幼女は三速で走る【ゆっくり更新】 (31)





 ――まぁ、よくある話だ。




 白濁する意識の中で、うっすらと見えたのは、全壊している社用車と多くの人間。

 空には煙が立ち上り、サイレンはけたたましく鳴りつづける。



 ああ、部長になんて言い訳しよう。



 身体はとっくに生を諦めてるのに、意識は未来を模索し続ける。


 よくある話だ。


 そう、この後凄腕の医者が現れて、たまたま病院で命を落とした小さい女の子の身体の中に俺の脳を詰め込むなんて、


 よくある話だ。





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幼女「行ってきまーす」

幼女(って、誰もいねーよ)ガチャ


 家のカギを閉めると、俺こと幼女は車を目指す。車にはあんま詳しくないので下手なことは言えないがMTの軽自動車だ。


幼女「よいしょっと」ガチャっ


 社用車が壊れた今、幼女は緊急で車を手配するしかなかった。

 だから一番安い軽自動車を買った。それだけのことだ。


幼女(クラッチ踏む時が一番疲れるんだよな……)グイッ


 気をつけないと、身体でクラクションを鳴らしてしまう。その音の大きさにびっくりしてクラッチを放したら即エンストだ。


幼女(やっぱ電車で通おうかなぁ……)


 だが、人ごみにトラウマのある幼女はそんなところには近づくことなどできない。


幼女「……よいしょっっと」ブルンッ


 エンジンが始動し、心地よい振動が身体を揺らす。


幼女「よーし、幼女号発進!」ブォォォッ


 ギアは三速。

 初動から走れ、かつもっともスピードが出るギア。

 まぁ、もちろん信号に捕まれば、その都度幼女は立ち上がってクラッチを踏まなければならないが。



 最初はクラッチにも補助を着けてみた。


幼女「え、何これ?」グイグイ


 クラッチを踏んだことのある人間ならわかるだろうが、クラッチ操作はとても繊細で幼女が運転しながら何度もギアを変えるなんて芸当はとても無理なのである。

 なので、補助がついているのはブレーキだけだ。

 それでも、運転は立ち上がったり座ったりの連続で、幼女の過酷さを教えてくれる。


幼女「うわ、急にブレーキ踏むなよ」


 幼女はクラッチを無理やり切り離し、ブレーキを踏む。

 前方の車との車間距離が十分空いたのを確認すると、立ち上がってクラッチを踏む。


幼女「よっと」


 もちろん、車は停止した訳じゃないので今度のギアチェンジは幼女にでも容易い。

 だが、座席に座った幼女でも前方の車からしたらバックミラーに映らないホラー展開なのに、立ち上がった時は横からも後ろからも幼女は消える。


幼女「ここに都市伝説“運転手のいない軽自動車”完成ってね」


 どうやら子供特有の独り言が幼女の身体に染みついているようだ。

 幼女になってから独り言とトイレの回数が格段に増えた。……あとお漏らしと。




 会社に着く。


幼女「げ、誰の車だよ」


 黒塗りの高級車が幼女指定の駐車スペースを占拠している。これはゆゆしき事態だ。


幼女「どうしたものか……」


 ここでかなりの爆弾発言だが、“幼女はバックが苦手”だ。……変な意味でとらえるなよ。

 なぜなら、バック操作に関して言えば常にクラッチ操作を求めらる。


 幼女は細かい作業が苦手だ。



幼女「仕方ない」ガコッ



 クラッチを切り離して、ブレーキを踏む。


 ここに、路駐幼女が完成したのである。



幼女「何かあったら会社に請求しよ」



 同僚が買ってくれた黄色くておしゃれな鞄を肩にかけ、これまた同僚が買ってくれた黄色い帽子をかぶる。部長が買ってくれた黄色い上着を羽織り、社長がくれたカボチャパンツを整える。



幼女「よし、お仕事の時間だ!」



 幼女の朝は早い。

 そして、幼女は朝に弱い。



幼女「zzz」



 遅刻した。



 

