錬金術師「経営難に立ち向かう事になった」新人鉱夫「その3!」(810)

■前回のあらすじ!

バターピーナツ器が爆発した。

ワイドレンジピーナツ器が誕生した。



錬金術師「経営難に立ち向かう事になった」
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錬金術師「経営難に立ち向かう事になった」女店員「その2!」
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――――【 錬金術師のお店 】


錬金術師「…」ポリポリ

錬金術師「…」ポリポリ

錬金術師「…」ポリポリ

錬金術師「…」ポリポリ


女店員「…店長」


錬金術師「んあ」

 
女店員「いつまでポリポリしてるの!早く仕事して!」バンッ!

錬金術師「おいおい…。このバニラピーナツが絶賛の嵐なんだよ」

女店員「な、に、が、絶賛の嵐なの!」

錬金術師「ちまたで話題なんだよ」

女店員「店長がここ最近、外に出てるの見たことないんだけどなー?」

錬金術師「ばれたか」ポリポリ

女店員「バレバレだから!!」


…ガチャッ

新人鉱夫「ただいまですー」

銃士「ただいまー」

 
女店員「あっ、お帰りなさい二人とも」

新人鉱夫「外まで声が響いてましたよ~」

銃士「相変わらず毎日元気だなーって話してたところさ」アハハ

女店員「あう……」


錬金術師「まぁまぁ…許してやってくれよ」

女店員「誰のせいだと思ってるのかな、誰のせいだと」

錬金術師「新人鉱夫かな」


新人鉱夫「ふぇっ!ご、ごめんなさい……」シュンッ


女店員「て~ん~ちょ~……!」ギロッ

錬金術師「申し訳ございませんでした」

 
女店員「本当に、営業でもなんでもいいからしてよ!」

女店員「ワイワイレンジでチンだか分からないけど、あのせいで260万も使ったの分かってる!?」


錬金術師「ワイドレンジピーナツ器だっつーの。相応の支出だ」キリッ

女店員「壊していいの?」

錬金術師「使いすぎました、ごめんなさい」

女店員「はい」


銃士「うーん…。私はあまり、経営に物言いしたくはないが…」

銃士「出納帳見て、ある程度儲けも出たと思ったが…あれから1か月もたち、客が全然来ないのはちょっとな…」


新人鉱夫「倉庫は潤って素材は増えていくけど、売れないと意味もないですよね」


錬金術師「素材が沢山…。素材…素材…?何か忘れているような……」

錬金術師「…」

錬金術師「…あっ」

錬金術師「あ…!あぁぁっ!!」ガタッ!

 
女店員「!?」

銃士「!?」

新人鉱夫「!?」


女店員「ど、どうしたの?」

錬金術師「忘れてたぁぁ!!」

女店員「何が?」

錬金術師「…鍛冶屋に鉱石届けるの!!やべえ!!」

女店員「…」

錬金術師「ちょ、ちょっと鍛冶屋んところ行ってくる!!」ダッ!

 
女店員「先週、別の固定ルートを結んだから、もういらないと言われたんだけどね」

錬金術師「」

ズザザァ!!ドシャアッ!


錬金術師「…ま、まじか」ムクッ

女店員「折角の契約だったのに。まぁ、私も言い忘れてたから悪いんだけど……」

錬金術師「…」

女店員「現状、うちの商品とってくれるところはないし、どうするの…」

錬金術師「…」


銃士「う~む…。ちょっと話を割るが、今の利益とかはどうなってるんだ?」
 

女店員「プラス240万ゴールドにはなってるけど、給料含めてそこから60万を引いて…」

女店員「今月の時点でお店の利益としては180万かな…。雑費とかは別にして計算して、だけどね」

 
銃士「…かろうじて、プラスか」

新人鉱夫「残り180万で出来る事といえば……。うん、難しいですね…」

女店員「…」ハァ

錬金術師「はは…客がこねえとな…」


…コンコン


錬金術師「!」

女店員「って、こういうタイミングでのお客さん!」

錬金術師「こういう時のお客って、たいていお金運んできてくれる気がするぞ」


女店員「じゃあ、精一杯の笑顔で!」

錬金術師「いらっしゃいませー!どうぞぉっ!」ニコォッ

 
ガチャッ…

親父「相変わらず、だな」


錬金術師「」

女店員「」

新人鉱夫「」

銃士「」


親父「…」


錬金術師「親父かよ!」

親父「少したったら、店の様子を見に来るといっただろう」

 
錬金術師「ちっ…。なんだ、何の用だ……」

親父「結果、出してるんだろうな。あれから2か月になる」

錬金術師「…」

親父「出納長の1つくらいは、つけてるんだろう。見せろ」

錬金術師「…ほらよ」ポイッ

…バサッ!


親父「…」

親父「…180万、か」


錬金術師「文句あんのかよ」

親父「情けないな。これがお前の言う結果か?」

 
錬金術師「…始まったばっかだろ」

親父「部下を3人も持っている癖に、これしか利益をあげられないとは」

錬金術師「うっせぇ!」

親父「それともなんだ、お前の部下は無能か?」

錬金術師「何…?」


女店員「…」

新人鉱夫「…」

銃士「…」


親父「見ろ、部下のあきれた顔を。お前のリーダーシップとしてのゴミさに、笑顔すら忘れてるんだろう」

錬金術師「てめぇが来たからだろうが!」

親父「…俺がいなければ、お前と女店員は重罪だったんだぞ?その口のきき方……!バカ息子が!」

錬金術師「うぐっ…」

 
親父「本来なら、今日まで結果を出さなければ店をつぶす気でいたんだが…」

錬金術師「…」

親父「お前の働きは知っている。今回も特別に見逃してやる」

錬金術師「働きって、何のことだ」


親父「"アルスマグナ"」


錬金術師「!」

親父「俺が知らないとでも思っているのか。あそこの副機関長は中々うるさいハエでな。困っていたんだ」

錬金術師「…別に俺は、アルスマグナ自体にダメージを与えるようなことはしてねーぞ」

親父「なに?」

錬金術師「確かに、あそこには行った。だがアルスマグナを騙しただけで、特別なことはしていない」

親父「……まさかお前、知らないのか?」

錬金術師「何がだ」

 
親父「副機関長な…死んだぞ」


錬金術師「!?」

女店員「!」

新人鉱夫「!」

銃士「!」


親父「お前が作った偽黒魔石を使用して、首をナイフで掻っ切ったそうだ」

錬金術師「…っ!!」

親父「…お前が殺したのと一緒だな」ククク

錬金術師「う、うそだろ!!」

親父「…なら、アルスマグナへ行ってみたらどうだ?」

錬金術師「嘘つくなよコラァ!!」

 
親父「嘘など言わん。完全にアルスマグナが消えたとは言えないが、副機関長がいなくなったのはでかい」

親父「俺は少し楽に事業を進められるわけだ…。」

親父「それに免じて、今回は見逃しておこう。ではな……」

ガチャッ…バタンッ…


錬金術師「なっ…な…!」

女店員「て、店長…」

錬金術師「俺が…殺したのか……」

女店員「店長!ち、違うって…店長のせいじゃないでしょ!」

錬金術師「一緒だろ…。そう仕掛けようともしていた…からな…!」ギリッ


銃士「店長、気にすることはないよ。元々あいつらが悪いんだから」

新人鉱夫「そうですよ!気にするだけ損です!」


錬金術師「…っ」

 
女店員「…」ギュッ

女店員「そ、それに…店長……」


錬金術師「ん…」


女店員「私だって、店長に協力したから…。私も、その人を殺したのと一緒だよ…」

銃士「…それなら私もだな」

新人鉱夫「僕もですね…」


錬金術師「違う!お前らは関係ない!」


女店員「関係なくなんかない!」

錬金術師「!」

女店員「関係なくなんか…ない…」

錬金術師「…」

 
女店員「…だから、店長…。一人のせいじゃないから…」ブルッ

錬金術師「…っ」


女店員「…」

女店員「…」グスッ


錬金術師「…わ、わかったよ!わかった、わかったわかった!」

女店員「…!」

錬金術師「お、俺は気にしない事にする。気遣ってくれて、ありがとうな」

女店員「…うんっ」ゴシゴシ


銃士「…」フッ

新人鉱夫「はは…」

 
錬金術師(これ以上いうと、お前が本気で泣きそうだ。泣き顔はあまり見たくねえしな…)

錬金術師(そこまで想ってくれたのを、泣く寸前まで分からないとか…情けねえなぁ)

錬金術師(だが…俺が殺したのには変わりはない。あの時、そう言っちまったんだから…)

錬金術師(くそっ……!)


女店員「…」グスッ


錬金術師「…さ、さぁて!店を潤わせる作戦でも考えますか!?」パンパン

女店員「うん…」コクン

銃士「そ、そうだね!」

新人鉱夫「そ、それがいいと思います!」

 
錬金術師「えーっと、意見のある人!」

銃士「…」バッ

錬金術師「はい、銃士さん」ビシッ

銃士「せっかく素材があるんだから、ココだけじゃなくて、別の場所で売れないのかな?」

錬金術師「別の場所って…支店ってことか?」

銃士「そんな大それたものじゃなくていいと思うけど…」


錬金術師「…」

錬金術師「…市場に出してみる、とかか?」


女店員「市場って、前に行った麓町だか麓村の…?」

錬金術師「そうそう。貸しスペースは料金がかかるが、それ相応の儲けは出るとは思うな」

女店員「!」

 
錬金術師「女店員、悪いけど倉庫にある在庫を、何がどれだけあるか確認してもらえるか?」

女店員「うんっ、見てくる」

トテテテ…


錬金術師「…銃士、ナイスアイディア」ビシッ

銃士「店長が本当は浮かぶべきでは…」

錬金術師「…銃士、ナイスアイディア」ビシッ

銃士「…そ、そうだな。どういたしまして」


新人鉱夫「でも、市場って基本的に素材のままの販売が基本ですよね?」

新人鉱夫「うちにある在庫は、店長さんが既に錬成しちゃったりしてませんでしたっけ?」

 
錬金術師「それは問題ない。加工品でも、販売できるっちゃ販売できるし」

新人鉱夫「そうなんですか?」


錬金術師「…確かに市場は、素材目的で安価で手に入るが、加工品だって売っていいんだ」

錬金術師「まぁその分、値段があがるし買い手もそこまで多くはないと思うが…」


銃士「冒険者なんかも、たまに市場に顔出ししてるよね。私も行った事あるし」

錬金術師「そうだな。代表的なのはアカノミとかはそのまま食えるし、保存食にもできるから冒険者がこぞって買いあさる」

銃士「アカノミはほとんどポーションにしちゃってるし、それを売ればいいね」

錬金術師「うむ。在庫管理もしっかりしねぇとなぁ…」


タタタタッ…

女店員「てーんちょ、在庫見たの、まとめたよ」スッ

 
錬金術師「お、ご苦労。どれどれ…」ペラッ

錬金術師「…」

錬金術師「素材がえーと…鉄鉱石、エレクトラム、銀鉱石、金鉱石」

錬金術師「アウルベアの毛皮、アカノミ、アオノミ…」

錬金術師「加工品は、鉄、レッドポーション、ブルーポーション、アウルベアの干し肉…」

錬金術師「武器防具等の修理用の鉄板、かまどや燃料用の高純度魔石、自動採掘機」

錬金術師「あとは、銃弾が火炎、凍結、雷撃の3種類のストックがある…と」


銃士「結構良いモノ揃ってるんじゃない?」

女店員「なんか錬金術のお店っていうより、何でも屋さんだね」

錬金術師「元々、錬金師なんて何でも屋さんだって」


女店員「それで、どうやって登録してどうやって販売するの?」


錬金術師「まずは麓村の村役場で、販売する商品の詳細にまとめた用紙を渡す」

錬金術師「そしたら販売に見合う大きさのスペースを渡されるから、そのスペース分の代金を支払う」

錬金術師「あとは販売した分の数パーセントの手数料を渡しせばオーケーだ」

錬金術師「まぁ、販売時間は早朝から朝10時までと限られているが、この間の盛り上がりを見た限りー…」


女店員「…」

銃士「…」

新人鉱夫「…」


錬金術師「…何よ、君たち。その顔は」

 
女店員「…店長っぽいなと」

銃士「やっぱり、店長なんだなぁと」

新人鉱夫「店長さんは、店長さん、なんですね!」


錬金術師「…」

錬金術師「…やかましい!」

………
……

 
・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
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・・・・・・・・
・・・・・・
・・・・・
・・・・
・・・
・・

 
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――――【 次の日 早朝 】

ガサガサ…ゴソゴソ…ゴトンッ!


錬金術師「はぁ…はぁ~…!!こ、こんなもんか…!」

女店員「…販売用の素材を運び出すくらいで疲れすぎ!」

錬金術師「お、お前な…」ゼェゼェ

女店員「ほら、あの二人を見習う!」ビシッ


新人鉱夫「これで袋詰めの鉱石は全部ですね?」ヒョイヒョイ

銃士「鉱石は新人鉱夫の持ってるので全部だな。瓶詰めのポーション系もこれで全部か…」ヒョイヒョイ


錬金術師「…あいつらは、別格じゃないのか」

 
女店員「でもまぁ、昨日の計画からあっという間に行動したところは評価してあげる♪」

錬金術師「…明日にでも準備しないと、俺のワイドレンジピーナツ器を壊すと言ったからだろうが!」

女店員「ワイワイレンジなんか、愚の骨頂!」

錬金術師「…だから、ワイドレンジだと」

女店員「いいから、早く準備手伝ってくる!私は倉庫の掃除しなおしてくるんだから!」

錬金術師「えー…」

女店員「…」ジロッ

錬金術師「はい、やってきます」


銃士「…おぉ、ついに女店員も強き冒険者が持つというオーラによって店長を…」

新人鉱夫「うん、違うと思います」


………

 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

…ガタンッ!

錬金術師「よし、積荷オッケー!」

女店員「…っていうか、今気付いたんだけど、店長」

錬金術師「うん?」

女店員「何気なく積荷をしたけど、この巨大なリヤカーはどこから…?」

錬金術師「今朝方、早く起きて造った」

女店員「えっ」

錬金術師「ただの木材なら、近くの集積場にあるしな」

女店員「待って、待って待って。突っ込むべき場所が何ヶ所か」

錬金術師「何だよ」

 
女店員「まず、店長が大工的なことを出来るのはまぁ…不思議だけど、出来るとして」

錬金術師「うむ」

女店員「…集積場から、持ってきたって言わなかったかな、って言ったよね…?」ピクピク

錬金術師「うむ」

女店員「…返してきなさーーーいっ!!」

錬金術師「えー」

女店員「それ犯罪だから!分かってるの!」

錬金術師「…いやいや。集積場って、廃材置き場な。あのーほら、鉱山で利用する材木の余り」

女店員「えっ!そ、それなら…いいの?」

…チラッ

銃士「い、いや…私は知らんぞ…」

新人鉱夫「僕のいたところですけど、廃材置き場のなら基本的にいらないものですし…いいのかな…」

 
女店員「…また、怒られるのは勘弁してほしいんだけど」

錬金術師「大丈夫だって!一応、前の管理人には度々材木で貰ってたし!」

女店員「そ、そうなの…?」

錬金術師「腐りかけのやつだったし、それを錬成してちょいちょいと再利用できるようにしただけだし」

女店員「うーん…」

錬金術師「まぁ、それじゃ行こうか!朝市が終わる前にな!」


女店員「…はぁ、全く」

女店員「っていうか、朝市に全員で行くの?」


錬金術師「…あん?」

女店員「…それにこの巨大な積荷、何キロあるの。麓村まで行けるの?」

錬金術師「いや、町の馬車に引いて貰えるはずだ。輓馬っつー巨大な馬がいてな。ちと高いが」

 
女店員「…そこまではどうやって?」


錬金術師「…」

錬金術師「…女店員!」パチンッ!


女店員「人を召喚物扱いしない!指ぱっちんしない!!」

錬金術師「だって俺、無理だもん」

女店員「…」

錬金術師「つーか、全員で行くわけにもいかねぇよな。どうするか考えてなかった」ハハハ

女店員「どうするの…」


ググッ、ガラガラ… 
 
新人鉱夫「…あ。これくらいなら僕が引けますよ。僕がそこまで着いていきますよ」ニコッ

 
錬金術師「!?」

女店員「!?」

銃士「お…」


新人鉱夫「…ど、どうしました?」

錬金術師「いやお前、そんなパワーキャラだっけ。いやパワーはあるのは分かるけど」

新人鉱夫「い、いえ…。前の仕事柄、力は他の人より有りますが、言うほどでは…」

錬金術師「じゃあなんだそのパワーは!!」

新人鉱夫「パワーっていうか…。ただ、コツがあるだけで…」

錬金術師「…」


銃士「…決まりだな。じゃあ私は留守番をしてるから、女店員と三人で行ってくるといい」

錬金術師「うんむ…」

 
新人鉱夫「じゃ、出発しますか?」

錬金術師「うい」

女店員「…店長、普通逆じゃない?ほら、リヤカー奪うくらいの気持ちで」

錬金術師「…」

女店員「何で無視してるのかな…?」

錬金術師「キコエナイ」

女店員「…」


ガラガラガラ…

ガラガラ…

……

 
銃士「…」

銃士「…行ったか」

銃士「早朝から、このお店は客はいないのに賑やかだな」ハハ

銃士「さて、それじゃあ私はお店番でもしてようかなっと」クルッ

 
ザッザッザ…ガチャッ!

トコトコ…ストンッ


銃士「…ふぅ」

銃士「…」

銃士「へぇ…。ここが店長のいつも座ってみてる景色…か」

銃士「…」

 
銃士(そういえば、こうして私が一人でここに座ってるのは初めてだな)

銃士(いつも、色々な買い物を新人鉱夫と一緒にしながら、素材を集めたりばっかで…)

銃士(朝からこうして落ち着いて座ることは、久方ぶりかもしれん…)

…ウトウト

銃士(こういう空気だと、少し眠くもなってくるな…)

銃士(はは…。何か、こうして眠くなるのも久しぶりだ……)

銃士(店長たち、沢山売って来てくれるかな…)

銃士(私の採った素材は売れるかな…)

銃士(う~…だめだ…)

銃士(少しだけ…)

銃士(眠い…)


………
……

  
・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・
・・・・
・・・
・・

 
本日はここまでです。有難うございました。

錬金術師シリーズの第三弾となります。

だいぶ長い時間を置いたもので、忘れている方もいるとは思いますが、お時間がある時は是非読んでやって下さい。


今回は以前のような「長編」ではなく、中編と短編を併せたものを展開する予定です。

また、更新は基本的に2日~3日に1回のペースとなります。

それでは、有難うございました。

皆さま有難うございます。
投下致します。

 

……
…………
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 数時間後 】

…パチッ

銃士「ふわぁぁ~…!」

銃士「あっ…」ハッ

銃士「す、すっかり寝てしまっていたのか…」

銃士「…」

…グゥゥ

銃士「お腹すいたな…」


スクッ…トコトコ…

銃士(確か、私が採った保存食が倉庫にあったな。それでも食べて、腹の足しにするか…)

 
…コンコン


銃士「ん…」
 

銃士(お客さんか、珍しい…)

銃士(……)

銃士(珍しいて、お店なのに…はは……)


銃士「はーい、どうぞ~」


…ガチャッ…


???「…」ヒョコッ

 
銃士「…ん?」


???「…」


銃士「…こども?」


???「…」


銃士「迷子か何か…かな?」

銃士「えっと、どうしたのかな~?」


???「…」


銃士「…うん?」

 
???「…」ジトッ


銃士「…」


???「…」グゥゥ


銃士「…えーと、どこの子かな?」


???「…」

???「…」グスッ


銃士「えっ」


???「あう…」グスッ

 
銃士「ま、待って泣かないで!お腹すいたのかな?」

銃士「今、何か探してあげるから…!ち、ちょっと待って……!」


???「ひぐ…っ!」


銃士「な、何でいきなり子供が…!」


…パサッ


銃士(おや、子供の手から何か…落ちた……?)


トコトコ…ヒョイッ


銃士「食べ物はちょっと待ってね~。」

銃士(何だろう、この紙……)ペラッ

 
???「…」


銃士「…」

銃士「…」

銃士「……えっ」


???「…」


銃士「ちょ、ちょっとこれって……!」

銃士「えっ…!えぇぇぇぇっ!?」

銃士「て、店長…なんていうかな……」


…………
……

 

……
………… 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 3時間後 】 


…ガチャッ!

錬金術師「ただいま~」

女店員「銃士、遅くなってゴメンね~」

新人鉱夫「結構売れましたよ~!」


銃士「あっ!お、おかえり……」ヒクッ


錬金術師「…」

錬金術師「…浮かない顔だな。どうかしたのか?」

 
銃士「…その、驚かないでほしいんだけど。みんなにお伝えしたいことが」

錬金術師「何だ?」

銃士「実は、店長たちが出かけてる間に…凄いものがさ……」

錬金術師「凄いもの?」

銃士「…うん」

錬金術師「…見ないと分からんぞ。何がどうした」


女店員「何が凄いものなの?」

新人鉱夫「何かお届け物でも来たんですか?」


銃士「お、お届け物って言えば…お届け物かな……」

 
錬金術師「だから、何だよ」

銃士「えっとね。実はー……」


トテトテトテ…

???「…」ムニャムニャ


銃士「あ、起きたのか…」


錬金術師「…」

女店員「…」

新人鉱夫「…」


銃士「その…。今来たけど、この子なんだけど……」

ソッ…ポンポンッ

 
???「…」


錬金術師「…」

錬金術師「…なんでしょうか、この子供は。なぜうちの店に」


銃士「留守番してて、気が付いたら店の前にいてさ…」

錬金術師「店の前に?客じゃあるまいし、迷子か何かじゃないのか?」

銃士「それがさ…。この手紙も一緒に」スッ

…ガサッ

錬金術師「…手紙だと?」
 
錬金術師「えーと、何なに……」


銃士「…」

 
錬金術師「…錬金術師様へ」

錬金術師「どうか、この子をよろしく……」

錬金術師「お、おねがい……」ヒクッ

錬金術師「し…ま……す…………っ!?」

錬金術師「はぁぁあっっ!?」
 
 
女店員「えっ!?」

新人鉱夫「えぇぇっ!?」


???「!」ビクッ


銃士「…店長、この子に面識はないの?知ってる人の子供だとか」

銃士「私は、見たこともないんだけど……」

 
錬金術師「…し、知るかよ!見たこともねぇよ!」バッ!

女店員「…誰かとの子供じゃないでしょうね」ジトォッ

錬金術師「ちげぇっつーの!な、なんで俺に子供を預かって欲しいなんて来るんだよ!!」

女店員「…」ジトォッ

錬金術師「ま、待て待て待てぇ!そんな目で俺を見るんじゃないっ!!」


???「…」グスッ


銃士「あっ、あぁぁ!泣いちゃうから、大声出さないであげて…!」


錬金術師「…お、大声出さないでどうしろっつーんだよ!」

錬金術師「何でこんなこと……!」

 
???「ひぐっ…うぇぇ……」グスグスッ

銃士「ああぁ!ほ~ら、よしよし……」

…ナデナデッ


錬金術師「な、なんでこんな子供が……」

錬金術師「…」

錬金術師「…」

錬金術師「…ん?」ピクッ


女店員「店長、本当に身に覚えがないんでしょーねー……」ジロジロ

新人鉱夫「は、白状するなら今のうちだと思います!」


錬金術師「銃士、待て。その子……」

 
銃士「うん?」

女店員「あっ!や、やっぱり身に覚えが……!?」ブルッ

新人鉱夫「店長さん、やっぱり……」


錬金術師「…バカ、ちげぇよ!これだ!」

…ファサッ…

…ピンッ…

???「…?」


女店員「え?」

銃士「…えっ?」

新人鉱夫「あっ…!」

 
錬金術師「見ろ…。け、獣の耳だ…。こいつ…獣人族の子供か……!?」

女店員「じっ…」

銃士「獣人族!?」

新人鉱夫「な、なんですかそれ…!」


獣人の子「…?」


錬金術師「…そんなバカな」

女店員「店長、獣人って…」


錬金術師「その言葉通り、魔族のうちの魔獣、人型種だ」

錬金術師「滅多にいない希少種で、大人はまだしも、子供を見るのは俺も初めてだぞ……」

 
女店員「なんで、そんな子がうちに…」

錬金術師「それに、間違いないと思うが…獣人族っていう確証も正直ないっちゃない」

女店員「…ないの?」

錬金術師「言った通り、希少種ってことで数は少ないうえに研究は禁忌に認定され、その生態は謎に包まれているんだ」

女店員「そうなんだ…」


銃士「…でも、店長。店長への置手紙もあったし、どうも親は店長のことを知ってたみたいだね」

新人鉱夫「身に覚えはないんですか?」


錬金術師「…ない。一体これは……」

女店員「…」

銃士「…」

新人鉱夫「…」

 
獣人の子「…」

獣人の子「…」

獣人の子「…」

……モジッ

 
銃士「あ…」ハッ

女店員「…ど、どうしたの?」

銃士「その子、もしかして…」


獣人の子「…」モジモジ


女店員「あっ!と、トイレじゃない!?」

 
錬金術師「!?」

銃士「か、かも!ちょっと連れてってくるよ!」

錬金術師「お、おう。急いでやってくれ」

銃士「もちろんっ!」

…グイッ!

獣人の子「!」

銃士「いくよ!」

タタタタタッ……ガチャッ、バタンッ…


錬金術師「…」


…………
……

 

……
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 数分後 】

タタタッ…

銃士「店長、終わったよ~」

獣人の子「♪」


錬金術師「…ご苦労」ハァ


銃士「それと、新情報」

錬金術師「なに」

銃士「分かってたと思うけど、やっぱり女の子だった」

錬金術師「あぁ……」

 
女店員「可愛い顔をしてると思ったら、やっぱり女の子だったんだ~」

…ナデナデッ

獣人の子「…♪」


錬金術師「…」

錬金術師「…見た目といい、仕草といい…」

錬金術師「そいつぁどうも、人間の血を強くひいてるな。人と獣人が交わって産まれた子供かもな」フム


女店員「ま、交わったって…」


錬金術師「…本来、もっと獣らしい姿になるはずなんだ」

錬金術師「その歳で言葉をそれなりに理解もしてるし、獣の証が耳だけ。人間の血が強いっつーことだ」

錬金術師「…だ、け、ど、な…」

錬金術師「ど~~してっ!!俺のっ!!店にっ!!置いていくかねぇ……」ハァ

 
女店員「店長ってば、本当にこの子のこと、知らないの?」

錬金術師「…獣人族っていう種族だけならば知らないことはないんだが」

女店員「どういうこと?」


錬金術師「少し前…っつっても、かなり前の話なんだが……」

錬金術師「獣人族はその希少性と、人間に似た容姿から、研究対象になってた時期があった」


女店員「!」

錬金術師「今はもう、非人道的っていうことで行ってはいないんだがな」

女店員「店長も…やったことあるの…?」

錬金術師「まさか、あるわけないっての。俺の現役時代にはとっくに禁忌だ」

女店員「だよね」ホッ

 
錬金術師「…しかし、獣人族の子か」

錬金術師「俺を頼ったってこたぁ、まさか同業者の仕業か……?」


女店員「確かに、同じ錬金術の人たちなら店長の名前も知ってそうだしね」


錬金術師「それもそうだが、恐らくはそうだな……」

錬金術師「子供の育成やその希少性から、狙われることも少なくないわけで」

錬金術師「獣人に興味を持ち、交わり、子を授かったものの……」

錬金術師「あまりにも手を焼き、俺へ頼ったとかそういうこととか……」


獣人の子「…」ジトッ


錬金術師「…そ、そんなワケはないなぁ!?は、はっはっは…!」

錬金術師「お前の親は、きっと戻ってくるから安心しとけよ、なっ!!」

 
獣人の子「?」


錬金術師「…」

錬金術師「……分からない、か」

 
女店員「…」

女店員「…あっ、そうだ!店長店長、この子に名前をつけてあげようよ!」


錬金術師「名前だ?」

女店員「手紙には、名前も載ってなかったんでしょ?」

錬金術師「まぁ」

女店員「なら呼び方にも困るし、つけてあげないと!」

錬金術師「…任せるよ」

 
女店員「じゃあ、みんなで名前を考えてあげよーよ!」

女店員「まずは、銃士からどーぞ!」


銃士「い、いきなり私か。う~ん……」

銃士「…」

銃士「で、では…!」ゴホンッ
 
銃士「獣の人の女の子だろ…!け、"けじんこ"とかどうだ!」


錬金術師「…絶望的なセンスだな」

銃士「」


女店員「ちっちっち…甘いよ銃士っ!」

女店員「私に任せて!ずばり、獣の女の子ということで…!」

女店員「じーこ!」


錬金術師「…出直せ。お前も絶望的だ」

女店員「」

 
新人鉱夫「ま、まぁそのまま普通の通りでいいじゃないですか」

新人鉱夫「獣の娘で、ケモたんとか、幼獣とか」


錬金術師「…なんか変態くせぇ」

新人鉱夫「」


女店員「ち、ちょっと店長!さっきから否定ばっかして…!」

銃士「そうだぞ!じゃあ、店長なら何てつけるんだ!」

女店員「そ、そうそう!店長はいい名前つけるんだろうな~!」フンッ


新人鉱夫「へんたい…へんたいですかぼくは……」グルグル

 
錬金術師「…」

錬金術師「…あのさぁ、魔娘(まこ)とかでいいじゃん」

錬金術師「あと、なんか仕草が犬っぽい。それと犬耳っぽい」

錬金術師「犬娘と書いて…わんことか?」

 
女店員「え~…」

銃士「う~ん…」

新人鉱夫「へんたいが…ぼくは……」グルグル


錬金術師「…ダメか?」

錬金術師「じゃあそうだな、うーむ……」


獣人の子「~♪」

 
錬金術師「犬……。」

錬金術師「…」

錬金術師「……あぁっ!」ポンッ

錬金術師「割といい名前を思いついたぞ」


女店員「何?あまりにもひどい名前だったら、店長をその名前で呼ぶからね」

銃士「私たちをけなしたうえでの名前…!さぁ、言ってみるといいよ!」


錬金術師「…」

錬金術師「"クー"とかどうだ」


女店員「クー?」

銃士「…どういう意味?」

 
錬金術師「遠い昔、妖精族を守りし魔犬というか…そういう魔獣がいた」

錬金術師「その名前を、"クーシィ"というんだがな。そこからとってみた」


女店員「クー…か」

銃士「くっ…!店長、知識が豊富なだけに、名前も出てくるのは割と良い名前を…」

錬金術師「…どうだ?クー」


獣人の子「…」

獣人の子「…」

獣人の子「…♪」

トテトテ…ギュッ!


錬金術師「おっ…」

女店員「!」

銃士「…悔しいけど、気に入ったみたいだね」クスッ

 
クー(獣人の子)「♪」


錬金術師「…よろしくな、クー」

クー「~♪」ギュウッ


女店員「…店長、店長」

錬金術師「あん?」

女店員「名前までつけて、ヨロシクねって言うことはさ」

錬金術師「うむ」

女店員「この娘、うちで面倒を見るの?」


錬金術師「…」

錬金術師「…」

錬金術師「……しまった」

 
女店員「…」

銃士「…」


クー「…♪」


錬金術師「…え、どうしよう。何これ、決まっちゃった感じ?」

女店員「…さ、さぁ」

銃士「でも、クーは店長にくっついてるし……」

錬金術師「…」

…ギュウーッ!

クー「♪」


錬金術師「…」

錬金術師「ど、どうすんべ……」


新人鉱夫「ぼくが…へんたい……」グルグル

 

……
…………
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 夜 倉庫 】

スヤスヤ…

クー「…」クゥクゥ


錬金術師「…飯食ったと思ったら、あっという間に寝やがった」

新人鉱夫「人間のご飯でよかったんですかね?美味しそうに食べてはいましたけど」

錬金術師「獣の名がつくとはいえ、人として扱ったほうがいいな」

新人鉱夫「わかりました」

錬金術師「…しかし、どうするか」ハァ

新人鉱夫「面倒を見るか、見ないかのことですか?」

 
錬金術師「…」

錬金術師「……どうするかなぁ」


新人鉱夫「女店員さん、銃士さんの二人は面倒を見るつもりだったようですけど」

錬金術師「あいつら簡単に考えすぎ。親がいつ迎えに来るかも分からないんだぞ?」

新人鉱夫「…」


錬金術師「それにさっきも言ったが、獣の名を受けていてもあくまで人として扱うべきだ」

錬金術師「しかも、子供な」

錬金術師「…つまり、子供を育てるの一緒なんだぞ」


新人鉱夫「かといって、他に預けられる場所とかあるんですか?」

錬金術師「…ないだろうな」

 
新人鉱夫「やっぱり……」


錬金術師「俺が知ってる、有名な機関に預けるのもいいだろうが、」

錬金術師「何せ、獣人族っつーだけで好機の目で見られちまう」

錬金術師「俺としては、こんな幼い子をそんな表だった場所に置きたくはないんだよなぁ」


新人鉱夫「優しいですね、店長さん」

錬金術師「…優しいっつうか、俺は人として扱ってやりたいだけなんだよ」ボリボリ

新人鉱夫「…」

錬金術師「だが、育てる訳にもいかん。人一人を養うことが、どれだけのことか…」

新人鉱夫「…子供ですしね、色々大変かもしれないです」

 
錬金術師「…」

錬金術師「…どうすっかなぁ」ハァ


新人鉱夫「親を探したりしてみますか?」


錬金術師「俺のことを知ってる奴で、獣人と関係を持った人……」

錬金術師「やっぱり同業者、錬金術の類の人間の仕業だと考えて間違いはないとは思うんだが…」

錬金術師「同業者といえども、宛てがない。明日、隣町の機関に顔を出してみるか…」


新人鉱夫「隣町にある錬金術機関の、機関長さんですね」

錬金術師「そうそう。俺が現役引退後に獣人と関係を持った奴がいないか聞いてくるよ」

新人鉱夫「わかりました」

 
錬金術師「…」チラッ


クー「…」スヤスヤ


錬金術師(…まだ幼子だっつーのに、捨てる親も親だ)

錬金術師(何やってんだよ…)

錬金術師(はぁ…)


………
……

 
・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・
・・・・・
・・・・
・・・
・・

本日はここまでになります。有難うございました。

皆さま有難うございます。投下致します。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 次の日 錬金術師のお店 】


新人鉱夫「というわけで、店長さんは朝からお出かけですね」

銃士「なるほど、隣町の機関にね」

女店員「確かに、機関長さんなら何とか分かるかもしれないね…」


クー「…」


女店員「…」

女店員「新人鉱夫、クーに朝ごはんは?」

 
新人鉱夫「もちろん食べさせましたよ~。それと、朝起きるの早くて……」フワァ

クー「…♪」


女店員「子供って、確かに朝早いイメージあるなー……」

新人鉱夫「イメージっていうか、朝から超元気でしたよ」


クー「♪」


新人鉱夫「起きた途端、店長の顔ひっぱたいて起こすし…」

女店員「ぷっ…!本当に?」

新人鉱夫「はは、本当です。その後も中々寝ないから、店長はずっと一緒に遊んでたみたいですよ」

女店員「店長が?」

新人鉱夫「倉庫の奥にあった道具引っ張り出して、一緒に遊んで笑ってました」

 
銃士「…意外と、可愛がってるな」

女店員「あんなこと言ってたけど、店長こそクーが可愛いと思ってるんじゃないかな」

銃士「ふむ……」


クー「…」

クー「…」ポンポン


女店員「…どうしたの?」

クー「…」ニコォッ

女店員「…!」


新人鉱夫「…遊んでほしいんじゃないでしょうか」

クー「♪」

 
女店員「…もー可愛いっ!!」

女店員「どうせ、今日もお客は来ないし…遊んじゃおうっ!」キャー


銃士「…それでいいのか、経営難で」

女店員「文句なら店長に…」

銃士「…だな」


クー「…?」キョトン


…………
……

 

……… 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 隣町 錬金術機関 機関長の部屋 】
 
…ガチャッ

錬金術師「ういーっす、いるか機関長」


機関長「!」

機関長「……お前か。いつも急に訪ねてくるな」


錬金術師「まぁまぁ」


機関長「というか、部屋に直接来るのは珍しいな。何かあったか」

機関長「…」

機関長「…いや、何かあったからか。何か、面倒なことがあったから、来たのか」ハァ

 
錬金術師「…分かってるじゃん」ニタニタ


機関長「…あのなぁ」

機関長「まぁ、大方予想はついてるがな。あのことだろ?」


錬金術師「…あのこと?えっ、既に知ってるのか?」

機関長「知らないわけないだろう。お前が来る理由はアレだけだ」

錬金術師「…は?じゃあ、あの子について詳細知ってるのか!」

機関長「あの子?」

錬金術師「そうだよ。あの子だよ」


機関長「…」

機関長「待て、お前…何の話だ?」

 
錬金術師「…」

錬金術師「…はぁ?」


機関長「はぁ?って…。え、何だお前、錬金術関連の話じゃないのか?」

錬金術師「…あ?そうだけど」

機関長「…じゃあ、やっぱりそのことじゃないか」

錬金術師「はぁ?じゃあさっきはなんで、"何の話だ"って聞いたんだよ」

機関長「いやいや、お前が"あの子"とか、子供の話をするから」

錬金術師「…そりゃそうだろ。そのことだからな」

機関長「…何言ってるんだ。錬金術関係のことだろ?」

錬金術師「だから、子供のことだろ?」

機関長「…いや、違うぞ。子供は一切関係ないだろ」

錬金術師「いやいや、関係あるだろ!」

 
機関長「…」

錬金術師「…」

機関長「…どうも何か食い違ってるな」

錬金術師「そのようだ」

機関長「…お前の話から聞かせてくれ」


錬金術師「…」

錬金術師「…うちの店の前に、獣人族の子供が捨てられていた」

錬金術師「だから、何か情報を知らないかと聞きにきたんだ」


機関長「…じ、獣人族の子供だと!?」

錬金術師「あぁ。しかも、俺宛てにしっかりと"よろしくお願いします"ってな」

 
機関長「なんと。本当か……!」

錬金術師「…で。次の機関長の話はなんだよ?やっぱり違う話だったか」

機関長「…あぁ。お前、新聞か何か見てないのか」

錬金術師「こっちに出る時だったし、情報誌は一切見てないな」


機関長「…」

機関長「…お前の住んでる町の付近の河原で、錬金術研究員の遺体が見つかったそうだぞ」


錬金術師「…なんだって?」

機関長「だから、てっきりお前がそれで訪ねてきたのかと」

錬金術師「…確かに、それはそれでこっちに来るかもしれん」

機関長「まぁ、違うなら違うでいいが…。それより、獣人族の子供の話…。本当なのか」

 
錬金術師「…本当だ。じゃなかったら、わざわざこんな所こねーよ」


機関長「こんな所っていうな、こんな所って」

機関長「…獣人族はただでさえ希少な存在なんだぞ?見間違えじゃないのか」


錬金術師「いや、間違いはないと思う。獣耳もしっかり見た」

機関長「純血か?」

錬金術師「恐らく人との混血」

機関長「尾は?」

錬金術師「直接見ていないが、うちの店員が脱がせた時に何も言わなかったから、ないと思う」

機関長「…それなら、人のほうが強く出ていると見えるな」

錬金術師「言語能力は割と高めだ。獣人年齢では3から4歳程度だと思うが、理解はしている」

機関長「しゃべれるのか?」

 
錬金術師「…いや。ただ、表情は豊かだな」

機関長「親とはぐれたのに、泣いたりしないのか?」

錬金術師「…人懐っこい。うちの店員に、敵意もなく笑っていてる」

機関長「ふーむ…」


錬金術師「…俺が引退したあと、獣人族の研究とか獣人族と関係を持ちそうな奴はいないか?」

錬金術師「置手紙には今の俺を指名してきてたし、俺の店も知っていた」

錬金術師「少なくとも、俺らの同業者だと思う」


機関長「…」

機関長「…ふむ。なるほどな」

 
錬金術師「…まぁなんだ、物好きなやつとか、金持ちの道楽野郎なら獣人族との混血もなくはない」

錬金術師「だが、俺の店、俺の名前を知っている以上…同業者以外の可能性はないと思う」


機関長「…しかしな。錬金師たるもの、研究対象から禁忌とされた研究は触れず、絶対に守るだろう」

機関長「それに、獣人族と聞いてそんな関係を持とうとするか……?」

機関長「もし同業者なら酷なことだが、研究対象として子供を作ってしまった可能性出てくるぞ…」ハァ


錬金術師「…」


機関長「そして、禁則事項を犯すといえば…あの機関だけだ」


錬金術師「…」


機関長「アルスマグナ…。その一つだけだろう」

 
錬金術師「…」

錬金術師「…はぁ」


機関長「…可能性がぐっと高いのはそこだけだ。お前を知っており、禁忌を犯す」

機関長「これ以上、当て嵌まる存在はないだろう」


錬金術師「…」

錬金術師「……確かに、"その可能性はある"」


機関長「可能性はある…だと?」

機関長「ふむ、確証レベルだと思うのだが…。違うと思っているのか?」


錬金術師「いや、何か違う気がするんだ」

機関長「…他に、禁忌を犯す人間がいると?」

 
錬金術師「…そういうことじゃないんだ。何か引っかかるっつーか」


機関長「だが…」


錬金術師「…」

錬金術師「…っ」

錬金術師「とりあえず、今日は戻る。何かあれば、また伝えに来るわ」


機関長「…あまり、深入りもするなよ」

錬金術師「わかってる…」


…………
……

 

……
………… 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 夕方 錬金術師のお店 】


ガチャッ……


女店員「!」

銃士「おっ…」

新人鉱夫「あ、お帰りなさい店長さん!何か情報は得られましたか?」


錬金術師「…お待たせ。なーんも得られなかったぜ」ハハハ


新人鉱夫「…そうでしたか」

 
トテテテ…

クー「…」

…ギュッ!

