京太郎「3年目の浮気くらい大目に見ろよ」 (43)
京太郎「ただいまー」
咲「おかえりー」
咲「お仕事おつかれ様、お風呂とご飯、どっちにする?」
京太郎「今日はカレーかぁ。飯先で」クンクン
咲「じゃあ温め直すから少し待っててね」
築20年の1LDK、駅から程遠いこのボロアパートで咲と暮らし始めてもう3年になる。
咲「今日も遅かったね」
京太郎「部長に接待に連れていかれて……疲れたぁー、もうアメトーク始まってるじゃん」
時刻は11時を回っている。安月給で、仕事漬けで咲には迷惑ばかりかけてきた。
咲「はい、カレーだよ~」
京太郎「いっただきま~す」
咲「いただきます」
京太郎「んっ、相変わらず上手いな、料理だけは」
咲「料理だけはって何さ」
京太郎「冗談冗談……あっ、明日も多分遅いから次から先食ってていいぞ」
咲「日付越えそうになったらLINEちょうだい、先食べてるから」モグモグ
旦那の帰りを飯も食わずに待つ今時めずらしいいい嫁さん。
前に3時過ぎまで連絡いれずに4時に帰った時、顔色変えずに同じ対応されたことがある。怖くなって、12時過ぎたら先飯食って寝てるように俺の方から頼みこんだ。
京太郎「ごちそうさま」
咲「おそまつさまでした」
京太郎「いい嫁さんだよなぁ」
湯船に一人浸かりながら、ぼんやり昔のことを考えていた。
咲とは中学校からの付き合い。高校は同じ部活で、付き合い始めたのもその頃だっけ。色々青春したなぁ。
就職とともに上京する時、咲も一緒に付いてきた。
京太郎「そろそろ周年祝いしなきゃなぁ」
去年は安いイタリアンバーでお祝い。今年は給料も少しは上がったし、ワングレード上のお店がいいかな。
咲「タオルとパジャマおいておくよー」
京太郎「あ、サンキュー」
胸が小さいこと以外なんの文句もない。愛しているなんてチープな言葉は使いたくないけど、今じゃ家に帰って咲がいることが、俺の中で当然になっている。
風呂の順番もいつも俺から。咲の中でそれがあたり前らしい。
この点は不満がある。咲の風呂は長い。疲れていて、先に寝たい事があっても、こうされると渋々待たざるを得ないからだ。
咲「おまたせ~」
京太郎「先、飲んでた」
咲「ひどいなぁ、京ちゃん。じゃ、改めてかんぱーい」
350mlの第三のビールでささやかに晩酌する。
パジャマ姿で頭にタオル乗っけた咲は女子高生の頃からあまり変わらない。
咲「あっ、日本シリーズの結果やってるよ」
京太郎「横浜ボロ負けっすなあ。」
咲「三尋木監督も流石に渋い顔だね」
京太郎「まだまだニヤけてるようにしか見えないけどなー」
咲「あの猫の表情でわかるんだよね」
京太郎「へー」
咲「優希ちゃんもそうだったなー」
京太郎「懐かしい名前だな、あいつと連絡取ってる?」
咲「この前、和ちゃん経由で聞いたけど結婚するらしいよ」
京太郎「ファッ!?相手は!?」
咲「大学の同級生だって、部活のマネージャーの男の子らしいよ~」
京太郎「あのちんちくりんが、マジか……時の流れは恐ろしい」
咲「和ちゃんのインスタ(プライベート)で見つけたんだけど、これ最近の優希ちゃん」
咲がスマホで見せてくれた画像には、和の隣に垢抜けてスタイルのいい女の子、でもどこか優希に似た娘が写っていた。
京太郎「素材型だったのか」ゴクッ
咲「須賀監督のドラフトは失敗だったみたいだね」
京太郎「それ自虐?」
咲「ふんっ」
