女戦士「元・勇者を探す旅へ」—epilogue— (836)
前スレ
女戦士「元・勇者を探す旅へ」
女戦士「元・勇者を探す旅へ」 - SSまとめ速報
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―――城内
ミイラ「キマイラさまぁー!!!どこですかぁー!!!」
勇者「呼んで出てきてくれるなら楽ですけどね」
賢者「―――よぉ。やっときたか」グビグビ
戦士「何を考えているのですか!!!」
賢者「おー。こえぇな、お嬢ちゃん。可愛い顔が台無しだぜぇ?」
勇者「一理ありますね」
魔法使い「どういうつもりなの?」
賢者「傀儡たちのことか?あれが魔道士に言われたことだからなぁ。全ての民を傀儡化させるのが俺の仕事だ」
竜娘「魔王は倒れ、魔道士もこの世にはいない。お前にはもうこうする理由がないはずだ」
賢者「理由?言わなかったか、トカゲさんよぉ。俺ぁニンゲンが大嫌いなんだよ」
僧侶「だから、虐殺をすると?」
賢者「この街から始める。俺とキマイラの世界征服をなぁ」
勇者「世界征服とはまた大きく出ましたね」
賢者「元勇者と元魔王が手を組めば、不可能じゃぁねぇだろぉ?」
ミイラ「流石、キマイラ様!!スケールがちがうぅ!!」
賢者「ミイラっ娘。お前もこっちにくるかい?」
ミイラ「もちろーん!!」
勇者「いかせるかぁ!!!」グイッ
ミイラ「布をひっぱるなぁー!!!」
勇者「大事な正妻候補をこのまま敵に渡すわけないだろ!!」
ミイラ「うぇー……」
賢者「兄ちゃんも強情だなぁ。もう無理なんだよ。準備は整ったからなぁ」
勇者「準備?」
賢者「お前らに傷つけられたキマイラは回復し、更にニンゲンの血肉によって新たな力も得た。そして、ここにのこのことやってきた現勇者様」
賢者「兄ちゃんが死ねば、世界は俺のモノになるだろぉ?ニンゲンが一匹もいない、平和な世界になる」
勇者「死に場所を求めていた貴方に似つかわしくない発言の数々ですが。どれが本当なのか鏡で見てみましょうか」
賢者「それもいいだろうけどよぉ。その前に余興を楽しもうじゃねえか。なぁ?」
エルフ「何をするつもりなの?!」
賢者「俺の傀儡兵士の中で最も優秀な奴をここに呼ぶ。まぁ、もう察しはついてるだろうけどなぁ」
戦士「まさか……」
兵士長「……」
戦士「義父さん!!!」
賢者「それじゃあな。奥にある王族の間で待ってるぜ。新魔王とともになぁ」
戦士「待て!!」
兵士長「オォォォォ!!!!」ブゥン!!!
戦士「なっ!?」
勇者「ちっ!!」ギィィン
戦士「あ……」
勇者「みなさんは先に!!」
魔法使い「でも!!」
僧侶「勇者様!!」
勇者「僕は勇者ですよ。相手が人なら遅れはとりません」
竜娘「ならば、先に行くぞ」
勇者「すぐに追いかけます。愚鈍な賢者と哀れな魔王はお願いします」
戦士「……」
エルフ「ほら、行こう」
戦士「貴方は先に行ってください!!」
勇者「え?」
戦士「義父さんは私が……」
勇者「しかし」
戦士「偽の勇者を止められるのは、真の勇者だけです」
勇者「……場合によっては」
戦士「貴方を信じます。それまで時間を稼ぎますから。義父さんを助けてください」
勇者「……」
戦士「お願いします」
勇者「決断だけはしないでくださいね」
戦士「はい」
勇者「では、失礼します」
兵士長「グゥゥゥ……」
戦士「義父さん!!」
兵士長「オォォォォ!!!!」ブゥン
エルフ「風よ!!」ゴォォォ
兵士長「ウゥゥ!!」
戦士「え?」
エルフ「君一人じゃ不安で仕方ないって」
戦士「いいのですか?勇者の傍にいないで」
エルフ「別に傍にいたいってわけじゃないし。君には死んで欲しくないから」
戦士「ありがとうございます」
兵士長「グゥゥ……!!」
エルフ「来るよ」
戦士「はいっ」
兵士長「オォォォォォ!!!!」
エルフ「魔法で援護する!!」
戦士「でぁぁぁぁ!!!」
―――王族の間
勇者「みなさん!!」
僧侶「勇者様!!」
魔法使い「どうして!?」
勇者「ミーちゃんが心配で」
魔法使い「何言ってるのよ!!!こんなときにぃ!!」
竜娘「やはりあの娘が残ったか」
勇者「最悪の結果になる前になんとしても彼を」
賢者「―――おーぅ。お嬢ちゃんにオヤジの処理を任せるたぁ、中々の鬼畜っぷりだなぁ?」
勇者「貴方を秒殺すればいいだけの話ですからね」
賢者「できるかぁ?お前らだけで勇者と魔王を倒すんだぜぇ!?前回の戦いと一緒にすんじゃねえぞぉ!!」
僧侶「貴方を止めます!!なんとしても!!」
魔法使い「こっちの経験値を舐めないでほしいわ」
ドラゴン「―――姿を現せ!!キマイラ!!今日この場で貴様を屠り、我が魔族の再建とする!!」
賢者「お呼びだぜぇ。魔王キマイラ」
ミイラ「キマイラ様……」
キマイラ「―――縺薙・繝。繝シ繝ォ縺ッ 繝シ縺ョ逧・ァ倥∈縺ョ繝。繝・そ繝シ繧ク縺ァ縺吶?・」ズズズッ
ミイラ「え……?」
ドラゴン「なんだ……?」
賢者「くくく……。何を驚いてやがる?」
僧侶「うっ……!!?」
魔法使い「なに、あれ……」
勇者「肉の塊……。人間の肉か」
賢者「兄ちゃんも見ただろ。俺の過去に出てきた出来損ないのキラーマジンガをなぁ」
勇者「そういうことか。キマイラを素体にしてキラーマジンガを作ったのか。あの魔道士のように」
賢者「おう。中々のデキだろぉ?ニンゲンを200人ほど使った力作だぁ」
僧侶「な……な……」
魔法使い「キマイラのほうを見ちゃだめ!!」
僧侶「うぅぅ……ぅぅ……」
勇者「お前……人間じゃないんだな。本当に」
賢者「俺ぁ弱いニンゲンよぉ。こうすることでしか酒を飲めねぇんだ」
ドラゴン「肉団子とはやはりこういうことだったのか」
賢者「でも、性能はピカイチだぁ。普通の魔物じゃまず太刀打ちなんてできねぇよ?」
ドラゴン「俺が普通だと思うのか?」
賢者「おーぅ。やるならやろうぜ。世界征服の第一歩にしては丁度いい舞台だ」
勇者「ゴンちゃん」
ドラゴン「分かっている。俺がキマイラを」
ミイラ「あ……あぁ……こんなのキマイラ様じゃない……」
賢者「何を言ってやがる、ミイラっ娘。こいつぁ、正真正銘キマイラだぜぇ?」
ミイラ「ち、ちがう!!キマイラ様はどこだ!!」
賢者「ちっ。早速謀反たぁ、いい度胸だ。やっちまいなぁ、キマイラ」
ミイラ「え?」
キマイラ「縺薙・繝。繝シ繝ォ縺ッ」ズズズッ
勇者「ミーちゃん!!下がれ!!!」
ミイラ「あ―――」
キマイラ「縺薙・繝。繝シ繝ォ縺ッ 繝シ縺ョ逧・ァ倥∈」バリバリッ
賢者「うまいかぁ?ミイラの肉はよぉ?」
勇者「……っ」
ドラゴン「きさま……」
賢者「さぁ!!おっぱじめ―――」
勇者「お前だけはぁぁぁ!!!!」
賢者「兄ちゃん、俺が心を読めること忘れたのかよぉ。奇襲は通じないぜぇ?」
勇者「せぇぇい!!!」
賢者「魔法もつかえねぇど素人が吠えてんじゃねえぞ。―――爆ぜなぁ!!」カッ!!
勇者「くっ!!」
ドォォォン!!」
勇者「あっ……」
賢者「くくく……。いいぞぉ。その調子だ」
勇者「うっ……」
僧侶「勇者様!!今、治療を!!」ギュッ
ドラゴン「キマイラ……」
キマイラ「縺薙・繝。繝シ繝ォ縺ッ 繝シ縺ョ逧・ァ倥∈縺ョ繝。繝・そ繝シ繧ク縺ァ縺吶?・ 」
ドラゴン「何を言っているかもわからないな。こちらの声も届いているのかどうか……」
キマイラ「縺薙・繝。繝シ繝ォ縺ッ 繝シ縺ョ逧・ァ倥∈縺ョ繝。繝・そ繝シ繧ク縺ァ」
ドラゴン「貴様は俺が必ず殺す。だが、そのまえに貴様の主張だけでも聞いておいてやろう……。この鏡で……」
キマイラ『―――ドラゴン様……』
ドラゴン「……」
キマイラ『魔王に……なりたかった……だから……こうして……ニンゲンに……協力を……求めた……』
キマイラ『魔道士が……画策していた……革命……の手段……を……利用した……』
キマイラ『力……を……土地を……兵力……を……そなえ、ていた……魔道士の……』
ドラゴン「お前は魔道士が裏で進めていたことに気付いていたのか」
キマイラ『そして……ちか、ら……を……てにし……魔王に……なれ……た……』
ドラゴン「今のお前は魔王ではない。醜悪な化け物だ」
キマイラ『ドラゴン……さ、ま……くる……し……ぃ……じぶんが……消える……よう……』
ドラゴン「哀れだな。力を求めた結果、己で自決すらできぬとは。同族としてお前をこのままにはできない」
キマイラ「―――縺薙・繝。繝シ繝ォ縺ッ 繝シ縺ョ逧・ァ倥∈縺ョ繝。繝・そ繝シ繧ク」ズズズッ
ドラゴン「貴様にだけは喰われてなるものか!!!燃やし尽くしてやろう!!!」ゴォォォォ!!!
キマイラ「縺薙・繝。繝シ繝ォ縺ッ 繝シ縺ョ逧・ァ倥∈縺ョ繝。繝」
ドラゴン「なんだ……?傷が再生した……」
賢者「ソイツを殺すのは難しいぜぇ?」
ドラゴン「貴様……」
賢者「くくく。余所見してていいのかい?」
ドラゴン「?!」
キマイラ「縺薙・繝。繝シ繝ォ縺ッ 繝シ縺ョ逧・ァ倥∈縺ョ繝。繝・そ繝シ繧ク縺ァ縺」ズズズッ
ドラゴン「くっ!!この肉の触手に捕まれば俺もキマイラの肉の一部になるか……」
賢者「さぁ、どうする。勇者一行様。俺と魔王を倒さない限り、表で戦っている連中はどんどん死んでいく。お前らの仲間もいつまで敵を守りながら戦えるんだぁ?」グビグビ
魔法使い「外道……」
勇者「……」
僧侶「貴方は……人間じゃありません!!」
賢者「最高の褒め言葉だ、姉ちゃん。さっさと止めてくれよぉ。くくく……あーっはっはっはっは」
勇者「……残念ながら、お前の計画は穴だらけだ」
賢者「なに?」
勇者「世界征服なんてものはできやしない。あの魔王ですら無理だったんだからな」
賢者「……」
勇者「まぁ、人間のいない世界は平和っていうのも納得できる部分はあるけどな」
魔法使い「ちょっと、何をいってるのよ!?」
僧侶「勇者様……?」
勇者「しかし、それを叶えるだけの力はお前にはない。逃げ続けてきたお前にはな」
賢者「おぅ。兄ちゃん、いってくれるじゃねぇかよぉ」
勇者「そうやって主義主張を頻繁に変えるのも逃げているからだろ?」
賢者「あぁ?」
勇者「本当の狙いを悟られないようにするために意見を変えて逃げている」
賢者「……」
勇者「ニンゲンが嫌い、ニンゲンを駆逐したい、この世から消えたい、大切な人を守って死にたい、世界征服がしたい。次はなんだ?ハーレムでも作りたいとか言うか?」
賢者「兄ちゃん……。やっぱり、俺ぁ兄ちゃんのことは好きになれそうにねぇなぁ……」
僧侶「それって……」
勇者「貴方を倒し、俺は聞く。貴方が今まで俺たちに隠していたこと、全てを」
賢者「できると思うのかぁ?」
ドラゴン「―――俺がいるからな!!」ゴォォ
賢者「ちっ!―――肉団子!!」
キマイラ「縺薙・繝。繝シ繝ォ縺ッ 繝シ縺ョ逧・ァ倥∈縺ョ繝。繝・そ繝シ繧」ズズズッ
ドラゴン「どけ!!キマイラ!!そのニンゲンを倒せば、貴様も解放してやれるのだぞ!!」
キマイラ『もう……自分の……意思……は……』
ドラゴン「くっ……」
賢者「トカゲさんは肉団子と戯れてればいいんだよ」
勇者「お二人とも胸を近づけてください」
魔法使い「耳でしょ!?」
僧侶「ど、どうぞ」
魔法使い「あんたもテンパッて変なことしないで!!」
勇者「時間がありません。早急に彼を止めなければ……」
―――城内 大広間
兵士長「ウッ……!?」
エルフ「はぁ……はぁ……」
戦士「大丈夫ですか?」
エルフ「うん。でも、気絶しないって厄介だね」
戦士「そうですね……。正気を取り戻すまで戦わないといけません」
エルフ「それだけじゃないよ」
戦士「え?」
エルフ「普通の人間が限界を超えて活動し続けてれば間違いなく死に至る」
戦士「あ……」
エルフ「早く元凶をどうにかしてくれないと」
戦士「彼ならきっとやってくれるはずです」
エルフ「まぁ、じゃないと困るんだけど」
兵士長「オォォォォ!!!!」ダダダッ
エルフ「風よ!!」ゴォォォ
兵士長「グゥゥッ!?」
戦士「こうやって一定の距離を保っていれば、なんとかなりそうですね」
エルフ「でも、無限に放てるわけじゃないから」
戦士「そ、それもそうですね……。なら、やはり私が前衛を務めます」
エルフ「やれるの?」
戦士「倒すためじゃない。耐える戦いですから」
エルフ「危なくなったらボクが風の魔法を使うね」
戦士「お願いします」
兵士長「オォォォォ!!!」ブゥン
戦士「ふっ!!」ギィィィン
兵士長「グァァァ……!!!」ググッ
戦士(なんて力……!!やっぱり私じゃ圧倒される!!)
エルフ「風よ!!」ゴォォォ
兵士長「グォッ!?」
戦士「あ、ありがとうございます」
エルフ「厳しい?」
戦士「腕力の差が如実に表れますね……」
エルフ「どうしようか……」
兵士長「……」スタスタ
エルフ「あれ?どっかいっちゃうけど……?もしかして正気に戻ったのかな?」
戦士「いえ、向こうは武器庫です……」
エルフ「武器庫って……」
戦士「まずい!!止めないと!!」
兵士長「オォォォォォオォォォォ!!!!」ズゥゥゥン!!!!
エルフ「な……!!あんな大きなハルバートを……!!」
戦士「義父さんの得意武器です……」
エルフ「正気を失ってる癖に!!」
兵士長「アァァァァァ!!!!」ブゥン!!!
エルフ「あぶないっ!!」
戦士「くっ!義父さん!!いい加減に!!」
兵士長「ガァァァア!!!」ブゥン!!!
戦士「ずぁ!?」
エルフ「大丈夫!?」
戦士「ぐ……ぁ……」
エルフ「今、治癒を!!」タタタッ
兵士長「オォォォォ!!!」
エルフ「邪魔だよ!!―――風よ!!」ゴォォォ
兵士長「オォォォォォ!!!!」ブゥゥン!!!
ゴォッ!!!
エルフ「うそ……!?魔法の風を腕力で相殺するなんて……!?」
兵士長「……」
エルフ「いや、そんなことは絶対にできない……。もしかして、あの武器に魔法の加護が?」
兵士長「オォォォォォ!!!!」
エルフ(認識が甘かった。この人は魔王の軍勢とも戦おうとしてたんだ。魔法に対する装備がないわけがない……!!)
兵士長「ガァァァァァ!!!!」ブゥンッ!!!
エルフ「うっ!?―――ぁはっ?!」
戦士「あ……ぁ……」
兵士長「……」
エルフ「ごほっ……まずい……もろに……」
兵士長「オォォォォ!!!!」
エルフ(風が効かないなら……他の魔法を使うしか……。でも、他の魔法は殺傷力が上がるから……)
兵士長「オォォォォ!!!」ブゥンッ!!!
エルフ「あ―――」
戦士「―――でぁっ!!!」ギィィン!!
兵士長「……!!」
エルフ「あ、ありがとう……。傷は……?」
戦士「呼吸がしにくいです……」
エルフ「やっぱり?」
兵士長「ガァッ!!!」ドガッ!!!
戦士「きゃぁっ!?―――はぁ……やっぱり、腕力じゃ……敵わない……」
兵士長「ウゥゥゥ……」
戦士「力では男性に劣る。だからこそ、私はずっと技術を磨いてきた……」
戦士「義父さんに近づきたくて……!!」
兵士長「アァァァァ!!!」
戦士「義父さんから貰ったこの剣を自在に扱えるように私は腕を磨いてきたんだから!!!」ギィィン
兵士長「オォォォ!!!」グググッ
戦士(力で押してくる相手は受け流せ……)スルッ
兵士長「……!!」
戦士(間合いをつめて……一気に……!!)
兵士長「ガァァァァ!!!」ブゥン!!!
戦士「あっ?!」
エルフ「危ない!!」
戦士「このっ!!」ギィィィン!!!
エルフ「よし!捌いた!!間合いをとって!!ボクが追撃する!!」
戦士「はいっ!!」
兵士長「オォォォ!?」
エルフ「風よ!!」ゴォォォォ
兵士長「オォォォォ!!!」ブゥン!!!
ゴォッ!!
エルフ「―――掻き消すためには大振りしないといけない。振り切ったあとのハルバートは隙だらけだよ」
兵士長「!!」
エルフ「爆ぜろっ!!」カッ!!
ドォォォン!!!
兵士長「ガァッ!?」
戦士「やった!ハルバートが吹っ飛んだ!!」
エルフ「これで形勢は―――」
兵士長「アァァァァ!!!」ダダダッ
エルフ「え!?」
戦士「短刀まで持って……!!」
兵士長「オォォォ!!!」ザンッ!!
エルフ「あっ……」ガクッ
兵士長「グルルル……」
エルフ「血が……回復……しないと……」
兵士長「オォォォォ!!!」
戦士「やめてぇ!!義父さん!!!」ダダダッ
兵士長「オォォォォ!!!」ザンッ!!
エルフ「ぁ―――」
戦士「……!!」
兵士長「ウゥゥゥ!!!!」
戦士「それ以上は死んじゃう!!義父さん!!!」ガシッ
兵士長「ガァ!?」
戦士「やめて!!やめてよ!!」
兵士長「ガァ!!!」バキッ
戦士「うぁ!?―――止めなきゃ……止めなきゃ……でも……どうやって……」
兵士長「オォォォォ……」
―――王族の間
ドラゴン「灼熱に焼かれろ!!」ゴォォォ
キマイラ「縺薙・繝。繝シ繝ォ縺ッ 繝シ縺ョ逧・ァ倥∈縺ョ繝。繝・そ繝シ繧ク」ズズズッ
ドラゴン「この再生能力は……。俺の火力では一思いにやれないか。もっと圧倒的な力でなくては……」
キマイラ「縺薙・繝。繝シ繝ォ縺ッ 繝シ縺ョ逧・ァ倥∈縺ョ繝。繝・そ繝シ繧ク縺ァ縺」ズズズッ
賢者「くくく……。まぁ、あんたじゃキマイラは殺せないかもしれねえなぁ」
勇者「お前の相手は俺だぁ!!」ブゥン!!
賢者「……爆ぜな!」カッ
ドォォォン!!!
勇者「―――痛くないなぁ!!!」
賢者「……」
勇者「今の俺は無敵だ!!」
僧侶「勇者様ぁ……」ギュゥゥゥ
賢者「そりゃ最高に無敵だな」
魔法使い「―――掴まえた!!!」ギュッ
賢者「姉ちゃん」
魔法使い「燃えろぉ!!」ゴォォォ!!!
賢者「……」
魔法使い「あ、あれ……?燃えろぉ!!」ゴォォォ!!!
賢者「確かに姉ちゃんの高出力の魔法は脅威だ。だが、対処できないものでもない」
魔法使い「なんですって?」
賢者「あんたと同じだけの魔力を一気に放出してやればいいだけの話だ」
魔法使い「そんなことできるわけ!!」
賢者「姉ちゃんが殺さないように手加減しているなら、可能だ」
魔法使い「……!!」
賢者「殺す気でこいよ。ガッカリさせるな」スッ
勇者「ちっ!!」ダダダッ
賢者「爆ぜな」カッ
魔法使い「うそ―――」
勇者「させるかぁ!!!」バッ!!
ドォォォォン!!!!
勇者「がはっ!?」
魔法使い「ちょっと!!」
勇者「か、顔に怪我は?」
魔法使い「な、ないわよ!!」
勇者「……よかった。いや、まぁ、貴女に多少の傷ができたとしても面倒見ますけど……」
魔法使い「な、なにいってるのよ!!」
賢者「どうしたぁ。もう終わりかぁ?」
僧侶「……」
賢者「あんたが後ろから狙ってるものバレてるかならなぁ?」
僧侶「うっ……」
勇者「……っ」
魔法使い「どうしたら……いいの……?」
賢者「どしたぁ。もう万策尽きたのかぁ?ええ、おい」
勇者「……尽きたかどうか、貴方には分かるだろう?」
賢者「だからこそ、俺ぁそれを阻止しているんだぜぇ?」
勇者「……」
僧侶「勇者様!!今、治療を!!」テテテッ
賢者「させると思ってるのかよ?」
僧侶「ひっ」
賢者「あんたも早く魔法を発動させたらどうだ?流石の俺もあんたの暴走魔法だけは止められねえんだがなぁ」
僧侶「あなたが……死んでしまいますから……」
賢者「……」
僧侶「勇者様は貴方を救おうと言いました……。だから……」
賢者「そうかい。そのためにニンゲンが犠牲になってもいいっていうんだな?」
僧侶「全員を救います。私の……私たちの勇者様は!!」
賢者「……!!」
魔法使い「そうよ。救うことを諦めたどこかの勇者とは違うんだから」
賢者「てめぇら……。現実を見ればわかんだろうがよぉ。外では傀儡兵士たちが市民を虐殺し、お嬢ちゃんは俺の操り人形になった自分のオヤジと戦っている。下手すりゃどっちはもう死んでるかもしれねぇ」
賢者「全てを救う?どうやって?この状況でもそんなことがよく言えるもんだなぁ、勇者様よぉ」グビグビ
勇者「ふふふ……」
賢者「何がおかしい?」
勇者「……」
賢者「兄ちゃん……そりゃあ理想だろぉ?兄ちゃんの計画は随分と前倒しになってるじゃねえかよぉ」
勇者「おや?貴方はその目で見たはずですよ。彼女の仕事の早さを」
賢者「……あの砂漠の町か」
勇者「彼女はいつも僕の呼びかけには迅速に応えてくれる。期待を裏切ったことなんて一度もない」
賢者「まさか……わざと予定を早めたのか……」
勇者「心を読めるという優位性がある以上、付け入る隙があるとすれば予定にない行動を誰かがしなくちゃいけない」
賢者「くっ……」
勇者「なんの準備もなしにここまで来るなんて思わないことだ」
賢者「兄ちゃん……」
勇者「心を読むっていいことばかりじゃない。そのことを身に染みて知っているはずだ」
賢者「くくく……だが、救えるかどうかは別問題だろ?」
勇者「救えるさ。なにせ、俺の側室たちはすごい美人で有能なんだからな」
―――城下町
少女「やめてください」ドガッ
傀儡兵士「市民をまもれぇぇぇ!!!!」
ハーピー「なんじゃ、こいつらはぁ!!何故、倒れん!!」バキッ
ゾンビ「とけつほー!!!」ドロッ
少女「賢者によって自律神経までも狂わされているのでしょう」
ハーピー「手の込んだことを……。無駄に有能な奴はこれだから困るわ!!」
姫「―――全軍!!突撃!!!」
兵士「「おおぉぉ!!!」」
少女「着ましたか」
ハーピー「勇者の言うと通り、随分と早い到着だなぁ」
ゾンビ「うー!?ふえたー!!」
姫「一般人の救出を最優先です!!急ぎなさい!!」
少女「姫様。現状を把握していますか?」
姫「よくわかりませんが、勇者さまからこの街の市民が危険だと伝言を聞きました。なら、私の役目はこの街の市民を守ることにあります」
傀儡兵士「市民をぉぉぉぉ!!!」
兵士「やめろ!!」ギィィン!!!
ハーピー「これ!!そやつらはあやつられておるだけ!!無闇に傷つけるでない!!」
兵士「な!?魔物!!」
姫「ハーピー御姉さまは味方です!!!気にせず言われたとおりにするのです!!」
兵士「は、はい!!」
ハーピー「しかし、随分と大所帯できたものだ。隣国に戦争をしにきたようではないか」
姫「きちんと海路を使いましたから、そこまで目立った行軍にはなっていません。きっと」
ハーピー「大丈夫か?」
兵士「この兵士たちはどうしたら!?」
少女「拘束してください。拘束具はありますか?」
兵士「一応、一通りは」
少女「では、全兵士を一網打尽にしましょう」
ゾンビ「うー!!がんばるぅー!!」
姫「ところで、勇者さまはいずこに?」
ハーピー「勇者ならば城内におる」
姫「わかりました」テテテッ
ハーピー「なにもわかってないであろうに!!」グイッ
姫「ぐぇ」
ハーピー「今の状況をみあれ!」
姫「でも……」
ハーピー「でももかしももないわ。たわけ」
姫「そうですね……このままではダメですよね……。危ないですし……」
兵士「貴様!!姫様になんて口を!!」
ハーピー「あぁ?」
兵士「ひぃっ!?」
姫「すいません、誰か私の護衛についてくれませんか?」
兵士「どちらへ?」
姫「勇者さまのもとへ急がねばなりません」
ハーピー「いい加減にせえ」
―――城内 大広間
兵士長「オォォォォォ!!!!」グワッ
戦士「義父さん!!!」ギィィィン!!!
兵士長「!!」
戦士「これ以上……私の……私の友達を傷つけるなら……私は……」
エルフ「う……ダ、メ……」
戦士「私は……貴方を殺すっ!!!」
エルフ(早く……回復を……)パァァ
兵士長「オォォォォ!!!」
戦士「短刀なら!!私でも!!」ギィィン!!
兵士長「グググゥゥ……!!」
戦士「義父さん……こんな形で真剣勝負はしたくなかったのに……!!」
兵士長「オォォォ!!!!」ガキィィン
戦士「くっ!!短刀でもこのパワー……!!」
兵士長「ガァァァ!!!」ブゥン!!!
戦士「はっ!!」ギィィン!!
兵士長「オォォォ!!」
戦士(あんな小さな刃でも義父さんが持つとここまで……。いや、単純に私の力量が足りないだけ……)
兵士長「ガァァァァ!!!」
戦士(全力を出さないと、守れない!!)
エルフ「―――ダメ!!」
戦士「……?!」
兵士長「オォォォォ!!!」ブゥン!!!
エルフ「風よ!!」ゴォッ!!
兵士長「グゥゥ!!」
戦士「どうして……!!」
エルフ「守るって約束してくれたじゃん……勇者……」
戦士「でも、このままじゃ!!」
エルフ「ボクの大好きな勇者は、約束を破ることはしない。今も戦ってくれているはずだから」
戦士「それは……」
―――王族の間
賢者「いいよなぁ。勇者様は仲間を信じることができてよぉ」
勇者「お前は信じられなかったのか?」
賢者「生憎となぁ。心を読めるようになってからは……てんで信じられやしねえよっ!!」カッ!!
僧侶「な!」
ドォォォン!!!
勇者「お前!!!」
賢者「あの僧侶の姉ちゃんなら問題ないだろ?まぁ、痛いだろうけどよぉ」
僧侶「つっ……」
魔法使い「大丈夫!?」
僧侶「へ、平気です……」
賢者「あの姉ちゃんから離れたのは、傷を負っても勝手に回復するからだろぉ?」
勇者「……」
賢者「兄ちゃんの中でもしっかり守る優先順位はあるみたいだな。よかったなぁ、姉ちゃん。一番大事にされて。うれしいだろぉ?」
魔法使い「な……!」
勇者「……」
賢者「ここまで二人を連れて来たのも、単純に姉ちゃんたちに単独行動をさせることができないからっていうのもあるし、二人が兄ちゃんの中で大きな存在になっているっていうのもある」
僧侶「勇者様……」
賢者「そして兄ちゃんの中で最も守りたい存在なのが……あんたなんだよ……」
魔法使い「……!」
賢者「嬉しいだろぉ?ほら、よろこべよ」
僧侶「……」
魔法使い「ちょっと私は!!別に!!」
賢者「くくく……。全員守るなんて嘘もいいところだ。兄ちゃんの中では既にはっきりしている。全員が崖から落ちそうになっていたら、誰の手から取るのかはなぁ」
勇者「……」
賢者「所詮は口先だけの勇者だ。俺と同じ。守れない者からは目を背ける。そして守った者だけを後ろに従えて、自惚れる。兄ちゃんはそういう人間だ」
ドラゴン「おのれ……!!」
キマイラ「縺薙・繝。繝シ繝ォ縺ッ 繝シ縺ョ逧・ァ倥∈縺ョ繝。繝」ズズズッ
ドラゴン「邪魔だ、キマイラぁ!!そこを通せぇ!!」
賢者「本音を聞いちまえば、信頼が如何に馬鹿らしいかわかるだろう?なぁ?」
僧侶「……」
賢者「……てめぇ……何を言ってやがる……」
僧侶「……」
賢者「黙れよ……姉ちゃん……!!」
僧侶「私は勇者様に手を取ってもらわなくても結構だといいました」
賢者「……!!」
僧侶「勇者様が私の手を取ってくれるまで、私は崖にしがみ付きます」
賢者「それでも間に合わないかもしれねぇぜぇ?」
僧侶「そのときは、勇者が私のことを不要になった。ということですから」
賢者「な……!!犬か……お前はぁ……!!」
僧侶「私は勇者様の犬で結構です」
勇者「貴女は……」
僧侶「私の体と心は既に勇者様に捧げました。私を生かすも殺すも勇者様次第です。勇者様のために生き、そして死ぬと決めています」
僧侶「―――私は勇者様のことを愛していますから!!」
魔法使い「なっ……なんてこというわけ……?」
>>44
僧侶「そのときは、勇者が私のことを不要になった。ということですから」
↓
僧侶「そのときは、勇者にとって私は不要になった。ということですから」
賢者「こ……このアマぁ……!!耳障りな声を出すなぁ!!!」カッ!!!
僧侶「きゃっ!」
ドォォォン!!!
賢者「……ちっ!!」
勇者「せぇぇい!!!」ブゥンッ
賢者「俺に奇襲は通じねぇって言ってるだろうがよぉ!!」
勇者「それにしては随分と反応が鈍かったですね。何を動揺しているんです?」
賢者「なにを……」
勇者「俺の側室、とくに犬畜生の彼女にそのような揺さぶりは通用しない。それぐらいわかっていたでしょう?」
賢者「……っ」
勇者「それとも。心を読める自分なら、簡単に相手の心を変えられるとでも思ったのですか?いいか?彼女の従順っぷりは俺が少し引くぐらいだぞ?」
賢者「黙れよ、兄ちゃん。どっちにしろ、勝ち目はねえはずだ。切り札もそう簡単には使わせねえぞ?」
勇者「貴方の狙いは時間稼ぎ。このまま戦闘が長引けば被害は拡大し、驚異的な再生能力を持つキマイラが居る以上消耗戦は免れないですからね」
賢者「そこまで分かってるなら、温い攻撃ばっかしてねえで死ぬ気でこいよ。お嬢ちゃんもどうなってるかわからねぇぜぇ?」
勇者「……そうですね。彼女たちも心配ですし。そろそろ切り札を投入しましょうか」
賢者「させると思ってんのか?」
勇者「老兵にはさっさと退場してもらいましょうか」
賢者「てめぇ!!」
勇者「ドラゴちゃん!!!パース!!!」
ドラゴン「よし。そちらに放る!!上手く受け取れ!!」
賢者「させるかよぉ!!―――爆ぜろ!!」カッ!!!
勇者「……!!」
ドォォォォン!!!
賢者「姉ちゃん。心の声が駄々漏れだ。姉ちゃんが受け取り係なんだろぉ?」
魔法使い「もうっ!人の心を勝手に読むんじゃないわよ!!」ダダダッ
ドラゴン「早くこい!!」
賢者「肉団子ぉ!!ドラゴンの動きをとめちまえぇ!!」
キマイラ「縺薙・繝。繝シ繝ォ縺ッ 繝シ縺ョ逧・ァ倥∈縺ョ繝。繝」ズズズッ
ドラゴン「邪魔な触手だ……!!」
賢者「それだけは使わせねえ……!!その鏡だけはなぁ……!!」
勇者「―――ドラゴンばかりに気を取られてたら、足をすくわれる」バッ
賢者「兄ちゃんがそうすることは、知ってんだよ」カッ!!
僧侶「ええい!!」ダダダッ
賢者「何人こようが無駄だ」
ドォォォォン!!!!
