男「蜜柑と月」 (22)

男(オカルト倶楽部)

男(うんまぁ、口に出してしまうと自分でも肩の力が抜けるくらい陳腐で幼稚な響きだ)

男(成人してからも暇な時にゃこうしてバカ三人集まって、オカルトとかいう眉唾を追い求めてる)

男(いやぁ、何度考え直しても馬鹿らしいな)

友「何してんだ?」

男「調べてんだろーが…!お前が調べねえからよ……!」

友「おー、流石、俺にゃそういうのは無理無理」

男(こいつはいつも俺任せにしやがって……)

友「顔に出てるぞ」

男「たまにはリーダーらしいことしろっての」

友「あれ?そういや女は?」

男「さあ、しょうもないオカルト騒ぎにもう飽きたんじゃねーの」

友「おま……なんつう酷いことを……」

コンコン

女「…」

女「…何してんの?」

男「馬鹿がリーダーらしいことしないから俺が探してんだ」

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女「……へー……私から見ればどっちも馬鹿だけど」

男「集めるだけ集めといて何もしないバカの方だ」

女「なるほどこっちの方か」

友「ひでぇ!」

女「…それで、なにか面白そうなのは見つかった?」

男「…いいや、不気味な館、口裂け女、腎臓泥棒、どれも聞いたことあるような、それでいてもう既に謎解き済みの様なのばっかりだ」

女「ま、そうよね」

友「お、女いいもん持ってんじゃん」

女「…あ、これ?知り合いから貰ったんだけど、食べる?」

友「蜜柑常備とか女子力高えなー、頂きます」

男「そうだな、おばあちゃんみたいだな」カタカタ

女「…」スッ

男「…んん…?」

女「…おばあちゃん?」

男「…お姉さん」

女「はい」

男「…」ムキムキ

男(つってもなー…このご時世都合のいいオカルトなんてねえんだよな…)パクパク

男(海外になら割と面白そうなのがあるけど、現実的じゃねえしなぁ)

男(…ん?)

友「どうした?裸の女でも走ってんのか?」

男「…」

男「裸の女ならまだマシかもな…裸の男の子だ」

女「最低」

友「お前そんな趣味が…」

男「ねえよ!つーか本当だっつーの!」バァン!!

男「…おい!おい!!」

「…!」

男「お前こんな夜遅くに何してんだ!早く帰…っておおお!!!」ガシャァン!

友「ほー、まさかの男の子の方がそっちかー、熱の篭った抱き着きだな」

女「言ってる場合!?」





男「…で?」

男「大の大人を吹っ飛ばした理由を聞こうか」

男の子「…あの…その…」

男「何だよ、吃るほどの事じゃねえだろ、何してたんだお前…こんな夜遅くに…」

友「はいはい、顔が怖いお兄さんは引っ込んでような」

女「蜜柑食べる?」

男の子「…」コク

男「誰の顔が怖いんだよ!おい!」

友「お前は子供の扱い方っていうのが分かってねーなー、こういう小さい男の子は目線を合わせなきゃダメなんだよ」

友「…で、どしたー?家出か?少年」

男の子「…そんな感じ」

友「やれやれ、参ったな…とりあえずなんか着たらどうだ?パンツ着てるとは言え素っ裸じゃ体冷やすぞ」バサッ

男の子「…あ…ありがとう…」

男「ちっ…なんだよ…もがっ…」

女「はいはい拗ねないの、蜜柑食べて落ち着いて」

友「んで家出少年、何があったんだ?割と世間知らずで通ってる俺達でも、お前みたいなのが半裸で夜の街をうろつく状況はおかしいぞ」

女「え?嘘でしょ?私も世間知らず?」

男の子「…」

友「言えねーか、まぁ仕方がないっちゃあ仕方が無いわな、わけアリって感じだもんな」

友「どうするよ?男」

男「リーダーはお前じゃねえのかよ」

友「どうするよ?参謀」

男「…」

男「…まぁ、普通に考えて警察に保護してもらうってのが1番だな」

男の子「…!」フルフル

友「…まー、そんな気はしてた」

友「俺と男じゃー、考えの及ばない何かに取り憑かれてる、そんな感じか?」

男の子「…」

男(…)

男(…見覚えがないわけじゃない、この手首、どう考えても…)

