ちなつ「櫻子ちゃんは渡さないわ!」 (50)

ちなつ「向日葵ちゃん……櫻子ちゃんを自分だけのものと思ったら大間違いよ!」

向日葵「はっ……はああああああ!?///」


ちなつ「私は逃げない、正面から向日葵ちゃんとも向き合う。櫻子ちゃんは渡さないわ」


向日葵「よ、吉川さんいきなり何言って……船見先輩はどうしたんですの?」

ちなつ「…………」

向日葵「歳納先輩は?……あ! ひょっとして赤座さんとの間に何かあったんですのね!?」

ちなつ「はぁ、わかってない。わかってないよ向日葵ちゃん……」


向日葵「な、なにを……」

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ちなつ「私が思うに、向日葵ちゃんは、一個の恋愛しかしたことないの」

向日葵「なっ、なにを言って……」


ちなつ「それは凄いことでしょう。本当に純粋な、誰かを好きになるというその一番最初の瞬間から、今までずっと同じ人を好きでいた……そうでしょう?」

向日葵「…………」

ちなつ「それが叶うのは生半可なことではないわ。色んな環境に遮られ、時間という壁に阻まれ……普通はそう長くは続かない。でもあなたのは今でも壊れずに追い続けることができている。あなたの恋は “奇跡” なの」


ちなつ「それは……私と正反対と言ってもいいわ」

向日葵「反対……?」

ちなつ「私は幾度となく恋をし、しかし壊れ、過ぎ去っていく人たちを見てきた。恋愛の脆さ、人の心の移ろいやすさ、そういったものと戦ってきたの」

ちなつ「勘違いしないで欲しいのはね、人は複数の恋路を走ることはできないということなの」

向日葵「…………」

ちなつ「確かに私は結衣先輩が大好き。京子先輩も、あかりちゃんだって大好き。……でもね」


ちなつ「今私の進んでいる恋路の先にいるのは、櫻子ちゃんだよ」

向日葵「!!」


向日葵「な、なんで……いつから……!」

ちなつ「いつからなんて……関係ある?」

向日葵「だ、だって! 吉川さんは櫻子とこの中学に入って初めて会って……」


ちなつ「過ごした時間の長さで全てが決まるとでも?」

向日葵「……っ!!」

ちなつ「……向日葵ちゃん。向日葵ちゃんの強みはいろいろあるけど、その “一緒にいた時間の長さ” は、武器にはならないよ」

ちなつ「それが武器にならないことを、私は見てきてるの……」

ちなつ「これがどういうことかわかる?」

向日葵「え……」


ちなつ「櫻子ちゃんだってそうなのよ?」

向日葵「なっ……!」


ちなつ「確かに櫻子ちゃんは今までずっと向日葵ちゃんとずっと一緒にいた。でもこれから先も一緒に居続けられるかどうか、二人の距離がずっと一緒かどうかはわからない!」

ちなつ「……もし仮に今の櫻子ちゃんが向日葵ちゃんを好きでも、これから先もずっとそうとは限らない……!」


ちなつ「……未来のことなんてわからない。今は私が不利かもしれない、でも可能性がほんの数%でもあるなら……私は諦めないわ!」

向日葵「くっ……!!!」


ちなつ「勝負よ! 向日葵ちゃん!!」

向日葵(吉川……さん……!)

