【安価】勇者「姫様が魔王に拉致されたって?」 (314)

~はじまりの町~

国王から姫の救出を命じられた。

勇者「でも、どこから手をつけりゃ良いのかサッパリだぜ……」

勇者「そうだ、>>3しよう!」

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1500451671

効率厨になる

勇者「そうだ、効率厨になろう! 王様から貰った世界地図で、はじまりの町から魔王城までの最短ルートを弾き出してやるぜ! 地理学には多少の覚えがある!」

こうして地図を広げてみたが、そもそも魔王城がどこにあるのか、世界地図には記されていなかった。

勇者「国土地理院め……カスみてぇな地図を発行しやがって」

苛々した勇者は酒屋で仲間を探すことにした。

酒屋の主人「らっしゃい! 仲間をお探しですかい?」

勇者「ああ。高い殲滅力&アイテムドロップ運を持ち、且つ俺に一切逆らわない仲間が欲しい」

酒屋の主人「フム……ならコイツァどうかね?」

>>5「よろしくお願いします」

先代魔王

先代魔王「よろしくお願いします」

勇者「誰だこいつ。頭に角が生えてんぞ。人間じゃねぇだろ」

酒屋の主人「本人談によれば、先代の魔王らしいですぜ。近衛隊長に謀叛を起こされ、王の座を追われたとか」

先代魔王「爆破魔法ならお安い御用ですし、回復魔法も初級程度なら扱えます。それに、私は魔王城の位置を知っています。魔王城に飛ぶことも可能です」

勇者「あ、あんだって!? 魔王城に直接行くことができんのか!?」

先代魔王「ええ、行くことができます。しかし、あなたのレベルと装備では忽ち殺されてしまうでしょう。まずは武具屋で装備を整えるべきです」

勇者「そうか、じゃあ>>8に行こうぜ!」

魔王城

勇者「よし、じゃあ魔王城に行こうぜ!」

先代魔王「は、はあ!?」

勇者「どうした、早く転移魔法を唱えろ」

先代魔王「あなた、私の言ったこと聞いていましたか? 魔王城に踏み込んでも、真っ裸のアンタじゃ一秒足りとも保たないってんですよ!」

勇者「マスター、こいつ俺に逆らってんだけど。話が違う」

酒屋の主人「へへへ……何ででしょうね、へへ……」

酒屋の主人(この冒険者さん、相当薬キメてんなァ。普通、武器も防具も無しに魔物の巣窟へ行かないでしょ)

先代魔王「ああもう、分かりましたよ! 魔王城に移してあげます。どうなっても知らないですからね!」

勇者「そうだそうだ。従者は黙って主人の命令に従え」

先代魔王「アッバースアッバース……アッバースアッバース……」

移動した場所>>12

並行世界、超ハードモードの魔王城

~魔王城~

フィンフィンフィンフィン……

勇者「わッ! とと……。先代魔王の奴、どこに俺を飛ばしたんだ。ちゃんと魔王城まで送ったんだろうな」

勇者の降り立った場所は、食堂と思しき広場だった。
長い食卓に、人の手足が並べられている。

勇者「うわぁ……人の死体が皿に盛ってある……おい、先代魔王。ここが魔王城でいいんだな?」

シーン

勇者「クソ、あいつ自分だけ逃げやがったな! 従者の風上にも置けねぇゴミ野郎が! 姫を助けたら真っ先に叩きのめしてやる!」

>>15「果たして、貴様にできるかな。全裸の旅人よ」

勇者「ああ!? 誰だテメェは」

>>15「ここは並行世界の魔王城。全ての兵が魔改造を施され、下級のゴブリンですらアルテマを連発する世界。そもそも、貴様は今から私に殺される運命にある」

>>18でお願いします

究極最強破壊神アルティメットデストロイ

究極最強破壊神アルティメットデストロイ「闘う前に自己紹介をしておこう。私は究極最強破壊神アルティメットデストロイ。好きな食べ物は目玉焼き。焼き加減はミディアム」

勇者「長ったらしい名前をしやがって、最強究極アルティメットデストロイさんか?」

究極最強破壊神アルティメットデストロイ「違う! 私は究極最強破壊神アルティメットデストロイだ! もう一度言うぞ、究極最強破壊神アルティメットデストロイ!」

勇者「まぁいいや、ほんでアルデスさんよ。俺は玉子焼きのが目玉焼きより遥かに美味だと思うんだが、なぜ白身のある目玉焼きをテメェは好む? 喰った後に口が臭くなるだろうが」

究極最強破壊神アルティメットデストロイ「我が主、新魔王が初めて私に振る舞ってくださった料理、それが目玉焼きであった。黄身がグズグズに溢れていたが、それでも私は……」

勇者「奴が語っている内に逃げるか。流石に、全裸で魔族幹部に挑むのはヤベェ。三十六計逃げるに如かずだぜ!」

究極最強破壊神アルティメットデストロイ「待て、貴様、どこへゆくつもりだ!」

勇者「げ! 見つかった!」

ピピピピピ……

キュウン! ちゅどーん!

勇者はレーザーで焼き尽くされた。

オギャアオギャア……

父親「おっ! かわいいじゃないか。男かな? 女かな?」

母親「>>22よ」

わたしの鳴き声

母親「私の鳴き声よ。オギャアオギャア!」

父親「ハッハッハ、てっきり赤ちゃんが生まれたのかとビックリしたよ。そうそう、赤ちゃんで思い出したんだがね。私も赤ちゃんを手に入れたのだよ」

母親「あらあら、ウンコをひり出して日焼けした赤ちゃんとか言わないでくださいね? ふふふ」

父親「バカ言え、しっかりとした赤ちゃんさ。ほら」

赤ちゃん「スゥスゥ」

父親「これは男かな? あるいは女かな?」

母親「>>27ね」

遠いか

母親「男ね」

父親「そうかそうか! それは良かった! 男ならば、私の跡を継いでくれるだろう」

母親「誰が樵の跡を継がせるのよ。この子はいずれ、立派な勇者様になるの。そして、今も囚われたままの姫様をきっと連れ戻してきてくれるわ」

父親「見える、見えるぞ。魔王を倒した我が子が、沢山の仲間と一緒に城下町を凱旋する姿が」

母親「もう、あなたったら気が早いわね。名前はどうするの?」

父親「そうだな……>>31にしよう」

母親「いい名前ね。勇者に相応しい名前だわ」

トンヌラ

父親「そうだな……トンヌラにしよう」

母親「良い名前ね。勇者に相応しい名前だな」

父親「トンヌラ、お父さんを見習って、立派な剣士になるんだぞ」

母親「だから、あなたは樵でしょう。嘘教えないの」

父親「ハッハッハ! ハーッハッハッハァ!」

~渓谷の作業場~

時は流れ、15歳となったトンヌラは奴隷として働かされていた。
A地点ですくった土を、B地点まで持っていく単純な作業である。
しかし、炎天下の中での作業とあって、熱中症で死に至る奴隷が後を絶たなかった。

トンヌラ「ああ、辛いなあ。僕はいつまでここで働かなくてはならないのだろう」

トンヌラ「分かってる。父さんは悪くない。悪いのは父さんを騙した周旋屋だ。今の時代、無料で勇者になれるなんてウマい話あるもんか」

トンヌラ「あの樽に乗って逃げたいなぁ……でもダメだ。あの樽は小さすぎる」

トンヌラ「そうだ、>>33して逃げればいいんだ!」

身分を偽る

トンヌラ「身分を偽るってもこの格好じゃ奴隷だとバレてしまうし……そうだ!」

トンヌラは近くに落ちていたレンガを拾って、後ろから現場監督の頭を強かに殴りつけた。
現場監督は血を流しながら地面に倒れた。

トンヌラ「よし! これで現場監督の鎧と兜と槍を手に入れたぞ。身分を偽って逃げることができる!」スタスタ

警備兵「現場監督!」

トンヌラ「うッ……バレたか?」ビクッ

警備兵「お勤め、ご苦労であります!」

トンヌラ「はは……ありがとう。私は疲れたから、後は任せたぞ」ダッ

警備兵「現場監督!」

トンヌラ「な、なんだ。二回も呼び止めて。私は急いでいるのだ」

警備兵「>>35

…今まですみません、これを お金と地図を渡す

警備兵「……今まですみません。これをお受け取りください」サッ

トンヌラ(僕のこと、ひょっとしてバレてない?)ホッ

トンヌラ「なぜ謝る。おい、その巾着袋からチャリンチャリンと金貨の音がするぞ。そんなものはいらん」

警備兵「いえ、ぜひ受け取ってください。実は私、現場監督の奥方と枕を交わしていたのです」

トンヌラ「おい、それは」

警備兵「金で解決できるとは思っておりません! しかし、腹を切るわけにもゆかず……。このお金と地図で、どうか勘弁して頂けないでしょうか」

トンヌラ「金で揉み消すというのか。なんて最低な奴だ。君みたいな人間を、匹夫というんだよ」

警備兵「申し訳ございません。好きなだけ匹夫と罵りくだされ」

トンヌラ「いや、もうよい。興が冷めた。金と地図は貰っておくから、早くどこへなりと消えろ」

警備兵「はッ!」ササッ

トンヌラ「……ふう」

トンヌラ「すごいな、お金と地図を一気に手に入れちゃった。ようし、魔王討伐に向けての第一歩だ!」

トンヌラ「>>37に行こう」

武器屋

トンヌラ「そうそう、まずは武器だよね。丸腰で魔王城に突っ込むのはどうしようもないアホのすることだからね」

トンヌラは最初の勇者よりもいくらか頭が良かった。
渓流の作業場で馬を借りて、城下町まで走る。
武器屋の看板を見つけて、その扉を叩いた。

武器屋「あら、いらっしゃい。その歳で武器を求めに来たってことは……。ハハーン、あんた勇者志望だね?」

トンヌラ「その通りです。お姫様を助けるために、一刻も早く僕は強くならなければいけないんだ」

武器屋「フッ、青いねぇ……。アタシも昔はあんたみたいに、純粋な強さを求めてたよ。でも、子供を産んで母になって思ったね。今ある身近な平和を守ることこそ重要だって」

トンヌラ「あなたの身の上話に興味はありません。金はあります。オススメの武器を教えてください」

武器屋「そうだねぇ。>>39とかいいんじゃないか? ちょっと値が張るけどね」

対魔の短剣

トンヌラ「対魔? 退魔ではなくて、対魔物用の短剣ってことですか?」

武器屋「ああもう、一々細かいね。対魔の短剣は魔物のみを斬り裂く短剣さ。つまり竜は倒せるが、酔っ払いやごろつきは斬り殺せない」

トンヌラ「便利なのかそうでないのか、ちょっとわかりにくいですね」

武器屋「通り魔防止のために仕方なかったんだよ。ほら、最近ここらも物騒になってきてるしね。道端で決闘なんざ、ザラさ」

トンヌラ「はぁー……本当は人間で斬れ味を試してみたかったんですが、我慢しますよ。じゃ、対魔の短剣買います」

武器屋「まいどありィ! ……武器は正しく使うんだよ、坊や」

トンヌラは魔族にのみ効果を発揮する、対魔の短剣を手に入れた!

トンヌラ「武器は揃った。次は>>41だ」

魔王の弱点を調べる為に図書館で読書する

~王立図書館~

トンヌラ「魔王にだって弱点の一つや二つはあるはずだ。そこを突けば、レベルが低くても倒せるかもしれない」

魔王に関する古代文献を数冊手に取ったトンヌラは、窓際の席に腰を落ち着けた。
目が滑る滑る。何と書いてあるのかさっぱり分からない。

トンヌラ「そう言えば僕、読み書きができないんだった……」

トンヌラ「まぁそりゃ、ずっと奴隷暮らしだったんだからリテラシーが無いのは普通だよ」

トンヌラ「でも、これじゃあ魔王の弱点が分からないままだ。ここは酒場に行って、僧侶か魔法使いを捕まえてこよう」

~酒場~

酒場の主人「へい、いらっしゃい! お仲間をお探しかね?」

トンヌラ「はい。強くて読み書き能力があって、優しくて、僕に一切逆らわない仲間を紹介できますか?」

酒場の主人「フムン……ならば>>43はどうですかい?」




なんかやけにおどおどしている魔法使い

魔法使い「あ、あの、そ、その、よろしくお願いします」オドオド

トンヌラ「よろしくお願いします。そんなに畏まらなくていいですよ。見た感じ、歳も同じくらいですし」

魔法使い「お、男の人、怖くて……」

トンヌラ「どうして怖いのですか?」

魔法使い「父さんが、父さんが……」グスッ

トンヌラ(きっと、父親に何か酷いことをされたんだろうな。確かに、こんな可憐な少女を男が放っておくわけない)

トンヌラ「安心してください。僕はあなたに危害を加えません。給料も支払います。その代わり、魔王討伐の旅に同行して頂きたいのです」

契約金として、金貨10枚をテーブルの上に置いた。
金貨が10枚あれば、一週間は生活に困らない。
読み書きのできる魔法使いは、それだけの大枚をはたく価値がある。

魔法使い「つ、ついていきます。お、お名前は……」

トンヌラ「トンヌラ。トンちゃんと呼んでもらっても構いません。ところでおたく、想い人とかおりますか?」

魔法使い「そ、そんな、変な話しないでください///」カァアアッ

トンヌラ(いるのかよ……)

酒屋の主人「へっへっへ、なかなかデキあがってるじゃありませんか」

トンヌラ「そんなんじゃないッ!」

酒屋の主人「前のお客さんはねぇ、先代魔王の力で裸のまま魔王城に突っ込んでったみたいでさ。そうならずに済みそうで、安心しやした」

トンヌラ「>>45



その先代魔王は今どこに?

トンヌラ「その先代魔王は今どこにいるのですか?」

酒屋の主人「先代魔王さんなら、ここで吞んだくれていますよ」

先代魔王「ぐうぅ……本当は、私が魔族の王だったのに……畜生……究極最強破壊神アルティメットデストロイめ……」ゴガァ

酒屋の主人「転移魔法で体力を消耗したみたいですし、そっとしておいてやれませんかね?」

トンヌラ「そんなこと言われましても、先代の魔王なんて魔王城の内部に絶対精通しているじゃないですか」

魔法使い「ト、トンヌラさん。仲間、あと二人ほど集めましょう」

仲間A>>47
仲間B>>48

男の娘な僧侶

真っ直ぐで陽気な盗賊

丸テーブルに四人の冒険者が座った。
奴隷あがりの少年剣士、挙動不審な魔法使い、白いローブを羽織った女僧侶、常に笑顔を絶やさないギョロ目のバンダナ男。
以上の四名で魔王討伐に向かうことになる。

魔法使い「あッ! す、す、すみません! コーヒーこぼしちゃいました」

盗賊「ドンマイドンマイ! 服なんていくらでも盗んで調達できるっしょ!」ハハハ

女僧侶「あのぉ……そのぉ……なんつーかぁ……ボクゥ……」ポヤーン

トンヌラ(くそ、酷いメンバーだな。このままじゃグループがバラバラになってしまう。僕が強く出るべきなんだ)

トンヌラ「おい!」

三人「はいッ」ビクゥ

トンヌラ「君達は僕の従者だ! 従者は従者らしく静かにしろ! 誰もバタバタしろなんて命じてないぞ!」

女僧侶「あのさぁ……その従者っつーヤツ……? ウザいからやめてくんない……? 誰もキミの下にさぁ……ついた覚えないんだけどォ……」

魔法使い「も、もしかして私、騙されたんですか?」グスッ

盗賊「二人とも落ち着けって。トンちゃんも何か思うことがあるんだろう。仲良くやっていこうぜ!」

トンヌラ「よし、今から姫を助けに行くわけだけど、魔王の弱点を知ってる人はいるかい? それとも、誰か魔王と闘ったことのある人は?」

シーン

トンヌラ「なんで黙ってんだよ! 真面目な話をする時に限って君達は黙り込むよな! 君達を雇うのにいくらかかったか分かる? 金貨50枚だよ! 金貨50枚! 一ヶ月は楽して暮らせるよ! 金貨50枚の重みを分かってふざけた態度を取るなら、僕はもう許さないぞ!」

次に起こったこと>>50





いきなり魔物が飛び込んでくる

つまりはチュートリアルだ!

酒屋の主人「わーッ! 魔物だ!」

客A「助けてーッ! 死にたくない!」

客B「神様……私をお守りください。ひいぃ」

コボルト兄「グフフ、人間が我らを恐れておるぞ」

コボルト弟「やったッスね、兄貴! 全員皆殺しにするッス!」

コボルト兄「待て、まずは金庫から金を得るのが先だ」

コボルト弟「じゃあ、俺っちは人間を監視してるッス!」

コボルト兄「勝手に人間を殺したりするなよ」

コボルト弟「うッス!」

コボルト弟「兄貴から止められたとはいえ、我慢するの苦手なんスよ。ギェヒヒ、誰から殺そうかなぁ~」

トンヌラは倒れたテーブルを盾にして、三人の仲間と話し合っていた。

トンヌラ「あのコボルト、三人でかかれば倒せるかな?」

盗賊「二匹いるってのが気になるが、まぁそこらへんはノリでなんとかなるっしょ! ハイハーイ! オイラ一番で行きまーす!」

女僧侶「ボクわァ……後ろでェ……なんやかんやしてるよ……」

魔法使い「せ、精一杯、が、頑張ります!」

トンヌラ「役割分担はできたようだね。では各々、武器を持て!」

トンヌラ「行くぞ!」

盗賊の行動>>52
男の娘僧侶の行動>>53
魔法使いの行動>>54

盗賊>>54
女僧侶>>55
魔法使い>>56

背後から不意打ち

色仕掛け(笑)

特攻してコボルトに殺される

トンヌラ「でりゃああああ!」

コボルト弟「おッ! 反抗的な人間が襲いかかってきたッス! 兄貴、これは殺しても構わないッスよね!?」

コボルト兄「おう、やれ!」

コボルト弟「フヒッ! それでは遠慮なく。ドラァ!」

コボルト弟の投げた鎖がトンヌラの両脚に絡みついた。
膝をついたトンヌラの顔面を、思い切り蹴り上げる。

トンヌラ「うぐぁ!」

盗賊「あとはオイラに任せろ!」

トンヌラと入れ違いに駆け出したのは、陽気なバンダナ男。
天井に吊り下げられた燭台に飛びつくと、勢いに任せコボルト弟の背中に飛び移り、左肩にダガーを突き刺さした。

盗賊「クリティカルヒット!」

コボルト弟「痛ェーッ! 何をしやがんだ、テメェ!」

振り落とされた盗賊は、すぐ走り去り追撃を免れた。

コボルト弟「殺す! 殺す! 全員殺す!」

トンヌラ「ダメだ、怒りで我を忘れてる」

盗賊「今攻撃をしかけたら、手も足も出ず倒されちまうな。トンちゃん、何か良い策はあるかい?」

トンヌラ「ないよ、そんなもの! コボルトくらいなら、ゴリ押しで勝てると思ったんだ。まさか、ここまで苦戦するなんて予想できるわけないじゃないか!」

盗賊「困ったねぇー。ダガーを投げることはできるけど、火に油を注ぎそうで怖いよ」

女僧侶「策ならァ……ある」

トンヌラ「女僧侶さん、あの化け物を封じ込める方法を知っているんだね。では僕達にその方法を教えてくれ!」

女僧侶「これわ……ボクにしか……できない……」

女僧侶はコボルト弟の前に進み出ると、胸元をはだけた。

女僧侶「あっふ~ん(棒)」

コボルト弟「テメェ舐めてんのか!」

女僧侶「え」

コボルト弟「そんな棒読みの色気で興奮できるかってんだよ! それに匂いで分かんだ。テメェ、男だろ!」

女僧侶「あ……バレたみたい……」

コボルト弟「女装なんかしやがって、キメェんだよ! 決めたッス、テメェから殺してやる!」

女僧侶「ひ……」

魔法使い「あ、危ない!」

グジャッ






どうした>>1

ぽたり、ぽたり。
血の滴り落ちる音。
一瞬、酒場を静寂が支配した。

トンヌラ「魔法使い、君は……!」

魔法使い「ぐ……うッ……」

彼女の背中から、コボルト弟の持つ曲刀の先端が飛び出している。体力の低い魔法使いにとって、この攻撃は致命的だ。
駆け寄ろうとした仲間を手で制すと、魔法使いはコボルト弟の太い腕を両手

