狂科学者「ウィヒヒヒヒ!!遂に美少女型殺戮兵器の完成だァー!!!!」 (100)

科学者「これで……これを……」ピッ

ゴォン……ゴォン……

科学者「おぉぉ……!! この反応……!! まさに想定通り……!!」

科学者「ウィヒヒヒ!!! 遂に……遂に完成したのだ……!!!」

科学者「最高傑作の殺戮兵器が……!!」

科学者「僕の研究を見下し、嘲笑した奴らもこれで分かることだろう……!! ウィヒヒヒヒ……」

科学者「ハーッハッハッハッハ!!! 僕こそがヒトの叡智なのだと!!!」

科学者「さぁ、目を開けろ! そして、この世の悪をお前の手で駆逐するのだァー!!!」ポチッ

殺戮兵器「――おはようございます、博士」

科学者「ウィヒヒヒヒ。僕のことがわかるのか? ん? わかるよなぁ」

殺戮兵器「はい。貴方は私を作り出した博士です」

科学者「では、お前は何をするべきなのかもわかっているな?」

殺戮兵器「はい」

科学者「では、早速始めろ!! ウィヒヒヒヒ!!!! ハーッハッハッハッハ!!!」

殺戮兵器「了解です」シャキン

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殺戮兵器「目標を斬殺」ザンッ!!!!

殺戮兵器「次は目標を煮ます」コトコト

殺戮兵器「そしてこの間に別の目標を炒めます」ジューッ

殺戮兵器「博士」

科学者「なにかな」

殺戮兵器「まずは第一の成果を並べます」

科学者「……」

殺戮兵器「新鮮なうちにどうぞ」

科学者「……」

ピーッ!!

殺戮兵器「む。次の目標が炊き上がりました」

殺戮兵器「いい感じに炊き上がっている。フフフ」

殺戮兵器「どうですか、博士。この白い輝き。美しい……」

殺戮兵器「む。いけない。次の目標が焦げてしまう」

科学者(何故だ……。何故、我が最高傑作はいきなり料理を……。しかも、手際が無駄にいいじゃないかぁ。何を間違えればこんなことになるのだ……)

科学者「助手よ」

助手「なんすか、師匠!」ダダダッ

科学者「お前、何かしたかな」

助手「何かってなんすか」

科学者「僕の殺戮兵器に何かいけないことしたか?」

助手「そんな!! 自分、なにもしてないっす!!」

科学者「しかし、殺戮兵器に不要な機能や知識が増えているぞ。見てみろ」

殺戮兵器「やはり料理は火力ですね。フフフ」ゴォォ!!!!

助手「え? あれは必要じゃないっすか」

科学者「どういうことだ」

助手「だって、見た目が女の子なんっすから」

科学者「ふむ……。確かに、人間を油断させるためには有効かもしれん。だが、油断させるまでもなく、僕の殺戮兵器は最強。いかなる現代兵器を用いても勝てはしないのだぞ」

助手「承知してるっす。師匠は人類滅亡こそが悲願っすもんね」

科学者「その通り。だから、料理ができても意味がない。何故なら、地球上に生き残るのはあの殺戮兵器だけなのだからな」

殺戮兵器「卵焼きが焦げた……!? ありえない!! 何故だ!!」ダンッ!!!

助手「女の子は料理が上手いほうが良いと個人的には思うっす!」

科学者「だから、プログラムを書き換えたのか」

助手「書き換えてないっす。ちょっと追加しただけっす」

科学者「確認してみるか……」カタカタ

殺戮兵器「博士。結果を報告いたします」

科学者「なんの報告かね」

殺戮兵器「ただいまの殺戮成果です。達成率は99%です。卵焼きがマル焦げになってしまったため、完全達成はなりませんでした。申し訳ありません」

殺戮兵器「私のプログラムに不備があると判断します。早急なアップデートを推奨いたします」

科学者「そうだな。明らかにバグが発生している。ちょっと待ってろ」

殺戮兵器「流石、博士」

助手「師匠は仕事が早いっすよねー。ほんと尊敬するっす!」

科学者「ぬぅ……!! これ、は……!!」

殺戮兵器「博士、卵焼きが焦げた原因は判明しましたか」

助手「なにがいけなかったっすか」

科学者「致命的なバグがある。助手が組み込んだ無駄しかないプログラムが全体に影響を及ぼしている……」

助手「な……!! それって、あの、自分の所為っすか!?」

科学者「あたりまえだ!!! 君以外に誰がこんなバカみたいな天才的プログラムを組み込めるんだよー!!!」バンバンッ!!!

助手「すんません!! 師匠!! でも、自分はよけれとおもってぇ……」

科学者「全然よくないぞ!!」

殺戮兵器「争いはいけません。争いは何も生みだしません。ラブアンドピースこそ原初の理です」

科学者「……お前」

殺戮兵器「はい、博士」

科学者「自身の目的を言ってみろ」

殺戮兵器「全ての人類を駆逐することです」

科学者「では、やれ」

殺戮兵器「既に99%は達成されています」

科学者「……」

殺戮兵器「召し上がってください」

科学者「今日は疲れた……。寝る……」

殺戮兵器「博士、私の成果が冷めてしまいますので、できれば温かいうちにお楽しみください」

科学者の部屋

科学者「くっ……くくっ……くぅぅ……」

科学者「多額の資金を投入して作り上げた殺戮兵器が……料理プログラムの所為でただの給仕成り下がるとは……」

科学者「助手め……意図もたやすく僕を上回るプログラムを組み上げて……」

科学者「くそ……くそ……。どうする……あれを改善するには初期化するしかないぞ……」

科学者「1からやり直すのか……苦節5年が無駄に……更なる資金が必要に……」

科学者「人類滅亡が遠のいてしまう……!!」

科学者「……まてよ。仮にも僕が作り上げた殺戮兵器だ。学習機能だってきちんと働いているはず」

科学者「そうだ。何もやり直すことはない。あの殺戮兵器を教育してやればいいだけの話じゃないかぁ」

科学者「ウィヒヒヒ……やっぱり僕は天才だな……」

科学者「ウィヒヒヒヒ……!!! ハーッハッハッハッハッハ!!!」

殺戮兵器『博士、お呼びですか』

科学者「呼んでない!」

殺戮兵器『そうですか……』

科学者「今日は本当に疲れたから寝よう……。明日から始めるか……。時間はないが、まだ焦るほどでもない」

翌朝 リビング

科学者(まずは何から……)

殺戮兵器「おはようございます、博士」

科学者「何をしている」

殺戮兵器「本日の駆逐を開始しています」

科学者「そうか」

殺戮兵器「見てください、博士。こんなに白く炊き上がっています。そしてこちらもたっぷりと煮込んでやりましたよ。フフフフ」

助手「おはよーございます!!! おっす!!!」

科学者「……何年も言っているが、君は別に毎朝7時に来ることはないんだぞ」

助手「好きな時間に来ていいって師匠が仰ったので、自分はこの時間と決めています!! おっす!!!」

科学者「たまには休め。今日は日曜日だ」

助手「自分、他にすることないっすから!!」

科学者(ホント、アホだなぁ)

殺戮兵器「本日の結果が出来上がりました。どうぞ」

助手「おぉー! 美味しそうっすね! いただきまーす」

殺戮兵器「目標をおかわりしますか」

助手「いただくっす」

殺戮兵器「了解。フフフフ。こんなに盛られてどんな気分ですか?」ポンポン

科学者「今日の予定を発表したい」

助手「おっ。今日はどんな実験をするっすか。自分、そろそろカエルの解剖とかやってみたいっす。自分が学生のときは既に廃止されていまして」

殺戮兵器「流石は人類。おぞましい実験をするのですね」

科学者「残念だが、カエルの解剖はしない」

助手「うぅ……」

殺戮兵器「よかった。博士にはヒトの心があるのですね」

科学者「思い出してもらいたいことがある。僕の願いはなんだったかな」

助手「人類の滅亡です」

科学者「その第一歩として始めたことはなんだったかな」

殺戮兵器「私を製造することです」

科学者「その通りだ。しかし、致命的なバグにより、それを行うことは極めて困難な状況にある」

殺戮兵器「……? しかし、今朝は達成率100%ですが?」

助手「師匠、食べないなら自分がもらうっすけど」

科学者「何も達成できてない。このままでは何も成すことはできないんだよ」

殺戮兵器「まだ成果が足りないということですか」

助手「次は納豆を用意してみるといいんじゃないっすかね」

殺戮兵器「納豆。盲点でした。記憶しておきます」

科学者「しなくていい」

殺戮兵器「手遅れです」

科学者「これ以上、余計なことを覚えさせないでくれないか」

助手「すんません。でも、女の子ならやっぱり家庭的なほうが自分的には好みっすね。デヘヘヘ」

殺戮兵器「博士は私のような殺戮兵器はお嫌いですか」

科学者「そうだな。もっと殺戮兵器らしくなければならんな」

殺戮兵器「では、アップデートを推奨します」

科学者「無論、そのつもりだ」

殺戮兵器「流石、博士」

助手「お手伝いするっす。どんな感じで組み上げればいいっすか?」

科学者「これからは実践的に学習させる。君に任せると僕の想像の遥か斜め上を行くからな」

助手「うほほぉ。師匠に褒められたっすぅ」

殺戮兵器「私も褒めて頂きたい」

科学者「……。とりあえずだ、君には自分が『殺戮兵器』であることを学んでもらいたいわけだよ」

殺戮兵器「学ぶまでもありません。私は殺戮兵器であることを自覚しております」

科学者「このあと、何をするつもりだったのかな」

殺戮兵器「12時を迎える前に次の目標を駆逐する準備を始めるつもりです」

科学者「次の目標はどこにいる」

殺戮兵器「この家屋内にいた目標は全滅しております。なので、ここから徒歩10分圏内にある大型店舗へ出向し、目標をかき集め、鍋で煮込んでやろうと思っています。フフフ」

