修理技師「今日は何の修理かな?」 (41)
思いつきで書いたもの。オリジナル・幼稚な文章
・よくある設定・誤字脱字許せる人向け
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今から25年前、世界は再び大戦に身を投じた。
世界中の 国々が憎悪や悲しみで覆い尽くされ、それらは互いの国を食い潰すまで続いた。
「戦火の時代」と呼ばれたこの時代を潜り抜けた世界に国というものは殆ど無くなっていた。
人の価値というものが考えられなくなり純粋な弱肉強食の世界だけが残った。
そんな中残された僅かな国の中で一際他を寄せ付けない国があった。
その国のことを人々は「神の住む国」と言った
-横浜府 南区-
高層ビルが建ち並ぶ一角に年季の入った4階立てのビルがある。その1階の店の中でつなぎ姿の技師が小さな機械をいじっていた。
技師「最後に、このボタンなんですが、巻き戻しのボタンになっていて自動でテープを巻きとってくれます。」
客「へぇー 、あのガラクタがここまで戻るのか。
兄ちゃん大した腕持ってるね。満足だよ。」
修理を依頼した中年の男は機械が予想以上の出来栄えに満足していた。
技師「テープは防腐処理をしたので100年は大丈夫だと思います。」
客「ありがとよ。それで、金額は?カード使え
るよね?」
技師「はい使えますよ。合計で7万2千円です」
慣れた手つきでレジの画面を操作し、技師は修理した機械を箱に入れ男に渡した。男は品を受け取ると、笑顔でこういった。
客「また、なんか見つかったら世話になるよ」
技師「ありがとうございました。でも、今度は先に電話をください」
客「おう、そうだな。今度はちゃんと予約取ってから来るよ。じゃあな」
技師「ありがとうございました」
男が店を後にしたのを見て、技師は作業室の横にあるソファーに寝っ転がった。徹夜明けの疲れが一気に体全体にのしかかってきた。
技師「あぁ、もう夕方か…珈琲飲もう…」
重たいくなった体を起こしカウンター向かう。珈琲豆の瓶があと2回分程までになっているのに気づき買いたさなければと残り僅かな今日の予定を立てる。
技師「珈琲豆とあと食器洗剤買いに行かないと行けないな…」
マグカップ片手にソファーに座り人行き着く。ふと、左側にある連絡デバイスの液晶画面に『連絡5件:古河さん』と表示されているのを見て慌てて体を起こす。
技師「気づかなかった…連絡いれないと」
リダイヤル画面をタップし数秒後に通話中の
文字が現れた。
技師「もしもし、古川さん。連絡遅くなって
すみません。」
中佐「また徹夜明けで作業してたの?少しは
休憩して連絡デバイスを 見るように癖をつけなさいよ。」
声の主は呆れた様な口調で技師に言った。
技師「すみません、やっと仕事が全部片付いたので。」
中佐「もしかして、前みたいに4件同時修理とかやったとか?」
技師「そんなんじゃないんですよ。今回はちゃんと1件だけでしたし。ただ、物がとても傷んでて直すのに1ヵ月掛かってしまって」
中佐「ちゃんと休まないと仕事にも影響出るでしょう。ちゃんとご飯とかも食べているの?」
undefined
その質問に少し戸惑った。思い返せばここ1週間殆ど家に引きこもり状態が続き食事も珈琲と栄養補助剤で済ませていた。
技師「えぇ、大丈夫ですよ」
中佐「珈琲と栄養補助剤とかでしょう。少しは自分の体を労るという事を整備士くんには覚えてもらいたいね。」
技師(何で気づかれた…)
技師「そう言えば、連絡してきたのは何でですか?」
中佐「え、あぁ、実は修理の件で連絡しようとし たんだけど疲れてるなら別にいいわよ。」
技師「修理の依頼なら店の電話の方に掛けてもらえばすぐ出るのですが。」
中佐「店の番号知らないから、自宅にかけたのよ。」
技師「あぁ、そう言えばそうでしたね。後で
送るんで今度からそっちにかけてください。
それで修理してもらいたい物は何ですか?」
中佐「私のひい婆ちゃんが昔写真屋をやってたんだけど。この間蔵掃除で整理してたら古い写真機が出てきたらしのよ。ひい婆ちゃんが直らないかなって言ってきたのよ。」
