「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」とは
2ちゃんねる - ニュー速VIPで生まれた
都市伝説と契約して他の都市伝説と戦ってみたりそんな事は気にせず都市伝説とまったりしたりきゃっうふふしたり
まぁそんな感じで色々やってるSSを書いてみたり妄想してみたりアイディア出してみたりと色々活動しているスレです。
基本的に世界観は作者それぞれ、何でもあり。
なお「都市伝説と…」の設定を使って、各作者たちによる【シェアード・ワールド・ノベル】やクロス企画などの活動も行っています。
舞台の一例としては下記のまとめwikiを参照してください。
まとめwiki
http://www29.atwiki.jp/legends/
まとめ(途中まで)
http://nanabatu.web.fc2.com/new_genre/urban_folklore_contractor.html
避難所
http://jbbs.livedoor.jp/otaku/13199/
■注意
スレの性質上、スレ進行が滞る事もありますがまったりと待ちましょう。
本スレとはあまりにもかけ離れた雑談は「避難所」を利用して下さい。
作品によっては微エロ又は微グロ表現がなされています。
■書き手の皆さんへ
書き手の方は名前欄にタイトル(もしくはコテハン)とトリップ推奨(どちらも非強制)
物語の続きを投下する場合は最後に投下したレスへアンカー(>>xxx-xxx)をつけると読み易くなります。
他作品と関わる作品を書く場合には、キャラ使用の許可をスレで呼びかけるといいかもしれません。
ネタバレが嫌な方は「避難所」の雑談スレを利用する手もあります。どちらにせよ相手方の作品には十分配慮してあげて下さい。
これから書こうとする人は、設定を気にせず書いちゃって下さい。
※重要事項
この板では、一部の単語にフィルターがかかっています。 メール欄に半角で『saga』の入力推奨。
「書き込めません」と出た時は一度リロードして本当に書き込めなかったかどうか確かめてから改めて書き込みましょう。
◆用語集
【都市伝説】→超常現象から伝説・神話、それにUMAや妖怪のたぐいまで含んでしまう“不思議な存在”の総称。厳密な意味の都市伝説ではありません。スレ設立当初は違ったんだけど忘れた
【契約】→都市伝説に心の力を与える代わりにすげえパワーを手に入れた人たち
【契約者】→都市伝説と契約を交わした人
【組織】→都市伝説を用いて犯罪を犯したり、人を襲う都市伝説をコロコロしちゃう都市伝説集団
【黒服】→組織の構成員のこと、色々な集団に分けられている。元人間も居れば純粋培養の黒服も居る
【No.0】→黒服集団の長、つおい。その気になれば世界を破壊するくらい楽勝な奴らばかり
【心の器】→人間が都市伝説と契約できる範囲。強大な都市伝説と契約したり、多重契約したりすると容量を喰う。器の大きさは人それぞれである。器から少しでも零れると…
【都市伝説に飲まれる】→器の限界を迎えた場合に起こる現象。消滅したり、人間を辞めて都市伝説や黒服になったりする。不老になることもある
◆歴代過去ログ
Part 9 「都市伝説と戦う為に都市伝説と契約した能力者達……」 Part9 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/news4ssnip/kako/1361/13613/1361373676.html)
Part11 都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達…… - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1440331914/)
Part12 「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 Part 12 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1483444899/)
ここはとある料理教室
女子高生から主婦、嫁入り前からお婆ちゃんまで、殆ど女性だが老若は様々
包丁の音や煮えた音、幾つもの音が飛び交う中、練り歩くのは美しい黒髪の女性
どうやら、この料理教室の先生のようだ
「はい、繰り返しますね皆さん
今日のテーマは“夏”です
冷たいもの、逆に熱いものでも構いません
夏の食卓を彩る素晴らしい料理を考えてください」
「せ、先生! 出来ました!」
「えーホントにこれで良いの?」
「良いから良いから」
そう言って手を挙げたのは、学校帰りだろうか、女子高生2人組
片方は自信満々だが、もう片方はやや自身がなさそう、というよりげんなりしているようだった
「あらあら、元気ですね。どんな料理ですか?」
「はい! カキ氷にかき揚げを乗せてみました!」
「……えっと先生、この子ちょっとおバカなんです」
「ちょっとそれどういう意味!?」
「うふふ、発想は凄く素敵ですね
シロップの代わりに天つゆをかけてるのも芸が細かいです」
「ほら見て、評価されちゃったよ!」
「でもこれだと“食べ合わせ”が悪いですね」
「「え?」」
「温かい天ぷら、体を冷やすカキ氷
一緒に食べると胃がビックリしてあまり良くないんですよ」
「そ、そんなぁ」
「凄くクールに否定されてる…」
「その盛り付けは面白いので、氷の代わりに何か使ってみると良いと思います
大根おろしなんて、カキ氷っぽいと思いませんか?」
「なるほど、天ぷらにも合う! 大根おろし作る!」
「うふふ、頑張って下さい」
「あ、あの…」
恥ずかし気に手を挙げるのは、若い女性だった
左手の薬指に輝く指輪を見るに、結婚したての新妻といったところか
「あらごめんなさい、そちらも出来ましたか?」
「は、はい…トマトやキュウリ、オクラを使った夏野菜のサラダなんですけど…」
「ん、すごく綺麗ですね、とてもいい盛り付け方です!
それにトマトとキュウリは、どちらも体を冷やす作用があるので夏にはピッタリなんです」
「あ…ありがとうございます」
「でも、これも覚えておいて下さい
トマトとキュウリ、よく見る組み合わせですが、そのままだと意外に相性が悪いんです」
「えっ…それも、さっきの“食べ合わせ”?」
「「トマトとキュウリも!?」」
“食べ合わせ”というワードを耳に挟んだ女子高生2人が、大根を片手に割り込んできた
うふふ、と“先生”と呼ばれる女性は笑う
「トマトはビタミンCが多く含まれてます
ビタミンCは癌や脳卒中、心臓疾患など、様々な重い病気を抑えてくれる重要な栄養分です
しかし、キュウリにアスコルピナーゼは、この大事なビタミンCを壊してしまいます
その大根も、ビタミンCが多いからキュウリとは相性が悪いですね
ちなみに、人参もキュウリと同じアスコルピナーゼを含んでいます
死んでしまうような重大なことではないけれど、折角ならちゃんと摂っておきたいですよね」
「う、うーん……キュウリではなく、何かに変えた方が良いんでしょうか」
「いえ、実は一手間加えるだけで良いんです
アスコルピナーゼは熱と酸に弱い」
ひょいひょい、と“先生”はお酢とオリーブオイルを取り、
簡単なドレッシングを作り上げ、そのサラダに振りまいた
「こうすれば、ビタミンCも効率よく摂れますし、美味しく頂けるかと思いますよ?」
「「「……お、美味しい」」」
「あら、これでは私が作ったみたいですね;」
「でも、“食べ合わせ”が悪いものって結構あるんですね」
「そうですね、中には一生出会わない組み合わせもありますけど
一番気をつけた方が良いのは、ドリアンとビールですね」
「ドリアン…テレビでしか見たことない」
「私達はまだビール飲めないけど…どうなっちゃうんですか?」
「ふふ、死にます♪」
「「「えー!?」」」
「まぁ、そうやって色んな“食べ合わせ”を知って気をつけていけば、
料理はますます面白く、そして美味しくなっていきますよ
さて、他の皆さんは出来ましたか?」
―――――――――――――
――――――
――
数時間後
料理教室が終わり、女性は帰路についていた
「うふふ、皆さん今日も美味くできていましたね……あら?」
ふと目の前に注目する
いつの間にいたのだろうか、それともふっと突然現れたのだろうか
黒く長い乱れ髪、赤いコート、大きなマスク
そして、目元しか分からないが、それは美しい顔立ちに見えた
「……私って、綺麗?」
「そうですね、綺麗だと思いますよ」
「…これでもぉ?」
マスクを剥ぎ取れば露になる、耳まで裂けた口の醜い顔
学校町恒例の「口裂け女」である
「あらあら、随分久しぶりに出会ってしまいましたね」
「お前の顔も同じにしてやる!!」
「まぁ慌てないで下さい、何かお食事なさいませんか?」
「は?」
「ちょっと待ってて下さいね、えっとお鍋と包丁、ザルとガスコンロ、テーブル」
「ちょっと待てそれどこから出してんの」
「はい、お待たせしました♪ 糸こんにゃくとキュウリの酢の物です
持ち合わせがなくてこれくらいしか作れませんでしたが…どうぞ、お召し上がりください」
「口裂け女」は盛り付けられた小鉢と箸を押し付けられ、
しぶしぶ、箸をつけ、口に運ぶ
「……ん、美味い」
「うふふ、喜んでいただけて何よりです」
「なんかこう、さっぱり、し、て……」
からん、から、
小鉢と箸が「口裂け女」の手を離れて落ちる
喉を、胸を抑え、崩れ落ちる「口裂け女」
何が起こったのか分からない
まさか
「……こんにゃくとキュウリは、古くより“食べ合わせ”が悪いとされていました」
毒を……盛られた……!?
「でも、何故そう伝えられていたのか、根拠が分からないんです
昔からあったんですね…そういう都市伝説が」
「ぐ……ぁ……く、そ…女ぁ………」
「うふふ、こう見えて私、男なんですよ」
...end
新スレあげてから全くこれなかったという
そして料理できないのに料理教室の先生を書いてみたテスト
前スレの方々乙です
スレタイなんて気にしない! 最近スレタイ無視してる変態がいるからな!(俺
次世代ーズの人も一バトル起きそうだぜヒャッハー! 戦闘最高!(←戦闘に飢えてる
作者全員に質問です♪
【アクマの書き手の人へ】
1 前のスレで学校町の七不思議が話題になってましたが学校ごとにも七不思議ってあるんですか?
2 よく昔話とかで水神様が美少女に化けて村人の前に現れるお約束がありますがそういう展開ってワンチャンありますか?
3 瑞樹さんの学生時代と次世代編のスリーサイズについて詳しく教えてください
4 ヒーローズカフェの従業員と神社組が今日履いてる下着の色を教えてください
【罪深い赤薔薇の花子さんとかの人へ】
1 今後憐きゅんが女装する可能性ってありますか?
2 中央高校の七不思議について教えてください
3 咲夜とかなえの好きなタイプ(男子)を教えてください
4 咲夜とかなえのお気に入りの下着について教えてください
5 咲夜とかなえは友達同士で下着を買いに行ったりしますか?
6 咲夜とかなえが今日着けてる下着の柄を教えてください
7 岩融さんの今日の下着の柄を教えてください
【はないちもんめの人へ】
1 望さん夫婦円満の秘訣ってなんですか?
2 神子のスリーサイズについて教えてください
3 神子は勝負下着を持ってますか?
4 今後愛人が美亜さん相手に勝てる確率はどれくらいですか?
【やの人へ】
1 サキュバスってパンツ履かないって聞きましたが実際はどうなんですか?
2 風俗の仕事は正式には受け付けてないって言ってましたが非公式にはやってるってことですか?
3 葉さんのお気に入りのパンツって何色ですか?
【大王の人へ】
1 沖縄編で水着サービスシーンがありそうな気がしますが実際は出ますか?
2 同じく沖縄編で正義と大王のサービスシーンはありますか?
3 正義と大王の今日の下着は何色か教えてください
4 これからホラー展開ってありますか?(前に聞いた)
【次世代ーズの人へ】
1 ピエロって学校町に何しに来たんですか?
2 早渡含めたキャラの今日履いてる下着について教えてください
3 早渡のお気に入りの下着ってどんな感じですか?
【鳥居の人へ】
1 ノイお母さんの趣味を教えてください
2 澪とキラの今日の下着について教えてください
3 今後澪とキラのお色気シーンはワンチャンありますか?
4 澪の隠れた性癖について教えてください
【シャドーマンの人へ】
1 れっきゅんの子供たちも全員決闘者ですか?
2 子世代が活躍する話ってワンチャンありますか?
3 れっきゅんの今日履いてる下着を教えてください
4 ラブラブですか?
【チキン野郎の人へ】
1 雀きゅんのスリーサイズを教えてください
2 雀きゅんのクラスの女子で雀きゅんのことが好きな泥棒猫っていますか?教えてください
3 雀きゅんの話に今後六本足が登場する可能性はありますか?
4 雀きゅんの下着って緋色さんや姉のと一緒に洗濯してるんですか?教えてください
5 雀きゅんのお色気シーンってワンチャンありますか?
【ソニータイマーの人へ】
1 七つの大罪って何者ですか?
2 堂寺と疾風の履いてる下着を教えてください
3 堂寺と疾風はどういう関係ですか?お互い好きですか?
【Tさんの人へ】
1 Tさんはマヨヒガの裏で家庭菜園やってるイメージがありますが実際はどうなんですか?
2 Tさんと舞はどっちがドスケベですか?教えてください
3 リカちゃんのお婿さん候補は見つかりましたか?
改めてスレ建て乙&前スレの方々乙です
次世代ーズの方は盛り上がってそうですなぁ……追いかけないと
>>8
>1 沖縄編で水着サービスシーンがありそうな気がしますが実際は出ますか?
たぶん……ありません? 割とシリアスがメインです
余裕があったら、大王との日常シリーズで補完しますが、描写は小学生編の夏休みレベルが限度です
>2 同じく沖縄編で正義と大王のサービスシーンはありますか?
正義は無いと思いますが、大王の衣服が破れるシーンはあります
>3 正義と大王の今日の下着は何色か教えてください
正義は、基本的にトランクス派で、黒~紺色系を好みます。靴下は学校指定のものを愛用。
大王は、沖縄編なら靴下以外穿いてません。今は、下着も全部黒系です
>4 これからホラー展開ってありますか?(前に聞いた)
マヤの予言編のアレコレと比べるなら、ちょっとしたアクシデントはあります。死ぬよりはマシです
>>4-6
兄者乙。食べ合わせねぇ、面白い。料理系だと、フグの卵巣の毒抜きとかもある意味使えるかね?
>戦闘最高!(←戦闘に飢えてる
ほう……俺でよければ、ひとつ書き上げたぜ?(食後に上げますの意
けふっ。予告通り、上げますよ~
●前回
「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 Part 12 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1483444899/992-995)
このスレの、「「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」という設定をシェア」した作品。
都市伝説に関する様々な設定を引き継ぎながら、学校町とは異なる発展を遂げた世界。
前回は、異形たる存在に襲われ、その同類である異形【メリーさん】と契約を交わした男の物語。
彼らは名乗る、人間と契約して仕える『伝説使徒(アーバント)』と。その存在とは、いったい?
今回は、伝説使徒【こっくりさん】と契約したサッカー少年の物語。
はたして、少年はどのような運命を紡ぐのか……。
人は噂した、「硬貨と五十音表を使った降霊術により現れる、【こっくりさん】がいる」と。
人は噂した、「人を襲うため風と共に現れる、【鎌鼬】がいる」と。
『Meme(ミーム)』。それは人類が進化の過程で獲得した遺伝情報の一種。
ミームは『文化』『技術』『情報』として人類の生存のために繁栄し、時に姿かたちを変えた。
そのミームのひとつに、『幽霊』というものがあった。
それらは未知の現象・事件……情報を理解するために生まれ、情報としての生存能力に長けていた。
だが、幽霊も『科学』の進歩により不要となった。
科学が、あらゆる未知の情報を解析してしまったのだ。
「へへへ、今日のテストも100点満点だね。」
さて、質問である。
もし仮に……「ミームが意思を持っていたら」、彼らはどのような行動に出るだろうか?
例えば……『科学のミーム』でも解析できない現象を『幽霊のミーム』が起こす……かもしれない。
「分かってるよ、これもお前のおかげだ。」
『妖怪のミーム』は、進化の時を迎えていたのだ。
「な、こっくりさん。」
下校中、ぶつぶつと呟きながら少年が振り向くと、そこには半透明の子どもが居た。
【こっくりさん】と呼ばれた子どもは、少年に言葉を返す。
「ボクの力を、チャチな事に使わないでほしいな。主様。」
「『あるじさま』なんてカタ苦しい呼び方、やめてよ」
煙たがる少年に対し、【こっくりさん】は肩をすくめた。
「わざとだよ。たまには『契約者』だって事、思い出してほしいからね。」
「だって、分からないんだもん。けーやくとか、アーバントとか。」
【こっくりさん】は『伝説使徒(アーバント)』の一種である。
『伝説使徒』とは、情報によって生まれた生命体である。
物理的な肉体を持たず、自らの素となる情報と謎の根拠でそこに存在する。
そのため、人間によっては視認困難な場合もある。
しかし、媒体も無しにその体と精神を保つのは困難である。
情報は、時間と人間の手で常に変化し、それは伝説使徒にも影響を与える。
外見だけでなく、性格や能力さえも、ミームの加減で変化してしまうのだ。
安定を求める伝説使徒は、人間に契約を持ちかける。
『人間の脳を、自らのミームを保存する媒体として扱う』契約だ。
「主は、ボクのミーム……つまり記憶を覚えていてくれる。それだけで良いんだ。
キミが生きている限り、ボクはボクのまま生きていけるからね。」
媒体があれば、体と精神は安定する。
ただし、媒体である人間―契約者―の死は自らの破滅に繋がる。
契約者の吟味は『伝説使徒』の死活を別ける問題である。
【こっくりさん】は、自分の運命を少年に託した。
人間であれば、小学生レベルの知能でも契約できるらしい。
「そう言われても……忘れる方が、難しいし。
オレだって、こっくりさんが居て、うれしいし。」
少年にとって、契約は苦痛でも負担でもなかった。
人間の脳はかくも複雑で、1体程度の伝説使徒なら保存できてしまうようだ。
当然ながら個人差はある。脳の状態や伝説使徒の情報量によっては、命の危険すら考えられる。
だが、リスクを冒す価値が『契約』にはある。
伝説使徒を保存した人間の脳は、進化する。
全ての伝説使徒を知覚しやすくなり、超感覚を獲得する例もある。
また、契約した伝説使徒の力を多少コントロールしたり、時間をかけてミームを書き換える事もできる。
そもそもとして、伝説使徒の命を預かるものとして、従者のように使役できるのだ。
もっとも、少年にとって【こっくりさん】は『友達』でしかない。
少し不思議な存在であるが、自分と変わりない友として、ただ受け入れていた。
「……ありがとう。」
「じゃあ、帰るとするか―――」
「おーい!」
ふと、遠くから少年を呼ぶ声が聞こえた。
声の方からクラスメイトの姿が見えると、【こっくりさん】はその姿を消した。
「なぁ、今から、裏山に行かないか?」
「なんだ? ヤブから棒に。」
少年のクラスメイトが提案したのは、裏山の探索だった。
クラスメイトが言うには、裏山には『遭難者の霊』が今も彷徨っているらしい。
それが最近になって、裏山で遊ぶ子ども達を襲っている……そんな噂が流れているのだ。
「そのウワサが本当か、確かめに行こうぜ?」
「……ふーん。」
きっと遊びのつもりだったのだろう。だが、少年は知っている。
【幽霊】というものが実在し、時に、人を襲う事を。
「悪いけど、今日は用事があるからパス。明日にしようぜ。」
「じゃあ、帰って退治するための、準備でもするか。またなー!」
そう言ってクラスメイトを帰らせたが、少年はひとり呟く。
「悪い、こっくりさん。今日は用事ができた。」
―――裏山
ある程度整備された道に従えば、ハイキングコースとして利用できる場所である。
だが少し外れると、獣道ぐらいしかない迷路と化す。
子ども達にとっては、探検ごっこや秘密基地造りといった、有名な遊び場にもなっている。
そんな場所に、人を襲う【幽霊】がいる。
誰かが退治するなら良いが、きっと大人は信じない。
……なら、退治できるのは自分だけだ。
「ここら辺かな?」
「うん。気を付けてね。」
少年と【こっくりさん】は、獣道を進んでいた。
噂となっている【遭難者の幽霊】がいる場所を目指して。
しかし、見当はついていた。【こっくりさん】の能力である。
【こっくりさん】は、十円玉を介して質問することで、あらゆる質問に答える事が可能となる。
その能力で、事前に居場所を突き止めていたのだ。
「よっと……ふぅ。」
「あっ、危ない!」
少年を【こっくりさん】が突き飛ばすと、その真上を何かが通過した。
生き物ではない……『伝説使徒』だ。
《ククク……ボウヤ、コンナ所で、何シテル?》
ボロ切れを纏った大人の女性に見えたが、その姿はうっすら透けている。
その声も、少年の頭に直接響くように聞こえた。
間違いない、彼女が【遭難者の幽霊】だ。
少年は、思わず手に取った木の棒を投げつける。しかし、木の棒は幽霊をすり抜けてしまった。
「あっ!?」
《オヤオヤ……オイタが、スギルわ……》
慌てる少年の元へと、ゆっくり、ふわりと、【遭難者の幽霊】は向かって行く。
「主! 実体がない伝説使徒に、そんなのは効かないよ!」
【こっくりさん】の叫びを聞き、少年は冷静になった。
すぐさまポケットから手袋を取り出し、両手に取り付ける。
「こっくりさん、こっくりさん……鳥居へ!」
少年がそう呟くと、【こっくりさん】は吸い込まれるように、手袋の中に入った。
《ボウヤ、アタシが……躾けて、アゲル!》
【遭難者の幽霊】が、少年に向けてその腕を振り上げる。
しかし少年はわずかな動きで避け、カウンターの拳を振るう。
「たぁ!」
《ゴフゥ!? ナ、何故……? タダの、パンチで……。》
その拳は、実体がないはずの幽霊に当たった。
「ふふん、ただのパンチじゃない……『ボク』のパンチ、だよ。」
少年の口から、【こっくりさん】の声が響いた。
「憑依さ。実体を持つ人間に、ミームであるボクが憑依したら……。
より強いミームを持つ、伝説使徒のように戦える!」
《ソ、ソンナ……》
少年が付けている手袋には、十円玉が仕込まれている。
その十円玉により、【こっくりさん】の第2の能力、『十円玉に触れている者に憑依』が可能となったのだ。
憑依された人間は、伝説使徒と一心同体となり、より強い力を振るえるようになる。
少年に憑依した【こっくりさん】は、殴る・蹴るを繰り返す。
女性の幽霊は、その殴打に圧倒されていた。
《コ、コドモ、如き……。》
「に、圧倒されているのは、誰?」
そう嘲笑して殴りつけた時、【遭難者の幽霊】は怯まなかった。
そのまま少年の首を掴み、押し倒す。
《コドモ如きが、アーバントを、ナメルなァッ……!》
「ぐっ、しまっ……!」
【遭難者の幽霊】は、ギリギリと少年の首を絞める。これは、憑依の弊害ではない。
幽霊タイプの伝説使徒は、物理的には触れないが、一方的に人間を攻撃できるのだ。
むしろ憑依のおかげで、少しは丈夫になっているが……。
「(このままでは、主が……)」
《クカカ……サァ、ヒトリで、何が、デキル!》
抵抗する【こっくりさん】に構わず、女性の幽霊はその力を強めた。
【こっくりさん】に、なす術はなかった。
「(つまり、『オレ』の番だな。)」
「こっ、くり、さん……こっくり、さん……。」
《ホザけッ……!》
少年に憑依した【こっくりさん】は、女性の幽霊に抵抗しながら、何かを呟く。
「チェックマークへ……!」
《ナッ、グワァ!?》
そう呟いた瞬間、手袋から飛び出した【こっくりさん】が、女性の幽霊を頭突きで突き飛ばす。
そしてそのまま靴の方へを入っていくと、少年は立ち上がった。
《コザカ、シイ……》
「いいか、『ひとり』じゃない……『オレたち』だ!」
今度は、少年の声に戻っていた。しかし少年が纏う雰囲気は、先ほどのままだ。
《違いナド、ナイ……! マトメテ……!》
「“フリーキック”。」
少年が呟くと、その両手の間から、黒い球体が現れた。
それを使い、少年はリフティングを始める。
《……急ニ、アソビ、始めた……?》
「さっきまでは、こっくりさんの番だったが……選手交代さ。」
リフティングを重ねる毎に、球体はそのエネルギーを高めていく……。
【遭難者の幽霊】は、そう感じ取った。
しかし気づいた次の瞬間、球体は自分へ目掛けて、飛んで来ようとしていた。
「カウント10、シュート!」
《クゥッ!? グヌヌ……!》
とっさに【遭難者の幽霊】は、その球体を掴んだ。しかし今にも弾き飛ばされそうだ。
《コンナ、モノデ……!》
「“ハンド”ォ!」
少年がそう叫んだ瞬間、球体が爆発し、【遭難者の幽霊】を吹き飛ばした。
《カ……ハッ……?》
「サッカーだよ。オレはただの人間だから、オレの得意なルールで、戦わせてもらう。」
これは、契約の履行である。伝説使徒は『契約者に力を貸す』、それは伝説使徒の枷とも言える。
【こっくりさん】は、少年へ一方的に憑依したままにはなれない。
少年が、【こっくりさん】の力を使う状態に、いつでもシフトできるのだ。
そのスイッチは、手袋と靴に仕込まれた、十円玉だ。
鳥居マークが書かれた手袋へ入った時は、格闘する『少年に憑依した【こっくりさん】』
チェックマークが刻まれた靴へ入った時は、サッカーで戦う『【こっくりさん】を憑依した少年』となる。
《クゥ、クソォ……!》
「待て、逃げるな!……“キックオフ”!」
少年は、ポケットから取り出した十円玉を指で弾いて、また黒い球体を作る。
弾いた十円玉が球体に入ると、球体は地面に落ちた。少年はそのまま、獣道でドリブルを始める。
《クソォ、クソォ……!》
「(くっそ、坂でサッカーするのは、つらいな……。)」
「(主、見失わないようにね。『あそこ』に誘導するよ。)」
【遭難者の幽霊】は、木々をすり抜けて、ただひたすらに逃げていく。
【こっくりさん】の能力と、遊び場としての記憶から、少年は追跡しつつドリブルする。
《ハァ……ハァ……。》
【遭難者の幽霊】が辿り着いたのは、ピクニックができる広場であった。
見晴らしこそいいが、幸いな事にガキ共はいない。音を頼りに、木のそばへ隠れた。
……無駄とも知らずに。
「(主、あの木の後ろ!)」
「よっしゃあ!」
【こっくりさん】の誘導により、その場所は分かった。
あとはこの足場で、あそこへ的確にシュートするのみ。
ならば……憑依による身体能力向上を利用した、あれを使う。
「オーバーヘッド……シュート!」
蹴り上げた球体と共に飛び上がり、宙返りして球体を蹴り飛ばす。
球体は、すさまじいエネルギーを纏いながら高速で飛び―――【遭難者の幽霊】が居る木を通り過ぎた。
《……バーカ。》
「こっくりさん!」
はたして、彼女はそれに気づいたのだろうか―――
彼女の後ろを通り過ぎた球体は―――
【こっくりさん】が受け止め、今にも炸裂せんと光っていた事に―――
「 “サドンデス” 」
【遭難者の幽霊】は、跡形もなく消え去った。
―――帰路
「へへへ、今日も快勝だったね。」
「快勝じゃないでしょ、何度かピンチだったし。」
【遭難者の幽霊】を倒し、少年達は帰路に着いていた。
「あれはオレじゃないしー、こっくりさんだしー。」
「うっ……ごめん。主の身体なのに、調子に乗って。」
「あぁ、そうじゃなくてだな。もっと作戦とかレンケイを考えようぜ。サッカーみたいにさ。」
契約者と従者という関係でありながら、少年は【こっくりさん】を友と見ていた。
それが、【こっくりさん】にとっては、たまらないほど嬉しかった。
「……うん! でも、主も無茶はしないでね。オーバーヘッドは危険だから。」
「……あはは。やったオレでもヒヤッとしたぜ。」
特に、誰に言われたでもないが。少年達はこれからも、伝説使徒と戦っていくだろう。
自分の世界を、守っていくために。
さぁ、明日は休みだ。『幽霊なんていない裏山』を探検しよう。
人は噂した、「『伝説使徒』と契約すれば、その力を行使できる」と。
人は噂した、「『伝説使徒』は、契約者が得たミームによって、時に進化する」と。
―――これは、『伝説使徒』と契約し、『伝説使徒』と戦う者達の物語―――
あう、タイトル入れるの忘れてた……
という訳で、サンプル2『サッカー少年とこっくりさん』でした
ほら戦闘シーンだぞ、兄者喜べよ☆
ちなみに、サンプル1『巻き込まれた男』と各2話ずつ、あと計4話だけプロットがあります
むしろ、残りのサンプルが作れない……いや、その前に沖縄編書けよっていう……
どちらが先に上がるかは、明日の俺に聞いてあげてくださいな
改めましてシャドーマンの人と大王の人、お疲れ様です
ミサちゃんが再登場したとなって心が高鳴ったのが私です
もう4年も前かな? 彼女が単発で登場したときは
当時はどういう理由か、岩清水倖子と終音ミサがぶつかると思っていました
「アイドルは排泄しない」の彼女、元気かな……
>>4-6
正直に白状します
てっきりお料理教室の先生は成長した漢クンだとばかり……orz
>>6
頑張ります!
(やばいよやばいよぉぉ……バトルなんて殆ど書けてないよぉぉ……!!)
>>12-18
アーバントという響きが非常に良いですね
人間を媒体として扱うというのも次世代―ズ中の人のイメージと重なる所が多いです
媒体としてはインターネットって打ってつけのものがあるにも関わらず
都市伝説からは未だに人間が選ばれるというのも、そのなんだ、色々考えさせられますね
次世代―ズの方は、【9月】と【11月】のエピソードを不定期不規則に書いており
若干これって混乱しない? 大丈夫? とか考えながらやっています
そして……
>>8
回答します……!!
>1 ピエロって学校町に何しに来たんですか?
「ピエロ」の真の目的は現時点で【不明】ですが、大雑把に述べると【探しもの】です
真相は終盤でアンロックします
早く書かないとだな
>2 早渡含めたキャラの今日履いてる下着について教えてください
とうとうこれが来ちまった……
少々お時間くださいませ、再度回答しますわ♥
>3 早渡のお気に入りの下着ってどんな感じですか?
早渡「えっ? お気に入りの下着?」
早渡「……」 ☜ 考え中
早渡(考えたこともなかった……。こだわりも無く普通に売ってるトランクス履いてるんだけど……)
早渡「あっ! 履き心地なら綿100%のがいいかな!?」
○前回の話
前スレ 901-904 次世代ーズ
「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 Part 12 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1483444899/900-904)
※この話は作中時間軸で【9月】の出来事です
※この話は前回の話と繋がりはありません
○時系列
●九月
・早渡、「組織」所属契約者と戦闘
・早渡、東中でいよっち先輩と出会う
・花房らと共に三年前の事件の「再現」に立ち会う
・早渡、診療所で「先生」から話を聞く
・ソレイユ、変態クマに捕まる
・「ピエロ」、学校町を目指す
※ ☜ 今回はこのあたりの話
・∂ナンバーの「会合」
・いよっち先輩、自分を取り戻す
その夜の内に居候先を確保する
・∂ナンバー、「肉屋」の侵入を予知
●十月
・「ピエロ」、学校町へ侵入
●十一月
・戦技披露会開催
・診療所で「人狼」イベント
「人狼」終了後、いよっち先輩が遊びに来る
・バビロンの大淫婦、死亡
・「狐」本戦?
○三行あらすじ
色々あって東区の中学校で「繰り返す飛び降り」の東ちゃんと出会った
東ちゃんはいつの間に消えてた
後日、ちょっと気になったから東中に行ってみた
「普通だな……」
夜の学校町、東区、もう22時前
中学の校庭に立ち、校舎の方を眺める
「組織」所属の野郎に追い回された一夜から
俺は夜中の徘徊を控えていたのだが、今回は特別だ
此処へ来た理由は一つ、東ちゃんに会うためだ
さっきまで中学の敷地内を色々見て回って東ちゃんを捜していた
ひょっとして屋上に居るんじゃないかとも考えたが、その気配も無さそうだ
あの日、初めて花房君(と「組織」のワイルド野郎)と出会い
成り行きで三年前の事件について知ることになったあの日、俺は東ちゃんと出会った
あの事件の犠牲者で、今は都市伝説「繰り返す飛び降り」になった子だ
結局俺は色々気になって、もう一度東ちゃんに会いに行くことにした
どうにもあの日の東ちゃんの様子が気に掛かって仕方なかった
初めて彼女を見たときは虚ろな笑顔、その後に話し掛けられたときの様子は普通だった
それが事件の再現を見ている途中で東ちゃんの顔は虚ろに戻り
最後に見たときは泣きそうな顔をしていた
そして、彼女は唐突に姿を消した
東ちゃんのあの様子も気になったし
ついでにあの事件の話を聞きたくて、彼女に会えないかと夜の中学をお邪魔したんだ
正直、怖くないわけじゃない。いや違う、今は来たことを若干後悔している
何故って、此処は俺が「組織」所属の刀使い&武者亡霊に襲われた因縁の場所だからだ!
来る前は東ちゃんの方が心配だし、もう関係ないね! とか考えていたが、甘かった
思いつきで行動するんじゃなかった、また「組織」の奴とかち合う危険性は大アリなんだから
仕方ない、もう帰ろう
結構あちこち捜したが東ちゃんの姿は見えない
もしかしたら彼女は校舎から抜け出して外出中なのかもしれない
でもそれも妙だな、自分の“領域”から自由に移動なんて可能だろうか
東ちゃんがコードから逸脱してるんなら、そういうことも出来るかもしれないけどな
念のため電話してみるか
携帯を引っ張り出して、何度も電話した東ちゃんの番号にもう一度掛けてみた
あの日、彼女から貰った電話番号のメモはそのまま花房君にあげた
しかーし俺は彼女の電話番号を一切記憶しなかったわけではない
というわけで俺も東ちゃんの電話番号はバッチリ控えている
控えているんだが、結果は見えていた
俺は何度か東ちゃんに電話してみたが彼女に繋がることは無かった
お掛けになった電話番号は、現在使われておりません
そう、これだ
電話しても決まってこのアナウンスが流れる
俺が番号を記憶し間違えた可能性? 東ちゃんのメモは携帯で撮影しといたのでそれは無い
というわけで考えられるのは東ちゃんが自分の番号を書き間違えたか
それとも、この番号は本当に不通か
花房君も彼女に電話したんじゃないだろうか
彼に確認した方がいいかもしれない、そっちも繋がらなかったのかどうかを
今度聞いてみるか、いや今聞こう。電話したいところだが時間も遅いのでメールでいいだろう
ところで俺はメールを書くのが凄い苦手だ。具体的に言うと携帯で文字をちまちま入力するのが苦手
とりあえず中学を出てからメールを書いた方がいいかもしれない
さっきから複数の都市伝説っぽいニオイも感じる、距離はまだ近くないのが幸いだ
今日はもう立ち去った方がいい、東ちゃん捜しはまた今度にしよう
●
「アイツ、怪しくない?」
「そんなに怪しくないと思うのー」
東区の中学から出てきた奴は商業高校の制服を着ている
その怪しい奴の後ろ姿を電柱の陰から監視している連中がいた
電柱に体を隠すようにして商業生の背中を睨みつけるのは
闇夜にあっても人の目を引くであろう、鮮やかな赤い髪をした少女だった
腰までの丈の羽織り物の下からスクール水着のような衣装を着用している怪しい女だ
おまけに彼女の肩辺りに乗っている羊のぬいぐるみに小声で話し掛けており、輪を掛けて怪しい
彼女の名はマジカル☆ソレイユ
露出魔でも自称魔法少女でも無く、れっきとした都市伝説契約者だ
彼女が何をしているのかというと、先日襲い掛かってきた変態クマの捜索である
「大体、夜の中学で何してるのよアイツ、絶対怪しいわ」
「そこは、うーん……、怪しいなのー、でもぉ……」
「アイツ契約者だと思う? メリー、どう? わかる?」
「もっと近づかないとわかんないなのー」
何やら羊のぬいぐるみと怪しげな会話を交わしている
「アイツ、絶対クマの本体よ」
「ソレイユちゃん、メリーの勘だけどあの人は犯人じゃないと思うのー」
「そう? 私はアイツが怪しい。うん、絶対」
「なんで怪しいと思うのー?」
「……直観よ」
「あ、今間があったなの! 今絶対ちょっと考えてから言ったなの!」
ソレイユはあの商業生こそ変態クマの本体では無いかと考えているようだ
仮に商業生が契約者であったとすれば、疑惑はより深まるというものである
操作系統の能力でぬいぐるみを操り変態行為に及んでいても不思議ではない
「必ず尻尾を掴んでボコボコにしてやるわ……!」
ソレイユの言葉に恨みが籠る
卑猥な触手で狼藉に及ぶ不埒な契約者を野放しにしてはならない
このとき、彼女のなかにある妙な正義感は既に燃えに燃え上がっていた
ソレイユと羊のぬいぐるみは引き続き怪しい商業生を監視すべく
電柱の陰から陰へと音もなく移動し始めた
果たして、かの変態テディベアの本体は
前方を行くあの商業生こと早渡脩寿であるのか
それはまだ、不明である
「なんでサクリじゃないんだろ」
早渡脩寿が中学から去った後
東一葉は独り、校舎の屋上に居た
返しの付いたフェンスの外側に立ち
屋上の縁から夜の闇に塗りつぶされた下方を覗き見ている
靴を脱いで
しかし、後ろ手にフェンスをしっかり掴みながら
「なんでわたしなんだろ」
その自問は既に彼女が幾度となく繰り返してきたものだ
「戻ってきたのがサクリだったら、みんな喜んだのに」
最早自分が何を呟いているのか、自覚しているのかすら覚束ない
「これが全部悪い夢で、わたしが死んだのも全部夢でさ」
最早自分が誰に呟いているのか、それすら分からずに
「ここから飛び降りたら、目が覚めるかな」
なんてね
フェンスを掴む手が震える
本当は飛び降りてみる勇気なんか無い癖に
そう、心の中で、誰かが嘲るような口調で、馬鹿にしてくる
それが他ならぬ自分の声であることに気付いたのは、もう少し経ってからだ
「何やってんだろ、わたし」
東は漸く
自分が以前と同じようにして、屋上の縁に立っているのだということを理解した
怖い
嫌だ、死にたくない
戻ろう
もう既に自分が[ピーーー]でいることを、半ば忘れたままで
彼女は震える手でフェンスを強く握りしめながら、フェンスの内側へと戻ろうとして
「――ふぇ?」
どういうわけか、足を滑らせて
「 ぅ、あ」
校舎の下に広がる闇の中へ、堕ちていった
□□■
今日はここまで
>>21-24
次世代ーズさん乙です~。結構昔のお話?この後どこに繋がるのか……
ところで、メールアドレスにsagaを入れていないのは仕様ですか?
>>20
昨日書かれた謎のメモからレスしますー
>アーバントという響きが非常に良いですね
>人間を媒体として扱うというのも次世代ーズ中の人のイメージと重なる所が多いです
語感は『ドー○ント』から来ていたり。そして漢字は『徒使伝説』
情報生命体を維持するためには、媒体が必要ですよねーという認識だったんですが、同じイメージの方が居て嬉しいです
>媒体としてはインターネットって打ってつけのものがあるにも関わらず~
メモによると「サンプル3『伝説使徒を追う者』のプロットができたから、今度書け」とありますね
それが回答になると思われます……っておい、昨日の俺
ログレスやってる間にいっぱい来てる!
読む前にこれだけ答えよう
>>8
>1 れっきゅんの子供たちも全員決闘者ですか?
上から6人だけ、っていう予定
因みに
●未來:【サイバードラゴン】
●京子:【恐竜族】か【ダイナミスト】
●英哉:【E・HERO】
●琉羽:【サイバーダーク】
●天架:【宝玉獣】
●天美:【A宝玉獣】
みたいな
>2 子世代が活躍する話ってワンチャンありますか?
考えてたら年齢の辺りで訳分からんなったでござる
確かどっかにまとめてた筈なんだが…
>3 れっきゅんの今日履いてる下着を教えてください
あいつの下着は多分黒だわ
あとトランクス派
>4 ラブラブですか?
それはどっちのことだw
裂邪とミナワは相変わらずだけど
俺はかれこれ4年になるなぁ
そういや今月2人で北海道行くんすよ
誰かとニアミスしないかなー
という訳で
大王の乙ですの
戦闘は良い、素晴らしい
最近見た『ウルトラマンサーガ』のバトルシーンは悲しかった
低すぎる空中戦に落とし穴にはまるハイパーゼットン
ゼットンファンを馬鹿にしてるのかと
てか絶対バット星人が憑依するよりゼットン単体で行った方が強かったと思う、『帰マン』の個体は賢かった
じゃなくてあれだな
こっちの世界のキャラがそっちの世界に飛び込んだらどうなるんだろう
次世代ーズの人乙ですの
ぎゃあああ俺の一葉ちゃんが!(
何てタイミングで居なくなったんだ早渡!
しかし繰り返すってぇと…こう、なるのか?(妄想中
呼ばれた気がしたから、回答するぞ。
「アーバンレジェンド・サーヴァント」という正式名称は後付け。そもそも「servant」という単語を知らなかったようだ、彼。
戦闘シーンについては、ちょっと変身ヒーローみたいだな。中学生になると、本格的に成長した姿をお見せできるだろう。
>>29
>こっちの世界のキャラがそっちの世界に飛び込んだらどうなるんだろう
「何も起きない」が正解かね。Test Worldは学校町をモチーフとしているから、高い互換性を持っている。
『都市伝説=伝説使徒』という点が基本だな。ただ、野良の伝説使徒は人格が不安定だけど、学校町の野良都市伝説が不安定化する訳ではない。
学校町でのステータスが優先される、と思ってくれていい。【並行世界の住人】という伝説使徒扱いもされるしな。
……実はSCPらしき組織のテキストがあるんだが、結構細かい所まで書いてあるぞ。
ただ、今入ろうとするのは危険だ。Test Worldは未完成。骨組みしかない家でホームパーティはできない。
そもそもTest Worldは、名前通りの意味しか持たない世界だからなぁ。発展させる時は別の世界を創るかもな。
入れるようになったら、『あいつ』が歓迎してくれるんじゃないか? 裂邪辺りは特に。
>>28
>そういや今月2人で北海道行くんすよ
たった今、『そんな暇があるなら親に顔を見せろ』というメモが届いた。
>>30
>「アーバンレジェンド・サーヴァント」という正式名称は後付け。そもそも「servant」という単語を知らなかったようだ、彼。
それでも決闘者か!
『ファラオズ・サーヴァンド(ファラオのしもべ)』とか『D-HEROドレッド・サーヴァンド』とかあったろう!
> 学校町でのステータスが優先される、と思ってくれていい。【並行世界の住人】という伝説使徒扱いもされるしな。
なるほど
『ポケモン赤・緑』に『ポケモンサン・ムーン』のピッピを連れて行ってもフェアリータイプのままだと(意☆味☆不☆明
> 入れるようになったら、『あいつ』が歓迎してくれるんじゃないか? 裂邪辺りは特に。
何故か分からんがそうなのか
今度ちょろっと触れてみてやろう
> たった今、『そんな暇があるなら親に顔を見せろ』というメモが届いた。
だってこんなんだぜ↓
嫁「6月に北海道の叔母ちゃん家行くから」
俺「へぇ、いてら。留守番は任せろ」
嫁「は? お前も行くんだよ」
俺「はい!?」
>>26
ありがとうございます……!
>>29
いよっち先輩が自分を取り戻すのはもう暫くですね
その暁には早渡の財布が爆発して枯渇するのだと思います
>>26
>次世代ーズさん乙です~。結構昔のお話?この後どこに繋がるのか……
折角なので次世代の概要をまとめつつ、次世代―ズの言葉で説明したいと思います
花子さんとかの人に「また次世代―ズが思い違いしてる……」と思われたら
中の人は墓穴に飛び込むより他なくなるので、再確認の意味合いもあります
○次世代編
次世代編は学校町を舞台にした諸作者さんのお話(現世代)からおよそ20年後のお話です
>214: 罪深い赤薔薇の花子さんとかの人 ◆nBXmJajMvU :2016/09/19(月) 11:41:44 ID:94yN7BHs
>>>213
>>そういや次世代、何年後ぐらいなんだろう
>大雑把に考えて20年後くらいのイメージで書いてました
>幸太がまだ30代くらいみたいに書いてましたし
次世代編で起こってるのは、まず「狐」の侵入(花子さんとかの人)
盟主様の異変と水神様の企み(アクマの人)、「凍り付いた碧」の暗躍(鳥居の人)です
次世代のある年の春に「狐」とその配下が学校町に侵入しています
実はその三年前にも「狐」は学校町に侵入して大事件を起こしています
それが花子さんとかの人の連載で度々言及される三年前の事件です
そして次世代編現在、花子さんとかの人の次世代組が「狐」を始末しに行く、というのが本筋です
で、次世代ーズは花子さんとかの人の設定に一部乗っかっていますorz
○次世代ーズ
「次世代ーズ」は一言でいうとバトルものの皮をかぶったラブコメを目指しています(本当)
概要をざっくり述べると「次世代の時間軸で、施設出身の子が死に別れた初恋の幼馴染の消息を辿りつつ
頭おかしい奴とか都市伝説新興宗教の連中とかおばけとかをボコボコにしつつ大切なものと出会い直す」話です(予定)
グロよりはエロを目指したいがどうなるかな? なんか他にも色々あった気がしますが
一応、焦点人物の早渡脩寿とマジカル☆ソレイユだけ追ってても話の本筋は掴める、はずです
「次世代ーズ」は「狐」侵入の年の【9月】から開始しています
一応、「次世代ーズ」の過去部分に、国家ぐるみの陰謀やその発動阻止とか
孤児の急増とか、契約者の適性を持つ子供の増加とかがあります
こんなのとかもあります
>一宮テロ
> 「次世代ーズ」開始のおよそ五年ほど前に発生した大規模な殺傷事件
> この事件は惨劇の場となった地方都市の名を取って呼ばれることとなった
> 表向きは当地方を拠点とした暴力団同士の抗争という形で情報統制が行われたが
> 真相は都市伝説関係勢力、「都遣」と「楽団」との間で発生した“エフェクター”を巡る争奪戦である
>
> その市街戦により勢力双方のみならず無関係の民間人を含む大多数の死傷者が発生し
> 事件の余波で当地方一帯と関東地方の一部が停電に陥り、社会インフラが一時混乱を極める事態となった
○>>22-24について
>>22-24は【9月】時点のお話です
ちなみに前スレ最後の998-999は【11月】時点のお話です
概要は>>21の時系列をご覧いただけると……この時系列表、穴がある上にざっくりし過ぎた……
○ちなみに
早渡脩寿は次世代の人材として
秘密裡に契約者を養成したり生体実験を実施していた施設で育ちました
この施設は「七尾」の施設で、次世代ーズ開始の4年前に閉鎖というか解体されました
早渡その同期はそこで教師役の研究者から「七つの都市伝説と契約した能力者」の話を聞いて
みんな彼にあこがれ、彼のようになろうとしました
前スレ568で土下座した「黄昏裂邪さんに憧れている子供達」とは、つまりそういうことです
ありがとうございますorz
>>8
>2 早渡含めたキャラの今日履いてる下着について教えてください
はい
「早渡含めたキャラ」という部分で、これはつまり全員分か……?
と気になりだしたので、ひとまず名前というか固有名が出た分+αで行きます
ではどうぞ
○主要人物ーズ
早渡 「はい、早渡です。はい? 今日履いてる俺の下着を教えろ?
え、いやあの、普通にイオンで買った紺の無地……ってオイ、それ聞いてどうする積りだ!?」
夜先輩「下着、ですか? 濃い色合いの、紫ですが。それがどうか、しましたか?」 ☜ 小首をかしげてる
ソレイユ「なっ……!! バっ、ッッカじゃないのっ!! 何聞いてるのよっ!! 言うワケないでしょ!?
大体、下は水着だし別に下着なんか……ッッ!! ああっああああああっっわ、忘れて!! 今のは忘れなさい!!」
メリー「メリーはパンツはく必要ないのー。ぬいぐるみだからもふもふしてるのー」 フンスフンス =3
ありす「……」 ☜ 嫌悪と侮蔑の入り混じったえらい形相で睨みつけている
千十 「っっ!? か、回答を拒否します!!!」 ☜ 顔が真っ赤
○一般ーズ
ユキオ「はあ……、ソレイユお姉さん……。えっ、僕? 何? えっ、パンツの色? 白のパンツだけど……?
……実は前に赤い髪のお姉さんに会って、あの人のことを考えるとパンツの中がむずむず 【以下、検閲により削除】
コトリー「ちょ、ちょっと、なんでそんなこと聞くのか、私にはよく分かりませんの……」 ☜ 困惑している
てんちょ「やあ! もしかして『ラルム』で働いてみる気になったかい!? えっ? し、下着の色?
えっ、私の、下着の色、かい? えっ? ……ええ?」 ☜ 困惑している
おばちゃんズ「「「えぇぇぇ!? アタシらのパンツの色が知りたいのぉぉぉ!?!? 【以下、要請により削除】
○都市伝説ーズ
人面犬「よう、俺だ。北海道犬の血を引くクールガイ、と言えばこの人面犬、半井を置いて他にはいねえ
ところでお前にいいことを教えてやる。都市伝説ってのはだな、パンツを履かないもんだ ☜ ニヤニヤしてる
聞こえなかったか? もう一度だけ言うぞ? 都市伝説は、パンツ履かない」 ☜ めっちゃニヤニヤしてる
偽警官「助けてくれ!! どこか暗い所に監禁されてんだ!! 助けてくれよっ!! あ゙あ゙!? 下着の色? 知るか!!
とにかく此処から出してくれ!! 聞こえてんだろ!? クソッ、下校中のJKを襲ったらこんな目に遭うなんて
割に合わねえんだよ!! おい!! 聞いてねえでとっとと俺を助けに来やがれ!!」
中之条「さて、我々『朱の匪賊』は世に言う『トンカラトン』から成る戦闘衆である
であるから、我々は紅き包帯を巻いている故、褌などを締める必要は……」
六郎 「我が姓は包! 名は六郎! 『朱の匪賊』、四番隊隊長であるッ!!
いかにもッ! 己れはムカデの意匠が入った紅き褌を締めておるッ!!」
中之条「隊長殿!!??」 ☜ 狼狽えている
兄者 「我が名は珍宝! 『朱の匪賊』、四番隊副隊長であるッ!!
俺は無論、魂よりも激しくッ!紅蓮の如く燃えるッ! 紅き褌だッ!!!」
ヤッコ「そしてオレがヤッコ!! 『朱の匪賊』、四番隊副々隊長だぜェ!!
勿論オレも包帯の下からはカッチョいい褌締めてるに決まってンだぜェェ!!」
中之条「副隊長殿ッ!!?? 副々隊長殿ォッ!?!?」 ☜ 激しく狼狽えだした
中之条(「十六夜の君」、早くお助け下され……!!)
その他「「「「「「包帯がある故、ふんどし締めておらぬ。さあ、トンカラトンと言え」」」」」」
○引き続き都市伝説ーズ
ヨグ坂「よ! 『口裂け女』のヨグ坂ルルだ。最近物騒になってきてんなあ、学校町
ん? 今着てる下着だって? 普通にイオンで売ってたグレーのやつだけど?」
変態クマ「ふっふっふ、クマのパンツについて聞くとは中々良いセンスしてるクマ★
もっともクマはパンツ履いていないんだクマ! というか私は都市伝説枠ではなく契約者枠なのだが……
まあいい、いずれこの学校町の女子契約者と都市伝説諸君は我が触手の餌食となって官能の海にゔぼれるのだ……
ふっふっふ、くっ、くかかかっ、くかかかかかっ、ふはは、はっはっは、アーッハッハッハッハァ!! ア゙ーっは 【以下、削除】
○「組織」ーズ
サスガ「“オサスナ”だ。何? 下着の色? それを知ったところでどうなる」 ☜ 冷静
落武者「ヌゥゥゥゥ……、……」 ☜ もじもじしている
モヒート「“モヒート”です。うん、『組織』所属です
……は? 下着、の色……? ……女子に向かっていきなりそれ聞くっていい度胸ね
上等じゃない……! 『コーラ』で溶かしてやるから覚悟しなさいな!! 逃がさないから!!」 ☜ 能力発動
∂-No.0「はい、∂ナンバーですが……。恐れ入りますが、その質問と我々の任務とにどのような関係があるのか理解しかねますが」
∂-No.0(い、今の下着について教えろ、ですって……!? 何を考えているのこの人は……、い、いやらしいこと考えてるのかしら……) ☜ 内心動揺
∂-秘書「下着の色を教えろ? それセクハラですよね? いいんですか?
言っとくけど、『組織』の然るべき部署に通報済みですので。覚悟してくださいね?」 ☜ キレてる
○「ピエロ」ーズ
ピエロ「「「オーレーたーちー!! パンツ★履いてませーん!!!」」」
ピエロ「俺は履いてるけど。ショッキングピンクのバタフライ」
ピエロ「ピエロによってマチマチなんじゃね?」
ピエロ「女子ピエロはエロ下着持ってるよなぁ……」
ピエロ「いいよなああいうの、マジ殺した後に犯りたくなる」
ピエロ「の前にお前が殺されてんだろ」
アブラ「やあやあやあ、こんばんは。今宵も元気があっていいねえ
おや、僕かい? 本体はともかく、義体の方はスタンダードなボクサータイプだが」
海から「俺は花柄のパンツかな。“娘”からの誕生日プレゼントなんだよ。俺のお気に入り♥」
○その他ーズ
東一葉「いよっちだよ。下着の色? 知りたい? 見たいの?」 ☜ 虚ろな笑顔
東一葉(わーばかばか!! 何言ってんのわたし!? あ゙あ゙あ゙!! お嫁に行けなくなっちゃうよぉぉ!!) ☜ 赤面
クル子「オッス、おらクル子。早渡とおんなじで『七尾』出身だよ!
フルネーム? いいじゃんそんなの。で、なに? ……パンツ、の色?
え、っと、上も下も白だけど。あ、後さ、 赤 いのと、 青 いの、どっちが 好き ?」 ☜ 顔は笑ってるが眼が笑ってない
まりあ「やあ、まりあだよ。脩寿の幼馴染で親友なの! 元『七尾』でーす
えっ、今日の下着? えー……。フフン、実はパンツ履いてません」 ☜ ドヤ声
地の文「こんばんわ。地の文おじさんだよ。最近は『こんばんは』と表記するとキレる大人が増えてるようだね
ダメダメ、そういうことで一々キレないの☆ で、パンツだが。……純白のブリーフを愛用している、と告白したらどうするね? ん?」
最後までお付き合い頂きありがとうございましたorz
こうして見ると主要人物より本編の敵対的なキャラのが律儀に答えてるような気がしなくもない
では前座・大王の契約者がお時間を頂きます。
>>12-18
『伝説使途』。都市伝説に関する様々な設定を引き継ぎながら、学校町とは異なる発展を遂げた世界。
前回は、伝説使徒【こっくりさん】と契約したサッカー少年の物語。
少年は、自らの周りを守るため、戦う道を選んだ。独りではなく、【こっくりさん】と双りで。
今回は、しかしなおも理解しがたい『伝説使徒』の秘密に迫る。
さぁ、『科学』が牙を剥く時間だ―――
人は噂した、「あらゆる質問に答えてくれる【怪人アンサー】がいる」と。
人は噂した、「あらゆるものを不足させる【妖怪いちたりない】がいる」と。
『Meme(ミーム)』。それは人類が進化の過程で獲得した遺伝情報の一種。
ミームは『文化』『技術』『情報』として人類の生存のために繁栄し、時に姿かたちを変えた。
そのミームのひとつに、『科学』というものがあった。
それらは世界の万物を解析し、理解し、良いミームとする能力に長けていた。
だが、科学も『伝説使徒』の登場により、立場が危うくなった。
伝説使徒は、科学的には理解できないが、実在しているのだ。
《実験を開始します。10人の被験者は、コールする準備をしてください。》
さて、質問である。
もし仮に……「ミームが意思を持っていたら」、彼らはどのような行動に出るだろうか?
例えば……伝説使徒を理解するため、『科学のミーム』が動き出す……かもしれない。
《カウント終了後、10人同時にコールを行います。》
『科学のミーム』は、進化の時を迎えていたのだ。
《3……、2……、1。》
無機質な部屋の中、ガラス越しに観測された10人の男女が、輪になって同時に電話を掛けていた。
その電話は誰とも繋がる事はなかった。ある1人を除いて。
《……質問に答えよう。どんな質問でも、解答してみせる。》
「繋がりました!……【怪人アンサー】です!」
電話から聞こえた声に対して、被験者の男性が声を上げた。
ガラス越しに、観察者達の喜ぶ姿が見えた。
「実験は成功だ! 【怪人アンサー】が誕生した!」
「我々が流布した噂を元に、ミームが伝播・成長し、『伝説使徒』と化したのか……。」
「信じがたいが、事実を認めるしかない。」
各々が意見を言い合っていると被験者の男が指示を仰いだ。
【怪人アンサー】は質問を求めていたのだ。
【怪人アンサー】は、研究者が意図的に作り出した噂だった。
最初は『所定の儀式を行うと、あらゆる質問に答えてくれる怪人と電話できる』という話だった。
やがて、『9人の質問に答えると、10人目に無理難題な質問を行う』
『最後の質問に答えられなかった人間は、体の一部をもぎ取られる』
『【怪人アンサー】は頭部だけの奇形児で、身体を完成させるためのパーツを集めている』
……と肉付けされていき、最後には、伝説使徒と化したのだ。
研究者の1人が、被験者に撤収するよう指示した。
被験者達が逃げるように部屋を出ると、その研究者が入れ替わりで入ってきた。
そして、電話をスピーカーモードにして、【怪人アンサー】に話しかける。
「はじめましてだ、【怪人アンサー】よ。」
《この研究所の所長様か。ご丁寧にどうも、私を生み出した科学者様。》
「何もかも見透かされたか。流石だ、アンサー。」
我が子を愛でるような声で、所長は【怪人アンサー】に語り掛ける。
身体はどうなのか、視界はどうなっているのか、痛みはあるか……と。
まだ頭だけだ、携帯電話越しに見ている、痛みはあるが『欲求』の方が強い……と【怪人アンサー】は答える。
「まだ誰にも召喚されていない【怪人アンサー】だったのか。」
「視界についてどうなっているのか、よく分かりませんね。機械のハッキング?」
「『ミームを維持する』という生存欲求は高いのか。痛みすら感じている……?」
【怪人アンサー】の答えは、1つ1つが研究者を刺激した。
伝説使徒を『科学』する上で、重要な情報ばかりだった。
「さて、最後に……。」
《おっと、残念ながら質問タイムは終了だ。次は……私の質問に答えてもらおう。》
それは都市伝説に倣うなら、死刑宣告に近かった。
思わず、研究員の女性が叫んだ。
「所長! 今すぐ逃げてください!」
「構わない! その代わり、僕が勝ったら……協力してくれ、アンサー。」
《……ふむ、良いだろう。では、所長様なら簡単な問題を出そう。》
ガラス越しに、研究者達が息を呑む。
《『伝説使徒』を構成する、主な要素を答えよ。》
無理難題だった。
それを調べるために、我々は研究しているのだ。逆に聞きたいくらいだ、と研究者達は思う。
それは、科学への挑戦か―――嘲笑だった。
だが、それに屈することなく、所長は答える。
「……お前達、『伝説使徒』を構成するには、既存の物理学では不可能だ。
よって、異なる物理現象を定義する必要がある。」
《ほう……?》
「それを可能にするのは、『集合意識』と『情報エネルギー』だ。」
所長は説明する。
『集合意識』とは、全人類の意識が、無意識にリンクし、ひとつのネットワークを形成しているという仮説だ。
伝説使徒は、その集合意識ネットワークでシミュレートされた世界に生きている。
『情報エネルギー』とは、情報自体がエネルギーに変換できるという仮説だ。
この仮説と、集合意識ネットワークを利用すれば、伝説使徒は自らのミームを消費して、物理エネルギーに変換できる。
そうやって、伝説使徒は現実世界に干渉しているのだ。
「……人間の脳はかくも複雑で、理解しきれない。伝説使徒は、その脳に間借りする事で、自分達を維持している。」
「お、お言葉ですが所長! 人間の脳なんて、いつ・どこが書き変わるか不明では!?」
研究者の男性が叫ぶが、所長は流暢に答える。
「だから『契約』するんだ。常に書き換わる恐れがある集合意識ネットワークを漂流するより、
特定の脳で自分の領域を確保した方が良い。そのための契約なんだ。」
そして集合意識ネットワークを利用するメリットは、まだある。
人間の脳によるネットワークなら、あらゆる計算・情報にアクセス可能なのだ。
集合意識を利用すれば、あらゆる質問に、瞬時に解答できる。
「キミのようにね。アンサー。」
《……。》
ガラスの向こう側で、拍手が鳴り響いた。科学の勝利を確信したのだ。
《あと、1つは?》
「なに?」
《最後の1つは、なんだ?》
拍手は沈黙に変わった。
伝説使徒を構成するためには、あと1つピースが欠けている。
誰ひとり、助言できるものは居なかった
「そんな……。」
ある女性研究員は、違う視点で事を見ていた。
実は、先の推論は半ばハッタリだったのだ。
所長の身体には、いくつかの発信機が取り付けられている。
それで【怪人アンサー】の居場所を暴く、それが今回の目的だったのだ。
……だが、そのハッタリが『当たってしまった』。それは大きな問題を生んでしまうのだ。
「所長! そいつは嘘つきです!」
「な、何かね急に! 【怪人アンサー】を疑うのか!?」
女性研究員の叫びに驚き、他の研究員達がざわめく。
だが、構わず女性研究員は叫び続けた。
「だってあり得ないじゃないですか……! 伝説使徒を構成するものが、
【集合意識】と【情報エネルギー】という伝説使徒なんて!」
それは、完全な矛盾だった。【集合意識】も【情報エネルギー】も、伝説使徒として観測されているのだ。
それらを構成するのが『集合意識』と『情報エネルギー』、どちらが先に存在したのだろうか?
「そんなの……『伝説使徒』が先に存在しないとあり得ない……!」
しばしの沈黙を経て、所長は口を開いた。
「今、何と言った?」
「え?」
所長は、彼女の言葉を聞いて、ある解答を閃いた。
「お前は……【伝説使徒】という『伝説使徒』が存在する……そう言うのか?」
―――彼女に返事の間も与えず、所長は言葉を続けた。
「答えろ、アンサー!」
.
―――静寂の中、カチカチと歯を鳴らす音が、電話越しに聞こえた。
《流石だ、科学者様。正解だよ。【伝説使徒】、それこそが我々の生みの親。いわば、神。》
「神……だと?」
またもや研究者達がざわめき出すが、構うことなく【怪人アンサー】は続ける。
《神と言っても、【付喪神】や【八百万の神】のような超人的な存在ではない。
もっと上! もはや概念として、我々の世界に君臨する存在……!》
「それが……【伝説使徒】。」
「そんなものを……信じろって言うんですかッ……?!」
【怪人アンサー】は笑いながら答える。
時間が流れるように、空間が広がるように、命が鼓動するように、伝説使途という概念は『あった』と。
その概念に従って生まれるものこそが、自分のような『伝説使徒』だと。
そして、それを食い止める手段は、時を止めるように、空間を押し潰すように、あり得ない……と。
《だが、おそらく【伝説使徒】は、『集合意識ネットワーク』と『情報エネルギー』を利用している。
それだけは正しいと教えておいてやろう。》
「そんな……集合意識や情報エネルギーという概念ごと、【伝説使徒】は存在『していた』……?」
《尤も、【伝説使徒】の全貌を知る者はいない。私さえも、その存在を信仰しているに等しいのだ。》
彼女は、床に膝をついて失意した。
《どうした、所長様? 正解なのだから、喜ぶがいい。》
所長はギリリと歯を鳴らした。
科学的に『伝説使徒』を解明するはずが、非科学的かつ超常的な存在である事を突き止めてしまった。
まるで、敗北するために科学してきたようだった。
だが、やがてニヤリと笑い、口を開く。
「ありがとう、アンサー。良ければ、次の実験にも協力してくれ。」
《……約束だ。多少は協力してやろう。》
返事を聞いた所長は……ポケットからスイッチを取り出し、ボタンを押す。
《ッ!?な、何ィ!?》
「【集合意識】と【情報エネルギー】……その伝説使徒は研究済みだ!
僕は今、集合意識ネットワークに参加していない……特殊な装置を使ってね。
だからこの機械をお前は知らない……僕から君への、誕生日プレゼントだ。」
【怪人アンサー】は身体が吸い取られるような感覚に襲われた。
いや事実、携帯電話から飛び出し、謎の機械へと吸われているのだ。
「特製の『電脳契約機』だ! スーパーコンピュータの中でミームを維持し続けるがいい。
……僕達に解析可能なコンピュータの世界で、生き続けろ。」
《……きィさまァァァ!》
―――【怪人アンサー】は、機械の中へと封印された―――
「実験は成功だ。各員、伝説使途の解析を始めろ。」
「「 ……は、はいっ! 」」
科学は、常に進化するミームである。
非常識だと言われ、笑われた事も、いつしか常識となっていた。それが科学。
ならば。【伝説使徒】という概念さえも、科学の限りを尽くすしかない。
伝説使徒を滅ぼす、その時まで。
人は噂した、「『伝説使徒』を研究する、組織がある」と。
人は噂した、「『伝説使徒』を利用し、何かを企む者もいる」と。
―――これは、『伝説使徒』と契約し、『伝説使徒』と戦う者達の物語―――
という訳で、科学サイドのお話でした。
はたして、電脳の牢獄に囚われた【怪人アンサー】はどうなるのか……。
そして、人間の脳を利用するワケのアンサーです。
集合意識ネットワークで造られた、もうひとつの世界で生き、
情報エネルギーを変換し、光や音、物理衝撃に変えて現実世界に干渉する生命体。それが伝説使徒。
機械よりもはるか昔に、機械以上のものが存在していたのです。この世界には。
次回以降は、巻き込まれてメリーさんと契約した男を進めようかなと。
あの男もまた、次々と妙な事件に巻き込まれるので、期待してくださいな。
だ、誰も来ないならスレを乗っ取るまでよー!(泣
●あらすじ
その日まで、男は普通の日常を送っていた。
しかし、都市伝説でしかないはずの【口裂け女】に襲われ、彼の日常は崩壊した。
窮地の末、男は【メリーさん】と契約し、難を逃れる。
しかし『伝説使徒』と呼ばれる彼らは、まだまだ無数に存在する。
さて彼は、その後どのような人生を歩むのか……。
「私、メリー。今ね、あなたの後ろに居るの。」
俺の後ろから、確かにそう聞こえた。
「あぁ、知っている。」
そう言いつつ振り返ると、不機嫌そうに頬を膨らませた【メリーさん】が、こちらをじっと見つめていた。
「……ひーまー! 暇ひまヒマ、ひぃ~まぁ~!」
絶叫しつつゴロゴロを床を転がる【メリーさん】。
放っておくと近所迷惑……になるかは分からないが、なだめるとしよう。
この子は、俺の妹や養子ではない。そもそも、『人間』ですらない。
俺が契約している、『伝説使徒』だ。
伝説使徒とは、この世界に存在する不思議な生命体。
人を襲ったり、逆に守る事で生命を維持する、奇妙な生態を持つ。
そして、普通の人間には見えず、声も聞こえない等の特徴もある。
こんな幼い女の子だが、いざ戦おうとすると、俺なんかでは比較にもならない。
伝説使徒は、人間なんかよりも遥かに高い戦闘能力、そして特殊能力を持っている。
「だってマスター! 仕事帰りなのに、ずっと引き籠ってPCばかり触って!
