勇者「王様が何言ってんのか分からねェ」 (29)
大臣「陛下、勇者殿が参られました」
勇者「ただいま参上いたしました!」
王「勇者よ、よく来てくれた」
勇者「はっ」
勇者「私が呼ばれたということは……」
王「うむ、漆黒なる首領≪デス・ダーク・キング≫がついにリヴァイヴァルを果たしたのだ」
勇者「……は?」
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勇者「あの……」
王「なにかな?」
勇者「なんですか? 今の漆黒なる何とかとか……リバイバル、とか」
大臣「漆黒なる首領≪デス・ダーク・キング≫とは、魔王の別称です」
大臣「リヴァイヴァルとは復活の意」
大臣「ようするに、魔王が復活を果たした、ということですな」
勇者「あ、そうですか」
王「では、話を続けよう」
王「リヴァイヴァルした漆黒なる首領≪デス・ダーク・キング≫は」
王「すでにジ・ヴァリエース大陸を構成するファイブ・ユニオン・カントリーのうち」
王「鋼鉄と軍事の強(ストロング)国家、ヴェリ=ダイヤーニ・ヴァン王国と」
王「花と緑を愛する宗教国家、フェノーマ・ジ・ヴィグラジア教主国をオーバーデリートした」
王「もはや一刻の猶予もない!」
勇者「……!?」
勇者「あ、あの、なにがなんだか……」
大臣「今の陛下のお話を要約いたしますと」
大臣「この大陸の五つの国のうち、二つの国が滅ぼされた、ということです」
勇者「分かりやすい……」
王「話を続けてよいか? 時間がないのだ」
勇者「申し訳ありません。どうぞ、続けて下さい」
王「このままでは、我が草木生い茂る母なる大地ドルヴォ・ヴィーグリル・ツェリッペェインが」
王「闇の行軍≪ダークネス・アーミー≫にシリアスジェノサイドされることは明白!」
王「それだけは断じて避けねばならん!」
王「そこでおぬしを呼び寄せたというわけだ!」
勇者「ああもう、頭痛くなってきた……」
勇者「あのっ!」
王「なにか?」
勇者「闇の行軍ダークネスアーミーは魔王軍のことかなってなんとなく分かりましたけど」
勇者「最初の母なる大地ドルヴォなんちゃらってどこのことなんです?」
大臣「この国の正式名称です。略せずいうとああなるのです」
勇者「えっ……」
大臣「つまり、この国も危ない、ということです」
勇者(生まれて十数年、この国で暮らしてたけど知らなかった……!)
王「これを受け、我が国に代々仕えてくれているヴィロード家の」
王「モルグ=ヴァージ・G・インピール卿が聖なる絶対神からスピリチュアルメッセージを賜った」
大臣「城勤めの神官が神からお告げをもらった、ということです」
勇者(もう全部大臣が話してくれっていいたい!)
王「≪ブレイブ・ウォリアー・セイント≫を呼び寄せろ、と!」
勇者「!?」
勇者「な、なんですか、その……ブレイブ・セイントってのは」
王「≪ブレイブ・ウォリアー・セイント≫だ」
勇者「失礼しました! ブレイブ・ウォリアー・セイントってのはなんなんです!?」
大臣「あなたのことです」
勇者「……は?」
大臣「≪ブレイブ・ウォリアー・セイント≫とは、勇者のことですから」
勇者「陛下! あんた俺がここに来た時、“勇者よ、よく来てくれた”っていってたじゃん!」
勇者「用語が分かりにくいのは仕方ないとしても、せめて統一はして!」
王「ほう、大した記憶力。さすが≪ブレイブ・ウォリアー・セイント≫」
勇者「勇者で統一してくれぇ!」
王「≪ブレイブ・ウォリアー・セイント≫よ」
勇者(結局こっちになるのか……)
王「どうか……どうかこの通り申し上げる」
王「漆黒なる首領≪デス・ダーク・キング≫を聖浄化――キリング・デーモン・クラッシュ――してくれ!」
勇者「魔王を倒してくれ、ってことでいいんですよね?」
大臣「正解です」
王「さて、旅立つおぬしにエース・アルティメット・ウェポンを授けよう」
勇者(えーと、武器をくれるのかな……?)
