美波「私が私でいられるのは」 (28)

美波誕生日おめでとうということで。

ss初めて書きます。温かく見守って頂ければ嬉しいです。

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「今年の水着イメージガール、新田美波さんです!」

美波「いつも応援ありがとうございます♪こうしてイメージガールになれたのも、みなさんの応援のお陰です!」
美波「それでは聞いてください。『銀のイルカと熱い夏』」

歓声が聞こえる。
水着イメージガールとしてのイベントだから、もちろん水着で歌う。
沢山のファンの人たち。男の人だっている。
だけど、私は怖くない。
も、何もーー。

1年前

P「初めまして、美波。今日から私が貴女のプロデューサーよ。よろしくね。」
美波「……はい。よろしくお願いします。」

大手アイドルプロダクション、346プロ。
私はここに1年前から所属していて、セクシー小悪魔系アイドルとして既に活動していた。
だけど今日から、私は私をスカウトした人とは違うPさんにお世話になる。

私に微笑みかけるPさん。珍しい、女の人……。
私より少し背が高くて、タイトスカートのスーツがよく似合う。
長い黒髪が整った顔の美しさを際立たせていて、まるでアイドルかモデルのよう……。

P「今日は13時からビジュアルレッスンね。私も一緒に行くわ。」

異動になった理由は知っているはず。
だけど何も言わずに、ただ淡々とスケジュールを伝えてくる。
今はそれがありがたかった。

P「それまではフリーだけど、どうする?」
美波「あ……ここにいます。」
P「そう?じゃあ話し相手にでもなってもらおうかしら。」
美波「はい。……あの、他の子たちは?」
P「ん?あぁ、いないわよ。」
美波「えっ?」
P「私の担当アイドルは貴女、新田美波だけだもの。でも、新米ってわけじゃないから、安心して頂戴。」
美波「はぁ……。」

それから私はレッスンまで、仕事をしているPさんの話し相手になった。

13:00

トレーナー「美波ちゃん。よろしくね。」
美波「はい、よろしくお願いします。」
トレ「今日はビジュアルレッスンなんだけど……。」
P「まずは今まで通りにしてみてください。」
トレ「できる?無理なら……」
P「いえ、やらせて下さい。美波はアイドルですから。」
美波「あのっ、やれますから。大丈夫です。」

そして私は、いつも通り、あの人が言っていたイメージに沿ってレッスンをこなした。
それをPさんはずっと見ていた。

P「ありがとう。もういいわ。」
美波「えっ、でも……。」
P「トレーナーさん、事前に伝えておいたようにお願いできますか。」
トレ「はい、大丈夫ですよ。」

トレ「じゃあ、美波ちゃん。思いっきり可愛く、可憐にしてみましょうか!」
トレ「イメージは……そうね、三船美優ちゃんみたいに。」
美波「三船さん、ですか……?私が……?」
P「そうよ。私は貴女を可憐で純情な正統派アイドルにしたいの。」
P「今までのセクシーなのも悪くは無いわ。でも貴女にはもっと別のものを目指してもらいたいの。誰もが憧れる崇高なアイドル……そう、高垣楓のような。」
美波「楓さんみたいな……。」

高垣楓。誰もが知るトップアイドル。346プロ内での総選挙でも1位を獲得。
美しく、気高く、純情、それでいて妖艶な……みんなの憧れ。

P「1週間後にファッションショーの仕事があるわ。今までのイメージを覆すチャンスよ。」
美波「ファッションショーですか……。」

どれだけの人がいるんだろう。
男の人も、今まで通りならたくさんいる……。

P「安心して頂戴。ガールズコレクションだから。観客は女性ばかりよ。」
美波「……そうですか。」

よかった。
心の中で安心している自分がいた。

それから1週間、私は必死でトレーニングをこなした。
今までのことを払拭したくて。
あの人のことを忘れたくて。
Pさんの期待に応えたくて。

ーー変わりたくて。

ファッションショー当日

美波「私、本当にこれを着ていいんですか……?」
P「ええ、そうよ。似合うと思うわよ?」
美波「でも、露出も少ないですし……。」
P「言ったでしょう?私は貴女を崇高な……女神のようなアイドルにしたいって。女神に多すぎる露出なんて不要だわ。……まぁ、ヴィーナスの誕生、みたいな絵画はまた別だけれど。」
美波「はい……。」

