藤原肇「いつかあなたが良き人に」 (27)



懐中電灯を携えて、ふたり、満天の星空の下で




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P「…綺麗だな」


肇「ええ、本当に…」


P「でも、良かったのか? せっかくご家族だけじゃなく近所の人たちまで集まってくれたのに、俺とふたりで散歩なんて」


肇「母が「片付けで忙しいからPさんとふたりで話してきなさい」と。こんな機会もあまりありませんし、私もPさんとお話したかったので…ご迷惑でしたか?」


P「そんなわけないだろ。嬉しいよ、肇」


肇「ふふ…」


P「どうした?」


肇「Pさんが名前を呼んでくれるのが嬉しいなって」


P「あー…そう言われるとなんか恥ずかしいな。やっぱり「藤原さん」に戻しても」


肇「…」プクー


P「はは、冗談だよ」


肇「もう…」


P「ごめんごめん」


肇「Pさんはいじわるです」


P「肇をからかうと面白くってな。反応も可愛いし」


肇「…そうやって女の子を口説いているんですか?」


P「口説くって。プロデュースって言ってくれよ」


肇「そんな事ばっかり言ってると、女の子に勘違いされてしまいますよ」


P「まさか。そんな魅力的な男じゃないよ」


肇「…そう思いますか?」


P「え? 」


肇「Pさんは、ご自分が思っているよりも素敵な方ですよ。ずっと」


P「…肇こそ、そんな事言ってると、勘違いされちゃうぞ」


肇「…ごめんなさい」


P「え? いや、別に…」


肇「…」


P「…」


肇「…あ。流れ星」


P「おお、本当だ。 はじめて見たなあ」


肇「流れ星は意外と見れるものなんですよ」


P「へえ…」


肇「せっかくですし、次にまた流れ星が流れたら願い事をしてみませんか?」


P「ああ、そうだな。それにしても綺麗だ…」


肇「ええ…」


P「…」


肇「…」


P「…お、流れ星」


肇「願い事、しましょうか?」


P「ああ」


肇「………」


P「……」


肇「…Pさんは、何をお願いしましたか?」


P「…肇と同じだよ」


肇「え…!?」


P「「トップアイドルになれますように」だろ?」


肇「…そっちですか…」


P「そっち?」


肇「あ、いえ…」


P「なんだ、ふたつもお願いしたのか? 意外と肇は欲張りさんだな」


肇「…さっきの流れ星の分もまとめてお願いしたんです」


P「はは、なるほど」


肇「…Pさんは」


P「うん?」


肇「ご自身の事を願わなかったのですか?」


P「だって、肇たちがトップアイドルになるのが俺の願いでもあるし」


肇「…すごい人ですね」


P「そんなでもないよ。夢を叶えようと頑張ってる人を応援したくなるのは当然だろ」


肇「やっぱり、Pさんはすごいです」


P「あんまりすごいすごい言うなよ。恥ずかしいだろ」


肇「…私は」


P「ん?」


肇「Pさんが誇れるアイドルになれているでしょうか?」


P「どうしたんだ、いきなり」


肇「Pさんと出会って1年が経ちました。未熟なりに努力してきましたが、そんな私がPさんに、この世界の師であるあなたにどう映っているのか、お聞きしたいと思ったんです」