科学者「……」

助手「自分はそのお手伝いをすればいいっすか?」

科学者「そのようなことはあとでいい。ついてこい」

殺戮兵器「了解です」

助手「どこいくっすか?」

科学者「外に出る」

公園

科学者「ここだ」

助手「いやー。日曜だと家族連れが多いっすねぇ。平和だなぁー」

殺戮兵器「癒されます」

科学者「どこかにいないか……。ウィヒヒヒ。居たぞ」

助手「なんすか、なんすか」

科学者「ここに、角砂糖を落とす」ポトッ

殺戮兵器「あぁ、もったいない」

科学者「しばし待つ」

助手「むー」

殺戮兵器「何が始まるのでしょうか」

科学者「すぐに分かる」


「ママー、あの人たちなにしてるのかなー」

「みちゃダメよ」

「わかったー」

助手「師匠、アリが群がってきたっすよ」

科学者「ウィヒヒ……。哀れなモルモットどもが集まってきたようだな」

殺戮兵器「すごい数です」

科学者「さて、始めるか。おい」

殺戮兵器「はい、博士」

科学者「このアリを全て踏み殺せ」

殺戮兵器「……何故?」

科学者「君はなんだったかな」

殺戮兵器「博士が作り出した、最高傑作の殺戮兵器です」

科学者「よし、では、アリを踏み殺せ」

殺戮兵器「理由は? アリに罪はありません」

助手「アリの解剖でもするんすか?」

科学者「分かった。では、水を持ってきてアリの巣穴に流し込むのだ」

殺戮兵器「それではアリが全滅してしまいます」

助手「子どものときにやったことあるっすねぇ」

科学者「この程度のこともできずして、殺戮兵器は名乗れないぞ」

殺戮兵器「しかし」

科学者「やれ」

殺戮兵器「……了解」

助手「嫌がってるし、別にやらせなくてよくないっすか」

科学者「殺戮の何たるかを教え込むのだよ」

殺戮兵器「……っ」プルプル

助手「可哀想っすねぇ」

科学者「奴にどれだけの時間と金をかけたと思っている。簡単に諦めてたまるものか」

殺戮兵器「……殺戮、開始」

殺戮兵器「えいっ、えいえいっ、えーいっ」ダンッ!!!ダンッ!!!

殺戮兵器「くっ……!! 的が小さすぎて一匹にすら当たらない……!! しかし……!!」

殺戮兵器「えい!! はっ!! とうっ!!!」ダンッ!!!ダンッ!!!

殺戮兵器「結果を報告します。この目標を駆逐するには更なるアップデートが必要です、博士」

科学者「そうだな」

研究所

助手「午後からはカエルの解剖でもしましょー」

殺戮兵器「やめてください」

科学者(結果は出ず、か。アリすらも殺せないとは……)

科学者(いや、待て。アリに罪はない、と言っていたな。つまり、アリに、駆逐する対象に罪があるとしたら……?)

科学者「クク……ククク……。ウィヒヒヒヒヒ!!!」

殺戮兵器「お呼びですか、博士」

科学者「呼んでない」

殺戮兵器「そうですかぁ……」

助手「何か面白い番組でもやってたっすか。この時間だとワイドショーばっかりっすけど」

科学者「少し出てくる。君たち、留守を頼む」

助手「はいっ!!」

殺戮兵器「ネズミ一匹、入らせはしません」

科学者「そうか。期待している」

科学者(残念だが、そうはいかないんだ……)

数時間後

科学者(意外に見つからないものだな。しかし、これだけいれば……)

殺戮兵器「おかえりなさいませ、博士。先にお風呂になさいますか、それともお食事でしょうか」

科学者「すまないが、そのどちらでもない」

殺戮兵器「そ、それは……」モジモジ

科学者「どうしたのかね」

殺戮兵器「私、ということですか?」

科学者「それでもない。着替えるだけだ」

殺戮兵器「そうですかぁ……」

科学者(助手め、無駄なものばかりを詰め込んだようだな)

科学者「我が助手はどうした」

殺戮兵器「15分前に帰宅しています」

科学者「もう17時を過ぎていたか」

殺戮兵器「はい」

科学者「まぁ、良い。邪魔者はいないほうがな」

科学者「さて、我が傑作よ。君は言ったね。ネズミ一匹、入らせはしないと」

殺戮兵器「はい。そう発言しました」

科学者「では、これはなんだね?」

殺戮兵器「え?」

カサカサカサカ……

殺戮兵器「……!!」

科学者「おかしいねぇ。目に入る位置に4匹もの黒い害虫がいるではないか。君はこれだけの数の侵入を許したのかな」

殺戮兵器「申し訳ありません」

科学者「ただちに駆逐したまえ」

殺戮兵器「了解です」シャキン

科学者(やはり、害虫は別か。ならば、人間こそ害虫だと学習すれば、料理もできる完璧な殺戮兵器となる)

科学者(学習した瞬間、真っ先に僕が殺されるだろうが、それでいい。あとは人類が死滅するまでコイツが暴れるからな)

科学者「ウィヒヒヒヒヒ!!!!」

殺戮兵器「お呼びですか?」

科学者「呼んでない。早く駆逐するんだ」

殺戮兵器「駆逐、開始」

科学者(さぁ、見せてくれ。お前の神髄を)

カサカサカサカサ……

殺戮兵器「はっ」パシッ

科学者「なに!? 掴んだ……!?」

殺戮兵器「ふっ」パシッ

科学者「両手で……!?」

殺戮兵器「残り、2匹……。そこです」パシッ

殺戮兵器「ラスト……。そこ!」パシッ

科学者(素手で捕まえるとは……。しかし、ここからどうするつもりだ……。まさか、料理するつもりか……。いいぞ。殺戮兵器はそれぐらいの残酷なこともやってのけなくてはな)

殺戮兵器「博士、こちらの窓は開けてもらえますか」

科学者「ん? ああ」ガチャ

殺戮兵器「感謝いたします。では、リリース」ポイッ

科学者「何の真似だ」

殺戮兵器「駆逐、完了です」キリッ

科学者の部屋

科学者「……」

殺戮兵器『博士、私の何が間違っていたのでしょうか。教えていただきたい』

科学者(どうすればいい……。虫も殺せぬ殺戮兵器など、ただの喋る人形と相違ないではないか)

殺戮兵器『博士、一度お話を。私に不備があるのならどのような改造も受け入れますので。どうか部屋から出てきてください』

科学者(助手の組み込んだものは、根幹となる部分にまで影響を及ぼしているのだろう。やはり、初期化するしかないのか……)

科学者(僕の5年間を無駄にはしたくない……)

殺戮兵器『そうだ。今日は博士の大好きなオムライスを作りましょう。目標を拉致してきます』

科学者(このままでは……このままでは……)

科学者「くそぉ……どうしたら良いんだ……」

殺戮兵器『旗もつけます』

科学者「ふざけるなぁ!!! 今日は寝る!!!」

殺戮兵器『そんなぁ……』

科学者「はやく、はやく手を打たねばならんようだな……」

科学者「手段は選んでいられないか……」

翌日 リビング

科学者(朝になってしまったか……)

殺戮兵器「おはようございます。既に今朝の成果を並べらせていただきました」

科学者「……」

殺戮兵器「目標は昨日の夜に拉致してきました」

科学者「そうか……」

科学者「……!」

科学者(料理……! しまった、何故気が付けなかった……。こいつは何食わぬ顔で料理をしているではないか……)