ちょっとは遊びなさいよ~!」
「あぁもう、これは今度の仕事を、円滑に進めるための準備なんだ。」
しかし、契約したての頃はもう少し、清楚というか無口な女の子だったのに、何故こうなったのか。
【メリーさん】と契約してから、俺のライフスタイルは大きく変わった。
食費も1人分多くなったし、毎日この子に付きまとわれるし、野良の伝説使徒に襲われるし……。
だが、ボディガードだと思えば、安い出費だ。あんな化け物から逃げ回りつつ生きるのは困難。
【メリーさん】と契約した事は、ちょっと賑やかなルームシェア程度の感覚だ。
「どこか遊びに行こうよ~?」
「もうこんな時間だぞ。飯の支度する。」
そう言いながら冷蔵庫を開けると、食材を切らしている事に気づいた。
まだ2人分の食材を把握しきれていないな……と考えつつ、出かける支度をしようとすると。
「あ、じゃあ買い物行ってあげる! その代わり、今度の休みに遊園地ね!」
と返されてしまった。
「―――良いか、財布はここ、メモはここで……。」
「子どもじゃないんだから、分かるわよ。」
子どもだろ、という言葉を飲み込んで、鞄を渡す。
伝説使徒とはいえ、子どもに買い物を任せるなんて、初めてだ。
ちゃんとできるだろうか……。
「えっと、駅前のスーパーの場所は……。」
「それも分かるわよ。安心しなさいな。」
「そうか? 迷ったら電話するんだぞ。」
そう言って再びPCの前に座ると、早速【メリーさん】から電話が掛かる。
「なんだよ、まだ玄関すら出て……。」
「私、メリー。今ね、駅前のスーパーに居るの。」
とっさに振り向くと、【メリーさん】は居なかった。
おそらく、もう駅前のスーパーに『転移』したんだろう。
【メリーさん】の特殊能力『転移』は、電話を掛ける事をトリガーとする。
掛けた対象が知っている場所へ、瞬時にテレポートできるのだ。
俺に掛けた場合、俺が行ったことのある場所全てへテレポートできる。
ただし他人に掛けた場合、【メリーさん】から半径・数百m以内の場所しか行けない。
地球の反対側から『あなたの後ろに居るの』とは言えないわけだ。
「……まったく、さすが伝説使徒だ。」
さて、うるさいのが出かけたので、さくっと仕事を終わらせる。
資料作成なんて慣れたもので、プレゼンの台本もすぐ完成した。
……では、最近始めた課題を進めていこうか。
借りてきたDVDを流しつつ、あるアプリの開発に取り組んでいた。
『伝説使徒の研究』……とでも言うべきだろうか。
【メリーさん】の能力は、はっきり言って常識外れだ。
だが、ITの人間としては、だからこそ理解したいという思いがある。
せめて、その一端だけでも……。
最初の課題は、『メリーさんの転移能力』だ。
別に、転移そのものを再現しようという訳ではない。ただ、その前段階に興味がある。
『電話相手の記憶から、座標を割り出す』という工程を、どのように行っているのだろうか?
もしも、記憶へのアクセスに携帯電話を利用しているなら……その情報をアプリケーションで取得できる。
理屈はどうであれ、脳波をインプットに利用できるのだ。
……まぁ、簡単に行く訳もなく。【メリーさん】から情報を取得するアプリさえ、完成のめどが付いていない。
心当たりを元に、KKD法でトライしてみよう。
「……あれ、静かだな。」
【メリーさん】が帰ってこない、という意味ではなく。
DVDが再生されていない? そう思ってTV画面を見た。
そこには、井戸から這い上がってくる、白い服の女性が映っていた。
俺はその光景を知っていた。だが、あり得なかった。
ホラー映画なんて、俺は借りていない。
「の……【呪いのビデオ】か!?」
マズい、どうにかしないと。とっさにリモコンのボタンを連打する。反応がない。
TVに近づき、直接電源や、あらゆるボタンを押す。反応がない。
こうなったらと電源プラグに手を伸ばそうとした瞬間、何かが服に触れた。
「うわっ!?」
とっさに飛び退くと、白い服の女性が画面から出てきていた。
混乱しつつも頭は高速回転する。この状況を打破する方法。【メリーさん】がここに来る方法……。
「そうか……!」
机の上のスマートフォンを手に取る。手を引くと同時に、刃物が机に刺さった。
……もはや、この程度で驚いていたら生きていけない。
とっさに、女性に背を向けて、あのダイヤルへ電話する。
「……。」
「【メリーさん】ッ!」
数秒後、金属音が部屋に鳴り響いた。
「私、メリー。今ね、あなたの後ろに居るのッ……!」
「……!」
契約の履行である。俺は、存在しないはずの【メリーさん】の電話番号を知っている。
それにより【メリーさん】へ電話が可能なのだ。
応用すれば、このように瞬時にメリーさんを召喚できる。
振り返ると、買い物を終えた【メリーさん】が、白い服の女性と刃を交えていた。
白い服の女性は、さっと飛び退いて距離を取る。
「買い物お疲れと言いたいが、さっそく仕事だ。」
「見れば分かるわよ。まったく、人使いの荒いマスター。」
【メリーさん】が来てくれた事で、より冷静に状況を分析できる。
俺の記憶では、【呪いのビデオ】の効果は『視聴した7日後』だったはず。
視聴してすぐ現れるものだろうか? 【メリーさん】に尋ねてみた。
「伝説使徒はミームを維持するために必死よ。多少は自力で、ミームを書き換えようとするの。
『彼』だって色々苦労しているのよ。」
「だからって襲われる身にも……『彼』?」
改めて見ると、【呪いのビデオ】から現れた白い服の人間が震えだす。
「……あぁ。私とて、生きるためには、どんな手でも使おう。」
野太い声が、部屋に響いた。
「お前、……まさか。」
「……そうだ、 男 だ よ ! 」
冷静になった今、『彼』を観察する。
確かに髪も長く、女性のような衣服を着ているが……身体つきが男だ。
「……お前達人間のせいで、【呪いのビデオ】と言えば、貞子になってしまった。
……そのせいで何をやっても【貞子】のミームが強くなるばかり……。」
なるほど。伝説使徒はミームを維持するために人間を襲う。
だが、『襲えばミームを維持できる』とは限らないのか。
おそらく様々な種類の【呪いのビデオ】があったんだろうが、それが全部【貞子】の手柄になる。
エサを横取りされ続けているようなものだ。いずれ、【貞子】だけが【呪いのビデオ】となる。
「……ならば、私も【貞子】として生きるしかない! こうやって、女装してでも!」
「―――すーっごい、分かるんですけど!」
何故か、【メリーさん】が身体を乗り出した。
「私、契約するまでは清楚な女子高生を目指してたのよ。それが今は?!
どう見ても女児! あいつ、あぁ見えてロリコンよ!」
「……なんと。契約に、そのような弊害があったとは……。」
「人間って本当に、自分勝手にミームを書き換えて!
きっとさっきも、脳内では『はじめてのおつかい』を妄想していたに違いないわ!」
……気が付くと、2人は座り込んで愚痴を言い合い始めた。
邪魔をする訳にもいかないので、俺は【メリーさん】が買ってくれた物を拾い、台所へ向かう。
2人の会話をBGMに、慣れた手つきで夕食を作る。作り置き分……と言いたいが、これも無くなるかね。
「おぉい、飯ができたぞー。」
そう声を掛けた頃には、すっかり意気投合していた。
「あ、はーい。盛り付け手伝うねー。」
「……そうか、ん?」
食卓に料理を3人分並べると、俺達はいただきますの合図で食べ始めた。……1人を除いて。
「……何を、しているんだ?」
「何って、夕食だよ。」
【呪いのビデオ】からの質問に、俺は当たり前のように返す。
「アンタも食べなさいよ。せっかく来たんだし。」
「……俺は、お前達を襲おうとしたんだぞ?」
そういう【呪いのビデオ】が言うので、俺は一旦箸を置く。
「【メリーさん】。こいつ、倒せるか?」
「えっ……。」
少し迷う素振りを見せたが、【メリーさん】は小さく首を振った。
「だとさ。じゃあ無理だ。」
俺は再び、箸を進めた。
「……何故?」
「【メリーさん】には倒せない。当然、俺にも倒せない。
誰にも倒せない以上、こうするしかないだろう。食うか、襲うか。自由にしろよ。」
そう【呪いのビデオ】に伝えて、俺は飯を掻きこむ。
【メリーさん】も安心したのか、箸の進みが早くなった。
「……俺は、食事ができない伝説使徒だ。だから、要らない。」
「へぇ、低燃費だな。そっちの方がいいな。」
「……いや、食事ができる伝説使徒の方が、保持できるエネルギーが高い。」
【呪いのビデオ】曰く、自分は『己のミームを消費して活動する』。
食事するタイプは、『ミームだけでなく、物理エネルギーを消費して活動できる』。
ミームを消費、という概念が今ひとつ理解できないが、なんとなく理解した。
【メリーさん】のような伝説使徒は、転移する際に大きなエネルギーを消費している。
なんせ、自分が買ってきた食材なんかも転送できるのだから。
そのエネルギーの出所は、情報として格納された食べ物……という訳だ。
こいつらと付き合い慣れた俺としては、「興味深い」とさえ思えた。
【メリーさん】の食事シーンをなんとなく見ていたが、俺達とは異なる現象が中で起きているんだ。
余分に盛ってしまった食事を食べつつ、色々考え込んでしまう。
伝説使徒は情報の塊であり、他の物質さえも情報化できる。
ならば、機械と組み合わせると、どのような事ができるだろうか……。
「あ、マスター。また食べながら考えてる。」
「……いつも、こうなのか?」
「うん。仕事の事とかばっか考えて、あまり喋ってくれないの。」
などという会話を聞き流しつつ、ごちそうさまをして食器を片付ける。
「えっと、申し訳ないが襲われてやれない。元のレンタル屋に帰ってくれ。」
「……いや、こちらこそ済まない……こんな事は初めてだ。」
だろうな。だが、慣れてしまったものは仕方がないのだ。
こいつらだって、俺達のように生きている。
よほど害意がない限り、無暗な殺生は避けたい。
「じゃあ、縁があったらまたね。」
「……あぁ、うっ!?」
【呪いのビデオ】が、急に頭を抱えだした。
俺も【メリーさん】も支えようとするが、振り払われる。
「逃げ、……我が名は貞子。汝らを呪うものなり。」
「は?」
冗談だろ、と言いかけた時、【メリーさん】に突き飛ばされる。
【呪いのビデオ】は、俺のいた場所に鋭い爪を振るっていた。
「……冗談だろ?」
「ミームが書き換わったわ。もうアイツは【貞子】なのよ。
契約をしていない伝説使徒だもの。こうなるって……分かり切ってたのに……。」
【メリーさん】が抜刀し、対峙する。
……科学とか、常識とかでなく、信じられない。これほど簡単に、伝説使徒は『死ぬ』のか?
こんなの、あんまりじゃないか。ミームが書き換わっただけで……。
―――人間って本当に、自分勝手にミームを書き換えて―――
「そうだ……。」
思わず、俺は【貞子】を名乗るものに体当たりした。不意打ちだったのか、奴は転倒した。
「ちょっと?!」
「【メリーさん】は足を抑えていてくれ!」
もがくソイツに向けて、俺は語り掛ける。
「おい! 俺はお前の本当の姿なんて知らない。だが、俺は知っている!
生きるために必死だった事、そのために変装までした事、……なのに俺を襲わなかった事!
お前、本当は優しいんだろ! お前だって、無意味な殺生はしたくないんだ!」
【呪いのビデオ】が、本当にそうだったのか……それは、願望でしかない。
だが、俺は人間だ。自分勝手に行かせてもらう。
「お前が、お前のままで居たいなら……俺と契約しろォ!」
.
―――長い時の流れを感じる
気が付くと、【メリーさん】が俺の顔を覗き込んでいた。
「お、よう。俺は……。」
「バカッ! 心配したんだからね!」
グッと絞められる俺。ちょっと苦しい。
えっと、確か【呪いのビデオ】が襲い掛かってきて……。
「そうだ、アイツは?」
「……ここだ。」
TV画面を見ると、ノイズと共に謎の影が映っていた。
井戸でもなければ、白い服の女性でもない。だが、たぶん本当の姿ですらない。
「えっと……失敗だったか?」
「……いや、成功なんだろう。お望み通り、私は私の人格を維持できた。
もう、誰も襲う必要はない……。」
それは良かった。と安堵するも、【メリーさん】に背中を殴られる。
「なんの許可もなく、2体目の伝説使徒と契約するなんて!
もしも脳がパンクしたら、どうする気だったの!?」
「あ~……すまない、無我夢中だった。」
「ほんっとうに……心配したんだから……。」
……この時まで、俺は全く気付いていなかった。
【メリーさん】は、俺にとって家族と言える存在になっていた事に。
人間だとか、伝説使徒だとかの垣根は、そこに無かったんだ。
そして今日、もうひとり家族が増える。
「無茶をしたが、すまない。これから宜しくな、【呪いのビデオ】。」
「ねぇ、それなら名前が必要じゃない?」
それもそうだな、と数秒考え、パッと出てきたのは。
「じゃあ、[ビデ男]だ。」
「……えぇ……。」
……引かれてしまったので、名前はまた考えるとしよう。
しかし、【呪いのビデオ】……いざ仲間になると思うと、少し気になる点があるんだ。
これは、研究しがいがあるぞ……。
「あ、マスターが仕事顔。」
「……何故だ、悪寒がする。」
―――これは、『伝説使徒』と契約し、『伝説使徒』と戦う者達の物語―――
という訳で、今度は【呪いのビデオ】の事情に巻き込まれた男でした。
ミームの書き換え・ミーム汚染とも言うべき現象は、人間以上に伝説使徒を苦しめる……。
次回は、メリーさんの約束を守るなら遊園地に行くのでしょう。そこで何も起きなければ、いいですね。
○前回の話
>>22-24 次世代ーズ
※この話は作中時間軸で【9月】の出来事です
○時系列
●九月
・早渡、人面犬からモスマンの話を聞く
・高奈先輩、偽警官と遭遇し返り討ちに
・早渡、同じ施設出身の千十と再会
・早渡、「組織」所属契約者と戦闘
・早渡、高奈先輩と友達になる
・「怪奇同盟」に挨拶へ
・早渡、東中でいよっち先輩と出会う
花房らと共に三年前の事件の「再現」に立ち会う
診療所で「先生」から話を聞く
・ソレイユ、変態クマに捕まる
・「ピエロ」、学校町を目指す
・∂ナンバー、会合
・金曜日、早渡は「ラルム」へ ☜ 今回の話はここです
・いよっち先輩、自分を取り戻す
その夜の内に居候先を確保する
・早渡、マジカル☆ソレイユと遭遇
・∂ナンバー、「肉屋」の侵入を予知
●十月
・「ピエロ」、学校町へ侵入
●十一月
・戦技披露会開催
・診療所で「人狼」イベント
「人狼」終了後、いよっち先輩が遊びに来る
・バビロンの大淫婦、死亡
・「狐」本戦?
色々あったけど今週もようやく金曜を迎えた
というわけでこの日の放課後、俺は「ラルム」にやって来ていた
「ねー教えてよーザベ子の彼氏ってアンタでしょー?」
いや別に毎日「ラルム」に通い詰めてたってわけじゃない
ただ何というか、自分の中では既に
金曜の夕方は「ラルム」で過ごそうっていうのが出来上がっていた
「ねーってばー黙ってないで教えろよー、なー」
そんなわけでこの日の夕食を「ラルム」で、ってわけだ
注文したのはクロックムッシュ、コトリーちゃんイチオシのメニューだ
「いーじゃんいーじゃん別に恥ずかしがんなくてもさー、聞いてる?」
確かに美味しい、うん、美味しいんだ
ただ、それを伝えようにも、今日はコトリーちゃんもお休みらしい
もっと言うと千十ちゃんも居ない。代わりに居るのはおばちゃん店員さんと
「てかこのお店に独りで入っといてさー恥ずいとか今更じゃんねー」
この、さっきからやたら俺に絡んできている女子大生のバイトのお姉さんだ
「ラルム」の制服の上からでも分かる程なかなか豊かなお胸の持ち主のようですが
どうしてこんなにも心ときめかないんだろうか、我ながら不思議でならない
「あ、聞いてる? どうなの、ホントにザべ子の彼氏?」
「違います、ていうかザベ子って誰っすか」
「ウソウソ、絶対ウソ! そういうのわかっちゃうんだよね。絶対ザベ子の彼氏でしょ!」
ダメだこの人、全然話を聞いてくれない
しかも声が大きいので割と店の中に響いてる
他のお客さんにもバッチリ聞かれてるんじゃないか?
バイトさんに悟られぬように店内に眼を走らせるが
聞こえてないのか、それとも知らない振りしてくれてるのか
こっちを見ているお客さんは皆無だった
一見すると、前に会ったオバちゃんズの姿は無いものの
「ラルム」の客層って、全体的に年配の方々が多いようだな
いや、待て
女の子と目が合った
見たところ、学校町東区にある高校の制服だ
あの「怪奇同盟」本部の墓地の近くにある高校の子らしい
眼鏡の女の子だ
目が合うどころでは無かった
女の子は物凄い形相で俺の方を睨み付けていた
な、なんで!? なんで睨まれてるんだ!?
こっちのバイトさんに対して、ってわけじゃないよな?
すると俺か!? 何かまずいことでもしたのか、俺は?
「ねー、ウチのバイトのどっち狙いなワケ? ザベ子? それとも千十っち?」
「すいません、もうそろそろ帰るっす」
「えーなんで!? 食い終わったらそのまま帰るって、ちょっとねえ、アタシと話しよーよー」
ちょっと睨み付け方が尋常では無い
特に恨みを買う覚えは、無い、と断言できない所があれだが
少なくとも、女子に対して何か失礼なことをしでかした覚えは無い
これは断言していい
あ、でも「七尾」出身者だった場合はちょっと話が変わるぞ
少なくとも、ここは早く退いた方が良さげだ
俺を睨んでるあの子に直接話を聞くってのも手だが
あの睨み方じゃ穏やかに話が出来るかどうか、全く自信がない
しかも今日は千十ちゃんもコトリーちゃんも居ない
仕方がない、もう今日は帰った方がいいだろう
「この店さー若い子あんまし来ないんよー、もっと話しよー?」
「いやホントすいません、もう帰らないとヤバいんで」
「えー!?」
ブー垂れてるバイトさんを適当にあしらいつつ
俺はもう席を立った
俺を睨んでた子、何だか生真面目そうな雰囲気の子だ
もしかしたらこういう雰囲気の店に
俺のような商業男子が居ること自体許せないってクチかもしれない
そうだとしたらやっぱり早々に店を出るに越したことは無い、また日を改めよう
●
「っ違います! そういうんじゃありません!」
「えー違うのー?」
聞き慣れた声に、日向ありすは顔を上げた
テーブル席にやって来たのは同じクラスの遠倉千十だ
急いで来たのか、肩で息している
「ごめんありすちゃん、待った?」
「ううん、全然」
読みかけの文庫本を閉じて応じる
時間で言うと日没直後だろうか
千十がやって来たのは先程の商業男子が店を出て十数分後のことだ
「先生、仕事溜め込んでたみたいでようやく終わったの」
「あー、まあ仕方ないわね、うん」
親が家を空ける為、ありすは今日の夕食を外で取る積りだった
すると千十も一緒に行きたいと言うので「ラルム」へ行くことにした、が
放課後、急に千十が教員に捕まって仕事を手伝わされることになったのだ
「でも千十、今日シフト休みだったんでしょ? いいの?」
「大丈夫だよ、本当は今日お仕事だったんだけど」
そんなことを口にしながら千十は横目を向ける
つられてありすが顔を向けると、バイトの女子大生さんがキッチンへ入って行く所だった
「急にシフト交換するように言われちゃって……」
「それで休みになったんだ」
「うん、でも今日はお仕事の方が良かったな」
「へえ。千十、働くの好きなんだ?」
笑いながらありすはそう尋ねるが
彼女はむう、と口を曲げてキッチン入口の方を見詰めるだけだ
「それより日も暮れちゃったけど、ありすちゃんは大丈夫なの?」
「平気平気。どうせ母さん、お父さんの所に行ってるし、明日まで帰らないわよ
愛に飢えてるとかどうとか言ってたし」
「ラブラブっていいね、羨ましいなあ」
「そういうもんでも無いと思うけど。あ、千十はどうなの?
今日はお姉さん遅いの?」
「うん、上司に居酒屋でお説教されるんだって」
「お説教って……、お姉さんも大変ね」
「お姉ちゃんにはいい薬だよ、ほんとにもう」
不貞腐れたような表情の千十を見て、思わず笑ってしまう
「あ、千十。帰りは私も一緒に行くからね」
「え、大丈夫だよありすちゃん、心配しないで」
「だーめ、最近は以前より物騒になってるの知ってるでしょ?」
「でも、ありすちゃんのお家と反対側だし、ありすちゃんも危ないよ」
「私にはメリーがいるし、いざってときは大丈夫だから!
それに今、ちょっとヤバい奴が居るみたいだから尚更警戒しないと」
恐らく千十は知らない
このときのありすの言葉に、僅かに怒りが籠ったことを
「千十ちゃんと、ありすちゃんね、いらっしゃい。ゆっくりしてってね」
女子大生さんでは無く、おばちゃん店員の方がメニューを持ってきた
お礼と共にメニューを受け取る
千十と一緒に何度か来ている所為か、もう名前を覚えられている
先程の会話は、多分聞かれてはいないだろう
まあ聞かれていたとしても、今の所は特に当たり障りの無い話なのだが
「最近、変態が活気づいちゃってるみたいでね」
「へん、たい?」
おばちゃんが立ち去るのを確認した後でありすは切り出した
彼女の言葉に、水の入ったグラスを握ったまま
千十はきょとんとした表情で聞き返した
「そ。性質悪いことにそいつ、契約者よ
早く『首塚』に捕縛されてほしいんだけどね
でなきゃ『組織』に仕事してほしい所なんだけど」
「怖いね……」
「大丈夫よ、目星は付いてる」
「え?」
このとき、ようやく千十も気づいたようだった
ありすの言葉に、明確な敵意が滲んでいることに
「この手で始末するわ、必ずね……!」
静かにそう告げるありすの眼は
真っ直ぐ、「ラルム」の入口に向けられていた
続く……?
「何だろうな、今の寒気は」
南区に向けて歩道を行く早渡はこのとき、謎の悪寒に襲われていた
生来勘が鋭いというわけでは無い早渡だが
時折このような嫌な予感に襲われることがあるらしい
「やっぱ今日はすぐ家に戻った方が、って、うん?」
早渡の携帯が震え出したのは丁度そのときだった
表示を確認すると「半井」からの着信だった
人面犬、半井のおっさんだ
「もしもし、早渡です。うん、半井のおっちゃん? うん」
通話に応じた早渡だったが、彼はすぐに眉をひそめた
「迷子? え、何? はあ、『コロポックル』ね
俺は多分、まだ会ったこと無い子だよね、うん
今日なの? ああ、そう。分かった。南区ね、おうよ」
早渡は通話を切る
「家に戻ってシャワー浴びる時間は、無いよなあ」
独り言ちた後、暫し黙考し
やがて早渡は走り出した
「まあ、このままでも問題は、無いか……!」
□■□
早渡脩寿
南区の商業高校に在籍する一年生
同世代の女子の身体への興味が尽きないお年頃
「次世代ーズ」が開始する年の四月に学校町へ越してきた
彼は「組織」と関わり合いになりたくないようだが運命がそれを許さないようだ
最近ハマっていることは自炊、らしい
好きな物:女体、スケベコンテンツ、料理
嫌いな物:「組織」、「教会」、「狐」、クソ野郎
明日中には何とか投下します…よぼよぼ
スレ見返したら見逃してましたので回答
1 ノイお母さんの趣味を教えてください
ノイ「趣味?柳かなー?あと、音が好きでピアノたまに弾くよ!」
2 澪とキラの今日の下着について教えてください
澪「私のは言えませんがキラの下着なら言えます。黄色地にイチゴ柄です」
キラ「あたしのは言えないけど澪のなら知ってるわ。水色に白のチェックよ!」
こいつら本当に親友だろうか
3 今後澪とキラのお色気シーンはワンチャンありますか?
水着くらいならありかなー(その前にいろいろ書くものが)
4 澪の隠れた性癖について教えてください
隠れSです
「ひかりちゃん、危ない!」
「真降お兄ちゃま!」
後方の気配にいち早く気づいた真降が、ひかりを背後に庇い、手を前に翳す。
100メートルほど距離の空いていたひかり達と、「アブラカダブラ」の契約者達の間に、分厚い氷の壁が築かれ、それぞれを隔てた。
「これは面白いね。ひかりちゃんというお姫様には、ちゃんとナイトがついてたとはね」
「どうする?『海から』の。あの氷使い、なかなか厄介そうだよ。頭も切れそうだ」
「そうだね。じゃあ…」
「あたしがさきよ!」
叫んでひかりが「槍」を掲げる。
「ダメだ、ひかりちゃん」
制したのは轟九。いったんは掲げた槍を下ろし、ひかりは轟九の顔を見上げる。
「あれはダメだ。なんかわかんねぇけど、危険な気がする」
「ライダーのおじちゃまも、同じこと言ってた。轟九お兄ちゃま、勘に自信ある?」
「テストのヤマは、外したことねぇ」
「じゃあ、こっちだね」
ひかりは手鏡を取り出し、照準を二人の男に定める。
「そうさせるわけには行かないから、こちらも動かせてもらうよ」
二人の男が、不敵に笑う。
続く
とりあえず、戦闘のさわりだけ書かせていただきましたー。
続きは次世代ーズの人にいったん投げます!よろしく!
キャラ描写とかでわからない事があったらどんどん聞いてください
鳥居の人お疲れ様です!!
今続きを書いてるけど、これちょっと今夜中に間に合うか分からない……!
すいません、確認したいのは一つです
・真降君は普段から(対「ピエロ」戦でも)「七星剣」を持ち歩いているかどうか
前スレと避難所を調べてたんですがちょっと自信が無かったです
今の所、氷の剣を生成して頂く感じで書いています
>>67
>隠れSです
何故だろう
これ見た瞬間に直ぐ思い浮かんだのは澪ちゃんではなく緑君だった
彼の淡い何とかがどうなるか見守りたい所ですが
作中の時間軸的にそれどころじゃないですね
ひかりちゃんと桐生院兄弟が頑張ってる数時間後には
確か「凍り付いた碧」が襲撃される予定(のはず)
緑君にも藍ちゃんにも何とか生き延びてほしい……
アダムさんにも生き延びてほしかったが
こうなってしまった今では今度誰がドロップするか分からない
「次世代ーズ」の中の人の対応スピードがもう少し速ければ
早い内に「凍り付いた碧」配下の下位メンバーと絡みたかったのですが
だが今はそれでどころではない、>>68の続きを書きます!
ナユタと恭一は、京也達に連れられ、とある教室に辿り着く
がらがらと扉を開けた瞬間、ナユタは驚愕した
ソリッドビジョンのモンスター達が消え、その場に崩れゆく男子生徒
それを見て、やかましく笑う恰幅のいい青い制服――オベリスクブルーの男子生徒
「だーっはっはっはっはっは!!
こりゃ良いぜぇ、これであのにっくきゼロの野郎を――――」
「俺がどうかしたのか? 霧島団布」
「フルネームで呼ぶんじゃねぇ!?…って、良いところに来たなぁ、ゼロ」
恰幅のいい生徒――霧島団布はにやぁっ、と笑いながらデュエルディスクを構える
「今日こそお前の鼻をへし折ってやるぜ」
「ハァ、あのね団布くん、その前に今まで被害にあった生徒について説明をして欲しいんだが」
「フン! あいつらはこの俺の新しい切り札にのされて気を失っちまったのさ
お前もこれから保健室送りだ!!」
「ええ加減目ぇ覚ましや! おかしいと思わへんのか!?」
「団布! どう考えても、超常的な力が介入してるとしか思えない!
その例のカードを手放せ!」
「ぶっちゃけ見てみたいんだけどよー(ガッ!!)ぐふっ……そうだ手放せー!」
「ていうかお前等……俺はオベリスクブルー2年だぞ!?
1年の、しかもオシリスレッドのドロップアウト共が呼び捨てにしやがって!!
団布“様”といえ!!」
「んーじゃあ、仕方ないね」
「待ちたまえ恭一君、僕は例の未知のカードを知っている
君では不利だ、ここは僕に」
「有難うナユタ、でもこの決闘―――――「俺がやる」」
恭一と赤トカゲ――もとい、ブレイズの声が重なると、
ブレイズの姿が赤い光に変わり、恭一の身体に入り込んだ
カッと見開いた彼の眼は、燃え盛る炎のように赤く輝いていた
「俺、炎上!!」
(あ、『電王』だこれ)
ビシッ!!と決まるポージング
見慣れているのだろうか、周囲の反応は恐ろしく薄い
その反応が、逆にナユタの正気度を失わせる
「へっ! やっとやる気になったようだなぁ、ゼロ!」
「何言ってやがる、俺のやる気はいつだってレッドゾーンだぜぇ!?」
「あぁもう『電王』だこれ」
「ナユタ、どうかしたのか?」
「いや、何でもない、気にしないでくれたまえ…ん? 彼、デュエル・ディスクはないのかね?」
「いやいや何言うてんねん、ずっとつけてるで、両腕に」
あまりに恭一が裂邪そっくりだったことに驚いていたせいか、ナユタは気づいていなかった
恭一の両腕に、ヒレのような突起物が特徴的な、機械的なグローブが装着されている
右腕にはデッキがセットされ、左腕には墓地となるであろうエリアがあった
さらに彼が、パン!と両掌を打ち鳴らせば、ヒレは展開し、デュエルフィールドを作り出す
「あれが、恭一君のデュエルディスク?」
「『決闘爪(デュエル・クロー)』っていうらしい
考古学者の親戚が遺跡の採掘中に発見したオーパーツだそうだ」
「へぇ…(「オーパーツ」……この世界にも都市伝説のようなものが存在するのか?)」
「「決闘!!」」
話しているうちに、団布と恭一の決闘が開始され、
2人のデュエルディスクに、ランダムで順番が表示される
先攻は恭一のようだった
「俺の先攻! まずはお手並み拝見だ、『ヴォルカニック・ロケット』を召喚!」
恭一の目の前、地面から溶岩が噴出し、中から何かが飛び出した
天をも貫かんとする勢いで飛ぶそれは、炎の如き荒々しさと美しさを纏った、
名の通り“ロケット”のようなモンスターだった
恭一 手札5→4
ヴォルカニック・ロケット ATK1900
「『ヴォルカニック・ロケット』のモンスター効果、発動!
召喚に成功した時、俺のデッキか墓地から『ブレイズ・キャノン』カードを手札に加える
俺が手札に加えるのは『ブレイズ・キャノン・マガジン』!」
恭一 手札4→5
「さらに手札から魔法カード『おろかな埋葬』!
俺はデッキから、『ヴォルカニック・クイーン』を墓地に送る
カードを2枚伏せて、俺はターンエンドだ」
恭一 LP8000 手札5→2
「だーっはっはっは! えらく慎重だな? 俺のターン、ドロー!
俺は『メカ・ハンター』を召喚だ!」
団布の場に現れたのは、翼と細長い幾つもの腕が生えた、球体型のロボット
その腕の先には、剣や鎌、槍など、狩りの道具が備わっている
団布 手札5→6→5
メカ・ハンター ATK1850
「へっ、大口叩いた割には大したことねぇな
そいつの攻撃力は1850、俺の『ヴォルカニック・ロケット』には届かねぇ!」
「あぁそうだ、真っ向からじゃ、な
永続魔法『ウィルスメール』発動! このカードは1ターンに1度だけ、
自分のレベル4以下のモンスター1体に直接攻撃する権利を与えられる!
まあ、そのモンスターはバトルフェイズ終了時に墓地に送られるがな
当然対象は『メカ・ハンター』だ!」
団布 手札5→4
「何ちゅうヤラしいカードや!」
「全くだ……だがあいつ、あんなカード持ってたか?」
(ふむ…ここで攻撃を許すとは思えないね)
「なら俺は永続罠『ブレイズ・キャノン・マガジン』発動!
自分か相手のメインフェイズに1度、手札の『ヴォルカニック』カードを墓地に送り、
カードを1枚ドローする!
俺は『ヴォルカニック・カウンター』を捨て、カードドロー!」
恭一 手札2→1→2
「無駄なことを! バトルフェイズだ!
『メカ・ハンター』でダイレクト・アタック!!」
恭一 LP8000→6150
「この瞬間、さっき墓地に送った『ヴォルカニック・カウンター』の効果が発動するぜ!
こいつは俺が戦闘ダメージを受けた時に墓地から除外され、
その時に墓地に他の炎属性モンスターがいる場合、
受けた分と同じダメージをお前にも与える!」
団布 LP8000→6150
「ちっ……やっぱタダじゃおかねぇか
バトルフェイズ終了時、『メカ・ハンター』は墓地に送られる
俺はこれでターンエンドか」
団布 LP6150 手札4
「なっ…ターンエンドだと?」
「お? 何もしねーのか、チャンスだぜ!」
「これで団布君の場はガラ空き……ふむ、何かを誘っているのか」
「または、何かを待っているのか、ね」
ふと、ナユタが声のした方を見ると、青いトカゲがふわふわと浮いていた
先程紹介された、フリーズという名の精霊だった
「なんや、結局来たんかいな」
「心配だったからね
先輩のことも、黒いモンスターカードのことも……それを知っている君のこともね」
「僕のことはさておき。先輩って、あの……ブレイズ君、だったかな?」
「そ、先輩は脳筋だから馬鹿みたいにすぐ突っ走るんでね」
「お前もっぺん言ってみろ!?」
「あ、聞こえてた」
「誰と喋ってんだ、さっさとターンを進めろゼロぉ!」
「慌てんなって、どうせ何も出来ねぇんだからよ
俺のターン、ドロー!」
恭一 手札2→3
「俺は『ブレイズ・キャノン・マガジン』の効果を発動するぜ
手札の『ヴォルカニック・バレット』を捨て、1枚ドロー」
恭一 手札3→2→3
「そして、たった今墓地に送った『ヴォルカニック・バレット』の効果!
このカードが墓地に存在する時に、自分メインフェイズに一度だけ、
LPを500払うことで、デッキから『ヴォルカニック・バレット』1体を手札に加える!」
恭一 LP6150→5650 手札3→4
「さらに俺は、『ヴォルカニック・エッジ』を召喚!」
恭一の場に現れたのは、小型の肉食恐竜のような姿をした二足歩行のモンスター
同じ“ヴォルカニック”の名を冠するだけあって、
先程の『ロケット』のような燃え滾る甲殻に包まれているが、
こちらは目はなく、代わりに口から轟々と炎を噴出していた
ヴォルカニック・エッジ ATK1800
恭一 手札4→3
「待たせたな、バトルだ!
『ロケット』、『エッジ』の2体で、ダイレクトアタック!!」
2体の『ヴォルカニック』モンスターが、団布目がけて襲い掛かる
ナユタが思い描いたのは、裂邪達との決闘シーンだった
意外にも、フィールドが何もない状態で、手札から発動できるカードというのは数多く存在する
そういったカードが、団布の手札にもあるのではないかと
だが、案外にも2体の攻撃はすんなりと通ってしまった
それと同時に、フリーズが提言した“もう一つの可能性”が濃厚になって来たのだ
団布 LP6150→4250→2450
「ぐあっ……!!」
「あーあ、また俺の勝ちだな、俺はターンエンドだ」
恭一 LP5650 手札3
「おっしゃあ! 次のターンでゼロの勝ちだな!」
「なんや、余計な心配やったなあ」
「いやいや…お前等、まだ決闘は終わってないぞ?」
「英雄君の言うとおりだ。彼はまだ……」
団布 手札4→5
「…手札が5枚もある」
静かに、団布はデッキからカードを1枚引き、それを確認した
瞬間、彼は目を見開き、大きな声で笑い出した
それは嬉しさというよりも、何処か狂気じみており、ナユタ達は思わず身震いした
「おいおいどうした? この危機的状況にとうとう頭がやられちまったか?」
「だーっはははははははは!! やられちまうのはお前だ、ゼロ!!
俺は『KA-2デス・シザース』を召喚!!」
“KA-2”、即ち“カニ”
名の通りで、団布の前に現れたのはカニの形をした青いロボットだった
特徴的な鋭く大きな2本のハサミが備わった腕には、形式番号“Ka-2”と表記されている
団布 手札5→4
KA-2デス・シザース ATK1000
「ハァ? たった攻撃力1000のモンスターでなにが」
「さらに俺は! 手札から『ネジマキシキガミ』を特殊召喚!!
こいつはレベル8で、通常召喚はできないが、
自分の墓地のモンスターが機械族だけの場合に特殊召喚できる!!」
次に現れたのは、藤色の衣に包まれた、大きな2本のねじまきがついた案山子のようなモンスター
そのモンスターは機械族だが、その印象は幽霊に近かった
団布 手札4→3
ネジマキシキガミ ATK100
「うげっ…なんちゅう気色悪いモンスターや」
「おかしい、団布のデッキにあんなモンスターはいなかった筈だ」
「…誰かに渡された?」
「『ネジマキシキガミ』の効果!
相手フィールド上のモンスター1体の攻撃力を、ターン終了時まで0にする!
対象は、『ヴィルカニック・エッジ』!!」
ヴォルカニック・エッジ ATK1800→0
「あー読めたぜ、それで『KA-2デス・シザース』とのコンボか
確か戦闘で破壊したモンスターのレベルに500をかけた数値分のダメージを与えるんだったな
まぁお前にしちゃ賢いコンボだな――――――」
「俺は! 手札から魔法カード『ギャラクシー・クィーンズ・ライト』を発動!!」
「―――――――何、だと?」
団布 手札3→2
「このカードは、俺の場のレベル7以上のモンスター1体を選択し、
俺の場に存在する他のモンスターのレベルを、そのモンスターと同じにする!
当然、対象はレベル8、『ネジマキシキガミ』!!」
KA-2デス・シザース レベル4→8
「レベルを同じに? それって何の意味があんだよ」
「ちょっと待て、この光景は…」
「先輩! この決闘は無効だ! やはり“何か”がこの世界に干渉してるよ!」
「恭一君! いやブレイズ君か!? フリーズ君の言うとおりだ! ここは退きたまえ!」
「うるせえ! 売られた喧嘩は最後まで付き合うのが礼儀だろ!?
途中で背中向けるなんざ、俺の……“勇気の炎”を司る俺の名が廃っちまうぜ!!」
「よく言った、その偉そうな口も二度と聞けなくしてやるぜ!!
俺は『ネジマキシキガミ』と、レベル8になった『KA-2デス・シザース』をオーバーレイ!
2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築! エクシーズ召喚!
これが俺の新たな切り札! 不死の鉄槌で弱い奴等をぶちのめせ!!
出てこい、『No.22不乱健』!!」
現れたのは、強靭な肉体を持った大男
眼光のみしか分からない程に頭部を覆った布切れには、
大きく“22”という数字が示されていた
そして、その身体の周囲を、2つの光がくるくると回っている
No.22不乱健 ATK4500
「攻撃力……4500!?」
「なんでや!? 魔法カードもチューナーもおらんかったやん!?」
「エクシーズ召喚は、融合や儀式のように魔法カードを用いず、
シンクロのようにチューナーモンスターのような特別なモンスターも必要としない
フィールドに揃った2体以上の“同じレベルのモンスター”を、“重ねる”ことで成立する特殊召喚だ」
「君はエクシーズ次元の人間かな……いや、スタンダード次元かな?」
「なあ、あの鬱陶しい光は何だ? さっきからくるくる回ってる奴」
「あぁ、あれはオーバーレイユニット……エクシーズ召喚の際、素材になったモンスター達さ
エクシーズモンスターの大半は、効果の発動の為にあれを使うんだ
つまり回数制限が存在する訳だが…その分、強力な効果も多い」
「ちっ、よりにもよってデケェ奴出しやがって…」
「だーっはっはっは!! これで終わりだ、ゼロ!!
バトルフェイズ! 行け『不乱健』! 『ヴォルカニック・エッジ』をぶっ潰せ!!」
「やべぇ、さっきのネジマキ何とかの効果で攻撃力0じゃねーか!?」
「させねぇよ! 罠発動! 『業炎のバリア-ファイヤー・フォース-』!!
相手モンスターの攻撃宣言時、相手の場の攻撃表示モンスターを全て破壊する!
その後、俺は破壊したモンスターの攻撃力の合計の、半分のダメージを受けちまうが…
受けたダメージと同じ数値を、相手にも与える!!」
「ナイスや! これでホンマに勝ちやろ!」
「いや、確か『不乱健』の効果は…!」
「俺は『不乱健』の効果発動!
オーバーレイユニットを一つ使い、手札の『タイム・イーター』を捨てることで、
『業炎のバリア』の効果を無効にする!」
「へっ、だが肝心の『不乱健』は、その効果で守備表示になっちまうぜ!?
よって、この戦闘は無効だ!!」
No.22不乱健 ATK4500→DEF1000 ORU2→1
「…俺はカードを1枚セットし、ターンエンド」
「この瞬間、『ネジマキシキガミ』の効果が解け、『ヴォルカニック・エッジ』の攻撃力も元に戻る」
ヴォルカニック・エッジ ATK0→1800
団布 LP2450 手札0
「攻撃力の割に守備力低いな、こりゃ行けるぜ!」
「君達、さっきからフラグ乱立するのは止めたまえ」
「ほう、ナユタくん、だったかな? 君はどう読む?」
「…僕だったら、あのデメリットを帳消しにするカードを仕組むね」
「俺のターン、ドロー!」
恭一 手札3→4
「行くぜ、まずは墓地の『ヴォルカニック・バレット』の効果発動!
LPを500払い、デッキから『ヴォルカニック・バレット』を手札に加えるぜ!」
「ところで彼、LPを大切にしないね」
「まあ、脳筋だからね、先輩」
「うるせえ!?」
恭一 LP5650→5150 手札4→5
「永続罠『ブレイズ・キャノン・マガジン』の効果!
『ヴォルカニック・バレット』を捨て、カードをドロー!」
恭一 手札5→4→5
「さあこっからだ!
『ブレイズ・キャノン・マガジン』は、場に存在する時に『ブレイズ・キャノン-トライデント』としても扱う!
俺は『ブレイズ・キャノン-トライデント』を墓地に送り、
『ヴォルカニック・デビル』を特殊召喚!!」
ごおっ!!と勢いよく溶岩が噴出し、その熱の中から、それは姿を現した
黒曜石のような輝きを放つそれは、身体の至るところから炎を滾らせ、
まさに“火山の悪魔”の名に相応しい様相だった
恭一 手札5→4
ヴォルカニック・デビル ATK3000
「来た! ブレイズのエースカード!」
「しかもあのデカブツは守備表示、楽勝だな!」
「バトルフェイズ! 『ヴォルカニック・エッジ』で『不乱健』を攻撃!!」
「だーっはっはっは!! リバースカード、オープン!
永続罠『最終突撃命令』!」
「なっ!?」
「効果は知ってるだろ? 場のモンスターは強制的に攻撃表示だ
当然、俺の『不乱健』もなぁ!!」
No.22不乱健 DEF1000→ATK4500
『ヴォルカニック・エッジ』の火球は、『不乱健』の掌でハエを払うように掻き消され、
逆にその細い首を掴まれると、ごぎり、という鈍い音を立てて消滅してしまった
恭一 LP5150→2450
「ぐうっ……っへへ、なかなかやるじゃねぇか
俺はこのままターンエンドだ」
恭一 LP2450 手札4
「……ん?」
「どうかしたのかい、ナユタ君?」
「『マガジン』は墓地から除外すれば、デッキから『ヴォルカニック』カードを墓地に送れる筈
『カウンター』を落とせば、今ので彼の勝利だったんじゃないかな」
「そうだね、ただ勝つだけなら、それが正解だよ」
「…と、いうと?」
「それは見ていた方が早いかな?」
ふふっ、と笑ったフリーズの心中を察する間もなく、団布のターンが開始する
団布 手札0→1
「…あっけなかったなあ、何か忘れてないか?」
「あ? 何がだ?」
「俺は永続魔法『ウィルスメール』を発動!
対象は…『不乱健』!!」
「はぁ!? 何言ってんだあいつ、『不乱健』のレベルは8―――――なっ、なんだこりゃ!?」
「レベルやない、“ランク”や!?」
「レベルがない………まさかそんな!?」
「「あの、君達?」」
「だーっはっはっは!! 死ね、ゼロ!! 『不乱健』でダイレクトアタック!!」
しーん
「……あれ? ど、どうした『不乱健』?」
「おいおい……何も知らねぇでエクシーズモンスター使ってたのか?」
「は? 何のことだ?」
「あのね…エクシーズモンスターはレベルを持たず、ランクという独自のステータスを持っている
つまり、レベルに関する効果を受けず、ランクに関する効果のみ影響を受けるんだ」
「「「「何ッ!? レベルがないってことは、“レベル0”ってことじゃないのか!?」」」」
「他のことで考えてみなよ……速さから重さは引けないし、人数と距離は足せないでしょ?」
「くっそ……あ、でも『ロケット』を攻撃すれ、ば……
だ、だーっはっはっは! これでお終いだ、ゼロ!
『不乱健』で『ヴォルカニック・ロケット』を攻撃!!」
「焦ってんのモロバレだぜ、バーカ! 『ヴォルカニック・デビル』の効果!
相手バトルフェイズ時、攻撃可能なモンスターは全て、『デビル』を攻撃しなければならない!」
「くっ、だがこっちは4500! ダメージは受けて貰うぜ!」
恭一 LP2450→950
「うえ、そんでもピンチじゃねぇか!」
「あかん! ゼロまで保健室送りになったらワイらどうすんねん!?」
「お、お前等、落ち着けって…」
「これで俺はターンエンド……さあゼロ、最後の足掻き、楽しませてもらうぜ」
団布 LP2450 手札1
「あぁそうだな、精々足掻かせてもらうぜ」
(いやいやいやいや!? 珍しく大分LP削られてますけど!?
これ勝てるんすかマジで、ねえブレイズさん!?)
「お前がそんなんでどうすんだよ……トドメ刺すのはお前だぞ?」
(…は? 何言って)
「準備は整った。なぁに、慎重にやりゃ勝てる
後は任せたぜ――――――」
すぅっ、と恭一の身体から赤い光が抜けていく
と思えば、光は恭一のデッキの一番上に灯っていた
何も考えず、ただ自分のターンの開始だったから、彼はカードを引いた
それを見た時、危うくカードを落としそうになりながら、恭一は驚愕する
「っちょ……これって……!?」
恭一 手札4→5
「何やってんだ、まさかターンエンドか?」
「…俺は、手札の魔法カード『死者蘇生』を発動
その対象は……お前の墓地の『ネジマキシキガミ』だ」
「なっ!?」
「成程、『不乱健』の攻撃力を0にすれば!」
「『不乱健』の効果! オーバーレイユニットを1つ使い、手札の『可変機獣ガンナードラゴン』を捨て、
お前の『死者蘇生』の効果を無効にする!
『不乱健』は守備表示になるが、『最終突撃命令』の効果で攻撃表示に戻るぜ!」
恭一 手札5→4
団布 手札1→0
No.22不乱健 ATK4500→DEF1000→ATK4500 ORU1→0
「あぁ……もう見てられへん」
「君達はフラグ建築士でも目指してるのかね
あの様子だと、さっき引いたカードは」
「だーっはっはっはっは!! これで勝利の可能性はなくなった訳だな!」
「そうだな…お前の勝利のな!」
「何ぃ!?」
「俺は手札の『ヴォルカニック・バックショット』と『溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム』を除外し、モンスターを特殊召喚する」
「手札のモンスターを…除外だと!?」
「それは業火によって全てを滅する神
大きな力に屈する事なき“勇気”を、我に与えたまえ
降臨せよ、『焔滅神エザルブ』!!」
一瞬、現れたのは赤い小さなトカゲだった
が、その姿は刹那の間に燃え上がって人型となり、
大きな剣を携え、炎の翼を頂く、神々しい姿へと変貌した
「な、なんやあれ!?」
「こんなモンスター、今まで見たことがない………フリーズ君、もしや」
「そう、あれこそが先輩…ブレイズの真の姿
勇気を司る『焔滅神エザルブ』だ」
焔滅神エザルブ 炎 幻神獣族/特殊召喚/効果 ATK2800/DEF2500
恭一 手札4→1
「『焔滅神エザルブ』は、自分のLPが1000以下の時、
手札の炎属性モンスターを、レベルの合計が10になるように除外することで特殊召喚できる」
「こ、こんなモンスター知らねえ! インチキだ!」
「お前だって、この世に存在しないモンスターを使っただろ?
これはお前のような決闘者に対する“神”の怒りだ
バトルフェイズ! 『エザルブ』で、『不乱健』に攻撃!!」
「血迷ったか? そいつは攻撃力2800、返り討ちに―――――――ッ!?」
直後、『エザルブ』の剣が激しく燃え上がる
違う。炎が次々と投げ込まれ、その量がどんどん増しているのだ
恭一の墓地から、手札から
そして、炎へと姿を変えた、彼の場の『ヴォルカニック・ロケット』さえも
「こ、これは……どうなって……」
「『焔滅神エザルブ』が、自身より攻撃力の高いモンスターと攻撃する時、
このカード以外の自分のフィールド、手札、墓地のカードを全て除外して、
その中の炎属性モンスターの攻撃力の合計を加算する」
「ハァッ!?……そ、それじゃ…攻撃力は……」
焔滅神エザルブ ATK2800→12300
「い、一万……!?」
【何処の次元から来たか知らねえが、元の世界に返りやがれ!!
行くぜ、ゼロ!!】
「あぁ! 『焔滅神エザルブ』の攻撃!!」
――――――ブレイヴァリー・スラッシュ!!
団布 LP2450→0
...to be continued
なっが!! ひたすら長っ!
そして途中でプロットと見比べて手札の枚数が違ったから3回見直した挙句にプロットが間違っててなんやこれ畜生(
という訳で黒いカードこと『エクシーズモンスター』登場
この世界に存在しなかったカードが現れた理由とは果たして(わざとらしい
シャドーマンの人、お疲れ様です!
恥ずかしながら「ヴォルカニック」シリーズをさっきググって知ったのですが、良いものですね
個人的にヴォルカニック・バレットさんがエロかっこ良かったです
その昔は、サイコショッカーとかダークネクロフィアとか
ああいうデザインが好きだったのですがいつの間にか
ファイレクシアの巨大戦車とか召喚獣メガラニカとか
ああいうデザインが好きになっていました、あぶない
この話は【11月】の【「バビロンの大淫婦」消滅後】の時間軸です
この話は前スレ 998-999(次世代ーズ)、本スレ >>68(鳥居の人)の続きになります
「お兄ちゃまたち気をつけて」
突如背後に出現した「ピエロ」側の二人組に向けて
正確にはこちらと彼ら二人を隔てるように生成された氷壁に向けて
手鏡を構えながら、彼女、新宮ひかりは桐生院の兄弟に警戒を促した
「タートルネックをきてる人は、あたしと同じで現実を上書きする能力だよ
スーツのふとっちょの方はちょっとむずかしいの
知ろうとしたり見ようとしたら発動するタイプみたいなんだけど」
「知ろうとしたら発動するタイプ?」
「そうなの轟九お兄ちゃま」
ひかりの説明は概ね正確だった
廃工場にて初めて対峙した際、二人組について「ロンギヌスの槍」の能力で読み取っていた
しかし同時に、彼らについて知り得たのはそこまでだった
それ以上を読み取ろうとしたとき、「槍」の接続が“切断”された所為だ
“切断”の原因は不明、恐らくスーツの方の能力であることは検討がつく
それ故、彼女はそれ以上のリーディングを断念したのだ
「ひかりちゃん、何か他に手がかりは無いかな?
あの二人組はひかりちゃんに何か言わなかった?」
「えっとね、真降お兄ちゃま
さいしょにあったとき、あたしの能力がとても都合がわるいって言ってたの
それから――ライダーのおじちゃまも、あたしの能力にカウンターを掛けるタイプって」
「ひかりちゃんの能力、カウンタータイプ、ということはつまり」
「認識されたら発動するタイプ、ってとこか?
敵さんの視点で考えりゃ手の内が読まれるのは避けたいってわけか
見知ったらカウンター……死んだり発狂する系、って言やあ『くねくね』か『夜刀神』の系統か」
「いえ、兄さん。先程から潮風の匂いが増している。海の怪異かもしれない」
「海か、なら『海難法師』かその類か?」
周囲を油断なく警戒しつつ、真降と轟九の兄弟は思考を巡らせる
だがそろそろ頃合いだ、二人組が何時仕掛けてきてもおかしくは無い
「真降、俺たちの周囲に氷柱を作ってくれ、それも頑丈な奴な」
前方から目を離さず、轟九は弟にそれだけを告げる
氷の壁越しに黒い影が上へ上へ昇っていくのが確認できた
「ああぁぁぁぁぁぁぁ」
氷壁の頂上より姿を現したのはスーツの方だった
先程の微笑みとは異質な、無数の皺が刻まれた笑顔だ
裂けているのではないかと錯覚するほど口角が引き伸ばされている
「ひかひかりちゃん、んんいまそっちにいいいくからねぇぇぇ」
だが氷壁の上から顔を出したのはスーツの方だけでは無かった
彼と一緒によじ登ってきたのは、肉が焦げ、皮膚が焼け爛れた道化達だ
なんということだ、先程の「火遊び」に巻き込まれた筈の「ピエロ」達ではないか
彼らは焼死した筈では無かったというのか
「ひかりちゃんが俺をまってる、はやくはやく『はいれたはいれた』したいしたい」
「ウフ、ウフフ」「ニンゲン、イッパイ……」「オニク、オニク、うぇるだん、ばーべきゅー」
『どうにもウチのが見苦しくて悪いね』
何処からともなく響くその声は、あのタートルネックの青年のものだ
『さて、君たちも君たちで随分と厄介そうだ
正直、高級の馳走を前に僕も如何手を付けようか迷っていたよ
こんな嬉しい状況は滅多に無いからね。そう、だから、慎重に正攻法で行くことにした』
当然のことだが
何の前触れもなく
彼は、新宮ひかりの真正面に出現した
「ふぁいやー!!!!」
ひかりが「アルキメデスの鏡」を発動したのは彼の出現と同時だ
噴出する爆炎が「アブラカダブラ」の契約者を飲み込み、後方の氷壁を一気に蒸発させる
だが
「カダブラ」は健在だ、左手を翳して炎を禦いでいるのが辛うじて視認できる
炎の中に居る彼の顔が、悪意に歪んだ
「まずい!」
真降が警告を発したとき、ひかりが片手で「槍」を握りしめていた
「――そに害なす者との空間を『虚無』に書き換えよ」
爆炎の噴出音にかき消されるかのような小さな声で、ひかりは唱える
その直後、爆炎を引き裂くように金色の矢が乱射された
機関銃めいて撃ち込まれる幾多の矢は、正確にひかりと真降へ向けられていた
だが全ての矢はひかりが創造した「虚無」へと飲み込まれていく
金色の矢には見覚えがある、真降はそう思い起こした
先刻から東区の上空を飛翔し、次々と「ピエロ」達を射抜いていった、あの矢だ
「なるほど、『矢』を“奪った”のか」
低い、吐き捨てるような調子でひかりが呟く
「“奪った”とは聞こえが悪い、ただ“拝借”しただけさ」
遂に爆炎の壁から「カダブラ」の青年が姿を現した
その瞬間、「カダブラ」の横面が太い氷柱によって殴り飛ばされた
「させるかっ! 阿呆っっ!!」
桐生院轟九の一撃だ
弟が生成した氷柱をへし折り、それで殴り付けたのだ
のだが
「カダブラ」はその直後に“転移”したようだ
ひかりと兄弟にやや距離を置く位置に再出現する
「『カダブラ』のぉぉぉぉぉぉ!! 俺の獲物にぃぃぃ手を出すなぁぁぁぁぁ!!!」
声が割り込む
「海からやってくるモノ」の契約者だ
今や完全に消滅した氷の壁から民家の壁へと
四つん這いの体で張り付き、不快害虫のように蠢いていた
「ひかりちゃんに『はいれた』するのは俺の仕事だぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
更にはゾンビさながらの外見をした「ピエロ」達が
緩慢な動作ではあるが徐々にひかりと兄弟へ向かっている
先程の「アルキメデス」により下半身を完全に炭化させられた数名は
地面を這いながらもこちらへ詰めてくる
「兄さん、ひかりちゃんを!」
真降は瞬時に氷の剣を生成し「カダブラ」に対し一気に距離を詰める
振るい上げた剣の間合いはタートネックの襲撃者を捉えた
「人を[ピーーー]したことはあるかい?」
剣の筋を、しかし「カダブラ」は紙一重で回避する
つい先程は轟九の膂力で顎を正確に殴り飛ばされた筈だ
しかし回避の足捌きだけ見てもまるで効いている様子が無いのは何故だ
「[ピーーー]しの味を楽しんでみたくは無いか? 君のことだ、いまに 病 み つ き に な る 」
「カダブラ」の足が、不意に鈍った
突きを仕掛けるなら今だ、だがこれは――
罠の匂いを察知し、真降は寸前で踏みとどまる
「惜しい」
「カダブラ」の、最早隠すことのない悪意に満ちた声を聞いた
だが、真降は彼の顔を見てはいなかった
剣の切っ先は寸前で止められている
そして、それは「カダブラ」にでは無く、真降と「カダブラ」の間に出現した女性に向けられていた
スーツ姿のOLだ
若い女性だ、様子から見て先程仕事が終わって、これから帰るといった体のOLだった
先程まではこの場に居なかった、というより、そもそもこの場でひかりと落ち合ったとき、他の人の姿は無かった筈だ
「え?」
呆気に取られた、正しくそのような表情で、彼女はそれだけを口にしていた
彼女は何処からやって来たのか、何故この場に出現したのか
「君がすべきだったことは、寸止めじゃあ無い」
それはいきなりだった
OLの胸から、鋭い氷柱のような物が飛び出した
「[ピーーー]しを味わうことだ、OK?」
「え、へ?」
状況が未だよく分かっていないスーツの女性は
やがて、自分のシャツに鮮やかな赤が拡がっていくのに気づいたようだ
「カダブラ」は満足そうに薄く嗤うと、まるでゴミを放り捨てるかのように腕を振るう
真横から響く、堅い物が砕ける音、真降が眼だけを動かして確認する
先程の女性だ、「カダブラ」に投げ捨てられ、民家のブロック塀に激突したのだ
先程の破砕音はブロックが破壊された音だ、女性は地面に崩れ、激しく痙攣していた
その瞬間、嗤う「カダブラ」の体が大きく、ブレた
彼の立っていた箇所から、アスファルトを貫くように鋭い氷柱が生成されている
だが「カダブラ」は寸前で回避したのか、大した怪我は無く、その真横に再出現していた
「おやおや、怒ったかな? 氷使い」
相変わらぬ嘲りを顔面に貼り付かせ、彼は真降と対峙する
真降は飽くまで平時と変わらぬ冷静な眼差しのままだ
「どうした『契約者』、早く僕を[ピーーー]しに来なよ
ああ、安心しなって、『肉の楯』なら幾らでも代わりがあるんだから
それとも、年増は好みでは無いかな? 確か、君は中央高校の子だったかい?
ブレザーの子は良いものだね、どうせ[ピーーー]なら、君の見知った顔の方が嬉しいかな?」
「カブラダ」は愉快そうに顔を歪めている
彼の手にはいつの間にか、氷の剣が握られていた
「アブラカダブラ」の能力により生成されたものだろうか
真降は思案する
ひかりちゃんが話したように彼の能力が事象改竄系だったとしても、だ
やろうと思えば彼は直接対峙する間でも無く、僕らを[ピーーー]れた筈だ
であれば、何故それをしない? しないのでは無く、出来ないのか?
つまり彼の能力は万能では無い?
真降は能力を発動した
アスファルトを突き破るにように次々と氷柱を生成
全て「カダブラ」狙いだ
眼前の敵は哄笑を響かせながら回避行動を開始した
「真降お兄ちゃま! あの女の人は生きてるよ!」
「危ねぇひかりちゃん! 今は駄目だ!!」
未だに痙攣を繰り返す女性に駆け寄ろうとしたひかりを、轟九はすんでの所で制止した
真降が「カダブラ」に踏み込んだのと同時に、「ピエロ」が急に活性化した
アクロバティックに轟九とひかりを襲い出した「ピエロ」共を
轟九がほぼ独りで捌いていたのだ
「こんな閉所でさっきみたく『アルキメデス』をぶっ放すワケにもいかねえ――しなあっ!!」
「チョ、待ッ、オボァァァァァァァ……」
「ドウセ死ヌナラ、きれーナオ姉サンニ[ピーーー]サレタカッ、オゴァァァァァ……」
「ナンデコンナイケメン野郎にけつヲ叩カレナキャ、アゴォォォォォォォォ……」
へし折った新たな氷柱で「ピエロ」共を次々と殴り飛ばしていく
威勢の良かった「ピエロ」も彼の暴力を侮っていたようだ
そのお陰で場の道化はほぼ蹴散らされていた
「真降! 油断すん――」
不意に、先程から漂っていた潮風の匂いが、一際強まった
轟九は言い掛け、突如大地を蹴る
スーツの中年男が、ひかりの直ぐ傍に出現していたからだ
逃がしはしない、「海から」の契約者の腹部に、轟九の蹴りがめり込む
「ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ、あああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
奇声を上げた「海から」の契約者の体が面白い程に吹っ飛ぶ
彼はアスファルトの上を転げ回りながら、何とか四つん這いになってこちらを向いた
その顔面に、轟九は一切攻撃を加えなかった
だが、まるでギャグ漫画のように顔の中心がめり込んでいるのはどういうわけだ?
「海から」の契約者は先程から奇声を発しているが、声を上げる口は最早彼の顔面には無かった
いや、単にめり込んでいるのでは無い
まるで顔の中心へと顔面の皮膚が呑まれるかのように、表皮が蠢いている
「うううううぅぅぅぅぅうううううぅぅぅぅぅううううぅぅうっぅぅぅぅぅううぅぅぅううううううぅぅぅぅぅぅぅうううぅぅぅっぅぅうううう
ひかりちゃんひかりちゃんひかりちゃんひかりちゃんひかりちゃんひかりちゃんひかりちゃひかひかひか」
それは、大地を伝って、それを聞く者の腹の底を揺さぶるような、低い声だった
「ひかりちゃん、あれを見ちゃ駄目な!!」
「海から」の契約者を睨み付けたまま、手に持っていた氷柱を打ち捨てると
新たな氷柱をへし折り、肩で担ぐような体勢を取った
大きく踏み込み、氷柱を投擲する
切っ先を真っ直ぐ、「海から」の顔面に向けて
「ぼごぉぉぉぉっっ!!!」
寸分違わぬ正確さで、氷柱は彼の顔面へ突き刺さった
いや、突き刺さっただけでは無い、それは完全に頭部を貫通していた
(思った通りだな)
轟九は心の中で舌打ちする
蹴りを叩き込んだ瞬間、彼は直感めいた違和を覚えていたが
氷柱の貫通で勘が確信に変わった
(手応えが完全に人間のそれじゃあ無え――!!)
「うふ、うふふふふ、うふふうふふ、そうか、そうかそうか、そういうことか
とうけつののうりょく、きょうりょくなみつど、οなんばー」
氷柱が頭部を貫通してなお、スーツの男は低い言葉を発していた
四つん這いのまま、今や電柱を昇り切って頂上からこちらを見下ろしている
「οナンバー?」
「海から」の声に反応したのはタートルネックの青年だった
「カダブラ」の双眸に、先程までは無かった冷たい光が混じる
「そうか、なるほど。するとつまり君は、あれの子息か」
回避を止め、彼はおもむろに桐生院真降へと向き直った
「真降!! こいつら相手に手加減は無しだ!!」
「カダブラ」の呟きを掻き消す勢いで轟九の怒号が飛ぶ
真降は「カダブラ」に対し、構えを取った
その手に握られていたのは――彼の「七星剣」だ
□■□
いやー胸糞悪い敵ってのはいいな!
ボコボコにしやすいし救いようがないっていうか
そして最期が気になってくるものよ
最期の瞬間こそ悪の輝き!(暴走
次世代ーズの人乙ですのん、これは皆頑張れ
独り反省会をしている場合では無かった
鳥居の人に土下座orz でございます……
真降君が優しいからといって「カダブラ」は彼を挑発し過ぎた
当初の予定よりも野太いフラグが立ったのは決して気の所為では無い
個人的に次か次の次で決着が付くかも、という算段ですが、鳥居の人の沙汰を待ちます
スケジュール等で書けそうに無い場合は私に申し付けください
責任を持って始末を付けますの
というわけで、改めまして鳥居の人、ありがとうございます! orz
前回の続きを書くのが遅れて申し訳ないです……!
>>82-86が>>68の続きとなります
ひかりちゃんや真降君と轟九兄さんの言い回しがこれで良いのか自信が無くなってきました
おかしな所やミス等あれば教えて頂けるとありがたいです……!
>>87
この二人は逝く時も愉快そうに笑いながらドロップしそうで
今の時点で次世代ーズの中の人はぐんなりしています
個人的には疾走感あふれる戦闘を描くことが当面の課題です
もう一編書こうとしたが、間に合わなかった……
昨夜の一件で思い知ったこと……
それは眠いときに推敲するとほぼ間違いなく誤字る……
にくい、自分がにくい
>>88
読み返すとあまりに冷たい自分の物言いに愕然とした……
鳥居の人、無理はなさらずの方向でお願いします!
