裕子「Pが『結婚したのか、俺以外のヤツと…』としか言えなくなりました」 (53)

事務所

モバP「結婚したのか、俺以外のヤツと…」

凛「で、どうしてこんなことになったわけ?」

未央「えー、これには海よりも深いわけがありまして」

凛「……いいから教えてよ。これでも忙しいんだから」

未央「ストップッ!蒼い剣出すのは勘弁してよぉ!ちゃんと話すからさ!」

卯月「実は、未央ちゃんが冗談半分で裕子ちゃんを煽ったのがきっかけでして」


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回想

未央「えー、スプーン曲げだけだと、やっぱりキャラ薄いよぉ!」

裕子「そ、そんなことありませんよぉ!本気を出せば、Pに超能力をかけることだってできるんですからね!」

卯月「ホ、ホントですかぁ!ぜひ見てみたいです!」

裕子「あっ……えー、今日は残念ですけど、Pがいないみたいですので、それはまたの機会ということにしませんか」

モバP「ちわーす、おつかれーっす」


裕子「」


未央「ほらっ、Pも帰ってきたことだしさ」

卯月「裕子ちゃんの本気、見せてください!」

裕子「ぐぬぬっ……仕方ありません。かくなる上は……ムムムッ……!きましたきました、今サイキックパワーがこのへんに溜まってきましたよ~」

未央・卯月「ワクワク、ワクワク!」


裕子「P、お覚悟を!くらえ、サイキック・ビームッ!」


モバP「ぐああああああああああああ!!!!」(痙攣)


裕子「」

未央「うわっ、すごっ!本当にP気絶しちゃった!」

卯月「ど、どうやったんですか!なんにも見えませんでしたけど!」

裕子「フ、フフフ……アハハハハッ!驚きましたか?これが私のサイキックパワーデース!」


モバP「けっ……結婚」(起き上がる音葉)


裕子「ぷ、P……!その、本気でやったつもりはないんですよ。ただ、たまたま調子が良かったから、ついパワーを出しすぎちゃって」


モバP「結婚したのか、俺以外のヤツと…」


裕子「えっ?」


モバP「結婚したのか、俺以外のヤツと…」

裕子「な、なななっ、突然なに言い出すんですか!私はまだ結婚なんて年齢じゃあ……」

モバP「結婚したのか、俺以外のヤツと…」

未央「ねえ、しまむー」

卯月「はい、なんでしょう」

未央「Pの様子、なんかおかしくない?」

卯月「みたいですね……なんだか同じことばかり言ってるような気がします」

未央「ええ、未央ちゃんもまったく同じこと考えてました」

卯月「私、なんだか嫌な予感がします」

未央「またまた気があいますなあ。私もめちゃくちゃ嫌な予感がしますぞ」

モバP「結婚したのか、俺以外のヤツと…」(憤怒)

裕子「だから、まだ誰とも結婚なんて──ハッ!今、Pの真の言葉が聞こえました」

未央「それでPはなんて言ってるの?」

裕子「ちょっと待ってください……ムムッ…!『なにやってくれてんだお前!気は確かか!』と言ってます」

卯月「Pさん、裕子ちゃんが言っているので間違いありませんか?」

モバP「結婚」

裕子「『ああそうだ』と言ってます」

未央「P、その『結婚したのか、俺以外のヤツと…』ってセリフ以外で喋ろうとしてみてよ」

モバP「結婚したのか、俺以外のヤツと…」(ため息交じり)

裕子「『無理だ。喋った言葉が全部こいつに変換されるみたいだ』って言ってます」

未央「しまむー、これって……」


卯月「た、大変なことになっちゃいましたー!!」

回想終了

凛「………………」(蒼剣を振り被る仕草)

未央「しぶりん、どうどうどう。一旦落ち着いて話をしようよ。まだ治せないって決まったわけじゃないんだからさ」

卯月「ええ、その通りです!諦めなければ、きっと治す方法を見つけることだってできますよ!」

モバP「結婚したのか、俺以外のヤツと…」(涙目)

