みほ「きゅ、急に電話がきたと思ったら……」
みほ「何があったんですか?」
アンチョビ『うう……』
アンチョビ『もう3日も口をきいてくれなくて……』
みほ「……同じ大学だったからルームシェアするんだー、って言ってから、いつも仲良くしてましたよね」
アンチョビ『ああ……』
アンチョビ『その、一緒に住む内にこう、絆が深まったっていうか……』
アンチョビ『毎朝おはようの囁きからはじまって、朝食に対しても褒めてくれてて……』
アンチョビ『そういう日常が崩れてしまうのかと思うと、どうしたらいいのか……』
みほ「何かあまり聞きたくないし知りたくもなかった身内の一面が見えそうなので切りますね」 ピッ
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みほ「ふう……」
みほ「お姉ちゃん、女同士で付き合うのとかは全然いいんだけど……」
みほ「……イメージ崩れるというかなんというか……」
みほ「身内のそういう意外な一面的なのはなあ……」 ハァ
ピンポーン
みほ「……」
ピンポーン
ピンポーン
みほ「……まさか……」 ノゾキー
覗き穴の向こうの人影「……」 チョビーン
みほ「……」
みほ「ボコの円盤見なくっちゃ」
アンチョビ「うぉーい!? 西住ーっ!?」 ドンドンドン
アンチョビ「ほら! お土産も持ってきてるんだ!」
アンチョビ「手ぶらじゃ悪いと思って……!」
みほ「……」
アンチョビ「皆で食べられるように赤福餅と……」
みほ「……」
みほ(キオスクで買えるやつだ……)
アンチョビ「前に地元に帰った時に買ったドラゴンズユニフォームボコストラップ」
みほ「いらっしゃい汚いところですがどうぞ上がって下さい飲み物紅茶でいいですか?」 ガチャ
アンチョビ「あ、ああ……」
アンチョビ(変わり身早すぎてちょっと引くな……やっておいてなんだが……)
みほ「アールグレイでいいですか?」
アンチョビ「ああ、すまんな気を使わせて」
みほ「大丈夫ですよ」
みほ「毎週のようにダージリンさんから届く紅茶の処理に困ってた所ですし」
アンチョビ「ああ、あの部屋の隅のダンボールの山って……」
みほ「……」
みほ「確かに大学生の方や聖グロリアーナと戦えるのは大洗にとって大きなプラスですけど……」
みほ「こうも頻繁に対戦申込みと贈り物を貰ってしまうと……」
アンチョビ「アイツ、西住にご執心だもんなあ」
みほ「特にダージリンさんのツテで大学生と練習試合をする度に、大学の良さをアピールされてしまって……」
アンチョビ「一緒の大学に来てほしいんだろうなあ……」
みほ「それで……」
みほ「お姉ちゃんと喧嘩でもしたんですか?」
アンチョビ「ん……まあ……」
アンチョビ「詳細はちょっ……と語りにくいんだが……」
みほ「……?」
みほ「でも詳しく聞かないと、アドバイスが難しいような……」
アンチョビ「うーん、まあ、そうなんだけどなあ……」
アンチョビ「こう、まほならコレやればすぐ仲直り!みたいなのは――」
みほ「えー……そんなのさすがに……」
みほ「っていうか、そんなのある人の方が少ないんじゃ……」
アンチョビ「うーん、やっぱりそうだよなあ」
アンチョビ「アンツィオの連中なら、どんなに不機嫌でもパスタを茹でたらニッコニコだったのになあ」
みほ「飼いならされきったチワワ以上のチョロさ……」
アンチョビ「いや、まあ、私としては、こうなっちゃった原因を言ってもいいんだけど……」
みほ「けど……?」
アンチョビ「いや、西住が嫌な思いするかもなあ、って」
みほ「へ……?」
アンチョビ「ほら、その、なんだ」
アンチョビ「自分の姉の、こう、なんていうか、その」
アンチョビ「ちょーっと、こう、性的な面的なのを知ってしまう可能性が」
みほ「あ、はい言わなくていいですさすがにそれはちょっと聞きたくないので」
みほ「それで、お姉ちゃんと何やかんやあって、口をきけてないんですね」
アンチョビ「ああ……」
みほ「それでわざわざ都心部から大洗まで来たんですか」
アンチョビ「うう……」
アンチョビ「だってあの空気が辛くて……」
みほ「……そんなにピリピリしてたんですか?」
アンチョビ「ああ……」
アンチョビ「逸見とブリザードのノンナとアッサムを足して割らないような感じのピリピリ具合だったんだ」
みほ「地獄か何か?」
みほ「でも、珍しいですね」
みほ「アンチョビさんなら、なんとか上手く仲直りしそうなのに……」
アンチョビ「……いや、なんだ、私も、一応どうにかしようとはしたんだよ」
アンチョビ「そりゃ、喧嘩みたいになっちゃったし、気まずかったけどさ」
アンチョビ「でも、だからって、まほのことが嫌いになったとかじゃないし……」
みほ「アンチョビさん……」
アンチョビ「だからちゃんと夕食も普段通り作ったし、お風呂のときも着替えの準備もしてあげたりしたんだ」
みほ「へえ……そうなんですね……」
優花里「いい彼女というよりも、もはやいいお母さんに近いですね」
アンチョビ「うわぁぁ!?」
優花里「おじゃまします」
アンチョビ「び、び、びっくりした……」 バックンバックン
みほ「身内以外からの意見もあった方がいいかと思いまして……」
優花里「秋山優花里、参上いたしました!」
優花里「まあ話は大体通話状態にしてもらってた携帯越しに聞かせてもらってましたよ」
優花里「……でもそこまでしてあげてるなら、さすがにあの西住まほ殿といえど、話をしてくれるんじゃ……」
アンチョビ「……それが……」
アンチョビ「食べて、くれなかったんだ……」
みほ「え?」
アンチョビ「折角頑張って作ったのに……」
アンチョビ「手をつけてくれないし、理由も言ってくれないし……」
アンチョビ「気付いたらテーブルの上に、サイゼリヤのレシートが置いてあって……」
みほ「何それ、ひどい……」
アンチョビ「ミラノ風ドリアが食べたいなら言ってくれたらいくらでも作ったのに!!」
優花里「あ、そこなんですね」
アンチョビ「勿論サイゼリヤに負けたこと自体もショックだ!」
アンチョビ「……いや、やっぱり、一番ショックだったのは、一生懸命作ったのに食べて貰えなかったことだ……」
アンチョビ「あれは……堪えた」
アンチョビ「堪えすぎて……」
アンチョビ「その……」
みほ「?」
アンチョビ「まほの部屋の前で、私だってもう絶対口きいてやらないし二度と話かけてやらないって言っちゃったんだよおおおおお!」 ウワーン
優花里「怒ることに慣れてないからたまに怒ると暴走しちゃうんですかねえ」
みほ「でも普段怒ってる逸見さんも平気で暴走して超えちゃいけないライン超えちゃってたよ」
アンチョビ「そんなわけで、私から喋りかけ辛くって……」
優花里「なるほどー」
みほ「お姉ちゃんの言い分を聞いてないし、喧嘩の発端も分からないけど……」
みほ「でもアンチョビさん視点だと、お姉ちゃんに非があるよね……」
アンチョビ「うう……」
アンチョビ「仲直りはしたいけど、でも、その、悪くない所まで謝るのもなあって思ってさ」
アンチョビ「……私だけが一方的にへりくだるんじゃなくて、二人で謝罪し合いたいなd」
アンチョビ「そのためのアドバイスがどうしてもほしくてさ」
みほ「うーん……」
みほ「お姉ちゃん、ナチュラルボーン勝者って感じだから、その辺謙虚になれるかな……」
優花里「完全無欠って感じですし、謝罪とか慣れてないイメージ有りますよね」
アンチョビ「い、いや、さすがにそんなことはないと思うが……」
みほ「でも、こっちから折れて、味をしめられても困るかも」
優花里「確かに、何か揉めたらアンチョビ殿が折れる、というのがパターン化すると、向こうはそれを見越してしまって今後謝ってこなくなる恐れがありますもんね」
アンチョビ「そ、そうかあ?」
優花里「そうですよ!」
優花里「私なんて、何か揉める度に地べたに額をこすりつけるのが習慣になってしまってますし!」
アンチョビ「うわぁ何それ聞かなかったことにしていいやつ?」
優花里「こうなれば徹底抗戦するしかないのではないでしょうか」
優花里「持久戦に持ち込めば、なんとかなるかもしれませんし……」
アンチョビ「ちょ、長期戦はダメだ!」
優花里「「……と、言いますと?」
アンチョビ「……」
アンチョビ「その、一緒に住んでるんだし……」
アンチョビ「そんなに長いこと会話しないなんて不可能だだろ!」
アンチョビ「そ、それに……」
アンチョビ「寂しくて、こう、耐えられるわけないじゃないかあっ///!」
優花里「大丈夫ですよ、2ヶ月誰とも口をきかずにいたことがありますが、全然余裕でしたから」
みほ「私も黒森峰でやらかしちゃった後はそういうことになったけど……」
みほ「3ヶ月くらい誰とも話さないと、声の出し方を忘れるメリットが――」
優花里「確かにそうなんですよねえ」
優花里「私の場合は利便性が高い「ありがとうございました」だけは店員さんとかに使ってたので、そこまででしたね」
アンチョビ「胸が痛くなる新情報がポコポコ出てきてついていけないんだけど」
みほ「長期戦は駄目、こちらから謝罪も難しいとなると――」
みほ「お姉ちゃん自ら声をかけさせるしかありませんね」
優花里「……そんなことができるでしょうか?」
みほ「……」
みほ「とりあえず明日、東京に出ましょう」
優花里「え?」
みほ「ケータイでアンチョビさんに指示を出したり現地の状況を伺います」
みほ「でも、電話のやり取りには限界がありますし……」
みほ「いつでもアンチョビさんのフォローが出来るようにしておかないと……」
みほ「ボコカフェもやってますし……」
アンチョビ「目的そっちなら無理しなくていいんだぞ?」
みほ「いえ」
みほ「交通費まで出してもらうのにそこまで甘えるわけには……!」
アンチョビ「何かしれーーーーっと私持ちにされてるんだけど」
アンチョビ「いやまあ助けてもらうからいいけどさ……」
みほ「そうと決まれば作戦会議ですね」
優花里「思わず西住まほ殿が喋りかけたくなるような何かを考えるんですね!」
みほ「はい」
みほ「心の岩戸に閉じこもったお姉ちゃんを引っ張り出すために、ついつい気になることをする――」
みほ「名付けて、どんちゃん作戦です!」
アンチョビ「お、おお……?」
優花里「天岩戸のためどんちゃん騒ぎをした神々のようなものですもんね、私達!」
みほ「うん」
みほ「実際にどんちゃん騒ぎをするわけじゃないけど……」
みほ「気になって声をかけさせればいいんだったら、方法はありますから」
まほ「…………ん」
まほ「うー……頭が痛い……」
まほ「サイゼリヤでワインなんて飲むもんじゃないな……」
まほ「安斎も絶対怒って夕飯なんて作ってくれてないと思ったのに、まさか作ってくれているなんてなあ」
まほ「食べすぎて腹いっぱいだったから手をつけられなかったのはもったいなかったな……」
まほ「口を開くと吐きそうだったから、直接食べれない旨は言えなかったが――」
まほ「レシートを置いておいたから伝わってるはず……」 ノソノソ
まほ「安斎……?」
まほ「まだ居ないのか……」
まほ「……」
まほ(少し――私も大人気なかったかな……)
あまりに眠いので一端中断します
今夜の透華で終わらせたい
眠気で結構誤字ってるけど、脳内補完してもらえればと思います
>>12のメリットはデメリットの間違いです
投下します
まほ「……」
まほ(広いな……)
まほ(一人になると、ルームシェア用の部屋はこんなに広く見えるのか……)
まほ「……」
まほ(ま、まさか帰ってこないなんてことはないよな……!?)
