お隣さん (12)
男「偶には夜にベランダ出るのもいいもんだな」ノビー
「まあ、マンションの狭いベランダだけど……」
隣人「あのぅ」
男「のわビックリしたっ、な、何ですか?」
隣人「えっと……私事で申し訳ないんですけど、何かいる気がするので退治して戴けませんか?」
男「はぁ、まあ俺でよければ」
隣人「あ、ありがとうございますっ」ペコッ
男「大きさとか分かります?」
隣人「えーっと、このくらい?」
男「手首大……結構デカいですね」
隣人「あれ、そうですか? 私の実家の辺りではもっと大きかったのでもっと怖かったんですけど……。なんて、どっちにしても怖いんですけどね、私」
男「へー、俺の実家だと全く見なかったですよ。こっちで初めて見た時なんて嬉しくて嬉しくて」
隣人「あぁ、そんな所もあるんですねぇ」
男「その時の写真もありますよ」
隣人「見ませんよ?」クスッ
男「……ですよね。すみません」クスクス
「やっぱ本土とは感覚が違いますね」
隣人「あれ、もしかして沖縄の方ですか?」
男「惜しいっ、逆です」
隣人「というと好きな花は矢っ張り」
男「福寿草です」
隣人「そこはラベンダーじゃないんですか?」
男「や、あれはトイレの芳香剤で十分ですよ」ハハハ
隣人「何かがっかりな理由ですね」クスクス
男「ところでそちらのご出身は?」
隣人「私は岐阜県です。地元は食品サンプルと口裂け女の発祥地として有名、らしいです」
男「でも裂けてませんよね?」
隣人「私、キレイ?」
男「可愛いですよ」
隣人「ありがとうございますっ」ニコッ
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男「お邪魔しまーす」
隣人「あ、こっちです、こっち」
男「はー、台所ですか」テクテク
隣人「ええ……料理の途中でいきなり」
男「となると冷蔵庫が怪しいですね」
「さて、どう退治したものか」
隣人「そのスプレーは?」
男「ゴキジェットです。あー、でもなー。これノズル壊れててあんま奥逃げられてると届かないんですよ」
隣人「効くんですか?」
男「凍らせるヤツよりは致死量少ないですよ。間違いなく人間にも効きますけどね……」
隣人「あれって死ぬんですか?」
男「へ?」
隣人「え?」
男「……何か勘違いしてるみたいですね」
「あの、もしかして何か映画見てました?」
隣人「実は着信アリを」
男「は」
隣人「すみません……///」
男「まあ、取り敢えず状況を聞きますか。その『何か』はどんな感じで現れたんですか?」
隣人「えっと、私、晩食ついでに明日のお弁当作ってたんですけど、全体的に緑色になってしまったんですね」
男「いいんじゃないですか?」
隣人「お肉も食べたいんですよ」
「それで、確かウィンナーが入ってた筈だからって冷蔵庫を開けたら、中に」
「――中に……っ」ウルウル
男「大丈夫ですか?」
隣人「ほっ、本当に怖かったんです……」グスッ
「一瞬なんですけど、冷蔵庫の中に女の人が入ってる幻覚が見えてしまって。その、手足もバラバラで。目が合って」
男「素人に退治出来る相手じゃないですね、うん」
男「これも見てたんですか?」
隣人「はい」
男「これもこれも、これも?」
隣人「ええ、今日はホラーな気分だったので」
男「で、結局そんなものを見るに至ったと……」
「いや、アンタがつい最近引っ越して来たのは知ってますよ? 面識が無いのも重々承知ですよ? でもすみませんね、言わせて下さいね。アホですか?」
隣人「あぅぅ……」
男「これ、とても1日じゃ見られない量ですよね」
隣人「そうですね、なのでここ4日くらいは」
男「今日『は』、と仰ってませんでした?」
隣人「あ。すみません、今日『も』、です」
「うっかり口が滑るってありますよね、ここが事故物件だと聞いた後で『お安いですよ』って言われた時とか」
男「はー、心底アホですね」
隣人「ホントにすみません……///」