技師「古いってどれ位のものでしたか?」
中佐「さぁ?分かんないけどフィルム?カメラっていってたわ。」
技師「フィルムカメラですか…古いものだと
150年前とかの物とかあるんですが。」
中佐「そんなに古いヤツなの?!」
技師「まあ、ものによりますけどね。少なくとも
100年以上前のものだと思いますよ。
実物見ないと何とも分かりませんですが…」
中佐「それじゃあ…修理は無理そう?」
技師「そんな事言われたら技師の意地で
出来ませんて言えないじゃないですか。」
中佐「本当?引き受けてくれるの?」
技師「まあ、少なくとも直せるかどうか位は見ますよ。」
中佐「ありがとう!!あぁ、あと出張審査とか
出来る?ひい婆ちゃん足が悪くて外とか行け
ないのよ」
技師「ええ、それなら大丈夫ですけど…古河さんのひいお祖母さんは『対老化治療』とか受けてないんですか?」
中佐「今どき珍しいわよね。まあ、婆ちゃんが言うには、年寄りの義務は若返る事じゃなくて孫達にお金使って自分達はさっさと死ぬ事なんだだと。まったく…笑えないけどね。」
中佐「…なんか心配だから私も同行するわ。
整備士君の出張兼、婆ちゃんの様子見で」
技師「あれ?古河さん今『外洋調査』何ですよね?」
中佐「4日後に船内点検で暫く横浜港に停泊するよ。2週間位休暇貰えるからその間にね。
私も疲れ取りたいからそれを考慮して5日後の
10時過ぎに店に行くからそれから行くでいいかしら?」
技師「あぁ…はい、分かりました。それじゃぁ
5日後ですね。 了解致しました。」
仕事の予定が入り喜ぶべき所なのだろうが
中佐との会話に残っていた気力を使ったら
しく、 連絡デバイスを切った後技師はソファーに体を預け眠りに落ちた。
技師「明日は臨時休業…か…な…zzz」
『8レス目修正』
ひいお婆ちゃん→婆ちゃん
ひいお祖母さん→お祖母さん
用語説明
【 対老化治療】 2040年より、再生医療の発達と共に確立された体を若返らせ、自己免疫力を高める事が出来る薬を使った療法の事。
これにより2055年現在の国内の平均寿命が96.4歳となり、高齢者の7割がこの治療を
受けている。
【 外洋調査】大戦中に投下された核弾頭が与えた影響などを調査を目的とする海軍の活動のこと。「外の世界」の情報収集も兼任している
5日後、約束の時刻より15分早く中佐が店へ来た。現役海軍の中佐と言うべきか時間厳守はきっちりしている。ここ3日ほど休養のため店を閉めていたため、技師の体の疲れは既に取れていた。
中佐「元気そうにしてそうだね、整備士くん。」
技師「今は整備士じゃ無くてただの修理屋
ですよ。古河さんもお元気そうで何よりです。」
軽く握手を交わす2人。約2年ぶりの来店で中佐は店内の変わりように驚いていた。
中佐「前に来た時よりものが増えたわね。アンティーク屋じゃないわよね?」
技師「まあ、今の状況を見たらそう思います
よね。」
買取りサービスを導入して、店の中が古めかしい物で溢れているのは確かだ。中佐が初めて訪れた時にはまだ商品棚とかは置いていなかった。
中佐「こういうの安く買い取って修理して販売する様になったんだ。」
技師「ネット通販の販売が主ですけど、コレクターの人とかは直接店に来ますよ。」
中佐「どう見ても新品同様だもんね…これとか1980年製とか書いてあるし…」
中佐はショーケースの下に入っていたゲームウォッチをまじまじと見ていたが、下に書かれていた価格に目を見開いて暫く固まっていた。
技師「古河さん本来の目的忘れてませんか?」
中佐「え?あぁ…そうだったわね。ひい婆ちゃんに会いに行くんだったわね」
技師「3時前には着きたいんですからら早く
車に乗りますよ。」
中佐を乗せ片道3時間の出張が始まった。
車の中で今回の外洋調査について中佐が
話してくれた。
-車内-
中佐「大陸の方はまた『新国家』が出来たらしいけどいつまで持つのやら…」
技師「前の国家は半年も持たなかった様
