モバP「そろそろいきましょうか」瑞樹「そうね」 (48)

モバマスSS
不謹慎鬱注意
人死注意
喫煙描写あり
以下に展開される諸行為はお願いですから絶対に真似しないでください。本当に取り返しがつきません。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1507311785

朝。始まりの朝。
人々は眠りから目覚め、陽の光を浴び、空の青さに目を潤わせる。
10月の金木犀の香りは、どこからか突然やってきて、またすぐに消えていく。
甘く爽やかな香りは、なんだか素敵なご馳走のようで、この匂いを嗅ぐと俺はちょっとだけ元気になる。
嗅げる時期はごくごく短いもので、来週には散っていることだろう。明日か明後日は雨らしいから、それで見納めだろう。

始発の電車のベルが聞こえる。始バスの走る音が聞こえる。雑踏の音が聞こえ始める。
世の中はやはり今日も動いている。俺がいようといまいと関係なく。
今日も世界は始まった。明日もまた始まるのだろう。

夏の暴力的な暑さは今や身を潜め、半袖でいればいささか鳥肌すら立つくらいには涼しくなった。
抜けるような空の青さは、まさに文字通りの青天井で、どこまでもどこまでもその深さは限りを知らなかった。
正に無限の青であった。

朝。決行の朝。
かねてより今日の準備を進めてきた俺は、ついにこの日が来たかと、起床一番に伸びをしては神妙に顔を整えた。

ああ、震える。恐れか、期待か。

寝具と今日着ていく服以外に何も物がなくなったこの部屋は正に空洞であった。
管理人に申し出て、今日の朝で俺は「転居」することになっている。荷物はすでに全て送ってある。
あとは服を着替えて寝具と寝間着をまとめて出ていくだけだ。

モバP「……いってきます」

もう戻ることはないその部屋に、そう一言だけ告げて後にした。
思い出も全て送ってある。大丈夫だ、問題はない。

管理人に鍵を返して

「お世話になりました」

いってきますの代わりに、ただ一言だけ添えておいた。

「ただいま」を告げることは、もうない。

それにしても布団とは意外にも重いものだと感じた。
3日間何も食ってないから、それで体力が落ちてるのだろう。だから重く感じるのだ。

一歩一歩。街路樹、すれ違う人、電信柱の広告、信号機。
これらも皆全て、ああ、今日限りのものだと思うと、なぜか途端に惜しいもののように感ぜられた。

今日は燃えるゴミの日。寝具と寝間着をゴミ捨て場に投げ込んで、
俺の荷物はポケットに入っている約束の場所までの片道運賃分の小銭と、タバコとライターだけになった。
携帯も解約したし、一昨日に切れた定期券は更新していない。文字通り俺には何も残っていなかった。

寝具と寝間着を処分して、いかにこの身の軽いものかと実感した。
仕事柄多くの書類やらPCやら荷物やらを日がな一日中持ち歩いていた俺には、実に新鮮な外出だった。
手ぶらで外出したことなど、何年振りだろう。

この感覚もまた、今日限りのものだと思うとやはり惜しい気がした。

体力が落ち気味とは言えども、体が軽いだけでこんなにも歩く速度は上がるものか。
いつもなら体感で20分ほどの道のりも、今日は10分で歩いてこれてしまったような気がする。

まあ、家にも持ち物にも時計がないから、ただの体感だが。

有り金を全部突っ込んで、切符を買う。ICカードを使わずに改札を通るのもまた数年振りのことだった。懐かしい。
金の代わりに穴の空いた切符をポケットに大事にしまって、俺は電車を待った。

~~~~~~~
しゃかりきになって歩いたからだろうか。先ほどからめまいがする。
銀と青の滲み出る幻色に抵抗しつつ、軽く頭をうつむかせてめまいが去るのを待った。

めまいが晴れてしばらくして顔を上げると、向かいの5番ホームに俺の姿を捉えた。



何。何事だ。



向こうの「俺」は俺に気づくと、目線をこちらに固定したまま動かなくなった。

やがて向こうの「俺」のいるホームに電車がやってきた。

あっ、という間だった。

「俺」はこちらに向かって駆け出したかと思うと、やってきた電車に向かって体当たりした。

電車は速度を下げることなく「俺」がぶつかったのも意に介さず、そのまま直進している。

「俺」は電車の運転席に一瞬だけ張り付いて、そのまま力なく墜落し、轢き潰された。

ちぎれた「俺」の首が車輪に張り付き、車輪と一緒になって回っている。

~~~~~
パルルルルル!!