裕子「『無理だ。こんな気持ち悪いセリフしか喋れないなんて……俺はもう生きていけない』と言ってます。そう落ち込まないで……Pは気持ち悪くなんかありませんよ」

モバP「結婚したのか、俺以外のヤツと…」(慟哭)

裕子「『あ、ありがとう、ユッコ……お前はなんて優しい超能力アイドルなんだ……って元はといえば、お前の意味わかんねえサイキックパワーのせいでこんな事態になってんじゃねえか、このすっとこどっこいがっ!土下座だ、土下座ッ!土下座して詫びろ!』と言ってます」

凛「あれだけのセリフにここまでの意味が詰まってるんだ……」

未央「かくも恐ろしきは超能力……」

卯月「まるでSF映画みたいですね……」

ちひろ「話は全て聞かせてもらいましたっ!!」バンッ!


凛・未央・卯月「ちひろさんっ!」


ちひろ「今、Pさんは裕子ちゃんの超能力によって、とある体質へと変化してしまったんです!」

凛「……それは一体、どんな体質なの?」


ちひろ「その名は『超特異性東山源次体質』です!」


凛・未央・卯月「超特異性東山源次体質ぅ~!?」

ちひろ「はい、略して超特とでも呼んでください。裕子ちゃんの超能力によって、普段の日常で見たり聞いたりした言葉の中から、特に印象に残ってる言葉が脳の言語中枢を支配してしまっているんです。ですから、他の言葉を発しようとしても、脳の中で勝手にストップがかかり、特定の言語のみを喋るよう、身体に間違った電気信号を送ってしまっている……これが超特になってしまった人の体のメカニズムです」

未央「えーっと、まあざっくりは理解できたけど……ちひろさん、なんかやけに詳しくない?」

ちひろ「これぐらいアシスタントとして必修事項ですから」

卯月「それで、どうすればPさんを元の体に戻してあげることができるんですか?」

ちひろ「残念ながら、現代の医療技術では解明できていないことが多過ぎて……治療は非常に困難かと」

未央「そ、そんなぁ~!!」

凛「Pが、二度と普通の言葉を喋ることが……できない、なんてっ」(失神)


卯月「凛ちゃん!」

未央「しぶりん、しっかりっ!」

モバP「結婚したのか、俺以外のヤツと…」(狼狽)

裕子「『凛、大丈夫か!』と言ってます。すいません、私が超能力なんか使わなければ……」

モバP「結婚したのか、俺以外のヤツと…」(叱責)

裕子「『今は落ち込んでる場合じゃない!ちひろさん、俺は凛を休憩室まで連れて行きますから、その間に救急車の手配を!』と言ってます!」

ちひろ「わかりました!すぐに手配します!」

裕子「そんな……まさかこんなことになるなんて……!私、私……悪気があったわけじゃあ──!!」

未央「ユッコちゃんも落ち着いてっ!しぶりんは気絶してるだけだよ!」

卯月「裕子ちゃん……気をしっかり!このままだとみんな共倒れになっちゃいます!」


裕子「私は悪くない……私は悪くない……私は……私は──────」


裕子「ただみんなに認めてもらいたかっただけなのに」

休憩室

未央「………………」

卯月「………………」

裕子「………………」


モバP「結婚したのか、俺以外のヤツと…」


ちひろ「裕子ちゃん、Pさんはなんて言ってますか」

裕子「『そうくよくよするな。起こってしまったことは仕方ない。凛も安静にしてれば全然問題ないみたいだし、元気出せよ』と言ってます」

ちひろ「凛ちゃんは大丈夫そうだけど……」

卯月「Pさんはこれからどうすればいいんでしょう」

未央「このままだと仕事にならないしねぇ……できることなら代わってあげたいけど、さすがにそういうわけにはいかないし」

モバP「結婚したのか、俺以外のヤツと…」(楽観)

