【モバマス】フルート農家の朝は早い (20)

毎朝6時に起きてフルート畑の様子を確認する。

なぜ毎朝確認するんですか?

水本ゆかり「この仕事を始めてすぐの頃は、よく荒らされていたんです」

ゆかり「夜行性の音楽家でしょうね」

ゆかり「今は対策しているので大丈夫なんですが、心配でつい見に行ってしまうんです」

つらくありませんか?

ゆかり「いいえ。愛情をかけてあげればちゃんと応えてくれますから」

汚れのない笑顔を見せる彼女に、記者はすっかり魅了されてしまった。

ちなみに対策というのは?

ゆかり「BPM138のメトロノームを一定間隔で配置しています」

137でも139でもダメだという。

恐るべきこだわりである。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1501508429

一つ一つフルートの木を見て回り、弱っている枝があれば

他の枝の成長を阻害しないよう切り取る。

そうこうしていると、全て見て回る頃には2時間近く経っていた。

朝食を済ませてからでもいいのでは?

ゆかり「言われてみれば……あの時間でなければいけない理由はありませんね」

ゆかり「ありがとうございます。明日からそうします」

意外と天然かもしれない。

朝食を済ませた水本さんは、フルートの調整作業を始めた。

収穫したフルートは1ヶ月以上乾燥させ調整を施すのである。

調律とは違うのですか?

ゆかり「調律は音合わせのことで、フルートは大抵チューニングと言います」

ゆかり「今私が行っているのは、ちゃんと音が出るようにする作業です」

ゆかり「まだ調整していないものを吹くと……」

プスーと気の抜けるような音だった。

とてもフルートとは思えない。

ゆかり「こちらは調整を終えたものです」

~♪

心地よい音色があたりを満たす……。

なぜか一瞬で、数時間経っているようだった。

部屋に差し込む日光の角度が明らかに違う。

ゆかり「あっ、目が覚めんたんですね。よかった」

ゆかり「もう少し待って目を覚まさなければ救急車を呼ぼうかと」

ええと、わけが分からないんですが。

ゆかり「ごめんなさい、うかつでした」

ゆかり「出荷前のフルートは旋律が心地よすぎて、意識が飛ぶことがあるんです」

ゆかり「私は慣れているので平気なんですが……」

質の高い楽器にはそういうことがあると耳にします。

誇っていいと思いますよ!

ゆかり「ええ、でも……せっかく取材に来てくださった方をそんなことに」

では何か聴かせてもらえますか? あっもちろん、意識が飛ばないやつで。

ゆかり「ふふ……分かりました。今すぐが良いですか?」

いつでも、水本さんの都合のいいときに。

ゆかり「それでは先に調整作業を終わらせますね」

作業は音孔の大きさや形を調整する。

乾燥させたフルートを色んな角度に動かし削っていくのだ。

フルートを脇にはさんだり、胸に押し付けたり。

太ももに挟んで削ったりもする。

素人目にはもっと作業しやすいポーズがありそうなのだが、

プロにしか分からない何かがあるのだろう。

ある程度形になったら実際に吹いて音を確かめる。

先程の反省をふまえ、記者は耳栓をした。

試し吹きをしたら再び、しっとり汗ばんだ太ももに挟んで削る。

どうやらあれが一番作業しやすいらしい。

ちなみに水本さんは薄手のTシャツにショートパンツという非常にラフな格好である。

本当はスカートが好きだが作業しづらいためとのこと。

ゆかり「うーん……」

何本目かの作業ではじめて、納得していないような声を聞いた。

なにかあったんですか?

ゆかり「どう調整しても良い音が出ないんです。残念ですけど、これは出荷できませんね」

こういうことは良くありますか?

ゆかり「そうですね……週に1~2本くらいでしょうか」

ゆかり「自己満足かもしれませんけど」

ゆかり「すべての子をちゃんと出荷させてあげるのが理想で目標ですね」

出荷できないフルートはどうするのですか?

ゆかり「水に漬けておけば柔らかくなるので食べます。磯辺揚げが美味しいですよ」

それはもしかして、ちくわ

~♪

あれ……? もう夕方になっている。

ゆかり「今日の作業は終わりました」

あっはい。

椎名法子(モグモグ)

おや、こちらは?

ゆかり「お友達の法子ちゃんです。食事する約束をしていたので」

そうでしたか。邪魔にならないうちに帰ったほうが良さそうですね。

法子「お土産にドーナツいる? 今日、あたしが獲ってきたんだ」

獲ってきた?

ゆかり「法子ちゃんはドーナツ猟師なんです」

法子「はい、オールドファッションとシュガープレーン」

ありがとうございます。ではまた明日伺います。

取材二日目。

昨日いただいたドーナツ、とても美味しかったと伝えていただけますか。

ゆかり「ふふ、分かりました。法子ちゃんも喜ぶでしょう」

とれたてがあんなに美味しいとは知りませんでした。

ゆかり「フルートも同じで……そうそう、お聞かせするんでしたね」

イメージを損ねてしまうから、ということで水本さんは作業着から清楚な白いワンピースに着替えてくれた。

フルートを口にあてがうと、すっと表情が変わる。

一面真っ白な雪に覆われた妖精の国を包み込む、春風のような暖かい旋律。

フルート奏者としてもかなりの腕前を持っているようだ。

記者一人で独占できるとは、なんと幸運だろう。

昨日は調整作業を見せていただきましたが、その後は何をするのですか?