錬金術師「…おっ?」

クー「へへー♪」


錬金術師「…なんだなんだ」

クー「~♪」

グリグリ…


錬金術師「お、おいおい…くすぐってぇぞ」

クー「♪」

 
女店員「…店長、気に入られてるね~」

銃士「遊んであげてたみたいだし、クーはそれで好きになっちゃったかな?」

新人鉱夫「店長さん、優しいところありますからね~」

クー「…んっ♪」


錬金術師「…」

錬金術師「……!」

錬金術師(そ、そうか。何か引っかかってた点はここだ……!)

錬金術師(考えたら、もしクーの親がアルスマグナ含む禁忌を犯す面子に実験材料にされていたら…)

錬金術師(少なくとも、子供を手放すことは絶対にしないはず)

錬金術師(それに、獣人族の子は大人以上に希少な存在。彼らの手中にいては、ただでは済まない…)

 
クー「…?」


錬金術師(いや、その禁忌を犯す機関から、親とともにわざわざ逃げてきた可能性もゼロじゃないのは確かだ)

錬金術師(だが、そうなれば獣人族…いや、子供が他の人間へ懐くことは絶対にしない……!)

錬金術師(……)

錬金術師(…い、いや。そう考えるのは早いか…?)

錬金術師(そうだ、既に虐待を受けていたら……)

錬金術師(それを嫌い、わざとこうして誰にでも愛嬌をふりまいている可能性はある…っ)

錬金術師(……と、すると)


錬金術師「…銃士、聞きたいことがあるんだが」

銃士「私?」

 
錬金術師「…銃士、この間、クーの身体を拭いてくれた時、傷という傷は…なかったのか?」

銃士「傷か…。う~ん、なかったと思うよ」

錬金術師「確かだな?」

銃士「…うん。どうして?」


錬金術師「まぁ…」

錬金術師「…」

錬金術師「…クー。ちょっといいか?」


クー「…?」

 
錬金術師「言葉は、しゃべれるか?」

クー「…」

錬金術師「…しゃべれるなら、首を縦に。言葉が分かるだけなら、横に振ってくれ」

クー「…」クイッ


錬金術師「…横、か。」

女店員「言葉はやっぱり理解して……」


錬金術師(獣人族も人語はしゃべれるはずだが、この子は口がきけないのか…?)


クー「…」


錬金術師「クー。しゃべれないのか?」

クー「…」コクン

錬金術師「言葉は分かるがしゃべれない。声を出せない…のか?」

クー「…」コクン

 
錬金術師「…そうか。お前の親は、母親と父親のどちらかが人間なのか?」

クー「…」コクン

錬金術師「母親か」

クー「…」

錬金術師「父親か」

クー「…」コクン


錬金術師「…なるほど」

銃士「父が人、母が獣人族。まぁ…そうなるよね……」

錬金術師「…その可能性は高いと思っていた。あまり…いい話ではなさそうだな」


銃士「…」

女店員「…」

新人鉱夫「…」

 
クー「…」


錬金術師「…お前の親は、俺のことを知ってるのか?」

クー「…」コクン

錬金術師「…まぁそうだろう。父親の方だろう?」

クー「…」

錬金術師「…」

クー「…」

錬金術師「…まさか」

クー「…」

錬金術師「母親の…ほうなのか…?」

クー「…」コクン

 
錬金術師「…!」

銃士「獣人のほうが…店長を知ってるのか」

女店員「…っ!」

新人鉱夫「え……」


錬金術師「…冗談ってことばっかだな。本当に、母親が俺のことを知ってるのか?」

クー「…」コクン

錬金術師「…」

クー「…」

錬金術師「…母親は、どこへ行ったか知っているか?」

クー「…」

錬金術師「…知るわけないか」

 
女店員「店長…。本当は、その獣人族の母親とかと……」ブルッ

錬金術師「…ば、馬鹿言うな!本当にそうなら俺は今頃、檻の中だ!」

女店員「そ、そっか…。そうだよね……」

錬金術師「当たり前だ!」


銃士「…でも、獣人が店長のことを知ってるってことは何かしらの接点があったってことだよね?」

錬金術師「…」

銃士「本当に何も覚えてないの?どんな些細なことでも」


錬金術師「錬金師が獣人族と関わる機会は、俺が現役以前に禁則事項とされたんだ」

錬金術師「当時、どんなに腐ってた俺でもルールだけは破らなかったからな…」

 
女店員「そうだよね…」

銃士「…じゃあ、向こう側が勝手に店長を認識してたってことじゃ」

錬金術師「俺が認識がない以上、そうなるか」

銃士「う~ん…」

錬金術師「…」


クー「…」オロオロ


新人鉱夫「…み、みなさん。そんな悩んだりしたら、クーが困ってますよ!」

新人鉱夫「そんな顔見せずに、笑顔でいましょうよ!」

 
錬金術師「……そうだな。すまなかった、クー」ニカッ

クー「!」

錬金術師「不安にさせて、ごめんな。よおっし、遊ぶかぁ!?」

クー「…♪」コクン

錬金術師「新人鉱夫に、美味しいご飯作ってもらう間に…遊ぶぞぉ!いいかっ!?」


クー「…」コクンッ!


錬金術師「さぁ、ついてこぉい!何をするか!オモチャでも造るかぁ!?」

ダダダダッ!

クー「!」

トテテテテッ……!

 
銃士「……あらら」

女店員「店長ってば……」

新人鉱夫「…さりげなく、僕の料理の期待値を凄くあげていきましたね。頑張らないとっ」

銃士「それにしても、クーと店長…か」

新人鉱夫「何か繋がりはあるんでしょうけど、店長さんが何もないっていう以上は…」

女店員「店長、わざわざ隣町まで行くってことなんだから本気なんだっては分かるけど…」


銃士「とりあえず今は、クーが不安がらないようにするのが一番だね」

女店員「うん」

銃士「さて、お店も閉店時間だ。私たちも帰ろうか」

女店員「だねっ」

…………
………

 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 そして夜 お店の外 】

ゴォォ…パチパチッ……


ザバァッ…

錬金術師「…うへぇ、どうだ。飯のあとの風呂は、気持ちいいだろう!」

クー「♪」


新人鉱夫「ひぃぃ!な、なんでドラム缶の薪風呂なんですか!」

新人鉱夫「火の調整、かなり難しくて……!」

 
錬金術師「自動で火を調整するやつも造れるが、手間かかるしなぁ」

錬金術師「俺らのあとに、お前も入れてやるから頼むぜ」


新人鉱夫「あっ、いえいえ…!」


錬金術師「俺らだけなら水洗いだとか、身体を綺麗にするだけでいいが…」

錬金術師「こんな子供だし、風呂らしい風呂で身体もあっためてやりてぇからな」


新人鉱「…ですね。クーも、喜んでますよ」


錬金術師「うっし。クー、空を見ろ。星が綺麗だろ~」

クー「…」ジー

キラキラッ…

クー「…っ♪」

 
錬金術師「空は広いだろー。こんな広い世界なのに…ったく。お前はどこから来たんだ?」

クー「…?」

錬金術師「…くくくっ、キョトンとしやがって」

…ポンッ、ナデナデ

クー「…♪」


新人鉱夫(…最初、戸惑ってた店長さんが何気に一番クーのことを気に入ってるじゃないですか)アハハ

新人鉱夫(一緒にお風呂なんか入っちゃって、ご機嫌ですね)


錬金術師「…どぉれ、ついでに頭も軽く洗ってやるか。ほれ、前を向いて頭こっちによせろ」

クー「…」クルッ

ザボザボッ…ゴシゴシッ……

 
錬金術師「…」

錬金術師「…」

錬金術師「…?」ピクッ


……
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「…そうそう。一緒にお風呂に入るのは楽しいもんなぁ」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
……


錬金術師「…」

錬金術師「……何?」


クー「…?」

新人鉱夫「…え?」

 
錬金術師「今、何か…」ゴシゴシ

錬金術師「…」


新人鉱夫「…店長さん?」


錬金術師「…」

錬金術師「…あっ」ハッ


新人鉱夫「店長さん、どうかしましたか?」


錬金術師「…い、いや!何でもない!」

新人鉱夫「のぼせたんじゃないですか?大丈夫ですか?」

錬金術師「…これしきでのぼせるかよ!さぁて、汚れ落とすぞクー!」

 
クー「…」コクンッ!


錬金術師「はーっははははっ!」


ゴシゴシッ…!


錬金術師「…」


…………
……

 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

クー「…」スヤスヤ


錬金術師「…風呂も入って、飯も食って、随分と幸せそうに寝るやつだ」

新人鉱夫「はは、可愛いですよね」
 
錬金術師「…だが。可愛いから、問題にもなったんだろうな」

新人鉱夫「問題、ですか……」


錬金術師「…今、銃士と女店員がいないから言うが、獣人族の歴史は悲惨なものだった」

新人鉱夫「…」

 
錬金術師「獣人族は元々、魔獣の一種。」

錬金術師「人型の魔物自体は珍しくないが、獣人族という種族はそもそも存在していなかったんだ」


新人鉱夫「えっ…?」

新人鉱夫「そ、存在していなかった…ですか?」


錬金術師「魔族ないし魔物というものは、種族で分ければ数百以上いる」

錬金術師「総合して魔族。魔物と呼ぶのは知性の高い魔族。魔獣はその名の通り、分類は下位種族だ」


新人鉱夫「…じゃあ、この子は上位種族なんですか?」

錬金術師「分別をするとそうなるな」

新人鉱夫「へぇ…」

錬金術師「そして、さっき言った獣人族が存在していなかったというのは、歴史の勉強からしないといけないが…」

新人鉱夫「…聞きます。どういうことでしょうか」

 
錬金術師「…実は、獣人族は人型魔族と魔獣の混血で、それが進化を繰り返して生まれたものといわれている」


新人鉱夫「…!」


錬金術師「…生々しい話だが、魔族は同族以外にも交配し、産まれることが多々ある」

錬金術師「知性の高い人型魔族が、魔獣の何かと交配し、知性の高い獣人族として誕生したのが有力な説だ」


新人鉱夫「へぇぇ……」


錬金術師「そして、それを確かめる為に俺ら錬金師の先人たちは研究対象としたんだ」

新人鉱夫「な、なるほど…」

 
錬金術師「だが、いくら調べても交配された元となる人型魔族は特定することができなかった」

錬金術師「更に、知性が高い獣人族を研究することは"人体実験"と一緒となる」

錬金術師「それに国が歯止めをかけようと、錬金術機関の定めとして禁則事項の一つとなったわけだ」

錬金術師「ついでに、気持ち悪い金持ち共のペットとして扱われるのもタブーとなったんだがな」


新人鉱夫「…そういうことだったんですね」


錬金術師「結果、獣人族の生態は不明だし、その当時の乱獲で数も減っちまったわけさ」

錬金術師「そして、偶然によって生まれる獣人族という種族自体が少ないっつーことで」

錬金術師「それを踏まえ、獣人族同士が交わることは稀だし、純血を紡ぐ獣人族はほとんどいないってわけ」

錬金術師「…血が薄い以上、交わった相手側のほうの特徴をメインで産まれちまうことがほとんどだからな」


新人鉱夫「…だから今、獣人族は少ないし子供も滅多に見なくなってしまった…と」

 
錬金術師「そういうこと」ハァ

錬金術師「そのタブーを犯し、獣人族との子を産み、希少な獣人族の血が出た子を、うちに預けてった馬鹿野郎がいるわけだ」

錬金術師「俺は俺で錬金術の元マスターだし、禁忌団体のアルスマグナと関係がないわけじゃない」

錬金術師「…だから焦ってるんだよ」

錬金術師「もし獣人族の子がいると知られれば、既に動いてる可能性のあるアルスマグナだけじゃなく…国の法律が動く」

錬金術師「まず間違いなく、俺が犯人とされて牢屋行きだ」

錬金術師「…笑えてくるだろ?」


新人鉱夫「…そ、そんな!なんで店長さんが!」

錬金術師「知るかよ…」ハァァ

新人鉱夫「…っ」

 
錬金術師「…だが、な。」

新人鉱夫「はい…」


…ソッ
 
クー「…」スヤスヤ


錬金術師「…こいつに、何の罪があるわけじゃない。ただの子供だ」

錬金術師「出来れば……。いや、絶対に変なことには巻き込みたくない」

錬金術師「だから、どうにかして活路を見出さなければならない。」

錬金術師「今、こいつを守れるのは俺たちだけなんだからな」

 
新人鉱夫「…はいっ」

 
錬金術師「ま、うちの店はいっつもこういう事に巻き込まれるわけで…」

新人鉱夫「ははっ…。確かに、そうですね」

錬金術師「慣れたもんだ。なぁに、すぐに解決されるさ」

新人鉱夫「店長さんなら、絶対に大丈夫ですよ!僕も一生懸命サポートしますからっ!」

錬金術師「…おうよ、頼むぜ」ニカッ

新人鉱夫「はいっ…!」


錬金術師(……獣人族の母親のほうが俺を知っているとは言っていた)

錬金術師(だが、接点が見えない以上、その男も俺に接点がないわけじゃなかったと考えるべきだ)

錬金術師(とりあえず、どうするべきかは…きちんと考えねぇとな……)


…………
………

 
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・・・・
・・・
・・

本日はここまでです。有難うございました。

有難うございます。投下致します。

 
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――――【 次の日 朝 】

…ガチャッ!

女店員「おはようございます~」

銃士「おはよう~」

錬金術師「ういーっす」

新人鉱夫「おはよーございます!」


女店員「…って、クーちゃんは朝ごはん中か~」

新人鉱夫「僕の特製のスクランブルエッグに、特製サラダですっ」フンスッ


クー「♪」パクパクッ

 
錬金術師「…本気で食ってるよ。そしたら、すぐ寝るんだろうけどな」

女店員「ふふっ、可愛い~」


錬金術師「…」

錬金術師「ふわぁぁ……」クァ…


女店員「…朝からあくび?」

錬金術師「こいつ起きるの早くってよ…。朝5時に起こされて、遊んでな……」

女店員「あ~……」


銃士「…ご苦労様だね。でも、クーも喜んでたんじゃない?」

錬金術師「あぁ、大喜びだった…」フワァ


銃士「…」

銃士「…本当に店長、眠そうだね。少し、仮眠とったらどうだろ?」

 
錬金術師「…仮眠か」

女店員「う~ん…。店長、クーのためだったら、特別に許してあげる!」

錬金術師「へい、どうも」

女店員「でも、お客さんが来ないとは限らないんだから…。来たら起こすからね!」

錬金術師「どうせこねーよ」ハッハッハ

女店員「…」ギロッ

錬金術師「来るように努力し、精いっぱいみなさんで今日も頑張りましょう!」ビシッ!


銃士「おぉ、女店員はやはり気力を会得して…」

新人鉱夫「うん、だから違うと思います」


クー「…?」キョトンッ

 

………
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 1時間後 倉庫 】

…コソッ

女店員「…てーんちょ」

銃士「…」

新人鉱夫「見事に、二人で寝てますね」


錬金術師「…」グォォ

クー「…」スゥスゥ


女店員「二人で並んで…。仲良くなっちゃって…」

 
新人鉱夫「…ドラム缶で、クーにお風呂作ってあげたりしてるんですよ」

女店員「!」

新人鉱夫「文句は少し言ってますが、クーとずっと遊んであげてますし…」

女店員「も~…。なんだかんだ言っても、クーのことを凄く気にかけて…。素直じゃないんだから」

新人鉱夫「はは、店長さんらしいですよね」


銃士「…それにしても、クーは本当にどこから来たんだろうね」

女店員「ん~…。置手紙があったってことは、確かにそこに親か誰かは来たってことだよね?」

銃士「…うん、そうだろうね。私が寝ていなければ…情けない」ハァ


女店員「あの日、本当にたまたま店長がやる気を出して3人で朝市に行ったし…」

女店員「タイミングが悪かったっていうか……」

 
銃士「…そう考えると、いつもいる店長っていうのは…意外と重宝する?」

女店員「そ、それはそれで……」ヒクッ

銃士「なんか、うちにはうちの空気の流れがあるのかもしれないな」クスッ

女店員「少しやる気出すと、裏目に出る店長ってお店としてダメな気が……」

銃士「あははっ!確かにその通りだ!」


錬金術師「うっー…?」モゾッ

クー「…」モゾモゾ


新人鉱夫「あっ、みなさん…。お店に戻りましょう、起きちゃいますよ…」シー

銃士「あ、そうか…。静かにしてよう…」

女店員「だねっ…」


タタタタッ………

……

 
錬金術師「むにゃ……」


クー「…」スヤスヤ


錬金術師「…」グォォ


クー「…」スゥスゥ


錬金術師「…」グォォ

………
……

 

………
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「…あったかい」

「…」

「ははっ……」

「…」

「…可愛いやつだな~」

「…」


「…あ、先に寝る気かよ」

「じゃ、じゃあ俺も寝るし…。おやすみ……」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
………

 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

錬金術師「…」

錬金術師「…っ」

錬金術師「…!?」ハッ


クー「…」スヤスヤ


錬金術師「今のは…夢か……?」


クー「…」クゥクゥ


錬金術師(…今の夢、何かとても懐かしい匂いがした気がする)

錬金術師(…)

錬金術師(…俺の記憶?子供時代…?)

 
クー「…」ムニャッ


錬金術師(…)スンッ

錬金術師(…!)

錬金術師(……そ、そうだ)ハッ

錬金術師(あれは、クーと同じ匂い……!?)

錬金術師(いや、待て…!なんで俺の子供のころに、クーが……?)

錬金術師(…)

錬金術師(……)

錬金術師(……っ!)


…バチィッ!!…


錬金術師(あっ……!あぁっ……!!)

 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 錬金術師のお店 店側 】

 
…ガタガタァンッ!!!


銃士「!?」

女店員「な、何っ!?」

新人鉱夫「な、なんでしょうか!?」


タタタタッ…!


錬金術師「…っ!」

 
女店員「て、店長?寝てたんじゃ……」

錬金術師「…ちょっと、凄い事に気が付いたかもしれん!」

女店員「凄いこと?」

錬金術師「…クーのわずかな匂いの中に、俺の記憶を呼び覚ますものがあったんだよ!」

女店員「え…?」

錬金術師「…まさかとは思うが、その匂いは錬金師である俺自身、確信がある!」

女店員「ま、待ってよ。何がどうしたの?落ち着いて」


銃士「店長、落ち着かないと私たちも話が見えないよ」

新人鉱夫「どうしたんですか?」

 
錬金術師「そ、そうか…」

錬金術師「では、えーと…ごほんっ!」

錬金術師「…クーと同じ匂いが、俺の子供時代に確かにあったことを思い出した」


銃士「…に、匂いって」


錬金術師「そういう、汗や人としての匂いじゃない」

錬金術師「クーは人の血が濃かったから、気付かなかったんだ」

錬金術師「落ち着いて眠りについた時、その匂いがようやく微かに現れたっつーかな…」


女店員「それって…?」


錬金術師「…」

錬金術師「俺の子供時代…。ともに過ごした、魔犬の匂いだ……」

 
銃士「!」

女店員「まっ…!」

新人鉱夫「ま、魔犬っ!?」


錬金術師「…俺が言うと、自分自身でイラっとするが、俺は金持ちのボンボンだったわけだ」イラッ

錬金術師「それでまぁ、子供の頃にゃ、そう言った道楽っつーのかな……。遊びを色々としてきた」

錬金術師「そんな中、うちに魔犬を飼っていたんだ。」

錬金術師「子供時代の話だし、記憶が曖昧で、そこまで覚えてるわけじゃないんだが……」


女店員「えっと…。当時飼ってた魔犬の匂いと、クーの匂いが一緒のように感じたってこと?」


錬金術師「……そういうこと。」

錬金術師「クーを見た時、魔犬と連想し、自然と名前が出てきたのもその体験からだったのかもしれん」

錬金術師「そのことをすっかり、さっきまで忘れていた…」

 
女店員「クーと一緒の匂い、か…」


錬金術師「だが、今いるクーから感じたのは、ただの微かな獣の匂いという共通点だけだ。」

錬金術師「どう考えても、クーと結びつく決定的なモノはないんだがなぁ……」


銃士「…もし、クーの獣の血がその魔犬のペットと同じ先祖の血を引いていたら?」

錬金術師「その可能性はなくはない。だが、混血した魔獣の血は、錬金師をもってしても辿ることは難しわけで……」

銃士「そしたらやっぱり、"獣"としての匂いだけを感じ取ったのでは?」

錬金術師「…うーむ。落ち着いてみると、それだけかもしれないな…」

銃士「…」


女店員「でも、店長……」

錬金術師「あん?」

 
女店員「店長と繋がりがあって、そのクーとも繋がりがあるっていうのなら、可能性を追ってみるべきじゃないかな」

錬金術師「…ふむ」


女店員「今、クーに関して有力なのは、その店長の記憶と当時飼っていた魔獣になったわけだし…」

女店員「クーが店長のことを知っていて、更に一緒の匂いをこのタイミングで思い出したんだよ!」

女店員「調べる価値はありそうだと思うんだけどな……」


錬金術師「ま、まぁ……」

錬金術師「…」

錬金術師「しかしなぁ……」ポリポリ


女店員「折角見つけ出した情報なんだから、少しでも可能性にかけてもいいと思うんけど…」

錬金術師「う~む…。だがなぁ……」

女店員「…店長?」

 
新人鉱夫「…なんか店長さん、乗り気じゃないですね?」

銃士「折角、手がかりとなりそうなのに…。どうしたんだ店長」


錬金術師「…」

錬金術師「…っ」

錬金術師「…お…だ…」


女店員「え?」


錬金術師「話を知るのは、親父だけなんだよ…。」

錬金術師「つまり、本社にいる親父にこっちから行かないといけないわけで……」ヒクッ
 

女店員「!」

 
銃士「お、お父さんのいる本社って…!」

新人鉱夫「ち、中央大陸を牛耳る大企業の、セントラルカンパニーの!?」


錬金術師「…そういうこと。あそこに行きたくねぇんだよ…マジで…」

女店員「そ、そうだったんだ……」

錬金術師「本社には顔見知りはいるし、親父に話を聞く他ないし……」

女店員「…」

錬金術師「はぁぁあ……」

女店員「じゃあ、やっぱり止めておくの…?」


錬金術師「…」

錬金術師「…止めれるわけないから、これだけ嫌がってるんだろうが…」ハァァ

 
女店員「…!」


錬金術師「元々行かないつもりなら、行かない行かないと笑って終わりだ」

錬金術師「だけど、このタイミングで思い出したこととか、色々と行かない訳にはいかんだろう」

錬金術師「…」

錬金術師「くっそ…!あ~~っ!!面倒~くっせぇぇなぁぁぁっ……!!」


女店員「…」

銃士「まぁ、仕方ないね……」

新人鉱夫「あ、あの社長さんに話を聞きにいくってことですよね…?」


錬金術師「…そういうこと。死ぬ。いや本当に」


新人鉱夫「ふぁ…ファイトです!」グッ

 
錬金術師「は、はは…。ありがとよ…」

女店員「…店長、いつから行くの?」


錬金術師「親父と顔合わせるって考えるだけで憂うつになる。つーか、アイツの事を考える時間が嫌なんだ」

錬金術師「終わらせられることなら、早く終わらせる」


女店員「ってことは…」

錬金術師「…昼過ぎから中央に向かう。アルスマグナと戦うわけじゃないし、心配はしなくていい…」


女店員「そ、そりゃそうなんだけど…」

女店員「アルスマグナと戦った時より、なんかすっごい負のオーラが……」

 
錬金術師「…そりゃ出るっつーの。親父に質問しに行くとか、もうないと思ってたからな…」

女店員「あはは……」

錬金術師「…準備すっかぁ。奥で着替えてくるわ…」クルッ

女店員「着替えてくる?」

錬金術師「…親父の仕事場は、なんかしっかりとした服装じゃねぇと門前払いなんだよ」

女店員「え?」

錬金術師「規律を正しくするとかで、正装式で。髪型整えたり…しねぇと……」

女店員「あ~……」


錬金術師「…とりあえず、着替えてくる」


トボトボ……

………

 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 十数分後 】


トコトコ…バッ!

錬金術師「…お待たせ」ピクピク


女店員「…」
 
女店員「…ぶっ!?」
 

銃士「て、店長!?」

新人鉱夫「て、店長さんなんですか!?」

 
錬金術師「…セントラルカンパニーの正装だ。す、スーツとか言ったか」

女店員「す、すっごーい…!」

銃士「見事にビシっと決めて…。あまり見ない服だけど、すっごく決まってるな…」

新人鉱夫「それに、髪型も整えて…。普段と全然違いますね!」


錬金術師「…時々、新人鉱夫の言葉は痛く突き刺さるな!」


女店員「…店長、その恰好のほうがいいんじゃない?」

女店員「なんか出来る男っていうオーラが出てるし、髪型もしっかり整えてあるほうが…こう……」

 
銃士「…カッコイイよね」フフッ

女店員「うん!」

銃士「…」

女店員「…」

銃士「…」

女店員「……あっ!」ハッ


錬金術師「…ほう」ニヤリ


女店員「い、今のはちがっ!!」

錬金術師「…かっこいいねぇ」ニヤニヤ

女店員「ちょっ…!違うって!!かっこよくなんかないから、全然っ!!」

 
錬金術師「…」


女店員「そ、そうしてたほうが働いてるって感じするし!それだけだからっ!」

女店員「普段が普段だから、そういう恰好するとギャップがあるっていうか!そ、その!それで!!」


銃士「…お、落ち着け女店員。私が悪かった」

女店員「あう……」


錬金術師「は、はは……」

錬金術師「ま、まぁいい。それより、準備も思ったより早く終わったし出発しちまうかな」ハァ


新人鉱夫「中央行きの馬車の時間も、確かもうすぐ出ますしね」

錬金術師「往復に時間もかかるが、まぁ前と同じく気長に待っててくれ」

 
新人鉱夫「はいっ!任せて下さい!」

銃士「ふふ、まかせてくれ」

女店員「気を付けて行ってきてよ?」

錬金術師「おうよ」


…コソッ…トテトテ…

クー「う~……」ムニャッ


錬金術師「あ、クー…」

銃士「…少し騒いでたから、起きちゃったのかな」

女店員「ご、ごめんなさい……」

 
トトト……ギュウッ…

錬金術師「…おっと」

クー「…」

モゾモゾ…スリスリ…


錬金術師「…おうふ、どうした」

クー「…♪」

錬金術師「お前は、そんなにくっつくのが好きなのか…」

クー「…」グリグリ

錬金術師「しゃあねえなあ…よいしょっ」

…ダキッ、ヒョイッ

クー「!」

 
錬金術師「…奥から引っ張り出してきた服だから、汚れちまうぞ?」

クー「…」

…グニグニ…

錬金術師「あっ、あいでででっ!ほ、ほおをふねるな!」

クー「♪」


銃士「…仲良いねぇ、二人とも」

女店員「クーってば、店長のこと本当に気に入ってるんだね~」

新人鉱夫「ここに来てから、ずっと二人で遊んでますからね」

 
錬金術師「…」

錬金術師「…ふむ」

錬金術師「あ~…。すまん、三人とも…ちょっと考えが変わった」


銃士「うん?」

女店員「何?」

新人鉱夫「どうしたんですか?」


錬金術師「…女店員、やっぱりお前、俺に着いてくるか?」

女店員「えっ?」

錬金術師「一緒に中央に来て、なんかしらの手伝いをしてくれ」

女店員「わ、私っ?」

 
錬金術師「いや、面倒だったらいいんだが…」

女店員「い、行くっ!」

錬金術師「お…」

女店員「待ってて!すぐに準備してくるからっ!!」ダッ!

ドダダダッ!!ガチャッ、ダダダダダッ……!!!

………



錬金術師「お…おう……」

 
銃士「…」

銃士「…店長、どうして女店員を?」


錬金術師「やっぱり一人じゃ嫌だ」キッパリ

銃士「あ、あぁ…」

錬金術師「親父に一人で会いにいくとか、自殺行為じゃん」

銃士「は、はは……」


クー「?」


錬金術師「…話を聞いてたと思うが、クーはここでお留守番だからな」

クー「…」ブンブン

錬金術師「…こら。首を横に振るな」

クー「…」ブンブン

 
銃士「クーも一緒に行きたいんじゃないの?」

新人鉱夫「きっとそうですね」

錬金術師「…そうなのか?」


クー「…」コクン


錬金術師「…しかしな、獣人族とバレたら色々と不味いんだが」

銃士「見た目は子供のまんまだし、問題はなさそうだけど…」

錬金術師「そりゃそうだが、この獣耳が…」

…ピンッ

クー「…」


錬金術師「…」

錬金術師「…やっぱ、お留守番だ。悪いが、お前は連れていけんよ。」

 
クー「…」ブンブンッ


錬金術師「我がまま言うんじゃない。都会は危ないところなんだぞ?」

クー「…」ブンブンッ

錬金術師「…」

クー「…」ジー

錬金術師「…」

クー「…」ジー

錬金術師「…」

クー「…」ジー

 
錬金術師「……そ、そんな眼で俺を見るんじゃないっ!」

クー「…」ジー


銃士「おぉ…!クーも、いよいよオーラを……!」

新人鉱夫「うん、三度目ですが…そういうのじゃないと思います」
 
 
クー「…」ニヘラッ

錬金術師「…」

クー「ん~…」

…グリグリッ

錬金術師「…くすぐったいぞ」

 
クー「♪」

錬金術師「…はぁ」

クー「…」ジィッ

錬金術師「…わかった、わかったわかった!連れてけばいいんだろうが!」

クー「…!」コクンッ!

錬金術師「…しゃあねえなあ」


銃士「店長の負けだね」フフッ

新人鉱夫「はは、さすがクーですね」

 
錬金術師「…フードつきのコート、途中で買って隠していくか。きちんと被ってろよ?」

クー「…♪」コクンッ

錬金術師「…この、調子がいいときばっかり喜んだ目ぇしやがって!」バッ!

コチョコチョッ!

クー「!」

クー「…きゃはははっ!」

クー「んっ、んっ~~!」バッ!

…グリグリッ!

錬金術師「う、うおっ!くすぐったいぞ負けるかぁっ!」

クー「やぁ~っ!」キャハハッ

ワイワイ…!


銃士「…平和だ」

新人鉱夫「本当に仲良いですね、この二人……」

 
ダダダダッ……!!

ガチャッ、バタァンッ!!!!


女店員「はぁ…はぁぁっ……!お、お待たせして……!」ギラッ!


錬金術師「…」

クー「…」

銃士「…」

新人鉱夫「…」


女店員「…ど、どうしたのみんな…?」

 
錬金術師「……怖い」

銃士「こ、攻撃のオーラが漂っている……」

新人鉱夫「これは、感じます……」

クー「…」ビクビク


女店員「…えぇっ!?」


…………
……

 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 そして昼過ぎ 】

銃士「気をつけてね」

新人鉱夫「お店番、任せてくださいねっ!」


錬金術師「おう、行って来る」

女店員「いってきまーす!」

クー「んっ♪」ブンブンッ


銃士「あはは、いってらっしゃいクー」

 
ザッザッザッザッザッ………

…………
……

 
銃士「…」

銃士「……行ったかな」


新人鉱夫「店長さんたち、きっと解決してくれますよね!」

銃士「うむ、店長はやるときはやる男だ…多分」

新人鉱夫「多分って」アハハ

銃士「ははっ!それじゃ、私たちはしっかり店番だ!」

新人鉱夫「ですねっ!」

…………
……

 

……… 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 しばらくして 大型馬車の中 】


ガタンガタンッ……


錬金術師「…何はともあれ、無事に出発か」

女店員「中央かぁ…。私、初めてだったかな……」

クー「♪」


錬金術師「…不安だらけだが、まぁ何とかなるだろ」


ガタンッ…ガタンガタンッ……


女店員「…」

女店員「…ねぇ、店長」

 
錬金術師「なんだ?」

女店員「そういえば、なんで私も一緒に来てほしいっていったの?」

錬金術師「…一人じゃ怖いから嫌だ」

女店員「」

錬金術師「…それだけだが?」


女店員(なっ…なななっ……!)

女店員(す、少しでも私と一緒にいたいとか、私が必要だったって言ってくれるとか……!)

女店員(そういう期待を少しでもした私が……)

女店員(…)

女店員(…って!ち、違ううぅ!べ、別に店長のことなんか何も思ってないし、何もないし、どうでもいいし!!)


錬金術師「…お、おい…大丈夫か?」

女店員「!」ハッ

 
錬金術師「随分と、顔が赤い……」

女店員「な、なんでもないから、バカァッ!!!」

…バチィンッ!!

錬金術師「っ!?」

ズドォンッ!!ズザザァ……!

女店員「…あっ」ハッ


モクモク…

錬金術師「な……!」

…ムクッ!

錬金術師「何をしやがるっ!!」

錬金術師「床に吹っ飛ばされるくらい叩かれたことなんざ、人生初だぞオイ!!」

 
女店員「ご、ごめん……!」

錬金術師「…ったく!」

トコトコ…ストンッ…

女店員「…」

錬金術師「いっつぅ……。急に叩くか、普通……」

女店員「ごめん……」

錬金術師「どうして叩いた……」ピクピク


女店員「…」

女店員「ひ、一人じゃ嫌だとかいうから、その気合入れ…とか……」ボソッ

 
錬金術師「…あぁ?」

女店員「お、お父さんに会うのが嫌だっていうし、気合も入れといたほうがいいかなって!」

錬金術師「…」

女店員「とか…」

錬金術師「…」

女店員「…」


錬金術師「……あのなぁ、嫌だ嫌だっつっても、覚悟は決めてるんだ」

錬金術師「お前に今更、気合を入れられるほど気持ちは揺らいじゃいねえよ、安心しとけ」


女店員「う、うん……」

 
錬金術師「…それと、本当はお前を連れてきた理由は別だ」

女店員「えっ?」


錬金術師「確かに、俺一人で会うのも嫌だっつー理由はあった」フンッ

錬金術師「…だけど、お前って中央に行くこともないし、俺の店にいながら中央カンパニーのこと知らないだろ?」


女店員「あ…。うん……」


錬金術師「何だかんだで、俺の店に繋がりのある場所は見せとかないといけないとか考えたんだよ」

錬金術師「多少厄介な場所だが、まぁ俺に着いてこれば何とかなるだろ」

錬金術師「…ってか、少し前にも似たようなこと話した気がするが」

 
女店員「…!」

錬金術師「…」

女店員「そ、そうだったんだ……」

錬金術師「…先に正直に言っておけば良かったか。殴られ損だ…」ズキズキ

女店員「ごめん……」

錬金術師「…まぁいい。気にするな」

女店員「うん…ごめんね……」

錬金術師「…」


…コテンッ

クー「…」スヤッ


錬金術師「…クー、寝るのはやいな!?」

 
女店員「ち、ちょっと難しい話だったかな~…」

錬金術師「…幸せそうに寝やがって、コイツ」

…グニグニッ

クー「うー…」モゾッ


女店員「イタズラしないっ!」

錬金術師「はひっ」


女店員「…」

女店員「…でも、本当に可愛いよね。」

女店員「なんで、こんな可愛い子を預けるのに、店長なんかを頼ったんだろう……」

 
錬金術師「なんだ貴様、悪口か」

女店員「う~ん……」


錬金術師「…まぁ、クーにだって、不憫な思いはさせねーさ」

錬金術師「頼られたなら、頼られたなりに、こんな子を見捨てる真似なんざ絶対にしねぇよ」


女店員「うんっ…」

クー「…」スヤスヤ


錬金術師「…」

錬金術師「……そ、それにしても」


女店員「なに?」

 
錬金術師「まさか、こんなに早く中央都市に戻ることになるとは…」ハァァ

女店員「え?」

錬金術師「あの事件があってから、中央都市は二度と来ないとか恰好つけてたんだがな…」

女店員「あの事件って…」

錬金術師「…」

女店員「…」


錬金術師「…だが、そんな下手なプライドよりクーのほうが大事ってこったな」フゥ

錬金術師「目の前で、その可能性がある限り…プライドなんかいらん」

錬金術師「…プライドなんかいらんというのが、俺のプライドだったりするのかもしれねーが」ククッ

 
女店員「店長……」

錬金術師「…」

 
女店員(…一人じゃお父さんに会いたくないこと)

女店員(アルスマグナのこと)

女店員(そして、私のこと。)

女店員(店長、意外と色々と考えてるんだよね……。)

女店員(…っ)


錬金術師「…ん、どうした。神妙な顔つきして」

女店員「…」

 
錬金術師「……ふんぬっ」

…グニッ!

女店員「い、いはいぃっ!」(いだぃぃっ!)

錬金術師「…おぉ、頬が伸びる」
 
女店員「な、何するのっ!」

…ベシッ!

錬金術師「…いでっ!」

錬金術師「はぁ~……。その顔つき、ま~た何か考えてたな?」


女店員「そ、そりゃ……」

錬金術師「…俺のことなら、心配すんな。お前が考えるより、よっぽど何でもねーよ」クククッ

女店員「…っ」

 
錬金術師「…まだまだ中央都市までは遠いんだ。クーの寝顔みたく、お前も少し可愛い顔して寝ろ。」

錬金術師「お前は寝てる時は、黙っててまだ女の子っぽくて可愛いかったりするんだからな」ハハハッ


女店員「なっ…!」カァッ!


錬金術師「っつーわけで、俺も可愛く寝る。おやすみ~…」

…カクッ

錬金術師「…」スゥッ


女店員「…」

女店員「…普段から、可愛いとかって言ってくれてもいいのに…」ボソッ


錬金術師「…何か言ったか?」バッ

 
女店員「うっさい!寝ててっ!!」

…ベシッ!!

錬金術師「ごあっ!」

…ドシャッ!!

錬金術師「」


女店員「はぁ……」


…………
……

 
・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・
・・・・
・・・
・・

本日はここまでです。有難うございました。

皆さま有難うございます。投下いたします。

 
そして、三人は馬車に揺られ、2日後。

無事に中央都市へと足を運び――……

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 中央都市 】


ガヤガヤ…ワイワイ……!!


女店員「…っ!!」キラキラ

 
錬金術師「…目ぇ輝かせすぎだ」

女店員「こ、こんなに凄い建物が沢山…!人も…!」

錬金術師「そりゃ当然のことだ。コレが普通なんだぞ?」

女店員「へぇぇ……!凄いねクー!」キラキラ

クー「んっ…!」

 
錬金術師「…中央大陸にある、中央国の首都、中央都市。」

錬金術師「現在人口は600万強を誇り、世界一の人口密度と言われている」

錬金術師「歴史は古いが、常に世界の中心となってきたこの都市部はー……」


…キャー!!

女店員「クー、これすっごい美味しいよ!何これ~っ!」パクパクッ!

クー「♪」


ウェイトレス「テイクアウトで歩きながら食べられる、ミルキークレープです♪」

ウェイトレス「新作も続々出ているので、是非食べていって下さいね~!」


女店員「おいしいぃぃ~!」キラキラ

クー「んーっ♪」コクンッ!


