【微胸糞】狼「人間は馬鹿だなぁ」(47)

少年「あきかぜが そそぐのはらの そうげんや」

狼「そんなところで何してるんだい?人間。大根干しになるのかい?」

少年「ひなたぼっこだい!」

狼「君は実に馬鹿だな」

少年「なんでさ」

狼「ツバメが低く飛んでた。もうすぐ雨になるんだ。そこにいると濡れるよ」

少年「ふらないやい!」

ポツ ポツポツ

ザァッ

少年「わあ、ふってきた」

狼「降ってきた降ってきた」

少年「どうくつへいこう」

少年「ふう、すごいあめだね」

狼「だから濡れるって言ったのに」

少年「オオカミのくせになまいきな!くちごたえするなー」ワシャワシャ

狼「人間のくせに生意気な!巻き込んだなー」キャッキャ

狼「また会ったね」

少年「やあなまいきオオカミ」

狼「その子は?」

少年「出てきていいよ」

少女「こんにちは」ペコリ

狼「友達かい?」

少年「うん、とってもくさのかんむりを作るのがうまいんだ」

狼「大切にしなよ友達は」

少年「分かってるよ!オオカミのくせになまいきな!」ワシャワシャ

狼「生意気なー」キャッキャ


狼「おや、今日はどうしたんだい」

少年「口聞きたくない」

狼「黙ってたら何にも分からないじゃないか」

少年「むう」

狼「せめて意味の解る言葉を話してくれよ、馬鹿な人間」

少年「むう!」

少年「ケンカした。お母さんとお父さんと」

狼「へえ、どうして?」

少年「お母さんもお父さんもぼくの本当のお母さんお父さんじゃないんだ」

狼「どういう事?」

少年「ぼくが生まれた時お父さんはいなかったんだ。お母さんはいたけど今のお父さんとケッコンしてお母さんが死んじゃって、お父さんは今のお母さんとケッコンした」

少年「ぼくだけ一人ぼっちなんだ。ぼくっていらない子なのかな……お母さんが育てるのしっぱいしたかしらって言ってたんだ」

狼「ねえ人間」

少年「少年だい」

狼「ねえ少年、僕の頭を触ってみてくれないかな?」

少年「さわったらかむでしょ」

狼「噛まない噛まない」

少年「本当に?」

狼「本当に」

少年「本当に本当に本当?」

狼「本当に本当に本当に本当!」

少年「わあ、温かい」

狼「少年にもお母さんがいて、お父さんがいるように僕にもお父さんお母さんがいるんだ」

狼「お父さんにもお父さんお母さんがいて、お母さんにもお父さんお母さんがいる」

狼「こうして今僕の体が温かいのは、いっぱいのお父さんお母さんが僕を寒い寒いさせないように温かく産んで育ててくれたおかげなんだ」

狼「君にもそれが言えるんだよ。君の体が温かいのはお父さんお母さんのおかげなんだ。だから君は必要な子なんだ」

少年「うむ?」

狼「産む!」

少年「うむむむむ!」

少年「でも、ぼくのお父さんお母さんはぼくをうむ?してないよ」

狼「そうだね。でも考えてみてよ、君は死んじゃった前のお母さんが産んでくれただろう?その死んだお母さんは君のことをいらないって思ってるのかな」

少年「うーん…」

狼「きっと思ってないはずだよ。それに、新しいお父さんお母さんも君が大切じゃなかったら何にもあげてないはずだよ」

少年「お父さんお母さんがごはんを作ってくれるのはぼくのため?」

狼「そう、君のため」