「はいカーーット!!」カンカン


ちなつ「お疲れ様でしたー♪」

向日葵「ありがとうございました」


「いやよかったよー……二人とも迫真の演技! 次もよろしくねー」

ちなつ「はーい♪」




〈楽屋〉

向日葵「はぁ……」

ちなつ「大丈夫? 向日葵ちゃん」

向日葵「え、ええまあ……でも演者って大変ですわね」

ちなつ「そうだね。私は役に入り込むのが楽しいからいいけど……慣れないうちは、大変だよね」

向日葵「これ誰が脚本書いてるんですの……」

ちなつ「んーわかんない……でも物好きな人なんじゃない? 私と向日葵ちゃんが櫻子ちゃんを取り合う! なんてお話を書くんだもの」

向日葵「もう……やってて色々とグサグサ来るんですもの。セリフのひとつひとつがリアルに私に刺さっていますの」

ちなつ「どゆこと?」

向日葵「ひとつの恋愛しかしたことないとか、時間は武器にならないとか……急にそんなことを叩きつけられて、演じてる間もわたくしの心は焦りまくりですわ」

ちなつ「確かにそういう意味では……でも台本に載ってるんだから仕方ないよ」

向日葵「吉川さんの演技もうまいから……ああ、わたくし櫻子を本当に失ってしまいそうで怖いですわ……」

ちなつ「ま、まあまあ……」

向日葵「吉川さん、嘘をつかずに答えてください……本物の吉川さんの恋路に、櫻子はいるんですの……?」

ちなつ「ん……いないよ。少なくとも今はいないし、今までもいなかった」

ちなつ「それは、私が向日葵ちゃんのことも好きだからだと思う」


ちなつ「二人のことが好きだから……二人の仲を割いてまで、どっちかを選んだりもしない」

ちなつ「だから安心して? 次のシーンも頑張ろうね!」

向日葵「は……はい!///」

〈シーン18・積極的なちなつを横目に見る向日葵のシーン〉


ちなつ「はい櫻子ちゃん、あーん♪」

櫻子「あーん……ん、うめー!」もぐもぐ


あかり「ちなつちゃん、なんだか最近やけに櫻子ちゃんと仲いいねぇ」

向日葵「…………」


ちなつ(向日葵ちゃん……向日葵ちゃんはこんなことできないでしょう?)

ちなつ(あなたはあまりにも長い時を一緒に過ごしてきた。その時間が、二人の間に気恥ずかしさを生んでしまった!)

ちなつ(素直になれない……櫻子ちゃんも、向日葵ちゃんも! それは好きだという感情で抑えることができないほどに、意識とうらはらに出てくる反応……)

ちなつ(その隙間がチャンスなの……不利で始まってるこの勝負、私はそんなチャンスのひとつひとつを逃すわけにはいかないのよ……!)

向日葵「くっ……!///」

櫻子「どしたの向日葵、そのおかずいらないの?」

向日葵「ふぇっ!? な、なにが……?」

櫻子「だって黙ってじーっと見てるだけじゃん。食べないなら私貰っちゃおー♪」


向日葵「ちょっ、ちょっと! 勝手に人のもの取らないでくださる? あなたにあげたつもりは…………つもりは…………」


向日葵(あげればいい、あげればいいのに……!)


向日葵(いつものくせで……櫻子から反発してしまう……!)


櫻子「ちぇー、くれないのか」

ちなつ「櫻子ちゃん、私のいる? 櫻子ちゃんが欲しいならあげてもいいよ♪」

櫻子「まじでか! あーでもちなつちゃんが食べるもの無くなっちゃうよ……じゃあはい、私のこれあげるね」

ちなつ「えっ、いいの!?」

櫻子「いいよいいよー。交換交換♪」

向日葵(くっ……)

〈楽屋裏〉


向日葵「あーーもーー心臓に悪い!! なんなんですのさっきのシーンは!!」

あかり「ま、まあまあ向日葵ちゃん……」

向日葵「確かに私は、抱えている気持ちとうらはらに素直になれないときだってありますわよ……」


向日葵「それが原因で櫻子を遠くに感じてしまうなんて、そんなの……一番嫌なことですわ……!」

ちなつ「ご、ごめんね……私もちょっと役に入り込みすぎちゃった」

あかり「でも、あかりたちは演者だから……」


向日葵「……ぐす……ん、そうですわね。撮影が終わるまで……文句は言えませんわ」

ちなつ「なんで向日葵ちゃんと櫻子ちゃんの楽屋を別にしたんだろう……」

向日葵「櫻子に会いたい……今すぐにでも……!」

あかり「台本が全部渡されないのも困るよねえ」

ちなつ「そうね……この話、結局このあとどうなっていくのかしら」

向日葵「わかりませんわね……誰が勝って誰が負けるか、誰も負けないのか、あるいは誰も勝たないのか。ハッピーエンドか、ビターエンドか……ば、バッドエンドかもしれませんわ……」