王「これは初代国王ボリメェル・ヘンダント二世の時代……通称“エンシャント・エイジ”より」
王「レジェンド・トラディションされてきた名剣……」
王「王者の剣≪キング・クラウン・マーシャルソード≫である!」
大臣「古くから王家に伝わる家宝である“王者の剣”を授けましょう」
勇者「ありがとうございます!(この“ありがとう”は大臣にいっている)」
勇者「これで魔王を倒せ、というわけですか」
王「いや、このままでは漆黒なる首領≪デス・ダーク・キング≫は到底倒せぬだろう」
王「この王者の剣≪キング・クラウン・マーシャルソード≫には秘密(トップシークレット)があってな」
王「大陸中に散らばるカルテット・ソードジュエルをはめ込むことによって」
王「勇者の剣≪ホーリー・デビル・スレイヤー≫へと変化する」
大臣「王者の剣は四つの宝石をはめ込むと、勇者の剣にパワーアップするようです」
勇者「なるほど」
王「勇者の剣≪ホーリー・デビル・スレイヤー≫にさえなれば」
王「おぬしのソードスキルは神域≪ゴッド・テリトリー≫に達し」
王「邪の化身ギャグゥラス=ビルガを打ち滅ぼすことも不可能ではなくなるであろう……」
勇者「ん!?」
大臣「どうしました?」
勇者「今出てきたギャグゥラス=ビルガってのは何者なんです?」
勇者「魔王の手下? それとも魔王以外の第三勢力的な敵か何かですか?」
大臣「邪の化身ギャグゥラス=ビルガは魔王のことですよ」
勇者「!?」
大臣「魔王の本名はギャグゥラス=ビルガというんです」
勇者「はぁ~……」
勇者「せめて……せめて漆黒なる首領≪デス・ダーク・キング≫で統一して下さいよ!」
勇者「別称にさらに別称重ねられたら、わけが分からなくなる!」
王「考えておこう」
勇者(考えるだけかよ!)
王「さて、これで話は終わりだ」
王「クリスタル・ルピー・キャッスルよりゴーアウトした後はまずは……」
王「城下町セフェリメタル・ギャラクシアンでインフォメーションを≪集約≫するがよかろう」
勇者「……!」プルプル…
大臣「城を出たら城下町で情報を集めて下さい」
勇者「分かりましたぁっ!」
勇者「必ずや、この≪ブレイブ・ウォリアー・セイント≫が!」
勇者「この王者の剣≪キング・クラウン・マーシャルソード≫にカルテット・ソードジュエルをはめて!」
勇者「剣を勇者の剣≪ホーリー・デビル・スレイヤー≫にして!」
勇者「漆黒なる首領≪デス・ダーク・キング≫こと邪の化身ギャグゥラス=ビルガを!」
勇者「聖浄化――キリング・デーモン・クラッシュ――してみせますよ!」
勇者「では失礼します!」スタスタスタ…
バタンッ!