そんなことより、画像の端に「海に行きました」みたいなタイトルの写真があった。
京太郎「咲さん、もしよろしければ和の近況をもう少し知りたいので、スマホを貸していただけませんか?」
咲「べーっ、駄目だよ!女の子の友人限定だもん」
京太郎「頼むよ~咲、愛してるから~」
咲「愛が軽いよ……」
時刻は0時30分を回っていた。
咲「明日はいつもの時間?」
京太郎「おう」
咲「そっかぁー……もう遅いもんね」チラッ
お酒で顔を上気させた咲がいつの間にか体が触れるか触れないかの距離まで近づいていた。
咲「京ちゃん……んっ、くすぐったいよ」
咲の髪を手で梳いて、頭を撫でてみた。
咲「はうっ」ビクッ
それからソファの上でキスしたり、パジャマの上から体を突っついたりしてイチャイチャした後…
咲「お布団いこ?」
咲と寝るのは1週間ぶりくらいだ。だいたい月10回くらい。最近は疲れて寝たいことの方が多いのに頑張っていると我ながら思う。
咲の誘い方はとてもシンプルだった。お酒一緒に飲んで体寄せてきたらOKサイン。逆にお酒じゃなくてウーロン茶で「明日の朝ごはん何がいい?」って聞いてたらダメな日。
咲「あうっ……んっ」
薄暗い寝室で、夜の営み。
咲「あっ」
咲の小さな胸をしゃぶりながら、乳首を弄る。揉めば大きくなるという説はただの都市伝説だったみたいだけど、まあ無いわけじゃないし、感度は良いからそこまで気にしていない。
咲「んっ、んっ」
キスしながら10分くらい抱き合ったら咲のが十分濡れてきた。
京太郎「そろそろいいか?」
咲「はぁ、はぁ……待って」
咲が足を広げ、準備を整えている間、俺も枕元のゴムを準備する。
咲「京ちゃん……お願いがあるの」
咲が目をうるませていた。
咲「今日それ、ナシで……どうかな……」
京太郎「え?今日大丈夫な日なの?」
咲「……」
昔は好奇心が勝って生でヤッたこともあった。最初は俺の方から半ば無理やりだったから、終わった後咲を泣かせちまったっけ。ピル飲んでた時とかは普通に生でやっていたけど、副作用のこととかもあって飲むの止めた後は基本的に避妊していた。
咲「多分……危ない日」
避妊はどちらが言い出したとか、明確な合意があったわけじゃない。就職したてで大変だった時期、咲も麻雀で忙しい時期が重なって、必然的に避妊の流れになっていた。
俺の方もやっと仕事を覚えて来て、落ち着いてきたし、咲もほとんど専業主婦状態だった。
京太郎(どうしようかね)
↓1
① 咲のお願いを聞く
② 咲のお願いを聞かない
咲「……」
じっと咲と見つめ合った。
俺の頭の中で、いろいろなものが今天秤に乗っかっていた。
仕事のこと。お金のこと。幸せについて。責任のこと。
時間にして30秒にも満たない短い間だろうけど、様々な思いが逡巡しながら、俺は必死に咲の潤んだ目と戦っていた。
下に組み敷かれた咲の懇願だろうけど、その奥底には俺を責める想いがなかったとは言えない。無言の圧力に俺は負けたのかもしれない。
京太郎「いいの?」
咲「うん……ナマでちょうだい……」
咲の精一杯のおねだりだった。
裸で咲の入り口に擦りつけた。いつもより熱がはっきりと伝わってきた。
咲「あっ……あぁ……」
そのまま腰を咲の股に沈めると、嗚咽を漏らしながら絡みついてきた。
咲「あっ………あっ……あぁ……」
中で擦るたびに、熱い汁が出てくるのが、俺も肌でわかる。