ちなつ「向日葵ちゃん落ち着いて……お芝居だから。ね? 櫻子ちゃんだって別の楽屋で、向日葵ちゃんのこと想ってくれてるよきっと」

向日葵「だといいんですけど……」


「次のシーン入りまーす!」

あかり「はーい!……ほら、向日葵ちゃん、もう少しがんばろ?」

向日葵「え、ええ」

〈シーン26・櫻子の方からちなつちゃんに声をかけることが多くなるシーン〉


櫻子「ちなっちゃーん、次体育だよー」

ちなつ「あっ、そうだったね! 今日なんだろー」

櫻子「たぶんバドミントンじゃない? 一緒にやろうよ!」

ちなつ「やるやるー♪」


向日葵「…………」

向日葵(声を……かけられない)

向日葵(声をかけられなくなったのは、いつからでしょう)

向日葵(一緒にやりましょうって、言えない……)

向日葵(絶対に、言えていたはずなのに……!)

向日葵(どこで、どこで変わってしまったのでしょう……)

向日葵(それでも一緒にやる方法は、ひとつ)

向日葵(喧嘩をふっかけるような持ちかけ方しかない……)

向日葵(対決でもなんでも……そうやって意地を張り合うことで、気恥ずかしさを消すことしかできない……)


向日葵(どうして? 私は仲良くすることができなくなってしまったの?)

向日葵(仲良くすることもできないのに、仲のいい二人で居続けるなんてできるの……!?)

向日葵(櫻子がどこかにいってしまうのは、時間の問題なんじゃ……!!)ふるふる


「はいカーット!! オッケー!」カンカン

〈楽屋裏〉


向日葵「うわあああぁぁぁん…………」ぽろぽろ

あかり「向日葵ちゃん、泣かないで……」

向日葵「なんで、なんで私は……いつから……こんなことに……」

あかり「お話だから、お話の中の話だから……!」

向日葵「お話でももう関係ありませんわ! この時点でこの問題に対する答えが出ない……ということは、もし今後同じようなケースに私が陥ってしまったとき、解決することができないってことなんですのよ……!」

あかり「そんなケース来ないよ! 向日葵ちゃん櫻子ちゃんが大好きなんでしょう? 櫻子ちゃんだって向日葵ちゃんのことが好きだもん! お話と同じようにはならないよ……!」

ちなつ「…………」

あかり「どうしよう、ちなつちゃん……」

あかり「監督さんに言って、ちょっとだけでいいから向日葵ちゃんを櫻子ちゃんに会わせてあげようよ! このままじゃ向日葵ちゃん、演技の中じゃない本当の向日葵ちゃんの心が壊れちゃうよ……!」


ちなつ「……こんだけ泣いているもの。そうしてあげたい気持ちはわかる」

ちなつ「でも誰もそうさせない……それはつまり、今の向日葵ちゃんは最高の演技ができているからなの!」

あかり「!!」

ちなつ「こうしてお話を演じてはいるけれど、向日葵ちゃんの心は物凄い揺れ動いている……その揺れ動く感情が、これだけ向日葵ちゃんに迫真の演技をさせることができているの!」