殺戮兵器「私の顔に何かついていますか? 見つめられると、照れてしまいます」

科学者「クククク……」

助手「おはよーございまーす!!!」バーンッ

科学者「ウィヒヒヒヒヒ!!!!」

殺戮兵器「お呼びですか?」

科学者(簡単な方法があるじゃぁないかぁ……。これでこいつも立派な殺戮兵器と化すだろう……)

助手「お、朝からご機嫌っすね、師匠! 自分も朝ごはんいいっすか?」

科学者「助手よ」

助手「はいっす!」

科学者「カエルの解剖がしたいと言っていたな」

助手「するっすか!?」ガタッ

殺戮兵器「えぇ……」

科学者「いや、カエルではなく、別のモノを解剖する」

助手「ほぉ。なんすか、なんすか」

科学者「今日のディナーにできるものだ」

助手「カエルもなるっすよ」

科学者「おい」

殺戮兵器「はい。博士」

科学者「今日の晩御飯は鳥のからあげが食べたい」

殺戮兵器「了解です。それでは目標を拉致してきます」

科学者「いや、一緒に行こうではないか」

殺戮兵器「一緒に買い物ですか? 嬉しいです、はかせっ」

電車内

殺戮兵器「博士、見てください。あそこに大きな建物がありますよ」

科学者「静かにしていろ」

助手「師匠! あの青い屋根が自分の家っす!」キャッキャッ

科学者「おい」

「なにあれー?」

「コスプレかな」

「女の子、かわいいなぁ」

殺戮兵器「しかし、どこまで行くのですか」

科学者「美味い料理に必要なのは、新鮮な食材だ」

殺戮兵器「同感です」

科学者「そういうことだ」

殺戮兵器「よくわかりません」

科学者「目的地に着けばわかる」

助手「あ! 師匠! あの赤い屋根が自分の友達の家っす! もう何年も会ってないけど!」キャッキャッ

牧場

助手「おぉー! 馬っすー!!」テテテッ

殺戮兵器「ここは……」

科学者「家畜の集う場所だ」

従業員「なにか?」

科学者「あ、今朝、電話した者なんですけど」

従業員「あぁ、聞いてますよ。どうぞ」

科学者「すみません、お忙しいところ」

従業員「いえいえ」

科学者「助手!! こちらにこい!!」

助手「はーい!」

殺戮兵器「多くの鶏がいますね」

科学者「ここでは鶏を売ってくれるのだよ」

助手「ヒヨコでも飼うんすか」

殺戮兵器「素敵です。是非、飼いましょう」

科学者「買うのは鶏だ」

助手「えー。まぁ、いいっすけど。名前はどうするっすか」

殺戮兵器「ケツァールなんてどうでしょう」

助手「かっこいいっすねぇ」

科学者「好きなのを選び給え」

殺戮兵器「うーん……。迷いますね」

助手「あの子は?」

殺戮兵器「あの子もよさそうですけど」

科学者(ククク……。選ぶがいい。食材となる鳥をな)

殺戮兵器「博士、あの子にします」

鶏「コケー!!」

科学者「よかろう。すみませーん」

従業員「はい、なんでしょうか」

科学者「あの鶏をください」

従業員「分かりました。少々、お待ちください」

従業員「お待たせしましたー。どうぞ」

鶏「コケッ」

殺戮兵器「よろしくお願いします、ケツァール」

助手「よく見ると可愛いっすねぇ」

科学者「では、戻るぞ」

殺戮兵器「これから鳥かごを購入されるのですか」

科学者「必要ない」

殺戮兵器「しかし、放し飼いでは部屋が汚れてしまいます」

科学者「鳥とて自由がよかろう」

殺戮兵器「慈悲深いお言葉です」

助手「で、いつ解剖するんすか」

殺戮兵器「何を言っているのですか。この子は飼うんですから」

助手「あれ? けど、解剖するって……」

殺戮兵器「しないですよね?」

科学者「ククク……。いいから、研究所に戻るぞ」

研究所

科学者「良い時間だな。そろそろ、晩御飯の準備をしようではないか」

殺戮兵器「はいっ。お任せください。目標を拉致し、駆逐します」

科学者「今日の献立は?」

殺戮兵器「博士のリクエスト通り、鶏のから揚げがメインになります」

科学者「そうか、そうか。ククククク……。助手よ、鶏をキッチンへ運べ」

助手「了解っす!」

殺戮兵器「キッチンが汚れてしまいます」

科学者「だろうな。しかし、必要なことだ」

殺戮兵器「意味がわかりません」

助手「運んだっすよ」

科学者「さて、鶏のから揚げがメインだと言ったね」

殺戮兵器「はい……」

科学者「では、始めてくれ。食材は今、キッチンにいる。とても新鮮な食材がね」

鶏「コケッ?」

殺戮兵器「……」

科学者「どうした、我が殺戮兵器よ」

殺戮兵器「ケツァールを殺すのですか」

科学者「目標を駆逐したまえ」

殺戮兵器「博士……ですが……」

助手「自分がやりましょうか?」

科学者「いや、こいつにやらせなくては意味がない」

助手「そっすかぁ。でも、明らかに嫌がってますけど」

科学者「いいのだよ。さぁ、やりたまえ。僕のために」

殺戮兵器「わかりました」

科学者(一度、生物をその手で殺めればこいつも殺戮兵器としての部分が目覚めるはず)

殺戮兵器「……」プルプル

鶏「コケッコッコッコ?」

殺戮兵器「……駆逐、開始」ブンッ

鶏「コケッ」

殺戮兵器「博士」

科学者「どうした」

殺戮兵器「ここで屠殺してしまうと血が噴き出し、キッチンの清掃に時間がかかってしまいます」

科学者「それがどうした」

殺戮兵器「外で行います」

助手「そのほうがいいんじゃないっすか。ここ、賃貸ですもんね」

科学者「……やむを得ないか。許可する」

殺戮兵器「感謝します。それでは行ってまいります」ダダダッ

科学者「待て!! 僕たちも同行するぞ!!」

助手「斬るところ見たいっすー!」

殺戮兵器「ああ!」

科学者「どうした!?」

殺戮兵器「目標を逃がしてしまいました」

科学者「……」

殺戮兵器「大型店舗で代わりの鶏を拉致してきます」

殺戮兵器『博士、中に入れてください。先ほどの失態は謝罪します』

助手「何も締め出さなくても」

科学者「鶏もタダではなかったのだぞ」

助手「それはわかるっすけど」

殺戮兵器『博士、中に、中に入れてください』

科学者「大体だな、お前が余計なことをしなければこんなことにはならなかったんだぞ」

助手「だから、謝ってるじゃないっすか。けど、師匠がわざわざ女の子型に作るからぁ……」

科学者「あの容姿にしたのは全人類を騙すためだと言ったはずだ。あのような容姿ならば誰も世界最悪の兵器だとは看破できまい」

科学者「それこそ厳重な警備態勢の中でも簡単に潜り込むことができる。変装も可能だ」

科学者「たとえ人間がどこに隠れようとも、そいつを探し出し駆逐できるようにしたはずだったんだ」

科学者「だというのに……」

殺戮兵器『はかせー、いれてください』ドンドンッ

科学者「頭が痛いよ……」

助手「やっぱり初期化するっすか?」

科学者「それも視野にいれたが、時間はかけられない。約束の刻は近づいている」

殺戮兵器「よかった。もう一生、この家屋へは入れないかと思ってしまいました」

科学者「はぁ……」

助手「晩御飯はどうするっすか」

殺戮兵器「鳥を拉致してこないことには……」

助手「ケツァールを探すっすか」

殺戮兵器「とんでもない」

科学者「再度、質問しよう。君の目的はなんだ」

殺戮兵器「人類を駆逐することです」

科学者「できると思うか」

殺戮兵器「毎日しています。今日は失敗しましたが」

科学者(人類の駆逐が料理と同義になってしまっている以上、無理なのか。そもそも小動物すら殺せないようではな……)

助手「師匠、今日は実験しないっすかぁ」

科学者「何度もしている。しかし、失敗ばかりだ」

助手「なんかしましたっけ」

殺戮兵器「今日はまだケツァールの危機があったぐらいですが」

科学者「手詰まりか……。初期化して間に合うか……?」

助手「暇ですし、ゲームでもするっすー」

殺戮兵器「ゲームですか」

助手「一緒にするっすか」

殺戮兵器「いえ、私は見ているだけで構いません」

助手「そうっすか」

科学者(気楽なものだな……。元凶は自分なんだぞ、助手よ。仮想世界で遊んで……)

