幼女「キモヲタに誘拐された時の話をしよう」 (66)

偶然立ち寄った酒場で、幼馴染と出会った。


「いやあ、久しぶりね、幼稚園の頃以来だっけ?」

「元気してた?」

「私?私は、まあ、元気よ、今は」

「え、昔に比べてイメージが変わってるって?」

「うーん、そりゃあ君が引っ越してから、まあ色々あったからねえ」

「色々は色々だよ」

「まあ、大抵は悪い事ばかりだったけどね、あははは」

「一番最悪だったのは、キモヲタに誘拐された事かな」

「いやいや、ネタじゃなくて本当の話」

「死ぬ寸前まで行ったからね」

「え、生きてて良かったって?」

「……」

「まあ、確かにそうだけどね」

「けどさ」

「世の中には、死んだ方がマシだって思うような事だって、あるんだよ」

「ん?私を誘拐したキモヲタがどうなったかって?」

「そりゃ……」









「殺したよ、ちゃんと」

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あれは、君が引っ越してから数ヵ月後くらいの頃だったかな。

町で、お母さんと逸れちゃったんだよ。

1人で心細くて、寂しくて。

道路の端で蹲って、シクシクシクシク泣いてた。

道路は色んな人が行きかったけどさ、みんな忙しそうで。

私を助けてくれる人なんていなかった。

そんな中、声をかけてきたのが……。


「ふ、ふひっ、お嬢ちゃん、1人なの?」


キモヲタだった。

キモヲタ「お嬢ちゃん、ふひ、ひ、ひとり、なのかな、ふひっ」

幼女(ふえええ、気持ち悪い人が話しかけてきたよぉぉ)

幼女(怖いよぉぉ、ふえええ)

キモヲタ「た、た、た、たたけっ、たけっ」

幼女(ふええええ、何か言ってるよぉぉぉ、解読不能だよぉぉぉ)

キモヲタ「た、たけ、助けて、あげようか?」

幼女「……」

キモヲタ「ど、どう、かな?ん?ん?」

幼女(ふえええ、やっぱり気持ち悪いよぉぉぉ)

幼女(けど、助けてくれるって言ってるし、案外優しい人なのかもしれないよぉぉ)

幼女(他の人達は全然助けてくれる様子はないし、ここはこの人に助けて貰うのが最善手かもしれないよぉ)

幼女「……うん、たすけて」

キモヲタ「ふ、ふひっ、かわいい、かわいいなぁ、よおし、助けてあげちゃうぞ、ふひっ」

幼女(けど、やっぱり気持ち悪いよぉぉ)

幼女「ママがね、ママが、いなくなっちゃったの」

キモヲタ「そ、そっかぁ、ママがいなくなったのかぁ、そっかぁ」

幼女「さがしてくれる?」

キモヲタ「だ、大丈夫、ママの居る所、知ってるから、ふひっ、こっち、こっちだよ」

幼女「わぁい」

キモヲタ「……」キョロキョロ

幼女「?」

キモヲタ「な、なんでもないよ、ほら、行こうね、こっちだよ、ふ、ふふ」グイッ

幼女「い、いたい、いたいよっ」

キモヲタ「しーっ、あんまり大きな声出しちゃだめだからね、しーっ」

幼女(ふぇぇぇ、やっぱりこの人、怖いかも)

幼女(手汗も凄いよぉ、ベトベトだよぉ)

幼女(けど、手を振りほどいたら怒るかもしれないし)

幼女(そ、それにママと知り合いだった言ってたし、大丈夫だよね?)

キモヲタ「そ、そうそう、大人しくしててね、ほらこっち、近道だから、ふひひひ」グイグイ

幼女(が、我慢だよぉ、もうちょっとの我慢)

キモヲタ「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」

キモヲタ「もう少し、もう少しで、ふ、ふひひ」

キモヲタ「さ、ここだよ、入って入って」

幼女「……ここ、知らない家だよぉ」

キモヲタ「つ、疲れたでしょ、ここで休憩出来るからさ、ね?ほら早く」

幼女「け、けど」

キモヲタ「早く!」

幼女「ひっ!?」

キモヲタ「早く早く早く早く早く早く早く早く!早く!入って!」

幼女「ふ、ふえぇぇぇ……」グスッ

キモヲタ「泣くな!早く入ってって!」ドンッ

幼女「ひゃっ!」


バタンッ

ガチャガチャ


キモヲタ「はぁ、はぁ、はぁ」

幼女(ふ、ふえぇぇぇ、結局知らない家に押し込まれちゃったよぉぉ)

