「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」とは
2ちゃんねる - ニュー速VIPで生まれた
都市伝説と契約して他の都市伝説と戦ってみたりそんな事は気にせず都市伝説とまったりしたりきゃっうふふしたり
まぁそんな感じで色々やってるSSを書いてみたり妄想してみたりアイディア出してみたりと色々活動しているスレです。
基本的に世界観は作者それぞれ、何でもあり。
なお「都市伝説と…」の設定を使って、各作者たちによる【シェアード・ワールド・ノベル】やクロス企画などの活動も行っています。
舞台の一例としては下記のまとめwikiを参照してください。
まとめwiki
http://www29.atwiki.jp/legends/
まとめ(途中まで)
http://nanabatu.web.fc2.com/new_genre/urban_folklore_contractor.html
避難所
http://jbbs.livedoor.jp/otaku/13199/
■注意
スレの性質上、スレ進行が滞る事もありますがまったりと待ちましょう。
本スレとはあまりにもかけ離れた雑談は「避難所」を利用して下さい。
作品によっては微エロ又は微グロ表現がなされています。
■書き手の皆さんへ
書き手の方は名前欄にタイトル(もしくはコテハン)とトリップ推奨(どちらも非強制)
物語の続きを投下する場合は最後に投下したレスへアンカー(>>xxx-xxx)をつけると読み易くなります。
他作品と関わる作品を書く場合には、キャラ使用の許可をスレで呼びかけるといいかもしれません。
ネタバレが嫌な方は「避難所」の雑談スレを利用する手もあります。どちらにせよ相手方の作品には十分配慮してあげて下さい。
これから書こうとする人は、設定を気にせず書いちゃって下さい。
※重要事項
この板では、一部の単語にフィルターがかかっています。 メール欄に半角で『saga』の入力推奨。
「書き込めません」と出た時は一度リロードして本当に書き込めなかったかどうか確かめてから改めて書き込みましょう。
◆用語集
【都市伝説】→超常現象から伝説・神話、それにUMAや妖怪のたぐいまで含んでしまう“不思議な存在”の総称。厳密な意味の都市伝説ではありません。スレ設立当初は違ったんだけど忘れた
【契約】→都市伝説に心の力を与える代わりにすげえパワーを手に入れた人たち
【契約者】→都市伝説と契約を交わした人
【組織】→都市伝説を用いて犯罪を犯したり、人を襲う都市伝説をコロコロしちゃう都市伝説集団
【黒服】→組織の構成員のこと、色々な集団に分けられている。元人間も居れば純粋培養の黒服も居る
【No.0】→黒服集団の長、つおい。その気になれば世界を破壊するくらい楽勝な奴らばかり
【心の器】→人間が都市伝説と契約できる範囲。強大な都市伝説と契約したり、多重契約したりすると容量を喰う。器の大きさは人それぞれである。器から少しでも零れると…
【都市伝説に飲まれる】→器の限界を迎えた場合に起こる現象。消滅したり、人間を辞めて都市伝説や黒服になったりする。不老になることもある
◆歴代過去ログ
Part 9 「都市伝説と戦う為に都市伝説と契約した能力者達……」 Part9 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/news4ssnip/kako/1361/13613/1361373676.html)
Part11 都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達…… - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1440331914/)
Part12 「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 Part 12 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1483444899/)
ここはとある料理教室
女子高生から主婦、嫁入り前からお婆ちゃんまで、殆ど女性だが老若は様々
包丁の音や煮えた音、幾つもの音が飛び交う中、練り歩くのは美しい黒髪の女性
どうやら、この料理教室の先生のようだ
「はい、繰り返しますね皆さん
今日のテーマは“夏”です
冷たいもの、逆に熱いものでも構いません
夏の食卓を彩る素晴らしい料理を考えてください」
「せ、先生! 出来ました!」
「えーホントにこれで良いの?」
「良いから良いから」
そう言って手を挙げたのは、学校帰りだろうか、女子高生2人組
片方は自信満々だが、もう片方はやや自身がなさそう、というよりげんなりしているようだった
「あらあら、元気ですね。どんな料理ですか?」
「はい! カキ氷にかき揚げを乗せてみました!」
「……えっと先生、この子ちょっとおバカなんです」
「ちょっとそれどういう意味!?」
「うふふ、発想は凄く素敵ですね
シロップの代わりに天つゆをかけてるのも芸が細かいです」
「ほら見て、評価されちゃったよ!」
「でもこれだと“食べ合わせ”が悪いですね」
「「え?」」
「温かい天ぷら、体を冷やすカキ氷
一緒に食べると胃がビックリしてあまり良くないんですよ」
「そ、そんなぁ」
「凄くクールに否定されてる…」
「その盛り付けは面白いので、氷の代わりに何か使ってみると良いと思います
大根おろしなんて、カキ氷っぽいと思いませんか?」
「なるほど、天ぷらにも合う! 大根おろし作る!」
「うふふ、頑張って下さい」
「あ、あの…」
恥ずかし気に手を挙げるのは、若い女性だった
左手の薬指に輝く指輪を見るに、結婚したての新妻といったところか
「あらごめんなさい、そちらも出来ましたか?」
「は、はい…トマトやキュウリ、オクラを使った夏野菜のサラダなんですけど…」
「ん、すごく綺麗ですね、とてもいい盛り付け方です!
それにトマトとキュウリは、どちらも体を冷やす作用があるので夏にはピッタリなんです」
「あ…ありがとうございます」
「でも、これも覚えておいて下さい
トマトとキュウリ、よく見る組み合わせですが、そのままだと意外に相性が悪いんです」
「えっ…それも、さっきの“食べ合わせ”?」
「「トマトとキュウリも!?」」
“食べ合わせ”というワードを耳に挟んだ女子高生2人が、大根を片手に割り込んできた
うふふ、と“先生”と呼ばれる女性は笑う
「トマトはビタミンCが多く含まれてます
ビタミンCは癌や脳卒中、心臓疾患など、様々な重い病気を抑えてくれる重要な栄養分です
しかし、キュウリにアスコルピナーゼは、この大事なビタミンCを壊してしまいます
その大根も、ビタミンCが多いからキュウリとは相性が悪いですね
ちなみに、人参もキュウリと同じアスコルピナーゼを含んでいます
死んでしまうような重大なことではないけれど、折角ならちゃんと摂っておきたいですよね」
「う、うーん……キュウリではなく、何かに変えた方が良いんでしょうか」
「いえ、実は一手間加えるだけで良いんです
アスコルピナーゼは熱と酸に弱い」
ひょいひょい、と“先生”はお酢とオリーブオイルを取り、
簡単なドレッシングを作り上げ、そのサラダに振りまいた
「こうすれば、ビタミンCも効率よく摂れますし、美味しく頂けるかと思いますよ?」
「「「……お、美味しい」」」
「あら、これでは私が作ったみたいですね;」
「でも、“食べ合わせ”が悪いものって結構あるんですね」
「そうですね、中には一生出会わない組み合わせもありますけど
一番気をつけた方が良いのは、ドリアンとビールですね」
「ドリアン…テレビでしか見たことない」
「私達はまだビール飲めないけど…どうなっちゃうんですか?」
「ふふ、死にます♪」
「「「えー!?」」」
「まぁ、そうやって色んな“食べ合わせ”を知って気をつけていけば、
料理はますます面白く、そして美味しくなっていきますよ
さて、他の皆さんは出来ましたか?」
―――――――――――――
――――――
――
数時間後
料理教室が終わり、女性は帰路についていた
「うふふ、皆さん今日も美味くできていましたね……あら?」
ふと目の前に注目する
いつの間にいたのだろうか、それともふっと突然現れたのだろうか
黒く長い乱れ髪、赤いコート、大きなマスク
そして、目元しか分からないが、それは美しい顔立ちに見えた
「……私って、綺麗?」
「そうですね、綺麗だと思いますよ」
「…これでもぉ?」
マスクを剥ぎ取れば露になる、耳まで裂けた口の醜い顔
学校町恒例の「口裂け女」である
「あらあら、随分久しぶりに出会ってしまいましたね」
「お前の顔も同じにしてやる!!」
「まぁ慌てないで下さい、何かお食事なさいませんか?」
「は?」
「ちょっと待ってて下さいね、えっとお鍋と包丁、ザルとガスコンロ、テーブル」
「ちょっと待てそれどこから出してんの」
「はい、お待たせしました♪ 糸こんにゃくとキュウリの酢の物です
持ち合わせがなくてこれくらいしか作れませんでしたが…どうぞ、お召し上がりください」
「口裂け女」は盛り付けられた小鉢と箸を押し付けられ、
しぶしぶ、箸をつけ、口に運ぶ
「……ん、美味い」
「うふふ、喜んでいただけて何よりです」
「なんかこう、さっぱり、し、て……」
からん、から、
小鉢と箸が「口裂け女」の手を離れて落ちる
喉を、胸を抑え、崩れ落ちる「口裂け女」
何が起こったのか分からない
まさか
「……こんにゃくとキュウリは、古くより“食べ合わせ”が悪いとされていました」
毒を……盛られた……!?
「でも、何故そう伝えられていたのか、根拠が分からないんです
昔からあったんですね…そういう都市伝説が」
「ぐ……ぁ……く、そ…女ぁ………」
「うふふ、こう見えて私、男なんですよ」
...end
新スレあげてから全くこれなかったという
そして料理できないのに料理教室の先生を書いてみたテスト
前スレの方々乙です
スレタイなんて気にしない! 最近スレタイ無視してる変態がいるからな!(俺
次世代ーズの人も一バトル起きそうだぜヒャッハー! 戦闘最高!(←戦闘に飢えてる
作者全員に質問です♪
【アクマの書き手の人へ】
1 前のスレで学校町の七不思議が話題になってましたが学校ごとにも七不思議ってあるんですか?
2 よく昔話とかで水神様が美少女に化けて村人の前に現れるお約束がありますがそういう展開ってワンチャンありますか?
3 瑞樹さんの学生時代と次世代編のスリーサイズについて詳しく教えてください
4 ヒーローズカフェの従業員と神社組が今日履いてる下着の色を教えてください
【罪深い赤薔薇の花子さんとかの人へ】
1 今後憐きゅんが女装する可能性ってありますか?
2 中央高校の七不思議について教えてください
3 咲夜とかなえの好きなタイプ(男子)を教えてください
4 咲夜とかなえのお気に入りの下着について教えてください
5 咲夜とかなえは友達同士で下着を買いに行ったりしますか?
6 咲夜とかなえが今日着けてる下着の柄を教えてください
7 岩融さんの今日の下着の柄を教えてください
【はないちもんめの人へ】
1 望さん夫婦円満の秘訣ってなんですか?
2 神子のスリーサイズについて教えてください
3 神子は勝負下着を持ってますか?
4 今後愛人が美亜さん相手に勝てる確率はどれくらいですか?
【やの人へ】
1 サキュバスってパンツ履かないって聞きましたが実際はどうなんですか?
2 風俗の仕事は正式には受け付けてないって言ってましたが非公式にはやってるってことですか?
3 葉さんのお気に入りのパンツって何色ですか?
【大王の人へ】
1 沖縄編で水着サービスシーンがありそうな気がしますが実際は出ますか?
2 同じく沖縄編で正義と大王のサービスシーンはありますか?
3 正義と大王の今日の下着は何色か教えてください
4 これからホラー展開ってありますか?(前に聞いた)
【次世代ーズの人へ】
1 ピエロって学校町に何しに来たんですか?
2 早渡含めたキャラの今日履いてる下着について教えてください
3 早渡のお気に入りの下着ってどんな感じですか?
【鳥居の人へ】
1 ノイお母さんの趣味を教えてください
2 澪とキラの今日の下着について教えてください
3 今後澪とキラのお色気シーンはワンチャンありますか?
4 澪の隠れた性癖について教えてください
【シャドーマンの人へ】
1 れっきゅんの子供たちも全員決闘者ですか?
2 子世代が活躍する話ってワンチャンありますか?
3 れっきゅんの今日履いてる下着を教えてください
4 ラブラブですか?
【チキン野郎の人へ】
1 雀きゅんのスリーサイズを教えてください
2 雀きゅんのクラスの女子で雀きゅんのことが好きな泥棒猫っていますか?教えてください
3 雀きゅんの話に今後六本足が登場する可能性はありますか?
4 雀きゅんの下着って緋色さんや姉のと一緒に洗濯してるんですか?教えてください
5 雀きゅんのお色気シーンってワンチャンありますか?
【ソニータイマーの人へ】
1 七つの大罪って何者ですか?
2 堂寺と疾風の履いてる下着を教えてください
3 堂寺と疾風はどういう関係ですか?お互い好きですか?
【Tさんの人へ】
1 Tさんはマヨヒガの裏で家庭菜園やってるイメージがありますが実際はどうなんですか?
2 Tさんと舞はどっちがドスケベですか?教えてください
3 リカちゃんのお婿さん候補は見つかりましたか?
改めてスレ建て乙&前スレの方々乙です
次世代ーズの方は盛り上がってそうですなぁ……追いかけないと
>>8
>1 沖縄編で水着サービスシーンがありそうな気がしますが実際は出ますか?
たぶん……ありません? 割とシリアスがメインです
余裕があったら、大王との日常シリーズで補完しますが、描写は小学生編の夏休みレベルが限度です
>2 同じく沖縄編で正義と大王のサービスシーンはありますか?
正義は無いと思いますが、大王の衣服が破れるシーンはあります
>3 正義と大王の今日の下着は何色か教えてください
正義は、基本的にトランクス派で、黒~紺色系を好みます。靴下は学校指定のものを愛用。
大王は、沖縄編なら靴下以外穿いてません。今は、下着も全部黒系です
>4 これからホラー展開ってありますか?(前に聞いた)
マヤの予言編のアレコレと比べるなら、ちょっとしたアクシデントはあります。死ぬよりはマシです
>>4-6
兄者乙。食べ合わせねぇ、面白い。料理系だと、フグの卵巣の毒抜きとかもある意味使えるかね?
>戦闘最高!(←戦闘に飢えてる
ほう……俺でよければ、ひとつ書き上げたぜ?(食後に上げますの意
けふっ。予告通り、上げますよ~
●前回
「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 Part 12 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1483444899/992-995)
このスレの、「「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」という設定をシェア」した作品。
都市伝説に関する様々な設定を引き継ぎながら、学校町とは異なる発展を遂げた世界。
前回は、異形たる存在に襲われ、その同類である異形【メリーさん】と契約を交わした男の物語。
彼らは名乗る、人間と契約して仕える『伝説使徒(アーバント)』と。その存在とは、いったい?
今回は、伝説使徒【こっくりさん】と契約したサッカー少年の物語。
はたして、少年はどのような運命を紡ぐのか……。
人は噂した、「硬貨と五十音表を使った降霊術により現れる、【こっくりさん】がいる」と。
人は噂した、「人を襲うため風と共に現れる、【鎌鼬】がいる」と。
『Meme(ミーム)』。それは人類が進化の過程で獲得した遺伝情報の一種。
ミームは『文化』『技術』『情報』として人類の生存のために繁栄し、時に姿かたちを変えた。
そのミームのひとつに、『幽霊』というものがあった。
それらは未知の現象・事件……情報を理解するために生まれ、情報としての生存能力に長けていた。
だが、幽霊も『科学』の進歩により不要となった。
科学が、あらゆる未知の情報を解析してしまったのだ。
「へへへ、今日のテストも100点満点だね。」
さて、質問である。
もし仮に……「ミームが意思を持っていたら」、彼らはどのような行動に出るだろうか?
例えば……『科学のミーム』でも解析できない現象を『幽霊のミーム』が起こす……かもしれない。
「分かってるよ、これもお前のおかげだ。」
『妖怪のミーム』は、進化の時を迎えていたのだ。
「な、こっくりさん。」
下校中、ぶつぶつと呟きながら少年が振り向くと、そこには半透明の子どもが居た。
【こっくりさん】と呼ばれた子どもは、少年に言葉を返す。
「ボクの力を、チャチな事に使わないでほしいな。主様。」
「『あるじさま』なんてカタ苦しい呼び方、やめてよ」
煙たがる少年に対し、【こっくりさん】は肩をすくめた。
「わざとだよ。たまには『契約者』だって事、思い出してほしいからね。」
「だって、分からないんだもん。けーやくとか、アーバントとか。」
【こっくりさん】は『伝説使徒(アーバント)』の一種である。
『伝説使徒』とは、情報によって生まれた生命体である。
物理的な肉体を持たず、自らの素となる情報と謎の根拠でそこに存在する。
そのため、人間によっては視認困難な場合もある。
しかし、媒体も無しにその体と精神を保つのは困難である。
情報は、時間と人間の手で常に変化し、それは伝説使徒にも影響を与える。
外見だけでなく、性格や能力さえも、ミームの加減で変化してしまうのだ。
安定を求める伝説使徒は、人間に契約を持ちかける。
『人間の脳を、自らのミームを保存する媒体として扱う』契約だ。
「主は、ボクのミーム……つまり記憶を覚えていてくれる。それだけで良いんだ。
キミが生きている限り、ボクはボクのまま生きていけるからね。」
媒体があれば、体と精神は安定する。
ただし、媒体である人間―契約者―の死は自らの破滅に繋がる。
契約者の吟味は『伝説使徒』の死活を別ける問題である。
【こっくりさん】は、自分の運命を少年に託した。
人間であれば、小学生レベルの知能でも契約できるらしい。
「そう言われても……忘れる方が、難しいし。
オレだって、こっくりさんが居て、うれしいし。」
少年にとって、契約は苦痛でも負担でもなかった。
人間の脳はかくも複雑で、1体程度の伝説使徒なら保存できてしまうようだ。
当然ながら個人差はある。脳の状態や伝説使徒の情報量によっては、命の危険すら考えられる。
だが、リスクを冒す価値が『契約』にはある。
伝説使徒を保存した人間の脳は、進化する。
全ての伝説使徒を知覚しやすくなり、超感覚を獲得する例もある。
また、契約した伝説使徒の力を多少コントロールしたり、時間をかけてミームを書き換える事もできる。
そもそもとして、伝説使徒の命を預かるものとして、従者のように使役できるのだ。
もっとも、少年にとって【こっくりさん】は『友達』でしかない。
少し不思議な存在であるが、自分と変わりない友として、ただ受け入れていた。
「……ありがとう。」
「じゃあ、帰るとするか―――」
「おーい!」
ふと、遠くから少年を呼ぶ声が聞こえた。
声の方からクラスメイトの姿が見えると、【こっくりさん】はその姿を消した。
「なぁ、今から、裏山に行かないか?」
「なんだ? ヤブから棒に。」
少年のクラスメイトが提案したのは、裏山の探索だった。
クラスメイトが言うには、裏山には『遭難者の霊』が今も彷徨っているらしい。
それが最近になって、裏山で遊ぶ子ども達を襲っている……そんな噂が流れているのだ。
「そのウワサが本当か、確かめに行こうぜ?」
「……ふーん。」
きっと遊びのつもりだったのだろう。だが、少年は知っている。
【幽霊】というものが実在し、時に、人を襲う事を。
「悪いけど、今日は用事があるからパス。明日にしようぜ。」
「じゃあ、帰って退治するための、準備でもするか。またなー!」
そう言ってクラスメイトを帰らせたが、少年はひとり呟く。
「悪い、こっくりさん。今日は用事ができた。」
―――裏山
ある程度整備された道に従えば、ハイキングコースとして利用できる場所である。
だが少し外れると、獣道ぐらいしかない迷路と化す。
子ども達にとっては、探検ごっこや秘密基地造りといった、有名な遊び場にもなっている。
そんな場所に、人を襲う【幽霊】がいる。
誰かが退治するなら良いが、きっと大人は信じない。
……なら、退治できるのは自分だけだ。
「ここら辺かな?」
「うん。気を付けてね。」
少年と【こっくりさん】は、獣道を進んでいた。
噂となっている【遭難者の幽霊】がいる場所を目指して。
しかし、見当はついていた。【こっくりさん】の能力である。
【こっくりさん】は、十円玉を介して質問することで、あらゆる質問に答える事が可能となる。
その能力で、事前に居場所を突き止めていたのだ。
「よっと……ふぅ。」
「あっ、危ない!」
少年を【こっくりさん】が突き飛ばすと、その真上を何かが通過した。
生き物ではない……『伝説使徒』だ。
《ククク……ボウヤ、コンナ所で、何シテル?》
ボロ切れを纏った大人の女性に見えたが、その姿はうっすら透けている。
その声も、少年の頭に直接響くように聞こえた。
間違いない、彼女が【遭難者の幽霊】だ。
少年は、思わず手に取った木の棒を投げつける。しかし、木の棒は幽霊をすり抜けてしまった。
「あっ!?」
《オヤオヤ……オイタが、スギルわ……》
慌てる少年の元へと、ゆっくり、ふわりと、【遭難者の幽霊】は向かって行く。
「主! 実体がない伝説使徒に、そんなのは効かないよ!」
【こっくりさん】の叫びを聞き、少年は冷静になった。
すぐさまポケットから手袋を取り出し、両手に取り付ける。
「こっくりさん、こっくりさん……鳥居へ!」
少年がそう呟くと、【こっくりさん】は吸い込まれるように、手袋の中に入った。
《ボウヤ、アタシが……躾けて、アゲル!》
【遭難者の幽霊】が、少年に向けてその腕を振り上げる。
しかし少年はわずかな動きで避け、カウンターの拳を振るう。
「たぁ!」
《ゴフゥ!? ナ、何故……? タダの、パンチで……。》
その拳は、実体がないはずの幽霊に当たった。
「ふふん、ただのパンチじゃない……『ボク』のパンチ、だよ。」
少年の口から、【こっくりさん】の声が響いた。
「憑依さ。実体を持つ人間に、ミームであるボクが憑依したら……。
より強いミームを持つ、伝説使徒のように戦える!」
《ソ、ソンナ……》
少年が付けている手袋には、十円玉が仕込まれている。
その十円玉により、【こっくりさん】の第2の能力、『十円玉に触れている者に憑依』が可能となったのだ。
憑依された人間は、伝説使徒と一心同体となり、より強い力を振るえるようになる。
少年に憑依した【こっくりさん】は、殴る・蹴るを繰り返す。
女性の幽霊は、その殴打に圧倒されていた。
《コ、コドモ、如き……。》
「に、圧倒されているのは、誰?」
そう嘲笑して殴りつけた時、【遭難者の幽霊】は怯まなかった。
そのまま少年の首を掴み、押し倒す。
《コドモ如きが、アーバントを、ナメルなァッ……!》
「ぐっ、しまっ……!」
【遭難者の幽霊】は、ギリギリと少年の首を絞める。これは、憑依の弊害ではない。
幽霊タイプの伝説使徒は、物理的には触れないが、一方的に人間を攻撃できるのだ。
むしろ憑依のおかげで、少しは丈夫になっているが……。
「(このままでは、主が……)」
《クカカ……サァ、ヒトリで、何が、デキル!》
抵抗する【こっくりさん】に構わず、女性の幽霊はその力を強めた。
【こっくりさん】に、なす術はなかった。
「(つまり、『オレ』の番だな。)」
「こっ、くり、さん……こっくり、さん……。」
《ホザけッ……!》
少年に憑依した【こっくりさん】は、女性の幽霊に抵抗しながら、何かを呟く。
「チェックマークへ……!」
《ナッ、グワァ!?》
そう呟いた瞬間、手袋から飛び出した【こっくりさん】が、女性の幽霊を頭突きで突き飛ばす。
そしてそのまま靴の方へを入っていくと、少年は立ち上がった。
《コザカ、シイ……》
「いいか、『ひとり』じゃない……『オレたち』だ!」
今度は、少年の声に戻っていた。しかし少年が纏う雰囲気は、先ほどのままだ。
《違いナド、ナイ……! マトメテ……!》
「“フリーキック”。」
少年が呟くと、その両手の間から、黒い球体が現れた。
それを使い、少年はリフティングを始める。
《……急ニ、アソビ、始めた……?》
「さっきまでは、こっくりさんの番だったが……選手交代さ。」
リフティングを重ねる毎に、球体はそのエネルギーを高めていく……。
【遭難者の幽霊】は、そう感じ取った。
しかし気づいた次の瞬間、球体は自分へ目掛けて、飛んで来ようとしていた。
「カウント10、シュート!」
《クゥッ!? グヌヌ……!》
とっさに【遭難者の幽霊】は、その球体を掴んだ。しかし今にも弾き飛ばされそうだ。
《コンナ、モノデ……!》
「“ハンド”ォ!」
少年がそう叫んだ瞬間、球体が爆発し、【遭難者の幽霊】を吹き飛ばした。
《カ……ハッ……?》
「サッカーだよ。オレはただの人間だから、オレの得意なルールで、戦わせてもらう。」
これは、契約の履行である。伝説使徒は『契約者に力を貸す』、それは伝説使徒の枷とも言える。
【こっくりさん】は、少年へ一方的に憑依したままにはなれない。
少年が、【こっくりさん】の力を使う状態に、いつでもシフトできるのだ。
そのスイッチは、手袋と靴に仕込まれた、十円玉だ。
鳥居マークが書かれた手袋へ入った時は、格闘する『少年に憑依した【こっくりさん】』
チェックマークが刻まれた靴へ入った時は、サッカーで戦う『【こっくりさん】を憑依した少年』となる。
《クゥ、クソォ……!》
「待て、逃げるな!……“キックオフ”!」
少年は、ポケットから取り出した十円玉を指で弾いて、また黒い球体を作る。
弾いた十円玉が球体に入ると、球体は地面に落ちた。少年はそのまま、獣道でドリブルを始める。
《クソォ、クソォ……!》
「(くっそ、坂でサッカーするのは、つらいな……。)」
「(主、見失わないようにね。『あそこ』に誘導するよ。)」
【遭難者の幽霊】は、木々をすり抜けて、ただひたすらに逃げていく。
【こっくりさん】の能力と、遊び場としての記憶から、少年は追跡しつつドリブルする。
《ハァ……ハァ……。》
【遭難者の幽霊】が辿り着いたのは、ピクニックができる広場であった。
見晴らしこそいいが、幸いな事にガキ共はいない。音を頼りに、木のそばへ隠れた。
……無駄とも知らずに。
「(主、あの木の後ろ!)」
「よっしゃあ!」
【こっくりさん】の誘導により、その場所は分かった。
あとはこの足場で、あそこへ的確にシュートするのみ。
ならば……憑依による身体能力向上を利用した、あれを使う。
「オーバーヘッド……シュート!」
蹴り上げた球体と共に飛び上がり、宙返りして球体を蹴り飛ばす。
球体は、すさまじいエネルギーを纏いながら高速で飛び―――【遭難者の幽霊】が居る木を通り過ぎた。
《……バーカ。》
「こっくりさん!」
はたして、彼女はそれに気づいたのだろうか―――
彼女の後ろを通り過ぎた球体は―――
【こっくりさん】が受け止め、今にも炸裂せんと光っていた事に―――
「 “サドンデス” 」
【遭難者の幽霊】は、跡形もなく消え去った。
―――帰路
「へへへ、今日も快勝だったね。」
「快勝じゃないでしょ、何度かピンチだったし。」
【遭難者の幽霊】を倒し、少年達は帰路に着いていた。
「あれはオレじゃないしー、こっくりさんだしー。」
「うっ……ごめん。主の身体なのに、調子に乗って。」
「あぁ、そうじゃなくてだな。もっと作戦とかレンケイを考えようぜ。サッカーみたいにさ。」
契約者と従者という関係でありながら、少年は【こっくりさん】を友と見ていた。
それが、【こっくりさん】にとっては、たまらないほど嬉しかった。
「……うん! でも、主も無茶はしないでね。オーバーヘッドは危険だから。」
「……あはは。やったオレでもヒヤッとしたぜ。」
特に、誰に言われたでもないが。少年達はこれからも、伝説使徒と戦っていくだろう。
自分の世界を、守っていくために。
さぁ、明日は休みだ。『幽霊なんていない裏山』を探検しよう。
人は噂した、「『伝説使徒』と契約すれば、その力を行使できる」と。
人は噂した、「『伝説使徒』は、契約者が得たミームによって、時に進化する」と。
―――これは、『伝説使徒』と契約し、『伝説使徒』と戦う者達の物語―――
あう、タイトル入れるの忘れてた……
という訳で、サンプル2『サッカー少年とこっくりさん』でした
ほら戦闘シーンだぞ、兄者喜べよ☆
ちなみに、サンプル1『巻き込まれた男』と各2話ずつ、あと計4話だけプロットがあります
むしろ、残りのサンプルが作れない……いや、その前に沖縄編書けよっていう……
どちらが先に上がるかは、明日の俺に聞いてあげてくださいな
改めましてシャドーマンの人と大王の人、お疲れ様です
ミサちゃんが再登場したとなって心が高鳴ったのが私です
もう4年も前かな? 彼女が単発で登場したときは
当時はどういう理由か、岩清水倖子と終音ミサがぶつかると思っていました
「アイドルは排泄しない」の彼女、元気かな……
>>4-6
正直に白状します
てっきりお料理教室の先生は成長した漢クンだとばかり……orz
>>6
頑張ります!
(やばいよやばいよぉぉ……バトルなんて殆ど書けてないよぉぉ……!!)
>>12-18
アーバントという響きが非常に良いですね
人間を媒体として扱うというのも次世代―ズ中の人のイメージと重なる所が多いです
媒体としてはインターネットって打ってつけのものがあるにも関わらず
都市伝説からは未だに人間が選ばれるというのも、そのなんだ、色々考えさせられますね
次世代―ズの方は、【9月】と【11月】のエピソードを不定期不規則に書いており
若干これって混乱しない? 大丈夫? とか考えながらやっています
そして……
>>8
回答します……!!
>1 ピエロって学校町に何しに来たんですか?
「ピエロ」の真の目的は現時点で【不明】ですが、大雑把に述べると【探しもの】です
真相は終盤でアンロックします
早く書かないとだな
>2 早渡含めたキャラの今日履いてる下着について教えてください
とうとうこれが来ちまった……
少々お時間くださいませ、再度回答しますわ♥
>3 早渡のお気に入りの下着ってどんな感じですか?
早渡「えっ? お気に入りの下着?」
早渡「……」 ☜ 考え中
早渡(考えたこともなかった……。こだわりも無く普通に売ってるトランクス履いてるんだけど……)
早渡「あっ! 履き心地なら綿100%のがいいかな!?」
○前回の話
前スレ 901-904 次世代ーズ
「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 Part 12 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1483444899/900-904)
※この話は作中時間軸で【9月】の出来事です
※この話は前回の話と繋がりはありません
○時系列
●九月
・早渡、「組織」所属契約者と戦闘
・早渡、東中でいよっち先輩と出会う
・花房らと共に三年前の事件の「再現」に立ち会う
・早渡、診療所で「先生」から話を聞く
・ソレイユ、変態クマに捕まる
・「ピエロ」、学校町を目指す
※ ☜ 今回はこのあたりの話
・∂ナンバーの「会合」
・いよっち先輩、自分を取り戻す
その夜の内に居候先を確保する
・∂ナンバー、「肉屋」の侵入を予知
●十月
・「ピエロ」、学校町へ侵入
●十一月
・戦技披露会開催
・診療所で「人狼」イベント
「人狼」終了後、いよっち先輩が遊びに来る
・バビロンの大淫婦、死亡
・「狐」本戦?
○三行あらすじ
色々あって東区の中学校で「繰り返す飛び降り」の東ちゃんと出会った
東ちゃんはいつの間に消えてた
後日、ちょっと気になったから東中に行ってみた
「普通だな……」
夜の学校町、東区、もう22時前
中学の校庭に立ち、校舎の方を眺める
「組織」所属の野郎に追い回された一夜から
俺は夜中の徘徊を控えていたのだが、今回は特別だ
此処へ来た理由は一つ、東ちゃんに会うためだ
さっきまで中学の敷地内を色々見て回って東ちゃんを捜していた
ひょっとして屋上に居るんじゃないかとも考えたが、その気配も無さそうだ
あの日、初めて花房君(と「組織」のワイルド野郎)と出会い
成り行きで三年前の事件について知ることになったあの日、俺は東ちゃんと出会った
あの事件の犠牲者で、今は都市伝説「繰り返す飛び降り」になった子だ
結局俺は色々気になって、もう一度東ちゃんに会いに行くことにした
どうにもあの日の東ちゃんの様子が気に掛かって仕方なかった
初めて彼女を見たときは虚ろな笑顔、その後に話し掛けられたときの様子は普通だった
それが事件の再現を見ている途中で東ちゃんの顔は虚ろに戻り
最後に見たときは泣きそうな顔をしていた
そして、彼女は唐突に姿を消した
東ちゃんのあの様子も気になったし
ついでにあの事件の話を聞きたくて、彼女に会えないかと夜の中学をお邪魔したんだ
正直、怖くないわけじゃない。いや違う、今は来たことを若干後悔している
何故って、此処は俺が「組織」所属の刀使い&武者亡霊に襲われた因縁の場所だからだ!
来る前は東ちゃんの方が心配だし、もう関係ないね! とか考えていたが、甘かった
思いつきで行動するんじゃなかった、また「組織」の奴とかち合う危険性は大アリなんだから
仕方ない、もう帰ろう
結構あちこち捜したが東ちゃんの姿は見えない
もしかしたら彼女は校舎から抜け出して外出中なのかもしれない
でもそれも妙だな、自分の“領域”から自由に移動なんて可能だろうか
東ちゃんがコードから逸脱してるんなら、そういうことも出来るかもしれないけどな
念のため電話してみるか
携帯を引っ張り出して、何度も電話した東ちゃんの番号にもう一度掛けてみた
あの日、彼女から貰った電話番号のメモはそのまま花房君にあげた
しかーし俺は彼女の電話番号を一切記憶しなかったわけではない
というわけで俺も東ちゃんの電話番号はバッチリ控えている
控えているんだが、結果は見えていた
俺は何度か東ちゃんに電話してみたが彼女に繋がることは無かった
お掛けになった電話番号は、現在使われておりません
そう、これだ
電話しても決まってこのアナウンスが流れる
俺が番号を記憶し間違えた可能性? 東ちゃんのメモは携帯で撮影しといたのでそれは無い
というわけで考えられるのは東ちゃんが自分の番号を書き間違えたか
それとも、この番号は本当に不通か
花房君も彼女に電話したんじゃないだろうか
彼に確認した方がいいかもしれない、そっちも繋がらなかったのかどうかを
今度聞いてみるか、いや今聞こう。電話したいところだが時間も遅いのでメールでいいだろう
ところで俺はメールを書くのが凄い苦手だ。具体的に言うと携帯で文字をちまちま入力するのが苦手
とりあえず中学を出てからメールを書いた方がいいかもしれない
さっきから複数の都市伝説っぽいニオイも感じる、距離はまだ近くないのが幸いだ
今日はもう立ち去った方がいい、東ちゃん捜しはまた今度にしよう
●
「アイツ、怪しくない?」
「そんなに怪しくないと思うのー」
東区の中学から出てきた奴は商業高校の制服を着ている
その怪しい奴の後ろ姿を電柱の陰から監視している連中がいた
電柱に体を隠すようにして商業生の背中を睨みつけるのは
闇夜にあっても人の目を引くであろう、鮮やかな赤い髪をした少女だった
腰までの丈の羽織り物の下からスクール水着のような衣装を着用している怪しい女だ
おまけに彼女の肩辺りに乗っている羊のぬいぐるみに小声で話し掛けており、輪を掛けて怪しい
彼女の名はマジカル☆ソレイユ
露出魔でも自称魔法少女でも無く、れっきとした都市伝説契約者だ
彼女が何をしているのかというと、先日襲い掛かってきた変態クマの捜索である
「大体、夜の中学で何してるのよアイツ、絶対怪しいわ」
「そこは、うーん……、怪しいなのー、でもぉ……」
「アイツ契約者だと思う? メリー、どう? わかる?」
「もっと近づかないとわかんないなのー」
何やら羊のぬいぐるみと怪しげな会話を交わしている
「アイツ、絶対クマの本体よ」
「ソレイユちゃん、メリーの勘だけどあの人は犯人じゃないと思うのー」
「そう? 私はアイツが怪しい。うん、絶対」
「なんで怪しいと思うのー?」
「……直観よ」
「あ、今間があったなの! 今絶対ちょっと考えてから言ったなの!」
ソレイユはあの商業生こそ変態クマの本体では無いかと考えているようだ
仮に商業生が契約者であったとすれば、疑惑はより深まるというものである
操作系統の能力でぬいぐるみを操り変態行為に及んでいても不思議ではない
「必ず尻尾を掴んでボコボコにしてやるわ……!」
ソレイユの言葉に恨みが籠る
卑猥な触手で狼藉に及ぶ不埒な契約者を野放しにしてはならない
このとき、彼女のなかにある妙な正義感は既に燃えに燃え上がっていた
ソレイユと羊のぬいぐるみは引き続き怪しい商業生を監視すべく
電柱の陰から陰へと音もなく移動し始めた
果たして、かの変態テディベアの本体は
前方を行くあの商業生こと早渡脩寿であるのか
それはまだ、不明である
「なんでサクリじゃないんだろ」
早渡脩寿が中学から去った後
東一葉は独り、校舎の屋上に居た
返しの付いたフェンスの外側に立ち
屋上の縁から夜の闇に塗りつぶされた下方を覗き見ている
靴を脱いで
しかし、後ろ手にフェンスをしっかり掴みながら
「なんでわたしなんだろ」
その自問は既に彼女が幾度となく繰り返してきたものだ
「戻ってきたのがサクリだったら、みんな喜んだのに」
最早自分が何を呟いているのか、自覚しているのかすら覚束ない
「これが全部悪い夢で、わたしが死んだのも全部夢でさ」
最早自分が誰に呟いているのか、それすら分からずに
「ここから飛び降りたら、目が覚めるかな」
なんてね
フェンスを掴む手が震える
本当は飛び降りてみる勇気なんか無い癖に
そう、心の中で、誰かが嘲るような口調で、馬鹿にしてくる
それが他ならぬ自分の声であることに気付いたのは、もう少し経ってからだ
「何やってんだろ、わたし」
東は漸く
自分が以前と同じようにして、屋上の縁に立っているのだということを理解した
怖い
嫌だ、死にたくない
戻ろう
もう既に自分が[ピーーー]でいることを、半ば忘れたままで
彼女は震える手でフェンスを強く握りしめながら、フェンスの内側へと戻ろうとして
「――ふぇ?」
どういうわけか、足を滑らせて
「 ぅ、あ」
校舎の下に広がる闇の中へ、堕ちていった
□□■
今日はここまで
>>21-24
次世代ーズさん乙です~。結構昔のお話?この後どこに繋がるのか……
ところで、メールアドレスにsagaを入れていないのは仕様ですか?
>>20
昨日書かれた謎のメモからレスしますー
>アーバントという響きが非常に良いですね
>人間を媒体として扱うというのも次世代ーズ中の人のイメージと重なる所が多いです
語感は『ドー○ント』から来ていたり。そして漢字は『徒使伝説』
情報生命体を維持するためには、媒体が必要ですよねーという認識だったんですが、同じイメージの方が居て嬉しいです
>媒体としてはインターネットって打ってつけのものがあるにも関わらず~
メモによると「サンプル3『伝説使徒を追う者』のプロットができたから、今度書け」とありますね
それが回答になると思われます……っておい、昨日の俺
ログレスやってる間にいっぱい来てる!
読む前にこれだけ答えよう
>>8
>1 れっきゅんの子供たちも全員決闘者ですか?
上から6人だけ、っていう予定
因みに
●未來:【サイバードラゴン】
●京子:【恐竜族】か【ダイナミスト】
●英哉:【E・HERO】
●琉羽:【サイバーダーク】
●天架:【宝玉獣】
●天美:【A宝玉獣】
みたいな
>2 子世代が活躍する話ってワンチャンありますか?
考えてたら年齢の辺りで訳分からんなったでござる
確かどっかにまとめてた筈なんだが…
>3 れっきゅんの今日履いてる下着を教えてください
あいつの下着は多分黒だわ
あとトランクス派
>4 ラブラブですか?
それはどっちのことだw
裂邪とミナワは相変わらずだけど
俺はかれこれ4年になるなぁ
そういや今月2人で北海道行くんすよ
誰かとニアミスしないかなー
という訳で
大王の乙ですの
戦闘は良い、素晴らしい
最近見た『ウルトラマンサーガ』のバトルシーンは悲しかった
低すぎる空中戦に落とし穴にはまるハイパーゼットン
ゼットンファンを馬鹿にしてるのかと
てか絶対バット星人が憑依するよりゼットン単体で行った方が強かったと思う、『帰マン』の個体は賢かった
じゃなくてあれだな
こっちの世界のキャラがそっちの世界に飛び込んだらどうなるんだろう
次世代ーズの人乙ですの
ぎゃあああ俺の一葉ちゃんが!(
何てタイミングで居なくなったんだ早渡!
しかし繰り返すってぇと…こう、なるのか?(妄想中
呼ばれた気がしたから、回答するぞ。
「アーバンレジェンド・サーヴァント」という正式名称は後付け。そもそも「servant」という単語を知らなかったようだ、彼。
戦闘シーンについては、ちょっと変身ヒーローみたいだな。中学生になると、本格的に成長した姿をお見せできるだろう。
>>29
>こっちの世界のキャラがそっちの世界に飛び込んだらどうなるんだろう
「何も起きない」が正解かね。Test Worldは学校町をモチーフとしているから、高い互換性を持っている。
『都市伝説=伝説使徒』という点が基本だな。ただ、野良の伝説使徒は人格が不安定だけど、学校町の野良都市伝説が不安定化する訳ではない。
学校町でのステータスが優先される、と思ってくれていい。【並行世界の住人】という伝説使徒扱いもされるしな。
……実はSCPらしき組織のテキストがあるんだが、結構細かい所まで書いてあるぞ。
ただ、今入ろうとするのは危険だ。Test Worldは未完成。骨組みしかない家でホームパーティはできない。
そもそもTest Worldは、名前通りの意味しか持たない世界だからなぁ。発展させる時は別の世界を創るかもな。
入れるようになったら、『あいつ』が歓迎してくれるんじゃないか? 裂邪辺りは特に。
>>28
>そういや今月2人で北海道行くんすよ
たった今、『そんな暇があるなら親に顔を見せろ』というメモが届いた。
>>30
>「アーバンレジェンド・サーヴァント」という正式名称は後付け。そもそも「servant」という単語を知らなかったようだ、彼。
それでも決闘者か!
『ファラオズ・サーヴァンド(ファラオのしもべ)』とか『D-HEROドレッド・サーヴァンド』とかあったろう!
> 学校町でのステータスが優先される、と思ってくれていい。【並行世界の住人】という伝説使徒扱いもされるしな。
なるほど
『ポケモン赤・緑』に『ポケモンサン・ムーン』のピッピを連れて行ってもフェアリータイプのままだと(意☆味☆不☆明
> 入れるようになったら、『あいつ』が歓迎してくれるんじゃないか? 裂邪辺りは特に。
何故か分からんがそうなのか
今度ちょろっと触れてみてやろう
> たった今、『そんな暇があるなら親に顔を見せろ』というメモが届いた。
だってこんなんだぜ↓
嫁「6月に北海道の叔母ちゃん家行くから」
俺「へぇ、いてら。留守番は任せろ」
嫁「は? お前も行くんだよ」
俺「はい!?」
>>26
ありがとうございます……!
>>29
いよっち先輩が自分を取り戻すのはもう暫くですね
その暁には早渡の財布が爆発して枯渇するのだと思います
>>26
>次世代ーズさん乙です~。結構昔のお話?この後どこに繋がるのか……
折角なので次世代の概要をまとめつつ、次世代―ズの言葉で説明したいと思います
花子さんとかの人に「また次世代―ズが思い違いしてる……」と思われたら
中の人は墓穴に飛び込むより他なくなるので、再確認の意味合いもあります
○次世代編
次世代編は学校町を舞台にした諸作者さんのお話(現世代)からおよそ20年後のお話です
>214: 罪深い赤薔薇の花子さんとかの人 ◆nBXmJajMvU :2016/09/19(月) 11:41:44 ID:94yN7BHs
>>>213
>>そういや次世代、何年後ぐらいなんだろう
>大雑把に考えて20年後くらいのイメージで書いてました
>幸太がまだ30代くらいみたいに書いてましたし
次世代編で起こってるのは、まず「狐」の侵入(花子さんとかの人)
盟主様の異変と水神様の企み(アクマの人)、「凍り付いた碧」の暗躍(鳥居の人)です
次世代のある年の春に「狐」とその配下が学校町に侵入しています
実はその三年前にも「狐」は学校町に侵入して大事件を起こしています
それが花子さんとかの人の連載で度々言及される三年前の事件です
そして次世代編現在、花子さんとかの人の次世代組が「狐」を始末しに行く、というのが本筋です
で、次世代ーズは花子さんとかの人の設定に一部乗っかっていますorz
○次世代ーズ
「次世代ーズ」は一言でいうとバトルものの皮をかぶったラブコメを目指しています(本当)
概要をざっくり述べると「次世代の時間軸で、施設出身の子が死に別れた初恋の幼馴染の消息を辿りつつ
頭おかしい奴とか都市伝説新興宗教の連中とかおばけとかをボコボコにしつつ大切なものと出会い直す」話です(予定)
グロよりはエロを目指したいがどうなるかな? なんか他にも色々あった気がしますが
一応、焦点人物の早渡脩寿とマジカル☆ソレイユだけ追ってても話の本筋は掴める、はずです
「次世代ーズ」は「狐」侵入の年の【9月】から開始しています
一応、「次世代ーズ」の過去部分に、国家ぐるみの陰謀やその発動阻止とか
孤児の急増とか、契約者の適性を持つ子供の増加とかがあります
こんなのとかもあります
>一宮テロ
> 「次世代ーズ」開始のおよそ五年ほど前に発生した大規模な殺傷事件
> この事件は惨劇の場となった地方都市の名を取って呼ばれることとなった
> 表向きは当地方を拠点とした暴力団同士の抗争という形で情報統制が行われたが
> 真相は都市伝説関係勢力、「都遣」と「楽団」との間で発生した“エフェクター”を巡る争奪戦である
>
> その市街戦により勢力双方のみならず無関係の民間人を含む大多数の死傷者が発生し
> 事件の余波で当地方一帯と関東地方の一部が停電に陥り、社会インフラが一時混乱を極める事態となった
○>>22-24について
>>22-24は【9月】時点のお話です
ちなみに前スレ最後の998-999は【11月】時点のお話です
概要は>>21の時系列をご覧いただけると……この時系列表、穴がある上にざっくりし過ぎた……
○ちなみに
早渡脩寿は次世代の人材として
秘密裡に契約者を養成したり生体実験を実施していた施設で育ちました
この施設は「七尾」の施設で、次世代ーズ開始の4年前に閉鎖というか解体されました
早渡その同期はそこで教師役の研究者から「七つの都市伝説と契約した能力者」の話を聞いて
みんな彼にあこがれ、彼のようになろうとしました
前スレ568で土下座した「黄昏裂邪さんに憧れている子供達」とは、つまりそういうことです
ありがとうございますorz
>>8
>2 早渡含めたキャラの今日履いてる下着について教えてください
はい
「早渡含めたキャラ」という部分で、これはつまり全員分か……?
と気になりだしたので、ひとまず名前というか固有名が出た分+αで行きます
ではどうぞ
○主要人物ーズ
早渡 「はい、早渡です。はい? 今日履いてる俺の下着を教えろ?
え、いやあの、普通にイオンで買った紺の無地……ってオイ、それ聞いてどうする積りだ!?」
夜先輩「下着、ですか? 濃い色合いの、紫ですが。それがどうか、しましたか?」 ☜ 小首をかしげてる
ソレイユ「なっ……!! バっ、ッッカじゃないのっ!! 何聞いてるのよっ!! 言うワケないでしょ!?
大体、下は水着だし別に下着なんか……ッッ!! ああっああああああっっわ、忘れて!! 今のは忘れなさい!!」
メリー「メリーはパンツはく必要ないのー。ぬいぐるみだからもふもふしてるのー」 フンスフンス =3
ありす「……」 ☜ 嫌悪と侮蔑の入り混じったえらい形相で睨みつけている
千十 「っっ!? か、回答を拒否します!!!」 ☜ 顔が真っ赤
○一般ーズ
ユキオ「はあ……、ソレイユお姉さん……。えっ、僕? 何? えっ、パンツの色? 白のパンツだけど……?
……実は前に赤い髪のお姉さんに会って、あの人のことを考えるとパンツの中がむずむず 【以下、検閲により削除】
コトリー「ちょ、ちょっと、なんでそんなこと聞くのか、私にはよく分かりませんの……」 ☜ 困惑している
てんちょ「やあ! もしかして『ラルム』で働いてみる気になったかい!? えっ? し、下着の色?
えっ、私の、下着の色、かい? えっ? ……ええ?」 ☜ 困惑している
おばちゃんズ「「「えぇぇぇ!? アタシらのパンツの色が知りたいのぉぉぉ!?!? 【以下、要請により削除】
○都市伝説ーズ
人面犬「よう、俺だ。北海道犬の血を引くクールガイ、と言えばこの人面犬、半井を置いて他にはいねえ
ところでお前にいいことを教えてやる。都市伝説ってのはだな、パンツを履かないもんだ ☜ ニヤニヤしてる
聞こえなかったか? もう一度だけ言うぞ? 都市伝説は、パンツ履かない」 ☜ めっちゃニヤニヤしてる
偽警官「助けてくれ!! どこか暗い所に監禁されてんだ!! 助けてくれよっ!! あ゙あ゙!? 下着の色? 知るか!!
とにかく此処から出してくれ!! 聞こえてんだろ!? クソッ、下校中のJKを襲ったらこんな目に遭うなんて
割に合わねえんだよ!! おい!! 聞いてねえでとっとと俺を助けに来やがれ!!」
中之条「さて、我々『朱の匪賊』は世に言う『トンカラトン』から成る戦闘衆である
であるから、我々は紅き包帯を巻いている故、褌などを締める必要は……」
六郎 「我が姓は包! 名は六郎! 『朱の匪賊』、四番隊隊長であるッ!!
いかにもッ! 己れはムカデの意匠が入った紅き褌を締めておるッ!!」
中之条「隊長殿!!??」 ☜ 狼狽えている
兄者 「我が名は珍宝! 『朱の匪賊』、四番隊副隊長であるッ!!
俺は無論、魂よりも激しくッ!紅蓮の如く燃えるッ! 紅き褌だッ!!!」
ヤッコ「そしてオレがヤッコ!! 『朱の匪賊』、四番隊副々隊長だぜェ!!
勿論オレも包帯の下からはカッチョいい褌締めてるに決まってンだぜェェ!!」
中之条「副隊長殿ッ!!?? 副々隊長殿ォッ!?!?」 ☜ 激しく狼狽えだした
中之条(「十六夜の君」、早くお助け下され……!!)
その他「「「「「「包帯がある故、ふんどし締めておらぬ。さあ、トンカラトンと言え」」」」」」
○引き続き都市伝説ーズ
ヨグ坂「よ! 『口裂け女』のヨグ坂ルルだ。最近物騒になってきてんなあ、学校町
ん? 今着てる下着だって? 普通にイオンで売ってたグレーのやつだけど?」
変態クマ「ふっふっふ、クマのパンツについて聞くとは中々良いセンスしてるクマ★
もっともクマはパンツ履いていないんだクマ! というか私は都市伝説枠ではなく契約者枠なのだが……
まあいい、いずれこの学校町の女子契約者と都市伝説諸君は我が触手の餌食となって官能の海にゔぼれるのだ……
ふっふっふ、くっ、くかかかっ、くかかかかかっ、ふはは、はっはっは、アーッハッハッハッハァ!! ア゙ーっは 【以下、削除】
○「組織」ーズ
サスガ「“オサスナ”だ。何? 下着の色? それを知ったところでどうなる」 ☜ 冷静
落武者「ヌゥゥゥゥ……、……」 ☜ もじもじしている
モヒート「“モヒート”です。うん、『組織』所属です
……は? 下着、の色……? ……女子に向かっていきなりそれ聞くっていい度胸ね
上等じゃない……! 『コーラ』で溶かしてやるから覚悟しなさいな!! 逃がさないから!!」 ☜ 能力発動
∂-No.0「はい、∂ナンバーですが……。恐れ入りますが、その質問と我々の任務とにどのような関係があるのか理解しかねますが」
∂-No.0(い、今の下着について教えろ、ですって……!? 何を考えているのこの人は……、い、いやらしいこと考えてるのかしら……) ☜ 内心動揺
∂-秘書「下着の色を教えろ? それセクハラですよね? いいんですか?
言っとくけど、『組織』の然るべき部署に通報済みですので。覚悟してくださいね?」 ☜ キレてる
○「ピエロ」ーズ
ピエロ「「「オーレーたーちー!! パンツ★履いてませーん!!!」」」
ピエロ「俺は履いてるけど。ショッキングピンクのバタフライ」
ピエロ「ピエロによってマチマチなんじゃね?」
ピエロ「女子ピエロはエロ下着持ってるよなぁ……」
ピエロ「いいよなああいうの、マジ殺した後に犯りたくなる」
ピエロ「の前にお前が殺されてんだろ」
アブラ「やあやあやあ、こんばんは。今宵も元気があっていいねえ
おや、僕かい? 本体はともかく、義体の方はスタンダードなボクサータイプだが」
海から「俺は花柄のパンツかな。“娘”からの誕生日プレゼントなんだよ。俺のお気に入り♥」
○その他ーズ
東一葉「いよっちだよ。下着の色? 知りたい? 見たいの?」 ☜ 虚ろな笑顔
東一葉(わーばかばか!! 何言ってんのわたし!? あ゙あ゙あ゙!! お嫁に行けなくなっちゃうよぉぉ!!) ☜ 赤面
クル子「オッス、おらクル子。早渡とおんなじで『七尾』出身だよ!
フルネーム? いいじゃんそんなの。で、なに? ……パンツ、の色?
え、っと、上も下も白だけど。あ、後さ、 赤 いのと、 青 いの、どっちが 好き ?」 ☜ 顔は笑ってるが眼が笑ってない
まりあ「やあ、まりあだよ。脩寿の幼馴染で親友なの! 元『七尾』でーす
えっ、今日の下着? えー……。フフン、実はパンツ履いてません」 ☜ ドヤ声
地の文「こんばんわ。地の文おじさんだよ。最近は『こんばんは』と表記するとキレる大人が増えてるようだね
ダメダメ、そういうことで一々キレないの☆ で、パンツだが。……純白のブリーフを愛用している、と告白したらどうするね? ん?」
最後までお付き合い頂きありがとうございましたorz
こうして見ると主要人物より本編の敵対的なキャラのが律儀に答えてるような気がしなくもない
では前座・大王の契約者がお時間を頂きます。
>>12-18
『伝説使途』。都市伝説に関する様々な設定を引き継ぎながら、学校町とは異なる発展を遂げた世界。
前回は、伝説使徒【こっくりさん】と契約したサッカー少年の物語。
少年は、自らの周りを守るため、戦う道を選んだ。独りではなく、【こっくりさん】と双りで。
今回は、しかしなおも理解しがたい『伝説使徒』の秘密に迫る。
さぁ、『科学』が牙を剥く時間だ―――
人は噂した、「あらゆる質問に答えてくれる【怪人アンサー】がいる」と。
人は噂した、「あらゆるものを不足させる【妖怪いちたりない】がいる」と。
『Meme(ミーム)』。それは人類が進化の過程で獲得した遺伝情報の一種。
ミームは『文化』『技術』『情報』として人類の生存のために繁栄し、時に姿かたちを変えた。
そのミームのひとつに、『科学』というものがあった。
それらは世界の万物を解析し、理解し、良いミームとする能力に長けていた。
だが、科学も『伝説使徒』の登場により、立場が危うくなった。
伝説使徒は、科学的には理解できないが、実在しているのだ。
《実験を開始します。10人の被験者は、コールする準備をしてください。》
さて、質問である。
もし仮に……「ミームが意思を持っていたら」、彼らはどのような行動に出るだろうか?
例えば……伝説使徒を理解するため、『科学のミーム』が動き出す……かもしれない。
《カウント終了後、10人同時にコールを行います。》
『科学のミーム』は、進化の時を迎えていたのだ。
《3……、2……、1。》
無機質な部屋の中、ガラス越しに観測された10人の男女が、輪になって同時に電話を掛けていた。
その電話は誰とも繋がる事はなかった。ある1人を除いて。
《……質問に答えよう。どんな質問でも、解答してみせる。》
「繋がりました!……【怪人アンサー】です!」
電話から聞こえた声に対して、被験者の男性が声を上げた。
ガラス越しに、観察者達の喜ぶ姿が見えた。
「実験は成功だ! 【怪人アンサー】が誕生した!」
「我々が流布した噂を元に、ミームが伝播・成長し、『伝説使徒』と化したのか……。」
「信じがたいが、事実を認めるしかない。」
各々が意見を言い合っていると被験者の男が指示を仰いだ。
【怪人アンサー】は質問を求めていたのだ。
【怪人アンサー】は、研究者が意図的に作り出した噂だった。
最初は『所定の儀式を行うと、あらゆる質問に答えてくれる怪人と電話できる』という話だった。
やがて、『9人の質問に答えると、10人目に無理難題な質問を行う』
『最後の質問に答えられなかった人間は、体の一部をもぎ取られる』
『【怪人アンサー】は頭部だけの奇形児で、身体を完成させるためのパーツを集めている』
……と肉付けされていき、最後には、伝説使徒と化したのだ。
研究者の1人が、被験者に撤収するよう指示した。
被験者達が逃げるように部屋を出ると、その研究者が入れ替わりで入ってきた。
そして、電話をスピーカーモードにして、【怪人アンサー】に話しかける。
「はじめましてだ、【怪人アンサー】よ。」
《この研究所の所長様か。ご丁寧にどうも、私を生み出した科学者様。》
「何もかも見透かされたか。流石だ、アンサー。」
我が子を愛でるような声で、所長は【怪人アンサー】に語り掛ける。
身体はどうなのか、視界はどうなっているのか、痛みはあるか……と。
まだ頭だけだ、携帯電話越しに見ている、痛みはあるが『欲求』の方が強い……と【怪人アンサー】は答える。
「まだ誰にも召喚されていない【怪人アンサー】だったのか。」
「視界についてどうなっているのか、よく分かりませんね。機械のハッキング?」
「『ミームを維持する』という生存欲求は高いのか。痛みすら感じている……?」
【怪人アンサー】の答えは、1つ1つが研究者を刺激した。
伝説使徒を『科学』する上で、重要な情報ばかりだった。
「さて、最後に……。」
《おっと、残念ながら質問タイムは終了だ。次は……私の質問に答えてもらおう。》
それは都市伝説に倣うなら、死刑宣告に近かった。
思わず、研究員の女性が叫んだ。
「所長! 今すぐ逃げてください!」
「構わない! その代わり、僕が勝ったら……協力してくれ、アンサー。」
《……ふむ、良いだろう。では、所長様なら簡単な問題を出そう。》
ガラス越しに、研究者達が息を呑む。
《『伝説使徒』を構成する、主な要素を答えよ。》
無理難題だった。
それを調べるために、我々は研究しているのだ。逆に聞きたいくらいだ、と研究者達は思う。
それは、科学への挑戦か―――嘲笑だった。
だが、それに屈することなく、所長は答える。
「……お前達、『伝説使徒』を構成するには、既存の物理学では不可能だ。
よって、異なる物理現象を定義する必要がある。」
《ほう……?》
「それを可能にするのは、『集合意識』と『情報エネルギー』だ。」
所長は説明する。
『集合意識』とは、全人類の意識が、無意識にリンクし、ひとつのネットワークを形成しているという仮説だ。
伝説使徒は、その集合意識ネットワークでシミュレートされた世界に生きている。
『情報エネルギー』とは、情報自体がエネルギーに変換できるという仮説だ。
この仮説と、集合意識ネットワークを利用すれば、伝説使徒は自らのミームを消費して、物理エネルギーに変換できる。
そうやって、伝説使徒は現実世界に干渉しているのだ。
「……人間の脳はかくも複雑で、理解しきれない。伝説使徒は、その脳に間借りする事で、自分達を維持している。」
「お、お言葉ですが所長! 人間の脳なんて、いつ・どこが書き変わるか不明では!?」
研究者の男性が叫ぶが、所長は流暢に答える。
「だから『契約』するんだ。常に書き換わる恐れがある集合意識ネットワークを漂流するより、
特定の脳で自分の領域を確保した方が良い。そのための契約なんだ。」
そして集合意識ネットワークを利用するメリットは、まだある。
人間の脳によるネットワークなら、あらゆる計算・情報にアクセス可能なのだ。
集合意識を利用すれば、あらゆる質問に、瞬時に解答できる。
「キミのようにね。アンサー。」
《……。》
ガラスの向こう側で、拍手が鳴り響いた。科学の勝利を確信したのだ。
《あと、1つは?》
「なに?」
《最後の1つは、なんだ?》
拍手は沈黙に変わった。
伝説使徒を構成するためには、あと1つピースが欠けている。
誰ひとり、助言できるものは居なかった
「そんな……。」
ある女性研究員は、違う視点で事を見ていた。
実は、先の推論は半ばハッタリだったのだ。
所長の身体には、いくつかの発信機が取り付けられている。
それで【怪人アンサー】の居場所を暴く、それが今回の目的だったのだ。
……だが、そのハッタリが『当たってしまった』。それは大きな問題を生んでしまうのだ。
「所長! そいつは嘘つきです!」
「な、何かね急に! 【怪人アンサー】を疑うのか!?」
女性研究員の叫びに驚き、他の研究員達がざわめく。
だが、構わず女性研究員は叫び続けた。
「だってあり得ないじゃないですか……! 伝説使徒を構成するものが、
【集合意識】と【情報エネルギー】という伝説使徒なんて!」
それは、完全な矛盾だった。【集合意識】も【情報エネルギー】も、伝説使徒として観測されているのだ。
それらを構成するのが『集合意識』と『情報エネルギー』、どちらが先に存在したのだろうか?
「そんなの……『伝説使徒』が先に存在しないとあり得ない……!」
しばしの沈黙を経て、所長は口を開いた。
「今、何と言った?」
「え?」
所長は、彼女の言葉を聞いて、ある解答を閃いた。
「お前は……【伝説使徒】という『伝説使徒』が存在する……そう言うのか?」
―――彼女に返事の間も与えず、所長は言葉を続けた。
「答えろ、アンサー!」
.
―――静寂の中、カチカチと歯を鳴らす音が、電話越しに聞こえた。
《流石だ、科学者様。正解だよ。【伝説使徒】、それこそが我々の生みの親。いわば、神。》
「神……だと?」
またもや研究者達がざわめき出すが、構うことなく【怪人アンサー】は続ける。
《神と言っても、【付喪神】や【八百万の神】のような超人的な存在ではない。
もっと上! もはや概念として、我々の世界に君臨する存在……!》
「それが……【伝説使徒】。」
「そんなものを……信じろって言うんですかッ……?!」
【怪人アンサー】は笑いながら答える。
時間が流れるように、空間が広がるように、命が鼓動するように、伝説使途という概念は『あった』と。
その概念に従って生まれるものこそが、自分のような『伝説使徒』だと。
そして、それを食い止める手段は、時を止めるように、空間を押し潰すように、あり得ない……と。
《だが、おそらく【伝説使徒】は、『集合意識ネットワーク』と『情報エネルギー』を利用している。
それだけは正しいと教えておいてやろう。》
「そんな……集合意識や情報エネルギーという概念ごと、【伝説使徒】は存在『していた』……?」
《尤も、【伝説使徒】の全貌を知る者はいない。私さえも、その存在を信仰しているに等しいのだ。》
彼女は、床に膝をついて失意した。
《どうした、所長様? 正解なのだから、喜ぶがいい。》
所長はギリリと歯を鳴らした。
科学的に『伝説使徒』を解明するはずが、非科学的かつ超常的な存在である事を突き止めてしまった。
まるで、敗北するために科学してきたようだった。
だが、やがてニヤリと笑い、口を開く。
「ありがとう、アンサー。良ければ、次の実験にも協力してくれ。」
《……約束だ。多少は協力してやろう。》
返事を聞いた所長は……ポケットからスイッチを取り出し、ボタンを押す。
《ッ!?な、何ィ!?》
「【集合意識】と【情報エネルギー】……その伝説使徒は研究済みだ!
僕は今、集合意識ネットワークに参加していない……特殊な装置を使ってね。
だからこの機械をお前は知らない……僕から君への、誕生日プレゼントだ。」
【怪人アンサー】は身体が吸い取られるような感覚に襲われた。
いや事実、携帯電話から飛び出し、謎の機械へと吸われているのだ。
「特製の『電脳契約機』だ! スーパーコンピュータの中でミームを維持し続けるがいい。
……僕達に解析可能なコンピュータの世界で、生き続けろ。」
《……きィさまァァァ!》
―――【怪人アンサー】は、機械の中へと封印された―――
「実験は成功だ。各員、伝説使途の解析を始めろ。」
「「 ……は、はいっ! 」」
科学は、常に進化するミームである。
非常識だと言われ、笑われた事も、いつしか常識となっていた。それが科学。
ならば。【伝説使徒】という概念さえも、科学の限りを尽くすしかない。
伝説使徒を滅ぼす、その時まで。
人は噂した、「『伝説使徒』を研究する、組織がある」と。
人は噂した、「『伝説使徒』を利用し、何かを企む者もいる」と。
―――これは、『伝説使徒』と契約し、『伝説使徒』と戦う者達の物語―――
という訳で、科学サイドのお話でした。
はたして、電脳の牢獄に囚われた【怪人アンサー】はどうなるのか……。
そして、人間の脳を利用するワケのアンサーです。
集合意識ネットワークで造られた、もうひとつの世界で生き、
情報エネルギーを変換し、光や音、物理衝撃に変えて現実世界に干渉する生命体。それが伝説使徒。
機械よりもはるか昔に、機械以上のものが存在していたのです。この世界には。
次回以降は、巻き込まれてメリーさんと契約した男を進めようかなと。
あの男もまた、次々と妙な事件に巻き込まれるので、期待してくださいな。
だ、誰も来ないならスレを乗っ取るまでよー!(泣
●あらすじ
その日まで、男は普通の日常を送っていた。
しかし、都市伝説でしかないはずの【口裂け女】に襲われ、彼の日常は崩壊した。
窮地の末、男は【メリーさん】と契約し、難を逃れる。
しかし『伝説使徒』と呼ばれる彼らは、まだまだ無数に存在する。
さて彼は、その後どのような人生を歩むのか……。
「私、メリー。今ね、あなたの後ろに居るの。」
俺の後ろから、確かにそう聞こえた。
「あぁ、知っている。」
そう言いつつ振り返ると、不機嫌そうに頬を膨らませた【メリーさん】が、こちらをじっと見つめていた。
「……ひーまー! 暇ひまヒマ、ひぃ~まぁ~!」
絶叫しつつゴロゴロを床を転がる【メリーさん】。
放っておくと近所迷惑……になるかは分からないが、なだめるとしよう。
この子は、俺の妹や養子ではない。そもそも、『人間』ですらない。
俺が契約している、『伝説使徒』だ。
伝説使徒とは、この世界に存在する不思議な生命体。
人を襲ったり、逆に守る事で生命を維持する、奇妙な生態を持つ。
そして、普通の人間には見えず、声も聞こえない等の特徴もある。
こんな幼い女の子だが、いざ戦おうとすると、俺なんかでは比較にもならない。
伝説使徒は、人間なんかよりも遥かに高い戦闘能力、そして特殊能力を持っている。
「だってマスター! 仕事帰りなのに、ずっと引き籠ってPCばかり触って!
ちょっとは遊びなさいよ~!」
「あぁもう、これは今度の仕事を、円滑に進めるための準備なんだ。」
しかし、契約したての頃はもう少し、清楚というか無口な女の子だったのに、何故こうなったのか。
【メリーさん】と契約してから、俺のライフスタイルは大きく変わった。
食費も1人分多くなったし、毎日この子に付きまとわれるし、野良の伝説使徒に襲われるし……。
だが、ボディガードだと思えば、安い出費だ。あんな化け物から逃げ回りつつ生きるのは困難。
【メリーさん】と契約した事は、ちょっと賑やかなルームシェア程度の感覚だ。
「どこか遊びに行こうよ~?」
「もうこんな時間だぞ。飯の支度する。」
そう言いながら冷蔵庫を開けると、食材を切らしている事に気づいた。
まだ2人分の食材を把握しきれていないな……と考えつつ、出かける支度をしようとすると。
「あ、じゃあ買い物行ってあげる! その代わり、今度の休みに遊園地ね!」
と返されてしまった。
「―――良いか、財布はここ、メモはここで……。」
「子どもじゃないんだから、分かるわよ。」
子どもだろ、という言葉を飲み込んで、鞄を渡す。
伝説使徒とはいえ、子どもに買い物を任せるなんて、初めてだ。
ちゃんとできるだろうか……。
「えっと、駅前のスーパーの場所は……。」
「それも分かるわよ。安心しなさいな。」
「そうか? 迷ったら電話するんだぞ。」
そう言って再びPCの前に座ると、早速【メリーさん】から電話が掛かる。
「なんだよ、まだ玄関すら出て……。」
「私、メリー。今ね、駅前のスーパーに居るの。」
とっさに振り向くと、【メリーさん】は居なかった。
おそらく、もう駅前のスーパーに『転移』したんだろう。
【メリーさん】の特殊能力『転移』は、電話を掛ける事をトリガーとする。
掛けた対象が知っている場所へ、瞬時にテレポートできるのだ。
俺に掛けた場合、俺が行ったことのある場所全てへテレポートできる。
ただし他人に掛けた場合、【メリーさん】から半径・数百m以内の場所しか行けない。
地球の反対側から『あなたの後ろに居るの』とは言えないわけだ。
「……まったく、さすが伝説使徒だ。」
さて、うるさいのが出かけたので、さくっと仕事を終わらせる。
資料作成なんて慣れたもので、プレゼンの台本もすぐ完成した。
……では、最近始めた課題を進めていこうか。
借りてきたDVDを流しつつ、あるアプリの開発に取り組んでいた。
『伝説使徒の研究』……とでも言うべきだろうか。
【メリーさん】の能力は、はっきり言って常識外れだ。
だが、ITの人間としては、だからこそ理解したいという思いがある。
せめて、その一端だけでも……。
最初の課題は、『メリーさんの転移能力』だ。
別に、転移そのものを再現しようという訳ではない。ただ、その前段階に興味がある。
『電話相手の記憶から、座標を割り出す』という工程を、どのように行っているのだろうか?
もしも、記憶へのアクセスに携帯電話を利用しているなら……その情報をアプリケーションで取得できる。
理屈はどうであれ、脳波をインプットに利用できるのだ。
……まぁ、簡単に行く訳もなく。【メリーさん】から情報を取得するアプリさえ、完成のめどが付いていない。
心当たりを元に、KKD法でトライしてみよう。
「……あれ、静かだな。」
【メリーさん】が帰ってこない、という意味ではなく。
DVDが再生されていない? そう思ってTV画面を見た。
そこには、井戸から這い上がってくる、白い服の女性が映っていた。
俺はその光景を知っていた。だが、あり得なかった。
ホラー映画なんて、俺は借りていない。
「の……【呪いのビデオ】か!?」
マズい、どうにかしないと。とっさにリモコンのボタンを連打する。反応がない。
TVに近づき、直接電源や、あらゆるボタンを押す。反応がない。
こうなったらと電源プラグに手を伸ばそうとした瞬間、何かが服に触れた。
「うわっ!?」
とっさに飛び退くと、白い服の女性が画面から出てきていた。
混乱しつつも頭は高速回転する。この状況を打破する方法。【メリーさん】がここに来る方法……。
「そうか……!」
机の上のスマートフォンを手に取る。手を引くと同時に、刃物が机に刺さった。
……もはや、この程度で驚いていたら生きていけない。
とっさに、女性に背を向けて、あのダイヤルへ電話する。
「……。」
「【メリーさん】ッ!」
数秒後、金属音が部屋に鳴り響いた。
「私、メリー。今ね、あなたの後ろに居るのッ……!」
「……!」
契約の履行である。俺は、存在しないはずの【メリーさん】の電話番号を知っている。
それにより【メリーさん】へ電話が可能なのだ。
応用すれば、このように瞬時にメリーさんを召喚できる。
振り返ると、買い物を終えた【メリーさん】が、白い服の女性と刃を交えていた。
白い服の女性は、さっと飛び退いて距離を取る。
「買い物お疲れと言いたいが、さっそく仕事だ。」
「見れば分かるわよ。まったく、人使いの荒いマスター。」
【メリーさん】が来てくれた事で、より冷静に状況を分析できる。
俺の記憶では、【呪いのビデオ】の効果は『視聴した7日後』だったはず。
視聴してすぐ現れるものだろうか? 【メリーさん】に尋ねてみた。
「伝説使徒はミームを維持するために必死よ。多少は自力で、ミームを書き換えようとするの。
『彼』だって色々苦労しているのよ。」
「だからって襲われる身にも……『彼』?」
改めて見ると、【呪いのビデオ】から現れた白い服の人間が震えだす。
「……あぁ。私とて、生きるためには、どんな手でも使おう。」
野太い声が、部屋に響いた。
「お前、……まさか。」
「……そうだ、 男 だ よ ! 」
冷静になった今、『彼』を観察する。
確かに髪も長く、女性のような衣服を着ているが……身体つきが男だ。
「……お前達人間のせいで、【呪いのビデオ】と言えば、貞子になってしまった。
……そのせいで何をやっても【貞子】のミームが強くなるばかり……。」
なるほど。伝説使徒はミームを維持するために人間を襲う。
だが、『襲えばミームを維持できる』とは限らないのか。
おそらく様々な種類の【呪いのビデオ】があったんだろうが、それが全部【貞子】の手柄になる。
エサを横取りされ続けているようなものだ。いずれ、【貞子】だけが【呪いのビデオ】となる。
「……ならば、私も【貞子】として生きるしかない! こうやって、女装してでも!」
「―――すーっごい、分かるんですけど!」
何故か、【メリーさん】が身体を乗り出した。
「私、契約するまでは清楚な女子高生を目指してたのよ。それが今は?!
どう見ても女児! あいつ、あぁ見えてロリコンよ!」
「……なんと。契約に、そのような弊害があったとは……。」
「人間って本当に、自分勝手にミームを書き換えて!