勇者「ぐぁ?!」
僧侶「きゃぁ!?」
ドラゴン「投げるぞ!!」
魔法使い「はやく!!鏡をこっちに!!」
キマイラ「縺薙・繝。繝シ繝ォ縺ッ 繝シ縺ョ逧・ァ倥∈縺ョ繝。繝」ズズズッ
ドラゴン「消えろ!!化け物!!」ゴォォォォ
キマイラ「縺薙・繝。繝シ繝ォ縺ッ 繝シ縺ョ逧・ァ倥∈縺」
賢者「無駄だぁ!!そんな火力じゃ俺のキラーマジンガはびくともしねえよぉ!!」
魔法使い「この……!!いい加減に……!!」グッ
賢者「……てめぇ!!何を考えてやがる!!」
魔法使い「邪魔よ!!肉団子!!!」ガシッ
ドラゴン「お、おい!!」
魔法使い「もえろぉぉぉ!!!」ゴォォォォ
キマイラ「縺薙・繝。繝シ繝ォ縺ッ 繝シ縺ョ逧・ァ倥∈縺ョ―――!!!!」
賢者「確かに姉ちゃんなら燃やしつくせるだろうけどなぁ。―――それをするとどうなるか、見てなかったのかぁ?!」
魔法使い「え?」
ドラゴン「早く離れろ!!」バサッバサッ
賢者「やれ、肉団子」
キマイラ「縺薙・繝。繝シ繝ォ縺ッ 繝シ縺ョ逧・ァ倥∈縺ョ繝。繝」ズズズッ
魔法使い「な……とりこまれる……!!」
賢者「馬鹿が……」
勇者「させるかぁぁ!!!」
賢者「簡単に助けられると思ってんのか?」カッ!!
ドォォォン!!!
勇者「ぐぁ!?―――やめろぉ!!!キマイラをとめろぉぉ!!!」
賢者「もう手遅れだ……」
勇者「ドラゴちゃん!!」
ドラゴン「わかっている!!」
キマイラ「縺薙・繝。繝シ繝ォ縺ッ 繝シ縺ョ逧・ァ倥∈縺ョ繝。繝」グググッ
魔法使い「あぁ……いやぁ……!!」
勇者「やめてくれぇぇ!!!」
賢者「いかせぇねえよ」ドォォォン!!!
勇者「がはっ?!」
僧侶「勇者様!!」
賢者「どうした。守るんじゃなかったのかぁ?」
魔法使い「ぁぁぁ……ぁ……」
キマイラ「縺薙・繝。繝シ繝ォ縺ッ 繝シ縺ョ逧・ァ倥∈縺ョ繝。繝」ズズズズッ
ドラゴン「させるかぁ!!!」グイッ
賢者「トカゲの大将。一緒に肉の一部にされちまうぜぇ?」
ドラゴン「くっ!!」バッ!!
キマイラ「縺薙・繝。繝シ繝ォ縺ッ 繝シ縺ョ逧・ァ倥∈縺ョ繝。繝」
賢者「あーあ……食われちまったなぁ……」
勇者「な……ぁ……」
僧侶「そんな……」
賢者「ほらな。守れねえものもある。勇者はただの人間に与えられた肩書きにすぎねえんだからよぉ」
ドラゴン「……」
賢者「終わったな……」
勇者「そんな……だって……俺は……守るために……」ガクッ
僧侶「ゆ、勇者様!しっかり!!」
賢者「兄ちゃん。もう帰りな。やる気のねえやつはいらねえんだよ」
僧侶「あなたは……」
賢者「ただし……俺が勇者の死亡を確認してからになるけどなぁ……」
賢者「この世にはもう勇者は存在しないことを世間に広める必要があるだろぉ?」
賢者「これで世界は絶望し……人間は駆逐され……静かな世界になるなんだぁ……くくく……あーっはっはっはっはっは!!!」
ドラゴン「……っ」
賢者「さぁ、終わりにしよう。ニンゲンの時代をよぉ」
勇者「……」
賢者「これで……俺の復讐も終わる……」
僧侶「復讐……?」
ドラゴン「……復讐か。それはニンゲンに対してか、それとも魔族に対してか?」
賢者「あぁ?」
ドラゴン「お前はどちらにも恨みがあるはずだ。心の中で蔑まされてきたニンゲン。そのような体質にした魔族。どちらも等しく恨んでいる」
賢者「随分と余裕だなぁ、大将」
ドラゴン「お前はもう勝った気でいるようだが、何故だ?」
賢者「……!!」
ドラゴン「もう遅い」
賢者「何故だ!!誰もそんな作戦を!!」
ドラゴン「ああ。ついさっき、思いついたからな。誰かが余計なことをしたおかげで」
賢者「だが……取り込まれても無事でいられるわけが……!!」
ドラゴン「奴の膨大な魔力放出なら取り込まれないように、体の表面を灼熱で覆える。流石のキラーマジンガも体内から攻撃されては……無事ではすまんだろう?」
勇者「え……それって……」
僧侶「もしかして……」
キマイラ「縺薙・繝。繝シ繝ォ縺ッ 繝シ縺ョ逧・ァ倥∈縺ョ繝。繝」ズズズッ
賢者「何も異変は……」
キマイラ「縺薙・繝。繝シ繝ォ縺ッ 繝シ縺ョ逧・ァ倥∈縺―――!!!」
勇者(キマイラが膨張し始めた……!?)
キマイラ「縺薙・繝。繝シ繝ォ―――!!!!!!」
バァンッ!!!
賢者「キマイラが?!」
僧侶「破裂……を……うっ……」
魔法使い「―――捕まえたわよ!!!」ガシッ
賢者「くっ!!」
魔法使い「これで終わりに……」
賢者「捕まえたからってなになるんだぁ……?」
ドラゴン「分かるだろう?もうお前には心を読めるだけの力しかない。キマイラが居ないのでは誰が俺の足止めをするというのだ?お前では俺に攻撃はできないはずだ」
賢者「ちっ……」
ドラゴン「観念したか」
勇者「……」
魔法使い「どうだった?ピンチをチャンスに変える戦術を―――」
勇者「……」
魔法使い「ど、どうかした?」
勇者「死んでいた可能性もあるんですよ?」
魔法使い「え……」
勇者「やめてください……本当に……」
魔法使い「あ、ごめ……」
僧侶「勇者様、あの……」
勇者「……王女様はどこに?」
賢者「鏡を使えばなんでも訊けるだろぉ?」
勇者「それもそうですね。傀儡化した人たちを元に戻すための術を聞き出しましょうか」
賢者「……」
勇者「鏡は?」
ドラゴン「ここに」
勇者「よし」
賢者「……くくく……」
勇者「何がおかしいんですか?」
賢者「笑わずにいられるかよぉ……」
勇者「……」
賢者「くくく……あはははは……」
ドラゴン「何がおかしい!!」
賢者「鏡を使えばいいだろがよぉ」
勇者「……ドラゴちゃん!!」
ドラゴン「なに?!」
キマイラ「グオォォォォ!!!!!」
ドラゴン「つっ!!まだ息があったのか?!」ガシッ!!
賢者「ほら、早く俺に鏡を向けねえと手をどんどん打っていくぜぇ?くくくく……」
―――城下町
少女「傀儡化した兵士の動きがおかしいです」
姫「え?」
傀儡兵士「守れ……王女を……守れ……」ザッザッ
ハーピー「とまらんか!!」
ゾンビ「とけつほー!!」オロロッ
姫「城へ向かっている?―――みなさん!!兵士の方たちを城へ向かわせないようにしてください!!」
兵士「はっ!!」
少女「城で何かがあったと判断します」
ハーピー「行ってみるか……」
少女「我々に与えられた指示とは反します」
ゾンビ「うー!!おにぃちゃん、ここをまかせてくれたぁー!!」
ハーピー「そうは言っても……」
姫「突撃しなくては!!」
少女「姫様もここに居てください」グイッ
―――城内 大広間
兵士長「……王女を守れ……」
戦士「はぁ……はぁ……次はなに……?」
エルフ「王族の間に向かうつもりなの?」
兵士長「……」
戦士「それは呼ばれているということですか」
エルフ「勇者が追い詰めてるのかも」
戦士「なら、ここで義父さんを行かせるわけにはいきません。形勢が逆転する」
エルフ「やることは同じか……」
兵士長「……」スタスタ
戦士「行かせない」
兵士長「……」ブゥン!!
戦士「つっ!!」ギィィン
兵士長「……」グググッ
エルフ(もう……何をやってるの……。早くしないとこっちも限界なんだけど……)
ドラゴン「お前はもう勝った気でいるようだが、何故だ?」
賢者「……!!」
どういうこと?賢者って魔族の心を読めないんじゃなかったっけ
ドラゴン「お前はもう勝った気でいるようだが、何故だ?」
賢者「……!!」
ドラゴン「もう遅い」
賢者「何故だ!!誰もそんな作戦を!!」
ドラゴン「ああ。ついさっき、思いついたからな。誰かが余計なことをしたおかげで」
賢者ってドラゴンの心読めたっけ
失礼しました、読み直してきます
―――王族の間
勇者「もう一度、言ってみろ!」グイッ
賢者「あぁ?」
僧侶「勇者様!!」
魔法使い「ちょっと!」
勇者「今、なんていった?」
賢者「傀儡たちを元に戻す方法はない。俺を殺す以外になって言ったんだよ」
勇者「そんなわけないだろ」
賢者「鏡を使えよ。はっきりする」
勇者「……」
賢者「どうしたぁ?何で使わない?……さっきの戦いでも兄ちゃんは使おうとしなかったなぁ。鏡を使えば俺の心も読めて、あっさり終わったはずなのによぉ。切り札だっ、なんて言っちまって」
勇者「お前っ!!」
賢者「どうした?使えよ。早く」
勇者「……!」
賢者「……使いたくねえってか。俺の本心を知ったら、刃の行方を見失うかもしれねえから。甘いなぁ、兄ちゃん。甘いぜぇ」
キマイラ「グオォォォォ!!!」
ドラゴン「何をしている!!」ググッ
勇者「……」
賢者「大将が困ってるぜぇ?」
勇者「何が狙いだ」
賢者「鏡を使えって言ってんだろ。俺は何もいわねえよ」
勇者「いい加減にしろ……」
賢者「早く殺さねえと、ここに来ちまうぜぇ?傀儡兵士の群れがよぉ」
勇者「なに……」
賢者「既に呼んだ。時期に来る」
魔法使い「早く術を解いて!!」
賢者「術じゃねえ。呪いだ」
僧侶「どうしてですか!?貴方はもう魔王や魔道士の呪縛からは解放されているではないですか!!どうして悪に手を……」
賢者「悪?あっはっはっは!!人の肉を食った姉ちゃんが言っていい台詞か、そりゃぁ」
勇者「口を閉じろ」
賢者「鏡を使う気になったか」
勇者「……」スッ
賢者「くくく……」
魔法使い「ねえ……」
勇者「こちらにこないでください」
魔法使い「え?」
勇者「お願いします」
魔法使い「どうしてよ?」
勇者「……」
賢者「どうした、兄ちゃん?」
勇者「なるほど。そういうことですか……」
賢者「だろ?兄ちゃんは俺を殺すしかねえんだよ」
勇者「……」
賢者「やれ。それしか道はねえよ。俺ぁもう好きなだけ抵抗した。疲れたしなぁ。もう動きたくもねえ」
勇者「貴方は……」
勇者「―――ドラゴちゃん!!キマイラを外へ!!」
ドラゴン「外だと!?」
勇者「外壁を融解して、外へ!!海のほうへ出ます!!」
僧侶「勇者様!それは一体!?」
勇者「急いで!!」
ドラゴン「説明はなしか!!」
勇者「すいませんっ!!」
ドラゴン「……承知したぁ!!!大海原まで付き合ってもらうぞ!!キマイラぁ!!」
キマイラ「グォォォ!!!!」
魔法使い「もう!!なんなのよぉ!!」ダダダッ
賢者「兄ちゃん……」
勇者「考えてみれば、僕たちの目的はキマイラだけです。キマイラさえ討てればそれでいい」
賢者「……バカが。そんなことしても俺の復讐は終わらねえ。一つの復讐が完了するだけだ」
勇者「……」
賢者「どうしても行くって言うなら、ここまでだな。俺ぁ、兄ちゃんを殺す。この場でな。そして新しい勇者を探しに行く」
勇者「また同じ時間を過ごすというのですか。僕から言わせればあまりにも不毛です」
賢者「不毛で結構だぁ。俺ぁもうそうするって決めてんだぁ」
勇者「……勝てないですよ?もう鏡を使いますからね」
賢者「そらぁどうかなぁ」
勇者「もう迷いませんよ?貴方の心を見てしまったからには」
賢者「兄ちゃん。最初から鏡を使っておけばよかった。何も面倒はなかった。ミイラっ娘も失うことたぁ、無かった」
勇者「……そうですね。僕の失態だ」
賢者「いくら俺が極悪人だった場合を考えるにしても、だ。最初から鏡を使わねえのは駄目だな。そら、俺が有利だ」
勇者「……」
賢者「目に見えるものを守るんじゃなかったのかよぉ?」
勇者「……貴方の言うとおりだ。所詮はちっぽけな人間。全てを守ることはできない」
賢者「ああ。そうだ。勇者も人間だぁ。ただの弱い人間だぁ。目の前の誰かを見殺しにするときもあらぁね」
賢者「救えたはずの者を殺すことだってある。それが人間だ。救世主なんてものは、この世にはいねえんだよ」
勇者「鏡を盾にすれば、貴方の行動は手に取るようにわかる。そうなれば、僕のほうが有利になります」
賢者「だろうなぁ。若さっていいなぁ。アル中のおっさんにゃあ、兄ちゃんと正面からやりあうのはきつい」
ドラゴン「まだか!?」
魔法使い「結構分厚いのよ!!」ジジジッ
僧侶「勇者様……!」
賢者「―――くらいなぁ!!」カッ!!
勇者「ふっ!!」
ドォォォン!!!
賢者「ちぃ……」
勇者「はぁぁぁ!!!」
賢者「くっ!!」ギィィィン
勇者「ついに剣を抜いたか」
賢者「10年ぶりに抜いたぁ。俺の手の内がバレてる相手とはやりにくいなぁ」
勇者「今なら引き返せる」
賢者「分かってるくせによぉ。そんなこと言うんだからなぁ、兄ちゃんは。俺ぁニンゲンでも魔族でもねえ。ただの化け物だ」
勇者「―――残念です」
賢者「……!」
魔法使い「よし、溶けたわ!!あとは体当たりでぶち破れるはずよ!」
ドラゴン「よし!!―――こい!!キマイラぁ!!」グイッ
キマイラ「グオォォォォ!!!!」
僧侶「勇者様!!」
魔法使い「早く!!」
勇者「……」
賢者「殺せ……。ここまで斬っておいて、どっかいっちまうのか?魔法で傷を癒しちまうぜぇ?」
勇者「……勝手にするといい」
賢者「……」
勇者「行きましょう!」
ドラゴン「早く乗れ!!」
勇者「はい!!」ダダダッ
魔法使い「そのままにしていいの?」
勇者「構いません。今はキマイラの始末が先です」
僧侶「しかし、キマイラの自己再生能力がとても凄まじくて簡単には……」
賢者「……見込みどおりの男だった」
兵士長「王女を……守らなければ……」
賢者「……てめえだけか。くくく、兄ちゃんの側室たちはやっぱり有能だなぁ……」
戦士「義父さん!!いい加減に―――」
賢者「来たか、お嬢ちゃん。兄ちゃんたちなら、あの大穴から外に飛び出していったぜぇ?」
戦士「……」
エルフ「この部屋は……」
賢者「エルフの姉ちゃんもきたかぁ……」
エルフ「その傷……」
賢者「使えねえ傀儡どもだ……。一人しかきやがらねえ……」
戦士「勇者に負けたんですね」
賢者「負けてねえ。死んでねえからな」
戦士「違います。生かされたんだ、勇者に。貴方は死ねなかっただけです」
賢者「……」
戦士「何があったんですか……。貴方は何がしたかったんですか?」
賢者「これは復讐だ。勇者とニンゲンたちに対する復讐だったんだよ」
エルフ「復讐……?」
賢者「そうだ。3年前、民間人の集まりである海賊艦隊が魔王を討伐したと世界中に報じられた」
賢者「俺ぁ、嬉しかったねぇ。これで生き恥を晒すこともなく、この世を去れると思った。魔道士と魔王の死によって、俺を縛り付けていた鎖はなくなったからなぁ」
戦士「え……?」
賢者「ニンゲンに恨みもあったが、もうどうでもよかった。嫌いなニンゲンの声が聞こえない場所へ行くには死ぬしかないってことたぁ、とうの昔に気付いてたからなぁ」
エルフ「ニンゲンに復讐をしようとは思わなかったってこと?」
賢者「ああ。10年はおっさんを無気力にさせるには十分な時間だった。最初はなぁ、この街にいるニンゲンを傀儡にして、好きなときに遊んでたもんだ」
賢者「時には友人同士を、時には恋人同士を殺し合いさせてなぁ……。俺を散々バカにしやがってって想いながらなぁ」
戦士「なっ……」
賢者「でも、すぐに飽きた。馬鹿馬鹿しい子供みたいな復讐だなって思って、それからは適当に酒を飲んでた。魔道士やその手下から金はもらってたから、酒代に不自由はなかった」
エルフ「なら、どうしてこんなことを。キマイラに手をかして、王女を誑かして……兵士に街の住民を襲わせたの?」
賢者「……」
エルフ「答えて!!」
賢者「勇者が魔王を倒さなかったからだ」
戦士「は……?」
エルフ「なにを……」
賢者「海賊艦隊が魔王を倒したからだぁ……」
戦士「それとこれとどんな繋がりが……」
賢者「魔道士から散々聞かされていた。魔王の恐ろしさと強さはな。すぐに思った。海賊ごときが魔王を倒せるはずがない。誰かが力を貸したはずだ。勇者と呼ぶに相応しい誰かの力を」
賢者「魔王討伐後すぐに隣国の姫君が各国との永続同盟に乗り出している話も出てきたから、姫君が何かを知っている可能性を俺ぁ考えた」
賢者「どの国も魔王討伐の知らせに浮き足立っている状況で、そんな外交を考えられるのは賢王か魔王が討伐させることを信じて疑わなかった奴ぐらいだろうからなぁ」
戦士(そういえばあの姫様は彼のことを随分と信頼していた……)
賢者「ちょっと探りを入れたら案の定、魔王は一人の勇者によって倒されていた。俺ぁ憤慨したぁ。どうして屑のニンゲン共ぁ勇者の存在を知らず、ただ手を貸しただけの海賊を英雄扱いにしているんだってなぁ!!」
エルフ「それって……」
賢者「勇者だろ?世界を救ったのは勇者だ。おかしくねえか?なんで海賊が感謝されて、勇者には詫びの一つもねえんだ?今までバカにしてすまなかったの一つもよぉ!!」
戦士「……」
賢者「……だから、復讐してやろうともう一度思った。てめえらが命の危機に瀕したとき、誰が助けてくれるのか。身をもってしれってなぁ」
戦士「貴方は勇者という存在を世に広めたかったんですか?」
賢者「そうだ。この世には勇者がいることを知らしめたかった。見返してやりたかった。それが俺の復讐だ。ニンゲンに対するな」
―――上空
勇者「僕に対する復讐、つまり勇者に対する復讐は出会ったときに考えたそうです」
魔法使い「どういうこと?」
勇者「僕が勇者という存在を世界から消そうとしていたのが気に食わなかったようですね」
僧侶「でも、それは勇者様がこれ以上の諍いを生まないようにと」
勇者「それでも彼は違った。勇者という存在を憎みもしたでしょう。成果を上げれば疎まれ、成果を出さねば蔑まされる人生だったようですからね」
魔法使い「魔王を倒したのが勇者であることを誰よりも広めたかったってこと?」
勇者「勇者を認めて欲しかったのでしょう。英雄と称えて欲しかったのでしょう。でも、僕はそれを嫌った。だから、彼は僕を英雄にしようとした。それが僕に対する復讐」
勇者「自分のように勇者から逃げた僕を許せなかったから。勇者を穢した僕に対する報復」
魔法使い「逆恨みじゃない」
勇者「それだけ彼は勇者という称号に拘っていたことになります」
ドラゴン「おい!こいつはどこまで連れて行けばいいんだ!?」
キマイラ「グォォォォォ!!!!!」
勇者「この辺にいると思うんですけど……」
魔法使い「本当に来てるの?」
―――王族の間
エルフ「それだけの理由で色んなニンゲンをキマイラに襲わせたってこと?」
賢者「ニンゲンは屑だ。殺されても文句はいえねえだろぉ?」
エルフ「そんなわけ!!」
兵士長「……」ギラッ
エルフ「くっ……!」
賢者「俺を攻撃しようとしても無駄だ。こいつがいる限りな」
戦士「義父さんを返してください」
賢者「なら、俺を殺せばいい」
戦士「どうして!?どうして私に、いいえ、他人の手を借りようとするのですか!?死にたいなら勝手に死ねばいいじゃないですか!!」
賢者「俺が欲しいのは、魔王は勇者が倒したっていう事実とそれを語り継いでいく人間だ」
戦士「そんなの……」
賢者「お嬢ちゃんをどうして傀儡にしなかったか分かるかぁ?」
戦士「わかりませんよ」
賢者「人っていうのはな、嫌いだった相手のことを一度好きになるとなぁ、多くの人に広めたくなるもんだ。出会う人たちに紹介して回りたい気分になる。それが英雄なら自慢もしたいだろう」
戦士「なんのことですか?」
賢者「勇者嫌いが治ったお嬢ちゃんが、勇者が魔王を討伐した現場を生で見る。……絶対に黙っては居られない。きっと誰かに話す」
戦士「……!」
エルフ「まさか、それだけのためにこの子に勇者を探させて……」
賢者「都合が良かった。お嬢ちゃんなら絶対に勇者伝説の語り手になる。それだけの人材だった」
戦士「……」
賢者「そこで俺がくたばるのを見てろ。そしたら、オヤジの呪いもとけるようになってるからよぉ」
戦士「いいえ。貴方は死なない。彼は、勇者は致命傷を負わせてはいないでしょう」
賢者「だが、重傷だ。このまま血を流せば死ねる」
戦士「そんなことさせません。貴方は裁かれるべきだ」
賢者「もうそれだけの資格はねえ。俺ぁ化け物だ」
戦士「化け物が私を守って死のうとしたんですか?!」
賢者「あの時にはもう全ての下準備が整ってた。だから、置手紙にも書いたろ?生きてるようなことがないようにってな」
戦士「……貴方はまた、逃げるんですね。私に背を見せて!!!!」
賢者「俺ぁ勇者じゃねえ、賢者でもねえ……。ただのよっぱらいだ。逃げて何が悪いってんだよぉ」
賢者「好きに生きてきた。この10年間。ニンゲンもいっぱい殺してやった。酒も飲んだ。女も抱いた。あとは……勇者を世間に広めるだけだ」
戦士「そんなの……」
エルフ「広めると思ってるの?」
賢者「姉ちゃんは口が堅いだろうが、お嬢ちゃんはそういうタイプじゃねえ。そもそも兄ちゃんと過ごした時間が違いすぎる。黙っておく義理もねえしなぁ。海賊の姉ちゃんだってお口は緩々だったろぉ?」
戦士「……」
賢者「お嬢ちゃんはもうその目で見た。耳で聞いた。勇者がどれだけの力を持ち、そして有能な仲間を従え、魔王を倒したのかを」
賢者「だから、あとはその側近だった俺が目の前で死に絶えるのを眺めてればいいんだよ。それで終わりだ。俺の復讐は終わる。キマイラも死ぬ、俺も死ぬ、勇者という存在は世界に広まる。完璧だ」
戦士「……」
賢者「お嬢ちゃん、やめろ」
戦士「連れてきてもらえますか?私たちだけでは怪しいですから」
エルフ「連れてくるって……」
戦士「外に居るキラちゃんを」
エルフ「……!!」
賢者「お嬢ちゃん!!」
戦士「キラちゃんは強すぎるために、万が一貴方を死なせる事態もあった。だからこそ、彼女には外で兵士の足止めをしてもらっていた。けれど、今の貴方は戦えない。キラちゃんは戦う必要がない」
エルフ「ガーちゃんに運ばせるってこと?」
戦士「はい。そして貴方が介抱してあげてください」
賢者「……」
エルフ「わかった。待ってて」
戦士「はい」
賢者「お嬢ちゃん……」
戦士「止めるなら、私を倒さないと駄目です」
賢者「……いいだろう。俺だってなぁ、ここまで来て生き延びたくはねえよ」
兵士長「……」
戦士「……え」
賢者「俺を甘くみるな。小娘。死ぬ覚悟なんて勇者に選ばれたときから持ってんだよ。こんな世界に未練なんて欠片もねえしなぁ。―――やれ」
戦士「ま……!!」
兵士長「ふんっ!!!」ザンッ!!!
賢者「ごふっ……!!!がっ……く……くく……くくく……あば……よ……」
賢者(あと……は……たのむぜ……あい、ぼう……)
―――上空
勇者「あそこです!!向こうです!!」ペシペシ
ドラゴン「頭を叩くなぁ!!!」
キマイラ「―――はっ!!!はぁ……はぁ……!!」
魔法使い「ちょっと、キマイラの表情が変わったわよ!?」
僧侶「え……?」
キマイラ「ふふふ……しんだ……か……!!」
ドラゴン「なに?」
キマイラ「あの老いぼれ……の呪いが……とけた……!!!」
勇者「なっ……!?」
ドラゴン「貴様も傀儡にされていたのか」
キマイラ「これで……これでぇ……もう一度はじめられる……!!!当初の目的である……魔族の復古をぉ!!!!」
ドラゴン「貴様、まだいうのか?!」
キマイラ「この驚異の自己再生力があれば……無敵だ……!!誰にも負けない!!!」
ドラゴン「自身の体をよく見るんだな。お前はもうただの肉塊でしかないんだぞ?」
キマイラ「これで……全部……!!」
ドラゴン「自身の状態すら分からないか」
キマイラ「このままお前を取り込んで―――」
勇者「落として!!」
ドラゴン「分かっている!!」ブゥンッ
キマイラ「無駄だ……触手が……まだ……」
魔法使い「落ちなさいよ!!」
キマイラ「堕ちない……このまま魔王に返り咲く……この力で……」
勇者「流石に届かないな。もっと高度を下げてください」
ドラゴン「やっている!!」
キマイラ「あなたをとりこめば……とりこめばぁ……!!」
魔法使い「もう一度、体内を燃やしてやりましょうか」
僧侶「危険ですから!!それにもう限界ですよね!?」
ドラゴン「―――まだ届かないか!?」
勇者「やってみましょうか。失敗しても文句は言わないでくださいね」
―――海上 船内
船員「キャプテン!!10時の方角から何かが猛スピードでこちらに向かってきています!!」
キャプテン「何かってなんだい?報告ははっきりいいな」
船員「あれは勇者を乗せたドラゴンではないかと」
キャプテン「それを先にいいなぁ!!!」ダダダッ
船員「しかし、ドラゴンに何かが取り付いているようにも見えますし、何かのトラブルではないかと」
キャプテン「ダーリーン!!!こっちだよぉ!!!きちんと姫様は送り届けただろー!?」
船員「キャプテン!!船内に戻ってくだせぇ!!危ないですって!!」
キャプテン「バカヤロウ!!旦那を出迎えるのが良妻の務めだろうがぁ!!!」
船内「でもぉ!?」
キャプテン「ん?なんか飛んでくるねぇ。なんだい、ありゃ?」
船員「キャプテン、ふせて!!」
キャプテン「ほっ!」パシッ
船員「キャプテン!!危ないことはしないでください!!爆弾の類だったらどうするんですかぁ!?」
キャプテン「ダーリンたちがそんなもの投げるわけないだろ。って、これは角笛じゃないか。なんでこんなものを……」
船員「もし敵だったらって話をですねぇ!!」
キャプテン「どう思う?」
船員「そりゃあ、吹けってことじゃないですか?」
キャプテン「バッカ!!そんなことしたら間接キスになっちまうだろ!!なにいってんだい!!」
船員「でも吹いて欲しいから投げてきたんでしょ?」
キャプテン「そ、そうだけさぁ……。まだ、ダーリンとは何もしてないんだけど……」モジモジ
船員「いいから吹いてあげたらどうですかね?」
キャプテン「そうさね。とりあえずファースト間接キッスといくか……」
船員「ヘイ」
キャプテン「……」
船員「……」
キャプテン「こっちみてんじゃないよぉ!!照れるだろぉ!!」
船員「キャプテン!!恥らう歳じゃねえでしょう!!」
キャプテン「もっぺんいってみな」
船員「すいません」
―――上空
ドラゴン「まだ吹かないか……!!」
勇者「僕との間接キスにドギマギしていると見ました」
魔法使い「そんなバカな……」
僧侶「勇者様との間接……は、特別ですから……」
魔法使い「何歳よ……あんたたち……」
ドラゴン「余裕でいるのは結構だが、俺が取り込まれたら終わりだからな」
勇者「分かってますって」
ドラゴン「全く……」
キマイラ「これで……マオウに……なれ……る……」ググッ
ドラゴン「くっ……!!まだか……!!」
―――ピィィィ
ドラゴン「来たか!!―――しっかり掴まっていろ!!」
勇者「はい!!」
ドラゴン「あの船団の中心に飛び込む―――」ゴォォォ
キャプテン「おぉ!!ダーリン!!」
勇者「どうも!!早く砲撃準備を!!このキマイラを狙ってください!!」
キャプテン「まかせなぁ!!!よく分からないけど、砲撃準備!!あの怪物に一斉掃射するよぉ!!」
船員「アイアイサー!!」
キマイラ「なにを……」ググッ
ドラゴン「我々の力だけではお前を完全に倒すことはできないからな」
勇者「最大火力で消し炭にします」
キマイラ「そのまえに……とりこんで……」
ドラゴン「早くしろ!!!」
キャプテン「分かってるって!!各砲座、準備はいいね!!ドラゴンは狙うんじゃないよぉ!!」
船員「アイアイサー!!!」
キマイラ「マオウになる・・・魔王に……!!!」
ドラゴン「諦めろ。化け物」
勇者「お願いします!!!」
キャプテン「―――うてーっ!!!」
―――王族の間
戦士「義父さん……正気に戻ったの……?」
兵士長「……王女様は?」
戦士「分からない。ここにはいないから」
兵士長「そうか……」
戦士「意識はあったの?」
兵士長「お前に刃を向けたのは覚えている。そして、友人を刺したことも自覚している」
戦士「この人は何をしたかったの?私には本当のことに聞こえなかった。そもそも彼はずっと私たちに嘘をついて―――」
兵士長「……このあと、どうするつもりだ?」
戦士「え?それは、勿論鏡を使って王女が何をしてきたのかを……」
兵士長「そうか……」
戦士「義父さん、いいよね。王女は人を喰らってきたんだから。この賢者と共に」
兵士長「そうだな。それが本当はいいことなんだろう」
戦士「義父さん?」
兵士長「剣を置け。お前は重犯罪者なのだからな」
戦士「義父さん!?何を言って―――」
「―――まだ、気がつきませんか?その兵士は未だ操り糸で縛られていることに」
戦士「……!!」
王女「お久しぶり、と言ったほうがいいでしょうか」
戦士「王女!!どういうことですか!?」
王女「それにしても流石は勇者様。まさか我が国に他国の兵を持ってくるとは思いませんでした。ふふ……」
戦士「義父さんに何をしたのですか!?」
王女「既に屍となった方から聞いたでしょう?傀儡となったと」
戦士「なに……」
王女「ああ。残念。元勇者様は醜い肉へと変わってしまった。キマイラ様も半年前からとても醜かった。見ていられません」
王女「力に溺れていく様は吐き気もしました。ですが、その一途さはとても美しかったと言えるでしょう。まぁ、私の魅力の足下にも及びませんが」
戦士「……」
王女「混乱しているのですか?説明してあげているのですが」
戦士「説明……?貴方はただキマイラから魔の力を貰っていただけでしょう?人の血を啜って」
王女「そう。そして私は手に入れた。永遠の美と魔法を。素晴らしい力です」
戦士「まさか……」
王女「賢者様は一体何がしたかったのか。何が目的だったのか。分かりませんよね。それもそのはず。本人だって、きっと何がしたくて今日まで生きてきたのか明瞭ではなかったはずです」
戦士「貴方が彼らを?」
王女「死人は語らない。もう彼が生きてきた理由を知る者はこの世にはいないでしょうね。みすぼらしく年老いた勇者のことなど誰も気に留めないでしょうけど」
戦士「どこから……どこから貴方が関わっていた!!!」
兵士長「口に気をつけろ」
戦士「義父さん!!目を覚まして!!!」
王女「どこから?無論、10年前からです」
戦士「……!?」
王女「元々、私たちは勇者様、いえ、賢者様の計略によって魔族たちと深い関わりがあった。先代国王はずいぶんと魔道士様と懇意であったそうです」
戦士「懇意って皆は裏で動かされていたんじゃ!?」
王女「いくら心を読めると言えでも賢者様一人で国を動かすことはできません。不審に思う輩は必ず出ますからね。そこの兵士のように」
戦士「え……義父さん……」
兵士長「……」
王女「魔道士様は賢者様の心を奪い傀儡にした。賢者様は10年前から魔道士様の操り人形だったわけです。賢者様から出る言葉は全て魔道士様のお言葉。だったのに……」
戦士(心を奪ったって……。あのとき……!?)