少年「お父さんお母さんがふくをつくってくれるのもぼくのため?」

狼「そう、君のため」

少年「…うん、分かった。頑張るよ!かわりにぼく、りょうしになっていつか君においしいお肉あげる」

狼「お肉は嬉しいけどそんな簡単なことにも今まで気づかなかったなんて人間は本当に馬鹿だな」プププ

少年「人間じゃなくて少年だい!オオカミのくせに!」ワシャワシャ

狼「人間のくせに!」キャッキャ

狼「おや少年、最近よく会うね」

少年「やあ、生意気オオカミ。おじさんから今のうちに森に慣れておけって言われてさ、それで君のところにもついでに寄ってるんだ」

狼「間違えて狼を狩らないでくれよ」

少年「喰われそうになければね」

狼「ところで君は奥さんを持たないのかい」

少年「君は?」

狼「僕が質問してたんだけどな……僕にはとっくに可愛い子がいるぜ君。そっちはどうなんだい?」

少年「ううん、いい人がいなくて」

狼「何言ってるんだい、一人適任がいるじゃないか」

少年「ダメだよあの子は。村長の娘だから他の村の人と結婚するんだ」

狼「ふうん、そういうものなのか」

少年「そういうものなのだよ。最近はもっぱら狩り三昧さ」

狼「難しい言葉を使うようになったね、なんだか親になった気分だ」

少年「おやおや、本当に親なのにね」

狼「じゃあその首の小袋も狩りの道具かい?」

少年「よくぞ聞いてくれたね! これは毒のビンの袋なんだ」ガサゴソ「このビンの毒は即効性があって摂取した生き物をすぐ殺しちゃうんだ。しかもこの毒を食べた動物を人間が食べても全く影響がないっていう素晴ら」

狼「あ、ああもういいよ、そいつはすごいね」

少年「だろう?僕が思うに毒は狩人の勲章なのさ」

狼「ポイって川に流さないでくれよ」

少年「そんなことしたら川魚が食べれなくなるだろう?」

狼「ジョークさ、水に流してくれ。そんなことにも気づかないなんて人間は馬鹿だなあ」

少年「気づいてたさ!オオカミのくせにー」ワシャワシャ

狼「人間のくせにー」キャッキャ

狼「今日はまた一段と仏頂面だね」

少年「そんな言葉まで知ってるんだね、狼」

狼「どうしたんだい少年」

少年「プレゼントをしたらいらないって言われちゃって、女心が分からないなぁ、って思って助言を聞きに」

狼「あ、それは僕でも無理だ」

少年「なんだよ、君は結婚してるんだろう?」

狼「結婚と女心が分かることは全く別だよ」

狼「それに僕は狼だよ?人間の価値感なんて知識の埒外さ。君のお父さんの方が詳しいよ」

少年「ふぅん、そういうものか」

狼「そういうものだよ」

狼「おや、久しぶりだね」

少女「こんにちは」

狼「あっ、そういえば少年じゃないから話が通じないんだっけ」

少女「あのね、妹がオオカミさんにって」

少女妹「あげるー」

狼「なんだい? これは首輪かい? 」クイ

少女妹「花の首輪なのー」

狼「よしてくれよ、仮にも僕は野生なんだ。プライドを人間に狩られた記憶はない」グルル

少女妹「つーけーるー! 」グイ

狼「それにそんなのを首に着けてたら群れからも笑われるんだって、だからやめてくれよ頼むから」ガウ

少女妹「つーけーるーのー!!! 」

少女「わかったわかった、お姉ちゃんが着ければいいんでしょ? ほら」グイ

狼「だからやめろって言ってるだろ! 」ガウ!