錬金術師「聞けよお前ら」

 
女店員「!」

クー「!」

女店員「う、うんっ!聞いてたよ!中央都市の人口は6000万とか、都市部が都市とか!」

錬金術師「おう、何も聞いてなかったな」


女店員「あ、あはは…。ちょっと、色々と初めてで……」

錬金術師「…はしゃぐのはいいが、俺らの目的はセントラルカンパニーだぞ?」

女店員「う、うんっ!わかってるってば!」


錬金術師「今の時間はえーと、16時前か……」

錬金術師「まぁ…今の時間が時間だし、明日の朝一番で行けばいいとは思うがー……」


女店員「…じゃあ、遊ぼうっ!」

錬金術師「」

 
女店員「だ、だめ…?」エヘヘッ


錬金術師「…」 

錬金術師「…はぁ」

錬金術師「仕方ねぇなぁ、先に宿とってからだ。それと、夜遅くなり過ぎないくらいまでだぞ…?」


女店員「わーいっ!」

クー「♪」

女店員「じゃあ、クー!店長!ほらほら、あそことか行ってみようよ!」

クー「!」コクンッ

女店員「なんか食べ歩きとか、アクセショップとか…!えぇぇっ、錬金道具ショップもあるよ~っ!」

クー「~♪」

ワイワイ…!!

 
錬金術師「…」

錬金術師(…まぁ、普通の女の子になっちまって)

錬金術師(…)

錬金術師(そりゃ、そうか。)

錬金術師(閉じ込めすぎたっつーか、中央都市とかに憧れるのは普通だもんな…。)

錬金術師(しゃあねえ、少し大目に見てやるか……)フゥ


女店員「てーんちょー!早く、色々あるよ~!」

クー「!」ピョンピョンッ!


錬金術師「へいへい…!待ってろ、今行くっての!!」


………
……

 

……
…………
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 やがて時間は過ぎて…夜… 宿泊所 】

…ゴロンッ!

女店員「あ~…極楽ぅ……」

クー「ん~…♪」

ゴロゴロ…!


錬金術師「…食べ歩きし、ショップを巡り、中央の温泉施設に浸かり」

錬金術師「軽く中央通りの大商店街を歩き、夜はそれなりの店でガッツリ食べ……」

錬金術師「…これ以上とないくらいに、満喫しすぎだお前らはっ!」

 
女店員「えへへ…。楽しかったぁ……」トロンッ

クー「…♪」


錬金術師「…さっさと風呂入って、明日に備えて寝ろ!」

錬金術師「明日は早いんだし、今日みたくのんびりはいかないんだからな…」


女店員「うん…」

クー「ん~…」

女店員「あ…。ところで、店長も一緒の部屋なのぉ…?」

錬金術師「貴様らが遊び過ぎて、俺の財布がすっからかんになったことに対し、詫びが欲しいわけだ」

女店員「なるほどぉっ!なら、特別にぃぃ……許してあげようっ!!」ビシッ

 
錬金術師「…お前、酔ってる?」

女店員「酔ってにゃあいっ!」ビシッ!!

錬金術師「…」


女店員「さぁて、クーちゃんっ!お風呂一緒に入りましょーっ!」

クー「んっ!」ビシッ

ヨロヨロ…

女店員「てんちょぉ~!覗いちゃダメだよ~…!」


錬金術師「…」


女店員「ではぁ、入ってきます……!」


ガチャッ…バタンッ……

 
錬金術師「…」

錬金術師「さ、最後の店で出されたやつ、あれ結構きつかった酒っぽかったしな…」

錬金術師「…」

錬金術師「まぁ、俺もあとで入って…明日のために身体も休めておくか…」


錬金術師「…つうかあいつ、未成年じゃなかったっけ…」


……………
………

 
・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・
・・・・
・・・
・・

 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 次の日 中央通り 】


…ガヤガヤ…!!


クー「…!」


女店員「あ、朝から凄い人……」

女店員「人の声が、頭に響く…!い、痛い……」ズキズキ


錬金術師「なんだ、人の声が頭に響く?新たな能力でも身に着けたか」


女店員「そ、そういう意味じゃないぃ…。こ、これが二日酔い……!」

錬金術師「調子に乗るからだ」

女店員「うぅぅ……」クラクラ

 
錬金術師「…仕方ねぇなぁ。」ゴソゴソ

…スッ

女店員「な、何これ……」

錬金術師「アカノミのエキスを抽出して、固めたやつだ。すぐ効くぜ」

女店員「あ、ありがとう……」

ヒョイッ…ゴクンッ……

女店員「ぷはぁっ……」パァァッ


錬金術師「…ったく。」

女店員「う、うぅ…。すいません……」

 
錬金術師「…その点、クーはあれだけ遊んでもまだ元気なのな」

クー「へへっ~!」
 
ピョンピョンッ!


錬金術師「…お、オジサンとオバサンには朝は辛いぜ」

女店員「…私も巻き込まないでくれる」 
 
錬金術師「うっせ、二日酔い!」

女店員「うぅ……」ズキンッ


錬金術師「…とりあえず!今日は、俺のお…おや、親父の会社に行くんだ」

錬金術師「俺だってしっかり決めてるんだから、お前もビシっとしろ!」

 
女店員「わ、分かってるけど、怒鳴らないで……」

女店員「頭に響く~……」ズキズキ


錬金術師「…ダメだこりゃ」


女店員「いたた……」

女店員「…」

女店員「て、店長。店長のお父さん、社長さんのセントラルカンパニーってどこにあるの…?」


錬金術師「…中央商社、セントラルカンパニーか?」

女店員「うん…」

錬金術師「…形だけだというなら、もう…既にお前はその土地を踏んでいるぞ」

女店員「えっ…?」

 
錬金術師「この中央通りの店っつーか、商業施設の全て、親父の配下だ」

錬金術師「一部は違うが、目に見えてるものは大体そうだな」


女店員「えぇぇっ!?」

…キィィィンッ!!

女店員「」


錬金術師「…今、自爆しただろ」

女店員「じ、自分の声で頭が……」ジンジン
 
錬金術師「…」


女店員「そ、それより…。ここらへんのお店が、全部配下って……!」

 
錬金術師「…そうだな、細かく説明してなかったか」

錬金術師「うちの会社の、中央商社…故に"セントラルカンパニー"本社は、別の会社の吸収を繰り返してできたものだ」

錬金術師「今じゃ巨大な商社とし、この中央都市を牛耳るまでに成長している」


女店員「へぇ…」


錬金術師「…元々は、親父が母さんの錬金道具を売る、ただの売買を行う普通の店だった。」

錬金術師「だが、少しずつそれが伸び、余裕が出来て親父が新たな事業に手を出すと、それも全て成功していった」

錬金術師「…親父はあんなんだが、やっぱり次に伸びる事業を当てる、先読みに長けてたんだよ」


女店員「そのくらいの目があったからこそ、今のように立派になったんだもんね……」

 
錬金術師「…そうしてるうちに、4つ目だか5つ目に買収した1つの会社があったんだが…、」

錬金術師「その時、親父は全てを手に入れる階段を上ったんだ」


女店員「…どういうこと?」


錬金術師「…買収したその会社、実は裏取引で商工会を牽引していた国の人間との繋がりがあった」

錬金術師「その人間と知り合い、どんな手段を用いたかは知らないが商工会を乗っ取っちまった」


女店員「商工会?」


錬金術師「…普通の商工会とは違うが、中央通りの商工会は収益管理も全て行う、大組合とでもいうか…」

女店員「ごめん、どういうことか分からない…かな……」

錬金術師「つまり、中央通りの収入を全て管理してるってことだ」

女店員「あぁ…!」

 
錬金術師「…中央国にある、この都市における税を含むや決算額は年平均2兆ゴールド」

錬金術師「中央通り周辺は、そのうちの約25%で、年平均6000億ゴールドになるんだが……」


女店員「ろっ…!」


錬金術師「…それを管理していたのが、中央商工会の、その組合。」

錬金術師「だが、親父はそれをも乗っ取っちまったっつーことさ」

錬金術師「普通、商工会はそこまでの管理はしないんだが、歴史的にずっとそうしてたっぽくてな」


女店員「凄い…」

錬金術師「中央大陸は自由主義。それ故に、親父の進撃も許しちまったわけだ」
 
女店員「…!」

錬金術師「ま、ずっと昔の話さ。それに、分かってると思うが全部それが親父の懐に入るわけじゃねーしな…」

女店員「…」

 
錬金術師「一般市民としては、歴史にないほどの"経営者"として大成功を収めた人間」

錬金術師「下手をすれば、後にも先にも親父が最初で最後の存在となるかもしれん」

錬金術師「…今や、親父の邪魔をする人間は"ほとんど"いないはずだ」


女店員「…で、でもソレをジャマをする人間はいるんだ?」


錬金術師「いる。それが、あのアルスマグナ。」

女店員「!」

錬金術師「そして、国。政府だ」

女店員「く、国まで!?」


錬金術師「…ただの市民が、中央国の収入源の一つを担うことは、歴史上であり得ないことなんだ」

錬金術師「そして、中央国は世界の中心であり、世界政府の心臓部」

錬金術師「その心臓のポンプに、政府の人間ではなく…"ただの人"が紛れ込んだわけだぞ?」

 
女店員「…」


錬金術師「政府にとっちゃ、ただのばい菌。悪さをする菌に等しい」

錬金術師「つまり、国も必死になって税を上げたり、条例を出したり、様々な対策をしてきている」

錬金術師「だが…。クソ親父は上手いことやって、それを全部切り抜けてる」

錬金術師「…国に絡む人間も、親父の手の中に既にいたり、裏が色々とあるんだけどよ…」


女店員「…そんな凄い人だったんだ。政府が敵とか…」

錬金術師「凄いっちゃ凄いが、実はもっと凄い敵がいるんだぜ」

女店員「…えっ?」

錬金術師「…俺だぁ!!」ハッハッハ!

女店員「」

 
錬金術師「……なんつってな。さ、無駄話はおしまいだ。」

錬金術師「乗り込むぜ…セントラルカンパニーの本社によ!!」


女店員「…うんっ」

クー「…」コクンッ


女店員(……社長さんにとって、最大の敵はアルスマグナでも、国や政府でもない)

女店員(店長が、最大の敵……?)

女店員(…)

女店員(意外と、そうなのかも。だから、味方に早くつけたいとか……)

女店員(……な、わけないかっ)クスッ


…………
……

 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 セントラルカンパニー 本社 】


ガヤガヤ……!!


錬金術師「…着いたぞ」
 
クー「…っ!!」

女店員「おっ、おっきぃぃぃい!!」
 
 
錬金術師「…声デケッ!!」キーン!!


女店員「…だ、だってこんなに大きいなんて…!」

 
錬金術師「…二日酔いは、アカノミで治ったようで…何より」

女店員「あっ…!あはは……」


錬金術師「…さてと。じゃあ入るか」

スタスタスタ…

女店員「ち、ちょっと待って!そんな正面切って入れるの!?」

錬金術師「大丈夫じゃね?」

女店員「大丈夫じゃね、って…」

錬金術師「つか、正面以外の入り口ねーし。裏の搬入口とか、俺らコソ泥じゃねーんだぞ」

女店員「そ、そうだけど……」

錬金術師「じゃあ行くぞ」

女店員「…っ」

 

……
……………
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 セントラルカンパニー ロビー 】

ウィィィン……


女店員「わっ、自動で開いた!?」

錬金術師「…田舎者め」

女店員「だ、だって自動って…!」

錬金術師「…錬金術だ。人に反応し、両脇のドアが自動で反応する効果がある」

女店員「へ、へぇぇ……」

錬金術師「それより、受付いくぜ」

女店員「う、うん…」

 
カツカツカツ……


錬金術師「…っと。受付サン、ちょっといいかい?」

受付嬢「はい、なんでしょうか?」

女店員(うわ、キレイな人ぉ……)


錬金術師「親父……じゃなくて、社長はいるかな?」

受付嬢「アポイントメントはお済みですか?」

錬金術師「いや、していない」

受付嬢「それでは、ご予約から必要になります。また、審査が必要となります」

錬金術師「どうせ最後まで話が通っても、返事はコミットしないでおけとかで、会えないんじゃないの?」

受付嬢「…そちらにつきましては、お答え致しかねます。」

 
女店員「何言ってるかサッパリ分からない…」

クー「?」キョトンッ


錬金術師「…やっぱり、一々話を通すのはダメだな」

受付嬢「…」

錬金術師「まさか俺から乗り込んでくるとは思わないだろうしな…」ハハ

受付嬢「…?」

錬金術師「…よし、受付サン」

受付嬢「はい」

錬金術師「…確か、ここに設置されている通話用の錬金道具。それを使い、優先面会もできるよな」

受付嬢「!」

 
錬金術師「そして、通話番号を知ってる人だけが秘書を通し、社長に優先面会できる」


受付嬢「…」


錬金術師「それと、どうしてその制度を設けたか。」

錬金術師「いくら多忙の身といえども、何かあった場合、すぐに連絡が取れない状況では困るから。」

錬金術師「自分の信頼できる面子のみ、その特例を出している。」

錬金術師「……だろ?」


受付嬢「…ど、どうしてそれを。トップシークレットのはずですが…」


錬金術師「…おう」

錬金術師「…"親父"に伝えてくれ!!息子が、会いに来たってな!!」

 

………
…………
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 セントラルカンパニー 最上階 】


錬金術師「…相変わらず、憎たらしい眺めだ。見ろよ」クイッ


クー「…!」キラキラッ


女店員「たたたた、高い…!ガラス張りとか、危ないよ……!」ガクガク

錬金術師「…俺の母さんが設計した、魔強化ガラスだ。砕けはしねーよ」

女店員「そそそ、そういう問題じゃ…!」ガクガク


錬金術師「…この景色は、あの西方大陸にある"魔力の塔"をモチーフにして造られているんだぜ?」

女店員「あ、あの黒魔石の!?」
 
錬金術師「…そういうこと。だよな、親父?」クルッ

 
親父「…」


錬金術師「…怖い顔すんなって。折角の息子が遊びに来たんだぞ」

親父「…何をしに来た。俺に協力する気になったか?」

錬金術師「ないない。あるわけねーだろ」ハッハッハ

親父「…」ギロッ


…ゴゴゴゴッ…


錬金術師(…)

錬金術師(…こ、こえぇぇっ…!!)

錬金術師(普段、俺の店だから大きい態度で返答出来るが……)

錬金術師(この雰囲気、この部屋、この場所…!)

錬金術師(とてもじゃねえが、あの時代を思い出して…めっちゃ脚が震えてくるっつーの……!)

 
親父「…」ゴォォッ


錬金術師(そ、それにこのオーラ…)

錬金術師(やっぱり、上り詰めた最強の社長と呼ばれる男…。尋常じゃねえモンが…見える……)ブルッ


親父「…協力する気がなければ、ココは貴様の来る場所じゃないはずだ」

親父「それとも、あれから数日で…売上が俺に見せられるほどに、急成長でもしたか…?」


錬金術師「…ち、ちげぇよ。聞きたいことがあったんだ」

親父「…聞きたいことだと?」

錬金術師「俺の…子供時代の話さ」

親父「興味がない。」

錬金術師「…興味がないとかじゃないんだよ。答えてほしいことがあるんだ」

 
親父「…断る。」

錬金術師「はやっ!」

親父「長くなるならば、答える時間が勿体ない」

錬金術師「…長くなんかならねーっつうの!いいから聞いてくれ!」

親父「…」


錬金術師「俺が、子供時代に飼っていた魔犬…。あれのことを教えてほしい!」


親父「…」ピクッ

親父「……子供時代?犬、だと?」


錬金術師「どうしても、知りたいことなんだよ」

親父「…」

錬金術師「教えてくれ、頼む」

 
親父「…」 
 
親父「…昔、お前が飼っていた魔犬……」

親父「あれはクー・シーの血を継いだ血統書付きの、ペット用に改良された魔獣…魔犬だ」

親父「教育の為に飼わせたものだった」


錬金術師「!」

親父「…」

錬金術師「やはり、クー・シーの血を……?」

親父「…」

錬金術師「…親父。その犬は、どこへ行ったんだ。俺の記憶に、子供時代で曖昧に残っていないんだよ」

親父「…何?それを…覚えていないだと?」

錬金術師「あぁ…」

 
親父「…それほどにショックだったのか?記憶があいまいになっているな」

錬金術師「あ?」


親父「…」

親父「…ふっ」

親父「教えて…ほしいか……?」


錬金術師「…得られる情報は、集めておきたい。教えてくれ…」

親父「…」

錬金術師「…頼む」


親父「…」

親父「…俺が教える情報に、どれくらいの価値がある?」

 
錬金術師「な、何?」

親父「お前にとって、その犬如きの情報で、どれくらいの価値があると聞いている」

錬金術師「…どういう意味だ」


親父「…お前との話をしている時間は、本来やるべき業務があった」

親父「その損失額は、おおよそ数千万…数億にも匹敵する可能性がある。」

親父「その全てを担えるというのなら、教えてやろう」


錬金術師「…はっ!?」

親父「…」

錬金術師「す、数億の仕事!?んなバカなことあるか!」

 
親父「…もう、年末も近い。もしも、俺が今日…この時間に商工会に行くべきハズだったらどうする?」


錬金術師「!」


親父「…あのトップシークレットである、秘書からの通話通達は、俺の信頼の置く人物しか知らぬ」

親父「俺の傍で経験を積んだお前は、その価値は知っていたはず」

親父「…どのような状態でも、あの通話からの優先面会は、必ず受けると決めていた」

親父「そして、それが…今、この時間となったわけだ。」

親父「お前の犬の話で、俺の時間は潰された。分かるかっ!」クワッ!


錬金術師「…っ!」ビリビリッ!


親父「…」

 
錬金術師「…ど、どうしろっつーんだよ!」

女店員「て、店長……」

クー「…っ」ビクビク


親父「…犬の情報を知りたいということに、潰された時間。この2つは、あることで手を打ってやろう」

錬金術師「何だ…」

親父「…ある男を連れてこい。このセントラルカンパニーのこの場所へ、だ」

錬金術師「…男?」


親父「ちょっとした俺の知り合いでな」

親父「…総合貿易事業の元社長である、中央商人という男だ」


錬金術師「中央商人…?」

 
親父「あいつに話があるのだが、あいつは引退し、遠く"田舎町"という場所で隠居している」

親父「そこに行き、ココへ来るよう伝えてほしい。それだけだ」


錬金術師「…男を呼び戻す。それだけでいいのか?」

親父「…行けば意味は分かる。そしてその約束を取り付けた時、それを許し、犬の情報を教えてやろう」

錬金術師「…わかった」

親父「くくっ…。たかが犬如きに、そこまでの価値があるというのか」

錬金術師「…親父にゃ教えられねぇことさ」

親父「…」


女店員「…店長、行くの?」

錬金術師「行くしかねぇだろう……」

 
親父「…素直な息子ならば、好きになれそうだぞ」ククッ

錬金術師「うるせぇ…」ギリッ

親父「ふっ……」


錬金術師「さっさと行って、戻って来てやるよ、クソッ!!」ダッ!

女店員「あ、待ってよ!」

クー「!」


タタタタタッ…!!


ガチャッ、バタンッ…………!

 
親父「…」

親父「…くくっ。犬の情報、か」


……


…コンコンッ…


……


親父「……入れ」


…ガチャッ


秘書「失礼いたします」ペコッ


親父「…」

 
秘書「たった今、ご子息様は下へと降りられました。」

親父「…そうか、ご苦労」


秘書「…」

秘書「…それにしても、見事なものですね」


親父「…」

親父「…あいつらの連れていた、フードの被った幼子…。あれが獣人の子か」


秘書「恐らく」


親父「こんな機会を逃すものか。仕事の時間だけで切り入れようとしたが…」

親父「あいつの記憶が曖昧になってたおかげで、随分と楽にことが進んだ」


秘書「……獣人の子。見逃すおつもりですか?」

親父「俺には関係のないこと。あのバカを上手く使えれば、それでいい」

秘書「…ご子息様も、既に全てを見通して上手く扱われてるとは思ってませんでしょうね」

 
親父「…上手く扱われる?」ピクッ

親父「…くくっ」

親父「……はははっ!上手く扱われる…か」


秘書「?」


親父(…)

親父(…腐っても、俺のガキだ。腹の内は、どう考えているものか…)


……………
………

 

………
……………
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 中央都市 裏通り 】


タッタッタッタッ……


錬金術師「…っ」

女店員「店長、早いよ…!ど、どうしたの…!」

クー「…」オロオロ


錬金術師「…」

錬金術師「…クソッ!また負けだ……!」ギリッ!

 
女店員「…え?」

 
錬金術師「…恐らく、親父は俺の情報は全部知っていたんだ!」

錬金術師「それを含めて、全て通話も秘書も、既に準備させていた!俺がああいう風になるようにな!」

錬金術師「どこで情報を取ったかは知らないが、既に罠だったんだ!」


女店員「ま、まさかそんなわけ…!」


錬金術師「…あのクソ親父は抜け目がねぇ」

錬金術師「クーのことを知り、俺がこうすることを知り、仕事を依頼するつもりだったんだ」

錬金術師「考えてもみろ。朝方のこの時間に多忙な親父が、ココへいること自体おかしいはずだ!」


女店員「…!」

 
錬金術師「…そして!俺がこうして気づいてることも、気づいてやがるに決まってるっ!」

女店員「…っ」


錬金術師「…迂闊だった。」

錬金術師「だが…!クーのことを知るためには必要なことと思った…。」

錬金術師「さ、避けては通れなかった…」


女店員「…」

クー「…」


錬金術師「…」

錬金術師(しかし、親父に訊いた犬の情報で、"記憶が曖昧になっているな?"の一言…)

錬金術師(あれはどういう意味だ?)


女店員「…」

 
錬金術師(…子供のころの話で、どう別れたかは覚えていない)

錬金術師(子供ながらに、死別することがショックだったから、それで忘れてしまった…?)
 
錬金術師(…いや。それしきで俺は忘れるわけがねぇ)

錬金術師(俺自身の記憶なのに、出てこねぇっ……!!)

錬金術師(くそっ…!俺がもっときちんとしていれば、親父なんか頼ることはなかったものを……っ!!)ギリッ!!


女店員「…っ」

クー「…っ」


錬金術師(情けねぇ…。結局、親父にもまた負けているようでっ……!)ギリギリッ!


トテテ…ギュウッ!

錬金術師「…ん」

 
クー「…っ」

ギュウウウッ……!


錬金術師「…クー?」


クー「…っ!」

グリグリッ…!!

錬金術師「お、おいおい…。くすぐってぇ……」


女店員「…え、えいっ!」 
 
…グニィッ!!グイッ!

錬金術師「あ、あだだだっ!?頬をつねるな!何を……!」

 
女店員「…だ、ダメだよ!そんな顔しちゃ!」

錬金術師「…あ?」

女店員「…お父さんみたいな顔になってたよ。」

錬金術師「!」

女店員「クーも気づいたんだよ。店長が、そんな顔しちゃだめだよ…って」


クー「…」コクンッ!


錬金術師「お、女店員…。クー……」


女店員「…店長は店長らしく!面倒だけど、やってやるかぁっていう感じで…ねっ!」

錬金術師「…っ」

 
クー「…」ジワッ

錬金術師「!」

クー「…」グスッ

錬金術師「お、おぉっ!?ど、どうしたクー!」

クー「ひぐっ…!」ポロポロッ


女店員「あ~!クーを泣かせたぁっ!」


錬金術師「ちょっ…!わ、わかった!もう怖い顔しないから、泣くなほらほらっ!」

ヒョイッ…!ポンポンッ…

クー「…っ」グスッ

錬金術師「…大丈夫だ。ほれほれ、笑顔だぜ?」ニカッ!

 
クー「…」グスッ

クー「…」

クー「…」

クー「…え、えへっ」ニコッ


錬金術師「…おし、おーしおし!」

錬金術師「さぁ、だっこしたまま"田舎町"への馬車を探すか!出発だ!」


クー「…♪」コクンッ!


タタタタッ……!


女店員「もー店長ったら……!ま、待ってよ~…!」

 
錬金術師(…)

錬金術師(女店員の涙にしろ、クーの涙にしろ……)

錬金術師(俺に流れる親父の血を止めてくれる存在があることは、幸せなんだろうな)

錬金術師(…っ)

錬金術師(……だが、所詮俺も親父の子。)

錬金術師(そう。あの冷酷な血や、経営に本気で関わっても……)

錬金術師(…)

錬金術師(…いや、考えるのはよそう。)

錬金術師(今は、今の目の前のことを精一杯…やるだけだ……)


…………
……

 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・
・・・・
・・・
・・

本日はここまでです。有難うございました。

皆さま有難うございます。投下致します。

 
そして、店長一行は田舎町へ向かう馬車へと乗り―……

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 数日後 田舎町付近の山道 】


ガタガタッ…ゴトンッ…!!ガタァンッ!!!


錬金術師「あばばば!揺れすぎだろ!!」

女店員「き、急にこんな道が悪くなるの!」

クー「~!」

ゴロンゴロンッ…!

女店員「く、クーが転がってく~!」


錬金術師「…い、田舎町は名前の通りだな!どんな田舎にあるんだよ!」

女店員「お、お尻がいたいい!」

 
ゴンッ…ゴツッ!!

錬金術師「いってぇっ!」

女店員「も、もう~やだ~!!」

クー「~…!」

ゴロゴロゴロッ……!!


錬金術師「…く、くそっ!」

女店員「あ、悪路すぎる~!!」

錬金術師「…っ!」

ゴトンッ!…ゴチィンッ!

錬金術師「ぬがあっ!」

女店員「いたぁいっ!」

クー「…!」

ゴロゴロゴロ……!


錬金術師「…は、早く平坦な道に出てくれっ~!!」

女店員「いつまで続くの~…!!」

クー「…っ!」


ゴロンゴロンッ……

 
…………
……

 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

パカッパカッ……


錬金術師「…ふぅ」

女店員「…やっと、落ち着いた」

クー「ふ~……」フゥッ


錬金術師「…な、なんて道だったんだ。本当に町があるのか…?」

女店員「こんな場所に隠居だなんて、大変な場所に住んでるんだなぁ…」

錬金術師「中央商人っつったっけ。本当にいるのかよ……」

 
女店員「…はぁぁ。少し中央都市から少し離れると、こんな場所になるんだもんなぁ」

女店員「中央都市とは全然違うよ…」


錬金術師「いくら人類の技術が進歩しても、変わらないところだってあるだろうよ」

女店員「うん……」


錬金術師「…確かに、錬金技術の発展で生活は大きく変化したはした。」

錬金術師「昔は、水は水魔石、火は火魔石、明かりは雷魔石という効果な代物が使われてたんだ」

錬金術師「そこで錬金術が発展し、それぞれが魔法に頼らずとも良い技術として発展」

錬金術師「今じゃ、それが当たり前になりつつはあるが……」

錬金術師「もしこのまま錬金術の発展がし続ければ、いずれ魔法は完全にいらなくなるかもな」クククッ


女店員「…えっ?魔法が当たり前じゃなくなるってこと?」

 
錬金術師「そういうこと。」

女店員「え~…。でも、魔法がなくなるなんて、そんなわけないと思うんだけど…」

錬金術師「くははっ、人の未来なんて誰が分かるもんか」

女店員「うーん…」

 
錬金術師「…技術の進歩はすげぇんだ。治らないと言われた病が、今は治る時代なんだぞ」

女店員「治らない病が?」


錬金術師「…魔力枯渇症っつー、身体の魔力が失われていく奇病ってあるだろ?」

錬金術師「昔は、相当悩まされた病だったらしいが…今は特効薬もあるんだぜ」

 
女店員「あ~…」

錬金術師「そういうことさ。不治の病が治るように、未来なんか人が考えるところじゃ、どうなるか分からんのよ」

女店員「まぁ…確かに……」

錬金術師「はは、だろう?」


パカッ…パカパカッ……ギギィ……ピタッ……


錬金術師「……お?」

女店員「馬車が…止まった…?」

クー「?」

 
馬車運搬屋「…ついたよ、お三方!」

馬車運搬屋「足元に気を付けて、おりてくれよ!この辺は土が柔らかいんだ!」


錬金術師「!」

女店員「…着いたっ!」

クー「!」


錬金術師「やっと着いたか!では、どれどれ……」スクッ


ギシッ…ガタガタ…ザッ…

……フワッ……


錬金術師「…っと、本当に土がフワフワしてて柔らかいな」

 
女店員「…よいしょっと」

…フワッ!

女店員「わっ……!」ヨロッ

錬金術師「おっ、あぶねぇ。気をつけろ」

…ガシッ!

女店員「あ、ありがとう…」

女店員「…」

女店員「って、クー!足元、気を付けてよ!転んじゃうから……!」


タタタタタッ!ピョオンッ!!


クー「♪」

 
女店員「…うわあ、凄い元気」

錬金術師「…あいつは獣の血が入ってるんだから、心配ないわな…」

女店員「な、馴染んでるなぁ……」


クー「えへへーっ!」ピョンッ!!

…ボフンッ!…


…………
………

 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 田 舎 町 】
 

ザッザッザッ……


錬金術師「…」

女店員「…」

クー「…」


ザッザッ……


錬金術師「…」

女店員「…」

クー「…」


ザッ……

 
錬金術師「…」

錬金術師「……ど、どこまでも大自然だなオイッ!」


女店員「自然がいっぱい…。空気がおいしいよ!」スゥゥッ

クー「~♪」


錬金術師「田舎もド田舎、ず~~~っと林…!つーか、森じゃねえか!!」

錬金術師「本当に田舎"町"なのかよ!」

錬金術師「こんな場所に住んでる奴なんざ、いるのか!」


女店員「ま、まぁどこかに町らしい所があるのかもしれないし」

錬金術師「…あの馬車の運転手、もっといい場所に連れてけっつーの…」ハァ

女店員「…文句ばっか言わない!たまにはこうして、自然を感じることも重要だと思うんだけどなぁ」

 
錬金術師「ぬぎぎ……」

女店員「も~っ…」

クー「♪」


ザッザッザッ……


錬金術師「…」

錬金術師「…」

錬金術師「……おっ?」ハッ


女店員「…あっ」

クー「!」

 
錬金術師「……なんだあれ、野道に一軒家が隣接してるよな?」

女店員「こんな森の中に…。町が近いのかな?」 
 
錬金術師「…もしかして、中央商人の隠居してる家か!?」

女店員「そ、そんな調子よく見つかるかな…」

錬金術師「とにかく、行ってみよう!」ダッ!

タタタタッ…!

女店員「…あ、そんなに早く走ると…!」


タタタタタタッ……ズリッッ!


錬金術師「ぬあっ…!」


…ボフンッ!!モワモワッ…

 
女店員「…も~!!店長、運動に慣れてないんだから、転ぶに決まってるでしょ!」

錬金術師「ぐっ…!」

女店員「あーあ、大丈夫…?」


錬金術師「…土、なんでこんなに柔らかいんだよ!」

錬金術師「田舎ってのは、こうも歩きにくいのか!この土めっ!!」ブンッ!

ボフンッ!モワモワ……

錬金術師「げ、げほげほげほっ!うがあああっ!!」


女店員「は、はぁ……」ハァァ

クー「…」ハァァ


女店員「く、クーまで溜息を…。」

女店員「…」

女店員「…あっ!?」ハッ

女店員「て、店長っ!目の前、目の前!誰かいるよ~!」

 
錬金術師「…ん?」チラッ


???「…大丈夫か?」

???「この辺の土は、人の手が入らず、柔らかいからな。慣れない人は、すぐ転ぶんだ」

???「……手を貸そう」スッ

  
錬金術師「あ、あぁ……」

錬金術師(初老の男…。町民か何かか?手ぇ出されても、こんな初老に引っ張られるほど落ちぶれちゃ…)

ガシッ…!グイッ!!!

錬金術師「うおっ!?」


…ストンッ!


女店員「わっ…!」

クー「!」

 
錬金術師「なにっ……?」キョトンッ


初老の男「こんな田舎に、珍しい恰好だ。錬金師か何かか?」


錬金術師「ま、まぁそんなところだが……」

錬金術師(な、何をされた?引っ張られただけだと思ったが…!すげぇ力だ、このオッサン……!)


初老の男「そうか。この町はすごしやすくていいぞ、ゆっくりしていくといい」ニカッ

錬金術師「あ、あぁ……」

初老の男「では……」

トコトコ…


錬金術師「…」

錬金術師「…あ、待ってくれ!」


初老の男「なんだ?」クルッ

 
錬金術師「今、アンタ…この家から出てきたよな。この家の持ち主なのか?」

初老の男「…持ち主ってわけでもないが、ちょっとした懐かしむべき場所だからな」

錬金術師「…?」


初老の男「たまに来て、畑なんかをイジるのが趣味というか……。」

初老の男「ま、そんなところだ」


錬金術師「…そうか」

錬金術師「じゃあ、もう1ついいか?」


初老の男「何だ?」


錬金術師「…アンタは、中央商人さんか?」

 
初老の男「ん…」ピクッ

錬金術師「…そうなんだろ?オーラが違う気がするんだ」

初老の男「…」

錬金術師「それでその…。じ、実はアンタに頼みたいことが…!」

初老の男「……違う。俺は、中央商人じゃない」

錬金術師「お、おろ…?」


初老の男「中央商人は、ここから抜けた先にある通りの先、町はずれの家に住んでいる」

初老の男「……案内するか?」


錬金術師「…た、頼めるのか?」

初老の男「どうせ、暇を持て余していた。構わないさ」

 
錬金術師「助かるっ!」

女店員「やったぁ!」

クー「♪」


初老の男「…それほど喜ぶことなのか。まぁ、こっちだ」クイッ

ザッザッザッ……


錬金術師「…」

錬金術師「…なぁ、えーと…」

錬金術師「アンタのこと、なんて呼べばいい?俺は店長って呼んでくれていいんだが」


女店員「私は女店員で。こっちはクー」

クー「…!」ピョンッ!

 
初老の男「…ふむ、自己紹介ありがとう。そして、俺の自己紹介か」

初老の男「そうだな……。適当にオジサン…とでも呼んでくれ」ハハハッ


錬金術師「…オジサンねぇ。俺の親父くらいの歳に見えるんだが…」

初老の男「はっはっは、そうか。俺の娘も、君より少し上か…。」

錬金術師「…」

初老の男「……とりあえず、中央商人の家には連れてってやるさ」


錬金術師「…う、うむ」

錬金術師(……なんだ、妙なオッサンだな)

錬金術師(雰囲気といい、オーラといい、ついつい中央商人と思ったが…俺の勘も当てにならないな)


…………
……

 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 田舎町 商店街 】


錬金術師「お、おぉ……」

女店員「なんだ、商店街とかあるんだ!」

クー「~♪」


初老の男「はは、自然ばかりじゃないってことだ。」

初老の男「たとえば…あそこの店。中央都市にも出店している、割と有名な店の本店だぞ?」


錬金術師「ほぉ、そんな店がこんな場所に…?」

錬金術師「…」

錬金術師「…レストラン"カントリータウン"…」

錬金術師「…」

錬金術師「あ…!」ハッ!

錬金術師「あぁぁっ…!!か、カントリータウンかっ!!」

 
女店員「店長、知ってるの?」

錬金術師「中央都市で食べたぞ!?」

女店員「えっ?」

錬金術師「そ、そうだそうだ!そういえば、あの時のウェイターが"田舎町"から始まったと…!」

女店員「!」

錬金術師「そ、そういうことか…!」


初老の男「そこの店にいた、"コック"という男が中央へ店を出店し…」

初老の男「それから2代目が中央へ行き、跡を継いだ。」

初老の男「3代目となる今も、その味は守られているな。この町の本店は、2代目の息子がやっているんだ」


錬金術師「はぁぁ…!なんか、急に親近感がわいたぞ…。美味かったなそういえば」ジュルリ

女店員「…そういうところで、自分ばっかり食べてずるい」ジトォッ

クー「…」ジトッ

 
錬金術師「…こ、今度食べさせてやるから!」

女店員「約束だよ」ジトッ

クー「…」ジトッ

錬金術師「わーかった、わかった!!」
 
 
初老の男「ははは!じゃあ、通りを抜けて中央商人の家に案内しようか……」


…………
……

 

………
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 中央商人の家 】


初老の男「…着いた。ここが中央商人の家だ」


錬金術師「へ?」

女店員「え…」

クー「?」


錬金術師「なんか、想像してたより……」

女店員「小さい、普通の家…。っていうか、古い?さっきのオジサンのいた一軒家より古い感じ……」

クー「…」コクンッ

 
初老の男「…どんな豪邸を想像してたんだ、お前たちは」

錬金術師「そりゃ、貿易商社の元社長だって聞いてたしな…」

初老の男「いくら金があろうとも、金には変えられないものがあるってことだ」

錬金術師「…?」
 
 
女店員「店長、それより早く中央商人さんに挨拶しないと。」

クー「んっ!」

錬金術師「あ、あぁそうだな…」


初老の男「分かったところで、俺はこれで。」

初老の男「……ではな」クルッ

 
錬金術師「…ありがとう、助かった!」


初老の男「またな……」


ザッザッザッザッ………

…………



錬金術師「…」

錬金術師「…し、渋いオッサンだったな」


女店員「なんか、不思議な人だったね」

クー「…」コクンッ

 
錬金術師「…それよか!さぁて…と!」

錬金術師「…中央商人とかいう男は、いるかなぁっと」スッ

…コンコンッ!


錬金術師「…」

女店員「…」

クー「…」


…シーン…


錬金術師「……いないのか?」

クー「?」

女店員「もう1回叩いてみたら?」

錬金術師「…」


…コンコンッ!

 
錬金術師「…」

…シーン…

錬金術師「…」

錬金術師「…」イラッ


…コンコンコンコンッ!!!…

コンコンコンコンコンッ!!!ゴンゴンッ!!!


女店員「ちょちょちょっ!た、叩き過ぎっ!」

錬金術師「…っ」ゼェゼェ


……ゴトッ……


錬金術師「……おっ?」


ゴトゴトッ…ドタドタッ!!

 
錬金術師「…いたみたいだな」


ダダダダッ!

…ガチャッ!ギィィ……


中央商人「ゴンゴンゴン、うるせぇなっ!!」

中央商人「気持ちよく寝てるっつーに…!一体誰だよ……っ」フワァ


錬金術師「…」ペコッ

女店員「ど、どうも…」ペコッ

クー「…」ペコッ!


中央商人「…んあ?」


…………
……

本日はここまでです。有難うございました。

女剣士は竜騎士と同時期か少し前じゃない?
竜騎士と上官が名前だけだけど出てるし
この時代はコックの店から竜騎士の時代の2世代くらい後
時間の順番はたぶん 女剣士→竜騎士→→錬金術師の順

皆さま有難うございます。

少しだけお答えしますと、
>>293
竜騎士…の弟さんの娘が女剣士になり、その少し後の別の舞台が今作シリーズになります。
が、過去作とは関係なしにストーリーが進むので、お楽しみいただけると思います。

それでは投下致します。

 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 中央商人の家 居間 】 


中央商人「…はっはっは、わざわざ中央からな!」


錬金術師「は…はは……」

女店員「…」

クー「…」


中央商人「ま、お茶でも飲んでくれ」

中央商人「それにしても、よく俺がここにいると分かったな」

中央商人「商店街を更に抜けた先だというのに…」

 
錬金術師「…通りすがりのオジサンが、教えてくれたんですよ」

中央商人「通りすがりのオジサン?」

錬金術師「ここと逆側の田舎町の入り口側にある、一軒家で畑仕事をしてたオジサンに教えられまして」

中央商人「…あぁ、軍支部の?」

錬金術師「へ?」

中央商人「ここと真逆にある家のところだろう?」

錬金術師「そうですが…。あれが、軍支部ですか?」

中央商人「おう、あれは軍の支部さ。そうは見えないだろうがな」ハハハッ

錬金術師「ふむ…」


中央商人「…というか、今、そこの畑のオッサンって言ったな」

中央商人「つーことは、アイツか…。毎日毎日、畑仕事とは柄にもなく……」

 
錬金術師「…」

女店員「…」

クー「…」


中央商人「……っと、すまんな。俺に用事だったか」

中央商人「わざわざ中央から、本題も聞いていなかったが…。どうして俺を訪ねた?」


錬金術師「…単刀直入に申し上げます」

錬金術師「中央商社…セントラルカンパニーの社長が、貴方にお会いしたいということです」

 
中央商人「…」

中央商人「……ふむ」


錬金術師「どうか、お会いになっていただけませんでしょうか?」

 
中央商人「…」

中央商人「…やはり、か」


錬金術師「!」


中央商人「君たちは見ない顔だと思っていたが、やはりセントラルカンパニーの関係者か」

錬金術師「…やはり、というと」

中央商人「子供まで連れて、同情か何かを狙っているつもりか?」

錬金術師「…申し訳ございません。そちらに関して、存じ上げないのですが…」

中央商人「ん…、何?君たちは新人か?」

錬金術師「…まぁ、そのようなものです」

中央商人「ふむ…」

 
錬金術師「…」

中央商人「…」

錬金術師「…」


中央商人「…」

中央商人「…ちょっと、待っててくれるか。」スクッ


錬金術師「…」

中央商人「直ぐ戻る、ここにいてくれ」

錬金術師「承知致しました」ペコッ


トコトコトコ…

…ガラッ、バタンッ……

 
女店員「…」

女店員「…て、店長」ボソッ


錬金術師「あん?」

女店員「なんか、急に仕事モードだね。敬語きちんと使うなんて珍しい」ボソボソ

錬金術師「…空気が違う」

女店員「え?」


錬金術師「…家から出てくるのは遅いし、最初は適当なオッサンかと思った」
 
錬金術師「だが、ココで話始めたら顔つきが仕事人のそれだ。」


女店員「へぇ…」

 
…ガラッ!!