ですね。」
中佐「結局、国作っても人が殆どいないらしいわね。国に自分の作物作るより国から作物奪った方が楽って思ってるんじゃない?」
技師「大陸の人達の健康状態とかはどう
でした?」
中佐「健康状態ね…向こうの人は今日食べられれば暴動が起きるって言う位だからはっきり言って生きてるのが可笑しい状態ね。」
車のパワーウィンドウを開けて見えてきた海の方を見て話す姿は、いつも気さくに話す中佐の人間味が感じられなかった。
中佐「それに放射能の影響が新生児に現れてた。生まつき体の一部無いのは当たり前、
技師「万人の万人に対する闘争状態って今の外の世界の事なんでしょうね」
中佐「ホッブスの言ってた事は半分は合っていたわね。ただ、武器も知恵も同情も無い世界は流石に想像出来なかった見たいだけどね…と言うか、哲学の話なんてしてたっけw?」
技師「そうですね。なんか難しい話になってましたね。」
中佐「私の話で婆ちゃんの家付きそうじゃん」
技師「僕の話は帰りに話しますよ。まぁ、詰まらない修理の工程の話ですけどね。」
海岸線に沿って並ぶマンション街から少し離れた所に鳥居があるのが見えた。それを見た中佐はその隣にある2階立ての一軒家の方へと行くように促した。
車を降りてインターホンを押し中佐が話すと中から車椅子に乗った白髪混じりの老婦人が出てきた。
中佐「ただいま、ひい婆ちゃん。すこし早かった?」
老婦「そんなことないわよ。よく来たねぇ…
あら、そちらの方は?」
中佐「ほら、電話で話してた整備士君よ」
技師「修理屋ですよ、古河さん。」
老婦「あらあら、ゆうちゃんもいい相手が見つかったのね。」
中佐「ちょっと、そんなんじゃないから。」
老婦「ごめんなさいね、仲良さそうだったから」
中佐と同じように気さくに話す老婦人は技師の方を向いてきて話しかける。
老婦「わざわざ足を運んで貰ってありがとうございます。優華の曾祖母の坂元美智代と申します。」
技師「横浜で修理屋をしています神代衛です」
老婦「あら、そんなに遠くから…本当にありがとうございます。さぁ上がって下さい。お茶をお出し致します」
16レス目修正
ひい婆ちゃん→婆ちゃん
曾祖母→祖母
車椅子を反転させ老婦人は1階奥にある
リビングに通してくれた。壁には七五三の女の子や袴姿の男性など様々な人物の写真が
飾ってあった。
中佐「壁に掛かっている奴は殆どが婆ちゃんが撮ったものなのよ」
技師「そうなんですか。ん?」
中佐「どうかした?」
技師「いや、映ってる人達全員目線が写真の方に向いてないものが多いなと思いまして」
老婦「あら、神代さん気づきましたか、観察眼が優れてますね」
技師「え、あ、ありがとうございます…」
老婦「ここにあるのは被写体の写り具合を
確かめるのに最初に撮った写真なんですよ」
中佐「最初に撮る試し撮りみたいなやつ?」
老婦「人が1番いい笑顔をするのは写真を
撮るって意識してない時にするものなのよ」
老婦「勿論、目線を向いた写真も綺麗だけど私はこっちの方が好きでこうして飾ってるのよ」
中佐「言われてみれば、確かに皆自然体のまま笑ってるわね…気づかなかったな…」
中佐が席を立ち写真を見ている間に技師は
今回の目的であるカメラの修理について老婦人に尋ねた。
技師「あの、今回依頼したフィルムカメラを見せてもらってもよろしいでしょうか?」
老婦「あぁ、そうでしたわね。神代さんすみませんが倉庫まで付いてきてもらって良いですか」
鑑賞に耽っていた中佐を連れて庭先の廊下奥にある離のような場所へと案内された。
-倉庫-
老婦「この間近所の公共ボランティアで整理して貰ったときに見つけたんですよ。」
部屋の入口近くの棚の上に黒と銀色の塗装の剥がれ、少し形が凹んだカメラがあった。
老婦「それなんですが、車椅子に座っていると取れないので取ってもらっても?」
中佐「それなら私が取るわ。よっと、はい整備士くん」
受け取ったカメラの中身を確認してみる技師
カメラの中には使用済みのフィルムが入っていた。
中佐「これがフィルムってやつ?」