魔法使い「ずっと、一人で生きてきました」

魔法使い「男の人が怖くて、他人と時間を共有するのが怖くて」

魔法使い「ずっと、日陰で生きてきました」

コボルト弟「往生際の悪い人間ッスね~。兄貴、やっちまっていいッスか!?」

コボルト兄「おう、やれ! こっちもそろそろ終わる!」

魔法使い「でも、こんな私を、あの人が変えてくださったんです」

魔法使い「あの人が……勇者様が!」

トンヌラ「!」

魔法使い「私は負けない! みんなを守ってみせる! 私の最期の奥義……とくと味わいなさい!」

魔法使いの全身が眩いほどに輝き始めた。
光属性の最上級魔法。
一同が瞼を開いた時、二匹のコボルトはことごとく蒸発していた。

>>61
wifi規制されてました

トンヌラ「魔法使い! 目を覚ませ、魔法使い!」

魔法使い「……」

盗賊「諦めるんだ、トンちゃん。魔法使いは死んだ。今のオイラ達にできるのは、これ以上同じ悲劇が起こらないように、魔王を叩きのめすことだ」

女僧侶「魔法使いもさぁ……冒険に出るからにはさぁ……誰かに殺されることくらい覚悟してるでしょ……」

トンヌラ「貴重な読み書き要員が消えてしまった。どうやって図書館で魔王の弱点を探ればいいんだ」

盗賊「聞いた話によれば、東の山岳地帯に泉があって、住んでるエルフが魔王について何か知ってるらしい」

トンヌラ「ありがとう、盗賊。どこに行けばいいか、目的地ができた。やっと冒険らしい冒険ができる! ところで魔法使いの遺骸はどうしようか」

女僧侶「>>66すればぁ?」


自分の呪文で復活

女僧侶「ボクのォ……呪文でェ……魔法使い復活できんだけど……どうする……?」

トンヌラ「へー、回復だけではなくて蘇生もできるんだ」

盗賊「ぜひやってくれ!」

女僧侶「この魔法わァ……魔力消費量が多いからさァ……ボクがヤバめになったら……ちゃんと止めてよね……」

トンヌラ「御託はいいから、さっさとやれよ根暗」

女僧侶「ジグルドブルクハルト……ジグルドブルクハルト……ジグルドブルクハルト……」

女僧侶と魔法使いの足元に、紫色の魔法陣が描かれた。
光と風が一気に吹き出し、女僧侶のローブを激しくはためかせる。しばらくして、復活呪文を唱える彼女の額に脂汗が浮かび始めた。

女僧侶「くッ……! ジグルドブルクハルト……ジグルドブルクハルト……痛ッ……! いだだッ……!」

盗賊「女僧侶が苦しそうだ! トンちゃん、止めに入るべきだと思うぞ、オイラ!」

トンヌラ「待て」

助けを求める視線をトンヌラに寄越したが、彼は腕を組んだまま微動だにしなかった。

女僧侶「トンヌラ……助けてッ! あああッ……! 熱い! 熱い! じ、地獄に引きずり込まれるッ……!」

魔法陣の中から無数の触手が現れ、女僧侶の首や腕や腰に巻きついた。

女僧侶「わ、わあああああああああッ……!」

断末魔と共に、女僧侶は地獄へと堕ちていった。
復活呪文の代償は大きいのである。

魔法使い「あれ、私は……」

トンヌラ「蘇生したんだよ。もちろん、僕の力でね。身体を張って僕らを守ってくれたこと、心から感謝するよ」

魔法使い「僧侶さんは……?」

トンヌラ「彼女……いや、彼はパーティーから抜けた。君が死んで、やる気が削がれちゃったみたいでさ」

魔法使い「そ、そうですか……。僧侶さんには悪いことをしました」

盗賊「……トンちゃん。お前、大した悪党だぜ」


トンヌラは二人の仲間を連れて、東の牧場行きの馬車に乗り込んだ。女僧侶を見殺しにしてから、盗賊の自分を見る目つきが明らかに変わった。

トンヌラ「トンヌラは危ない。じきに殺してしまおう」

魔法使い「えっ?」

盗賊「……いきなり何を言ってるんだ、トンちゃん」

トンヌラ「風の囁きで聞こえただけさ。誰かさんの心の声が聞こえるんだよね~。誰かさんのさぁ~」

盗賊「オイラがトンちゃんを殺すと思ってんのか!」

トンヌラ「別に盗賊が僕を殺すだなんて言ってないよ? もしかして、本気で殺そうとか考えてた?」

盗賊「こ……こいつッ!!!!!」

魔法使い「や、やめてください! 狭い馬車で殴り合うのはやめて! お願いだから、仲間同士で争うのはやめてェー!」

御者「嬢ちゃん、大変だねぇ」

魔法使い「す、すみません。ご迷惑をおかけします」

御者「気にしない気にしない。嬢ちゃんは悪くないよ。さぁ、そろそろ>>71だ。ちょっと馬を休ませていくよ」

あの世

御者「さて、そろそろあの世だ。馬を休ませていくよ」

魔法使い「え!? あの世ってどういう意味ですか……」

御者「なんてことはない。ただの地獄さ」

馬車は道を外れ、断崖絶壁の方へと猛スピードで走り出した。
車輪は火花を散らし、馬はガチガチ歯を鳴らして血泡を吐く。
御者の口は耳まで裂け、頭には捻れた角が生えていた。

魔法使い「いやッ! いやあ! やだやだやだ! 死にたくない! まだ死にたくない!」

盗賊「ここは一時休戦だ。トンちゃん、御者を止めるぞ!」

トンヌラ「合点承知の助りんこ!」

御者は首を回転させると、盗賊に狙いを定めた。

ピピピピピ……

キュウン! ブシイッ!

レーザーを食らった盗賊の頭が柘榴のように砕け散る。

魔法使い「いやああああああッ!!! ぎゃあああッ! あアッあアッアッあ!!? アイヤーッアイヤーッアイヤーッ」

トンヌラ「クソッ! どうすれば……」

万事休すと思われたその時、トンヌラは腰に対魔の短剣を身につけていることを思い出した。

トンヌラ「こいつで……! [ピーーー]、魔王の手先めッ!」

結果>>73

結構ダメージを負ったが致命傷には至ってない

トンヌラは後ろから御者の首を絞め上げ、脳天に対魔の短剣を深々と突き刺さした。ドス黒い血液が噴水のように噴き出す。

御者「ギャース!」

痛みに悶絶する御者が、トンヌラを連れたまま馬車から転がり落ちる。馬の疾駆を止める者がいなくなった馬車は、そのまま断崖絶壁の下へ真っ逆さまに落ちていった。

御者「グ……」

トンヌラ「ハアッハアッ。結構ダメージを負ったけど、歩くことはできる。致命傷じゃない。良かった……」

まだ御者が動いていたので、トンヌラはスイカ大の岩を持ってきて、御者の頭を叩き潰した。

トンヌラ「なんとか、勝った……」

トンヌラ「でもどうしよう、こいつのせいで仲間を全員失ってしまった。はじまりの街に帰ろうにも距離があり過ぎる」

トンヌラ「また振り出しかぁ……」

トンヌラの行動>>74

トンヌラの行動>>76

自[ピーーー]る

トンヌラ「もうダメだ、魔王なんて倒せない。自殺しよう……」

トンヌラは岩に頭をぶつけて憤死した。
その後も魔王を倒す勇者は現れず、王国は闇に包まれた。
もちろん姫が戻ることはなく、彼女は死ぬまで魔族製造機として孕まされ続けた。

そして、1000年後ー

>>78「たあ! とう!」

最強究極アルティメットデストロイ

最強究極アルティメットデストロイ「たあ! とう!」

破壊仙人「最強究極アルティメットデストロイや。破壊の稽古はそこまでにして、デスソース茶でも飲まんかね」

最強究極アルティメットデストロイ「そうですね! 一汗かいたことですし、頂戴致します!」

彼の名は最強究極アルティメットデストロイ。
魔王の懐刀・究極最強破壊神アルティメットデストロイの弟であり、破壊仙人の弟子でもある。
彼は魔界で最も高い山で、毎晩破壊の練習をしているのだ。

最強究極アルティメットデストロイ「おいしいなぁ、デスソース茶は! 舌が壊れていく感覚が堪らないですね!」

破壊仙人「時に、最強究極アルティメットデストロイや。わしは、お主に伝えねばならんことがある」

最強究極アルティメットデストロイ「はい、何でしょう?」

破壊仙人「>>80

破壊魔法を受け付けない敵もいるぞい

破壊仙人「お主、破壊魔法が絶対だと過信しておるじゃろう」

最強究極アルティメットデストロイ「当たり前でしょう。俺の破壊魔法は即死魔法のようなもの。一撃で相手を壊せます」

破壊仙人「じゃがな……世界には、破壊魔法を受け付けない敵もおるぞい」

最強究極アルティメットデストロイ「な、なんですって!?」

破壊仙人「一つは精霊。こやつらは肉体を持たないので、破壊魔法は通用せん。二つは魔王。陛下は全身を強力な魔防壁で覆っておる。三つは神の加護を受けた勇者じゃ」

最強究極アルティメットデストロイ「ハッ! 人間如きがどうだというのです。神の加護? くだらんね!」

破壊仙人「では、実際に闘ってみるかね?」

最強究極アルティメットデストロイ「はい?」

破壊仙人「ちょうど来たのじゃよ。勇者一行、総勢>>82名が」

108

最強究極アルティメットデストロイ「なんだ、あいつら……」

宋江「我ら梁山泊百八星! 悪徳官吏を征伐しに来た!」

呉用「皆さん、勝手に動いてはなりません。この呉用が皆さんを動かすのです」

公孫勝「また生辰綱の奪取ですか? 飽き飽きしましたよ」

関勝「ちょっと関羽意識してます」

花栄「オレの弓は千里先まで届くッスよ」

林冲「五虎将・林冲、いざ参る!」

魯智深「ハッハッハッ! 仏がどうした、好きに暴れてやるわ!」

武松「魔王さんとやらのツラを拝むまで、俺は死なねぇ」

最強究極アルティメットデストロイ「こんな自己紹介が108も続くのかよ! じれったいな! 破壊魔法!」

108人の群星は捻じ曲げた時空の彼方に飛ばされていった。

破壊仙人「ほほー、腕を上げたようじゃな」

最強究極アルティメットデストロイ「仙人、俺は人間の街に行ってみようと思います。1000年前、一人の変態勇者が魔王城に潜入しました。あの時は兄が退治したおかげで事なきを得ましたが、今はどうか分からない」

破壊仙人「敵を知り、己を知る。よい考えじゃ」

最強究極アルティメットデストロイ「では、>>87に行って参ります!」

並行世界、アルティメットハードモードの駆け出しの街

~アルティメットハードモード・駆け出しの街~

最強究極アルティメットデストロイ「うわ、酷い匂いだ! 糞尿の混ざり合った……管理の行き届いていない動物園のような匂い!」

匂いだけではなく、道端のありとあらゆる場所に人糞が打ち捨てられてある。その誰の物とも知れぬ人糞をカラスがつついたり、餓鬼と化した町民が貪っているのだ。彼らの腹は風船のように膨れ上がり、肛門からは常に赤い血便を垂れ流していた。

最強究極アルティメットデストロイ「ハ、ハードモード過ぎる……。こんな場所に勇者なぞいるのかな」

最強究極アルティメットデストロイ「あの~、すみません。この街に魔王討伐を志す勇者は……」

餓鬼「……ヌッ」

声をかけられた餓鬼は最強究極アルティメットデストロイを一瞥すると、指差して絶叫した。

餓鬼「食いモン! 食いモンがいるぞ! 食いモンだーッ!」

すると、どうしたことか。
周りの家々から無数の餓鬼の群れが飛び出してきたではないか。

最強究極アルティメットデストロイ「破壊魔法! 破壊魔法! クソ、数が多い! ここは一旦、宿屋に避難だ!」

~宿屋~

最強究極アルティメットデストロイ「ここまで来れば安全か……。無事、振り切ったみたいだ」

>>89「おや」

未来魔王

未来魔王「やあ、貴殿もこの宿に泊まりに来たのかね」

最強究極アルティメットデストロイ「いいや、外の餓鬼があまりにしつこいんで逃げてきた。あんたは?」

未来魔王「私か? 私は衆生を救いに降臨し、ちょっとだけ絶望したところさ。まー、酷い有様だとね」

最強究極アルティメットデストロイ「あんた、一体何者なんだ?」

未来魔王「未来魔王……人は私を弥勒菩薩と呼ぶ」

最強究極アルティメットデストロイ「弥勒菩薩……だと……?」

最強究極アルティメットデストロイ「今、世界に何が起こっている? どうして阿鼻叫喚の光景が広がっているんだ?」

未来魔王「ここは貴殿の兄、究極最強破壊神アルティメットデストロイが魔王の座についた後の世界……」

最強究極アルティメットデストロイ「あんだって? 俺の兄が魔王の座についた後の世界? 兄は現魔王の懐刀だぞ」

未来魔王「いずれ隙をついて奪取するのだろう。どちらにせよ、貴様が兄と現魔王を倒し、新たな魔王として君臨せねば、世界の均衡は崩れ地獄が幕を開ける」

最強究極アルティメットデストロイ「どうして俺が……」

未来魔王「貴様は究極最強破壊神アルティメットデストロイよりも幾分、優しいからだ。残忍ではないし、道理も弁えておる。君主にふさわしい器だからよ」

最強究極アルティメットデストロイ「なんか照れるなぁ」

未来魔王「さぁゆけ! 魔界の勇者・最強究極アルティメットデストロイよ! 一人だけで心細いならば、私の配下を味方につけてやろう」

仲間A>>93
仲間B>>94

世界意思「カオス」

うさぎ(Lv5000000)

天から厳かな声が降ってきた。

カオス「私はカオス。『世界意思』と書きヤハウェ或いはカオスと読む。私は天候を自由に操ることができる。拳大の雹を降らせて屋根を破壊することなど容易い」

最強究極アルティメットデストロイ「肉体を持ってないみたいだが、やっぱりお前に破壊魔法は通用しないんだろ?」

カオス「然り」

最強究極アルティメット「俺の兄がいかにも苦手そうな奴だ。敵だと厄介だが、味方だと頼もしい。そんでこちらは……」

筋骨隆々な全裸ウサギが無言でこちらを見つめている。
僧帽筋、大胸筋、上腕二頭筋、背筋、腹筋。
どれをとっても世界最高峰レベルだ。無駄な脂肪を削ぎ落とした、戦闘特化モデル。筋力だけなら負けてしまうかもしれない。

最強究極アルティメット「えっと、お前は?」

カオス「その者はウサギ。レベルは5000000。戦闘力はその3倍、15000000。松坂牛の肉を好み、野菜は一切摂らない。プロティンスライムを毎日飲み続け、神と闘い、ここまでの強さを手に入れた。ウサギこそ、真の破壊神である」

最強究極アルティメット「弥勒菩薩……いや、未来魔王。俺には二人を使いこなせるか不安だ」

未来魔王「使いこなすのではない。共に闘う仲間だ。いつの時代を見ても、大切な仲間を低く見た者は、みな悲惨な末路を迎えている。貴殿も、せいぜい気をつけるんだな」

最強究極アルティメット「仕方ない……とりあえず>>96すっか!」

それぞれのレベルを確認

最強究極アルティメットデストロイ
Level72
職業 魔界の勇者
装備 なし
スキル 破壊魔法

世界意思(カオス)
Level???
職業 神
装備 なし
スキル 天候変化

ウサギ
Level5000000
職業 ウサギ
装備 血染めの大斧
スキル サマーソルトキック

最強究極アルティメットデストロイ「俺が飛び抜けて弱い……いや、他があまりにチート過ぎるのか」

カオス「魔界の勇者よ、私が火と雲の柱を立てて汝を魔王城へ導かん……」

最強究極アルティメットデストロイ「その前に、元の世界に戻らないとな。破壊仙人に伝えてやらなきゃ」

ワープ先>>98

破壊仙人のいる場所

~仙人の庵室~

最強究極アルティメットデストロイ「破壊仙人!」

破壊仙人「戻ったか、我が弟子よ。人間の町で新たな仲間を見つけて来たようじゃな」

最強究極アルティメットデストロイ「その件ですが……」

ウサギ「……」ノソッ

破壊仙人「ふおお、彫像のような肉体を持つ兎じゃ。リンゴを片手で捻り潰しそうじゃな」

カオス「狭い部屋だな。それとカビ臭い。こんな貧しい場所が汝の師の居室なのか?」

破壊仙人「それと見目麗しき猫耳娘……!」

最強究極アルティメットデストロイ「カオス、どうして猫耳娘に姿を変えたんだ? お前は元来、偶像の無い存在だろう?」

カオス「汝の世界に適応するには、人間に姿を変える必要があったからだ。誠に不本意ながらな」フンッ

最強究極アルティメットデストロイ「……とまぁ、こんな感じです」

破壊仙人「>>100

立ち話もなんだ、この先は食事をしながら話そう。弟子よ、今日はおまえの好きなオムライスだ

破壊仙人「立ち話もなんだ、この先は食事をしながら話そう。弟子よ、今日はおまえの好きなオムライスだ」

最強究極アルティメットデストロイ「ありがとうございます! まさか用意してくださったとは」

カオス「オムライスとはなんだ」

破壊仙人「卵とケチャップと米をなんやかんやして作る料理のことじゃ。ま、食べてみたら分かるじゃろう」

ウサギ「……」クイクイッ

破壊仙人「なんじゃ」

カオス「ウサギは松坂牛の肉片がオムライスに入っているか聞きたいらしい」

破壊仙人「あるわけないじゃろ。贅沢にもほどがあるわ。清貧こそ至高。清く貧しく全てを壊す」

ウサギは失望した表情で、トボトボと破壊仙人の庵を去っていった。

最強究極アルティメットデストロイ「あっ、おい!」

カオス「心配するな。少し動揺しただけだ。奴はきっと汝の下に戻るであろう。さ、オムライスとやらを食べようぞ」

こうしてささやかな宴が始まった。

仙人のオムライスは簡素なものだ。
申し訳程度のチキンライスに玉子焼きを乗せただけなのである。
それでも、最強究極アルティメットは仙人の作るオムライスが大好きだった。

最強究極アルティメットデストロイ「美味しいです、師匠!」

カオス「量が少ないな。それに辛い。これなら、まだ羊を屠って丸焼きにしてもらう方が良かった」

破壊仙人「ふぉっふぉっふぉ、そう言うな。これでも破壊成分を控えめにしたのじゃぞ」

最強究極アルティメットデストロイ「ところで仙人、あなたに話したいことがあるのです」

破壊仙人「どうした、改まって。……聞こうか」

最強究極アルティメットデストロイは、アルティメットハードモード・駆け出しの街であったことを詳らかに話した。

破壊仙人「なるほど。お主は地獄で弥勒菩薩と出会い、世界を変えるために現魔王へと闘いを挑むのだな」

最強究極アルティメットデストロイ「そんなところです」

破壊仙人「なんと愚かな真似を……じゃが、わしにお主を止める力は残っていない。それに、心強い味方も得ているようだしの。行くがよい、弟子よ」

破壊仙人は立ち上がると、庵の奥から絹の包みを取ってきた。

破壊仙人「この中には>>104が入っておる」

松坂牛

破壊仙人「この中には松坂牛が五頭ほど、圧縮されて入っておる。方術とかいうやつじゃ」

ウサギ「!」シュバババババ

最強究極アルティメットデストロイ「なるほど、魔王城への途上で包みを開いて食べろということですね」

破壊仙人「否、これはウサギ専用のものだ」

ウサギ「……///」

破壊仙人「もし、もしお主が絶望的な状況に陥った時、この包みを開いて松坂牛をウサギに食べさせよ」

最強究極アルティメットデストロイ「すると?」

破壊仙人「松坂牛の脂身が、ウサギの潜在能力を100%引き出すであろう」

破壊仙人「つまり、ウサギは神をも超越する力を手に入れる」

カオス「その論だと全知全能の私より強くなるということだが」

破壊仙人「然り! もはや魔王など小粒……ミジンコレベルの存在となる!」

最強究極アルティメットデストロイ「じゃあ、最初から食べさせればいいじゃないですか」

ウサギ「……」ジュルリ

破壊仙人「家畜は恐怖を感じた時、肉の旨味が一層増す話を聞いたことはあるかね?」

最強究極アルティメットデストロイ「そうか! 圧縮されている松坂牛が命の危険を感じた時にのみ、ウサギの潜在能力は100%発揮されるということですね!」

破壊仙人「う~む、好々」

カオス「>>106

しかしこの松坂牛、相当の手練れであるように見受ける

今日はここまで

カオス「しかしこの松坂牛、相当の手練れであるようにお見受けするが」

破壊仙人「当然じゃ。強者を覚醒させるための肉なのじゃから、牛本体も強いに決まっておろう。ちなみに、此奴はこれまで300人の尊き命を奪ってきた」

右目に傷のある松坂牛「ブルルッ」

最強究極アルティメットデストロイ「なんだか、この松坂牛が魔王に見えてきました。仙人……武者震いが止まりません」

カオス「フッ、ミノタウロスを想起させる奴よ。私も猫耳娘の姿でなければ、存分に神威を発揮できたものを」

ウサギ「……」

破壊仙人「物は試しじゃ。ウォーミングアップも兼ねて、松坂牛を破壊してみるかね?」

最強究極アルティメットデストロイの行動>>109
世界意思の行動>>110
ウサギの行動>>111

牛一頭にすら歯がたたない

妙に懐かれる

3匹までなら拮抗

最強究極アルティメットデストロイ「はああぁぁ……」

最強究極アルティメットデストロイは深く息を吸い込むと、拳に破壊魔法をまとわせ、地面を蹴った。
のんびりと尻尾を振る松阪牛に肉薄する!

