【ラブライブ! 】希「希の誕生日」 (27)
希ちゃん、お誕生日おめでとう。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1497010469
「ねえ、今日遊ばへん!?」
────見上げると、大きな瞳を輝かせた女の子がいた。
少しの間その瞳を見つめる。
そして、いつものように俯いて。
いつものように首を左右に振った。
…………このやり取りをするのは何回目だったかな。
毎日毎日諦めないで私を誘ったあなた。
すごいなぁ。
なんでそこまで出来るんだろう。
結局、彼女とは今日まで一度も話さなかった。
話しかけられても首を振るだけ。
…………それだけだったから。
「そっか! じゃあまた明日やん!」
にっこりと笑う彼女に向かって、私ははじめて言葉をかけた。
「……ううん、今日で最後だよ」
「ど、どうして? 卒業まではもう少しあるし、これからだって────」
「────転校するんだ、私」
「え…………?」
間の抜けた声が教室に響いた。
「明日、引越しする。
最後まで声をかけてくれてありがとう。
それじゃ────」
そうしてお別れを告げて帰ろうとする私。
カバンを手に取ろうと手を伸ばしたけど……。
彼女はそれを阻んだ。
彼女が私の手を取ったのだ。
どういうつもりかとその表情を────
「ひっ!」
読み取ろうとしたんだけど。
そういうんじゃなくて。
「…………やだ、やだよぉ。
まだ、一回も……ぐすっ」
先ほどまで綺麗に輝いていた瞳から、大粒の涙がこぼれた。
「ちょっ、落ち着いて!
な、なんで泣くのよ?
私がいなくなってもどうでもいいでしょ?」
「そんなことないもんっ!
うわぁぁぁーーーんっ!」
────私は、彼女が落ち着くまで側にいることにした。
私の手を握る力はさっきよりもずっと強くて。
なぜだか私の心臓はドキドキしていた。
少し時間が経って、彼女の嗚咽が聞こえなくなった。
頃合いかと思い、質問────
「実は私ね、転入生だったんだ」
ぐいぐいくるなぁ。
「うん、知ってたよ」
大きな眼をさらに大きく見開く彼女。
「ど、どうして?」
「だって、あなたの関西弁、ちょっとおかしいんだもん」
「え……そうなの?」
「そうだよ。気づいてなかった?」
────思わず、クスクスと笑ってしまった。
だって、面白いんだもん。
明らかに他の子と違う言葉遣いなのに。
他の子からエセ関西弁って呼ばれてるのに。
本人にその自覚がないなんて。
「そっかそっか! それならそれでいいやん。
今のうちはとっても嬉しいから!」
「嬉しいって、なんで?
さっきまであんなに泣いてたのに」
「だってね」
彼女は、少しさびしそうに笑うとこう言った。
「────やっとあなたの笑顔が見れたから」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ピピピッ! ピピピッ!
「……んー」
カチッ。
目覚まし時計のアラームを止める。
なんだか頭がぼーっとして……。
いつもはアラームが鳴る前に起きる私だったけど。
ハードな練習でちょっぴり疲れているみたい。
コーヒーでも飲もうかな。
軽く伸びをしてからベッドを降りた。
それにしても……懐かしい夢だった。
あの日のことは今でも鮮明に覚えてるし、
つい先日、あの子からメッセージが届いたばかりだった。
『────大好きは見つかりましたか?』
お気に入りのケトルで沸かしたお湯をカップに注ぐ。
インスタントだからとっても簡単。
ブラックコーヒー。最近飲めるようになったんだ。
「…………にがっ」
うん、そう。
飲めるようには、ね。
ふと、カレンダーが眼に入った。
えぇー。
こんなのいつ書いたのよ。
派手に描かれたピンクの花丸に、
アイスブルーの色をした綺麗な文字。
「希の誕生日」
……呟いて、にやけてしまった。
今の私、ちょっと気持ち悪かったかも。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
『大好き』ってどんなカタチなんだろう。
『大好き』ってどんな音なんだろう。
『大好き』って…………。
境内のお掃除をしながら、そんなことを考えていた。
一年に一度届くあのお手紙。
今年はなにか答えを出したかった。
…………いけない、こんな気持ちじゃ。
しっかりしないとみんなについていけないぞ。
さっ、少し自主練を…………。
「ん?」
視線を感じて右を向く。
ささっ! という感じで誰かが隠れたみたいなんだけど。
くすくすっ♪
私は本殿の右壁に揺れる一本の尻尾を見つけた。
(あらあら、こんな朝早くからなにしてるんやろ)
私は尻尾とは逆側の壁に素早く移動し身を隠した。
(まあ、なんにせよ……いたずら好きな子猫ちゃんには────お仕置きやね)
あかん、自然と口角が上がってしまうやん。
だって、しばらくすればほら。
「あ、あれー? どこいったんだろう?」
しめしめ。
出てきた出てきた。
あたりをキョロキョロする子猫ちゃんから見えないように、
背後から忍び寄って────
ワシっ。
「ひゃっ!」
とっても可愛い声を上げる子猫ちゃん。
ま、いきなり胸を掴まれたらビックリするよね♪
「────ねぇ、なにしてるん? ほ・の・かちゃん」
「あ、あははっ。おはよう希ちゃん」
なんと、ウチを覗き見していた子猫ちゃんは穂乃果ちゃんだったのでした!