幼女(暗いよぉ、怖いよぉぉ……)グスッ

幼女「う、うぅっ、マ、ママは?」グスッ

キモヲタ「ハァ、ハァ、ハァ」

幼女「ママはどこ?」

キモヲタ「ハァ、ハァ、ハァ、マ、ママ?」

幼女「し、知り合いだって……」

キモヲタ「ああ、ママ、ママね、知り合いだって言ってたねさっき、ふひひひ」

キモヲタ「確かに知ってるよ、ふ、ふふふ、何時も見てた、遠くから」

キモヲタ「き、君、市内の幼稚園に通ってるよね」

幼女「う、うん」

キモヲタ「あの幼稚園の制服、可愛いよね、今日は私服なのが残念だけど、ふひひひひひ」

キモヲタ「いやいやいや、私服も可愛いけどね、うん、可愛いなあぁぁ、じゅる」

幼女(ふえぇぇぇ、ジロジロジロジロ眺められてるよぉ)

幼女(気持ち悪い……)

キモヲタ「けど、けどね、知り合いじゃないんだな」

幼女「え?」

キモヲタ「こっちは向こうの事を知ってるけど、君のママはこっちの事を知らないと思うよぉ」

キモヲタ「何時もバレ無いように見てたからねぇ」

キモヲタ「そのお陰で、君を家に連れ込めた、何時も、何時も何時も何時も妄想してたように」

キモヲタ「あああ、けど本当に可愛いなぁ、まるでお人形さんみたいだ!」

キモヲタ「可愛いなあ!可愛いなあ!可愛いなあ!」

幼女「ひっ」

幼女(ママの知り合いじゃ、無い?)

幼女(なのに何時も見てた?何を言ってるの?)

幼女(ふぇぇぇ、意味がわからないよぉ)

幼女(意味不明で怖いよぉぉ、ママの知り合いじゃないなら、どうして私を)

幼女(私を家になんて)

キモヲタ「……可愛い……可愛い……可愛い」

幼女「あ、あの」

キモヲタ「……可愛い」

幼女「ママの知り合いじゃないなら、帰ります……」

キモヲタ「……」

幼女「あの!」

キモヲタ「……駄目」

幼女「けど、けど私、ママを探さないと」

キモヲタ「駄目!」

幼女「ひっ」

キモヲタ「駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目!駄目!」

キモヲタ「帰る?そんなの駄目に決まってんじゃん!君は外に出ちゃダメ!出れないよもう!」

キモヲタ「そんな事、言っちゃだめだよ!帰るなんてさぁ!そんなこと!」

キモヲタ「折角さぁ!家に来てくれたんじゃん!その努力をさぁ!無駄にするつもり!?」

キモヲタ「絶対駄目だから、絶対!絶対!ああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

幼女「あ、あわわわわ」ガクガクガク

キモヲタ「ああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」


ガンガンガンガン


幼女(ふぇぇぇ、壁とか窓を凄い勢いで叩いてるよぉぉぉ)

幼女(暴力的だよぉ、野蛮だよぉ、テレビで見たゴリラさんみたいだよぉぉ)

幼女(怖いよぉ、怖いよぉぉぉ)ガクガク

キモヲタ「はぁ、はぁ、はぁ」

幼女「……」ガクガク

キモヲタ「はぁ、はぁ、あ、ご、ごめん、怖がらせちゃったよね、ふひひ」

キモヲタ「だ、大丈夫、外に出るとか言い出さなきゃ、乱暴にはしないから、ふ、ふふふ」

幼女「……」ガクガクガク

キモヲタ「……それでね、ひとつお願いがあるんだけど」

幼女「……」ガクガクガク

キモヲタ「聞いてる?聞こえてる?ん?」

幼女「は、はい、聞こえてます……」ガクガク

キモヲタ「そ、そっか、良かったぁ、ふひっ」

キモヲタ「そ、その私服、可愛いね」

キモヲタ「凄く可愛い、可愛いけど、けどね」





キモヲタ「ちょっとそれ、脱いでくれる?」

キモヲタ「ふひひひひひひひひひひひひひ」

幼女(ふえぇぇ、ご無体だよぉ)

幼女(突然、ご無体な要求されたよぉ)

幼女(けど、けど逆らったら酷い事されるかもしれないよぉ)

幼女(痛い事されるかもしれないよぉ)

幼女(さっきの壁や窓みたいに、ガンガン叩かれるのは嫌だよぉ)

幼女(こんな時、どうすればいいのか、私は知ってるよぉ)