最強究極アルティメットデストロイ「うおおお! くらえ、最強究極アルティメットデストロイアームストロングディザスターカタストロフ限界アポカリプス量子分解アッパー!」

破壊仙人「いきなり必殺技を使いよったか! しかし、いつ聞いても技名が訳わからんのう……」

ガキィン!

最強究極アルティメットデストロイ「な……? 拳が松阪牛に届いていない!? 見えない魔防壁で防がれている!」

右目に傷のある松阪牛「モ~」

破壊仙人「松阪牛も身の危険を感じたか、無意識の内にATフィールドを張っていたようじゃな。この勝負、分からなくなってきたぞい」

最強究極アルティメットデストロイ「こ、拳が動かない! 魔防壁の中にめり込んでいく……! 松阪牛! これもお前の計算だったのかァ!」

右目に傷のある松阪牛「ブモーッ!」

後ろに下がった松阪牛は猪突猛進、弾丸の如き速さで最強究極アルティメットデストロイを空の彼方へ跳ね飛ばした。

破壊仙人「あの程度の突進も回避できぬとは、まだまだ未熟じゃな。破壊にばかり気を取られ、防御を疎かにした結果よ」

破壊仙人「次! 世界意思!」

カオス「すまない……」

破壊仙人「どうした」

松阪牛A「モ~///」

松阪牛B「ブフッ///」

カオス「何故だか、懐かれてしまった」

破壊仙人「野性が世界意思に反応したのじゃろう。帰巣本能というのかの。牛達はお主を帰るべき場所と認識しておる」

カオス「そんな……こらッ! 顔を舐めるな! くさいぞ!」




ウサギ「……」

ゆっくりとした足取りで、ウサギが松阪牛に歩み寄る。
松阪牛は一目で確信した。この兎は強い。
ATフィールドを以ってしても進撃は止められぬやもしれぬ。

破壊仙人「双方、恐ろしい殺気じゃ。表情には出していないが、手に取るように分かる」

ウサギが四股を踏む。
松阪牛が左眼でギラリと睨みつける。
覇者の間に、言葉はなかった。

静寂。

ウサギ「疾ッ!」

無表情のまま、ウサギが目にも留まらぬ速さで走り出した。
両腕を交互に振り、膝を高く上げ、その双眸は獲物を見据え。
轟、と突風が土を巻き上げる。

右目に傷のある松阪牛「ウモウ!」

松阪牛はしっかりと脚を踏ん張り、目をカッと見開いた。
もうすぐだ、もうすぐ兎と衝突する。
奴の振り上げた腕が見える。拳が見える!

ガキィイイ……ン!!!!

ウサギ「……!」

右目に傷のある松阪牛「ヘッ」

破壊仙人「防いでおる! ウサギの一撃をATフィールドで防ぎよったぞ! やりおるわ、ガッハア!」

しかし、ウサギもまた尋常の者にあらず。ATフィールドを両手で掴むと、カーテンを引き裂くように容易く破ってしまったのである。

破壊仙人「なんと! あの兎には魔防壁も通用せんのか! こりゃたまげたぞい!」

意外な展開に凍りついた松阪牛の角を握り締め、ウサギは豪快に一本背負い投げを決めた。
低い地響きと共に、角の折れる音。

右目に傷のある松坂牛「グ、グワァア!」

ウサギ「ヌン!」

ウサギは松坂牛の頭を何度も地面に叩きつけた。外傷よりも脳味噌の損傷を狙っての技である。松阪牛が気絶しかけた、その時であった。

松阪牛A「モーッ!」

松阪牛B「ガアアアア!」

カオスに懐いていた二頭の牛が、覇王色の覇気をまとい、捨て身の突進を繰り出したのだ。これには百戦錬磨のウサギもたまらない。回転しながら弾き飛ばされた。

破壊仙人「受け身じゃ! 受け身を取れ!」

ウサギ「……!!」

華麗に着地したウサギの兎唇に、歪んだ笑みが広がる。ただの牛も三頭集まれば戦士となる。ウサギは仲間の危機を救った二頭の松阪牛こそ、真の意味での勇者だと感じた。

勝負の結果>>116

引き分け。しかし確かな友情がそこには芽生えた

日没、一羽と三頭の決着はついた。
松阪牛は三頭とも角が折れ、全身痣だらけであった。
しかし、ウサギも無傷までとはゆかず、体力を使い果たし動けない状態だ。引き分けといったところであろう。

右目に傷のある松阪牛(兎よ……小生は認識を改めねばならぬようだ。貴様のことを、ただの筋肉達磨と侮っていた)

ウサギ(ククク……いいってことよ。余も久方ぶりに命の危機を感じた……良き勝負であった)

松阪牛A(またいつか、暇がおありでしたら闘いましょう?)

松阪牛B(アホか、ワイは二度とゴメンやで。ワハハ……)

そう、テレパシーで会話できるほどの奇妙な友情が、彼らの間に芽生えていた。ぐうぅ、とウサギの腹が鳴る。

破壊仙人「日も暮れたことだし、そろそろ夕餉にするかの。これ、そこの松阪牛。来なさい」

右目に傷のある松阪牛「ンモ?」

破壊仙人は右目に傷のある松阪牛を連れて、庵の裏へ行った。

~その夜~

最強究極アルティメットデストロイ「おぉ~今夜は松阪牛のサイコロステーキですか。豪華ですね! パクッ、うめぇ~ッ!」

カオス「ほっぺたが腐り落ちそうニャ……」

最強究極アルティメットデストロイ「おいおい、ヤハウェのくせに威厳がなくなってるぞ! 世界意思なら、もっと厳かに『善し』とか呟けよ!」

ウサギ「……」

ウサギの行動>>118

鬼のように角を生やして
一角ウサギに変身した

ピキ、ピキピキと亀裂の入る音が聞こえた。見れば、ウサギの額に巨大な一本の角が生えているではないか。顔に血管がはっきり浮き出て、眼球はギョロギョロとあらぬ方向を行ったり来たりしている。サイコロステーキを噛んでいた破壊仙人も、この光景には入れ歯を吹き飛ばして尻餅をついた。

破壊仙人「ウサギが、神に近づいておるッ!」

最強究極アルティメットデストロイ「まさか、サイコロステーキの影響によってなのですか!?」

破壊仙人「当たり前じゃろう。ぐぬぬ、つい近くにいた松阪牛をステーキに使ってもうた。これが、ウサギに特殊強化を施すドーピング剤であることを忘れてのう!」

最強究極アルティメットデストロイ「しかし、ウサギが強化されるのは良いことなのでは?」

破壊仙人「時と場合を考えよ! 松阪牛には摂取した者を狂戦士化、つまり混乱させる副作用もあるのじゃ。使うとすれば魔王戦、最終局面! 食卓で使うものではないわい!」

最強究極アルティメットデストロイ「結局、悪いのは全て師匠ではありませんか!」

破壊仙人「やかましい! わしに全責任を押し付けるなーへぶッ!」

ウサギのサマーソルトキックが破壊仙人の顎に炸裂した。
破壊仙人は屋根を突き破り、夜空の彼方へ飛んで行った。

最強究極アルティメットデストロイ「ウサギ、てめぇ! よくも俺のお師匠様を……!」

戦闘態勢に入った最強究極アルティメットデストロイを無視し、庵の外まで歩いていくウサギ。その視線の先は遠影となっている魔王城に向けられていた。

ウサギ「……」

最強究極アルティメットデストロイとカオスを置いて、ウサギは突如走り出した。これより、ウサギと魔王軍の最後の戦いが幕を開ける。

まずウサギが行った場所>>120


魔王城2

魔王城には二つの種類がある。
現世の魔王城と、並行世界のアルティメットハードモード魔王城だ。ウサギは山道を下りながら、いつの間にかアルティメットハードモードの世界に迷い込んでいた。

松阪牛A「大丈夫ですか、ウサギさん!」

松阪牛B「右目キズが屠殺されたみたいやが……ウサギ、お前は無事なようで安心したで!」

ウサギ「貴様ら……何故ここにいる」

松阪牛B「そりゃアンタ、決まっとるやろ! 魔王城2に行くアンタを助けるためや!」

松阪牛A「魔王城2……アルティメットハードモード魔王城はゴブリンでもアルテマを連発する鬼畜難易度。貴方は強い。しかし数で攻められれば、ひとたまりもありません」

松阪牛B「そこを、ワイらが支援するっちゅーわけや」

ウサギ「貴様らを、なんと呼べばよい」

松阪牛A「>>122とお呼びください」

松阪牛B「ワイは>>123や!」

松「私は松とお呼びくださいまし。ヒール程度の簡単な呪文でしたら、唱えることができますわ」

阪「ワイは阪や! 三人揃って松阪兎! 松阪兎ってウマいんか? タハーッ! ハッハッハハッハッハー!」

松「お静かにしてくださる? 近くに最強究極アルティメットデストロイが隠れているやもしれませんから」

ウサギ「あの雑魚が、どうかしたか」

松「彼は今、復讐の炎に駆られておりますの。長年付き添ってきた師匠を貴方に殺されてね。もう魔王も未来魔王も彼の心にはありません」

阪「あるのは、お前への憎悪と殺意だけや。厄介なのは、最強究極アルティメットデストロイ陣営に世界意思……カオスがついていることやな」

ウサギ「つまり、神と獣と魔族の三つ巴戦争というわけか。面白い。余が最も望んでいた無秩序な世界……」

松「ウサギさん、現魔王を倒すのです。さすれば魔王陣営の兵は全て貴方の物。いくら全知全能の神といえど、簡単に破壊できます。まるで、いはけなき幼女の腕をねじ伏せるようにね」

ウサギは血染めの大斧を振るい、針葉樹を次々と斬り倒していった。そして、二人乗りの戦車を作り上げたのである。戦車と言っても装甲車のことではなく、松阪牛二頭に牽かせる二輪の馬車もどきであるが。

ウサギ「目指すは魔王城! 走れッ!」

ウサギは飛ぶように戦車を走らせ、アルティメットハードモードの世界から、現世へと戻ってきた。幸いにも、魔王城まではなんの遮蔽物のない、草原が広がっている。

ウサギ「休むか?」

松「なんの! 松阪牛を舐めてもらっては困りますわ!」

阪「戦士はな……事が済むまで休まないもんやで!」

ウサギ「その言葉を聞いて確信した。貴様らこそ、真の勇者である。速度を上げるぞ!」

松・阪「「押忍!!」」

その時、どこからともなく現れた巨大な影が戦車を包み込んだ。

>>126「よう、獣勇者さんよ」

佐賀牛

松「ンモーッ! 空から大きな牛が落ちてくるわ!」

阪「あれに潰されたら、ひとたまりもないやろなぁ……」

ウサギ「二人とも足を止めろ。余が確認する」

ウサギは戦車を降りると、小山のように大きい牛に近寄った。

ウサギ「貴様は誰だ。余の敵か否か」

佐賀牛「お前、天下の佐賀牛様を知らないとは何処の田舎モンだ? 普通、ここはお前が跪いて挨拶するところだろ」

ウサギ「敵か味方かと聞いている」

佐賀牛「くだらねーな、敵か味方かなんて何の話だよ。俺様は誰にも縛られたりしない。ただ食いたいから食い、暴れたいから暴れる。ほれ、自己紹介は済んだぜ」

ウサギ「貴様は盾役として使えそうだ。よし、余と共に魔王を征伐せよ」

佐賀牛「俺様に指図するってのか? あぁん?」

ウサギ「勝負をしよう。ここから魔王城まで走り、先に城壁に触った方が勝ちだ。敗者は勝者の命令を何でも聞くこと」

佐賀牛「敗者が勝者の命令を何でも聞くだァ? ……その勝負、乗った! 俺様が負けるはずねぇからな」

ウサギ「それでは参るぞ」

佐賀牛「途中棄権ってのはナシだぜ。ギャハハ!」

ウサギ「……」

兎は速い。
野うさぎでも最高速度時速80km、つまりトムソンガゼルや高速道路を走る自動車並みのスピードが出せるのだ。筋力に特化した個体とあらば、その速度は時速200kmを優に超える。チーターなど目ではない。

松「すッ凄いスピードだわ。衝撃波が……モウッ!」

阪「まさに規格外やな。ほな、ワイらも追うで!」

走るウサギ。
世界が繋がって見える。

ウサギ「余の速度に敵う者がいるとは思えんな。ほら、もう随分と引き離してしまった」

佐賀牛「そーかァ?」ビュン

ウサギ「なにッ!?」

思わず飛び退いた。
先程まで遥か後方にいた佐賀牛が、一瞬で距離を詰めたのだ!

ウサギ「どんなカラクリを使った」

佐賀牛「いんや、なにも。ただ俺様がお前より速いだけだぜ」

ウサギ「ぬかせッ!」

腰を低くかがめて前傾姿勢をとったウサギは、さらに速く、音速の壁を突破した状態で駆け続けた。

佐賀牛「>>130

たかがマッハ1とは笑わせる
光速を見せてやる

佐賀牛「たかがマッハ1とは笑わせるぜ。見せてやるよ、光速と音速の越えられない壁って奴をなァ!」

佐賀牛は四肢を深く折り曲げた。彼の脚の筋肉はバネのように伸縮自在なのである。
落ちて来た時に怪我が無かったのも、一瞬でウサギを抜かすほどのスピードを出せたのも、バネの異常な瞬発力がタネだった。

佐賀牛「負けたら何でも言うこと聞くんだよな? ヒヒヒ……楽しみだぜ」グググ

ビリリッ

佐賀牛「な……? 脚が痺れて動かないッ!?」

佐賀牛「クソッ! 麻痺してやがる! なぜだ、動け動けーッ!!」

ウサギ「貴様の脚力が尋常でないことは見抜いていた。だからこそ、角で脚を封じさせてもらった」ダダダダダ

ウサギの角が蒼白い光を帯びている。
この角から微電流を放ち、佐賀牛の脚を麻痺させたのだ。
そして、魔王城の城壁に先に触れたのはウサギとなった。

佐賀牛「うぐぐ……畜生……卑怯だぞ! 麻痺が無ければ、俺様は勝っていた!」

ウサギ「麻痺は反則だと最初に伝えておくべきだったな。貴様の注意不足が招いた敗北だ。大人しくタンクになれ」

こうしてウサギは松阪牛の松と阪、佐賀牛の>>133を味方につけて魔王城へ乗り込んだのであった。




滋賀

ウサギが松と佐賀、滋賀を従えて魔王城に入った頃。
魔界の勇者・最強究極アルティメットデストロイは、破壊仙人の庵で体育座りをしていた。

最強究極アルティメットデストロイ「なあ、カオス。弥勒菩薩……じゃなくて未来魔王は何のためにお前らを寄こしたんだろうな」

カオスは猫耳娘から本来の虚無へと姿を変えている。
つまり、傍から見れば最強究極アルティメットデストロイがボソボソ独り言を呟いているような状態だ。

カオス「それは勿論、現魔王を倒すためだろう。それ以外に何の目的があるのか」

最強究極アルティメットデストロイ「俺な、遠視で見ちまったんだ。あのクソウサギが松阪牛とバカでかい佐賀牛と一緒に、魔王城へ入っていくの」

カオス「先を越されたな。オムライスだのサイコロステーキだの呑気に喰っているからだ」

最強究極アルティメットデストロイ「カオス、俺は今から魔王城に行く。そこで兄も現魔王もクソウサギもみんな殺す」

カオス「ほほう、かつての仲間を相手にするか。師の仇討ちと大義もできたようだしな」

最強究極アルティメットデストロイ「お前はどちらにつく。俺と共に世界を得るか、クソウサギの下働きとなって生涯を終えるか」

カオス「汝はひとつ勘違いをしているな。私は生きても死んでもいない。生死の次元を超越した存在である」

最強究極アルティメットデストロイ「で、どっちにつくんだ」

カオス「弥勒菩薩から頼まれたこともあるし、お前と闘うことにするよ。今のところは、な」

>>134
×佐賀
〇阪

~魔王城~

松「精霊の情報によれば、究極最強破壊神アルティメットデストロイはレーザー攻撃を主に使ってくるそうです」

阪「ヒエ~、レーザーなんて速くて避けられないやんけ」

滋賀「松阪牛は佐賀牛と違ってATフィールドを張れたはずだ。そいつでレーザーを防げばいい」

松「ATフィールドはあくまで、物理専用のものです。魔法攻撃にはあまり効果がありません」

阪「ウサギは何か突破するための策は考えてるんか?」

ウサギ「考えては……いる。だが、有効策かと言えば不安が残る」

ウサギは落ちていた盾を持つと、前に押し出す仕草をした。

ウサギ「レーザーが直撃する瞬間、盾で光線を跳ね返す。タイミングが合えば可能だと弥勒菩薩から聞いた」

滋賀「そんなボロッボロの盾で跳ね返せるわけねーだろ。頭イカレてんのか?」

ウサギ「もし盾が無理ならば、その時はその時。また別の打開案を考える。滋賀、貴様は襲い来る雑魚敵を突進で始末しろ」

阪「一応、魔防壁も張っとくで~」

ウサギ一行が入った場所>>137

宝物庫

ガツン ガツン ドゴォオオン!!!

滋賀「開いたぜ。鍵がかかっていたが、俺様の巨体と力にかかりゃこんなものよ」

松「なんでしょう、ここは? やけにキラキラしているといいますか、眩しいといいますか……」

ウサギ「宝物庫だ。現魔王が民から奪い、溜め、こさえた金銀財宝の泥沼よ」

阪「ンモ~、牛には価値が分からんやで」

ウサギ「滋賀、近くに松明はあるか。あるならば余に渡せ」

滋賀「篝火ならあるぜ。ほらよ」

財宝の山に違和感を感じたウサギが、松明で赤く照らしてみる。
すると、金貨の下に白い滑らかな、象牙のような物体があることに気が付いた。

ウサギ「なんだ、この白い物は……」ジャラジャラ

ゴロン

ウサギ「ヌッ」

松「ひぃ!」

阪「うお……魂が口から飛び出そうになったやで……」

転がり出てきたのは、なんと人間の頭蓋骨だったのである。

滋賀「ハッ! たかが人間の頭蓋骨が出たくらいで、そこまで驚くこたねぇだろ」

松「し、しかし宝物の中に一つだけ頭蓋骨があるのは不気味で……」ブルブル

滋賀「どこぞの墓荒らしかトレジャーハンターが行き倒れた、それだけだ。騒ぐ意味が分からんね」

阪「もしかして、魔王を倒しにきた勇者って可能性も考えられるで」

>>140「ご明察」

ウサギ「……貴様は」

破壊仙人

破壊仙人「フォフォフォ、それは1000年前に究極最強破壊神アルティメットデストロイに敗れた初代勇者の頭骨じゃ」

ウサギ「貴様……生きていたのか」

破壊仙人「お主にサマーソルトキックを受けて、魔王城の宝物庫まで吹っ飛ばされてきたんじゃ。右腕が折れてしまったが、破壊して治したわい」

松「破壊して治す? ちょっと何言ってるか分からないんですけど」

阪「つまり、下手にいじくるよりも一気に破壊してしまった方が、なんだか気が楽になるみたいなアレやね」

滋賀「……ジジイ。今さらノコノコと何をしに出現しやがった」

破壊仙人「おやおや、お主は……。佐賀牛に身をやつしておるとは意外じゃったわ。早く正体を見せんかい」

ウサギ「仙人。貴様は滋賀と面識があるのか」

破壊仙人「仕事の同僚みたいなものじゃよ。ほれほれ『客人達』に姿を披露してやりなさい」

松「客人?」

滋賀「仕方ねぇなぁ。ウサギ、俺様ァついて来れるのはここまでのようだ」バッ

ピピピピピ……

松「ンモ!? レーザーの照準音!? どこから響いているの!?」

滋賀「ここだ、ここだよ」

滋賀のいた場所に、見知らぬ人型の怪物が立っている。

究極最強破壊神アルティメットデストロイ「俺が究極最強破壊神アルティメットデストロイ。待っていたぜ、獣勇者。1000年前の変態みてぇに、良い悲鳴聞かせてくれよ?」

阪「ど、どういうことや? 滋賀が敵方の大将ってことか? よー分からへん!」

ウサギ「滋賀ッ……!」

破壊仙人「究極最強破壊神アルティメットデストロイ。早く決着をつけんか」

究極最強破壊神アルティメットデストロイ「分かった分かった。ジジイは黙って奥に控えてろや」

ピピピピピ……

阪「レーザーが来るでッ!」

松「ウサギさん、盾を構えて!」

ウサギ「……」

キュウン!

