勇者「見覚えのある世界」 (21)
地の文あり、つかSSと呼べるかすら不明
書き溜めはあるけどまだ書き終わってない。
そんなふざけたスレですが、ご勘弁願えたらなと思ってます。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1432663581
思えば、最初からこうなる事は分かっていて、やろうと思えばこんな結末を迎えなくたって済んだのかも知れない。
なんて、今更後悔した所で、もう遅い。
彼女に俺が渡した指輪は、結局、最後の最後まで、彼女の指にはめられる事は無かった。
戦意喪失した俺は、力無くその場に座り込む事しか出来なかった。
目の前の脅威は、そんな俺を見て、心底楽しそうに笑って、得物を振りかぶった。
それが、真っ直ぐ俺に降りかかり斬撃となって俺を襲うのに時間はかからなかった。
そうして、俺たちはーーーーー
ーーーーー……
「ーーー選ばれし神の子よ、汝は天よりある使命を与えられた」
「……え?」
理解しがたい事実が、目の前に唐突に現れた。
目の前にいた悪は姿を消し、代わりに見慣れた顔の男性が、神父が、そこにいた。
先ほどまでの惨劇は見る影も無く、独特の雰囲気を醸し出す、神聖な場所、教会に自分はいた。
俺は覚悟していた死を、迎える事が出来なかった。
「これから進む道は何よりも険しく、何よりも厳しい試練となり、汝に立ちはだかるであろう」
そして、目の前の神父が紡ぎ続けるこの言葉で、今自分が身を置く、信じがたい状況を理解した。
何故か、この空間に、この時間に、戻って来てしまったのだ。
「汝に、今一度問おう」
「なん……で……どう……し……て……」
「勇者として、魔王を倒す覚悟はあるか?」
俺は、旅立ちの日に、戻って来たのだ。
ーーーーー
全てがおかしい。理解が追いつかない。思考はまとまらない。
確かに俺はあそこで、魔王の城で、魔王の一撃を受けて死んだ。いや、正しくは死ぬ、はずだった。
しかしどうだ?次の瞬間、俺はこの始まりの町にいた。
そして俺が勇者として旅立つため、神父のお言葉を頂戴する場面にいた。
その神父の言葉、そして始まりの町を出発し、隣町に着き、酒場に行くまでの今までに起きた出来事、その全てがあの日、俺が旅立ったあの日とまるで同じだった。
何故?グチャグチャの脳内で導きだした答えは一つ。
「旅立ちのあの日に……巻き戻った?」
ありえない。ある訳がない。いや、信じたくない。
時間が巻き戻るなんてありえない。そんな事は起こる筈がない。
あまりにも突拍子もなく、非現実的なこの答えが浮かんでは、「いや、ありえない」と否定して、「じゃあ、実際今起きてる事はなんだ」とまた否定し、「やはり、時間が巻き戻ったのでは」の繰り返し。
既に思考回路は断ち切れそうだ。いや、もしかしたら、もう断ち切れているのかもしれない。
目の前の信じがたい現実を、飲み込めないでいる。
そうやって考えていく内に、これまた信じがたい仮定だが、それでも先の案よりは現実的な答えが浮かんだ。
「……俺は、夢を見ていたんじゃないか?」
そう、俺は夢を見ていた。
これから勇者として使命を受け、旅立ち、世界を救うために戦う。
その重圧から、あんなおぞましい夢を見た。
そうだ。そうに決まっている。いや、そうであってくれ。
で無ければ、俺は非現実的な事実に飲み込まれて、指一つ動かせなくなってしまう。
そうして、俺は馬鹿馬鹿しい結論を真実として飲み込み、酒場を後にした。
本来であれば、いや間違えた。
俺が見た夢であれば、この酒場で仲間を探して、旅路を急いだ。
しかし、それは止めにした。
「……また、あんな夢を見たくはない」
夢は、夢なのだ。
そう思わなくては、そうでなくては、俺はもう進めない。
ーーーーー
俺が見た夢では、あの酒場で、ある男と出会った。