錬金術師「!」

女店員「!」

クー「?」


中央商人「待たせた」


錬金術師「…いえ」


中央商人「…さて。これを見てくれるか」スッ

ペラッ…

錬金術師「…この紙は?」

 
中央商人「…知らないのか?」

錬金術師「失礼ながら…」ペコッ

中央商人「…これを狙ってきたわけではないのか。」

錬金術師「申し訳ございません。こちらに関し、何も聞かせておりませんので……」


中央商人「…」

中央商人「…」

中央商人「…ふむ」

中央商人「なるほど…。表立ったウソではなさそうだ……な」


錬金術師「…」

 
中央商人「お前たちが二度目の顔だったら、水をかけて追い払っていたところだ」ハハハ


錬金術師「み、水…ですか……」


中央商人「ふはははっ!あのクソ社長、何を思ってこんな奴らをよこしたのか…」

中央商人「…お前のような、セントラルカンパニーの人間が来るのはもう、20回を越しているぞ」ニヤッ


錬金術師「に、20回…ですか?」

中央商人「…泣き落としに、子供連れも。お前と一緒のようにして、コレを狙った社員は沢山来たもんだ」

…カサッ…

錬金術師「一体、その紙は……」

 
中央商人「…まぁ、待て」

中央商人「その前に、お前たちは中央商社の新人か?それとも何か別の目的か」


錬金術師「…?」


中央商人「見たところ、話をしてると分かるが"こちら側"の経験はあるのだろう」

中央商人「だが、これに関して何も知らないとなると…コレを狙った第三者か作戦か」

中央商人「先ずは、お前たちについて聞かせてもらおうか」

 
錬金術師「…」

女店員「て、店長…」

クー「…」

 
中央商人「お前が話を出来ないというのなら、俺も何も話すことはない」

中央商人「もし、そのまま時間がたつのを狙うというのなら……」

中央商人「怪しさ満点のお前らには、水をかぶって帰ってもらうことになるが」


錬金術師「…」

錬金術師「…はぁ、面倒くせぇ案件っぽいなこりゃ」ボソッ


中央商人「む…」

 
錬金術師「…かしこまった所で、何がどうするわけじゃねえ…か」ハァァ

錬金術師「中央商人さん、そんな言うなら…俺も俺らしく行かせて貰うかねぇ……」


中央商人「ふっ…」

 
錬金術師「…参ったね。性格は違えど、やっぱりうちの親父と一緒のタイプだ」

錬金術師「完全に腹ぁ見透かされてるんだな…。どこから気づいてましたかね」ハァ


中央商人「はっはっは!来た時から、そんなの分かるに決まっているだろう。」

中央商人「お前たちの目的は、コレだけじゃないな。何か別にあるはずだ…話すと良い」クイッ


錬金術師「分かりました、分かりましたよ!」

錬金術師「…話しますよ。ただ、他言無用でお願いしますね」


中央商人「心得た」


…………
……

 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

錬金術師「…という訳です。こちらがそのクーになります」

クー「んっ!」ビシッ!

女店員「こ、こらクー…」


中央商人「ほぉ…!」

中央商人「…まさか、獣人族とはな。噂は聞いたことがあったが、本当に見たのは初めてだぞ」


錬金術師「ですので、クーのためにも必ず貴方には中央都市に来てほしいということなのです」

錬金術師「…お願いします」ペコッ

 
中央商人「…」

中央商人「……店長、と呼べばいいか」


錬金術師「はい」
 

中央商人「まさか、君の親があのセントラルカンパニーの社長とは恐れ入った」

中央商人「あいつが子持ちだったことを知ったのは、今年一番の驚愕事実だ」


錬金術師「はは…」


中央商人「…その上で、話をしよう」

錬金術師「…はい」

 
中央商人「今、見せたこの紙。これはいわゆる…権利書なんだ」

錬金術師「…権利書」ピクッ


中央商人「…」

中央商人「…この権利書は、セントラルカンパニーが次回より着手しようとしている事業に必須なもの」

中央商人「君のお父さんは、これが欲しくて仕方ないんだろう」


錬金術師「…すると、貿易関係ですか」

中央商人「…」

錬金術師「…言うところ、貴方の造り上げた貿易会社を奪いたいと」

中央商人「ま、そうなるわな」

錬金術師「…」

 
中央商人「これは元々、俺の弟子商人に任せるはずのものだった」

中央商人「一旦は弟子商人に任せたものの…。色々あって俺の手に戻ってきちまったわけさ」


錬金術師「…」


中央商人「それをどこから嗅ぎつけたか、隠居してる俺を知り、お前のお父さんが目を付けた」

中央商人「そして、猛烈なアピールが始まったわけよ。」

中央商人「破格の金も積まれたが、まるで相手になんかしなかったがな!」ハハハ!


錬金術師「…そうでしたか」

中央商人「ま、そういうわけだ。これを手放すわけにはいかないさ」

 
錬金術師「…」

錬金術師「…手放すわけにはいかない、それで結構です」


中央商人「…何?」

錬金術師「ただ、中央都市に来てほしい。親父とあって欲しいんです」

中央商人「…」

錬金術師「…自分が言われたのはそれだけ。それ以上でも、それ以下でもありません」

中央商人「…」

錬金術師「…お願いします」


中央商人「…」

中央商人「…く、くくっ」

 
錬金術師「…」

女店員(笑った…?)

クー「…?」


中央商人「くっ…くはははっ!」

中央商人「お、おいおい。面白いな、君は!」

中央商人「それが本音だとしたら、君のお父さんも予想外だろうな!」


錬金術師「…」


女店員「ど、どういうことですか?」

クー「?」

 
中央商人「…女店員さん。いいか、社長の言う"連れてこい"というのは俺の話じゃないんだ」

女店員「え?」

中央商人「…権利書を持って来い。そういうことだろう」

女店員「!」

錬金術師「…」


中央商人「…俺が中央都市へ行ったところで、どうにもならんぞ?」

錬金術師「親父が言った言葉は、それだけです。権利書の話は関係ありません」

中央商人「ははは…!本気で言っているのか!」

錬金術師「…」

 
中央商人「…」

中央商人「…ま、何と言おうとその話は断らせて貰う。俺は、ここを離れるつもりはないんだ」


錬金術師「…っ」


中央商人「…それに。店長くんには、それをやる通りはあるのか?」

錬金術師「通り、ですか?」


中央商人「突然その娘を押し付けられ、それの為に親に従い、こんな田舎へと飛ばされた」

中央商人「君が、クーを見捨てればそれで終わると思うんだがね…?」


クー「っ!」ビクッ

錬金術師「!」

 
中央商人「見捨てるも何も、面倒事は嫌いな性格に見える。」

中央商人「別に、君がクーを背負うくらいなら、いっそのこと……」


錬金術師「…てめぇっ!!」ギロッ!
 
…ビュッ!!バキィッ!!

中央商人「でっ!?」

フラッ…ドサッ!


錬金術師「…ざけんなよ、コラァ!!」バッ!

女店員「…て、店長っ!?」

クー「…っ!」

 
中央商人「…」


錬金術師「…クーの素性を聞いて、目の前でそう言葉を使うかっ!?」

錬金術師「ふざけんじゃねぇぞ!」


中央商人「…」


女店員「て、店長っ…!」

クー「…」ブルッ


錬金術師「…最初、親父と違う気はしてた。だけど、やっぱりオメーも親父と一緒だったな!」

錬金術師「クー、安心しろ。絶対に、お前は見放さない!」

錬金術師「…くそっ!」

錬金術師「俺の力がないばかりに、んなイカれた老害共に、お前の将来を遊ばれてるようで…!」

 
クー「…」

クー「……っ」

トテテテッ……


錬金術師「…クー?」


クー「…」

…ポンポンッ

中央商人「ぬ……」


錬金術師「…お、おい」

女店員「クー…?」


クー「…」

…ナデナデ

中央商人「な、殴られたところを……」

 
錬金術師「…そんな奴、放っとけ!」

クー「…っ」ブンブンッ

錬金術師「どうして、そいつを庇う!」

女店員「クー、どうしたの…?」 

クー「…っ」


…ムクッ

中央商人「やれやれ…。優しい子だな……」ソッ

…ポンポンッ

クー「ん…♪」


錬金術師「…?」

女店員「…」

 
中央商人「…汲み取られたか。獣人族というのは、感覚に長けているのかもな」ハァ

錬金術師「…あ?」

中央商人「冗談だ。すまない事を口走ったな…」

錬金術師「…は?」


中央商人「…クー、お前にはつらい言葉を言ったというのに…」

中央商人「こうして、俺を気にかけてくれるのか」


クー「♪」


錬金術師「…な、何だ?」

 
中央商人「…だから、冗談だと言っただろう」

中央商人「お前が、どれだけ本心なのか知りたかっただけだ」


錬金術師「!」


中央商人「お前のお父さんは頭がいい。これも、俺を欺く実力のある社員の作戦ではないかと考えた」

中央商人「…だが。お前自身が個人でお願いをしているなら本気で怒るだろう?」

中央商人「すまない選択だったが、俺としては試させてもらったんだよ」


錬金術師「うっ…」


中央商人「…だが、この子は自分のことより俺を心配した。」

中央商人「なんて…優しい子だ。悪いことを…言ってしまったな……」


クー「…」ブンブンッ

 
中央商人「…許してくれるのか」

クー「んっ!」ニコッ

中央商人「ふっ…」


錬金術師「…っ」

女店員「…」


中央商人「しかし効いたぞ…。人に殴られたことなんざ、いつ以来か」ハッハッハ!

錬金術師「…っ」

中央商人「…俺が全部悪いんだ。この子の素性を知り、傷つく一言を言ったのは本当のことだ」

錬金術師「…」

中央商人「だが、経営者だったらコレで一発の終わりだな」ハハハ!

錬金術師「…はい」

 
中央商人「…どうも、君はお父さんと違うようだ。」

錬金術師「へ?」

中央商人「あの社長ほど冷徹でもなし、温かい血が流れている」ニカッ

錬金術師「俺が……」


中央商人「…」

中央商人「…まぁ、いい。よし!分かった!」スクッ!


錬金術師「…えっ?」

女店員「!」

クー「!」

 
中央商人「…クーの優しさに免じて、中央都市へ赴いてやろう!」

中央商人「それで、クーの手掛かりとなり得るかもしれないらしいじゃないか」


錬金術師「い、いいんですかっ!?」


中央商人「…ま、権利書を手放すことはしないけどな。」

中央商人「だが、君の言う"中央都市へ呼べばクーの手がかりとなる"可能性がありうること…」

中央商人「可能性とはいえ、それが俺の時間を割けば得られるかもしれないんだろう?」


錬金術師「…っ!」


中央商人「こんな子供の未来を潰す可能性があるなら、足を運ばなけりゃ神様に怒られちまうっての!」

中央商人「よし、そうと決まれば準備だ!」バッ!

 
錬金術師「あ…!有難うございますっ!!」

女店員「有難うございますっ!」

クー「んっ♪」


中央商人「…とはいえ、馬車は一日に一本。しかも、ココから貸切りじゃないと中央都市へは出ていないんだ」

錬金術師「へ…。まだ昼間……」

中央商人「出発は明朝となるだろうな。今日はゆっくりしていくといい」

錬金術師「…」ピクピク


中央商人「…ははは、まぁそんな顔をするな!」

中央商人「今日は、レストラン"カントリータウン"でごちそうしてやろう!」

 
錬金術師「お…」

女店員「ほ、本当ですかぁっ!」キラキラッ 
 
クー「へへっ♪」


中央商人「クーのこともだが、お前のように他人へ一生懸命になれ、正面からぶつかれる男も久々だ」

中央商人「こうして、対等を張って言葉を交わせる人間はもういなくなったと思っていた」


錬金術師「は、はは…。申し訳ないです……」

中央商人「…昼間から飲む酒も美味いぞ。さぁ、行こう!」

錬金術師「…有難うございます」ペコッ

女店員「はいっ!」

クー「んっ!」ビシッ!


…………
……

 

………
……………
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 田舎町 商店通り 】

ザッザッザッ……


錬金術師「…本当に感謝いたします」

中央商人「だから、堅苦しい挨拶はいらねえっつーの!」

錬金術師「は、はい…」


女店員「よかったね、クー♪」ギュウッ!

クー「んっ~♪」ギュウッ

 
中央商人「うむ、若き女子と幼女が戯れる姿は、俺の刺激となりてゾクゾクと」

錬金術師「おいロリコン」

中央商人「…」

錬金術師「し、失礼しました!つい……!」

中央商人「…構わん!」

錬金術師「は、はは……」


ザワザワ…ガヤガヤ…!!


女店員「…ん?」

中央商人「なんだ、商店街が騒がしいようだが……」

錬金術師「何かあったのか?」

クー「?」

 
ザッザッザッ…


中央商人「おいーっす。どうしたんだ、みんな」


町人たち「あ、中央商人さん!」

町人たち「どうしたんだもこうもねぇよ!」

町人たち「仕入れたばかりで、町に設置した火魔石のランプが吹き飛んじまったんだよ!」


中央商人「…何?」


町人たち「行商に来た錬金師が、町並みに合うからって買った奴さ。高かったのによぉ…」

町人たち「税金で買ったモンが、無駄になっちまった…」

町人たち「錬金道具なんて触らないし、どうやって処理すればいいのかも……」

 
女店員「…店長」ボソッ

錬金術師「へいへい、わかってますよ」ハァ


ガヤガヤ…

中央商人「…その行商人の顔は?行商だったら、次の町でも捕まえられるかもしれん」

町民たち「流れモンなんて多いし、ハッキリした顔なんて……」


錬金術師「…へいへい、どいてどいて。」ズイッ

錬金術師「このくらいなら、俺が見るよっと」


町民たち「…なんだアンタ」

中央商人「ん、店長?」

錬金術師「…これでも、ちったぁ名前の売れた錬金師だったもんで」ニヤッ

 
町民たち「…本当か!?」

中央商人「おっ……」


錬金術師「えーと、とりあえず見てみましょっか、っと……」

錬金術師「…」

錬金術師「…な、なんじゃこりゃ!火魔石の導線、無茶苦茶じゃねえか!」

錬金術師「こんな酷いモンをよく売りつけられるな……」


中央商人「何とかなるか?」


錬金術師「…分解ありきってところだ」

錬金術師「だけど聞いたところ、コレは町並みの為に残したいんだろ?」

 
町民たち「…出来るのか?」

町民たち「出来るなら、お願いしたいが……」

ザワザワ……


錬金術師「…部品が足りんな。弾け飛んだ火魔石も必要だし、導線用の魔法糸も必要だ」

錬金術師「連鎖的に弾け飛ぶ危険性もあるから、一旦、コレ関連の導線は全部切断するぞ」

錬金術師「切断用の耐魔ペンチ、耐火制のあるゴムに各導線が欲しい」

錬金術師「それと、火魔石は純度が高ければ数年は交換いらずになるはず」

錬金術師「つかこれ、アンタらが設置しただろ?」

錬金術師「内部だけじゃなく、外側もグチャグチャだ。仕方ねぇな、俺が全部やってやるよ」ハァ


町民たち「…ほ、本当か!必要な部品なら、俺らで全部用意するよ!」

町民たち「有難う、金が無駄にならないで済みそうだよ…」

 
錬金術師「…あぁ、これくらいならいいって」


町民A「…」

町民A「な、なぁ…ちょっといいか!?」


錬金術師「ん?」


町民A「実は、うちにある錬金道具の調子も悪くてさ…」


錬金術師「…」ピクッ


町民A「も、もし良かったら見てくれないか…?」

町民A「ほら、中々こういう技術を持った錬金師さんに会えなくてさ……」


錬金術師(やっべぇ、面倒なことやらせられそうだぞ……)ピクピク

 
町民たち「…あ、じゃあうちもいいか!?」

町民たち「蛇口周りとかはどうだろうか!?」

町民たち「う、うちは火炎石の旧釜戸を使ってるんだけど、古くて中々火がつかなくて…!」

町民たち「俺は、氷魔石の冷凍庫が調子悪くて……」


錬金術師「」


町民たち「…きっと、すげぇ錬金師さんなんだろアンタ?」

町民たち「そうだよな!一瞬でこのランプのことを解析しちまったし、すげぇ名匠なんだろうなぁ!」

町民たち「頼むよ、名匠!よっ、世界一!」


錬金術師「…」

錬金術師「…」プルプル


町民たち「…出来る男は、やっぱり雰囲気から!カッコよさが出てるよ!」

 
女店員(あ…これは……)


錬金術師「…っ」

錬金術師「…仕方ねぇなお前ら!どんどん持って来い、一瞬で全部見てやるっつーのな!!」ニヘラッ

錬金術師「おら、時間が勿体ねぇぞ、早くしろぉっ!」ニヤニヤッ


女店員(…ちょろい)

町民たち(ちょろい…!)

中央商人(な、なんてちょろさだ…!)
 

クー「…」ハァ


…………
………

本日はここまでです。有難うございました。

皆さま有難うございます。
投下致します。

 

………
…………
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 夜 レストラン"カントリータウン" 】
 

錬金術師「…ふぅっ、疲れたぁぁぁ」ハァ

中央商人「はっはっは、恐れ入ったぞ!凄い技術じゃないか!」

錬金術師「あのくらいなら、朝飯前ですよ」

中央商人「俺は錬金師と関わる機会も多かったが、あそこまでの技術…中々見た事ないぞ」

錬金術師「ははっ、まぁ……」

中央商人「…その腕、店長の店は儲かるんだろうな!」

 
女店員「えっ!?あはは、儲かるだなんて!実はうちのお店は……」

…グイッ

女店員「むぐむぐ…!」

錬金術師「…は、ははは!そりゃもう、連日大盛況で!」


中央商人「うははははっ!そうだろうなっ!」

 
ガチャッ、ギィィ……!

町民たち「お、いたいた!」
 
町民たち「おーい、店長さん!」


錬金術師「…お?」

女店員「あ、昼間の皆さん……」

 
タタタタッ…ドスンッ!!

町民たち「これ、昼間のお礼だ!わが町の銘酒、"竜の息"!」

町民たち「俺は、天然湖で採れた新鮮な魚の盛り合わせだぁっ!」

町民たち「何を、こっちは森の幸だってあるぞ!」

町民たち「おーい厨房担当たちっ!全部料理に使ってくれや、この人に美味いの食わせてやってくれぇっ!」


ガヤガヤ…!!


錬金術師「こ、これは……」

中央商人「はっはっは!おいおい、初日で人気者だな!」

女店員「す、すっごい!だけど、ここって料理店なのに、いいの…?」

中央商人「なに、本家カントリータウンは自由主義。構わんさ」

錬金術師「そ、そうなのか…」

 
中央商人「だが、懐かしいな。俺も、この店に材料を下ろしていた時期があったんだ」

錬金術師「へぇ…」


中央商人「俺がここに来たきっかけは、ある男に誘われて…なんだが」

中央商人「当時、今は離れちまった面子も多いが、俺の知り合いで賑わっていてなぁ……」

中央商人「……色々あった」


錬金術師「…」


中央商人「今じゃ、それぞれが独立したりバラバラになっちまったが…」

中央商人「たまぁに戻って来ては、全員で呑んだりしてるわけさ」


錬金術師「いい仲間たちなんですね」

 
中央商人「…そうだな。お前も、友達や仲間はいるだろう」

中央商人「悪いことは言わねぇ、大事にしてやれ。付き合いのある人間以上の宝は、ないはずだ」


錬金術師「…はい」


中央商人「さて、それはそうと…3代目コック~~っ!」

…ノソッ、トコトコ

料理長「…はいはい、なんでしょうか。自分はまだ、正式に3代目の名は受け継いでませんけどね…」

中央商人「はっはっは、どうせそのうち3代目になるのは決定だろうが!」

料理長「そうだといいんですがね」

中央商人「ま、それより!この御仁は、町のためにも尽くしてくれた人だ!いいもん、頼むぜ!」

 
料理長「…言わずとも、みなさんの声は届いておりましたから。」

料理長「店長さんでしたね、美味しい料理を提供いたしますので、素晴らしい夜をお過ごし下さい」ニコッ


錬金術師「…うむ」


料理長「では」ペコッ

トコトコトコ………

……



中央商人「…さて!」

中央商人「今日は俺の奢りだ、みんな!飲んで、食べてくれ!!」

 
町民たち「うおおおっ~!!」

町民たち「食うぞ~~!どんどん料理もってこぉい!!」

ウワァァァッ!!ウォォォオオッ!!!


錬金術師「…な、なんてパワフルなオッサンだ」

女店員「お~!えへへ、凄い熱気ですね!」

クー「♪」


錬金術師「…お前、はしゃいでもいいが酒だけは飲むなよ」

女店員「ふ~んだ!分かってますよ!」

錬金術師「それならいいんだが……」


…………
……

 

……
…………
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 夜 宿のテラス 】


女店員「」ズキズキ


錬金術師「馬鹿はお前は!」

女店員「あ、頭に響く……!」キィィン

錬金術師「…今回はアカノミの粉末だ。飲んどけ、アホ」スッ

女店員「ありがとうございますぅ~……」

サラサラ…ゴクッ…

錬金術師「…ったく。あれほど言ったのに」

女店員「し、知らないうちに手元のお水とお酒が変わってたんだってばぁ……」

 
錬金術師「…匂いで気付け!」

女店員「うぅ~…」

錬金術師「…仕方ねぇやつだ」

女店員「面目ない…」


錬金術師「…」

錬金術師「…しかし、なんだ。中央商人のオッサン、思ったより豪快な人だったな」


女店員「…だね」

女店員「でもさ、それと別にビックリしたことが1つ……」


錬金術師「何がだ?」

 
女店員「…店長が、中央商人さんを殴ったこと」

錬金術師「あ、あぁ……」

女店員「いきなり殴るんだもん…」

錬金術師「…悪い」

女店員「ううん、でも怒る気持ちはすっごい分かったよ」


錬金術師「…親に関して、周りから口を出されるほど嫌な子供はいないと思ってる」

錬金術師「それがどんな些細な言葉でも、当人にはそれ以上の気持ちがあるはずなんだ」

錬金術師「だけどな……」


女店員「うん」


錬金術師「俺が殴ったことで、今のクーが可哀想な立場だと肯定しちまった…。」

錬金術師「俺は、それが自分自身で悔しくてたまらん」ギリッ

 
女店員「…っ」


錬金術師「…全てが済んだあとで、慰めの言葉だけでよかったんだと思う」

錬金術師「俺が手を出して、クーが自分はそういう立場なんだって悩んでしまうかもしれん」

錬金術師「…すまないことをした」


女店員「店長…」


錬金術師「それに、手を出したのも情けない…!」
 
錬金術師「くっそ…!本当に情けねぇな……!」


女店員「…っ」

女店員「で、でも!店長が殴らなかったから、私が殴ってたかもよ!」

 
錬金術師「な、何?」

女店員「うん、きっとそう!店長に先を越されて、悔しかったし!?」

錬金術師「…っ!」

女店員「あ~…残念だったな!店長、先に手ぇ出しちゃうんだもん!」

錬金術師「お前…」

女店員「へへっ!どっちみち…ああいう風になってたよ!だから、気にしちゃダメ!」

錬金術師「…っ」


…ゴソッ


錬金術師「ん…」

女店員「…あっ」

 
クー「んっ…」ゴシゴシ


錬金術師「…あっ、起こしちまったか?」

女店員「わ、私らが大声で話をしてたから…」


トテテテ…ギュッ!

クー「むにゃ……」

錬金術師「お、抱っこしてほしいのか?」

ギュッ…ダキッ

クー「へへっ…♪」ムニャッ


錬金術師「…ははは、眠そうだな。無理せず寝とけ」

クー「…」コクンッ

…スヤッ

 
錬金術師「…はやっ」

女店員「…」クスッ


錬金術師「なんだ、寂しかったのかね」

女店員「…ううん、違うんじゃないかな?」

錬金術師「ん?」


女店員「ほら、いっつも店長が難しく考えたりしてるとクーが寄って来てたでしょ」

女店員「きっと、クーはクーなりに店長のことも考えてるんだよ」


錬金術師「…」


女店員「店長に懐くのは、店長が一番クーのことを考えてるって分かってるからだよ…きっと」

 
錬金術師「…そうなのか?」


クー「すぅ…すぅ……」カクンッ


錬金術師「…」
 
錬金術師「…寝ながら返事しやがった」


女店員「……ぷっ」

錬金術師「くくっ……!」

女店員「…あはは、ほらほら!外も寒くなってきたし中に入ろう。風邪ひいちゃうよ」

錬金術師「あぁ、そうだな」

 
女店員「明日も早いし、しっかり寝よっと…」


錬金術師「あぁ、俺も寝るわ…」フワァ…


クー「すぅ…すぅ……」ニヘラッ

クー「…へへっ♪」

クー「…」スヤッ


………
……

 
・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・
・・・・・
・・・・
・・・
・・

 
……次の日。


店長、女店員、クーに加わった中央商人は中央都市へと向かう馬車に乗り込んだ。


生憎の雨模様だったが、馬車は問題なく進んでいった。


そして――……

 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 数日後 セントラルカンパニー 最上階 】

 
…コンコンッ


親父「…入れ」


ガチャッ、ギィィ…


錬金術師「…よう」

女店員「…」ペコッ

クー「…」

中央商人「ここが、社長サンの最上階か……」


親父「…来たか」

 
錬金術師「…約束通り、中央商人を連れてきたぞ」

親父「…」

錬金術師「これでいいんだろう!さぁ、話をしてくれ!!」

親父「…」

錬金術師「約束は守った!今度は、親父の番だろう!」


親父「く、くくくっ……」

親父「…舐めてるのか、貴様は?」ギロッ


錬金術師「!」


親父「…連れてこいとは言った。だが、その意味を分からなかったわけではないだろう?」

 
錬金術師「…」


親父「中央商人に話は聞いたはず。貴様は、連れてこいの意味も分からなかったか!!」

親父「…俺は権利書の事を指したと、お前は気付いていたはずだぞ…!?」


錬金術師「…ッ」


親父「馬鹿者がっ!!こんな仕事で、俺から話を聞けると思うなっ!!」


錬金術師「ぐっ…!」ビリビリッ!

女店員「…っ」

クー「…ッ」ビクビクッ

中央商人「…」

 
親父「…お前には何度も失望させられる!」

親父「出来そこないと思っていたが、改めて思うぞ!!」


錬金術師「ぐっ…!だ、だが!俺には俺の言い分がー……!」


親父「…しゃべるな、もういい呆れた。お前ならとも思ったが、この程度。」

親父「これでは、お前の言う犬や俺の損害時間に釣り合うほどのー……」

 
中央商人「…まぁ、落ち着いてくださいよ社長サン」

親父「…何っ!」

中央商人「アンタも人が悪いな。息子に俺をココへ来るように呼んでおいて、その仕打ちか?」

親父「…こいつも経営者の端くれ。意味くらいは分かるはずだ!」

中央商人「はっ?こ、こんな世間知らずが経営者!?笑わせてくれる……」ハハハ!


錬金術師「!?」

女店員「っ!」

クー「…」

 
中央商人「…土産の一つもなしに、権利書を取りに来た男が経営者?」

中央商人「はっはっは!俺から見れば、経営者の端くれにも及ばん、ただの子供だ!」


親父「…」


中央商人「…一つ聞くが、この子がアンタの言う経営現場を離れて何年になる?」

中央商人「恐らくこの子は"連れてこい"の意味すら分からなかったんだろうな」


錬金術師「ちょ、ちょっと待ってくれ!俺は俺の話が……!」バッ!


中央商人(……しぃっ)スッ


錬金術師「!」

女店員(後ろにまわした手、静かにしろの合図…!)

クー「…♪」

 
親父「くくくっ…。確かに、現場を離れたのは事実…」
 
親父「…だが、俺のもとにいたくせに、その考えを及ばなかったコイツが悪いだろう!」


中央商人「ま、そうかもな。だが、その考えを及ばなかった子にお願いしたのは社長サンだろう?」

親父「…それがどうした」

中央商人「おいおい、子のしつけは親の責任。社長サンが悪いとは思わないのか」

親父「何だと…」

中央商人「すまないが、これは社長さんの負けだな」

親父「何を言う…」ギロッ


中央商人「意味がどうあれ、俺をここに連れてきた時点で約束は守っている。」

中央商人「社長サンの言葉を守ったというのに、それを認めない。」

中央商人「言うなれば、社長サンは後出しジャンケンの卑怯なクソ野郎ってことか」ハハハ!

 
親父「貴様っ!!口を慎めっ!!!」クワッ!

ビリビリッ……!!


錬金術師「…!」

女店員「…っ」ギュッ

クー「!」ビクッ!


中央商人(うおおっ…!俺と歳も変わらんのに、こんなに迫力に差があるのか…!)ビリビリッ

中央商人(さすがに現役とでは、負けるな…)

中央商人(だが、俺は俺で"世界一"の貿易会社を立ち上げた男だ……!)

中央商人(久々に……!)スゥゥ

 
親父「…分かったならば、帰れ!」

親父「そして、中央商人!貴様の権利書は、いずれどのような手を使っても必ず……!」


中央商人「…口を慎め?」

中央商人「…どのような手段でも…なんだ…?」

中央商人「どの口が、言ってるんだ……?コラァッ!!」クワッ!

…ゴッ!!!


親父「!」


錬金術師「ち、中央商人さ…!」 

女店員「き、急に迫力が…!」 

クー「…!」

 
中央商人「やれるもんなら、やってみるといい…!」

中央商人「だが、俺とて世界一の会社を担った男なのを忘れたか!?」

中央商人「てめぇが目の前にいるのは、ただの人間じゃねぇぞ…?」

中央商人「そして、子を巻き込むのが、てめぇのやり方なら、俺には俺なりのやり方だってある…!」

中央商人「対面きって話つけてやるよ、来い!!」


親父「面白い…。ならば、その全てを奪うまでだ!」

中央商人「はははっ…!」

親父「…」

中央商人「…色々と、アンタと話をしてみたいと思ってたところだしな!」

親父「くくっ…!」


中央商人「…」

中央商人「…」チラッ

 
錬金術師「…っ!」

錬金術師「…二人とも、一度外へ出るぞ」

錬金術師「ここからは、俺らが関与できる話じゃねえ……」


女店員「う、うん……っ」

クー「…っ」コクン


ガチャッ…バタンッ……!


…………
……

 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 社長室の外 】


女店員「…はぁっ!」ゼェゼェ

クー「…っ」ハァハァ


錬金術師「大丈夫か?」

女店員「き、急に雰囲気が変わって…。中央商人さんも……」

錬金術師「…何が隠居生活だ。全然現役じゃねえか、あのオッサン…」

女店員「しゃ、社長同士のやり取りってあんなに凄いの…?」


錬金術師「…世界を牽引するトップ同士となれば、お互いを食うか食われるかだ」

錬金術師「強気に出れない奴は、食われるだけ。」

錬金術師「久々にあの空気を感じた。やっぱり、俺には合わない空気だ……」

 
女店員「…っ」

クー「…」

錬金術師「…」


女店員「…」

女店員「…ね、ねぇ店長…」


錬金術師「ん?」


女店員「店長は、ああいう場所でずっと…生活してきたんだよね」

錬金術師「…嫌っつうほどな」

女店員「…そっか」

 
錬金術師「…前にも話をしたが、こんな生活で俺は逃げ出した」

錬金術師「そして、親父のようにはなりたくないと思った」

錬金術師「…気が付けば、こうして関わりたくない親父と何度も関わっちまってるけどな」


女店員「…」


錬金術師「…」

錬金術師「…錬金道具も無敵じゃねえ」ボソッ


女店員「え?」


錬金術師「…錬金術。あらゆる技術の結晶で、学者としての地位も天下一品」

錬金術師「俺はそれのマスターだった。そして、あの時は何でもできると思っていた」

 
女店員「…」


錬金術師「それが、世界を牛耳ろうとする男の息子で。」

錬金術師「世界の裏を仕切るアルスマグナに目ぇつけられてよ。」

錬金術師「…」

錬金術師「はぁ…。」

錬金術師「俺の人生、どうしてこうなっちまったかな」

錬金術師「親父の下に産まれなければ、もっと幸せだったのか…。」

錬金術師「そう思うことも何度もあったりしてなぁ……」


女店員「…店長」


錬金術師「…って、何を言ってるんだ俺は!」

錬金術師「久々に緊迫した空気で、俺もやられちまったみたいだ」ハハハ!

 
女店員「…っ」

女店員「…て、店長!」


錬金術師「お、おうっ?」ビクッ


女店員「その…。」

女店員「い、今も…。お父さんの下に産まれなければ良かったって…思う……?」


錬金術師「…」

女店員「…」


錬金術師「…それは思うぜ」

女店員「っ!」

 
錬金術師「…だが、まぁ。そうだったとしても、お前らと知り合えなかったら嫌だったな」

…ポンッ

女店員「!」

錬金術師「どのみち、お前らとは知り合ってたさ。別の形だろうが、俺はそう望む」

女店員「う、うんっ…!」


錬金術師「今はこういう形で俺らは知り合った」

錬金術師「だから、今は今を楽しめるよう、考えてるさ」ニカッ

錬金術師「無論、クー。お前とも出会えて良かったと思ってるぜ!」


女店員「へへっ…」テレッ

クー「んっ!」ムフー

 
……ガチャッ!!


錬金術師「!」

女店員「!」

クー「!」


中央商人「…話は終わった。入っていいぞ」


錬金術師「早いな…!ど、どうなった…?」

中央商人「…お前の処分はなし。犬の話もしてやるそうだ」ニカッ

錬金術師「!」

中央商人「老いたとはいえ、あんな親父に負けはしねぇさ」

錬金術師「お、親父に勝つ人間がいたなんて…!」

 
中央商人「…不満か?自慢の親父が、まさか負けるとは…とか」ククッ

錬金術師「ははは、馬鹿なっ!ありがとう…中央商人さん……」

中央商人「いいってことだ。田舎町の人々が認めたお前を、助けないわけにはいかんだろう」ニヤッ

錬金術師「…っ」

中央商人「それよか、早く入れ。話しを聞いて、その子の情報の可能性を教えて貰うといい」

錬金術師「…はい」


カツ…カツカツカツ……


錬金術師「…」

女店員「…」

クー「…」

 
親父「…」


錬金術師「親父!教えてくれ…。俺の魔犬のことを……」

親父「…」

錬金術師「…」

親父「…」

錬金術師「…」


親父「…覚えていないのか。本当に」

錬金術師「覚えていたら、わざわざ訪ねないと言ったはずだ……」

親父「…」

 
錬金術師「…教えてくれ」


親父「…」

親父「…お前は"子供時代に"魔犬を飼った…と、言ったな?」


錬金術師「あぁ」


親父「…それを飼ったのは、お前が俺から去る少し前のことだぞ」

親父「少なくとも、記憶が曖昧な年齢ではなかったはずだ」


錬金術師「な、何っ!?じゃあ俺が14、15…ってことか……?」

錬金術師「じょ、冗談だろ!?」

 
親父「冗談を言うか?」

親父「そして、その魔犬はお前が去る寸前に逃げ、姿を消している」

親父「だがお前は、そこまで気に留める様子もなく…。ショックか何かで記憶を落したのかと思ったがな」


錬金術師「…っ!」

親父「…それが全てだ。俺は、それ以上の情報は知らぬ」

錬金術師「なんだって…!」

親父「若年性のボケでも回ったか?」


錬金術師「…全く記憶にない。いや、わずかばかり遊んだ思いだけは覚えている…!」

錬金術師「い、一体どうして……」

 
女店員「…」

クー「…」

錬金術師「…っ」

中央商人「…」


親父「さて、俺はすぐに出かけねばならぬ」

親父「次に会う時は、貴様の店の査定を行う時だ。しっかり準備しておけ!」


カツカツカツ……!

ガチャッ、バタンッ……!

 
錬金術師「お、俺が…記憶を曖昧に…?」

女店員「店長…」

クー「…」オロオロ


錬金術師「そんなわけねぇ…!だが、親父が嘘をつく意味もない……!」

錬金術師「つまり、俺は記憶を失っていたということ……」

錬金術師「記憶を失う可能性があるのは、ショック状態に成りうる他にもある……」

錬金術師「…」

錬金術師「クーに、俺の記憶…。それと、俺を知りうる同業者の可能性……」

錬金術師「だが、クーいわく俺を知っているのは獣人族の母親のほう。いや、しかし父親が知らぬわけはないと思う…」

錬金術師「つまり同業者は父親で、俺との接点がなかったわけじゃないかもしれない……」

錬金術師「…」

錬金術師「く、くそっ!あの当時、俺は何をしていた……!?」

 
女店員「…っ」


錬金術師「…魔犬、記憶、同業者、母親、獣人族、クー…!」

錬金術師「パーツはあるが、それを埋める為のメインとなるキーパーツ……」

錬金術師「決定的な何かが……!」

錬金術師「…っ」


…コンコンッ!


錬金術師「!」

女店員「!」

クー「!」

中央商人「…こんな時に、お客さんか?」

 
…ガチャッ!


白衣の男「し、失礼いたします!」


錬金術師「…ん」


白衣の男「…良かった、まだいましたか!」


錬金術師「…誰だ?」


タタタタッ…!

白衣の男「良かったぁ、噂は本当だったんですね!あ、握手してください!」

錬金術師「ん…?お、おう……」

…ギュッ!

 
白衣の男「いや~、あのマスターさんが来ていると聞きまして!」

白衣の男「折角なので、同業者としてご挨拶に参りました!」

白衣の男「さすがに社長さんがいる時はご挨拶に行けませんでしたが、出張を確認したので!」


錬金術師「あ、あぁ…。君も錬金術関係者なのか……」

 
白衣の男「…マスターさん、自分と一緒くらいの歳なんですよねぇ」

白衣の男「錬金術関連の事業拡大の時、ここに新人で入ったのですが……」

白衣の男「こうして憧れの人を目の前にすると、意欲もわいてきそうです!」


錬金術師「は、はは…。そうか……」

錬金術師「…」

錬金術師「……って、何っ?」ピクッ

 
白衣の男「え?」

錬金術師「今、何て言った?」

白衣の男「え、えっと。憧れの人を目の前にすると……」

錬金術師「違う、その前だ!」

白衣の男「…じ、事業拡大ですか?」

錬金術師「そう!それって、いつのことだ!?」

白衣の男「自分が14、15歳…くらいには既に……」


錬金術師「…!」

錬金術師「お前、俺と一緒の歳といったな!」


白衣の男「は、はい」

 
女店員「…店長?」


錬金術師「…っ!」

錬金術師「…じ、事業拡大っ!」

錬金術師「そ、そうだ!俺の抜ける前に、錬金術の事業の拡大をしていた…!」

錬金術師「…っ」

錬金術師「まさか…!」

 
女店員「ど、どうしたの?」


錬金術師「俺は現役時代に、同業者と接したのは後輩や機関の連中だけ……」

錬金術師「と、なると可能性として高いものの一つとして……」ブツブツ

 
女店員「…」

女店員「て、て~んちょ~……?」


錬金術師「可能性は…追うのが鉄則……か」

錬金術師「……決まった!!」ビシッ!


女店員「!」ビクッ!