P「はっ!?」

気がつくと目の前に電車が来ていた。慌てて飛び乗る。
さっき見たものはなんだったのか。疲れからくる幻覚か。
3日も飯を食わなかったのだから、あながちあり得なくはない。
にしても、あんな幻覚をこんな日に見てしまうとは。


しばらく電車に揺られていた。揺れが気持ち悪い。
近くの物を見ているとどうしても酔う。電車の窓の外に目を向けてみた。
高低差のあるビルを横目に電車は走っていく。
遠くのビル、近くのビル、近づいて、離れていく。

4駅目で特急の追い越し待ちをした。ホームと川を跨いだその向こうにもビル群が見える。

赤い看板が目にとまる。今流行りの飲料水の広告。

その上に。


「……ッ!」

またしても「俺」がいた。看板の上に立って虚ろげにこっちを見ている。

かなり遠いからか、点のようにしか見えないが、それでもあの人影は「俺」だった。

「俺」のいる空間だけ、やたら近くに見える気がした。

嫌な予感がして、そして的中した。

何度か横にゆらゆらと揺れたかと思うと、意を決してそのまま飛び降りた。

「おいおい、嘘だろ……」

そのまま「俺」は地面に吸い込まれて、見えなくなった。

赤い飛沫が、小さく、たしかに散った。

雑踏は意にも介さない。

~~~~~
パルルルルル!!!

電車の発車ベル。またしても俺は現実に呼び戻される。

何度目かのめまいに揺られながら、電車は俺を確実に約束の地へと運んで行く。

もう、たくさんだ。

~~~~~~
川島瑞樹の話をしよう。

川島瑞樹は俺の担当するアイドルの1人だった。

今では言わずと知れた売れっ子のアイドルで、前職の技術を生かしてナレーターや声優など、声を使った仕事で一花咲かせた。

歌の仕事ももちろん抜群であった。「nocturne」などはダウンロードサイトで、あの有名な主題歌を抜いて一位に輝いた。
プロデューサーとして誇らしいことだ。

女優としても、バラドルとしても優秀で、ここ最近の彼女はテレビで見ない日がない。

在阪キー局時代に燻っていた情熱を、ここにきて一気に解放させたかのようだった。

俺が彼女を担当できたのは一つの奇跡みたいなものだった。

「ありがとう、プロデューサーくん。ここまで私を連れてきてくれて。感謝しているわ」

俺にはもったいない言葉だった。

そして花は散るものだ。その季節が、遅からず彼女にもやってくる。


惜しまれて散るのが花という。


花はいきなり散る。その意思の有無にかかわらず、突然散る。


散られた花は見向きもされない。


縮まった花弁は砂草に紛れ、踏まれ、朽ちて行く。

瑞樹さんがいつからだろう。

「疲れた」

しか言わなくなってしまったのは。

人間、生きるのに理由はいらない。


ただそう『在れば』いいだけの話。


故に死ぬ理由もない。


自然に消えて行く。何かしら抗えないものの意思だろうと。自分の意思だろうと。

話のきっかけを持ちかけてきたのは瑞樹さんからだった。

「プロデューサーくん。死にたい って、思う時、ない?」

「いきなり何を言いだすんですか」

「……聞いてみただけよ」

彼女が「死」という言葉を発したのは、今から1ヶ月前の話だった。

何かの冗談だと思って聞き流していた。


次第に、事務所で会う一瞬以外にも、送迎、2人きりの飲み会、などなど、
ふとした一瞬の虚を突いて、瑞樹さんは「死にたい」と明確に発するようになっていった。

「瑞樹さん、最近眠れてますか」

「その『瑞樹さん』って呼び方、そろそろ直らないのかしら」

苛立っていた様子だった。瑞樹さんは強い口調でそう言った後、弱々しく

「……ごめんなさい。続けて」

と言った。

「……眠れて、ますか」

「あんまり、寝れてないわね」

「不幸は、『さむい ひもじい もう死にたい』の順番でやってきます」
「美味しいものを食べて、あったかくして眠りましょう」

「……そうしたいわね」

「明日、瑞樹さんちに泊まります。いいですね」

「……勝手にしたら」

「そうさせていただきます」

長い間彼女を担当してきて、守るべき一線を超えないように努めてはきたが、ここ最近の彼女の言動は気にかかる。
そう思った俺は、多少強引にでも瑞樹さんを立ち直らせるために、彼女の家で酒盛りをしようと画策したのだった。
空腹と寒さは容易に死を誘引する。ならばその原因を絶ってやればいい。そう思っていた。