幼女(なるべく刺激しないように、相手の言う事を聞いておくに限るよぉぉ)

幼女(そうすれば、きっと酷い目には合わないよぉ)

幼女(ママに買って貰った服だけど、背に腹は代えられないよぉ)

幼女「ふ、服を差し出せば、いいの?」

キモヲタ「う、うん、早く早く」

幼女「じゃあ、脱ぎます……」

キモヲタ「……ふひっ」

幼女(ふぇぇ、服を脱ぐとちょっと寒いよぉ)

幼女(けど、この人は服なんてどうするんだろ)

幼女(着るのかな?さっき幼稚園の服が可愛いって言ってたし)

キモヲタ「……ああ、凄い」

幼女「ふぇ?」

キモヲタ「凄い、凄い白くて、スベスベで、可愛い」ハァハァ

幼女(ふえぇぇ、この人、脱いだ服を無視して、私の身体をジロジロ見てるよぉ)

幼女(ペタペタ触られてるよぉ、気持ちがわいるよぉ)

キモヲタ「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」

幼女(ううう、近くで鼻息が……)

幼女(この人、滅茶苦茶興奮してるよぉ)

幼女(どうして?)

幼女(それに、臭い、この人臭い)

幼女(ちゃんとお風呂入ってるようには思えないよぉ)

幼女(キツいよぉ)

幼女(けど、けど……)

幼女(……)

幼女(我慢、だよぉ……)

「いやいや、そんな顔しないでよ」

「当時の私はさ、裸になるのなんてそんなに恥ずかしくはなかったの」

「それに、言う事聞かないと乱暴されると思ってたしさ」

「殴られるのは嫌だし、言う事聞いておけば相手の気もすむかなって」

「ん?どうしたの?顔色悪いよ?大丈夫?」

「そ、ならいいけど」

「え?続き聞きたい?」

「うーん、私から話しておいて何だけど、あんまり楽しい話じゃないよ?」

「いや、私はいいけどさ、まだ時間もあるし」

「はいはい、判った判った」

結局、その日、私は外に出られなかったの。

窓の隙間から見える風景が暗くなっても、外に出して貰えなかった。

その間、キモヲタは私に触れたり、髪を撫でたりしてた。


触られるのは我慢した。

撫でられるのも我慢した。

臭い匂いにも我慢した。

ご飯だと差し出された缶詰の苦さも我慢した。


けど我慢できない事も、あった。


私に宛がわれた布団に横になった時の事だ。


幼女(ふぇぇぇ、結局、家に帰れなかったよぉ)

幼女(きっと、きっとママも心配してるよぉ)

幼女(明日になったら、帰れるのかな)

幼女(そうだよ、きっと帰れるよね)

幼女(あの人が飽きれば、きっと帰してもらえるよね)


ゴソッ


幼女(……?)

幼女(何だろう、布団の中に何かが)

幼女(何かが、私の身体に当たってる?)

幼女(何か、というか、誰かが?)


ふひっ


幼女(あの人の笑い声が)

幼女(布団の中から)

 

ガバッ


幼女「あうっ!」

幼女(ふ、ふぇぇぇ、何か大きな身体に覆いかぶされたよぉぉぉ)

幼女(暗くてよく見えないけど、こ、この匂いは、やっぱりあの人だよぉぉ)


ふ、ふひっ、暖かい、暖かいなぁ、ふひひひ

はぁ、はぁ、はぁ、柔らかい、柔らかいよ、ふっひひひ


幼女(臭い、臭い臭い、やっぱりこの人、臭いよぉ)

幼女(そ、それに、抱きしめられて息が、息がしにくいよぉぉ)

幼女(何で、どうして)


ねぇ、ねぇ、君さ


幼女(布団の中から、また声がするよぉ)

幼女(また、また何か変なことを要求されるのかもしれないよぉ)

幼女(嫌だけど、嫌だけど、何とか、何とか我慢しないと)

幼女(怖いのは、痛いのは、嫌だから)


君さぁ、ママから虐待されてたでしょ


幼女「……」

知ってるよ、知ってる、だってずっと見てたから

幼稚園児とか、凄い好きなんだよ、ふひひひ

だから市内の幼稚園に通ってる子の名前とか住所とか全部知ってる

全部調べた、全部、趣味で

君の友達のあの子とか、転校しちゃったあの子とか

可愛かったねぇ、あの時の君は

ワンワンワンワン泣いてたねぇ

それで家に帰るのが遅くなって

家の前でママにぶたれてた

けど君は、泣かなかった

友達が転校しただけであれだけ泣いてたのに

ママに殴られた時は泣かなかったんだ

あれは、そう「躾け」られてたからでしょ

一目でわかった、一目で

「この子は、乱暴にされると絶対逆らえなくなっちゃう子だ」って

一目でわかった

ふひっ、ふひひひひ

家の中でも、ママに日常的に殴られてたんでしょ?

