【ガルパン】 ある日の生徒会室 杏の想い (13)

《ある日の生徒会室》

桃 「正直、意外でした。会長が戦車道推薦で進学を決めたのは…。」

柚子 「私もです、戦車道とは高校生活で見切りをつけて、会長なら当然、国立を受験されるものだと…。」

杏 「迷いがなかったと言ったら嘘になる…。」
「後輩達に、この学園ともう一つ残してあげたいものができてね…。」

桃 柚子 「・・・・?」

柚子 「残してあげたいものって…何ですか?」

杏 「学園は守ることができた。『西住みほ』という救世主のおかげでね。」

桃 「その通りです。西住の存在抜きで学園の存続は有り得ませんでした。」

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杏 「話しは変わるけどさ、河嶋も小山もサッサと推薦で大学決めて……。」
「お前達だって一般入試まで受験勉強に打ち込めばもう少しレベルの高い大学に行けたんじゃないか?」

柚子 「わ、私は早く両親を安心させたかったから……。」

桃 「私もです。は、早く落ち着きたかったですから……。」

杏 「で、毎日、戦車に乗って後輩達の練習に付き合ってるわけ?」

桃 「会長……。」

杏 「みんな想いは同じってことか。」

桃 「1輌かけるだけで紅白戦もままならない状況ですから……。」

柚子 「ぴよたんは誰よりも早く専門学校に進路が決まりましたから朝練にまで出てくれてます。」

桃 「自動車部の3人は来期からツチヤ1人になりますから、今のうちに全員がある程度の整備ができるように毎日指導してくれてます。」

杏 「そど子は国立の受験が控えてるのに『一浪は覚悟のうえよ。』って毎日練習出てるしね~。」

柚子 「誰も声に出しては言いませんが、3年生はみんな後輩達にできるだけのことをしてあげたいと思っています。」

桃 「みんな守りたいんです。」

柚子 「大洗女子の戦車道。」

杏 「これは、私の失態で弁解の余地がないんだけどさ。」
「私たちが全国優勝して浮かれてた頃、他の強豪校のスカウトは中学戦車道の優秀な選手を獲得するのに走り回ってたんだよ。」
「その後すぐ、また廃校ってことになって……。」
「やっと落ち着いて、慌ててスカウトに行ったんだけど……。どこの中学の校長にも『今ごろ何しに来たんだ。』って笑われたよ。」

桃 「会長が責任を感じることはありません。」

柚子 「そうです。あの時は学園を存続させることが最優先でしたから。」

柚子 「会長、大洗女子は日本一の戦車道チームです。」

桃 「そうですよ。スカウトなんてしなくたって学生の方からいくらでもやって来ます。」

杏 「私もそう思ってたんだ……。」

桃 柚子 「……?」

杏 「でも、現実はかなり厳しくってね。」
「どこの中学の校長にも『大洗女子はどちらの大学にどれだけ推薦枠をお持ちですか?』って決まって聞かれてね。」

桃 「推薦枠?」

杏 「まったく勉強不足だったよ。」
「強豪校はどこも、Aの大学には8人、Bの大学には3人みたいにね推薦でとってくれる大学を持ってるんだよ。」
「戦車道が20年ぶりに復活した大洗女子にはもちろんそんなものはない、大学から個別に来る推薦を待つしかね……。」
「中学生でも行きたい大学を見すえて高校を選んでるんだよ……。」

杏 「中学生が敬遠してる理由は、他にもあってね。」
「小山、来年度の戦車道予算見ただろ。」

柚子 「はい。………増額は今年度の1割ちょっとです。」

杏 「日本一になったからあと2輌くらい買える予算付けてくれると思ったけどね~。」

桃 「厳しいですね。公立校は……。」

柚子 「今期は5輌から始まりましたけど来期は8輌で始まりますから状況は悪化したと言えます。」

杏 「砲弾買って、燃料買って、履帯なおして、遠征行って……。」
「要するに、今期と同じことしかできないってこと。」
「こういう事って黙っててもバレちゃうんだよね~。」
「うちの中等部にも、もちろん声をかけに行ったんだけど、台所事情お見通しでさ、手応えはなかったよ。」

柚子 「来期はみんなで海に行ったり、バーベキューしたりは無理かもしれませんね。」

桃 「人一倍、食うヤツも居ますから……。」


華 「ハックション!」
「あ、あら…///」

杏 「もう一つ、これが一番大きな問題なんだけど……。」

桃 「まだ何かあるんですか?」

杏 「大洗女子は日本一になった。」
「たった8輌の戦車で20輌の黒森峰を打ち負かした。」
「なんで勝てたかわかるか?」

柚子 「それは……。西住さんの采配があってこそ……。」
「!」
「そういうことですか……。」

桃 「2年後……ですね。」

杏 「皮肉なことに圧倒的に不利な状況で日本一になったことが『天才指揮官西住みほあっての大洗女子』って印象付けることになっちゃったんだよ」
「大洗女子が勝てるのもあと1年って。」

柚子 「うちの1年生の子達みんな頑張ってるのに……。」

杏 「その通り。他の強豪校の選手と比べても負けちゃいない。黒森峰に行ったとしてもレギュラー選手になって戦車走らせてる。」
「それだけ西住ちゃんの才能が突出してるってことだよ。他の選手がかすんで見えるくらいにね。」