ちなつ「……そんな感情、どんなに有名な役者だって自在にコントロールできないわ。自分でどうこうできることじゃないもの……」

ちなつ「この作品をより良いものにさせるには、今の向日葵ちゃんが必要なのよ……!」

あかり「でも、このまま続けて取り返しのつかないことになったら……! お話なんかより、あかりは向日葵ちゃんの方が大事だもん!」

ちなつ「……大丈夫よ、向日葵ちゃんはそんなに弱くないわ」

あかり「えっ……」



ちなつ「…………」つかつか


ちなつ「向日葵ちゃん」

向日葵「な、なんでしょう……」ぐすぐす


ちなつ「……そろそろわかってきたでしょう? あなたにもこの世界が」

向日葵「それは、どういう……?」

ちなつ「このお話の主人公は誰?」

向日葵「えっ……それは、吉川さん?」

ちなつ「違う」

向日葵「じゃあ……櫻子かしら」

ちなつ「違う! 向日葵ちゃんだよ!」

向日葵「!!」


ちなつ「向日葵ちゃん視点なの! 向日葵ちゃんが主観なの! 向日葵ちゃんの心の声がメインなの!」

ちなつ「向日葵ちゃんの揺れ動く感情、焦る表情、迷いと葛藤……そういったものがこのお話の中枢なのよ!」

ちなつ「ここまで撮ってきてわかった。私はこのお話の、 “悪役よ” 」

向日葵「あ、悪役だなんて……」

ちなつ「確かに一口に悪役というわけではないわ。友達として本当に近い位置にいた人が敵になってしまった、そういうケースでは得てして100%の悪役であることは良くない」

ちなつ「わかるでしょ? このお話が見せたいものは、向日葵ちゃんの葛藤なの!」

ちなつ「向日葵ちゃんの葛藤を見せるために、私はいるのよ……!」


ちなつ「そして……向日葵ちゃんは今まで報われないシーンが続いてきた! ということは……逆転があるっていうことなのよ!」

ちなつ「ここから始まる、向日葵ちゃんの逆転劇! 見ていて楽しい演出が始まるの!」

向日葵「そ、そう……?」

ちなつ「ハッピーエンドを作るには、最初は落とさないといけないの。最初からずっとハッピーで、そのままハッピーを迎えるなんてお話として起伏がなくてつまらないから」


ちなつ「そろそろ始まると思うわ……向日葵ちゃんの逆転が」

あかり「この話の先が……だんだんわかってきた……?」

向日葵「…………」


「次のシーン入りまーす!」

ちなつ「ほら、向日葵ちゃん。いこ?」

向日葵「……ええ。やってみますわ」

〈シーン31・帰りのシーン〉


向日葵「…………」

「向日葵」

向日葵「えっ……」くるっ


櫻子「帰るぞー」

向日葵「さ、櫻子っ……」


櫻子「ん? どしたの?」

向日葵「いえ……なんでもありませんわ。すぐに準備しますわね」

櫻子(…………)

ちなつ(あっ!櫻子ちゃんが向日葵ちゃんと帰っちゃう……!)ばっ


ちなつ「さ、櫻子ちゃ~ん!」

櫻子「んー? どしたの?」

ちなつ「一緒に帰らない? ほんの途中までだけど……」

櫻子「あれ、ごらく部は? あかりちゃんもう行っちゃったよ。待ってるんじゃない?」

ちなつ「あ……」


ちなつ「じゃ、じゃあ今日櫻子ちゃんのお家に泊まりに行っていいっ?」

櫻子「えっ? うーん……私はいいんだけど……明日も普通に学校あるしなあ。課題もあるし」

ちなつ「じゃ、じゃあ……!」

櫻子「ちなつちゃん、ちょっとごめん」



櫻子「私ちょっと、向日葵と話したいことがあるんだ」

ちなつ「…………!」

向日葵「…………!」

櫻子「向日葵、行こ?」

向日葵「え、ええ……」


ちなつ(ま、待っ……!)


ちなつ(…………)




櫻子「…………」てくてく

向日葵「…………」てくてく


櫻子「どーしたんだよ」

向日葵「え……」

櫻子「なんかあったの? 今日……ずっと元気ないけど」

向日葵「そ、そっ……そんなことないですわ」

櫻子「嘘つかないでよ」くるっ


櫻子「向日葵がいつもと違うことくらい、私はとっくに気づいてるの……心配してるんだよ?」

向日葵「…………!」

櫻子「今日課題教えてもらおうと思ったけど……向日葵が何か悩んでるなら、そっち優先だよ。私に相談して?」


向日葵(言いたくない……)

向日葵(だめ……!)


