これまでの事件↓
第一幕・悪魔館殺人事件
【劇中劇】堕天使探偵ラン「悪魔館殺人事件」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1447491615/)
第二幕・魔神島殺人事件
【劇中劇】堕天使探偵ラン「魔神島殺人事件」【第二幕】 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1449306013/)
第三幕・魔月学園殺人事件
神崎蘭子「魔月学園殺人事件」【堕天使探偵・第三幕】 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1453539614/)
第四幕・傀魔伝説殺人事件
神崎蘭子「傀魔伝説殺人事件」【堕天使探偵・第四幕】 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1465030820/)
第五幕・逢魔の海の殺人
神崎蘭子「逢魔の海の殺人」【堕天使探偵・第五幕】 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1489827604/)
※神崎蘭子が主演のドラマという設定なので、当たり前のようにキャラ崩壊
※事件に巻き込まれるキャラクターは殆ど仮名を使った架空のオリジナルキャラ
※今回765色の強い話になります あしからず…
※このSSを読むときは、部屋を明るくして、できるだけ離れて観てね!!探偵ランとのお約束だよ!!
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1503133224
~ここまでのあらすじ~
天界でのほほんと暮らしていた大天使ラン(神崎蘭子)は
幼馴染である大天使チエリエルのプリンをこっそり食べた罪で人間界に堕とされてしまう。
ランが天界に帰るため、父である主神によって課せられた使命。それは、人間界に蔓延る高位悪魔、七つの大罪の浄化であった。
D県警きっての名刑事(笑)である赤羽根刑事のアパートに居候する傍ら
明らかに肋骨から生まれてそうな信仰心溢れるシスターたちの支えも手伝い
大罪悪魔にとり憑かれた人間たちが仕掛ける、悪魔的殺人計画をことごとく看破していく堕天使ラン
宿敵ルシファーとも相見え、浄化すべき悪魔は残り二柱
果たして彼女は、七つの大罪の全てを浄化することが出来るのか…!?
プロローグ
国道沿いの浜辺に それは打ち上げられていた
周囲に人気は無く 最初に発見したのは車の故障により立往生していた観光客だった
フカをはじめとした様々な肉食魚の歯形がいたるところについており 著しく損傷したものだったが
調査の結果 肉塊は人間の死体であることが発覚した
肺に海水が殆ど入っておらず 腹部・内臓の損傷の軽微さに比べ 手足首と頭部が不自然に欠損していたことは
何者かが死体の身元を隠すために意図的に切断したのではないか という疑念を生み
それを裏付けるように 右足首には鋭利な刃物で切断されたような切り口が見つかったことなどから
現地の警察は何らかの事件に巻き込まれたものであるとして捜査を始めた
しかし
遺留品はおろか 前述したとおり指紋や歯の治療痕などのおおよそ個人を判別できそうな部分はことごとく失われており
骨盤の形から成人女性の死体であると かろうじて判断することはできたものの
それ以外の情報は皆無 未だに死体の身元すら特定に至らず 捜査は難航している
これが 後に繰り広げられる惨劇の序章であることは
少なくともそのときは 一人の人間と 一柱の悪魔しか 知らないことである
※
なぜかというか、やはりというか、第四幕だけ挿絵のリンクが切れていますので
第四幕を読み返したい方はお手数ですが、ひとまず適当なまとめサイトに飛んでもらってください…
m(_ _)m
…
ラン(神崎蘭子)「ぐ…はっ…!」
…それは突然の出来事だった
無慈悲な凶刃が、美しき堕天使の腹を切り裂いたのだ
赤羽根(765P)「ラン!」
ラン「ぐ…限界だ…これ以上は…体が保たん…」
ラン「私はもう…長くないのかもしれん…」
赤羽根「なにいってんだ!お前らしくないぞ!!」
ラン「いや、自分の体のこと…誰よりも、理解っている」
ラン「人間界に堕ち、息絶えし我が魂魄は…天に昇ってくれるのだろうか…それとも…」
赤羽根「縁起でもないこと言うなっ!」
ラン「気休めなどいい…これも私の…運命なのだろう…」
ラン「だが…だが我が相棒よ…私亡き後…私の代わりに残る悪魔の浄化を…!」ガクッ
憐れな堕天使の口から零れる、鮮やかな赤
そして、それを見下ろし不敵に嗤う少女が一人…
赤羽根「ちくしょう…何でこんなことに…!!」
話は少し前に遡る…
前日 夜 D県 商業ビル 6F 記念式典会場
…
「定時連絡。会場入り口、異常なし」…「壇上、異常なし」…
赤羽根「…こちらも、異常なし、と」
たたたっ…
美千香(???)「はにー♪会いたかったのーっ♪」ぎゅむ
赤羽根「わぷっ…っと」
美千香「んふふー、お巡りさんのカッコしたハニーもカッコイイの♪」すりすり
赤羽根「まるで俺が普段警官じゃないような言い方をするな」
ざわざわ…
赤羽根「わ、わ、めちゃくちゃ見られてるじゃないか…もうちょっと人目を気にしてだな…」
美千香「そんなの全然へっちゃらだよ!」
美千香「むしろここまで堂々とハニーって呼んだり、ギュッてできるチャンスそうそう無いって思うな♪」キラキラ
赤羽根「お、おう…」
赤羽根(無事に七つの大罪の五体めを浄化し、敵の親玉と相見えたらしい堕天使のランは…)
赤羽根(折れかけていた芯を自分で叩き直したようで、すっかりいつもの調子になって帰ってきた)
赤羽根(あの時の縁でワカバ検事と顔見知りになり、度々事件の見解を聞かれるようになったが、それ以外には特に変わったことは無く日々は続いた)
赤羽根(そんな中、警備課から応援の要請があり、なぜか俺が駆り出されることになった)
赤羽根(推理作家である土井塔克(どいとうまさる)の最新作出版を記念して催される式典を警備することになったのだ)
美千香「あっ、お料理が運ばれてきたの!一緒に食べよ?」
赤羽根「まてまて、俺は仕事中なんだぞ」
赤羽根「脅迫電話までかかってきた案件なんだ。ちゃんと目を光らせておかないと」
美千香「えー」
赤羽根「誰かと一緒に食べたいんなら、せっかくだからあいつに構ってやってくれないか?」
ラン(神崎蘭子)「~♪」ぱくぱく
赤羽根「…」
美千香「…」
赤羽根(単なる警備の仕事にもかかわらず、ランを連れてきたのには理由がある)
赤羽根(泊まりこみになるから夕飯の面倒が見れないということもそうだが、最大の理由は、きな臭い脅迫電話の文言だ)
『過去の栄光を誇示する日、富める者が血の海に染まるだろう』
赤羽根(これは、彼の代表作でありデビュー作でもある『死蝿の魔』から引用されているらしい。小説の分野はとんと疎くて俺は知らん)
赤羽根(しかし『死蝿の魔』は二十年以上前の作品にもかかわらず、未だ人気は衰えず映像化もされている名作という話で)
赤羽根(最近またキャストを一新して再映画化するという話が持ち上がり、最新作出版と合わせて今回の式典で発表された)
赤羽根(脅迫電話の主がどういう意図でその作品から引用したのか…それは見当もつかないが)
赤羽根(仮に悪戯電話だとしても、警備課はテロの可能性が僅かでもあるならば、と人員を裂くしかなかったのだろう。それで俺が呼ばれたのかもしれない)
赤羽根(事実、俺と、恐らく機動隊の新人であろう一名以外に、式典に配置されている連中はこのビルの保安警備員だけだ)
美千香「あの子が…ランってコ?」
赤羽根(ちなみに何の巡り合わせなのか、件の映像化企画で準主役に抜擢されたのが、何を隠そうコイツなのである)
赤羽根(ミステリー的雰囲気の会場に全然そぐわなそうな金色毛虫がむぎゅむぎゅしているのは、そういうわけなのだ)
美千香「ハニーの話に聞いてるほど、頭良いってカンジしないね」
ラン「あむ、ん、んく、んぐ」
ラン「ぱくっ、もむ、んふ~♪」ふるふる
赤羽根「そんなことないぞ」
赤羽根「普段はああ見えても、ここぞって時には いつも頼りになるんだ。たのもしい相棒さ」
赤羽根「それこそ、いなくなったときの事を考えられないほど…なんてな。ははは…」
赤羽根(今までの難事件は…ほぼほぼアイツの手柄だから冗談にもなってないんだが)
美千香「…いつも、一緒にいるってコト?」ぴく
赤羽根「あ、いや、仕事の時な!よく意見とか聞くから!」あせあせ
赤羽根「毎日同じ屋根の下寝てるだとかそういった事実は…全く、決して、ないです、ハイ…」
美千香「…ふーん」
ラン「はむむ、んー」ちゅーっ
ラン「ごくん」
美千香「たのもしい、相棒…」
美千香「…」ぷく
つかつか…すとん
ラン「んむ?」
美千香「始めましてなの」
ラン「ほむも…んっ」ごくん
ラン「ほう、星雲駆けし偶像ではないか。我が相棒の安寧司りしステラは、確とこの眼に焼き付けている(美千香さんですよね?赤羽根さんがいつもお世話になってます)」ぺこり
美千香「…」じーっ
ラン「?」
美千香(まだまだ花より団子…ってカンジ。銀髪の子って食いしん坊が多いのかな?)
美千香(でも、そんな子ほど、いつの間にかハニーの魅力にコロッといっちゃったりする…経験上)
美千香「…」ゴゴゴゴゴ…
ラン「む?その、なんだ、先刻我が相棒との睦言交わす比翼連理は優雅の一言であり(えーと、さ、さっき赤羽根さんと話してましたねっ?)」
ラン「や、やはり一筋の恒星はアステリズムのそれとはまた違った風情が…えっと、あの(ふ、二人で並んでるとなかなかにお似合いなカップルに見えます…ねぇ)」
美千香「…」
ラン「…」
美千香「ふーん、まぁ、それほどでもあるって思うな」
ラン「…は…はい」
美千香「…」ゴゴゴゴゴ…
ラン(こ、この有無を言わさぬ美千香さんのオーラは一体…?)
美千香(私だって…)
…
赤羽根(『式典を中止しろ。さもなくば富める者が血の海に染まるだろう』…か)
赤羽根(騒動の渦中にいる土井塔克は、作品で巨万の富を築いている)
赤羽根(富める者とは、やはり彼を指す言葉なんだろうか…)
土井塔「…」ゴクゴク
妻「ねぇ、退屈だからもうホテルに戻っちゃってもいいでしょう?」
土井塔「…好きにしなさい」
妻「ほんと大変、あなたどころか私まで何時間も笑顔を張り付けておかなきゃならないなんて」
土井塔「私は主賓だからな。ときどき身勝手な振る舞いが出来る君が羨ましくなるよ」
妻「…ふん」
赤羽根(あの文面が単純にお金持ちを現す言葉だとしたら、他にも標的になりうる人間はいる。いや、いた)
赤羽根(探偵役であるカリスマ刑事役の主演男優はかなり稼いでいた筈だ。多忙なのか、コメントを終えた後すぐに移動してしまったが)
赤羽根(主演といえば、あの人だけ出席していないな…カリスマ刑事を補佐するワトスン役の…名前が出てこないけど…)
…
赤羽根(もし本当に殺人が行われるとして、この衆人環視の中、どうやってターゲットを殺すのだろうか?)
赤羽根(一番考えられるのは…毒…だろうか)
すっ
ラン「?」
美千香「お近づきのしるしなの」
美千香「ミ…私が作った特製おにぎりなの」
ラン「おお…宛ら星屑のウルス・マグナと言ったところか!(わぁ、ありがとうございます!)」
ひょいぱく
赤羽根(しかし、唯一狙い撃ちできそうな乾杯の時のワイングラスには入ってなかった…)
赤羽根(かといって、今から料理に毒を仕込んだところで、別の誰かが食べてしまう可能性があるし…)
赤羽根(有無を言わさず毒を喰わせる方法なんてあるのだろうか…?)
ラン「ときに、白殻纏いし魂は、如何なカタチを…(ところでこれ、具は何が入ってるんですか?)」もぐ
もぐもぐ
しゃくっ…じゅわっ…
ラン「んっ?」
ラン「甘…?」
ラン「」
赤羽根(まてよ…まさか毒殺されるのは土井塔克じゃないのか…?)
赤羽根(だとしたらいったい誰が…)
ラン「ぐふッ…!?」
赤羽根「…えっ」
赤羽根「ら、ラン!?」
ラン「ぅ…ぅ…」ぷるぷる
赤羽根「どうしたんだ!?顔が真っ青じゃないか!!まさかそのおにぎりに毒が…!?」
美千香「ふふふ、アイドルは…とるかとられるか、それしかないの」
美千香「そのおにぎりは…」
美千香「よく聞くがいいの!ラン!そのおにぎりは!」
美千香「泥棒猫(予備軍)を仕留める新鮮イチゴババロアおにぎりなのっ!!」
赤羽根「えっ」
ラン「し…新鮮な…イチゴ…」
赤羽根「…」
ラン「新…イ…」
ラン「新イチぃぃぃいぃいぃッ!!」ブシャァー!!!!
赤羽根「ラァ―――――ンッ!?!?!?」
堕天使の腹を裂く無慈悲な凶刃(イチゴ)
その断末魔はさながら なにかの劇場版のような有様だったという
http://fsm.vip2ch.com/-/hirame/hira143687.jpg
主演:神崎蘭子・赤羽根P(765プロ)
堕天使探偵ラン 死蝿の魔殺人事件
前日 夜 堕天使のおなかの中
ビーッ、ビーッ
ウヅ血球「大変です!リン血球さん、ミオ血球さん!!」
ウヅ血球「ミキミ菌が最終防衛線を突破してきました!!」
ミオ血球「な、なんだってー!?」
リン血球「二人とも配置について!急いで迎撃態勢に入らないと…」
リン血球「っ!?」
リン血球「危ない!みんなっ!!」
ドオォォオン!!
ウヅ血球「んきゃー!?」
ミオ血球「わあぁー!?」
ミキミ菌「…」ザッ、ザッ
リン血球「も、もうこんなところまで…早すぎる…!!」ぞくっ…
ミキミ菌「おおよそ半年くらい前にあった話をするの」
NG血球「…!?」
ミキミ菌「ハニーに、好きな髪形を聞いてみたことがあったんだ」
ミキミ菌「みじかい方とながい方どっちがいい?」
ミキミ菌「そしたらハニーは『髪が短いミキも魅力的かもな』って」
NG血球「…」
ミキミ菌「だからね、次の日おもいきって短くしてみたんだ。髪も茶色に染めちゃったりして」
ミキミ菌「なんだか覚醒しちゃいそうなキモチになって、ハニー喜んでくれるかなーって…うきうきして」
ミキミ菌「…街を歩いてたらね、後ろから近づいてきた男の人がね、声をかけてきてね」
NG血球「…」
ミキミ菌「『本田○央さんですか?』…って」
NG血球「…」
ミキミ菌「…」
NG血球「…」
ミキミ菌「なんなのなのぉー!!!!!!」ゴアッ!!!!
ウヅ血球「きゃああああ!?」バリバリ
リン血球「ぐああああっ!!」バリバリ
ミオ血球「すんませんした!!なんか15年間すんませんした!!」バリバリ
http://fsm.vip2ch.com/-/hirame/hira143688.jpg
※結構違います
前日 夜 D県 商業ビル北館 9F ホテルフロア 908号室(ラン)
ラン「…ひゃああああああっ!!」ガバッ!
ラン「…」
ラン「ゆ、夢…?」
赤羽根「目が覚めたか!」
赤羽根「びっくりした…俺の予感が的中したかと思ったぜ…」
ラン「…む?空間転移…?(ここは…?)」きょろきょろ
赤羽根「隣のビルのホテルフロア。さっきいた会場からは連絡通路で北館に渡って9階に上がったところだ」
赤羽根「主要な関係者は明日の予定に備えて全員ここで泊まることになっている。言ってなかったっけ?」
ラン「…」
赤羽根「ま、それはいいんだ」
赤羽根「ほら、美千香、ランに言うことがあるだろう?」くい
美千香「…」つーん
赤羽根「おい」
美千香「やなの」ぷい
ラン「我が身に何が…(それより、私は…?)」
赤羽根「…イチゴおにぎり食って気絶したんだよ。お医者さんの話ではアレルギーやら盲腸炎やらに似た症状らしい」
赤羽根「でもちょっと意外だな。てっきり何でもいける鉄の胃袋を持っているものかと」
ラン「九死に一生と云うことか…これが天駆ける麺奇獣教の刺客なれば、私とて…(危なかった…おにぎりではなくパスタだったら即死だった…)」
赤羽根「は…?」
ラン「いや、先ずは求道の宴の顛末を…(式典はどうなったんですか?)」
赤羽根「つつがなく終わったよ。脅迫電話なんか嘘みたいにな」
ラン「終焉告げる鐘の音が…?(終わったんですか…?)」
赤羽根「会場はとっくに片付けられて空っぽだし、土井塔さんもこっちのビルにいる」
赤羽根「結局、あれはイタズラ電話だったってことだな」
ラン「…」
赤羽根「ま、なんにせよ今日のところは安静にしておけよ」
赤羽根「なんかあったら連絡くれな。俺は下のフロアにいるから」
美千香「ばいばいなの」
…ガチャ
ラン「…」
前日 深夜 D県 商業ビル北館 9F ホテルフロア 908号室(ラン)
ラン「んー…」もぞもぞ
バン!