王女「魔道士様は逝去してしまった。そこから私たちの苦労が始まりましたね」スタスタ
戦士「来るな!!」
王女「今はもう屍となったこのお方が正常に戻った。そして彼はすぐに真相に気付き、私たちを敵視した」
王女「いらぬ疑いの種も吹聴していました。あのときの必死さは痛々しいほどでした」
戦士「……っ」
王女「殺してしまえば楽だったのですが、賢者様は簡単には死にません。他人の心が読めてしまうのですから」
王女「でも、チャンスが巡ってきた」スッ
戦士「何をするつもりだ?!」
王女「この忌々しい男を葬る手立てが見つかったのです。―――燃えなさい」ゴォォ
戦士「なにをやっている!!!やめろぉ!!」
王女「酷い臭い。美しくない……。枯れた肉体だから焚き木になると思ったのに」
戦士「やめろって言っている!!!」ダダダッ
兵士長「通さん!!」ギィィン
戦士「義父さん!!!どいてぇ!!!」
王女「魔王となる者がこの城にやってきた。魔道士のことを調べているうちにこの城の存在を知ってくださったようです」
戦士「それで……キマイラを盾に……!!」
王女「ええ、そうです。すると賢者様は勇者様を探し始めました。でも、それが全ての間違いでした。キマイラ様は賢者様の心を操る術も同時に見つけていらしたのですから」
王女「そして、この愚者はもう一度、魔の手に落ちたわけです。そして、今は地に伏した。なんとも醜い一生でしょうか。あぁ、醜い……」
戦士「そんな……こと……」
王女「まぁ、それからも様々な苦労があったのですが、ここで語ることはないでしょう。事の顛末は以上です」
戦士(みんな……この人が……操って……?でも、それなら、どうして……あのとき……)
王女「さて、真実を語ってあげたのですから、貴女には人質になってもらいましょうか」
戦士「な……!?」
王女「勇者様は貴女のためなら死ねるようですからね……。その愛は私から言わせれば醜悪なのですが」
戦士「私を捕らえたところで、彼はそんなこと……!!」
王女「キマイラ様から伺っています。あの人はそう言う人だと」
戦士「……っ」
王女「ふふ……。本当ならあの日、勇者様たちを殺し、そして謀反を起こした元勇者も一緒に葬るはずだったのですが、随分と遠回りをしましたね……」
戦士(このままじゃ……)
>兵士長「通さん!!
>戦士「義父さん!!
なかなかやるじゃねぇかよぉ
―――城下町
姫「勇者様はまだですか……?」オロオロ
ハーピー「キマイラを仕留めるだけにしては、ちと時間がかかっておる気もするな」
ゾンビ「うー……」
少女「何も心配はありませんよ」
ゾンビ「ほんとぉ?」
少女「勇者が我々の期待を裏切ったことがありましたか?」
ゾンビ「……なかった!!」
少女「そう。ありません。なればこそ、私たちは言われ通りにここで待機を―――」
王女「それはできません」
ハーピー「だれじゃ!?」
王女「全ての準備は整いつつあります。肉塊となり果てても殺すことのできなかった魔王。心を読む賢者様。どちらも消えた。残る邪魔者は一人だけ……」
姫「どういうことですか!」
王女「魔王を倒すだけの力を有する者。勇者様とその一向を葬れば、この世で美しく力を持つのは私だけとなります」
ゾンビ「あのおばちゃん、なにいってるのぉ?」
王女「おば……!?」
ハーピー「人間は歳を重ねると美に対して貪欲になるというが、まさか一国を預かるものがそのような思想とは。呆れてモノもいえぬ」
少女「おかしいですね。ここの王女はまだ20歳のはずですが」
ハーピー「王女の座とは外見も精神も老けさせる作用があるに違いない」
ゾンビ「うー!?ふけるー!?」
王女「貴方達……。この状況が理解できていないというのですか?」
ハーピー「それはこちらの台詞じゃ。劣勢なのはおぬしのほうであろうに」
王女「そうですか?」
姫「貴女が魔王と手を組んでいたことは聞き及んでいます!!民を傀儡にして、私腹を肥やすその蛮行は看過できません!!」
王女「おや。侵略国がよく言いますね」
姫「侵略……!?」
王女「そうでしょう?他国の姫君がこうして兵力を連れて侵攻しているのですから。これで貴方の評価も地に堕ちることでしょう」
姫「……!!」
ハーピー「これ。言い包められるでない。気をしっかり持て。おぬしの目指す世界にこのような魔女は必要ないであろうに。排除して然るべき存在でしない」
姫「は、はい」
王女「その余裕はどこから来るのかわかりませんが……。ともあれ……」
兵士長「……」
姫「あの方は……。近衛兵の……」
ハーピー「ふん。傀儡兵士一人でわらわたちを止めるつもりか」
ゾンビ「おばちゃんっ!おばちゃんっ!!」
王女「そこ!!いい加減にしなさい!!!我が兵力がこれだけだと思いますか?」
少女「―――気をつけてください。魔物の気配が増大しました」
ハーピー「なに?」
傀儡兵士「……」
傀儡市民「……」
姫「まさか……!!」
王女「そう。ここの民も我が兵力。さぁ、私を止めるなら市民を虐殺してくるのですね。ですが、そんなことをすれば……」
ハーピー「名実共に虐殺姫になるわけか」
姫「そ、そんなの嫌です!勇者さまに嫌われてしまいます!!」
王女「それだけではない。貴方達、魔族の信頼ももはや取り戻すことなどできない。数の力によって醜き魔物は淘汰されていくことでしょう。ああ、素晴らしい」
少女「なるほど。王女。貴方の目的は理解できました」
王女「それは重畳。ならば諦めてくれるのですね?」
ハーピー「所詮は人間と魔族。手を取り合うことなど夢物語だったか」
姫「そんなことは!!」
ハーピー「姫よ。おぬしのような人間ばかりならもう少しマシな世界になったのかもしれぬがな」
少女「……」シャキン
姫「ま、まってください!!」
兵士「姫様!!多くの住人が我々を包囲しています!!自衛のためにもここは……!!」
姫「なりません!!手を出せば私のやってきたことが……!!いえ、勇者さまの願いが……!!」
ハーピー「自身の命か。それとも愛か。どちらだ?」
姫「私の心は既に勇者さまのためのもの。あの人が命を賭して叶えようとした願いを今ここで水泡にするわけにはいきません」
ゾンビ「うー!!がんばるぅ!!!」
王女「夢見る姫様ですね。そこまで言うのなら、私のように欲望に生きればいいものを。つまらないところでそうやって使命を全うしようとする。醜いこと」
少女「確かに。欲望に生きる者こそ輝きますね。常にそういう人物と共にいたのでよくわかります」
王女「ほう?ならばその人物を見習ってみてはどうですか、機械人形さん。考え方を変えるというなら、私の近衛部隊に加えてもいいですよ?」
少女「一理ありますね」
ハーピー「どうするつもりかえ?」
少女「……姫様」
姫「は、はい?」
少女「私の側室になってもらえませんか?」
姫「え!?」
少女「子どもは50人ぐらいで構いませんから」
姫「だ、だめです!!わ、わわ、わたしには……心にきめたひとが……!!」
少女「あんな女たらしより、同性の私のほうがいいと思いませんか?」
姫「子ども産めないじゃないですかぁ……」
少女「子どもなんていらない。私は貴女が欲しい」
姫「さ、さっきと言ってることがちがうんですが……!!」
ゾンビ「うわきー」
姫「ち、ちがいます!!」
ゾンビ「かおまっかー」
王女「やはり状況がわかっていないようですね、貴方達は!!!―――いきなさい!!」
兵士長「ウオォォォ!!!」
傀儡兵士「オォォォォォ!!!!」
少女「キスしようぜ」
姫「や、やめてぇ……!!はじめてはゆうしゃさまにぃ……!!」
ハーピー「ふっ!!!」バキッ
傀儡兵士「グォ!?」
ゾンビ「くるなー!!」ドカッ
王女「そうそう。戦ってください。そうして貴方達は居場所を失うのですから」
兵士「姫様!!こちらへ!!」
少女「さあ、私とともに愛について語り合いましょう」ギュッ
姫「だめ……でも……」
兵士長「オォォォォ!!!!」ブゥン!!
少女「―――邪魔です。欲望に生きるシミュレーションの最中です」ギィン
王女「先ほどからふざけてばかり。それは人間を殺したくないという気持ちの表れですか?幾ら最強の兵器といえども、人間を始末できないようでは存在価値はありませんね」
少女「ところで王女。今、わかったことがあります」
王女「なんですか?」
少女「欲望に生きる者は輝いてはいますが、美しくないのでは?」
王女「……!」
少女「いうなれば、オーガのような猛者と言っても過言ではない気がします」
王女「心を持たない人形が言ってくれますね」
少女「心がないからこそ、見えるものもあります」
王女「……!」
少女「あと、訂正を要求します。私には心が備わっています」
王女「交渉決裂ですね。皆の者。侵略者たちの首を私の前へ運んできなさい!!!」
ハーピー「困ったものだのぉ。人間を傷つけるなと言われておるのに」
ゾンビ「どうするー?おばちゃんまで、とおいけど」
少女「私たちが王女を捕らえるには多くの犠牲が必要でしょう。ですが、空からならこの人海戦術も意味はありません」
姫「え?それって……」
少女「どうやら、私たちの任務はまた傀儡となった者を捕らえるものになりそうです」
―――上空
勇者「とりあえず、お二人は城のほうへ行ってください」
魔法使い「どうして?」
勇者「助けないといけない人がいますからね」
僧侶「わかりました」
ドラゴン「では、ここからは別行動だな。抜かるなよ」
勇者「誰に言ってるんですか?僕は勇者ですよ?」キリッ
ドラゴン「ああ、そうだな」
勇者「では、少し降下してもらえますか?」
ドラゴン「頼むぞ」
勇者「わかってますって」
僧侶「勇者様、死なないでくださいね」
魔法使い「落ちたときに足挫いたら怒るからね」
勇者「心配ご無用。では、かっこよく登場しましょうか。―――とうっ!!!」
ドラゴン「よし。俺たちは城内に向かうぞ」バサッバサッ
―――城下町
勇者「そこまでだ!!!」
王女「おや」
勇者「はっ!!」グキッ
勇者「あぁー!!!足挫いたぁー!?」
王女「ふふ……。来ましたね。勇者様」
勇者「はい、来ました」
ハーピー「遅いぞ!!」
少女「待たされました」
ゾンビ「おにぃちゃん、かっこいぃー!!」
姫「勇者さまぁー!!!今すぐそちらにぃー!!」
兵士「いけません!!姫様!!!危険ですから!!」
勇者「王女。大まかなことは真実の鏡から知りえています。彼が心で語ってくれていました。僕が城を離れれば、こうして貴女が表に出てくるであろうこともあの人は予想していたようです」」
王女「そうですか。私は貴方達、勇者の計略にかかったということですか?」
勇者「そうなりますね。王女、全ての罪を認めてくださいますね?」
王女「罪?はて、私は自分の夢を実現させようとしただけですが?」
勇者「魔王や勇者を駒にして世界征服ですか。いい野望ですが、魔王ですら叶わなかったものです。諦めましょう」
王女「勝手な幻想を押し付けるニンゲンを力でねじ伏せて何が悪いというのですか?」
勇者「貴女がどのような期待を受けてきたかは良く知りませんが、やっていることは魔王と同じですよ」
王女「だからどうだというのですか?人の身でありながら魔王になることも可能でしょうに」
勇者「そうですか。ならば、勇者として貴方を斬らねばなりませんね」
王女「できますか?」
勇者「なに?」
王女「ふふ……。連れてきなさい」
傀儡兵士「……」グイッ
エルフ「うぅ……!!」
戦士「……っ」
勇者「……生きててくれましたか」
王女「さぁ、勇者様。これでも貴方は私を斬ると?」
勇者「……」
ハーピー「姿が見えぬとおもうたら……!!」
ゾンビ「うー!?おばちゃん、ひきょー!!」
少女「捕まるほうも悪いです」
姫「つ、つめたいですね……」
王女「ふふ……。手を出せないでしょう?」
勇者「確かに手は出せませんね」
エルフ「ボクのことはいいから!!この魔女だけは倒して!!!」
戦士「ご、ごめんなさい……」
勇者「いえ。僕のほうこそ、申し訳ありませんでした」
戦士「え……?」
勇者「守ることができなかった」
戦士「そんな……!!」
王女「覚悟はよろしいですか?」
勇者「そうですね……」
エルフ「ダメ!!!どうせ皆殺すつもりなんだから!!王女を倒して!!」
王女「女のために死ぬ。その美学には敬服しますわ。勇者様」
勇者「それはどうも。好きな人のために死ぬっていいじゃないですか」
王女「では……。さようなら」
エルフ「やめて!!その人だけは!!!」
戦士「うっ……」
王女「貴方が消えれば……!!力を持つ者はいなくなる!!!」
勇者「―――ところで王女」
王女「な……?」
勇者「キマイラがここへ魔物たちを呼んでいたことは知っていますか?」
王女「な、なんの話ですか……?」
勇者「おや?知らないのですか?それは困りましたね」
王女「どいうことですか?」
勇者「世界中からキマイラを支持する魔物たちがここへ向かってきているはずです。その数は今、ここにいる傀儡兵士たちよりも多いでしょう」
王女「そのような嘘でこの場を切り抜けようとしているのですか?勇者様ともあろうかたが……」
勇者「その者たちは王女に会いに来たのではなく、キマイラのために集う者たちです。ですが、ここにはもうキマイラはいない。となれば、どうなるのか。わかりますか?」
エルフ(そういえばゴーレムやミーちゃんが……)
王女「なにを……」
勇者「怒り狂うでしょうね。暴れる魔物は性質が悪いですから。王女のような付け焼刃の魔法でどうにかなるとも思えません」
王女「黙りなさい!!」
勇者「そんな魔物の軍勢を武力以外で沈静化できるとすれば、我が側室のドラゴちゃんのみ。魔王候補の一人ですしね」
王女「……!」
勇者「要するに僕がここで死んでも、貴方は死ぬんですよ。魔王キマイラが残したものによって」
王女「攻め込んでくるのなら醜い魔物は世界から淘汰されるだけでしょう?」
勇者「命の危険は高いですよ。キマイラだって伊達に魔王をしていたわけじゃないですからね。貴女にとって命を賭けるだけの野望なら、戦ってみてもいいですが」
王女「これだけの兵力があれば……!!」
勇者「勘違いしているようなので言っておきますが。王女が優位に立っているのは、僕たちが人間を傷つけないようにしているからこそです」
王女「そうです。その甘さが貴方たち自身を追い込んでいる」
勇者「僕が死ねば、キラちゃんは殺戮兵器の能力を遺憾なく発揮することでしょう。数万人の兵士が一斉に襲い掛かっても勝てやしませんよ」
王女「そんなはず……!!」
勇者「キマイラと賢者。この二つの駒を失った時点で貴女の野望は潰えていたんですよ。力を持った自分を過信し、期待し過ぎたようですね」
王女「ふふ……。なら、あなたを生かしましょう。攻めてくる魔物を沈静化させなさい」
勇者「……」
王女「この二人の命がかかっているなら、やってくれますよね?」
勇者「……」
エルフ(くっ……。魔力封じの縄じゃなければ……!!)
戦士(義父さんも街の人も救えない……。どうしたら……)
勇者「―――どうぞ。殺してください」
王女「なんですって……!?」
エルフ「え!?本気で言ってるの!?」
戦士「……」
勇者「安心してください。すぐに後を追いますから」
エルフ「そ、それなら……って、ダメじゃん!!!」
勇者「天国で悠久を過ごすのも悪くないと思いますが?向こうに行けばもうやりたい放題でしょうし」
エルフ「いや、天国にいけるわけないし……」
勇者「え?馬鹿な。勇者なのに?ふむ。ハーレムヘブン計画だけでなく、ヘルハーレム計画も練っておくほうがいいということですか」
エルフ「ホントに地獄に落ちちゃえばいいのに……」
勇者「地獄の果てで熱く燃え上がりますか?」
エルフ「バカ」
王女「なるほど……。そうですか……。では、お望み通りに」
勇者「王女様。本当にいいんですね?」
王女「……はい?」
勇者「ここで罪を認め、償うというのなら僕は勇者としての使命を果たそうと思いますが」
王女「勇者としての……使命……?」
勇者「人の為に魔と戦う、ということです、そして貴女を救う」
王女「ふふ……。あははは。なんですか。やはり命乞いをしたいだけなのですね、勇者様」
勇者「否定はしません。僕が死ぬのは大いに結構ですが、やはり側室が殺されるのを黙ってみているわけにもいきませんので」
王女「いいでしょう。魔と戦うというのなら私の傍に置いてあげます」
エルフ「どうして……!!」
戦士「私たちのことはどうでもいいから、この王女だけは!!!」
勇者「王女がここまで強い信念をもっていたのは予想外でした。僕の負けです」
ハーピー「見損なったぞ!!!」
ゾンビ「おにぃちゃん……うー……」
少女「合理的判断です。勇者にしては」
姫「ゆ、勇者様……」
王女「では、期待させてもらいますよ、勇者様の手腕に」
勇者「期待ですか……」
王女「何か?」
勇者「そうですね。では、ご期待に応えましょうか。―――まずは魔女、お前からだ!!」
王女「そう来ると思いました。人質を殺しなさい!!」
傀儡兵士「ア……ァァ……!!」ブゥン!!!
ドラゴン「―――キック!!!」ドガッ
傀儡兵士「ゴァ!?」
王女「え……!?」
勇者「遅いじゃないですか」
ドラゴン「馬鹿者。二人が人質になっているなど知らぬから、城内を探し回っていたのだぞ。文句を言うな」
勇者「では、目的は達成ですね」
ドラゴン「うむ」
エルフ「ど、どうも……」
戦士「目的って?」
勇者「キマイラの討伐という大きな目的は達成されました。帰りましょう」
戦士「か、帰るって!!待って!!!この街の人たちは!?」
勇者「王女が強い信念の下にやっていることですから、諦めるしかないでしょう」
戦士「そんな!!あなたは期待してもいいって!!」
勇者「僕は助けられなかった。申し訳ありません」
戦士「な……!!」
勇者「この街はあと数刻もすればキマイラの軍勢によって滅びる。それはどうしようもありません」
王女「ま、待ちなさい……何を……」
勇者「王女様。できるといいですね、世界征服」
王女「え?」
勇者「応援してますよ。それではさようなら」
ドラゴン「乗れ」
勇者「さ、手を」
エルフ「ありがとう」ギュッ
勇者「スベスベですね」スリスリ
エルフ「はなしてっ!!!」
戦士「本当に……!?見捨てるっていうの?!」
勇者「見捨てるわけではありません。僕の力が及ばなかったんです」
戦士「どうして!?それじゃあ、あのときと変わらない!!!また勇者が力のない人を見捨てて……!!!」
勇者「勇者にもできないことはあります」
戦士「あ、諦めるんですね……」
勇者「はい。非常に残念ですが、貴女を側室にすることも諦めます。こんな不甲斐ない勇者のところへ嫁ぐなんて嫌でしょう?」
戦士「……」
ドラゴン「はやく乗れ。傀儡どもが寄って来ては厄介だ」グイッ
戦士「ま……!!」
勇者「よし!!キラちゃん!!ハーピー姉さん!!魔王ちゃん!!姫様!!!撤退してください!!!」
ハーピー「何を考えておる……!!まぁ、良い。確かにこのままでは危険だ」
ゾンビ「うー!?にげるのー!?」
少女「選択の余地はありませんね」
姫「しかし!!」
兵士「勇者殿の言う通りにしましょう!!」
ハーピー「どちらにせよあの魔女が洗脳を解かぬ限り、この街は死滅するだけだからな」
少女「我々が直接手を下すのは忍びないですね」
ハーピー「そう言うことになるな。では、魔王。往くぞ」ガシッ
ゾンビ「うー!?うぅー!?おにぃーちゃーん!!!」
少女「行きましょう、姫」ガシッ
姫「そんな……!?このままにしていくなんて!!」
王女「勇者が聞いて呆れますね!!!やはりただの弱い人間ではありませんか!!!」
勇者「その通り。なので、この鎧や剣はここに捨てていきましょう」
王女「は……?」
青年「僕はもう勇者ではありません。ですので期待しないで頂きたい」
エルフ「ちょっと……」
戦士(この人も……やはり……)
青年「人一人も救えないで街一つを救おうなんて、おこがましいにも程がある。僕はやはり調子に乗っていただけの一平民に過ぎませんでした」
青年「彼はずっとそのことを僕に伝えようとしていたのに、僕は耳を貸そうとはしなかった。所詮は老兵の戯言だと思い込んで」
王女「貴方は……」
青年「まぁ、襲ってくる魔物の軍勢をどうにかできないようでは世界征服なんて無理ですから。王女様、ご武運を」
王女「ま、待ちなさい!!!」
青年「では、行きましょう」
ドラゴン「了解した」バサッバサッ
エルフ「……大丈夫?」
戦士「この世界に勇者はいないんですね……」
青年「みたいですね。僕も驚きました」
戦士「……うぅ……」
エルフ「ねえ……」
青年「王女を殺しては意味がない。それでは本当に魔物が一国を落としたも同じことになる」
王女(まさか……。こうもあっさりと引き上げるなんて……)
王女(本当にキマイラが召集した魔物が、ここへ……?)
兵士長「……王女……様……私は何を……?」
王女「魔物がここへ攻め込んでくるとの情報を得ました。至急、警備を強化しておいてください」
兵士長「ま、魔物が!?」
王女「はい。よろしくお願いしますよ」
兵士長「はっ!」
王女(この国の兵力なら……そう簡単に……)
兵士長「ところで、王女様……」
王女「なんですか?」
兵士長「私の娘や……その……」
王女「どうやら逃げてしまったようですね。あのような国賊はすぐに指名手配しておきましょう」
兵士長「……わかりました」
王女「頼みますよ」
王女(傀儡化させれば息絶えるまで戦うのだから、魔物の軍勢だろうが戦える……。私も血を啜り、魔の力を得たのだから……。キマイラや賢者がいなくとも……)
―――城内 王女の部屋
王女(さあ、どこからでも……)
王女『そうだ。傀儡化させても止まらないようなら、城の抜け道を使って逃げ出せばいいだけの話。この国の財を持ち出せば、いくらでも生き延びることが―――』
王女「え!?」
魔法使い「随分と小物ですね、王女様。もっと一国の主らしく腰を据えようとは考えないのですか?」
王女「あ、貴女は……!!」
魔法使い「この鏡で覗かせていただきました」
王女「……」
魔法使い「逃げるならお早めにどうぞ」
王女「まさか、獲物のほうからやってきてくれるとは……」スッ
魔法使い「え?」
傀儡兵士「……」ザッ
王女「どこに隠れていたかは知りませんが、城内には腐るほど操り人形がいるんですよ?」
魔法使い「みたいね。貴女も魔力を得たから、傀儡たちを操れる……」
王女「その通り。これが私の力。権力なんかよりも素晴らしい力でしょう?さて、貴女には勇者を釣るエサになってもらいますよ」
僧侶「―――では、こうします!!」ギュッ
王女「な……!?また!?どこに隠れて……!?」
魔法使い「エルフ族の魔法よ。人一人なら視認不可能にする結界を作れるのよ。以前にもぐりこんだとき、色んな場所にその結界を作ってくれていたのよ」
王女「……!!」
魔法使い「結界を作動させちゃえば、簡単に透明人間になれるわけ」
王女「だから、なんですか?貴方達は既に囲まれているのですよ?」
魔法使い「どう?」
僧侶「つけました」
王女「え?なにを……」
魔法使い「魔封じの腕輪。貴女も似たようなもの持ってるんでしょう?なら、効果のほどもね」
王女「はっ……!!」
兵士「―――あれ?ここは……?」
王女「た、助けなさい!!賊です!!!」
兵士「な!!王女様!!何をしている!!!」
魔法使い「往生際が悪いわ。王女様、貴女はキマイラも賢者も信頼できる兵も……全てを失っているのに……」スッ
兵士「賊め!!王女様に触れるなぁ!!!」
魔法使い「……」
王女『―――バカな兵士にこの二人を始末してもらったあとは、国を捨てるときのために財を確保しておかなくてはならない』
兵士「え……?」
王女「や、やめなさい!!!」
王女『ふふ。この魔の力さえあればいくらでも傀儡兵士をつくることができる。私はこの世界を統一できる。魔王になってみせる……』
兵士「王女様……なにを……」
王女「これはこの者のまやかしです!!!信じてはなりません!!!」
兵士「は、はい!!」
魔法使い「お兄さん、好きな食べ物は?」スッ
兵士「なに?」
兵士『パスタならなんでも好きだ。でも、どうしてそんなことをこの状況で訊くんだ?』
兵士「は……?」
魔法使い「真実を映し出す鏡なの。だから王女の発言も真実」
王女「やめさない!!!この者の言うことに耳を貸してはなりません!!!」
兵士「そ、そうだ……!!そんな鏡があるわけ……!!」
兵士『兵士長が言っていた鏡なのか……。王女に不穏な噂もあったし……本当なのか……?』
王女「お、おのれ……!!」
魔法使い「どうするの?」
王女(このままでは……!!)
僧侶「魔力も封じさせてもらっています。貴女は今までの罪を告白するべきです。命を弄んだことを……人を道具のようにあつかったことを……!!!」
王女「誰も私を人間だと思っていなかったくせに!!!」バッ!!!
兵士「お、王女様……」
王女「誰も私を人間として見ず、ただの政治の人形ぐらいにしか思っていなかったくせに……!!!」
魔法使い「だから貴女は魔王と勇者を利用し、消そうとした。もう分かってるいるから落ち着きなさい」
王女「何もわかっていないわ……!!分かってたまるものですか……!!!」
兵士「王女さま……あの……」
王女「使えない兵士に用はありません!!」
兵士「……!!」
魔法使い(ここで確実に捕らえておかないと面倒なことになるわ)
「魔物の軍勢が迫ってきたぞぉー!!!!戦闘配置につけぇー!!!!」
兵士「なに!?」
王女「本当に……きた……!!」
王女『早く金を回収して逃げなければ……!!傀儡でない兵士が魔物に勝てるわけが無い!!!』
兵士「お、王女様……!!!なんてことを……!!」
王女「黙りなさい!!!私は王女です!!私が生きていたから貴方達は今日まで裕福に生活ができていたのですよ!!!」
兵士「……っ」
王女「さあ!!この賊を始末しなさい!!!」
王女『その隙に私はこの国を捨ててやるわ……!!』
兵士「くっ……王女……!!」
魔法使い「国賊はどちらかしらね?」
僧侶「人をなんだと思っているんですか!?」
王女「どきなさい!!!」ダダダッ
魔法使い「しまった!!待ちなさい!!」
兵士「ま、まて……!!ここを通すわけにはいかない……!!」
―――廊下
兵士「魔物が来ている!!!街の守りを固めるんだ!!!」
兵士長「落ち着け!!訓練通りにやるんだ!!!」
兵士「は、はい!!」
王女「ふぅ……ふぅ……」タタタッ
王女(この腕輪……どうして外れないの……!!)ググッ
兵士長「王女様!!どちらへ!?」
王女「安全なところへ避難するだけです!!」
兵士長「……分かりました。では、警護を数名つけます」
王女「不要です」
兵士長「しかし!!」
王女「私に回す兵力があるなら、それを街の守りに使いなさい!!」
兵士長「……御意」
王女「それから城内に賊が二名入り込んでいます。処理しておいてください」
兵士長「賊が?承知しました。至急、対処を」
―――隠し避難路
王女(とにかくこれだけあれば……生きていける……)
王女(そう。この財と私の魔力があれば……。もう一度、権力も地位も手に入れられる……!!)
王女(理想の世界を……!!!)
王女(この腕輪もここを抜け出してからゆっくりと外して……)
戦士「王女様。やはりここから逃げ出そうとしましたか」
王女「……!?」
戦士「何をしておられるのですか?」
王女「ふ、ふん……。貴女こそ、よく顔を出せたものですね」
戦士「今、この国は未曾有の危機に瀕しています。なのに王女様が誰よりも先に逃げ出すのですか?」
王女「何を言っているのですか?」
戦士「……王族が戦いもせず真っ先に逃げ出すのかと言った」
王女「勇者も逃げたのでしょう?魔族からは」
戦士「違う!!!あの人たちは戦った!!!お前と一緒にするな!!!」
王女「犯罪者が偉そうに……!!」
戦士「すぐに戻れ。王座に戻れ」
王女「ご冗談を。もう下民の恨み言を聞くだけの場所に戻るつもりなど毛頭ありません。民が傀儡になっていると知ったときは本当に嬉しかったです」ググッ
戦士「お前……!!」
王女「そういえば民の為に死んだ馬鹿な王もいたそうですね。あの夢見る姫様の父君でしたか?」
戦士「……もう逃げられないんですよ?」
王女「……」ググッ
戦士「その腕輪は簡単に外せませんよ」
王女「……!!」
戦士「簡単に外れては困る装備品らしいので」
王女「どうせこの国は魔物によって滅びる運命なのですよ。王族が逃げずしてどうするのですか」
戦士「戻る気はないと?」
王女「勇者たちも勇者であることを捨てたのです。王女が王女を捨てて何が悪いのですか?」
戦士「なるほど……。では、あなたはもう王女ではなく、ただの魔女です」シャキン
王女「……!!」
戦士「あの人の言ったとおり、貴女は人ですらない。ここで始末します」
王女「くっ……こんなところで……!!」
兵士長「王女様!!」ダダダッ
戦士「義父さん……」
兵士長「やはり、お前か……」
戦士「義父さん、あの時は操られていたんでしょ?今は違うよね」
兵士長「いや……。俺は友を切り捨て、お前にも刃を向けた。俺の意思でだ。王女の魔術は関係ない」
戦士「兵士としての使命を貫くってこと?」
兵士長「ああ。俺は王族を守るために強くなったのだからな」
王女「よく言いました。では、この国賊を殺しなさい。そうすれば貴方を、貴方だけを私の創る理想の国の兵士長に任命しますわ」
兵士長「……」
王女「こんなにも美しい王女の下で生涯いられることを―――」
兵士長「聞こえなかったのか?俺は王族を守るためにここにいる」
王女「な……?」
兵士長「お前は王族であることを捨てたのだろう?」
王女「ま、まちなさい……なにを……!!」
兵士長「勇者たちを侮辱するだけでは飽き足らず、民のために命を賭して戦い抜いた国王まで卑下にする……。貴女を王族とは呼ばない」
王女「私がいなければ舵取りも出来ない分際で……!!!」
兵士長「少なくとも他人のために強大な敵と戦い、傷つき、辛酸を舐めて尚、世界のためにと散っていた者たちを悪し様に言う資格は貴女にはない」
王女「誰のことを言っているのやら。恐怖して逃げ出し、多くの民や知人を騙し続けてきたような者を擁護すると?」
王女「あの愚者が余計なことをしなければ、勇者がこの街を訪れたあのときに殺せていたのに……!!!」
兵士長「終わりにしましょう」
戦士「義父さん!!」
王女「上に立つ者を罵って生き続けろ!!!愚民ども!!!醜い愚民どもめ!!!」
兵士長「ふんっ!!!」ザンッ!!!