安易な考えだったと今では思う。

事務所からはそう離れていない彼女の自宅に、ありったけのいい酒といいつまみを持ち込んで、酒盛りを決めた。
早苗さんや楓さん、心さん美優さんなど、彼女と仲のいいメンツも誘おうと考えていたが、
都合がつかないのと、何より瑞樹さんが「やめて、呼ばないで」というものだから、結局2人きりの飲み会を瑞樹さんの家でやるだけになってしまった。

「……あの子達の前で『死にたい』なんて言っちゃったらどうするのよ」

1本目の瓶ビールを開けながら、瑞樹さんは言った。

「言ってないんですか」

「言えるわけないじゃない」

「……俺にだけ言ってたんですね」

「そうよ。悪い?」

「悪いなんて、一言も言っちゃいませんが」

「飲みましょ。乾杯」

「乾杯」

ちん、と、グラスが鳴る。

「……ふぅ」

「体にしみるわね。やっぱりお酒はいいものだわ」

「ちゃんと食べるものも食べてくださいね。片付けは全部俺がやりますから」

「わかってるわよ」

「ちゃんと食べてるか、監視する目的でもあるんですからね」

「いちいちうるさいわよ」

「はいはい、食べましょう食べましょう。俺も食いますから」

「……」

瑞樹さんの反応は薄いとはいえ、色々な話で盛り上がった。
事務所のこと、前の仕事のこと、俺の前の仕事のこと、親のこと、
こないだの収録で共演者が異常者だったこと、新任の部長がいちいちクソ面白いこと。