王「大臣よ」
大臣「はっ」
王「彼はなぜあんなに困惑したり、怒ったりしておったのだ」
大臣「それはやはり、陛下の話がいささか分かりにくかったからかと」
王「分かりにくかったか?」
大臣「ええ、今度からは物事を人に伝える時は専門用語や長ったらしい単語はなるべく使わず」
大臣「必要なことのみを簡潔に伝えるようにした方がよろしいでしょう」
王「む……そうだな。反省するとしよう……」
――――
――
――
――
王「勇者よ、よくぞ無事戻ってくれた! よく魔王を倒し、大陸を救ってくれた!」
大臣「国民みんな、いや大陸中が大喜びしておりますよ!」
勇者「ありがとうございます!」
王「さっそく、おぬしの冒険がどのようなものであったかをぜひ教えてくれぬか?」
勇者「はいっ! かしこまりました!」
勇者「では、≪ブレイブ・ウォリアー・セイント≫より報告を申し上げます。
草木生い茂る母なる大地ドルヴォ・ヴィーグリル・ツェリッペェインをゴーアウトした私は
さっそく王者の剣≪キング・クラウン・マーシャルソード≫にはめ込むための
カルテット・ソードジュエルを探すべく、まずはファイブ・ユニオン・カントリーの一つ、
荒涼とした砂漠の大地アース・ゲイナー・シュピー国を訪れました。
ここもすでに闇の行軍≪ダークネス・アーミー≫の侵略(イノベーション)を受けていたのですが、
私の決死のブレイブ・バトルにて闇の亡者どもを完全撃退することに成功いたしました。
この手柄により、私は第一のカルテット・ソードジュエルである“真紅にして青碧なる石”を入手。
続いて、すでに滅ぼされた鋼鉄と軍事の強(ストロング)国家、ヴェリ=ダイヤーニ・ヴァン王国と
花と緑を愛する宗教国家、フェノーマ・ジ・ヴィグラジア教主国へ向かい、
ここに巣食う邪軍第三大隊≪エビルフォースNo.3≫や甲鉄悪霊冥影軍などを撃砕。
生き残った王族や教主の親族を探し出し、国家リヴァイヴァルに成功いたしました。
その途上、二つ目のカルテット・ソードジュエルである“魔に魅入られた涙”を入手いたしました。
残るファイブ・ユニオン・カントリーである大湖の国家レイク・ファーラルを訪れた私は
ここでも暗黒なる精鋭軍≪グランド・デーモンズ≫と対決、これを倒しました。
ちなみに三つ目のカルテット・ソードジュエルは湖の底に沈下(シンク)しておりました。
これが“深湖に圧縮されし貝殻”というわけです。
しかし、ここで私のブレイブ・アドベンチャーは行き止り(デッドエンド)を迎えてしまいます。
カルテット・ソードジュエルの残り一つがどこにあるかが、どうしてもアンノウンだったのです。
そんな時、フェノーマ・ジ・ヴィグラジア教主国で隠遁している女性大賢者である
ラルファ・ミークラージ女史が私にパーフェクトアドバイスを授けてくれました。
ジ・ヴァリエース大陸で最も偉大なる高山≪バヴェル・セントラル・マウンテン≫に向かえ、と。
私は≪バヴェル・セントラル・マウンテン≫にて、カルテット・ソードジュエルをサーチし、
ついに見つけたのです。“天に近い輝石”を。
これにより、私の王者の剣≪キング・クラウン・マーシャルソード≫はついに、
勇者の剣≪ホーリー・デビル・スレイヤー≫へと進化を果たしました。
私のソードスキルは神域≪ゴッド・テリトリー≫に達したわけです。
いよいよ残存するビッグ・エネミー(許されざる人類の敵)はただ一人(ワン)……。
漆黒なる首領≪デス・ダーク・キング≫こと邪の化身ギャグゥラス=ビルガのみになったわけです。
私とヤツとの死闘(デスバトル)は熾烈を極め、勇者の剣≪ホーリー・デビル・スレイヤー≫も
ついに永劫破砕(デンジャー・ブレイク)してしまいます。
ですが、私は≪ブレイブ・ウォリアー・セイント≫として諦めませんでした。
砕け散った勇者の剣≪ホーリー・デビル・スレイヤー≫――名づけて“愛と勇気の破片”を
邪の化身ギャグゥラス=ビルガの胸にあるインポータント・コアに突き刺したのです。
この一撃により、聖浄化――キリング・デーモン・クラッシュ――は果たされ、私は凱旋したのです」
王「勇者が何言ってんのか分からねェ」
― 完 ―
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