まほ(いや、でも、突然出ていって向かうところと言えばアンツィオの学園艦か実家だよな……)
まほ(どちらだとしても、まさか長く帰ってこないんじゃ……)
まほ「……」
まほ「安斎の写真……」
まほ「うう……このまま写真相手に一人遊びをする寂しい人生になってしまうのか……?」
まほ「うう……安斎ぃ……」
まほ「さみちいよう」 メソメソ
ガチャッ
まほ「ッ!!!!」
アンチョビ「……」
まほ(か、帰ってきた!?)
まほ(いかんいかん、威厳とかイメージとかあるし早く写真を戻して――)
バラバラバラ
まほ(うわああああああ棚の上の物が!ああ!)
アンチョビ「……」
アンチョビ「!」
アンチョビ(棚の上の物が落とされてる……)
アンチョビ(二人で取った写真まで落とされてて……)
アンチョビ(ぜ、絶対まだ怒ってるけど……)
アンチョビ(で、でも、物に当たるくらいなら、不満を真正面から言ってくれればいいじゃないかっ……!)
アンチョビ(もう! こうなったら絶対向こうから謝らせてやるんだからなっ!)
まほ(と、とりあえず、あとで片付けるとして……)
まほ(ま、まずは振り返って、おかえりを言おう……)
まほ(多分安斎は怒ってる……ただいますら言ってないもんな……)
まほ(まずはおかえりを言って、それで――)
まほ「――――――――!?」
アンチョビ「……」
アンチョビ「……」 スッ
まほ(え、ちょ、何ッ……!?)
まほ(顔がちょっと悲しそうかつ怒ってるのは、予想はしてたけど……)
まほ(安斎のやつ、なんで――)
まほ(なんで頭にチョココロネをつけているんだ……!?)
優花里「それにしてもさすが西住殿、軍師ですね……」
優花里「まるでドリルヘアーのようにチョココロネを頭に装備する」
優花里「突然喧嘩中に同居人がそんな行動に出たら、何があったか声をかけずにはいれませんよ!」
みほ「お姉ちゃんは、そう簡単には素直になれないと思うんです」
みほ「ずっとお母さんに西住流後継者としてのあり方を強いられて来たから……」
みほ「常に未来の西住流後継者として相応しいようクールぶらされてるし……」
みほ「そんなお姉ちゃんを正攻法から破れるかどうかは怪しいです」
みほ「アンチョビさんの対人火力があれば可能そうですが……」
優花里「我々は、二人の間柄を詳しく存じ上げてるわけじゃありませんもんねえ」
みほ「スペックも分からないのに、真っ向からは仕掛けられない」
優花里「そこで搦手! 頭にチョココロネを装備することで、思わずツッコませようというんですね!」
みほ「はい」
みほ「名付けて、ぱくぱく作戦です!」
みほ「仲直りして、頭につけた2つのチョココロネを2人でぱくぱくするのがゴールですから!」
アンチョビ(う、うおおおおおおおおおお)
アンチョビ(恥ずかしいいいいいいいい)
アンチョビ(こっちも声かけてくれたら返事するし、会話出来るようになったら2人でごめんなさいすればいいから!)
アンチョビ(だから早くツッコんでこいッ!)
まほ「……」
まほ(とりあえずリビングまで追いかけてきたが……)
まほ(いや、あれ、やっぱり何度見てもチョココロネだよな……)
まほ(ええ……どうしたんだ……?)
まほ(こんなこと、生まれて一度も経験したことないが、陽気なアンツィオなら普通なのか?)
まほ(いや、それとも黒森峰が陰気で堅物すぎるだけで、世間ではああいうのが普通なのか?)
まほ(だ、だめだ、分からなさすぎて下手に突っ込めない……)
まほ(変に突っ込んで地雷を踏むわけにはいかないからな……)
まほ(西住流に撤退はないが、しかし知波単とは違うんだ、知波単とは)
アンチョビ(おおおおおおおおい、全然触れてこないぞ西住ぃぃぃぃぃ!?)
アンチョビ(むしろなんか目をそらされてる気がするぞ!?)
アンチョビ(い、いや、でも西住のアドバイスだしな……)
アンチョビ(間違いないよな……?)
※西住みほは対人コミュニケーションにおいては無能軍師である
アンチョビ(と、とりあえず……)
アンチョビ(やはり食事は最高のコミュニケーションというし……)
アンチョビ(朝ご飯にしよう……) モギッ
まほ「!?」
まほ(も、もいだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!)
まほ(一応髪型気取りなのかと思ってたけど、もいだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!)
まほ(い、いや、まあ、学生時代の髪と違って今回のは100%ウィッグというか地毛じゃないのは分かってたけども!)
アンチョビ「……」 モキュッ・・・モキュッ・・・
まほ(そして食べたぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!)
まほ(ええええええええ!?)
まほ(あれ食用なのか!?)
まほ(いやチョココロネなのは分かってたけども!!)
まほ(すぐ食べるのに頭につけてたのか!? なんで!?)
アンチョビ「……」 ゴックン
まほ(た、食べ終わった……)
アンチョビ「……」
まほ「……」
アンチョビ「……」
まほ「……」
アンチョビ「……」
まほ「……」
アンチョビ「……」 モギッ
まほ「!?」 ビクッ
アンチョビ「……」 ソッ
まほ「!?」
まほ(な、なんだ……!?)
まほ(もいだコロネをこちらに差し出してきて……)
アンチョビ「……」
アンチョビ(うう……全然リアクションがないから思わずこちらから歩み寄ってしまった……)
アンチョビ(とりあえず食べてもらおう……)
まほ(ど、どういうことなんだこれは……)
まほ(いや待て、考えることから逃げるな)
まほ(西住流に逃げるなどという概念はない)
まほ(確かに対人関係においては悪し住流などと揶揄されることが多い我が一族だが……)
まほ(しかし、相手の意図を見抜く洞察力や頭の回転ならば他に引けを取らない)
まほ(この理解不能な局面を、なんとしても乗り切るんだ!)
アンチョビ(うう……)
アンチョビ(何のリアクションもないせいで、どうしたらいいのか……)
まほ(差し出したまま動かない……)
まほ(このコロネを差し出したポーズに何か意味があるのか……?)
まほ(安斎が握っているのはチョココロネの太い部分の方)
まほ(この形に意味が?)
まほ(……いや待て)
まほ(それならば、袋を開けて本体を持った方が分かりやすいはずだ)
まほ(つまりパッケージに何か意図があるのか……?)
アンチョビ(うう……今更引っ込めるのも気恥ずかしいし……)
アンチョビ(や、やっぱり、この作戦失敗だったんじゃないのか西住ぃ~~~~……)
※西住みほは対人コミュニケーションにおいては無能軍師であり、当然のように失敗である
まほ(パッケージ……極々普通で手は加えられていない……)
まほ(……)
まほ(いや待て!)
まほ(手は加えられていないが――)
まほ(手は添えられているじゃないか!)
まほ(手で商品名の『チョココロネ』の『チョコ』部分が死角になっている……)
まほ(つまり伝えたいメッセージは『コロネ』……?)
まほ(しかしこれだけでは意図が――)
アンチョビ(うう、完全に黙りこくられた……)
アンチョビ(やっぱり袋から出してないとはいえ、頭から外したコロネなんていきなりは食べられないよな……) スッ
まほ(引っ込めた……?)
まほ(もう十分だと判断したのか……?)
まほ(……)
まほ(なるほど、そういうことか)
まほ(これは安斎に“差し出された”もの――)
まほ(つまり“差し出した”という動作にも意味がある……)
まほ(しかしそれでも行き詰まるな……)
まほ(……)
まほ(差し出す時のオノマトペか……?)
まほ(そっと差し出す――つまりキーは『そ』か……?)
まほ「……」
まほ「!」
まほ(いや、違う!) ガタッ
アンチョビ「!」 ビクッ
まほ(昨日までまで歩み寄ってきた安斎が、ここに来て急にそっけなくなったことこそがヒントッ!)
まほ(そっけない――つまり『そ』や『け』ではないッ!)
まほ(となると他の候補オノマトペは、「す」ッ!)
まほ(そしてこの音を「コロネ」に添えると――)
まほ(『コロスネ』――『殺すね』ッ!)
まほ(なんてことだ、これは安斎からの徹底抗戦のメッセージだったのかッ!)
まほ(クソッ、たしかに私も悪かったが……)
まほ(まさか殺害予告まで回りくどく出されるなんてっ……!)
まほ(……)
まほ(安斎と争いたくなんてないが……)
まほ(西住流に、逃走の二文字はないッ!) ギロッ
アンチョビ「!?」
まほ(確かにこちらにも非はあるが――宣戦布告をしてきたのはそちらだ)
まほ(これが口をきかないという冷戦なのだとしたら!)
まほ(その勝負、乗ってやろうじゃないかッ)
まほ(1年生エース扱いで贔屓等と陰口を叩かれ一人で学生生活を送ったことで身につけた鋼の心を見せてやるッ)
アンチョビ(な、なんか睨んでるぅ~~~~……) ヒーン
※西住まほも、心酔する逸見エリカを戦場外でまるでコントロール出来てないくらいのに渉外をほぼ投げてるくらいには、対人コミュニケーションが苦手である
アンチョビ「助けてくれ西住! まほが口をきいてくれないうえに睨んでくるんだ!!」 バーン
みほ「ええ……おかしいですね……」
優花里「さすがは西住流次期後継者……」
優花里「一筋縄では行きませんね……」
アンチョビ「うう……」
アンチョビ「自然なドリルヘアーに見えるようにって、ここでセットしてからそこそこの距離を歩いて行ったのに……」
優花里「うーむ、であれば、不肖秋山優花里、作戦の第二弾を提唱させていただきます!」
みほ「えっ」
みほ「でも私以上に友達居ないんじゃ……」
優花里「うっ、そ、それはそうですが――」
優花里「しかしだからこそ!」
優花里「友達を作るために、鉄板で話が盛り上がるやつなんかも調査したんですよ!」
優花里「……結局戦車の話がしたすぎて、それで会話を切り出してもすぐ戦車ネタに走っちゃうからずっと孤立してましたが……」
優花里「ともかく!」
優花里「私を信じて下さい!」
優花里「昨年救っていただいた恩を、今こそ返させて頂きますっ!」
アンチョビ「あ、ああ」
アンチョビ(この子は人懐っこい感じだし、戦車ネタさえ控えれば普通の子っぽいから、信頼しても大丈夫だろ……たぶん……)
ガチャッ
アンチョビ「……」
まほ(……また帰ってきた……)
まほ(距離を置くため実家に帰ったりはせず、あくまで徹底抗戦というわけか……)
アンチョビ「……」 ゴト
まほ(なんだアレは……)
まほ(ラジカセか……?)
アンチョビ「……」 ポチ
ラジカセ「ゆぅめ~じゃあない~あれもこれもぉ~♪」 ズンチャズンチャ
まほ「?」
ラジカセ「その手ぇ~でドアを~開けましょぅおぉ~う♪」 ブンブカドンドン
まほ(なんだ? 突然爆音で音楽をかけ始めたぞ!?)
ラジカセ「しゅうく~ふぅくが~欲しいのならぁ~♪」 ズンドコズンドコ
アンチョビ「……♪」
まほ(体を揺らしてビートを刻んでる……)
ラジカセ「悲し~みを知り独ぉ~り~で泣ぁきましょ~う♪」 ブンチャカブンチャカ
まほ(なんだ……何を企んでいる!?)
