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前作
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その人、人じゃない……皮……? いや、彼(?)との出会いは少し風の強い日でした。
学校が終わって、事務所へと向かおうと気を付けて歩いていたその時、私の目の前に転がってきたのは一つの空き缶。
からころと音を立てながら目の前に現れたその空き缶を踏まないように、と気を付けて避けたらそこには────濡れて湿っているビニール袋。
すっかり空き缶だけを見ていた私はそれに気付かずに踏んでしまって転けて……転けませんでした!
と思ったのはつかの間、いつの間にか足元にやってきたバナナの皮に足を取られて、
「うおおおおおーーっっっ!!!」
「はわぁぁぁっ!?」
転けてしまいました。
「大丈夫ッスか!? いやぁ、間一髪間に合って良かったッス」
「いたた…だ、大丈夫です……って、えっ?」
何処からか聞こえてきた私を心配する声に答えつつ、どこから? と見回すと足元のバナナの皮から声が。
辺りをきょろきょろと見てもここには人は私しかいなくて。ということはこの男性の声は……?
「怪我はないようッスね、良かった」
「あ、あの…あなたは……?」
「自分のことスか?」
「は、はい」
「自分はピールオブバナナマン。そう呼んでほしいス」
そう言って二足歩行のように立ちあがったピールオブバナナマンさん? が皮の端っこで自分の胸元っぽいところを叩いて言いました。
「ピールバナナさん……」
「ピールオブバナナマン」
長かったのでつい略してしまったらちょっと怒ったような口調で直されてしまいました。
「ピールオブバナナマン、さん……」
「はい、そうス」
満足そうにうんうん、と頷くピールオブバナナマンさん。なんでバナナの皮が……
そう思ってまじまじと見つめていると、
「どうかしたんスか?」
「あ、いやその……」
「そういえばあんた凄いッスね。あんな綺麗に受け身取れる人なんて久しぶりに見たッス」
「ど、どうも……」
「いつだったかリボンが似合ってた女の子以来ッスね」
感心したような彼の様子にどうすればいいのか分からなくなります。喜ぶべき、なのかな。
「えっと、その、ありがとうございました。私はこれで……」
「ああ、そうッスね。あんたなら大丈夫でしょうけど、気を付けるんスよ。転んだ時のダメージは洒落にならないッスから」
「は、はい……」
正直、わけが分からなかったのでお別れを告げて事務所に行こうと歩き出したら、
「かーりりんっ! 誰と話してたの?」
「ひゃあああっ!?」
未央ちゃんに背中を押されてびっくりしちゃって、なにも無かったのに転けそうに、
「どわぁぁぁぁぁーーーっっっっ!!!!」
「ま、またですかぁぁぁぁ!?」
「えっ、な、なにっ!?」
私の叫び声と、ピールオブバナナマンさんの掛け声と、未央ちゃんの戸惑いの声が青空に吸い込まれて消えました。
「ふんふん、なるほど」
そう言ってなにかに納得するのは腕組みをした未央ちゃん。
「ふふん、そうなんスよ」
嬉しそうに頷くのはピールオブバナナマンさん。
「なんだよそれ……」
そう言って訳の分からないといった顔をしているのはプロデューサーさん。ちなみに私もプロデューサーさんと同じような顔をしていると思います。
あれから、あの大騒ぎのせいで人が集まってきてしまったので慌てて未央ちゃんと一緒にピールオブバナナマンさんを抱えて、というより拾って事務所へと戻ってしました。
乱れていた息を整えてからピールオブバナナマンさんから話を聞くと、彼はどうやら正真正銘のバナナの皮のようでした。
バナナの皮、とは言いますが自我を持っているようでして二足歩行のように歩くことはできますし────どうして歩けるのかは謎です────喋ることもできるのは見たままの通りです。
さらに、このピールオブバナナマンさん! なんと瞬間移動というかワープというか、そういうことをして転ぼうとしている人を助けることが使命だというのです。
