モバマスP「唯に惚れてしまった」 (58)

ルックス良し、スタイル良し、愛想良し、元気良し。

担当Pの贔屓目を差し引いても、大槻唯はパーフェクトな美少女である。

そんな彼女ともっとも近くにいる男という立場の自分は最高に恵まれている。

ただ一つ、問題があるとすれば――



唯「Pちゃん? Pちゃんー? 聞いてるー?」

P「ん、あ、ああ……」

唯「大丈夫? おつかれ?」

P「大丈夫大丈夫、ちょっと考え事してた」

唯「むー。デート中に他の女の子こと考えるのはめっだよー?」

P「デートって。営業の帰りだろ」

唯「細かいこと気にすんなーって☆ ホラホラ、スイパラ寄ってこーよー」

P「んー……オッケー、頑張ったしご褒美に奢ってやろう」

唯「やた! Pちゃん大好きっ」

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唯には甘いお菓子が似合う。

初めて出会った時もキャンディを咥えていたし、スプーンを口にして幸せそうに目を細める姿は見ているだけで癒される。


唯「んー☆ 疲れた時にはトーブンホキューだよね♪」

P「にしても食べ過ぎじゃないか? トレーナーさんに怒られるぞ?」

唯「ダイジョーブ、その分エネルギー使ってるし……それに」

P「ん?」

唯「はい、あーん☆」

P「――」

唯「半分こ。分け合えばモーマンタイ!」

……なるほど。

一人では食べ過ぎな量も、分け合えば問題ないと。

たしかに、かの超人もこんな名言を残している。

『二人というのはいいものだ。楽しい時は二倍楽しめる。そして苦しい時は半分で済む』と。

こちら側としても甘いモノは胸焼けが辛くなってきた年頃なのだが、唯と分け合えば許容できる。

そしてスイーツで満たされる幸福感は、


唯「……Pちゃん?」

P「あ、いやっ」

唯「急にフリーズしちゃったけど」

P「あー……」

唯「嫌、だった……?」

P「そんなことない! いただくよ!」


……甘い。

唯「やっぱりおつかれ?」

P「ごめんごめん、ちょっとカロリー計算を」

唯「あはっ なにそれ」

P「笑い事じゃないんだぞー。油断すると一気に来るんだ、俺たちは」

唯「ふーん? じゃあ、一緒にレッスン受けるとか……あっ! 一緒にステージ立つとかどーよ!」

P「誰が得するだそれ……まぁでも、ランニングとかなら一緒に参加するのもいいかもな」

唯「でしょ? じゃあさ、歌唱力トレーニングで今から一緒にカラオケー」

P「だーめ」

唯「ちぇー」

スプーンを咥え、頰を膨らませる唯。

幼げな仕草だが、これがまたよく似合っている。


P「こらこら、膨れてないでスプーンを動かせって」

唯「はーい……あ、そだ☆」


瞳を輝かせて、スプーンを俺に差し出す唯。

はて、その上には何も乗っていないが。


唯「Pちゃんから、甘いのちょーだいっ」

P「――」

それから、スイーツを互いに食べさせ合うという実に幸せな時間を過ごした。

お陰で、ちょっと休憩していくつもりだったのに予定よりだいぶ時間を使ってしまった。

後悔はしていないが、反省は必要だろう。


唯「ふいー……ごちそーさま☆ Pちゃん、ありがとね!」

P「ご褒美だからな。喜んでもらえて良かったよ」

唯「えへへ……ねえ、Pちゃん」

P「ん?」

唯「ゆいたち、めっちゃラブラブだねっ☆」


……訂正、反省もいらなかった。

沈む夕陽を背景に、唯を女子寮まで送り届ける。


唯「そいじゃ、おっつー☆」

P「おう。おつかれさま。ゆっくり休んでくれ」

唯「次のデートも、楽しみにしてるねっ」

P「だから、デートじゃなくて営業だと……ふぅ」


唯が女子寮の玄関に入って行ったところまでを見届け、肩を下ろす。


……この立場に、一つだけ問題があるとすれば。

プロデューサーであるこの俺が、唯に完膚無きまでに惚れてしまったということである。

いったん停止。続きます

唯「ゆい、プロデューサーちゃんを怒らせちゃったかなぁ……」


唯「最近、そっけないってゆーか……」


唯「なかなか目を合わせてくれないし」


唯「ライブの後のハイタッチもワンテンポ遅いし」


唯「ハグもしてくれないんだよ?」


唯「ホラ、ゆい色々テキトーだから」


唯「プロデューサー、愛想尽かしちゃったとか……」


唯「……なんつって☆」


唯「ねえね、この後ヒマ? ショッピングいこーよ!」

千夏「――だなんて。あの子は言っていたのだけれど」


