【ゆるゆりSS】綾乃「映画を観にいく仲」 (82)
私は、休みの日にはたまに映画館に映画を観に行く。
そこには普段の日常とは違う、色んな世界が広がっているから。
いい映画を見終わったあとは、私はさっぱりとしたいい気分になる。
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私が映画にはまったのは、ささいなきっかけからだった。
想いをなかなか伝えることのできない同級生、歳納京子と前に一度二人っきりで観てから。
それ以来何となく、特にする事のない休日に私は映画館に行くクセがついてしまった。
最初のころは一人で観に行っていたのだけれど、この頃少し事情が変わった。
成り行きでというか、一緒に映画を観る相手ができたのだ。
その相手とは……。
綾乃(……)
綾乃(そろそろかしら?)
あかり「杉浦先輩」
あかり「今日は」
綾乃「ああ、来たわね」
赤座あかり。
私の通う中学校の、1年下の後輩だ。
この子も、以前から休みの日にはちょくちょく一人で映画を観に来ていたらしい。
映画館で偶然会ったのがきっかけで、私達は月に1度か2度
一緒に映画を観るようになった。
あかり「もしかしてお待たせしちゃいました?」
綾乃「いいえ、そんな事ないわよ?」
やっぱり、映画は一人で観るより誰かと見た方がいい。
それが普段とくに接点のない、私にとっては何でもない子とでも。
綾乃「じゃあ行きましょうか。そろそろ始まる時間よ」
あかり「はい」
~映画館内
「……そうか、そういう事だったのか」
「じゃあ、この事件の真相は……!」
綾乃「……」
あかり「……」
綾乃(うーん……。今日の映画は悪いけど外れね)
綾乃(どっかで見たストーリーに、役者の演技もいま一つ……)
綾乃(きっと、赤座さんも退屈して……)チラ…
あかり(は…。犯人はあの人だったのぉ?)ググ
綾乃(……)
私が赤座さんと一緒に映画を観る習慣が続いているのも、
多分この子はどんな映画でも楽しめるタイプだから。
色々と批評をする性格なら、きっと私は今でも一人で映画を観ていただろう。
~喫茶店
あかり「はぁ、今日の映画も面白かったですね」
綾乃「そうかしら?私は、ちょっと退屈だったわね」
あかり「え?そうなんですか?」
綾乃「何だか、前に見た事のあるストーリーって感じだったわ」
あかり「あ、あかりもそう思いました。前に見たことあるなーって」
あかり「でも、それが何か懐かしかったって言うか……」
映画を観終わったあとは、近くの喫茶店でお茶をしながら
二人で今観た映画の感想を話し合う。
さっきも言った通りに、赤座さんはどんな映画でもだいたい面白かったと言う。
そう言われると、私も何だかそうだったような気がしてくるから不思議だ。
綾乃「ま、ストーリーは置いといて。ヒロイン役はまぁまぁだったわね」
あかり「あ、そうでしたよねー。あかり、ああいう人って憧れちゃいます」
あかり「頼りない所もあるけど、しっかりしてるって言うか……」
綾乃「私は、もっとはっきりした性格の方が良かったなーって思ったけど」
あかり「そうですか?」
綾乃「ええ。ヒロインが悩む場面が多くて、話の展開が遅く感じちゃったわね」
あかり「そうなんですかー。あかりはそこが良かったと思いましたよ」
あかり「あかりも一緒に悩んで、最後に全部解決された時すごくスッキリしましたし」
赤座さんと私は、どうやら感性が違うらしい。
なので、同じ映画を観てもその感想はまるで違ったものになる。
けれど、赤座さんの感想を聞くとそういう観方もあるのか、と
一度で二度映画を楽しめた気分にもなる。
綾乃「まぁ、70点って所だったかしらね。所で、赤座さん今度は何を見る?」