ウサギ「ここだッ!」

コンマ偶数で成功、奇数で失敗

パリィン!

ウサギ「グッ!」

阪「失敗や……盾が壊れてしまったで」

松「他の盾を探さないと!」

究極最強破壊神アルティメットデストロイ「無駄だ。ここに盾になるような者は置いていない。テメェらは何もできずに死ぬんだよ」

破壊仙人「お主、1000年の間に随分と口が悪くなったの~。そんなキャラじゃなかったろう。会話で『然り』とか使っちゃうレベルの生真面目マンじゃったろ」

究極最強破壊神アルティメットデストロイ「ジジイが異常なんだよ。1000年もずっとフォッフォフォッフォ笑いやがって。キメェわ」

破壊仙人「フォッフォッフォ~。真面目な人間が壊れてゆく様、とってもナイスじゃわい」パチパチ

究極最強破壊神アルティメットデストロイ「チッ! 呑気に俯瞰を決め込みやがって。ウサギを始末したら次はテメェだ!」

ピピピピピ……

再びレーザーの照準がウサギの額に当てられる。
ウサギは辺りを見渡したが、ほとんど金貨かコップばかりで、光線を跳ね返すには脆すぎる。
左右にステップを取っても、薙ぎ払われたら一巻の終わりだ。
ならば、行動はひとつ。

ウサギの行動>>146


レベルを犠牲に放つ最終奥義 レベルエクスプロージョン

ウサギ「余はレベルエクスプロージョンを使う」

松「そ、それって昔、弥勒菩薩様が仰っていた……」

阪「やめるんや、ウサギ! そんなことしたら、アンタ……」

弥勒菩薩から授けて貰った最終奥義。
本当に追い詰められた時にしか使用できぬ、禁忌の技。
5000000もある自らのレベルを、150000000もある自らの戦闘力を、全て犠牲にして放つ爆破魔法。

ウサギ「それが、レベルエクスプロージョンであるッ!」

最終奥義は万能ではない。至近距離まで近づかなければ発動できないのである。
そう、それこそキスができるほど接近せねばならない。

ウサギ「いくら性格が粗野になっていると言えど、奴は1000年もの間、戦闘センスを磨いてきたのだ。そう簡単には近寄らせてもらえないだろう」

ウサギ「多少の負傷は覚悟の上……肉を斬らせて骨を断つッ!」

ウサギはのっしのっしと大股で歩き始めた。

究極最強破壊神アルティメットデストロイ「ギャハハ! バカかアイツ? 自ら向かって来やがったぜ!」

キュウン! ズンッ!

ウサギ「グッ! レーザーがッ……右肩を……!」

究極最強破壊神アルティメットデストロイ「酷いザマだな、獣勇者。まるで歩くサンドバッグだぜ」

究極最強破壊神アルティメットデストロイの一歩前まで、ウサギは辿り着いた。
だが、ウサギはそれ以上動くことはできなかった。
両腕両脚をレーザーによって穿たれ、機能不全に陥っていたのだ。
進むことも戻ることもできず、無双のハイパーラビットは膝をついたまま沈黙した。

究極最強破壊神アルティメットデストロイ「おおい、そこのグズ牛ども。ご主人様が怪我してんぞ。さっさと治せや(笑)」

ウサギ「……」

阪「松ッ! おい、松ッ! しっかり気を保つんや、あんなのはただの脅しに決まっとる。どうせワイらが恐怖で動けないと思っとるんや」

松「モウゥウン……阪、私、ダメかもしれません……」ガチガチ

松「さっきから身体の震えが止まらないんです……! ウサギさんを助けようと頑張っても、脚が言うこと聞かないのよぉ……!」モォオオオ

阪「それは自分の命を惜しんどるからや! そもそもワイら松阪牛は、魔王戦でウサギに喰われて死ぬ定め。ハナから片道切符ってのは分かってたことやろ!」

松「む、無理ですわ! 私は阪のように強くない。ただの、か弱い松阪牛。のどかな牧場で育って子供を産んで、安らかな死を迎えるのが夢だったの……」

阪「今さら何を臆病風に吹かれとるんや。もうええ、ワイが手本を見せたる。ウサギを頼んだで、松」スッ

松「ちょっと阪、どこに行く気なの!?」

阪「破壊仙人の庵でリーダー……右目に傷のある松阪牛が屠殺されたやろ? あん時な、ワイはちょっと憧れてたんや。最期に誰かの役に立って死ねるなんて、誰かの笑顔のために死ねるなんて素敵なことやん。ほなからワイは、逝く時くらいはせめて牛の本懐を遂げたいんや」

松「やめて! 私を一人にしないで!」

阪「松……ずっと迷惑かけてすまんな。攻撃魔法も治癒魔法も使えん無能を、嫌な顔せずお前は支えてくれた。これはその恩返しやと思うてくれ」ダッ

究極最強破壊神アルティメットデストロイ「さぁ、最後のレーザーだ。覚悟はできたか? 獣勇者」

ウサギ「……ここ、までか」

ピピピピピ……

キュウン! プツッ

究極最強破壊神アルティメットデストロイ「……あァ? なんだ、この魔防壁は」

阪「ぐうぅ……なんちゅー強力な光線なんや! ウサギ、はよ逃げんか! ここはワイがレーザーを止める! 松、ボーっとせんでウサギを助けるんや!」

ウサギ「>>149







すまない、お前の命無駄にはしない……ぱくっ

ウサギ「すまない、貴様の命無駄にはしない……」ガブッ

ウサギは阪の後ろ脚にかじりついた。

阪「い、いでぇえええッ! なにするんや、血迷ったか!」

ウサギ「貴様のATフィールドではレーザーを止めることはできん。すまんが、股を引き裂かせてもらう」

阪「や、やめ……うぎゃあああああああああああああああああああああ」ベリベリベギョオ

松「阪ァああああああああッ!!!!」

破壊仙人「ひょっほおお!!! なんと鮮やかな股裂きじゃあ!!!」ハァハァ

ウサギ「バクッボリッムシャムシャプッ」

松「いくら戦士面したって、結局ウサギは獣に過ぎないのね……。私もああなるのかしら」ヒック

ウサギ「うぬ……ぬおおおッ」バキバキヘバキィ

ウサギの両腕が藍色を帯びていく。硬質化しているのだ。
数分後、強固なガントレットを装着したウサギができあがった。
もちろん、レベルは阪の分を取り込んで10000000まで跳ね上がっている。

ウサギ「先ほどは不覚を取ったが、もう貴様の光線を受けることはない。全て跳ね返す!」

究極最強破壊神アルティメットデストロイ「ヘッ……言ってくれるじゃねーの」


 

究極最強破壊神アルティメットデストロイ「この期に及んで更なる力の覚醒とは、意外と粘りやがるな。1000年前の変態は一瞬で消し炭にしてやったのによ」

ウサギ「阪のおかげだ。彼がいなければ、余は身動きが取れず射殺されていただろう。松、貴様の相棒は役目を果たしたぞ」

松「ウサギさん!」

究極最強破壊神アルティメットデストロイ「さぁ、フィナーレと参ろうぜ」

ピピピピピ……

ウサギ(レーザーの射出口が光った瞬間、ガントレットを押し出す。レーザーの射出口が光った瞬間……)

キュウン!

ウサギ(ここだッ!)バッ

キィイン! 

ウサギ(上手いッ! 跳ね返したッ!)

ドゴーン!

究極最強破壊神アルティメットデストロイ「グハッ……!」

ウサギ「今だ、一気に畳みかける! レベルエクスプロージョン!」

瞬間、世界が白く光り輝いた。





凄まじい爆風は究極最強破壊神アルティメットデストロイは勿論、破壊仙人や松をも呑み込み、魔王城を激震させた。戦闘力30000000の化け物から放たれる計り知れないエネルギー。周辺の環境を破壊するのは容易であった。
だが、この爆発で唯一生き残った者がいる。

破壊仙人「あの獣勇者め、想像以上に強化されておった。ちと効いたわい……魔王じゃからと油断したか」

破壊仙人「まぁよい。ウサギはレベルエクスプロージョンで、知性のない兎に戻りよった。わしの傷も、散らばった松阪牛の肉片を集めて食せば元通りじゃ」

魔王は姫を攫った後、破壊仙人と名を変え、弟子を取り、ひっそり高山で暮らしていた。彼こそが1000年前に先代魔王を玉座から追放した、近衛隊長その人だったのだ。

松「」

破壊仙人「ウムッ、うまい。ちょっと焦げているが、焼肉と思えば大差無い。やはり松阪牛の肉は最高じゃの~」

破壊仙人「のう? >>154

破壊仙人「のう? 姫よ」

隣を向くと、両眼を涙で潤ませた姫がじっとこちらを睨みつけていた。彼女は1000年前に魔族製造機として何千回も強姦された末、神戸牛の餌という悲惨な末路を迎えている。

姫「魔王……私はあなたを赦さない!」

破壊仙人「魂だけなら何とでも言える。実体が無いからのう。その代わり、お主はわしに指一本触れることはできん」

姫「1000年間、あなたを倒す勇敢な戦士が現れるのを待っていました。しかし、あなたに挑んだ勇者はみな……」

破壊仙人「わしの元まで辿り着けず、途中で死んでいった。今までも、そしてこれからも、わしと闘う勇者など現れない!」

姫「いえ、いるのです。私の願いが弥勒菩薩様に通じたようで、彼は寄越してくれました。魔王を討つ剣を!」

破壊仙人「まさかそれは、わしの弟子ー」

最強究極アルティメットデストロイ「まさか師匠が俺の越えるべき壁だとは思いませんでした。最強究極アルティメットデストロイ、いざー」ザッ

姫「ではなく!」

最強究極アルティメットデストロイ「ではなく!?」

姫「世界意思! あなたこそ弥勒菩薩が私に授けた最後の砦! その神威を以て、魔王を常闇に封じ込めてください!」

カオス「>>156

いや魔王だけとか無理言わないでよ
世界全体丸ごとなら常闇に封じれるけど

カオス「魔王だけだと? 無茶を言うでない。世界全体丸ごとならば、常闇に封じることはできるが」

姫「では……」

姫「世界まるごと……!」

最強究極アルティメットデストロイ「姫様、変なことはよすんだ。もし世界を常闇に封じたら、師匠……いや魔王だけでなく俺達も滅ぶんだぞ」

破壊仙人「そうそう! 若さ故の過ちじゃな。考え直してはどうかの? 世界まるごとはやり過ぎじゃて」

姫「私は元より滅んだも同然……世界がどうなろうと知ったこっちゃあない。魔王、あなたが消え去るのなら!」

姫「世界意思、やってください!」

カオス「了解した」

最強究極アルティメットデストロイ「や、やめろーッ!!」

破壊仙人「な、南無三ッ……!」

グニャア

この日、世界は滅んだ。

~世界滅亡後・二巡目の地球~

いざ酒を飲もう >>158
>>159の輝きに 我が魂の輝きに
主の威光に 乾杯をしよう
その昔>>160は言った
>>161」と
攫われた麗しの姫は囁いた
>>162」と
薔薇園の中央で蒼ざめた月を仰ぎ
今こそ歌わん >>163の詩

ポロン……

吟遊詩人「いかがですか?」

教皇「学者共の唱える前世論は信じられんが、トゥルバドゥールよ、貴様の歌う>>163の詩は面白い」

>>160からお願いします

雷様

滅びゆく世界

ぷにぷに君

俺の金返せ

~その日の夕方・城下町~

吟遊詩人「では、奏でます……」

いざ酒を飲もう 雷様よ
滅びゆく世界の輝きに 我が魂の輝きに
主の威光に 乾杯をしよう
その昔ぷにぷに君は言った
「俺の金返せ」と
攫われた麗しの姫は囁いた
「誰だお前」と
薔薇園の中央で蒼ざめた月を仰ぎ
今こそ歌わん 皇子の書き殴った厨二ノートの詩

町娘達「「「キャ~! 良い声ね、惚れちゃうわ~!!」」」

じじい「ハープを奏でる指さばきが、常人の域を超えておるな。素晴らしい詩を聞かせてもらったよ」

チャリンチャリン!

四方から一斉に金貨が投げ込まれる。
どういうわけかトマトも投げられたが、吟遊詩人は優れた動体視力と柔らかい身体で回避した。

吟遊詩人「皆様、ありがとうございます。トゥルバドゥールの演奏会はこれにてお開き。次回の演目は未定でございます」

牛みたいな町娘「えー! 楽しみにしてたのにー! でも楽しませてもらったから、御礼にミルクとパンをあげるわ」

吟遊詩人(泥だらけの手でパンを差し出さないでくれよ、汚ったないなぁ)

吟遊詩人「ありがとうございます。神が貴女に恵みの吐息を吹きかけてくださいますように」

牛みたいな町娘「あらやだ……///」

吟遊詩人「さてと、今宵はどこで泊まろうか。そうだ、無料で泊まれる修道院が町の外れにあったな……。そこへ行こう」

~町の外れの修道院~

吟遊詩人「夜分遅くにすみません。昼間は吟遊詩人として詩を歌い、食いつないでいる者です。宿屋に泊まる金がなく、難儀しております。一泊だけで良いですから、部屋を貸していただけないでしょうか」コンコン

ギイィ……

修道女「……」ジー

虫食いだらけの扉を開けたのは、背の低いシスターだった。
歳は17、8ほど。首に提げた銀のロザリオが月の光にキラリと輝く。吟遊詩人は、自分が未知の幻想世界に巻き込まれてしまったのではないかと錯覚を起こしかけた。

修道女「食事代は別ですよ。入ってください。ただし、足音は立てないように。眠っているのです」

吟遊詩人「眠るって、何が?」

修道女「>>169です」

ぷにぷに君

修道女「ぷにぷに君が眠っているのです。ぷにぷに」

吟遊詩人「ぷにぷに君だってェ!?」

修道女「しっ! 静かに」

吟遊詩人「ああ、すみません。実は僕、ぷにぷに君を歌に登場させておりまして。まさか実在するとは……」

修道女「抜き足差し足で歩きなさい。ぷにぷに君は温厚な魔族ですが、その反面巨大な闇を心の内に抱えています。ぷにぷに」

吟遊詩人「や、闇ですか……」

修道女「ぷにぷに君を怒らせてみなさい。あなただけでなく、この城下町に住む全ての人間が惨殺されます。首をもがれて城門に晒され、カラスに眼球をつつかれる所となります。ぷにぷに」

吟遊詩人「すみません、ぷにぷに氏はどんな外見をしているのですか? もしかしたら、ぷにぷにと分からず足で踏んでしまうかもしれないのです」

修道女「>>171

5000兆カラットのダイヤモンドで構成されたカチンコチンとしかいいようのない肉体。マッハ50で移動する。雌で男が好き

修道女「多分見分けやすいと思います。ぷにぷに君は5000兆カラットのダイヤモンドで構成されたカチンコチンとしかいいようのない肉体を持っています」

吟遊詩人「硬すぎます、どこがぷにぷになんですか!」

修道女「それからマッハ50で左右に寝返りを打っているので、まぁ修道院に入って気がつかない人はいないでしょう」

吟遊詩人「えぇ……もはや跳弾みたいなモンでしょそれ……」

修道女「あと、ぷにぷに『君』とか名乗ってますがアレは雌です。夜な夜な男性冒険者の部屋に侵入しては、ターゲットの背骨を粉砕して巣に帰っていきます」

吟遊詩人「なんだか、突っ込むの疲れました」

修道女「とにかく私から伝えられることは、何があっても『パニくるな』以上。院内でのフラッシュ付き撮影は禁止となっております。そこもご了承ください」

吟遊詩人「分かりましたよ……気が重いなぁ……」

扉の中に入ると、真っ先に広い噴水庭園が目に飛び込んできた。ヒースやチューリップなど様々な花が咲き乱れ、色とりどりの蝶が舞う。この世の楽園を集めて煮込んだような、幸せの凝縮された空間であった。

吟遊詩人「へぇ~、なかなか広くて小綺麗なんですね。外観は蔦だらけできったねぇのに」

修道女「それ以上言ったら追い出しますからね」ジトー

吟遊詩人「すみません、つい本音が口から出てしまいました」

修道女「しかし妙ですね。ぷにぷにの気配が感じられません」

吟遊詩人「気配?」

修道女「いつもは、この庭で寝返りを打っているのです。今日はどうしたのでしょう……なんだか気味が悪い」

吟遊詩人「どうしたっても……」グギュルル

修道女「むむ」

吟遊詩人「シスター、どうか僕に食べる物と飲む物を与えてください。昼から何も食べずにハープを弾き続けて来ました」

修道女「部屋の案内を先にしようと思ったんですがね……。仕方ありません、食堂へどうぞ」

食堂で出された料理>>174

修道女お手製のパンとスープ(どちらも暗黒物質化してる)

食堂には長椅子が三つ並んでおり、食事をしている人は誰もいなかった。天井のステンドグラスが月光を浴びて、淡い七色の輝きを帯びる。古い修道院にしては、素敵な演出だ。

修道女「先にお金を頂きます。金貨3枚です」

吟遊詩人「あの~、銀貨ではダメ?」

修道女「ダメです。昔から、食事代は一律金貨3枚と規則で決まっていますので。ま、金貨3枚に相応する働きを見せれば、話は別ですが」

吟遊詩人「なら、僕の詩を聞いてください。皇子の書き殴った厨二ノートの詩ってタイトルです」ポロン……

いざ酒を飲もう 雷様よ
滅びゆく世界の輝きに 我が魂の輝きに
主の威光に 乾杯をしよう
その昔ぷにぷに君は言った
「俺の金返せ」と
攫われた麗しの姫は囁いた
「誰だお前」と
薔薇園の中央で蒼ざめた月を仰ぎ
今こそ歌わん 皇子の書き殴った厨二ノートの詩

吟遊詩人「……どう?」

修道女「及第点といったところですね」フウ

修道女は溜息をつき、厨房へ消えた。
しばらくして、吟遊詩人の前には焦げて黒くなったパンと暗黒物質と化したスープが置かれた。

修道女「私のお手製です。ゆっくり味わいなさい」


吟遊詩人(うう、マズいなぁ。ヘドロを寒天で固めたような味と食感だ。人はこんなにマズいスープを作れるのか……)

修道女「どうですか、お味は」

吟遊詩人「お、おいしい……」

修道女「ふふッ、それは良かった。私、料理が苦手ですから。この間もシチューに乾燥剤入れて、こっぴどく叱られたんです」

吟遊詩人(吐きたい……)

ぷにぷに君「フゥオオオオオオッ!!!」

修道女・吟遊詩人「!?」

吟遊詩人「今、庭の方から奇声が……」

修道女「隠れて下さいッ!」

修道女は吟遊詩人を連れて、奥の部屋に逃げ込んだ。奥の部屋には、土嚢が山のように積んであった。その裏に二人は隠れ込む。

ぷにぷに君「オス……オスの匂いだわ……。オスの匂いがしゅるにょおおおお!!! 全身の骨を砕いてぷにぷにさせたいわぁ……」

ぷにぷに「フゥオオオオオオッ!!!」

修道女「食堂に入ってきましたね」

吟遊詩人「マズいですよ、匂いを辿られたら確実に僕達は捕まってしまう! そうだ、土嚢を破って土を塗りたくりましょう」

修道女「いいえ、そんなことをしても無駄です」フルフル

ぷにぷに君の嗅覚は犬の数倍鋭く、土の匂いと男の匂いを嗅ぎ分けてしまうのだという。

吟遊詩人「そんな……それじゃ、どうやっても待つのは死あるのみではないですか」

ぷにぷに君「早く出てきなさいよォ~! 土嚢の裏に隠れてるのは分かってんのよォ~!」ズカズカバキャズズゥン

吟遊詩人(おそらくマッハ50で地団太を踏んでいるんだろう。衝撃波で周りの机が吹っ飛んでる音が聞こえる)