ラン「…」
ラン「んむ?」
ラン「…」むくっ
ラン「??」きょろきょろ
ラン(今なにか…変な音が…?)
ラン「…」
ズキン
ラン「ぐふぅ!?」
ラン「いたたたた…」ぼふっ
ラン「し、鎮まれ…鎮まれぇ…我が腹よ…」ぎゅるるるる
…
1日目 早朝 D県 商業ビル北館 9F ホテルフロア 908号室(ラン)
コンコン
ラン「…」もぞ…
ガチャ
赤羽根「よ。具合はどうだ?」
ラン「煩わしい太よ…ぐッ…」ズキズキ
赤羽根「ダメそうだな…ま、今日のところは無理せずに休んでてくれ」
赤羽根「今日は昼に書店でサイン会の警備をして終わりだから、ランの出る幕は無さそうだ」
ラン「ふぁい…」ぼふっ
コンコン
赤羽根「ん?」
ガチャ
美千香「やっぱりここにいたのー!!」
美千香「ミ…私のコトさしおいて別の女の部屋いっちゃヤなのハニー!!」
ラン「…」
赤羽根「ご、誤解招きまくる言い方するなよ…」
美千香「むぅーっ、ダメなの!同じ事件を追う相棒とは一緒にいなきゃいけないの!」
美千香「ランがこうなっちゃったからには、この事件はミ…私がハニーをサポートするしか無いって思うな!」ぐっ
ラン「…」
赤羽根「相棒って…つか書店でのサイン会はファンを装う暴漢なんかを警戒してればいい話だから、もうそういうのは…」
美千香「そんなことないの!ミ…私がお仕事も完璧にサポートしてみせるのー!」
赤羽根「やれやれ…」
ラン「…」
ヴーッ、ヴーッ
赤羽根「はい、赤羽根…」
赤羽根「…」
赤羽根「ここの真上で…?」
ラン「?」
赤羽根「…了解」ピッ
赤羽根「美千香とランは ここでじっとしててくれ」
ラン「邪なる者の気配…(何事ですか?)」
赤羽根「まだ詳しくわからんが、上の部屋で土井塔克の妻が血を流して倒れているって」
ラン「!」
美千香「!」
赤羽根「今ドアチェーンを切って部屋に踏み込もうとしてるトコらしい。俺も行ってくる」ダッ
美千香「あっ、ちょっと待って、ハニーってば!」ダダッ
ラン「…」ぽつん
ラン(ドアチェーン…?)
ジャラジャラ…
1日目 朝 D県 商業ビル北館 10F ホテルフロア 1008号室(樹)
妻(土井塔樹)「」
女性「きゃあああああっ!!」
使用人「奥様っ!!」
新人警官「落ち着いてください!というか部屋に入らないで!」
ザッ
赤羽根「状況は?」
新人警官「赤羽根刑事!」
美千香「わお、ホントにランの部屋の真上なの」
赤羽根「こ、こらお前、勝手についてくるなと…」
美千香「やーなの」ぎゅー
新人警官「ついさっき踏み込んだばかりなので、詳しい状況は未だ…」
新人警官「とにかく皆を部屋から出すの手伝ってください!」
…
…
新人警官「…手遅れですね、血が固まりきっている」
新人警官「脅迫電話の件と同一犯でしょうか?」
赤羽根「まだわからないから、ひとまず鑑識呼んどけ」
新人警官「到着まであと20分らしいです」
赤羽根「…若いのに手際がいいな」
美千香「はにぃ、こわいの…」むぎゅーっ
新人警官「いい子だからキミも向こういってなさい!」
美千香「むぅー」
1日目 07:04時点
A 赤羽根刑事
B ラン
C 土井塔 克(どいとう まさる)(推理作家)
D 土井塔 樹(どいとう たつき)(その妻)←DEAD
E 都津根 毬子(とつね まりこ)(その娘・既婚)
F 新庄 功志(しんじょう こうじ)(担当編集)
G 深山 日向(みやま ひなた)(挿絵画家)
H 黒瓜 一(くろうり はじめ)(使用人A)
I 一色 理(いっしき おさむ)(使用人B)
J 千住 ヱリ(ちすみ えり)(???)
K 菊原 美千香(きくはら みちか)
L 使用人見習い(使用人Bの娘)
1日目 朝 D県 商業ビル北館 10F ホテルフロア 1008号室
新人警官「言われた通り、関係者は全員、赤羽根刑事の部屋の中で待機させました」
新人警官「さて、名刑事の本領発揮ですかね?噂はかねがね耳にしていますよ」
赤羽根「そ…そりゃあどうも…」
赤羽根「そういや他の警備員は?」
新人警官「ホテルの入口を固めてもらってます。まだ犯人が内部にいるかもしれないということで…」
赤羽根「…そうか、ならこっちは鑑識到着まで、現場検証を進めていこう」
…
赤羽根「争った形跡は無し。ベッドで寝ているところに脳天を銃で一発…即死だな」
赤羽根「転がってる薬莢からして、コンマ25口径ってところか」
新人警官「コンマ25…確か外国では、主に女性が用いるタイプに多いですね」
赤羽根「詳しいな」
新人警官「ええ、まあ…だからといって犯人が女性に限られるわけでは無いですけど…」
新人警官「ところで線条痕は見ないんですか?」
赤羽根「めり込んでる弾丸を取るのは鑑識の仕事だからな」
赤羽根「ホトケの死亡時刻は5時間ほど前ってとこか…深夜二時から三時の間」
赤羽根「あとは犯人がどうやって侵入したかだが、玄関にはチェーンがかかっていて入れないとなると…」
新人警官「…ここですね」
ヒュゥゥゥゥッ…
赤羽根「窓に円形の穴…犯人はバルコニーから窓のロックを外し、侵入したってことか」
赤羽根「でもここ最上階だぞ…隣室から飛び移るのも無理そうだし…いったいどうやって…」
新人警官「…なるほど」
赤羽根「え?」
新人警官「ここは最上階、一階二階に次いで侵入されやすい階層なんですよ」
新人警官「非常階段から屋上へ続く扉の鍵はたいてい簡単なピッキングで開けられてしまう適当なものですから」
新人警官「そこからロープか何かで降下すれば、殆どのバルコニーにアクセスできてしまう」
赤羽根(さすが新人とはいえ機動隊…そういう訓練もしてるんだろうな)
赤羽根「…ここまでを整理すると、犯人は非常階段から屋上、バルコニーと経由して土井塔樹の客室へ侵入」
赤羽根「そして、ベッドで寝静まっている彼女の頭部めがけて銃撃…来た道を戻って現場を後にした…」
新人警官「おそらく、それで間違いないかと」
赤羽根「…なら、近くの監視カメラに怪しい人間が映ってるかもしれないな」
新人警官「確認します。赤羽根刑事は取り調べの方を」
1日目 朝 D県 商業ビル北館 8F ホテルフロア 821号室(赤羽根)
黒瓜「使用人の黒瓜と申します」
黒瓜「御遺体発見の経緯について説明致します」
赤羽根「…」
黒瓜「まず、奥様は毎朝6時30分に必ず朝食をお召上がりになる習慣がありました」
黒瓜「お休みになられた奥様を起こす係は決まっておらず、使用人である一色と私が交互に行うことになっておりました」
黒瓜「昨日は一色が、そして今日は私が奥様を起こしに行く番でした」
黒瓜「しかし今朝は、ドアの前でいくらお声をかけても返答はなく」
黒瓜「仕方なく従業員を呼んで事情を説明し、奥様のお部屋のドアを開けて貰ったのです」
黒瓜「扉にはドアチェーンがかかっており、中に入ることは出来ませんでしたが」
黒瓜「隙間から部屋の中を窺ってみると、奥様がベッドの上で横になっておりました」
黒瓜「ただ眠っているだけとも思ったのですが、頭部や枕のあたりが真っ赤になっていることに気が付きまして」
黒瓜「警察のかたに事態を説明し、そこから先は御存知の通りです」
土井塔「一体誰がやったんだ…」
赤羽根(現場に居合わせたのは、土井塔克とその使用人の黒瓜、一色)
赤羽根(担当編集の新庄と挿絵画家の深山、ついでに美千香…計6人。関係者のほぼ全員だな)
赤羽根(犯行時刻は、誰もが自室で眠っていてアリバイの無い時間。つまり誰が犯人でもおかしくない)
赤羽根(ランは部屋でダウンしてて出られそうにないだろうし…ここは鑑識待ちだな)
美千香「みなさん!心配ご無用なのっ!!」バッ
美千香「ここにおられる刑事さんは、なにを隠そう、あの名探偵の孫…並みに推理力バツグン!!」
美千香「三上館の事件とか、麻神島の事件とか、難事件をいくつも解決している凄腕刑事なのっ!!」
一同「!!」
赤羽根「おまっ!?」
美千香「フフーン!!私もカノジョとして鼻が高いって思…むぎょ」ぎゅむ
赤羽根(よ、余計なことを…!)
「さっきの話、本当なんですか!?」「もしかして、既に犯人に目星が!?」
「すでに事件の全貌が見えているのでしょうか!?」「一体誰が犯人なんだ!?」
赤羽根「い…いやいや、いくらなんでもまだそこまでは…」
美千香「んむむ!ふむむ!」ばたばた
ガチャ
新人警官「赤羽根刑事!」
赤羽根「!」
新人警官「ホテルの従業員の方に頼んで、防犯カメラの映像を確認させて貰いました」
新人警官「どうやらこの事件、外部の仕業…の可能性が高そうです」
一同「!?」
赤羽根「…どういうことだ?」
新人警官「このホテルの屋上へ行くには、必ず非常階段を通ることになります」
新人警官「宿泊客が非常階段に行くためには、各階廊下の突き当りにある非常口扉の内鍵を開け、直接非常階段に出るか…」
新人警官「あるいは1階ロビーからホテルを出て、外から迂回するかの二通りしかありません」
新人警官「直接向かう場合、4階には自販機、8階には洗濯場、それ以外のフロアには喫煙所が非常口扉のすぐ隣に設けられており」
新人警官「そこに設置された防犯カメラに出入りする様子が映るはずですが、犯行時刻前後にそれらしき人影はありませんでした」
赤羽根「…」
新人警官「次に、迂回して非常階段に向かうルートですが、犯行の前後、二人の受付がカウンターで作業を行っていたようで」
新人警官「宿泊客がホテルを出るには必ず二人の目の前を通るはずなのですが、受付は作業中、人の出入りは無かったと証言しています」
赤羽根「…6階の連絡通路から迂回することはできないのか?」
新人警官「式典のあった商業ビルとこちらを繋ぐ連絡通路は、深夜零時を回るとシャッターが下りてしまうため、不可能です」
赤羽根「確かに、防犯カメラに映らずに窓から侵入できる人間は、完全に建物外の人間ってことになるな…」
新人警官「それともう一つ、先程到着した鑑識が現場で発見したものですが…」
新人警官「枕とベッドの間に、この紙が挟まっていたそうです」
ペラッ
-----------
これは始まりに過ぎない
死蝿の魔
-----------
赤羽根「死蝿の魔…」
土井塔「チスミ…」
新人警官「?」
土井塔「い、いや…」
美千香「あれ?」
美千香「なんか…どこかで聞いたことあるような…ないような…」
深山「『死蝿の魔』の一文じゃなかったかしら?」
美千香「思い出した!そうなの!台本に書いてあったの!」
新人警官「『死蝿の魔』…昨夜の式典でリメイクを発表した、土井塔さんの第一作目の題名ですよね?」
新人警官「脅迫電話の引用元でもあった…」
深山「そのころから私、彼の作品を担当していたから、よく覚えているのよ」
深山「確か第一の殺人で遺体の枕元に置かれていたのよね」
深山「ただ…文章は少しだけ変えてあるような…?」
新庄「…でも、言われてみれば、確かにそんな口上でしたね」
新庄「それに、あの作品の犯人の手口も銃殺…」
赤羽根「見立て殺人か…」
新人警官「ちょっと待ってください、第一の殺人ってことは、その作品の中ではまだ殺人が続くんですか?」
一同「!」
新庄「そ、そうだ…!」
新庄「もし犯人が『死蝿の冥魔』の筋書きに沿って犯行を行うんだとすれば」
新庄「次に狙われる人間も『富豪』の周りにいる誰か、って事になるんじゃ…」
深山「また誰か死ぬって事?ま、まさか私じゃないでしょうねっ!?」
一色「お、落ち着いてください!」
土井塔「…」
一同「…」
美千香「こうして怖がってても、らちが明かないって思うな」
赤羽根「…そうだな。今日のサイン会は中止しよう。早急に対策を立てないと」
赤羽根「犯人がどこで狙っているか分からない以上は、下手にバラけずに集まっていた方が良い」
深山「だからって、一度犯人に忍び込まれたホテルでもう一泊?嫌よそんなの」
新庄「僕もそれは勘弁願いたいです…」
赤羽根「そうは言っても、少なくともあの部屋の捜査が終わるまではどこか一か所にいてもらわないと…」
新人警官「検死と現場検証だけでも二、三日は待ちますよ」
新人警官「今からこの人数と日数で宿を新しくとるとなると、条件に合ったところが見つかるかどうか…」
土井塔「うちの屋敷がいいだろう」
一同「!!」
赤羽根「屋敷?」
新人警官「結構な人数ですけど大丈夫ですか?」
土井塔「心配ない。このくらいなら寄宿舎だけでも事足りる」
土井塔「場所は県外だが、あそこなら警備もしやすい筈だ。何より裏口を把握しているのがこちら側だからな」
一色「よ、よろしいんですか?旦那様」
土井塔「犯人逮捕の為には止むをえまい」
…
1日目 昼 土井塔邸 門前
赤羽根「…なるほど」
赤羽根「屋敷の周りがこれだけ見晴らしのいい庭だったら、確かに侵入者は見つけやすいか」
赤羽根(ここまでの事件の経緯…)
赤羽根(巧妙な手口…犯行文を残す大胆さ)
赤羽根(…俺の刑事としての勘が言っている)
赤羽根(これは…確実に堕天使案件だと…)
赤羽根(しかし…しかし…肝心のアイツが…)
1日目 昼 D県 商業ビル北館 9F ホテルフロア 908号室(ラン)
ラン「ふぐぅ!?」きゅるるるる…
1日目 昼 土井塔邸 門前
赤羽根「いったいどうすりゃあいいんだぁ…」がっくし
美千香「ほわー、おっきぃー、まるで博物館みたいなのー」
赤羽根「ああ…すごいな…わりかし古風なヨーロッパ庭園だなぁ…」
赤羽根(ぐぅう…百歩譲って…いや、百歩どころか一万歩譲って犯人が分かったとしても…俺に悪魔の浄化とかできるわけねぇだろよ…)
美千香「大丈夫なの!」
赤羽根「へ?」
美千香「だってハニーにはミ…私がついてるもん!」
美千香「ランに負けないくらいバッチリサポートするんだから、この事件、もう解決したも同然って思うな!」きゃぴ
赤羽根「…」
美千香「この事件ッ!!」
美千香「アイドル探偵、菊原美千香がゼッタイに解決してみせるの!!」
http://fsm.vip2ch.com/-/hirame/hira143690.jpg
美千香「正妻の名にかけてっ…!」キュピーン
赤羽根(アカン)
赤羽根(違うんだ美千香…俺がいま切実に求めているのは天使なんだ)
赤羽根(いや美千香は確かにエンジェル属性なんだが、そういう天使じゃなくて、天使違いというか…)
赤羽根(い…いや、待てよ?単純に、忍び込もうとした犯人を取り押さえれば推理とか関係ないのか?)
