速水奏「裸で重なる一時」 (15)
「プロデューサーさん」
「……ん?」
「お風呂、私も失礼するわね」
プロデューサーさんの家の中。今日初めて足を踏み入れたその中の浴室へ、今日二度目となる入室を果たす。
扉を開いた正面には備え付けのシャワー。その右横へと設えられた湯船の中へ身体を浸からせているプロデューサーさんへ……突然入ってきた私に驚いて、あるいは小さなタオル一枚で下を隠しているだけの私の姿に戸惑って、そうして声も出せずにいるプロデューサーさんへ視線を送りながら歩を進めて中へ。
「……って、奏……!?」
「しーっ。……ほーら、そんなに大声出したらご近所さんに迷惑じゃない」
入って、それから後ろ手に扉を閉じる。
すっかり昂ってしまってきっと赤い顔、緊張で上手く緩められない表情をなんとか微笑みの形へ装わせながら「将来は私のご近所さんにもなるのかもしれないんだから……ふふ、なんてね」なんて、そんな台詞を口にして。
隠しきれてはいない。どこかに表れてしまっているはず。……でもそれでも、叶う限り誤魔化して。この胸の高鳴りも、荒くなってしまいそうになる呼吸も、なんとか隠して余裕を繕って。そうして、そうしながらプロデューサーさんと向かい合う。
「なんで、奏……お風呂ならさっきもう入って……」
「ええ、いただいたわ。……でも私ったらうっかりしてて、湯船に浸かるのを忘れていたのよ。シャワーしか浴びていないの」
「いや、だとしたら……だとしても、今じゃ」
「今じゃ駄目なのかしら」
「駄目でしょ!」
「あら残念。……でもやめないわ。だって、貴方と一緒に入ることが私の望みなんだもの」
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長引いたレッスン。長引いた仕事。お互い予定が長引いて遅くなって、更にその後とりとめもない会話を重ねたおかげで深い夜へまで至って。だから一緒に帰ることになった私たち。どしゃ降りの雨の中、持ってきたはずの傘を忘れた私はプロデューサーさんの横へ寄り添うようにして歩いて。そうしてここ、このプロデューサーさんの家まで辿り着いた。
本当はタクシーでも使えばよかったのだろうけど。……プロデューサーさんも、そうするようにしつこく言葉を重ねてきたのだけれど。……でも強情でずるい私は折れず、わざと雨の中へと躍り出て「ほら、担当アイドルに風邪を引かせるつもりなの」なんて言ったりして、そうして散々困らせた末ここまで来た。
偶然、けれど必然。いつかこんな偶然が重なることがあったなら、そのときは絶対に自分の願いを叶えてみせる。そう思っていた私に訪れた偶然を、それまで思っていた通り私は叶えた。
プロデューサーさんと二人きり。他のどんな誰の邪魔も入らない。二人だけの世界。
「それにしても」
「……?」
「言わないのね、プロデューサーさん。『胸を隠せ』とかそういうこと。……ふふ、そんなこと言えない。言いたくないくらいに見惚れてくれているのかしら」
タオルを持っていないほうの手で持ち上げてみせる。この浴室へ入る前、脱衣場の鏡で何度も何度も確認した身体。汚いところはない、シャワーを浴びてほどよく火照った……内から溢れ出る興奮を隠しきれず、つんと立ち上がって主張してしまっている以外は完璧に装えている身体。その胸を、プロデューサーさんへと見せつけるようにして持ち上げる。
目の前の私の姿から注がれる衝撃にまた声を出せなくなるプロデューサーさん。……きっと声を出せない理由の内のいくらかには、見惚れてくれているというそれもあるはず。現に顔はだんだんと赤色へ染まってきて、何より湯の中のそれが主張を強めている。
「お邪魔するわね」
言って入る。
受けた衝撃に混乱してプロデューサーさんが言葉を紡げないでいる内に事をどんどん先へ先へと。
「っ!」
「……ふふ」