ドン

少女妹「わっ」ガン

少女「わっ、ちょっと、大丈夫? 」

狼「あ、ごめんよ。でも君も嫌がってるの無理やりつけようとするから」

少女妹「う、う、えぇ」ジワ

少女「ああもう、お母さんにお薬塗ってもらおうね、よしよし」

少女妹「おかあさん……」

村長妻「まあ! どうしたのそのたんこぶ! 」

少女妹「おくすり……」

村長「どうしたのかね」

少女「狼に体当たりされて岩に頭をぶつけちゃって」

村長妻「まあ! なんてことでしょう! 」

村長「最近家畜が食い荒らされてるが……まさか」

村長妻「あなた、いっそこの際狼なんて殺してしまいましょう全部」

村長「いや待て、自然は敬うべきなのが昔からの慣わしだろう? ここは自然を甘く見た子に育てた私達にも責任がある」

村長「それに我々の先祖が狼を飼いならしてできたのが犬なんだ。今滅ぼしてしまっていつか犬たちの血統が途絶えたらどうするんだ」

村長妻「まあまあまあ! 家畜を食い荒らす獣を野放しにしておくの? アナタ」

村長「いや、そうじゃなくてだな、生態系も」

村長妻「あなたは私たちの可愛い子供よりいつか来る犬の血統が途切れることの方が大切なの?!」

村長妻「私達家族と意地汚い狼とどっちが大切なの? 」

村長「しかしな……」

少女「パパ、ママ、あのね、悪いのは狼じゃなくて無理に着けようとした」

村長妻「いい? 私の可愛い可愛い少女ちゃん」グイ「このまま野放しにしておいたら駄目なの! 狼なんて未来に禍根しか残さないのよ? 」

少女「かこんって何? でも狼は」

村長妻「あなたは悪い事をする狼と」ギュ「私達のどっちが大事なの? 」

少女「……」

村長「みんな聞いてくれ」

村人「どうしたどうした」「早くしてくれ」「もうすぐ来る収穫祭の話だろう」「酒もってこい」

村長「私の娘が狼に襲われて怪我をした」

村人「なんだって」「それは大変だ」「近頃の狼は野蛮だな」「酒が足りんぞ」

村長「最近の家畜を食い荒らしているのも狼のせいだろう」

村人「それは困る」「ウチは畑作だからなぁ」「娘をちゃんと見てなかった村長も悪いのでは」「酒だ酒! 」

村長「そこで提案だ、近隣一帯の狼を殺そう。収穫祭の前に山狩りをして狼を根絶やしにしよう」

村人「なんだって」「慣わしを忘れたか村長」「父親として見張らなかったのが悪い」「酒飲んで忘れろ村長!娘は生きてるんだから! 」

村長「あまりいい返事が聞こえないな」

村人「考え直せ」「いい案とは言えないな」「家畜を荒らしたのが本当に狼か慎重に調べないと賛成できないな」「そんなとこより酒飲もうぜ! 」

村長「ここはワシの村だ。ワシの提案が嫌なら出ていってもらおう」

村人「……」「……」「秋が終わったらすぐ冬なのに誰が出ていくんだ」「酒……おいこら……」



(~)