裕子「『大したことねえよ、心配するな。ほら、これから明日の打ち合わせもあるだろ。しみったれてないと、さっさと会議室に行ってこい』と言ってます」

卯月「で、でもぉ……」

未央「プロデューサーを放ったまま仕事なんてできないよっ!」

モバP「結婚したのか、俺以外のヤツと…」

裕子「『俺はお前らがアイドルとして活動できないことの方が、よっぽど苦しいよ。もし心配してくれてるなら、普通に仕事をこなしてくれ。大丈夫、当面の間はまゆPにお前らの仕事の面倒を頼むからさ』と言ってます」

ちひろ「私からもお願いします。今はPさんの意思を汲んで、自分の仕事に専念してください」

卯月「わ、わかりました」

未央「でも、終わったらまた戻ってくるからね!それぐらいはいいでしょ!」

モバP「結婚したのか」(肯定)

裕子「『ああ、俺はここで待ってるよ』と言ってます」

卯月「それじゃあ、行ってきます」

未央「またあとでね!」

ちひろ「行っちゃいましたね」

モバP「結婚したのか、俺以外のヤツと…」

ちひろ「……裕子ちゃん」

裕子「『あいつらの重荷にはなりたくありませんから。これでいいんですよ』と言ってます」

ちひろ「はあ……これからどうしましょうか。事務仕事はともかく、営業関係はほとんどPさんに頼り切りでしたから……引き継ぎの方も検討しないといけませんね」

モバP「結婚した」(謝罪)

裕子「『ご面倒おかけしてすいません』と言ってます」

ちひろ「いえいえ、Pさんが今まで私たちにしてきてくれたことを思えば、これぐらい当然のことです」

裕子「あの……ちょっといいですか」

ちひろ「ん?どうかしたの、裕子ちゃん」

裕子「まだ試してなかったと思うんですけど、筆談ではダメでしょうか」

ちひろ「超得は言語中枢の混乱が原因ですけど、身体の神経に異常をきたしているのも原因の一つではないかという説もあるんです。だから、試してみても、おそらく……」

モバP「………………」(メモ帳にペンを走らせる音葉)


メモ帳の紙(結婚したのか、俺以外のヤツと…)


裕子「うそ……こんなのって……」

ちひろ「Pさん……」

モバP「けっ、けっ、結婚したのか」(愕然)


メモ帳の紙(結婚したのか、俺以外のヤツと…結婚したのか、俺以外のヤツと…結婚したのか、俺以外のヤツと…結婚したのか、俺以外のヤツと…結婚したのか、俺以外のヤツと…結婚したのか、俺以外のヤツと…結婚したのか、俺以外のヤツと…結婚したのか、俺以外のヤツと…)


ちひろ「Pさん、もう十分です!もう……十分わかりましたからっ……!ペンを置いて……お願いだから……」

モバP「………………」

裕子「うっ、ううっ……こんなのって、あんまりですよぉ……!」

モバP「結婚したのか、俺以外のヤツ」(絶望)

裕子「ぐすっ……『悪いけど、少し一人にしてもらえないか』って」

ちひろ「わかりました。ただ、あまり思い詰めないでください。相談なら、いくらでも乗りますから」

モバP「結婚」

裕子「『ありがとう』だそうです」

ちひろ「一時間ぐらいしたら、また戻ってきますので」

裕子「………………」

モバP「結婚したのか、俺以外のヤツと…」

裕子「はい、ちょっと席を外しますね。通訳がほしくなったら、いつでも呼んでください。サイキックパワーでムムムッーっと──!あっ……!ごめんなさい、不謹慎……でしたよね」