女(…)グッ

男(自殺…目的じゃないにしても、ここまで追い詰められてるのは…)

男「それ、自分でやったのか?」

男の子「…あ…!」サッ

男「…」

友「デリカシーゼロ彦」

男「なんだとマザコンクソ野郎」

友「あっ!?言っちゃいけないこと言ったなお前!?」

男「お前それ、自分で望んでやったのか?…そんな事をやんなきゃならない状況なのか?」

男の子「…そんな、感じ…」

男「…ったく」

男の子「…ごめん、なさい…悪いことって…分かってるんだけど…ごめん…ごめん…!」

男「そんな事ねーよ」

男の子「…?」

男「自殺の真似事なんかして、それでもそうしなきゃ生きられないってなら、お前は生きるために切ったんだろ」

男「生きるためなら、何も悪い事じゃねーよ」

友「…」

女「…」

男「ま、見せたくねーってのが当たり前だろうし、当分はそのきったねぇジャケット着とけ」

友「俺のジャケット汚いか?」

女「綺麗ではない」

友「…」ショボン

男「ここにいる間はそれ着とけ」

男の子「…いいの…?」

男「いいも何もお前帰るところがねえんだろうが」

友「でもよ、いつかは警察かどっかに連れてかなきゃいけないぞ」

男「常識的にはな、お前がいっつも言ってるじゃねえか、不謹慎でも非常識でも楽しければそれでいいって」

男「…ったく、サイコパスみたいだよなお前って」

男「まぁ、だから、帰りたくなったらとっとと帰れ」

女(もうちょっとまともな言い方出来ないのかしら)

友(出来ないだろうなぁ、素直じゃない馬鹿だから)

男の子「ありがと…お兄さん」

男「…おう」

友「…」

女「…」クスクス





友「寝ちまったな」

男「…やっとこさ落ち着けたって感じの顔だな」

女「それで、どうするの?いつまでも置いておけないってのは分かってるんでしょ?」

友「そうだな…でも帰すっつってもな…」

女「…まぁ、あの傷を見ればね」

男「…」

女「別に気にしないでいいってば、私がそういうことをしたのはもうずっと昔の話でしょ」

男「…」

女「言ったじゃない、私もおんなじ」

女「生きるために切ったんだから」

男「…そうか」

友「…ん?」

友「…なー、これなんだ?」

男「…あ?」

友「…この、刺青みたいなの」

男「…なんだこれ…?」

男(…いや、どっちもちょっと考えればよくわかる)

男(分かるけれど、それがどういう因果関係にあるのかがさっぱりわからない)

女「…蜜柑と…」

友「…月?…だよな?」

男「蜜柑と月の刺青?…なんだそりゃ…さっぱり意味がわかんねえ…」

友「傷ばっかりに目がいってたな、見ろこれ」

友「肘、膝、首の後ろっかわ」

友「こんなもん、普通の子供は入れないぞ」

男「…虐待じゃなくて、そっち系の可能性も出てきたか…」

男「…」カタカタ

友「お?」

女「…」ヒョイ

男「蜜柑と月…刺青…」カタカタ

友「…なになに?家紋…?」

男「…」

友「代々呪術師の家系である○○家は…蜜柑と月の紋様を家紋として…」

男「…それを受け継ぐものは、この家紋を体に刻み込む」

女「随分と古めかしいわね」

友「…だな」

男「…ふん、今時ふざけたセンスしてるな」

男「…このだせえ紋様も、こんなガキに刺青入れる神経も」

男「…何一つ理解できないね…!」

友「…ん?ちょっと待てこれおい!呪術師っ!?」

男「やっぱり食いつくか」

友「おい!これってまさしく俺らが探してたオカルトじゃねえかよ!」

男「…アホか、呪術師なんてもんは存在しねえんだよ、よってオカルトも存在しない」

女「…まぁ、そう考えるのが妥当よね…呪術師なんて、現代じゃなくても眉唾物だわ」

友「おいおいつまんねぇこと言うなよ、たとえ眉唾の偽物だったとしてもそれを追うのが俺たちだろ」

男「明らかに有り得ないもんはなぁ…」

友「うるせーリーダー命令な、お前ら2人はこの蜜柑と月についての情報を集めること」

女「友は?」

友「こいつの世話をする」

男「はぁっ!?どう考えてもお前の方が楽じゃねーか!」

友「ほー、お前に子供の世話ができるのか?顔の怖いお兄さんと、無愛想なお姉さんに?」

男「ぐぬぬ…」

女(無愛想かなぁ…)