……もっとも、さっきの私を助けようとしたみたいに逆に転ばせてしまうことが殆どみたいですけど。
「あれ、そういえば綺麗になってない?」
と、ピールオブバナナマンさんを摘みあげた未央ちゃんが言いました。
「ちょ! なにするんスか!」
「ほら、かりりんに踏まれたのに綺麗じゃない?」
「あー、それはなんでスかね。多分神様が治してくれるんスよ。踏まれてもう駄目だー、ってなるといい気分になって、気付けば綺麗になってるし、やっぱ自分って神様に愛されてるんスかね」
へー、とピールオブバナナマンさんをこねくり回す未央ちゃんを横目で見ながらプロデューサーさんに、
「そんな神様っているのか?」
と聞かれましたが、そんな神様がいるなんて私は知りませんでした。
ふるふると首を横に振って彼に目を向けると皮を器用に動かして未央ちゃんに抵抗してます。
「なんだその、ピールオブバナナマン……さん?」
「はいはい、どうしたんスかプロデューサーさん」
「歌鈴を守ってくれようとしたのはありがとうな」
そう言って未央ちゃんの手からピールオブバナナマンさんを助け出したプロデューサーさんがお礼を言いました。
……未央ちゃんが「えっ、でも」って言おうとしたのはもちろん止めました。
彼が来なければ転ばなかったのでは? とは私もプロデューサーさんも思ってますけどそんなこと言うのは、流石に……
「それが自分の使命ッスからね、気にしないでください」
「あーうん、使命ね、使命……」
「?」
「いや、なんでもないようん」
「そうッスか」
「それで、君はこれからどうするんだ?」
「これからッスか……まあ、また誰か転びそうな人がいたら助けるつもりですけど……よし、決めたッス!」
悩んだような仕草をしたピールオブバナナマンさんがぽん! と手を叩いたのがわかりました。
決めた? とそこにいる三人が首を傾げたら、
「自分、これからは歌鈴さんが転ぶのが少なくなるまで付きっきりで守ることにするッス!」
「えっ」
「えっ」
「えっ」
みんな同じ反応でした。
「お話を聞いた限り歌鈴さんは中々危なっかしい人みたいじゃないスか。なら自分が生まれてきたのは歌鈴さんを守るためって神様に遣わされたッスよ!」
ぽかんとした私たちを無視して使命感に溢れたピールオブバナナマンさんが語ります。
いやそんなはた迷惑な、と小さく呟いたのはプロデューサーさん。もっともそれは聞こえてないようでしたが。
「あ、もちろんプロデューサーさんや未央さんといった事務所の皆さんも守るから安心してくれていいッスよ!」
戸惑ってるのはそこじゃないんですが、こんなにキラキラとやる気に満ち溢れた彼になにも言えませんでした。
こうして、私と喋って動くバナナの皮とのファーストコンタクトは終わりました。
それから私が転びそうになるたびに彼に助けられ、────まあ結局は転けてしまうんですけど────アイドルとして頑張っています。
いつか、彼がちゃんと転びそうな人を転ばせないようになるのと、私がトップアイドルになるのと、どっちが早いのか気になっているのは内緒ですっ。
「ねえねえ、バナナさん」
「ピールオブバナナマンって呼んでくださいって言ってるじゃないスか」
「だって長いんだもーん」
「はぁ……で、なんスか、未央さん」
「なんで転ぶ間際の人を助けようとするの?」
「そうスね。それを語ると長くなるス。ほら、自分ってあれじゃないスか」
「あれ?」
「バナナの皮じゃないスか」
「うん、そだね」
「その、変えたいんスよね。そういうのを。人を転ばすだけがバナナの皮じゃないって。転ぶ人を助けるようなバナナの皮もいるんだってことを知ってほしいんスよ。バナナの皮が好きで転ばしてるんじゃないってことを。分かってほしいんスよ。痛いんスよ? 転ぶのを止める時」
「ふーん……でも止められてなくない?」
「それはまあ……やっぱ、自分ってバナナの皮なんで」
おしまい
大活躍のSCP-877-JPさんはこちらです。ありがとうございました。
http://ja.scp-wiki.net/scp-877-jp
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