技師「ええ、ただこれ白黒フィルムですねそれに、このカメラ百年前のものですね」
中佐「なんでわかるの?」
技師「このカメラ一番最初にこの国で普及したカメラで知られてるんだよ。製品番号が裏に刻印されてましたから」
技師「このカメラは坂元さんが使っていたんですか?」
老婦「いいえ、それを使っていたのは夫ですよこの写真館も元は主人のものでした」
老婦「あの人が亡くなって残してくれたのは
店と写真の束だけと思ってたんてわすがね、
そうですか。確かにあの人は古いものが好きだったわ…」
昔を懐かしむようにカメラを見つめていた
老婦人の目には僅かながら潤んでいた。
老婦「ごめんなさい…少し埃っぽいから外にいますね」
足早に立ち去った老婦人を追いかけるように中佐も部屋から出ていく。
中佐「…私も外にいるね少ししたら戻るから」
部屋に残された技師は棚の横にあった椅子に
座り持ってきた工具で中身の確認をし始めた
技師「さてと…仕事しますか」
-リビング-
中佐「どう、落ち着いた?」
老婦「えぇ、ごめんね心配掛けてもう大丈夫よ」
中佐「やっぱりお爺ちゃんのことつらい?」
老婦「もう65年も経つのにやっぱりダメね…
部屋に入れないわ」
中佐「ずっと気になってたんだけどさ、
お爺ちゃんの撮った写真は沢山あるけど
お爺ちゃんが写っている写真ってないよね」
老婦「あの人は頑なに写真に映りたがらなか
ったのよ仏壇にある遺影も元は免許証の写真だったものなの」
中佐「本当に1枚も無いの?」
老婦「あったらいいんだけどね…」
中佐「なら私が探してみるよ、必ず見つけてみるから」
老婦「そうね、あったら額縁に入れて壁に
飾るわ」
軽く微笑んだ老婦人を見て少しほっとした
中佐は技師のいる倉庫部屋に向かった。
-倉庫-
中佐が部屋に入ると技師は簡易スタンドで
カメラの内部をいじっていた。
技師「うーん…」
中佐「どう、治りそう?」
技師「配線がいくつか切れててレンズの部分が多少歪んでますね」
中佐「それじゃ直せないってこと?」
技師「いえ、動作自体は問題ないので変えの
レンズと配線を入れれば修理は可能です」
中佐「そっかなら良かった」
技師「…一つ質問してもいいですか?」
中佐「何?」
技師「坂元さんの旦那さんは事故で亡くなったのですか?」
中佐「…」
技師「倉庫にしては置いているものが家具とか本棚とかでまるで書斎ですよね。奥の方にあるカレンダー65年前のですよね」
中佐「まったく、そういう事言ったら話すと思う?」
技師「すみません」
中佐「まぁ、良いわ。話は大方合ってる、ただ
事故じゃなくて事件に巻き込まれたのよ」
技師「それってもしかしてテロ事件ですか?」
中佐「ええ、65年前に今の国営首都地下鉄でとあるカルト集団が自爆テロを起こした。」
技師「確か……『創世団』でしたっけ?」
中佐「そう、当時世間の注目を浴びていた終末思想のカルト集団。事件の前に『樹越村』にあった教団本部に強制捜査がされた報復措置とされていた」
技師「死者21名負傷者52名第二次世界大戦後の国内最大級の自爆テロ事件ですよね」
中佐「そう。お爺ちゃんは当時妊娠してたお婆ちゃんを庇う形で亡くなったらしいわ。お婆ちゃんは翌日早産で母さんを生んだそれ以降は独りで母さんと写真館を守ってきた」
中佐「整備士くんの言う通り、この部屋元は
お爺ちゃんの仕事部屋だったらしい。事件以降は倉庫って言ってるけどお婆ちゃんの中では
今もお爺ちゃんの部屋なの。ただ……」
技師「未だにこの部屋には入れないですか?」
中佐「うん、だから今回の依頼を頼んだのも正直私は驚いたの。」
技師「心境の変化とかですかね」
中佐「分からない でも、少しづつでも事件の前のお爺ちゃんとの幸せな日々を思い出そうとしてるのかな?」
技師「坂元さんには笑顔いてもらいたいもの
ですね。古河さんに似てあの人は気さくな印象を受けましたから。」
中佐「あら、気さくだなんて嬉しい事言ってくれるわね」
技師「事実ですから」
中佐「お世辞でも嬉しいわ。あ、そう言えばやる事あるんだった」