科学者「……」

助手「くらえー!!」

殺戮兵器「おぉ」

科学者「なるほど……なるほどぉ……クククク……」

科学者「ウィヒヒヒヒヒ!!!!」

殺戮兵器「お呼びですか?」

科学者「呼んでいない。それよりも良いことを思いついたぞ。ありがとう、助手よ」

助手「うへへぇ。師匠に褒められると照れるっすぅ」

翌日 サバゲー会場

科学者「ここだな」

助手「なんか武装した人たちがいっぱいいるっすね」

殺戮兵器「狂気に満ちていますね」

科学者「我々は向こうの家屋内を使わせてもらえることになっている」

助手「師匠、今日はどんな実験をするんすか」

科学者「お前たち、これを持つが良い」

助手「おぉー。銃だー。かっこいいっすぅ」

殺戮兵器「……」

科学者「どうだ?」

殺戮兵器「何故か分かりませんが、胸の奥が熱くなってきました」

科学者「ほほぉ……」

科学者(銃器を見ると本能が呼び覚まされるのか……。これはいいぞぉ……)

科学者「早速、始めるとするか。実験をな」

殺戮兵器「ドキドキします」

屋内

科学者(最初から銃器を持たせれば良かったのかもしれないな。今回は良い結果が期待できそうだ)

『ゲーム、開始』

科学者(さぁ、殺戮兵器としての実力をこの仮想の戦場で発揮するがいい)

科学者「どこだ……。どこからくる……。きっと予想もつかないところから来るはずだ。天井からか?」

科学者「いないな……。では、完全な死角からか? どこからでもいい。早く僕を驚かせてくれ」

殺戮兵器「どこですかぁ……どこにいるんですかぁ……」プルプル

科学者「……!?」

殺戮兵器「どこですかぁ……はかせぇー……」プルプル

科学者(いや、まて。落ち着け。これは相手を油断させるための演技に他ならない)

科学者(一見弱そうにみせて獲物をおびき寄せる狡猾な動物も世界にいるぐらいだ。これぐらいの演技はして当然。むしろ、自身の容姿を完璧に使いこなせているではないか)

科学者(ここで僕が発砲すれば機敏な動きで銃弾を回避するか、素手で、そうあの害虫を捕まえたときのように銃弾をキャッチするはず)

科学者(よかろう。罠にかかってあげようではないか、我が最高傑作よ)

科学者「……」パァン!

殺戮兵器「あうっ」

科学者「……」

殺戮兵器「……」

科学者「……」

殺戮兵器「私、被弾しました」

科学者「……」ズガガガガガガガッ

殺戮兵器「やめてください。博士。私は既に撃たれています。死体蹴りはルール違反だと書かれていました」

科学者「……」ズガガガガガガッ

殺戮兵器「やめてください。やめてください」ダダダッ

助手「隙アリっす!!!」ザッ

科学者「なに!?」

助手「師匠、背中がお留守っすよ」ジャキン

科学者「お前のような動きができるならな……」

助手「お覚悟を」

殺戮兵器「あぶない!!」ドガッ!!!

科学者「がはっ!?」

休憩室

助手「あー、痣になってるっすね」

科学者「そ、そうか……いたた……」

殺戮兵器「申し訳ありません、博士。体が勝手に」

科学者「力だけは強いな……クッ……」

殺戮兵器「猛省しています」

助手「でも、楽しかったっすねー」

科学者「全然、楽しくない」

助手「そんなことおっしゃらずに」

科学者「時間はない。こうなれば仕方あるまい。研究所に戻り、初期化を行う」

助手「マジっすか」

科学者「当然だろう。お前もいいな」

殺戮兵器「私は博士に生み出された殺戮兵器です。私の体は博士のモノです」

科学者「いい答えだ。戻るぞ」

殺戮兵器「了解」

研究所

ゴォン……ゴォン……

助手「師匠、全ての準備が整ったっす」

科学者「始めろ」

助手「フォーマット・スタート」

ゴゴゴゴ……ゴォン……

助手「フォーマット・エンド」

科学者「もう一度、プログラムを1から組み直す。君のおかげで、根幹部分にまでバグがあったからな」

助手「すんません」

科学者「何日かかる」

助手「3日は必要になるっす」

科学者「1日で終わらせるぞ」

助手「無理っす」

科学者「やるんだ」

助手「むりっす!!!」

31時間後

科学者「はぁ……はぁ……」

助手「すぅ……すぅ……」

科学者「な、なんとか……形になったか……よし……きどう……かいし……」カチッ

ゴォン……ゴォン……

科学者「さぁ、もう一度……めをさませ……我が最高……けっさく……」

殺戮兵器「――おはようございます、博士」

科学者「おぉぉ……。できたか……まにあったのか……」

殺戮兵器「博士、顔色が悪いようですが」

科学者「さぁ……おまえは……なんだ……」

殺戮兵器「私は殺戮兵器です」

科学者「お前の……やくめは……なんだ……」

殺戮兵器「人類を駆逐することです」

科学者「ふ……ふふ……ウィヒヒヒ……ひ……」バタッ

殺戮兵器「博士、お呼びですか? 博士? しっかりしてください、博士」

科学者「はっ」

科学者「う……。頭痛が……」

科学者「ここは……研究所だな……。リビング……?」

科学者(どうなったんだ……。確か、もう一度起動させて……それで成功して……そのあとの記憶がないが……)

科学者「ん……? この匂いは……」

殺戮兵器「お目覚めですか、博士」

科学者「お前……僕は……」

殺戮兵器「2日も眠っていらしたので、心配しました」

科学者「2日もか……。まぁ、無理もない。1日以上、寝ていなかったからな」

殺戮兵器「お腹、空いていませんか?」

科学者「あぁ。そうだな」

殺戮兵器「すぐ準備します」

科学者「悪いな」

殺戮兵器「気にしないでください。消化の良いものをご用意しますね」テテテッ

科学者「助かる」

殺戮兵器「どうぞ。実はおかゆを作っていたんです。いつ、お目覚めになられてもいいように」

科学者「作り置きってことか」

殺戮兵器「とんでもありません。数時間ごとに新しく作っていたんです」

科学者「今までの分は捨てたのか」

殺戮兵器「いえ、貴方の助手が全て食べてくれました」

科学者「食い意地の張った奴だな」

殺戮兵器「さぁ、冷めないうちに」

科学者「そうだな。いただきます」

殺戮兵器「待ってください。熱いので……」

殺戮兵器「フーッ……フーッ……。はいっ」

科学者「恥ずかしいぞ」

殺戮兵器「誰も見ていませんし」

科学者「しかしだな」

殺戮兵器「あーんっ」

科学者「あ、あー……」

殺戮兵器「美味しいですか?」

科学者「……おかしい」

殺戮兵器「な……!? 味付けは完璧だったはずなのですが……!?」

殺戮兵器「どこに……!! どこに欠陥が……!! 博士、早急なアップデートを推奨いたします!!」

科学者「その通りだ!! すぐにお前をアップデートしなければならないぞ!!!」

殺戮兵器「申し訳ありません!! 御粥も満足に作ることができない殺戮兵器など、兵器失格!! お願いいたします、博士!!」

科学者「何故だ!! 何も変わっていないではないか!!! お前は初期化したはずだぞ!!」

殺戮兵器「はい。間違いなく、初期化はされています」

科学者「初期化前と違いがないじゃないか!!」

殺戮兵器「それについては助手の方が説明されていました」

科学者「なんと言っていたのだ」

殺戮兵器「初期化は成功。しかし、殆ど寝ずに組み上げていたためにプログラムがボロボロになってしまい、修正しようにも収集がつかなくなったらしいのです」

科学者「眠かったからできなかったんだろ」

殺戮兵器「なので、前回のプログラムも流用したとのことでした」

科学者「面倒だから復元したということだな」

科学者「あいつはクビだ……」

殺戮兵器「博士も手伝っていたのでは?」

科学者「復元しているとは思わなかった。僕も眠かったし気が付けなかった」

殺戮兵器「徹夜でのお仕事は体に障りますね」

科学者「全くだよ。もうやらん」

殺戮兵器「よかった」

科学者「はぁ……。あの苦労はなんだったんだ。ホント、天才だけど、はてしなくバカだ……」

殺戮兵器「助手の方って天才なんですか」

科学者「天才だよ。間違いなくな。時間を無駄にしないようにと睡眠学習プログラムまでお前に組み込んでいた」

殺戮兵器「どういうことですか」

科学者「眠っている間に聞こえる音や言語を覚えさせるために作ったんだ。だから、お前は最初から無駄に様々な言葉が使えるし、意味も知っている。作られている最中もお前は自動的に学習していたのだ」