きっとさっきも、脳内では『はじめてのおつかい』を妄想していたに違いないわ!」
……気が付くと、2人は座り込んで愚痴を言い合い始めた。
邪魔をする訳にもいかないので、俺は【メリーさん】が買ってくれた物を拾い、台所へ向かう。
2人の会話をBGMに、慣れた手つきで夕食を作る。作り置き分……と言いたいが、これも無くなるかね。
「おぉい、飯ができたぞー。」
そう声を掛けた頃には、すっかり意気投合していた。
「あ、はーい。盛り付け手伝うねー。」
「……そうか、ん?」
食卓に料理を3人分並べると、俺達はいただきますの合図で食べ始めた。……1人を除いて。
「……何を、しているんだ?」
「何って、夕食だよ。」
【呪いのビデオ】からの質問に、俺は当たり前のように返す。
「アンタも食べなさいよ。せっかく来たんだし。」
「……俺は、お前達を襲おうとしたんだぞ?」
そういう【呪いのビデオ】が言うので、俺は一旦箸を置く。
「【メリーさん】。こいつ、倒せるか?」
「えっ……。」
少し迷う素振りを見せたが、【メリーさん】は小さく首を振った。
「だとさ。じゃあ無理だ。」
俺は再び、箸を進めた。
「……何故?」
「【メリーさん】には倒せない。当然、俺にも倒せない。
誰にも倒せない以上、こうするしかないだろう。食うか、襲うか。自由にしろよ。」
そう【呪いのビデオ】に伝えて、俺は飯を掻きこむ。
【メリーさん】も安心したのか、箸の進みが早くなった。
「……俺は、食事ができない伝説使徒だ。だから、要らない。」
「へぇ、低燃費だな。そっちの方がいいな。」
「……いや、食事ができる伝説使徒の方が、保持できるエネルギーが高い。」
【呪いのビデオ】曰く、自分は『己のミームを消費して活動する』。
食事するタイプは、『ミームだけでなく、物理エネルギーを消費して活動できる』。
ミームを消費、という概念が今ひとつ理解できないが、なんとなく理解した。
【メリーさん】のような伝説使徒は、転移する際に大きなエネルギーを消費している。
なんせ、自分が買ってきた食材なんかも転送できるのだから。
そのエネルギーの出所は、情報として格納された食べ物……という訳だ。
こいつらと付き合い慣れた俺としては、「興味深い」とさえ思えた。
【メリーさん】の食事シーンをなんとなく見ていたが、俺達とは異なる現象が中で起きているんだ。
余分に盛ってしまった食事を食べつつ、色々考え込んでしまう。
伝説使徒は情報の塊であり、他の物質さえも情報化できる。
ならば、機械と組み合わせると、どのような事ができるだろうか……。
「あ、マスター。また食べながら考えてる。」
「……いつも、こうなのか?」
「うん。仕事の事とかばっか考えて、あまり喋ってくれないの。」
などという会話を聞き流しつつ、ごちそうさまをして食器を片付ける。
「えっと、申し訳ないが襲われてやれない。元のレンタル屋に帰ってくれ。」
「……いや、こちらこそ済まない……こんな事は初めてだ。」
だろうな。だが、慣れてしまったものは仕方がないのだ。
こいつらだって、俺達のように生きている。
よほど害意がない限り、無暗な殺生は避けたい。
「じゃあ、縁があったらまたね。」
「……あぁ、うっ!?」
【呪いのビデオ】が、急に頭を抱えだした。
俺も【メリーさん】も支えようとするが、振り払われる。
「逃げ、……我が名は貞子。汝らを呪うものなり。」
「は?」
冗談だろ、と言いかけた時、【メリーさん】に突き飛ばされる。
【呪いのビデオ】は、俺のいた場所に鋭い爪を振るっていた。
「……冗談だろ?」
「ミームが書き換わったわ。もうアイツは【貞子】なのよ。
契約をしていない伝説使徒だもの。こうなるって……分かり切ってたのに……。」
【メリーさん】が抜刀し、対峙する。
……科学とか、常識とかでなく、信じられない。これほど簡単に、伝説使徒は『死ぬ』のか?
こんなの、あんまりじゃないか。ミームが書き換わっただけで……。
―――人間って本当に、自分勝手にミームを書き換えて―――
「そうだ……。」
思わず、俺は【貞子】を名乗るものに体当たりした。不意打ちだったのか、奴は転倒した。
「ちょっと?!」
「【メリーさん】は足を抑えていてくれ!」
もがくソイツに向けて、俺は語り掛ける。
「おい! 俺はお前の本当の姿なんて知らない。だが、俺は知っている!
生きるために必死だった事、そのために変装までした事、……なのに俺を襲わなかった事!
お前、本当は優しいんだろ! お前だって、無意味な殺生はしたくないんだ!」
【呪いのビデオ】が、本当にそうだったのか……それは、願望でしかない。
だが、俺は人間だ。自分勝手に行かせてもらう。
「お前が、お前のままで居たいなら……俺と契約しろォ!」
.
―――長い時の流れを感じる
気が付くと、【メリーさん】が俺の顔を覗き込んでいた。
「お、よう。俺は……。」
「バカッ! 心配したんだからね!」
グッと絞められる俺。ちょっと苦しい。
えっと、確か【呪いのビデオ】が襲い掛かってきて……。
「そうだ、アイツは?」
「……ここだ。」
TV画面を見ると、ノイズと共に謎の影が映っていた。
井戸でもなければ、白い服の女性でもない。だが、たぶん本当の姿ですらない。
「えっと……失敗だったか?」
「……いや、成功なんだろう。お望み通り、私は私の人格を維持できた。
もう、誰も襲う必要はない……。」
それは良かった。と安堵するも、【メリーさん】に背中を殴られる。
「なんの許可もなく、2体目の伝説使徒と契約するなんて!
もしも脳がパンクしたら、どうする気だったの!?」
「あ~……すまない、無我夢中だった。」
「ほんっとうに……心配したんだから……。」
……この時まで、俺は全く気付いていなかった。
【メリーさん】は、俺にとって家族と言える存在になっていた事に。
人間だとか、伝説使徒だとかの垣根は、そこに無かったんだ。
そして今日、もうひとり家族が増える。
「無茶をしたが、すまない。これから宜しくな、【呪いのビデオ】。」
「ねぇ、それなら名前が必要じゃない?」
それもそうだな、と数秒考え、パッと出てきたのは。
「じゃあ、[ビデ男]だ。」
「……えぇ……。」
……引かれてしまったので、名前はまた考えるとしよう。
しかし、【呪いのビデオ】……いざ仲間になると思うと、少し気になる点があるんだ。
これは、研究しがいがあるぞ……。
「あ、マスターが仕事顔。」
「……何故だ、悪寒がする。」
―――これは、『伝説使徒』と契約し、『伝説使徒』と戦う者達の物語―――
という訳で、今度は【呪いのビデオ】の事情に巻き込まれた男でした。
ミームの書き換え・ミーム汚染とも言うべき現象は、人間以上に伝説使徒を苦しめる……。
次回は、メリーさんの約束を守るなら遊園地に行くのでしょう。そこで何も起きなければ、いいですね。
○前回の話
>>22-24 次世代ーズ
※この話は作中時間軸で【9月】の出来事です
○時系列
●九月
・早渡、人面犬からモスマンの話を聞く
・高奈先輩、偽警官と遭遇し返り討ちに
・早渡、同じ施設出身の千十と再会
・早渡、「組織」所属契約者と戦闘
・早渡、高奈先輩と友達になる
・「怪奇同盟」に挨拶へ
・早渡、東中でいよっち先輩と出会う
花房らと共に三年前の事件の「再現」に立ち会う
診療所で「先生」から話を聞く
・ソレイユ、変態クマに捕まる
・「ピエロ」、学校町を目指す
・∂ナンバー、会合
・金曜日、早渡は「ラルム」へ ☜ 今回の話はここです
・いよっち先輩、自分を取り戻す
その夜の内に居候先を確保する
・早渡、マジカル☆ソレイユと遭遇
・∂ナンバー、「肉屋」の侵入を予知
●十月
・「ピエロ」、学校町へ侵入
●十一月
・戦技披露会開催
・診療所で「人狼」イベント
「人狼」終了後、いよっち先輩が遊びに来る
・バビロンの大淫婦、死亡
・「狐」本戦?
色々あったけど今週もようやく金曜を迎えた
というわけでこの日の放課後、俺は「ラルム」にやって来ていた
「ねー教えてよーザベ子の彼氏ってアンタでしょー?」
いや別に毎日「ラルム」に通い詰めてたってわけじゃない
ただ何というか、自分の中では既に
金曜の夕方は「ラルム」で過ごそうっていうのが出来上がっていた
「ねーってばー黙ってないで教えろよー、なー」
そんなわけでこの日の夕食を「ラルム」で、ってわけだ
注文したのはクロックムッシュ、コトリーちゃんイチオシのメニューだ
「いーじゃんいーじゃん別に恥ずかしがんなくてもさー、聞いてる?」
確かに美味しい、うん、美味しいんだ
ただ、それを伝えようにも、今日はコトリーちゃんもお休みらしい
もっと言うと千十ちゃんも居ない。代わりに居るのはおばちゃん店員さんと
「てかこのお店に独りで入っといてさー恥ずいとか今更じゃんねー」
この、さっきからやたら俺に絡んできている女子大生のバイトのお姉さんだ
「ラルム」の制服の上からでも分かる程なかなか豊かなお胸の持ち主のようですが
どうしてこんなにも心ときめかないんだろうか、我ながら不思議でならない
「あ、聞いてる? どうなの、ホントにザべ子の彼氏?」
「違います、ていうかザベ子って誰っすか」
「ウソウソ、絶対ウソ! そういうのわかっちゃうんだよね。絶対ザベ子の彼氏でしょ!」
ダメだこの人、全然話を聞いてくれない
しかも声が大きいので割と店の中に響いてる
他のお客さんにもバッチリ聞かれてるんじゃないか?
バイトさんに悟られぬように店内に眼を走らせるが
聞こえてないのか、それとも知らない振りしてくれてるのか
こっちを見ているお客さんは皆無だった
一見すると、前に会ったオバちゃんズの姿は無いものの
「ラルム」の客層って、全体的に年配の方々が多いようだな
いや、待て
女の子と目が合った
見たところ、学校町東区にある高校の制服だ
あの「怪奇同盟」本部の墓地の近くにある高校の子らしい
眼鏡の女の子だ
目が合うどころでは無かった
女の子は物凄い形相で俺の方を睨み付けていた
な、なんで!? なんで睨まれてるんだ!?
こっちのバイトさんに対して、ってわけじゃないよな?
すると俺か!? 何かまずいことでもしたのか、俺は?
「ねー、ウチのバイトのどっち狙いなワケ? ザベ子? それとも千十っち?」
「すいません、もうそろそろ帰るっす」
「えーなんで!? 食い終わったらそのまま帰るって、ちょっとねえ、アタシと話しよーよー」
ちょっと睨み付け方が尋常では無い
特に恨みを買う覚えは、無い、と断言できない所があれだが
少なくとも、女子に対して何か失礼なことをしでかした覚えは無い
これは断言していい
あ、でも「七尾」出身者だった場合はちょっと話が変わるぞ
少なくとも、ここは早く退いた方が良さげだ
俺を睨んでるあの子に直接話を聞くってのも手だが
あの睨み方じゃ穏やかに話が出来るかどうか、全く自信がない
しかも今日は千十ちゃんもコトリーちゃんも居ない
仕方がない、もう今日は帰った方がいいだろう
「この店さー若い子あんまし来ないんよー、もっと話しよー?」
「いやホントすいません、もう帰らないとヤバいんで」
「えー!?」
ブー垂れてるバイトさんを適当にあしらいつつ
俺はもう席を立った
俺を睨んでた子、何だか生真面目そうな雰囲気の子だ
もしかしたらこういう雰囲気の店に
俺のような商業男子が居ること自体許せないってクチかもしれない
そうだとしたらやっぱり早々に店を出るに越したことは無い、また日を改めよう
●
「っ違います! そういうんじゃありません!」
「えー違うのー?」
聞き慣れた声に、日向ありすは顔を上げた
テーブル席にやって来たのは同じクラスの遠倉千十だ
急いで来たのか、肩で息している
「ごめんありすちゃん、待った?」
「ううん、全然」
読みかけの文庫本を閉じて応じる
時間で言うと日没直後だろうか
千十がやって来たのは先程の商業男子が店を出て十数分後のことだ
「先生、仕事溜め込んでたみたいでようやく終わったの」
「あー、まあ仕方ないわね、うん」
親が家を空ける為、ありすは今日の夕食を外で取る積りだった
すると千十も一緒に行きたいと言うので「ラルム」へ行くことにした、が
放課後、急に千十が教員に捕まって仕事を手伝わされることになったのだ
「でも千十、今日シフト休みだったんでしょ? いいの?」
「大丈夫だよ、本当は今日お仕事だったんだけど」
そんなことを口にしながら千十は横目を向ける
つられてありすが顔を向けると、バイトの女子大生さんがキッチンへ入って行く所だった
「急にシフト交換するように言われちゃって……」
「それで休みになったんだ」
「うん、でも今日はお仕事の方が良かったな」
「へえ。千十、働くの好きなんだ?」
笑いながらありすはそう尋ねるが
彼女はむう、と口を曲げてキッチン入口の方を見詰めるだけだ
「それより日も暮れちゃったけど、ありすちゃんは大丈夫なの?」
「平気平気。どうせ母さん、お父さんの所に行ってるし、明日まで帰らないわよ
愛に飢えてるとかどうとか言ってたし」
「ラブラブっていいね、羨ましいなあ」
「そういうもんでも無いと思うけど。あ、千十はどうなの?
今日はお姉さん遅いの?」
「うん、上司に居酒屋でお説教されるんだって」
「お説教って……、お姉さんも大変ね」
「お姉ちゃんにはいい薬だよ、ほんとにもう」
不貞腐れたような表情の千十を見て、思わず笑ってしまう
「あ、千十。帰りは私も一緒に行くからね」
「え、大丈夫だよありすちゃん、心配しないで」
「だーめ、最近は以前より物騒になってるの知ってるでしょ?」
「でも、ありすちゃんのお家と反対側だし、ありすちゃんも危ないよ」
「私にはメリーがいるし、いざってときは大丈夫だから!
それに今、ちょっとヤバい奴が居るみたいだから尚更警戒しないと」
恐らく千十は知らない
このときのありすの言葉に、僅かに怒りが籠ったことを
「千十ちゃんと、ありすちゃんね、いらっしゃい。ゆっくりしてってね」
女子大生さんでは無く、おばちゃん店員の方がメニューを持ってきた
お礼と共にメニューを受け取る
千十と一緒に何度か来ている所為か、もう名前を覚えられている
先程の会話は、多分聞かれてはいないだろう
まあ聞かれていたとしても、今の所は特に当たり障りの無い話なのだが
「最近、変態が活気づいちゃってるみたいでね」
「へん、たい?」
おばちゃんが立ち去るのを確認した後でありすは切り出した
彼女の言葉に、水の入ったグラスを握ったまま
千十はきょとんとした表情で聞き返した
「そ。性質悪いことにそいつ、契約者よ
早く『首塚』に捕縛されてほしいんだけどね
でなきゃ『組織』に仕事してほしい所なんだけど」
「怖いね……」
「大丈夫よ、目星は付いてる」
「え?」
このとき、ようやく千十も気づいたようだった
ありすの言葉に、明確な敵意が滲んでいることに
「この手で始末するわ、必ずね……!」
静かにそう告げるありすの眼は
真っ直ぐ、「ラルム」の入口に向けられていた
続く……?
「何だろうな、今の寒気は」
南区に向けて歩道を行く早渡はこのとき、謎の悪寒に襲われていた
生来勘が鋭いというわけでは無い早渡だが
時折このような嫌な予感に襲われることがあるらしい
「やっぱ今日はすぐ家に戻った方が、って、うん?」
早渡の携帯が震え出したのは丁度そのときだった
表示を確認すると「半井」からの着信だった
人面犬、半井のおっさんだ
「もしもし、早渡です。うん、半井のおっちゃん? うん」
通話に応じた早渡だったが、彼はすぐに眉をひそめた
「迷子? え、何? はあ、『コロポックル』ね
俺は多分、まだ会ったこと無い子だよね、うん
今日なの? ああ、そう。分かった。南区ね、おうよ」
早渡は通話を切る
「家に戻ってシャワー浴びる時間は、無いよなあ」
独り言ちた後、暫し黙考し
やがて早渡は走り出した
「まあ、このままでも問題は、無いか……!」
□■□
早渡脩寿
南区の商業高校に在籍する一年生
同世代の女子の身体への興味が尽きないお年頃
「次世代ーズ」が開始する年の四月に学校町へ越してきた
彼は「組織」と関わり合いになりたくないようだが運命がそれを許さないようだ
最近ハマっていることは自炊、らしい
好きな物:女体、スケベコンテンツ、料理
嫌いな物:「組織」、「教会」、「狐」、クソ野郎
明日中には何とか投下します…よぼよぼ
スレ見返したら見逃してましたので回答
1 ノイお母さんの趣味を教えてください
ノイ「趣味?柳かなー?あと、音が好きでピアノたまに弾くよ!」
2 澪とキラの今日の下着について教えてください
澪「私のは言えませんがキラの下着なら言えます。黄色地にイチゴ柄です」
キラ「あたしのは言えないけど澪のなら知ってるわ。水色に白のチェックよ!」
こいつら本当に親友だろうか
3 今後澪とキラのお色気シーンはワンチャンありますか?
水着くらいならありかなー(その前にいろいろ書くものが)
4 澪の隠れた性癖について教えてください
隠れSです
「ひかりちゃん、危ない!」
「真降お兄ちゃま!」
後方の気配にいち早く気づいた真降が、ひかりを背後に庇い、手を前に翳す。
100メートルほど距離の空いていたひかり達と、「アブラカダブラ」の契約者達の間に、分厚い氷の壁が築かれ、それぞれを隔てた。
「これは面白いね。ひかりちゃんというお姫様には、ちゃんとナイトがついてたとはね」
「どうする?『海から』の。あの氷使い、なかなか厄介そうだよ。頭も切れそうだ」
「そうだね。じゃあ…」
「あたしがさきよ!」
叫んでひかりが「槍」を掲げる。
「ダメだ、ひかりちゃん」
制したのは轟九。いったんは掲げた槍を下ろし、ひかりは轟九の顔を見上げる。
「あれはダメだ。なんかわかんねぇけど、危険な気がする」
「ライダーのおじちゃまも、同じこと言ってた。轟九お兄ちゃま、勘に自信ある?」
「テストのヤマは、外したことねぇ」
「じゃあ、こっちだね」
ひかりは手鏡を取り出し、照準を二人の男に定める。
「そうさせるわけには行かないから、こちらも動かせてもらうよ」
二人の男が、不敵に笑う。
続く
とりあえず、戦闘のさわりだけ書かせていただきましたー。
続きは次世代ーズの人にいったん投げます!よろしく!
キャラ描写とかでわからない事があったらどんどん聞いてください
鳥居の人お疲れ様です!!
今続きを書いてるけど、これちょっと今夜中に間に合うか分からない……!
すいません、確認したいのは一つです
・真降君は普段から(対「ピエロ」戦でも)「七星剣」を持ち歩いているかどうか
前スレと避難所を調べてたんですがちょっと自信が無かったです
今の所、氷の剣を生成して頂く感じで書いています
>>67
>隠れSです
何故だろう
これ見た瞬間に直ぐ思い浮かんだのは澪ちゃんではなく緑君だった
彼の淡い何とかがどうなるか見守りたい所ですが
作中の時間軸的にそれどころじゃないですね
ひかりちゃんと桐生院兄弟が頑張ってる数時間後には
確か「凍り付いた碧」が襲撃される予定(のはず)
緑君にも藍ちゃんにも何とか生き延びてほしい……
アダムさんにも生き延びてほしかったが
こうなってしまった今では今度誰がドロップするか分からない
「次世代ーズ」の中の人の対応スピードがもう少し速ければ
早い内に「凍り付いた碧」配下の下位メンバーと絡みたかったのですが
だが今はそれでどころではない、>>68の続きを書きます!
ナユタと恭一は、京也達に連れられ、とある教室に辿り着く
がらがらと扉を開けた瞬間、ナユタは驚愕した
ソリッドビジョンのモンスター達が消え、その場に崩れゆく男子生徒
それを見て、やかましく笑う恰幅のいい青い制服――オベリスクブルーの男子生徒
「だーっはっはっはっはっは!!
こりゃ良いぜぇ、これであのにっくきゼロの野郎を――――」
「俺がどうかしたのか? 霧島団布」
「フルネームで呼ぶんじゃねぇ!?…って、良いところに来たなぁ、ゼロ」
恰幅のいい生徒――霧島団布はにやぁっ、と笑いながらデュエルディスクを構える
「今日こそお前の鼻をへし折ってやるぜ」
「ハァ、あのね団布くん、その前に今まで被害にあった生徒について説明をして欲しいんだが」
「フン! あいつらはこの俺の新しい切り札にのされて気を失っちまったのさ
お前もこれから保健室送りだ!!」
「ええ加減目ぇ覚ましや! おかしいと思わへんのか!?」
「団布! どう考えても、超常的な力が介入してるとしか思えない!
その例のカードを手放せ!」
「ぶっちゃけ見てみたいんだけどよー(ガッ!!)ぐふっ……そうだ手放せー!」
「ていうかお前等……俺はオベリスクブルー2年だぞ!?
1年の、しかもオシリスレッドのドロップアウト共が呼び捨てにしやがって!!
団布“様”といえ!!」
「んーじゃあ、仕方ないね」
「待ちたまえ恭一君、僕は例の未知のカードを知っている
君では不利だ、ここは僕に」
「有難うナユタ、でもこの決闘―――――「俺がやる」」
恭一と赤トカゲ――もとい、ブレイズの声が重なると、
ブレイズの姿が赤い光に変わり、恭一の身体に入り込んだ
カッと見開いた彼の眼は、燃え盛る炎のように赤く輝いていた
「俺、炎上!!」
(あ、『電王』だこれ)
ビシッ!!と決まるポージング
見慣れているのだろうか、周囲の反応は恐ろしく薄い
その反応が、逆にナユタの正気度を失わせる
「へっ! やっとやる気になったようだなぁ、ゼロ!」
「何言ってやがる、俺のやる気はいつだってレッドゾーンだぜぇ!?」
「あぁもう『電王』だこれ」
「ナユタ、どうかしたのか?」
「いや、何でもない、気にしないでくれたまえ…ん? 彼、デュエル・ディスクはないのかね?」
「いやいや何言うてんねん、ずっとつけてるで、両腕に」
あまりに恭一が裂邪そっくりだったことに驚いていたせいか、ナユタは気づいていなかった
恭一の両腕に、ヒレのような突起物が特徴的な、機械的なグローブが装着されている
右腕にはデッキがセットされ、左腕には墓地となるであろうエリアがあった
さらに彼が、パン!と両掌を打ち鳴らせば、ヒレは展開し、デュエルフィールドを作り出す
「あれが、恭一君のデュエルディスク?」
「『決闘爪(デュエル・クロー)』っていうらしい
考古学者の親戚が遺跡の採掘中に発見したオーパーツだそうだ」
「へぇ…(「オーパーツ」……この世界にも都市伝説のようなものが存在するのか?)」
「「決闘!!」」
話しているうちに、団布と恭一の決闘が開始され、
2人のデュエルディスクに、ランダムで順番が表示される
先攻は恭一のようだった
「俺の先攻! まずはお手並み拝見だ、『ヴォルカニック・ロケット』を召喚!」
恭一の目の前、地面から溶岩が噴出し、中から何かが飛び出した
天をも貫かんとする勢いで飛ぶそれは、炎の如き荒々しさと美しさを纏った、
名の通り“ロケット”のようなモンスターだった
恭一 手札5→4
ヴォルカニック・ロケット ATK1900
「『ヴォルカニック・ロケット』のモンスター効果、発動!
召喚に成功した時、俺のデッキか墓地から『ブレイズ・キャノン』カードを手札に加える
俺が手札に加えるのは『ブレイズ・キャノン・マガジン』!」
恭一 手札4→5
「さらに手札から魔法カード『おろかな埋葬』!
俺はデッキから、『ヴォルカニック・クイーン』を墓地に送る
カードを2枚伏せて、俺はターンエンドだ」
恭一 LP8000 手札5→2
「だーっはっはっは! えらく慎重だな? 俺のターン、ドロー!
俺は『メカ・ハンター』を召喚だ!」
団布の場に現れたのは、翼と細長い幾つもの腕が生えた、球体型のロボット
その腕の先には、剣や鎌、槍など、狩りの道具が備わっている
団布 手札5→6→5
メカ・ハンター ATK1850
「へっ、大口叩いた割には大したことねぇな
そいつの攻撃力は1850、俺の『ヴォルカニック・ロケット』には届かねぇ!」
「あぁそうだ、真っ向からじゃ、な
永続魔法『ウィルスメール』発動! このカードは1ターンに1度だけ、
自分のレベル4以下のモンスター1体に直接攻撃する権利を与えられる!
まあ、そのモンスターはバトルフェイズ終了時に墓地に送られるがな
当然対象は『メカ・ハンター』だ!」
団布 手札5→4
「何ちゅうヤラしいカードや!」
「全くだ……だがあいつ、あんなカード持ってたか?」
(ふむ…ここで攻撃を許すとは思えないね)
「なら俺は永続罠『ブレイズ・キャノン・マガジン』発動!
自分か相手のメインフェイズに1度、手札の『ヴォルカニック』カードを墓地に送り、
カードを1枚ドローする!
俺は『ヴォルカニック・カウンター』を捨て、カードドロー!」
恭一 手札2→1→2
「無駄なことを! バトルフェイズだ!
『メカ・ハンター』でダイレクト・アタック!!」
恭一 LP8000→6150
「この瞬間、さっき墓地に送った『ヴォルカニック・カウンター』の効果が発動するぜ!
こいつは俺が戦闘ダメージを受けた時に墓地から除外され、
その時に墓地に他の炎属性モンスターがいる場合、
受けた分と同じダメージをお前にも与える!」
団布 LP8000→6150
「ちっ……やっぱタダじゃおかねぇか
バトルフェイズ終了時、『メカ・ハンター』は墓地に送られる
俺はこれでターンエンドか」
団布 LP6150 手札4
「なっ…ターンエンドだと?」
「お? 何もしねーのか、チャンスだぜ!」
「これで団布君の場はガラ空き……ふむ、何かを誘っているのか」
「または、何かを待っているのか、ね」
ふと、ナユタが声のした方を見ると、青いトカゲがふわふわと浮いていた
先程紹介された、フリーズという名の精霊だった
「なんや、結局来たんかいな」
「心配だったからね
先輩のことも、黒いモンスターカードのことも……それを知っている君のこともね」
「僕のことはさておき。先輩って、あの……ブレイズ君、だったかな?」
「そ、先輩は脳筋だから馬鹿みたいにすぐ突っ走るんでね」
「お前もっぺん言ってみろ!?」
「あ、聞こえてた」
「誰と喋ってんだ、さっさとターンを進めろゼロぉ!」
「慌てんなって、どうせ何も出来ねぇんだからよ
俺のターン、ドロー!」
恭一 手札2→3
「俺は『ブレイズ・キャノン・マガジン』の効果を発動するぜ
手札の『ヴォルカニック・バレット』を捨て、1枚ドロー」
恭一 手札3→2→3
「そして、たった今墓地に送った『ヴォルカニック・バレット』の効果!
このカードが墓地に存在する時に、自分メインフェイズに一度だけ、
LPを500払うことで、デッキから『ヴォルカニック・バレット』1体を手札に加える!」
恭一 LP6150→5650 手札3→4
「さらに俺は、『ヴォルカニック・エッジ』を召喚!」
恭一の場に現れたのは、小型の肉食恐竜のような姿をした二足歩行のモンスター
同じ“ヴォルカニック”の名を冠するだけあって、
先程の『ロケット』のような燃え滾る甲殻に包まれているが、
こちらは目はなく、代わりに口から轟々と炎を噴出していた
ヴォルカニック・エッジ ATK1800
恭一 手札4→3
「待たせたな、バトルだ!
『ロケット』、『エッジ』の2体で、ダイレクトアタック!!」
2体の『ヴォルカニック』モンスターが、団布目がけて襲い掛かる
ナユタが思い描いたのは、裂邪達との決闘シーンだった
意外にも、フィールドが何もない状態で、手札から発動できるカードというのは数多く存在する
そういったカードが、団布の手札にもあるのではないかと
だが、案外にも2体の攻撃はすんなりと通ってしまった
それと同時に、フリーズが提言した“もう一つの可能性”が濃厚になって来たのだ
団布 LP6150→4250→2450
「ぐあっ……!!」
「あーあ、また俺の勝ちだな、俺はターンエンドだ」
恭一 LP5650 手札3
「おっしゃあ! 次のターンでゼロの勝ちだな!」
「なんや、余計な心配やったなあ」
「いやいや…お前等、まだ決闘は終わってないぞ?」
「英雄君の言うとおりだ。彼はまだ……」
団布 手札4→5
「…手札が5枚もある」
静かに、団布はデッキからカードを1枚引き、それを確認した
瞬間、彼は目を見開き、大きな声で笑い出した
それは嬉しさというよりも、何処か狂気じみており、ナユタ達は思わず身震いした
「おいおいどうした? この危機的状況にとうとう頭がやられちまったか?」
「だーっはははははははは!! やられちまうのはお前だ、ゼロ!!
俺は『KA-2デス・シザース』を召喚!!」
“KA-2”、即ち“カニ”
名の通りで、団布の前に現れたのはカニの形をした青いロボットだった
特徴的な鋭く大きな2本のハサミが備わった腕には、形式番号“Ka-2”と表記されている
団布 手札5→4
KA-2デス・シザース ATK1000
「ハァ? たった攻撃力1000のモンスターでなにが」
「さらに俺は! 手札から『ネジマキシキガミ』を特殊召喚!!
こいつはレベル8で、通常召喚はできないが、
自分の墓地のモンスターが機械族だけの場合に特殊召喚できる!!」
次に現れたのは、藤色の衣に包まれた、大きな2本のねじまきがついた案山子のようなモンスター
そのモンスターは機械族だが、その印象は幽霊に近かった
団布 手札4→3
ネジマキシキガミ ATK100
「うげっ…なんちゅう気色悪いモンスターや」
「おかしい、団布のデッキにあんなモンスターはいなかった筈だ」
「…誰かに渡された?」
「『ネジマキシキガミ』の効果!
相手フィールド上のモンスター1体の攻撃力を、ターン終了時まで0にする!
対象は、『ヴィルカニック・エッジ』!!」
ヴォルカニック・エッジ ATK1800→0
「あー読めたぜ、それで『KA-2デス・シザース』とのコンボか
確か戦闘で破壊したモンスターのレベルに500をかけた数値分のダメージを与えるんだったな
まぁお前にしちゃ賢いコンボだな――――――」
「俺は! 手札から魔法カード『ギャラクシー・クィーンズ・ライト』を発動!!」
「―――――――何、だと?」
団布 手札3→2
「このカードは、俺の場のレベル7以上のモンスター1体を選択し、
俺の場に存在する他のモンスターのレベルを、そのモンスターと同じにする!
当然、対象はレベル8、『ネジマキシキガミ』!!」
KA-2デス・シザース レベル4→8
「レベルを同じに? それって何の意味があんだよ」
「ちょっと待て、この光景は…」
「先輩! この決闘は無効だ! やはり“何か”がこの世界に干渉してるよ!」
「恭一君! いやブレイズ君か!? フリーズ君の言うとおりだ! ここは退きたまえ!」
「うるせえ! 売られた喧嘩は最後まで付き合うのが礼儀だろ!?
途中で背中向けるなんざ、俺の……“勇気の炎”を司る俺の名が廃っちまうぜ!!」
「よく言った、その偉そうな口も二度と聞けなくしてやるぜ!!
俺は『ネジマキシキガミ』と、レベル8になった『KA-2デス・シザース』をオーバーレイ!
2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築! エクシーズ召喚!
これが俺の新たな切り札! 不死の鉄槌で弱い奴等をぶちのめせ!!
出てこい、『No.22不乱健』!!」
現れたのは、強靭な肉体を持った大男
眼光のみしか分からない程に頭部を覆った布切れには、
大きく“22”という数字が示されていた
そして、その身体の周囲を、2つの光がくるくると回っている
No.22不乱健 ATK4500
「攻撃力……4500!?」
「なんでや!? 魔法カードもチューナーもおらんかったやん!?」
「エクシーズ召喚は、融合や儀式のように魔法カードを用いず、
シンクロのようにチューナーモンスターのような特別なモンスターも必要としない
フィールドに揃った2体以上の“同じレベルのモンスター”を、“重ねる”ことで成立する特殊召喚だ」
「君はエクシーズ次元の人間かな……いや、スタンダード次元かな?」
「なあ、あの鬱陶しい光は何だ? さっきからくるくる回ってる奴」
「あぁ、あれはオーバーレイユニット……エクシーズ召喚の際、素材になったモンスター達さ
エクシーズモンスターの大半は、効果の発動の為にあれを使うんだ
つまり回数制限が存在する訳だが…その分、強力な効果も多い」
「ちっ、よりにもよってデケェ奴出しやがって…」
「だーっはっはっは!! これで終わりだ、ゼロ!!
バトルフェイズ! 行け『不乱健』! 『ヴォルカニック・エッジ』をぶっ潰せ!!」
「やべぇ、さっきのネジマキ何とかの効果で攻撃力0じゃねーか!?」
「させねぇよ! 罠発動! 『業炎のバリア-ファイヤー・フォース-』!!
相手モンスターの攻撃宣言時、相手の場の攻撃表示モンスターを全て破壊する!
その後、俺は破壊したモンスターの攻撃力の合計の、半分のダメージを受けちまうが…
受けたダメージと同じ数値を、相手にも与える!!」
「ナイスや! これでホンマに勝ちやろ!」
「いや、確か『不乱健』の効果は…!」
「俺は『不乱健』の効果発動!
オーバーレイユニットを一つ使い、手札の『タイム・イーター』を捨てることで、
『業炎のバリア』の効果を無効にする!」
「へっ、だが肝心の『不乱健』は、その効果で守備表示になっちまうぜ!?
よって、この戦闘は無効だ!!」
No.22不乱健 ATK4500→DEF1000 ORU2→1
「…俺はカードを1枚セットし、ターンエンド」
「この瞬間、『ネジマキシキガミ』の効果が解け、『ヴォルカニック・エッジ』の攻撃力も元に戻る」
ヴォルカニック・エッジ ATK0→1800
団布 LP2450 手札0
「攻撃力の割に守備力低いな、こりゃ行けるぜ!」
「君達、さっきからフラグ乱立するのは止めたまえ」
「ほう、ナユタくん、だったかな? 君はどう読む?」
「…僕だったら、あのデメリットを帳消しにするカードを仕組むね」
「俺のターン、ドロー!」
恭一 手札3→4
「行くぜ、まずは墓地の『ヴォルカニック・バレット』の効果発動!
LPを500払い、デッキから『ヴォルカニック・バレット』を手札に加えるぜ!」
「ところで彼、LPを大切にしないね」
「まあ、脳筋だからね、先輩」
「うるせえ!?」
恭一 LP5650→5150 手札4→5
「永続罠『ブレイズ・キャノン・マガジン』の効果!
『ヴォルカニック・バレット』を捨て、カードをドロー!」
恭一 手札5→4→5
「さあこっからだ!
『ブレイズ・キャノン・マガジン』は、場に存在する時に『ブレイズ・キャノン-トライデント』としても扱う!
俺は『ブレイズ・キャノン-トライデント』を墓地に送り、
『ヴォルカニック・デビル』を特殊召喚!!」
ごおっ!!と勢いよく溶岩が噴出し、その熱の中から、それは姿を現した
黒曜石のような輝きを放つそれは、身体の至るところから炎を滾らせ、
まさに“火山の悪魔”の名に相応しい様相だった
恭一 手札5→4
ヴォルカニック・デビル ATK3000
「来た! ブレイズのエースカード!」
「しかもあのデカブツは守備表示、楽勝だな!」
「バトルフェイズ! 『ヴォルカニック・エッジ』で『不乱健』を攻撃!!」
「だーっはっはっは!! リバースカード、オープン!
永続罠『最終突撃命令』!」
「なっ!?」
「効果は知ってるだろ? 場のモンスターは強制的に攻撃表示だ
当然、俺の『不乱健』もなぁ!!」
No.22不乱健 DEF1000→ATK4500
『ヴォルカニック・エッジ』の火球は、『不乱健』の掌でハエを払うように掻き消され、
逆にその細い首を掴まれると、ごぎり、という鈍い音を立てて消滅してしまった
恭一 LP5150→2450
「ぐうっ……っへへ、なかなかやるじゃねぇか
俺はこのままターンエンドだ」
恭一 LP2450 手札4
「……ん?」
「どうかしたのかい、ナユタ君?」
「『マガジン』は墓地から除外すれば、デッキから『ヴォルカニック』カードを墓地に送れる筈
『カウンター』を落とせば、今ので彼の勝利だったんじゃないかな」
「そうだね、ただ勝つだけなら、それが正解だよ」
「…と、いうと?」
「それは見ていた方が早いかな?」
ふふっ、と笑ったフリーズの心中を察する間もなく、団布のターンが開始する
団布 手札0→1
「…あっけなかったなあ、何か忘れてないか?」
「あ? 何がだ?」
「俺は永続魔法『ウィルスメール』を発動!
対象は…『不乱健』!!」
「はぁ!? 何言ってんだあいつ、『不乱健』のレベルは8―――――なっ、なんだこりゃ!?」
「レベルやない、“ランク”や!?」
「レベルがない………まさかそんな!?」
「「あの、君達?」」
「だーっはっはっは!! 死ね、ゼロ!! 『不乱健』でダイレクトアタック!!」
しーん
「……あれ? ど、どうした『不乱健』?」
「おいおい……何も知らねぇでエクシーズモンスター使ってたのか?」
「は? 何のことだ?」
「あのね…エクシーズモンスターはレベルを持たず、ランクという独自のステータスを持っている
つまり、レベルに関する効果を受けず、ランクに関する効果のみ影響を受けるんだ」
「「「「何ッ!? レベルがないってことは、“レベル0”ってことじゃないのか!?」」」」
「他のことで考えてみなよ……速さから重さは引けないし、人数と距離は足せないでしょ?」
「くっそ……あ、でも『ロケット』を攻撃すれ、ば……
だ、だーっはっはっは! これでお終いだ、ゼロ!
『不乱健』で『ヴォルカニック・ロケット』を攻撃!!」
「焦ってんのモロバレだぜ、バーカ! 『ヴォルカニック・デビル』の効果!
相手バトルフェイズ時、攻撃可能なモンスターは全て、『デビル』を攻撃しなければならない!」
「くっ、だがこっちは4500! ダメージは受けて貰うぜ!」
恭一 LP2450→950
「うえ、そんでもピンチじゃねぇか!」
「あかん! ゼロまで保健室送りになったらワイらどうすんねん!?」
「お、お前等、落ち着けって…」
「これで俺はターンエンド……さあゼロ、最後の足掻き、楽しませてもらうぜ」
団布 LP2450 手札1
「あぁそうだな、精々足掻かせてもらうぜ」
(いやいやいやいや!? 珍しく大分LP削られてますけど!?
これ勝てるんすかマジで、ねえブレイズさん!?)
「お前がそんなんでどうすんだよ……トドメ刺すのはお前だぞ?」
(…は? 何言って)
「準備は整った。なぁに、慎重にやりゃ勝てる
後は任せたぜ――――――」
すぅっ、と恭一の身体から赤い光が抜けていく
と思えば、光は恭一のデッキの一番上に灯っていた
何も考えず、ただ自分のターンの開始だったから、彼はカードを引いた
それを見た時、危うくカードを落としそうになりながら、恭一は驚愕する
「っちょ……これって……!?」
恭一 手札4→5
「何やってんだ、まさかターンエンドか?」
「…俺は、手札の魔法カード『死者蘇生』を発動
その対象は……お前の墓地の『ネジマキシキガミ』だ」
「なっ!?」
「成程、『不乱健』の攻撃力を0にすれば!」
「『不乱健』の効果! オーバーレイユニットを1つ使い、手札の『可変機獣ガンナードラゴン』を捨て、
お前の『死者蘇生』の効果を無効にする!
『不乱健』は守備表示になるが、『最終突撃命令』の効果で攻撃表示に戻るぜ!」
恭一 手札5→4
団布 手札1→0
No.22不乱健 ATK4500→DEF1000→ATK4500 ORU1→0
「あぁ……もう見てられへん」
「君達はフラグ建築士でも目指してるのかね
あの様子だと、さっき引いたカードは」
「だーっはっはっはっは!! これで勝利の可能性はなくなった訳だな!」
「そうだな…お前の勝利のな!」
「何ぃ!?」
「俺は手札の『ヴォルカニック・バックショット』と『溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム』を除外し、モンスターを特殊召喚する」
「手札のモンスターを…除外だと!?」
「それは業火によって全てを滅する神
大きな力に屈する事なき“勇気”を、我に与えたまえ
降臨せよ、『焔滅神エザルブ』!!」
一瞬、現れたのは赤い小さなトカゲだった
が、その姿は刹那の間に燃え上がって人型となり、
大きな剣を携え、炎の翼を頂く、神々しい姿へと変貌した
「な、なんやあれ!?」
「こんなモンスター、今まで見たことがない………フリーズ君、もしや」
「そう、あれこそが先輩…ブレイズの真の姿
勇気を司る『焔滅神エザルブ』だ」
焔滅神エザルブ 炎 幻神獣族/特殊召喚/効果 ATK2800/DEF2500
恭一 手札4→1
「『焔滅神エザルブ』は、自分のLPが1000以下の時、
手札の炎属性モンスターを、レベルの合計が10になるように除外することで特殊召喚できる」
「こ、こんなモンスター知らねえ! インチキだ!」
「お前だって、この世に存在しないモンスターを使っただろ?
これはお前のような決闘者に対する“神”の怒りだ
バトルフェイズ! 『エザルブ』で、『不乱健』に攻撃!!」
「血迷ったか? そいつは攻撃力2800、返り討ちに―――――――ッ!?」
直後、『エザルブ』の剣が激しく燃え上がる
違う。炎が次々と投げ込まれ、その量がどんどん増しているのだ
恭一の墓地から、手札から
そして、炎へと姿を変えた、彼の場の『ヴォルカニック・ロケット』さえも
「こ、これは……どうなって……」
「『焔滅神エザルブ』が、自身より攻撃力の高いモンスターと攻撃する時、
このカード以外の自分のフィールド、手札、墓地のカードを全て除外して、
その中の炎属性モンスターの攻撃力の合計を加算する」
「ハァッ!?……そ、それじゃ…攻撃力は……」
焔滅神エザルブ ATK2800→12300
「い、一万……!?」
【何処の次元から来たか知らねえが、元の世界に返りやがれ!!
行くぜ、ゼロ!!】
「あぁ! 『焔滅神エザルブ』の攻撃!!」
――――――ブレイヴァリー・スラッシュ!!
団布 LP2450→0
...to be continued
なっが!! ひたすら長っ!
そして途中でプロットと見比べて手札の枚数が違ったから3回見直した挙句にプロットが間違っててなんやこれ畜生(
という訳で黒いカードこと『エクシーズモンスター』登場
この世界に存在しなかったカードが現れた理由とは果たして(わざとらしい
シャドーマンの人、お疲れ様です!
恥ずかしながら「ヴォルカニック」シリーズをさっきググって知ったのですが、良いものですね
個人的にヴォルカニック・バレットさんがエロかっこ良かったです
その昔は、サイコショッカーとかダークネクロフィアとか
ああいうデザインが好きだったのですがいつの間にか
ファイレクシアの巨大戦車とか召喚獣メガラニカとか
ああいうデザインが好きになっていました、あぶない
この話は【11月】の【「バビロンの大淫婦」消滅後】の時間軸です
この話は前スレ 998-999(次世代ーズ)、本スレ >>68(鳥居の人)の続きになります
「お兄ちゃまたち気をつけて」
突如背後に出現した「ピエロ」側の二人組に向けて
正確にはこちらと彼ら二人を隔てるように生成された氷壁に向けて
手鏡を構えながら、彼女、新宮ひかりは桐生院の兄弟に警戒を促した
「タートルネックをきてる人は、あたしと同じで現実を上書きする能力だよ
スーツのふとっちょの方はちょっとむずかしいの
知ろうとしたり見ようとしたら発動するタイプみたいなんだけど」
「知ろうとしたら発動するタイプ?」
「そうなの轟九お兄ちゃま」
ひかりの説明は概ね正確だった
廃工場にて初めて対峙した際、二人組について「ロンギヌスの槍」の能力で読み取っていた
しかし同時に、彼らについて知り得たのはそこまでだった
それ以上を読み取ろうとしたとき、「槍」の接続が“切断”された所為だ
“切断”の原因は不明、恐らくスーツの方の能力であることは検討がつく
それ故、彼女はそれ以上のリーディングを断念したのだ
「ひかりちゃん、何か他に手がかりは無いかな?
あの二人組はひかりちゃんに何か言わなかった?」
「えっとね、真降お兄ちゃま
さいしょにあったとき、あたしの能力がとても都合がわるいって言ってたの
それから――ライダーのおじちゃまも、あたしの能力にカウンターを掛けるタイプって」
「ひかりちゃんの能力、カウンタータイプ、ということはつまり」
「認識されたら発動するタイプ、ってとこか?
敵さんの視点で考えりゃ手の内が読まれるのは避けたいってわけか
見知ったらカウンター……死んだり発狂する系、って言やあ『くねくね』か『夜刀神』の系統か」
「いえ、兄さん。先程から潮風の匂いが増している。海の怪異かもしれない」
「海か、なら『海難法師』かその類か?」
周囲を油断なく警戒しつつ、真降と轟九の兄弟は思考を巡らせる
だがそろそろ頃合いだ、二人組が何時仕掛けてきてもおかしくは無い
「真降、俺たちの周囲に氷柱を作ってくれ、それも頑丈な奴な」
前方から目を離さず、轟九は弟にそれだけを告げる
氷の壁越しに黒い影が上へ上へ昇っていくのが確認できた
「ああぁぁぁぁぁぁぁ」
氷壁の頂上より姿を現したのはスーツの方だった
先程の微笑みとは異質な、無数の皺が刻まれた笑顔だ
裂けているのではないかと錯覚するほど口角が引き伸ばされている
「ひかひかりちゃん、んんいまそっちにいいいくからねぇぇぇ」
だが氷壁の上から顔を出したのはスーツの方だけでは無かった
彼と一緒によじ登ってきたのは、肉が焦げ、皮膚が焼け爛れた道化達だ
なんということだ、先程の「火遊び」に巻き込まれた筈の「ピエロ」達ではないか
彼らは焼死した筈では無かったというのか
「ひかりちゃんが俺をまってる、はやくはやく『はいれたはいれた』したいしたい」
「ウフ、ウフフ」「ニンゲン、イッパイ……」「オニク、オニク、うぇるだん、ばーべきゅー」
『どうにもウチのが見苦しくて悪いね』
何処からともなく響くその声は、あのタートルネックの青年のものだ
『さて、君たちも君たちで随分と厄介そうだ
正直、高級の馳走を前に僕も如何手を付けようか迷っていたよ
こんな嬉しい状況は滅多に無いからね。そう、だから、慎重に正攻法で行くことにした』
当然のことだが
何の前触れもなく
彼は、新宮ひかりの真正面に出現した
「ふぁいやー!!!!」
ひかりが「アルキメデスの鏡」を発動したのは彼の出現と同時だ
噴出する爆炎が「アブラカダブラ」の契約者を飲み込み、後方の氷壁を一気に蒸発させる
だが
「カダブラ」は健在だ、左手を翳して炎を禦いでいるのが辛うじて視認できる
炎の中に居る彼の顔が、悪意に歪んだ
「まずい!」
真降が警告を発したとき、ひかりが片手で「槍」を握りしめていた
「――そに害なす者との空間を『虚無』に書き換えよ」
爆炎の噴出音にかき消されるかのような小さな声で、ひかりは唱える
その直後、爆炎を引き裂くように金色の矢が乱射された
機関銃めいて撃ち込まれる幾多の矢は、正確にひかりと真降へ向けられていた
だが全ての矢はひかりが創造した「虚無」へと飲み込まれていく
金色の矢には見覚えがある、真降はそう思い起こした
先刻から東区の上空を飛翔し、次々と「ピエロ」達を射抜いていった、あの矢だ
「なるほど、『矢』を“奪った”のか」
低い、吐き捨てるような調子でひかりが呟く
「“奪った”とは聞こえが悪い、ただ“拝借”しただけさ」
遂に爆炎の壁から「カダブラ」の青年が姿を現した
その瞬間、「カダブラ」の横面が太い氷柱によって殴り飛ばされた
「させるかっ! 阿呆っっ!!」
桐生院轟九の一撃だ
弟が生成した氷柱をへし折り、それで殴り付けたのだ
のだが
「カダブラ」はその直後に“転移”したようだ
ひかりと兄弟にやや距離を置く位置に再出現する
「『カダブラ』のぉぉぉぉぉぉ!! 俺の獲物にぃぃぃ手を出すなぁぁぁぁぁ!!!」
声が割り込む
「海からやってくるモノ」の契約者だ
今や完全に消滅した氷の壁から民家の壁へと
四つん這いの体で張り付き、不快害虫のように蠢いていた
「ひかりちゃんに『はいれた』するのは俺の仕事だぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
更にはゾンビさながらの外見をした「ピエロ」達が
緩慢な動作ではあるが徐々にひかりと兄弟へ向かっている
先程の「アルキメデス」により下半身を完全に炭化させられた数名は
地面を這いながらもこちらへ詰めてくる
「兄さん、ひかりちゃんを!」
真降は瞬時に氷の剣を生成し「カダブラ」に対し一気に距離を詰める
振るい上げた剣の間合いはタートネックの襲撃者を捉えた
「人を[ピーーー]したことはあるかい?」
剣の筋を、しかし「カダブラ」は紙一重で回避する
つい先程は轟九の膂力で顎を正確に殴り飛ばされた筈だ
しかし回避の足捌きだけ見てもまるで効いている様子が無いのは何故だ
「[ピーーー]しの味を楽しんでみたくは無いか? 君のことだ、いまに 病 み つ き に な る 」
「カダブラ」の足が、不意に鈍った
突きを仕掛けるなら今だ、だがこれは――
罠の匂いを察知し、真降は寸前で踏みとどまる
「惜しい」
「カダブラ」の、最早隠すことのない悪意に満ちた声を聞いた
だが、真降は彼の顔を見てはいなかった
剣の切っ先は寸前で止められている
そして、それは「カダブラ」にでは無く、真降と「カダブラ」の間に出現した女性に向けられていた
スーツ姿のOLだ
若い女性だ、様子から見て先程仕事が終わって、これから帰るといった体のOLだった
先程まではこの場に居なかった、というより、そもそもこの場でひかりと落ち合ったとき、他の人の姿は無かった筈だ
「え?」
呆気に取られた、正しくそのような表情で、彼女はそれだけを口にしていた
彼女は何処からやって来たのか、何故この場に出現したのか
「君がすべきだったことは、寸止めじゃあ無い」
それはいきなりだった
OLの胸から、鋭い氷柱のような物が飛び出した
「[ピーーー]しを味わうことだ、OK?」
「え、へ?」
状況が未だよく分かっていないスーツの女性は
やがて、自分のシャツに鮮やかな赤が拡がっていくのに気づいたようだ
「カダブラ」は満足そうに薄く嗤うと、まるでゴミを放り捨てるかのように腕を振るう
真横から響く、堅い物が砕ける音、真降が眼だけを動かして確認する
先程の女性だ、「カダブラ」に投げ捨てられ、民家のブロック塀に激突したのだ
先程の破砕音はブロックが破壊された音だ、女性は地面に崩れ、激しく痙攣していた
その瞬間、嗤う「カダブラ」の体が大きく、ブレた
彼の立っていた箇所から、アスファルトを貫くように鋭い氷柱が生成されている
だが「カダブラ」は寸前で回避したのか、大した怪我は無く、その真横に再出現していた
「おやおや、怒ったかな? 氷使い」
相変わらぬ嘲りを顔面に貼り付かせ、彼は真降と対峙する
真降は飽くまで平時と変わらぬ冷静な眼差しのままだ
「どうした『契約者』、早く僕を[ピーーー]しに来なよ
ああ、安心しなって、『肉の楯』なら幾らでも代わりがあるんだから
それとも、年増は好みでは無いかな? 確か、君は中央高校の子だったかい?
ブレザーの子は良いものだね、どうせ[ピーーー]なら、君の見知った顔の方が嬉しいかな?」
「カブラダ」は愉快そうに顔を歪めている
彼の手にはいつの間にか、氷の剣が握られていた
「アブラカダブラ」の能力により生成されたものだろうか
真降は思案する
ひかりちゃんが話したように彼の能力が事象改竄系だったとしても、だ
やろうと思えば彼は直接対峙する間でも無く、僕らを[ピーーー]れた筈だ
であれば、何故それをしない? しないのでは無く、出来ないのか?
つまり彼の能力は万能では無い?
真降は能力を発動した
アスファルトを突き破るにように次々と氷柱を生成
全て「カダブラ」狙いだ
眼前の敵は哄笑を響かせながら回避行動を開始した
「真降お兄ちゃま! あの女の人は生きてるよ!」
「危ねぇひかりちゃん! 今は駄目だ!!」
未だに痙攣を繰り返す女性に駆け寄ろうとしたひかりを、轟九はすんでの所で制止した
真降が「カダブラ」に踏み込んだのと同時に、「ピエロ」が急に活性化した
アクロバティックに轟九とひかりを襲い出した「ピエロ」共を
轟九がほぼ独りで捌いていたのだ
「こんな閉所でさっきみたく『アルキメデス』をぶっ放すワケにもいかねえ――しなあっ!!」
「チョ、待ッ、オボァァァァァァァ……」
「ドウセ死ヌナラ、きれーナオ姉サンニ[ピーーー]サレタカッ、オゴァァァァァ……」
「ナンデコンナイケメン野郎にけつヲ叩カレナキャ、アゴォォォォォォォォ……」
へし折った新たな氷柱で「ピエロ」共を次々と殴り飛ばしていく
威勢の良かった「ピエロ」も彼の暴力を侮っていたようだ
そのお陰で場の道化はほぼ蹴散らされていた
「真降! 油断すん――」
不意に、先程から漂っていた潮風の匂いが、一際強まった
轟九は言い掛け、突如大地を蹴る
スーツの中年男が、ひかりの直ぐ傍に出現していたからだ
逃がしはしない、「海から」の契約者の腹部に、轟九の蹴りがめり込む
「ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ、あああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
奇声を上げた「海から」の契約者の体が面白い程に吹っ飛ぶ
彼はアスファルトの上を転げ回りながら、何とか四つん這いになってこちらを向いた
その顔面に、轟九は一切攻撃を加えなかった
だが、まるでギャグ漫画のように顔の中心がめり込んでいるのはどういうわけだ?
「海から」の契約者は先程から奇声を発しているが、声を上げる口は最早彼の顔面には無かった
いや、単にめり込んでいるのでは無い
まるで顔の中心へと顔面の皮膚が呑まれるかのように、表皮が蠢いている
「うううううぅぅぅぅぅうううううぅぅぅぅぅううううぅぅうっぅぅぅぅぅううぅぅぅううううううぅぅぅぅぅぅぅうううぅぅぅっぅぅうううう
ひかりちゃんひかりちゃんひかりちゃんひかりちゃんひかりちゃんひかりちゃんひかりちゃひかひかひか」
それは、大地を伝って、それを聞く者の腹の底を揺さぶるような、低い声だった
「ひかりちゃん、あれを見ちゃ駄目な!!」
「海から」の契約者を睨み付けたまま、手に持っていた氷柱を打ち捨てると
新たな氷柱をへし折り、肩で担ぐような体勢を取った
大きく踏み込み、氷柱を投擲する
切っ先を真っ直ぐ、「海から」の顔面に向けて
「ぼごぉぉぉぉっっ!!!」
寸分違わぬ正確さで、氷柱は彼の顔面へ突き刺さった
いや、突き刺さっただけでは無い、それは完全に頭部を貫通していた
(思った通りだな)
轟九は心の中で舌打ちする
蹴りを叩き込んだ瞬間、彼は直感めいた違和を覚えていたが
氷柱の貫通で勘が確信に変わった
(手応えが完全に人間のそれじゃあ無え――!!)
「うふ、うふふふふ、うふふうふふ、そうか、そうかそうか、そういうことか
とうけつののうりょく、きょうりょくなみつど、οなんばー」
氷柱が頭部を貫通してなお、スーツの男は低い言葉を発していた
四つん這いのまま、今や電柱を昇り切って頂上からこちらを見下ろしている
「οナンバー?」
「海から」の声に反応したのはタートルネックの青年だった
「カダブラ」の双眸に、先程までは無かった冷たい光が混じる
「そうか、なるほど。するとつまり君は、あれの子息か」
回避を止め、彼はおもむろに桐生院真降へと向き直った
「真降!! こいつら相手に手加減は無しだ!!」
「カダブラ」の呟きを掻き消す勢いで轟九の怒号が飛ぶ
真降は「カダブラ」に対し、構えを取った
その手に握られていたのは――彼の「七星剣」だ
□■□
いやー胸糞悪い敵ってのはいいな!
ボコボコにしやすいし救いようがないっていうか
そして最期が気になってくるものよ
最期の瞬間こそ悪の輝き!(暴走
次世代ーズの人乙ですのん、これは皆頑張れ
独り反省会をしている場合では無かった
鳥居の人に土下座orz でございます……
真降君が優しいからといって「カダブラ」は彼を挑発し過ぎた
当初の予定よりも野太いフラグが立ったのは決して気の所為では無い
個人的に次か次の次で決着が付くかも、という算段ですが、鳥居の人の沙汰を待ちます
スケジュール等で書けそうに無い場合は私に申し付けください
責任を持って始末を付けますの
というわけで、改めまして鳥居の人、ありがとうございます! orz
前回の続きを書くのが遅れて申し訳ないです……!
>>82-86が>>68の続きとなります
ひかりちゃんや真降君と轟九兄さんの言い回しがこれで良いのか自信が無くなってきました
おかしな所やミス等あれば教えて頂けるとありがたいです……!
>>87
この二人は逝く時も愉快そうに笑いながらドロップしそうで
今の時点で次世代ーズの中の人はぐんなりしています
個人的には疾走感あふれる戦闘を描くことが当面の課題です
もう一編書こうとしたが、間に合わなかった……
昨夜の一件で思い知ったこと……
それは眠いときに推敲するとほぼ間違いなく誤字る……
にくい、自分がにくい
>>88
読み返すとあまりに冷たい自分の物言いに愕然とした……
鳥居の人、無理はなさらずの方向でお願いします!
続きを書いて下さるのであれば次世代ーズも嬉しいのですが
鳥居の人はお忙しいという話を目にしている手前
無理にお願いするわけには……と思っておりますので!
>>88は「書くのがしんどそうであれば私に投げて貰って全然OKです!」
くらいの意味で捉えて貰えたら、と思います orz
この話には事前警告が必要であると「次世代ーズ」が判断した
暴力、およびグロテスク描写が含まれています
苦手な方は>>101までスキップして下さい
この話は【11月】の時点、>>82-86(次世代―ズ)とほぼ同時刻の出来事になります
「状況はどうです?」
「上々、といった所でしょうか
ようやく『組織』も事態を把握したようです
ここまで粘れたのならベストを尽くした方だと思いますよ」
女の返答に「ピエロ」は胸を撫で下ろした
首尾はそこそこ上手くいったようだ
「ただ、そうですね
『組織』よりも早い段階で
『レジスタンス』配下と思しき対象が動いた点をどう読むか
現状、不安材料が無いわけではありませんが、十分に想定の範囲内です」
「『一ツ眼』や『組織』関係者の能力で
『ピエロ』が若干名、支配権を奪われてます
我々の方で処理した方がよろしいでしょうか?」
「問題はありません。予定より早く“彼女”が学校町へ到着しました」
「“彼女”? まさか、あの、“女神”さんですか!?」
「あら、隊長さんも気になってました?」
隊長と呼ばれた「ピエロ」は、取り繕うように笑って誤魔化した
「いやあ、“女神”さんに惚れてる仲間も多いもんで……」
「中々楽しいことになりそうですね。特に今日と明日は」
女は機嫌良さそうに「ピエロ」からモニターの方へ向き直る
壁面に設置された複数の画面には様々な映像が表示されていた
「“先生”方の具合はいかがです?」
「こちらもまずまず、と言った所でしょうか
『アブラカダブラ』と『やってくるモノ』は現在、事象改竄系能力者を追跡中のようです」
「事象改竄に全知の観測、か。おっかねえな、学校町の契約者は」
「まだまだこんなものではありませんよ。序盤ですらありません」
「ピエロ」の隊長は感嘆したように首を振る一方で、女の声は弾んでいる
まるで、学校町で現在進行中の事態が楽しくて仕方ないといった雰囲気だ
「ただ、対象の能力者が幼少の女児のようで
少々『やってくるモノ』が没頭している様子なのは気掛かりですね
まあ、『カダブラ』の子が一緒なので手綱は握れるでしょう。心配はありません」
「お若い“先生”方はどうでしょうか?
アシストが必要ならいつでも駒を動かせますが」
「それが……」
直前まで上機嫌だった女の声色が曇る
「ピエロ」は彼女の顔色を伺いつつ、モニターの方へ視線を向けた
「こちらの“眼”からロストしたようなのです
一人は『七尾』出身者なのですが、問題児で……、こちらの指示を聞いているのかどうか……
まあこちらも“寄生”の子が一緒なので、いざというときはストッパーになってくれると思うのですが……」
「最後にトレースできた座標は残っておりますでしょうか?」
「南区、ですね」
「一応、当該地区で待機している『ピエロ』達に指示を出します」
「すいません、お願いしますね」
女の言葉を受けて、「ピエロ」の隊長は足早にその場を去った
女はモニターに目を向けたまま、深い溜息を吐いた
「これだから『七尾』の子は……まったく……」
学校町、某所
其処は廃工場なのか廃ビルなのか
兎に角人気が全く無い筈のその場所に“彼女”達は居た
開けたその場の中心に佇むのは“彼女”だ
胸の一部と腰周りを申し訳程度に隠したと言っても過言ではない装束の他は
透けるベールのようなものを羽織っており、このまま道を征けば衆目を奪うには十分過ぎる
と言うより、その格好で出歩けば即座に国家権力が飛んできそうな程に肌の露出は甚だしかった
いや、露出の多い装束というよりもむしろ全裸の上から局部のみをギリギリ隠した容姿と表現すべきか?
加えて“彼女”の豊満な肉体が公然猥褻の度合いを弥増しに高めているのは、ある種の必然だった
それもその筈、“彼女”は愛欲と戦闘の神格と契約を結んだ能力者だったからである
周囲には大量の「ピエロ」が“彼女”を包囲するかのように平伏している
この「ピエロ」達は一つの共通点で以ってこの場に集っていた
「一ツ眼」の“魔”、あるいは契約者による“支配”、あるいは淫魔による“魅了”
そう、学校町に於いて精神干渉系の能力を受けた「ピエロ」達は自動的にこの場に向かっていたのだ
全ては“彼女”が事前に仕込んでおいたフラグなのだが、「ピエロ」達がこの事実を知っているのかは明らかでは無い
いずれにせよこの場の「ピエロ」達は“彼女”の力能によって、今や干渉を完全に“上書き”されていた
「あなた達ニ――」
“彼女”が口を開く
その声は「ピエロ」で無くとも心狂わせるには十分過ぎる程の官能を湛えていた
「――“お願い”をしたのは誰カナ? ワタシに教えテネ」
“彼女”の声に聴覚を擽られた「ピエロ」達は我先に体を起こし
“彼女”の姿を直視した途端、彼らは性的絶頂に達した
「ああーッッ!! 女神サマーーッッ!!」
「駄目ぇっ♥ シコシコしてないのに♥ いっぱいピュッピュしちゃうよォォォーーーッっ♥♥♥」
「パパが! パパがやれって!♥! 『一ツ眼』のパパがやれって言ったのォォーー!!♥♥」
「俺は悪くないんだ女神サマッ!! あっ♥ 『組織』のっ♥ 女の子がッ! やれって!! だからッ♥」
「女神さまお許しください♥ 俺達は悪くないンだぁぁァァぁァァッッ!!! あっ♥ また出るゥゥっ!♥!」
「みんナ、いい子だヨ♥ 悪い子は独りもいナイ♥ だからいっぱい気持ち良くナぁレ♥」
「あアーーっ♥ 女神サマァァァァぁぁッッ!!♥♥!!」
「うソォォっ!?!?!? 一回出たのにィまだ出るヨぉぉぉぉ♥♥」
「もうオレここで死んでもいいッ!!♥ 死にたいッ気持ちイイッッ!!♥♥ 女神さまン殺してェェェ!!♥♥♥」
異様な光景であった
たとえそれがこれから学校町で繰り広げられる惨劇の序章であったとしても
己の性欲を猛り狂わせながら銘々が欲望に絶叫するその様は
その光景は異様と呼ぶより他無かった
「イナンナ」
それが彼女の契約した神格の名だ
古のシュメールより伝わる性愛と美、豊穣、そして戦争を司る女神である
その女神はメソポタミアに於いてイシュタルと、ギリシアではアプロディテと崇められ
ローマではヴィーナスと、ユダヤ教やキリスト教ではバビロン、あるいは淫婦共の母と見做された存在である
その神格と契約した能力者は人間の女だったが
彼女が神格に呑まれてしまったのか、それとも人格のみをこの女神に書き換えられてしまったのか
今となっては誰にも知り得ぬ話であるし、そのようなことは当事者にとってもどうでも良いことなのだろう
“彼女”、「イナンナ」と契約した能力者は大きく二つの力能を有する
一つは、愛欲の神格としての側面。つまり、己の愛欲により全てを飲み込み、愛する“魅了”の力能
そしてもう一つが、戦闘の神格としての側面。即ち、敵対した存在全てを嬲り殺しにする“殺戮”の力能である
そして現在
“彼女”の能力下にある「ピエロ」達は
“彼女”の“魅了”により新たな命令を刷り込まれつつあった
「みんなの“パパ”と“ママ”ハ、みんなに愛をくれたヨネ?」
「うんッ! 『一ツ眼』のパパんはいっぱい愛してくれたァァァァァぁぁッッ!!」
「『組織』の子ッ♥ ママんッッ♥♥ ああああンンんンんんっっ♥♥♥ ボク愛されてるぅぅぅぅぅっっ!★!★!」
「イナンナ」の“魅了”は、神格のそれである為か強力な干渉を誇る
“彼女”には過去に「狐」による魅了者の乗っ取りを何度か実施したという噂もある程だ
熟達した契約者であっても、“彼女”の“魅了”を受けてしまえば、その出力と密度により決して長くは“もたない”だろう
「受け取った愛ハ、“パパ”と“ママ”に返さなくチゃネ♥」
「ふぁッ!? ンン♥♥ あっ♥ ああァァーーッっ♥♥ んアアーーっ♥♥!!!!」
“彼女”の最も近くに居た「ピエロ」の頭を、“彼女”は優しく撫でつけた
その瞬間、その「ピエロ」は自らの睾丸を握力で握り潰し、白目を剥きながら、文字通り昇天した
「でモ、そのままのやり方じゃあ“パパ”と“ママ”は愛を受け取ってくれなイヨ? そんなノ、悲しいヨネ? 嫌だヨネ?」
「えっ??? やだやだやだァァァァッっ!!」
「女神サマっ!! オレたち、どうすればいいッ!? 助けてヨぉぉッ!!」
「うン♥ だかラ、出来る所からヤればいいんダヨ★ みんなでも出来ルヨ!」
「どぉうすればいいンのォォ??♥♥??♥♥」
「教えて女神さまン! どうやれば、パパにLOVEを怨返し出来るンんッっ!?!?」
「それはネぇ♥」
“彼女”は「ピエロ」達に向けて、きゅうと笑む
それを見た「ピエロ」の何人かは更に射精を繰り返した
敵からの干渉を歪める形で刷り込まれる命令はほぼ完成の域に達しつつある
「『一ツ眼』は今、学校町の大きなお屋敷に食客として迎えられているンだッテ
でネ、そのお屋敷のお坊ちゃんハ、この町の大きな高校に通ってるって聞いタノ★
分かるかナ、ブレザーの子どもたちダヨ? その高校の子どもたちなら、愛を受け取ってくれるかモネ♥」
「ほントッ!? ほんトにッっ!? 高校生に愛を返死てもいいンッ!?!?」
「おホぉぉォォンッッッ!! 妊活カーニバルの開催だァァっっっ!!!!」
「高校生……♥ ブレザー……♥ かわいいかわいい……♥」
「高校生ってもう赤ちゃん作れるよねェェっ! ヤっちゃっていいンだよねェェッッ!!」
「いっぱいいっぱい頑張らないとォォ♥♥ 女神サマも頑張れ♥って言ってるんだからァ♥ 頑張らないトぉぉ♥♥」
「みんな頑張レ♥ “パパ”も“ママ”もきっと喜んでくれルヨ♥♥」
「うんンんんンンン!! 頑張るゥゥゥウウゥぅぅううぅうぅゥゥゥぅぅぅううッッ!!!」
「中央高校♥♥ でも危険すぎるッ!! 中央高校は“結界”あるからッっ♥♥ 駄目ぇッッ!!」
「お前バカだろォォ!! 放課後を狙えばいいンだよぉぉぉぉぉぉんんん!!」
「そっかぁぁ、放課後♥ 放課後にデート♥ レッスン♥♥ 種付けレッスン♥♥ 頑張らなくちゃ♥♥♥」
新たな命令を植え付けられて狂喜の渦に飲まれた「ピエロ」達を満足気に眺めながら
まるで新しい玩具にはしゃぐ子供達を愛おしく見詰める母親のように、“彼女”は微笑んだ
「そうダヨ♥
愛を恩返しするなラ、まず弱い所からヤってかなイト♥♥ ダヨ♥♥」
「全員動くなァァッッ!! 『組織』だぁぁッッ!!」
「組織」の黒服達が怒号と共に現場を急襲したとき
既にその場所には誰も存在しなかった
まるで以前に遺棄されてそのまま時間だけが経過したかのように
静寂のみが空間を支配している
二点、違和があるのだとすれば
矢張り先程まで此処に何者かが、それも多数の者が居たと思わせるぬるい気温と
男達の体臭のようなそれに加え何やら酷い臭いが混じっている、特有の空気だろうか
「くそッ! 間に合わなかったかッ!?」
「主任、改めて確認しますが」
悪態をつく黒服に対し、部下と思しき者が声を掛ける
「現場での察知系能力の行使は――」
「許可できない! リスクが大き過ぎる
くそ、例の報告が無ければ、あわや大惨事だったぞ……」
主任と呼ばれた黒服は歯噛みしながら頭髪を掻き毟った
彼ら過激派と言えど、ここまで勝手に振る舞う「ピエロ」達を前に
全てを穏健派に押し付けて傍観役に徹する真似は出来なかった
かつて「狐」の案件で過激派と強硬派の一部が暴走した挙句
貴重な手掛かりを無駄にし、「狐」をも取り逃がしてしまった彼らは
「狐」の案件に関わることこそ出来ないが「ピエロ」ならば、と対処を開始したのだ
「まさか察知系能力へのカウンターとは、やられましたね」
「感心している場合じゃないッ!! 初動が早ければまだ封じ込めも出来たが、こうもなってはッ!!」
「やはりこの件、裏で『狐』が絡んでいるのでしょうか?」
部下の一人が疑問を呈する
その言葉に主任は手を止め、目を閉じた
「まだ判断を出すのは早計、それが現段階での幹部達の判断だ
だが、状況から推察するに『ピエロ』が『狐』の陽動を担っているという見方を排除することは出来ない――!!」
「『狐』が本格的に学校町制圧に動き出した、とか?
三年前の件があるでしょうから、『狐』も策を練ってると見るのが自然でしょうし」
「『狐』の案件は穏健派の連中が何とかするだろう
いや何とかして貰わないことにはこっちだって困るんだッ!!