友「ほれ、暇があったら俺に報告な、んじゃ、そういう事で」

2日後



男「さて、どうするよ?」

女「縄で縛って山に捨てるって言うのはどう?私たちのありがたみがわかるかも」

男「そりゃ友の抹殺方法じゃねえか、なんつうこと言い出すんだお前は…」

女「蜜柑と月について調べろって言われてもねぇ…」

男「ま、とりあえずはその呪術師ってのがマジもんかどうか確認した方がいいだろ」

男「絶対ありえないから、嘘だったっつー証拠を掴めば友も納得するだろ」

女「つまり?」

男「潜入捜査?」

女「ほんと男って生き物は馬鹿ばっかりね…」

男「何でだよ!」

女「潜入捜査なんてどうするのよ…?弟子入りでもするってわけ?」

男「いや、ジャーナリストみたいな感じ」

女「…」

女「それってもう潜入じゃないわよね?」

男「似たようなもんだ」

女(何だかんだ友のためならやる気になるのよね…こいつ)

男「さて…じゃあジャーナリストっぽい服装を揃えに行くか」

女「え?」

男「買い物だよ、万年ジャージ女がジャーナリストなんて誰も信じないだろ」

女「ジャ、ジャージは動きやすいのよ!」

男「動きやすさとっぽさってのは関係ないだろ、ほら行くぞ」





男「…改めて見ると…」

女「ものすごい大きい家ね…」

男「門を叩くのを躊躇うくらいのでかさだな」

女「すいませーん」コンコン

男「おいっ!?」

女「…何よ…私の格好何か変?」

男「いや、そうじゃなくて気持ちの準備ってのがな…!」

女「行きあたりばったりのことばっかりしてたくせに準備も何も無いでしょ、こんなのは気後れした方の負けよ」

女「すみませーん!あのー!ジャーナリストの者ですけどー!!」

男(肝座ってんなこいつ…)

ガコン

男「ひえ…」

男(呪術師!?百歩譲って格闘家だろ何だこの筋肉!?呪いじゃなくて拳で人殺してるだろ!?)

「…なんだ」

女「呪術師の方がこちらにいると聞いたのですが」

「…」

女「よろしければ取材などさせてもらえませんか?謝礼はもちろんします」

「帰れ」

女「…」

「私たちの神聖な術をお前らなぞに見せるわけには行かん、わかったらとっとと帰れ」

女「見せられない、のですね?」

「何?」

女「いえ、そういうことならばそれでいいんです、見せられなかったという事実を私達は書くだけですので」

「…お前…」

女「それでは」

女「男くん聞いたわね、呪術師さんたちは呪術を見せられなかった、これで行くわよ」

男(なるほど上手い)

女「よし、これで今回の見出しは…!…!?」

男「…?…おい!女!?」

女「…ぐっ…!」

女(肺が潰れる…!心臓が…!ぐぅぅ…!)

男「おい!しっかりしろ!おいっ!?」

「何を言ってるのか分からんな、お前らは何も書かなくていいのだ」ググッ

女「…んっ…はぁっ…!!ぐぅえええええ…!」ビシャビシャッ

「分かったか?呪いは見せるものじゃなくてかけるものだ」

男「おい!分かったからもうやめろ!」

「…」ググッ

女「…あ、ががが…!!ぎぃぃええええっ…!!!」

男「…このっ…!お前…!!」

「次余計なことをしてみろ、殺してやるぞ、私たちにかかればお前達の心臓を潰すことなど赤子の手をひねるより簡単だ」バタン

女「はぁっ…!はぁっ…!」

男「…おい!女!」

女「…大丈夫…」

男「んなわけねぇだろ!吐いてんだぞ!」

女「…」

女「…これで…分かったわね」

男「…は?」

女「…呪いは本物…呪術師は本物よ…」

男「…!」

男「そ、そんな訳…」

女「…流石に私も…何もせずに吐けるほど器用じゃないわよ…?」

男「…ちっ…クソ…」

男(…何だよ…マジであるってのか…?呪いなんつー馬鹿げたもんが本当に…!?)