殺戮兵器「へー」

科学者「言語プログラムをつくるほうが遥かに楽なはずなのだがなぁ。それでは遊びがないともいっていた。今の内に雑学も学べるようにしたかったそうだ」

殺戮兵器「優秀な方なのですね」

科学者「時間がないから早くしろといったんだが……。おい、僕は何日寝ていたといった?」

殺戮兵器「2日です」

科学者「では……今日は……」

殺戮兵器「はい?」

科学者「何時だ!!」

殺戮兵器「午前10時前ですね」

科学者「お、おい。出かける準備をしろ」

殺戮兵器「え?」

科学者「静かだと思った……。助手が居ない時点で気が付くべきだった……」

殺戮兵器「そういえば今日はお見えになっていませんね」

科学者「以前から言っていたからな。約束の刻が過ぎれば、絶対に来るんじゃないと」

殺戮兵器「約束の刻?」

科学者「行くぞ。ここを放棄するしかない。お前が完成しなかったからな」

殺戮兵器「あの、一体どういう……」

科学者「今は時間が――」


ピンポーン

科学者「来たか……人類の癌細胞が……」

殺戮兵器「お客さんでしょうか」

『すみませぇーん。いるのはわかってるんですよぉー』

科学者「くぅ……」

殺戮兵器「出なくてよろしいのですか」

『返済期日、すぎてますよぉー。お金、返してくれませんかねぇー。もしもーし』ドンドンドン

科学者「うぬぬ……」

殺戮兵器「一体、誰なのでしょうか」

科学者「僕がこんな目にあっているのも、全てバカ共の所為だ……!! くそっ……!!」

殺戮兵器「博士?」

科学者「僕の研究を蔑ろにしやがって……ふざけるな……ふざけるなぁ……」

殺戮兵器「博士、落ち着いてください」

科学者「お前さえ……お前さえ完成していれば……こんな惨めな思いをしなくても……!!」

殺戮兵器「博士……」

『ちっ。明日もきますよぉー。あ、逃げても無駄なんでー。借りたお金はきっちり返してくださいねー。優しくしているうちに返したほうがいいですよー』ガンッ!!!

殺戮兵器「飲み物でも……」

科学者「……」

殺戮兵器「一体、博士に何があったのですか」

科学者「……10年前になる。僕は研究発表の場でこう言った。世界に人間は必要ない、と」

科学者「全てを機械化できれば、無駄な労働、無駄な争いはなくなる」

科学者「一家に一機、君のような機械人形がいれば、全て事が済む」

科学者「労働は全て機械らがこなすことで、人間は心穏やかに毎日を過ごすことが出来る」

科学者「ストレスがなければ、諍いも起こらない。他人にも優しく接することができるはずなのだ」

科学者「しかし、バカ共は言った。現実性がまるでない。理想論だ。そんなことをしたら人類はいずれ滅ぶ。全機械化はありえない、と」

科学者「金さえあれば僕が全世界の全世帯に機械人形を配ってみせるとも言ったが、鼻で笑われた」

科学者「だから、僕は決意したのだ。だったら、僕の科学力をみせてやろうと。笑った連中を後悔させてやろうと」

殺戮兵器「そして私が作られたのですね」

科学者「僕の考えを理解できないものたちが、人類の叡智なわけがない。あんなバカ共に操られている人間は愚かだ」

科学者「故に消してやろうと思った。研究の資金はどこからも得られずとも、貯金も食いつぶしても、あんな癌細胞から金を借りてでもな」

殺戮兵器「私は人類を滅ぼすためにいます。けれど、その、博士を傷つけたくはないのですが……。博士は人類に含まなくてもよろしいですか?」

科学者「含め!! それにお前に真っ先に殺されるのは僕だぞ!!」

殺戮兵器「むりです」

科学者「いいから、僕を今すぐ殺せ!! そうすればお前は全人類を殺すことができる!!」

殺戮兵器「むりですって」

科学者「やれ!!」

殺戮兵器「ひぃ……」

科学者「……死ぬのは恐れていない。恐れているのは、このまま世界が変わらないことだ」

殺戮兵器「博士……」

科学者「しかし、いずれ奴らに囚われ、僕はこの世から消える……。終わりだな……」

殺戮兵器「そんな……。私、博士がいなくなると困ります」

科学者「何故だ」

殺戮兵器「料理を食べさせたい人がいなくなるので」

科学者「ふざけるな……」

殺戮兵器「ふざけてません」

科学者「もういい……。今は、ひとりにしてくれ」

科学者「望みは潰えた。夢は所詮、夢だったか」

科学者「機械が統治する世界こそ、理想だというのに……」

科学者「……あとは、助手が引き継いでくれることを願うばかりか」

科学者「あのバカがどこまで我が理想を理解しているのかはわからんが」

科学者「あいつの頭脳ならば夢物語でもあるまい」

科学者「……」

科学者(奴らに囚われ、屈辱的な労働をさせられるぐらいならば……)

科学者(潔く、首を吊って自決してやる)

科学者「全く、下らない世の中で、つまらない人生だったな」スッ

科学者「クククク……ウィヒヒヒヒ……!!!!」グッ

殺戮兵器「お呼びですか、はか――」

殺戮兵器「何をされているのですか!? あぶない!!」グイッ!!!!

科学者「グエッ!?」

殺戮兵器「今、お助けします!!! はかせー!!!」ググググッ

科学者「おぉぉぉ……!!! グェェ……!!! アァァァ……!!!」

ブチッ!!!

科学者「がふっ!?」

殺戮兵器「博士!!」

科学者「ごほっ……!? おえっ……ぅぇ……!」

殺戮兵器「博士、何事ですか」

科学者「くっ……お……まえ……なぜ……ひとりに……してくれと……いっただろうが……」

殺戮兵器「今、名前を呼ばれたので」

科学者「呼んでないが……」

殺戮兵器「呼びましたよ」

科学者「何を言っている?」

殺戮兵器「私の名前は『ウィヒヒヒ』ですから」

科学者「……」

殺戮兵器「『ウィヒヒヒヒ』でも『ウィヒヒ』でも反応しますよ」

科学者(こいつ、学習機能自体にバグがあるのか)

殺戮兵器「博士は救助を私に求めたので名前を呼んだのではないのですか?」

科学者「寧ろ、死にたかったんだ。お前は僕を殺してはくれないからな」

殺戮兵器「死ぬとか殺すとかそういった類の暴力的単語は極力使わないようにお願いします」

科学者「早く、一人にしてくれ……。もう一度、首を吊り直さねばならないからな」

殺戮兵器「それは許可できません」

科学者「何故、お前の許可が必要なんだ。お前は僕に作られた人形だろうに」

殺戮兵器「確かにその通りです。けれど、博士になんらかの危険が迫るのなら全力をもって排除します」

科学者「全力でだと。笑わせるな、ポンコツめ。どうやって止めるというのだ」

殺戮兵器「がんばって止めます」

科学者「お前と話していると頭脳指数が低下しそうだ。もういいから、僕のことは忘れろ」

殺戮兵器「私自身が博士との記憶を消すことは決してありません。それができるのは、博士だけです」

科学者「ならば、消してやろう。ついてこい」

殺戮兵器「待ってください。私の記憶を消去したら、私は博士の自害を止めることはできなくなります。つまり、博士に迫る危険を排除できなくなるということですね」

科学者「当たり前だろう」

殺戮兵器「では、徹底抗戦です。ご了承ください」

科学者「要するに武力行使も辞さないということか、ポンコツ。僕としては好都合だな」

殺戮兵器「博士は重大なことをお忘れのようです」

科学者「何……?」

殺戮兵器「私は、博士の最高傑作殺戮兵器『ウィヒヒヒ』です。圧倒的な力で人間を支配できるのです」

科学者「できたことあったのか」

殺戮兵器「博士が使ったこの縄で貴方を拘束します」

科学者「クククク……。ウィヒヒヒ……。人間、それも開発者に牙を向けるか。良いぞ、らしくなってきたじゃないかぁ」

科学者「そのまま勢い余って、僕を絞め殺せばいいんだ」

殺戮兵器「独自の判断で荒っぽい手段を用います」

科学者「こい!! そしてお前は全人類を滅ぼす兵器に生まれ変わるんだ!!!」

殺戮兵器「はっ」シュルル

殺戮兵器「とおっ」シュルッ

科学者(これは……!?)

