喪黒「私の名は喪黒福造……人呼んで笑ゥせぇるすまん」
喪黒「ただのセールスマンじゃございません」
喪黒「私の取り扱う品物は心……人間のココロでございます」
喪黒「この世は老いも若きも男も女も、心の寂しい人ばかり」
喪黒「そんな皆さんのココロのスキマをお埋めいたします」
喪黒「さて、今日のお客様は――」
≪20代 女性アイドル≫
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―東京ドーム内―
「9回ウラ2アウト、ランナーなし。キャッツ、追い込まれました。バッターはムラタ、ピッチャー第一球を投げましたっ……あっ……打ち上げたー!」
「ショート手を上げている……捕りましたぁアウトー、ゲームセット。キャッツ、これで10連敗になりました……」
アイドル「また負けた……」
アイドル「うっ……うぅ……」
アイドル「あああああああもうやだああああああ!!!!!
―路上―
アイドル「まったくもー! 何なのよ最近の首脳陣の采配! 投手起用が意味わかんない!」
アイドル「打線もサカモト頼みでアベが急速冷凍したらてんで繋がらなくなるし!」
アイドル「2軍で好調って聞いてたクルーズも3試合で12のゼロ? あの報知記者は許すまじ!」
喪黒「クルーズ選手を1軍に上げたのはまだしも、カミネロ投手を2軍に落とすという判断は見事に裏目に出ましたねえ」
アイドル「そうそう! サワムラも戻ってこないのにこの上勝ちパターンを崩してどうするっていう……」
アイドル「って! え、おじさん、誰!?」
喪黒「ワタシですか。しがないセールスマンでございますよ」
アイドル「セールスマン? こんな時間にキャッチセールスやってるの?」
喪黒「いえいえ、とんでもない。今日は贔屓のプロ野球チームの試合を観戦してきた帰りでしてねぇ。いやはや、残念な敗戦となりました」
アイドル「おじさんも野球ファンなんだ!」
喪黒「どうです。ここで出会ったのも何かの縁。よければワタシの行きつけのバーで野球談議でも」
アイドル「ばっちこーい! さ、行こ行こ! おじさん!」だっ
喪黒「これはこれは、快活なお嬢さんですなあ。ですが、バーはこっちのほうですよ」
―BAR【魔の巣】―
マスター「……」キュッキュッ
喪黒「ほほう、アイドル活動の合間に野球観戦ですか。乙な趣味をお持ちですなあ」
アイドル「うん! アイドル仲間にも野球ファンが多いし、毎日が充実してるよ!」
アイドル「あたしのおかげでプロデューサーもキャッツ愛に目覚めたし!」
喪黒「それはようございましたなあ」
アイドル「……でも」
喪黒「おや? どうしましたか、浮かない顔をして。何か、アイドル活動で悩み事でも?」
アイドル「それはないよ! だってあたし、目標があるから」
喪黒「目標?」
アイドル「いつか、ソロで東京ドームを大観衆で埋め尽くすLIVEをやってみたいなぁ! 夢はでっかくね!」
アイドル「目標があるから頑張れるし。いいプロデューサーと、素敵な仲間たちに恵まれて――だから私は頑張れるんだ!」
喪黒「ほう」
アイドル「って、こんなことプロデューサーさん達の前では言わないけどさっ」ゴクゴク
アイドル「プハー! マスター、もう一杯」カラン
喪黒「あなたは本当に快活なお方だ。ワタシもあなたのファンになっちゃいそうですよぉ」
アイドル「へへっ! あたしに関わったらアイドルに興味ない人でもファンになって帰ってもらうよっ!」
喪黒「一見、ココロに一点の曇り、いいえ、スキマも見当たらない。そんなあなたの悩み事って、いったい何なんです?」
アイドル「悩み?」
アイドル「あたしの、悩み?」
アイドル「……そんなのキャッツのことに決まってるよー!!!」
喪黒「……」
アイドル「栄光ある大正義キャッツの弱体化! 外国人頼みの貧弱な打線! 育たない新人選手!」
アイドル「こんな、こんなキャッツ見てられないよぉ~!!」
アイドル「いっそあたしが選手になって打った方がマシなレベルだもんっ!!」
アイドル「もう一度、強いキャッツが見たい!」
喪黒「なるほど、分かりました」ガタッ
アイドル「おじさん?」
喪黒「そういうことならば、ワタシ、あなたの力になれるかもしれません。どうぞ、ついてきてください」
喪黒「アナタに素敵な場所にご案内しましょう」
―東京ドーム―
喪黒「どうぞ、こちらです」
アイドル「え、ここ……東京ドームだよね?」
アイドル「もう真夜中だから人は全然いないけど」
