白菊ほたる「幸か不幸か」二編 (29)
これはまだ、あなたと彼女が出会う前のお話
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〈猫の籠〉
ある日、道端で籠を地面に置いている男性がいました
籠はプラスチック製で、蓋付き
蓋にはパチンと止められるようなフックが備わっています
ほたる(何の籠だろう…?)
蓋は半分まで開けられていて、中で何かが動いているのが見えます
子猫「にゃー」
ほたる「!」
ほたる「猫さん…」
「ああ、これか?」
私の独り言に男性が応えます
ほたる「すみません…」
あまり他人の持ち物を覗き込むのはよろしくありません
…謝り癖が出てしまいました
「こいつは、籠の中で野良猫に餌をやっているんだ」
ほたる「そう、でしたか…」
ほたる「すみません…あの、どうして籠の中で、野良猫に餌を?」
「この籠は便利なんだ」
ほたる「便利…?」
「籠の中に餌を入れて、こうして半分くらい開けて置いとく」
「猫は好奇心旺盛で、薄暗い場所が好きだ」
「こうやって置いておくだけで、勝手に猫が入って来るんだ」
ほたる「な、なるほど…」
子猫「にゃー」
猫さんは籠の中で、カリカリと与えられた餌を食べています
ほたる「…ふふっ」
「タオルか何かを敷いておけば、そのまま眠るヤツだっている」
ほたる「あなたは優しい人なんですね」
「そうでもない」
ほたる「では、猫がお好きな方なのでしょうね」
「いいや」
パチン!
男性はしゃがみ込むと、籠の蓋をパチンとフックで止めます
「俺は猫が大嫌いなんだ」
「この籠はこうやって野良猫とっ捕まえて、蓋してそのまま保健所まで持っていける」
子猫「にゃー」
ほたる「…」
「この籠は便利なんだ」
男性はそう言うと、中で猫さんが餌を食べているままに籠を持って行きました
ほたる「…」
ほたる(ごめんなさい猫さん。飼う事の出来ない私が口を出せる話ではないんです…)
ほたる(ごめんなさい…ごめんなさい…)
【別の日】
ある日、公園で女性と子供たちが地面に籠を置いていました
ほたる「!」
ほたる「…………」
少し迷った後、私は恐る恐るもその女性と子供たちに近づきます
「ねこさん、げんきでねー!」
「ばいばーい」
「みんな、猫さんにバイバイ出来たかな~?」
「できたー!」
「できたよ!」
籠の中には子猫のような影が見えます
ほたる「…」
ほたる(何が…行われているのでしょうか…)
私は勇気を振り絞り、声をかけてみる事にしました
ほたる「何を…していらっしゃるのでしょうか?」
ちょっとだけ声が震えてしまいました
「ああ、これはですね…」
「この子たちが怪我をした子猫を拾って、この公園でこっそり育てていたんですよ…」
(傷ついた)子猫「にゃー」
「ひろったー」
「ごはんあげたー」
ほたる「……ふぅ」
ほたる「なんだ。そうでしたか…」
少しだけ、安堵できた気がします
「でも、野良猫に餌をあげちゃいけないし、この子たちの家でも飼えないって言うから…」
ほたる「!」
ほたる(さっき、「バイバイ」って…)
ほたる「どう…なさるのでしょうか?」
「ああ、大丈夫よ。怪我をした野生動物を保護してくれる施設があるの」
「しせつでねこさんしあわせー」
「げんきでねーねこさん」
