島村卯月は歌いたい (21)
前回までのお話
佐久間まゆは告らせたい
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卯月(みなさん、こんばんわ! 島村卯月、17歳です!)
卯月(私はいま、ここ346プロで駆け出しアイドルとして頑張っています!)
卯月(そんな私なんですが、本日の練習も終わったレッスンルームで今何をしているかというと……)
卯月「おーねがいっ! シンデレラー! 夢は夢で終ーわれーないっ!」
卯月(『お願いシンデレラ』を熱唱しています)
卯月(さて、なんでこんなことになっているのかと言えば時間は少し遡って――)
『島村卯月は歌いたい』
卯月(みなさん、こんばんわ! 島村卯月、17歳です!)
卯月(私はいま、ここ346プロで駆け出しアイドルとして頑張っています!)
卯月(なんだかついさっきも同じような自己紹介した記憶があるんですけど、気の所為ですよね。気の所為)
卯月(それはともかく、私は今、忘れ物をとりに慌ててレッスンルームに引き返しているところです!)
卯月「うう……使ったタオルそのまま置いてきちゃうなんて……持って帰らないとお母さんに怒られちゃうし……」
卯月「あれ……? レッスンルームの明かりがついてる……? 今日は私が最後だったと思ったけど……?」
卯月「誰か個人レッスンでもしているのかな……?」
卯月(集中しているところを邪魔しちゃ悪いですし、こっそり中の様子を伺いましょう)
卯月(えっと、あれは――)
P「ハァーイ! ハァーイ! ハァイッハァイッハァイッハァイッ!!」
卯月(鏡に向かって全力でサイリウムを振っているプロデューサーさん……?)
P「クソッ! こんなんじゃダメだ……ライブも近いって言うのに俺は何をしているんだッ!」
卯月「あ、あのー。プロデューサーさん? 何をしているんですか……?」
P「何って……そりゃあ見ての通りコールの練しゅ――し、島村!? 何時からそこに!?」
卯月「はい、島村卯月です。えっとレッスンルームに忘れ物を取りについさっき来たところなんですが……」
P「み、見たのか!?」
卯月「えーっと……プロデューサーさんがサイリウムを振っている姿でしたらばっちりと……」
P「クッ……そうか……恥ずかしいところを見られてしまったな……」
卯月「いえ、というか一体何をしているのか解らなかったんですけど……?」
P「何って、見ての通りコールの練習さ」
卯月「コールの練習」
P「ああ、もうすぐ346プロの定例ライブがあるだろう? 確か島村も初参加の予定だったよな」
卯月「はい! ですのでライブに向けて猛特訓中なんですけど……なんでプロデューサーさんがコールの練習を?」
P「なんでって……ライブでアイドルを応援するのはプロデューサーの責務だからだよ。コールもそのうちの一つさ」
卯月「え……? プロデューサーって、そういうお仕事でしたっけ?」
P「そうか、島村は次のライブが初めてだったな……なら知らないのも無理はない……」
卯月「いえ、なんだか私の知っている一般的なプロデューサー業と認識が合ってないというか……」
卯月「まぁ、それはともかく。コールってそんな必死になって練習しなきゃいけないものなんですか?」
P「島村……それは知らないからこそ言える言葉だ。いいか、コール入れるって言うのは生半な技量でできるものじゃないんだぞ」
卯月「え、そ、そうですかね……?」
P「ふぅ……(溜息) 論より証拠だな。よし、じゃあこの曲にコールを入れてみるといい」
卯月「え? ここでですか!? うう、ちょっと恥ずかしいですけど……わ、わかりました。島村卯月がんばります!」
P「よし、じゃあサビの部分を流すぞ!」
『おーねがい』
卯月「えっと……ふっふーっ♪」
『シーンデレラー』
卯月「ふっふーっ♪」
『夢は夢で終ーわれーない』
卯月「ふわっふわっふわっふわっ♪』
卯月「えーっと……こんな感じで良かったでしょうか……?」
P「す……すげええええッッ!!?? なんて無駄のない美しいコールなんだああああッッ!!??」
卯月「ええっ!? 私いまそんなに絶賛されるような事しました!?」
P「ああ、これぞまさしく天賦の才……さすがは期待の新星アイドル……いや、まさかこれほどまでのポテンシャルを秘めていたとは……」
卯月「そ、そうですかね……そんなに凄いですかね……えへへー」
P「島村! お願いだ!(ガシッ!)」
卯月「え、あ、ひゃい!? な、なんでしょうか!?」
P「俺にコールを教えてくれないか!! 今の俺にはおまえだけが頼りなんだ!」
卯月「え……わ、私なんかが、ですか?」
P「ああ、むしろこんなこと島村にしか頼れない。島村だからお願いしたいんだ!」
卯月「そ、そこまでお願いされたら仕方ありませんね……」
卯月「わかりました! それではこの島村卯月、頑張ってお手伝いします!」
P「本当か!? ありがとう島村! このお礼はいつか必ずするからな!」
卯月「わ、わかりましたから、あのプロデューサーさん。とりあえずその握った手をですね……」
卯月「エヴリデイ どんな――」
P「キュゥートォゥ!!」
卯月「はいちょっとストップです」
P「どうしたんだ島村? まだ始まったばかりだぞ」
島村「ええ、ちょっと私も驚いているんですけど……」
島村「ええと、まずはですね。ちゃんと歌詞を聴きましょう」
P「何を言ってるんだ島村? 歌詞を聴かねばコールは入れられないだろう?」
島村「ですよね。そうですよね。ちょっと今のはタイミングが速すぎたので次はちゃんと歌詞を聴いて合わせてみましょう」