湯船へ入る前、浴槽の縁を跨ぐときにわざとゆっくり見せつけながら。身体を半分回して左足から入る。プロデューサーさんへは背を……後ろを向けた形。当然後ろはタオルで隠されてもいない、そのままの裸なわけで。きっとプロデューサーさんにははっきり鮮明にいろいろと見えたはず。その証拠に、後ろからは息を呑むような絶句するようなそんな声。
(…………あぁ)
きっと濡れている。さっきまで浴びていたシャワーのせい、上がってから溢れてきた汗のせい、そして何より強く熱く興奮して漏れ出てきてしまっているもののせいで濡れているそこ。プロデューサーさんに見てもらいたいとずっと思っていた、プロデューサーさんに見てもらうためにずっと整え続けてきたそこ。それを見られて、思わず心が高く跳ねる。
わざとゆっくり……見せつけるため、そして興奮に震えて上手くいつも通りに身体を動かせないのを誤魔化すためにゆっくりと……プロデューサーさんの目の前をそうして通る。
「……あら、プロデューサーさん」
「……何」
「それ、開いてくれない? そこを閉じられたら私が入れないじゃない」
湯へと身体を沈める直前、何にも覆われていない下腹部をプロデューサーさんの目の前へと突き出したままの体勢で止まって言う。
「それ、って……」
「それよ。ほら、そんな体育座りなんてしてたら私が貴方に乗れないじゃない」
とんとん。湯から顔を出したプロデューサーさんの膝を叩いて示す。
それを開いて。そうして私を受け止めて。そんなふうに想いを込めながらとんとん、と。
「いや、乗るってそれは……」
「……」
「今そんな体勢になられるとその、困るというか」
「……プロデューサーさん」
「……ん?」
「女にいつまでもこんな格好をさせておくつもり? 貴方も大概変態なのかしら」
流石に私も恥ずかしいのだけれど。と付け加えつつ、ぐいと突き出した腰を左右に振る。
顔から火が出てしまいそうなほど、ほんの少し気を緩めれば意識を手放してしまいそうなほど恥ずかしい。苦しいくらいに吐息が熱くて、張り裂けてしまいそうなくらい胸がドキドキ高鳴ってしまう。
けれどそれを見せないよう。叶えられる限り隠して装って、精一杯の虚勢を張って余裕ぶりな態度を作る。
「あっ……」
「……ふふ。はぁい、ありがとう。お邪魔するわね」
込み上げてくる恥ずかしさや照れを耐えて強行した私のその行動にプロデューサーさんも動揺したらしい。足を閉じる力がふっと弱まって、開こうとする私の手の動きを抵抗なく受け入れてくれた。
受け入れられて、開かれたそこ。もう一度閉じてしまう前に私はそこへ腰を下ろす。気持ちを逸らせて少し水飛沫を上げてしまいながらもそこへ下りて、そうしてしっかりと嵌まり込む。
「……ああ、プロデューサーさん」
「……何、かな」
「えっち」
月並みな台詞。けれどいつか必ず言いたいと願っていた台詞。それを、願っていた通りの相手へ紡いで送る。
身体を座らせる私の下、そこへあるのを感じる。
どくん、どくん、と脈打っているのが分かる。びく、びく、と震えているのが伝わってくる。ぐっ、ぐっ、と焼けたように熱く硬いそれが私を押し上げ叩いてくるのが感じられる。
プロデューサーさんを感じる。私に興奮してくれている……どうしようもなく昂って、どうにもならないくらい欲情して……そんな、私と同じになってくれているプロデューサーさんを感じる。
感じて、そして嬉しくなる。大好きで恋しくて何よりも愛おしく想う相手が、こうして自分を意識してくれている。そのことにたまらなく嬉しくなって……そして、幸せな心地になる。
「っ……!」
「なーんて。いいのよ。むしろここまでしたのに何も反応してくれないほうがずっと嫌だもの。……ふふ、私もしっかりプロデューサーさんの対象なんだって確かめられて嬉しいくらい」
決してずれて離れてはしまわないよう、座った位置は固めつつ。背を胸へともたれかけ、それまで行き場を失ってゆらゆらと泳いでいた腕を捕まえてそれに抱かれる。
上に乗った私をプロデューサーさんが後ろから抱きしめている。そんな体勢。