続きを書いて下さるのであれば次世代ーズも嬉しいのですが
鳥居の人はお忙しいという話を目にしている手前
無理にお願いするわけには……と思っておりますので!
>>88は「書くのがしんどそうであれば私に投げて貰って全然OKです!」
くらいの意味で捉えて貰えたら、と思います orz
この話には事前警告が必要であると「次世代ーズ」が判断した
暴力、およびグロテスク描写が含まれています
苦手な方は>>101までスキップして下さい
この話は【11月】の時点、>>82-86(次世代―ズ)とほぼ同時刻の出来事になります
「状況はどうです?」
「上々、といった所でしょうか
ようやく『組織』も事態を把握したようです
ここまで粘れたのならベストを尽くした方だと思いますよ」
女の返答に「ピエロ」は胸を撫で下ろした
首尾はそこそこ上手くいったようだ
「ただ、そうですね
『組織』よりも早い段階で
『レジスタンス』配下と思しき対象が動いた点をどう読むか
現状、不安材料が無いわけではありませんが、十分に想定の範囲内です」
「『一ツ眼』や『組織』関係者の能力で
『ピエロ』が若干名、支配権を奪われてます
我々の方で処理した方がよろしいでしょうか?」
「問題はありません。予定より早く“彼女”が学校町へ到着しました」
「“彼女”? まさか、あの、“女神”さんですか!?」
「あら、隊長さんも気になってました?」
隊長と呼ばれた「ピエロ」は、取り繕うように笑って誤魔化した
「いやあ、“女神”さんに惚れてる仲間も多いもんで……」
「中々楽しいことになりそうですね。特に今日と明日は」
女は機嫌良さそうに「ピエロ」からモニターの方へ向き直る
壁面に設置された複数の画面には様々な映像が表示されていた
「“先生”方の具合はいかがです?」
「こちらもまずまず、と言った所でしょうか
『アブラカダブラ』と『やってくるモノ』は現在、事象改竄系能力者を追跡中のようです」
「事象改竄に全知の観測、か。おっかねえな、学校町の契約者は」
「まだまだこんなものではありませんよ。序盤ですらありません」
「ピエロ」の隊長は感嘆したように首を振る一方で、女の声は弾んでいる
まるで、学校町で現在進行中の事態が楽しくて仕方ないといった雰囲気だ
「ただ、対象の能力者が幼少の女児のようで
少々『やってくるモノ』が没頭している様子なのは気掛かりですね
まあ、『カダブラ』の子が一緒なので手綱は握れるでしょう。心配はありません」
「お若い“先生”方はどうでしょうか?
アシストが必要ならいつでも駒を動かせますが」
「それが……」
直前まで上機嫌だった女の声色が曇る
「ピエロ」は彼女の顔色を伺いつつ、モニターの方へ視線を向けた
「こちらの“眼”からロストしたようなのです
一人は『七尾』出身者なのですが、問題児で……、こちらの指示を聞いているのかどうか……
まあこちらも“寄生”の子が一緒なので、いざというときはストッパーになってくれると思うのですが……」
「最後にトレースできた座標は残っておりますでしょうか?」
「南区、ですね」
「一応、当該地区で待機している『ピエロ』達に指示を出します」
「すいません、お願いしますね」
女の言葉を受けて、「ピエロ」の隊長は足早にその場を去った
女はモニターに目を向けたまま、深い溜息を吐いた
「これだから『七尾』の子は……まったく……」
学校町、某所
其処は廃工場なのか廃ビルなのか
兎に角人気が全く無い筈のその場所に“彼女”達は居た
開けたその場の中心に佇むのは“彼女”だ
胸の一部と腰周りを申し訳程度に隠したと言っても過言ではない装束の他は
透けるベールのようなものを羽織っており、このまま道を征けば衆目を奪うには十分過ぎる
と言うより、その格好で出歩けば即座に国家権力が飛んできそうな程に肌の露出は甚だしかった
いや、露出の多い装束というよりもむしろ全裸の上から局部のみをギリギリ隠した容姿と表現すべきか?
加えて“彼女”の豊満な肉体が公然猥褻の度合いを弥増しに高めているのは、ある種の必然だった
それもその筈、“彼女”は愛欲と戦闘の神格と契約を結んだ能力者だったからである
周囲には大量の「ピエロ」が“彼女”を包囲するかのように平伏している
この「ピエロ」達は一つの共通点で以ってこの場に集っていた
「一ツ眼」の“魔”、あるいは契約者による“支配”、あるいは淫魔による“魅了”
そう、学校町に於いて精神干渉系の能力を受けた「ピエロ」達は自動的にこの場に向かっていたのだ
全ては“彼女”が事前に仕込んでおいたフラグなのだが、「ピエロ」達がこの事実を知っているのかは明らかでは無い
いずれにせよこの場の「ピエロ」達は“彼女”の力能によって、今や干渉を完全に“上書き”されていた
「あなた達ニ――」
“彼女”が口を開く
その声は「ピエロ」で無くとも心狂わせるには十分過ぎる程の官能を湛えていた
「――“お願い”をしたのは誰カナ? ワタシに教えテネ」
“彼女”の声に聴覚を擽られた「ピエロ」達は我先に体を起こし
“彼女”の姿を直視した途端、彼らは性的絶頂に達した
「ああーッッ!! 女神サマーーッッ!!」
「駄目ぇっ♥ シコシコしてないのに♥ いっぱいピュッピュしちゃうよォォォーーーッっ♥♥♥」
「パパが! パパがやれって!♥! 『一ツ眼』のパパがやれって言ったのォォーー!!♥♥」
「俺は悪くないんだ女神サマッ!! あっ♥ 『組織』のっ♥ 女の子がッ! やれって!! だからッ♥」
「女神さまお許しください♥ 俺達は悪くないンだぁぁァァぁァァッッ!!! あっ♥ また出るゥゥっ!♥!」
「みんナ、いい子だヨ♥ 悪い子は独りもいナイ♥ だからいっぱい気持ち良くナぁレ♥」
「あアーーっ♥ 女神サマァァァァぁぁッッ!!♥♥!!」
「うソォォっ!?!?!? 一回出たのにィまだ出るヨぉぉぉぉ♥♥」
「もうオレここで死んでもいいッ!!♥ 死にたいッ気持ちイイッッ!!♥♥ 女神さまン殺してェェェ!!♥♥♥」
異様な光景であった
たとえそれがこれから学校町で繰り広げられる惨劇の序章であったとしても
己の性欲を猛り狂わせながら銘々が欲望に絶叫するその様は
その光景は異様と呼ぶより他無かった
「イナンナ」
それが彼女の契約した神格の名だ
古のシュメールより伝わる性愛と美、豊穣、そして戦争を司る女神である
その女神はメソポタミアに於いてイシュタルと、ギリシアではアプロディテと崇められ
ローマではヴィーナスと、ユダヤ教やキリスト教ではバビロン、あるいは淫婦共の母と見做された存在である
その神格と契約した能力者は人間の女だったが
彼女が神格に呑まれてしまったのか、それとも人格のみをこの女神に書き換えられてしまったのか
今となっては誰にも知り得ぬ話であるし、そのようなことは当事者にとってもどうでも良いことなのだろう
“彼女”、「イナンナ」と契約した能力者は大きく二つの力能を有する
一つは、愛欲の神格としての側面。つまり、己の愛欲により全てを飲み込み、愛する“魅了”の力能
そしてもう一つが、戦闘の神格としての側面。即ち、敵対した存在全てを嬲り殺しにする“殺戮”の力能である
そして現在
“彼女”の能力下にある「ピエロ」達は
“彼女”の“魅了”により新たな命令を刷り込まれつつあった
「みんなの“パパ”と“ママ”ハ、みんなに愛をくれたヨネ?」
「うんッ! 『一ツ眼』のパパんはいっぱい愛してくれたァァァァァぁぁッッ!!」
「『組織』の子ッ♥ ママんッッ♥♥ ああああンンんンんんっっ♥♥♥ ボク愛されてるぅぅぅぅぅっっ!★!★!」
「イナンナ」の“魅了”は、神格のそれである為か強力な干渉を誇る
“彼女”には過去に「狐」による魅了者の乗っ取りを何度か実施したという噂もある程だ
熟達した契約者であっても、“彼女”の“魅了”を受けてしまえば、その出力と密度により決して長くは“もたない”だろう
「受け取った愛ハ、“パパ”と“ママ”に返さなくチゃネ♥」
「ふぁッ!? ンン♥♥ あっ♥ ああァァーーッっ♥♥ んアアーーっ♥♥!!!!」
“彼女”の最も近くに居た「ピエロ」の頭を、“彼女”は優しく撫でつけた
その瞬間、その「ピエロ」は自らの睾丸を握力で握り潰し、白目を剥きながら、文字通り昇天した
「でモ、そのままのやり方じゃあ“パパ”と“ママ”は愛を受け取ってくれなイヨ? そんなノ、悲しいヨネ? 嫌だヨネ?」
「えっ??? やだやだやだァァァァッっ!!」
「女神サマっ!! オレたち、どうすればいいッ!? 助けてヨぉぉッ!!」
「うン♥ だかラ、出来る所からヤればいいんダヨ★ みんなでも出来ルヨ!」
「どぉうすればいいンのォォ??♥♥??♥♥」
「教えて女神さまン! どうやれば、パパにLOVEを怨返し出来るンんッっ!?!?」
「それはネぇ♥」
“彼女”は「ピエロ」達に向けて、きゅうと笑む
それを見た「ピエロ」の何人かは更に射精を繰り返した
敵からの干渉を歪める形で刷り込まれる命令はほぼ完成の域に達しつつある
「『一ツ眼』は今、学校町の大きなお屋敷に食客として迎えられているンだッテ
でネ、そのお屋敷のお坊ちゃんハ、この町の大きな高校に通ってるって聞いタノ★
分かるかナ、ブレザーの子どもたちダヨ? その高校の子どもたちなら、愛を受け取ってくれるかモネ♥」
「ほントッ!? ほんトにッっ!? 高校生に愛を返死てもいいンッ!?!?」
「おホぉぉォォンッッッ!! 妊活カーニバルの開催だァァっっっ!!!!」
「高校生……♥ ブレザー……♥ かわいいかわいい……♥」
「高校生ってもう赤ちゃん作れるよねェェっ! ヤっちゃっていいンだよねェェッッ!!」
「いっぱいいっぱい頑張らないとォォ♥♥ 女神サマも頑張れ♥って言ってるんだからァ♥ 頑張らないトぉぉ♥♥」
「みんな頑張レ♥ “パパ”も“ママ”もきっと喜んでくれルヨ♥♥」
「うんンんんンンン!! 頑張るゥゥゥウウゥぅぅううぅうぅゥゥゥぅぅぅううッッ!!!」
「中央高校♥♥ でも危険すぎるッ!! 中央高校は“結界”あるからッっ♥♥ 駄目ぇッッ!!」
「お前バカだろォォ!! 放課後を狙えばいいンだよぉぉぉぉぉぉんんん!!」
「そっかぁぁ、放課後♥ 放課後にデート♥ レッスン♥♥ 種付けレッスン♥♥ 頑張らなくちゃ♥♥♥」
新たな命令を植え付けられて狂喜の渦に飲まれた「ピエロ」達を満足気に眺めながら
まるで新しい玩具にはしゃぐ子供達を愛おしく見詰める母親のように、“彼女”は微笑んだ
「そうダヨ♥
愛を恩返しするなラ、まず弱い所からヤってかなイト♥♥ ダヨ♥♥」
「全員動くなァァッッ!! 『組織』だぁぁッッ!!」
「組織」の黒服達が怒号と共に現場を急襲したとき
既にその場所には誰も存在しなかった
まるで以前に遺棄されてそのまま時間だけが経過したかのように
静寂のみが空間を支配している
二点、違和があるのだとすれば
矢張り先程まで此処に何者かが、それも多数の者が居たと思わせるぬるい気温と
男達の体臭のようなそれに加え何やら酷い臭いが混じっている、特有の空気だろうか
「くそッ! 間に合わなかったかッ!?」
「主任、改めて確認しますが」
悪態をつく黒服に対し、部下と思しき者が声を掛ける
「現場での察知系能力の行使は――」
「許可できない! リスクが大き過ぎる
くそ、例の報告が無ければ、あわや大惨事だったぞ……」
主任と呼ばれた黒服は歯噛みしながら頭髪を掻き毟った
彼ら過激派と言えど、ここまで勝手に振る舞う「ピエロ」達を前に
全てを穏健派に押し付けて傍観役に徹する真似は出来なかった
かつて「狐」の案件で過激派と強硬派の一部が暴走した挙句
貴重な手掛かりを無駄にし、「狐」をも取り逃がしてしまった彼らは
「狐」の案件に関わることこそ出来ないが「ピエロ」ならば、と対処を開始したのだ
「まさか察知系能力へのカウンターとは、やられましたね」
「感心している場合じゃないッ!! 初動が早ければまだ封じ込めも出来たが、こうもなってはッ!!」
「やはりこの件、裏で『狐』が絡んでいるのでしょうか?」
部下の一人が疑問を呈する
その言葉に主任は手を止め、目を閉じた
「まだ判断を出すのは早計、それが現段階での幹部達の判断だ
だが、状況から推察するに『ピエロ』が『狐』の陽動を担っているという見方を排除することは出来ない――!!」
「『狐』が本格的に学校町制圧に動き出した、とか?
三年前の件があるでしょうから、『狐』も策を練ってると見るのが自然でしょうし」
「『狐』の案件は穏健派の連中が何とかするだろう
いや何とかして貰わないことにはこっちだって困るんだッ!!
俺達は何としてでも『ピエロ』を討伐し、その中枢を押さえるぞッ!! いいなッッ!?」
主任の言葉にその場の部下全員が首肯した
此処からは人海戦術だ
個々の黒服達はこの場に居た筈の大量の「ピエロ」達を見つけ出すべく夜の学校町を奔走することになる
だが果たして、「狐」と「ピエロ」との間に繋がりなど存在するのだろうか
彼ら黒服の私見は、最終的にどのような末路を辿ることになるのか
今はまだ、誰にも分からない
学校町南区、某ビル屋上
彼女は放課後、別の学校の友人と一緒に南区を回っていた
移動屋台が集まる南区の一角で新作のクレープを楽しんだ後
キッチンカーに陳列されるお菓子を眺めながら時間までお喋りして
それから、楽しい気分のまま、友達と別れる――筈だった、筈だったのだ
彼女は震えながら目の前に横たわる友達を凝視していた
友達はもう、体を動かすことは無かった。でも、生きてる筈だ
根拠の無い思い込みだけが、今の彼女にとって唯一希望を繋ぐ糸だった
生きてる筈だ、生きてなきゃダメなんだ。死んでなんかない。死んでなんか
友達の顔面には血と肉の花が咲いていた
最早、何処が眼で何処が口なのかも分からない程、ぐちゃぐちゃにされている
鼻があった筈の部分は盛り上がりも何も無く、顔面が削り取られたかのような状態だった
赤い中に見える白い物は骨、いや違う。白い、ご飯粒のような物が、友達の顔の中で蠢いている
思わず目を背けたくなる。が、出来ない
出来る筈が無い
喉の奥から酸っぱい物が込み上げるのを彼女は必死で押し留めた
「それじゃ、もう一度聞くね?」
自分と友達を、こんな目に遭わせた元凶が
直ぐ耳元で囁いた
「キミは南区の商業高校、一年生。だから知ってる筈なんだ
さわたり、しゅうじゅ。名前、知ってるだろ? ホントのこと言ってよ、ねえ」
「うっぐっ、しっ、知らないっ! ほん、とにっ、知らないっ、ぅうン、ですっ!!」
「さわたりしゅうじゅだよ、早渡脩寿。知ってんだろ? なあ!?」
「ごめっ、なさい゙っ、わたっ、しっ、ほんとにっ、知らなっ、ぅあっ」
元凶の少年は、女子の肢体を優しく撫でつけた
少女は先刻まで着ていた筈の制服を剥ぎ取られ、今や下着のみの姿で、無理矢理横たえられていた
彼女の白い腹部は少年の爪で引き裂かれ、裂傷の中から内臓が大きくはみ出ている
引き裂かれたのは腹だけでは無い、女子のふくらはぎから踵にかけてが、ずたずたに切り刻まれている
不意に少年は手に取っていた少女のはらわたを指で弄んだ
「ゔっ、ぅぁあっっ、やめ゙っ、ぅぅううあああっっ、お゙ぉ゙ぉ゙っ」
彼女は顔を背けてお腹の中身を吐き戻した
先程食べたクレープだったモノが屋上の床を汚した
「あ~あ、きッたないゲロ吐いちゃってさぁ、ホントくッせえな」
「でもこのゲロ、美味しそう」
別の声は少女の反対側からだ
女の子だ、少女と年齢は同じ位だ
ただ、その声は彼女のそれに比べて幼い
内臓を弄ばれる彼女を挟むようにして
元凶の少年と、彼の連れである少女が両脇を詰めていた
吐き戻した側にその少女は詰めていたので、吐瀉物が彼女と少女の間に広がっていた
おもむろに連れの少女は
吐いた彼女の口を己の口で塞いだ
艶めかしく口元が蠢く。彼女の眼は恐怖で見開かれた
ややあって少女は口を離した
大量の唾液が白い糸を引いて二人の間を伝う
少女は蕩けたような表情を浮かべていたが、彼女の方は錯乱したように悲鳴を上げていた
「お姉ちゃんのゲロ、酸っぱくて、甘くて、美味しい
女の子の味がする♥」
少女は囁き声でそっと彼女の耳たぶを噛む
「うぁ、ぅああぁあ゙あ゙ぁ゙ぁ゙っ!!」
目を見開いたまま、女子生徒は泣いていた
まるで幼い子供がただ感情のままに泣き叫ぶように
「マヒルの変態、ふ、変態マヒル、ふぅッ」
その様を前に、少年は押し殺した声で嗤っていた
「じゃあ何、ホントになにも知らないんだ
早渡脩寿はモテないのな、ゴミはゴミのままで安心だわ」
少年は満面の笑みに顔を歪め
泣いている彼女の肩に手を回した
震える彼女の耳元で彼は、甘く、囁く
「キミのふくらはぎ、柔っかくて、ぷにぷにで
甘くて、だからとっても、美味しかった」
「いやぁ、ああっ、ああぁぁ゙っ、あ゙あ゙あ゙っ」
「正直今すぐ食っちゃいたい
優しくするから、ふ、気持ちくしながら、ふッ、ふぅッ
命令が無ければ、ふぅッ、イかせながら食っちまうのに」
少年は自分の右手の先を噛んだ
噛む度に口内からバキバキという音が響く
事実、彼は自身の指先の骨を歯で噛み砕いていたのだ
「ふぅーッ、我慢しなくっちゃ、クソみたいな命令でも
ふひッ、命令は絶対だって、ふぅッ、先生も言ってた、くひッ
だから、だから俺は、ひぃッ、我慢しなくっちゃあなあ、くひぃッ」
込み上げる笑いを窒息させ
少年は唸るように押し殺した声を漏らした
右手の先を噛む口からは血が垂れ始めるが構う様子は無い
「大丈夫、お姉ちゃんのこと、きっと正義の味方が救けに来てくれる」
耳の縁を何度も舐め上げながら
少女は女子生徒の耳元でそっと囁いた
女子の側からは決して見えないのだから分かりはしないだろう
柔らかく、優しく囁くその少女の目元は、愉快な物を見詰めるかのように歪んでいることを
「だって、正義の味方の好物は恐怖と絶望だもの
ヒーローの御馳走はね、あなたの泣き叫ぶ声なんだよ
あなたの苦しむ悲鳴だよ、だから、もっともっと、大きな声で救けを呼ばなくちゃ」
「ごっ、ごろ゙ざな゙い゙でっ!! たっ、たっ、たすっ、たすけてくださいっ!!」
「もっと大きな声で泣かないと、誰にも聞こえないよ?」
「だずげでぐだざ――ぉおおおお゙お゙お゙っ!!」
彼女の命乞いは途中で遮られた
少年が彼女の傷口に手を深く押し込んだ所為だ
その様子を見て、少女は嘲笑った
「あのなあ、泣けば何もかも許されるって
本気でそう思ってんのか? なあ? だから泣いてんのか?」
「ごめ゙んなさっっ、ぁぁ、ぁあああ゙っ、ごべっ、ぉ゙ぉ゙っ、ぃやだっ、ごべんっ、あ゙あ゙」
少年の声は飽くまで静かだ
内臓を直接弄ばれた少女の吐瀉物には既に血が混じり始めている
「もうお互い子どもじゃ無いんだからさぁ、弁えなよ
――で、キミとこの子、俺はどっちを見過ごすべきだと思う?」
「ぃゃ、ぃゃ、やでず、も゙う、ゆる゙してください゙っ」
「選べよ? でなきゃ、俺に聞こえるように命乞いしなきゃ
ほら、しっかりやれよ、お姉ちゃんもう高校生だよね? 16歳だよねえ!?」
「ごめん゙な゙さい! ゆるじでぐだざい゙っ、うぁぁ゙、ぁああああ゙あ゙」
「もっと大きな声でぇッ!!」
「ごめんな゙ざい゙っ!! ゆどぅ、ぁっ、ぅおおおお゙お゙、お゙お゙っ、ごろ゙さな゙いでくださいっ、ああ、ぁぁぁ゙ぁ゙」
「なんだ、言えるじゃないの」
少年は無邪気に微笑みながら、横たわった彼女の友人に手を掛けた
途端に先程まで動かなかった友人の顔面から激しい呼気が聞こえ始めた
辛うじて鼻があった部分が蠢いて、断続的に血の混じった息を噴き散らした
息を吹き返したのでは無い、少年に掴まれ、神経に爪を立てられた激痛に呻いているのだ
「じゃあ、この子を、キミの代わりに[ピーーー]していいよね? ねっ?」
「だめ゙でずっ、やっ、やべでっっ、ぅおお゙お゙っ、ああああ゙、いやだあ゙あ゙あ゙」
「さっきから鼻水とか涙とかゲロとか撒き散らしやがって、やる気あんのか? お前?」
「ごの゙ごわ゙っ、だい゙ぜづな゙っ、とも゙っ、ぉぉぉ゙ぉ゙、どぼだぢなん゙でずっ、だがだっ、ごどさだい゙でっ!!」
「はーい、よく言えましたっっ、と」
少年は急に興が削がれたとでも言いたげな投げやりな口調で立ち上がった
そしてそのまま、横たわった友人の脇腹を、蹴り込んだ
「や゙べでぐだざい゙っっ!!」
友人を庇う様に、女子生徒は友人に覆い被さった
その途端に、彼女は耐えていた嘔吐を繰り返した
最早吐瀉物では無く、彼女の口から吐き出された血が、友人の顔に掛かった
「お望み通り、お前のオトモダチは助けてやるよ
それからお前のこともなあ、なあ、嬉しいだろ? ちゃんと感謝しろよ、感謝も出来ねえのかお前はッ!!」
少年は友人を庇う女子生徒の頭髪を掴んで揺さぶった
言葉こそキレた調子だが、彼の顔には未だ微笑みが貼り付いている
「ありがどお゙ござい゙ま゙すっ、こどさな゙いでぐでで、あり゙がどお゙ございまっ、ぅぁ、すっ、ぁぁ゙ぁ゙」
「そうそう、感謝は大事だよー? そんなの誰でも知ってるよー
じゃあ、キミとオトモダチを見逃してあげるんだから、キミのカゾクを[ピーーー]しちゃってもいいよね??」
突然の少年の提案に
女子生徒は言葉を吐き出すでも無くただ呼吸を繰り返した
少年が何を言っているのか、彼女には直ぐには理解出来なかった
「この世はね、シンプルな理屈で成り立ってるんだ
トレードオフ、等価交換、何だっていいよ。兎に角、何かを犠牲にしないと何も得られないんだ
分かるっしょ? 俺はキミとオトモダチを助けたよね? だからその分、俺は何かを奪わなきゃいけない」
再び、少年の顔が悪意に歪む
その表情は年頃の悪戯少年のそれと比するには余りにも残忍に過ぎた
「キミはオトモダチとカゾクを天秤に掛けて、オトモダチを選びました!
だからそのトレードに、俺はキミのカゾクを食っていいってわけ! いいシステムだよなあ、ほんっと」
「えっ、あっ、あの゙っ、なに゙を゙、言ってん゙かっわがっ、ああ゙あ゙あ゙」
漸く女子が顔を上げ、口を開くが最後までは話せなかった
少年の蹴りが腹部に直撃したからだ
「だーかーらー、俺は今からキミのカゾクをみんな[ピーーー]しちゃいまーす! ッてわけ!
楽しいなあ、たッのしいなあ♪ うッきうッき遠ッ足、たッのしいなあ♪ 俺ッてほんッと、あったまいいー♪」
「かぁクンばっかりずるいよ、そろそろ私も混ぜてね」
直前まで微笑みながら状況を傍観していた少女も、漸く彼に声を掛けた
「よく見てろ、ゲロ女」
少年が彼女の頭髪を掴み、無理矢理顔を上げさせた
不意に、彼の顔が溶けた。しかしそれも一瞬だった
直後、少年の顔は女になっていた
顔だけではない、体つきも女のそれに変化していた
正確には、彼の目の前に居る女子生徒の姿と、瓜二つになっていた
「これで」
少年、いや、直前まで少年だった、自分と同じ顔の少女はきゅうと笑う
顔面全体に少女に対する嘲りが刻まれているような笑顔だった
「お前のお袋も、親父も、俺の正体を疑わない
俺はお前の振りをしてお家に帰ればいいんだからなあ
可哀想に、お前の親は、ここでお前が死にそうになってるのに気づかないんだよ
そして」
彼は女子生徒の耳元に顔を近づけた
押し殺したように嗤うその声も、おぞましいことに彼女のそれと同じだ
「俺に食い[ピーーー]されて、死ぬ。ちょろい人生だよなあ、お前のカゾクはさあ」
「やめ゙っ、やめ゙でぐだざい゙っ!!」
「じゃあ、止めてみろよ、ゲロ女。お前の情報はこっちにあんだからよ」
ひらひらと彼女の前で見せびらかせる様に振るのは
女子生徒が持っていた筈の携帯と、生徒手帳だ
「俺は今日からお前に成り代わる。お前はここで震えてろ
あ、大声で救けを呼べば、正義の味方気取りが来てくれるかもよ♪」
「やべで……、やべでぐだざい゙、だでがっ、たずげで……!」
「ああ、そうだ
いいこと思いついたよ
よーく見ててね、ゲロ女」
女子生徒の顔をした少年は彼女の携帯を弄り始めた
少女の方も少年の傍に寄り、携帯を覗き込む
「で、どれだ? こっから見ればいいのか?」
「かぁクン、これだよ、これ。そのままタップして」
「おうおう、なーる。あ、待て。よし、――ああ、お母さん、うん、わたし!
今から帰るね、うん。今日の晩御飯なぁに? あっ、そうなんだ
うん、わかった。早く帰るね。うん。えへへ、お母さん、いつもありがとね!」
携帯に向かって話す少年の声は、普段の彼女のそれだ
漸く状況が飲み込めた女子生徒の眼が恐怖で見開いた
今、女子に化けた少年は、何処へ電話を掛けているというのだ
「お前のカゾク、マジでちょろいなあ、ゲロ女。もう攻略完了でつまんねーわ、マジちょろ」
女子の声で少年はそう言い捨てると、出し抜けに服を脱ぎ始めた
まるで最初からそうする積りだったかの動作で
先程引き剥がされた彼女の制服を拾い上げると、そのまま着替え出した
「うは、メス臭え服だな。これで俺はもうお前なんだわ
誰が見ても完璧な。だろ、マヒル?」
「うん、凄く似合ってるよ」
「そらそーよ、制服は元々このゲロ女のだしなあ!」
二人の声が、状況を理解した女子の耳に突き刺さる
「じゃあ、俺たちはお前ん家で 夕メシ 食って くっから
気が向いたら、 お袋の味 って奴を教えに来てやるよ」
それだけ告げて、少年と少女はビルの屋上から飛び降りて行った
二人は行ってしまった
取り残された女子生徒は、震えていた
あれは幻覚だったのか? あの少年の顔は自分の顔になった
自分の声に成り代わって、自分の制服を着て、行ってしまった
魔法か何かなのか? それとも全部、悪い夢なのか?
混乱する頭の中で、しかし、女子生徒の中で恐怖が膨れ上がる
自分と友人を襲撃したあの二人は、自分の姿を奪って行ってしまった
あの男は、私の家族を[ピーーー]と言った。それははっきりしている
このままでは、家族があの化け物に[ピーーー]されてしまう
「あ、あ゙あ゙……」
恐怖が、急速に膨れ上がっていく
不意に、先程、あの男に足を掴まれて
ゆっくりとふくらはぎを食い千切られる感触が蘇ってきた
ああやって、私の家族を食い[ピーーー]積りなんだ
「いや゙だ……! だれ゙が……、だれ゙が、ぅお゙っ、だっ、だずげでぐだざい゙……!」
頭の中が、ぐちゃぐちゃになる
もう、息が吸えない、苦しい
□■□
[ ]
①一部の「ピエロ」達は学校町内の小中高に通う児童生徒の襲撃を企図
②現在、「ピエロ」関係者で学校町で何らかの行動を取っている、もしくは何らかの影響を与えているのは以下の人員
・呪術「アブラカダブラ」の契約者
……事象改竄系能力
本人の設定した通りに世界を改変する
★「死毒」から離脱し、現在ひかりちゃんを追跡中
・怪異「海からやってくるモノ」の契約者
……察知系能力へのカウンター能力者
察知系能力者を狂死させる能力を有する
★「死毒」から離脱し、現在ひかりちゃんを追跡中
・伝説「サルガッソー」の契約者
……不可視の海「サルガッソー」を発現
圏内の対象を粘度の高い海水で封[ピーーー]る
不可視の藻類を制御することで対象の扼殺も可能
彼らの当初の計画では上記「やってくるモノ」の契約者との連携で学校町の住人を鏖[ピーーー]る予定だった
※現在、まだ学校町へ到達していない
・神格「イナンナ」の契約者(?)
……性愛の神としての側面、強度の精神干渉“魅了”能力と
軍神としての側面、多数の武器生成と身体強化能力を有する
また彼女の同僚から借りたという、「カーマの弓矢」を装備している
今回の計画では前線に出る戦闘要員では無いし、本人もその気は無い
※現在、「ピエロ」と共に所在不明
・伝説「███████████」の契約者
……下衆
何らかの変身能力を有する
「七尾」出身者で「早渡脩寿」を探している
※現在、所在不明
・都市伝説「ゴキブリを食べて死んだ男」他の契約者
……口内から大量のハエの幼虫・ゴキブリの幼虫を生成する
上記「███████████」の契約者とバディを組んで行動中
※現在、所在不明
全方位に土下座 orz
特に花子さんとかの人に土下座 orz
前スレ最後の方で話していた嬉しくない方のR-18Gです
恐らく次回辺りでRナンバーの乱野憐子が登場します
あと今だから言いますが
当初のあらすじでは後半登場の二人組に立ち向かうのは
いよっち先輩の予定でした
皆様乙でーす
ここんとここっち全然顔出せて無くてごめんよぉおおおまともに続きも読めてねぇ0(:3 )~( ﹃゚。)
もそもそと続きのようなもん書いてたりはするんで今度こそ近日中に……投下……したい……
気持ち浮き沈みの沈みの最中もあって遅くなったら本当すまぬ
ピエロ誘惑していかなきゃ…
馬鹿なので夏風邪でひっくり返っている鳥居の人参上!
ようやっとポカリの味がわかるようになってきた…
週末は塩バターラーメン食べる予定だったのに、固形物が喉を通らない
次世代ーズの人乙でーす!
キャラ再現完璧っす!ありがとう!
是非続き書かせていただきたいけど、少々お時間いただきたい。
桐生院兄妹の父、蘇芳と「カダブラ」は面識ありという感じですか?
シャドーメンの人もお久しぶり&乙でーす!
カードゲーム詳しくないけど、熱く戦っていることはわかるぜ!
花子さんとかの人もお久しぶりです!まったり行きましょう!
皆さまお疲れ様です
>>103
無理は禁物ですぞ
特にこの梅雨から夏に掛けての時期はやばい
>>104
ありがとうございます!
お時間、了解です! ですがご自愛ください!
自分もその昔、丁度この時期にぶっ倒れたことがあり
その時にポカリはちょい濃度高めに作ると良い感じということを学びました
(効き目には個人差があるのでご注意)
>桐生院兄妹の父、蘇芳と「カダブラ」は面識ありという感じですか?
蘇芳さんが彼ら暗殺者を知っているかは……分かりませんが
少なくとも「海からの」も「カダブラ」も蘇芳さんのこともるりさんのことも知っています
基本、「ピエロ」サイドに登場するピエロじゃない人物たちは裏世界の住人なので
「組織」の構成員や鬼灯さんといった方々についても知っている、という感じですね
これからもっと色んな生き物が登場します
そして何か書く度に土下座(特に花子さんとかの人とシャドーマンの人へ土下座)することになりそうです
>>108
もっと魅了掛けるんですか!?(いけない)
天地さんのストレスが心配だ
ん?
サキュバスが「ピエロ」魅了→「ピエロ」の魅了を女神が上書き→「ピエロ」は学生を集中的に襲撃か
→サキュバスの魅了激化→「ピエロ」の妊活が加速→天地さんキレる(?)→遂にモンスの天使が解き放たれる
→天使と淫魔が町中に→(見た目が)アルマゲドン勃発
……大丈夫かしら(すっとぼけ)
>>107
一番俺が大丈夫じゃないです(被害出過ぎると収集つけられなくなって今後のこととかうにゃーうにゃーして爆発四散する)
あ、あー……
少なくとも「ピエロ」の学校襲撃は
そもそも「ピエロ」が襲撃を実行できるのか、って問題があり
都市伝説「ピエロの誘拐団」からの推測で「子供を狙いそう」って所は見当がつくと思うので
当然「組織」も潜伏で学校近辺の警戒に当たる、っていう風に考えています
問題はその後の方ですが
騒動翌日のニュースで「芽香(?)市内でピエロの仮装集団が出現し暴動が発生、市内は一時騒然」
という感じの記事が地方紙の片隅に載りそう(「組織」が情報操作済み)、という程度で想定しています
今、「夢の国」の時の話を振り返ってるんですが
夢の国勢力が暴れ回ってた時、一般人はそれに気づいてたのか、とか
表向きはどういう風に捉えられてたのか、とか、「組織」がどういう風に情報操作したのか、とか
(たしかあの時も結構収拾がやばそうなことが立て続けに起こってた覚えが)
そういう部分を主に見返して参考にしてます
>>8
亀レスにもほどがあるけど答えますよー
1 七つの大罪って何者ですか?
幼馴染の仲良しグループだったと思います
目的とか経緯とかはそのうち考えようかと……ちょっとデータ消えちゃって色々設定忘れて……
2 堂寺と疾風の履いてる下着を教えてください
そんなん設定してな……たぶんボクサー型とかだと思います
疾風は変装次第で下着も変えたり変えなかったりするよ(見える可能性があると下着も変装するよ)
3 堂寺と疾風はどういう関係ですか?お互い好きですか?
普通に友達です
堂寺「好きってどういう……? そりゃあ友達としては好ましいと思ってるけど。
恋愛的な意味ならないよ。高校生の男子とか守備範囲外だよ~せめて中1までだよね! 小学生のほうがもちろんいいけれど」
疾風「友達で同じ部活のメンバーだよ。堂寺君は物覚えがよくて神経衰弱とか無敵なんだよね……妬ましい。
え? 好きかって? なんで僕と堂寺君に……? もちろん嫌いじゃないよ。それにしても堂寺君の『ゲーム脳』って割とチート能力過ぎない? 妬ましい……」
なんてこった……
もう夏が終わってしまった……
夏が終わったということは一年ももう終わるということだ……
なんてことだ……
「あのう、すいません」
逢魔ヶ刻を迎えた通学路
制服姿の少女が、先を行く制服姿の少年に声を掛けた
少年はおもむろに振り返る
「あの、ちょっといいですか?」
そう声を掛ける少女の口は異常な程大きなマスクに覆われている
どこの制服かは知らないが、たぶん、いや絶対市内の高校に違いない
少年の目が彼女の顔から胸元へと滑った
うむ、大きい
「あのう、私って、キレイですか?」
「あっはい最高だと思うッス!!」
「えっ、あっ、最高、ですか? ……じゃあ、これでも……」
「あっ、待って!! ストップストップ!!」
彼女がマスクに手を掛けようとした所を、少年は慌てたように制止した
彼はとっさに首から提げられたカメラを構える
それは最早武器ではないかと思わせる程のごつい代物だ
確実に諭吉君が50枚以上吹っ飛びそうな、そんなやばそうなカメラである
「ふひっ、やっぱファインダー越しが断然いいっッスねー!! 最高ッス!!」
「え、あ、あの……」
「マスク外したらもっと最高だと思うッス!! 良かったら外してもらってもいいッスか!?」
「あ……あの、じゃあ……こ、これでもキレイかーっっ!!!」
少年の言葉に、彼女はマスクを外しながら叫んだ
なんと彼女の口は耳元まで大きく裂けているではないか
そう、彼女の正体は世に噂される都市伝説、「口裂け女」だ
しかし少年に動ずる様子はない
彼女がマスクを外し、裂けた口を曝け出した直後
カメラから鋭いシャッター音が響いた
「ふっ、決まったッス……!!」
少年の決め台詞とほぼ同時に、マスクを外した少女は後方へと倒れてしまった
彼は一仕事終えたといった表情で少女を見下ろす
問題ない、彼女は気を失っているようだ
「ふ……、ふふふっ、ぃいやっピぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃイイイイイイイイイッッ!!!!」
通学路に歓喜の絶叫がこだまする
少年はガッツポーズで小躍りを始めていた
「噂には聞いてたンスよお!! 『最近、制服型の「口裂け女」が徘徊してる』ってなあ!!
放課後こうして張り込んでた甲斐があったってモンッスよおッ!! まじでっ!!!」
少年は鼻息も荒く、仰向けに失神している少女に近づいていく
勿論、その間に彼女にカメラを向けて何度もシャッターが切られた
「はあ……、マジかわいいッス……。ああ、いい……。もう最っ高ッス……!!」
少年の名は難波津軍次
実在化した「口裂け女」を瞬時に無力化した彼もまた只者ではない
まあお察しの通り、彼は「写真を撮影されると魂を抜かれる」の契約者であり
ついでに言うと「組織」所属であった
更に言うと思春期であるが故のスケベである
彼はまず、少女の肢体を、特に顔と胸元を嘗め回すように撮影していた
やがて気が済んだのか、彼は数歩ほど下がると、唐突に地面にうつ伏せになった
まるで匍匐前進でもするような姿勢だ
丁度、倒れた少女のスカートを覗き込むような格好である
「ふっふっふ、あとは『組織』に引き渡すだけなンスけど、俺はそんな素直じゃないッスからね
万が一『黒服』が到着するにしてもまだまだ時間に余裕はあるし、こっからがお楽しみだぜぇ……!!」
下衆な声色で何やらいやらしいことを口にしつつ
彼のレンズは無慈悲にも少女のスカートの中へ向けられた
「ひひひっ!! さ~あ御開帳の時間ッスよぉぉ~!! 『口裂け女』ちゃんはどんなの履痛でぇぇぇっ!!??」
「はーいストップそこまで」
少年が乙女のスカートを暴こうとフラッシュを焚こうとする直前
彼の頭頂部に物凄い勢いでヒールがめり込んだ
「痛でぇぇぇぇぇぇぇっっ!!??!!??」
「ったく、駆け付けたら案の定じゃないのよ……」
彼は痛みを堪えながら、自分の頭をおもっきし踏み潰した元凶を睨んだ
すぐ傍に立って少年に軽蔑の視線を送っているのはパンツスーツ姿の若い女性だ
少年より少々年上のお姉さんのようにも見えるが、その正体は説明する間でもなく「組織」の「黒服」である
つまり、実年齢は不明なのだ
「アンタ、そろそろ本当に担当のメガネに言いつけるわよ?」
「くっ! それで俺の弱みを握ったつもりッスかあ!? 暴力には屈しないッスよ!!」
「確か、『無力化後の必要以上の対象撮影は厳禁』、だっけ?
カメラは没収、データは処理してナンバー経由で返却するから、覚悟してよね」
「なっ!? あっ俺のカメラがな、無いッ!?!?」
少年が持っていた筈のカメラは、いつの間にか黒服の首に提げられている
「まったく……いくら相手が都市伝説とはいえ、何やっても許されるとは思わないことね」
「まだ何もしてねえッスよ!!! これからってときに邪魔が入っ、あっ、と、兎に角、まだ何もやってねえッスよ!!!」
「言い訳の上に、邪魔が入らなければそのままセクハラしてたってこと? 最っ低ね」
「ち、違っ!! だ、だって仕方ねえじゃねえッスかあ!!
そりゃ性欲は自分で処理できるッスけどお!! 俺はファインダー越しじゃねえと興奮できねえンだぁぁぁぁっっっ!!!!」
少年の言い訳がましい釈明に、黒服は冷ややかな眼差しで答えつつ
手早い挙動で失神した「口裂け女」をお姫様だっこした
「精々きっついお仕置きでもされて反省しなさい。……じゃあね」
最後の挨拶が非常に刺々しい
黒服は「口裂け女」の少女を抱いて足早にその場を立ち去った
「ちっきしょぉぉ……、来んの速過ぎだろぉぉ、『組織』ィィ……」
少年の口からは恨みがましい声が漏れ出るが
実はこのとき、少年は隠し持っていたコンデジを取り出し
密かにピントを合わせ、現場から立ち去る黒服の尻を、主に尻を執拗に撮影していたのだ
実に、ものの数秒の犯行であった
「くっ、逆光でなければPラインまで撮影できたが……、いやこれはこれで良し!!」
黒服が完全に視界から消えたのを見届けた後
少年はコンデジの画面を覗き込んで撮影の出来を確認する
そして少年は黒服が消えて行った先を物凄い形相で睨み付けた
「俺は絶対に諦めねえッス……!! 超自我の声(※性欲のこと)に従って撮影道を究めるまでなあっ……!!」
<終>
続きをアレすると言ってもう1ヵ月が経過しようとしている
今まで自分は何をしていたんだ
セルフツッコミせずにはいられない……
今夜は【9月】行きます
○前回の話
>>61-65 次世代ーズ
※この話は作中時間軸で【9月】の出来事です
※この話は特に>>65の後の出来事となります
○時系列
●九月
・早渡、「組織」所属契約者と戦闘
・「怪奇同盟」に挨拶へ
・早渡、東中で東一葉と出会う
花房直斗、角田慶次、栗井戸星夜から
三年前の事件について知る
・金曜日、早渡は「ラルム」へ ☜ 今回はこの後の話です
・東一葉、自分を取り戻す
その夜の内に居候先を確保
・∂ナンバー、「肉屋」の侵入を予知
・「肉屋」戦
●十月
・「ピエロ」、学校町へ侵入
●十一月
・戦技披露会開催
・診療所で「人狼」イベント
「人狼」終了後、東と早渡が遊びに来る
・バビロンの大淫婦、死亡
・角田ら、「狐」勢力と交戦
赤鐘愛百合、アダム・ホワイト死亡、角田は重傷を負う
・新宮ひかり、角田らと「狐」の刺客に介入
・「ピエロ」側の暗殺者二名、ひかりらを牽制
・「ピエロ」、東区にて放火活動を開始するも妨害を受ける
・暗殺者二名、ひかり及び桐生院兄弟と交戦 ☜ >>82-86がここ
・上記と同時刻、早渡はモスマンにより重傷を負う
・同じ時間帯、イナンナによる「ピエロ」洗脳(魅了) ☜ >>92-100がここ
・「狐」本戦?
「へえ、キミは春先に引っ越して来たばかりなんだ」
「はいまあ、でも直ぐ慣れるもんすよ。住めば都って言いますし」
日没後、まだ夜の闇が完全には訪れていない頃
商業高校の制服を着た男子が大きなトランクを持って
コート姿の女性の後に従うように南区の歩道を進んでいた
「本当に親切で助かる。久し振りの学校町でちょっと戸惑っちゃって」
「いやぁまあ困ったときはお互い様っす」
「でもいいの? 人探してるんでしょう? 着いたらお姉さんも手伝おうかな?」
「そんな、気にしなくて大丈夫ですよ! 行き先も一緒ですし!」
女性に先導され、商社ビル同士の隙間を進んでいく
そこは表とは異なり一気に照明の届かなくなる影の世界だ
「ヤマダ君って学校でモテるでしょ? 優しいし気が利くし」
「無いっす! マジ無いっすよそれは! モテるだなんて可能性のカケラも無いっす!」
「そうなの? でも絶対モテるよ、ヤマダ君。意外と女の子たちに目を付けられてるかもよ?」
「えー、ど……どうっすかねー……」
男子の方は控えめに見ても女性に対してデレデレの様子だ
無理もない、コート着用のためはっきりと分かるわけでは無いが
女性の容姿は思春期の男子にとって中々刺激的なスタイルのようだ
「重いトランクも運んで貰ってる訳だし、お姉さんにヤマダ君の人探し手伝わせてね」
「そんな! 悪いですって!」
「いいのいいの、お姉さんの知り合いに人探しのプロがいるから」
「プロ、ですか。探偵みたいな感じっすかね?」
「んーまあそんなとこかな」
女性と男子は路地裏を縫うように進んでいく
もう、そこは人気の全く無い一角だ
繁華街の喧騒が何処か遠くに聞こえる
「ちなみに探してるのってどんな子なの?」
「幼稚園生くらいの男の子っすよ、知り合いの子なんですけど」
「へー、南区で迷子になっちゃったのかな?」
「ええ、もう居なくなって大分経つらしいんで自分のとこにも探してくれって連絡が」
「へー」
ようやく女性はビルの前で立ち止まった
陽も落ちており、灯りは遠くからの便り無い光のみだ
その為おぼろげにしか分からないが兎に角古いビルのようだ
古いビルの裏口に来ているらしい
二人は今、やや錆び付いた金属製のドアの前に立っていた
「じゃあ、お姉さんは知り合いに連絡してみるから
ヤマダ君、悪いけど最期の一仕事お願いできる?」
「任せてください!」
「そのドア開けたら階段があるから、地下のバーまでトランクを運んで欲しいの」
「了解っす!」
女性の言葉に従い、男子はドアノブに手を掛ける
意外と抵抗の強いドアは、金属の軋む音と共に押し開けられた
内部から一気に生温かく、埃臭い空気が男子に向かって押し寄せてきた
中に照明は無く、闇一色だった
よし、一仕事だ
地下へ続く階段へと運び込もうとしたトランクを、男子は横合いへと投げ捨て
後方より振るい下ろされた警棒を、生成した“黒棒”で振り返ることなく受け止めた
●
「生成が甘いぜお姉さん。それとも“お巡りさん”と呼んだ方がいいか?」
「……っっ!?」
「ラルム」に行ったものの千十ちゃんとコトリーちゃんには会えず
おまけにバイトのお姉さんには絡まれるし、東高校の女子には睨まれるしで
早々に退いた帰りに、「人面犬」の半井のおっさんから連絡があった
聞けば「知り合いの『コロポックル』のガキンチョが一匹迷子になった」らしい
で、即答で迷子捜しの手伝いに加わることになったが、早速都市伝説と遭遇だ
はっきり言えば切っ掛けは偶然だ
繁華街の手前で堂々と俺に声を掛けてくる都市伝説に会った
普段なら適当に言い訳してナチュラルにその場を早急に立ち去るんだが
このお姉さんから問題の『コロポックル』の子の“波”を微かに感知したとなれば話は別だ
(お前は犬かよ)
半井のおっさんにはイヤミ言われたが、まあなんだ
事前に『コロポックル』の子の服から“波”を嗅いどいて正解だったな、うん
「まさか……っ、契約者だったなんて……!?」
「俺をこんな所まで誘い込んでどうする積りだったんだ、『偽警官』さん」
「くッ……!!」
動揺を振り切るようにお姉さん、「偽警官」はコートを脱ぎ捨てた
コートの下は警官の制服だったようだ
「偽警官」の手が腰へと動いた、だが、その動きは予想出来てる
“黒棒”の形成を崩し鞭のようにしならせる
彼女の手を打ち据えると同時に得物を奪い取った
旧式の回転式拳銃だ
「ぐぅ……っ!」
「 跪け 」
「うっ、ああっ!?」
一気に畳み掛ける
「偽警官」は膝から崩れ落ちた
「ちょっ、調子に乗るなよぉぉっ、ヤマダぁぁっ!!」
「 這い蹲れ 」
「ぐっ、んんッ♥ うっ、あ゙っ♥」
一応断っておくが俺の名前は山田では無く早渡だ
山田ってのは「偽警官」に会ったとき咄嗟に名乗った偽名だ
彼女は完全にうつ伏せ状態になっていた
時折痙攣したように身を震わせるが、もう立ち上がることは出来ないだろう
「こっ、……こんな、餓、鬼にぃぃっっ……っ♥♥」
何処となくエロっぽい声を上げてるのは気の所為ですかね?
まあいい、倒れた「偽警官」を見下ろし
そのとき初めて彼女の傍らに注射器が落ちているのに気づいた
彼女の右手の直ぐ傍だ、直前まで隠し持っていたものか
周囲の気配に警戒しながら、それを拾い上げ、遠くの灯りを元に確認してみる
赤い薬剤が詰まった注射器だった
「偽警官」のトランクに入っていたのは謎の白い粉の詰まった無数の袋
色々疑惑と想像が働くものの、今俺が探しているのは「コロポックル」の少年だ
廃ビルの中に踏み入り、階下へと進んでいく
当然ながら灯りは無い、そして当然ながらその先に何らかの気配を感じる
間違いなく都市伝説がいる、こちらを待ち構えているようだ
だがそれだけじゃない、先程よりも件の「コロポックル」の子の“波”が強くなってる気がする
恐らくここだ、ここにいる
階段を下り切った直ぐ横にあったのは木製のドアだ
蹴破るように中へ押し入る
空間を無数の殺気が奔った
だがあまりにも直線的、おまけに殺気の元は全てある一点だ
手に持った“黒棒”を振るい、鞭のようにしならせる
警戒しろ、油断するな、罠かもしれない
“波の先触れ”に警戒しながら
殺気の源へと“黒棒”の先端をやたらめったらにぶち込んでいく
手応えは、あった
「げほっ、ンがっ、あ゙っ、ごっ!!」
暗闇の向こうから押し殺した呻き声が断続的に響いた
何というか、軽い、軽過ぎる
気配と呻きの響き方からして相手は床に倒れているようだ
少なくとも直前までの殺気は完全に消え失せていた
ポケットをまさぐり携帯を引っ張り出す
相手をボコボコに叩き伏せたとはいえ、こうも暗いと流石にやり辛い
ライトを点けようと携帯を弄って、で、どれだ? あ、これか
一瞬の眩しさの後に映ったのは真っ黒の塊が床に蹲っている光景だった
いや、真っ黒の塊というより真っ黒に汚れた男がそこに居た
よく確認すれば、何というか普通に居そうな髭面のおっさんだった
「ぐはっ、ごほっ、くっ、まさか、こんな、餓鬼に」
「上でも聞いたぜ、おんなじセリフ」
“黒棒”を解き、鞭の形状にすると天井へと振り上げた
先端が天井を突き破り、裏に這わされていた配線を掴んだ
これを使おう、再び天井を突き破り一直線におっさんへ突き刺すと
配線コードを利用する形でおっさんの体をがんじがらめにした
そのまま一気に引っ張り上げる
「ぐおおおおっ、貴様ぁっ!?」
丁度問題のおっさんは今、天井から吊り下げられるように縛り上げられていた
見たか、これが修行の成果だ
「あんた、『臓器泥棒』だろ? 何だよ『漁って』たのか?」
「……ほう、餓鬼の分際で、ぐっ、俺のことを、ごほっ、知ってるような、口振りだな」
「臭いで分かんだよ、あんたにこびり付いた血の臭いがな」
おっさん、正しくは「臓器泥棒」は闇の中で嗤っていた
口から垂れ出た血反吐が荒い息で噴き飛ばされていた
「く、ごふっ……、これでは、どっちが化け物か、はぁ、分からんな」
「うるせえ俺は人間だ」
「臓器泥棒」のぼやきに殆ど無意識で返していた
ライトに照らされた「臓器泥棒」の目が敵意と憎悪で揺れている
「どこの手のモンだ、『組織』か、『首塚』か?」
「犯罪者に話す情報は無い」
「臓器泥棒」が僅かに身動ぎしたが大きな呻きが漏れただけだった
関節と骨を縫い付けるようにして配線コードを貫通させたので
頑丈な都市伝説とはいえ、動くのは容易じゃないだろう
ましてや天井から吊り下げられてるんじゃ尚更だ
「おっさん、あんた『コロポックル』の子供を誘拐したろ」
「さあ、知らんな」
「とぼけんなよ、市場で売り飛ばせば高い額になるからな。その子をどこへやった?」
「横からくすねに来たのか、糞餓鬼が。話すことは何も無い、何もな」
「臓器泥棒」は無理矢理口角を吊り上げるようにして嗤っている
汚い笑顔を俺に見せ付けるかのようにだ
息を吐いた
一応周囲の“波”に警戒してみせたが
目の前の「臓器泥棒」以外に伏兵の気配は無さそうだ
いや、部屋の隅の方が微妙に怪しい
ライトを「臓器泥棒」の顔面に当てたまま、おもむろに周囲を見回す
此処は長らく使われていないバーのようだった
テーブルと椅子が床に転がっており大分埃が堆積していたらしい
突如携帯が震える、「人面犬」の半井さんからだ
即座に着信に応答する
『どうだ早渡! 見つかったか?』
「おっさん、ビンゴだ! 入ってきてくれ!」
『今行く!!』
通話が切れた直後、階上からバタバタと大きな物音が響いた
階段を何かが転がり込むように音がこちらへ近づいてきた
「早渡、どうだ!?」「れおん見つかったか兄ちゃん!?」
異なる声が二つ、一つは北海道犬な「人面犬」の半井のおっさん
もう一つはホワイトシェパードな「人面犬」の新谷さんだ
「なっ、何だよコイツは!? 誰なの!?」
「人身売買やってる犯罪者だよ。新谷さん悪い、こいつ見張っててくれ」
「ええ!? 見張る!?」
「大丈夫、近接タイプみたいだ。直接触れなきゃ問題は無いよ」
殺した声で新谷さんにそう伝え、「臓器泥棒」の監視を任せた
「なあ早渡、上で転がってた姉ちゃんをやったのはお前か? 容赦ねえな」
「言っとくけどあの婦警さん俺を後ろからブン殴ろうとしたからね? [ピーーー]積りで来てたからね?」
「うへ、おっかねえ」
先程気になった部屋の隅は、丁度バーのカウンター裏の部分だった
半井さんと一緒に回り込むと、床に大きなバッグが放置されていた
まるで子供が一人だけ入れそうなサイズのバッグだ
「ビンゴだ早渡」
「無事だよな?」
ファスナーのには簡易的な気配殺しの結界が取り付けてあった
誘拐屋が商品を隠すために使う初歩的な手だ
むしり取るようにして引き千切った
無事で居てくれよ
ファスナーを一気に開き、ライトを照らす
口をガムテープで塞がれた子供が居た
顔面は涙と鼻水で汚れているが怪我は無さそうだ
手を差し入れてそいつを抱き上げた
もう用は済んだ、これ以上此処に留まる必要は無い
階段を駆け上がって外へ出たとき、辺りは完全に夜の闇に染まっていた
「偽警官」はまだ地面に倒れたままだった
様子を見るにあのまま意識が落ちたらしい
「ったく、メソメソすんじゃねえ!」
背後から半井のおっさんの押し殺した怒号が飛んだ
顔だけ後ろへ向けると「コロポックル」の少年、れおんが何度も目を擦っている
「っとーにテメーってやつはよ、勝手に飛び出しやがって」
「まあいいじゃん、おっさん。無事で済んだんだしさ」
「駄目だ早渡、こういうときに甘やかすとつけあがんだよ!」
口を塞いだガムテープと手足の拘束は既に解いてある
一応“波”も確かめたがあの連中に何かされた形跡は無いようだった
この子は自分で立てると言ったんだからそれだけで立派なもんだと思うがな
俺がこれくらいの子供のときに同じことされたら間違いなく漏らしてる自信がある
「おい小僧、こいつにお礼言ったか!?」
「ごめんな、兄ちゃん、迷惑、かけて、ごめんな」
まあ現に泣いてるんだから怖いもんは怖かったんだろう
めっちゃ目玉をうるうるさせて謝られた
「気にすんなって、こういう日もあるさ」
「うん、ありがとな」
それだけ言うとれおんはまた両目を激しく擦り出した
これを可愛いと言ったら、まあ不謹慎だな、不謹慎だろうか
「で、どうする早渡。こいつらはほっとくか」
「後のことは『組織』に任せよう。もう捕捉されてるかもしれない。俺たちも此処に居ちゃまずい」
「よし、とっととずらかるか」
新谷さんはれおんを慰めようとしてんのか、彼の手をしきりに舐め回している
それを見て己のきゅんきゅんゲージの高まりを感じながら、半井のおっさんに生返事した
「じゃ、おっさん、念のため先行して様子を――」
「駄目だ! もう来てる!! 『組織』だ!!」
「ッッ!?」
完全に不意を突かれた
おっさんが睨んでる方向に視線をくれると、ビルの谷間から二名がこちらに向かっていた
一人は女子だ、東区中学の制服を着ている
もう一人は男子――なんてことだ!? 先日やり合った刀使いじゃねえか!?
やべーぞ速く逃げないと!!
「新谷さんとおっさんはれおん連れて先に行け! 俺は、あれだ、何とかする!」
「よっしゃ、新谷! れおん乗せて走れ! 急げ!!」
「あっ、こらっ、待ちなさい!!」
俺たちのやり取りが聞こえたのか聞こえなかったのか知らないが
その場を走り去ろうとしたおっさんズを見てか、女子の方がこっちへ走り出した
大丈夫だ、新谷さんと半井のおっさんは逃げ足が速い。問題ない
するとヤバいのは俺か、俺だな
「そこから動かないで!!」
女子の声が迫って来た
咄嗟に“黒棒”、では無く、“黒棒”を一気に潰した布状の帯をがむしゃらに顔面に巻き付けた
一応即席の覆面だ、大丈夫、まだ顔をはっきり見られた訳じゃない、無問題だ!
女子の後方、刀使い男子の方を睨んだ
奴もこっちを見ていた、完全に視線がかち合った
あちらも俺が誰なのかに気付いている
確実に
大地を蹴る
俺はビルの壁を走るように、上方へと駆け出した
目指すは屋上だ、上に逃げてその後のことはそれから考える!
「あっ、待てっっ!!!」
女子の可愛いらしい声を下方に聞きながら
俺は滅茶苦茶に脚を動かした
□□■
前から登場している人物
・早渡脩寿
学校町の商業高校一年
契約者で、学校町の都市伝説勢力には所属してない
以前からの悩みは「不良と勘違いされること、特に妙なのに絡まれること」
・半井
人面犬
自称北海道犬の血を引くクールガイ
直接の登場は次世代ーズ第1話振りになる
新しく登場する人物
・新谷
人面犬、の筈だが口吻があり眉毛がある程度なので
ほぼ犬にしか見えない。ホワイトシェパード
半井のおっちゃんを慕っている
近畿地方出身らしい
・れおん
コロポックルの少年
外見だけでなく本当に少年だそうだ
新谷さんの背中に乗れる程にちんまい
本当の名前は別にあるらしいが、本人曰く「れおんが本当の名前」
コロポックルは闇市場で「珍しいため高く売れる」らしく、業者に狙われやすいという
今回はここまで
今週中にまた頑張りたい
なお……>>123-125にかけてタイトルにミスがあり
トリップが狂ってますが完全にこちらの不手際です……
○前回の話
>>123-128 次世代ーズ
※この話は作中時間軸で【9月】の出来事です
この部屋は照明があるとはいえ、暗い
「組織」所属の契約者、サスガは椅子に座ったまま思案していた
数時間前の件は先にメールで報告を済ませてある
あとは担当の黒服に直接口頭で引き継ぎを行うだけだ
「フリーの契約者なのかなあの人達、『首塚』って雰囲気でも無かったし」
サスガからやや距離を置いて佇んでいるのが
先刻行動を共にした“モヒート”こと見辺 加賀実(みべ かがみ)だ
彼女はサスガと異なる中学に通学する一年生で「コークロア」の契約者だ
サスガの二つ下の後輩に当たり、「組織」の仕事では組まされることが多い
数時間前、彼らは南区の繁華街を巡回していた
その際に裏路地から都市伝説の気配を複数察知し
追跡したところ、現場から逃走する契約者と都市伝説を発見した
所謂“野良”の契約者による襲撃かと現場に駆け付けたところ、「偽警官」が倒れていた
更に気配を感じ、付近の廃ビルを確認して地下のバー跡から
天井より吊り下げられるように拘束されている「臓器泥棒」を発見
この都市伝説二名の身元が近年発生していた人身売買事件の有力容疑者として
「組織」のデータベースに登録されていたため、「臓器泥棒」と「偽警官」の捕獲を優先したのである
この他、「偽警官」が所持していたと思しきトランクからは大量の白い粉末が
バー跡からは複数の監禁用具が発見されており、二名の身柄と共に「組織」付の黒服へ引き渡してある
詳細はこれより調査が進むだろうが
この二名は恐らく「赤マント」や「狐」関連事件の裏で密かに活動していた人身売買の犯罪者だろう
「自警団のつもりか知らないけど、危ないからほんと止めて欲しいわ。まったく」
“モヒート”は苛立ったようにそう独り言ちる
やや置いて、彼女はちらとサスガを盗み見たが
サスガは彼女の様子など意に介さず黙考を続けていた
現場から逃走した契約者と都市伝説
契約者には見覚えがあった、忘れもしない
あれは以前、夜の東区中学で遭遇した契約者だった
逃走の際に「人面犬」が一緒のようだったが、あれは契約者の仲間だろうか
あれは何故あの場に居たのか
あれは一体あの場で何をしていたのか
都市伝説犯罪者との小競り合いだったのか、それとも
あるいは仲間割れという線も否定できなくはない
しかしサスガの直感がそれを否定していた
ならば
今回は容疑者の捕獲を優先し、現場から逃走した者の追跡は行わなかった
一応メールでの報告には逃走者の存在を記載しているし口頭でも報告を行うつもりだ
しかし
「先輩、ねえ。ねえったら。……“オサスナ”」
“モヒート”の声に現実へ引き戻される
僅かに首を捻り彼女の方を見やれば、半眼でこちらを睨んでいた
「先輩、まただんまり?」
「じき担当が到着する時分だ、報告を終え次第本日は解散する」
相変わらず彼女はじっとりサスガを睨んだままだ
「報告は俺がやる。お前は先に帰っても良い」
「そうじゃなくて」
続きを口にしかけ、不意に“モヒート”は黙った
代わりに部屋の入口へと視線を注いでいる
視線の先を追うと、ドアの間から少女がこちらを覗いていた
サスガと目が合ったのか、少女は小さな悲鳴を上げて引っ込んでしまった
「もう、いつから居たの」
ドア越しの少女に声を掛ける“モヒート”の声は
直前のサスガに向けた言葉と違って幾分か柔らかい
「来てたんなら挨拶してくれたっていいでしょ?」
「だって、真面目なお話、してたみたいだったし……」
「他の黒服さんに見つかったら怒られちゃうよ? 入って入って」
もじもじしながら入って来たのは割烹着姿の少女だ
外見は小学生中学年ほどだが実態は「組織」所属の都市伝説
独り身の老人が入浴中に死亡し、追い炊きされ続けて死体が煮崩れを起こしたという怪談
世に言う「人肉シチュー」が顕在化した存在である
彼女は割烹着の裾をいじいじしながら頻繁にサスガの方をちらちら見ているようだ
「こんな所に来たら大変だから、ね?」
「ううー、でもー」
「“穏健派”所属が此処に居たら面倒だ。“モヒート”、送れ」
突如サスガが口を開いたためか
割烹着の少女はうぴゃいと謎の小さな叫びを上げて硬直してしまった
言われた“モヒート”は半眼で冷たい一瞥をサスガに投げる
フンと鼻を鳴らし割烹着の少女を連れ足早に部屋を出た
「普通女子に向かってあんな口の利き方ってあり得ないわ、ほんと」
「仕方ないよ、お兄ちゃんもお姉ちゃんもお仕事終わったばかりなんだよね」
「アイツってば、いつもあんな感じだし。あれは絶対女子にモテないわね。うん絶対」
暗い廊下を割烹着の少女が“モヒート”に連れられて行く
目指すは少女が所属する穏健派のオフィスだ
“モヒート”は実質サスガに帰れと言われたのを口実にもう帰るつもりだ
折角待ってやってたのが馬鹿みたいだったと彼女は若干キレていた
「今日はどうしたの? 私たちに会いたくなっちゃった?」
「うん、あのね。黒服さんがいっぱいドーナツ買って来てて
いっぱいあるから、お姉ちゃん達もおなか空いてないかなって」
「ああんもう、優しいなあ!」
歩きながら“モヒート”は割烹着の少女を抱き締める
もふもふされながら少女は先程よりボリュームを落とした声でもじもじし始めた
「えっと、それでね、お兄ちゃんの分も、持って行った方がいいかなー、って……」
「え、アイツ? 先輩のこと?」
「うん……」
うーん
少女の優しさに“モヒート”は苦笑を浮かべる
“モヒート”は知っていた
“オサスナ”ことサスガ先輩は甘いものが苦手であることを
□□■
前から登場していたの
サスガ
フルネームは流石 丈(さすが たけし)、コードネームは“オサスナ”
「組織」強硬派所属の中学三年生男子
契約した都市伝説は「校庭に現れる落ち武者の霊」
甘いものが苦手で、食は淡泊
過去に早渡と交戦済み
彼の活躍は以下を参照されたい
早渡と交戦した回(早渡視点)
「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 Part 12 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1483444899/206-211)
早渡と交戦した回(サスガ視点)
「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 Part 12 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1483444899/216-220)
「偽警官」と交戦した回(“モヒート”と)
「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 Part 12 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1483444899/610-611)
モヒート
本名は見辺 加賀実(みべ かがみ)、“モヒート”はコードネーム
「組織」強硬派所属の中学一年生女子
契約した都市伝説は「コークロア(_Mod.A)」
彼女も過去に登場済み(詳しくは上記リンクをチェック)
今回初登場の
割烹着の少女
「組織」穏健派所属の女の子
「人肉シチュー」の都市伝説である
まるで給食の時間に割烹着を着た小学生の女の子といった容姿をしている
彼女の外見は上記都市伝説からの関連が想定しえない形態だが真相は不明
彼女は今回のように
時折穏健派のオフィスを抜け出しては強硬派所属の彼らに会いに行く
儂はアクマの人がサンタコスを書いてくれるのに望みをかけておるよ…
ノイちゃんも沢渡もサンタコス着ようぜ
特に理由のないクリスマス投稿が都市伝説スレを襲う!