あかり「そうですね、今日はサスペンス物だったから……。次はアクションはどうですか?」
綾乃「アクション映画ね。いいのやってるかしら」
あかり「えーと、これとかどうですか?」
上映予定表を見ながら、ああでもないこうでもないと次に観る映画の相談をする。
そんなこんなしている内に、休日の午後が過ぎていく。
綾乃「……それじゃ、今日は楽しかったわ。またね」
あかり「はい、また今度」
そして、次に映画を観る日の約束をして別れる。
そんな休日を私は時たま過ごしていた。
~学校
千歳「綾乃ちゃん、昨日のお休み何してた?」
綾乃「昨日?ううん、別に何も?」
私と赤座さんで時々一緒に映画を観ているという事は、何となく周囲には言っていない。
別にやましい事があるわけじゃないけれど、普段学校でとくに接点のない私達が
映画館で時々一緒に映画を観ているという事を知られたら、何かと誤解を受けそうだったから。
赤座さんにも、なるべくならお友達には内緒にしておくようお願いしてある。
千歳「えー?そんな勿体ない。歳納さん誘って一緒に映画でも観に行ったらええのに」
綾乃「ばっ……。千歳!」
千歳は全くお節介焼きだ。
私が歳納京子に思いを寄せている事を知っていて、何かと一緒に行動させようとする。
千歳「そして薄暗い映画館、二人はそっと手を重ね…うふふ…(鼻血)」
綾乃「ちょ、ちょっと千歳ー!あなた何を考えてるのよ?」
京子「おっすー綾乃ー。何の話してんの?」
綾乃「あ、と、歳納京子?いえ、な、何でもないわよ?」
千歳「ああ歳納さん、今度綾乃ちゃんが一緒に映……ムググ」
綾乃「千歳は黙ってなさい」
京子「何だよー。何の話ししてたか教えてくれたっていいじゃんかさー」
綾乃「ほ、本当に何でもないから!千歳、ちょっとこっちに来なさい」ズルズル
千歳「あ、綾乃ちゃん、く、苦しい、首が……」
京子「ちぇー。綾乃のケチー」
歳納京子がそばにいるだけで意識してしまう。
こんな私に、彼女を映画に誘う勇気なんてなかった。
~映画館
「あ、危ない!早くこっちへ……うわぁーーーっ!」
ドオーーーーン!
綾乃「……」
あかり「……」
綾乃(うん、今日の映画はまずまずね)
綾乃(よくある展開だけど、作りが丁寧だから飽きないっていうか)
綾乃(赤座さんは……)
あかり(い、いったいどうなっちゃうの?)ググ
綾乃(……)
あい変わらず、真剣に映画に見入っている。
本当に、どんな映画でも楽しんで観れるというのは羨ましい。
その時ふと、千歳が言っていた事を思い出した。
「そして薄暗い映画館、二人はそっと手を重ね…うふふ…」
なぜ、今こんな事を思い出したのかはわからない。
けれど、その時ふとひじ掛けの上に置いてある赤座さんの手が目に入った。
小さくて、スベスベしてそうな手。
それが、きゅっと握られてひじ掛けの上に置いてある。
綾乃(今、赤座さんの手に……)
綾乃(私の手を重ねたら、どんな反応するかしら?)
どうしてそんな考えが頭をよぎったのかわからない。
赤座さんに対してそんな気持ちを抱いた事なんて、今まで一度もないからだ。
赤座さんに対して妙なイタズラ心が芽生えた?
それとも、単なる好奇心?
いずれにしても、今の私の目はスクリーンよりも赤座さんの手に注がれていた。
綾乃(赤座さんの手って、どんな感触かしら?)
綾乃(暖かい……?それとも、冷たい?)
何だか、目が離せなくなっていた。
映画のスクリーンには爆発音と共にそろそろクライマックスのシーンが写ろうとしている。
しかし、私はその音がどこか遠くのもののように感じていた。
綾乃(一体、どんな反応するかしら)
綾乃(驚くかしら?それとも……)
そんな事を考えている内に、
私の手は無意識に赤座さんの手の上に重ねられようとしていた。
ドカーーーーン!