錬金術師「…ここの当時の錬金術事業拡大から、」

錬金術師「俺がマスターとして現役を引退するまでにいた…錬金術関係社員!」

錬金術師「その全てを調べ、俺やクーと関わり合いに深そうな人物を探し出す!!」

 
女店員「えぇっ!?」

クー「!」

白衣の男「え、えっと…?」

中央商人「はは、勢いのいい話で」


錬金術師「…幸い、どこに情報が保存されているかは知っている」

錬金術師「可能性がある限り、時間を要しても探す。ちと面倒くさいが、名簿を辿らせて貰う!」


女店員「そ、それってどのくらい……」


錬金術師「当時の本社、支部、仕事に関係した錬金術に少しでも関与した人物全て!」

錬金術師「…数はおそらく一万を越すはずだ」

 
女店員「い、いちまん……」クラッ

錬金術師「…いや、これは俺だけでも…。これ以上面倒なことはさせられんしー…」

女店員「…ていっ」

…ビシッ!

錬金術師「あいてっ!」

女店員「…何、一人でやろうとしてるの。私にもやらせてよ!」

錬金術師「だが、とてつもなく面倒な作業で…」ズキズキ

女店員「いいの!」

錬金術師「…」


中央商人「くく…。こんな可愛い子の頼みは、断れないな店長くん」

錬金術師「ぬっ…」

 
女店員「か、可愛いって……」テレッ


錬金術師「あ、そうだ…。中央商人さん、ここまで有難うございました。」ペコッ

中央商人「んっ」


錬金術師「あとは、迷惑もかけれないので自分たちで何とかします…」

錬金術師「本当に、ありがとうござ……」


中央商人「…ライバルとも呼べる人の、名簿帳を見せるのはさすがに無理かな?」

錬金術師「へっ?」

中央商人「戻ったところで、することもない。手伝わせてくれないか」

錬金術師「いや、しかし……」

 
中央商人「はっはっは、気にするな。それに人数は多いほうがいいだろう?」

中央商人「俺とて、それがどれだけ大変な作業は理解している。一人でも多くいたほうがいいだろう?」


錬金術師「…いいんですか。遠慮しませんよ?」

中央商人「若い頃は、遠慮を知らないほうがいいのさ」ニカッ

錬金術師「…っ」ペコッ


女店員「それじゃ…店長っ!」

クー「んっ!」ビシッ!

錬金術師「ちっとばかし、面倒なお宝探しに行きますかねぇ…!」コキコキッ


白衣の男「な、何がなんだか……」

錬金術師「あっ、君は自分部署に戻っていいからな」

白衣の男「は、はぁ……」


…………
……

 

………
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 同時刻 とある場所 】


カツカツカツ…

親父「…」

秘書「…社長、情報が入りました」ボソッ

親父「なんだ」

秘書「ご子息と、中央商人様たちが数年前の錬金術関連者の名簿を探ろうとしていると」

親父「…」

秘書「いかがなさいますか」

 
親父「…名簿なんぞ、どうでもいい」

親父「どうせ、本社の地下室にある社員名簿は見られたところでどうもせん」


秘書「…かしこまりました、ではそのようにお伝えします」ペコッ


親父「…」

親父「…しかし、アイツめ。あの中央商人をどう説得したのか」


秘書「どうかなされたのですか?」


親父「どれだけ金を積んでも動かなかった中央商人が、"権利書を明け渡す"と言ってきたのだ」

親父「…やはり侮れぬな。」


秘書「…!」

 
親父「今回、あいつを向わせたのは現役として、その前線を思い出させ、考えさせるためだった」

秘書「…」

親父「どうせ無理を承知で送り、二度、三度…。いや、そのまま利用し、再び下へ就かせようとした」

秘書「…やはり。そう考えてると思っておりました」


親父「ところが、あいつがそれを成功させるとは夢にも思わなかった」
 
親父「……いくらバカだろうが、俺の血を引いた経営者の端くれということか」

親父「認めるところは認めるのが道理。俺の持っていない概念をあいつは持っている」

親父「…アルスマグナに一人で挑んだことを含め、やはり実力はある」

親父「大人しく俺についてこれば、覇権を握るのももっと容易にいったものを……」

 
秘書「…ご子息様のことを、認めていらっしゃるのですね」


親父「…」

親父「…まぁ、いいがな」


…………
………

 
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・・・・
・・・
・・

本日はここまでです。有難うございました。

皆さま有難うございます。
投下致します。

 

……
…………
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―――【 本社地下 社員管理室 】

…ガチャッ


女店員「し、失礼しま~す……」

錬金術師「…この部屋も久々だな」

中央商人「へぇ、ここがセントラルカンパニーの社員名簿の倉庫ねぇ……」


女店員「…広い」


コォォォォ…ォォォ………

 
錬金術師「そりゃそうだ。ここはほぼ全ての社員情報の記録がされている場所だからな」

錬金術師「奥に行くほど古くなるわけだが……」


女店員「ほえ~……」

女店員「…」

女店員「…そういえば店長、よくココに入れたね?」


錬金術師「…まぁ元々俺は幹部候補員だったし、あのクソ親父のご子息様ってことになってるしな」

錬金術師「だが、受付の人にしろ現役社員にしろ、ここまですんなり通すとは思わなかった」

錬金術師「…親父のやつめ、どういう風の吹きまわしだ…?」


中央商人「…」

 
錬金術師「…ま!とりあえず探すとしますか!」

女店員「ど、どこから…?」


錬金術師「…事業拡大前後ってところか」

錬金術師「錬金術関係の仕事についている人間は、洗いざらい出してくれ」


女店員「…あ、それとさ店長」

錬金術師「ん?」

女店員「気になってたんだけど、どうして社員名簿なの?」

錬金術師「お?」

女店員「色々言ってたけど、なんで社員名簿なのかハッキリしてなくて……」


錬金術師「…あぁ、説明してなかったか。」

錬金術師「俺が社員記録に目を付けたのには、可能性としてとても低いが、それしか追える情報がなくてな」

 
女店員「…どういうこと?」

錬金術師「可能性としてとても低いし、多くの該当者が出る可能性がある」

女店員「うん?」


錬金術師「…まず、逆に質問だ」

錬金術師「たとえばの話、お前に子供が生まれたとする」


女店員「…はい?」


錬金術師「その子供を預けることとなった時、」

錬金術師「接したことのないけど、とても有名な人間と、接した経験がある人間、どちらに預ける?」


女店員「そりゃ、接したほうに預けるでしょ…」

 
錬金術師「まぁ、普通はそうだな」

女店員「うん」


錬金術師「俺は、錬金術のマスターとして有名だった」

錬金術師「だがそれは、あの機関での話であって…特別に接した人間は身内以外ほとんどいなかったわけ」


女店員「うん」


錬金術師「…俺が多くの人間に接したのは、いつだと思う?」

女店員「それは、今とか錬金術関係者になる前の、社長さんと一緒にいた時代でしょ?」

錬金術師「そうだな。それで、獣人族の子は錬金術関係者なら育てられるであろう可能性がある」

女店員「う、うん」

錬金術師「…そして、さっきの白衣の男。あれは錬金師で、俺のことを知っていた」

女店員「うん」

 
錬金術師「あれは、事業拡大当時に入ったらしいがそれでピンと来た。」

錬金術師「俺と接し、俺が錬金術の道で有名になったことを知った同業者。その可能性があるのは……」


女店員「…当時、錬金事業の拡大前後の錬金術業の関係者…!」


錬金術師「…そういうことさ」ニヤッ

女店員「そ、そっか!店長と接してるし、その後の有名になった錬金術に関しても知ってるから…!」


錬金術師「正確にいえば、俺が親父の下を去る前に事業拡大の着手はしていた」

錬金術師「さっきの男は知らないが、錬金術に関しての人間に何人か接してはいたと思う」

錬金術師「だから、その当時とそれの以前に関して調べてほしいと言ったのさ」


女店員「なるほどぉ……!」

 
錬金術師「…当時の魔犬の記憶は腑に落ちないが、今は可能性はどれでも追うべきだ」

錬金術師「この行動が、無駄な時間になるかもしれないけどな……」

錬金術師「だがまぁ!ってなわけで…!」

錬金術師「おふた方、かなり面倒だと思うけど…よろしく!」


女店員「うん、わかった!」

中央商人「了解した」ニカッ


錬金術師「…では、開始っ!」ビシッ!


クー「んっ♪」


………
……

 

……
………
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 その頃 錬金術師のお店 】


新人鉱夫「今頃、店長さんたちは社長さんと戦ってるんでしょうかねぇ」

銃士「帰りが遅いのは気がかりだが、まぁ店長たちなら大丈夫だろう」

新人鉱夫「…ですねっ」


銃士「…しかし、代わりに店番をするとは。」

銃士「この数日で慣れたけどね…」

銃士「…」

銃士「…って、お客も来ないのに慣れるも何もないか」ハハハ


新人鉱夫「あはは…。賑わってたら賑わってたで、錬金術に関して無知なのでどうしようもないですよ」

 
銃士「…」

銃士「…そうだ。錬金術に無知なら、私たちで得意なのを前面に売り出すか?」


新人鉱夫「…僕たちが得意なもの?」


銃士「店長がいない以上、"万が一"お客さんが来た場合に錬金術関係の販売は出来ないからね」

銃士「だったら、店の外にでも露店風にして、鉱石やらの素材を売るとか!」


新人鉱夫「!」


銃士「幸い、倉庫にも余ってるものはあるし。」

銃士「時間がたって劣化しちゃうものもあるんだから、売っちゃおうか?」

 
新人鉱夫「良い考えですけど、勝手にやって店長さんが怒りませんかね…?」


銃士「む……」

銃士「う、う~ん…。店長だったら……」


……
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

錬金術師「…外で露店?銃士たちが売ってくれるのか?」

錬金術師「…」

錬金術師「…おぉ、ナイスアイディア!俺は中から見守ってるから、よろしく頼むわ!」ビシッ!


女店員「…店長も手伝うこと!わかってるでしょ」ギロッ

錬金術師「…はひ」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
……


銃士「…女店員が突っ込みを入れるところまで想像が出来たし、大丈夫じゃないか…」

 
新人鉱夫「…」

新人鉱夫「は、はは…。僕も想像できました……」

 
銃士「…よし、それなら決まりだ!倉庫の在庫を集めて表に出そう!」

新人鉱夫「今日は幸い天気もいいですしね」

銃士「お店の中より、外側に出したほうが見栄えもいいだろうし」

新人鉱夫「ですね」


銃士「よっし、暇な日々が続いてたけど…私らが出来ることを探してお店も盛り上げようかっ!」

新人鉱夫「はいっ!」


………
……

 

……
…………
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 そして本社 地下室 】

 
女店員「…」

錬金術師「…」

中央商人「…」


ペラッ…ペラッ……
 

女店員「…」

女店員「て、店長…。これって終わりがあるの……?」ピクピク

 
錬金術師「…あれから数時間。名簿帳、何冊目の何人目だ」

女店員「7冊目の192人目…」


錬金術師「…1冊に30人、それぞれの個人情報がいらないほど詳細に関して記載してあって…」

錬金術師「そしてこの棚の多さ……。」

錬金術師「思った以上の作業だぞこれは……」


中央商人「まぁ、大変だとは思うが……」

中央商人「…しかし、凄い情報集だなコレは」ホウ

中央商人「一人一人の情報が、ほぼ記入漏れがなく詳細で追っている」

中央商人「…その家族構成から、家族の詳細まで。さすがだな…」

 
女店員「…でも、時々本社と関係のない人も出てきますよね」

女店員「何なんだろ?」


錬金術師「あぁ、これは親父が影響を及ぼした相手まで事細かに記載してあるんだ」

女店員「影響を及ぼした?」

錬金術師「んむ。例えば……これだ」ポイッ


…バサッ!


女店員「ん~?」

 
錬金術師「…それに記載されているのは11年前の、12月20日」

錬金術師「親父の合併された企業が、それで取引が出来なくなり、潰された会社の社員の情報だ」


女店員「え、そんな情報まで?」


錬金術師「こういった中小企業は、実は潰れたあとが一番怖い」

錬金術師「それが怒りの引き金となり、やがて大手を脅かす存在ともなりうる場合がある」

錬金術師「その際、その当時にどんな経緯で潰されたか、どううちと関わり合っていたのか、弱点はないのか」

錬金術師「色々と情報を残しておくことで、いずれ歯向かわれた時の切り札となりうるっつーことだ」


女店員「あ~……」

 
錬金術師「ま~しかし、今はそんな情報はいらな……」

…ペラッ

錬金術師「…」

錬金術師「…っ!」

バッ…バババッ!!サッ!


女店員「?」


錬金術師「…そ、そんな情報はいらないな!」

錬金術師「だから、次々と錬金術関係だけ洗い出すか、怪しい人物を見つけてくれ!」


女店員「店長、今…何か隠さなかった?」

 
錬金術師「…な、何が?」

女店員「何がって…」

錬金術師「…ちょっと、変なモン見つけたからな!それだけ!」

女店員「えっ、なになに?」

錬金術師「…い、いや!」

女店員「気になるよ!どんな情報?」

錬金術師「あっ…!い…いや……!」


…バサバサバサッ!!!ドシャドシャッ!!!


錬金術師「ん…?」

女店員「え?何の音……」クルッ

 
クー「♪」

…バサバサバサッ!!


錬金術師「あ、あらら…?」

女店員「ちょ、クー!名簿を全部棚から落として…、オモチャじゃないんだからダメでしょ!」

中央商人「はっはっは、さすがにクーにとっては退屈な時間だったようだな……」


クー「ん~♪」

ポイポイポイッ…バサバサッ…!


女店員「こーら!ダメだって!」メッ!

クー「!」

 
女店員「片づけないといけないんだから、ダメでしょっ!」

クー「…」ショボンッ


錬金術師「…ま、こんな場所で長い時間いたら遊びたくもなるわな」ハハ…

中央商人「長い戦いになりそうだし、一旦休憩するかい?」


クー「…」グゥゥ


錬金術師「…ご飯の時間のようだ」

女店員「あ、ご飯のこと忘れてた…」


錬金術師「集中してたしなぁ…。どれ、クーが吹っ飛ばしたの片づけて飯でも行くか…」フワァ

錬金術師「急げ女店員!早く片付けるのだ!余はお腹がすいたぞ!」

 
女店員「…店長も手伝ってくれる」ギロッ

錬金術師「はい」


トコトコ…ヒョイヒョイッ……


錬金術師「…」


ヒョイヒョイヒョイ…ポロッ…


錬金術師「おっと…」


…バサッ!


錬金術師「やれやれ……」

…ヒョイッ

 
錬金術師「…」

錬金術師「…」

錬金術師「……ん?」ピタッ


女店員「…店長、何動きとめてるの!早く片付けないと!」

中央商人「クーもお腹を空かせてるようだぞ」

クー「…」グゥゥ


錬金術師「…ちょっと待ってくれ」

ペラッ、ペラッ……!!

 
女店員「…どうしたの?」


錬金術師「…」

ペラッ…

錬金術師「…」

ペラッ……

錬金術師「…!」


女店員「店長…?」


錬金術師「…これ、怪しいな」


女店員「えっ?」

 
錬金術師「この本社で、新人として仕事に着いた16歳の錬金師。」

錬金術師「…今から約8年前、錬金術の事業拡大時に入社。」

錬金術師「元中央都市に所属し、生態系に関しての研究に努めていた…。」

錬金術師「入社後にすぐに退社。所属ギルドに戻り、生態系の研究に再び着手……?」


女店員「!」


錬金術師「生態系に着手…!可能性はあるぞ…」

錬金術師「俺の言っていた時期とも当て嵌まるわけだし、1つの可能性としてはー……」

…チョイチョイ

中央商人「…店長、店長」

 
錬金術師「…なんスか?」

中央商人「ふと思ったんだが、クーに名簿に乗ってる顔フィルム(写真)を見せればいいんじゃないか…」

錬金術師「…へ?」

中央商人「もし知っているなら、それで反応してくれるはずだと思うが……」

錬金術師「…」

中央商人「…」


錬金術師「…」

錬金術師「……知っていた!今から言うつもりでしたっ!!」


中央商人「」

女店員「」

 
錬金術師「…冗談です。はぁぁ、情報ばかり辿ってて根本的なことを忘れてたよ……」

中央商人「入社当時のものだが、いくらクーでもそれは分かるだろ?」

錬金術師「そうッスね。ってなわけでクー、おいで…」

…チョイチョイ


クー「…?」


トテテテ…


錬金術師「…この名簿にいる男の顔。誰か…知っているか?」


クー「…」ジッ


錬金術師「…前にやっただろ?知ってるなら首を縦に、知らないなら横に……」

 
クー「…パパッ」


錬金術師「うん、そうか」

錬金術師「…」

錬金術師「…」

錬金術師「…」

錬金術師「……ん?」


クー「パパッ!」


錬金術師「…」

錬金術師「……うん、何だって?」

 
クー「ぱぱ…!」フンッ!


錬金術師「…はい?」

錬金術師「き、君の…パパ……?」


クー「んっ!」コクンッ!


錬金術師「なっ……!」

女店員「み、見つかっちゃった!?」

中央商人「はは……」

 
錬金術師「お、おい本当かっ!?」バッ!

クー「んっ」コクンッ

錬金術師「…お、お前のお父さんか!この人が!?」

クー「んっ!」


錬金術師「き、奇跡だ……!」

錬金術師「おいみんなっ!情報はしっかりあるし、この人が所属する機関にいこう!!」


女店員「…それしかないよね」

中央商人「この機関、幸い遠くなさそうだな。同じ中央都市だし、今日中に色々と分かりそうだ」

錬金術師「…おっしゃああ!クーの親父、引っ張り出してやるぜ!!」

クー「♪」

 
錬金術師(おっし、おっしっ!!)

錬金術師(とりあえず、クーと関連性のある人間を見つけることはできた!)

錬金術師(…)

錬金術師(…だが、俺と当時の魔獣の繋がりと関係があるのか?)

錬金術師(こう言ったら何だが、確かに社員とはいえ、こいつに見覚えはないぞ…)

錬金術師(…)

錬金術師(…やはり、俺の記憶が何かしらで抜け落ちてるってことなのか)


……………
………

 
・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・
・・・・
・・・
・・

 
そして4人はわずかばかりの休憩をとり終えると、

中央都市東部の「東部 錬金術研究機関」へと足を運び――……。

本日はここまでです。ありがとうございました。

皆さま有難うございます。
投下致します。

 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 東部 錬金術研究機関 】


東部機関長「はっはっは、貴方のような有名人がまさかココへいらっしゃるとは!」


錬金術師「は、はは…」


東部機関長「嬉しい限りですよ、ささ、お連れの方もお茶をどうぞ!」


女店員「ど、どーもです…」

中央商人「…」ズズッ

クー「…んぐっんぐっ」グビグビ

 
東部機関長「…さてと、では!うちの機関に何かご用事でしょうか?」

東部機関長「もしかすると、うちに入りたいとかそういう…!」


錬金術師「あ、あぁいや……。ちょっと、お聞きしたいことがありまして」

東部機関長「…聞きたいことですか?」
 

錬金術師「確かにこちらに、当時セントラルカンパニーで働かれた後に戻られた…」

錬金術師「"青年錬金師"という方がいるはずです」

錬金術師「その方について、少しお聞きしたいのです」


東部機関長「…ふむ」

 
錬金術師「…そちらの方は、今も此方に所属しているのですか?」

東部機関長「青年錬金師…。なぜ、その情報を欲しいのですか?」

錬金術師「どうしても必要な情報なのです」

東部機関長「…いくら有名人の頼みといえども、機関に属する人間の情報はお伝え出来かねます。申し訳ない」

錬金術師「どうしてでしょうか」

東部機関長「…分かっているでしょう。個人情報は、あまり表に出したくないのですよ」

錬金術師「…」


東部機関長「少なくとも、自分がここでその情報を出せばうちの信用は落ちてしまう」

東部機関長「…申し訳ありませんが、個人の情報だけは出すことは出来かねます」ペコッ

  
錬金術師「…」

錬金術師「……なるほど、確かにその通りですね」


東部機関長「分かって頂ければ、有難いです」


錬金術師「…」

錬金術師「しかし、我々もどうしてもその人の情報が欲しいのですが…」


東部機関長「…申し訳ないですが」ペコッ

錬金術師「どうしてもですか?」

東部機関長「…はい」


女店員「…」

中央商人「…」

クー「…」

 
錬金術師「…」

錬金術師(…ならば)

錬金術師「…仕方ないですね、情報を伝えてくれれば事を荒げずにしたんですが」フゥ


東部機関長「…どういうことですか?」ピクッ


錬金術師「実は、自分は引退した身とはいえ、錬金術の世界にまだ身を置いています」ペラペラ

錬金術師「それが何故か、知っていますか…?」


東部機関長「…未だに錬金術がお好きだから、では?」

錬金術師「ふふっ。このご時世に、不法者の過去の罪を、洗いざらい出させるためですよ」

東部機関長「…はい?」

錬金術師「残念ながら…お話していただけない以上、上の介入は絶対でしょうね」

 
東部機関長「…どういうことでしょうか」


錬金術師「これ以上の口に出来ることはありません」

錬金術師「さ、女てん…"女錬金師"、"側近術士"、"子錬士"…帰ろうか」

…スクッ


女店員「…えっ?」


中央商人「…なるほど」

中央商人「わかりました、マスター……」ニヤッ


女店員「え?ち、中央商人さ……」

中央商人「女錬金師、何を呆けているか…行くぞ」


女店員「へ?は、はい……」

クー「…」コクンッ

 
錬金術師「中央政府に報告する準備をして、強制捜査の手続きも進めさせていただきます」

錬金術師「残念ですよ、東部機関長。次に会う時は…牢屋の中ですね」ニコッ


クルッ、カツカツカツ……
 
 
東部機関長「ち、ちょっと!?」


錬金術師「…」


カツカツカツ……


東部機関長「…っ!」

東部機関長「…ま、待ってくれ!」バッ!


錬金術師「…はい?」クルッ

 
東部機関長「わ、分かった…!全てお話しますからっ!」

東部機関長「だから待ってください!ようやく俺のところも安定してきたのに、潰されたくはないんです!」


錬金術師「…」

錬金術師「…」ニヤッ

錬金術師「……では、話を聞かせていただきましょうか」

錬金術師「さ、みんな座っていいらしい。改めて話を訊こうじゃないか……」ニタァ


東部機関長「…っ!」ブルッ

 
女店員「……い、一体どういうことですか?」ボソボソ

中央商人「カマをかけたんだな」ボソボソ

女店員「カ、カマですか?」ボソボソ


中央商人「…俺らは青年錬金師が獣人へ関わっているのを知っているだろう」

中央商人「もしかすると、東部機関長もそれを知っているのかと思ってカマをかけたんだ」

中央商人「それで、俺らを獣人への禁忌を犯した事を知った、政府の命令で来た錬金術関係者と見せかけたのさ」


女店員「!」

中央商人「…あの機関長は急なことで驚き、完全に釣り上げられちまったわけだな」


女店員「…!」

中央商人「…ったく、頭が働くやつだ。もったいないくらいの逸材だぞ、あの頭の回転の速さ」ククッ

 
錬金術師「…」

錬金術師「…おいお前たち、何を話をしている…。早く席につけといっているだろう」ポンポンッ


女店員「あっ、はいっ!」

中央商人「はは、へいへいっ」

クー「…」ビシッ!

トコトコトコ…ボスンッ……


東部機関長「…っ」

東部機関長「そ、それで……。何を聞きたいんです…かな……」ガタガタ

錬金術師「…だから、その男の情報ですよ。今も働いているのですか?」

東部機関長「せ、青年錬金師のことでしたね」

錬金術師「そうです」

 
東部機関長「も、申し訳ないのですがその男は既にうちの所属をやめておりまして……」

錬金術師「一体どこへ?」

東部機関長「…そ、それは分からないんです」

錬金術師「分からない?」


東部機関長「は、はい。ですが…"アイツがやったこと"は勝手にしたことです!」
 
東部機関長「俺には関係ないですし、話を聞いてからすぐに俺がやめさせましたので……!」


錬金術師「…」


東部機関長「だ、だからどうかお許しください!」

東部機関長「それ以外、うちでは禁術に触れたことはしておりませんし……!」

 
錬金術師「…その時のこと、詳細にお伝えできますか?」

東部機関長「しょ、詳細といえども彼がいなければ……。しかも、その青年錬金師の居場所は…」

錬金術師「…その彼の居場所は分からない、ですか」

東部機関長「はい……。も、申し訳ないです……」


錬金術師(…ふむ)

錬金術師(東部機関長、"アイツのやったこと"っつってたな……)

錬金術師(クーの親父は、獣人族へ手を染め、禁忌としてバレて解雇されたということだろう…が)

錬金術師(……こいつは、まだ何かを隠している気がする)

錬金術師(…)

錬金術師(…ここは少し、クーのためにあの言葉、嫌だが言うしかねーか)

 
東部機関長「あの……」


錬金術師「…アルスマグナ」ボソッ


東部機関長「っ!?」ビクッ!

女店員「!」

中央店員「…」


東部機関長「そ、それも知っておられるんですか……!?」

東部機関長「ま、まま…!まさか、そんなことまで……!?」ブルブルッ!


錬金術師(この一言で、この焦りよう…!反応してほしくなかったが、かかったか……)


錬金術師「…残念ですよ、東部機関長」ゴホンッ

錬金術師「貴方が、アルスマグナへ繋がりを持ってしまうとは……」ハァァ

 
東部機関長「…し、仕方なかったんです!」

東部機関長「うちも、何十人と雇っている機関です。ですが、研究結果と費用があまりにも…!」


錬金術師「…経営難だった、ということでしょうかね」


東部機関長「…っ」

東部機関長「そ、そんな時に青年錬金師があんな事をするから……!」

東部機関長「それにどこで知ったのか、アルスマグナの使いが、大金をもって情報をよこせと…!」


錬金術師「…っ!」

女店員「…」

中央商人「…」

 
錬金術師(…れ、冷静になれ)ブルッ


錬金術師「…貴方たちがしたことは知っています」

錬金術師「ですが、ここで話をすれば事を荒げずに済ませたいと思っております」

錬金術師「故の自白ということにはなりますが、悪いことはしません」

錬金術師「一体、どのように何をその男がしたのか、最初から全て…当時のことをお話下さい」



東部機関長「…は、はいっ」


東部機関長「そ、その……。」


東部機関長「もう、数年前に遡るのですが…。青年錬金師がセントラルカンパニーへ勤めて少しばかりのあと、」


東部機関長「か、彼がうちの機関へ、相談があると戻ってきまして……」


…………
……

 

……
…………
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 約7年前 東部錬金術機関 】


…コンコンッ


東部機関長「どうぞ」


ガチャッ…


青年錬金師「…機関長、お久しぶりです」

東部機関長「お、おぉっ!?青年錬金師、どうしたんだ一体!」

青年錬金師「ちょっと、相談があって……」

 
東部機関長「…相談だって?」

青年錬金師「はい。頼れる人といえば、貴方しかいないと思って……」

東部機関長「…一体どうした。話しは聞いてやるぞ、まずは座れ」

青年錬金師「はい…」

トコトコ…ストンッ…


東部機関長「…」

青年錬金師「…」


東部機関長「…顔色が悪いな。何かあったのか?」

青年錬金師「あの…。絶対に…他言無用でお願いしたいのですが……」

 
東部機関長「はっはっは、俺をだれだと思ってる」

東部機関長「お前と付き合いが長いのも俺だ、そんな心配は無用だのは分かってるだろう?」


青年錬金師「!」

青年錬金師「…へ、へへっ。そうですよね。申し訳なかったです」


東部機関長「はははっ!で、どうしたんだ?」


青年錬金師「…」

青年錬金師「じ、実は…その……」
 

東部機関長「…」

 
青年錬金師「な、何て言えばいいのか……」

東部機関長「…落ち着いてしゃべってみろ。どうしたんだ、一体」


青年錬金師「は、はいっ。」

青年錬金師「その、俺……。好きな…人というか……」


東部機関長「…な、なぬっ?」

青年錬金師「その……」
 
東部機関長「…」

青年錬金師「好きな人が…できたんです!」


東部機関長「…お、おう?」

東部機関長「……なんだそんなことか!いいじゃないか、好きな人…」


青年錬金師「そ、それがですね!人だけど、人じゃないんですよ!!」

 
東部機関長「…うん?」


青年錬金師「その、その人は、人だけど、その……っ!!」

青年錬金師「…っ」ゴクッ

青年錬金師「じゅ…獣人族の方なんですっ!!」


東部機関長「!」


青年錬金師「その、既にお付き合いというか、色々とお互いを知っています!」

青年錬金師「でも俺は、公的機関に属する錬金術の人間!」

青年錬金師「ど、どうすればいいか…分からないんですっ!!」

 
東部機関長「…獣人族というのは、間違いないのか」

青年錬金師「は、はいっ…」


東部機関長「…」

東部機関長「……どこで知り合った。魔族の多く棲む、森の中ででも歩いたのか?」


青年錬金師「し、信じてもらえるか…分かりませんが……」


東部機関長「…信じるさ。そして、秘密は守る」

東部機関長「教えてくれ…。一体、どうして知り合ったのか……」


…………
………

 

………
…………
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 そして現在 】


東部機関長「……彼によれば、道に倒れていた魔獣の犬を助けたと言っていました」

東部機関長「そして、その数日後に獣人族の彼女が現れた、と」


錬金術師「…おとぎ話ですね、まるで」


東部機関長「無論、自分も信じてはおりませんでした」

東部機関長「ですが、真剣に訴えるその眼は本物だったのを今も覚えています」


錬金術師「…錬金術を学ぶ人間には、信じられない話だ」

錬金術師「確かに人型の魔物はいますが、それが本当なら…魔獣と人型を行き来するってことになる……」

 
東部機関長「じ、自分もその話は半信半疑のままでしたが、しばらく共にココで研究に勤しんでおりました」

東部機関長「ですが…。」

東部機関長「青年錬金師の獣人族に関して、その話のもう記憶も薄れてきた頃にある問題が起き始めたんです」

東部機関長「それが先ほどの、経営難。」

東部機関長「うちは、機関としての結果が出せず、経営が苦しくなってきたんです」

東部機関長「しかし、そんな最中…。彼から子供が生まれると…聞かされました」


錬金術師「…!」

女店員「まさか…」

中央商人「…」

 
東部機関長「…そして、薄くなっていた記憶でしたが、彼の相談のことを思い出しました。」

東部機関長「彼が、希少な存在となっていた獣人族を愛していたことを…」


錬金術師「…」


東部機関長「そうだ、もしかしたら獣人族との子供かもしれない…と考えました」

東部機関長「まさかとは思うが、もしそうならうちにとって危機を脱するチャンスなんじゃないか…?」

東部機関長「そう…思いました」


女店員「…ッ」


錬金術師「…っ」ギリッ

錬金術師「……つ、続けろ」

 
東部機関長「…禁止されていた獣人研究。」

東部機関長「それを裏へ裁けば、金になるだろう……。」

東部機関長「もちろん、それは大罪になることを分かっていました」

東部機関長「自分としても、獣人族は人として扱うべきであり、研究対象にしてはならない」

東部機関長「そうは…思っていました」


錬金術師「…」


東部機関長「その思いを何とか飲みこみ、正当な研究結果でこの危機を脱してやる!」

東部機関長「そうだ、絶対にやってやる…!そう誓いました…」

東部機関長「…」

東部機関長「し、しかしそんな時……」


錬金術師「…アルスマグナか」

 
東部機関長「…はい」

東部機関長「突然、どこで情報を手に入れたのか……、」

東部機関長「アルスマグナの使者が現れ、青年錬金師の子に関して教えてほしいと…」

東部機関長「それで、今までは半信半疑だった獣人族と青年錬金師の話でしたが…」

東部機関長「その、アルスマグナの話でそれは確信へと変わりました……」

東部機関長「そしてー……」


錬金術師「その子供に関し……大金を目の前にでも積まれたか……?」ギロッ!!

東部機関長「…ッ!!」
 

錬金術師「それで、青年錬金師の情報を売り、アルスマグナはそれを買ったんだな!?」

錬金術師「く、クズが……!!」

錬金術師「てめぇは、人を売ったと同じことをしたんだぞ!!」

 
東部機関長「も、申し訳ありませんっ!!で、ですがっ!仕方なかったんです!」

東部機関長「多くの人を抱え、機関を潰しては、自分も二度とこの地位に上がることはできなかった…!」

東部機関長「元マスターさんである貴方なら、地位にもすがり付く気持ちはお分かりになるはずですっ!!」


錬金術師「…残念だったな」

東部機関長「へっ…」


錬金術師「俺は気が付けばただトップにいた」

錬金術師「そして、その地位で見えなかったモノが見えて、嫌になって自分で降りたんだ」


東部機関長「…!」


錬金術師「その見えなかったモノが何か…分かるか……?」


東部機関長「い、いえ…!」

 
錬金術師「…てめぇのような、自分しか見えねぇクズばかりしかいなかったからだよ!!」ゴォッ!!

東部機関長「…ひっ!!」


女店員「…っ」

中央商人「…」

クー「…っ」


錬金術師「…そいつを売ったのはいつの事だ!!答えろ……!!」グワッ!!


東部機関長「ひっ……!」ビクッ!

東部機関長「断り続けていましたが、情報を売ったのはつい先日です!!1か月もたってません!!」


錬金術師「…青年錬金師はどこに住んでいるか教えろ!」

…グイッ!

東部機関長「ごほっ…!か、彼の家なら郊外区4番通りの入り口の赤い屋根の家に……!」

 
錬金術師「…本当だな!」

東部機関長「は、はいっ…!」


錬金術師「…ふざけやがって!全員、行くぞ!」スクッ


女店員「あ、うんっ!」

中央商人「行かないわけにはいかないな」

クー「…っ」


東部機関長「あ、ま…マスターさん!正直にお話しました、罪は…!」

 
錬金術師「…」

錬金術師「…っ!」

錬金術師「…もちろん、悪いようにはしませんよ」ニコッ


東部機関長「…!」


錬金術師「ご協力、有難うございました」

錬金術師「また何かあれば、お会いしましょうね」


東部機関長「…あ、ありがとうございますっ!!」

 
錬金術師「では……」


ガチャッ、ギィィィ……

バタンッ……

………


コツコツコツ……


女店員「て、店長……」

錬金術師「ん?」

 
女店員「本当に、あの人を許す…の?」


錬金術師「…んなわけねぇだろ。かといって中央も黒い奴が多い」
 
錬金術師「俺の知りうる限りの人に、しかるべき制裁は受けてもらう」

錬金術師「…二度と、ココへは戻ってこれないだろう」


女店員「う、うん……」

中央商人「…」

クー「…」


錬金術師「…それよりも、気分悪い話だったが情報は得た」

錬金術師「あとは青年錬金師の家に行って、いることを願い、クーのことを聞くだけだ…」

 
女店員「…うん」

中央商人「そうだな」

クー「…」


錬金術師(…だが、不思議な話が多かった)

錬金術師(魔犬を救ったこと、それが獣人族だったこと?)

錬金術師(そんな話、聞いたこともない。本当におとぎ話のような話だ…)

錬金術師(だが、俺の魔犬との関連性はソコに絞れた…。)

錬金術師(一体、何が…どうなってるんだ……)


…………
……

 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 3時間後 郊外 赤い屋根の家の前 】

カァ…カァ……


…ザッ!!


錬金術師「さて、ここのはずだ」

女店員「郊外の赤い屋根の家。うん、ここだね」

中央商人「…確かに、家はそうだが」

クー「…!」


錬金術師「なんだ、この有様は……」

錬金術師(ちっ…。やっぱりか……)

 
オォォォ…ォォ………


女店員「郵便受けに大分いろいろと溜まってるし、ずっと留守にしてるみたい…だね」

錬金術師「…」

中央商人「ふむ…」

クー「…」


錬金術師「…」

錬金術師「クー、ちょっといいか?」


クー「?」

錬金術師「お前の住んでいた家は、ココなのか?」


クー「…」

クー「…っ」コクン

 
錬金術師「…そうか」

女店員「…っ」

中央商人「…」

クー「…」


錬金術師「…」

錬金術師(…アルスマグナに青年錬金師とその嫁、クーが追われたと見て間違いない)

錬金術師(つまり、その日からこの家はもぬけの空ってことか……)

錬金術師(折角ここまで来たっつーのに、情報はここで途切れちまったのか…?)


???「すいませーん」


錬金術師「…あん?」クルッ

 
バイト「あ、自分瓦紙の配達バイトなんスけど、あんたらこの家の人の知り合いスか?」

錬金術師「ん?」

バイト「まぁいいッス。最近滞ってたんですけど、この人にきちんと瓦代を支払するようにお願いしといてくださいッス」

錬金術師「…」

バイト「それと、夕刊ッス。どうぞ」スッ

錬金術師「あ、あぁ…」パシッ

バイト「では~」

チリンチリンッ……


錬金術師「…配達のバイトかい」

女店員「人のなのに、貰ってよかったの…」

 
錬金術師「…まぁ、郵便受けにでも突っ込んどけばいいだろ」

錬金術師「それとも、読む?」スッ


女店員「必要ないけど…」


中央商人「あ、じゃあ俺が読むかな。一面くらいは見といたほうがいいだろうしな」

錬金術師「どーぞ」スッ

中央商人「へいどーも」パシッ

…ペラッ


女店員「…それにしても店長、これからどうするの?」

錬金術師「ふむ…」

 
女店員「店長はこの現状、どう考えてるの…?」


錬金術師「…恐らく、アルスマグナに追われて逃げたんだろう」

錬金術師「そして、クーを俺へと預け、どこかへと消えたんだ」

錬金術師「そんな予感はしていたが……」
 
 
女店員「…」

クー「…」ブルッ

女店員「クー…」

クー「…っ」


錬金術師「…っ」

 
…ペラッ

中央商人「…」

ペラッ……

中央商人「…」

中央商人「…」

中央商人「…!」ピクッ



錬金術師「…と、とにかく一旦情報は切れたが…どうにかせにゃなるまい」

錬金術師「こうなったら、鍵でも壊して家にでも入るか」


女店員「ちょ、それは……」

 
中央商人「…て、店長。ちょっといいか…?」

 
錬金術師「はい?」

中央商人「ちょっとこっちに来てくれ」チョイチョイ

錬金術師「なんすか?」

トコトコ……


女店員「?」

クー「?」


中央商人「…これを見てくれ」ボソボソ

錬金術師「これ?」ペラッ

中央商人「…隅っこの記事だが、気になる記事を見つけたんだ」

錬金術師「ふむ…?」

 
"錬金術研究員、遺体で発見される"


錬金術師「!」

中央商人「まさかとは思うが…。この発見現場、お前の店の近くじゃなかったか…?」


錬金術師「…」

錬金術師「…あっ!」

錬金術師「ま、待てよ…!確か……!」



……
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
機関長「…お前の住んでる町の付近の河原で、錬金術研究員の遺体が見つかったそうだぞ」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
……



錬金術師「まさか……」

 
中央商人「どうした、心当たりでもあったか?」

錬金術師「少し前に、この記事の内容、俺のいた機関の機関長に話は聞いてたんです…!」

中央商人「なんだって…」

錬金術師「い、いやでも!確証がない限り、それは絶対に……!」

中央商人「…店長」

錬金術師「こ、こんな酷い話があるはずがない!何かの間違いで!」

中央商人「…店長。君が取り乱してどうする」

錬金術師「…っ!」


中央商人「…酷な話ではあるが、クーにとって今、君が一番頼れる人のはず」

中央商人「その真実の為にも、君自身、これに関してどう思ったのか…しっかりと教えてくれ」

 
錬金術師「…っ」

錬金術師「か、可能性としては非常に高く……」

錬金術師「その…!父親でしょう…ね……!」ギリッ!


中央商人「…」


錬金術師「な、なんで……!」

錬金術師「…っ!」ギリッ!