俺達は何としてでも『ピエロ』を討伐し、その中枢を押さえるぞッ!! いいなッッ!?」
主任の言葉にその場の部下全員が首肯した
此処からは人海戦術だ
個々の黒服達はこの場に居た筈の大量の「ピエロ」達を見つけ出すべく夜の学校町を奔走することになる
だが果たして、「狐」と「ピエロ」との間に繋がりなど存在するのだろうか
彼ら黒服の私見は、最終的にどのような末路を辿ることになるのか
今はまだ、誰にも分からない
学校町南区、某ビル屋上
彼女は放課後、別の学校の友人と一緒に南区を回っていた
移動屋台が集まる南区の一角で新作のクレープを楽しんだ後
キッチンカーに陳列されるお菓子を眺めながら時間までお喋りして
それから、楽しい気分のまま、友達と別れる――筈だった、筈だったのだ
彼女は震えながら目の前に横たわる友達を凝視していた
友達はもう、体を動かすことは無かった。でも、生きてる筈だ
根拠の無い思い込みだけが、今の彼女にとって唯一希望を繋ぐ糸だった
生きてる筈だ、生きてなきゃダメなんだ。死んでなんかない。死んでなんか
友達の顔面には血と肉の花が咲いていた
最早、何処が眼で何処が口なのかも分からない程、ぐちゃぐちゃにされている
鼻があった筈の部分は盛り上がりも何も無く、顔面が削り取られたかのような状態だった
赤い中に見える白い物は骨、いや違う。白い、ご飯粒のような物が、友達の顔の中で蠢いている
思わず目を背けたくなる。が、出来ない
出来る筈が無い
喉の奥から酸っぱい物が込み上げるのを彼女は必死で押し留めた
「それじゃ、もう一度聞くね?」
自分と友達を、こんな目に遭わせた元凶が
直ぐ耳元で囁いた
「キミは南区の商業高校、一年生。だから知ってる筈なんだ
さわたり、しゅうじゅ。名前、知ってるだろ? ホントのこと言ってよ、ねえ」
「うっぐっ、しっ、知らないっ! ほん、とにっ、知らないっ、ぅうン、ですっ!!」
「さわたりしゅうじゅだよ、早渡脩寿。知ってんだろ? なあ!?」
「ごめっ、なさい゙っ、わたっ、しっ、ほんとにっ、知らなっ、ぅあっ」
元凶の少年は、女子の肢体を優しく撫でつけた
少女は先刻まで着ていた筈の制服を剥ぎ取られ、今や下着のみの姿で、無理矢理横たえられていた
彼女の白い腹部は少年の爪で引き裂かれ、裂傷の中から内臓が大きくはみ出ている
引き裂かれたのは腹だけでは無い、女子のふくらはぎから踵にかけてが、ずたずたに切り刻まれている
不意に少年は手に取っていた少女のはらわたを指で弄んだ
「ゔっ、ぅぁあっっ、やめ゙っ、ぅぅううあああっっ、お゙ぉ゙ぉ゙っ」
彼女は顔を背けてお腹の中身を吐き戻した
先程食べたクレープだったモノが屋上の床を汚した
「あ~あ、きッたないゲロ吐いちゃってさぁ、ホントくッせえな」
「でもこのゲロ、美味しそう」
別の声は少女の反対側からだ
女の子だ、少女と年齢は同じ位だ
ただ、その声は彼女のそれに比べて幼い
内臓を弄ばれる彼女を挟むようにして
元凶の少年と、彼の連れである少女が両脇を詰めていた
吐き戻した側にその少女は詰めていたので、吐瀉物が彼女と少女の間に広がっていた
おもむろに連れの少女は
吐いた彼女の口を己の口で塞いだ
艶めかしく口元が蠢く。彼女の眼は恐怖で見開かれた
ややあって少女は口を離した
大量の唾液が白い糸を引いて二人の間を伝う
少女は蕩けたような表情を浮かべていたが、彼女の方は錯乱したように悲鳴を上げていた
「お姉ちゃんのゲロ、酸っぱくて、甘くて、美味しい
女の子の味がする♥」
少女は囁き声でそっと彼女の耳たぶを噛む
「うぁ、ぅああぁあ゙あ゙ぁ゙ぁ゙っ!!」
目を見開いたまま、女子生徒は泣いていた
まるで幼い子供がただ感情のままに泣き叫ぶように
「マヒルの変態、ふ、変態マヒル、ふぅッ」
その様を前に、少年は押し殺した声で嗤っていた
「じゃあ何、ホントになにも知らないんだ
早渡脩寿はモテないのな、ゴミはゴミのままで安心だわ」
少年は満面の笑みに顔を歪め
泣いている彼女の肩に手を回した
震える彼女の耳元で彼は、甘く、囁く
「キミのふくらはぎ、柔っかくて、ぷにぷにで
甘くて、だからとっても、美味しかった」
「いやぁ、ああっ、ああぁぁ゙っ、あ゙あ゙あ゙っ」
「正直今すぐ食っちゃいたい
優しくするから、ふ、気持ちくしながら、ふッ、ふぅッ
命令が無ければ、ふぅッ、イかせながら食っちまうのに」
少年は自分の右手の先を噛んだ
噛む度に口内からバキバキという音が響く
事実、彼は自身の指先の骨を歯で噛み砕いていたのだ
「ふぅーッ、我慢しなくっちゃ、クソみたいな命令でも
ふひッ、命令は絶対だって、ふぅッ、先生も言ってた、くひッ
だから、だから俺は、ひぃッ、我慢しなくっちゃあなあ、くひぃッ」
込み上げる笑いを窒息させ
少年は唸るように押し殺した声を漏らした
右手の先を噛む口からは血が垂れ始めるが構う様子は無い
「大丈夫、お姉ちゃんのこと、きっと正義の味方が救けに来てくれる」
耳の縁を何度も舐め上げながら
少女は女子生徒の耳元でそっと囁いた
女子の側からは決して見えないのだから分かりはしないだろう
柔らかく、優しく囁くその少女の目元は、愉快な物を見詰めるかのように歪んでいることを
「だって、正義の味方の好物は恐怖と絶望だもの
ヒーローの御馳走はね、あなたの泣き叫ぶ声なんだよ
あなたの苦しむ悲鳴だよ、だから、もっともっと、大きな声で救けを呼ばなくちゃ」
「ごっ、ごろ゙ざな゙い゙でっ!! たっ、たっ、たすっ、たすけてくださいっ!!」
「もっと大きな声で泣かないと、誰にも聞こえないよ?」
「だずげでぐだざ――ぉおおおお゙お゙お゙っ!!」
彼女の命乞いは途中で遮られた
少年が彼女の傷口に手を深く押し込んだ所為だ
その様子を見て、少女は嘲笑った
「あのなあ、泣けば何もかも許されるって
本気でそう思ってんのか? なあ? だから泣いてんのか?」
「ごめ゙んなさっっ、ぁぁ、ぁあああ゙っ、ごべっ、ぉ゙ぉ゙っ、ぃやだっ、ごべんっ、あ゙あ゙」
少年の声は飽くまで静かだ
内臓を直接弄ばれた少女の吐瀉物には既に血が混じり始めている
「もうお互い子どもじゃ無いんだからさぁ、弁えなよ
――で、キミとこの子、俺はどっちを見過ごすべきだと思う?」
「ぃゃ、ぃゃ、やでず、も゙う、ゆる゙してください゙っ」
「選べよ? でなきゃ、俺に聞こえるように命乞いしなきゃ
ほら、しっかりやれよ、お姉ちゃんもう高校生だよね? 16歳だよねえ!?」
「ごめん゙な゙さい! ゆるじでぐだざい゙っ、うぁぁ゙、ぁああああ゙あ゙」
「もっと大きな声でぇッ!!」
「ごめんな゙ざい゙っ!! ゆどぅ、ぁっ、ぅおおおお゙お゙、お゙お゙っ、ごろ゙さな゙いでくださいっ、ああ、ぁぁぁ゙ぁ゙」
「なんだ、言えるじゃないの」
少年は無邪気に微笑みながら、横たわった彼女の友人に手を掛けた
途端に先程まで動かなかった友人の顔面から激しい呼気が聞こえ始めた
辛うじて鼻があった部分が蠢いて、断続的に血の混じった息を噴き散らした
息を吹き返したのでは無い、少年に掴まれ、神経に爪を立てられた激痛に呻いているのだ
「じゃあ、この子を、キミの代わりに[ピーーー]していいよね? ねっ?」
「だめ゙でずっ、やっ、やべでっっ、ぅおお゙お゙っ、ああああ゙、いやだあ゙あ゙あ゙」
「さっきから鼻水とか涙とかゲロとか撒き散らしやがって、やる気あんのか? お前?」
「ごの゙ごわ゙っ、だい゙ぜづな゙っ、とも゙っ、ぉぉぉ゙ぉ゙、どぼだぢなん゙でずっ、だがだっ、ごどさだい゙でっ!!」
「はーい、よく言えましたっっ、と」
少年は急に興が削がれたとでも言いたげな投げやりな口調で立ち上がった
そしてそのまま、横たわった友人の脇腹を、蹴り込んだ
「や゙べでぐだざい゙っっ!!」
友人を庇う様に、女子生徒は友人に覆い被さった
その途端に、彼女は耐えていた嘔吐を繰り返した
最早吐瀉物では無く、彼女の口から吐き出された血が、友人の顔に掛かった
「お望み通り、お前のオトモダチは助けてやるよ
それからお前のこともなあ、なあ、嬉しいだろ? ちゃんと感謝しろよ、感謝も出来ねえのかお前はッ!!」
少年は友人を庇う女子生徒の頭髪を掴んで揺さぶった
言葉こそキレた調子だが、彼の顔には未だ微笑みが貼り付いている
「ありがどお゙ござい゙ま゙すっ、こどさな゙いでぐでで、あり゙がどお゙ございまっ、ぅぁ、すっ、ぁぁ゙ぁ゙」
「そうそう、感謝は大事だよー? そんなの誰でも知ってるよー
じゃあ、キミとオトモダチを見逃してあげるんだから、キミのカゾクを[ピーーー]しちゃってもいいよね??」
突然の少年の提案に
女子生徒は言葉を吐き出すでも無くただ呼吸を繰り返した
少年が何を言っているのか、彼女には直ぐには理解出来なかった
「この世はね、シンプルな理屈で成り立ってるんだ
トレードオフ、等価交換、何だっていいよ。兎に角、何かを犠牲にしないと何も得られないんだ
分かるっしょ? 俺はキミとオトモダチを助けたよね? だからその分、俺は何かを奪わなきゃいけない」
再び、少年の顔が悪意に歪む
その表情は年頃の悪戯少年のそれと比するには余りにも残忍に過ぎた
「キミはオトモダチとカゾクを天秤に掛けて、オトモダチを選びました!
だからそのトレードに、俺はキミのカゾクを食っていいってわけ! いいシステムだよなあ、ほんっと」
「えっ、あっ、あの゙っ、なに゙を゙、言ってん゙かっわがっ、ああ゙あ゙あ゙」
漸く女子が顔を上げ、口を開くが最後までは話せなかった
少年の蹴りが腹部に直撃したからだ
「だーかーらー、俺は今からキミのカゾクをみんな[ピーーー]しちゃいまーす! ッてわけ!
楽しいなあ、たッのしいなあ♪ うッきうッき遠ッ足、たッのしいなあ♪ 俺ッてほんッと、あったまいいー♪」
「かぁクンばっかりずるいよ、そろそろ私も混ぜてね」
直前まで微笑みながら状況を傍観していた少女も、漸く彼に声を掛けた
「よく見てろ、ゲロ女」
少年が彼女の頭髪を掴み、無理矢理顔を上げさせた
不意に、彼の顔が溶けた。しかしそれも一瞬だった
直後、少年の顔は女になっていた
顔だけではない、体つきも女のそれに変化していた
正確には、彼の目の前に居る女子生徒の姿と、瓜二つになっていた
「これで」
少年、いや、直前まで少年だった、自分と同じ顔の少女はきゅうと笑う
顔面全体に少女に対する嘲りが刻まれているような笑顔だった
「お前のお袋も、親父も、俺の正体を疑わない
俺はお前の振りをしてお家に帰ればいいんだからなあ
可哀想に、お前の親は、ここでお前が死にそうになってるのに気づかないんだよ
そして」
彼は女子生徒の耳元に顔を近づけた
押し殺したように嗤うその声も、おぞましいことに彼女のそれと同じだ
「俺に食い[ピーーー]されて、死ぬ。ちょろい人生だよなあ、お前のカゾクはさあ」
「やめ゙っ、やめ゙でぐだざい゙っ!!」
「じゃあ、止めてみろよ、ゲロ女。お前の情報はこっちにあんだからよ」
ひらひらと彼女の前で見せびらかせる様に振るのは
女子生徒が持っていた筈の携帯と、生徒手帳だ
「俺は今日からお前に成り代わる。お前はここで震えてろ
あ、大声で救けを呼べば、正義の味方気取りが来てくれるかもよ♪」
「やべで……、やべでぐだざい゙、だでがっ、たずげで……!」
「ああ、そうだ
いいこと思いついたよ
よーく見ててね、ゲロ女」
女子生徒の顔をした少年は彼女の携帯を弄り始めた
少女の方も少年の傍に寄り、携帯を覗き込む
「で、どれだ? こっから見ればいいのか?」
「かぁクン、これだよ、これ。そのままタップして」
「おうおう、なーる。あ、待て。よし、――ああ、お母さん、うん、わたし!
今から帰るね、うん。今日の晩御飯なぁに? あっ、そうなんだ
うん、わかった。早く帰るね。うん。えへへ、お母さん、いつもありがとね!」
携帯に向かって話す少年の声は、普段の彼女のそれだ
漸く状況が飲み込めた女子生徒の眼が恐怖で見開いた
今、女子に化けた少年は、何処へ電話を掛けているというのだ
「お前のカゾク、マジでちょろいなあ、ゲロ女。もう攻略完了でつまんねーわ、マジちょろ」
女子の声で少年はそう言い捨てると、出し抜けに服を脱ぎ始めた
まるで最初からそうする積りだったかの動作で
先程引き剥がされた彼女の制服を拾い上げると、そのまま着替え出した
「うは、メス臭え服だな。これで俺はもうお前なんだわ
誰が見ても完璧な。だろ、マヒル?」
「うん、凄く似合ってるよ」
「そらそーよ、制服は元々このゲロ女のだしなあ!」
二人の声が、状況を理解した女子の耳に突き刺さる
「じゃあ、俺たちはお前ん家で 夕メシ 食って くっから
気が向いたら、 お袋の味 って奴を教えに来てやるよ」
それだけ告げて、少年と少女はビルの屋上から飛び降りて行った
二人は行ってしまった
取り残された女子生徒は、震えていた
あれは幻覚だったのか? あの少年の顔は自分の顔になった
自分の声に成り代わって、自分の制服を着て、行ってしまった
魔法か何かなのか? それとも全部、悪い夢なのか?
混乱する頭の中で、しかし、女子生徒の中で恐怖が膨れ上がる
自分と友人を襲撃したあの二人は、自分の姿を奪って行ってしまった
あの男は、私の家族を[ピーーー]と言った。それははっきりしている
このままでは、家族があの化け物に[ピーーー]されてしまう
「あ、あ゙あ゙……」
恐怖が、急速に膨れ上がっていく
不意に、先程、あの男に足を掴まれて
ゆっくりとふくらはぎを食い千切られる感触が蘇ってきた
ああやって、私の家族を食い[ピーーー]積りなんだ
「いや゙だ……! だれ゙が……、だれ゙が、ぅお゙っ、だっ、だずげでぐだざい゙……!」
頭の中が、ぐちゃぐちゃになる
もう、息が吸えない、苦しい
□■□
[ ]
①一部の「ピエロ」達は学校町内の小中高に通う児童生徒の襲撃を企図
②現在、「ピエロ」関係者で学校町で何らかの行動を取っている、もしくは何らかの影響を与えているのは以下の人員
・呪術「アブラカダブラ」の契約者
……事象改竄系能力
本人の設定した通りに世界を改変する
★「死毒」から離脱し、現在ひかりちゃんを追跡中
・怪異「海からやってくるモノ」の契約者
……察知系能力へのカウンター能力者
察知系能力者を狂死させる能力を有する
★「死毒」から離脱し、現在ひかりちゃんを追跡中
・伝説「サルガッソー」の契約者
……不可視の海「サルガッソー」を発現
圏内の対象を粘度の高い海水で封[ピーーー]る
不可視の藻類を制御することで対象の扼殺も可能
彼らの当初の計画では上記「やってくるモノ」の契約者との連携で学校町の住人を鏖[ピーーー]る予定だった
※現在、まだ学校町へ到達していない
・神格「イナンナ」の契約者(?)
……性愛の神としての側面、強度の精神干渉“魅了”能力と
軍神としての側面、多数の武器生成と身体強化能力を有する
また彼女の同僚から借りたという、「カーマの弓矢」を装備している
今回の計画では前線に出る戦闘要員では無いし、本人もその気は無い
※現在、「ピエロ」と共に所在不明
・伝説「███████████」の契約者
……下衆
何らかの変身能力を有する
「七尾」出身者で「早渡脩寿」を探している
※現在、所在不明
・都市伝説「ゴキブリを食べて死んだ男」他の契約者
……口内から大量のハエの幼虫・ゴキブリの幼虫を生成する
上記「███████████」の契約者とバディを組んで行動中
※現在、所在不明
全方位に土下座 orz
特に花子さんとかの人に土下座 orz
前スレ最後の方で話していた嬉しくない方のR-18Gです
恐らく次回辺りでRナンバーの乱野憐子が登場します
あと今だから言いますが
当初のあらすじでは後半登場の二人組に立ち向かうのは
いよっち先輩の予定でした
皆様乙でーす
ここんとここっち全然顔出せて無くてごめんよぉおおおまともに続きも読めてねぇ0(:3 )~( ﹃゚。)
もそもそと続きのようなもん書いてたりはするんで今度こそ近日中に……投下……したい……
気持ち浮き沈みの沈みの最中もあって遅くなったら本当すまぬ
ピエロ誘惑していかなきゃ…
馬鹿なので夏風邪でひっくり返っている鳥居の人参上!
ようやっとポカリの味がわかるようになってきた…
週末は塩バターラーメン食べる予定だったのに、固形物が喉を通らない
次世代ーズの人乙でーす!
キャラ再現完璧っす!ありがとう!
是非続き書かせていただきたいけど、少々お時間いただきたい。
桐生院兄妹の父、蘇芳と「カダブラ」は面識ありという感じですか?
シャドーメンの人もお久しぶり&乙でーす!
カードゲーム詳しくないけど、熱く戦っていることはわかるぜ!
花子さんとかの人もお久しぶりです!まったり行きましょう!
皆さまお疲れ様です
>>103
無理は禁物ですぞ
特にこの梅雨から夏に掛けての時期はやばい
>>104
ありがとうございます!
お時間、了解です! ですがご自愛ください!
自分もその昔、丁度この時期にぶっ倒れたことがあり
その時にポカリはちょい濃度高めに作ると良い感じということを学びました
(効き目には個人差があるのでご注意)
>桐生院兄妹の父、蘇芳と「カダブラ」は面識ありという感じですか?
蘇芳さんが彼ら暗殺者を知っているかは……分かりませんが
少なくとも「海からの」も「カダブラ」も蘇芳さんのこともるりさんのことも知っています
基本、「ピエロ」サイドに登場するピエロじゃない人物たちは裏世界の住人なので
「組織」の構成員や鬼灯さんといった方々についても知っている、という感じですね
これからもっと色んな生き物が登場します
そして何か書く度に土下座(特に花子さんとかの人とシャドーマンの人へ土下座)することになりそうです
>>108
もっと魅了掛けるんですか!?(いけない)
天地さんのストレスが心配だ
ん?
サキュバスが「ピエロ」魅了→「ピエロ」の魅了を女神が上書き→「ピエロ」は学生を集中的に襲撃か
→サキュバスの魅了激化→「ピエロ」の妊活が加速→天地さんキレる(?)→遂にモンスの天使が解き放たれる
→天使と淫魔が町中に→(見た目が)アルマゲドン勃発
……大丈夫かしら(すっとぼけ)
>>107
一番俺が大丈夫じゃないです(被害出過ぎると収集つけられなくなって今後のこととかうにゃーうにゃーして爆発四散する)
あ、あー……
少なくとも「ピエロ」の学校襲撃は
そもそも「ピエロ」が襲撃を実行できるのか、って問題があり
都市伝説「ピエロの誘拐団」からの推測で「子供を狙いそう」って所は見当がつくと思うので
当然「組織」も潜伏で学校近辺の警戒に当たる、っていう風に考えています
問題はその後の方ですが
騒動翌日のニュースで「芽香(?)市内でピエロの仮装集団が出現し暴動が発生、市内は一時騒然」
という感じの記事が地方紙の片隅に載りそう(「組織」が情報操作済み)、という程度で想定しています
今、「夢の国」の時の話を振り返ってるんですが
夢の国勢力が暴れ回ってた時、一般人はそれに気づいてたのか、とか
表向きはどういう風に捉えられてたのか、とか、「組織」がどういう風に情報操作したのか、とか
(たしかあの時も結構収拾がやばそうなことが立て続けに起こってた覚えが)
そういう部分を主に見返して参考にしてます
>>8
亀レスにもほどがあるけど答えますよー
1 七つの大罪って何者ですか?
幼馴染の仲良しグループだったと思います
目的とか経緯とかはそのうち考えようかと……ちょっとデータ消えちゃって色々設定忘れて……
2 堂寺と疾風の履いてる下着を教えてください
そんなん設定してな……たぶんボクサー型とかだと思います
疾風は変装次第で下着も変えたり変えなかったりするよ(見える可能性があると下着も変装するよ)
3 堂寺と疾風はどういう関係ですか?お互い好きですか?
普通に友達です
堂寺「好きってどういう……? そりゃあ友達としては好ましいと思ってるけど。
恋愛的な意味ならないよ。高校生の男子とか守備範囲外だよ~せめて中1までだよね! 小学生のほうがもちろんいいけれど」
疾風「友達で同じ部活のメンバーだよ。堂寺君は物覚えがよくて神経衰弱とか無敵なんだよね……妬ましい。
え? 好きかって? なんで僕と堂寺君に……? もちろん嫌いじゃないよ。それにしても堂寺君の『ゲーム脳』って割とチート能力過ぎない? 妬ましい……」
なんてこった……
もう夏が終わってしまった……
夏が終わったということは一年ももう終わるということだ……
なんてことだ……
「あのう、すいません」
逢魔ヶ刻を迎えた通学路
制服姿の少女が、先を行く制服姿の少年に声を掛けた
少年はおもむろに振り返る
「あの、ちょっといいですか?」
そう声を掛ける少女の口は異常な程大きなマスクに覆われている
どこの制服かは知らないが、たぶん、いや絶対市内の高校に違いない
少年の目が彼女の顔から胸元へと滑った
うむ、大きい
「あのう、私って、キレイですか?」
「あっはい最高だと思うッス!!」
「えっ、あっ、最高、ですか? ……じゃあ、これでも……」
「あっ、待って!! ストップストップ!!」
彼女がマスクに手を掛けようとした所を、少年は慌てたように制止した
彼はとっさに首から提げられたカメラを構える
それは最早武器ではないかと思わせる程のごつい代物だ
確実に諭吉君が50枚以上吹っ飛びそうな、そんなやばそうなカメラである
「ふひっ、やっぱファインダー越しが断然いいっッスねー!! 最高ッス!!」
「え、あ、あの……」
「マスク外したらもっと最高だと思うッス!! 良かったら外してもらってもいいッスか!?」
「あ……あの、じゃあ……こ、これでもキレイかーっっ!!!」
少年の言葉に、彼女はマスクを外しながら叫んだ
なんと彼女の口は耳元まで大きく裂けているではないか
そう、彼女の正体は世に噂される都市伝説、「口裂け女」だ
しかし少年に動ずる様子はない
彼女がマスクを外し、裂けた口を曝け出した直後
カメラから鋭いシャッター音が響いた
「ふっ、決まったッス……!!」
少年の決め台詞とほぼ同時に、マスクを外した少女は後方へと倒れてしまった
彼は一仕事終えたといった表情で少女を見下ろす
問題ない、彼女は気を失っているようだ
「ふ……、ふふふっ、ぃいやっピぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃイイイイイイイイイッッ!!!!」
通学路に歓喜の絶叫がこだまする
少年はガッツポーズで小躍りを始めていた
「噂には聞いてたンスよお!! 『最近、制服型の「口裂け女」が徘徊してる』ってなあ!!
放課後こうして張り込んでた甲斐があったってモンッスよおッ!! まじでっ!!!」
少年は鼻息も荒く、仰向けに失神している少女に近づいていく
勿論、その間に彼女にカメラを向けて何度もシャッターが切られた
「はあ……、マジかわいいッス……。ああ、いい……。もう最っ高ッス……!!」
少年の名は難波津軍次
実在化した「口裂け女」を瞬時に無力化した彼もまた只者ではない
まあお察しの通り、彼は「写真を撮影されると魂を抜かれる」の契約者であり
ついでに言うと「組織」所属であった
更に言うと思春期であるが故のスケベである
彼はまず、少女の肢体を、特に顔と胸元を嘗め回すように撮影していた
やがて気が済んだのか、彼は数歩ほど下がると、唐突に地面にうつ伏せになった
まるで匍匐前進でもするような姿勢だ
丁度、倒れた少女のスカートを覗き込むような格好である
「ふっふっふ、あとは『組織』に引き渡すだけなンスけど、俺はそんな素直じゃないッスからね
万が一『黒服』が到着するにしてもまだまだ時間に余裕はあるし、こっからがお楽しみだぜぇ……!!」
下衆な声色で何やらいやらしいことを口にしつつ
彼のレンズは無慈悲にも少女のスカートの中へ向けられた
「ひひひっ!! さ~あ御開帳の時間ッスよぉぉ~!! 『口裂け女』ちゃんはどんなの履痛でぇぇぇっ!!??」
「はーいストップそこまで」
少年が乙女のスカートを暴こうとフラッシュを焚こうとする直前
彼の頭頂部に物凄い勢いでヒールがめり込んだ
「痛でぇぇぇぇぇぇぇっっ!!??!!??」
「ったく、駆け付けたら案の定じゃないのよ……」
彼は痛みを堪えながら、自分の頭をおもっきし踏み潰した元凶を睨んだ
すぐ傍に立って少年に軽蔑の視線を送っているのはパンツスーツ姿の若い女性だ
少年より少々年上のお姉さんのようにも見えるが、その正体は説明する間でもなく「組織」の「黒服」である
つまり、実年齢は不明なのだ
「アンタ、そろそろ本当に担当のメガネに言いつけるわよ?」
「くっ! それで俺の弱みを握ったつもりッスかあ!? 暴力には屈しないッスよ!!」
「確か、『無力化後の必要以上の対象撮影は厳禁』、だっけ?
カメラは没収、データは処理してナンバー経由で返却するから、覚悟してよね」
「なっ!? あっ俺のカメラがな、無いッ!?!?」
少年が持っていた筈のカメラは、いつの間にか黒服の首に提げられている
「まったく……いくら相手が都市伝説とはいえ、何やっても許されるとは思わないことね」
「まだ何もしてねえッスよ!!! これからってときに邪魔が入っ、あっ、と、兎に角、まだ何もやってねえッスよ!!!」
「言い訳の上に、邪魔が入らなければそのままセクハラしてたってこと? 最っ低ね」
「ち、違っ!! だ、だって仕方ねえじゃねえッスかあ!!
そりゃ性欲は自分で処理できるッスけどお!! 俺はファインダー越しじゃねえと興奮できねえンだぁぁぁぁっっっ!!!!」
少年の言い訳がましい釈明に、黒服は冷ややかな眼差しで答えつつ
手早い挙動で失神した「口裂け女」をお姫様だっこした
「精々きっついお仕置きでもされて反省しなさい。……じゃあね」
最後の挨拶が非常に刺々しい
黒服は「口裂け女」の少女を抱いて足早にその場を立ち去った
「ちっきしょぉぉ……、来んの速過ぎだろぉぉ、『組織』ィィ……」
少年の口からは恨みがましい声が漏れ出るが
実はこのとき、少年は隠し持っていたコンデジを取り出し
密かにピントを合わせ、現場から立ち去る黒服の尻を、主に尻を執拗に撮影していたのだ
実に、ものの数秒の犯行であった
「くっ、逆光でなければPラインまで撮影できたが……、いやこれはこれで良し!!」
黒服が完全に視界から消えたのを見届けた後
少年はコンデジの画面を覗き込んで撮影の出来を確認する
そして少年は黒服が消えて行った先を物凄い形相で睨み付けた
「俺は絶対に諦めねえッス……!! 超自我の声(※性欲のこと)に従って撮影道を究めるまでなあっ……!!」
<終>
続きをアレすると言ってもう1ヵ月が経過しようとしている
今まで自分は何をしていたんだ
セルフツッコミせずにはいられない……
今夜は【9月】行きます
○前回の話
>>61-65 次世代ーズ
※この話は作中時間軸で【9月】の出来事です
※この話は特に>>65の後の出来事となります
○時系列
●九月
・早渡、「組織」所属契約者と戦闘
・「怪奇同盟」に挨拶へ
・早渡、東中で東一葉と出会う
花房直斗、角田慶次、栗井戸星夜から
三年前の事件について知る
・金曜日、早渡は「ラルム」へ ☜ 今回はこの後の話です
・東一葉、自分を取り戻す
その夜の内に居候先を確保
・∂ナンバー、「肉屋」の侵入を予知
・「肉屋」戦
●十月
・「ピエロ」、学校町へ侵入
●十一月
・戦技披露会開催
・診療所で「人狼」イベント
「人狼」終了後、東と早渡が遊びに来る
・バビロンの大淫婦、死亡
・角田ら、「狐」勢力と交戦
赤鐘愛百合、アダム・ホワイト死亡、角田は重傷を負う
・新宮ひかり、角田らと「狐」の刺客に介入
・「ピエロ」側の暗殺者二名、ひかりらを牽制
・「ピエロ」、東区にて放火活動を開始するも妨害を受ける
・暗殺者二名、ひかり及び桐生院兄弟と交戦 ☜ >>82-86がここ
・上記と同時刻、早渡はモスマンにより重傷を負う
・同じ時間帯、イナンナによる「ピエロ」洗脳(魅了) ☜ >>92-100がここ
・「狐」本戦?
「へえ、キミは春先に引っ越して来たばかりなんだ」
「はいまあ、でも直ぐ慣れるもんすよ。住めば都って言いますし」
日没後、まだ夜の闇が完全には訪れていない頃
商業高校の制服を着た男子が大きなトランクを持って
コート姿の女性の後に従うように南区の歩道を進んでいた
「本当に親切で助かる。久し振りの学校町でちょっと戸惑っちゃって」
「いやぁまあ困ったときはお互い様っす」
「でもいいの? 人探してるんでしょう? 着いたらお姉さんも手伝おうかな?」
「そんな、気にしなくて大丈夫ですよ! 行き先も一緒ですし!」
女性に先導され、商社ビル同士の隙間を進んでいく
そこは表とは異なり一気に照明の届かなくなる影の世界だ
「ヤマダ君って学校でモテるでしょ? 優しいし気が利くし」
「無いっす! マジ無いっすよそれは! モテるだなんて可能性のカケラも無いっす!」
「そうなの? でも絶対モテるよ、ヤマダ君。意外と女の子たちに目を付けられてるかもよ?」
「えー、ど……どうっすかねー……」
男子の方は控えめに見ても女性に対してデレデレの様子だ
無理もない、コート着用のためはっきりと分かるわけでは無いが
女性の容姿は思春期の男子にとって中々刺激的なスタイルのようだ
「重いトランクも運んで貰ってる訳だし、お姉さんにヤマダ君の人探し手伝わせてね」
「そんな! 悪いですって!」
「いいのいいの、お姉さんの知り合いに人探しのプロがいるから」
「プロ、ですか。探偵みたいな感じっすかね?」
「んーまあそんなとこかな」
女性と男子は路地裏を縫うように進んでいく
もう、そこは人気の全く無い一角だ
繁華街の喧騒が何処か遠くに聞こえる
「ちなみに探してるのってどんな子なの?」
「幼稚園生くらいの男の子っすよ、知り合いの子なんですけど」
「へー、南区で迷子になっちゃったのかな?」
「ええ、もう居なくなって大分経つらしいんで自分のとこにも探してくれって連絡が」
「へー」
ようやく女性はビルの前で立ち止まった
陽も落ちており、灯りは遠くからの便り無い光のみだ
その為おぼろげにしか分からないが兎に角古いビルのようだ
古いビルの裏口に来ているらしい
二人は今、やや錆び付いた金属製のドアの前に立っていた
「じゃあ、お姉さんは知り合いに連絡してみるから
ヤマダ君、悪いけど最期の一仕事お願いできる?」
「任せてください!」
「そのドア開けたら階段があるから、地下のバーまでトランクを運んで欲しいの」
「了解っす!」
女性の言葉に従い、男子はドアノブに手を掛ける
意外と抵抗の強いドアは、金属の軋む音と共に押し開けられた
内部から一気に生温かく、埃臭い空気が男子に向かって押し寄せてきた
中に照明は無く、闇一色だった
よし、一仕事だ
地下へ続く階段へと運び込もうとしたトランクを、男子は横合いへと投げ捨て
後方より振るい下ろされた警棒を、生成した“黒棒”で振り返ることなく受け止めた
●
「生成が甘いぜお姉さん。それとも“お巡りさん”と呼んだ方がいいか?」
「……っっ!?」
「ラルム」に行ったものの千十ちゃんとコトリーちゃんには会えず
おまけにバイトのお姉さんには絡まれるし、東高校の女子には睨まれるしで
早々に退いた帰りに、「人面犬」の半井のおっさんから連絡があった
聞けば「知り合いの『コロポックル』のガキンチョが一匹迷子になった」らしい
で、即答で迷子捜しの手伝いに加わることになったが、早速都市伝説と遭遇だ
はっきり言えば切っ掛けは偶然だ
繁華街の手前で堂々と俺に声を掛けてくる都市伝説に会った
普段なら適当に言い訳してナチュラルにその場を早急に立ち去るんだが
このお姉さんから問題の『コロポックル』の子の“波”を微かに感知したとなれば話は別だ
(お前は犬かよ)
半井のおっさんにはイヤミ言われたが、まあなんだ
事前に『コロポックル』の子の服から“波”を嗅いどいて正解だったな、うん
「まさか……っ、契約者だったなんて……!?」
「俺をこんな所まで誘い込んでどうする積りだったんだ、『偽警官』さん」
「くッ……!!」
動揺を振り切るようにお姉さん、「偽警官」はコートを脱ぎ捨てた
コートの下は警官の制服だったようだ
「偽警官」の手が腰へと動いた、だが、その動きは予想出来てる
“黒棒”の形成を崩し鞭のようにしならせる
彼女の手を打ち据えると同時に得物を奪い取った
旧式の回転式拳銃だ
「ぐぅ……っ!」
「 跪け 」
「うっ、ああっ!?」
一気に畳み掛ける
「偽警官」は膝から崩れ落ちた
「ちょっ、調子に乗るなよぉぉっ、ヤマダぁぁっ!!」
「 這い蹲れ 」
「ぐっ、んんッ♥ うっ、あ゙っ♥」
一応断っておくが俺の名前は山田では無く早渡だ
山田ってのは「偽警官」に会ったとき咄嗟に名乗った偽名だ
彼女は完全にうつ伏せ状態になっていた
時折痙攣したように身を震わせるが、もう立ち上がることは出来ないだろう
「こっ、……こんな、餓、鬼にぃぃっっ……っ♥♥」
何処となくエロっぽい声を上げてるのは気の所為ですかね?
まあいい、倒れた「偽警官」を見下ろし
そのとき初めて彼女の傍らに注射器が落ちているのに気づいた
彼女の右手の直ぐ傍だ、直前まで隠し持っていたものか
周囲の気配に警戒しながら、それを拾い上げ、遠くの灯りを元に確認してみる
赤い薬剤が詰まった注射器だった
「偽警官」のトランクに入っていたのは謎の白い粉の詰まった無数の袋
色々疑惑と想像が働くものの、今俺が探しているのは「コロポックル」の少年だ
廃ビルの中に踏み入り、階下へと進んでいく
当然ながら灯りは無い、そして当然ながらその先に何らかの気配を感じる
間違いなく都市伝説がいる、こちらを待ち構えているようだ
だがそれだけじゃない、先程よりも件の「コロポックル」の子の“波”が強くなってる気がする
恐らくここだ、ここにいる
階段を下り切った直ぐ横にあったのは木製のドアだ
蹴破るように中へ押し入る
空間を無数の殺気が奔った
だがあまりにも直線的、おまけに殺気の元は全てある一点だ
手に持った“黒棒”を振るい、鞭のようにしならせる
警戒しろ、油断するな、罠かもしれない
“波の先触れ”に警戒しながら
殺気の源へと“黒棒”の先端をやたらめったらにぶち込んでいく
手応えは、あった
「げほっ、ンがっ、あ゙っ、ごっ!!」
暗闇の向こうから押し殺した呻き声が断続的に響いた
何というか、軽い、軽過ぎる
気配と呻きの響き方からして相手は床に倒れているようだ
少なくとも直前までの殺気は完全に消え失せていた
ポケットをまさぐり携帯を引っ張り出す
相手をボコボコに叩き伏せたとはいえ、こうも暗いと流石にやり辛い
ライトを点けようと携帯を弄って、で、どれだ? あ、これか
一瞬の眩しさの後に映ったのは真っ黒の塊が床に蹲っている光景だった
いや、真っ黒の塊というより真っ黒に汚れた男がそこに居た
よく確認すれば、何というか普通に居そうな髭面のおっさんだった
「ぐはっ、ごほっ、くっ、まさか、こんな、餓鬼に」
「上でも聞いたぜ、おんなじセリフ」
“黒棒”を解き、鞭の形状にすると天井へと振り上げた
先端が天井を突き破り、裏に這わされていた配線を掴んだ
これを使おう、再び天井を突き破り一直線におっさんへ突き刺すと
配線コードを利用する形でおっさんの体をがんじがらめにした
そのまま一気に引っ張り上げる
「ぐおおおおっ、貴様ぁっ!?」
丁度問題のおっさんは今、天井から吊り下げられるように縛り上げられていた
見たか、これが修行の成果だ
「あんた、『臓器泥棒』だろ? 何だよ『漁って』たのか?」
「……ほう、餓鬼の分際で、ぐっ、俺のことを、ごほっ、知ってるような、口振りだな」
「臭いで分かんだよ、あんたにこびり付いた血の臭いがな」
おっさん、正しくは「臓器泥棒」は闇の中で嗤っていた
口から垂れ出た血反吐が荒い息で噴き飛ばされていた
「く、ごふっ……、これでは、どっちが化け物か、はぁ、分からんな」
「うるせえ俺は人間だ」
「臓器泥棒」のぼやきに殆ど無意識で返していた
ライトに照らされた「臓器泥棒」の目が敵意と憎悪で揺れている
「どこの手のモンだ、『組織』か、『首塚』か?」
「犯罪者に話す情報は無い」
「臓器泥棒」が僅かに身動ぎしたが大きな呻きが漏れただけだった
関節と骨を縫い付けるようにして配線コードを貫通させたので
頑丈な都市伝説とはいえ、動くのは容易じゃないだろう
ましてや天井から吊り下げられてるんじゃ尚更だ
「おっさん、あんた『コロポックル』の子供を誘拐したろ」
「さあ、知らんな」
「とぼけんなよ、市場で売り飛ばせば高い額になるからな。その子をどこへやった?」
「横からくすねに来たのか、糞餓鬼が。話すことは何も無い、何もな」
「臓器泥棒」は無理矢理口角を吊り上げるようにして嗤っている
汚い笑顔を俺に見せ付けるかのようにだ
息を吐いた
一応周囲の“波”に警戒してみせたが
目の前の「臓器泥棒」以外に伏兵の気配は無さそうだ
いや、部屋の隅の方が微妙に怪しい
ライトを「臓器泥棒」の顔面に当てたまま、おもむろに周囲を見回す
此処は長らく使われていないバーのようだった
テーブルと椅子が床に転がっており大分埃が堆積していたらしい
突如携帯が震える、「人面犬」の半井さんからだ
即座に着信に応答する
『どうだ早渡! 見つかったか?』
「おっさん、ビンゴだ! 入ってきてくれ!」
『今行く!!』
通話が切れた直後、階上からバタバタと大きな物音が響いた
階段を何かが転がり込むように音がこちらへ近づいてきた
「早渡、どうだ!?」「れおん見つかったか兄ちゃん!?」
異なる声が二つ、一つは北海道犬な「人面犬」の半井のおっさん
もう一つはホワイトシェパードな「人面犬」の新谷さんだ
「なっ、何だよコイツは!? 誰なの!?」
「人身売買やってる犯罪者だよ。新谷さん悪い、こいつ見張っててくれ」
「ええ!? 見張る!?」
「大丈夫、近接タイプみたいだ。直接触れなきゃ問題は無いよ」
殺した声で新谷さんにそう伝え、「臓器泥棒」の監視を任せた
「なあ早渡、上で転がってた姉ちゃんをやったのはお前か? 容赦ねえな」
「言っとくけどあの婦警さん俺を後ろからブン殴ろうとしたからね? [ピーーー]積りで来てたからね?」
「うへ、おっかねえ」
先程気になった部屋の隅は、丁度バーのカウンター裏の部分だった
半井さんと一緒に回り込むと、床に大きなバッグが放置されていた
まるで子供が一人だけ入れそうなサイズのバッグだ
「ビンゴだ早渡」
「無事だよな?」
ファスナーのには簡易的な気配殺しの結界が取り付けてあった
誘拐屋が商品を隠すために使う初歩的な手だ
むしり取るようにして引き千切った
無事で居てくれよ
ファスナーを一気に開き、ライトを照らす
口をガムテープで塞がれた子供が居た
顔面は涙と鼻水で汚れているが怪我は無さそうだ
手を差し入れてそいつを抱き上げた
もう用は済んだ、これ以上此処に留まる必要は無い
階段を駆け上がって外へ出たとき、辺りは完全に夜の闇に染まっていた
「偽警官」はまだ地面に倒れたままだった
様子を見るにあのまま意識が落ちたらしい
「ったく、メソメソすんじゃねえ!」
背後から半井のおっさんの押し殺した怒号が飛んだ
顔だけ後ろへ向けると「コロポックル」の少年、れおんが何度も目を擦っている
「っとーにテメーってやつはよ、勝手に飛び出しやがって」
「まあいいじゃん、おっさん。無事で済んだんだしさ」
「駄目だ早渡、こういうときに甘やかすとつけあがんだよ!」
口を塞いだガムテープと手足の拘束は既に解いてある
一応“波”も確かめたがあの連中に何かされた形跡は無いようだった
この子は自分で立てると言ったんだからそれだけで立派なもんだと思うがな
俺がこれくらいの子供のときに同じことされたら間違いなく漏らしてる自信がある
「おい小僧、こいつにお礼言ったか!?」
「ごめんな、兄ちゃん、迷惑、かけて、ごめんな」
まあ現に泣いてるんだから怖いもんは怖かったんだろう
めっちゃ目玉をうるうるさせて謝られた
「気にすんなって、こういう日もあるさ」
「うん、ありがとな」
それだけ言うとれおんはまた両目を激しく擦り出した
これを可愛いと言ったら、まあ不謹慎だな、不謹慎だろうか
「で、どうする早渡。こいつらはほっとくか」
「後のことは『組織』に任せよう。もう捕捉されてるかもしれない。俺たちも此処に居ちゃまずい」
「よし、とっととずらかるか」
新谷さんはれおんを慰めようとしてんのか、彼の手をしきりに舐め回している
それを見て己のきゅんきゅんゲージの高まりを感じながら、半井のおっさんに生返事した
「じゃ、おっさん、念のため先行して様子を――」
「駄目だ! もう来てる!! 『組織』だ!!」
「ッッ!?」
完全に不意を突かれた
おっさんが睨んでる方向に視線をくれると、ビルの谷間から二名がこちらに向かっていた
一人は女子だ、東区中学の制服を着ている
もう一人は男子――なんてことだ!? 先日やり合った刀使いじゃねえか!?
やべーぞ速く逃げないと!!
「新谷さんとおっさんはれおん連れて先に行け! 俺は、あれだ、何とかする!」
「よっしゃ、新谷! れおん乗せて走れ! 急げ!!」
「あっ、こらっ、待ちなさい!!」
俺たちのやり取りが聞こえたのか聞こえなかったのか知らないが
その場を走り去ろうとしたおっさんズを見てか、女子の方がこっちへ走り出した
大丈夫だ、新谷さんと半井のおっさんは逃げ足が速い。問題ない
するとヤバいのは俺か、俺だな
「そこから動かないで!!」
女子の声が迫って来た
咄嗟に“黒棒”、では無く、“黒棒”を一気に潰した布状の帯をがむしゃらに顔面に巻き付けた
一応即席の覆面だ、大丈夫、まだ顔をはっきり見られた訳じゃない、無問題だ!
女子の後方、刀使い男子の方を睨んだ
奴もこっちを見ていた、完全に視線がかち合った
あちらも俺が誰なのかに気付いている
確実に
大地を蹴る
俺はビルの壁を走るように、上方へと駆け出した
目指すは屋上だ、上に逃げてその後のことはそれから考える!
「あっ、待てっっ!!!」
女子の可愛いらしい声を下方に聞きながら
俺は滅茶苦茶に脚を動かした
□□■
前から登場している人物
・早渡脩寿
学校町の商業高校一年
契約者で、学校町の都市伝説勢力には所属してない
以前からの悩みは「不良と勘違いされること、特に妙なのに絡まれること」
・半井
人面犬
自称北海道犬の血を引くクールガイ
直接の登場は次世代ーズ第1話振りになる
新しく登場する人物
・新谷
人面犬、の筈だが口吻があり眉毛がある程度なので
ほぼ犬にしか見えない。ホワイトシェパード
半井のおっちゃんを慕っている
近畿地方出身らしい
・れおん
コロポックルの少年
外見だけでなく本当に少年だそうだ
新谷さんの背中に乗れる程にちんまい
本当の名前は別にあるらしいが、本人曰く「れおんが本当の名前」
コロポックルは闇市場で「珍しいため高く売れる」らしく、業者に狙われやすいという
今回はここまで
今週中にまた頑張りたい
なお……>>123-125にかけてタイトルにミスがあり
トリップが狂ってますが完全にこちらの不手際です……
○前回の話
>>123-128 次世代ーズ
※この話は作中時間軸で【9月】の出来事です
この部屋は照明があるとはいえ、暗い
「組織」所属の契約者、サスガは椅子に座ったまま思案していた
数時間前の件は先にメールで報告を済ませてある
あとは担当の黒服に直接口頭で引き継ぎを行うだけだ
「フリーの契約者なのかなあの人達、『首塚』って雰囲気でも無かったし」
サスガからやや距離を置いて佇んでいるのが
先刻行動を共にした“モヒート”こと見辺 加賀実(みべ かがみ)だ
彼女はサスガと異なる中学に通学する一年生で「コークロア」の契約者だ
サスガの二つ下の後輩に当たり、「組織」の仕事では組まされることが多い
数時間前、彼らは南区の繁華街を巡回していた
その際に裏路地から都市伝説の気配を複数察知し
追跡したところ、現場から逃走する契約者と都市伝説を発見した
所謂“野良”の契約者による襲撃かと現場に駆け付けたところ、「偽警官」が倒れていた
更に気配を感じ、付近の廃ビルを確認して地下のバー跡から
天井より吊り下げられるように拘束されている「臓器泥棒」を発見
この都市伝説二名の身元が近年発生していた人身売買事件の有力容疑者として
「組織」のデータベースに登録されていたため、「臓器泥棒」と「偽警官」の捕獲を優先したのである
この他、「偽警官」が所持していたと思しきトランクからは大量の白い粉末が
バー跡からは複数の監禁用具が発見されており、二名の身柄と共に「組織」付の黒服へ引き渡してある
詳細はこれより調査が進むだろうが
この二名は恐らく「赤マント」や「狐」関連事件の裏で密かに活動していた人身売買の犯罪者だろう
「自警団のつもりか知らないけど、危ないからほんと止めて欲しいわ。まったく」
“モヒート”は苛立ったようにそう独り言ちる
やや置いて、彼女はちらとサスガを盗み見たが
サスガは彼女の様子など意に介さず黙考を続けていた
現場から逃走した契約者と都市伝説
契約者には見覚えがあった、忘れもしない
あれは以前、夜の東区中学で遭遇した契約者だった
逃走の際に「人面犬」が一緒のようだったが、あれは契約者の仲間だろうか
あれは何故あの場に居たのか
あれは一体あの場で何をしていたのか
都市伝説犯罪者との小競り合いだったのか、それとも
あるいは仲間割れという線も否定できなくはない
しかしサスガの直感がそれを否定していた
ならば
今回は容疑者の捕獲を優先し、現場から逃走した者の追跡は行わなかった
一応メールでの報告には逃走者の存在を記載しているし口頭でも報告を行うつもりだ
しかし
「先輩、ねえ。ねえったら。……“オサスナ”」
“モヒート”の声に現実へ引き戻される
僅かに首を捻り彼女の方を見やれば、半眼でこちらを睨んでいた
「先輩、まただんまり?」
「じき担当が到着する時分だ、報告を終え次第本日は解散する」
相変わらず彼女はじっとりサスガを睨んだままだ
「報告は俺がやる。お前は先に帰っても良い」
「そうじゃなくて」
続きを口にしかけ、不意に“モヒート”は黙った
代わりに部屋の入口へと視線を注いでいる
視線の先を追うと、ドアの間から少女がこちらを覗いていた
サスガと目が合ったのか、少女は小さな悲鳴を上げて引っ込んでしまった
「もう、いつから居たの」
ドア越しの少女に声を掛ける“モヒート”の声は
直前のサスガに向けた言葉と違って幾分か柔らかい
「来てたんなら挨拶してくれたっていいでしょ?」
「だって、真面目なお話、してたみたいだったし……」
「他の黒服さんに見つかったら怒られちゃうよ? 入って入って」
もじもじしながら入って来たのは割烹着姿の少女だ
外見は小学生中学年ほどだが実態は「組織」所属の都市伝説
独り身の老人が入浴中に死亡し、追い炊きされ続けて死体が煮崩れを起こしたという怪談
世に言う「人肉シチュー」が顕在化した存在である
彼女は割烹着の裾をいじいじしながら頻繁にサスガの方をちらちら見ているようだ
「こんな所に来たら大変だから、ね?」
「ううー、でもー」
「“穏健派”所属が此処に居たら面倒だ。“モヒート”、送れ」
突如サスガが口を開いたためか
割烹着の少女はうぴゃいと謎の小さな叫びを上げて硬直してしまった
言われた“モヒート”は半眼で冷たい一瞥をサスガに投げる
フンと鼻を鳴らし割烹着の少女を連れ足早に部屋を出た
「普通女子に向かってあんな口の利き方ってあり得ないわ、ほんと」
「仕方ないよ、お兄ちゃんもお姉ちゃんもお仕事終わったばかりなんだよね」
「アイツってば、いつもあんな感じだし。あれは絶対女子にモテないわね。うん絶対」
暗い廊下を割烹着の少女が“モヒート”に連れられて行く
目指すは少女が所属する穏健派のオフィスだ
“モヒート”は実質サスガに帰れと言われたのを口実にもう帰るつもりだ
折角待ってやってたのが馬鹿みたいだったと彼女は若干キレていた
「今日はどうしたの? 私たちに会いたくなっちゃった?」
「うん、あのね。黒服さんがいっぱいドーナツ買って来てて
いっぱいあるから、お姉ちゃん達もおなか空いてないかなって」
「ああんもう、優しいなあ!」
歩きながら“モヒート”は割烹着の少女を抱き締める
もふもふされながら少女は先程よりボリュームを落とした声でもじもじし始めた
「えっと、それでね、お兄ちゃんの分も、持って行った方がいいかなー、って……」
「え、アイツ? 先輩のこと?」
「うん……」
うーん
少女の優しさに“モヒート”は苦笑を浮かべる
“モヒート”は知っていた
“オサスナ”ことサスガ先輩は甘いものが苦手であることを
□□■
前から登場していたの
サスガ
フルネームは流石 丈(さすが たけし)、コードネームは“オサスナ”
「組織」強硬派所属の中学三年生男子
契約した都市伝説は「校庭に現れる落ち武者の霊」
甘いものが苦手で、食は淡泊
過去に早渡と交戦済み
彼の活躍は以下を参照されたい
早渡と交戦した回(早渡視点)
「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 Part 12 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1483444899/206-211)
早渡と交戦した回(サスガ視点)
「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 Part 12 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1483444899/216-220)
「偽警官」と交戦した回(“モヒート”と)
「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 Part 12 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1483444899/610-611)
モヒート
本名は見辺 加賀実(みべ かがみ)、“モヒート”はコードネーム
「組織」強硬派所属の中学一年生女子
契約した都市伝説は「コークロア(_Mod.A)」
彼女も過去に登場済み(詳しくは上記リンクをチェック)
今回初登場の
割烹着の少女
「組織」穏健派所属の女の子
「人肉シチュー」の都市伝説である
まるで給食の時間に割烹着を着た小学生の女の子といった容姿をしている
彼女の外見は上記都市伝説からの関連が想定しえない形態だが真相は不明
彼女は今回のように
時折穏健派のオフィスを抜け出しては強硬派所属の彼らに会いに行く
儂はアクマの人がサンタコスを書いてくれるのに望みをかけておるよ…
ノイちゃんも沢渡もサンタコス着ようぜ
特に理由のないクリスマス投稿が都市伝説スレを襲う!
という訳でアーバントの人、もとい大王の人だよ。たぶんテンションおかしいけど、気のせい。
例によって伝説使徒のね……筆が進むんだよ。特にサッカー少年のほう。
今回の投稿で
●前回(>>12-18)
人知れず伝説使徒を倒し、周辺の治安を守る少年がいた。
その少年は【こっくりさん】と契約し、その肉体を貸し与える事で、戦う力を得ていた。
さて……幼いうちに伝説使徒と関わってきた少年も、いよいよ中学生となる。
はたしてどんな未来が待ち受けているのか―――
少年は、そわそわしていた。
少年の名は[服部 蹴斗(はっとりシュウト)]。今日から中学生となる。
新しい出会い、より高レベルな部活動、そして……
『そんなに楽しみなんだ』
頭の中に声が響く。
蹴斗の隣には、【こっくりさん】と呼ばれる少年がいた。
伝説使徒(アーバント)……それは人間どころか動物ですらない。
しかし確実に知性を持って、そこに生きているという『ミーム』を持つ、不思議な存在。
【こっくりさん】も、そのひとりである。
蹴斗はより幼い頃に【こっくりさん】と契約した。
その力で、身の回りにいる狂暴な伝説使徒を倒してきた。
今となっては長い付き合いの相棒である。
「(あぁ、当然さ。だって……)」
蹴斗は口ではなく心で唱えるように返事する。
ふたりはもう、口ではなく心で通じ合えるほど深い繋がりを得ていた。
そんな蹴斗が待っているのは、【こっくりさん】よりも古い親友である。
その名は[又木 十三(またぎジュウゾウ)]。蹴斗とは幼馴染だ。
とある事情により、親友は小学校の頃に遠くへ引っ越した。
蹴斗はとても悲しんだが、再会の約束をして見送った。
そんな親友との再会が、今日やっと果たされるのである。
【こっくりさん】には、そういう友情は分かり難いものだった。
それでも妙な温かさが、主である蹴斗から伝わった。
不思議と、自分も楽しみになるような……
ふと戸が開く。蹴斗は、入ってきた顔に見覚えがあった。
「おーい!……って」
蹴斗の声に、親友の又木が手を振り返す。その後ろには……。
猟銃を胸に抱えた、強面の大男が続いていた。
思わず蹴斗は吹き出し、口を押さえる。
ふと周りを見ると、クラスメイトの視線はこちらにあった。
また、【こっくりさん】は十円玉の中に隠れたようだ。
「(もしかしてだけど、あれ……。)」
『うん、伝説使徒。普通のクラスメイトは気づいてないよ』
伝説使徒は『ミーム』によって構成されている。
よって実体はなく光を反射しないため、目で見る事はできない。
例外はあるが、確実に見えるようになる方法は2つ。
1つ、伝説使徒のターゲットにされる事。
もう1つ、伝説使徒と契約する事。
「(あれにオレしか気づいてないのか……敵じゃない、のか?)」
『殺し屋みたいな顔だけど、妙におとなしいよね。』
考察する蹴斗達の方へ、又木は歩み寄る。
そして一定距離を保つように、マタギのような風貌の強面伝説使徒がついていく。
「よ、久しぶり!」
「あ、あぁ、久しぶり。」
又木の挨拶に、少し戸惑いつつ蹴斗は返す。
後ろを気にしながら旧友を深めたが、これと言って変わったところはないようだ。
「変わりないようで良かったよ。」
「そういう蹴斗は、ちょっと大人びいた感じだな。」
指摘されて気付く。伝説使徒との戦いは、常に命懸け。
そんな世界で生きているうちに、普通の子どもとは言えなくなっていたようだ。
……現に今も、撃たれそうな恐怖と戦っている。
「あ、それで思い出した。今日は肝試し大会があるそうだぞ。」
「肝試し……」
よくあるイベントである。暗い夜道をビビったり、一周回ってハイテンションで駆けたり。
が、そういったものには噂……ミームが付随する。
つまり肝試しの舞台は、伝説使徒の巣という他ない。
「あまり好きじゃないな……」
伝説使徒は、人を襲ってミームを保つ。蹴斗は平穏主義者だ。
犠牲者が出ないようできる限り倒したいが、クラスメイト全員を守り切れるかは怪しい。
いっそ中止に追い込みたいが……。
「安心しろ、オレがいるから。」
又木は自信満々に指差す。
「なぜか知らないんだけど、俺の周りだと心霊現象は起きないんだ。
呪いの石は砕けるし、こっくりさんは失敗するし……。」
「(あぁ、コイツのせいか……。)」
蹴斗の視線は大男に向く。目があったが、その思考は全く読めない。
『たぶんこの殺し屋マタギ、自分を【守護霊】だと思い込んでいるんだよ』
「(思い込む?)」
『伝説使徒では稀にあるんだ、自分が何者か分からないってこと。
【守護霊】は武器を持たないはずだし、本当は【悪霊】なんじゃ……』
伝説使徒はミームによって自らを保つ。つまりミームとは手段である。
このマタギの風貌をした殺し屋面の大男は、【守護霊】という手段で自らを保っているのだ。
しかし【悪霊】として生まれた可能性もあるし、あるいはもっと異なる存在だったかもしれない。
全ては謎に包まれている。
「だからオレと一緒に回ろうぜ、なんて―――」
「いや、ちょっと良いか?」
又木の提案を、蹴斗は遮った。
「……信じてもらえないだろうけど、俺の周りではよく起こるんだ、そういうの。」
「えっ……じゃあ本当に付き合おうか?」
「いや、俺は俺で対処するから……別の班を守ってくれないか?」
蹴斗は又木とヒソヒソと相談する。
自分ひとりでは守り切れなくとも、又木の協力があれば負担が少なくなる。
この大男を信用していいかは不明だが、親友である又木を信用した。
「とりあえず調べて、何も無かったら一緒に行こうぜ。」
「あ、あぁ、分かった。」
そう言っている間に学校のチャイムが鳴る。入学式の時間だ。
全員が席に座って数分後、教師が入ってくる。
「えーっと、初めまして。今日から俺が担任だ。宜しく。」
「「 雑ッ! 」」
「自己紹介は後々。先にちゃっちゃと並んで、入学式を済ませようぜ。」
投げやりな態度の教師に渋々従い、全員が廊下に並ぶ。
その間も、蹴斗は肝試しについて考えていた。
「(オレと十三以外にも、契約者とか居たらなぁ)」
『いるよ。』
「(えっ、マジか?)」
蹴斗の思い煩いを、【こっくりさん】が払拭する。
『殺し屋マタギが入ってきた時、キミ以外にも反応していた生徒が居たんだ。
確実に、見える人……おそらく契約者だろうね。顔は憶えたよ。』
「(ありがてぇ。後で教えてくれ。あとは……。)」
入学式が始まり、校長の気だるい挨拶が行われている中、蹴斗は手袋をはめる。
「(こっくりさん……鳥居へ。)」
『あいさー。』
右手の手袋に書かれた鳥居マークへ、【こっくりさん】が吸い込まれるように入っていく。
そして左手の掌には、見づらく『Y』『N』と書かれていた。
「(肝試しの舞台には伝説使徒がいる?)」
『……Yes。』
右手の指先が、左掌の『Y』を差す。
そう、【こっくりさん】による儀式を、簡略化した手袋だ。
いちいち儀式を行わないと、【こっくりさん】は全知なる情報源へアクセスできない。
複雑な疑問であれば、50音表やタイプライターを使って儀式を始める。
しかしこの手袋があれば、2択の疑問をすぐ解決できる。
「(数は10体以上?)」
『……No。』
「(良かった、5体以下か?)」
『Yes。ちなみに、反応していた生徒は4人だったよ。』
クラスメイトは約30人。5人ずつ別けるなら6組だ。
蹴斗、又木に加え、4人の契約者を班長にすれば、襲われるリスクを軽減できる。
そうこう思案している間に、入学式が終わる。
クラスに戻ると、さっそく自己紹介が始まった。
『じゃあ、教えるからメモしといてね。』
男子2名、女子2名が該当者だった。
女子に任せるのは気が引ける……と思う反面、契約者なら他のクラスメイトより強いか、とも考える。
一か八か、とりあえず試すか。
「―――という訳で、肝試しの班長だが。」
「はい先生!」
「なんだ、トイレか?」
「そうトイレ……じゃなく! 班長に立候補です。」
そう言った後、又木と契約者4名を班長に推薦する。
「ふん……。」
「面倒くさいけど、まあ良いぜ。」
「アンタの推薦っていうのが気に入らないけど。」
「は、班長……できるかな……?」
男女4人の反応はそれぞれだった。
又木に視線を送ると、こくりと頷いてくれた。
「ま、くじ引きとか面倒くさいし、せっかくなんで6人にやってもらうか。
という訳で、班長集合~。」
今回ばかりは教師のズボラに救われた、と思う蹴斗。
契約者(+マタギの霊)は教師の前に集合した。
「班はざっくり別けるから、その間にしおり読んどけ。」
「じゃあ……『ドキドキ!? オンボロ旧校舎ツアー』?」
教師曰く、貧乏性でいまだに取り壊せていない旧校舎をそのままホラースポットにしたらしい。
定期的に清掃もするらしく、衛生面での問題はない。
精神衛生上の問題は多々ありそうだが。
「色々あったらしいぞ。旧校舎でのいじめだとか、飛び降りだとか……。
妖怪を見たって噂もある。しおりに纏めてあるから読んどけ。」
以前知り合った『同業者』によると、ミームとは『生き残れるよう進化する情報』だそうだ。
より伝達しやすく、より末永く語り継がれる【怪談】というミーム。
それを伝説使徒が補強し、事実性を高める。その結果、【怪談】はより強くなる。
新入生に語り継がれるこのしおりは、伝説使徒が生み出したミームの化身なのだろうか。
『ボク達にとっては、ありがたいぐらいだけど。』
「(人を襲う伝説使徒は、ごめんだね。)」
単なるエンターテインメントでは終わらない。過激化した伝説使徒は人を襲う。
その方が語る側・聞く側も面白いのだ。だからミームは拡散される。
不思議な事に、この脅威を生み出してしまったのは人間そのものである。
しかし、それでも、守りたいものがある。蹴斗の決意は固い。
「じゃあ、時間になったら来いよ~。」
―――夕刻
このお遊びに付き合う、怖いもの知らずなクラスメイトが集う。
班に分かれ、10分毎に異なるコースで旧校舎へ向かう……というルールだ。
「さっさと行くか……。」
「に、2番目は、私達……10分後だね……。」
第1班が気怠そうに向かう。第2班も震えつつ準備していた。
正直頼り難いが、危険を回避するぐらいはできると信じたい。
「(俺は第4班で、十三は第6班。大丈夫だと信じたいが……)」
「居たわね。吹き出しくん。」
「ふ、ふきだしって……あっ!」
声をかけてきたのは、第3班の班長である女子。
[神倉 美子(かみくらミコ)]。巫女の家系らしい。
「吹き出した上に班長に立候補だなんて、目立ちたがり屋さんね。
おまけにアタシ達まで巻き込んで。」
「悪かったな。同じ契約者同士、伝説使徒を倒そうぜ?」
「……アンタ、ホントに能天気。」
美子は呆れるような溜息をつく。そして蹴斗の反論を待つ間もなく続ける。
「契約者同士って本当に仲良しこよしかしら?
アンタが思っているほど、伝説使徒との契約は平和なものじゃないわよ。」
「うっ……。」
「なにより。アンタごときに伝説使徒を倒せるの?
強さも数も、何も分からない相手に、大した自信ですこと。」
まったく反論できない蹴斗。そんな沈黙を破ったのは。
「分かるよ。」
「なに?」
【こっくりさん】だった。蹴斗の肩にしがみ付きつつ、答える。
「蹴斗が分からない事は、ボクが教える。足りない力は、ボクが補う。
それで良いでしょ? 『護符売りの美子』さん。」
「……詳しいのね、オチビさん。」
「チビじゃないやい! あと、君のことは【風のウワサ】で調べたよ。
狡い商売だねぇ。まぁ契約者らしい儲け方だろうけど。」
【こっくりさん】の挑発により、美子との険悪な空気が漂う。
諍いがしたいわけではないのだが……と思う蹴斗だった。
ふと、表現しがたい殺気のようなものが背筋を襲う。
「ひっ。」
「あ……その顔、あの時と一緒だねぇ。」
見回すと、又木が手を振ってやってくる。
「えっと、お話し中だった?」
「……別に?」
そっぽを向いて去ろうとした美子だったが、立ち止まり。
「これ……1枚・千円だから、大事に使ってよね。
アンタは……要らないでしょうね。」
そういってお守りを4つも渡された。礼を言う暇もなく、第3班は出発する。
「4人分か……ありがたいな。」
『気に食わないけどね。』
あとで班員に配ろうと決めつつ、又木の方を向きなおす。
「えっと……巫女さんだっけ? もしかして『見える人』って奴なのかな?」
「そうみたいだな。護符を作ってるらしいし。」
「……お前も、か?」
後ろを向き、マタギの霊を見る。目は合うが、真意は分からない。
正直、教えてもいいのかもしれない。
ただ、あんな非日常的な世界を教えてしまって、本当に良いのか分からない。
その時は、それが怖かった。
「第4班ー! 準備しろー!」
「悪い、行ってくるわ。」
「蹴斗!……気をつけろよ。」
こうして、蹴斗の肝試しが始まる。
―――肝試し・第4班
「いや~ん、こわ~い。」
「「 大丈夫、俺が守るから。 」」
「……ハモった。」
蹴斗は思わず、「お前ら2人が結婚してろ」と一蹴した。
基本的に、肝試し大会とは娯楽なのだ。だからこうなるのも仕方ない。
「いやーでも神倉さんの護符があるから気が楽だな。」
「……美子さん、本職巫女なのね。」
班の4人が護符をチラリと見て、懐にしまう。
「これで~、1回ぐらいは助かるのかな~?」
「俺が身を挺して庇えば、2回ですよ。」
「何言ってるんだ、3回だろ。」
蹴斗は思わず、「はいはい残機5つ」と一蹴した。
正直、このまま終わればいいのにと思ってしまう。
実は、こういうノリは嫌いじゃないのだ。
『そう上手くは行かないよねぇ』
「(最大5体、ちゃっちゃか追い払うか。)」
そう会話していると、班の女子が。
「……ところで班長。……霊感って信じる?」
「ん? なんだ藪から棒に。」
暗い印象の女子で、目の焦点は蹴斗ではなく虚空を向いていた。
「……班長の隣、霊がいる……って言ったら?」
班員の3名が飛び上がる。蹴斗も少し飛び上がりそうになったが。
「あ~……たぶん、守護霊的なサムシングだから、安心しろ?」
「……そう? 又木くんも、凄い守護霊、持ってるよね……。」
「わ、分かるのか?」
「……大きくて、強いって分かる……あと、優しいの。」
優しい? と聞きかけてふと考えてみる。
契約者ではないであろう彼女にとって、外見にとらわれない感覚というものがあるのかもしれない。
あの霊は……優しい霊、なんだろうか?
「よく分からないけど~、怖い霊とか居ないの~?」
「居たら教えてくれよ、庇うからさ。」
とりあえず辺りを見渡す。と、ぼわっと火の玉が浮かんでいた。
「「 ひ~と~だ~まァ~!? 」」
「……【人魂】?」
普段なら警戒するが、ふと冷静になる。これは肝試し大会だ。
「あれさ、先生達のイタズラじゃね?」
「「 えっ? 」」
「霊感が無くても見えてるんだったら、ガチの火の玉じゃないか。
ああいうイタズラグッズ、理科の実験で作った記憶あるし。」
そう蹴斗が答えると、胸をなでおろす3人。
しかし1人だけ、腑に落ちない様子の少女。
「何かおかしいか?」
「……あのね、私……あれが『キツネ』に見えるの……。」
「ッ!?(こっくりさん!)」
とっさに、蹴斗はポケットから十円玉を取り出し、火の玉目掛けて投げる。
十円玉は不思議な軌道を描き、繁みの中へ入っていく。「痛ッ!」という声も聞こえた。
「ちょっと待ってろよ……!」
「……私も行く……。」
茂みの中に居たのは……1匹のキツネだった。
「うぎゃ、見つかっちまいましたか。」
「……キツネさんが喋った。」
どうやら【狐火】だったようだ……。しかしなんだろうか、このキツネ。
いったん専門家に任せようと、蹴斗は【こっくりさん】に体を貸す。
「えっと、【妖狐】の一種だね。」
「……ヨウコ?」
「キツネの身体を乗っ取った伝説使徒さ。肉体があるから普通の人でも見えるし、声も聴ける。」
「……すごい。飼いたい。」
思いっきり伝説使徒とか教えてるけど、大丈夫か?と不安になる蹴斗。
それを他所に、【こっくりさん】はキツネを持ち上げる。
「放してくだせぇ。俺っちにゃあ、妻と3匹の子どもが居るんでさぁ。」
「知らないよ。それより、キミはここをテリトリーにしている伝説使徒?」
「一応そうでさぁ。あの校舎が使われてた頃から、人を化かして遊びつつ、憶えを良くしてもらってたんでさぁ。」
どうやら大古株のようだ。それならしっかり話を付けたい。
……だからオマエ、撫でてる場合じゃないぞ、と蹴斗は言いたかった。
「……キツネさん、人を襲うの?」
「襲う……。『化かす』のは、手品みたいなものでして、人を傷つけるものじゃございません。
人様に不利益を与えないよう、善処しているつもりではございます。」
キツネが言うには、現在の関係……つまり毎年の『肝試し』を続けて貰いたいそうだ。
しかし、人が傷ついたり、ましてや死人や行方不明が出ては、行事が中止となってしまう。
そうなっては、下級妖怪達の住処が奪われてしまうという訳だ。
「お願いでさぁ、放してくだせぇ。俺っちも生きたい一心なんです。」
「だってさ。どうする蹴斗? ボクとしては倒したくないんだけど。」
「……蹴斗くん?」
あ。口を滑らせやがった。もういいやと投げやりになる蹴斗。
しかしキツネの処遇はどうしたものかと考えていると。
「……キツネさん……もっと火の玉、出せる?」
「出せまさぁ。もっと明るく照らす事もできますぜ。」
「……じゃあ、火の玉で……イルミネーションとか、アートを描くの……。
そしたら今より……もっと有名になれるよ。」
少女から意外な代案が出てきた。確かに、普通の化かし方よりは魅力的だ。
『手品』から『魔術』への変化……さながら、旧校舎でのサーカス。
「有名に……それは面白い! では夏の夜までに猛特訓して、狐火絵の先駆者になってみせましょう!」
「よし、じゃあ彼女に免じて許してあげる。
だから、この旧校舎近辺の治安維持をよろしく。そしたら口裏合わせてあげる。」
まさか、一件落着した。こんなにも平和的な伝説使徒との遭遇があっただろうか。
これで安心して……。
「それは無理なご相談です。」
「……キツネさん。」
「俺っちは強くありません。人を傷つけないのも、強くないからでさぁ。
特に……あの『新入り4体』を抑える力なんて、俺っちにはありません。」
その時、悲鳴が鳴り響く。
木々が揺れ、小動物がざわめく声も聞こえる。
「お願いでさぁ! あいつ等を……新入り共を倒してくだせぇ!
『便町の透明人間狩り』でしょう!? あなた方ぐらいしか、頼りがないんです!」
……蹴斗は初めてだった。
ここまで必死に、伝説使徒を倒してほしいと頼まれた事。その相手が、伝説使徒である事。
だが、迷う必要はなかった。答えなんて最初から決まっている。
「すまない、行ってくる。班の皆を任せた。」
「……あ。」
「便町の……【透明人間】……。」
―――肝試し・第3班
「アンっタねぇ……1枚・千円よ? この1時間で何千円溶かしたと思う?」
神倉 美子は戦っていた。敵は2体の【幽霊】だった。
【男子生徒の霊】は消耗しているが、もう1体、【女子生徒の霊】はさっき来たばかりだ。
美子の背後には、なぜか班員が眠りについていた。
よく見ると、バリアのようなもので守られているように見える。
さて、どう仕切り直すか……といったところで。
「居た!」
そこに駆け付けたのは、蹴斗だった。
「アンタッ! どうしてここに!?」
「助けに来たんだよっ! 悪いかッ!?」
「要らないわよ助けなんて! お守りあげたんだから、さっさと逃げなさい!」
そう受け答えしている間にも、【幽霊】は襲い掛かろうとしている。
「ッ! 今隙を作るから、アンタは」
「悪いけど。」
「準備完了しているよ。」
『フェイズシフト……バトルフェイズ!』
蹴斗の服装が変わる。和風の道着のようであり、それでいて要所に防具がある。
その洗練された衣装の変化は、見るものを止めた。
「何よ……アンタの伝説使徒、【子どもの霊】じゃないの?」
「伝説使徒の力じゃないよ。蹴斗の『エフェクター』さ。」
エフェクター(付与者)。この世界を生きる子供たちに与えられた、進化の力。
伝説使徒に対し、特殊なエフェクトを与えて強化する事ができる。
その種類・能力・応用性は未知数。
服部 蹴斗は『フェイザー』の付与者である。
伝説使徒が持つ能力の段階をシフトさせる「フェイズシフト」を可能にする。
単に【こっくりさん】の能力を使うだけの「スタンバイフェイズ」、
そしてミームの鎧を身に纏う「バトルフェイズ」を使いこなしている。
『能書きはどうでもいい……まずは男子の方からだ!』
「手柄、横取りするよ!」
【男子生徒の霊】に対し、【こっくりさん】は飛び込んで殴りかかる。
質量と情報を併せ持った拳は、易々と幽霊を吹き飛ばした。
そんな隙に、【女子生徒の霊】は後ろに居た生徒を襲おうとしている。
それに気づいたのは美子だけだった。
「後ろっ!」
『にも俺が居るんだな。』
たじろぐ【女子生徒の霊】に気もかけず、霊体となった蹴斗はラリアットで首を刈る。
蹴斗の身体は、【こっくりさん】の手袋へと吸い込まれるように高速移動する。
『オフサイド・トラップ……』
「ボンバー!」
【女子生徒の霊】の顔面に、黒い球体を勢いよくぶつけた。
蹴斗は、絶妙なタイミングで手袋の中へ回避していた。
「じゃあ、トドメ貰うよ。」
『やっちまえ!』
【こっくりさん】は胸元で黒い球体を増大させている。
2体の幽霊は必死にもがこうとするが。
「悪霊封じ!」
美子が投げた護符は、霊体に対する壁を作る護符だ。
霊のいない場所で使えば結界として使えるが、逆に居る場所で使えば束縛に応用できる。
「必殺……ウィジャ・バウト!」
結界から逃れられない幽霊2体を、押しつぶすような球体が上から降ってくる。
幽霊2体はなす術もなく、その陰も残せず消滅した。
「……嘘。倒しちゃった。」
「あー、なんか強いって聞いて来たんだけど、強かったか?」
「【透明人間】の方が厄介過ぎて、比較対象にならないというか。」
あっけにとられる美子を余所に、蹴斗と【こっくりさん】は雑談する。
しかし、気を抜いてはいなかった。ここにいる伝説使徒は5体。
【狐火】と【幽霊】2体を倒したので、まだ2体居るのだ。バトルフェイズを終了してはならない。
「神倉さん、護符はまだあるか?」
「え、あるわよ。作ろうと思えば作れるけど……。」
「じゃあ、あと2体張り切っていこうか。」
戦う気満々の2人を見て、美子は溜息をつく。
「伝説使徒って……逃げたり、出会わないようにするものだと思っていたわ。」
「それが理想だけど、どうしようもない時はあるし、戦えない人もいるからな。」
戦えるのだから戦う。それが契約者としての蹴斗だった。
そして、仲間が居るなら、もっと戦える。
「一息ついたら行こうぜ……旧校舎。」
―――これは、『伝説使徒』と契約し、『伝説使徒』と戦う者達の物語―――
という訳でサッカー少年でした。
知る人ぞ知る『ゴルゴマタギ』。出したさ余って登場させてしまいました。【守護霊】の一種……なのかなぁ?
あと巫女さんも登場。次回は本領発揮できるかな。
さて、なんと契約者5名+謎の守護霊でお送りする、大型連載に化けそうなんです。
名前は兄者と相談しつつ決めようかなぁ。契約伝説使徒は……既に決まってたり?
ま、間に合わなかった……
しかも大王の人に先を越された!
>>141-153
お疲れ様です
そうか、マタギはゴルゴマタギであったか
今回気になったのは勿論エフェクターでしたね!
まさかそちらの世界にもあるとは
しかもモノでは無くこれは「異常」のような能力かな?
名前が「フェイザー」という辺りなかなか攻めてきたなあ
確かモジュレーション系エフェクターにも似たのがあった筈
やはり考える所は似てくるか! 急がねばな!(急げるかな僕……)
では自分も負けてられないので行きます
今回の話は【12月】はクリスマスが舞台の寸話です
ああ後1時間半で性の6時間が……終わっちゃう……
クリスマス
コトリー「クリスマスですの! 書き入れ時ですの!!」
セト 「こんばんは、タマちゃんと同じく『ラルム』の店員のセトです」
コトリー「ハッ ∑ ξ(ㆁoㆁ;)ξ 自己紹介まだでしたの!