狼「やあ、少年」

少年「……狼」

狼「仲間を皆殺しにされちゃったよ。おかげでビーバー一匹狩れなくて腹を空かせる始末さ。一匹狼ってカッコいいけどいつも空腹なんだぜ」

少年「ごめん、僕、みんなに狼は悪くないって言ったんだけど、みんなが聞かずに山狩りしだして」

狼「君はまだ子供だからね、意見が通らなくても仕方ないよ」

狼「村長の子供を突き飛ばした僕も悪いさ。むしろ子や妻の前に僕が真っ先に死ぬべきだったかもね」

狼「一つ言い訳させて欲しいなら、僕らは家畜なんて襲ってないぜ。全部君の村の犬が食べたんだよ。ちゃんとエサはあげようね今度から」

少年「本当に? 」

狼「ああそうか、君たち人間は動物のくせに鼻が利かないからなあ。分からないのか」

少年「それより狼、君も早く逃げないと。夜だからってこんなに村の近くにいたら」

狼「逃げたいんだけどね、生憎お腹が空いてもう立てないのさ。最後はみんなの骨が埋まっている場所の近く、君の家も見れるここで死なせてくれよ」

少年「ちょっと待って」ググ「よいしょ」

少年「ここなら安心だよ」

狼「ここは君んちの倉庫かい? 」

少年「うん、ここならお肉もたくさんあるしこっそり食べれるよ。夜にお水も僕がこっそり持ってこれるから」

狼「獣だし遠慮は出来ないよ」ガブ「ところで、なんで僕を庇うんだい?」ガツガツ

少年「こんなの絶対間違ってるよ。だって狼は一人怪我させただけなのに仲間をみんな殺されて、酷い目に遭わされて」

少年「だから体力回復して逃げないと」

狼「庇わなくても僕は妻も子供も仲間も異性も全部全部殺されたんだぜ、助けても無駄なのに」カクン カクン「馬鹿な人間……」コテ

母「あなた、あの子最近夕飯の後にすぐ外に出るわね。狩りの練習?」

父「夜目をきかす練習かな?熱心なのはいい事だよ。最近、狩りの仕方が上手くなってきた」

父「つい最近まで覚えが悪くて苦労させられたがな、ハハ」

母「最近といえば、うちよく食料が減るわね。あなた知らない? 」

父「さあ。子供が成長期だからじゃないか?」

母「そうかしら? おかしいわね」

少年「よいしょ」ガタタ「狼、元気かい? 」

狼「やあ、おかげでお腹も膨れてケガも治った。逃げる力は戻ったよ」

狼「扉を開けるのが僕には無理でね、壊すかどうか迷ってたところなんだ」

少年「危ない危ない、倉庫の戸がオシャカになるところだったよ」

少年「さて、じゃあもう逃げようか」ガチャ

狼「君には本当に感謝しているよ、いつか恩返しにでもくるよ」

少年「僕と君の仲だろ、照れくさい」

狼「はは」

父「何を、しているかと、思えば」

少年・狼「!!! 」

父「うちの息子から離れろ害獣め」チャッ

少年「お父さん! やめてこれには」バッ

父「あっ」パン

少年「う、あ」バタ

狼「なんてことを……」グルル

父「ま、前に飛び出すなよ」

狼「! 」キッ

狼「自分で撃っておいて息子のせいにするのか!お前はそれでも父親か!」ガァッ

父「うわぁ」パン

母「あなた今の音はどうしたの!?」

父「む、息子が狼を匿っていた」ハァハァ

母「なんですって! 」

父「幸いうちは村はずれだから隣に今の銃声は聞こえてないみたいだ、それに息子も憎たらしい狼も息がある」

父「狼は始末して息子は再教育する。息子がこうなったのは我が家の責任だ」

母「あなた……」

母「本当にそれでいいの?」

父「何が言いたいんだい」

母「私達の血がつながってない子なのよ。そんな子がもし再教育し間違えてうっかり『狼を匿っていた』なんて口を滑らせたらウチは滅茶苦茶よ」

母「ねえあなた、子供が欲しくない? 私達の血がつながっている子よ」

父「何を……」

母「森の中に代々受け継いでる洞窟があるわね」

父「ああ」

母「あそこに間違って迷い込んでこの子は洞窟に潜んでた狼に喰われる」

母「狼はそのまま洞窟内から出れずに餓死、この子の骨と狼の死体はその後洞窟の点検をしていた私たちに見つかり、村人に引き渡される」

母「銃殺だと他人に見られたら一目で誰かがやったか疑われるけど、狼に食われるなら問題なく埋葬されるはずよ」

母「どう?このシナリオ」

父「お前……」

父「それは名案だな! ああそれと、君は知らないだろうが洞窟には土牢があるんだ。間違って落盤させてしまい土牢に閉じ込められる方がそれっぽいシナリオじゃないか?」

父「閉じ込めて食事は与えずこの子、いやこいつを狼に食わせる。10日くらいしたら飲まず食わずでもう餓死してるだろうから死体を持ち出す」

父「実際は落盤なんか起きっこないがなんとかそこは言いくるめるよ。それに今の案だとオオカミを撃った傷を落盤の際の怪我だと上手く言い逃れできるかもしれない」

母「あなたって普段は冴えないけどピンチの時はやるわね、そうと決まれば弾を取り出してさっさと閉じ込めましょう」

父「ああ、その後に幸せな幸せな子作りタイムだな」サワッ

母「ぅんん♪まだお尻触らないで、あとのお・楽・し・み♪」ウフフ

父「ははは、今夜は寝かさないぞ」ニコ

少年「狼、気が付いたんだね」

狼「うん、上がれそうかい」

少年「全然ダメだ。上がれないよ。狼と僕の伸長を足してジャンプしてもギリギリ足りないくらいだし、扉がついてるから開いてないと上には上がれないよ」ザザ

狼「雪崩に空腹ってまさにこういうことだね」

少年「何それ」

狼「狼のことわざ。人間でいう万事休すって感じかな?」

少年「ああ……どうしよう、狼。僕この後処刑されちゃうのかな」

狼「この後って事はないと思うよ」

少年「どうして?狼を匿っていたんだよ?」

狼「考えてもみてよ。これから処刑されるならこんなところに閉じ込めないで村の檻に入ってるよ」

狼「今この状況から分かるのは気絶している間に罰を決められて今既に処刑が実行されてるか、息子の失態は周囲に話さずここに閉じ込めているかの2択だよ。じゃなきゃとっくに焼かれてるか吊られてるよ」