ラジカセ「そしてぇか~がや~くウルトラソウッ!」 ハァイ!
まほ「!?」 ビクッ
アンチョビ「……」
ラジカセ「キュルルルルル」
まほ(巻き戻っている……?)
ラジカセ「ゆぅめ~じゃあない~あれもこれもぉ~♪」 ズンチャズンチャ
まほ(ま、また流れ始めただと……!?)
優花里「思わず皆で合いの手を入れたくなる音楽を流す……」
優花里「これなら、あの西住まほ殿といえど、思わずハァイ!と合いの手を入れてくれるはずです!」
優花里「そして口をきかないという行動が崩壊し、意地を張る必要がなくなった二人は素直に謝れるんですよ!」
みほ「…………」
優花里「あっれー!? 何かゴミを見るような目で見てませんか西住殿!?」
みほ「いや、別にそんなことはないけど……」
みほ「でも排水口に溜まった髪の毛を見るときみたいな目にはなってたかも」
優花里「ゴミですよねソレ!?」
みほ「でも、そんな上手くいくのかなあ」
優花里「いきますよ!」
優花里「ウルトラソウルはすごいんですよ!」
優花里「給食のとき、クラスの男子も女子も揃って合いの手を入れて騒いでましたし!」
みほ「へえ……そんなことが……」
優花里「まあ私は特に合いの手を入れず、その次に流れた軍歌に合わせて砲撃音の声帯模写を披露して教室中を静まり返しちゃったんですけどね」
みほ「へ、へえ……そんなことが……」
みほ「何だか少し、お友達が少なかった理由の一端が見えたような……」
優花里「うっ、で、でも、あれは結構一部で密かにウケてたんですよ!」
優花里「おかげで、中学一の戦車馬鹿として有名になりましたし!」
みほ「そ、そうなんだ……」
優花里「その後はクラスの皆が私のことをパンツァーキチガイという愛称で呼んでくれるようになったんです!」
みほ「目を輝かせてくれてるから凄く言い辛いんだけど、それって愛称じゃなくて蔑称なんじゃ……」
優花里「そ、そんなことありませんよ!」
優花里「いわば私は中学のパンツァーガール代表ということなんですよ!」
優花里「パンチパーマ秋山パンツァーキチガイ、略してPPAPとして幅広く親しまれたんですよ!」
みほ「そ、そう……なんだ……」 オォン・・・
優花里「まあPPAPであることが広まったからか、戦車関係のことで誘われることはほぼ皆無になったんですが……」
みほ「あ、戦車関係のことでは誘われたんだ」
優花里「いえ、そんなイベントは一度もなかったので推測です」
みほ「あ、うん、なんかごめん……」
優花里「まあでも、卒業式のあとは、クラス全員でカラオケに行って、それには誘ってもらえたんです」
みほ「おお」
優花里「そこでもウルトラソウルを歌われたんですが……」
優花里「さすがに周り全員が歌っていてマイクを向けられたら、私もついハァイ!と叫んでしまいまして……」
優花里「最終的にはクラス全員でハモってましたよ」
優花里「そのくらい、ウルトラソウルはつい歌いたくなっちゃう曲なんです!」
みほ「そうなんだ」
みほ「……」
みほ「でも、アンチョビさんも口をきかないって姿勢なら歌うことはできないし、周りが歌ってるから~って条件は作れないんじゃ……」
優花里「……」
優花里「あっ!」
アンチョビ「助けてくれ西住! 何か全然効果がないしむしろなんか気まずくなったんだが!!」 バーン
みほ「まあ、お姉ちゃん、ウルトラソウルも多分よく知らないでしょうから、そうなるかなって……」
アンチョビ「気付いてたなら教えてくれよお!」 ガビーン
優花里「うーむ、しかしチョココロネでも駄目、ウルトラソウルでも駄目となると……」
優花里「もしや万策尽きたのでは!?」
アンチョビ「え、尽きるの早くない?」
華「お待たせしました」 ガラッ
アンチョビ「おお……」
アンチョビ「お邪魔してます」
みほ「ごめんね、部屋借りちゃって」
華「いえ」
華「頻繁に展示会で使うから所有してる建物ですけど、今はオフシーズンですし……」
華「お泊まり会や、こういう楽しいことに使って頂けるのであれば」 ウフフ
アンチョビ「いや、私にとっては楽しいことってわけじゃ……」
華「ええ」
華「ですので――」
華「打開策を、準備してたんです」 フフ
まほ「……」
まほ(何のつもりか知らないが、危なかった……)
まほ(何度も再生する内に、あれがラストでノリよくハァイ!と叫ばせるためのものだと分かってはいたが……)
まほ(最後にもう一度ダメ押しでマイクを向けられていたらやばかっただろうな……)
まほ(だが私は勝ったッ)
まほ(マイク差し出すジェスチャーが空振りして安斎は逃走ッ)
まほ(しのいだぞ、この局面ッ)
ガチャッ
まほ「!」
まほ(帰ってきたか……)
まほ(だが、チョココロネの宣戦布告からのラジカセで決めるつもりだったはず)
まほ(他に何かあるとしても、大したことは――――)
アンチョビ「……」 ブラーンブラーン
まほ「ッ!」
まほ(ど、ドリルに朝顔巻きついてるーーーーーーー!?)
華「ウルトラソウルは、いわば剛の力」
華「北風と太陽でいう、北風――」
華「コートを脱がせるのは、剛柔併せ持つもの……」
優花里「なるほど、それでお花なんですね!」
みほ「華さんも、剛と柔を併せ持ってますしね」
優花里「しかし……よかれだけ綺麗に朝顔の蔦を巻けましたねえ」
優花里「さすが、お花の扱いに慣れてるだけります」
みほ「植木鉢ごとプラプラしてたし、ここから家までの移動すごい恥ずかしいだろうけどね」
みほ「何にせよ――」
みほ「この朝顔作戦で、勝負を決めてもらいましょう」
みほ「午後ゆっくりボココラボカフェに行くために!」
まほ(朝顔だよな!?)
まほ(どこからどう見ても朝顔だよなあ!?)
まほ(なんで片方1つずつぶら下げてるんだ!?)
アンチョビ「……」 ジョロロロロ
まほ(水をあげてるーーーーっ!?) ガビーン
まほ(なんだアレ!? なんなんだアレは!?)
まほ(き、聞きたいっ……)
まほ(でもあれだけ口をきかないとかいって揉めておいて、宣戦布告を受けておいて)
まほ(わぁ、それ朝顔?なにそれオシャレ?)
まほ(なんて聞けるわけないじゃないかっ!)
まほ(そんなアホみたいな言葉で和解の最初の一歩を踏み出せるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!)
アンチョビ「……」
まほ「……」
アンチョビ「……」
まほ「……」
カッチッ
カッチッ
アンチョビ「……」
まほ「……」
まほ(時計の音と、時折ぶら下がる植木鉢がぶつかる音だけが聞こえる……)
アンチョビ「……」
まほ「……」
アンチョビ「……」 ガタン
まほ「!」
アンチョビ「……」 カチャンカチャンカチャン
まほ「……ッ!」
まほ(いかん、揺れ動く植木鉢のせいで、思わず笑い出しそうに……!)
まほ(クソッ、一応喧嘩中なのに、こちらからそんなふうに吹き出すわけには……!)
アンチョビ「……」 ジィー
まほ「~~~~~っ」
アンチョビ「……」 ガチャッ
バタン
まほ「っし耐えたぁ……!」 グッ
アンチョビ「助けてくれ西住! あの空間にちょっと耐えられそうにない!!」 バーン
華「やはり……なかなか手ごわいようですね……」
優花里「駄目だったなら朝顔外してきたらよかったんじゃあ……」
アンチョビ「ガッツリ蔦が絡まっていて取れないんだよお!」 カチャンカチャンカチャン
華「……本当にウィッグじゃなくて地毛なんですねえ」
みほ「待って下さい!」
アンチョビ「ふえ?」
みほ「さっきアンチョビさんが戻った時に、アンチョビさんの携帯電話を通話状態で置いてきてもらいました」
優花里「簡易盗聴ですね」
華「通話料金は大丈夫なんでしょうか……」
みほ「まあ、それはアンチョビさん持ちだからおいておくとして――」
みほ「とにかく携帯で向こうの音声を聞いていたんですが、どうやら効いてはいるようです」
アンチョビ「何!?」
みほ「頑張ってこらえてはいるみたいですけど、思わず触れてしまいそうになっていたようですね」
みほ「つまりこの方向で伸ばしていきましょう」
アンチョビ「え?」
みほ「つまり――こういうことです!」
ガチャッ
まほ(……また性懲りもなく何かしているのか……?)
まほ(だ、だが、何かしてくるとわかっていれば怖くなど――)
アンチョビ「……」 カチャンカチャンカチャン
アンチョビ「……」 カチャンカチャンカチャン
まほ(朝顔は変わらずぶら下がっている……)
まほ(一見するとそんなに変わってないが……)
アンチョビ「……」 クルッ
まほ「ンフッ」
アンチョビ「……」 チラッ
まほ(い、いかん、思わず声が……) サッ
まほ(な、なんだあれっ……)
まほ(あ、安斎のドリルに、目が……可愛らしい目がっ……!)
みほ「お姉ちゃんは人とのコミュニケーションが積極的ではありません」
みほ「でも――チームをまとめ上げるものとして、最低限のことはしていました」
みほ「何か不穏なことがあれば探りを入れるし、引っかかるものがあればそこを調べずにはいられない」
みほ「だからコロネを使ったんですが――」
みほ「華さんのおかげでわかりました」
みほ「お姉ちゃんは、動きのあるものに弱い」
優花里「え……?」
みほ「どうやら朝顔の植木鉢がぶら下がって揺れる所が何故かツボに入っているようでした」
みほ「だから――」
みほ「さっきまでとは違って、アンチョビさんにも積極的に動いてもらえばいいんです」
みほ「ちょっとシュールな絵面で、思わず声を出させる――」
みほ「ばねくず作戦、開始です!」
アンチョビ「……」 イジイジ
まほ(自分のドリルで遊んでる……)
アンチョビ「……」 スッ
まほ(何か取り出したッ!)
まほ(あ、あれはボコ人形……!?)
アンチョビ「……」 カチャンカチャンカチャン
まほ(髪の毛で人形と戯れ始めた……!?)
まほ(あの目、髪の毛を生物に見立てているのか……?)
アンチョビ「~♪」
まほ「……」
まほ(か、可愛いっ……)
まほ(どうしよう、喧嘩中じゃなきゃ後ろから抱きしめたくなる可愛さじゃないか……!) ドキドキ
まほ「……」
アンチョビ「……」 カチャンカチャンカチャン
まほ(なんだ……?)
まほ(本を積み重ねて、階段を作っている……)
アンチョビ「……」 カチャン
まほ(そしてドリルを最上段において……)
アンチョビ「……」 ビヨーンビヨーンビヨーン
まほ(か、階段を頭のドリルが軽快に降りたぁ~~~~~~っ!)
まほ(あ、あれは見たことがある!!)
まほ(小学校のとき、同じクラスだった金ちゃんが持ってたバネの玩具の動きだ……!)
まほ(色はレインボーじゃないけど、でも確かにあの動きは……!)
まほ(い、いかん、ちょっと謎のツボに入って笑いそうに……!)
アンチョビ「……」 ビヨーンビヨーンビヨーン
ガッシィーーーン!
まほ(げ、ゲエーーーーーーーッ!)
まほ(本の階段の一番下によりかかっていたボコ人形が最下段まで降りてきたドリルに拘束されたァ!?)
まほ(普通に凄くて声を出しちゃいそうだし、目を切らなくちゃいけないはずなのに……)
まほ(ば、馬鹿なッ! 目が離せんッ!)