今思えば、笑いこそすれど、その微笑みには目の光が伴っていなかった。
瑞樹さんの目は、もう既に何も映していなかった。


愚かな俺はそれに気づかなかった。

「なんだかんだたくさん食べましたね」

「貴方が『あれも食えこれも食え』っていうから、許容量超えつつあるわ」

「瑞樹さんに食べて欲しかったので」

「貴方こそちゃんと食べたの?」

「ご心配なさらずとも、ほらこの通り」

「やっ……ちょっともう!お腹出さないの!その歳でそんな腹出っ張らせて……知らないわよ」

「まぁ、まだギリメタボじゃないんで」

「そんなこと言って、健康診断に怯えることね」

「手厳しい」

寝る準備をした。寝具は家から持参している。

「やたら大きい荷物持ってきたと思ったら、本当に泊まる気だったのね」

「泊まるって言ったんで」

「冗談かと思ってた」

「冗談に見えましたか」

「いいえ……」

「いやですか」

「嫌だったら叩き出してるわよ」

「そりゃどうも」

「……そう、それよ。それ」

「はい?」

「ああんまた敬語に戻っちゃった」


心配ない。そっちの一線は超えなかった。

翌朝。俺よりも早く起きた瑞樹さんは、起き出した俺の目を見て開口一番に


「ごめん、やっぱり死にたいわ」


そう言った。


既に手遅れだったのか、それとも俺が最後の一押しをしてしまったのかは定かではない。
ただ言えることは、俺が愚かだったということだけだ。

事務所の息のかかった大病院の精神科に瑞樹さんを突っ込むことも考えた。

仕事と騙して連れてきたはいいものの、瑞樹さんは持ち前の演技力で精神科医の目を完璧に欺いてみせた。

「問題ないですね」

俺は自分と目の前の無能を恨んだ。

「何しようったって無駄よ。死ぬって決めたんだもの」

「どうしても考え直してくれないんですか」

「考え直さない。無駄よ、無駄」

「なんで、なんで」

「なんでって……」


「……疲れたのよ」


俺は訊くのをやめた。

その代わりに、ほぼ毎日のように瑞樹さんの家に詰めかけて、酒盛りをやるようになった。

毎朝毎朝、瑞樹さんの「死にたい」で、俺の希望はことごとく砕けた。

何回めの酒盛りだろうか。瑞樹さんの家について、違和感を覚える。

「あれ、nocturneのサイン色紙とポスター……」

「ああ、あれね。捨てたわ」

「はい!?」

「……そろそろ身辺整理しなきゃねって、思って。一番新しいものから捨てたの」

「……」


言葉を失った。

そこから瑞樹さんの家に行くたびに、瑞樹さんの思い出の品が続々と部屋から消えているのがわかった。
少しずつ、でも、確実にものがなくなっている。

「いやー、ものが少ないと掃除も楽なのよねー」

気は抜けているが、それでいてもう完全に覇気の失われた声で瑞樹さんは言う。

素はこんなでも、仕事の時は以前と変わらない調子で続けているのだから、
本当に人間というものは、特に瑞樹さんは、表の様子を見ただけじゃわからないものだ。

「……じゃあ、もう表彰式のアレも」

「燃えたわ。とっくの疾うにね」

ズン、と、胸の奥に重いものが支えた。

「遺される人のことも、少しは考えてくださいよ」

気持ちは声になって出ていた。

「死んだら関係なくなるのに、何言ってるのよ」

「嘘だね」

「はい……?」

「嘘だよ。瑞樹さんはそんな冷たい人じゃない」
「本当は「やめて」」

「……」

「やめて」

「卑怯だ」

「なんとでも言いなさい」

この日を境に、俺もどこかで何かが壊れたのだと思う。

この日はめずらしく瑞樹さんと一回も会わない日だった。
ちょっと思うところがあって、俺の高校以来の友人と飲みの約束をした。

「久しぶりだな。ちょっと太ったか?」

「まあちょっとな」

「景気いいんじゃない」

「そうとも言えんよ。仕事が回ってくるだけ有難い時代だよ」

「あんな売れてる娘がいるのにか?」

「売れてない子の方がずっと多いんだよ」

たわいもない話から始まって、次第に酔いが回ってくると、あのことをぽろっと話してしまった。

「……担当がな、死にたがってる」

「おいおい」

「本当なんだよ。身辺整理まで始めて、周りのものどんどん捨ててる」

「ガチなやつじゃんか」

「ガチなんだよ」

「それ俺に言っていいのか」

「お前にしか言える相手居ねーの」

「……嘘だろ」

「俺のセリフだわ、そんなん」

「大変だな……」

「大変だよ……俺には何もできなかった。何言っても聞かなかったし、精神科も騙し通した」
「どうすりゃいいんだよ……」

以降の記憶はない。

翌朝、久々の自室での目覚めだ。

世界はまるで違うように見えた。

暗いような、煤けてるような。そういうように見えた。

事務所。瑞樹さんと1日ぶりに会う。

「おはよう、プロデューサーくん」

「おはようございます」

「日時は決めたわ。一週間後。その日に私はここから居なくなります」

「……」
「関係者とかとの引き継ぎもありますんで、もうちょっと待てませんかね」

「あら、止めないの?」

「止めて欲しくないみたいなこと言ってたの自分でしょうに」

「そう、ならよかった」

「よかないですよ、まったく」

「怒んないの」

「怒ってないって」

「そうそう、そういう感じよ。そういう感じ」

「……どういう感じですか」

「ああ、また戻っちゃった」

よくわからなかったけど、この時の瑞樹さんの笑顔は心からの笑顔だった気がする。

目に光が宿って、本当に嬉しそうに笑う瑞樹さん。

思えば俺は、この笑顔に惚れていたのかもしれない。



これが瑞樹さんの、最後の笑顔だった。




実はこの辺りから俺も死にたくなっていったのだが、まあ大体察しはつくと思うので、俺の話は省く。

人は簡単に死にたくなるようにできているのだ。

~~~~~~~~
約束の地にたどり着いた。

ここは事務所。一番最初に、瑞樹さんと仕事の話をした、いまはもう使われていない元会議室。

瑞樹さんは先について、セッティングも済ませていた。

2人分。