向日葵「よ、よっ……」


向日葵「吉川さんに、勉強教えてもらえばいいんじゃないですの……」


向日葵(ば、ばか! なんでこんなこと言って……!)

櫻子「…………」

櫻子「なにいってんの……向日葵の教え方じゃなきゃ、私わかんないよ」

向日葵「……!」

櫻子「そんなこと、私よりも向日葵の方がよく知ってるじゃん」


櫻子「勉強教えてくれるお礼じゃないけどさ……相談乗るよ。いや……相談してほしいの」


櫻子「なんなら今日、泊まってもいいし」

向日葵「えっ、だって、明日も学校……」

櫻子「いいじゃん隣なんだし。何にも困ることないでしょ?」


櫻子「私にとっては……向日葵がずっとそんな顔してることの方が、困るんだよね」

向日葵「……!///」

「カットー! オッケーいいねー!」かーん

櫻子「ありがとうございましたー!」

向日葵「さ、櫻子……」

櫻子「ん、なに?」


「櫻子さん衣装チェンジでーす」

櫻子「あっ、はーい! ……ごめん向日葵、いかなきゃ」

向日葵「あ……ええ」



櫻子「大丈夫」ぽんぽん

向日葵「え……///」

櫻子「次もがんばろ? ほら、向日葵も衣装変えるんだから」


櫻子「……何の衣装か、もうわかる?」

向日葵「……?」

櫻子「パジャマだよ」ひそひそ

向日葵「あ……///」

向日葵(この後のシーンは……櫻子が私の家に泊まりに来るんですわ……!)ぺら

ちなつ「向日葵ちゃん……!」

向日葵「あっ、吉川さん」


ちなつ「始まったよ、逆転劇」

あかり「ここからずっと、向日葵ちゃんのターンだよぉ」


向日葵「え、ええ……///」

ちなつ「あー嬉しそう~!」くすくす

あかり「よかったねえ向日葵ちゃん」

向日葵(私の番……)

〈シーン37・二人のベッド〉


櫻子「わーい、終わったー!」

向日葵「良かったですわね」

櫻子「向日葵のおかげだよ。……ありがと」

向日葵「……///」


櫻子「あーもうこんな時間だ。ごめんね付き合わせちゃって……もう寝よっか」




櫻子「電気消すよ?」

向日葵「ええ」


ぱちっ


向日葵「…………」

櫻子「…………」

櫻子「向日葵……」


向日葵「…………」



櫻子「いつもありがとう」


向日葵「えっ……?」



櫻子「私、やっぱり……向日葵がいないとだめだ。一人じゃなにもうまくいかない……」


櫻子「向日葵が不安そうにしてると、私もなんか……何やっても楽しくないんだ」



櫻子「どんな友達と遊んでても、向日葵が笑ってないと……つまんない」


向日葵「……!!」

櫻子「……あれ?」

向日葵「えっ」


櫻子「向日葵笑ってる?」

向日葵「なっ、な……///」

櫻子「笑ってんじゃーん! 体調悪いの治った?」


向日葵「は? 体調?」

櫻子「どっか具合悪かったんでしょ? だから今日ずっと浮かない顔してたんだよね?」


向日葵(…………)


向日葵「……ふふ、確かに。ちょっと具合悪かったかもしれませんわね」

櫻子「あれ、でも顔赤いな。無理しないでね?」

向日葵「も、もう大丈夫ですわよ。心配かけましたわね、ごめんなさい」

櫻子「ひまわり」

向日葵「もう、早く寝…………」



ちゅっ




向日葵「!!?///」


向日葵(こんなの、台本に無……!!)