静かな室内に、本を閉じる音が目立った。

言葉にも表情にも出さないが、千夏は怒っている。

鈍感だの何だのと言われる俺にも、それは理解できる。


千夏「誤魔化そうとしていたけれど、空元気でしかなかった」

千夏「勿論……あなたが、それを知らない筈ないわよね?」

P「……」

千夏「一体、どういうつもり? 急に距離を取ろうとしているように見えるのだこれど」

P「……ごほん。そもそも、アイドルとプロデューサーという関係からして――」

千夏「幸子ちゃんや乃々ちゃんには前と変わらない態度なのに?」

P「……」


千夏「ふぅ……」


千夏「プロデューサーさん、あなたのことは信頼しているわ。誰よりも」

千夏「だから、教えて欲しいのよ。なぜ、急にあの子と距離を置こうとしているのか」

千夏「もし、彼女に直接言いにくいことなら……相談して欲しい」

P「千夏……」


……などと言われても、流石に正直に話すのは憚られる内容である。

だって、考えてみてほしい。


――唯の事を意識しだしてから気恥ずかしくて今まで通りに接することができなくなりました

――17才JK相手に惚れるのは流石にヤバいので距離を置こうとしています。


などとほざく仕事相手をどう思うだろうか。



P「……ありがとう、ございます」

千夏「話して、くれる?」

P「いえ……申し訳ありませんが、全てを話すことはできません」

P「ただ、これだけは言っておきます」


P「彼女に問題があるわけでも、彼女のことを嫌いになったわけでもありません」

……なので、それっぽいことをオブラートに包みつつ、強気に言って誤魔化す。


P「むしろ、その逆」

P「俺たちの将来を思えばこそ、今までのように接するわけにはいかない」

千夏「……幸子ちゃんたちとは違うものをあの子に感じている、と。そしてそれは、嫌悪からくるものではないと?」


その通りだ、と頷き口を閉ざす。


千夏「それ以上のことは言えないし、言うつもりもないのね」

千夏「……わかったわ」

千夏「あの子には、私の方から上手く伝えておくわね」

……後日。


唯「~♪」

P「唯、帰らないのか?」

唯「プロデューサーちゃんのこと、待ってるー♪」

P「お、おう……けど、結構遅くなるぞ?」

唯「そしたら送ってくれるでしょー?」

P「まぁ、そりゃあな」

唯「だったらオッケー! そ・れ・にー……」

P「?……っ!?」

唯はイタズラっぽく笑って歩み寄ってくると、俺の方にその小さな顎を乗せてきた。

長い金髪が首筋を擽り、甘い匂いがする。


P「ゆ、唯……!?」

唯「このトクトーセキなら、ずっと待ってられるからっ!」



……ちなみに、デスクワークが終わったのは終電間近ギリギリだった。


千夏「あの人、あなたが好きで好きでたまらないみたいだから。今まで以上にアプローチしてみなさい」

いったんストップ
もうちょっと続きます

唯「Pちゃん!」


唯「Pちゃーん」


唯「Pちゃん?」


唯「Pちゃ~ん♪」


唯「PちゃんPちゃん!」



唯「Pちゃん♥」

……おかしい。


アレから、唯のスキンシップは抑えめになるどころかドンドン増えてきている。

気付いたら隣に座って手を握られてたり、事務所に来るなりハグしてきたり。

一緒に食事に行った時なんかは「あーん」をする事が当たり前になっている。

この前なんかは、仮眠室で眠っていたらいつの間にかにベッドに潜り込まれていた。

プロデューサーとアイドルの関係としては、実に不健全と言えよう。


しかし、何よりもマズイのは……。


P「この状況に、慣れつつあることだ……!」

正直、仕事の日は唯と触れ合っていないと落ち着かない。

食べさせあいでドギマギしていた時とは比べ物にならない成長……成長、だろう。


P「……ううむ」


だがしかし、唯は煌めくアイドルで俺はただのプロデューサー。

度が過ぎたスキンシップは火種にしかならないような気がするし、ちひろさんにも迷惑をかけてしまう。

アイドルは恋愛禁止!……などと言うつもりはないが、一定のラインは保たねば。


P「どうすっかなぁ……」


問題は、そのラインがどこまでOKなのかという話になるのだが。


凛「プロデューサー、どうしたの?」

P「お、おう。お疲れ。レッスン終わったんだな」

凛「うん。今日の予定はもうないよね。それで、どうしたの? 渋い顔してたけど」

P「あー……」

咄嗟に「何でもない」という言葉が出かけたが、思えばコレも良い機会なのではないか?