男「まあ幽霊は気のせいでしょうけどね」
prrr…
隣人「ひっ。あああのっ、代わりに取って貰えますか?」
男「え、いや電話の相手に色々勘違いされますよ?」
隣人「やですっ、今は取りたくないんですぅっ」ウルウル
男「社会人としてそれは不味いでしょう」
「じゃあ俺は帰りますんで。頼む相手がいなければ変な気も起こしませんよね?」
『呪ってやるぅ――っ』ザザッ
男「何か言いました?」
隣人「怖いから止めて下さいっ」
男「え、俺は何も」
『殺してやるぅ――っ』ザザッ
隣人「ほらまた変なこと言ったぁ」グスッ
男「……突然ですけどウチに来ませんか?」
隣人「はい、いや、友達の家泊まるつもりなので」
男「間に合わなくなりますよ?」マッサオ
隣人「おおおお願いしますっ」
隣人「お邪魔しますっ」
「ふ、布団、お布団……あったっ」タタッバフッ
男「ちょっ、ベッド、俺も逃げ込みたかったのにっ」
隣人「」プルプル
男「マナーモードですか」
「出て来て戴けます?」
隣人「やです。ここに住むんですっ」スッポリ
男「はあ?」
「あのー……一応家主の許可得てからそういうことはやりましょうよ。親戚の子供じゃあるまいし」
隣人「ねぇお義兄ちゃん、私ここに住んでいいかな?」
男「俺はいつからアンタの義兄になったんですか」グイッ
隣人「やぁっ、お布団剥がないでぇっ。私っ、私っ、あんな電話掛かる部屋帰りたくないですぅっ」
男「面識の無い異性の部屋に初めて入って最初にすることが『布団に潜り込む』、あまつさえ『今日は帰りたくないなぁ(はぁと)』ですか」
隣人「そ、その言い方は語弊がないですか?」
男「事実じゃないですか。弁明したいのなら」
隣人「やですぅっ」プルプル
男「はぁ……じゃあ、そのままでいいですよ。俺は湯沸かしてカップラーメン啜ってるんで」
隣人「」ピクッ
男「深夜に他人が食べているラーメンほど美味そうな食い物は無いですよね。アンタにはあげませんが」
隣人「鬼だ、ここに鬼がいる」
男「出て来たら適当に何か作りますよ」
隣人「……くれますか?」
男「あんま期待しないなら」
隣人「」ヒョコ
男「お、亀だ」
隣人「」スポッ
男「あ、引っ込んだ」
「そうだ、着信アリで布団と言えば」
隣人「ひいいいいいいいっ」バタバタ
男「はいどうぞ」コト
隣人「ありがとうございます」ペコッ
「成り行きとは言え真逆こんなことになるとは」
男「そりゃ俺の科白ですよ。想像だにしなかった」
「あ、TV点けますよ。録画したヤツが溜まってんです」
隣人「へー、何録ったんですか?」
男「仄暗い水の底から」
隣人「何でよりによって……っ」
男「いいじゃないですか、別に」ピッ
隣人「よくないですよぉっ。うわぁ始まったし」
「そ、そうだ、このおつまみ何ですか?」
男「皮。事前に茹でて冷凍しておいたヤツを水にぶち込んで解凍して、後は豆板醤と長ネギの葉と一緒に炒めただけですよ」ピッピッ
隣人「わ、わーっ、美味しそうですねー……」チラチラ
「ちょちょちょっ、何やってんですかっ」
男「見たトコまで早送りしてます」ピッピッ
隣人「うわうわうわうわうわひぃぃっ」
「なっ、なんって恐ろしいことしてんですかっ。ちょこちょこ見えるカットでいちいち内容思い出すじゃないですかぁっ」ウルウル
男「ネタバレは勘弁して下さいねー。ああここだ、淑美が郁子を抱えてエレベーターに乗り込むシーン」
隣人「やーめーてーっ」イヤーッ
男「しょうがないですねぇ」ピッ
「互いに寝るワケにはいかない状況ですし、寧ろこれで寝られなくなれば好都合だったんですが」
隣人「ひっく……ひっく……」グスグス
男「流石に可哀想になりました」ハァ
「ひどい顔ですね、洗面所貸しますよ?でも風呂場にだけは入らないで下さいね」
隣人「水場に近付くのすら今はやですぅ……」
男「幾ら何でも影響され過ぎじゃないですか? イマドキの若い子だってもっと割り切りますよ」
隣人「わっ、私だってまだ21ですっ」ムスッ