赤羽根(殺人事件になった以上は、現場の主導権は俺達殺人課にある…だから網はってとっ捕まえればラン待ちの状況に……)
??「フン!なァにが凄腕刑事だ!!」
赤羽根「!?」
美千香「!?」
1日目 昼 土井塔邸 敷地内 庭
横暴刑事「みすみす殺人を許し、肝心の犯人は取り逃がす」
横暴刑事「そんな身の程知らずの虫けらが、よくもまぁ『凄腕』などと威張り散らせたものだ!!」
赤羽根「な…いきなりなんだお前は!?」
横暴刑事「フン!人の縄張りに土足で踏み込んでおいてお前とは…口の利き方に気を付けたまえ!」ビシィ
赤羽根「縄張り…?このあたりの所轄の刑事か?」
赤羽根「なにを言ってる、最初の事件がD県で起きてんだから、これはこっちのヤマだぞ」
赤羽根「確かにそっちと共同で捜査することにはなったが…」
横暴刑事「なァにを寝呆けた事を言っている…この件はウチの所轄主導で捜査を展開するッ」
赤羽根「は…!?」
ピラッ
横暴刑事「ホレ見たまえ!とっくに手続きも済んでいるのだ!」
赤羽根「現地の所轄が敷地外周を警備…俺は…屋敷内の見張り!?」
横暴刑事「フン!貴様は精々、我々のエレガントな活躍を指でも咥えて見ているがいいわ!!」
横暴刑事「うわーはっはは!!」
ザッザッ…
赤羽根「な…なんでよりにもよって…こうも立て続けに不運が…」がっくし
美千香「一瞬、暗躍する犯人かと間違うくらい真っ黒な人だったの」
1日目 昼 土井塔邸 敷地内 庭園
赤羽根(いや、まだだ、まだ慌てるような時間じゃない…もっといい方向に考えるんだ…)
赤羽根(あの黒い刑事だって、こっちの捜査の邪魔をするわけじゃない。むしろ向こうが犯人を捕まえてくれる可能性だってある)
赤羽根(他所の所轄で拘留中の容疑者に触れるなんてものすごく面倒だが、可能性はゼロじゃない…)
赤羽根(いっそのことワカバ検事に頼み込んで、法廷でチャンスを作ってもらうとかすれば…)
ハッ、ハッ、ハッ…
赤羽根(そうだ…まだ密室殺人とか、そういうややこしい事態には陥っていないんだ)
赤羽根(まだワンチャンあるんだ)
ハッ、ハッ、ハッ…
赤羽根(ワンチャンある…ワンチャンが…)
ハッ、ハッ、ハッ…
赤羽根(わんちゃんが…いる…?)
犬「ばうっ!!」
赤羽根「おわぁ!?」ビクッ
??「こらぁっ!だめでしょ!おいたしちゃっ!!」ぎゅむ
??「…はれ?どちら様?」
黒瓜「誰かと思えば刑事さんじゃないですか」
赤羽根「い、犬…飼ってらっしゃるんですか…」
黒瓜「はい、ここで世話をしている、ブラックファルシオン3世です」
??「犬三郎ですよぉ!」
犬(BF3世)「ばうっ!!」
黒瓜「こちら、屋敷を警備しに来た刑事さんだ。ほら、挨拶は?」
見習い(棟方愛海)「ここで見習いをしている美少女でぇす!よろしくお願いしまーす!!」ぺこり
赤羽根「げ、元気がいいんですねぇ…はは…」
黒瓜「ほら、餌の時間だ、帰るぞブラックファルシオン3世」
犬「ばうっ」
見習い「黒瓜さーん、まってくださーい!」
赤羽根(あ、あんな…げに恐ろしき大型犬が徘徊する屋敷周辺を警備…だと…)
赤羽根(ま…まだだ…まだあ、あわ、あわわわわ)
時間的にもシーン割り的にもキリがいいので
しばしご飯に行ってきます
しばらく休憩でございます
m(_ _)m
再開島村
1日目 昼 土井塔邸 1F 居間
赤羽根「」ズーン
美千香「ハニー元気ないね」
新庄「ところで刑事さん、私達はいつ頃解放してもらえるんでしょうか…」
新庄「明後日には他の作家の原稿を取りにいかなければいけないんですが…」
深山「私も描かなければならない挿絵を抱えている状態なんですけど」
新人警官「は、犯人が捕まれば、すぐに開放しますから…」
深山「その犯人が…今すぐに行動を起こす確証はないでしょう?」
深山「というか実際、鑑識やらなにやらの捜査は進んでるんですか?」
新人警官「…」
新人警官「と、とにかく、今はこうして犯人が手を出せない場所でじっとしていることが重要なんです」
新人警官「痺れを切らした犯人が姿を晒して、早期逮捕につなげられる可能性だってありますから」
深山「はぁ…こんなことなら仕事場から端末持ってくればよかったわ」
黒瓜「…」
赤羽根(現在、土井塔の屋敷のなかに居る事件関係者は8人)
赤羽根(土井塔克と、その使用人の一色、黒瓜、使用人見習いの女の子)
赤羽根(担当編集の新庄、挿絵画家の深山、菊原美千香)
赤羽根(そして…)
都津根「まったく…なんで私まで…」ブツブツ…
赤羽根(都津根毬子(とつねまりこ)…今は他県に住んでいる、土井塔家の一人娘だと聞いたが)
赤羽根(嫁ぎ先の経営がうまくいっておらず、裏で父親の財産を狙ってるとか巷で噂される人物)
赤羽根(事件のターゲット候補であり、逆に、事件関係者の中で唯一『ホテルの外』にいた人物)
赤羽根(昨夜のアリバイは完璧だったらしいが、もしかしたら彼女が殺し屋を雇ったって可能性もある…)
赤羽根(あの真っ黒刑事に事件を任せたままだと、あらぬ方向に暴走しちまう気がしてならない)
赤羽根(早いとこ奴を出し抜いていかなければ…)
赤羽根「むむむぅ…」
美千香「…」
一色「赤羽根様」
赤羽根「はい?」
一色「旦那様が御呼びです。お部屋までご案内致します」
赤羽根「…土井塔さんが?」
※土井塔邸 間取り
http://fsm.vip2ch.com/-/hirame/hira143694.jpg
1日目 昼 土井塔邸 2F 克の私室
赤羽根「それで、話とは、いったいなんでしょうか」
土井塔「君は…」
土井塔「数々の難事件を解き明かしている名刑事、だそうだね」
赤羽根「ま、まぁ…」
土井塔「ならば、一刻も早くこの事件を解決するために君に話しておかねばならないことがある」
赤羽根「…」
土井塔「妻を殺した犯人は…おそらく千住ヱリ(ちすみ えり)という女性だ」
赤羽根「…え?」
土井塔「現場に遺された犯行文でピンと来た」
土井塔「私が出した作品では『これは序章に過ぎない』と書いていた。だが現場のそれは推敲前の文、『これは始まりに過ぎない』だった」
土井塔「『死蝿の魔』の、あの文の存在を知っているのは、私以外に二人しかいないんだ」
土井塔「…これは、私とその二人の他には担当編集の新庄しか知らない事実なんだが」
土井塔「『死蝿の魔』を書いたのは、本当は私ではない」
赤羽根「!?」
土井塔「千住ヱリと住友昼花(すみとも ひるか)…二人の女性が書いていたものだ。だが…作品は私の名義で出された」
土井塔「何故か?私が住友昼花に言い寄って、関係を持ち、そして半ば強引に作品を奪ったからだ」
土井塔「二十年以上前の話だ。当時私は無名で食うにも困っていた。なりふり構っていられなかったんだ」
赤羽根「…」
土井塔「顔をしかめるのも無理はない。正直あの時の私はどうかしていたよ」
土井塔「賞をいくつも受賞したが、称賛どころか、まるで周りから罵詈雑言を浴びせかけられた様な心地だった」
赤羽根「…その後は?」
土井塔「…彼女たちとはそれきりだ」
土井塔「せめて二作目は自分の手で書かなければと齷齪していたときに、今の妻と出会った」
土井塔「そのときの評価は鳴かず飛ばずの散々なものだったが、今では秀作と言われる作品を産み出せる程に上達する事が出来た」
土井塔「それが今の私だ」
赤羽根「…今の話を聞いている限りでは、千住ヱリではなく、むしろ住友昼花の方が強い動機を持っていそうですが」
土井塔「もっともな意見だ。だが住友が犯人であることはあり得ない。彼女はもう故人だからだ」
土井塔「生前どこかで他の男と結婚し、住友は旧姓になったと風の噂で聞いたが…彼女のことはそれ以上は知らんよ」
赤羽根「…」
土井塔「だが、千住ヱリは私とは遠く離れた地方で執筆活動を続けていたようで、そちらの話はしばしば耳にする」
土井塔「彼女が20年以上前のことを何故今更になって清算しようとしているのかは定かではないが…」
土井塔「自分の書いた作品が、再び他人の手柄として周知されることに、我慢ならなくなったのかもしれん」
土井塔「妻を殺したのは…ただでは私を殺さんという意思表示なのだろう…」
赤羽根「…」
土井塔「墓まで持っていくつもりだったが。こうなった以上そうも言ってられん」
土井塔「このことは『一刻も早く彼女を捕らえる』ためならば君の裁量で誰に口外してもかまわない」
赤羽根「…いいんですか?」
赤羽根「その事実、例えばマスコミに流せば昨日の式典なんか吹き飛ぶスキャンダルになる」
赤羽根「今のこの状況は正義の鉄槌だなんて連日騒がれ、犯人から逃げられたとして、筆を折る結果になってしまうかも」
土井塔「そうするつもりなのか?」
赤羽根「…いいえ」
土井塔「だから君に話したんだ」
赤羽根「…」
??「…ふぅん」
1日目 夕方 土井塔邸 2F 廊下
赤羽根「はい…はい。そういうことなので、至急署の方で千住ヱリの居所を探ってください」
赤羽根「…ふぅ」ピッ
赤羽根「まさか、『死蝿の魔』がそんなにこじれまくった作品だったとは…」
赤羽根「ま、でもこれで犯人の正体が分かったんだし、ひと安心だな」
赤羽根「これがもし正体不明の怪人の仕業だったりしたら、それこそランがいないとまずいところだった…あぶねー」
美千香「ランがいないと何なの?」ひょこ
赤羽根「おわっ!?な、なんだ…美千香か」
美千香「なんだとはなんなのなの」
美千香「私はハニーのパートナーだよ?情報の共有はしないとダメなの!」
美千香「もう二人っきりの事件捜査は始まってるんだから!」
赤羽根「…」
美千香「で、怪人ってなんのコト?」
赤羽根「秘密」
美千香「…むぅーっ」
…
美千香「…あ」
赤羽根「お?」
美千香「ここって、殺されちゃった奥さんの部屋…」
赤羽根「ああ、多分な」
美千香「…」ガチャ
赤羽根「おい」
1日目 夕方 土井塔邸 2F 樹の私室
赤羽根「勝手に入っちゃまずいだろ…」
美千香「捜査なの」キョロキョロ
赤羽根「捜査って…だから、事件は俺に任せて、美千香はおとなしくしていればいいんだっつーの」
美千香「ハニーの役に立つって決めたんだもん」
美千香「奥さんのことを知れば、犯人とか、次のターゲットの手掛かりになるかなーって」ごそごそ
美千香「…なにコレ? 高そうなバッグなのに、わんちゃんの歯形がついちゃってるの」
赤羽根「…」
美千香「死蝿の魔は映画の台本でしか読んでないけど、お話はだいたい覚えてるよ」
美千香「呪われた大富豪の身の回りの人が、ひとり、またひとりって、犯人に銃で撃たれちゃう話」
赤羽根「…」
美千香「探偵役の刑事さんは途中で真相に気付いて、三人目が撃たれる前に犯人を捕まえて、事件が解決する…確かそんな話だったの」
美千香「それで…なんだったかな…一人目と二人目に共通点があって…?」
美千香「だから三番目のターゲットが予想できたんだったっけ…」
赤羽根「…そういえばそのことで思い出したんだが」
赤羽根「美千香はその『死蝿の魔』に準主役で出演するんだったよな。その縁で昨日の式典に参加してた」
美千香「うん? うん」
赤羽根「たしか、出席してなかった主役がいただろ」
赤羽根「ほら、なんつったっけ…主人公刑事役の男優はいたんだけど、それを陰で支える新米婦警の役の…」
美千香「…」
赤羽根「あの人ってなんで来なかったんだろうな…確か名簿にも書いてなかっただろ」
美千香「…それはね、ハニー、実は」
ヴーッ、ヴーッ
赤羽根「おっと、すまん、電話だ」
赤羽根「ランから…!?」
美千香「…」ぴく
1日目 夕方 通話
赤羽根『ラン!』
ラン『…まだ闇に飲まれてはいないようだな(…そっちの様子はどうですか)』
赤羽根『こ、こっちは、まだなんともいえんが…』
赤羽根『それよりお前、治ったのか!?ていうか今から来られるか!?』
ラン『むぅーりぃー…』
赤羽根『』
ラン『孤独を歩め、我が相棒よ…悪を為さず、求める処は少なく…(もぉ今回は赤羽根さんだけで頑張るしかないですよ…)』きゅー
赤羽根『そんなぁ!?』
赤羽根『待ってくれ!俺が事件の推理なんて、まま、マトモに当てられる自信ねーんだよ!』
赤羽根『現場も現場で、邪魔な真っ黒警官はいるわ、同じくらい真っ黒な大型犬はいるわで…』
ラン『案ずるな。我が頭脳とて人智超越せしイデアの素子ではない(大丈夫ですってー赤羽根さん、事件をじーっくり観察してみてください)』
赤羽根『…』
ラン『形而を眼に焼き、エイロネイアに耳を傾け、さすれば自ずとパトスは増幅する(そうすればそのうちピカーンっと閃きますから)』
赤羽根『…』
ラン『脳細胞の一つ一つに響くアリアが…残酷な真理で我が身を焦がす…!(頭のなかのパズルが全部まとめてサイキックパワー!ってなって…)』
赤羽根『…』
ラン『嗚呼…カンパネッラの鳴る頃に…(謎は全て…解けましたッ!!…となるんです)』
赤羽根『なんねーよ!』
『シュッとな』
赤羽根『…』
ラン『?』
赤羽根『何かけたんだ』
『奥さんの香水なの』
赤羽根『なんで俺にかけたんだ』
『すんすん…んー、ビミョーってカンジ』
ラン『綺羅星の…聲…?(美千香…さん?)』
赤羽根『お前の分まで頑張るって張り切ってる。が、お聞きの通り色々アレなんだ』
ラン『茨の路か(…なるほど)』
赤羽根『とにかくそっちに現場の写真を送る。何かわかった時は…ホント頼む』
ラン『ロ、ロウゼンベリーの赴く儘に…(お、おなかが、落ち着いたら…)』
赤羽根『わーっ!引っ張るなって!』
『いま推理してるのは私なのー!!他の娘の推理なんて聞いちゃダメー!』
ブツッ
ラン『…』
1日目 夕方 土井塔邸 1F 書斎
美千香「だからね?ハニー、犯人はすっっごい遠くの方から奥さんを狙撃したんだって思うな!」
美千香「ねぇねぇはにぃ!」
赤羽根(屋敷の間取りはこんなところか…)サラサラ
赤羽根「ここのドアは…何処に通じているんだ?」
ガチャガチャ…
赤羽根「閉まってる…」
黒瓜「そちらはただの地下室でございます。警備には関係が無いかと」
赤羽根「地下室?」
黒瓜「ええ、書斎に入りきらない分の資料が積まれているだけの部屋でございます」
黒瓜「旦那様以外、誰もこの中に入れないように仰せつかっておりますので、どうかお気になさらず」
赤羽根「…」
美千香「黒瓜さん!」しゅばっ
美千香「ミ…私たち事件を徹底捜査中なの!事件の前に気になったこととかなーい?」
黒瓜「気になったこと」
美千香「うん!どんなささいな事でもいいの!」
黒瓜「特に思いつきません」
美千香「ないの?」
黒瓜「はい」
美千香「…黒瓜さんってここに働いて長いの?」
黒瓜「一色ほどでは」
美千香「…一色さんは先輩なんだ?」
黒瓜「そうです」
美千香「ふんふん」メモメモ
黒瓜「…」
美千香「一色さんってどんな人?」
黒瓜「単なる職場の先輩です」
美千香「見習いちゃんは?」
黒瓜「その娘です」
美千香「…んー、他には?」
黒瓜「他にはと言われましても」
…
黒瓜「…以上です」
美千香「ふーむ、なるほど…これはかなーり事件の全容が掴めちゃったって思うな」
美千香「ねっ、ハニー?」
美千香「…あれ?」きょろきょろ
黒瓜「とっくに出ていかれましたよ」
1日目 夕方 土井塔邸 敷地内 庭園
赤羽根「…了解」
赤羽根「また何か分かれば…はい…はい…」
ピッ
赤羽根(署での調査の結果、千住ヱリは行方をくらましている…一か月前、出版社から捜索願が出されていたらしい)
赤羽根(その一か月間を計画の下準備に費やしていたんだとすると…かなり綿密に仕組まれた犯行なんだろうな…)
赤羽根(とっくにこの屋敷に集まっていることはバレていて、忍び込む機会をどこかで窺っているのかもしれない)
新人警官「あ」
赤羽根「あれ?君は…俺と一緒に屋敷を任されてたんじゃ…」
新人警官「あの真っ黒いのに指示されちゃいまして、この辺りに配置されました」
赤羽根「なっ…てことは、あの横暴刑事、俺だけ屋敷に閉じ込めてんのか」
赤羽根「完全に邪魔しにかかってやがんな…!」
新人警官「まぁまぁ、ここは抑えて、犯人が捕まるまでの辛抱です」
新人警官「今は推理力より純粋な頭数や厳重な監視が求められている段階ですから、大人しくあの人に任せましょう」
新人警官「赤羽根刑事はしっかり屋敷内に専念して下さい」
赤羽根「…」
…
赤羽根(むぅ…本当にこのままでいいのだろうか…?)