修道女「詩人さん、私に提案があります」

吟遊詩人「提案とは?」

修道女「>>178


女になっちゃえばいいんです

修道女「女になっちゃえばいいんです」

吟遊詩人「……は?」

修道女「たしか厨房に肉切り包丁があったんですよね。アレで詩人さんのアレをちょん切ってしまえばよろしいかと」

吟遊詩人「……」ゾッ

修道女「ってのは嘘で」

吟遊詩人「……」ホッ

修道女「ちょっと、なに黙ってるんですか。ここは笑いどころでしょ。シスタージョークですよ、シスタージョーク」

吟遊詩人「で、本当はどうすればいいの」

修道女「どうするも何も、言ったじゃありませんか。女になっちゃえばいいと。つまり、女装するんですよ」

修道女は服を脱いで下着だけの状態になると、まだ暖かい修道服を吟遊詩人に手渡した。

吟遊詩人「シスターともあろう人が、人前でなんと破廉恥な格好を!!!」アタフタ

修道女「私はぷにぷに君を引き付けます。あなたはその隙に逃げてください。詩人さん、服を」

吟遊詩人「て、抵抗はありますが……」ヌギッ

小刀を取り出し、自身の髪を切り落とすシスター。

修道女「苦肉の策ですが、これで行く他ありません」

吟遊詩人「修道女さんは……どうして僕なんかのためにそこまでしてくれるのですか?」

修道女「大切なお客様だからです。たとえあなたでなくても、私は同じ行動をしたでしょう」


修道女「お互い、命があれば城の前で再会しましょう」

吟遊詩人「はいッ!」

修道女「最後に、ひとつだけ。ありがとうございます」

吟遊詩人「ん?」

修道女「私の料理を褒めてくださったのは詩人さんが初めてだったので」フフッ

吟遊詩人「はぁ……」

修道女と吟遊詩人は、いっせーのーせで同時に土嚢の部屋を飛び出した。
吟遊詩人に扮した修道女を見つけ、ぷにぷに君が目を爛々と煌めかせる。
男女を見分けられない辺り、ぷにぷに君の頭はそれほど良くないようだ。

ぷにぷに君「ウガアアア!!! ミツケタ!! ミツケタ!!! オス、ミツケタ!!!」

吟遊詩人「シスター、危ない!」

修道女「駆け続けて、止まらないで! 今のシスターはあなたなのですよ!」

吟遊詩人「は、はひッ!!!」ダダダ

吟遊詩人は脇目も振らず駆け続けた。
後ろでステンドグラスの割れる派手な音が響いても、決して振り返ることなく無我夢中で走り続けた。
途中、長いスカートを踏んづけて転んでしまったが、死の恐怖の前には擦り傷の痛みなど大したことではない。
そして気が付いた時、彼は修道院の外にいた。
 

~宿屋~

吟遊詩人「あのシスターは死んでしまったのか……」

宿屋の一室、全裸の青年が悶々と窓の外を眺めていた。
あの後、朝陽が昇るまで城の前で待ってみたが、シスターが姿を見せることは無かった。
ぷにぷに君に背骨を打ち砕かれて死んでしまったのか。

吟遊詩人「僕のせいだ……。僕が泊まりに訪れたから、彼女は死んでしまったんだ」グス

自分を責めても、状況が変わらないのは分かっている。
ぷにぷに君を討っても、修道女が戻らないのは分かっている。
なら、自分にできることとは。

吟遊詩人「詩を作ることだ。この悲しみと喪失感を詩にするんだ」

こうして修道女を悼む詩が完成した。

吟遊詩人「奏でるか……」ポロン

おお聖女よ 私を赦し給え
>>182できなかった私を赦し給え
別れ際に見た貴女の微笑みを
私は生涯忘れぬだろう
嗚呼 >>183
嗚呼 >>184

逆上がり

甦れ

おお聖女よ 私を赦し給え
逆上がりできなかった私を赦し給え
別れ際に見た貴女の微笑みを
私は生涯忘れぬだろう
嗚呼 甦れ
嗚呼 我が命を贄として

吟遊詩人「ふう……」

演奏を終えた彼は腰蓑をつけ、階下の酒場に行った。
深夜にもかかわらず、冒険者達がワラワラと談笑している。
吟遊詩人はカウンター席につき、ホットミルクを一杯注文した。

バーテンダー「お客さん、顔色が優れませんね。隈も濃い。ははぁ、恋煩いによる寝不足ですな?」

吟遊詩人「知人が魔族に殺されましてね。とても眠る気にはなれなかったんですよ」

バーテンダー「仲間の死は冒険者の間では日常茶飯事ですぞ。何なら、ここで新しい仲間を見つけては如何?」

吟遊詩人「そんな簡単に見つかりますかねぇ……。詩に造詣があって、強くて、僕の指示に何でも従う仲間なんて……」

バーテンダー「たとえば>>187はどうです」

ぷにぷに君

バーテンダー「ぷにぷに君とかはどうです」

吟遊詩人「はぁ?」チラッ

バーテンダーが指差した方向を見ると、全身を滑らかなダイヤモンドで覆った枝豆が椅子に座ってコーヒーを飲んでいた。

吟遊詩人「うわあッ!」ガタッ

バーテンダー「お、お客さん!?」

自室まで戻り修道女の服に着替え、再度酒場に出直す。
やはり5000兆カラット枝豆は、コーヒーとケーキを楽しんでいるままだった。
そっと目の前に座り、ニコニコと笑顔を作ってぷにぷに君の食事風景を眺める。

ぷにぷに君「そこのアンタ、笑顔が強張ってるわよ。アタシに何か文句でもあるの?」

吟遊詩人「いえいえ、ケーキおいしそうだな~。なんて思いまして」

ぷにぷに君「アタシのケーキが目当てってワケ? 珍しいわね……ここに来る冒険者のほとんどが、アタシをスカウトに来た連中だってのに」

吟遊詩人「>>189



(微妙にダイヤの色が違う…別個体かっ!?)

吟遊詩人(微妙にダイヤの色が違う…別個体かっ!?)

ぷにぷに君「アタシの身体を見ても、何も出やしないわよ」

吟遊詩人(イチがバチか、修道院でのことを話してみる?)

ぷにぷに君「そう言えば、あっちの方にある修道院で騒ぎがあったらしいわね。アタシ居合わせてないから知らないけど」

吟遊詩人「嘘をつけ、あなた本人がシスターを殺したんじゃないか! しらばっくれるんじゃない! 僕は知ってるぞ!」バッ

ぷにぷに君「あらあら」

吟遊詩人「しまった……」

感情に突き動かされ、自ら男であることを明かしてしまった。
さあ、ぷにぷに君よ。目の前に座る人が男だと知り、どんな反応を見せる。これは賭けであった。

吟遊詩人(酒場には男の冒険者もいたのに、別個体と思しきぷにぷに君は優雅にコーヒーを啜っていた)

ぷにぷに君「アンタ、殿方だったの? 変な趣味してるわねぇ」

吟遊詩人「襲ったり……しないの?」

ぷにぷに君「どうしてアタシがアンタを襲わなきゃならないのよ。理由がないでしょ。バカなこと言わないで」

吟遊詩人「すみません、疑ってしまって。実は僕、修道院から逃げてきた吟遊詩人でして。あなたに酷似した化け物が暴れているのを、この目で見てきたのです」

ぷにぷに君「はぁ? その話、もっとよく聞かせなさいよ」

吟遊詩人は一部始終をダイヤモンド枝豆に話した。

ぷにぷに君「それ、アタシじゃないわね」

吟遊詩人「失礼しました。では、姉とか妹とか別個体的な存在なのでしょうか?」

ぷにぷに君「アタシには姉も妹もいないわよ。ぷにぷには孤高の狩人なの。他のカスみたいな魔族とは違ってね」

ぷにぷに君「けど、ちょっと気になるわね。アンタ、手がかりみたいなのは少しも持ってないの?」

吟遊詩人「僕が作った『皇子の書き殴った厨二ノートの詩』にぷにぷに君の名があります。あの詩はそもそも、皇子の黒歴史ノートから良さげなフレーズを選んで書いた物なので……」

ぷにぷに君「皇子に会えば、物語が進むってことね。その皇子はどこにいるのよ」

吟遊詩人「>>192です」

封印された異界

吟遊詩人「封印された異界……ちょっと意味がよく分かりませんね。この世は一つではないのですか?」

ぷにぷに君「もっと沢山あるわよ。宇宙がビックバンを起こした時、次元の塊が多層に分かれたの。つまり、アタシ達が住む以外にも無数の世界が存在するってワケ」

吟遊詩人「なるほど分からん」

ぷにぷに君「因みに昨日、またどこかの世界が自滅したわよ。確か……そうね、破壊仙人という魔王を倒すために、姫様が世界を滅ぼせと神に命じたのよね」

吟遊詩人「話が難しくて、僕にはよく理解できません」

ぷにぷに君「そうよね。いきなり理解しろっても無理よね。だからアンタを封印された異界に飛ばすことにしたわ」

吟遊詩人「ちょ、それはどういう……」

ぷにぷに君「アルティメットハードモード・駆け出しの街で皇子に会ってきなさい。アンタの進むべき道はそこで示される」

吟遊詩人「渦が……うわあああッ」

吟遊詩人は渦に吸い込まれて、アルティメットハードモードワールドへと落ちていったのであった。

~アルティメットハードモード・駆け出しの街~

吟遊詩人「どこだここは……地面がない。フワフワ浮いているような感覚だ。陽の光は無いし、かといって月があるわけでもない。昼と夜を失った無の世界だ……」

弥勒菩薩「やあ、君とは初めましてかな。しかし不思議だね。奇妙な縁があるように思えるのだよ」

吟遊詩人「奇妙な縁? あなたは誰です?」

弥勒菩薩「君、私が次元を超えて落とした厨二ノートを拾ったろう。崩壊した世界からずっと見守っていたよ」

吟遊詩人「まさか、あなたが皇子なのですか!?」

弥勒菩薩「人は私を皇子とも呼ぶし未来魔王とも呼ぶし、ある時は弥勒菩薩。つまりMaitreyaと呼ぶこともある」

吟遊詩人「弥勒菩薩……ですって……?」

弥勒菩薩「そうだ」

吟遊詩人「何故、アルティメットハードモードワールドは崩壊してしまったのですか?」

弥勒菩薩「対となる世界がヤハウェによって終末を迎えたからだ。喇叭は喨々と吹き鳴らされ、地中に埋められた死者は一斉に顔を出し、太陽が崩れ、空の青みが消え失せ、泥粘土みたいにグチャグチャにされてしまったのだよ」

吟遊詩人「ここに来れば僕の歩むべき道が示されると、知人から聞きました。僕はどうすればいいのですか?」

弥勒菩薩「違う次元の世界にあまり干渉することはできないが……これだけは言える。君は勇者だ。勇者となって魔王を討ち、姫を取り戻し、大円団を迎えるのだ」

吟遊詩人「僕が勇者? いまいち理解が追いつきませんね」

弥勒菩薩「初代勇者、トンヌラ、最強究極アルティメットデストロイ。いずれも勇者としての使命を果たすことはできなかった。だが、吟遊詩人。そろそろ終わらせてもいいのでないか」

吟遊詩人「終わらせる? 何を!?」

弥勒菩薩「お膳立ては整えた。あとは君が安価という暴風に如何に耐え、ハッピーエンドという対岸へ辿り着けるか。それだけだ。ゆけ、勇者よ! 魔王を討ち倒すのだ!」

吟遊詩人「ぬわーッ!」

吟遊詩人は泡となって、アルティメットハードモードワールドから消滅した。勇者としての使命を与えられて。

~酒場~

吟遊詩人「ハッ」

ぷにぷに君「どう、何か掴めたかしら?」

吟遊詩人「はい……掴めました。僕は向こうの世界で、弥勒菩薩に会ってきたのです」

ぷにぷに君「うんうん、それで?」

吟遊詩人「僕に今必要なのは、頼れる仲間です。あと二人、仲間を集めてきます」

仲間
>>206
>>207

そこのおまえ

ベートーベン

修道女の格好をした吟遊詩人は、カウンターの前に立った。

吟遊詩人「今から魔王を討伐しに行くので、相応しい仲間を探してください。仲介料ならいくらでも払います」

バーテンダー「ホホーッ、運がいいねぇ修道女さん。ついさっき、東国の剣豪・底野(そこの)家の倅が来ましてね。彼は優しいし、どんな相手にも付き従ってくれると思いますよ」

吟遊詩人「ソコノ家?」

バーテンダー「おい、そこのおまえ!」

バーテンダーに指差された人物が、ビクッと肩を震わせて恐る恐る振り向いた。降り積もった新雪のように白い髪と、薔薇色の瞳。アルビノの少年だ。

バーテンダー「こちらの方がお前を雇いたいんだとよ」

吟遊詩人「よろしいですか?」

底野「せ、拙者! 底野御前(そこの・おまえ)と申します! 刀を振ることしか能の無い人間ですが、何卒よろしくお願い致す! 因みに隣でピアノを弾くフリをしているのは」

ベートーベン「ベートーベン、デース。デデデデェ~ン。ピアノ、スキデスガ、ヒイタコトハ、アリマセーン」

吟遊詩人「最終決戦がこのメンツですか……」

ダイヤモンド製の枝豆、アルビノ侍、ベートーベンを連れて吟遊詩人は謁見の間へと入った。普通なら門番に止められてしまうパーティーだが、吟遊詩人が教皇のお気に入りだということで、なんとか通してもらったのだ。

吟遊詩人「今のご時世、王よりも教皇に権力が集中していますからね。仕える主君を間違えなくて良かった」

ぷにぷに君「わざわざ魔王を倒しに行くだなんて、王様に報告する必要があるのかしら? 面倒臭いわね」

吟遊詩人「大義名分をもらうのです。王の刃として仇なす魔王を討伐せん、とね。領内なら、どこへ行っても無料でメシにありつけますよ」

ぷにぷに君「そう上手くいくかしらね。見てごらん。王様に限らず、王宮全体が静かな殺気に満ちてるよ」

ベートーベン「ピアノ、アリマスカー? 弾イテミタイ曲ガアルノデース。楽譜忘レマシタガ。HAHAHA☆」

底野「どこに眼をやっても宝石だらけ……。何がどうなっているのでござるか、この城は!」

城がピリピリしてる理由>>211

緊張してるから

宰相「陛下、奇妙な輩が城内に侵入しておりまするが」

王様「奇妙な輩とは?」

宰相「吟遊詩人にダイヤモンドの枝豆、着流し姿のアルビノ侍に頭髪が乱れた音楽家らしき中年男性です」

王様「ぬうぅ、宰相よ! 朕の代わりに彼奴らの対応をせよ。朕は緊張のあまり肩が脱臼してしまいそうじゃ」

宰相「かくいう私も先程から膝の震えが止まりませんで……」

王様「ええい、たかが民と面接するだけじゃ言うに、何をそこまで恐れる必要があるか。宰相であれば、毅然とせよ」

侍従に連れられ、吟遊詩人以下四名が謁見の間に到着した。
跪き、挨拶の定型句を述べる。

吟遊詩人「陛下、あなた様に神の恵みがありますように」

王様「そう畏まらんでよい、面を上げよ」

吟遊詩人「僕達がここへ参ったのは……」

王様「待て、当ててみせよう。魔王を討伐するので、その後押しをしてほしいといったところじゃな?」

吟遊詩人「お分りなのですか?」

王様「城を訪れる冒険者は皆、口々に魔王討伐のための後援を求める。主に金銭面じゃな。数十年に渡り、朕はそういった勇敢な冒険者に国庫を開いてきた」

王様「しかし、誰一人として魔王を倒し凱旋する者はなかった。実力が足りなかったからだ。そもそも、魔王討伐へ行かずぬくぬく暮らしている輩もいるやもしれん」

吟遊詩人「違います! 僕達は……!」

王様「それゆえ、朕は貴様らを試す。魔王と闘うに値する力と勇気を兼ね備えておるか、見せてもらおう。まずは……そうじゃな>>213

このグレイテストダークドラゴンとたたかってもらおう

王様「このグレイテストダークドラゴンと闘ってもらぶッ」ペチコーン

王様が言葉を紡ぐ前に、背後から突進してきた影が鞭のようにしなる尾で王様の背を強く打った。王様は前転する形で吹っ飛ばされ、大理石の円柱に頭をぶつけて動かなくなった。

宰相「王様ァ! ぐえッ!」バシーン

でっぷり太った宰相が鞠のように跳ねていく。
謁見の間での異変に気付いたのか、すぐさま数人の近衛隊が駆けつけた。

近衛隊長「グレイテストダークドラゴンは文字通り、テストをするための試験体だ。主人に牙を剥くなどありえない!」

近衛隊長「おい、しっかりニンジンは与えたのか! 餌を与えられず空腹で機嫌が悪いのではあるまいか!?」

近衛隊員A「ニンジンは毎朝与えております! 今朝も美味しそうにムシャムシャと食んでおりました!」

近衛隊長「くう……どうすればよいのだ」

吟遊詩人の行動>>215
ぷにぷに君の行動>>216
底野御前の行動>>217
ベートーベンの行動>>218

土下座の舞

ぷにぷに拳で一撃粉砕する

脇目も振らず逃げる

本性を現しクククッ・・・と笑い始める

吟遊詩人「僕には重い武器を扱う腕力は無いし、かといって俊敏な動きをできるほど運動神経がいいわけでもない」

吟遊詩人「でも、僕には音楽がある。音楽の力を今こそ見せつける時だ」

彼はハープを嵐のように掻き鳴らし、聞く者全てを圧倒する『ハープソナタ(土下座)』を奏でた。吟遊詩人が指を動かすごとに、音色が衝撃波となって周囲の調度品を震わせる。見る人によっては、まるで静まり返った湖に波紋が広がるような印象を受けるだろう。

吟遊詩人「そこへ味方を鼓舞するためのハープ舞踊『土下座の舞』を加えるッ!」

タン、タタンとリズムを取って足踏みをする。グレイテストダークドラゴンは小柄な体躯によらず動きが緩慢なため、まだリズムを取り続けてもいいはずだ。土下座をする前に踊れば踊るほど、ダンスの効果は倍増する。

吟遊詩人「いかに土下座までの時間を有効的に使うかが問題だ! ま、よくある溜め技みたいなものさ」

グレイテストダークドラゴンの口がヌラァと開く。喉の奥に見える炎の揺らぎ。あちらも火球ブレス、つまり溜め技を使ってくるようだ。

吟遊詩人(そろそろ頃合いかッ)

吟遊詩人はハープを弾く手を止めると、宙へ跳び上がり、くるくる回って土下座を決めた。額を床にしっかりこすりつけ、両手両脚は肩幅に開き、すみませんでしたと絶叫する徹底ぶりである。

ぷにぷに君「これが土下座の舞……なんて恥ずかしい技なの! けど、不思議と全身が滾ってくるわ!」

ベートーベン「ククク……。ハハハハハハハァ!!!! ハーッハッハッハハハハァ!!!!!!!」

吟遊詩人「ぷにぷに君、底野さん! 奴が火球を放つ前に、攻撃をしかけてください! 底野さん……底野さん?」

底野御前「あんなのに勝てるわけないッ。一時退却せねば全滅は免れないでござるぞッ」シュタタタタ

吟遊詩人「に、逃げているッ! それも全力で!」

ぷにぷに君「チッ使えない侍ね。結局、使えるのは詩人とアタシしかいないってワケ? やんなるわぁー」

グレイテストダークドラゴン「ギュルオオオオ!」

グレイテストダークドラゴンのエリマキがバッと一斉に開かれた。火球を放つ際、グレイテストダークドラゴンは自身への被害を受けないようにエリマキを広げる。瓦礫を避けるために編み出した、生命の神秘と言えよう。

ぷにぷに君「この大トカゲ、覚悟なさいよ。一撃必殺のぷにぷに拳法で片をつけてやるわ」

ぷにぷに君が両拳を突き合わせると、その異常な筋力を証明するかのように火花が激しく散った。ぷにぷに君は筋肉を持たない。けれども、体内に満ち溢れる魔力が筋肉の代わりにぷにぷに君を最強のクラッシャーに仕立て上げているのだ。

ぷにぷに君「アンタの身体、ぷにぷにしてるかい?」

グレイテストダークドラゴン「オオオオオオオオオオオオ!」

ドラゴンの放った火球は床を抉り進み、ぷにぷに君に着弾した。だが悲しいかな、彼女のダイヤモンドボディには傷一つ与えられない。5000兆カラットの硬さは伊達ではない。