ほたる「よ、良かった…」
一瞬、ドキリとしてしまいました
心臓に悪いです…
「それじゃ、君たちはもう帰りなさい。お姉さんはこれから猫さんを連れていくから」
「ばいばいおねえちゃーん!」
「ばいばいねこさーん!」
「はい、バイバーイ」
手を振って子供たちは帰って行きました
ほたる「…とっても、とっても良かったです。猫さんが幸せに暮らせるようで…」
ほたる「あなたは優しい人なのですね」
「…いいえ。それは違うわ」
ほたる「では、猫がお好きな方なのでしょうか?」
「…いいえ。きっとそれも違う」
ほたる「…?」
「野良猫の保護施設や保護団体、どこも万杯で、これ以上の受け入れは出来ないそうよ」
ほたる「えっ……?」
「それに、あの子たち…怪我した猫に牛乳を飲ませてしまっているの」
「子猫は怪我以上に、牛乳を消化する事が出来ずに衰弱しているの…」
「おそらく、あと一日か二日以内には…」
ほたる「そんな……っ!」
「この子猫は、これからこの籠に入れて保健所まで連れて行くの」
子猫「…にゃー」
「だから、この猫さんは幸せに暮らす事は出来ないわ」
ほたる「…………」
「あの子たちにはそんな事言えないもの」
「ごめんなさいね、名も無き猫さん。せめて子供たちの夢の中で幸せに暮らして」
ほたる「ごめんなさい…ごめんなさい…」
「あなたにもごめんなさいね。どうしても、誰かに聞いて欲しくて」
「運悪くここを通りかかってしまったわね」
ほたる「…いえ」
そう言うと、女性は中にぐったりした猫さんの入った籠を持って行きました
ほたる「……ごめんなさい」
『やぁ、ほたる。どうかしたのかい?』
ほたる「今日もまた、私は不幸体質でした」
ほたる「ただそれだけの事ですよ」
『そうかい』
『好奇心は猫を殺すと言うけれど、猫は好奇心を持っても持たれても死ぬらしい』
ほたる「…」
『ねぇほたる。君が出会った人物はみんな何らかのかたちで猫を殺したよ』
『君の中で、男性と女性と子供たちに違いはあったかい?』
ほたる「…いいえ。ありません」
『どうしてだい?』
ほたる「私も、出会った人たちも、猫さんたちも、全員運が悪かった。それだけの話です」
『君がそう言うのなら、そうなのだろう』
ほたる「…もう行きましょう、xxxさん」
『もちろんさシンデレラ。城の舞踏会までの階段は険しいね』
『だがこんな不幸で膝を折る君ではあるまい。僕は君に付き従うよ』
『君が失くしたガラスの靴を探そう。きっと誰かが持っている』
ほたる「はい。今は私もあなたと共にありましょう。いずれかが二人を別つまで」
『実は次の仕事ももう決まっているんだ…
〈カナヘビとコオロギ〉
ある日、公園のベンチに座っていた時の事です
ササッ
カナヘビ「……」
ほたる「…」
ほたる(カナヘビさんが、ベンチに…)
カナヘビ「…」
ササッ
ほたる「!」
ほたる(の、乗った…)
ベンチに置いた私の手の甲に、カナヘビさんが登ってきてピタリと止まります
カナヘビ「…」
ほたる「…」
爬虫類と見つめ合うのは初めての体験でした
なかなか可愛らしい顔をしているのですね
カナヘビさんは私の手から動こうとしません
ほたる「私の手、冷たくありませんか?」
カナヘビ「…」
心なしか、穏やかそうな表情のカナヘビさん
私の手、居心地が良いのかな?
