シンゲキロンパ CHAPTER 03 (688)





???『すごいよヒストリア』

???『もうこんなに読めるようになるなんて』

ヒストリア『だって、おねぇちゃんが教えてくれるから』

???『あ、だめだよ。鼻水垂らしてちゃ』

???『ヒストリアはもうちょっと女の子らしくしないと』







???『はい、かんで』

ヒストリア『ふんんんんん』ズビー

???『おう』

???『はい、よくできました』







ヒストリア『ねぇ?』

???『ん?』

ヒストリア『女の子らしくって何?』

???『そーだね』

???『女の子らしくっていうのは』

???『この子みたいな女の子のことかな』







???『ヒストリアもこの子が好きでしょ?』

ヒストリア『うん』

???『いつも他の人を思いやっている優しい子だからね』

???『ヒストリアもこの子みたいになってね』

???『この世界は辛くて厳しいことばかりだから』

???『みんなから愛される人になって助け合いながら
    生きていかなきゃいけないんだよ」

ヒストリア『…うん』







ヒストリア『じゃあ私、おねぇちゃんみたいになりたい』

???『え!?』

ヒストリア『私…大きくなったら
      おねぇちゃんみたいになれるかなぁ?』

???『……』







???『いいよ!!』ガッパ

ヒストリア『わ!?』

???『いいよいいよ』

???『そのままでいいよ』

ヒストリア『うわ…』







???『ごめんね、ヒストリア』

???『もう時間になっちゃった』




コツン




???『今日も私のことは忘れてね』

???『また会う日まで』

ヒストリア『え――』







ピリ

ザッザッ




ヒストリア『あれ?』




ヒュウウウウウウウウ




ヒストリア『あの女の人…』

ヒストリア『だれ…?』











CHAPTER 03

僕と私の兵団裁判

(非)日常編







CHAPTER 03 

DAY 10




ヒストリア「…これが私の知る全て」

ヒストリア「私がここに来た理由」




アルミン(2度目の事件の翌日…)

アルミン(僕たちは全員、食堂でクリスタ…
     いや、ヒストリアの告白を聞いていた)

アルミン(ヒストリアは僕たちに全てを明かした)

アルミン(クリスタ・レンズは偽名で、
     本名はヒストリア・レイスであること)

アルミン(ウォール・シーナ北部の小さな牧場で
     孤独な幼少期を過ごしたこと)

アルミン(5年前、ウォールマリアが没落してから数日後に
     領主の名を名乗る父親が現れたこと)

アルミン(その時に目の前で母親が殺されたこと)

アルミン(自分も殺されそうになったとき、
     偽名を名乗ることを条件に見逃されたこと)

アルミン(そして、それから2年間を開拓地で過ごし、
     12歳のときに訓練兵団に志願したこと…)

ヒストリア「クリスタなら、こんな自分語りを始める前に
      昨日のことを謝るんだろうね」

ヒストリア「みんなを道連れにしようとしてごめんなさい…って」

ヒストリア「クリスタ・レンズはいい子だから」




クリスタ『違う違う違うッ!!』

サシャ『ク、クリスタ…』ガタガタ

クリスタ『一体何度言えばわかるの!?
     ユミルの計画に巻き込まれたのは私だよ!』

アルミン『違う! 巻き込まれたのはサシャだ!
     君が[ピーーー]はずだったのをサシャが殺してしまったんだ!』

クリスタ『違うッ!!』

アルミン『違わないッ!!』

クリスタ『…ッ!!』

アルミン『クリスタ、もうやめにしないか…!?』

アルミン『こんな事したって誰も救われない!』

アルミン『こんな事… ユミルもサシャも望んでない!!』



ヒストリア「でもヒストリア・レイスは、親からも誰からも
      愛されたことがなくて…」

ヒストリア「それどころか生まれたことを望まれなかった子で…」

ヒストリア「それもこの世界じゃ特に珍しくもない話で
      都の地下とかではよくあること…」




???『…お前さえ』

???『お前さえ産まなけ……』グッ



ヒストリア「…正直に言うとね」

ヒストリア「私、どう謝ればいいかわからないの」

ヒストリア「ううん、もしかすると…
      自分が悪いことをしたって思ってないのかもしれない」

ミカサ「………………」

ヒストリア「どう?」

ヒストリア「みんながっかりしたでしょ?」

ヒストリア「本当の私はこんなに空っぽで」

ヒストリア「クリスタ・レンズみたいないい子はどこにもいなくて」

コニー「そんなことねーよ」

ヒストリア「え…?」

コニー「だってよ…」

コニー「だって、お前は…
    サシャを助けようとしてくれたじゃねえか」

ヒストリア「………………」

ヒストリア「…でも、私はみんなを道連れに」

ジャン「それでオレたちが恨んでるとでも思ってたのか?」

ジャン「…まあ確かに、ちょっとはムカついたけどよ」

ジャン「あいつが抱えたモンに比べれば…
    オレたちの怒りなんてちっぽけなもんだ」





サシャ『みんなが死んで私だけが生き残るなんて…』

サシャ『そんなの絶対耐えられません』

サシャ『そんなの絶対…』

サシャ『絶対… 嫌ですから…』




ジャン「あいつは全部抱えて死んでいった」

ジャン「オレたちの怒りも、悲しみも、やるせなさも…」

ジャン「恐怖と絶望にひっくるめて全部、持って行っちまった」

ヒストリア「………………」

ジャン「お前はそんなあいつに手を差し伸べて、
    重荷を肩代わりしようとしただけじゃねえか」

ジャン「…そんなお前をどうして恨めるよ?」





サシャ『もういいんです、本当に』

サシャ『ここで私が犠牲になれば全て収まる…』

サシャ『だったらもう… それでいいじゃないですか』




アルミン「…もしもヒストリアがいなかったら、
     サシャは孤独のまま死んでいったと思う」

アルミン「ユミルの罠にはまって、訳もわからずに、
     何の心の拠りどころもなく…」

アルミン「だけど君が、最後までサシャの味方でいてくれたおかげで…」

アルミン「ほんの少しだけど、サシャは
     救いを得ることができたんじゃないかな」

ヒストリア「………………」

アルミン「だからさ、ヒストリア… うまく言えないんだけど」

アルミン「…ありがとう」

ヒストリア「………………」

ヒストリア「……いいの?」

ヒストリア「本当に… こんな私を受け入れてくれるの…?」

ベルトルト「受け入れるも何も…」

ライナー「もうとっくに受け入れてるぞ」

ライナー「俺たちは仲間なんだからな…」

ヒストリア「うっ…」









ヒストリア「うああああああああああああああああああ……!!」







アルミン(ヒストリアは泣いた)

アルミン(声を枯らして泣き続けた)

アルミン(今まで溜め続けた思いを吐き出すように…)




ヒストリア「あああああああああああああああああああ……!!」




アルミン(こうして… ユミルとサシャの裁判は幕を閉じた)

アルミン(本当の意味で…)









モノクマ「くっさーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」







アルミン「…!!」

モノクマ「くっさいよオマエラ!くさすぎだよ!」

モノクマ「ちゃんとお風呂入ってる!? ちゃんと歯磨いてる!?」

コニー「モ、モノクマ…!」

モノクマ「あらやだ、あんた目ヤニ付いてるわよ!
     ほらこっち来なさい!お母さんが取ってあげるから!」カーッ ペッ

コニー「や、やめろ!きたない!」

モノクマ「おとなしくしなさい!まったくあんたって子は!
     遅刻は問答無用で減点だって、あれほど言って聞かせたでしょ!」

ベルトルト「遅刻って… 何のこと?」

モノクマ「何のこと…だと…」

モノクマ「訓練だよ訓練!もう忘れたのかオマエラ!」




11 訓練兵達は50日間の訓練を行います。
  訓練への参加は強制ではありません。

12 訓練の総合成績が一番優秀だった者には、
  “ファイナルデッドルーム”への挑戦権が与えられます。




ジャン「…ああ、そういえばあったなそんなの」

ライナー「訓練への参加は自由なんだろう?
     とやかく言われる筋合いは無いはずだが」

モノクマ「まあ、そりゃそうなんだけどさ…
     監督教官の身としては寂しいわけですよ」

モノクマ「こっちはウキウキしながら訓練メニューとか作ってんのに、
     オマエラはサボる上にくっさい話してるし」

ジャン「くさい話だと…!?」

モノクマ「だって、そうじゃないのさ」




ジャン『な… なんだ…そりゃあ…』

クリスタ『…っ』

ジャン『お前正気かよ!? ふざけんじゃねえよ!』

ジャン『なんでオレたちが殺されなきゃならねえんだ!
    何の関係もないオレたちが…』




モノクマ「自分たちがブラウスさんの身代わりとして
     標的にされたと知ったとき…」

モノクマ「血相を変えて異を唱えたのは、
     どこのどなたでしたっけ?」

ジャン「…! あ、あれは…」

モノクマ「あれは?」

モノクマ「あれは… 何だっていうの?」

ジャン「…っ」

モノクマ「…ほらね」

モノクマ「いい加減に認めなよ。オマエラは
     己だけ助かればいいと思っている身勝手な生き物なんだ」

モノクマ「それを友情だの家族愛だの、
     ご大層なものを並べ立てて隠しているだけなんだ」

モノクマ「うぷぷ… 最初におしおきされた誰かさんが良い例だよね」




ミーナ『みんな…信じてよ!』

ミーナ『私は人類の為に!!みんなの代わりに!!』



モノクマ「『重荷を肩代わり』?『俺たちは仲間』?」

モノクマ「かーっ、やだやだ。セリフがくさすぎて吐き気がするよ…オッ」

モノクマ「オエエエエエエエエエエエエエッ!!」ビチャビチャ

ジャン「…ッ!」

モノクマ「…ボクはね、もっと自分に正直になった方がいいと思うんだ」

モノクマ「もっと素直になって、
     怒ったり憎んだりしてもいいと思うんだ」

モノクマ「…あの2人みたいにね」









ミカサ「………………」

アニ「………………」







ジャン「…!!」

モノクマ「うぷぷ… さっきはみんなが
     レイスさんを受け入れるような流れだったけど」

モノクマ「全員が全員…って訳ではなさそうだねぇ」

ミカサ「………………」

アニ「………………」

モノクマ「ま、そりゃそうだよね。レイスさんは仮にも
     【ここにいる全員を殺そうとした】訳だから…」

モノクマ「あれが当然の反応だよねー」

アルミン(僕はモノクマが示す2人を見た)

アルミン(ミカサは腕を組んで壁に寄りかかり、
     アニは頬杖をついたまま虚空を見つめている)




ミカサ「………………」

アニ「………………」




アルミン(2人ともさっきから言葉を発していない)

アルミン(そして、2人の眼差しには…
     どこか冷ややかなものがあった)

モノクマ「うぷぷぷ…」

モノクマ「そうそう、そうやって怒れよ。憎しみ合えよ」

モノクマ「言ったでしょ。オマエラはそういう生き物だって」








ミーナ『クズだよあんたらは!!』




ミーナ『認める訳ねーだろ!真っ白なんだよ私は!』




ミーナ『いい加減にしろよこのもやしが!!』








モノクマ「殺りたい放題、殺らして殺るから…」

モノクマ「殺って殺って殺って殺りまくっちゃえっつーの!!」

今日はここまで

アルミン(僕は再びミカサとアニを見た)

アルミン(2人は何も反応しない。彫刻のように動かない)

アルミン(瞳に冷たい光をたたえたまま…)