技師「やる事?」
中佐「お爺ちゃんの写っている写真を見つけること。どうせなら整備士くんも手伝ってよ」
技師「えぇ、僕はこのカメラの修理の依頼で来たんですが。」
中佐「依頼主側の要望よ、よ・う・ぼ・う」
技師「はぁ…分かりましたよ」
~1時間後~
中佐「駄目だ~何でこんなに有るのに見つからないのかな?」
二人で手分けして百数十冊はあるであろう
アルバムを見てみたが目的の写真は見つからないままであった。
技師「これで全部ですね」
中佐「本当に写ってる写真が無いわね」
技師「古河さん、もう帰らないと着くの真夜中になりますよ」
中佐「え?あぁ、本当だもうこんな時間だ」
技師「取り敢えず坂本さんの所に戻りましょう」
用語説明
『創世団』65年前世間を騒がせたカルト組織。
国内にある不浄を浄化するとして様々な
活動をしていた。教団本部が強制捜査され
報復として首都地下鉄自爆テロを決行したと
されている。
『樹越村』創世団の本部があった場所。操作の結果危険な薬物や菌が発見されバイオテロを計画していたとされた。村の人の何人かは当時教団の一員であったため今も迫害や誹謗中傷を受けている者もいる。
-リビング-
老婦「二人共、お疲れ様でした」
中佐「ごめん、写真見つからなかった」
老婦「いいわよ。何となくそんな気がしてたのあの人絶対に写真に映りたがらなかったから」
中佐「…ごめん」
技師「…カメラの件のですが変えのレンズと線を変えれば問題なく作動します、1週間ほどで修理は終わりますね」
老婦「まぁ、それはいい事ね。修理よろしく
お願いします」
請求額を見積もりと受け取りの日程を決め技師は1度カメラと工具を車に置きにいった。
中佐「もう帰らないと。明日1回船戻らないと
久しぶりにお婆ちゃんに会えてよかった」
老婦「また帰ってきたら顔を出してちょうだい」
中佐「わかった…ねえお婆ちゃん。」
老婦「なんだい?」
中佐「どうしてあのカメラ修理して貰おうと思ったの?」
老婦「あぁ、実はねこの家売り払おうと思って
るの」
中佐「えっ?!どうして」
老婦「1人じゃこの家は大きすぎるしそれに私ももうそんなに長くはないわ」
中佐「そんな物騒なこと言わないでよ」
老婦「売り払うも払わないにしろ整理は必要かなと思ったの。そしたら偶然ボランティアの人があの人のカメラを見つけてね。」
老婦「事件で壊れたままだったけど直せるなら残った時間をあの人と見た景色をあの人のカメラで撮りたいって思ったの。それが今回依頼した理由よ。」
中佐「この家を手放すのはいや…」
老婦「ゆうちゃんがそう言うなら売り払わないわよ。約束するわ」
中佐「じゃあ、私もお爺ちゃんの写真を見つけるの約束する」
老婦「わかった、約束ね」
指切りを交わして別れの挨拶を言った中佐を乗せて技師は車を走らせた
技師「何を約束したんですか?」
中佐「あ、見てたの?まぁ、お爺ちゃんの写真見つけるって約束したの」
技師「…見つかる目星はあるんですか?」
中佐「無い!!」
技師「まぁ、そんな気はしてましたけどね」
中佐「あぁ、もう何処にあるんだろ…どうにかしてよ整備士くん」
技師「どうにかって言われても…あ、」
技師はふと、『あるもの』の存在を思い出した
技師「古河さんまだ探してない所ありましたよ」
中佐「うん?」
-技師の修理店-
中佐「で、帰ってきた訳だけど探してない所って何なの?」
技師「これですよ」
技師はカメラの中にあったものを取り出した
中佐「あ、フィルムだっけ?」
技師「そう、まだ見てないのはこの中です」
中佐「本当にこの丸っこい中に写真が入っているの?」
技師「ええ、それにはいろんな処理が必要なんですよ。よっと」ゴトッ
そう言いながら技師は作業台下にあった写真現像器具一式と書かれたケースを持ち出した
中佐「いいけど何するの?」
技師「現像と言ってフィルムに取られている画像を写真にするんですよ」
技師「明日の朝にはもう出来てると思うので
今日は先に帰っていいですよ寝てもらっても良いですよ」
