男「惚れ薬・・・ねぇ」(31)
男「手に入れたはいいけどどうしろって言うんだこれ」
男「というか本物かこれ?」
『意中の子に飲ませればアナタにべたぼれ! 成功確率10000万パーセント!』
男「実に胡散臭い・・・」
男「・・・なんでこんなバカみたいなもん買っちまったんだ俺は・・・」
男「こんな嘘くさい商品を買ったとか誰かにバレたりしてみろ」
男「笑いものじゃなすまないぞ……」
男「……」
男「それにしてもいい色してるなあ。ブルーハワイみたいな」
男「瓶は女性向けっぽい丸いデザインだけどオシャレだし」
男「声をかけてきたのは、めちゃくちゃ怪しげな人だったけど」
男「なんだか、その日その日を路上で暮らししてますみたいな」
男「意中の子……好きな子……」
『女「男くんだ。おっはよー」』
『女「いい汗だね。疲れが飛ぶ魔法のスポーツドリンクだよー。ねえ、好き?」』
『女「授業中眠たそうだったね。どしたかなー? 夜更かししちゃたかなー?」』
『女「はへへ。起きたね。私の顔が近くにあってびっくりだったねー。うえへへ」』
『女「実は男くんの匂いをちょっとだけ嗅いでました。……ヒミツだよ?」』
『女「臭くなんかないよ。私にはいい匂いなんだなあ、それが。ふひひ」』
男「はへへ。匂いをちょっとだけ嗅いでましたぁー……かわいっ!」
男「そんなことを間近で言われたら惚れる意外にすることある?! ないでしょ!?」
男「心を落ち着かせるためにまず一旦惚れますやん! 惚れてからですやん!」
男「なんですか!? 匂いを嗅ぐってなんですか?! なんで嗅ぐんですか!?」
男「空気に俺のフレーバーがないと呼吸不全に陥るとかそんなのですか!?」
男「そりゃあ、女さんが俺に惚れてくれれば嬉しいよ。だってそうでしょ」
男「あの女さんよ。ギネス級の可愛さよ」
男「天使を超えた天女よ。伝説の天女よ。羽衣伝説さんよ」
男「その女さんが俺のことを好きになってくれるなら……なあ」
男「暗黒面に堕ちるくらいわけでもないってもんですよ」
男「一瞬よ。ほんの一瞬。決意から決行までは光の速度」
男「やっちゃうか? 女さんに一服盛っちゃうか?」
男「いつ。するとしたらいつ。考えろよ。企めよ、俺」
男「……」
男「…………」
男「………………」
男「いやぁ、それはどうよ。だって、好きな子に毒を飲ませる、普通?」
男「こんなのが知れたら周囲はドン引きよ。間違いなく」
男「信頼はおろかモラルもポリシーもプライドもないですやん……」
男「バレたらどうなんの? 好きな子を手に入れる代償が信用の喪失だなんて……」
男「……ノーリスクハイリターンじゃね?」
男「え? 欲しいもの手に入ってるよね? 信用を失うだけで済むなら安くね?」
男「実質無料じゃん。お高い入会費を我慢するだけで年会費はタダ!」
男「年会費はタダ! タダ!」
男「んんんんー、これはやるしかない! するしかない!」
男「一度決めたら覆さない。それが平成男児に求められた決断力よ」
男「じゃあ、いつ? いつ盛る?」
男「俺が学校に持っていく水筒に混ぜてみるか」
男「媚薬は家で仕込むから見破られようがない。いいな。かんぺきだ」
男「登校する。教室に入る。女さんに近づく。水筒を出して蓋に注ぐ」
男「『おはよう、女さん。今日は暑いね。お茶一杯どう』」
男「『男くんおはよう。お茶? いらないよ。なんで?』」
男「『なんで?』。なんでってなる。朝一番にお茶を出されたら普通はなんでってなる」
男「……そもそもどれくらいの量を飲ませればいいんだ?」
男「一滴? 半分? 一瓶丸々?」
男「このブルーハワイ色を一瓶丸々? ばっかじゃねえの?」
男「すっげえ青色になるに決まってんじゃん。どんな料理にもあわねえよ」
男「ねえよ。真っ青な料理なんて普通は出てこねえよ。危険色だよ」
男「たとえ一滴だとしても、水筒に混ぜるとなれば薄まるわけじゃん」
男「一滴だけ落としたところで中では千倍以上に薄くなるでしょ?」
男「そんなの効果が出るわけないじゃん。まずこれを女さんに全部飲み干してもらうのか?」
男「ない。無理。だから、どばっと入れたら色のおかしさで気付かれるじゃん」
男「しかも味も確かめてないし。苦いのか? それとも渋いか?」
男「この青色で甘い、辛い、酸っぱいはないだろ」
男「そもそも『成功確率10000万パーセント』ってなんだよ」
男「いちまん万パーセントじゃねえかよ」
男「発想が小学生じゃん。意味わかんねえよ」
男「やたら大きく見える数字を出せばいいって」
男「もう脳みその出来が小学生と同等じゃねーか!」
男「そもそも惚れ薬ってなんだよ! ネーミングが安直かよ!」
男「あーもう……なんで買ったんだよ……盲目すぎんだろ……」
男「罪悪感と自己嫌悪がやべえ……」
男「……使うのか……これ?」
男「……使おう。そのために買ったんだ。もうなんて言われてもいいさ」
男「絶対に、絶対に惚れさす! 女さんは、俺が、好きだ!!」
男「うおおおぉぉぉおおぉぉっ!!」
――――――
――――
――
朝:教室
『おっはよー』
『おはよう』
『うーっす』
男(入れたーっ! 水筒に入れて持ってきたーっ!)