ミカサ「………………」

アニ「………………」

ジャン「お、おい、お前ら…」

ミカサ「………………」

アニ「………………」

ヒストリア「ミカサ… アニ…」

ミカサ「………………」









ミカサ「…別に怒ってない」







モノクマ「………………」

モノクマ「…は?」

ミカサ「私は別に怒ってない。憎んでもいない」

ミカサ「勝手な想像で話を進めないで」

コニー「ミカサ…?」

ミカサ「私はただ呆れていただけ」

ミカサ「的外れなモノクマの物言いに…」

モノクマ「的外れ…?」

モノクマ「いやいや… だってキミは、
     裁判のときに言っていたじゃんか」




ミカサ『ここであなたのエゴイズムに殺される訳にはいかない』




モノクマ「レイスさんがやろうとしていた事を
     真っ向から否定して…」

モノクマ「メッタメタに批判してたじゃんか!」

ミカサ「確かに言った」

モノクマ「ほらみろ!」

ミカサ「でも、私はこうも言った」




ミカサ『…世界は残酷』

ミカサ『ずっと感じていた。ここは…そんな世界の縮図だと』




ミカサ「この世界は…」

ミカサ「みんなが幸せになるようにはできていない」

ミカサ「誰かを守るためには、誰かを犠牲にしなければならない」

ミカサ「【尊重できる命には限りがある】から…」

ミカサ「ヒストリアは【尊重できる命】としてサシャを選んだ」

ミカサ「ただそれだけ」

ミカサ「私はそれを憎らしい事だとは思わない」

モノクマ「ふーん… よく言うね」

モノクマ「イェーガーくんが殺されたときは
     あんな事言ってたくせに」




ミカサ『家族がいるのはあなただけじゃない…!』

ミカサ『自分の家族を救うために、
    他人の家族を犠牲にする理はない…!!』



ミカサ「…あれはエレンが殺されたから」

ミカサ「私の【尊重できる命】を守ることができなかったから」

ミカサ「あんなに近くにいたのに、
    守ることができなかったから…」

アルミン「ミカサ…」

ミカサ「………………」

ミカサ「…今の私にはやるべき事がある」

ミカサ「ので、まだ死ぬわけにはいかない。でも…」

ミカサ「【尊重できる命】を守ろうとしたヒストリア…
    そしてユミルの気持ちもわかる」

ヒストリア「………………」

ミカサ「だから…」

ミカサ「私は2人を恨むことができない」

モノクマ「…なんだよそれ」

モノクマ「憎んでないっていうの…?
     あんなに明確な殺意を向けられたのに?」

ミカサ「………………」

アニ「………………」

モノクマ「じゃ、じゃあ…
     レオンハートさんはどうなんだよ!」

モノクマ「キミも裁判のときに言っていたじゃんか!」





アニ『サシャが殺人犯に仕立て上げられた。
   そんなの可哀想だから他の奴らが全員死ね』

アニ『あの女が言ってるのはそういう事だよ』




モノクマ「キミだって怒ってるんだろ!?」

モノクマ「レイスさんが勝手に自分たちを巻き込もうとしたから…」

モノクマ「殺したいほど憎んでるんだろ!?
     さっきから不貞腐れてるのはそういう事なんだろ!?」

アニ「………………」

アニ「…え?私?」

モノクマ「…は?」

アニ「ごめん、聞いてなかった」

アニ「眠くて…」

モノクマ「うっ…」









モノクマ「うああああああああああああああああああ……!!」







ポヨヨーン




ベルトルト「…行っちゃった」

コニー「お、おい… 大丈夫か?
    モノクマのやつスネちまってたけど…」

ジャン「ほっとけ。いい気味だぜ」

ヒストリア「あ、あの…ミカサ…」

ヒストリア「私…何て言ったらいいのか…」

ミカサ「何も言う必要はない。あなたはあなたの戦いをしただけ」

ヒストリア「………………」

ライナー「ところで、ヒストリア…」

ライナー「さっきの話なんだが…」

ヒストリア「…え?」

ライナー「お前の過去の話に出てきた人物のことだ」

ライナー「幼少期、度々お前に会いに来ていたという…」





???『すごいよヒストリア』

???『もうこんなに読めるようになるなんて』

ヒストリア『だって、おねぇちゃんが教えてくれるから』

???『あ、だめだよ。鼻水垂らしてちゃ』

???『ヒストリアはもうちょっと女の子らしくしないと』




ヒストリア「お姉さんのこと?」

ライナー「ああ…」

ヒストリア「お姉さんが…どうかした?」

ライナー「俺は思うんだがな…」









ライナー「そいつが俺たちの記憶を奪ったんじゃないのか?」







今日はここまで

今後は毎週日曜日に更新します

ヒストリア「…!?」

コニー「は…? ど、どういう事だ?」

ライナー「さっきの話を思い出してみろ」








コツン




???『今日も私のことは忘れてね』

???『また会う日まで』

ヒストリア『え――』







ライナー「その女性に会った後、お前はいつも
     そいつの事を忘れていた…」

ライナー「…そうだったな?」

ヒストリア「う、うん…」

ヒストリア「おでことおでこをくっ付けたら、
      急に頭が痺れたみたいになって…」

ヒストリア「次の瞬間には…
      その人が誰だかわからなくなってた…」

ジャン「ちょ、ちょっと待て! それってまるで…」

ベルトルト「【記憶を消された】…そう見えるよね」

ジャン「…!」

ベルトルト「その人は【記憶を消せる力】を持っていた」

ベルトルト「そして… その力を使って、
      ヒストリアの記憶を部分的に消した…」

ヒストリア「き、記憶を消したって… どうして…?」

ライナー「不都合だったからだろう」

ヒストリア「え…?」

ライナー「そいつにとっては、お前との面会は不都合な事だったんだ」

ライナー「だから、無かったことにした」

ヒストリア「無かった…ことに…?」

ライナー「何が不都合だったのかは知る由もないが…」

ライナー「それを忘れさせる為に使った【記憶を消せる力】…
     普通の人間ができる事じゃない」

アルミン「つまり、その人が【記憶を消せる力】を使って
     僕たちの記憶を無くしたっていうの?」

ライナー「ああ。もしくは、【それと同等の力を持った者】によってな」

コニー「そ、それなら…そいつが全ての黒幕なのか!?」

コニー「俺たちを拉致して記憶を奪った
    このコロシアイの【首謀者】なのか!?」

ベルトルト「…いや、それは違うと思うよ」





モノクマ『オマエラは元々、全ての記憶が無い状態だったんだよ?』

モノクマ『それを心優しいボクが保護して、
     なんとか訓練兵団入団直前の記憶まで戻してあげたってわけ』

モノクマ『つまり、オマエラの記憶を奪ったのは【別の誰か】で、
     ボクはそんなオマエラを助けてあげたの。アンダスタン?』




ベルトルト「モノクマは、記憶を奪った人間は
      【別の誰か】だって言ってたよね?」

ベルトルト「僕らを攫ったときには、すでに記憶が無い状態だったって…」

ジャン「だから、それはモノクマのウソだろ!」

ベルトルト「そうかな? 僕にはそうは思えないけど」

アルミン「…やけに確信めいた言い方をするね」

ベルトルト「…!」

アルミン「何かそう考える根拠でもあるの?」

ベルトルト「…いや、なんとなくそう思っただけだよ」

ミカサ「………………」

アニ「…ねえ、みんなちょっといい?」

コニー「…ん?」

アニ「どうでもいいけどさ…」

アニ「これからみんなで施設を探索してみない?」

ジャン「…は? 何だよいきなり…」

アニ「前にモノクマが言ってたでしょ」





モノクマ『えー、コホン…』

モノクマ『この施設では、兵団裁判を一つ乗り越えるたびに
     新しい世界が広がるようになっております!』

ベルトルト『新しい世界だって…?』

モノクマ『ほら、この施設に何ヶ所か、鍵のかかった場所があったでしょ?』




アニ「最初の兵団裁判の後…
   この施設の鍵のかかった場所に入れるようになったよね?」

ライナー「飼育小屋、ライブハウス…それに書庫か」

アニ「でも、まだ入れない場所もいくつかあった」

アニ「今回そこが…空いたんじゃないかと思ってさ」

ベルトルト「…そうか。『兵団裁判を乗り越えるたびに』という事は…」

ライナー「今回、また新しい場所が開放された可能性があるな…」

アニ「…そういう事さ」

アニ「今からちょっと見に行ってみない?」

アニ「いつまでもこんな場所で話してるよりは、気も紛れると思うけど」

ライナー「…なら、そうするか」

ライナー「話の続きはその後でもできるしな」

アニ「みんなもそれでいい?」

コニー「あ、ああ…」

ヒストリア「そうだね…」

ジャン「別に構わねえが…」

アニ「…決まりだね。じゃあ、また手分けして探しに行こうか」

今日はここまで

― 林 ―




ジャン「…わりぃ、今戻った」

ライナー「随分遅かったな。何かあったのか?」

ジャン「あ、ああ…ちょっとな」

ライナー「…? まあいい。これで全員か?」

ベルトルト「いや、ミカサがまだだよ」

コニー「何やってんだ、あいつ…もうかなり経ってるぞ」

ライナー「…仕方がない、始めるか」

ヒストリア「え? ミカサはいいの?」

ライナー「このまま待っていても埒が明かないだろう。
     こっちも暇じゃないんだからな」

アニ「………………」

ライナー「あいつには後で俺から言っておく。
     じゃあ、それぞれ報告していってくれ」

コニー「よし、俺から言うぜ」

コニー「俺が行ったのはあそこだ。
    ほら、でっけえ煙突から煙が出てたやつ」

ライナー「ああ、そこは俺も気になっていた。
     今朝になって煙を上げ始めたんだよな」

アルミン「中に入れたの?」

コニー「ああ… 中は巨大な溶鉱炉だった」

ベルトルト「溶鉱炉…?」

コニー「いやあ、あそこ汗が止まらないくらい暑くてよ…
    マジで溶けちまうかと思ったぜ」

ベルトルト「溶鉱炉って…なんでそんなものが?」

アニ「意味なんて無いよ。ここはそういう場所なんだから」

ベルトルト「そういう場所って…」

アニ「モノクマが私たちに
   コロシアイをさせる為だけに作られた場所…」
   
アニ「…ここまで言えばわかるしょ?」

ベルトルト「………………」

モノクマ「んもう、人聞き悪いなあ!」

コニー「おわっ!? また出た!」

モノクマ「まあもちろん、“そういう使い方”をしてくれても
     一向に構わない訳だけれど…」

モノクマ「あれはそもそも、その為のものじゃないよ!
     【ある物】を作り出す上で欠かせないものなんだからね!」

ライナー「【ある物】…?」

モノクマ「おっ、気になる? やっぱ気になる?」

モノクマ「でも今は教えませーん!
     どうしても知りたければ…」

モノクマ「訓練に参加しろーーっ!!」




ポヨヨーン

ジャン「…何なんだ、一体」

アニ「放っときなよ。どうせ訓練に参加させる為の口実だから」

ジャン「………………」

ライナー「…やれやれ、とんだ邪魔が入ったな」

ライナー「それじゃあ、気を取り直して、
     どんどん報告していってくれ」

ヒストリア「じゃあ、次は私から…」

ヒストリア「私はその溶鉱炉から
      ちょっとだけ離れた建物に行ってみたんだ」

ヒストリア「そこの鍵も開いててね」

ライナー「どうだった?」

ヒストリア「うーん、何だろう?
      うまく言えないんだけど…」

ヒストリア「色んな部品や機械が置いてあって…
      作業場…? いや、研究開発所みたいな…」

アルミン「何かを作る場所ってこと?」

ヒストリア「うん、そんな感じかな。
      作りかけの装置なんかも結構あったから」

アニ「私は別の建物を見てきたよ」

ベルトルト「もしかして、小高い丘の上にあった丸い屋根の?」

アニ「そうだけど… どうしてわかったの?」

ベルトルト「いや… その建物の方で
      ちらっと君の姿が見えたから…」

ライナー「鍵は開いてたのか?」

アニ「うん、中は… 観測所っていったところかな」

コニー「なんだそれ?」

アニ「気温や湿度、気圧なんかを事細かに測っているようだった。
   おまけに… 天気の予想なんかもしてたよ」

アルミン「天気の予想って…どういう事?」

アニ「そのままの意味さ。大きな黒板に色々書かれていてね。
   この日は晴れ、この日は雨って感じで…」

アニ「ちなみに、明日は【晴れ のち 曇り】だったよ」

ライナー「外の天気の事か?」

アニ「いや、この施設の中らしいけど」

コニー「…? この施設に天気なんてあんのかよ?
    一応、天井の明かりで昼と夜はあるようだけど…」

ヒストリア「うーん、その天井の明かりで
      晴れや曇りっぽくするって事なんじゃない?」
      
ヒストリア「雨は…よくわからないけど」

ライナー「ジャンはどうだった?」

ジャン「………………」

ライナー「おい、ジャン!」

ジャン「…! あ、ああ…」

ライナー「どうしたんだ、さっきから」

ジャン「な、何でもねーよ… ちょっと考え事してただけだ」

ジャン「えっと、オレが調べてきた場所についてだったな…」

ジャン「オレは…書庫に行ってきた」

コニー「書庫…? そこはもう開いてたじゃねーか」

ジャン「忘れたのか? 書庫の中には鍵のかかった扉があっただろうが」




ライナー『アニとジャンはどうだった?』

アニ『こっちも1つ解放されてたよ。
   本棚がたくさんあって、色んな書物がズラリと並んでた』

サシャ『それってもしかして…』

ジャン『ああ、書庫ってところだろうな』

ジャン『それと、その中にもう1つ扉があったんだが、
    そっちは閉鎖されてたぜ』



ライナー「あの扉が開いてたのか?」

ジャン「ああ」

ベルトルト「中は?」

ジャン「普通だよ。また本がズラリと並んでただけだった」

ジャン「あとはまあ… その奥にもう1つ
    鍵のかかった扉があったくらいだな」

コニー「ん? 扉の中にまた扉が…って事か?」

ジャン「そういう事だ」

アルミン「僕の方は収穫なしだった」

ライナー「そうか… それなら後は俺とベルトルトだな」

ヒストリア「何か見つけたの?」

ライナー「まあな」

アルミン「わざわざこの林に僕たちを集めたって事は…
     もしかして、例の石碑?」

ライナー「さすがに鋭いな。その通りだ」

アニ「………………」

ライナー「それじゃあ、さっそく見に行くとするか」

今日はここまで



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            栄誉ある戦士 ここに眠る                

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            席次5位 エレン・イェーガー


            席次不明 ミーナ・カロライナ


            席次不明 ユミル


            席次9位 サシャ・ブラウス










ジャン「…!!」

ヒストリア「また増えてる…」

アニ「………………」

コニー「この前に見たときは…
    エレンとミーナだけだったよな…?」

アルミン「………………」

ライナー「今回加わったのはユミルとサシャ…」

ライナー「やはりここには、死んだ人間の名前が記されるようだ」

ベルトルト「おまけに、名前の横にある“席次不明”と“席次9位”…」

アルミン「ライナー、現時点での僕たちの成績は?」

ライナー「そう言うと思ってな。紙に書いたものを持ってきた」

名前          PT

ミカサ・アッカーマン  10
ミーナ・カロライナ   10
アニ・レオンハート   09
ライナー・ブラウン   09
ベルトルト・フーバー  09
ユミル         09
ジャン・キルシュタイン 08
コニー・スプリンガー  08
サシャ・ブラウス    07
クリスタ・レンズ    07
アルミン・アルレルト  06
エレン・イェーガー   00

アルミン「…やっぱり一致しない」

ライナー「ああ。この通りで言ったらユミルは席次2位、
     サシャは4位になるはずだ」

ライナー「同じ点数で成績に差があるとしても、
     ユミルは3~6位、サシャは9~10位…」

ライナー「サシャは一応合うが、ユミルは合わない」

ヒストリア「エレンとミーナの順位も合わないっていうのは、
      前回の捜索でも言われてたよね…」

アルミン「………………」









ま  る  か  じ  り




席次不明

ミーナ・カロライナ 処刑執行















ト  モ  グ  イ




席次9位

サシャ・ブラウス 処刑執行







アルミン(…ミーナの時と同じだ)

アルミン(ここに記されたサシャの席次は、
     処刑の時に見たものと同じだ)

アルミン(これって…)




ヒストリア「ね、ねえ…」

ライナー「ん?」

ヒストリア「この席次っていうのが、今の私たちの成績と
      関係ないんだとしたら…」

ヒストリア「考えられる可能性は、前にライナーが言ってた…」









ライナー『俺たちが記憶を失う前の成績なんじゃないか?』








ライナー「…ああ、十分に考えられる」

ライナー「エレンとサシャの“本物の訓練兵団での成績”は
     5位と9位だった…」

ライナー「そう考えれば納得がいく」

コニー「な、なら… やっぱり今の俺たちは…」

ライナー「おそらく、モノクマの言う通り…
     その時の記憶をなくした状態なんだろうな」

ジャン「………………」

ライナー「まあ、“席次不明”については
     相変わらず分からないままだが…」

ライナー「俺たちが揃って記憶喪失だっていう話は、
     いよいよ現実味を帯びてきた」

ライナー「なにせ… ユミルが今回の事件を企てたのは、
     失われた記憶が戻ったせいだったんだからな」




アニ『モノクマは、失われた記憶を取り戻すことが
   今回の殺人の動機になると言っていた』

アニ『そして、もし…
   記憶が取り戻した人物がユミルであったのなら…』

アニ『今回の事件を企てたとしても不思議じゃない』



ベルトルト「…それにしても、信じられないよ」

ベルトルト「いくら記憶を取り戻したからって…」








モノクマ『どうしてレンズさん以外の全員を殺そうとしたんだろうね?』








ベルトルト「ユミルが… 僕たちを殺そうとしてたなんて」

アニ「ベルトルト」

ベルトルト「…!」

アニ「あれはモノクマがそう言ってるだけだから。
   何度も言わせないで」

アニ「ユミルはそんな事をするような奴じゃない」

ベルトルト「あ、ああ… 悪かったよ」

ライナー「…少し話が逸れたな」

アニ「………………」

ライナー「とりあえず、今回の捜索はここまでだ」

ライナー「一度、見つけた場所をまとめてみるか… ベルトルト」

ベルトルト「ああ、うん…」

  施設の特徴


・ 地下3メートルに巨大な鉄板?

・ 屋外をそのまま建物で囲った構造




  施設内の場所


・ 訓練所
 
・ 食堂・調理場(食糧が充実)

・ 寄宿舎(大浴場、各々の個室がある)

・ 倉庫(訓練道具、生活用品、薬品類などが充実)

・ 飼育小屋(牛、豚、羊、ニワトリ、馬などを飼育)

・ ライブハウス(演奏用のステージがある)

・ 書庫(鍵のかかった扉がある。1つは解放済み)

・ 溶鉱炉

・ 研究開発所(作りかけの装置などがある)

・ 観測所(天気の予想をしている)

・ 林(死者の名前が記された石碑がある)

・ 赤い扉(裁判場に続く昇降機への入り口)

・ 裁判場

・ その他、鍵のかかっている箇所

ベルトルト「………………」

ライナー「…ん? どうした?」

ベルトルト「あ、いや…」








ユミル『へえ…わかりやすいじゃねえか。やるもんだな、ベルトルさん』




ユミル『相変わらず見やすいな、ベルトルさん』








ベルトルト「何でもないよ」

コニー「しかし、こうして見ると…
    今回解放されたのは訳わかんねえ場所ばっかりだな」

ヒストリア「溶鉱炉に研究開発所、それに観測所だもんね…」

ジャン「………………」

アルミン「…ジャン?」

ジャン「…ん?」

アルミン「ねえ、本当にどうしたの? さっきから全然…」

ジャン「な、何でもねーって…」

ジャン「ちょっと…考え事してただけだ」

ライナー「さっきも同じような事を言っていたが…」

ライナー「何を考えていたんだ?」

ジャン「別に何だっていいだろ…」

ジャン「それより、話はこれで終わりか?
    だったらオレは寄宿舎に戻るぜ」

ライナー「おい…」

ジャン「じゃあな」




スタスタスタ

コニー「何だ? あいつ…」

アニ「………………」

ライナー「…仕方ない。俺たちも戻るとするか」

ライナー「だいぶ時間も経っているようだしな」

ベルトルト「そうだね…」

ベルトルト「続きは明日…っていう事にしようか」

今日はここまで

アルミン(その後、食堂に戻った僕たちは食事を済ませ…)

アルミン(大浴場で汗を流した後、それぞれの個室へと戻っていった)

アルミン(個室に足を踏み入れた僕は、流れるようにベッドへと倒れ込み…)

アルミン(そのまま反射的に目を閉じた)




アルミン「………………」









アルミン(そして、瞼の裏に現れたのは…)

アルミン(昨晩に見たあの光景だった)















ライナー『座標はあいつが持ってる』











アニ『…あいつって?』

ライナー『モノクマだ』

ライナー『いや、正しくは…それを操っている人間か』

アニ『………………』

ライナー『あいつの言う【巨人に関する重大なヒミツ】っていうのは
     まさに座標の事だったんだ』

ライナー『あいつは座標を使ってこの施設から巨人を遠ざけてる。
     そうとしか考えられない』







アニ『…じゃあ何? あいつが卒業したクロに
   【巨人に関する重大なヒミツ】をあげるって言ったのは…』

アニ『“【始祖の巨人】をもつ自分を食べさせてあげる”って…
   そういう意味だったって言うの?』

ライナー『…さあな』

ライナー『だが、もしその通りだとすれば…
     俺たちの求めているものがすぐ目の前にある事になる』

ベルトルト『…そんな都合のいい話、ある訳ないよ。
      仮に本当だとしても…』

ベルトルト『こんなに手の込んだコロシアイを計画する人間が、
      簡単に【始祖の巨人】を手放すとは思えない』
      
ベルトルト『あれにはそれくらいの価値があるんだ』








ライナー『…なら、お前はこの状況をどう考えるんだ?』

ベルトルト『もしかしてだけど…
      ここは【楽園】の外なんじゃないかな?』

アニ『…【楽園】の外?』

ベルトルト『要するに、僕たちは今パラディ島にいるんじゃなくて…』

ベルトルト『大陸側にいるんじゃないか?それも敵国の…』







ライナー『…何だと?』

ベルトルト『大陸側なら、そもそも巨人がいないんだから、
      その脅威に晒されることもない』

ベルトルト『だけど、ここが僕たちの祖国であるマーレなら、
      僕たちを監禁する理由がない』

ベルトルト『つまり、ここは敵国…
      僕はこれが濃厚なんじゃないかと思う』







ライナー『…それならなぜ、パラディ島に潜入した俺たちが
     敵国に囚われているんだ?』

ライナー『なぜ俺たちだけじゃなく、
     あいつらまで捕まっているんだ?』

ベルトルト『それは… わからないけど』

ベルトルト『僕たちが記憶を失った数年間に、
      何かがあった…のかもしれない』

ライナー『………………』







ライナー『…アニ、お前はどう思う?』

アニ『…え?』

ライナー『お前はこの状況を、どう考える?』

アニ『………………』

アニ『私は…』







ライナー『…まあいい』

ライナー『とにかく、お前たちも気を付けろ』

ライナー『相変わらず状況はよくわからないままだが、
     1つだけ確実に言えるのは…』

ライナー『あいつは俺たちの敵だっていう事だ。
     もちろん、ここにいる連中もな』

アニ『………………』







ライナー『最悪の場合、俺の【鎧】やお前らの【超大型】、
     【女型】が狙われる可能性もある』

ライナー『いいか、絶対に気を抜くなよ?』

ライナー『いざとなれば…巨人化して対抗することも考えておけ』



◆ モノクマげきじょう ◆




モノクマ「ここは宇宙船の中。
     みなさまは宇宙を旅している最中なのです」

モノクマ「ノアの方舟をご存知ですか?
     そうです、我らは地球を捨て飛び去っているのです」

モノクマ「頭のおかしい隣人や、警察の横暴、
     酔っ払い運転や放火魔の危険性はありません」

モノクマ「排気ガスや、大気汚染が引き起こすぜんそくの心配も
     もういりません」

モノクマ「もちろん、受験や競争に悩まされる事もないでしょう」

モノクマ「ただ、自由で素晴らしい世界にもルールはあります。
     自由というのはルールで縛られた上で存在するのです」

モノクマ「もし、あなたが、あんなクソどうでもいい地球に
     どうしても戻りたいと、そう仰るのであれば…」

モノクマ「…ルールを守ってください。
     私の言っている意味はおわかりになるでしょう?」

モノクマ「では…秩序はみなさまと共に…」









「キーン、コーン… カーン、コーン」




モノクマ『オマエラ、おはようございます!
     朝です、7時になりました! 起床時間ですよ~!』

モノクマ『さぁて、今日も張り切っていきましょう~!』







CHAPTER 03 

DAY 11




アルミン(朝か…)




アルミン「………………」




アルミン(あの夜の光景が頭から離れない)

アルミン(あれは一体…)

今日はここまで

来週はお休みします

― 寄宿舎 ―




ヒストリア「おはよう」

アルミン「…おはよう、ヒストリア」

ヒストリア「…大丈夫? ひどい顔だけど…」

アルミン「ああ、うん… あんまり眠れなくてさ…」

アニ「おはよう」

アルミン「…!!」

アニ「?」

アルミン「…あっ…ああ… おはよう…ございます」

アニ「…ございます?」

アルミン「い、いや…その… おはよう」

アニ「………………」

ヒストリア「…ねえ、本当に大丈夫?
      具合が悪いなら寝てた方が…」

アルミン「う、ううん… 大丈夫…」

アルミン「問題ないよ…」

ヒストリア「………………」

アニ「…大丈夫なら早く行こうよ、2人とも」

― 食堂 ―




アルミン(食堂では、すでに他のメンバーが朝食をとっていた)




ライナー「………………」

ベルトルト「………………」

ジャン「………………」

コニー「………………」




アルミン(彼らはちらりと僕らを見ただけで、
     すぐに目の前の食事へと目を戻した)

アルミン(がらんと広い空間に、カチャカチャと食器の音だけが響いている)

アニ「…やっぱり、みんな疲れが出てるね」

アルミン「………………」




アルミン(無理もない)

アルミン(たったの10日足らずで、悲惨な事件が立て続けに起きて…)

アルミン(仲間が4人も死んだんだ)

アルミン(僕だって、正気を保っているのがやっとなくらいで…)









ライナー『座標はあいつが持ってる』







ヒストリア「…アルミン?」

アルミン「えっ…!?」

ヒストリア「アルミン、やっぱり様子が変だよ」

ヒストリア「うっすらと汗もかいてるし…
      部屋で休んだ方がいいって」

アルミン「い、いや、そんな事ないよ。
     本当に大丈夫だから…」

アニ「…どうだか」

アルミン「えっ…」

アニ「今朝のあんたは明らかにおかしいよ」

アニ「まるで… 私たちに隠し事でもしてるみたいにさ」

アルミン「か、隠し事って…!」









うわあっ!!


ガッシャーン







アルミン「…!?」

ジャン「な、なんだ…!?」

ヒストリア「今の声は…!」

アニ「…!」

ライナー「ベルトルト…!」

今日はここまで

― 調理場 ―




ベルトルト「痛っ…!」

ライナー「おい!どうした!」

ヒストリア「大丈夫!?」

ベルトルト「う、うん、なんとか…」

アニ「…何があったの?」

ベルトルト「いや、ちょっと床で滑って転んじゃって…」

ジャン「って、何だこりゃ… 床がびしょ濡れじゃねえか」

コニー「あっ、わりい… それ俺がこぼした水だ」

アニ「…何で拭いておかないのさ」

コニー「いや、水なら放っておいても乾くと思って…」

ジャン「お前な…」

ヒストリア「怪我はない?」

ベルトルト「ああ、うん… ちょっと頭をぶつけたみたいだけど」

ライナー「頭を? どこに?」

ベルトルト「えっと、多分あれ…」

ベルトルト「だと…」

アルミン(ベルトルトの顔が凍り付く)

アルミン(その視線を追った僕たちの顔からも、一斉に血の気が引いた)




ライナー「…!」

ヒストリア「ねえ、あれって…」




アルミン(僕たち全員の視線の先には…)

アルミン(倒れて曲がった“物体X”の姿があった)





6 “物体X”の破壊を禁じます。




コニー「な、なあ… これってマズいんじゃ…」

コニー「今ので壊れちまったとしたら、ベルトルトが…」

ライナー「馬鹿を言うな! そもそも、こうなった原因は
     お前にあるだろう!」

コニー「俺が悪いってのか!?」

アニ「…そりゃそうでしょ」

コニー「ど、どうすりゃいいんだ!? このままじゃ…」

モノクマ「エクストリーーーーーーーム!」

アルミン「…!!」

コニー「うわああああああああああ!?クマが出たあああああああ!」

モノクマ「だからさぁ…クマじゃなくて…」

モノクマ「モノクマなんですけど!しかも、監督教官…って、あれ?」

ライナー「モノクマ…!!」

モノクマ「はいはい、モノクマですよ。
     どったのみんな? 青ざめた顔しちゃって」

ベルトルト「い、いや… これは…」

モノクマ「何だか、すべって転んで“物体X”に当たっちゃった
     どうしようみたいな顔してるけど… どったの?」

ベルトルト「…!!」

アニ「…見てたんだね」

モノクマ「うん、見てたよ。っていうか、この施設において
     ボクに見えないものはほぼ無いからね」

ベルトルト「な、なら… これは…」

モノクマ「ああ、安心していいよ。壊れてないから」

コニー「ほ、本当か!?」

モノクマ「うん、でも気を付けてね。
     これは角度が命なんだから」

ライナー「それなら、規則違反はしていないから
     お咎めは無し…って事でいいんだな?」

モノクマ「まあね」

ベルトルト「ほうっ…」

ヒストリア「よかったね… 2人とも」

コニー「あ、ああ… マジで殺されるかと思ったぜ…」

ジャン「…お前はもう少し反省しろよな」

コニー「ああ、すまん… 次から飲み物は
    こぼしても分かりやすいミルクにするか」

アニ「…そういう問題じゃないでしょ」

モノクマ「ていうかさ…」









モノクマ「どうして誰も“物体X”のこと聞かないの?」







ライナー「………………」

ベルトルト「………………」

ヒストリア「…え?」

モノクマ「いやほら、“物体X”なんてよく分からない言い方されたら
     気になるものじゃない? ふつう」

モノクマ「それなのに、今の今まで誰1人として
     それを聞きに来ないのは何故なのかなあ…と思って」

ジャン「別に… 聞く必要がないからだろ。
    ご丁寧に『物体X』なんて張り紙も貼ってあるじゃねえか」

ヒストリア「これが“物体X”だって事はみんな認識してたし…」

モノクマ「いやいや、ボクが言ってるのは
     【どれが“物体X”なのか】じゃなくて…」

モノクマ「【“物体X”とは何なのか】って事だよ」

モノクマ「みんなその辺り気にならないのかなあ…なんて」

コニー「それは…」

モノクマ「それは?」

コニー「そ、それは…」

コニー「………………」

コニー「あ、あれ…?」

コニー「そういや… なんでだ…?」

モノクマ「あー、わかった」

モノクマ「怖いんでしょ?」

コニー「は…?」

モノクマ「聞くのが怖いんじゃない?」

モノクマ「きっとそうだよ。オマエラは怖がってるんだ。
     【“物体X”とは何なのか】って聞くのを」

コニー「こ、怖がってる…?」

モノクマ「うん、まあ無理もないよね。
     オマエラの境遇を考えればさ…」

ライナー「…どういう事だ」

モノクマ「うぷぷ…」

ライナー「お前… 一体何を知ってる」




モノクマ『オマエラは元々、全ての記憶が無い状態だったんだよ?』

モノクマ『それを心優しいボクが保護して、
     なんとか訓練兵団入団直前の記憶まで戻してあげたってわけ』




ライナー「お前が俺たちを保護したという話と…
     何か関係があるのか?」

モノクマ「さあね。訓練に参加しないオマエラには教えませーん」

モノクマ「でも、これだけは言っておくよ」

モノクマ「この施設にいる限り、オマエラの安全は保証されてるんだ」

モノクマ「たとえオマエラがどんな人間であっても…」

モノクマ「ルールを守る限り、ボクがオマエラを守ってあげるよ」

モノクマ「そう、【ルールを守る限り】は…」

ジャン「ふ、ふざけんなよ…」

ジャン「何が守るだ…!」








エレン『おい…ミーナ…』




ミーナ『イヤだぁぁぁぁぁぁああああぁぁぁぁあああ!!』




ユミル『……ウ……ァ……』




サシャ『ん゛ん゛ん゛ん゛んんんんんんんん~~~~!!!!』








ジャン「オレたちに…殺し合いをさせておいて…!」

モノクマ「それはそれ、これはこれ」

モノクマ「前にも言ったでしょ? これはギブ&テイクだって」




モノクマ『オマエラをここまで助けてやったんだから、
     少しくらいボクのわがままを聞いてくれたっていいでしょ?』

モノクマ『ボクの道楽に付き合ってくれたっていいでしょ?』




ジャン「…ッ!」

モノクマ「というわけで、ボクはこれで失礼するね。
     どうぞ良きコロシアイライフを」

モノクマ「そしてその為には、ルールの順守を」

モノクマ「では…秩序はみなさまと共に…」




ポヨヨーン

アルミン(モノクマはそう言って、僕らの前から姿を消した)




ジャン「クソがッ!!」




ガンッ




アニ「…物に当たらないでよ」

ジャン「うるせえ!」

アルミン「ジャン!」

ジャン「…っ!」

ジャン「…部屋に戻る」




スタスタスタ




ライナー「おい!待て!」

ヒストリア「ジャン!」

ベルトルト「………………」

コニー「ああ、クソッ! なんでこうなるんだよ!」

アルミン(そうして、しばらく佇んでいた僕たちだったが…)




コニー「…俺も戻る」

ヒストリア「私も…」




アルミン(1人、また1人と調理場から姿を消した)

アルミン(重苦しい沈黙を残して…)

アニ「…私たちも戻ろう」

アルミン「………………」

アニ「…アルミン?」

アルミン「えっ…!? ああ、うん…」

アルミン「そうだね…」

アニ「………………」

― アルミンの個室 ―




アルミン(個室に戻った僕は、流れるようにベッドへと倒れこんだ)




アルミン「はぁっ…」




アルミン(自然とついた溜息が震えている)

アルミン(まだ起きて間もないのに、信じられないほど気だるい)





ジャン『オレたちに…殺し合いをさせておいて…!』




アルミン(ジャンの言った事は僕も感じていた)

アルミン(本当なら僕だって、あの場でモノクマに
     怒りをぶつけていたかもしれない)

アルミン(あの言葉を聞くまでは…)









モノクマ『たとえオマエラがどんな人間であっても…』







アルミン(モノクマは何か知っているのか?)