隣人「スマホないと色々と不便ですね」
男「あると便利な気がするってだけじゃ?」
隣人「実際便利だと思いますよ。時間潰せるので」
男「そうですか。なら戻って取って来たら如何です?」
隣人「やです」ウルウル
男「ですよね」
「でも明日からどうするんですか? まさか俺と同棲するワケじゃないでしょうに」
隣人「あ……考えてなかった。まあそれはおいおい……ね?」
男「服はどうするんです?」ハァ
隣人「大丈夫、最悪休めばいいんです」フンス
男「今まで生きてこれたのが不思議なくらいアホですね」
隣人「アホじゃないですよっ。精々が同僚にアホの子って呼ばれるくらいですぅっ」
男「十分アホです」
隣人「あるぇ?」
男「まあそういう人も嫌いじゃないですが。ああ、アホついでにビール呑みます?」
隣人「戴きますっ。私黒ラベルでっ」
男「ウチ淡麗なんですよ」
隣人「うぅむ、でも1本下さい。お幾らですか?」
男「払ってくれるんですか。……なら100円で」
隣人「い、1万円から」
男「小銭はねぇのかよ……はいどうぞ」ジャラジャラ
隣人「どうも。いやぁ、呪いの電話も偶には悪くないですね。私1人じゃつまみなんて年中バタピーですから」ニコニコ
「ん、美味しい。このお肉どこで手に入れたんでふ?」
男「この近所にいた女友達から貰ってるんです」
隣人「友達いたんでふか」モグモグ
男「失礼な。今その友達とは付き合ってるんですよ」
隣人「ちょっと意外な感じがひまふ」モグモグ
「んく……なんとなく、すぐ逃げられそうですし」
男「長続きは確かにしないですねーって何言わせんですか」
隣人「ざまあ」キャッキャッ
男「話変わりますけどアンタの実家近くはもっとデカいヤツが出るって言ってましたね。どんなヤツですか?」
隣人「おっきいのが出るっていうか、ちっちゃいのがいっぱい居るっていうか」
「あの、座敷童って知ってます?」
男「アレがいたのか。いいですね」
隣人「よくないですよ。ちょっと違うんです」
「こう、何というか……変で」
男「妖怪の類が『変』じゃないなら何なんですか」
隣人「いや、フツー座敷童って言ったら、おかっぱ頭で和服姿の女の子1人じゃないですか。違うんですよ」
「5人くらいで肩車してるんです」
男「可愛い」
隣人「で、下の方の子がこっち睨んで言うんです」
「『代わってくれぇ……代わってくれぇ……』って」
男「うわぁ」ゾッ
隣人「で、やだって言うと全員が揃って『あほー……あほー……』って言うんです。どうです怖いでしょう」ドヤ
男「すみません、最後で納得しました」
隣人「何でですか」ムスッ
男「言っても分からないです、きっと」
隣人「む、バカにしてますね」
男「すごいすごーい」パチパチ
隣人「むっかーっ」カチーン
「何なんですかよってたかって」
男「たかっても何もここは2人しかいないですよ」
隣人「そこでふよふよしてる人達も数えましたっ」
男「え」
隣人「まったく、恨めしそうな顔しておいて何で私が話してる時だけニヤニヤするんだか」ムスッ
男「……え、『居る』の?」
隣人「いっぱい居ますよ、良かったですね。死んだらきっとハーレムですよ。ふんっ」ツーン
男「塩でも盛ろうかな……」
隣人「」ウトウト
男「おーい」ユサユサ
隣人「はっ。ね、寝てました?」
男「うつらうつらと」
隣人「いけないいけない……無防備でした」
「寝ている間に何かしましたか?」ジロ
男「仮にしていたとしても言いませんよね」
隣人「それもそうですね」
「んー……はふ。お酒入った辺りから眠くて眠くて。これでも普段ならかなり強い方なんですよ?」ゴシゴシ
男「緊張が解けたってことですかね」
隣人「おかげさまで。ありがとうございます」
男「いえいえ」
隣人「……いつ帰れるかな……」ハァ
「どうしてこのマンションってそういうのが多いんですか? 視えるだけじゃ分からなくて」
男「まあ心当たりならありまs」
隣人「あっ、お地蔵様の上に建ってる、とか」