中佐「あぁ…それなんだけど実は、今日から寮の改装で皆実家帰ってるし良く当てないから1週間客室貸してくれない?」
技師「はぁ?!」
突然の要求に思わず体を起こす技師に対して中佐はお願いと頭を下てきた。
技師「そういう事は始めに言ってくださいよ。」
中佐「だってここまで遅れるって予定してなかったんだもの私の実家なんて北海道だし」
技師「取り敢えず、僕の部屋は物が散乱して危ないので行かないで下さいね。客室は4部屋あるんで適当に選んで下さい。」
中佐「いいの?1週間泊まるのよ」
技師「ここ以外に行く当てないんなら仕方ないじゃないですか。宿代の代わりに家事やってもらえればいいです」
中佐「ありがとう!恩に着るわ」バタン
技師「あ~これから疲れるな…」
黙々と手を動かすのとは対照的に技師の顔は少々疲労の色が見えた。一方、中佐は宿の確保が出来たことに安堵していた。彼女は二階にある一番大きな部屋に入った。
中佐「元ホテルの部屋だから少し広いわね…
それに、あぁ~フカフカのベッドだぁ」ガバッ
中佐「船の奴と違って熟睡出来そ、う…ふぁ…
いかんいかん、風呂入んないと」
風呂に入り疲れが取れた中佐はふと好奇心から隣の技師の部屋に行って見たいと思った。
中佐(行かないでって言ってたけど、気になるわね)
恐る恐る部屋の扉を開け中に入ると部屋は
整理されていて技師の言っていた散乱してる
とは真逆の状態だった。
中佐(言ってたことと違うじゃない。さては何か隠してるのかな?)
中佐は机の上の本立が目に入った。何やら分厚い回路図の説明書一式の間に薄い2つの
冊子が有るのが見えた。恐る恐るその冊子の一つを手に取る
中佐。
表紙には『国防軍兵器開発部研究成果報告』
と書かれていた。
中佐(なんだろ?)
技師「人の部屋に入って物を物色するのは
行けませんよ中佐殿」
中佐「ひゃい!!て、なんだ脅かさないでよ」
技師「写真ができて呼びに行こうとしたら私の部屋に入って行くのが見えましてね」ゴゴゴ…
中佐(目が、目に正気が宿ってない!!)
中佐「まぁ、つい好奇心よ、好奇心…」
技師「それで、今貴方の右手に持っているのは何ですか?」ゴゴゴ…
中佐「あぁ…その…ごめんなさい」バサッ
中佐は持っていた冊子を渡した。
技師「あぁ、これですかまた懐かしものを」
中佐「軍のマークが付いてたからつい…と言うか整備士くんも元軍人なの?」
技師「まあ、開発部に少々関わった位ですけど」
中佐「整備士くんいくつなのよ?」
技師「人に歳を聞くのはあまりよくありませんよさぁ、部屋から出て出来た写真を見ますよ」グイ
中佐「あぁ、ちょ、まぁいいか」
技師に促され中佐は2階へと降りていった。
技師は冊子を元に戻すのと同時にもう一つの冊子を机の鍵のついた棚に保管した。
技師(やれやれ、本当に疲れる…)
-作業室-
部屋に入ると重ねて置かれていた白黒写真の束が机の上に置いてあった
技師「その中にあればいいんですが」
中佐「これ、若い頃のお婆ちゃんの写真よ
それにお腹が膨れてる」
技師「マタニティの時のものの様ですね」
中佐「うーん、違う、違う、違う…あ!」
技師「ありましたか?」
中佐「まぁ、一様写ってはいるんだけど…他は
無さそうね。これだけだわ、これしかないのか」
写っている写真は中佐は少し不満な様子だったが、技師には良く写っていると思った
技師「いいじゃないですか。自然体の笑顔ですよ。これは」
その後1週間ほどでカメラの修理、復元は完了し、受取日になった。
-老婦人の家-
老婦「まあ、こんなに綺麗になって。新品みたいじゃない」
技師「今の既製品のフィルムで使えるようにしたので沢山写真が取れると思います」
老婦「まぁ、本当に何度お礼を申し上げればいいのやら。本当にありがとうございます」
技師「それと、もう一つお渡ししたいものがあります。ほら古河さん」
中佐「あぁ、一様お爺ちゃんの写真見つかったんだけど…」
老婦「あら、本当に?!」
驚いた顔を見せる老婦人に1枚の額に入った写真を渡す中佐
中佐「これなんだけど…」
その写真にはマタニティ服を着てお腹を擦る