モバP「結婚したのか、俺以外のヤツと…」

裕子「……Pは優しいですね。こんな私を、まだ庇ってくれるなんて」

モバP「結婚したのか」

裕子「────っ!?大丈夫、です。突然、なにも言わずに辞めたりなんかしませんから」

モバP「結婚」

裕子「……ありがとう、ございます」

休憩室前・廊下

ちひろ「………………」

裕子「ちひろさん!まだいたんでっ──!?」

ちひろ「しっ、静かにっ!」


モバP「結婚したのか」


ちひろ「…………通訳して」

裕子「……『ははっ、俺もここまでか』」


モバP「結婚したのか、俺以外のヤツと…」


裕子「『まだやりたいことも、したいことも……伝えたいことだって、たくさんあったんだけどな』」

ちひろ「………………」


モバP「けっ、け、けけけけ、結婚、結婚した、のか……俺以外の、ヤツと…」(号泣)


裕子「『こんな体で俺は……この先、どうやって……あいつらのプロデューサーをしていけば……』ううっ……これ以上は、無理です……とてもじゃないけど、言えませんっ……!」

ちひろ「……ありがとう。もう十分ですよ」

裕子「ごめんなさい、ごめんなさい、サイキックパワーなんて、そんなの全部ウソなんですっ!もう超能力が使えるなんて言いません!だから、だからっ……Pの体を治してあげてくださいっ!」

ちひろ「…………私には、治してあげられません」

裕子「お金なら一生かけてでも払います!悪いことでも、汚いことでも、できることならなんだってやりますから!どうか……Pだけは……!」

ちひろ「裕子ちゃん」

裕子「ウソでもいいから……治るって、言って……」

ちひろ「………みんなで探しましょう。Pさんが生きていくための方法を」

公園・ベンチ

裕子(ちひろさんは気晴らしに散歩でもしてきなさいって言いましたけど)

裕子(今はそんな気分にはなれません)


裕子「これからどうすればいいんだろう……」

菜々「なにやってるの、ユッコちゃん?」

裕子「……菜々ちゃんこそ、どうしてこんなところに?」

菜々「今バイトの帰りでして。この公園を突っ切った方が駅まで近いから、それでよく通るんです」

裕子「なるほど……」

菜々「あっ、もしかして新しい超能力の開発中とかですか?それならナナもお手伝いしますよ!キャラ作りは大切……じゃなかった……えーっと、そうっ!アイドルとしてのアイデンティティーを守るのは、ヒジョーに大事なことですからね!」

裕子「超能力、キャラ作り、アイドル……ですか……」

菜々「あれ……?すごく顔色が悪いですけど」

裕子「実は…………」

ユッコ説明終了


菜々「ナナがバイトしてる間に、まさかそんなことが起こってるなんて」

裕子「……ごめんなさい」

菜々「ユッコちゃんが謝る必要ありませんよ!Pが大変なことになったのは確かに残念ですけど、こんなの事故じゃないですか!」

裕子「みんなも、Pも、そう言ってくれました」

菜々「なら落ち込む必要なんて────」


裕子「でも、考えちゃうんです。私がアイドルになんかならなかったら、こんな事故は起きなかったんじゃないかって」


菜々「ユッコちゃん……」

裕子「私、ずっと超能力とか不思議な力に憧れてました。その力を使って、アニメや漫画やフィクションの世界に出てくる登場人物みたいに、誰かを幸せにすることができればって──ずっと思ってた」

菜々「………………」

裕子「でも、私がほしかったのはこんな力じゃない。大切な人たちを不幸にするような力なんて、望んでなかったんです!」

菜々「……ユッコちゃんは、超能力が使えたことを後悔してますか?」

裕子「当たり前じゃないですか!Pがこんなことになってるんですよ!」


菜々「気に障ったのならごめんなさい。でも、ナナはユッコちゃんのことが少しだけ羨ましいかな……」


裕子「えっ?」

菜々「ナナもずっと前から、本当にウサミン星があればいいのにって思ってました。ウサミン星があれば、いろんな人の前でウソをつく必要もなくなりますから……そうすれば、もっと素直な気持ちでアイドルができたのになあーって、思うんです」

裕子「…………菜々ちゃんも、ですか?」

菜々「はい。長いことアイドルをやってると、楽しいことだけじゃなくて、嫌なことやつらいこともいっぱいあって、その間にどんどん歳をとっちゃって……気がついたときには『ナナはウサミン星からやってきたんですよぉっ』なんて言ったら苦笑いされるようになっちゃってました」