最初はその男の性格について行けず、共に旅する事をやめようと思った。
しかし、戦闘になるとその男は豹変し、危険を顧みず、勇敢に敵をなぎ倒していった。
そんな男を見て、俺は考えを改め、彼を仲間に引き入れた。
それから、彼は何度も危険な目に合い、ボロボロになりながらも、俺たちの進むべき道を、誰よりも前で切り開いてきた。
そして、彼は…………。
そんな夢を、俺は見た。
しかし実際は、俺は酒場で仲間を集めず、一人でこのモンスターの住まう森を突き進んだ。
こうやって、一人で旅をするつもりだった。
しかし、問題は起きてしまった。
「やっと追いついたぜ。勇者さんよ」
「……なん……で……」
「酒場で見かけた面白い奴を追ってったみたら、これまた面白い所に進んでいったからビックリしたぜ」
その男は、俺が一休みしようとしたその瞬間、突然目の前に現れた。
頭に痛みが走る。
視界がクラクラする。
呼吸が、苦しく、なっていく。
やめろ、やめてくれ。
夢を、夢でいさせてくれ。
だから、目の前で、そうやって、ヘラヘラと笑いながら、現れないで、ヘラヘラと話しかけないでくれ。
「戦い方から察するに、お前、勇者だろ?奇遇だな。俺、勇者を探してたんだよ。あ、俺の役職は……」
「剣……士……」
「……あれ?俺お前に会った事あったっけ?」
「ッ!!?」
彼にそんな気がないのは分かっている。
初めて会った人間に、役職を言い当てられれば、誰だって、似たような事を言ったと思う。
それでも、今の俺に、その言葉は深々と刺さってしまった。
「……いや、腰に剣を携えていたからな、勘だよ」
「……お前、なんだか苦しそうだけど、大丈夫か?」
剣士が、心配したのか手をこちらに伸ばした。
~~~~~
『ッ!!オイ、お前もう……』
『大丈夫だっつんてんだろ……仲間信じろ馬鹿……お前こそ、なんだか苦しそうだけど大丈夫か?』
スッ……
~~~~~
「ッ!!」
「……あら?」
脳内に流れた、あまりにも不吉なイメージに、今のセリフが重なった。
それに怖気づいた俺は、気付けば剣士の差し出した手を払いのけていた。
「あー……余計なお世話だったか?」
「……いや、すまない。でも、大丈夫だ。」
「んー、そうは見えんけど……いや、ならいいわ」
「…………本当にすまない」
「いや良いって、気にすんなよ。確かに、よく知らねえやつにこんな事されたら怖いよな」
よく知らねえやつに。
その言葉は、俺の頭をさらに締め付けた。
ーーーーー
「で、落ち着いたか?」
「あぁ……すまなかったな。世話をかけて」
「いーのいーの、目の前で人が苦しんでりゃ、助けるのは当たり前よ」
「……そうか」
あれからしばらくして、辺りは真っ暗になっていた。
俺たちはモンスター避けも兼ねて、焚き火をし、それを挟んで向かい合っていた。
「でー、なんであんな苦しんでたのよ」
「……すまない。今は話したくない」
「……そっか。ならしゃーねーな」
剣士はそう言って、焚き火の中に一つ枝を放り込んだ。
夢でもそうだった。
軽いようで、人の気持ちに敏感で、それを汲み取るのが上手い男で、ムードメーカーであり、潤滑油のような存在だった。
本当に、俺が見た、夢のままだ。
……分かっている。それでも、それを、結論として認めたくないのだ。
それを認めてしまえば、楽になれるのも、あの悲劇を免れる事が出来るかもしれないのも。
あの俺が、そう思ったように。
しかし、まだ、この非現実に抗っていたいとも、思ってしまうのだ。
俺がそんな風に考えていると、剣士は堪らなくなったかのように、切り出した。
「……それで、お前を勇者と見込んで、頼みがある。俺を旅に連れていってくれ」
「……そうか」
やはり、来た。
「自分で言うのもなんだが、腕には自信があるぜ」
知っている。剣術では剣士には敵わなかった。