ほたる「そっか、あなたには私の手でも温かいのですね」
カナヘビ「…」
私の手の熱で岩盤浴を始めたカナヘビさん
ほたる(…動けなくなってしまいました)
カナヘビ「…」
「あー!カナヘビだー!」
ほたる「…?」
7、8歳くらいの男の子が私の元へ駆けよって来ます
「そのカナヘビお姉ちゃんが捕まえたの?いいなー!」
ほたる「ここに座っていたら、この子が登ってきたんですよ」
「すげー!オレ、カナヘビ探してたのに全然捕まえられなくってー!」
「捕まえられたのコオロギばっかり!」
ほたる「コオロギさん?」
そう言うと、男の子は私に虫かごの中身を見せてくれました
「ほらっ!いっぱい取った!!」
コオロギ「コロコロ」コオロギ「コロコロ」コロコロ
コオロギ「コロコロ」コオロギ「コロコロ」コロコロ
ほたる「…」
私は虫も爬虫類も、一匹なら可愛いと思えるのですが…
たくさんは、少し苦手ですね…
「カナヘビと一緒に飼って、コオロギをカナヘビのごはんにすんの!」
ほたる「ごはん、ですか…」
「お姉ちゃん、そのカナヘビさー、オレにちょうだい!」
「ごはんいっぱいの幸せな虫かごで、大事に飼うからさー!」
ほたる「ごはんいっぱいで幸せ…」
カナヘビ「…」
私の手の上で、うたた寝でもしているのか
カナヘビさんはまったく逃げません
カナヘビさんと、男の子と、ここで出会ったのも何かの縁
この子の幸せな住まいを提供してくれると言う彼に預けてみましょうか
ほたる「では、この子を幸せにしてあげてくださいね」
「やったー!いいの!?幸せにするー!!」
カナヘビ「…」
コオロギ「コロコロ」コロコロ
「うお~!すっげー!カナヘビだ~!!」
男の子は虫かごにカナヘビさんを入れると大喜び
「ありがとーお姉ちゃん!オレ、今日ここ来てラッキーだったわ!」
ほたる「そうですか。それは良かったですね」
「じゃーねーお姉ちゃん!バイバイ!」
ほたる「はい。さよ…バイバイ」
そう言うと、男の子は駆けて行きました
『やぁほたる。お待たせ。ナンパされていたのかい?』
ほたる「ええ。カナヘビさんが」
『なるほど。そうらしい』
『さて、そろそろ行こう。明日も同じ時間にこのベンチに来るからね』
ほたる「はい、xxxさん」
【翌日】
翌日、同じ時間にまたベンチに座っていると、またあの男の子がやって来ました
「あー!昨日のお姉ちゃんだー!」
ほたる「こんにちは」
ほたる「あの子は元気にしていますか?」
「今虫かご持ってるよ」
「でもカナヘビ、土に潜ったのかな?今朝から姿見えないんだよね…」
ほたる「そうですか…」
ちょっとだけ、会いたかったですね
ほたる「……」
ほたる(でも、虫かごの土はそんなに深くないような…)
あの子が隠れられるほどの深い土の層は虫かごの中にはありません
コオロギ「コロコロ」コオロギ「コロコロ」
虫かごの中にはコオロギさんたちしか見えません
『食べられたんだよ』
ほたる「!」
ほたる「…xxxさん?」
『カナヘビはコオロギに食べられたんだ』
『コオロギは肉食性の虫だからね』
「食った~!?コオロギがー!!」
ほたる「……!」
『カナヘビは虫を食べるけど、この量のコオロギ相手なら多勢に無勢だ』
『きっと昨夜のうちに残らず食べられてしまったのだろう』
ほたる「…そんな」
「……」
男の子は茫然自失の状態で虫かごを見つめてい…
「すっげー!コオロギすっげー!カナヘビ食っちゃったー!!」
ほたる「…」
「オレ、カナヘビ飼おうかと思ってたけど、やっぱコオロギ飼う!」
「どっちでもいいや!!」
ほたる「……!」
「じゃーねお姉ちゃん!ごめんな!もらったカナヘビ、オレのコオロギが食っちまってー!」
そう言うと、男の子は駆けて行きました
「バイバーイ!」
ほたる「…はい」
ほたる「……さようなら」
『さて、ほたる。この場合は誰がどう運が悪くて、誰がどう運が良かったのだろうね?』
ほたる「運の良い出会いと、運の悪い出会いが重なっただけですよ」
ほたる「カナヘビさんは運悪く私と出会い、男の子は運良くカナヘビを持った私と出会った」
ほたる「その中間にいた私にとっては……」
ほたる「……どっちでもいい話だったのでしょう」
『そうかい』
ほたる「行きましょう、xxxさん」
『ああ、シンデレラ。君が失くしたガラスの靴を探しに行こう。きっと誰かが持っている』
『僕はそれまで君に付き従うよ』
ほたる「ええ。今は私もあなたと共にありましょう。いずれかが二人を別つまで」
『そうだ、ほたる。次の仕事は二つ候補があるんだが…
あなたと出会う前に、謎の人物と仕事をしている
ほたるちゃんの幸か不幸かなお話でした
今回は二本立てでおしまい
いずれまた書くかもしれません
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