唯と年齢の近い女の子の意見、というのも聞いておいた方がいいような気がする。

自分一人でアレコレと悩んでも、どうせ答えなど出ないのだから。


P「そうだなぁ……一つ、聞いてもいいか?」

凛「うん。何?」


ただ、直接聞くのはアレだから少し遠回しに……。


P「女子高生アイドルに恋するプロデューサーってどう思」

凛「いい。凄くいいと思う」


食い気味だった。

P「お、おお……そうか……」

凛「そうだよ」


思った以上の食い付き。

心なしか距離も近い。

クール代表、みたいなポジションの凛だがやはり年頃らしく色恋沙汰には興味津々なのだろう。

しかし何というか、これ以上深く突っ込むのは薮蛇な気がする。

プロデューサーとしての勘が危険だと囁いている。


P「じゃ、じゃあ……少し話を変えて……スキンシップって、どれくらいまで許されると思う?」

凛「スキンシップ」

P「ああ。セクハラだなんだとか最近厳しいからな」

P「これは俺の同僚の話なんだが、最近担当の子からのスキンシップが激しくて困ってるらしい」

凛「へえ。どれくらい?」

P「急に手を繋いできたりとか、ハグしてきたりとか、最近だと仮眠中にベッドに潜り込んできて」

凛「それだけ?」

P「それだけ……って、いやさあ」

凛「スキンシップっていうなら自分の匂いを押し付けるように強く抱き締めていや強くといっても振り解こうと思えば振り解けるくらいのレベルでただちょっと息苦しくなるような感じの逞しさと独占欲を感じさせる温もりを伝えながら一緒に手櫛で髪をサラサラと撫でて嗅覚と手触りで相手の匂いを確かめつつ耳元で優しい言葉を囁いてあげるくらいじゃないとね同僚の人のは正直言って挨拶レベルだからセクハラには成り得ないよ考え過ぎじゃないかな」

P「挨拶」

凛「挨拶」

P「そっかぁ」

正直早口で何言ってんのかあまりわからなかったが、普段の唯との触れ合いはスキンシップのレベルにすら達していなかったらしい。

匂い、という言葉をやたらと強調していたが最近の女子高生は相手の匂いを嗅ぎたがるものなのか?


P「うん、まぁ……とりあえず参考にするわ。同僚に伝えとく」

凛「プロデューサーも」

P「うん?」

凛「プロデューサーも、スキンシップが足りてないんじゃない?」

P「まぁ……そうなるのか、な?」

凛「そうだよ」

もしかして、俺が勉強不足なせいで唯に寂しい思いをさせているのか。

凛の言葉を信じるなら、俺は唯に対してスキンシップらしいスキンシップをしてやれていない。

最近、唯との距離が近くなったと感じていたが、実は全くそんな事はなかったのだろうか……?