戦士「……」
兵士長「……悪いな。お前の仕事だったのだろう?」
戦士「ううん。このほうが良かったかも」
兵士長「勇者殿がそう勧めてくれたのか?」
戦士「自分の意思だよ。あの人は『殺すなら僕がやりますよ』って言ってくれたけど」
兵士長「そうか……」
王女「あ……ぁ……?」
兵士長「立て。お前の罪を民に伝える。いや、世界に伝えるつもりだ」
王女「な、に……」
兵士長「殺すのはそのあとだ」
王女「馬鹿なことを……この国は……もう……滅びるというのに……」
兵士長「滅びる?何故だ?」
王女「魔物が……キマイラの軍勢が……」
兵士長「いや。来ていない」
王女「……え?」
戦士「軍勢は既に現魔王が鎮圧化させた。キマイラが亡くなったことを知った者たちの殆どは牙を抜かれ、大人しくなったそうです」
王女「……」
兵士長「現場のことを知っていれば、こんな単純な嘘は見抜けたはずです」
王女「ふふ……ふ……」
戦士「義父さん。あの……」
兵士長「これからどうするつもりだ?できれば、ここに残ってほしいんだがな……」
―――数日後 郊外 墓地
僧侶「勇者様、今日の午後から王女様の公開裁判が始まるそうです」
青年「どうやら、上手く行ったようですね」
魔法使い「よく引っ掛かってくれたわね。あんなの一歩間違えばバレちゃってもおかしくなかったのに」
青年「あの状況下では現場の確認よりも先に身の安全を優先させると思ったんですよ。姫様の父君とは正反対でしたし、姫様ほど責任感もありませんでしたから」
魔法使い「そう……」
青年「それより、良かったんですか?この方には散々な目に遭わされたのに」
僧侶「そうですね。私たちはこの人の私怨に振り回されてましたね……」
青年「復讐の道具にされていた。負わなくていい傷もこの人のお陰で負ってしまった」
魔法使い「許せないわね」
僧侶「ええ……」
青年「でも、こうして弔っている。何故ですか?」
僧侶「この人も勇者様で、かつては人々のために戦ってくれていた。その功績は消えないと思います」
魔法使い「元・勇者を弔いにきたのよ、私は。賢者とかいうむかつくやつは知らないわ。そういうあんたは?」
青年「僕もお二人と同じような理由ですね。晩年の行為は許すことなどできませんが、勇者であったのは事実ですからね」
魔法使い「勇者かぁ……。もうこの世界にはいないんでしょ?」
青年「まぁ、いませんね。世界の勇者はいません」
僧侶「そうですか……?」
青年「しかし!!貴女だけの勇者は、ここにいますけどね」キリッ
僧侶「まぁ……!」
魔法使い「くさっ」
青年「僕の口臭が臭いと!?確認してもらってもいいですか?」
僧侶「え!?は、はい」
青年「んー……」
僧侶「あ、あの……」
魔法使い「キスしようとしてるんじゃないわよ!!!」
青年「キスなんて考えてませんよ。ただ、万有引力といいまして、顔を近づければ唇が重なってしまうことはよくあるんです。まるで磁石のように」
魔法使い「ないわよ!!!」
僧侶「んー……」ドキドキ
魔法使い「アンタもやめなさいってばぁ!!!」
戦士「墓地で何をやっているんですか?」
青年「どうも。数日振りに会って早速嫉妬ですか?」
戦士「違います。花を手向けに来ただけです」
青年「そうですか」
戦士「……。では、これで失礼します」
魔法使い「王様は無しになったって聞いたけど」
戦士「はい。民衆の声もあって、この国に王は必要ないと。市民だけで立て直してみようって話になりましたから」
僧侶「大変ではないですか?」
戦士「そんなことは。貴方達も王不在で一つの種族を纏めていたではないですか」
青年「え?魔王のことですか?」
戦士「はい。ただ座っているだけの王が存在するなら、私たちでも似たようなことはできるはずです」
魔法使い「いや、まぁ、あの魔王ちゃんは特別なだけで」
青年「カリスマがありますからね、あの子には」
魔法使い「カリスマ……?あったかしら?」
僧侶「可愛いです」
戦士「では、招集がかかっていますから」
僧侶「忙しそうですね」
戦士「守備隊長ですから、仕方ありません」
魔法使い「そう……。がんばってね。また、遊びに来るから」
戦士「そのときは是非、声をかけてください。歓迎します」
青年「ナンパしてほしいのぉってことですか?顔に似合わずビッチなんですね」
戦士「……」
魔法使い「ほら、もう行きましょう」
青年「そうですね」
戦士「……あの」
青年「なんですか?側室になりたいんですか?」
僧侶「そうなんですか!?ようこそです!」
魔法使い「やめておいたほうがいいわよ」
戦士「違います!!―――最後に言っておきたいことがあって」
青年「僕の隠し子が欲しいとかですか?」
戦士「はぁ……」
魔法使い「ダメよ。真面目な話をしようとしてもいっつもはぐらかすんだから、この馬鹿は」
青年「どうも都合のいいことしか耳に入ってこない馬鹿です」
僧侶「勇者様は馬鹿じゃありません!!!」
青年「そういってくれるのは貴方だけですよね。本当に。今度、一緒にお風呂入りましょう」
僧侶「今日じゃダメですか?」
青年「んー、今日はお風呂に入る予定がないんで」
僧侶「これで10回目のおあずけなんですが……」
魔法使い「そんなに約束してたの!?何考えてんのよぉ!!!あんたはぁ!!!」
青年「側室とお風呂に入って何が悪い!?いってみろ!!!」
魔法使い「この子だけいつも贔屓してない?!」
戦士「あの……痴話喧嘩はそのへんで……」
魔法使い「痴話喧嘩じゃないわよ!!!」
青年「この人、露出狂の気がありますからね」
魔法使い「ないわよ!!!」
戦士「一言だけ、いいですか?」
青年「はい。どうぞ」
魔法使い「……」
青年「……」スッ
魔法使い『もしかして、好きですとか言うんじゃないでしょうね……。これ以上、ライバルが増えるのは本当に―――』
魔法使い「鏡で遊ぶっていってるでしょ!!!!」
青年「すいません。封印する前に堪能しておこうと……」
魔法使い「没収!!」バッ
青年「あぁ、僕の玩具が」
戦士「いいですか?」
青年「すいません。どうぞ、どうぞ」
戦士「もう、何言っても締まらないですが……。―――貴方は勇者であり続けてください」
戦士「いつかまた、この世界に勇者という力が必要になるかもしれません。だから、貴方には勇者でいてほしい」
青年「うーん。お断りします」
戦士「やっぱりですか……」
青年「僕も勇者でいることには疲れましたからね。この人のようになる前にやめておきます」
戦士「そうですか。いえ、言ってみただけですから」
青年「でも……」
戦士「え……?」
青年「貴女だけの勇者であり続けますよ」
戦士「な……!!」
青年「困ったことがあれば勇者さまぁーん!!って叫んでください。空の彼方より駆けつけます」
戦士「……期待していいんですか、今度こそ」
青年「もちろん。期待してください」
戦士「ふふ……」
青年「それでは、また会いましょう」
戦士「はい。みなさんにも伝えて置いてください。ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでしたと」
魔法使い「ええ、伝えておくわ」
僧侶「失礼します」
戦士「お元気で」
青年「あぁー、しかし、また側室探しをしなければならないのか……」
魔法使い「もう、別にいいじゃない」
青年「ダメだ!!10人の側室がいるんだ!!!」
魔法使い「それじゃあ、あの宝箱に擬態する子でいいんじゃないの?」
青年「あの子かぁ……。照れ屋だし、可愛いんだけど……。オスなんだよなぁ……」
青年「……別にオスでもいいか。可愛ければ」
僧侶「ひぇぇ……!!勇者さまぁ……そんな……!!」
魔法使い「やめてよね」
青年「期待してるくせに」
魔法使い「するかぁ!!!」
戦士「……」
戦士(さてと、戻ろう)
戦士(私のだけの勇者か……)
戦士「女たらしなのが無ければ満点だったけど」
戦士「……さよなら。勇者様」
―――城内 会議室
戦士「―――以上が今後の守備計画です。質問があれば随時受け付けていますのでいつでもどうぞ。では、終わります」
兵士「隊長。勇者殿たちの協力はやはり得られそうにないですか?彼らが街の警護に定期的でも協力してくれるとありがたいのですが」
戦士「私たちの力だけでやらないと意味がありません。勇者に期待するのはやめましょう」
兵士「了解です」
戦士「それと、隊長ではありますが、敬語は使わなくても結構です。あまり意味の無い肩書きですから」
兵士「そうっすか?まぁ、俺としても楽でいいけど」
戦士「義父の推薦ってだけですからね」
兵士「隊長。王女の公開裁判が始まる。そろそろ警備を始めよう。あれだけのことをしていたんだ、おかしなことを考えている住民もいるかもしれない」
戦士「ですね。彼女はしっかりと裁きを受けてもらわないと。かつて何があったのか。どのような経緯であんなことをしていたのかを話してもらわないと」
兵士「そうだな……」
戦士(そして私たちは知る。王女や勇者を歪めたのは、私たち自身であることを……)
戦士(そのとき私たちはどんな想いで王女の顔を見るのか……)
兵士長「時間だ。守備部隊、警護にあたれ」
戦士「はっ!!」
―――半年後 城内 会議室
新兵「隊長!!隊長!!!」
戦士「なんですか。騒々しい」
新兵「北の山で凶悪な魔物が住み着いたと、麓の農村から連絡が!!」
戦士「はぁ……。またか……」
兵士「ここのところ続いてますね。何か世界で異変が起こっているんじゃないですか?」
戦士(魔王が仕事をしているとは思えないし……。あの勇者様は何をしているんだが……)
新兵「遠征の準備をしますか!?」
兵士「こんなときにこそ、勇者の力を借りることができればいいんですけどね」
新兵「勇者?確か、この国を裏で救ったという?」
兵士「そうそう。俺も直接会ったわけじゃないから、良くは知らないが。隊長は個人的な交友があるんですよね?」
戦士「ないですよ。手紙の一通もないですから。今頃、10人の側室と仲良くしていると思いますよ」
新兵「なにそれ!!すごいですね!!!会ってみたいです!!」
戦士「女たらしなだけです。期待するとがっかりしますよ?―――それより、北の山へ向かいましょ。早急に準備を整えてください」
新兵「はい!!!」
―――農村
村人「困ってるんです……。時折、農作物を荒らしていって……」
戦士「分かりました。我々に任せてください」
村人「はい。お願いします」
新兵「隊長!!隊長!!」
戦士「なんですか?もう少し声量をおさえてください」
新兵「す、すいません!!!気をつけます!!!」
戦士「で、なんですか?」
新兵「それが魔物は群れをなしているそうです!!」
戦士「群れ……!?」
兵士「隊長。この兵力では厳しいのでは?」
戦士「といっても、兵は他地域にも遠征に出ていて、これ以上は……」
村人「あのぉ……ダメなんですか……?」
戦士「……いえ。心配いりません。期待していてください」
村人「貴方達だけが頼りです。よろしくおねがいします」
―――北の山
魔物「オォォォォォ!!!!」
戦士「でぁぁ!!!」ザンッ!!!
新兵「隊長!!かっこいい!!!」
戦士「ふぅ……ふぅ……」
魔物「オォォォ……」
戦士「魔王はどうした?」グイッ
魔物「グェ……?」
戦士「魔王だ。可愛い魔王がいるだろう?」
魔物「ウゥゥ……?」フルフル
兵士「言葉が通じるんですか?」
戦士「ダメですね」
新兵「隊長!!隊長!!」
戦士「なんですか?」
新兵「魔物が集まってきました!!!俺たち囲まれてます!!」
魔物「「グルルルル……!!!!」」
戦士「くっ……!!」
兵士「退却しますか?」
戦士「いえ。今、退却すれば農村が襲われてしまう。なんとか乗り切りましょう」
新兵「マジですか!?マジですかぁ!?」
兵士「覚悟を決めろ!!!」
新兵「ひぃぃん……!!!」
戦士(こういうときに勇者様が来てくれたら、かっこいいんだけど……)
魔物「「グォォォォォォ!!!!!」」
新兵「きたぁー!!!」
兵士「臆するな!!訓練通りに対処するんだ!!!」
新兵「は、はい!!!」
戦士「道を切り開く!!!私に続け!!!」
新兵「おぉぉー!!」
戦士「勇者には期待するだけ無駄だぁー!!!!」
―――農村
村人「ありがとうございます。ありがとうございます」
戦士「いえ……。これが務めですから……」
新兵「うぅ……生きて帰ってこれたぁ……生きてるって素晴らしい……ぐすっ……」
兵士「今回は厳しかったですね。やはり、我々の兵力だけでは限界があります」
戦士「そうですね……。それに魔物の動きがどうにも騒がしい気がします」
兵士「近隣国でも魔物の生息域の調査を行っているそうですが、わが国でも検討するべきかもしれませんね.。このままでは身が持ちません」
戦士「確かに。……ちょっといいですか?」
新兵「は、はい!!なんでしょうか!!隊長!!!」
戦士「魔物の生息域を調査している個人団体に心当たりがあります。しかし、今は消息不明になっています」
新兵「そうなんですか!?そんな人たちが世界にいるんですか?!すごいですね!!会ってみたいです!!」
戦士「はい。なので、貴女に任務を与えます。貴女だったらきっと向こうから近づいてきてくれるはずです」
新兵「そうなんですか!!はいっ!!!がんばりますっ!!!!」
戦士「では、任務を言い渡します。今から旅へ出てください」
戦士「元・勇者を探す旅へ」
END
―epilogue―
魔王城
ゾンビ「うー……?」
ハーピー「どうしたのだ?」
ゾンビ「うー?」
ハーピー「もうよい」
ドラゴン「おい。新しい情報が入った。面子を揃えておいてくれるか?」
ハーピー「最近、活性化してきてるな。やはり、キマイラの逝去が原因かえ?」
ドラゴン「無関係ではないだろう。現状に不満を持っているものは数多くいるし、キマイラのシンパは少ないとは言えない数だったわけだしな」
ハーピー「ふむ……。今の魔王も申し分ないのだがな」
ゾンビ「うー……!!」
ドラゴン「そうだな。魔族の未来を憂いているようだしな」
ゾンビ「おなか……すいたぁ……!!」
ハーピー「で、どんな情報が入った?」
ドラゴン「ああ。ここから南西の大陸で暴れている魔物がいるらしい。例にもよって農作物を荒らしているようだ」
ハーピー「坊やたちは今どこに?」
ドラゴン「今は確か……。艦隊と共に海上調査をしているはずだ」
ハーピー「調査って、ただのデートであろうに。さっさと連れ戻せ」
ドラゴン「そういうな。あの一件以降、休めるときがあまりなかったのだからな」
ハーピー「そうは言うても、こちらも手が足りんぞ」
ドラゴン「分かっている。ともかく、メンバーの選出を頼む」
ハーピー「ふむ。まかせぇ。どこの魔物かは知らぬが、見つけたら強制連行してやろうかの」
ドラゴン「あそこにか?」
ハーピー「あそこはあそこで問題が多いみたいだからな。魔王の手も借りたいらしいぞ」
ゾンビ「あぃ、どーぞ」ポロッ
ハーピー「腕は取らんでいい」
ゾンビ「そぅ?」
ドラゴン「そうだな……。あそこの様子も見ておきたいし、悪いことではなさそうだな」
ハーピー「だろう?魔族だけで開拓した村はまだまだこれからだからな」
ゾンビ「うー……おなか……すいたぁ……!!」
―――海上 甲板
姫「……」
キャプテン「星が綺麗だね。ダーリン」
キャプテン「君の瞳には負けるよ」
キャプテン「もう!!ダーリンったらぁ!!そんなうまいこといってぇ!!やだよぉー!!もー!!!」
姫「……」
キャプテン「ふぅ……」
姫「星が綺麗ですね」
キャプテン「ん? ああ、そうだね」
姫「この海域での調査も殆ど終わりましたね。助かりました」
キャプテン「アグレッシブな姫様もいたもんだ。普通、しないだろ。姫様本人が調査なんてさぁ」
姫「兵士のみなさんがどのような仕事をしているのか、上に立つ者として知っておかねばなりませんから」
キャプテン「けっ。本音はダーリンと会う口実を作ってるだけだろぉ?よく言うねぇ」
姫「例の鏡を使わない限り黙っていればわかりませんから」
キャプテン「いい性格してるねぇ……」
船員「キャプテーン!!そろそろ中に!!!シケがきそうだ!!」
キャプテン「あいよー。姫様ももどんな。海が荒れるみたいだからね」
姫「はい。分かりました」
キャプテン「それにしてもあれから1ヵ月……。はぁ……何もないねえ……というか、ろくに会ってもいないし……」
姫「何も、とは?」
キャプテン「ダーリンとの甘い夜さ。今だってダーリンは仕事優先だから、邪魔できないし」
姫「甘い夜……。そういえば、以前も船に乗せていただいたときにそのようなことを言っていましたね」
キャプテン「え?ああ、言ったっけ?」
姫「勇者さまとの関係を根掘り葉掘り訊ねてきたじゃないですか」
キャプテン「そりゃ、訊くだろ。あたしだってまだダーリンには強い抱擁しかもらってないんだからさ。あんたもそうだろ?」
姫「え、ええ……。一度だけ、ですけど」
キャプテン「みんなあるのかねぇ……。抱きしめられたことぐらいは」
姫「そこまで気になりますか?」
キャプテン「そりゃあ、だって、ダーリンがあたしに惚れてるのは間違いないんだからさ、あたしが経験してないことをしている奴がいたら、ちと問題じゃないか」
姫「勇者さまは貴女に惚れているのですか?」
キャプテン「誰がどうみたって、そうだろ?なにいってんだい」
姫「勇者さまは平等に愛を分けていると思うのですが……」
キャプテン「ダーリンは優しいからねぇ。でも、あたしに一番惚れているのは間違いない」
姫「根拠はあるのですか?」
キャプテン「前もね、君の全てが欲しい、なぁーんて耳元でいわれちゃってさぁ。むふふ……」
姫「はぁ……」
キャプテン「あと、キャプテンは姉さん女房にぴったりだ、なんてプロポーズも同然なことを言ってきてさぁ、どうしようかと思ったわけ」
キャプテン「でね、あたしは勇気を振り絞ってきいたわけさね。結婚するかい?って。そしたらね、そしたら……ふふっ、なんていったと思う?」
姫「さぁ……」
キャプテン「当然だってさ!!いやぁー、まいっちゃうねー!!あははは!!」バンッバンッ
姫「いたっ!痛いです……叩かないでください……」
キャプテン「どうだい?十分な根拠だろ?」
姫「そうですね……」
キャプテン「それじゃあね、姫様。船酔いに気をつけなよ」
姫「わかりました。おやすみなさい」
―――船内
姫「おっとと……。揺れますね……」
姫(嵐の中に入ったのでしょうか……)
グラッ……
姫「きゃっ」
青年「姫様!!」パシッ
姫「あ……。勇者さま」
青年「部屋にいないのでどうしたのかと思いましたよ」
姫「申し訳ありません。少し夜風に当たっていました」
青年「やはり姫様は城に残っていたほうがよかったのでは?」
姫「しかし……こうでもしないと、私はみなさんと違い、勇者さまとは会うことができませんから……」ギュッ
青年「そ、そうですか?」
姫「はい……。あの、部屋まで……一緒に……」モジモジ
青年「構いませんよ。揺れていて危険ですからね」
姫「ありがとうございます……」
―――客室
青年「失礼します」
姫「どうぞ」
グラッ……
姫「あっ」
青年「危ない」パシッ
姫「……」ギュッ
青年「では、ベッドでおやすみになってください」
姫「はい。……明日で終わりですね」
青年「そうですね。また姫様は通常業務に戻ってください。街の人たちも姫様を顔を見たがっていると思いますし」
姫「そうですか?」
青年「そうですよ。姫様の美しさは何百年見続けても飽きませんから」
姫「……うれしいです」
青年「まさか。言われなれているでしょう?」
姫「勇者さまに言われるにはいつまでたっても慣れませんから」
青年「では、これで」
姫「あ……」
グラッ……
姫「……えいっ」ゴロッ
姫「きゃー」バタッ
青年「姫様!?大丈夫ですか!?」
姫「すいません。揺れが大きくて、ベッドで寝るのも満足にできそうにありません」
青年「そんなに大きな揺れでしたか?」
姫「こう、ぐわーって感じで揺れました。勇者さまは足腰がお強いので感じなかったと思いますけど」
青年「そうでしたか……」
姫「あの、腰を痛打して立てないのでだっこしてください」
青年「はい。よっと」
姫「ふふ……」
青年「――はい。これで大丈夫ですね」
姫「また揺れてベッドから落ちるかもしれません……。ご迷惑でなければしばらく支えててもらえますか?」
青年「姫様?」
姫「なんですか?」
青年「今日は随分と甘えてきますね。何かあったのですか?」
姫「……いえ」
青年「何かあったのなら、言ってください。貴女を長らく心配させてしまった罪滅ぼしはまだできていませんし、自分にできることならなんでもしますから」
姫「……結婚してください」
青年「それはまだ早いです」
姫「側室でもいいですから」
青年「ですから……」
姫「私、最近になって不安になってきて……」
青年「不安?」
姫「勇者さまのお隣にはいつもお綺麗な女性がいますし……」
青年「まぁ、僕が選んだ人ですからね」
姫「もしかしたら……私は……愛されていないのではないかって……」
青年「そんな馬鹿なことがありますか。貴女は大切な側室ですよ。いいですか?側室というのはお嫁さんですからね。愛がなくては妻には迎えられないでしょう?」
姫「なるほど」
青年「ですので、貴女に対しては愛しかないと言っても過言ではありません。貴女のためなら死ねます」
姫「死なないでください」
青年「貴女と添い遂げるまでは死にません」
姫「……勇者さま……?」
青年「なんですか?」
姫「もう……だまって……どこかに……は……」
青年「姫……」
姫「いかな、い……で……」
青年「はい。もう貴女を置いてはどこにも行きません」
姫「すぅ……すぅ……」
青年「俺も寝よう。―――ん?」
姫「すぅ……すぅ……」ギュッ
青年(姫が袖を掴んで……!!)
青年(動けないな……。どうする……?)
―――翌朝
姫「ん……?」
青年「すぅ……すぅ……」
姫(勇者さまが隣で寝てる……。どうして……)
姫「まぁ、いいか……。もう少し私も寝よう……」
ガチャ
キャプテン「姫様ー、朝だけど、朝飯は―――」
姫「すぅ……すぅ……」
青年「んっ……」
キャプテン「……ちょいと」
姫「は、はい?あ、おはようございます」
キャプテン「場所を代わりな」
姫「どうしてですか?」
キャプテン「あたしはダーリンと添い寝なんてしたことないからだろ!!」
姫「はぁ……もうしわけありません……」
―――食堂
キャプテン「いいかい?船には船の風紀ってもんがあってね。それを乱すとかね、やってもらったら困るわけさ」
姫「あの、どうして私の部屋で寝ていたのですか?」
青年「貴女と寝たくなりました」
姫「言って下さればいくらでも添い寝しますが」
青年「恥ずかしくていないときもあるんです」
姫「そうですか」
キャプテン「ちょっと!!きいてんのかい?!ダーリン!!」
青年「今度は一緒に寝ましょう」
キャプテン「なっ!?いいの?!」
青年「勿論」
キャプテン「じゃあ、えっと……アレも用意しておくから……」モジモジ
船員「港が見えてきましたー!!」
青年「1週間の船旅もこれで終わりですね」
姫「そう……ですね……」
>>296
青年「恥ずかしくていないときもあるんです」
↓
青年「恥ずかしくていえないときもあるんです」
―――港町
兵士「勇者殿、船旅お疲れ様です」
青年「いえ。こちらも楽しかったですから」
姫「勇者さま。また何かありましたら、必ずご連絡を……」
青年「はい。勿論です」
キャプテン「ダーリン!!!買ってきたよー!!!」
青年「何をですか?」
キャプテン「いや、やっぱり、必要なものだろぉ……これはぁ……」
青年「買って来ちゃったんですか?そんなものいりませんよ。僕は常に本気で挑みますから」
竜娘「―――ここにいたか」バサッバサッ
青年「どうも」ギュゥゥ
竜娘「はなせ。無礼者」
青年「何かあったんですか?」
竜娘「農作物を荒らす魔物が出たらしい。行ってくれるか?」
青年「仕方ないですね……。行きましょうか」
キャプテン「まちな。ダーリンを連れて行く気かい?」
竜娘「そうだが?」
姫「あの、勇者さまを働かせすぎではないですか?あの王女の一件から殆ど休んでないのでは?」
竜娘「それは……」
キャプテン「今日はあたしと甘い夜を過ごすんだ。邪魔しないでおくれ」
青年「待ってください。魔物が暴れているのなら見過ごすわけにはいきません」
キャプテン「でもぉ!!」
青年「僕はいつでもキャプテンの胸にいますよ。寂しくなったら自分の胸を抱きしめてください」
キャプテン「こうかい?」ギュゥゥ
青年「そうそう」
キャプテン「……うーん……言われてみればダーリンを感じる」
青年「でしょう?」
竜娘「話は済んだか?なら、行くぞ」
青年「はい」ギュゥゥ
竜娘「離せって言っているだろうが」ゲシッ
姫「勇者さま、ご無理はなさらないように」
青年「はい。心配はいりませんよ。それでは」
姫「……」
キャプテン「ダーリン、無理してるね」
姫「やはり、あの一件が原因ですか?」
キャプテン「そうだろうね。魔物が国を襲ったのは事実みたいなもんだし、多少嫌な噂も流れてるからね。ダーリンにとっては心穏やかにはなれないんだろう」
姫「勇者さま……」
兵士「姫様、そろそろ。警護の者も待たせていますから」
姫「はい。わかりました」
キャプテン「それじゃあね、姫様」
姫「はい」
兵士「ですが、確かに勇者殿も心労を重ねてはいそうですね」
姫「やはり……そう思いますか……」
兵士「ただ勇者殿は心中を表に出さないように努めているようですし、本音をこぼすことはないのかもしれませんね」
姫「本音……」
―――数日後 城内 謁見の間
兵士「姫様。お見えになりました」
姫「通してください」
魔法使い「どうも、姫様」
僧侶「1ヵ月ぶりぐらいでしょうか?」
姫「そうなるでしょうね。あのときは何のお役にも立てずに申し訳ありませんでした」
魔法使い「そんなことないわ。姫様が来てくれなかったら傀儡化した市民や兵士を足止めできなかったし」
僧侶「そうですよ」
姫「そう言って頂けると嬉しいです」
魔法使い「ところで私たちを呼んだのは?」
姫「勇者さまのことです」
僧侶「勇者様がなにか?」
魔法使い「……」
姫「お二人は最近、勇者さまとお会いになられましたか?」
僧侶「いえ。最後に会ったのは二週間以上前ですね。今は勇者様も魔物の調査で忙しいようですし」
姫「そうですか。第1第2側室の貴女たちもあまり顔を合わさないのですか」
僧侶「実はそうなんです」
魔法使い「側室じゃないけどね。で、それがどうかしたの?」
姫「勇者さまは働きすぎではないかと思うのです」
僧侶「それは私も感じていました。でも、勇者様は言って止まってくれるような人ではないですし」
魔法使い「まぁ、そうよね。馬鹿だから」
僧侶「馬鹿じゃないです」
姫「そこで考えたのですが、私たちで勇者さまを癒して差し上げることはできないものかと」
魔法使い「やめておいたほうがいいですよ、姫様」
姫「何故ですか?」
魔法使い「アイツが馬鹿で変態だからです。優しくしたら付け上がってセクハラしてくるに決まってるんだから」
姫「でも、側室として勇者さまの体のケアは大事だと思うんです」
僧侶「それはそうかもしれませんが……」
姫「先日、勇者さまと一緒に寝たときも勇者さまは相当疲れていたのか、中々起きなかったですし」
魔法使い「寝た?!起きなかった!?どういうこと!?」
僧侶「姫様……」
魔法使い「あんたからも言ってあげて!!」
姫「あの、何か誤解を……」
僧侶「勇者様って朝まで傍にいてくれること多いですよね」
魔法使い「!?」
姫「そうなのですか?」
僧侶「私のときもそうでしたから」
魔法使い「ちょっと!!それ何時の話よ!?」
僧侶「いつって、ほら、エルフの里で私が倒れたときです」
魔法使い「ああ……あれか……。私はてっきり……」
僧侶「なんですか?」
姫「私も勇者さまに傍にいてくださいとお願いしただけです。目が覚めたらあの人は本当に傍にいてくれて……」
魔法使い「何もないわけね」
姫「さぁ……?いえ、私はそういう話をしたいわけではないのです。勇者さまのことが気になっているで」
魔法使い「私も気になってるけど」
僧侶「勇者様のお体ですね?」
姫「その内、体調を崩されてしまうのではないかと心配で」
魔法使い「大丈夫よ。あいつ、バカだし」
僧侶「そういう言い方は……」
姫「貴方達からも勇者さまにお休みになるように言ってもらえませんか?」
魔法使い「最後にあったときにも言ったけど、聞く耳はもってなかったわね」
僧侶「夜と昼の体力は別腹とか言ってましたね」
姫「以前からも魔物の調査に対しては精力的な活動をしていましたが、今回は度が過ぎていると感じます」
魔法使い「まぁ、そうね」
姫「あの一件で勇者さまに何か心境の変化でもあったのでしょうか?」
僧侶「それは……」
姫「心当たりがあるのですか?」
魔法使い「魔物に対しての風評がね……」
姫「それは聞きました。よからぬ噂もあるようですね」
魔法使い「あいつのことだから、きっとこれ以上、魔物の評価を下げたくないのよ。また喧嘩になっても困るもの。折角、新しい世界が出来上がりつつあったのに」
―――農村
青年「やめろ!!」グッ
魔物「ガァァァァ!!!!」
エルフ「ガーちゃん!!お願い!!!」
少女「逃がしません」ザンッ!!
魔物「オォォォォ……」
村民「ありがとうございます。助かりました、旅の方」
青年「いえ、気にしないでください。お怪我はありませんでしたか?」
村民「はい。それにしても最近は大人しくなったときいていたのに、やはり魔物は怖いですね」
エルフ「ああ、えっと……」
村民「今度、国のほうに頼んで討伐してもらいます」
青年「そうですか」
村民「ほら、最近、王女様が魔物に操られていたって事件もあってから、お城のほうでは色々と軍備も強化されたらしいですからね」
少女「それは賢明は判断だと思われます」
村民「旅の方、お礼をさせてください。どうぞこちらへ。小さな村ですが、精一杯持て成しますので」
―――村外れ
魔物「……」
ドラゴン「なるほどな」
青年「分かりましたか?」
ドラゴン「食糧の調達にこの村に訪れたらしいが、有無を言わさず村民たちが攻撃してきたらしい」
青年「それで防衛のため反撃をしたと?」
ドラゴン「そこで火がついて農作物を何度か奪ったらしい」
エルフ「はぁ……」
青年「貴方に任せていいですか?」
ドラゴン「連れていこう。お前たちはどうする?」
青年「一応、村のお礼は受けておきます。可愛い村娘がいたので」
少女「私の美少女サーチによりますと、パパの好みの女性は3人いる模様です」
青年「でかした。案内してくれ。うっひょー」
少女「こっちです」
ドラゴン「……帰るか」バサッバサッ
―――酒場
店主「どんどん飲んでください。貴方達は我が村を救ってくれた勇者様ですからね」
村娘「キャー、あれが勇者様よー」
青年「どうも。勇者です」キリッ
村娘「割とかっこいいー!!」
青年「この中に未亡人がいれば来てください。即側室に加えて―――」
エルフ「ちょっと」
青年「なんですか?」
エルフ「遊ぶのもいいけど、最近こんなのばっかりじゃん。いいの?」
青年「王女の一件は鏡によって世界に伝えられましたが、それでも魔物が裏で糸を引いていたという噂が蔓延していますからね。このような事案が増えるのは当然です」
青年「ある意味ではその噂も正しいですし」
少女「すいません。ステーキ等に使われる肉牛を私に屠殺させてください」
店主「え?」
少女「それでエネルギーを補給しなければならないので」
店主「あっはっはっは。面白いジョークですね。わかりました、ステーキを用意します」
店主「はい、お待たせしました」
少女「Oh……」
エルフ「どうしてあの鏡で分かったことが真実だって、信じてくれないのかな」
青年「今まで魔族と戦ってきて、肉親や親友、恋人を失った人が多くいます。簡単には割り切れないでしょう」
エルフ「でも、このままじゃ……!!」
青年「どうしましょうか。悩みますね。側室の部屋割りとか」
エルフ「もういい」
青年「とりあえず今日はゆっくりと飲みましょう」
エルフ「……ボクはいい」
青年「過去の失敗を気にしているんですか?」
エルフ「お酒はやめたから」
青年「大丈夫ですよ。これはジュースですから」
エルフ「ホントに?」
青年「ホントです。勇者、ウソつかなーい」
エルフ「なら……」ゴクッ
青年「どうですか?」
エルフ「……おいしい」
青年「どんどん飲んでください」
店主「今日はおごりですからね」
エルフ「うん」ゴクッ
少女「歴史は繰り返す」
青年「そうですね。やはり人間と魔族は相容れぬ存在なのでしょうか」
少女「話の通じない者はニンゲンにも魔族にもいます。ですが、その逆も然り」
青年「ええ。僕たちのように分かり合えるはずなんですがね」
エルフ「これ、本当に美味しいっ」ゴクッゴクッ
少女「私は明日城に戻り、マスターと共に魔族の村に行ってきます。パパはどうするのですか?」
青年「そうですね……」
店主「勇者様の娘さんですか?若いのに流石ですなぁ」
少女「娘は世を忍ぶ仮の姿。その実体は倒錯した父娘です」
店主「あははは。本当に面白い子だなぁ。ステーキもう一枚追加してあげます」
店主「どうぞ」
少女「Oh……」
青年「僕もそろそろ城のほうへ行こうと思っていたところです。あれから1ヵ月もたってしまいましたからね」
少女「では、一緒に戻りますか?」
青年「そうですね。そうしましょう。場合によっては僕も魔族の村へ同行します」
少女「いいのですか?かなり労働を重ねているようですが」
青年「船に乗ったり、ドラゴンに跨ったりしているだけです。僕の上に女性を跨がせるよりも楽ですよ」
少女「そうですか。貴方がそういうのなら、構わないのですが」
青年「……」
エルフ「……」ゴクッゴクッ
店主「飲みますね、お嬢さん。どうですか、もういっぱい」
エルフ「くらはい」
店主「どうぞどうぞ」
エルフ「これ、おいひーねっ!」
青年「おやおや。可愛くなってきましたね」
エルフ「ねぇ、ねぇ、ぼくさぁ、こきょうにかえれないんだけどさぁ、せきにんはぁーいつになったらぁ、とってくれりゅのぉ?」スリスリ
青年「もう取ってるじゃないですか」
エルフ「とってねーよぉ。まだ、なんもしてこいなじゃんっ。それって、おかしいじゃん?」
青年「何も、とは?」
エルフ「ぼくだってさぁ、メスなんだしぃ、なめてほしいところとかあるわけじゃん?でも、おまえはなめないじゃん?」
青年「どこを舐めてほしいのですか?」
エルフ「みみにきまってるじゃーんっ。ここがぁ、ぼくのぉ、かんじるところだしさぁ。ほら、なめてよぉー」
青年「こんなところで?全く、貴女はスケベですね」
エルフ「そうっ。ぼくってばぁ、すけべなんだよぉ?おまえも、すきでしょぉ?」
青年「ぬほほぉ……。ええ、大好きです」キリッ
少女「老婆心ながら助言させていただきますが。また彼女の傷が広がるだけではないでしょうか?」
青年「キラちゃんと僕しかいませんから、彼女もこうして安心しているんですよ。それに……」
少女「なんですか?」
青年「たまには言いたいことを言っておかないと、精神衛生上良くないですからね」
エルフ「なめてってばぁー、ねえ、ねぇ……うぅ……すぅ……すぅ……」
―――翌日 村外れ
エルフ「……」
青年「では、行きましょう」
少女「はい。マスターはここから東に行った洞窟で待機しているそうです」
青年「分かりました」
エルフ「あの」
村民「また近くに来た際は寄ってくださいね」
村娘「まってますから、勇者様。昨夜はありがとうございます。うふっ」
青年「いえいえ」
少女「何かしたのですか?」
青年「ええ。少し話を」
少女「そうですか」
エルフ「ボク、昨日、なにか言ったような気がするんだけど、教えてくれない?」
青年「しゅっぱつ!!」
エルフ「また変なこと言ったんじゃないよね!?」
―――魔王城
青年「ただいまー!!」
ゾンビ「おかえりぃー!!!」ダダダダッ
ハーピー「急だな。また暫くは顔を出さないと思うておったが」
青年「まさか。そんなことあるわけないじゃないですか。ねー?」
ゾンビ「うー!」ギュッ
青年「よしよし」
ドラゴン「……何か新しい情報はあったか?」
ハーピー「いや、報告はない。そちらはどうだった?」
ドラゴン「ニンゲンと魔物の小競り合い、といったところだな。まだ戦争にならないだけマシと思うべきかもしれないが」
ハーピー「そうかもしれぬな。キマイラも厄介な問題を残してくれたの」
ドラゴン「先代魔王で断ち切れなかった復讐の連鎖か……」
エルフ「また……また……ボク……あぁ……どうして……」
少女「歴史は繰り返す」
エルフ「……」ガクッ
―――夜 廊下
エルフ「はぁ……これから、どうすれば……」
「元気だった?」
「うー」
エルフ「ん……あれは……」
青年「悪かったな。あの一件以来、各地で魔物を討伐する動きが活発になってきて、魔物もそれに反応して牙をむき出した」
ゾンビ「……」
青年「お陰で君を一人にしてしまった。怒ってるか?」
ゾンビ「うー」フルフル
青年「泣いたか?」
ゾンビ「うー……まおー……だし……」
青年「悪かった。助けられなかった」
ゾンビ「……うー……」
青年「部屋に行こう」
ゾンビ「うー……」コクッ
―――魔王の自室前
青年「……ふぅ」
エルフ「どうかしたの?」
青年「え?いや、今しがた魔王を軽く抱いただけです」
エルフ「ボクにお酒飲ませたんだから、それぐらい言ってほしいんだけど」
青年「ミーちゃんが居なくなったことを深く悲しんでいるんですよ」
エルフ「……!」
青年「ミーちゃんが一度、ここへ来たときに意気投合したらしく、短い間ではあったもののかなり親密な関係になったとか」
エルフ「そんなこと一言も……」
青年「ゴンちゃんやハーピー姉さんにすら言ってなかったみたいですね。自分は魔王だから、と」
エルフ「知ってたの?」
青年「愛称で呼び合ってましたし、想像はしていました。そしてキマイラ討伐後、もしかしたらとずっと引っ掛かっていたのですよ」
エルフ「そう……」
青年「人間を恨みはしないと言ってくれはしましたが、しばらく魔王はゴンちゃんに代行してもらうほうがいいかもしれませんね」
エルフ「……」
青年「ああ、他言無用でお願いします。彼女の気持ちもありますから」
エルフ「それはいいんだけど……」
青年「それではおやすみなさい」
エルフ「ちょっと待って」
青年「なんですか?僕と一夜を過ごしますか?」
エルフ「それは……。って、今は関係ないじゃん!!」
青年「耳を舐めてあげましょうか?」
エルフ「だから、性感帯でもなんでもないから!!」
青年「おや、変ですね。そんなはずはないのですが」
エルフ「いいから、忘れて!!あれは一生の不覚だし」
青年「貴女には一生の不覚が二度もあるんですか。なかなかのうっかりさんですねぇ」
エルフ「魔法でこらしめるよ?」
青年「それは困る。燃え上がるのはベッドの上だけでいいのに」
エルフ「……しらないっ!!」
青年「おやすみなさい。良い夢を」
―――翌日
青年「それでは行って来ます」
ドラゴン「留守は頼むぞ」
少女「ご無礼」
ハーピー「うむ。任せた。ところで……あやつの元気がないようだが、なにかあったのかえ?」
エルフ「……」
青年「ああ、酒に溺れた者の末路なんで気にしなくていいですよ」
エルフ「飲ませたくせに……!」
ハーピー「あと、勇者。魔王の姿が見えぬのだが……?」
青年「体調が悪いそうです。今は安静にさせておいてください」
ハーピー「なに?」
ドラゴン「何かあったのか?」
青年「心配はいりませんよ」
ハーピー「ふん。おぬししか知らんことなどあまり無いぞ。こちらも想像はついておる」
青年「なら、尚更安心です。行って来ます」
―――上空
ドラゴン「そうか。あまり甘えてこなくなったから何か様子がおかしいと思っていたのだが……」
青年「そうなんですか?」
ドラゴン「城に戻るたびに抱きついてきていたのが最近なかったからな」
青年「僕にはあったじゃないですか」
ドラゴン「それはお前だからだ」
青年「いやぁー、モテる男はつらいなぁー。僕レベルになると人間とか魔物とかの垣根がないんだもん、なぁー」
少女「そして機械兵士まで娶る始末」
青年「俺が手に出来ない女はいないといっておこう」キリッ
少女「よっ。すけこまし」
青年「もっといって、もっといって」
ドラゴン「背中の上でじゃれ合うのはやめろ」
青年「嫉妬ですか?」
少女「申し訳ありません、マスター。私はマスター一筋です」
ドラゴン「何も言ってない」
青年「お前、俺が一番好きなんじゃねえのかよぉ?あぁ?」
少女「ご、ごめんなさい。だって、パパはパパだから……!!」
青年「この!!誰が今まで面倒見てやってきたとおもってやがるんだ!!」パシンッ
少女「あんっ」
青年「俺だろう!?お前を女にしたのは、俺だろうがぁ!!てめえは俺が一番好きなんだよ!!そうだろう?」
少女「ち、ちが……」
青年「まだ言うか!!」パシンッ
少女「ぃんっ」
青年「ほら、誰が一番好きなのか言ってみろぉ。ほら、はやくっ!!」
少女「パ……です……」
青年「きこえねえ!!!」
少女「パパが!!パパが一番好きですぅ!!」
青年「そうかそうか。よーし。ぬげぇ」
少女「あぁ……ごめんなさい……マス、ター……くやしいけど……あぁ……」ガクッ
ドラゴン「村が見えてきたぞ。降下する」
―――魔族の村
青年「ここに来るのも久しぶりですね」
ラミア「あらぁ、勇者じゃないのぉー。おひさー」ズリズリ
青年「どうも、ラミちゃん」
「ドラゴン様!!お久しぶりです!!」
ドラゴン「何も問題はないようだな」
「キラーマジンガだぁー!!!かわいいー!!!」
少女「当然のことを言われても困ります」
ラミア「この間、たいへんなことがあったんだってぇ?たいへんねぇ」
青年「君に何かあれば駆けつけますよ」
ラミア「あらぁん。うれしぃわぁ。じゃあ、今晩、どう?」ギュゥゥゥ
青年「あぁ……貴女の愛が……骨を圧迫する……!!」
ドラゴン「やめろ。長はどうした?」
ラミア「いつものところにいるよぉ?」
ドラゴン「わかった。近況報告も兼ねて挨拶をしておかなくてはな」
―――湖
ドラゴン「いるか?」
バシャーン!!!