咲「あっ…あっ…あっ、あっ、あっ」
布団の上で華奢な咲の体を押さえつけ、本能のまま腰を振った。
咲「あっっ……あっ、あっ、ああっ!」
咲の腰が先に跳ねた。
京太郎「うっ」
ヤッてる間はこれからの事を忘れさせるくらい気持ちが良くて、溜まっていたもの全部、咲の中に吐き出してしまった……
怜「ガースー最近おつかれやないか?目の下隈作って」
京太郎「部長に休日も接待麻雀で連れ回されて休む暇ないせいっすね」
怜「ほんまあの人は人使い荒いわ、ええっと次のアポは11時からRoof-top八王子東店さんやな」
京太郎「ええっ?あの口臭い店長のとこっすか」
怜「ウチ風邪引いてマスクってことにするから頼むで」
京太郎「いやー、きついっすねえ」
社用車で西東京地区を中心に雀卓を売って回るのが俺の仕事だ。
京太郎「えー、我が社の新しい全自動卓は第4世代のイカサマ防止機構搭載で」
京太郎「24時間365日保守・点検サービス付き、トラブル対応はバッチリです」
京太郎「実物をご覧になりたい?おまかせください、今持って参ります!」
京太郎「ゼー、ゼー、こちらが我が社自慢の新型自動卓、お値段は前世代より若干高めとなっていますが、ゼーゼーハーハー」
京太郎「大幅な軽量化にも成功し、私一人でも7階まで階段で運ぶことができましたっ!」
怜「アホ!あんなに息切らしてたら軽いように見えへんで!」
京太郎「軽量化つっても、7階は聞いてないっすわ!怜さんも見てるだけじゃなくてもっとアピールしてくださいよ…」
怜「病弱やから無理や。ま、あの店割りと最近雀卓入れ替えたばかりやから今回はどだい無理な話や。でもこまめに営業回らんと次の卓入れてくれへんからな」
京太郎「次のアポは?」
怜「16時から高校めぐりまで空いとるな。マクドで休憩するか」
京太郎「そうっすね」
怜「はー、転職したいわー」
京太郎「先輩そればっかっすね」
怜「斜陽やで、雀卓の営業なんて。昨今のネトマブームで雀荘の売上も落ちとるのに」
京太郎「原村効果ですなぁ」
怜「あんたも若いんやから早いとこジョブチェンジせなあかんて」
園城寺先輩とは今年から一緒に営業を回っている。基本的にサボることしか考えていない先輩だけど、こっちも楽できるのでそこまで嫌いじゃない。
社用車の中でネト麻しながら時間を潰す。
怜「アホ、そこは9マン切りやろ」
京太郎「うわっ!」
園城寺先輩が体を乗り出してスマホ画面を覗いてきた。
京太郎「あっ、振り込んじまった」
怜「あの部長に接待麻雀連れ回されるくらいやからどんだけできるんかと思ってチラチラ見てたけどドヘタやなアンタ」
京太郎「むっ」
これでも高校時代は長野の虎として鳴らした俺にもプライドがある。高校1年生の頃はド素人だったけど、咲や和に鍛えられて、3年目の頃は県予選で男子個人ベスト4に入る実力を身につけたのだった。
怜「まあこれくらい下手な方が接待麻雀にはちょうどええか」
京太郎「園城寺先輩、打てるんですか?」
怜「まー、さっきのネトマ見てるとアンタよりは打てるんと違いますかなぁ」
そう言いながら園城寺さんは牌を打つ動作をしてきた。
怜「どーせ高校の営業とかしても雀卓なんか売れへんやろ、これからどや?近くにええ雀荘知っとるねん」
京太郎(仕事にやる気のない先輩……どんだけ麻雀できるのか知らねーけど、このまま舐められたまま仕事続けるのは嫌だな……)
京太郎(どうする?)