P「…決まってるだろ」ナデナデ


肇「あ…」


P「俺の、自慢のアイドルだよ」


肇「…ありがとうございます。出会った時から、私をずっと信じてくれて」


P「こちらこそ。俺を信じてくれてありがとうな」


肇「Pさん…」


P「…はじめの頃はオーディション全然受からなかったな」


肇「…ええ」


P「売り込みに行った番組のプロデューサーに「個性がなくて地味だ。売れるわけがない」なんて言われた事もあったな」


肇「…それでも、Pさんは私を庇ってくれました。「この子は絶対に素敵なアイドルになる」と」


P「庇ったんじゃないよ。嘘偽りのない本心だ」


肇「…でも、結局あの番組には使ってもらえませんでしたね」


P「ああ。でも、今度は向こうから肇にオファーさせてやるんだ」


肇「ふふ、そうですね」


P「思えばその日の夕食がきっかけで肇との距離が縮まった気がするな」


肇「あ、それは、忘れて下さい…恥ずかしいので…」


P「忘れられないなあ」


肇「子どもみたいに泣いてしまって…すみませんでした」


P「いいんだよ。俺だって悔しかったし、年頃の子が大人にあんな事言われたら誰だって傷つくさ。それに、肇がアイドルに本気なのが伝わってきたしな」


肇「…あの時がはじめてでしたね。Pさんに頭を撫でてもらったのは」


P「肇を見てたらつい手が伸びちゃってな。セクハラだと思われないか心配だったよ」


肇「そんな事思うわけないじゃないですか…」


P「はは、冗談だよ」


肇「…あの時Pさんにかけていただいた言葉が私の支えになっているんです。「俺は肇を信じているよ」って」


P「うーん、我ながら飾り気のない言葉だ」


肇「でも、だからこそ伝わってきました。Pさんの想いが」


P「…そっか。それなら良かった」


肇「Pさんは私を信じてくれている。そう思えたからどんなに辛い事があっても頑張れたんです。不器用なりに、一歩ずつ前に進めたんです」


P「…」


肇「改めてもう一度聞かせて下さい。私は、Pさんが誇れるアイドルですか?」


P「…何度聞かれても答えは同じだ。藤原肇は、俺の自慢のアイドルだよ」


肇「…ありがとうございます、Pさん。その言葉こそ、私の誇りです」


P「…どういたしまして」


肇「ふふ、やっぱりPさんはすごい人です」


P「照れるからあんまり言うなって」


肇「尊敬していますよ。憧れています」


P「恥ずかしいからやめろって」


肇「Pさん、可愛いです♪」


P「うるさい……さあ、そろそろ戻るぞ」


肇「えっ、もうですか」


P「あんまり長い時間ふたりで話し込むのもご家族に悪いだろ」


肇「むー…」


P「ほら、行こう」


肇「…はい」


P「あ、そうだ。その前に……肇」


肇「はい?」


P「改めて、誕生日おめでとう…はい、これ」


肇「これって…プレゼントですか!?」


P「うん。喜んでもらえるといいんだけど…」


肇「わあ…! 開けてみても?」


P「ああ、いいよ」


肇「!…これは、イヤリング、ですか」


P「うん。集めてるって前に言ってたろ?」


肇「これ…ぶどうのイヤリング?」


P「藤の花な」


肇「ふふ、冗談です……素朴な美しさがあって、とても素敵です」


P「ああ。だからこそ肇にぴったりだと思ってさ。良かったら、着けてみてくれないか」


肇「はい! ……どう、でしょうか」


P「…よく似合ってる。綺麗だ、肇」


肇「Pさん…ありがとうございます! 宝物にしますね!」


P「そう言ってもらえると嬉しいよ。それじゃあ、そのイヤリングを着けた肇、ファンのみんなにも見てもらおうか」


肇「え…?」


P「…プレゼントふたつ目。今度肇には、事務所主催のライブに出てもらう! 規模は今までで最大だ! ドームでライブできるぞ、肇!」


肇「え…!?」


P「楓さんや早苗さんや藍子たちと同じステージに立てるんだよ、肇!」


肇「え、ええー!?」


P「どうだ、これが俺から肇へのプレゼントだ! びっくりしただろ?」


肇「えっ…あ、あの、それじゃあ、これ、ドッキリとかじゃ…」


P「そんなわけないだろ。上げて落とすのはドッキリとは言わない」


肇「じゃあ私、本当に…!?」