という訳でアーバントの人、もとい大王の人だよ。たぶんテンションおかしいけど、気のせい。
例によって伝説使徒のね……筆が進むんだよ。特にサッカー少年のほう。
今回の投稿で
●前回(>>12-18)
人知れず伝説使徒を倒し、周辺の治安を守る少年がいた。
その少年は【こっくりさん】と契約し、その肉体を貸し与える事で、戦う力を得ていた。
さて……幼いうちに伝説使徒と関わってきた少年も、いよいよ中学生となる。
はたしてどんな未来が待ち受けているのか―――
少年は、そわそわしていた。
少年の名は[服部 蹴斗(はっとりシュウト)]。今日から中学生となる。
新しい出会い、より高レベルな部活動、そして……
『そんなに楽しみなんだ』
頭の中に声が響く。
蹴斗の隣には、【こっくりさん】と呼ばれる少年がいた。
伝説使徒(アーバント)……それは人間どころか動物ですらない。
しかし確実に知性を持って、そこに生きているという『ミーム』を持つ、不思議な存在。
【こっくりさん】も、そのひとりである。
蹴斗はより幼い頃に【こっくりさん】と契約した。
その力で、身の回りにいる狂暴な伝説使徒を倒してきた。
今となっては長い付き合いの相棒である。
「(あぁ、当然さ。だって……)」
蹴斗は口ではなく心で唱えるように返事する。
ふたりはもう、口ではなく心で通じ合えるほど深い繋がりを得ていた。
そんな蹴斗が待っているのは、【こっくりさん】よりも古い親友である。
その名は[又木 十三(またぎジュウゾウ)]。蹴斗とは幼馴染だ。
とある事情により、親友は小学校の頃に遠くへ引っ越した。
蹴斗はとても悲しんだが、再会の約束をして見送った。
そんな親友との再会が、今日やっと果たされるのである。
【こっくりさん】には、そういう友情は分かり難いものだった。
それでも妙な温かさが、主である蹴斗から伝わった。
不思議と、自分も楽しみになるような……
ふと戸が開く。蹴斗は、入ってきた顔に見覚えがあった。
「おーい!……って」
蹴斗の声に、親友の又木が手を振り返す。その後ろには……。
猟銃を胸に抱えた、強面の大男が続いていた。
思わず蹴斗は吹き出し、口を押さえる。
ふと周りを見ると、クラスメイトの視線はこちらにあった。
また、【こっくりさん】は十円玉の中に隠れたようだ。
「(もしかしてだけど、あれ……。)」
『うん、伝説使徒。普通のクラスメイトは気づいてないよ』
伝説使徒は『ミーム』によって構成されている。
よって実体はなく光を反射しないため、目で見る事はできない。
例外はあるが、確実に見えるようになる方法は2つ。
1つ、伝説使徒のターゲットにされる事。
もう1つ、伝説使徒と契約する事。
「(あれにオレしか気づいてないのか……敵じゃない、のか?)」
『殺し屋みたいな顔だけど、妙におとなしいよね。』
考察する蹴斗達の方へ、又木は歩み寄る。
そして一定距離を保つように、マタギのような風貌の強面伝説使徒がついていく。
「よ、久しぶり!」
「あ、あぁ、久しぶり。」
又木の挨拶に、少し戸惑いつつ蹴斗は返す。
後ろを気にしながら旧友を深めたが、これと言って変わったところはないようだ。
「変わりないようで良かったよ。」
「そういう蹴斗は、ちょっと大人びいた感じだな。」
指摘されて気付く。伝説使徒との戦いは、常に命懸け。
そんな世界で生きているうちに、普通の子どもとは言えなくなっていたようだ。
……現に今も、撃たれそうな恐怖と戦っている。
「あ、それで思い出した。今日は肝試し大会があるそうだぞ。」
「肝試し……」
よくあるイベントである。暗い夜道をビビったり、一周回ってハイテンションで駆けたり。
が、そういったものには噂……ミームが付随する。
つまり肝試しの舞台は、伝説使徒の巣という他ない。
「あまり好きじゃないな……」
伝説使徒は、人を襲ってミームを保つ。蹴斗は平穏主義者だ。
犠牲者が出ないようできる限り倒したいが、クラスメイト全員を守り切れるかは怪しい。
いっそ中止に追い込みたいが……。
「安心しろ、オレがいるから。」
又木は自信満々に指差す。
「なぜか知らないんだけど、俺の周りだと心霊現象は起きないんだ。
呪いの石は砕けるし、こっくりさんは失敗するし……。」
「(あぁ、コイツのせいか……。)」
蹴斗の視線は大男に向く。目があったが、その思考は全く読めない。
『たぶんこの殺し屋マタギ、自分を【守護霊】だと思い込んでいるんだよ』
「(思い込む?)」
『伝説使徒では稀にあるんだ、自分が何者か分からないってこと。
【守護霊】は武器を持たないはずだし、本当は【悪霊】なんじゃ……』
伝説使徒はミームによって自らを保つ。つまりミームとは手段である。
このマタギの風貌をした殺し屋面の大男は、【守護霊】という手段で自らを保っているのだ。
しかし【悪霊】として生まれた可能性もあるし、あるいはもっと異なる存在だったかもしれない。
全ては謎に包まれている。
「だからオレと一緒に回ろうぜ、なんて―――」
「いや、ちょっと良いか?」
又木の提案を、蹴斗は遮った。
「……信じてもらえないだろうけど、俺の周りではよく起こるんだ、そういうの。」
「えっ……じゃあ本当に付き合おうか?」
「いや、俺は俺で対処するから……別の班を守ってくれないか?」
蹴斗は又木とヒソヒソと相談する。
自分ひとりでは守り切れなくとも、又木の協力があれば負担が少なくなる。
この大男を信用していいかは不明だが、親友である又木を信用した。
「とりあえず調べて、何も無かったら一緒に行こうぜ。」
「あ、あぁ、分かった。」
そう言っている間に学校のチャイムが鳴る。入学式の時間だ。
全員が席に座って数分後、教師が入ってくる。
「えーっと、初めまして。今日から俺が担任だ。宜しく。」
「「 雑ッ! 」」
「自己紹介は後々。先にちゃっちゃと並んで、入学式を済ませようぜ。」
投げやりな態度の教師に渋々従い、全員が廊下に並ぶ。
その間も、蹴斗は肝試しについて考えていた。
「(オレと十三以外にも、契約者とか居たらなぁ)」
『いるよ。』
「(えっ、マジか?)」
蹴斗の思い煩いを、【こっくりさん】が払拭する。
『殺し屋マタギが入ってきた時、キミ以外にも反応していた生徒が居たんだ。
確実に、見える人……おそらく契約者だろうね。顔は憶えたよ。』
「(ありがてぇ。後で教えてくれ。あとは……。)」
入学式が始まり、校長の気だるい挨拶が行われている中、蹴斗は手袋をはめる。
「(こっくりさん……鳥居へ。)」
『あいさー。』
右手の手袋に書かれた鳥居マークへ、【こっくりさん】が吸い込まれるように入っていく。
そして左手の掌には、見づらく『Y』『N』と書かれていた。
「(肝試しの舞台には伝説使徒がいる?)」
『……Yes。』
右手の指先が、左掌の『Y』を差す。
そう、【こっくりさん】による儀式を、簡略化した手袋だ。
いちいち儀式を行わないと、【こっくりさん】は全知なる情報源へアクセスできない。
複雑な疑問であれば、50音表やタイプライターを使って儀式を始める。
しかしこの手袋があれば、2択の疑問をすぐ解決できる。
「(数は10体以上?)」
『……No。』
「(良かった、5体以下か?)」
『Yes。ちなみに、反応していた生徒は4人だったよ。』
クラスメイトは約30人。5人ずつ別けるなら6組だ。
蹴斗、又木に加え、4人の契約者を班長にすれば、襲われるリスクを軽減できる。
そうこう思案している間に、入学式が終わる。
クラスに戻ると、さっそく自己紹介が始まった。
『じゃあ、教えるからメモしといてね。』
男子2名、女子2名が該当者だった。
女子に任せるのは気が引ける……と思う反面、契約者なら他のクラスメイトより強いか、とも考える。
一か八か、とりあえず試すか。
「―――という訳で、肝試しの班長だが。」
「はい先生!」
「なんだ、トイレか?」
「そうトイレ……じゃなく! 班長に立候補です。」
そう言った後、又木と契約者4名を班長に推薦する。
「ふん……。」
「面倒くさいけど、まあ良いぜ。」
「アンタの推薦っていうのが気に入らないけど。」
「は、班長……できるかな……?」
男女4人の反応はそれぞれだった。
又木に視線を送ると、こくりと頷いてくれた。
「ま、くじ引きとか面倒くさいし、せっかくなんで6人にやってもらうか。
という訳で、班長集合~。」
今回ばかりは教師のズボラに救われた、と思う蹴斗。
契約者(+マタギの霊)は教師の前に集合した。
「班はざっくり別けるから、その間にしおり読んどけ。」
「じゃあ……『ドキドキ!? オンボロ旧校舎ツアー』?」
教師曰く、貧乏性でいまだに取り壊せていない旧校舎をそのままホラースポットにしたらしい。
定期的に清掃もするらしく、衛生面での問題はない。
精神衛生上の問題は多々ありそうだが。
「色々あったらしいぞ。旧校舎でのいじめだとか、飛び降りだとか……。
妖怪を見たって噂もある。しおりに纏めてあるから読んどけ。」
以前知り合った『同業者』によると、ミームとは『生き残れるよう進化する情報』だそうだ。
より伝達しやすく、より末永く語り継がれる【怪談】というミーム。
それを伝説使徒が補強し、事実性を高める。その結果、【怪談】はより強くなる。
新入生に語り継がれるこのしおりは、伝説使徒が生み出したミームの化身なのだろうか。
『ボク達にとっては、ありがたいぐらいだけど。』
「(人を襲う伝説使徒は、ごめんだね。)」
単なるエンターテインメントでは終わらない。過激化した伝説使徒は人を襲う。
その方が語る側・聞く側も面白いのだ。だからミームは拡散される。
不思議な事に、この脅威を生み出してしまったのは人間そのものである。
しかし、それでも、守りたいものがある。蹴斗の決意は固い。
「じゃあ、時間になったら来いよ~。」
―――夕刻
このお遊びに付き合う、怖いもの知らずなクラスメイトが集う。
班に分かれ、10分毎に異なるコースで旧校舎へ向かう……というルールだ。
「さっさと行くか……。」
「に、2番目は、私達……10分後だね……。」
第1班が気怠そうに向かう。第2班も震えつつ準備していた。
正直頼り難いが、危険を回避するぐらいはできると信じたい。
「(俺は第4班で、十三は第6班。大丈夫だと信じたいが……)」
「居たわね。吹き出しくん。」
「ふ、ふきだしって……あっ!」
声をかけてきたのは、第3班の班長である女子。
[神倉 美子(かみくらミコ)]。巫女の家系らしい。
「吹き出した上に班長に立候補だなんて、目立ちたがり屋さんね。
おまけにアタシ達まで巻き込んで。」
「悪かったな。同じ契約者同士、伝説使徒を倒そうぜ?」
「……アンタ、ホントに能天気。」
美子は呆れるような溜息をつく。そして蹴斗の反論を待つ間もなく続ける。
「契約者同士って本当に仲良しこよしかしら?
アンタが思っているほど、伝説使徒との契約は平和なものじゃないわよ。」
「うっ……。」
「なにより。アンタごときに伝説使徒を倒せるの?
強さも数も、何も分からない相手に、大した自信ですこと。」
まったく反論できない蹴斗。そんな沈黙を破ったのは。
「分かるよ。」
「なに?」
【こっくりさん】だった。蹴斗の肩にしがみ付きつつ、答える。
「蹴斗が分からない事は、ボクが教える。足りない力は、ボクが補う。
それで良いでしょ? 『護符売りの美子』さん。」
「……詳しいのね、オチビさん。」
「チビじゃないやい! あと、君のことは【風のウワサ】で調べたよ。
狡い商売だねぇ。まぁ契約者らしい儲け方だろうけど。」
【こっくりさん】の挑発により、美子との険悪な空気が漂う。
諍いがしたいわけではないのだが……と思う蹴斗だった。
ふと、表現しがたい殺気のようなものが背筋を襲う。
「ひっ。」
「あ……その顔、あの時と一緒だねぇ。」
見回すと、又木が手を振ってやってくる。
「えっと、お話し中だった?」
「……別に?」
そっぽを向いて去ろうとした美子だったが、立ち止まり。
「これ……1枚・千円だから、大事に使ってよね。
アンタは……要らないでしょうね。」
そういってお守りを4つも渡された。礼を言う暇もなく、第3班は出発する。
「4人分か……ありがたいな。」
『気に食わないけどね。』
あとで班員に配ろうと決めつつ、又木の方を向きなおす。
「えっと……巫女さんだっけ? もしかして『見える人』って奴なのかな?」
「そうみたいだな。護符を作ってるらしいし。」
「……お前も、か?」
後ろを向き、マタギの霊を見る。目は合うが、真意は分からない。
正直、教えてもいいのかもしれない。
ただ、あんな非日常的な世界を教えてしまって、本当に良いのか分からない。
その時は、それが怖かった。
「第4班ー! 準備しろー!」
「悪い、行ってくるわ。」
「蹴斗!……気をつけろよ。」
こうして、蹴斗の肝試しが始まる。
―――肝試し・第4班
「いや~ん、こわ~い。」
「「 大丈夫、俺が守るから。 」」
「……ハモった。」
蹴斗は思わず、「お前ら2人が結婚してろ」と一蹴した。
基本的に、肝試し大会とは娯楽なのだ。だからこうなるのも仕方ない。
「いやーでも神倉さんの護符があるから気が楽だな。」
「……美子さん、本職巫女なのね。」
班の4人が護符をチラリと見て、懐にしまう。
「これで~、1回ぐらいは助かるのかな~?」
「俺が身を挺して庇えば、2回ですよ。」
「何言ってるんだ、3回だろ。」
蹴斗は思わず、「はいはい残機5つ」と一蹴した。
正直、このまま終わればいいのにと思ってしまう。
実は、こういうノリは嫌いじゃないのだ。
『そう上手くは行かないよねぇ』
「(最大5体、ちゃっちゃか追い払うか。)」
そう会話していると、班の女子が。
「……ところで班長。……霊感って信じる?」
「ん? なんだ藪から棒に。」
暗い印象の女子で、目の焦点は蹴斗ではなく虚空を向いていた。
「……班長の隣、霊がいる……って言ったら?」
班員の3名が飛び上がる。蹴斗も少し飛び上がりそうになったが。
「あ~……たぶん、守護霊的なサムシングだから、安心しろ?」
「……そう? 又木くんも、凄い守護霊、持ってるよね……。」
「わ、分かるのか?」
「……大きくて、強いって分かる……あと、優しいの。」
優しい? と聞きかけてふと考えてみる。
契約者ではないであろう彼女にとって、外見にとらわれない感覚というものがあるのかもしれない。
あの霊は……優しい霊、なんだろうか?
「よく分からないけど~、怖い霊とか居ないの~?」
「居たら教えてくれよ、庇うからさ。」
とりあえず辺りを見渡す。と、ぼわっと火の玉が浮かんでいた。
「「 ひ~と~だ~まァ~!? 」」
「……【人魂】?」
普段なら警戒するが、ふと冷静になる。これは肝試し大会だ。
「あれさ、先生達のイタズラじゃね?」
「「 えっ? 」」
「霊感が無くても見えてるんだったら、ガチの火の玉じゃないか。
ああいうイタズラグッズ、理科の実験で作った記憶あるし。」
そう蹴斗が答えると、胸をなでおろす3人。
しかし1人だけ、腑に落ちない様子の少女。
「何かおかしいか?」
「……あのね、私……あれが『キツネ』に見えるの……。」
「ッ!?(こっくりさん!)」
とっさに、蹴斗はポケットから十円玉を取り出し、火の玉目掛けて投げる。
十円玉は不思議な軌道を描き、繁みの中へ入っていく。「痛ッ!」という声も聞こえた。
「ちょっと待ってろよ……!」
「……私も行く……。」
茂みの中に居たのは……1匹のキツネだった。
「うぎゃ、見つかっちまいましたか。」
「……キツネさんが喋った。」
どうやら【狐火】だったようだ……。しかしなんだろうか、このキツネ。
いったん専門家に任せようと、蹴斗は【こっくりさん】に体を貸す。
「えっと、【妖狐】の一種だね。」
「……ヨウコ?」
「キツネの身体を乗っ取った伝説使徒さ。肉体があるから普通の人でも見えるし、声も聴ける。」
「……すごい。飼いたい。」
思いっきり伝説使徒とか教えてるけど、大丈夫か?と不安になる蹴斗。
それを他所に、【こっくりさん】はキツネを持ち上げる。
「放してくだせぇ。俺っちにゃあ、妻と3匹の子どもが居るんでさぁ。」
「知らないよ。それより、キミはここをテリトリーにしている伝説使徒?」
「一応そうでさぁ。あの校舎が使われてた頃から、人を化かして遊びつつ、憶えを良くしてもらってたんでさぁ。」
どうやら大古株のようだ。それならしっかり話を付けたい。
……だからオマエ、撫でてる場合じゃないぞ、と蹴斗は言いたかった。
「……キツネさん、人を襲うの?」
「襲う……。『化かす』のは、手品みたいなものでして、人を傷つけるものじゃございません。
人様に不利益を与えないよう、善処しているつもりではございます。」
キツネが言うには、現在の関係……つまり毎年の『肝試し』を続けて貰いたいそうだ。
しかし、人が傷ついたり、ましてや死人や行方不明が出ては、行事が中止となってしまう。
そうなっては、下級妖怪達の住処が奪われてしまうという訳だ。
「お願いでさぁ、放してくだせぇ。俺っちも生きたい一心なんです。」
「だってさ。どうする蹴斗? ボクとしては倒したくないんだけど。」
「……蹴斗くん?」
あ。口を滑らせやがった。もういいやと投げやりになる蹴斗。
しかしキツネの処遇はどうしたものかと考えていると。
「……キツネさん……もっと火の玉、出せる?」
「出せまさぁ。もっと明るく照らす事もできますぜ。」
「……じゃあ、火の玉で……イルミネーションとか、アートを描くの……。
そしたら今より……もっと有名になれるよ。」
少女から意外な代案が出てきた。確かに、普通の化かし方よりは魅力的だ。
『手品』から『魔術』への変化……さながら、旧校舎でのサーカス。
「有名に……それは面白い! では夏の夜までに猛特訓して、狐火絵の先駆者になってみせましょう!」
「よし、じゃあ彼女に免じて許してあげる。
だから、この旧校舎近辺の治安維持をよろしく。そしたら口裏合わせてあげる。」
まさか、一件落着した。こんなにも平和的な伝説使徒との遭遇があっただろうか。
これで安心して……。
「それは無理なご相談です。」
「……キツネさん。」
「俺っちは強くありません。人を傷つけないのも、強くないからでさぁ。
特に……あの『新入り4体』を抑える力なんて、俺っちにはありません。」
その時、悲鳴が鳴り響く。
木々が揺れ、小動物がざわめく声も聞こえる。
「お願いでさぁ! あいつ等を……新入り共を倒してくだせぇ!
『便町の透明人間狩り』でしょう!? あなた方ぐらいしか、頼りがないんです!」
……蹴斗は初めてだった。
ここまで必死に、伝説使徒を倒してほしいと頼まれた事。その相手が、伝説使徒である事。
だが、迷う必要はなかった。答えなんて最初から決まっている。
「すまない、行ってくる。班の皆を任せた。」
「……あ。」
「便町の……【透明人間】……。」
―――肝試し・第3班
「アンっタねぇ……1枚・千円よ? この1時間で何千円溶かしたと思う?」
神倉 美子は戦っていた。敵は2体の【幽霊】だった。
【男子生徒の霊】は消耗しているが、もう1体、【女子生徒の霊】はさっき来たばかりだ。
美子の背後には、なぜか班員が眠りについていた。
よく見ると、バリアのようなもので守られているように見える。
さて、どう仕切り直すか……といったところで。
「居た!」
そこに駆け付けたのは、蹴斗だった。
「アンタッ! どうしてここに!?」
「助けに来たんだよっ! 悪いかッ!?」
「要らないわよ助けなんて! お守りあげたんだから、さっさと逃げなさい!」
そう受け答えしている間にも、【幽霊】は襲い掛かろうとしている。
「ッ! 今隙を作るから、アンタは」
「悪いけど。」
「準備完了しているよ。」
『フェイズシフト……バトルフェイズ!』
蹴斗の服装が変わる。和風の道着のようであり、それでいて要所に防具がある。
その洗練された衣装の変化は、見るものを止めた。
「何よ……アンタの伝説使徒、【子どもの霊】じゃないの?」
「伝説使徒の力じゃないよ。蹴斗の『エフェクター』さ。」
エフェクター(付与者)。この世界を生きる子供たちに与えられた、進化の力。
伝説使徒に対し、特殊なエフェクトを与えて強化する事ができる。
その種類・能力・応用性は未知数。
服部 蹴斗は『フェイザー』の付与者である。
伝説使徒が持つ能力の段階をシフトさせる「フェイズシフト」を可能にする。
単に【こっくりさん】の能力を使うだけの「スタンバイフェイズ」、
そしてミームの鎧を身に纏う「バトルフェイズ」を使いこなしている。
『能書きはどうでもいい……まずは男子の方からだ!』
「手柄、横取りするよ!」
【男子生徒の霊】に対し、【こっくりさん】は飛び込んで殴りかかる。
質量と情報を併せ持った拳は、易々と幽霊を吹き飛ばした。
そんな隙に、【女子生徒の霊】は後ろに居た生徒を襲おうとしている。
それに気づいたのは美子だけだった。
「後ろっ!」
『にも俺が居るんだな。』
たじろぐ【女子生徒の霊】に気もかけず、霊体となった蹴斗はラリアットで首を刈る。
蹴斗の身体は、【こっくりさん】の手袋へと吸い込まれるように高速移動する。
『オフサイド・トラップ……』
「ボンバー!」
【女子生徒の霊】の顔面に、黒い球体を勢いよくぶつけた。
蹴斗は、絶妙なタイミングで手袋の中へ回避していた。
「じゃあ、トドメ貰うよ。」
『やっちまえ!』
【こっくりさん】は胸元で黒い球体を増大させている。
2体の幽霊は必死にもがこうとするが。
「悪霊封じ!」
美子が投げた護符は、霊体に対する壁を作る護符だ。
霊のいない場所で使えば結界として使えるが、逆に居る場所で使えば束縛に応用できる。
「必殺……ウィジャ・バウト!」
結界から逃れられない幽霊2体を、押しつぶすような球体が上から降ってくる。
幽霊2体はなす術もなく、その陰も残せず消滅した。
「……嘘。倒しちゃった。」
「あー、なんか強いって聞いて来たんだけど、強かったか?」
「【透明人間】の方が厄介過ぎて、比較対象にならないというか。」
あっけにとられる美子を余所に、蹴斗と【こっくりさん】は雑談する。
しかし、気を抜いてはいなかった。ここにいる伝説使徒は5体。
【狐火】と【幽霊】2体を倒したので、まだ2体居るのだ。バトルフェイズを終了してはならない。
「神倉さん、護符はまだあるか?」
「え、あるわよ。作ろうと思えば作れるけど……。」
「じゃあ、あと2体張り切っていこうか。」
戦う気満々の2人を見て、美子は溜息をつく。
「伝説使徒って……逃げたり、出会わないようにするものだと思っていたわ。」
「それが理想だけど、どうしようもない時はあるし、戦えない人もいるからな。」
戦えるのだから戦う。それが契約者としての蹴斗だった。
そして、仲間が居るなら、もっと戦える。
「一息ついたら行こうぜ……旧校舎。」
―――これは、『伝説使徒』と契約し、『伝説使徒』と戦う者達の物語―――
という訳でサッカー少年でした。
知る人ぞ知る『ゴルゴマタギ』。出したさ余って登場させてしまいました。【守護霊】の一種……なのかなぁ?
あと巫女さんも登場。次回は本領発揮できるかな。
さて、なんと契約者5名+謎の守護霊でお送りする、大型連載に化けそうなんです。
名前は兄者と相談しつつ決めようかなぁ。契約伝説使徒は……既に決まってたり?
ま、間に合わなかった……
しかも大王の人に先を越された!
>>141-153
お疲れ様です
そうか、マタギはゴルゴマタギであったか
今回気になったのは勿論エフェクターでしたね!
まさかそちらの世界にもあるとは
しかもモノでは無くこれは「異常」のような能力かな?
名前が「フェイザー」という辺りなかなか攻めてきたなあ
確かモジュレーション系エフェクターにも似たのがあった筈
やはり考える所は似てくるか! 急がねばな!(急げるかな僕……)
では自分も負けてられないので行きます
今回の話は【12月】はクリスマスが舞台の寸話です
ああ後1時間半で性の6時間が……終わっちゃう……
クリスマス
コトリー「クリスマスですの! 書き入れ時ですの!!」
セト 「こんばんは、タマちゃんと同じく『ラルム』の店員のセトです」
コトリー「ハッ ∑ ξ(ㆁoㆁ;)ξ 自己紹介まだでしたの!
『ラルム』でアルバイトしてるコトリーですの!! タマは名前ですの!!」
①クリスマスについて
コトリー「『ラルム』の客層、普段は年配の夫婦さんが多いですの!
でも今年は負けられませんわ! クリスマスが勝負ですの!!」
セト 「頑張って事前にいろいろ準備したもんね……」
コトリー「そして! 遂にクリスマス用の衣装が出来ましたの!
てんちょーの意見はなるべく排除して決定してますの!!」
セト 「私もタマちゃんもヒラヒラしたのが苦手で……
店長は隙あらばメイド服を着せようとしてくるから、タマちゃんと全力で阻止しました!!」
コトリー「これが届いた衣装ですの! 開けますのっ!! ξ(>д< )ξ <エイッ」
パカッ
コトリー「目を引く赤! これはまさしくクリスマスのサンタ服!」
セト 「よかった、ヒラヒラじゃなくてモコモコしてるね。これなら」
コトリー「あ、でも……これ……」 ☜ 手に取って改めてサンタ服をチェケラ
セト 「スカート丈が……短い……」
コトリー「胸元も開き過ぎですのっ!! ちょっとセクシー過ぎますのっ!!」
セト 「うーん、でも、これくらいならいいかなって思うんだけど、……タマちゃん?」
コトリー「一体誰がこんなっ!! あっもしかしてJD先輩の仕業ですのっ!?」
JD先輩「あはっ★ ばれたー♥ (๑ゝڡ ・๑)」
②そしてイブの夕方
かやべ「来ーたーよー! せっちゃーん!!」
ありす「おお、今日は『ラルム』も大賑わいね」
まにわ「こんばんわ、真庭栞(まにわ しおり)です」
ヒル山「同じく、ヒル山こと蒜山(ひるぜん)です」
かやべ「せっちゃーん、今日はめっちゃ可愛いサンタ服じょん! いいないいなー!」 ナデナデナデ
セト 「えへへ、今日はイブだしね!」
かやべ「ほぅほぅ、これは店長さんチョイスじゃ無さそうだね、誰が選んだろう」 サワサワサワ
セト 「ちょっとアヤちゃん!? どこ触ってるの!?」
JD先輩「あらぁ、今日の『ラルム』の制服の話かしらぁ?」
かやべ「そういう貴女はJD先輩さん!! ……っ!?!?」 フニフニフニフニ
JD先輩「今夜はザベ子とセトがサンタガールでぇ、私がト・ナ・カ・イ 💛」
かやべ(きわどい露出に、絶対領域チョイス、ではなく敢えて黒のガーター……、
こんなドスケベトナカイのコスは初めて見るよ!? この女(ヒト)、理解(デキ)る……!!) モニモニモニ
セト 「アヤちゃーん!! 変なとこ触るの止めてーっ!! いい加減にしないと怒るよーっ!?」
③色々頑張ったんです
ありす「にしても今夜は凄いわね」
ヒル山「いつもは爺さん婆さんが多いのになあ」
まにわ「凄いよね、学生のカップルが多いって」
コトリー「全てはこの日の為に頑張ったんですの!!」 フンスー
セト 「事前に商工会とか色んな所にお知らせ出したよね」
コトリー「クリスマスフェアのお値段を決めるのに、
学校町のお店片っ端から偵察した上でこの価格ですの!!」 フンフン
セト 「店長が広告費も奮発して、学生割引のクーポンまで用意して……」
コトリー「クリスマスは恋人同士で過ごしたい学生さんのために!」
セト 「お財布に優しいイブのデートプランまでシミュレートして割引を決めて!」
コトリー「ほんとに……頑張った甲斐がありましたの……」 ポロポロ
セト 「私達と同世代のお客さんがいっぱい来てくれるなんて、夢みたい」 グスッ
ありす(感極まって泣き出したわ……すごく頑張ったのね)
かやべ「あーもう、二人とも泣かないで! ほら、スマイルスマイル!」 アタマナデナデ
in キッチン
おばちゃん店員 (ふふっ、泣くには早いわよ二人とも……) ☜ 不敵な笑み
おばあちゃん店員(なんせ今回のクリスマス・イブ作戦は、赤字必至の大サービス) ☜ すごい不敵な笑み
おばちゃん店員 (このイブのキャンペーンをトリガーに学生間の口コミを狙った長期的作戦の一環!!)
おばあちゃん店員(全ては『ラルム』のため! 店長さんには少々泣いてもらうがのぉぉ……!!)
おばちゃん店員 (ふっ、セトちゃんもコトリーちゃんもまだまだ甘いわねえ) ☜ 実は衣装がきわどいのでホールに出られない
おばあちゃん店員(ひっひっひっ、今宵が全ての始まりよ!!) ☜ 実はめっちゃ衣装がきわどいのでホールに出るのを禁じられた
④とある「リリス」さんの場合
リリス(こんばんは、隣町在住の『リリス』です)
リリス(今、私は心の声で私から私に語り掛けてます)
リリス(『リリス』って言ってもそんな大層なものじゃないし、『サキャバス』みたいなものだし……)
リリス(今夜こそは男の人を誘惑して大人のデート……ってそんな勇気、私に無いし……)
リリス(かと言って人肌恋しいのは寂しいし悲しいので、チラシで宣伝してたこのお店に来ちゃいましたー……)
リリス(はぁー……来年こそは彼氏が欲しいー……)
リリス(もう契約者じゃなくて、一般人の男性でもいいかなー……な、なーんて)
チラッ
JD先輩「あらぁ? 恋人同士かしらぁ?」
女子 「……」
男子 「あっ、えっ、まあ、そんなとこ、です」 ☜ めっちゃ照れてる
女子 「……」 ☜ めっちゃ男子を睨んでる
JD先輩「はいっ♥ クロックムッシュとぉ、ホワイトチョコでっす♥」
男子 (ゴクッ)
JD先輩「ごゆっくりどうぞ💛」 ニコッ
男子 (やばッ……この人、すごい……可愛い……胸も、大きいし……)
JD先輩「キミみたなカッコいい子なら、また『ラルム』に来てほしいなぁ」 ☜ 耳元で囁いた
男子 「ッ?! ッ」
JD先輩(うーヤバい、男子クンめっちゃ私の胸見てた! 顔面真っ赤過ぎだろー!) プークスクス
女子 (……) ゲシッ! フミッ!!
男子 「あだっ!? い、痛いよっ!!」
女子 「……店員さんの胸、見てたでしょ……」 ギゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!!
男子 「ちっ違っ!! あっ痛たたたたっ!!」
JD先輩(あーヤバい! 楽しい!!) クスクス
リリス(うあー!? あんなのダメだよー!!)
リリス(恋人同士なのに誘惑して嫉妬させるなんて! あんなこと私には絶対無理!!)
リリス(……でも、いいなー……あの店員さんみたく、私も……)
リリス(ってダメダメ、私何考えてるの!?)
リリス(でもこのお店、若い子多いなー……)
リリス(店員さんも可愛いし、お客さんも可愛い男の子多いなー……)
リリス(も、もし、もしも……)
リリス(このお店で『性の六時間』が発動したりとかしたらー……)
リリス(今、この場で、発動しちゃったりとかしたらー……)
リリス( ) キュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン 💛💛💛
リリス(ってダメ! 何考えてるの私!!) キュゥゥゥウン ♥
リリス(ダメったらダメ!! そんなの、そんなの……倫理的にとにかく絶対、ダメ!!) キュンキュン ♥
リリス(ふぅふぅ、落ち着いて私! こういう時こそ落ち着かないと……!)
リリス(それに私、『性の六時間』なんて持ってないし……)
リリス(これは妄想、ただの妄想……) フー フー
コトリー「ちょっと! さっき何やってましたの!?」 ガルルルル
JD先輩「さーなんのことかなー★ (>ε< )」
コトリー「いい加減にしないとっ、キッチンに封印しますわよ!?」 ヷンヷンッ
JD先輩「まってそれだけは勘弁してください」
⑤メリークリスマス
ありす(……)
セト 「こちらボンゴレとポタージュになります! はいっどうぞごゆっくり!」
ありす(これは閉店まで忙しくなりそうね……)
ありす(アイツはまだ来てないみたいだけど)
かやべ「お、おおっ、あ、ありす!!」 グイグイ
ありす「えっ、あっ、何?」
ヒル山「おほーっ!! 来たぞブッシュ・ド・ノエル!!」
ありす「へっ? ヒル山、マジでやったの?」
かやべ「こいつマジだよ、小遣いをケーキにつぎ込んだよ!」
まにわ「まさか一本まるまる注文するなんて……!」
かやべ「今年の流行りはノエルじゃないって聞いたよ!? いいのヒル山!?」
ヒル山「安心しなって、こいつはあたしが全部食べ切る」
かやべ「やめなって! 絶対エグいって!!」
ヒル山「おーし、かやべぇ言ったな?」
ありす(まったく、何やってんだか……)
セト 「ありすちゃん、飲み物持ってくる? ドリンクバー飲み放題のクーポン使ったでしょ?」
ありす「え、ああ大丈夫。それよりセト、今夜って早渡君は」 ヒソヒソ
セト 「あ、うん。今日は脩寿くん来れないって言ってた」
ありす(何やってんのかしらあのバカ……)
セト 「あっ、でもね、アルバイトの前に電話してね
脩寿くん、今日は子供たちの所でサンタさんの格好して、プレゼント配るんだって」
ありす「へえ、アイツが……」
セト 「脩寿くんも頑張ってるし、私も負けられないなって!
それに向こうが終わったらこっちにも来るって……、あれ、ウメちゃん何してるの?」
ありす「え? ああ、一人ブッシュドノエル早食い始めただけだから気にしないで」
かやべ「エグいよー、もう半分行ったー……!?」
ヒル山「録ってるかかやべぇ、おーし、こっからスパート掛けっぞ」
まにわ「 」 ☜ 信じられないものを見るような目で首を振っている
コトリー「みんな楽しんでるようで何よりですの! メリークリスマスですの!! ξ(>∇< )ξ 」
おわり
セト: 遠倉千十。今年の1月に初登場。だが余り出番がなかったorz
コトリー: コトリーちゃん。『ラルム』の店員さん。髪がツインテの縦ふわロールだ。以上
JD先輩: 『ラルム』の店員さん。初登場は>>61。実はまだ名前が決まっていない
ありす: 日向ありす。初登場は今年の1月。なのに余り出せなかったorz
かやべ: 名前は「あやこ」。実は名前が出ていないが前スレの>>265で登場済み
まにわ: フルネームは真庭栞。眼鏡っ子だ。大事なことなので二度言うが眼鏡っ子だ
ヒル山: フルネームは蒜山宇女(ひるぜん うめ)。柔道経験者。一般人クラスでは強い
おばちゃん店員: 『ラルム』の支柱。パート暦ウン十年のベテラン。今回の衣装はJD先輩が用意した
おばあちゃん店員: 『ラルム』の心臓部。男一人の店長よりもはるかに頑丈。今回の衣装は自前♥
店長: 『ラルム』の店長。今回出番がないのは店に居ないからではなく、キッチンで必死に働いているから
リリン: 名前未定。すまない……。隣町(辺湖市)にあるキュートなランジェリー専門店の店員をやってる
お気づきであろうか、寸話中で誤りをやっちまってることを……
そう、彼女は『リリス』ではなく『リリン』が正解ッ……!!
重ね重ねすいませんでしたッッ!! wikiで訂正します故、それで手打ちをッ! お慈悲をッッ!!
以上です……
すいません、ありがとうございます……
本編が全ッ然間に合って無いので間に合えばまた来ます
今更だがこのクリスマスの寸話、全然都市伝説要素が……
次世代ーズさん乙ですの。クリスマスは良いですにゃあ
自分は【サンタクロース】ネタのワンパターンしかないもので、なかなか……
食事処がメインのネタでも書こうかなぁ(タコの手広げすぎ
そしてあけおめですの。いやー年男ですわ
日本中に犬が蔓延しているので、裂邪は苦しい1年でしょうなぁ
それはさておき、伝説使徒の続きをはじめませう
前回は>>142-152。肝試しを平和に終わらせるための戦いが始まります
「一息ついたら行こうぜ……旧校舎。」
2体の伝説使徒を倒した[服部蹴斗]達は、旧校舎に居るであろう伝説使徒を目指す。
【狐火】曰く、「新入り4体を倒してほしい」との事。
そうすれば、人を襲う事はなくなる……と信じたいが。
「しかし、なるほどね……この森に伝説使徒がいない理由が分かったよ。」
そう【こっくりさん】に言われて、改めて考えてみる。
肝試しスポットなんか、伝説使徒の巣窟だというのに、前情報では5体しかいなかった。
それは、この新入り達に居場所を奪われて逃げたからだろう。
「それってさ、新入り共を倒しても、また帰ってくるって事か?」
「それは、あのキツネを信じるしかないよねぇ……。」
蹴斗が【こっくりさん】と話し合っていると、ふと手を合わせている[神倉美子]が目に映る。
「……無事天へ還れますように。」
「あーそういうのいいから。要らないから。」
美子の祈りに、【こっくりさん】は一蹴した。
アンタに何が分かるの、と諭そうとする美子だったが。
「元になった【生徒の霊】が仮に居たとしても、もう成仏してるよ。
先の奴は『設定』を利用した野生の伝説使徒だよ。」
そう、伝説使徒は「設定を借りて力を得る存在」である。
たとえ生徒の霊が成仏しても、新しい伝説使徒が【生徒の霊】に成り代わる。
そもそも人間が【生徒の霊】になる、という考え方がおかしいのかもしれない。
そうやって【生徒の霊】は生き続けるのだ。
「……何よその理屈。伝説使徒が先なのか噂が先なのか、分からないわ。」
「実際ボク達も分からないんだよね。ミームってものが最初からあったのか。
ただ、ボク達には命があって、姿は移ろいやすいものだよ。」
美子の反論に、どこか物悲しそうに返す【こっくりさん】。
『命』はあれど、能力や人格は変化してしまう。契約者がいない限り。
その起源は、【こっくりさん】さえも知る事のできない禁断の領域……。
「つまりここは本来、妖怪達のイタズラ舞台ってだけだと。」
「幻覚を見せる【妖怪】も多いしなー。【幽霊】より戦闘能力がない【妖怪】だらけだったのかな?」
蹴斗と【こっくりさん】は考察する。元々【幽霊】という伝説使徒すらいない森だったのでは、と。
【幽霊】は呪い・恨みといった攻撃的な感情を有する事が多い。
人を化かしてイタズラする程度の【妖怪】では、歯が立たなかったのだろう。
「……はぁ。アンタ達、ホント信じらんない。どこまで知っているの?」
美子は深く溜息をつく。【こっくりさん】のような、喋る伝説使徒と会話しなかったのだろう。
蹴斗にとっては、当たり前のような事が当たり前でないのだ。
「じゃあ【風のウワサ】も知らないんだね~。」
「え、諺でしょ。でも正確には『風の便り』よ。」
「今度URL教えてやるから、メルアド教えてくれ。」
一瞬戸惑う美子だったが、情報も大事だと思いつつ、渋々教える。
しかしまったく何も思わない蹴斗に、握りこぶしを震わせるのだった。
―――肝試し・集合場所
教師達が見守る中、何班かの生徒が帰ってくる。
「ふっ……難なくクリア。」
「何かバケモノを見た気がするんだけど……。」
「気づいたら居なくなってたのよね。何だったんだろう……。」
早々に帰ってきたのは第1班。何かを見たと主張するが、特に被害はないようだ。
「こ、怖かった、ね……。私、気絶しちゃったかも……。」
「怖かった、な……。」「う、うん……。」
次に帰った第2班は、何か含みのある恐怖を覚えたようだ。それを班長は知る由もなく。
「無事帰ってこれたな~。何もなかった。」
「バイクの音が妙にうるさかったけど……ね。」
第5班も無事帰還。バイクの音以外に気になるものはなかったようだ。
「いやー、本当に何もなかったな。」
「先生ー、ちゃんと仕掛けしたの?」
そして第6班は又木十三。夜道の散歩を平和に終わらせたようだ。
そんな4つの班に向けて、教師が一言。
「まぁ、何も仕掛けてないからな。」
「「 はぁ? 」」
「いやぁ、勝手に生徒が驚いて、噂になるから、安上がりだなって。」
ある生徒は落胆し、またある生徒は戦慄した。
何もない場所で怯えていたのか、ではあの時見たものは何だったのか……。
そうしていると、また何名か戻ってくる。
「あれ~、ココどこぉ~?」
「俺達、旧校舎に向かってたはずだけど……。」
「おっ、第3・4班だな。遅いぞ~……ん?」
帰ってきた面々を見て、教師は気付く。……班長がいない。
「おい、服部と神倉はどうした?」
「あれ……いないっ!?」
「私達ぃ~、火の玉を見つけてぇ~」
「それを追いかけていたら、ここに……。」
行方不明ともなると、責任問題である。
教師達が一気にざわつく。集合して会議を始めた。
「……キツネさん、ありがとう。」
「お安い御用でしてぇ。迷わすだけでなく、道案内もお手の物でさぁ。」
集合場所の片隅で、第3班の少女と【狐火】が会話する。
どうやら、【狐火】の誘導能力によって、蹴斗達以外は無事帰る事ができたようだ。
「お礼にこの護符あげる……だから教えて。便町の【透明人間】の事。」
「えっと……お嬢さんは、どこまで知ってやす?」
「……便町は……私のいた町なの。」
少女は小学校時代、便町に住んでいた。その時に起きたのが『透明人間騒動』である。
殺傷事件が相次いで起こる、しかし犯人の痕跡も影も、全く見えてこない。
一連の事件を【透明人間】の仕業であると人々は囃し立て、大騒動になったのだ。
あまりの酷さに、諸学校は休校となった。外へ出る者さえ少なくなった。
そんな事件が、ある日パタリと止んだ。別に真犯人が見つかった訳でもなかったのに。
いつしか恐怖は完全に消えさり、便町は日常を取り戻した。
「そうでしたか……いやはや。犠牲者になってたかもしれやせんねぇ。
しかし、その事件を解決してくれた英雄が2人いた。」
「……それが、蹴斗くん?」
【狐火】は流暢に、それでいてどこかしんみりと話し続ける。
「奴は、妖怪達にも手を掛けた酷い奴でした。自分を世に広めるために、便町を恐怖で支配した。
あるいは、他の町にも伝播し、より凶悪な伝説使徒になりえたでしょう。
お嬢さんだけじゃありやせん。俺っちだって、救われたのやもしれません……。」
【狐火】は首を振り、少女に背を向ける。
「俺っち、やっぱり行きます。恩をタダで受け取るなんて、ごめんでさぁ!」
「あ……、いってらっしゃい。」
そこへ、又木が駆け寄ってくる。
「えっと、何か話してた?」
「……うん、キツネと話す、変な子なの……。だから、話しかけなくていいよ。」
「え? 猫とか話しかけるだろ? その、俺のせいで逃げたかなって。」
又木は少しズレた感性を持っていた。むしろ、小動物に嫌われやすい体質を気にしたようだ。
そんな又木は、本題というように顔色を変える。
「そうだ、蹴斗……服部蹴斗を知らないか? 班長だったよな。」
「……。」
一瞬迷う少女だったが、大きく息を吸う。
「……又木くん、憶えてる? 『透明人間騒動』。」
「あぁ、オレ達の学校が休校になったアレだろ? 気づいたら落ち着いてて……。」
「あれ、蹴斗くんが倒してくれたの。」
思わず息を呑む又木。ふとした記憶が蘇る。
その記憶が、全ての辻褄を合わせた時、次の言葉を予測させた。
「蹴斗くん……守護霊の力で、今回も解決する気なの……。
キツネさんも行ったけど……、アーバントっていう、危険なものと戦うの。」
「そんな、蹴斗が……ッ!」
思わず、又木は旧校舎へと走り出した。
何かできるという訳ではないが、それでも、走り出した。
「待ってろ、蹴斗!……これは。」
駆けだす又木の道標か、火の玉が道を照らす。又木は信じて、その道を突き進んでいった。
―――旧校舎
どことなく古びた香りのする、しかし最低限の手入れは施されている……。
不可思議な建物が、そこに建っていた。
旧校舎……肝試しの目的地であった場所だ。
蹴斗と美子は、無事この場所へ辿り着いた。
「道中敵なし。たぶんここに、2体居るよね。」
「さっさと片付けるか!」
気合を入れる蹴斗と【こっくりさん】に、美子は質問を投げかける。
「ところでさ。アタシ達以外はいないわけ? そんなのが居たら他の班でも何かあると思うけど。」
「そうだな。他の班も戦っているかもしれねぇ。」
その会話を聞き、【こっくりさん】はハッとした表情を浮かべる。
「蹴斗、人数を占って。」
「了解、鳥居へ……。生徒は3人以上?」
指差したのは「No」だった。それを見て何故と叫ぶ美子だったが、蹴斗は渋い顔になる。
「……これ、ボク達狙いだね。」
「はぁ、どういう意味!?」
「昔オレら、目立つ事やったせいで、伝説使徒から目の敵にされてるんだ。今回もその口だと思う。」
いざ気づくと、美子が申し訳なくなる。自分達のせいで、妙な事件に巻き込まれるのだから。
「ふーん、そうですか。」
「いや、その……。」
「つ・ま・り、超絶最強巫女のアタシはどうでもいいと。ついでだと! いいじゃない……!」
何故か美子に火が付いた。
面倒くさいタイプだと思ってはいたが、ここまで面倒とは思っていなかったため、困惑する2人だった。
そうこうやっている内に、問題の教室へ着く。
『ずれる音楽室』……物が勝手に動く教室だそうだ。
「まぁ、【幽霊】が動かしているだけでしょうね。」
「そう考えちまうのも職業病だよなー。教師のイタズラとは思えねぇっていう。」
美子と蹴斗が言い合っている時だった。
「ッ!?」「危ねぇ!」
椅子が急に襲い掛かってきた。とっさに椅子を見るが……何もいない。
「まさか!?」
何かに気づいたと同時に、椅子や楽器が投げるように飛んでいく。
そして、全ての物体が、まるで何かを中心とするように宙を漂う。
「間違いない……【ポルターガイスト】!」
「はっ!? また見えない敵かよ!」
【ポルターガイスト】、あらゆる物体を動かす怪奇現象である。
それがここまで攻撃的な伝説使徒として暴れているのも珍しい。
「神倉は!?」
「大丈夫よ、積極的には狙われてないみたい。」
「完全に、ボク達を倒して名を挙げたい伝説使徒か……。」
伝説使徒間にもミームというものはある。
特にテリトリーを誇示するために、名声や脅威度を示す事がある。
【ポルターガイスト】は、『便町の透明人間狩り』を倒して異名を得たいようだ。
「だけどねぇ……!」
【こっくりさん】は黒球を作って投げ飛ばす。
黒球は漂う物体を避けて中央にヒット……せずに、壁にぶつかって消滅した。
「外れた?!」
「ちぃ、本体を隠すためのブラフか……。どこに居る?」
実体を持たない伝説使徒にも、核がある。それを砕けば倒せるのだ。
普通なら、能力の影響範囲内のどこかに核は存在するはずなのだが。
そう思考する間にも、椅子や楽器を投げて攻撃してるため、息する暇も見つけづらい。
「【こっくりさん】、分かるか?」
「一瞬だけなら。でも逃げられて終わりだし、十円玉を引っ掛けるのも難しいかな。」
「神倉さんは、何か手があるか?」
「5分稼いでくれたら、とっておきの技を使うけど?」
5分……少年サッカーのインターバルが10分だから、それの半分か。
蹴斗にとっては短い時間だと判断し、サムズアップする。
「さてっと。5分で勝てるか、本職巫女が出てくるか……。」
「先に言うけど、負ける気はないからね。【ポルターガイスト】。」
蹴斗はフェイズシフトし、【こっくりさん】を身に纏う。
幽体となった蹴斗は音楽室を飛び回る。
「核は、どーこだ……!」
一方、美子は廊下で舞を踊っていた。
「見てなさい……巫女の本気。」
―――3分後
「はぁ、はぁ……。」
「くっそ、どこにもいない……。」
【ポルターガイスト】の核は見つからない。
椅子や楽器を投げつけられて、集中できないからではない。
おそらく完璧な戦術で隠れているのだ。
「(床下か、天井裏に居るとしたら……?)」
『テレポートみたいな技が使えるのかもしれねぇぞ。』
【こっくりさん】の考えでは、核は影響範囲の中央付近に存在する。
その中央を攻めても出てこない以上、上下方向に隔てられた床・天井へ隠れている可能性がある。
壁を貫通するほどの力は、自分には無い。
蹴斗の考えでは、影響範囲(テリトリー)を定めて、その中を高速移動している。
今まで見えない敵と鬼ごっこをしていたのだ。見つかる訳がない。
どちらの説にせよ、決定的な情報が足りない。
その隙を与えない猛攻が、【ポルターガイスト】の策略だろう。
ここで打てる1手は……。
「「 これだ! 」」
2人は音楽準備室に飛び込み、様子をうかがう。
この部屋に物を投げるのは困難。流石の【ポルターガイスト】も移動せざるを得ない。
そう考えていたのだ。
「(さぁ、来い。【ポルターガイスト】……。)」
『そこから出ないと攻撃できないぜ……?』
警戒も怠っていない、はずだった。
「「 かはっ……。 」」
背後からの強襲。音楽準備室から突き出されると同時に、床に落ちていた椅子が跳ねる。
天井に打ち付けられた2人は、そのまま床へと叩きつけられた。
「【こっくりさん】……例えばだけどさ。」
「なんだい、蹴斗……。」
「この学校全域がテリトリーって、あり得るかな……。」
絶望的な可能性。音楽室どころか、この学校のどこかに核が隠れているという説。
自分達が想像していた以上に、【ポルターガイスト】は力を持っていた。
そして、力を発揮できる最高の場所を見つけてしまった。
「負けるかもな……こりゃあ。」
諦めかけた蹴斗の言葉を止めたのは、廊下から入ってくる扉の音。
そう、美子の姿だった。
「神倉さん!」
「こいつの核が分からない! いったん逃げよう!」
蹴斗と【こっくりさん】の警告を無視し、美子は床に触れる。
「あらゆる物質よ、その理に逆らい、新たな設定によって、そこにあれ!」
その瞬間、蹴斗の身体を借りていた【こっくりさん】は変化を感じた。
体が重くなる……比喩ではなく、物理的に。そして、この部屋にある全てのものも。
「本当は元旦にしか見せてあげないけど……特別よ?
アタシの【神懸り】、構成神・バンブツの力!」
カタカタと揺れる椅子や楽器。しかし浮き上がる様子はない。
そんな中、ゆっくりと浮き上がろうとする椅子がひとつ。
「そこね……!」
「ちょ、ちょっと!」
美子は椅子を自在にコントロールし、床へ天井へと叩きつける。
そしてフラフラになった核が、わずかに姿を見せた。
「核の中心ほどパワーが強い……でも『質量』を変えられたら、重くて動かせない。
バンブツはアンタとは桁が違うのよ。【ポルターガイスト】!」
椅子が、楽器が、全てのものが【ポルターガイスト】の核へ目掛けて『落ちて』いく。
謎の球体が出来上がった頃に、何かが潰れる音が聞こえ、そして全てが床に落ちた。
「さすが本職巫女……!」
「正直、ナメてたよ。」
蹴斗と【こっくりさん】は、ただ巫女を称賛した。
「ふふん。元旦はねぇ、【神懸り】して新年を祈るのよ。
アタシの本気、分かったかしら?」
「はいはい、ボクの評価シートは更新しておくよ。」
さてと、敵はあと1体。
余裕はあるが、油断せず確実に仕留めよう……。
―――ゾクリ
そう考えていた時だった。蹴斗の背筋に嫌な気配を感じる。
蹴斗だけではない。美子も【こっくりさん】も感じていた。
「これは【悪霊】タイプね……危険よ。」
「百も承知だ。この森の平和を守るために、倒す!」
そんな3人の前に現れたのは―――
3階の窓から覗く、巨大な目玉だった。
「「 大入道……!? 」」
―――これは、『伝説使徒』と契約し、『伝説使徒』と戦う者達の物語―――
苦情は聞き受けます。
Q:構成神って?
A:アーバントという概念があるように、時・物体・エネルギー・意思という概念があります。
その管理者が「構成神」です。【神懸り】で呼び降ろせる能力と言い換える事もできます。
なお、『空間』という概念を管理するものはいません。空間はより上位の存在が管理しています。
Q:透明人間騒動って?
A:諸々の事情で書けていない、幕間のストーリーです。
今後を考慮すると必須の話なんで、肝試しが終わったら書きます。
Q:あの狐と会話したモブ娘、名前ないくせに妙に喋るな?
A:気に入りました。名前付けたいです。
えー、業務連絡。兄者との協議の結果、狐と会話した少女の名前は
[藪小路 翔華(やぶこうじショウカ)]ちゃんに決定しました。
今後どのような活躍をするか、お楽しみに!
>>170
おつありですの。あと命名サイトもありがとうございます。
美子ちゃんは割と大事にしたいキャラなので、応援頂ければ幸いです。
>>173
>今年の初夢は明らかに10代な女の子の尻を撫で回して泣かれる内容でした
1.噂話に熱中しすぎ、他の事が疎かになる暗示。
2.性的願望の高まり。あるいは、やや一方的な愛情を示すもの。
3.金運に関する夢の場合、「泣かれる=失う」なら、無駄遣いの暗示かも(独自解釈)
という検索結果が出たよ翔太郎
ある学校で、男子生徒が放課後、教室に居残っていた
男子が何となく窓の外を見ると、向かいの校舎の屋上に人の影がある
男子は不審に思い、窓に近づいてよく見ようと目を凝らした
その瞬間だった、人影が飛び降りたのは
重たい物が堅い地面に激突する音が、確かに聞こえたのはその直後だ
突然の出来事に混乱した男子生徒は暫く動揺していたが
兎に角人を呼ばないと、飛び降りた人はまだ助かるかもしれない、そう思い
人影が落ちたであろう場所に駆け付けるが、其処に誰かが飛び降りた痕跡は無かった
取り乱した男子生徒は、部活中の生徒や付近を通り掛かった教員を捕まえて話をしたが
誰かが飛び降りる現場など誰も目撃していないのだと言う
騒ぎを聞いてやって来た用務員は男子生徒の話を聞くなり
腑に落ちたような顔をして、男子生徒に説明を始めた
昔、この学校で飛び降り自殺があったのだと
女子生徒が校舎の屋上から飛び降りたのは、丁度、男子生徒が飛び降りを目撃した時間帯
彼女が死んだ後、時折このようにして在る筈の無い飛び降りの光景を目撃する生徒が少なくなかったそうだ
彼女は死してなお、飛び降りを繰り返しているのかもしれない
「繰り返す飛び降り」
週が明けて月曜日、その夜
俺達は東中に向かっていた。勿論理由は東ちゃんに会う為だ
俺達、ってのはつまり
「まあ頼まれたからには聞いてやっけどよぉ」
「新谷のおいちゃん、やっぱり陽が落ちると寒いね」
「そだね、でも寒くなると星が綺麗に見えるんだよな、ほら」
先週金曜の顔ぶれと一緒だからだ
「人面犬」の半井のおっさんに新谷さん、「コロポックル」のれおん
そして俺の計四名、この数で押し掛けるからには今夜中に東ちゃんを見つけたい所だ
「なあ、兄ちゃん」
「おん?」
後ろから新谷さんに話し掛けられた
ホワイトシェパードな新谷さんは見た目がほぼ犬に近い
この日も新谷さんはれおんを背中に乗っけていた
「あいつら、人身売買やってたんだよな。もう捕まったかな……」
「今頃は『組織』に捕まってるよ。わざわざやって来てたわけだしな」
「だといいんだけど」
「大丈夫だよ、後のことは『組織』が何とかするだろ」
あいつら、ってのは先週金曜にれおんを誘拐しようとした連中のことだ
現場には俺たちの後から『組織』所属の二人組が駆け付けたわけだし、直ぐ気づいただろう
むしろあれで犯罪者共をみすみす見逃してたとしたらだ、『組織』は余程のポンコツってことになる
それ以上に気になるのは奴の存在、あの『組織』の刀使いだ
現場で遭遇したとき俺を注視していたわけで、間違いなく俺に気付いていた
ひょっとしなくても確実に目を付けられてる? 「組織」に?
やばくない?
いやいや考えるのは止めろ俺! もう既に何度も悩んだろ俺!
悩み過ぎて眠れない夜を過ごしたりもしたけど、そもそも「組織」に目を付けられたんなら
もっとこうストレートに接触してくるだろ普通。だからきっと大丈夫だ。多分、多分ね
「それより新谷さん、れおんも一緒なのは何か訳とかあったり?」
「そりゃおめえ、留守番は危ないからだ」
迷いを振り捨てて、取りあえず今気になっていることを訊いてみると
答えが返って来たのは先頭を行く半井のおっさんからだった
「確かに野良の連中が侵入してくるリスクは低いだろうが
オヤジは寝入っちまってるし、ヤバい部屋はヤバいからな
おまけに最近は『黒服』が付近を張ってるようだしな、万が一ってこともある」
「オヤジ?」
「いずれ紹介するよ、“地下区”のこともな」
地下区? よく分からんが学校町の地下が根城ってことだろうか
ううむ、この町のことは一応下調べしてきた積りだったけど、まだまだ未知がいっぱいとは
前に瑞樹さんから色々教えてもらったことを思い出しながら……あ、そうだ
半井のおっさんに真っ先に言うべきことがあったんだ
「そういやおっさん、以前の霊園訪問の件で『墓守』さんが怒ってたぜ」
「は、なんで急にその話が出てくんだ? 大体あれだ、ほら、墓でうるさくしてたのはお前だろ早渡」
「おもにありもしない呼び出し方を新参者に吹き込んだ不届き極まりない都市伝説が居るってとこにな
おっさん、あんたのことだからな?」
「は? 俺!? あっおいまさか! 早渡お前『墓守』にバラしたのか!?」
「馬鹿言うなよ、『墓守』さんは最初から最後まで全てをバッチリ把握済みだ」
「阿呆かお前!! あれだ、あの、あの人はキレるとめっちゃ怖えんだぞ!?」
「知るか、俺にホラ吹いた報いだろ」
そうこうしてる内に東中に到着した
半井のおっさんが軽くパニックになってるのは華麗にスルーだ
東中は何というか、静かなのは静かなんだが何処か不穏な雰囲気なのは相変わらずだ
そうだな
今回は校庭ではなく、校舎の方を目指す
「一応もう一度説明しとくとだな」
「わあってるって、お前の惚れた女の捜索だろ」
「違うって、本当に最近知り合ったばかりなんだって」
「兄ちゃんのおともだちなの?」
「友達ってか、知り合いだな。あんま話したわけじゃないんだ」
「やっぱ惚れてんだろ、JCによ」
「いや俺はどっちかで言えば年上のが好き、みたいな?」
何故、夜中の東中に来たのか
既におっさん達に理由を伝えてあった
人探しは手の多い方がいいし、何よりおっさんは鼻が利く
「しかし、――『三年前』の事件の犠牲者、か」
一通りふざけた後、半井のおっさんが口を開いた
おっさんから「三年前」の話を聞くのは初めての筈だ
「あの事件も胸糞だったな」
「中学の子供たちが連続で飛び降りたやつでしょ? 怖いよね、契約者って」
「確かに実行犯は契約者だが、裏で糸引いてたのは『狐』って話だ」
「あれ、おっさん知ってたのか?」
「馬鹿野郎、早渡、俺を誰だと思ってやがる
それに、『狐』に警戒してたのは『組織』だけじゃ無えんだ
当時は俺達んとこに『犬神』様が居候してたからな
他の連中よりも『狐』の動向については幾らか察知してたんだよ」
「『犬神』様」
「そうだ、あのときは確か新谷も……、いやお前確か当時は辺湖に逃げてたんだったか」
「うん、半井さんの指示で」
「まあ、そうだな。兎に角、信仰も薄い今の世じゃ『犬神』様では到底あれに対抗出来る筈も無く、な
見てるこっちが可哀想なくらいブルっちまっててよ、まあそれでも三年前は『狐』が失せたから良かったんだ」
「早渡の兄ちゃん、『犬神』様は今年の春先に学校町を出て行ったんだ、れおんも覚えてるでしょ」
「うん」
「春先って言えば」
「そうだ、『狐』が学校町に戻ってくるのを知った途端にな
『貧乏神』の子と一緒に出来るだけ遠くに逃げるって聞かなくてよ
その時点で俺達も嫌な予感がして、警戒モードに入ったってわけだ」
「そんなことが」
これは初めて聞く話だ
狐と犬は相性が悪い、何処かで聞いた話がふと脳裏を掠めていった
「まあ、あの事件から暫く経って『飛び降り』のガキが夜な夜な現れるって噂は耳にしてたが」
「今から会いに行くのってその子なんでしょ? どんな子だろ」
「俺が会ったときは、まあ普通の子だったよ。ただ最後の方は様子がおかしかったけど」
「お前が会いたがってるのは『狐』の手掛かり探しの一環か」
「別にそれが目当てってわけじゃ無いんだけどさ、ちょっと気になって」
「しっかし、よく今まで『組織』に討伐されずに済んだな」
まさに『組織』に目を付けられてて、そろそろヤバそうなんだよ
などとは言わないでおこう、これ以上余計なフラグは立てたくないからな
さて、校舎だ
どっから探そうか
「どうする、ここはやっぱ二手に分かれて探す?」
「待て待て待て、駄目だ却下」
無難な方法を提案したところ即座に半井のおっさんに止められた
「バラけると有事の戦力的にちょっちヤベえぞ?
この中で戦えるのは俺と早渡くらいだからな、万が一ってこともある」
「気にし過ぎ――とも言えないか」
「早渡、お前『モスマン』のことは忘れちゃいねえだろうな?
最近は気味悪いくらい東区で目撃されてんだ、今夜遭遇しないとも限らんぞ」
「でも、此処に来るまでに『モスマン』は見なかったよ?」
「甘えんだよ新谷、見えないときほど危険なんだ。少しは気ぃ張っとけや」
というわけで全員で固まって探すことになった
確かに分散すると連携は携帯頼りになるし、何かあったときに心許ない
「それで、どうかな」
「うん、夜は色んな臭いが混ざっちゃうからさ、時間掛かっちゃうかも」
「そりゃお前の経験不足だ新谷
弱いが確かに匂いはあるな。早渡、アタリはついてるか?」
「先ずはこの先に行こう」
この先
以前、花房直斗と一緒に来たとき、奴が献花した一角だ
別に“波”を感じるわけじゃないが、今夜は勘でも冴えてるのかそんな気がしたんだ
半井のおっさんと並ぶように歩を進める
後続する新谷さんは心なしか緊張しているようだった
「お」
「ビンゴだ早渡、気をつけろ。臭いが濃いぞ」
いた
東ちゃんが、いた
花やぬいぐるみが供えられた壁際に向かって
東ちゃんはしゃがんでいた
丁度こっちに背を向けるような格好だ
足が、速まる
心拍が、速まる
「東ちゃん」
彼女の、名を呼ぶ
「東ちゃん!!」
おもむろに彼女は振り返った
顔は青白く、頭から血を流している
彼女の“波”は、以前のものでは無かった
東ちゃんは変質していた
俺は東ちゃんに距離を詰めた
彼女は逃げるでも無く、俺の顔を見ている
無表情で
「誰?」
「俺だよ、覚えてないかな
前にここで会ってさ、それで」
「知らない」
「覚えてない?
花房君も一緒だったんだけど、奴のことは覚えてるよね?」
「知らない」
「覚えてないのか
屋上で『再現』を見たことも覚えてない?」
「覚えてない。何の話?」
不意に“波”が、少し強くなった
東ちゃんが俺に警戒してるのが嫌でも分かる
意を決した
「本当に覚えてない?
『三年前』のあの日のこと、『再現』で見たの」
「覚えてない。あんた誰なの? 何しに来たの?」
「東ちゃんのことが気になって来たんだ
『あの日』、何があったのか、俺は理解できたけど
東ちゃんの様子がおかしいみたいだったから、心配で」
「心配? 何が心配なの?」
東ちゃんは嗤っていた
眉間に皺が寄り、俺を睨み付けた、歪な笑顔
「やめてくれる? そういうのうざいだけだから。早く出てって」
「駄目だ聞けない、東ちゃんと話がしたいんだ」
「帰って。あんたも私のこと、笑いに来たの?
馬鹿にしに来たんでしょ? お願い、帰って。早く出てって」
「あんたも? 俺意外にも誰か来たの?
そいつが東ちゃんのこと、馬鹿にしたのか?」
「なんであんたなんかにそんなこと教えなくちゃいけないの?
助けてよ、私、あんたのこと殺したくないよ。頭の中でずっと声がして
みんなが、出てきて。違う、私、違うの、お願い止めて。もう帰って! 帰ってよ! 目の前からいなくなって!!」
今度は泣き出し始めた
遠くからのおぼろげな灯りを受けても、彼女の眼は微かな光すら宿していない
そして
彼女の“波”が先程よりも変化しているのが分かる
不安定に
まるで、暴走する都市伝説のように
コードに呑まれたANのように
「私がどれだけ怖い思いしてるか分かる? 分からないよね! 分かるはず無いよ!!