↓1
①怜の誘いを受ける
②怜の誘いを断る
怜「マスター、2人分空いとるかー」
赤阪「怜ちゃんお久~~お一人さんお待ちやからウチ入れば卓立つよ~~あれ~~お隣の男の子は~~?」
園城寺先輩が俺を連れてきたのは、一見雀荘とは思えない高層マンションの12階だった。
ただ、中はしっかりとした作りで、4台ほどの雀卓があってお客さんが普通に打っている。
赤阪「もしかしてコレ~?」
怜「アホ、仕事のツレやねん」
赤阪「あっ、いらっしゃい~~男前のお客さんやな~~ウチ初めてやね、ハウスルールはこの紙呼んで~~女の子が嫌がるイタズラ禁止やで~~」
京太郎「ちょ、園城寺先輩!ここ合法っすか?」
怜「マスター、どうなん?」
赤阪「合法やで~~偶然出会ったお客さんたちが意気投合して麻雀してるだけの場所やもん~~」
京太郎「で、レートは?」
赤阪「お客さん同士で決めてもらってるけど~~初めてなら、点5くらいでええんちゃう?」
京太郎「1000点5万円とかじゃないっすよね?」
怜「ガースービビり過ぎや、普通のサラリーマンのお客さんでも楽しめるレート設定やで」
赤阪「でも~~、チップは買って貰わなあきまへんわ~」
京太郎「チップ?」
怜「ノーマルチップは20枚100万やねん。ま、100万円くらいなら貯金あるやん」
赤阪「大丈夫、大丈夫、そうそう無くなることあらへんし」
怜「常々思うねん。5000円、10000円動いて勝った負けた繰り返す勝負の何がおもろいねん。人生かかった額で打ち合わな、熱くならへんやろ?」
怜「とりあえず今日はウチが負け分建て変えておくから、思う存分打とうや」
怖くないと聞かれれば嘘になる。でも、震えていた。俺は根っからの麻雀打ちになっているみたいだ。
高校卒業して、雀卓の営業なんてブラックな仕事に就いて、浮き上がるチャンスをひたすら待っていた。
世の中金。嫌というほど身にしみる。金は金に集まる。金がない奴は一生底辺だ。
京太郎「うっす」
俺は怜さんの誘いを受けた……
↓1
コンマ 50以上:勝利
コンマ 50以上:敗北
↓1
コンマ 50以上:勝利
コンマ 50以下:敗北
京太郎「ロンッ!8000!」
怜「ぐっ」
赤阪「これで2連続トップや~~やるねぇ、お兄さん~~」
京太郎「いやー、まあ今日はツイてますねえ」
チップはもともとの20枚から倍近くに増えていた。
怜「マスター、チップ追加や!」
赤阪「は~い、園城寺さんチップ入りました~~」
怜「クソッ…なんで未来が視えへんねん……まだ完全に治ってはおらんっちゅう事か……チッ」
………
俺たちは時間を忘れて麻雀を打った。チップは20枚→85枚。場代で1枚ほど搾取されて、プラス320万円程の浮きだった。
最後は怜さんのお金が尽きて卓が閉じた。一晩で彼女は1千万近くスッた計算だ。
京太郎「大丈夫っすか、怜さん」
怜「……」
京太郎「ほら、帰りましょうよ、もう22時過ぎてますし」
怜「ガースー、お願いがあるねん」
京太郎「なんですか」
怜「300万ほど都合つけてくれへん?」
京太郎「え?」
怜「頼む!一生のお願いや!」
京太郎「でもさっき負け分払えてたじゃないっすか」
怜「そらここのマスターが一番やばいからな、ここが最優先やねん」
怜「でもこの勝負の前に300万ほど金貸しから借りてんねん、今週中に返せんと会社に来るわ……」
怜「そうなりゃ、ウチ、クビや!まずいねん、頼むで……本当はアンタから300万円巻き上げて払うつもりやったんやけど……」
京太郎「おい」
怜「お礼ならなんでもするわ……この通りや!」ペッコリン
京太郎「なんでも……」
怜さんが頭を下げるとき、一瞬ゆるい服の間から谷間が覗いた。