喪黒「この通用口からお入りください。きっと、アナタのお悩み、解決できること請けあいですよ」
アイドル「入るっていっても……あれ、開いてる?」
喪黒「さあ、どうぞ。騙されたと思って」
アイドル「うーん、何かよくわかんないけど。真夜中のドームなんて滅多に入れるもんじゃないよね!」
アイドル「照明の消えた真っ暗なグラウンドの様子とかちょっと興味あるし、入ってみるかっ!」
喪黒「ただし!」
アイドル「えっ?」
喪黒「このドームに入っていいのは3時間だけです。3時間たったら、必ずドームから出てきてくださいね。約束ですよ」
アイドル「約束も何も、3時間も真っ暗なドームをうろうろする気はないって」
喪黒「そうですか。それならいいのですが」
アイドル「それじゃ、おじさん。行ってくるね!」
―東京ドーム内―
コツ……コツ……
アイドル「この通用口、結構長いなあ。あ、出口が見えてきた」
アイドル「あれ、まぶしい? 出口の先には明かりがついてるの? いったいどうなって」
\わあああああああああああああああああああああああああああああああっ/
アイドル「え、何これ!?」
アイドル「真夜中なのに……大観衆!?」
アイドル「あれ、ここって! この目線の高さ! グラウンドレベル!!」
アイドル「キャッツのベンチ!!?」
高橋「ユッキ、守備練習だ、早く行くぞ」
友紀「た、高橋監督?」
清原「なんやユッキ、居眠りでもしとったんか?」
友紀「キヨちゃん!? 覚醒剤で逮捕されたんじゃ?」
清水「なんだユッキ、勝手に清原さんを犯罪者にしやがって」
友紀「清水さん……」
友紀「! スコアボード!」
8 姫川
6 二岡
9 高橋由
7 松井
3 清原
5 江藤
4 仁志
2 阿部
1 上原
友紀「勝てる……勝てるんだ!」
原「もう試合が始まるぞ、準備はいいかな、ユッキ!」
友紀「ハイ! 監督!」
鈴木尚「はいユッキ、グラブ!」
友紀「ありがとう鈴木さん!」
『1番 センター 姫川友紀』
\うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ/
グラウンドへ全力疾走する姫川、その目に光る涙は悔しさとは無縁のものだった・・・
――――――――
―――――
『今朝未明、東京ドームのベンチで冷たくなっているアイドルの姫川友紀さん(20)が発見されました。なお、吉村と村田は病院内で静かに息を引き取りました』
喪黒「朝のニュースではこんな一報が流れるのかもしれませんねえ」
喪黒「3時間経ちましたが、姫川さんがドームから出てくる気配は一向にありません。まったく、あれほど忠告したのに」
喪黒「さてと、仕方ありませんねえ」
「ユッキー!」
喪黒「おや?」
P「間違いない。GPSの位置確認情報によるとユッキはドームの中だ!」
笑美「ほんまに!? 何でこんな夜遅くにドームの中におるんよ?」
巴「あいつのことじゃけ、キャッツが10連敗してヤケ酒飲んで場内でぶっ倒れているかも知れん」
笑美「あー、それはありそうやな……。つっても球団職員とかおるやろうし」
P「ごたくは後だ! ……いつも試合が終わったらキャッツの話で3時間はラインのやり取りさせられてるのに……今日は何の連絡もなかった」
P「妙な胸騒ぎがしたんだ。ユッキ、無事でいてくれよッ!」ダッ
笑美「あ、プロデューサーはん! 行ってもうたで。あんなに熱くなってるプロデューサーを見るのは初めてや」
巴「じゃな。じゃが、それを言うならわざわざこんな時間に姫川探しに駆け付けたウチらもウチらよのう」
笑美「せやな。何だかんだゆーても、ユッキがいないとアイドル活動も野球談議もハリがあらへんし」
巴「さて、ごたくは後にするかの」
笑美「プロデューサーはん、待ってーな! うちらも今行くでー!」
ダッ
喪黒「……」
喪黒「おっと、よく見たらワタシの時計は3分34秒ほど進んでいたようですなあ。これはいけない」
喪黒「それにしても、姫川さんはよいお仲間に恵まれましたねえ」
喪黒「彼らの力添えで、夢から覚めて現実を受け入れるか、華々しい夢の中に溺れてしまうか」
喪黒「姫川さんはどちらを選ぶでしょうか」
喪黒「もっとも、現実の世界に明確な夢を持って頑張っている彼女ならば――もう答えは出ているのかも知れませんが」
喪黒「ホッホッホ……オーーーホッホッホッホ……」
<終>
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