ぷにぷに君「甘いんだよハゲッ!」

ぷにぷに君の必殺ブロー!
頭を失ったグレイテストダークドラゴンは地に伏した。

ベートーベン「ククク……。やるねぇ、あの枝豆……」

近衛隊長(たった四人でグレイテストダークドラゴンを倒すとは。このパーティー、きっと只者ではあるまい)

近衛隊長「ありがとう。君達の応援に感謝する。おかげで陛下を寝室へと運ぶことができた」

近衛隊長は金色に輝く平板状の小物を吟遊詩人に手渡すと、

近衛隊長「王のパイザを与えよう。このパイザがあれば、どの宿屋も無料で君達を泊めてくれる。関所での身分証明も不要だ。魔王討伐、頑張れよ」

吟遊詩人「ありがとうございます! 陛下の許可無しに頂いてしまってよろしいか、不安が残りますが……」

近衛隊長「ところで君達も町で耳に挟んだろうが、姫様が魔王に拉致された。魔王を討伐するなら、姫様の救出も頼みたい」

吟遊詩人「姫様が魔王に拉致されたって? 本当ですか?」

近衛隊長「ウム。陛下は職業体験という名目で、半年前から姫様を修道院へ押し込めていてな。今回、魔王はその修道院をピンポイントで襲撃した」

吟遊詩人(もしや、僕を助けてくれたシスターが……)

近衛隊長「昨夜、修道院でガラスの割れる派手な音があったと聞いてね。駆けつけた時には、どこにも姫の姿はなかったよ」

吟遊詩人「やはり、そうだったのか」

近衛隊長「どうしたのかね? 知っていることがあれば、遠慮なく話してくれ給え」

吟遊詩人「いえ、何でもないです。命に代えても、姫様をお助け致します。僕には心強い味方がおりますし」

ベートーベン「……」

~城下町~

吟遊詩人「よし、ここらで自由行動といこう。各自、出立へ向けて準備を進めておいてくれ」

ぷにぷに君「いきなり自由行動? 頼りない勇者ねぇ」

底野御前「承知致した!」

ベートーベン「ワカリマシター」

誰に密着するか安価下
①吟遊詩人
②ぷにぷに君
③底野御前
④ベートーベン

拙者の名は底野御前(そこの・おまえ)。剣豪で知られた下野守、底野手前(そこの・てめえ)の跡取り息子。順当に行けば、父上の臣下として下野守の位を継ぐはずでござった。
しかし……。

父親「このバカ息子がッ! なぜ人柱の首を斬り落とすことができんのだ!」

底野「申し訳ございません。人柱が治水のために必要なのは百も承知でございます。然れども、拙者は血を見るのが恐ろしく……」

父親「刀を振れば血が流れることぐらい、年端もいかぬ稚児でも分かっておるわ」

父親「よいか、貴様には負担がある。髪が白く瞳の紅い『鬼子』という身体負担じゃ。風習に従えば、貴様は生まれてすぐ捨てられる運命だったのだぞ」

底野「承知しております。厳しい世を生き抜くために、父上が拙者に剣術の稽古をつけて下さったことも」

父親「恩義を感じているな? では人柱の首を斬れ! 川の神は若い娘の新鮮な血肉を欲しておる」

底野「はい!」チャッ

少女「うぐっ……うえぇん……ひっく……」

底野(無理だ……死を覚悟した武士ならまだしも、歳も五つほどしか違わない娘を斬れるはずがない! 拙者には無理でござる!)

拙者は刀を鞘に収めると、少女の手を引いて一目散に父上のもとから逃げ出したのでござる。父上に叱られるのは怖かった。けれども、転がった少女の生首と流れる血を見る方が何倍も恐ろしかったのでござるよ。

拙者と少女はすぐに追いかけてくるであろう追捕人の目を欺くために、誰も近寄りそうも無さそうな葦だらけの橋下に身を潜めたのでござる。

底野「足は痛むでござるか?」

少女「ううん」

底野「何か食べたいものは?」

少女「ううん」

底野「名前は?」

少女「ううん」

底野「ううん、だけじゃ分からないでござるよ? もしかして、名前が無かったり……」

そこで初めて少女は頷いた。農民よりもさらに下層の隷属民には、名を持つ権利すら与えられない。哀れに感じた拙者は今すぐ彼女に相応しい名前を考えた。

少女の名前>>226

霊長の殺戮者

底野「霊長の殺戮者は如何でござろう!」

少女「……んぇ?」

少女はキョトンとしたまま、拙者を見つめていた。どうやら、言葉を知らないらしい。見た目は6~8歳ほど。拙者は今年で14になるので、兄妹として通るでござろう。

底野「日も暮れてきた。拙者は町で食べ物を盗んでくる。霊長の殺戮者、しっかり橋下に隠れているのだぞ」

言葉が通じないので、とにかく笑顔を作り敵でないことを示した。どうして地位や名誉を捨ててまで、拙者は霊長の殺戮者を守ったか、自分の心に問うても答えは出ない。きっと、父上という魔王から囚われの姫様を助けた気分になっていたのだろう。いわゆる、自分に酔っていたのでござる。

底野「明日から日本語の特訓を始めないといけないでござる」

盗んだ飯>>228

ぷよぷよクリスタル

拙者は近くにあった平屋建ての民家に忍び込み、主人が眠っているのを確認して壺の中をまさぐった。こういう所には大抵、鮭の糠漬けが入ってたりするモンでござるよ。

底野「な、なんでござるか? これは」

拙者が手にしたのは、ぼんやりと光るぷよぷよした透明の塊だったのでござる。まるで水をそのまま固めたような、金魚鉢のない水槽のような……面妖でござった」

>>230「へへッ、そいつぁぷにぷにクリスタルだね。鎌倉では滅多に手に入らないお宝さ。この世でぷにぷにクリスタルを持っているのは、僕と九郎判官源義経様と平清盛だけだね」

底野「民家に隠しておいたのでござるか?」

>>230「ご明察、痛み入るよ。ぷにぷにクリスタルは貴重な食べ物だからね。夜はクッソ汚い民家に隠しておいて、月が沈んでから回収に赴くのさ」

ぷにぷにじゃない
ぷよぷよだった
安価下

~橋下~

霊長の殺戮者「んにゅー」ピューヒョロロ

ベートーベン(変装)「へ~、この娘が人柱になりかけたんデースか? 意外と愛くるしい顔つきをしてマースね」

底野「ところどころ語尾がおかしいでござるよ」

ベートーベン(変装)「おっとっと、ソーリーソーリー! 乳酸が溜まると訛りが酷くなるクセがあってね。義経様からも散々からかわれたものさ」

民家で出会った奇妙な男を連れて、とうとう橋下まで来てしまった。霊長の殺戮者は毟った葦で笛を作っていた。逃げ出したりしていなくて、心底安心したでござる。

ベートーベン(変装)「ぷよぷよクリスタルでバーベキューをしよう。おい鬼子、刀は持ってる?」

底野「鬼子と呼ぶのはよせ!」

ベートーベン(変装)「いやだってアルビノやん……。オーケーオーケー、逆鱗にタッチしてしまったみたいデスネー。おっとまた乳酸の具合がHAHAHA☆」

底野「聞きたいことが二つあるでござる」

ベートーベン(変装)「言ってみそ」

底野「まず一つ目、お主の名を伺いたい。次に二つ目、その『ぷよぷよくりすたる』を食せば本当に腹は膨れるのでござるか? 妖に変化してしまうわけではあるまいな?」

ベートーベン(変装)「名前? そんなの米東家の弁太郎と聞いて知らない人はいないでしょ。米東弁太郎(べいとう・べんたろう)だよ。二つ目は……>>233


そこの女子で試してみるとしようか(無理やり食わせる)

ベートーベン(変装)「喰ったらどうなるか? そこの女子で試してみるとしよう。実は僕も食べたことがない」

葦笛を吹いている霊長の殺戮者の首根っこを引っ掴み、弁太郎はぷよぷよクリスタルの欠けらを無理やり嫌がる彼女の口に捩じ込んだのでござる。

霊長の殺戮者「んッ! んんんッ……!」ジタバタ

シュワー

霊長の殺戮者「ふぐ……ふぐううぅ!」ポロポロ

ベートーベン(変装)「ハハッ、失禁したよコイツ! しかも凄い量だ、ずっと我慢してたんじゃないかな!? 興奮するゥ~!」

底野「黙れ」

その時、拙者は我を忘れて弁太郎に切っ先を向けていたのでござる。婦女子を嬲る者が許せなかった。とりわけ、嬲られているのが霊長の殺戮者とあればなおさらだ。

ベートーベン(変装)「へェー、闘る気? まだ、ぷよぷよクリスタルの効果も見てないんだぜ」

底野「そんなもの関係ない。拙者は貴様を斬る! 婦女子を痛めつけて愉悦に浸るのは悪魔の所業だ!」

霊長の殺戮者「……ちゃん」

ベートーベン(変装)「落ち着けって、僕だって君を首だけにしたくないんだ。頼むよ、刀を鞘に収めてくれよ」

霊長の殺戮者「おにい、ちゃん」

底野「えっ?」

霊長の殺戮者「おにいちゃん、ここで暴れてはだめ」

拙者は驚きのあまり魂が天竺までブッ飛んで行きそうだったでござる。何故かって? 考えてみたら分かるでござろう。言葉を殆ど知らない獣のような少女が、いきなり流暢な日本語を喋りだしたのだから。

底野「お主、話せるようになったのか? それとも、最初から言葉を話せていたのか? 思考が追いつかないでござる」

ベートーベン(変装)「ハッ! ハハハハハハ! こいつぁー、傑作だ! ぷよぷよクリスタルに言語学習能力まであるなんてさぁ……驚きだよねぇ」

底野「霊長の殺戮者、どうして話せるようになったんだ?」

霊長の殺戮者「分からない。あの変なぷよぷよを食べたら、頭の中に沢山の言葉や知識が詰め込まれて……」

ベートーベン(変装)「なるほどなるほど。それで脳が絶頂を迎えて失禁したんだね」

底野「不埒な発言をするなッ!」

ベートーベン(変装)「へいへい、了解デース」

霊長の殺戮者「あれ? 私ったら、おもらししてるぅ///」カアァッ

底野「心配御無用。すぐ拙者の袖で拭くでござる」ビリ

ベートーベン(変装)「溺愛してるねぇ……」

ミーンミンミンミンジー
ミーンミンミンミンジー

ベートーベン(変装)「蝉うるさッ」

底野「お主、本当に付いてくるつもりでござるか? 拙者達は行く宛のない放浪者。いつ捕縛されるかも知れたものではない」

ベートーベン(変装)「行く宛なら、ある。僕が奥州の義経様に君達のことを伝えてやるよ。義経様も鎌倉幕府から追われた身。受け入れてくれると思うよ」

底野「奥州といえば、ここから歩いて何日かかるのだ」

ベートーベン(変装)「ざっと半月くらいかねぇ。そんなにはかからないかな? 三ヶ月くらい?」

底野「そんなにかかるのでござるか!? 拙者は良いとしても、霊長の殺戮者には厳し過ぎる旅路」

ベートーベン(変装)「厳しくても、行かなきゃいけない。いずれ、鎌倉中が洗いざらい探索される。この橋下も間違いなく人が踏み込むこととなるんだぜ」

底野「そ、そんな。それは困る」

拙者に選択肢は無かったのでござる。

底野「ところでお主、何をしてるでござる」

ベートーベン(変装)「知人のモーツァルト氏から曲というか、歌詞の推敲を頼まれてね。あの天才にしては珍しい」

底野「歌詞とは……?」

ベートーベン(変装)「良かったら、一緒に考えてもらえる? 『俺の尻を舐めろ』って曲なんだけど」

~俺の尻を舐めろ~
作詞・作曲 ウォルフガング・アマデウス・モーツァルト
推敲 ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーベン 底野御前

俺の尻を舐めろ 陽気に>>238
>>239を言っても仕方がない
>>240ても仕方がない
本当に>>241だよ
だから陽気に楽しくいこう
俺の>>242>>243

集団自殺

お世辞

パラドクス

ゲリラ豪雨

疑え

俺の尻を舐めろ 陽気に集団自殺
お世辞を言っても仕方がない
パラドクスても仕方がない
本当にゲリラ豪雨だよ
だから陽気に楽しくいこう
俺の愛を疑え

ベートーベン(変装)「なるほどね、ご協力感謝しよう」

底野「この歌に意味はあるのか……」

ベートーベン(変装)「あるともさ。まず最初の『陽気に集団自殺』が壇ノ浦で浄土を夢見て入水した平家を示唆。次の『お世辞を言っても仕方がない』が猜疑心たくましき源頼朝に媚びへつらう臣下を示唆」

ベートーベン(変装)「『パラドクスても仕方がない』は義経様が鵯越で「鹿が行けたから馬も行ける」と言ったことに由来するね。『本当にゲリラ豪雨だよ』は敦盛を殺害した熊谷直実にまつわる話を元にしている」

ベートーベン(変装)「つまり、この歌は他人に尻を舐めさせようとしていながら、暗に源氏と平氏の争いを歌っている軍記カノンってわけ。分かる? いや、分からないか」

拙者は弁太郎の授業を聞いていなかった。何故なら隣に座っている少女ー霊長の殺戮者のことーが、腹を抑えて苦しそうに呻き出したからだ。額に手を当てると、火のように熱い。

底野「風邪だ! こんな時に限って、風邪を引くなどお主は本当にツいていない……どうすればよいのだ」

少女を救うためにどうすべきか>>245

ベートーベンが『運命』を奏でると不思議と少女の熱は引いた

底野「そうだ、拙者の家に風邪薬がある。こっそり忍び込んで薬を盗めばいいのではないだろうか!」

霊長の殺戮者「はぁ……はぁ……」ゴホゴホ

ベートーベン(変装)「やる気出しているところ大変申し訳ないんだけど、腰に差している刀を拝借してよろしい?」

拙者は首を振った。刀は武士の魂。刀を他者に預けるとなれば、魂を預けるも同じ。易々と手放すわけにはゆかぬ。

ベートーベン(変装)「ちょっと借りるだけさ。君は少女の風邪を治したくないのかい? 大丈夫、僕を信じて」

底野「……承知したでござる」

拙者の魂を受け取ると、弁太郎は静かに刀を抜き、奇妙な文言を呟きながら『ぷよぷよくりすたる』を峰で打った。

ベートーベン(変装)「アルマヴィーヴァ、アルマヴィーヴァ、音楽の精霊よ、私ニ才能ヲ授ケルノデース」

デデデデーン

底野「この音は!?」

デンデンデンデーン

ベートーベン(変装)「交響曲第5番、その名も運命。聞いた者の運命を180°変える力を持っていマース。おっととクセが出てしまった。気をつけないと」

底野「ただ刀で叩いてるだけなのに、ちゃんと曲になっている。様々な音が聞こえてくるでござるよ!」

ベートーベン(変装)「これで少女の命は救われマース」

霊長の殺戮者「スゥ……スゥ……」

底野「熱が引いた、熱が引いたでござるよ!?」

ベートーベン(変装)「その娘は運命を聴いた。だから風邪で死ぬという運命から逃れられたのさ」

底野「感謝感激雨あられ……。あッ、一応確かめておきたいのでござるが、場に居合わせた拙者達の運命も」

ベートーベン(変装)「180°変わる」

底野「どんな風に変わるかは」

ベートーベン(変装)「神のみぞ知る」

底野「なんだか、決断に自信が持てなくなってきたでござる」

ベートーベン(変装)「まぁ、まだ悪い方向に物事が転じたわけじゃない。まずは、その娘を連れて奥州まで行くことだ」

こうして拙者達は米東弁太郎の案内で、源義経潜む奥州平泉へと徒歩で向かったのだ。お、そろそろ肉が焼けるでござるか? まだまだ? 吟遊詩人殿との待ち合わせも迫っていることだし、出来るだけ早く焼いて欲しいでござるなぁ。

~奥州・平泉~

霊長の殺戮者「おにーちゃーん! こっちこっち~! とっても金ピカな建物があるよ~!」

底野「おお、すぐ参ろうぞ!」

あれから半月、山伏に扮し追っ手を免れ、やっと平泉に辿り着いたのでござる。白髪と紅眼は実に目立つ。それ故、拙者は市女笠をかぶり女性のフリまでして関所を突破した。

底野「衣装を用意してくれた弁太郎には、感謝してもしきれないでござるよ……」

ベートーベン(変装)「ようやく、ここまで来たね」

底野「もう少しで、長い旅路が終わるのでござるなぁ」

ベートーベン(変装)「いいや、平泉に着いてからが要なんだよ。今、平泉の実権を握っているのは誰か知ってるか?」

底野「藤原泰衡でござろう?」

ベートーベン(変装)「つまりそういうことさ」

底野「は?」

ベートーベン(変装)「いつ戦になっても良いように、刀の手入れは忘れるなよ。僕はそこまで面倒見れないからね」

底野「戦? あの男、一体何が言いたいのだろう」

霊長の殺戮者「おにーちゃーん! まだ来ないのー?」

底野「す、すまぬ!」

平泉への亡命が拙者と霊長の殺戮者を永久に引き離すことになるなど、その時は予想だにもしていなかったのでござる。

~源義経宅~

霊長の殺戮者「今日は楽しかったねー!」

底野「うむ、途中で貰った唐菓子も甘かったしな」

霊長の殺戮者「頬っぺたが落ちそうだった!」

ベートーベン(変装)「全ては義経様次第だけど、もし許しが出たら今日からここが、僕達の家だ」

底野「義経様次第? 無理だったら如何する」

ベートーベン(変装)「他を当たる。それだけさ」

底野「随分と軽いのだな……」

ベートーベン(変装)「ところでだが、義経様は女性だ。三十路の独身女性。君のような若い男性はたとえ鬼子であろうと射程圏内ゆえ、十分注意しておくように」

底野「義経様が女性? 馬鹿馬鹿しい……が、巴御前の先例もあることだし、否定はできんな」

ベートーベン(変装)「ほら、簀子の上で日向ぼっこしているのが義経様だ。挨拶してこい」

義経の容姿>>250

童顔寸胴

ただの豚やんけ

デカい。生の義経様を見て感じたのは、その一言だった。思えば当時の拙者は14歳。背の高さも今より3寸(約10cm)以上小さかった。圧倒されるのは当然でござろう。

底野(デカいし太いッ! あれは酒樽か? 武蔵坊弁慶の間違いではないのかッ?)