裕子「………………」

菜々「昔は熱心に応援してくれてたファンが、急に他のアイドルに心移りとかは日常茶飯事で……自分はなんのためにアイドルしてるんだろうって、わからなくなった時期もあります」

裕子「どうやって……それを乗り越えたんです?」

菜々「よくわかりません。ただ、自分にしかできないことをしようと決めてからは、そういうことで迷うことはなくなったかなぁ……」

裕子「自分にしか、できないこと……」

菜々「私にとってのウサミンみたいに、ユッコちゃんにはユッコちゃんにしかできないことがあるはずです。もし事故のことで責任を感じてるなら、ユッコちゃんなりのやり方で責任を取るべきじゃないでしょうか」

裕子「…………私にできるかな」


菜々「できますよ。ナナがウサミン星の代表として誓います。ユッコちゃんなら、きっとできる──だってあなたは超能力アイドル、エスパーユッコなんだから」


裕子「そう、ですね……はいっ!自分なりに、やってみます!」

菜々「その意気です!ナナも影ながら応援しますよぉ!」

裕子「よし、そうと決まればすぐにPのところに行かないと──あれっ、電話だ。しかもちひろさんから……はい、もしもし。今ですか?今は事務所近くの公園にいますけど……えっ、それは一体どういうことですか!?はい、はい、わかりました、すぐ戻りますっ!」

菜々「そんなに慌てなくてもいいじゃないですか……なにか問題でも?」

裕子「Pが急にいなくなっちゃって、連絡も取れないそうなんです!」




菜々「え、ええええ!!Pがいなくなったぁ!?」


事務所前

裕子「ちひろさん!」

ちひろ「裕子ちゃん!大変なんです、ちょっと目を離した隙にPさんがいなくなってしまって!」

裕子「なんでこんなタイミングでいなくなったりするんですか……!まさかP、超得が治せないことにショックを受けて命を断とうとしてるのでは!」

ちひろ「そんなことをするような方ではないとは思いますが……どちらにしても心配です。他のアイドルの娘たちにも協力してもらうよう頼んでますから、みんなで探しましょう!」

裕子「はいっ!私はPの行きそうな場所を手当たり次第あたってみます!」



裕子(せっかくもう一度頑張ってみようって思ったのに、Pがいないとなんの意味もないじゃないですか!)

裕子(そう思った私は、思いつく場所を徹底的に探し回った)

裕子(だけど、どこを探してもPは見つからない)

裕子(全身汗だくで、足が棒になるぐらいまで走った頃には、外はもう夕暮れときになっていました)

未央「はあっ、はあっ……よく行く営業先、片っ端から回ったけどいなかった!」

卯月「飲食店もダメでした!」

凛「Pの部屋にも、帰った痕跡はなかったよ!」

ちひろ「他の方から有力な情報は入ってきませんし……八方塞がりですね」


裕子「はあっ、はあっ、はあっ、はあっ…………!!」(走り寄る音葉)

未央「ユッコちゃん!」

裕子「Pは……Pは見つかりましたか!」

卯月「…………それが」

凛「どこを探しても見当たらなくて……手がかりも、入ってきてない」

裕子「そ、そんなぁ…………」


ちひろ「もうすぐ日が暮れます。仕方がありません……未成年の方には帰宅してもらうよう、指示を出します」

凛「──っ!?待って、ちひろさん!私たち、まだ探せるよ!」

ちひろ「気持ちはわかりますが、これ以上は無理です。あとは大人に任せて、おとなしくしておいてください」

未央「どうしてっ!?心配なのはみんな同じでしょ!」

卯月「私もそう思います!緊急事態に、大人も子どもも関係ないはずです!」

未央「そうだよ!このままなにもせずに帰るなんて、できるわけないじゃん!」

ちひろ「気持ちは痛いほどわかります。ですが、あなたたちにもしものことがあれば、Pさんがどんな気持ちになるかもわかるはず……お願いだから、言うことを聞いて!」



裕子「ちょっと静かにっ!!」



凛・未央・卯月「────っ!?」

ちひろ「裕子……ちゃん?」

裕子「今、頭の中で声が……Pの声がしました!」

凛「それで、Pは今どこに!」

裕子「待ってください……声と回線を繋いでっと……ムムッ……!景色が見えますっ……海が見えて、岩がごつごつしてて、断崖絶壁といった感じ……間違いありません、崖です!Pは今、崖の近くにいます!」