気づいたら、屋上に立ってるの、フェンスの向こう側に、そんな積り無いのに
そしたら、飛び降りてて、頭から真っ逆さまに、堕ちて、痛くて、寒くて、震えて」
「東ちゃん」
「私、好きじゃ無いんだよ? なのに、気づいたら、屋上に立ってて、もう一人の私が笑うの、
誰かを道連れにしちゃおうって、怖いよ、みんながさ、私の声で言うの、お前のせいだって、
違う、私、これ、好きじゃ無いし、私のせいじゃない、私だけ助かったんじゃない、違う、違う違う違うっ!!
道連れにすれば楽になれるって、私が言うの! 気付いたら、屋上に居て、私、違う、やだ、やりたくない!
違う、怖い、一人じゃないなら怖くないって、違う、嘘だ、私、やだ、こうはいを、やだ、私、私、後輩を殺したくないっ!!」
「東ちゃん」
彼女の手を、掴んだ
「言って信じてくれるか分かんないけど、君を助けられるかもしれない
俺を信じてくれるか、東一葉ちゃん」
東ちゃんは驚いたように眼を剥いた
不意に沈黙が場を支配した
「それ、知ってる。私の、私の――名前」
黙った
その代わり、彼女の言葉を肯定するために頷いた
東ちゃんの眼から大粒の涙が溢れ、零れ落ちるのを、ただ、見守った
「馬鹿じゃないの」
それは擦れた声だった
不意に“波”が和らいだ
「なんで早く助けに来てくれなかったの?
私が飛び降りる前に、なんで来てくれなかったの?
どうして私がこんなになってから、止めてよ、優しくしないで、もう私は、もう、遅いから」
「遅くないよ、こっちに来いよ」
「じゃあ、助けてよ」
顔を上げた彼女の顔は、もう歪んでいなかった
涙を零しながら、ようやく東ちゃんは声を発した
「助けてよ」
「 っ!?」
出し抜けに
“波”が強まった
さっきの比じゃない
なんだこれは!?
「そんなにカッコつけるんならさ、私のこと、助けてよ」
そして
東ちゃんは消失した
思わず舌打ちした
失敗した! 上手くやれば何とかいけると思ったんだが!!
「おいおいおいおい待て待て待て待て」
半井のおっさんの声にビクッとなった
そういや集中してた所為ですっかり後ろの皆のことを忘れてた
「ちょっと急に口説きに入った理由をね、おじさんに聞かせてほしい。何やってんだテメーは?」
「いやちゃんと理由があんだよ! 前に説明したろ!? 見ての通り、東ちゃんは“取り込まれ”かけてた!
前会ったときはあんなじゃなかったんだ! だから多分“揺り戻し”だろうと見当をつけたんだ
“取り込まれ”から引っ張り出すには、まず落ち着かせて、“名前を呼んでやること”、だろ!?」
「早渡、あのな? そういうのは“取り込まれ”が比較的軽い奴にはよく効くんだけどよ
俺の見立てじゃ、あの嬢ちゃんはほぼ“なりかわり”っつーか、もう完全に――」
『たすけてよ』
咄嗟に顔を上げた
献花された一角の遙か上方、校舎の屋上に人影は見えない
ならば何処だ?
「おっさん! 今の聞こえたよな」
「わあってるよ! “取り込まれ”のキッツい奴なら“オリジナル”通りにしか行動出来なくなるからな!」
「待ってよ、早渡の兄ちゃん、半井さん! 俺、さっきから置いてけぼりなんだけど!!」
「うるせえ新谷!! あの嬢ちゃんを探せ! お前の鼻は飾りか!?」
「原話通りなら“飛び降り”だ! 新谷さん、屋上に居ないか見てくれ!」
自分が何処でヘマしたのかを判断する材料さえ無い
明らかに踏んだ場数は少ない、とはいえそんなのは言い訳にはならない
俺がしようとしてたのは、“取り込まれ”かけたANを元に戻すこと
自我を獲得した都市伝説が自分の原話(オリジナル)に引きずり込まれかけたとき
それを阻んで、自我の側へと引っ張り戻してやることだった
もう少しで上手く行くんでは、と思ったのに
甘かったとしか言いようが無い
どうする?
こっから先はどうするんだ?
「居たよ! 兄ちゃん! 直ぐ上だ!!」
新谷さんとれおんの声に、意識が思考の渦から引っ張り出される
校舎から数歩離れ、改めて屋上を仰いだ
いる
東ちゃんがいる
先程は姿が無かったが、今はシルエットが見える
屋上の縁に、彼女は立っていた
どうする、俺
『お前は七尾(がっこう)で都市伝説の殺し方(ころしかた)は習っても、壊し方(たすけかた)は教わらなかったからな』
心臓が早鐘のように音を立てるのを感じながら
俺は彦さんの言葉を思い出していた
「七つ星」でお世話になった、俺の兄貴分だった
『尤も、契約者で都市伝説を態々壊そうなどと考える奴は、そうは居ないのだが』
彦さんの話では、AN、つまり実体化した都市伝説は
そもそも実体化している時点で狭義の都市伝説から逸脱しているのであり
それ故に、既に都市伝説では無いのだと、確かそういう話だった筈だ
思い出せ
『だから彼らは、ある面で生きているのであり、ある面で人を襲い[ピーーー]のであり、故にある面で[ピーーー]せるのだ』
“取り込まれ”かけた都市伝説が、その状態から脱するには
都市伝説が、自信の原話(オリジナル)から完全に支配されているわけじゃ無いことを示してやれば良い
あるいは、身を以て理解させれば良いのだという
『最も手早い方法は恐怖を与えることだ
残念なことに、恐怖というのは横槍を入れることにかけては最高と言って良くてな』
この話をしているときの彦さんは
何故か、寒気を覚える微笑を浮かべていた
兎に角、殴るか、さもなくば相手の服従する原話に基づく行動へ“介入”してやること
それが、都市伝説を元に戻す、あるいは壊す方法、らしい
曰く、実力が伴えば都市伝説を壊すのは容易い
だがまさか東ちゃんを殴り飛ばすわけにもいかないだろ
『少しで良い。少しだけ“干渉”してやれば良い
例えば「口裂け女」の質問に横槍を入れて掻き乱すこと
そうすれば、もしかすると彼女の中に混乱が生じて自我が芽生えるかもしれない。あるいは』
彦さんは酒を含みながら、薄く笑っていた
『健闘空しく彼女に殺されるだけかもしれない。そこはお前の実力次第だ、脩寿』
“介入”
今、俺にできること
つまりそれは東ちゃんに“介入”すること
具体的には彼女の飛び降りを阻止することだ
“黒棒”じゃ力不足だ
それだけじゃ東ちゃんを止められない
もっと“力”が必要だ
既に俺は、昔の感覚を呼び起こそうと、記憶の底から引きずり出そうとしていた
学校町に来てからあれはまだやったことが無い
これで無理なら俺には無理だ
「おい、早渡! 聞いてんのか!? ヤベえぞ!!」
東ちゃんが飛び降りる前に
“尾”を引きずり出せないと、終わる
不意に
昔、口にしていた聖句を思い出した
ANを発動させるときに必ず諳んじた一節を
されど主よ 我が目はなほ汝にむかふ 我 汝に依賴り
東ちゃんが飛ぶ前に
引きずり出せ
熱いモノを無理矢理引き抜くような痛みが背中に奔る
主観時間が一気に鈍る
東ちゃんの方を睨んだ
東ちゃんが、屋上から落ちた
重力に絡め取られながら
彼女の体が、落下していく
急げ
引きずり出した“尾”を見る間も無く
思い切り、天を指差した
“尾”がその方向へと、東ちゃんへと突き進んでいく
主よ 我 汝を呼ふ 願はくは速かに我に来たり給へ 我 汝を呼ふとき 我が聲に耳を傾け給へ
空っぽの頭で、その言葉に縋り付きながら
込み上げる怒りと絶望を抑え込みながら
俺は“尾”で東ちゃんの体を受け止めた
□■□
独自設定で勝手に学校町を拡張しやがって、と怒られそうですが
一応、ちゃんと参照元があります! と弁明します……
聡明な読者の皆様におかれましてはご存知の通りですが
学校町の地下(?)は20年ほど前の時点で水没しました
水没しました(多分)
アクマの人と花子さんの人に感謝と謝罪のの土下座 orz
投下がめちゃくちゃ遅れました
そしてギザ十の人にも感謝
本当は3話くらい一気出しする予定でしたが自分の未熟の所為で遅れに遅れてしまった……
次回、「私の方が先輩だからね!」「あの男……ぶっ[ピーーー]してやる……!」、やります
皆さん乙です
早渡がようやく本気出したか
しかも女の子を助けるなど着々ともげろポイントを稼ぎやがって…
かき氷の単発の人改め悪魔の人も乙!
冬場に氷菓が食べたくなる?普通だ!炬燵で雪見大福は格別だからな
かき氷にチョコシロップとは粋な演出ですね
ところで和装の美女は男の股間を見たのかそれが問題d(
ところで俺は今日職場でチョコを20個もらう予t(
「ぎゃぁぁぁぁあああああああああああああああああすっっっ!!!!!!!」
闇夜をつんざく、絶叫
歯を食いしばりながら頭上の声の主を仰いだ
東一葉
「三年前」の事件の犠牲者にして都市伝説「繰り返す飛び降り」と化した女の子
原話(オリジナル)に“取り込まれ”かけていた所に俺達が割り込んだ
何かって言うと、彼女が飛び降りようとしたところで邪魔をしたんだ
もっと具体的に言うと、飛び降りた直後に俺の“尾”で受け止めた
“取り込まれ”を阻止して彼女を正気に戻す方法をこれしか知らなかったからな
で、だ
「いやだあああああああっっ!! 離してええええええええっっっ!!!!」
「ちょっ! おいぃぃっ!? あああ暴れんじゃねえって!!! おいぃぃっ!!!」
正気に戻ったのか分からないが、めっちゃ暴れてる
状況を乱暴なほど簡単に説明すると現在彼女は宙高く浮いている
東ちゃんが飛び降りた瞬間に、生やした“尾”を飛ばすように引き伸ばして
“尾”の先端で彼女の体を掴んで止めたような格好だ
そして東ちゃんはなんでか“尾”から逃れようと死にもの狂いで暴れている
そうだな、ついでに言うと、俺が“尾”を生やしたのは本当に久し振りだ
少なくとも学校町に越してきてから“尾”を使ったことなんて――余計なこと考えてる場合か!?
「離しっ、やだあ、やだああああっ!!! 離さないでぇぇぇぇぇっ!! いやああああああっっっ!!!!」
「だからっっっ!!!!!!! 暴れんなってっっっ!!!!!!!」
「おい早渡!! 上だ!! 屋上に押し上げろっ!!!」
「出来るなら最初からそうしてらあああっ!!! クソっ! お、“尾”の感覚がっっ!! クソぁあっっ!!!」
「いやだああああああああああああああああああああああああっっっ!!!!!!!」
久し振り過ぎて上手く制御出来ないだなんて笑い話にもならねえぞ!?
兎に角、東ちゃんをホールドしたままゆっくり地面に下ろさないと!!
だが持つか? 持つのか俺の“尾”っぽ!? 持ってくれよ!!
途中から東ちゃんのパンツが見えたまんまになっちゃったが構ってる余裕はない
先程までの彼女の様子とは大違いな絶叫に半ば耳が麻痺したまま
“尾”がバラけないように全神経を制御に集中するしかない!
「おおっっ……!!! おあああっっ!!!」
「あとチョイだ、あとチョイっ! 早渡ィっ、踏ん張れぇぇっ!!!」
「離さないでええええええっっっっ!!!!! やだあああああああうお゛っっ、げほっっ、ごほっ」
「うおおおおおっ……!!! おあああああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っっっっ!!!!!」
その後
軽く一時間くらい経過したんじゃないかと思う
“尾”を使った所為か
全身から力が抜けるような脱力感に襲われながらだったので
その間のことは、もう記憶も飛び飛びだ
まず、東ちゃんを無事地面に降ろすことには成功した
“尾”を使うのが余りにも久し振りだった為か全身をくすぐられたような感覚だ
膝がガクガク笑いながらもどうにか気合で立っていたが
次に、東ちゃんは悲鳴を上げてその場から逃げ出した
「人面犬がいるううう!!」とか絶叫してたんで半井のおっさん見てビックリしたんだろう
今更だろって話だが半狂乱になって飛び出した東ちゃんを慌てて追い掛けたものの
東ちゃんを探し出すのに滅茶苦茶時間が掛かってしまったんだ
最終的に校舎と校舎の隙間部分の更に奥に隠れた東ちゃんを見つけ出して
何とか説得して出てきてもらったんだが、具体的に何を言って説得できたのかは
ほぼ何も考えずに喋ってた所為か、あまり覚えていない
ああ、ただ東ちゃんも正気に戻って前のことを思い出したのか
俺のことを記憶してくれてたようで、それが幸いした
こうして俺達は半べその東ちゃんになんとか出てきてもらったんだ
それで、だ
今の俺が何をしているかというと、
半井のおっちゃんの提案で何か飲み物を買いに行く所だ
この中学、高校とは違って自販機が設置されていないらしい
お陰で一旦校外に出た上で自販機を探さなくちゃならなくなった
正直まだフラフラしてるんだけどね
そう、故に早渡達は知り得ない
東一葉と合流を果たした彼らを遠方より観察する人影があったことに
「もうちょっと近づいた方がよくないのー?」
「駄目よ、これ以上距離を詰めて勘付かれたらまずいでしょ」
その者達は双眼鏡で早渡達の動向を監視していたのだ
「やっぱりあの人、犯人じゃ無さそうな感じなのー」
「何言ってんのよ!? 今見てたでしょ!? アイツが『学校の怪談』の子を追い詰めてるの!!」
「でもぉー……なんだか、助けようとしてる風に見えたなのー……」
「いいメリー? これだけ状況証拠が揃いつつあるのに容疑から外すなんて考えられないわ!」
「あれ、でも……、あの『怪談』の女の子は……」
「上手く逃げ出せたみたいね。それにしてもあの子、なんで今夜は屋外に居たのかしら?」
早渡が自販機を探すために校外に出た所も、その者達は把握していた
「まさか人間のみならず都市伝説まで襲ってるなんて……、とんだ見境無しね」
「どうするのー……? 今から追い掛けてやっつけるのー?」
「いえ、今夜はあくまで様子見、でも尻尾は掴んだわ。あの男、絶対に――」
片割れの声に、敵意が滲む
「――ぶっ[ピーーー]してやる……!」
その者達がどのように早渡と関わるのか
彼らはまだ、知る由も無い
●
「その、ありがと」
東ちゃんはおずおずとコーンポタージュの缶を受け取った
結局自販機を見つけるのに手間取って時間を使ってしまった
買ったのは手に持てる量の問題で俺と東ちゃんとれおんの分だけだ
「まあ、俺達の分は無いよね」
「新谷ぃ、そういうナマはテメエでプルタブ開けれるようになってから言えや」
「悪い、今度改めて奢るからさ」
れおんにみかんジュースのボトルを渡し、俺はスポドリのプルタブを開けた
喉の奥へと一気に流し込む。冷たさが体に沁みるのが妙に心地よい
少しは先程の疲れも紛れたかもしれない
「それで、さ。君は、わたしの心配して見にきてくれたの?」
「嬢ちゃん、キモいんならキモいってはっきり言ってやれよ。早渡の奴は喜ぶからよ」
「俺を変態みたいに言うのはやめろ?」
取りあえず余計なおっちゃんの一言に突っ込んで、東ちゃんに向き直る
「ほら。花房君から『三年前』の真相を聞くってときにさ
東ちゃんも一緒だったら事件の『再現』にも付き合う、って答えたじゃん
なんつーか、俺の都合で勝手に東ちゃんを巻き込んだわけだし」
「気にしないでよ、あのとき言った通りだから
わたしもあのときのこと、『飛び降り事件』のこと、知りたかったし」
彼女は両手でポタージュ缶を握ったままで答えた
その顔は外灯があるとはいえ、校舎の陰に紛れてよく見えない
「そっか、わたし都市伝説になっちゃったんだ
なんかまだよく信じらんないよ、死んだ人間が都市伝説になるってあるの?
ていうかさ、都市伝説って実在するんだ?」
「現に目の前に居るだろ、人面犬の俺や『コロポックル』のガキがよ。それに早渡は『契約者』だ」
「契約者?」
「都市伝説と契約を結んだ人間のことだよ」
おっちゃんの説明を一応補足しとく
とはいえ、今の東ちゃんにとって必要な説明では無い気もするが
「死んだ人間が都市伝説になるかは、珍しいことだけど前例が無いわけじゃ無いしな」
「そっかー……」
東ちゃんの声は何処か困惑気味だ
仕方がない、いきなり理解しろってのが無理な話だ
「それで『再現』見終わった後、東ちゃんが急に居なくなったけど」
「ごめん、実はあの後のことも、あんまりはっきりと思い出せないんだ
なんて言えばいいんだろ、この姿になってからさ、今日屋上から飛び降りるまで、ずーっと悪夢見てたみたいな気分
悪夢の中にいた、って言った方がいいのかな」
花房君が花選びのセンス無いってとこはハッキリ覚えてるんだけどね
東ちゃんはそう困ったように笑ったようだった
「あと、あー。あの、さ
出来れば、さっきわたしが、飛び降りる前に話してたこと
あの、全部忘れてくれると嬉しいな、って、ダメ? ダメかな?
さっきのって、なんかうわ言みたいな感じだから。もう、恥ずいから
わたし、すっごい冷たいこと言ってたよね、あれ本心じゃないからね? だから忘れてね?」
「ん、OK。今夜限りで後はさっぱり忘れるよ」
「あと、さ。そろそろ名前教えてよ!
いつまでも君呼びは嫌だし、それにそっちはわたしの名前知ってるのに
わたしが知らないって気持ち悪いじゃん! だから名前教えて!」
おん?
まだ自己紹介してなかったか
「俺は早渡脩寿。高一だよ」
「むー、高一なら、ええと、うーん、多分わたしより一個下だよね?」
当然そうなる
花房君の一つ年上って話だったからな
「じゃあ、あの! 東ちゃんって呼び方はやめよーね!
一応わたし、君より先輩だし! 敬っていいんだぞ!? ていうか、あの、敬って!!」
あら
ひょっとして東ちゃん、改め東先輩は意外と上下関係を重んじるタイプなのか
これは意外だな
「じゃあこれからは東先輩と呼ぶことにするっす」
「あっ、ちがっ、待って! そうじゃなくて! 東ちゃんなんて呼ばれ方が嫌なだけだから!
あの、ほら! いよっちって呼んでよ! わたしのあだ名だから!」
「いよっち先輩」
「そ――そうそう!!」
なんだ、いよっち先輩
握りこぶしな両手をポタージュ缶ごとぶんぶん振ってるが
そんなに先輩呼びが嬉しかったのか
てかリアクションが一々面白いな
「それで、青春タイムの最中悪いが、俺達も自己紹介がまだだったよな?」
半井のおっさんの声にいよっち先輩が固まった
どうもおっさん達の存在を殆ど忘れてたんじゃないだろうか
「俺が半井、『人面犬』な? で、こいつが俺と同じく新谷だ
で、こっちのチビが『コロポックル』のれおんだ」
「いよっちちゃん、よろしくね」
「いよっちせんぱい」
「へ、あ、あー、ちっちゃい子にそう呼ばれると、なんかその、恥ずいよー!」
れおんの奴、さっきからずっと黙ってたのに
澄ました顔でいよっち先輩呼びとは中々やるな
「でも何だかこうやって人と話するのって久し振りだよ!
前に花房君達と話したけどさ、そう言えば話し掛けてくる人なんて今まで居なかったなーって
自分のこと、ずっと幽霊だと思ってたから、中学の子もみんなわたしが見えないみたいで――」
「――あ、ふ
っと、ごめん。安心しちゃったのかな。ちょっと眠くなってきちゃったよ」
眠気が? そりゃいい兆候だ
睡眠や食事はANには必ずしも必要の無い要素だ
そもそもコードに忠実な個体になると欲求は全く必要なくなる
こうした欲求は“取り込まれ”から脱して自我を維持していく上で重要だそうだ
まあ全部彦さんからの受け売りだけどな!
というわけで俺がコーンポタージュをチョイスしたのも決して気まぐれからじゃない
「ところで嬢ちゃん、今夜は何処で寝るんだ?」
「え、あ。それ考えてなかったや」
「でも今まで中学に居たんだよな?」
「うん。でも、さっきも言ったけど半分悪夢見てたような感覚だし
学校で寝てた覚えが正直無いっていうか、ていうか夜の学校で眠るなんて怖いしやだよ!?」
「どうする? 早渡」
「いよっち先輩。……うち、来る?」
「え? それって早渡後輩の、お家? え、うーん」
「まあまあ待て待て早渡、いくら都市伝説とはいえ年頃の嬢ちゃんだ
オメーのような野郎と一つ屋根の下ってのはちょっち憚られるだろ」
「まあそりゃそうなんだけど、他にベターな案が無くってさ」
流石に高奈先輩に頼るってのはまずい
いきなり女の子を連れてきて泊めて貰うよう頼むなんて、向こうからすれば困惑モノ過ぎるだろ
「おっさん、そっちに伝手はあるか?」
「無いわけじゃねえが、ちょっち話つける必要がある。久し振りに会う相手だからな」
成程、ならばおっさんに任せよう
一応当初の手段として用意していた、いよっち先輩を「七つ星」に連れて行くって手もある
学校町から向かうとしたら結構手間な手続きを踏むことになるが、何も考えなかったわけじゃない
「そういや肝心なことを忘れてたんだけどよ
嬢ちゃん、お前都市伝説になってから中学の外に出たことあるかい?」
「え? ううん、無いと思う。考えもしなかったから」
「何だおっさん、何か引っ掛かる所があったのか?」
「いやよ、『繰り返す飛び降り』が地縛霊みたいなもんだったら
そもそも嬢ちゃんが学校から離れられっか怪しいぜ」
「えー、いくら何でもこれ以上夜の学校に居るのはやだよ!!」
いよっち先輩はやや涙声だ
半べそになる程にここが嫌なのか
いや、気持ちは分かる。この中学、妙に雰囲気が不穏だし
「大丈夫、策は用意してある」
「ほんと!?」
今夜中学にやって来たのは確かにいよっち先輩の様子を確かめるためだった
だが、以前の状況から彼女が“取り込まれ”かけていることも考慮に入れて計画は立てていた
万が一いよっち先輩を保護するとなった場合のことも一応は考えてたんだ
何も考えずにのこのこ中学に来たわけじゃ無いぜ
「おし、用は済んだしとっとと帰ろうぜ
何だか静か過ぎる夜でよ、薄気味悪いもんだ――」
全身が総毛だったのはこの瞬間だ
途轍もない“波の先触れ”が脊髄を撫でた感覚
口より先に体が動いていた
いよっち先輩とれおんを掴むように、奥へと押しやった
「物陰に隠れて!! 速く!!」
直後、後方で爆破音
何かが地面に直撃したような振動が脚伝いに奔った
「うひゃい!! 何? 何なの!?」
「クッソ、このタイミングで来たのかよ!? 新谷ィ! れおんの傍、離れんな!!」
「いよっち先輩、姿勢低くしてて!」
遠い外灯の光を受けて、地面に突き刺さったそれが鈍い輝きを放っている
玉虫色のような不気味な反射光だ
「早渡やべーぞ! ありゃピンポイントでこっち狙ってやがる!!」
校舎が死角となって現時点では襲撃者に直視はされていないようだが
動きを悟らせないよう、僅かに足をずらして校舎の縁から空を睨んだ
不気味な低音の唸りを上げながら、「奴」が滞空している
俺達はたった今、「モスマン」の標的にされた
□■□
Q.いよっち先輩を受け止めたとき、どうして早渡は情けない声で絶叫していたのですか?
A.
早渡「いやほら、“尾”を出すの久しぶりだったし」
早渡「“尾”って腰からじゃなくて背中から生やしてるんだけど」
早渡「なんというか感覚的に凄くくすぐったかった」
早渡「なんかこんな風に言うと我ながら間抜けっぽく聞こえるけど」
早渡「全身が強制的に力抜けそうになったからね?
気合入れなきゃいよっち先輩を落っことしてたかもだしね?」
早渡(てかこの程度でくすぐったいとか駄目だろ俺)
早渡(自主トレに励まないと……いっそ禿げ上がるくらいに……)
??(気にせず、電話、してくれても。良いのに)
??(もう長いこと脩寿くんと話してない……)ワナワナ
??(出番が無いですの……でもこれくらいじゃへこたれませんの……)プルプル
??(あの男……絶対この手で[ピーーー]……! 絶対にぶっ[ピーーー]してやる……!!)
前回からほぼ一ヶ月か、遅い(白目)
花子さんとかの人に土下座です orz
次回でいよっち先輩については一区切り付く算段です
>>140
>ノイちゃんも沢渡もサンタコス着ようぜ
遅くなってすまない……>>158をご覧頂きたい!
>>174
>という検索結果が出たよ翔太郎
……もうちょっとポジティブに行こうぜ相棒(違う)
真面目に行くと1~3までさもありなん、といった所ですね
流石に中の人淫行につき逮捕なオチは避けたい
>>180
>次の展開を期待しておりまする
ありがとうございます。次の次はピエロ行きます
>>193
>しかも女の子を助けるなど着々ともげろポイントを稼ぎやがって…
早渡のもげろの時は近い
「ピエロ」回りで混乱を催したのは次世代ーズの中の人の責任なので
終わりまではみっちり致す所存であります…… orz
なあ、俺今、一生懸命前の続き書いてる。
スマホから書いてるんだが、「幼女は」の続きの予測変換が「最高だ」ってなるの、何故だと思う…?
>>207
予測変換で「幼女は」「最高だ」と来ましたか……
自分は「消したけど」が来ましたが、つまり鳥居の人は……(ゴクリ)
例によって過去スレ見返してますが
ひかりちゃん初登場は戦技披露会のときか、ふむ
滞空するのは黒い人影
だがあれはヒトじゃない、体躯以上に拡げられた翅がその証拠だ
おまけに顔面と思しき部分からは二点の真っ赤な光を放ってやがる
「『モスマン』か……、この距離で見るのは初めてだけど
ほんと毛むくじゃらのジャミラみたいな奴だな……」
「完全に俺達狙いとなっちゃあ戦るしか無えぞ、早渡」
分かってるって、ここに来る前の約束だったしな
『今夜は俺の所用に付き合うこと
もしもヤバそうな都市伝説に会ったらまず俺が相手すること』
そういう条件で半井のおっさんは同行してくれることになったんだから
「しっかし『モスマン』かよ。頑張るけどさ」
校舎の死角から向こう側を窺うようにモスマンの動きを警戒する
あっちは大きく八の字を描くかの如く緩慢に羽ばたいているが
大きく移動を開始する素振りは見せていない
どうも滞空してこちらの様子を観察しているらしい
「早渡どうする、タイマン張んのか?」
「馬鹿言え、遠距離相手じゃ分が悪すぎるよ
いよっち先輩を逃がす時間稼ぎだ。頼んだぜおっさん」
「そっちは任された。だが相手は『モスマン』だ
二手に別れたら直ぐに勘付かれちまうぞ?」
「仲間を呼ばれる前に急いだ方がいいな
一応確認するけど、アイツ以外に他の『モスマン』は来てないよね?」
「アイツだけっぽいな、ニオイも気配も」
おっさんの言う通り、俺達を狙った「モスマン」はあの一体だけ
“波”を読もうと既に感覚は全開だが、他の個体が付近に居る様子は無い
少なくとも、今の所は
「逃げるなら今だな」
ジャケットの内ポケットから白いマフラーを引っ張り出した
それを不安そうな顔をしたいよっち先輩の首に巻き付ける
「早渡後輩!? 何すんの!? って、何これ」
「マフラーだよ、特別製の。学校出るまで絶対外すなよ?」
「おし、れおんは新谷に乗れ! いつでも走れるように準備しとけよ!」
やるしか無いのは分かってる
分かってるんだけど一応おっさんに訊いとこう
「知り合いにさ、戦闘慣れした契約者か都市伝説さん居ないのん……!?
出来れば、こう、遠距離が得意な方とかさ!」
「居るには居るが、どいつもこいつも近場じゃ無えな!
それに呼んでる時間が無えわ! まあ気張れや!」
気軽に言ってくれるな、おっさん
あれだ、今は敵を撒くことだけを考えよう
「んじゃ、当初の手筈通り何かあれば直ぐに連絡」
「何も無ければ連絡無しで逃げ切る、だろ。そっちは準備OKか?」
「大丈夫だ。じゃあ――始めるか」
身を翻して校舎の縁越しに「モスマン」を睨んだ
不意に奴の体が下方へとブレた
先程よりも羽音がうるさくなり出した
確かな手応えは感じた。正しくは“尾”伝いの感触だが
「モスマン」の様子を窺ってたときから既に“尾”を生やして
地面や校舎の壁を這わせるように引き伸ばし
真下の位置でとぐろを巻きつつ、奴を捕らえる瞬間を窺っていたんだ
ただ単に奴の様子を眺めてたワケじゃない
くすぐったさは気合で我慢だ
掴んだからには離すつもりは無い
“尾”の制御だけで「モスマン」を地面へと引っ張り込む
奴が地面に叩き付けられる感触と同時に墜落の激突音が校舎越しに聞こえた
今だ
片手を高く上げておっさん達に合図を送る
「ほら! 嬢ちゃんも走るぞ! 急げ!!」
「え? え? ちょ、え!? でも早渡後輩は!?」
「話聞いてなかったのか!? いいから逃げんだよ!!」
その瞬間、おっさん達は踵を返して駆け出し始めた
おっさん達、ほんと大丈夫かな
なんて心配している場合じゃない
さあて「モスマン」、暫く付き合って貰うぜ
奴は今、“尾”に引き込まれて地面に墜落したままのはず
十分な時間はこっちで釘づけにしないと
ただし悠長にやり合ってるわけにもいかない
既に仲間を呼ばれていたとしたら面倒なことになるからな
校舎の陰から出る
奴は恐らく校庭に落っこちたはずだ
速足で前方に向かうと、いた
校庭のほぼ真ん中で黒い影が暴れ回っている
あれが「モスマン」だ、どうも“尾”が絡んで身動きが取れないらしい
なら好都合だ
一旦、生やしていた“尾”を切断した
そして再度“尾”を発現する
引きずり回してぶち転がそう
新たに生やした“尾”を前方の「モスマン」めがけて撃ち込んだ
奴の脚と思しき部分に先端が絡み付く
いける、このまま引きずり回しだ
重心を落として“尾”を強く引き込む
それに合わせて「モスマン」の体が引き摺られた
重い、こっちが引き摺られないようにしないと
俺がそこまで考えていた、そのとき
「モスマン」と、目が合った
「は」
強い、敵意が、奔った
「げっほ、ごほっ!! がはっ」
完全に油断した!
血を吐いてる場合か俺!!
直ぐ立って身を隠さないと!!
全身が痛む、がここから離れないとやばい
頭痛が酷い、頭の中をガンガン響きまくってる
奴はどうなった!? “尾”を振りほどいたのか?
前方を睨む
奴はこちらを見ていた
“波”の重圧が凄い、殺意満々じゃないか
「モスマン」は“尾”を全て引き千切ったようだ
地面から2、3メートルの位置で滞空したまま翅を拡げている
照準は、俺に向いている
「やっべ!!」
身を投げ捨てるように横合いに跳んだ
直後、腹の底を叩き付けるような轟音と震動が襲った
「ごほぉっ!!」
大丈夫だ、直撃じゃない!
奴の攻撃で割れた窓のガラス片から身を庇う
落ち着け!
さっき、俺はアレを食らったんだ
モスマンから放たれた“何か”を受け、俺の体は校舎まで吹っ飛ばされた
いや、直撃では無かった。あんなの直撃したら、俺の体はバラバラになってたはずだ
だが、直撃でなくとも俺は吹っ飛ばされて、校舎に叩き付けられた
一瞬何が起こったか分からなかった
鱗粉の一撃でも食らったかと思ったが、それも違う
仮に鱗粉弾だったとしたら俺の体は真っ二つだ
じゃあ何だ、何なんだあの攻撃は
転がり込むように再び校舎の陰に逃げ込んだ
乱れた呼吸以上に手前の心臓の鼓動が大きく響く
俺が一発目を食らって血を吐いて地面に倒れてる間に、奴は起ち上がった
そして俺と目が合った瞬間、二発目を撃ち込みやがった
あれは鱗粉攻撃では無かった
だとしたら何だ、相手は「モスマン」、蛾だ
攻撃の直前、奴は翅を拡げていた
そして直前には強い殺気を放っていた
いやだが、あれが鱗粉で無いなら、――まさか音波か?
確かに蛾はある種の超音波を知覚するらしいが
コウモリのように超音波を発信するか? あり得ないとは言えない
だが待て、そもそもだ、ANなら「基本、何でもあり」だろうが!
しっかりしろ俺! “科学の見方”で考えたらアウトだ、相手はANだぞ
深呼吸を繰り返す
今のところ、奴が距離を詰めてくる気配は無い
だが“波”が完全にこっちに向けられている、俺を警戒している
一旦、奴の攻撃を「音の塊」を放つものだと考えよう
頭の中を断続的に押し寄せる鈍い痛みに奥歯を噛み締める
体中にぶつかってきた衝撃は、音の塊か
だとしたら脳みそ含めて外から内から揺さぶられたわけだ
確か、二発目の攻撃の直前に翅を拡げていたが、つまりあれが攻撃部位か
一発目のときはどうだった?
確か、奴は不意に上体を起こして、翅を拡げたんじゃなかったか?
呼吸が落ち着いてきた
おし、そろそろ反撃の時間だ
奴の注意はこっちを向いてる、今がチャンスだ
携帯を内ポケットから取り出す
幸いなことに奴の一撃で壊れたわけでは無いようだ
おっさん達から特に連絡は無い、ので首尾よく逃げ切ったんだろう
携帯をポケットに戻しながら、考える
「モスマン」からは「組織」特有の臭気は感じない
尤も、“波”を隠蔽している線は排除できないが今は措こう
問題なのは独身のANにこんな器用な真似ができるかどうかだ
無論答えは否だ、コイツは間違いなく「契約者持ち」だと見ていい
だとしたら何の為に? 何故俺達を狙った?
単に喧嘩が売りたかっただけか、それとも別の目的か
俺は最初、「モスマン」は狐の配下なのかを疑った
「狐」の影響を受けているなら多かれ少なかれ“波”に影響はあるはずだとも考えた
奴はどうだ?
「狐」の配下なのか?
分からない
奴の“波”からは特に何も感じない
ただ俺に対して強烈な殺意を向けているだけだ
これ以上考えても仕方ない、反撃の時間だ
俺は校舎脇に置かれていた金属製のバケツを掴んだ
「モスマン」が徐々に移動を始めた
ゆっくりとだが前方へ、校舎へ向かって進んでいる
未だに俺の動きに警戒しているようだ
だが、俺はもう奴の前には居ない
校舎の死角から奴の動きを盗み見る
俺はバケツを掴んで校舎を回り込むように移動した
丁度、「モスマン」からすれば向かって右の校舎の陰に潜んでいる
“波”を読むに、奴はまだ俺が前方校舎に隠れているものと思い込んでいるらしい
だとしたら好都合だ
勿論「モスマン」が俺に気付かないフリをしてる可能性だってある
油断は禁物だ
しかし、それでも
この機会を逃がすわけにはいかない
準備はもう出来てる、早速仕掛けに行くぞ
腕を大きく振るい、バケツを宙高くに投げ上げた
バケツは放物線を描きながら――狙い通り、モスマンからやや左側に落下した
校舎の壁に音が跳ね返って甲高い残響音が響く
「モスマン」が身動ぎし、翅を拡げ掛けた
校舎の陰から飛び出す
「おい! 『モスマン』っ!!」
喉に痛みが走る程の大声に、奴は気付いたようだ
翅を拡げたまま、こちらへ身を向けようとする
待ってました
俺は背後に隠していた“尾”を大きく振りかぶる
今、俺の腕より少し長めに発現した“尾”の先端が握っているのは
飴細工を引き伸ばすようにして生成した、槍の形状をした“黒棒”だ
右腕を振りかぶるのと同時、“尾”がそれに同期して動く
渾身の勢いでボールを投げ付けるように
“尾”で“黒棒”を投擲した
まだだ、まだ終わりじゃない
投げられた“黒棒”は意外なほど正確に、奴の片翅に突き刺さった
「モスマン」の体が、衝撃のためか、大きくぶれた
今だ
「 爆ぜろ 」
声と共に、“黒棒”が破裂した
声が、いや“波”が、夜の大気を劈いた
これは「モスマン」の声か!?
頭の中に響く奴の“波”が鋭い痛みを齎す
直後に窓ガラスが割れる音が響いた
一度だけじゃない、次々とガラスの割れる音が鳴り止まない
「モスマン」の「音の塊」だ
やたらめったらに周囲を攻撃してやがるんだ
“波”がこちらへ向こうと迫るのを捉えた
ぼさっとしてる場合じゃない!!
校舎の陰へと回避した直後、さっきまで立ってた場所を殺気が奔っていった
物凄い圧を感じる、なんて野郎だ!?
腹の底を揺すられるような感覚が持続する
もう一発、ブチ込んどいた方が良かったか?
不意に、殺気が止んだ
改めて感覚を押し拡げる
“波”は感じる、「モスマン」のものだ
だが、先程よりも恐ろしく弱まりつつある
致命傷を与えたのか?
いや違う、“波”が遠ざかりつつある
どうやら奴はこの場から逃走したようだ
周囲に警戒しつつ、校舎の陰から外へ出た
中学は不気味な程に静まり返っていた
先程の「モスマン」との一戦が嘘であるかのような静けさだ
取りあえず、つい先程まで「モスマン」が滞空していた場所へ向かう
そこには、黒いモノが落ちていた
暫く眺めて理解した、これは「モスマン」の片翅だ
“黒棒”が破裂したとき、狙い通り奴の翅を破壊できたようだ
主から切り落とされたそれは、都市伝説が消滅するときのように
淡い燐光に包まれながら、光の泡と化しつつあった
さて
手負いの「モスマン」を深追いするつもりは微塵も無い
アイツが仲間を呼んで戻ってこないとは言い切れない
そして、これだけ「モスマン」が暴れ回ったからには
この場に「組織」が駆け付けないとも限らない
再度感覚を全開にするが、他に“波”は無い
今の内にこの場を離れた方が良さそうだ
それも、一刻も早く
気づけば公園のベンチに寄り掛かっていた
体中が重い、というか中から鈍い痛みが断続的に押し寄せる
何とか立ち上がりながら辺りを見回した
ここは確か、南区の公園のはずだ
中学は東区だったから、つまり俺は
半ば記憶が飛んだまま、ここまで逃げてきたってことか
この公園、そういや半井のおっさんから「モスマン」の話を振られた場所じゃないか
別にどうってわけじゃないけど、どことなく因縁を感じる
体を動かす度に痛みが響く
あの「音の塊」、直撃こそ回避したものの、相応にダメージは入ったらしい
こりゃ、明日学校休んだ方がいいかもしれない
水飲み場の蛇口を捻る
その冷たさが心地良い
噴き出る水を直接顔に当てた
そのまま水を飲む
急に胃から込み上げてきた
もうそのまま吐き捨てると、口の中に血の味が広がった
相当かもな、これ
水飲み場に広がった赤が徐々に排水される
その様をぼんやりと眺めながら、水を飲み、また少し吐いた
不意に胸が震えた
と思ったら携帯の着信だ
半井さんからか? 慌てて身を起こし、確認すると確かに半井さんからだった
『お? 無事か早渡!? こっちは首尾よく逃げ果せたぞ!!』
「こっちも何とか撒いたよ、思った以上にヤバい奴だったじゃないか、おい」
『それよりお前、あっちょっち電話代わるからな! てか、知り合いなら最初にそう言っとけよ!!』
うん? なんだ、いきなり
ちょっと何を言ってるのか理解できなかったが
『早渡、君? 高奈です、今、どこに、いるの?』
うん!? 半井のおっさんの携帯に、高奈先輩が、出た?
「いやあの、今、南区の公園なんすけど。って、なんで先輩が」
『あら。前に、言わなかった、かしら。私と、半井さんが、知り合いだって』
初耳だ
いや待て、聞き覚えがあった、はずだ
確かあれは――そうだ、「怪奇同盟」だ
篠塚さん所を訪問したときにそんな話を聞いた覚えがある
『大体の事情は、半井さんから、聞きました。一葉さんのことは、任せて』
「――ッ!! そうだった、すいません。あの、いよっち先輩のことなんすけど」
『大丈夫、半井さんと新谷さんから、話は聞いています。こっちは、心配しないで』
「そ、それは……、良かった……」
『それより、「モスマン」を足止めしたと、聞いたのだけど。早渡君は、大丈夫なの?
今、私達は、辺湖にいるから、南区なら、直ぐに行けるわ。場所は、何処?』
「いや、あの! 大丈夫っす! 俺はピンピンっすから!」
『嘘は、駄目よ。声が、かすれているもの』
「いやあのほらっ!! これは本当に大丈夫なんすよ!!
走って逃げてきただけなんで! 一応これでも鍛えてるんで! まじで!!」
考えなくたって理解できる
いよっち先輩のことを半ば押し付けたような形だ
俺のことで迷惑掛けるわけには、絶対にいかない
「それよか、いよっち先輩のこと、よろしくお願いします!
色々と事情はあるんすけど、改めて全て話しますんで」
『難しいことは、これから考えます。
まずは、手当とお風呂が先ね。彼女も、もう、眠そうだし』
「眠そう? そりゃあ良かった……あの、半井のおっさんに代わって貰えるっす?」
『……分かりました。
――んあ、早渡どうした? 無事か? どうだった「モスマン」は』
「片翅引き千切るとこまではやったよ、ただあいつも相当暴れたけどな」
『ハネもいだのかよ、やるじゃねえか。だがそうなると仕返しに来ないかが心配だな』
「今気になるのは『組織』だ、連中動くかな」
『多分な、一応学校町の全域はあいつらの監視下にあるようだし
「モスマン」が暴れたとなっちゃ奴らも黙っちゃいねーだろ』
「OK分かった、一応警戒しとくよ
あとさ、いよっち先輩のこと、ありがと」
『へっ、頼まれたからにはきちんと仕事するって言ったろーがよ、んじゃな』
電話を切られた
最後のは照れ隠しか?
まあいい、とにかく当初の目的は果たせた
体が最早だるい
そのままベンチに寝転がった
痛みが引くまでの間はこれで凌ごう
待てよ、そういやアレ持ってきてたっけ
寝返りを打って、背中に手をやった
蠢く“尾”を掻き分けるようにして手を突っ込み、目的のブツを掴んだ
ソレを引っ張り出す
褐色の瓶に詰められてるのは「えりくさあ」の希釈液だ
蓋を開けて一気に流し込む
こいつは、効く
体中に沁み込む
若干痛みが駆け抜けていくが、多分大丈夫だ
少しだけだ、少しだけ休もう
俺はそのまま目を閉じた
□□■
今夜は以上
次はずっと空いてた22の話やります
正義「嘘をつく暇もなかったね」
剣裁「正直スマンかった。詫びに舞い降りた大王書くから」
正義「エイプリルフールは午前まで、だからね?」
女子高生を登場させたい
ボクっ子の女子高生を登場させたい
なりゆきでサキュバスと契約させたい
それで次々と男達を誘惑して篭絡して堕落させたい
色々やった後に早渡君と知り合いになって仲良くなりたい
その後で騙して二人っきりになった後に押し倒して男女の関係になりたい
女の味を教えまくって足腰立たなくなるまで搾り取った後に他の女じゃ満足できなくなるまで洗脳したい
最後に「ゴメンね☆我慢できなかったから許してニャン♪」って言いたい
皆さんこんばんは、次世代ーズの中の人です
GW中は働き詰めが決定したため燃え上がっていますが
あと2本出せば一応「ピエロ」回りの最低限の説明ができるかなという認識です
(現状今のままでも「ピエロ」は暴れ回れるし、東区で暴れ回ってるので「ピエロ」側としてはなんの問題もない)
今のところ【「ピエロ」の本格活動】は、花子さんの人、鳥居の人が前スレで投下された
「バビロンの大淫婦」消滅~死亡フラグ組の落着(前スレ >>475-479、641-648、663-665、668-669、674-676)
の【翌日、日没前後】で行きます
このスケジュール固定で頑張ろうと思う
このペースなら多分行けるはず
裏方は避難所に置きます
>>222
地の文おじさん「やれるもんならやってみろ!!(煽り) いえ是非やってみろください!!」
早渡に興味を持って下さったことは非常に嬉しい
しかし早渡はサキュバスが怖いというか、ぶっちゃけトラウマなんですが
果たして大丈夫かな?
早渡君は男を見せてくれるって信じてるぜ!
この話には穏やかな暴力・グロテスク描写が含まれています
苦手な方は>>232までスキップして下さい
○今回の話
※この話は作中時間軸で【9月】の出来事です
※この話には「前回の話」が存在しません
山沿いの車道をミニバンが爆走していた
その後を縋るように大型二輪が追い掛けてくる
二台ともかなりの速度を上げているが、ミニバンは車体そのものが大きく揺れていた
まるで中で何かが暴れているかのように
追走する二輪のドライバー、薄汚れた灰色の小男は
風圧に振り飛ばされまいとほぼ二輪にしがみつくような体勢で
しかし、ミニバンが暴れる様子を細目をこらして観察していた
彼、「チュパカブラ」は都市伝説、厳密にはUMAと呼ばれる存在だ
この者は東海地方で活動にしくじった挙句、生命の危機に瀕する重傷を負い
奇跡的に一命を取り止めた後に同行者らと学校町を目指していた
「チュパカブラ」の注意はミニバンの中で行われている密事へと向けられていた
ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン
「思った以上に曇広がるの早いな」
誰に言うでも無く、運転手はそう漏らした
眉間に皺を寄せてフロント越しに空を見つめる
山の向こうからは急速に暗雲が拡がり始めていた
「こりゃ一降り来そうだな」
「ピエロ」のドライバー、「ルーキー」はそうぼやいた
彼はまだ十代ほどの若い青年で、特に道化の装束の化粧も施してはいない
今は特にそうする必要が無いからだ
ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン
そして彼の呟きは後部席の男に聞こえることは無かった
まず車内には大音量でサイケめいたトランスが響いているからだ
ルーキーには正直な所、耳が潰れると錯覚するほどの爆音だ
サッカンサッカンサッカンゴーカン💛 ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン
ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン
次にルーキーは後ろの男に声を掛けた訳では無かったからだ
むしろ彼は後部席の状況に注意を向けないように振る舞っていた
それもそのはず
後ろでは「ジョー」が少女を犯している真っ最中だったからだ
ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン
ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン
「こいつぁスゲえぞ」
全身薄汚れた半裸を震わせながらジョーは唸った
この者の巨体が下敷きにするのは暴行を加えられた少女だ
四肢を鉄の拘束具で固定され体操服を引き裂かれた格好の少女は
既にジョーに何度も突き上げられ、口から血混じりの泡を吐きながら失神していた
その横に、少年が同じようにして拘束されていた
ほぼ全裸と言って良いほどの状態で暴行の程度は少女よりも深刻だ
全身にどす黒く変色した青痣と切傷を負い、顔面は大量の鼻血と汚物で塗れていた
異様なほど充血した両眼は既に意識が無いためか焦点を失っている
ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン サッカンサッカンサッカンゴーカン💛
少女と少年は「花子さん」と「太郎さん」
ジョーが学校町への道中、ついでに拉致した子ども達だ
「底が見えねえ、やっぱ都市伝説はいいもんだ、なあ!」
「ぐっ お゛っっ い゛ぎっ、 た゛ろ゛ っ く゛」
不意に太郎さんの眼に、意識が宿った
「はな゛こちゃっ」
ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン
ジョーに下腹を蹂躙されている花子さんに向かい
少年は手を伸ばそうと拘束具に抵抗し
「何やってんだオイ、餓鬼」
ジョーの右手によって阻まれた
先程のように、拳が二度、三度、少年の顔面に叩き付けられ
「オラ、餓鬼はコイツで遊んでろよ」
先程と同じく、黄褐色の薬剤が詰まった注射器が
痛々しい程に勃起した少年の陰茎突き立てられた
躊躇もなく、薬剤が太郎さんのナカへと一気に注入される
ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン
ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン
「ああ゛ああア゛ア゛ぁぁァああ゛あ゛あっっアア゛あ゛ぁぁ゛ァぁああアあ゛ッああ゛あ゛あ゛アア゛あああ゛あっッ!!」
ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン
ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン
太郎さんの絶叫は車内のBGMによって掻き消された
最早悲鳴を上げようにも声が出ない程に彼らの喉は傷つけられ過ぎていた
太郎さんも、花子さんも
「やだこれやだこ゛れ痛い♥助けて゛痛いやだやだやだ♥助け゛て
もう悪いこ゛としな゛いから♥助けてい゛やだこれ♥怖いやだちん゛こ壊れち゛ゃうたすけ゛♥」
少年は踏み躙られ過ぎた局部に手をやることさえ叶わず
拘束具に固定されたままでその場を掻き毟る両手の爪は既に全てが剥がれており
もう自分が何を叫んでいるのか理解できないまま全身が痙攣を始め
少年の痛々しく膨れ上がった陰茎からは血に染まった大量の精液が強制的に噴き出され
両眼の血管は既に破裂し血の涙を垂れ流したまま、やがて血塗れの白眼を剥きながら汚物を吐き戻した
ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン
ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン
「 」
「 たろう くん 」
「 」
ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン
ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン
サッカンサッカンサッカンゴーカン💛 ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン
ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン
「 」
ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン
ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン サッカンサッカンサッカンゴーカン💛
「
」
ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン
ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン
たすけてくださいだれかたすけておねがいしますたすけてください
ぼくはどうなってもいいからはなこちゃんをたすけてくださいぼくはもうむりですたすけてくだ
ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン
ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン
ほんとはわかってる だれもたすけになんかこないって
ぼくたちみたいなやつを たすけてくれるひとなんかいないって わかってるんだ
ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン
ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン サッカンサッカンサッカンゴーカン💛
これはぜんぶわるいゆめ
めがさめたらぜんぶおわるんだ
そしていつもみたく はなこちゃんとあそぶんだ
もうこわいものはなにもないんだって ずっと ずっといっしょに
ずっと はなこちゃんと いっしょに
ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン
ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン
「たろう くん たろうくん 」
ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン
ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン
譫言を漏らし続ける太郎さんに一瞥もくれず
ジョーは花子さんに覆い被さるように腰を振り続けていた
ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン
ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン
「お゛ お゛っ うっ あっ た゛ろ ぐっ 」
ジョーの巨躯の内部から漏れる花子さんの声に耳も貸さず
だが
太郎さんが身動ぎした
拘束された手は彼女に届かない
それでも、少年は花子さんの方へ首を捻った
それが彼に出来る最期だった
ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン
ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン サッカンサッカンサッカンゴーカン💛
ジョーの巨躯が花子さんから離れた
そのまま拘束具ごと少年を手繰り寄せると、そのまま反転させ
花子さんと抱き合わせるような状態のまま拘束し直し始めた
「だろう く゛ん゛」
「はな 、ちゃ 」
少年には抵抗するだけの力は残されていない
口と鼻から垂れる血液と吐瀉物が花子さんの頬に掛かった
「お愉しみは終わりを告げ、斯くして聖なる祈りの時間がやって来た。諸君、静聴せよ」
ジョーの唸るような低音だけが耳朶を打つ
まるで車内のBGMを無視するかのように
「この世の一切の災厄は例外なく全てを蹂躙する
何人たりともその艱難に抗う術なく、囚われ、奪われる
救いはこの世のものではなく、唯、来世のためにある、祈り給え」
太郎さんと花子さんを再拘束し、ジョーは次々と台車の
そう、二人が拘束された台のロックを順に解除していく
ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン
ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン
「おお、天にまします我らが神よ、願わくは御名を崇めさせ給え
この者ども、無垢なる者は邪悪に蹂躙され、純潔を奪われた哀れな子羊
今、二つの魂が天上へ向かい給う、この者共を神の御国に迎え給え、永久の安らぎを与えたまえ」
祈りと呼ぶよりもむしろ呪いを吐くかのような調子で祈りは捧げられた
バックドアを開放すると共に、車内に籠った大気が外部へと一気に吐き出される
「そして! 今! おおおおおおおっ!!
二人はーァ!! 太郎君とォ、花子さんはァァア!!
神の御許でいつまでもいつまでもいつまァァでもぉぉーオお! 幸せに幸せに幸せに暮らしましたァァァァァアアア!!」
ジョーは二人の乗った台車を外へと思い切り蹴り飛ばした
喧しい金属音と共に台車ごと放りだされる
恍惚とした表情を浮かべるジョーの手には、起爆装置が握られていた
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさ」
「たろうくん」
「 はな こ ちゃん ?」
「もう わたしは だいじょうぶだから へいきだよ」
「はなこちゃ でも ぼく はなこちゃ まもれなかった ごめ ね」
「ううん あやまらないで わたし こわくないよ」
「 」
「たろうさんといっしょだから だから こわくなんかないよ」
ミニバンのバックドアが開放された瞬間
あまりの爆音にチュパカブラは肩を震わせた
急に驚かされた為、危うく二輪のバランスが崩れそうになる
ハンドルにしがみつきながら、しかし彼は確かに目撃した
後部席から吹っ飛ぶように放たれたそれが、車道を猛スピードで逆走していく
幸か不幸かそこは直進道路だ、チュパカブラはほぼ無意識にそれを目で追った
その大型の荷台には簡素な車輪が設置された台車と呼ぶべき代物だ
そしてその上にはまだ幼い少女と少年が拘束されているのを彼は知っていた
「ピエロ」のボスであるジョーが凌辱の限りを尽くした、「花子さん」と「太郎さん」だ
二人は抱き合うように拘束されたまま、爆走する二台から急速に離れていく
自分たちはやがて下り坂に差し掛かる、あの二人は直に見えなくなるだろう
ミニバン内から流れる大音量のBGMを背景に、ジョーが狂ったように頭を振りながら絶叫していた
多分あれは薬物か何かを摂取しているに違いない
チュパカブラはジョーから坂の向こうへと消えた二人へと視線を移した
もうあの二人の姿を見ることは叶わないが彼は憑りつかれたように背後を凝視していた
衝撃波が、大気を揺さぶった
今度こそ本当に二輪のバランスを崩しかけた
彼は祈るようにハンドルをしがみつき、必死に態勢を立て直そうと試みる
一時的に麻痺した聴覚には爆音トランスもジョーの絶叫も捉えられない
チュパカブラはもう一度後方に顔を向けた
坂の上からは黒煙が上っているのが確認できた
ジョーは台車ごと二人を爆殺したらしい
チュパカブラは自分が武者震いをしたのに気づかないまま
頭を激しく振りながら勃起した逸物ごと身体をくねらせる半裸の男を呆然と眺めた
この男、ジョーと出会ったのは数か月前だ
東海地方での吸血活動に失敗、それにより「組織」の襲撃を許してしまった
あの忌まわしい女黒服により、口吻と片腕を切断されたばかりでなく
内臓の殆どを挽き肉にされる重傷を負ったのだ
あのままでは確実に死ぬ運命にあったであろう、だが彼ら「ピエロ」は救いの手を差し伸べてきた
『チュパさん、アンタさえ良ければ俺達と来てくれないか』
あの日の会話は今でも鮮明に焼き付いている
廃屋を秘密裡に改装した裏社会の闇病院で、ジョーという男は鋭い眼光を向けたまま話を切り出した
彼ら「ピエロ」もまた、東海地方での活動で多くの同士を喪い、彼ら自身も致命傷を負っていた
中でも特にジョーは重篤だった、彼は死んでいなければおかしい状況だった
左肩から左脇腹にかけての致命的な裂傷を負いながら生き残ったのは奇跡としか言い様が無い
彼らが重傷を負ったのは、言うまでもなく悪辣な「組織」の手によるものだった
『アンタはもう顔が割れてる、一人でサバイバルするのはベリーハードだ』
『で、でも、俺なんかが……いいんですか? 足を引っ張っちまうかもしれませんよ』
『気にすんな、俺の見立てじゃアンタは強いよ、俺達と同じだ。致命傷を負い、そして生還した』
裂傷の上から打ち込まれた極大の医療用ステープラーを隠すことなく、ジョーは淀みなく話を続けた
『学校町に!? 危険ですって、ジョーさん!! あそこは「組織」の根城って聞きますぜ!?』
『そう、そこが狙いなんだチュパさん。却って学校町こそが安全地帯と化したんだ、今となっては』
『すんません、俺はオツムが足りねえからカラクリがよく分かんねえんだ』
『「狐」、奴が戻ってきた。警戒は手薄になる、小物に構ってる余裕が無え。こっちもビジネスがやりやすい』
そして、現在
チュパカブラはジョーを眺めている
彼は今やハイになったのか狂ったように高速のヘドバンを繰り返していた
別動隊として動いているグリングリンは無事であろうか
今どのような状況にあるのだろうか
彼は策士だ、おそらく各地に散った手勢に集合を掛けつつ、計画を練っているのだろう
チュパカブラは未だ見ぬ学校町に思いを馳せる
「ピエロ」らと出会うまであの場所は都市伝説の墓場と形容される程に過酷な地域という認識しか無かった
しかし、ジョーの話を信じるならば警戒すべきは一部だけであって、眠れる宝は今でも腐るほど転がっている
それだけでは無い
学校町には人間も人外も美女が多いらしいのだ
その情報が彼、チュパカブラの精神と性欲を高鳴らせた
もしかすれば東海地方に潜伏していた頃には果たせなかった悲願を
少女達を 生きたまま 吸血しながら 強姦する という夢にまでみた願望を果たせるかもしれない
彼らが振り返ることは無い
「ピエロ」が
そして「チュパカブラ」が
彼らが見据えるはただ一つ
学校町のみ
□□■
次世代ーズの中の人です
5月から色々とバタついていますがギリギリな感じです
7年間お世話になったPC飛んだのが一番痛かった
6月中旬までに上げたい所存
>>255
早渡はスケベですが根っこが純情野郎なので大方大丈夫です
スケベですが
>>234
言い訳はしないぜ……
でも本音はR-18GよりR-18を書きたいんだ、ぼかぁ(言い訳)
なんならR-28でもいい……
PCデータ移行の時、最初期のネタを見つけましたが
その中に激おこの早渡が同い年の巫女さんの尻を真っ赤になるまで引っ叩く……という謎の1行メモがありました
だからどうだというわけではありませんが
改めまして次世代ーズです
今に始まったことではありませんが
誤りや脱字等、投下後に気づくことが多く……
>>235のレスでもアンカー>>255の部分は
正しくは>>225ですね……
今回は【11月】の話を行きます
○前回の話
前回の話は>>91-100です
今回は【11月】の出来事になります
○あらすじ
赤鐘亜百合の死亡と同時に始まった一連の騒動は、新宮ひかりらの活躍により一先ずの収束に向かったが
その混乱に乗じた「ピエロ」によってひかり達の下へ暗殺者二名が送り込まれる
一方、「ピエロ」達が東区の住宅街で放火を実行するも、それらは都市伝説や契約者有志によって阻止されつつあった
ともあれ、「ピエロ」は闇夜に紛れ暗躍を開始した
放たれた二名の暗殺者と共に、展開される予知・察知系能力者への罠
「通り悪魔」や「サキュバス」の“支配”を受けたピエロを、“魅了”によって再支配する「イナンナ」
企図される学校町内の学校への襲撃計画、女子生徒を嬲り倒す男女の契約者
そしてコアメンバーによる“中心”への接触
これは一日目の夜、闇が深まった時分の出来事である
○時系列 【9月】~【11月】
●【9月】
・早渡、「組織」所属契約者と戦闘
・「怪奇同盟」に挨拶へ
・早渡、東中で東一葉と出会う
花房直斗、栗井戸星夜、「先生」から三年前の事件について聞く
・早渡、東中を再訪し東を捜す
東、自分を取り戻す
その夜の内に居候先を確保
・「ピエロ」、学校町を目指す ☜ ここまで投下済み
・∂ナンバー、「肉屋」の侵入を予知
・「肉屋」戦
●十月
・「ピエロ」、学校町へ侵入
●十一月
・戦技披露会開催
・診療所で「人狼」イベント
「人狼」終了後、東と早渡が遊びに来る
・「バビロンの大淫婦」、死亡
・角田ら、「狐」勢力と交戦
赤鐘愛百合、アダム・ホワイト死亡、角田慶次は重傷を負う
・新宮ひかり、角田らと「狐」の刺客に介入
・「ピエロ」側の暗殺者二名、ひかりらを牽制
・「ピエロ」、東区にて放火活動を開始するも妨害を受ける
・暗殺者二名、ひかり及び桐生院兄弟と交戦 ☜ >>82-86
・上記と同時刻、早渡は「モスマン」により右手を切り飛ばされる
・同じ時間帯、「イナンナ」による「ピエロ」洗脳(魅了) ☜ >>92-100
・「ピエロ」、“中心”に接触を開始 ☜ 今回の話は大体ここです
○主な動向 【11月】
●「狐」
前スレ475-479 花子さんの人
「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 Part 12 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1483444899/475-479)
・この話で「バビロンの大淫婦」が消滅
●「死亡フラグ組」 ※「狐」と同時刻
前スレ641-648 花子さんの人
「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 Part 12 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1483444899/641-648)
・赤鐘亜百合死亡、角田慶次が致命傷を負う
前スレ663-665 花子さんの人
「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 Part 12 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1483444899/663-665)
・アダム・ホワイト死亡
前スレ668-669 鳥居の人
「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 Part 12 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1483444899/668-669)
・新宮ひかり、角田慶次の致命傷を癒す
前スレ674-676 花子さんの人
「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 Part 12 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1483444899/674-676)
・裏切者が小道郁だと発覚
前スレ718-721 次世代ーズ
「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 Part 12 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1483444899/718-721)
・「死亡フラグ組」の下へ「ピエロ」到達
・「ピエロ」付の暗殺者二名、現場に介入
前スレ733-735 花子さんの人
「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 Part 12 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1483444899/733-735)
・上記現場に「死毒(「先生」)」と「ライダー」介入
・「ライダー」、全員を回収し現場から離脱
・「死毒」、能力を発動
前スレ750-752 花子さんの人
「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 Part 12 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1483444899/750-752)
・「死毒」、暗殺者二名の抹消を宣告
前スレ780-783、784 次世代ーズ、花子さんの人
「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 Part 12 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1483444899/780-783)
「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 Part 12 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1483444899/784)
・暗殺者二名、「死毒」との対決から離脱
○主な動向 【11月】
●「ピエロ」 ※「狐」、「死亡フラグ組」とほぼ同時刻
前スレ773-776 花子さんの人
「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 Part 12 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1483444899/773-776)
・「ピエロ」、東区、北区で放火活動を企てるも都市伝説・契約者有志により阻止される
・「ライダー」、病院で角田慶次と紅かなえを降ろし、ひかりを送迎
前スレ788-792 次世代ーズ
「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 Part 12 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1483444899/788-792)
・「ピエロ」、東区での放火活動を契約者有志に阻止される
・早渡、「モスマン」と出合い頭に右手を切断される
・暗殺者二名、離脱したひかりの追跡開始
前スレ827、836-837 鳥居の人、次世代ーズ
「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 Part 12 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1483444899/827)
「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 Part 12 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1483444899/836-837)
・桐生院兄弟、放火活動中のピエロと対峙
・暗殺者のうち「海からやってくるモノ」が予知・察知能力へのカウンターを発動
前スレ869-870、872-873、875-876 やの人、花子さんの人
「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 Part 12 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1483444899/869-870)
「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 Part 12 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1483444899/872-873)
「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 Part 12 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1483444899/875-876)
「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 Part 12 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1483444899/878-879)
・ヤエルとユリ、ピエロを虐殺
・「死毒」、河川に瓢を投入、ピエロを拷問に掛けるも情報得られず
・ヤエルとユリ、ピエロを“魅了”し潜伏先の探査を企図
前スレ963、966、998-999 鳥居の人、花子さんの人、次世代ーズ
「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 Part 12 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1483444899/963)
「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 Part 12 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1483444899/966)
「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 Part 12 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1483444899/998-999)
・ひかり、桐生院兄弟と合流
・「ライダー」、ひかりに別れを告げ離脱
・暗殺者二名、ひかり達を捕捉
本スレ>>68、>>82-86 鳥居の人、次世代ーズ
都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達…… Part13 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1495934148/68)
都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達…… Part13 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1495934148/82-86)
・ひかり達、暗殺者二名と対峙し戦闘開始
本スレ>>91-100 次世代ーズ
都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達…… Part13 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1495934148/91-100)
・「イナンナ」、学校町の都市伝説・契約者により“支配”されたピエロを、“魅了”で再支配
・「イナンナ」、再支配ピエロに小中高襲撃を刷り込む
男女二人組の契約者、下校途中の女子生徒を襲撃、女子の容姿をコピーし行方をくらませる
//時系列 ここまで
学校町南区、某ビル屋上
「みさ、おきてよ」
もう身動ぎすらしなくなった友人を揺すった
先程まで聞こえていたはずのか細い呼吸も、もう分からない
あの少年と少女が立ち去ってどれくらいが経ったのか
あの少年はまず友人を、続いて自分を滅茶苦茶にした
そして、あの少年は自分とそっくりの姿に変身して、自分の服を着て、行ってしまった
じゃあ、俺たちはお前ん家で 夕メシ 食って くっから
気が向いたら、 お袋の味 って奴を教えに来てやるよ
あの少年はそう言って、少女と一緒に此処から飛び降りて行った
少年は自分の家族を[ピーーー]つもりだ
「おきて、おねがい。おきて……」
自分の携帯は少年に奪われた
そして、友人の携帯は目の前にある
少年の手で破壊された、携帯だった残骸が
これでは、助けを呼べない
家族に連絡を取ることも、出来ない
「おきて……」
陽も落ちた、寒い、空気が冷たい
夜の闇の中で、もう何も言わなくなった友人を揺さぶるしかなかった
誰も助けに来ない
誰も
あの少年と少女は嗤っていた
何もできない自分と友人を、嗤っていた
「たすけて」
無意識に、ただその言葉だけを呟いていた
「だれか、たすけて――」
掠れた喉で、何度その言葉を口にしただろう
不意に、視界の隅に光が差した
咄嗟に顔を向け、眩しさに思わず光を手で庇った
誰かが、こっちへ近づいてきた
「負傷者、2名。発見しました」
「組織」Rナンバー、「援護班」所属
スカートスーツに、顔を包帯で覆った「黒服」、乱野憐子は
声を絞り出すようにして、ようやくそれだけを無線で報告した
目の前の惨状に、声を失っていた
中央高校の制服の子と、全裸に近い状態で腹を裂かれている子が居たからだ
全裸の子は茫然とした体でこちらを見つめ続けていた
「これも『ピエロ』がやった、てのか?」
相方のPナンバーの黒服の声に我に返った
立ち尽くしている場合ではない
乱野は重傷を負った二人の少女へと駆け寄る
「種別:US、未成年女子2名、陽性です
両名とも全身に創傷、一名は腹部に切創、ダーム脱出あり、一名は顔面に擦過型の剥脱
Class III以上です、至急対応してください」
『ベースに回せ。応援を送る』
「お願いします」
一息で無線へ告げると、少女と視線が合った
「もう大丈夫だよ、今から病院に行くからね」
「こっちはアタシやる。そっちの子頼む!」
相方が中央高校の子の応急処置を開始した
乱野は応急用のフィルムを取り出し、少女の体を床へと寝かせた
先ずは飛び出した内臓の固定だ、これほどの創傷を直ぐに処置できる霊薬は持ち合わせていない
「おかあさん」
「え?」
「おかあさんが……」
少女が、か細い声で呻いていた
「お母さん? どうしたの?」
「おかあさん、たべられちゃう……。たすけてください」
少女は泣き出した
お母さん? 食べられる? どういうことだ
一瞬、乱野は状況に躊躇した
この場で何があったのかをヒアリングすべきなのか
だがその必要は無かった
直後、Pナンバーの黒服達が到着したからだ
「先輩、ちょっとマズいですよ!」
後ろから声を掛けてきたのはこの春に配属されたばかりの新人だ
相方のPナンバーの部下である、リーディング系能力の黒服だった
「この子達に酷いことしたのは男女二人組の契約者で
二人組は今、この子の家に向かってて、お母さんを食べる気みたいです! って、うわ……」
勢いのままそうまくし立てた新人は、慌てて乱野の背後に引っ込んだ
少女の傷を直視してしまったらしい
「んだとォ!? おいミッペ! この子の実家、何処か分かるよな! 調べろ!!」
「んあっ、ちょっ、待ってくださいよ!」
「ミッペ」と呼ばれたのはリーディング系の黒服だ
そして、そう呼んだのは遅れてやってきたミッペのバディだ
彼女もミッペと同時期に配属された新人である
「あっ、待てお前ら! 単独行動は駄目だって言ったろ――」
「メイプルさん、オレとミッペで動くんだから単独行動じゃ無ェっすよ!