ウチの鼻をくすぐる髪の毛から、お日様みたいないい匂いがする。
「まあ、なんでもいいやん? うちのことを覗き見するってことは……
覚悟はできてるってことやんなぁ?」
ニタァとわざとらしい笑みを浮かべる。
そうしてうちは穂乃果ちゃんの柔らかいお胸をワシワシ!
のはずだったんだけど……。
「────い、いいよ、希ちゃんなら。優しくして、ね?」
「な、ちょっ、えぇっ!?」
なんていうから、慌てて手を離しちゃった。
「へっへーん! ことりちゃんに教えてもらったんだ!
希ちゃんの攻略法!」
ブイっと無邪気にピースを向ける穂乃果ちゃん。
むぅー。
おのれことりちゃん!
今度、絶対に、あのふくよかな胸をワシワシしてやるんだから。
「わぁー! 希ちゃん、真っ赤になって可愛い。
効果覿面だね! ニシシッ♪」
…………絶対、ワシワシしてやる。
しかも、アグレッシブに。
「こほん。冗談は置いておいて……穂乃果ちゃんはどうして神社に? お参り?」
「うん、お参りに……と言いたいところだけど。
えへへ。穂乃果、大事な人に嘘つくのは嫌だからホントのこと言っちゃう。
実は希ちゃんに用事があってきたんだ」
さらっと嬉しいことを言わないでほしい。
「ウチに?」
「うん。みんなに頼まれてね。
希ちゃんの好きなものをリサーチしにきたの」
ドキリとした。
ウチを見つめる穂乃果ちゃんの大きな瞳に。
なんだか、私が考えていたことが見透かされていたようで。
「す、好きなものって食べ物とか?」
「それもそうだね」
「それも?」
「うん! あのね、穂乃果ね。
忘れられない日にしたいんだ。
今度の希ちゃんの誕生日。
絶対希ちゃんが喜んじゃうパーティーにするんだ!」
屈託のない笑顔でそう言う穂乃果ちゃん。
私はその言葉にとっても嬉しくなってこう言った。
「大丈夫だよ穂乃果ちゃん。ウチにはもう、忘れられない嬉しいことがあるから」
えぇっ! と表情を曇らせる穂乃果ちゃん。
「なになに!? それ、どういうの!?」
「それはズバリ! 穂乃果ちんのお胸の柔らかさなのだ!
朝から穂乃果ちゃんのとっても柔らかいお胸を触っちゃってラッキー! なんてね」
みるみるうちに顔を赤くする穂乃果ちゃん。
うふふっ。さっきのお返しなのだよ。
「もー! ばかばか! 希ちゃんのバカ! バカ~!」
そう言って抱きついてくる穂乃果ちゃん。
ウチはそんな穂乃果ちゃんをいつものように抱きしめた。
二人の時は甘えん坊な穂乃果ちゃん。
いつものように髪を撫でようと思ったんだけど────
「────希ちゃん、なんか熱い」
「え?」
顔を上げた穂乃果ちゃんの表情にたじろいでしまう。
「おでこ、触らせて────」
ぴと。
穂乃果ちゃんの暖かい手の平が私のおでこを捕らえる。
「やっぱり、熱い。
帰ろう希ちゃん。お家まで送っていくよ」
「そ、そんなことないよ。
ちょっと穂乃果ちゃんとのやりとりが恥ずかしかっただけやん。
ウチは────くしゅんっ!」
あ、あれ……?