顔とか手とか目立つ場所を避けて

さっきね、君が裸になった時

色々見えたよ

火傷の跡もあった

酷いもんだねぇ、可哀想にねぇ

君は

君は可哀想な子なんだよ、ふひひひひっ

幼女(我慢、我慢、我慢、何をされても我慢)

幼女(相手が飽きるまで我慢、何も考えずに)


けど、けどもう大丈夫だよ、ふひひひ、助けてあげるから

あんなママなんかに乱暴になんてさせない

大丈夫、大丈夫、優しくするから、優しくするからさ


幼女(何をされても、我慢、大丈夫、痛くない)

幼女(こんなの全然痛くない、痛くない)


はぁ、はぁ、はぁ、はぁ

うっ、ううっ

はぁ、はぁ、はぁ

ふ、ふひひひっ、んんっ


幼女(何だか、この人、変な動きしてるよぉ)

幼女(どうしてか、ぬるぬるするよぉ)

幼女(けど、けど、我慢)

幼女(がまん)

幼女(がまん)

幼女(がまん)


んっ、んんんんっ!


幼女(あっ)

幼女(ビクビクッとした)

幼女(……)

幼女(……)

幼女(……)


ふひっ

大丈夫だよ

君は絶対に守ってあげるからねぇえ


幼女(……)

幼女(……)

幼女(……)











幼女(ぜんぜん)

幼女(だいじょうぶじゃないよ)

「ん?あれ?ひょっとして寝ちゃった?」

「えー、人に話をせがんでおいて寝ちゃうなんて、何よそれ」

「しかもこんな酒場でさ」

「はぁ……」

「ま、いっか」

「聞いてて楽しい話じゃなかっただろうしね」

「……」

「……」

「……」

「まあ、けど、もう少し時間があるし」

「最後まで話ちゃおっか」

「夢の中でいいからさ、聞いておいてよ」

「あのキモヲタがどうなったかを」

その日から、キモヲタとの生活が始まったの。

キモヲタは決して外に出ずに、何時も私を見張っていた。


まあ、けど、そこでの生活は、そこまで酷くはなかったよ。

反抗したり外に出ようとしなければ、乱暴されることもなかったし。

缶詰だけじゃなくて、ちゃんとしたご飯も作ってくれたし。


寧ろ、実家での暮らしよりマシだったかも。

だって、当時のママは1日に10回は私を殴ってたしね。

ご飯も残飯みたいなのだったし。

その頃の私はそれが普通だと思ってたけど。

良く考えると、まあ、異常だったわ。


まあ、それでも。

夜、布団の中にキモヲタが入り込んでくるのだけは。

嫌だったんだけどね。

それだけは、本当に嫌だった。

キモヲタ「ふ、ふひっ、君、何を書いてるの?」

幼女「……こないだ見せてもらった漫画の主人公」

キモヲタ「お、おおお、ホントだ、凄いねえ、君、絵も上手いんだねえ」

キモヲタ「またひとつ、君を知れた、嬉しいなあ、ふひひひひっ」

幼女「……」

キモヲタ「そ、それで、漫画の感想は、どうだった?面白かった?ん?」

幼女「……普通」

キモヲタ「そ、そっか、普通かぁ、ふひひひひっ」

幼女(ふ、ふぇぇぇ、臭いよぉ)

幼女(最近、臭さが増してるよぉ)

幼女(けど、そんな事を指摘したら怒られちゃうよぉ)

幼女(ここは何時ものように我慢しておくよぉ……)

キモヲタ「な、なに、何でも言っていいよ、出来る事なら何でもしてあげるから、ふひひひ」

幼女「……」

キモヲタ「……あれ、ひょっとして、鼻を押さえてる?鼻?どうして?」

キモヲタ「あ、もしかして」クンクン

幼女「……」

キモヲタ「ああ、そっか、臭いのか」

キモヲタ「そういえば、あれから全然お風呂入ってないからなぁ」

幼女「……」

キモヲタ「ふっひゃっひゃっ、自分で言っててウケる!」

キモヲタ「じゃあ、久しぶりにお風呂入ろう」

幼女「……!」

幼女(ふぇぇぇ、良かったよぉ)