それにもう研修期間は済んだんスから心配いらねーって!! おらっ、行くぞミッペ!」
「ちょっと! 首に手ぇ回すの止めてください!」
「コラ待て二人とも! 新人の独断行動は厳禁っつっただろうが!!」
応急処置から手を離し、新人二名を怒鳴りつける
が、遅かった
新人二人は既にこの場から消え失せていた
「あンの、クソ新人共が……っ!! レンコ悪い、この場を――」
「駄目ですっ!! この子達をベースに移送しないといけません!!」
「あ゛ーもうっ! 分かったよ、クソッ! おい、聞こえてるか!? クソ新人が二人、勝手に飛び出した! 追跡してくれ!」
『らじゃーなのです!!』
「アイツら……、戻ってきたらタダじゃ済まさねえぞ……!」
メイプルと呼ばれた相方の黒服は、こめかみに青筋を浮かべながら応急処置を再開した
仕方が無い、新人の独断先行は許される行為では無いが
この場の処置を投げ打って良い理由にはならない
一刻も早くこの子達を「ベース」、つまり「組織」管轄の病院へ移送しなければならない
怒りを抑える相方に一瞥を送りながら
乱野憐子は胸の奥に奔った僅かな胸騒ぎを、無理やり押し殺した
大丈夫、新人ちゃん二人は、Pナンバーのスタッフさんが追いかけてくれる
だからきっと、大丈夫
自分にそう言い聞かせながら
彼女らにはまだ報告は入っていない
「現在、学校町に感知・予知系能力者へのカウンター能力を持つ暗殺者が侵入している」という報告は
学校町 東区
「組織」過激派の人員は車道沿いに繁華街の方向へ向かっていた
無論、「ピエロ」及び連中の中枢を発見しこれを討伐するためだ
先程踏み込んだ現場には相当数の「ピエロ」が潜伏していた筈だ
恐らくまだ遠方へは行っていない、主任はそう判断し
部下を散らして連中の捜索を開始した
東区の放火については既に穏健派も動いているという話で
それ以前に数名の契約者と思われる者達が目撃されていたようで
既に鎮圧が済んでいるのかもしれない
に、しても
主任は思考を巡らせる
10月から「ピエロ」の報告が上がっていたが
いずれも散発的で、しかし契約者・一般人の別なく襲撃するという状況から
「赤マント」と同程度には警戒されていた
だが、今夜の動きは怪しむべき点が多い
これほど目立つ動きを見せたのは初めてと言って良い
おまけにピエロ装束の連中だけでは無く、それ以外の契約者が行動を共にしているという報告があった
事象改竄系の契約者、そして観測系能力に対するカウンター能力を持つ契約者
報告が事実だとすれば、そのいずれも脅威度が高い
(『狐』、なのか?)
主任も「ピエロ」が「狐」の手駒であるという点には懐疑的だ
その部分は現時点での過激派幹部連中の判断と一致している
手の内を晒さず掴ませまいとする「狐」の手口と、「ピエロ」の活動とは一見相反している
だが――
長年過激派の黒服として現場で指揮を執る身として
直観が告げる警告を無視できずにいた
「ピエロ」は愉快犯的な犯行を繰り返しているが、無為無策では無い
このタイミングで登場した同行契約者の存在、これをどう考えるべきか――
「主任、よろしいでしょうか」
後に従う部下から声が掛かる
「今回の『ピエロ』の動き、やはり裏に『狐』が」
「判断を出すのは早計、それが幹部(うえ)の判断だ」
「主任ご自身はどうお考えです?」
「……俺はそれを判断する立場には無い、今は捜索に集中し――」
咄嗟に光線銃を抜き、続けざまに発砲
前方の街路樹の影にいたのは、そう、「ピエロ」だ
「戦闘を許可するッ! 戦えッッ!!」
「なンだ野郎しか居ねえのかぁア!? 『黒服』ゥゥゥゥッ!!」
前方から、だけでは無い
横合い、対向車線側からも奇怪な装束の道下達が出現した
皆、銃器の類を手にしている
「『弾除け』と『人払い』はッッ!?」
「既に展開済みです!!」
主任は確認するかのように周囲に視線を奔らせる
遅い時間では無いが、車の通りも通行人の姿も無い
「まだ非常命令は出ていないッ! 可能な限り物損は控えろッッ!」
主任の言葉とほぼ同時に部下達は光線銃を発砲し出した
非常命令云々、物損は云々は穏健派の手により義務化された条項だ
そう、許可が無い限りは人間、そして物品への被害は最小限に抑えなければならない
それが建前だが、彼らは腐っても過激派だ
つまり主任の言葉はただの念仏に過ぎず、律儀に守られる訳では無い
また守る必要も無い、何故なら
「おーれーたーちーピーエーローをー」「舐ァァめるなぁぁぁぁ!!! っとぉ!!!」
自動小銃を乱射し始めた「ピエロ」相手に、そんな余裕は無いからだ
「こいつらホントやりたい放題だなッ、クソッ! 市街地で銃撃戦などッ!!」
「主任、もうちょい詰めてください」
手近な物陰に潜り込み、隙を見て光線銃を発砲
「ピエロ」数名の頭部を撃ち抜いた
「これじゃキリが――」
悪態を吐く余裕も無かった
後方が突如爆破した
「今度は何だッッ!?」
爆炎が夜の歩道を赤く照らす
「人払い」が無ければ確実に一般の注意を引き付けるレベルだ
いや、「人払い」を展開している現状でも怪しい、炎が上がり過ぎている
「本部に連絡入れろッッ! 応援が必要だッッ!!」
「無理です主任、圏外になってます、多分妨害されてます」
「なら異空間通信に切り替えろッ!!」
「その機能ついてんの主任の端末だけです」
「なら俺のを使えッッ!!」
部下に己の携帯を押し付け、光線銃を構え直した
物陰の向こう側では「ピエロ」共が奇声を上げて銃器を乱射していた
「クッソ、完全に包囲されたかッ!?」
『げひゃひゃひゃひゃひゃひゃっ!!
どーぉぉぉぉうだいクソ黒服共ぉぉ!! 胸焼けするほど嬉しいだルぉぉオオおおおおうっ!?』
「今度は何だッッ!?」
突如、電気的に拡声された女の哄笑が鼓膜を叩いた
死角から顔を出すと、「ピエロ」の居る前方が強い光で照射されている
どうも「ピエロ」の内、数名が何処から調達したのか、スポットライトを使用しているらしい
光の中には、仁王立ちの女が居た
シャイニーカラーのパンツに、トラだかライオンだかの顔面が大きく印刷されたシャツ、という出で立ちの中年女性が
「何者だ……ッ」
主任が絶句するのも無理は無い
その女の風体も雰囲気もこの場の緊張感に全くそぐわないものだ
『んンんん!? アタシが誰かってぇぇぇぇぇぇ!?
フン、「ピエロ」の子達が不甲斐ないって言うからねえぇ!!
わざわざ出張ってきてあげたンだよぉぉぉぉぉ!!
アンタら黒服をぉ、丸焦げにするためにねぇぇぇぇぇぇぇ!!』
「面目ないです先生!」「先生やっちゃってくだせえ!」
バックから「ピエロ」達の声援を受けつつ、女はふんぞり返るような恰好でそう言い放つ
不意にスポットライトが黒服達の潜む物陰に照射された
『ンじゃまぁぁ、ド派手に行こうかねぇぇぇぇぇっ!!
「ポップロックス」とぉ、「コーラ」でぇぇぇぇっっ!!!!』
「まずい、散開しろぉッッッ!!!」
黒服達が物陰から転がり出るように離脱した、刹那
アスファルトを深く抉るように、地面が爆破した
□■□
中央高校の女子
襲われた二人組の一人で、顔面を削がれるように食われた
南区商業の女子とは中学の頃からの友人で、この日は二人で遊んでいた
南区商業の女子
襲われた二人組の一人で、ふくらはぎを食われ腹部を裂かれた
襲撃者の男子は彼女の容姿をコピーし彼女の実家へ向かった模様
乱野憐子
R-No.888。Rナンバー(穏健派)の「援護班」所属
同じ班内に意中の男性(?)が居るらしいが詳細は不明
「脳は10パーセントしか使われていない」の元契約者で「組織」の黒服
実に7年振りの登場となります
メイプル
Pナンバー(穏健派)所属
黒服になる前の記憶はあるらしいが多くを語ろうとしない
「メイプル」は彼女自身が登録した名前だが、外見は日本人
俺っ子の黒服
Pナンバー所属
この年の春に配属された新人、一人称「俺」だが女子黒服
新人扱いされるのがイヤな時期に差し掛かってから早数か月
上司のメイプルの頭痛の種となっている
ミッペ
Pナンバー所属の女子黒服
この年の春に配属された新人で、リーディング系の元契約者である
俺っ子の黒服とバディで、流されやすい性格(ただし本人は否定している)
主任
過激派所属
キレやすいタイプだが自分のそういう面に自覚はある
休日は朝から安酒を呑みつつ古いコメディ番組を鑑賞している
中年女性
まるで「大阪のおばちゃん」のステレオタイプなおばちゃん
「ピエロ」側の刺客で、「ポップロックス(キャンディー)で大爆発」の契約者
乙です
ビジュアルが大阪のおばちゃんとなると強いんだろうけど強キャラ感あるかと言われるとまたちょっと違う気がするww
暑い……うえに書く荒筋が長くなる _:(´ཀ`」 ∠):_
削るか、いやまだ早いぞ…… _:(:3 」 ∠):_
>>247
そうですね、強キャラって言うよりコメディ的な強さかな
方言キャラは普段へらっとしてて土壇場でさらりと実力を発揮する流れが好きですね
本当は関西方言込みでキャラを書ければ最高なんですけどね
色々難しかったので所謂「標準語」に戻しました……
ユリは呼吸を整え集中する。
魔力を変換し、チャームを組み上げていく。
広く、なるべく多くの者に届くように。
そして対象を特定するために、ピエロ達から文字通り搾り取った情報を組み込む。
これでピエロ達にだけよく効き、それ以外にはほとんど効かないチャームの完成だ。
まあ、ピエロ以外にも吊り橋効果くらいはでるかもしれないが。
むしろ出逢いの切っ掛けを提供しているのだから感謝されてもいい気がする。
完成したチャームの欠片をヤエルに渡す。
「……出来た。増幅して」
「ええ、わかったわ」
チャームの欠片を元に、ヤエルも自身のチャームを編み上げる。
元の効果を妨げず、なおかつ効果の底上げをするように。
その間ユリは羽を拡げ、チャームを放つため集中している。
ユリの羽は鳥の羽毛のような柔らかそうな質感をしている。
形状も重力に従うように緩やかな曲線をしており、動きに合わせてゆらゆらと揺らめいている。
「……こんなもんかしら」
ヤエルも準備を終え羽を拡げている。
ヤエルの羽は、いかにもコウモリといった感じで、自らの意思を示すように力強く拡げている。
「合わせてね」
「いつでもどうぞ」
二人の放ったチャームは混ざりあい、水の流れるように周囲に拡がっていく。
微かに鼻腔をくすぐる甘い香りが、空気と混ざり拡散していく。
「さて、何体くらい掛かるかしら」
「……ちゃんと掛かれば、すぐに私達を探しに来る」
「え、私にも来るの? それ嫌なんだけど」
「…………」
______
前スレ>>878-879をも少しまじめにやった感じのを脳内補完
______
>>254
>>葉は部下の好きにさせてそうだね、や
>>スクブスにもお盆はあるのか、や
きっと現場判断に任せてるんですよ
三尾たちのチームは現地行動をサポートするためのチームなんです
モンハンのギルド的なものです
何故か彼女らも現場によく出てますが
サクバスにとっての盆はどうなんでしょう
サキュバス同士のって意味ならサキュバス自体にそんなコミュニティがあるかは疑問だけど
せいぜい知り合い仲間内のぐらいの規模?
人間の盆をどう思うって意味なら畜魂祭みたいな感じ?
今出てる二人は人間の扱いは基本的に食べ物です
学校町東区、中央高校付近
作戦行動中の新人黒服二名が独断で飛び出し、敵性対象を追跡中――
その連絡が入ったのは今から十数分前
「組織」Pナンバー応援部隊の三名は新人黒服の生体信号を辿り、目的地へ急行していた
南区の某ビル屋上で女子生徒を襲撃した者は
女子生徒の家族を捕食すると言い捨て彼女の実家へと向かった
その場でリーディングを実施したミッペによれば、襲撃者は男女二人組の契約者
それが現場のメイプルから急ぎ伝えられた情報だ
「あっ、いたのです! ミッペちゃん見つけたのです!」
二つ結びの黒服が示す先には、住宅街のゴミ集積所
その前で座り込んだ少女黒服の姿があった
「ミッペ! どうしちゃった!? おい!!」
応援三人組のリーダーがミッペの肩を掴んだ
ようやく彼女らの存在に気づいたかのようにミッペが顔を上げた
その表情には恐怖が張り付いている
「あ、キルトさん……。ココは、どこなんですかぁ……?」
「なんだどうしたミッペ、何があった!? クジっちはどこよ!?」
「さっきから頭が……、変なイメージが勝手に流れ込んできて……、海が、磯臭くて」
「クジっちはどうしたよ!? 一緒じゃなかったの!?」
「クジちゃんは……、あ……、あの子のお母さん助けるって、先に……!」
「たいちょー、ミッペは何らかの能力の間接的影響をー受けていると思われー」
「アクアフレッシュ、あんたは私に付いて! ぷーたんはミッペを頼む!」
「らじゃーなのですっ!」 「りょーかいー」
リーダーは後の二人に指示を出し、“ジャミング”を起動した
都市伝説起因の異常事象を一般人に認識させない一種の「結界」だ
「ミッペ、どの家か教えて!」
「三軒向こうの、あの平屋です! でもぉ、ヤバいですよぉ!」
「ヤバいから行くんだよッ!!」
リーダーとアクアフレッシュは既に飛び出していた
なるほど、問題の平屋からは異様な気配を感じる
「敵さんの戦力も分かりもしないのに、向こう見ずに飛び出してくれちゃって、んもーッ!!」
愚痴を吐き捨てながら問題の家屋へ接近
家屋内で争っているのか、物々しい破壊音が聞こえてきた
おまけに異様な気配が剣呑な殺気として具体的な輪郭を帯びだしている
「アクア、念のため報こく――」
走りながら後方の仲間へ声を掛けた、次の瞬間だ
雷のような爆音と閃光が空間を奔った!
迷いもなく門を蹴破り敷地へ侵入、アクアフレッシュもこれに続いた
家屋の玄関、ではなく脇の庭先へと踏み込む
庭に面したガラス窓は全て吹き飛んでおり、強烈なオゾン臭が黒服の鼻を衝いた
外塀に叩きつけられたのか、庭に倒れ断続的な痙攣を繰り返す新人を、まず確認した
ミッペと共に飛び出した一人称「俺」の女子黒服、久慈だ
リーダーはコンマ数秒で彼女から屋内へと視線を走らせる
「ハァーーハァァハァッ!!!! 新手かぁぁぁァ!!?? 黒服ぅぅぅゥゥゥ!!!!!」
その者は、破壊され尽くした屋内に独り立ち、哄笑を響かせていた
外見は少女、南区商業高校の制服を着た女子生徒の姿だ
少女の傍には倒れた女性、襲撃された子の母親か
女性の被害程度を見極めることができない
この敵対者から目を離せば即殺られる、本能がそう警告を発している
「ハァァーッハァァァーーッ!! 黒服を喰っても腹は膨れないんだけどさぁぁぁ
可愛いから相手して、グッチャグチャにしてやるよォぉぉぉーーっ!!」
少女が放っているのは圧倒的な殺気と眼光ばかりでは無い
周囲の空間に奔る無数の光は間違いなく電撃かその類だ
「ハヒッ! ヒ、ヒヒャ! ヒャッハ!! 来いよ、黒服ぅぅぅッ!!!」
少女の体が突如震え出した
哄笑を依然として維持したまま、体が内面から無理矢理押し広げられるように“変化”を始める
「まずいぞー! リーダー!! ヤツの出力が上がってるー!!」
後方のアクアフレッシュが怒号めいた注意を飛ばした
少女の姿がおぞましい外見へと変貌していく――
空間の殺気が再度、膨らみ始めた
「アクアッ!! 防御ッ!!」
リーダーの警告とほぼ同時に、少女周囲の放電量が一気に増大!
「掛かって来いよぉぉぉッ!!! 黒服ぅぅぅゥゥゥぅううウウうううウウッッ!!!!!!」
敵対者は黒服に向かって牙を剥き、嗤った
鹿のような二本角
獣の頭蓋骨を思わせる頭部
狭い屋内のためか、体を折り曲げるようにして狂相を向けるこの者は
既に少女から獣人へと“変貌”を遂げていた
学校町西区
早渡修寿はようやく廃工場から抜け出した
右腕を押さえ、ふらつきながらも、血走った眼で周囲の警戒を続けている
「モスマン」の殺意は相当のものだった、だが奴を倒した
そして収穫はゼロ、しかもこれからどうする? よりにもよって携帯を忘れるなど
己の迂闊さを呪いつつ、彼は東区の状況を案じていた
東区へは高奈先輩が向かった筈だ、彼女ならきっと大丈夫だ
早い内に見つかると良いのだが
不意の激痛に思考が掻き乱される
呻き声を漏らしながら動かない右手を見下ろした
最早右肩より先の感覚が無い
今は痛みより全身を襲うだるさが強いが、断続的に激痛の波が押し寄せてくる
切断された右手は強制的に繋げたものの、上手くやれたか断言できない
そもそもあの毒鱗粉だ、全身に毒が回ってるとして――あとどれくらい持つ?
どうする、真っ先に「先生」の診療所へ電話すべきか
この周辺に公衆電話があるとも思えない、工場に押し入って電話を借りるか、もしくは民家に助けを求めるか
東区は「ピエロ」共が放火を始めていた、そもそも診療所へ辿り着けるかどうかすら怪しい、それより一旦自宅へ戻るか
「財布、忘れてないよな?」
血塊を吐き捨て、車道脇の縁石に崩れ落ちるようにへたり込んだ
思った以上に毒の回りが速い、急ぐ必要がある
「んお? 早渡?」
流れが少ない車道でタクシーを捕まえようと漠然としていた早渡は
横合いから掛かる声とエンジン音に、ぎこちなく首だけを捻った
肩回りに寝違えのような痛みが走る
「……星崎先輩」
「はいよー星崎ですよー」
見れば中央高のブレザー女子、学年が一つ上の星崎先輩だ
梅雨明けの頃に奇妙な縁で出会った、地味さと呑気さを足して煮詰めたような女子である
「ひどい怪我だね、アレかな? 喧嘩帰り? 顔面も真っ赤になっとる」
星崎先輩の問いに早渡は黙った
まさか「モスマン」と殺し合っていたなどと言える筈も無い
「まあさ、良ければ乗ってく?」
彼女は早渡の沈黙を破くと、後方に停められたスーパーカブを親指で示した
「ねえ、病院行こうか? 近いよ、病院」
「保険証、いま、持ってねえっす」
「そっかあ、じゃあ家でいい? 南区だったっけ、家」
「はいっす、ありがたいっす」
二人はカブに揺られ、南区方面へと向かっている
早渡の顔面は毒の所為か赤から青へと変色し始めていた
毒消しが家にあったかも思い出せない
一旦「えりくさあ」で治療を試みつつ、さもなくば病院行きだ
学校町東区
乱れた呼吸を整え、周囲の惨状を見渡す
現場は凄惨な状況だが、まず「ピエロ」は全滅させた
だが肝心の――あの奇天烈な風貌の中年女性
大阪のおばちゃんめいた恰好の契約者、あれの姿が見えない
逃げられたな
主任は胸中で毒づいた
因みに、「ピエロ」に対する拘束と尋問を検討しなかった訳では無い
だが狂笑しながら自身の頭部を爆発させた「ピエロ」を見て即座に断念したのだ
あれはどう見ても最初から脳内に炸薬を仕込んであったとしか思えない様子だ
「カス共が……ッ!!」
主任が悪態をつくのも仕方ない話だ
視線の先にあるのは言い訳もつかない程に大きく抉れたアスファルトだ
眼前ばかりでは無く、連中の射程範囲には大小問わず無数のクレーターが形成されていた
言うまでも無いことだが、主犯はあの中年女の契約者である
「主任、事後処理は隠蔽部隊を要請しますか?」
「無駄だ。『ピエロ』があとどれほど潜伏しているか分からん
修繕したとしてまた破壊されないとも限らんからな
爆破痕は立入禁止、車道へ迂回路を設定しろ」
「了解、そのように伝えます」
こちらとて被害が無かった訳では無い
爆破による死傷者若干、ライフル弾による重傷者複数
継戦は未だ可能とはいえ、敵側の戦力には少々侮りがたいものがある
舐めていた訳でも無い
しかし、あのピエロ装束の道化共
個々の軽薄な態度とは裏腹に統制の取れた戦闘能力を発揮していた
裏で糸を引いている者がいるのはまず間違いないだろう
加えて、あの中年女の契約者
当初は無差別爆破しか能が無いと見做していたが
あの能力密度といい、出力の高さは並のものではない
看過できない、将来の脅威となりかねない
「『ピエロ』側に爆破能力を持った契約者がいる、門条にも連絡を入れておけ」
側近の黒服に報告の指示を出す
門条は現在「狐」の件専任となっているが
「ピエロ」への対応にも指揮側として一部関与している
その上、今夜の「ピエロ」の騒動が「狐」の件と無関係とは言い切れないのだ
過激派幹部の意向を窺っている場合では無い
門条には逐次報告を入れておいた方が良いだろう、万が一があっては遅いのだ!
負傷者への応急処置、爆破痕への簡易工作、既に消滅した「ピエロ」が遺した銃火器
周囲に眼差しを向けながらも主任は黙考を続ける
正直今直ぐにでもキレて怒鳴り散らしたい気分だが――
ところで、我々過激派は門条と直接やり取りを交わすホットラインを持たない
奴の部下へ報告を行い、時間差により奴へ伝えられる
そこに考えが至り、思わず怒張した血管をこめかみに浮き立たせながら
彼は口を開いた
「門条への報告に付け加えろ!
『ピエロ』側には何名か道化の仮装をしていない契約者がいる
これは俺の推測に過ぎんが……、奴らは『ピエロ』の協力者だ。これから更に複数名出てくるかもしれん」
学校町東区、中学付近
「全身ミイラの癖に舐め腐りやがっ、お゛あ゛あ゛ぁぁ゛ーーッッ!!」
「チェスト! チェストォ!! チェストぉぉオオーーッッ!!」
東区、いや、学校町内で最大の規模を誇る中学校
その近辺にある、とある廃屋の中で「ピエロ」と「トンカラトン」が殺死合いを繰り広げていた
「オンッ! おぉオンッ!! おーーンッッ!!」
「ぐわし! ぐわし! おゴォォーオオッ!! エ゛ん゛ッ!!(死)」
逆手の脇差を器用に扱い「ピエロ」の右手ごとチャカを壁に縫い付けると
もう一方の脇差で「ピエロ」の頭部を即座に刺突! 貫通!
「兄者ァァッ!! 無事かァッ!?」
手際よく「ピエロ」を始末するは、「トンカラトン」、名をヤッコ
トンカラトンで構成された勢力、『朱の匪賊』四番隊、その副々隊長である!
「うぜえっ! てめえッ!! この俺様☻を何だと思゛ッッ!!??」
「猪口才ッ!! だがこれで、袋の鼠ッッ、いヨォォーーぉぉッ!!」
素っ頓狂な大音声と共に屋内の柱に道化の頭部を激突せしめ
その反動で以て敵の脚に絡めた物干し竿で道化を転倒させた挙句
降り抜いた刀で「ピエロ」の股間目掛けて切っ先を振り下ろす――!!
「ハァァッ!! ハァァァッ!! ん゛あぁァアアああ゛あ゛ーーッッ!!(両 / / 断)」
更に畳みかけて悶絶する「ピエロ」の顔面へ刺突! 貫通!
途端に道化は絶叫を停止、白目を剥いて激しい痙攣を引き起こすばかり!
絶命を確認の後、「ピエロ」の首に足を蹴り込み、乱雑に引き抜くは
『朱の匪賊』四番隊副隊長にして、この四番別動隊を率いる「兄者」、名を珍宝(ちんほう)と発す!
「ぬぅぅぅッ、奇ッ怪な南蛮道化共めッ!! 我らが隠れ家に気付いておったか」
連中の襲撃により荒らされた屋内を睥睨し、「兄者」は唸った
日も暮れ、すっかり闇夜に染まった時分
突如この隠れ家に「ピエロ」共が前触れなく襲撃して来たのだ
当然別動隊、都合五名は総出でこれを返り討ちにし、逃さずまとめて切り伏せたのである
因みに彼ら「トンカラトン」が念入りに「ピエロ」の頭部へ刺突を行ったのには訳がある!
敵である「ピエロ」共は脳内に爆薬でも詰めているらしく、放置すれば絶命と引き換えに今際の爆弾と化しかねない
そこで彼ら「トンカラトン」は彼奴らの頭蓋の内にある起爆装置をそのトンカラトン感知力によってピンポイントで破壊していたのだった!
「道化はいいッ! 捨て置けッッ!! 六ン馬ッ! 『本隊』の動きはどうなっておるッ!?」
「動き、怪しいです。監視網から、消えた。行方、知れず。つい、先程、道化、斃した後には、既に、姿が、無い」
比較的被害の軽微な襖を開けば、廃屋唯一の光明が暗闇を照らす
畳の上に這うはコード、コード、これまたコード
そして部屋の一角に積み上げられたのは大小様々な機材の雑多な山
その上に遠慮がちに載せられておるのは、いずれも数世代前のモニター、そしてノートPCである
光の正体はモニターや機材のLEDディスプレイの明滅によるものであった
これらは全て現地調達にて獲得されたたもの、電源は外部より違法的に引き込まれたものだ
「ピエロ」の襲撃によりささやかな夜食が中断された
「兄者」はすっかり冷めたタイムセール半額44円のフライドチキンを手掴みし、食い千切り、そして咀嚼した
明滅したモニターが示すのは、「本隊」そして「LOST」の表示である
「勘付かれたか、さもなくば、これも『女狐』の妖しげな術の仕業か……」
咀嚼したチキンを呑み込み、「兄者」は暫し黙考する
「兄者」率いる別働隊の者達は、この町へ来た当初こそ嫁獲りに勤しんでいたが
一番隊からの恐るべき報告が密使により伝えられたとき
「兄者」は四番隊への裏切りとも取られる任務遂行を決意したのである
「三番隊により、『十六夜の君』と呼ばれていた者の正体が、かの忌まわしき『女狐』であらば」
「兄者」はその場の全員に聞こえる、朗々とした声色で言った
「三番隊、四番隊の背後から糸を手繰っておったその者が、今や表に姿を現しているのやも知れぬ」
「兄者ァ、するってえとよォ、やっぱし隊長殿は、もう」
「うむ、既にかの『女狐』の毒牙に掛かり、その尖兵として踊らされている可能性も考えておかねばなるまいて」
「兄者」は五指を覆う朱い包帯に付着したチキンの衣を丹念に舐め取った
まっこと、悪くない別働隠れ家ライフであった
しかし、それも今宵で終わりだ
「者共ッ!! 聞けッッ!!」
「兄者」、珍宝の訓示に、ヤッコ以下、銀冶、門佐、六ン馬の全「トンカラトン」が背筋を正す
「四番隊が姿を消したッッ!! 時は来たッッ!! 今宵ッ、我ら別働隊はこの隠れ家を放棄するッッ!!」
「とうとう暴れ時だなァッッ!! 兄者ァァッッ!!」
「応ッ!! 六ン馬ッ!! 『師団』一番隊に伝令を飛ばせッッ!!」
「合点、承知」
「いよいよ我らは消息を絶った四番本隊の所在を突き止めるッッ!!」
「ゥ応ォォッッ!!」「応――」「応ッ」
吼えるような返事と共に、各名は床の間の天袋を開き、床板を引き剥がし、天井板を外した!
其処から取り出したるは何れも密輸入の重改造を施した違法RPG-7、違法カラシニコフ、違法軽機関銃である!
無論、襲撃した「ピエロ」共が取り落とした銃火器の回収も抜かりは無い!
「そしてッ! 隙あらばッ、――隙あらば、必ずや隊長以下本隊の同志を正気に戻すッッ!!」
そう発し、珍宝は鍔広の麦わら帽子を目深に被った
駆け寄るヤッコが、彼の背中に朱き外套を羽織らせる
その外套は、当然のことだが、墨字で「 朱 ノ 師 団 」と大書された逸品である!
遂に時は来たれり! 戦である!! 合戦である!!!
□■□
○Pナンバーの黒服たち
ミッペ
Pナンバーの新人、趣味は刺繍とごはん
久慈
Pナンバーの新人、一人称が俺、最近耳にピアスを開けた
リーダー
Pナンバー、新人二名(ミッペ、久慈)の先輩格で登録名はキルト、趣味はバイアスロン
アクアフレッシュ
Pナンバー、本編では「アクアフレッシュ」と呼ばれているが髪色が白青赤のストライプだからである
ぷーたん
Pナンバー、公私ともにふわふわしている、趣味はお昼寝
○学生共
早渡修寿
モスマン毒にやられて以降、顔が赤くなったり青くなったり
星崎
中央高校の二年生
下の名前はトマト、後輩からはポンコツ呼ばわりされている
○過激派
主任
元は過激派出身で異例の昇進を遂げた(?)門条と
万年下管停まりの自分の違いは何なのかと枕を濡らす日々
○「朱の匪賊」嫁探し組
珍宝
四番隊副隊長、「ちんぽう」ではなく「ちんほう」と読む
ヤッコ
四番隊副々隊長、隊内のムードメーカー兼トラブルメーカー
銀冶/門佐/六ン馬
四番隊の中でも推しが副隊長な「トンカラトン」共
口数は少ないが、テックに弱い珍宝を陰に陽に支えている
○Pナンバーの命名規則について
「組織」では以前から各ナンバーの頭文字を登録名の頭文字として指定する傾向が強かったそうだが
Pナンバーはこうした傾向を一切無視、「自由に登録名を決定して良い」とわざわざ文書化までして制定した
発案者は当時のP-No.0である
今夜はここまで
あと二つ
確かにイニシャルP縛りはきついなw
Rもたいがいだったけども何せ日本名Pがなあ
そういう意味ではザン・ザヴィアーは偉大だと思う
>>252-253
やの人お疲れ様です
チャームが効いてない……?
いや効果が阻害されてる……?
まさか、もう勘付かれたのか……!?
>>266
シャドーマンの人お久しぶりです
和名イニシャルPも高難度でしたが
洋名イニシャルPが簡単かと言うと……自信が無い
因みにPナンバー命名は自由と書きましたが
P-No.0や上位幹部に忠誠を誓っている黒服は
自発的に氏名両方かいずれかのイニシャルをP始まりにしているようです
ついでに言うとPナンバーの場合はP-No.というシステムに、というより
P-No.0や上位幹部その者に忠誠を誓っていることが多いイメージですね
では二発目行きます
学校町、位置不明
其処は暗く、どこまでも暗く、陰気の凝縮された空間だ
湿度の高い空気があたかも粘液のようにその場に居る者達へとまとわりつく
「フゥーーゥッ、フゥーーゥッ」
道化の装束に身を包んだ巨漢のピエロはまさにその場にあって
命じられた通り“クランベリー”を潰して果汁を搾り出す作業に勤しんでいた
周囲は完全に闇に溶けているが、僅かな光源によって床が錆び付いた何らかの金属であることが分かる
床の金属には元々何かの彫刻が施されていたようだが
こうも錆と謎の汚れに覆われていては一体何が刻まれていたのか知る由も無い
「フゥーーゥッ、フゥーーゥッ」
巨漢ピエロは自身の巨躯を縮めるようにして粛々と与えられた仕事を続けている
まずは“クランベリー”のヘタを切断する
こうすることで“クランベリー”はくぐもった悲鳴を上げるのを止める
次に震えの止まらない“クランベリー”を固定し圧縮することで甘い果汁を搾り出す
それを金属の床へ滴らせることがこの作業の最も重要な工程だ
「今で14だ」
この空間に居るもう一人、頬のこけた神経質そうなピエロは
“ポータル”から次の“クランベリー”を強引に引っ張り出し、通話相手に唸った
古参だからという理由で呼び出されてみたらこれだ、正直この場から逃げ出したかった
最初の話とは大違いだ、そもそも“クランベリー”もこの作業も彼にとって全く趣味では無い
この町に来てからというもの、もっと美味なモノを食い散らかす積りだったのに貧乏くじばかり引かれている
「もうこれで15人目だぞ!?」
通話の相手を押し殺した声で脅しかける
乱暴に掴み出された“クランベリー”が小さな悲鳴を上げて身を捩った
全ての“クランベリー”は白い布でくるまれリボンでしっかりと結ばれている
この包装は完璧だ、逃げ出すことなど無理な話である
「どうする? 続けんのか止めんのか、どうなんだ!?」
「フゥーーゥッ、フゥーーゥッ」
『待ってください、作業を一旦中止してください』
相手の声色に僅かな緊張が混じった
「ピエロ」のボス、「ジョー」が何をしているのかは知らないが
通話先の様子が妙だ、何やら慌ただしいようだが何が起こっているのか分からない
『今ジョーが確認を取っています、そのまま待機してください』
「フゥーーゥッ、フゥーーゥッ」
「待てマッシャー、一旦中止だ! おい、待てっ!!」
巨漢ピエロが作業を続けようと次の“クランベリー”を掴んだ
神経質ピエロは慌てて引っ手繰り返す、“クランベリー”が鋭い悲鳴を立てた
「おいこのウスノロ!! 待てっつってるのが分かんねーのかっ!?」
「ブフゥーーッ! ブフゥーーッ!」
『中止命令が出ました。作業を終了してください』
作業中止、幾ばくか緊張が緩んだ
不機嫌そうな相方の唸り声を聞きながら神経質ピエロは額の汗を拭う
「おい、作業終了だマッシャー! 中止命令が出た!」
「ブフスゥゥーーッッ!」
「そっちの案配はどうなんだ、おい。お前は随分落ち着いてんじゃねえか、え?」
『全然落ち着いてないですよ、正直余裕がありません』
唇を舐めて通話先の「ルーキー」に軽口を叩いた
奴は「ピエロ」の中でも新参者だが的確な手腕で「ジョー」をアシストできる実際稀有な存在だ
「大暴れできんのもそろそろなんだろ? そん時ぁパーッと楽しもうぜ」
『だといいんですが』
「ルーキー」の応答はどこか歯切れが悪い
大方「ジョー」と教授の作業とやらが詰まってるんだろう
神経質ピエロは「ジョー」によろしく言っとけと伝え通話を切った
「オラ行くぞ、こんな陰気臭えとこに長居したかねえんだよ俺は」
「フスーーッ、フスーーッ」
返事代わりに鼻息を立てるマッシャーを引き連れ、彼は“ポータル”へ侵入した
すすり泣いていた“クランベリー”は神経質ピエロにどつかれ悲鳴を上げる
後は覚醒させた“クランベリー”をもう一度眠らせればこの地獄のような仕事からは解放される
全ては「組織」に気付かれずに進める必要がある
手持ちの“クランベリー”はいずれも外部から調達してきたものだ
学校町内で収穫するとなれば確実に「組織」その他の注意を引くことになる
この“ポータル”にしてもそうだ、学校町外部と接続しているならともかく
転送は全て学校町内でのやり取り、その上今回は「先生方」の護衛も受けている
「組織」に勘付かれることも無い
少なくとも、今はまだ
彼らピエロが“ポータル”へ姿を消し、接続が解消されたとき
その空間は完全な闇に沈んだ
夥しい果汁が広がった金属の床は依然として不気味な静寂を湛えている
「組織」管轄の病院
「すいません部長。アタシの失態で、こんな」
丸顔なスーツの女性に先行しながらメイプルは死にそうな顔で謝罪した
南区ビル屋上で重傷の女子二名を保護してから何時間が経過したか
既に時刻は日付の変わる時分に差し掛かろうとしていた
「監督不行届は確かに問題だが、叱責は後だ
メイプル、被害者の容態は?」
「はい、少女二名も母親も現在は安定してます
意識が戻り次第、ヒアリングと記憶処理を実施予定です」
「捕食されかけたと聞いてどうなることかとは思ったが……」
後で憐子にも礼を言わねばな、丸顔の黒服はそう呟きながら一室に入った
集中治療室の病床に横たえられた黒服をガラス越しに眺める
全身を包帯でくるまれているのはメイプルの部下で
ビル屋上の一件で飛び出していった一人称俺の女子黒服、久慈である
丸顔は腕を組んで溜息を吐いた
「現場の報告はこっちにも入ってる。襲撃者の能力出力は並の契約者のものではない
『組織』の古い区分では即時捕殺に指定されてもおかしくないレベルだ
最近は、特に穏健派が強くなってからは下っ端が現場で強敵と戦うリスクも減っている
そんなの相手にヒヨっ子が生きて帰って来れただけでも御の字だ」
「……」
涙目でガラス向こうの部下を見つめるメイプルを尻目に
丸顔は悟られぬよう安堵の溜息を吐く
「しつちょー、ぶちょー、今ー話し掛けてもよろしいですかー?」
「ん? ああ、入れ」
いつの間に入口の方には別の黒服が居た
新人二名の追跡兼応援に向かった部隊の一人、アクアフレッシュだ
彼女は大きなタブレット型の端末を丸顔にも見せながら話を切り出した
「問題のー、襲撃者なんですけどー
交戦時に『変身』した形態からー正体を割り出すとなるとー、やっぱりコイツになるんですよー」
彼女が話しているのは、屋上で少女二名を襲い重傷を負わせ
更に内一名の少女の母親を襲撃して捕食しかけながら
現場に駆け付けた新人の久慈、および応援部隊と交戦した「襲撃者」の少年のことだ
襲撃者は、屋上で襲撃した少女の容姿へ「変身」して彼女の制服を奪い
少女の実家で母親の襲撃・暴行を実行、割って入った久慈に攻撃を仕掛けた後
応援部隊の黒服キルトとアクアフレッシュの前で獣人の形態へ「変身」の後に交戦
彼女ら二名を電撃攻撃で牽制しつつその場から離脱した
タブレットに映し出された情報を目で追う
「組織」データベースの映像記録で、半人半獣の怪物が表示されていた
「Wendigo」 ――確かに名称にはそう記されている
「ウェンディゴ」、カナダ南部からアメリカ北部の先住民に伝承される悪性の精霊だ
獣人の実体を持つとも、人に姿を見せることはないとも云われており
精神的な攻撃を執拗に行うとも、森に人を迷い込ませて食い殺すとも伝えられている
ちなみにこの「ウェンディゴ」、外見については諸説あるが
日本のオカルト解説本で紹介された「シカの角を持つ半人半獣」のイメージが後の「ウェンディゴ」の外見に影響を与えたという説もある
尤も人々の抱くイメージによって実在化した都市伝説の外見が変化する例は幾らでもあるので外見については措くとしよう
いずれにせよ、少女二名は体の一部に捕食痕があり母親も食われかけたという報告からは
襲撃者の正体、あるいは契約伝承が「ウェンディゴ」であると判断する材料にはなろう
「なるほど、精霊であれば消極的ではあるが『変身』能力の説明もつく」
「えーまーそうですねー、妖精精霊一般はー、大抵『変身』デフォルトで出来ますからー。でもー」
「変身」の能力は「ウェンディゴ」の特徴として取り立てて言及されることは無い
しかし、世界各地に残る伝承によれば「精霊」一般は様々な魔法を行使し、あるいは「変身」能力を有するとされる
広く「変身」能力を使用しうる存在だと捉えるなら、精霊の一種である「ウェンディゴ」もまた「変身」能力がある
そう言えるかもしれない、だが
「でもー『ウェンディゴ』だとするとー、くじっちゃんを吹っ飛ばしたー『電撃攻撃』の説明がー、まったく出来なくなっちゃいますー」
「『電撃』か……。全く別の能力者か、あるいは多重契約者という線も捨てきれんな」
応援部隊の情報によると、襲撃者と交戦した久慈は
放たれた電撃によって大きく吹き飛ばされ戦闘不能に陥っている
またこの電撃の威力により、応援部隊は近接戦闘に出ることができなかったのだ
加えて――、丸顔の黒服は目を細める
屋上で新人のミッペがリーディングした情報が正しければ、襲撃者の少年には女子が一緒だった
母親襲撃の現場には姿が無かったとのことだが、この女子の存在が非常に匂う
担当医からの報告では、都市伝説能力で生成されたとみられる“蛆虫”が少女達の傷口から多数摘出されたらしく
解析を試みたものの傷口を離れた途端に消滅したらしい。恐らく情報流出対策だろう
断定は出来ないが“蛆虫”がこの少女の能力である可能性は否定できない
「悩んでいても仕方が無い、今掴んでいる情報を全て門条側にも報告してくれ
連中が新しい情報を入手しているかもしれん」
「らじゃーですー」
「メイプル、我々もミッペの所へ行くぞ。案内してくれ」
アクアフレッシュはタブレットを小脇に抱え足早に退室する
丸顔とメイプルも集中治療のモニター室を後にした
「ミッペに関してはこっちに非がある、情報の連携が遅れた所為だ」
「いえ、そんな」
「流せる問題では無い。感知系能力に対するカウンター能力など……」
丸顔の眉間に険しさが混じる
穏健派から入った報告によると、「ピエロ」側には感知・予知系能力者へのカウンター能力を持つ契約者が存在する
射程や追加能力等の詳細が不明な現状、下手にリーディング系の能力を行使するのは危険だ
しかし現状では、リーディング系の能力を使用すると具体的にどのようなカウンターを食らうのかも分かっていない
応援部隊が現場に駆け付けた際、真っ先にミッペを保護したようだが彼女は錯乱気味だったという
ミッペは一体何を感知したのか確認する必要がある
「厄介なことになってきたな、『狐』の件に加え『ピエロ』とは」
「……」
「気合入れろ風日」
前を向いたまま後ろに続くメイプルに声を掛ける
「部下はいつでも上司の背中を見ているものだ、胸を張れ」
「……ッ!」
息を飲む気配の後パンパンと鋭い音が廊下に響く
頬を両手で叩く。メイプルが己に喝を入れる際によくやる行為だ
「すんません部長! 必ず巻き返します」
丸顔は答えず、ただ僅かに頷いた
階を上がると、廊下の長椅子にミッペとぷーたんが座っていた
ミッペは久慈と共に飛び出した新人、ぷーたんはミッペを保護した応援部隊の一人だ
「あっ、室長に部長ー! 今からそちらに行こうと思ってたのです!」
ぷーたんは如何なる状況でも己のペースを崩さない黒服だ
そして後輩への面倒見も良い。彼女はどうやらずっとミッペに付き添っていたらしい
「保護した女の子達も、女の子のお母さんも無事なのです
もう手術も終わってぐっすりお休みしてるのです
明日、お話を聞いて記憶を処理してあげるのです!」
「さっきアクアから聞いたよ、記憶処理は適切にな
今は少しミッペと話がしたい。いいか?」
「はい、ミッペちゃんはちょっと混乱してたみたいなのですが
今は大分落ち着いてるから大丈夫だと思うのです
私はキルトさんのお手伝いに行ってくるのです」
彼女は丸顔とメイプルに会釈するとぽてぽてとその場を去った
入れ替わるように丸顔が長椅子に腰掛ける
メイプルは立ったままで腕を組んだ
「うう、メイプルさんに、部長さんまで……。独断行動の処罰ですかぁ……?」
「説教は後でミッチリやる! 今は部長がお前に確認したい件があると」
「ビル屋上と襲撃者追跡中に能力を発動したらしいな。状況を詳しく聞きたい」
メイプルの台詞を引き継ぐように丸顔が切り出した
ミッペの直属上司はメイプルだ。彼女の険しい視線に怯えつつミッペは丸顔におずおずといった体で応じた
「リーディングで読み取ったことを話せばいいんですかぁ……?」
「いや、内容は既に確認してあるよ。聞きたいのはそこではない
そうだな、リーディングを発動したとき妙なモノを見たようだな。それについて確認したいんだ」
途端にミッペの顔色に明らかな恐怖が浮かんだ
丸顔とメイプルは顔を見合わせる
「敵方にやばい能力持ちが居るらしくてな、お前の情報がかなり重要なんだ。ミッペ、なんでもいい。話せそうか?」
メイプルにそう告げられ、ミッペは間近に座る丸顔の顔を見た
彼女の体が震え出したが、ややあって意を決した表情へ変わった
「私、『メトリー』を使おうとしたんです
屋上で、あの子達はすごく怯えてたから、言葉に出来ないくらい怖い目にあったのかなって
そしたら、何故か最初、『メトリー』が上手く発動しなかったんです」
「発動しなかった? それは何か外部の干渉の所為か」
「多分違うと思います、なんだか……感覚的には勝手に切れちゃったというか
もう一度発動して、あの子達に起こったことを読み取ったんですけど
その時には特におかしいことは無かったんですよぉ」
ミッペは顔色を窺うように丸顔を見つめている
丸顔は短い黙考の後、口を開いた
「その後、久慈と現場へ向かい、二度目のリーディングを実施したわけだな
その時の状況についても話してくれ」
「はい……。あの子の実家に向かってる間、お家の場所を詳しく特定しようとして
屋上の『メトリー』を続けようともう一回発動して、“足跡”を辿ろうとしたんですよぉ
そしたら……」
ミッペの震えが心なしか酷くなった
「急に、ノイズだらけの映像が映り込んできたんです
変なんですよぉ。普通『メトリー』で流れてくる映像がノイズがかることなんて無いんですけど
その時だけなんだか……人の居ない村みたいな、古い映像が流れ込んできて」
「動揺しているな。続けられそうか?」
「が、頑張ります……!
それで、私の『メトリー』っていつも映像だけなんです。なのに、この時は急に
海の、磯臭い匂いまで流れ込んできたんですよぉ。それだけなのに、すごく怖くて
ずっと、なんか向こう側に見えない目玉があって、それに覗かれてる気分がずっと続いて」
彼女の呼吸が大きく乱れ始めた
丸顔は涙目のミッペの背中に手を当てがった
「多分あの時、私は干渉されてたんだと思います
自分が何なのか、何処にいるのか、まるで暗闇に投げ出されたみたいになって
気付いたら、ぷーたん先輩達がいて、いつの間にクジちゃんは先に行ってて……それで、私」
「海の近くの村、が見えたんだな?」
「はい。村です。多分映像の中に何かが居たんだと思います
私のときは見えなかったんですけど、でも……でも、絶対に見たらいけない奴ですよぉ!!」
丸顔は先に立ち上がり、興奮気味のミッペも立ち上がらせた
ミッペはやがて両手で顔を覆い震え始めた
「メイプル、ミッペを『中央医務局』へ頼む
先方に話は通してる。念のため診てもらう必要があるからな」
「部長は」
「門条側に報告を入れる
『ピエロ』の件と連中の『狐』の件がどう関与しているのかは不明だが
敵性の契約者が動き出しているとなれば悠長なことはやってられん」
丸顔に代わり、メイプルがミッペの肩を抱き支えた
部長の表情は先程よりも険しい
「ミッペ、悪いことをした
先に敵方の情報を情報を共有しておけばお前も怖いモノを見ずに済んだ」
「だ、私は大丈夫です……!」
「解除命令があるまで、絶対に能力は使ってくれるな
メイプル、ミッペを頼んだぞ」
「了解っす」
丸顔は二人を残して足早にその場を去った
背中から怒気が立ち上がっているのを感じる。あの様子だと相当頭に来ている筈だ
「メイプルさん……、ごめんなさい……」
部下の消え入りそうな声を聞いた
ミッペはまだ顔を両手で押さえて震えている
「お前も久慈も生きて帰ってこれて良かったよ。説教はミッチリやるけどな」
「クジちゃん……。メイプルさん、『医務局』行く前にクジちゃん見に行ってもいいですかぁ?」
「さっき見に行ったがあいつ寝てんぞ」
ミッペは顔から手を離した
彼女は両眼を真っ赤にして泣いていた
□■□
門条さん側(穏健派「狐」捜査サイド)に伝わる情報
○過激派主任からの報告
・「ピエロ」は確かな戦闘能力と連携能力を有する
・「ピエロ」側に少なくとも一人、契約者がいる
爆発系の能力で、恐らくアメリカ産の都市伝説「ポップロックスで大爆発」の契約者と推測される
・憶測だが「ピエロ」側にはピエロ仮装をしていない契約者が複数存在する可能性がある
しかも仮装ピエロよりも戦闘力が高く、「ピエロ」の協力者と思われる
○Pナンバー丸顔部長からの報告
・「ピエロ」側と思われる二人の襲撃者が存在する
・一人は少年の契約者で、「変身能力」を有する
確認された外見は、少年の姿、少女に「変身」した姿、「ウェンディゴ」の姿(シカの角を持つ半人半獣)
また「高出力の電撃で攻撃する能力」も有している
出力が極めて高いため熟達した能力者でなければ交戦は危険、食人嗜好が窺え残忍な人格の危険性あり
・もう一人は上記の少年と共に目撃された少女
能力は不明ながら「蛆虫を生成する能力」である可能性が高く、その方面から絞り込めるかもしれない
・連携の遅れから感知系能力を使用した黒服がいる
彼女の話では「初回の能力発動時に、能力が切断され」
「二回目の発動時には海沿いの漁村の映像が流れ込んできた」
また映像を目撃した後、その黒服は若干の錯乱を催している
・その黒服の報告では、「漁村の中に何者かが存在し、それに見られている感覚がした」という
前回(>>258-263)と今回合わせて、花子さんとかの人に土下座でございます……
正直「狐」が動き出した時点での門条氏のオーバーワークっぷりを考えたくない
そしてそのオーバーワークな状況を作り出す一端に加担したのは紛れもなく私なのだが……
土下座でございます……
この時点で上記通り門条さん側に情報が渡っています
「海からやってくるモノ」に関しては「先生」から門条さんに連携が入ってる筈なので
ぶっちゃけ無用な情報かもしれませんが一応
「ピエロ」側には感知・予知系能力者へのカウンター能力を持つ契約者、「海からやってくるモノ」のスペックは
前スレの743を(「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 Part 12 - SSまとめ速報
(https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1483444899/743))
前回登場の「朱の匪賊」については
前スレの497をご参照ください(「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 Part 12 - SSまとめ速報
(https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1483444899/497))
今更ですが「朱の匪賊」副隊長(珍宝)と副々隊長(ヤッコ)は
四番本隊とは九月以降ずっと別行動を取っていました
そしてここでかつての社長出勤者名義を使用
ようやくというか次世代編でようやくPナンバーが登場するに至ったので
この機会を逃したら今まで以上にぐだりそうなのもあって、先に以下出しておきます
エタり中のバールの少女氏『バールの少女』にて登場のIナンバー、Mナンバー、Vナンバーと
『社長出勤者劇場』で過去登場してるかと思えば全く登場していなかったPナンバーの概要をここに載せます
そしてご関係の皆さまに精一杯の謝罪を致します……orz
○各ナンバー概要
・Pナンバー
穏健派
女子黒服で構成される
現世代編よりも過去の時点からP-No.0は�部の�激・強�派によっ�拉ch
��誘k���
謎の失踪を遂げた☺
P-No.1も0と同じく失踪した
上記と同時期にPナンバー上位幹部に過激・強硬派が侵略を実行し内部治安が荒れに荒れた
次世代編では上記過去の事件を知らない新人黒服が多い
また次世代編では現世代編からの上位幹部及び0ナンバーが一新されている
・Vナンバー
過激派、かつては過激派最大手の派閥だったようだ
恐らくAナンバー、Bナンバー、(全盛期だった頃の)Hナンバーとは敵対している
ダーク・エイジ(過激・強硬派が「組織」内で優位だった時代)には日常的に殺し合いが発生していた
内部派閥は穏健派寄りからゴリッゴリの過激派寄りまで、と理念が細分化されており一枚岩ではない
昔から自治権が非常に強く、外部ナンバーの干渉を受けないことで有名
またナンバーについては永久欠番制ではなくリナンバリング制を採用、犯罪行為の外部追跡が困難になっている
上位幹部及び0ナンバーに関しては終身制ではなく任期制で、数年~十数年に一度総選挙が実施される
この時ばかりは外部の穏健派やら他の過激・強硬派やらの思惑が錯綜して大混乱の様相を呈する
意外どころでは(多分「組織」内で唯一の)労組が存在する
次世代編では穏健派の台頭と内部抗争のダブルパンチで弱体化が進行している
・Mナンバー
中立派
所属者の殆どが研究活動に従事
中立派というスタンスだが、研究員を外部ナンバーの各派閥(ほとんどは過激・強硬派)に研究員を提供し
派遣先の研究課題を担う、といった意味での中立派であり、例えばEナンバーのような立ち位置とは全く異なる
研究部門が大きいものの現世代編の時点では小規模ながら捜査部門も新設、こちらは文字通りの穏健派寄り
一部研究者が過激・強硬派内での研究で培ったノウハウを利用して暴走しており、穏健派からは信用されていない
0ナンバーは「M資金」の黒服で、上位幹部らと共に主に外貨との調整を担当しているようだが……
噂によると彼は年端もゆかぬ少年黒服らしく、上位幹部(一桁ナンバー)により監禁に近い扱いを受けている
・Iナンバー
派閥不明
穏健派からは強硬派、過激・強硬派からは穏健派と見られている
一部の中立派とは非常に仲がよろしくない
「組織」の黒服が持っている筈の基本能力を有していない構成員が多く、かつては欠陥品呼ばわりされる事もあった
過去に起きた諸事件の所為で構成員が少ないものの追加の人材採用を殆ど行っていない
かつては西日本の伝統的な都市伝説関係勢力との交渉を担当していた
ダーク・エイジの頃、過激・強硬派の奸計で0ナンバーが「組織」への叛乱を宣言
その後にI-No.0とその仲間たちが蒸発したことで
過激・強硬派の手により権限の殆どを凍結され一時は解体寸前にまで追い詰められた
にも関わらず現世代編、次世代編、共にしぶとく生き残っている
・「次世代ーズ」における次世代編の特徴
現世代編での「夢の国」戦や対「教会」戦経験者は
伝説級の契約者・黒服として、次世代新人達からはある種の畏敬の目で見られている
……最後にもう一度土下座しますorz
乙です
リーディング系封じの設定はとてもいいなあと思いつつ、どう崩していくのかも楽しみです。
>>年端もゆかぬ少年黒服らしく、上位幹部(一桁ナンバー)により監禁に近い扱いを受けている
つまりMナンバーの上位組はショタ食いのお姉さま方ということに違いあるまい!
>>278
ありがとうございます
今回の「海からやってくるモノ」の射程圏は
学校町全域が対象になっていますが果たして足りるのかどうか
Mナンバーについては……
出したいですね、お姉さん気質の女性黒服……
今日は週末の貴重な休日でしたが
不吉な呼び声により出勤が決定したため
>>268-274の続きは早くて今週木金曜の投下になりそう、です
ハロウィンの与太話を投げるのだ
①ハロウィンタイム開始前
コトリー「……」
せと 「がんばるぞー」 ☜ キュートな感じのゾンビメイク
コトリー「……」 ☜ 終始無言
コトリー(みなさんごきげんよう……
『ラルム』でアルバイトしてますの、コトリーと申しますの……)
コトリー(ハロウィンの時期は賑やかなのですけど……なのですけどっ!!
……なぜだか学校町のハロウィンは気持ちがゾワゾワして不安になりますの……)
コトリー「……」 チラッ
JD先輩「よーしグヘヘ、思いのほかバッチリ❤」 ☜ 露出激しいサキュバスコス
おばちャ「今日は私もホールでいいのかしらぁ♥」 ☜ 色々危ない狐娘コス
せと 「限定メニューも店長の自信作なんですよね!」 ☜ いつもより若干テンション高い
コトリー(どうしてみんなやる気満々なんですのぉぉー!!ξ(˃︿˂)ξ )
②ハロウィンタイム中
コトリー「お待たせしました、アールグレイとシフォンケーキですの!」
リリン 「あ♥ ありがとうございます」
コトリー「あらシノノメ様、可愛い角ですわね! ξ(ㆁ◡ㆁ)ξ」
リリン 「ありがとーございますー🌟
ハロウィンセールの間はお店でもずっと付けてるんですよーコレー!」
リリン (こんにちは、隣町在住の『リリン』です)
リリン (私は心の声で私から私に語り掛けてます)
リリン (今、あたまからデコレーションした角が生えてるんですよー)
リリン (皆さんこれを飾りだって思ってるみたいなんですけどー、実はこれ自前なんですよー)
リリン (言ったら信じてくれるかなぁ……♥)
リリン (……なーんて…… ほんとは言う度胸なんて、私になんか無いんですけどね…… ˃̣̣̥⌓˂̣̣̥)
コトリー「 」 ブルッ
コトリー(シノノメ様は『ラルム』の常連さんなんですけど、今日はいつもより不気味な雰囲気ですの……)
コトリー(いつもは落ち着いた大人の女性って感じの方なのですけど、これもハロウィンパワーなんですの……??)
コトリー「どうぞごゆっくりー」 ☜ 鉄壁の営業スマイル
リリン 「はいー…… どうもー……」 ☜ 何故だかテンションが下がっている
③業務終了後
コトリー「はふぅ」
コトリー(今日はいつもより疲れましたの……
それもこれも絶対ハロウィンパワーの所為ですの……!)
コトリー(早渡さんもありすさんもかやべぇさんも来てくれませんでしたの……
明日でもいいから来てほしいですのー……!!)
せと 「たまちゃん大丈夫?」
コトリー「いぴッ!!」
コトリー「あ゛っ! だだだ大丈夫ですの! 今日はいつもよりくたびれましたわね!」
せと 「何だか具合悪そうだよ、無理しないでね」 ☜ 心配そう
コトリー(不覚ですの! せとのゾンビメイクに一瞬心臓が変な音しましたのー……
やっぱりこの時期は妙に苦手ですわー……)
店長 「みんなお疲れ様! どうかな! 明日のホールはメイド服で」 ☜ 満面の笑顔
せと 「嫌ですっ!!」 ☜ 真顔で即答
コトリー 「いやですの!! ξ(ㆁ-ㆁ)ξ」 ☜ 営業スマイルで即答
店長 「 っ 」 ☜ 笑顔のままキッチン方面へスライド後退
コトリー(皆さんもハロウィン、お楽しみ下さい! ですの! ……はふぅ)
■登場人物
コトリー
「ラルム」のアルバイトさん、高一
ホラーが嫌いというわけではないが、学校町のハロウィンは何故だか怖くて苦手
せと
遠倉千十、「ラルム」のアルバイトさん、高一
怖いモノ全般が苦手なはずなのに、ハロウィン時期はどこか楽しそう
リリン
名前は「東雲クロワ」に決定した
伝承存在「リリン」、非常に気が弱い
普段は隣町のランジェリーショップの店員さん
JD先輩
「ラルム」のスタッフ
イベント時期は無理してでもシフトを捻じ込んでくる
おばちゃん店員
「ラルム」のスタッフ、縁の下の力持ち
店長
「ラルム」店長、隙あらばコトリー&千十にメイド服を着せようとするため警戒されている
ハッピーハロウィン
この数日後に早渡は地獄を見ることになる
「マヒル、お前に端末預けてたよなぁ? はよ」
「かぁクンちょっと待ってね」
「あーマジゴミだわ、ゴミカス、カスカス」
グリングリンがその場へと乗り込んできたのは日付が変わって間もない頃だ
横合いから聞こえる契約者共の談笑を無視
彼は大量のモニターと機材に囲まれたピエロと白衣の女へと詰め寄った
「おい、ジョーの首尾はどうなってる」
低く静かだか凄みのある声に白衣女はたじろいだ
女の代わりにピエロ装束の男がグリングリンの前に出る
「現状、特に問題があった等の連絡はありませんが」
「チッ、それが大問題なんだ。身内に先走りやがった馬鹿共がいる
大方焚き付けた連中がいるんだろうが……。しかも勝手に自殺まで始めやがって。気に食わねえ」
グリングリンは銀色の眼光を鋭く女へと向けた
白衣女は唐突に現れたこの長身ピエロに気圧されていた
「放火チームのことですか? あれは“自己終了処理”も含めてジョーからの直接指示ですよ」
「それも気に食わねえ、一遍ジョーと話させろ。ルーキーには繋がるだろ」
グリングリンはピエロの肩を掴み脇へどけると女に構うことなく卓上の機材を乱雑に操作し始めた
彼女とピエロは若干困惑気味に顔を見合わせた
ヘッドセットを不適切に耳へ押し当てグリングリンはモニターの一つを睨む
間もなくコネクション中のステータスから「Sound Only」のアイコンへと表示が変化した
『隊長、どうしました?』
「ルーキー、俺だ、グリングリンだ。ジョーと繋げ」
『えっ、グリングリン……? な、何か問題でも』
「いいからジョーと繋げ、問題も問題だ。あいつは何考えてんだ」
『しかし……、ジョーは既に“接続”を……』
「その状態でも放火の指示は出せたんだろ? 繋げ」
『えっ、あの……。しょっ、少々お待ちを』
会話はヘッドセットだけでなく壁面据え付けのスピーカーからも響いていた
そしてルーキーの焦った声色の後に音声は沈黙した
「“先生”、すいません! さっきの俺なんだわ。悪いって伝えといて!」
突然の大きく響く声に白衣女の心臓は縮み上がった
咄嗟に声の方向へ目を向ければ、「七尾」の問題児とその目付け役の少女だ
グリングリンに悟られぬよう白衣女は何処かに通話中の問題児を黙らせるようジェスチャーを送るが
肝心の少女がこちらを見ていない
「悪いって、さっきのは拾った携帯で間違えて掛けようとしただけだよぉ
もち、任務はじゅんちょーじゅんちょー。悪いことは全然してないしぃ、俺ってばいい子だからあ
だからぁ違うって、ほんとにぐうぜん拾った携帯なんだって。盗んでないし、襲ってもいないよお! うん、まだな。まだ」
神経を逆撫でするような問題児の声質に白衣女は気を揉んだが
グリングリンは問題児へと一瞥をくれるに留まった
『グリングリン、駄目です。ジョーの応答が無い』
「ふっざけんな、“接続”中だろうが知」
《 何事だ 》
暫くあって返ってきたルーキーの応答、苛立ちを隠しすらしないグリングリンの返事
そして、別の音声が介入したとき、白衣女は突如として恐怖を覚えた
老人じみたその声は彼ら「ピエロ」の親玉のものだ
スピーカーからの音声は若干ノイズ掛かってはいるが、明瞭に聞き取れる
ただそれだけなのに、何故こうも背筋を撫でつけるような薄気味の悪さを帯びているのか?
そもそもだ、この声はスピーカーから発されたものなのか? 自身の内側から響く錯覚に囚われなかったか?
「……出れるじゃねえか」
《 “接続”そのものは済んだ 今や俺自身が通信だ グリン 何用だ 》
「何用もクソも……、放火はお前の指示か、どういう魂胆だオイ」
回線に割って入ったジョーにグリングリンも鼻白んだ様子だったが
苛立ちを取り戻したかのようにマイクに向かって凄み出した
「完全に『組織』の注意が向いたぞ、東区の放火でな
結構な数のピエロが削られてやがる
おまけに『通り悪魔』と『淫魔』が忌々しいクソ垂らしやがった
それだけじゃねえ、傭兵共の一部が『組織』の連中と派手に殺り合ってる!
大半の屑共ならともかく、穏健派が本格的に動き出したらどうする積りだ!?