女「…元々、オカルトが存在するっていうのは知ってたことでしょ…?」

男「…」

女(…さぁ、でもこれでいよいよ分からなくなってきた)

女(あの大男の肘にも膝にも、紋様はない…つまり、あいつは単なる門下生みたいなもので…やっぱり跡取りはあの子)

女(…どう考えても自ら望んでここに留まっているであろう大男なのに…なんであの子は逃げてきた…?)

女(…何から、逃げてる?)

女「…」

男「…また、訳の分からんことに巻き込まれたな…」

女「首を突っ込むのが私たちの趣味でしょ…何を今更…」

男「…」






友「ほー、へー、そんな事が」

友「とりあえず帰ってこいよ、詳しい話聞きたいからさ」

友「ん、じゃな」

男の子「…」

男の子「…あの…二人は大丈夫なの?…男の人凄く怒鳴ってたみたいだけど…」

友「んー、子供は気にすんな、大人なんて皆怒鳴るのが趣味みたいなもんだから」

男の子「…」

男の子「…子供、だよね」

友「ん?」

男の子「…ねえ…大人になるってどういうこと?」

男の子「僕が子供だから…だから、嫌なものから逃げるのかな?…大人になれば我慢できるのかな?」

友「…」

友「さーね」

男の子「て」

友「俺に言わせりゃ、大人になるってのはやりたいを我慢するってことさ」

男の子「やりたいを、我慢?」

友「そうだよ、人間誰しも働きたくねぇ、楽に生きていきたい、人生の半分以上仕事で終えるなんてまっぴらだろ」

友「出来ることなら、好きなことだけをして生きていきたい」

友「でも、そういうのって無理なんだよ、大人は」

友「働かねえと生きていけねえし、趣味に時間をかける暇もありゃしねえ」

男の子「…じゃあ、やりたくないことを我慢できるのが、大人なんだね…」

友「そうだな」

男の子「…いいな…僕も早く大人になりたいな」

友「は?何でだよ?」

男の子「…え?」

友「いいじゃねーかやりたいことをやれば、お前はまだ子供だろ」

男の子「…でも」

友「でもも何もねーよ、大人がやりたいことを我慢する代わりに、お前らはやりたいことを好きなだけやるんだよ」

友「ないのか?やりたいこと」

男の子「…」

友「…ま、見つからなくてもいいさ、やりたくない事をやらなければやりたいことが見えてくるもんだし」

男の子「お兄さんは…我慢してるの?」

友「あぁ、してるぞ」

友「いろんなやりたいことを我慢して我慢して、やりたくないことを我慢してやって」

友「…それでも、やりたいことがあれば、それが一番やりたいことなのさ」

男の子「…」

友「楽しいぜー、あいつらと馬鹿やるってのは」

男の子「…いいな…そういうの…いいなぁ…」

男の子「いつか僕にも…やりたいことが見つかるといいな」

友「見つかるさ」

男の子「…あ、帰ってきた」

友「お、ほんと?多分男めっちゃ怒ってるから余計なこと言うなよ」

男の子「…怒ってる?」

友「あいつは身近な奴が酷い目にあうのが嫌いなんだよ、女のことになれば更にな」

男の子「…」カァァァ

友「お、初いねえ、惚れた腫れたは苦手か?」

男の子「…あのお兄さんは、女の人が好きなの?」

友「多分女のためなら世界敵に回すレベルで好きだぞ、本人は絶対否定するけどな」

ガチャッ

男「クソっ!やっぱ一発殴っとくんだった!」

女「そんな事やって目をつけられたらどうすんのよ、馬鹿」

男「うるせぇ!」

友「おー、どうだった?」

男「よう大して苦労もせず座るその椅子の座り心地はどうだ、今女とお前を縛って山に捨てようか相談してたところだ」

友「だってよ」

男の子「ひっ…」

男「お前だよ!!!」

女「中に入れてもらえなかったわ」

友「ええ…正面切って行ったのかよ…とんでもねえな…」

女「でも、収穫はあったわ」

友「ほお」

女「…」チラッ

男の子「…?」

友「いいぜ、ぼかしてくれ」

女「…」

女「本物よ」

友「…!」

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