「んっ、もう……プロデューサーさん、息荒すぎよ」
私の肩へ乗るようにしているプロデューサーさんの顔。そこから注がれる吐息……熱くて、荒くて、濡れていて。そんな、興奮を隠せずにいる吐息を耳元へ感じて、思わずぶるりと身震いしてしまう。
ぞくぞくとするような感覚。痺れのような震えのような、そんな感覚が耳から広がり全身へ伝わって。鼓動が跳ねる。お腹の奥がずんと揺れる。余裕を装った言葉を吐きながら、けれど自分も吐息を荒くしてしまう。
「……かなで…………」
引き寄せて、むりやりに私を抱きしめるような形にしていたプロデューサーさんの腕。それをまた少し動かして、水面へ……湯に浮いて、湯船と外とのちょうど境界を漂っていた私の胸へと導く。
導いて触れさせて、そうして留める。水面を揺らしてしまいそうなほど高く強く鼓動を刻むそこへ、その鼓動も何もかもを感じられるほど強く深く。むにゅり、と形を変えてしまうほどに押し付ける。
(…………あは、ぁ)
心臓が飛び出てしまいそう。頭が沸騰してしまいそう。自分が自分でなくなってしまいそう。
そんな感覚。これまでにも何度か感じたことのあるそれ……ライブで、撮影で。アイドルとして何度か感じたそれを……けれどそのどんな時よりも更にもっと強く激しいそれを感じて、一瞬意識を手放しそうになる。
なんとか抑えた。どうにか耐えた。……でもあまりにも感じてしまって、幸せすぎて、それまで装えていた表情や振る舞いが装えなくなってしまう。向かい合っていないから気付かれてはいないけれど……きっと今、見せられない顔をしている。緩んで蕩けた、そんな顔。
(本当、こんな)
(こんな感覚を覚えさせられて……そんなの私、もうどうしようもないじゃない)
(イケない人。本当に悪い人)
おかしくなってしまいそう、とそう思ってしまうほどのこんな想いを感じさせるプロデューサーさん。今まさに後ろへ添っているその人、きっと顔を赤くしながら半ば混濁した意識で呆けて固まってしまっているのだろうその人を頭の中でも思い浮かべて、そうしてそれへ言葉をぶつける。
「……そういえば、ねぇ、プロデューサーさん」
思えば今までのこれ。こんなどうしようもないほどの感覚。これを私へ感じさせてきたのは、全部プロデューサーさんだった。ライブの時、誰よりも瞳を輝かせて喜びながら私を抱きしめてくれた。撮影の時、どんな小さな一瞬も逃さずにまっすぐ私のすべてを見ていてくれた。私にこんな感覚を与えてくれるのは、プロデューサーさんだった。
プロデューサーさんはたくさんをくれた。こんな感覚も。数えきれないくらいの初めても。私が叶えたいと願う未来の望みも。
それを思って、そして改めて実感する。
やっぱりプロデューサーさんは私の唯一の人。私の初めての人で、私の最後までの人。
それを強く心の中で確かめて。だからふと言葉を投げ掛けてみた。
「プロデューサーさんって初めてなのかしら。もう女は知っているの?」
自分にとっての初めての人。初めてはこの人でないと嫌だ、と願う相手。そのプロデューサーさんが、果たしてどちらなのか。
初めてなのか、そうでないのか。……これまでずっと一緒に過ごしてきて、その答えがどちらなのかはほとんど私にとって明白ではあるのだけれど。
それでも聞いてみた。察するのではなくて、言葉でちゃんと聞いてみたかったから。
「……それは……そんなの」
「ないのかしら」
「ない、というか」
「……あるの?」
「いや、まあ……こう……ない、けども……」
言いにくそうに淀みつつ、でも最後まで聞かせてもらえた。
望んでた答え。知ってはいたけれど、それでも確かな肯定か欲しかった答え。
「ふふ。……まあ、そうよね。プロデューサーさんったら、もういっそ面白くなるくらいに女の人に慣れていないんだもの」
分かっていたこと。けれど聞けて嬉しくて。だから「普段私がからかった時も、楽しい反応してくれるしね」なんて言葉を加えつつ、胸を昂らせたまま撫で下ろして微笑む声を口に出す。
「…………それは」