マーメイド「―――どうも、お久しぶりです」
青年「どうも、人魚姫」
マーメイド「やめてください。長に御用ですか?」
ドラゴン「ああ。最近のことで少しな」
マーメイド「少しお待ちください」バシャン
青年「ここは楽園ですか」
ドラゴン「各地から魔族が集まってきてはいるが、それでもこの馴れ合いに拒絶反応を見せるするものも多い。楽園とは言えないだろう」
少女「自身の縄張りを離れるということですからね」
青年「……」
バシャーン!
マーメイド「お連れしました」
青年「お久しぶりです、長」
「勇者か。何故、姿を見せなかった?」
青年「今、どこに?」
「目の前にいる」
マーメイド「長、鎧です。着てください」
「うむ」ガチャン
ヨロイ「―――キマイラのことはお前が伝えてくれるものだと思っていたのだが」
青年「申し訳ありません。こちらも色々と大変で」
ドラゴン「そのことで今日はここを訪れた。魔物とニンゲンの間で不穏な空気が流れ始めている」
ヨロイ「そうか……。懸念していたことが当たってしまったか……」
青年「……」
ヨロイ「所詮はニンゲンと魔族。最初から分かり合えはしなかったか」
青年「そんなことはない」
ヨロイ「なればこの状況をどう説明する、勇者よ。ニンゲンと魔族が手を結び行っていた悪行も、ニンゲンからすれば魔族が元凶と言う」
青年「それは……」
少女「事実です。賢者と呼ばれる者が悪魔の甘言に乗せられて起こってしまったことですから」
ヨロイ「全ては魔族に非があるというか、機械人形」
少女「そうは言いませんが、私の初代マスターがいなければ……」
青年「おい」
ヨロイ「先日もここへ逃げてきた者がいる」
ドラゴン「なに?」
ヨロイ「魔王の死去以来、静かに山で暮らしていた者たちが突然ニンゲンに襲われたらしい」
青年「な……!?」
ヨロイ「お前たちの与り知らぬところで魔物狩りは行われている」
ドラゴン「そういう情報こそ、こちらに渡して欲しいのだがな」
ヨロイ「その者たちが言っていた。ニンゲンには喋らないでくれとな。また襲われるかもしれないと恐れていた」
青年「……っ」
ヨロイ「ドラゴン様、私はこの村の長であることに疲れた。耳に届くのは同族たちの恨み辛みばかりだ。そろそろ後釜が欲しい」
ドラゴン「皆からの推薦だ。もうしばらくは長であってくれ」
ヨロイ「頼りにされるのはあまり好ましくないのだがな」
ドラゴン「そういうな。お前だからこそ皆も胸中を晒せている」
ヨロイ「長く生きるのも考え物だな」
マーメイド「そう仰らないでください、長」
ヨロイ「……エルフ族もこうだったのだろうな」
青年「え?」
ヨロイ「昔はいい様だと蔑んでいたが、今は私たちも同じだ。ニンゲンの目を恐れ、他の魔族からの罵声に怯え、こんな場所に隠れ住んでいるのだからな」
青年「それは……!!」
ヨロイ「この村もニンゲンに見つかればどうなるか……」
少女「恐らく、今の情勢では攻め込まれるでしょう」
ドラゴン「だろうな」
青年「そうさせないために、僕は今こうして……!!」
ヨロイ「ハーピーからも聞いている。だが、焼け石に水だろう」
青年「しかし、他に方法が!!」
ヨロイ「勇者よ。一つだけ聞かせてくれないか?」
青年「なんですか?」
ヨロイ「万が一、ニンゲンがここへ攻め込んできたとき、お前はどちらの味方になる?」
青年「僕は貴方達を守ります」
ヨロイ「同じだな……。何も変わらない」
青年「なにを……」
ヨロイ「お前はただ襲撃する者に対して刃を向けているだけだ。もし立場が変われば、お前は魔族に敵対する」
青年「……」
ヨロイ「魔王を倒したときと状況は何も変わっていないな」
ドラゴン「それ以上は侮辱と受け取る」
少女「……」シャキン
青年「いえ。長の言う通りです。あの人も似たようなことを言っていた。全てを守ることなどできはしない。守る者は選べと」
青年「優先順位をつけたほうがいいとも言っていた気がしますね」
ドラゴン「お前……」
青年「少し考えてみます。それでは」
ヨロイ「お前の答えに期待する」
青年「期待ですか……」
少女「ご無礼」
ラミア「あらぁ?もういっちゃうのぉ?はやぁーい」ギュゥゥゥ
青年「いででで……!!」
ドラゴン「また調査に出るのか?」
青年「い、いえ……そろそろ……こたえ、を……だそう……かな……と……!!!」
ラミア「だめぇ、あぁん、うごかないでぇ」ギュゥゥゥ
少女「答えですか?」
青年「ぁ……ぃ……!!」
ドラゴン「では、城へ戻るのだな?」
青年「ぃ……ぉ……ぉぉ……!!!」
ラミア「んっ……あっ……そう……いいわぁ……もっと……んんっ、んぁっ」ギュゥゥゥゥ
ドラゴン「やめろ。死ぬぞ」
ラミア「もういっちゃうの?満足できなわぁ」
少女「この方は自覚がないのですね」
ドラゴン「愛情表現だからな。人間には耐えられん」
青年「い、いきましょう……はやく……」
―――上空
少女「それで答えというのは?」
青年「このままでは僕は何もできない、中途半端な結果しか残せない、ただのモテる男になってしまう」
ドラゴン「自分で言うのか、それを」
青年「いいますね。事実ですから」
少女「一理あります」
ドラゴン「いや、ない」
少女「そうですか」
青年「僕がしているのは現状維持でしかない。そろそろ覚悟を決めるときが来た。ということでしょうね」
ドラゴン「それは……まさか……」
少女「勇者が魔王になるというのですか?」
青年「いいや、違う。優先順位を決める」
ドラゴン「なんのだ?」
青年「守る優先順位に決まっているでしょう。もしも争いが起こったとき、困りますからね。側室の間で僕を取り合うとかあるかもしれないわけで」
少女「なるほど。一理あります」
―――魔王城
ドラゴン「残りの面子を全員連れてくるのか?」
青年「ええ。ああ、でも、姫様とキャプテンは無理につれてくる必要はありません。時間があれば連れて来てください。二人は色々と忙しい身ですから」
ドラゴン「了承した」
少女「行きましょう、マスター」
ドラゴン「うむ」バサッバサッ
ハーピー「なにかあったのかえ?」
青年「何故ですか?」
ハーピー「そういう目をしておる」
青年「覚悟を決めただけですよ」
エルフ「あ、おかえり。早かったんだ」
青年「貴女に一秒でも早く会いたくて」
エルフ「はいはい」
青年「本当ですから」キリッ
ハーピー「ふむ……。まぁ、よい」
---会議室
ハーピー「あーーそれではーーー!!!今回遠征に於ける反省会……並びに、今後の予定を決める定例会議をはじめようかの。魔王様の側近中の側近のわらわが、暫定的に司会進行役を勤めるえ。まずはじめに、議長の魔王様からひとことお願いします」
ゾンビ人形「………」
---シーン---
魔法使い「………なんなのよ、あの人形?」ボソッ
僧侶「ウフッ魔王ちゃん人形カワイイですよねぇ♪」ボソッ
魔法使い「………いや、そういう意味じゃなくって;」ボソッ
ハーピー「えーい!!痴れ者がぁ!!!議長の発言中であるぞ!!かしましい井戸端会議は控えよ!!!」クワッ
魔法使い「はいはい……」
ハーピー「返事は一度じゃ!!」
僧侶「はーい」
エルフ「………いやいや!!そこツッコミどこ満載だよねぇ?議長はまったく発言なんかしてないし!!……そもそも、それって人形だしさぁ!!!」ボソッ
ハーピー「そこなエルフ娘!!痛いとこ突くでない!!!………本来ならわらわこそ、いの一番に生魔王様の声を聴きたいわっ!!!……しかし、魔王様の体調が悪いのだから仕方なかろ……トホホ……」ショボーン
エルフ「ごめ~ん。ハーピー姉、落ち込まないでよ~~」トントン
魔法使い「え……?!(驚愕?!)アンデッド(死体)の体調っていったい……?!)
」
僧侶「まおーちゃん、まだ立ち直ってないんでしょうか?心配ですねー…」
魔法使い「……そーゆうあんたこそ。人の心配してる場合じゃないんじゃないの」ボソッ
僧侶「はいーー?」
魔法使い「……あんた、まだ心の傷癒えテ……いえ、何でもないわ……」ボソッ
僧侶「……私ならもう大丈夫です」ニッコリ
僧侶「たしかにピー肉を口にしたことは普通なら一生涯忘れられない程のショックでしたが……それも、勇者様のフォローで素敵な思い出で上書きされましたからね」ウットリ
魔法使い「///ハイハイ、ごちそうさま!!……なら、まぁ、いいんだけどさ……」ソッポムキ
エルフ「相変わらず、ふたり仲いーねー♪ボク、妬けちゃうなー」ヒューヒュー♪
ハーピー「………そなたら、人の話を聞く気あるのかえ?」ケーーーッ
竜娘「……ふむ?ここまで勇者の発言なし………と」チラッ
青年「………」
少女「さすがはマスター!!!素晴らしいご慧眼ですね。たしかに、貴女のいう通りパパの様子がおかしいようです。………まあ、年がら年中おかしな人なのですが………」
竜娘「そうだな」
ハーピー「ククッそれは言えてるえ」
魔法使い「たしかにそうなんだけどさぁ……本人を目の前にしてよくハッキリいうわねぇ;」
僧侶「ちょっと皆さん言い過ぎじゃないですか!!勇者様はいつも素敵な発言しかしてませんからっ!」キリッ
エルフ「エー?!…それもどーかと思うよ」
魔法使い「……そんな事言うのあんただけよ;」
僧侶「えー」
エルフ「……でも、ホントどうしたんだろう勇者?」ジー
少女「会議が始まり、はや十分。パパの通常行動パターンのデータの平均値的には、もうとっくにセクハラ発言してなきゃおかしな頃合いです」
」
ハーピー「さてはこやつも魔王様が居ぬので落ち込んでいるのでは!?
……なんと生意気な!!」ケーーーッ
エルフ「え?」
ハーピー「そうさな、ぼんやりしてる今ならば、わらわがひとくち頂いても気付かぬやもしれんなぁ」ペロッ
魔法使い「……それはさすがに止めるわ」
ハーピー「……ちっ!!けちんぼが」ケーーーッ
青年「………」
青年以外全員「………」ジーーッ
竜娘「………まさか、連日の疲れがピークに達し、座したまま死んでいるのではなかろうな?」クイクイッ
少女「ほぉーーっ!?人の頬っぺたって案外のびるものなのですねぇ??マスター、後学の為に私もお供しますね」グイッグイッ
青年「ハッ!!……アテテテ?!!ボクを取り合って両側から引っ張らないでくだひゃい………ボクの端正な唇がのびてひまいまひゅ……」ナミダメ
竜娘「……おや、生きておったか」パツンッ
少女「マスター……生体反応は最初からありましたから、それは当然のことかと……」パツンッ
竜娘「……それを、はよいわんかっ!!」ペシッ
少女「あぅっ?!……そうか……これが本場のツッコミというものなのですね??勉強になります」
ガイコツ「みなさん、お茶の時間でーす」コトッコトッコトッコトッコトッ
「うむご苦労」「ありがとー」「助かるわ」
ガイコツ「……ではごゆっくり」イチレイ
青年「………とまれ、寝てて目覚めたら、いきなり僕専用のクレーマーが居着いてるみたいな感じで非常にヤりにくいんですがねぇ??」ズズー
少女「………本格的に意味不明。末期症状ですね………」
エルフ「……僕にはさっぱりだよ」ゴクゴク
竜娘「オイ!!!……お前本当に本物の勇者なんだろうな??」ギラッ
青年「………ふざけるな!!こんなにハイセンスでイケてる僕がにせ物のわけないだろが!!!!」ダンッ
魔法使い「何キレてんだか……」ハア ゴクゴク
僧侶「……キレてる勇者様も素敵です」ウットリ
少女「………詰まらなければ批判され淘汰される。それはどこの世界でも同じですよね。………最初から酉もつけてないのだからにせ物と批判されても仕方がない。まるでクレーマーホイホイです。……即ち、内容が詰まらなければ残りのレス凡て雑談で埋められる事も覚悟しなければならないのですよ」
竜娘「何言ってだお前」ゴクゴクゴク
青年「………成る程、さすが我が娘。状況理解が早い。……褒美をやろうW」ナデナデ
少女「あン……そこは駄目!!もっともっと!!!」
青年「グヘヘよいではないか!!よいではないか!!!!」ナデナデ
少女「あアれェ~ッ!!イク!!イク!!逝っちゃうーーーっ!!!」
魔法使い「……ワンパね」ボソッ、ゴクゴク
僧侶(……ーちゃんいいなぁ……)
青年「ゴホン……何しろ今まで寝てましたし。………久々にヤると勘が鈍ってしまいますからね……親の居る家では連れ込み行為がしづらいのと一緒!!!」キリッ
僧侶以外みんな「………何言ってだ勇者!!!!!」
僧侶「さすが勇者さま。……蘊蓄と語彙が豊富で素敵です」ウットリ
勇者「まあ、最悪でも……このスレが批判米で埋められ落ちるだけの話。その時はまた、たて直せばいいだけの話です!!!!何の問題もありませんっ!!!!」キリッ
ハーピー「……どーでもよいわ。わらわの望みは魔王様が元気になることのみよ……叶わぬのならいっそ……」ハア
勇者(中村悠一)
魔法使い(名塚佳織) 僧侶(能登麻美子)
キャプテン(田村ゆかり) 姫(丹下桜)
戦士(喜[スペランカー]英梨) エルフ(袖木涼香)
キラちゃん(斎藤千和) ドラゴン(小山力也・白石涼子)
ハーピー(中原麻衣) ゾンビ(金田朋子)
―――魔王の自室
青年「ただいま」
ゾンビ「うー」テテテッ
青年「これ、お肉」
ゾンビ「おぉー!ちょーだぃー」
青年「どうぞ。何も食べてないんじゃないか?」
ゾンビ「うーうー。そんなことないけど」
青年「にしては顔色が悪いが」
ゾンビ「うまれつきぃー」
青年「そっかそっか」
ゾンビ「うー」モチャモチャ
青年「……美味しい?」
ゾンビ「うーっ!」
青年「話したいことがあるんだけど、食べながらでいいから聞いてくれるか?」
ゾンビ「うー、ん」モチャモチャ
青年「君が魔王に選出されたことはとても喜ばしいことだった。今後、魔族の在り方を変革できることも僕は期待していた」
ゾンビ「……」モチャモチャ
青年「さらにドラゴちゃんとハーピー姉さんが側近として君の傍にいる。君たちのことは何も心配はいらないと感じていた」
ゾンビ「……」モチャモチャ
青年「だからこそ、僕は魔王が没したのち世界中に散らばってしまった危険な魔物の調査を行っていたわけだ」
ゾンビ「……」モチャモチャ
青年「聞いてる?」
ゾンビ「うんっ!」
青年「それが魔王を倒してしまった自分自身の役目だと勝手に思っていたし、そうすることでみんなを守ることもできると考えていた」
ゾンビ「……」モチャモチャ
青年「だが、その考えは甘かった。それは今回の一件でよくわかった。僕は所詮、みんなの力に支えられていただけの人間に過ぎない」
ゾンビ「ごちそぉーさまっ」
青年「目に映る者全てを守ることなんてできやしなかった。3年前の旅でも何度か側室を傷つけ、泣かせてしまったことも愚かな僕は忘却していた」
ゾンビ「……おかわり」
青年「だからこそ、僕は決断した。もう守ることをやめようと」
ゾンビ「……」モチャモチャ
青年「僕が再び勇者に戻ることは世を乱しかねない。人間の分際で魔王になるなんてもってのほかだ」
ゾンビ「……」
青年「あの人にも言われた。両手で掴めきれないものは諦めろとも」
ゾンビ「……」モチャモチャ
青年「故に、僕は諦めることにしたんだ。何をしても人間と魔族は争いを止める事はない。互いの勢力図が入れ替わるたびに迫害や支配が起こる」
青年「復讐されては復讐する。その連鎖はただの人間である僕に止めることなんてできやしなかった」
ゾンビ「ごちそぉーさまっ」
青年「だから、もう足をとめ、僕は君たちを幸せに暮らすことを選ぶことにした。あの魔族の村で」
ゾンビ「……」
青年「ついてきてくれるか?」
ゾンビ「うー……。いいけど、まおーはどうなるの?」
青年「勇者同様、魔王もいなくなる」
ゾンビ「まおー……いらないのぉ……すてるのぉ……?」ウルウル
青年「君がいらないわけじゃない。魔王がいらないんだ」
ゾンビ「まおー、すてられるぅ……いやぁ……」ウルウル
青年「だから、違うって。君のことは必要だ。貴重な妹枠なんだから。気づいていないかも知れないが、お兄ちゃんと呼んでくれるのは君以外にいないんだぞ」
ゾンビ「すてないでー」ギュゥゥ
青年「捨てるわけ無いだろ」ナデナデ
ゾンビ「ほんとぉ?」
青年「本当だとも」
ゾンビ「……」
青年「君たちを悲しませはしない。僕はそう心に誓ったんだ」
ゾンビ「あー」
青年「君が魔王として色々なものを我慢することはもうない」
ゾンビ「……」
青年「今回のことだけじゃなく、今までもあの豪奢な椅子に座りながら君は同族が傷つき帰ってくるたびに辛い思いをしていたんだろ?」
ゾンビ「うー……おにぃちゃん……」
青年「すまなかった。君のことをもっとよく見ていれば、こんな想いをさせることも―――」
ゾンビ「ぁうーっ」ガブッ
―――廊下
「ぎゃー!!!!」
エルフ「……!?」ビクッ
ハーピー「ん?なんだ、素っ頓狂な悲鳴をあげて。なさけないのう」
エルフ「それにしても、本当なんですか?今の話」
ハーピー「可能性はあるだろうな。奴はそういう男であろうに」
エルフ「そうかもしれないですが……」
ハーピー「だからこそ、全員を集めて決意表明をすることにしたのだろうし」
エルフ「決意表明って大げさな」
ハーピー「そうか?かなりの勇気が必要になると思うが」
エルフ「……」
ハーピー「おぬしはどうする?」
エルフ「ボクは……」
ハーピー「わらわは魔王様に仕える身。魔王様の決定に従うだけ。誰かの判断に従うのは最も楽で利口な生き方であろう?」
エルフ「そうですか?それって好きな人についていきたいだけじゃ……」
青年「やべー……噛まれたところが腐ってきた……」
エルフ「何があったの?」
青年「魔王ちゃんの愛情表現をモロに受けてしまいました」
エルフ「治癒してあげようか?」
青年「まだみなさんは帰ってきてないんですか。なら、お願いします」
エルフ「みせて」
青年「いいですよ」カチャカチャ
エルフ「ベルトをゆるめるな!!!」
青年「おや?スケベな癖に何を恥らう。このビッチめ」
エルフ「……」
青年「あ、ごめんなさい。爆発系の魔法はやめてください」
エルフ「もう……」
青年「治療のほうお願いします」
エルフ「……」パァァ
青年「あぁ、いやされるぅー」
エルフ「はい。おしまい」
青年「ありがとうございます。お礼に耳を噛んであげますよ。ほら、出してください」
エルフ「遠慮する」
青年「舐めましょうか?」
エルフ「寄るな、変態」
青年「アルコールの助けがないと素直になれないとは、いやはや……。将来が心配ですね」
エルフ「魔王様の様子は?」
青年「元気になったみたいです。まぁ、友人を失った悲しみはまだ癒せないでしょうが」
エルフ「そう。なら、いいんだけど」
青年「さて、まだ時間もあるようですし……。今、暇ですか?」
エルフ「見たら分かるじゃん」
青年「では、どうです?一緒に」
エルフ「ああ、食事?いいよ」
青年「いえ、僕の部屋でしっぽりと―――」
エルフ「爆ぜろ」
―――謁見の間
ハーピー「お?」バサッバサッ
青年「うーん。おかしい。どうしてフラれてしまったんだ……。彼女だってそういうことには興味津々だったはずなのに……」
ハーピー「どうした?」
青年「ああ。今、休憩がてら体を求めたのですが拒絶されてしまって」
ハーピー「……いい加減、やめたらどうだ?殆どの者はおぬしのその態度には嫌悪しておるぞ」
青年「何がですか?」
ハーピー「封印した鏡を用いて、その心を曝け出してやってもいいのだが」
青年「やめてください。少し前まで僕の心は見られ放題だったんですから」
ハーピー「覗き込んだのはあの愚者にだけだろうに。そろそろ語ってくれてもよいのではないか。おぬしが日々、何を想い、わらわたちと接し、展望しているのかをだ」
青年「もはや口が酸っぱくなるどころか、生臭くなるぐらいに言っていますが、美麗を極めた正妻と10人の側室をはべらせて悠々自適に暮らすことです」
ハーピー「……ならば、何故10人目をひっぱってこなんだ?」
青年「彼女との約束でしたからね。守れない場合は側室にすることを諦めると」
ハーピー「おかしな話だ。わらわのときも魔王様のときもおぬしは強引だった。エルフの娘のときなど暴虐の限りを尽くして引き込んだらしいではないか。10番目は特別かえ?」
青年「特別ではないとは言えないのは確かですが、最後の一人だからこそ慎重にもなりますよ。世界にはそれだけ美しい人で溢れているのですから」
ハーピー「言いたくはないがな。おぬし、心に決めた者でもおるのか?」
青年「皆さんが心に決めた人ですが」
ハーピー「魔族の村にもおぬし好みの魔物はおろう。あのヘビ女や人魚もそうだろうて」
青年「あの人たちは僕に好意を持ってないですから。やはり―――」
ハーピー「エルフの娘も出会った当初はおぬしに好意など微塵も持ち合わせていなかったはずだが」
青年「ハーピー姉さん、揚げ足をとるのはやめてください」
ハーピー「皆を呼びつけてそのことを話す、というわけでもないのだな」
青年「魔王には既に話しましたが、これからのことを話すつもりです」
ハーピー「遂に身を固めるか」
青年「まぁ、そう思ってくれて構いません」
ハーピー「ふぅー。嘘をついているときのおぬしだな」
青年「わかりますか?流石、姉さん。いや、姉御」
ハーピー「鏡は必須か……」
青年「……」
ハーピー「ん?―――どうやら戻ってきたようだな。出迎えよう」バサッバサッ
ドラゴン「出迎えご苦労」
少女「帰還しました」
青年「どーも、愛人たちよ。久しぶり」
魔法使い「誰が愛人よ!!誰が!!!」
僧侶「お久しぶりです、勇者様」
青年「よう、雌犬便器。元気か?」
僧侶「はいっ」
魔法使い「ちょっと!!なんてこと言うのよ!!馬鹿!!」
青年「あ、称号は逆のほうがいいってことですか?そうなると貴女は痴女便器になるわけですが」
魔法使い「……もういいわ」
少女「お二人は後ほど来ると言っていました。恐らく、二日後になると思われます」
青年「そうですか。なら、僕から会いに行きましょう」
ドラゴン「勇者よ。何か言いたいことがあるのだろう」
青年「ええ。大事な話です。将来のことについてですから」
魔法使い「……」ピクッ
魔法使い「え?あの村に住むの?」
青年「はい」
魔法使い「ここじゃなくて?」
青年「ここのほうが確かに大きなベッドもありますし、4人や5人で酒池肉林のお祭りをするのには適しているんですがね。まぁ、したくなったら戻ってくるということで」
魔法使い「そんなこといってないでしょ!!」
青年「でも、あの村の真ん中で阿鼻叫喚というのもいいんじゃないですか?」
魔法使い「そんなことできるかぁー!!!」
僧侶「勇者様、あの、それって……あの……えっと……」モジモジ
青年「そうです。貴女の想像通りです」
僧侶「え……!!」
青年「夜な夜な首輪をつけた貴女と村を徘徊するするわけです」
僧侶「ひゃぁ……」
魔法使い「なにそれ!?」
青年「幸せですか?」
僧侶「うまく想像できませんが、一緒に生活ができるってことはわかります。とっても嬉しいです、勇者様」
魔法使い「目を覚ましなさい!!あんた、騙されてるから!!」
僧侶「はぁ……勇者様との夜のお散歩なんて……」
魔法使い「絶対にあんたの想像通りじゃないから!!!」
ドラゴン「村に腰を落ち着かせるのか。ということは、もう調査のために旅に出ることはないんだな」
青年「ええ」
ドラゴン「なるほど」
少女「マスター。良かったですね。勇者といる時間が増えて」
ドラゴン「誰がそんなことを言った」
青年「どうやら、反対意見はないみたいですね。では、引越しは2ヵ月後ぐらいにしましょうか。今行っている調査が済み次第ということで」
魔法使い「私たちもその村にずっといていいわけ?」
青年「ええ。無論です」
魔法使い「そう……」
エルフ「……」
青年「では、解散。ドラたん、姫様とキャプテンのところに連れて行ってもらえますか?」
ドラゴン「よかろう。乗れ」
僧侶「首輪、持っておいて良かった」
魔法使い「アイツも腹を括ったってわけね」
エルフ「……はぁ」
少女「どうかされたのですが、エロフ姫」
エルフ「いや、実は……って、ガーちゃん、なにそれ?」
少女「パパがそう呼べば貴女が喜ぶと言っていました」
エルフ「嬉しくないから、やめて」
少女「了解しました。何か懸念することがあるのですか?」
エルフ「いや、懸念というか……」
ハーピー「おぬしら、目先のことばかりを気にしているようだが、奴の真意にはきがついておるか?」
僧侶「真意……」
魔法使い「どういうこと?」
ハーピー「魔族の村で住む。これがどういうことか、賢しいおぬしらならわかるだろう?」
僧侶「……」
魔法使い「……?」
―――城 謁見の間
姫「勇者さま、その話は本当なのですか?」
青年「はい」
姫「……あの、私は……えと……」
青年「姫様には身分があります。貴女は流石に魔族の村へ移住することはできないでしょう」
姫「……」
青年「ですが、貴女が僕のことを深く愛していることも重々承知しています。なので姫様が決めてください。我々と共に歩むか、それとも―――」
姫「誰か」
兵士「はっ!」
姫「身支度を整えます」
兵士「は?」
姫「さあ、勇者さま。行きましょう」
青年「え……」
姫「ついに夢の夫婦生活が始まるのですね。私は今、人生で最も幸せな時間にいます」
兵士「ひめさまぁ!?おまちください!!!」
青年「あの、姫様?」
姫「あ、申し訳ありません。夢の側室生活と訂正したほうがいいですよね」
青年「そうではなく……」
兵士「勇者どの!!あまり勝手な提案をされても困ります!!!」
青年「いや、僕としてもまさか姫様が即決するとは……。もう少し葛藤してくれるものかと」
姫「何故ですか?葛藤するなんて、とんでもない。私は勇者さまに全てを捧げることを3年前から決めています」
青年「それは知っていますが」
姫「私を穢していいのは勇者さまだけ。私が愛するのは勇者さまだけです」
青年「姫様。冷静になってください。この僕と愛の巣へ向かうことに歓喜するのは無理もないことですが、魔族の村に住むということは―――」
姫「人間を捨て、人間と敵対すること。ですよね」
青年「……」
兵士「ひ、姫様……それは……」
姫「私も王族であることを捨て、一平民として生きていきます。ですが、それは勇者さまとて同じこと。伴侶は同じ道を歩んでいかなくてはならないのです」
姫「勇者さまが全てを投げ捨て生きるというのなら、私もそうします。そうしないといけない。先日に呼んだ本ではそうすることで主人公とヒロインがハッピーエンドを迎えていました」
青年「本気なんですね」
姫「はい」
兵士「しかし、姫様には民を導くという責務が……」
姫「私は恋に生きますっ」
兵士「そんなことを力強く言われても困ります……」
姫「しかし、これは以前から申し上げていたことで、今更人生プランを変更するなんてできません」
青年「姫様。僕の目を見てください」
姫「はい」
青年「もう故郷に帰ることはできない。時には人間に襲われるかもしれない。そんな生活が待っている。いいのですか?」
姫「……」
青年「更に人間に対してよく思っていない魔物も決して少なくない。言うなれば自分たちは人間からも魔物からも疎まれる存在になる」
青年「それでも、良いのですか?」
姫「……」
兵士「姫様。勇者殿を敬愛しているのは我々も国民の過半数も知るところであります。ですが国を捨て魔族につくというのなら話が違ってくるでしょう」
青年「姫様。もう一度、ゆっくりと考えてもらえませんか?お願いします」
姫「……わかりました」
青年「それでは。僕は行きます。失礼しました」
兵士「勇者殿をお見送りしろ」
「はっ!!」
姫「……」
兵士「姫様……」
姫「やはり、国の資金を持ち出すわけには行きませんし……私のポケットマネーだけでは勇者さまに失礼でしょうか……うーん……」
兵士「……」
姫「冗談です」
兵士「国を捨てるのですか?」
姫「ここで勇者さまについていかなければ、私はもう勇者さまと顔を合わすことすら叶わないことになります」
兵士「国をあげて魔族を支援しても、先の王女の一件もありましたし。魔族と親しくするだけでいらぬ不信感を抱かせ、他国からはそれを理由に攻められることも考えられますからね」
姫「勇者さまは傍にいる者だけを守ることを誓ったようですね。故に、傍に居ない者には手を伸ばすことはしない」
姫「その決意を私に、いえ、皆さんに伝えたのでしょう」
兵士「どうされるおつもりですか?」
姫「私は……」
―――海上 甲板
青年「―――という訳なのですが」
キャプテン「オッケー。要するに魔族の村周辺で漁業をすればいいだろ?まかせときな、ダーリン」
青年「少し違いますがそれでいいです。自給自足が原則ですから、貴女の力は必要不可欠になります」
キャプテン「そっちはいいとして、姫様も一緒なのかい?」
青年「無論、お誘いはしました。でも、立場もありますからね」
キャプテン「そうさね。あたしとしては姫様とももう少し仲良くしたいっていうのはあるし、是非とも来て欲しいところなんだけどね」
青年「意外ですね。何時の間に親しくなったのですか?」
キャプテン「ほら、あのいけ好かない王女のところに行く道中で姫様の一団を拾ってやっただろ?そのときさ」
キャプテン「あたしほどじゃないけど、姫様もダーリンのことは尊敬しているみたいだしね。それに強い信念を感じたよ」
青年「信念?」
キャプテン「愛する者のためなら命すらも投げ出す。そんな気概が姫様にはあるね」
青年「……なるほど」
キャプテン「そうだ。ダーリンに言っておかないと。悪い噂を部下が耳にしたんだ」
青年「悪い噂?」
キャプテン「何でも、大規模な魔物狩りが行われるとかいないとか」
青年「……」
キャプテン「まだ噂の域はできないんだけどさ。ちょっと気になるだろ?」
青年「王女の一件でそういった機運が熟しつつあるのは分かっていましたが……」