凛・未央・卯月「がっ、崖ぇぇぇぇ~!!??」


凛「ということはつまり」


未央「Pは……」


卯月「崖から身を投げようとしてるんですかぁ!!」

一同「……………………」


凛「ここから一番近い崖は!」

ちひろ「車で一時間ほどです!」

未央「ヘイ、タクシーッ!!」

卯月「止まってええええぇぇぇ!!!!」


タクシーの運ちゃん「うおあああああっ!!バッキャロウ!!急に飛び出したら危ねえだろうが!!」


卯月「目的地は崖、一番近いところで構いませんすぐ出してください!なにちんたらしてるんですかっ!ほらっ早くっ!!」


タクシー「は、はいぃっ!!」ガクブルッ

未央「ねえ、しぶりん」ヒソヒソッ

凛「なに?」

未央「しまむー、今ばりばりデンジャラスな顔してたよね」

凛「……だね」

未央「普段怒らない人が怒ると怖いってホントだったんだ……」

卯月「ん……?どうかしました?」

凛・未央「いえ、なんでもありません」


裕子(待っててください、P……!すぐ行きます!)

某有名スポット・崖


裕子「着きました!」

卯月「帰りも乗りますからここで待っててくださいっ!さもないと……」

タクシーの運ちゃん「わ、わかった!!だから命だけは!!」

凛・未央(目のハイライト消えてるぅ!!)


卯月「あっ、あの背中は!Pさん!」


モバP「結婚したのか、俺以外のヤツと…」


未央「ユッコちゃん、通訳っ!」

裕子「『お前たち、どうしてこんなとこにいるんだ』と言ってます」

凛「どうしてって……!みんなPのこと心配してたんだよ!」

モバP「結婚したのか、俺以外のヤツと…」

裕子「『心配?あちゃー……もしかして、俺がショックで失踪したと思ってたのか』と言ってます」

卯月「当然です!突然いなくなったら、みんな不安になるに決まってるじゃないですか!」

未央「そうだよ!携帯だって何回かけても繋がらないし、どこでなにしてたのさ!」

モバP「結婚したのか、俺以外のヤツと…」(自白)

裕子「『この有様じゃ仕事なんてできないからな……プチ傷心旅行に出かけてたんだが、急な思いつきだったから、事務所に携帯忘れちまってさ』と言ってます」


未央「なっ、なんじゃそりゃあああ!!」

凛「……骨折り損もいいとこだね」

卯月「私たちの苦労はなんだったんですかぁー!」

モバP「けっ、結婚したのか、俺以外のヤツと…」(謝罪)

裕子「『わ、悪い……電話しようとはしたんだけど、ここらへん電話ボックスとかなくて……』だそうです」


未央「ごめん……こう言っちゃ悪いけど、今その喋り方でコミュニケーション取ろうとされると、すっごく腹立つ……!」

凛「……同感」

卯月「で、でもPさんが無事に見つかって良かったじゃないですか。様子を見ればそこまで落ち込んでるわけでもないみたいですし、大目に見てあげましょうよ。ねっ!」


凛「まあ……そう言われれば、そうなんだけどさ」

未央「無事で嬉しかったのは確かだし、しまむーもこう言ってるし、今回は初犯ということで許してあげますか」

モバP「結婚したのか、俺以外のヤツと…」(感涙)