P「む、そうか、すこし早かったか。わかった次はちゃんと修正してみせる」
島村「まずは歌詞ですよ。いいですか、ちゃんと聞いてくださいね」
島村「それじゃあさっきと同じところ行きますよー」
卯月「エヴリデイ どんな時――」
P「キュゥートォゥ!!」
卯月「速い!!!!」
P「うーん、やはりどうもコールを入れるタイミングが……」
卯月「いやいやいや! タイミングとかそういう問題じゃなかったですよね!? 異次元の速さでしたよね!?」
卯月「せめて『キュートハート』の部分に合わせて言っちゃうとかならまだ可愛げありますけど、明らかにおかしい場所でコールしてましたよね!?」
P「いや、でも最初のよりは気持ち遅めにコール入れたつもりなんだが」
卯月「誤差レベルですよ!? ワンセンテンスも延びてませんでしたからね!?」
卯月「いいですかプロデューサーさん。まずは周りの音をしっかり聴きましょう」
卯月「ほら、ライブとかでもタイミング取りやすいように「せーのっ!」とか言ってくれる方いるじゃないですか」
卯月「ああいうのにもっと耳を傾けましょうよ」
P「ああ、でもぶっちゃけ『おねシン』とか『star!!』とか解りやすい曲に限って「せーのっ」の声が無駄にデカくなるヤツって正直邪魔じゃない?」
卯月「おこがましい!! プロデューサーさんが言っていいセリフじゃないですよソレ!!」
卯月(それから私とプロデューサーさんの地獄の特訓が始まりました……)
卯月(正直、途中から「もう無理だよ……頑張れないよ……」と挫折しかけましたが、それでもなんとか騙し騙し特訓を続けましたけど――)
卯月「ぜぇ……はぁ……プ。プロデューサーさん。もういいんじゃないですか?」
卯月「確かに『ダーッシュ!』と『しゅーん』のタイミング素で間違えた時はどうしようかと思いましたけど……」
卯月「でも実際コール入れるのはライブ中ですよ? 多少タイミングがズレたり間違えたところで誰も責めたりしませんよ!」
P「確かに、ライブの主役はアイドル達だ……プロデューサーが一人、コールをトチったところで何ら支障は無いだろう」
P「実際ライブの時に隣のヤツがコール間違えたって責めたりなんかしない。ライブなんて人に迷惑を掛けず楽しめればそれでいいんだ」
P「極論を言えば、コールを入れる必要すらないのかもしれない。応援の仕方なんて人それぞれだしな」
卯月「だったらそんなに無理しなくても……」
P「けどな、それがアイドルを全力で応援しなくていい理由にはならないんだ!」
P「全力のパフォーマンスに挑むアイドルを応援する為に出来ることがあるのなら……全力を尽くす。それがプロデューサーなんだ」
卯月「プロデューサーさん……」
P「いや、すまなかったな島村。俺の我侭でこんなことに付き合わせてしまって……」
P「これ以上おまえの手を煩わせるわけにはいかない。あとは俺一人で何とかして見せるさ」
卯月「…………いえ、島村卯月! 最後まで頑張ります! 一緒にライブ成功させましょう!」
P「島村……ああっ! きっと成功させるぞ!」
卯月(そして――)
卯月「涙のあとには また笑って スマートにね でも可愛くー 進もう!」
P「 フッフーッ! フッフーッ! フッ!フーッッ!!」
卯月「…………」
P「…………」
卯月「プロデューサーさん! すごい! ちゃんと全部ズレずにコール入れられましたよ!」
P「ああ、やった! やったぞ島村! これも全部おまえのおかげだ!」
卯月「大変でした……本当に大変でしたね……でもこれでようやく……」
P「ああ、これでお願いシンデレラのコールは完璧だ!」
卯月「いや、一時はホントどうなることかと――」
P「それじゃあ島村――」
P「次はstar!!の練習だな!」
卯月「――――――――」
ライブ当日
まゆ「あ、卯月ちゃん。ライブのオープニングのお願いシンデレラばっちりでしたね」
まゆ「初めてのライブとは思えないくらい――う、卯月ちゃん!? なんで号泣してるの!?」
卯月「いえ……プロデューサーさん達、頑張ってコールしてくれているんだなーと思ったら……」
まゆ「え、あ、そうね……」
卯月「あんなに立派に、コールできるようになって……」
まゆ「卯月ちゃん? 卯月ちゃん、ねぇ大丈夫?」
『本日の勝敗 P&島村の勝利(ライブは大成功)』
これが彼女の長い戦いの序章でしかない事に、この時点では誰一人気付いていなかったのである。
すみません、今確認したら>>8と>>9の間が一つ抜けておりました……下に抜けていた分を追記しておきます……
※
卯月「コホン! それじゃあ早速練習していきたいと思うのですが……」
P「ああ、頼む。練習方法は島村が指示してくれ!」
卯月「と言っても、さっきプロデューサーさんが練習していたところを見る限りそこまでおかしな部分は無かったと思うんですけど」
P「ああ……どうやら俺は動きや発声自体に問題は無さそうなんだが、どうもリズム感が少しばかり悪いようでな」
卯月「コールを入れるタイミングがズレちゃうって事ですか?」
P「ああ、そうだな。そこが一番難しく感じるな」
卯月「なるほど……わかりました、それじゃあとりあえず一度実際にコールを入れてみましょうか」
卯月「私が歌ってみるんで、それに合わせてコールを入れてみてください」
P「ああ、わかった。やってみよう!」
卯月「それじゃあ頭の簡単な部分から行きますよー」
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