男「話を聞く気はあるんですか?」イラッ
隣人「す、すみません……どうぞ」
男「この部屋の隣、つまりアンタの部屋のことなら聞いたことがありますよ。俺が越してすぐのことだったんでまー大家も喋ること喋ること」
隣人「ああ、これから住む所についてだからって言えばある程度詳しいところまで教えて貰えますもんね」
男「寝たらアホ治りましたか?」
隣人「アホじゃないですってば」ムスッ
男「はいはい。あ、眠気覚ましにコーヒーどうぞ」コト
「まあ単純な理由ですよ、惨殺があったんです。いやちょっと違うか。生首だけ残ってたそうです」
隣人「そ……そうなんですかぁー」ズズッ
男「で、胴体が全然見つからないから捜査打ち切り。警察犬も暫くウチの前をウロウロしてましたね、鬱陶しいんで色々焚いたら来なくなりましたけど」
隣人「あー、今日寝たくないなぁーっ」ゴクゴク
隣人「寝たくなくなるような話して下さい」
男「また無茶な注文を」
隣人「泣き喚きますよ?」
男「知ってますか、それ脅しって言うんです」
「それじゃ矢っ張り映画観ましょう。2人とも退屈しないようなヤツで」
隣人「ホラーはやですよ」
男「アインシュタインの栄光と苦悩の日々」
隣人「肩が凝りそうですね……」
男「凝るんですか? その身体で?」
隣人「今そこはかとなくバカにしましたね?」ムカッ
「いいですよ、観てやろうじゃないですか」
男「退屈はしないんですね?」
隣人「……チェンジで」
男「じゃあジブリにしますか」ピッ
隣人「最初からそうして下さいっ。あ、千と千尋の神隠しだ。好きなんですか?」
男「何回見ても出て来る食べ物が美味しそうで……」
隣人「あー、冒頭のこの屋台は行ってみたいです」
2人「「豚にならないなら」」
隣人「く、ふふ……っ、考えることは同じみたいですね」
男「まったくですね。あ、ネオ徹子出てきた」
隣人「湯婆婆そんな風に呼んだ人初めて見ましたよ」
「この映画のモデルは女郎屋だ、って聞きましたけど実際どうなんでしょう?」
男「どう、とは?」
隣人「湯婆婆も若かりし頃は別の名前があって、蜘蛛のオジさんとAV撮影してたんですかね?」
男「無茶苦茶イヤな絵面ですね……女郎屋でAV撮影というのもよく分からないですけど」
「その場合のカメラマンって誰なんでしょう」
隣人「……カオナシ?」
男「客なのにやらせるんですか?」
隣人「ヤらせるんですよきっと」
男「やめなさい」
隣人「ねーむーいー……」ウトウト
男「寝たら保証しませんよ、色々と」
隣人「……襲うんですか?」
男「襲われても仕方ないでしょう。アンタは無防備過ぎです。自覚あります?」
隣人「えー……えーっとぉ」
男「アホだから無いですよね」
隣人「アホって言うなぁ……」ヘヌー
「洗面所借りていいでひゅかぁ?」
男「仄暗い水の底から」
隣人「あ。はあ……」
「もーホラーは観ません。こりごりです」
男「それがいいでしょう」
隣人「ああ、あとすみません、ベッド入れて戴けますか?」
「……別に襲うなら襲うでいいですよ、堂々とシたいことして下さい。お互い成人ですし」
男「願ってもない嬉しい提案ですけどね、まだ手を出すには早いと思うんですよ」
隣人「ふふ……そうですか。別れてからですか」クスッ
「あー駄目だ、全然考えが纏まらないぃ……。酔っ払っちゃってますね、私……ふわぁぁ」
男「水でも持って来ますよ」
隣人「お願いしまふ……」
「……」
「」スースー
男「あれ、もしかして寝ちゃいました?」
隣人「――はっ。いけないいけない、気を抜くとすぐに寝ちゃいますね」ペチペチ
男「寝顔も可愛かったですよ」
隣人「もぉ……ふわぁ……はふ。あぁ、あと1つだけ。あの皮――何の皮だったんですかぁ?」ウトウト
男「人皮ですよ」
隣人「え――あ……」カクンッ
スースー
男「おやすみなさい」
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