錬金術師「だ、だけど!まだ、その遺体が父親だと、それは絶対じゃない!!」


中央商人「…そうだな」

 
錬金術師「…と、とにかく!この場所は分かってますから、行ってみるまでです!」

錬金術師「お、女店員!クー!次へ行く場所が…決まった!」


クー「!」

女店員「本当!?」


錬金術師「あぁ……」


中央商人「…」

中央商人「…店長、その前にちょっといいか。」

中央商人「実は…、本当にすまないが手伝えるのはここまでだ」


錬金術師「!」

 
中央商人「来週までに、ちと準備をせねばならないことがあってね」

中央商人「年甲斐もなく、旅のようにして楽しんだ部分もあったが……」


錬金術師「いえ…。色々と、本当にありがとうございました」ペコッ

女店員「ありがとうございましたっ」ペコッ

クー「…」


中央商人「はは、クーも元気でな」


クー「…んっ」コクンッ

 
錬金術師「…じゃあ、女店員、クー。行くぞ」

女店員「あ、行くって…どこに行くの?」

錬金術師「次の目的地はな…。俺の店、だよ」

女店員「えっ?」


中央商人(…辛い結果となってしまうかもしれないが、頑張るんだぞ)

中央商人(折角知り合った同士、力を貸してもやりたいが……)

中央商人(ここからは、俺が入る余地のない話。強くなれよ、若者たち……)


…………
………

 
・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・
・・・・
・・・
・・

本日はここまでです。有難うございました。

有難うございます。
それでは、投下致します。

 
それから…。

店長の心の中に渦巻くものがあったものの、

クーにそれを悟られないよう、

我が家のお店のある町行きの馬車へと乗り、ゆらゆらと揺られて行った……。

 
……そしてお店へ戻る帰路の途中……
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 馬車の中 】

 
クー「…」スヤスヤ


女店員「…ふぅ。やっと、私らのお店にもうすぐ着くね~」ノビノビッ

錬金術師「短い旅のつもりが、随分と長くなったもんだ」

女店員「短い間に色々あって、自分の部屋に戻ったらすぐに寝ちゃいそう」エヘヘ


錬金術師「はは…」

錬金術師「…」

錬金術師「……ふむ、女店員」


女店員「なぁに?」

 
錬金術師「やっぱり、前もってお前に話をしておかないといけないと思ってな」

女店員「何が?」

錬金術師「この話は、クーにはまだ…内緒にしていてくれ」

女店員「…う、うん?」


クー「すぅ…すぅ…」スヤスヤ


錬金術師「…」

錬金術師「…実は、クーの親父は既にこの世にいない可能性がある」


女店員「えっ!?」

錬金術師「まだ実際に見ていないし、情報も足りないが、まず間違いないだろう……」

女店員「そ、そんな…嘘でしょっ!?」

 
錬金術師「…嘘ならよかったんだがな。ちなみに母親の情報は掴めていないが……」

錬金術師「もしかしたら母親も既に……」


女店員「あ、アルスマグナに…!?」

錬金術師「…」


女店員「…」

女店員「…めだよ…」


錬金術師「ん…」


女店員「だ、ダメだよそんなの!!そんなんだったら、クーが可哀想すぎるよ!!」

 
錬金術師「ば、ばか声が大きい…!」

女店員「あっ…」


クー「…」

クー「ん~…。むにゃっ……」モゾッ


錬金術士「…」ホッ

女店員「…」ホッ


錬金術師「…まぁ落ち着け。あくまで仮説だし、全てが決まったわけじゃないんだ」

女店員「でも、そうなってる可能性が高いんだよ…ね」

錬金術師「…言いたくはないが、そうだ」

女店員「も、もしお父さんがいなくて、お母さんも捕まってたら…どうするの…?」

 
錬金術師「…そうなったら、そうなっていた時に考えるさ」

女店員「…」

クー「…」クゥクゥ


女店員「……そ、それにしても店長」

錬金術師「んあ」

女店員「…最初から、クーにどこに住んでたかとか聞いて案内して貰えば済んだ話だったよーな」

錬金術師「…」

女店員「凄く遠回りな結果だったけど、なんか……」

錬金術師「…家に行ったところで、満足な結果が得られるとは思わなかったしな」

女店員「え?」

 
錬金術師「少なくとも、俺の記憶から感じたクーと俺の当時の関係性」

錬金術師「それは、俺が俺自身で身の回りから捜索しないといけないと思ったんだよ」

錬金術師「それに…。それを追求したことで見えなかった不思議な話になってきた」

錬金術師「……上手く言えないが、こういう道のりで良かったんだと思う」


女店員「そっか…」


ゴロゴロゴロ…ズザザァ……

馬車商人「…目的地に到着!さ、着いたよ、お客さんたち!降りてくれるかいっ!」


錬金術師「!」

女店員「あっ…」

クー「…?」ムニャッ


…………
……

 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 そして 錬金術師のお店 】


銃士「はぁ~…」

新人鉱夫「…数日で結構、売れましたね」

銃士「新鮮な素材やら、激安で鉄鉱やら、冒険者も意外とお客に来てくれたな」

新人鉱夫「値下げしてたので、売上げはそこまでじゃないですが、充分ですね!」

銃士「普段、表にもっと目立つものやセールと題して売れば、人が来るんじゃないか…?」

新人鉱夫「かもしれませんね~」


…ザッ

錬金術師「…それは知っているが、余り客が来ると対応が面倒なのだ」フンスッ

クー「…」フンスッ

女店員「こらクー、マネをしない」

 
銃士「あ…!店長!」

新人鉱夫「店長さんっ!お帰りなさい!と、面倒って……」


錬金術師「…色々と売ってくれたみたいだな、ありがとさん」

銃士「あぁ、それくらい」

錬金術師「売り上げはあとで出納帳にでも記載するから、詳細を出しといてくれるか?」

銃士「はいよ」


新人鉱夫「…それはそうと、店長さん。クーの手がかりはあったんですか?」


錬金術師「ん…」

錬金術師「……ま、まぁな。色々とあった…な」

 
銃士「へぇ、やっぱりクーと店長の記憶に出てきた魔犬は、繋がりがあったってことなのかな?」

錬金術師「あ~…。それは分からないんだが、色々とちょっとな」

銃士「…どういうこと?」

錬金術師「ま、あとで説明するさ。とりあえず今は、長旅で疲れて……」フワァ

銃士「…眠そうだね。いつもだけど」


錬金術師「…ちょっとだけ、休む」

錬金術師「もし俺が起きてこなかったら、夕方17時であがってくれ」

錬金術師「じゃ、おやすみ~……」


フラフラ……

ガチャッ、バタンッ……

  
銃士「…なんだ店長、凄く疲れてる感じだったな」

女店員「うん…。本当に色々あって、考えたいんだと思う」

銃士「…そこまでの何かがあったのか」

女店員「今は少し話しづらいから、あとで自宅に戻ったら話すね」

銃士「…わかった」


新人鉱夫「…それじゃ僕は、店長さんが夜中に起きても食べられるように、夜食でも作っておきますよ」

クー「…」グゥゥ

新人鉱夫「…おや」


女店員「クーは馬車の中でもずっと寝てきたから、お腹すいちゃったのかもね」クスッ

クー「…」グゥゥ

新人鉱夫「あはは、じゃあクーのためにも先に、美味しい料理を作ってあげるよ!」

 
クー「んっ!」ビシッ!


新人鉱夫「少しお金も入ったし、クーのためなら奮発しても店長さんは怒りませんよねっ」

女店員「いいよいいよ、全部使っちゃったりしても…なんて」

銃士「それはそれで、私らの給料がなくなるのでは」

女店員「むしろ、売上全部を給料に……」

銃士「えっ…」


…………
……

 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ワイワイ…キャッキャッ……


…ゴロンッ

錬金術師「…なーにが、売上全部給料だっての」

錬金術師「聞こえとるわ、バカどもが…」クククッ

錬金術師「…」

錬金術師「……」


錬金術師(…しかし、どうしたもんか)

錬金術師(最悪の結果だけは、避けてほしかったんだがな……)

錬金術師(…とにかく、そのクーの父親が亡くなったという場所に行ってみて…か)


…………
……

 
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・・
・・・・・
・・・・
・・・
・・

 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 そして深夜 錬金術師のお店 】
 
モゾモゾ……

錬金術師「…」パチッ

錬金術師「…」

錬金術師「…」チラッ


クー「…」スヤスヤ

新人鉱夫「…」グゥグゥ


錬金術師「…よし」

コソッ……

 
錬金術師(…あの亡くなったという錬金術師は、クーの親父で間違いないだろう)

錬金術師(その現場はとてもじゃないが、見せる気にはならん…)

錬金術師(まずは俺一人でも、何か手がかりがないか調べねーとな……)

錬金術師(場所は確か、近くの河原だったか……)


…………
………

 

………
…………
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 河 原 】

ザァァァ……!


錬金術師(…確か、この辺だと言っていたな)

錬金術師(亡くなったと情報が入ったのはもう1週間以上前になる)

錬金術師(処理もされているだろうし、さすがに遅すぎたか…?)

ザッザッザッ…

錬金術師(…)キョロキョロ

 
ザッザッザッ…

錬金術師(…色々と思いつく考えはある。)

錬金術師(だが、俺の記憶が抜け落ちている以上、色々と確信は持てない)

錬金術師(確定するにはパーツが足りないし、当の本人がいなければどうにもならん)

錬金術師(くそっ…!)

錬金術師(開きかけていた扉が、また閉じていくのか……!)


ガサガサッ…!


錬金術師(…!)ハッ!

 
???「…」ボソボソ

???「…」ボソッ…

ガサガサ……


錬金術師(…河原の向こう側の木々の間に、誰かいる?)

錬金術師(一人じゃない、二人か…)

錬金術師(こんな時間に、怪しいこと極まりねぇな)

錬金術師(…)

錬金術師(仕方ねぇ、少し危険だがー……)


コソッ……コソコソッ……スッ…


錬金術師(…よし。ここなら、声も聞こえる)

 
ボソボソッ……

???A「…もう1度来たものの、ここも収穫はなし、か」ボソボソ

???B「殺したのはいいが、肝心な情報を聞き出せなかったら意味ないだろっつーの」ボソボソッ


錬金術師(…殺した?おいおい、何か物騒な話だな)ピクッ


???A「既に国に遺体や証拠品は処理されてるだろうし、意味ないよな」

???B「副機関長が死んで焦ってるのか、機関長も小さな仕事拾うようになっちまって…」

???A「はぁ…。俺らみたいな奴に面倒な仕事が回るようになって、いい迷惑だ」


錬金術師(副機関長が死んだ話ということは、こいつらは……!)

 
アルス機関員A「…ま、何もなかったって上には報告すればいいか」

アルス機関員B「それしかないだろ」

アルス機関員A「…獣人族の子供と母親、どこ消えちまったんだろうな」

アルス機関員B「金になる仕事ではあるっつってたけど、何だかなぁ~…」


錬金術師(!)

錬金術師(なるほど、こいつらはクーの手がかりを探しに来たのか)

錬金術師(ということは、先の"殺した"という言葉は、まさか……)

錬金術師(…っ)


アルス機関員A「とりあえず帰ろうぜ」

アルス機関員B「そうだな」

  
錬金術師(…)

錬金術師(……ちょっと待てよ。あいつら"母親"もどこへ消えたと…言っていたな…!)

錬金術師(ということは、一番心配していた"母親"はまだ捕まっていない!)

錬金術師(さ、最悪の事態は避けられた…!!)

錬金術師(…クー、母親はまだ生きているぞ!安心しろっ!!)グッ

…ジャリッ!

錬金術師(げっ!)


アルス機関員A「…むっ」ピクッ

アルス機関員B「今、そっちの水辺の方で音がしなかったか…?」

 
錬金術師(やっべえぇぇ!)

錬金術師(お、俺は非戦闘員だぞ!しかも二人とか!やべぇぇ!)


アルス機関員A「…おい!そこに誰かいるのか!」

アルス機関員B「いるなら出てこい!」


錬金術師(やべぇ、やべぇやべぇっ~!!)


アルス機関員A「…気のせいか?」

アルス機関員B「…」


錬金術師(そうです、気のせいです。ですので早く向こう側に行ってください)

 
アルス機関員A「…ま、気のせいか」

アルス機関員B「こんな時間に誰かいるわけもねーしな。俺らも戻ろうぜ」


錬金術師(…ほっ)


アルス機関員A「…」

アルス機関員B「…」

ザッザッザッ……


錬金術師(……って!)ハッ!

錬金術師(お前ら、どのみちこっちに来るんじゃねぇかああっ!!)

錬金術師(お、おいおいおいっ!どうすんだこれヤベェぞ!!)

 
アルス機関員A「宿に戻ったら一杯やるかぁ」

アルス機関員B「トリップフルーツもあるし、一緒に飲んでトリップして気持ちよくなろうぜ」ハッハッハ

ザッザッ…


錬金術師(トリップフルーツ…、幻惑果実か!)

錬金術師(さすがだな、一級禁種まで手ぇ染めてやがんのか…)

錬金術師(……つ~か!)

錬金術師(そんなの今は関係ねぇ!このままじゃマジでバレる!!どどど、どうするか!)

錬金術師(い、いっそのこと姿見せてでも逃げ出して……!!)


…ガサガサガサッ!!…


錬金術師「!?」ビクッ!


アルス機関員A「ん!」

アルス機関員B「なんだ?」

 
???「…っ」ダッ!

ザザザザッ……!


アルス機関員A「…おい!誰かいるぞ!人影だ!」

アルス機関員B「野郎、やっぱり誰かいやがったのか!待てコラァ!」ダッ!

タタタタタタッ……!

タタタッ……

………

 
 
錬金術師「…」

錬金術師「ふっ、ふぃぃぃ……!?」

錬金術師「た、助かった…のか……?」ダラダラ

 
ヒュウウウッ……


錬金術師「…」

錬金術師「つーか、今のは一体誰が……」

錬金術師「…」

錬金術師「と、とりあえず、戻るか……」


…………
……

 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 お店の前 】


…うぇぇぇええんっ…!!! 


錬金術師「…ん」


…す、すぐ戻るから大丈夫だから!…


錬金術師「…ん?」


…ひぐっ!うあああああんっ…!!!


錬金術師「…んん?」


…て、店長さん、どこにいったんですかぁ~!…

 
錬金術師「…んんんっ!」ダッ!

タタタタッ、ガチャッ!!


新人鉱夫「!」

クー「!」


錬金術師「お、おいどうした!?」


新人鉱夫「て、店長さん!!」


錬金術師「今、俺を呼んでなかったか!?」

錬金術師「それに、この泣き声ー……!」

 
ダダダダッ、ギュウッ!!!

錬金術師「おふっ…?」


クー「ひぐっ…!」グスッ!

錬金術師「クー…?」

クー「やぁぁ……」ギュウッ!

錬金術師「ん…」


新人鉱夫「…よ、よかったです」ハァァ

錬金術師「どうしたんだ一体」

新人鉱夫「どうもこうも、さっきクーが目覚めたら店長さんがいないって泣いて…」

錬金術師「なぬ?」

 
新人鉱夫「前に離れた時はこんな事なかったのに…」

錬金術師「…」


クー「あうぅ…。うぅぅ~~…っ」

グリグリッ……!


錬金術師「…」

錬金術師「…すまんかったな。寂しかったのか…」


クー「…っ」グリグリッ


錬金術師「…大丈夫だ。もう離れんよ」

…ポンポンッ

 
クー「んっ…」グスッ

錬金術師「うむ」

ヒョイッ、ダキッ…

錬金術師「どれ、抱っこしてるから寝なされよ、クー様」

錬金術師「クー様が寝たら、俺も一緒に隣で寝ますよっと」ニカッ


クー「んっ…!」


錬金術師「…」


クー「…」

クー「…」

 
錬金術師「…」


クー「…」

クー「…」トロンッ


錬金術師「…」


クー「…」

クー「…」スゥッ

クー「…」スヤッ…


錬金術師「…」

錬金術師「……ふぅ」

 
新人鉱夫「…良かった」ホッ

錬金術師「クー、俺がいないのに気付いて泣いたのか?」

新人鉱夫「はい…。前は泣いたりしなかったんですけどね……」

錬金術師「…」


新人鉱夫「ボフボフと物音がして起きたんですけど、クーが店長の布団を叩いてて…。」

新人鉱夫「中々戻ってこない店長さんに、クーが突然泣き始めて……」


錬金術師「…」

クー「…」スヤスヤ

 
新人鉱夫「…と、とりあえず寝ましょうか!」

新人鉱夫「クーも泣き止みましたし、店長さんも出かけたりしませんよね?」


錬金術師「ん、あぁ……」

錬金術師「…」

錬金術師「ま、そうだな。寝るか……」


クー「…」コクン…


錬金術師「…寝ながら返事するの得意だな、クー」

新人鉱夫「きっと、よっぽど店長さんが恋しかったんですよ」

錬金術師「はは……」


…………
……

 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 店の外 】

…ザッ!


???「…」

???「…」

???「…」ダッ!


タァンッ…!


タタタタタッ…………

…………
……

 
・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・
・・・・・
・・・・
・・・
・・

本日はここまでです。

また、ちょっとした一言ですが、本日竜騎士の第三部、つまり竜騎士編が全て完結となった日になります。
(実際に投下したのは12月26日ですが)
1年はとても早いですね。作品を読んでくださる皆さまへ、改めて感謝いたします。
有難うございました。

皆さま、有難うございます。お言葉、大変嬉しく思います。

それでは投下致します。

 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 次の日 】

…ガチャッ!

女店員「おはよう~」

銃士「おはよー」

錬金術師「おう」

新人鉱夫「おはようございます~」
 

女店員「あれ、クーは?」

錬金術師「奥で寝てる。やっぱり疲れてたみたいだな」

女店員「まぁ、そうだよね……」

 
女店員「てんちゅうっ!」

錬金術師「…」ピクピク

女店員「全く…」

錬金術師「…ったく、今は仕事もいいがクーのことだろ」ムクッ

女店員「それは分かってるよっ!」

錬金術師「じゃあ何で仕事しろって言って殴った…」

女店員「な、流れかな」テヘッ

錬金術師「…」


銃士「ははっ…」

銃士「…」

銃士「…あ、そうだ店長。ちょっと教えたいことがあったんだ」

1つ飛ばしたので、
>>544 >>546と続きます。申し訳ないです。

 
錬金術師「俺も眠いし、みんな来たから寝てくるかね」フワァ

女店員「店長が眠いのは年柄年中でしょ」

錬金術師「…失礼な!仕事中だけだ!」

女店員「目ぇ覚まさせてあげようか」スチャッ

錬金術師「おまっ、その錬成用のハンマーで何をするつもりだ!」

女店員「…目ぇ覚まさせてあげる」ニタァ

錬金術師「な、なんか最近ブラックだぞお前!殺される!!」

女店員「じゃあ、仕事しよっ」

錬金術師「断る」キリリッ
 

ビュッ、ゴチィインッ!!!

…ドサッ

 
女店員「てんちゅうっ!」

錬金術師「…」ピクピク

女店員「全く…」

錬金術師「…ったく、今は仕事もいいがクーのことだろ」ムクッ

女店員「それは分かってるよっ!」

錬金術師「じゃあ何で仕事しろって言って殴った…」

女店員「な、流れかな」テヘッ

錬金術師「…」


銃士「ははっ…」

銃士「…」

銃士「…あ、そうだ店長。ちょっと教えたいことがあったんだ」

 
錬金術師「なんだ?」


銃士「えっと、少し歩いた場所に林があるだろう?」

銃士「さっき外から来る時、遠目だったけど妙なものを見つけたんだ」


錬金術師「…妙なものとな?」

銃士「その林に、何個か獣っぽい足跡があったようで…」

錬金術師「獣か…。狸とかじゃねえの?」

銃士「いや、あれは魔獣関係だと思う。こんな町付近まで下りて来た事ってあるのかな?」

錬金術師「ふむ…」

 
銃士「一応、案内しようか?」


錬金術師「…」

錬金術師「……頼む。二人は、クーが起きたら泣くかもしれんから、」

錬金術師「俺は外の林に行ってくるだけで、直ぐ戻るって伝えてくれ」


女店員「うん、わかった」

新人鉱夫「わかりました」


銃士「じゃ、案内するよ」

錬金術師「おう…」


…………
……

 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 お店の付近の林 】
 
ガサガサッ…


錬金術師「…秋の終わりで、銀杏くせぇぇえ!!」プゥン

銃士「店長、もっと紅葉を楽しむとかで考えたほうが…」

錬金術師「は、鼻がもげる…」

銃士「…錬金師だし、特別に鼻も効くみたいだし、仕方ないのかな?」

錬金術師「そ、それより早く…。どこに足跡が……」フガフガ

 
銃士「…そ、そこだよ。足元を見て」


錬金術師「んあ…」

錬金術師「…」ピクッ

錬金術師「……なるほどな」


銃士「どう考えても、普通の獣の足跡じゃない気がする。それに、途中で足跡は消えているんだ」


錬金術師「ちょっと待てよ、えーと……」キョロキョロ

錬金術師「…」

錬金術師「…おっ」ピクッ


銃士「…どうかした?」

錬金術師「……消えたんじゃない。上を見てみな」チラッ

銃士「上?」チラッ

 
錬金術師「…見えるか、あそこ?」

銃士「あっ…!」


錬金術師「…木々を踏んで、空中を飛んで行ったんだ」
 
錬金術師「並の人間じゃ出来ない技だ。とてつもない脚力がある」

錬金術師「…恐らく、魔族で間違いないだろう」


銃士「店長!それじゃ、もしかしたらクーの…」

錬金術師「…だが、魔族ないし魔獣は人の匂いにつられて里へ下りてくることは多い」 

銃士「!」
 
錬金術師「…断定ではできない」

銃士「…っ」

 
錬金術師「…だが、俺も銃士の考えていることで間違いはないとは思うっちゃ思う」

銃士「へ?」

錬金術師「…実は昨晩、アルスマグナの面子と遭遇してな」

銃士「!」


錬金術師「そこで聞いた話なんだが…」

錬金術師「…」キョロキョロ

錬金術師「……あいつらには、まだ伏せておいてくれるか」


銃士「う、うん。どうしたんだ?」


錬金術師「…」
 
錬金術師「…父親は、やはりアルスマグナの手で既に殺されていた」ギリッ

 
銃士「なっ…!」

錬金術師「…そして、母親は未だに逃げている。それを、アルスマグナの下っ端が追ってるようだ」

銃士「そ、そうなのか……」 
 

錬金術師「…母親といえども魔物の一種。実力は、人間とは違う」

錬金術師「少なくとも、下っ端に狙われたところでどうということはないはずだ」


銃士「そ、そうか……」

錬金術師「…ココまで様子を見に来るくらいならば、会いに来てもいいと思うんだがな」

銃士「会いに来れない理由があるの…か」

錬金術師「…」

 
…トテテテッ!

クー「ぎゅう~!」

…ギュッ!

錬金術師「!?」

銃士「!」


新人鉱夫「クー、足早い…!」ハァハァッ!

女店員「待ってクー!あ、足早すぎ……!」ゼェゼェ!


錬金術師「…お、お前ら」ヒクッ

 
女店員「め、目が覚めて店長がいないことを知ったら、引き止めたんだけど、すぐに外に出ちゃって!」

新人鉱夫「ごめんなさいです…」

銃士「こら、ダメだろクー。お姉ちゃんとお兄ちゃんの言う事をきかないと」

錬金術師「クー…」

クー「あう…っ」


錬金術師「…」


クー「…」

クー「…」チラッ


錬金術師「…寂しかったんだろ。仕方ないさ…まぁ、気にするな」ニカッ


クー「!」

クー「えへっ…」ニコッ

 
錬金術師「……はて、クー。その前にどうやって、俺のあとを追いついてきた?」

クー「…」

錬金術師「…匂いか」

クー「んっ!」コクン


錬金術師(…やれやれ、獣としても開花し始めてるのか)

錬金術師「だがな、あまり女店員らを困らせちゃダメだぞ?」

ナデナデッ…

クー「あう……」
 
クー「…」

クー「あっ……!」ハッ


錬金術師「ん…?」

 
クー「ま…ま……?」ボソッ


錬金術師「…何?」

女店員「い、今なんて…」

新人鉱夫「ママって…」

銃士「ど、どっかにいるのか!?」


クー「ママ…」クンッ

錬金術師「…クー、ママの匂いか?」

クー「ん…」コクンッ

錬金術師「やはり…か…」

クー「…っ」キョロキョロ

 
女店員「…」

女店員「…あっ」
 
女店員「て、店長…!もし本当にいるなら、クーなら匂いを追えるんじゃない!?」


クー「…」


錬金術師(…銀杏の匂いの中、俺と母親の足跡から、わずかな匂いを見つけるとは)

錬金術師(さすがと言ったところだが、やはり母親はクーのことを気にかけている)

錬金術師(だが、会いに来ないのは母親自身、自分が危険な身だと分かっているのだろうな…)


女店員「…ね、店長聞いてる?」

錬金術師「ん…」

女店員「クーの鼻に頼って、お母さんを探してあげようよ!」

 
錬金術師「…」

錬金術師「……駄目だ」


女店員「ど、どうして?」

錬金術師「…母親の気持ちを尊重しよう。会えないには、会えない理由があるんだ」

女店員「で、でもっ…!」
 
錬金術師「いや、こればかりは……」


新人鉱夫「…」

新人鉱夫「ま、待って下さい店長さん、女店員さん……」


女店員「?」

錬金術師「ん…」

 
新人鉱夫「だ、大事なのは二人の気持ちより、クーの気持ちだと思います!」

錬金術師「!」

女店員「!」


新人鉱夫「…こ、こんなに幼い子なのに」

新人鉱夫「人の為を思って、こんな状況でも僕たちに笑顔を振りまいてくれてる」

新人鉱夫「だけど、きっと……」


錬金術師「…」


新人鉱夫「だ、だから!クーの気持ちを一番に考えてあげた方がいいと思います…!」

新人鉱夫「生意気でゴメン…なさい……」シュンッ

 
錬金術師(…母親の気持ちも考えないで、自分の気持ちをいいやがって)ククッ

錬金術師(だが…)

錬金術師「…」フゥ

錬金術師「…新人鉱夫」

…ポンッ

新人鉱夫「…っ!」ビクッ!


錬金術師「…全く、いつも肝心なところで色々と勇気の意見を出してくれるな」

錬金術師「お前の言う通りだよ。そうだ、俺らが決めることじゃなかったな」


新人鉱夫「て、店長さん…!」


女店員「うん…。大事なのは、クーの気持ちだったよね…」

銃士「私は、クーが会いたいと思うなら全力で力を貸すよ」

女店員「わ、私だって!」


クー「…」

 
錬金術師(……しかし、不思議なことがまだ数個ある)

錬金術師(クーがこの歳で、人語を理解していても口がきけないこと)

錬金術師(…そして、俺らに対し人懐っこいこと。父母がいなくても、平然としていること)

錬金術師(寂しさを出さないようにしているには、少し極端過ぎる気もする)

錬金術師(……まるで、昨日のあいつらじゃないが、幻惑果実のように、幻惑の魔法にかかったようだ)

錬金術師(…)

錬金術師(……!?)

錬金術師(……待て!幻惑の魔法?)
 
錬金術師(もし、母親が魔獣なら、それを扱うことは出来る…)

錬金術師(そうか、待て!待て待て待てっ!何か、思い浮かんで……!)

 
…ガサッ、ガサガサガサッ!!!


錬金術師「!」

女店員「!」

新人鉱夫「!」

銃士「!」

 
ガサガサ…ガサッ……


錬金術師「…何かいるな」

女店員「な、何…」

新人鉱夫「…っ」ゴクッ

銃士「母親だといいが…。一応、銃を構えるよ」スチャッ

 
ガサ…ガサガサガサッ……!!

ゴソゴソッ…!

ガサッ……


……ヌッ……
 
アルスマグナ構成員A「…みぃつけた」ニタァッ

アルスマグナ構成員B「こんなところにいたのか……」


錬金術師「なっ!!」


女店員「…だ、誰?」

 
錬金術師「…アルスマグナの面子だ!お前ら、後ろに下がれ!」

女店員「えっ!?」

新人鉱夫「な、なんでこんな場所に!」

銃士「…」チャキッ

クー「…っ」 

 
アルスマグナ構成員A「…貴方はあの店長さん、ですよね?」 

錬金術師「…さぁ、どうだろうな」

アルスマグナ構成員A「隠しても無駄です。貴方程の有名人を、見間違うはずがないですから」

錬金術師「…っ」

アルスマグナ構成員A「ま、要件は分かってますよね?」

 
錬金術師「…母親の居場所なら、知らないぞ」

アルスマグナ構成員A「嫌だなぁ、そこに子供がいるじゃないですか」

錬金術師「…」

アルスマグナ構成員A「…どうして?って顔ですね」

錬金術師「…」


アルスマグナ構成員A「…はははっ。父親がココへ来た理由…」

アルスマグナ構成員A「どう考えても、貴方を頼るためじゃないですか?」


錬金術師「…そりゃ、バレバレにもなるか」

 
アルスマグナ構成員A「いえ、最初は焦りましたけどね」

アルスマグナ構成員A「ほら…少し前、このお店でバーゲンをやってたじゃないですか」


銃士「!」

新人鉱夫「!」


アルスマグナ構成員A「あの時、実は自分たちは、客としてその子が本当にいるか偵察に来ていたんです」

アルスマグナ構成員A「しかし、姿もなく…。また上から適当な命令されたものだと思ってました」

アルスマグナ構成員A「だけど、念には念を押して最後の偵察に来たら……これですよ」クスッ


錬金術師「…素直に渡すと思うか」


アルスマグナ構成員A「自分らは末端組員ですが、そこにいるとなれば人数は呼べます」

アルスマグナ構成員A「大人しく、渡したほうがいいと思うのですが……?」

 
錬金術師「…おいおい、もうお前らとは関わるつもりはなかったんだぜ」

錬金術師「副機関長を失ったお前らが、そうそうすぐに次の仕事へ着手するとは思わなかったぞ…」


アルスマグナ構成員A「…確かに副機関長を失ったのは大きい」

アルスマグナ構成員A「ですが、それに焦った上層部はどんな仕事でもするようになった」

アルスマグナ構成員A「おかげで忙しく、面倒な仕事も押し付けられていますけどね」


錬金術師「…」


アルスマグナ構成員A「では、大人しく渡してください」


錬金術師「断る。お前ら二人、相手にできないわけではないんだぜ…?」


アルスマグナ構成員A「あははっ!貴方が戦闘向きじゃないことは分かってますよ!」

 
…ズキュウンッ!!!

アルスマグナ構成員A「!」

アルスマグナ構成員B「!」


…シュウウッ…


銃士「…私は、戦闘に長けていると思っているが?」


アルスマグナ構成員A「…銃士さんですね」


銃士「…」


アルスマグナ構成員A「おい…」クイッ

アルスマグナ構成員B「分かってるっつーの、おらっ!!」バッ!!

 
カチッ……バチッ、バチバチバチッ!!!

銃士「何っ!?」

ビリッ…!バチバチバチィッ!!

銃士「うあっ!?」ビリビリッ!!


錬金術師「じゅ、銃士っ!!」

新人鉱夫「銃士さん!?」

女店員「ちょっ…!」

クー「…!」


銃士「ぐっ…!?な、何が……!!」フラッ

…ガクッ!


アルスマグナ構成員A「既に、銃使いがいることは把握済みです」

アルスマグナ構成員B「今与えた電撃は、錬金道具の一種。ま、"武器封じ"とでもいいますか」

 
錬金術師「銃に直接、発射するエネルギー部分へ魔力をシャットダウンする電撃を与えたのか…」

錬金術師「隠し持てるほど小型化するとは、腐ってても高度な錬金技術だなこの野郎……!」


アルスマグナ構成員A「さすがの考察ですね、店長さん」

アルスマグナ構成員B「ま、それはいいですから降参してくださいよ。銃使いが銃を失っては……」


銃士「…な、何もできないと思うかぁぁっ!」


アルスマグナ構成員A「!」

アルスマグナ構成員B「何っ!」


銃士「…シッ!!」ダッ!!

ダダダダッ!ヒュオッ!!

アルスマグナ構成員A「はやっ…!」

銃士「はぁぁっ!掌底波ぁぁぁあっ!!」ビュッ!!

 
…バキィッ!!

アルスマグナ構成員A「がっ……!」


銃士「…っと!もう1本!」ビュッ!!


アルスマグナ構成員B「!」

……バキャアッ!!


銃士「…」


アルスマグナ構成員A「…」

アルスマグナ構成員B「…」


フラッ……

…………ドシャドシャッ

 
銃士「…どうだ!」ビシッ!


錬金術師「おぉぉ~!」

女店員「おぉー!」

新人鉱夫「おおぉ!」

クー「おーっ!」

パチパチパチパチッ……!!


銃士「へっへん!」

銃士「ま、これくらいはねっ!」

 
錬金術師「…とりあえず助かった、か」

錬金術師「しっかしどうするかなコイツら……。」


女店員「クーたちを狙って…。許せない……!」


錬金術師「これは俺の仕事じゃねぇし…」

錬金術師「殺人罪で国に引き取ってもらうか、いっそのこと、忘却薬でも使うか」ギラッ


女店員「…それって禁薬っぽい名前なんだけど」

錬金術師「一級禁則事項に当て嵌まる薬だな。記憶の消去を行えるが、効きすぎてアヘアヘに…」

女店員「それはさすがにダメに決まってるでしょー!」

錬金術師「分かってるって、冗談だ冗談!」

女店員「ったく、それじゃどうするの?」

錬金術師「ん~。とりあえず縛りあげておいてでもー……」

 
ガサッ…ガサガサッ!!


錬金術師「ん…」

女店員「うん?」

銃士「また何か茂みから音が……」

新人鉱夫「こ、今度はなんですか…!」

クー「…」


ガサガサガサッ……!

……ザッ!!


???「…ふぅ、やっと見つけたぞぉ」

 
錬金術師「…!?」

女店員「な、何この人…!」

銃士「で、でかっ…!」

新人鉱夫「こんな大きい人、見たことないですよ!?」


アルス構成隊長「…俺あ、今回この周囲のアルマグナの構成員を仕切ってるモンだ」

アルス構成隊長「見たことろ、おめぇら俺の部下やっちまったな……?」ハァ


アルスマグナ構成員A「…」

アルスマグナ構成員B「…」


錬金術師「…構成隊長、ってところか」

アルス構成隊長「まぁ、そうなるなぁ…。俺の部下、よーくもやってくれたなぁ……」

 
錬金術師「…今回のこと、お前らから仕掛けてきたことだろうが」

アルス構成隊長「ふん…。お前は、あの元マスターの店長かぁ」

錬金術師「…」

アルス構成隊長「伝説か何か知らないけどなぁ、うちの総合副機関長、どーもお世話になりましたぁ」

錬金術師「…そうだな」

アルス構成隊長「おかげで中央から飛ばされ、こんな場所で、汚い仕事をさせられてるんだけどなぁ?」

錬金術師「くっ…ははは!面白いこというじゃねえか!」

アルス構成隊長「おぉん…?」


錬金術師「…あんなゴミ溜めみてぇな錬金術機関にいるくせに、汚い仕事をさせられてるだ?」

錬金術師「何を言ってるんだか。ミスターガービッジくん…とでも呼ぼうか?」

 
アルス構成隊長「てめぇ……!その口、二度と聞けなくしてやるかぁっっ!?」ギロッ


女店員「ちょちょちょ!怒ってるじゃん、何て言ったの今!」

錬金術師「ははは、ミスターガービッジ。つまり、なんだ…。ゴミ溜め人間さんってことか」ククク

女店員「あぁ……」

錬金術師「…とはいえ、あの体格。怒らせてどうするかなー」タラッ

女店員「」


アルス構成隊長「な、何とでも言うがいぃさぁ……」

アルス構成隊長「今、ここでお前らからその娘を奪えば、俺の地位もあがるだろうしなぁ!!」

アルス構成隊長「…はぁぁぁっ!いくぞぉ!!!」ダッ!

ダダダダダッ…!!

 
銃士「…やらせるものかっ!掌底波ァッ!!」ビュッ!!

アルス構成隊長「邪魔だぁ!どりゃあっ!」ブンッ!


ガキィンッ!!ビリビリッ…!


銃士「いっつ……っ!」

アルス構成隊長「おっ…止められたか……」

銃士「こ、この馬鹿力が……!もう一度っ!!」ビュンッ!

アルス構成隊長「ふんっ!」ブォッ!!


…ガガキィンッ!!


銃士「ぐぅっ…!」ズキッ!

アルス構成隊長「おうおう…。おめぇ、本当に女かぁ?この力、その辺の男以上じゃねえかぁ…」ググッ

 
銃士「お、お前こそ…!いまどきの男と比べたら…よっぽど骨があるみたいだね……!」グググッ!

アルス構成隊長「強い女ぁ、嫌いじゃないぞ」ギリギリッ!


女店員「…て、店長!何とかできないの!?」

錬金術師「お、俺は骨のない男だしな~」 
 
女店員「…」

錬金術師「……と、言われたら男が廃るってか!?」バッ!

女店員「!」

錬金術師「男が俺、超店長の力を見せる時が来たようだな!」バババッ!

女店員「そ、その俊敏な動き!何か秘策があるの!?」

錬金術師「…ていっ!!」ガシッ

……ビュオッ!!

 
アルス構成隊長「!」


ヒュウウウッ…ゴツッ!


アルス構成隊長「……いってぇ!?」タラッ


錬金術師「必殺…!石投げ!」ビシッ!

女店員「」


アルス構成隊長「てめぇ…!いてぇじゃねえかぁ!!」クルッ

ダダダダッ!…ビュッ!バキィッ!!

錬金術師「ぬぐおっ!」

ズザザザァ……!ドサッ!

錬金術師「」


女店員「て、店長…!弱すぎ……」

 
銃士「…うちの店長に手を出すなんて、いい度胸だね!」タァンッ!

タァンタァンッ…!!クルクルクルッ…ビュオッ!

アルス構成隊長「木々を利用しての飛び蹴りかぁ!?だがなぁ……!!」

……ガシィッ!

銃士「っ!」

アルス構成隊長「…所詮、女蹴り。片腕で止められるわけだぁ」

銃士「は、離せっ!」


アルス構成隊長「…本当は、遊びたいところだが目的もあるし」

アルス構成隊長「ここは……倒れていてもらおうかぁ…!」グググッ!


銃士「…じ、地面へ叩きつける気かっ!」

 
女店員「じ、銃士ぃっ!」

新人鉱夫「じゅ、銃士さん!」

クー「…っ」

女店員「……た、助けるんだからぁっ!」ダッ!

新人鉱夫「ぼ、僕だって…!」ダッ!


アルス構成隊長「…全員仲良く、吹き飛んでしまえぇ…!」

…ブオンッ!!!

銃士「ふ、二人ともそこにいたら巻き込まれー……!」


「…バーカ」ボソッ

カチッ…!


アルス構成隊長「ん……」

 
ビリッ…バチバチバチッ!!!ビリビリビリッ!!!

アルス構成隊長「あっ!あがががががっ!?」


女店員「!」

新人鉱夫「!」

銃士「!」

クー「!」


バチバチッ!ビリビリビリッ!!!バチィッ!!

アルス構成隊長「て……め…………」グラッ


錬金術師「…お仲間の持っていた電気ショック、効くっしょ?」ニカッ

 
アルス構成隊長「がはっ……」

…ズズゥン…!

モワモワ……


錬金術師「…ぷはぁっ!」

錬金術師「あぁぁぁ、死ぬかと思った!」

錬金術師「いってぇぇ…!!思いっきり殴りやがってクッソ!!!」ズキズキ!


女店員「て、店長っ!」

新人鉱夫「ま、まさか敵の武器を使ったんですか!」

銃士「店長…!助かったよ、ありがとう…っ」

クー「♪」

 
錬金術師「……あいつらの持ってた電撃武器は、雷の類と一緒だ。」

錬金術師「液体に浸透し、優先的に駆け巡る傾向がある」

錬金術師「最初に投げた石で、上手い具合に流血してくれたからな」

錬金術師「いくら図体がでかくても、血を巡り全身を電撃が駆け巡ったら…しばらくは立てないだろうよ」


女店員「ってことは、狙って石投げてたんだ!」

錬金術師「当たり前だろ…」

女店員「ただの嫌がらせかと…」アハハ…

錬金術師「…」


銃士「ま、まぁ…。さすがにこれ以上は敵はいないだろうし、どうする?」

錬金術師「町にいる、軍の支部にに突然襲われましたって言って突き出してやればいいな」

銃士「そっか」

 
新人鉱夫「あっ、じゃあ僕が呼んできますよ!」

錬金術師「おーう、頼んだ……」


…ガサッ…


錬金術師「!」

新人鉱夫「!」

銃士「ま、まだ何かいる!?」

女店員「う、うそっ!しつこいよっ!!」

クー「…!」

 
錬金術師「…」


ガサッ…ガサガサッ……


錬金術師「この野郎…。まだ敵だっつーなら、先にこれも打ち込んでやるか……?」カチャッ


クー「…」

クー「…」クンッ

クー「!」


ガサガサッ…


錬金術師「…出てこないなら、先にこの電気ショックで…!」


クー「ママ……?」ボソッ

 
錬金術師「…ん?」

クー「ママ…!?」クンッ!

錬金術師「な、なぬっ!?」

女店員「お、お母さん!?」

銃士「!」

新人鉱夫「ま、まさか…」


クー「ママ……?ママッ!!」


ガサッ…ガサガサッ……


…ザッ!