あかり「ひっ!」
綾乃「!」ビクッ
その時だった。
画面にひときわ大きな爆発音が響き、赤座さんが小さく声を上げる。
私はハッとして手を引っ込めた。
あかり「あ、ご、ごめんなさい、つい声が出ちゃった……」
綾乃「い、いえいいのよ?気にしてないわ」
赤座さんが申し訳なさそうに言う。
私は慌てて首と手を振り、気にしていない事をアピールする。
そうして再びスクリーンに目をやると、さっきまでの気持ちはどこかに消えていた。
~喫茶店
綾乃「今日のは、まずまずだったわね」
あかり「ええ、面白かったですね」
綾乃「よくあるお話しだけど丁寧。私、こういう映画って好きよ」
あかり「あ、あかりもです」
綾乃「特に、最後のシーンは良かったわね」
あかり「はい。ええ?そうなるの?って、あかりビックリしちゃいました」
いつものように、いつもの喫茶店。
私たちは紅茶を飲みながら、気だるい休日の午後を過ごす。
綾乃「まあ、やっぱり映画は変に捻らない方がいいわね」
綾乃「安心して観られるっていうか」
あかり「ええ、あかりもそう思います」
綾乃「ええ。やっぱり映画は王道が一番よ」
さっき、映画館でふと芽生えた妙な気持ち。
私はそれを考えまいとするかのように、いつもより饒舌だった。
綾乃「ふぅ、それにしても映画を観終わったあとって外の空気が美味しいわよね」
あかり「あ、そうですよね」
綾乃「ふぅ……」
あかり「ねー……」
綾乃「……」
あかり「……」
ふと訪れる沈黙。
その時、赤座さんがこんな事を言い出した。
あかり「杉浦先輩、いつも一緒に映画観てくれてありがとうございます」
綾乃「え?ど、どうしたの赤座さん?」
あかり「あかり、前まで一人で映画館に来てたんですけど……」
あかり「杉浦先輩と一緒に観るようになってから、もっと映画が楽しくなって」
綾乃「あ、え、ええ」
あかり「だから、これからも一緒に映画観てくださいね?」
綾乃「……ふふっ、赤座さん、そんなに改まらなくていいのよ?」
唐突にそんな事を言われ、私は思わず笑みがこぼれた。
綾乃「私も……」
あかり「はい?」
綾乃「赤座さんと一緒に映画を観るの、何だかんだ言って楽しいもの」
あかり「え?本当ですか?」
綾乃「ええ。だから私からも。これからも宜しくね?」
あかり「はい!」
二人顔を見合わせてほほ笑み合う。
ふとさっき、上映中に赤座さんに抱いた気持ちを思い出し何だか罪悪感を覚えた。
綾乃「それじゃ、今度は何の映画観る?」
あかり「えーと、そうですね・・・」
あかり「たまにホラー物とかどうですか?あまり怖くなければですけれど」
綾乃「うーん、ホラー、ねぇ……それより」
私は、上映予定表を眺めるうちふとある映画の所で目が止まった。
恋愛映画。
今まであまり観た事のないジャンルだ。
結構力の入った作品らしい。
聞いた事のある監督に有名な俳優。
これは面白そうだという事を、こういう映画に詳しくない私にも思わせる。
けど、これを観ようと赤座さんを誘ったらどう思われるかしら?
女の子二人で恋愛映画を見ようだなんて言ったら、変に思われない……?