否……そんなことはなかった。顔がまだ幼さの残る少女のものだったからだ。顎の下に肉がつき手脚も丸太のように太いが、あれは九郎判官源義経に違いなかった。

源義経「ふぅー、あっつ。やっぱ夏嫌いだわー。うわ脇汗めっちゃ染みてんじゃん、弁慶に見せたら笑われそう」

底野(そりゃ、そんなに肥えてたら汗も出ますわな。近寄りたくないでござる……)

ベートーベン(変装)「おい」

底野「わっ! ……なんだ、お主か」

ベートーベン(変装)「ちょっと君に渡したい物があってさ。ほい」

底野「これは何でござる?」

ベートーベン(変装)「>>254

妖刀「悲愴」

ベートーベン(変装)「これは妖刀『悲愴』。君が深い悲しみや慚愧を覚えた時、最も効力を発揮する魔剣だ」

底野「どこでそんな物騒な代物を買ったのでござる!」

ベートーベン(変装)「数年前に堺の商人から買い取った。君に無料で進呈しよう。なあに、いわくつきの物を味方に渡すはずないじゃないか。安心し給えよ」ニカッ

底野「拙者、既に刀を携えているのでござるが」

ベートーベン(変装)「それは僕が預かる。預かるだけで、君が悲愴と交換したかったら、いつでも返そう」

底野「……しからば、交換といたそう」

ベートーベン(変装)「よし、一応僕も君についていくことにするよ。知人の顔を見れば、義経様も警戒を解くだろうからね。今、あの御方に必要なのは信頼できる味方なんだよ」

底野「米東、拙者はお主を見直したぞ。なかなかの忠義者ではないか。で、霊長の殺戮者の面倒は誰が見るでござる?」

ベートーベン(変装)「あ、忘れてた! 悪いが交渉頼むわ! 弁太郎の使いって伝えればいいから!」タッタッタッ

底野「前言撤回したい気分でござるよ」ハァ

急に蝉の鳴き声が大きくなったような気がした。眼前には三十路の酒樽女。後ろを振り向けば山の端に差し掛かる夕陽。茂みの裏に隠れる拙者は、いつ飛び出そうか考えあぐねていたでござる。その場に人がいなくて心底安堵した。もしいたとなれば、巨漢女を必死に垣間見る特殊性癖の男と恥ずかしい汚名を広められてしまっただろうから。黄昏時は、かえって都合が良かったのでござる。

源義経「あ、クチナシの花が咲いてる。クチナシ……クチナシの饅頭ってなんだか美味しそう……」

底野「あのう、九郎判官源義経様でござるか?」

源義経「ん? 私のことか? 誰だ、いるなら姿を見せろ。逃げも隠れもしない、私こそが九郎判官源義経だ」

義経様は拙者を追っ手と勘違いしているらしい。はったと茂みを睨み付け、刀を抜こうと頑張っているが手が柄に届いていない。
滑稽であるけれども、拙者は笑いを嚙み殺して義経様の前に進み出たのでござる。

底野「下野守底野手前の息子・底野御前でございます。この度は義経様の力添えをしたく、米東弁太郎の助けを借りて奥州まで馳せ参じた次第でございます」

源義経「へー、弁太郎も物好きだな。鬼子を私の下に連れてくるとはね。鬼子、お前は何ができる



しまった、途中送信

急に蝉の鳴き声が大きくなったような気がした。眼前には三十路の酒樽女。後ろを振り向けば山の端に差し掛かる夕陽。茂みの裏に隠れる拙者は、いつ飛び出そうか考えあぐねていたでござる。その場に人がいなくて心底安堵した。もしいたとなれば、巨漢女を必死に垣間見る特殊性癖の男と恥ずかしい汚名を広められてしまっただろうから。黄昏時は、かえって都合が良かったのでござる。

源義経「あ、クチナシの花が咲いてる。クチナシ……クチナシの饅頭ってなんだか美味しそう……」

底野「あのう、九郎判官源義経様でござるか?」

源義経「ん? 私のことか? 誰だ、いるなら姿を見せろ。逃げも隠れもしない、私こそが九郎判官源義経だ」

義経様は拙者を追っ手と勘違いしているらしい。はったと茂みを睨み付け、刀を抜こうと頑張っているが手が柄に届いていない。
滑稽であるけれども、拙者は笑いを嚙み殺して義経様の前に進み出たのでござる。

底野「下野守底野手前の息子・底野御前でございます。この度は義経様の力添えをしたく、米東弁太郎の助けを借りて奥州まで馳せ参じた次第でございます」

源義経「へー、弁太郎も物好きだな。鬼子を私の下に連れてくるとはね。鬼子、お前は何ができる」

ぎりり。歯ぎしりが抑えられなかったでござる。拙者、幼き頃より鬼子鬼子と白髪と紅眼を馬鹿にされてきた故、鬼子と呼ばれるのが我慢ならないのでござった。

源義経「鬼子、顔を見せよ」

義経様と目が合った。義経様は眉を上げて「おッ」と意味のない言葉を漏らしていらっしゃった。およそ、拙者の形相があまりに恐ろしいので驚いたのだろう。後になって拙者の予想は完璧に覆されるわけでござるが。

源義経「ふふ……私に仕えたいと? 良いだろう。東の一室をお前のために空けてやる」

底野「ありがたき幸せ……。では、これにて失礼致す」

源義経「そうだ、弁太郎にもよろしく言っておいてくれ」



侍女に案内され、東の一室に入る。部屋の広さは六畳程度。中央に天蓋つきの寝台が置いてある。紙衾の中には綿が詰め込まれていて、見た目よりもずっとフカフカの寝床でござった。

霊長の殺戮者「うわー! ひろぉーい!」

ベートーベン(変装)「ハハッ、こりゃすごいね! どんな交渉をしたら御帳つきの部屋を与えられるんだ? 僕でさえも、こんな豪華な部屋は初めてだよ」

底野「特に何もしておらん。ただ顔を見せただけでござる」

ベートーベン(変装)「あー……そりゃあ……」

拙者は弁太郎の表情に、微かな翳りが差すのを見たでござる。そして、彼の唇が『裏があるなぁ』と動いていたのも。

ベートーベン(変装)「そういやさっき、武蔵坊弁慶殿が渡殿を歩いていたんだ。挨拶しに行ってきなよ」

底野「武蔵坊弁慶殿は、山伏なのでござろう?」

武蔵坊弁慶の容姿>>261

山と見紛う巨漢

ベートーベン(変装)「そうだね。しかし、ただの山伏じゃない。君と同じ鬼子だ。生まれた時に身長が7尺(約2m10cm)あったらしい。80斤(約48kg)の薙刀を軽々と振るい、人の首を斬り飛ばす悪僧というか、破戒僧だね」

底野「化け物ではないか……。人語は通じるのかね」

ベートーベン(変装)「通じるから、義経様の配下として数多の戦場を駆けてきたんだろ。多分、厩の近くで夜の稽古の真っ最中だろうから、話しかけてきたら?」

底野「承知した」

拙者は妖刀・悲愴を片手に恐る恐る渡殿を歩いていった。闇の彼方より「ハァッ!」だの「フンッ!」だの岩を砕くような声が響いてくる。拙者は生きた心地がしなかったでござる。

底野「す、すまぬ。そこの御坊、武蔵坊弁慶殿でござるか?」

弁慶「いかにも。貴殿は誰ぞ」

底野「拙者、下野守底野手前の息子・底野御前でござる。義経様の臣下となり申した故、其方にも挨拶をしに来た」

弁慶「白髪に紅眼、鬼子か……。>>263

アリだな(♂)

弁慶「引き締まった肉体、相手を見据える狼の如き強烈な眼差し。ウホッ! アリだな(♂)」

底野「あ、アリとは……?」

弁慶「小僧! 拙僧の槍を受けてみよッ!」ヒュバッ

弁慶殿の手元に一閃の光が走ったと思うと、拙者の右頬にツツー……と生暖かい液体が垂れた。手で拭ってみたら、血でござった。薄暗いので若干黒く見えるものの、舐めると確かに鼻血の味がしたのでござる。

弁慶「拙僧が敵兵ならば、貴殿は既に首となっておる」

鳥肌が立った。そりゃ人間誰しも、死を眼前に突きつけられたならば足が竦み総毛立つのは当然でござろう。拙者は悲愴を抜刀できず、ひたすら無様に逃げ回ることしかできなかった。

弁慶「そらそら、どうした! 攻めと受け、二つを両立せねば男色界ではやってゆけんぞ! 拙僧が教えてやろうか!」ヒュンヒュン

底野「男色界での心得なぞ不用でござる! くッ!」

義経様と同様、山のように身体が大きいので鈍足だと踏んでいた。しかし、その推測は間違いだったのでござる。拙者が後方に跳んで避ければ、弁慶はその分深く踏み込んで槍を突き。また拙者が樹上に身を潜めれば、するすると素早く登って蹴りを放ってくる。

弁慶「貴殿に稽古をつけねばならん。確かに基本技術は備わっているが、実戦経験が無さ過ぎる。人を斬ったことはあるか? 夕餉の後、もう一度ここへ来るのだ」

底野「少し伺いたい。お主は男色なのか?」

弁慶「拙僧は根っからの男色である。だが、日々の鍛錬と自主開発により性欲を発散させている。貴殿も見習うように」

義経四天王の一人・伊勢義盛殿から替えの褌と木綿の着物を頂き、拙者は蒸し風呂に入った。筵に座って溜息を吐くと、やっと安寧の地へ来たかと気が緩む。

ベートーベン(変装)「だーかーら、言ってんだろ。ここは乳と蜜の流れる地じゃあない。まだ刀槍の森の真っ只中だって」

底野「わっ! 弁太郎、お主もいたのでござるか」

ベートーベン(変装)「昔の貴族は滅多に入浴せず、香を焚いて体臭をごまかしていたらしい。くっさ!」

底野「古人の文化を否定してはならぬよ」

ベートーベン(変装)「僕はくっせーのが嫌いなんデース! あっち、疲れるとすぐこれだ。素の話し方に戻ってしまう」

底野「それなのだが、なぜ弁太郎はやたらと素の話し方を隠したがるのだ?」

ベートーベン(変装)「いやだって『~デェース』とかめちゃんこダサい語尾じゃん」

底野「誠か? 他に理由はないのか?」

ベートーベン(変装)「おいおい、何ヶ月も一緒に旅しておいて、まだ僕を疑ってんの?」

底野「ただ気になっただけだ。お主は大事な友ゆえ……隠していることがあれば遠慮なく打ち明けてくれ。拙者は何時でも相談に乗るでござる。では、先に失礼する」

ベートーベン(変装)「……そう、きたか」フッ

~底野御前の部屋~

霊長の殺戮者「おにいちゃん、もうご飯が運ばれてるよ。食べないの?」

底野「すまんすまん、遅くなってしまった。風呂というものはどうしてこう……気持ちいいのでござろうな」

霊長の殺戮者「私も一緒に入りたかったなー」

底野「あとで義経様と入るがよかろう。」

霊長の殺戮者「ええー。いやだってば、あの人[ピザ]じゃん。押しつぶされちゃうよ」

底野「ははは、あの巨漢ぶりには驚かされた」

霊長の殺戮者「ねぇねぇおにいちゃん、口開けて。はい、あーん」

底野「うむ、うむうむ。これは鮑の煮つけでござるか。奥州の料理は美味でござるな」

他の料理
>>267
>>268
>>269

~底野御前の部屋~

霊長の殺戮者「おにいちゃん、もうご飯が運ばれてるよ。食べないの?」

底野「すまんすまん、遅くなってしまった。風呂というものはどうしてこう……気持ちいいのでござろうな」

霊長の殺戮者「私も一緒に入りたかったなー」

底野「あとで義経様と入るがよかろう」

霊長の殺戮者「ええー。いやだってば、あの人デブじゃん。押しつぶされちゃうよ」

底野「ははは、あの巨漢ぶりには驚かされた」

霊長の殺戮者「ねぇねぇおにいちゃん、口開けて。はい、あーん」

底野「うむ、うむうむ。これは鮑の煮つけでござるか。奥州の料理は美味でござるな」

修正
他の料理
>>268
>>269
>>270

魔王の女体盛り

ジェノサイドアンデッドフィッシュの刺身(生きてる)

フグ

侍女「やあやあこんばんは、奥州の料理はいかがです。美味しいでしょ?」

霊長の殺戮者「うん! 侍女さんも食べない?」

侍女「ぜひともご一緒したいところですが、私は給仕係ですので~。さて、男子の皆様ご注目! 世にも珍しき女体盛りの登場でございます!」

ガラガラガラガラ

底野「板の上に、裸婦が乗っているだと!?」

魔王(マー・ワン)「うぐ……ひっぐ……恥ずかしいよぉ……」

侍女「大陸出身の魔王(マー・ワン)さんにご協力頂きました。献立はフグとジェノサイドアンデッドフィッシュの刺身です!」

底野「あ、あんだて? ジェノ……」

ベートーベン(変装)「ああそれ、僕が外国から取り寄せたんだよね」

霊長の殺戮者「ひゃんッ! このお魚、生きてるよ? ピチピチしてるよ!?」

ベートーベン(変装)「ジェノサイドアンデッドフィッシュは死霊が憑いてるから、ホントは焼かないとダメなんだよね。刺身を喰うってのはフグと同じく毒にあたるかもしれない、ロシアンルーレットみたいな娯楽的側面も兼ね備えてるってわけ」

底野「よく分からぬが、霊長の殺戮者には食べさせない方が良さそうでござるな」

魔王(マー・ワン)「刺身を早く食べてください! アンデッドフィッシュのエキスが私の皮膚に……ひいいいいい!!!!」

ベートーベン(変装)「暴れない暴れない、すぐ取るからね。もう食事ってか治療になってるわ。底野、米櫃をこっちに寄こしてくれる?」

侍女「あんな腐ってる魚、よく食べられますねー。絶対腹壊すでしょ、アレ」

拙者は夕餉の後、庭で弁慶殿に槍術の稽古をつけてもらった。佩いているのは刀だが、槍術の立ち回りは剣術と似通ったものがあり、敵の虚を突き連撃を加える技まで習得できたのでござる。今の拙者がいるのは、父上と弁慶殿のしごきがあったからと申しても過言ではない。部屋に戻ったのは深更、宙天にぶらさがった月が最も明るく輝く時。手燭に火を灯し、帳台の中で眠る霊長の殺戮者へと近寄ったのでござる。

底野「おや、まだ寝ていなかったのか」

霊長の殺戮者「ひゃ! お化け……じゃなくて、おにいちゃん? 怖かったよぉ……」

底野「一人にさせて済まなかった。それはそうと、弁太郎の奴はどこへ行ったのだ」

霊長の殺戮者「新鮮な夜の空気を吸いに行くだとかなんとか、私を置いて外に出ちゃったんだ」

底野「はっ。相も変わらず霧のような男よ」

霊長の殺戮者「……ありがとう」

底野「どうした、いきなり」

霊長の殺戮者「あの日、人柱に選ばれた日、私の命運は尽きたはずだったの。でも、おにいちゃんが救い上げてくれた」

底野「礼なら弁太郎に言え。あやつがいなければ、拙者達は今頃どうなっていたか。拙者もお主も同じ、社会から弾かれた身なのだ」

霊長の殺戮者「大好きよ、おにいちゃん」

底野「うむ、拙者もだ」

霊長の殺戮者「私が大人になったら、きっとお嫁に貰ってくれるよね?」

底野「ははは、少しの間に随分とませおって。いいとも、約束だ。だから早く寝るのだぞ。嫌いな食べ物も残さず食べること」

霊長の殺戮者「うん」

拙者は霊長の殺戮者と指切りげんまんをした。
のそり、のそりと障子の向こう側で何かが蠢いていることも分からずに。

底野「さてと、弁太郎を迎えにいくか……」

ドンッ

底野「ぬおッ!?」

部屋から出た途端、拙者は横から突き飛ばされたのでござる。地面を転がる拙者の前に、黒い影が立ちはだかった。それは山のように大きく、肩で息をしながらニへラニへラと笑っていた。この屋敷で小山の如き巨躯を誇る者と言えば、弁慶様と……。

源義経「やっと見つけたぞ、私の旦那様」

底野「よッ義経様……狼藉はおやめくだされ。拙者が何をしたというのです!」ジタバタ

源義経「一目見た時から、お前をものにしたいと考えていた。鬼子など関係ない。これでようやく、私も子供が産める」

底野「子供を産む!? まさか義経様、拙者を家に招き入れたのは良き夫を探していたからでは……」

源義経「当たり前だろう。私も三十。そろそろ誰かと契らねば、女としての幸福を得られなくなってしまう」

底野「弁慶殿という立派な相手はいるではございませんか!」

源義経「私はお前のような小僧が好きなのだ! さぁ、閨へ行こう。そして日が昇るまでまぐわおうじゃないか、獣のように!」

底野「そ、それだけはご勘弁をッ……!」

義経様は拙者を太い腕で抱きすくめた。汗に濡れた肉が目いっぱいに広がる。もう背中が折れてしまいそうだった。我慢できなくなった義経様は強引に茂みの中まで引きずり込み、西瓜のように大きな乳房をでろんと出して拙者の口に当てがう。快楽など微塵も感じない。

源義経「はああぁ/// そこは、そこはだめぇ/// くうっ! いいッ!」パンパァン

接吻、性器の舐め合いと行為はどんどん過激さを増し、最終的に拙者のイチモツは義経様の中に納まるところとなった。
身悶えする豚を冷めた目で眺めながら、肉の塊に精を放って果てた。

源義経「ふふふ……小僧の割に馬の御し方が上手い。明日も頼むぞ」

底野「弁太郎、裏があるとはこのことだったか。もう嫌だ、死んでしまいたいでござる」ヒック

源義経「武士たる者が泣くんじゃない。おお、よしよし」ギュッ

底野(うう……苦しい……)

朝は畑の作業を手伝い、昼に霊長の殺戮者と散歩に出かけ、夕方に弁慶殿から稽古をつけてもらい、夜に義経様に精を放ち……。そんな生活を3年も続けた頃。

ベートーベン(変装)「どうだい、奥州での生活は。霊長の殺戮者も大人びてきたし、裳着をさせても良いんじゃないかな」

底野「義経様との間に子ができないか、それだけが心配でござるよ……」

ベートーベン(変装)「あはは、子ができたら義経様と死ぬまでここに暮らすことになってしまうからね」

底野「お主は奥州に留まらないのか?」

ベートーベン(変装)「まぁね。義経様も女傑とはいえ神じゃない。生まれつきの強運も、そろそろ尽きる。僕は海外へ行くよ。君も一緒に来てもらいたい」

底野「行くって、どこへ参るのでござる」

ベートーベン(変装)「>>276

ウィーン

ベートーベン(変装)「ここから遥か西にウィーンって街がある。別名・はじまりの街。まぁ、年季の入ったシトー派修道院があるだけの街なんだけどね」

底野「そこへは無論、霊長の殺戮者も連れていけるのであろうな? そもそもウィーンなどという名は耳にしたことがない」

ベートーベン(変装)「いいや。霊長の殺戮者は連れていけない。ウィーンへの船旅は彼女には厳し過ぎる」

底野「何故でござるか! 霊長の殺戮者は病弱ではあるものの、船旅に耐えられぬ程ではない!」

ベートーベン(変装)「鎌倉から奥州の比じゃないんだぜ。それこそ道中、妖怪や海賊に襲われるだろうし、食べ物が少ないから栄養失調で脚気になることもある」

底野「よ、妖怪……」

ベートーベン(変装)「それでも、君は彼女を守ると言い切れるのかい? 底野御前(そこの・おまえ)」

底野「>>278

無論

底野「無論。たとえ雨が降ろうと槍が降ろうと、大地が割れ海が裂けようとも拙者は霊長の殺戮者の盾となろうぞ!」

ベートーベン(変装)「安心したよ、その言葉を聞いて」

底野「ならば……」

ベートーベン(変装)「彼女も連れていく。男に二言はない。出立の準備ができたら、また連絡するよ」

底野「弁太郎、お主を信じているぞ」

ベートーベン(変装)「はいはいっと」

~その夜~

ズチュッズチュッズチュッ

底野「はあッはあッはあッはあッ」

弁慶「ヌンッ! フンヌンッ! トウッ!」

源義経「ふごッ! くあッ……ああああ! い、いぐう! いっぢゃうのおおおおお///」

ビュルルッ! ビュッ! ドピュピュッ!