 
錬金術師「!」

女店員「!」

銃士「!」

新人鉱夫「!」

クー「…ママぁっ!」
 

錬金術師「クー…!まさか、本当に……!」

女店員「この…人が……?」

銃士「クーの…」

新人鉱夫「お母さん…なんですか……?」

クー「ん~っ♪」

 
母親「…」

母親「…っ」ペコッ

本日はここまでです。
一部間違えてしまい、申し訳ありませんでした。

また、次回(29日予定)で最終回となります。
お付き合い下さった皆さま、有難うございました。

皆さま有難うございます。投下致します。

  
終わりは…唐突に……
 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 錬金術師の店 】


錬金術師「…よし。あいつらは軍へ引き渡したし、これで心配もないだろう」

錬金術師「問題はー……」チラッ


母親「…」

クー「…~♪」スリスリ


女店員「…」

銃士「…」

新人鉱夫「…」

 
錬金術師「…一体、どうしてクーを俺に預けたか聞かせてほしい。」

錬金術師「いや、それだけじゃない。どうして、何が、どうなっていたのか…聞かせて貰えるな」


母親「…はい」

母親「ですが、今日という日までご挨拶が遅れたことを、まずは謝らせてください」ペコッ


錬金術師「…」


女店員「…クーのお母さんも、獣人族なんだよね?」ボソボソ

銃士「うむ、そうらしいが」ボソボソ

女店員「…そうは見えないよね」ボソボソ

銃士「ただの美しい女性にしか見えないな…」ボソボソ

 
錬金術師「…謝罪はいらない。それより、本題だ」


母親「…はい。ですが、どこからお話すればいいのか」

錬金術師「…」

母親「まず、私がこの子の母親であること…」

クー「…♪」

母親「そして、貴方に飼われていた魔犬であること…でしょうか」

錬金術師「!」

母親「それで……」


錬金術師「…ま、待ってくれ!確かに、その路線も考えていたが…!」

錬金術師「その話、本当なのか!?」

 
母親「…」コクン


錬金術師「じょ、冗談だろう?一体、なぜ……」

錬金術師「俺は正直、あの時のことを覚えていないんだ。記憶が抜け落ちているようで…」


母親「それは、私のせいです」

錬金術師「何…」

母親「私の魔法のせいなんです」

錬金術師「…!」

母親「貴方に対し、私は忘却の魔法を…」

錬金術師「…ま、待ってくれ。話しが見えてこない…」

 
母親「…」

母親「……店長さん。それでは、頭を自分に向けて下げて貰えますか」


錬金術師「…こ、こうか?」クイッ


母親「…」

…パァァッ!!


錬金術師「…!」


母親「…全て、思い出すはずです。もう、忘れている必要もないと思いますので…」

母親「その記憶、お返しいたします……」

 
錬金術師「…」

錬金術師「…」

錬金術師「……あっ……!」ハッ


母親「…」


錬金術師「…な、なんだこの感覚は……!」

母親「思い出していただけましたでしょうか」


錬金術師「あ、頭が締め付けられ…!」

錬金術師「ぐっ……!」ズキンッ!

錬金術師「…っ!」パァァッ!


母親「…」

 
女店員「て、店長…?」


錬金術師「き、記憶と感覚が植えつけられる……!?」

錬金術師「がっ…!」ズキッ!

錬金術師「そ、そうだ…!段々と思い出してきたぞ…っ!」

錬金術師「お前は…あの時…!」

錬金術師「俺をかばって、馬車に……っ!」


母親「……はい。貴方を守るためでした」

母親「そして、そこで出会ったのがー……」


…………
………

 

………
…………
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 8年前 中央都市郊外 】


ザワザワッ!!!


パカッパカッパカッ!!!キキィィ…!!

馬車引き商人「だ、ダメだ間に合わねぇっ!!」グイイッ!!

馬『…ッ!』


少年(錬金術師)「う、うあああっ!?」

馬車引き商人「ぬ、ぬあああっ!」

少年「…っ!」

 
魔犬「…ッ!」ダッ!!

ダダダダッ、ドンッ!!


少年「へっ…」フワッ


…ドゴォンッ!!!…

魔犬「ギャンッ…!!」

ズザザザ…ドシャアッ!!


少年「なっ…!」


馬車引き商人「ば、馬鹿野郎っ、死にてぇのか!!!」

馬車引き商人「犬っころで済んだことを、良かったと思うことだな!!」ペッ!


パカッパカッパカッパカッ………

…………
……

 
少年「お、俺を庇って……!」ダッ!

ダダダダッ……ソッ

魔犬「がふっ……!」ググッ

少年「なっ…!ひ、酷い傷が…!だ、誰かっ!!」バッ!


ザワザワ…

周囲の人々「何だあれ、ダッサ…」

周囲の人々「いいところの服着てるぜ?金持ちか何かか…?」

周囲の人々「犬の一匹くらい、また飼って貰えばいいじゃねえか、金があるならなぁ…」

ガヤガヤ…!


少年「く、くっそっ!誰か助けてくれよっ!!」

少年「金なら払うから!いくらでも払うからっ!!誰かっ……!」

 
タタタタッ…バシッ!!

少年「いっ…!?」

通りすがりの男「…しっかりしろ!取り乱すな!」

少年(俺を殴りやがったのかこいつ…!)

通りすがりの男「…俺は錬金術の卵だが、このくらいの傷なら治せるはずだ!」


少年「は…」

少年(傷が治せるだって?こいつ、俺と一緒くらいの歳じゃねえのか……)


通りすがりの男「…何してるんだ!治したいんだったら、その犬をしっかり見ててやれ!」

通りすがりの男「飼い主のお前がしっかり見てないで、治せるのも治せるものかっ!!」

 
少年「…っ!」ビクッ!

少年「う、うるせぇっ!分かってるよ、しっかり見ててやるっつーの!絶対治せよっ!!」


通りすがりの男「…言われなくても」ニカッ

少年「…っ!」

…パァァッ!


通りすがりの男「すぐに治してやるからな。直ぐに元気になるさ」パァァァッ!

魔犬「ッ!」


…………
………

 

………
…………
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 現在 錬金術師のお店 】


錬金術師「…そうだったのか」

錬金術師「いや、そうだったんだな……。あの時の男が、青年錬金師…だったのか……」


母親「…私はそのお礼に青年錬金師の匂いを辿り、家に参りました」

母親「ですが、魔犬として生きてきた私は、言葉も知らず、何も知らず、ただ家の前に立ち尽くすだけ」

母親「そんな最中、脳裏にふと突然、知らぬ映像が次々と浮かびました」

母親「まるで、その時代を生きてきたかのように、走馬灯のように映像が流れ……」

母親「気が付けば、光の中で、私はこの姿になっていました」

母親「そして、青年錬金師は優しく接してくれて……」

 
錬金術師「…お前を認め、お互いに恋に落ちたと」


母親「…」コクン


錬金術師「…完全に思い出した。お前は、俺にそれを伝えると俺は反対したんだ」


母親「はい。当時、貴方は自分のものは自分のものだと豪語し、お父様に強く似ていられました」


錬金術師「…それで、恋の成就のため、過ごした日々の記憶を奪ったわけか」
 
 
母親「…」


錬金術師「…謝る必要もない。当時の俺は、それくらいしなければ絶対に許さなかっただろう」

 
女店員「ほ、本当におとぎ話みたいだね……」

銃士「お礼に行けば、人間の姿へとなった魔獣…か」

新人鉱夫「不思議ですね…」


錬金術師「…」

錬金術師「……先祖がえり、その可能性がある」ボソッ


母親「!」

女店員「先祖がえり…?」


錬金術師「…脳裏に浮かんだ、その映像。」

錬金術師「恐らく、自分の血を紡いできた中にいたであろう人型の魔物。」

錬金術師「その血に宿った魔力が覚醒し、見せたものだと思う」

 
母親「…!」


錬金術師「あんたを紡ぐ血の中に、人型魔族との関わり合いが何かしら深くかかわっていたんだろう」

錬金術師「覚醒することのないはずだった、封印された獣人としての魔力」

錬金術師「それが、馬車にひかれ瀕死状態となって、それを助ける際にやった青年錬金師の施術で覚醒した」

錬金術師「……偶然が偶然を呼んで、人としてお礼を思いたいアンタに、変異が起こったんだ」


母親「…」


錬金術師「…信じられないな」


母親「私が、魔獣だということ…ですか?」

 
錬金術師「…魔獣から変異することも、獣人として心の底から愛した人間がいることも。」

錬金術師「だが、その形がどうであれ…拒否する気もなければ、祝福する気持ちで一杯なのは本音だ」

錬金術師「それから今まで、二人は本気で生きてきたって分かるから…な」


母親「…っ」


錬金術師「…そして、当時の事を俺が覚えてるわけがなかったはずだ。」

錬金術師「獣人族、魔獣の純粋な魔法を使われたんだからな。」

錬金術師「人間である無力な俺が、どうこうしても思い出せるわけがなかったんだ」ハァ


母親「…短い間とはいえ、記憶を失わせたのは申し訳ありませんでした」

錬金術師「いや、いいんだ。俺だって同じ立場なら、そうしてたかもしれないしな」

母親「…」ペコッ

錬金術師「…」

 
母親「…それと、クー」

クー「?」

母親「少しだけ、ごめんなさい…」ソッ

…パァァッ!

クー「!」

クー「…っ」

クー「…」カクンッ

…スヤッ


女店員「あ、クーが!」

錬金術師「……寝た、のか?睡眠効果の魔法の類だな」

 
母親「…実は、クーに聞かれたくない話があります」

錬金術師「おいおい…。まだ何か秘密があるのか……」


母親「…」

母親「……クーにも、忘却と幻惑の魔法をかけてあるんです」


錬金術師「何!?」

母親「…」

錬金術師「ど、どういうことだ?クーにも何か、隠していることが?」

母親「…」

錬金術師「…一体、何を隠しているんだ」

 
母親「…」

母親「…知っておられるとは思いますが、父親の最期のことです」


錬金術師「!」

女店員「!」

銃士「…なるほど」

新人鉱夫「そういうことですか…」


母親「ココへ来る前に、父親を目の前で失ったことをこの子は見てしまったんです」

母親「…ショックだったでしょう」

母親「だから、私は父親のことを虚の記憶で埋めた。父親は、どこかへ遠くに仕事へ行ったんだと…」


錬金術師「…」

  
母親「…しかし、私の魔法が強すぎたせいで言葉の一部も失ってしまった」

母親「全てを解くのは一瞬です」

母親「で、ですけど…。父親を目の前で殺されたことを、この子には思い出して欲しくない……!」


錬金術師「…そういうことだったのか」


母親「…そして、ここまで話せば私が店長を頼った理由はお分かりだと思います」

錬金術師「知識を身に着けたお前が、頼れたのは有名になっていた俺だった……か」


母親「錬金師とし、知性もあり、今のあなたは頼るに十分すぎる存在だった」

母親「父親も、貴方と同じ職場で短いながら働き、やがて大きくなった貴方を頼ることに賛成してくれたんです」


錬金術師「…そうか。」

錬金術師「だが、それを踏まえても気になる点がある。この子は、俺により懐いてるように思えた」

錬金術師「そこも何か、工夫をしていたのか?」

 
母親「…いえ、それは当時、貴方につけてもらったスカーフです」

錬金術師「…!」

母親「プレゼントで貰ったのを覚えてます。首につけられたスカーフ、今も大事にしているんですよ…」

錬金術師「…スカーフについた、俺の匂いか」


母親「…はい。そして、この持ち主は素晴らしい人だ、お母さんの知ってる人なんだよ…」

母親「何かあったら、頼ってもいい人間なんだと、ずっと言い聞かせてきました」


錬金術師「…なるほどな。これで全てに合点がいったというわけか」ハァ

母親「…」

 
女店員「…店長」

錬金術師「ん?」

女店員「これからどうするんですか?クーにも母親が帰ってきたわけですし…」

錬金術師「…どうするも何も、母親がここに来たということは」チラッ


母親「…そのことなのですが」

錬金術師「…」

母親「昨日、夜中に貴方が夫の殺された現場に足を運んでいたのを見ました」

錬金術師「!」

母親「その時、危うく見つかるところでしたので、囮になって逃げたのですが…」

錬金術師「あの時のか…」


母親「そしてそのあと、娘が貴方に心から懐いてるのを見て…安心したんです」

母親「だから……」

 
錬金術師「…俺に預けるつもりか?」

母親「お願い出来ませんか…。」

錬金術師「…馬鹿いうな!母親はアンタだ、俺がどうこう出来る立場じゃない!」

母親「で、ですが…!」


錬金術師「ですがじゃねえよ!お前は、たった一人の親なんだ!」

錬金術師「それを、他人の俺に任せますじゃ…!クーがあまりにも可哀想だ!」


母親「…そ、そんなの分かってます!!」

錬金術師「!」


母親「だけど、まさか夫が殺されて、変な連中に追われることになるなんて…思ってもなかった……!」

母親「今となっては夫が死んだことや、娘がこんな境遇になったことを悔やんでも仕方ないのを分かってる…」

 
錬金術師「…分かってるなら、尚更、血縁のアンタが面倒を見るべきだ」

錬金術師「頼れるなら、俺を頼っても良いとは思う」

錬金術師「だが、この娘が最後の最後にすがるのは、誰でもない、アンタなんじゃないのか」


母親「…私と一緒にいては、娘まで危険になる!」


錬金術師「見た目は、立派な人だ。人間として、生きていく道もあるはず」


母親「…っ!」スクッ

パサッ…!


女店員「!?」

新人鉱夫「ふ、服を脱い…!?わわわっ!」バッ!

銃士「…!」

 
母親「こ、これでも同じ人間だと思いますか!?」クルッ


錬金術師「…」


母親「…確かに見た目は人型です。だけど、私は娘よりも獣の血が濃い…」

母親「時として、獣の血が戻り、より姿が戻ってくる…」

母親「人間から見れば、ただの化け物……。」

母親「私は、私だけでは、この世界を生きていくには…関われない、関わりあえないんです…」ブルッ


錬金術師「…」

錬金術師「…そんなアンタを、愛した人間がいた」


母親「!」

 
錬金術師「…この世だって、腐ったもんじゃない」

錬金術師「少なくとも、アンタを愛し、子を授かり、幸せを分かち合った人間が確かにいた」

錬金術師「……無茶なことなんてない。活路はどこかにあるはずだ」


母親「…っ!」


錬金術師「…人里離れ、山の中で、自給自足生活だって悪くないとか思わないか?」

錬金術師「クーと、田舎町っつー山の中へ行った時だったかな……」

錬金術師「自然の中で、コイツは一番はしゃいでいた」

錬金術師「…獣の血もあり、人里から離れた生活も悪いわけじゃないだろう」


母親「…っ」

 
錬金術師「…それとも、アンタはこの子を見捨てて一人で旅立つつもりか?」

母親「み、見捨てるなんて…」

錬金術師「見捨てると一緒だ。この子には、二度と治らない傷がつくんだ」

母親「…っ」


クー「…」


錬金術師「…アンタが見捨てることで、傷つき、二度と立ち直れないようにして、俺のもとで育ててほしいのか?」

錬金術師「そういう選択をしたいなら、それでいい」

錬金術師「このやり取りに、正解という正解はないんだからな」


女店員「ちょ、ちょっと店長そんな言い方…!」

 
銃士「…女店員、今回ばかりは店長が正論だ」スッ


女店員「!」


銃士「店長にいくら懐いていても、最後に頼れるのは…親。」

銃士「こんな幼い子を見捨てるのは、いくらなんでも…」


錬金術師「…」

母親「…」


女店員「…ッ」

銃士「…」

新人鉱夫「…」

 
錬金術師「…どうするんだ。アンタは、もうこの子と過ごしたくないのか?」

母親「…」

錬金術師「…」

母親「…」

錬金術師「…」


母親「…そ、そんなこと…」

母親「ないわけ……ない……っ!!」グスッ

母親「だけど、どうすればいいのか、私には分からなくて……!!」ポロポロッ

 
錬金術師「…」

錬金術師「…分からないとかじゃない!」

錬金術師「母親であるアンタは、その立場として!この子と、暮らしたくないのか!!」


母親「…っ!」

母親「…く、暮らしたいに決まってます!」グスッ

母親「幸せになれるなら、二人で…幸せになりたいっ……!」



錬金術師「…」

錬金術師「…そうか」ククッ

錬金術師「最初から、そう言ってくれればいいんだよ。それで、この子も救われると思うぞ」


母親「…っ!」

 
錬金術師「お前に、この子の前で、その言葉を言ってほしかったんだ」

錬金術師「今の叫びは、心の底から言えた言葉だと思う」

錬金術師「そう言ってくれたアンタなら、きっと…クーと幸せに暮らせるんじゃないか」


母親「…で、でも」


錬金術師「…俺も、アンタたちが幸せに過ごせる場所があるように、全力を尽くさせてもらおうか」

錬金術師「宛てがないわけじゃないんだ。きっと、大丈夫さ」ニヤッ


母親「えっ…!」


女店員「えっ?宛てが…?」

 
錬金術師「…まぁた迷惑かけちまうかもしれないが、悪くないと思うんだ」

錬金術師「あのオッサンなら、俺は信用できると思う。」

錬金術師「まぁ、何とかしてくれそうじゃね?」


女店員「…まさか」

錬金術師「人里離れてる田舎だし、あったけー人ばっかだし、信用できるし」

女店員「…だ、だけど」


錬金術師「…何とかしてみよう」フンッ

錬金術師「断られたら、また違う場所でも探せばいいさ!」

錬金術師「いざとなれば、隣町の機関にでもまた頼んでみるかぁ?」クククッ


女店員「ま、まぁそれはそうなんだけど…」

 
母親「い、いいんですか…!」


錬金術師「…気にするなって。っていうか、早く服を着ない?」

錬金術師「元魔犬だろうが、身体は女性のまんまなんだから、新人鉱夫が鼻血出してるぞ」


母親「あっ…」サッ


新人鉱夫「」


錬金術師「…」

錬金術師「…そうだ、娘の本当の名前は?俺らはクーって呼んでたんだけど」


母親「…あれ?手紙に入れておいたはずなんですけど…」

錬金術師「いや、聞いてないぞ」

 
母親「え?じゃあ何故、クーと娘の名前を……」

錬金術師「…」

母親「…」

錬金術師「…ぷっ」

母親「?」


錬金術師「…はっ、ははははっ!」

錬金術師「なるほどな、クー…か!やっぱりか!」


女店員「…」クスッ

新人鉱夫「さ、さすがです店長さん!」

銃士「やっぱりなぁ…。最初から、店長とつながりがあった存在だったんだよ」

 
クー「…」

クー「…っ」

クー「……うんっ」ボソッ


錬金術師「!」


クー「名前、嬉しかった……」

 
錬金術師「…お、お前起きて!っていうか、今、しゃべっ…!」ハッ!

母親「クー、言葉が…!」

女店員「クー!?」

銃士「しゃべれたのか!?」

新人鉱夫「…!」

 
クー「うん…っ」

クー「ごめん…なさい……」グスッ


錬金術師「クー……。い、いつからしゃべれたんだ…?」

クー「途中…から……」

錬金術師「どうして黙ってた?」


クー「前に魔法をかけられた時ね…。言葉を忘れてね……」

クー「お母さんにそのままがいいって…言ってたの…覚えてて……」


錬金術師「…!」

クー「…っ」


錬金術師「…」

錬金術師「…ま、待て。クー、まさか魔法が解けてるってことは…」

 
クー「お父さん…覚えてる……」ギュッ!


錬金術師「っ!」

母親「…っ!」


クー「だけどね、クーね、大丈夫……」

クー「店長ね、いっつもね……優しくしてれたから……っ」


錬金術師「…」

母親「クー…」


クー「…でも、昨日ね、店長がいなくなって……」

クー「お、お父さんみたく、ずっと…いなくなっちゃうって……思って……」グスッ

クー「ごめんなさい…泣いちゃって……!さっきも……!」ポロポロッ

 
錬金術師「…クー」ソッ

…ギュッ

クー「…っ」

錬金術師「子供が我慢するな。強気に見せるな。子供なら子供らしく、泣いてもいいんだ」ポンポンッ

クー「ひぐっ…」グスッ


錬金術師「…いつでも抱っこくらいしてやるっつーの!」

錬金術師「俺の温かさに酔いしれるがいいぞ、クー!」

ギュウッ!!
 

クー「!」

クー「えっ、えへへっ……」グシグシッ

 
錬金術師「…可愛いやつめ!」

クー「えへへっ…!」


母親「クー…」

クー「…お母さん」ニコッ

母親「ごめん…ね」

クー「ううん…!みんなといれて、楽しかったよ…!」

母親「クー…ッ!」グスッ

クー「…」ニコッ

 
錬金術師「…クーにはアンタが必要だ」

錬金術師「俺が全部進めるさ。」

錬金術師「幸せな生活が出来るよう、全力で尽くそう…」

錬金術師「…これ以上、怯えて暮らさなくてもいいように…な」


母親「…っ」ペコッ


…………
……

 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 十数分後 】


母親「…それじゃ、少しの間だけ頼みます」ペコッ

錬金術師「2日ほどか?」

母親「はい。全てを準備し、戻ってきます」

錬金術師「…家の周囲は危険だ。無理するなよ」

母親「クーの服や、道具、色々と持ってくるのもありますから…」

錬金術師「わかった」


クー「お母さん、早く戻ってきてね…!」

 
母親「クー、ちゃんという事きいて待ってるのよ?」

クー「んっ!」ビシッ!


女店員「クーってば、店長のマネはしなくていいんだからね~」

クー「は~いっ!」

錬金術師「…なんだ俺の真似って」

クー「へへーっ♪」


母親「それじゃ、急いで行ってきます」ペコッ

錬金術師「気を付けてな」

 
母親「…」ニコッ

…ガチャッ!、バタンッ……


錬金術師「…」

錬金術師「…行ったか」


新人鉱夫「それにしても、クーはしゃべれたんですかぁ」

クー「…ごめんなさい」シュンッ

新人鉱夫「あ、そ…そういうわけじゃないんだよぉ!べ、別に怒ってるとかじゃ!」


錬金術師「あ~あ~!泣かせた泣かせた、いけないんだいけないんだっ!」

錬金術師「こりゃあ、訴訟モンですわ。警備隊に連れて行かれますわ!」


新人鉱夫「あうっ…!」

 
女店員「この…!店員イジメはやめなさぁ~~~い!」

ビュッ…!!ゴチィンッ!!!

錬金術師「」

…ドサッ!


銃士「うわお…」

クー「わ~…」

新人鉱夫「こ、後頭部をハンマーで…」


錬金術師「…」

錬金術師「…さ、殺人事件だぞこれはオイ!!」ガバッ!!

 
女店員「きゃーきゃー!」

錬金術師「今のは死ぬぞ、マジでコラァ!」

女店員「ちょっ、またしがみつくなぁ!!きゃあ~~っ!」

ギャーギャー!!


クー「おぉっ……」

銃士「クーには悪影響だな」

新人鉱夫「はは…」


錬金術師「…ったく!この野郎~~!」ワシャワシャ!

女店員「へ、変態~~!」

 
錬金術師「誰が変態だ、コラァ~!!」グイッ!

女店員「せくはらぁぁ!」
 
錬金術師「なにを~……!」


………
……


……ドギュウゥゥンッ!!!!!……

バサバサッ……!


……
………


錬金術師「!?」

女店員「えっ!?」

新人鉱夫「い、今の音は…!」

銃士「じゅ…銃声っ!?」

クー「…!」

 
錬金術師「…ま、まさか」

女店員「店長っ!」

錬金術師「…わかってる!」ダッ!

女店員「…っ!」ダッ!

銃士「…私も行くぞっ!」ダッ!


新人鉱夫「…クー」

クー「クーも…行く……!」

新人鉱夫「…うん」ダッ!

クー「ま、ママッ……!」ダッ!


ダダダダダダッ…!!

…………
……

 

……
…………
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 お店付近の林 】


錬金術師「はぁ、はぁ……!」

錬金術師「今の銃声はこの辺からだったな……!」


女店員「はぁっ、はぁ……!」

女店員「…っ」キョロキョロ

女店員「…」

女店員「…!」ハッ

女店員「て、店長っ!あそこに!」


錬金術師「!」

 
…ドロッ


錬金術師「あの、赤い溜まり…まさか…!!」

錬金術師「……っ!!」ダッ!


ダダダダダダッ……!!

ダダダダダッ…!

ズザザァ…!


錬金術師「…っ」ハァハァ

錬金術師「……ッ!」ハァハァ

錬金術師「嘘…だろ……!?」ハァハァッ!

 
母親「…」

ドロッ……


錬金術師「…嘘だろ、嘘だろっ!嘘だろっ!!!」

クー「…まま?」

銃士「クー、見るな!」バッ!

女店員「く、クーのお母さんっ!?」

新人鉱夫「ど、どうしてっ!!」


錬金術師「…嘘だろ嘘だろ!!おい!!」

錬金術師「何でここで倒れてるんだよっ!!」

 
女店員「なんで……」


錬金術師「お前は、クーと一緒に幸せになるんだろうが!!」

錬金術師「こんな場所で倒れてる暇なんかねぇだろ!!」

錬金術師「目ぇ覚ませよ、おい、おい!おいっ!!!」

 
女店員「てん…ちょ………」ヘナッ

銃士「どこのどいつが…!」ギリッ!

クー「ママ……」ヘナッ

新人鉱夫「な、なんで…!」


錬金術師「クーはどうするんだよ!!何、こんな場所でやられてんだ……!!」

錬金術師「ふざけんなぁぁぁああっ!!」

錬金術師「目ぇ覚ませ、クーシィィィッ!!」

 
母親「…」

母親「…」

母親「……っ」ピクッ


錬金術師「…っ!?」ハッ

錬金術師「…生きてる、のか」


母親「うっ…」ピクッ


錬金術師「い、生きてる…!クー!母さん、生きてるぞ!!」

クー「ママ…!」

女店員「い、生きてるの!?良かった…」ヘナッ

銃士「だが、呼吸が浅い!急いで治療院に運ばないと!」

 
新人鉱夫「僕、治療院の人らに声かけてきます!」ダッ!

ダダダダダッ…………


母親「…っ」

ドクッ…ドクッ……


錬金術師「…こ、この血の量では間に合わない!」

女店員「な、何とかならないの!?」

錬金術師「…クーシィ、失礼するぞ」

ソッ…ビリビリッ…!


母親「…ッ!」ズキンッ

 
錬金術師「…胸の下と、腹部に一発ずつの銃創…!貫通弾か…!」

女店員「…ッ!」

錬金術師「銃士、ヒールを使えるなら使えるだけ頼む!」

銃士「わかった!」パァァッ!


錬金術師「…だが、これだけでは血も体力の回復も追いつかない!」

錬金術師「女店員、店の在庫にあるアカノミをあるだけ!」

錬金術師「それと、倉庫に出てる錬金道具も一式持って来い!」


女店員「う、うんっ!」

クー「クーも…手伝う……っ!」

女店員「…うんっ」

クー「…」コクンッ

 
錬金術師「安心しろ、クー。必ず母親は助けてやる!」

クー「…っ」コクンッ


錬金術師「しかし、誰が…!」

錬金術師「…」

錬金術師「……!」ハッ!

錬金術師「…お、女店員待てっ!後ろだっ!」


女店員「えっ?」

…ガシッ!

女店員「きゃああっ!?」

錬金術師「…っ!」

…ヌッ!

アルス構成隊長「ぜぇ…ぜぇ……!」ギロッ

 
錬金術師「てめ…!気絶してたのを軍に引き渡したはずじゃ……!」

アルス構成隊長「軍の面子に、腕も折られたがぁ…仕事を失敗するほうが怖いからぁ……!」ゼェゼェ

錬金術師「逃げてきたのか…!」

アルス構成隊長「俺はアルスマグナの武闘派ぁ…。そうそうやられんよぉ……!」ハァハァ

錬金術師「こ、こんな時に……!」

アルス構成隊長「…その獣人のメスぅ、殺してでも持って帰るぞ…!」ゼェゼェッ

錬金術師「やらせると思うか…!」


アルス構成隊長「いう事ぉ、聞かないのかぁ…?人質がいるんだぞぉ……」ググッ

女店員「…がはっ!」ビキビキッ!


錬金術師「てめぇ……!」

 
アルス構成隊長「何もするな、そのまま見捨て、殺せ……!」

アルス構成隊長「遺体だけでもいいから、持ち帰ることにしたんだぁ……!」


錬金術師「…っ!」

女店員「て、店長!私のことは…!ごほっ……!」ギリギリッ

錬金術師「…見捨てなんかしねぇ!!余計な事言うんじゃねえ!!黙ってろォ!!」

女店員「ッ!」

 
銃士「くっ…!」チャキッ!

アルス構成隊長「おっと、動くなぁ!」スチャッ!


…ズキュウンッ!!!

ガキィンッ、クルクルクルッ…ガシャアンッ!


銃士「わ、私の銃が!何て早さ……!」ギリッ

 
アルス構成隊長「ふっ、ふははははっ!」

アルス構成隊長「銃は元々、我ら錬金師の武器だもぉん…!」

アルス構成隊長「歴史の浅い銃使いに、まけるわけがなぁい…!」

アルス構成隊長「形勢逆てぇ~ん……。ふ、ふふふふっ!」


錬金術師「てめぇ……!」


アルス構成隊長「…見捨てないなら、この女の首ぃ、へし折るだけだけどぉ…!」

ググッ、ググググッ……!ミシミシッ!

女店員「がっ…はっ……!ゲホッ…!」ビキビキッ!


錬金術師「やめろォッ!!」


アルス構成隊長「んふふっ……!」ググッ!

 
錬金術師「…ッ!」

錬金術師「……ッ!」


母親「わ……たし…は、いい…で…す……か…ら……」ゲホッ!


錬金術師「…め、目の前で死ぬんじゃねぇよっ!!母親なら、子のため、生きるんだよッ!!」

 
母親「…っ」


銃士「て、店長…!どうすればいいんだ……!」


錬金術師「…よ、ようやく全てが終わるところだったっつーのに!クソ野郎がぁ!!!」


アルス構成隊長「ふふふふっ!あっはっはっ!あはははっ!!」

 
錬金術師「…」

錬金術師「…っ」

錬金術師「…こ、これしかねぇか…!」

錬金術師「……おい、デカブツ!」


アルス構成隊長「何かなぁ?」

錬金術師「…お、お前を昇進できる立場にしてやる!それで手を打たないか!」

アルス構成隊長「…昇進だとぉ?」


錬金術師「…こんな獣人族の一人、遺体で持ち帰っても仕方ないだろう」

錬金術師「俺が、お前を昇進できる位に役立つ錬金道具を造ってやる!」

錬金術師「それで、手を打ってくれないか…!」

錬金術師「今、この子や母親は幸せになってほしいんだっ!!」

 
アルス構成隊長「…」

アルス構成隊長「……お断りぃ」ニタァ


錬金術師「っ!」


アルス構成隊長「身体はでかいけど、堅実に進めるタイプなんだよねぇ……」

アルス構成隊長「約束は嘘をつかないわけじゃないし、遺体のほうが確実だしねぇ……」


錬金術師「く、くそがぁっ!」


アルス構成隊長「あんた煩いから、黙ってて…」カチャッ

…ズキュウンッ!!!バシュッ!


錬金術師「!?」ブシュッ!

 
女店員「て、てんちょ……!」

クー「あっ…!」

銃士「て、店長っ……!!」


錬金術師「…あ゛っ…?」

…ブシュッ!ドロッ…!


アルス構成隊長「話す間に、色々やられちゃうことってよくあるし……」

アルス構成隊長「アナタは、最後まで面倒そうだから…先に倒しちゃう」ニコッ


錬金術師「うそ…だろ……」


…ドシャアッ…

 
女店員「てっ……!」

銃士「店長っ!!!」

クー「…ッ!」

母親「……っ」


錬金術師「…」

ドクッ…ドクッ…

 
アルス構成隊長「あ、あはははっ!よぉっし、あとは大人しくしてることぉ!」

アルス構成隊長「獣人のメスが死ねば、それで終わるんだからぁ!」

アルス構成隊長「ま、娘さんも貰っていけばいいかぁ……」ニタァ

 
クー「て…んちょ……」

トテテテッ……

錬金術師「…」

クー「てんちょ…う…?」
 
錬金術師「…」ユサユサ

クー「やだ…」

錬金術師「…」

クー「いやだ…!やだ……!しんじゃだめ……!!」


女店員「…ッ!」

銃士「な、なんで…こんな……」


クー「ままも、てんちょうも、やだ!!いやっ!!やだぁぁぁああっ!!」

 

…………
……


……ドギュウウンッ!!!……


……
…………

 
 
銃士「っ!?」

女店員「こ、今度は…なんなのぉ!もう、いやぁっ…!!」

クー「…!」


アルス構成隊長「…」

アルス構成隊長「…」

アルス構成隊長「……なに、これ……」ゴフッ

…ズリッ、ドシャアッ…


銃士「な、何っ!?」

女店員「…きゃあっ!」

…ドテッ!

女店員「い、いったぁい…!ど、どうしてこの男が倒れたの…!」

女店員「…っていうか、てんちょ……!」ハッ

 
クー「…あっ!」

銃士「…はは、そういうことね」

女店員「てっ…!」


錬金術師「…さすがに、倒れこんだ死角からじゃ…弾丸も予想できなかったか?」チャキッ

シュウゥッ……


女店員「て、店長……っ!店長っ~~!」

ダッ…ダキィッ!!ギュウウッ!


錬金術師「…い、いてててっ!撃たれてるんだよ俺は!」

錬金術師「ま、まるで死んだような迫真の演技だっただろ……ゴホッ!」

 
銃士「どうして、銃を…」

錬金術師「…返す」

…ポイッ

銃士「わっ、私のか!」


錬金術師「倒れた拍子に、お前の吹き飛ばされた銃を拾ったんだ」

錬金術師「…隙を見つけて、雷撃弾の装填で打ち込んでやった」

錬金術師「あの図体でも、2度目の雷撃はさすがに耐えれんはずだ…」ゴホゴホッ!

ドクッ…ドクッ……


女店員「で、でも血がっ!」


錬金術師「…撃たれたことにゃ変わりないが、俺は致命傷じゃねえ。すぐには死なねぇよ…」ゲホッ!

錬金術師「それより、母親だ…!銃士、ヒールの続きを……!」


銃士「わ、わかった!」パァァ!

 
クー「て、てんちょお…」グスグスッ

錬金術師「…お前が声をかけるのは俺じゃねぇ…。母さんだろうが、行って来い……!」バッ!

クー「う、うんっ…!」


錬金術師「女店員、倉庫からアカノミを持って来てくれ…!」

錬金術師「俺はいいから…!」


女店員「で、でもっ…!」


錬金術師「俺も、それで治すからよ……」ニカッ


女店員「う、うんっ…!」コクッ

タッ、タタタタタッ………

 
錬金術師(……ってぇな、クッソ!)ズキンッ!

錬金術師(まさか、銃で撃たれる日が来るなんて思わなかったぜ……)

錬金術師(あ~あ…)ゼェゼェ

錬金術師(手術、こえぇなぁ……)ハァハァ

錬金術師(弾丸摘出とかすんのかな……)

錬金術師(ん~…目が霞む……)フラッ

錬金術師(俺が倒れても、銃士がアカノミの配分は知ってるはず…だし……)

錬金術師(くそっ…眠い…な……)

錬金術師(ぐっ……)

錬金術師(…)


……ドシャッ……

 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・
・・・・
・・・
・・

 

・・
・・・・
・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 町の治療院 】


錬金術師「…」

錬金術師「…」

錬金術師「…」

錬金術師「……あっ?」パチッ


モゾッ…


錬金術師「こ、ここは……」ムクッ

 
…スンッ

錬金術師「白い部屋、薬品の香り、治療院…か?」キョロキョロ

錬金術師「…」

錬金術師「…一体、俺は」


…ガチャッ!


銃士「…あっ!起きてるよ!」

女店員「て、店長っ…!」ブルッ

新人鉱夫「よ、良かったですぅぅ…」ヘナヘナ


錬金術師「お前ら……」

 
女店員「て~んちょお~っ…!」

ダダダダッ、ギュウッ!!

錬金術師「おふっ」

女店員「よ、よかったぁ……!店長っ…!」

錬金術師「…おいおい、わかったわかった!」

女店員「あうぅ……」グスッ


銃士「…ずいぶんと寝てたね。治療員の話じゃ、腹部に受けて、危ない所だったって話だよ」

錬金術師「俺は、どれくらい寝てたんだ」

銃士「…10日目さ」

錬金術師「!」

銃士「色々と、聞きたいこともあると思うけど…」

 
錬金術師「…そ、そうだ!クーは!?」

錬金術師「母親はどうなった、無事なのか!?」


女店員「て、店長。そのことなん…だけど……ね」

錬金術師「…どうした」 
 
女店員「その…」

錬金術師「…まさか!」


…ガチャッ!

中央商人「…おっ、目が覚めたんじゃねぇか」

機関長「やれやれ、心配かけおって。お前はいつもそうだな」


錬金術師「…あぁん?」

 

……
…………
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 数分後 】

女店員「…っていうわけ」


錬金術師「…はぁ」

錬金術師「母親は機関長のオッサンの施術で助かって、クー共々、隣町機関で預かってる…と」


女店員「うん…」

錬金術師「…で、何でこのムサイーズはここにいるんだ?」


中央商人「おいコラ」

機関長「オッサン二人だが、ムサイーズはないんじゃないか……」

 
女店員「それはほら、店長が言ってた…」

錬金術師「…中央商人を頼るって話か?」

女店員「うん。一応、それを話したら中央商人さんがココへきてくれて…」

錬金術師「…そういうこと。中央商人サン、わざわざドモっす」ペコッ


中央商人「…お前が倒れたという話を聞いて、一応な」

中央商人「それに、あの二人の面倒を見てほしいとか言われ、どういうことなのか聞きに来たんだ」


錬金術師「なるほど…。」

錬金術師「…機関長、クーたちは元気なのか?」


機関長「あぁ、うちの部下と上手くやっている」

機関長「ただ、クーが元気すぎて白学士と錬成師は泡吹いてるがな」ハッハッハ


錬金術師「…そうか」フッ

 
機関長「…この町の治療院に運ばれた時、母親のほうが大変だったんだぞ」

錬金術師「ん?」

機関長「…獣人族として、バレるところだった」

錬金術師「あっ…」


機関長「応急処置だけ済ませ、女店員共々俺のところへきたんだ」

機関長「…俺が施術をしてやったが、もう問題ない。大丈夫だ」


錬金術師「…あんがと」

機関長「んむ」

錬金術師「女店員も、わざわざすまなかったな。助かったよ」

女店員「うんっ!」

 
錬金術師(…考えたら、俺が施術をしなければならなかったんだよな)

錬金術師(あの時は頭が動転して、治療院しか考えられなかった)

錬金術師(それに気絶しちまうし、くそっ!落ち着きや行動の点じゃ…まだまだだな、俺も)


女店員「それで店長、クーたちのこと…これからどうするの?」

錬金術師「どうするったって、本人らを交えないと話もできんだろうに…」

女店員「…あ、そっか」


銃士「ふむ、それなら問題ないんじゃないかな」

錬金術師「うん?」

銃士「確か、クーたちは今日ー……」


…ガチャッ!

クー「んっ♪」ビシッ!

母親「…」ペコッ

 
錬金術師「…クー!」

クー「あっ、てんちょ~!!」

ダダダダッ、ギュウッ~!グリグリッ!


錬金術師「うははっ!母さんも元気なようで、良かったな、クー!」

クー「うんっ!」

錬金術師「お前の笑顔、屈託のない笑顔を見れて…嬉しいぜ」

クー「…くったく?」

錬金術師「…最高の笑顔ってことさ。可愛いやつめ!」

…コチョコチョコチョッ!

クー「えへへへっ!きゃ~!」

ワイワイッ…!