「うふふっ。やっぱり風邪だ。
ね、無理しないで?
今日はお家でゆっくりお休みだよっ!」
そう言って穂乃果ちゃんは私の手を強く握った。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「え、笑顔っ!?」
「うん、とっても可愛い。
声もすっごく素敵! なんていうか…………
アイドルみたいやね!」
「な……っ!?」
こんなこと言われて嬉しくない人はいないと思う。
女の子なら誰でも一度はそういうものに憧れるもの。
私も例外ではなく、一人でテレビを見ながら、
『こんな服着てみたいなー』
なんて想いを馳せる。
目の前の元気いっぱいの女の子が、
『こんな服』を着ているところを想像してしまった。
「私なんかより、あなたのほうがずっとステキだよ」
ポツリと漏れた言葉は素直な感想。
「こんなに明るくて、元気で……友達も多いし。
笑顔が可愛いのもあなたのほう。
私、ずっと見てたもん。
あぁ、私もあんな風に出来たらいいのに。
私もあんな風に笑顔で────」
その時だった。
「────そんなこと、ないよ」
彼女の冷たい声が私の頭の中に響いた。
「本当の私は全然明るくなんてないし。
…………友達も少ない」
悲しそうに笑う。
「だから、少し無理しちゃってる。
自分で言うのもなんだけどね」
今度はいたずらっぽく笑ってそう言った。
私には全然そんな風に見えなかったけど。
本人としては…………そうだったんだ。
「ねえ、私ね。『大好き』を探してるんだっ!」
「『大好き』を?」
「うんっ!
『大好き』ってどんなカタチなんだろう。
『大好き』ってどんな音なんだろう。
『大好き』ってどんな…………」
そこまで言って彼女は力を無くしたように俯いた。
「ウチが思うに『大好き』はきっと、
人の中にあるんだと思う」
「人の中に……?」
「うん! だからね、あなたも探してみてよ。
ウチとあなたの道は別れちゃう。
けれど、繋がり続けることは出来ると思うんよ。
手紙やメールで…………。
ちょっと、お互いの努力が必要かもだけど」
繋がり、かぁ。
私は…………後悔した。
別れが辛くなるからと、これまでクラスメイトと関わってこなかったことを。
別れが辛くなるからと、彼女のことを見ないようにしてきたことを。
…………自分自身と向き合ってこなかったことを。
「────うん、わかった。
私、頑張ってみる」
限られた時間の中で精一杯努力する。
「じゃあ、練習しよっ!」
「れ、練習!?」
心にそう誓って。
「うんっ! まずは自己紹介やん!
ちゃんと大きな声でしなくちゃっ!
こっちにきた時みたいに小さい声じゃダメ」
「…………わ、私は」
「ダメやん! もっと大きな声で!
怖かったらウチのことを思い出して!
あなたは一人じゃないんだからっ!」
「わ、わた…………」
「勇気を出して!」
私は『大好き』を探すことにした。
「────ウチ、東條 希!」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ん…………っ」
ここ、は……そっか、穂乃果ちゃんと一緒に家まで戻ってきたんだ。
────いい匂いがする。
そう思ったら、ガチャっと私の部屋のドアが開いた。
そこから顔を出したのは、
「希ちゃん、お邪魔してるわよ」
「え、あ。こ、こんにちは」
穂乃果ちゃんのお母さんだった。
「ごめんね。勝手だとは思ったんだけど、お台所を借りたわ」
私に近づくお母さん。
ぴと。
暖かい手の平が私のおでこを捕らえた。
「あ、う…………」
なんだかちょっと、こそばゆい。
「熱は…………これなら大丈夫ね。
おかゆ作ったの。すぐに持ってくるわ」
「あ、あの。どうして私の家に?」
「うーん、食べたら教えてあげるっ♪」
その笑顔は、穂乃果ちゃんにそっくりだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「もぐ…………おいしいっ」
「ありがとうっ♪」
またしてもにっこりと微笑む穂乃果ママ。
なんだか居た堪れない雰囲気なんだけど嫌では無かった。
「なんで、希ちゃんの家にいるか、だったわね」
はぁっ、とため息をつく穂乃果ママ。
「今朝、実はこんなことがあってね────」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
みんな「「希(ちゃん)が風邪!?!?!?!?」」
穂乃果「うんっ! そうなんだよっ!」
凛「た、大変だにゃっ!」
花陽「希ちゃん……花陽がご飯作ってあげないと!」
にこ「ま、待ちなさいよ。
この場合おかゆとかそういう……そういうやつでしょうが」
海未「希……! 待っていて下さい!
いますぐ私が看病に行きますから!」
絵里「ま、待ちなさい海未!
あなた一人で行ってどうするのよ!
学校だってあるんだから!」
真姫「そうよ海未! あなたが行くより、私が行った方がいいわ!
パパがお医者さんなんだから!」
ことり「それは真姫ちゃんが行く理由にはならないんじゃ……?」
穂乃果「もー!こんなんじゃ全然きまらないよぉ…………
そうだ! ジャンケンで決めたらどうかな!?」
みんな「「ジャンケン!?」」
穂乃果「うん! 希ちゃんのお家に行きたい人っ!」ハイ
みんな「「はーーーい!」」
穂乃果「おー! これは待った無しだね。
さーいしょーはぐー!
ジャーンケーン……」
みんな「「ぽんっ!」」
穂乃果「あーいこーで」
みんな「「しょっ!」」
みんな「「あーいこーでしょ!」」
みんな「「あーいこーでしょ!」」
みんな「「あーいこーでしょ!」」
みんな「「しょっ!」」
みんな「「しょっ!」」
みんな「「しょっ!」」
みんな「「しょっ!」」
みんな「「しょっ!」」
みんな「「しょっ!」」
ほのママ「うるさーーーーーい!!!」
みんな「「うわぁっ!?」」
ほのママ「さっきから何やってるのよ!
八人でジャンケンしてたらほとんどあいこになるに決まってるじゃない!」
穂乃果「うぅっ、ごめんなさい…………」シュン
ほのママ「それにみんなは学校があるでしょ?
こういうときは親に任せて!
子供はさっさと学校へ行くっ!」
穂乃果「で、でもお店は────」
ほのママ「それなら大丈夫よ。
心配しなくてもなんとかするわ」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「────なんてことがあってね。
あの子ったら最後まで不安そうな顔してて……
まったく、たまには実の親を信じなさいよね」
クスクスと笑う穂乃果ママ。
「ちょ、ちょっと待って下さい。
本当に大丈夫なんですか?
お店……私のせいで大変なんじゃ────」
「ええ、大丈夫よ」
あっさりと言う。
「で、でも……でも!」
次第に目頭が熱くなって行くのを感じた。
だって。
だって、私のせいで穂乃果ちゃんのお家にご迷惑をお掛けして…………
「────希ちゃんにだけ、特別に教えてあげるわね」
顔を上げるとちょっと、イタズラっぽい微笑みを見せる穂乃果ママ。
「実はね、今はその……海未ちゃんのお母さんに店番をお願いしてるの」
「う、海未ちゃんのお母さん?」
「そう。海未ちゃんのお母さんはね、
昔、穂むらでバイトしてたことがあるのよ。
ふふっ。懐かしいなぁ。
よく遊びに行ったっけ」
遠い目をする穂乃果ママ。
「その時、旦那さんに出会ったんですか?」
思わず、そんな質問をしてしまった。
穂乃果ママはちょっぴり驚いた表情をすると、
お日様みたいに微笑んだ。
「そう、私たちは幼なじみで………
まあ、その話はまた今度。
希ちゃんがうちにお泊りにでも来てくれればゆっくり話してあげるわ。
とにかくね、あなたたちと一緒。
持つべきものは『友達』なのよ。
私が困った時、海未ちゃんのお母さんは私を助けてくれる。
もちろんその逆も」
『友達』
その言葉を聞いたら、胸の奥がきゅっと締められた。
どうしよう。
私、みんなに迷惑かけちゃったな。
「それにしても、希ちゃんって本当にみんなに好かれてるのね」
……………………へっ?
「わ、私が?」
「そうよ。みーんな眼の色変わってたもの。
自分が絶対希ちゃんの看病をするんだって。
そういう眼をしてた。
みんな、希ちゃんのこと『大好き』なのよ。
もちろん私もね」
…………『大好き』?
『大好き』…………?
「あ、あの……変な質問をしても良いですか?」
「良いわよ。私に答えられることかしら?」
「────『大好き』ってなんですか?」
一瞬の静寂。
私は続けた。
「『大好き』ってどんなカタチなんですか?
『大好き』ってどんな音なんですか?
『大好き』って…………
どこにあるんですか?」
穂乃果ママはちょっと考える様子を見せた。
「それは…………私にはわからないわ。
希ちゃんの『大好き』と私の『大好き』は違うから」
「そう、ですか」
大人なら……穂乃果ちゃんのお母さんなら知ってると思ったのにな。
「────だけど、希ちゃんが欲しい答えを持ってそうな人なら知ってるわ」
「ほ、本当ですか!?」
こくりと頷く穂乃果ママ。
「わ、私! その人とお話ししてみたい…………です。
あ、でも上手く話せるかな。
変な子だって思われないかな……」
そんな私を見て、穂乃果ママは微笑んだ。
「心配しなくても大丈夫。
希ちゃんもね、答えを出せばいいのよ。
今出せる、自分がそうだと思う答えを。
そうしたらきっと、その人はその人自身の答えを教えてくれるわ」
「じ、自分でですか?」
「そうよ。…………あぁ、またそんな顔をして。
心配しなくても大丈夫よ。
この日になったら嫌でもわかるわ」
そう言って、穂乃果ママは私の机の上……
卓上カレンダーのある一日を指差した。
そこには黄色い花丸がとても可愛く書いてあって、
青色でとても美しい文字が書かれていた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「希の誕生日」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ピンポーン。
「はいはい」
パタパタとスリッパの音を立てながら玄関に向かう。
ガチャっとドアを開けるとそこには可愛い女の子。
「花陽ちゃんいらっしゃいっ♪」
「来たよ希ちゃんっ♪」
「花陽ちゃんで最後だよ。
ほら、早く上がって上がって」
「ごめんね。でもその代わり、
たーっくさんおにぎり握って来たからっ♪」
にこにこ笑顔を振りまく花陽ちゃん。
────今日は、私の誕生日。
九人で私の家に集まって、ホームパーティーの準備をしていた。
お菓子やお料理を作ったり。
「ことりちゃんっ! こんな感じかな?」
「さすが穂乃果ちゃん! 上手だね~♪」
「ねえ、絵里。お塩を取ってくれない?」
「ちょっとエリー、私はなにをしたらいいの?」
「真姫は……食器を並べて。
にこ! お塩どこ?」
お部屋を飾り付けたり。
「ご飯食べたら、みんなでトランプするにゃっ!」
「それもいいですが…………
少し飾り付けも手伝ってくれませんか?」
やっぱりみんなと一緒だととっても楽しい。
心が弾んじゃって……自然と笑顔になっちゃうのだ。
「にこちゃーん、おにぎり持ってきたよ」
「あら花陽、遅か……こ、こんなに?」
「花陽ちゃん! おにぎり置いたら穂乃果たちを手伝ってよぉ~」
…………きっと、私の『大好き』はこれなんだ。
この瞬間なんだ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「みんな! そろそろ希ちゃんにプレゼントを渡そうよ!」
「「おぉー!」」
「────ちょっとまって!」
「希?」
意を決してみんなを制止した。
「あのね、みんなに話があるんよ。
聞いてくれないかな?」
心臓の鼓動が早まった。
「なによ改まって。早く言いなさいよね」
「あー! ダメだよ真姫ちゃん!
そんな言い方!」
「希……? どうしたの?」
「なにか、お気に召さなかったですか?」
「ことりたちが作ったお菓子、美味しくなかったかな?」
みんなが不安そうな顔をする。
「ううん、そうじゃないよ。
まずはみんなにお礼を言いたいん。
今日はありがとう。
うち、とっても楽しい。
とっても嬉しいよ」
私の言葉を聞いて、わぁっ! っと歓声を上げるメンバー。
「うちはずっと考えてた。
『大好き』ってなんだろう?