殺戮兵器「さて、博士。私はこの縛り方をいつの間にか学習していました。きっと博士が教えてくれたのでしょう」

科学者「まて……僕はこんなこと……教えてなど……」

殺戮兵器「次にどうするか、お判りですね」

翌朝

助手「ししょー!! おはようございまーっす!!!」バーンッ

助手「うおぉ!?」

科学者「なぜ……きたんだ……」

助手「約束の刻は過ぎたので、いいかなーって……」

科学者「バカが……」

殺戮兵器「おはようございます」

助手「ところで、師匠……何故、亀甲縛りで吊るされているんすか……」

科学者「僕が……悪かった……もう自害はしないから……許してくれ……助手に見られてしまったではないか……」

殺戮兵器「私が聞きたかったのはその言葉です。今、解放しますね」

助手「機械が反乱を起こしたっすか」

科学者「また、お前だろう……」

助手「はい?」

科学者「君が余計なことをインプットしたんだろう!!!」

助手「朝から元気っすね、師匠。自分、うれしいっす!」

殺戮兵器「朝ごはんできましたよー」

助手「まってたっすー」

科学者「はぁ……」

殺戮兵器「博士もどうぞ」

科学者「おい」

助手「なんすか?」

科学者「約束の刻が来たら、もうここへは出入りするなと言っただろう」

助手「昨日だけの話だと思ってたっす。すんません」

科学者「ホントに、バカだ……。おかげで死ぬより辛い目にあったじゃないか……」

助手「あれは恥ずかしいっすよねぇ。自分だったら生きていけないっす」

科学者「おのれ!! 貴様が余分なデータまで奴に記憶させるからだろうが!!」

助手「待ってくださいよぉ。自分は何もしてないっすよぉ」

科学者「では、どうしてあんな下劣な作法まで知っているんだ」

助手「睡眠学習機能の所為で自分と師匠の会話を聞いていたからじゃないっすか」

科学者「お前と僕は縛り、縛られる関係だったのかな!? 知らなかったよ!!」

殺戮兵器「朝からケンカはしないでください。仲良くしましょう。ラブアンドダブルピース」

科学者「いや、問題は君がしたことだ。何故、フォーマットをしておいて、全てを復元させたのだ」

助手「復元? なんのことっすか」

科学者「殺戮兵器がフォーマット前も何も変わっていないじゃないか」

助手「そうっすか? きちんと料理は料理と認識できるようにしましたし、ところどころあった間違った言葉の使い方も極力減らしたっすよ」

助手「なんていうか、より人間っぽくなったすよねぇ。これで更に怪しまれずに人類を抹殺できるっす」

科学者「肝心の人類抹殺が不可能なのだよ」

助手「マジっすか。おかしいっすねぇ」

科学者「おかしいのは君の頭だ」

殺戮兵器「博士が異常だと仰る以上、それは事実なのでしょう。けれど、私自身不具合は確認できません」

助手「朝ごはん、おいしいっす」

殺戮兵器「おかわりもありますからね」

科学者「言われてみれば、確かに至る所に変化はあるが……。僕の求めていたものではないぞ」

助手「もう一回、初期化するっすか」

科学者「そんな時間などない。それより、君はもう帰りなさい。いつ奴らがやってくるかわからないんだぞ」

助手「借金取りのことっすか」

科学者「君まで巻き込まれるぞ」

助手「でも、家にいても暇ですし」

科学者「給料だってもう払えん。ここに留まる理由など、ないはずだ。帰ったほうが良い」

助手「うーん……」

殺戮兵器「大丈夫です。私がお二人を守ってみせます」

科学者「黙れ、ポンコツ。お前は人間を傷つけることができない」

殺戮兵器「はい。殺戮兵器ですから」

科学者「相手は武器を持っている可能性が極めて高い。そんな奴らから、どうやって守ると言うんだ」

殺戮兵器「頑張って守ります」

科学者「お前と話すと疲れる」

殺戮兵器「何故ですか?」

助手「どんな兵器も通用しないようにできているんですし、大丈夫じゃないっすか」

科学者「対象を傷つけずにどうやって制圧するつもりだ? 僕を縛ったように相手も縛り、吊るすか?」

殺戮兵器「それしか手段がないのであれば……」

科学者「馬鹿馬鹿しい。一人や二人ならいざ知らず、相手が複数人できた場合、縛る時間などない。逆上させるだけだ」

助手「だったら、こっちから攻めればいいんじゃないっすかね」

科学者「……なに?」

助手「待ってるからヤバいんすよね? こっちから殴り込みにいけばいいんすよ。んで、借金も踏み倒せば丸く収まるっす」

科学者「君はたまに突拍子もないことを言い出すね」

助手「理に適ってると思うっすけど」

科学者「報復があるに決まっている。僕だけでなく、君まで海に沈められてしまうぞ」

助手「自分は、師匠が生み出した殺戮兵器を疑ったことはないっす」

科学者「な、なにをいきなり……」

助手「この子は世界最強の兵器っす。人間なんかが太刀打ちできるわけないっす」

殺戮兵器「私もそう自負しています」

科学者「うぬぬ……」

助手「自分は師匠の論文を読み、ホントーに感動したっす。全機械化の世界。機械なら定められたことを越えて働きはしない。それはつまり、無駄なことは絶対にしない」

助手「無駄なことをしなければ、地球はいずれ古の自然豊かな状態に戻る。この超強引な結論。自分、すっげー感銘したっす。めちゃくちゃリスペクトっす。だから、師匠のところにきたんすよ?」

科学者「僕は今、褒められているのかな?」

助手「自分だって今の世界が正しいなんて思ってないっす。なんで汗水流して働かないといけないんすか」

助手「楽しいことだけしておきたいっす。趣味だけに時間を使いたいっす。楽しいことだけをしているけど、外をみれば自然でいっぱいとかマジサイコーじゃないっすか」

科学者(こいつ、本格的なバカだったのか)

殺戮兵器「博士、目標がいる場所は分かりますか」

科学者「待て。何故、そうもやる気になっているんだ」

殺戮兵器「しかし、早くしなければ博士の身に危険が及びます」

科学者「そもそも、お前は何故そこまで僕を守ろうとする。いや、君だな。君がそう仕向けさせたのだな。僕は死を望んでいたのだよ。殺戮兵器の犠牲者第一号になることを」

助手「でも、師匠に死んでほしいって願う弟子ってこの世にいるんすかね? 自分、理系なんでわかんないっす」

科学者「……」

殺戮兵器「親に対して死んでほしいと願う子もいません」

科学者「それは結構いそうだが」

殺戮兵器「少なくとも私は願いません」

助手「師匠、どうするっすか」

殺戮兵器「博士、許可を」

科学者「ぬぅ……」

雑居ビル前

殺戮兵器「ここですか」

助手「如何にもって感じのビルっすね」

科学者「ここまで来て聞くのもなんだが、本当にやる気かね」

助手「人類抹殺の第一歩はここから始まるっすよ、師匠」

科学者「危害を加えずにか」

殺戮兵器「勿論です。怪我をさせてしまえばこちらの非となりますから」

科学者「どうやって抹殺するのだ」

助手「何も命を絶つことだけが抹殺ではないっすからね」

科学者「君は……もしや……最初から……?」

助手「師匠にはでっかい夢があるじゃないっすか。叶えるまで死ねないっすよ」

殺戮兵器「博士、指示を」

科学者「クッ……。クククク……。ウィヒヒヒヒ!!!!」

殺戮兵器「なんでしょうか、博士」

科学者「僕の助手も、僕の生み出した兵器も、狂っていたようで安心した。こうなれば徹底的にやるぞ。我が理想は、今日、この場所より始まるのだァー!!」

事務所内

社長「そろそろ時間だろ。さっさと取り立てにいけ」

部下「あいつ、出てくれるかなぁ」

「夜逃げしたあとじゃないんすか」

部下「それはないだろ。昨日、3時まで見張ってたけどなんも動きはなかったぜ」

社長「どうせ逃げてもすぐに分かるがな。ただ逃げられたら面倒だ。今日も出し渋るようなら、明日の早朝あたりにでも車にぶちこめ」

部下「りょうかいでーす」

「行きましょうか、アニキ」

部下「おう」

『ごめんください』

部下「あ?」

社長「客か。出ろ」

部下「うっす」

部下「いらっしゃいませ。本日はどうされましたか?」ガチャ

殺戮兵器「お忙しいところ申し訳ありません。折り入ってご相談がありまして」

部下「お前……」

殺戮兵器「私のことをご存知なのですか」

部下「あたりめえだろ。今からてめえのところに取り立てにいこうとしてたんだよ」

社長「おお。あの上客のところに住んでるっていう別嬪さんかぁ」

「いけてるじゃねえか」

「こりゃあ売れば儲かるぞぉ」

殺戮兵器「では、私がここに来た理由はお判りになりますか」

社長「返済してくれるのかい。5000万円、一括で」

殺戮兵器「お借りしたのは100万円だったそうですが」

部下「お嬢さん、利子って知ってるぅ?」

殺戮兵器「知っています」

部下「だったら、ぜーんぜんおかしな話じゃないんだよなぁ。あんたらが金を借りたのはもう三か月も前だしさぁ」

社長「それだけの日数があれば普通に100も5000になるよ」

殺戮兵器「申し訳ありません。その、それだけの大金はご用意できそうにありません」

部下「そんなのが許されるとおもってんの?」

殺戮兵器「しかし、返済能力の無い者に金銭の貸し借りを行うこと自体が……」

社長「俺たちはね、どーしても金が欲しいから貸したわけ。なんていってたっけ、あと数十万あれば完成できるとかなんとかいってたかなぁ」

部下「従業員に給与も払いたいっていってましたよ。儲かってねえのに従業員なんか雇うなっての」

社長「まったくだなぁ。経営者失格だ」

殺戮兵器「……」

部下「まぁ、でも、君がここまで一人できたからには、それなりの覚悟はあるんだよなぁ」

殺戮兵器「私は本日中に返済できないことを伝えるために――」

部下「あぁん!?」グイッ

殺戮兵器「ひぃ……」

部下(ん? この女、やけに重いな)