アルミン(あの3人の事を…)




ライナー『最悪の場合、俺の【鎧】やお前らの【超大型】、
     【女型】が狙われる可能性もある』

ライナー『いいか、絶対に気を抜くなよ?』

ライナー『いざとなれば…巨人化して対抗することも考えておけ』




アルミン(鎧、超大型、巨人化… 確かに言っていた)

アルミン(僕らの故郷を襲ったのは、超大型巨人と鎧の巨人…)

アルミン(いや、まさかそんな…)

コンコン




アルミン「…!!」




コンコン




アルミン「だ、誰…!?」

アニ「アニだよ」

アルミン「アニ…!?」

ガチャ




アルミン「な、何か用…?」

アニ「………………」

アルミン「どうしたの…?」

アニ「…今、時間ある?」

アルミン「え…?」

アニ「ちょっと一緒に来てくれない?」

今日はここまで

― 観測所 ―




アルミン(アニに連れて来られたのは、予想外の場所だった)




アルミン「ここって、今回開放された…」

アニ「そう、観測所」




アルミン(アニはそう言って室内を見上げた)

アルミン(天井は半球状になっていて、
     大きな天窓が備え付けられている)
     
アルミン(中でも目を引いたのが、天窓に向かって伸びる
     巨大な筒状の物体…)

アルミン「あれって何だろう」

アニ「望遠鏡らしいよ。星を見るための」

アルミン「ほ、星を…?」

アニ「嫌味っていうか、悪趣味だよね。
   モノクマの性格がよく出てる」

アルミン「………………」



DAY 11  晴れ のち 曇り

DAY 12  曇り

DAY 13  曇り

DAY 14  晴れ のち 曇り

DAY 15  晴れ

DAY 16  曇り

DAY 17  曇り

アルミン(次に目が留まったのが、部屋の隅に置かれた黒板だった)



アルミン「あれってもしかして、昨日アニが言ってた…」

アニ「…そう、天気の予報さ。
   7日間分を書き出してるらしいよ」

アニ「今日はこの生活が始まって11日目だから、
   【晴れ のち 曇り】だね」

アルミン「…これって、この施設の中の天気なんだよね?
     意味あるのかな、天気なんて」

アニ「…さあ、私に聞かれてもね」

アルミン(そう言ったきり、アニは黙り込んだ)

アルミン(僕は慌てて次の話題を探す)




アルミン「そういえば、今回開放された場所って行ってみた?
     ここ以外で…」

アニ「行ってないよ。そのうち見てみようとは思ってるけど」

アルミン「そっか…」

アルミン(再び会話が途切れる)

アルミン(訪れる沈黙が苦しくて、僕はアニを横目で見た)




アニ「………………」




アルミン(僕をここまで連れてきたアニは、
     全く本題に入ろうとしない)

アルミン(かく言う僕も、なかなか切り出せずにいた)

アルミン(聞きたい事があるはずなのに…)





アニ『…じゃあ何? あいつが卒業したクロに
   【巨人に関する重大なヒミツ】をあげるって言ったのは…』

アニ『“【始祖の巨人】をもつ自分を食べさせてあげる”って…
   そういう意味だったって言うの?』




アルミン(…聞くなら今だ)

アルミン(アニに連れ出されたときから固めていた決意を
     僕は再び自分に言い聞かせた)

アルミン(だけど…)




ドクン




アルミン(喉まで出かかった言葉は、再び体の奥に押し戻されてしまう)

アルミン(自分の中の何かが、聞くのを必死に止めようとしている)

アルミン(僕はなんとなく予感していた)

アルミン(この事を聞いてしまえば、もう後には戻れない)

アルミン(すごく聞きたいのに…聞きたくない)




ドクン




アルミン(…くそっ、しっかりしろ)

アルミン(昨日は平静を保てていたじゃないか…)

アルミン(何度目かの葛藤の後、ようやく口を開きかけたときだった)




アニ「アルミン」

アルミン「えっ…!?」

アニ「あんたは気付いた?」

アニ「昨日、食堂でヒストリアが語った事…」

アルミン「…?」

アニ「あいつはね、ウォール・マリアが破壊された時期を…」

アニ「“5年前”って言ったんだよ」

アルミン「えっ…」





アルミン⦅ヒストリアは僕たちに全てを明かした⦆

アルミン⦅クリスタ・レンズは偽名で、
     本名はヒストリア・レイスであること⦆

アルミン⦅ウォール・シーナ北部の小さな牧場で
     孤独な幼少期を過ごしたこと⦆

アルミン⦅5年前、ウォールマリアが没落してから数日後に
     領主の名を名乗る父親が現れたこと⦆




アルミン「…!!」

アニ「私たちが訓練兵団に志願したのは、
   ウォール・マリアが堕ちてから2年後だよね?」

アニ「モノクマの言うように、そこから数年間の記憶が
   抜け落ちているとしても…」

アニ「どうしてあいつは… はっきりと“5年前”だなんて
   言えたんだろうね」

今日はここまで

アルミン(確かにそうだ…)

アルミン(モノクマは、僕らの記憶が欠落しているのは
     “数年間”としか言っていない)

アルミン(それを考えれば、ウォール・マリアが堕ちたのが
     何年前かなんて、はっきりとは言えないはずだ…)




アルミン「もし、ヒストリアの言う通り、ウォール・マリア襲撃が
     “5年前”の出来事だとしたら…」

アルミン「僕たちの記憶が抜け落ちている期間は
     3年って事になるよね…」

アニ「………………」

アルミン「確か、従来の訓練兵団での訓練期間も
     3年くらいだったはずだから…」

アルミン「僕たちは、訓練兵団での記憶を丸ごと消されていて、
     ヒストリアはその失われた記憶を取り戻してる…?」

アニ「そう決めつけるのはまだ早いんじゃない?」

アルミン「え…?」

アニ「私は、ヒストリアが“5年前”って言ったのは
   無意識的だったんじゃないかと思ってる」

アルミン「無意識的って…どういう事?」

アニ「つまり、ヒストリアは消された3年分の記憶を
   取り戻しつつあるけど…」

アニ「…本人はそれに気付いていないって事さ」

アニ「知らず知らずのうちに、無くした記憶の一部分を
   口走ってしまったんじゃないか…ってね」

アルミン「うーん… そうなのかな?
     あれだけの発言で考えるにはちょっと…」

アニ「根拠は他にもあるよ」

アルミン「え…?」

アニ「だって、ヒストリアがあの発言をしたとき…
   誰も“5年前”っていう言葉に口を挟まなかったじゃない」

アルミン「…!」

アニ「あんただってそうでしょ?」

アニ「今私に言われて気付いたみたいだけど、あのときは
   “5年前”って聞いて何の違和感もなかったんでしょ?」

アルミン「…確かに、あのとき僕は何も思わなかったけど」

アルミン「他の人たちはわからないよ。単に聞き逃しただけか、
     違和感に気付いていながら敢えて口にしなかった可能性も…」

アニ「私はそうは思ってない」

アルミン「………………」

アニ「アルミン、ここまで言えばわかるでしょ?」

アニ「記憶が戻り始めてるのはヒストリアだけじゃない…
   あんたら全員が、失われた記憶を思い出しつつあるんだよ」

アルミン(ドキリとした)

アルミン(失われた記憶…)

アルミン(モノクマではない【別の誰か】によって奪われたという、
     僕たちの過去…)




アニ「…私が心配してるのは、記憶を取り戻したことによる
   新たなコロシアイさ」

アニ「ユミルは記憶が戻ったせいであんな凶行に走ったんだ。
   私たちの中で、また同じような事が起こらないとも限らない」

アニ「もうあんな悲劇を繰り返すわけにはいかないんだよ。
   何か先手を打たないと…」

アルミン(アニは珍しく焦っているようだった)

アルミン(いつもはあまり表情を見せない彼女だが、
     今は眉間にしわを寄せて考え込んでいる)




アルミン「…今日僕を呼んだのは、その打開策について相談するため?」

アニ「そう。あんたなら、何かいい考えを
   出してくれるんじゃないかと思ってね」

アルミン「…気持ちは嬉しいけど、正直どうすればいいのかわからないよ」

アルミン「失った記憶の中身がわからない以上は、対策も何も…」

アニ「…そう、わかった」

アルミン「ごめん、力になれなくて」

アニ「それなら、これだけは聞かせて」









アニ「あんたはどこまで思い出してる?」







アルミン「え…?」

アニ「この生活が始まってから、あんたは何か思い出さなかった?」

アニ「見覚えのない光景が突然脳裏に現れるような…
   そんな体験をしなかった?」

アルミン「…!!」

アニ「ねえ、アルミン… 教えて」

アニ「あんたはどこまで思い出してる?」

アルミン「どこまで…って」

アニ「………………」

アルミン「そんなこと言われても…」

アルミン「僕は…」









アルミン「…っ!!」











???『おい… 何をする気だ!?』

???『やめろ!!』

???『ごめん… でも…』

???『もう耐えられない…』



アルミン「ううっ…!」




アルミン(今のは…!?)




アルミン「…っ」

アルミン「………………」




アルミン(…あれ?)

アルミン(アニがいない…?)

今日はここまで

― 書庫 ―




アルミン(いなくなったアニを探していた僕は、
     書庫にたどり着いた)

アルミン(第2の事件の前、アニがここで
     本を読んでいたのを思い出したのだ)




アルミン『ア、アニ!?』

アニ『…何をそんなに驚いてるの』

アルミン『い、いや…』

アニ『…私が本を読んでるのがそんなに意外?』

アルミン『そ、そうじゃなくて…
     てっきり誰もいないと思ってたから…』



アルミン「あの時はあそこにいたんだけどな…」




アルミン(僕は書庫の一角… 以前アニが立っていた
     本棚の前に目をやった)

アルミン(書庫の中に人気はなく、ひっそりと静まり返っている)




アルミン「ここじゃないのか…」




アルミン(僕は思わずため息をついた)

アルミン(急にいなくなるなんて… 一体どこに行ったんだよ)

アルミン(諦めて踵を返そうとしたとき…)

アルミン(僕はふと、ある事を思い出して足を止めた)




ジャン『えっと、オレが調べてきた場所についてだったな…』

ジャン『オレは…書庫に行ってきた』

コニー『書庫…? そこはもう開いてたじゃねーか』

ジャン『忘れたのか? 書庫の中には鍵のかかった扉があっただろうが』



アルミン(そういえば…)

アルミン(この書庫の中にも、開放された扉があったんだっけ…)




ライナー『あの扉が開いてたのか?』

ジャン『ああ』

ベルトルト『中は?』

ジャン『普通だよ。また本がズラリと並んでただけだった』



アルミン(僕は再び書庫に向き直り、奥へと向かって歩いた)

アルミン(ぎっしりと詰まった本棚が立ち並ぶ、本の森…)

アルミン(その森の最深部… ちょうど本棚の陰になっている箇所に、
     ひっそりと佇む扉があった)




アルミン「…まさか、この中に?」




アルミン(…ないとは言えない)

アルミン(僕はしばらく迷った後、意を決して扉を開けた)

ガチャッ




アルミン「…えっ?」

ジャン「…ッ!?」




ガコン




アルミン「…ジャン?」

今日はここまで

アルミン(扉の中にいたのは、予想外の人物だった)




ジャン「ア、アルミン…!? なんでここに!?」

アルミン「それはこっちの台詞なんだけど…」

ジャン「…っ!?」

アルミン「僕はアニを探してるんだ。ここには来なかった?」

ジャン「き、来てねえよ! この扉が開放されてからは、
    オレの知る限り他の奴らは一度も…」

アルミン「…えっ?」

ジャン「…っ! と、とにかく、アニは来てねえ!
    探すなら他を当たれ!」

アルミン(他を当たれって言われても…)




アルミン「ジャンはここで何をやってたの?」

ジャン「な、何って… 本だよ、本!
    ここにはそれ以外ないだろ!」

アルミン「本…」




アルミン(僕は辺りを見回した)

アルミン(さっきまでの部屋と同様、この空間も
     所狭しと本棚が並べられている)

アルミン(ただ違うのは… さっきよりも
     かなり埃っぽいという事だろうか)

アルミン「何の本を読んでたの?」

ジャン「なっ… 何のって…」

アルミン「いや、本ならさっきの場所にもあったから…
     ここにはもっと違う種類のものがあるのかなって」

ジャン「…っ!!」

アルミン「ねえ、一体何の…」

ジャン「し、知らねえ!
    オレが何を読もうと勝手だろうが!」




タッタッタッ

バタン

アルミン(ジャンはそのまま部屋から出て行ってしまった)




アルミン「…?」




アルミン(ジャン… 一体どうしたんだろう)

アルミン(なんだか昨日から様子がおかしかったけど…)

アルミン(1人取り残された僕は、
     ジャンのいた場所まで歩いていき…)

アルミン(近くの本棚を調べ始めた)




アルミン「…これか」




アルミン(ジャンが読んでいた本はすぐに見つかった)

アルミン(他の本はかなりの埃を被っているのに対し、
     その本だけは綺麗に取り払われていたのだ)

アルミン(加えて、その本がある位置には、
     埃の上に何回も取り出したような跡がついていた)









ガチャッ




アルミン『…えっ?』

ジャン『…ッ!?』




ガコン








アルミン(僕に気付いたジャンは、
     その本を慌てて本棚に押し戻していた)

アルミン(あの動揺っぷり…
     そんなにすごい事が書かれているのか?)

アルミン(僕は本棚に手を伸ばし、その本を手に取った)

アルミン(かなり古い本なのだろう。表紙は風化し、
     中の紙束は酷く黄ばんでしまっている)




アルミン「………………」




アルミン(僕は、なぜか高鳴り始めた己の心臓を意識しながら…)

アルミン(ゆっくりと、表紙をめくって読み始めた――――)









九つの巨人















「キーン、コーン… カーン、コーン」




モノクマ『えー、施設内放送でーす』

モノクマ『えまーじぇんしー、えまーじぇんしー!』

モノクマ『オマエラ訓練兵諸君は、至急、
     訓練所にお集まりくださーい!』







今日はここまで

― 訓練所 ―




アルミン(訓練所には既に他のメンバーが集まっていた)

アルミン(僕が探していたアニは
     まだ来ていないようだったけど…)




アルミン「ミカサ!」

ミカサ「アルミン」

アルミン「今までどこに行ってたの!?
     昨日の探索から急にいなくなって…」

ミカサ「心配させてごめん。私は大丈夫」

ライナー「私は大丈夫… か」

ミカサ「………………」

ライナー「お前… 本当にどこにいたんだ?
     探索を放り出してまで行くような所なのか?」

ミカサ「あなたに干渉される筋合いはない」

ライナー「………………」

アニ「おまたせ」

アルミン「…!」

コニー「おっ、アニも来たな。これで全員か?」

ベルトルト「そうみたいだね」

ジャン「おい、モノクマ! 来てやったぞ!
    さっさと姿を現しやがれ!」

~♪
~♪


~~♪
~~♪


~~~~♪
~~~~♪




ポヨヨーン




アルミン(いつもの軽快な音楽が鳴り響く)

アルミン(だけど、そこには…)

アニ「………………」

ベルトルト「………………」

ヒストリア「…あれ?」

ミカサ「………………」

コニー「モノクマのやつ… いねーぞ?」

アルミン(いつもとは違う展開に戸惑う僕たち)

アルミン(その後しばらく待っても、モノクマが現れることはなかった)




コニー「な、なあ… これってどういう事だ?」

ベルトルト「………………」

ヒストリア「何かあったのかな…?」

ライナー「さあな。本人が来ないなら確かめようもない」

アニ「………………」

ライナー「解散するぞ。時間の無駄だ」

アルミン(僕たちがその場から立ち去ろうとした時だった)




モノクマ「どういう事ですか!? 説明してください!」

モノクマ「ですから、詳しい話はこの後の会見で…」




アルミン(後方から、モノクマが早足に近づいてきた)

アルミン(1人でせわしなく動き回りながら…)

ベルトルト「あれは… モノクマ?」

ライナー「そうみたいだが… 何をやっているんだ?」




モノクマ「その話は聞いていません!
     いつわかった事なのですか!?」

モノクマ「つい先ほどです。この度も急遽、
     私の不倫会見を取りやめてこちらの説明に…」

モノクマ「不倫会見はやらないという事ですか!?」

モノクマ「またそうやって逃げるおつもりですか!?」

モノクマ「どうかご容赦ください。
     人類の存続に関わる事ですので…」

アルミン(時にはうつむき加減で歩き、時には横でメモを取りながら
     モノクマがこちらに向かってくる)

アルミン(どうやら、1人で何人もの人物を演じているらしい)




ジャン「…また茶番かよ」

アニ「………………」




アルミン(モノクマの小芝居に呆れながらも、
     僕たちにはただ見守ることしかできない)

アルミン(モノクマはそのまま演技を続けながら、
     いつもの檀上に上がっていった)

モノクマ「定刻になりました。ただいまより、
     訓練兵団主催の緊急記者会見を開催いたします」

モノクマ「なお、この度予定されていたモノクマ氏による
     不倫会見は後日に延期いたしますので、ご了承ください」

モノクマ「では、まず監督教官の同氏から、
     今回の速報を受けてご説明をお願いします」

モノクマ「はい、皆様、この度は
     お集まり頂きありがとうございます」

モノクマ「今から2時間ほど前、訓練兵団監査チームによる
     調査結果報告が上がりましたので、お知らせいたします」









モノクマ「【裏切り者】の正体が判明いたしました」







今日はここまで

パシャッ パシャッ パシャッ パシャッ




モノクマ「どういう事ですか!? 【裏切り者】の正体とは!?」

モノクマ「そのままの意味です。我々訓練兵団はかねてより、
     訓練兵として紛れ込んだ【裏切り者】の正体を探っておりました」

モノクマ「今回、その調査が身を結び、誰が【裏切り者】なのかが
     分かった…という事でございます」





モノクマ『ネタばらしするとさぁ、
     実はオマエラの中には【裏切り者】がいるんだよ』

コニー『は…?』

モノクマ『そして仮にその【裏切り者】が1位を勝ち取った場合…』

モノクマ『【自分だけここから出たい】とか【自分以外を処刑してほしい】とか、
     そんな事言うかもしれないよねー!』




モノクマ「誰なのですか!? その【裏切り者】とは!?」

モノクマ「お答えしましょう。【裏切り者】の正体は…」









モノクマ「ライナー・ブラウンとベルトルト・フーバーです」







ライナー「なっ…!?」

ベルトルト「…!!」




パシャッ パシャッ パシャッ パシャッ




モノクマ「ライナーとベルトルト…!?」

モノクマ「【裏切り者】は1人ではなかったという事ですか!?」

モノクマ「はい。誠に遺憾ながら、我々訓練兵団は
     複数名の【裏切り者】の侵入を許してしまっておりました」

モノクマ「そして、何を隠そう、あの2人こそ…」









モノクマ「超大型巨人と鎧の巨人の正体なのです」







今日はここまで

アニ「………………」

ヒストリア「…え?」




パシャッ パシャッ パシャッ パシャッ




モノクマ「なんと!? あの2人の正体が巨人!?」

モノクマ「しかも、人類の仇そのものである
     超大型巨人と鎧の巨人ですと…!?」

モノクマ「驚かれるのも無理はないでしょう。
     私自身、未だに信じられない思いですので」

モノクマ「しかし、事実なのです。人が巨人に変わることも、
     あの2人が多くの人を殺めたことも…」









モノクマ「それらは全部、本当のことでーす!!」







アルミン(僕たちは身動きが取れなかった)

アルミン(あまりにも唐突な、衝撃の告白…)

アルミン(僕たちはただ、ゲラゲラと笑う
     モノクマを見ることしかできなかった)




モノクマ「ぶっひゃっひゃっひゃっひゃっ!!」

モノクマ「あー、言っちゃった! ついに言っちゃった!」

モノクマ「“人類史上最大最悪の絶望的事件”の一端…
     その根幹とも言える絶望的な事実を…」

モノクマ「ついに言っちゃったーー!!」

アルミン(モノクマはもう小芝居をやめていた)

アルミン(唖然とする僕たちが可笑しくてたまらないというように、
     腹をかかえて笑い転げている)




