TV『29連勝という快挙を成し遂げた藤井四段……』
TV『今日は天才棋士の素顔に迫ります……』
TV『14歳のプロ棋士はいったいどのようにして生まれたのか……』
男「……ちっ」
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男「ったく、どうなってんだ、世の中!」
男「たかが将棋がうまいだけの小僧を、よってたかってチヤホヤしやがって……」
男「あ~……うらやましい、ムカつくぅ~!」
男「よし……決めた! 俺は藤井四段をボコる!」
男「将棋じゃ逆立ちしても勝てないが、取っ組み合いなら負けねえだろ!」ニヤ…
男「そういや、藤井聡太四段ってどこにいるんだ?」
男「ググってみよう、どれどれ……」
男「ふむふむ……愛知県の瀬戸市ってとこに住んでるのか……」
男「よぉ~し、愛知県に出発だ!」
~愛知県~
男「すみません、おまわりさん」
警官「はい?」
男「藤井四段の御自宅はどこにあるんでしょうか?」
警官「ああ、あっちにありますよ」
男「ありがとうございます!」
男「ここか……」
男「表札に≪藤井≫って書いてあるし、間違いないな」
男「よぉ~し、藤井四段を誘い出す手紙をポストに入れて、待ち伏せしてやる!」
『藤井様
私はあなたのファンです。
ぜひ二人きりでお話ししたいので、すぐ近くの空き地まで来て下さい』
男「これでよし」
男「これをポストに入れて……近くの空き地に向かおう」
男「さぁて、あとはこの空き地で待つだけだ」
男「藤井四段が来たらどうするかな……」
男「まず、いきなり飛び蹴り! んでもって、鳩尾にヒザ蹴り! トドメは顔面に右ストレート!」
男「完璧だ! 王手飛車取りだ!」
男「ククク……ボコボコになった藤井四段のツラをテレビ局に送りつけて、全国のファンを悲しませてやるぜ!」
男「ギャハハハハハハハハハッ!」
藤井「私を呼び付けたのは君かね」
男「?」
男「誰だよ、あんた」
藤井「私は空手家の藤井だ」
男「えっ」
藤井「段位は四段だ」
男「えええええ……!?」
藤井「今、君は私をボコボコにする、といっていたな?」
男「えっ、いや、それは――」
藤井「君のような暴漢を放っておくと世の中のためにならん。受けて立とうじゃないか!」
男「ちょっ、ちょっと待っ――」
藤井「セヤアァァァッ!!!!!」
ぎゃあああああああああああ……!!!
男(う、うう……強すぎる……)
男(自業自得とはいえ……死ぬ……)
藤井四段「あの、大丈夫ですか?」
男(あっ……この人は、将棋の方の……藤井四段……)
藤井四段「すぐ救急車を呼びますね」
男「あ……ありが、とぅ……」
男(こうして俺は藤井四段が救急車を呼んでくれたおかげで一命を取り留めた)
男(もし、彼が通りがかっていなければ、おそらく俺は死んでいただろう)
男(治療が早かったこともあり、俺は一週間ほどで退院することができた)
男(狙った相手に命を助けられるなんて、俺はなんてマヌケな男なんだろうか)
男(――え? 今俺がどうしてるかって?)
男(そりゃもちろん――)
男(藤井四段の大ファンになったに決まってるじゃないか!)
男「うおおおおおっ! 今日は藤井四段の対局の日だ! 仕事休んで絶対見なきゃ!」
男「今度こそ30連勝を達成してくれ、藤井四段!」
おわり
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