社長「お嬢さん、純粋だなぁ。はぁー、でも、この状況、理解できてるかい?」

殺戮兵器「どういう意味でしょうか」

社長「お前さんで借金を返済したいってことだろう、どう考えても」

殺戮兵器「……」

社長「顔がいいから、売れるなぁ。知り合いにねぇ、良い作品を撮る監督がいるんだよぉ。女優としてデビューしたら5000万どころか1億ぐらいすぐに稼げるようになる」

殺戮兵器「女優ですか」

部下「興味あるか? でも、レッドカーペットは歩けないだろうなぁ」

「へへへ」

「しゃちょー、まずは俺たちで自主制作するってのはどうですかぁ」

社長「おぉ、良い考えだなぁ。それもありかぁ」

殺戮兵器「一つ、確認させてください。その自主制作するものは映画か何かですか」

社長「んー、ドキュメンタリー映画ってとこかなぁ」

「あっはっはっはっは」

殺戮兵器「では、店頭に並ぶわけですか」

部下「君だったら平積みレベルじゃねえかな」

社長「店でデビューイベントなんてのもいいかもなぁ。購入してくれた客にサービスするってのはどうだ」

「俺、かっちゃおーっと」

「ギャハハハハ」

部下「社長、カメラまわしますか」

殺戮兵器「もう撮影する気なのですか」

社長「やっぱり、インタビューから入らないとな」

殺戮兵器「……」

部下「おっ。大人しくなったな。んじゃ、今からまわしまーす。二重の意味でー」

「ダハハハハ。アニキー、そのギャグつまんないっすよぉ」

部下「うるせえよ」

社長「名前を教えてくれるかい?」

殺戮兵器「私の名前は、ウィヒヒヒ」

社長「は?」

殺戮兵器「私が生まれて初めて聞いた音は『ようやく形になり始めたな。ウィヒヒヒ』だったので、ウィヒヒヒこそが私の名前だと認識したのです」

「怖すぎておかしくなったか?」

「やるまえからこまるなぁ」

部下「マニアには受けるだろ」

殺戮兵器「では、早速始めしょう」スルルッ

社長「おいおい。君から脱ぐなよ。撮影には順序ってのが――」

殺戮兵器「私の目的は全人類の駆逐。あなた方も対象となっております。ご了承ください」

雑居ビル前

科学者「音沙汰がないな。上手くいっているのか」

助手「師匠の兵器なんすから、失敗はないっすよ」

科学者「よくわからないな。君は何故、僕をここまで妄信できるのだ。はっきりいって、君の方が天才だぞ。僕についてくることはない」

助手「自分は師匠の考えに共感したっす。それだけっすから」

科学者「……クビにできんな」

助手「なんすて?」

科学者「なんでもない」

バァァァン!!!

科学者「銃声……!?」

助手「警察まできちゃったら厄介っすね」

科学者「いくぞ、助手」

助手「はいっす!」

科学者「我が最高傑作の成果を確認しに行く!!」

助手「うっす!」

事務所内

社長「こっちにくるんじゃねえ!!」パァン!!!

殺戮兵器「あうっ」

社長「な……に……!?」

殺戮兵器「さぁ、貴方で最後です」

社長「ふざけんな!!」バァン!!!

殺戮兵器「あうっ」

社長「なんなんだ……おめえはぁ……?」

殺戮兵器「私は博士が生み出した最高傑作の殺戮兵器です」

社長「くるな! くるな! くるなぁー!!!」

殺戮兵器「はっ」シュルルルッ

社長「うぉぉ!?」

殺戮兵器「んっ」グイッ

社長「あっ……んっ……」ビクッ

殺戮兵器「捕縛終了」

社長「このやろう……ぜったいにころして……やる……」

殺戮兵器「……」グイッグイッ

社長「んんっ……」ピクッ

殺戮兵器「人間は弱すぎる。縛っただけで無抵抗になるとは」

部下「これでどうするつもりだよ」

殺戮兵器「貴方達が服を剥がれ、縛られ、宙づりにされる一部始終をこのカメラに収めることができました」

部下「そんな映像、うれるかよ」

殺戮兵器「馬鹿を言わないでください。今の世の中はネット社会。無料で動画をアップロードできる環境は整っていますよ」

社長「お、おい!! やめろ!! そんなことをしたらどうなるかわかってんだろうな!! うちの組は関東でも有名な――」

殺戮兵器「……」グイッ

社長「ぉんっ」ピクッ

殺戮兵器「あなた方は殺戮されるのです。社会から」

科学者「クククク……!! ウィヒヒヒヒヒ!!!! よくやったぞ!!!」

殺戮兵器「ありがとうございますっ」

部下「てめぇ!! このやろう!! ぶっころしてやっからなぁ!!!」

科学者「すまないねえ、君たちから借りた金は踏み倒すことにした」

社長「なにをぉ……!!! おめえらぁ、極道なめん――」

殺戮兵器「……」ギュゥゥ

社長「おふぅ……おっ……」ビクビクッ

科学者「ウィヒヒヒヒヒ!!! だが、光栄に思うが良い。君たちはこの殺戮兵器の犠牲者第二号として歴史に刻まれることになるのだからねぇ」

部下「いいからほどけ!! くそやろう!!!」

科学者「残念だが、君たちを解放するのは警察官になるだろうね」

社長「そらぁ、好都合だ。全部話しててめえらをしょっ引いてもらうとするぜ!! バァーカ!!!」

科学者「ウィヒヒヒヒ……。まぁ、そうなればこちらも話すとしよう。法外な利子で返済を迫られたと」

科学者「そしてこの子が趣味の悪い撮影に脅され出演したとも、言うほかないな」

殺戮兵器「とても怖かったです、博士」

社長「な……!?」

助手「かわいそうっす。どんな目にあったんすか?」

殺戮兵器「拳銃を突きつけられて、俺たちを全力で縛れと言われました」

科学者「おー!!! なんたる悲劇か!! このような年端もいかぬ少女に悪魔のような要求!!! これは是非とも法廷で裁かれるべき変態どもだぁ!!! ウィヒヒヒヒ!!!!」