 
…ザッ

母親「…その節は、本当にお世話に」ペコッ

錬金術師「…クーシィ」

母親「…」

錬金術師「…傷は」

母親「人より治りが早く、もう…大丈夫です」

錬金術師「そうか、よかった」

母親「…」ニコッ


錬金術師「…それじゃ、クーとクーシィ、中央商人サンと機関長以外は出てってくれないか」

錬金術師「少し、今後のことについて話合いたいんだ……」

 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 治療院 待合室 】


銃士「…店長、元気になってよかった」
 
女店員「うんっ…」

新人鉱夫「ですねっ…」


銃士「それにしても、クーたちはこれからどうするんだろうね」

女店員「機関長に預かってもらうか、田舎町で中央商人さんにお世話になるか…だったかな」

銃士「クーのためを思うと、やっぱり中央商人さんのほうがいいのかもなぁ」

女店員「自然が多い場所のほうが、喜んでたしね」

 
新人鉱夫「…でも、クーは拒否しそうですよ」

女店員「どうして?」

新人鉱夫「隣町ならまだしも、田舎町とか遠くになると…店長さんと会うことは難しくなるじゃないですか」

女店員「あ~…」

新人鉱夫「店長さんに懐いてるクーなら、難しいと思いますが…」


銃士「だけどな、隣町だと足が着く危険性がある」

新人鉱夫「足…ですか?」

銃士「アルスマグナの連中が、そうそう諦めるとは思えないし」

新人鉱夫「!」

銃士「だったら、田舎の方がいいんじゃないかって思うんだ」

新人鉱夫「確かに…そうですね」

 
女店員「…とにかく、店長がどう考えているかかなぁ」

銃士「だね」

新人鉱夫「それなりに時間もたちましたし、そろそろ来てもー……」


…ガチャッ!…


錬金術師「…おう、話はついたぞ」

女店員「店長っ!」

銃士「それで、どうなったの?」

新人鉱夫「どうなったんですか?」

 
錬金術師「…とりあえず、中央商人の家で面倒を見て貰えることになった」クイッ


中央商人「長生きしてみるもんだな!こんな美人と住めることになるとは」ハッハッハ

錬金術師「…手ぇ出さんでくださいよ」ハァ

中央商人「バーカ、俺も歳だ。出したくても出せないっつーの」

錬金術師「ならいいんですけどね」ジトッ

母親「…」クスッ


クー「…お爺ちゃんが出来た!」

中央商人「おうおう、かまわんぞ!爺ちゃんとでも呼んでくれ!」

クー「うんっ♪」

中央商人「はっはっはっ!」

 
機関長「…」

機関長(…このまま住まわせておけば、美人との暮らしも待っていたというのに!)

機関長(ぐぬっ…!)


錬金術師「…そして時たま、機関長のところで身体の様子は見てもらう」

錬金術師「術士先生なら女性同士だし、腕も確かだから病気の際に役立つだろう」


女店員「なるほどね~」


錬金術師「やっぱり、自然の中で育てたほうがいいし、山の中へ離れたほうがいいと思ったんだ」

錬金術師「最初は泣いて嫌がってたけどなー。うりうりっ」

グリグリッ…

クー「だ、だって…。店長と離れちゃうの…やだ……」グスッ

 
錬金術師「…いつでも会えるさ」

クー「…っ」コクン


中央商人「…ははは、俺はこれでも、いっぱしの元社長だぞ!」

中央商人「少なくとも、俺は俺の力を使って…この子たちを幸せに、守っていけるはずだ」


母親「…本当にありがとうございます」ペコッ


中央商人「そんな畏まるな。」

中央商人「店長が俺と知り合ったことも、今日という日も、全部運命だってことさ」

中央商人「ただ、注意してほしいことがある」ギロッ


母親「…なんなりとおっしゃってください」

 
中央商人「…本当に田舎だし、畑やらもするし、虫も多い!」

中央商人「そんな生活に、アンタみたいな美人と!可愛い子供で!耐えられるかぁ!?」


母親「…!」

母親「…が、頑張ります。元々、獣なんですよ私たちは」ニコッ


クー「クーも頑張るっ!」

中央商人「くははははっ!そうかそうか!」



機関長「…」

機関長「いいなー…」ジトッ


錬金術師「…」

 
機関長「…」ハッ

機関長「ご、ごほんっ!みんな幸せな道を見つけたようで何より!これから頑張ろうな!」

 
錬金術師「…しょぼくれてんなよ、オッサン!あんたにもいつか春が来るさ!」

バンバンッ!!

機関長「い、いててっ!うるさいぞ!」

機関長「お前こそどうなんだ、お前にだって春は来てないだろう!」


錬金術師「えっ、俺?」


機関長「…中途半端にモテたりするくせに、恋愛っ気もないじゃないか!」

機関長「人に言う前に、お前が相手を見つけてから言ってくれぬか!」フンッ


女店員「!」ピクッ

銃士「!」ピクッ

 
錬金術師「…あ、あぁんっ!?」

機関長「オメーだって独り身だろうが!バーカバーカ!」

錬金術師「う、うっせぇ!俺はいいんだよ!」

機関長「なーにがいいだか!女性に囲まれた職場や、出会いがあるくせに一歩も踏み出せないだろーが!」

錬金術師「放っとけ!!」

機関長「ほらほら、銃士くんや女店員くんとかに声をかけてみたらどうだ!」

錬金術師「何であいつらに声かけないといけないんだよ!」

機関長「その哀しみを分かち合うように、慰めてもらえばいいんでないかい!」

錬金術師「んだとぉ!」

機関長「なんだぁ!?」

ギャーギャー!!!

 
クー「…」オロオロ

クー「…」オロオロ

クー「…」グスッ

クー「けんか…ダメだよぉ……」ヒグッ


錬金術師「はっ!」

機関長「はっ!」


クー「ダメだもん……」グシグシッ


錬金術師「け、ケンカなんかしてないぞぉ!」

機関長「そ、そうだそうだ!今度、こういう劇があってそういう練習をだな!」

 
クー「…そうなの?」ブルッ

錬金術師「お、おうよ!ほらほら、機関長と俺は仲良しだ!肩組んで踊るんだ!」ガシッ!

機関長「凄い仲良しなんだぞ!ほらっ!」ブンブンッ!


クー「…」

クー「……え、えへへっ。本当だ……」ニコッ


錬金術師「ふぅ…」

機関長「はぁ…」


女店員「……何してるんだか」

銃士「はは…。クーという最強の敵が出来てしまったな」

 

……
…………
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
―――――【 少しして 】

 
錬金術師「…はぁ、全員帰ったか。クーらは中央商人の一軒家に向かったし」

女店員「銃士と新人鉱夫も、お店番に戻ってるって」

錬金術師「クーたちはあの人らに任せとけば安心だ」


女店員「うんうん。クーもまた遊びに来るって言ってたし」

女店員「あ、と、は~……っ!」クルッ


錬金術師「ん…」

ヌッ…グニッ

錬金術師「あだだだっ!?」

女店員「店長がお店に戻ってくれば、万事解決っと♪」

 
錬金術師「び、病人になんてことしやがる!」ズキズキ

女店員「ちょっと頬をつねっただけでしょー!」

錬金術師「いてぇの!」

女店員「えへへ~♪」


錬金術師「…」

錬金術師「はあぁ~……。早く、店に戻ってピーナツ食って過ごしたいぜ」


女店員「それよりお店の経営でしょ」ジトッ

錬金術師「わ、わかってるわ!」

女店員「どーだか」ジトォッ

 
錬金術師「…いつ治るんだかなぁ」

女店員「店長は純粋な人間なんだから、しっかり完治するまで入院だからね!」

錬金術師「分かってるよ!」

女店員「銃に撃たれて倒れるとか、一生に一度の体験じゃない?」

錬金術師「…二度とゴメンだっつーの」


女店員「…」

女店員「…でも、さ」


錬金術師「ん」


女店員「…店長が生きててくれて、本当によかった」
 
女店員「私、あんな風に店長と別れるの絶対に…嫌だったもん」

 
錬金術師「…」

錬金術師「……バーカ!」

…グイッ!

女店員「ひゃっ…!」


錬金術師「俺を誰だと思ってる?」

錬金術師「そうそう死ねないんだよ!まだまだ俺は、この世で遊び足りないからな!」


女店員「…うんっ」


錬金術師「…」

スルッ…サワッ…

女店員「ッ!?」

 
錬金術師「…お?柔らかい…」

女店員「ち、ちょっとドサクサに紛れてどこ触って……!」

錬金術師「ち、違う!!今のは、手が滑ったんだ!!」

女店員「…こ、このぉぉぉっ!」

錬金術師「ま、待て……!」 
 
 
……ガチャッ

銃士「失礼するよ。店長、言い忘れてたことがあってー……」

新人鉱夫「あっ……」


女店員「ばかぁぁぁあっ!!」

 
ビュッ!!ゴチィィィンッ…!!!

錬金術師「」

女店員「天誅っ!!」ビシッ!

…ドサッ

錬金術師「」ピクピク


銃士「…」

新人鉱夫「…」

銃士「…くくっ、ははははっ!どこでも変わらないな、店長は!」ハッハッハ

新人鉱夫「凄く安心しますよね。早く、お店に戻って来てくださいね!」

 
女店員「あっ…!ふ、二人とも……」

銃士「くくくっ…」

新人鉱夫「あははっ!」


錬金術師「…」

錬金術師「…て、てめぇら…」プルプル

錬金術師「ちったぁ、病人の俺を心配しろ、泣くぞこらぁぁぁっ……!!」


……………
………

 
・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・
・・・・
・・・
・・

 
――――そして。
 

店長たちの交友関係に、クーと母親、中央商人が加わった。

クーは、素晴らしい仲間たちに囲まれ、これからも成長していくことだろう。
 

一方、店長は少し遅れつつも無事に退院。

お店の切り盛りに追われると思ったが、お店はいつも通りの平常運転。

ようやく、落ち着いた日々が戻ってきたのだ。


……だが。

その中でただ一人、悶えている男がいた……。

 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 その頃 セントラルカンパニー最上階 】


親父「…どういうことだ、コレは!!」ドンッ!!

バサバサバサッ…!


秘書「…完全にやられました」

秘書「あの、中央商人の持ってきた権利書には制約が多く、使えたものではありません…」

秘書「しかも、この内容では中央商人様自身が得をするように仕掛けられており……」


親父「あ、あのクソ野郎……!」

親父「俺に対して、一杯食わせやがったのか……!」ギリギリッ!


秘書「進行をさせていた企画は倒れ、数百億ゴールドの損害が出ております」

 
親父「…分かっている!」

秘書「…っ」

親父「…許さんぞ。これを計画したのは、クソ息子か!」

秘書「いえ、彼の単独犯だと思われます」

親父「…ならば!あの田舎町を買い取り、全てを潰す!アイツの住む町など、灰にしてくれるっ!」バッ!

秘書「そ、そうおっしゃると思って、準備も進めようとしたのですが……」

親父「…なんだ!!」


秘書「田舎町は、政府が直々に保護をした特別区域になっています…」

秘書「…世界に影響を及ぼす成果をあげた、"竜騎士"という男が住んでおり、国がそう定めているらしく…」

 
親父「なっ、なんだと……!!」

秘書「す、全て…反撃を出来ない事を含め、彼の、"中央商人"の計画のうちだったと……」


親父「バカな…!そんなバカな!!」
 
親父「俺が、この俺がぁぁぁ…!!」

親父「あんな引退した、隠居野郎に負けたというのかっ!!」ギリッ!


秘書「…」


親父「く、クソっ…!クソがぁぁっ!!」

親父「このままでは、絶対に済まさんからなっ……!!」
 
 
……………
………

 

………
……………
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 そして 錬金術師のお店 】


錬金術師「…」ポリポリ

錬金術師「…」ポリポリ

錬金術師「…」ポリポリ

錬金術師「…」ポリポリ


女店員「…店長」


錬金術師「んあ」

 
女店員「いつまでポリポリしてるの!早く仕事して!」

錬金術師「おいおい…。このメープルピーナツが絶賛の嵐なんだよ」

女店員「な、に、が、絶賛の嵐なの!」

錬金術師「世界単位で話題なんだよ」

女店員「店長が退院してから、外に出てるの見たことないんだけどなー?」

錬金術師「ばれたか」ポリポリ

女店員「バレバレだから!!」


…ガチャッ

新人鉱夫「ただいまですー」

銃士「ただいまー」

 
錬金術師「あ、おかえり~」フリフリ

女店員「あ、お帰りなさい」


銃士「はっはっは、いつもと本当に変わらないパターンだな」

新人鉱夫「外まで響く、女店員さんの怒鳴り声!お店のスパイスですね!」

女店員「あうっ……」

錬金術師「…ははは、ドンマイ」ポンッ


女店員「…」

女店員「…」プルプル

 
銃士(あ、これは……)

新人鉱夫(落ちまで完璧に釣るとは、さすがです店長さん!)


錬金術師「まぁ、君もこの言われようなので心を入れ替えてー……」

女店員「だぁ…れぇ…のぉ……!!」グググッ

錬金術師「へっ?」
 
女店員「せいだとっ!!思ってるのぉぉぉぉっ!!!」

ビュオッ!!!!ゴッチィィィィンッ…!!!


…ドサッ!


錬金術師「」

  
女店員「はぁ~!はぁ~……!」ゼェゼェ

銃士「ナイス鈍器攻撃!」ビシッ!

新人鉱夫「さすがですね!」

女店員「はぁ……」


…コンコンッ…


女店員「ん……」

銃士「おっ?」

新人鉱夫「このタイミングでお客さんですか?」

女店員「…かな?」


錬金術師「ど、どーじょー……」ピクピク

 
…ガチャッ!


女店員「…」

女店員「……あっ!」


銃士「おっ!」

新人鉱夫「あっ!」


クー「…えへへっ!遊びに来たよ!てーんちょっ!」ピョンッ!


錬金術師「…」

錬金術師「…おう、いらっしゃいませ。最高のお客様」ニカッ


…………
………

 
・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・
・・・・
・・・
・・

 
It is not time to close a shop!
―――――――――――――――――――――――
錬金術師「面倒だけど経営難に立ち向かう事になった」

新人鉱夫「その3!」
―――――――――――――――――――――――
Continues to the next story....Don't miss it!
 
 
【 E N D 】

 
錬金術師の第三弾の本編は、これにて終了になります。

今作は、一風変わった作品に仕上がったとは思いますが、途中途中で

「あれ、この話の流れは店長らしくないな」と、思うところもあったと思います。

そして、色々と錬金術要素を盛り込んだり、父親との戦いを初めて直接的に描いたりしました。


全てが終わってみると、裏をかきつつの、物語の真相を解く、

前作程ではありませんが、ミステリー的なファンタジー作品として店長たちは活躍したのではないかと思います。

…また、今作のように店長一派がガッツリ戦うシーンは珍しく、新鮮さとともにウキウキしておりました。


本編が終了し、次回は「短編」予定しております。

不思議な道具で起こすハプニングの、短く楽しめる作品と予定しておりますので、

是非、最後までお付き合いいただければ嬉しい限りです。

それでは、ありがとうございました。

P.S
最後が長くなってしまい、申し訳ありませんでした
(年明けまでに終了させたく思っておりました)

それでは、良いお年をお迎え下さい。ペコッ

皆さま有難うございます。
事情があり、大変遅くなりましたが短編の投下、開始いたします。


【 スペシャルエピソード 】
 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 とある日 錬金術師のお店 】


…ガチャッ!


女店員「はぁ~!疲れた、ただいま~」

錬金術師「おーう」

銃士「お帰り」

新人鉱夫「お帰りなさい~」


女店員「うっ、うぅ……」

女店員「相変わらず、どこに営業してもダメだった……」ガクッ

 
錬金術師「はっはっは」

女店員「…」ギロッ

錬金術師「ごめんなさい」

女店員「あのね…。うちは今、経営危機なの。わかる?」

錬金術師「んなの年中だしな」ハッハッハ

女店員「…」ギロッ

錬金術師「ごめんなさい」


銃士「やれやれ、飽きないやり取りだな」ハハハ

新人鉱夫「あはは…。でも、これがこのお店の良さですよ、なんて」

 
女店員「…」

女店員「…あ、そうそう。営業回りしてたら、これ貰ったんだよね」

…ゴトッ!


錬金術師「何この箱」


女店員「あの、魔法堂のおばあさ」

錬金術師「捨ててきて」


女店員「はやっ!」


錬金術師「…お前、あのスゴロクでどんな目にあったか忘れたのか」

(※「経営難その2」番外編等を参照)

 
女店員「そ、それはそうだけど~…」

女店員「折角だから持って行けって、しつこかったから……」


錬金術師「…どうせ、またろくなもんじゃないのは分かってるからな」

錬金術師「開ける前に、さっさと燃やしちまうぞ」ハァ


女店員「あ、うん…」


錬金術師「どれ、よいしょ……」

ヒョイッ…ポロッ

錬金術師「おっと……」

 
コロコロ……ピカッ!


錬金術師「ぬぁっ!?」

女店員「へっ、箱が光って……!」

銃士「何っ!?」

新人鉱夫「うっ、まぶしっ……!」


ピカァァァアッ……!!バシュンッ!!

 
錬金術師「…っ!」

女店員「…」

銃士「…」

新人鉱夫「…ひ、光っただけ…?」


錬金術師「なっ、なぁんだ……」

女店員「光っただけか、驚かせやがって……」


銃士「びっくりしたけど、何もなかったようだね」

新人鉱夫「あはは、良かったですね…」

 
錬金術師「…」

女店員「…」

銃士「…」

新人鉱夫「…」


錬金術師「…あれ?」

女店員「ん…?」


銃士「…え?」

新人鉱夫「えっ…」

 
錬金術師「…何で、私が立ってるの?」

女店員「なんで俺がもう一人いるんだ」


銃士「…」

新人鉱夫「…」


錬金術師「…え?」

女店員「あぁん…?」


銃士「…え、まさか」

新人鉱夫「ま、まさか……!」

 
錬金術師(女店員)「…えっ」ヒクッ

女店員(錬金術師)「お、おい……」ピクピク


銃士「二人とも、ま、まさか…逆に……」

新人鉱夫「か、身体を交換しちゃったんじゃないですか!?」


錬金術師「なっ…!」

女店員「な…」


錬金術師「なんでぇぇぇっ!」

女店員「なんだとぉぉっ!!」

 
銃士「あ、あらら……」

新人鉱夫「僕たちは変わらなかったようですが……」


錬金術師「やだぁぁ~!!わ、私店長になってるの~~!?」

女店員「…おいおい」

錬金術師「どどど、どうすればいいのぉ!?」

女店員「…落ち着け」

錬金術師「ああんもうっ!!落ち着けなんて言われてもぉぉ……!」クネクネ

女店員「…落ち着け言うとるだろうが!!」

錬金術師「あうぅ……」

 
女店員「…だから余計なもん貰ってくるなっつーんだよ」

女店員「身体だけ交換されたみたいだな。頭ん中は幸い、そのままだ。錬金術の事を忘れていない」


錬金術師「れ、冷静に解析してる場合っ!?」

女店員「慌てて色々あるほうが問題だろうが」

錬金術師「それはそうだけどぉ…っ!」


女店員「…とりあえず銃士、魔法堂の場所は分かるか?」

銃士「あぁ、うん」

女店員「この入れ替え道具、どうやったら戻るか聞いてきてくれないか」

銃士「わかった」


女店員「新人鉱夫は、少し離れて銃士のあとを着いて、一人でコレ返してきてくれ」

女店員「近づいてなければ発動もしないはずだ、多分な」


新人鉱夫「わ、わかりましたっ」ゴソゴソ

 
女店員「じゃ、頼んだぞ」


銃士「うん、すぐ行ってくるよ」

新人鉱夫「行ってきます!」

ガチャッ……バタンッ……


女店員「…」

錬金術師「…」


女店員「…はぁ」

錬金術師「…はぁ」

 
女店員「…自分が立ってるって気持ち悪いな」

錬金術師「そうだね…」

女店員「しかしまぁ、男女を交替するなんて中々出来ない経験だぞ」ククク

錬金術師「そうだけど、そういう問題じゃなぁい!」


女店員「…」

女店員「…」

女店員「……そぉい」

…フニュッ、フニュッ

女店員「ほぉ、やはり男と比べて女の身体は自分で触っても柔らかい…」


錬金術師「…っ!?!?」

  
女店員「うむ、色々とこれは未体験なことがー……」フニフニ

錬金術師「バッ、バカァァァッ!!!」

女店員「うるさっ!」

錬金術師「ななな、何をしてるの!!それ私の身体だから、変なことしないでよぉっ!!」カァァッ!

女店員「いや折角だし…」


錬金術師「折角も何もなぁいっ!!」

錬金術師「あぁぁ、私の身体じゃなかったら殴ってるところなのに~~!!」


女店員「自分の身体で、自分の身体触ってるだけだし問題ないかなと」

錬金術師「大問題~~~!!!」

女店員「あら、そうか」

 
錬金術師「も、も~やだぁぁっ!」

錬金術師「…うぅっ」

錬金術師「…」

錬金術師「…」ブルッ

錬金術師「…っ?」

錬金術師「えっ、待って……!」

錬金術師「まさか、これって…………!」サァァッ


女店員「どうした?」

錬金術師「と、トイレ……!?」ボソッ

女店員「あぁ、今朝のごはんの時、水めちゃくちゃ飲んだしなぁ」

錬金術師「ま、待ってよ…!ど、どうすればいいの…!」

女店員「まず、ズボンを脱いでだな」

錬金術師「そういうことじゃくてぇ~~っ!!」

 
女店員「じゃあ何だよ」

錬金術師「て、店長の身体で私がトイレするのっ!?」

女店員「俺の身体で漏らすのは勘弁してほしいんだが」

錬金術師「…」

女店員「早くトイレいってこいよ」

錬金術師「待ってよ…。やだ……」

女店員「いいから、早く行けっての!」

錬金術師「て、店長の見ることになるでしょ~~!!絶対にやだ~~!!」

女店員「俺の身体で漏らすのも、俺も嫌だっつーの!!」


錬金術師「え、えぇぇっ……!」

錬金術師「が、我慢するっ!我慢できるもんっ!!」

 
女店員「ば、ばかっ!俺の身体だぞ!!」

錬金術師「そのうち戻ったら、その時にやればいいじゃんっ!」

女店員「馬鹿言うなっつーの!!おまっ、無理やりにでも連れてくぞ!こっちこいっ!!」グイッ!

錬金術師「やだぁぁぁっ!トイレなんて行きたくないいい!」

女店員「ふ、ふざけんなっ!漏らしたらどうすんだよ!!」

錬金術師「我慢するぅぅっ!」


…ガチャッ

お客さん「こんにちわ……」


女店員「いいからトイレ来いっつーの!!やり方なら教えてやるからよっ!!」

錬金術師「やだぁぁぁっ!トイレ行きたくないぃぃっ!」

 
お客さん「…」


女店員「…あっ」

錬金術師「あっ…」


お客さん「…」

お客さん「…失礼いたしました」ペコッ

ガチャッ…バタンッ……


女店員「」

錬金術師「」


…………
……

 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 お店にあるトイレ 】
 

女店員「だから最初から来いっつったじゃねーか!」

女店員「俺の身体で騒ぎやがって、恥かいたの俺だぞ!!」


錬金術師「て、店長がどうしても行かないなら私の身体で遊ぶっていうからでしょ!!」

ギャーギャー!!


女店員「いいから早くしろっつーの!!」

錬金術師「…どうしても?」

女店員「…裸で町ん中走るぞ」

錬金術師「脅迫…。も、戻ったら覚えててよ……」ピクピク

 
女店員「いいから、早くやってこい。やり方分かるだろさすがに」

錬金術師「…」

女店員「…」

錬金術師「…やっぱやだ」

女店員「全裸になるぞ」


錬金術師「うっ、うぅぅぅ~……」
 
錬金術師「…どうしてこんな目にぃぃ」

ガチャッ……


女店員「…しっかりやれよ!」

錬金術師「うっさいっ!!」

…バタンッ

 
女店員「…」

女店員「…」


錬金術師「きゃあぁ~~っ!いやぁ~~~っ!」


女店員「…」

女店員「…」


錬金術師「や、やだやだやだやだっ!無理無理無理ぃぃっ!」


女店員「…」

女店員「…」


錬金術師「ひぐっ…!何これぇ……」グスッ

  
女店員「…」

女店員「……早くしてくださいね」


錬金術師「やだぁぁぁっ…!」


…………
………

 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 30分後 錬金術師のお店 】


…ガチャッ

銃士「ただいま、返してきたぞ」

新人鉱夫「ただいまです~」


女店員「おう、お帰り」

錬金術師「」チーン


銃士「…店長、じゃなかった。女店員はなんで死んでるんだ…」

 
女店員「まぁ、色々あってな」

女店員「それよか、解除方法について魔法堂のババァ何か言ってたか?」


銃士「試作品で、24時間以内で戻るって」

女店員「あぁ、そうか。じゃあ明日くらい目安ってことか」

銃士「それと、店長にヨロシクって」

女店員「…俺はよろしくしたくねーけど」


錬金術師「…い、一日このままなの?」


女店員「まぁ、しゃあないべ」

 
錬金術師「…っていうか、私、家とかどうすればいいの」

女店員「…俺はこのまま、ココで寝泊まりのままでいいが。家はそのままでよくね」

錬金術師「だ、ダメぇっ!私がいない間、色々やりそうだからっ!」

女店員「え~…」


新人鉱夫「中身は店長さんですけど、身体は女店員さんで、僕としても恥ずかしいです…」


女店員「じゃあ、俺が女店員の家に行くか?」

錬金術師「う、う~ん…。それならいいの…かな……。」

女店員「ふむ…。んじゃ、今日はこういう事情だし店閉めて、お前の家で休むか」スクッ

 
銃士「…なぁ、二人とも。トイレやら、風呂はどうするつもりなんだ?」


女店員「あぁ、トイレは既にコイツは体験済み」クハハ

銃士「!?」

新人鉱夫「!?」


錬金術師「ち、ちょっとそういうこと言わないでよぉっ!」

錬金術師「……っていうか」

錬金術師「今言われて気付いたけど…お風呂のこと、考えてなかった」サァァ


女店員「どのみち、俺もお前の身体で色々行くことにはなるんだろうし」

女店員「風呂も気にせず入っていいぞ。」

 
錬金術師「だだだ、ダメだってば!」

錬金術師「店長は気にしなくてもっ!」

錬金術師「私の身体で入ることも、店長の身体で入ることも私は気にする~~!!」


女店員「じゃあ入らない方向で」

錬金術師「うっ、でも…私の身体を綺麗にされないのは嫌かも……!」

女店員「どっちだっつーんだよ!」


銃士「…」

銃士「じゃあ、お互いにそのままの家に戻るなら、面倒を見合うってのはどうだろうか?」


女店員「んっ?」

錬金術師「えっ?」

 
銃士「…店長はどうでもいいようだが、女店員は見たくないし、見せたくないんだろう?」

銃士「なら、目隠しとかの面倒にしろ、お互いにやってあげればいいんじゃないかな」


錬金術師「!」


銃士「さすがに女店員の身体で、風呂の面倒を新人鉱夫が見るわけにはいかないし」

銃士「もちろん、店長の身体を見るのは私だってその…は、恥ずかしいし」

銃士「だから、それぞれの家で、私は店長、新人鉱夫は女店員の面倒を見ればいいだろう?」


女店員「あぁ、それなら」

錬金術士「いいかも…」

 
銃士「…じゃ、決定かな」


女店員「おっけぃ。じゃ、俺は女店員の家に行くかね」クルッ


錬金術師「…ま、待ってその前に銃士っ!」ダッ

ダダダダッ、グイッ!

錬金術師「私の下着とかも、トイレももちろん、何もかも見せたりしちゃダメだからね!」

錬金術師「あと知ってると思うけど、隠してるアレとか、アレとかもダメだよ!」


銃士「わ、分かってるって!」

銃士(中身が女店員だけど、て…店長の身体なんだから…)

銃士(いつものように寄られると恥ずかしいぞ……)

 
錬金術師「…銃士に任せとけば安心かなっ」ホッ

錬金術師「じゃあ、私の面倒は新人鉱夫に任せるよ?」


新人鉱夫「…任せて下さい!」


女店員「んじゃ、また明日の朝にな」

錬金術師「本当に変なことしないでよ…!」

女店員「わーったわった!」

錬金術師「…」


銃士「ははっ…。じゃあ、今日はこれで解散で……。」

銃士「お疲れ様でした」


…………
……

 
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・
・・・・
・・・
・・

<短編>前編はここまでです。
有難うございました。

皆さま有難うございます。後編、投下致します。

 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 そして夕刻 女店員の部屋 】


…ドサッ!

女店員「…女の身体って、意外と疲れるんだな」ハァッ

女店員「ここまで歩くのに…少しだけ息が上がっちまった」フゥ


銃士「あはは、そりゃそうだよ。私ならともかく、女店員ちゃんは普通の女の子だよ?」

女店員「ふーむ…。体力のなさ、まるで俺の身体のようだ」


銃士「…」

銃士「…ま、まぁあまり色々研究しないであげてね」


女店員「目の前で色々触ったら怒られたからな」

銃士「…そ、そりゃ怒るね」ハハ…

女店員「滅多に出来ない体験だし、しておくことはしておいたほうがいいかと…」

 
銃士「それで女店員が、二度と立ち直れなくならないようにね…」

女店員「そりゃ…」


銃士(…身体は女店員だけど、こういう話すると中身は店長だって認識するな)

銃士(やばっ、少しだけ意識したらドキドキしてきた……)


女店員「…さて、どうするかな」

女店員「帰ってきてばかりでなんだが、ハズいことは先に済ませたいし、風呂とか入っちゃうか?」


銃士「えっ!」ドキッ!

 
女店員「目隠し用のタオルとかあればいいだろ。どこだ?」

…ゴソゴソ

銃士「あっ、待って!そこは…!」


…ピラッ


銃士「あっ…!」


女店員「おふっ…。失礼、下着置き場だったか……」

女店員「…なんだ、あいつも意外と可愛いのを」


銃士「それ、私のね…」カァァ


女店員「…えっ」

銃士「わ、私はそこまで気にしないけど、恥ずかしいからやめてくれ……」プイッ

 
女店員「…これお前の下着か!悪い!」ババッ!

銃士「い、いや…。いいよ……」

女店員「…勝手にあさるのは良くないな。タオルはどこだろうか」

銃士「今出すから、浴室で待っててくれる…?」

女店員「わかった」

トコトコトコ……ガチャッ、バタンッ!


銃士「…」

銃士「…」

銃士「……まずい、これは思ったより…私が持たないかもしれない」カァッ


…………
……

 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 浴 室 】


モワモワ……


女店員「じ、銃士…。ちと目隠しを絞め過ぎじゃないか…キツいぞこれ……」ギリギリ

銃士「仕方ないだろう、私だって恥ずかしいんだから……」

女店員「んあ?」

銃士「風呂に入るのに、私も脱いでるんだ。辛いと思うが、勘弁してくれ……」

女店員「あぁ…そういうことか」

 
銃士「…身体、洗うから。失礼するよ」

…スッ

女店員「へい」

コシッ……

女店員「…ぬおっ!くっ、くすぐったいな」

銃士「あ、ごめん…」

女店員「ぐっ…、自分で洗うのはダメか?」

銃士「…色々触るのはアウトだと思うぞ。女店員との約束だし」

女店員「かといって、くすぐられるのもなぁ。」

 
銃士「…」

銃士「…えぇいもうっ、我慢するんだ店長っ!」

…ゴシゴシゴシッ!

女店員「くっ、くはははっ!おいバカ、待てっ!!」

銃士「時間だけがたっちゃうし、無理にでも洗っちゃうから!」

女店員「ははははっ!ば、ばかやめろっ……!」

ツルッ……


女店員「げっ、足がすべっ……!」


…ドシャッ!!バシャアッ!

 
銃士「あっ…!」

女店員「っててて……!」

銃士「す、すまない大丈夫か…!」


女店員「無理するからだろーが……」

女店員「…」

女店員「……って」ハッ


銃士「え…?」


女店員「泡で滑って、タオルがな…?」


銃士「…ちょっ!?」

銃士「め、目隠しのタオル外れてるじゃないかっ!?」

銃士「ちょっ、店長っ!そっち向いててっ!!」バッ!

 
女店員「お、おうっ!」クルッ!

…フラッ

女店員「…っとと、おわっ!」

ドシャアッ!グニュッ…!

銃士「て、店長っ!?ちょっ、何を……!」カァァッ

女店員「す、すまん足場が悪くて!」ワチャワチャ

…フニッ…

銃士「…あっ!?」ビクッ!

銃士「あ、暴れないで…今、どけるからっ!」


女店員「わ、わかってるが…!」

 
銃士「うぅっ…!じゃあ、今先にどけるよ…」スクッ!

ツルッ……

銃士「へっ…」

…ドシャッ!ギュウッ!ムニュッ…ヌルッ…

銃士「ちょっ、身体絡めないで!?」

女店員「今度はお前が滑ったんだろうが!」グイグイッ!

銃士「そ、そこで暴れちゃだ…めっ……!」ゾクッ!

女店員「ぬぐっ…!」

 
銃士(…なっ、なななっ!何でこんなことに!?)

銃士(風呂の熱気と、泡でニュルニュルするし、うぅぅっ~~……!)

 
女店員「…泡のせいで滑るんだよ!しゃ、シャワーで流すぞ!」バッ!

銃士「う、うんっ!早く~~~っ!」


…シャッ、シャアアアッ……!


女店員「…っ」

銃士「…はぁ、はぁ~……!」

女店員「よし、これで泡は全部流れたな…」


銃士「うん…」

銃士「…」

銃士「……って、泡が全部流れたってことは」

 
女店員「あ…」

銃士「…」

女店員「…見えましたね」


銃士「…~~っ!」バッ!

銃士「ちょ、ちょっと一回先に外に……!」カァァッ

クルッ、ダッ……!


女店員「あっ、そこの足元まだ滑りそうだぞ……」


銃士「えっ…」

ツルッ……!


女店員「あっ…」

 
…ドシャッ、ゴチィンッ…!!

銃士「」


女店員「…お、おいっ!大丈夫か!」

銃士「…」

女店員「…」

銃士「…」


女店員「…どうすんだよ、この状況」 
 

…………
……

 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 少しして 】

ソヨソヨ…


銃士「…」

銃士「…あっ」ハッ!


女店員「目ェ覚めた?」


銃士「私…は……」


女店員「風呂場で足滑らせて倒れたんだよ」

女店員「…すまんと思いつつ、放置もできんから着替えさせて横にさせてたんだよ」

 
銃士「…」

銃士「…えっ?」

銃士「…」

…チラッ


銃士「下着…。穿いてる……。」

銃士「…」ソッ


…ポフポフ


銃士「上も…」

銃士「…」

銃士「……」カァァァッ!


女店員「…」

 
銃士「…ふ、不覚だぁぁっ!」

銃士「ち、違う!別に私はハンターだし、そういうことは見られても恥ずかしくなんかないぞ!」バッ!

銃士「だけどこう、女性としてその、慌てたふりもしたほうがいいとか思ってるだけで!」

銃士「あの、そのあれだ!色々、アレで!あれが~~っ……!」


女店員「…お、おいおい落ち着け。身体は大丈夫か?」


銃士「う、うんっ、それは……!」

女店員「それならヨシ」


銃士「…っ!」

銃士(わ、私を着替えさせただって…?)

銃士(うぅ、自己嫌悪…!そ、そりゃ特別、嫌なわけじゃないけど……!)

銃士(で、でも……っ!)

 
女店員「…なんか、やっぱ恥ずかしかったよな。色々とゴメンな」

銃士「あっ、そ…そういうことじゃなくて…!」


女店員「ふぉ、フォローのつもりだが…」

女店員「銃士はやっぱりハンターだけあって、鍛えてあってスマートだと思ったぞ!」


銃士「」


女店員「だが、女性らしいところは女らしく、いい身体だったぞ、うん!」


銃士「…」

銃士「……て、店長、ダメだぁぁっ!」

銃士「フォローになってないし……!」

銃士「やっぱり本音じゃ恥ずかしすぎるっ!!え、えぇいっ!!」ビュッ!


女店員「んっ…?」

 
…ストンッ!

女店員「ぐおっ!?」

…ドサッ!


銃士「首へ、軽い気の一撃っ…。これなら負担もなく、明日まで寝てるはず…」ハァ

銃士「……女店員の身体だが、すまん」

銃士「…」

銃士「…ッ」カァッ!

銃士「うぅ、思い出すと…ダメだぁぁぁっ!」ブンブンッ!

銃士「心頭滅却しないと…」

 
スクッ…トコトコッ……


銃士(…店長には、あとで布団で寝かせるとして)

銃士(この一瞬で、変な汗やら色々と流し直さないとダメみたいだ……)

銃士(…)

銃士(……どうしよう、こんな…)

銃士(…っ)

銃士(き、気にしないもん……!)


…………
……

 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 次の日 朝 女店員サイド 】


錬金術師「…」フワァ

錬金術師「……あれ、ここどこ…?」

錬金術師「…」

錬金術師「あっ…。そっか、私ってば店長と身体が入れ替わったんだった……」


…ジュウジュウ

新人鉱夫「…あ、目が覚めましたか?」

新人鉱夫「今、朝ごはんが出来るので待っててくださいね」

 
錬金術師「良い匂い…。新人鉱夫、朝早いね……」フワァ

新人鉱夫「いつものことですよ」

錬金術師「昨日は色々とゴメンね。風呂場で暴れたり……」

新人鉱夫「あはは、いいですよ。仕方ないですって」

錬金術師「でも、今日は戻れるらしいし…早く戻りたいな」ハァ

新人鉱夫「24時間たちそうですし、店長さんたちが戻ってきたら意外とすぐ戻れるかもしれないですね」

錬金術師「そうだといいんだけど…」


…ガチャッ!!


女店員「ういーっす」

銃士「お、おはよ~…」モジモジ

 
錬金術師「っ!」ピョンッ!

タタタタッ…

錬金術師「店長、銃士、おはよ…!」

女店員「おう、起きてたか。少し早めに来てみたぞ」

錬金術師「うん」

女店員「お前、俺の身体で何もなかっただろうな」

錬金術師「それは私のセリフっ!銃士、きちんとしてくれたよね!」


銃士「あ、あぁ…。きちんとできた…やったぞ……」


錬金術師「そっか、よかったぁ……」ホッ

 
トコトコ…

新人鉱夫「…会ったら意外と治ると思ってましたけど、まだ入れ替わらないんですね」


錬金術師「やっぱり24時間ピッタリにならないとダメなのかなぁ?」

女店員「そろそろ24時間たつし、治る時ってどうなるんだろうか」

錬金術師「光るとか?」

女店員「お前、そんな簡単に…」


…パァァァッ!


錬金術師「って、言ってるそばからほらぁっ!」

女店員「う、うそぉっ!?」

 
パァァァッ…!!

女店員「戻るのか…!」

錬金術師「も、戻れる~~!」

銃士「やれやれ…」

新人鉱夫「これで一安心ですね!」


…ピカッ!!…


女店員「…っ!」

錬金術師「っ…!」

 
ピカァァァァッ……パシュンッ!!


錬金術師「…」

女店員「…」

銃士「…」

新人鉱夫「…」


錬金術師「…戻った?」

女店員「の…?」

銃士「か…?」

新人鉱夫「うん…?」

 
銃士「…」

銃士「……おや?」


新人鉱夫「あれ…」

女店員「え…」

錬金術師「あ…」


銃士(錬金術師)「なんだって……」

女店員(銃士)「…つくづく、店長と運がある期間らしいね」

新人鉱夫(女店員)「どういうことかな…」

錬金術師(新人鉱夫)「て、店長さんになってます!?」

 
銃士(直ってねぇぇっ!つうか、もう女にならなくていいっつーの!色々面倒くせーし!!)

女店員(…これはこれで、店長とまた一緒に1日過ごせるのを少しだけ嬉しいかも…なんて)

新人鉱夫(…新人鉱夫には悪いけど、入れ替わるなら店長のままのほうがよかったな…)
 
錬金術師(店長さんの身体、凄くだるいです!運動不足です!)


銃士「…っ」

銃士「うおぉぉぉっ、いつまで続くんだよ~~~っ!!!」


……………
………

 
・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・ 
・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・
・・・・
・・・
・・

【 E N D 】

 
これにて「錬金術師その3」は全て終了となります。

ここまでお付き合いくださった方々、ありがとうございました。

後半部分を銃士をメインとした作品としましたが、いかがだったでしょうか。

…当初予定していたお風呂のシーンは、もろネタの展開でした。

こちらで公開する際に"かなり"修正を入れたので、銃士の描いていないシーン(R指定ネタ)の解除版は、

当Wikiのスペシャルストーリーにて全編公開をこの後すぐに更新させていただきます。

そちらも併せて遊びに来てくれればうれしく思います。


尚、その4につきましては未定となっておりますが、この続編とはいわず、

また新作があれば皆様、ぜひ一度お読みになってください。

それでは、ありがとうございました。

皆さま、多くのお言葉有難うございます。

錬金術師その4!
錬金術師「経営難に立ち向かう事になった」銃士「その4!」 - SSまとめ速報
(http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/14562/1423043125/l50)

を開始いたしましたことをご報告いたします。

それでは、失礼いたしました。

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