『ラルム』でアルバイトしてるコトリーですの!! タマは名前ですの!!」
①クリスマスについて
コトリー「『ラルム』の客層、普段は年配の夫婦さんが多いですの!
でも今年は負けられませんわ! クリスマスが勝負ですの!!」
セト 「頑張って事前にいろいろ準備したもんね……」
コトリー「そして! 遂にクリスマス用の衣装が出来ましたの!
てんちょーの意見はなるべく排除して決定してますの!!」
セト 「私もタマちゃんもヒラヒラしたのが苦手で……
店長は隙あらばメイド服を着せようとしてくるから、タマちゃんと全力で阻止しました!!」
コトリー「これが届いた衣装ですの! 開けますのっ!! ξ(>д< )ξ <エイッ」
パカッ
コトリー「目を引く赤! これはまさしくクリスマスのサンタ服!」
セト 「よかった、ヒラヒラじゃなくてモコモコしてるね。これなら」
コトリー「あ、でも……これ……」 ☜ 手に取って改めてサンタ服をチェケラ
セト 「スカート丈が……短い……」
コトリー「胸元も開き過ぎですのっ!! ちょっとセクシー過ぎますのっ!!」
セト 「うーん、でも、これくらいならいいかなって思うんだけど、……タマちゃん?」
コトリー「一体誰がこんなっ!! あっもしかしてJD先輩の仕業ですのっ!?」
JD先輩「あはっ★ ばれたー♥ (๑ゝڡ ・๑)」
②そしてイブの夕方
かやべ「来ーたーよー! せっちゃーん!!」
ありす「おお、今日は『ラルム』も大賑わいね」
まにわ「こんばんわ、真庭栞(まにわ しおり)です」
ヒル山「同じく、ヒル山こと蒜山(ひるぜん)です」
かやべ「せっちゃーん、今日はめっちゃ可愛いサンタ服じょん! いいないいなー!」 ナデナデナデ
セト 「えへへ、今日はイブだしね!」
かやべ「ほぅほぅ、これは店長さんチョイスじゃ無さそうだね、誰が選んだろう」 サワサワサワ
セト 「ちょっとアヤちゃん!? どこ触ってるの!?」
JD先輩「あらぁ、今日の『ラルム』の制服の話かしらぁ?」
かやべ「そういう貴女はJD先輩さん!! ……っ!?!?」 フニフニフニフニ
JD先輩「今夜はザベ子とセトがサンタガールでぇ、私がト・ナ・カ・イ 💛」
かやべ(きわどい露出に、絶対領域チョイス、ではなく敢えて黒のガーター……、
こんなドスケベトナカイのコスは初めて見るよ!? この女(ヒト)、理解(デキ)る……!!) モニモニモニ
セト 「アヤちゃーん!! 変なとこ触るの止めてーっ!! いい加減にしないと怒るよーっ!?」
③色々頑張ったんです
ありす「にしても今夜は凄いわね」
ヒル山「いつもは爺さん婆さんが多いのになあ」
まにわ「凄いよね、学生のカップルが多いって」
コトリー「全てはこの日の為に頑張ったんですの!!」 フンスー
セト 「事前に商工会とか色んな所にお知らせ出したよね」
コトリー「クリスマスフェアのお値段を決めるのに、
学校町のお店片っ端から偵察した上でこの価格ですの!!」 フンフン
セト 「店長が広告費も奮発して、学生割引のクーポンまで用意して……」
コトリー「クリスマスは恋人同士で過ごしたい学生さんのために!」
セト 「お財布に優しいイブのデートプランまでシミュレートして割引を決めて!」
コトリー「ほんとに……頑張った甲斐がありましたの……」 ポロポロ
セト 「私達と同世代のお客さんがいっぱい来てくれるなんて、夢みたい」 グスッ
ありす(感極まって泣き出したわ……すごく頑張ったのね)
かやべ「あーもう、二人とも泣かないで! ほら、スマイルスマイル!」 アタマナデナデ
in キッチン
おばちゃん店員 (ふふっ、泣くには早いわよ二人とも……) ☜ 不敵な笑み
おばあちゃん店員(なんせ今回のクリスマス・イブ作戦は、赤字必至の大サービス) ☜ すごい不敵な笑み
おばちゃん店員 (このイブのキャンペーンをトリガーに学生間の口コミを狙った長期的作戦の一環!!)
おばあちゃん店員(全ては『ラルム』のため! 店長さんには少々泣いてもらうがのぉぉ……!!)
おばちゃん店員 (ふっ、セトちゃんもコトリーちゃんもまだまだ甘いわねえ) ☜ 実は衣装がきわどいのでホールに出られない
おばあちゃん店員(ひっひっひっ、今宵が全ての始まりよ!!) ☜ 実はめっちゃ衣装がきわどいのでホールに出るのを禁じられた
④とある「リリス」さんの場合
リリス(こんばんは、隣町在住の『リリス』です)
リリス(今、私は心の声で私から私に語り掛けてます)
リリス(『リリス』って言ってもそんな大層なものじゃないし、『サキャバス』みたいなものだし……)
リリス(今夜こそは男の人を誘惑して大人のデート……ってそんな勇気、私に無いし……)
リリス(かと言って人肌恋しいのは寂しいし悲しいので、チラシで宣伝してたこのお店に来ちゃいましたー……)
リリス(はぁー……来年こそは彼氏が欲しいー……)
リリス(もう契約者じゃなくて、一般人の男性でもいいかなー……な、なーんて)
チラッ
JD先輩「あらぁ? 恋人同士かしらぁ?」
女子 「……」
男子 「あっ、えっ、まあ、そんなとこ、です」 ☜ めっちゃ照れてる
女子 「……」 ☜ めっちゃ男子を睨んでる
JD先輩「はいっ♥ クロックムッシュとぉ、ホワイトチョコでっす♥」
男子 (ゴクッ)
JD先輩「ごゆっくりどうぞ💛」 ニコッ
男子 (やばッ……この人、すごい……可愛い……胸も、大きいし……)
JD先輩「キミみたなカッコいい子なら、また『ラルム』に来てほしいなぁ」 ☜ 耳元で囁いた
男子 「ッ?! ッ」
JD先輩(うーヤバい、男子クンめっちゃ私の胸見てた! 顔面真っ赤過ぎだろー!) プークスクス
女子 (……) ゲシッ! フミッ!!
男子 「あだっ!? い、痛いよっ!!」
女子 「……店員さんの胸、見てたでしょ……」 ギゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!!
男子 「ちっ違っ!! あっ痛たたたたっ!!」
JD先輩(あーヤバい! 楽しい!!) クスクス
リリス(うあー!? あんなのダメだよー!!)
リリス(恋人同士なのに誘惑して嫉妬させるなんて! あんなこと私には絶対無理!!)
リリス(……でも、いいなー……あの店員さんみたく、私も……)
リリス(ってダメダメ、私何考えてるの!?)
リリス(でもこのお店、若い子多いなー……)
リリス(店員さんも可愛いし、お客さんも可愛い男の子多いなー……)
リリス(も、もし、もしも……)
リリス(このお店で『性の六時間』が発動したりとかしたらー……)
リリス(今、この場で、発動しちゃったりとかしたらー……)
リリス( ) キュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン 💛💛💛
リリス(ってダメ! 何考えてるの私!!) キュゥゥゥウン ♥
リリス(ダメったらダメ!! そんなの、そんなの……倫理的にとにかく絶対、ダメ!!) キュンキュン ♥
リリス(ふぅふぅ、落ち着いて私! こういう時こそ落ち着かないと……!)
リリス(それに私、『性の六時間』なんて持ってないし……)
リリス(これは妄想、ただの妄想……) フー フー
コトリー「ちょっと! さっき何やってましたの!?」 ガルルルル
JD先輩「さーなんのことかなー★ (>ε< )」
コトリー「いい加減にしないとっ、キッチンに封印しますわよ!?」 ヷンヷンッ
JD先輩「まってそれだけは勘弁してください」
⑤メリークリスマス
ありす(……)
セト 「こちらボンゴレとポタージュになります! はいっどうぞごゆっくり!」
ありす(これは閉店まで忙しくなりそうね……)
ありす(アイツはまだ来てないみたいだけど)
かやべ「お、おおっ、あ、ありす!!」 グイグイ
ありす「えっ、あっ、何?」
ヒル山「おほーっ!! 来たぞブッシュ・ド・ノエル!!」
ありす「へっ? ヒル山、マジでやったの?」
かやべ「こいつマジだよ、小遣いをケーキにつぎ込んだよ!」
まにわ「まさか一本まるまる注文するなんて……!」
かやべ「今年の流行りはノエルじゃないって聞いたよ!? いいのヒル山!?」
ヒル山「安心しなって、こいつはあたしが全部食べ切る」
かやべ「やめなって! 絶対エグいって!!」
ヒル山「おーし、かやべぇ言ったな?」
ありす(まったく、何やってんだか……)
セト 「ありすちゃん、飲み物持ってくる? ドリンクバー飲み放題のクーポン使ったでしょ?」
ありす「え、ああ大丈夫。それよりセト、今夜って早渡君は」 ヒソヒソ
セト 「あ、うん。今日は脩寿くん来れないって言ってた」
ありす(何やってんのかしらあのバカ……)
セト 「あっ、でもね、アルバイトの前に電話してね
脩寿くん、今日は子供たちの所でサンタさんの格好して、プレゼント配るんだって」
ありす「へえ、アイツが……」
セト 「脩寿くんも頑張ってるし、私も負けられないなって!
それに向こうが終わったらこっちにも来るって……、あれ、ウメちゃん何してるの?」
ありす「え? ああ、一人ブッシュドノエル早食い始めただけだから気にしないで」
かやべ「エグいよー、もう半分行ったー……!?」
ヒル山「録ってるかかやべぇ、おーし、こっからスパート掛けっぞ」
まにわ「 」 ☜ 信じられないものを見るような目で首を振っている
コトリー「みんな楽しんでるようで何よりですの! メリークリスマスですの!! ξ(>∇< )ξ 」
おわり
セト: 遠倉千十。今年の1月に初登場。だが余り出番がなかったorz
コトリー: コトリーちゃん。『ラルム』の店員さん。髪がツインテの縦ふわロールだ。以上
JD先輩: 『ラルム』の店員さん。初登場は>>61。実はまだ名前が決まっていない
ありす: 日向ありす。初登場は今年の1月。なのに余り出せなかったorz
かやべ: 名前は「あやこ」。実は名前が出ていないが前スレの>>265で登場済み
まにわ: フルネームは真庭栞。眼鏡っ子だ。大事なことなので二度言うが眼鏡っ子だ
ヒル山: フルネームは蒜山宇女(ひるぜん うめ)。柔道経験者。一般人クラスでは強い
おばちゃん店員: 『ラルム』の支柱。パート暦ウン十年のベテラン。今回の衣装はJD先輩が用意した
おばあちゃん店員: 『ラルム』の心臓部。男一人の店長よりもはるかに頑丈。今回の衣装は自前♥
店長: 『ラルム』の店長。今回出番がないのは店に居ないからではなく、キッチンで必死に働いているから
リリン: 名前未定。すまない……。隣町(辺湖市)にあるキュートなランジェリー専門店の店員をやってる
お気づきであろうか、寸話中で誤りをやっちまってることを……
そう、彼女は『リリス』ではなく『リリン』が正解ッ……!!
重ね重ねすいませんでしたッッ!! wikiで訂正します故、それで手打ちをッ! お慈悲をッッ!!
以上です……
すいません、ありがとうございます……
本編が全ッ然間に合って無いので間に合えばまた来ます
今更だがこのクリスマスの寸話、全然都市伝説要素が……
次世代ーズさん乙ですの。クリスマスは良いですにゃあ
自分は【サンタクロース】ネタのワンパターンしかないもので、なかなか……
食事処がメインのネタでも書こうかなぁ(タコの手広げすぎ
そしてあけおめですの。いやー年男ですわ
日本中に犬が蔓延しているので、裂邪は苦しい1年でしょうなぁ
それはさておき、伝説使徒の続きをはじめませう
前回は>>142-152。肝試しを平和に終わらせるための戦いが始まります
「一息ついたら行こうぜ……旧校舎。」
2体の伝説使徒を倒した[服部蹴斗]達は、旧校舎に居るであろう伝説使徒を目指す。
【狐火】曰く、「新入り4体を倒してほしい」との事。
そうすれば、人を襲う事はなくなる……と信じたいが。
「しかし、なるほどね……この森に伝説使徒がいない理由が分かったよ。」
そう【こっくりさん】に言われて、改めて考えてみる。
肝試しスポットなんか、伝説使徒の巣窟だというのに、前情報では5体しかいなかった。
それは、この新入り達に居場所を奪われて逃げたからだろう。
「それってさ、新入り共を倒しても、また帰ってくるって事か?」
「それは、あのキツネを信じるしかないよねぇ……。」
蹴斗が【こっくりさん】と話し合っていると、ふと手を合わせている[神倉美子]が目に映る。
「……無事天へ還れますように。」
「あーそういうのいいから。要らないから。」
美子の祈りに、【こっくりさん】は一蹴した。
アンタに何が分かるの、と諭そうとする美子だったが。
「元になった【生徒の霊】が仮に居たとしても、もう成仏してるよ。
先の奴は『設定』を利用した野生の伝説使徒だよ。」
そう、伝説使徒は「設定を借りて力を得る存在」である。
たとえ生徒の霊が成仏しても、新しい伝説使徒が【生徒の霊】に成り代わる。
そもそも人間が【生徒の霊】になる、という考え方がおかしいのかもしれない。
そうやって【生徒の霊】は生き続けるのだ。
「……何よその理屈。伝説使徒が先なのか噂が先なのか、分からないわ。」
「実際ボク達も分からないんだよね。ミームってものが最初からあったのか。
ただ、ボク達には命があって、姿は移ろいやすいものだよ。」
美子の反論に、どこか物悲しそうに返す【こっくりさん】。
『命』はあれど、能力や人格は変化してしまう。契約者がいない限り。
その起源は、【こっくりさん】さえも知る事のできない禁断の領域……。
「つまりここは本来、妖怪達のイタズラ舞台ってだけだと。」
「幻覚を見せる【妖怪】も多いしなー。【幽霊】より戦闘能力がない【妖怪】だらけだったのかな?」
蹴斗と【こっくりさん】は考察する。元々【幽霊】という伝説使徒すらいない森だったのでは、と。
【幽霊】は呪い・恨みといった攻撃的な感情を有する事が多い。
人を化かしてイタズラする程度の【妖怪】では、歯が立たなかったのだろう。
「……はぁ。アンタ達、ホント信じらんない。どこまで知っているの?」
美子は深く溜息をつく。【こっくりさん】のような、喋る伝説使徒と会話しなかったのだろう。
蹴斗にとっては、当たり前のような事が当たり前でないのだ。
「じゃあ【風のウワサ】も知らないんだね~。」
「え、諺でしょ。でも正確には『風の便り』よ。」
「今度URL教えてやるから、メルアド教えてくれ。」
一瞬戸惑う美子だったが、情報も大事だと思いつつ、渋々教える。
しかしまったく何も思わない蹴斗に、握りこぶしを震わせるのだった。
―――肝試し・集合場所
教師達が見守る中、何班かの生徒が帰ってくる。
「ふっ……難なくクリア。」
「何かバケモノを見た気がするんだけど……。」
「気づいたら居なくなってたのよね。何だったんだろう……。」
早々に帰ってきたのは第1班。何かを見たと主張するが、特に被害はないようだ。
「こ、怖かった、ね……。私、気絶しちゃったかも……。」
「怖かった、な……。」「う、うん……。」
次に帰った第2班は、何か含みのある恐怖を覚えたようだ。それを班長は知る由もなく。
「無事帰ってこれたな~。何もなかった。」
「バイクの音が妙にうるさかったけど……ね。」
第5班も無事帰還。バイクの音以外に気になるものはなかったようだ。
「いやー、本当に何もなかったな。」
「先生ー、ちゃんと仕掛けしたの?」
そして第6班は又木十三。夜道の散歩を平和に終わらせたようだ。
そんな4つの班に向けて、教師が一言。
「まぁ、何も仕掛けてないからな。」
「「 はぁ? 」」
「いやぁ、勝手に生徒が驚いて、噂になるから、安上がりだなって。」
ある生徒は落胆し、またある生徒は戦慄した。
何もない場所で怯えていたのか、ではあの時見たものは何だったのか……。
そうしていると、また何名か戻ってくる。
「あれ~、ココどこぉ~?」
「俺達、旧校舎に向かってたはずだけど……。」
「おっ、第3・4班だな。遅いぞ~……ん?」
帰ってきた面々を見て、教師は気付く。……班長がいない。
「おい、服部と神倉はどうした?」
「あれ……いないっ!?」
「私達ぃ~、火の玉を見つけてぇ~」
「それを追いかけていたら、ここに……。」
行方不明ともなると、責任問題である。
教師達が一気にざわつく。集合して会議を始めた。
「……キツネさん、ありがとう。」
「お安い御用でしてぇ。迷わすだけでなく、道案内もお手の物でさぁ。」
集合場所の片隅で、第3班の少女と【狐火】が会話する。
どうやら、【狐火】の誘導能力によって、蹴斗達以外は無事帰る事ができたようだ。
「お礼にこの護符あげる……だから教えて。便町の【透明人間】の事。」
「えっと……お嬢さんは、どこまで知ってやす?」
「……便町は……私のいた町なの。」
少女は小学校時代、便町に住んでいた。その時に起きたのが『透明人間騒動』である。
殺傷事件が相次いで起こる、しかし犯人の痕跡も影も、全く見えてこない。
一連の事件を【透明人間】の仕業であると人々は囃し立て、大騒動になったのだ。
あまりの酷さに、諸学校は休校となった。外へ出る者さえ少なくなった。
そんな事件が、ある日パタリと止んだ。別に真犯人が見つかった訳でもなかったのに。
いつしか恐怖は完全に消えさり、便町は日常を取り戻した。
「そうでしたか……いやはや。犠牲者になってたかもしれやせんねぇ。
しかし、その事件を解決してくれた英雄が2人いた。」
「……それが、蹴斗くん?」
【狐火】は流暢に、それでいてどこかしんみりと話し続ける。
「奴は、妖怪達にも手を掛けた酷い奴でした。自分を世に広めるために、便町を恐怖で支配した。
あるいは、他の町にも伝播し、より凶悪な伝説使徒になりえたでしょう。
お嬢さんだけじゃありやせん。俺っちだって、救われたのやもしれません……。」
【狐火】は首を振り、少女に背を向ける。
「俺っち、やっぱり行きます。恩をタダで受け取るなんて、ごめんでさぁ!」
「あ……、いってらっしゃい。」
そこへ、又木が駆け寄ってくる。
「えっと、何か話してた?」
「……うん、キツネと話す、変な子なの……。だから、話しかけなくていいよ。」
「え? 猫とか話しかけるだろ? その、俺のせいで逃げたかなって。」
又木は少しズレた感性を持っていた。むしろ、小動物に嫌われやすい体質を気にしたようだ。
そんな又木は、本題というように顔色を変える。
「そうだ、蹴斗……服部蹴斗を知らないか? 班長だったよな。」
「……。」
一瞬迷う少女だったが、大きく息を吸う。
「……又木くん、憶えてる? 『透明人間騒動』。」
「あぁ、オレ達の学校が休校になったアレだろ? 気づいたら落ち着いてて……。」
「あれ、蹴斗くんが倒してくれたの。」
思わず息を呑む又木。ふとした記憶が蘇る。
その記憶が、全ての辻褄を合わせた時、次の言葉を予測させた。
「蹴斗くん……守護霊の力で、今回も解決する気なの……。
キツネさんも行ったけど……、アーバントっていう、危険なものと戦うの。」
「そんな、蹴斗が……ッ!」
思わず、又木は旧校舎へと走り出した。
何かできるという訳ではないが、それでも、走り出した。
「待ってろ、蹴斗!……これは。」
駆けだす又木の道標か、火の玉が道を照らす。又木は信じて、その道を突き進んでいった。
―――旧校舎
どことなく古びた香りのする、しかし最低限の手入れは施されている……。
不可思議な建物が、そこに建っていた。
旧校舎……肝試しの目的地であった場所だ。
蹴斗と美子は、無事この場所へ辿り着いた。
「道中敵なし。たぶんここに、2体居るよね。」
「さっさと片付けるか!」
気合を入れる蹴斗と【こっくりさん】に、美子は質問を投げかける。
「ところでさ。アタシ達以外はいないわけ? そんなのが居たら他の班でも何かあると思うけど。」
「そうだな。他の班も戦っているかもしれねぇ。」
その会話を聞き、【こっくりさん】はハッとした表情を浮かべる。
「蹴斗、人数を占って。」
「了解、鳥居へ……。生徒は3人以上?」
指差したのは「No」だった。それを見て何故と叫ぶ美子だったが、蹴斗は渋い顔になる。
「……これ、ボク達狙いだね。」
「はぁ、どういう意味!?」
「昔オレら、目立つ事やったせいで、伝説使徒から目の敵にされてるんだ。今回もその口だと思う。」
いざ気づくと、美子が申し訳なくなる。自分達のせいで、妙な事件に巻き込まれるのだから。
「ふーん、そうですか。」
「いや、その……。」
「つ・ま・り、超絶最強巫女のアタシはどうでもいいと。ついでだと! いいじゃない……!」
何故か美子に火が付いた。
面倒くさいタイプだと思ってはいたが、ここまで面倒とは思っていなかったため、困惑する2人だった。
そうこうやっている内に、問題の教室へ着く。
『ずれる音楽室』……物が勝手に動く教室だそうだ。
「まぁ、【幽霊】が動かしているだけでしょうね。」
「そう考えちまうのも職業病だよなー。教師のイタズラとは思えねぇっていう。」
美子と蹴斗が言い合っている時だった。
「ッ!?」「危ねぇ!」
椅子が急に襲い掛かってきた。とっさに椅子を見るが……何もいない。
「まさか!?」
何かに気づいたと同時に、椅子や楽器が投げるように飛んでいく。
そして、全ての物体が、まるで何かを中心とするように宙を漂う。
「間違いない……【ポルターガイスト】!」
「はっ!? また見えない敵かよ!」
【ポルターガイスト】、あらゆる物体を動かす怪奇現象である。
それがここまで攻撃的な伝説使徒として暴れているのも珍しい。
「神倉は!?」
「大丈夫よ、積極的には狙われてないみたい。」
「完全に、ボク達を倒して名を挙げたい伝説使徒か……。」
伝説使徒間にもミームというものはある。
特にテリトリーを誇示するために、名声や脅威度を示す事がある。
【ポルターガイスト】は、『便町の透明人間狩り』を倒して異名を得たいようだ。
「だけどねぇ……!」
【こっくりさん】は黒球を作って投げ飛ばす。
黒球は漂う物体を避けて中央にヒット……せずに、壁にぶつかって消滅した。
「外れた?!」
「ちぃ、本体を隠すためのブラフか……。どこに居る?」
実体を持たない伝説使徒にも、核がある。それを砕けば倒せるのだ。
普通なら、能力の影響範囲内のどこかに核は存在するはずなのだが。
そう思考する間にも、椅子や楽器を投げて攻撃してるため、息する暇も見つけづらい。
「【こっくりさん】、分かるか?」
「一瞬だけなら。でも逃げられて終わりだし、十円玉を引っ掛けるのも難しいかな。」
「神倉さんは、何か手があるか?」
「5分稼いでくれたら、とっておきの技を使うけど?」
5分……少年サッカーのインターバルが10分だから、それの半分か。
蹴斗にとっては短い時間だと判断し、サムズアップする。
「さてっと。5分で勝てるか、本職巫女が出てくるか……。」
「先に言うけど、負ける気はないからね。【ポルターガイスト】。」
蹴斗はフェイズシフトし、【こっくりさん】を身に纏う。
幽体となった蹴斗は音楽室を飛び回る。
「核は、どーこだ……!」
一方、美子は廊下で舞を踊っていた。
「見てなさい……巫女の本気。」
―――3分後
「はぁ、はぁ……。」
「くっそ、どこにもいない……。」
【ポルターガイスト】の核は見つからない。
椅子や楽器を投げつけられて、集中できないからではない。
おそらく完璧な戦術で隠れているのだ。
「(床下か、天井裏に居るとしたら……?)」
『テレポートみたいな技が使えるのかもしれねぇぞ。』
【こっくりさん】の考えでは、核は影響範囲の中央付近に存在する。
その中央を攻めても出てこない以上、上下方向に隔てられた床・天井へ隠れている可能性がある。
壁を貫通するほどの力は、自分には無い。
蹴斗の考えでは、影響範囲(テリトリー)を定めて、その中を高速移動している。
今まで見えない敵と鬼ごっこをしていたのだ。見つかる訳がない。
どちらの説にせよ、決定的な情報が足りない。
その隙を与えない猛攻が、【ポルターガイスト】の策略だろう。
ここで打てる1手は……。
「「 これだ! 」」
2人は音楽準備室に飛び込み、様子をうかがう。
この部屋に物を投げるのは困難。流石の【ポルターガイスト】も移動せざるを得ない。
そう考えていたのだ。
「(さぁ、来い。【ポルターガイスト】……。)」
『そこから出ないと攻撃できないぜ……?』
警戒も怠っていない、はずだった。
「「 かはっ……。 」」
背後からの強襲。音楽準備室から突き出されると同時に、床に落ちていた椅子が跳ねる。
天井に打ち付けられた2人は、そのまま床へと叩きつけられた。
「【こっくりさん】……例えばだけどさ。」
「なんだい、蹴斗……。」
「この学校全域がテリトリーって、あり得るかな……。」
絶望的な可能性。音楽室どころか、この学校のどこかに核が隠れているという説。
自分達が想像していた以上に、【ポルターガイスト】は力を持っていた。
そして、力を発揮できる最高の場所を見つけてしまった。
「負けるかもな……こりゃあ。」
諦めかけた蹴斗の言葉を止めたのは、廊下から入ってくる扉の音。
そう、美子の姿だった。
「神倉さん!」
「こいつの核が分からない! いったん逃げよう!」
蹴斗と【こっくりさん】の警告を無視し、美子は床に触れる。
「あらゆる物質よ、その理に逆らい、新たな設定によって、そこにあれ!」
その瞬間、蹴斗の身体を借りていた【こっくりさん】は変化を感じた。
体が重くなる……比喩ではなく、物理的に。そして、この部屋にある全てのものも。
「本当は元旦にしか見せてあげないけど……特別よ?
アタシの【神懸り】、構成神・バンブツの力!」
カタカタと揺れる椅子や楽器。しかし浮き上がる様子はない。
そんな中、ゆっくりと浮き上がろうとする椅子がひとつ。
「そこね……!」
「ちょ、ちょっと!」
美子は椅子を自在にコントロールし、床へ天井へと叩きつける。
そしてフラフラになった核が、わずかに姿を見せた。
「核の中心ほどパワーが強い……でも『質量』を変えられたら、重くて動かせない。
バンブツはアンタとは桁が違うのよ。【ポルターガイスト】!」
椅子が、楽器が、全てのものが【ポルターガイスト】の核へ目掛けて『落ちて』いく。
謎の球体が出来上がった頃に、何かが潰れる音が聞こえ、そして全てが床に落ちた。
「さすが本職巫女……!」
「正直、ナメてたよ。」
蹴斗と【こっくりさん】は、ただ巫女を称賛した。
「ふふん。元旦はねぇ、【神懸り】して新年を祈るのよ。
アタシの本気、分かったかしら?」
「はいはい、ボクの評価シートは更新しておくよ。」
さてと、敵はあと1体。
余裕はあるが、油断せず確実に仕留めよう……。
―――ゾクリ
そう考えていた時だった。蹴斗の背筋に嫌な気配を感じる。
蹴斗だけではない。美子も【こっくりさん】も感じていた。
「これは【悪霊】タイプね……危険よ。」
「百も承知だ。この森の平和を守るために、倒す!」
そんな3人の前に現れたのは―――
3階の窓から覗く、巨大な目玉だった。
「「 大入道……!? 」」
―――これは、『伝説使徒』と契約し、『伝説使徒』と戦う者達の物語―――
苦情は聞き受けます。
Q:構成神って?
A:アーバントという概念があるように、時・物体・エネルギー・意思という概念があります。
その管理者が「構成神」です。【神懸り】で呼び降ろせる能力と言い換える事もできます。
なお、『空間』という概念を管理するものはいません。空間はより上位の存在が管理しています。
Q:透明人間騒動って?
A:諸々の事情で書けていない、幕間のストーリーです。
今後を考慮すると必須の話なんで、肝試しが終わったら書きます。
Q:あの狐と会話したモブ娘、名前ないくせに妙に喋るな?
A:気に入りました。名前付けたいです。
えー、業務連絡。兄者との協議の結果、狐と会話した少女の名前は
[藪小路 翔華(やぶこうじショウカ)]ちゃんに決定しました。
今後どのような活躍をするか、お楽しみに!
>>170
おつありですの。あと命名サイトもありがとうございます。
美子ちゃんは割と大事にしたいキャラなので、応援頂ければ幸いです。
>>173
>今年の初夢は明らかに10代な女の子の尻を撫で回して泣かれる内容でした
1.噂話に熱中しすぎ、他の事が疎かになる暗示。
2.性的願望の高まり。あるいは、やや一方的な愛情を示すもの。
3.金運に関する夢の場合、「泣かれる=失う」なら、無駄遣いの暗示かも(独自解釈)
という検索結果が出たよ翔太郎
ある学校で、男子生徒が放課後、教室に居残っていた
男子が何となく窓の外を見ると、向かいの校舎の屋上に人の影がある
男子は不審に思い、窓に近づいてよく見ようと目を凝らした
その瞬間だった、人影が飛び降りたのは
重たい物が堅い地面に激突する音が、確かに聞こえたのはその直後だ
突然の出来事に混乱した男子生徒は暫く動揺していたが
兎に角人を呼ばないと、飛び降りた人はまだ助かるかもしれない、そう思い
人影が落ちたであろう場所に駆け付けるが、其処に誰かが飛び降りた痕跡は無かった
取り乱した男子生徒は、部活中の生徒や付近を通り掛かった教員を捕まえて話をしたが
誰かが飛び降りる現場など誰も目撃していないのだと言う
騒ぎを聞いてやって来た用務員は男子生徒の話を聞くなり
腑に落ちたような顔をして、男子生徒に説明を始めた
昔、この学校で飛び降り自殺があったのだと
女子生徒が校舎の屋上から飛び降りたのは、丁度、男子生徒が飛び降りを目撃した時間帯
彼女が死んだ後、時折このようにして在る筈の無い飛び降りの光景を目撃する生徒が少なくなかったそうだ
彼女は死してなお、飛び降りを繰り返しているのかもしれない
「繰り返す飛び降り」
週が明けて月曜日、その夜
俺達は東中に向かっていた。勿論理由は東ちゃんに会う為だ
俺達、ってのはつまり
「まあ頼まれたからには聞いてやっけどよぉ」
「新谷のおいちゃん、やっぱり陽が落ちると寒いね」
「そだね、でも寒くなると星が綺麗に見えるんだよな、ほら」
先週金曜の顔ぶれと一緒だからだ
「人面犬」の半井のおっさんに新谷さん、「コロポックル」のれおん
そして俺の計四名、この数で押し掛けるからには今夜中に東ちゃんを見つけたい所だ
「なあ、兄ちゃん」
「おん?」
後ろから新谷さんに話し掛けられた
ホワイトシェパードな新谷さんは見た目がほぼ犬に近い
この日も新谷さんはれおんを背中に乗っけていた
「あいつら、人身売買やってたんだよな。もう捕まったかな……」
「今頃は『組織』に捕まってるよ。わざわざやって来てたわけだしな」
「だといいんだけど」
「大丈夫だよ、後のことは『組織』が何とかするだろ」
あいつら、ってのは先週金曜にれおんを誘拐しようとした連中のことだ
現場には俺たちの後から『組織』所属の二人組が駆け付けたわけだし、直ぐ気づいただろう
むしろあれで犯罪者共をみすみす見逃してたとしたらだ、『組織』は余程のポンコツってことになる
それ以上に気になるのは奴の存在、あの『組織』の刀使いだ
現場で遭遇したとき俺を注視していたわけで、間違いなく俺に気付いていた
ひょっとしなくても確実に目を付けられてる? 「組織」に?
やばくない?
いやいや考えるのは止めろ俺! もう既に何度も悩んだろ俺!
悩み過ぎて眠れない夜を過ごしたりもしたけど、そもそも「組織」に目を付けられたんなら
もっとこうストレートに接触してくるだろ普通。だからきっと大丈夫だ。多分、多分ね
「それより新谷さん、れおんも一緒なのは何か訳とかあったり?」
「そりゃおめえ、留守番は危ないからだ」
迷いを振り捨てて、取りあえず今気になっていることを訊いてみると
答えが返って来たのは先頭を行く半井のおっさんからだった
「確かに野良の連中が侵入してくるリスクは低いだろうが
オヤジは寝入っちまってるし、ヤバい部屋はヤバいからな
おまけに最近は『黒服』が付近を張ってるようだしな、万が一ってこともある」
「オヤジ?」
「いずれ紹介するよ、“地下区”のこともな」
地下区? よく分からんが学校町の地下が根城ってことだろうか
ううむ、この町のことは一応下調べしてきた積りだったけど、まだまだ未知がいっぱいとは
前に瑞樹さんから色々教えてもらったことを思い出しながら……あ、そうだ
半井のおっさんに真っ先に言うべきことがあったんだ
「そういやおっさん、以前の霊園訪問の件で『墓守』さんが怒ってたぜ」
「は、なんで急にその話が出てくんだ? 大体あれだ、ほら、墓でうるさくしてたのはお前だろ早渡」
「おもにありもしない呼び出し方を新参者に吹き込んだ不届き極まりない都市伝説が居るってとこにな
おっさん、あんたのことだからな?」
「は? 俺!? あっおいまさか! 早渡お前『墓守』にバラしたのか!?」
「馬鹿言うなよ、『墓守』さんは最初から最後まで全てをバッチリ把握済みだ」
「阿呆かお前!! あれだ、あの、あの人はキレるとめっちゃ怖えんだぞ!?」
「知るか、俺にホラ吹いた報いだろ」
そうこうしてる内に東中に到着した
半井のおっさんが軽くパニックになってるのは華麗にスルーだ
東中は何というか、静かなのは静かなんだが何処か不穏な雰囲気なのは相変わらずだ
そうだな
今回は校庭ではなく、校舎の方を目指す
「一応もう一度説明しとくとだな」
「わあってるって、お前の惚れた女の捜索だろ」
「違うって、本当に最近知り合ったばかりなんだって」
「兄ちゃんのおともだちなの?」
「友達ってか、知り合いだな。あんま話したわけじゃないんだ」
「やっぱ惚れてんだろ、JCによ」
「いや俺はどっちかで言えば年上のが好き、みたいな?」
何故、夜中の東中に来たのか
既におっさん達に理由を伝えてあった
人探しは手の多い方がいいし、何よりおっさんは鼻が利く
「しかし、――『三年前』の事件の犠牲者、か」
一通りふざけた後、半井のおっさんが口を開いた
おっさんから「三年前」の話を聞くのは初めての筈だ
「あの事件も胸糞だったな」
「中学の子供たちが連続で飛び降りたやつでしょ? 怖いよね、契約者って」
「確かに実行犯は契約者だが、裏で糸引いてたのは『狐』って話だ」
「あれ、おっさん知ってたのか?」
「馬鹿野郎、早渡、俺を誰だと思ってやがる
それに、『狐』に警戒してたのは『組織』だけじゃ無えんだ
当時は俺達んとこに『犬神』様が居候してたからな
他の連中よりも『狐』の動向については幾らか察知してたんだよ」
「『犬神』様」
「そうだ、あのときは確か新谷も……、いやお前確か当時は辺湖に逃げてたんだったか」
「うん、半井さんの指示で」
「まあ、そうだな。兎に角、信仰も薄い今の世じゃ『犬神』様では到底あれに対抗出来る筈も無く、な
見てるこっちが可哀想なくらいブルっちまっててよ、まあそれでも三年前は『狐』が失せたから良かったんだ」
「早渡の兄ちゃん、『犬神』様は今年の春先に学校町を出て行ったんだ、れおんも覚えてるでしょ」
「うん」
「春先って言えば」
「そうだ、『狐』が学校町に戻ってくるのを知った途端にな
『貧乏神』の子と一緒に出来るだけ遠くに逃げるって聞かなくてよ
その時点で俺達も嫌な予感がして、警戒モードに入ったってわけだ」
「そんなことが」
これは初めて聞く話だ
狐と犬は相性が悪い、何処かで聞いた話がふと脳裏を掠めていった
「まあ、あの事件から暫く経って『飛び降り』のガキが夜な夜な現れるって噂は耳にしてたが」
「今から会いに行くのってその子なんでしょ? どんな子だろ」
「俺が会ったときは、まあ普通の子だったよ。ただ最後の方は様子がおかしかったけど」
「お前が会いたがってるのは『狐』の手掛かり探しの一環か」
「別にそれが目当てってわけじゃ無いんだけどさ、ちょっと気になって」
「しっかし、よく今まで『組織』に討伐されずに済んだな」
まさに『組織』に目を付けられてて、そろそろヤバそうなんだよ
などとは言わないでおこう、これ以上余計なフラグは立てたくないからな
さて、校舎だ
どっから探そうか
「どうする、ここはやっぱ二手に分かれて探す?」
「待て待て待て、駄目だ却下」
無難な方法を提案したところ即座に半井のおっさんに止められた
「バラけると有事の戦力的にちょっちヤベえぞ?
この中で戦えるのは俺と早渡くらいだからな、万が一ってこともある」
「気にし過ぎ――とも言えないか」
「早渡、お前『モスマン』のことは忘れちゃいねえだろうな?
最近は気味悪いくらい東区で目撃されてんだ、今夜遭遇しないとも限らんぞ」
「でも、此処に来るまでに『モスマン』は見なかったよ?」
「甘えんだよ新谷、見えないときほど危険なんだ。少しは気ぃ張っとけや」
というわけで全員で固まって探すことになった
確かに分散すると連携は携帯頼りになるし、何かあったときに心許ない
「それで、どうかな」
「うん、夜は色んな臭いが混ざっちゃうからさ、時間掛かっちゃうかも」
「そりゃお前の経験不足だ新谷
弱いが確かに匂いはあるな。早渡、アタリはついてるか?」
「先ずはこの先に行こう」
この先
以前、花房直斗と一緒に来たとき、奴が献花した一角だ
別に“波”を感じるわけじゃないが、今夜は勘でも冴えてるのかそんな気がしたんだ
半井のおっさんと並ぶように歩を進める
後続する新谷さんは心なしか緊張しているようだった
「お」
「ビンゴだ早渡、気をつけろ。臭いが濃いぞ」
いた
東ちゃんが、いた
花やぬいぐるみが供えられた壁際に向かって
東ちゃんはしゃがんでいた
丁度こっちに背を向けるような格好だ
足が、速まる
心拍が、速まる
「東ちゃん」
彼女の、名を呼ぶ
「東ちゃん!!」
おもむろに彼女は振り返った
顔は青白く、頭から血を流している
彼女の“波”は、以前のものでは無かった
東ちゃんは変質していた
俺は東ちゃんに距離を詰めた
彼女は逃げるでも無く、俺の顔を見ている
無表情で
「誰?」
「俺だよ、覚えてないかな
前にここで会ってさ、それで」
「知らない」
「覚えてない?
花房君も一緒だったんだけど、奴のことは覚えてるよね?」
「知らない」
「覚えてないのか
屋上で『再現』を見たことも覚えてない?」
「覚えてない。何の話?」
不意に“波”が、少し強くなった
東ちゃんが俺に警戒してるのが嫌でも分かる
意を決した
「本当に覚えてない?
『三年前』のあの日のこと、『再現』で見たの」
「覚えてない。あんた誰なの? 何しに来たの?」
「東ちゃんのことが気になって来たんだ
『あの日』、何があったのか、俺は理解できたけど
東ちゃんの様子がおかしいみたいだったから、心配で」
「心配? 何が心配なの?」
東ちゃんは嗤っていた
眉間に皺が寄り、俺を睨み付けた、歪な笑顔
「やめてくれる? そういうのうざいだけだから。早く出てって」
「駄目だ聞けない、東ちゃんと話がしたいんだ」
「帰って。あんたも私のこと、笑いに来たの?
馬鹿にしに来たんでしょ? お願い、帰って。早く出てって」
「あんたも? 俺意外にも誰か来たの?
そいつが東ちゃんのこと、馬鹿にしたのか?」
「なんであんたなんかにそんなこと教えなくちゃいけないの?
助けてよ、私、あんたのこと殺したくないよ。頭の中でずっと声がして
みんなが、出てきて。違う、私、違うの、お願い止めて。もう帰って! 帰ってよ! 目の前からいなくなって!!」
今度は泣き出し始めた
遠くからのおぼろげな灯りを受けても、彼女の眼は微かな光すら宿していない
そして
彼女の“波”が先程よりも変化しているのが分かる
不安定に
まるで、暴走する都市伝説のように
コードに呑まれたANのように
「私がどれだけ怖い思いしてるか分かる? 分からないよね! 分かるはず無いよ!!
気づいたら、屋上に立ってるの、フェンスの向こう側に、そんな積り無いのに
そしたら、飛び降りてて、頭から真っ逆さまに、堕ちて、痛くて、寒くて、震えて」
「東ちゃん」
「私、好きじゃ無いんだよ? なのに、気づいたら、屋上に立ってて、もう一人の私が笑うの、
誰かを道連れにしちゃおうって、怖いよ、みんながさ、私の声で言うの、お前のせいだって、
違う、私、これ、好きじゃ無いし、私のせいじゃない、私だけ助かったんじゃない、違う、違う違う違うっ!!
道連れにすれば楽になれるって、私が言うの! 気付いたら、屋上に居て、私、違う、やだ、やりたくない!
違う、怖い、一人じゃないなら怖くないって、違う、嘘だ、私、やだ、こうはいを、やだ、私、私、後輩を殺したくないっ!!」
「東ちゃん」
彼女の手を、掴んだ
「言って信じてくれるか分かんないけど、君を助けられるかもしれない
俺を信じてくれるか、東一葉ちゃん」
東ちゃんは驚いたように眼を剥いた
不意に沈黙が場を支配した
「それ、知ってる。私の、私の――名前」
黙った
その代わり、彼女の言葉を肯定するために頷いた
東ちゃんの眼から大粒の涙が溢れ、零れ落ちるのを、ただ、見守った
「馬鹿じゃないの」
それは擦れた声だった
不意に“波”が和らいだ
「なんで早く助けに来てくれなかったの?
私が飛び降りる前に、なんで来てくれなかったの?
どうして私がこんなになってから、止めてよ、優しくしないで、もう私は、もう、遅いから」
「遅くないよ、こっちに来いよ」
「じゃあ、助けてよ」
顔を上げた彼女の顔は、もう歪んでいなかった
涙を零しながら、ようやく東ちゃんは声を発した
「助けてよ」
「 っ!?」
出し抜けに
“波”が強まった
さっきの比じゃない
なんだこれは!?
「そんなにカッコつけるんならさ、私のこと、助けてよ」
そして
東ちゃんは消失した
思わず舌打ちした
失敗した! 上手くやれば何とかいけると思ったんだが!!
「おいおいおいおい待て待て待て待て」
半井のおっさんの声にビクッとなった
そういや集中してた所為ですっかり後ろの皆のことを忘れてた
「ちょっと急に口説きに入った理由をね、おじさんに聞かせてほしい。何やってんだテメーは?」
「いやちゃんと理由があんだよ! 前に説明したろ!? 見ての通り、東ちゃんは“取り込まれ”かけてた!
前会ったときはあんなじゃなかったんだ! だから多分“揺り戻し”だろうと見当をつけたんだ
“取り込まれ”から引っ張り出すには、まず落ち着かせて、“名前を呼んでやること”、だろ!?」
「早渡、あのな? そういうのは“取り込まれ”が比較的軽い奴にはよく効くんだけどよ
俺の見立てじゃ、あの嬢ちゃんはほぼ“なりかわり”っつーか、もう完全に――」
『たすけてよ』
咄嗟に顔を上げた
献花された一角の遙か上方、校舎の屋上に人影は見えない
ならば何処だ?
「おっさん! 今の聞こえたよな」
「わあってるよ! “取り込まれ”のキッツい奴なら“オリジナル”通りにしか行動出来なくなるからな!」
「待ってよ、早渡の兄ちゃん、半井さん! 俺、さっきから置いてけぼりなんだけど!!」
「うるせえ新谷!! あの嬢ちゃんを探せ! お前の鼻は飾りか!?」
「原話通りなら“飛び降り”だ! 新谷さん、屋上に居ないか見てくれ!」
自分が何処でヘマしたのかを判断する材料さえ無い
明らかに踏んだ場数は少ない、とはいえそんなのは言い訳にはならない
俺がしようとしてたのは、“取り込まれ”かけたANを元に戻すこと
自我を獲得した都市伝説が自分の原話(オリジナル)に引きずり込まれかけたとき
それを阻んで、自我の側へと引っ張り戻してやることだった
もう少しで上手く行くんでは、と思ったのに
甘かったとしか言いようが無い
どうする?
こっから先はどうするんだ?
「居たよ! 兄ちゃん! 直ぐ上だ!!」
新谷さんとれおんの声に、意識が思考の渦から引っ張り出される
校舎から数歩離れ、改めて屋上を仰いだ
いる
東ちゃんがいる
先程は姿が無かったが、今はシルエットが見える
屋上の縁に、彼女は立っていた
どうする、俺
『お前は七尾(がっこう)で都市伝説の殺し方(ころしかた)は習っても、壊し方(たすけかた)は教わらなかったからな』
心臓が早鐘のように音を立てるのを感じながら
俺は彦さんの言葉を思い出していた
「七つ星」でお世話になった、俺の兄貴分だった
『尤も、契約者で都市伝説を態々壊そうなどと考える奴は、そうは居ないのだが』
彦さんの話では、AN、つまり実体化した都市伝説は
そもそも実体化している時点で狭義の都市伝説から逸脱しているのであり
それ故に、既に都市伝説では無いのだと、確かそういう話だった筈だ
思い出せ
『だから彼らは、ある面で生きているのであり、ある面で人を襲い[ピーーー]のであり、故にある面で[ピーーー]せるのだ』
“取り込まれ”かけた都市伝説が、その状態から脱するには
都市伝説が、自信の原話(オリジナル)から完全に支配されているわけじゃ無いことを示してやれば良い
あるいは、身を以て理解させれば良いのだという
『最も手早い方法は恐怖を与えることだ
残念なことに、恐怖というのは横槍を入れることにかけては最高と言って良くてな』
この話をしているときの彦さんは
何故か、寒気を覚える微笑を浮かべていた
兎に角、殴るか、さもなくば相手の服従する原話に基づく行動へ“介入”してやること
それが、都市伝説を元に戻す、あるいは壊す方法、らしい
曰く、実力が伴えば都市伝説を壊すのは容易い
だがまさか東ちゃんを殴り飛ばすわけにもいかないだろ
『少しで良い。少しだけ“干渉”してやれば良い
例えば「口裂け女」の質問に横槍を入れて掻き乱すこと
そうすれば、もしかすると彼女の中に混乱が生じて自我が芽生えるかもしれない。あるいは』
彦さんは酒を含みながら、薄く笑っていた
『健闘空しく彼女に殺されるだけかもしれない。そこはお前の実力次第だ、脩寿』
“介入”
今、俺にできること
つまりそれは東ちゃんに“介入”すること
具体的には彼女の飛び降りを阻止することだ
“黒棒”じゃ力不足だ
それだけじゃ東ちゃんを止められない
もっと“力”が必要だ
既に俺は、昔の感覚を呼び起こそうと、記憶の底から引きずり出そうとしていた
学校町に来てからあれはまだやったことが無い
これで無理なら俺には無理だ
「おい、早渡! 聞いてんのか!? ヤベえぞ!!」
東ちゃんが飛び降りる前に
“尾”を引きずり出せないと、終わる
不意に
昔、口にしていた聖句を思い出した
ANを発動させるときに必ず諳んじた一節を
されど主よ 我が目はなほ汝にむかふ 我 汝に依賴り
東ちゃんが飛ぶ前に
引きずり出せ
熱いモノを無理矢理引き抜くような痛みが背中に奔る
主観時間が一気に鈍る
東ちゃんの方を睨んだ
東ちゃんが、屋上から落ちた
重力に絡め取られながら
彼女の体が、落下していく
急げ
引きずり出した“尾”を見る間も無く
思い切り、天を指差した
“尾”がその方向へと、東ちゃんへと突き進んでいく
主よ 我 汝を呼ふ 願はくは速かに我に来たり給へ 我 汝を呼ふとき 我が聲に耳を傾け給へ
空っぽの頭で、その言葉に縋り付きながら
込み上げる怒りと絶望を抑え込みながら
俺は“尾”で東ちゃんの体を受け止めた
□■□
独自設定で勝手に学校町を拡張しやがって、と怒られそうですが
一応、ちゃんと参照元があります! と弁明します……
聡明な読者の皆様におかれましてはご存知の通りですが
学校町の地下(?)は20年ほど前の時点で水没しました
水没しました(多分)
アクマの人と花子さんの人に感謝と謝罪のの土下座 orz
投下がめちゃくちゃ遅れました
そしてギザ十の人にも感謝
本当は3話くらい一気出しする予定でしたが自分の未熟の所為で遅れに遅れてしまった……
次回、「私の方が先輩だからね!」「あの男……ぶっ[ピーーー]してやる……!」、やります
皆さん乙です
早渡がようやく本気出したか
しかも女の子を助けるなど着々ともげろポイントを稼ぎやがって…
かき氷の単発の人改め悪魔の人も乙!
冬場に氷菓が食べたくなる?普通だ!炬燵で雪見大福は格別だからな
かき氷にチョコシロップとは粋な演出ですね
ところで和装の美女は男の股間を見たのかそれが問題d(
ところで俺は今日職場でチョコを20個もらう予t(
「ぎゃぁぁぁぁあああああああああああああああああすっっっ!!!!!!!」
闇夜をつんざく、絶叫
歯を食いしばりながら頭上の声の主を仰いだ
東一葉
「三年前」の事件の犠牲者にして都市伝説「繰り返す飛び降り」と化した女の子
原話(オリジナル)に“取り込まれ”かけていた所に俺達が割り込んだ
何かって言うと、彼女が飛び降りようとしたところで邪魔をしたんだ
もっと具体的に言うと、飛び降りた直後に俺の“尾”で受け止めた
“取り込まれ”を阻止して彼女を正気に戻す方法をこれしか知らなかったからな
で、だ
「いやだあああああああっっ!! 離してええええええええっっっ!!!!」
「ちょっ! おいぃぃっ!? あああ暴れんじゃねえって!!! おいぃぃっ!!!」
正気に戻ったのか分からないが、めっちゃ暴れてる
状況を乱暴なほど簡単に説明すると現在彼女は宙高く浮いている
東ちゃんが飛び降りた瞬間に、生やした“尾”を飛ばすように引き伸ばして
“尾”の先端で彼女の体を掴んで止めたような格好だ
そして東ちゃんはなんでか“尾”から逃れようと死にもの狂いで暴れている
そうだな、ついでに言うと、俺が“尾”を生やしたのは本当に久し振りだ
少なくとも学校町に越してきてから“尾”を使ったことなんて――余計なこと考えてる場合か!?
「離しっ、やだあ、やだああああっ!!! 離さないでぇぇぇぇぇっ!! いやああああああっっっ!!!!」
「だからっっっ!!!!!!! 暴れんなってっっっ!!!!!!!」
「おい早渡!! 上だ!! 屋上に押し上げろっ!!!」
「出来るなら最初からそうしてらあああっ!!! クソっ! お、“尾”の感覚がっっ!! クソぁあっっ!!!」
「いやだああああああああああああああああああああああああっっっ!!!!!!!」
久し振り過ぎて上手く制御出来ないだなんて笑い話にもならねえぞ!?
兎に角、東ちゃんをホールドしたままゆっくり地面に下ろさないと!!
だが持つか? 持つのか俺の“尾”っぽ!? 持ってくれよ!!
途中から東ちゃんのパンツが見えたまんまになっちゃったが構ってる余裕はない
先程までの彼女の様子とは大違いな絶叫に半ば耳が麻痺したまま
“尾”がバラけないように全神経を制御に集中するしかない!
「おおっっ……!!! おあああっっ!!!」
「あとチョイだ、あとチョイっ! 早渡ィっ、踏ん張れぇぇっ!!!」
「離さないでええええええっっっっ!!!!! やだあああああああうお゛っっ、げほっっ、ごほっ」
「うおおおおおっ……!!! おあああああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っっっっ!!!!!」
その後
軽く一時間くらい経過したんじゃないかと思う
“尾”を使った所為か
全身から力が抜けるような脱力感に襲われながらだったので
その間のことは、もう記憶も飛び飛びだ
まず、東ちゃんを無事地面に降ろすことには成功した
“尾”を使うのが余りにも久し振りだった為か全身をくすぐられたような感覚だ
膝がガクガク笑いながらもどうにか気合で立っていたが
次に、東ちゃんは悲鳴を上げてその場から逃げ出した
「人面犬がいるううう!!」とか絶叫してたんで半井のおっさん見てビックリしたんだろう
今更だろって話だが半狂乱になって飛び出した東ちゃんを慌てて追い掛けたものの
東ちゃんを探し出すのに滅茶苦茶時間が掛かってしまったんだ
最終的に校舎と校舎の隙間部分の更に奥に隠れた東ちゃんを見つけ出して
何とか説得して出てきてもらったんだが、具体的に何を言って説得できたのかは
ほぼ何も考えずに喋ってた所為か、あまり覚えていない
ああ、ただ東ちゃんも正気に戻って前のことを思い出したのか
俺のことを記憶してくれてたようで、それが幸いした
こうして俺達は半べその東ちゃんになんとか出てきてもらったんだ
それで、だ
今の俺が何をしているかというと、
半井のおっちゃんの提案で何か飲み物を買いに行く所だ
この中学、高校とは違って自販機が設置されていないらしい
お陰で一旦校外に出た上で自販機を探さなくちゃならなくなった
正直まだフラフラしてるんだけどね
そう、故に早渡達は知り得ない
東一葉と合流を果たした彼らを遠方より観察する人影があったことに
「もうちょっと近づいた方がよくないのー?」
「駄目よ、これ以上距離を詰めて勘付かれたらまずいでしょ」
その者達は双眼鏡で早渡達の動向を監視していたのだ
「やっぱりあの人、犯人じゃ無さそうな感じなのー」
「何言ってんのよ!? 今見てたでしょ!? アイツが『学校の怪談』の子を追い詰めてるの!!」
「でもぉー……なんだか、助けようとしてる風に見えたなのー……」
「いいメリー? これだけ状況証拠が揃いつつあるのに容疑から外すなんて考えられないわ!」
「あれ、でも……、あの『怪談』の女の子は……」
「上手く逃げ出せたみたいね。それにしてもあの子、なんで今夜は屋外に居たのかしら?」
早渡が自販機を探すために校外に出た所も、その者達は把握していた
「まさか人間のみならず都市伝説まで襲ってるなんて……、とんだ見境無しね」
「どうするのー……? 今から追い掛けてやっつけるのー?」
「いえ、今夜はあくまで様子見、でも尻尾は掴んだわ。あの男、絶対に――」
片割れの声に、敵意が滲む
「――ぶっ[ピーーー]してやる……!」
その者達がどのように早渡と関わるのか
彼らはまだ、知る由も無い
●
「その、ありがと」
東ちゃんはおずおずとコーンポタージュの缶を受け取った
結局自販機を見つけるのに手間取って時間を使ってしまった
買ったのは手に持てる量の問題で俺と東ちゃんとれおんの分だけだ
「まあ、俺達の分は無いよね」
「新谷ぃ、そういうナマはテメエでプルタブ開けれるようになってから言えや」
「悪い、今度改めて奢るからさ」
れおんにみかんジュースのボトルを渡し、俺はスポドリのプルタブを開けた
喉の奥へと一気に流し込む。冷たさが体に沁みるのが妙に心地よい
少しは先程の疲れも紛れたかもしれない
「それで、さ。君は、わたしの心配して見にきてくれたの?」
「嬢ちゃん、キモいんならキモいってはっきり言ってやれよ。早渡の奴は喜ぶからよ」
「俺を変態みたいに言うのはやめろ?」
取りあえず余計なおっちゃんの一言に突っ込んで、東ちゃんに向き直る
「ほら。花房君から『三年前』の真相を聞くってときにさ
東ちゃんも一緒だったら事件の『再現』にも付き合う、って答えたじゃん
なんつーか、俺の都合で勝手に東ちゃんを巻き込んだわけだし」
「気にしないでよ、あのとき言った通りだから
わたしもあのときのこと、『飛び降り事件』のこと、知りたかったし」
彼女は両手でポタージュ缶を握ったままで答えた
その顔は外灯があるとはいえ、校舎の陰に紛れてよく見えない
「そっか、わたし都市伝説になっちゃったんだ
なんかまだよく信じらんないよ、死んだ人間が都市伝説になるってあるの?
ていうかさ、都市伝説って実在するんだ?」
「現に目の前に居るだろ、人面犬の俺や『コロポックル』のガキがよ。それに早渡は『契約者』だ」
「契約者?」
「都市伝説と契約を結んだ人間のことだよ」
おっちゃんの説明を一応補足しとく
とはいえ、今の東ちゃんにとって必要な説明では無い気もするが
「死んだ人間が都市伝説になるかは、珍しいことだけど前例が無いわけじゃ無いしな」
「そっかー……」
東ちゃんの声は何処か困惑気味だ
仕方がない、いきなり理解しろってのが無理な話だ
「それで『再現』見終わった後、東ちゃんが急に居なくなったけど」
「ごめん、実はあの後のことも、あんまりはっきりと思い出せないんだ
なんて言えばいいんだろ、この姿になってからさ、今日屋上から飛び降りるまで、ずーっと悪夢見てたみたいな気分
悪夢の中にいた、って言った方がいいのかな」
花房君が花選びのセンス無いってとこはハッキリ覚えてるんだけどね
東ちゃんはそう困ったように笑ったようだった
「あと、あー。あの、さ
出来れば、さっきわたしが、飛び降りる前に話してたこと
あの、全部忘れてくれると嬉しいな、って、ダメ? ダメかな?
さっきのって、なんかうわ言みたいな感じだから。もう、恥ずいから
わたし、すっごい冷たいこと言ってたよね、あれ本心じゃないからね? だから忘れてね?」
「ん、OK。今夜限りで後はさっぱり忘れるよ」
「あと、さ。そろそろ名前教えてよ!
いつまでも君呼びは嫌だし、それにそっちはわたしの名前知ってるのに
わたしが知らないって気持ち悪いじゃん! だから名前教えて!」
おん?
まだ自己紹介してなかったか
「俺は早渡脩寿。高一だよ」
「むー、高一なら、ええと、うーん、多分わたしより一個下だよね?」
当然そうなる
花房君の一つ年上って話だったからな
「じゃあ、あの! 東ちゃんって呼び方はやめよーね!
一応わたし、君より先輩だし! 敬っていいんだぞ!? ていうか、あの、敬って!!」
あら
ひょっとして東ちゃん、改め東先輩は意外と上下関係を重んじるタイプなのか
これは意外だな
「じゃあこれからは東先輩と呼ぶことにするっす」
「あっ、ちがっ、待って! そうじゃなくて! 東ちゃんなんて呼ばれ方が嫌なだけだから!
あの、ほら! いよっちって呼んでよ! わたしのあだ名だから!」
「いよっち先輩」
「そ――そうそう!!」
なんだ、いよっち先輩
握りこぶしな両手をポタージュ缶ごとぶんぶん振ってるが
そんなに先輩呼びが嬉しかったのか
てかリアクションが一々面白いな
「それで、青春タイムの最中悪いが、俺達も自己紹介がまだだったよな?」
半井のおっさんの声にいよっち先輩が固まった
どうもおっさん達の存在を殆ど忘れてたんじゃないだろうか
「俺が半井、『人面犬』な? で、こいつが俺と同じく新谷だ
で、こっちのチビが『コロポックル』のれおんだ」
「いよっちちゃん、よろしくね」
「いよっちせんぱい」
「へ、あ、あー、ちっちゃい子にそう呼ばれると、なんかその、恥ずいよー!」
れおんの奴、さっきからずっと黙ってたのに
澄ました顔でいよっち先輩呼びとは中々やるな
「でも何だかこうやって人と話するのって久し振りだよ!
前に花房君達と話したけどさ、そう言えば話し掛けてくる人なんて今まで居なかったなーって
自分のこと、ずっと幽霊だと思ってたから、中学の子もみんなわたしが見えないみたいで――」
「――あ、ふ
っと、ごめん。安心しちゃったのかな。ちょっと眠くなってきちゃったよ」
眠気が? そりゃいい兆候だ
睡眠や食事はANには必ずしも必要の無い要素だ
そもそもコードに忠実な個体になると欲求は全く必要なくなる
こうした欲求は“取り込まれ”から脱して自我を維持していく上で重要だそうだ
まあ全部彦さんからの受け売りだけどな!
というわけで俺がコーンポタージュをチョイスしたのも決して気まぐれからじゃない
「ところで嬢ちゃん、今夜は何処で寝るんだ?」
「え、あ。それ考えてなかったや」
「でも今まで中学に居たんだよな?」
「うん。でも、さっきも言ったけど半分悪夢見てたような感覚だし
学校で寝てた覚えが正直無いっていうか、ていうか夜の学校で眠るなんて怖いしやだよ!?」
「どうする? 早渡」
「いよっち先輩。……うち、来る?」
「え? それって早渡後輩の、お家? え、うーん」
「まあまあ待て待て早渡、いくら都市伝説とはいえ年頃の嬢ちゃんだ
オメーのような野郎と一つ屋根の下ってのはちょっち憚られるだろ」
「まあそりゃそうなんだけど、他にベターな案が無くってさ」
流石に高奈先輩に頼るってのはまずい
いきなり女の子を連れてきて泊めて貰うよう頼むなんて、向こうからすれば困惑モノ過ぎるだろ
「おっさん、そっちに伝手はあるか?」
「無いわけじゃねえが、ちょっち話つける必要がある。久し振りに会う相手だからな」
成程、ならばおっさんに任せよう
一応当初の手段として用意していた、いよっち先輩を「七つ星」に連れて行くって手もある
学校町から向かうとしたら結構手間な手続きを踏むことになるが、何も考えなかったわけじゃない
「そういや肝心なことを忘れてたんだけどよ
嬢ちゃん、お前都市伝説になってから中学の外に出たことあるかい?」
「え? ううん、無いと思う。考えもしなかったから」
「何だおっさん、何か引っ掛かる所があったのか?」
「いやよ、『繰り返す飛び降り』が地縛霊みたいなもんだったら
そもそも嬢ちゃんが学校から離れられっか怪しいぜ」
「えー、いくら何でもこれ以上夜の学校に居るのはやだよ!!」
いよっち先輩はやや涙声だ
半べそになる程にここが嫌なのか
いや、気持ちは分かる。この中学、妙に雰囲気が不穏だし
「大丈夫、策は用意してある」
「ほんと!?」
今夜中学にやって来たのは確かにいよっち先輩の様子を確かめるためだった
だが、以前の状況から彼女が“取り込まれ”かけていることも考慮に入れて計画は立てていた
万が一いよっち先輩を保護するとなった場合のことも一応は考えてたんだ
何も考えずにのこのこ中学に来たわけじゃ無いぜ
「おし、用は済んだしとっとと帰ろうぜ
何だか静か過ぎる夜でよ、薄気味悪いもんだ――」
全身が総毛だったのはこの瞬間だ
途轍もない“波の先触れ”が脊髄を撫でた感覚
口より先に体が動いていた
いよっち先輩とれおんを掴むように、奥へと押しやった
「物陰に隠れて!! 速く!!」
直後、後方で爆破音
何かが地面に直撃したような振動が脚伝いに奔った
「うひゃい!! 何? 何なの!?」
「クッソ、このタイミングで来たのかよ!? 新谷ィ! れおんの傍、離れんな!!」
「いよっち先輩、姿勢低くしてて!」
遠い外灯の光を受けて、地面に突き刺さったそれが鈍い輝きを放っている
玉虫色のような不気味な反射光だ
「早渡やべーぞ! ありゃピンポイントでこっち狙ってやがる!!」
校舎が死角となって現時点では襲撃者に直視はされていないようだが
動きを悟らせないよう、僅かに足をずらして校舎の縁から空を睨んだ
不気味な低音の唸りを上げながら、「奴」が滞空している
俺達はたった今、「モスマン」の標的にされた
□■□
Q.いよっち先輩を受け止めたとき、どうして早渡は情けない声で絶叫していたのですか?
A.
早渡「いやほら、“尾”を出すの久しぶりだったし」
早渡「“尾”って腰からじゃなくて背中から生やしてるんだけど」
早渡「なんというか感覚的に凄くくすぐったかった」
早渡「なんかこんな風に言うと我ながら間抜けっぽく聞こえるけど」
早渡「全身が強制的に力抜けそうになったからね?
気合入れなきゃいよっち先輩を落っことしてたかもだしね?」
早渡(てかこの程度でくすぐったいとか駄目だろ俺)
早渡(自主トレに励まないと……いっそ禿げ上がるくらいに……)
??(気にせず、電話、してくれても。良いのに)
??(もう長いこと脩寿くんと話してない……)ワナワナ
??(出番が無いですの……でもこれくらいじゃへこたれませんの……)プルプル
??(あの男……絶対この手で[ピーーー]……! 絶対にぶっ[ピーーー]してやる……!!)
前回からほぼ一ヶ月か、遅い(白目)
花子さんとかの人に土下座です orz
次回でいよっち先輩については一区切り付く算段です
>>140
>ノイちゃんも沢渡もサンタコス着ようぜ
遅くなってすまない……>>158をご覧頂きたい!
>>174
>という検索結果が出たよ翔太郎
……もうちょっとポジティブに行こうぜ相棒(違う)
真面目に行くと1~3までさもありなん、といった所ですね
流石に中の人淫行につき逮捕なオチは避けたい
>>180
>次の展開を期待しておりまする
ありがとうございます。次の次はピエロ行きます
>>193
>しかも女の子を助けるなど着々ともげろポイントを稼ぎやがって…
早渡のもげろの時は近い
「ピエロ」回りで混乱を催したのは次世代ーズの中の人の責任なので
終わりまではみっちり致す所存であります…… orz
なあ、俺今、一生懸命前の続き書いてる。
スマホから書いてるんだが、「幼女は」の続きの予測変換が「最高だ」ってなるの、何故だと思う…?
>>207
予測変換で「幼女は」「最高だ」と来ましたか……
自分は「消したけど」が来ましたが、つまり鳥居の人は……(ゴクリ)
例によって過去スレ見返してますが
ひかりちゃん初登場は戦技披露会のときか、ふむ
滞空するのは黒い人影
だがあれはヒトじゃない、体躯以上に拡げられた翅がその証拠だ
おまけに顔面と思しき部分からは二点の真っ赤な光を放ってやがる
「『モスマン』か……、この距離で見るのは初めてだけど
ほんと毛むくじゃらのジャミラみたいな奴だな……」
「完全に俺達狙いとなっちゃあ戦るしか無えぞ、早渡」
分かってるって、ここに来る前の約束だったしな
『今夜は俺の所用に付き合うこと
もしもヤバそうな都市伝説に会ったらまず俺が相手すること』
そういう条件で半井のおっさんは同行してくれることになったんだから
「しっかし『モスマン』かよ。頑張るけどさ」
校舎の死角から向こう側を窺うようにモスマンの動きを警戒する
あっちは大きく八の字を描くかの如く緩慢に羽ばたいているが
大きく移動を開始する素振りは見せていない
どうも滞空してこちらの様子を観察しているらしい
「早渡どうする、タイマン張んのか?」
「馬鹿言え、遠距離相手じゃ分が悪すぎるよ
いよっち先輩を逃がす時間稼ぎだ。頼んだぜおっさん」
「そっちは任された。だが相手は『モスマン』だ
二手に別れたら直ぐに勘付かれちまうぞ?」
「仲間を呼ばれる前に急いだ方がいいな
一応確認するけど、アイツ以外に他の『モスマン』は来てないよね?」
「アイツだけっぽいな、ニオイも気配も」
おっさんの言う通り、俺達を狙った「モスマン」はあの一体だけ
“波”を読もうと既に感覚は全開だが、他の個体が付近に居る様子は無い
少なくとも、今の所は
「逃げるなら今だな」
ジャケットの内ポケットから白いマフラーを引っ張り出した
それを不安そうな顔をしたいよっち先輩の首に巻き付ける
「早渡後輩!? 何すんの!? って、何これ」
「マフラーだよ、特別製の。学校出るまで絶対外すなよ?」
「おし、れおんは新谷に乗れ! いつでも走れるように準備しとけよ!」
やるしか無いのは分かってる
分かってるんだけど一応おっさんに訊いとこう
「知り合いにさ、戦闘慣れした契約者か都市伝説さん居ないのん……!?
出来れば、こう、遠距離が得意な方とかさ!」
「居るには居るが、どいつもこいつも近場じゃ無えな!
それに呼んでる時間が無えわ! まあ気張れや!」
気軽に言ってくれるな、おっさん
あれだ、今は敵を撒くことだけを考えよう
「んじゃ、当初の手筈通り何かあれば直ぐに連絡」
「何も無ければ連絡無しで逃げ切る、だろ。そっちは準備OKか?」
「大丈夫だ。じゃあ――始めるか」
身を翻して校舎の縁越しに「モスマン」を睨んだ
不意に奴の体が下方へとブレた
先程よりも羽音がうるさくなり出した
確かな手応えは感じた。正しくは“尾”伝いの感触だが
「モスマン」の様子を窺ってたときから既に“尾”を生やして
地面や校舎の壁を這わせるように引き伸ばし
真下の位置でとぐろを巻きつつ、奴を捕らえる瞬間を窺っていたんだ
ただ単に奴の様子を眺めてたワケじゃない
くすぐったさは気合で我慢だ
掴んだからには離すつもりは無い
“尾”の制御だけで「モスマン」を地面へと引っ張り込む
奴が地面に叩き付けられる感触と同時に墜落の激突音が校舎越しに聞こえた
今だ
片手を高く上げておっさん達に合図を送る
「ほら! 嬢ちゃんも走るぞ! 急げ!!」
「え? え? ちょ、え!? でも早渡後輩は!?」
「話聞いてなかったのか!? いいから逃げんだよ!!」
その瞬間、おっさん達は踵を返して駆け出し始めた
おっさん達、ほんと大丈夫かな
なんて心配している場合じゃない
さあて「モスマン」、暫く付き合って貰うぜ
奴は今、“尾”に引き込まれて地面に墜落したままのはず
十分な時間はこっちで釘づけにしないと
ただし悠長にやり合ってるわけにもいかない
既に仲間を呼ばれていたとしたら面倒なことになるからな
校舎の陰から出る
奴は恐らく校庭に落っこちたはずだ
速足で前方に向かうと、いた
校庭のほぼ真ん中で黒い影が暴れ回っている
あれが「モスマン」だ、どうも“尾”が絡んで身動きが取れないらしい
なら好都合だ
一旦、生やしていた“尾”を切断した
そして再度“尾”を発現する
引きずり回してぶち転がそう
新たに生やした“尾”を前方の「モスマン」めがけて撃ち込んだ
奴の脚と思しき部分に先端が絡み付く
いける、このまま引きずり回しだ
重心を落として“尾”を強く引き込む
それに合わせて「モスマン」の体が引き摺られた
重い、こっちが引き摺られないようにしないと
俺がそこまで考えていた、そのとき
「モスマン」と、目が合った
「は」
強い、敵意が、奔った
「げっほ、ごほっ!! がはっ」
完全に油断した!
血を吐いてる場合か俺!!
直ぐ立って身を隠さないと!!
全身が痛む、がここから離れないとやばい
頭痛が酷い、頭の中をガンガン響きまくってる
奴はどうなった!? “尾”を振りほどいたのか?
前方を睨む
奴はこちらを見ていた
“波”の重圧が凄い、殺意満々じゃないか
「モスマン」は“尾”を全て引き千切ったようだ
地面から2、3メートルの位置で滞空したまま翅を拡げている
照準は、俺に向いている
「やっべ!!」
身を投げ捨てるように横合いに跳んだ
直後、腹の底を叩き付けるような轟音と震動が襲った
「ごほぉっ!!」
大丈夫だ、直撃じゃない!
奴の攻撃で割れた窓のガラス片から身を庇う
落ち着け!
さっき、俺はアレを食らったんだ
モスマンから放たれた“何か”を受け、俺の体は校舎まで吹っ飛ばされた
いや、直撃では無かった。あんなの直撃したら、俺の体はバラバラになってたはずだ
だが、直撃でなくとも俺は吹っ飛ばされて、校舎に叩き付けられた
一瞬何が起こったか分からなかった
鱗粉の一撃でも食らったかと思ったが、それも違う
仮に鱗粉弾だったとしたら俺の体は真っ二つだ
じゃあ何だ、何なんだあの攻撃は
転がり込むように再び校舎の陰に逃げ込んだ
乱れた呼吸以上に手前の心臓の鼓動が大きく響く
俺が一発目を食らって血を吐いて地面に倒れてる間に、奴は起ち上がった
そして俺と目が合った瞬間、二発目を撃ち込みやがった
あれは鱗粉攻撃では無かった
だとしたら何だ、相手は「モスマン」、蛾だ
攻撃の直前、奴は翅を拡げていた
そして直前には強い殺気を放っていた
いやだが、あれが鱗粉で無いなら、――まさか音波か?
確かに蛾はある種の超音波を知覚するらしいが
コウモリのように超音波を発信するか? あり得ないとは言えない
だが待て、そもそもだ、ANなら「基本、何でもあり」だろうが!
しっかりしろ俺! “科学の見方”で考えたらアウトだ、相手はANだぞ
深呼吸を繰り返す
今のところ、奴が距離を詰めてくる気配は無い
だが“波”が完全にこっちに向けられている、俺を警戒している
一旦、奴の攻撃を「音の塊」を放つものだと考えよう
頭の中を断続的に押し寄せる鈍い痛みに奥歯を噛み締める
体中にぶつかってきた衝撃は、音の塊か
だとしたら脳みそ含めて外から内から揺さぶられたわけだ
確か、二発目の攻撃の直前に翅を拡げていたが、つまりあれが攻撃部位か
一発目のときはどうだった?
確か、奴は不意に上体を起こして、翅を拡げたんじゃなかったか?
呼吸が落ち着いてきた
おし、そろそろ反撃の時間だ
奴の注意はこっちを向いてる、今がチャンスだ
携帯を内ポケットから取り出す
幸いなことに奴の一撃で壊れたわけでは無いようだ
おっさん達から特に連絡は無い、ので首尾よく逃げ切ったんだろう
携帯をポケットに戻しながら、考える
「モスマン」からは「組織」特有の臭気は感じない
尤も、“波”を隠蔽している線は排除できないが今は措こう
問題なのは独身のANにこんな器用な真似ができるかどうかだ
無論答えは否だ、コイツは間違いなく「契約者持ち」だと見ていい
だとしたら何の為に? 何故俺達を狙った?