キャプテン「すぐってわけじゃないだろうけど、一応警戒はしておいたほうがいいんじゃないかい?」
青年「……なんのですか?」
キャプテン「なんのって、理解のないノーナシ人間たちに魔物を襲わせてもいいのかい?」
青年「国が行おうとしているとするなら、僕では手に負えませんよ」
キャプテン「え……?」
青年「では、そろそろ行きましょうか。最終調査も残っていますし」
船員「とれたての魚です」
竜娘「うむ」パクッ
青年「ドラたん、いいですか?」
竜娘「話は終わりか」
キャプテン「ダーリン、ちょいと待っておくれ。何いってんだい?今までダーリンは人間と魔族が仲良くできる環境を作ってたんじゃないか。どうしてそんなことを言うんだい?」
>>433
青年「国が行おうとしているとするなら、僕では手に負えませんよ」
↓
青年「国が行おうとしていることなら、僕では手に負えませんよ」
青年「……」
キャプテン「ダーリン?」
青年「行きましょう」
ドラゴン「うむ」
キャプテン「なんとかいいなよ!!!」
青年「身の丈に合わないことはやめたんです。思い出してください。当初の僕の目的、野望を」
キャプテン「世界平和だろ?」
青年「違います。美しい女性に囲まれながら老衰することです!!!」
キャプテン「でも、そりゃあ、副産物的な何かじゃなかったのかい?」
青年「いえいえ。それが主たる目的です。魔王討伐や世界平和なんて二の次、三の次ですよ」
キャプテン「そうだったの……」
青年「はい」
ドラゴン「……」
キャプテン「ダーリンがそういうなら、あたしはダーリンについてだけだし、良いんだけどさぁ」
青年「申し訳ありません。僕はずっと恰好をつけすぎていただけなんです。全知全能のスーパーメンではなく、ただのイケメンだったんですよ」
―――上空
ドラゴン「あとはあの娘のところか」
青年「誰ですか?」
ドラゴン「10人目の側室候補のことだ」
青年「ああ。彼女は血の繋がっていない妹枠で考えていましたが、もういいんですよ」
ドラゴン「何を企んでいるのかは知らないが、失望だけはさせてくれるなよ。お前は曲りなりも勇者なのだからな」
青年「やめてください。勇者はやめたんです」
ドラゴン「しかし……」
青年「貴女はどうしますか?出来れば、ついて来てほしい欲しいのですが」
ドラゴン「まだ隠居するには時期が早すぎる。キマイラが残した負の遺産を除去し切れていないのだしな」
青年「そうですか。なら、ハーピー姉さんも期待はできないでしょうね」
ドラゴン「魔王がお前にくっついていくなら、自然と後を追ってくるだろう」
青年「その魔王が僕についてこないと言いました。まだ魔王としての仕事があるとかで」
ドラゴン「……なに?」
青年「あの子も色々考えてるんですよ。いつもは唸ってるだけですけど」
ドラゴン「何と言っていた?」
青年「もし辛くなったときに帰ってくる場所が無くなっているのは悲しい。って言ってましたね。出て行った者たちの帰りを心待ちにしているのではないでしょうか」
ドラゴン「まて。そうなると……」
青年「果たして僕に何人の女性がついてきてくれるのか。今のところ確定しているのは4人ですか……。ふむ、すくねー!!!」バシバシ
ドラゴン「頭を叩くなぁ!!!」
青年「折角!!折角!!!命をかけてあつめたのにぃー!!!」
ドラゴン「お前が王になれば一気に解決すると思うがな。姫の誘いも蹴り、魔王の座にも興味がないのなら、仕方が無い」
青年「……」
ドラゴン「まぁ、ニンゲンが魔王になれば大混乱は避けられないが」
青年「やはり夢は夢ですね。4人でも良しとしましょうか」
ドラゴン「お前にしては殊勝な心がけだ」
青年「それはそうと、先ほどの話なのですが」
ドラゴン「大規模な魔物狩りか。そのような情報は入っていないが、魔族の村で聞いた話もあるし、信憑性は高い」
青年「ですね。大丈夫ですか?」
ドラゴン「他人事のように訊ねるな」
―――郊外
竜娘「では、7日後にまた来る」
青年「ええ。ああ、引越しされるかたはそちらで各自準備をしておいてください。よろしくお願いします」
竜娘「よかろう。伝えておく」
青年「では、また」
ドラゴン「うむ」バサッバサッ
青年「―――さてと。街に向かうか」
青年「……」
青年(あの人のように守るべきものを絞る。そうすることで同じ過ちは繰り返さなくても済む)
青年(目に映る者全てを守り、救う。そんなこと初めからできるわけがなかった)
青年(俺にはそれだけの力がない。みんなが居たから、ここにいる。それだけは忘れちゃいけない)
青年「……」
青年「そう。初めから人と魔族が一緒になって幸せになる未来なんて……ありはしなかった……」
青年「そうだ……なかった……」
青年「……」
―――数日後 魔王の城 客間
僧侶「あの、この置物は持って行ってもいいんでしょうか?」
魔法使い「荷物は最小限。それ本当に必要なの?」
僧侶「勇者様曰く、夜はこれを突っ込むらしいです」
魔法使い「捨てましょう」ポイッ
僧侶「あー!?何するんですか!?」
魔法使い「ゴミよ」
僧侶「えー?」
エルフ「よっと」ドサッ
魔法使い「あんたの荷物そんなにあるわけ?」
エルフ「まぁ、色々。魔法具製作に使う工具とかあるし」
僧侶「結局、私たちだけみたいですね……」
魔法使い「いいんじゃないの。魔族のみんなは忙しいみたいだし」
エルフ「嫌味?」
魔法使い「別にそういうわけじゃないわよ」
ハーピー「進んでおるようだの」
エルフ「まぁ、なんとか」
ハーピー「そうか。いつ出立するつもりかえ?」
魔法使い「さあ、馬鹿が帰ってきてからになるでしょうね」
ハーピー「そうか」
僧侶「今までお世話になりました」
ハーピー「何をいうておる。世話になったのはわらわたちのほうであろうに」
魔法使い「そう言われるとうれしいわね」
ハーピー「おぬしたちも魔族と一緒というは息苦しかったのではないか?」
魔法使い「そんなことないわ。それにこれからはもっと多くの魔族と一緒に生活しなきゃいけないんだし」
ハーピー「それもそうか」
僧侶「楽しみですね。私、この年齢でマイホームをもてるなんて夢にも思いませんでした」
魔法使い「そうねー」
僧侶「唯一の心配事といえば、お花屋さんに需要があるのかどうかってことですね」
魔法使い「あるんじゃない?毒草とかなら」
―――謁見の間
ゾンビ「うー……」
少女「魔王。マスターからの報告です。よろしいですか?」
ゾンビ「よろしい」
少女「なんでも魔物狩りを計画している国がいくつもあるらしく、近く大きな動きがあるとのことです」
ゾンビ「うぅ……」
少女「どうされますか?」
ゾンビ「もう……ミーちゃんみたいなことは……いや……」
少女「となれば、ニンゲンとの戦争になりますね」
ゾンビ「……」
少女「そのときは微力ながらお手伝いさせていただきます。ニンゲンを相手に一騎当千の戦果を挙げてご覧にいれます」
ゾンビ「やめてー」
少女「ですが、私に敵うニンゲンはおりませんから、致し方ないかと」
ゾンビ「うぅ……」
少女「出撃するなと言われればそれまでですが。パパ曰く、国士美少女無双である私を戦場に出さない理由がないとか。魔王、ご決断を」
魔法使い「マーちゃん。あまり困らせちゃダメよ」
少女「みなさん。いえ、マスターから魔王の側近を任されていますので」
魔法使い「側近が君主を追い詰めちゃダメでしょ」
少女「そうですか」
ゾンビ「……」
魔法使い「でも、不安よね。私も手を貸せるなら貸すんだけど……」
少女「同族と敵対していいことはないと判断します」
魔法使い「分かってるわよ」
ゾンビ「うぅー……でも、おにいちゃんのともだちもいじめたくない……」
少女「友人はいないと思います」
ゾンビ「でもぉ……でもぉ……」
魔法使い(あの馬鹿。大事な側室が困ってるのにアドバイスの一つも寄越さないのね。何を考えてるんだが)
ゾンビ「うぅぅぅ……うぁー!!!」
少女「どうぞ。お肉です」スッ
ゾンビ「ぁう」モチャモチャ
ハーピー「魔王、悩むことなどありはせん。ヤラれる前にヤレばいい」
ゾンビ「え……」
ハーピー「ここに居るニンゲンのように賢しい者たちばかりではない。理性なき暴力は駆逐するほかあるまい」
ゾンビ「うー」
魔法使い「まぁ、話し合ってどうにかなるような現状でもないか」
ハーピー「うむ。どちらにせよ、キマイラのおかげで魔族の悪評は轟いておる。殲滅しようとするのは当然だろう」
魔法使い「真実の鏡はなんの意味もなかったわけか……」
ハーピー「あれで納得した者もおる。全くの無駄ではなかろうに」
魔法使い「そうかもしれないけど……」
ハーピー「魔王、今すぐでなくてもよいが早期に決断するべき事柄であることは間違いない。事が始まってからでは全てが後手に回ってしまうからの」
少女「うー……わかった……」
ハーピー「お前にはいっとらん」
ゾンビ「うー」
ハーピー「わらわもできるだけ協力する。心配せずともよい」スリスリ
ゾンビ「……」
―――魔族の村
ドラゴン「―――以上だ。やはり、ニンゲンたちは計画通りにことを進めようとしているらしい」
ヨロイ「そうか……」
ドラゴン「心配するな。我等に―――」
ヨロイ「もう良い。いずれ、この集落も狙われることになるのだろうな」
ドラゴン「そのようなことはさせないと言っている」
ヨロイ「ニンゲンと戦うのか」
ドラゴン「ああ」
ヨロイ「ふふ……。ドラゴン様、また戦乱の世界が訪れるな」
ドラゴン「……」
ヨロイ「我々は決めた。ニンゲンが刃を向けるのであれば、それに対抗する。こちらとて無抵抗のままに死にたくはないのでな」
ドラゴン「……っ」
ヨロイ「勇者はここへの移住を望んでいるようだが、この状況では余計な諍いを生むだけだろう」
ドラゴン「まさか……」
ヨロイ「長として勇者と言えど、ニンゲンをここへ招くことは許可できない」
ドラゴン「貴様……!!」
マーメイド「お引取りを」
ドラゴン「勇者がこの土地を見つけ、お前たちに提供もした!!何故、そのようなことが言える!!!」
ヨロイ「恩はある。だが、これは魔族の問題だ」
ドラゴン「おのれ……!!!」
マーメイド「お引取りを、ドラゴン様」
ドラゴン「自由を得たのもあのニンゲンが居たからなのだぞ」
ヨロイ「貴方達は勇者を崇拝しているようだが、我々からみれば一介のニンゲンに過ぎない。争いを持ち込むだけのニンゲンでしかない」
ドラゴン「そうか……」
ヨロイ「ここに住む者たちは皆、平穏を望んでいる。わかってくれ」
ドラゴン「……邪魔したな」
ヨロイ「……」
ドラゴン「俺がここへ来ることはもうない。達者でな」
ヨロイ「死にたくてもまだ死ねんな。長として」
ドラゴン「ふんっ……」バサッバサッ
―――数日後 郊外
青年「待ってましたよ」
竜娘「調査は進んでいるか」
青年「ええ。どうやら空き巣を繰り返している魔物がいるみたいなので、あとでお尻ペンペンしときます」
竜娘「……そいつはメスか」
青年「イエス」
竜娘「……」
青年「そうだ。引越しの準備はどうなっていますか?」
竜娘「……そのことで伝えたいことがある」
青年「はい」
竜娘「魔族の村への移住は許可できないとのことだ」
青年「えぇー?マジでぇー?」
竜娘「この情勢では難しいといっていた」
青年「マジかよぉー。人魚姫の産卵シーンとかじっくり見たかったのにー」
竜娘「諦めろ」
青年「なら、貴女の産卵シーンで我慢します。ほら、ひっひっふー」
竜娘「勇者よ。このままでは―――」
青年「やめてもらえますか?」
竜娘「なに?」
青年「僕に相談されても困ります」
竜娘「……」
青年「一国と戦うだけの力は僕にはありませんので」
竜娘「我々がいる」
青年「なら、貴方達だけで解決するべきです」
竜娘「……本気で言っているのか」
青年「ええ」
竜娘「お前、俺を今まで……」
青年「分かっていないようですね。貴女はもう僕から離れることを決めたんですよ?それはつまり、僕が守るべき対象ではなくなったということです」
竜娘「……!!」
青年「貴女だけではい。魔王もハーピー姉さんもキラちゃんもです。キラちゃんは元々守る必要なんてありませんでしたけど」
竜娘「敵になったということか」
青年「少なくとも味方ではないですね」
竜娘「……そうか」
青年「側室に戻るというのなら―――」
竜娘「断る」
青年「おや?何故ですか?」
竜娘「お前の言うとおり、お前の力なぞ借りずともニンゲンの鎮圧は可能だ」
青年「でしょうね。数がいればですが」
竜娘「……変わったな。賢者に感化されたか」
青年「どうでしょう。でも、あの人の言葉はいくつか心に残っています」
竜娘「そうか」
青年「では、そろそろ調査に戻りますね」
ドラゴン「―――分かった」
青年「……さようなら」
ドラゴン「ああ……さらばだ……」バサッバサッ
―――魔王の城
僧侶「ええ……。勇者様が、そんなことを……?」
ドラゴン「うむ。完全に側室以外は見限ったらしい」
魔法使い「待って。アイツのいう側室はここにいる全員でしょ」
ドラゴン「いや。移住に参加した者のみらしい」
エルフ「それって、ボクたちだけじゃん」
僧侶「どうして……」
魔法使い「ちょっとアイツのところに行ってくるわ」
ハーピー「あの男のことだ。訊ねたところでまともな返答が聞けるとも思えん」
少女「恐らく、エッチな話題に摩り替えるでしょう」
ドラゴン「だが、奴は言葉にしたことは実行する。思惑はあれど、味方ではないというのは本心だろう」
ゾンビ「おにぃーちゃん……」
エルフ「どうしたんだろう。こんな大変なときに」
魔法使い「はぁ……」
ドラゴン「ともかく、現状が悪い。魔族たちもニンゲンに対する見方が変わってきている。そろそろ身の振り方を考えねばならないな、お互いに」
―――客間
魔法使い「どうする?」
僧侶「私は勇者様を信じてますから、私は行きます」
魔法使い「まぁ、そもそも私たちは居辛くなる一方だし、どっちにしろ出て行かないとね。貴女は?」
エルフ「え?」
魔法使い「エルフ族の迫害なんて、もうあってないようなものでしょ?ここに居てもいいんじゃない?」
エルフ「……」
僧侶「そんな言い方……」
魔法使い「だけど、またエルフ族がこっち側についちゃったら同じことの繰り返しじゃない。迫害されるきっかけは人間に魔を教えたところからなんだから」
僧侶「うーん……」
エルフ「……そうだね。ボクはこっちに残ろうかな」
僧侶「そんな!!」
エルフ「ボクの所為で一族に迷惑をかけるわけにはいかないし」
魔法使い「そう……」
僧侶「で、でも……もう会えないかもしれないのに……」
―――謁見の間
ハーピー「どう考える?」
ドラゴン「裏があるのは事実だろう。どうにも不自然すぎる」
ハーピー「愚者に唆されていたという可能性は?」
ドラゴン「勇者はそれを肯定していたが、あいつが他人の意見を参考にするなどありえん」
少女「パパは下半身でしか物事を考えないと言っていました」
ゾンビ「かはんしんで、どうかんがえるの?」
ハーピー「本能に忠実で理性など欠片も持ち合わせていないということだ」
ゾンビ「うー?」
少女「判りやすくいえば、頭が悪い」
ゾンビ「おぉー」
ハーピー「まぁ、あやつは阿呆だからのう」
少女「その可能性は大いにあります」
ゾンビ「おにぃちゃんのばかー!!」
ドラゴン「……悪口になってきたな。やめよう。不毛だ」
―――港
青年「うぉお!!―――寒気がしました。夜の海は冷えますね」
キャプテン「気をつけなよ。あ、たしが、あ、あたたたた、めてもいいけど……」モジモジ
青年「考えておきます」
キャプテン「絶対だよ!!」
青年「では、僕についてくると決めた面子だけを迎えにいってもらえますか。多分、二人か三人ぐらいしかないでしょうけど、ドラゴンが乗せてきてくれるとは思えませんし」
キャプテン「本当にいいんだね?」
青年「仕方ありません。ここまで上手く行き過ぎていただけです」
キャプテン「ダーリン。これだけは言っておくよ」
青年「なんですか?」
キャプテン「世界中がダーリンの敵になっても、あたしだけはダーリンを愛するからね」
青年「僕もですよ」
船員「キャプテン!!出港準備が整いました!!!」
キャプテン「邪魔すんじゃないよぉ!!!」
船員「そんなぁ!?」
青年「早く出航したほうがいいのではないですか?」
キャプテン「でもぉ……まだ、行ってきますのキスも……」
青年「分かりました。手を」
キャプテン「え?こうかい?」スッ
青年「……」チュッ
キャプテン「ほわぁぁー!?」
青年「手の甲ですが、これでいいでしょう?」
キャプテン「ヒャッハー!!!碇をあげなぁ!!!帆をはれぇ!!!!」ダダダッ
青年「いってらっしゃい」
キャプテン「出航ー!!!」
船員「「アイアイサー!!!」」
キャプテン「ダーリン!!!あいしてるぅー!!!!」
青年「はーい」
青年「よし」
青年「ぬすっとモンスターのお尻でも叩きに行くか。いいお尻してたんだよなぁ」
―――数日後 魔王の城
キャプテン「早くしな」
魔法使い「それじゃあ、ね」
ドラゴン「うむ」
ハーピー「もう会うことはないかもしれぬな」
僧侶「……」
エルフ「ほら、元気だして。お忍びでなら会えるって。あと、勇者に伝えておいて。今まで楽しかったって」
僧侶「でも、でも……そんなの……うぅ……」
ゾンビ「あぃ」スッ
魔法使い「なに、これ?」
ドラゴン「餞別だ。持っていけ」
魔法使い「いいの?」
ドラゴン「好きにするがいい。俺たちには不要なものだ」
魔法使い「なら、もらって行くわ。それじゃ」
少女「はい。お元気で」
―――船内 キャプテンの自室
キャプテン「今生の別れかもしれないってのに、あっさりしたねぇ」
魔法使い「……」
僧侶「うっく……ぐすっ……」
魔法使い「ほら、ハンカチ」
僧侶「すみ、ません……」
キャプテン「これからどうするのか、あんたたちは聞いてないんだろ?」
魔法使い「貴女はどうなの?」
キャプテン「聞いてないね。ダーリンにはダーリンの考えがあるだろうし」
魔法使い「考えって、状況が悪くなる一方じゃない」
キャプテン「そうさね……」
魔法使い「諦観しているってだけなら、許さないわよ……」
キャプテン「でも、人間の味方をするのも魔族を助けるのも結果は一緒だろうしね。どっちかは敵になるわけだし」
魔法使い「そうだけど!あいつは全部を救うって言ってたから……!!」
キャプテン「ダーリンはそれができなくなったって言ってたよ。いや、正確にはそんなこと初めからできなかったか」
僧侶「うぐぐ……チーン!!」
魔法使い「……それで、魔物狩りの続報はあるわけ?」
キャプテン「航海中に得た情報だと、1ヵ月かそこらで起こるのは間違いないみたいだね。山狩り、森狩り、海狩り、どこでもやるみたいだ」
魔法使い「そう……。魔物だって悪い奴ばかりじゃないのに……」
キャプテン「内情知らなきゃみんな同じに見えちまうもんさ。あんただって海賊批判してたしね」
魔法使い「昔のことは持ち出さないで」
キャプテン「はいはい」
僧侶「……もうみなさんとは仲直りできないのでしょうか」
魔法使い「仲良くしてたらその分、あの子達の立場が悪くなるからね」
僧侶「今、別れることはなかったんじゃ……」
魔法使い「早いほうがいいわよ。もし戦いになってとき、ドラちゃんや魔王が助けにきても、人間の仲間ってことで信用してもらえないかもしれないでしょ」
キャプテン「早い段階で手は切ったと思わせるってわけだね」
魔法使い「そういうこと」
僧侶「……」
魔法使い「これからどうなるんだろう……私たち……」
―――港
キャプテン「よーし!!碇をおろせぇ!!帆をたためぇ!!」
船員「うーっす」
魔法使い「さてと、あの馬鹿は……」
青年「―――どうも。みんなのアイドル、元・勇者です」キリッ
魔法使い「いた」
僧侶「勇者様……あの……」
青年「聞いてください。暫く姫様のお城に住めることになりました。いやぁ、持つべきものは優秀な側室ですな」
魔法使い「ちょっと」
青年「さぁ、姫様に挨拶しに行きましょうか」
魔法使い「待って!!このままでいいの!?」
青年「……よくありませんよ」
魔法使い「……!」
青年「側室を集めなおさないといけないんですからね」
魔法使い「……抱きついて燃やしてやろうか……こいつ……!!」
青年「ぬほほぉ。のぞむところよ。さぁ、きなさい!貴女の胸を僕に押し付けるようにして抱きつくがいいさ!!!」
魔法使い「抱きつくかぁ!!!」
青年「脱ぎますか」
魔法使い「脱ぎません!!!」
僧侶「勇者様。何か算段があるんですか?」
青年「そうですね。元勇者という経歴で釣って行くしかないかと」
魔法使い「何言ってるのよ!!」
青年「僕の目的は飽く迄も側室探し。それは3年前からブレることのない目標です」
魔法使い「いや、そうかもしれないけど……」
キャプテン「ダーリーン!!」テテテッ
青年「今日の仕事は終わりですか?」
キャプテン「うん。姫様んとこにいくんだろ?あたしも行くよ」
青年「勿論です。今の側室はこのメンバーのみ。仲良くしましょうね」
魔法使い「バッカじゃないの……」
僧侶「……」
―――城 謁見の間
姫「よく来ましたね。みなさんの部屋を用意してありますから、ご自由に使ってください」
魔法使い「……どーも」
僧侶「お世話になります……」
キャプテン「ありがと、姫様。あとで酒でも飲みながら、話さないかい?」
姫「ふふ、嬉しいお誘いです。ですがお酒は飲めません。それでもよければ」
キャプテン「そうかい?んじゃ、シラフで語るか」
青年「姫様。貴女の為に花束を買ってきました。どうぞ」
姫「わぁ、素敵。ありがとうございます」
魔法使い「姫様。魔物狩りのことですけど」
姫「聞いています。こちらも各国との連絡を取っています。無闇な殺生は行わないようにと」
魔法使い「それで?」
姫「でも、多くの国は魔物の討伐を止めようとはしないようです。世論も討伐には反対していないみたいですし」
魔法使い「そうですか」
姫「申し訳ありません。私の力不足です」
青年「まぁ、今はそんな話よりもこれからのことを考えましょう」
姫「これから?」
魔法使い「あんた、やっぱり……みんなのことを……」
青年「姫様。僕と結婚しましょう」
姫「え……」
キャプテン「ぶぅぅー!!!」
魔法使い「な……!!!」
僧侶「おぉ」
青年「よろしいですか?いや、聞くまでもなかったか」
姫「……ええと……あの……?」
青年「なんですか?」
姫「私、国を捨てる覚悟はできてますよ?その後受けるであろう罵詈雑言や誹謗中傷も全て」
青年「捨てるなんてとんでもない。僕は王族である姫様と結婚したいんです」
姫「……わかりました」
魔法使い「ちょっと待ちなさいよ!!!なにサラっと人生を決めてるわけ!?」
青年「何か問題でもあるのですか?側室1号」
魔法使い「側室っていうなぁ!!!」
キャプテン「だ、だだ……だーりん……あの……あ、あたしは……?」ガクガク
僧侶「勇者様、遂に……」
青年「王になれば美女は向こうから勝手にやってくる。そう。我が野望への道はこれしかないのです!!!」
姫「つまり、側室を得るために王になると」
青年「違います。貴女の夫となるんです。その副作用で側室が向こうからやってくるわけです」
魔法使い「勝手なこといわないで!!!」
青年「なんですか?」
魔法使い「そんな下らない理由で結婚なんて馬鹿げてるじゃない!!!そもそもこんなことしてる場合じゃないでしょ!?」
青年「安心してください。貴女は側室として愛でてあげますから」
魔法使い「そんなのお断りよ!!!」
僧侶「あ、あぁ……あの……喧嘩は……」オロオロ
青年「王の側室ですよ?何が不満なんですかね?」
魔法使い「もういい!!あんたみたいな馬鹿は勝手にしたらいいのよ!!!」
青年「ああ、待ってください」
魔法使い「死ね!!おんなたらしぃー!!!」ダダダッ
青年「……行ってしまった」
姫「勇者さま、やはり先に説明したほうがよかったのでは?」
青年「何事もインパクトが大事だと思いまして」
キャプテン「あぁ……だーりんがぁ……あたしのだーりんが……ねとられた……」ガクッ
僧侶「あの、勇者様?ご結婚されるわけではないのですか?」
青年「いえ。結婚は本当です」
僧侶「表向き?」
青年「ええ。まぁ、結婚というよりは強奪に近いですけどね」
僧侶「あの、一体何を……」
青年「これから僕は世界と戦います。しかし、そんな力は僕にはない。当然の事ながら貴方達にも協力をお願いします」
青年「さらに戦える力がないということは、貴方達を守るだけの力もないということ」
青年「まぁ、何度も貴方達を危険な目にも合わせましたし、心に深い傷を残す結果になったこともありました。今更、改めて言わずとも僕の力不足は痛感されているはずです」
僧侶「そ、そんなことはありません。勇者様はいつも私たちを守ってくれていました。身も心も、全て」
>>462
僧侶「表向き?」
↓
僧侶「どういうことですか?」
青年「いやぁ、そんなことはありませんよ。僕は弱い。それは10年前から分かっていたことです。大切な人すら守れないんですからね」
姫「……」
青年「人間と魔族の争いがなくならない。でも、僕としましてもやはり魔族の側室は欲しいわけです。仲良くしたいんです」
僧侶「それは私も同じです」
青年「でしょう?やはりいがみ合うのはダメだと思うんですよ。この現状など側室ワールドを形成するには百害あって一利なし」
青年「俺の側室にはエルフもハーピーもリビングデッドもドラゴンも殺人マシーンもラミアも人魚姫もゴーストも、とにかく可愛い魔物がいなくてはならない!!!」
青年「そのために俺はずっと、ずっと、人間と魔族の仲を取り持ってきた!!なのに、先の一件のおかげで全てがパァだ!!!魔族の村にすら住めやしない!!」
青年「またも世界は乱れ始めた所為だ。もう沢山だ。俺の三年間の努力が一瞬で無駄になった。故に手段など選んではいられない」
僧侶「それが姫様の強奪ですか?」
青年「誤解を恐れずに言えば誘拐です。王族の誘拐です。これはもう第一級犯罪者。捕まれば即死刑です」
僧侶「誤解しか生みませんよ……」
青年「俺のささやかな野望をこの愚かな世界が邪魔する。だから、だから……俺は決めた。王になると」
僧侶「王ですか?」
青年「そうですね。言うなれば俺は勇者王となる。なんて素敵な響き、勇者王。誰もに負ける気がしない」
僧侶「確かに」
姫「勇者さま、準備のほうは進めておきます。それよりも彼女に説明をしたほうがいいですよ」
青年「そうですね。では、姫様。後ほど寝室で」
姫「はい。楽しみにしています」
青年「貴方も、後で一緒にお風呂に入りましょう」
僧侶「いいんですか?!」
青年「キャプテン?」
キャプテン「あ、はは……ははは……」
青年「ダメか……」
姫「キャプテンさんには私から説明しておきます」
青年「分かりました。あとのことはお願いします」
姫「はい」
青年「よし……」タタタッ
僧侶「勇者様……」
姫「あの人はやはり真の勇者なのかもしれませんね」
キャプテン「あ、たしは……だーりんの……およめ……さんに……なれな……い……あは、ははは……」
―――客間
魔法使い「なによ……あいつ……結婚とか……」
魔法使い「こんな状況でなにいってんのよ……ばっかじゃないの……ホントに……」
魔法使い「……」
魔法使い(でも、あいつ……本気で……?もしかしたら……でも……)
魔法使い「……もうどうでもいい!!!」
青年「―――着替えてますか?」ガチャ
魔法使い「きゃぁぁぁ!?」
青年「なんだ、ベッドで寝てるだけですか。折角、着替えか、それともオ―――」
魔法使い「何の用よ!?出て行って!!!」
青年「そうは行きません。何故、姫様と結婚するのか説明させてください」
魔法使い「姫様のことが好きだからでしょ!!」
青年「正解です」
魔法使い「でてけぇー!!!」
青年「落ち着いてください。ほら、僕のご立派なお股間を眺めて」ドヤァ
魔法使い「殺してやろうか……!!!」
青年「皆さんのことを愛しています。何せ、将来の側室なのですから」
魔法使い「その中でも姫様が一番なんでしょ!!そうよね!!可愛いものね!!!」
青年「一番とかないですよ。側室に優劣などありません。あるのは側室度と肉便器ポイントぐらいですから」
魔法使い「……」
青年「ちなみに貴女の側室度は下位です。肉便器ポイントは上位ですが。もっと頑張ってください」
魔法使い「……もういいから。出て行ってよ」
青年「何をぷりぷり怒っているんですか?貴女のことは愛してますよ。証拠に貴女の足の裏を舐めましょうか?さ、ソックスを脱いで」
魔法使い「よるな!!」
青年「なら、耳ですか?全く。耳が性感帯の側室おおすぎぃ」
魔法使い「もう一人にしてぇー!!!」
青年「分かりました。もういいです。折角、貴女と二人きりでゆっくりと一夜を共にしたいと思っていたのですが……」
魔法使い「結婚相手の姫様と過ごせばいいでしょ」
青年「結婚と言っても強奪婚ですからね。一般的な結婚とは違いますよ」
魔法使い「はぁ?何いってんの?」
魔法使い「―――そういうことだったの」
青年「納得できましたか?結婚相手は姫様しかダメなんですよ」
魔法使い「それは分かったけど、どうして先に言ってくれないの?」
青年「ああすれば貴女が拗ねると思いまして」
魔法使い「なによそれ」
青年「貴女は拗ねたときが一番可愛いですからね」
魔法使い「な……!?」
青年「申し訳ありません。僕の欲求を満たすために嫌な想いをさせてしまって。でも、やはり今の貴女は魅力的すぎます」
魔法使い「ま、また、調子のいいことばっかり……」
青年「本当です。ほら、僕の伝説の剣も上を向いちゃってて」ドヤァ
魔法使い「みせつけるな!!」バシッ!!!