裕子「『ありがとう、ありがとう……俺はP思いのアイドルを担当できて幸せだ』と言ってます」

凛「しかしまあ、傷心旅行とはいえ……よくこんなとこまで来ようと思ったね」

モバP「結婚したのか、俺以外のヤツと…」(紹介)

裕子「『もう日は落ちたけど、夕暮れ時のここの景色は絶景でな。心が沈んだときとか、胸のもやもやを吐き出したいときは、よく来るんだよ』と言ってます」

未央「へえ、そういうことならもうちょっと早く来たかったなぁ……」

卯月「どうせならみんなで見たかったですね、夕焼け」


モバP「結婚したのか、俺以外のヤツと…」(提案)


裕子「『今度はお前らも連れてきてやるよ』と」

卯月「ホントですかぁ!」

未央「やりぃ!約束だからね、ウソついたら針千本飲ませちゃうかも!」

凛「ふふっ……楽しみにしてるよ、プロデューサー」

モバP「結婚したのか、俺以外のヤツと…」(約束)


裕子「『任せとけ。もう一度ここに連れてきて、最高の夕映えをプレゼントしてやる。約束だ』」


モバP「………………」こくっ


裕子「あのっ!私……私、Pに謝らないといけないことがあるんです!」

モバP「………………」(首傾げ)

裕子「Pを、こんな体にしちゃってごめんなさい!」

モバP「………………」

裕子「でも、やっぱり私、それでもアイドルを続けたいです!超能力アイドルとして、不思議な力でたくさんの人を笑顔にしたいから……みんなと一緒にいろんな景色をみたいから……」

モバP「………………」


裕子「だから、これからもPのアイドルをやらせてください!お願いしますっ!」

モバP「………………」


モバP「結婚したのか、俺以外のヤツと…」(許可)


裕子「────っ!?」

未央「ユッコちゃん!」

凛「裕子!」

卯月「裕子ちゃん!」


裕子「『バーロー、いいに決まってんだろ。一人だって手放すつもりはねえよ……全員まとめて、最後まで面倒みてやるさ』って!」


凛「良かったね、裕子」

未央「やったじゃん!」

卯月「やりましたね、裕子ちゃん!」

裕子「ううっ……うっ……ありがとうございます、プロデューサー!!」(全力疾走)

モバP「………………!!」ボゴッ


未央「げっ、あの勢いで飛び込んだら……!!」

卯月「後ろは崖なんですよっ!?」

凛「二人とも危ない!!」


裕子「あっ────」(崖際で足を踏み外す音葉)

モバP「………………!!??」





裕子「落ちるぅぅううううううううううう!!!!」



モバP「………………!!!!」

裕子(こんなとこで、終わるんだ……私)

裕子(せっかくPに謝ることができたのに、またあの場所でアイドルを続けられるのに、うかつにも足を滑らせたせいで全部パーなんだ)

裕子(もう、どうあがいてもダメかな)


裕子(……………………)


裕子(いや、まだ終わりじゃない……!最後まで諦めちゃダメだ!)

裕子(Pにあんな超能力をかけることができたんだから、この場だって切り抜けられなきゃ、エスパーユッコじゃない!)


裕子(念じるんだ……あのときみたいに、願いを込めて)


裕子(もし私が本当に超能力者で、サイキックパワーが使えるなら──念力でも空中浮遊でもなんでもいいから発動してっ!)




裕子(お願いっ!!!!)



裕子「……………………」



裕子(あれ?随分長い落下ですね。そろそろ水面に落ちてもおかしくないんですが)

裕子(もしかして、これが走馬灯というやつですか!?)