底野(この地獄にも終わりが見えてきた。途中から弁慶殿も参加なされたが、もうどうにでもなれだ)

弁慶「小僧、相変わらず貴殿の尻は締め付けが素晴らしい! まるで阿修羅像と交わっている気分じゃったわ!」

源義経「愛してるぞ、底野。だが妙だな。私は三年間、毎晩お前と契っている。しかし子を宿す気配がない」

弁慶「まだ子を設ける時期に非ず、と神が押し留めたのでございましょう。小僧、貴殿も努力が足りんな」

底野(霊長の殺戮者……待っておれよ。拙者が必ず、新しい場所へとお主を連れ出してやるから)

弁慶「おーい! 聞いておるのか。フム、尻から魂が逃げとる。これはもう一度、我が駿馬で尻穴を塞ぐ必要があるな」

結局、弁慶殿は完全な男色家……この地域で言うところのホモでござった。禁欲生活を長い間続けていると男にも欲情する例は多々あるので、弁慶殿はむしろノーマルなのでござるが。


それから一週間、二週間と何事もなく時は流れていった。弁太郎はどうしたのだろう。決意表明をした日から、行方をくらませてしまった。霊長の殺戮者も姿が見えない。一人取り残された拙者は、山の上から夕焼け色に染まる高館の田園風景をぼんやりと眺めていた。

侍女「そーこーのーさんっ」

底野「誰かと思えば、お主か……。夕餉ができたならばすぐ参るぞ」

侍女「ここから見る景色、素敵ですよね。黄昏色の金鶏山、田植えに勤しむ人々の影……。でも、本当に可哀想」

底野「可哀想って、何が」

侍女「霊長の殺戮者ちゃんのことですよ。彼女、今日で平泉から鎌倉に送り返されるんでしょう?」

底野「は?」

侍女「なんでも、良い縁談が見つかったとかで……。まだ11、2歳のか弱い女子ですのに。早朝に館を出立しましたから、今頃は石巻にいるのではないかしら」

拙者は侍女の言葉を最後まで聞かず、山道を全速力で駆け下りていた。途中、農民の連れていた>>283を奪って飛び乗る。目指すは石巻。何としても霊長の殺戮者を我が手に取り戻す。そう拙者は息巻いていたのでござる。

大邪神ダークマター

底野「この牛、借りるぞッ!」バッ

農民「ああッ! わしの大邪神ダークマターがぁ~ッ!」

拙者の乗った前沢牛の名は大邪神ダークマターと言うらしい。名の通り、全身から禍々しい瘴気を漂わせて駆ける、駆ける駆ける! 鞍や手綱がついていないので、拙者は大邪神ダークマターの双角を掴み振り落とされまいと必死にしがみついたのでござる。

底野「しかし、気になるな。元隷属民の彼女に縁談など普通、来るはずが……」

もしや。拙者の脳裏に米東弁太郎(べいとう・べんたろう)の顔が思い浮かんだ。外つ国から取り寄せたジェノサイドアンデッドフィッシュを涼しい顔で食す、常識外れの飄々紳士なら。縁談を見つけてくるなど朝飯前なのではないか。腰に差した悲愴が鞘を透して淡く光る。弁太郎に対する怒りよりも、霊長の殺戮者が離れていく悲しみの方が大きかったのでござろう。

底野「おや、あれは……?」

星々が輝き始めた群青色の空に、一際白い光を放つ物体が尾を引いて飛んでいった。

底野「あの形状、拙者は知っておるぞ。『ぷよぷよくりすたる』。やはり弁太郎が噛んでおったか! ハアッ!」

大邪神ダークマター「モ、モ~ッ!!!!」

拙者は何度も前沢牛の腹を蹴った。

~石巻の宿~

ベートーベン(変装)「見込んだ通り、少しおめかしをしたら随分と綺麗になったじゃないか。これなら婿さんも満足してくれるだろう」

霊長の殺戮者「婿さん……?」

ベートーベン(変装)「うんうん、君に良い縁談が来ていてね。ま、僕が手引きしたのだけど。とにかく、君は今から鎌倉の>>286のお嫁さんになるんだ」

霊長の殺戮者「もう、兄様には会えないってことですか」

ベートーベン(変装)「うん。君は>>286に身も心も捧げる決意をしなきゃならない。これは君のためでもある。12歳になるだし、大人の事情が分かってくれたら嬉しいね」

霊長の殺戮者「顔も見たことない、話したこともない人に誰が嫁ぐものですか。私は帰らせて頂きます」

ベートーベン(変装)「おっと、そうは行かないよ。君を平泉に帰すわけにはね。嫁いで極楽へ行くか、戻って地獄を見るか、答えは一つじゃないか」ガシッ

霊長の殺戮者「いやッ! はなして! 私の婿は兄様なの! 兄様ただ一人だけなの!」

ベートーベン(変装)「そんなに>>286に嫁ぐのが嫌?」

モーツァルト

ベートーベン(変装)「君はモーツァルトの凄さを知らないから、そう好き勝手言えるんだ。彼は古臭いバロック形式を破り、ソナタ形式という新たな音楽形式を切り開いた、言わばPioneerなんだよ?」

ベートーベン(変装)「確かに彼には勝気な嫁がいるけれども、側室という盾があればガメツいババアも手出しはできないよ。若いパワーでコンスタンツェをビックリさせてやれ」

霊長の殺戮者「やだッ! やだやだやだぁ! 誰が兄様以外の男に色目を使うもんか! 無理にでも連れてくなら死んでやる!」

ベートーベン(変装)「君が逝ったところで僕は別に悲しまないけど、相棒が猛り狂いそうなんだ。悲愴は相当危ない刀だから、君に死なれると困るんだよ!」

底野「……おい」

ベートーベン(変装)「あッ……へへ。君に刀を向けられたの、何年振りかしら」

底野「霊長の殺戮者をどこへやるつもりだ」

ベートーベン(変装)「>>288

騒乱から離れた世界

ベートーベン(変装)「騒乱から離れた世界だ。やはり、この娘は外へ連れていけない。あまりに病弱で、優し過ぎる」

底野「だからと言って、見ず知らずの男の餌食にしても良いと申すか。本人の意思は尊重せぬと申すか!」

霊長の殺戮者「兄様……」

拙者は弁太郎から霊長の殺戮者を奪い取ると、彼女を前沢牛の背に乗せた。もう二度と、この男を信用したりしない。

ベートーベン(変装)「おい、まさかとは思うけど平泉に戻ったりはしないよね?」

底野「そのまさかだ。拙者は霊長の殺戮者と共に平泉へ帰る」

ベートーベン(変装)「死ぬまで平泉で暮らすつもりか」

底野「いかにも。弁太郎、お主とは決別する。高館へは来るな。拙者達と関わろうともするな。拙者とお主の間に今、深い深い溝が生まれた。そして、その溝が埋まることは永劫ない」

ベートーベン(変装)「おいおい、待ってくれ。平泉へは行かない方がいい。いや、行っちゃダメだ!」

底野「霊長の殺戮者、共に帰ろう」

霊長の殺戮者「兄様。来てくれると、信じてました……」グスッ

底野「ゆけ、大邪神ダークマター!」

行くも地獄、帰るも地獄。その時の拙者達を表すに相応しい言葉でござる。平泉へは戻るな。弁太郎の忠告を聞いていれば……無理でござる。頭に血が上っていて、忠告を聞く余裕などなかった。

~高館~

底野「もうすぐだ、もうすぐ着く。館に戻ったら、まずは寝よう。ちょいと遅めの昼寝でござるが」

霊長の殺戮者「兄様は眠くないの?」ホワァ

底野「昨日の夕方からずっと走り続けておるが、まだまだ余裕。坂東武者の体力は無尽蔵でござるよ!」

霊長の殺戮者「兄様! あれを……」

底野「なッ……!」

燃えていた。
そよ風に揺れている田んぼの稲も、童子らが遊んだ高館の大樹も、霊長の殺戮者と住んだ義経の館も。
全てが火の海と化し、黒い煙を鈍色の曇り空へ向けて吐き出していた。

底野「弁慶殿、伊勢殿、亀井殿、片岡殿ッ!」

しばらく、開いた口が塞がらなかった。背に少女を乗せたことも忘れて、惚けていた。

霊長の殺戮者「みんな、死んじゃったの……? 義経様も、弁慶様も、優しかった侍女さんも……」

底野「誰だ、誰がこんなことを! だが、まずは生存者の確認だ。まだ義経様が死んだとは限らぬ! いけ、ダークマター!」

大邪神ダークマター(>>292

安全なところへ2人を送らねば

大邪神ダークマター(安全なところへ2人を送らねば)

大邪神ダークマター「ヌウウウンッ」ダッ

底野「どうした、なぜ館と反対の方向へと走る! 拙者は義経様を救わねばならぬのだぞ!」

大邪神ダークマター「モウッモウン」ドスンドスン

底野「そうか、お主……。止まれ!」

ズザザッ

底野「もしお主に人間の言葉が分かるのなら、霊長の殺戮者を安全な場所へ導いてくれぬか」

大邪神ダークマター(元よりそのつもり。前沢牛の誇りにかけて、何としても少女を守ってみせよう)キラッ

底野「フッ……決意に溢れた目をしておるな。安心した。彼女の命、お主に託したぞ」

霊長の殺戮者「待ってください!」

底野「ぬ」

霊長の殺戮者「兄様は、どうしても義経様を助けに行かれるのですか? 私の一緒に、来てはくださらないのですか?」

底野「>>294

二度と逃げぬと決めたからだ

底野「3年前、拙者はお主を連れて鎌倉から、父上の元から逃げた。平泉という安住の地を見つけた後も、そのことについてずっと考えていた」

霊長の殺戮者「……」

底野「そして今、目に見えた困難に直面して初めて気が付いたのでござるよ。ただ逃げ回るだけでは、根本的な解決にはならないと」

霊長の殺戮者「……」

底野「拙者は二度と問題から目を逸らしたりしない。逃げないと決めたのだ。分かってくれ、霊長の殺戮者」

霊長の殺戮者「……ごめんなさい、やっぱり兄様を置いていくことはできない。兄様が逃げないのなら、私も一緒に立ち向かいます」

底野「おい、その牛をこちらに向けるのはやめろ。馬鹿な真似をするんじゃない。剣術も弓術もないお主が行けば、確実に殺されるぞ」

霊長の殺戮者「兄様は少し、私を見くびり過ぎではないかしら」

底野「何?」

霊長の殺戮者「3年前、弁太郎おじさまに『ぷよぷよくりすたる』を食べさせられたあの日、発話能力だけでなく他の能力も目覚めていたの」

底野「能力……?」

霊長の殺戮者の能力>>296

ダイヤモンドな肉体

しかし発動すれば最後、2度と元には戻れない

霊長の殺戮者「金剛石のように身体を硬化させることができます。でも、これを発動したが最後、元の肉体には戻れない」

底野「どうして戻れないと分かるんだ」

霊長の殺戮者「教えてもらったんです。那須の宿で、弁太郎おじさまからこっそり。使いどころが重要だって」

底野「安心しろ、お主にその能力は使わせない。拙者の刃だけで事足りる。お主は安全な場所へ避難するんだ」

霊長の殺戮者「いえ、兄様についていきます」

底野「最後の警告だ。これに従わねば、お主などいないものと見なす。忠告も聞けぬ阿呆など、面倒見切れぬゆえ」

霊長の殺戮者「阿呆と思われようとも構いません。私は兄様のために、この命を差し出すつもりです」

彼女の宣言を最後まで聞かずに、拙者は無言で駆け出した。もちろん、全速力で。

底野「義経様! 義経様は何処におられる!」

地獄のような目に遭わされても、義経は自分と霊長の殺戮者を救ってくれた命の恩人でござる。牛の突破力を活かして、館のありとあらゆる場所を探し回った。そして、一番奥の部屋で腹を斬ろうとしていた義経様を見つけたのでござるよ。

底野「何をなさる! 戦の場で大将が自害なさるなど、もってのほか。まだ表で必死に闘っている兵に申し訳が立たぬと思いませぬか!」

源義経「底野、今の今までどこに行っていた! 私はお前が……お前が討ち取られたものだと……」ウルッ

底野「ざっと館の中を走ってきたのですが、義経四天王の姿はなく、あるのは屍の山ばかり。一体、どうなされたのですか」

源義経「藤原泰衡。私らを匿っていたはずの泰衡がいきなり攻めてきたのだ。多分、兄上から圧力を受けて保身に走ったんだろう。なんと下らない男よ」

底野「拙者は、泰衡よりも下らぬ男を知っています。彼奴は、我が愛しの妹を見知らぬ男へ売ろうとしました」

源義経「何のことだ」

底野「……あの男を信じた拙者が馬鹿だったのです。逃げましょう、義経殿。どんな形であれ、あなたは命の恩人ですから」

源義経「そ、そうだな。ここから北に衣川と北上川の合流地点がある。そこに私が遊覧用に作った小振りの舟が一艘あるんだ。それで、蝦夷まで行こう」

底野「いえ、それではいけません。頼朝はあなたを殺すため、日本中に早馬を出しているはずです。あなたはどこへ行っても、死ぬ以外に道はないのです」

源義経「では、私はどうしたらいいんだ! やっとお前という良き夫を手に入れたのに、死んでしまっては全てが終わりではないか!」

底野「日本が危険ならば、海を渡り海外へ逃げるまで。しかし、今は目先の問題に集中です。義経様、あなたならどのようにこの局面を切り抜けますか?」

源義経「>>299

あれがあった…ぷにぷにクリスタル

ぷよぷよではない

義経様は腕組みをしたまま考えていらっしゃったが、ポンと手を叩くと嬉しそうに叫んだ。

源義経「あれがあった……ぷにぷにクリスタル」

底野「ぷよぷよクリスタル?」

源義経「『ぷにぷに』クリスタルだ。ぷよぷよクリスタルと対を成す、鋼の如く堅固な水晶」

義経様が懐から取り出したそれは、雨粒のように透明で、仄かな光を放っていたのでござる。拙者は頭がくらくらした。弁太郎に続き、義経様も不思議な水晶体をお持ちになっている。自分だけ話についていけてない、妙な孤独感がぞわぞわ足元から這い上がってきた。

底野「ぷよぷよクリスタルで、何をするつもりなのです」

源義経「ぷにぷにクリスタル自体に特別な力はない。ただの媒介だ。強制的に共鳴し、秘めた力を覚醒させるためのね」

底野「まさか、それって……」

キィイイイイイイン

霊長の殺戮者「あううう……うああああああッ!!」ガクッ

底野「霊長の殺戮者ッ! どうしてここまで……。義経様、そのぷにぷにクリスタルを懐に隠してください!」

源義経「ぷにぷにクリスタルと共鳴した者は、史上最強の戦士『ぷにぷに君』となる。そう、最澄の守護国界章には書いてあった」

底野「早くそのクリスタルを止めろってんだよ!」

源義経「ひいッ」ビクッ

霊長の殺戮者「兄様……ぐッ……どうか怒らないで。兄様に助けられたこの命……元より使い道など悟っておりました……」ピキッピキピキピキィ

底野「お主、もうこんなに手足が硬くなってしまって……。やめろ、やめてくれ! お主はまだ拙者との約束を果たしていないだろう!」

霊長の殺戮者「や……く……そ……く……」

彼女の血の通った柔らかい身体が、無機質な冷たい水晶へと変わってゆく。拙者は魂だけは離すまいと、霊長の殺戮者を強く抱きしめた。

底野「そうだ。拙者がお主を娶るという約束だ。まさか忘れたわけではあるまい」

霊長の殺戮者「……に、い、さ、ま」

底野「なんだ」

霊長の殺戮者「ご、め、ん、な、さ、い」

底野「……!」

拙者が世界で最も愛した妹は、水晶の枝豆となり音もなく地面に転がり落ちた。

~始まりの街・喫茶店~

底野「……そうして、拙者は霊長の殺戮者を残して逃げてきたわけでござるよ。結局、愛する者を一人も守ることができなかったのでござる」

ターバンの老人「生き残るためとはいえ、辛い選択じゃったろう。無言で相席をしてきた時は『なんだこいつ』と思ったが、そういう事情があるのならば致し方ない。ここはわしの奢りじゃ。なんでも好きなものを頼むといい」

底野「かたじけない。されど、拙者は行かねばならぬ。そろそろ集合の時間であるゆえ」

ターバンの老人「ところで一つ気になったんじゃがの。義経とやらはどうなったのじゃ」

底野「さあ……。妹が『ぷにぷに君』になったのを見届けた時から、拙者の記憶がプツンと途切れてしまっているのでござる。なぜ拙者が大軍から逃げてこれたのかも、弁太郎や義経様がどうなったのかも、まったく分からない……覚えていないのでござる」

ターバンの老人「フム……最後にもう一つ。これは質問でなく忠告じゃ。お前さんが腰に差している刀。ただならぬ妖気を感じる」

底野「悲愴のことでござるか? 確かに、魔力は宿しておるがそこまで危険だろうか」

ターバンの老人「ああ、そうだとも。いずれその刀は、お前さんを喰らうじゃろう。せいぜい、気を付けることだ」

底野「御老人、あなたは一体何者でござるか?」

ターバンの老人「何者でもよかろう。わしに構わず早く行け。集合に遅れたら面倒なことになるんだろう?」

~噴水広場~

吟遊詩人「水筒に携帯食にパイザにハープに……よし、魔王討伐のための装備は揃ったぞ!」

ぷにぷに君「しっかし、アタシの偽物が暴れてるだなんて信じられないわねぇ」

吟遊詩人「僕が修道院で出会った『ぷにぷに君』がおそらく魔王なんじゃないかな。どんな生物にも姿を変えることができる厄介な野郎だ」

べート―ベン「Yeah! 皆サ~ン、待ッテテクレタノデスネ~!」

吟遊詩人「3分遅刻だよ」

ぷにぷに君「アンタ、底野見なかった? まだ来てないんだけど」

ベートーベン「底野サン? ドッカノ喫茶店デ、ターバンの老人ト一服シテマシタヨ」

吟遊詩人「あと10分だけ待って、来なかったらその喫茶店に行ってみよう」

底野「お~い、吟遊詩人殿! 遅れて誠に申し訳ない、準備は整ったでござる!」

吟遊詩人「噂した傍からやってきたよ。まぁ、これで全員揃ったわけだし旅立つとしますか。そうだなぁ……みんな、どこへ行く?」

ぷにぷに君「>>305あたりはどうかしら」


アルティメット森

ぷにぷに君「ここから『心優しき川』に沿って数キロ北上した先に『アルティメット森』があるわ。初心者のレベル上げにうってつけの森よ」

吟遊詩人「アルティメット森……なんだか人の名前みたいな森だね。僕、まだレベル1なんだけど太刀打ちできるかな?」

ぷにぷに君「アンタは後方でハープ支援がメインになるでしょうね。アタシとアルビノ侍がアタッカー、アンタがサポーター、そして怪しい音楽家が……」

ベートーベン「オブザーバーデスネ!」

ぷにぷに君「アンタにはヒーラーを担当してもらうわ。街で買い占めた薬草やら軟膏があるでしょ」

ベートーベン「戦闘ニ参加シナケレバナラナイトハ……トホホ……」

こうして4人の役割分担は済んだ。
馬車に乗り込み、北の大森林帯『アルティメット森』を目指すこととなる。

御者「ひ、ひいい! 枝豆が歩いてるッ!!!」

光り輝く巨大な枝豆を見て、馬車の御者は腰を抜かした。小便で濡れた股間に、運賃の札を押し付ける。御者はおそるおそる札を手に取って、ニへラニへラと引きつった笑みを浮かべた。

御者「な、なんだぁ……お客さんなら早く言ってくださいよ。殺されるかと思いやしたぜ……」

ぷにぷに君「アルティメット森まで飛ばしな」

御者「アルティメット森? あんなおっそろしい魔族の巣窟に何しに行くんで」

吟遊詩人「レベルを上げに行くんです。初心者の狩場としては最適だと聞いたのですが」

御者「馬鹿言っちゃいけねぇな。>>307が来てから、アルティメット森は変わった。あの場所はアルティメットハードモードとも言われる、熟練者殺しの地獄だぜ? それでも良いなら、お連れするがよ」

仮面ライダー

乳白色の朝靄に包まれた草原を、一台の馬車が風に乗って駆け抜ける。

御者「仮面ライダーが来てから、アルティメット森の魔族に変化が現れたんでさ。姿を隠すようになったというか、ゲリラ戦法を好むようになったんでがす」

底野「仮面ライダー、とは何者でござる?」

御者「バッタのような仮面をかぶった超人のことでさ。いや、ひょっとしたら本当に首から上がバッタなのかもしれねぇが」

御者「お客さん達、バッタの仮面を見たら即逃げることをお勧めしますぜ。奴の脚力をいなせた冒険者は、過去に誰一人としていない」

ぷにぷに君「バカバカしい。ただのバッタの妖怪じゃないか。アタシは真っ向勝負を挑むつもりだけどな」

ベートーベン「怖イデスネー。ライダーパンチ! ライダーキック!」ドタドタ

吟遊詩人「ベートーベンさん、馬車の中で暴れないでくれよ! そんなことしたら、うわあああ!」

ドンガラガッシャーン

馬車が壊れて4人は外に放り投げだされた。猛り狂った馬が車体を引きずり崖下へ落ちていく。

底野「やってしまったな……。ここからアルティメット森まで、徒歩で行けというのか」

ぷにぷに君「いいや、その必要はないね。もう、アルティメット森についたようだから」

4人の前にそびえる、クヌギの森。樹々の隙間から、誰かに除かれているような気がする。

ぷにぷに君「侍、剣を構えな。チームを守れるのは、アタシとアンタしかいないんだ」

底野「承知した」

吟遊詩人「その言い方はないんじゃないですか。僕にだって、チームを守る力があります」

ぷにぷに君「ほう? それじゃアンタに何ができるっていうんだ」

吟遊詩人「>>309

スクルトの歌(Lv1500)

吟遊詩人「僕には土下座で味方の攻撃力を上げるだけでなく、スクルトの歌(Lv1500)で肉体をダイヤモンド並みにカッチンコッチンにできます」

ぷにぷに君「アタシには不要の特技みたいだね。他の2人はどうだい? スクルトの歌、欲しいかい?」

底野「吟遊詩人殿、肉体が硬くなると関節も硬くなってしまうのでござるか?」

吟遊詩人「ええ、硬くなります」

底野「それでは、動けないまま削られるのを待つ運命になってしまうではないか!」

ベートーベン「デデデデ~ン、鼻カラ牛乳ガ噴キ出シソウナ程、使エナイ能力デース」

吟遊詩人「でも、敵の攻撃を緊急回避で防ぐには……」

ぷにぷに君「魔法の詠唱に何秒かかると思ってんの。やっぱり、アンタを前線で闘わせるわけにはいかないわね」

吟遊詩人「そんな……ひどい、ひどすぎる! お前らなんかきらいだ!」ダッ

ぷにぷに君「あっ、ちょ、待ちなさい!」

底野「詩人殿、単独行動はマズいでござるよーッ!」

ベートーベン「クク……これで一人脱落か……」

吟遊詩人は森の中に突っ走ってしまった。

申し訳ない
明日から再開します

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom