木下ひなた「二人の部屋」 (16)
アイドルマスターミリオンライブのSSです
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ひなた「そろそろあたしのネジを回してくれるかい?」
向かいあう二体の人形、お互いに背中のネジを回しあう
ぎーこぎーこ
ひなた「ふふふっ、くすぐったいよぉ♪そんないたずらされたら黙っちゃいられないんだべさ」
ぎーこぎぎ
ひなた「そうかい。ありがとうねぇ……」
ひなた「今度はあたしの番だよ、背中を向けてくれるかい」
閉じられた部屋の中、誰も入ってくることのない部屋の中
その部屋の中にいるの二人の人形
お互いに背中にネジ穴を持つ機械仕掛けのお人形
その部屋には二人のための椅子だけがあり、その椅子に向かい合って座る
永遠という暇を持てあますがために会話を続けていると思えたがそうではなく、楽しみとして絶えない会話を交わし続けていた
ぎっっぎぎぎ
ひなた「ふふっ、さっきのお返しだよぉ。くすぐったいかい?うん、なんだかたのしいなぁ」
ひなた「ちゃんとしてくれって?もちろんだべ。あんたが動なくなったらあたしも悲しいし困るからねぇ」
ひなた「もう一度背中に失礼するよぉ」
ぎーこぎぎーこぎぎぎ
ひなた「できた。今度はばっちしだ」
ひなた「じゃあお話の続きをしようねぇ。あらあらぁ……さっきはなにを話していたんだったかなぁ」
朝日の差し込む中、背中のネジを巻く
そして2回の朝焼けと3回の夕焼けを見て、そしてまたそのルーチンを繰り返した
部屋というひとつの系の中
遥か遠い昔、人間が定期的にネジを巻いている
ネジが緩みきってしまうまえに、そのたびそのたびにネジが巻きなおされる
何時を境になんて覚えてるわけもないが、ある時を境にあたしのネジは伸びきられてしまうことが増えてきた
あたしのネジを巻く人間があたしのことを忘れかけている
あたしのことを完全に忘れてしまう日もやがてくるのだろう
まだ死にたくない、まだ動き続けたい
そういって、誰か自分のネジを回し続けてくれる相手をあたりに探す
さいわいその部屋の中にはたくさんのお人形さんたちがいる
決して動くことない動力を持たないただのお人形さん、そして糸につらされたまま息絶えたお人形さん、さらには五体満足ですらないお人形さんもいた
その中から自分と同じように背中にネジを持つ人形さんを探す、キミは……違う……キミも違う……
ぎーこぎーこぎーこぎーこ
やっと見つけたあたしのお人形さん、これからはずっと一緒だべさぁ……
その子の背中のネジを回し生を与え、声をかける
「ねぇ。よかったらこれから、あたしの背中のネジを回してくれるかい?」
それからしばらくの間は、あたしのネジを人間が巻いてくれたりくれなかったり
そのたびそのたびに、
がたっがたっ
がたんがたんたんたんたん
「急ぐんだよ、早く元の場所にっ」
「……………」
ぎこぎこぎこぎこぎこぎこ
「……………っ……ん………………」
だんっだんっだんっだんっ
「はやくっ!!隠れるんだよっ!!」
ぎーこぎこぎーこぎーこぎこぎこぎぎぎ
「…………………………こくん………こくん…………」
そんな小さなスリルを二人で味わっていたりしていた
やがて本来彼女のネジを巻くべき人間は彼女のことをすっかり忘れたのか、ある時を最後に現れない
彼女は最後に自分のネジを巻かれた後、いつものように彼のネジを巻いたのだ
それ以降、その部屋にいるのは二人だけ
二人だけの部屋、無限とも思える時間に互いに互いのネジを巻く音と、話かける声だけがこだましていく
ぎーこぎーこぎーこ
ぎーこぎーこ
ぎーこ
ぎこ
永久に続いていたこの時に対して、ずっと続くといいなと彼女はふとそう感じるようになった
彼女はいつものように、彼の背中のネジを回す
いまは、最後に巻いてから3回目のお昼を過ぎたころ
なぜだろう、3回目の夕焼けの頃、時計のベルが4回3回2回とだんだん早くなっていることに疑問を抱いた
ネジを巻く周期が短くなる、そんなことを憂慮し重ねるごとに、今の時がよりかけがえのなく、大切なものだとより感じていく
「あぁ。あたしはあんたとのこの時間が、それにあんたのことが好きなんだぁ……」
彼女は最後に彼の背中のネジを巻いた朝から二回目の昼に、彼のネジを巻こうと手にかける
「あたしはね──────」
部屋というひとつの系の中
その中に思いという新たなエネルギーが生まれた
エネルギー保存則、エネルギーの総量は保存される
部屋の中のすべてのエネルギーが想いとして昇華される
彼はもう耳を閉ざしている、しかし自分の体力が抜けきるその前に
「大好きだよぉ────」
おしまいてぃせーらー
ココロがかえる場所(ドールハウス)
ひなた可愛いかったです。ひなひなひなひな
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