若い頃の坂元さんの姿を写した写真だった。
老婦「あら、私の若い頃の写真じゃない?」
中佐「ここに写ってる」
中佐の指刺すところを見ると壁にかかってある鏡にカメラを持って笑っている男性の姿が写っていた。
老婦「本当だ。ゆうちゃん良く見つけたわね」
笑っている老婦人とは違い中佐は俯いていた
中佐「ごめん、ちゃんとしたお爺ちゃんの写真見つけられなかった」ポロッ
老婦「泣かないでゆうちゃん、私はこの写真を見つけてくれてありがとうて言いたいわ」
老婦「こんなに幸せそうな顔をしている主人を見たのは何年ぶりかしら。あぁ、そうね…あの人は何時もこんな顔で笑ってたわね」ポロッポロッ
老婦「ありがとうゆうちゃん…私の夢全部かなっちゃったわ……」ポロッ
メガネを外し涙を流した老婦人は何度も中佐にありがとう、ありがとうと感謝の言葉を言っていた。中佐は頷いてただただ、涙を流していた
老婦「改めてお礼を言います神代さん。まさかあの人の写真が見つかった事にも感謝を申し上げれなければ行けません」
技師「印刷した写真もお渡し致します。勝手に現像してしまって申し訳ありませんでした」
老婦「いいえ、気にしませんよ。本当に今日だけで一生分の夢が叶いました。」
技師「これからは、そのカメラを持って更に夢を叶えてください」
老婦「本当にありがとうございます…」
帰り道中佐の顔は不安な顔をからいつもの様に笑顔に戻っていた。
技師「やっぱり、古河さんは笑顔でいるのが一番似合ってます」
中佐「いきなり何言うの?!////////」
技師「人間笑顔が一番って事ですよ」
海岸線に沿って店へと帰るミニバンには終始
笑い声が絶えることは無かった。
-横浜港-
中佐「1週間、お世話になりました」
技師「こちらこそ美味しいご飯ありがとうございました」
中佐「無茶ぶりを言って本当にすまなかったわ勝手に部屋に入ったのも謝るわ」
技師「まぁ、今回の件は特別ですよ。今度の外洋調査は東太平洋でしたっけ」
中佐「そう、また2か月船の上での生活よ。全く嫌になるわ」
技師「まぁ、頑張ってください」
中佐「じゃあ、もう行くわ、また世話になった時はよろしくね。」
技師「はぁ…分かりましたよ。お気をつけて」
中佐「うん、行ってきます」
轟音の汽笛を鳴らせ船は発進した。橋を超えたのを見て技師は自分の車に戻って行った
-調査船-
中佐「あぁ、今日からまた固いベッドか…」
中佐が愚痴をボヤいていると後ろから野太い男の声がした
少将「何か不満かね中佐?」
髭の蓄えた初老の男性が中佐のボヤを聞いたみたいだった
中佐「失礼しました!和泉少将殿!!」
少将「まぁ、確かに不満はあると思うが甲板のの板の上で寝るよりはマシだろう」
中佐「はっ!ごもっともでございます」
顎にある髭をいじり少将は質問した
少将「時に中佐、出航前に貴官を見送っていた男誰だね?」
中佐「彼は横浜で技師を営んでいる神代衛と申します」
少将「ほう…貴官のボーイフレンドか?」
中佐「い、いえ。彼とはそういう間柄ではありません////////」
少将「ふむ、そうなのか。」
中佐「えぇ、違います!」
少将「引き止めて悪かった中佐、ベッドの苦情の件は整備部に報告しておこう」
中佐「は!ありがとうございます」
中佐(もう、あのオッサン何か苦手だな…)
-艦長室-
いくつか書類を整理して少将は鍵のかかっている引き出しからある冊子を取り出した。
少将「まさか、修理屋をやっているとはな…」
冊子のページを見返す少将。紅茶を片手に彼は小さく呟いた。
少将「『シャンバラ』か……」
用語説明
『シャンバラ』チベットに伝わる理想郷のこと
34レス目修正
×中佐「彼は横浜で技師をしております」
〇中佐「彼は横浜で修理技師をしております」
本当に誤字脱字が多くて申し訳ない…
誤字脱字多くてすみませんでした。凄く読みにくかったと思います。続きは…今の所に考えてないです…
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