荒木比奈「STOPした意識」 (9)

Didn't wanna know 夢見るごとに
Didn't wanna know 傷が増えてくのは
初投稿です

前作→
荒木比奈「なぜ私がプロデューサーを避けるのか」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1504015070

続きのような何かですが読まなくても大丈夫です

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1506949300


…ここはどこだろう。

見覚えがあるけど、どこか分からない。私の部屋みたいだけれど、私の部屋じゃない。ベッドの感触は良くなじんでいるものだけれど、家具の配置や色は私の部屋のものでは無い。

「…あ」

ベッドから体を起こすと、普段はない場所にあるテレビの電源が付いていて、その前に座っている人が一人。服はスーツじゃなくて私服っぽい?、ラフな格好だけど、いつもパソコンのモニタに向かっているのと同じ背中だ。

「プロデューサー?」

どうしてプロデューサーが私の部屋にいるんだろう?いや、ここが私に部屋と確定したわけじゃないけれど。でもこのシチュエーションは、やっぱりおかしい。

プロデューサーは、手にコントローラーを持って、テレビゲームに興じている。私も知っている、世界一有名な配管工の男が出てくるゲームだ…けれど、滅茶苦茶だ。

キノコが上から降ってきて、それをラスボスのデカい亀で打ち落としているし、よく見ると足場が全部コインで出来ている。どうして落ちないんだろう?いや、そもそも本当に自分が知っているゲームなのだろうか?

ますます分からない。一体何がどうなっているのだろう。


「プロデューサーさん?あの…」

いまいち状況が飲み込めない私は、彼に言葉を投げかける。すると彼の背がピクっと動いて、画面の配管工が魚の敵にぶつかってゲームオーバーになった。

彼が振り返る。その目はいつもの彼のそれとは違って、少し怖かった。

「比奈…」

「プロデューサーさん…?」

「いい加減にしろよ」

彼が絶対に言わないような言葉で、私に詰め寄る。そのまま腕と肩を掴まれて、ベッドに押し倒された。

「俺の気持ちも知らねえでお前は…」

「え?え?」

困惑するしかなかった。怒りだけじゃない、何か他に大きな欲望が混じった視線。こんな視線を彼に向けられたのは初めてで、とても恐ろしかった。


「無防備なのも大概にしろよ…一緒に雑魚寝は平気だとか、部屋に行ったときの服装だとか…!」

怒気混じりの声で言葉を浴びせられる。

「うっ…うぅっ…!」

いつのと違う彼に怖くなって、私は涙を流してしまう。しかし彼はお構いなしで、私を掴んでいる腕に血彼をより一層込めた。

「もう我慢できない…」

いつの間にか、着ていたジャージはどこかへ行って、私は下着姿になっていた。

そのまま、強引に唇を奪われて…



◆◇◆

「ぃ、いやっ!」

「うぉわ!びっくりした!」

というところで目が覚めた。

「……………あれ?」

見回すと、私の方へ視線を投げかける人がいることに気がついた。

「あぁ、マリオが!」

彼は携帯ゲーム機で遊んでいたらしく、見慣れた赤いヒゲ男は穴に落ちてゲームオーバーになっている。

「…おはよ、比奈」

「…おはようございます、Pさん」

いつのと同じ視線と、いつのも同じ優しい口調の言葉を投げかけられる。それは、私の心をとても落ち着かせた。


ところどころ、なんとなく思い出してきた。

昨日、私が彼に締め切り間際の漫画原稿の手伝いを頼んだのが事の発端。そして事務所で原稿作業がスタート。

彼だけでなくユリユリや奈緒ちゃんも手伝ってくれて、何とか締め切り前に原稿は完成して、そのまま無事に入稿できた。

で、完成祝いにって、奈緒ちゃんも早めに帰ったしって事で、本当はダメだけどちょっとだけ事務所でお酒を呑んで……そこからはあんまり覚えてない。

なんとなく分かるのは、酔っちゃってそのまま私仮眠室で寝て、そして変な夢を見て、飛び起きて、マリオを一人葬ったということ。

そして隣のベッドでは、ユリユリが気持ちよさそうに寝ていること。そして私は、あんな夢を見て飛び起きて…。


ゲーム機の電源を落とした彼におずおずと目を向ける。彼は私に視線に気づいたようで、私の方へ振り向いた。

「…比奈、どうしたの?」

彼から視線をそらして、そして心の中で絶叫した。なんて夢を見てしまったのだろう。夢って確か見る人の願望を移すものだって話があるし、だとしたらアレが私の願望って事に…いやいや、夢はただの脳の記憶の整理って説もあるし。

記憶の整理だとしてもおかしいところ多いけれど。原稿とか修羅場とか飲酒とか色々重なった結果があれだと思いたい。

「じゃあ、比奈、はいこれ」

一人悶々としていると、彼に紙袋を手渡された。大きさのわりにはやけに軽い。

「比奈、えっと…俺の事信じてね?何もしてないから、あと…」

「?、何っスか?」

紙袋の中身を見ようとしたところで、歯切れ悪く彼に何かを言われる。

「あんまり…無防備すぎるのは…ね」

なんとも言えない微妙な表情で彼は私に告げて、そのまま仮眠室を出て行った。

どういうことか分からない。とりあえず、紙袋の中をのぞき込んだ。

「………え?」

紙袋の中には、見慣れた、いや身につけていたものが入っていた。

これは、私のズボンじゃ…。

サーッと血の気が引いていく。背筋に冷たい汗が流れる。いてもたってもいられず布団に隠れた下半身をのぞき込む。

そこには、あるはずの、履いてあるハズのものがなかった。

私は短く叫んでしまった。隣で寝ていたユリユリが飛び跳ねて目を覚ました。

これ以降私は、事務所で原稿を助けてもらうお願いをすることと、事務所でお酒を飲むことをしなくなった。

ここまでです、ありがとうございました

比奈先生が無防備すぎてもう~~~!ピプペポパニックだよ~~~~!!

あ、ツイッターがやべーやつだ

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