P「ああ。ドラマ出演をきっかけに名前も売れはじめたからな。前から社長に打診してたんだ。ここで一気に藤原肇の名を上げてやろう」


肇「みんなと、同じステージに…!」


P「…おめでとう、肇。戻ったらご家族に俺から正式に報告させてもらうよ。本当はさっき伝えたかったんだけどタイミングがなくてさ」


肇「…や」


P「や?」


肇「やったー!」


P「ああ、やったな!」


肇「Pさん! ありがとうございます!」ギュウウウ


P「!? お、おい肇!」


肇「え? あ…! ご、ごめんなさい!」パッ


P「ああ、いや、気にするな…落ち着いたか?」


肇「は、はい、ちょっと興奮してしまって…」


P「いや、まあ、気持ちはわかるから…俺も社長からこの話を聞いた時、思わず抱きついちゃったし」


肇「え、社長に、Pさんが…?」


P「うん」


肇「…それは、ビジュアル的に少し…」


P「まあ、見てて気持ちのいい光景ではないかもな…」


肇「…」


P「…」


肇「…くすっ」


P「くっ…」


P・肇「「あはははは!!」」


P「そんなに笑うなよー、肇の事で喜んだんだから」


肇「ふふっ、ごめんなさい。だって、男の人ふたりで…」


P「まあな…あー…笑った笑った」


肇「あはは、お腹が痛いです…!」


P「笑い過ぎだこいつめ」グニグニ


肇「いふぁいれすいふぁいれす!」


P「まったく、もちもちしやがって」


肇「はー…落ち着きました。もう大丈夫です」


P「本当か?」


肇「ほ、ほんとっ…です」


P「怪しいなあ…俺と肇だけの秘密だからな?」


肇「…ふふ、私とPさんだけの、ですね?」


P「よろしい。じゃ、戻るか。実は衣装のデザイン案の資料もあるからさ、一緒に見てくれよ。そのイヤリングも衣装にぴったりだと思うから」


肇「本当ですか!? 楽しみです!」


P「我ながら肇に似合った素敵な衣装ができたと思うから楽しみにしててくれ」


肇「ええ、とっても!」


P「はは、今日の肇は元気だなあ」


肇「だって…!」


P「ああ、わかってるよ」ナデナデ


肇「えへへ…」


P「それにしても、肇も大分柔らかい表情を見せてくれるようになって嬉しいよ」


肇「ふふ、上京したての頃はいつも緊張していましたから」


P「慣れない都会で頑張ってたよな。そんな肇の姿を見て、俺も頑張ろうって思えたんだ。改めて、こちらこそありがとう、肇」


肇「そんな、私はただ、自分の事で精一杯で…」


P「それでいいんだ。人は健気に頑張ってるだけで、誰かを勇気付ける時があるものさ」


肇「Pさん…」


P「これからもよろしくな、肇」


肇「…はい。こちらこそ、よろしくお願いします!」


P「ああ!」


肇「…あ、流れ星!」


P「ツイてるな! よし、じゃあまた願い事しようか」


肇「はい!」


P「……」


肇「………」


P「…ん」


肇「…ええ」


P「行こうか」


肇「はいっ」


P「楽しみだなあ、肇のおじいちゃん驚いてひっくり返っちゃうんじゃないか?」


肇「ふふ、話す前に座布団敷いておかないと。今日はもしかしたら「朝まで祝杯だー!」なんて言いだすかもしれませんね」


P「あー…俺下戸なんだけど…ま、いいか。おめでたい日だしな!」


肇「Pさん、ファイト♪」


P「おう! 任せとけ。肇のプロデューサーとして情けない姿は見せられないからな」


肇「でも、無理は禁物ですよ? 私が隣で見ていますから」


P「それは心強いな」


肇「ふふ…」



肇(…Pさんは、きっとまた、流れ星にこうお願いしたのでしょうね。「肇が、みんながトップアイドルになれますように」…)


肇(勿論、私も同じ願い事をしました。だけど、もうひとつ…「Pさんが、いつの日か私の良き人になってくれますように」と。私は、あなたの事が…)


肇(…たまにはほんの少しワガママになってもバチは当たりませんよね。だって、今日は私の誕生日なんですから…ね?)


今年は総選挙3位、念願のボイス獲得決定と、嬉しい事がたくさん!ここからが、新たなはじめの一歩。これからも、肇と一歩。
肇ちゃん誕生日おめでとう!

それでは今回もお付き合い下さり、ありがとうございました。


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