単に喧嘩が売りたかっただけか、それとも別の目的か
俺は最初、「モスマン」は狐の配下なのかを疑った
「狐」の影響を受けているなら多かれ少なかれ“波”に影響はあるはずだとも考えた
奴はどうだ?
「狐」の配下なのか?
分からない
奴の“波”からは特に何も感じない
ただ俺に対して強烈な殺意を向けているだけだ
これ以上考えても仕方ない、反撃の時間だ
俺は校舎脇に置かれていた金属製のバケツを掴んだ
「モスマン」が徐々に移動を始めた
ゆっくりとだが前方へ、校舎へ向かって進んでいる
未だに俺の動きに警戒しているようだ
だが、俺はもう奴の前には居ない
校舎の死角から奴の動きを盗み見る
俺はバケツを掴んで校舎を回り込むように移動した
丁度、「モスマン」からすれば向かって右の校舎の陰に潜んでいる
“波”を読むに、奴はまだ俺が前方校舎に隠れているものと思い込んでいるらしい
だとしたら好都合だ
勿論「モスマン」が俺に気付かないフリをしてる可能性だってある
油断は禁物だ
しかし、それでも
この機会を逃がすわけにはいかない
準備はもう出来てる、早速仕掛けに行くぞ
腕を大きく振るい、バケツを宙高くに投げ上げた
バケツは放物線を描きながら――狙い通り、モスマンからやや左側に落下した
校舎の壁に音が跳ね返って甲高い残響音が響く
「モスマン」が身動ぎし、翅を拡げ掛けた
校舎の陰から飛び出す
「おい! 『モスマン』っ!!」
喉に痛みが走る程の大声に、奴は気付いたようだ
翅を拡げたまま、こちらへ身を向けようとする
待ってました
俺は背後に隠していた“尾”を大きく振りかぶる
今、俺の腕より少し長めに発現した“尾”の先端が握っているのは
飴細工を引き伸ばすようにして生成した、槍の形状をした“黒棒”だ
右腕を振りかぶるのと同時、“尾”がそれに同期して動く
渾身の勢いでボールを投げ付けるように
“尾”で“黒棒”を投擲した
まだだ、まだ終わりじゃない
投げられた“黒棒”は意外なほど正確に、奴の片翅に突き刺さった
「モスマン」の体が、衝撃のためか、大きくぶれた
今だ
「 爆ぜろ 」
声と共に、“黒棒”が破裂した
声が、いや“波”が、夜の大気を劈いた
これは「モスマン」の声か!?
頭の中に響く奴の“波”が鋭い痛みを齎す
直後に窓ガラスが割れる音が響いた
一度だけじゃない、次々とガラスの割れる音が鳴り止まない
「モスマン」の「音の塊」だ
やたらめったらに周囲を攻撃してやがるんだ
“波”がこちらへ向こうと迫るのを捉えた
ぼさっとしてる場合じゃない!!
校舎の陰へと回避した直後、さっきまで立ってた場所を殺気が奔っていった
物凄い圧を感じる、なんて野郎だ!?
腹の底を揺すられるような感覚が持続する
もう一発、ブチ込んどいた方が良かったか?
不意に、殺気が止んだ
改めて感覚を押し拡げる
“波”は感じる、「モスマン」のものだ
だが、先程よりも恐ろしく弱まりつつある
致命傷を与えたのか?
いや違う、“波”が遠ざかりつつある
どうやら奴はこの場から逃走したようだ
周囲に警戒しつつ、校舎の陰から外へ出た
中学は不気味な程に静まり返っていた
先程の「モスマン」との一戦が嘘であるかのような静けさだ
取りあえず、つい先程まで「モスマン」が滞空していた場所へ向かう
そこには、黒いモノが落ちていた
暫く眺めて理解した、これは「モスマン」の片翅だ
“黒棒”が破裂したとき、狙い通り奴の翅を破壊できたようだ
主から切り落とされたそれは、都市伝説が消滅するときのように
淡い燐光に包まれながら、光の泡と化しつつあった
さて
手負いの「モスマン」を深追いするつもりは微塵も無い
アイツが仲間を呼んで戻ってこないとは言い切れない
そして、これだけ「モスマン」が暴れ回ったからには
この場に「組織」が駆け付けないとも限らない
再度感覚を全開にするが、他に“波”は無い
今の内にこの場を離れた方が良さそうだ
それも、一刻も早く
気づけば公園のベンチに寄り掛かっていた
体中が重い、というか中から鈍い痛みが断続的に押し寄せる
何とか立ち上がりながら辺りを見回した
ここは確か、南区の公園のはずだ
中学は東区だったから、つまり俺は
半ば記憶が飛んだまま、ここまで逃げてきたってことか
この公園、そういや半井のおっさんから「モスマン」の話を振られた場所じゃないか
別にどうってわけじゃないけど、どことなく因縁を感じる
体を動かす度に痛みが響く
あの「音の塊」、直撃こそ回避したものの、相応にダメージは入ったらしい
こりゃ、明日学校休んだ方がいいかもしれない
水飲み場の蛇口を捻る
その冷たさが心地良い
噴き出る水を直接顔に当てた
そのまま水を飲む
急に胃から込み上げてきた
もうそのまま吐き捨てると、口の中に血の味が広がった
相当かもな、これ
水飲み場に広がった赤が徐々に排水される
その様をぼんやりと眺めながら、水を飲み、また少し吐いた
不意に胸が震えた
と思ったら携帯の着信だ
半井さんからか? 慌てて身を起こし、確認すると確かに半井さんからだった
『お? 無事か早渡!? こっちは首尾よく逃げ果せたぞ!!』
「こっちも何とか撒いたよ、思った以上にヤバい奴だったじゃないか、おい」
『それよりお前、あっちょっち電話代わるからな! てか、知り合いなら最初にそう言っとけよ!!』
うん? なんだ、いきなり
ちょっと何を言ってるのか理解できなかったが
『早渡、君? 高奈です、今、どこに、いるの?』
うん!? 半井のおっさんの携帯に、高奈先輩が、出た?
「いやあの、今、南区の公園なんすけど。って、なんで先輩が」
『あら。前に、言わなかった、かしら。私と、半井さんが、知り合いだって』
初耳だ
いや待て、聞き覚えがあった、はずだ
確かあれは――そうだ、「怪奇同盟」だ
篠塚さん所を訪問したときにそんな話を聞いた覚えがある
『大体の事情は、半井さんから、聞きました。一葉さんのことは、任せて』
「――ッ!! そうだった、すいません。あの、いよっち先輩のことなんすけど」
『大丈夫、半井さんと新谷さんから、話は聞いています。こっちは、心配しないで』
「そ、それは……、良かった……」
『それより、「モスマン」を足止めしたと、聞いたのだけど。早渡君は、大丈夫なの?
今、私達は、辺湖にいるから、南区なら、直ぐに行けるわ。場所は、何処?』
「いや、あの! 大丈夫っす! 俺はピンピンっすから!」
『嘘は、駄目よ。声が、かすれているもの』
「いやあのほらっ!! これは本当に大丈夫なんすよ!!
走って逃げてきただけなんで! 一応これでも鍛えてるんで! まじで!!」
考えなくたって理解できる
いよっち先輩のことを半ば押し付けたような形だ
俺のことで迷惑掛けるわけには、絶対にいかない
「それよか、いよっち先輩のこと、よろしくお願いします!
色々と事情はあるんすけど、改めて全て話しますんで」
『難しいことは、これから考えます。
まずは、手当とお風呂が先ね。彼女も、もう、眠そうだし』
「眠そう? そりゃあ良かった……あの、半井のおっさんに代わって貰えるっす?」
『……分かりました。
――んあ、早渡どうした? 無事か? どうだった「モスマン」は』
「片翅引き千切るとこまではやったよ、ただあいつも相当暴れたけどな」
『ハネもいだのかよ、やるじゃねえか。だがそうなると仕返しに来ないかが心配だな』
「今気になるのは『組織』だ、連中動くかな」
『多分な、一応学校町の全域はあいつらの監視下にあるようだし
「モスマン」が暴れたとなっちゃ奴らも黙っちゃいねーだろ』
「OK分かった、一応警戒しとくよ
あとさ、いよっち先輩のこと、ありがと」
『へっ、頼まれたからにはきちんと仕事するって言ったろーがよ、んじゃな』
電話を切られた
最後のは照れ隠しか?
まあいい、とにかく当初の目的は果たせた
体が最早だるい
そのままベンチに寝転がった
痛みが引くまでの間はこれで凌ごう
待てよ、そういやアレ持ってきてたっけ
寝返りを打って、背中に手をやった
蠢く“尾”を掻き分けるようにして手を突っ込み、目的のブツを掴んだ
ソレを引っ張り出す
褐色の瓶に詰められてるのは「えりくさあ」の希釈液だ
蓋を開けて一気に流し込む
こいつは、効く
体中に沁み込む
若干痛みが駆け抜けていくが、多分大丈夫だ
少しだけだ、少しだけ休もう
俺はそのまま目を閉じた
□□■
今夜は以上
次はずっと空いてた22の話やります
正義「嘘をつく暇もなかったね」
剣裁「正直スマンかった。詫びに舞い降りた大王書くから」
正義「エイプリルフールは午前まで、だからね?」
女子高生を登場させたい
ボクっ子の女子高生を登場させたい
なりゆきでサキュバスと契約させたい
それで次々と男達を誘惑して篭絡して堕落させたい
色々やった後に早渡君と知り合いになって仲良くなりたい
その後で騙して二人っきりになった後に押し倒して男女の関係になりたい
女の味を教えまくって足腰立たなくなるまで搾り取った後に他の女じゃ満足できなくなるまで洗脳したい
最後に「ゴメンね☆我慢できなかったから許してニャン♪」って言いたい
皆さんこんばんは、次世代ーズの中の人です
GW中は働き詰めが決定したため燃え上がっていますが
あと2本出せば一応「ピエロ」回りの最低限の説明ができるかなという認識です
(現状今のままでも「ピエロ」は暴れ回れるし、東区で暴れ回ってるので「ピエロ」側としてはなんの問題もない)
今のところ【「ピエロ」の本格活動】は、花子さんの人、鳥居の人が前スレで投下された
「バビロンの大淫婦」消滅~死亡フラグ組の落着(前スレ >>475-479、641-648、663-665、668-669、674-676)
の【翌日、日没前後】で行きます
このスケジュール固定で頑張ろうと思う
このペースなら多分行けるはず
裏方は避難所に置きます
>>222
地の文おじさん「やれるもんならやってみろ!!(煽り) いえ是非やってみろください!!」
早渡に興味を持って下さったことは非常に嬉しい
しかし早渡はサキュバスが怖いというか、ぶっちゃけトラウマなんですが
果たして大丈夫かな?
早渡君は男を見せてくれるって信じてるぜ!
この話には穏やかな暴力・グロテスク描写が含まれています
苦手な方は>>232までスキップして下さい
○今回の話
※この話は作中時間軸で【9月】の出来事です
※この話には「前回の話」が存在しません
山沿いの車道をミニバンが爆走していた
その後を縋るように大型二輪が追い掛けてくる
二台ともかなりの速度を上げているが、ミニバンは車体そのものが大きく揺れていた
まるで中で何かが暴れているかのように
追走する二輪のドライバー、薄汚れた灰色の小男は
風圧に振り飛ばされまいとほぼ二輪にしがみつくような体勢で
しかし、ミニバンが暴れる様子を細目をこらして観察していた
彼、「チュパカブラ」は都市伝説、厳密にはUMAと呼ばれる存在だ
この者は東海地方で活動にしくじった挙句、生命の危機に瀕する重傷を負い
奇跡的に一命を取り止めた後に同行者らと学校町を目指していた
「チュパカブラ」の注意はミニバンの中で行われている密事へと向けられていた
ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン
「思った以上に曇広がるの早いな」
誰に言うでも無く、運転手はそう漏らした
眉間に皺を寄せてフロント越しに空を見つめる
山の向こうからは急速に暗雲が拡がり始めていた
「こりゃ一降り来そうだな」
「ピエロ」のドライバー、「ルーキー」はそうぼやいた
彼はまだ十代ほどの若い青年で、特に道化の装束の化粧も施してはいない
今は特にそうする必要が無いからだ
ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン
そして彼の呟きは後部席の男に聞こえることは無かった
まず車内には大音量でサイケめいたトランスが響いているからだ
ルーキーには正直な所、耳が潰れると錯覚するほどの爆音だ
サッカンサッカンサッカンゴーカン💛 ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン
ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン
次にルーキーは後ろの男に声を掛けた訳では無かったからだ
むしろ彼は後部席の状況に注意を向けないように振る舞っていた
それもそのはず
後ろでは「ジョー」が少女を犯している真っ最中だったからだ
ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン
ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン
「こいつぁスゲえぞ」
全身薄汚れた半裸を震わせながらジョーは唸った
この者の巨体が下敷きにするのは暴行を加えられた少女だ
四肢を鉄の拘束具で固定され体操服を引き裂かれた格好の少女は
既にジョーに何度も突き上げられ、口から血混じりの泡を吐きながら失神していた
その横に、少年が同じようにして拘束されていた
ほぼ全裸と言って良いほどの状態で暴行の程度は少女よりも深刻だ
全身にどす黒く変色した青痣と切傷を負い、顔面は大量の鼻血と汚物で塗れていた
異様なほど充血した両眼は既に意識が無いためか焦点を失っている
ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン サッカンサッカンサッカンゴーカン💛
少女と少年は「花子さん」と「太郎さん」
ジョーが学校町への道中、ついでに拉致した子ども達だ
「底が見えねえ、やっぱ都市伝説はいいもんだ、なあ!」
「ぐっ お゛っっ い゛ぎっ、 た゛ろ゛ っ く゛」
不意に太郎さんの眼に、意識が宿った
「はな゛こちゃっ」
ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン
ジョーに下腹を蹂躙されている花子さんに向かい
少年は手を伸ばそうと拘束具に抵抗し
「何やってんだオイ、餓鬼」
ジョーの右手によって阻まれた
先程のように、拳が二度、三度、少年の顔面に叩き付けられ
「オラ、餓鬼はコイツで遊んでろよ」
先程と同じく、黄褐色の薬剤が詰まった注射器が
痛々しい程に勃起した少年の陰茎突き立てられた
躊躇もなく、薬剤が太郎さんのナカへと一気に注入される
ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン
ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン
「ああ゛ああア゛ア゛ぁぁァああ゛あ゛あっっアア゛あ゛ぁぁ゛ァぁああアあ゛ッああ゛あ゛あ゛アア゛あああ゛あっッ!!」
ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン
ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン
太郎さんの絶叫は車内のBGMによって掻き消された
最早悲鳴を上げようにも声が出ない程に彼らの喉は傷つけられ過ぎていた
太郎さんも、花子さんも
「やだこれやだこ゛れ痛い♥助けて゛痛いやだやだやだ♥助け゛て
もう悪いこ゛としな゛いから♥助けてい゛やだこれ♥怖いやだちん゛こ壊れち゛ゃうたすけ゛♥」
少年は踏み躙られ過ぎた局部に手をやることさえ叶わず
拘束具に固定されたままでその場を掻き毟る両手の爪は既に全てが剥がれており
もう自分が何を叫んでいるのか理解できないまま全身が痙攣を始め
少年の痛々しく膨れ上がった陰茎からは血に染まった大量の精液が強制的に噴き出され
両眼の血管は既に破裂し血の涙を垂れ流したまま、やがて血塗れの白眼を剥きながら汚物を吐き戻した
ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン
ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン
「 」
「 たろう くん 」
「 」
ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン
ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン
サッカンサッカンサッカンゴーカン💛 ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン
ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン
「 」
ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン
ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン サッカンサッカンサッカンゴーカン💛
「
」
ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン
ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン
たすけてくださいだれかたすけておねがいしますたすけてください
ぼくはどうなってもいいからはなこちゃんをたすけてくださいぼくはもうむりですたすけてくだ
ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン
ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン
ほんとはわかってる だれもたすけになんかこないって
ぼくたちみたいなやつを たすけてくれるひとなんかいないって わかってるんだ
ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン
ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン サッカンサッカンサッカンゴーカン💛
これはぜんぶわるいゆめ
めがさめたらぜんぶおわるんだ
そしていつもみたく はなこちゃんとあそぶんだ
もうこわいものはなにもないんだって ずっと ずっといっしょに
ずっと はなこちゃんと いっしょに
ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン
ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン
「たろう くん たろうくん 」
ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン
ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン
譫言を漏らし続ける太郎さんに一瞥もくれず
ジョーは花子さんに覆い被さるように腰を振り続けていた
ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン
ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン
「お゛ お゛っ うっ あっ た゛ろ ぐっ 」
ジョーの巨躯の内部から漏れる花子さんの声に耳も貸さず
だが
太郎さんが身動ぎした
拘束された手は彼女に届かない
それでも、少年は花子さんの方へ首を捻った
それが彼に出来る最期だった
ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン
ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン サッカンサッカンサッカンゴーカン💛
ジョーの巨躯が花子さんから離れた
そのまま拘束具ごと少年を手繰り寄せると、そのまま反転させ
花子さんと抱き合わせるような状態のまま拘束し直し始めた
「だろう く゛ん゛」
「はな 、ちゃ 」
少年には抵抗するだけの力は残されていない
口と鼻から垂れる血液と吐瀉物が花子さんの頬に掛かった
「お愉しみは終わりを告げ、斯くして聖なる祈りの時間がやって来た。諸君、静聴せよ」
ジョーの唸るような低音だけが耳朶を打つ
まるで車内のBGMを無視するかのように
「この世の一切の災厄は例外なく全てを蹂躙する
何人たりともその艱難に抗う術なく、囚われ、奪われる
救いはこの世のものではなく、唯、来世のためにある、祈り給え」
太郎さんと花子さんを再拘束し、ジョーは次々と台車の
そう、二人が拘束された台のロックを順に解除していく
ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン
ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン
「おお、天にまします我らが神よ、願わくは御名を崇めさせ給え
この者ども、無垢なる者は邪悪に蹂躙され、純潔を奪われた哀れな子羊
今、二つの魂が天上へ向かい給う、この者共を神の御国に迎え給え、永久の安らぎを与えたまえ」
祈りと呼ぶよりもむしろ呪いを吐くかのような調子で祈りは捧げられた
バックドアを開放すると共に、車内に籠った大気が外部へと一気に吐き出される
「そして! 今! おおおおおおおっ!!
二人はーァ!! 太郎君とォ、花子さんはァァア!!
神の御許でいつまでもいつまでもいつまァァでもぉぉーオお! 幸せに幸せに幸せに暮らしましたァァァァァアアア!!」
ジョーは二人の乗った台車を外へと思い切り蹴り飛ばした
喧しい金属音と共に台車ごと放りだされる
恍惚とした表情を浮かべるジョーの手には、起爆装置が握られていた
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさ」
「たろうくん」
「 はな こ ちゃん ?」
「もう わたしは だいじょうぶだから へいきだよ」
「はなこちゃ でも ぼく はなこちゃ まもれなかった ごめ ね」
「ううん あやまらないで わたし こわくないよ」
「 」
「たろうさんといっしょだから だから こわくなんかないよ」
ミニバンのバックドアが開放された瞬間
あまりの爆音にチュパカブラは肩を震わせた
急に驚かされた為、危うく二輪のバランスが崩れそうになる
ハンドルにしがみつきながら、しかし彼は確かに目撃した
後部席から吹っ飛ぶように放たれたそれが、車道を猛スピードで逆走していく
幸か不幸かそこは直進道路だ、チュパカブラはほぼ無意識にそれを目で追った
その大型の荷台には簡素な車輪が設置された台車と呼ぶべき代物だ
そしてその上にはまだ幼い少女と少年が拘束されているのを彼は知っていた
「ピエロ」のボスであるジョーが凌辱の限りを尽くした、「花子さん」と「太郎さん」だ
二人は抱き合うように拘束されたまま、爆走する二台から急速に離れていく
自分たちはやがて下り坂に差し掛かる、あの二人は直に見えなくなるだろう
ミニバン内から流れる大音量のBGMを背景に、ジョーが狂ったように頭を振りながら絶叫していた
多分あれは薬物か何かを摂取しているに違いない
チュパカブラはジョーから坂の向こうへと消えた二人へと視線を移した
もうあの二人の姿を見ることは叶わないが彼は憑りつかれたように背後を凝視していた
衝撃波が、大気を揺さぶった
今度こそ本当に二輪のバランスを崩しかけた
彼は祈るようにハンドルをしがみつき、必死に態勢を立て直そうと試みる
一時的に麻痺した聴覚には爆音トランスもジョーの絶叫も捉えられない
チュパカブラはもう一度後方に顔を向けた
坂の上からは黒煙が上っているのが確認できた
ジョーは台車ごと二人を爆殺したらしい
チュパカブラは自分が武者震いをしたのに気づかないまま
頭を激しく振りながら勃起した逸物ごと身体をくねらせる半裸の男を呆然と眺めた
この男、ジョーと出会ったのは数か月前だ
東海地方での吸血活動に失敗、それにより「組織」の襲撃を許してしまった
あの忌まわしい女黒服により、口吻と片腕を切断されたばかりでなく
内臓の殆どを挽き肉にされる重傷を負ったのだ
あのままでは確実に死ぬ運命にあったであろう、だが彼ら「ピエロ」は救いの手を差し伸べてきた
『チュパさん、アンタさえ良ければ俺達と来てくれないか』
あの日の会話は今でも鮮明に焼き付いている
廃屋を秘密裡に改装した裏社会の闇病院で、ジョーという男は鋭い眼光を向けたまま話を切り出した
彼ら「ピエロ」もまた、東海地方での活動で多くの同士を喪い、彼ら自身も致命傷を負っていた
中でも特にジョーは重篤だった、彼は死んでいなければおかしい状況だった
左肩から左脇腹にかけての致命的な裂傷を負いながら生き残ったのは奇跡としか言い様が無い
彼らが重傷を負ったのは、言うまでもなく悪辣な「組織」の手によるものだった
『アンタはもう顔が割れてる、一人でサバイバルするのはベリーハードだ』
『で、でも、俺なんかが……いいんですか? 足を引っ張っちまうかもしれませんよ』
『気にすんな、俺の見立てじゃアンタは強いよ、俺達と同じだ。致命傷を負い、そして生還した』
裂傷の上から打ち込まれた極大の医療用ステープラーを隠すことなく、ジョーは淀みなく話を続けた
『学校町に!? 危険ですって、ジョーさん!! あそこは「組織」の根城って聞きますぜ!?』
『そう、そこが狙いなんだチュパさん。却って学校町こそが安全地帯と化したんだ、今となっては』
『すんません、俺はオツムが足りねえからカラクリがよく分かんねえんだ』
『「狐」、奴が戻ってきた。警戒は手薄になる、小物に構ってる余裕が無え。こっちもビジネスがやりやすい』
そして、現在
チュパカブラはジョーを眺めている
彼は今やハイになったのか狂ったように高速のヘドバンを繰り返していた
別動隊として動いているグリングリンは無事であろうか
今どのような状況にあるのだろうか
彼は策士だ、おそらく各地に散った手勢に集合を掛けつつ、計画を練っているのだろう
チュパカブラは未だ見ぬ学校町に思いを馳せる
「ピエロ」らと出会うまであの場所は都市伝説の墓場と形容される程に過酷な地域という認識しか無かった
しかし、ジョーの話を信じるならば警戒すべきは一部だけであって、眠れる宝は今でも腐るほど転がっている
それだけでは無い
学校町には人間も人外も美女が多いらしいのだ
その情報が彼、チュパカブラの精神と性欲を高鳴らせた
もしかすれば東海地方に潜伏していた頃には果たせなかった悲願を
少女達を 生きたまま 吸血しながら 強姦する という夢にまでみた願望を果たせるかもしれない
彼らが振り返ることは無い
「ピエロ」が
そして「チュパカブラ」が
彼らが見据えるはただ一つ
学校町のみ
□□■
次世代ーズの中の人です
5月から色々とバタついていますがギリギリな感じです
7年間お世話になったPC飛んだのが一番痛かった
6月中旬までに上げたい所存
>>255
早渡はスケベですが根っこが純情野郎なので大方大丈夫です
スケベですが
>>234
言い訳はしないぜ……
でも本音はR-18GよりR-18を書きたいんだ、ぼかぁ(言い訳)
なんならR-28でもいい……
PCデータ移行の時、最初期のネタを見つけましたが
その中に激おこの早渡が同い年の巫女さんの尻を真っ赤になるまで引っ叩く……という謎の1行メモがありました
だからどうだというわけではありませんが
改めまして次世代ーズです
今に始まったことではありませんが
誤りや脱字等、投下後に気づくことが多く……
>>235のレスでもアンカー>>255の部分は
正しくは>>225ですね……
今回は【11月】の話を行きます
○前回の話
前回の話は>>91-100です
今回は【11月】の出来事になります
○あらすじ
赤鐘亜百合の死亡と同時に始まった一連の騒動は、新宮ひかりらの活躍により一先ずの収束に向かったが
その混乱に乗じた「ピエロ」によってひかり達の下へ暗殺者二名が送り込まれる
一方、「ピエロ」達が東区の住宅街で放火を実行するも、それらは都市伝説や契約者有志によって阻止されつつあった
ともあれ、「ピエロ」は闇夜に紛れ暗躍を開始した
放たれた二名の暗殺者と共に、展開される予知・察知系能力者への罠
「通り悪魔」や「サキュバス」の“支配”を受けたピエロを、“魅了”によって再支配する「イナンナ」
企図される学校町内の学校への襲撃計画、女子生徒を嬲り倒す男女の契約者
そしてコアメンバーによる“中心”への接触
これは一日目の夜、闇が深まった時分の出来事である
○時系列 【9月】~【11月】
●【9月】
・早渡、「組織」所属契約者と戦闘
・「怪奇同盟」に挨拶へ
・早渡、東中で東一葉と出会う
花房直斗、栗井戸星夜、「先生」から三年前の事件について聞く
・早渡、東中を再訪し東を捜す
東、自分を取り戻す
その夜の内に居候先を確保
・「ピエロ」、学校町を目指す ☜ ここまで投下済み
・∂ナンバー、「肉屋」の侵入を予知
・「肉屋」戦
●十月
・「ピエロ」、学校町へ侵入
●十一月
・戦技披露会開催
・診療所で「人狼」イベント
「人狼」終了後、東と早渡が遊びに来る
・「バビロンの大淫婦」、死亡
・角田ら、「狐」勢力と交戦
赤鐘愛百合、アダム・ホワイト死亡、角田慶次は重傷を負う
・新宮ひかり、角田らと「狐」の刺客に介入
・「ピエロ」側の暗殺者二名、ひかりらを牽制
・「ピエロ」、東区にて放火活動を開始するも妨害を受ける
・暗殺者二名、ひかり及び桐生院兄弟と交戦 ☜ >>82-86
・上記と同時刻、早渡は「モスマン」により右手を切り飛ばされる
・同じ時間帯、「イナンナ」による「ピエロ」洗脳(魅了) ☜ >>92-100
・「ピエロ」、“中心”に接触を開始 ☜ 今回の話は大体ここです
○主な動向 【11月】
●「狐」
前スレ475-479 花子さんの人
「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 Part 12 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1483444899/475-479)
・この話で「バビロンの大淫婦」が消滅
●「死亡フラグ組」 ※「狐」と同時刻
前スレ641-648 花子さんの人
「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 Part 12 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1483444899/641-648)
・赤鐘亜百合死亡、角田慶次が致命傷を負う
前スレ663-665 花子さんの人
「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 Part 12 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1483444899/663-665)
・アダム・ホワイト死亡
前スレ668-669 鳥居の人
「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 Part 12 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1483444899/668-669)
・新宮ひかり、角田慶次の致命傷を癒す
前スレ674-676 花子さんの人
「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 Part 12 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1483444899/674-676)
・裏切者が小道郁だと発覚
前スレ718-721 次世代ーズ
「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 Part 12 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1483444899/718-721)
・「死亡フラグ組」の下へ「ピエロ」到達
・「ピエロ」付の暗殺者二名、現場に介入
前スレ733-735 花子さんの人
「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 Part 12 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1483444899/733-735)
・上記現場に「死毒(「先生」)」と「ライダー」介入
・「ライダー」、全員を回収し現場から離脱
・「死毒」、能力を発動
前スレ750-752 花子さんの人
「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 Part 12 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1483444899/750-752)
・「死毒」、暗殺者二名の抹消を宣告
前スレ780-783、784 次世代ーズ、花子さんの人
「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 Part 12 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1483444899/780-783)
「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 Part 12 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1483444899/784)
・暗殺者二名、「死毒」との対決から離脱
○主な動向 【11月】
●「ピエロ」 ※「狐」、「死亡フラグ組」とほぼ同時刻
前スレ773-776 花子さんの人
「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 Part 12 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1483444899/773-776)
・「ピエロ」、東区、北区で放火活動を企てるも都市伝説・契約者有志により阻止される
・「ライダー」、病院で角田慶次と紅かなえを降ろし、ひかりを送迎
前スレ788-792 次世代ーズ
「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 Part 12 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1483444899/788-792)
・「ピエロ」、東区での放火活動を契約者有志に阻止される
・早渡、「モスマン」と出合い頭に右手を切断される
・暗殺者二名、離脱したひかりの追跡開始
前スレ827、836-837 鳥居の人、次世代ーズ
「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 Part 12 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1483444899/827)
「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 Part 12 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1483444899/836-837)
・桐生院兄弟、放火活動中のピエロと対峙
・暗殺者のうち「海からやってくるモノ」が予知・察知能力へのカウンターを発動
前スレ869-870、872-873、875-876 やの人、花子さんの人
「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 Part 12 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1483444899/869-870)
「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 Part 12 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1483444899/872-873)
「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 Part 12 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1483444899/875-876)
「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 Part 12 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1483444899/878-879)
・ヤエルとユリ、ピエロを虐殺
・「死毒」、河川に瓢を投入、ピエロを拷問に掛けるも情報得られず
・ヤエルとユリ、ピエロを“魅了”し潜伏先の探査を企図
前スレ963、966、998-999 鳥居の人、花子さんの人、次世代ーズ
「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 Part 12 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1483444899/963)
「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 Part 12 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1483444899/966)
「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 Part 12 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1483444899/998-999)
・ひかり、桐生院兄弟と合流
・「ライダー」、ひかりに別れを告げ離脱
・暗殺者二名、ひかり達を捕捉
本スレ>>68、>>82-86 鳥居の人、次世代ーズ
都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達…… Part13 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1495934148/68)
都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達…… Part13 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1495934148/82-86)
・ひかり達、暗殺者二名と対峙し戦闘開始
本スレ>>91-100 次世代ーズ
都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達…… Part13 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1495934148/91-100)
・「イナンナ」、学校町の都市伝説・契約者により“支配”されたピエロを、“魅了”で再支配
・「イナンナ」、再支配ピエロに小中高襲撃を刷り込む
男女二人組の契約者、下校途中の女子生徒を襲撃、女子の容姿をコピーし行方をくらませる
//時系列 ここまで
学校町南区、某ビル屋上
「みさ、おきてよ」
もう身動ぎすらしなくなった友人を揺すった
先程まで聞こえていたはずのか細い呼吸も、もう分からない
あの少年と少女が立ち去ってどれくらいが経ったのか
あの少年はまず友人を、続いて自分を滅茶苦茶にした
そして、あの少年は自分とそっくりの姿に変身して、自分の服を着て、行ってしまった
じゃあ、俺たちはお前ん家で 夕メシ 食って くっから
気が向いたら、 お袋の味 って奴を教えに来てやるよ
あの少年はそう言って、少女と一緒に此処から飛び降りて行った
少年は自分の家族を[ピーーー]つもりだ
「おきて、おねがい。おきて……」
自分の携帯は少年に奪われた
そして、友人の携帯は目の前にある
少年の手で破壊された、携帯だった残骸が
これでは、助けを呼べない
家族に連絡を取ることも、出来ない
「おきて……」
陽も落ちた、寒い、空気が冷たい
夜の闇の中で、もう何も言わなくなった友人を揺さぶるしかなかった
誰も助けに来ない
誰も
あの少年と少女は嗤っていた
何もできない自分と友人を、嗤っていた
「たすけて」
無意識に、ただその言葉だけを呟いていた
「だれか、たすけて――」
掠れた喉で、何度その言葉を口にしただろう
不意に、視界の隅に光が差した
咄嗟に顔を向け、眩しさに思わず光を手で庇った
誰かが、こっちへ近づいてきた
「負傷者、2名。発見しました」
「組織」Rナンバー、「援護班」所属
スカートスーツに、顔を包帯で覆った「黒服」、乱野憐子は
声を絞り出すようにして、ようやくそれだけを無線で報告した
目の前の惨状に、声を失っていた
中央高校の制服の子と、全裸に近い状態で腹を裂かれている子が居たからだ
全裸の子は茫然とした体でこちらを見つめ続けていた
「これも『ピエロ』がやった、てのか?」
相方のPナンバーの黒服の声に我に返った
立ち尽くしている場合ではない
乱野は重傷を負った二人の少女へと駆け寄る
「種別:US、未成年女子2名、陽性です
両名とも全身に創傷、一名は腹部に切創、ダーム脱出あり、一名は顔面に擦過型の剥脱
Class III以上です、至急対応してください」
『ベースに回せ。応援を送る』
「お願いします」
一息で無線へ告げると、少女と視線が合った
「もう大丈夫だよ、今から病院に行くからね」
「こっちはアタシやる。そっちの子頼む!」
相方が中央高校の子の応急処置を開始した
乱野は応急用のフィルムを取り出し、少女の体を床へと寝かせた
先ずは飛び出した内臓の固定だ、これほどの創傷を直ぐに処置できる霊薬は持ち合わせていない
「おかあさん」
「え?」
「おかあさんが……」
少女が、か細い声で呻いていた
「お母さん? どうしたの?」
「おかあさん、たべられちゃう……。たすけてください」
少女は泣き出した
お母さん? 食べられる? どういうことだ
一瞬、乱野は状況に躊躇した
この場で何があったのかをヒアリングすべきなのか
だがその必要は無かった
直後、Pナンバーの黒服達が到着したからだ
「先輩、ちょっとマズいですよ!」
後ろから声を掛けてきたのはこの春に配属されたばかりの新人だ
相方のPナンバーの部下である、リーディング系能力の黒服だった
「この子達に酷いことしたのは男女二人組の契約者で
二人組は今、この子の家に向かってて、お母さんを食べる気みたいです! って、うわ……」
勢いのままそうまくし立てた新人は、慌てて乱野の背後に引っ込んだ
少女の傷を直視してしまったらしい
「んだとォ!? おいミッペ! この子の実家、何処か分かるよな! 調べろ!!」
「んあっ、ちょっ、待ってくださいよ!」
「ミッペ」と呼ばれたのはリーディング系の黒服だ
そして、そう呼んだのは遅れてやってきたミッペのバディだ
彼女もミッペと同時期に配属された新人である
「あっ、待てお前ら! 単独行動は駄目だって言ったろ――」
「メイプルさん、オレとミッペで動くんだから単独行動じゃ無ェっすよ!
それにもう研修期間は済んだんスから心配いらねーって!! おらっ、行くぞミッペ!」
「ちょっと! 首に手ぇ回すの止めてください!」
「コラ待て二人とも! 新人の独断行動は厳禁っつっただろうが!!」
応急処置から手を離し、新人二名を怒鳴りつける
が、遅かった
新人二人は既にこの場から消え失せていた
「あンの、クソ新人共が……っ!! レンコ悪い、この場を――」
「駄目ですっ!! この子達をベースに移送しないといけません!!」
「あ゛ーもうっ! 分かったよ、クソッ! おい、聞こえてるか!? クソ新人が二人、勝手に飛び出した! 追跡してくれ!」
『らじゃーなのです!!』
「アイツら……、戻ってきたらタダじゃ済まさねえぞ……!」
メイプルと呼ばれた相方の黒服は、こめかみに青筋を浮かべながら応急処置を再開した
仕方が無い、新人の独断先行は許される行為では無いが
この場の処置を投げ打って良い理由にはならない
一刻も早くこの子達を「ベース」、つまり「組織」管轄の病院へ移送しなければならない
怒りを抑える相方に一瞥を送りながら
乱野憐子は胸の奥に奔った僅かな胸騒ぎを、無理やり押し殺した
大丈夫、新人ちゃん二人は、Pナンバーのスタッフさんが追いかけてくれる
だからきっと、大丈夫
自分にそう言い聞かせながら
彼女らにはまだ報告は入っていない
「現在、学校町に感知・予知系能力者へのカウンター能力を持つ暗殺者が侵入している」という報告は
学校町 東区
「組織」過激派の人員は車道沿いに繁華街の方向へ向かっていた
無論、「ピエロ」及び連中の中枢を発見しこれを討伐するためだ
先程踏み込んだ現場には相当数の「ピエロ」が潜伏していた筈だ
恐らくまだ遠方へは行っていない、主任はそう判断し
部下を散らして連中の捜索を開始した
東区の放火については既に穏健派も動いているという話で
それ以前に数名の契約者と思われる者達が目撃されていたようで
既に鎮圧が済んでいるのかもしれない
に、しても
主任は思考を巡らせる
10月から「ピエロ」の報告が上がっていたが
いずれも散発的で、しかし契約者・一般人の別なく襲撃するという状況から
「赤マント」と同程度には警戒されていた
だが、今夜の動きは怪しむべき点が多い
これほど目立つ動きを見せたのは初めてと言って良い
おまけにピエロ装束の連中だけでは無く、それ以外の契約者が行動を共にしているという報告があった
事象改竄系の契約者、そして観測系能力に対するカウンター能力を持つ契約者
報告が事実だとすれば、そのいずれも脅威度が高い
(『狐』、なのか?)
主任も「ピエロ」が「狐」の手駒であるという点には懐疑的だ
その部分は現時点での過激派幹部連中の判断と一致している
手の内を晒さず掴ませまいとする「狐」の手口と、「ピエロ」の活動とは一見相反している
だが――
長年過激派の黒服として現場で指揮を執る身として
直観が告げる警告を無視できずにいた
「ピエロ」は愉快犯的な犯行を繰り返しているが、無為無策では無い
このタイミングで登場した同行契約者の存在、これをどう考えるべきか――
「主任、よろしいでしょうか」
後に従う部下から声が掛かる
「今回の『ピエロ』の動き、やはり裏に『狐』が」
「判断を出すのは早計、それが幹部(うえ)の判断だ」
「主任ご自身はどうお考えです?」
「……俺はそれを判断する立場には無い、今は捜索に集中し――」
咄嗟に光線銃を抜き、続けざまに発砲
前方の街路樹の影にいたのは、そう、「ピエロ」だ
「戦闘を許可するッ! 戦えッッ!!」
「なンだ野郎しか居ねえのかぁア!? 『黒服』ゥゥゥゥッ!!」
前方から、だけでは無い
横合い、対向車線側からも奇怪な装束の道下達が出現した
皆、銃器の類を手にしている
「『弾除け』と『人払い』はッッ!?」
「既に展開済みです!!」
主任は確認するかのように周囲に視線を奔らせる
遅い時間では無いが、車の通りも通行人の姿も無い
「まだ非常命令は出ていないッ! 可能な限り物損は控えろッッ!」
主任の言葉とほぼ同時に部下達は光線銃を発砲し出した
非常命令云々、物損は云々は穏健派の手により義務化された条項だ
そう、許可が無い限りは人間、そして物品への被害は最小限に抑えなければならない
それが建前だが、彼らは腐っても過激派だ
つまり主任の言葉はただの念仏に過ぎず、律儀に守られる訳では無い
また守る必要も無い、何故なら
「おーれーたーちーピーエーローをー」「舐ァァめるなぁぁぁぁ!!! っとぉ!!!」
自動小銃を乱射し始めた「ピエロ」相手に、そんな余裕は無いからだ
「こいつらホントやりたい放題だなッ、クソッ! 市街地で銃撃戦などッ!!」
「主任、もうちょい詰めてください」
手近な物陰に潜り込み、隙を見て光線銃を発砲
「ピエロ」数名の頭部を撃ち抜いた
「これじゃキリが――」
悪態を吐く余裕も無かった
後方が突如爆破した
「今度は何だッッ!?」
爆炎が夜の歩道を赤く照らす
「人払い」が無ければ確実に一般の注意を引き付けるレベルだ
いや、「人払い」を展開している現状でも怪しい、炎が上がり過ぎている
「本部に連絡入れろッッ! 応援が必要だッッ!!」
「無理です主任、圏外になってます、多分妨害されてます」
「なら異空間通信に切り替えろッ!!」
「その機能ついてんの主任の端末だけです」
「なら俺のを使えッッ!!」
部下に己の携帯を押し付け、光線銃を構え直した
物陰の向こう側では「ピエロ」共が奇声を上げて銃器を乱射していた
「クッソ、完全に包囲されたかッ!?」
『げひゃひゃひゃひゃひゃひゃっ!!
どーぉぉぉぉうだいクソ黒服共ぉぉ!! 胸焼けするほど嬉しいだルぉぉオオおおおおうっ!?』
「今度は何だッッ!?」
突如、電気的に拡声された女の哄笑が鼓膜を叩いた
死角から顔を出すと、「ピエロ」の居る前方が強い光で照射されている
どうも「ピエロ」の内、数名が何処から調達したのか、スポットライトを使用しているらしい
光の中には、仁王立ちの女が居た
シャイニーカラーのパンツに、トラだかライオンだかの顔面が大きく印刷されたシャツ、という出で立ちの中年女性が
「何者だ……ッ」
主任が絶句するのも無理は無い
その女の風体も雰囲気もこの場の緊張感に全くそぐわないものだ
『んンんん!? アタシが誰かってぇぇぇぇぇぇ!?
フン、「ピエロ」の子達が不甲斐ないって言うからねえぇ!!
わざわざ出張ってきてあげたンだよぉぉぉぉぉ!!
アンタら黒服をぉ、丸焦げにするためにねぇぇぇぇぇぇぇ!!』
「面目ないです先生!」「先生やっちゃってくだせえ!」
バックから「ピエロ」達の声援を受けつつ、女はふんぞり返るような恰好でそう言い放つ
不意にスポットライトが黒服達の潜む物陰に照射された
『ンじゃまぁぁ、ド派手に行こうかねぇぇぇぇぇっ!!
「ポップロックス」とぉ、「コーラ」でぇぇぇぇっっ!!!!』
「まずい、散開しろぉッッッ!!!」
黒服達が物陰から転がり出るように離脱した、刹那
アスファルトを深く抉るように、地面が爆破した
□■□
中央高校の女子
襲われた二人組の一人で、顔面を削がれるように食われた
南区商業の女子とは中学の頃からの友人で、この日は二人で遊んでいた
南区商業の女子
襲われた二人組の一人で、ふくらはぎを食われ腹部を裂かれた
襲撃者の男子は彼女の容姿をコピーし彼女の実家へ向かった模様
乱野憐子
R-No.888。Rナンバー(穏健派)の「援護班」所属
同じ班内に意中の男性(?)が居るらしいが詳細は不明
「脳は10パーセントしか使われていない」の元契約者で「組織」の黒服
実に7年振りの登場となります
メイプル
Pナンバー(穏健派)所属
黒服になる前の記憶はあるらしいが多くを語ろうとしない
「メイプル」は彼女自身が登録した名前だが、外見は日本人
俺っ子の黒服
Pナンバー所属
この年の春に配属された新人、一人称「俺」だが女子黒服
新人扱いされるのがイヤな時期に差し掛かってから早数か月
上司のメイプルの頭痛の種となっている
ミッペ
Pナンバー所属の女子黒服
この年の春に配属された新人で、リーディング系の元契約者である
俺っ子の黒服とバディで、流されやすい性格(ただし本人は否定している)
主任
過激派所属
キレやすいタイプだが自分のそういう面に自覚はある
休日は朝から安酒を呑みつつ古いコメディ番組を鑑賞している
中年女性
まるで「大阪のおばちゃん」のステレオタイプなおばちゃん
「ピエロ」側の刺客で、「ポップロックス(キャンディー)で大爆発」の契約者
乙です
ビジュアルが大阪のおばちゃんとなると強いんだろうけど強キャラ感あるかと言われるとまたちょっと違う気がするww
暑い……うえに書く荒筋が長くなる _:(´ཀ`」 ∠):_
削るか、いやまだ早いぞ…… _:(:3 」 ∠):_
>>247
そうですね、強キャラって言うよりコメディ的な強さかな
方言キャラは普段へらっとしてて土壇場でさらりと実力を発揮する流れが好きですね
本当は関西方言込みでキャラを書ければ最高なんですけどね
色々難しかったので所謂「標準語」に戻しました……
ユリは呼吸を整え集中する。
魔力を変換し、チャームを組み上げていく。
広く、なるべく多くの者に届くように。
そして対象を特定するために、ピエロ達から文字通り搾り取った情報を組み込む。
これでピエロ達にだけよく効き、それ以外にはほとんど効かないチャームの完成だ。
まあ、ピエロ以外にも吊り橋効果くらいはでるかもしれないが。
むしろ出逢いの切っ掛けを提供しているのだから感謝されてもいい気がする。
完成したチャームの欠片をヤエルに渡す。
「……出来た。増幅して」
「ええ、わかったわ」
チャームの欠片を元に、ヤエルも自身のチャームを編み上げる。
元の効果を妨げず、なおかつ効果の底上げをするように。
その間ユリは羽を拡げ、チャームを放つため集中している。
ユリの羽は鳥の羽毛のような柔らかそうな質感をしている。
形状も重力に従うように緩やかな曲線をしており、動きに合わせてゆらゆらと揺らめいている。
「……こんなもんかしら」
ヤエルも準備を終え羽を拡げている。
ヤエルの羽は、いかにもコウモリといった感じで、自らの意思を示すように力強く拡げている。
「合わせてね」
「いつでもどうぞ」
二人の放ったチャームは混ざりあい、水の流れるように周囲に拡がっていく。
微かに鼻腔をくすぐる甘い香りが、空気と混ざり拡散していく。
「さて、何体くらい掛かるかしら」
「……ちゃんと掛かれば、すぐに私達を探しに来る」
「え、私にも来るの? それ嫌なんだけど」
「…………」
______
前スレ>>878-879をも少しまじめにやった感じのを脳内補完
______
>>254
>>葉は部下の好きにさせてそうだね、や
>>スクブスにもお盆はあるのか、や
きっと現場判断に任せてるんですよ
三尾たちのチームは現地行動をサポートするためのチームなんです
モンハンのギルド的なものです
何故か彼女らも現場によく出てますが
サクバスにとっての盆はどうなんでしょう
サキュバス同士のって意味ならサキュバス自体にそんなコミュニティがあるかは疑問だけど
せいぜい知り合い仲間内のぐらいの規模?
人間の盆をどう思うって意味なら畜魂祭みたいな感じ?
今出てる二人は人間の扱いは基本的に食べ物です
学校町東区、中央高校付近
作戦行動中の新人黒服二名が独断で飛び出し、敵性対象を追跡中――
その連絡が入ったのは今から十数分前
「組織」Pナンバー応援部隊の三名は新人黒服の生体信号を辿り、目的地へ急行していた
南区の某ビル屋上で女子生徒を襲撃した者は
女子生徒の家族を捕食すると言い捨て彼女の実家へと向かった
その場でリーディングを実施したミッペによれば、襲撃者は男女二人組の契約者
それが現場のメイプルから急ぎ伝えられた情報だ
「あっ、いたのです! ミッペちゃん見つけたのです!」
二つ結びの黒服が示す先には、住宅街のゴミ集積所
その前で座り込んだ少女黒服の姿があった
「ミッペ! どうしちゃった!? おい!!」
応援三人組のリーダーがミッペの肩を掴んだ
ようやく彼女らの存在に気づいたかのようにミッペが顔を上げた
その表情には恐怖が張り付いている
「あ、キルトさん……。ココは、どこなんですかぁ……?」
「なんだどうしたミッペ、何があった!? クジっちはどこよ!?」
「さっきから頭が……、変なイメージが勝手に流れ込んできて……、海が、磯臭くて」
「クジっちはどうしたよ!? 一緒じゃなかったの!?」
「クジちゃんは……、あ……、あの子のお母さん助けるって、先に……!」
「たいちょー、ミッペは何らかの能力の間接的影響をー受けていると思われー」
「アクアフレッシュ、あんたは私に付いて! ぷーたんはミッペを頼む!」
「らじゃーなのですっ!」 「りょーかいー」
リーダーは後の二人に指示を出し、“ジャミング”を起動した
都市伝説起因の異常事象を一般人に認識させない一種の「結界」だ
「ミッペ、どの家か教えて!」
「三軒向こうの、あの平屋です! でもぉ、ヤバいですよぉ!」
「ヤバいから行くんだよッ!!」
リーダーとアクアフレッシュは既に飛び出していた
なるほど、問題の平屋からは異様な気配を感じる
「敵さんの戦力も分かりもしないのに、向こう見ずに飛び出してくれちゃって、んもーッ!!」
愚痴を吐き捨てながら問題の家屋へ接近
家屋内で争っているのか、物々しい破壊音が聞こえてきた
おまけに異様な気配が剣呑な殺気として具体的な輪郭を帯びだしている
「アクア、念のため報こく――」
走りながら後方の仲間へ声を掛けた、次の瞬間だ
雷のような爆音と閃光が空間を奔った!
迷いもなく門を蹴破り敷地へ侵入、アクアフレッシュもこれに続いた
家屋の玄関、ではなく脇の庭先へと踏み込む
庭に面したガラス窓は全て吹き飛んでおり、強烈なオゾン臭が黒服の鼻を衝いた
外塀に叩きつけられたのか、庭に倒れ断続的な痙攣を繰り返す新人を、まず確認した
ミッペと共に飛び出した一人称「俺」の女子黒服、久慈だ
リーダーはコンマ数秒で彼女から屋内へと視線を走らせる
「ハァーーハァァハァッ!!!! 新手かぁぁぁァ!!?? 黒服ぅぅぅゥゥゥ!!!!!」
その者は、破壊され尽くした屋内に独り立ち、哄笑を響かせていた
外見は少女、南区商業高校の制服を着た女子生徒の姿だ
少女の傍には倒れた女性、襲撃された子の母親か
女性の被害程度を見極めることができない
この敵対者から目を離せば即殺られる、本能がそう警告を発している
「ハァァーッハァァァーーッ!! 黒服を喰っても腹は膨れないんだけどさぁぁぁ
可愛いから相手して、グッチャグチャにしてやるよォぉぉぉーーっ!!」
少女が放っているのは圧倒的な殺気と眼光ばかりでは無い
周囲の空間に奔る無数の光は間違いなく電撃かその類だ
「ハヒッ! ヒ、ヒヒャ! ヒャッハ!! 来いよ、黒服ぅぅぅッ!!!」
少女の体が突如震え出した
哄笑を依然として維持したまま、体が内面から無理矢理押し広げられるように“変化”を始める
「まずいぞー! リーダー!! ヤツの出力が上がってるー!!」
後方のアクアフレッシュが怒号めいた注意を飛ばした
少女の姿がおぞましい外見へと変貌していく――
空間の殺気が再度、膨らみ始めた
「アクアッ!! 防御ッ!!」
リーダーの警告とほぼ同時に、少女周囲の放電量が一気に増大!
「掛かって来いよぉぉぉッ!!! 黒服ぅぅぅゥゥゥぅううウウうううウウッッ!!!!!!」
敵対者は黒服に向かって牙を剥き、嗤った
鹿のような二本角
獣の頭蓋骨を思わせる頭部
狭い屋内のためか、体を折り曲げるようにして狂相を向けるこの者は
既に少女から獣人へと“変貌”を遂げていた
学校町西区
早渡修寿はようやく廃工場から抜け出した
右腕を押さえ、ふらつきながらも、血走った眼で周囲の警戒を続けている
「モスマン」の殺意は相当のものだった、だが奴を倒した
そして収穫はゼロ、しかもこれからどうする? よりにもよって携帯を忘れるなど
己の迂闊さを呪いつつ、彼は東区の状況を案じていた
東区へは高奈先輩が向かった筈だ、彼女ならきっと大丈夫だ
早い内に見つかると良いのだが
不意の激痛に思考が掻き乱される
呻き声を漏らしながら動かない右手を見下ろした
最早右肩より先の感覚が無い
今は痛みより全身を襲うだるさが強いが、断続的に激痛の波が押し寄せてくる
切断された右手は強制的に繋げたものの、上手くやれたか断言できない
そもそもあの毒鱗粉だ、全身に毒が回ってるとして――あとどれくらい持つ?
どうする、真っ先に「先生」の診療所へ電話すべきか
この周辺に公衆電話があるとも思えない、工場に押し入って電話を借りるか、もしくは民家に助けを求めるか
東区は「ピエロ」共が放火を始めていた、そもそも診療所へ辿り着けるかどうかすら怪しい、それより一旦自宅へ戻るか
「財布、忘れてないよな?」
血塊を吐き捨て、車道脇の縁石に崩れ落ちるようにへたり込んだ
思った以上に毒の回りが速い、急ぐ必要がある
「んお? 早渡?」
流れが少ない車道でタクシーを捕まえようと漠然としていた早渡は
横合いから掛かる声とエンジン音に、ぎこちなく首だけを捻った
肩回りに寝違えのような痛みが走る
「……星崎先輩」
「はいよー星崎ですよー」
見れば中央高のブレザー女子、学年が一つ上の星崎先輩だ
梅雨明けの頃に奇妙な縁で出会った、地味さと呑気さを足して煮詰めたような女子である
「ひどい怪我だね、アレかな? 喧嘩帰り? 顔面も真っ赤になっとる」
星崎先輩の問いに早渡は黙った
まさか「モスマン」と殺し合っていたなどと言える筈も無い
「まあさ、良ければ乗ってく?」
彼女は早渡の沈黙を破くと、後方に停められたスーパーカブを親指で示した
「ねえ、病院行こうか? 近いよ、病院」
「保険証、いま、持ってねえっす」
「そっかあ、じゃあ家でいい? 南区だったっけ、家」
「はいっす、ありがたいっす」
二人はカブに揺られ、南区方面へと向かっている
早渡の顔面は毒の所為か赤から青へと変色し始めていた
毒消しが家にあったかも思い出せない
一旦「えりくさあ」で治療を試みつつ、さもなくば病院行きだ
学校町東区
乱れた呼吸を整え、周囲の惨状を見渡す
現場は凄惨な状況だが、まず「ピエロ」は全滅させた
だが肝心の――あの奇天烈な風貌の中年女性
大阪のおばちゃんめいた恰好の契約者、あれの姿が見えない
逃げられたな
主任は胸中で毒づいた
因みに、「ピエロ」に対する拘束と尋問を検討しなかった訳では無い
だが狂笑しながら自身の頭部を爆発させた「ピエロ」を見て即座に断念したのだ
あれはどう見ても最初から脳内に炸薬を仕込んであったとしか思えない様子だ
「カス共が……ッ!!」
主任が悪態をつくのも仕方ない話だ
視線の先にあるのは言い訳もつかない程に大きく抉れたアスファルトだ
眼前ばかりでは無く、連中の射程範囲には大小問わず無数のクレーターが形成されていた
言うまでも無いことだが、主犯はあの中年女の契約者である
「主任、事後処理は隠蔽部隊を要請しますか?」
「無駄だ。『ピエロ』があとどれほど潜伏しているか分からん
修繕したとしてまた破壊されないとも限らんからな
爆破痕は立入禁止、車道へ迂回路を設定しろ」
「了解、そのように伝えます」
こちらとて被害が無かった訳では無い
爆破による死傷者若干、ライフル弾による重傷者複数
継戦は未だ可能とはいえ、敵側の戦力には少々侮りがたいものがある
舐めていた訳でも無い
しかし、あのピエロ装束の道化共
個々の軽薄な態度とは裏腹に統制の取れた戦闘能力を発揮していた
裏で糸を引いている者がいるのはまず間違いないだろう
加えて、あの中年女の契約者
当初は無差別爆破しか能が無いと見做していたが
あの能力密度といい、出力の高さは並のものではない
看過できない、将来の脅威となりかねない
「『ピエロ』側に爆破能力を持った契約者がいる、門条にも連絡を入れておけ」
側近の黒服に報告の指示を出す
門条は現在「狐」の件専任となっているが
「ピエロ」への対応にも指揮側として一部関与している
その上、今夜の「ピエロ」の騒動が「狐」の件と無関係とは言い切れないのだ
過激派幹部の意向を窺っている場合では無い
門条には逐次報告を入れておいた方が良いだろう、万が一があっては遅いのだ!
負傷者への応急処置、爆破痕への簡易工作、既に消滅した「ピエロ」が遺した銃火器
周囲に眼差しを向けながらも主任は黙考を続ける
正直今直ぐにでもキレて怒鳴り散らしたい気分だが――
ところで、我々過激派は門条と直接やり取りを交わすホットラインを持たない
奴の部下へ報告を行い、時間差により奴へ伝えられる
そこに考えが至り、思わず怒張した血管をこめかみに浮き立たせながら
彼は口を開いた
「門条への報告に付け加えろ!
『ピエロ』側には何名か道化の仮装をしていない契約者がいる
これは俺の推測に過ぎんが……、奴らは『ピエロ』の協力者だ。これから更に複数名出てくるかもしれん」
学校町東区、中学付近
「全身ミイラの癖に舐め腐りやがっ、お゛あ゛あ゛ぁぁ゛ーーッッ!!」
「チェスト! チェストォ!! チェストぉぉオオーーッッ!!」
東区、いや、学校町内で最大の規模を誇る中学校
その近辺にある、とある廃屋の中で「ピエロ」と「トンカラトン」が殺死合いを繰り広げていた
「オンッ! おぉオンッ!! おーーンッッ!!」
「ぐわし! ぐわし! おゴォォーオオッ!! エ゛ん゛ッ!!(死)」
逆手の脇差を器用に扱い「ピエロ」の右手ごとチャカを壁に縫い付けると
もう一方の脇差で「ピエロ」の頭部を即座に刺突! 貫通!
「兄者ァァッ!! 無事かァッ!?」
手際よく「ピエロ」を始末するは、「トンカラトン」、名をヤッコ
トンカラトンで構成された勢力、『朱の匪賊』四番隊、その副々隊長である!
「うぜえっ! てめえッ!! この俺様☻を何だと思゛ッッ!!??」
「猪口才ッ!! だがこれで、袋の鼠ッッ、いヨォォーーぉぉッ!!」
素っ頓狂な大音声と共に屋内の柱に道化の頭部を激突せしめ
その反動で以て敵の脚に絡めた物干し竿で道化を転倒させた挙句
降り抜いた刀で「ピエロ」の股間目掛けて切っ先を振り下ろす――!!
「ハァァッ!! ハァァァッ!! ん゛あぁァアアああ゛あ゛ーーッッ!!(両 / / 断)」
更に畳みかけて悶絶する「ピエロ」の顔面へ刺突! 貫通!
途端に道化は絶叫を停止、白目を剥いて激しい痙攣を引き起こすばかり!
絶命を確認の後、「ピエロ」の首に足を蹴り込み、乱雑に引き抜くは
『朱の匪賊』四番隊副隊長にして、この四番別動隊を率いる「兄者」、名を珍宝(ちんほう)と発す!
「ぬぅぅぅッ、奇ッ怪な南蛮道化共めッ!! 我らが隠れ家に気付いておったか」
連中の襲撃により荒らされた屋内を睥睨し、「兄者」は唸った
日も暮れ、すっかり闇夜に染まった時分
突如この隠れ家に「ピエロ」共が前触れなく襲撃して来たのだ
当然別動隊、都合五名は総出でこれを返り討ちにし、逃さずまとめて切り伏せたのである
因みに彼ら「トンカラトン」が念入りに「ピエロ」の頭部へ刺突を行ったのには訳がある!
敵である「ピエロ」共は脳内に爆薬でも詰めているらしく、放置すれば絶命と引き換えに今際の爆弾と化しかねない
そこで彼ら「トンカラトン」は彼奴らの頭蓋の内にある起爆装置をそのトンカラトン感知力によってピンポイントで破壊していたのだった!
「道化はいいッ! 捨て置けッッ!! 六ン馬ッ! 『本隊』の動きはどうなっておるッ!?」
「動き、怪しいです。監視網から、消えた。行方、知れず。つい、先程、道化、斃した後には、既に、姿が、無い」
比較的被害の軽微な襖を開けば、廃屋唯一の光明が暗闇を照らす
畳の上に這うはコード、コード、これまたコード
そして部屋の一角に積み上げられたのは大小様々な機材の雑多な山
その上に遠慮がちに載せられておるのは、いずれも数世代前のモニター、そしてノートPCである
光の正体はモニターや機材のLEDディスプレイの明滅によるものであった
これらは全て現地調達にて獲得されたたもの、電源は外部より違法的に引き込まれたものだ
「ピエロ」の襲撃によりささやかな夜食が中断された
「兄者」はすっかり冷めたタイムセール半額44円のフライドチキンを手掴みし、食い千切り、そして咀嚼した
明滅したモニターが示すのは、「本隊」そして「LOST」の表示である
「勘付かれたか、さもなくば、これも『女狐』の妖しげな術の仕業か……」
咀嚼したチキンを呑み込み、「兄者」は暫し黙考する
「兄者」率いる別働隊の者達は、この町へ来た当初こそ嫁獲りに勤しんでいたが
一番隊からの恐るべき報告が密使により伝えられたとき
「兄者」は四番隊への裏切りとも取られる任務遂行を決意したのである
「三番隊により、『十六夜の君』と呼ばれていた者の正体が、かの忌まわしき『女狐』であらば」
「兄者」はその場の全員に聞こえる、朗々とした声色で言った
「三番隊、四番隊の背後から糸を手繰っておったその者が、今や表に姿を現しているのやも知れぬ」
「兄者ァ、するってえとよォ、やっぱし隊長殿は、もう」
「うむ、既にかの『女狐』の毒牙に掛かり、その尖兵として踊らされている可能性も考えておかねばなるまいて」
「兄者」は五指を覆う朱い包帯に付着したチキンの衣を丹念に舐め取った
まっこと、悪くない別働隠れ家ライフであった
しかし、それも今宵で終わりだ
「者共ッ!! 聞けッッ!!」
「兄者」、珍宝の訓示に、ヤッコ以下、銀冶、門佐、六ン馬の全「トンカラトン」が背筋を正す
「四番隊が姿を消したッッ!! 時は来たッッ!! 今宵ッ、我ら別働隊はこの隠れ家を放棄するッッ!!」
「とうとう暴れ時だなァッッ!! 兄者ァァッッ!!」
「応ッ!! 六ン馬ッ!! 『師団』一番隊に伝令を飛ばせッッ!!」
「合点、承知」
「いよいよ我らは消息を絶った四番本隊の所在を突き止めるッッ!!」
「ゥ応ォォッッ!!」「応――」「応ッ」
吼えるような返事と共に、各名は床の間の天袋を開き、床板を引き剥がし、天井板を外した!
其処から取り出したるは何れも密輸入の重改造を施した違法RPG-7、違法カラシニコフ、違法軽機関銃である!
無論、襲撃した「ピエロ」共が取り落とした銃火器の回収も抜かりは無い!
「そしてッ! 隙あらばッ、――隙あらば、必ずや隊長以下本隊の同志を正気に戻すッッ!!」
そう発し、珍宝は鍔広の麦わら帽子を目深に被った
駆け寄るヤッコが、彼の背中に朱き外套を羽織らせる
その外套は、当然のことだが、墨字で「 朱 ノ 師 団 」と大書された逸品である!
遂に時は来たれり! 戦である!! 合戦である!!!
□■□
○Pナンバーの黒服たち
ミッペ
Pナンバーの新人、趣味は刺繍とごはん
久慈
Pナンバーの新人、一人称が俺、最近耳にピアスを開けた
リーダー
Pナンバー、新人二名(ミッペ、久慈)の先輩格で登録名はキルト、趣味はバイアスロン
アクアフレッシュ
Pナンバー、本編では「アクアフレッシュ」と呼ばれているが髪色が白青赤のストライプだからである
ぷーたん
Pナンバー、公私ともにふわふわしている、趣味はお昼寝
○学生共
早渡修寿
モスマン毒にやられて以降、顔が赤くなったり青くなったり
星崎
中央高校の二年生
下の名前はトマト、後輩からはポンコツ呼ばわりされている
○過激派
主任
元は過激派出身で異例の昇進を遂げた(?)門条と
万年下管停まりの自分の違いは何なのかと枕を濡らす日々
○「朱の匪賊」嫁探し組
珍宝
四番隊副隊長、「ちんぽう」ではなく「ちんほう」と読む
ヤッコ
四番隊副々隊長、隊内のムードメーカー兼トラブルメーカー
銀冶/門佐/六ン馬
四番隊の中でも推しが副隊長な「トンカラトン」共
口数は少ないが、テックに弱い珍宝を陰に陽に支えている
○Pナンバーの命名規則について
「組織」では以前から各ナンバーの頭文字を登録名の頭文字として指定する傾向が強かったそうだが
Pナンバーはこうした傾向を一切無視、「自由に登録名を決定して良い」とわざわざ文書化までして制定した
発案者は当時のP-No.0である
今夜はここまで
あと二つ
確かにイニシャルP縛りはきついなw
Rもたいがいだったけども何せ日本名Pがなあ
そういう意味ではザン・ザヴィアーは偉大だと思う
>>252-253
やの人お疲れ様です
チャームが効いてない……?
いや効果が阻害されてる……?
まさか、もう勘付かれたのか……!?
>>266
シャドーマンの人お久しぶりです
和名イニシャルPも高難度でしたが
洋名イニシャルPが簡単かと言うと……自信が無い
因みにPナンバー命名は自由と書きましたが
P-No.0や上位幹部に忠誠を誓っている黒服は
自発的に氏名両方かいずれかのイニシャルをP始まりにしているようです
ついでに言うとPナンバーの場合はP-No.というシステムに、というより
P-No.0や上位幹部その者に忠誠を誓っていることが多いイメージですね
では二発目行きます
学校町、位置不明
其処は暗く、どこまでも暗く、陰気の凝縮された空間だ
湿度の高い空気があたかも粘液のようにその場に居る者達へとまとわりつく
「フゥーーゥッ、フゥーーゥッ」
道化の装束に身を包んだ巨漢のピエロはまさにその場にあって
命じられた通り“クランベリー”を潰して果汁を搾り出す作業に勤しんでいた
周囲は完全に闇に溶けているが、僅かな光源によって床が錆び付いた何らかの金属であることが分かる
床の金属には元々何かの彫刻が施されていたようだが
こうも錆と謎の汚れに覆われていては一体何が刻まれていたのか知る由も無い
「フゥーーゥッ、フゥーーゥッ」
巨漢ピエロは自身の巨躯を縮めるようにして粛々と与えられた仕事を続けている
まずは“クランベリー”のヘタを切断する
こうすることで“クランベリー”はくぐもった悲鳴を上げるのを止める
次に震えの止まらない“クランベリー”を固定し圧縮することで甘い果汁を搾り出す
それを金属の床へ滴らせることがこの作業の最も重要な工程だ
「今で14だ」
この空間に居るもう一人、頬のこけた神経質そうなピエロは
“ポータル”から次の“クランベリー”を強引に引っ張り出し、通話相手に唸った
古参だからという理由で呼び出されてみたらこれだ、正直この場から逃げ出したかった
最初の話とは大違いだ、そもそも“クランベリー”もこの作業も彼にとって全く趣味では無い
この町に来てからというもの、もっと美味なモノを食い散らかす積りだったのに貧乏くじばかり引かれている
「もうこれで15人目だぞ!?」
通話の相手を押し殺した声で脅しかける
乱暴に掴み出された“クランベリー”が小さな悲鳴を上げて身を捩った
全ての“クランベリー”は白い布でくるまれリボンでしっかりと結ばれている
この包装は完璧だ、逃げ出すことなど無理な話である
「どうする? 続けんのか止めんのか、どうなんだ!?」
「フゥーーゥッ、フゥーーゥッ」
『待ってください、作業を一旦中止してください』
相手の声色に僅かな緊張が混じった
「ピエロ」のボス、「ジョー」が何をしているのかは知らないが
通話先の様子が妙だ、何やら慌ただしいようだが何が起こっているのか分からない
『今ジョーが確認を取っています、そのまま待機してください』
「フゥーーゥッ、フゥーーゥッ」
「待てマッシャー、一旦中止だ! おい、待てっ!!」
巨漢ピエロが作業を続けようと次の“クランベリー”を掴んだ
神経質ピエロは慌てて引っ手繰り返す、“クランベリー”が鋭い悲鳴を立てた
「おいこのウスノロ!! 待てっつってるのが分かんねーのかっ!?」
「ブフゥーーッ! ブフゥーーッ!」
『中止命令が出ました。作業を終了してください』
作業中止、幾ばくか緊張が緩んだ
不機嫌そうな相方の唸り声を聞きながら神経質ピエロは額の汗を拭う
「おい、作業終了だマッシャー! 中止命令が出た!」
「ブフスゥゥーーッッ!」
「そっちの案配はどうなんだ、おい。お前は随分落ち着いてんじゃねえか、え?」
『全然落ち着いてないですよ、正直余裕がありません』
唇を舐めて通話先の「ルーキー」に軽口を叩いた
奴は「ピエロ」の中でも新参者だが的確な手腕で「ジョー」をアシストできる実際稀有な存在だ
「大暴れできんのもそろそろなんだろ? そん時ぁパーッと楽しもうぜ」
『だといいんですが』
「ルーキー」の応答はどこか歯切れが悪い
大方「ジョー」と教授の作業とやらが詰まってるんだろう
神経質ピエロは「ジョー」によろしく言っとけと伝え通話を切った
「オラ行くぞ、こんな陰気臭えとこに長居したかねえんだよ俺は」
「フスーーッ、フスーーッ」
返事代わりに鼻息を立てるマッシャーを引き連れ、彼は“ポータル”へ侵入した
すすり泣いていた“クランベリー”は神経質ピエロにどつかれ悲鳴を上げる
後は覚醒させた“クランベリー”をもう一度眠らせればこの地獄のような仕事からは解放される
全ては「組織」に気付かれずに進める必要がある
手持ちの“クランベリー”はいずれも外部から調達してきたものだ
学校町内で収穫するとなれば確実に「組織」その他の注意を引くことになる
この“ポータル”にしてもそうだ、学校町外部と接続しているならともかく
転送は全て学校町内でのやり取り、その上今回は「先生方」の護衛も受けている
「組織」に勘付かれることも無い
少なくとも、今はまだ
彼らピエロが“ポータル”へ姿を消し、接続が解消されたとき
その空間は完全な闇に沈んだ
夥しい果汁が広がった金属の床は依然として不気味な静寂を湛えている
「組織」管轄の病院
「すいません部長。アタシの失態で、こんな」
丸顔なスーツの女性に先行しながらメイプルは死にそうな顔で謝罪した
南区ビル屋上で重傷の女子二名を保護してから何時間が経過したか
既に時刻は日付の変わる時分に差し掛かろうとしていた
「監督不行届は確かに問題だが、叱責は後だ
メイプル、被害者の容態は?」
「はい、少女二名も母親も現在は安定してます
意識が戻り次第、ヒアリングと記憶処理を実施予定です」
「捕食されかけたと聞いてどうなることかとは思ったが……」
後で憐子にも礼を言わねばな、丸顔の黒服はそう呟きながら一室に入った
集中治療室の病床に横たえられた黒服をガラス越しに眺める
全身を包帯でくるまれているのはメイプルの部下で
ビル屋上の一件で飛び出していった一人称俺の女子黒服、久慈である
丸顔は腕を組んで溜息を吐いた
「現場の報告はこっちにも入ってる。襲撃者の能力出力は並の契約者のものではない
『組織』の古い区分では即時捕殺に指定されてもおかしくないレベルだ
最近は、特に穏健派が強くなってからは下っ端が現場で強敵と戦うリスクも減っている
そんなの相手にヒヨっ子が生きて帰って来れただけでも御の字だ」
「……」
涙目でガラス向こうの部下を見つめるメイプルを尻目に
丸顔は悟られぬよう安堵の溜息を吐く
「しつちょー、ぶちょー、今ー話し掛けてもよろしいですかー?」
「ん? ああ、入れ」
いつの間に入口の方には別の黒服が居た
新人二名の追跡兼応援に向かった部隊の一人、アクアフレッシュだ
彼女は大きなタブレット型の端末を丸顔にも見せながら話を切り出した
「問題のー、襲撃者なんですけどー
交戦時に『変身』した形態からー正体を割り出すとなるとー、やっぱりコイツになるんですよー」
彼女が話しているのは、屋上で少女二名を襲い重傷を負わせ
更に内一名の少女の母親を襲撃して捕食しかけながら
現場に駆け付けた新人の久慈、および応援部隊と交戦した「襲撃者」の少年のことだ
襲撃者は、屋上で襲撃した少女の容姿へ「変身」して彼女の制服を奪い
少女の実家で母親の襲撃・暴行を実行、割って入った久慈に攻撃を仕掛けた後
応援部隊の黒服キルトとアクアフレッシュの前で獣人の形態へ「変身」の後に交戦
彼女ら二名を電撃攻撃で牽制しつつその場から離脱した
タブレットに映し出された情報を目で追う
「組織」データベースの映像記録で、半人半獣の怪物が表示されていた
「Wendigo」 ――確かに名称にはそう記されている
「ウェンディゴ」、カナダ南部からアメリカ北部の先住民に伝承される悪性の精霊だ
獣人の実体を持つとも、人に姿を見せることはないとも云われており
精神的な攻撃を執拗に行うとも、森に人を迷い込ませて食い殺すとも伝えられている
ちなみにこの「ウェンディゴ」、外見については諸説あるが
日本のオカルト解説本で紹介された「シカの角を持つ半人半獣」のイメージが後の「ウェンディゴ」の外見に影響を与えたという説もある
尤も人々の抱くイメージによって実在化した都市伝説の外見が変化する例は幾らでもあるので外見については措くとしよう
いずれにせよ、少女二名は体の一部に捕食痕があり母親も食われかけたという報告からは
襲撃者の正体、あるいは契約伝承が「ウェンディゴ」であると判断する材料にはなろう
「なるほど、精霊であれば消極的ではあるが『変身』能力の説明もつく」
「えーまーそうですねー、妖精精霊一般はー、大抵『変身』デフォルトで出来ますからー。でもー」
「変身」の能力は「ウェンディゴ」の特徴として取り立てて言及されることは無い
しかし、世界各地に残る伝承によれば「精霊」一般は様々な魔法を行使し、あるいは「変身」能力を有するとされる
広く「変身」能力を使用しうる存在だと捉えるなら、精霊の一種である「ウェンディゴ」もまた「変身」能力がある
そう言えるかもしれない、だが
「でもー『ウェンディゴ』だとするとー、くじっちゃんを吹っ飛ばしたー『電撃攻撃』の説明がー、まったく出来なくなっちゃいますー」
「『電撃』か……。全く別の能力者か、あるいは多重契約者という線も捨てきれんな」
応援部隊の情報によると、襲撃者と交戦した久慈は
放たれた電撃によって大きく吹き飛ばされ戦闘不能に陥っている
またこの電撃の威力により、応援部隊は近接戦闘に出ることができなかったのだ
加えて――、丸顔の黒服は目を細める
屋上で新人のミッペがリーディングした情報が正しければ、襲撃者の少年には女子が一緒だった
母親襲撃の現場には姿が無かったとのことだが、この女子の存在が非常に匂う
担当医からの報告では、都市伝説能力で生成されたとみられる“蛆虫”が少女達の傷口から多数摘出されたらしく
解析を試みたものの傷口を離れた途端に消滅したらしい。恐らく情報流出対策だろう
断定は出来ないが“蛆虫”がこの少女の能力である可能性は否定できない
「悩んでいても仕方が無い、今掴んでいる情報を全て門条側にも報告してくれ
連中が新しい情報を入手しているかもしれん」
「らじゃーですー」
「メイプル、我々もミッペの所へ行くぞ。案内してくれ」
アクアフレッシュはタブレットを小脇に抱え足早に退室する
丸顔とメイプルも集中治療のモニター室を後にした
「ミッペに関してはこっちに非がある、情報の連携が遅れた所為だ」
「いえ、そんな」
「流せる問題では無い。感知系能力に対するカウンター能力など……」
丸顔の眉間に険しさが混じる
穏健派から入った報告によると、「ピエロ」側には感知・予知系能力者へのカウンター能力を持つ契約者が存在する
射程や追加能力等の詳細が不明な現状、下手にリーディング系の能力を行使するのは危険だ
しかし現状では、リーディング系の能力を使用すると具体的にどのようなカウンターを食らうのかも分かっていない
応援部隊が現場に駆け付けた際、真っ先にミッペを保護したようだが彼女は錯乱気味だったという
ミッペは一体何を感知したのか確認する必要がある
「厄介なことになってきたな、『狐』の件に加え『ピエロ』とは」
「……」
「気合入れろ風日」
前を向いたまま後ろに続くメイプルに声を掛ける
「部下はいつでも上司の背中を見ているものだ、胸を張れ」
「……ッ!」
息を飲む気配の後パンパンと鋭い音が廊下に響く
頬を両手で叩く。メイプルが己に喝を入れる際によくやる行為だ
「すんません部長! 必ず巻き返します」
丸顔は答えず、ただ僅かに頷いた
階を上がると、廊下の長椅子にミッペとぷーたんが座っていた
ミッペは久慈と共に飛び出した新人、ぷーたんはミッペを保護した応援部隊の一人だ
「あっ、室長に部長ー! 今からそちらに行こうと思ってたのです!」
ぷーたんは如何なる状況でも己のペースを崩さない黒服だ
そして後輩への面倒見も良い。彼女はどうやらずっとミッペに付き添っていたらしい
「保護した女の子達も、女の子のお母さんも無事なのです
もう手術も終わってぐっすりお休みしてるのです
明日、お話を聞いて記憶を処理してあげるのです!」
「さっきアクアから聞いたよ、記憶処理は適切にな
今は少しミッペと話がしたい。いいか?」
「はい、ミッペちゃんはちょっと混乱してたみたいなのですが
今は大分落ち着いてるから大丈夫だと思うのです
私はキルトさんのお手伝いに行ってくるのです」
彼女は丸顔とメイプルに会釈するとぽてぽてとその場を去った
入れ替わるように丸顔が長椅子に腰掛ける
メイプルは立ったままで腕を組んだ
「うう、メイプルさんに、部長さんまで……。独断行動の処罰ですかぁ……?」
「説教は後でミッチリやる! 今は部長がお前に確認したい件があると」
「ビル屋上と襲撃者追跡中に能力を発動したらしいな。状況を詳しく聞きたい」
メイプルの台詞を引き継ぐように丸顔が切り出した
ミッペの直属上司はメイプルだ。彼女の険しい視線に怯えつつミッペは丸顔におずおずといった体で応じた
「リーディングで読み取ったことを話せばいいんですかぁ……?」
「いや、内容は既に確認してあるよ。聞きたいのはそこではない
そうだな、リーディングを発動したとき妙なモノを見たようだな。それについて確認したいんだ」
途端にミッペの顔色に明らかな恐怖が浮かんだ
丸顔とメイプルは顔を見合わせる
「敵方にやばい能力持ちが居るらしくてな、お前の情報がかなり重要なんだ。ミッペ、なんでもいい。話せそうか?」
メイプルにそう告げられ、ミッペは間近に座る丸顔の顔を見た
彼女の体が震え出したが、ややあって意を決した表情へ変わった
「私、『メトリー』を使おうとしたんです
屋上で、あの子達はすごく怯えてたから、言葉に出来ないくらい怖い目にあったのかなって
そしたら、何故か最初、『メトリー』が上手く発動しなかったんです」
「発動しなかった? それは何か外部の干渉の所為か」
「多分違うと思います、なんだか……感覚的には勝手に切れちゃったというか
もう一度発動して、あの子達に起こったことを読み取ったんですけど
その時には特におかしいことは無かったんですよぉ」
ミッペは顔色を窺うように丸顔を見つめている
丸顔は短い黙考の後、口を開いた
「その後、久慈と現場へ向かい、二度目のリーディングを実施したわけだな
その時の状況についても話してくれ」
「はい……。あの子の実家に向かってる間、お家の場所を詳しく特定しようとして
屋上の『メトリー』を続けようともう一回発動して、“足跡”を辿ろうとしたんですよぉ
そしたら……」
ミッペの震えが心なしか酷くなった
「急に、ノイズだらけの映像が映り込んできたんです
変なんですよぉ。普通『メトリー』で流れてくる映像がノイズがかることなんて無いんですけど
その時だけなんだか……人の居ない村みたいな、古い映像が流れ込んできて」
「動揺しているな。続けられそうか?」
「が、頑張ります……!
それで、私の『メトリー』っていつも映像だけなんです。なのに、この時は急に
海の、磯臭い匂いまで流れ込んできたんですよぉ。それだけなのに、すごく怖くて
ずっと、なんか向こう側に見えない目玉があって、それに覗かれてる気分がずっと続いて」
彼女の呼吸が大きく乱れ始めた
丸顔は涙目のミッペの背中に手を当てがった
「多分あの時、私は干渉されてたんだと思います
自分が何なのか、何処にいるのか、まるで暗闇に投げ出されたみたいになって
気付いたら、ぷーたん先輩達がいて、いつの間にクジちゃんは先に行ってて……それで、私」
「海の近くの村、が見えたんだな?」
「はい。村です。多分映像の中に何かが居たんだと思います
私のときは見えなかったんですけど、でも……でも、絶対に見たらいけない奴ですよぉ!!」
丸顔は先に立ち上がり、興奮気味のミッペも立ち上がらせた
ミッペはやがて両手で顔を覆い震え始めた
「メイプル、ミッペを『中央医務局』へ頼む
先方に話は通してる。念のため診てもらう必要があるからな」
「部長は」
「門条側に報告を入れる
『ピエロ』の件と連中の『狐』の件がどう関与しているのかは不明だが
敵性の契約者が動き出しているとなれば悠長なことはやってられん」
丸顔に代わり、メイプルがミッペの肩を抱き支えた
部長の表情は先程よりも険しい
「ミッペ、悪いことをした
先に敵方の情報を情報を共有しておけばお前も怖いモノを見ずに済んだ」
「だ、私は大丈夫です……!」
「解除命令があるまで、絶対に能力は使ってくれるな
メイプル、ミッペを頼んだぞ」
「了解っす」
丸顔は二人を残して足早にその場を去った
背中から怒気が立ち上がっているのを感じる。あの様子だと相当頭に来ている筈だ
「メイプルさん……、ごめんなさい……」
部下の消え入りそうな声を聞いた
ミッペはまだ顔を両手で押さえて震えている
「お前も久慈も生きて帰ってこれて良かったよ。説教はミッチリやるけどな」
「クジちゃん……。メイプルさん、『医務局』行く前にクジちゃん見に行ってもいいですかぁ?」
「さっき見に行ったがあいつ寝てんぞ」
ミッペは顔から手を離した
彼女は両眼を真っ赤にして泣いていた
□■□
門条さん側(穏健派「狐」捜査サイド)に伝わる情報
○過激派主任からの報告
・「ピエロ」は確かな戦闘能力と連携能力を有する
・「ピエロ」側に少なくとも一人、契約者がいる
爆発系の能力で、恐らくアメリカ産の都市伝説「ポップロックスで大爆発」の契約者と推測される
・憶測だが「ピエロ」側にはピエロ仮装をしていない契約者が複数存在する可能性がある
しかも仮装ピエロよりも戦闘力が高く、「ピエロ」の協力者と思われる
○Pナンバー丸顔部長からの報告
・「ピエロ」側と思われる二人の襲撃者が存在する
・一人は少年の契約者で、「変身能力」を有する
確認された外見は、少年の姿、少女に「変身」した姿、「ウェンディゴ」の姿(シカの角を持つ半人半獣)
また「高出力の電撃で攻撃する能力」も有している
出力が極めて高いため熟達した能力者でなければ交戦は危険、食人嗜好が窺え残忍な人格の危険性あり
・もう一人は上記の少年と共に目撃された少女
能力は不明ながら「蛆虫を生成する能力」である可能性が高く、その方面から絞り込めるかもしれない
・連携の遅れから感知系能力を使用した黒服がいる
彼女の話では「初回の能力発動時に、能力が切断され」
「二回目の発動時には海沿いの漁村の映像が流れ込んできた」
また映像を目撃した後、その黒服は若干の錯乱を催している
・その黒服の報告では、「漁村の中に何者かが存在し、それに見られている感覚がした」という
前回(>>258-263)と今回合わせて、花子さんとかの人に土下座でございます……
正直「狐」が動き出した時点での門条氏のオーバーワークっぷりを考えたくない
そしてそのオーバーワークな状況を作り出す一端に加担したのは紛れもなく私なのだが……
土下座でございます……
この時点で上記通り門条さん側に情報が渡っています
「海からやってくるモノ」に関しては「先生」から門条さんに連携が入ってる筈なので
ぶっちゃけ無用な情報かもしれませんが一応
「ピエロ」側には感知・予知系能力者へのカウンター能力を持つ契約者、「海からやってくるモノ」のスペックは
前スレの743を(「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 Part 12 - SSまとめ速報
(https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1483444899/743))
前回登場の「朱の匪賊」については
前スレの497をご参照ください(「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 Part 12 - SSまとめ速報
(https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1483444899/497))
今更ですが「朱の匪賊」副隊長(珍宝)と副々隊長(ヤッコ)は
四番本隊とは九月以降ずっと別行動を取っていました
そしてここでかつての社長出勤者名義を使用
ようやくというか次世代編でようやくPナンバーが登場するに至ったので
この機会を逃したら今まで以上にぐだりそうなのもあって、先に以下出しておきます
エタり中のバールの少女氏『バールの少女』にて登場のIナンバー、Mナンバー、Vナンバーと
『社長出勤者劇場』で過去登場してるかと思えば全く登場していなかったPナンバーの概要をここに載せます
そしてご関係の皆さまに精一杯の謝罪を致します……orz
○各ナンバー概要
・Pナンバー
穏健派
女子黒服で構成される
現世代編よりも過去の時点からP-No.0は�部の�激・強�派によっ�拉ch
��誘k���
謎の失踪を遂げた☺
P-No.1も0と同じく失踪した
上記と同時期にPナンバー上位幹部に過激・強硬派が侵略を実行し内部治安が荒れに荒れた
次世代編では上記過去の事件を知らない新人黒服が多い
また次世代編では現世代編からの上位幹部及び0ナンバーが一新されている
・Vナンバー
過激派、かつては過激派最大手の派閥だったようだ
恐らくAナンバー、Bナンバー、(全盛期だった頃の)Hナンバーとは敵対している
ダーク・エイジ(過激・強硬派が「組織」内で優位だった時代)には日常的に殺し合いが発生していた
内部派閥は穏健派寄りからゴリッゴリの過激派寄りまで、と理念が細分化されており一枚岩ではない
昔から自治権が非常に強く、外部ナンバーの干渉を受けないことで有名
またナンバーについては永久欠番制ではなくリナンバリング制を採用、犯罪行為の外部追跡が困難になっている
上位幹部及び0ナンバーに関しては終身制ではなく任期制で、数年~十数年に一度総選挙が実施される
この時ばかりは外部の穏健派やら他の過激・強硬派やらの思惑が錯綜して大混乱の様相を呈する
意外どころでは(多分「組織」内で唯一の)労組が存在する
次世代編では穏健派の台頭と内部抗争のダブルパンチで弱体化が進行している
・Mナンバー
中立派
所属者の殆どが研究活動に従事
中立派というスタンスだが、研究員を外部ナンバーの各派閥(ほとんどは過激・強硬派)に研究員を提供し
派遣先の研究課題を担う、といった意味での中立派であり、例えばEナンバーのような立ち位置とは全く異なる
研究部門が大きいものの現世代編の時点では小規模ながら捜査部門も新設、こちらは文字通りの穏健派寄り
一部研究者が過激・強硬派内での研究で培ったノウハウを利用して暴走しており、穏健派からは信用されていない
0ナンバーは「M資金」の黒服で、上位幹部らと共に主に外貨との調整を担当しているようだが……
噂によると彼は年端もゆかぬ少年黒服らしく、上位幹部(一桁ナンバー)により監禁に近い扱いを受けている
・Iナンバー
派閥不明
穏健派からは強硬派、過激・強硬派からは穏健派と見られている
一部の中立派とは非常に仲がよろしくない
「組織」の黒服が持っている筈の基本能力を有していない構成員が多く、かつては欠陥品呼ばわりされる事もあった
過去に起きた諸事件の所為で構成員が少ないものの追加の人材採用を殆ど行っていない
かつては西日本の伝統的な都市伝説関係勢力との交渉を担当していた
ダーク・エイジの頃、過激・強硬派の奸計で0ナンバーが「組織」への叛乱を宣言
その後にI-No.0とその仲間たちが蒸発したことで
過激・強硬派の手により権限の殆どを凍結され一時は解体寸前にまで追い詰められた
にも関わらず現世代編、次世代編、共にしぶとく生き残っている
・「次世代ーズ」における次世代編の特徴
現世代編での「夢の国」戦や対「教会」戦経験者は
伝説級の契約者・黒服として、次世代新人達からはある種の畏敬の目で見られている
……最後にもう一度土下座しますorz
乙です
リーディング系封じの設定はとてもいいなあと思いつつ、どう崩していくのかも楽しみです。
>>年端もゆかぬ少年黒服らしく、上位幹部(一桁ナンバー)により監禁に近い扱いを受けている
つまりMナンバーの上位組はショタ食いのお姉さま方ということに違いあるまい!
>>278
ありがとうございます
今回の「海からやってくるモノ」の射程圏は
学校町全域が対象になっていますが果たして足りるのかどうか
Mナンバーについては……
出したいですね、お姉さん気質の女性黒服……
今日は週末の貴重な休日でしたが
不吉な呼び声により出勤が決定したため
>>268-274の続きは早くて今週木金曜の投下になりそう、です
ハロウィンの与太話を投げるのだ
①ハロウィンタイム開始前
コトリー「……」
せと 「がんばるぞー」 ☜ キュートな感じのゾンビメイク
コトリー「……」 ☜ 終始無言
コトリー(みなさんごきげんよう……
『ラルム』でアルバイトしてますの、コトリーと申しますの……)
コトリー(ハロウィンの時期は賑やかなのですけど……なのですけどっ!!
……なぜだか学校町のハロウィンは気持ちがゾワゾワして不安になりますの……)
コトリー「……」 チラッ
JD先輩「よーしグヘヘ、思いのほかバッチリ❤」 ☜ 露出激しいサキュバスコス
おばちャ「今日は私もホールでいいのかしらぁ♥」 ☜ 色々危ない狐娘コス
せと 「限定メニューも店長の自信作なんですよね!」 ☜ いつもより若干テンション高い
コトリー(どうしてみんなやる気満々なんですのぉぉー!!ξ(˃︿˂)ξ )
②ハロウィンタイム中
コトリー「お待たせしました、アールグレイとシフォンケーキですの!」
リリン 「あ♥ ありがとうございます」
コトリー「あらシノノメ様、可愛い角ですわね! ξ(ㆁ◡ㆁ)ξ」
リリン 「ありがとーございますー🌟
ハロウィンセールの間はお店でもずっと付けてるんですよーコレー!」
リリン (こんにちは、隣町在住の『リリン』です)
リリン (私は心の声で私から私に語り掛けてます)
リリン (今、あたまからデコレーションした角が生えてるんですよー)
リリン (皆さんこれを飾りだって思ってるみたいなんですけどー、実はこれ自前なんですよー)
リリン (言ったら信じてくれるかなぁ……♥)
リリン (……なーんて…… ほんとは言う度胸なんて、私になんか無いんですけどね…… ˃̣̣̥⌓˂̣̣̥)
コトリー「 」 ブルッ
コトリー(シノノメ様は『ラルム』の常連さんなんですけど、今日はいつもより不気味な雰囲気ですの……)
コトリー(いつもは落ち着いた大人の女性って感じの方なのですけど、これもハロウィンパワーなんですの……??)
コトリー「どうぞごゆっくりー」 ☜ 鉄壁の営業スマイル
リリン 「はいー…… どうもー……」 ☜ 何故だかテンションが下がっている
③業務終了後
コトリー「はふぅ」
コトリー(今日はいつもより疲れましたの……
それもこれも絶対ハロウィンパワーの所為ですの……!)
コトリー(早渡さんもありすさんもかやべぇさんも来てくれませんでしたの……
明日でもいいから来てほしいですのー……!!)
せと 「たまちゃん大丈夫?」
コトリー「いぴッ!!」
コトリー「あ゛っ! だだだ大丈夫ですの! 今日はいつもよりくたびれましたわね!」
せと 「何だか具合悪そうだよ、無理しないでね」 ☜ 心配そう
コトリー(不覚ですの! せとのゾンビメイクに一瞬心臓が変な音しましたのー……
やっぱりこの時期は妙に苦手ですわー……)
店長 「みんなお疲れ様! どうかな! 明日のホールはメイド服で」 ☜ 満面の笑顔
せと 「嫌ですっ!!」 ☜ 真顔で即答
コトリー 「いやですの!! ξ(ㆁ-ㆁ)ξ」 ☜ 営業スマイルで即答
店長 「 っ 」 ☜ 笑顔のままキッチン方面へスライド後退
コトリー(皆さんもハロウィン、お楽しみ下さい! ですの! ……はふぅ)
■登場人物
コトリー
「ラルム」のアルバイトさん、高一
ホラーが嫌いというわけではないが、学校町のハロウィンは何故だか怖くて苦手
せと
遠倉千十、「ラルム」のアルバイトさん、高一
怖いモノ全般が苦手なはずなのに、ハロウィン時期はどこか楽しそう
リリン
名前は「東雲クロワ」に決定した
伝承存在「リリン」、非常に気が弱い
普段は隣町のランジェリーショップの店員さん
JD先輩
「ラルム」のスタッフ
イベント時期は無理してでもシフトを捻じ込んでくる
おばちゃん店員
「ラルム」のスタッフ、縁の下の力持ち
店長
「ラルム」店長、隙あらばコトリー&千十にメイド服を着せようとするため警戒されている
ハッピーハロウィン
この数日後に早渡は地獄を見ることになる
「マヒル、お前に端末預けてたよなぁ? はよ」
「かぁクンちょっと待ってね」
「あーマジゴミだわ、ゴミカス、カスカス」
グリングリンがその場へと乗り込んできたのは日付が変わって間もない頃だ
横合いから聞こえる契約者共の談笑を無視
彼は大量のモニターと機材に囲まれたピエロと白衣の女へと詰め寄った
「おい、ジョーの首尾はどうなってる」
低く静かだか凄みのある声に白衣女はたじろいだ
女の代わりにピエロ装束の男がグリングリンの前に出る
「現状、特に問題があった等の連絡はありませんが」
「チッ、それが大問題なんだ。身内に先走りやがった馬鹿共がいる
大方焚き付けた連中がいるんだろうが……。しかも勝手に自殺まで始めやがって。気に食わねえ」
グリングリンは銀色の眼光を鋭く女へと向けた
白衣女は唐突に現れたこの長身ピエロに気圧されていた
「放火チームのことですか? あれは“自己終了処理”も含めてジョーからの直接指示ですよ」
「それも気に食わねえ、一遍ジョーと話させろ。ルーキーには繋がるだろ」
グリングリンはピエロの肩を掴み脇へどけると女に構うことなく卓上の機材を乱雑に操作し始めた
彼女とピエロは若干困惑気味に顔を見合わせた
ヘッドセットを不適切に耳へ押し当てグリングリンはモニターの一つを睨む
間もなくコネクション中のステータスから「Sound Only」のアイコンへと表示が変化した
『隊長、どうしました?』
「ルーキー、俺だ、グリングリンだ。ジョーと繋げ」
『えっ、グリングリン……? な、何か問題でも』
「いいからジョーと繋げ、問題も問題だ。あいつは何考えてんだ」
『しかし……、ジョーは既に“接続”を……』
「その状態でも放火の指示は出せたんだろ? 繋げ」
『えっ、あの……。しょっ、少々お待ちを』
会話はヘッドセットだけでなく壁面据え付けのスピーカーからも響いていた
そしてルーキーの焦った声色の後に音声は沈黙した
「“先生”、すいません! さっきの俺なんだわ。悪いって伝えといて!」
突然の大きく響く声に白衣女の心臓は縮み上がった
咄嗟に声の方向へ目を向ければ、「七尾」の問題児とその目付け役の少女だ
グリングリンに悟られぬよう白衣女は何処かに通話中の問題児を黙らせるようジェスチャーを送るが
肝心の少女がこちらを見ていない
「悪いって、さっきのは拾った携帯で間違えて掛けようとしただけだよぉ
もち、任務はじゅんちょーじゅんちょー。悪いことは全然してないしぃ、俺ってばいい子だからあ
だからぁ違うって、ほんとにぐうぜん拾った携帯なんだって。盗んでないし、襲ってもいないよお! うん、まだな。まだ」
神経を逆撫でするような問題児の声質に白衣女は気を揉んだが
グリングリンは問題児へと一瞥をくれるに留まった
『グリングリン、駄目です。ジョーの応答が無い』
「ふっざけんな、“接続”中だろうが知」
《 何事だ 》
暫くあって返ってきたルーキーの応答、苛立ちを隠しすらしないグリングリンの返事
そして、別の音声が介入したとき、白衣女は突如として恐怖を覚えた
老人じみたその声は彼ら「ピエロ」の親玉のものだ
スピーカーからの音声は若干ノイズ掛かってはいるが、明瞭に聞き取れる
ただそれだけなのに、何故こうも背筋を撫でつけるような薄気味の悪さを帯びているのか?
そもそもだ、この声はスピーカーから発されたものなのか? 自身の内側から響く錯覚に囚われなかったか?
「……出れるじゃねえか」
《 “接続”そのものは済んだ 今や俺自身が通信だ グリン 何用だ 》
「何用もクソも……、放火はお前の指示か、どういう魂胆だオイ」
回線に割って入ったジョーにグリングリンも鼻白んだ様子だったが
苛立ちを取り戻したかのようにマイクに向かって凄み出した
「完全に『組織』の注意が向いたぞ、東区の放火でな
結構な数のピエロが削られてやがる
おまけに『通り悪魔』と『淫魔』が忌々しいクソ垂らしやがった
それだけじゃねえ、傭兵共の一部が『組織』の連中と派手に殺り合ってる!
大半の屑共ならともかく、穏健派が本格的に動き出したらどうする積りだ!?
一ケタが出張ってきたらヤバいぐらい不利になるぞ!!」
《 そのための「先生方」だ 「一ツ目」の動きも把握している
放火は必要な措置だ “サーカス”と同じく陽動の一部と考えろ 》
「こんなに早くか!? 前倒ししたのか!?」
《 そうではない だが 当初の計画を変更せざるを得なくなった 》
二人のやり取りを白衣女と傍のピエロは見守るより外ない
《 俺は今「中心」に接続している 「門」が休眠状態にあるのも確認済みだ
「門」を開くには当初の通り生贄が必要だ 封印は汚染されなくてはならない
プロトコルに従い生贄を潰したが 「門」は覚醒の兆候を見せなかった 「教授」の想定に無かった問題だ 》
「アクティベートに失敗したってワケか」
《 「門」は無垢なる者の生贄を欲している 要するに血が足りない 我々はそう考えた
事態の解析には「教授」の助力が要る これを「組織」に気付かれるわけにはいかん
結果を焦り護りが疎かになれば 我々のビズは全て徒労に終わる そのための陽動だ
現時点では 既に「教授」の解析は済んだ ピエロ達には撤退 もしくは自害を命令している
ともあれ 「教授」の解析過程で 問題は血の量では無いことが判明した
どうやら封印の解錠には 生贄の条件が設定されているようだ これが最大のイシューだ
我々では到底対処できる規模のものではない これ以降の仕事は「教授」に任せることにした 》
「ようやく話が見えてきたぜ。でもよ、元々『門』云々は『教授』の問題だろ?
俺らのビズはあくまで『門』の確認まで、後は知ったこっちゃ無えって取り決めの筈だ
ああクソッ……。で、どうなんだよ。もう一つの大問題は。俺らにはそっちのが最重要だろ」
《 無論よ 莫大な報酬が掛かってるからな
そちらに関して大きな変更はない 手筈が済み次第「行動」を開始する 》
「それでどうすんだ。もう24時回ってるが、今からド派手にやんのか?」
《 話を急ぐな 続きがある 夕方頃に「狐」が動いたという報告があった 》
「ああ゛!? おいおいおい、なら今直ぐやんなきゃ駄目だろうが!!」
《 だが 奴が動いたにしては 観測の網に一切の反応が無い
「中心」も 沈黙を守ったままだ 「先生方」からにも確認を要請したが
「狐」の活動を確認できたという 追加報告はまだ上がっていない 》
「あ゛、どっちなんだよ。ガセか?」
《 「先生方」の確認が済んだ後でも 「サーカス」は遅くない
だが 知っての通り 「組織」はこちらの動きをある程度察知している
既に 陽動の中で 全知の観測者が迎撃に向かったという情報も入っている
在野の契約者の中にも 多少骨のある者が頭を回しているようだ
この状況で 「狐」の出方を窺うあまり チャンスをみすみす逃すわけにいかん 》
ジョーは一旦言葉を区切った
モニター上の「Sound Only」のアイコンを、グリングリンに加え白衣女とピエロが凝視する
《 状況判断の結果だ 本日 日没前に 「サーカス」を決行する 》
「ヘッ、散々引っ張りやがって! 全部『組織』に潰されなきゃいいがな!」
グリングリンの言葉に、先程までの苛立ちとは異なるある種の興奮が滲んだ
彼とて今更「組織」の一桁ナンバーを恐れているわけではない
折角の「サーカス」を丸潰しにされないか、そこだけがグリングリンにとっての問題なのだ
《 その点は問題ない 「先生方」にも更なる切り札はある
「教授」の側にも隠し玉があるという話だが これはお楽しみだな
「組織」幹部の動きは気にするな いずれにせよ お前はサイドビズにでも集中していればいい 》
「そうもいかねえだろ、不死身のジョーさんよ
『信念の無えビズは容易にクソ以下に成り下がる』
これ、誰の言葉だったか忘れちまったってか? あ?」
《 お前がそれを言うようになるとは いよいよ今日は血の雨でも降るかな 》
「降らしてやんだよ、学校町によ! 売れる喧嘩は売っとかねえとな、こっちにもプライドがあんだろ? なあ」
《 そっちの仕込みは任せたぞ 》
話は終わった
グリングリンはヘッドセットを投げると、おもむろに白衣女へと向き直った
「ジョーは傭兵を高く買ってるらしいが」
通信での会話とは違い、この場へやって来たときの低音で唸った
白衣女と傍のピエロに緊張が走る
グリングリンは白衣女に一瞥をくれ、件の問題児と少女の契約者へと剣呑な視線を向けた
問題児は依然として携帯越しの相手と耳障りな声色で通話を続けている
「俺は全ッ然信用してねえ。『教授』の義理だから言いたかねえがよ
今夜は『先生方』が結構暴れたみたいじゃねえか、あれも適切な行動だったんだよな?
そうであってほしいもんだ。おい隊長、後は任せたぜ。全『ピエロ』に『サーカス』は本日の日没前と伝えろ」
「はっ、はい! 了解です!」
隊長と呼ばれた、白衣女の傍にいるピエロは慌てたように姿勢を正す
グリングリンは大仰に首を振って骨を鳴らした
「ブギー! スカル!」
「「ここに」」
白衣女の目には突如として新手のピエロが現れた、少なくともそう見えた
グリングリンの両脇には、最初から存在したように二人のピエロが控えていた
両名ともに仮面を装着した者達だ。各々白と黒、気味の悪いデザインの仮面である
「ジョーの言葉通りだ、まだ16時間ちょっとある。取り掛かるぞ」
「「仰せのままに」」
グリングリンは二人のピエロを従えてその場を後にした
最後に一度、白衣女に双眸を向けた
「“スプリンクラー”の最終調整に入る」
その場から立ち去るグリングリン達を胡乱な目つきで追いつつ
問題児の契約者は端末の通話を切り上げた
彼は「七尾」出身の契約者、そして問題児
少なくとも一部外野からはそう呼ばれている
数時間ほど前に南区で女子生徒二名を襲撃し
ビル屋上に拉致した後で拷問と暴行を加えた挙句
内一名の容姿に「変身」して制服を奪い彼女の実家を襲撃
母親をゆっくり捕食する段となったところで「組織」黒服の介入を許し
しかし女子計三名の黒服を牽制しつつ余裕の離脱を決めて此処へ戻って来た者こそ
この契約者、「七尾」ANクラス出身で「けものへん」所属、閏猾二である
彼はまだなお襲った女子の容姿を保持し続けていた
無論女子の制服も着用したままである
「はぁー、あの様子じゃ“先生”も気付いてないっぽいな。まじチョロ」
閏は言い切らぬ間に、定時連絡のために使用した彼本来の地声から
「変身」によって得られた女子生徒の声へと戻した
「あの子の携帯で掛けようとするなんて、かぁクンっぽいうっかりだよね」
「褒めんなって照れんだろぉ。まあいいや“先生”も許してくれたし」
「でもかぁクン、なんで女の子の格好続けてるの? ちょっと複雑な気分だよ?」
「そりゃ明日のためよ、まずはテキトーに男モンの制服手に入れないとだしな」
そのためには、そう彼は少女声のまま続けた
定時連絡の直前まで弄っていた携帯を再び取り出す
これは女子生徒から制服を奪った際についてきたオマケだ
携帯の生体認証などは「変身」能力でどうにでもなるので楽勝である
「檻に囲われた家畜って何やって無駄に生きてんのかある程度掴んどかないと」
「ふぅん、でもあの子の携帯の中身なんかより私の中身を見てほしいなあ」
「気が向いたらな」
閏はソファにだらしなく身を沈め、詰まらなさそうに携帯を弄んでいる
傍らの少女はそんな問題児の肩に頭を預けて半ば抱き着く格好だ
余談だが、このとき遠巻きに彼らを凝視していた白衣女はその光景に絶句していた
元々少女、稲尾まひるは「七尾」の問題児を監視するべく彼の担当となった契約者だ
しかしその実、彼女は完全に篭絡されていた。こうとなっては閏のストッパーとして全く役に立たない
そんな白衣女の胸中を知ってか知らずか
閏は心底どうでもよさそうな雰囲気で言葉を続けた
「『ピエロ』の皆さんも大変なんすねえ、俺らは関係ねえけど」
「パートナーなんだから仲良くしないとだよかぁクン」
「まっ仕事だし文句言わないけどさぁ
こっちは明日の一仕事をクリアすれば全部オッケーだし」
女子携帯の物色に飽きたのか、閏は簡易テーブルに携帯を放った
代わりにテーブルに置かれていたタブレット型の端末を手繰り寄せる
「そーいやマヒルは早渡修寿の顔、知らないんだよな」
「早渡クンのことはかぁクンが全部やってたからね、どんな子なのかな?」
「特別に見せてやんよ、見事なゴミ面だぜ」
話題が今回の任務のターゲットに及んで、閏の声色が俄かに活気づいた
軽快なタップ操作によって画像データが表示される
遠景から撮影されたと思しき学生の静止画だった
写っている男子が着ているのは学校町南区の商業高校の制服だ
丁度、閏が現在着用している女子制服と同じ高校のものである
「こいつが早渡修寿、ANクラスで扱かれたとはいえ能力的には大したことない」
「でも任務的には結構重要っぽいんでしょ、この子」
「佳川の“計画”に必要な駒なんだってさ」
閏は爪先で執拗にタブレット表面を叩いた
彼が早渡修寿というターゲットに執着していることは稲尾まひるも把握している
「ここ数週間、こいつの動きを観察してた
なんで学校町に来たのは知らねえけど、相変わらずクソみたいな性格してるよ
懇ろでもないのに身の程知らずもいいとこ、女に付きまといやがってるだけのゴミ屑が」
「かぁクンはどうしたいの? 殺しちゃう?」
「バァカ、生きててこその利用価値だろ
まぁ個人的には直ぐにでもぶっ殺しときたいゴミだけどさ
てかそもそもこいつは初等部6年の頭で死んでなきゃおかしい筈だったんだよ
余計なことした馬鹿が絶対いるんだよなあ」
そう口にする閏の両眼に剣呑な光が宿る
それは彼の内側で膨れ上がる憎悪と共振していた
閏が“先生”から受けた命令は「早渡の生存確認」だ
これは佳川有佳の意向を受けた任務でもある
閏は学校町到着から程なくして早渡の存在を突き止めていた
だがまだ“先生”には未報告、その点は稲尾も理解していた
「生存確認オッケー、でもそれじゃ足りねえんだよ
早渡修寿の“サンプル”まで回収しないことには片手落ちってやつだからな」
「“サンプル”?」
「これだよ、おら」
閏は制服の内側から取り出したそれを無造作に稲尾へ押し付けた
バイオハザード(生物災害)とへクスハザード(呪詛災害)のシンボルが記された透明袋だ
中には炭化したかのような黒い棒状の破片が収容されている
稲尾は閏から袋を受け取り、袋越しに破片の硬い感触を確かめた
閏はついでにタブレットも稲尾に押し付け、彼女に持たせた
「まじチョロ、ってわけには行かなかったけどさ、いちお回収には成功した
でもこれじゃ足りねえんだよなあ、これだけじゃあ俺が満足できねえんだよ」
閏は間延びした声色だが先程よりも興奮が昂ぶりつつあることに稲尾も気付いている
彼は稲尾の背中から手を回して彼女を抱き寄せるとその胸を揉みしだき始めた
稲尾もそれに合わせて肢体をくねらせ閏により密着する
「あいつの“血”が要る。“先生”もそれが狙いなんだよなあ
佳川は絶対に欲しがるだろうし交渉のカードとしちゃSSレアでしょ、マジで
古い奴なら俺も持ってるけど、今現時点の早渡修寿の血液ってところが大事なわけ」
空いたもう一方の手を咥え、指先を噛み潰した
痛みと己の骨が砕ける感覚とが内なる獣性を刺激する
「まっ前提としてはそうなんだけどさ、その上で?
俺としてはあのゴミ野郎を徹底的に痛めつけないと気が済まないんだよなあ
あいつは自分がゴミだと思い知らなくちゃいけない、生きてちゃ駄目な奴なんだよ
呑気に学生ごっこやって、女に付きまとって。あのカスは一体何様の積りなんだろうなあ」
「ふぅん、そんなに嫌いなんだ。早渡クンのこと」
「嫌いっていうより? ゴミが人間のフリして振舞ってるのが駄目だろって話?
とにかくこいつを殺って血を抜き取る
殺しちゃアウトだけど別に捥ぐなとは言われてないし、ダルマにするくらい余裕だろ」
「あー、かぁクン悪ぅい♥ いまのかぁクンすっごい悪い顔してるぅ♥♥」
きゅうと悪意の滲んだ笑顔を浮かべる稲尾の横で
閏はバキバキと音を立てて己の指を骨ごと噛み砕いていた
足りない、全然足りない、早渡修寿の味わう痛みは俺以上のものでなければ
「あいつはゴミで低脳の屑だけど家畜じゃない
普通のやり方じゃ警戒されるから、“餌”が必要なわけ
おびき寄せるために、マヒルにも分かるよねえ?」
「何匹か候補がいるんでしょ、大丈夫♥ ちゃんと理解してるよ♥」
相方から放たれる憎悪と獣じみた悪意こそ稲尾を魅了してやまないものだ
両手の塞がった閏に代わって彼女がタブレットを操作した
何名かの女子の静止画をスライドする
「まずこの神経質そうな眼鏡と早渡修寿が鼻伸ばしてたこの巨乳女は駄目だ
学校町の契約者で、ANは知らんけど結構動ける
俺が本気出せば幾らでも嬲れるけど作戦的にリスクなんだよなあ
というわけで第一候補は今んとこ、――そっちの子」
閏は顎でしゃくって稲尾の画像スライドを停めさせた
表示された制服女子の静止画に、稲尾の眼が僅かに細まる
セーラー冬服を着た少女が、友人と連れ立って気の弱そうな微笑みを浮かべている
この町の東区にある高校の制服だった
「とおくらせとちゃん、早渡修寿がせとちゃんせとちゃん言ってっから名前覚えちゃったよ
契約者じゃないのは確実。トロそうだけど意外と脚速いよこの子
あと勘が良いのかお友達の入れ知恵か、野良のANを避けて動いてる
理想なのは人目の少ない所に連れ込んでから両脚をへし折って持ち運ぶってとこだけど
上手くいくかちょっと心配だなあ、でも早渡修寿が結構入れ込んでるみたいだしなあ」
稲尾が遠倉千十の画像に冷酷な眼差しを向けることなど知らず
閏は噛み砕いた指先で犬歯を何度も撫で付けている
「やっぱこの子の血が欲しいなあ、犯しながら食ったら最ッ高に美味そう
俺がせとちゃんに成り代わって早渡修寿を騎乗位で舐めプする予定だったけど
どうしよっかなあ、ゴミ野郎をダルマにしてから目の前でせとちゃんレイプしても楽しそうだし」
「ふぅんふぅん、私の前でそんなこと言っちゃうんだあ、不貞腐れるよ?」
「なんだよマヒルたん、嫉妬してんの? 醜いなあ」
稲尾が拗ねたときどうすれば良いのかを閏は熟知している
彼女の首筋に血塗れの舌を這わせ、筋に沿って舐め上げた
嫌がる素振りを見せるがただのフリだ、彼女はこうされるのが好きなのだ
「それで♥ かぁクンッ♥ この子は、どうするのッ♥」
照れ隠しのように稲尾はタブレットを更にスライドした
彼女が閏に見せたのはこの町で最も大きい中学の制服を着た女子の画像だ
「ああ、いよっち先輩ね。早渡修寿がそう呼んでるガキんちょ
第二候補だったんだけどちょっと難しいかもな
この子も面白そうなんだけど、まずどういうわけか人間辞めちゃってる
早渡修寿も結構この子に執着してるっぽいから使えると思ったんだけど
集めた情報でも行動パターンがはっきりしないから厳しいんだよなあ」
「じゃあ狙いは♥ やっぱりせとちゃんなんだねっ♥ んっ、かぁクンくすぐったいよお♥♥」
稲尾はタブレットをテーブルへ放ると閏の肩に腕を回した
彼は今、稲尾の首付け根を丹念に舐めている
彼女はそんな相方の頭を優しく包んだ
「ねえかぁクン、せとちゃん使い終わったら私の好きにしていい?」
「いいよお」
「本当にいい? 壊してもいい?」
「いいよお」
「ありがとう♥」
稲尾は嬉しそうに閏の頭を自分の首に抱き寄せ、薄く微笑んだ
「かぁクン大好き♥♥」
□□■
こんばんわ
今回も遅れました…… そして花子さんとかの人とやの人に土下座でございますorz
【11月】の「狐」勢力が動き出した夕方から日付が変わるまで(便宜上、【1日目】と【2日目】と呼ぶ)の動きを一通り出しました
今回の話の要点は以下の通りです
・日付が変わる前後の時点で「ピエロ」の東区放火作業は終了しました
関与した「ピエロ」は撤退するか自殺しています
・放火の裏で「ピエロ」中枢メンバーは何かをしていました
引き続き何かを続行します
・「ピエロ」は【2日目】の日没前の時点で「サーカス」を開始します
・「七尾」関係者は「七尾」関係者狙いで動きます
「次世代ーズ」はこれ以降
時折【11月】のピエロ【1日目】と【2日目】の話に追加と補足を行いつつ
【9月】から【11月】に至るまでのエピソードを追っていくことにします
「ピエロ」戦への介入は是非ともご自由に
【11月】のピエロの行動は前スレ(「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 Part 12 - SSまとめ速報
(https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1483444899/))の500をベースにより過激に
【2日目】の時点ではピークに達します
>>292
魔弾の黒服さんとサキュバス様方との関係が気になる昨今ですが
>っていうのを分かった地点でヤエルが報告してるでしょう
色々考えてみるといい感じで早まりそうですね……
・「先生」からもひかりちゃんからも暗殺者二名の報告が上がる
(暗殺者らの所属がばれる)
・サキュバス様の魅了に何らかの干渉が入ってる件で報告が上がる
(バックでなんかやってるのがばれる)
……「組織」の初動対策が当初の想定以上に早まる、ということは
意外と被害が抑えられるかな
>至近距離でノーモーションで頭爆発されたら、ユリが巻添え食らいそうだな
頭部爆弾の具体的なカラクリがまだ出てないので今週中に出したいですね
一応自動でも遠隔でもないです
現在、丁度日付が変わった真夜中の時分だ
Pナンバー幹部である女性黒服はテレプレゼンス端末の前に立っていた
今しがた長い認証コードの入力を終えたばかりだ
「ピエロ」による東区放火の報告が入って既に数時間が経過した
現場からは未だ脅威の鎮圧に完了したという連絡は無い
「ピエロ」――10月初頭から学校町内での活動が確認された敵対的都市伝説だ
「組織」は彼らを有害存在であると認定し出現の度に実力で排除に当たってきた
だが今夜の連中の動きはどうだ、今までとはまるで違う
あたかも彼ら自身の存在を知らしめるかのような暴挙に出ているではないか
脅威の排除は言うまでも無い
しかし最優先事項は治安維持、非契約者に対する都市伝説の隠蔽だ
現場からアップデートされる報告に鑑みて、恐らく現場レベルの対処では間に合うまい
暫くの待機の末、M-No.010との通信が確立された
相手の姿が端末に投影される
「今晩は P-No.6、先程の件ですね」
M-No.010、実質的なM-No.0の“代理人”だ
他ナンバー幹部からMナンバー幹部への連絡役でもある
物腰こそ丁寧だが凡そ誠意なるものを感じさせない黒服、要するにいやなやつと噂されている
端末前の女性黒服、P-No.6は内心身構えていた
相手は白を黒と言い包める怪人物であると定評のある黒服だ
他のPナンバー幹部からは十二分に警戒しろと忠告されている
「その通りです、M-No.010。『角隠し』の展開を要請します」
「角隠し」――それは「組織」が学校町中に設置した「結界」の一種である
主に認知欺瞞型の領域を作り出す人工都市伝説で
非契約者が都市伝説やそれに類する存在を認識できなくなる「結界」である
穏健派、中立派が開発を主導し、平時の管理はMナンバーが担当している
その発動には0ナンバーや「上層部」の承認が必要となる筈だが
「緊急的な治安維持が求められています
例外措置として学校町の東区限定で『角隠し』の展開をお願いします」
今回の一件に限った例外措置として「角隠し」発動を要請する
これがM-No.010にコンタクトを取った理由である
都市伝説の脅威を一般人から隠蔽する、これは全てにおいて優先されるべき事項だ
必要な承認データ等は申請要旨と共に前もってM-No.010へ送信している
準備は万端だ、何も不備は無い筈である
「その件なのですが、P-No.6」
モニターに投影された相手は手元のPC端末を操作していた
余談だがM-No.010は通信開始以降、P-No.6と一切目を合わせていない。いやなやつだ
「既に要請を受けて、2時間ほど前に東区への『結界』の展開を実施していますが」
「……は?」
「展開完了についても各ナンバーへ通知済みですよ
二度手間ですか。せめて穏健派内で最低限の報告共有は実施頂きたいものですね」
既に「角隠し」が展開されていた? 2時間前に? つまりこれは無駄足か? 報告は入っていないが?
P-No.6の頭から血の気が引き、脚の感覚が急速に薄れていくが、どうにか踏みとどまる
どう返答すべきだ。M-No.010相手に気取られる真似は避けたい
いやそもそも本当に発動されているのかを確認しなければ。Pナンバー幹部へ連絡を取るか?
P-No.6が遅疑逡巡する中、相変わらずM-No.010はPC端末を注視している
指を滑らせ、数度キーを叩いているようだ
「ちなみにこれはまだ各ナンバーへ報告していないのですが
『角隠し』の発動出力は現時点で平均値の3倍で設定されています
担当チームの採取データが正確ならばこの出力値でようやく実効性を確保できている」
どういうことだ? M-No.010は何を言っている?
「チーム主査の所見によると、学校町外では平均値で実効性を確保しえますが
町内だと時間経過と共に出力値を漸次的に引き上げなければ作用有効値に至らない状況ですね
興味深いことに、『結界』発動の段階からこの事象が観察されています
原因は未だ特定できていませんが恐らく外的能力に起因するものかと」
「そ、それはどういう……?」
P-No.6はとりあえず口を挟むことにした
後ろ手で隠し持った携帯端末からPナンバー幹部へ連絡を取りつつ
それを悟らせまいとM-No.010の話す内容へ問いを試みる
小難しいことを言っているが、要するに「角隠し」の出力を上げないと効果が得られない状況だということか?
「『結界』発動に関して問題が発生しているのであれば、M-No..010! 報告義務があります! ご説明を!」
「そうですね、貴女のような黒服にも理解できるように説明致しますと」
M-No.010はP-No.6へ一切目を向けずPC端末の操作を続けている
話をするときは相手の目を見て話せと教えられなかったのだろうか? いやなやつだ!
「『角隠し』の効果が何らかの能力によって干渉を受けています。原因は目下調査中です」
学校町東区
「どういうことなの……?」
「組織」穏健派所属の若い黒服は困惑の表情を隠し切れない
無理もない
先程まで東区の住宅街に放火しようと火器やガソリンの類を持ち込んでいた「ピエロ」共に異変が生じた
彼らは唐突に動きを停止すると、そのまま自分の体にガソリンを浴びせ投身自殺を始めたのである
その黒服が契約した挙句“呑まれた”のは、伝承存在「コボルト」
不可逆な解釈歪曲の末、金属や鉱物に魔法を掛けて機能不全に陥れる能力に特化している
それ故に銃火器を使用する相手にとっては最悪の相性である
「ピエロ」は銃火器を所持している為
黒服とその相棒の能力によって片っ端から銃火器を使用不能に追い込んでいた。のだが
「どうなってるんだ、おい!」
拳銃を捨ててナイフで首を引き裂き始めた「ピエロ」の一体を凝視しつつ
相棒の「コボルト」が歯を剥き出して唸った
「ピエロ」共が一斉に自殺を始めた
遥か前方にいる「ピエロ」の群れはこちらに背を向けて走り去ろうとしていた
「逃亡するぞ!! 追え!! 追撃しろ!! 攻撃の手を緩めるな!!」
別の黒服が怒号を飛ばす。彼は確か過激派所属だ
「コボルト」の黒服も相棒を連れて追撃に加わろうと
逃走する「ピエロ」に向けて走り出そうとした、そのときだ!
「コボルト」の黒服より前方にいる、「ピエロ」目掛けて光線銃を乱射する黒服の前に
空から新手の「ピエロ」が一体、飛び降りてきたのだ! 恐らく電柱の上にでも潜んでいたに違いない
「ディフェ~~ンス!! ディ~~フェ~~~~~ンス!!」
「貴様っ!!」
黒服は眼前の乱入「ピエロ」に光線銃を乱射する!
全弾「ピエロ」に直撃しているが、全く効いている様子が無い!
「うひー! 博士の防弾チョッキは最高だンな~~!!
おいぃ黒服! よく聞け!! オイラは勇敢だからなあ!!
仲間のために体張れるんだじぇエエ~~!! 食らえ!! 特製『ピエロ』爆弾!!」
一瞬だった、「ピエロ」の頭部が炸裂した!
閃光が視界を焼き尽くし、衝撃が大気伝導で「コボルト」の黒服の全身を叩いた
悲鳴を上げて黒服は転倒、相棒が咄嗟に前へ飛び出し黒服の身を庇う
「大丈夫かおいっ!! クソッ! 黒服巻き込んで自爆しやがった!!」
爆発音により悲鳴を上げる聴覚が相棒の悪態を辛うじて拾い上げる
眼前の惨事に、黒服は倒れたまま戦慄していた
同じく、東区
「それが“スイッチ”だ、押すなよ?」
「……自動で起爆するわけでは無いようだな」
「ピエロ」の引き起こした喧騒は、今や無数の爆発音へと変わりつつある
だが日頃から閑静な東区の住宅街は普段と変わらず静まり返っていた
まるで初めから「ピエロ」の暴動など無かったかのように
当然である
この町は「組織」の手で都市伝説的な脅威から保護されている
「結界」もしくはその他の能力で都市伝説存在を非契約者から隠蔽し
黒服や子飼いの契約者によって害悪となる都市伝説や契約者を駆逐する
それが「組織」常套の手法である
「それが『ピエロ』の、多分どっかに接続されてる。脳みその中かな?」
「いや、恐らく口腔の何処かだ」
だが今夜は珍しく長引いた
加えて「組織」による完全鎮圧ではなく「ピエロ」側が自発的に撤退したようだ
「組織」側が経験の浅い人材ばかりを現場へ投入したのか、「ピエロ」に相応の実力があったのか
あるいはその両方か
いずれにせよ「組織」所属でない彼らにとっては些末事である
「これか、骨に絡みついているな」
彼らは今、東区住宅街の路地裏にいた
この時間は元から人通りが無い場所で、その上「組織」の隠蔽工作も効いている
「これだ、臭いが甘い」
「『爆発キャンディ』、多分ビンゴだ」
「形状的には『わたパチ』のようだな、爆発する『わたパチ』なんて聞いた覚えが無いが」
「まあ……、契約者の力量次第で外見はいくらでも加工できるだろ」
マスクを外した「口裂け女」が今しがた「ピエロ」から摘出した物質を検めていた
装着された外科用青手袋の上に、真っ赤に染まった綿状のそれが乗っている
直下の壁面に半ば立て掛けられるように安置されているのは生殺しの「ピエロ」の一体
周辺には「口裂け女」が生成したと思しきメス数本、そして大小様々なハサミが散乱している
脊髄の各所を執拗に破壊して行動不能にしたとはいえ、確認は手早く済ませたいところだ
やや距離を取ってスーツを着崩した男が佇んでいた
壁面に背を預けたまま“解体”の一部始終を漫然と観察している
「恐らくもう一方は脳みそに接続されてる。デッドマンスイッチさ
こんな芸当が出来る奴は限られてくる。そこらの契約者じゃ無理だよ」
外灯から路地裏に差し込む微かな光を頼りに「ピエロ」の“解体”を行った
連中の奥歯には“スイッチ”が仕込まれており
歯茎に埋められた頭髪状の線は首筋へ仕込まれた『爆発キャンディ』に接続されている
“スイッチ”を入れれば『爆発キャンディ』が「ピエロ」の頭部ごと爆破する。そんな具合だ
『爆発キャンディ』にはもう一本の接続が確認でき、恐らくそれは『ピエロ』の脳と直結している
不発の状況で『ピエロ』が殺害されると同時にこの『爆発キャンディ』も消滅する。恐らくはそういう設計だろう
にしても、情報流出対策として考えても奇妙なほど手が込んでいる
「何故このタイミングで『ピエロ』が」
「さあな、俺にも分からん。社長も考えあぐねてたよ」
「聞江さんの具合は」
「寝込んでる。連日連夜うなされてたらしい」
「ふむ……」
「口裂け女」は男に綿状の『爆発キャンディ』を押し付ける
男は汚物を扱うかのように裏返したビニール袋で受け取った
「『狐』と関わっているとは思えん。『ピエロ』からは奴の気配が微塵も感じられなかった
それに『狐』の戦略からして、こんな『ピエロ』連中を駒とするようなリスクを犯すとも考え辛い」
「社長も同意見だったよ。『狐』の学校町潜伏に当ててやって来たって線はあるかもしれないけど
しかし本気で潰しに来たんならこんな挑発めいた小出しするかね?」
「口裂け女」は暫しの沈黙の末、ハサミを生成した
把手をスピンし逆手に持ち直すと「ピエロ」の脳天へ一気に刺し込んだ
一瞬が震えた直後、「ピエロ」の全身が弛緩する
「ルルとカモミは」
「構わず逃げろって伝えたけどさ、社長をサポートするって意地張ってる」
「敵戦力が不透明すぎる。正直戦り合う真似は避けてほしいんだが」
「アンタからもなんとか言ってやれよ、闇子さん」
「まだやることがある」
青手袋を打ち捨て、マスクを着け直す
男も壁面から身を起こした
「何も起きなきゃいいけどね」
「絶対に良からぬことが起きる。確信がある。だから私が来た」
男と「口裂け女」は路地裏を後にした
遺された「ピエロ」の躯は消滅光に呑まれ、やがて世界に還元された
□□■
>>293
>>魔弾の黒服さんとサキュバス様方との関係が気になる昨今ですが?
ただの知り合いくらいです
サキュバスからの評価は「まあ頑張ってる食べ物」「少し気が利く食べ物」
夢魔の所の奴らは自分より弱くて特に見所無ければ「食べ物」です
がだからと言って食べたりぞんざいに扱ったりはしない
魔弾のサキュバス攻略チャート
実弾用の射撃場使う→ランダムで三尾が来る(取壊し検討の為)→戦闘訓練開始→訓練担当が出れない時に代理で夢魔の部下のサキュバスが来る
・最初の印象が悪いと評価が「生ごみ」からになるので気を付けよう
・機嫌を取るときはユリにはソフトクリーム、ヤエルにはヨーグルトがオススメ
ピエロは逃げるか死ぬか爆ぜるかに別れるのね
わたパチの威力ガチの攻撃用の爆発やん、前衛とか関係ないなこれ、黒服死んだのかな
おまけに何かばら蒔いてまだヤバイことしようとしてるのか
「悪の十字架」
都市伝説に詳しくない諸氏も一度は耳にしたことがあるであろう
この話には様々な類話(バリエーション)が存在するが基本的な筋書きはほぼ一緒だ
ある人が必要に駆られ、あるいは逼迫した状況下で
10時に開業する施設へと向かうことになる、という場面から話が始まる
場合によってはその際、24時間営業している店が存在しない時代の話なり
そのような施設が存在しない僻地での出来事なり、といった補足説明が付くこともある
そして、その人が施設へと辿り着き、貼り紙等で提示された情報を確認したとき
思わずある台詞を吐いてしまう……、というのが共通した流れである
この話は「青い血」、「悪魔の人形」、「恐怖のみそ汁」などといったジョーク系怪談に分類され
あるいは「あぎょうさん」、「そうぶんぜ」、「よだそう」、「火竜そば」などの
言葉遊び系ギャグ都市伝説と共に紹介されることが少なくない
さて、今回の要諦は
お察しの諸氏も多いことであろう
この話は、所謂“実体化した都市伝説”として存在しているのであり
それと契約した能力者が「組織」に所属している、という点である
朝、時刻は8時30分を少し過ぎた頃
少年は一人、近隣のスーパー前に立っていた
まだ幼さの残る顔つきだが、外見的に中学生か高校生くらいだろうか
その日は祝日ということもあってか、スーパー周辺には彼以外の人影は無い
少年は妙にニヤついたまま閉鎖された自動ドアに印字された字面を目で追っていた
「 激安スーパー 10:00 ~ 24:00 」
「ふ、フフ……、ふふふ、フッフッフ……」
休みの日はこうして開店前のスーパー前に待機して過ごすのが彼の習慣であった
そして、そう、ここからが彼の契約者としての異常性を発揮する場面でもある
「フッフッフ、アハッ、アッハッハ! アハッ! アハァァーーッッ!!
そう! 何時だって! 開くのは10時! このスーパー開くの10時!!」
ひとしきり笑った少年は自動ドアに向き直り
おどけるように表情を百面相してその台詞を――口にする!
「開くの10時かぁぁー!! 悪の10時かぁぁーーっ!! 『悪の十字架』ァァーーッッ!!」
するとどうしたことか!
少年の隣に、いつの間にか奇天烈な格好の怪しい者が立っているではないか!
「悪の十字架ー! 悪の十字架ー! 悪の十字架ー! (♦ww♦)」
その者は端正なタキシード姿で、表は黒に裏は真っ赤なマントを羽織るという
ステレオタイプなヨーロッパ型吸血鬼の格好をしているではないか!
そう、この者こそが少年と契約を交わした「悪の十字架」が人として現界した姿
謂わば、「悪の十字架の悪魔」である!
――繰り返すが彼はあくまで悪魔と称し、吸血鬼では無い。外見がいくら吸血鬼寄りだとしても、だ
「悪の十字架ァァーーッッ!! 悪の十字架アアーーッッ!! アッハハハハハハーッ!!」
「悪の十字架ー! 悪の十字架ー! フォハッ、フォハッハ、フォハハーーッ! (♦ww♦)」
少年と悪魔は同時に叫び、同時に哄笑した
何がおかしいのかは傍目には不明であるし、そもそも彼らは怪しい者達と呼ばれるに相応しい状況だ
ここで一度、この少年の能力について言及しておきたい
彼の能力の発動条件は、通常「10時開業の施設の前で、開業前の時間に待機すること」であり
発動する能力とは、「『悪の十字架』を唱えることで、『悪の十字架の悪魔』を召喚すること」である
――そう、たったこれだけの能力である
正直なところ、何の役に立つ能力なのかは全く不明である
ついでに触れておくが、「組織」の調査によると「悪の十字架の悪魔」の身体能力は
平均的な成人男性の身体能力を数段階下回る程度のものであった
正直、少年と悪魔の存在を「組織」も持て余し気味だったようだが
つい先日、晴れて彼らの新たな所属が∂ナンバーへと決定した
「組織」内でも比較的新しく設立された部門である
まあそんなことは彼らにとってさほど深刻な内容でも無かった
少年と悪魔は開店前のスーパーの前に立ち、引き続き高笑いを続けている
彼らが一体どのような活躍を繰り広げるのか、まだ誰にも分からない
□□■
こんばんは
今投下したのはEXの方です
関係者各位、よろしくお願いします
ちなみにですがこの悪魔
別に発動条件を満たさずとも普通に召喚できます
そもそも悪魔の自由意志で消えたり現れたりできます
契約者も把握済みで普通に呼び出したり一緒にご飯食べたりする
「青い血」――初っ端からネタバレするとジョーク系怪談である
筋書きが一定していない分、話のバリエーションは豊富で
「青い血」というワードについても冒頭で意味深に言及されるか全く触れられないこともある
具体的な話の筋としては
お昼には必ずお弁当を食べるようにと、おじいさんがおばあさんに釘を刺される穏当なものから
無人島に漂着して極度の飢えに苛まれるパターン、売店で供される「青い血のジュース」というパターン
さらには教室に広がった青い血を恐る恐る舐めたり、見知らぬ男に無理矢理なにかを飲まされたり、という過激なものまで
要するに枚挙に暇が無い、のだが肝心の締めは全て同じ
最後の「あ~美味ち♥」 → 「あーおいち♥」 → 「青い血♥」なオチがつく
最初はそれっぽい雰囲気で始めるのがコツだが
どう足掻こうとくだらない結末を迎えるため、ギャグ系怪談としてまとめられている
それどころか都市伝説という括りで紹介されることも無いではない
以上が「青い血」の一般的な概要である
さて、都市伝説原理主義者の黒服諸君には残念なお知らせだが
この「青い血」、あろうことか既に都市伝説として実体化してしまっている
そればかりか都市伝説管理集団「組織」の備品としてばっちり登録、管理されている
一体どういうことなのか?
それをこれから紹介するとしよう
まず「青い血」の外見的特徴から説明する
これは大部分が金で構成された、やや歪な形状の小さな杯である
外形はWDH:30x30x70(mm)の直方体に収まる程度のものだ
杯の中はおよそ15mlの青い液体によって満たされている
この液体、「組織」の調査では一応「組成が人間の血液に近い」と判明している
杯から液体が全て除去されると
「杯の中から青い液体が毎分約5ml出現する」という現象が発生する
そしておおむね3分ほどで杯は再び青い液体によって満たされるのである
「青い血」は現在「組織」穏健派のPナンバーによって厳重に管理されており
取り扱いはたとえ実験目的であってもP-No.上位管理者、俗に言う一桁ナンバー複数名の承認が必要となる
また、「青い血」を許可なく各種媒体によって記録すること
さらには如何なる理由あれ「青い血」が記録された媒体を「組織」外部へ持ち出すことは厳禁とされ
違反者は厳罰に処される、そんな規定まで付いている
加えてこの「青い血」、管理区分は「禁忌指定」に分類されている
大多数の流出性器物が分類される「二種指定」をすっ飛ばして堂々の「禁忌指定」である
この時点でお察しの黒服諸君も多いだろうが、こうした取扱既定には「青い血」の特性が深く関わってくる
実は先述した外見的特徴についてだが、通常の方法ではあのように観測はできない
具体的に言うと、一般人を含めた契約者や都市伝説、黒服各位が「青い血」を直接視認した場合
「これまでに飲食してきたなかで最も美味と感じた飲食物」か
「まだ飲食したことは無いが口にすればきっと最高に美味だと感じる飲食物」として認識する
直接視認せずとも「青い血」の数メートル以内に接近した段階で好みの飲食物の香りを感じるようになる
そして、こうした飲食物を何が何でも口にしたいという耐えがたい欲求が生じてしまい
影響を受けた者は手段を選ばずに「青い血」を摂取しようと狂暴化する
では鏡映しにしたり、映像や写真等で見たり、などの間接的に観測した場合は問題無いかと言うと
当然そんな筈は無く、ばっちり影響を受けてしまうことが分かっている
要するに、「青い血」は認識汚染を含む強力な精神干渉能力を有しており直接間接を問わず影響を及ぼす物品なのである
それなら強化系や防護系などの能力の行使や精神干渉に対する高い抵抗値を持っていれば対抗可能かと言うと
多少は影響を緩和できるという程度で、結局一時しのぎにしかならないということも判明している
上述の外見的特徴は、精神干渉に高い抵抗性能を持つ黒服が
特殊な条件付けを受けた上で、脳みそに悪影響を及ぼす薬剤を投与されることで
はじめて「青い血」の影響を回避して観測しえた情報である
一般黒服諸君にはとてもじゃないがオススメできない手法だ
続いて、この「青い血」を摂取した場合どうなるのかについて説明する
――説明する間でも無さそうだが話のついでだ
『これよりPナンバー関係者外秘の歳末器物実験を開始します』
「離せ! 離せ! うわああああああああああああっ!!」
「青い血」を特殊な手法を使用せずに通常視認した場合
視認者が欲する飲食物として認識され、摂取したい強い欲求に駆られる点は先に触れた通りである
『P-No.2020、目の前にある物が何に見えるか答えてください』
「離せ! はな――、あれは……、穏健派の、高級クラブでしか食べれない……、幻の骨付きスペアリブ……!?」
『良いでしょう。研究班、P-No.2020へ「青い血」任意量の投与を許可します』
「了かい、かい口する」
「おい待て! 何する! あ、んごあっ! ああがっ! ああがっ!!」
そして「青い血」を摂取すると、途端に抗い難い強烈な多幸感、恍惚、そして性的絶頂を体感するハメになる
「んんあーっ♥ ああーっ♥ あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛っっ♥♥」
「きょうせい開口を解じょする」
「んごあっ♥♥ ごっごほっげほっ!! あっ♥♥ ああーっ♥♥ おいちいっ♥♥♥ ああっ♥♥おいちいいいっっ♥♥♥♥」
症状はおおよそ10分から20分程度で治まるが
ここで注目したいのは「青い血」を摂取すると強力な依存性が形成される点である
「離せぇぇぇぇっっ♥♥ 離せよぉぉぉぉぉっっ♥♥ もっと食わせろぉぉぉぉぉっっ♥♥」
「予ていどおり、P-No.2020をいち時収ようする」
『許可します、退出してください』
「食わせろぉぉぉっっ♥♥ もっとあるんだろぉぉっ♥ スペアリブぅぅぅっっ♥♥ 食わせろよ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛おお゛っっ♥♥」
一度依存性が形成されると、対象者は狂暴化してあらゆる手段を講じてでも再び「青い血」を摂取しようとするようになる
狂暴化はおおむね24時間前後継続するが、特筆すべきはその間「青い血」以外の精神干渉系能力が全く効かなくなる点だ
継続時間を過ぎると狂暴化自体は鎮静するものの
再度「青い血」を認識した途端に狂暴化して「青い血」を摂取しようと周囲に暴力を振るうようになるのである
ついでに依存性が一度でも形成されてしまうと都市伝説能力や霊薬等で依存性を除去することができなくなる
補足しておくと、先述した外見的特徴の部分で触れたように
「青い血」単純認識による場合でも、「青い血」を摂取しようと狂暴化するが
「青い血」摂取後の狂暴化は、単純認識時の比では無い位に危険度が増す
とまあこうした特性の故に「青い血」は「禁忌指定」として厳重に管理されている、というわけである
幸いなことに「青い血」関連の大規模事故はこれまでのところまだ発生していないが
伝染災害を危険視した幹部達によって取扱方針が制定されることになった
ここまで「青い血」の危険性ばかり説明するような内容になってしまったが、一応この物品にもそれなりの展望がある
「青い血」を特定の薬剤で稀釈し精神干渉系能力の被害者に対して適切に投与することで
依存性や狂暴化を極力抑えたまま、影響を受けた精神干渉を無効化、あるいは大幅に低減できる効用が期待されている
現時点ではまだ実用段階に至っていないが、近い将来にも試験的運用が開始される予定らしい
「組織」研究者の今後の活躍を祈ろうではないか
□□■
こんばんは
ところでwikiまとめですが
整理途中で大問題が見つかりました
移行がうまく行ってなかったのか
IME辞書登録された語句の内、次世代ーズ関連の特定の語句が
登録から脱落した状態で数ヶ月そのままだったことが判明しました
なのでこれまで投下分にばっちりミスが残っていますね
多分聡明な読者の皆様といえど多分気付かれていない自信があります
が、それはそれとして己が赦せないのでセルフお仕置きの時間だ😌
九月
まだ夏の気配を色濃く残しつつも、秋の朱空へと染まりゆく頃
日没の迫る学校町の通学路で、それは起きた
「見せちゃうぞ……、見せちゃうぞ見せちゃうぞンばアアぁぁああーーッッ!!」
「いやあああああああっホントに出たぁぁぁぁアアアアアっっ!!??」
「ああーーっっ!! 変態っっ!! 露出魔だああぁぁぁぁーーっっ!!」
「キャアあああああああああっっ!! もっくんのより小さくて薄汚いよォォおおーーっっ!!」
この町の南区にある商業高校のJKギャルたちが
突如現れた露出狂のおじさんを前に、三者三様の絶叫を上げ、脱兎の如く逃げ出した
「――っふ、ふヒッ! ふ、ふひひ、ふヒンッ!! ふ、うっふふふふ、ふヒッヒ、ヒヒヒッ!!」
その男はティアドロップ型のサングラスと大きなマスクで顔面を隠し
九月だというのにトレンチコートを着込んでいる
そして当然、コートの下は全裸であった
これ以上の説明は不要であろう
「ふヒヒッ!! た、短小って……小汚いって……ッッ♥ アハッ♥ アハハハッ♥♥ ヒンッ♥♥ たまらんっ♥♥」
おじさんはJKの悲鳴の一部に甚く反応しているようで
実際のところ彼は軽く達していた
警察が直ちに介入すべき事案であるが
幸か不幸か、周辺に巡回中の巡査は見当たらないようである
更に付け加えると先程の悲鳴はかなりの音量で響いた筈だが未だ人の気配は無い
「ふふ、ウッフフ、……はあ、最高だった ――さて」
おじさんは全開にしたコートを羽織り直してボタンを留める
そして後方へと振り返った
其処に蠢くは無数の人影だ
何時の頃からか此処、学校町の黄昏時に出現するようになった魔性
それは「逢魔時の影」と呼ばれていた
「ここから先は通行料を頂くが、――よろしいかな」
場に居た「逢魔時の影」は全滅した
おじさんは溜息を吐いた
先程まで「影」であった残りカスが風に乗って消滅する
手刀を引き戻すと、周辺の大気に微かな黒色の稲妻が奔った
そろそろ純情JKの通報を受けたお巡りがやって来る頃合いだろう
彼は高く跳躍
最も近場に位置する鉄塔の頂点へと降り立ち、其処に佇んだ
陽は既に暮れている
夕闇はじきに光無き夜を誘う
薄明の世界に包まれた学校町を見下ろすおじさんは
やがて目を細め、遠景の一点を注視した
「さてさて」
夕陽が死に、大地を夜の帳が抱き始める時分
おじさんの眼は“彼”を捉えていた
「繰り返す飛び降り」と化した少女、東一葉と共に直前まで談笑していたようだが
“彼”――早渡脩寿もまた、この露出狂の男を眼差していた
“彼”はこちらに気付いている
おじさんの双眸は、獲物を見定めたかの如く、さらに細められた
「『七尾』の残党め、この町で一体何を企んでいる」
□□■
アクマの人に土下座でございます
ありがとうございます
本格的に【9月】をやっていきますが、年末は働き詰めが決定した上
年越しを職場で迎えるっぽい💢ので、次来るのは年明けです
皆様、どうぞ良いお年をお迎え下さい
○前回の話
>>209-216
※今回の話は作中時間軸で【9月】の出来事です
○三行あらすじ
東区中学でいよっち先輩の“取り込まれ”をなんとかした (>>178-186, >>197-203)
「モスマン」に襲撃されたけど脱出に成功した(>>209-216)
良かったね!
○時系列
●【9月】
・早渡、「組織」所属契約者と戦闘
・「怪奇同盟」に挨拶へ (アクマの人とクロス)
・東中で花房直斗、栗井戸聖夜から三年前の事件を聞く
その際にいよっち先輩と出会う
その後、診療所で「先生」から「狐」について聞く (花子さんとかの人とクロス)
・東中を再訪、いよっち先輩が自分を取り戻す
「モスマン」の襲撃から脱出
・「ピエロ」、学校町を目指す
・早渡、また「ラルム」へ ☜ 今回はここ!
・∂ナンバーの会合
「肉屋」侵入を予知
●【10月】
・「肉屋」戦 (9月終盤か、10月初頭?)
・「ピエロ」、学校町へ侵入
●【11月】
・「組織」主催の戦技披露会実施
・診療所で「人狼イベント」
・「バビロンの大淫婦」、消滅
・角田ら、「狐」配下と交戦
新宮ひかり、上記交戦へ介入
・「ピエロ」、東区にて放火を開始、契約者らにより阻止される
・暗殺者二名がひかり、桐生院兄弟と交戦 (鳥居の人とクロス)
・「ピエロ」中枢、東区放火組に撤退か自害を指示
今
俺は
何を考えていた?
いけない、ボーッとしてた
顔を上げる
店内の照明が眩しい、慣れるまで目を細めた
俺は今日も「ラルム」に来ていた
学校で面倒な用事で捕まったので、ここに着いたのは夕暮れだ
外の陽はもう落ちてるかもしれない
意味もなく深呼吸する
いよっち先輩はその後、高奈先輩の自宅に居ることになった
結局東区中学から逃げ出して以降は直接会ってはいない
「お嬢は面倒見いいから問題ねえよ」とは半井さんの台詞だが
迷惑かけてないかちょっとだけ心配だ
あの夜、いよっち先輩を連れ出したあの夜
「モスマン」と戦ってどうだった
俺はまるで動けてなかった。昔よりも駄目になってる
立ち回りを振り返れば基礎的な心得すら抜け落ちていた
これはブランクの所為でも、前のように技が編めなくなった所為でもない
腑抜けてる
学校町まで乗り込んできといて、これはまずい
組織の変なのから逃げたときもそうだったけど危機意識が全然ない
やばいよ
大体夏休みは普通に動けただろ俺!?
一体なんでだ、とか考えてる場合じゃないな。今まで以上に自主トレで遅れを取り戻さないと
するとメニューは、だ。やっぱり“尾”を出したり消したりとか、制御を一からやってくしか
「あの……脩寿くん」
「うえっ」
いつの間にかテーブルの傍に千十ちゃんがいた
思わず変な声が出ちまった
「食事をお持ちしました、『野菜と厚切りベーコンのたっぷりラクレット』です
……なにか考えごとしてたの?」
「うん、ちょっと」
「そっか……」
お、気の所為か千十ちゃん何だかもじもじしてる?
「あのね、脩寿くん。あの……、最近は毎日ずっと『ラルム』に来てるよね」
「ッッ!? あああ、あの、迷惑だった!?」
千十ちゃんの言いたいことは分かるぞ
ここんとこずっと「ラルム」にやってきては夕飯食べるようにしてたからな
なんというか、いよっち先輩を探しに行く夜は必ず「ラルム」に寄ってたし
つまり最近はずっと通いっぱなしだ
で、「ラルム」はちょっとお洒落なイタリアンでフレンチのカフェ、だ
店長さん曰く学生さんでも気軽に入れるようなお店にしたいってことだが
正直なところ、俺のような奴がのこのこやってきて良い雰囲気の場所ではない
「ごめん千十ちゃん、さすがに迷惑だったよね」
「あっちがっ違うよ、そうじゃないの! ただ、あの……その」
迷惑では、ない? だとしたら何だろうか?
しかし千十ちゃんは見るからに言い辛そうな感じだ
体の内側で、緊張が高まる
俺は固唾を飲んで千十ちゃんの次の言葉を待った
「あの、あのね。うちって、他のお店より値段が高めでしょう?
だからその、脩寿くんのお財布が、大変じゃないかなって……」
千十ちゃんは内緒の話をするように声を潜めてそんなことを言う
俺は思わず周囲を見回した
よし大丈夫、普段はよく見るおばちゃんズの姿はなく
対面で座る老夫婦と、サマーセーターのお姉さん以外にお客さんはいない
今日の「ラルム」は普段より空いている。まあ平日の夕方だしな
「大丈夫! 全然平気だし! 痛くないし!」
「あの、脩寿くんって、自炊とかしてる? ご飯作るのって楽しいよ!」
「うん、自炊はするよ。独りで住んでると一応やらないとね。ただね」
自炊、というワードに、この半年間が一気に思い起こされた
今年の四月、学校町に引っ越してきてから初めて自炊をすることになった
楽しかった
作れる料理のレパートリーも増えた
これ買う必要あるのかって鍋も買った。本当に楽しかったんだ
でもね
多分、独り暮らしな人間は体験済みなんだろうけど
独りで食べるものを作って、独りで食べるんだよね
これだけだと当たり前のことなんだけど
実際に体験すると
死にたくなる、寂しさのあまり
「というわけで独りで食べてると頭おかしくなりそうになるんだ!」
「そ、そうだったんだ……」
「だから外食のありがたみがよく分かるようになったんだよ!