櫻子「…………おやすみー!」がばっ


向日葵「…………」ぽけーっ


櫻子「お、おやすみって言ってんじゃん! 寝ろよ!///」


向日葵「…………///」

「オッケーオッケーい!!」カンカン


向日葵「ちょ、ちょっと! 今のアドリブ!?///」

ちなつ「向日葵ちゃ~ん、台本通りだよ!」ぱたぱた

向日葵「うそ、そんな……」


あかり「ごめんねぇ、向日葵ちゃんの台本だけ、あかりたちと違うの」

ちなつ「ここは、最初からキスシーンだったよ。向日葵ちゃんの新鮮な反応が欲しいから、向日葵ちゃんの台本だけ違う……要はドッキリなんだー」

向日葵「び、びっくりした……///」ぱくぱく


ちなつ「心配ごとは、なくなった?」

向日葵「ふぇ?」

ちなつ「向日葵ちゃんだってわかってるでしょ……櫻子ちゃんのセリフは台本通りだけど、櫻子ちゃんの本心が乗ってる。櫻子ちゃんが心から思ってることを言ってるんだよ」

向日葵(櫻子……)

ーーーその後も撮影は続いた。

向日葵は徐々に自分に自信をつけ、演技の中の向日葵と同じように、輝く表情を身につけていった。



〈シーン50・ちなつの想い〉


ちなつ「ま、まただ……」

ちなつ「なんで……なんで私の恋は、いつもうまくいかないの……!」ぺたん

向日葵「吉川さん……」


ちなつ「うっ、ふぅぅ…………」ぽろぽろ


ちなつ「ゃだ……、いやだよぉ……」


ちなつ「最初から……わかってたのに……」

ちなつ「バカだよ、わたし……勝ち目のない勝負に突っ込んで行って……」

ちなつ「向日葵ちゃんにも、ひどいことたくさん言っちゃって……!!」



ちなつ「櫻子ちゃんとも、向日葵ちゃんとも、お友達でいられなくなっちゃった……!!」


向日葵「…………」


向日葵「吉川さん……顔を上げてください」


ちなつ「ご、めん……ごめんね、向日葵ちゃん…………」

向日葵「……吉川さんの気持ち、やっと私にもわかりました」

向日葵「吉川さんは、本当に櫻子のことを好きだった……」


向日葵「本当に生き生きとしていて、心から好きだという気持ちも溢れていて」


向日葵「私は、この人に負けてしまうと、思っていた……」


向日葵「そして少しだけ……この人になら、いいかもしれない、とも……」

ちなつ「えっ……」


向日葵「私だって……私だって、吉川さんのことが好きなんですから……!」

向日葵「ずっと友達でいてほしいから、この関係を壊したくないから……」

向日葵「櫻子が、吉川さんを選んでいたら……私は……」


ちなつ「だめーーーっ!!!」

向日葵「っ!」びくっ

ちなつ「だめ、だよ……向日葵ちゃんは、絶対に、櫻子ちゃんと一緒に、いなきゃダメっ……!!」


ちなつ「お願い……私のわがままを、聞いて……」


ちなつ「二人には、これからもずっと一緒に居続けて欲しい……」


ちなつ「そして、私もそんな二人と……もっとずっと、一緒にいたい!!!」

向日葵「!!」


ちなつ「元の、友達のままで……いたいよ……!」


ちなつ「許して……向日葵ちゃん…………」


向日葵「…………」

向日葵「言われなくたって、ずっと友達ですわよ……!」


向日葵「櫻子だって、きっと同じ気持ち……吉川さんと、ずっと友達でいたい……!」



ちなつ「うっ、ううぅ…………」



ちなつ「ごめん……ごめんね…………ありがとう…………!」

向日葵「吉川さん……!」ぎゅっ


〈シーン54・続いていく日常〉


櫻子「おっはよー!」がららっ


ちなつ「あっ、櫻子ちゃんきた!///」

櫻子「おはよーちなっちゃん」

ちなつ「おはよ! 櫻子ちゃん、今日なんかいつもより可愛くない?」

櫻子「えっ、そう? ……あ! 昨日ねーちゃんに前髪切ってもらったんだー」

ちなつ「櫻子ちゃんはどんな髪型でも可愛いけどね! 今度もふもふの作り方教えてあげるね!」

櫻子「えっ、もふもふ!?」


ちなつ「……向日葵ちゃん、おはよう……///」