モノクマ「ぶっひゃっひゃっひゃっひゃっ!!」

モノクマ「ねぇねぇ、今どんな気持ち?」

モノクマ「仲間だと思っていた人間が
     実は人類の仇だったと知って…」

モノクマ「今どんな気持ち!?」

コニー「い、いや… どんな気持ちっつーか…」

コニー「いくら何でもブッ飛び過ぎだろ…
    作り話するなら、もうちょっとそれっぽく…」

モノクマ「うぷぷ… ほら、よく言うじゃない。
     “事実は小説より奇なり”って」

モノクマ「事実っていうのはね、それが事実であればあるほど、
     にわかには信じがたい内容なんだよ」

ヒストリア「だ、だからって…
      そんな話、信じられる訳が…」

モノクマ「そう? ここにいる大半の人は
     思い当たる節があるみたいだけど」





ライナー「………………」

ベルトルト「………………」

アニ「………………」

アルミン「………………」

ジャン「………………」




コニー「…お、おい、どうしたんだよお前ら?」

ヒストリア「な、なんで… 何も言わないの…?」

ジャン「…モノクマの言ってる事は、たぶん、正しい」

ヒストリア「え…?」

ジャン「憶えてるか? 昨日の捜索で、オレは
    書庫の中にあった扉が開いていたのを見つけたんだ」




ジャン『えっと、オレが調べてきた場所についてだったな…』

ジャン『オレは…書庫に行ってきた』

コニー『書庫…? そこはもう開いてたじゃねーか』

ジャン『忘れたのか? 書庫の中には鍵のかかった扉があっただろうが』



ヒストリア「う、うん… 確か、その扉の中も
      ずらりと本が並んでたって…」

ジャン「そうだ。オレはそこで“ある本”に目が留まって、
    捜索の間ずっと読みふけっていた」

ジャン「アルミン… 今お前が後ろ手に持っている本にな」

アルミン「…!!」

ジャン「お前も読んだんだろ、それ」

アルミン「…うん」

ジャン「みんなに見せてやれ」

今日はここまで









九つの巨人







ヒストリア「九つの…巨人…?」

コニー「ずいぶんと古臭い本だな…
    これがどうしたっていうんだ?」

アルミン「この本には、その、何ていうか…
     僕らの常識を超えた内容が記されていたんだ」

アルミン「そう、まるでモノクマの言うような…」









モノクマ『【巨人に関する重大なヒミツ】をプレゼントしまーす!!』








アルミン「【巨人に関する重大なヒミツ】…
     そう呼べるような内容がね」

ヒストリア「えっ…?」

アニ「………………」

アルミン「…読んだ方が早いと思う。見てみて」









これは、ある人物の証言をもとに著者がまとめた回想録の一部である――――











1800年以上前、大地の悪魔はユミル・フリッツという名の少女と契約し、
彼女に『始祖の巨人』の力を与えた。

これがすべての巨人の始まりである。

巨人の力を得たユミル・フリッツは、道や橋を造るなど大陸の発展に大きく
貢献した。彼女の死後、『始祖の巨人』は『九つの巨人』に魂を分けられ、
これを継承した彼女の子孫たちは巨人の力によって広大な帝国を築き上げる。

子孫たちはユミルの民、帝国はエルディア帝国と呼ばれ――――



コニー「…は?」

ヒストリア「ユ、ユミル…!? ユミルってまさか…」

アルミン「…いや、ここに書かれているのは
     僕らの知ってるユミルとは別人だと思う」

ヒストリア「え…?」

アルミン「記述によれば、ユミルは死んでることになってるし…
     そもそもこれは、1800年以上も前の話だからね」

アルミン「…まあ、だからって無関係とも思えないけど」

ミカサ「………………」

アルミン「僕が見て欲しいのはそこじゃないんだ。
     ちょっとページを飛ばすよ…」

今日はここまで





この章では、『始祖の巨人』から魂を分けられた『九つの巨人』について紹介する。

序章で述べた通り、エルディア帝国が世界で権勢を振るっていた時代、
『九つの巨人』はエルディア王家を含めた各名家に代々継承されてきた。

まずは、各巨人の通称と特徴を以下に述べる。







① 始祖の巨人

全ての巨人の頂点に立つ存在。
魂を分けた後も、その大元は代々王家に継承されていた。
エルディア帝国壊滅後は、フリッツ王と共にパラディ島へと逃れている。


② 女型の巨人

汎用性に優れた巨人。
高い機動力と持続力に加え、硬質化能力も併せ持つ。
範囲は狭いが『無垢の巨人』を呼び寄せることができる。


③ 鎧の巨人

硬質化に特化した巨人。
全身を覆う皮膚は常に硬質化しており、盾としての機能を果たす。
その硬さを利用した突進攻撃も破壊力に優れる。


④ 顎の巨人

強襲型の巨人。
小ぶりな分、『九つの巨人』の中でも素早さはトップクラスである。
強力な爪と顎で大抵の物は砕くことができる。


⑤ 獣の巨人

濃い体毛に覆われた大型の巨人。
これといった特性のない巨人だったが、ジーク・イェーガーの継承によって
驚異的な能力を開花させる。詳細は次章にて述べる。


⑥ 車力の巨人

四足歩行型の巨人。
並外れた持続力をもち、長期間の巨人化を可能とする。
用途に合わせた兵装が可能で、軍事作戦の幅を大きく広げることができる。


⑦ 超大型巨人

60m級の超大型巨人。
その巨体ゆえに動きは遅いが、桁違いの破壊力を有する。
全身から発する高温の蒸気は攻撃、牽制、目眩ましなど汎用性が高い。


⑧ 戦槌の巨人

マーレの英雄へーロスと共にエルディア帝国を滅ぼしたとされる
タイバー家の有する巨人。その詳細は謎に包まれている。



ヒストリア「…!」

コニー「お、おい… 鎧の巨人と超大型巨人って…」

アルミン「うん… ウォール・マリアを破壊したあの2体の巨人だよ」

アルミン「ここに書いてある巨人の特徴と絵が… 完全に一致してる」

ミカサ「…ねえ、アルミン、
    『九つの巨人』というのは9体いるのでしょう?」

ミカサ「ここには8体分の記述しかないけど、9体目は?」

アルミン「それが… わからないんだ。
     このページだけ下の方が破られてて…」

ミカサ「………………」

コニー「え、えーっと… つまりこれって…
    どういう事だ…?」

ヒストリア「この『九つの巨人』のうちの2体が
      ウォール・マリアを壊しにやって来たって事だよね…?」

ライナー「………………」

ベルトルト「………………」

ヒストリア「というか、ここに書かれている内容って…」









ヒストリア「まるで、巨人の正体が人間だと言っているような…」







モノクマ「うぷぷ… そういう事」

モノクマ「超大型巨人と鎧の巨人って、何もない場所から突然現れたんでしょ?」

モノクマ「それから、壁の中では一番強度の低い門の部分を破壊したんでしょ?」

モノクマ「そして、逃げ惑う人たちには目もくれず、
     その場で急に消えちゃったんでしょ?」

モノクマ「つまり、そういう事だよ」

コニー「どういう事だよ!?」

モノクマ「彼らは他の巨人たちとは違うって事さ」

モノクマ「知性を有し、なりたい時に巨人になって、
     なりたくない時には巨人じゃなくなる」

モノクマ「それが彼ら… 『九つの巨人』なんだよ」

ライナー「………………」

ベルトルト「………………」

モノクマ「じゃあ、あとは好きにしちゃってちょーだいな。
     煮るなり焼くなり、好きにしちゃってちょーだいな」

アニ「………………」

モノクマ「…あ、そうだ。忘れるところだった」

モノクマ「ついでと言っちゃなんだけど、ここでオマエラの
     訓練成績の中間発表をしておくね」

ヒストリア「ちゅ、中間発表…?」

モノクマ「現時点でのオマエラの成績は、こうなってまーす!」

名前          PT

ミカサ・アッカーマン  1690
ミーナ・カロライナ   10
アニ・レオンハート   00
ライナー・ブラウン   00
ベルトルト・フーバー  00
ユミル         00
ジャン・キルシュタイン 00
コニー・スプリンガー  00
サシャ・ブラウス    00
ヒストリア・レイス   00
アルミン・アルレルト  00
エレン・イェーガー   00

アルミン「…!!」

ジャン「なっ…!?」

アニ「………………」

ヒストリア「…えっ?」

モノクマ「それではみなさま、素敵なコロシアイ生活を」

モノクマ「うぷぷぷぷ…」









モノクマ「アーッハッハッハッハッハッハッハッハッハ!!」







今日はここまで

ポヨヨーン




アルミン(耳障りな高笑いと共に、モノクマは姿を消した)

アルミン(後に残されたのは…)




ジャン「おい、ミカサ!」

ミカサ「………………」

ジャン「お前… これはどういう事だよ!?」





ユミル『訓練は自由参加だったはずだ。
    サボったからってペナルティはねえよ』

クリスタ『で、でも…全員はさすがに…』

ユミル『全員でサボるからこそ意味があるんだよ。
    これなら【裏切り者】に出し抜かれる心配もないしな』




ジャン「訓練で出し抜くのはなしだって…
    みんなで示し合わせてたじゃねえか!」

ミカサ「そんな約束をした覚えはない」

ジャン「なっ…!!」

ミカサ「そんな事よりも、今はもっと確認すべき事があるはずだけど」

アルミン(ミカサはそう言ってちらりと目を流す)

アルミン(その視線の先を追ったジャンは、ギュッと歯を噛みしめた)




ジャン「…ああ、そうだったな」

ライナー「………………」

ベルトルト「………………」

ジャン「どういう事なのか… 説明してもらおうじゃねえか」

ライナー「…説明?」

ジャン「とぼけるんじゃねえよ!」

ジャン「元々怪しいと思ってたんだ!
    お前らだけ入団式以前の記憶がないとか言ってたよなぁ!?」




ライナー『改めて説明させてもらうと、こういう事だ』

ライナー『みんなには入団式直前までの記憶があるようだが、
     俺たち2人に限ってはそうじゃなかった』

ライナー『自分の名前と必要最低限の知識…それしか残されていなかった』

ライナー『話を聞いてるうちに思い出してきた部分もあるが、
     それでもぼんやりとしかわからない』

ライナー『ミーナは家族の為に殺人を犯したと言っていた。
     だが俺たちは…家族の名前すら思い出せない』



ジャン「おまけに、最初にそれを知ったアルミンに
    口止めまでしてたって!?」




アルミン『そうなんだ…僕はてっきり、
     二人は古くからの友人だと思っていたんだけど』

ライナー『…信じられねえのはわかる。
     だから俺たちも言い出せなかった』

ライナー『特に【裏切り者】の存在が示唆された今…
     真っ先に怪しまれるのは俺たちだろうからな』




ベルトルト『…ねえアルミン、
      虫のいい頼みだっていうのは承知してる。だけど…』

アルミン『…わかってる。この件は誰にも言わないよ』

ライナー『…すまねえな』



ライナー「あの話は嘘じゃない」

ジャン「あぁ!?」

ライナー「俺たちには本当に記憶がなかった」

ライナー「アルミンに口止めをした理由も、あの状況では
     俺たちが真っ先に疑われると思ったからだ」

ライナー「…その事はすでに話しているだろう」

ジャン「あの時とは状況が違うだろうが!お前らは名指しされたんだぞ!?
    お前ら2人が【裏切り者】だって事を!」

ライナー「逆に聞きたいんだが、どうしてモノクマの言う事を
     そう簡単に信じるんだ?」

ライナー「人間が巨人になるなんて…
     突拍子もない話だとは思わないのか?」

アニ「…ライナーの言う通りだよ」

ジャン「…!」

アニ「ジャン、もう少し冷静になりなよ」

アニ「あんたがライナー達を疑ってるのって、
   その本を読んだからなんでしょ?」

アニ「でも、そこには…」

ジャン「んな事ぁわかってんだよ!!」

アニ「…!!」

ジャン「オレだってわかってんだよ!
    突拍子もない話だって事くらい!」

ジャン「こんな話を簡単に信じちまってる自分も
    どうかしてるって思ってる!」

ジャン「でもよ… じゃあこれはどう説明するんだ!?」

ジャン「自分の中にあるこの激しい感情は…
    どう説明するっていうんだよ!?」

今日はここまで

ジャン「オレがその本で、人間が巨人になる事を知ったとき…」

ジャン「真っ先に浮かんだのは、お前ら2人の顔だった…!」

ライナー「………………」

ベルトルト「………………」

ジャン「何故かはわからねえ… でもよ…」

ジャン「オレの中の“何か”がずっと訴えかけてくるんだよ!
    あいつらはオレたちの…人類の敵だってな!」

ジャン「なあ… お前らは一体何なんだよ!?」

ジャン「自分たちが巨人である事を隠して、オレたちの仲間ヅラして…」

ジャン「楽しかったか!? 被害者たちの哀れな姿を眺めるのは!」

アニ「ジャン…」

ジャン「わかってんのかよお前ら!? 自分たちが一体何をしたのか!」

ジャン「お前らはな… 最低最悪の大量殺人鬼なんだよ!!」

アルミン「ジャン!!」

ジャン「…!!」

アルミン「ジャン… 落ち着いてよ」

アルミン「まだそうと決まったわけじゃないから…」

ジャン「…ッ」

ライナー「…潮時だな」

アニ「…!」

ベルトルト「ラ、ライナー…?」

コニー「し、潮時って… どういう事だ?
    自分たちが【裏切り者】だって認めるのか?」

ライナー「そうじゃない。お前たちと行動できるのは
     ここまでって意味だ」

ヒストリア「ど、どういう事…?」

ライナー「俺たちが【裏切り者】であろうがなかろうが、
     そんなのはどうでもいい…」

ライナー「そういう強い疑念が生まれてしまった以上、
     もう今までの関係に戻る事は不可能だろう」

ライナー「今後俺たちは、2人だけで行動する。
     お前たちとの接触も必要最低限に留める」

ライナー「…その方が安心だろう」

アニ「ちょっと待ってよ、ライナー。
   それじゃモノクマの思う壺…」

ライナー「わかってる。だが、今はこれが最善だ」

ライナー「このまま俺たちがここにいたら、
     新たな争いの火種になりかねない」

ライナー「行くぞ、ベルトルト」

ベルトルト「ラ、ライナー!待ってくれ!」




スタスタスタ




ヒストリア「ちょ、ちょっと待って!」

コニー「お、おい! 本当にそれでいいのかよ!?」

ミカサ「………………」





スタスタスタ




ライナー「…言っただろう、これが最善だと」

ベルトルト「………………」

ライナー「俺たちは… 俺たちのやり方でケリをつける」

今日はここまで

アルミン(こうして、ライナーとベルトルトは
     僕たちのもとから去っていった)

アルミン(残された僕たちは、しばらくその場に留まっていたが…)

アルミン(あたりが暗くなり始めると、夕食を摂るために
     食堂へ向かった)




アルミン「………………」

ミカサ「………………」

ジャン「………………」

コニー「………………」

アニ「………………」

ヒストリア「………………」




アルミン(誰も何も話さない)

アルミン(ふと見ると、みんなの顔には
     ひどい疲れの色が表れていた)

アルミン(重苦しい食事を済ませた後…)

アルミン(僕たちは大浴場で汗を流し、それぞれの個室へと戻っていった)




アルミン「………………」




アルミン(天井を見ながら思考を巡らせる)

アルミン(僕の中にあったのは、言いようのない不安と混乱と…)

アルミン(とてつもなく大きな疑問)

アルミン(あの2人が【裏切り者】だとしたら…)

アルミン(アニは?)




ライナー『最悪の場合、俺の【鎧】やお前らの【超大型】、
     【女型】が狙われる可能性もある』

ライナー『いいか、絶対に気を抜くなよ?』

ライナー『いざとなれば…巨人化して対抗することも考えておけ』




② 女型の巨人

汎用性に優れた巨人。
高い機動力と持続力に加え、硬質化能力も併せ持つ。
範囲は狭いが『無垢の巨人』を呼び寄せることができる。



アルミン(…とても偶然とは思えない)

アルミン(もし、アニもライナー達の一味だとしたら…)

アルミン(どうしてあの時、モノクマに名指しされなかったんだ…?)




アルミン「………………」




アルミン(人類の仇… 【裏切り者】…)

アルミン(何だろう… 何か引っかかる…)

アルミン(何か…)

◆ モノクマげきじょう ◆




モノクマ「……………」

モノクマ「何見てんだよ。オマエラ…誰だよ」

モノクマ「どうせ「まだコロシアイが起きないのー?」
     「早く誰か死ねよー」とか思ってんだろ?」

モノクマ「まったく、悪趣味だね」

モノクマ「でも、同感だよ」

モノクマ「あー、早く誰か死なないかなー」

モノクマ「ホント、ひとの生き死にって見せ物として最高だよねー」

モノクマ「命をなんだと思ってるって言うヤツもいるけど、
     別に命に価値なんてないんだよ」

モノクマ「どうせ死んだらすぐに忘れられるし、
     代わりなんていくらでもいるしね」

モノクマ「そういう意味ではデスゲームの死人は幸せだと思うよ」
     
モノクマ「死をネタにされるだけでも幸せなんだよ」

モノクマ「うぷぷ…つぎは誰にどんな幸せが訪れるのかな?」

モノクマ「ワックワクのドッキドキだよねー」









「キーン、コーン… カーン、コーン」




モノクマ『オマエラ、おはようございます!
     朝です、7時になりました! 起床時間ですよ~!』

モノクマ『さぁて、今日も張り切っていきましょう~!』







今日はここまで

CHAPTER 03 

DAY 12




アルミン(翌朝、僕たちは食堂で朝食を摂っていた)

アルミン(同じテーブルにいるのは、コニー、ヒストリア、そしてアニ…)