アンチョビ「……」 ギシギシギシ
グワッシャアアアア
まほ(ゲエーーーーーーーッ! ボコ人形がバラバラに!?)
まほ(どうなってんだそれ!?)
まほ(どういうことなんだそれ!?!?!?)
まほ(ぐ、ぐおお、だめだ……我慢しろ私……) プルプル
まほ(あれだけ不機嫌な顔して口をきかなかったんだぞ……)
まほ(今更バネの玩具っぽい髪型に目を輝かせて声かけるて大学生としてあまりにもアレだろっ……!)
アンチョビ「……」 スッ
まほ「!?」
まほ(な、なんだ!?)
まほ(今度は背中を丸めて手を差し出して……)
まほ(おんぶする、とでも言っているのか!?)
まほ(それとも別の何かか!?)
まほ(クソッ、まるでわからない!) グルグル
まほ(私はどうすれば――)
アンチョビ「……」
アンチョビ「……!」 ダッ
まほ(走った!?)
ガチャッ
バタン!
まほ(で、出ていった……?)
まほ「って、なんだったんだ一体!?」
アンチョビ「……なあ、これ本当にきいてるのか?」 ガチャッ
優花里「おかえりなさい」
みほ「大丈夫、バッチリきいてますよ」
みほ「お姉ちゃんはボコに詳しいわけじゃないから、五体バラせるボコフィギュアがあることは知らないし……」
みほ「このバネクズ作戦は概ね成功でした」
優花里「いやー、それにしてもそのドリルヘアーデビルトムボーイは惚れ惚れするキレですなあ」
アンチョビ「まあ、アンツィオの宴じゃ鉄板の宴会芸だったからな……」
アンツィオ「しかし本当にこれ効果あったのか……?」
みほ「はい」
みほ「残念ながらお姉ちゃんはキン肉マンを読んでないのでロングホーントレインの誘いには乗ってきませんでしたけど……」
みほ「さっきから、溜まった鬱憤を晴らすように、一人叫び散らしてます」
優花里「音を上げるのもそう遠くなさそうですねっ!」
アンチョビ「……」
アンチョビ(なんだろう、なぜだか目的からどんどん遠ざかっているような気がする……)
順調に眠気がマシてきたので、予定を変更して一端中断します
もう終わりは見えてるので今日の投下で今度こそ終わらせたいと思います
完全にダウンしてました、申し訳ない
投下します
ガチャ
まほ「ッ!」
まほ(また帰ってきた……)
アンチョビ「……」 カチャンカチャンカチャン
まほ(変わらず朝顔の植木鉢にドリルに目……)
まほ(おかしい、他に変わったところがどこにも――)
とぉるるるるるるん
とぉるるるるるるん
まほ「!?」
まほ(電話だと!?)
アンチョビ「……」 チラッ
まほ(電話が鳴っている……)
まほ(……私の前で声を出せるのか?)
アンチョビ「……」
とぉるるるるるるん
とぉるるるるるるん
アンチョビ「……」 チラッ
まほ「……」
まほ(あの安斎がくだらない意地の張り合いで、大事かもしれない電話を取らないなんてことは――)
アンチョビ「……」 クルッ
まほ(背を向けた――)
まほ(なるほどあくまで私に声をかけているのでなく、電話の相手と話しているだけという体を取るつもりか)
ピッ
アンチョビ「はいもしもし」
まほ(んなッ――――!?)
優花里「どうです西住殿!」
みほ「バッチリです!」
華「さすがに息ぴったりですね」
優花里「それにしても、まさか部屋に隠して盗聴器代わりにしているアンチョビ殿のケータイの代わりに私のケータイを使うとは」
みほ「あくまでコール音がすれば何でもよかったから……」
みほ「あとはアンチョビさんが電話に出たような素振りを取った時点で電話を切った準備は完了」
みほ「アンチョビさんが適当に相槌を打ったあとで部屋を出れば――」
アンチョビ「ただいまー」 ガチャ
みほ「ああ、おかえりなさい」
受話器の向こうから聞こえるまほの声『電話じゃなくて蛙じゃないか!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』 ダンッ
優花里「こっちも丁度、耐えきれず一人の部屋でツッコミを入れてるところみたいですよ」
みほ「題して、ドッピオ作戦です!」
優花里「このままジャンジャン振れさせてやりますよー!」
優花里「任せてください!」
みほ「どうやらお姉ちゃんには効いているようです」
みほ「弱った今が好機」
みほ「絶対に仕留めましょう!」
優花里「はい!」
華「はい!」
アンチョビ「お、おう……」
アンチョビ(なんだろうこのノリ……)
アンチョビ(アンツィオで培ったノリと勢いが通用しない独特の空気だ……)
ガチャ
まほ「ッ!」
まほ(まだ畳み掛けてくるのかっ)
まほ(そろそろ体がしんどいというのに、このしつこさ――)
まほ(効いていないと思わせているのに、見透かされているというのか!?)
アンチョビ「……」 スッ
まほ「……」
まほ(またしても格好は更新されていない……)
まほ(しかし何かがあるッ)
まほ(何もないわけがないッ)
とぉるるるるるるん
とぉるるるるるるん
まほ(!?)
まほ(また電話だと――!?)
アンチョビ「はいもしもし」
アンチョビ「おお、ペパロニか、どうした?」
まほ(今度はちゃんとケータイを取り出した……)
まほ(……いや、よく見るといつものケータイと機種は違うようだが……)
まほ(そんな細かいところに触れると思っているのか?)
まほ(喧嘩中だというのに?)
アンチョビ「おお。ああ、うん、覚えてるよ。和泉だろ?」
アンチョビ「なんだかんだで、あのあとも結構会ってるからな」
まほ(だとしたら、とんだ思い違いだ)
まほ(あまりにも楽観視が過ぎるというものだということを、教えてやろう!)
アンチョビ「そうだな。私からも言っておく」
アンチョビ「和泉なら快く引き受けてくれるだろうし、きっとお前達も和泉から学べることがたくさんあるはずだ」
アンチョビ「何せ相手は、現役黒森峰隊長様なんだからなっ!」
まほ「――――――――ッ!」
まほ(そ、そうきたかッ! 知らない友人の話かと思ったら、これ、これ――!)
受話器の向こうから聞こえるまほの声『“和泉”じゃなくて“逸見”だよソイツは!!!!!!!!』 ダンッ
みほ「思いっきりきいてるみたいですね」
優花里「やりましたねえ、西住殿!」
みほ「アンチョビさん、ここで勝負を決めます」
アンチョビ「勝負?」
みほ「一応、何か有益なアドバイスが貰えないものかと、ペパロニさんとカルパッチョさんにも意見を募っていたのですが……」
アンチョビ「いつの間に……」
アンチョビ「っていうか、連絡先知ってたのか」
優花里「チラシに番号乗ってたので」
みほ「それ単体だと、これまで通り、一人で叫ばれて終わりでしょうから――」
みほ「ここで、トドメをさすために、あることをしてもらいます」
アンチョビ「あること?」
みほ「お姉ちゃんは、何かどうしても抑えきれないものがあると、トイレに篭もるんです」
華「おトイレ……ですか……?」
みほ「はい」
みほ「さっきから最後に叫んでる声が少し遠く聞こえていたのも、トイレで叫んでいたからでしょう」
みほ「便器をロバみみホールにしている、と思ってもらえれば結構です」
アンチョビ「しかし何でそんな変な癖を……」
みほ「……西住流後継者として、弱音を吐くことは許されませんでしたから……」
みほ「弱音や聴かれちゃ不味いことは、全部おトイレに篭ってするようになって……」
みほ「それと1年生のとき当時の3年生に贔屓隊長などと言われてたせいで、1年間もトイレでご飯を食べてたらしいですし、きっとトイレに思い入れがあるんだと思います」
アンチョビ「少し泣く」
終わらせたかったんですがあまりに眠いので寝ます、申し訳ない
気付いたらスレ立てから1週間立ってたので、少しでも進めてから寝ます
みほ「そんなわけで、お姉ちゃん、さっきからトイレで便器に向かってツッコミをシャウトして気持ちを落ち着かせてるみたいですので……」
みほ「その習性を利用します」
みほ「お姉ちゃんはその習性がアンチョビさんにバレているとは思ってないはずですから」
優花里「そして畳み掛けるように、アンツィオの方々に聞いたアドバイスを取り入れることで」
優花里「あの西住まほ殿に白旗をあげさせるんですねっ!」
みほ「はい」
みほ「どんどん漏れて聞こえてくる声は大きくなってますし、そろそろ心も限界だと思います」
みほ「勝利はすぐそこです」
みほ「ここからの移動など、辛いことも多いでしょうけど――ここが正念場です」
みほ「絶対に勝ちましょう」
アンチョビ「お、おう……!」
アンチョビ「……」
アンチョビ(どんどん何やってんだろう私ってなってきたけど……付き合わせちゃってるもんな……)
まほ(くそ……)
まほ(もういっそ家を出てしばらく図書館にでも行くか……?)
まほ(いやだがそれだとまるで負けたみたいだもんな……)
まほ(西住流に無様な逃走などあってはならない……)
ガチャ
まほ「!」
まほ(来たかッ)
まほ「……」
まほ「……」
まほ「……」
シーン
まほ「……?」
まほ(なんだ……?)
ニュウッ
アンチョビ「……」
まほ「――――――ッ!?!?」
まほ(び、びっくりした……)
まほ(い、いきなり顔を出してきたうえに、ピザで顔を隠してるとは……)
まほ(相変わらずピザからはみ出した髪の毛には朝顔が巻き付いてるし、ちょっとどころじゃなく怖かったぞっ)
まほ(……今回は本当に危なかった)
まほ(危うく悲鳴という形で口をきいてしまうところだったが――なんとかこらえたッ)
まほ(イメージを崩さぬよう鉄面皮の練習をしてきた甲斐があったぞッ)
まほ(……まあ、ちょっと漏らしちゃったけど……)
まほ(だがこれで勝ちだッ)
まほ(さすがにこれ以上の切り札はあるまいッ)
みほ「反則気味ですが――」
みほ「驚かせることによって、声を出させる方法を取ろうと思います」
みほ「時間差で突然顔を出すんです」
華「なるほど……」
華「そこにペパロニさんのアドバイスであるピザを……」
優花里「仲直りにはピザっすよー美味いピザがあれば万事解決じゃないっすかー、って言ってましたもんね!」
みほ「なので顔面にピザをセットし突然あらわれることで、驚きの声を上げさせ、動揺のままに喋らせる――」
みほ「名付けて、ドッキリ作戦です」
優花里「これなら間違いないですね!」
みほ「はい」
みほ「ですが……お姉ちゃんも頑固さやポーカーフェイスという点ではそれなりに高いレベルを誇っています」
みほ「失敗した時のための二の矢が必要です」
みほ「そしてそれは、すでに伝えておきました」
みほ「もしお姉ちゃんが驚かされても声を上げず、それで勝利を確信していたとしたら――」
みほ「この勝負は、こちらの勝ちです」
アンチョビ「……」 スッ
まほ「――――ー!?」
まほ(な、なななななァ!?)
まほ(顔だけ出していた体勢から、全体が見えるよう部屋に入ってきたが……)
まほ(な、なんてことだ……!)
まほ(ツッコミどころがあるおかしな格好をしている可能性は想定していたのに……)
アンチョビ「……」 ポヨン
まほ(み、水着だなんてぇぇぇぇぇ……っ!)
まほ(ま、まずい、つ、つい見てしまうぞこれは……)
まほ(しかもなんだその結構きわどい感じのビキニは!)
まほ(お姉ちゃん許しませんよ!!!)