向日葵「ええ。おはようございます、吉川さん」

櫻子「ん……? 二人、なんかあった?」


ちなつ「ん、んーん! なんもないよー」

向日葵「なんもないこと……ないですけど」ぎゅっ

ちなつ「えっ!? きゃっ……!///」


向日葵「私と吉川さんは、これからもずっと親友ですもの!」

ちなつ「ひ、ひまわりちゃん……?///」


櫻子「ちょっ……ちょおおおええい!! ちなっちゃんから手をはなせー!///」

向日葵「あら、なにかしら?」

櫻子「なにかしらって……! だ、だめだよ! ちなつちゃんはみんなの物でしょ!」

向日葵「やきもちですの?」

櫻子「モチの話してない!!///」


ちなつ「…………く、ふふ……」ふるふる

ちなつ「あははははは!!」

ちなつ「私も向日葵ちゃんが大好きー!」ぎゅっ

向日葵「きゃー!///」


櫻子「なっ、おーい! ずるいぞ! 私の向日葵を……じゃなくて、こらーー! 向日葵は私と一緒にいる義務があるでしょー!」

向日葵「もう吉川さんを離しませんわ!」

櫻子「こ、この……/// もうこうなったら、あかりちゃんとだけ仲良くしてやるー!」ぎゅー

あかり「わああああっ!?///」


キャーキャー………

「オッケーいカットォ!! お疲れ様でしたーー!」カンカン


向日葵「終わったー……!」

ちなつ「やったー! お疲れ様、向日葵ちゃん!」

向日葵「吉川さんも、素晴らしかったですわ! 最高の女優になれますわよ!」

あかり「よかったね二人とも……うっうっ」

ちなつ「あかりちゃん泣いてる~!」

あかり「ちなつちゃんだって……泣いてるよぉ……!」ぐすぐす


櫻子「ひまわり」

向日葵「さっ、櫻子……!///」


櫻子「……上手だったね、お疲れさま」

向日葵「ありがとう、あなたも……///」

「お、キスシーンまたまた行っちゃう!?」

向日葵「えっ!?」


ちなつ「えーっ! ここで二人のキスが!?」

向日葵「なっ、ちょっ、みなさん!///」ぶんぶん

あかり「いいと思う! あかりキスしちゃっていいと思う!」

「いいよ! これエンディングのNG集の最後に付け足すから!」

ちなつ「きーーす! はいきーーす!」

きーーす……きーーす……


向日葵「み、皆さんってば……///」

櫻子「…………」

櫻子「ひまわり!」ぎゅっ


向日葵「やーーー!///」

櫻子「向日葵……私だって撮影の間、会えないのが寂しかったんだからね……///」

向日葵「えっ……」


櫻子「責任とってね!!」ちゅっ


ちなつ「わ~~~~!!///」

あかり「あかり感激だよぉ!!」ぱちぱち



向日葵(さ、櫻子……!!///)ぎゅっ

「これにて、 “劇場版ゆるゆり ひとひらの櫻" はクランクアップとなります! 」


ちなつ「わ~~~~!」ぱちぱち

「ご協力頂いたみなさん! 最高の演技で飾ってくれた演者のみなさん! ありがとうございましたー!」


あかり「無事に終わって、よかった……向日葵ちゃんが元気になってくれてよかったよお!」

向日葵「ごめんなさい赤座さん……心配かけちゃいましたわね……」

櫻子「おーいみんなー! この後打ち上げあるってよー!」

ちなつ「いっくいくー♪」

向日葵(この撮影で……私は強くなれた……)

向日葵(自分に自信が持てるようになった。櫻子のためにどうあるべきか、わかるようになった)

向日葵(もう誰が来ても負けない……櫻子を離さない!)

向日葵(櫻子とも、吉川さんとも、正面から向き合って……最高の想い出を作っていける……!)



櫻子「向日葵、ほら、みんなが呼んでるよ?」

向日葵「ええ、今行きますわ」


向日葵「櫻子と、みんなと、手を取り合って……」


向日葵「私たちは、これからもずっと一緒ですわー!」


~fin~

変な話で申し訳ありませんでした

ありがとうございました。

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