ゆかり「きれいな音は出るようになりましたが、一本につながっていますのでチューニング出来ません」

ゆかり「三分割すればジョイントの抜き差しでチューニング出来るようになります」

どうやって分割しますか?

ゆかり「以前はイトノコギリを使っていたのですが、断面が荒くなるので今は……これを」

サプリメントですか?

ゆかり「はい、1錠飲めば4分19秒空手の達人になれるので、手刀で切断しています」

ゆかり「ちなみにこの『恋色エナジー』は、お友達が最近栽培に成功したものです」

恋色エナジー \667 +税 好評発売中です。

ゆかり「では始めます。危ないので離れてください」

ゆかり「……やあっ!」

固定したフルートに素早く手刀を振るう。

豆腐のようにスパスパと小気味よく切断されていった。

切断面も非常に滑らかで、これならヤスリがけなども必要ないだろう。

それにしても、ガイドもないのに全て同じ長さで切断されているのは驚きである。

しかもジョイント部の段落ち処理まで済んでいる。

匠の技と言うほかない。

ゆかり「ふうっ、いつもより早く終わりました」

ゆかり「取材だから張り切ってしまったんでしょうか。うふふ」

お疲れ様です。

早く終わったということは、まだ『恋色エナジー』の効果残ってますか?

ゆかり「ええ、そのようです」

ほかにどんなことが出来るんでしょう?

ゆかり「さあ、あまり試したことないのですが……試してみましょうか!」

えっ。

なぜか記者が正拳突きを受け止めることになってしまった。

後から聞いた話になるが、『恋色エナジー』を飲むと体育会系の性格になるらしい。

ゆかり「動かないでください……せいっ! あっ!」

どうやら正拳突きを放った瞬間効果が切れたらしく。

水本さんはバランスを崩し。

その結果、記者の胸に飛び込む形になった。

あぁ、すごく柔らかい~。

手刀で汗かいてるはずなのにちっとも嫌な匂いしないです~。

ハッ、ダメダメ。

お仕事モードが崩れちゃう。

こういうとき落ち着く方法は……。

あぁっ、水本さんを受け止めてるからメモ取り出せないよぉ~っ。

ふええっ、メモ、メモはどこ~?

ゆかり「ご、ごめんなさい。受け止めていただいて……」

い、いえっ、あの、メモが柔らかくて、手刀が良い匂いです!

ゆかり「え?」

な、なんでもありません~!

ちょっとしたドタバタはあったがフルートの分割作業まで見せてもらった。

……。

…………よし、ちゃんとお仕事モードできてる。

ゆかり「?」

えー、あとは……これで完成ですか?

ゆかり「組み立てて終わりですね」

さすがに特別な技術はいらないだろうが、我が子に接するように優しく、一つずつ丁寧に組み立てていく。

ゆかり「んっ……これは、ちょっと……キツイ……っ」

どうやら段落ちの浅いものがあったようだ。

ゆかり「んんっ、くふうっ……!」

そんなに強引に差し込んで大丈夫ですか?

ゆかり「いえ、抜けなくなってしまったんです」

ゆかり「フルートは生物ですから、たまにこういう……ことも……んっ」

手伝いましょうか。

ゆかり「気持ちは嬉しいですが、これも私の仕事、責任があります。一人でやらせてください」

ゆかり「それに、手のかかる子ほど可愛いっていうでしょう?」

ゆかり「はぁ……んっ! もうっ、困った子ね……」

ゆかり「くくっ……! んんん~っ」

ゆかり「…………手強い」

ゆかり「こうなったら太ももで挟んで……ふふふ」

ゆかり「絶対抜いてあげますからね」

※ フルートの分解です。

ゆかり「こんな……キツいの、は、初めて……ううっ!」

ゆかり「はあっ……! ふっ、んん、あああっ!!」

ゆかり「はーっはーっ……ああ、熱い……」

ゆかり「汗だくになっちゃった。でも、上手く出来て良かった……」

※ フルートの分解です。

ゆかり「お見苦しいところをお見せしてすみません」

フルート一本一本と真剣に向き合っていることは伝わりました。

ゆかり「今更ですけど、さっきのも公開するんですよね?」

ゆかり「熱中して変な顔になってなかったでしょうか」

特に気になりませんでしたよ。一応後でチェックしますけど。

ゆかり「もし変な顔になっていたら、顔にモザイク入れてもらえますか?」

技術的には可能ですが、それはそれで……。

ゆかり「無理なら、映像だけ違うものに差し替えてもらうとかお願いします」

想像を掻き立てられて、かえっていやらしい映像になりそうだなぁ、とは言えない。





水本ゆかり様。

えーと、挨拶定型文をコピペして……。

完成原稿を添付いたしますので、何か問題があったらお教えください。

送信……っと。

間中編集長、どこほっつき歩いて……えっ、次の取材取ってきたんですか?

すごい、世界で初めて眼鏡の養殖に成功した人じゃないですか!

はーい、そろそろ帰ります~。

なぜか無性に磯辺揚げが食べたい。スーパーに売ってるかな?

あれ? ちくわは……フルート? うっ、頭が…………。

……。

…………。

さーて、早く帰ってちくわの磯辺揚げ食べようっと。





取材記事が公開されると各地の楽器店でフルートの売り切れが続出した。

さらにフルートの注文が前年の5倍になったが、手作業のため制作数は増やせず高騰を続けている。

終わり

ゆかりは清楚エロい
太ももでギュッポギュッポしたフルート食べたい

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