最後の、あの時まで。
俺の知っている剣士であれば、仲間にしない手はない。
だが、仲間にしてしまえば、それを、認める事になってしまうような気がして、躊躇ってしまう。
それを認めて、あの結末を避けるため、行動すればいいのかもしれない。
しかし、何故だか分からないが、こう思ってしまう。
どう足掻こうと、あの結末を、最悪を免れる事は出来ないと。
「……なんか、あんのか?」
「……え?」
剣士は、俺に尋ねる。
先ほどのようなどこかふざけたような雰囲気な一切無い。真剣な眼差しで、俺を射抜く。
「お前、あの酒場に仲間を探しに来たんだろ?なのに、今みたいに、何かに悩まされてるような、言い訳しているような……とにかくそんな風に見えた」
「…………」
「きっと、俺には想像もつかないような、信じがたい何かに悩んでんだろう。それが、きっと仲間を作る事を拒ませる。だから、お前はあの酒場を一人で出た……どうだ?」
「…………凄いな」
本当に、この男には、素直に感服する。
確かに俺は、言い訳を探してる。
この状況を、信じ難い真実から目を背ける事を正当化する言い訳を。
「……どうだ?俺に、その言い訳作りを手伝わせちゃくれねえか?」
「…………え?」
「言い訳することは悪いことじゃねぇ。まぁ、一概には言い難いけど、それでも、何かに向き合う姿勢は捨てちゃならねえ。だから言い訳して、歪みながら真実と向き合う」
「でも……いくら言い訳しながら向き合っていたって、それは、逃げだ。敵前逃亡でしかない」
「いいじゃねえか、敵前逃亡だって。問題はその後だろ」
「……その後?」
「敵前逃亡してどうする?いつか来るかもしれない脅威にビクビクしながら生き長らえるか?それとも、後からケリをつけるため、ぶっ倒しに戻るか?」
「……!!」
自慢気に長広舌をふるう剣士が、手に持つ木の枝の先をを、俺に向ける。
「勇者は、いつか来るかもしれない魔王の魔の手に怯えて生き長らえるか?」
「……それとこれとは、話が違うんじゃないか?」
「そう言うな、似たようなもんだろ。とにかく、俺はお前はそんな目の前の問題に逃げ続ける野郎じゃないと見込んでる」
「それは、俺が勇者だから、か?」
「何か問題が?」
全く、本当に、この男には敵わない。
俺は剣士の突きつけた木の枝の先を掴んで、木の枝をへし折る。
パキッと、乾いた音をさせて手に掴んだ木の枝を、火の中に落とした。
「なんの問題も無いな」
「だろ?」
俺の返事に満足気な顔を浮かべて、剣士も手に残った枝を火に落とす。
そして、俺たちは立ち上がり、ガッシリと握手を交わした。
「……もしかしたら、こういう運命なのかもしれないな」
「はい?」
「俺がどう足掻こうと、お前は俺の目の前に現れて、こうして、俺はお前と手を結ぶ。どうあっても、そうなるって決まってるのかもしれないな」
「……何言ってんだか」
「デカい独り言だよ。気にすんな」
「なら、仕方ねぇや」
こうして、俺は剣士を仲間に引き入れた。
しかし、それでも俺は抗う事を諦めるつもりは無い。
それでも少し、ほんの少し真実を受け入れていたのかもしれない。
俺はこの時、握手を交わしながら俺は、今度こそこの男と、なんて、思ってしまったのだから。
書き溜め投下終わり。
最低な事を言いますと、もしかしたらこのスレは、これで終わって、別スレを立てて、そこで完結するかもしれません。
その別スレでは本筋、登場人物、セリフ回し、また、ジャンルが勇者物でもなくなってしまうかもしれません。
それでも、必ず、なんらかの形で、今書きたいテーマのSSを完結させようと思います。
かのくぅ疲並みのクサイ文書で、お目汚し失礼しました。
出来たら、よろしくお願いします。
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