まほ(……)
まほ(そ、それにしても……)
まほ(お、思ったよりもでかいな……) チラッチラッ
アンチョビ「……」 カチャンカチャン
アンチョビ(うう……視線をすごい感じる……恥ずかしい……)
アンチョビ(でも西住達に加えて、ペパロニ達もアドバイスしてくれた結果だもんな……)
アンチョビ(最後まで、やり遂げるッ)
アンチョビ「……」 クルッ
まほ(む、後ろを向いたから胸が見えなくなってしまった……)
まほ(いや、だが、引き締まったヒップが――)
まほ「~~~~~~~ッッ!?!?」
まほ(び、ビキニが食い込んでティーバックみたいになっているッ……)
まほ(がッ! しかしッ!)
まほ(そこじゃあないッ! ヤバイのはッ!)
まほ(ビキニの布地だけでなく、何故かパンまでヒップに挟まっているッ!)
まほ(少し安斎が呼吸するだけで、尻尾みたいに動いてるじゃあないかッ!)
まほ「……ッ!」
まほ(なんということだ……)
まほ(これがギャグとエロの融合だと言うのかッ……)
まほ(ついつい触れたくなってしまうじゃあないか、畜生ッ)
アンチョビ「……」 ズポッ
まほ「!?」
まほ(右手の指を鼻の穴に挿した……!?)
アンチョビ「……」 シュッシュ
まほ(そして左手でボクシングを……!?)
アンチョビ「……」 カチャンカチャンカチャン
まほ(その動きで朝顔の鉢植えがカチャカチャうるさいし、安斎の胸もバインバインとうるさいッ)
まほ(まずいぞ、これは触れたくなるッ! 二重の意味でッ!)
みほ「喧嘩した時は色仕掛――」
みほ「カルパッチョさんのアドバイスをメインとした二の矢がはじまったようです」
優花里「音を聞く限り、もうボクシングは始めてるのに、まだ相手は喋らないみたいですねえ」
みほ「エッチな水着で集中力を乱すことでポロッと失策してほしかったんですけど……仕方ありません」
みほ「他のアンツィオの方から来た『困ったら一緒に運動しときゃいいんすよ』というアドバイスも取り入れたこのハイブリッド型の作戦」
みほ「声を出せないので命を大事に出来ませんが……どうせ言葉に出してもお姉ちゃんには伝わらなかったでしょうから……」
優花里「あ、でもこのグルグル作戦でも、なんとかギリギリ持ちこたえてそうです!」
優花里「ど、どうしましょう!?」
みほ「……」
みほ「撤退を指示しましょう」
華「えっ……?」
みほ「ただ逃げるのではありません」
みほ「逃げたと見せかけて罠にハメます」
みほ「これでトドメをさします!」
眠いので中断します
おそらくあと1回か2回の更新で終わりますのでもう少しだけおつきあい頂けたらと思います
めっちゃ眠たいうえに明日早いので、多分今日完結まで行きませんが、少しでも進めておきます
アンチョビ「……」 スゥーーー
まほ「……ッ」
まほ(クソッ、何でムーンウォークなんだ!)
まほ(しかも結構クオリティ高いし……!)
まほ(宴会か!? 宴会芸なのか!?)
まほ(アンツィオで無駄に鍛えたのかあ!?)
アンチョビ「……」 ガチャ
バタン
まほ「……ぶはっ」
まほ(くそっ、無駄に努力の結晶を見せてくるなんて……)
まほ(ピザの顔面は怖いし、胸は揺れてるし、朝顔の植木鉢もぶらぶらしてるしで、くそっ! くそっ!)
まほ(溜め込んだものを全部便器に吐き出そう……また帰ってくる前に、心ゆくまで吐き出してしまおう……)
みほ「――狙い通りですね」
みほ「お姉ちゃんはやはりトイレに向かった……」
みほ「根は真面目ですし、追い込まれたら基本に立ち返る癖もあります」
みほ「ここまでは想定通り」
みほ「でも――」
みほ「お姉ちゃんにとっては、ここからは想定外」
受話器越しに聞こえる声『な――――!?』
受話器越しに聞こえる音『ガチャガチャ』
みほ「トイレは封鎖しました」
みほ「これでもう発散することは出来ません」
優花里「行き場を失い溜め込まれたエネルギーを、あとは突付いて暴発させるだけですねっ」
まほ(ぐっ……)
まほ(なんだ……中に安斎がいるのか……!?)
まほ(いやそれはない)
まほ(トイレで鉢合わせたりしないよう、安斎が出ていくのでなくトイレに立っただけという可能性は常に想定していたッ……)
まほ(そして今回、ちゃんと玄関の扉の開閉音を聞いているッ)
まほ(限界が近くて早々に廊下に顔を出してトイレに向かったが、安斎の姿はなかった)
まほ(さすがにあの短い時間でトイレまで移動するのは不可能ッ)
まほ(そうなると――)
まほ「…………ッ!」 ハッ
まほ(そうか、さっき帰ってきたときッ……!)
まほ(顔を出すのに時間がかかっていると思ったが、アレはタメとかフリじゃあなかったんだ!)
まほ(1円玉かなにかを使って、外から鍵をかけたんだッ)
まほ(クソッ、道具さえあれば簡単に開閉できる扉であることがマイナスに作用したッ)
まほ「……」
まほ(いや……だが待て……)
まほ(本当に、そうか……?)
まほ(安斎にしては、先程から策が姑息だ)
まほ(……まさか……)
まほ(ブレインとして、誰かが指揮を取っている……?)
まほ(アンツィオの連中が噛んでいるのか?)
まほ「……」
まほ(いや……)
まほ(あのフザケたノリはそれっぽいが……)
まほ(アンツィオの生徒には出せない“いやらしさ”を全体から感じる……)
まほ(安斎が頼りそうで、なおかつ狡猾に罠をはり、馬鹿な見た目でそれを隠す知能があるとすれば――)
まほ(みほか、ダージリン……)
まほ(……だとすると、クソッ、だめだ、ドアを無理やり開けることは出来ないッ)
まほ(あの2人なら、安斎をトイレに隠れさせたあと、自分達が玄関のドアを開閉して居場所をごまかすくらいしてくるッ)
まほ(今の限界状態でトイレで安斎と鉢合わせするのは不味いッ)
まほ(黙ってスルーする自信がないぞッ)
まほ(くそっ……)
まほ(どうする……!?)
ガチャ
みほ「おかえりなさい」
アンチョビ「あ、ああ……」
優花里「どうやら、向こうは深読みして足踏みをしているようですよ!」
優花里「畳み掛けるなら今ですよ!」
アンチョビ「あ、ああ……そうだな……」
アンチョビ(協力してくれてるんだし、あんまり無碍には出来ないけど……)
アンチョビ(なんだろう、我に返ってきた……)
みほ「それでは、お姉ちゃんにとどめの一撃をどう入れるかの最終会議を――――」
ガチャッ
アンチョビ「?」
???「やだもー、もしかして結構もう話盛り上がってる?」
???「ごめんね遅くなって」
アンチョビ「お、お前は……」
???「麻子が全然起きなくって……」
アンチョビ「武部沙織!」
沙織「お久しぶりでーす」 ヒラヒラ
眠気が限界なので寝ます、申し訳ない
眠いですが放置状態に入りかねないのでちょっとだけ投下してサクッと終わりに向かいたいと思います
沙織「聞きましたよー」
沙織「みぽりんのお姉さんとお付き合いしているんだとか……」
アンチョビ「ん゙な゙っ!?」
アンチョビ「べっ、別にそーいうわけじゃなくてだな///!」
アンチョビ「た、たしかに一緒に住んではいるけど、断じてそういう、こう、アレなソレでは……っ///」 アタフタ
華(あれは付き合ってますよね……)
優花里(完ッ全に付き合ってる??ですね)
みほ(少なくともお姉ちゃんは絶対性的に見てる)
沙織(かわいいなーもー)
アンチョビ「と、とにかくっ///!」 コホン
アンチョビ「同棲しているまほとちょっとした喧嘩をだな……」
麻子「……“同居”じゃなくて“同棲”なんだな」
アンチョビ「あーもう、いいだろそこはどっちでも///!」
沙織「私としては結構そこ大事だけどなー」
沙織「付き合ったあとなのかどうかで戦法も変わってくるし」
麻子「まあお前は誰とも付き合ったことがないからな」
華「付き合っていたら戦力外ということでしょうか……」
沙織「もー!」
沙織「今はたまたま相手に恵まれないだけ!」
沙織「女子校だから出会いがないだけで、私だって大学生になれば彼氏の一人や二人くらい……」
麻子「無理するのはやめておけ、どうせ無理だし傷つくだけだ」
華「それに出会いなら女子校でもありますよ」
沙織「とにかく! ここはこの恋愛マスターの私がびしっと解決するから!」
麻子「無理だな」
華「ペーパードライバーのゴールド免許みたいな“マスター”ですね……」
沙織「無事に解決したら、その、大学生を紹介するか、合コンを開いてもらえたらなーって」
麻子「戯言だ、無視していいぞ」
華「報酬を要求するのはよくありませんよ、ええよくないです」
まさかの即寝落ち申し訳ありませんでした
仕事なんで一端中断
夜またやります・・・
今日も早寝予定ですが少しだけ進めます
華「それに、女心が理解出来ているとはとても……」
沙織「もー、そりゃ私はオトコノコの方が好きだけど……」
沙織「でもでも、誰より恋愛については興味津々で調べてるんだからねっ」
麻子「少女漫画を読み漁るのは調べているとは言わんぞ」
華「ドSツンデレ王子様系モテ男子に惚れられるタイプの恋愛映画を毎週レンタルするのも勉強とは……」
沙織「ううっ」
優花里「フィクションと現実は違いますからねえ」
優花里「私も戦車道の試合を見ているだけだった頃と、実戦経験を積んだあととじゃ、全然見える世界が違いましたし」
沙織「うぐうっ!」
アンチョビ「……」
アンチョビ(そうなんだよなあ、私の知識も所詮は小説仕込みなんだよなあ……)
アンチョビ(だから速攻頼ったんだけど……)
アンチョビ(……)
アンチョビ(色々不安になってきてるし、違う角度の意見を出してほしい……)
みほ「まあまあ……」
みほ「とりあえず、意見だけでも聞いてみていいんじゃないでしょうか」
みほ「何だかんだで、社交性の高い沙織さんの意見は貴重ですし……」
麻子「……まあ、西住さんがそう言うなら」
沙織「えーっとね、こういうのは奇を衒うより基本に忠実な方がいいんだよ!」 フフン
アンチョビ(いきなり真逆の行動方針だ……)
沙織「基本戦法その1!」
沙織「男は胃で掴む!」
麻子「男じゃないし、本当に口に出すのも躊躇われるレベルの有名所出してきたな……」
沙織「いいじゃん!」
沙織「有名ってことは、それなりに効果があるってことなんだよ!」
沙織「美味しい料理は心を掴むだけじゃなく、食事の場は空気が和らぐし、笑顔も生まれる」
沙織「ましてやアンチョビさんの料理なんだから、団欒出来ないわけがないもん」
沙織「一緒に食卓を囲んで、最初はぎこちなくても、ちゃんと面と向かって話していれば、食べ終わる頃には仲直りできてるよ!」
アンチョビ「な、なるほど……」
優花里「でも、もうそれやりましたよね」
沙織「え?」
アンチョビ「え?」
優花里「さっきアンツィオの人に食事戦法を聞いて、作戦に盛り込んだんです」
沙織「そっか、そうだったんだ……」
アンチョビ「え、ええ?」
アンチョビ(ピザのマスクで顔面隠してただけで、胃袋は掴んでなくないか……?) ← 助けてもらってる手前、気を使って口に出せない
みほ「でもおかげで、私達の作戦が間違ってないことの後押しにもなりました」
みほ「やはり上手く作戦は効いていて、お姉ちゃんを追い詰めることが出来ているはずですっ」
沙織「じゃあ、えーっと、えーっと」
沙織「お色気作戦とか……?」
沙織(恥ずかしいけど、あんこうの皆はこういうの提案できないだろうし……)
沙織「あんまり良くないことかもしれないけど、やっぱり、こう、そういうのでちょっと許しちゃおうかなーってなることもあるんだって」
沙織「勿論それだけで解決するのはどうかと思うけど……」
沙織「グッと距離が近くなるし、壁を壊してからなら素直な気持ちが言いやすいはずっ」
アンチョビ「なるほど確かに……」
沙織「そ、それに、ほら、ベッドの中で枕を並べるのが一番素直な気持ちを言える、的な///?」 キャッ
アンチョビ「ばっ、おま、そーいうのはちょっと早っ……///」 アワアワ
優花里「それももうやりましたよね」
沙織「え?」
アンチョビ「え?」
優花里「もうとっくにセクシー水着であれこれしたあとなんですよ」
沙織「そうだったんだ……」
アンチョビ「ま、まあ、確かにきわどい水着を着たりはしたが……」
アンチョビ(移動が恥ずかしすぎるからさすがにさっき家出た瞬間服着てピザも外したけど)
みほ「でもこれで、やはり方針は間違ってなかったことが証明されました」
みほ「あとはもう一押をするだけです」
アンチョビ「……」
アンチョビ(西住達のやり方がおかしいとまでは言わないけど、少なくとも今言われてる意見のやり方とは全然違う使い方をしていたような……)
麻子「全然役に立ってないな」
沙織「も、もう! しょうがないじゃん!」
沙織「途中からだったし、何したか知らないんだもん!」
沙織「じゃあ、これは?」
沙織「仲直りの定番・プレゼント攻撃!」
優花里「当然それはもうやってますね」
アンチョビ「コロネだけどな……」
沙織「あ、おしゃれなお菓子とかあげたのかな」
アンチョビ「……」
沙織「でもプレゼントの定番はそれだけじゃないよ!」
沙織「アクセとかはちょっと即物的すぎるし、みぽりんのお姉さんっぽくないから――」
沙織「ここはロマンティックに花束をプレゼントなんてどうかな!」
沙織「いくらお花ってキャラじゃなくても、お花を突然見せられたら、ちょっとドキッとしちゃうはずだよ!」
優花里「生憎、それも……」
沙織「え?」
アンチョビ「え?」
みほ「最初に大きな成果をあげるのに貢献しましたよね」
優花里「まあ、さすがは恋愛テクニック集愛読書」
優花里「我々がチームを組んで時間をかけて編み出した作に一人で即座に辿りつくなんて驚きですよ!」
沙織「そ、そう?」 テレテレ
アンチョビ「な、なあ、もうちょっと深く聞いてみて一個くらい試した方がいいんじゃあ……」
アンチョビ(どう考えても花のプレゼントと朝顔髪の毛にくくりつけるのとじゃ違うよな……?)