幼女「おはようございます」ガチャっ


 抑揚のない声。精一杯の背伸び。


豚女「おはよぉ男君♪」ナデナデ


 朝青○竜みたいなデブ女が、幼女をなでに来る。

 幼女の視点からしたら、デブの巨人が猛スピードでくるため、化け物襲来である。


幼女「………」ゲンナリ


 幼女はされるがままに撫でられる。

 この豚女は、別に幼女を愛でたい訳ではない。


豚女「かわいー♪」チラッチラッ


 同僚の男たちに送る視線。


豚女「私もこんな子供がほしーなー♪」チラッチラッ


 過度なアピール。


豚女「今私フリーなんだけどなー」チラッチラッ


 つまり、だ。


幼女(トリュフ探し早く終わってくれー……)


 幼女を愛でる私可愛いでしょ。ねぇ、聞いてるの。付き合いなさいよ。私のこと可愛いって言いなさいよアピール、


幼女「なのである」ヤレヤレ


豚女「ちっ」ブヒッ


 豚女のニンニク臭い吐息を顔に浴びせられ、悶絶する幼女。


幼女(な、何で朝からギョーザかなんか食ってんだよこの豚!)


 お漏らししなかったのが奇跡である。

インテリ「大丈夫かー」ナデナデ


 悶絶している幼女に眼鏡をかけた真面目そうな男が近づく。


幼女「撫でるな放せ」


 先に言っておくがこの男、ロリコンである。


インテリ「なんだよー、俺とお前の仲じゃないでちゅかー」スリスリ

幼女「仲のいい同僚に対して赤ちゃん言葉なんて使わない。後、ちっせーちんぽ擦り付けんな死ね」

インテリ「幼女がちんぽって言った!」ムクムクッ


 今まで襲われなかったのが不思議である。


幼女「部長は?」

インテリ「なんか社長に呼び出されてた」

幼女「げ、ということは……」

インテリ「ああ、



“奴”来る」



 幼女は尿意を催した。

 しかし、奴の襲来は幼女がトイレに行くより早かったのである。




 生物には天敵がいる。



 虫にとっての鳥。

 草食動物にとっての肉食動物。

 魚にとっての鮫。



 幼女にとっての―――美人秘書。



秘書「男君はいるかしら」



 幼女を幼女ではなく男と呼ぶ女。

 インテリ顔負けのインテリ眼鏡をかけ、ヒールをカツカツと鳴らし、背筋を伸ばし、仕事ができそうな動作をする。

 だらしない表情で、常に遊び心と戦い、眠気に弱く、尿意に負ける幼女とは大違いである。



幼女「男君なら帰りましたでちゅ」

秘書「………」

幼女「………」ダラダラダラ



 蛇に睨まれた蛙。

 秘書に睨まれた幼女。



 世の中は幼女にやさしくはない。決して。




 


 まぁ、それでも、

 幼女も見た目は幼女だけど中身は大人だし。

 天敵とはいえ秘書も同じ会社の人間だし。


 少しだけフォローをしておく。



秘書室。


秘書「はーい、幼女ちゃ-ん、おっぱいでちゅよー」グイグイ

幼女「………」ゲンナリ


 大きな胸を押しつける秘書。乳首はあまり弄られたことがないのか綺麗なピンクだ。


秘書「おいちいでちゅかー?」ナデナデ


 この秘書は幼女を虐めるために呼び出したわけじゃない。


秘書「一緒にねんねしまちょうねー」トントン


 幼女を愛してるから呼び出すのだ! 出すのだっ! すのだっ! のだっ……だっ…っ…。




 恥ずかしながら、幼女になって初めて知ったこともある。


 どんなに気丈な人間でも、弱い部分やつらい過去、どうしても拭えないトラウマなどがある。


秘書「……ごめん…ね」ポロポロ


 涙を流しながら眠る秘書も例外ではない。


幼女(なんだっけなー……)


 秘書は貧乏の生まれだったらしい。

 そのため、高校卒業してすぐに女を武器にした。

 女を武器にするということは、消費していく、擦り切れていく。


 今の地位に落ち着いた時には、すでに子供は産めない身体だったそうだ。


秘書「ママ……がんばるからね」


 まだ二十代だというのに、なんと重い言葉か。

 幼女は幼女でなかった頃も何となく生きてきた。


 やはり人生の重みは地位や生き方に現れるのだろう。


幼女(じゃあ俺の重みって……)