いいえ、赤座さんがそんな風に思うはずがないわ。
ただ単に私が面白そうと思った作品を勧めてみるだけなんだから。
たぶん、快く返事をしてくれると……。
あかり「杉浦先輩?」
綾乃「あ、え、ええ、何?」
あかり「どうしたんですか?何か気になる映画でもありました?」
綾乃「あ、い、いえ?別に何でもないのよ」
あかり「そうですか。それじゃ、これなんかどうですか?」
あかり「ホラーコメディですって。お化けが可愛くって、これなら怖くなさそうですよ」
綾乃「あ、え、ええ。いいわね。それじゃ、それにしましょうか」
私は何となく言い出しそびれ、次に観る映画は赤座さんの提案で
ホラーコメディを観ることに決まった。
~学校
綾乃「赤座さん、ちょっといい?」
あかり「あ、杉浦先輩?」
次の日、学校の休み時間。1年の赤座さんのクラス。
私は赤座さんを呼び出すと、なるべく人に見られないよう廊下の隅っこの方に移動する。
何だか、人に見られたら変な噂を立てられそうな気がして。
生徒会副会長の私が下級生に話しかけてる事なんて、珍しくも何とも無いのに。
あかり「どうしたんですか?」
綾乃「あ、え、えーとね」
何だか、一瞬言葉が詰ってしまった。
映画のチケット貰ったから、今度一緒に観に行きましょうと言うだけなのに。
あかり「杉浦先輩?」
綾乃「そ、その、お母さんから映画のチケット貰ったから、今度一緒にどうかなーって」
あかり「え、映画、ですか……」
綾乃「ん?どうかしたの赤座さん?」
あかり「え、えっと、ごめんなさい杉浦先輩」
あかり「杉浦先輩と一緒に映画を見てること、うちのお姉ちゃんに話したら……」
綾乃「え?」
~回想
あかね「たまに学校の先輩と一緒に映画を観てる?」
あかり「うん。杉浦先輩っていう、とってもいい先輩なんだ」
あかね「そう」
あかね「……あのね、あかり。ダメよ映画は一人で観なきゃ」
あかり「え?どうして?」
あかね「本来映画はね、一人で楽しむべきものなの」
あかり「え?そうなの?」
あかね「誰かと一緒に観るのは、映画の世界に入り込むのに妨げになるわ」
あかり「え、で、でも」
あかね「隣に人がいると気が散るし、映画の楽しみ方として邪道よ、邪道」
あかね「だからあかり、今度から映画は一人で観なきゃダメよ?」
あかり「……うん、わかったよ。お姉ちゃんがそう言うなら」
あかね(フゥー、良かった。あかりと暗い所で二人きりなんて、何かあったら大変よ……)
あかり「……って、お姉ちゃんに言われちゃって」
綾乃「あ、あら、そうなの」
あかり「だからごめんなさい杉浦先輩、もう一緒に映画観れなくなっちゃいました……」
綾乃「い、いえいいのよ?そういう事情があるなら仕方ないわね」
あかり「杉浦先輩、今までありがとうございました」
あかり「とっても残念ですけれど……」
綾乃「あ、あらそんな改まらなくってもいいのよ」
綾乃「お姉さんがそう言うなら、仕方ないわよ」
あかり「はい、本当にごめんなさい……」
~映画館内
「……好きだ。君の事を愛してる!」
「嬉しい!私も……」
綾乃「……」
週末、私は結局一人で映画を観ていた。
映画はしっかりとした作りで、このジャンルを初めて観る私にも面白さが伝わってくる。
綾乃(……うん、悪くないわ)
綾乃(なかなかいい監督みたいね。ストーリーも面白いし、役者も……)
ふと、隣に目をやった。
いつもなら赤座さんが座っているはずの席。
今日は誰もいない。
綾乃(赤座さんなら、どんな顔して観てたかしら?)
綾乃(いつもみたく、真剣な顔?)
綾乃(それとも、恥かしがったり?)
綾乃(……)
私は何となく隣の座席のひじ掛けに手をおいた。
そして、再びスクリーンに目を移す。
綾乃(……)
綾乃(うん。やっぱりいい映画ね)
綾乃(観に来て正解だった)
綾乃(……けど)
綾乃(けど、しばらくは)
綾乃(恋愛映画は、いいわ……)
一人きりで初めて観た恋愛映画。
それは何だか、ひどく味けなかった。
終
以上です
R-18にするかとか色々考えてましたが全年齢版になりました
最後まで読んでくれてありがとうございました
依頼出して来ます
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