幼女(これでこの匂いからも、解放されるよぉ)

キモヲタ「君も一緒においで、洗いっこしよう、ふひひひ」



幼女(ふぇぇぇ、お風呂に入るの、数日ぶりだよぉ)

幼女(気持ちいいよぉぉぉ、ふえぇぇぇ)

キモヲタ「ふ、ふひっ、ふひひひっ」

幼女(ふえぇぇ、また私の体をじろじろ見てるよぉ、気持ち悪いよぉ)

幼女(……けど)

幼女(さっきは、私が鼻を押さえてるのを見て、匂いを嫌がってるって気付いてくれた)

幼女(気づいても、怒らずに、お風呂に入ってくれた)

幼女(ひょっとしたら、この人は、ママとは違うのかもしれないよぉ)

幼女(そんなに沢山怒る人ではないのかも、しれないよぉ)

幼女(ふえぇぇぇ)ブクブクブク

幼女(美味しいご飯を作ってもらえた)

幼女(絵を褒めてくれた)

幼女(お風呂に入ってくれた)

幼女(だったら、もしかしたら)

幼女(もしかしたら)

キモヲタ「ふひひひひ、可愛いねえ、君は本当に可愛いねえ、ふひひひ」

幼女「あ、の」

キモヲタ「ん?どしたの?のぼせちゃった?ふひひひ」

幼女「……何でそんな笑い方してるの、おんなのひとなのに」

キモヲタ「う……」

幼女「変」

キモヲタ「ふ、ふひひ、そんなに変かな、君を安心させようと精いっぱいの笑顔を浮かべてるんだけど」

キモヲタ「私はねえ、子供の頃から笑うのか苦手でねえ、こうやって無理やり声に出さないと、笑ってるって判ってもらえないんだよぉ」

キモヲタ「君は、この声が嫌?」

幼女「……」

キモヲタ「正直に言ってくれていいよ、ふひひひ」

幼女(ふえぇぇ、どうしよう、怒るかな)

幼女(けど、さっきは大丈夫だったし)

幼女(きっと……)

幼女(ママとは違うんだよね……)

幼女(なら……)

幼女「……うん、変、キモイ、止めて欲しい、正直ないわ」

キモヲタ「ふぇぇぇぇぇ……」

幼女(ああ、何か凄い悲しそうな声を出させちゃったよぉ)

幼女(ちょっと可哀想だったかも)

幼女(けど)

幼女(けど、怒られない)

幼女(この人は大人なのに、正直に物事を言っても、怒られない)

幼女(何だか不思議だよぉ)

幼女(ふえぇぇぇ……)

幼女(この人は、優しい)

幼女(私の言う事を聞いてくれる)

幼女(私の目線で話してくれる)

幼女(けど)


うっ、うううっ、うっ

はぁ、はぁ、はぁ


幼女(これだけは、嫌だなあ)

幼女(どうして、夜、布団の中に入ってくるのかなぁ)

幼女(どうして)

幼女(私を抱きしめて、こんな事をするのかなあ)

幼女(毎日、毎日、こうだもん)


うっ、ひっく、うぅぅ

グスン


幼女(どうして、私を抱きしめて、こんなに泣くのかなあ)

幼女(苦しい、苦しい、苦しいよぉ)

幼女(息も苦しいけど)

幼女(それ以上に、胸の中が)

幼女(苦しいよぉ)

幼女(どうして?)

幼女(どうして、この人は、他人に身を預けて泣く事が出来るの?)

幼女(私はずっと我慢してるのに)

幼女(泣きたくても我慢してたのに)

幼女(どんなに殴られても、詰られても、ご飯を抜きにされても)

幼女(ママを抱きしめて泣いた事なんて無かったのに)

幼女(どうしてこの人は)

幼女(私に対して、こんなに弱さをさらけ出すんだろう)

幼女(どうして)

幼女(どうして)

幼女(どうして)

幼女(そうだ、そうだよ、私には、ママがいる)

幼女(この人は優しいけど、ママは優しくない)

幼女(ママの方が怖い)

幼女(早く、早く帰らないと、ママに、またママに……)

幼女(……)

キモヲタ「うぅ、グスン、ヒック」

幼女(……この人が、どうして泣いてるのかなんて、判らないよぉ)

幼女(どうして私をこの家に閉じ込めてるかなんて、知らないよぉ)

幼女(知らない事よりも、知ってる事を優先した方がいいよぉ)

幼女(早く帰らないと、ママが怒る)