コニー「…他の奴らはどうした?」モグモグ

ヒストリア「ライナーとベルトルトはともかく…
      ミカサとジャンもいないね」

アニ「…ミカサは訓練でしょ。ジャンは知らないけど」

コニー「訓練か… 今までちょいちょい居なくなってたけど、
    まさかそういう事だったとはなあ…」モグモグ

ヒストリア「………………」

コニー「………………」モグモグ

ヒストリア「…ねえ」

コニー「…うん?」ゴックン

ヒストリア「大丈夫なのかな、訓練…
      このままだとミカサが1位になっちゃうけど…」

コニー「別にいいんじゃねーか? 結局【裏切り者】は
    ライナーとベルトルトって事になったんだし…」

コニー「【裏切り者】が1位を取る心配が無くなったんだから、
    むしろ俺は安心してるけどな」

アニ「…本当にそう思ってるの?」

コニー「…え?」

アニ「本当に… あいつら2人が【裏切り者】だと思ってるの?」

コニー「ど、どういう意味だよ…
    だって、モノクマがそう言ってたじゃねーか」

アニ「ライナーも言ってたけど、どうしてモノクマの言う事を
   そう簡単に信じるの?」

アニ「これはどう考えても、私たちにコロシアイをさせるための口実…」

アニ「つまりは動機だよ」

コニー「………………」

アニ「あいつの口車に乗せられてどうするのさ…」

アルミン「………………」

ヒストリア「…アルミン、どうしたの?
      さっきから黙り込んでるけど…」

アルミン「………………」

アルミン「…やっぱりおかしいよ」

ヒストリア「…え?」

アルミン「昨日からずっと考えていたんだ…
     どうしてモノクマは【裏切り者】の正体を明かしたんだろうって」

ヒストリア「それは… 今アニが言ったように、
      私たちにコロシアイをさせるためじゃ…」

アルミン「もちろんそれはあるだろうけど、
     それでも腑に落ちない点がいくつかあるんだ」

アルミン「まず、ライナーとベルトルトが
     本当に【裏切り者】だったとして…」

アルミン「それをあの場で明かす意味って、
     あんまりないと思うんだよね」

アルミン「だって、正体を明かしちゃったら…
     もう【裏切り者】としては機能しなくなっちゃうから」

ヒストリア「だから、それはコロシアイを…」

アルミン「僕たちにコロシアイをさせるためだったら、
     正直に【裏切り者】を明かす必要はないんだよ」

アルミン「僕がモノクマだったら、全く別の人物の名前を言うと思う」

アルミン「真の【裏切り者】の正体は言わずに…」

ヒストリア「…えっ?」

コニー「…?」

アニ「………………」

アルミン「………………」

ヒストリア「そ、それってつまり…」









ヒストリア「あの2人以外に真の【裏切り者】がいるってこと…?」







今日はここまで

アルミン「…そう考えればしっくりくるんだ」

アルミン「そもそも、【裏切り者】っていうのは
     モノクマ側の人間を指すんだろうけど…」

アルミン「あの2人は… モノクマと
     敵対しているようにしか見えなかった」

アニ「………………」

アルミン「つまり、ライナーとベルトルトは
     【裏切り者】なんかじゃなくて…」

アルミン「【裏切り者】の濡れ衣を
     着せられただけなんじゃないかな」

アルミン「真の【裏切り者】の存在を隠すために…」

コニー「…? え、えーっと…」

アルミン「…モノクマにとっては一石二鳥の作戦だよ」

アルミン「真の【裏切り者】の存在を
     僕らの目から遠ざけられる上に…」

アルミン「僕たちを疑心暗鬼にさせ、仲間割れさせる事で、
     コロシアイが起きやすい状況を作り上げる…」

アルミン「…今の状況のようにね」

ヒストリア「そ、そんな… それじゃあ、私たちは…」

ヒストリア「まんまとモノクマの策略に乗せられてたって事…?」

アニ「…だから、最初からそう言ってるでしょ」

アニ「あんなに凝った小道具まで作って…
   本当に悪趣味なやつだよ」

コニー「こ、小道具…?」

アニ「どこかの誰かが大騒ぎしてた例の本さ」









九つの巨人







コニー「ま、まさか… あれもモノクマが仕組んだってのか?」

アニ「…他に誰がやるのさ」

コニー「…!!」

アニ「あんなデタラメを真に受けた誰かさんが
   大声で喚き散らしたおかげで…」

アニ「何の関係もないライナーとベルトルトは
   私たちから孤立してしまった」

アルミン「………………」

アニ「まったく… もう少し冷静に考えて行動してほしいね」

カチャ




アニ「…ごちそうさま」

コニー「ん? まだ半分くらい残ってるじゃねえか」

アニ「あんまりお腹減ってなくて」

ヒストリア「大丈夫?」

アニ「いつものことだよ。私、朝は弱いから」

アルミン「………………」

アニ「じゃあね」

― 訓練所 ―




アルミン「アニ!」

アニ「…アルミン?」

アルミン「はあ……はあ……」

アニ「どうしたの? まだ朝食食べてたでしょ?」

アルミン「…追いかけてきたんだ、アニを」

アルミン「これからどこに行くの?」

アニ「ライナーとベルトルトのところだよ。
   無茶してないか心配だからね」

アルミン「………………」

アニ「…何? 何か言いたそうな顔だけど」

アルミン「…いや、別に」

アニ「…まあいいや。私もあんたに聞きたい事があったんだよね」

アルミン「…聞きたい事?」

アニ「さっき食堂でしてた話だけど…
   あんた、肝心な事を話してなかったよね」

アルミン「…え?」

アニ「真の【裏切り者】は誰なのか…って事だよ」

アルミン「………………」

アニ「もし、あんたの言う通り、ライナーとベルトルトが
   【裏切り者】の汚名を着せられただけで…」

アニ「真の【裏切り者】が他にいるとしたら…
   それは誰だと思ってるの?」

アルミン「………………」

アニ「何の考えも無しに、あんな話をした訳じゃないんでしょ?」

アルミン「………………」

アルミン「真の【裏切り者】は…」









アルミン「アニじゃないかと思ってる」







今日はここまで

アニ「………………」

アニ「…私?」

アルミン「………………」

アニ「私が真の【裏切り者】だって… そう言ってるの?」

アニ「私がモノクマと通じてるって…?」

アルミン「…うん」

アニ「………………」

アニ「…あはっ」

アニ「あはははははははははははははははっ!!」

アルミン「…!?」

アニ「すごいねアルミン… あんたって奴は」

アニ「まさかここまでとは思わなかったよ…」

アルミン「アニ、それじゃあ…」

アニ「まったく… 傷つくよ」

アルミン「…!」

アニ「一体… いつから」

アニ「アルミン… あんたは私を
   そんな目で見るようになったの?」

アルミン「……3日前の夜」

アニ「…え?」

アルミン「見たんだ、僕…」

アルミン「君が、ライナーとベルトルトと…」

アルミン「訓練所の隅で話しているのを…」





ライナー『最悪の場合、俺の【鎧】やお前らの【超大型】、
     【女型】が狙われる可能性もある』

ライナー『いいか、絶対に気を抜くなよ?』

ライナー『いざとなれば…巨人化して対抗することも考えておけ』



アニ「………………」

アニ「…そう、あれを聞いたんだ」

アルミン「…うん」

アニ「………………」

アルミン「安心して。この事はまだ誰にも話してないから」

アニ「…それで、望みは何?」

アルミン「…え?」

アニ「私を脅しに来たんでしょ? 何をしてほしいの?」

アルミン「いや、そういう訳じゃなくて…」

アニ「じゃあ、この場でその話を打ち明けた理由は何?」

アルミン「それは…」

アニ「………………」

ガッ




アルミン「…!!」

アニ「あんたさぁ… 一体どういうつもり?」

アニ「あの場面を盗み見て、私を脅すでもなく
   ノコノコとこの場にやって来て…」

アニ「馬鹿なの? 口封じに殺されるとは思わなかった?」

アルミン「ア、アニは… そんな事しないだろ…!」

アニ「あんたに私の何がわかるの?
   出会って10日くらいしか経ってないのに…」

アニ「私がそんなに良い人に見えた?」

アルミン「い、良い人…?」

アルミン「そ、その言い方は… あまり好きじゃない…」

アニ「…え?」

アルミン「だって、それって…」

アルミン「自分にとって都合の良い人のことを…
     そう呼んでいるだけじゃないか…!」

アニ「…っ!」





アルミン『良い人か…』

アルミン『それは… その言い方は僕はあまり好きじゃないんだ』

アルミン『だってそれって… 自分にとって都合の良い人のことを
     そう呼んでいるだけのような気がするから』

アニ『……』

アルミン『すべての人にとって都合の良い人なんていないと思う』

アルミン『誰かの役に立っても他の誰かにとっては
     悪い人になっているかもしれないし…』

アルミン『だから… アニがこの話に乗ってくれなかったら…』











アルミン『アニは僕にとって悪い人になるね…』







ドサッ




アルミン「うっ… ゲホッ! ゲホッ!」

アニ「………………」

アルミン「アニ… 僕はただ…」

アルミン「君の力になりたいだけなんだ…」

アルミン「良い人でも悪い人でもなく… 1人の仲間として…」

アニ「………………」

アニ「……もう少し早く言ってほしかったよ」

アルミン「…え?」

アニ「…何でもない」

アニ「とにかく、アルミン… あんたの気持ちはよくわかった」

アニ「だけど、これはあくまで私たちの問題だから…
   あんたの力を借りるわけにはいかない」

アニ「気持ちだけ受け取っておくよ」

ギュッ…




アルミン「…!? ちょ、ちょっ… アニ…!?」

アニ「――――――」

アルミン「…!!」

アニ「アルミン… おかげで少し気が楽になったよ」

アニ「ありがとう…」

アルミン「う、うん…」

バッ




アニ「………………」

アルミン「………………」

アニ「…ごめんね、急に抱き着いたりして」

アルミン「い、いや、別に…」

アニ「じゃあ、また」

今日はここまで

― 大浴場 ―




アニ「…来たね」

アルミン「………………」

アニ「尾けられてない?」

アルミン「大丈夫…だと思う」

アニ「…そう」

アルミン(アニと訓練所で別れた後、僕は大浴場に来ていた)

アルミン(彼女と再び話をするために…)




アニ『1時間後に大浴場に来て。そこで全て話す』




アルミン(訓練所で僕に抱き着いたアニは、耳元でそう囁いた)

アルミン(僕はその言葉を信じて、アニに従ったのだ)

アルミン「…でも、どうして場所を変えたの?」

アニ「あそこだと誰の目があるかわからないからね。
   誰かさんにも秘密の会話を聞かれたし」

アルミン「だからって、なんで大浴場に…」

アニ「この時間に風呂に入るやつなんていないでしょ」

アルミン「………………」

アニ「…さて、本題に入ろうか」




アルミン(アニはそう言うと、ゆっくりと歩み寄ってきた)

アルミン(下を向いて息を吐き、意を決したように僕の目をのぞき込む)




アニ「…はじめに聞かせてほしいんだけど」

アルミン「…?」

アニ「訓練所であんたが言った言葉… あれは本心?」





アルミン『アニ… 僕はただ…』

アルミン『君の力になりたいだけなんだ…』

アルミン『良い人でも悪い人でもなく… 1人の仲間として…』




アルミン「…うん、本心だよ」

アニ「本当に私の力になってくれるの?」

アルミン「うん」

アニ「これから私が打ち明ける話を聞いても?」

アルミン「それは…」

アニ「………………」

アルミン「…話の内容によるかな」

アニ「…それもそうだね」

アルミン(アニは少しだけ笑って下を向いた)




アニ「………………」




アルミン(それからしばらく、アニは何も話さなかった)

アルミン(伏目になり、髪を耳にかける動作を何回も繰り返している)




アルミン「………………」




アルミン(僕はただ黙って、アニの言葉を待った)

アニ「………………」

アニ「…結論から言うね」

アルミン「………………」

アニ「結論から言うと… 
   あんたの予想は半分当たってて、半分外れてる」

アルミン「半分…?」

アニ「当たってる方の半分は… あんたが盗み聞きした会話のこと」





ライナー『最悪の場合、俺の【鎧】やお前らの【超大型】、
     【女型】が狙われる可能性もある』

ライナー『いいか、絶対に気を抜くなよ?』

ライナー『いざとなれば…巨人化して対抗することも考えておけ』



アルミン「それじゃあ…!」

アニ「…そう」

アニ「私の正体は女型の巨人…」

アニ「ライナーとベルトルトと一緒に壁を襲撃して…」

アニ「大勢の人たちの命を奪った」

今日はここまで

アルミン「…!!」

アニ「………………」

アルミン「『ライナーとベルトルトと一緒に』って事は…」

アニ「…そう、ライナーは鎧の巨人で、ベルトルトは超大型巨人」

アニ「だから、モノクマの言っている事は事実なんだ」

アルミン「だ、だけど… あの時の襲撃に女型の巨人なんて…」

アニ「…忘れた? あの本に書かれていた女型の巨人の説明」




② 女型の巨人

汎用性に優れた巨人。
高い機動力と持続力に加え、硬質化能力も併せ持つ。
範囲は狭いが『無垢の巨人』を呼び寄せることができる。




アニ「女型の巨人は『無垢の巨人』…
   つまり九つの巨人以外の巨人たちを呼び寄せることができる」

アニ「私はその能力を使って、島の巨人たちを引き付けながら
   壁に近づいた」

アニ「そして壁に到達すると… ライナーとベルトルトが
   壁を破壊して、その騒動に紛れる形で壁内に潜入した」

アルミン「じゃあ、あの本に書かれている内容も…」

アニ「事実さ。少なくとも、私の知見とは【完全に一致してる】」

アルミン「それなら、僕たちは…」

アニ「パラディ島に逃れたエルディア人の子孫さ」

アニ「そして、私たち3人は、その中に潜む【始祖の巨人】を
   奪還するために送り込まれたマーレという国の戦士…」

アニ「…大陸側に残ったエルディア人の末裔なんだよ」

アルミン「………………」

アニ「…あの本はどこまで読んだの?」

アルミン「大体は目を通したよ」

アルミン「だから、エルディアとかマーレとかパラディ島とか…
     それらの名前が何を指しているかくらいはわかってる」

アルミン「アニたちが【始祖の巨人】を取り戻そうとしている理由も、
     巨人の力を所有するマーレの国力を確固たるものにするため…だよね」

アニ「…すごいね、アルミン。ただでさえ突飛な内容なのに、
   もうそこまで読み取ったの?」

アルミン「うん… でも、何ていうか… 現実味がないんだよね」

アルミン「まるで、おとぎ話を読んでいるみたいで…」

今日はここまで

アニ「……現実味がない、か」

アルミン「…え?」

アニ「…いや、無理もないよ」

アニ「結局、私たちは箱の中の猫だからね。
   箱を開けてみなければ、その中の猫の生死はわからない」

アニ「…いや、もしかすると、はじめから
   箱の中に猫なんていないのかもしれない」

アニ「それがわかるのは、箱を開けた人間だけ…」

アルミン「…アニ?」

アニ「…ああ、ごめん。話が逸れたね」

アルミン「………………」

アニ「とにかく… 今の私に言えるのはこれだけだよ」

アニ「あの本の内容は真実で、私たち3人の正体は巨人…」

アニ「あんたらは、かつてフリッツ王と共にパラディ島へと逃れた
   エルディア人の子孫で、世界中の憎まれ者…」

アニ「私たちは、フリッツ王と袂を分かち、かつてエルディア人が犯した
   罪を償うためにマーレに残ったエルディア人の末裔…」

アニ「私たち3人は、その贖罪の一環として
   【始祖の巨人】を取り戻すために送り込まれたマーレの戦士…」

アニ「…わかる? あんたらにとっては
   私たちが【裏切り者】に見えるだろうけど…」

アニ「私たちにとっては… あんたらこそが【裏切り者】なんだよ。
   少なくとも、私たちは大人からそう教わった」

アニ「立場によって誰が【裏切り者】なのかは変わるんだ」

アニ「…それだけは忘れないで」

アルミン「………………」

アニ「…でも、立場の是非について
   今ここで議論するつもりはないよ」

アニ「今はもっと話さなきゃいけない事がある…」

アニ「私たちにとっても、あんたらにとっても…
   想定外の事が起きているからね」

アルミン「…それって、ここでの生活のこと?」

アニ「…そう。その事に関しては、私たちもあんたらも状況は同じ」

アニ「同じ入団式で急に意識を失って、
   気が付いたらこの施設に閉じ込めれていて…」

アニ「モノクマを名乗る何者かに殺し合いを強要されている」

アニ「…これが外れてる方の半分」

アニ「私がモノクマと通じてるっていう、あんたの予想」

アルミン「………………」

アニ「私は真の【裏切り者】なんかじゃない」

アニ「あんたらと同じ… この監禁事件の被害者なんだよ」

アルミン「でも、それならどうして…
     アニはモノクマに名指しされなかったの?」

アルミン「君もあの2人と同じなのにどうして…」








モノクマ『ライナー・ブラウンとベルトルト・フーバーです』







アニ「おそらくだけど… あいつは
   私たち3人の仲間割れを狙ったんだと思う」

アルミン「えっ…?」

アニ「今あんたが言ったことは、
   ライナーとベルトルトも感じていたんじゃないか…ってね」

アニ「あの2人から直接聞いたり言われたりした訳じゃないけど…」

アニ「…あの一件以来、どうにも避けられているような気がするんだ」

アルミン「避けられているって… アニが?
     ライナーとベルトルトに?」

アニ「…そう」

アニ「あんたが覗き見したあの日から… 私たちは毎晩、
   こっそり集まって話し合いをしていたんだ」

アニ「…まあ、毎晩と言ってもまだ2回しかやってないけどね」

アニ「昨日の夜に3回目をやるはずだったんだけど…
   私にはお声が掛からなかったんだ」

アニ「モノクマがあいつらを【裏切り者】として
   名指ししたのが昨日…」

アニ「…私には、あの一件で
   あいつらの心境に変化が生じたとしか思えない」

アニ「“なぜ自分たちだけが名指しされて、
   同じ『九つの巨人』を持つアニの名が呼ばれなかったのか…”」

アニ「“もしかして、アニはモノクマと通じているんじゃないか…”」

アニ「…そんな疑念を抱いたとしか思えないんだ」

アルミン「つまり、モノクマのあの発表は、
     ライナーたちと僕らの仲を切り裂く事だけが目的じゃなくて…」

アルミン「ライナーたちの間でも
     仲間割れを起こさせるのが目的だった…っていう事?」

アニ「…私にはそうとしか考えられない」

アニ「悔しいけど… 完全にやられたよ」

アニ「おかげでライナーとベルトルトは孤立して、
   私もライナーたちやあんたから疑念の目を向けられた」

アニ「コロシアイが起きやすい状況を作るという
   あいつの策略にまんまとハマってしまったんだ」

アルミン「コロシアイ…」

アルミン「コロシアイが… 起きやすい状況…」








エレン『おい…ミーナ…』




ミーナ『イヤだぁぁぁぁぁぁああああぁぁぁぁあああ!!』




ユミル『……ウ……ァ……』




サシャ『ん゛ん゛ん゛ん゛んんんんんんんん~~~~!!!!』








アルミン「そんなの駄目だ…!」

アルミン「あんな悲劇は… もう…!」

アニ「…アルミン、私に力を貸してほしい」

アルミン「アニ…」

アニ「私たち3人がやったこと…
   あんたにも思うところはあると思う」

アニ「私たちの立場、あんたらの立場…
   ここで語り尽くせない思いはお互いにある」

アニ「だけど、今はそれらを一旦心から外してほしい」

アニ「目の前の脅威からみんなを守るために…」

アルミン「………………」

アニ「アルミン… どうか私に力を貸して」

アルミン「………………」

アルミン「…わかった」

アニ「…!」

アルミン「力を貸すよ。断る理由があるもんか」

アニ「アルミン…」

アニ「…ありがとう」

アルミン「…それで、これからどうする?」

アニ「うん… まずはあの2人に会いに行こう」

アルミン「あの2人って…」

アニ「ライナーとベルトルトさ」

アニ「この状況を打ち破るには… あいつらの力も必要だからね」

今日はここまで

― 研究開発所 ―




アルミン(僕たちがやって来たのは、
     今回新しく開放された建物だった)




ヒストリア『色んな部品や機械が置いてあって…
      作業場…? いや、研究開発所みたいな…』

アルミン『何かを作る場所ってこと?』

ヒストリア『うん、そんな感じかな。
      作りかけの装置なんかも結構あったから』




アルミン(ヒストリアが言っていたように、
     中にはおびただしい数の機械や装置類があった)

アルミン(見覚えのあるものから、まったく使い途のわからないものまで、
     様々な物体がごちゃまぜになって散乱している)

アニ「…ここにはいないね」

アルミン「あれ? 2人がいる場所は知らないの?」

アニ「言ったでしょ。避けられてるって」

アニ「モノクマのあの発表以来、
   私とあの2人は行動を別にしているんだよ」

アニ「まったく、どこで何をしているやら…」

アルミン「…アニ、1つ聞いてもいいかな?」

アニ「ん?」

アルミン「アニはさ… 入団式以前の記憶はあったの?」

アニ「…入団式以前の記憶?」

アルミン「ほら、ライナーとベルトルトは
     入団式直前までの記憶がないって言ってたじゃないか」





ライナー『改めて説明させてもらうと、こういう事だ』

ライナー『みんなには入団式直前までの記憶があるようだが、
     俺たち2人に限ってはそうじゃなかった』

ライナー『自分の名前と必要最低限の知識…それしか残されていなかった』

ライナー『話を聞いてるうちに思い出してきた部分もあるが、
     それでもぼんやりとしかわからない』

ライナー『ミーナは家族の為に殺人を犯したと言っていた。
     だが俺たちは…家族の名前すら思い出せない』



アニ「…ああ、あれね」

アルミン「うん、つまり…」

アニ「つまり、あの2人の言っている事が本当なら、
   あいつらの一味である私も同じ状態だったんじゃないか…」

アニ「あんたが聞きたいのは、そういう事?」

アルミン「…うん」

アニ「結論から言うと… 私は違うよ」

アルミン「…え?」

アニ「私には最初から入団式以前の記憶があった…
   あいつらと違ってね」

アルミン「『あいつらと違って』って…
     じゃあ、あの2人の言ってる事は…」

アニ「本当だよ。あいつらには本当に
   入団式より前の記憶が無かったんだ」

アニ「ここでの生活が始まったばかりの頃、私はこっそり
   あの2人に巨人の話を持ち掛けた事があるんだけど…」

アニ「…2人とも、何の話かわからないって様子だったからね」

アルミン「それじゃあ、あの2人は…
     途中でその記憶を取り戻したって事?」

アニ「そう言ってたよ。具体的には、
   【ユミルの事件のすぐ後】にね」

アルミン「【ユミルの事件のすぐ後】って…」

アニ「そう… あんたがちょうど
   私たちの密会を盗み見た頃さ」

アニ「あいつらは記憶を取り戻して、自分たちの使命を
   思い出した事で、私にも召集をかけたんだ」

アルミン「【ユミルの事件のすぐ後】に、
     2人の記憶がそろって戻った…?」

アルミン「………………」

アニ「…まあ、ここであれこれ考えるより、
   詳しい話は本人たちから直接聞けばいいんじゃない?」
   
アニ「どうせこれから会うんだし」

アルミン「…ああ、それもそうだね」

アニ「じゃあ、このまま他の場所も回ってみようか」

アルミン(その後、僕たちは施設内の建物を見て回った)

アルミン(食堂、倉庫、書庫、ライブハウス…)

アルミン(しかし、確認した建物のいずれにも…)

アルミン(ライナーとベルトルトの姿はなかった)

― 訓練所 ―




アルミン「うーん… どこにもいないね…」

アニ「………………」

アルミン「2人ともどこに行ったのかな…」

アルミン「まだ確認してない場所もあるけど…」

アニ「…どこにもいないというより」

アニ「誰もいないね」

アルミン「…え?」

アニ「ライナーとベルトルト以外の連中の姿も見えないよ」

アニ「これじゃまるで…
   私とあんたの2人しかいないみたいだ」

アルミン「…まあ、この施設ってかなり広いからね」

アルミン「こんな巨大な空間にたったの8人しかいないんだから…
     ばったり出くわす確率の方が低いよね」

アニ「………………」

アルミン「こうなったらもう、全部探してみるしか…」




ポタッ

アルミン「…え?」




ポタッ




アニ「…雨?」




ポタポタッ

ザアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア




アルミン「えぇ!? あ、雨!?」

アニ「…!?」




ザアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア




アルミン「し、しかも、すごい土砂降りだよ!」

アニ「くっ… とりあえず、近くの建物に避難するよ!」

今日はここまで

― 寄宿舎 ―




アルミン(大雨から逃げるように、僕たちは
     一番近くにあった建物に駆け込んだ)




アルミン「ハァ…ハァ…」

アニ「………………」




アルミン(たった10秒ほど走っただけなのに、
     僕もアニも全身がずぶ濡れになっていた)

アルミン(髪は水気を吸って顔に張り付き、
     足元には大きな水溜まりが広がっている)

コニー「…どうしたんだ、お前ら?」

アルミン「…! コニー!」

コニー「お、おいおい… 全身びしょ濡れじゃねえか!
    ちょっと待ってろ、拭くもの持ってくるから…」




アルミン(コニーはそう言うなり、大浴場から
     2人分のタオルを持ってきてくれた)




アニ「…ありがとう、助かったよ」

コニー「一体何があったんだ?
    まるで大雨にでも当たったみたいじゃねえか」

アルミン「…その通りだよ」

コニー「…え?」

アルミン「突然、雨が降り始めたんだ…
     ほんの、ついさっき…」

コニー「あ、雨って… この施設内でか?」




アルミン(信じられぬという顔で、
     コニーが僕たちの後ろの扉を開ける)

アルミン(そして、外の様子を一瞥するなり… すぐに閉めた)




コニー「…マジだ。雨が降ってる」

アニ「だから、そう言ってるでしょ」

コニー「い、いや、でもよ… なんでいきなり…」
    
コニー「つーか、どうやって降らせてんだ?
    ここって一応、屋内… なんだよな?」

アルミン「それ自体は不思議な事じゃないよ」

コニー「…え?」

アルミン「以前モノクマが言っていたように、
     ここの天井には光を調整して発する機構があるんだ」

アルミン「溜めた水を雨のように降らせる事だってできるかもしれない」




アルミン⦅この施設にも昼と夜がある⦆

アルミン⦅数十メートル上にある天井の照明で光量を調整し、
     外の時間帯をリアルに再現する…⦆

アルミン⦅…というのがモノクマの説明だった⦆

コニー「マジかよ… そんな事できんのか」

アニ「まあ、モノクマならそれくらいやっても驚かないね」

アルミン「うん…」




アルミン(だけど… 何だ?)