沙織「うーん、コレもダメかあ……」
沙織「私と華の共同作戦!って感じでいけるかと思ったんだけどなあ」
華「!」
華「安斎さんの言葉もありますし、一つくらい天丼してもいいのではないでしょうか」
麻子「お前……」
華「それで、具体的にはどんな共同作業なんでしょうか」
沙織「ほら、華って、花言葉にも詳しいじゃん」
沙織「告白に最適なお花をチョイスして、それを渡すのがいいかなーって」
華「……」
沙織「……って、何よーその顔はー」
華「いえ……」
華「ただその作戦、相手が花言葉を熟知していることが最低条件だと思って」
沙織「それなら大丈夫だよ!」
沙織「お花貰ったら、普通は気になって花言葉くらい調べるって!」
華「……」
華「ちなみに……私が以前差し上げた花束の花言葉を調べたりは……」
沙織「勿論したよ!」
沙織「ベゴニアの花言葉は、『幸福な日々』とか『親切』なんだよね」
華「……」
沙織「なんか照れくさいけど、嬉しかったなあ」 エヘヘ
華「他にも、『片想い』とか、『愛の告白』という意味もあるんですよ」
沙織「あ、そうなんだ」
沙織「……じゃあダメかなあ、みぽりんのお姉さん、花言葉詳しいようには見えないし」
沙織「複数の意味がある花言葉から伝えたい気持ちのものをちゃんと選んでくれるかどうか分からないもんね」
華「……そうですね」
沙織「私だったらちゃんと選ぶ自信があるのになあ~」
沙織「どうして世の男子は私に花束を贈ってこないんだろう」 ハア
みほ「いつかはいい人が現れますよ」
華「……」
麻子「…・・あいつは多分真っ赤な薔薇でも見誤るな」 ポン
アンチョビ「じゃあやっぱり難しいか……」
沙織「一応、昔華には本当に好きなオトコノコが出来た時には黒い薔薇がいいよーとは言われたけど……」
沙織「調べてみたら『永遠の愛』って言葉の他に『貴女はあくまで私のもの』みたいな捉え方によってはアレな意味もあったし……」 ウーン
麻子「……」
麻子(『彼に永遠の死を』、だろうな……)
みほ「まあ、あともうひと押しですし……」
みほ「薔薇ならばピラニアンローズとかどうでしょうか」
優花里「いっそ紫の薔薇にして、メッセージカードでやりとりとかどうです!?」
みほ「なるほど……それなら確かに直接口を聞かずに色々いえますね」
麻子「紫の薔薇の人じゃなく、紫の馬鹿の人って感じだな」
沙織「もう、そこまで言うなら麻子も何か意見出しなよー」
麻子「……」
麻子「やれやれ」
麻子「私なんかより、お前が意見を言えばいいだろう」
沙織「私は結構挙げたじゃん」
麻子「……あれはお前が本で読んで得た知識を披露しただけだろ」
麻子「今必要とされているのは、お前自身の考え方であり、お前だけが言えるようなアドバイスじゃないのか」
沙織「麻子……」
アンチョビ「まあ、確かに、薔薇のプレゼントとか、小説で見てある程度知ってたはずの戦略ではあるもんな……」
麻子「……みんなを信頼しているから、既に作戦実行済みって所を深くツッコまないんだろ」
麻子「西住さんがおかしな作戦を立てるわけがないって信頼をしているから」
※麻子は気付いていないようだが、西住みほは対人コミュニケーションにおいては無能軍師である
麻子「秋山さんがその持ち前の明るさとフットワークで色々試行錯誤してると信じているから」
※麻子は気付いていないようだが、秋山優花里も対人コミュニケーションにおいては無能兵士である
麻子「それと……」
華「……」 ドキドキ
麻子「……」
麻子「まあ、色々信用してるから、無駄に自分の意見をゴリ押ししようとしなかったんだ」
華(私への言及は……?)
麻子「……同じように、皆、お前のコミュニケーション能力を信じているんじゃないのか」
麻子「別に雑誌に載ってるような一般論が聞きたいわけじゃないだろ」
麻子「まとまりのない私達を纏めてくれた沙織自身の言葉を聞きたいんだ」
寝かけてました申し訳ない。中断します。今夜は透過できるか怪しいです。
眠いですが少しだけでもやります
沙織「私の言葉、かぁ……」
アンチョビ「……」 ゴクリ
沙織「……」
沙織「うん」
沙織「正直に言うと――まだオトコノコとそういう関係になったことがないから、こうするのが一番!みたいなのは分からないんですよね」
沙織「格好つけてるけど、そんなにコミュニケーション能力が頭抜けてるわけでもないし、本来偉そうに言える立場じゃないというか」
沙織「……だから、どうすればいいのかなんて、私には分かりません」
沙織「っていうか、多分、みぽりん達にも分かりません」
沙織「どうすれば一番いいのかなんて、誰にも分からないんだと思います」
沙織「だから――」
沙織「だから、せめて、分かってるはずの『どうしたいのか』って気持ちに正直になるのが、いいんじゃないかなって思います……!」
沙織「考えなしとか、感情だけで動くおバカとか、言われれちゃうかもしれないけど。でも!」
沙織「放っとけなくて麻子の面倒を見て。話してみたいなって思って華と友達になって」
沙織「みぽりんが気になったから声をかけて。ゆかりんとも仲良くなりたいなって思ったから一緒に遊んで」
沙織「少なくとも私は、そうやって、自分が伝えたい気持ちに正直にやってきました」
沙織「……その結果、良くない方向に転んじゃったときもあります」
沙織「だけど」
沙織「後悔しないためにも――誰かに言われた“最善手”より、自分が思う“最もやりたい事”に従ったって、いいんじゃないかって」
アンチョビ「……」
アンチョビ「私がどうしたいのか、か……」
アンチョビ「私は……」
アンチョビ「……」
アンチョビ(私は、どうしたかったんだ……?)