他人が作ってくれたものを食べられる幸せ! 最高に尊い!」
「だったら、あのね! あの、もし良かったら
私のお家に、夕ご飯、食べに来ない? ど、……どうかな」
「えっ」
千十ちゃん
今、なんて
夕ご飯を? 千十ちゃんのお家で? 食べる?
「うええあああの、そんな! 悪いよ!」
「気にしないで! あの、私のお姉ちゃんも、脩寿くんに会いたがってるし!
それに、あの、久しぶりに色々、脩寿くんともお話したいし、だからあの、 ……だめ、かな」
「駄目じゃないけど! でもほんとに、 いいの?」
「……脩寿くんが来てくれると、嬉しいです」
「是が非でも行きますよろしくお願いします」
正直に白状します
心のなかでは狂喜乱舞してます
顔面もニヤけそうになるのを堪えてます
落ち着け、俺!
落ち着けるか馬鹿!!
「それじゃあ、あの、来週の金曜日はどうかな?
その日ならお姉ちゃんも空いてるから」
「行きます、絶ッッ対に行きます」
「……! うん! ありがとう」
笑顔でそう返す千十ちゃんの顔は
暖色な照明の下でも分かるほど真っ赤になっていた
思わず見惚れそうになりながら、不意に誰かの視線に気づく
キッチンの方からコトリーちゃんと店長さんがこっちを窺っていた
しばらく目が合った後、二人はゆっくり横にスライドして隠れてしまった
待て
どっから見られてたんだ!? 全部!? 全部か!?
陽はとうに暮れて、夜
闇に紛れるようにして
マジカル☆ソレイユは東区路上の一角を調べ回っていた
「えーと、ここでこう来て、こう動くとしたら
ここに抱き枕を仕掛けるとして……あとは、そうね……」
彼女はスクール水着の上から羽織りものを着て
白の長手袋に白のニーソックスという格好だが、傍から見ればコスプレ趣味の危ない痴女だろう
一応彼女に言わせれば、これは契約者としての活動装束なわけだが、傍から見れば危ないコスプレ女である
「あの男、ラルムでも見たから怪しいと思ったけど
毎日のように東区を徘徊してるみたいね、いやらしい
こそこそ変態行為の下調べをやってたってわけね、いやらしい
でも、――この私とメリーから逃げられるなんて思ったら大間違いって理解させてやるわ」
屈んだソレイユはビニールテープを路面に貼り付けている
近場に光源がないため分かり辛いが、既にこの一帯には彼女によって無数のテープが貼られていた
その様子を背後から相棒のメリーが眺めていた
ソレイユの持ち込んだ段ボール箱の上に乗っかったメリーは
むうむう鳴きながらソレイユに対し複雑な眼差しを注いでいた
メリー
「メリーさんの電話」と呼ばれる都市伝説
それが実体化した存在がこの、白い体毛に黒い顔の、羊のぬいぐるみである
そう、羊のぬいぐるみである
原話(オリジナル)では外国製の人形と説明されるが
明言されない場合が多いものの、おおむね「ヒト型の人形」という点は共通している
何故羊のぬいぐるみの姿で実体化したのか謎であるが、今はそれが語られるときではない
「ねー、ソレイユちゃん、ほんとにやるのー?」
「自信があるわ! アイツは明日、必ずこの道を通る!
100%の確立よ! 断言していいわ! 作戦は成功する!」
「むぅー」
「本当に作戦を実行するのか」という意味で訊いたのだが
「本当に作戦は成功するのか」の方で取られてしまった
仕方がない、ソレイユは頑固だし一度決めたら中々考えを変えないタイプだ
仕方がない、のだがそれ故にメリーは心配しているのだ
そもそもソレイユが目を付けた“彼”が、あの変態クマの正体である確証はない
それを確かめてからでも遅くはない筈なのだが、彼女は何故か“彼”こそ変態クマであると信じ切っている
「そういえば学校で千十と話しててね、今度友達を紹介したいって言われて」
「え、お友達ー?」
「そそ、しかも契約者で、男子よ。多分『組織』所属じゃないかもって話
勿論私のことは黙っててほしいってことにしたけど、でもまさか男子苦手な千十がね
珍しいこともあるものだわ」
「男子のお友達ー」
「まあどんな奴なのか知らないけど、ちょっとは興味あるわね
千十が嬉しそうに話すくらいだからさ」
「わたしも会ってみたいなのー」
「そのうちね」
よし、ソレイユは立ち上がった
明日の準備が完了したようである
「あの変態クマに触手で全身を撫で回された屈辱……、一度たりとも忘れちゃいないわ」
彼女の言葉に怒りと決意が籠った
ソレイユの決意は固い。最早メリーが説得する余地がない程に
「明日の放課後決行するわ! いざ爆殺! 変態クマ!!」
「あっ……爆殺はやり過ぎだと思うのー」
□■□
>>330
× 確立
○ 確率
wikiをあらかた整理しました
本編は【9月】を書いていきます
エゴが溜まると突発的に【11月】のピエロなエピソードを投下するかもです
ひとまず次回は早渡脩寿がマジカル☆ソレイユに襲われます
以上です
この日の放課後も俺は東区を散策していた
目的もなく単に歩き回っているだけかというとそれも違う
理由あって大家さんが管理していた物件を片っ端から探し回っているんだが
ネットで紹介されてる以外にも多数の物件を所有していたらしく、これが中々見つからない
越して来てからというもの、歩き回ったり人づてに訊いたりして探索を続けてきたけど
あんまり成果は上がっていない
で、今探しているのは東区にあるという貸家だ
「戸建ての物件」なことと、「大分前に、住んでた一家が全員失踪した」という怪しい曰くくらいしか情報がない
いや特に二番目の、いかにも人の興味を引きそうな話題ならすぐに見つかるだろと思っていたが、甘かった
同じクラスのダチ公曰く、東区にはそういう噂のある物件は意外と多い、らしい
七月からずっと探し回っていたものの、色々あったおかげでまだ特定には至っていない
まあ焦りは禁物だな
前方を歩いている女子高生の背中をぼんやりと眺めながら、そんなことを考えていた
あの制服は東区にある高校か、あの高校って確か自宅アパートに近かったような気もする
正直なところ、商業高校に行く! って決めてなければ、東区の高校へ行くべきだった
若干後悔してるところも少しあるが、まあそんなことはいいか
「狐」の件も花房君達のおかげである程度情報を手に入れたし
いよっち先輩の方も一段落ついたわけだし
「狐」周りで大きな動きがあるまでは、しばらくこっちに専念してもいいかもだ
にしても、さすがに最近はラルムに通い過ぎだったな
足るを知るってやつだ。これからは週一、……いや週二にしよう
というわけで今日はラルムへ行かないけど、大家さんのためにも探索は続けないとな
それに地道に続けていけば、必ず手掛かりにも行き当たるはずだ
角を曲がった
しっかし最近は色々あってまともに東区を散策するのが本当に久し振りだ
ここんとこずっと、いよっち先輩に会おうと中学辺りをうろついてたし
「ぎゃーっ!! 誰かーっ!!」
色々考えていたところに
割って入った絶叫
俺の身体は身構えていた
妙なのは、このとき脳裏を走ったのが
「誰か襲われたのか?」ではなく、「なんだ今のは?」だったことだ
声色がなんというか、わざとらしくなかったか
演技っぽかったというか
ていうか前にもあったな似たようなことが
確かコトリーちゃんが赤マントに襲われてたときか
「誰かーっっ!! あ、赤マントがーっっ!!」
「赤マント」!?
野郎!! またか!?
一瞬、躊躇した
何故だ? 何をためらった?
とにかく、声のする方向へと、走る
いや、でもおかしい
絶叫の響き方からして声の主はそう遠く離れていない
この距離で何かANなり異常があっとしたら
まず何か気配というか“波”を感知できるはずだ
感覚なら既に押し広げている
“波”は感じた
でもこれは「赤マント」のものじゃない
「赤マント」の“波”は、概ね共通して錆び付いたような鉄のニオイ
だが付近から感じるのはむしろ、乾燥したような、灼け付くようなニオイだ
「赤マント」のそれではない
そんなことは現場に辿り着けば分かる
なのに何かが腹の奥底に違和のように貼りついてる
何だこれは? 誘い出されてる、そんな感覚なのか?
迷いを振り切るように
路地に躍り出た
声は確かにこっちから響いてきたはず
だがどうだ
人影も、ANの姿もない
いやでも“波”は強くなってる
これは間違いない
そして、嫌なことに
“波”は前方にある電柱から放たれている
さらに嫌なことに
普通、人間なりANなりから発される“波”ってのは
そもそもが生命的な何らかのエネルギーっつう、確かそんな話だった
だがなんか、前方から感じる“波”はちょっと違う
生命的な要素がこれっぽっちも感じられない
まるで物か何かに、“波”だけが貼りついているかのような“感触”だ
こんな譬えが当を得てんのか微妙だけど
「人間だと思って近寄ってみたら人形でした」みたいな感じだ
なにこのホラー展開
走ってきた所為か鼓動が速まっているのを無理やり無視して
俺は電柱に近づいていく
電柱の裏に、なにか居た
いや、あった
緑色をした、細長いぬいるぐみだ
珍妙なキャラクターだ
身長は1メートルもないサイズだ
そこは重要じゃない
問題なのは
このぬいぐるみの表面を這うように流れる
無数の赤い光だ
間違いない
“波”の正体はこの赤い光だ
ぬいぐるみの頭部は幾重にも巻きつけられるように
さらに身体の表面も不規則な形で
赤い糸のようなものが縛り付けてある
糸の上を脈打つように
赤い光が走っていく
これは、“呪詛”ではない
その判断はほぼ直観だった
そして
この時点でようやく気付いた
このぬいぐるみ自体がANなのでは、ない
ましてや、ぬいぐるみが生きているわけでも、ない
単純に、ただの物に、“波”が、文字通り“貼りついて”いるだけだ
つまりこれは罠だ
咄嗟に振り返った
“黒棒”を出すより前に、速く
誰かが、居た
考えるより先に手が動く
“黒棒”を生成して叩き込もうと、標的をよく見て―― 一瞬、思考が停止した
目の前に居るのは、女の子だった
そしてこの子の格好が、なかなか強烈だった
薄い生地のマントっぽいのを羽織っており
その下からスクールな水着っぽいのを着ている
視線が、泳ぐ
やたら目を引く赤い髪の女の子は
物凄い表情で俺を睨みつけている
一拍遅れて、気付く
彼女は白い長手袋で覆った手で
俺の顔面に棒きれを突き付けている
いや、これ棒きれとかそういうアレじゃない
先程感知した“波”と同種の、しかしぬいぐるみから発されていたそれとは比にならない圧で
俺に対して彼女の“波”が放たれている
棒きれではない
これは、彼女の、“杖”だ
OK、落ち着け俺
彼女の格好は世に言うところのコスプレってやつだ
そこはいい、彼女のちょっと露出高めの容姿に呆気に取られたのはいいとしよう
なんで俺はこの子に睨まれてるんだ
なんで俺はこんなに緊張してるんだ?
どうして鼓動がこうも速くなってるんだ?
まあ待て、落ち着け俺
とりあえずこういうときは話し合いだ
何故に俺をこんなえらい表情で睨んでくるのか、理由を聞き出しても怒られはしないだろう
「観念しなさい、この変態クマ」
俺が口を開くより前に、彼女が言い放ってきた
ほぼ同時に、耳元を高熱の塊がかすめていった
直後、背後から破裂音が響いた
「言っとくけど、余計な真似したら消し炭にするわよ」
低い、冷たい声だった
脅迫するかのような、というより脅迫そのものだ
一体俺が何をした!?
いや、俺は一体何をしてしまったんだ!?
落ち着け、まずは整理しろ俺
俺を罠に嵌めたのはまず間違いなくこの女の子だ
だが罠を張って俺を待ち構えてたにしては、殺意や悪意の類はまったく感じない
そうだな、これはなんというか
純粋な、混じりっ気なしの、文字通りの怒り……だろう多分
そう、彼女は俺に対して怒りを抱いている
それも凄まじいほどの怒気だ
そして彼女は確か、俺を「変態クマ」と呼んだ
当然の話だがこんなワードに心当たりはない
何かを勘違いされてる可能性が高い
そして
彼女が杖から放った灼熱の塊
間違いなくこの女の子はANホルダーだ
そして
背後を振り返る余裕は勿論なかったものの
灼熱の塊は、恐らくブロック塀だか何だかに直撃して破裂していた
そのとき感知した“波”から推測するに、彼女のANは、十中八九炎熱系だ
つまり、俺の、天敵だ
直撃したら、大変なことになる
最悪、死ぬ
「覚悟なさい、アンタが今までやってきたことを後悔させてやるわ」
今まで誠実に生きてきましたと胸張って言えるわけじゃないが
でも少なくとも目の前のこの子をここまで怒らせるような真似はした覚えがない
というか、そもそもこの子とは初対面のはず
クソッ、心臓が滅茶苦茶ドコドコ鳴ってやがる
これはアレだ、「僕はやってません」とか「何のことだか分からないなあHAHAHA」とか
迂闊な言い方したら大変なことになっちゃうやつだ
落ち着け、慎重に言葉を選ぶんだ俺
「ごめん、あの、身に覚えがないんだけど」
「覚えがない。へえ、そんなこと言うの
一言目がよりによってそれ? ふざけてるの?
今まであれだけやりたい放題やって、身に覚えがないっていうわけ?」
うわあ、めっちゃ怒ってる
口振りが冷静な分、怒りがこっちに突き刺さってくる
「そう、とぼけるつもりなのね
あらそう、なら数日前に東区の中学校で
『学校の怪談』の女の子相手を追い詰めて
いやらしいことをしようとしていたのも、身に覚えがないって言うのね?
あの日一緒だった『人面犬』達はお仲間かしら? 今日は独りだから弱腰なわけ? 違うわよねえ?」
待て
今の話は、なんだ?
まさかいよっち先輩のことか?
だとしたら待て、何だその「いやらしいこと」ってのは!?
人面犬ってのは半井さん達のことだよな? どういうことだ!? 身に覚えがないんだけど!?
「独りでもあれだけやりたい放題やってたわよねえ
知らないとでも言うの? いい加減になさいよこの変態!
アンタが私の体を、その、アンタのいやらしい触手で、私のおし、その、……体を撫で回したことも知らないって言うの!?
ヌルヌルのベチョベチョにするって言い放って、エロ……くっ……、あっ、や、やらしいことしようと迫ってきたこともとぼける気ね!?」
「待って本当に身に覚えがないんだけど!?」
OK、誓っていい
かつてセクハラ大魔王などと不名誉な仇名で呼ばれていた暗黒時代ならともかく
「七つ星」を経て学校町へやって来た俺は、誓ってそんな罰当たりなことはしていない
ついでに言っておくとセクハラ大魔王な七尾時代だって、セクハラに及んだのは年上の女性職員だけだ!
というわけで俺ではない!!
完全に人違いじゃねえか!? とばっちりもいいとこだよ!!
とにかくこの女の子にそこんとこを理解してもらわないと
「そう、しらばっくれる気ね。いいわ、いいわよ。そっちがその気なら――!!」
物凄い圧が、俺を叩きつけた
一瞬、体が吹っ飛んだと錯覚するほどの圧だ
ヤバい、呼吸ができない
落ち着け俺、向こうはちょっと話が通じない感じだ
こういうときは一旦逃げないと危ない
「――こっちにも考えがあるわ
あくまでシラを切り続けるつもりなら
本当のことを話したくなるまで、体 の 端 か ら 灰 に し て い っ て や る わ 」
逃げ切れるのか、これ
体が、動かない
金縛りに、掛かったかのように
完全に、“波”の圧に、射竦められた
ヤバイ
逃げないと、この女の子に、殺される
「逃げられるなんて思っちゃいないでしょうね?
言っておくけど、前の私と同じだなんて思ってたら、死ぬほど後悔させてやるわよ」
足が動かない
目を見張る
動けないならせめて、この状況を、どうにかして凌がねえと
「アアヴ・エ・ファイ、ヴァスヴォーシュ・アント (炎の鎖、私の戦意)
アルヴィル・ノッド・アルヴィル―― (強く、より強く――)」
やべえぞ呪文まで唱え始めた
これは脅しでも何でもない
証拠に、女の子の杖を起点に、“波”の圧が増している
このままだと
やられる
殺される
どうする、どうする俺!?
“黒棒”や“尾”では歯が立たない、ならどうする!?
どうする!?
「――って、待って!!」
ほぼ、思考停止しかかっていた俺の頭に
聞き慣れた声が、飛び込んできた
「待って!! ありすちゃん!! 駄目!!」
思わず
その声の主を、目で追った
その子は東区の高校の制服を着ていた
「あり……ソレイユちゃん! 駄目! 待って!!」
その女の子は、俺に杖を向けていた子と俺との間に割って入った
コスプレの子の前に、立ちはだかるかのように両手を広げた
コスプレの子から、俺を守るように
「千十ちゃん!?」
「千十ぉ!!??」
俺と、コスプレの子の声がほぼ重なった
間に入ったのは千十ちゃんだった
でも、なんで千十ちゃんがここに?
「ちょっ、千十!! 何やってるのよ、こっちに来て!!」
「待ってあり、……ソレイユちゃん、脩寿くんと何かあったの!?」
「千十!! ソイツから離れて!! ソイツが変態クマよ!! 早くこっち来て!!」
「変態クマって……」
千十ちゃんは言い掛け、振り返った
俺と目が合う
心臓が、凍り付きそうになった
千十ちゃんの顔は、蒼ざめていた
感覚が押し拡がった今、千十ちゃんの感情が突き刺さるほどこちらに伝わってきた
千十ちゃんが抱いているのは、強い恐怖だ
彼女は、俺から目を背け
コスプレの子へと向き直った
「変態クマって、前に話してた痴漢してくるクマのぬいぐるみのこと?」
「そうよ! だから、早くソイツから離れて!!」
息が、詰まりそうになった
「違うよ、脩寿くんじゃないよ! そんなことをするような人じゃないよ!!」
千十ちゃんの言葉に
一拍遅れて、理解が追いついた
彼女は、俺を庇っているのか
「そうだよね脩寿くん、そんなことやってないよね」
指が、手が、僅かに震える
動ける、もう動ける
千十ちゃんは俺の方を向いていた
その顔にはまだ恐怖が刻まれているし
今にも泣き出しそうな表情だった
俺は、千十ちゃんに応えた
「本当に身に覚えがないんだ、俺はそんなこと、やってない」
「ほら! 脩寿くんじゃないよ! だから……ソレイユちゃん、お願い。杖を下ろして?」
ソレイユ、そう呼ばれたコスプレの子を見た
彼女は千十ちゃんに困惑に満ちた眼差しを向けていたが
やがて、ゆっくりと、俺に突き付けていた杖を、下ろした
「千十、とにかくこっちに来て。早く」
千十ちゃんは躊躇しているのか、再び俺に顔を向けた
喉がカラカラだ
心臓が早鐘のように収縮を繰り返してる
「俺は大丈夫、千十ちゃん。ありがと」
それだけを搾り出した
千十ちゃんは俺の方を見たまま二、三歩踏み出した
それより先にコスプレの子が早足で千十ちゃんに歩み寄った
依然、俺を睨みつけている
「ソレイユちゃん」
「ダメ、まだ信用できない」
杖の代わりに取り出したのは携帯だった
俺は口を強く結んだ
そうでもしないと、全身から力が抜け落ちそうだったからだ
コスプレの子はどこかに電話していた
「メリー」
彼女は俺を睨んだまま
それだけを通話先へ告げると
千十ちゃんごと消失した
「は、あ」
今度こそ本当に、力が抜けた
辛うじて踏みとどまった
完全にあの子の怒気に圧されていた
助かった
千十ちゃんに、助けられた
それを理解するのに、どれくらいの時間が経ったろう
俺はその場に坐りこんでしまった
□■□
早渡脩寿
炎が天敵
直撃すると多分死ぬ
あと毒にも弱い
日向ありす=マジカル☆ソレイユ
変態クマ絶対許さないガール
今回ので気づく人は気づいたかもしれませんが、彼女はある単発リスペクトなキャラです
遠倉千十
ありすとは同級生
スゴい怖がり、契約者同士や都市伝説戦がとても怖い
以上が side.A
次回、早ければ今週末に side.B やります
続きます
「はい!やって参りました!『サキュバスラジオ』第1回目の放送でっす!」
「パーソナリティはアタシ、しがないサキュバスが務めまーす」
「いや普段はこんなテンション高くないの!日のある内は弱いんだけど夜になると強くなるのだ!」
「というわけで今夜はガンガンやっていくぞ!」
「えーさて、このラジオはなんと今回が初放送なんです…が!」
「なんとなんと、始まる前からお便りが既に2通も届いてるわけなんですよ!」
「これはもう読むしかないでしょ!アタシすごく嬉しい!今までこんなにはしゃいだ事多分生まれて初めてかも!」
「じゃあ記念すべき1通目、読みますよ?読むからね?」
「しかも結構長いんだよね、これは気合入るね!」
「えー…っと、ラジオネーム『ハンバーグ大好き』さんからのお便りです」
「『こんにちは、ぼくは小学生です』 おお、小学生の男の子から!
小さい子からのお便りですよ!!小さい子がこのラジオの事知ってるってのは嬉しいね!」
「えーっと、
『親が共働きなので家に帰るといつも一人です
ぼくはマンションに住んでますがとなりの部屋にはきれいなお姉さんがいます』
…あー分かりましたよ、もう分かりました!ハンバーグ大好きくんはお姉さんの事が好きなんだね?
それでこのお便りは恋愛相談ってわけね!アタシはそういうの得意だからね!任せといて!」
「で、続きは、と…
『いつもお姉さんがご飯を作ってくれるので、ぼくはお姉さんのお家で夕ご飯を食べます
お姉さんのお家はくさいです。何のにおいかお姉さんに聞いたらビールのにおいだよと教えてくれました
でもお父さんもビールを飲みますがこんなにくさくないです』
Oh…これは、小学生ならではの…無邪気な一言が乙女心をキズつけるやつですよ!
「『お姉さんは恋人をぼしゅう中だそうです。でもお姉さんは料理は出来てもそうじが出来ないし家の中がくさいです
お姉さんは夜のお仕事をしているのでよく見るとお肌も荒れています。この前はあんまり見ないでって言われました
ある日、お姉さんが実は私はサキュバスなんだよって教えてくれました』
おっ!急になんか、サキュバスラジオっぽくなってきたね!お姉さんのカミングアウト!
普通はね、人間社会に潜り込んで生活してるサキュバスは自分がサキュバスですって言ったりしないからね
住んでる環境とかにもよるけど、相当信頼できるこの人になら全部バレても大丈夫だって思える人にじゃないと、打ち明けないものだし
でも小学生に打ち明けちゃうサキュバス…、これは不思議っちゃあ不思議だけどな……
あとねー、臭いとかお肌が荒れてるとか、女の人に軽々しく言っちゃ駄目だからね!将来大人になった時に女の子に嫌われちゃうぞ?
お姉さんに直接言うんだったら、『たまには掃除した方がいいと思う』とか、『掃除の出来るお姉さんは素敵だと思う』とか
言い方をよく考えてから伝えようね!アタシとの約束だよ?
それで、ええと、続きは…
『ぼくはサキュバスだからくさいんじゃないかって思いました』
関係ないよそれ!?サキュバスは臭くないよ!!むしろいい匂いするんだぞ!!なんでそんな酷い事言うの!?
もう!ちょっとハンバーグ大好きくんはデリカシーが足りなさ過ぎ!お母さんにさ、『女の人にデリカシーが無いって言われた』って言って!
女の子に言っちゃいけない事をね、お母さんに教えてもらいなさい!!
君の事、クラスの女子から嫌われてんじゃないかって本気で心配になってきちゃうよ…」
「『お仕事中にかっこいい男の人が何人も来るそうですが、お姉さんはあまり相手にされなくてさみしいそうです
最近、お姉さんはぼくを見ながら、もう年下の男の子でもいいから早くおよめに行きたいわって言います』
あ……これ良くないやつだ。状況が生々しすぎる…。こっちの心にもきそう…。このお姉さんはいっぱい傷ついてるね…
それで余裕が無くなっちゃってるんだ…。あのね、ハンバーグ大好きくん、そのお姉さんの事はそっとしてあげて?
多分自分でもよくない状況だって分かってるはずだから、多分……。お姉さんがサキュバスならいつか必ず乗り越えるはずだから
うん、そう信じたい…
それで続きは…
『でも料理が出来てもそうじが出来ないし、お肌も荒れてるし、くさい人はけっこんできないと思います
このお姉さんはけっこんできると思いますか? おしえてください』
余計なお世話ッ!!ハンバーグ大好きくん!?そういう事、お姉さんには聞いてないよね!?
駄目だからね!?そういうの一番メンタル抉るやつだからね!!あとお姉さんにはもっと優しくしてあげて!!可哀想だよ!!」
「はー!もう!君はね、お母さんから『デリカシー』って言葉の意味をしっかり習っておくべきだとアタシは思うな!
サキュバスとか関係なくね、女の子の心ってのは強い部分もあるけど弱い部分もあるものなの
女の子には臭いとか、結婚できないとか、そういう言葉を使っちゃ駄目なんだよ?
人を傷つけるような事ばっかり考える大人にはなって欲しくないからね?いい?『デ・リ・カ・シー』!大事だからね!」
「1回目からすごく説教臭くなっちゃった…。あ待って、まだ続きがある
『あと、ぼくがご飯食べてる時にくさいストッキングをぬいでポイする人は[ピーーー]ばいいと思います』
アウト!!なんで[ピーーー]ばいいとか言うの!!それ一番使っちゃ駄目なやつ!!サキュバスだって一生懸命生きてるんだぞ!!
確かにだよ!?ご飯中にストッキングを脱いじゃうのはマナー違反じゃないかなって思うけど!!
他人に軽々しく[ピーーー]とか言っちゃ駄目!!」
「アタシは…、ハンバーグ大好きくんの将来が本気で心配です…
お父さんお母さんがこのラジオ聞いてたら、今度家族会議した方がいいですよ、絶対
あとお隣のサキュバスさんにも優しくしてあげてください。彼女は愛に飢えてるだけなんです。多分…」
「1回目からテンションが下がってしまった…
ええい!無理矢理上げていくからね!気を取り直して2通目のお便りいきます!」
「ええと、ラジオネーム…せ…『聖教会付き特殊部隊≪アビゲイル≫隊員コードネーム≪パウラ≫』
な…長いですねー…。これ、読んじゃって大丈夫なやつかな…?」
「じゃ、じゃあ読みます…
『はじめまして。初めてご相談させて頂きます
単刀直入にお伺いしますが、≪サキュバス≫の弱点と効率的な討伐方法を若輩者の私にご教授頂けますでしょうか
同族だからこそ知りうる情報を公開して頂けますと幸いです』 …待ってなにこれ
ちょっと…なに、これ
『組織』に所属してるようなサキュバスとは違うんだよ!?アタシらみたいなのは戦闘力ゼロだからね!?
戦えないサキュバスだって結構いるんだよ!?アタシも平和思想の持ち主だし!!なんで討伐するの!?やめて!!
人間社会で生活してる大多数のサキュバスは省エネ生活送ってるから!清く慎ましい生活してるから!
男をいきなり襲うみたいな犯罪みたいな事しないから!たまにやらかして警察か『組織』のお世話になるのもいるけど!!
ていうかこのお便り、『同族』って書いてるよね!?えっなに?アタシがサキュバスだって知ってるって事!?
もしかして目を付けられんの!?えっ嘘、えっ!?ヤバイやつじゃんこれ!?えっ?逃げなきゃ…!!」
「と、というわけで、『サキュバスラジオ』はこれで終了です!次回未定!さよなら!!」 【終】
令和になってから本スレがめがっさ重いが何があった…
ところでこのサキュバスは一体何を食って生きているのであろうか
亀だが次世代イベ大体読み終わった
残留思念の契約者とサイコメトリーの黒服が協力すれば狐の居所を特定できたのでは?と一瞬思ったが
お互いの発動条件と発動範囲が明確じゃないし無理ゲーかもな・・・
これは、都市伝説と戦うために都市伝説と契約した能力者達の物語である。
高速併走型と呼ばれる都市伝説は、実に種類が豊富である。
一番の有名どころは、「ダッシュ婆」「ターボおばあちゃん」等と呼ばれる、人間とは思えぬスピードで追いかけてくる老婆の都市伝説だろう。
高速老婆系だけでも、たとえばバスケットボールをドリブルしながら車やバイクに並走しボールを叩きつけててくる「ドリブル婆」。たとえば棺桶を担ぎながら並走した車やバイクの運転手を捕まえて棺桶に入れて火葬場に運ぶ「棺桶婆」。
老婆以外でも、「高速でハイハイをする赤ちゃん」「ミサイル跨る女子高生」「スキップする少女」などなど。ご当地限定の存在もあげていけばキリがないほどだ。
そんな高速系都市伝説の一体、「ホッピングばあちゃん」は苛立ちを隠すことなくそこをはね飛び回っていた。
「えぇい……うるさいんだよ、さっきから!」
ホッピング……取手と足場の付いた棒の底面がばねで弾むようになっており、それに乗ってバランスを取りながら高く飛び跳ねて遊ぶ玩具でもって、「ホッピングばあちゃん」は地面にヒビを入れながら跳ね飛び続ける。
がんっ、がんっ、がんっ、と、ホッピングが地面に着地し、飛び立つたびに地面にヒビが入る。貧相な老婆の見た目であるとはいえ、都市伝説である「ホッピングばあちゃん」が全体重をかけてフライングホッピングアタックをしたならば、その一撃を食らった者はただではすまない。
聞こえ続ける耳障りな音を止めるべく、「ホッピングばあちゃん」は殺意をみなぎらせ続ける。
ーーぱっぱらぱー!ぱらぱっぱっぱっぱー!!!!
耳障りな音の正体は、トランペットだ。真夜中だというのに近所迷惑確定の大音量。それがずっと、鳴り響き続けている。
ぱっぱらぱー!ぱらっぱっぱっぱっぱっぱー!!!!!
いつもの夜のように道路を走る獲物を追いかけようとしていた「ホッピングばあちゃん」の耳に届いたその音は、「ホッピングばあちゃん」の背後から鳴り響き、そして「ホッピングばあちゃん」を追い越していった。
なんという事であろう。「ホッピングばあちゃん」を追い越していったバイク、それを運転している者の後ろに、トランペットを構えた少年が座っていたのだ。
危なっかしくも運転している者に背を向けた状態で座って、ぱっぱかぱっぱか、トランペットを吹き鳴らしているのだ。演奏はめちゃくちゃで、うるさいったらありゃしない。
そもそも、トランペットにしてはなんだか音がおかしい。まるでラッパみたいにけたたましく鳴り響き続けているのだ。
耳障りで、耳障りで、今宵の獲物はあれにしようと決めて追いかけているのだが。先ほどから全く追いつくことができない。
追いかけっこの時間が続けば続きほど、「ホッピングばあちゃん」は苛立ち殺気立ち、冷静な判断ができなくなってきていた。
ただただ、ただただ、トランペットのやかましい音を止めるために跳ね飛び続け。気づくことができなかった。
己が、誘いだされていた事に。
勢いよく、「ホッピングばっちゃん」はマンホールに着地した。その瞬間、びしり、とマンホールに大きくヒビが入り、砕ける。
だからと言って、「ホッピングばあちゃん」がそこに落下していくことはない。マンホールが砕けるのと、「ホッピングばあちゃん」が跳び上がるのはほぼ同時だからだ。
ただ。
「え」
砕けたマンホールの下から。白い、白い……アルビノのように真白で、血のように赤い瞳のワニが飛び出してくることを「ホッピングばあちゃん」は予想しきれてはおらず。
そして、その真白いワニは、まるでアメリカのパニック映画にでも出てきそうなモンスター級の……とてもじゃないが、その小さなマンホールから飛び出してくるには無理があるほどの巨体を誇っていて。
ばくんっ、と。
「ホッピングばあちゃん」は、一口であっさりと、全身のみ込まれて。
ばきり、べきり、ぼきり、と。よく咀嚼して飲み込まれる音は、トランペットのやかましい音でかき消された。
「よく誘い出してくれたねー。助かった助かった。私の「下水道の白いワニ」は、下水道が主なテリトリーだからマンホールから長く飛び出すことできなくってさー」
よーしよしよしよしよしよしよし、と己が契約している「下水道の白いワニ」を撫でてやりながら女はそう言った。
バイクを運転していた男は深々とため息をつきながら、疲れ切った眼差しでもって自身が契約している「トランペット小僧」と共に女をにらむ。
「だからって、囮作戦はきつい」
ぱーぺー。
「トランペット小僧」も、契約者の男の言葉に賛同するようにトランペットを鳴らした。
「下水道の白いワニ」の契約者は「ごっめーん☆」と反省度合いの薄い返答を返す。
「「首無しライダー」や「ゴーストライダー」とバイク勝負できるあなたなら、「ホッピングばあちゃん」相手でも大丈夫だと思って」
「後ろに「トランペット小僧」乗せた状態だときついんだよ!今回こそは死ぬかと思ったわ!!」
ぱぱぱー。
抗議の声もトランペットの音も「下水道の白いワニ」の契約者は華麗に聞き流す。
「だって、あなた達の能力っていつでもどこでもトランペットを出現させて演奏する、ってだけでしょ」
「水の上を歩くこともできるわ。「トランペット小僧」が出現するのは、池の真ん中の水面だからな」
ぱっぱー。
「せいぜいそれくらいでしょう。なら、一番できる事はトランペットの音量を生かしての囮。あなた達が誘い出して私が倒す。最高のチームワーク!」
「こっちの負担があまりにも大きすぎる」
ぱぱー。
「気にしない気にしない。ま、これからもよろしくねー」
あまりにも反省度合いがない「下水道の白いワニ」の契約者。
その様子に、「トランペット小僧」の契約者は静かに、「トランペット小僧」へとGOサインを出す。
「耳元大音量。GO」
ぱぱぱぱーぱぱぱぱぱぱぱ!ぱぱぱぱっぱぱっぱぱーぱぱぱー!!!!!!!
「グワーッ!?耳元大音量グワーッ!!??」
耳元で盛大にトランペットを吹き鳴らされ、悶絶する「下水道の白いワニ」の契約者。
そんな契約者を「下水道の白いワニ」は助けるでもなく、トランペットの音から逃れるように明らかにサイズ的に入れるはずのない下水道への入口へと身を滑らせ、吸い込まれて行くかのように下水土井へと姿を消した。
後日。
「しばらく夢の中でもトランペットの音が聞こえ続けて寝不足」
と、「下水道の白いワニ」の契約者は語ったそうだが。
どう考えても、自業自得なのである。
終
これは、都市伝説と契約しているが特に戦う事はない者の物語である。
酷く肩がこっていた。
いや、肩どころではない。全身がばっきばきのばっきばき。首、否、頭のてっぺんから足のつま先まで全身疲れ切って凝り固まっている。
日々、ブラック企業で社畜として働く彼女の肉体とストレスは臨界点を突破してそろそろ壊れる寸前だった。
「知ってる?〇〇温泉にさ、腕のいいマッサージ師の人がいるんだよ。予約とってやったから温泉でゆっくりしてそのマッサージ師さんに身も心も癒してもらってきなさい。知ってた?「この会社、死体が出勤してる」って噂流れてるんだけど。その噂の原因、どう見てもあんただから。顔色が化粧で誤魔化せないレベルで死人色だから」
同僚からそんな風に言われ、上司に「休ませてくれないとここで死ぬ!!!!!!」と自分の喉にナイフつきつけながら上司を脅して有休をもぎ取り。
温泉で寝落ちして溺れて死ぬという事故を奇跡的に回避し、彼女は今、マッサージ台の上でうつぶせになっていた。
「あぁー……」
と、マッサージ師の男性は彼女の背中に触れると同時、苦笑するような声を出す。
マッサージ開始前の問診して、「日々10時間のパソコン業務。朝から晩までトイレの回数まで制限されてパソコンの前に拘束されている」事や、そのせいで全身凝り固まっているはずだという事を伝えたうえでのこの反応だ。
凝り固まっている、のだと思うのだ。いや、もうその感覚すら当たり前のものになっているので断言はできないのだが。
どうやら、マッサージ師の反応を見るに実際に凝っていたらしい。良かった。大袈裟だと思われたらどうしようかと不安だった。
「確かに、すごい事になっていますね……ここまでのお客様はめったにいらっしゃいません」
わぁなんだか褒められたぞやったー。
背中をさすられてその段階でなんだかぽかぽかと気持ちよく、頭がふわふわしていて頭の悪い言葉が浮かぶ。
たださすっているだけではなく、背中に触れることで凝り具合などを確認してくれているようなのだが。正直、すでに気持ちがいい。なるほどここが天国か。
「ちょっと、本気でいかせていただきます。あぁ、緊張なさらず、リラックスしてくださいね。マッサージは、緊張していますと効果が半減しますから」
はぁい、と自分でも間が抜けていると思う声を出す。
緊張なんてしていない、最初はマッサージ師が若い青年だった上にアイドルも真っ青なレベルのくっっっっっっっっっっっそイケメンだった為に緊張していたが、青年の声は聴いているだけでもなんだか安心して気が抜ける声質で。触れてくる手もいやらしさや下心0のもので安心できる。
それでははじめますね、と優しく声をかけながらマッサージ師は施術を開始する。まずは精神のリラックス度合いについていけないレベルで、まるで外骨格に覆われているかのような固さを誇っていた肩甲骨周りを中心に優しく撫でさすられていく。
ただ撫でさするだけではなく、程よく手のひら全体に力を入れて、指で揉むようなピンポイントではなく手のひらによる面で刺激を与えてくれている。
あ゛ぁ゛あ゛ーーーー、等と温泉に入った時にも出してしまった、だらしないおっさんのような声がまた上がってしまう。
イケメン相手にこんな声を聞かれるという羞恥心は死んだ、もういない。
押し揉まれ、ほぐされ、体はどんどんぐっでんぐっでんになっていく。
「座り仕事と言う事で、お尻からもキてるでしょうから。こちらもほぐしていきますね」
ばっちこーい、と思いながらはぁいと返事をする。これはマッサージなのでお尻に触れられても問題ない。実際、お尻もばっきばきだったらしく、えっちな気分には一切ならずお゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛ーーーー、とまただらしない声が漏れる気持ちよさだった。そうか、お尻も凝るのか。
途中、なんだか指が体の中に入ってきたような気もしたが気のせいだろう。あまりの気持ちよさにそんな錯覚を引き起こす……そんな錯覚を感じるほどに心地いいのだ。
寝そう。いや、だが寝てはいけない。勿体ない。
指が体の中にずぶんっ、と入り込んで、何かしら抜き取られたような気がしたが気のせいだろう。すーー、っとその辺りが楽になっていっている事から察するに、凝りがほぐされる感覚のようだ。
寝そうだけど勿体ない。あぁ、でも眠たい……。
そのうち彼女は睡魔に敗北し、すやすやと眠りに落ちてしまっていた。
にゅぽんっ。ずるずる。にゅぽぽぽんっ。
死体かな?と錯覚するほどに冷たい体(温泉に入った後のはずなのにこれは相当ヤバイ)の客の体から、マッサージ師はそれを引きずり出す。
肩甲骨周りに、腰回りに、尻に、太ももに。指を文字通り沈みこませて引きずりだす。
引きずり出されたそれは、黒くぼやけていてはっきりと姿を視認する事は出来ない。引きずり出すと抵抗するようにじたばたと暴れる。
暴れるそれを、マッサージ師は構うことなく傍らに用意していた袋にぽんぽんと放り込んでいた。袋の中にはもうずいぶんとそれがたまっていて、袋はうごうごと蠢いている。
マッサージ師は、それを「業」と呼んでいた。疲労にストレスを始めとした負の精神が混ざり合い凝り固まった物。勤め人にはどうしても体に蓄積されてしまう「業」。
「温泉街の按摩さん」と呼ばれる都市伝説と契約しているこのマッサージ師は、語られるその都市伝説に出てくる按摩さんと同様に人間の肉体に蓄積された「業」を抜き取る事ができた。
最も、これは契約したマッサージ師当人のマッサージの腕がいいからでもある。この都市伝説は、マッサージの腕前までは与えてくれない。マッサージの腕前自体はマッサージ師が日々勉強し努力して会得したもの。熟練のマッサージの腕前あってこそ「温泉街の按摩さん」の能力は発動し、客を癒すことができるのだ。
……それにしても、本当、疲れ切っているお客さんだ。問診での会話等から察するにブラック企業で日々肉体と精神をすり減らしているのだろう。もはや、自身の状況から脱しようとする思考すら働かなくなっているに違いない。
抜き取っても抜き取っても、「業」が出てくる出てくる。久々の大豊作だ。
マッサージ師は知っている。人間の「業」は限りなく甘美であると。「温泉街の按摩さん」と契約して以降、「業」の味の虜となったマッサージ師にとってこの客はまさに最高のお客様だった。
我慢しきれず、抜き取りたての「業」を一つ、口の中に放り込んで味わう。
あぁ、あぁ、あぁ、なんてすばらしく甘美な味か!!!
この調子で、お客様の「業」を全て抜き取って見せよう。マッサージの腕前がいいと評判が広がれば、この「業」をもっともっと、味わい続けることができるのだから……!
マッサージ前半で寝落ちてしまった勿体なさに膝から崩れ落ちはしたが。彼女は生まれ変わった気分だった。
視界が明るい。思考が限りなくクリアである。晴れ晴れしい、おろしたてのパンツを履いたかのような爽快感。
「よし、明日から頑張るぞ!」
証拠は山のようにある。張り切っていこうじゃないか。
労基へと会社を訴える決意を固めながら、彼女は帰路へとついた。
終
これは、都市伝説と戦うために都市伝説と契約した能力者に後に倒されるであろう者の物語である。
お父さんの顔は覚えていない。と、言うより、多分、見たこともないのだと思う。
少なくとも、ぼくが覚えている範囲では家にお父さんの姿は一度もなかった。
お母さんは、ある日から家に帰ってこなくなった。どこに行ってしまったのか、生きているのか死んでいるのかさえ、わからない。
お母さんが帰ってこなくなって、ぼくはおなかがすいた。家にあった物をなんとか食べていったけれど、そのうち食べられる物は何もなくなった。
あぁ、このまま死んじゃうのかな、と、ぼんやりと思っていた時。目の前に、きらきらと輝くものが飛んできた。
『はじめまして!私はティンカーベル!』
キラキラと輝くそれは、まるでお人形のように小さくて、背中から透明な羽根を生やした女の子。
ティンカーベルと名乗った彼女はぼくの周りをきらきらと飛び回りながら。
『やっと見つけたわ、私のピーター!』
感極まった声でぼくを「ピーター」と呼んで、そうして。
『さぁ、私と契約して!また一緒に遊びましょう、私のピーター!』
ぼくに、契約を持ちかけてきた。
契約して、ぼくは思い出した。
ぼくはピーター。ピーターパン。迷子になった赤ん坊が永遠に歳を取らなくなった、永遠の子供。
妖精のティンカーベルと共にネバーランドで暮らしていて、親とはぐれた子供をネバーランドに導く存在。
すべてを思い出したぼくは、ティンカーベルの魔法の粉の力を借りて、窓から外を飛び出して夜空へと飛び立った。
思い出したからには、ぼくには使命と言うものがある。
だって、ぼくは「ピーターパン」なのだ。親とはぐれた子供達をネバーランドへと案内する役目がある。
ぼくは世界中飛び回って、そういう子供を見つけては保護して回った。そのうち、親とはぐれた子供だけじゃなく、親にいじめられている子供も集めていった。
だって、ぼくは「ピーターパン」。子供たちを守るのはぼくの役目、ぼくの使命。
ネバーランドは子供のための、子供だけの島。永遠に子供だけがいる世界。
この島を守るのだって、ぼくの大事な大事な使命なんだ。
「ぇ、あ……ピーター…………なんで……?」
そう、ここは子供の島!
「っひ、や、やめ、そんな、どうして……っ!?」
ここは「子供だけ」の島!
「なんで、なんで、そんな……そんなのって……」
そう、だから。
「勝手に連れてきて!大人になりそうになったら、こんな…………身勝手じゃないか、この……」
この島には、「大人」はいちゃいけない、
「この、殺人鬼が!!!」
持ち上げた大人を、高い空から叩き落とした。
何か言っていたようだけど無視する。だって、大人はみんな嘘つきだから。話を聞くだけ時間の無駄だ。
おかしいな、なんでだろう。
このネバーランドは子供の島なのに。いつの間にか、連れてきた子供がいなくなって代わりに大人がいる。
なんでだろう、おかしいな。
これは、きっと、誰かの陰謀に違いない。
世界中飛び回って知ったところによると、世界には「組織」「アメリカ政府の陰謀論」「薔薇十字団」「メンバー」「MI6」「第三帝国」「占い愛好会」「首塚」「怪奇同盟」「教会」「レジスタンス」などなど、他にも代償色々と悪い大人達の集団がいるらしい。
きっと、子供たちがいなくなるのは、そいつらの陰謀だ!
ぼくは「ピーターパン」。永遠の子供。子供達をネバーランドに導いて、悪い大人から守護する者。
そんな悪い大人たちの陰謀になんて、負けるもんか。
何度、この島に大人が現れたって、ぼくが全部やっつけてやるんだ!!
子供は何も知らない、わからない、気づかない。
子供は「ピーターパン」と言う「永遠の子供」になって、大人になる機会を永遠に失ってしまって、何も理解できない、わからない。
ただただ、自分は正しいとうぬぼれて、自分は子供たちのヒーローなのだとうぬぼれて、大人達を殺し続ける。
それがどれだけ親しくした相手であっても、大人になれば容赦なく、残酷に殺してけたけたと笑う。
子供は何も知らない、わからない、気づかない、理解しない。
そう遠くない未来、とうとう誰かに退治されるその瞬間までも。
己の咎に気づけることは、ない。
終
これは、都市伝説と戦うためではないが契約している能力者と契約している都市伝説と、とある都市伝説の戦いの物語である。
深夜、街中の空を飛び回るモノがいた。
一見するとコウモリに見えるそれは、しかし、明らかにコウモリとは違うモノだった。
一つ、それは単眼であり。一つ、それは人間より小柄な小人くらいの大きさで。一つ、何よりも。
それの股間には、あまりにも、あまりにも、ご立派なブツがぶらりぶらん、とぶら下がっていた。
こんなコウモリ、自然界には存在していないだろう。むしろしていてほしくない。主に股間のブツが。
エレクチオン状態でもないというのにあまりにもご立派すぎる。小柄な体躯にあまりにも似合わない、不相応すぎるブツ。
風に揺られてぶらんぶららん、股間のブツを揺らしながらそれは夜空を飛び回り、家々の窓を覗き獲物を探す。
とは言え、カーテンを閉めている家も多い為にまともに中を覗けない家も多いのだが。
……見つけた。
不用心にも、開け放たれたままのカーテン。部屋の中にはベッドに入って眠っている青年一人。
それは獲物を見つけた喜びで、空中でくるりと一回転した。
ばさり、青年が眠るその家まで近づいていく。
流石に、窓には鍵がかかっているのだが。それにとってそんなものは障害にはならない。
それの体は、窓の手前で煙へと変化して。するりと細い細い、目に見えない程の細い隙間を通って部屋の中へと侵入した。
まるで硫黄のような匂いを纏いながらも、それは単眼のコウモリのような姿へと戻る。ぶるんっ、と、その拍子に股間のブツが揺れた。
現実逃避としてそれの名称をまだ記していなかったが、いい加減、現実に向き合うとしよう。
それは、「ポポバワ」と呼ばれる、アフリカ東部にある某国の某島にて目撃されたUMAの一種である。
外見特徴については股間のブツに関する記述を除けば大体前述したとおりである。
……いや、もしかしたら、股間のブツについても大体正しい記述かもしれない。
何故ならばこのUMAには、深夜に民家に入り込みその家の男を大きな股間のブツで犯すという話が伝わっているからだ。
伝わる話の通りであれば、股間のブツの大きさも人々の噂に伝えられている通りで間違っていないのだろう。
まぁとにかく、そういうUMAなのである。UMAも都市伝説の一種。都市伝説の性として、「ポポバワ」は言い伝えられている通りに行動する。
すなわち、今、眠っている青年へと襲い掛かろうと、ゆっくり、近づいていく。
青年は眠り続けており、まさに絶体絶命のピンチ。
だが。
そこに、救いの神が現れた!!
「ヘーイ青年!今日こそワタシとDOKIDOKI☆ブルーフィルムタイムでーす!」
勢いよく扉を開け放ち、この発言をかましたのは欧米人と思わしきナイスな筋肉質な肉体を誇る男性だった。
もしかしなくとも、救いの神ではなく不審者2号だった。
突然の闖入者に驚いたのか、「ポポバワ」はギギギッ、と不気味な鳴き声をあげて青年から離れる。
「むむ、まさか、ワタシの愛しい人の元にフラチな不審都市伝説!……良いでしょう」
ばっ、と、筋肉質な男性は服を脱ぎ捨てる。
鍛えられた筋肉がよりわかりやすくあらわになり、そして、その体躯にふさわしいブツがぶるんばるんと揺れる。
「この「エイズ・サム」!愛しい人のタメに不審都市伝説を追い払いマース!」
ギギギギギギギッ!!!!
「ポポバワ」も、やっと見つけた獲物を奪われたくなかったのだろう。
戦闘態勢をとった「エイズ・サム」に対して激しく威嚇のポーズをとる。
互いの股間のご立派様は、戦いの興奮によってエレクチオン。あまりにも凶悪なエクスカリバーと化していた。
かくて、真夜中の決闘が開始された。
こんなあまりにもひど過ぎる決闘が繰り広げられているにも関わらず、「エイズ・サム」の契約者の青年はすやすやと幸せな夢を見続けていて。
このあまりにもひど過ぎる決闘について知るのは、翌朝、ダブルノックダウン状態で倒れていた二体を発見しての事だったという。
終
これは、都市伝説と戦うために都市伝説と契約した能力者達が、一つ、戦いを終えた後の物語である。
「はぁ……っ」
目の前で力尽き、消えていく刃物を持った「トイレの花子さん」を油断なく見つめながら、彼女はがっくりと膝をついた。
激しい戦闘で、体中ボロボロだ。そもそも、彼女の契約都市伝説は、そこまで戦闘向きの都市伝説ではないのだ。
それでもこうして相手を撃破できたのは、彼女の実力故か。
「契約者様、しっかり!」
おろおろと、そんな彼女を気遣うのは、彼女の契約都市伝説である「カマキリ男爵」。身なりのいい服装をした人間より少し大きいくらいのカマキリの姿をしたナイスミドルである。
「カマキリ男爵」との契約によって彼女が得た力は、ピアノの才能と腕をカマキリに変える能力。カマキリの腕のままでもピアノを弾けるという謎の力もある。
とにかく、腕をカマキリの腕に変えて、それで戦闘を行っていたのだ。互いに互いを切り裂き合った結果、生き残った彼女はそれでもボロボロだった。
体中、切り傷まみれ。幸い、傷の一つ一つは深くない為出血はそこまででもないのだが、じくじくと全身が傷む。
「私は平気…………それより、あいつは……あっちは、どうなったんだろ……」
「カマキリ男爵」にそう答えながら、彼女はクラスメイトが戦っているはずの廊下の向こう側へと視線を向けた。
「トイレの花子さん」との戦闘を開始した彼女に、横殴りするように襲い掛かってきた「紫ババア」。クラスメイトは、その「紫ババア」の相手を買って出てくれたのだ。
一対二の状況は流石に厳しかったのでありがたい、が。
「……あいつ、契約都市伝説、戦闘向きじゃないって言ってたのに」
具体的にどんな都市伝説と契約しているのかまではまだ聞けていなかったが、直接、戦闘に使えるようなものではないと聞いていた。
それなのに、彼女を助けようと「紫ババア」の相手を、買って出てくれた。
「助けに、いかないと……」
「け、契約者様。しかし、そのお怪我では……!」
よろめきながらも、彼女は立ち上がろうとする。
助けないと、助けないと。
互いに都市伝説契約者であると判明してから、積極的に交流するようになった彼。他人に対する扱いはぞんざいなようでいて、なんだかんだ都市伝説絡みで相談にも乗ってくれた彼を死なせる訳にはいかないのだ。
なんとか、彼女が立ち上がったところで……人影が、見えた。
「あ、そっちも終わってたか」
「……!無事、だったんだね」
彼だ。服がボロボロになっていて血が滲んで見えるが、こちらよりずっと余裕そうだった。
少しだけ、ほっとする。
「振り切れたの?」
「いや、殴り倒した」
「なぐりたおした」
思わずオウム返ししてしまった。都市伝説って殴り倒せるものだっけ。それとも彼がちょっと逸脱人なんだろうか。
「怪我は……?」
「舐めたから治った。そっちは…………かなり切られたな。手当するよ」
大丈夫、と答えようとして……先程の彼のセリフが、少し引っかかった。
舐めたから治った?
疑問を浮かべた次の瞬間、彼の顔が近づいてきて。
ぺろり、と、頬を舐められた。
「おぎゃっはぁああああああああああああああああああああああああ!!!!????」
「なんだ今の悲鳴」
「契約者様。乙女としてその悲鳴はどうかと」
彼と「カマキリ男爵」からダブルでツッコミが飛んできたがそれどころではない。
むしろ、ツッコミたいのはこちらの方だ。
「い、いいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい、今、何をっ!?」
「舐めた」
即答された。
いや、舐めたって、突然、何をしてくるのか。
パニックになりつつ、舐められた頬に触れて、気づいた。
「え……?傷、治って……?」
その辺りも、切りつけられて血が滲んでいたはずなのに。そこだけ、痛みが消えている。恐る恐る振れれば、切り傷が消滅しているようだった。
「「舐めたら治る」。それが俺の契約都市伝説だ」
「なるほど……できれば、言ってから行動、してほしかったな……!」
心の準備が必要だ、これは。
彼も彼だ。なんの躊躇もなく、人の顔を舐めないでほしい。
いくら恋愛的な意味では意識していないと言っても、クラスでそこそこモテる方である彼にこんな事されたら流石に焦る。
彼女のそんな心境に、彼は気づいてはいない様子でじっと、彼女の様子を観察していた。
「…………本当、あちこちボロボロだな」
「え」
とさっ、と。
優しく、床の上に押し倒される。
「ちょっとじっとしてろ。残りの傷も治す」
「え…………あ、いや、待って、残りの傷も、って」
彼の契約都市伝説は「舐めたら治る」で。
そして、私は全身、ズタボロ切傷だらけな訳で。
それを治す、と言う事は、つまり。
「傷、深くなさそうでよかった。内部まで傷ついてると舐めるの難しいしな。じゃ、まずは腕から」
「いやいやいやいやいや待って待って待って待ってストップ!!!タイム!!!!!いや止まってくれないし!?これくらい大丈夫!大丈夫だかrひゃぁん!!??」
「女の体に変に傷残したくないしな」
「気遣いっ!?でも捨てて!今はその気遣い捨てて!!!ってか、「カマキリ男爵」!ヘルプ!へるぷみーーーーっ!!??」
あちこち、いやらしさは一切なく舐められ、傷を癒されていく。
いやらしさはないというのに、その舌遣いにぞくぞくしたものを感じてしまい、思わず契約都市伝説である「カマキリ男爵」に助けを求めるも。
「…………ごゆっくり。どうか、契約者様をしっかり癒してくださいませ」
「あぁ、任せろ。次、太ももな」
「いやーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!????」
契約者を気遣う「カマキリ男爵」によってGOサインが出てしまい。
夜の校舎に彼女の悲鳴は盛大に響き渡った。
そうして、何か大切なものを失いつつも。彼女の体には傷一つ、残されることはなかったのだった。
終
計測開始
これは、都市伝説から身を守るために都市伝説と契約する事になった能力者の物語である。
べちゃ、べちゃ、べちゃ。
べちゃっ、べちゃっ、べちゃっ、べちゃっ、べちゃっ、べちゃっ、べちゃっ、べちゃっ、べちゃっ、べちゃっ、べちゃっ、べちゃっ、べちゃっ、べちゃっ、べちゃっ、べちゃっ、べちゃっ、べちゃっ、べちゃっ、べちゃっ、べちゃっ、べちゃっ、べちゃっ、べちゃっ、べちゃっ、べちゃっ!!
足音が近づいてくる。べとべとぬちゃぬちゃとした、気持ちの悪い、ぬるぬるとした者の足音が。
追いかけてくる、追いかけてくる。夜の闇の中、それはずっと、私を追いかけてきている。
逃げても逃げても、追いかけられる。助けを求めようにも、走り続けて、苦しくて、うまく声が出ない。
こんな時に限って、誰ともすれ違う事もない。そんなど田舎と言う訳でもないのに、この時間はもう、人があまり外に出歩いていないとでもいうのだろうか。
ちらり、と、肩越しに少しだけ、改めてその追いかけてくる者の姿を確認する。
それは、黒い人間の姿をしていた。全身が黒い。黒々としていてぬめぬめしている。どうやら、黒いオイルのようなものが全身を覆っているらしい。そのせいで足音はべちゃべちゃとしていて、黒い油の足跡を地面に残していっている。黒い姿は闇に溶け込むようで、しかし、赤々と光る眼と、その手に持つナイフの刃が月明かりに照らされて光っているせいで完全には溶け込めていなかった。
私は、それにかれこれ数十分は追いかけられていた。ここまで走り続けられた自分を偉いと思いつつ、そろそろ体力も脚も限界が訪れようとしていた。
不気味なそれにつかまってしまったら、どうなってしまうかわからない。赤々と光るその目は、私を「獲物」として見ているようにしか見えなかった。
なんで、どうして。どうして街中に、こんな、化け物が。
疑問を浮かべたところで答えは出ないし、どうにもならない。足音は、どんどん、どんどんと近づいてきているのだ。
そして。
「っきゃ……!?」
とうとう、脚の限界が来た。無様に転び、転がる。そうなってしまえば、立ち上がろうにも立ち上がる事はできなくて。
「ぁ…………」
黒いオイルまみれのそれが、私を見下ろしてくる。ぽた、ぽたっ、と、落ちてきた黒いオイルが私のコートを汚す。
手が、伸びてくる、オイルまみれの手が。ナイフが、振り上げられる。月明かりがナイフの光に反射する。
向けられるのは、害意、悪意。それと、性欲のようなもの。
このままだと、私、は。
【敵対存在:「オラン・ミニャク」。マレーシア発祥都市伝説が一つ】
こちらのコートをつかみ取ろうとする手の動きが、振り下ろされようとするナイフの動きが。
黒いオイルまみれのそれの動きの一つ一つが、やけにスローモーションのように遅く感じて。自分だけ、時間の流れが変わってしまったような錯覚の中、妙な声が聞こえた。
【全身が黒い油まみれのナイフを持った男。女性を暴行する事件が複数回発生済】
このままだと、私もその被害者の一人になる、と。
聞こえてくる妙な声によって、認識させられる。
……嫌だ。
嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ!!!
そんなの、絶対に、嫌だ!!!!!
【契約を実行しますか?】
その言葉の意味はわからなかった。
けれど、契約とやらをすればどうになかるのではないか、と。
何故か、そう思ったから。
「けい、やくを…………実行……する……!!」
絞りだした声で、叫んで。
直後、ざわり、自分の中を炎が走り抜けたかのような熱を感じた。
熱い、と。自分が燃え尽きるのではないかと言う錯覚は、ほんの一瞬。
その一瞬の直後、私は契約の実行によって何がなされたかを理解し。そして、世界のスピードが元に戻る。
ナイフが、私に向かって、一気に振り下ろされて。それが私に届くよりも先に、私は、その力を解き放った。
「っぎ、ぃ、ぎゃああああああああああああああああああああっ!!??」
それの……聞こえてきた声によれば「オラン・ミニャク」とか言う名前らしい存在が、燃え上がる。
炎は、「オラン・ミニャク」の体を覆いつくしていたオイルに点火し、さらに強く激しく燃え上がる。
「わ、わわわわ……っ」
燃え移ってはひとたまりもない。
みっともなくも、地面をはいずって燃え上がり苦しみもだえる「オラン・ミニャク」から離れた。
「おの、れ……!契約者だった、とは…………畜生がぁあああああ!!!!」
吠え声のような、おたけびのような、断末魔のような。そんな叫び声をあげながら、「オラン・ミニャク」が最後の抵抗と言わんばかりに私に迫る。
その恐ろしさに、悍ましさに、私はさらにその力を。
「人体発火現象」……それの、「間の体に含まれる遺伝子の中には発火性のものがあり、それが突然発火する」と言う説に基づいた都市伝説の力をさらに引き出して、「オラン・ミニャク」をさらに燃え上がらせた。
苦しみの声が聞こえる。油が、人体が焼けていく嫌な臭いが辺りに広がる。
「オラン・ミニャク」を焼いた炎は、幸いにもか、それとも特殊な炎故他に燃え移る事はないのか。「オラン・ミニャク」だけを燃やし尽くして。
後には、人の形をした炭と、真っ黒こげになったナイフだけが、残された。
その残った炭も、風に吹かれてさらさらと崩れて、風に流されて消えていって。
最後には、座り込んだ私だけが、残された。
これが、私が「人体発火現象」と契約したきっかけ。
人を、人の形をした都市伝説だけを燃やし、燃やし尽くす力。
恐ろしい力だとは思う。
けれど、それ以上に恐ろしい存在に襲われた時、身を守れるのはこの力しかないのも事実。
「人の形してないのに襲われたらアウトなんだけどなぁ……」
そういう時は、どうすればいいのやら。
不安に思いつつも、私はこの力をコントロールする術を学んでいかなければ、と。そう認識する。
死にたくないなら使いこなせ。殺したくないなら使いこなせ。
これは、そういう力なのだから。
終
約25分で書きあがり確認
これは、特に契約者を持たない野良都市伝説達の物語である。
真夜中、とある山奥の車道。車も通る事のないその時間帯に、人影が集まっていた。
おかしな光景である。こんな時間に、こんな山奥の車道に人が集まっていて。しかも、その大半が老婆なのだ。
現場に、新たな人影が姿を現す。それもまた、異常だった。それは女子高生。どこからどう見ても、どこにでもいそうな平凡な女子高生。
ひらり、膝丈のスカートを揺らしながらその女子高生はそこに集まっていた人影の群れへと近づいていく。
「……あ!女子高生のお姉ちゃん!こんばんは!」
「こんばんは、マリちゃん」
女子高生に、一人の少女が近づく。マリちゃんと呼んだその少女が飛びついてきたのを、女子高生は優しく抱きとめる。
……マリちゃんの体は、うっすらと透けていた。まるで、幽霊のように。いや、「幽霊」なのだ。このマリちゃんは。それでも、マリちゃんの方から触れたいと思ってくれればこうして触れられる。体温までは感じられないのが、少しばかり寂しいが。
「皆さん、ごめんなさい。すっかり遅くなっちゃって」
「ひっひっひ、気にするんじゃないよ。あたしらが早すぎただけさ」
「無事、辿り着けたならいいんじゃよ。あんたもマリちゃんも、後でババ達がおやつあげるからね」
老婆達はけらけらと笑いながら女子高生達にそう言ってみせた。完全に、自分の孫に接するような態度だ。この老婆達に実際に孫が存在するかどうかは謎だが。
異様な集団は、みな和気あいあいと楽し気に話している。一番多いのは老婆であるが、中には鹿の胴体に老婆の頭部がついた者や牛の頭部をした着物姿の女性等あからさまな異形も存在していた。ある種一番異様なのは赤ん坊か。老婆達にかまってもらってきゃっきゃっと笑っているが、こんな時間にこんな場所にいるのはおかしい、
また、リヤカーや自転車を整備している様子の人物もいた。真剣に、まるで真剣勝負に赴く直前のような雰囲気だ。
そう。
この場に集まった者達はまさに、真剣勝負の為に集まっているのだ。
「すっみませーん!大遅刻ーーーー!!!」
と、現場に新たな人物が姿を見せた。マリちゃんと同じくらいか、少し年上程度のランドセルを背負った少女だ。
正直、こんな時間に外を出歩いていたら大人から咎められそうである。それは、女子高生にも言える事だが。
「もう、みんな来ちゃってる?」
「そうだねぇ。そろそろ、始まりの時間だよ」
「整備してる組が整備する時間があったからえぇじゃろよ……あんたは、乗り物の整備はいらんのかえ?」
「私のは、その場で精製するタイプだから平気です」
わいわいとおしゃべりしつつ、自然と皆横一列に並び始める。真剣勝負の、スタートラインに。
数人の老婆が、異形の姿をした者達が、リヤカーを装備したおばちゃんが、自転車に乗り込んだ真面目なサラリーマンが、赤ん坊が、少女が、女子高生が。
スタートラインに、ついた。
「それじゃあ、今年も私がスタートの合図をしますねぇ」
よぼよぼの、腰の曲がった老婆が競技用ピストルを構える。この老婆もまた、真剣勝負の参加者ではあるが。こうして自ら、スタートの合図をする役目を担っていた。
それくらいはハンデだ、とでもいうように。
「それでは、用意……!」
皆が、構えて。
「スタート!」
ぱぁんっ!と、音が鳴り響くと同時。
一斉に、皆が駆けだし始めた。
「いっ、けぇええええええええええええええええ!!!!」
ごぅんっ!!と、轟音と共に女子高生は己の相棒たるミサイルを呼び出した。それにまたがり、一気に加速し頭一つ抜ける。
「ミサイルにまたがる女子高生」そのものでもある彼女の疾走スタイルはこれだ。
高速走行型都市伝説によるフリースタイル競争において、ミサイルにまたがるのは違法ではない。
「ふぇふぇふぇ、相変わらず派手だねぇ!」
「でもねぇ、ババ達も簡単には負けないよぉ!!」
「ターボばあちゃん」「ジェット婆」は、ぐんぐんと加速し、「ミサイルにまたがる女子高生」の後を追いかける。
「ばあさん達には負けんぞい!」
「そうじゃいそうじゃい!知名度では劣るが、スピードではそうそう負けん!」
「ダッシュ爺ちゃん」「鞠つきじじい」も負けじと並走する。「鞠つきじじい」はその名の通り、鞠をつきながらも恐ろしいスピードで走っていた。
ぽんぽんぽん、と、鞠をつく音は一つではない。
「み、みんな早い……でも、負けないもん!」
マリちゃん……「鞠つきマリちゃん」もまた、鞠をつきながら皆へと追いすがる。その足元を、「高速赤ちゃん」がきゃっきゃっと楽しそうにハイハイで爆走してついてきていた。「高速赤ちゃん」は、これが勝負事であるとわかっているかどうか不明であるが。当人が楽しそうなので問題ないのだろう。
「く、速い……!私だって、80kmは出せているはずなのに……!」
悔し気に「リヤカーおばさん」はそう呟く。少なくとも80km以上のスピードで走れると言われている彼女は、どうにもその語られるスピードに縛られがちだ。都市伝説とはどうしてもそういうものなのである。
その点で言うと。
「うぉおおおおおおおお!!!!!!!!
ひらり、膝丈のスカートを揺らしながらその女子高生はそこに集まっていた人影の群れへと近づいていく。
「……あ!女子高生のお姉ちゃん!こんばんは!」
「こんばんは、マリちゃん」
女子高生に、一人の少女が近づく。マリちゃんと呼んだその少女が飛びついてきたのを、女子高生は優しく抱きとめる。
……マリちゃんの体は、うっすらと透けていた。まるで、幽霊のように。いや、「幽霊」なのだ。このマリちゃんは。それでも、マリちゃんの方から触れたいと思ってくれればこうして触れられる。体温までは感じられないのが、少しばかり寂しいが。
「皆さん、ごめんなさい。すっかり遅くなっちゃって」
「ひっひっひ、気にするんじゃないよ。あたしらが早すぎただけさ」
「無事、辿り着けたならいいんじゃよ。あんたもマリちゃんも、後でババ達がおやつあげるからね」
老婆達はけらけらと笑いながら女子高生達にそう言ってみせた。完全に、自分の孫に接するような態度だ。この老婆達に実際に孫が存在するかどうかは謎だが。
異様な集団は、みな和気あいあいと楽し気に話している。一番多いのは老婆であるが、中には鹿の胴体に老婆の頭部がついた者や牛の頭部をした着物姿の女性等あからさまな異形も存在していた。ある種一番異様なのは赤ん坊か。老婆達にかまってもらってきゃっきゃっと笑っているが、こんな時間にこんな場所にいるのはおかしい、
また、リヤカーや自転車を整備している様子の人物もいた。真剣に、まるで真剣勝負に赴く直前のような雰囲気だ。
そう。
この場に集まった者達はまさに、真剣勝負の為に集まっているのだ。
「すっみませーん!大遅刻ーーーー!!!」
と、現場に新たな人物が姿を見せた。マリちゃんと同じくらいか、少し年上程度のランドセルを背負った少女だ。
正直、こんな時間に外を出歩いていたら大人から咎められそうである。それは、女子高生にも言える事だが。
「もう、みんな来ちゃってる?」
「そうだねぇ。そろそろ、始まりの時間だよ」
「整備してる組が整備する時間があったからえぇじゃろよ……あんたは、乗り物の整備はいらんのかえ?」
「私のは、その場で精製するタイプだから平気です」
わいわいとおしゃべりしつつ、自然と皆横一列に並び始める。真剣勝負の、スタートラインに。
数人の老婆が、異形の姿をした者達が、リヤカーを装備したおばちゃんが、自転車に乗り込んだ真面目なサラリーマンが、赤ん坊が、少女が、女子高生が。
スタートラインに、ついた。
「それじゃあ、今年も私がスタートの合図をしますねぇ」
よぼよぼの、腰の曲がった老婆が競技用ピストルを構える。この老婆もまた、真剣勝負の参加者ではあるが。こうして自ら、スタートの合図をする役目を担っていた。
それくらいはハンデだ、とでもいうように。
「それでは、用意……!」
皆が、構えて。
「スタート!」
ぱぁんっ!と、音が鳴り響くと同時。
一斉に、皆が駆けだし始めた。
「いっ、けぇええええええええええええええええ!!!!」
ごぅんっ!!と、轟音と共に女子高生は己の相棒たるミサイルを呼び出した。それにまたがり、一気に加速し頭一つ抜ける。
「ミサイルにまたがる女子高生」そのものでもある彼女の疾走スタイルはこれだ。
高速走行型都市伝説によるフリースタイル競争において、ミサイルにまたがるのは違法ではない。
「ふぇふぇふぇ、相変わらず派手だねぇ!」
「でもねぇ、ババ達も簡単には負けないよぉ!!」
「ターボばあちゃん」「ジェット婆」は、ぐんぐんと加速し、「ミサイルにまたがる女子高生」の後を追いかける。
「ばあさん達には負けんぞい!」
「そうじゃいそうじゃい!知名度では劣るが、スピードではそうそう負けん!」
「ダッシュ爺ちゃん」「鞠つきじじい」も負けじと並走する。「鞠つきじじい」はその名の通り、鞠をつきながらも恐ろしいスピードで走っていた。
ぽんぽんぽん、と、鞠をつく音は一つではない。
「み、みんな早い……でも、負けないもん!」
マリちゃん……「鞠つきマリちゃん」もまた、鞠をつきながら皆へと追いすがる。その足元を、「高速赤ちゃん」がきゃっきゃっと楽しそうにハイハイで爆走してついてきていた。「高速赤ちゃん」は、これが勝負事であるとわかっているかどうか不明であるが。当人が楽しそうなので問題ないのだろう。
「く、速い……!私だって、80kmは出せているはずなのに……!」
悔し気に「リヤカーおばさん」はそう呟く。少なくとも80km以上のスピードで走れると言われている彼女は、どうにもその語られるスピードに縛られがちだ。都市伝説とはどうしてもそういうものなのである。
その点で言うと。
「うぉおおおおおおおお!!!!!!!!今年こそは負けん!!!!!時速100kmの壁…………超えて見せる……っ!」
「100キロで走る車と並走する自転車に乗ったまじめなサラリーマン風おじさん」もまた、語られるスピードに縛られがちだが。その壁を、気合で突破しようとしていた。
負けられない。そんな意地が彼らにはある。
高速並走型都市伝説達は皆、己のスピードに誇りを持っている。
これは、その誇りをかけた真剣勝負。
「モ゛ぉ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛ォ゛オ゛オ゛!!!!!!」
「ぴぃぇえええええええええええ!!!!!」
「牛女」が、「ぴょんぴょんババア」が、雄たけび上げながら追いすがる。
「負ける、もんかぁ!!!知名度が低くたってねぇ!!!速度は鍛えられるんだよ!!」
「ラン・ラン・ルー♪」
「峠のよつんばい女」が、「首都高ドナ〇ド」が、自分達の前を走る者達を追い抜こうと隙を伺う。
「ふっふーん♪ボクは追い上げ型だー!」
と、ランドセルを背負った「スキップする少女」が、普段、車相手にやっているように対戦相手達をスキップしながらすり抜けて追い抜いていく。追い上げ型、と言うよりも、「車の間をスキップしながらすり抜けていく」と語られているために、前に走っていてもらわないとスピードが出せないともいう。
デッドヒートが繰り広げられていき、ゴールとして決めているラインが見えてきた……その時、だった。
(……!来る!!)
ミサイルにまたがりスピードを上げ続けながら、「ミサイルにまたがる女子高生」は後方からの気配に気づいていた。彼女だけではなく、この勝負に参加しているほぼ全員が、気づいていた事だろう。
スタートの合図を出した、彼女が。
………………来る!
追い上げてくるのは、光。光そのもの。「光速ばばあ」と呼ばれる彼女は光そのもののスピードで駆ける。光の速度故姿は見えない。それでも来ているのだと、わかる。本能が告げてくる。
「これだけ、ハンデもらって…………負けられるかぁああああああああっ!!!!!」
「超えてやる、光の壁だって!!!!」
「これが!わしらの生きざまじゃああああああああああ!!!!!」
「らんらんるー♪」
駆ける、駆ける、ゴールに向かって。
勝負の行方は、参加者達だけが知っている。
終
■単発「夜に駆ける」にてレースに出場していた高速並走型都市伝説一覧
・ミサイルにまたがる女子高生:読んで字のごとく。自動車を追いかけたり追い抜いたりするだけで攻撃はしない。「フロイト的な精神分析では、ミサイルやロケットなどの兵器は男性原理を表す」とも言われているが特に関係はおそらくない
・鞠つきマリちゃん:鞠つきをしている最中に車に轢き逃げされた少女の幽霊が、鞠をつきながら自動車を追いかける
・ぴょんぴょんババア:夜にぴょんぴょん跳びはねる老婆タイプと、鹿の胴体に老婆の頭の2タイプが存在。今回出場したのは後者
・牛女:着物を着て牛頭な四つん這いの女、もしくは牛の胴体に般若の頭の怪物の2タイプが存在。今回出場したのは前者
・高速赤ちゃん:高速でハイハイしながら追いかけてくる赤ん坊。きゃっきゃっ
・リヤカーおばさん:リヤカーを引いたおばさんが時速80kmの車と競争する。北海道出身なので恐らく雪道に強い
・100キロで走る車と並走する自転車に乗ったまじめなサラリーマン風おじさん;名前の長さでは出場者で並ぶ者はいない
・スキップする少女:白いブラウス、赤いスカート、ランドセル姿の少女。岡山の津山インターチェンジ付近にて時速80kmでスキップしながら車と車の間をすり抜けていく
・ターボばあちゃん:細かく色んな呼び名で存在するターボな速度で走るおばあちゃん
・ジェット婆:こちらはジェットな速度で走るおばあちゃん
・ダッシュ爺ちゃん:高速並走型は婆だけじゃない。爺もいる!