怜さんは上目遣いで俺の方を見て、俺の目線に気がついて慌てて谷間を手で隠した後、何かを察したのか、手で隠した谷間をゆっくり見せてきた。
京太郎(お金貸してくれたら何でもします♥ってことっすね)
京太郎(どうする……)
一瞬、咲の得も知れぬ無表情が俺の頭を過ぎった。
↓1
①怜のお願いを聞く
②怜のお願いを聞かない
ーー帰りは0時過ぎる、先飯食って寝てて
怜「あむっ、ちゅっ、ちゅぷちゅぷっ」
怜「あっ…ちゅっ、ちゅぷちゅぷ……やっ」
怜「ぷはぁ……はぁ、はぁ…んっ」
怜「そんなおっぱいええんかっ…あっ」
怜「ああっ…」
勝負の後ーー軽く飲み直して、怜さんのお家に上がりこんだ。
怜「ウチにここまでやらせるんやから、金は頼むで……」
そう言いながら怜さんは丹念に俺のをしゃぶって、それから体を好きにさせてくれた。
怜「昔っ……インハイ出たんやッ……その頃は視えとった……のにっ…あっ…痛っ」
怜「久しぶりなんや、堪忍して……あうっ!」
怜「ダメになったんは、りゅーかと別れてからやっ…あっ、あんっ……くっ……やぁ」
怜「競馬と麻雀で勝った負けた繰り返してッ……あの頃はまだ見えてたのにっ…!最近は……んっ、んっ、ふーっ、高い金払ってッ…医者にもッ…うっ」
怜「治せる言われてっ……ああっ……金っ……随分貢いだのにっ…!ああっ、やっ、んっ、やんっ」
怜「イクッ、イクイクッ!ああっ!」ビクンッ
怜「はぁ、はぁ……須賀……あんたは騙さんやろな……ウチの事……」
帰り際に誓約書と引き換えに300万円、怜さんに貸した。
次の日から怜さんは会社に来なかった。電話にも出ず、俺が騙された形だった。でももともとあぶく銭みたいな300万円だ。一晩、あの極上の体を好きに出来た代償としては悪くないーー
そう思っていた。
京太郎「ただいまー」
深夜3時を回っていた。
部屋は真っ暗だった。
怜さんがいなくなったあと、俺は一人で雀卓の営業をしなければならず、過重労働を強いられていた。
あんな先輩でもいないよりいた方がマシだった。スケジュール管理とかはなんだかんだやってくれていたし。
咲「おかえり」
京太郎「うわっ!!」
暗いリビングに咲が座っていた。
京太郎「もしかしてずっと起きてた?」
咲「うん……一人じゃ眠れなくて」
京太郎「そんな子供じゃないんだから」
咲「ごめん」
京太郎「週末、休めそうなんだ。一緒に何処か遊びに行こうよ」
咲「ほんと?」
京太郎「どこがいい?」
咲「温泉でのんびりしない?」
京太郎「もっと贅沢言っていいんだぞ」
咲「京ちゃんと二人で温泉ってすっごい贅沢だよ、私にとっては」
金曜日の夜 23時
京太郎(うっし、週末に仕事残さず終わらせたー!これで明日から咲とのんびり旅行だー!)
久「須賀君明日暇?」
京太郎「部長……まだ帰ってなかったんっすか」
久「露骨に嫌な顔しないでよ!」
京太郎「接待の予定は特にないじゃないっすか……」
久「あんたは私の秘書か!まあ確かに予定はなかったけど」
久「ウチのお得意様が土曜の昼から麻雀打ちたい気分なんだって!どうかしら?突然でごめんねっ、こんなお願い須賀君にしかできないのよっ」ジーッ
部長が困った顔をしながら俺の顔をのぞき込んできた。
就職してから右も左もわからない俺に目をかけてくれたのはこの人だった。
今ではすっかり接待麻雀係のポジションを獲得している。このポジションは地味に美味しい地位で、多少雀卓が売れなくても多目に見てもらえるのだ。
部長は申し訳なさそうにお願いしてくるけど、YES以外の答えは求めない。そういう人だ。
いつもの俺なら二つ返事で、皮肉の一つでも言いながらYESと言ったけど。
温泉旅行に行く約束をした時の咲の顔が頭をよぎった。
↓1
①部長のお願いを聞く
②部長のお願いを聞かない
京太郎(咲……すまんっ!今度埋め合わせはするっ!)