アルミン(このモヤモヤした感じ…)

アルミン(何か引っかかる…)

コニー「それよりもお前ら、風呂入ってきたらどうだ?」

コニー「服は相変わらずびしょ濡れだし、そのままだと風邪引くぞ」

アニ「ああ、そうさせてもらうよ。
   アルミン、先に入ってもいい?」

アルミン「えっ… ああ、うん」

コニー「はあ、早く止んでくれるといいけどな…
    これじゃあ、飯食いに食堂にも行けねーぞ」

アルミン(その後、僕とアニは交代で風呂に入って体を温めた)

アルミン(しかし、突然降りだした雨は一向に止む気配がなく…)

アルミン(食堂へ行けなくなった僕たちは、コニーが部屋に持ち込んでいた
     【詰め合わせスペシャル】を分け合って食べた)

アルミン(そして、そのまま部屋で談笑しているうちに一日が終わり…)

アルミン(僕は自室へ戻ってベッドに横になった)

ザアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア




アルミン(かすかに聞こえる大雨のノイズ)

アルミン(暗い部屋の中、僕はその音にじっと耳を傾けながら
     静かに目を閉じた)




アルミン「………………」




アルミン(少しずつやって来る睡魔)

アルミン(まどろみの中で、僕は確かに感じていた)

アルミン(胸の内で不安が渦巻いているのを…)

今日はここまで

◆ モノクマげきじょう ◆




モノクマ「…落ち着いて聞いてくれ。
     焦ってはいかん」

モノクマ「なぁに、キミがこのモノクマ劇場を見ている時点で、
     すべてはもう手遅れなんだ」

モノクマ「キミらのような若い者にはわからんかもしれんが、
     ボクのような綿100%のマスコットにとっての希望は…」

モノクマ「コロシアイをしてでも生き残りたいと、
     希望に燃える若者がいることなんだ」

モノクマ「もし、それが失われることがあれば、
     これほど絶望的なことはないよ…」

モノクマ「愛する生徒のみんなが…人類の希望の担い手が…」

モノクマ「裏切りあい、騙し合い、殺し合う様を思うだけで…」

モノクマ「ボクは…悲しくて悲しくて…」

モノクマ「血と涙を流し、希望に歪むみんなの顔が、
     見たくて見たくて…」

モノクマ「………………」

モノクマ「つい。やってしまったよ」









「キーン、コーン… カーン、コーン」




モノクマ『オマエラ、おはようございます!
     朝です、7時になりました! 起床時間ですよ~!』

モノクマ『さぁて、今日も張り切っていきましょう~!』







CHAPTER 03 

DAY 13




アルミン(朝か…)




アルミン「………………」




アルミン(なんだか体が重い…)

アルミン(でも、とりあえず起きなきゃ…)









ド ゴ ー ー ー ー ー ー ー ー ン ! !







アルミン「!?」




アルミン(な、なんだ…!?)

アルミン(何かが爆発したような轟音が…)




ミシミシッ…




アルミン(かなり近くだ…!)

アルミン(みんなは…!?)

― 寄宿舎 ―




アニ「アルミン!」

アルミン「アニ! 今のは!?」

アニ「寄宿舎の外で爆発があったんだ。
   今、ミカサが現場を見に行ってる」

アルミン「…!!」

アニ「私たちも行こう」

― 爆発現場(寄宿舎の外) ―




アルミン「ミカサ!」

ミカサ「アルミン…」

アルミン「…!! こ、これは…」

ミカサ「…見ての通り。ここで何かが爆発した」

アルミン(僕たちがミカサを見つけたのは、
     寄宿舎を出てすぐの場所だった)

アルミン(ミカサの隣には、大きく抉られて
     穴の開いた地面が広がっている)




ミカサ「おそらく、爆発物は地面の中に
    仕込まれてあったのだと思う」

アルミン「地面の中…?」

ミカサ「昨日の大雨で地面がぬかるんでいたせいで、
    爆発時にこんなに大きな穴ができた…」

アルミン(僕は自分の足元を見た)

アルミン(雨は一晩のうちに上がっていたようだが、
     水を吸った地面は足跡をくっきり残すほどぬかるんでいる)




アルミン「………………」




アルミン(この大穴が爆発によってできたものだとしても…)

アルミン(どうして、爆発物を地面に…)

アニ「アルミン、あれ…」

アルミン「ん?」




アルミン(僕はアニの指し示す先を見る)

アルミン(そこには、地面の穴から一筋の足跡が
     ある方向に向かって続いていた)




アルミン「…足跡?」

ミカサ「それは私も気になっていた。
    まるで、この穴から誰かが這い出たように…」

ジャン「お前ら!」

アルミン「ジャン!」

ジャン「な、何だよこれは… どうなってんだ!?」

アニ「さっきここで爆発があったんだ。
   こんな風に、地面が大きく抉れるくらいにね」

ジャン「爆発って…!」









ド ゴ ー ー ー ー ー ー ー ー ン ! !








アルミン「!?」

アニ「!?」

ミカサ「…!!」

ジャン「なっ…! ま、また爆発か!?」




ミシミシッ…




ミカサ「この方向は…」

アニ「あの足跡が続く先…!」

アニ「確かめに行くよ!」

アルミン「アニ!」

アニ「嫌な予感がする… 早く行かないと!」

アルミン「危険だよ! それに、他のみんなは!?」




ミシミシッ…




ジャン「…こうなったらどこにいても危険は同じだ」

ジャン「オレは寄宿舎に残って他の奴らの安否を確かめる!
    お前らは先に今の爆発を確かめて来てくれ!」

アルミン「ジャン!」

ジャン「いいから早く行け!」

今日はここまで

― 爆発現場(研究開発所の外) ―




アルミン(ジャンに背中を押されるように、
     僕たちは爆発現場にやって来た)

アルミン(第2の爆発があったのは…)




アルミン「ここって… 研究開発所だよね?」

アニ「そうだね。さっきの爆発と同じで、
   建物に被害はないようだけど…」

ミカサ「…爆発の痕跡もよく似ている。
    こんなに地面が抉れて…」

アルミン(僕は目の前に広がる地面の凹みを見た)

アルミン(穴の中央からいくつも伸びた筋と焦げ跡が
     爆発の勢いを物語っている)

アルミン(それは、さっき寄宿舎の外で見た
     爆発の痕跡とそっくりだった)




アニ「…足跡はここで終わってるね」

ミカサ「………………」




アルミン(寄宿舎の爆発現場から伸びていた足跡は、
     ここの爆発痕で途切れていた)

アルミン(まるで、爆発でできた穴に吸い込まれるように…)

ミカサ「…まさか、ここで誰かが爆発したんじゃ」

アルミン「いや、それはないよ」

ミカサ「…え?」

アルミン「もしそうなら、もっと痕跡が残るはずだよ。
     血肉とか、衣服の残骸とか…」

アルミン「でも、ここに見られるのは爆発の筋と
     僅かな焦げ跡だけだから…」

アルミン「寄宿舎からこの場所まで元々足跡が続いていて、
     そこが爆発しただけだと思う」

アニ「じゃあ、誰かが寄宿舎から
   研究開発所に歩いて行って…」

アニ「その後を追うように、そこが爆発したってこと?」

アルミン「うん。そして、足跡がここで途切れているから…」

アルミン「その人は多分、今も建物の中に…」

アルミン(僕はそう言って研究開発所の扉を見た)

アルミン(昨日アニと来たときには誰もいなかった場所)

アルミン(その中に今、誰かがいる…)




アニ「………………」

ミカサ「………………」

アルミン「………………」

アニ「…開けるよ」

アルミン「…うん」




アルミン(僕は扉に手を伸ばす)

アルミン(力を入れると、ゆっくりと軋む扉…)

アルミン(ゆっくりと開く絶望への扉…)









アルミン(そして僕らは目撃する)

アルミン(後に、この監禁生活で最大の謎となる…)

アルミン(新たな惨劇の始まりを…)







アルミン「うわああああああああああああああっ!!」

ミカサ「…ッ!!」

アニ「……な……」








アニ「ベル…トルト…?」









CHAPTER 03

僕と私の兵団裁判

非日常編







今日はここまで

アルミン(それはあまりにも異様な光景だった)

アルミン(研究開発所の中にいたのは…)




アニ「ベルトルト!!」




アルミン(アニが“その人”に駆け寄る)

アルミン(その後を追うように、僕とミカサも現場に足を踏み入れた)

ミカサ「こ、これは一体…!?」




アルミン(ミカサが思わず口元を押さえる)

アルミン(僕はこみ上げてくる何かに必死に抗いながら、
     “その人”とアニに近づいた)




アニ「…そ…」

アニ「そんな…」




アルミン(アニは放心状態になっていた)

アルミン(僕はそんな彼女を横目で見ながら、状況の把握を始める)

アルミン(この現場の異様な点は3つある)

アルミン(1つ目は、被害者が宙に浮いた状態で拘束されていること)

アルミン(2つ目は、2本の槍で被害者の頭部と胴体が貫かれていること)

アルミン(そして3つ目は、被害者の体や床に
     多数の剣が突き刺さっていること…)




アニ「ベル…トルト…」




アルミン(被害者は顔のど真ん中を槍で貫かれているため、
     誰であるかの判別が難しくなっている)

アルミン(しかし、身長や体つき、髪や耳などのパーツから、
     その死体がベルトルトであることは明らかだった)

ジャン「おい、無事か!?」

コニー「何の悲鳴だ!?」

アルミン「…! みんな…」

ヒストリア「…!!」








ヒストリア「きゃああああああああああああああっ!!」









「ピンポンパンポーン…!」




モノクマ『死体が発見されました!』

モノクマ『一定の自由時間の後、『兵団裁判』を開きまーす!』







今日はここまで

モノクマ「いやっほうっ!!」

モノクマ「アドレナリンがぁーーー染み渡るーーーッ!!」

アニ「………………」

モノクマ「いやあ、今回はいつコロシアイが起きるのかと
     ハラハラしてたけど…」

モノクマ「やっぱりオマエラは期待を裏切らないッ!
     優秀な教え子を持ってボクは幸せだよ!」

コニー「べ、ベルトルト…!? ベルトルトなのか!?」

ジャン「嘘だろ…!? なんでこんな…」

モノクマ「なんでって… 当たり前でしょ」

モノクマ「だって、コイツは罪のない多くの人達を
     死に追いやった張本人なんだよ?」

モノクマ「このくらいの報いは受けてしかるべきじゃない?」

ヒストリア「ま、まだそうと決まったわけじゃない!
      それはあなたがそう言っているだけで…」

モノクマ「あー、うんうん、それもそうだね。
     でも、そんな事はこの際どうでもよくってさ」

モノクマ「実際にこうして殺人が起きたんだから、
     次にオマエラが何をしなければいけないのか… わかるよね?」

ヒストリア「な、何をって…」









ミーナ『イヤだぁぁぁぁぁぁああああぁぁぁぁあああ!!』




サシャ『ん゛ん゛ん゛ん゛んんんんんんんん~~~~!!!!』








ヒストリア「また… あれをやるの…?」





8 訓練兵内で殺人が起きた場合は、その一定時間後に、
  訓練兵全員参加が義務付けられる兵団裁判が行われます。

9 兵団裁判で正しいクロを指摘した場合は、
  クロだけが処刑されます。

10 兵団裁判で正しいクロを指摘できなかった場合は、
  クロだけが卒業となり、残りの訓練兵は全員処刑です。




モノクマ「もちろん!」

モノクマ「だって、それがルールだから!
     コロシアイが起きた以上は…」
     
モノクマ「兵団裁判という別のコロシアイを
     生き抜かないといけないんだよぉ!」

ヒストリア「…!!」

モノクマ「さてと、そういう訳ですので…」

モノクマ「今回もこれを渡しておくね。
     ボクがまとめた死体に関するファイル。その名も…」

モノクマ「…ザ・モノクマファイル3!!」

モノクマ「そしてなんと! 今回は特別サービスとして…」

モノクマ「事件の真相につながる2つのヒントを
     オマエラに教えちゃいまーす!!」

ミカサ「…ヒント?」

モノクマ「そう! 1回しか言わないからよく聞いてね!」

モノクマ「ヒントその1! 今回の事件は殺意を持ったクロによる犯行です!」

モノクマ「つまり、前回のブラウスさんみたいに、
     知らないうちに自分が殺人者になっている可能性はないってこと!」

モノクマ「ヒントその2! ルールをよく読め!」

モノクマ「以上となりまーす!!」

ジャン「ま、待て待て! いきなり過ぎて訳がわかんねーよ!」

ジャン「大体、ヒントってなんだ!? そんなの今まで無かったじゃねーか!」

モノクマ「だから、特別サービスだって言ってるじゃん」

モノクマ「これくらい言ってあげないと不公平だと思ってね」

ジャン「はあ!?」

モノクマ「だってさ、今回の事件…」









モノクマ「ある意味、ユミルさんの事件よりも難解だから…」







アルミン(…ユミルの事件よりも難解?)




ヒストリア「ど、どういう意味…?」

モノクマ「うぷぷ… それはね…」

モノクマ「今ボクが配ったモノクマファイルを読めばわかると思うよ」









アルミン(僕たちは手元の冊子に目を落とした)

アルミン(ページに手をかけ、そっとめくる)

アルミン(それが真犯人の仕掛けた罠であるとも知らずに…)







■ モノクマファイル 3 ■


被害者はライナー・ブラウン。
死亡時刻は午前4時頃。

今日はここまで

ミカサ「………………」

ヒストリア「…え?」

モノクマ「うぷぷ…」

コニー「お、おい… こりゃどういう事だ…?」

モノクマ「どういう事も何も、書いてある通りだよ」

モノクマ「今回クロに殺されたのはライナー・ブラウンくんで、
     これからオマエラはその捜査をするんだ」

ジャン「お前… ふざけてんのか?」

ジャン「あそこで死んでるのはベルトルトだろ?」

モノクマ「ボクはいたって真面目ですけど?」

ジャン「い、いや… いやいやいや…」

ジャン「どう考えたっておかしいだろ!
    あの死体はどう見たってベルトルトだろうが!」

モノクマ「だーかーらー! 今回殺されたのはライナー・ブラウンくん!
     それ以上でもそれ以下でもないの!」

アニ「…違う」

アニ「あの死体はベルトルトだ…
   私が見間違えるはずがない…」

モノクマ「…あのさ、オマエラがどう思おうが勝手だけど」

モノクマ「今回クロに殺されたのはブラウンくんで間違いないよ」

モノクマ「いくらフーバーくんの事を気にしても仕方ないんだよ。
     だって彼は捜査の対象外だもの」

ジャン「お、お前… いい加減に…!」

モノクマ「いい加減にするのはオマエラの方だろっ!!」

ジャン「…!!」

モノクマ「最初の兵団裁判のとき、みんなの前で言ったよね?」




モノクマ『あのねぇ…あのファイルはね、
     いわば兵団裁判をスムーズに進める為の潤滑剤なんだ』

モノクマ『議論が滞ったとき…ちょうど今のような状態のときに、
     助け舟としてオマエラを支えてくれる存在なんだ』

モノクマ『冷静に考えてみなよ。
     ボクがそんなキーアイテムに不正を施すと思う?』




モノクマ「今までずっとそうだったでしょ?」

モノクマ「イェーガーくんの事件、ユミルさんの事件…
     どれもモノクマファイルに書いてあることは本当だったでしょ?」

モノクマ「そりゃそうだよ。あのファイルに不正を働いたら、
     ゲームが成立しなくなっちゃうんだもん」

モノクマ「つまり、そのファイルに書いてある内容も本当の事…」

モノクマ「今回殺されたのはライナー・ブラウン!
     これはまごうことなき事実だあっ!!」

ジャン「…っ!」

モノクマ「さてと… そういう事だから、ボクは退散するね」

モノクマ「後ほど、裁判場でお会いしましょう… うぷぷぷぷ」









モノクマ「アーッハッハッハッハッハ!!」







ポヨヨーン




アルミン(邪悪な笑い声と共に、モノクマは姿を消した)

アルミン(ただ唖然とする僕らを残して…)




コニー「な、なあ… 何が一体どうなってんだ…?」

コニー「あの死体が… ライナーだっていうのか?
    ベルトルトじゃなくて…」

アニ「違うッ!」

コニー「…!!」

アニ「あれはベルトルトだ! 私が見間違えるはずがない!」

アルミン「ア、アニ… 落ち着いて」

ジャン「ああ、ありゃどう見たってベルトルトだ…」

ジャン「確かに顔は潰れちゃいるが、
    背丈や外観はまさしくあいつのものだ」

ヒストリア「で、でも、モノクマは…」

ジャン「ああ… あの死体がライナーだって言ってる」

ジャン「正直オレも何が何だかわからねえが…
    このまま手をこまねいているわけにもいかねえだろ」

ジャン「何もしなかったら、オレたちも殺されるんだからよ」

ヒストリア「………………」

アルミン「…ジャンの言う通りだね」

アルミン「捜査を始めよう。僕たちにできる事をやるんだ」




アルミン(そう… 僕たちにできる事…)

アルミン(コロシアイを防げなかった以上、今の僕たちにできるのは…)

アルミン(知恵を絞って、これ以上被害を広げない事だけだ)

アニ「………………」

アニ「……許さない」

アルミン「…え?」

アニ「絶対に許さない…」

アニ「今回だけは… 絶対に…」









―  捜 査 開 始  ―







今日はここまで

ミカサ「…じゃあ、捜査を始めよう」

ジャン「ああ、だがその前に… 見張り役はどうする?」

コニー「見張り役?」

ジャン「殺害現場の見張り役だよ。
    いつもはライナーとベルトルトがやってくれてただろ」




ライナー『俺たちか?俺たちはまぁ…“見張り役”ってやつだな』

アルミン『“見張り役”?』

ライナー『現場を荒らされない為に監視する人間のことだ。
     犯人に証拠を隠滅されたら、手詰まりになりかねないからな』




ライナー『現場の見張り役は任せておけ。
     俺とベルトルトがここに残る』

アニ『…わかった。頼んだよ』



コニー「ああ、そうか… 今回はあいつら、いないんだったな」

アニ「………………」

ヒストリア「それなら、私が残るよ。
      私が捜査するよりも、その方がいいと思うし…」

ミカサ「…もう1人は? 見張り役は2人必要だったはず」

コニー「俺がやるよ。だからお前ら… 頼んだぞ」

アルミン(ついに始まった3度目の捜査…)

アルミン(ヒストリアとコニーの2人は現場の見張り役に着き、
     僕、ジャン、アニ、ミカサの4人が捜査を開始する)




アルミン「じゃあ、まずは…」

アニ「………………」

アルミン「アニ!」

アニ「…!」

アルミン「アニ… 気持ちはわかるけど、今は」

アニ「…ああ、そうだね。ごめん」

アニ「…まるで1回目の事件とは逆だね」

アルミン「…え?」

アニ「何でもない。それよりも、まずは…
   これを見てみようか」




アルミン(アニがそう言って示したもの)

アルミン(それは、ついさっき配られた黒い冊子…
     モノクマファイルだった)

アルミン「モノクマファイル? それはさっき読んだけど…」

アニ「じゃあ、気付かない?
   この内容には明らかにおかしな点があることに」

アルミン「…え?」

アニ「私は読んだ瞬間に気付いたけどね」

■ モノクマファイル 3 ■


被害者はライナー・ブラウン。
死亡時刻は午前4時頃。

アルミン(このファイルのおかしな点…)

アルミン(ぱっと思いつくのは、死体と被害者が一致しないって事だけど…)




アルミン「………………」




アルミン(…待てよ?)

アルミン(アニが言ってるのって、もしかして…)




【モノクマファイル 3】



アルミン(ファイルから目を上げた僕は、そのまま事件現場に視線を移す)




アルミン「………………」




アルミン(この現場の異様な点は3つ…)

アルミン(1つ目は、被害者が宙に浮いた状態で拘束されていること)

アルミン(2つ目は、2本の槍で被害者の頭部と胴体が貫かれていること)

アルミン(そして3つ目は、被害者の体や床に
     多数の剣が突き刺さっていること…)

コニー「なんつーか、見れば見るほど異様だよな…」

コニー「あの死体がライナーでもベルトルトでも…
    正直、『ここまでやるか?』って感じだ」




アルミン(被害者を拘束して、槍や剣でメッタ刺し…)

アルミン(一見すると、相当な恨みを持った人間の犯行のように思える)

アルミン(そして… その恨みにも、僕たちには心当たりがある)





モノクマ『なんと!? あの2人の正体が巨人!?』

モノクマ『しかも、人類の仇そのものである
     超大型巨人と鎧の巨人ですと…!?』




アルミン(…でも、本当にそうなのか?)

アルミン(本当に… 恨んでいただけであんな殺し方をしたのか?)

アルミン(もし、あれらの1つ1つにちゃんとした意味があるんだとしたら…)




アルミン「あの死体… ちゃんと調べてみようか」

アニ「…そうだね」

今日はここまで

― 研究開発所(死体近辺) ―




アルミン「うっ……」

アニ「………………」




アルミン(間近で死体を見ると、その凄惨さに改めて驚く)

アルミン(エレンやユミルの死体も
     目を覆いたくなるようなものだったけど…)

アルミン(この死体は、群を抜いて異質だった)

アルミン「…アニ、大丈夫?」

アニ「………………」




アルミン(アニの顔が青い)

アルミン(平静を保っているように見えても、
     その内心は激しく動揺しているようだった)




アルミン「少し休んだ方がいいんじゃ…」

アニ「…私は大丈夫」

アルミン「………………」

アニ「続けよう」

アルミン(アニが死体を調べ始める)

アルミン(僕は一つ呼吸をおいて、アニに続くように死体に向き直った)




アルミン「………………」




アルミン(最初に目がいったのは、頭部と胴体を貫く黒い槍だった)

アルミン(宙に浮いた体の急所を貫く2本の凶器…)

アルミン「…ちょっと手に持ってみてもいいかな?」

コニー「ん? ああ…」




アルミン(僕は見張り役のコニーに一声かけてから、槍に手を伸ばした)




アルミン「ふんっ…!」




アルミン(力を入れ、胴体に刺さった槍を引き抜こうとする)

アルミン(しかし…)

アルミン「な、何だこれ… 重っ…!」




アルミン(精一杯力を入れても、その槍はびくともしなかった)

アルミン(床に突き刺さってはいるようだけど、それにしても…)




コニー「お、おい! あんまり現場を荒らすな!」




アルミン(慌ててコニーが制止に入る)

アルミン(僕は槍から手を離し、一歩下がって死体を見つめた)

アルミン(槍は宙に浮いた頭部と胴体を貫いている…)

アルミン(特に頭部は、その形を綺麗に保ったまま貫かれている)

アルミン(かなりの強い勢いじゃないと、こうはならないはずだ)




アルミン「………………」




アルミン(あの槍は1人でどうこうできるほどの重さじゃなかった)

アルミン(そんな槍を… どうやって勢いよく死体に突き刺したんだ?)