アンチョビ(今回の件、確かに私にも非はある。わかってる)
アンチョビ(でも、夕ご飯を食べてくれなかったことに関しては、怒ってるぞ)
アンチョビ(悲しいし、納得だって出来てない)
アンチョビ(だから、そう、なんとかそこについては謝らせなくちゃいけないんだ)
アンチョビ(そのためには、私から喋ると負になるから、こうして一見アホなことだって……)
アンチョビ「……」
アンチョビ(いや――違うか)
アンチョビ(そーいうごちゃごちゃしたことを置いて、単純な答えを出すなら……)
アンチョビ「……また、仲良く2人でパスタが食べたい……」
アンチョビ「このまま、喧嘩しっぱなしなんて嫌だ……」
沙織「……じゃあ、それを何より最優先に考えましょう!」
沙織「例え他の99の望みが叶ったって、その一番大事な1が叶わなかったら意味ないんだし」
みほ「なるほど……?」
優花里「難しすぎて何言ってるんだか正直イマイチ……」
沙織「ううっ、私説明下手なのかな……」
沙織「ほら、みぽりん達って真面目だし凄い頭いいから、きっと100の希望があれば100全部を満たすような作戦を考えるじゃん」
優花里「ええ」
みほ「はい。そのために、今まで作戦行動を取ってきたわけですし……」
沙織「それはとても凄いことだと思うんだけど、こう、さすがに全部取ろうとすると厳しいってことってあるじゃん?」
沙織「そういう時は、何を優先するのかが大事なんだよ!」
アンチョビ「そう、だな……」
アンチョビ「私は、また、アイツと話がしたいんだ」
アンチョビ「……例え、私から話しかけることになるとしても、このままなんて嫌なんだ」
麻子「じゃあまずはそれをなんとかするんだな」
アンチョビ「……そう、だな」
アンチョビ「すまん西住」
アンチョビ「折角考えてくれた作戦だけど――」
アンチョビ「やっぱり、私から頭を下げようと思う」
みほ「そんな!」
優花里「完全勝利は目の前なんですよ!?」
アンチョビ「ああ。本当にすまなかった。こんな馬鹿が振り回しちゃう形になってさ」
アンチョビ「でも――」
アンチョビ「例え勝利なんてものを手に入れても、また2人で仲良く食卓を囲めなきゃ、そんなものに意味なんてないんだ」
アンチョビ「今回は謝ってでも仲直りして、それから素直に嫌だったことも伝えてみるとするさ」
アンチョビ「そうしたら、想いが伝わって今後は改善してくれるかもしれないしな」
アンチョビ「……アンツィオの皆に貰ったノリと勢いでなんとかするパワーを、OGとして見せてやるさ」
沙織「ほら、麻子も何か言って言って!」
麻子「……私はお前以上に言えることなんてないぞ」
麻子「…・・・・」
麻子「ああ、でも……」
麻子「体験談のようなものならある」
沙織「え!?」
アンチョビ「ほえー」
アンチョビ(意外だ……)
麻子「……私から言えることなんて、一つだけだ」
麻子「伝えたい想いがあるなら、素直に言ってしまう方がいい」
麻子「恥ずかしくても柄じゃなくても、他にどんな障害があったとしても、言える内に言っておいた方がいい」
麻子「……ある日突然、その相手がいなくなることだってある」
沙織「麻子……」
麻子「……」
麻子「それに、時が経てば経つほど、“今更”の二文字を前に、平気で屈するようになる」
麻子「……手遅れになって後悔するようなことにだけ、ならないといいな」
アンチョビ「……ああ」
寝落ち申し訳ない。ダウン癖つかないよう頑張ります。
アンチョビ「悪い、また行ってくる」
アンチョビ「……」
アンチョビ「あんだけ意地張って喋らないようにしてたのに、不思議と今はまほと喋りたくてしょうがないんだ」
沙織「うん、それがいいですよ」
みほ「朝顔やピザも置いていくんですか?」
アンチョビ「……ああ」
アンチョビ「皆のおかげで、素直になれたし、西住にも感謝してるよ」
アンチョビ「でも、ごめんな」
アンチョビ「今は――素直な気持ちで、自分の思うがままに行動したい気分なんだ」
優花里「ですが、折角ここまで上手く行っていたと言うのに、勝ちを捨てることはないのでは……?」
アンチョビ「……どんな結果になったとしても、いいんだ」
アンチョビ「まあよくはないけど、思うがままに行動してダメならしょうがないさ」
アンチョビ「……どうでもいいことなんかじゃなくて、私も久々にムッとするくらい、本気で怒った」
アンチョビ「それで、本気でぶつかって、話し合いたいって、思っていたんだ」
アンチョビ「だったら、そういうときくらい、誰かに頼って和解できる道を選ぶのでなく、素直にぶつかるべきだったのにな」
優花里「……行っちゃいましたねえ」
みほ「せめて花束くらい持っていってもよかったと思うんだけどな」
麻子「……ああやって素直な気持ちでぶつかるのが、あの人なりの“本気”であり“誠実”なんだろ」
華「愛に対する姿勢はそれぞれ――ということでしょうか」
沙織「あ~いいなあ~」
沙織「私もあんな風に愛されたいなあ~」
優花里「あんなに的確にアドバイスが出来るのに、何でモテないんでしょうね」
みほ「不思議だよね。私がオトコノコなら、絶対放っておかないのに」
沙織「うう~ありがとう~」
沙織「でもそれが逆にぐさっと来る~」
華「実際、結構人気はあると思いますよ」
華「……色々あって、告白する勇気が出ないだけで」
沙織「そうかな? そうかな?」 ウキウキ
麻子「そうだとしたら尚更絶望的だな」
麻子「自分から気付かなくちゃいけないのに、自分への好意には誰より愚鈍だ」
沙織「むむむむ!」
沙織「で、でもでも!」
沙織「私、素敵な恋人を見つけるために、常にアンテナは張ってるんだから!」
麻子「発言の割に、恋愛模様からは常に蚊帳の外だからな」
麻子「折角張ってるアンテナも精度が低いんだろ」
沙織「そーいう麻子だって、なんか格好いいこと言ってたけど、恋愛したことなんてないんじゃないの!?」
麻子「……あるぞ」
沙織「え!?」
みほ「!?」
優花里「ええええっ!?」
麻子「……なんだその顔は」
麻子「私にだって、好きな奴くらい、いる」
麻子「……」
麻子「さっきのアドバイスだって、半分くらいは両親のことを踏まえての体験談だったけど」
麻子「……残りの半分は、私自身の恋の話からきたアドバイスだ」
沙織「えええええええええええええ!?」
沙織「うそ!?」
沙織「うそうそ誰誰!?」
沙織「私の知ってる人!?」
麻子「……言わない」
沙織「えー、やだもー何照れてるのよー」
沙織「教えてくれたらアドバイスくらい送るのにぃ~」
優花里「わ、私も少し興味が……!」
麻子「……言ったところでどうにもならないだろ」 ハァ
沙織「わかんないじゃん!」
沙織「それにほら、私に出来る範囲のことなら何でもしちゃうよ?」
麻子「……そうか」
麻子「じゃあ、付き合ってくれ」
華「!!!!!!!!!!!!!」
沙織「いいよ」
沙織「何に付き合えばいい?」
沙織「プレゼント選び?」
沙織「それともデートの下見とか?」
沙織「私にも恋人が出来たらダブルデートとかしてもいいよね~」
麻子「……」
麻子「ああ、そうだな」
沙織「それで、何に付き合えばいいの?」
麻子「……」
麻子「毎朝起こしてくれ」
沙織「ええっ、それじゃいつもと変わらないじゃん!」
麻子「そういうことだ」
麻子「……好きな奴はいるが、そいつと寝ないで不純異性交遊するより、一人で寝て沙織に起こされる方がいい」
沙織「なにそれぇ~」 プクー
沙織「っていうか、結局誰が好きなのかはぐらかされたし!」
麻子「……諦めろ。言う気はない」
麻子「……」
麻子「さっき言った通り――言葉にしないまま放置しすぎて、今更言えなくなっちゃったしな」 ボソ
沙織「?」
華「……」
まほ「……」 グッタリ
まほ(ああ……何てザマだ……)
まほ(ツッコみたいのにツッコめないし、いつ終戦するとも分からない蠱毒な戦い……)
まほ(これまでのどんな試合より過酷で辛いな……)
ガチャッ
まほ「!」
まほ(ぐうううっ、やはり安斎は外に出ていたのかッ!)
まほ(しくじったッ)
まほ(ここはリスクを承知でトイレで吐き出すべきだったんだッ)
まほ(今追加攻撃をされては――――)
アンチョビ「まほ!」
まほ(――――え?)
アンチョビ「ごめんっ」 ガバッ
アンチョビ「意地張ってた。ごめん!」
まほ「……」
アンチョビ「まほのことを傷つけてた、ごめん!」
まほ「……」
アンチョビ「嫌な想いを、させちゃって、ごめん……!」
まほ「……」
まほ「顔を……」
まほ「顔を上げてくれ、安斎……」
アンチョビ「……まほ……」
まほ「その、なんだ……」
まほ「私の方こそ、その、意地張って――悪かったよ」
アンチョビ「まほ……!」 ウルッ
アンチョビ「あ、あとな。もう一個、先に謝っておくことが、あるんだ」
まほ「……先に?」
アンチョビ「また、嫌な気分にさせちゃったら、ごめん」
アンチョビ「本当なら、ここで仲直りして、ぎゅっと抱き合いたかったけど」
アンチョビ「私は……」
アンチョビ「そんななぁなぁで一緒に暮らすんじゃなくて、ちゃんとぶつかって、互いに尊重し合いたいんだ……」
アンチョビ「例えその結果、一緒に住めないって結論を出されちゃったとしても……」
アンチョビ「適当に不満や想いを誤魔化して一緒にいる方が、辛いから」
アンチョビ「だから――」
アンチョビ「私の我儘で、もう一緒に居られなくなっちゃったらごめん」
まほ「安斎……」
アンチョビ「……今回爆発しちゃったのは、ずっと思ってたモヤモヤが、積み重なりすぎたからなんだ」
まほ「……モヤモヤ?」
アンチョビ「……ああ」
アンチョビ「……今回引き金になった、その、なんだ」
アンチョビ「大切な人から貰ったっていうものを、その、大事にしてたというか、なんというか……」
アンチョビ「恥ずかしい話だけど、嫉妬してたっていうのは、あると思う……」
アンチョビ「それに――」
アンチョビ「……」
アンチョビ「私が最初に仲良くなったのが、妹の方だろ?」
まほ「ああ」
アンチョビ「……だから、区別をつけるため呼び方を変えようってなったあと、慣れてる妹の方を『西住』呼びにして、まほは下の名前で呼ぶことにした」
まほ「……」
まほ「懐かしいな……」
まほ「最初は西住と呼ばれていたのに、そういえば気が付いたら安斎には『まほ』と呼ばれていたんだな」
アンチョビ「……ああ」
アンチョビ「……」
アンチョビ「私は――」
アンチョビ「私はお前を『まほ』って呼ぶのに」
アンチョビ「……お前は私を、『安斎』としか呼んでくれないんだな」
まほ「そ、それは……」
アンチョビ「分かってる。ただの私のワガママだ」
アンチョビ「……言わずに気付いてほしい、なんてのもワガママ」
アンチョビ「……」
アンチョビ「勿論、黙っていても気付いてほしかったけど、でも」
アンチョビ「その“黙っていて気付いてもらう”ってことより、大事なことっていうか、したいことっていうか……」
アンチョビ「まあとにかく、望みみたいなもんがあって」
まほ「……ああ」 ドキドキ
アンチョビ「……うう、上手く言えないけど、でも!」
アンチョビ「ノリと勢いで、言っちゃうぞ!」
アンチョビ「い、一度だけしか言わないからなっ!」
まほ「……ああ」
アンチョビ「まほ!」
アンチョビ「わ、私は、お前が――――――」
ブツッ
プーップーッ
みほ「!?」
優花里「あ、ああ~~~~っ!」
沙織「ええ!? 何!? 何があったの!?」
優花里「何で切っちゃったんですかあ!」
麻子「……いや。もう十分だろ」
麻子「頼まれてた分のアドバイスはしたし、それがちゃんとプラスに働いたかどうかの確認も終わった」
麻子「……ここから先は、私達が聞いてていい領域じゃない」
沙織「まあ、そうかもしれないけどさ……」
優花里「でも、ちょっと気になりますよね」
麻子「なら終わってから堂々と聞け」
麻子「……ああやって一歩を踏み出すのは、相当な勇気がいることだ」
麻子「私はできなかったしな」
麻子「……あんまり突っついてやるな」
沙織「……うん。そうだね」
沙織「んー。でも、なんか麻子だけ恋愛上級者っぽい雰囲気なの、なんか納得いかないなあ~」
沙織「何で私より恋愛経験豊富みたいになってんのーおかしいよー」
沙織「うー、何で世の男性は私を放っておくのかなあ」
華「……」
華「放っておかない女性なら、一人どころでなく居ますけどね」 ボソ
眠気が限界なので寝ます、申し訳ない
いい加減終わらせたいので頑張ります
ガチャッ
アンチョビ「ただいま」