赤羽根(なんか妙に…ここまでの経緯が出来過ぎているような気が…)
赤羽根(蚊帳の外にいるような扱いだから、焦りとか諸々で、俺が落ち着いてないだけなのかもしれないが)
ばうっ!!
赤羽根「おわぁ!?」バシャーン!
1日目 夕方 土井塔邸 敷地内 庭園
赤羽根「…」ぐっしょり
美千香「はにー!こんなところにいたの!」
見習い「あわわ、大丈夫ですかっ!?」
黒瓜「ダメじゃないかブラックファルシオン3世」
見習い「犬三郎です!」
美千香「もぉーっ、事件の捜査中に、パートナーと離れちゃダメって言ってるのにー!」ぎゅー
赤羽根「…今くっつくとお前も濡れちまうぞ」ばっさばっさ
一色「お怪我はございませんか? 上着、お持ちしましょうか?」
赤羽根「お構いなく。このくらいならじきに渇くと思うので…ははは…」
一色「まったく、犬三郎にも困ったものです。近頃主人にもお客様にも見境なく悪戯するようになって…」
一色「旦那様と奥様にはよく懐いておられたのですが、二週間ほど前、急に、奥様にも粗相をし始めるようになって…」
美千香「粗相?」
一色「服を引っ張られるなんてのは可愛いもので、お気に入りのバッグを咥えて庭を走り回られた時には、奥様はたいへん嘆いておいでで」
一色「それを機に首輪と紐をつけようとしたのですが、犬三郎はものすごく嫌がりまして、いまだにこうして放し飼いのままなのです」
赤羽根「それ、一刻も早くつけてくれませんかねぇ…俺の精神衛生上」
犬「くぁ~」
見習い「だめって言ってるでしょー?犬三郎」なでなで
黒瓜「…」
美千香「黒瓜さんって、いつもあんな近寄りにくいカンジなの?」こそこそ
一色「人付き合いが苦手というか、基本的に寡黙な人ですね」
一色「身内が度重なり不幸に見舞われた結果、天涯孤独となった人でして」
一色「ここに来る前のことは詳しくは知らないのですが、住むところを転々としていたみたいです」
一色「その経緯があってか、あまり他人と交流せず、ああしてよく犬三郎と一緒にいることが多いですね」
美千香「ふーん、でも、あの見習いちゃんと話してる時の黒瓜さん、結構表情が柔らかく見えるなーって」
赤羽根「あの娘もあの娘で、黒瓜さんによく懐いてるみたいだからなぁ」
一色「…親としては、少々複雑ではありますがね」
赤羽根「…」
1日目 夕方 土井塔邸 寄宿舎 ゲストルーム(美千香)
美千香「やっぱり年の差ってコトなのかなー」
赤羽根「ん?」
美千香「黒瓜さんと見習いちゃんの事。一色さんがフクザツって話」
赤羽根「年の差ねぇ…そういえば俺と美千香もあの二人と似たような年齢差なんだよなぁ」
赤羽根「確かに親御さんは複雑だよなぁ、うん。美千香もそう思わないか?」
美千香「…それ、どーいうイミ?」
美千香「ミ…私へっちゃらだよ?公認なの。もはや公式といっても過言じゃないの」
赤羽根「さすがに過言だろ」
美千香「ねぇ、そんなことより、あの見習いの女の子…」
美千香「私を見る眼差しがおかしい気がするの…すごくぞわってする…」
美千香「イケナイオオカミに変身したあの娘に食べられちゃわないかって思うと…」ぞわぞわ
赤羽根「…それも過言じゃないか?」
美千香「そうかなぁ…」ぎゅ
赤羽根「…」
美千香「んーつれないのー」
美千香「こういうシチュエーションの時の親しい男女って、イチャイチャするのが普通でしょー?」
赤羽根「仕事中なんだっつーの」
赤羽根「それに、シチュエーション的に今いちゃつく男女って両方とも碌な末路にならないじゃないか」
美千香「…むー」
赤羽根「はぁ…なーんか、違和感があるんだよなぁ」
赤羽根「怨恨を持った人間が用意周到に準備を立てて、本懐を遂げようとしている」
赤羽根「…筋は通ってるんだが…それでもなにかが引っかかる」
赤羽根「もしランだったら、すぐにでも違和感の正体を突き止めているんだろうけど…俺がやるしかないのか…」
美千香「またランの話…」ぼそ
赤羽根「?」
美千香「…」ぷい
1日目 夜 土井塔邸 2F 克の私室
土井塔「…何の用だ」
都津根「何の用だ、って…ひどくなーい?それが家族にする態度?」
都津根「用が無かったら娘は実の父親に会っちゃいけないの?」
土井塔「お前は無心に来る時しか顔を出さないだろう」
土井塔「…それとも、私を殺しに来たのか?妻の次は私というわけか?」
都津根「…」
土井塔「…」
都津根「なにそれ、ふふ…ふふふふふふっ」
都津根「あのさぁー、お母さんを殺す動機ってさぁー、アタシだけが持ってるワケじゃないんじゃない?」
都津根「…お父さんこそ、もしかして千住ヱリのことがお母さんにバレそうになった、とか…」
土井塔「なっ…」
都津根「ふふ、くくっ、聞いちゃったんだァ…刑事さんと話すところ」
都津根「これは傑作の予感がするわねー、お父さん今まで書いたどの小説より売れるんじゃない?」
都津根「週、刊、誌」
土井塔「…」
都津根「安心してよ。バラすつもりないから」
都津根「でもさぁ」
土井塔「…」
都津根「ちょっとくらいお父さんに甘えたってバチ当たんないでしょ?」
都津根「可愛い可愛い、アンタの一人娘なんだからさァ」
1日目 夜 土井塔邸 寄宿舎 ゲストルーム(美千香)
美千香「ハニー、寝ないの?」
美千香「もう私、おなかいっぱい食べたから眠くて眠くて…」
赤羽根「俺が寝てどうするんだよ…」
赤羽根「怪しいやつが敷地に入って来たら、一応こっちの無線にも報告が来るんだから、身構えてなくちゃいけないだろ」
美千香「だったら私も起きてるの。ハニーの相棒だもん」
赤羽根「…」
ヴーッ、ヴーッ
赤羽根「!」
美千香「っ」
ぱしっ
赤羽根「ちょっ!?おいおい何するんだ!返せって!」
美千香「やなの。ほら、やっぱりランからなの」ブツッ
赤羽根「切っ…なんてことするんだ!」
美千香「いま、ハニーの相棒は私なの!この事件は私とハニーで解決するの!」
赤羽根「わがまま言うなって!」
美千香「そんなにランじゃなきゃダメなの!?」
美千香「私が相棒じゃだめなの…?」
赤羽根「そ、そういう問題じゃない!」
赤羽根「もしかしたらこの事件は俺達の手に負えるものじゃないかもしれないって事で…!」
美千香「ハニーなら大丈夫だよっ!」
美千香「手に負えないってなんで決めつけてるの!?」
赤羽根「それは悪魔が…!」
美千香「あくま?」きょとん
赤羽根「…っ、だいたい、なんでそんなに相棒にこだわってるんだよ?」
赤羽根「式典の時から、ちょっと様子がおかしかった。なにか思いつめてることでもあるのか…?」
美千香「…」
赤羽根「…」
ぼふっ
美千香「寝るの」
赤羽根「…携帯」
美千香「や」
赤羽根「…」
1日目 深夜 土井塔邸 寄宿舎 ゲストルーム(赤羽根)
赤羽根「やれやれ…美千香にも困ったもんだ」
赤羽根(…すっかり日が暮れたな)
赤羽根(闇に乗じて犯人が屋敷に忍び込むなら…頃合いの筈だ)
赤羽根(所轄組から侵入者の報告は まだ来ていないが…そろそろだろう)
赤羽根(もう一度屋敷を巡回しておくか)
赤羽根(もし犯人に出くわした時に備えて、拳銃を忘れずに…)
ごそ…
赤羽根(あれ?)
1日目 深夜 土井塔邸 敷地内 庭
赤羽根「…はぁ…はぁ…」きょろきょろ
赤羽根(無い…!?)
赤羽根(署に置いてきたか?いや、絶対に持ち出した。確認した)
赤羽根(犯人が銃を所持している以上、こっちも携帯してないと命にかかわるから。持ち出したのは間違いない)
赤羽根(美千香の部屋も探したけど無かった。他にあり得るとしたら犬に転ばされたこのあたりだと思ったが…)
赤羽根(な…なくした…?そそ、それはクリティカルにヤバイ)
赤羽根(こんな非常時に紛失したなんて知れたらタダじゃすまないぞ…)
赤羽根(く…くそぅ…なんだって今日という日はこんなに不運続きなんだ…)
赤羽根(屋敷を回ってた時に落としちまったのかな…?)
1日目 深夜 土井塔邸 2F 廊下
コツ、コツ、コツ
赤羽根(物音ひとつしない…当然か。もう皆寝静まってる時間だ)
赤羽根(常夜灯は点いてるし、月明かりも射しているから、幸い探しものに苦労はしてない…)
ヴーッ、ヴーッ
赤羽根「!」
赤羽根(ラン…!?)
ピッ
赤羽根「…よく仕事用の携帯番号が分かったな」
ラン『フッ、我が蒼火の眼に切り取れぬ刹那など存在せぬ(ちらっと横目で見たことがあったので)』
ラン『それより解せんな。私の神託を払い除けるとは。良い事など無いぞ(というか私用のほうに何度もかけてるんですけど、なんで出ないんですか?)』
赤羽根「それは…だな…」
ラン『…?』
赤羽根「と、とにかく、そっちの用件を聞かせてくれ。何だ?」
ラン『喜ぶが良い。煉獄の石棺から漏れ出る残滓を掬い取り…(送ってもらった現場の写真を見ました。それで…)』
ラン『幽かであるが、咎人のアゴニーアフェクトを聴き咎めたぞ(犯人の意図が、なんとなくですけど見えてきました)』
ラン『心して聴くがよい。今すぐ狗苦裏の糸を解かねば、惨劇は続く…!(現在の状況、もしかしたら犯人の計画通りなのかもしれませんよ)』
赤羽根「…え?」
1日目 深夜 通話
ラン『天に程近き求道のコキュートス(ホテル最上階で起こった土井塔樹殺し)』
ラン『彼の咎人は不意の痛撃のみに備えていた。其れはニーベルンゲンの英傑の如し(恐らくあの時犯人は凶器である拳銃を携帯したままでした。ゆえに犯人にとって警察のボディチェックの回避は絶対条件です)』
ラン『そして狂い咲く絶対世界に魅入られし魔の手は、鮮血の残り香を外界に放った(そこで、外部犯説しか在り得ない状況を作り出すことによって、ホテル内にいた犯人は難を逃れたんです)』
赤羽根『…ん?ホテル内?』
赤羽根『ちょ、ちょっと待て…犯人は外部犯じゃない、のか?』
ラン『野良犬の手合では無い。もっと上品な傷跡よ(宿泊客の誰かです)』
ラン『例えるならばそう…周到に、丁寧に、一筋の揺らぎも許さぬオートマトン(もっと言うなら、今朝警備警官と一緒にあの現場に立ち入った人たちの中の誰かです)』
赤羽根『…どうしてそう言えるんだ?』
赤羽根『ホテル内の人間が監視カメラに映らずに屋上に上がるなんて不可能だったんだぞ』
ラン『咎人の業爪は異邦の額からではなく、隣に立つ者からやってきたの(犯人は屋上から侵入したんじゃなくて、普通にドアから入ったんですよ)』
赤羽根『!?』
赤羽根『い、いやいや、それはおかしいだろ、だって現場には確かにドアチェーンが…』
ラン『石棺の煉獄に遺されし保身の茨は、十の礎で形作られていた(現場の写真に映っていたチェーンには、切断されたものを含めて10個の鎖素子(輪)が映っていました)』
ラン『しかし我が御籠の礎は十一…(でもそのすぐ下の、私の泊まっていた908号室のドアチェーンは11個で作られていたんです)』
ラン『わかるか相棒よ、このパラドクスを紐解く絶対倫理(これがどういう意味か、解ります?)』
赤羽根『…?』
ラン『いざ、エニグマを此処に紐解かん!(私の推理を話します)』
ラン『咎人は求道の支者を爪で狩り、虚のエトランゼを拵えるべくフェネストラを冒涜した(犯人は土井塔樹を射殺した後、外部犯に見せかけるために窓に穴をあけ…)』
ラン『そして最後の仕上げに、保身の茨へと牙を剥いたのだ…!(そのあとチェーンカッターを使って鎖素子のひとつに細工を施しました)』
赤羽根『細工?』
ラン『在り得ぬ位置にて結界を構成する細工よ。知恵の輪と呼ぶのも莫迦らしくなる程単純な(部屋の外からチェーンを掛けられるように一部だけ切り取っておくんです。丁度、Cの字の様に)』
ラン『同時にそれは、刻と共に氷解するエクリプスでなければならぬ(細工する鎖素子は、後に警察が現場へ押し入る際にカッターで切られる要(中心付近)の部分にしておきます)』
http://fsm.vip2ch.com/-/hirame/hira143700.jpg
ラン『そして外より堅牢を閉める。これでアルス・マグナは完全となる(最後に、ドアを閉めるときに外からチェーンを繋ぎ、粘土か何かで欠けた部分を埋め偽装しておく…)』
ラン『あとは刻を待つだけ…細工は手筈通り闇に溶け、残るは異邦の爪痕のみ(そうすれば、後で警察がカッターを使って中に押し入った時に細工の証拠は消えてしまう)』
赤羽根『…』
ラン『咎人の意に反し…日蝕を廻る因果は虚しく歪んでしまった(しかし警察が実際に部屋に押し入った時、細工をした鎖素子ではなく、その隣の鎖素子が切られてしまった)』
ラン『日蝕の欠片が真実を呼び覚ます返し刃を畏れるが故、咎人はその芽を摘んだのよ(そこで犯人は、現場に押し入ったときの騒動に乗じて細工をした鎖素子をこっそり回収するフォローを行った)』
赤羽根『な、なるほど…』
ラン『奇跡を描くは極少数…籠の鳥がピースを宿す(必然的にそのトリックを行えるのは、現場に押し入った時一緒にいた全員ということになります)』
赤羽根『…ん?』
赤羽根『もし、そうだとすると』
赤羽根『土井塔樹を殺した犯人は、もう屋敷の中に…?』
バン!!!
赤羽根『!!』
1日目 深夜 土井塔邸 2F 毬子の私室前 廊下
ギィ…
怪人「…」
赤羽根「あ…!?」
赤羽根(こいつ…さっきのは銃声か!?)
赤羽根(そこの寝室で何をした?いや、そんなこと決まってる!!)
ラン『相棒よ、先刻の嘶きは…(…赤羽根さん?さっきの音は?)』
怪人「…」バッ
赤羽根「と、止まれ!止まらないと撃…」
赤羽根(…持ってない!!向かってくる!!まずい!!)
ギィン!!
http://fsm.vip2ch.com/-/hirame/hira143701.jpg
赤羽根「…つっ!」
赤羽根(ナイフ…!?)