青年「ぬほほ。もっともっと」
魔法使い「気持ち悪いのよ!!」
青年「責めるのも好きなくせに」
魔法使い「好きじゃないわよ!!あんた頭おかしいんじゃないの!?」
青年「今更すぎませんか?」
魔法使い「はぁ……もう、疲れた……。話は終わり?」
青年「ええ。ですが、夜更けにすら程遠い時間ですね。これからどうですか?」
魔法使い「ど、どうって?」
青年「そんなの一つしかないでしょう?」
魔法使い「ちょ、ちょっと、まって……」
青年「いいでしょう」
魔法使い「……ふぅー……よしっ」
魔法使い「も、もう一度だけ、聞かせて。わ、私のことは……好きなのね……?」
青年「ええ。目に入れても痛くないほどに」
魔法使い「……な、なら……いいけど……」
青年「良かった。断られるかと思いました」
魔法使い「と、とくべつ……なんだから……」
青年「それはありがたい。では、行きましょうか。夕食へ」
魔法使い「……え?」
―――食堂
兵士「勇者殿、きちんとした会食の場を設けさせていただきますよ?」
青年「いえいえ。ここでいいですよ。姫様もまだ仕事中みたいですし」
兵士「そうですか。では、ごゆっくり」
青年「どうも」
魔法使い「……」
僧侶「あのー?顔をあげたほうが……。突っ伏したままでは行儀悪いですよ?」
魔法使い「放っておいて」
僧侶「はぁ……。勇者様、何かあったんですか?」
青年「さぁ。この人がただのスケベだということがはっきりしただけです」
魔法使い「スケベじゃないわよ!!!」
青年「怒鳴るならせめて顔をあげてください。迫力がないので」
魔法使い「だまれ!!!」
僧侶「キャプテンもまだ意識がはっきりしていないようですし……。食事どころではない気も……」
キャプテン「あはは……そうだぁ……だーりんの……あいじん……とか、ならぁ……あたしでもぉ……およめさんにぃ……なれちゃう……」
青年「では、今後のことですが、姫様から聞きましたか?」
僧侶「はい」
青年「では、注意事項を。この計画に参加することは今後の人生を大きく狂わすことになるでしょう。今までと同じような生活はできなくなります」
青年「だから、強制はしません。ここで協力しなかったからと言って側室から外れる、なんてことは絶対にありえませんから安心してください」
僧侶「私は勇者様に拾われて、ここまで来ました。これからも私は勇者様について行きます。どんなことがあっても」
青年「よろしい。まぁ、雌犬はそういうことは承知していましたが」
僧侶「ありがとうございます」
青年「貴女は?」
魔法使い「……」
青年「もしもし?」
魔法使い「……いくわよ」
青年「キャプテンはどうですか?」
キャプテン「おぉー……あたしにぃ……まかせときなぁ……あはは……」
青年「……よしっ。流石は我が側室たち。期待を裏切りませんね。側室度が10ポイント、肉便器度が100ポイント加算されましたよ」
僧侶「わーいっ」
―――姫の自室
姫「……」
コンコン
姫「どうぞ」
青年「みんな快く引き受けてくれると言ってくれました」
姫「そうですか」
青年「姫様。ご無理をさせれることはありませんよ。貴女は王族であり、一国を担う姫君なのですから」
姫「いえ。この命は勇者さまのものです。ご自由におつかいください」
青年「いいのですね?」
姫「はい」
青年「では、厚かましい願いを一つだけいいですか?」
姫「なんですか?」
青年「用意してもらいたいものがあるんです。決戦前までに」
姫「構いませんよ。なんでしょうか?」
青年「実は……」
―――客間
キャプテン「うえぇぇん……!!だぁぁりぃぃん!!!」
魔法使い「いい加減、説明してあげなさいよ」
僧侶「人の話が耳に入らないようなので、もう少し様子を見ます」
魔法使い「まぁ、キャプテンにしたらショックでしょうね」
僧侶「……貴女にとってもではないですか?」
魔法使い「わ、私は別に……」
僧侶「素直じゃないですね」
魔法使い「あ、あんただって同じでしょ」
僧侶「何度も言ってますが、私は勇者様のお傍に居られることができれば満足ですから」
魔法使い「あっそ」
僧侶「ところでこの置物はいつ使うんでしょうか?もう夜なので突っ込んでもいいと思うんですが……。勇者様に突っ込む場所をお訊ねしないと」
魔法使い「それ持ってきたの!?」
僧侶「はい。どこに突っ込めばいいか知ってますか?」
魔法使い「そんなもの捨てなさいよ!!!バカ!!!」
―――中庭
青年「……」
兵士「勇者殿。先ほど連絡が」
青年「やはり守備部隊にも要請がかかりましたか」
兵士「人間の動きに合わせて魔物の動きが活発化しているようで、討伐依頼が後を絶たないようです。もはや守備部隊の体を成していないようです」
青年「彼女のことだから、魔物を殺すようなことはないだろうけど……。心配だな」
兵士「あの国は今、最も不安定な状態ですし、討伐を断れば近隣国からは顰蹙を買うでしょう」
青年「必ずこの計画は成功させないと」
兵士「勇者殿。やはり手紙ぐらいは……」
青年「いえ。彼女とは縁を切ったつもりです。これ以上、僕たちに関わらせるべきじゃない」
兵士「ですが……」
青年「ありがとうございます。彼女たちも動くというならやりやすいですね。そのまま小まめに連絡をとりあってください」
兵士「分かりました」
青年「ご迷惑をおかけします」
兵士「いえ。貴方の言葉は姫様の言葉と同じ。そう姫様からは言われているので」
青年「星が綺麗だな。前は確か……」
姫「勇者さま。おやすみにならないのですか?」
青年「姫様。僕が狼ならここで襲っているところですよ」
姫「勇者さまになら襲われても本望です。それよりも聞きました。せめて一言ぐらいはあの人にも……」
青年「……彼女は特別なんです」
姫「大切な人なんですか?」
青年「大切な人の妹ですね」
姫「勇者さまはその人のことが……」
青年「ええ。好きでした。年上のお姉さんで、美人で、優しくて……。理想の女性だった」
姫「……」
青年「だからこそ、彼女にだけは話せない。何もいえない。何かを察してこちら側に来てしまうことだけは避けないといけない」
青年「10年前のことは終わっているから、僕と関わる必要はないんです」
姫「そうですか。側室として迎えいれないのも……」
青年「彼女以上の側室が現れない場合は迎えに行くつもりだったんですが、もう諦めるしかないですね。こちらに来てしまえばどうしたって元には戻れなくなる」
姫「嫉妬してしまいますね。勇者さまにとってはその人の存在がとても大きいみたいですし……」
青年「はははは。姫様。心配無用ですよ。言ったでしょう。10年前のことはもう終わっている、と。今、僕の心に住まうのは貴方達だけなんです」
姫「本当ですか?」
青年「本当です。僕の目を見てください」
姫「近づいていいですか?」
青年「どうぞうどうぞ。じっくり見てください」
姫「んー……」
青年「どうですか?綺麗な目をしているでしょう、僕」
姫「……」
青年「……」
姫「……はい。信じます」
青年「ありがとうございます」
姫「勇者さま。私、一国の姫として、誓います」
青年「何をですか?」
姫「一生貴方に愛される女であり続けることを、ですっ」
青年「それなら誓わなくてもいいですよ。僕が姫様を愛し続けますから。……さてと、そろそろ部屋に戻りましょうか」
キャプテン「なんだぁ、それならそうといってくれりゃあいいのにさぁ!!!」バンバンッ
僧侶「いたっ。は、はぁ、すいません……」
キャプテン「そーだよねー。ダーリンがあたし以外の女を選ぶわけなかったんだよ」
僧侶「あはは」
魔法使い「酒がないとまともに話もできないとはね」
キャプテン「だって、あたしはダーリンのお嫁さんなわけだしね、うん。あたしってば嫁失格だね。旦那のことを信じてやらないといけないっていうのに」
僧侶「そうかもしれないですね」
魔法使い「ほら、早く部屋に戻るわよ。何があるかわからないんだから、体調は常に万全にしておかないと」
キャプテン「んなの分かってるって。あたしにまかせ―――」
姫「勇者さま……」ギュゥゥ
青年「あ、姫様。こんなところで抱きつくのは……他の人に見られたらマズいですよ」
姫「行かないで……」
キャプテン「……あぁぁぁ……?」
魔法使い「……女ったらしめ」
僧侶「姫様……いいなぁ……」
―――魔王の城
ハーピー「新しい情報が入ってきた」
竜娘「ニンゲンの動きも忙しなくなってきたな」
ゾンビ「……」
少女「マスター。既に魔物の群れや巣がいくつかやられているようです」
竜娘「そうか」
エルフ「あの……」
ハーピー「連絡はない。もうあきらめえ」
エルフ「でも、今までだって……ボクたちを……」
少女「勇者がここを離れて、はや数週間。以前のような同盟関係に戻れる可能性は低いでしょう。次に私たちの前に現れるとするなら……」
エルフ「もしかして、戦うとき?そんなの……」
竜娘「奴は俺たちと戦わぬ道を選んだ。それはつまり、魔族と手を切るということだ。仕方あるまい」
ハーピー「ふむ。わらわたちの傍に居れば、結局はニンゲンとの戦となる。そうなればやっていることは魔王と変わらん」
竜娘「魔王を倒した男が魔王になるなど、奴のやってきたことが水泡に帰すというもの。まぁ、勇者も愚かではない。戦場に現れようとも剣戟を振るうことにはなるまい」
エルフ(でも……ボクたちのことを守ってくれるのかな……。勇者だってニンゲン。同族のためなら捨てなきゃいけないことも……)
―――夜
エルフ「……」
ゾンビ「おねえちゃん?」
エルフ「あ、えっと……」
ゾンビ「おにぃちゃんのところに行くの?」
エルフ「うん……。あ、でも、魔族を裏切るとかじゃなくて……その……お忍びで……顔を見ようかなって……」
ゾンビ「……まってて」テテテッ
エルフ「魔王様?……なんだろう?」
エルフ(会ってフラれよう。きっとこの気持ちも晴れるはず……。ちゃんと戦うために……これは大切だと思うから……)
ゾンビ「おねーちゃーん」テテテッ
エルフ「な……!?」
竜娘「何をしている?」
エルフ「いや……その……」
ゾンビ「おにぃちゃんにあいたいんだって」
エルフ「あぁ……それは言わないで……」
竜娘「状況がわかってないのか?」
エルフ「でも、ドラゴン様も勇者の行動には疑問があるんじゃないですか?」
竜娘「そんなものは常にあった」
エルフ「今までとは違います。彼が傍に居てくれたから……」
竜娘「……」
ゾンビ「うー……」
エルフ「だからボクは、会って確かめてきます。そしてボクたちを見限ったと言ってもらう」
竜娘「その言葉を奴が吐いたとして、お前は信じるのか?」
エルフ「……うん」
竜娘「ニンゲンたちと心置きなく戦える、というのだな?」
エルフ「少なくとも今のままは気持ち悪いから」
竜娘「……」
エルフ「ボクは一人でも行きます」
ゾンビ「それはあぶないから、いっしょにいってあげて」
ドラゴン「―――行く前に訊いておこう。もし勇者がお前に甘言を用いて水を向けさせようとしたら、どうするつもりだ?」
エルフ「それは……」
ドラゴン「また裏切るというのだな」
エルフ「……!!」
ゾンビ「うー!!ドラちゃん、めっ!」
エルフ「……」
ドラゴン「……」
ゾンビ「うー……そんなこと……ない」
エルフ「え?」
ゾンビ「おにぃちゃんはみすてないっていった。だから、きっと、ぜったい、みすてない」
ドラゴン「魔王……」
ゾンビ「いまはすこし、はなれてるだけ」
ドラゴン「だが、今の逼迫した情勢では確信はない」
ゾンビ「おにぃちゃんのこと、あぃしてる!ふたりはあぃしてないのぉー!?」
エルフ「……いや……そういうのは……」
ドラゴン「愛しているから信じるか……。それは上に立つ者としては失格だ、魔王」
ゾンビ「うー……」
ドラゴン「いつになったらそのことを―――」
ゾンビ「じゃあ、まおーやめるぅー!!!」
ドラゴン「なに!?」
エルフ「ちょっと、それは……!」
ゾンビ「いままでまおーしてたのだって、おにぃちゃんがいたから!おにぃちゃんがなでなでしてくれるからまおーしてただけ!」
ゾンビ「おにぃちゃんいないのにまおーなんてやらない!」
ドラゴン「今更何を言っている。そんなことができないと魔王となった日に再三忠告したはずだ!!」
ゾンビ「がぅー!!!」ガブッ
ドラゴン「つっ……!!おのれ……下級魔族の分際で……!!」
エルフ「ドラゴン様!!」
ドラゴン「……くそ。すまない、今のは失言だった」
ゾンビ「うー……うぅ……うぅぅー……うっ……うぅぅ……」
エルフ「このままではニンゲンに駆逐されるか、管理されるだけです。ボクたちだけじゃなく、魔族全体がまだ混乱しているんですから」
ドラゴン「勇者に会えばそれらが解決するのか……?」
―――見張り台
兵士「……ん?」
兵士「……あれは……!?」
兵士「たいちょー!!!」
隊長「どしたぁ?」
兵士「11時の方角から何かが来ます!!あれは魔物でしょうか!?大砲、撃っちゃいますか?」
隊長「んー?あれは勇者殿が連れていたドラゴンじゃないか?」
兵士「あれが!?すげー!?」
隊長「お前、見たことないのか?」
兵士「生では初めてみました!!」
ドラゴン「―――貴様ら。勇者の所在は知っているか?海賊たちに聞けばここへ向かったと言っていたが?」バサッバサッ
隊長「え?ああ、勇者殿なら今、城のほうに。それより、あまり目立つ方法での入国はやめてくれると助かります」
竜娘「―――これでいいな。さらばだ」バサッバサッ
エルフ「お、おちる!?急に変身しないでください!」
隊長「いや、それでも十分に目立ってるんですが……!!!」
―――城 中庭
竜娘「ここから入るか」
エルフ「……」
竜娘「恐れているのではないか?」
エルフ「……大丈夫です。覚悟はできてますから」
竜娘「ふん……」
「きゃー!!いやー!!!」
エルフ「なに……?」
竜娘「ん?」
メイド「あーん、やめてくださいましー」タタタタタッ
青年「でへへへ、まてまて~!!」ダダダダッ
メイド「私にも仕事があるんですぅ!」
青年「俺の下の世話しろぉ!!」
エルフ「……」
竜娘「帰るか?」
メイド「ゆるしてくださぁ~い!!」
青年「メイド服を着て、襲って欲しいってことだろぉ!?」
メイド「これは仕事着ですからぁ!!」
青年「しるかぁー!!」
メイド「いやぁー」
エルフ「待ってよ」
青年「俺のあふれ出す衝動を止められる者は存在しな―――」
竜娘「楽しそうだな」
青年「これはどうも。元側室たち。何か?」
エルフ「……」
竜娘「真意を訊きにきた。お前の目的はなんだ?」
青年「側室10人つくって幸せに暮らすことです」
竜娘「本心、だな?」
青年「だからこうして今まさに、側室作りに精を出しているんじゃないですか」
エルフ「……」
竜娘「……哀れだな」
青年「何がですが?」
竜娘「お前を信じている者たちがだ」
青年「人間と魔物は相容れぬ存在。それはもう明確なことでしょう?」
竜娘「我々と戦うことになれば、お前はどうするつもりだ?」
青年「貴方達が僕の側室を襲うのなら、戦います。まぁ、ドラゴンとキラーマジンガが居る時点でそちらが容易く陥落するとは思えませんが。こちらは貴方たちの弱点を知っているので」
エルフ「……」
竜娘「それはやはり、我々は敵だ。ということか」
青年「側室から離れた時点で僕の視界には入っていない。そういうことです。敵になるかどうかはあなた方次第でしょうね」
竜娘「……分かった」
エルフ「……もう誘ってもくれないんだね」
青年「誘えば側室になるんですか?」
エルフ「……ううん。ならないよ」
青年「でしょう?さ、早く帰ってください。こんなところを人に見られたら僕の信頼が地に落ちます」
エルフ「そうだね。ごめん、迷惑かけて。さよなら」
竜娘「行くぞ」
エルフ「はい」
青年「でへへへへ。メイドすわぁ~ん」ダダダッ
メイド「いやぁー!!」
エルフ「……っ!!」
竜娘「おい!!やめ―――」
エルフ「爆発しろ!!!」カッ!!!
ドォォォォォン!!!!
ドラゴン「ニンゲンに対してのいい宣誓攻撃だな」
エルフ「……」
ドラゴン「この場を離脱する」バサッバサッ
エルフ「……結局、メスならなんでもいいんじゃん……。ボクしかいないっていっておいて……」
ドラゴン「これでニンゲンと憂いなく戦えるな」
エルフ「……はい」
ドラゴン「では、帰還しよう」
青年「―――流石はエルフ族。興奮しながらも冷静ですね。的確に照準をズラしてくれました」
メイド「けほっ……けほっ……」
青年「さてと、さぁ!!メイドプレイの続きといきましょうかぁー!!!」
メイド「えぇー!?」
魔法使い「ちょっと。今の音なに?!」
僧侶「勇者様!?ご無事ですか!?」
兵士「敵襲ー!!!」ダダダッ
兵士「姫様ー!!!」ダダダダッ
青年「みなさん。騒ぐほどのことじゃないですよ」
メイド「はい。ドラゴンさんが様子を見に来てくれただけです」
魔法使い「この爆発跡……魔法ね」
青年「ええ。なんかエロい人が爆発させました」
メイド「勇者さま、やはりこの追い払い方は気の毒ですよ」
青年「いえ。きっぱりと関係を切っていないと。人間と魔物は仇敵の間柄でなければならないんですから」
僧侶「あれ、姫様?どうして給仕の服を?」
―――魔王の城
ハーピー「そうか。残念だったな」
エルフ「……」
ドラゴン「お膳立ては十分だ。ハーピー、次に行われる魔物狩りは?」
ハーピー「今度のがメインとなるものであろうな。この草原におる魔族たちを数万規模で駆逐するつもりらしい」
ドラゴン「比較的攻撃性の低い者たちが集落を作っているところだな」
ハーピー「この大草原には数多くの同胞が住んでおる。今までにない甚大な被害が出るだろうことは想像するに易い」
ドラゴン「……限界だな」
ハーピー「うむ。これ以上、人間の好きにさせるわけにはいかん。わらわたちも生きたい者たちで溢れておる。逝きたい者などおりはせん」
ドラゴン「魔王。静観しているわけにはいかなくなった。ニンゲンの侵攻に慈悲はない」
ゾンビ「……」
少女「マスター。攻めてくるニンゲンを殲滅しても宜しいのですね」
ドラゴン「……ああ。久々にお前の力が存分に発揮される舞台となるはずだ。期待している」
少女「はい」
ゾンビ「うー……」
―――城 会議室
青年「―――ついに来ましたか。その情報に間違いはありませんね?」
兵士「はい。勇者様の言っていた守備部隊隊長からの情報なので」
青年「よし。―――みなさん。魔物の軍勢がこの大草原に向けて進軍してくることはほぼ間違いないでしょう」
魔法使い「そこに皆も出てくるの?」
青年「これ以上、静観するようであれば魔族は内争で滅ぶだけでしょう」
魔法使い「……」
青年「恐らく、まだ時間はあります。ですが、僕たちは先に居なければならない」
僧侶「はい……」
青年「出発は明日にします。ですので、皆さんにはもう一度考えて欲しい。僕についてくるかどうかを」
キャプテン「あたしは行くよ!!!絶対にぃ!!!」
姫「ど、どうして私を睨むんですか……」
僧侶「勇者様に必要とされている限りはどこまでもお供しますっ」
魔法使い「……他に行くところないし。行くわ」
青年「ありがとうございます」
―――夜 客室
キャプテン「よぉーし。遂に明日から始動するんだね」
僧侶「ですね。がんばりましょうね」
キャプテン「もっちろんさ!!あたしはやるよ!!!ここで猛アピールするんだ!!!」
僧侶「誰にですか?」
キャプテン「ダーリンにきまってんだろぉ!?」
僧侶「はぁ……」
キャプテン「このままじゃダーリンがあんな小娘にとられちまうよ!!ここで力の差をはっきりとさせとかないとね!!」
僧侶「がんばってくださいね」
キャプテン「あぁ!!みときなぁ!!!ダーリンを姫様から寝取ってやる!!!」
僧侶「ふぁいとですっ」
キャプテン「はーっはっはっはっはっは!!」
魔法使い「……ちょっと、夜風に当たってくるわ」
僧侶「あ、はい。でも、すぐに戻ってきてくださいね」
魔法使い「分かってるわ」
―――中庭
姫「勇者さま。頼まれていたものがご用意できました」
青年「どうも。これは素晴らしい。感謝します」
姫「いえ。とんでもありません」
青年「……姫様」
姫「なんですか?」
青年「また、メイド服着てください。とてもよく似合ってましたから」
姫「側室になると、ああいう服を着ないとダメなのですか?」
青年「そういうわけじゃないですけど」
姫「……?」
魔法使い「―――何してるの?」
青年「こんばんは。どうしたんですか?体が火照っちゃいましたか?」
魔法使い「そんなわけないでしょ」
姫「それでは、勇者さま。おやすみなさい」
青年「はい。おやすみなさい」
魔法使い「ここに来てから毎晩のように姫様とここで話してるわよね?」
青年「それが何か?あぁ、嫉妬ですか?」
魔法使い「……」
青年「図星?」
魔法使い「この作戦、上手くいくのよね?」
青年「ダメかもしれないとはいえませんよ。貴方達が不安になるでしょう?」
魔法使い「アンタはいつもそうやってとぼけて、おちゃらけて、スケベで、エッチで、馬鹿で、アホで……」
青年「誰がアホだ。あぁん?お尻撫で回した挙句、揉んでやっぞ?」
魔法使い「自分の気持ちを言わない」
青年「……」
魔法使い「本当は不安じゃないの?みんながまたついて来てくれるかなんて保障はないし、思い描いたとおりにならないかもしれないでしょ」
青年「まぁ、そうですね」
魔法使い「そろそろ分けてくれてもいいんじゃない?アンタの気持ちを」
青年「つまり、名実共に色情魔になるということですか?」
魔法使い「真面目な話をしてるの!!!」
青年「失敗したときはそれまでの男だったってことですね。貴方達と同じ墓に入るだけでも儲けものです」
魔法使い「3年前から本当に変わらないわね。というか成長しない」
青年「お互い様でしょう。貴女だって僕に対して好きとか愛してるとか言ってくれないんですもん」
魔法使い「……そうだっけ?」
青年「そうですよ。まぁ、貴女から発せられる愛情は受信してますけどね。出会ったときから」
魔法使い「いや、そんなわけないでしょ。出会ったときなんて印象最悪だったし」
青年「そうでしたか?ひとめぼれしてたじゃないですか」
魔法使い「それはアンタのほうでしょ!?アタシは惚れられたほうなんだから!!」
青年「ええ。その通りですね」
魔法使い「こ、肯定しちゃうの……?」
青年「始まりは擬似ハーレムを作るために集めただけでしたが、やはり第一印象は良くないとメンバーに加えようなんて思いませんし。僕が貴女にひとめぼれしたのは正しいです」
魔法使い「ふ、ふぅん……」
青年「しかし、もう引っ込みが付かなくなりましたね。なんかハーレム作らないとダメな空気が出来上がってしまっているので、僕はみんなと結婚しないといけないんですよね」
魔法使い「別に……無理にすることないんじゃないの……。ひとりを選べばいいだけだし……」
青年「選んだほうがいいんですか?」
魔法使い「そりゃあ……まぁ……ねえ……」
青年「全員がそれを望んでいると?」
魔法使い「も、もちろん」
青年「……そうですね。もう3年です。そろそろこちらの決着もつけてしまうのが得策ですか」
魔法使い「……なら、教えてくれる?」
青年「何をですか?」
魔法使い「誰を選ぶのかに決まってるでしょ?」
青年「む……」
魔法使い「……」
青年「そうですね……」
魔法使い「う、うん……」
青年「……」
魔法使い「だ、誰なのよ……?」
青年「……あぁ。ダメだ。決められません。みんな美人だし可愛いし。側室は多いほど飽きないし」
魔法使い「言うと思ったわ」
青年「でも、これだけは言っておきます」
魔法使い「なに?」
青年「僕に惚れたことを後悔はさせません」
魔法使い「はいはい」
青年「本当ですよ」
魔法使い「もういいわよ。そろそろ寝るわ」
青年「はい」
魔法使い「あ、そうだ。私もこれだけは言っておくわ」
青年「なんですか?」
魔法使い「……アンタのこと……す、好きだから……」
青年「え?もっと大きな声で言ってください」
魔法使い「き、きこえ、たでしょ……」
青年「申し訳ありません。僕、難聴で」
魔法使い「うそつけ!!!」
青年「何故、そのような嘘をつかなければならないのですか?理解できませんよ。ほら、それよりもう一度、僕のことを好きって言ってください」
魔法使い「嫌よ!!」
青年「何故!?」
魔法使い「恥ずかしいからに決まってるでしょ!?」
青年「おうおう。ほかの側室は素直に言ってくれるぞぉ?」
魔法使い「もう寝るから!!」
青年「はい」
魔法使い「ふんっ……!!」
青年「……」
青年「3年か……」
青年(どちらにせよ彼女たちの人生を狂わせたのは俺だ……)
青年(俺がしっかりしないと)
青年(勇者は女を泣かせたらダメなんだよな……)
青年「……」カチャ
勇者「―――姫様もいい防具を用意してくれた。これで負けたら、恥ずかしい」
勇者「全てを終わらせよう」
―――数週間後 魔王の城
ハーピー「ニンゲンどもが大挙してやってきたようだの。行くかえ?」
ドラゴン「迷いはない。往くぞ」
ガイコツ「いからいでか!!」
宝箱「……」
ゴーレム「ヤハり……ニンげン……はテき……だッタな……」
吸血鬼「我輩は初めから知っておりましたが」
ハーピー「よいか。おぬしら。この戦はあくまでも制圧、鎮圧を目的としておる。無闇な殺生は控えることを、努々忘れるな」
魔物「ガルルルル……」
魔物「オォォォォォン!!!」
ドラゴン「血の気が多いものばかりだ。そのような忠告など意味はないだろう」
ハーピー「しかし、これは魔王様からの託。無視する者には制裁を加えてもよいであろう?」
ドラゴン「それを遵守できるような戦場ならば良いのだがな」
エルフ「……魔王様?」
ゾンビ「うー?」
エルフ「ずっと聞きたいことがありました」
ゾンビ「……」
エルフ「前に勇者と何か話してたよね?部屋で。二人きりで」
ゾンビ「……」
エルフ「そのとき、何か言ってなかった?これからのこととか。これからこうするつもりだとか」
ゾンビ「うー」
エルフ「何か……」
ハーピー「おぬしも女々しいのぉ。そこまで惚れておるなら、勇者を追えばよかろうに」
エルフ「そういうのじゃ……!!」
ゾンビ「おにぃちゃんはみすてないっていってくれただけ」
ドラゴン「……」
ゾンビ「だから……しんじる……」
キラーマジンガ「どうも。美少女が武器を持ち、殺人機へと羽化を果たした美少女です」
エルフ「……」
キラーマジンガ「どうかされたのですか?」
ドラゴン「奴は敵ではない。だが、味方でもない。ただそれだけだろう」
エルフ「だけど……」
キラーマジンガ「勇者が何かを隠し、真実を告げないのは今に始まったことではありません」
エルフ「今まではボクたちを傷つけるようなことはしなかった」
キラーマジンガ「何故だと思いますか?」
エルフ「え?」
キラーマジンガ「私は機械です。学習したことからでしか答えは出せません。しかし、あなた方には感情がある。そこから導き出せるものあるはずです」
エルフ「何を言ってるの?」
キラーマジンガ「勇者が私たちに対して何かを隠匿しようとするのには、理由がある。今までもそうだったと思われます」
ハーピー「単純にあの男の性分であろう?」
キラーマジンガ「では、その性分とはどういったものなのか、考えたことはありますか?」
エルフ「ガーちゃんはそれが分かってるの?」
キラーマジンガ「マスターには以前に告げました。勇者の弱点を。それが大きく関わっていると判断します」
ドラゴン「弱点……?まさか……」
キラーマジンガ「勇者の弱点は女性です。意識的なのか無意識なのかは私では判断不能ですが、彼は女性との間に壁を作っている。普段の言動からは分かりかねますが」
エルフ「そんな馬鹿なこと……」
キラーマジンガ「彼は異性に近づくと緊張から体温を上昇させ、発汗しています。恐らく女性に免疫がない、あるいは何らかの精神的外傷があるものと判断します」
ドラゴン「どこかで聞いた分析結果だな」
ハーピー「えらく具体的だの、機械人形」
キラーマジンガ「恐縮です」
エルフ「いや、そんな人が側室10人欲しいとか思わないでしょ」
キラーマジンガ「それに関しても勇者は何も語りません。過去に何かがあったのは間違いないでしょう」
エルフ「過去って言っても……」
キラーマジンガ「マスターたちなら何か察するところもあったのではないですか?所詮、機械である私には生物の感情など読み取れませんから」
ドラゴン「10年前の出来事か?あまり詳しく聞いていないからな……」
ゴーレム「どうデも……イイこと……ダ……」
吸血鬼「そうです。今、重要なのはニンゲンの制圧でしょう?」
ドラゴン「……そうだな。奴のことは忘れよう。―――準備はいいか?」
「「オォォォォ!!!」」
エルフ「……隠すのに理由なんて……あるの……?」
―――城内 会議室
兵士「隊長!!」
戦士「どうしたんですか?魔物討伐の件なら私ではなく兵士長に―――」
兵士「いえ!!それがあの……たった今、情報が……」
戦士「情報?」
兵士「それで我が国のほうにも捜索依頼が入りまして」
戦士「何を捜索するんですか?もしかして勇者とか、言わないですよね?」
兵士「姫君です。先日、姫君が何者かに誘拐されたという……」
戦士「姫様……が……?」
兵士「民の間では大規模な魔物狩りを行う人間に対して、魔物が仕出かしたことではないかという噂も……」
戦士「そんな馬鹿な……」
兵士「隊長!!勇者様と連絡は取れないのですか!?王族を襲うなどあってはならないことです!!もし人質にされているとしたら……」
戦士「姫様の捜索は他の隊に一任したほうがいいでしょう。私たちはこれから行かねばなりませんし」
兵士「わ、わかりました。兵士長の耳にも入っているでしょうから、きっと正式な決定は出るでしょうが……」
戦士(この数ヶ月でこの国の兵士はいい傭兵にされてしまってる。とはいえ、王女の一件もあるし、近隣国の信頼を得るには従うしか……)
―――数日後 大草原 作戦本部
指揮官「この先に我々を長年苦しめてきた魔物共の住処がある。散々我等人間に苦痛を与え、殺戮の限りを尽くしてきたあの魔物だ」
指揮官「その者たちがのうのうと暮らしている。我等に対する謝罪もないしだ。許せるか?」
指揮官「私も愛すべき妻子を5年前に失った。魔物たちの悪しき牙によってだ。到底、許せるものではない」
指揮官「魔王が倒れて早3年。我等にも戦う力が戻った。だからこそ、今、ここで立ち上がらねばなるまい」
指揮官「王女を裏で操っていた魔物が出てきた以上、手を拱いているわけにはいかない。奴らは魔王が没しても尚、人間たちを蹂躙しようとしている」
指揮官「虎視眈々と私たちの支配を目論んでいた」
指揮官「ここで駆逐しなければ、我等に未来はない。この大規模な討伐は今後を占うものとなる」
指揮官「今日と制することができれば世界平和に近づくことができる!!!魔物を狩ることは今後生まれるであろう魔王の芽を摘むことに繋がる!!!」
指揮官「そう!!魔王を倒すのだ!!!ここにいる全員が勇者となるのだ!!!」
「「おぉぉぉ!!!!!」」
兵士「隊長、もう一度説明したほうがいいのでは?」
戦士「王族の居ない国に発言権はないですし、多くの市民は魔族を恐れている。この流れを断ち切ることなんて、一兵士にはできません」
兵士「ですが……」
戦士(でも、彼なら……)
ドラゴン「あれだな」
ハーピー「なんというゴミの群れ。虫唾が走るのう」
キラーマジンガ「整列!!」
ゾンビ「うー!!」ダダダダッ
キラーマジンガ「番号!!」
ゾンビ「いーちっ!にーっ!さーんっ!!しぃーっ!ごっ!」
キラーマジンガ「まえにならえ!!」
ゾンビ「うー!」
ドラゴン「何をしている?」
キラーマジンガ「軍隊とはこういうものだと教わりました」
ゾンビ「ました」
ガイコツ「誰が指揮してくれるの?まおーちゃん?」
ラミア「この子で大丈夫なのぉ?不安だわぁ」
ドラゴン「指揮は俺がする。それにしてもよく参加したな。あの村にいるものは穏やかに暮らしたいと願う者ばかりだと聞いていたが」
ラミア「個々によって違うわ。あたしは別ぅ。ニンゲンをやっつけることができるなら手をかしたげるわよ?」
ハーピー「数では完璧に圧倒されておるが……」
キラーマジンガ「一騎当千の私がいるので大丈夫です」
ゴーレム「かシんは……デキない……ユうしゃガ……ジゃくてンヲおシえて……いる……」
吸血鬼「その可能性は高いでしょうね。勇者もニンゲンですから」
キラーマジンガ「なるほど。海水を持っているなら大ピンチです」
ドラゴン「幸い海の上ではない。安心しろ」
キラーマジンガ「安心しました」
ゾンビ「でも、だいちがさけて、うみがどばーってなるかもしれない」
キラーマジンガ「そうなると私が安心できる場所はマスターの背中しかないということに」
ゾンビ「たいへんだー」
キラーマジンガ「なんてこった」
ドラゴン「いい加減、緊張感を持って欲しいところだな」
エルフ「……」
ハーピー「しっかり働け。戦果次第ではエルフ族を認める輩も多くなるだろうて」
エルフ「ボクはそこまで考えては……」
ハーピー「どうやら進軍が始まったようだの。集落におる魔族たちは?」
ドラゴン「既に移動している。何かしらの被害を被るようなことにはならないはずだ」
吸血鬼「なるほど。では、存分に暴れましょうか」
ゾンビ「あぅ……」
ハーピー「戦故、命を取るなとは言わん。だが、虐殺はするな。よいな」
ゴーレム「ムりだ……ナ……」
ラミア「ニンゲンは脆いからぁ。うふふ」
エルフ「止めるだけ……止める……」
キラーマジンガ「では、作戦通り私が先陣をきり、本隊を叩きます。他はみなさんにお任せします」
ドラゴン「俺も行く。お前だけには任せておけん」
キラーマジンガ「マスターの心遣い、痛み入ります」
ドラゴン「ふん」
ゴ-レム「ナんデモイい……にん、ゲンを……コロせる……なら……」
吸血鬼「ふっふふふふ……いきましょう……!!!」
ゾンビ「うー……」
兵士「隊長。我々は……?」
戦士「遊撃に徹するように言われています」
兵士「そんな。それはただの捨て駒では……」
戦士「とにかく相手の懐に入りましょう」
兵士「隊長!!」
戦士「ここで逃げれば……国は終わる……」
兵士「……!」
戦士(私たちを助けてくれた魔族たちとなんて……戦いたく……)
兵士「ぎゃぁ!!!」
戦士「どうしたの!?」
兵士「お、落とし穴です!!申し訳ありません!!」
戦士「今、たすけ―――」
ズボッ!