優花里「あ、おかえりなさ――」
まほ「おじゃまします」
みほ「うわっ、お、お姉ちゃん!?」
まほ「久しぶりだな、みほ」 フッ
沙織「わわっ、手ぇ繋いでるよ、手!」 バシバシ
麻子「痛いからやめろ……」
華「ええと……」
アンチョビ「ああ……」
アンチョビ「ご覧の通り無事に和解できたんだが、電話が切れてたみたいだからさ」
アンチョビ「一応、報告しておくのが義務だよなって」
アンチョビ「それに――」
まほ「私が問いただしたんだ」
まほ「途中から明らかにやり口が安――千代美らしくなくなったからな」
みほ「……」
みほ(あれ、お姉ちゃん、呼び方が……)
まほ「みほかダージリンだとは思っていたが、まさかあんこうのチーム全員とはな……」
華「すみません、なんか……」
まほ「ああ、別に怒ってはいない」
まほ「いやまあ途中ちょっとキレそうだったしこれがダージリンだったらAmazonでお下品なものを毎週定期配送してるところだったけど」
みほ「お姉ちゃん怒るの下手すぎてたまにそういう奇行に走るけど私や家には迷惑かけないでね」
アンチョビ「まあ何にせよ、皆の助けを得られてよかったよ」
アンチョビ「それと、ペパロニやカルパッチョの手助けもな」
まほ「あの二人のアドバイスも盛り込まれていたのか」
アンチョビ「ああ、まあな」
アンチョビ「さすがに遠すぎて、会って相談とはいかなかったけどな」
アンチョビ「だから西住には感謝してるんだ」
アンチョビ「わざわざ東京まで来てくれて、本当にありがとうな」
みほ「いえ……アンチョビさんにはお世話になってますし……」
みほ「明日もアンチョビスポンサーで皆でボココラボカフェの全メニュー制覇しないといけませんし、むしろお礼を言うのはこっちですよ」
アンチョビ「お、おう」
アンチョビ(いつのまにか全メニュー制覇が全部私持ちになってる……)
まほ「……みほ、あんまり千代美を困らせるのは……」
アンチョビ「あー、いいんだ、まほ」
アンチョビ「今回は本当に助けられたし……」
まほ「あの作戦でか?」
アンチョビ「……」
アンチョビ「うん、助けられたし」
まほ「今何か変な間がなかったか?」
アンチョビ「……まあ、それはともかく」
アンチョビ「実際相談出来る相手なんて、他にほとんどいなかったからな」
沙織「そうなんだ……」
麻子「意外だな、友人は多いと思っていたが」
アンチョビ「まあ、少なくはないだろうが……」
アンチョビ「こう、人間関係を相談する程の仲となるとな」
アンチョビ「どうしても低予算弱小校って関係で、強豪連中とは顔を合わせる頻度も少なかったし」
沙織「なるほど……」
華「意外と大変なんですね……」
麻子「……ウチの先代会長とは旧知の仲だったんじゃなかったか?」
麻子「確か東京にいるはずだろ」
アンチョビ「……」
アンチョビ「アイツは良い奴だし、同じ貧乏無名校仲間としてよく顔を合わせたし、大切な友人の一人だ」
アンチョビ「だがソレはソレとして、あいつに弱み丸出しの相談ができるか?」
麻子「……」
沙織「……あー」
麻子「すまなかった」
アンチョビ「まあ、これからもまたちょくちょく相談させてもらうかもしれないが……」
沙織「大歓迎ですよ!」
沙織「実際に人の恋バナは参考になりますしねっ!」
まほ「……私も相談していいか?」
沙織「え?」
みほ「……さすがに実の姉の口から恋バナ流れてくるのはちょっと……」
アンチョビ「さすがに同じ相手に相談するのって気まずいような……」
まほ「まあそう言うな」
まほ「何を隠そう、私も相談出来る友達がいないんだ」 バーン
みほ「何でそんな物悲しいことを自信満々に口に出せるのお姉ちゃん……」
まほ「友達が少ないくせに謎の自信がある所は西住の血らしいぞ」
みほ「巻き込まないで」
みほ「お姉ちゃん、それこそ名門なんだから、繋がりとかないの?」
まほ「なくはないが……相談事となるとな」
まほ「プラウダには何故か怯えられているし」
アンチョビ「……まあ、そうじゃなくても、恋愛相談できそうなメンツじゃないよな」
まほ「ダージリンは鬱陶しい格言をどや顔で言ってきそうでムカつく」
アンチョビ「……」
アンチョビ(ちょっと分かるし相談避けた手前何も言えない……)
みほ「ケイさんは?」
みほ「ケイさんすっごく頼りになるし、優しいからいつでも相談に乗ってくれるんじゃ……」
みほ「私も進路のこととか相談させてもらってるし……」
まほ「……私には相談してくれないのに……」
優花里「わっ、私も相談にならいつでも乗りますし、頼り甲斐なら負けませんよっ」
アンチョビ「あー、まあ、確かにケイなら相談しやすそうではあるよな」
アンチョビ「私も西住に断られたら、あんまり会ったことないけど相談しようかと思ってたし」
まほ「いや、ケイは恋愛相談するには豪快すぎる」
アンチョビ「そうかあ?」
まほ「大体アイツに恋愛問題を解決する技量があれば、とっくに副官が恋を実らせているだろ」
アンチョビ「ああ……」
沙織「ああ……」
アンチョビ「そういえば、逸見だっけ」
アンチョビ「あの副官はどうだ?」
まほ「ちゃんと名前覚えていたのか……」
みほ「逸見さんかあ……」
華「あの方は……」
アンチョビ「ええ……なんだそのリアクション……」
まほ「こう、アイツはみほとはまた違う形でコミュニケーション能力が低いというか、キレたナイフみたいなものだからな……」
まほ「みほが黒森峰に居た頃なんて、外向きのコミュ障と内向きのコミュ障を両方揃えた『メドローア副隊長』とか陰口されてたほどだ」
みほ「それを言うならお姉ちゃんも含めて『コミュ障内閣』とか『コミュニケーション能力を生贄に戦車の腕を特殊召喚!世代』とか言われてたんだよ」
みほ「私のせいで負けたあと、『コミュニケーションも試合もダメとか何も残るものがない』とか『コミュ力の時点で例え勝てても暗黒期だった』とか言われたもん」
まほ「なっ……わ、私もだと……!?」
みほ「だってお姉ちゃん、逸見さんも私もコントロール出来てないのに、いつも逸見さん連れて歩いて問題起こさせてたし……」
まほ「うぐぐぐぐ……」
優花里「そういえば以前練習試合した時に、副隊長に赤星さんが任命されて、コミュニケーション能力が大幅改善されたとか言われてましたね……」
沙織「え、あの子もなかなか引っ込み思案サイドじゃなかった?」
優花里「まあそうなんですけど、それでも最低限のやり取りが出来るだけ『三人合わせてファービー以下のトーク力』の暗黒期を抜けた~とか……」
アンチョビ「黒森峰大丈夫なのか……?」 ハラハラ
まほ「まあとにかく!」
まほ「そんなわけで、エリカに相談ゴトなんてするようになったら人として終わりというかだな」
まほ「それに格好いい尊敬する隊長としてのプライドだってある!」
まほ「だから何の躊躇もなく妹の友人たちに相談したいと思う!」
みほ「ええ……」
沙織「私はかまわないけど……」
優花里「あ、でも先に言っておきますけど、大前提として我々は西住殿の味方ですからね!」
優花里「西住殿と意見が割れたら私は西住殿につきますから!」
華「そうでないとしても、客観的に正しいと思う方につきますので……」
麻子「まあ、贔屓しなくていいなら、というところか」
まほ「……まあ、それでいい」
まほ「常に正しい道を邁進してこそ、西住流であり西住まほだからな」
麻子「まあ、じゃあ今後相談された時のために……」
麻子「何でこんなことになったのか聞いておこうか」
みほ「!」
アンチョビ「!」
アンチョビ「あー……」
アンチョビ「いや、それはちょっと……」
まほ「……どうした、らしくないぞ」
まほ「この質問は当然の権利と言える」
まほ「……それに、これから新たに千代美と歩み始めるんだ」
まほ「今の私は、もうあのコトに確執はない」
華「あのこと……?」
アンチョビ「あー……まあ、何て言うかだな」
アンチョビ「どうしようもない私に天使が舞い降りたとでもいうのか……」 シドロモドロ
沙織「あ、それ知ってる!」
沙織「槇原敬之だよね、お父さんがよく聞いてた!」
アンチョビ「あ、ああ、つまりそういうことなんだ」
華「どういうことなのでしょう……」
沙織「えーっと、確か……」
麻子「……昔の恋人のくれた目覚まし時計を何度言われてもずっと使ったのが気に入らない」
麻子「そういう歌詞だったな」
華「あー……」
アンチョビ「まあ、その、みっともないことに、私の嫉妬みたいなもんだ」
みほ「……あれ?」
みほ「でも、お姉ちゃん、今まで恋人なんて出来たことなかったような……」
優花里「確かに、黒森峰という西住流のお膝元じゃそんなことできませんよね」
アンチョビ「ま、まあ、ほぼそういうのに近いって感じで……」
まほ「いや、ここは素直に言おう」
まほ「変に本心や事実を取り繕った結果が、私達のすれ違いだったんじゃないか」
アンチョビ「そ、そりゃそうだけど……」
沙織「それで、喧嘩の原因って……」
まほ「ああ……」
まほ「私は部屋の電気を完全に消さないと眠れない派でな」
アンチョビ「……私は豆電球で軽く照らしてないと、その、ちょっと怖い派なんだ……」
華「……それで喧嘩を?」
優花里「可愛らしい動機じゃないですか」
麻子「……じゃないだろ」
麻子「これだけなら、さっきの天使云々が関係してこない」
まほ「ああ」
まほ「それに黒森峰時代は寮で複数名と同室だったからな」
まほ「完全消灯より、豆電球をつけた方がいいという意見の方が多かった」
まほ「……そういう事情もあって、ずっと、アイマスクをしていたんだ」
まほ「いつも使ってたアイマスクじゃないと、落ち着かなくてな」
アンチョビ「そ、そうなんだ」
アンチョビ「だから、こう、いい加減違うアイマスクにしてくれと言ってな……」
沙織「へえ、誰からの貰い物だったんですか?」 ワクワク
アンチョビ「ちょ、ちょっとワクワクしてないかお前!?」
まほ「ああ……」
まほ「みほからだ」
みほ「え?」
優花里「おおっ、美しき姉妹愛……!」
優花里「西住流後継者にまつわる絆のエピソードが……!?」
みほ「待ってお姉ちゃん、私そんなのあげた覚え――」
まほ「……ああ」
まほ「実は――勝手に貰ってたんだ」
みほ「へ?」
アンチョビ「……」
まほ「戦車道のため早々に家を出て寮に入ることになっただろう?」
まほ「それでどうしても寂しくて、ホームシックになって、でも西住流後継者のイメージを崩すことも許されなくて……」
まほ「それで夏休みに帰った時に、実家の匂いや愛する妹の匂いが染み付いた、みほのぱんつを貰って帰ったんだ」
みほ「…………」
みほ「は?」
まほ「みほのぱんつを被って寝ると、それまでが嘘のように快眠できてな」
まほ「みほの匂いに包まれることで、実家のような安心感があったのかもしれない」
まほ「いい匂いがするしな」
みほ「は?」
みほ「え?」
みほ「……は?」
まほ「そのことが安斎――千代美にバレてな」
まほ「そういうのはやめろだの、みほに謝れだの色々言われて……」
まほ「つい、カッとなって『お前に何が分かる』みたいに怒鳴ってしまって……」
まほ「今では猛省している」
みほ「いや、ちょ……」
まほ「それに、私が持ってきたことで、西住流本家に下着ドロが入ったみたいに関係者に連絡が回ってくるとか大事になっただろ?」
まほ「そのせいで言い出せなかったんだが……」
まほ「千代美のおかげで目が覚めたし、今ならもうみほのぱんつを卒業できる」
まほ「だから、堂々と全てを明かし、千代美と新たな一歩を踏み出したい」
まほ「そう思ったから――全てを包み隠さずに告白することにしたんだ」
みほ「……」
まほ「私もみほに似て、あまりコミュニケーション能力が高くない一面はある」
まほ「だから、また、こういう些細なことで千代美と喧嘩するかもしれない」
まほ「だが――これからは、ぱんつじゃなくて本物のみほがいる」
まほ「西住流のしがらみから解き放たれた今、改めてお願いした」
まほ「みほ!」
まほ「妹として、千代美と新たな人生を歩み出すお姉ちゃんの相談に、これからも乗ってくれ!」
まほ「助けてくれエリカ! みほが口をきいてくれないんだ!」
エリカ「!?」
おしまい
ようやく完結です。
2日くらいで終わる予定がご覧の有様ですが、お付き合い有難うございました。
やりたかった小ネタも月日とともに大分忘れたので、次があれば今度こそ早く畳めるよう頑張ります。
このSSまとめへのコメント
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