 就業時間が終わり、各々が帰宅していくなか、インテリと同僚のなっちゃんが話しかけてくる。


インテリ「行くだろ? これ」クイッ


 酒を飲むポーズをとる。

 幼女を誰だと思っている。幼女だぞ。


なっちゃん「インテリ君と二人なんて嫌だし、ついてきてよ男君」


 ああ、そうだった。

 この会社に男君と呼ぶ人間はまだいたんだった。


 なっちゃん。


 美人というよりは可愛い。

 エロいというよりは元気。

 賢いというよりは明るい。


 あ、いや、ベットの上ではエロいか。


幼女「俺に遠慮せず付き合えば良いじゃん」


 幼女は短絡的である。……いや、今のは幼女のせいにしたな。反省。


なっちゃん「え、そしたら二股になるじゃん」

幼女「………」


 ああ、そうですね。あなたはそういう人ですね。


インテリ「そういえばそろそろ男との記念日じゃねーの?」

なっちゃん「うんっ! どこに連れて行ってくれるの男君!」ニコニコ


 幼女はつらい。

 可愛い彼女を前に勃起の一つもできないんだから。


 つづく。。。



 次回の幼女までさらばだじぇ。


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 第二話「幼女はビールと冷ややっこ」



 連れられてきたのは、幼女が男だった時の行きつけのお店。まぁ、幼女に酒を提供してるなんてバレたらマズイと思うんで、仮に居酒屋“幼女ごくごく”とでも名付けようか。


 幼女が入るなり、店員が叫ぶ、


店員「幼女入りまーす!」


 すると、他の店員も一緒になって、


店員「「はい、喜んで幼女入れます!」」


 なんて、こいつら全員豚箱にぶちこんでやろうかと幼女は思ったが、そんな力ないのでインテリとなっちゃんに手を引かれたまま、席へ移動する。


店員「幼女はビールですよね、お二人は?」


 おいおい、幼女を馬鹿にしてるのか。

 幼女には幼女なりのプライドってもんがあるんだ。

 おい、幼女なめんなおい。


店員「はいよー」ゴトッ


 おいおい、もう持ってきやがった。こいつら完全に幼女なめやがって。

 いいか、幼女にだって仕事で疲れた身体にどんなアルコールを染みわたらせるか決める権限があるはずだ。


インテリ「それじゃあ、今日も仕事お疲れさん!」


 まてまてインテリ。お前、同僚の幼女が怒ってるのに乾杯する気か。こいつ幼女意識ゼロか。ロリコンのくせに。


インテリ&なっちゃん「かんぱーい!」ガチャンッ




プハァー(*^Q^)c[]


 時に幼女は空気を読む。

 お漏らしした時と、酒が飲める時だ。


インテリ「そういえば、この前二件目の幼女が生まれたらしいな」


 なんだそれは。毎日幼女は生まれ、少女へと成長しているだろうが。


なっちゃん「へー、人類幼女計画でもたくらんでるのかな」

幼女「みーんな幼女になれば俺が目立たなくていいのに」

インテリ「いや、それは無理だろ」

幼女「えっ」

なっちゃん「それは無理ね」

幼女「なんでだよ」



二人「「だって、あなた可愛すぎだもん」」



幼女「///////」カァ


 身体をコントロールすることは難しい。

 ましてや、ビールが幼女のぽっこりおなかを満たしているときはなおさらだ。


 そう、つまりこれはビールのせいだ。


幼女「はやく冷ややっこが食べたい」


 幼女は褒め言葉に弱い。


 らめらの。

 しほうはうまふさらまらないの。


 えっろ、いまろこらっけ。


なっちゃん「fなじょsd@hふぃあの@わ」


 なっらん、らにいっれるらわあんないよー


なっちゃん「fなおいfなpsぢいいあうあお@」スリスリ


 なっらん、らんではらからのー?


なっちゃん「……んっ、男君の指っ……いい…よぉ///」ジュプジュプ



幼女「」



 泥酔した幼女の手を使って何しとんじゃあああああ!



 朝まで説教した。




 この物語は幼女が変態に囲まれて生きていくお話なんだじぇ。

 仕事編の後は高校編。もしくはファンタジー編なんだじぇ。

 でも、今日はここまでなんだじぇ




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