一ケタが出張ってきたらヤバいぐらい不利になるぞ!!」
《 そのための「先生方」だ 「一ツ目」の動きも把握している
放火は必要な措置だ “サーカス”と同じく陽動の一部と考えろ 》
「こんなに早くか!? 前倒ししたのか!?」
《 そうではない だが 当初の計画を変更せざるを得なくなった 》
二人のやり取りを白衣女と傍のピエロは見守るより外ない
《 俺は今「中心」に接続している 「門」が休眠状態にあるのも確認済みだ
「門」を開くには当初の通り生贄が必要だ 封印は汚染されなくてはならない
プロトコルに従い生贄を潰したが 「門」は覚醒の兆候を見せなかった 「教授」の想定に無かった問題だ 》
「アクティベートに失敗したってワケか」
《 「門」は無垢なる者の生贄を欲している 要するに血が足りない 我々はそう考えた
事態の解析には「教授」の助力が要る これを「組織」に気付かれるわけにはいかん
結果を焦り護りが疎かになれば 我々のビズは全て徒労に終わる そのための陽動だ
現時点では 既に「教授」の解析は済んだ ピエロ達には撤退 もしくは自害を命令している
ともあれ 「教授」の解析過程で 問題は血の量では無いことが判明した
どうやら封印の解錠には 生贄の条件が設定されているようだ これが最大のイシューだ
我々では到底対処できる規模のものではない これ以降の仕事は「教授」に任せることにした 》
「ようやく話が見えてきたぜ。でもよ、元々『門』云々は『教授』の問題だろ?
俺らのビズはあくまで『門』の確認まで、後は知ったこっちゃ無えって取り決めの筈だ
ああクソッ……。で、どうなんだよ。もう一つの大問題は。俺らにはそっちのが最重要だろ」
《 無論よ 莫大な報酬が掛かってるからな
そちらに関して大きな変更はない 手筈が済み次第「行動」を開始する 》
「それでどうすんだ。もう24時回ってるが、今からド派手にやんのか?」
《 話を急ぐな 続きがある 夕方頃に「狐」が動いたという報告があった 》
「ああ゛!? おいおいおい、なら今直ぐやんなきゃ駄目だろうが!!」
《 だが 奴が動いたにしては 観測の網に一切の反応が無い
「中心」も 沈黙を守ったままだ 「先生方」からにも確認を要請したが
「狐」の活動を確認できたという 追加報告はまだ上がっていない 》
「あ゛、どっちなんだよ。ガセか?」
《 「先生方」の確認が済んだ後でも 「サーカス」は遅くない
だが 知っての通り 「組織」はこちらの動きをある程度察知している
既に 陽動の中で 全知の観測者が迎撃に向かったという情報も入っている
在野の契約者の中にも 多少骨のある者が頭を回しているようだ
この状況で 「狐」の出方を窺うあまり チャンスをみすみす逃すわけにいかん 》
ジョーは一旦言葉を区切った
モニター上の「Sound Only」のアイコンを、グリングリンに加え白衣女とピエロが凝視する
《 状況判断の結果だ 本日 日没前に 「サーカス」を決行する 》
「ヘッ、散々引っ張りやがって! 全部『組織』に潰されなきゃいいがな!」
グリングリンの言葉に、先程までの苛立ちとは異なるある種の興奮が滲んだ
彼とて今更「組織」の一桁ナンバーを恐れているわけではない
折角の「サーカス」を丸潰しにされないか、そこだけがグリングリンにとっての問題なのだ
《 その点は問題ない 「先生方」にも更なる切り札はある
「教授」の側にも隠し玉があるという話だが これはお楽しみだな
「組織」幹部の動きは気にするな いずれにせよ お前はサイドビズにでも集中していればいい 》
「そうもいかねえだろ、不死身のジョーさんよ
『信念の無えビズは容易にクソ以下に成り下がる』
これ、誰の言葉だったか忘れちまったってか? あ?」
《 お前がそれを言うようになるとは いよいよ今日は血の雨でも降るかな 》
「降らしてやんだよ、学校町によ! 売れる喧嘩は売っとかねえとな、こっちにもプライドがあんだろ? なあ」
《 そっちの仕込みは任せたぞ 》
話は終わった
グリングリンはヘッドセットを投げると、おもむろに白衣女へと向き直った
「ジョーは傭兵を高く買ってるらしいが」
通信での会話とは違い、この場へやって来たときの低音で唸った
白衣女と傍のピエロに緊張が走る
グリングリンは白衣女に一瞥をくれ、件の問題児と少女の契約者へと剣呑な視線を向けた
問題児は依然として携帯越しの相手と耳障りな声色で通話を続けている
「俺は全ッ然信用してねえ。『教授』の義理だから言いたかねえがよ
今夜は『先生方』が結構暴れたみたいじゃねえか、あれも適切な行動だったんだよな?
そうであってほしいもんだ。おい隊長、後は任せたぜ。全『ピエロ』に『サーカス』は本日の日没前と伝えろ」
「はっ、はい! 了解です!」
隊長と呼ばれた、白衣女の傍にいるピエロは慌てたように姿勢を正す
グリングリンは大仰に首を振って骨を鳴らした
「ブギー! スカル!」
「「ここに」」
白衣女の目には突如として新手のピエロが現れた、少なくともそう見えた
グリングリンの両脇には、最初から存在したように二人のピエロが控えていた
両名ともに仮面を装着した者達だ。各々白と黒、気味の悪いデザインの仮面である
「ジョーの言葉通りだ、まだ16時間ちょっとある。取り掛かるぞ」
「「仰せのままに」」
グリングリンは二人のピエロを従えてその場を後にした
最後に一度、白衣女に双眸を向けた
「“スプリンクラー”の最終調整に入る」
その場から立ち去るグリングリン達を胡乱な目つきで追いつつ
問題児の契約者は端末の通話を切り上げた
彼は「七尾」出身の契約者、そして問題児
少なくとも一部外野からはそう呼ばれている
数時間ほど前に南区で女子生徒二名を襲撃し
ビル屋上に拉致した後で拷問と暴行を加えた挙句
内一名の容姿に「変身」して制服を奪い彼女の実家を襲撃
母親をゆっくり捕食する段となったところで「組織」黒服の介入を許し
しかし女子計三名の黒服を牽制しつつ余裕の離脱を決めて此処へ戻って来た者こそ
この契約者、「七尾」ANクラス出身で「けものへん」所属、閏猾二である
彼はまだなお襲った女子の容姿を保持し続けていた
無論女子の制服も着用したままである
「はぁー、あの様子じゃ“先生”も気付いてないっぽいな。まじチョロ」
閏は言い切らぬ間に、定時連絡のために使用した彼本来の地声から
「変身」によって得られた女子生徒の声へと戻した
「あの子の携帯で掛けようとするなんて、かぁクンっぽいうっかりだよね」
「褒めんなって照れんだろぉ。まあいいや“先生”も許してくれたし」
「でもかぁクン、なんで女の子の格好続けてるの? ちょっと複雑な気分だよ?」
「そりゃ明日のためよ、まずはテキトーに男モンの制服手に入れないとだしな」
そのためには、そう彼は少女声のまま続けた
定時連絡の直前まで弄っていた携帯を再び取り出す
これは女子生徒から制服を奪った際についてきたオマケだ
携帯の生体認証などは「変身」能力でどうにでもなるので楽勝である
「檻に囲われた家畜って何やって無駄に生きてんのかある程度掴んどかないと」
「ふぅん、でもあの子の携帯の中身なんかより私の中身を見てほしいなあ」
「気が向いたらな」
閏はソファにだらしなく身を沈め、詰まらなさそうに携帯を弄んでいる
傍らの少女はそんな問題児の肩に頭を預けて半ば抱き着く格好だ
余談だが、このとき遠巻きに彼らを凝視していた白衣女はその光景に絶句していた
元々少女、稲尾まひるは「七尾」の問題児を監視するべく彼の担当となった契約者だ
しかしその実、彼女は完全に篭絡されていた。こうとなっては閏のストッパーとして全く役に立たない
そんな白衣女の胸中を知ってか知らずか
閏は心底どうでもよさそうな雰囲気で言葉を続けた
「『ピエロ』の皆さんも大変なんすねえ、俺らは関係ねえけど」
「パートナーなんだから仲良くしないとだよかぁクン」
「まっ仕事だし文句言わないけどさぁ
こっちは明日の一仕事をクリアすれば全部オッケーだし」
女子携帯の物色に飽きたのか、閏は簡易テーブルに携帯を放った
代わりにテーブルに置かれていたタブレット型の端末を手繰り寄せる
「そーいやマヒルは早渡修寿の顔、知らないんだよな」
「早渡クンのことはかぁクンが全部やってたからね、どんな子なのかな?」
「特別に見せてやんよ、見事なゴミ面だぜ」
話題が今回の任務のターゲットに及んで、閏の声色が俄かに活気づいた
軽快なタップ操作によって画像データが表示される
遠景から撮影されたと思しき学生の静止画だった
写っている男子が着ているのは学校町南区の商業高校の制服だ
丁度、閏が現在着用している女子制服と同じ高校のものである
「こいつが早渡修寿、ANクラスで扱かれたとはいえ能力的には大したことない」
「でも任務的には結構重要っぽいんでしょ、この子」
「佳川の“計画”に必要な駒なんだってさ」
閏は爪先で執拗にタブレット表面を叩いた
彼が早渡修寿というターゲットに執着していることは稲尾まひるも把握している
「ここ数週間、こいつの動きを観察してた
なんで学校町に来たのは知らねえけど、相変わらずクソみたいな性格してるよ
懇ろでもないのに身の程知らずもいいとこ、女に付きまといやがってるだけのゴミ屑が」
「かぁクンはどうしたいの? 殺しちゃう?」
「バァカ、生きててこその利用価値だろ
まぁ個人的には直ぐにでもぶっ殺しときたいゴミだけどさ
てかそもそもこいつは初等部6年の頭で死んでなきゃおかしい筈だったんだよ
余計なことした馬鹿が絶対いるんだよなあ」
そう口にする閏の両眼に剣呑な光が宿る
それは彼の内側で膨れ上がる憎悪と共振していた
閏が“先生”から受けた命令は「早渡の生存確認」だ
これは佳川有佳の意向を受けた任務でもある
閏は学校町到着から程なくして早渡の存在を突き止めていた
だがまだ“先生”には未報告、その点は稲尾も理解していた
「生存確認オッケー、でもそれじゃ足りねえんだよ
早渡修寿の“サンプル”まで回収しないことには片手落ちってやつだからな」
「“サンプル”?」
「これだよ、おら」
閏は制服の内側から取り出したそれを無造作に稲尾へ押し付けた
バイオハザード(生物災害)とへクスハザード(呪詛災害)のシンボルが記された透明袋だ
中には炭化したかのような黒い棒状の破片が収容されている
稲尾は閏から袋を受け取り、袋越しに破片の硬い感触を確かめた
閏はついでにタブレットも稲尾に押し付け、彼女に持たせた
「まじチョロ、ってわけには行かなかったけどさ、いちお回収には成功した
でもこれじゃ足りねえんだよなあ、これだけじゃあ俺が満足できねえんだよ」
閏は間延びした声色だが先程よりも興奮が昂ぶりつつあることに稲尾も気付いている
彼は稲尾の背中から手を回して彼女を抱き寄せるとその胸を揉みしだき始めた
稲尾もそれに合わせて肢体をくねらせ閏により密着する
「あいつの“血”が要る。“先生”もそれが狙いなんだよなあ
佳川は絶対に欲しがるだろうし交渉のカードとしちゃSSレアでしょ、マジで
古い奴なら俺も持ってるけど、今現時点の早渡修寿の血液ってところが大事なわけ」
空いたもう一方の手を咥え、指先を噛み潰した
痛みと己の骨が砕ける感覚とが内なる獣性を刺激する
「まっ前提としてはそうなんだけどさ、その上で?
俺としてはあのゴミ野郎を徹底的に痛めつけないと気が済まないんだよなあ
あいつは自分がゴミだと思い知らなくちゃいけない、生きてちゃ駄目な奴なんだよ
呑気に学生ごっこやって、女に付きまとって。あのカスは一体何様の積りなんだろうなあ」
「ふぅん、そんなに嫌いなんだ。早渡クンのこと」
「嫌いっていうより? ゴミが人間のフリして振舞ってるのが駄目だろって話?
とにかくこいつを殺って血を抜き取る
殺しちゃアウトだけど別に捥ぐなとは言われてないし、ダルマにするくらい余裕だろ」
「あー、かぁクン悪ぅい♥ いまのかぁクンすっごい悪い顔してるぅ♥♥」
きゅうと悪意の滲んだ笑顔を浮かべる稲尾の横で
閏はバキバキと音を立てて己の指を骨ごと噛み砕いていた
足りない、全然足りない、早渡修寿の味わう痛みは俺以上のものでなければ
「あいつはゴミで低脳の屑だけど家畜じゃない
普通のやり方じゃ警戒されるから、“餌”が必要なわけ
おびき寄せるために、マヒルにも分かるよねえ?」
「何匹か候補がいるんでしょ、大丈夫♥ ちゃんと理解してるよ♥」
相方から放たれる憎悪と獣じみた悪意こそ稲尾を魅了してやまないものだ
両手の塞がった閏に代わって彼女がタブレットを操作した
何名かの女子の静止画をスライドする
「まずこの神経質そうな眼鏡と早渡修寿が鼻伸ばしてたこの巨乳女は駄目だ
学校町の契約者で、ANは知らんけど結構動ける
俺が本気出せば幾らでも嬲れるけど作戦的にリスクなんだよなあ
というわけで第一候補は今んとこ、――そっちの子」
閏は顎でしゃくって稲尾の画像スライドを停めさせた
表示された制服女子の静止画に、稲尾の眼が僅かに細まる
セーラー冬服を着た少女が、友人と連れ立って気の弱そうな微笑みを浮かべている
この町の東区にある高校の制服だった
「とおくらせとちゃん、早渡修寿がせとちゃんせとちゃん言ってっから名前覚えちゃったよ
契約者じゃないのは確実。トロそうだけど意外と脚速いよこの子
あと勘が良いのかお友達の入れ知恵か、野良のANを避けて動いてる
理想なのは人目の少ない所に連れ込んでから両脚をへし折って持ち運ぶってとこだけど
上手くいくかちょっと心配だなあ、でも早渡修寿が結構入れ込んでるみたいだしなあ」
稲尾が遠倉千十の画像に冷酷な眼差しを向けることなど知らず
閏は噛み砕いた指先で犬歯を何度も撫で付けている
「やっぱこの子の血が欲しいなあ、犯しながら食ったら最ッ高に美味そう
俺がせとちゃんに成り代わって早渡修寿を騎乗位で舐めプする予定だったけど
どうしよっかなあ、ゴミ野郎をダルマにしてから目の前でせとちゃんレイプしても楽しそうだし」
「ふぅんふぅん、私の前でそんなこと言っちゃうんだあ、不貞腐れるよ?」
「なんだよマヒルたん、嫉妬してんの? 醜いなあ」
稲尾が拗ねたときどうすれば良いのかを閏は熟知している
彼女の首筋に血塗れの舌を這わせ、筋に沿って舐め上げた
嫌がる素振りを見せるがただのフリだ、彼女はこうされるのが好きなのだ
「それで♥ かぁクンッ♥ この子は、どうするのッ♥」
照れ隠しのように稲尾はタブレットを更にスライドした
彼女が閏に見せたのはこの町で最も大きい中学の制服を着た女子の画像だ
「ああ、いよっち先輩ね。早渡修寿がそう呼んでるガキんちょ
第二候補だったんだけどちょっと難しいかもな
この子も面白そうなんだけど、まずどういうわけか人間辞めちゃってる
早渡修寿も結構この子に執着してるっぽいから使えると思ったんだけど
集めた情報でも行動パターンがはっきりしないから厳しいんだよなあ」
「じゃあ狙いは♥ やっぱりせとちゃんなんだねっ♥ んっ、かぁクンくすぐったいよお♥♥」
稲尾はタブレットをテーブルへ放ると閏の肩に腕を回した
彼は今、稲尾の首付け根を丹念に舐めている
彼女はそんな相方の頭を優しく包んだ
「ねえかぁクン、せとちゃん使い終わったら私の好きにしていい?」
「いいよお」
「本当にいい? 壊してもいい?」
「いいよお」
「ありがとう♥」
稲尾は嬉しそうに閏の頭を自分の首に抱き寄せ、薄く微笑んだ
「かぁクン大好き♥♥」
□□■
こんばんわ
今回も遅れました…… そして花子さんとかの人とやの人に土下座でございますorz
【11月】の「狐」勢力が動き出した夕方から日付が変わるまで(便宜上、【1日目】と【2日目】と呼ぶ)の動きを一通り出しました
今回の話の要点は以下の通りです
・日付が変わる前後の時点で「ピエロ」の東区放火作業は終了しました
関与した「ピエロ」は撤退するか自殺しています
・放火の裏で「ピエロ」中枢メンバーは何かをしていました
引き続き何かを続行します
・「ピエロ」は【2日目】の日没前の時点で「サーカス」を開始します
・「七尾」関係者は「七尾」関係者狙いで動きます
「次世代ーズ」はこれ以降
時折【11月】のピエロ【1日目】と【2日目】の話に追加と補足を行いつつ
【9月】から【11月】に至るまでのエピソードを追っていくことにします
「ピエロ」戦への介入は是非ともご自由に
【11月】のピエロの行動は前スレ(「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 Part 12 - SSまとめ速報
(https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1483444899/))の500をベースにより過激に
【2日目】の時点ではピークに達します
>>292
魔弾の黒服さんとサキュバス様方との関係が気になる昨今ですが
>っていうのを分かった地点でヤエルが報告してるでしょう
色々考えてみるといい感じで早まりそうですね……
・「先生」からもひかりちゃんからも暗殺者二名の報告が上がる
(暗殺者らの所属がばれる)
・サキュバス様の魅了に何らかの干渉が入ってる件で報告が上がる
(バックでなんかやってるのがばれる)
……「組織」の初動対策が当初の想定以上に早まる、ということは
意外と被害が抑えられるかな
>至近距離でノーモーションで頭爆発されたら、ユリが巻添え食らいそうだな
頭部爆弾の具体的なカラクリがまだ出てないので今週中に出したいですね
一応自動でも遠隔でもないです
現在、丁度日付が変わった真夜中の時分だ
Pナンバー幹部である女性黒服はテレプレゼンス端末の前に立っていた
今しがた長い認証コードの入力を終えたばかりだ
「ピエロ」による東区放火の報告が入って既に数時間が経過した
現場からは未だ脅威の鎮圧に完了したという連絡は無い
「ピエロ」――10月初頭から学校町内での活動が確認された敵対的都市伝説だ
「組織」は彼らを有害存在であると認定し出現の度に実力で排除に当たってきた
だが今夜の連中の動きはどうだ、今までとはまるで違う
あたかも彼ら自身の存在を知らしめるかのような暴挙に出ているではないか
脅威の排除は言うまでも無い
しかし最優先事項は治安維持、非契約者に対する都市伝説の隠蔽だ
現場からアップデートされる報告に鑑みて、恐らく現場レベルの対処では間に合うまい
暫くの待機の末、M-No.010との通信が確立された
相手の姿が端末に投影される
「今晩は P-No.6、先程の件ですね」
M-No.010、実質的なM-No.0の“代理人”だ
他ナンバー幹部からMナンバー幹部への連絡役でもある
物腰こそ丁寧だが凡そ誠意なるものを感じさせない黒服、要するにいやなやつと噂されている
端末前の女性黒服、P-No.6は内心身構えていた
相手は白を黒と言い包める怪人物であると定評のある黒服だ
他のPナンバー幹部からは十二分に警戒しろと忠告されている
「その通りです、M-No.010。『角隠し』の展開を要請します」
「角隠し」――それは「組織」が学校町中に設置した「結界」の一種である
主に認知欺瞞型の領域を作り出す人工都市伝説で
非契約者が都市伝説やそれに類する存在を認識できなくなる「結界」である
穏健派、中立派が開発を主導し、平時の管理はMナンバーが担当している
その発動には0ナンバーや「上層部」の承認が必要となる筈だが
「緊急的な治安維持が求められています
例外措置として学校町の東区限定で『角隠し』の展開をお願いします」
今回の一件に限った例外措置として「角隠し」発動を要請する
これがM-No.010にコンタクトを取った理由である
都市伝説の脅威を一般人から隠蔽する、これは全てにおいて優先されるべき事項だ
必要な承認データ等は申請要旨と共に前もってM-No.010へ送信している
準備は万端だ、何も不備は無い筈である
「その件なのですが、P-No.6」
モニターに投影された相手は手元のPC端末を操作していた
余談だがM-No.010は通信開始以降、P-No.6と一切目を合わせていない。いやなやつだ
「既に要請を受けて、2時間ほど前に東区への『結界』の展開を実施していますが」
「……は?」
「展開完了についても各ナンバーへ通知済みですよ
二度手間ですか。せめて穏健派内で最低限の報告共有は実施頂きたいものですね」
既に「角隠し」が展開されていた? 2時間前に? つまりこれは無駄足か? 報告は入っていないが?
P-No.6の頭から血の気が引き、脚の感覚が急速に薄れていくが、どうにか踏みとどまる
どう返答すべきだ。M-No.010相手に気取られる真似は避けたい
いやそもそも本当に発動されているのかを確認しなければ。Pナンバー幹部へ連絡を取るか?
P-No.6が遅疑逡巡する中、相変わらずM-No.010はPC端末を注視している
指を滑らせ、数度キーを叩いているようだ
「ちなみにこれはまだ各ナンバーへ報告していないのですが
『角隠し』の発動出力は現時点で平均値の3倍で設定されています
担当チームの採取データが正確ならばこの出力値でようやく実効性を確保できている」
どういうことだ? M-No.010は何を言っている?
「チーム主査の所見によると、学校町外では平均値で実効性を確保しえますが
町内だと時間経過と共に出力値を漸次的に引き上げなければ作用有効値に至らない状況ですね
興味深いことに、『結界』発動の段階からこの事象が観察されています
原因は未だ特定できていませんが恐らく外的能力に起因するものかと」
「そ、それはどういう……?」
P-No.6はとりあえず口を挟むことにした
後ろ手で隠し持った携帯端末からPナンバー幹部へ連絡を取りつつ
それを悟らせまいとM-No.010の話す内容へ問いを試みる
小難しいことを言っているが、要するに「角隠し」の出力を上げないと効果が得られない状況だということか?
「『結界』発動に関して問題が発生しているのであれば、M-No..010! 報告義務があります! ご説明を!」
「そうですね、貴女のような黒服にも理解できるように説明致しますと」
M-No.010はP-No.6へ一切目を向けずPC端末の操作を続けている
話をするときは相手の目を見て話せと教えられなかったのだろうか? いやなやつだ!
「『角隠し』の効果が何らかの能力によって干渉を受けています。原因は目下調査中です」
学校町東区
「どういうことなの……?」
「組織」穏健派所属の若い黒服は困惑の表情を隠し切れない
無理もない
先程まで東区の住宅街に放火しようと火器やガソリンの類を持ち込んでいた「ピエロ」共に異変が生じた
彼らは唐突に動きを停止すると、そのまま自分の体にガソリンを浴びせ投身自殺を始めたのである
その黒服が契約した挙句“呑まれた”のは、伝承存在「コボルト」
不可逆な解釈歪曲の末、金属や鉱物に魔法を掛けて機能不全に陥れる能力に特化している
それ故に銃火器を使用する相手にとっては最悪の相性である
「ピエロ」は銃火器を所持している為
黒服とその相棒の能力によって片っ端から銃火器を使用不能に追い込んでいた。のだが
「どうなってるんだ、おい!」
拳銃を捨ててナイフで首を引き裂き始めた「ピエロ」の一体を凝視しつつ
相棒の「コボルト」が歯を剥き出して唸った
「ピエロ」共が一斉に自殺を始めた
遥か前方にいる「ピエロ」の群れはこちらに背を向けて走り去ろうとしていた
「逃亡するぞ!! 追え!! 追撃しろ!! 攻撃の手を緩めるな!!」
別の黒服が怒号を飛ばす。彼は確か過激派所属だ
「コボルト」の黒服も相棒を連れて追撃に加わろうと
逃走する「ピエロ」に向けて走り出そうとした、そのときだ!
「コボルト」の黒服より前方にいる、「ピエロ」目掛けて光線銃を乱射する黒服の前に
空から新手の「ピエロ」が一体、飛び降りてきたのだ! 恐らく電柱の上にでも潜んでいたに違いない
「ディフェ~~ンス!! ディ~~フェ~~~~~ンス!!」
「貴様っ!!」
黒服は眼前の乱入「ピエロ」に光線銃を乱射する!
全弾「ピエロ」に直撃しているが、全く効いている様子が無い!
「うひー! 博士の防弾チョッキは最高だンな~~!!
おいぃ黒服! よく聞け!! オイラは勇敢だからなあ!!
仲間のために体張れるんだじぇエエ~~!! 食らえ!! 特製『ピエロ』爆弾!!」
一瞬だった、「ピエロ」の頭部が炸裂した!
閃光が視界を焼き尽くし、衝撃が大気伝導で「コボルト」の黒服の全身を叩いた
悲鳴を上げて黒服は転倒、相棒が咄嗟に前へ飛び出し黒服の身を庇う
「大丈夫かおいっ!! クソッ! 黒服巻き込んで自爆しやがった!!」
爆発音により悲鳴を上げる聴覚が相棒の悪態を辛うじて拾い上げる
眼前の惨事に、黒服は倒れたまま戦慄していた
同じく、東区
「それが“スイッチ”だ、押すなよ?」
「……自動で起爆するわけでは無いようだな」
「ピエロ」の引き起こした喧騒は、今や無数の爆発音へと変わりつつある
だが日頃から閑静な東区の住宅街は普段と変わらず静まり返っていた
まるで初めから「ピエロ」の暴動など無かったかのように
当然である
この町は「組織」の手で都市伝説的な脅威から保護されている
「結界」もしくはその他の能力で都市伝説存在を非契約者から隠蔽し
黒服や子飼いの契約者によって害悪となる都市伝説や契約者を駆逐する
それが「組織」常套の手法である
「それが『ピエロ』の、多分どっかに接続されてる。脳みその中かな?」
「いや、恐らく口腔の何処かだ」
だが今夜は珍しく長引いた
加えて「組織」による完全鎮圧ではなく「ピエロ」側が自発的に撤退したようだ
「組織」側が経験の浅い人材ばかりを現場へ投入したのか、「ピエロ」に相応の実力があったのか
あるいはその両方か
いずれにせよ「組織」所属でない彼らにとっては些末事である
「これか、骨に絡みついているな」
彼らは今、東区住宅街の路地裏にいた
この時間は元から人通りが無い場所で、その上「組織」の隠蔽工作も効いている
「これだ、臭いが甘い」
「『爆発キャンディ』、多分ビンゴだ」
「形状的には『わたパチ』のようだな、爆発する『わたパチ』なんて聞いた覚えが無いが」
「まあ……、契約者の力量次第で外見はいくらでも加工できるだろ」
マスクを外した「口裂け女」が今しがた「ピエロ」から摘出した物質を検めていた
装着された外科用青手袋の上に、真っ赤に染まった綿状のそれが乗っている
直下の壁面に半ば立て掛けられるように安置されているのは生殺しの「ピエロ」の一体
周辺には「口裂け女」が生成したと思しきメス数本、そして大小様々なハサミが散乱している
脊髄の各所を執拗に破壊して行動不能にしたとはいえ、確認は手早く済ませたいところだ
やや距離を取ってスーツを着崩した男が佇んでいた
壁面に背を預けたまま“解体”の一部始終を漫然と観察している
「恐らくもう一方は脳みそに接続されてる。デッドマンスイッチさ
こんな芸当が出来る奴は限られてくる。そこらの契約者じゃ無理だよ」
外灯から路地裏に差し込む微かな光を頼りに「ピエロ」の“解体”を行った
連中の奥歯には“スイッチ”が仕込まれており
歯茎に埋められた頭髪状の線は首筋へ仕込まれた『爆発キャンディ』に接続されている
“スイッチ”を入れれば『爆発キャンディ』が「ピエロ」の頭部ごと爆破する。そんな具合だ
『爆発キャンディ』にはもう一本の接続が確認でき、恐らくそれは『ピエロ』の脳と直結している
不発の状況で『ピエロ』が殺害されると同時にこの『爆発キャンディ』も消滅する。恐らくはそういう設計だろう
にしても、情報流出対策として考えても奇妙なほど手が込んでいる
「何故このタイミングで『ピエロ』が」
「さあな、俺にも分からん。社長も考えあぐねてたよ」
「聞江さんの具合は」
「寝込んでる。連日連夜うなされてたらしい」
「ふむ……」
「口裂け女」は男に綿状の『爆発キャンディ』を押し付ける
男は汚物を扱うかのように裏返したビニール袋で受け取った
「『狐』と関わっているとは思えん。『ピエロ』からは奴の気配が微塵も感じられなかった
それに『狐』の戦略からして、こんな『ピエロ』連中を駒とするようなリスクを犯すとも考え辛い」
「社長も同意見だったよ。『狐』の学校町潜伏に当ててやって来たって線はあるかもしれないけど
しかし本気で潰しに来たんならこんな挑発めいた小出しするかね?」
「口裂け女」は暫しの沈黙の末、ハサミを生成した
把手をスピンし逆手に持ち直すと「ピエロ」の脳天へ一気に刺し込んだ
一瞬が震えた直後、「ピエロ」の全身が弛緩する
「ルルとカモミは」
「構わず逃げろって伝えたけどさ、社長をサポートするって意地張ってる」
「敵戦力が不透明すぎる。正直戦り合う真似は避けてほしいんだが」
「アンタからもなんとか言ってやれよ、闇子さん」
「まだやることがある」
青手袋を打ち捨て、マスクを着け直す
男も壁面から身を起こした
「何も起きなきゃいいけどね」
「絶対に良からぬことが起きる。確信がある。だから私が来た」
男と「口裂け女」は路地裏を後にした
遺された「ピエロ」の躯は消滅光に呑まれ、やがて世界に還元された
□□■
>>293
>>魔弾の黒服さんとサキュバス様方との関係が気になる昨今ですが?
ただの知り合いくらいです
サキュバスからの評価は「まあ頑張ってる食べ物」「少し気が利く食べ物」
夢魔の所の奴らは自分より弱くて特に見所無ければ「食べ物」です
がだからと言って食べたりぞんざいに扱ったりはしない
魔弾のサキュバス攻略チャート
実弾用の射撃場使う→ランダムで三尾が来る(取壊し検討の為)→戦闘訓練開始→訓練担当が出れない時に代理で夢魔の部下のサキュバスが来る
・最初の印象が悪いと評価が「生ごみ」からになるので気を付けよう
・機嫌を取るときはユリにはソフトクリーム、ヤエルにはヨーグルトがオススメ
ピエロは逃げるか死ぬか爆ぜるかに別れるのね
わたパチの威力ガチの攻撃用の爆発やん、前衛とか関係ないなこれ、黒服死んだのかな
おまけに何かばら蒔いてまだヤバイことしようとしてるのか
「悪の十字架」
都市伝説に詳しくない諸氏も一度は耳にしたことがあるであろう
この話には様々な類話(バリエーション)が存在するが基本的な筋書きはほぼ一緒だ
ある人が必要に駆られ、あるいは逼迫した状況下で
10時に開業する施設へと向かうことになる、という場面から話が始まる
場合によってはその際、24時間営業している店が存在しない時代の話なり
そのような施設が存在しない僻地での出来事なり、といった補足説明が付くこともある
そして、その人が施設へと辿り着き、貼り紙等で提示された情報を確認したとき
思わずある台詞を吐いてしまう……、というのが共通した流れである
この話は「青い血」、「悪魔の人形」、「恐怖のみそ汁」などといったジョーク系怪談に分類され
あるいは「あぎょうさん」、「そうぶんぜ」、「よだそう」、「火竜そば」などの
言葉遊び系ギャグ都市伝説と共に紹介されることが少なくない
さて、今回の要諦は
お察しの諸氏も多いことであろう
この話は、所謂“実体化した都市伝説”として存在しているのであり
それと契約した能力者が「組織」に所属している、という点である
朝、時刻は8時30分を少し過ぎた頃
少年は一人、近隣のスーパー前に立っていた
まだ幼さの残る顔つきだが、外見的に中学生か高校生くらいだろうか
その日は祝日ということもあってか、スーパー周辺には彼以外の人影は無い
少年は妙にニヤついたまま閉鎖された自動ドアに印字された字面を目で追っていた
「 激安スーパー 10:00 ~ 24:00 」
「ふ、フフ……、ふふふ、フッフッフ……」
休みの日はこうして開店前のスーパー前に待機して過ごすのが彼の習慣であった
そして、そう、ここからが彼の契約者としての異常性を発揮する場面でもある
「フッフッフ、アハッ、アッハッハ! アハッ! アハァァーーッッ!!
そう! 何時だって! 開くのは10時! このスーパー開くの10時!!」
ひとしきり笑った少年は自動ドアに向き直り
おどけるように表情を百面相してその台詞を――口にする!
「開くの10時かぁぁー!! 悪の10時かぁぁーーっ!! 『悪の十字架』ァァーーッッ!!」
するとどうしたことか!
少年の隣に、いつの間にか奇天烈な格好の怪しい者が立っているではないか!
「悪の十字架ー! 悪の十字架ー! 悪の十字架ー! (♦ww♦)」
その者は端正なタキシード姿で、表は黒に裏は真っ赤なマントを羽織るという
ステレオタイプなヨーロッパ型吸血鬼の格好をしているではないか!
そう、この者こそが少年と契約を交わした「悪の十字架」が人として現界した姿
謂わば、「悪の十字架の悪魔」である!
――繰り返すが彼はあくまで悪魔と称し、吸血鬼では無い。外見がいくら吸血鬼寄りだとしても、だ
「悪の十字架ァァーーッッ!! 悪の十字架アアーーッッ!! アッハハハハハハーッ!!」
「悪の十字架ー! 悪の十字架ー! フォハッ、フォハッハ、フォハハーーッ! (♦ww♦)」
少年と悪魔は同時に叫び、同時に哄笑した
何がおかしいのかは傍目には不明であるし、そもそも彼らは怪しい者達と呼ばれるに相応しい状況だ
ここで一度、この少年の能力について言及しておきたい
彼の能力の発動条件は、通常「10時開業の施設の前で、開業前の時間に待機すること」であり
発動する能力とは、「『悪の十字架』を唱えることで、『悪の十字架の悪魔』を召喚すること」である
――そう、たったこれだけの能力である
正直なところ、何の役に立つ能力なのかは全く不明である
ついでに触れておくが、「組織」の調査によると「悪の十字架の悪魔」の身体能力は
平均的な成人男性の身体能力を数段階下回る程度のものであった
正直、少年と悪魔の存在を「組織」も持て余し気味だったようだが
つい先日、晴れて彼らの新たな所属が∂ナンバーへと決定した
「組織」内でも比較的新しく設立された部門である
まあそんなことは彼らにとってさほど深刻な内容でも無かった
少年と悪魔は開店前のスーパーの前に立ち、引き続き高笑いを続けている
彼らが一体どのような活躍を繰り広げるのか、まだ誰にも分からない
□□■
こんばんは
今投下したのはEXの方です
関係者各位、よろしくお願いします
ちなみにですがこの悪魔
別に発動条件を満たさずとも普通に召喚できます
そもそも悪魔の自由意志で消えたり現れたりできます
契約者も把握済みで普通に呼び出したり一緒にご飯食べたりする
「青い血」――初っ端からネタバレするとジョーク系怪談である
筋書きが一定していない分、話のバリエーションは豊富で
「青い血」というワードについても冒頭で意味深に言及されるか全く触れられないこともある
具体的な話の筋としては
お昼には必ずお弁当を食べるようにと、おじいさんがおばあさんに釘を刺される穏当なものから
無人島に漂着して極度の飢えに苛まれるパターン、売店で供される「青い血のジュース」というパターン
さらには教室に広がった青い血を恐る恐る舐めたり、見知らぬ男に無理矢理なにかを飲まされたり、という過激なものまで
要するに枚挙に暇が無い、のだが肝心の締めは全て同じ
最後の「あ~美味ち♥」 → 「あーおいち♥」 → 「青い血♥」なオチがつく
最初はそれっぽい雰囲気で始めるのがコツだが
どう足掻こうとくだらない結末を迎えるため、ギャグ系怪談としてまとめられている
それどころか都市伝説という括りで紹介されることも無いではない
以上が「青い血」の一般的な概要である
さて、都市伝説原理主義者の黒服諸君には残念なお知らせだが
この「青い血」、あろうことか既に都市伝説として実体化してしまっている
そればかりか都市伝説管理集団「組織」の備品としてばっちり登録、管理されている
一体どういうことなのか?
それをこれから紹介するとしよう
まず「青い血」の外見的特徴から説明する
これは大部分が金で構成された、やや歪な形状の小さな杯である
外形はWDH:30x30x70(mm)の直方体に収まる程度のものだ
杯の中はおよそ15mlの青い液体によって満たされている
この液体、「組織」の調査では一応「組成が人間の血液に近い」と判明している
杯から液体が全て除去されると
「杯の中から青い液体が毎分約5ml出現する」という現象が発生する
そしておおむね3分ほどで杯は再び青い液体によって満たされるのである
「青い血」は現在「組織」穏健派のPナンバーによって厳重に管理されており
取り扱いはたとえ実験目的であってもP-No.上位管理者、俗に言う一桁ナンバー複数名の承認が必要となる
また、「青い血」を許可なく各種媒体によって記録すること
さらには如何なる理由あれ「青い血」が記録された媒体を「組織」外部へ持ち出すことは厳禁とされ
違反者は厳罰に処される、そんな規定まで付いている
加えてこの「青い血」、管理区分は「禁忌指定」に分類されている
大多数の流出性器物が分類される「二種指定」をすっ飛ばして堂々の「禁忌指定」である
この時点でお察しの黒服諸君も多いだろうが、こうした取扱既定には「青い血」の特性が深く関わってくる
実は先述した外見的特徴についてだが、通常の方法ではあのように観測はできない
具体的に言うと、一般人を含めた契約者や都市伝説、黒服各位が「青い血」を直接視認した場合
「これまでに飲食してきたなかで最も美味と感じた飲食物」か
「まだ飲食したことは無いが口にすればきっと最高に美味だと感じる飲食物」として認識する
直接視認せずとも「青い血」の数メートル以内に接近した段階で好みの飲食物の香りを感じるようになる
そして、こうした飲食物を何が何でも口にしたいという耐えがたい欲求が生じてしまい
影響を受けた者は手段を選ばずに「青い血」を摂取しようと狂暴化する
では鏡映しにしたり、映像や写真等で見たり、などの間接的に観測した場合は問題無いかと言うと
当然そんな筈は無く、ばっちり影響を受けてしまうことが分かっている
要するに、「青い血」は認識汚染を含む強力な精神干渉能力を有しており直接間接を問わず影響を及ぼす物品なのである
それなら強化系や防護系などの能力の行使や精神干渉に対する高い抵抗値を持っていれば対抗可能かと言うと
多少は影響を緩和できるという程度で、結局一時しのぎにしかならないということも判明している
上述の外見的特徴は、精神干渉に高い抵抗性能を持つ黒服が
特殊な条件付けを受けた上で、脳みそに悪影響を及ぼす薬剤を投与されることで
はじめて「青い血」の影響を回避して観測しえた情報である
一般黒服諸君にはとてもじゃないがオススメできない手法だ
続いて、この「青い血」を摂取した場合どうなるのかについて説明する
――説明する間でも無さそうだが話のついでだ
『これよりPナンバー関係者外秘の歳末器物実験を開始します』
「離せ! 離せ! うわああああああああああああっ!!」
「青い血」を特殊な手法を使用せずに通常視認した場合
視認者が欲する飲食物として認識され、摂取したい強い欲求に駆られる点は先に触れた通りである
『P-No.2020、目の前にある物が何に見えるか答えてください』
「離せ! はな――、あれは……、穏健派の、高級クラブでしか食べれない……、幻の骨付きスペアリブ……!?」
『良いでしょう。研究班、P-No.2020へ「青い血」任意量の投与を許可します』
「了かい、かい口する」
「おい待て! 何する! あ、んごあっ! ああがっ! ああがっ!!」
そして「青い血」を摂取すると、途端に抗い難い強烈な多幸感、恍惚、そして性的絶頂を体感するハメになる
「んんあーっ♥ ああーっ♥ あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛っっ♥♥」
「きょうせい開口を解じょする」
「んごあっ♥♥ ごっごほっげほっ!! あっ♥♥ ああーっ♥♥ おいちいっ♥♥♥ ああっ♥♥おいちいいいっっ♥♥♥♥」
症状はおおよそ10分から20分程度で治まるが
ここで注目したいのは「青い血」を摂取すると強力な依存性が形成される点である
「離せぇぇぇぇっっ♥♥ 離せよぉぉぉぉぉっっ♥♥ もっと食わせろぉぉぉぉぉっっ♥♥」
「予ていどおり、P-No.2020をいち時収ようする」
『許可します、退出してください』
「食わせろぉぉぉっっ♥♥ もっとあるんだろぉぉっ♥ スペアリブぅぅぅっっ♥♥ 食わせろよ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛おお゛っっ♥♥」
一度依存性が形成されると、対象者は狂暴化してあらゆる手段を講じてでも再び「青い血」を摂取しようとするようになる
狂暴化はおおむね24時間前後継続するが、特筆すべきはその間「青い血」以外の精神干渉系能力が全く効かなくなる点だ
継続時間を過ぎると狂暴化自体は鎮静するものの
再度「青い血」を認識した途端に狂暴化して「青い血」を摂取しようと周囲に暴力を振るうようになるのである
ついでに依存性が一度でも形成されてしまうと都市伝説能力や霊薬等で依存性を除去することができなくなる
補足しておくと、先述した外見的特徴の部分で触れたように
「青い血」単純認識による場合でも、「青い血」を摂取しようと狂暴化するが
「青い血」摂取後の狂暴化は、単純認識時の比では無い位に危険度が増す
とまあこうした特性の故に「青い血」は「禁忌指定」として厳重に管理されている、というわけである
幸いなことに「青い血」関連の大規模事故はこれまでのところまだ発生していないが
伝染災害を危険視した幹部達によって取扱方針が制定されることになった
ここまで「青い血」の危険性ばかり説明するような内容になってしまったが、一応この物品にもそれなりの展望がある
「青い血」を特定の薬剤で稀釈し精神干渉系能力の被害者に対して適切に投与することで
依存性や狂暴化を極力抑えたまま、影響を受けた精神干渉を無効化、あるいは大幅に低減できる効用が期待されている
現時点ではまだ実用段階に至っていないが、近い将来にも試験的運用が開始される予定らしい
「組織」研究者の今後の活躍を祈ろうではないか
□□■
こんばんは
ところでwikiまとめですが
整理途中で大問題が見つかりました
移行がうまく行ってなかったのか
IME辞書登録された語句の内、次世代ーズ関連の特定の語句が
登録から脱落した状態で数ヶ月そのままだったことが判明しました
なのでこれまで投下分にばっちりミスが残っていますね
多分聡明な読者の皆様といえど多分気付かれていない自信があります
が、それはそれとして己が赦せないのでセルフお仕置きの時間だ😌
九月
まだ夏の気配を色濃く残しつつも、秋の朱空へと染まりゆく頃
日没の迫る学校町の通学路で、それは起きた
「見せちゃうぞ……、見せちゃうぞ見せちゃうぞンばアアぁぁああーーッッ!!」
「いやあああああああっホントに出たぁぁぁぁアアアアアっっ!!??」
「ああーーっっ!! 変態っっ!! 露出魔だああぁぁぁぁーーっっ!!」
「キャアあああああああああっっ!! もっくんのより小さくて薄汚いよォォおおーーっっ!!」
この町の南区にある商業高校のJKギャルたちが
突如現れた露出狂のおじさんを前に、三者三様の絶叫を上げ、脱兎の如く逃げ出した
「――っふ、ふヒッ! ふ、ふひひ、ふヒンッ!! ふ、うっふふふふ、ふヒッヒ、ヒヒヒッ!!」
その男はティアドロップ型のサングラスと大きなマスクで顔面を隠し
九月だというのにトレンチコートを着込んでいる
そして当然、コートの下は全裸であった
これ以上の説明は不要であろう
「ふヒヒッ!! た、短小って……小汚いって……ッッ♥ アハッ♥ アハハハッ♥♥ ヒンッ♥♥ たまらんっ♥♥」
おじさんはJKの悲鳴の一部に甚く反応しているようで
実際のところ彼は軽く達していた
警察が直ちに介入すべき事案であるが
幸か不幸か、周辺に巡回中の巡査は見当たらないようである
更に付け加えると先程の悲鳴はかなりの音量で響いた筈だが未だ人の気配は無い
「ふふ、ウッフフ、……はあ、最高だった ――さて」
おじさんは全開にしたコートを羽織り直してボタンを留める
そして後方へと振り返った
其処に蠢くは無数の人影だ
何時の頃からか此処、学校町の黄昏時に出現するようになった魔性
それは「逢魔時の影」と呼ばれていた
「ここから先は通行料を頂くが、――よろしいかな」
場に居た「逢魔時の影」は全滅した
おじさんは溜息を吐いた
先程まで「影」であった残りカスが風に乗って消滅する
手刀を引き戻すと、周辺の大気に微かな黒色の稲妻が奔った
そろそろ純情JKの通報を受けたお巡りがやって来る頃合いだろう
彼は高く跳躍
最も近場に位置する鉄塔の頂点へと降り立ち、其処に佇んだ
陽は既に暮れている
夕闇はじきに光無き夜を誘う
薄明の世界に包まれた学校町を見下ろすおじさんは
やがて目を細め、遠景の一点を注視した
「さてさて」
夕陽が死に、大地を夜の帳が抱き始める時分
おじさんの眼は“彼”を捉えていた
「繰り返す飛び降り」と化した少女、東一葉と共に直前まで談笑していたようだが
“彼”――早渡脩寿もまた、この露出狂の男を眼差していた
“彼”はこちらに気付いている
おじさんの双眸は、獲物を見定めたかの如く、さらに細められた
「『七尾』の残党め、この町で一体何を企んでいる」
□□■
アクマの人に土下座でございます
ありがとうございます
本格的に【9月】をやっていきますが、年末は働き詰めが決定した上
年越しを職場で迎えるっぽい💢ので、次来るのは年明けです
皆様、どうぞ良いお年をお迎え下さい
○前回の話
>>209-216
※今回の話は作中時間軸で【9月】の出来事です
○三行あらすじ
東区中学でいよっち先輩の“取り込まれ”をなんとかした (>>178-186, >>197-203)
「モスマン」に襲撃されたけど脱出に成功した(>>209-216)
良かったね!
○時系列
●【9月】
・早渡、「組織」所属契約者と戦闘
・「怪奇同盟」に挨拶へ (アクマの人とクロス)
・東中で花房直斗、栗井戸聖夜から三年前の事件を聞く
その際にいよっち先輩と出会う
その後、診療所で「先生」から「狐」について聞く (花子さんとかの人とクロス)
・東中を再訪、いよっち先輩が自分を取り戻す
「モスマン」の襲撃から脱出
・「ピエロ」、学校町を目指す
・早渡、また「ラルム」へ ☜ 今回はここ!
・∂ナンバーの会合
「肉屋」侵入を予知
●【10月】
・「肉屋」戦 (9月終盤か、10月初頭?)
・「ピエロ」、学校町へ侵入
●【11月】
・「組織」主催の戦技披露会実施
・診療所で「人狼イベント」
・「バビロンの大淫婦」、消滅
・角田ら、「狐」配下と交戦
新宮ひかり、上記交戦へ介入
・「ピエロ」、東区にて放火を開始、契約者らにより阻止される
・暗殺者二名がひかり、桐生院兄弟と交戦 (鳥居の人とクロス)
・「ピエロ」中枢、東区放火組に撤退か自害を指示
今
俺は
何を考えていた?
いけない、ボーッとしてた
顔を上げる
店内の照明が眩しい、慣れるまで目を細めた
俺は今日も「ラルム」に来ていた
学校で面倒な用事で捕まったので、ここに着いたのは夕暮れだ
外の陽はもう落ちてるかもしれない
意味もなく深呼吸する
いよっち先輩はその後、高奈先輩の自宅に居ることになった
結局東区中学から逃げ出して以降は直接会ってはいない
「お嬢は面倒見いいから問題ねえよ」とは半井さんの台詞だが
迷惑かけてないかちょっとだけ心配だ
あの夜、いよっち先輩を連れ出したあの夜
「モスマン」と戦ってどうだった
俺はまるで動けてなかった。昔よりも駄目になってる
立ち回りを振り返れば基礎的な心得すら抜け落ちていた
これはブランクの所為でも、前のように技が編めなくなった所為でもない
腑抜けてる
学校町まで乗り込んできといて、これはまずい
組織の変なのから逃げたときもそうだったけど危機意識が全然ない
やばいよ
大体夏休みは普通に動けただろ俺!?
一体なんでだ、とか考えてる場合じゃないな。今まで以上に自主トレで遅れを取り戻さないと
するとメニューは、だ。やっぱり“尾”を出したり消したりとか、制御を一からやってくしか
「あの……脩寿くん」
「うえっ」
いつの間にかテーブルの傍に千十ちゃんがいた
思わず変な声が出ちまった
「食事をお持ちしました、『野菜と厚切りベーコンのたっぷりラクレット』です
……なにか考えごとしてたの?」
「うん、ちょっと」
「そっか……」
お、気の所為か千十ちゃん何だかもじもじしてる?
「あのね、脩寿くん。あの……、最近は毎日ずっと『ラルム』に来てるよね」
「ッッ!? あああ、あの、迷惑だった!?」
千十ちゃんの言いたいことは分かるぞ
ここんとこずっと「ラルム」にやってきては夕飯食べるようにしてたからな
なんというか、いよっち先輩を探しに行く夜は必ず「ラルム」に寄ってたし
つまり最近はずっと通いっぱなしだ
で、「ラルム」はちょっとお洒落なイタリアンでフレンチのカフェ、だ
店長さん曰く学生さんでも気軽に入れるようなお店にしたいってことだが
正直なところ、俺のような奴がのこのこやってきて良い雰囲気の場所ではない
「ごめん千十ちゃん、さすがに迷惑だったよね」
「あっちがっ違うよ、そうじゃないの! ただ、あの……その」
迷惑では、ない? だとしたら何だろうか?
しかし千十ちゃんは見るからに言い辛そうな感じだ
体の内側で、緊張が高まる
俺は固唾を飲んで千十ちゃんの次の言葉を待った
「あの、あのね。うちって、他のお店より値段が高めでしょう?
だからその、脩寿くんのお財布が、大変じゃないかなって……」
千十ちゃんは内緒の話をするように声を潜めてそんなことを言う
俺は思わず周囲を見回した
よし大丈夫、普段はよく見るおばちゃんズの姿はなく
対面で座る老夫婦と、サマーセーターのお姉さん以外にお客さんはいない
今日の「ラルム」は普段より空いている。まあ平日の夕方だしな
「大丈夫! 全然平気だし! 痛くないし!」
「あの、脩寿くんって、自炊とかしてる? ご飯作るのって楽しいよ!」
「うん、自炊はするよ。独りで住んでると一応やらないとね。ただね」
自炊、というワードに、この半年間が一気に思い起こされた
今年の四月、学校町に引っ越してきてから初めて自炊をすることになった
楽しかった
作れる料理のレパートリーも増えた
これ買う必要あるのかって鍋も買った。本当に楽しかったんだ
でもね
多分、独り暮らしな人間は体験済みなんだろうけど
独りで食べるものを作って、独りで食べるんだよね
これだけだと当たり前のことなんだけど
実際に体験すると
死にたくなる、寂しさのあまり
「というわけで独りで食べてると頭おかしくなりそうになるんだ!」
「そ、そうだったんだ……」
「だから外食のありがたみがよく分かるようになったんだよ!
他人が作ってくれたものを食べられる幸せ! 最高に尊い!」
「だったら、あのね! あの、もし良かったら
私のお家に、夕ご飯、食べに来ない? ど、……どうかな」
「えっ」
千十ちゃん
今、なんて
夕ご飯を? 千十ちゃんのお家で? 食べる?
「うええあああの、そんな! 悪いよ!」
「気にしないで! あの、私のお姉ちゃんも、脩寿くんに会いたがってるし!
それに、あの、久しぶりに色々、脩寿くんともお話したいし、だからあの、 ……だめ、かな」
「駄目じゃないけど! でもほんとに、 いいの?」
「……脩寿くんが来てくれると、嬉しいです」
「是が非でも行きますよろしくお願いします」
正直に白状します
心のなかでは狂喜乱舞してます
顔面もニヤけそうになるのを堪えてます
落ち着け、俺!
落ち着けるか馬鹿!!
「それじゃあ、あの、来週の金曜日はどうかな?
その日ならお姉ちゃんも空いてるから」
「行きます、絶ッッ対に行きます」
「……! うん! ありがとう」
笑顔でそう返す千十ちゃんの顔は
暖色な照明の下でも分かるほど真っ赤になっていた
思わず見惚れそうになりながら、不意に誰かの視線に気づく
キッチンの方からコトリーちゃんと店長さんがこっちを窺っていた
しばらく目が合った後、二人はゆっくり横にスライドして隠れてしまった
待て
どっから見られてたんだ!? 全部!? 全部か!?
陽はとうに暮れて、夜
闇に紛れるようにして
マジカル☆ソレイユは東区路上の一角を調べ回っていた
「えーと、ここでこう来て、こう動くとしたら
ここに抱き枕を仕掛けるとして……あとは、そうね……」
彼女はスクール水着の上から羽織りものを着て
白の長手袋に白のニーソックスという格好だが、傍から見ればコスプレ趣味の危ない痴女だろう
一応彼女に言わせれば、これは契約者としての活動装束なわけだが、傍から見れば危ないコスプレ女である
「あの男、ラルムでも見たから怪しいと思ったけど
毎日のように東区を徘徊してるみたいね、いやらしい
こそこそ変態行為の下調べをやってたってわけね、いやらしい
でも、――この私とメリーから逃げられるなんて思ったら大間違いって理解させてやるわ」
屈んだソレイユはビニールテープを路面に貼り付けている
近場に光源がないため分かり辛いが、既にこの一帯には彼女によって無数のテープが貼られていた
その様子を背後から相棒のメリーが眺めていた
ソレイユの持ち込んだ段ボール箱の上に乗っかったメリーは
むうむう鳴きながらソレイユに対し複雑な眼差しを注いでいた
メリー
「メリーさんの電話」と呼ばれる都市伝説
それが実体化した存在がこの、白い体毛に黒い顔の、羊のぬいぐるみである
そう、羊のぬいぐるみである
原話(オリジナル)では外国製の人形と説明されるが
明言されない場合が多いものの、おおむね「ヒト型の人形」という点は共通している
何故羊のぬいぐるみの姿で実体化したのか謎であるが、今はそれが語られるときではない
「ねー、ソレイユちゃん、ほんとにやるのー?」
「自信があるわ! アイツは明日、必ずこの道を通る!
100%の確立よ! 断言していいわ! 作戦は成功する!」
「むぅー」
「本当に作戦を実行するのか」という意味で訊いたのだが
「本当に作戦は成功するのか」の方で取られてしまった
仕方がない、ソレイユは頑固だし一度決めたら中々考えを変えないタイプだ
仕方がない、のだがそれ故にメリーは心配しているのだ
そもそもソレイユが目を付けた“彼”が、あの変態クマの正体である確証はない
それを確かめてからでも遅くはない筈なのだが、彼女は何故か“彼”こそ変態クマであると信じ切っている
「そういえば学校で千十と話しててね、今度友達を紹介したいって言われて」
「え、お友達ー?」
「そそ、しかも契約者で、男子よ。多分『組織』所属じゃないかもって話
勿論私のことは黙っててほしいってことにしたけど、でもまさか男子苦手な千十がね
珍しいこともあるものだわ」
「男子のお友達ー」
「まあどんな奴なのか知らないけど、ちょっとは興味あるわね
千十が嬉しそうに話すくらいだからさ」
「わたしも会ってみたいなのー」
「そのうちね」
よし、ソレイユは立ち上がった
明日の準備が完了したようである
「あの変態クマに触手で全身を撫で回された屈辱……、一度たりとも忘れちゃいないわ」
彼女の言葉に怒りと決意が籠った
ソレイユの決意は固い。最早メリーが説得する余地がない程に
「明日の放課後決行するわ! いざ爆殺! 変態クマ!!」
「あっ……爆殺はやり過ぎだと思うのー」
□■□
>>330
× 確立
○ 確率
wikiをあらかた整理しました
本編は【9月】を書いていきます
エゴが溜まると突発的に【11月】のピエロなエピソードを投下するかもです
ひとまず次回は早渡脩寿がマジカル☆ソレイユに襲われます
以上です
この日の放課後も俺は東区を散策していた
目的もなく単に歩き回っているだけかというとそれも違う
理由あって大家さんが管理していた物件を片っ端から探し回っているんだが
ネットで紹介されてる以外にも多数の物件を所有していたらしく、これが中々見つからない
越して来てからというもの、歩き回ったり人づてに訊いたりして探索を続けてきたけど
あんまり成果は上がっていない
で、今探しているのは東区にあるという貸家だ
「戸建ての物件」なことと、「大分前に、住んでた一家が全員失踪した」という怪しい曰くくらいしか情報がない
いや特に二番目の、いかにも人の興味を引きそうな話題ならすぐに見つかるだろと思っていたが、甘かった
同じクラスのダチ公曰く、東区にはそういう噂のある物件は意外と多い、らしい
七月からずっと探し回っていたものの、色々あったおかげでまだ特定には至っていない
まあ焦りは禁物だな
前方を歩いている女子高生の背中をぼんやりと眺めながら、そんなことを考えていた
あの制服は東区にある高校か、あの高校って確か自宅アパートに近かったような気もする
正直なところ、商業高校に行く! って決めてなければ、東区の高校へ行くべきだった
若干後悔してるところも少しあるが、まあそんなことはいいか
「狐」の件も花房君達のおかげである程度情報を手に入れたし
いよっち先輩の方も一段落ついたわけだし
「狐」周りで大きな動きがあるまでは、しばらくこっちに専念してもいいかもだ
にしても、さすがに最近はラルムに通い過ぎだったな
足るを知るってやつだ。これからは週一、……いや週二にしよう
というわけで今日はラルムへ行かないけど、大家さんのためにも探索は続けないとな
それに地道に続けていけば、必ず手掛かりにも行き当たるはずだ
角を曲がった
しっかし最近は色々あってまともに東区を散策するのが本当に久し振りだ
ここんとこずっと、いよっち先輩に会おうと中学辺りをうろついてたし
「ぎゃーっ!! 誰かーっ!!」
色々考えていたところに
割って入った絶叫
俺の身体は身構えていた
妙なのは、このとき脳裏を走ったのが
「誰か襲われたのか?」ではなく、「なんだ今のは?」だったことだ
声色がなんというか、わざとらしくなかったか
演技っぽかったというか
ていうか前にもあったな似たようなことが
確かコトリーちゃんが赤マントに襲われてたときか
「誰かーっっ!! あ、赤マントがーっっ!!」
「赤マント」!?
野郎!! またか!?
一瞬、躊躇した
何故だ? 何をためらった?
とにかく、声のする方向へと、走る
いや、でもおかしい
絶叫の響き方からして声の主はそう遠く離れていない
この距離で何かANなり異常があっとしたら
まず何か気配というか“波”を感知できるはずだ
感覚なら既に押し広げている
“波”は感じた
でもこれは「赤マント」のものじゃない
「赤マント」の“波”は、概ね共通して錆び付いたような鉄のニオイ
だが付近から感じるのはむしろ、乾燥したような、灼け付くようなニオイだ
「赤マント」のそれではない
そんなことは現場に辿り着けば分かる
なのに何かが腹の奥底に違和のように貼りついてる
何だこれは? 誘い出されてる、そんな感覚なのか?
迷いを振り切るように
路地に躍り出た
声は確かにこっちから響いてきたはず
だがどうだ
人影も、ANの姿もない
いやでも“波”は強くなってる
これは間違いない
そして、嫌なことに
“波”は前方にある電柱から放たれている
さらに嫌なことに
普通、人間なりANなりから発される“波”ってのは
そもそもが生命的な何らかのエネルギーっつう、確かそんな話だった
だがなんか、前方から感じる“波”はちょっと違う
生命的な要素がこれっぽっちも感じられない
まるで物か何かに、“波”だけが貼りついているかのような“感触”だ
こんな譬えが当を得てんのか微妙だけど
「人間だと思って近寄ってみたら人形でした」みたいな感じだ
なにこのホラー展開
走ってきた所為か鼓動が速まっているのを無理やり無視して
俺は電柱に近づいていく
電柱の裏に、なにか居た
いや、あった
緑色をした、細長いぬいるぐみだ
珍妙なキャラクターだ
身長は1メートルもないサイズだ
そこは重要じゃない
問題なのは
このぬいぐるみの表面を這うように流れる
無数の赤い光だ
間違いない
“波”の正体はこの赤い光だ
ぬいぐるみの頭部は幾重にも巻きつけられるように
さらに身体の表面も不規則な形で
赤い糸のようなものが縛り付けてある
糸の上を脈打つように
赤い光が走っていく
これは、“呪詛”ではない
その判断はほぼ直観だった
そして
この時点でようやく気付いた
このぬいぐるみ自体がANなのでは、ない
ましてや、ぬいぐるみが生きているわけでも、ない
単純に、ただの物に、“波”が、文字通り“貼りついて”いるだけだ
つまりこれは罠だ
咄嗟に振り返った
“黒棒”を出すより前に、速く
誰かが、居た
考えるより先に手が動く
“黒棒”を生成して叩き込もうと、標的をよく見て―― 一瞬、思考が停止した
目の前に居るのは、女の子だった
そしてこの子の格好が、なかなか強烈だった
薄い生地のマントっぽいのを羽織っており
その下からスクールな水着っぽいのを着ている
視線が、泳ぐ
やたら目を引く赤い髪の女の子は
物凄い表情で俺を睨みつけている
一拍遅れて、気付く
彼女は白い長手袋で覆った手で
俺の顔面に棒きれを突き付けている
いや、これ棒きれとかそういうアレじゃない
先程感知した“波”と同種の、しかしぬいぐるみから発されていたそれとは比にならない圧で
俺に対して彼女の“波”が放たれている
棒きれではない
これは、彼女の、“杖”だ
OK、落ち着け俺
彼女の格好は世に言うところのコスプレってやつだ
そこはいい、彼女のちょっと露出高めの容姿に呆気に取られたのはいいとしよう
なんで俺はこの子に睨まれてるんだ
なんで俺はこんなに緊張してるんだ?
どうして鼓動がこうも速くなってるんだ?
まあ待て、落ち着け俺
とりあえずこういうときは話し合いだ
何故に俺をこんなえらい表情で睨んでくるのか、理由を聞き出しても怒られはしないだろう
「観念しなさい、この変態クマ」
俺が口を開くより前に、彼女が言い放ってきた
ほぼ同時に、耳元を高熱の塊がかすめていった
直後、背後から破裂音が響いた
「言っとくけど、余計な真似したら消し炭にするわよ」
低い、冷たい声だった
脅迫するかのような、というより脅迫そのものだ
一体俺が何をした!?
いや、俺は一体何をしてしまったんだ!?
落ち着け、まずは整理しろ俺
俺を罠に嵌めたのはまず間違いなくこの女の子だ
だが罠を張って俺を待ち構えてたにしては、殺意や悪意の類はまったく感じない
そうだな、これはなんというか
純粋な、混じりっ気なしの、文字通りの怒り……だろう多分
そう、彼女は俺に対して怒りを抱いている
それも凄まじいほどの怒気だ
そして彼女は確か、俺を「変態クマ」と呼んだ
当然の話だがこんなワードに心当たりはない
何かを勘違いされてる可能性が高い
そして
彼女が杖から放った灼熱の塊
間違いなくこの女の子はANホルダーだ
そして
背後を振り返る余裕は勿論なかったものの
灼熱の塊は、恐らくブロック塀だか何だかに直撃して破裂していた
そのとき感知した“波”から推測するに、彼女のANは、十中八九炎熱系だ
つまり、俺の、天敵だ
直撃したら、大変なことになる
最悪、死ぬ
「覚悟なさい、アンタが今までやってきたことを後悔させてやるわ」
今まで誠実に生きてきましたと胸張って言えるわけじゃないが
でも少なくとも目の前のこの子をここまで怒らせるような真似はした覚えがない
というか、そもそもこの子とは初対面のはず
クソッ、心臓が滅茶苦茶ドコドコ鳴ってやがる
これはアレだ、「僕はやってません」とか「何のことだか分からないなあHAHAHA」とか
迂闊な言い方したら大変なことになっちゃうやつだ
落ち着け、慎重に言葉を選ぶんだ俺
「ごめん、あの、身に覚えがないんだけど」
「覚えがない。へえ、そんなこと言うの
一言目がよりによってそれ? ふざけてるの?
今まであれだけやりたい放題やって、身に覚えがないっていうわけ?」
うわあ、めっちゃ怒ってる
口振りが冷静な分、怒りがこっちに突き刺さってくる
「そう、とぼけるつもりなのね
あらそう、なら数日前に東区の中学校で
『学校の怪談』の女の子相手を追い詰めて
いやらしいことをしようとしていたのも、身に覚えがないって言うのね?
あの日一緒だった『人面犬』達はお仲間かしら? 今日は独りだから弱腰なわけ? 違うわよねえ?」
待て
今の話は、なんだ?
まさかいよっち先輩のことか?
だとしたら待て、何だその「いやらしいこと」ってのは!?
人面犬ってのは半井さん達のことだよな? どういうことだ!? 身に覚えがないんだけど!?
「独りでもあれだけやりたい放題やってたわよねえ
知らないとでも言うの? いい加減になさいよこの変態!
アンタが私の体を、その、アンタのいやらしい触手で、私のおし、その、……体を撫で回したことも知らないって言うの!?
ヌルヌルのベチョベチョにするって言い放って、エロ……くっ……、あっ、や、やらしいことしようと迫ってきたこともとぼける気ね!?」
「待って本当に身に覚えがないんだけど!?」
OK、誓っていい
かつてセクハラ大魔王などと不名誉な仇名で呼ばれていた暗黒時代ならともかく
「七つ星」を経て学校町へやって来た俺は、誓ってそんな罰当たりなことはしていない
ついでに言っておくとセクハラ大魔王な七尾時代だって、セクハラに及んだのは年上の女性職員だけだ!
というわけで俺ではない!!
完全に人違いじゃねえか!? とばっちりもいいとこだよ!!