どんなカタチなんだろうって。
でも、それは今日わかった気がする。
『大好き』にはカタチがないんやって。
穂乃果ちゃん、ことりちゃん、海未ちゃん。
花陽ちゃん、凛ちゃん、真姫ちゃん。
えりちににこっち。
うちはみんながいるこの瞬間が『大好き』なんや」
これが、答えだと思った。
ちょっと恥ずかしいことを言っている。
そんなことは自分でもよくわかっていた。
だけど、みんなだったらそんな自分を受け入れてくれると思った。
そして、みんなの『大好き』も私と一緒だと思った。
「────違うよ」
そう言ったのは、穂乃果ちゃんだった。
「穂乃果、ちゃん? ウチは────」
「穂乃果は『大好き』のカタチ、持ってるもん」
「────えっ」
穂乃果ちゃんはカバンの中をガサゴソと漁ると、
生徒手帳を取り出した。
中から一枚の紙を抜き出すと、私に手渡した。
「これが、穂乃果の『大好き』だよ」
少し、涙ぐんでいる穂乃果ちゃん。
こんな曇った顔になってしまったのは私のせいなんだ。
申し訳ない気持ちで泣きそうになっちゃったけど、
堪えて折り畳まれた紙を開いた。
「────これ」
そこにはあった。
穂乃果ちゃんの…………いや、
みんなの『大好き』のカタチが。
恐る恐る穂乃果ちゃんの顔を見ると、
大きな瞳から大粒の涙がこぼれた。
「穂乃果はさみしかったのですよね」
海未ちゃんの声。
穂乃果ちゃんは無言で頷いた。
「私たちもそうです。
だって、希の『大好き』には足りないモノがあるから」
そっか……うん、そうだね。
私は涙を拭った。
目の前の穂乃果ちゃんと同じように涙が出ていたから。
溢れて止まらなかったから。
嬉しくて、嬉しくて。
だって、穂乃果ちゃんの『大好き』は私の『大好き』と一緒だったから。
…………一緒だと気付かされたから。
「────ごめんね穂乃果ちゃん。
ごめんね、『みんな』」
そんな私を見て穂乃果ちゃんは微笑んだ。
太陽みたいに微笑んだ。
私も笑った。
穂乃果ちゃんみたいに笑った。
「ねえ、希ちゃん。
希ちゃんの『大好き』を教えて。
穂乃果がいて……ことりちゃん、海未ちゃん。
花陽ちゃん、凛ちゃん、真姫ちゃん。
絵里ちゃんとにこちゃんがいて……
この八人が『大好き』なの?」
涙を拭って、大きく深呼吸をして。
私は答えた。
「────いや、九人-μ's-や。ウチを入れて」
「うん、そうだよ。
この九人が……この九人だから、
穂乃果は『大好き』なんだよ」
「うん、そうやね。
ありがとう穂乃果ちゃん。
ウチもこの九人が『大好き』や」
ウチはいつものように穂乃果ちゃんを抱きしめた。
そして、いつものように頭を撫で────
「もー! さっきから穂乃果ちゃんばっかりずるいにゃ!」
素早く突っ込んできた凛ちゃんがウチの身体ガッチリ掴んだ。
「やんっ! 凛ちゃん、優しく……」
なーんて言ってる間に。
「うふふっ♪ 希ちゃん可愛いっ♪
ことりもー……えいっ!」
「あの、ことりと凛の間……少し開けていただけませんか?」
「花陽はえと……どこから抱きついたらいいかなにこちゃん?」
「あんたたち、ちょっとスペース開けなさいよ!
あと四人分!」
「まあまあ、順番に抱きつけばいいじゃない。
ねえ、真姫?」
「わ、私は……まあ絵里がそう言うなら」
あ、あははっ。真姫ちゃんまで。
もう、嬉しくって可笑しくって。
きっと今、ウチはだらしのない顔をしているんだろうなぁ。
「よーし! じゃあみんなで歌おう!
────さあ!」
「「大好きだばんざーい!
まけないゆうき 私たちは今を楽しもう」」
(ありがとう……みんな本当にありがとう)
「大好きだばんざーい!
頑張れるから 昨日に手をふって ほらー前向いて~♪」
(希は今、幸せなのだっ!)
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
希「希の誕生日」
また来年。
このSSまとめへのコメント
このSSまとめにはまだコメントがありません