・鞠つきじじい:鞠つきしながら車を追いかける爺。マリちゃんとは特に関係ない
・峠のよつんばい女:別名「高速女」。四つん這いで車を追いかけてくる。ゴクミ似とのうわさ
・首都高ド〇ルド:首都高で爆走するドナ〇ド。貴様、何故ここにいる!?
・光速ばばあ;高速並走型最上位。その速さ光のごとし。故に視認不可。ピカピカの実は食べていない
※今回、「バスケばあちゃん」「ホッピング婆ちゃん」「棺桶婆」「ホッピング婆」等、そこそこ積極的に物理攻撃しかけてくるタイプは参加しておりません
■訂正
※今回、「バスケばあちゃん」「ホッピング婆ちゃん」「棺桶婆」「ボンネット婆」等、そこそこ積極的に物理攻撃しかけてくるタイプは参加しておりません
これは都市伝説と戦うために都市伝説と契約し、道を踏み外した者の物語である。
血の臭いがする。焼け焦げた臭いがする。薬品の臭いがする。水の臭いがする。錆ついた臭いがする。腐り落ちた臭いがする。
ありとあらゆる死につながる臭いが、そこには充満していた。
「組織」所属の黒服と契約者、合計二十三人。その全てが絶命し、今、最後の一人もまさに命を散らそうとしていた。
「か、ふ……」
決して、彼らが弱かった訳ではない。討伐任務につくような面子である。弱いはずがないのだ。
「口裂け女」「白い壁の穴」「南極のニンゲン」「ケンタウロス」「青頭巾の火」「ドンドコドン」「ストリガ」「鏡のピエロ」「ジャンパイア」「カシマさん」「エンドロップ」…………どの契約者も、この討伐任務に参加するにふさわしいだけの実力者だった。
だというのに、このざまだ。
生き残った最後の一人、「骨折した箇所が治癒した場合、骨は以前より強くなる」は、契約しているその都市伝説の力で持って全身の骨折を治癒していきながら、なんとか立ち上がる。
じゃきり、皮膚を貫いて飛び出した骨を剣のように構えて、討伐対象を見据えた。
「へぇ、まだやんのか」
討伐対象は、そんな彼を見下し嗤う。
「その出血量で助かるとでも思っているのか?」
わかっている。脇腹から、首筋から流れる血は止まる様子はない。自分の都市伝説で治癒できるのは骨折だけだ。この出血はどうにもならない。
そうだとしても、戦う意思を捨てるつもりはなかった。この場で、この討伐対象を倒さなければいけない。
「……お前は」
「うん?」
「お前は…………お前の中には、何人いる?」
意識が霞んでいくのを叱咤しながらも、そう問いかければ。
討伐対象は、酷く、酷く、凶悪な笑みを浮かべ、答える。
「十五人だな。ま、「組織」の黒服化した契約者三十五人殺してこの人数。なかなかの豊作だと思わないか?」
「…………なんて、事を」
「そういう都市伝説だからな、私の「臓器の記憶」と言う都市伝説は」
嗤う討伐対象、「臓器の記憶」の契約者の背中には、蛾のような羽根が生えている。「モスマン」の契約者の臓器を取り込んで奪った羽根が。
「臓器の記憶」の契約者の左腕は、熊のように変化している。「ファラミーヌ」の契約者の臓器を取り込んで奪った力の一部を引き出している。
「臓器の記憶」の契約者の右手には注射器が握られている。「注射男」の契約者の臓器を取り込んで奪った注射器が。
…………そういう、能力なのだ。移植された臓器の元の持ち主の記憶を引き継ぐだけのはずの都市伝説は、契約者を得た事によって悍ましい進化を遂げた。移植された臓器の持ち主が都市伝説契約者、もしくは都市伝説であった場合、その力の一部を扱えるようになる、と言うものに。
事実に気付いた「臓器の記憶」の契約者は、使えそうな能力の持ち主を次々と殺して臓器を奪っていった。人間の体に収められる臓器の数も種類もたかが知れているはずなのだが、その数をオーバーしても取り込み続けた……もはや、移植ではなく、「臓器を取り込む」事で能力を奪えるように進化してしまったのだろう。
これ以上……これ以上、「臓器の記憶」の契約者に力を与えてはいけない。どんどんと、止めることが難しくなってしまう。
骨の剣を、構える。「臓器の記憶」の契約者もまた、熊のような腕を振り上げ、モスマンの羽根で浮かび上がる。
「欲しいな、「骨折した箇所が治癒した場合、骨は以前より強くなる」…………その力を手に入れりゃあ、私はもっと!もっと強くなれる!」
「そう、簡単に……奪えると、思うなぁっ!!!」
地面が抉れるほどに踏み込み、一気に接近する。心臓の位置を骨の剣が貫くが、「臓器の記憶」の契約者は彼を嘲笑うだけだ。
「心臓一個やられた程度で死ぬとでも?心臓のストックなら、まだある」
取り込んだかずだけ心臓があるとでもいうように嘲笑い。「ファラミーヌ」の熊の腕が、「アクロバティックサラサラ」のスピードでもって彼の胴体へと突き入れられる。
「ぐ……っ!」
「さぁ、お前の心臓も、もらった……?」
がしり、と。骨の剣を生やしているのとは逆手で持って、彼は己の胴体に突き入れられた「臓器の記憶」の契約者の腕を、掴んだ。その手から、ぶきびきと皮膚を貫いて骨が飛び出し、「臓器の記憶」の契約者の腕へと突き刺さっていく。
「…………ただでは死なんぞ!この体の臓器の一部も!お前なんぞには、くれてやらん!!」
骨が、飛び出す。彼の体中から一斉に。彼の体内の臓器をずたずたに切り裂き、引き裂き、使い物にならなくしながら。目の前の「臓器の記憶」の契約者へと、四方八方取り囲み、一斉に襲い掛かる。
突き刺し、引き裂き。骨の檻に閉じ込めるように。そのままさらにさらに、ズタズタに。
流石の「臓器の記憶」の契約者も、その攻撃から逃れようと暴れ出す。
暴れ、骨の刃が、槍が、檻が、へし折られて破壊され。破壊されたはしから再生し、さらに丈夫な刃に、槍に、檻へと変わり、「臓器の記憶」の契約者へと襲い掛かり閉じ込める。
「っき、さまぁあああああああああああ!!??」
「俺が、死ぬまで!!!!お前を、殺し続ける!!!!!」
どちらが死ぬのが先か。
どちらが殺しきるのが先か。
二人の、徹底的な殺し合いは、そう長くは続かなかった。
「は、ぁ…………くっそが。七回は死んだぞ」
ぼたぼたと、全身出血しながらも「臓器の記憶」の契約者は生き延びていた。少しばかり遊びすぎたとほんのりと反省する。
傷も治さず、ぐちゃぐちゃと「骨折した箇所が治癒した場合、骨は以前より強くなる」の死体を漁る。
「……くそが。心臓も、肝臓も、肺も……何もかも、ぐっちゃぐちゃじゃねぇか。これじゃあ使えない。畜生、もったいねぇ……」
血まみれの手を死体から引き抜いた。
あまりにも勿体ないが、仕方ない。思考を切り替えていくしかなさそうだ。
通常であればそう簡単に切り替えられるものでもないかもしれないが。「臓器の記憶」の契約者にとっては容易いことである。
別の意識に、切り替えればいいのだ。取り込んでいる別の意識に。
軽く首を振り、ぶつんっ、と、テレビのチャンネルでも切り替えるかのように、意識を入れ替える。
「…………うん、しばらくは俺が動きましょうか……まずは、傷の手当ですね。えぇと、「蝦蟇の油」、黒服のどれかが持ってないですかね」
今度は、死体が残っているタイプの黒服の死体を漁り始める。あったあった、と「蝦蟇の油」を取り出して、己の傷の治療を始めた。
「ストックしていた臓器をそこそこ使ってしまったのは事実ですし。しばらくは契約者狙いではなくストック補充に勤めるとしましょう。死ににくいという強みは捨てちゃだめですからね」
己の中の他の意識達にそう語りかけるようにしながら、今後について思案する。
……自分は、「早期の記憶」は、増長しすぎない限り最強なのだ。
今後もそうあり続けるために、自分「達」は動くべきである。
「俺「私「僕「わらわ「わしは、最強だ」」」」」
いくつかの声は重なりながら、いくつかの意識は重なりながら、意見がたがえる事はなく。
「臓器の記憶」は、まだまだ殺し続けるだろう。
まだまだ、奪い続けるだろう。
その命を、誰かに散らされる、その瞬間まで。
終
これは、都市伝説と戦う為に都市伝説と契約し、「組織」に所属する契約者の物語である。
「恋人ばかりを襲う、ね」
「どうやらそのようで」
黒服と並び歩きながら、少女は保温水筒片手にふぅむと思案する。
このところ、男女二人連れが何者かに襲われ、負傷したり命を落としたりと言う事件が頻発している。
「組織」の調査によれば、案の定と言うべきか都市伝説の仕業らしい。
「「ザ・フック」。「キャンディマン」とも呼ばれる者。元々はアメリカの都市伝説ですね」
「「キャンディマン」って映画じゃなかったっけ?」
「その映画を元に生まれた都市伝説、と言っていいでしょう。厳密には、元となった話が映画化する際に、アメリカの都市伝説的要素と組み合わせられた、と言うべきかもしれません」
物語の「キャンディマン」……道化師のような服装をして、「可愛い子にお菓子を!」を言いながら飴を中心としたお菓子を売り歩く男。それが子供をさらっていくという、土地の者でないよそ者が子供を連れ去っていく都市伝説の物語。
それと、「精神病院から脱走した、右腕が鈎爪の殺人鬼」の都市伝説。
二つが混ざり合った存在が、「ザ・フック」であり「キャンディマン」。後者で語られている内容では、停車中の車に乗っていたカップルを襲おうとしていた。今回のカップル襲撃も、その逸話故だろう。
「これは偏見かも知れないんだけど。アメリカの都市伝説ってさ、カップル襲う系そこそこ多くない?気のせい?」
「……具体例がぱっとでる訳ではないので偏見とは思いますが」
否定はしきれない、と言うような表情を浮かべる黒服。少女の偏見は、恐らくアメリカ産のホラー映画の影響ではなかろうか。あれでは、カップルは基本イチャついて殺されるのが役目なのだから。
とまれ、少女は保温水筒の紐をくるくると弄びつつ、黒服からもらった情報を頭の中で整理する。
「カップルを主に襲う、って事は。おびき出すとしたらカップルっぽい男女で、って言うのが一番?」
「そういう事になるのではないでしょうか。たまたま遭遇するよりは、戦闘力を持つ者が囮となっておびき寄せるのが、一番確実で安全ですので」
「……そうなると、あたしの出番はなさげかな」
少女の言葉に、おや、と黒服は彼女を見つめた。
何よ、と怪訝そうに少女は黒服を見つめ返す。
「何故、そのようにお考えに?」
「だって、カップルっぽい男女でおびき寄せるんでしょ?なら、あつぃ、出番ないじゃない」
恋人いないしー、と、ぶんぶんぶぶん、保温水筒を振り回す少女。なかなかに丈夫な水筒のはずなので、ぶつかると痛いので大変と危ないから止めてほしいと黒服はひっそり思う。言っても止めてくれなさそうなので黙っているが。
「あくまで、カップルに見えればいい、と言う事ですし。お呼びがかからない、と言う事はないでしょう。備えていてくださった方がありがたいです」
「そういうもん?」
「そういうものです」
カップルのふり、さえできればいいのだ。ならば、この少女と同じくらいの年頃に見える契約者と一緒に行動してもらうという事はありえる。出番がない、と言う事はないだろう。
……何故だか、少女が複雑そうな表情を浮かべた気がしたが、気のせいだろう。ただの見間違いだ。
伝えるべき事を伝え、では、と少女と別れようと、したところで。
ひらりっ、と。
出現した漆黒のマントが、黒服と少女を包み込む。直後、二人の姿は消えて。一瞬前まで少女がいたその位地に振り下ろされた鈎爪は獲物を捕らえる事なく空振る。
「噂をすれば影、ですね」
漆黒のマントを纏った黒服は、少女を狙った下手人、「ザ・フック」を睨んだ。
まさか、自分達の元へとやってくるとは思わなかった。同じ感想を、黒服のマントの内側に包まれた少女も抱いたようで。
「なるほど、結構節穴みたいね。あいつ」
「そのようで」
鋭い、赤黒くさびた汚れがこびりついた鈎爪が執拗に自分達へと襲い掛かる。
ひらり、ひらりと、黒服は人間時代に契約していた「黒マント」の力による短距離転移を活用してそれを避けていた。本来の「黒マント」のテリトリーは学校のトイレだが、契約によって無理矢理、派生元である「赤マント」の「人さらいの赤マント」に似た力を引き出しているのだ。
とは言え、やはり本家と比べれば転移能力に関しては赤子に近い。攻撃を避ける事には使えるが長距離移動には使えない程度のもの。それでも、こうした戦闘では十二分に使える力。
「あなたは……」
「こっちは、いつでも使える。見ればわかるでしょ」
保温水筒を手に、少女は笑う。黒服に片腕で抱きかかえられた状態のまま、保温水筒の蓋を外し始める。
「あいつの足を止められる?」
「まぁ、やってみましょう」
流れるように連続して鈎爪で攻撃してくる「ザ・フック」を見据え。黒服は「黒マント」の力を発動する。
「腕と脚、どちらが欲しいですか?」
黒服の問いを、「ザ・フック」は聞いていた。
そのうえで、攻撃の手は止めず、答える。
「そうだな、まずは、脚をよこせぇえええええ!!!!!!!」
足を奪えば、この社会人と女子高生のカップルを徹底的に痛めつけて、弄んで、苦しめて、殺せる。
そう考えてのあまりに身勝手なその返答に。
「了承いたしました」
黒服はにこり、微笑んで。
男の悲鳴が、響き渡った。
「脚、いただきましたよ」
「ザ・フック」が答えたその直後。一瞬で。黒服は「ザ・フック」の脚をもぎ取っていた。
それが、「黒マント」としての力なのだ。「赤マント」の派生である「黒マント」は、好きな色を聞いてくる「赤マント」と違い、聞くのは体の部位。そして、答えたその部位をもぎ取って[ピーーー]、と言われているのだ。
その気になれば心臓等を質問に混ぜて、心臓をもぎ取っての一撃必殺も狙えなくもないが。流石に警戒されるのか心臓をもぎ取れたためしはない。人間時代も、黒服になってからも。
とにかく、「ザ・フック」の脚をもぎ取った。動きを封じた。そうなれば、もう、こちらのもの。
「ありがと黒服。それじゃあ」
保温水筒の蓋を開けて、少女はにやり、残酷に、愛らしく、微笑んで。
「ばいばぁ~い」
中に入っていたお湯を全て、「ザ・フック」に振りかけた。お湯をかぶった「ザ・フック」の悲鳴が止まる……ぼぅっ、と、呆けたような。そんな表情になって。そしてその体は急速に衰弱していって。
衰弱しきった命は静かに消え失せて、その存在毎、消えた。
「事前準備が必要とはいえ。やはり強力な力ですね。あなたの「お風呂坊主」の力は」
「正直、あなたの「黒マント」の方が強いと思うんだけど」
面倒なのよこれ、と少女はぼやく。
「お風呂坊主」は、風呂の湯をかけた対象のありとあらゆる欲望を奪い取り、衰弱死させる都市伝説だ。一応、都市伝説本体も存在するのだが。出現時間が夜八時の風呂場と言うあまりにも限定されたものなのでめったに顔を合わせない。絶対にその時間には入浴しないからだ。最初に出会った際に「お風呂坊主」に裸を見られてぶん殴って以来、少女はずっとそうしている。
逸話通りの力を振るうために必要なのは、風呂の湯。なぜか、自分が入浴した後の風呂の湯じゃないといけないのが一番困る。本当困る。毎度、入浴後の風呂の残り湯を念の為取っておかなきゃならない身になってほしい。
「とにかく、お疲れ様でした。後処理はお任せください。お仕事料は後日お支払いします」
「は~い。期待してるわね」
まぁ、危険は去ったのだ。一仕事終えた少女は、晴れやかな笑みを浮かべたのだった。
終
「明けましておめでとうございます!! 早速ですが初日の出を見に行きませんか!?」
「あけおめ、アポなしでいきなりやって来て言う事がそれかよ」
「いいでしょ! 貴方どうせ年末年始暇ですし! それに独身の一人暮らしですし! 独身ですしおすし!」
「勝手に俺を暇扱いするな! 独身を強調するな! まだ学生だぞ!?」
日付が変わって数時間経ったあたりで、担当の黒服が突然訪問してきた
この正月はいつも通りネット配信を眺めつつ食っちゃ寝してヌクヌク過ごす予定だったのに
何が悲しくて「組織」の仕事仲間と元旦を過ごさなきゃなんねーんだ……てか黒服のテンション高過ぎだろ
「さあさあさあ! 車出しますから着替えて着替えて! 今年は絶景のスポットを見つけてあるんですから!」
「うわおい押すな押すな! 炬燵から俺を押し出すんじゃねえ!」
数時間後
ちゅうぶちほー、某所
俺は黒服にほぼ無理矢理連行され、車に揺られてここにやって来た
遠方に富士山が確認できる。成程、確かに初日の出を拝むには持って来いだな
「いいでしょ! いいでしょ!? 人も居ないし! 誉めてくれてもいいんですよ!?」
テンションと距離感が若干ウザい黒服の存在を除けば、の話だが
コイツ普段からこんな感じだったか?
「あ! ほらほら! もうそろそろ日が昇りますよ!」
「いや待て、まだ日の出の時刻じゃなくね?」
黒服の指差す先には確かに赤い陽光のようなものが富士山の端から揺らめいている
だがまだ空全体は暗いままだし、俺が言った通り日の出まではまだ数時間ある
「あれ? あれっ!? な、なんだか様子がおかしいですね……!?」
「おいおいおいおい、様子がおかしいなんてもんじゃねえぞ!? 何だあれは!?」
地平線からゆっくりと、しかし確実に昇り始めたのは、日の出なんてもんじゃない
もっと赤い赤い、禍々しい何かだ! 全体がマグマのように煮え滾り、熱を帯びた光源が徐々に姿を現しつつあった
「なんですかアレ!? ねえなんですかアレ!? かっ、顔がありますよ!?」
「うるせえ離せ! どさくさに紛れて首を締め上げんじゃねえ!!」
『うっふっふ…… ふっふっふ…… ふっハッハッ……! アーッハッハッハ……!!』
なんだこのエコー掛かった魔王笑いは!? 方向的に光源から聞こえるようだが!?
『尺の都合で早速真名解放せねばならんが、そうよオレこそ! 【空亡】そのものよ!
恐れよ! 慄け! ( ゚∀゚ ) アーッハッハッ八ッ八ッノヽッノヽッノヽッノ \ / \ / \ 』
「なんだあのさいたま(AA)の劣化コピーめいた太陽は!?」
「【空亡】!? いま【空亡】って言ってましたよね!?」
【空亡】
それは日本の誇る重要文化財「百鬼夜行絵巻」より生まれ出でた創作上の怪異である
いや、厳密には絵巻に描かれたとある場面の拡大解釈から生み出された怪異と言っていい
有象無象の魑魅魍魎共を退散させるほどの力をもつ【夜明け】、その真っ赤な球体が実は怪異なのでは? という誤解から生じたとされるソレは
曲解や拡大解釈、ネット上での紆余曲折を経て各種創作作品に登場する強キャラクラスのクリーチャーとして君臨するに至ったのである! なんならラスボス張ってる作品すらあるやべーヤツだ!!
「どうすんだよ!! あんなんどうやって対処すんだよ!!」
「契約者さん落ち着いてください! 私が『組織』に応援を呼びます! その間、なんとかして凌いでください!」
「えっ? 俺がアレをなんとかすんの? 一人で?」
大慌てで電話を始めた黒服を前にしばらく固まる
再び【空亡】の方を見ると、やっこさんは相変わらずバカ笑いを大音量で響かせながら徐々に高度を増していた
これもうヤバくね? 隠蔽できるレベルなのこれ? 大丈夫?
呆けること数秒
いっけね、俺がなんとかしないといけないんだった
そうなるともう仕方がない、俺が旧年中に新調した日本刀の出番だろう
こんなこともあろうかと、防寒コートの下に忍ばせてこの場所まで持ち込んできたのだ
一応俺も「組織」に所属し、変態的な都市伝説や契約者共を相手に戦いまくってきた身だ
「組織」からのお仕事報酬、ボーナスその他を貯めに貯めまくって用意した大金をふんだんに投入し
細かい点までオーダーをつけて一流の職人に打って頂いた、まさに俺の為だけの、世界に唯一つの刀!!
三百万ちょい超なお値段になったのはここだけの秘密だ
ちなみに黒服は俺が金を溜め込んでいることを知っており、その金を使って三泊四日の豪華温泉旅行にありつけるものと企んでいたようだが、そうは行くか
有り金は全てこの刀に投入した! お前の好き勝手にはさせねえぜ! ざまぁ見な黒服ゥ!!
おっと興奮しすぎたな
俺はコートを払って改めて腰に差した刀の具合を確かめる…… 抜刀するには絶好調だ!
かくして俺は【刃物は魔を払う】の能力を発動した。あでも待てよ、このまま【空亡】を斬ったとして、俺の刀、持つかな?
つーか斬ると言っても俺の射程は刀の間合い程度なんだが!? この状態でどうやって戦えと!?
『ホーハッハッ!! アッハァ!! そもそもオレはクリスマスイブの学校町で【性の6時間】を発動してメリクリ淫乱ピンク地獄を創ってやる予定だったのだわ!!
ところが前日の晩に調子に乗りまくっていたオレは睡眠導入剤と大量のアルコールそしてバイアグ(一部規制を挟みました、ご了承ください)を摂取し!!
その所為で意識を回復したのが26日の晩だったのだ!! 実に!! 72時間も!! 無駄にし腐ったのだわさ!! おのれ!! おのれ学校町ォ!!』
「学校町関係ねえだろそれ!? てかお前も学校町関係者かよ!? てか学校町で何やらかそうとしてたんだオメーは!?」
『オレは納得いかんぞ!! 絶対に許さんぞ!! こうなったら学校町に復讐の炎を!! そう思い立ったオレは!!
こうして富士山より偽りの初日の出として登場し!! そのまま上空遊泳で学校町へ移動を続け!! かの空を真っ赤に焦がし!!
そのうえで学校町の住民の脳ミソを茹で上げ!! いやんあはんおほん?ちょっとだけよー? なあけおめ灼熱ピンク地獄を創り出そうと決意したのだわさ!!』
「どんだけピンク地獄に未練あんだよ!? オメーのが脳みそピンクじゃねーか!!」
『うるせえ!! オレはやるぞ!! すべては淫乱ピンクのために!! オレは!! 真っ赤に輝く!!
( ゚∀゚ ) アーッ ハッハッ 八ッ八ッ ノヽッノヽッ ノヽッノヽッノヽッ ノヽ ッ ノ \ ッ / \ ッ / \ ッ ノ \ ッ / \ ッ / \ ッ』
「クソッ! 思った以上に俗っぽいロクでもないヤツだった!!」
【空亡】は相変わらず魔王笑いを続けながら、天空で禍々しい輝きを放っている
なんか気温も上がってねーか!? クソッ! この状態で戦えってのかよ!?
俺は半ばヤケになって鯉口を切った
その時だった!!
「だぁぁぁぁぁぁぁぁラッシャイ!!」 「とぉぉぉぉぉおおおうウ!!」
『 ( ゚Д゚ ) ウボォお゙お゙お゙ぉ゙ぉ゙ぉ゙ぉ゙お゙お゙お゙お゙オ゙オ゙オ゙才゙才゙才゙才゙オ゙オ゙オ゙お゙お゙お゙オオッッ!?』
天高く跳躍し四肢を広げる影二つ!! 【空亡】をバックにクロスするかの如く一閃!!
それと同時に【空亡】が断末魔めいた絶叫を上げるではないか!? 一体何が起こったというのか!?
ついでに言っておくと【刃物は魔を払う】の契約者は未だ刀を抜いていない。一体何が起こったというのか!?
目の前で繰り広げられている事態に仰天する契約者の前に、影の一つが着地した!
着地の瞬間、その衝撃で大地を揺るがし、やおら立ち上がったその正体は!?
「どうも、いい子いい子でお馴染みの【思考盗聴警察】の神田です
皆さん実にお久し振りですね。何年振りでしょうか? 元気でやっていたでしょうか?
この神田、本来なら 『都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……』 スレの10周年を記念してカッコよくキメる予定だったのですが
温めたネタを行方不明にするわ、あろうことか10周年記念日を盛大にド忘れするわ、その他諸々恥ずかしい思いするわで登場がこのタイミングになったというね
いやもうそれもこれもこの神田の不徳の致すところ! それはさておき各種連載の作者様方、そして年末単発祭りの作者様、乙でございます
個人的にビンビンきたのは【カマキリ男爵】の契約者と【舐めたら治る】の契約者のイチャイチャですね!! 年末から何やってやがる!! いいぞもっとやれ!!」
『 ( ゚A゚ ) オレの!! オレの大事な(規制しました、ご安心ください)がぁ!! 真っ赤に裂けてぇ!! 真っ赤っかぁぁ!!!!』
「ご安心を、【空亡】はこの神田が直接対処しました」
「く、黒服!! コイツは何者だ!? 『組織』の応援か!?」
「いっいいえ!! 『組織』のプロファイルには該当がありません!! 何者か不明です!!」
遠方から響くかわいそうな【空亡】の悲鳴を背景に、【思考盗聴警察】の神田は混乱している契約者と黒服に一礼
そして混乱したままの二人から、もう一つの着地した影へと半身を向ける
「私と呼吸を合わせるように【空亡】へ必殺の一撃を打ち込み、一瞬にして(規制済、重ねてご安心ください)を引き裂いた、貴方は一体……?」
「ぬう……、ここで会ったがウン年目。【思考盗聴警察】、まさか私の顔を忘れたとは言うまいね?」
「なっ、貴様は……!!」
未だ昏い夜明け前の闇に紛れるようにして佇んでいたもう一つの影
ゆっくりと神田に向けて歩み寄り、遂にその正体を現す!!
「馬鹿なッ!! 【犬面人】!? 貴様は確か学校町のょぅι゛ょおパンツ騒動に巻き込まれて死んだはずでは!?」
「ところがどっこい生きてたのよ、私の身を焼き焦がすこの絶望が、私を生き永らえさせたのだ……!!」
なんと現れたるは体が人間! 頭部がイッヌ、もとい犬! の【犬面人】ではないか!?
【人面犬】は存在するが【犬面人】なるは聞いたことがない!! 読者諸氏も概ね同意見であろう!!
「私は某所避難所で本来不要な保守活動に勤しんでいたのだが、その傍らで主に某スレ登場キャラ達のごく一部を相手にセクハラもといスキンシップに励んでいたのよ (避難所管理人様、関係者各位、その節はすいませんでした)
忘れもしない……。私は偶然出会ったTさん家のリカちゃんに一目惚れした (Tさんの作者様、その節はすいませんでした)
私は、リカちゃんにこの高鳴る想いを知ってほしく、猛アタックを開始した……!! (Tさんの作者様、その節は本当すいませんでした)
リカちゃんは私に反応せず、まったく反応してくれず…… しかし時折気まぐれに私の半身を綿飴のように引き裂いた!! (Tさんの作者様、その節はマジですいませんでした)
私は思い上がっていたよ……。リカちゃんは私に気があるものと! リカちゃんのお茶目な暴力は好意の裏返しだと! しかし! 彼女は去った! 去ったのだ! そして、この哀れな中年男だけが残された!!
それでも! 私は覚悟していた! 永訣の日が来ることを! そして! 私がリカちゃんを愛した日々に、あの遠くも懐かしい日々に偽りはない!!
だが、私には遣り残したことが……まだある」
「私と決着をつける気か」
「如何にも。 【思考盗聴警察】、君と学校町で相見えたあの日から、雌雄を決するこの日が来るのを心待ちにしていた」
置いてけぼりの契約者と黒服両氏の困惑を余所に、【思考盗聴警察】と【犬面人】は二人だけの世界に没入していく
そして、突如【犬面人】の体が激しく燃え上がった! それと同時に【犬面人】の周囲に火炎の渦が形成される!
「この姿を取っていたのは、ひとえにリカちゃんへの愛ゆえに! 自らの存在をも捻じ曲げ、リカちゃんへ愛を捧げ続けたゆえだ!
【人面犬】ではキモがられるだろうと考え、姿を偽って人面犬身の姿を反転させた! かくして私は【犬面人】と化した!!
そして! 【思考盗聴警察】!! 君との対決のために、私は真の姿を現す!! よく目に焼き付けておきたまえ!! 我が雄姿を!!」
「そういうことでしたか。私の【思考盗聴警察】ですら貴方の真の姿を看破できなかった――! 【人面犬】、いいえ! 【祝融】!!」
「真名……解放!!」
なんということか!
灼熱の烈風が吹き荒れる中、【犬面人】の姿が溶けるようにして【人面犬】の姿に変わったではないか!
否! 否! 【人面犬】に非ず、【人面犬】に非ず!! その姿は瞬く間に膨れ上がり――巨大な獣身へと変貌したではないか!!
【祝融】
古来中国の、炎神である
その姿は獣身人面、伝えられる神話によっては天帝の名を受け神をも倒す程の力を持つ
火を司るため火災に遭うことの譬えとして「祝融に遇う」との表現があるほどにその存在は畏れられていた
「この目出度き日に、君と雌雄を決することができるとはな! 僥倖だ! 【祝融】として君を倒すぞ! 【思考盗聴警察】!!」
厳かに、そして堂々たるその威風で以て【犬面人】、もとい【祝融】は戦闘態勢に入る
その構えは、なんたることか! 蠱惑する女豹のポーズ、それそのものではないか!?
「神である貴方にそこまで言って頂けるとは実に光栄です、総力をもってお相手しましょう! 【祝融】!!」
対するは【思考盗聴警察】! 古の神を前にして全く動ずることはない!
彼が取った構えは、なんたることか! 勇猛なる戦士だけが扱えるとされる、荒ぶる鷲のポーズではないか!?
富士山をバックに両雄が対峙する……!!
そして富士山の頭頂は徐々にであるが、今度こそ本当に白み始めている!!
「あーもうそろそろ本当に夜が明けますよ!」
「ところで【空亡】の方はいいのか?」
「応援に向かってる『組織』の人達に回収するよう伝えてあります! 実質戦闘不能でしょうし! それよりはいこれ! 手作りの茄子の煮浸しですよ!」
「おっ、ホカホカじゃん。悪いねぇ。これで鷹が飛んで来ればかなり縁起いいぞ」
両雄の対決など余所に、契約者と黒服は仲良く肩を並べて初日の出が昇るのを待っていた
たとえ眼前で今まさに【思考盗聴警察】と【祝融】の対決が始まろうとも、自分らには関係のない話だ
さっきまでちょっと空気に呑まれて圧倒されたたのはここだけの秘密だ
そして
幾許かの静寂の後、両雄が動いた!!
「謹賀新年ッッ!!」 「明けましておめでとぉぉぉぉぉおおおうウ!!」
【糸冬】
乙です
新年早々、げらっげらに笑わせていただいております
これは、都市伝説と戦う訳では特になかったが都市伝説と多重契約し、都市伝説と戦う能力者の物語である。
めぇ!
「おらぁっ!」
めぇ!めぇ!!
「ごらぁっ!!」
めぇ!めぇ!!めぇ!!!
「えぇい、鬱陶しいぞ貴様っ!!!」
次々と現れ、タックル仕掛けてくる金毛羊の群れを前に、灰色の毛におおわれ羊か山羊のような角を持ったアメリカ産都市伝説……「ゴートマン」は苛立った声をあげた。
潰しても、潰しても、羊達は姿を現す。
めぇ!めぇ!めぇ!めぇ!めぇ!!
羊とて、ただの羊ではない。その羊達には植物のような茎が繋がっていた。羊は、まるで瓢箪の木に似た木からぶら下がる実から飛び出し、柔軟な茎に繋がったままめぇめぇ鳴きつつ「ゴートマン」へとタックルを仕掛けてくるのだ。
それに指示を出している高校生くらいの少年は、羊の木の上の方の枝に腰かけ、子羊を抱いて「ゴートマン」を見下ろしている。
「貴様!この「バロメッツ」の契約者!さっさと降りて来い!」
「え、やだ」
めぇ!
少年の言葉に肯定するように、抱かれている子羊……「バロメッツ」の本体が愛らしい鳴き声をあげる。
せっかく、この街でひと暴れしてやろうと思ったのに面倒な奴に見つかってしまった、と「ゴートマン」は己の迂闊さを呪った。
たまたま見かけた少年を襲おうとしたところ、突然生えた巨大な木。それに実った実は一気に成長して、こうして羊を生み出し「ゴートマン」に絶え間なく攻撃を仕掛けて来てた。
……とは言え、「ゴートマン」に決定的なダメージを与えられている訳ではない。そもそも「バロメッツ」自体、攻撃的な都市伝説ではないのだ。
別名「スキタイ人の羊」「ダッタン人の羊」「リコポデウム」等の名前をもつ「バロメッツ」。引っ張っても曲げても折れる事のない柔軟な茎をもつ瓢箪の木に似た木の実が熟し、そこから生きた羊が顔を出す。羊は茎で届く範囲の草を食らいつくすと儚く力尽き、残った金毛羊の毛や肉を人間が有効活用したり狼が食べたりする。
そんな、戦闘的ではない都市伝説相手に倒されるほど自分は弱くない。これでも「ゴートマン」としてはそこそこ強い方ではある。だからこそ、アメリカでは都市伝説の退治屋に目を付けられ、国外逃亡するはめになったのだ。
この、妙に都市伝説が集まりまくっている街であれば、大多数の都市伝説に紛れてうまくやれると思ったというのに……!
「どれだけっ!羊を出しゃあ気が済むんだ!」
飛び掛かってきた羊を屠る。羊が一匹。隙を見て角頭突きを仕掛けてきた羊を蹴り飛ばす。羊が二匹。茎の柔軟さを利用し、フライングボディ羊アタックしてこようとした羊の胴体を貫く。羊が三匹。
「………ぐ、ぅ!?」
おかしい。
一瞬、めまい。いや、これは、意識が、遠のい、て。
「……っ、しま、った」
これは。何度倒されても「バロメッツ」を生み出し続けていたのは……。
木の上から見下ろしてきていた少年の笑みが深まったのを見て。「ゴートマン」は己の敗北を悟った。
「いやぁ、いつもいつもすみません」
「えぇ、まったく」
山積みになった羊の死体と、まだ元気でその辺の草を食べている羊の群れ。それを前に、黒服は深々とため息をついた。
「「ゴートマン」の捕縛に協力してくださったのは、ありがたいのですが……」
「僕ですと、こういう手段しかないんですよね。「羊を数えると眠たくなる」には、大量の羊が必要なので」
めぇ!
「バロメッツ」の契約者に抱っこされた、子羊の姿をとった「バロメッツ」本体が契約者に同意する。この契約者、「バロメッツ」以外に先程口にした「羊を数えると眠たくなる」と契約している。
多重契約、というやつだ。都市伝説に飲み込まれるリスクが高まる為、多重契約と言う行為はあまり推奨されるものではない。属性的に似ていれば飲み込まれリスクは下がるのだとしても、だ。
どっちも羊属性だから大丈夫いける、で多重契約して飲み込まれずにすんでいるこの契約者は、運がいいのか元々の心の器の容量が大きかったのか。そもそもどちらの都市伝説もそこまで容量を食わないのか。そのどれかだろう。「バロメッツ」と「羊を数えると眠たくなる」は、同じカテゴリに入れていい存在ではない。羊以外共通点がない。そもそも、「バロメッツ」は植物属性なのでは?と言う都市伝説研究者とているというのに。
とにかく、多重契約によって、この契約者は大量に「バロメッツ」を出現させ、出現させた羊を強制的に相手に数えさせて「羊を数えると眠たくなる」を発動。契約によって強まった力により相手を眠らせてしまうのだ。相手を無力化するのには便利である。のだが。
欠点は、見ての通り大量の羊が残される事だ。呼び出した羊を、この契約者は自主的に消せないのである。出したら出しっぱなしだ。
「ほら、「バロメッツ」は美味しいですから。「組織」の皆さんで美味しく食べてください。ジンギスカンとか」
「「バロメッツ」の羊の肉は、どちらかと言うと蟹の味に近いのですが」
「ならカニ鍋いけますね。肉以外も、「バロメッツ」は蹄まで羊毛ですから無駄がないです」
めぇ!
契約者に褒められたと思っている「バロメッツ」が得意げな顔をしている。得意げな顔をするくらいなら、この大量の羊をどうにかしてほしい。
「……なんとか、「組織」関係者で分配はします。そちらも、一頭くらいは自分でなんとかするように」
「そんな!「バロメッツ」の前で羊を食えと!?」
めぇ!!
呼び出した羊の処理を自分でする気が一切ない様子の「バロメッツ」契約者。
いい加減、それくらいは自分で責任とってほしい。黒服は、そう願わずにはいられなかった。
終
これは都市伝説と戦う為に都市伝説と契約した能力者の、なんか評判っぽい奴らに関する別の話である。
「舐めたら治る」。その名の通り、舐めた箇所の負傷を治療する都市伝説だ。基本的に負傷を癒すものであり病気や毒への対処はできないものの、貴重な治療系の都市伝説。
その使い手が美少女であったならば、喜んで負傷する野郎共が発生していたかもしれない。
だが、男である。この都市伝説の契約者は男子高校生である。平均よりは顔が整っているかもしれないが、男である事に変わりはない。故に、彼に舐められるためにわざと負傷する、なんて事を好き好んで行うような者はいない。もしかしたらそんな夢見る変態、ではなく夢見る女子が存在する可能性は微粒子レベルであるかもしれないが、少なくともそのような存在は確認されていない。
当然の如く、「カマキリ男爵」の契約者とてそんな変態な思考へは行きつかない。むしろ、初めて「嵌めたら治る」の能力を身をもって味わった際に、全身舐めまわされて若干トラウマになってしまったくらいだ。決して変な性癖には目覚めていない。決して変な性癖には目覚めていない。大事な事なので二度言うレベルで「カマキリ男爵」の契約者は自分に言い聞かせる。
(第一、私とあいつじゃ釣り合わないでしょうに……)
学校の休み時間、ちらりこそり、「舐めたら治る」の契約者へと視線を向ける。彼は幼馴染なのだという女子生徒と、何やら楽し気に話している最中だった。幼馴染。それだけで一定の色々にアドバンテージが存在する強すぎる存在。周囲から恋仲なんじゃないかとからかわれていた際に「こいつだけはない」「昔から一緒に居過ぎて恋愛的な目で見るとか無理」と二人共言っていたから、まぁ恋仲ではないんだろうけれど。
(……いやいや。何考えてるの)
あれは治療行為だった。あれは治療行為だったのだ。変な行為ではない。治療行為だ。だから、変に意識する必要はない。
いや、ある意味、意識する必要はあるか。もう二度と、あの治療行為を受けたくない。変な性癖目覚めたくない。その為にも、今後、敵対的な都市伝説との戦闘を行う際は負傷してはいけない。なんとしても負傷してはいけないのだ。絶対に負傷してはいけない都市伝説バトルを行う必要がある。
もっと鍛えないとな、と「カマキリ男爵」の契約者は強く誓った。
だと、言うのに。
「あー、いったた……強敵だったね」
「ソウダネ」
今、「カマキリ男爵」の契約者は「お風呂坊主」の契約者と一緒に、ぼろぼろの状態で座り込んでいた。全身、切り傷だらけ。
うん、あの「猿夢」はとても……強敵だった。一応、防御力も高める装備で来たつもりだったが、関係なかった。ずったぼろだ。
「ちょっと待ってて、あたしの担当の黒服に、来てもらうから」
そう言いながら、「お風呂坊主」の契約者が携帯端末で担当黒服へと連絡を開始する。
あぁ、でも彼女と一緒の戦闘で良かったかもしれない。彼女の担当黒服が、「蝦蟇の油」を持ってきてくれるはずだ。舐めまわされることはない。良かった良かった。
安堵の息を吐き出すと、ひらりっ、と視界に黒いマントが翻った。さっそく、来てくれたよう、だ。
「なんでいる!!!!!!!???????」
「え、怪我人出たって聞いたから。お前らか」
何故!?何故に!!!???
黒服によって連れてこられたらしい「舐めたら治る」の契約者が、二人に駆け寄ってくる。
「黒服さん!!!!なんで!!!!!!こいつを!!!!!!!!???????」
「戦闘直後で満身創痍とは思えぬ叫びにこちらが大変驚いているのはさておき。ちょうど、彼の保護者の方々と情報のやり取りをしていた最中でしたので……怪我人が出たのなら自分が行く、と彼が」
おのれ、タイミング!!!!!!!!!!!!!!!!!
全力で雄たけびあげる「カマキリ男爵」の契約者の様子に、黒服も「お風呂坊主」の契約者も、何事、と言わんばかりの表情だ。つまり、二人共、まだ被害にあった事はないという事か。
「全く、二人共こんなひどい怪我して」
手が、伸びてくる。傷口に触らないように気を使いながら、「舐めたら治る」の契約者は「カマキリ男爵」の契約者の手を取って。
「っちょ、ま、だ、男爵!男しゃーーーーーっく!!!!来て!ヘルプ、たすk「まずは、ここから」おぼはぁあああああああああああああああああ!!!!!!!!???????」
「悲鳴が酷い」
ぺろり。舌が、手の甲の傷を舐めた。ぞくっ、とした感覚が背筋を走り抜け、傷がすぅ、と消えていく。
舌は肌から離れる事なく、そのまま、腕へと。
「え、何それ。え、何その治療の仕方」
「……そういえば。治療系の都市伝説とは聞いていましたが、どのようなものか具体的に聞いていませんでしたね」
「お風呂坊主」の契約者と黒服が何やら言っている気がしたが、もはや「カマキリ男爵」の契約者には聞こえていない。
そして、普段は自身のテリトリーたる学校の音楽室からあまり出てこない「カマキリ男爵」はここにいないので助けてもらえない。
よって。
「全身切り刻まれた感じか。じゃ、前みたいに続けるぞ」
「みぎゃあああああああああああああああああああ!!!!!?????」
~ 色気のない悲鳴と共に投下してはいけないネタスレ一歩手前の光景が繰り広げられています
悲鳴が止むまで、なんかマッスルな人々のポージングでお待ちください ~
.
数分後。
「よし、治ったな」
「モウオヨメニイケナイ」
全身に使うとなるとそこそこ能力を発動し続けるので疲れる筈なのだが、特に疲労も見せず、これでいいなって顔をしている「舐めたら治る」の契約者と、三角座りで落ち込む「カマキリ男爵」の契約者。
そして、あまりの光景にうっかり静止もできず逃亡もできなかった「お風呂坊主」の契約者とその担当黒服。
くるり、「舐めたら治る」の契約者の視線が、次のターゲット、ではなく、治療対象へと向けられた。
「こっちも酷いな。痛いだろ?すぐに治す」
その声は、本当に「お風呂坊主」の契約者を気遣っている声で。「カマキリ男爵」の契約者に対してと同様に下心は一切なく。ただ純粋に怪我人を治そうとする意志に満ちていて。
だからこそ、「お風呂坊主」の契約者は逃げそびれて、「舐めたら治る」の契約者に腕を取られた時点で正気に戻った。黒服も同じくらいのタイミングで正気に戻ったが、もう遅い。
「っく、くくくく黒服!今からマッハで「蝦蟇の油」をもってk「指先もボロボロじゃないかお前。ちぎれかけてないのが奇跡だ」うぼはぁああああああああああああああ!!!!!!!????????」
「こっちも悲鳴が酷い」
ちゃぷりっ、と。手の指を口に含まれて、「お風呂坊主」の契約者は悲鳴を上げた。ちろちろと舌が指を這いまわり傷を癒すのだが、それと同時によくわからない、わかっちゃいけない感覚が全身を駆け抜ける。
善意なのだ。どこまでも善意で下心がない。だからこそ、質が悪い。
「今どき古い考えかもしれないけど。二人共女なんだから、もうちょっと怪我とか気をつけろよ。傷跡残ったらどうするんだ」
「っひ!?ちょ、舐めながら喋るの止めっ、くすぐった」
「黒服さん、ちょっとこいつ抑えといて。暴れられると舐めにくい」
じたばた
舌から逃れようと暴れる「お風呂坊主」の契約者。それを、「舐めたら治る」の契約者は片手でがっしり肩の辺りを掴みながら、逆手で優しく腕を持ち上げて舐めていっている。ただ肩と腕を抑えられているだけなのに、「舐めたら治る」の契約者の力が強いのか、押さえつけるコツでも掴んでいるのか妙に動きづらく逃げられない。
「お風呂坊主」の契約者の悲鳴と、「舐めたら治る」の契約者の言葉。その二つの板挟みになった黒服は、すばやく思考を巡らせた。
すなわち、今、己がすべき事は。
「えっ」
がしり、「お風呂坊主」の契約者の体を、押さえつける。
「彼女、油断すると細かい傷は治療しなくていいと放置しようとするんですよ。しっかりお願いします」
「任せろ」
「裏切者おぉおおおおおおおおおお!!!!!!!!!」
月下にて悲鳴が上がる。
それでも、「猿夢」と言う悪夢は一つ退治され、少女達の体には傷一つ残らない。
素晴らしい、ハッピーエンドを迎える事に成功した物語である。
「どこがハッピーエンドだぁああああ!!!!!!!!!!!」
「モウオヨメニイケナイ」
終
これは、都市伝説と戦う為と言うより教え子達を守る為に都市伝説と契約した能力者の物語である。
放課後、日が沈みゆく時刻。
こつ、こつ、こつ、と足音を響かせながら、教師が一人校舎の中を歩き回っていた。校舎内に生徒が残っていたら、そろそろ帰りなさいと帰宅を促す。学園祭なんかの時期は多少仕方ない部分はあるが。そうではない時期にあまり遅くまで残って居られても困る。
「……それでさぁ。上半身しかない女子生徒が、ずるずると這いずりながら追いかけてきて……」
「っちょ、怖い。想像すると怖いから止めてってば」
「這いずっている……すなわち、スカートの中を覗けるな……」
生徒達がおしゃべりしている声。まだいたか、と教室の扉を開き生徒に声をかける。
「こら、いつまで残っている。もう帰りなさい」
「あ、先生……え、もうそんな時間?」
「やっべ、そろそろ帰らないと特売の時間間に合わない」
「はーい、帰りまーす」
言い訳せず反論せず帰ってくれる生徒は実にありがたい。帰っていく生徒達を見送り、教室の中をさっと整えると再び見回りに戻る。
……それにしても、くだらない会話をしていたものだ。おそらく、あれは「てけてけ」の話だろう。何故、そういうありもしない存在について楽しげに、無責任に噂できるのだろうか。
そんなものは実在しない。それでいいだろうに。
あぁやって、無責任に噂するから……。
「…………」
こつ、こつ、こつ、こつ、こつ。
ずる、ずる、ずる、ずる、ずる。
何かが、這いずる音。無視して廊下を進むが、その音はずっとついてくる。
こつ、こつ、こつ、こつ、こつ、こつ、こつ、こつ。
ずる、ずる、ずる、ずる、ずる、ずる、ずる、ずる。
足音は、どこまでも、どこまでもついてくる。一定の距離を保ちながら、ずっとずっと。まっすぐな廊下をいつまでもついてくる。
仕方ない、と歩みを止める事はせずにちらりと背後を伺う。
「……やはり、か」
ずる、ずる、ずる。
先ほど生徒達が噂していた通りの、上半身だけの女生徒が。ずるずるずるり、恐らく切断面が丸見えなのだろう腹の辺りから血を廊下に垂れ流しながら追いかけてきていた。掃除が面倒だから止めてほしい。
「あぁ、やっと気づいてくれたぁ」
にたり、と。上半身だけの女生徒が、笑う。
「「てけてけ」。死んだ場所とされる電車の踏切で出るパターンと、何故だか知らないが学校で出現するパターン。大きく分けて二つの説があったな」
あぁ、忌々しい。そんなものの存在信じたくもないのだが、生徒の安全のためを思えば調べずにはいられない。この街はあまりにも都市伝説が出現しやすくて。知識はあればあるだけ生徒を守りやすくなるのだから。
けらけらけらららら、「てけてけ」は笑いながらも這いずり続け、追いかけてくる。
さて、対処法は……覚えては、いるが。
「知ってるなら、これからされる事、わかってるよねぇ!?」
すっく、と、「てけてけ」が肘を使って起き上がる。そうして、教師へ一気に飛び掛かろうとした。
飛び掛かろうとしたのだろう。
「……あ、れぇ?」
だが、届くことはない。何度も飛びつこうとするのだが、「てけてけ」と教師との距離が、縮まらない。
「な、なんでぇ?」
「気づいていなかったようだな」
まっすぐまあっすぐ、どれだけ歩き続けても、廊下が終わらない。窓の外の風景がいつまで経っても変わらない。「てけてけ」はずっと廊下をはいずっていたから、なおさら気づかなかったのだろう。
「この廊下、いつまで経っても終わらないと。気づいていなかった時点でそちらの負けだ」
「…………!け、契約者ぁ!?しかも、これはぁ……」
こつ、こつ、こつ、こつ、こつ。
歩み続ける。いつまでも終わらない廊下を……「無限廊下」を。
「今更気づいても遅い。もう捕えた」
「無限廊下」。いつまで進んでも進めない。どこまでもどこまでも廊下が続く。そんな学校の怪談、都市伝説。
都市伝説の存在を知り、それと契約できると言う事を知り。たまたま遭遇した「無限廊下」と交渉ができた為、契約は成立した。
どんな建物であろうと廊下を歩き続けることで「無限廊下」と言う異空間を生み出す力。それだけと言えばそれだけ。
だが、「無限廊下」には、時として恐ろしいオチがつく事がある。そこに入り込んでしまった者は、永遠に、その「無限廊下」を彷徨い続ける、と言うオチが。永遠に続く夢幻のような廊下を彷徨わせるという事。
「……お前には、ずっとこの無限の夢幻の中で這いずり回っていてもらおう」
「ぐ…………ぐぐぐぐぐぐ…………!」
必死に、「てけてけ」は飛び掛かろうとする。しかし、距離は縮まらない。もはや「無限廊下」に囚われた彼女は、そのまま……「無限廊下」から教師が解放してやるまで、ずっと、そこで彷徨い続けるしかない。直接[ピーーー]ことはできないが、うまく発動してしまえば問答無用に近いのだ。
こつ、こつ、こつ、と。そのまま、教師は「無限廊下」の空間から立ち去っていこうとして。
「逃がす、かぁっ!!」
「!」
ひゅっ!と。頬を何かが霞めた。見れば、「てけてけ」の両手に鎌が出現している。それを投擲してきたらしい。
舌打ち一つ。油断した。「てけてけ」は「無限廊下」に捕えていたものの、それが投擲する物にまで効果が及んでいなかった。と言うより、「てけてけ」が「カシマさん」の逸話と混じって鎌を持っている可能性を失念してそこまで力を発動させていなかった。気を付けねば。
だが、一撃でこちらを仕留められなかったなら、どちらにせよ向こうの負けだ。
改めて、「無限廊下」の空間から脱出する。背後からの怨嗟の声は無視して。そのままこつ、こつ、こつ、と。元の校舎の廊下を進み、階段を下りていく。
「先生、さような……あれ、先生。怪我」
と、途中で男子生徒とすれ違い、先ほど頬を鎌が霞めた時の傷に気付かれた。
帰ろうとしていた生徒だったが、踵を返し近づいてくる。
「大した怪我ではないし問題ない。校長に報告せねばならないし、生徒を煩わせる訳には」
「駄目です。つまり、なんか都市伝説と遭遇して怪我したんですね?……全く」
流石に生徒相手に「無限廊下」を使う訳にはいかず、距離を詰められて。
べろり、頬を舐められた。傷が一瞬で癒えて、消える。
「先生の契約都市伝説、戦闘向きって訳じゃないんですから無理は駄目ですよ」
「……同じく、戦闘に適していない都市伝説と契約している君には言われたくないし、君は相手の意志を無視して強制治療する性格をなんとかするように」
「俺は戦闘では無理だと思ったら適任者に任せるし、怪我人放っておくのは性に合いません」
ではさようなら、と改めて帰っていく男子生徒。
あれの被害者はおそらく自分だけではないのだろうな、と少しばかり遠い目をしながら。教師は改めて、報告へと向かっていった。
終
これは、都市伝説と戦う為に都市伝説と契約し、そして飲み込まれて行こうとしている者の物語である。
UFOに乗るのが夢だった。
夜の空、星の海を飛び回るのが夢だった。
その夢は「UFO」との契約によって叶うかと思っていた。
残念ながら、自分が契約した「UFO」は乗り込めるようなタイプではなかった。まぁ、手のひらサイズと言う愛らしい大きさなので仕方ないだろう。
それでも偵察なり、そのサイズの癖にくそ強力なビームを放てたり。何度も助けてもらった。
動きも愛らしいその「UFO」と助け合いながら、都市伝説と戦ったり色々とやってきた。
そして、その限界が来ようとしていた。
「い、ぐ、ぅ……」
血が止まらない。
ギリギリ、なんとかあの恐ろしい契約者から逃げ出す事はできた。あれは、一体どんな多重契約者だったのだろうか。いくつもの都市伝説の能力を使うあの男に、自分達は全くかなわなかった。
「「UFO」……」
力なく「UFO」は点滅する。その小さな体は、あの恐ろしい契約者に殴り飛ばされ半分以上欠けてしまっていた。
自分も、「UFO」も。このままでは、どちらも死ぬのだろう。
「……何か……何か、助ける、方法は……」
自分は、いい。
せめて、「UFO」だけでも助けたかった。この小さな命に、消えてほしくなかった。
どんどん、「UFO」の点滅は弱々しくなっていく。かすかに、その小さな体は光へと変わっていこうとしていた。
何か、何か、なにか、なにか、ナニカ…………。
「……あぁ、そうだ」
あるじゃないか。「UFO」だけでも助かればいいのなら、きっと、簡単なはずだ。
よろよろと座り込む。どうせ、もう立っていられない。
「UFO」はこちらの考えを悟ったのだろうか。やや慌てたような点滅をする。点滅によるモールス信号での意思表示。伝えられた言葉に、笑う。
「…………駄目だ。契約は切らない。このまま、私は死ぬ。だから、君はもう少し、耐えてくれ」
ちかちかと、「UFO」は点滅を繰り返す。必死に契約を切ろうとする意思が伝わる。
だが、契約は切らない。解除しない。ゆっくりと、自分自身が変化していくのを感じながら笑う。
「私が先に[ピーーー]ば。君は私を飲みこめるだろう」
実のところ、自分と「UFO」との契約はギリギリのものだった。だからこそ、この「UFO」はこんな愛らしいサイズになってしまったのだ。心の器、とやらが自分は小さかったという事。
そんな自分が、[ピーーー]ば。契約を維持したまま死んでいこうとすれば。「UFO」は、自分と言う存在を飲み込むだろう。そうして、もっと力を増すはずだ。
そうすれば、「UFO」は助かる。「UFO」だけでも助けることができる。自分はどうせ助からないから、せめて。
「今までありがとう、「UFO」……君のおかげで、ずいぶんと楽しい生活をさせてもらったよ」
意識が、引きずり込まれる。あぁ、こっちが先に死なないと。けれど、これはきちんと、伝えないと。
「君は、私の事など忘れて幸せに、新しい契約者を見つけるなりして幸せに生きるといい。今度は…………私のような半端な器しかない人間じゃなく、もっと……大きな器を持った者と………………契約、するんだよ」
これだけ、なんとか伝えて。
意識も、命も、魂も、引きずり込まれた。
夜の空を、星の海を「UFO」は飛ぶ。ちかちか、ちかちか、点滅しながら飛び回る。
起きない。起きない、起きない、起きてくれない。
飲み込んだその人は、自分の中で眠っている。起きてくれない。何度呼び掛けても、起きない。
死んでほしくなくて飲み込んだ。なのに、意識が戻らない。
ちかちか、ちかちか、点滅しながら「UFO」は飛び回る。
飲み込んでしまった大事な契約者を起こしてくれる人を探して、どこまでも、どこまでも。
夜の空を、星の海を飛び回る。
彼の人が目覚める日が来るのかどうか。
誰も、わからない。
ただただ、「UFO」は飛び続ける。
契約者を目覚めさせるという夢を抱いて、どこまでも、どこまでも。
終
これは、都市伝説と戦う為に都市伝説と契約した能力者達の、特に戦ってはいないちょっとした日常の一幕である。
「それでは。「「舐めたら治る」被害者の会による告発会を始めます」
「なんだそれ」
「名前の通りよ!!!!!」
そう、名前の通りの会でしかない。
たとえ親切心からであろうとも、下心がなかろうとも。「舐めたら治る」を発動させるために舐められるのは色々と大切なものを失ってしまう。特に、全身やられると一気に大事なものが消えうせる。モウオヨメニイケナイ。
そんな想いを抱きながら、「カマキリ男爵」の契約者と「お風呂坊主」の契約者。そしてついでに「無限廊下」の契約者たる教師が「舐めたら治る」の契約者に向き合っていた。「舐めたら治る」の契約者は「解せない」と言う表情を浮かべていた。解しろ。
「まぁいいや。話は聞くから、腕立て伏せは続けてていい?」
「いいけど。なんで背中に「カマキリ男爵」乗せて腕立て伏せしてんの?」
「ただ腕立て伏せするだけだと負荷が足りない」
「何言ってんのこいつ」
何言ってんのこいつ。白い目を向けられても気にする様子なく、「舐めたら治る」の契約者は背に「カマキリ男爵」を乗せたまま腕立て伏せをしていた。
「カマキリ男爵」はカマキリではあるが、大きさは人間よりも少し大きい。それなりの重さがあるはずなのにその重みを感じていないかのような動きだ。「カマキリ男爵」は、宇宙猫みたいな表情(いや、カマキリに表情なんてないかもしれないが)でそのまま大人しくしていた。なんだこの光景。
まぁ、話を聞くのならば問題ないだろう。訴えを開始する。
「とにかく、あれよ。こちらの意志をガン無視して舐めまわすのは止めてほしい」
「迅速に治療しないと痕が残るだろ」
「残っても問題ないって言ってるよね!?」
「契約者様。乙女のお体に傷跡が残るのは、この「カマキリ男爵」反対でございます」
「しまった身内に裏切者がいた!!??」
宇宙猫状態から脱出した「カマキリ男爵」の言葉に頭を抱える「カマキリ男爵」の契約者。そうだ、こいつはそういう奴だった。だから、全身舐めまわされているのを止めてくれなかったのだ。なんて奴だ。
「と、言うか。先生も被害にあってた時点で本当、もう…………躊躇0なんだなって改めて認識したわ」
「……こちらは、全身はやられてないからな。頬やら手の甲を治療された事があるだけで」
「お風呂坊主」契約者が頭を抱えている様子に、「無限廊下」の教師はそう弁明した。そして、自分が教え子達のように全身舐めまわされる結果になったら……と、想像し……静かに遠くを見た。窓の外は今日も空が綺麗だ。
「いや、本当さ。もっとこう。躊躇するとかないの?舐めるんだよ?」
「傷の治療に躊躇も何もないだろ」
「くそっ!覚悟が完了しすぎている!!」
「え、と言うか。先生相手でも、全身怪我してたら全身舐めるの?」
「そりゃするだろ。治療しなきゃダメなんだし」
静かに、静かに。「無限廊下」の教師はさらに遠くを見ていた。生徒想いであり、生徒の為であれば存在を認めたくもない都市伝説と契約する程度には意志力が強い教師ではあったが。もしかしたら辱めの類には耐性がないのかもしれない。治療なのだが。
絶対に、全身に傷を負うような事態にはなってはいけないのだと、教師は決意を固めていたが、未来はどうなるかわからない。先の事など、未来予測系都市伝説と契約でもしていない限り分る筈はないのだから。
なお、その遠くへと現実逃避されていた意識は。
「……万が一。万が一だけどさ。「昇天カーセッ●ス」とか「もげろ」で。股間が犠牲になってても使うと……?」
「待て」
「お風呂坊主」契約者の震える声での疑問で一気に引き戻されていた。女子高生がなんて都市伝説の話題を口にしているのか。どちらも男の急所が犠牲になる都市伝説ではないか。
そんなものは食らいたくもないし、それを「舐めたら治る」によって治療するとなると、絵面があんまりにも……。
「え、もちろん使うよ。そんな大事な場所、ちゃんと治さないとダメだろう」
「え。なんだこの時間が止まったみたいな沈黙」
「至極当然の反応でございますよ、「舐めたら治る」の契約者様」
腕立て伏せ続けつつ、自身を見て固まっている三人相手に首をかしげる「舐めたら治る」の契約者に「カマキリ男爵」はいち早く正気を取り戻してツッコミを入れた。
覚悟が……覚悟が、あまりにも完了しすぎている。と、言うより。もはや舐めるという行為を心の底から治療行為としか思っていないようで。あまりにも、認識が一般とかけ離れ過ぎていた。
「都市伝説と関わった契約者とはいえ。そこまで覚悟が完了と申しますか。認識がズレていらっしゃるのもまた、珍しい」
「そうか?いやまぁ、俺も周りが周りだし、多少は一般とズレてるって認識はあるけど」
あまりにもズレすぎている。そのせいで己の契約者含め三人が、意識を宇宙の彼方へ飛ばしてしまっている現実に「カマキリ男爵」はどうしたものかと思案した。もしかしたら三人共SAN値チェックに失敗したのかもしれない。一時的発狂で酷い結果を引かなければいいのだが。
「と、言うか。「カマキリ男爵」も、俺が他人を治療する事に関しては止めないんだろう?」
「確かに、契約者様も「お風呂坊主」の契約者様も。乙女であるというのにあまりにも自身の怪我に対して無頓着でございますので。治療には反対いたしません」
「なら、問題ないな」
「問題ある」
なんとか、「無限廊下」の教師の意識が現実に戻ってきた。教師として、教え子より先に復活せねばならないという意志が強かったのだろう。
「……今度、君の保護者とはじっくり、話し合う必要がありそうだ」
「え!?ちょ、それは止めてくださいよ。義父さんは仕事色々忙しいんですから」
ようやく慌てだした「舐めたら治る」の契約者。それでも腕立て伏せを続けているのだから強者だ。そろそろ百回を超えていそうなのだがスピードが落ちない。身体能力化け物か。「舐めたら治る」には身体能力強化等ないはずなのに。
深く深く、教師はため息をついた。まぁ、保護者と話し合うとしても。「舐めたら治る」の契約者が能力を使う事は止めないのだろう。せめて飲み込まれる事ないようにと思うし、自分達はなるべく負傷すべきではない。
「……そうそう。覚悟は決まらないものだ」
舐められる覚悟より、負傷しないように努力する覚悟の方が勝る事実。
固まったままの女子二人もそうなるのだろう。きっと。
今後、彼女らがどれだけ「舐めたら治る」によって治療されるのか。
それは全て、彼女らの運命次第である。
終
これは都市伝説と戦う為に都市伝説と契約した魔法少女の物語である。
「お疲れ様でしたー」
バラエティ番組の収録を終え、衣装も脱いで私服に戻ったアイドルグループ「FOXGIRLS」のメンバー達。まだまだアイドルグループとしては新人であり、人気もそこまで高い訳ではない為、帰宅の際に事務所に送ってもらう、みたいな待遇は残念ながらまだない。
「それでは皆さん、お気をつけてお帰りください。最近、変質者が出るというお話もありますからね」
生真面目なマネージャーは心配そうに五人にそう声をかけた。本当ならば送ってあげたいけれど他の仕事があって無理、と言う様子だ。
大丈夫ですよぉ、とメンバーの一人はけらけらと笑った。
「お父さんにお迎え頼むんで平気でーす」
「私も、お姉ちゃんが車で迎えに来てくれるから……大丈夫」
「変質者?……よかろう。我が愛機ブラックメタリックハイパーフォックス号に追いつけるかどうか、試してやる」
「スピード違反で捕まるとかないようにねリーダー。ぼくはタクシー呼ぶつもりだから平気」
「変なのと遭遇したら、すぐ110番できるよう構えておきますから。安心してください」
それぞれ、マネージャーを安心させるようにそう言って見せる。
いっそ、マネージャーの方が心配なくらいだ。複数の新人アイドルやグループのマネージャーと言う激務を担わされているブラック社畜な様子とか。見た目実に頼りないからむしろそっちが変質者に襲われないかとか、色々。
担当アイドル達の返答にひとまずはほっとしつつも。
「いいですか。何かあったら、すぐにこちらに連絡してくださいね?」
等と言って、マネージャーは次の仕事に向かっていく。いや本当、いつか倒れないかな。
「もー、マネージャーちゃん、いっつも過保護なんだからー」
「心配してくれてるんだよ。あの人、いい人だもん」
余計な心配かけないようにしなくちゃな……と思いながら、他のみんなとはテレビ局の前で別れる事にする。
メンバーの一人が、黒塗りのいかにも立派な自家用車に乗り込んで帰っていく様子を見守っていると、とんとんっ、とリーダーに肩を叩かれた。
「他の三人は車での帰宅だから大丈夫だろうが。主は平気か?歩きだろう」
予備のヘルメットを持って来ようか、と言う表情を浮かべているリーダー。
キャラ作り……ではなく普段からこういう喋り方と言う変わり者な点はあるが、きちんとメンバーを心配してくれているしっかりした人だ。喋り方がちょっとアレだけど。
「平気!ほら、いつでも110番でおまわりさん呼べるようにしておくし。ちゃんと悲鳴もあげるから」
「……いざ、危険が迫った際咄嗟にそれができる者はそうそう、おらんのだが…………本当、気をつけろよ」
「うん。リーダーこそ、スピード違反とかスピード違反とかスピード違反に気を付けてね?」
「ふん。そんなもので捕まるような半端な速度など出さんわ」
それはもっと駄目なのでは……?と疑問に思ったが、リーダーはそのまま、バイクに乗りこんで帰っていった。あぁ、一瞬で見えなくなる。どれくらいのスピードなんだろう、あれ……いつか本当にスピード違反で捕まって変なニュースにならないといいのだが。
とまれ、帰路につく。徒歩帰宅だが、途中で電車に乗るのだし平気だ。問題ない。夜遅い時間だけど、平気。怖くない。
だって、私は……。
「きゃあああああああああああああっ!!!!!」
ある程度歩いたところで、悲鳴が聞こえてきた。周囲を見回す。おそらく、悲鳴を聞いたのは私一人。
「……もう!」
放っておくことなんてできない。悲鳴の方向へと駆け出す。
あぁ、これを放っておくことができないから。私は、これと契約したのだ。
「誰か……誰かぁっ!!」
「うるせぇ!暴れるんじゃねぇ!」
1人の女性が襲われている。全身包帯まみれの注射器を持った男に。それが「注射男」等と呼ばれる都市伝説と契約した存在であると、襲われている女性はわからないだろう。都市伝説であろうとそうじゃなかろうと、これは変質者であるし犯罪者だ。女性を注射器の中の薬品で昏倒させた後、股間の注射器を刺そうとしているからなおさらだ。
注射を刺そうにも、女性は暴れる。それでも馬乗りになって押さえつけ、注射しようとした。
その時!
「そこまでよ!!!」
凛とした声が響き渡り、「注射男」は、襲われていた女性は、思わずそちらの方向を見た。
そこには、人影一つ。月光をバックに、びしりとポーズを決めていた。
「我が名は魔法少女お狐仮面!罪なき女性を襲う変質者め!私が相手だ!!」
凛々しく叫ぶそれは、少女のようだった。少女のはずだ。体格的にも声からしても。
しかし。
問題はその纏う魔法少女めいた衣装だった。
「……変態だーーーーーーーーーーっ!!!???」
思わず叫んだ「注射男」は悪くないだろう。
明らかにパンチラしそうなギリギリ丈のマイクロミニスカート。ふわふわお狐毛皮のニーブーツ。胸元・へそ・二の腕完全露出。必要最低限だけを覆った狐の毛皮。そもそも、股間辺りだけはマイクロミニスカートで半端に布で覆っているせいで余計に変態っぽい。狐耳と尻尾とか狐手グローブとか、狐仮面が気にならない変態ファッション。否、痴女ファッションだ。
「だまれ!変態はそちら!!いざ、勝負っ!!!!!」
恥ずかしさを押し隠しながら、魔法少女お狐仮面……「おたねさん」の契約者たるアイドル少女は、「注射男」に殴りかかった。
「おたねさん」。悪人だけをいじめる正義の狐の妖怪。少なくとも彼女はそう認識していたから。
故に、彼女はアイドルを続けながらも正義の魔法少女として、日々、羞恥心に抗いながら戦うのだった
終
■おたねさん
鳥取県境港市に伝わる。
女に化けるのが得意な狐で、善人は欺かず、悪人だけをいじめるという。
盗人を探し出したり、災いを知らせたりなどもしたという。
(佐藤徳堯『山陰の民話 第一集』)
■今回の単発の契約者の場合
契約によって変身能力会得。
魔法少女の如き姿(本人談/ちょっと恥ずかしい)になり、抜群の身体能力によって相手を叩き伏せる他、狐らしく様々な姿に化けることができる。
また、伝承通り盗人を探知したり、災いを感じ取ることもできる。
改めて単発の人乙です
「チームワークの勝利だ!」 トランペット小僧は契約者ともトランペットでコミュニケーション取ってるんですかね
「腕のいいマッサージ師」 マッサージ師のゲテモノ食い……いやそれで誰かが幸せになれるならそれでいいのか……? ブラック企業と戦う決意を固めたお姉さんの明日はどっちだ
「永遠の子供」 ピーターパンの契約者じゃなくてティンカーベルの契約者なのか……もしかするとティンカーベルを自称して人間の子供を破滅されるタイプの妖精かもしれんな
「真夜中の決闘と言う悪夢」 久々に兄貴っぽいの見た。多分6年くらいかな? 「ポポバワ」なんて初めて知りましたがtwitterで一時期話題だったようですね(一体どの界隈に……いや考えない方がいいだろう)お下品でした♡
「デリカシーは投げ捨てて」 性癖歪む系その① カマキリ男爵もいい性格してましたが「舐めたら治る」に全部もっていかれた。良かったです♡
「バーニングガール」 「人体発火現象」の契約者がこれからどうなるのか気になる良作品でした。闇堕ちするならそれも良し。個人的には「舐めたら治る」の被害者になるのが良し
「夜に駆ける」 契約者ではなく登場人物全員が都市伝説というところがポイントですね。これで契約者をゲットしたらどうなってしまうんだ……個人的に「ミサイルにまたがる女子高生」のスピンオフが見たい。戦ってほしい(何と?)そして見られてほしい(何を?)
「道踏み外して外道歩み」 シリアスいいですよね。でもこれ最初読んだとき、一個上に登場した「光速ばばあ」ぶつけたらどうなるんだ? と考えてしまった
「襲われる条件を考えるとつまり」 読み返すと黒服が良い味だしてるが「お風呂坊主」の契約者との距離感がほどよいですね。まさかここからあんなことになるとはこの時点では思ってなかったよ
「めぇ!めぇ!めぇ!!」 「バロメッツ」の契約者は絶対線細い系マイペース青年に違いない。連載になったら「舐めたら治る」と仲良くなるやつだと思う。組織内売店にしばらく羊肉が並ぶ光景まではっきりイメージできました
「単発から連載へってよくあるけど連載になるほど話は浮かんでいない」 性癖歪む系その② まさかの「お風呂坊主」契約者&黒服コンビの再登場。絵面があまりにも酷すぎるいいぞもっとやれ!!(性癖歪んでほしい♡)
「無限の夢幻」 「無限廊下」と契約した先生はいい先生なんでしょうけど、最後に登場した「舐めたら治る」に全部もっていかれた(超えてはいけない一線超えてほしい♡)
「夢を抱き飛ぶ」 相手はもしや「臓器の記憶」の契約者なのでは? と思いましたが真相は闇の中。契約者が死んだらどうなるのか問題への1つの回答とも読めるんですが、個人的に次誰かと契約したら契約者の意識は完全に戻らなくなると思う
「治療行為への覚悟完了」 性癖歪む系その③ まさか被害者の会が結成するとは思ってなかった……読めば読むほど組織は女性向けの治癒契約者を別に用意した方がいいのでは? と思いました(それはそれとして変な癖に目覚めてほしい♡)
「満足するために」 「デスブログ」はこうブラックなユーモアな感じの短編でしたがここから世にも奇妙な物語みたいな展開になりそう。読みたいようで怖い。けど続きが読みたい
「これが私のお狐さんだ」 まさかのFOXGIRLS第二弾。まさか土着の妖怪と契約した結果魔法少女っぽい姿になるとは……ふと疑問に思ったのですが普段のアイドル衣装とどっちがきわどいのだろう
まさかVIPから生まれた「都戦都契」が10年以上続くとは思ってなかったのですが、シェアワールドなんだからこのコンセプトを外部で利用する人が現れるんじゃないかとひそかに期待してたのですが……そんなことはなかったな!(誰か知ってたら教えてね♡)
あと最近知ったけどこのスレR-18っぽいところに立ってるんですね……エロ
この年末年始に投下された皆様、お疲れ様でした
個人的に心に来たのは腕のいいマッサージ師の単発でした……自分も受けたい……業やしがらみを全部抜き取られたい……!!
ご無沙汰しております、「次世代ーズ」でございます
以前は2週間前に投下すると言っておきながら3年経ってやって来る有様で
特に花子さんとかの人、鳥居の人、アクマの人にはご迷惑をお掛けしました
クロスしてくださったやの人、ありがとうございます……!
今年から心身ともに余裕ができ……そうなので「次世代ーズ」の続きを投下していきます
具体的には【9月】【10月】のエピソードをガンガン書きつつ
最大の問題の【11月】に最早迷惑集団と化した「ピエロ」の勢いを削ぎつつ、顛末に決着をつけたいです(つける)
ひとまず今夜は次世代ーズ 32 「エンカウント side.A」の続きをいきます
>>334-342
早渡がソレイユに`襲われそうになった騒