京太郎「ええ、暇なんで大丈夫っすよ!」
久「さすが須賀君!愛してるわよ~」バシッ
部長は満面の笑みで俺の背中を叩いてきた。
久「仕事は終わったの?終わったなら打ち合わせも兼ねて飲みに行かない?」
京太郎「うっす、部長持ちで頼みますよ」
久「当たり前のこと言うなー」
社会人たるもの上司の命令は絶対……この部長は自分の意に介さない人間を徹底的に排除するタイプだし、ここで断ってたら俺の仕事もやばかったな……
結局、4時過ぎまで飲みに連れ回されて、家に帰ったのは5時過ぎ、次の日の昼から接待麻雀で一日潰れて週末は台無しになってしまった……
京太郎「だからゴメンって」
咲「フンッ」
京太郎「機嫌直してくれよ、お姫様~」
咲「別に怒ってないもん。京ちゃんが仕事を大事にしてくれることが、私にとっても大事なことだからっ」
京太郎「でも怒ってる」
咲「怒ってません!」
京太郎「悪かったってば」
温泉の約束をドダキャンしたあと、咲の機嫌はやっぱり悪かった。
咲「……来週の水曜日」
京太郎「ん?」
咲「一緒に暮らし始めてから3周年だよね」
京太郎「ん、ああ、忘れたわけじゃないぞ、その日は早く帰ってくるから!」
咲「ねえ京ちゃん……そろそろいいと思うんだけど」
京太郎「……」
ご機嫌斜めの咲はいつもこの話を仄めかしてくる。
咲「……」
京太郎「いや、そりゃ、まあ……そのだな、お前、麻雀どうするんだ?」
咲「……京ちゃんが幸せにしてくれるなら、諦める」
京太郎「そう簡単に諦めるって言うなよ、バカ」
咲「今年のドラフトも駄目だったもん……」
咲は高校卒業後、一時プロを目指して大学に進学した。高校で活躍したおかげか、東京の有名な大学に推薦で入った。
でも、そこで咲は上手くやっていけなかった。宮永照の妹ってことで色々やっかみもあったらしい。
半年持たずに休学して、それから俺と同棲している。
昼間、時々独立リーグの個人戦で打っているけど、成績は中の下らしく、かつてのインハイの輝きは取り戻せなかったらしい。
咲「京ちゃん、期待してたでしょ、私に」
京太郎「……」
咲「おねーちゃんみたいにプロになれたら、京ちゃんに楽させてあげれたもんね。ごめんね、麻雀下手っぴで」
憧「そんなことあったの?」
京太郎「重い」
憧「はあ、アンタも大変ねぇ」
京太郎「マジでどうしようかなあ、3周年で元気になってくれりゃいいんだけど」
憧「でー、あんたはどうしたの?彼女と」
京太郎「うーん」
憧と出会ったのは1年程前。職場の外で出来た数少ない同い年の友達だった。
憧「付き合って何年だっけ?」
京太郎「高校の頃だから結構経つ」
憧「それで結婚しなきゃアンタ刺されるわよ。女の一番美味しい時期をアンタに捧げてるんだから」
京太郎「結婚したくない訳じゃないんだけどなあ……怖いんだよ」
憧「何が」
京太郎「結婚した途端豹変しそうじゃない?今はいい嫁さんなんだけどさ、時々怖いんだよね、咲って」
憧「ふむ」
京太郎「料理も作ってくれるし、お部屋の掃除もしてくれる、色々俺を立ててくれるし、喧嘩になることもあんまりない」
京太郎「まだ同棲して間もないころ、一度浮気バレたことあって」
京太郎「ただの遊びだったんだよ、出張して地元の女の子とワンナイト・ラブ」
京太郎「普通バレないんだけどさ、その女がクソだった。俺の出張カバンの中に自分のパンティー紛れさせてたんだよ」
京太郎「それ咲に見つかってさ」
京太郎「まあ怒られたよ。でも、どこか本気じゃないんだよね。ポカポカ頭叩かれたけど、もう二度としない、って約束したら」
京太郎「許してくれた訳」
憧「それからアンタ何度浮気したのよ」
京太郎「浮気ってつもりじゃないんだ。不意にこう、ムラムラ来て、誘われた時とかについヤッちまう」
憧「今日の私みたいに?」
京太郎「憧とは前からシたかったんだよ、って話の腰を折らないでくれ」
憧「ふーん、で?」
京太郎「それから咲にはバレてないんだけどさ。大体ワンナイト・ラブで終わるわけよ」
憧「あんたが下手なだけなんじゃ」
京太郎「そうだった?」
憧「んー、ま、及第点かな。私ならまあ次もヤッていいかなーって思うかも。平均よりおっきいしね」
京太郎「最近だと怜さんだっけ。あの人もいなくなったな」
京太郎「その前は、揺杏ちゃんっていう街のバニーガールの娘とヤッたんだけど。連絡つかなくなった」
京太郎「その前は、ええっと……まあいいか」
憧「じゃ、私も明日仕事あるし帰るわよ」
京太郎「おう、駅まで送るよ」
それから憧とは連絡がつかない。
咲「浮気はしたら駄目だよ」
咲「カン!」
京太郎「菫」
菫「京ちゃん」
誠子「京ちゃん」
照「京君」
尭深「誠子ちゃん」
淡「キョータロー」
霞「昨日はセックスをお楽しみで」
完
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