赤羽根(くそ…顔が見えない、何者だこいつ…!!)
「今の銃声は!?」
「二階の方だ!!」
怪人「…」タタタタタッ…
赤羽根(あ、危なかった…)
ラン『おいどうしたっ!答えよ!我が相棒よっ!(赤羽根さん!赤羽根さんっ!!)』
赤羽根「っ」ハッ
1日目 深夜 土井塔邸 2F 毬子の私室
毬子「」
-----------
わかっているな 次はお前だ
死蝿の魔
-----------
赤羽根「っ…」
赤羽根「ラン!たった今二人目が殺された!」
ラン『!?』
赤羽根「土井塔の一人娘、都津根毬子だ。第一の殺人と同じく頭を撃ち抜かれている」
ラン『…』
赤羽根「痛って…」
ラン『紅濁せしパトスが…?(どうしたんですか?)』
赤羽根「さっき犯人と組みあって、腕を斬り付けられたんだ。深くは無いんだが…」
赤羽根「顔は扮装をしていて分からなかった。でも、体格からして女…やっぱり千住ヱリで間違いない」
ラン『彩る為のサクラではあるまい。何故引き金が凍り付く?(斬り付けられた?そんなに近付かれたんですか?拳銃は?)』
赤羽根「」
ラン『?』
赤羽根「い、今は運悪く…携帯してなくてな…」だらだら
ラン『…』
赤羽根「そ、そうだな!こうしちゃいられん!早く犯人を追わねば!!」
ラン『そう急くな。何か匂う(待ってください)』
ラン『我が相棒よ、先刻の咎人との邂逅…(さっき赤羽根さんが、廊下で犯人とばったり出会ったとき)』
ラン『なにか、異質な波動を感じはすまいか(犯人から見て、貴方はどう見えていたかわかりますか?)』
赤羽根「どうって…?」
ラン『…言うなれば、漆黒の幻視、或いは逆に、視神経へのオーバーロード(例えば、暗くて人影程度にしか見えてなかったとか)』
赤羽根「いや…そんなことはなかったと思うぞ?月明かりが辺りを照らしていたし、廊下には常夜灯だってついていた」
ラン『…』
赤羽根「…?」
ラン『旋風は吹いているか(…近くに開いている窓はありますか?)』
赤羽根「…そういえば、寝室の窓が開いているな」
ラン『ならばそこに、エニグマを解く鍵が…(そこから何が見えますか?)』
赤羽根「?」
赤羽根「…いま一応ライトで照らしてはいるが、特に何も」
赤羽根「ただ庭の草木が広がっているだけ、としか言えないが…それが?」
ラン『…』
赤羽根「ラン?」
1日目 26:49時点
A 赤羽根刑事
B ラン
C 土井塔 克(どいとう まさる)(推理作家)
D 土井塔 樹(どいとう たつき)(その妻)←DEAD
E 都津根 毬子(とつね まりこ)(その娘・既婚)←DEAD
F 新庄 功志(しんじょう こうじ)(担当編集)
G 深山 日向(みやま ひなた)(挿絵画家)
H 黒瓜 一(くろうり はじめ)(使用人A)
I 一色 理(いっしき おさむ)(使用人B)
J 千住 ヱリ(ちすみ えり)(第一容疑者)
K 菊原 美千香(きくはら みちか)
L 使用人見習い(使用人Bの娘)
2日目 朝 土井塔邸 2F 克の私室
横暴刑事「内部犯だと?」
横暴刑事「犯人を目撃していながら、みすみす取り逃がした自らの無能さを棚に上げ、何を言うかと思えば…」
赤羽根「本当だ!」
赤羽根「樹殺しの現場のドアチェーンから細工されている形跡が見つかったんだ!」
横暴刑事「ゆえに犯人は屋敷の中にいると?なんとも短絡的な発想だな」
横暴刑事「ドアチェーンの細工が本物で窓に開いた穴が偽物であるという証拠が何処にある?」
横暴刑事「それこそ内部犯を疑わせるためのフェイクだという可能性も捨てきれんだろう」
赤羽根「それは…!」
横暴刑事「仮に屋敷の連中の誰かが犯人だったとしてだ」
横暴刑事「二つの殺人ともに、使用された弾丸からは同じ線条痕が確認された。あれは確実に同型の銃から発射されたものだ」
横暴刑事「貴様等が屋敷に到着する前、私と部下がこの屋敷をくまなく調べていたが、銃器を隠せる様な場所など何一つ無かった」
横暴刑事「つまり貴様の論で言うと犯人は、この屋敷の中で常に拳銃を持ち歩いていることになるわけだが…ボディチェックでもしてみるか?出てくるとは思えんがね」
赤羽根「…」
横暴刑事「貴様が幾ら口を出そうと我々の捜査方針は変わらん。とはいえ、屋敷内部に疑わしい人間がいる可能性については認める」
横暴刑事「警備の配置をあらかじめ知っていなければ、敷地の監視に姿を見られることなく殺人を遂行した説明がつかない」
横暴刑事「つまり…」
ガチャ
土井塔「…」
横暴刑事「土井塔さん、探していたんですよ。今まで何処に」
土井塔「地下の資料室だ。調べ物をしていた」
横暴刑事「あまり人目につかないような場所に行かないで貰いたいですね」
土井塔「…捜査は進展しているのかね?」
土井塔「君達は何故犯人がが警備を掻い潜りこの屋敷に侵入できたと考える?」
横暴刑事「丁度その話をしていたところです」
横暴刑事「屋敷内部の何者かが犯人を手引きした可能性があります。一度全員を調べる必要があるでしょう」
土井塔「そうか…そんなところだろうな」
赤羽根「…?」
2日目 昼 土井塔邸 1F 客間
横暴刑事「全員揃いましたね」
深山「…」
新庄「…」
一色「…」
黒瓜「…」
美千香「…」
横暴刑事「さて、昨夜の殺人について二、三伺います」
横暴刑事「遺体のそばにあった犯行声明文に見覚えは?」
-----------
わかっているな 次はお前だ
死蝿の魔
-----------
土井塔「…死蝿の魔の、第二の殺人の口上と同じものだ。これも推敲前の文章で間違いない」
赤羽根(同一犯…)
横暴刑事「では、次に狙われる人間についての心当たりは?」
土井塔「…筋書きをなぞるならば、次は富豪本人が狙われる。つまり私の可能性が高いだろうが、断言はできんよ」
土井塔「作中では次の殺人は未遂で終わっているからな」
深山「忠実に事件を再現するなら、これ以上殺さないってことになるんじゃないの?」
新庄「でも…自分ならば本懐を遂げられるって発想もありますから…」
美千香「結局、膠着状態なの」
深山「あーもぉ、こんだけ警察が見張っててなんで捕まらないのよ!」
深山「安全だって言ってた傍から、結局ここでも殺人が起きちゃって、ちゃんと見張ってたんでしょうね!?」
横暴刑事「その件で、もう一点だけ皆様に協力して頂きたいのですが」
横暴刑事「今すぐこの屋敷にいる全員の事情聴取とボディチェックをさせて欲しい」
一同「!?」
深山「はぁ!?どういうこと!?」
横暴刑事「いやぁなに、そこの刑事が『犯人はこの中にいる』と聞かないものでねぇ」
赤羽根「なっ…!?」
一色「赤羽根様…」
黒瓜「…」
横暴刑事「土井塔と接点のある者の中で我々が最も疑っている人間は千住ヱリという女性です」
横暴刑事「しかし彼女が訓練を受けているような人間でない限り、誰かの協力無しにあの密度の監視を潜り抜けることは難しいでしょう」
横暴刑事「つまり実行犯ではないにしろ、彼女を屋敷に手引きした者がこの中に居ても不思議はない…そう考えています」
横暴刑事「我々はあらゆる可能性を考えて捜査に臨まねばならないのです」
横暴刑事「どうか皆さん、このヘッポコ刑事の世迷言に付き合ってやってください」
赤羽根(こいつ、俺をダシに使いやがった…!)
2日目 昼 土井塔邸 寄宿舎 ゲストルーム(赤羽根)
赤羽根「…やられたな」
赤羽根「こっちの言い分は封殺しつつ、主導権はあくまで向こう持ちか」
赤羽根「ボディチェックも全員シロだった…お手上げだぜ」
美千香「いくらなんでもひどすぎなの、あのおーぼー刑事。ハニーに嫌がらせばっかりして…」
美千香「あんな真っ黒刑事なんか、米花町に飛ばされちゃえばいいって思うな!」
赤羽根「たくましいな、美千香は」
赤羽根「容疑者候補としてあの刑事に疑われることになったってのに」
美千香「そんなのへっちゃら」
美千香「だって、私はハニーのパートナーなんだもん!」ふんす
赤羽根「…」
美千香「ねね、それより、私達は私達で、独自の捜査を進めてった方が良いって思うな!」
美千香「まずは、昨日の事件のおさらいをしよっ?」
赤羽根「お、おう、そうだな」
赤羽根「といっても…俺はただ犯人の姿を見ただけなんだけどな」
美千香「千住ヱリさん…だっけ?どんな格好してたの?」
赤羽根「それが、扮装してて分からなくてな、間近でも顔は確認できなかったんだ」
美千香「…あれ?そうなの?」
美千香「だったら、誰でも千住ヱリさんのフリは出来ちゃうよね」
赤羽根「…」
赤羽根「あーっ!!」
赤羽根「そ…そうか…確かに」
赤羽根「第一の殺人が内部犯の手によって行われたもので、なおかつその犯人が千住ヱリだと仮定するならば」
赤羽根「彼女は現在屋敷にいる誰かに成りすましていると考えるのが自然だ」
美千香「うん」
赤羽根「千住ヱリは40代の女性。当然ながら変装できる人間は限定される」
美千香「うんうん」
赤羽根「まず使用人の二人は除外される」
赤羽根「毎日顔を合わせる人が突然別人に変わったら嫌でも気づく」
美千香「新庄さんも、男の人だから変装はゼッタイ無理って思うな」
赤羽根「当然ながら美千香と、見習いの女の子も候補から外れる」
赤羽根「いくら労力と時間をかけて若作りしたって、17歳に見せるのが限界だ」
美千香「…」
赤羽根「つまり…」
美千香「残ったのは…」
2日目 昼 土井塔邸 1F 客間
深山「…」
新庄「何やってるんですか?」
深山「別に。ただのデッサン。腕鈍るから」
新庄「…」
深山「他に何か用事でも?」
新庄「そういえば、深山さんとは初めて直接お会いしたなぁ、と」
深山「まぁね、でも珍しいことじゃないでしょう」
深山「今日日、直接原稿をやり取りする人の方が少なくなってきてる時代だもの」
深山「ネット社会さまさまよ」
新庄「…」
深山「逆に、紙とペンを持つ習慣が抜けちゃって、端末が無い時は一苦労になっちゃったけど」
2日目 昼 土井塔邸 寄宿舎 ゲストルーム(赤羽根)
美千香「深山…さん…!」
赤羽根「関係者との交流は最低限で、性別に矛盾も無い。年齢も近いしな」
赤羽根「彼女が千住ヱリの変装である可能性は…高いだろうな」
美千香「こうしちゃいられないの!」がばっ
美千香「はやく逮捕しなきゃ!ハニー!」
赤羽根「待て待て、まだ逮捕できる段階じゃないだろ」
美千香「なーんでー!?」
美千香「私とハニーのせっかくの大手柄なんだよっ!?」
赤羽根「犯人像が近いってだけで、まだ推測の域を出てない。状況証拠どころか彼女が口を滑らせたことだって無いんだ」
美千香「むー、証拠なんて捕まえたあとで吐かせるなりなんなりしちゃえばいいって思うな」
美千香「こんな風に拳銃もって、言わないと撃つぞー!って」
赤羽根「んな過激なことできるか」
赤羽根「百歩譲ってする気になったとしても、あの刑事が指揮権を握っている限り無理だ」
赤羽根「俺達は、あくまで理詰めで犯人を捕まえないといけないのさ」
赤羽根「それに拳銃で脅迫って銀行強盗じゃあるまいし…はっ!?」
美千香「ハニー?」
赤羽根(やべぇ…俺の拳銃まだ見つかってないわ…)
2日目 夜 土井塔邸 1F 客間
赤羽根「…」そわそわ
美千香「ハニー?」
美千香「さっきからなんだか様子がおかしいの」
赤羽根「美千香は…その…屋敷の中で危ないものって見てないよな…」そわそわ
美千香「あぶないもの?」
赤羽根「じ…実はな」
美千香「?」
赤羽根「俺は今…サクラを探してるんだ…」
美千香「桜?」
赤羽根「そう…サクラっていうんだ…愛称がな…」
美千香「サクラちゃん?女の子なの?なんなのなの?」じとっ
赤羽根「だー違う!」
赤羽根「拳銃だ!俺の、け…拳…銃…!」
美千香「…」
美千香「拳銃なくしちゃったの?」
赤羽根「声がでかい!」ぎゅむむむ
美千香「むみゅみゅ」
赤羽根「も、もし万が一俺の拳銃が悪い奴に拾われて、誰かが撃たれてみろ…ほぼ確実に免職になっちまう…」
赤羽根「ここ、これは問題にならないうちに内々に処理しなければならないんだっ」
美千香「…」
黒瓜「問題ですね」
一色「問題ですなぁ」
赤羽根「!?」ドッキーン!!
一色「…出ていくしかないでしょうな」
黒瓜「止むを得ませんね」
赤羽根「な、ななな何がでしょうか!?」
一色「赤羽根様、それが…」
一色「大人数の料理を朝昼晩と作ってきたので、もう備蓄した食材が底をつきそうなのです」
黒瓜「新しく調達しないと、明日以降の食事が用意できるかどうか…」
赤羽根(ああ…びっくりした、そういう問題か…)
美千香「どうするの?」
赤羽根「素直に警備をつけて買いに行ってもらうしかないだろうな」
赤羽根「流石に拒むってことは無いだろうし…」
2日目 夜 土井塔邸 1F 客間
黒瓜「では、行ってまいります」ガチャ
赤羽根「…もう遅い時間ですけど、間に合いますかね」
一色「心配御無用です。少し遠いですが、遅くまでやっている業務用スーパーがございますので」
深山「いいのかしらね。ただでさえザルっぽい警備なのに買い物で一人減っちゃって」
新庄「あ、あまりそういうことを言わない方が…」
土井塔「…」
赤羽根(千住ヱリは、深山日向に成りすましている可能性が高い…)
赤羽根(ならば可能な限り目を離さないようにしなければ…)
美千香「ねぇハニー、拳銃って、目印とかある?」
美千香「ハニーが見張ってる間に、私もあちこち探してみるの」
赤羽根「あ?ああ、頼む…」
赤羽根「サクラってのは、形状がこんなんで、側面に紋章が…」ついつい
…
美千香「覚えたの!」
美千香「じゃあさっそくこのサロンから隅々まで探してみるね!」
赤羽根(ここはもう探し回った後なんだけどまあいいか)
ヴーッ、ヴーッ
赤羽根「っと」
赤羽根(ランから…じゃない?署からか…千住ヱリの新しい情報かな)
美千香「むむむ…」きょろきょろ
美千香「よくよく考えたら、こんだけだだっぴろいお屋敷に真っ黒な金属物体が転がってたら、絶対だれか拾ってるの」
美千香「ハニーってば、あまり人目につかないところに落としちゃったのかなぁ…」
見習い「…」ぶるぶる
美千香「?」
見習い「…」ぶるぶる
美千香「見習いちゃん、大丈夫? 震えてるの…」
見習い「もう二人も…屋敷の人が…怖い…です…美千香さん…っ」きゅるるん
美千香「大丈夫なの!ハニーと私がついてるから!もう大船に乗ったって気持ちでいいと思うな!」ぽむ
見習い「ついてる…」じりじり
美千香「うん!」
見習い「ついてる…おおムネ…キモチ…いい…?」わきわき
美千香「うん?」
赤羽根「な…なんだって!?」
赤羽根「千住ヱリが…死体で発見された…!?」
一同「!?」
土井塔「な…!?」
美千香「へっ…?」
…
千住ヱリの遺体は土井塔邸のある場所から 中山間の地域を挟んだ反対側
まったく別の地方の海沿いにて 身元不明の死体として海岸に打ち上げられていた
事件性を帯びた死体の状態から 付近の行方不明者の遺体であると当たりを付けた地元の県警が 地道にDNAを照合している最中
千住ヱリを捜索する他県警の人間が遠方より通りかかり 念の為を と行った遺伝子照合が的中したというのが発覚の経緯である
遺体の検死の結果 死亡時期は彼女の捜索願が出された時と同時期であった
つまり事件発生の約一か月前に 千住ヱリは何者かに殺されていたということになる
…
2日目 深夜 土井塔邸 地下
土井塔(くそっ…)
土井塔(そんな馬鹿な…千住が死んでいただと…?)