男(よく考えたら、俺、水筒なんて普段持ってきてねー!! バカかよ!!)
男(挙動不審が珍しく水筒を持ってきて人様に差し出す?)
男(軽犯罪だわ! でなければ条例違反だわ! 罰則対象だわ!)
男(完っ全にやらかしたー……)
「おっはもーにん!」
男「――――――っ!?!!」
女「うぉっ。……大丈夫?」
男「おおおおお、おおん! おん! おん! おおぉん!」
女「お、おおん?」
男「女さんか……びっくりしたー……」
女「ちょっとしたどっきりのつもりだったんだけど……なんか、ごめんね」
男「いや、大丈夫。馬鹿みたいな考え事してただけだから」
女「悩み事? 男くんの悩み事?」
男「そんなに疑問を持つほど?」
女「なんか珍しいなあって思って。いつも明るく元気そうにしてたから」
男「まあ、あるんですよ。俺にも目下の悩みが」
男(目下というか目前の、つーか目先の? 目の前にな!)
女「なんだろう。勉強は順調そうだし。友達は多いし……」
女「家族関係? んー、なんだろう……ヒント!」
男「クイズじゃねーよ。ヒントも正解も出さねーよ」
男(答え、お前だし!)
女「てへへ、そうですよねー」
男(やっべ。顔あっつい。女さん、近付きすぎ。めっちゃ恥ずかしいんだけど)
女「あ、男くん水筒持ってきたんだ」
男「夏だからな。持ち歩いて損……は……」
男(飲もうとしたー! 自分で出して注いで飲もうとしたー!!)
男(っぶねー。落ち着け、まだ俺は飲んでない。稀代のナルシスト爆誕寸前だったわ)
男「……」
女「男くん? どうしたの?」
男(出したらダメじゃん! 俺が飲む流れじゃん!)
男(ここから『飲む?』とか言い出したら不自然極まりないじゃん!)
男(戻す? 今から戻すか? やっぱり喉渇いてませんでしたアピールでしのぐか?)
女「お、男くーん?」
男「あー……間違たわー……」
女「間違えたの?」
男「喉渇いてなかったわー。だから水筒は鞄にしまうわー」
女「……あ、うん」
男(あ、この目知ってるわ。前に見たことあるわ。ダメなやつだわ)
男(遊びで俺のベッドの下に潜った妹がAV片手に出てきたときにこんな目してたわ)
男「あ、そうだ。女さん、これ飲む?」
女「え? いい」
男(『いい』! 『いい』ってなった! よくない感じの『いい』だ!)
男「だよね……。そりゃ飲まないよね……。俺だって飲まないもん」
男「出した俺が飲まないんだから誰も飲まないわ」
女「お、お昼休みにね。お昼休みにもらおっかなー」
男「いや……いいよ。なんか、ごめん。俺が間違ってただけだから……」
女「……あ、あのね!」
男「ん?」
女「お昼休みに、一緒にご飯食べない?」
男「……俺が、女さんと?」
女「そう! 私が、男くんと!」
男「いいの?」
女「いい?」
男「……うん」
女「ほんとに?! いいの!?」
男「う、うん。いいよ」
女「じゃあ決まり! 絶対にだよ! 『やめた』はナシだからね!」
男「特に予定ないし、そんなこというつもりはないけど……」
女「はぁー、緊張した。よかったぁー。心臓バクバクー」
男「そんなに?」
女「変な汗たくさんかいたから喉渇いちゃった……」
男(喉……渇く……っ!)
男「女さん! 俺、水筒持ってきて」
女「私も水筒あるから大丈夫」
男「スー、そっすよねー。いやー、あるならいいんすわ」
女「……男くんも飲む?」
男「女さんの?」
女「あ、でもこの蓋、私さっき使ったから……」
男「じゃー、一杯だけもらっちゃおっかなー」
女「私使ってるけど、いいの?」
男「いや、全然。俺、そういうの滅茶苦茶気にする純情タイプだし」
女「気にするなら」
男「一杯だけ」
女「男くんが大丈夫なら……はい」
男「……いただきます」
女「……おいしい?」
男「わりと甘め?」
女「この前に男くんが美味しいって言ってくれたからまた作ってきたんだ」
女「男くんが好きって言う魔法のスポーツドリンク」
おわり
1レス目だけ書き方が違うのは乗っ取り損ねて落ちたスレから引っぱってきた分
青春どっかにおちてねーかなー
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