裕子(いや、いやいや、さすがにそれはないですよ。だって過去の記憶なんてこれっぽっちも流れてませんもん)

裕子(じゃあ、これは一体どういうことなんでしょうか)



裕子「ここが……天国ですか」
















モバP「んなわけあるかよ、このおっちょこちょいが」

裕子「ムムッ……Pが普通に喋ってるなんておかしいです。やっぱりここは天国かヘヴンか桃源郷としか考えられません!」

モバP「地獄、とは考えないんだな……ったく、相変わらず変なところでポジティブなやつ」

裕子「お褒めいただき光栄です!」

モバP「褒めてねえよ!って、まあいいか……ほら、そろそろ目を開けてみろよ」

裕子「…………正直、ちょっと怖くて」

モバP「大丈夫、心配するな。俺がついてるし、あいつらも見てる」

裕子「…………それじゃあ、ちょっとだけ」



裕子「あれ、私……浮いてる?」



モバP「バーロー、んなわけねえだろ。よく見ろよ」

裕子「……ネット、ですか?」


モバP「そういうこと。運良く転落防止用のネットがあるとこに落ちたってわけだ」


凛「P、大丈夫―!」


モバP「ああ、二人ともかすり傷一つないぞ!」


凛「そっか……良かった……ん?なにかがおかしいような……」


裕子「ぷ、プロデューサー、あ、あのっ、それっ!」


モバP「なんだよ、鳩が豆鉄砲を食ったような顔して」




裕子「プロデューサーが……しゃ、喋ったあああああああああ!!!!」

モバP「だあああっ、耳元で大声出すな!寄るな、引っ付くな!」

裕子「ハハハッ、やったぁ!普通に喋れるようになったんですねっ!!」

モバP「どうやらそうらしいぜ、理由はわかんねえけど……ああもうっ、嬉しいのはわかったから抱きつくな!言っとくけど、あいつら普通に上で見てるんだぞ!」

裕子「構いませんっ!今は勝利の余韻にひたる時間ですから!」

モバP「なにに勝ったんだよ!」


未央「あらら……これはまたお熱いですなあ」

卯月「はわわわわっ!!裕子ちゃん、そ、そんなことまで」

凛「…………このまま放置して帰る?」ゴゴゴゴゴゴゴ

未央「しぶりん、抑えて抑えて!蒼いの出ちゃってるから!」

凛「ふーん、まっ、別にいいけど」

未央「はあ、みんな素直じゃないんだから」



裕子「P、ちゃんと見てましたか!」

モバP「だから、なにが!」


裕子「これがエスパーユッコの……サイキックパワーデース!!」

一週間後


裕子(結局、Pが何故普通に喋れるようになったかはわからず終いのまま、私たちは元の日常に戻っていった)


裕子(ちひろさん曰く、強く願うことが能力発動のトリガーになっていた可能性があるとのことだけど、アレ以降、私がまともに超能力を使えた試しは一度もない)


裕子(ちょっと名残惜しい気もする。でも、やっぱりこれでいいんだ)


裕子(私は、これでいい)


裕子(いつか超能力を扱えるようになることを夢見る、普通の女の子でいい)

裕子「ムムムーン……おっ、きましたよ~、サイキックパワーがこのスプーンに溜まってきましたぁ!P、必見ですっ!今日こそはすんごいミラクルが起きそうな気がします!」

モバP「ああ?またスプーン曲げかよ……芸がねえなあ、おい」

裕子「ぬわぁ、ぬわにおぉ!見ててください!ほらっ、ここ、ここに注目ですよぉ!」

モバP「しょうがねえなあ……どれどれ?」

裕子「ぐぬぬっ、はあああぁぁ……とりゃあっ!」

モバP「……全然曲がってないぞ」

裕子「フフフッ、引っかかりましたね、P!」

モバP「はあ?」


裕子「Pは今、オムライスが食べたい……!」


モバP「なっ、どうしてわかったんだ!?」


裕子「ははぁん?知りたいですか……知りたいですよね?ならば教えて進ぜましょう!」

裕子(ないものをあるように見せるため、穏やかに続く繰り返しの中、日々努力する)

裕子(絶対に叶うことのない願いでも、そこを目指す過程には意味があると信じて)

裕子(超能力者気取りのアイドルは、今日も今日とて、期待と疑念の眼差しを向ける彼にこう言うのです)





裕子「私、エスパーですから!」






ユッコちゃんのムム…!ホント好き
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