土井塔(わからん…では一体誰が私を狙っている…)
土井塔「…」
土井塔「いや待て」
土井塔(死蝿の魔を世に出したのは二十数年前…ということは)
土井塔(確か、作品に使おうと思っていた資料がここに…)ガサガサ
土井塔「…」
土井塔(まさか住友の方、だったのか…!?)
土井塔(あの時…いや、あり得ることかもしれん…そういうことだったのか!!)
土井塔(ならば、犯人の狙いは…)
??「…」
バンッ!!
3日目 早朝 土井塔邸 客間
TV『続いてのニュースです』
TV『K湾で発見された不明遺体の身元が、捜索願の出されていた作家の千住ヱリさんであることがわかりました』
TV『この遺体は二週間ほど前、H地方K湾沿いの国道を通行していた観光客の通報によって発見され…』
美千香「もうニュースになってる…」
深山「昨日の速報っぽい話から、意外に早く発表されたわね」
黒瓜「…」
一色「そう言えば私、打ち上げられた死体のニュースなんて見たことありませんでしたけど…」
深山「単に地方が違うからでしょ?」
深山「私少し前に、あそこの地方で仕事してたけど、不明死体の件は普通に報道してたわよ」
美千香「全国ニュースになるほどオオゴトになっちゃったんだ?」
深山「身元不明の死体ってだけなら、だいたいはその地方のニュースで収まると思うけど」
深山「その正体がある程度名の知れた作家で、さらに殺人事件に関わってる可能性まであった人間ってなったら、そりゃ全国放送になっちゃうんじゃない?」
深山「ま、記者様の裁量がどーなってるのか知ったこっちゃないけど、この案件ではそうなってるんでしょ」
美千香「ふんふん」
赤羽根(遺体は遥か遠方まで運ばれて処理されていた…)
赤羽根(ニュースによれば、遺体が漂着したあたりは肉食魚が多く、食い尽くされる前に打ち上げられたのは全くの偶然だったそうだ)
赤羽根(やはりこの事件の真犯人は、千住ヱリに疑いを向け続けるつもりで計画していたことになる)
赤羽根(犯人の行動も…これから変わってくるんだろうか…?)
3日目 朝 土井塔邸 1F 書斎
美千香「…あふぅ」
美千香「ここにもいない…もぉ、ハニーってばどこいっちゃったの…?」きょろきょろ
美千香「大事なパートナーをほっぽっちゃって…」
美千香「あれ?」
美千香「ココいつも閉まってたのに、開けっ放しになってる…」
美千香「この先って…地下室だっけ?ハニー、この中にいるのかな?」
…
3日目 朝 土井塔邸 2F 廊下
…
美千香「ハニー!」たたたっ
赤羽根「美千香?どうした、そんな慌てて…おっと」
ぼふっ
美千香「…」ぶるぶる
赤羽根(震えてる…?)
赤羽根「美千香?」
美千香「これ…見つけたの」
赤羽根「!?」
チャッ
赤羽根「俺の拳銃じゃないか!…ど、何処にあったんだ!?」
美千香「それは…あ、あのね、ハニー、とにかく大変なの…!」
新庄「赤羽根さん!!」ダッ
美千香「っ」ビクッ
赤羽根「新庄さん?」
新庄「大変です!土井塔さんが…!!」
3日目 朝 土井塔邸 地下
土井塔「」
赤羽根「土井塔さん…」
横暴刑事「胸部を狙って一発…先の二件と同口径の銃弾だな」
横暴刑事「心臓を撃ったにしては狙いが甘い。肋骨で弾道も曲がって即死は免れたようだが、それでも持って数分だっただろう」
横暴刑事「土井塔はその数分をどう使ったか?…これを見ろ」
横暴刑事「絨毯に血文字で何か書いた跡がある。肝心の部分は切り取られているがな」
横暴刑事「殺される直前に土井塔克は犯人の顔を見た。そしてそいつの名前を書き記そうとしたんだろう」
赤羽根「…」
横暴刑事「そしてもう一つ」
横暴刑事「犯人が厳重な警備を掻い潜って屋敷に侵入できたカラクリがこれだ」ガコッ
赤羽根「!?」
ヒュオオオ…
3日目 08:39時点
A 赤羽根刑事
B ラン
C 土井塔 克(どいとう まさる)(推理作家)←DEAD
D 土井塔 樹(どいとう たつき)(その妻)←DEAD
E 都津根 毬子(とつね まりこ)(その娘・既婚)←DEAD
F 新庄 功志(しんじょう こうじ)(担当編集)
G 深山 日向(みやま ひなた)(挿絵画家)
H 黒瓜 一(くろうり はじめ)(使用人A)
I 一色 理(いっしき おさむ)(使用人B)
J 千住 ヱリ(ちすみ えり)←DEAD
K 菊原 美千香(きくはら みちか)
L 使用人見習い(使用人Bの娘)
赤羽根「隠し扉!?…何処に通じているんだ…?」
横暴刑事「部下に確認させたところ、敷地の外に通じていた。この燭台がレバーになっている」
横暴刑事「奥の扉に付いている南京錠が壊されているだろう。ココが侵入に使われていた証拠だ」
横暴刑事「だが、どのみちこの避難用の仕掛けを動かすのは内側からでないと不可能。手引きした人間は確実にいる」
赤羽根「なんで土井塔はこの通路の事を黙っていたんだ…」
横暴刑事「さぁな。ここは資料室のようだが、契約書類の類も混ざっている」
横暴刑事「墓まで持っていく秘密がまだまだあったということかもしれんし」
横暴刑事「単純に通路の存在は自分しか知らないのだと たかを括っていたのかもしれん」
横暴刑事「どちらにせよ、その結果がこれとは迷惑な話だ。こんなことでは我々の警備網などまるで意味を成さんではないか」
赤羽根「…」
コツ…
美千香「は、ハニー…あのね…」
赤羽根「美千香、ここは危ないから客間に戻ってい…」
横暴刑事「拘束しろ!!」
美千香「!?」
赤羽根「!?」
3日目 朝 土井塔邸 地下
美千香「きゃあっ!!」
赤羽根「何をするんだ!?美千香を放せっ!!」
横暴刑事「何って、重要参考人として事情聴取をするのだよ」
赤羽根「な…」
横暴刑事「貴様に遺体発見の経緯を教えてやろう。第一発見者は一色理」
横暴刑事「十数分前、土井塔克を探していた一色理が、書斎の方から何かを持ち出していく菊原美千香を目撃した」
赤羽根「!?」
横暴刑事「一色理は菊原美千香に声をかけたが、彼女は何も答えずサロンの方へ消えたらしい」
横暴刑事「それを見て不審には思ったものの、土井塔の件を優先した一色理は書斎に入り、そこで開け放たれた地下室の扉を見て、この惨状に出くわしたのだ」
赤羽根「ほ…本当なのか…?」
美千香「…」
横暴刑事「菊原美千香は実行犯と通じる内通者として、犯人を手引きした可能性がある」
横暴刑事「あるいは、この土井塔克殺しに関しては、彼女が実行犯であるとも考えられる」
美千香「ち、違うの!私は犯人なんて全然知らない!!」
横暴刑事「ならば全ての犯行は自分がやったと?」
赤羽根「おい、いい加減にしろ!」
美千香「…」
横暴刑事「では教えて貰おうか。何故第一発見者としての義務を放棄し、土井塔の死を一色に話さなかった?なぜ黙った?」
横暴刑事「そして、貴様は現場から何を持ち去った?」
美千香「…」
美千香「ハニーが…疑われると思った…」
赤羽根「え…?」
美千香「なかに入ったのは、本当に偶然なの…私、ハニーを探してて…」
美千香「あそこの扉が開けっ放しになってたから…不思議だなって思って…」
美千香「そしたら、なかで土井塔さんが倒れてて…」
横暴刑事「…」
美千香「すぐに誰かを呼ぼうと思ったの!本当だよ!?」
美千香「でも、地下にハニーの拳銃が落ちてて…わかんなくなっちゃって…!!」
赤羽根「なに…っ!?」
美千香「このままじゃハニーが疑われると思ったの!だから…!!」
横暴刑事「いいや違うな。本当は絨毯の切れ端を持ち去ったのだろう?証拠を隠滅するために」
横暴刑事「もっともらしい理由をでっち上げてはいるが、それを示す証拠は何もない。信用できんな」
赤羽根「待て!美千香の話は本当なんだ!ついさっき俺は…」
横暴刑事「凶器の拳銃とS&W(サクラ)とでは弾丸の口径が違う!持ち去る理由にはならん!」
赤羽根「そんなことパニクった頭で判断できるわけないだろ!」
横暴刑事「…わからんやつだな」
横暴刑事「そもそも、いち刑事が親しい間柄の人間が絡む事件の捜査に関わってること自体問題なんだ」
横暴刑事「貴様は本来この件から外されて然るべきなんだぞ!!」
赤羽根「ぐ…」
横暴刑事「おまけに、この女には犯行を行う動機がある」
美千香「っ!?」
赤羽根「なっ!?」
横暴刑事「先日の式典の参加者名簿を見た時、奇妙だとは思っていた」
横暴刑事「何故主演女優を差し置いて準主役のこの女が出席していたのか」
美千香「…」
横暴刑事「初めの段階では、この女が主役を務めることになっていたからだ」
横暴刑事「そうだろう?」
赤羽根「!?」
横暴刑事「しかし、原作者である土井塔克の鶴の一声でキャスティングが変更になってしまったそうだな」
横暴刑事「曰く『彼女は探偵役であるベテラン刑事のパートナーとして相応しくない』と」
美千香「…」
「ランがこうなっちゃったからには、この事件はミ…私がハニーをサポートするしか無いって思うな!」
「もぉーっ、事件の捜査中に、パートナーと離れちゃダメなのー!」
「ハニーの相棒は私なの!私とハニーで解決するの!」
「そんなにランじゃなきゃダメなの!?」
「私が相棒じゃだめなの…?」
赤羽根(もしかして、やたらと俺の隣に拘っていたのって…)
横暴刑事「殺人の動機にはちと弱いが、実行犯に協力する理由には十二分だと私は考える」
横暴刑事「続きは取調室でゆっくりと聞こう」
ジャリッ カチリ
赤羽根「!?」
美千香「!?」
赤羽根「手錠まで…おい冗談だろ…!?」
横暴刑事「わざわざ犯行予告をしてまで我々に挑戦してきた殺人鬼を相手に…」
横暴刑事「三度も殺人を許した挙句シッポのひとつも掴めませんでしたじゃ示しがつかない」
横暴刑事「潮時なんだよ。そろそろ我々のメンツを維持する方向で辻褄の合うシナリオを用意しておかなければならん」
赤羽根「…!」
美千香「こ、この人…何を言ってるの…?」
赤羽根「このまま捜査が難航すれば、警察の信用問題に関わる…つまり、国民が警察の力を信じて貰えなくなるかもしれない…」
赤羽根「だから警察はそうなる前に『それらしい』人間を容疑者として捕まえて、大手柄を立てたっていう既成事実を作ることがある」
赤羽根「最悪、そいつが犯人であるという証拠をでっち上げればすぐに事件の収束を図ることができるからだ」
美千香「っ!?」
赤羽根「ふざけんな!誰がそんな事許すか!」
横暴刑事「言っただろう。貴様がいくら喚こうとも、こちらの方針は変わらん」
横暴刑事「それに、これは上に判断を仰いだ結果だ。著名な作家が殺され、事態が大事になりすぎた」
横暴刑事「全てにおいて結果が優先されつつあるのだよ」
赤羽根「くそ…っ」
美千香「…だ」
美千香「大丈夫…大丈夫なの!ハニー!」
赤羽根「…」
美千香「心配いらないよ!だって私、ほんとに無実なんだもん」
赤羽根「だけど、美千香…」
美千香「…いいの」
美千香「たぶんね、こうなったのは…私にバチがあたっちゃったからなんんだと思うの」
赤羽根「バチ…?」
美千香「凶器の事とか、ランの事じゃなくて、もっと前から、してなかったから、こんなことになっちゃったんだと思うな」
美千香「私ね、ハニーに言おう言おうって思ってて、いつも言えなかった言葉があるんだ」
赤羽根「美千香…?」
美千香「私が仕事に行くとき、ハニーはいつも言ってくれてた…でも、ハニーが仕事に行く時は、私は結局言わないままだった」
美千香「急に事件が舞い込んできた時なんて毎回そう。何で二人の時間を邪魔するのって、ハニーのケータイ折っちゃいたくなったり」
美千香「式典の時だって、土井塔さんにヤな事言われて、ランにハニーのこと取られちゃうってヤキモチ焼いてばっかりで」
美千香「『一緒じゃなきゃ嫌』とか、『置いて行かないで』とか、『大っ嫌い』とか、そんな言葉で、ずっとハニーを困らせてた…」
赤羽根「…」
美千香「ほんとに言わなきゃいけない言葉、分かってたはずなのに」
美千香「足を引っ張ってばかりで…こうなっちゃった…」
赤羽根「美千香…」
美千香「だからこれは、当然の罰」
美千香「こんなにばかで、意気地無しな私への…」
美千香「相棒じゃなく、恋人として…みんなを助けに行くハニーに…『いってらっしゃい』って言えなかった私への、罰なの」
美千香「だからね?…ハニー、いいの」
美千香「私…行ってくるね」
…
赤羽根「いいわけねぇだろ…」
赤羽根「美千香、待ってろ…事件を企てた真犯人の正体は…」
赤羽根「一分一秒でも早く、絶対に暴いてみせる…!!」
赤羽根「堕天使ランの、父親の名にかけて…!!」
3日目 昼 通話
ラン『成程。もし咎を持つ猟犬が大地の杖を手にしていたならば…(確かに、犯人がその地下の抜け道をつかって侵入していたのだとしたら)』
ラン『たとえ己のカリカチュアを開放してでも蛇を挫く素振り位は見せるが真理(土井塔克がそれに対して何の対応もしていないのは変ですね)』
赤羽根『そうなんだ。都津根毬子殺しの後に土井塔さんは地下の資料室に行っている』
赤羽根『今にして思えば、隠し扉を使われていないかどうかを確認しに行ったんだと思う』
赤羽根『そのとき通路の南京錠が壊れているのを見かけたなら、さすがにその時点で俺達に話すだろ』
赤羽根『…それに、あの真っ黒刑事は あくまで真犯人も怨恨による殺人だと考えてるみたいだが』
赤羽根『俺にはどうしてもそうは思えないんだ』
ラン『…』
赤羽根『そもそも土井塔克を苦しませるために妻と娘を殺害したってところに違和感がある』
赤羽根『式典で見かけた土井塔夫妻の仲はそれほど良くなかったし』
赤羽根『都津根毬子に至っては寝首を掻かれないかと警戒している節すらあった』
赤羽根『犯人が本当に土井塔克を苦しめるつもりだったら、もっと別の方法を考えたはずだ』
ラン『…』
赤羽根『…』
ラン『…時に、我が理の波紋は確と拡がったか(赤羽根さん、あのことって聞いて貰えましたか?)』
赤羽根『あのこと?…ああ、香水のことか』
赤羽根『確かにお前の言った通り、土井塔樹(夫人)は事件の二週間ほど前に香水のブランドを変えていた』
赤羽根『けど、なんでそんな細かいことがお前に分かったんだ…?』
ラン『…ふむ、やはりか』
赤羽根『…?』
ラン『私は虚贄を噛まされていたいたようね…危うくテレプシコラの虜になるところ…(これでハッキリしました。犯人は複数ではなく単独です)』
ラン『咎人は何重にも張り巡らせた偽りのクオリアを纏っている…これは私でも骨が折れるわ(決して手口を悟られないよう巧妙に偽装を施しながら、土井塔家を皆殺しにしたんです)』
赤羽根『…』
ラン『歪を見極めよ、我が相棒よ(考えてください。きっと犯人は、なにか手がかりを残しているはずですよ)』
赤羽根『結局はそこなんだよなぁ…幾ら犯人が内部にいるってことが分かっても、犯人の正体が全然絞れてこないんだ』
赤羽根『動機が分からないってことと、三つの殺人とも、関係者全員にチャンスがあるってことが、逆に事件を分からなくしている』