すると、不意にぎゅうっと。
私を抱く腕の力が強くなる。それまでそっと触れ合う程度だった肩の上の顔が押し付いてくる。混乱と戸惑いの中へ意識を置かれてぼんやりとぼやけていたプロデューサーさんの声の調子が、はっきりと芯を持つ。
私へ注がれるプロデューサーさんが、不意にとても強くなる。
「…………それは?」
「……」
「それは、なんなのかしら」
言葉を止めてしまうプロデューサーさんへ続きを促す。
なんなのだろう、という疑問。もしかしたら、という期待。二つを混ぜ合わせた想いを込めて、続く言葉を求めて願う。
「……奏だから」
「……私、だから……?」
「そう。……奏だから意識した。奏だからあんなになった。それは、他の人にも慣れているわけじゃないけど……それでもあんなになったりしない。からかわれてああなるのは、奏だから。……だから、なんだよ」
耳元で囁かれる言葉。
言葉を紡ぐ度に胸の鼓動が早鐘を打つのが分かる。プロデューサーさんも、そして私も。熱くなる。苦しいくらいに昂って、どうしようもなく濡れてしまう。
もしかしたら、と思っていた言葉。それを少しも違わず……むしろ越えてさえきてくれたそれを受けて、心が自然と沸き立ってしまう。
「……そうなの」
「だから」
「……?」
「だから、やめてくれ」
プロデューサーさんから、拒絶の言葉。
深く深く押し付いて。強く強く抱きしめて。そんな身体の状態とは真逆の言葉。それが耳元へ注がれる。
「やめて。……どうして?」
「……このままだと、きっと奏を不幸にする」
「不幸?」
「ああ」
「……そう」
震えも昂りも何もかも、重なった肌を通して伝わってくるすべては私を求めてくれている。それなのに送られる言葉はすべて逆。
私が欲しくて仕方ないはずなのに私を遠ざけようとする。
それを、そんなプロデューサーさんを感じて。だから私は動いて示す。
「!」
「ねぇ、不幸って何? プロデューサーさんが私を求めることが、私にとっての不幸なの?」
胸へと押し付けたまま、そこからは何もせずに任せていた手を上から握る。鷲掴ませて、揉みしだかせる。
それまで触れさせているだけだったそれ……硬く立ち上がって絶え間なく震えるそれへ、湯の中にありながらねっとりと熱く濡れきった私のそこを宛がって擦りつく。
「……大丈夫、入れないわ。そんなことするわけない。私の初めては貴方から奪ってもらうって、そう決めているもの」
むにゅむにゅ、と形を変える胸。
擦れる度にどんどん濡れて、たまらなく甘い痺れに染められていくそこ。
身体を、心をそうして昂らせながら続きを。
「ねぇ、駄目なのかしら。私がそれを望んでいても。私が貴方と結ばれたいと、そう願っていても」
言いながら顔を横へ。
上半身を軽く捻って横を向く。そしてじいっと、目の前のプロデューサーさんの瞳へ視線を注ぐ。
「いいのよ、プロデューサーさん。貴方と結ばれることは私にとって不幸なんかじゃない。私にとって貴方は、他のどんな誰よりも望む人なんだから」
私のそれに何か返そうと言葉を探して小さく動くプロデューサーさんの唇。それを塞ぐ。私の唇で、ほんの一瞬触れ合うだけのキスを落とす。
「ファーストキス。……ふふ、あげちゃったし貰っちゃった」
言って、また。
もう一度キス。ちゅ、とわざと高くリップ音を響かせながら口付ける。
「私の初めては全部貴方に貰ってほしい。貴方の初めては全部私に許してほしい。……ねぇお願い、私のことを愛してよ。……愛してるの、プロデューサーさん」
以上になります。
十時愛梨「脱ぎたくないです……」
十時愛梨「脱ぎたくないです……」 - SSまとめ速報
(https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1504078709/)
以前に書いたものなど。よろしければ。
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