【2本の黒槍】



今日はここまで

アルミン(続いて目に入ったのは剣だった)

アルミン(死体や周りの床に突き刺さった多数の剣…)




ミカサ「これって…」

アルミン「え?」




アルミン(ミカサが床に刺さった剣の1本を引き抜く)

アルミン(刀身に視線を這わせ、しばらく何かを考え込んでいたが…)

コニー「お、おい! どこに行くんだ!?」

ミカサ「ちょっと調べ物」

コニー「調べ物って…
    こ、こら! 剣は持って行くな!」




アルミン(コニーの制止も意に介さず、ミカサは剣を持ったまま
     建物の外へと向かっていった)




コニー「…ったく! どいつもこいつも…」

アニ「………………」

アルミン「ミカサ、待って!」




アルミン(僕は建物から出ていこうとするミカサを
     慌てて呼び止めた)




ミカサ「?」




アルミン(ミカサを追い越して研究開発所の扉を開ける)

アルミン(外を見ると、いくつかの足跡があった)

アルミン(寄宿舎の方向からこちらに向かう足跡が、全部で7人分…)

アルミン「…ありがとう。もういいよ」

ミカサ「…? うん…」




アルミン(ミカサは困惑しながらも、建物の外へ出て行った)




【足跡】



アルミン(ミカサを見送った僕は、改めて死体に向き直る)




アルミン「………………」




アルミン(ミカサが引き抜いていったあの剣…)

アルミン(何本かは死体の腕や脚に、そして残りの大半は床に突き刺さっていた)




アルミン「………………」




アルミン(この死体の致命傷は2本の黒槍によるものだ)

アルミン(一方で、この剣が刺さっているのは腕や脚…
     とても致命傷にはなり得ない)

アルミン(殺すために刺したんじゃないとしたら… 一体何のために?)




【多数の剣】



今日はここまで

次は長めに投稿します

予定では後どれ位で終わりそうなんだ?

ヒストリア「………………」

コニー「ん、どうした? ヒストリア」

ヒストリア「いや、この死体の状態…
      なんだか、最初の事件に似てるなって思って…」

コニー「最初の事件って… エレンか?」

ヒストリア「うん… エレンも発見されたときは、
      こんな感じで宙づり状態だったでしょ?」









アルミン『エレン!!!!』







コニー「ああ、そういやそうだったな…」

アルミン「………………」

コニー「あのときは確か、姿勢制御の練習中に
    エレンがバランスを崩して…」

コニー「無防備になったエレンを
    ミーナが殴り殺したんだっけか…」

モノクマ『何度でも言うけどね…』




【エレン・イェーガーを殺す】
【エレン・イェーガーを殺す】
【エレン・イェーガーを殺す】








モノクマ『“オマエ”に選択肢なんてないんだよ!!』







ヒストリア「………………」

コニー「でもよ… 今回の事件はあれよりも酷いぞ」

コニー「あの事件は後頭部に石を振り下ろしただけだったけどよ…
    今回は槍や剣でメッタ刺しだぜ?」

コニー「なんか、すげえ執念を感じるよな…」

アルミン「いや、それ以前に…」

アルミン「そもそも、どうしてこの死体は
     こんな場所で宙づりになってるんだろう?」

コニー「…え?」

アルミン「エレンの場合は、姿勢制御の練習中にバランスを崩したから
     説明がつくんだけど…」

アルミン「この死体の場合は… 宙づりになってる理由が
     まるでわからないんだ」

アルミン「まさか、こんな場所で姿勢制御の練習を
     していたわけでもないだろうし…」

アニ「その理由なら、もう見つけたよ」

アルミン「えっ…」

アニ「これを見てごらん」




アルミン(アニがそう言って差し出したのは…)

アルミン(少し厚みのある紙束だった)

開発品リスト


①立体起動装置    12台

②時限爆弾      3台

③特殊ガス発生装置  1台

④蓄音機       1台

⑤金属探知機     1台

⑥拘束トラップ    1台

アルミン「これは…?」

アニ「この建物にある装置の一覧… らしいよ」

アニ「どうやらこの場所では色んな装置が作られていて、
   これはそれらをリスト化したものみたいだね」




【開発品リスト】



アルミン(アニの説明を聞いた僕は紙束をめくった)

アルミン(それぞれのページには、詳細な図とともに
     各装置の使い方や注意点が細かく記されている)

アルミン(僕はそのままペラペラと紙束をめくっていたが…)

アルミン(あるページを見た瞬間、ぴたりと手が止まった)

⑥拘束トラップ


<概要>

フットスイッチを踏んだ相手を瞬時に拘束できるトラップです。


<使い方>

(1)装置を組み立てます(四脚を立てて下さい)。

(2)フットスイッチを任意の場所にセットします。

(3)四脚の交点から伸びるワイヤーをフットスイッチに繋げます。

(4)相手がフットスイッチを踏むのを待ちます。


<その他機能>

 ・ 折り畳んで持ち運ぶことができます。

 ・ フットスイッチが反応する重量を設定できます。
 
 ・ 四脚にあるスイッチで拘束の解除が可能です。

アルミン「ねえ、この【拘束トラップ】って…」

アニ「…気付いたみたいだね」

アニ「そう… その死体を拘束しているのが、まさにそれさ」

アルミン「それじゃあ、この人は…」

アニ「ああ… このトラップに引っかかって、捕まったんだろうね」

アルミン(僕は死体を拘束している装置を見た)

アルミン(死体は天井付近から伸びた1本のワイヤーで吊るされていたが…)

アルミン(よく見ると、ワイヤーの付け根から4本の脚が伸びていて、
     それぞれが部屋の角で踏ん張るような形になっていた)




コニー「へえ~… でっかいテントの骨組みって感じだな。
    この部屋全体を覆ってたのか」

ヒストリア「大きいけど、折り畳めば持ち運びもできるみたいだね…
      一応、1人でもセッティングはできるみたいだよ」

アルミン(リストに夢中になっているコニーとヒストリアを尻目に、
     僕は4つの脚のうちの1つに向かった)

アルミン(調べると、何やらスイッチのようなものがある。
     押してみると…)




ガチャ…




アルミン(死体を拘束していたワイヤーが外れ、プラプラと宙で踊った)

コニー「…! お、おい! またお前ってヤツは…!」

アルミン「あ、ああ… ごめんごめん」

アニ「…怒る前に、あんたらも仕事しなよ。見張り役なんでしょ?」

ヒストリア「…ごめんなさい」

ジャン「………………」

アルミン(シュンとして定位置に戻るコニーとヒストリアを見届けてから、
     僕はアニに話しかけた)




アルミン「この装置の説明によれば、どこかにフットスイッチっていうのが
     あるはずなんだけど…」

アニ「ああ、それならこの建物の入口にあったよ」

アルミン「…入口?」

アニ「この建物に入ってすぐの所さ。そこに仕掛けられてたみたいだね」

アルミン(僕は建物の入口付近を振り返る)

アルミン(目を凝らすと、扉のすぐ内側の床に
     四角の板のようなものが敷いてあるのがわかった)




アルミン「全然気が付かなかった… あれがフットスイッチ?」

アニ「そうみたいだね。この説明文にある図とよく似てるから」

アルミン「あれを踏んで拘束されたって事なのかな…
     だとしたら、この建物に入ろうとして…?」

アニ「…そう考えられるね」




【拘束トラップ】



アニ「…それと、ちょっと気になる事があるんだ」

アルミン「気になる事?」

アニ「リストにある開発品…
   その何個かが見当たらないんだよ」

アルミン「…え?」

アニ「見当たらないのは、時限爆弾2つと…」

アニ「…特殊ガス発生装置」

アルミン(時限爆弾と特殊ガス発生装置…)

アルミン(その2つが見当たらない…?)




アルミン「…他の場所も調べる必要がありそうだね」

アニ「そうだね… 行ってみようか」

今日はここまで

>>492
次章で完結予定です
時期は未定ですが、このままのペースで投稿は続けます

― 爆発現場(研究開発所の外) ―




アルミン(研究開発所から出ると、爆発現場が視界に飛び込んできた)

アルミン(それと、さっき見た7人分の足跡に加えて、
     新たな足跡がもう一筋…)




アルミン「これはミカサの足跡だね」

アニ「みたいだね。この方向からすると…」




アルミン(アニが足跡の続く先に視線を向ける)

アルミン(僕も同じように視線を追うと、
     煙を上げる巨大な煙突が目に入った)

アニ「…どうする? 私たちも行ってみる?」

アルミン「…いや、まずは目の前にあるものから見ていこう」




アルミン(僕はそう言って地面に開いた穴に向き直る)

アルミン(アニはしばらく足跡の先を見つめていたが、
     思い直したように僕の隣に屈み込んだ)

アニ「それにしても、大きな穴だね」

アルミン「うん… 雨が降って地面が
     ぬかるんでいたっていうのもあると思うけど…」

アルミン「ここまで地面が抉れるって事は、
     よほど大きな爆発だったんだろうね」




【巨大な爆発痕】



アニ「今回の爆発… やっぱり犯人が仕組んだ事だと思う?」

アルミン「…うん、多分ね」

アルミン「寄宿舎から研究開発所に続く足跡、
     その始めと終わりに立て続けに起きた爆発…」

アルミン「そして、それらを追うようにして発見した死体…
     どれも無関係とは思えないよ」

アニ「………………」

アルミン(だけど、それだと疑問が残る…)

アルミン(この爆発も犯人の計画の一部だとしたら、
     一体何のために…?)




ミカサ『…まさか、ここで誰かが爆発したんじゃ』

アルミン『いや、それはないよ』

ミカサ『…え?』

アルミン『もしそうなら、もっと痕跡が残るはずだよ。
     血肉とか、衣服の残骸とか…』

アルミン『でも、ここに見られるのは爆発の筋と
     僅かな焦げ跡だけだから…』

アルミン『寄宿舎からこの場所まで元々足跡が続いていて、
     そこが爆発しただけだと思う』



アルミン(…待てよ?)




アルミン「ねえ、アニ… さっきのリスト持ってるかな?
     開発品が載ってたやつ」

アニ「…ああ、これ? 一応持って来てるよ」

アルミン「ちょっと見せてもらっていい?」

アニ「…? いいけど…」

今日はここまで

開発品リスト


①立体起動装置    12台

②時限爆弾      3台

③特殊ガス発生装置  1台

④蓄音機       1台

⑤金属探知機     1台

⑥拘束トラップ    1台

②時限爆弾


<概要>

指定した時間に爆発させることができる爆弾です。
AとBの2つのモードがありますので、状況に応じて使い分けて下さい。


<使い方>

(1)モードを選択します。

(2)時間を設定します。

(3)爆発させたい場所に仕掛けます。


<モード選択>

 ・ Aモード

   爆発時に破片を飛ばします。
   殺傷能力は高いですが、爆発範囲は狭くなります。

 ・ Bモード

   爆発時に破片をミクロの状態まで細分化します。
   殺傷能力は低いですが、爆発範囲は広くなります。

アニ「…時限爆弾?」

アルミン「うん… 爆発っていう言葉でピンと来たんだ。
     今回の爆発に使われたのは、この時限爆弾じゃないかって…」

アニ「…なるほどね」




アニ『リストにある開発品…
   その何個かが見当たらないんだよ』

アルミン『…え?』

アニ『見当たらないのは、時限爆弾2つと…』

アニ『…特殊ガス発生装置』



アニ「研究開発所からは時限爆弾2つが消えていた…」

アニ「今回起こった爆発は2回だから、もしかすると…」




アルミン(いや… それだけじゃない)

アルミン(僕の考えが正しければ、今回の爆発は…)




【時限爆弾】



アルミン「爆発現場はもう1つあったよね」

アニ「…寄宿舎のすぐ外だね。行ってみる?」

アルミン「うん」




ガチャッ




ジャン「おい、ちょっと待て!」

アルミン「…ジャン?」

ジャン「お前ら、念のために言っとくが…
    ここから先は絶対に1人になるんじゃないぞ」

アニ「…どういう事?」

ジャン「わからねえのか!?」









ジャン「“もう1人”が襲ってくるかもしれねえって事だよ!」







今日はここまで

アルミン「“もう1人”って… 誰のこと?」

ジャン「決まってんだろ! ライナーだよ!」

ジャン「いや、正確には…
    “ライナーと呼ばれてた人間”だ!」

アニ「…“ライナーと呼ばれてた人間”?」

ジャン「あの死体はどう見たってベルトルトだった…」

ジャン「なのに、あれがライナーだっていうんなら…
    考えられる可能性はそれしかねえだろ!」

アルミン「…もしかして、あの2人が偽名を名乗ってた
     って言いたいの?」

ジャン「ああ、そうだよ!」

ジャン「オレたちがベルトルトだと思ってたのが
    実はライナーっていう名前で…」

ジャン「ライナーだと思ってたのが
    全く別の名前の人間だった…」

ジャン「そう考えれば辻褄が合うんだよ!
    あの意味不明な状況もな!」

アニ「………………」

アルミン「でも、襲ってくるっていうのは…」

ジャン「死体発見を知らせるモノクマの“声”
    が聞こえても、あいつは姿を見せていない…」

ジャン「おかしいと思わねえか?
    大きな爆発もあったっていうのによ」

アニ「………………」

ジャン「だからオレはこう考えた。
    あいつが今も姿を隠しているのは…」
    
ジャン「精神的に危険な状態にあるからじゃねえか…ってな」

今日はここまで

次回は 08/08(水) に投稿します

アルミン「精神的に危険な状態…?」

ジャン「あいつら… ライナーとベルトルトは
    巨人の疑いをかけられて、オレたちから孤立してた」

ジャン「超大型巨人と鎧の巨人といやあ、
    オレたち人類にとっては仇そのものだ」

ジャン「アルミン… お前だって忘れたわけじゃないだろ?」

ジャン「なにせお前は、奴らから直接被害を受けた
    シガンシナ区の出身なんだからよ」









エレン『駆逐してやる!!』

エレン『この世から… 一匹残らず!!』







アルミン「………………」

ジャン「要するに、あいつらは… オレたち全員に
    殺される動機を持たれていたんだ」

ジャン「そんな中で、あいつらのうちの1人が死んだ…」

ジャン「“もう1人”はこう思うはずだ。
    『次に殺されるのは自分なんじゃないか』ってな」

アルミン「…ジャンの言いたい事がわかったよ」

アルミン「つまり、“もう1人”は自分が
     殺されるかもしれないという疑心暗鬼に陥っていて…」

アルミン「自分の身を守るために、僕たちを
     攻撃してくるかもしれないって事だね?」

ジャン「…そういう事だ」

ジャン「最悪の場合、ガチで殺しに来るかもしれねえ。
    だから、お前らも…」

アニ「…よく言うよ」

ジャン「あ…?」

アニ「あいつらを孤立させたのはどこの誰?」

アニ「事の真偽もわからないまま、モノクマの情報に踊らされて…」

アニ「必要以上に騒ぎ立てて、あいつらを追い詰めたのは…
   一体どこの誰なの?」

ジャン「…お前、オレに喧嘩売ってるのか?」

アニ「ああ、売ってるよ」

アニ「私はね… あいつらを孤立させるきっかけを作った
   あんたが一番怪しいとすら思ってる」

ジャン「てめえ…!!」

アニ「ジャン、あんたさあ…」









アニ「まだ私たちに隠してる事があるんじゃないの?」







ジャン「なっ… 何言ってんだよ、急に…!」

アニ「あんたの様子がおかしかったのは、てっきり
   例の本を見つけたせいだと思ってたんだけど…」

アニ「どうやら、それだけじゃないみたいだね」

ジャン「…っ!」

アニ「どうにも気に入らないんだよ…」

アニ「私たちの身を案じて忠告するようなフリをしながら、
   ジロジロと探りを入れてるようなその態度が…」

アニ「ねえ、ジャン…」

アニ「この期に及んで… あんたは一体何を隠してるの?」

ジャン「し、知らねえよ!」




バッ




ジャン「とにかく、忠告はしたからな!
    あとはどうなっても知らねえぞ!」

ジャン「じゃあな!」

ダッダッダッ




アルミン「………………」

アニ「…ジャンの言ってる事はあり得ないよ」

アルミン「…え?」

アニ「あの2人が偽名を使ってたって話さ」

アニ「私は幼いときからあいつらを知ってる。
   偽名なんて使ったら一発でわかるよ」

アニ「だから、今回殺されたのはベルトルト…
   それは確かなんだ」

アニ「間違いないんだよ…」

アルミン「………………」

アニ「…アルミン?」




アルミン(何だ? この違和感…)

アルミン(何か、とんでもないものを見落としてるような…)

今日はここまで

アニ「アルミン!」

アルミン「…!!」

アニ「どうしたの、ぼーっとして」

アルミン「あ、ああ、ごめん… 何でもない」

アニ「………………」

アルミン「えーっと… それじゃあ、
     1回目の爆発現場に行こうか」

アニ「…そうだね」

アニ「あと、一応… 警戒だけはしておこう」

アルミン「…え?」

アニ「“もう1人”が襲ってくる事に対しての警戒さ」

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アルミン「それって、ジャンの言ってた…?」

アニ「うん… 癪だけど、
   あいつの言う事にも一理あるからね」

アニ「“もう1人”… ライナーの行方がわからない以上、
   どんな可能性も起こり得るって事さ」

アルミン「………………」

アニ「それじゃあ、行こうか」

― 爆発現場(寄宿舎の外) ―




アルミン(現場に到着するなり、
     僕は巨大な爆発痕の調査を始めた)

アルミン(だいぶ足跡で荒されているけど、
     僕が見たかったものに対しては支障がないはずだ)




アルミン「………………」




アルミン(時には地面に顔を近づけ、細かい部分まで観察する)

アルミン(そして、ゆっくりと隅々まで見た後、
     ついには観察対象を大穴の外にまで広げていった)

アニ「…どうだった? アルミン」

アルミン「うん…」




アルミン(ひとしきり調査を終えると、僕はアニに向き直った)




アルミン「やっぱり無いね」

アニ「…そう。それじゃあ…」

アルミン「うん… おそらく、さっき話した推測の通りだと思う」

アルミン(…よし、少し時間は掛かったけど、
     これで爆発の手掛かりは掴めた)




アニ「次はどうする?」

アルミン「うーん…」




アルミン(僕は次に捜査すべき場所を考える)

アルミン(一応、候補はあるけど…)

アルミン(僕は考えながら周囲に視線を巡らせる)

アルミン(そしてふと、すぐ近くにある
     寄宿舎の入口に目が留まった)