赤羽根『犯人は自分を特定できそうな証拠を全く現場に遺していない…まるで通り魔みたいに出会い頭に殺して去っていく』
赤羽根『俺が見落としているだけって言われたら、そうなのかもしれないけどさぁ…』
ラン『…』
赤羽根『唯一の手掛かりだったダイイングメッセージも、犯人に消されちまったし…』
ラン『終焉<オワリ>の鐘…?(ダイイングメッセージ?)』
赤羽根『ああ、土井塔克殺しの時だけ、犯人は頭部ではなく胸の辺りを狙っているんだが…』
赤羽根『そのおかげで運よく即死を免れた土井塔克は、絨毯に血でメッセージを遺していたんだ』
赤羽根『だけど、俺達が来た時にはその部分は犯人によって切り取られてしまっていてな…結局内容は分からず仕舞いだ』
ラン『む?滅却されたということか?(切り取られていた…?)』
ラン『やけに恐れるな。絶命の声はそれ以上の聲で以て容易く潰せる筈なのに(そんなことしなくても、血の付いた指を取ってそのまま塗り潰せば簡単に読めなくできるのに)』
ラン『咎人には…何かが見えていたというのか…?(なんで犯人はわざわざ絨毯を切り取る必要があったんですか?)』
赤羽根『そう言われてみると確かに…』
赤羽根『…』
赤羽根『まさか!!』
ラン『むむ?我が相棒よ、何か手応えが…(赤羽根さん?どうしたんですか? …赤羽根さん?)』
プツッ
ラン『えっ』
3日目 昼 土井塔邸 離れ
赤羽根「やっぱりだ…!」
赤羽根「現場の血痕…絨毯の切り口に沿って綺麗に止まっている。床に染み出していない」
赤羽根「犯人がダイイングメッセージを消そうと思った時には、既に血が凝固していたんだ」
赤羽根「だから塗り潰すことも洗い流すこともできず、切り取るしかなかった」
赤羽根「こんな特異な状況に陥るような屋敷の中の人間…それはおそらく、あの人しかあり得ない」
赤羽根「だとすると、ここに何が書かれていたかも予想がつく」
赤羽根「…土井塔克だけ胸を撃ったのはそのためか」
赤羽根「犯人の正体を掴んだぞ…!」
赤羽根「しかし、なぜあの人が土井塔家を…?それに、見立て殺人をした真意もまだわからない…」
赤羽根「そもそも土井塔克が作家としてデビューした当時、あの人は…」
赤羽根「…?」
赤羽根「妻、次に娘、そして夫…」
赤羽根「この殺害順序…」
ピッ
赤羽根「…よし」
赤羽根「これで奴の調査結果が俺の推理通りだったとしたら」
赤羽根「全ての辻褄が合う…!」
赤羽根「謎は全て解けた…!」
3日目 夕方 土井塔邸
赤羽根「よし、全員集まったな」
深山「…」
新庄「…」
黒瓜「…」
一色「…」
美千香「…ハニー?」
横暴刑事「こんな場所に容疑者を集めて一体何をしようというのだ」
横暴刑事「まさか時代錯誤の探偵よろしく推理ショーでも披露するつもりか?」
赤羽根「まさしくその通りだ」
赤羽根「皆さん…今から俺は、これまでに起こった殺人事件の真犯人の正体を暴こうと思う」
一同「!?」
横暴刑事「真犯人だと?」
赤羽根「この事件は外部犯でもなければ複数犯でもない」
赤羽根「ある一人の人間の手によって巧妙に計画された連続殺人だ」
横暴刑事「フン、身内を犯人にしたくないからと、恨みを持ってるような都合のいい生贄でも新しく見付かったのか?」
赤羽根「犯人の目的は怨恨じゃない」
赤羽根「むしろ、動機は怨恨であると思い込ませておくこと自体が犯人の目的のひとつなんだ」
美千香「どういうこと?ハニー」
赤羽根「真犯人にとって三人の死は通過点に過ぎないんだ。奴にはまだ仕上げが残っている」
赤羽根「だから、いざ仕上げをしようって時、極力自分が疑われないために、警察には架空の犯人をいつまでも追わせ続ける必要があった」
赤羽根「その為に真犯人が利用したのが、千住ヱリと『死蝿の魔』にまつわる因縁だ」
横暴刑事「仕上げ、だと?」
赤羽根「そのあたりは後で話すよ。まずは順を追って犯人のとった行動を紐解いていこう」
赤羽根「第一の殺人。ガラスカッターとドアチェーンの細工で、外部犯に見せかけて土井塔樹を殺害した事件」
赤羽根「ここで真犯人は、外部犯の印象を植え付けて自分を容疑者候補から外し…」
赤羽根「同時に手口を『死蝿の魔』に見立てることで、次に狙われる人間も土井塔家の身内であると印象付けた」
赤羽根「目論見は成功し、次のターゲットである都津根毬子が遠方からこの屋敷に呼ばれることになった」
赤羽根「ここが犯人の狩場だとは夢にも思わずにな」
黒瓜「…」
一色「…」
赤羽根「第二の殺人。屋敷の中の人間が寝静まった時を見計らい、都津根毬子を殺害」
赤羽根「途中俺と遭遇する計算外もあったが、それでも難なく犯人は追跡を逃れ、犯人の計画は着実に成功しつつあった」
赤羽根「だが第三の殺人で…ついに犯人にとって致命的なアクシデントが起きたんだ」
深山「致命的な…アクシデント…?」
赤羽根「犯人はあろうことか…自分が犯人であるという証拠を現場に残してしまったんだ」
横暴刑事「ダイイングメッセージのことを言っているのか?」
横暴刑事「だがあれは犯人によって消されている。とても誰の犯行かを特定できるものでは…」
赤羽根「消したって意味がなかったんだよ」
一同「…?」
赤羽根「いや、消しきれていなかったといった方が正しいか…犯人も焦りまくっていたんだろう」
赤羽根「それまで完璧だった計画が一瞬で破綻してしまいかねないミスをしたんだ」
赤羽根「しかも犯人は、関係者全員が起きている『今朝』のタイミングで、証拠を消しに戻る羽目になった」
赤羽根「隠ぺいする暇なんて殆ど無く、もしかしたら地下の扉を出入りする時に丁度美千香書斎に入った…なんてリスクもあっただろう」
赤羽根「でも、犯人は一刻も早く消しに行かなければならなかった…」
横暴刑事「何を言っている…?何故そう言い切れる?」
赤羽根「メッセージの消し方だよ」
赤羽根「あのメッセージは絨毯に血液を染み込ませて書かれていたものだ」
赤羽根「だが書かれて間もないメッセージだったら、洗い流すなり同じように血で塗り潰すなりして簡単に消せたはずだ」
赤羽根「しかし、犯人がメッセージを消そうと戻ったときには、もう血は乾ききっていたんだ」
赤羽根「だから犯人は、絨毯ごと切り取るしかなかった」
横暴刑事「待ちたまえ、そうだとしても意味が分からん」
横暴刑事「犯人が後になってダイイングメッセージを消しに戻るなんて馬鹿な話があるか」
横暴刑事「現場を離れる時に見落としていたものを後々消しに戻れるわけがないだろう」
横暴刑事「犯人がダイイングメッセージを消すタイミングは殺害直後。それしかあり得んのだぞ」
赤羽根「いいや、殺害直後の犯人は、メッセージの存在を知っててそのままにしていたんだ」
赤羽根「当たり前だ。あれは犯人が書いたものなんだからな」
一同「!?」
赤羽根「犯人が現場に残したダメ押しの仕掛け…それがあのメッセージだ」
赤羽根「だから前の二人と違い、土井塔克はあえて即死させないように胸を撃った。あくまで彼が書いたと思い込ませるために」
横暴刑事「…待て待て待て」
横暴刑事「百歩譲ってあれを書いたのが犯人だとしよう。だが消したのも犯人だろ」
横暴刑事「なんでまたそんな無意味なことをする?」
赤羽根「状況が変わったからだ」
赤羽根「土井塔克を殺した時、犯人は罪を着せるつもりだった人間のアリバイが完璧であることを知らなかった」
赤羽根「そして犯人がそれを知ったのが今朝なんだ。丁度みんなで集まって客間のTVを見ていた時だよ」
横暴刑事「はぁ?」
美千香「…ねぇハニー」
美千香「なんでメッセージを消しに戻ったのが、そのときだってわかるの?」
赤羽根「実はな…犯人は あの時初めて千住ヱリの遺体が発見されたことを知ったんだ」
美千香「え…?」
赤羽根「犯人はその時になってようやく、自分が致命的なミスをしていることに気付いた」
赤羽根「そりゃ焦るよな。周りの人間は皆、既にそのことを刑事から聞いているって反応だ」
赤羽根「にもかかわらず、昨夜自分は滑稽にも千住ヱリの仕業にする気満々で土井塔を射殺し、工作していたんだからな」
横暴刑事「…」
赤羽根「それもそのはず。昨夜、俺が千住ヱリの件を署から聞いて驚いた時、犯人はあの場にいなかったんだ」
美千香「そ、それって…」
赤羽根「このまま土井塔克の遺体が発見され、刑事が『千住ヱリ』と書かれたメッセージを見たらどうなるか」
赤羽根「メッセージは犯人による工作だと直ぐにバレ、疑いは犯行時刻『千住の遺体発見の事実』を知らなかった人間に向けられるだろ」
赤羽根「該当する人間は一人しかいない。だから犯人は、メッセージを処分するしかなかった」
一同「!!」
赤羽根「そうだろ、死蝿の魔…いや…」
赤羽根「黒瓜一!」
黒瓜「…」
美千香「黒瓜さんがっ!?」
一色「ど…どうして…!?」
赤羽根「これを見てくれ」ピラッ
赤羽根「…署に頼んで、死蝿の魔のもう一人の著者『住友昼花』のことを詳しく調べさせて貰ったよ」
赤羽根「土井塔克との関係は、死蝿の魔が世に出た後、程無くしてぷっつりと切れたんだが…」
赤羽根「そのとき住友昼花は、自分のお腹に子を宿していることを土井塔に打ち明けていなかったんだ」
一同「!?」
赤羽根「彼女はその後黒瓜という男と結婚し、生まれてきた『娘』を一と名付けた」
赤羽根「それが君だ。黒瓜一」
新庄「そんな…」
深山「黒瓜さんが…土井塔の娘!?」
黒瓜「…」
横暴刑事「…そういうことか」
横暴刑事「土井塔克を殺す前に妻と子を殺した理由は…相続権!!」
赤羽根「そうだ。戸籍上君は住友と黒瓜の子だが、実は土井塔克と血縁関係にある」
赤羽根「つまり、これから国庫に回されようとしている土井塔家の遺産を相続する権利を持てるんだ」
赤羽根「偽の犯人を用意したのも、怨恨説を強調したのも、君が思いがけぬ幸運を拾った無実の人間を装う狙いだったんだよ!」
黒瓜「…」
赤羽根(決まった…いつものらんらんパターンに入ったぜ…)
赤羽根(あとは犯人の演説を聞きつつ、ひと暴れされないように身構えて…)
黒瓜「…言いたいことは、それだけですか」
赤羽根「…」
赤羽根「えっ」
黒瓜「確かに私と土井塔克との間に血縁関係はあります…」
黒瓜「ですがそれは、ただ単に疑われたくなかったから言わなかっただけです」
黒瓜「お嬢様(都津根毬子)と旦那様(土井塔克)の確執を考えれば、言えない事情くらいお判りでしょう?」
赤羽根「」
黒瓜「それに、例のダイイングメッセージは状況証拠でしかありませんよね」
黒瓜「書かれていた名前が千住ヱリだと言い切れる根拠もありません」
赤羽根「」
黒瓜「だいいち、貴方は根本的なところを見落としています」
黒瓜「私は凶器を持っていません」ひらひら
黒瓜「外部の人間ならばともかく、他の人間や一色さんにもバレずに屋敷の中に隠すなんてことも不可能です」
黒瓜「屋敷の外は警察のかたが四六時中見回っていますし…」
黒瓜「そんな状況の中、私がどうやって拳銃を入手し、彼らを撃てると?」
赤羽根「そ、それは…だな…」
??「往生際が悪いぞ、死蝿の魔(残念ですが…)」
http://fsm.vip2ch.com/-/hirame/hira143713.jpg
ラン「貴様の幻術は既に我が手中に在りッ!!(その謎は既に解けていますっ!!)」バーン!!
赤羽根「ラン!?」
一同「!!!」
横暴刑事「貴様…?」
ラン「フッフッフ…しんがりはこの堕天使に任せるがいい、我が相棒よ!(大丈夫…あとは私が引き受けますよ、赤羽根さん)」
赤羽根「お前…駆けつけてくれていたのか…!!」
コツ、コツ、コツ
ラン「確かに、貴様のウルス・マグナは完全体となろうとしていた(今回の連続殺人を計画した貴女にとって、拳銃の隠し方はまさに完璧でした)」
ラン「でも、クロウソの紡ぐ糸は奇なる因果の歯車に絡み、爪痕を遺してしまったの(しかし、都津根毬子を殺害したあの夜、貴女は予想外の出来事に遭遇したことで、重大な手がかりを残してしまった)」
横暴刑事「予想外の事故だと…?」
ラン「それは、月下の地にて顕現せし我が相棒との邂逅…(廊下でばったり、赤羽根さんと出くわしたことです)」
ラン「暴食の外套纏いしフェンリルは、白金に輝く牙を以て外敵を竦ませる(死蝿の魔に扮装していた貴女は、とっさにナイフを抜いて赤羽根さんを襲いました)」
ラン「だが、今まさに刑罰の代行者の喉元を衝かんとする刹那…(しかし刃は彼の腕をかすめ、寸前で殺すことは出来ず…)」
ラン「アマデウスたる我が相棒の因果に阻まれ、咎人は潔く闇に溶けるしか無かった…(騒ぎに気付いた外の警官の足音を聞き、口封じを諦めて逃走しました)」
赤羽根「…」
ラン「さて、業に染まるクロウソの糸。そこに生まれた解れが二つ(この行動には、二つほど不可解な点があるんです)」
ラン「一方は、射殺す淫婦と切り裂く猟犬に違わず存在する殺意という名のパラドクス(一つ、貴女は直前に都津根毬子を銃撃しているにもかかわらず、何故ナイフで襲ってきたのか)」
ラン「一方は、猟犬を射貫く術を使わぬ無謀という名のパラドクス(一つ、そもそも何故ナイフで赤羽根さんを殺そうと踏み切ったのか)」
美千香「どーゆーコト?」
ラン「棺の煉獄にて鉄が嘶いた夜、猟犬共は呼応し雄叫びを上げた。それは彼のフェンリルの耳にも届いたはず(第一の殺人に拳銃が使われている以上、警備に携わる警官全員に実弾が支給されていると貴女も分かっていました)」
ラン「加えて月下の邂逅の夜、彼の者の眼は猟犬の躰を遷ろう事無く焼いたはず(そしてあの時、廊下は月明かりが差していて、出くわした相手を警官ではないと見間違うことはあり得ません)」
ラン「ならば双弩とも砲火の疾さを競うが道理。牙を噛み鳴らすなど愚の骨頂!(お互い銃を構える猶予が十分あった。にも関わらず、撃たれるリスクを鑑みず、貴女はわざわざ赤羽根さんに近づいていったんです)」
横暴刑事「…というか君は何で銃を構えなかったんだ?」
赤羽根「う…そ、それは…」だらだら
ラン「咎人は、威嚇すら叶わぬ羊を狩る眼で猟犬を見ていたのよ(貴女には、赤羽根さんが銃を持っていない確信があったんです)」
ラン「己の牙のみで命を摘むことが出来るのか、それのみを考えながら…(しかし、貴女は貴女で赤羽根さんを拳銃で撃てない事情があった)」
美千香「撃てない事情?」
ラン「暗器は既に…闇に飲まれていたッ!(貴女は都津根毬子を銃殺した後すぐに、拳銃を手放していたからです)」
ラン「故に彼の咎人は、白金の牙を舞わせるしかなかったのだ!(だから、赤羽根さんを銃で撃ちたくても、撃てなかった)」
一同「!?」
横暴刑事「手放しただと…?いったい何処にだ?」
ラン「黒鉄は憐れなる生贄の臥すフェネストラに(現場の…都津根毬子の寝室の窓からです)」
赤羽根「い、いやしかし…あのときお前に言われて窓の外を見たが、なにも無かったんだぞ?」
赤羽根「それにだ、そもそもなんで彼女には俺が丸腰だってことがわかったんだ…?」
ラン「全てを握る鍵は…漆黒なる鎌獣が握っているッ!(その答えは…この子が握っていますよ)」
ばうっ!!