幼女(それが、私の知ってる、一番大きな事だよぉ)

幼女(この人が、寝ちゃってる今なら)

幼女(今なら……)


ズルズル


ズルズル


幼女(よし、布団から抜け出せたよぉ)

幼女(今なら、お外に出れるよぉ)

幼女(お外へ続く扉は、ふさがれてるよぉ)

幼女(窓も全部、板が貼ってあるよぉ)

幼女(けど)

幼女(実は、こっそり見ていたよぉ)

幼女(扉の下の方に、小さな扉がついてるよぉ)

幼女(転校しちゃったあの子の家にも、こんな小さな扉がついてたよぉ)

幼女(だから知ってるよぉ)

幼女(これは、犬用の扉)

幼女(犬が出入りできるようにと作られた、小さな扉)

幼女(あの人は、これを見落としてる)

幼女(大人の視点だから、きっと見落としたんだと思う)

幼女(この小さな扉なら)

幼女(ギリギリ、私が通れそうだよぉ)

幼女(ほんとうに、ギリギリだけど)

幼女(挑戦してみるだけの価値はあるよぉ)

ズボッ


幼女「ふ、ふえぇぇぇ、上半身だけは通ったけど、下半身が引っかかったよぉ」

幼女「え、えいっ、えいっ、えいっ!」ゴソゴソ

幼女「ふえぇぇぇ、通れないよぉ、けど諦める手はないよぉ」

幼女「幼女の一念、岩をも通すだよぉぉ」ジタバタ


あ!だ、駄目!


幼女「……!」


外に出ちゃダメ!戻って!


幼女「ふ、ふえええ、あの人起きちゃったよぉ」

幼女「は、早くしないと……」モゾモゾ



グイィィィ



幼女「痛っ!」

駄目!駄目だって!駄目駄目駄目駄目駄目!

外に出ちゃ駄目!

駄目って言ったじゃん前に!

駄目だって!戻って!早く!

早く早く早く早く!


幼女(ふ、ふえぇぇ、凄い勢いで足引っ張られてるよぉぉぉ)

幼女(痛い、痛いよぉぉぉ)

幼女(……けど)

幼女(我慢する、我慢する、我慢する)

幼女(早く、早くママの所へ戻らないと)

幼女(今戻ってもいっぱい叩かれるだろうけど)

幼女(ご飯も抜きにされるだろうけど)

幼女(酷い事を一杯されるだろうけど)

幼女(でも)

幼女(戻らないと)

幼女(だって、そうしないと)

幼女(あとからもっとひどいことをされるから)

幼女(私はそれを知っている)

幼女(知ってるの)

幼女(だから)


ガンッ


痛っ!


ズルズルズル


ズポッ

幼女(ふぇぇぇ、やっと扉から抜け出れたよぉ)

幼女(あの人の手、蹴っちゃったけど)

幼女(大丈夫かなぁ)


ガンガンガンッ


幼女「……!」ビクッ



駄目、駄目だよ、戻って

今すぐ戻って

私の所へ戻って!

ここなら君を守れるの!

この家の中なら!

だから今すぐ戻って!

外では

外では!

私はあなたを守れない!

だから!



幼女(良かったよぉ、扉を叩く余裕くらいはあるみたい)

幼女(……)

幼女(……)

幼女(本当に、このまま、外に出ていいのかな)

幼女(ママの所に戻っても、いいのかな)

幼女(だって、あの人は優しかった)

幼女(だったら、あの人の所に居た方が)

幼女(私にとっては……)

幼女(……)

幼女(……)

幼女(ああ、けれど)

幼女(私は、やっぱり怖い)

幼女(ママが怖い)

幼女(だから)

キモヲタの家を飛び出した私は、そのまま夜道を走ったわ。

町は真っ暗だったけど、月明かりはあったの。

だから私は走る事が出来た。

見つからずに、大通りに出る事が出来たの。


大通りには沢山の人が居た。

そのうちの1人に見覚えがあった。

学校の付近を良く巡回していた巡査さん。

ママとも顔見知りの、大人の人。


私は、その人に助けを求めたの。

助けてください、ママの所に戻りたいんですって。


その場に居る人は、全員、私の方を振り向いたわ。

まるで、ずっと私を探していたみたいに。

全員の視線が私に注がれた。


その後の事は、正直、思い出したくないんだけどね。

元々ね、私はママと逸れたワケじゃなかったの。

ママが私を置き去りにしただけの話だったの。

私が居ると、邪魔だから。

ほら、私って足が遅かったじゃない?