戦士「きゃぁ!?―――いつっ……。どうして、ここにも……落とし穴が……?」
僧侶「あの……大丈夫ですか?」
戦士「な……?!」
僧侶「お久しぶりです」
魔法使い「見事に全員落っこちたわね」
戦士「貴方達、ここでなにを!?」
魔法使い「助かったわよ。貴女からの情報のおかげで、こうして罠を仕掛けることができたんですもの」
戦士「罠!?」
僧侶「ごめんなさい……」
戦士「やはり、魔族の味方を……」
魔法使い「残念だけど、そうじゃないわ」
戦士「え……?」
魔法使い「私とこの子はあなたと戦うためにここにいるだけ。魔族の味方ってわけじゃないの。まぁ、落とし穴に落ちちゃったし、結果は見えてるけどね」
戦士「な、何をするつもりですか……?」
僧侶「ごめんなさい……ごめんなさい……」ザックザック
魔法使い「埋めちゃえ、埋めちゃえ」ザックザック
戦士「や、やめてぇ!!!」
兵士「こ……の……!!!」
僧侶「あ、兵士さんが出てきちゃいました……」
魔法使い「あら、結構深く溶かしたつもりだったんだけど、根性あるのね」
兵士「我が国を救ってくれたことには感謝しているが、敵対するというのなら容赦はしないぞ!!!」
魔法使い「やってみる?―――こっちは伊達に勇者の従者してないんだからね」
兵士「うっ……」
戦士「どうしてこんなことを!?魔族の味方ではないというのなら……!!」
僧侶「やめたんです。全部を救うのを」
戦士「え……?」
僧侶「全部なんて救えないってことに、勇者様は気がついたんです」
戦士「それがなんですか?」
僧侶「だから……戦うことに決めたんです……」
戦士「意味が……」
僧侶「救おうとしていた全てと戦うことに決めたんです、勇者様は」
戦士「全てと……戦う……?」
キラーマジンガ「キャプテン……」
キャプテン「久しぶりだねぇ。あんたら」
ドラゴン「やはり、我等に刃を向けたか」
ハーピー「てっきり傍観を決め込むと思うっておったが、こうなるか」
ゾンビ「うー……!!」
エルフ「戦うよ?」
キャプテン「通りたきゃ通りなよ。ただし、あたしを倒して―――」
キラーマジンガ「問答無用です」ブゥン!
キャプテン「あぶなっ!!―――なにすんだい!!!」
キラーマジンガ「倒せといってきたのは貴女です」
キャプテン「いや、そうだけど、少しは手加減してくれてもいいんじゃないかい?」
キラーマジンガ「私に手加減ができると思っておられるのですか?心外です」
キャプテン「おうおう、言ってくれるねぇ。野郎共!!こいつらに格の違いってやつをみせつけてやんなぁ!!」
船員「「アイアイサー!!!」」
ドラゴン「時間稼ぎもさせんぞ」
ハーピー「邪魔をするでないわ!!!」バキッ!!!
「ぎゃぁ!!」
ゾンビ「とけつほぉー!!―――おぇー」ドロッ
「くっせー!!!」
キラーマジンガ「南無三」ザンッ
「ぐぁ!!!」
キャプテン「なんだい、なんだい!!なっさけないねえ!!あたしらは一応、勇者の一団なんだよ!!気合見せろ!!!」
ドラゴン「貴様たちが如何に矮小な存在なのかを身をもって思い知ればいい」
キャプテン「そうは行くかい!!」ドォン!!
エルフ「風よ!!」ゴォッ
キャプテン「ちっ……。風で銃弾を防ぐなんて、ずるいじゃないか!!」
エルフ「これが魔族の戦い方だからね」
キャプテン「ああ、そうだね。久しく一緒に釜の飯食ってないから、忘れてた、よっ!!」ドォン!!
ドラゴン「通じないぞ。勝ち目のない戦場に来る目的はなんだ?」
キャプテン「心配しなくても、もうすぐわかるさ。それまではあたしと踊ってもらうよ!!ハッハー!!」ドォン!ドォン!!
吸血鬼「ふふふふ!!!ニンゲンめ!!!ここで朽ち果てるがいい!!!」
兵士「うおぉぉぉ!!!」
魔物「オォォォォォ!!!!」
指揮官「怯むな!!怪物どもを一匹残らず片付けろ!!」
ラミア「ニンゲンは野蛮ねぇ……」ギュゥゥゥゥ
兵士「あがぁ……ぁぁ……!!!」
「―――ちょっとまったぁぁぁぁ!!!!」
吸血鬼「なっ!?」
指揮官「誰だ……?」
勇者「俺だ」
吸血鬼「これはこれは、勇者殿。このような場所に現れて、ニンゲンともに吾輩たちと戦うのですか?」
指揮官「勇者……だと?」
勇者「そうだ。俺が勇者だ。3年前、魔王を倒したな」
指揮官「何を馬鹿な。魔王を倒したのはかつての海賊団だ」
勇者「その話はどうでもいい。ともかく、双方とも俺の話を聞け」
指揮官「状況がわかっていないようだな。魔物の駆逐が最優先だ」
吸血鬼「その通り。さぁ、勇者殿はどちらに味方をするのですか?」
勇者「それは―――」
吸血鬼「まぁ、聞かずとも分かりますがね……」
魔物「ガァァァァ!!!」
勇者「……!」
―――ザンッ!!
魔物「オォォォ……」
勇者「まだ俺が話してる途中だ」
吸血鬼「やはりそれが答えですか……ふふふ……」
勇者「……」
指揮官「中々の腕前だな。さぁ、我々と共に魔族を葬るぞ!!」
兵士「こっちにこ―――」
勇者「近づくな」ザンッ
兵士「ぎゃぁ!?」
指揮官「貴様!!」
勇者「俺は人間の味方でも魔族の味方でもない。言うなれば双方共通の敵だ」
吸血鬼「共通の敵、ですと?」
勇者「俺には世界を支配する」
指揮官「何を……」
勇者「馬鹿なと言いたい気持ちも分かる。だが、俺は本気だ。そして成功への道筋もできている」
指揮官「……」
勇者「人間共はこいつを見れば分かるだろう。こい」グイッ
姫「うっ……」
兵士「あ、あのかたは……!!」
指揮官「まさか……!!」
勇者「近隣国のみならず、この姫君の顔は広く知られているだろう。多くの国がこの姫の言葉に感化され、手を結んできたのだから」
指揮官「先日……何者かに誘拐されたとの情報があったが……まさか……」
勇者「そうだ。俺だ。俺が姫様を攫った。国を作るにはまずは美しい妻がいる。そこで人間にとって最も厄介な人質にもなるこの姫様を俺は選んだ。毎日、犬と同じことをさせてるぜ」
姫「くぅん……」
>>566
勇者「俺には世界を支配する」
↓
勇者「俺は世界を支配する」
指揮官「王族に手を出すとは、貴様!!どうなるか分かっているのだろうな!!!」
勇者「なんだ?嫉妬か?男のジェラシーは醜いな」
兵士「おのれ……!!」
勇者「おっと、動くなよ。他国の姫君とは言え、傷を付けさせたら大問題になるだろ?下手をしたら望まない戦争にもなる」
指揮官「ぐっ……!」
吸血鬼「ふっふふふ……。なるほど、そうやって吾輩たちに取り入ろうということですか」
勇者「取り入る?冗談だろ?」
吸血鬼「……!」
勇者「世界を統べる男である俺に付いてくるなら、人間だろうが魔族だろうか俺は受け入れる。ここでこうやって姿を見せたのはそれを確認するためだ」
指揮官「確認だと……」
勇者「そう。この魔王を超えた勇者、勇者王の軍門に下るというなら今のうちだ!!俺は快く受け入れる!!ただし、ここで俺につかないという愚策を選ぶ者には容赦はしない!!」
勇者「人間であろうと魔族であろうと、俺は容赦なく、殺す。俺の敵は俺の思い通りにならない奴らだからな!!!」
吸血鬼「つまり、魔族とニンゲンを同時に相手すると?」
勇者「そうだ。こんな馬鹿げた世界にはもううんざりだからなぁ」
ラミア「うふっ……なるほどねぇ……」
勇者「さぁ!!俺の下に集え!!今なら可愛い子限定で側室になれるチャンスがあるぞ!!今すぐ、俺の股間にアクセス!!!」
姫「……あの」
勇者「姫様はアクセスできません。もう側室ですから」
姫「それは残念です。いえ、そうではなくて……」
指揮官「おのれ……ふざけたことを……!!」
「あれが勇者?」
「語っているだけに決まっている。気にするな。それよりも姫様を救出する手立てを考えないと」
吸血鬼「ふっふふふふ。勇者殿。その覚悟は敬意に値します。しかし、この状況下ではその大口もただの戯言でしかない」
勇者「……」
吸血鬼「貴方はここで死ぬ」
勇者「人質が見えないのか?」グイッ
姫「あぁ……」ギュッ
吸血鬼「本気で仰っているのか?ニンゲンの盾が吾輩たちに通じるとでも?」
勇者「そうだな。確かに」
指揮官(なんだ、この男。何を考えてこんな場所に……)
ドラゴン「お前の弱点は分かっている。いけ」
ゾンビ「うー!!!」テテテッ
ガイコツ「うひょひょひょひょひょー!!!あねさぁぁぁん!!!!」テテテテッ
キャプテン「ぎゃぁぁぁぁあああああ!!!!!!」ダダダダッ
ドラゴン「ふんっ。他愛もない。―――いくぞ」
ハーピー「まちんせ」
ドラゴン「どうした?」
ハーピー「ニンゲンどもの動きが乱れておる。向こうでなにかがあったようだの」
ドラゴン「……あれは」
ハーピー「馬鹿なニンゲンが出しゃばってきておる」
ドラゴン「何故だ……勇者……。やはり、我々と敵対するのか……」
ハーピー「どうでもよい。敵なら喰らうだけ。わらわたちはそうしてきたはず」
ドラゴン「そうだな。吸血鬼たちと合流するか」
キャプテン「だぁぁぁりぃぃん!!!あたしはだめだぁぁぁ!!!!おばけいやぁぁ!!!」ダダダッ
ガイコツ「でひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっ!!!!」テケテケテケ
魔法使い「―――もえろぉ!!」ギュッ!
兵士「あっちぃぃ!!!」
戦士「通してください!!」
僧侶「できません!!」
戦士「何故!?」
魔法使い「貴女だけはもう巻き込みたくないんだって」
戦士「それって―――」
ゴーレム「オォォォォォ!!!!!」ズゥゥゥン
魔法使い「レムくん!?どうしてこっちに!?」
ゴーレム「ミつケタ……ニンげン……コロす……!!」
魔物「ウゥゥゥゥ……!!」
魔物「ガルルル……!!」
僧侶「レムくんは遊撃部隊なのでは?」
魔法使い「ああ、そういうこと……」
戦士「こんなときに……!?」
ゴーレム「ニンげンは……コろす……!!!」
魔法使い「流石にレムくんの相手はできないわね」
僧侶「ですね」
戦士「どうして貴方達まで標的に?」
魔法使い「私たちの敵は人間と魔族だからよ」
戦士「……」
ゴーレム「オォォォ……!!!!」
魔法使い「逃げるわよ!!」
僧侶「はい!!」
戦士「ちょっと!!」
魔法使い「あんたたちも逃げたほうがいいわ!!レムくんに敵うのは限られてるし!!」
戦士「……あの人のところに行くんですね?」
僧侶「え……」
魔法使い「貴女……」
戦士「相変わらず何がしたいのかイマイチわかりませんが、貴女が彼にとって大切な人であることは確かです。ならば、貴女たちを守ることは彼への恩返しにもなるはずです」
勇者「なんだ、本当にやる気か?あぁん?」
吸血鬼「矮小なニンゲン風情になにができようか」
指揮官「貴様!!それ以上の侮辱は万死に値する!!」
勇者「てめえら!!俺が姫様をペロペロしてもいいっていうのかぁ!?」
吸血鬼「勇者殿。貴方が離反してくれてよかった。現魔王もドラゴン様もようやく永い眠りから目を覚ましてくれた」
勇者「……」
吸血鬼「ニンゲンと共に歩むなど、できはしないと」
勇者「そうだな」
指揮官「姫様を取り戻せ!!!」
勇者「あの国に恩を売れる!!!とか思ってんだろ」
指揮官「だまれ!!国賊が!!」
兵士「うぉぉぉ!!!」
勇者「おい!!誰かぁ!!俺の味方になってくれぇ!!!数の暴力を受けそうだぁ!!!」
吸血鬼「ふっふふふふ!!!何を馬鹿なことを!!貴様は死地に飛び込んできた羽虫も同然!!!どんな策があろうとも吾輩たちを相手になど自殺行為!!そんなことも―――」
ラミア「そうでも、ないかもぉ」ズリズリ
吸血鬼「なに……!?」
ラミア「ゆうしゃぁ、わたしぃはそっちにいくわぁ」
勇者「よーし、こいこい」
吸血鬼「な、なにを……」
指揮官「やはり魔物と手を組んで……!!!」
ラミア「違うわぁ。わたしは、今、ここでぇ、勇者につくんだからぁ」
勇者「いい子だなぁ」
ラミア「よろしくぅ」ギュゥゥゥ
勇者「くる、しぃ……!!」
吸血鬼「裏切るのですか……?」
ラミア「だって、どーせ、また魔王のいうこときくだけのまいにちになるんでしょぉ?もううんざりだもん、そーいうの」
吸血鬼「な……に……」
姫「よろしくお願いします」
ラミア「うふっ。お姫もわたし好みよ」
兵士「姫を救い出せ!!魔物の手に落ちる前に!!」
吸血鬼「自らを劣勢に追い込むとは。所詮は蛇の頭ですか」
ラミア「あら。蛇を舐めてると、痛い目みるわよ?」
勇者「ほかにはいないかぁ?全然、戦力足りません」
兵士「うおぉぉ!!」
勇者「どけぇ!!!」ギィィン
兵士「うわぁ!!」
魔物「ガァァァァ!!!!」
姫「きゃっ!?」
勇者「ラミちゃん!!」
ラミア「はぁーい」ギュッ
魔物「オォォ……?!」
ラミア「しめあげちゃーう」ギュゥゥゥ
魔物「グォォォォ!?!」
吸血鬼「有象無象のニンゲンたちよりもあの勇者を排除しなければ……。みなさん!!!総攻撃を!!!」
キャプテン「―――だぁぁぁりぃぃん!!!」ダダダッ
勇者「うお!?どうしたんですか!?」
キャプテン「おばけぇ……おばけがおってくるのぉ……」ギュゥゥ
勇者「おばけ?」
ガイコツ「あびゃびゃびゃびゃびゃびゃ~!!!!」テケテケテケ
勇者「―――俺の側室が怖がってるだろうが!!!」ザンッ!!!
ガイコツ「あびゃぁぁ!?」
勇者「ふぅ。これで安心ですよ」
キャプテン「ほんとかい?」
勇者「ええ。勿論」
兵士「姫様を返せ!!」
キャプテン「はぁ……ダーリンに抱きしめられると、落ち着くよ」バァン!!
兵士「ぐぁ!?」
勇者「貴女が抱きついているのですが。それよりももう後ろを振り向いても大丈夫ですから」
キャプテン「そうかい?」クルッ
ゾンビ「うー!!!」テテテッ
キャプテン「ぎゃぁぁ!?」ドォン!!ドォン!!
ゾンビ「おにぃーちゃーん!!!」ギュッ
勇者「元気だったか?」
ゾンビ「うー!」
指揮官「あの魔物は……?」
兵士「アンデッド……!!あの男、あんな魔物まで……!!」
吸血鬼「魔王……さま……!!」
魔物「ガルルル……」
勇者「―――よーし!!醜い魔物ども!!よくみろ!!!この魔王が人質だぁ!!」
ゾンビ「あー」
勇者「これで下手な手出しはできないだろ?」
吸血鬼「……」
指揮官「あれが魔王……だと……?」
勇者「魔王だよな?」
ゾンビ「まおー!」
姫「あの、大丈夫ですか?」
キャプテン「くそ……ダーリンに近づけやしないじゃないか……」
勇者「姫と魔王。俺の両手にはこの二人がいる!!さぁ、どうする?もうお前たちは俺の言うことを聞くしかないんじゃないか?」
ゾンビ「うーっ」
吸血鬼「ふっふふふふ……。勇者殿、そういうことですか」
勇者「なんだ?」
吸血鬼「既にラミアと魔王はそちら側にいたのでしょう。そしてこんな茶番劇を企てた」
勇者「茶番だと!?」
ゾンビ「ちゃばんってなぁーに?」
姫「えーとですね……」
吸血鬼「もう宜しい。ここは戦場。この場に立つ者たちには等しく死の機会が訪れるもの」
勇者「……」
吸血鬼「魔王様はこの戦で名誉ある死を遂げた。それでいいでしょう」
勇者「そうか」
指揮官(なるほど……。そうだ。他国の王族を救出なんてする必要も義理もない。ここは戦場だ。何が起こっても不思議ではないのだから)
勇者「そちらも同じ考えを持っているようだな」
指揮官「……蛮族と一緒にしてくれるな。王族の救出が最優先だ。いけ」
兵士「はっ!!」
勇者(他人の命よりも成果が大事なのはよく分かる……。だが……)
勇者「姫は俺のもんだぁ!!!近づくなぁ!!!」ザンッ!!
兵士「づぁ!?」
指揮官「怯むな!!!あの男だけは殺せ!!!」
兵士「おぉぉぉ!!」
吸血鬼「魔王様は我々を見放し、あろうことかあの憎き勇者の配下となった!!!ラミアも同様!!」
ゾンビ「うー!」
ラミア「裏切り者は殺すんでしょ?」
吸血鬼「さぁ!!血祭りに―――」
ハーピー「おい」
吸血鬼「なっ?!」
ハーピー「誰の許しを得て、そのような世迷言を口にする?」
吸血鬼「こ、これはハーピー様。魔王は敵となったのですよ?排除してなにが悪いのですか?」
ハーピー「ほう……?」
勇者「一番厄介な奴らが来たか……」
キャプテン「いいかげん、ダーリンからはなれなよぉ……」
ゾンビ「うー?」
キャプテン「ひっ!」
姫「可愛いのに」
ラミア「ねぇ?」
ガイコツ「いてて、頭とれちゃった。よいしょ」カチッ
キラーマジンガ「……」
ドラゴン「魔王!!どういうことだ!!!」
ゾンビ「ぁう……」
兵士「あ、あれは……ドラゴン……!!!」
指揮官「あんな魔物まで……!?い、いや!!臆するな!!数では我々が勝っている!!!押せばいいだけだ!!!」
キラーマジンガ「敵勢力多数。制圧は困難」
エルフ「……」
勇者「全員、揃ったみたいだな」
姫「勇者さま、そろそろ」
勇者「わかっていますよ。―――では、もう一度だけ訊く!!!」
勇者「俺の下に集え!!!人間でも魔族でもない!!!第三の種族、勇者族として生きる覚悟がある者はこちらにこい!!!」
勇者「この俺、勇者王がお前たちを愛でてやる!!俺の国では種族も階級もない!!オスどもは俺の奴隷として、メス豚どもは俺の肉便器として扱ってやろう!!!」
勇者「どーだ!!夢のような国だろう!!!」
兵士「な、なにいってんだ……あいつ……!!」
指揮官「狂ってる……。だが、それ故に野放しにはできない」
勇者「さぁ、どうだ!?今なら可愛い子限定で側室になれるぞー!!!そこのメスエルフ!!」
エルフ「……!」ビクッ
勇者「今がチャンスだ」
エルフ「でも……ボクは……」
勇者「心配するな。一生養う自信ぐらいはあるから。エルフの一族全てを」
エルフ「……っ」
ドラゴン「おい……」
エルフ「あの……」
勇者「今すぐ俺の股間にアクセス!!」
ゾンビ「うー」スリスリ
ラミア「やったぁ」スリスリ
勇者「ぬほほぉ。そんなぁ、公衆の面前でぇ……」
姫「……」
キャプテン「あんたはアクセスしちゃマズいだろ」
姫「わかっています」
ドラゴン「魔王よ。こちらに戻ってはこない、と受け取ってもいいのか?」
ゾンビ「うー……」
勇者「違うな。戻れないんだ。俺が人質にしてるから」
ドラゴン「なるほど……」
吸血鬼「人質になってしまうような魔王など不要でしょう?勇者諸共消すべきでは?」
ハーピー「……なんだと?」
吸血鬼「足手まといであるし、これからの魔族にはあのような非力な魔王は必要ない。またニンゲンを駆逐するだけの力を持つ者が玉座に座るべきです」
吸血鬼「そう……貴方様のような……」
ドラゴン「……」
キラーマジンガ「マスターが魔王ですか。積年の願いがついに」
ドラゴン「そのような野心はもうないのだがな……。だが、このままでは支障もあろう」
吸血鬼「やはり!!」
ドラゴン「魔王よ!!!我等は冷徹な決断を下す!!!―――貴様を魔王とは認めないとするものが多数いる!!!」
ゾンビ「うぅー!?」
魔物「オォォォォォン!!!!」
魔物「ギーッ!!!ギーッ!!!」
ラミア「勝手なこといってるわねぇ……」
ドラゴン「故に魔王の座から退いてもらおうか」
勇者「おいおい。なら、この魔王は今からただの腐ったメス豚になるっていうのか?」
ドラゴン「そうなる」
ゾンビ「うぅ……まおーじゃなくなった……メスぶたになったぁ……」
指揮官「魔物共が仲違いを……」
兵士「漁夫の利を狙えるのでは?」
指揮官「そうだな……」
勇者「なんて、酷い奴らだ。よし、メス豚。俺のところに来るか?」
ゾンビ「……うんっ!」
勇者「よし!!決まった!!!側室に加えてやろう!!」
ゾンビ「うー!」
吸血鬼「ならば、もう吾輩たちの敵となったわけですね。これで心置きなく戦えますね!!!」
ドラゴン「うむ」
勇者「ちっ。ドラゴンの相手は厳しいな……」
ゾンビ「うぅー!?」
ラミア「わたしもこわいわぁ」
キャプテン「くるなら―――」
ガイコツ「姉さぁん!オレも味方になろうかぁ!?」
キャプテン「こ、ここ、こっちにくるんじゃないよぉー!!」
吸血鬼「ふっふふふふ!!!行きますよぉ!!!」
指揮官「―――あの男を仕留めろ!!!」
兵士「「うおぉぉ!!!」」
勇者「なんだこらぁ!!!やっちまうぞぉ!!!」
ゾンビ「とけつほぉー!!!―――おぇー」ドロッ
ラミア「やめてくれなぁい?」パシンッ!!!
魔物「ガァァァアァ!!!」
姫「きゃぁ!!」
キャプテン「姫様に指一本ふれんじゃないよぉ!!!」ドォン!!
ガイコツ「うひょー!!姉さんかっこいー!!」
キャプテン「ぎゃぁ!?」
姫「やめてください!!」ポカッ!
ガイコツ「あー!!オレの頭がとれたぁー!!」
姫「ご、ごめんなさい」
キャプテン「やるじゃないか……」
兵士「でぁぁぁ!!!」
勇者「せぇぇい!!!」ギィィン!!
魔物「オォォォォ!!!!」
ゾンビ「おにいちゃん、まもるっ!!!うー!!!」ガブッ
魔物「ギャァ!!」
ラミア「いいよぉ。わたしもやっちゃうぅ」ギュゥゥゥ
魔物「ギャァァァ……!!!」
勇者「どうも」
吸血鬼「ふっふふふふ!!!どこまで待ちますかね……!!」
勇者「なっ!」
吸血鬼「吾輩の冷気で元勇者と元魔王共々、葬ってさしあげます!!!」
ゾンビ「うー!?」
ドラゴン「馬鹿者!!過度な武力行使は控えろと!!!」
吸血鬼「ここで殺しておかなければ厄介な存在になることは明白!!!なれば―――」
ハーピー「まちんせ、コウモリ。魔王様を傷つけるというなら、わらわとて座視できぬ」
吸血鬼「貴方様もですか?あのリビングデッドはもはや一介の魔物でしかないのですよ?」
ハーピー「そうだの」
吸血鬼「なのに庇おうとするということは、寝返るということですか?」
ハーピー「うむ。そういうておるつもりだが、理解できなんだか?所詮はコウモリの頭か」
吸血鬼「……」
ドラゴン「訳をいえ」
ハーピー「訳?おかしなことをいうのう。今、いわなんだか?―――魔王様を傷つけるなら、わらわは許さんと申した」
ドラゴン「お前……」
ハーピー「わらわの魔王様は只一人だけとなった。あの魔王の傍でしかわらわは居たくないのでな」
吸血鬼「裏切りですか。まぁ、予想はしていましたが。貴方様はどうですか?新魔王?」
ドラゴン「……」
勇者「ハーピー姉さん……」
キラーマジンガ「パパ。お覚悟を」シャキン
勇者「娘……!!!」
キャプテン「やめろ!!」
キラーマジンガ「貴方が倒れれば、全てが丸く収まります」ギィィィン
勇者「がぁっ……!?」
キャプテン「ダーリンからはなれなぁ!!」ドォン!!
ゾンビ「うー!!!」ガブッ
ラミア「えーい」ギュゥゥゥ
姫「やめてください!」ポカッ
キラーマジンガ「……」
ハーピー「おのれ人形!!!」ゴォォォ
キラーマジンガ「むっ」
ハーピー「おぬしも我が主を傷つけるかぁ!!!」
キラーマジンガ「―――回避成功。次の行動に移ります」シャキン
勇者「ハーピー姉さんも側室入り確定ですからね」
ハーピー「特にうれしくないの。わらわたちを見捨てた男に見初められても」
勇者「文句は許しません」
ハーピー「よく言う」
エルフ(みんなが向こうへ行く……。ボクは……)
ドラゴン「ハーピーよ。同胞に討たれてもよいのだな?」
ハーピー「好きにしやれ。わらわは魔王様の傍にいるためなら、なんでもする」
ゾンビ「うー……」
ハーピー「魔王……」
ゾンビ「あぃしてるぅ!」
ハーピー「あっ……はぁ……」
ゾンビ「がんばろっ!」
ハーピー「おおせのままにぃ!!!」バサッバサッ!!!
姫「勇者さま、時間です」
勇者「ですね……」
ハーピー「この場から上手く逃げおおせるのか?」
勇者「さぁ、どうでしょうか」
エルフ「……」
ドラゴン「あいつ……」
キラーマジンガ「ここからの離脱は困難であると判断しますが、パパ」
勇者「理由を述べてみろ」
キラーマジンガ「ニンゲンと魔族の両勢力による包囲、更に貴方の周りには側室候補が並んでいる」
勇者「……」
キラーマジンガ「そして、貴方には弱点もある」
キャプテン「はっはー!!ダーリンに弱点なんてあるわけ―――」
キラーマジンガ「ふっ」ザッ
勇者「なっ……!!」
キラーマジンガ「―――パパはぁ、こうやって可愛い子に迫られると、実は思考ができなくなっちゃうんでしょぉ?」ウリウリ
勇者「ぬあ……!!」
姫「え……勇者さま……?」
キラーマジンガ「では、さようなら」シャキン
勇者「……!!」
キャプテン「やめ……!!」
ゾンビ「あー!!だめぇー!!!」
エルフ「風よ!!!」ゴォォ
キラーマジンガ「回避を優先します」サッ
勇者「お……?」
エルフ「……」
ドラゴン「はぁ……」
吸血鬼「あーっはっはっはっはっは!!!!これは傑作ですねぇ!!!やはりエルフはニンゲンの味方か!!!」
勇者「……」
エルフ「ボク……は……」
勇者「そこの耳性感帯ヤロウ」
エルフ「だ、だれが!!」
勇者「今の一撃で勇者を仕留められなかったのは失策だったな」
エルフ「え……」
勇者「キャプテンは姫様を!!ハーピー姉さんは魔王ちゃんを!!ラミちゃんは僕を守りながら逃げますよ!!」
ハーピー「言われなくても」バサッバサッ
エルフ「ちょっとまっ……」
指揮官「逃がすなぁ!!」
兵士「待てぇ!!」
勇者「嫌なこった!!」
キャプテン「でも、逃げるって、本当に上手くいくんだろうねぇ!?」ドォン!!
姫「勇者さまを信じましょう」
キャプテン「いや、信じてるけどもさぁ……」
エルフ(どうしたら……)
ドラゴン「どうするつもりだ?」
エルフ「え……?」
ドラゴン「はっきりしろ」
エルフ「……」
吸血鬼「魔王様、そのエルフは明らかに裏切り者。この場で極刑にしたほうがいいのでは?」
ドラゴン「……俺もそう思っている。残念だが、お前のような危険因子は置いてはおけない」
エルフ「は、い……」
ドラゴン「覚悟ありか。ならば、仕方あるまないな」
ゴーレム「おぉォォヲヲぉぉ!!!!!」ドォォォン
戦士「はっ……あっ……!?」
ゴーレム「オ、わリだ……!!!」
戦士(ここまでか……)
ゴーレム「フん!!!」
戦士(私は戦った。救ってくれた勇者のために……だから……)
ズゥゥゥゥン!!!
戦士「―――え?」
ゴーレム「オォぉぉぉ……!?!」ジタバタ
戦士「これは……落とし穴……?」
戦士(でも、どうしてこんな大きな……。明らかに魔族を落とすことを想定しているような……)
ゴーレム「オのれェェ……!!!」
戦士「……!」
戦士(そうだ。あの人たちが人間側だけの情報しか持っていないわけがない。作ろうと思えば内通者の一人や二人は簡単に……。)
戦士(きっと知っていたんだ……私たちやゴーレムがどこのルートを使うのかも……!!)
ドラゴン「行くぞ」
エルフ「……」
吸血鬼「これで憎きエルフ族を滅ぼす理由もできましたなぁ」
ドラゴン「極刑を言い渡す!!!」ブンッ
バキィィ!!
エルフ「がっ……!!!」
ドラゴン「どうだ。我が尾の威力は?」
エルフ「ごほっ……おぇ……!」
吸血鬼「魔王様、まだ息がありますよ。炎で焦がしては如何ですか?」
ドラゴン「そうだな」
勇者「―――ハーピー姉さん。エサが落ちてますよ。拾ってきてくれませんか?」
ハーピー「はいはい」バサッバサッ
ドラゴン「何のつもりだ?」
勇者「それいらないんだろ?拾ってやるよ」
エルフ「なっ……?」
ハーピー「ほれ、いくぞエルフの娘」
エルフ「いや、でも……ボクは……!!」
勇者「よっしゃー!!!今日はエルフ鍋じゃぁー!!!」
ゾンビ「うー!!」
吸血鬼「何を理由にしようともエルフがニンゲン側についたという事実は変わりませんが」
勇者「何をおっしゃいますか。これは食材ですよ。知らないのか?エルフは食べると寿命が延びるんですよ?」
ドラゴン「初耳だな」
勇者「だから、帰って食べます。こんなふうに」パクッ
エルフ「はぁぁぁ!!みみはぁ……!!」
吸血鬼「そのような屁理屈で……!!!」
勇者「あと、俺に味方することはニンゲンと魔族、両方と敵対するということ。彼女は人間の味方なんかじゃないってことは言っておきますか」
姫「それは更に立場を危うくさせてませんか?」
勇者「いいんですよ。どっちにしろエルフ族は双方から狙われている立場になります。なら、魔族から明確に追放されたという事実があるほうほうがまだ引き込みやすい」
姫「勇者様がそう言うのでしたら……」
エルフ「あっ……はぁぁ……ちからが……はいらない……」
ドラゴン「……」
吸血鬼「魔王様?」
ドラゴン「なんだ?」
吸血鬼「何故、エルフの娘を殺さなかったのです?あれでは敵に塩を送っているようにしか見えませんが……?」
ドラゴン「分かっている。―――裏切り者を即刻捕らえろ!!」
魔物「ギィィ!!!」
指揮官「姫様を奪わせるな!!我々の沽券にもかかわるぞ!!」
兵士「はいっ!!」
勇者「おーおー、息が合ってきたなぁ、両軍とも」
魔法使い「―――みんな!!」タタタッ
ゾンビ「おねぇちゃぁーん!!」
僧侶「勇者様!!ご無事ですか!?」
勇者「これはこれはマドモアゼル。この通り、ギンギンです」
魔法使い「……おかえり」
エルフ「……た、ただいま……」
ドラゴン「遂に揃ったか……」
キラーマジンガ「第二戦闘態勢に移行します」シャキン
吸血鬼「ふっふふふ!!ここでまとめて葬ってやりましょう」
ラミア「どうするのぉ?」
キャプテン「あたしの部下たちも回収しなきゃいけないんだけどさぁ……」
勇者「わかっていますよ。というか、それが出来なきゃ死ぬだけですけどね」
魔法使い「ところで、彼女はアンタのこと心配してたわよ、一応」
勇者「そうですか。やっぱり、モテる男はつらいですね」キリッ
魔法使い「アホか」
エルフ「あの……」
勇者「悪いようにはしませんよ。そうですね。鍋の具材を乗せるお皿の代わりに貴方の肉体を使いましょうか」
エルフ「なんの話!?」
勇者「女体盛りですよ。ぬほほぉ」
エルフ「もういい……」
勇者「はい」
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