黒瓜「!?」
横暴刑事「い、犬だとッ!?」
ラン「ようし誉めて遣わすぞ、漆黒なる鎌獣よ(持ってきてくれたね、えらいえらい)」なでなで
ばうっ!
ジャカッ
赤羽根「そ、それは…!!」
横暴刑事「犯行に使われた拳銃なのか…!?」
黒瓜「…」
ラン「フッ、眷族が我が手中に落ちていることがそんなに解せぬか(ふふ、なぜ初対面の私に懐いているのか信じられないって顔をしていますが)」
ラン「この世の万物は三位一体の意志に抗えぬ。我が言葉こそ彼の言葉なのよ(人も犬も神の創造物…意思疎通するくらい、私にはお手の物なんですよ)」なでなで
ばうっ
赤羽根「拳銃はいったい何処にあったんだ!?」
ラン「暗器の鉄は、漆黒なる鎌獣の住処に(犬小屋の中にありました)」
横暴刑事「犬…小屋…!?」
ラン「だが真実を紡いだのは私ではなく、我が相棒とステラの偶像よ(気付くきっかけをくれたのは、赤羽根さんと美千香さんです)」
美千香「わっ、私?」
ラン「惨劇より前、富める婦女は黒鎌の凶器に苛まれていたそうだが(土井塔樹(夫人)さんは、事件前に犬のイタズラに手を焼いていたみたいですが)」
ラン「事の始まりは半月を蝕むアステリズムの輝きであったという(彼女への粗相が始まったのは、香水のブランドを変えた二週間前からだったという話でした)」
ラン「私は黒鎌を狂わす月の光と、手から零れる桜の影を重ね…(その事実と赤羽根さんの拳銃の紛失に因果関係があるんじゃないかと思った時)」
ラン「二つの事象はストレガの瘴気を漂わせたものという仮説を生み出した(私は、赤羽根さんが美千香さんに香水をかけられていたことを思い出しましたんです)」
黒瓜「…」
ラン「漆黒なる鎌獣は魔女の媚香に操られてはいまいか…(もしかしてこの犬は、樹さんではなく、香水の匂いに反応していたんじゃないか…?)」
ラン「我が頭脳はついに、館を覆う瘴気から真実を嗅ぎ分けたのよ(私はそこからトリックと犯人を逆算しました)」
ラン「即ち、黒鎌の僕に魔女の瘴気を封じ込める制約がそれだ(貴女は以前から、特定の香水の付いたものを犬小屋に隠させるように彼を訓練していたんです)」
ラン「闇に溶け込むものを探せど、闇それ自体を疑う者はいない…それが幻術を完全なものとする…!(人間の捜査は完璧でも、動物までは目がいかなかった…それが貴女の狙いだったんです)」
赤羽根「初めに土井塔樹(夫人)をターゲットにしたのは、都津根毬子を屋敷におびき寄せる以外にも」
赤羽根「土井塔樹の存在で凶器隠しのトリックが狂ったり、露呈することを防ぐ意味もあったってことか」
ラン「月下の邂逅にて我が相棒を引き裂く白金の真意、それは…(都津根毬子の殺害後、貴女が赤羽根さんに口封じを試みたのは…)」
ラン「鎌獣の住処に、奇妙な黒鉄を見咎めた処に在る(犬小屋から凶器を持ち出すときに、見知らぬ拳銃が中に入っていたから、ですよね)」
ラン「ロゼオを求め彷徨う猟犬が、もしや暗器を嗅ぎ付けはしまいか…しかし魔女に切れる手札は少なく(拳銃を探し回る赤羽根さんが、万が一トリックに気付いてしまえば計画が台無しになる。貴女はその銃の扱いに困った)」
ラン「素直に咬ませるか?餌とするか?何方にせよ噛まれる危険は零でなく、それを恐れるが故の魔女の媚香(本人に渡そうと屋敷の中に捨てようと、どのみち不審がられてしまう。かといって外に捨てれば犬がまた拾いに来てしまう)」
ラン「猟犬それを滅すか、煉獄に飲ませるか…苦肉の策であったな(結果、持ち主の口を封じるか…次の殺人現場に捨てておくかしか、手放す方法が無かった)」
黒瓜「…」
ラン「役目は果たしたぞ、我が相棒よ(こんなところでどうでしょうか、赤羽根さん)」ニコ
赤羽根「…か、完璧だ…言うことないぜ、ラン!」
美千香(ふたりとも…すごい…)
黒瓜「…」
ラン「咎人よ、貴様が放つ全ての幻術に、溶け焦がすかの如き業の匂いを感じる(…よほどの恨みでも無い限り、一族を根絶やしにして遺産を奪い取ろうなんて思わない)」
ラン「その身を虚ろで塗り潰し、腐肉を喰らい、心を舐る…『そう』なった特異点は何処に…(いったい何が貴女をここまで変えたんですか?)」
黒瓜「…変えた?」
黒瓜「変わっていないよ、私は」
黒瓜「私は一度も変わっていない。今日この日のために生まれてきたようなものだ」
ラン(この日のため…?)
黒瓜「私を叩く父親の拳と、母親の冷たい眼差し…それが私の一番古い記憶」
黒瓜「安い言葉は使いたくない。それでもあえて口幅ったく言うなら、およそ愛情とは無縁の人生を送ってきた」
黒瓜「いつの間にか…自分も父親の真似をして、自分の体を傷つけるようになってね」
黒瓜「そうしていると不思議と安心したんだ。父親も咎めなかったからね。この行為は正しいものだと思った。命が終わるまで痛みを感じていようと思った」
黒瓜「だが…今度は母親が殴ってきた」
黒瓜「私はどう応えれば両親に受け入れて貰えるのか。ここまでくると最早考えるのも莫迦らしくなる」
黒瓜「表情を失った私に、母親はようやく自分のコトを話し始めたよ」
黒瓜「かつて、千住ヱリと二人でエラリィ・クインのような推理作家を目指していたこと」
黒瓜「土井塔という男のせいでその友情に深い亀裂が入ったこと」
黒瓜「親友を失ってまで尽くしてきた土井塔に裏切られたこと」
黒瓜「そして…」
黒瓜「だからこそ母は、私を堕ろさず、ひっそりと産んだこと」
黒瓜「私は母の復讐のために…生かされているということ」
赤羽根「だからこんな事件を引き起こしたのか…?」
黒瓜「母のため?くはは、違う違う」
黒瓜「言っただろう?この日のために生きてきた、と」
黒瓜「丁度、仕事終わりの一杯…その喉越しを求めて、ネオンの海をぶらつく感覚に近い」
黒瓜「私は、ただ私の為に他人の金を貪り食っただけさ」
黒瓜「特に今回は、合法的に莫大な資産を我が物にできる上玉だった」
横暴刑事「…」
黒瓜「母はあのとき私にこの世界での生き方を教えてくれたんだよ」
黒瓜「母親はこうも言っていたんだ」
黒瓜「『これは貴女の為でもある』『他人を喰い物にした奴等を逆に喰ってやるのよ』…ってね」
ラン(この人…)
黒瓜「私は初めて、両親に対してどう応えればいいかを教えてもらったんだ」
黒瓜「私を喰い物にしていた両親に対して…ね」
ラン(心が乾ききっている…)
黒瓜「あのときは胸がすく思いだったなぁ…」
美千香「まさか、あなた…」
黒瓜「両親だけじゃない…これまで何人も喰ったよ。そうしなきゃ生きていけないからね」
黒瓜「…そういえば、あの『声』が聞こえてきたのも両親を喰って直ぐだったかな」
黒瓜「『声』は私にこう囁いてくれたんだ」
黒瓜「法を出し抜く力を授ける代わりに…これからは自分の法で生きろと」
ラン(泣いて泣いて、泣き腫らして、もう空っぽになっている…)
新庄「く、狂ってる…」
黒瓜「狂ってる?むしろ、私は至極正常なプロセスで産まれてきた人間だと思うがね」
黒瓜「民事不介入と少年法が正常に機能した、その賜物が私だろう」
横暴刑事「…我々の与り知らぬところで精神を捻じ曲げた児童虐待と、それを維持する民事不介入」
横暴刑事「それによって連鎖的に起こった強盗殺人と、付随する重刑から彼女を救った少年法。胸糞悪い話だ」
横暴刑事「確かに、もし今後似たようなケースが発生しても、仕組みが変わらん限り我々は誰かが『こう』成り果てるまで放置するだろうな」
ラン「早まるな、たとえ乾ききった心でも、潤いを感じぬ躰では無かろう!!(黒瓜さん、貴女は大人しく法の裁きを受けてください!)」
ラン「思い出せ!目の前には何がある!?(手遅れにならない内に…!)」
黒瓜「私は私の法で動いている。だから私を裁くのだって私だ」
黒瓜「どうせ連続強盗殺人は極刑だろう…それでもだ」
黒瓜「このまま捕まって、私をこんな有様にした『法』で幕を下ろすなんて」
シャッ
ラン「…!!」
黒瓜「まっぴら御免なんだ!」
美千香「ナイフ…!」
横暴刑事「自殺する気かっ!?」
ラン「しまっ…」
バン!!
黒瓜「ぐッ!?」
ラン(赤羽根…さん?)
黒瓜「っ…」ボタボタッ
赤羽根「裁くよ」
赤羽根「キッチリと司法でな」
赤羽根「たとえ君の言う通り、結果が同じでもだ」
赤羽根「俺たちは、何故君がこんなことになったのかを考えなきゃいけない」
赤羽根「君を受け入れて、仕組みを変えるために、だ」
黒瓜「…ッ」
赤羽根「俺だって、そんな目してた時があった」
赤羽根「理不尽なことが起きて、自分が持っているかけがえの無いものが奪われるんだ」
赤羽根「誰に当たり散らしたって失ったものは帰ってこない。だから自然と空に向かって吠えて、唾を吐きたくなる」
ラン「…」
赤羽根「でもな、自分を律するこのルールの中で、めげずに不条理と戦っていると…」
赤羽根「かけがえの無い幸せってのは、まだ自分にたくさん残ってることに気付くんだ」
赤羽根「俺はギリギリで見つけた。それを失わないように生きている。だけど君は…知らない内に全部捨てちまったみたいだな」
黒瓜「く…そ…」
赤羽根「こうなる前に、たった一度だけでも、立ち止まって周りを見渡すだけで見つかったはずなのにな…」
…
ラン「天の名において貴様を浄化する」
ラン「大人しくひれ伏し、この女から出ていけ。『暴食』の化身、ベルゼブブ」キィィィン
ベルゼブブ『…』
ラン「六柱だ」
ラン「貴様で、もう六柱」
ラン「私の浄化の旅も…もうすぐ終わる」
ベルゼブブ『貴様は如何(ど)う思った?』
ラン「…何?」
ベルゼブブ『先程の問答だ』
ベルゼブブ『貴様は何方が正しいと思う』
ラン「…」
ベルゼブブ『…或る国の死刑制度に異を唱える者がいた』
ベルゼブブ『国家が国民を殺してはならないなどという崇高な思想を本気で考えていた者がいた』
ベルゼブブ『だが彼は、自分の家族を殺めた人間に絞首刑を求めた』
ラン「…」
ベルゼブブ『知った風な口を幾ら聞こうとも、他人の痛みなど、どのみちわからん』
ベルゼブブ『だから、いざ自分が痛くなってみれば人も天使も結局そうなるものだ』
ベルゼブブ『水が低きに流れるように』
ベルゼブブ『…我が盟友がそうだったように』
ラン「…」
ベルゼブブ『貴様が悪と断ずる思想が、いずれ総意と呼べるほど肥大しても尚』
ベルゼブブ『正義は自分にあると信じていられるか?』
ラン「…」
ベルゼブブ『我が盟友…ルシファーは決して貴様に容赦しない』
ベルゼブブ『貴様が完全に堕天することは最早必然なのだ』
ベルゼブブ『だから、あえて貴様に、言ってやろう』
ベルゼブブ『先に地獄で…待っているぞ』バキンッ
後日 朝 帰路
美千香「はにーっ!!」ぎゅっ
赤羽根「おわわっ」
美千香「怖かったのー!もうハニーと一瞬たりとも離れたくないの~!!」
赤羽根「はは…無事で何よりだな」なでなで
美千香「ふふ」
美千香「やっぱりハニーは、私の王子様だねっ」
赤羽根「やめい、こそばゆいわ」
美千香「えっへへー♪」すりすり
ラン(水が低きに流れるように…我が盟友がそうだったように…?)
ラン(ルシファー…もしかしたら貴様は…)
美千香「ラン!」ずいっ
ラン「ほわ!?」びくっ
美千香「ランも助けてくれてありがとうなのー!」むぎゅー
ラン「わぷぷっ」
美千香「…ゴメンね」
ラン「?」
美千香「ハニーの隣にいるランを見て、ちょっとヤキモチ焼いちゃったんだ」
美千香「だから…ちょっとイジワルしちゃったの」
ラン「…」
美千香「でも、もうふっきれたの」
美千香「お仕事中のハニーは、ランに貸してあげる」
美千香「だから、しっかりハニーを守ってね、天使様」
ラン「…む」
美千香「そのかわり!プライベートのハニーは全部私のだから!ね!」
美千香「もしランがハニーの家に一拍でもお泊りなんてしようものなら、みーっちりセッキョーしちゃうからね!」
ラン「へっ?」
赤羽根「あっ」
美千香「えっ?」
美千香「…何その反応」ゴゴゴゴゴ…
ラン「これは闇に飲まれし真実というコトか…?(話してないんですか?赤羽根さん)」
赤羽根「ちょっと待て!余計なこと言うなお前!」
美千香「まさか…同棲してるなんて言わないよね?」
赤羽根「…」
赤羽根「い、居候というか…なんというか…」
ラン「い、幾許かの満月をくぐっては…いる(もう半年ほど…)」
美千香「…もう駄目なの。聞きたくないの」
美千香「こんな悲しい記憶なんてラストライブで『relations』唄うまでなくなっちゃえばいいの!」
ラン(どういう意味…?)
美千香「…ハニーの」
美千香「ハニーのバカぁー!!!」ダダダダダ…
赤羽根「ま、待て!誤解なんだ!」
赤羽根「これには天国と地獄よりも深いワケがあるんだぁー!!」
…
後日 ???
新米刑事「…なるほど、『彼』か」
新米刑事「付き従う信徒、いや、それ以上に自分のタガになるつつある人間…それが『彼』か」
新米刑事「それさえわかれば、ランを堕とす算段は決まったようなものだね」
新米刑事「大悪魔を六柱も浄化した逸材…きっと堕ちたときの反動もデカい」
新米刑事「これまでの損失も、彼女さえ仲間に加わればおつりがくるかも…」
ブワッ…
ルシファー「んんっ…くー!」のびー
ルシファー「何日も人間に成りすますのって疲れるなー…」
ルシファー「…」
ルシファー「法は秤にはならない」
ルシファー「生涯一度も罪を犯さない極悪人もいれば、聖人のような大量虐殺者がいる」
ルシファー「法で人の尊さは測れない」
ルシファー「君は本当にその意味を理解しているかい?」
ルシファー「不条理は、条理があるから生まれてくるんだよ、ラン」
http://fsm.vip2ch.com/-/hirame/hira143715.jpg
死蝿の魔殺人事件 幕引
こんな変なSSに長いこと付き合ってくれてありがとう
HTML依頼出した後は
もっともっと面白い話が作れるように修行してきます
菊原 美千香
赤羽根刑事の交際相手。
芸能事務所は東京にあるものの、コンセプト被りを嫌った事務所の方針でローカルアイドルとしてD県で活動している。
気分屋でその日その日のノリによって髪形を変えるという、入学したてのSOS団長のような設定だが
なぜか登場するたびに髪形どころか背格好や口調までゴロっと変わり、キャストによってはときどき本名を言いかける謎めいた存在。
撮影の舞台裏で十名以上の希望者がじゃんけんで決めているとか。
ゆえにエンドロールでは美千香役のキャストは伏せられている
ちなみに第四幕で隣り合って演劇を見ていた時の髪形は赤リボン。今回は金髪毛虫。
最終幕にも少しだけ登場する予定である。その回のキャストとなるアイドルは…
>>101
新米刑事「付き従う信徒、いや、それ以上に自分のタガになるつつある人間…それが『彼』か」×
新米刑事「付き従う信徒、いや、それ以上に自分のタガになりつつある人間…それが『彼』か」〇
誤字でした。
せっかくあすあすがカリスマたっぷりに意味深なこと言ってるのにw
このSSまとめへのコメント
このSSまとめにはまだコメントがありません