P「ううむ……わかった。ちょっと、頑張ってみるよ」

凛「そうだね。早速実践してみようよ」

P「わかった」


俺は立ち上がり、両手を広げている凛――の隣を素通りし、


凛「……え?」

唯「ちょりーっす☆ どもども――きゃっ!?」


ちょうど、ドアを開けて入って来た唯を少し強めに抱き締めた。

長い金髪に手櫛を通してみると、少しも引っかかる事なくサラサラとした感触が指に伝わってきた。


唯「P、ちゃん……?」


戸惑う唯の声。

そりゃそうか、今までろくにスキンシップをしてこなかった男が急にこんな事をしてきたんだから。

凛の言葉に従うなら、次は優しい言葉を囁くんだったか。


P「唯は、偉いな」

唯「え……?」

P「唯なりにしっかり頑張って、努力して……この前のスペインツアーも大成功だった」

唯「あ、あれは……Pちゃんの、おかげ……」

P「いや、唯の頑張りだよ……なのに、ごめんな。今まで、ロクに構ってやれなくて」

唯「そ、そんなこと……ないって……」

しばらく二人で抱き合っていたが、凛の咳払いの音で互いに我に返った。

恐るべし、スキンシップ。


P「ごめんな急に。嫌だったか?」

唯「そ、そんなことないよぉ! ただ、心の準備的な……ね?」

P「今までスキンシップが取れてなかった分、これからはちゃんと毎日していこうと思うんだ」

唯「ま、毎日……」

P「あ、ただロケ先とか外とかじゃ流石に難しいから。うーん……」

唯「あ、あはは……オッケー☆ そこはガマンしたげるね」

P「ごめんな」

唯「んーん。ゆい、イイオンナでしょ?」

P「ああ、最高に」

その後、打ち合わせも兼ねて二人でカフェに行った。

事務所の中では手を繋いで行ったが、唯は少し熱っぽく、フラついていた。

風邪かと思ったが問題はないとのと。

ただ少し心配だったので、途中から唯をおんぶしていった。

いつもより少し大人しかったので、もしかしたら体調を崩していたのかもしれない。

その次の日からは、今まで以上に元気に仕事に励むようになり、益々仕事も好調に。


やはり、スキンシップは大事ということだろう。


凛「ふーん」

いったん止まり
もうちょい続きます

三代目シンデレラガール曰く、アイドルとプロデューサーの恋愛は問題ないらしい。

むしろすごくいいと推奨された。

だがまあ、冷静に考えればOKなわけがない。

そもそも相手が未成年の時点で、思い留まらねばならぬ。

ならぬ、のだが――。


P「……」

唯「zzz……zzz……」


猫はコタツで、唯は膝の上で丸くなる。

こちらを信頼しきって、スピスピと心地好さそうに目を細めて眠る姿はまさしく天使。


正直に言って、好きだ。

ならば、逆転の発想。

グダグダと悩むのならば、「唯は誰にも渡せねえぜ!」と豪語できるくらいのイイ男になれば良いのでは?


P「……よし!」


明日から、早速色々と準備を始めよう。

目標は、唯が20歳を超えるまでに唯と釣り合いが取れるような男になること。

もし唯に他に好きな相手がいるのならばそれは仕方ない、その時は潔く諦めよう。

そうと決まれば――。


唯「うー……? プロデューサーちゃん、仕事終わったぁ……?」

P「ああゴメン、もうすぐだから」

翌日、早朝6時。

まずは体作りからだと、オフの日の朝にはジョギングをする事に決めた。

別に太っているわけではないが、油断していると一気にきてもおかしくない。

特に唯と一緒にご飯を食べに行くと高確率で甘いデザートが出て来たりするし。

ぽっこりお腹のプロデューサーなんぞ、唯もお断り――いや、もしかしたら面白がってぽんぽことお腹を叩いてくるかもしれないが。


P「ふ……! ふ……!」


ちなみに何故こんな朝早くから走っているのかというと、単なる見栄である。

安っぽいプライドだが、泥臭い努力は極力隠したいわけで。


唯「おっ! プロデューサーちゃん、おっはー☆」

P「お、おはよう!」


――そんな思惑も、初っ端から崩れ落ちたわけだが。

P「お、オフなのに早いな。どうしたんだ?」

唯「んー……スポーツの秋……的な?」


確かに唯の格好を見ると、運動に適した服装をしている。

黒いジャージに、髪を一つに纏めるゴム。

洒落てるとは言い難いが、素材が素晴らしい為に唯の可愛さは微塵も損なわれていない。


唯「プロデューサーちゃんも、そんな感じ?」

P「ん、まぁな。運動できる時にしとかないと」

唯「そっかー。じゃ、このままジョギングデートだね」

P「はは、それもいいかもな」

唯「オッケー! じゃ、一緒に走ろっか」

唯「あはは、プロデューサーちゃん体力なさすぎー!」

P「ぜぇ……現役アイドルと、一緒にするなっての……はぁ……はぁ……」


単純な腕力ならともかく、普段から飛んだり跳ねたり踊ったりしているアイドルに体力で勝てるわけもなく。

ベンチにぐったりともたれかかる俺と、汗を流しながらもまだ余裕そうに笑う唯。

見栄は張れなかったが、唯の笑顔が見れたから良しとしよう。

……しかし、何でまた唯はこんな朝早くからジョギングに?

スポーツの秋というなら、別に早朝でなくても良い筈だが……。

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