桃 「推薦枠もない、予算も少ない、西住のようなカリスマ性のある後継者もいない……。」
「もう、衰退する一方じゃないですか……。」

杏 「かーしま。私を誰だと思ってるんだ?」
「大洗女子学園生徒会長 角谷杏だぞ!」

桃 「会長、なにか考えがあるのですか?」

杏 「来年、私の進学する大学に西住ちゃんを入学させる!」

桃 柚子 「「えぇ!」」

柚子 「会長の進学する大学は戦車道がまだ始まったばかりの実績がまるでない大学じゃないですか。」

杏 「だから、やるんだ!」
「実はもう一つ、大学選手権ベスト4の大学からも推薦があった。」

桃 「だったら何でそっちに?西住を誘うなら絶対そっちでしょ!」

杏 「推薦枠の話に戻っちゃうんだけど、そこは
聖グロリアーナが推薦枠のほとんどを持ってるんだよ。」
「現役選手、OG、コーチ陣まで7割が聖グロリアーナ出身で占められてた。」
「たとえ、来年、西住ちゃんを引っ張ってこれたとしても、その次までは続かない……。」

柚子 「それで無名の大学に?」

杏 「去年発足したばかり、もちろん口を出してくるOGはいない、先輩達の中に4強出身はいない。」
「だから私が頑張って中心選手になる事が出来たら、いや、絶対になって!私が大学と大洗女子の橋渡し役になる。」
「西住ちゃんがうちの大学を選んでくれたら大学も強くなって、大洗女子の推薦枠を増やすことが出来る。」
「そうすれば優秀な中学生に敬遠されることもなくなって、大洗女子は常勝チームになれる!」

杏 「それに私の行く大学は一般入試で入ろうとすると結構偏差値が高い大学なんだよね~。」
「戦車道やってるうちはいいけど卒業しちゃえば、やっぱ頭のいい大学出てると人の見る目って違うじゃん。」
「中学生だって頭のいい大学に推薦枠持ってる高校を選んでくれるんじゃないかな?」

桃 「西住は会長について来てくれるでしょうか?」

柚子 「西住さんならどこの大学もスカウトにやって来ます。」
「もしかしたら、大学を飛び越えて、プロ化に向けて準備しているクラブチームや実業団からスカウトされるかもしれません。」

桃 「今すぐに会長の想いを伝えるべきです。」
「西住ならきっとわかってくれます。」

杏 「それはしない。」
「高校卒業後の進路は人生に関わる事だから…。」
「西住ちゃんの意思で決めて欲しいんだ…。」

桃 「どうしてです?会長の想いはきっと伝わります。」

杏 「学園を守るために無理矢理戦車道に引きずり込んだんだ。」
「2度も同じこと出来ないよ……。」

桃 「そのことはもう気にしなくても…。」

杏 「勧誘は一言だけ卒業式に、『また一緒に戦車道やろう』って。そう決めてる。」

柚子 「じゃあ、どうやって西住さんを同じ大学に進学させるんですか?」

杏 「西住ちゃんが進学したくなるような大学にするんだ!」

桃 柚子 「「どうやって?」」

杏 「わからん!」

桃 柚子 「「え?」」

杏 「キャンパス中、ボコだらけにするか!」

柚子 (意外とアリかも。)

桃 (先に島田愛里寿が来るんじゃないか?)

柚子 「まぁ、会長らしいですけどね~。」

杏 「会長は苦労するよ~。」

桃 「会長は卒業しても会長なんですね。」

杏 「いっそ、『戦車道チーム解散!』って決めちゃえば学園に思い残す事なく大学生活おくれんのかな?」

桃 「それはイヤです。」
「戦車道をはじめて、これほど充実した毎日はありませんでした。」

桃 「こういうのを『青春』と言うんでしょうか?」

杏 柚子 『・・・・』

杏 「聞いたか?小山。」

柚子 「はい、会長。」

杏 「かーしまが」

杏 柚子 「「青春!」」

桃 「////////」

杏 「かーしまが」

杏 柚子 「「青春!」」

桃 「に、2度も…///」
「ちゃかさないでください!」

杏 「そろそろ行くか!みんな集まってきたころだ。」

杏 「かーしまが」

桃 「あ、あぁ~~。」
「もう~やめて~~。」

杏 「みんな~。準備は出来たか~?」

「オォー!」

杏 「いいね~」
「明日は、いよいよ聖グロリアーナとの練習試合だ~。」

「オォー!」

杏 「大洗女子は日本一にはなったが、聖グロリアーナにはまだ一度も勝てていない!」
「そこで後輩諸君!卒業する3年生に勝利をプレゼントしてくれ!」

「オォー!」

梓 「会長!チャーチルの白旗をへし折って、卒業式に寄せ書きにしてプレゼントします!」

「オォー!」

杏 「澤ちゃん、それいいね~!」

あや 「3年生は8人じゃん。1本じゃダメだよ。」

桂利奈 「ちょうどいいじゃん!」

ももがー 「明日は8輌ずつの殲滅戦ナリ!」

忍 「マチルダもクルセイダーも撃破して白旗をへし折るぞ!」

「オォー!」

ナカジマ 「じゃあ、私はクルセイダーで頼もうかな。」

あけび 「クルセイダー、1本ご予約承りましたー!」

妙子 「河嶋先輩もクルセイダーいかがですか?記念すべき初撃破車輌ですよ。」

桃 うっ…うっ…

紗希 「…涙。」

桃 「ち、違う!目にゴミが入っただけだ!」

柚子 「桃ちゃん。」

桃 「わかってる…」

杏 「かーしま。」

桃 「わかってます…。」

杏 「涙は卒業式までとっとけ。」

桃 「でも、みんなと一緒にいられるのもあと少しだと思うと……。」

杏 「守ろう!大洗女子の戦車道。」



杏 「明日は勝つぞ!」

「オォー!」

杏 「白旗をへし折るぞ!」

「オォー!」

杏 「青春するぞ!」

「・・・・おぉ?」

桃 「やめて~~////////」

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