渡された衣装は純白のノースリーブワンピース。膝丈で、ウエストはリボンでしめるタイプ。胸元もあまりあいていない。
その上から薄手のカーディガンを羽織るから、実質露出しているのは脚と腕くらい。
今まで着たことがない衣装。
素直に嬉しかった。

今までのプロデュースが嫌だったわけじゃない。
でも、自然と笑顔になれた。

スタッフ「美波ちゃん、その笑顔いいよ。そのままステージでも頑張って!」
美波「はいっ!」

袖に控える。
出ていったらスクリーンの前で一度止まってポーズ、それからランウェイを歩いて……。
流れを確認していると、出番が来た。

スクリーンに大きく私の名前が表示される。
その真ん中で私はポーズをとる。

観客「MI、NA、MI……新田美波?それってこの間ワイドショーで話題になってた……?」
「そうそう。たしかプロデューサーに……」

観客の女の子たちの話し声が聞こえるくらい、すぐそこにお客さんがいる。

観客「でも、新田美波ってセクシー路線だったよね。」
「うん。こんな衣装も着るんだね……。」
「似合ってるよね、セクシーなのよりずっと。」
「私もそう思う。」

あぁ、受け入れられたんだ。
私はこれから正統派アイドルなんだ。
袖に戻る直前、美波ちゃんって何人かの人が呼んでくれた。
私は、今までとは違う美波。

それから数ヶ月、色々なお仕事が舞い込んできた。
でも、露出が多かったり男性ファンがメインになるようなお仕事は一つもなかった。
きっと、Pさんのお陰……。

そんなある日、私はPさんと撮影の打ち上げに参加していた。
お花を摘みに行って、会場に戻っている時
スタッフ「美波ちゃーん、撮影お疲れ♪」
美波「ありがとうございます。」
1人の男性スタッフに話しかけられた。

スタッフ「よかったよ!正統派も悪くないね~。でも個人的にはセクシーなのが好みだったんだけどな☆」
美波「そ、そうですか……。あの、私もう戻らないと。」
スタッフ「そんなこと言わないでさ、もう少し……折角だから別の場所で、話さない?」
美波「それはできません!Pさんが待ってますから。」
スタッフ「大丈夫だって~!いいお店知ってるよ?美波ちゃんはまだ未成年だったっけ?」
美波「あの、もういいでしょうか。」
スタッフ「ほらほら、行こうよ!」

腕を掴まれた。振り解けない。どうしよう。

カシャッ
P「離して頂けますか。」
スタッフ「っ!!」
美波「Pさん!」
P「美波は未成年なのでもう送り届けなければならない時間です。それに明日も仕事ですから。」
スタッフ「何言ってるんですか。ただ撮影の感想を……」
P「写真は撮らせてもらいました。このご時世、仕事を失ったら大変でしょう。」
スタッフ「……チッ。なんだよ、前のPと寝たくせによ!今更何が正統派だよ!」
美波「っ…………」
P「貴方、明日から仕事はないと思いなさい。美波、行くわよ。」
美波「は、はいっ!」

車内

美波「あの……さっきは、ありがとうございました。」
P「気にすることないわ。これも仕事よ。」
美波「……どうしてPさんは、異動になったこと、何も触れないんですか?」
P「私は未来しか見ない主義だから。貴女が話したいなら話せばいいわ。だけど、私からわざわざ聞いたりはしないわ。建設的じゃないもの。」
美波「…………話せば、聞いてくれますか?」
P「当たり前じゃない。」
美波「だったら、話します。Pさんには、全部知ってて欲しいです。」

私は、あの人と寝たりしてません。
あの夜は、台風が接近してて、大雨で、電車が止まってしまって……。
あの人に車で送ってもらっていたんです。
途中、あまりにも天気が悪くなってしまって。
あの人が、視界が悪くて危ないからどこかで止まりたいって言ったんです。
何も疑いませんでした。
同意したんだと、思われたみたいです。
ホテルの看板が見えた時、やっと状況がわかりました。
私はずっといつ逃げようか考えていました。
部屋に入るなり、体を触られて……。私をアイドルにしてくれた人なのに、気持ち悪くて……。
せめてシャワーを浴びたいと申し出ました。
ほんの少しのすきを狙って、私は逃げました。