だから逃げるのに都合が悪かったのよ。

だから私は、おいてけぼりにされた。

通りかかる人も、自分が逃げるのに精いっぱいで、私を助けてる余裕なんてなかった。

だって、当然よね、私を助けてる隙にあいつらに捕まったら、食べられて終わりなんだもの。


だからね、あの時、キモヲタが私を助けてくれたのは。

本当に、奇跡だったんだと。

今になって思うワケ。


まあ、そう理解した時は、全部遅かったんだけど。

大通りで振り向いた人達は、全員、おかしかった。


身体から血を流している人がいた。

足や手が変な方角に向いてる人が居た。

全身真っ黒になるほどの火傷を負ってる人が居た。

身体の一部分が欠けてる人が居た。

這いずってる人が居た。

倒れたまま動かなくなってる人もいた。

色んな人が居た。


そして。

私のすぐそばに居る、巡査さんも。

首が半分千切れかけていた。


それでも、動いて、私の方に声をかけてきた。


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」


意味不明なしゃがれ声。

私を見つめる、白濁した瞳。

キモヲタ何かよりも酷い匂い。


そんな物体が。

そんな物体達が。


私に向かって、歩いてきていた。

怖かった。

怖かった。

怖かった。

私は怖かった。

彼らが怖かった。

けどね。

私は、知っていたの。

恐怖に対抗する方法を。

だから、私は今まで通り。



幼女(我慢)

幼女(怖くても我慢、何も考えずに)

幼女(何時もやっていたこと)

幼女(怖くても、痛くても、相手が飽きるまで)

幼女(我慢、我慢、我慢)

幼女(がまん、がまん、がまん)



彼らはもう、すぐ傍まできていた。

集まってきていた。

お化けみたいな声。

怒った時のママの声みたいに。

恐ろしい声が。

近くまで。



幼女(がまんしよう、そうすれば)

幼女(きっとだいじょうぶ)