アルミン「………………」

アニ「…? どうかした?」

アルミン「…ねえ、アニ」









アルミン「もしかして… “もう1人”は
     寄宿舎にいるんじゃないかな」







今日はここまで

アニ「…え?」

アルミン「今までの手掛かりを総合すると、
     そうとしか考えられないんだ」

アルミン「まず、今朝の状況を
     思い出してほしいんだけど…」




アルミン『…足跡?』

ミカサ『それは私も気になっていた。
    まるで、この穴から誰かが這い出たように…』




アルミン「最初の爆発があったとき、寄宿舎から
     研究開発所に続く【1人分の足跡】があったよね?」

アルミン「大雨が降る少し前に、僕たちは
     研究開発所の中を確認してるけど…」

アルミン「その時は、あの死体がなかったから…」

アルミン「あの【1人分の足跡】は
     ベルトルトのものである可能性が高いんだ」

アニ「…どうして?」

アルミン「帰りの足跡がなかったからだよ」




アルミン『全然気が付かなかった… あれがフットスイッチ?』

アニ『そうみたいだね。この説明文にある図とよく似てるから』

アルミン『あれを踏んで拘束されたって事なのかな…
     だとしたら、この建物に入ろうとして…?』

アニ『…そう考えられるね』




アルミン「状況から見て、ベルトルトは
     研究開発所の入り口に仕掛けられたフットスイッチを踏んでる」

アルミン「そして、罠に拘束された後、
     【2本の黒槍】に貫かれて殺された…」

アルミン「つまり、あの足跡は…
     ベルトルトが寄宿舎を出て殺されるまでの道筋なんだよ」

アニ「…犯人の足跡である可能性は?」

アルミン「もし、あれが犯人の足跡だったのなら、
     ベルトルトの足跡がないのは不自然だよ」

アルミン「足跡を隠さなきゃいけないのは、
     ベルトルトよりも犯人の方だと思うから…」

アニ「………………」

アルミン「おそらく、この事件には… 
     何かしらのトリックが使われているんだ」

アルミン「足跡を残さずに研究開発所に向かい、
     ベルトルトを殺すことのできるトリックが…」

アニ「…もし、あの足跡がベルトルトのものだったとして、
   それがさっき言った事とどう繋がるの?」




アルミン『もしかして… “もう1人”は
     寄宿舎にいるんじゃないかな』




アルミン「あの足跡がベルトルトのものだったっていう事は…」

アルミン「“もう1人”は、寄宿舎から出ていないって事になるんだよ」

アニ「どうして? 他の場所に潜伏してる可能性も…」

アルミン「それはないよ。だって…」





3 就寝は寄宿舎に設けられた個室でのみ可能です。
  他の部屋での故意の就寝は居眠りと見なし罰します。




アルミン「兵団規則では…
     寄宿舎の個室以外では眠れないことになっているから」

アニ「…!!」

アルミン「今朝見たときに、足跡が
     ベルトルトのものしかなかったって事は…」

アルミン「雨が降ってから爆発が起きるまで… つまり、昨日一晩で
     寄宿舎を出た人間はいなかったっていう事だよ」

アルミン「そして、今確認しても… 足跡はこの爆発痕周辺と
     研究開発所に続く【7人分の足跡】しかないから…」

アルミン「“もう1人”は多分、今も中に…」

アニ「………………」

アルミン「…寄宿舎の中、調べてみない?」

アルミン「もしかしたら…」

アニ「…わかった」

アニ「調べてみよう」

今日はここまで

― 寄宿舎 ―




アルミン「ここがライナーの部屋…」

アニ「………………」

アルミン「開けるよ」

アニ「…うん」

ガチャガチャ




アルミン「鍵がかかってる…」

アニ「………………」

アルミン「うーん、これじゃあ…」

アニ「仕方ない、開けてもらおう」

アルミン「えっ?」

アニ「モノクマ」





モノクマ「お呼びですかーーーーっ!?」




アルミン「おわっ!?」

アニ「ライナーの部屋に入りたいんだけど、開けてくれない?」

モノクマ「えっ!? レオンハートさんが!?」

モノクマ「ブラウンくんの部屋に!?」

アニ「…何よ」

モノクマ「い、いやあ… まさか…」

モノクマ「さすがのボクも、そっち方向の矢印は
     想像していなかったから…」

アルミン「…矢印?」

モノクマ「だってさあ、レオンハートさんって
     ブラウンくんに対してはツンデレっていうより…」

モノクマ「ツンしかなかったじゃない!
     殺意すら感じるほどに!」

アニ「………………」

モノクマ「でもやっぱり、人は見かけによらないんだね…
     ボクもまだまだ修行が足りないなあ」

アニ「開けて」

モノクマ「あっ、でもアルレルトくんにとっては複雑かな?
     まあそういう三角関係も…」

アニ「開けて」

モノクマ「…わかったよ。開ければいいんでしょ、開ければ」




カチャッ




モノクマ「はい、開けたよ。後はお好きに…」

アルミン「あっ、待って」

モノクマ「?」

アルミン「ライナーの部屋だけじゃなくて…
     この寄宿舎の中の鍵は全部開けてくれない?」

モノクマ「えっ、全部?」

アニ「…アルミン?」

アルミン「“もう1人”が潜んでるのはこの部屋とは限らないよ。
     念のために、ね」

モノクマ「まあ、ボクは別にいいよ。
     1つも全部も変わらないし」




カチャカチャカチャッ…




モノクマ「はい、鍵のかかった部屋は全部開けたよ」

アルミン「ありがとう、もういいよ。
     また何かあったら呼ぶから」

モノクマ「…なんかクマ使いがこなれてきてない?
     ていうか、荒くなって…」

アルミン「それじゃあ行こうか、アニ」

アニ「うん」

モノクマ「………………」

一旦中断します

― 大浴場 ―




アニ「アルミン」

アルミン「アニ、どうだった?」

アニ「駄目だね… 女子の部屋は全員分見たけど、
   誰もいなかった」

アルミン「こっちもだよ… 男子の部屋には誰も」

アニ「そう… その様子だと、この大浴場も
   ハズレみたいだね」

アルミン「部屋にもいない、大浴場にもいない、か…」

アニ「………………」

アルミン「この寄宿舎の出入り口って、1つだけだよね」

アニ「…そうだね。裏口どころか、
   この建物には窓が1つも無いからね」

アルミン「………………」

アニ「残念だけど、あんたの推理は不正解…ってこと?」

アルミン「………………」

アニ「いや、そういえば… まだ見てない場所があるね」

アルミン「…え?」

アニ「この寄宿舎に、外から入れる
   もう1つの扉があるんだけど… 知ってた?」

アルミン「えっ… さっき、裏口はないって…」

アニ「裏口じゃないよ。この寄宿舎の
   どこにも繋がっていないからね」

アルミン「…?」

アニ「要するに、寄宿舎に併設してる外付けの部屋ってことさ」

アニ「この施設の調査でも何回か確認したんだけどね…
   2回の裁判を経ても、未だに施錠されてる所だよ」

アルミン「でも、施錠されてるなら… あっ」

アニ「そういう事… さっきモノクマが言ってたでしょ」




モノクマ『はい、鍵のかかった部屋は全部開けたよ』




アニ「あの場所も寄宿舎の一部だと見なされているなら、
   鍵が開いた可能性がある…」

アニ「たとえそこが、兵団裁判を終えないと
   開かないような場所でもね」

アルミン「………………」

アニ「せっかくだから、そこも調べてみる?」

アルミン「…そうだね」

今日はここまで

― ??? ―




アニ「着いたよ」

アルミン「本当だ… 今まで全然気が付かなかった」

アニ「目立たない所にあるからね。
   私も偶然発見したようなもんだし」

アルミン「………………」

アニ「…それじゃあ、開けるよ」

アルミン「…うん」

ガチャッ…




アルミン「開いた…!」




ギギギギ…




アニ「…真っ暗だね」

アルミン「うん… 何も見えな…」

パチッ




アルミン「うわっ!?」

アニ「…!!」

アルミン「きゅ、急に明かりが…」

アニ「ア、アルミン… これ…」

アルミン「…!!」

③特殊ガス発生装置


<概要>

特殊なガスを発生させることのできる装置です。
用途に応じたガスカプセルをお使い下さい。


<使い方>

(1)ガスカプセルをセットします。

(2)ガス発生の時刻と時間を設定します。

(3)ガス発生のスイッチを押します。


<ガスカプセル>

 ・ 毒カプセル(紫)

   致死性の毒ガスを発生させます。

 ・ 麻痺カプセル(黄)

   身体の自由を奪う麻痺ガスを発生させます。
   効果時間は約5分間です。

 ・ 睡眠カプセル(水色)

   深い眠りへと誘う睡眠ガスを発生させます。
   効果時間は最低18時間です。

 ・ 淫乱カプセル(ピンク)

   エッチな気分にさせるガスを発生させます。

アルミン「間違いない、この外観…」

アルミン「開発品のリストに載ってる
     特殊ガス発生装置だ…」

アニ「………………」

アルミン「これって確か、2つの時限爆弾と一緒に
     無くなってたんだよね?」

アニ「…ああ、そうだね」

アルミン「どうしてこんな所に…」




ゴオオオオ…




アルミン「…ていうか、この場所は…?」

今日はここまで





モノクマ「お答えしましょーう!!」




アルミン「うわっ!?」

モノクマ「ここはずばり、空調室です!」

アニ「…空調室?」

モノクマ「一言で言うなら、空気を循環させるための部屋!」

モノクマ「新鮮な空気をオマエラの部屋にお届けするための
     重要な部屋なんだよ!」

アルミン(僕は部屋の中を見回した)

アルミン(よく見ると、高速で回転する丸いものが
     壁に埋め込まれている)




アルミン「…もしかして、あれで空気を?」

モノクマ「おっ、よくわかったね。その通りだよ」

モノクマ「あのプロペラで送られてきた空気を吸い込んで…」

モノクマ「中にあるフィルターで綺麗にしてから、
     それぞれの部屋に送り届けてるの」

アルミン「空気を送り届ける…?」




アルミン(僕は改めて壁の回転物体を見た)

アルミン(そのすぐ手前には、先ほど僕たちが見つけた
     特殊ガス発生装置が置かれている)




アルミン「………………」




アルミン(その位置関係を見たとき…
     僕の中で閃くものがあった)

モノクマ「ほら、寄宿舎の部屋って窓がないでしょ?
     それでもオマエラが息苦しさを感じなかったのは…」

アニ「…アルミン?」




アルミン(僕は閃いた予感を抱きつつ、
     特殊ガス発生装置に近付いていく)

アルミン(装置を調べると、丸く凹んだ部分に収められた
     派手な色の物体を発見した)

アルミン(その色とリストの説明文を見比べ、僕は確信する)

モノクマ「まあ、今のオマエラに説明してもピンと来ないだろうけど、
     これも文明の利器ってやつで…」

アルミン「アニ、寄宿舎に戻ろう」

アニ「…え?」

モノクマ「ねえ、ちょっと、聞いてる?」

アニ「寄宿舎はもう調べたでしょ? 今さら何を…」

アルミン「もう一度調べてみるんだ」

モノクマ「………………」

アルミン「…ある人物の部屋を」

― ある人物の個室 ―




アルミン(その人物の部屋は、廊下の一番奥にあった)

アルミン(僕の中の確信がますます深まる)




アニ「…で? この部屋に何があるって言うの?」

アニ「ここはあんたが調べたんでしょ?
   あんたの言う通り、ライナーはいないみたいだけど…」

アルミン「探してるのはライナーじゃない」

アニ「…え?」

アルミン(怪訝そうに眉をひそめるアニを尻目に、
     部屋の中を見渡す)

アルミン(ベッドがある壁に四角い金網を見つけると、
     僕はゆっくりと近づいていった)




アニ「それにしても、この部屋…
   なんか変じゃない?」

アニ「昨日来たときにも思ったけど、
   妙に息苦しいっていうか…」

アルミン「やっぱりそう思う?」

アニ「…?」




アルミン(僕はベッドの上に上り、金網に手をかけていた)

アルミン(両手で枠をつかみ、ガタガタと揺さぶる)

アルミン(すると、ほどなくして金網が外れ、
     真っ暗な空間が姿を現した)

今日はここまで

下記サイトでの投稿は中止します
http://sstokosokuho.com/ss/read/14339

アルミン(僕はそのまま空間に顔を突っ込んだ)

アルミン(中は小さな通路のようになっているようだが、
     光が届かないせいで奥まで見ることができない)




アルミン「ねえ、アニ… 明かりとか持ってないかな?」

アニ「………………」

アルミン「…アニ?」

アニ「持って来てもいいけど…」

アニ「いい加減に教えてくれない?
   あんたが今何を調べているのか…」

アルミン(僕は振り向いてアニを見た)

アルミン(相変わらずの無表情だが、
     どこか不貞腐れているようにも見える)




アルミン「えっと… さっきモノクマが
     空調室の説明をしてたよね?」




アルミン『…もしかして、あれで空気を?』

モノクマ『おっ、よくわかったね。その通りだよ』

モノクマ『あのプロペラで送られてきた空気を吸い込んで…』

モノクマ『中にあるフィルターで綺麗にしてから、
     それぞれの部屋に送り届けてるの』



アルミン「おそらく… この穴は空調室に通じてるんだ」

アニ「…どうしてそう思うの?」

アルミン「モノクマは、空調室で作られた空気を
     それぞれの部屋に送り届けてるって言ってたよね」

アルミン「それと、空気を循環させるとも…」

アルミン「つまり… 僕らの部屋には新しい空気を取り込む入口と、
     古い空気を排出するための出口があるはずなんだ」

アニ「…なるほど、その金網に覆われた穴が
   空気の出入口だと考えたんだね」

アルミン「うん。向かい側の壁には、
     もう1つ同じような金網があるしね」




アルミン(おそらくは、これらのどちらかが入口で、
     もう一方が出口なのだろう)

アルミン(そして… 空気の流れから察するに、
     僕が金網を外したのは入口の方だ)




アニ「…でも、それがどうしたの?
   今回の事件と何か関係があるの?」

アルミン「空調室にあった特殊ガス発生装置は、
     部屋に空気を送り出す回転体の手前に置いてあったんだ」

アニ「それは私も見たけど…」

アルミン「そして、特殊ガス発生装置には、
     【水色】の物体が収められていた…」




アルミン(瞬間、アニがはっと目を見開いた)

アルミン(僕が言いたいことを理解したのだろう)

アニ「…ねえ、あの装置は確か、
   ガスを発生させる時間を決めることができたよね?」

アルミン「うん。さっき調べてるときに
     ガスの設定時間も確認したけど…」

アルミン「【あの時間】には、間違いなく
     ガスが発生していたはずだよ」

アニ「…なるほど」




アルミン(アニは何事かを考え込んだ末、僕に言った)




アニ「明かりを取りに行こう。ついてきて」

今日はここまで

― アニの個室 ―




アニ「…これだよ、ほら」




アルミン(僕たちがやって来たのは、アニの個室だった)

アルミン(アニは部屋に入るなり、“それ”が置いてある
     机の上に向かっていった)




アルミン「それって… ランタン?」

アニ「そうだよ。倉庫から持ってきたんだ」

アニ「それじゃあ、戻ろうか」

アルミン「うん」




アルミン(アニがランタンを手にして部屋を後にする)

アルミン(僕はアニに続いて部屋を出ようとした)




アルミン「………………」

アニ「アルミン? 行くよ」

アルミン「あっ、うん…」

― ある人物の個室 ―




アルミン(元の部屋に戻ると、僕たちは
     先ほど開けた四角い穴へと駆け寄った)

アルミン(アニがランタンに明かりを灯し、僕に渡してくる)




アルミン「ありがとう」




アルミン(アニは黙って頷き返す)

アルミン(僕は手にしたランタンと一緒に、
     顔を穴の中に突っ込んだ)

アニ「どう? 何か見える?」

アルミン「うーん、奥は突き当りになってるみたいだけど…」




アルミン(あるとしたら、あの突き当りを曲がった先か)

アルミン(幸い、僕は体が小さいから、
     このまま上半身も滑り込ませられそうだ)




アルミン「もうちょっと奥を見てみるね」

アニ「…あんまり無茶しないでよ?」

アルミン(僕はランタンを持った手を前に伸ばしながら、
     体を穴の中にねじ込んだ)

アルミン(体を揺すりながらゆっくりと前進すると、
     徐々に突き当りへと近付いていく)




アルミン「くっ…」




アルミン(想像していたものの、やっぱり体勢がキツかった)

アルミン(体が締め付けられて上手く息ができない)

アルミン(だけど、僕の予想通りなら…
     息が苦しいのは体勢のせいだけじゃないはずだ)




アルミン「ふぬっ…!」




アルミン(僕は気合で体を前進させ、
     ついに突き当りまで顔を到達させた)

アルミン(そのままゆっくりと顔を横に向けると…)









アルミン「うわああああああああああああああああああああ!!」







アルミン(僕は恐怖で完全に取り乱した)

アルミン(急いで穴から離れようとするが、
     体がつかえて上手く動けない)




アニ「アルミン!?」




アルミン(アニの声が遠くから聞こえる)

アルミン(次の瞬間、腰に誰かの腕が絡みつくのを感じた)

アルミン(僕を穴から引きずり出そうとしているのだろう)

今日はここまで

ググッ




アルミン(腰にかけられた強い力で引っ張られ…)




バッ




アルミン(ほどなくして、僕は穴から抜け出すことができた)

アルミン「はぁ……はぁ……」

アニ「大丈夫…!?」




アルミン(アニが心配そうに駆け寄ってきた)

アルミン(どうやら、急に暴れ出した僕を見て
     引っ張り出してくれたらしい)

アルミン「あ、ありがとう… 助かったよ」

アニ「どうやら怪我はないみたいだね。
   それなら…」




アルミン(アニは僕の目を覗き込んできた)




アニ「アルミン、あんたは一体何を見たの?」

アルミン(さっきの光景が頭をよぎる)

アルミン(僕は質問に答える代わりに、アニにランタンを手渡した)




アニ「………………」




アルミン(答えようとしても、言葉が出てこなかったのだ)

アルミン(実際に見てもらう方が早いだろう)

アルミン(アニはランタンを受け取ると、
     穴の中に身を滑り込ませた)

アルミン(僕以上に小柄なアニは、
     するすると中を進んでいく)

アルミン(そのまま、アニは壁から
     下半身だけを出した状態になっていたが…)




アニ「…っ!!」




アルミン(ほどなくして小さな悲鳴を上げると、
     僕の助けを借りながら穴の外へ這いずり出た)

アニ「はぁ……はぁ……」

アルミン「………………」

アニ「な、なんで…」




アニ「なんでモノクマがいるの…?」



アルミン(そう… 僕たちが見たのはモノクマだった)

アルミン(あの狭くて暗い空間で、
     モノクマが僕たちを見つめていたのだ)




アルミン「わからない… でも、明らかに異様だった」




アルミン(モノクマはピクリとも動かなかった)

アルミン(そして、その身体は奇妙な方向にねじ曲がり、
     穴の中に乱暴に押し込められたような状態だった)

アルミン(まるで残虐死体のように…)

アニ「誰かがやった…ってこと?」




アルミン(何のために?)

アルミン(なんでモノクマを…?)




アルミン「モノクマ、いるか?」




アルミン(僕はどこへともなくモノクマを呼んでみた)

アルミン(しかし、部屋の鍵を開けてもらった時とは違い、
     モノクマは一向に姿を現さない)

アルミン「………………」




アルミン(おそらく、これ以上は考えても仕方がないだろう)

アルミン(それに… 予想とは違う結果だったけど、
     見たいものは見ることができた)

アルミン(正直言って、もうここに用はない)




アルミン「次の場所に行こうか」

アニ「えっ、あれはいいの?」

アルミン「もういいよ。あとで聞けばわかる事だし」

アニ「あとで聞くって…」

アルミン「………………」

アニ「はぁ… まあ、いいけど」

今日はここまで

― 観測所 ―




アルミン(次に僕たちがやって来たのは観測所だった)

アルミン(建物に入ってすぐ、巨大な望遠鏡が目に付く)




アニ「ああ、ここね…」




アルミン(この場所には一昨日、
     アニに連れられてやって来ていた)

アルミン(だから、ここを訪れるのは今回で2度目だ)

アニ「…で? こんな所に何の用?」

アルミン「うん、ちょっと気になる事があって…」




アルミン(僕はそう言いながら目的のものを探す)

アルミン(それは一昨日と同じように、部屋の隅に置かれていた)



DAY 13  曇り

DAY 14  晴れ のち 曇り

DAY 15  晴れ

DAY 16  曇り

DAY 17  曇り

DAY 18  曇り

DAY 19  晴れ

アルミン「………………」

アニ「この黒板がどうかした?」

アルミン「これってさ… 
     今日から7日分の天気の予報なんだよね?」

アニ「…そうだけど」

アルミン「それじゃあ、昨日までの天気予報は
     全部消されちゃったのかな…」

アニ「ああ、それなら…
   こっちの紙にまとめてあるよ」

アルミン「え、あるの?」

アニ「うん、ほら…」




アルミン(アニはそう言って、黒板のそばに掛けられた
     紙束を引っ張り上げる)

アルミン(僕はそれを受け取り、中身に目を通した)



DAY 01  晴れ

DAY 02  晴れ のち 曇り

DAY 03  曇り

DAY 04  晴れ

DAY 05  晴れ

DAY 06  曇り

DAY 07  曇り のち 晴れ

DAY 08  曇り

DAY 09  晴れ

DAY 10  晴れ

DAY 11  晴れ のち 曇り

DAY 12  曇り のち 大雨 時々 雷

アルミン「…!」




アルミン(やっぱりそうだ…)

アルミン(これは… どう考えてもおかしい)




アニ「…アルミン?」

アルミン「アニ… 次の場所に行こう」

アニ「………………」

アルミン「おそらく、次で最後だから…」

今日はここまで

しばらく不定期で投稿します

― 訓練所 ―




アルミン(“最後の場所”に向かう途中、
     僕たちは2人の人物と出くわした)




アルミン「ミカサ! ジャン!」

ミカサ「アルミン」

ジャン「よ、よう…」

アニ「………………」

アルミン(手を上げるミカサとは対照的に、
     ジャンはどこか気まずそうにしている)




ジャン「………………」




アルミン(おそらく、あの出来事が尾を引いているのだろう)

アルミン(ふとアニを見ると、彼女もまた
     ジャンを無遠慮に睨みつけていた)









アニ『まだ私たちに隠してる事があるんじゃないの?』







ミカサ「どう? 捜査の方は」

アルミン「まあ、色々とわかったかな。そっちは?」

ミカサ「…こっちも色々と」




アルミン(お互いに煮え切らない返事を返す)

アルミン(情報共有なら後でできるし、
     今はそんな事をしている時間もない)

今日はここまで

アルミン「これからどこに行くの?」

ミカサ「倉庫。アルミンは?」

アルミン「僕たちは… 溶鉱炉に」

ミカサ「…そう」




アルミン(ミカサはしばらく何かを考え込んでいたが…)

アルミン(やがて僕を見据えると、何かを差し出してきた)

アルミン「…? これは?」

ミカサ「超硬質ブレード。兵団専用の、巨人殺しの剣」




アルミン(ミカサから差し出された剣を受け取る)

アルミン(独特の形状を持つそれは、僕には見覚えがあった)




アルミン「これってもしかして…」





コニー『お、おい! どこに行くんだ!?』

ミカサ『ちょっと調べ物』

コニー『調べ物って…
    こ、こら! 剣は持って行くな!』




アルミン⦅コニーの制止も意に介さず、ミカサは剣を持ったまま
     建物の外へと向かっていった⦆








ミカサ「そう。それは、私が現場から持って行った剣」

アルミン「…どうしてこれを?」

ミカサ「その剣は溶鉱炉で作られている」

アルミン「えっ…!?」

アルミン(意外な事実に驚き、僕は改めて剣を見る)

アルミン(じゃあ、現場にあった無数の剣は…)




ミカサ「あの溶鉱炉では超硬質ブレードが
    自動精製されている」

ミカサ「今まで作られたものがストックされているから、
    そのブレードと比べてみるといい」

アルミン「えっ、比べるって…」

ジャン「おい、いつまで立ち話してるんだ。
    もう時間ないだろ。行くぞ」

ミカサ「ああ、うん…」

アルミン(ミカサとジャンが背を向ける)

アルミン(その姿を見届けるようにして、
     アニも反対方向に歩き出した)




アニ「アルミン、私たちも行くよ。
   溶鉱炉でしょ?」

アルミン「あっ、うん…」

ザッザッザッ




アルミン「………………」




クルッ




ダッダッダッダッ

アルミン「ミカサ」

ミカサ「…? どうしたの? 溶鉱炉に行くんじゃ…」

アルミン「いや、その前に…」




アルミン「ちょっとお願いがあるんだけど…」

今日はここまで

― 溶鉱炉 ―




アルミン「暑っ…!」




アルミン(建物に入ってからの第一声がそれだった)

アルミン(中には巨大な溶鉱炉があり、
     グツグツとした紅いもので満たされていた)

アニ「これは… 中々凄い場所だね」




アルミン(アニが額に汗を浮かべながら呟く)

アルミン(『マジで溶けちまうかと思った』という
     コニーの表現は誇張ではなかったようだ)




アニ「…あまり長居はしたくないね」

アルミン「うん… もう時間もないし、早く調べよう」

今日はここまで

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2018年02月10日 (土) 21:36:27   ID: Glj9tSkB

追いついた
面白い

2 :  SS好きの774さん   2019年01月05日 (土) 02:00:50   ID: I1ci9BQa

頼むから失踪だけはしないでくれよ

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