瑞樹「遅かったわね」

道具はすでに揃っている。あとは決行するだけだ。
しかし、あとは実行するだけとなった今でも、うだうだとしてしまう。


瑞樹「……」

P「……」

瑞樹「わかるわ」

P「何がですか」

瑞樹「面倒なのよね」

P「まぁ、なんて言ったらいいのでしょうね」

瑞樹「最期くらいその口調やめたら?」

P「つい。癖で」

瑞樹「ん……まあ、いいけど」

P「あ、タバコ吸ってなかった」

瑞樹「あなたまだ続けてたの」

P「結局やめらんないまま最期まできちゃいました」

瑞樹「体に悪いからやめなさいって言ってたのに」

P「それからみんなの前では吸わないようにしてたんですよ」

瑞樹「全く……」

P「体に悪かろうと良かろうと、いずれ行く末は骨ですよ」

タバコをくわえる。

瑞樹「そういえば、ちゃんと弔ってもらえるのかしら」

P「希望としては納骨じゃなくて散骨して欲しいところですね」

瑞樹「わかるわ。骨壷の中って、なんとなく嫌よね。意識なんて、もう無いけど」

P「壺の中、かぁ」

瑞樹「うん?」

P「人間て、死んで燃やされると、生きてるうちじゃ体育座りしたって入れっこない小さな陶器の入れ物の中に押込められてしまうんだなって」

瑞樹「そうねえ……」

P「お袋の葬儀の時、思ったんですよね」

瑞樹「ちょっと、今親の話を出すのは無しでしょ」

P「あ、すんません」

タバコに火をつけた。紙巻独特の匂いがふわっと香る。久々のタバコだ。
頭がくぁ~とする。手に汗が滲む。

P「……許せ、親父。一応順番は守ってるから」

瑞樹「……」

P「ごめんなさい、臭いはちょっと我慢してください」

瑞樹「私も吸っていい?」

P「はいぃ!?」

瑞樹さんは言うが早いか、俺の左手から箱をひったくり、残り一本の紙巻を取り出した。

P「吸ったことあるんですか瑞樹さん」

瑞樹「バカね、初めてよ。吸うわけないじゃないこんなもの」

P「じゃあなんで」

瑞樹「……最後の好奇心?」

P「病みつきになっても知りませんからね」

瑞樹「そうなったらそうなったでいいじゃない。第二の人生スタートってことで」

P「この人死ぬ気マンマンだよ。ウケるな」

瑞樹「当たり前じゃない。はい、火」

不慣れに手首を突き出す瑞樹さんが、なんだか少しだけおかしかった。

P「くわえてください」

瑞樹「こう?」

P「吸いながら火を当てるんです」

瑞樹「すぅー」

P「あ」

瑞樹「ゲホッ!!う、、えっほ!」

P「吸うっつっても思い切りはヤバイっすよ」

瑞樹「先に言いなさいよ……えっほ、気持ち悪い」

P「吸いたいって言ったの瑞樹さんですからね」

瑞樹「どうやって吸ってるの」

P「口腔を膨らませて肺を使わずに吸うんですよ。"ふかす"って言うんですけど」

瑞樹「ふーん」

P「そうしてから、肺に入れて煙を吐く」

瑞樹「ぽふー」

P「上手上手」

瑞樹「えへへー……って何させんのよ」ばしっ

P「いっ……!」

瑞樹「……あんま美味しくないわね。頭クラクラするわ」

P「最初はそんなもんです」

瑞樹「二度目はないわね~」

P「まあもう二度と吸うことはないわけですが」

瑞樹「残念、第二の人生スタートはなしね」

P「最初からそのつもりだったでしょうに」

瑞樹「絶対に好きになることはないわね」

P「わかりませんよ、吸い続けてたらやめらんなくなりますから」

瑞樹「貴方はどういう経緯で吸うようになったの」

P「覚えてませんね。いつの間にかやめらんなくなってました」

瑞樹「どうしようもないわね」プハー

P「吸うの様になってますね瑞樹さん」

瑞樹「こんなん様になったってちっとも嬉しくないわ」

P「カッコいいって意味ですよ」プハー

瑞樹「なおさら嬉しくないわ」

P「……ねえ、瑞樹さん」

瑞樹「なあに、Pくん」

P「最後くらい、思いっきり笑ってくださいよ」

瑞樹「……こう?」



その笑顔は、たしかに綺麗ではあったけど。



あの日見た最後の笑顔とは、程遠いものだった。



P「……ありがとう」

瑞樹「……どういたしまして」

さあ、そろそろ時間だ。

P「準備と覚悟はいいですか」

瑞樹「いいわ」

P「では、また来世で」

瑞樹「あれば、ね」




俺たちは飛び立った。存在するとも知れぬ、最果てのその向こうへ。

椅子が二脚、ガコンと音を立てて倒れた。





吸い殻が二つ、灰皿に遺されていた。







最後まで読んでいただきありがとうございます。毎度ありがとうございます。
皆さまに支えていただいているそのおかげで今の私があると思うと感謝しかありません。

この作品は自殺を推奨するものではありません。
私の通称からして私が言えることではありませんが、今の人生が苦しくても、決して早まった行為はしないよう謹んでお願い申し上げます。


ではまた。連載もそろそろ再開します。

参考楽曲

BERSERK -Forces-/平沢進
http://youtu.be/NkYYYew8CUI

手紙 -拝啓、十五の君へ-
http://youtu.be/erGCAu_hFqM

風になりたい/THE BOOM
http://youtu.be/1A6l9VkFbFU
(ライブバージョンしかなかった)

やり直し。こっちのレスを参照してください。

参考楽曲

BERSERK -Forces-/平沢進
http://youtu.be/NkYYYew8CUI

手紙 -拝啓、十五の君へ-/アンジェラ・アキ
http://youtu.be/erGCAu_hFqM

風になりたい/THE BOOM
http://youtu.be/1A6l9VkFbFU
(ライブバージョンしかなかった)

以下雰囲気似てるかもしれない過去作品

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ありがとうございました。

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