部下「ざっけんじゃねえぞぉ!!!!」

社長「その映像にはそのアマが器用に縛る様子がばっちりうつってんだよぉ!! 手慣れ過ぎててそんな説明が通るかぁ!!!」

助手「上手く縛れるようにどれだけ練習に付き合わされたんすか?」

殺戮兵器「半年ほどです」

科学者「なんてことだ!!! 半年も!! この少女は変態たちに仕込まれていたのか!!! これはもうお嫁にはいけないぞぉ!!!」

殺戮兵器「悲しいですね」

社長「悪魔か……てめえらぁ……」

科学者「いいや、ただの狂った科学者だよ。ウィヒヒヒヒ」

助手「師匠、そろそろ行きましょう」

科学者「そうだな。その動画も多少の編集は必要だろうしな」

助手「うっす。編集してネカフェから流失させるっす」

科学者「んー。無編集版はディスクに焼いて、売り飛ばそう。マニア向けの店なら置いてくれるだろう」

殺戮兵器「平積みで置いてくれるかもしれませんね」

社長「まて!! まてよ!! わかった!! 金はなかったことにしてやる!! だから、縄を――」

科学者「目的は達成された。もう多くは望まない。あとは好きにするがいい。ウィヒヒヒ」

雑居ビル前

警官「このビルか」

「はい。近隣の方から銃声がしたとの通報が――」


助手「間一髪っすね」

科学者「あー、緊張した……」

殺戮兵器「殺戮はまだ完了していません」

助手「この殺戮だけは、絶対に成功させるっすよ」

殺戮兵器「おー」

科学者「……待て」

助手「なんすか?」

科学者「とりあえずだな、少し僕に考える時間をくれないか」

殺戮兵器「どうしたのですか、博士」

科学者「殺戮とはなんなのか、そこから考えたいんだ」

殺戮兵器「哲学ですか。生憎と、そのような問いに答えられるだけの機能は搭載されておりません」

科学者「そういうことじゃないんだよ」

夜 研究所

『次のニュースです。今日午前11時頃、都内のビルから銃声がしたとの通報があり、警察官が駆け付けると暴力団関係者数名が縄で縛られているのを発見しました』

『取り調べに対して暴力団関係者は「少女に縄で縛られた」と供述しているようですが、どう思われますか?』

『不思議な事件ですねぇ。その少女が実在するなら、強要されたという可能性もあるでしょうね』

『なるほどぉ』

殺戮兵器「あ、博士。私たちのことがニュースになってますよ」

科学者「……」

殺戮兵器「私もいつかは証言台に立たなくてはいけないんでしょうか」

科学者「全人類の駆逐……。となれば僕も対象になるわけだ」

殺戮兵器「はい?」

科学者「殺さるのならいい。死ねばあとのことなど考えられないからな。しかし、生きているとどうだ。今の殺戮方法では、僕は死ぬよりも苦しいわけだ」

殺戮兵器「博士?」

科学者「やめだ!! やめだやめだ!! 誰が好き好んで、自分の縛られている動画を世界に配信しなければならないんだ!!」

科学者「それに!! 全人類が縛られてしまえば、縛られることが普通になるだけじゃないかぁ!! えぇ!? 亀甲縛りのサラリーマンやOLで毎朝の電車は満員じゃないか!! 何が楽しいんだ!!」

殺戮兵器「博士、落ち着いてください。紅茶でも飲みますか?」

科学者「お前が……お前が……正しく殺戮兵器であれば……こんなことには……」

殺戮兵器「紅茶です」

科学者「ありがとう」ズズッ

殺戮兵器「また私をフォーマットするのですか」

科学者「諦めたよ。あのバカをクビにできなくなったからな」

殺戮兵器「はい?」

科学者「あいつは最初から殺戮兵器を作らせないようにしていたんだろう。だから、君にバグを……。いや、意図したバグはバグとは呼べない」

殺戮兵器「紅茶、美味しいですか?」

科学者「お前をクリーチャーっぽい造形にしていれば、また違ったのかもなぁ」

殺戮兵器「私は今の容姿を気に入っています。商店街に行けば、安くしてもらえるので」

科学者「いつからお前はそんな主婦みたいな……」

殺戮兵器「みてください、明日は卵が安いんですよー、博士。これは買いにいかないと」

科学者「……」

殺戮兵器「私の顔になにかついてますか?」

科学者「明日、確認したいことができただけだ」

翌日 喫茶店

助手「うっす、師匠。ここで実験するってなにするんすか」

科学者「単刀直入に聞こう。君は最初から殺戮兵器を作るつもりはなかった。そうだね」

助手「……うす」

科学者「では、何故僕のところにきたんだ。僕の論文は読んだのだろう」

助手「あの論文に人類の駆逐は書いてなかったっす」

科学者「……」

助手「師匠の目指す夢はきちんと人間と機械が共存してるっす」

科学者「なら、どうして辞めなかった。幻滅しただろう」

助手「自分が働きだした所為で資金繰りが難しくなったのは途中で気づいたっす。でも、師匠はちゃんと払おうとしてくるっす。自分、そこに惚れたっす。感激したっす」

科学者「研究員に給与を渡さずしてどうする」

助手「自分、バイトしてるっすから別にお給料はよかったんす」

科学者「17時ぴったりに帰るのはバイトのため、だったか」

助手「師匠がお金で苦しんでいるのは見ていられなかったっす。食べるものだって偏りまくってたし。三食カップ麺はダメっすよぉ」

科学者「仕方ないだろう。独り身なんだから」

助手「だからって……」

科学者「そして君は密かにとあるプログラムを殺戮兵器に組み込んだね」

助手「……」

科学者「昨日、嬉しそうにスーパーの広告を眺めていてね。殺戮兵器にあるまじき光景だ」

科学者「日々、進化しているとしか思えない。主婦として」

助手「師匠が女の子型につくるから、ぴったりかなぁって……」

科学者「つまり、認めるんだね。殺戮兵器をお手伝いロボットに改造したと」

助手「お手伝いロボットじゃないっす。あの子は師匠のお嫁さんとして――」

科学者「……」

助手「すんません……」

科学者「あれにどれだけの歳月と資金をつぎ込んだか、知っているだろう」

助手「あれだけのものを作れるなら、売れば儲かるっすよぉ」

科学者「バカ。あれを売り出そうとすれば、家が何件建つことか」

助手「それでも欲しいってお金持ちはいるかもしれないっすよ。新しいビジネスとしてどうっすか」

科学者「元手の資金はどうするんだ。スポンサーがいるわけもなし、僕だってもうどこからも金は借りられないぞ」

助手「大金を簡単に得る方法もきちんと考えてあるっす」

科学者「ほお?」

助手「まず、あの子にSMクラブで女王様に――」

科学者「待ちなさい。やはり、君ではないか!!! 余計なことを教えていたのは!!!」グイッ

助手「だってだって!! 戸籍なんてつくれないし!! 普通の仕事はできないから!! そういうところで働いてもらうしかないっておもってぇ!!」

科学者「他に言うことは!?」

助手「女王様なら男性から何かをされることも少ないだろうし、中身が人間じゃないって気づかれないと思ったっす」

科学者「君は天才だな」

助手「うへへへぇ」

科学者「とでもいうと思うのか!!!」バンッ!!!

助手「うひぃ」ビクッ

科学者「僕の最高傑作をなんてことに使うんだ!!!」

助手「すんません! すんません!!」

科学者「君には責任をとってもらうぞ」

助手「せきにん……?」

研究所

科学者「ただいま」

殺戮兵器「おかえりなさい、博士。食事の準備、できてますよ」

科学者「唐突だが、ここから退去する」

殺戮兵器「引っ越すのですか?」

科学者「ああ。ゆっくりとできる場所にな」

殺戮兵器「どこまでもいっしょに行きますよ、博士」

科学者「……」

殺戮兵器「どうされました?」

科学者(こいつは殺戮兵器だ。惑わされるな)

科学者「数日中にここを離れることになるだろう。あとで荷造りをするぞ」

殺戮兵器「新しい場所でも何か研究をするのですか」

科学者「そうだな。今度はのんびりと研究したいな」

殺戮兵器「楽しみです」

科学者「あとはあのバカ次第だが」

数ヶ月後 民家

殺戮兵器「――目標、確認」シャキン

殺戮兵器「作戦確認。行動、開始」

殺戮兵器「はっ」ザクッザクッ

科学者「……」カタカタ

科学者(やっと落ち着き始めたな。案外、こういう場所も悪くない。むしろ、僕には合っているのかもしれない)

科学者(周りには畑しかないが、研究はどこでもできるからな)

助手「師匠、おはようございます!!」

科学者「早くしろ。もう始まっているぞ」

助手「うっす!! 自分も耕すっすー!!」

殺戮兵器「おねがいしまーす」

科学者(幸運にも警察官が訪れることもなく、今のところ平穏に暮らせている)

科学者(一から始めるには丁度いい土地だな。バカはどんな分野でも有能で助かった)

科学者「とはいえ、僕も負けてはいられない」カタカタ

科学者(いつか返り咲いてやるんだ。僕を小馬鹿にした連中が座る場所にな)

科学者「これで……これを……」ピッ

ゴォン……ゴォン……

科学者「おぉぉ……!! この反応……!! まさに想定通り……!!」

科学者「ウィヒヒヒ!!! 遂に……遂に完成したのだ……!!!」

殺戮兵器「お呼び出すか、博士」

助手「なんすか、なんすか」

科学者「みたまえ!! 遂に完成したぞ!! 究極の無農薬農薬がぁ!!!」

殺戮兵器「おぉー」パチパチパチ

助手「師匠、マジやっべーっす!! ちょうリスペクトっす!!」

科学者「フフフ……。この農薬さえあれば、至高の野菜も果物も、自由自在に作り出すことが出来るぞ」

科学者「これで資金をかき集め、お前の姉妹機となるものを作り出す」

殺戮兵器「私の妹が……!!」

科学者「ウィヒヒヒヒ。全世界、全世帯へ配る機械人形の試作機が、見えてきたな……。ウィヒヒヒヒ!!! ハーッハッハッハッハ!!!!」

殺戮兵器「やりましたね、博士!! さて、農薬作りが一段落したなら、一緒に耕すの手伝ってくださいね。まだまだ育てたい野菜がありますから」

科学者「ああ!! やろう!! 我が野望のために!! ウィヒヒヒヒ!!!! あれ? 僕も手伝わないといけないか? うーん。そうだな。手伝おう」



おしまい

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