私はそのまま、彼らに押し倒された。

沢山の彼らの、汚い手が、臭い顔が。

私に近づいてきて。


私は、目を瞑った。

我慢する為に、目を瞑った。

何も考えないように。


真っ暗な視界の中、音が聞こえる。


何かがぶつかる音。

這いずる音。

うめき声。

ブチブチと何かが千切れる音。

ポタポタと何かが落ちる音。


何かが私に触れて。

そのまま持ち上げて、抱えられた。



痛くなかった。

不思議な事に痛くなかった。

その代わり、匂いがした。

随分薄まったけど。

良く知っている人の。

汗の匂いが。

声を出そうとしたけど、手で口をふさがれた。


「しーっ、あんまり大きな声出しちゃだめだからね、しーっ」

「そうそう、大人しくしてね」

「もう少しで、もう少し……」

「ふひっ、ふひひ」


目を開けなくても、判った。


自信のなさそうな声。

怖さや不安を誤魔化す為に、無理して笑ってる声。

あの時と同じように。

私を助け出してくれた、この人は。



バタンッ

ガチャガチャ


キモヲタ「はぁ、はぁ、はぁ」

幼女「……」

キモヲタ「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」

幼女「あ、あの……」

キモヲタ「ご、ごめんね」

幼女「え?」

キモヲタ「や、やっぱり、駄目だった、外では」

キモヲタ「守れない、私じゃ、無理」

キモヲタ「私は、私はね、準備してたの」

キモヲタ「ホラー映画とか、好きだったし、世の中がこうなる前から、ずっと準備してた」

キモヲタ「期待してた、そういう世界になったら、私でも、私でも映画の主人公みたいになれるって」

キモヲタ「けど、けど無理だったの、食料や資材や武器は用意できても」

キモヲタ「私には、無理だった」

キモヲタ「勇気がね、勇気が無いの、あいつらの前に出たら、ちゃんと動けない」

キモヲタ「怖くて、不安で、何も考えられなくなって」

キモヲタ「それに、少し走っただけでも息切れしちゃうし、体力も筋力も足りないし」

キモヲタ「ふ、ふひひひ、そう、準備するんだったら、まず体を鍛えるべきだった」

キモヲタ「道具だけ揃えたって、無駄だった、ふひひひ」

キモヲタ「ふ、ふひ……」

彼女は泣いていた。

夜、私の布団に入り込んでくる時みたいに。

泣いていた。


だから私は気付いた。

きっと、彼女は。

私を守れなくなることに不安で。

泣いていたんだと。


それに気づいた時、私の身体は自然に動いた。


蹲る彼女を、ぎゅっと抱きしめて。


「……ありがとう」

「ありがとう、ありがとう」

「守ってくれて、ありがとう」

「助けてくれて、ありがとう」

「うれしかった」

「そんなことは初めてだったから」

「凄くうれしかった」

「そんな事を受け入れるのが怖くなってしまうほど」

「凄くうれしかった」


私も、泣いていた。

彼女を抱きしめて、私も泣いていた。


初めてだった。

誰かを抱きしめて。

誰かに抱きしめられて。

泣くなんて事は。








私が記憶している限り、誰かと一緒に泣いたのは、それが最初で最後。

だって、彼女は私を助けるときに噛まれていたから。

だからね、私は彼女を殺した。

当時の私は泣いて嫌がったけど。

彼女がそれを望んでいたから。

私は自分の心を殺して。

我慢して。

彼女を殺した。


彼女の部屋にはね、本当にいろんな準備がしてあった。

食料や資材、資料だけじゃなく、色んな武器が揃ってた。

今、持ってる銃もそう。

これで、彼女の頭を撃ち抜いたんだけどね。

あれから、もう何年も過ぎたけど、ずっと整備して使い続けてる。

まあ、もう弾は9発しか残ってないけど。

はい、話はこれでおしまい。


それから私は、彼女の部屋に揃ってた資料を読みふけって準備を整えたの。

彼女が言っていた事だから、当然身体も鍛えたわ。

食料や水は揃っていたから、十分時間はあったの。

三年か四年、いや、もっとかしら。


兎に角、物資が無くなったと同時に、私は彼女の家を出た。


町は酷い有様だったわね。

色んな物が壊れて、色んな物が燃えカスになってて。

そんな中、連中が私の前に姿を現した。


先頭に居たのはね、笑える事にママだったわ。

ママはあの時の服装のままだった。

だから顔が無惨な有様でも、一目でわかった。

ママが来る。

ママが歩いてくる。

きっと長い間家に帰らなかった私を。

叱りに。

殴りに。

喰らいに。



その時になっても、私はまだママが怖かった。

トラウマが蘇る。

何も考えられない。

何も。



だから、私は、何時も通りにした。



我慢して。

何も考えずに。

何時も通りに。



「おね■■いき■……」



キモヲタの声が聞こえた気がした。

~酒場~


少女「あ、やっと起きた」

少女「うん、私も丁度、話し終わった所だったし、大丈夫だよ」

少女「準備はちゃんと終わってるから」

少女「けど残念だね、偶然逃げ込んだ酒場で折角再開出来たって言うのに」

少女「噛まれてるなんてさ」

少女「何処でドジったの?」

少女「はいはい、そんなガッつかないで」

少女「ちゃんと終わらせてあげるから」



少女「それじゃあね」

少女「バイバイ」



BAN


 

少女「はぁ、また1人か、寂しいなあ、不安だなぁ、怖いなぁ」

少女「……」

少女「弾丸、あと8発しかないし」

少女「あとは鉈くらいしか……」

少女「……」

少女「はぁ、死んじゃったほうが、楽だよね」

少女「死んじゃった方が……」


「おねが■い■て……」


少女「……まあ、そんな訳にはいかないか」

少女「約束、だもんね」

ドンドンドンと酒場の扉が叩かれる。

きっと、さっきの銃声を聞きつけて、連中が集まってきたんだろう。


ざっと見た限りで、十数人の人影が見える。


怖い。

怖い。

怖い。


そう思うたびに、私は何も考えなくなる。

何も考えず、我慢して。

彼女の最後の言葉を思い出す。


「おねがい、いきて」


彼女は死ぬ前にそう言った。

私に対してそう願った。

私に対してそう呪いをかけた。


だから、私は死ぬわけにはいかない。

どんなに怖くても。

どんなに不安でも。

誰を犠牲にしてでも。

我慢して。

酒場の扉が破壊され、連中がなだれ込んでくる。

私は何も考えず、半ば自動的な標準を合わせて。



BAN、BAN、BAN



頭を撃ち抜く。

それでも連中の波は止まない。

次から次へ入り込んでくる。


「ああ、もう」

「キリが無い」

「……」

「けど」

「我慢しないとね」

「我慢して」

「精々あがいて」


再び照準を合わせる。

残った弾丸は5発。


「死ぬ瞬間まで、生き延びてやる」

BNA、BNA、BAN、BAN



酒場の外に。

町に。

銃声が響く。

その銃声を聞き、連中は続々と集まってくる。

そして。


BNA


最後の銃声が、響いた。












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