少年「一理あるかも。でも今既に処刑が実行されてるって……僕たちを餓死させようとしてるのかな」

狼「それもあるよ」

少年「も?」

狼「うん、狼を飢えさせて君を食べさせようとしてるんじゃないかな」

少年「えっ、それって……」

狼「僕が大切な君を食べる様に見えるかい?馬鹿だな」

少年「……」

少年「ねえ、どれくらい時間が経ったのかな」

狼「1日は経ったんじゃないかな。僅かに風が違うでしょ」

少年「風?」

狼「そう。今は秋だから寒暖の差は激しいんだ。洞窟内だから殆ど分からないかもしれないけど、風が冷たくなった時が夜で生暖かい時が昼」

狼「それから、少しだけ差し込む日の光も僅かに変わってるからそこからの判断だよ」

狼「ただ、雨が降っていない保証はないから正確な時間は分からない。雨が降ってたら風の暖かさは変わるし曇って日の光が消えて夜なのか分からないしね」

少年「そっかぁ」

少年「ねえ、狼。気を悪くしたらごめん。君の子供ってどんな子だったの?」

狼「ん、大丈夫だよ。僕もちょっと退屈してた。僕の子供?そうだなぁ、一……いや二匹いるんだけどね」

狼「一匹は遠吠えが上手かった。群れで一番声が大きかったんだ。だから群れの見張り役を任されてた」

狼「いつも気丈に振る舞ってたけど、強くはなくてね。女の取り合いに何度も負けてた。結局群れの見張りだったから山狩りで真っ先に猟銃で撃たれてあの世へ行ったよ」

狼「もう一人は気が弱くてね、ちょっとのことでくよくよする子だった。だから何度も相談に乗ってあげたよ」

狼「狩りは上手かったけど、環境には恵まれなかった。狩りだけじゃなく詩も好き。小さい頃はよくじゃれ合ったよ」

少年「二匹目の子はどうなったの?」

狼「人間に追い込まれて檻に閉じ込められて結局、ね」

少年「ふぅん」

狼「君が生きていれば、どこかで顔くらい見れるかもね」

少年「狼ってみんな死んだ訳じゃないの?」

狼「誰が二匹とも狼って言ったんだい?」

少年「あ、そういうことか」

狼「そういうことだよ」

少年「狼って、狼以外の動物とも子作りができるんだね」

狼「…………君は実に馬鹿だな」

少年「?」

少年「狼」

狼「何?」

少年「何日経ったの?」

狼「2日かな」

少年「喉乾いたよ。夜は寒いし背中は痛いし、僕このまま死ぬのかな」

狼「このままならね」

少年「骨になるまでほっておかれるのかぁ」

狼「そう思う?」

少年「思う」

狼「僕はそう思わないね。まず大前提。ここに閉じ込められたのは処刑じゃないって事」

狼「処刑だったら死んでるかもっと頻繁に確認しに来るはず。死んでる君を運び出して村に見せしめとして晒すためにね」

狼「とするとこの洞窟の持ち主の誰か…多分君の両親が君をここに閉じ込めている可能性の方が高い」

狼「もしこのまま僕らが死んだ後、放置されたらどうなると思う?」

少年「うーん」

狼「あんまりじめじめしてない洞窟だけど、何日か経ったら必ず蝿か蛆が湧く」

狼「それと死骸のにおいで洞窟がいっぱいになる。そんな洞窟には入りたくないだろうし、多分この洞窟の持ち主は洞窟に変なものが湧くのを嫌がると思う」

狼「だから蝿とか蛆が湧く前に餓死したくらいの日が経ってから君の死体を運び出しに来ると思う。僕の見立てだと1~2週間かな」

少年「そっかぁ」

少年「狼、狼」

狼「何?」

少年「水ない?」

狼「あるわけないだろ」

少年「辛いよ」

狼「僕もだよ。僕は空腹に強いから、まだ君よりは辛くないだろうけど」

少年「同士よ」

狼「はは」

少年「狼」

狼「何?」

少年「そこにいるかい」

狼「いるよ」

少年「消えたかと思ったよ」

狼「消えられるわけないだろう、ここから」

少年「ねえ狼」


少年「僕を食べてくれ」

狼「馬鹿な事を言わないでくれ」

少年「辛いんだ、いっそ楽にしてくれ」

狼「駄目だ」

少年「狼、僕はね。君に生きてもらって、君の辛さを後世に残すべきなんだ。皆殺しの辛さを」

狼「それは君にも残せる」

少年「僕には無理だよ。狼と話せるなんて誰にも言ってない。狂人扱いされて終わりだよ。君の方が分かってるだろう」

狼「僕にも無理だ。こんなおいぼれの一匹狼、仮に出れても伝える前にすぐ死ぬよ」