ただ、怖かった。
次の日、私とあの人がホテルに入っていく写真が週刊誌に載りました。
プロダクションの方たちのお陰で、私は今もここにいられます。
あの人の影に怯えたりせずに暮らすことができます。
だけど、どうしても、男の人が怖いんです。
ごめんなさい、Pさん。

P「何も謝ることなんてないわ。」
P「貴女は何も悪くない。男性が苦手になるのも無理はない。」
P「貴女は何も気にせず、いつか自然と男性ファンの前に立てる日まで待てばいいの。」
美波「Pさん……。」
P「私は全部を貴女に捧げるつもりで貴女のPになったの。」
美波「全部、ですか……?」
P「えぇ、全部。」
美波「もしかして、私以外に担当アイドルがいないのって……。」
P「さあ、どうかしら。」
美波「……Pさんの話も聞きたいです。」
P「私の話なんて聞いても、何にもならないわよ。」
美波「そんなことないです。私も、Pさんのこと知りたいです。」
P「……そうねぇ。なら、少しだけ。」

私は元々、アイドルとして346プロに入ったの。
スカウトされてね。
何年前の話かしら……。
なかなか売れなくてね、アイドルの道は諦めたの。
だけどお陰様で裏方のことは色々知っていたから、そのままスタッフとして就職したわ。
そしてPになった。
貴女を担当するまでにも、たくさんのアイドルを担当したわ。
総選挙初代1位の十時愛梨とか、最近人気急上昇の佐藤心とか。
あとこの間、貴女の直前に担当していたのは多田李衣菜と木村夏樹よ。
全員人気のアイドルじゃないかって?
そうね、でも私にとっては貴女がいつも一番だったわ。
初めて見た時から、この子ならシンデレラガールになれるって信じてたの。
1人の女として、元アイドルとして、それからPとして、貴女のファンになったわ。
だけど貴女は無理をしているように見えた。
私ならもっといいプロデュースができる、ずっとそう思っていた。
だからさっき貴女が語った事件は、私にとっては好都合だった。
李衣菜と夏樹には悪いことをしたわ。
それでも、貴女をプロデュースしたかったの。

P「これが、私の過去よ。何も面白くなかったでしょう?」
美波「そんなことないです。ありがとうございます……!」
P「ほら、着いたわよ。」
美波「はい、お疲れ様です。」
P「お疲れ様。」

私の秘密を話して、Pさんの秘密を聞いて、もう私は大丈夫だと思えた。
何でだろう。
何があってもPさんが助けてくれるような気がした。

その日から私は、少しずつ、男性恐怖症を克服していった。

Pさんと出会ってからもうすぐ1年。そんなある日。

P「美波、とても可愛い曲を歌えるわよ。」
美波「可愛い曲ですか?」
P「ええ、それともう一つ。今年の水着イメージガールに選ばれたわ。」
美波「水着イメージガール!?それってたしか去年は高森藍子ちゃんだった……」
P「そうよ。CDは大槻唯と緒方智絵里とユニットを組んでもらうわ。だけど水着イメージガールのイベントではソロで歌ってもらう予定よ。」
美波「唯ちゃんと智絵里ちゃん、楽しそうなユニットになりそうですね。」
P「そう言えるのなら大丈夫そうね。」
美波「はいっ!もう、何も怖くありませんから!」
P「期待しているわ。」

もう無理に作った私じゃない。
私は私。

美波「私が私でいられるのは、Pさんのお陰ですから!」
だから今日も頑張りますね。
美波、いきます!


END

美波誕生日おめでとう
そしてCD発売決定おめでとう

これからもずっと美波P!

読んでくださったみなさんありがとうございます。

もっと明るいのにすればよかったですね……。
私自身まだ学生で色々と思考が足りなかったと反省しております……。
気分を害してしまい申し訳ありませんでした。

次書く機会があれば最後まで詰めが甘くならないよう頑張ります。

ありがとうございます。

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