのも

ハイネの恋詩を理解できるようになったのも

…このありふれた日常を手放したくないだなんて思うようになってしまったのも

全てキミのせいだよ、プロデューサー。

終わりです。

非日常を求めていた彼女があの夢を悪夢だと言ってくれたことに感動した飛鳥Pは私だけじゃないはず。
エピソードもCu成分増し増しなのでスタドリに余裕のある方は是非一度御覧ください。

こんなSSを読んでくださった皆様ありがとうございました。

最初に劇場貼るの忘れてました。申し訳ありません。
https://i.imgur.com/MsuWAel.jpg

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