少年「お願いだよ。僕の血を少しずつ飲めば、君はきっと生き残れるだろう?僕の代わりに生きてくれ」

狼「そんな辛いことを言わないでくれ」

少年「狼……」

狼「むしろ君が僕を食べるべきだ」

少年「何を言ってるんだ、狼。僕は、僕は」

狼「君ならまだ、両親に謝れば許してもらえるかもしれないだろう」

少年「良心に訴えかけろって?」

狼「そう」

少年「僕は君を、僕の今の両親より大切に思ってるんだ。それを食べろなんて辛いこと、言わないでくれ」

狼「……もう寝よう、君は混乱してるんだ」

少年「……うん」

少年「おはよう、狼。起きてる?僕考えたんだ」

少年「ここまで酷い仕打ちをしてくるなら僕のお父さんもお母さんも僕を許すことはないと思う」

少年「それに僕の側もこんなひどい仕打ちをされて、両親を許すつもりはないよ」

少年「だからやっぱりどっちかがどっちかを食べて、死んだふりをしながら両親を待つんだ」

少年「二人とも降りてきた所を不意をつくか、一人だけ降りてきたら死んだふりを続ける」

少年「洞窟は暗いし、死んだすぐ後あたりなら多少体が温かいのも説明つくし、脈さえ一時的に止めてれば気が付かない可能性もある」

少年「そして二人揃ったところを殺して、この村から脱出しよう」

少年「この作戦で僕と君のどっちが成功率が高いかって言ったら、やっぱり君だと思うんだ」

少年「君の方が空腹に強いし、両親を殺せるのも君の方が確率が高いし、死んだふりも君の方が上手いし」

少年「何より僕が骨だけになってる状況が理想だから、両親は疑わないと思うよ」

少年「僕の体であれ君の体であれ重いからね、死体でも一人だと運ぶのに苦労すると思うし二人とも降りてこないって事はないと思うから二人をやれるチャンスはあるよ」

少年「もっとも、どっちの場合でも死んだふりの最中念のためにって銃で撃たれたら終わりだけど」

少年「君もそう思うだろう?」

少年「まだ寝てるのかい」

少年「起きてよ狼……狼?」ハッ

少年(首の小袋が……ない)ガバッ

少年「狼!」

少年「狼、なんでこんなに冷たくなってるんだよ。起きてよ狼」ジワ

少年「こんなのってないよ」

少年「お願いだから目を開けてよ」ボロボロ

少年「狼……狼……」

少年「え……?」

少年(地面に文字?何を……)グシ

少年(見えないけど触れば)


ぼくお おたべ


少年「……」

少年「……はは」

少年「そこは『お』じゃなくて『を』だろ」

少年「……馬鹿な狼」

男児「それで、その話はどうなったの?」

青年「それからね」

大男「おーい、新入り」タッタッ

青年「あ、ごめんね」

青年「はーい!なんですか!」

大男「うちの作物を食い荒らしてた猪を退治してくれたんだって?」

青年「はい、家の玄関に置いてあります!」

大男「ありがとうな」

青年「いえいえ、私を受け入れてくれたせめてもの恩返しですよ」

大男「お前いっつもそれじゃねぇか?」

青年「ははは、でも感謝してますよ」

大男「今夜は鍋だな!」

男児「鍋?」キラッ

大男「そうだ、母さんへ言って来い」

男児「わーい!」タッタッタッ

大男「また何か返します、そんじゃ」スッ

青年「はい、また」

青年(俺は両親を殺して、逃げた。一人は殴り、一人は狼の骨で作った武器で刺し殺した)

青年(かなり遠くまで逃げた。俺を拾ってくれた村には感謝しきれないが、それと同時に殺人者を匿っていることが知られたらこの村にも迷惑をかけるだろう)

青年(この村もしばらくしたら出て、どこか人が寄り付かないような山奥にでも住もうと思う)


青年(後になって考えると、他にもやりようはあったと思う。でもあの時の俺には親を殺すという方法しか考えつかなかった)

青年(生きるため仕方なかったとはいえ、俺は殺人者だ)

青年(罪を背負って、俺は誰にも迷惑をかけず生き、子孫たちが自然との共存ができるよう、今までの事を書物に童話として書き記して残して死のうと思う)

青年(これで君の役割は引き継げただろうか、罪滅ぼしになっただろうか)

青年(狼……ん?)ゴウッ


青年(山に……狼?)ゴシゴシ

青年(……見間違いか)

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