とにかくこの女の子にそこんとこを理解してもらわないと
「そう、しらばっくれる気ね。いいわ、いいわよ。そっちがその気なら――!!」
物凄い圧が、俺を叩きつけた
一瞬、体が吹っ飛んだと錯覚するほどの圧だ
ヤバい、呼吸ができない
落ち着け俺、向こうはちょっと話が通じない感じだ
こういうときは一旦逃げないと危ない
「――こっちにも考えがあるわ
あくまでシラを切り続けるつもりなら
本当のことを話したくなるまで、体 の 端 か ら 灰 に し て い っ て や る わ 」
逃げ切れるのか、これ
体が、動かない
金縛りに、掛かったかのように
完全に、“波”の圧に、射竦められた
ヤバイ
逃げないと、この女の子に、殺される
「逃げられるなんて思っちゃいないでしょうね?
言っておくけど、前の私と同じだなんて思ってたら、死ぬほど後悔させてやるわよ」
足が動かない
目を見張る
動けないならせめて、この状況を、どうにかして凌がねえと
「アアヴ・エ・ファイ、ヴァスヴォーシュ・アント (炎の鎖、私の戦意)
アルヴィル・ノッド・アルヴィル―― (強く、より強く――)」
やべえぞ呪文まで唱え始めた
これは脅しでも何でもない
証拠に、女の子の杖を起点に、“波”の圧が増している
このままだと
やられる
殺される
どうする、どうする俺!?
“黒棒”や“尾”では歯が立たない、ならどうする!?
どうする!?
「――って、待って!!」
ほぼ、思考停止しかかっていた俺の頭に
聞き慣れた声が、飛び込んできた
「待って!! ありすちゃん!! 駄目!!」
思わず
その声の主を、目で追った
その子は東区の高校の制服を着ていた
「あり……ソレイユちゃん! 駄目! 待って!!」
その女の子は、俺に杖を向けていた子と俺との間に割って入った
コスプレの子の前に、立ちはだかるかのように両手を広げた
コスプレの子から、俺を守るように
「千十ちゃん!?」
「千十ぉ!!??」
俺と、コスプレの子の声がほぼ重なった
間に入ったのは千十ちゃんだった
でも、なんで千十ちゃんがここに?
「ちょっ、千十!! 何やってるのよ、こっちに来て!!」
「待ってあり、……ソレイユちゃん、脩寿くんと何かあったの!?」
「千十!! ソイツから離れて!! ソイツが変態クマよ!! 早くこっち来て!!」
「変態クマって……」
千十ちゃんは言い掛け、振り返った
俺と目が合う
心臓が、凍り付きそうになった
千十ちゃんの顔は、蒼ざめていた
感覚が押し拡がった今、千十ちゃんの感情が突き刺さるほどこちらに伝わってきた
千十ちゃんが抱いているのは、強い恐怖だ
彼女は、俺から目を背け
コスプレの子へと向き直った
「変態クマって、前に話してた痴漢してくるクマのぬいぐるみのこと?」
「そうよ! だから、早くソイツから離れて!!」
息が、詰まりそうになった
「違うよ、脩寿くんじゃないよ! そんなことをするような人じゃないよ!!」
千十ちゃんの言葉に
一拍遅れて、理解が追いついた
彼女は、俺を庇っているのか
「そうだよね脩寿くん、そんなことやってないよね」
指が、手が、僅かに震える
動ける、もう動ける
千十ちゃんは俺の方を向いていた
その顔にはまだ恐怖が刻まれているし
今にも泣き出しそうな表情だった
俺は、千十ちゃんに応えた
「本当に身に覚えがないんだ、俺はそんなこと、やってない」
「ほら! 脩寿くんじゃないよ! だから……ソレイユちゃん、お願い。杖を下ろして?」
ソレイユ、そう呼ばれたコスプレの子を見た
彼女は千十ちゃんに困惑に満ちた眼差しを向けていたが
やがて、ゆっくりと、俺に突き付けていた杖を、下ろした
「千十、とにかくこっちに来て。早く」
千十ちゃんは躊躇しているのか、再び俺に顔を向けた
喉がカラカラだ
心臓が早鐘のように収縮を繰り返してる
「俺は大丈夫、千十ちゃん。ありがと」
それだけを搾り出した
千十ちゃんは俺の方を見たまま二、三歩踏み出した
それより先にコスプレの子が早足で千十ちゃんに歩み寄った
依然、俺を睨みつけている
「ソレイユちゃん」
「ダメ、まだ信用できない」
杖の代わりに取り出したのは携帯だった
俺は口を強く結んだ
そうでもしないと、全身から力が抜け落ちそうだったからだ
コスプレの子はどこかに電話していた
「メリー」
彼女は俺を睨んだまま
それだけを通話先へ告げると
千十ちゃんごと消失した
「は、あ」
今度こそ本当に、力が抜けた
辛うじて踏みとどまった
完全にあの子の怒気に圧されていた
助かった
千十ちゃんに、助けられた
それを理解するのに、どれくらいの時間が経ったろう
俺はその場に坐りこんでしまった
□■□
早渡脩寿
炎が天敵
直撃すると多分死ぬ
あと毒にも弱い
日向ありす=マジカル☆ソレイユ
変態クマ絶対許さないガール
今回ので気づく人は気づいたかもしれませんが、彼女はある単発リスペクトなキャラです
遠倉千十
ありすとは同級生
スゴい怖がり、契約者同士や都市伝説戦がとても怖い
以上が side.A
次回、早ければ今週末に side.B やります
続きます
「はい!やって参りました!『サキュバスラジオ』第1回目の放送でっす!」
「パーソナリティはアタシ、しがないサキュバスが務めまーす」
「いや普段はこんなテンション高くないの!日のある内は弱いんだけど夜になると強くなるのだ!」
「というわけで今夜はガンガンやっていくぞ!」
「えーさて、このラジオはなんと今回が初放送なんです…が!」
「なんとなんと、始まる前からお便りが既に2通も届いてるわけなんですよ!」
「これはもう読むしかないでしょ!アタシすごく嬉しい!今までこんなにはしゃいだ事多分生まれて初めてかも!」
「じゃあ記念すべき1通目、読みますよ?読むからね?」
「しかも結構長いんだよね、これは気合入るね!」
「えー…っと、ラジオネーム『ハンバーグ大好き』さんからのお便りです」
「『こんにちは、ぼくは小学生です』 おお、小学生の男の子から!
小さい子からのお便りですよ!!小さい子がこのラジオの事知ってるってのは嬉しいね!」
「えーっと、
『親が共働きなので家に帰るといつも一人です
ぼくはマンションに住んでますがとなりの部屋にはきれいなお姉さんがいます』
…あー分かりましたよ、もう分かりました!ハンバーグ大好きくんはお姉さんの事が好きなんだね?
それでこのお便りは恋愛相談ってわけね!アタシはそういうの得意だからね!任せといて!」
「で、続きは、と…
『いつもお姉さんがご飯を作ってくれるので、ぼくはお姉さんのお家で夕ご飯を食べます
お姉さんのお家はくさいです。何のにおいかお姉さんに聞いたらビールのにおいだよと教えてくれました
でもお父さんもビールを飲みますがこんなにくさくないです』
Oh…これは、小学生ならではの…無邪気な一言が乙女心をキズつけるやつですよ!
「『お姉さんは恋人をぼしゅう中だそうです。でもお姉さんは料理は出来てもそうじが出来ないし家の中がくさいです
お姉さんは夜のお仕事をしているのでよく見るとお肌も荒れています。この前はあんまり見ないでって言われました
ある日、お姉さんが実は私はサキュバスなんだよって教えてくれました』
おっ!急になんか、サキュバスラジオっぽくなってきたね!お姉さんのカミングアウト!
普通はね、人間社会に潜り込んで生活してるサキュバスは自分がサキュバスですって言ったりしないからね
住んでる環境とかにもよるけど、相当信頼できるこの人になら全部バレても大丈夫だって思える人にじゃないと、打ち明けないものだし
でも小学生に打ち明けちゃうサキュバス…、これは不思議っちゃあ不思議だけどな……
あとねー、臭いとかお肌が荒れてるとか、女の人に軽々しく言っちゃ駄目だからね!将来大人になった時に女の子に嫌われちゃうぞ?
お姉さんに直接言うんだったら、『たまには掃除した方がいいと思う』とか、『掃除の出来るお姉さんは素敵だと思う』とか
言い方をよく考えてから伝えようね!アタシとの約束だよ?
それで、ええと、続きは…
『ぼくはサキュバスだからくさいんじゃないかって思いました』
関係ないよそれ!?サキュバスは臭くないよ!!むしろいい匂いするんだぞ!!なんでそんな酷い事言うの!?
もう!ちょっとハンバーグ大好きくんはデリカシーが足りなさ過ぎ!お母さんにさ、『女の人にデリカシーが無いって言われた』って言って!
女の子に言っちゃいけない事をね、お母さんに教えてもらいなさい!!
君の事、クラスの女子から嫌われてんじゃないかって本気で心配になってきちゃうよ…」
「『お仕事中にかっこいい男の人が何人も来るそうですが、お姉さんはあまり相手にされなくてさみしいそうです
最近、お姉さんはぼくを見ながら、もう年下の男の子でもいいから早くおよめに行きたいわって言います』
あ……これ良くないやつだ。状況が生々しすぎる…。こっちの心にもきそう…。このお姉さんはいっぱい傷ついてるね…
それで余裕が無くなっちゃってるんだ…。あのね、ハンバーグ大好きくん、そのお姉さんの事はそっとしてあげて?
多分自分でもよくない状況だって分かってるはずだから、多分……。お姉さんがサキュバスならいつか必ず乗り越えるはずだから
うん、そう信じたい…
それで続きは…
『でも料理が出来てもそうじが出来ないし、お肌も荒れてるし、くさい人はけっこんできないと思います
このお姉さんはけっこんできると思いますか? おしえてください』
余計なお世話ッ!!ハンバーグ大好きくん!?そういう事、お姉さんには聞いてないよね!?
駄目だからね!?そういうの一番メンタル抉るやつだからね!!あとお姉さんにはもっと優しくしてあげて!!可哀想だよ!!」
「はー!もう!君はね、お母さんから『デリカシー』って言葉の意味をしっかり習っておくべきだとアタシは思うな!
サキュバスとか関係なくね、女の子の心ってのは強い部分もあるけど弱い部分もあるものなの
女の子には臭いとか、結婚できないとか、そういう言葉を使っちゃ駄目なんだよ?
人を傷つけるような事ばっかり考える大人にはなって欲しくないからね?いい?『デ・リ・カ・シー』!大事だからね!」
「1回目からすごく説教臭くなっちゃった…。あ待って、まだ続きがある
『あと、ぼくがご飯食べてる時にくさいストッキングをぬいでポイする人は[ピーーー]ばいいと思います』
アウト!!なんで[ピーーー]ばいいとか言うの!!それ一番使っちゃ駄目なやつ!!サキュバスだって一生懸命生きてるんだぞ!!
確かにだよ!?ご飯中にストッキングを脱いじゃうのはマナー違反じゃないかなって思うけど!!
他人に軽々しく[ピーーー]とか言っちゃ駄目!!」
「アタシは…、ハンバーグ大好きくんの将来が本気で心配です…
お父さんお母さんがこのラジオ聞いてたら、今度家族会議した方がいいですよ、絶対
あとお隣のサキュバスさんにも優しくしてあげてください。彼女は愛に飢えてるだけなんです。多分…」
「1回目からテンションが下がってしまった…
ええい!無理矢理上げていくからね!気を取り直して2通目のお便りいきます!」
「ええと、ラジオネーム…せ…『聖教会付き特殊部隊≪アビゲイル≫隊員コードネーム≪パウラ≫』
な…長いですねー…。これ、読んじゃって大丈夫なやつかな…?」
「じゃ、じゃあ読みます…
『はじめまして。初めてご相談させて頂きます
単刀直入にお伺いしますが、≪サキュバス≫の弱点と効率的な討伐方法を若輩者の私にご教授頂けますでしょうか
同族だからこそ知りうる情報を公開して頂けますと幸いです』 …待ってなにこれ
ちょっと…なに、これ
『組織』に所属してるようなサキュバスとは違うんだよ!?アタシらみたいなのは戦闘力ゼロだからね!?
戦えないサキュバスだって結構いるんだよ!?アタシも平和思想の持ち主だし!!なんで討伐するの!?やめて!!
人間社会で生活してる大多数のサキュバスは省エネ生活送ってるから!清く慎ましい生活してるから!
男をいきなり襲うみたいな犯罪みたいな事しないから!たまにやらかして警察か『組織』のお世話になるのもいるけど!!
ていうかこのお便り、『同族』って書いてるよね!?えっなに?アタシがサキュバスだって知ってるって事!?
もしかして目を付けられんの!?えっ嘘、えっ!?ヤバイやつじゃんこれ!?えっ?逃げなきゃ…!!」
「と、というわけで、『サキュバスラジオ』はこれで終了です!次回未定!さよなら!!」 【終】
令和になってから本スレがめがっさ重いが何があった…
ところでこのサキュバスは一体何を食って生きているのであろうか
亀だが次世代イベ大体読み終わった
残留思念の契約者とサイコメトリーの黒服が協力すれば狐の居所を特定できたのでは?と一瞬思ったが
お互いの発動条件と発動範囲が明確じゃないし無理ゲーかもな・・・
これは、都市伝説と戦うために都市伝説と契約した能力者達の物語である。
高速併走型と呼ばれる都市伝説は、実に種類が豊富である。
一番の有名どころは、「ダッシュ婆」「ターボおばあちゃん」等と呼ばれる、人間とは思えぬスピードで追いかけてくる老婆の都市伝説だろう。
高速老婆系だけでも、たとえばバスケットボールをドリブルしながら車やバイクに並走しボールを叩きつけててくる「ドリブル婆」。たとえば棺桶を担ぎながら並走した車やバイクの運転手を捕まえて棺桶に入れて火葬場に運ぶ「棺桶婆」。
老婆以外でも、「高速でハイハイをする赤ちゃん」「ミサイル跨る女子高生」「スキップする少女」などなど。ご当地限定の存在もあげていけばキリがないほどだ。
そんな高速系都市伝説の一体、「ホッピングばあちゃん」は苛立ちを隠すことなくそこをはね飛び回っていた。
「えぇい……うるさいんだよ、さっきから!」
ホッピング……取手と足場の付いた棒の底面がばねで弾むようになっており、それに乗ってバランスを取りながら高く飛び跳ねて遊ぶ玩具でもって、「ホッピングばあちゃん」は地面にヒビを入れながら跳ね飛び続ける。
がんっ、がんっ、がんっ、と、ホッピングが地面に着地し、飛び立つたびに地面にヒビが入る。貧相な老婆の見た目であるとはいえ、都市伝説である「ホッピングばあちゃん」が全体重をかけてフライングホッピングアタックをしたならば、その一撃を食らった者はただではすまない。
聞こえ続ける耳障りな音を止めるべく、「ホッピングばあちゃん」は殺意をみなぎらせ続ける。
ーーぱっぱらぱー!ぱらぱっぱっぱっぱー!!!!
耳障りな音の正体は、トランペットだ。真夜中だというのに近所迷惑確定の大音量。それがずっと、鳴り響き続けている。
ぱっぱらぱー!ぱらっぱっぱっぱっぱっぱー!!!!!
いつもの夜のように道路を走る獲物を追いかけようとしていた「ホッピングばあちゃん」の耳に届いたその音は、「ホッピングばあちゃん」の背後から鳴り響き、そして「ホッピングばあちゃん」を追い越していった。
なんという事であろう。「ホッピングばあちゃん」を追い越していったバイク、それを運転している者の後ろに、トランペットを構えた少年が座っていたのだ。
危なっかしくも運転している者に背を向けた状態で座って、ぱっぱかぱっぱか、トランペットを吹き鳴らしているのだ。演奏はめちゃくちゃで、うるさいったらありゃしない。
そもそも、トランペットにしてはなんだか音がおかしい。まるでラッパみたいにけたたましく鳴り響き続けているのだ。
耳障りで、耳障りで、今宵の獲物はあれにしようと決めて追いかけているのだが。先ほどから全く追いつくことができない。
追いかけっこの時間が続けば続きほど、「ホッピングばあちゃん」は苛立ち殺気立ち、冷静な判断ができなくなってきていた。
ただただ、ただただ、トランペットのやかましい音を止めるために跳ね飛び続け。気づくことができなかった。
己が、誘いだされていた事に。
勢いよく、「ホッピングばっちゃん」はマンホールに着地した。その瞬間、びしり、とマンホールに大きくヒビが入り、砕ける。
だからと言って、「ホッピングばあちゃん」がそこに落下していくことはない。マンホールが砕けるのと、「ホッピングばあちゃん」が跳び上がるのはほぼ同時だからだ。
ただ。
「え」
砕けたマンホールの下から。白い、白い……アルビノのように真白で、血のように赤い瞳のワニが飛び出してくることを「ホッピングばあちゃん」は予想しきれてはおらず。
そして、その真白いワニは、まるでアメリカのパニック映画にでも出てきそうなモンスター級の……とてもじゃないが、その小さなマンホールから飛び出してくるには無理があるほどの巨体を誇っていて。
ばくんっ、と。
「ホッピングばあちゃん」は、一口であっさりと、全身のみ込まれて。
ばきり、べきり、ぼきり、と。よく咀嚼して飲み込まれる音は、トランペットのやかましい音でかき消された。
「よく誘い出してくれたねー。助かった助かった。私の「下水道の白いワニ」は、下水道が主なテリトリーだからマンホールから長く飛び出すことできなくってさー」
よーしよしよしよしよしよしよし、と己が契約している「下水道の白いワニ」を撫でてやりながら女はそう言った。
バイクを運転していた男は深々とため息をつきながら、疲れ切った眼差しでもって自身が契約している「トランペット小僧」と共に女をにらむ。
「だからって、囮作戦はきつい」
ぱーぺー。
「トランペット小僧」も、契約者の男の言葉に賛同するようにトランペットを鳴らした。
「下水道の白いワニ」の契約者は「ごっめーん☆」と反省度合いの薄い返答を返す。
「「首無しライダー」や「ゴーストライダー」とバイク勝負できるあなたなら、「ホッピングばあちゃん」相手でも大丈夫だと思って」
「後ろに「トランペット小僧」乗せた状態だときついんだよ!今回こそは死ぬかと思ったわ!!」
ぱぱぱー。
抗議の声もトランペットの音も「下水道の白いワニ」の契約者は華麗に聞き流す。
「だって、あなた達の能力っていつでもどこでもトランペットを出現させて演奏する、ってだけでしょ」
「水の上を歩くこともできるわ。「トランペット小僧」が出現するのは、池の真ん中の水面だからな」
ぱっぱー。
「せいぜいそれくらいでしょう。なら、一番できる事はトランペットの音量を生かしての囮。あなた達が誘い出して私が倒す。最高のチームワーク!」
「こっちの負担があまりにも大きすぎる」
ぱぱー。
「気にしない気にしない。ま、これからもよろしくねー」
あまりにも反省度合いがない「下水道の白いワニ」の契約者。
その様子に、「トランペット小僧」の契約者は静かに、「トランペット小僧」へとGOサインを出す。
「耳元大音量。GO」
ぱぱぱぱーぱぱぱぱぱぱぱ!ぱぱぱぱっぱぱっぱぱーぱぱぱー!!!!!!!
「グワーッ!?耳元大音量グワーッ!!??」
耳元で盛大にトランペットを吹き鳴らされ、悶絶する「下水道の白いワニ」の契約者。
そんな契約者を「下水道の白いワニ」は助けるでもなく、トランペットの音から逃れるように明らかにサイズ的に入れるはずのない下水道への入口へと身を滑らせ、吸い込まれて行くかのように下水土井へと姿を消した。
後日。
「しばらく夢の中でもトランペットの音が聞こえ続けて寝不足」
と、「下水道の白いワニ」の契約者は語ったそうだが。
どう考えても、自業自得なのである。
終
これは、都市伝説と契約しているが特に戦う事はない者の物語である。
酷く肩がこっていた。
いや、肩どころではない。全身がばっきばきのばっきばき。首、否、頭のてっぺんから足のつま先まで全身疲れ切って凝り固まっている。
日々、ブラック企業で社畜として働く彼女の肉体とストレスは臨界点を突破してそろそろ壊れる寸前だった。
「知ってる?〇〇温泉にさ、腕のいいマッサージ師の人がいるんだよ。予約とってやったから温泉でゆっくりしてそのマッサージ師さんに身も心も癒してもらってきなさい。知ってた?「この会社、死体が出勤してる」って噂流れてるんだけど。その噂の原因、どう見てもあんただから。顔色が化粧で誤魔化せないレベルで死人色だから」
同僚からそんな風に言われ、上司に「休ませてくれないとここで死ぬ!!!!!!」と自分の喉にナイフつきつけながら上司を脅して有休をもぎ取り。
温泉で寝落ちして溺れて死ぬという事故を奇跡的に回避し、彼女は今、マッサージ台の上でうつぶせになっていた。
「あぁー……」
と、マッサージ師の男性は彼女の背中に触れると同時、苦笑するような声を出す。
マッサージ開始前の問診して、「日々10時間のパソコン業務。朝から晩までトイレの回数まで制限されてパソコンの前に拘束されている」事や、そのせいで全身凝り固まっているはずだという事を伝えたうえでのこの反応だ。
凝り固まっている、のだと思うのだ。いや、もうその感覚すら当たり前のものになっているので断言はできないのだが。
どうやら、マッサージ師の反応を見るに実際に凝っていたらしい。良かった。大袈裟だと思われたらどうしようかと不安だった。
「確かに、すごい事になっていますね……ここまでのお客様はめったにいらっしゃいません」
わぁなんだか褒められたぞやったー。
背中をさすられてその段階でなんだかぽかぽかと気持ちよく、頭がふわふわしていて頭の悪い言葉が浮かぶ。
たださすっているだけではなく、背中に触れることで凝り具合などを確認してくれているようなのだが。正直、すでに気持ちがいい。なるほどここが天国か。
「ちょっと、本気でいかせていただきます。あぁ、緊張なさらず、リラックスしてくださいね。マッサージは、緊張していますと効果が半減しますから」
はぁい、と自分でも間が抜けていると思う声を出す。
緊張なんてしていない、最初はマッサージ師が若い青年だった上にアイドルも真っ青なレベルのくっっっっっっっっっっっそイケメンだった為に緊張していたが、青年の声は聴いているだけでもなんだか安心して気が抜ける声質で。触れてくる手もいやらしさや下心0のもので安心できる。
それでははじめますね、と優しく声をかけながらマッサージ師は施術を開始する。まずは精神のリラックス度合いについていけないレベルで、まるで外骨格に覆われているかのような固さを誇っていた肩甲骨周りを中心に優しく撫でさすられていく。
ただ撫でさするだけではなく、程よく手のひら全体に力を入れて、指で揉むようなピンポイントではなく手のひらによる面で刺激を与えてくれている。
あ゛ぁ゛あ゛ーーーー、等と温泉に入った時にも出してしまった、だらしないおっさんのような声がまた上がってしまう。
イケメン相手にこんな声を聞かれるという羞恥心は死んだ、もういない。
押し揉まれ、ほぐされ、体はどんどんぐっでんぐっでんになっていく。
「座り仕事と言う事で、お尻からもキてるでしょうから。こちらもほぐしていきますね」
ばっちこーい、と思いながらはぁいと返事をする。これはマッサージなのでお尻に触れられても問題ない。実際、お尻もばっきばきだったらしく、えっちな気分には一切ならずお゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛ーーーー、とまただらしない声が漏れる気持ちよさだった。そうか、お尻も凝るのか。
途中、なんだか指が体の中に入ってきたような気もしたが気のせいだろう。あまりの気持ちよさにそんな錯覚を引き起こす……そんな錯覚を感じるほどに心地いいのだ。
寝そう。いや、だが寝てはいけない。勿体ない。
指が体の中にずぶんっ、と入り込んで、何かしら抜き取られたような気がしたが気のせいだろう。すーー、っとその辺りが楽になっていっている事から察するに、凝りがほぐされる感覚のようだ。
寝そうだけど勿体ない。あぁ、でも眠たい……。
そのうち彼女は睡魔に敗北し、すやすやと眠りに落ちてしまっていた。
にゅぽんっ。ずるずる。にゅぽぽぽんっ。
死体かな?と錯覚するほどに冷たい体(温泉に入った後のはずなのにこれは相当ヤバイ)の客の体から、マッサージ師はそれを引きずり出す。
肩甲骨周りに、腰回りに、尻に、太ももに。指を文字通り沈みこませて引きずりだす。
引きずり出されたそれは、黒くぼやけていてはっきりと姿を視認する事は出来ない。引きずり出すと抵抗するようにじたばたと暴れる。
暴れるそれを、マッサージ師は構うことなく傍らに用意していた袋にぽんぽんと放り込んでいた。袋の中にはもうずいぶんとそれがたまっていて、袋はうごうごと蠢いている。
マッサージ師は、それを「業」と呼んでいた。疲労にストレスを始めとした負の精神が混ざり合い凝り固まった物。勤め人にはどうしても体に蓄積されてしまう「業」。
「温泉街の按摩さん」と呼ばれる都市伝説と契約しているこのマッサージ師は、語られるその都市伝説に出てくる按摩さんと同様に人間の肉体に蓄積された「業」を抜き取る事ができた。
最も、これは契約したマッサージ師当人のマッサージの腕がいいからでもある。この都市伝説は、マッサージの腕前までは与えてくれない。マッサージの腕前自体はマッサージ師が日々勉強し努力して会得したもの。熟練のマッサージの腕前あってこそ「温泉街の按摩さん」の能力は発動し、客を癒すことができるのだ。
……それにしても、本当、疲れ切っているお客さんだ。問診での会話等から察するにブラック企業で日々肉体と精神をすり減らしているのだろう。もはや、自身の状況から脱しようとする思考すら働かなくなっているに違いない。
抜き取っても抜き取っても、「業」が出てくる出てくる。久々の大豊作だ。
マッサージ師は知っている。人間の「業」は限りなく甘美であると。「温泉街の按摩さん」と契約して以降、「業」の味の虜となったマッサージ師にとってこの客はまさに最高のお客様だった。
我慢しきれず、抜き取りたての「業」を一つ、口の中に放り込んで味わう。
あぁ、あぁ、あぁ、なんてすばらしく甘美な味か!!!
この調子で、お客様の「業」を全て抜き取って見せよう。マッサージの腕前がいいと評判が広がれば、この「業」をもっともっと、味わい続けることができるのだから……!
マッサージ前半で寝落ちてしまった勿体なさに膝から崩れ落ちはしたが。彼女は生まれ変わった気分だった。
視界が明るい。思考が限りなくクリアである。晴れ晴れしい、おろしたてのパンツを履いたかのような爽快感。
「よし、明日から頑張るぞ!」
証拠は山のようにある。張り切っていこうじゃないか。
労基へと会社を訴える決意を固めながら、彼女は帰路へとついた。
終
これは、都市伝説と戦うために都市伝説と契約した能力者に後に倒されるであろう者の物語である。
お父さんの顔は覚えていない。と、言うより、多分、見たこともないのだと思う。
少なくとも、ぼくが覚えている範囲では家にお父さんの姿は一度もなかった。
お母さんは、ある日から家に帰ってこなくなった。どこに行ってしまったのか、生きているのか死んでいるのかさえ、わからない。
お母さんが帰ってこなくなって、ぼくはおなかがすいた。家にあった物をなんとか食べていったけれど、そのうち食べられる物は何もなくなった。
あぁ、このまま死んじゃうのかな、と、ぼんやりと思っていた時。目の前に、きらきらと輝くものが飛んできた。
『はじめまして!私はティンカーベル!』
キラキラと輝くそれは、まるでお人形のように小さくて、背中から透明な羽根を生やした女の子。
ティンカーベルと名乗った彼女はぼくの周りをきらきらと飛び回りながら。
『やっと見つけたわ、私のピーター!』
感極まった声でぼくを「ピーター」と呼んで、そうして。
『さぁ、私と契約して!また一緒に遊びましょう、私のピーター!』
ぼくに、契約を持ちかけてきた。
契約して、ぼくは思い出した。
ぼくはピーター。ピーターパン。迷子になった赤ん坊が永遠に歳を取らなくなった、永遠の子供。
妖精のティンカーベルと共にネバーランドで暮らしていて、親とはぐれた子供をネバーランドに導く存在。
すべてを思い出したぼくは、ティンカーベルの魔法の粉の力を借りて、窓から外を飛び出して夜空へと飛び立った。
思い出したからには、ぼくには使命と言うものがある。
だって、ぼくは「ピーターパン」なのだ。親とはぐれた子供達をネバーランドへと案内する役目がある。
ぼくは世界中飛び回って、そういう子供を見つけては保護して回った。そのうち、親とはぐれた子供だけじゃなく、親にいじめられている子供も集めていった。
だって、ぼくは「ピーターパン」。子供たちを守るのはぼくの役目、ぼくの使命。
ネバーランドは子供のための、子供だけの島。永遠に子供だけがいる世界。
この島を守るのだって、ぼくの大事な大事な使命なんだ。
「ぇ、あ……ピーター…………なんで……?」
そう、ここは子供の島!
「っひ、や、やめ、そんな、どうして……っ!?」
ここは「子供だけ」の島!
「なんで、なんで、そんな……そんなのって……」
そう、だから。
「勝手に連れてきて!大人になりそうになったら、こんな…………身勝手じゃないか、この……」
この島には、「大人」はいちゃいけない、
「この、殺人鬼が!!!」
持ち上げた大人を、高い空から叩き落とした。
何か言っていたようだけど無視する。だって、大人はみんな嘘つきだから。話を聞くだけ時間の無駄だ。
おかしいな、なんでだろう。
このネバーランドは子供の島なのに。いつの間にか、連れてきた子供がいなくなって代わりに大人がいる。
なんでだろう、おかしいな。
これは、きっと、誰かの陰謀に違いない。
世界中飛び回って知ったところによると、世界には「組織」「アメリカ政府の陰謀論」「薔薇十字団」「メンバー」「MI6」「第三帝国」「占い愛好会」「首塚」「怪奇同盟」「教会」「レジスタンス」などなど、他にも代償色々と悪い大人達の集団がいるらしい。
きっと、子供たちがいなくなるのは、そいつらの陰謀だ!
ぼくは「ピーターパン」。永遠の子供。子供達をネバーランドに導いて、悪い大人から守護する者。
そんな悪い大人たちの陰謀になんて、負けるもんか。
何度、この島に大人が現れたって、ぼくが全部やっつけてやるんだ!!
子供は何も知らない、わからない、気づかない。
子供は「ピーターパン」と言う「永遠の子供」になって、大人になる機会を永遠に失ってしまって、何も理解できない、わからない。
ただただ、自分は正しいとうぬぼれて、自分は子供たちのヒーローなのだとうぬぼれて、大人達を殺し続ける。
それがどれだけ親しくした相手であっても、大人になれば容赦なく、残酷に殺してけたけたと笑う。
子供は何も知らない、わからない、気づかない、理解しない。
そう遠くない未来、とうとう誰かに退治されるその瞬間までも。
己の咎に気づけることは、ない。
終
これは、都市伝説と戦うためではないが契約している能力者と契約している都市伝説と、とある都市伝説の戦いの物語である。
深夜、街中の空を飛び回るモノがいた。
一見するとコウモリに見えるそれは、しかし、明らかにコウモリとは違うモノだった。
一つ、それは単眼であり。一つ、それは人間より小柄な小人くらいの大きさで。一つ、何よりも。
それの股間には、あまりにも、あまりにも、ご立派なブツがぶらりぶらん、とぶら下がっていた。
こんなコウモリ、自然界には存在していないだろう。むしろしていてほしくない。主に股間のブツが。
エレクチオン状態でもないというのにあまりにもご立派すぎる。小柄な体躯にあまりにも似合わない、不相応すぎるブツ。
風に揺られてぶらんぶららん、股間のブツを揺らしながらそれは夜空を飛び回り、家々の窓を覗き獲物を探す。
とは言え、カーテンを閉めている家も多い為にまともに中を覗けない家も多いのだが。
……見つけた。
不用心にも、開け放たれたままのカーテン。部屋の中にはベッドに入って眠っている青年一人。
それは獲物を見つけた喜びで、空中でくるりと一回転した。
ばさり、青年が眠るその家まで近づいていく。
流石に、窓には鍵がかかっているのだが。それにとってそんなものは障害にはならない。
それの体は、窓の手前で煙へと変化して。するりと細い細い、目に見えない程の細い隙間を通って部屋の中へと侵入した。
まるで硫黄のような匂いを纏いながらも、それは単眼のコウモリのような姿へと戻る。ぶるんっ、と、その拍子に股間のブツが揺れた。
現実逃避としてそれの名称をまだ記していなかったが、いい加減、現実に向き合うとしよう。
それは、「ポポバワ」と呼ばれる、アフリカ東部にある某国の某島にて目撃されたUMAの一種である。
外見特徴については股間のブツに関する記述を除けば大体前述したとおりである。
……いや、もしかしたら、股間のブツについても大体正しい記述かもしれない。
何故ならばこのUMAには、深夜に民家に入り込みその家の男を大きな股間のブツで犯すという話が伝わっているからだ。
伝わる話の通りであれば、股間のブツの大きさも人々の噂に伝えられている通りで間違っていないのだろう。
まぁとにかく、そういうUMAなのである。UMAも都市伝説の一種。都市伝説の性として、「ポポバワ」は言い伝えられている通りに行動する。
すなわち、今、眠っている青年へと襲い掛かろうと、ゆっくり、近づいていく。
青年は眠り続けており、まさに絶体絶命のピンチ。
だが。
そこに、救いの神が現れた!!
「ヘーイ青年!今日こそワタシとDOKIDOKI☆ブルーフィルムタイムでーす!」
勢いよく扉を開け放ち、この発言をかましたのは欧米人と思わしきナイスな筋肉質な肉体を誇る男性だった。
もしかしなくとも、救いの神ではなく不審者2号だった。
突然の闖入者に驚いたのか、「ポポバワ」はギギギッ、と不気味な鳴き声をあげて青年から離れる。
「むむ、まさか、ワタシの愛しい人の元にフラチな不審都市伝説!……良いでしょう」
ばっ、と、筋肉質な男性は服を脱ぎ捨てる。
鍛えられた筋肉がよりわかりやすくあらわになり、そして、その体躯にふさわしいブツがぶるんばるんと揺れる。
「この「エイズ・サム」!愛しい人のタメに不審都市伝説を追い払いマース!」
ギギギギギギギッ!!!!
「ポポバワ」も、やっと見つけた獲物を奪われたくなかったのだろう。
戦闘態勢をとった「エイズ・サム」に対して激しく威嚇のポーズをとる。
互いの股間のご立派様は、戦いの興奮によってエレクチオン。あまりにも凶悪なエクスカリバーと化していた。
かくて、真夜中の決闘が開始された。
こんなあまりにもひど過ぎる決闘が繰り広げられているにも関わらず、「エイズ・サム」の契約者の青年はすやすやと幸せな夢を見続けていて。
このあまりにもひど過ぎる決闘について知るのは、翌朝、ダブルノックダウン状態で倒れていた二体を発見しての事だったという。
終
これは、都市伝説と戦うために都市伝説と契約した能力者達が、一つ、戦いを終えた後の物語である。
「はぁ……っ」
目の前で力尽き、消えていく刃物を持った「トイレの花子さん」を油断なく見つめながら、彼女はがっくりと膝をついた。
激しい戦闘で、体中ボロボロだ。そもそも、彼女の契約都市伝説は、そこまで戦闘向きの都市伝説ではないのだ。
それでもこうして相手を撃破できたのは、彼女の実力故か。
「契約者様、しっかり!」
おろおろと、そんな彼女を気遣うのは、彼女の契約都市伝説である「カマキリ男爵」。身なりのいい服装をした人間より少し大きいくらいのカマキリの姿をしたナイスミドルである。
「カマキリ男爵」との契約によって彼女が得た力は、ピアノの才能と腕をカマキリに変える能力。カマキリの腕のままでもピアノを弾けるという謎の力もある。
とにかく、腕をカマキリの腕に変えて、それで戦闘を行っていたのだ。互いに互いを切り裂き合った結果、生き残った彼女はそれでもボロボロだった。
体中、切り傷まみれ。幸い、傷の一つ一つは深くない為出血はそこまででもないのだが、じくじくと全身が傷む。
「私は平気…………それより、あいつは……あっちは、どうなったんだろ……」
「カマキリ男爵」にそう答えながら、彼女はクラスメイトが戦っているはずの廊下の向こう側へと視線を向けた。
「トイレの花子さん」との戦闘を開始した彼女に、横殴りするように襲い掛かってきた「紫ババア」。クラスメイトは、その「紫ババア」の相手を買って出てくれたのだ。
一対二の状況は流石に厳しかったのでありがたい、が。
「……あいつ、契約都市伝説、戦闘向きじゃないって言ってたのに」
具体的にどんな都市伝説と契約しているのかまではまだ聞けていなかったが、直接、戦闘に使えるようなものではないと聞いていた。
それなのに、彼女を助けようと「紫ババア」の相手を、買って出てくれた。
「助けに、いかないと……」
「け、契約者様。しかし、そのお怪我では……!」
よろめきながらも、彼女は立ち上がろうとする。
助けないと、助けないと。
互いに都市伝説契約者であると判明してから、積極的に交流するようになった彼。他人に対する扱いはぞんざいなようでいて、なんだかんだ都市伝説絡みで相談にも乗ってくれた彼を死なせる訳にはいかないのだ。
なんとか、彼女が立ち上がったところで……人影が、見えた。
「あ、そっちも終わってたか」
「……!無事、だったんだね」
彼だ。服がボロボロになっていて血が滲んで見えるが、こちらよりずっと余裕そうだった。
少しだけ、ほっとする。
「振り切れたの?」
「いや、殴り倒した」
「なぐりたおした」
思わずオウム返ししてしまった。都市伝説って殴り倒せるものだっけ。それとも彼がちょっと逸脱人なんだろうか。
「怪我は……?」
「舐めたから治った。そっちは…………かなり切られたな。手当するよ」
大丈夫、と答えようとして……先程の彼のセリフが、少し引っかかった。
舐めたから治った?
疑問を浮かべた次の瞬間、彼の顔が近づいてきて。
ぺろり、と、頬を舐められた。
「おぎゃっはぁああああああああああああああああああああああああ!!!!????」
「なんだ今の悲鳴」
「契約者様。乙女としてその悲鳴はどうかと」
彼と「カマキリ男爵」からダブルでツッコミが飛んできたがそれどころではない。
むしろ、ツッコミたいのはこちらの方だ。
「い、いいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい、今、何をっ!?」
「舐めた」
即答された。
いや、舐めたって、突然、何をしてくるのか。
パニックになりつつ、舐められた頬に触れて、気づいた。
「え……?傷、治って……?」
その辺りも、切りつけられて血が滲んでいたはずなのに。そこだけ、痛みが消えている。恐る恐る振れれば、切り傷が消滅しているようだった。
「「舐めたら治る」。それが俺の契約都市伝説だ」
「なるほど……できれば、言ってから行動、してほしかったな……!」
心の準備が必要だ、これは。
彼も彼だ。なんの躊躇もなく、人の顔を舐めないでほしい。
いくら恋愛的な意味では意識していないと言っても、クラスでそこそこモテる方である彼にこんな事されたら流石に焦る。
彼女のそんな心境に、彼は気づいてはいない様子でじっと、彼女の様子を観察していた。
「…………本当、あちこちボロボロだな」
「え」
とさっ、と。
優しく、床の上に押し倒される。
「ちょっとじっとしてろ。残りの傷も治す」
「え…………あ、いや、待って、残りの傷も、って」
彼の契約都市伝説は「舐めたら治る」で。
そして、私は全身、ズタボロ切傷だらけな訳で。
それを治す、と言う事は、つまり。
「傷、深くなさそうでよかった。内部まで傷ついてると舐めるの難しいしな。じゃ、まずは腕から」
「いやいやいやいやいや待って待って待って待ってストップ!!!タイム!!!!!いや止まってくれないし!?これくらい大丈夫!大丈夫だかrひゃぁん!!??」
「女の体に変に傷残したくないしな」
「気遣いっ!?でも捨てて!今はその気遣い捨てて!!!ってか、「カマキリ男爵」!ヘルプ!へるぷみーーーーっ!!??」
あちこち、いやらしさは一切なく舐められ、傷を癒されていく。
いやらしさはないというのに、その舌遣いにぞくぞくしたものを感じてしまい、思わず契約都市伝説である「カマキリ男爵」に助けを求めるも。
「…………ごゆっくり。どうか、契約者様をしっかり癒してくださいませ」
「あぁ、任せろ。次、太ももな」
「いやーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!????」
契約者を気遣う「カマキリ男爵」によってGOサインが出てしまい。
夜の校舎に彼女の悲鳴は盛大に響き渡った。
そうして、何か大切なものを失いつつも。彼女の体には傷一つ、残されることはなかったのだった。
終
計測開始
これは、都市伝説から身を守るために都市伝説と契約する事になった能力者の物語である。
べちゃ、べちゃ、べちゃ。
べちゃっ、べちゃっ、べちゃっ、べちゃっ、べちゃっ、べちゃっ、べちゃっ、べちゃっ、べちゃっ、べちゃっ、べちゃっ、べちゃっ、べちゃっ、べちゃっ、べちゃっ、べちゃっ、べちゃっ、べちゃっ、べちゃっ、べちゃっ、べちゃっ、べちゃっ、べちゃっ、べちゃっ、べちゃっ、べちゃっ!!
足音が近づいてくる。べとべとぬちゃぬちゃとした、気持ちの悪い、ぬるぬるとした者の足音が。
追いかけてくる、追いかけてくる。夜の闇の中、それはずっと、私を追いかけてきている。
逃げても逃げても、追いかけられる。助けを求めようにも、走り続けて、苦しくて、うまく声が出ない。
こんな時に限って、誰ともすれ違う事もない。そんなど田舎と言う訳でもないのに、この時間はもう、人があまり外に出歩いていないとでもいうのだろうか。
ちらり、と、肩越しに少しだけ、改めてその追いかけてくる者の姿を確認する。
それは、黒い人間の姿をしていた。全身が黒い。黒々としていてぬめぬめしている。どうやら、黒いオイルのようなものが全身を覆っているらしい。そのせいで足音はべちゃべちゃとしていて、黒い油の足跡を地面に残していっている。黒い姿は闇に溶け込むようで、しかし、赤々と光る眼と、その手に持つナイフの刃が月明かりに照らされて光っているせいで完全には溶け込めていなかった。
私は、それにかれこれ数十分は追いかけられていた。ここまで走り続けられた自分を偉いと思いつつ、そろそろ体力も脚も限界が訪れようとしていた。
不気味なそれにつかまってしまったら、どうなってしまうかわからない。赤々と光るその目は、私を「獲物」として見ているようにしか見えなかった。
なんで、どうして。どうして街中に、こんな、化け物が。
疑問を浮かべたところで答えは出ないし、どうにもならない。足音は、どんどん、どんどんと近づいてきているのだ。
そして。
「っきゃ……!?」
とうとう、脚の限界が来た。無様に転び、転がる。そうなってしまえば、立ち上がろうにも立ち上がる事はできなくて。
「ぁ…………」
黒いオイルまみれのそれが、私を見下ろしてくる。ぽた、ぽたっ、と、落ちてきた黒いオイルが私のコートを汚す。
手が、伸びてくる、オイルまみれの手が。ナイフが、振り上げられる。月明かりがナイフの光に反射する。
向けられるのは、害意、悪意。それと、性欲のようなもの。
このままだと、私、は。
【敵対存在:「オラン・ミニャク」。マレーシア発祥都市伝説が一つ】
こちらのコートをつかみ取ろうとする手の動きが、振り下ろされようとするナイフの動きが。
黒いオイルまみれのそれの動きの一つ一つが、やけにスローモーションのように遅く感じて。自分だけ、時間の流れが変わってしまったような錯覚の中、妙な声が聞こえた。
【全身が黒い油まみれのナイフを持った男。女性を暴行する事件が複数回発生済】
このままだと、私もその被害者の一人になる、と。
聞こえてくる妙な声によって、認識させられる。
……嫌だ。
嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ!!!
そんなの、絶対に、嫌だ!!!!!
【契約を実行しますか?】
その言葉の意味はわからなかった。
けれど、契約とやらをすればどうになかるのではないか、と。
何故か、そう思ったから。
「けい、やくを…………実行……する……!!」
絞りだした声で、叫んで。
直後、ざわり、自分の中を炎が走り抜けたかのような熱を感じた。
熱い、と。自分が燃え尽きるのではないかと言う錯覚は、ほんの一瞬。
その一瞬の直後、私は契約の実行によって何がなされたかを理解し。そして、世界のスピードが元に戻る。
ナイフが、私に向かって、一気に振り下ろされて。それが私に届くよりも先に、私は、その力を解き放った。
「っぎ、ぃ、ぎゃああああああああああああああああああああっ!!??」
それの……聞こえてきた声によれば「オラン・ミニャク」とか言う名前らしい存在が、燃え上がる。
炎は、「オラン・ミニャク」の体を覆いつくしていたオイルに点火し、さらに強く激しく燃え上がる。
「わ、わわわわ……っ」
燃え移ってはひとたまりもない。
みっともなくも、地面をはいずって燃え上がり苦しみもだえる「オラン・ミニャク」から離れた。
「おの、れ……!契約者だった、とは…………畜生がぁあああああ!!!!」
吠え声のような、おたけびのような、断末魔のような。そんな叫び声をあげながら、「オラン・ミニャク」が最後の抵抗と言わんばかりに私に迫る。
その恐ろしさに、悍ましさに、私はさらにその力を。
「人体発火現象」……それの、「間の体に含まれる遺伝子の中には発火性のものがあり、それが突然発火する」と言う説に基づいた都市伝説の力をさらに引き出して、「オラン・ミニャク」をさらに燃え上がらせた。
苦しみの声が聞こえる。油が、人体が焼けていく嫌な臭いが辺りに広がる。
「オラン・ミニャク」を焼いた炎は、幸いにもか、それとも特殊な炎故他に燃え移る事はないのか。「オラン・ミニャク」だけを燃やし尽くして。
後には、人の形をした炭と、真っ黒こげになったナイフだけが、残された。
その残った炭も、風に吹かれてさらさらと崩れて、風に流されて消えていって。
最後には、座り込んだ私だけが、残された。
これが、私が「人体発火現象」と契約したきっかけ。
人を、人の形をした都市伝説だけを燃やし、燃やし尽くす力。
恐ろしい力だとは思う。
けれど、それ以上に恐ろしい存在に襲われた時、身を守れるのはこの力しかないのも事実。
「人の形してないのに襲われたらアウトなんだけどなぁ……」
そういう時は、どうすればいいのやら。
不安に思いつつも、私はこの力をコントロールする術を学んでいかなければ、と。そう認識する。
死にたくないなら使いこなせ。殺したくないなら使いこなせ。
これは、そういう力なのだから。
終
約25分で書きあがり確認
これは、特に契約者を持たない野良都市伝説達の物語である。
真夜中、とある山奥の車道。車も通る事のないその時間帯に、人影が集まっていた。
おかしな光景である。こんな時間に、こんな山奥の車道に人が集まっていて。しかも、その大半が老婆なのだ。
現場に、新たな人影が姿を現す。それもまた、異常だった。それは女子高生。どこからどう見ても、どこにでもいそうな平凡な女子高生。
ひらり、膝丈のスカートを揺らしながらその女子高生はそこに集まっていた人影の群れへと近づいていく。
「……あ!女子高生のお姉ちゃん!こんばんは!」
「こんばんは、マリちゃん」
女子高生に、一人の少女が近づく。マリちゃんと呼んだその少女が飛びついてきたのを、女子高生は優しく抱きとめる。
……マリちゃんの体は、うっすらと透けていた。まるで、幽霊のように。いや、「幽霊」なのだ。このマリちゃんは。それでも、マリちゃんの方から触れたいと思ってくれればこうして触れられる。体温までは感じられないのが、少しばかり寂しいが。
「皆さん、ごめんなさい。すっかり遅くなっちゃって」
「ひっひっひ、気にするんじゃないよ。あたしらが早すぎただけさ」
「無事、辿り着けたならいいんじゃよ。あんたもマリちゃんも、後でババ達がおやつあげるからね」
老婆達はけらけらと笑いながら女子高生達にそう言ってみせた。完全に、自分の孫に接するような態度だ。この老婆達に実際に孫が存在するかどうかは謎だが。
異様な集団は、みな和気あいあいと楽し気に話している。一番多いのは老婆であるが、中には鹿の胴体に老婆の頭部がついた者や牛の頭部をした着物姿の女性等あからさまな異形も存在していた。ある種一番異様なのは赤ん坊か。老婆達にかまってもらってきゃっきゃっと笑っているが、こんな時間にこんな場所にいるのはおかしい、
また、リヤカーや自転車を整備している様子の人物もいた。真剣に、まるで真剣勝負に赴く直前のような雰囲気だ。
そう。
この場に集まった者達はまさに、真剣勝負の為に集まっているのだ。
「すっみませーん!大遅刻ーーーー!!!」
と、現場に新たな人物が姿を見せた。マリちゃんと同じくらいか、少し年上程度のランドセルを背負った少女だ。
正直、こんな時間に外を出歩いていたら大人から咎められそうである。それは、女子高生にも言える事だが。
「もう、みんな来ちゃってる?」
「そうだねぇ。そろそろ、始まりの時間だよ」
「整備してる組が整備する時間があったからえぇじゃろよ……あんたは、乗り物の整備はいらんのかえ?」
「私のは、その場で精製するタイプだから平気です」
わいわいとおしゃべりしつつ、自然と皆横一列に並び始める。真剣勝負の、スタートラインに。
数人の老婆が、異形の姿をした者達が、リヤカーを装備したおばちゃんが、自転車に乗り込んだ真面目なサラリーマンが、赤ん坊が、少女が、女子高生が。
スタートラインに、ついた。
「それじゃあ、今年も私がスタートの合図をしますねぇ」
よぼよぼの、腰の曲がった老婆が競技用ピストルを構える。この老婆もまた、真剣勝負の参加者ではあるが。こうして自ら、スタートの合図をする役目を担っていた。
それくらいはハンデだ、とでもいうように。
「それでは、用意……!」
皆が、構えて。
「スタート!」
ぱぁんっ!と、音が鳴り響くと同時。
一斉に、皆が駆けだし始めた。
「いっ、けぇええええええええええええええええ!!!!」
ごぅんっ!!と、轟音と共に女子高生は己の相棒たるミサイルを呼び出した。それにまたがり、一気に加速し頭一つ抜ける。
「ミサイルにまたがる女子高生」そのものでもある彼女の疾走スタイルはこれだ。
高速走行型都市伝説によるフリースタイル競争において、ミサイルにまたがるのは違法ではない。
「ふぇふぇふぇ、相変わらず派手だねぇ!」
「でもねぇ、ババ達も簡単には負けないよぉ!!」
「ターボばあちゃん」「ジェット婆」は、ぐんぐんと加速し、「ミサイルにまたがる女子高生」の後を追いかける。
「ばあさん達には負けんぞい!」
「そうじゃいそうじゃい!知名度では劣るが、スピードではそうそう負けん!」
「ダッシュ爺ちゃん」「鞠つきじじい」も負けじと並走する。「鞠つきじじい」はその名の通り、鞠をつきながらも恐ろしいスピードで走っていた。
ぽんぽんぽん、と、鞠をつく音は一つではない。
「み、みんな早い……でも、負けないもん!」
マリちゃん……「鞠つきマリちゃん」もまた、鞠をつきながら皆へと追いすがる。その足元を、「高速赤ちゃん」がきゃっきゃっと楽しそうにハイハイで爆走してついてきていた。「高速赤ちゃん」は、これが勝負事であるとわかっているかどうか不明であるが。当人が楽しそうなので問題ないのだろう。
「く、速い……!私だって、80kmは出せているはずなのに……!」
悔し気に「リヤカーおばさん」はそう呟く。少なくとも80km以上のスピードで走れると言われている彼女は、どうにもその語られるスピードに縛られがちだ。都市伝説とはどうしてもそういうものなのである。
その点で言うと。
「うぉおおおおおおおお!!!!!!!!
ひらり、膝丈のスカートを揺らしながらその女子高生はそこに集まっていた人影の群れへと近づいていく。
「……あ!女子高生のお姉ちゃん!こんばんは!」
「こんばんは、マリちゃん」
女子高生に、一人の少女が近づく。マリちゃんと呼んだその少女が飛びついてきたのを、女子高生は優しく抱きとめる。
……マリちゃんの体は、うっすらと透けていた。まるで、幽霊のように。いや、「幽霊」なのだ。このマリちゃんは。それでも、マリちゃんの方から触れたいと思ってくれればこうして触れられる。体温までは感じられないのが、少しばかり寂しいが。
「皆さん、ごめんなさい。すっかり遅くなっちゃって」
「ひっひっひ、気にするんじゃないよ。あたしらが早すぎただけさ」
「無事、辿り着けたならいいんじゃよ。あんたもマリちゃんも、後でババ達がおやつあげるからね」
老婆達はけらけらと笑いながら女子高生達にそう言ってみせた。完全に、自分の孫に接するような態度だ。この老婆達に実際に孫が存在するかどうかは謎だが。
異様な集団は、みな和気あいあいと楽し気に話している。一番多いのは老婆であるが、中には鹿の胴体に老婆の頭部がついた者や牛の頭部をした着物姿の女性等あからさまな異形も存在していた。ある種一番異様なのは赤ん坊か。老婆達にかまってもらってきゃっきゃっと笑っているが、こんな時間にこんな場所にいるのはおかしい、
また、リヤカーや自転車を整備している様子の人物もいた。真剣に、まるで真剣勝負に赴く直前のような雰囲気だ。
そう。
この場に集まった者達はまさに、真剣勝負の為に集まっているのだ。
「すっみませーん!大遅刻ーーーー!!!」
と、現場に新たな人物が姿を見せた。マリちゃんと同じくらいか、少し年上程度のランドセルを背負った少女だ。
正直、こんな時間に外を出歩いていたら大人から咎められそうである。それは、女子高生にも言える事だが。
「もう、みんな来ちゃってる?」
「そうだねぇ。そろそろ、始まりの時間だよ」
「整備してる組が整備する時間があったからえぇじゃろよ……あんたは、乗り物の整備はいらんのかえ?」
「私のは、その場で精製するタイプだから平気です」
わいわいとおしゃべりしつつ、自然と皆横一列に並び始める。真剣勝負の、スタートラインに。
数人の老婆が、異形の姿をした者達が、リヤカーを装備したおばちゃんが、自転車に乗り込んだ真面目なサラリーマンが、赤ん坊が、少女が、女子高生が。
スタートラインに、ついた。
「それじゃあ、今年も私がスタートの合図をしますねぇ」
よぼよぼの、腰の曲がった老婆が競技用ピストルを構える。この老婆もまた、真剣勝負の参加者ではあるが。こうして自ら、スタートの合図をする役目を担っていた。
それくらいはハンデだ、とでもいうように。
「それでは、用意……!」
皆が、構えて。
「スタート!」
ぱぁんっ!と、音が鳴り響くと同時。
一斉に、皆が駆けだし始めた。
「いっ、けぇええええええええええええええええ!!!!」
ごぅんっ!!と、轟音と共に女子高生は己の相棒たるミサイルを呼び出した。それにまたがり、一気に加速し頭一つ抜ける。
「ミサイルにまたがる女子高生」そのものでもある彼女の疾走スタイルはこれだ。
高速走行型都市伝説によるフリースタイル競争において、ミサイルにまたがるのは違法ではない。
「ふぇふぇふぇ、相変わらず派手だねぇ!」
「でもねぇ、ババ達も簡単には負けないよぉ!!」
「ターボばあちゃん」「ジェット婆」は、ぐんぐんと加速し、「ミサイルにまたがる女子高生」の後を追いかける。
「ばあさん達には負けんぞい!」
「そうじゃいそうじゃい!知名度では劣るが、スピードではそうそう負けん!」
「ダッシュ爺ちゃん」「鞠つきじじい」も負けじと並走する。「鞠つきじじい」はその名の通り、鞠をつきながらも恐ろしいスピードで走っていた。
ぽんぽんぽん、と、鞠をつく音は一つではない。
「み、みんな早い……でも、負けないもん!」
マリちゃん……「鞠つきマリちゃん」もまた、鞠をつきながら皆へと追いすがる。その足元を、「高速赤ちゃん」がきゃっきゃっと楽しそうにハイハイで爆走してついてきていた。「高速赤ちゃん」は、これが勝負事であるとわかっているかどうか不明であるが。当人が楽しそうなので問題ないのだろう。
「く、速い……!私だって、80kmは出せているはずなのに……!」
悔し気に「リヤカーおばさん」はそう呟く。少なくとも80km以上のスピードで走れると言われている彼女は、どうにもその語られるスピードに縛られがちだ。都市伝説とはどうしてもそういうものなのである。
その点で言うと。
「うぉおおおおおおおお!!!!!!!!今年こそは負けん!!!!!時速100kmの壁…………超えて見せる……っ!」
「100キロで走る車と並走する自転車に乗ったまじめなサラリーマン風おじさん」もまた、語られるスピードに縛られがちだが。その壁を、気合で突破しようとしていた。
負けられない。そんな意地が彼らにはある。
高速並走型都市伝説達は皆、己のスピードに誇りを持っている。
これは、その誇りをかけた真剣勝負。
「モ゛ぉ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛ォ゛オ゛オ゛!!!!!!」
「ぴぃぇえええええええええええ!!!!!」
「牛女」が、「ぴょんぴょんババア」が、雄たけび上げながら追いすがる。
「負ける、もんかぁ!!!知名度が低くたってねぇ!!!速度は鍛えられるんだよ!!」
「ラン・ラン・ルー♪」
「峠のよつんばい女」が、「首都高ドナ〇ド」が、自分達の前を走る者達を追い抜こうと隙を伺う。
「ふっふーん♪ボクは追い上げ型だー!」
と、ランドセルを背負った「スキップする少女」が、普段、車相手にやっているように対戦相手達をスキップしながらすり抜けて追い抜いていく。追い上げ型、と言うよりも、「車の間をスキップしながらすり抜けていく」と語られているために、前に走っていてもらわないとスピードが出せないともいう。
デッドヒートが繰り広げられていき、ゴールとして決めているラインが見えてきた……その時、だった。
(……!来る!!)
ミサイルにまたがりスピードを上げ続けながら、「ミサイルにまたがる女子高生」は後方からの気配に気づいていた。彼女だけではなく、この勝負に参加しているほぼ全員が、気づいていた事だろう。
スタートの合図を出した、彼女が。
………………来る!
追い上げてくるのは、光。光そのもの。「光速ばばあ」と呼ばれる彼女は光そのもののスピードで駆ける。光の速度故姿は見えない。それでも来ているのだと、わかる。本能が告げてくる。
「これだけ、ハンデもらって…………負けられるかぁああああああああっ!!!!!」
「超えてやる、光の壁だって!!!!」
「これが!わしらの生きざまじゃああああああああああ!!!!!」
「らんらんるー♪」
駆ける、駆ける、ゴールに向かって。
勝負の行方は、参加者達だけが知っている。
終
■単発「夜に駆ける」にてレースに出場していた高速並走型都市伝説一覧
・ミサイルにまたがる女子高生:読んで字のごとく。自動車を追いかけたり追い抜いたりするだけで攻撃はしない。「フロイト的な精神分析では、ミサイルやロケットなどの兵器は男性原理を表す」とも言われているが特に関係はおそらくない
・鞠つきマリちゃん:鞠つきをしている最中に車に轢き逃げされた少女の幽霊が、鞠をつきながら自動車を追いかける
・ぴょんぴょんババア:夜にぴょんぴょん跳びはねる老婆タイプと、鹿の胴体に老婆の頭の2タイプが存在。今回出場したのは後者
・牛女:着物を着て牛頭な四つん這いの女、もしくは牛の胴体に般若の頭の怪物の2タイプが存在。今回出場したのは前者
・高速赤ちゃん:高速でハイハイしながら追いかけてくる赤ん坊。きゃっきゃっ
・リヤカーおばさん:リヤカーを引いたおばさんが時速80kmの車と競争する。北海道出身なので恐らく雪道に強い
・100キロで走る車と並走する自転車に乗ったまじめなサラリーマン風おじさん;名前の長さでは出場者で並ぶ者はいない
・スキップする少女:白いブラウス、赤いスカート、ランドセル姿の少女。岡山の津山インターチェンジ付近にて時速80kmでスキップしながら車と車の間をすり抜けていく
・ターボばあちゃん:細かく色んな呼び名で存在するターボな速度で走るおばあちゃん
・ジェット婆:こちらはジェットな速度で走るおばあちゃん
・ダッシュ爺ちゃん:高速並走型は婆だけじゃない。爺もいる!
・鞠つきじじい:鞠つきしながら車を追いかける爺。マリちゃんとは特に関係ない
・峠のよつんばい女:別名「高速女」。四つん這いで車を追いかけてくる。ゴクミ似とのうわさ
・首都高ド〇ルド:首都高で爆走するドナ〇ド。貴様、何故ここにいる!?
・光速ばばあ;高速並走型最上位。その速さ光のごとし。故に視認不可。ピカピカの実は食べていない
※今回、「バスケばあちゃん」「ホッピング婆ちゃん」「棺桶婆」「ホッピング婆」等、そこそこ積極的に物理攻撃しかけてくるタイプは参加しておりません
■訂正
※今回、「バスケばあちゃん」「ホッピング婆ちゃん」「棺桶婆」「ボンネット婆」等、そこそこ積極的に物理攻撃しかけてくるタイプは参加しておりません
これは都市伝説と戦うために都市伝説と契約し、道を踏み外した者の物語である。
血の臭いがする。焼け焦げた臭いがする。薬品の臭いがする。水の臭いがする。錆ついた臭いがする。腐り落ちた臭いがする。
ありとあらゆる死につながる臭いが、そこには充満していた。
「組織」所属の黒服と契約者、合計二十三人。その全てが絶命し、今、最後の一人もまさに命を散らそうとしていた。
「か、ふ……」
決して、彼らが弱かった訳ではない。討伐任務につくような面子である。弱いはずがないのだ。
「口裂け女」「白い壁の穴」「南極のニンゲン」「ケンタウロス」「青頭巾の火」「ドンドコドン」「ストリガ」「鏡のピエロ」「ジャンパイア」「カシマさん」「エンドロップ」…………どの契約者も、この討伐任務に参加するにふさわしいだけの実力者だった。
だというのに、このざまだ。
生き残った最後の一人、「骨折した箇所が治癒した場合、骨は以前より強くなる」は、契約しているその都市伝説の力で持って全身の骨折を治癒していきながら、なんとか立ち上がる。
じゃきり、皮膚を貫いて飛び出した骨を剣のように構えて、討伐対象を見据えた。
「へぇ、まだやんのか」
討伐対象は、そんな彼を見下し嗤う。
「その出血量で助かるとでも思っているのか?」
わかっている。脇腹から、首筋から流れる血は止まる様子はない。自分の都市伝説で治癒できるのは骨折だけだ。この出血はどうにもならない。
そうだとしても、戦う意思を捨てるつもりはなかった。この場で、この討伐対象を倒さなければいけない。
「……お前は」
「うん?」
「お前は…………お前の中には、何人いる?」
意識が霞んでいくのを叱咤しながらも、そう問いかければ。
討伐対象は、酷く、酷く、凶悪な笑みを浮かべ、答える。
「十五人だな。ま、「組織」の黒服化した契約者三十五人殺してこの人数。なかなかの豊作だと思わないか?」
「…………なんて、事を」
「そういう都市伝説だからな、私の「臓器の記憶」と言う都市伝説は」
嗤う討伐対象、「臓器の記憶」の契約者の背中には、蛾のような羽根が生えている。「モスマン」の契約者の臓器を取り込んで奪った羽根が。
「臓器の記憶」の契約者の左腕は、熊のように変化している。「ファラミーヌ」の契約者の臓器を取り込んで奪った力の一部を引き出している。
「臓器の記憶」の契約者の右手には注射器が握られている。「注射男」の契約者の臓器を取り込んで奪った注射器が。
…………そういう、能力なのだ。移植された臓器の元の持ち主の記憶を引き継ぐだけのはずの都市伝説は、契約者を得た事によって悍ましい進化を遂げた。移植された臓器の持ち主が都市伝説契約者、もしくは都市伝説であった場合、その力の一部を扱えるようになる、と言うものに。
事実に気付いた「臓器の記憶」の契約者は、使えそうな能力の持ち主を次々と殺して臓器を奪っていった。人間の体に収められる臓器の数も種類もたかが知れているはずなのだが、その数をオーバーしても取り込み続けた……もはや、移植ではなく、「臓器を取り込む」事で能力を奪えるように進化してしまったのだろう。
これ以上……これ以上、「臓器の記憶」の契約者に力を与えてはいけない。どんどんと、止めることが難しくなってしまう。
骨の剣を、構える。「臓器の記憶」の契約者もまた、熊のような腕を振り上げ、モスマンの羽根で浮かび上がる。
「欲しいな、「骨折した箇所が治癒した場合、骨は以前より強くなる」…………その力を手に入れりゃあ、私はもっと!もっと強くなれる!」
「そう、簡単に……奪えると、思うなぁっ!!!」
地面が抉れるほどに踏み込み、一気に接近する。心臓の位置を骨の剣が貫くが、「臓器の記憶」の契約者は彼を嘲笑うだけだ。
「心臓一個やられた程度で死ぬとでも?心臓のストックなら、まだある」
取り込んだかずだけ心臓があるとでもいうように嘲笑い。「ファラミーヌ」の熊の腕が、「アクロバティックサラサラ」のスピードでもって彼の胴体へと突き入れられる。
「ぐ……っ!」
「さぁ、お前の心臓も、もらった……?」
がしり、と。骨の剣を生やしているのとは逆手で持って、彼は己の胴体に突き入れられた「臓器の記憶」の契約者の腕を、掴んだ。その手から、ぶきびきと皮膚を貫いて骨が飛び出し、「臓器の記憶」の契約者の腕へと突き刺さっていく。
「…………ただでは死なんぞ!この体の臓器の一部も!お前なんぞには、くれてやらん!!」
骨が、飛び出す。彼の体中から一斉に。彼の体内の臓器をずたずたに切り裂き、引き裂き、使い物にならなくしながら。目の前の「臓器の記憶」の契約者へと、四方八方取り囲み、一斉に襲い掛かる。
突き刺し、引き裂き。骨の檻に閉じ込めるように。そのままさらにさらに、ズタズタに。
流石の「臓器の記憶」の契約者も、その攻撃から逃れようと暴れ出す。
暴れ、骨の刃が、槍が、檻が、へし折られて破壊され。破壊されたはしから再生し、さらに丈夫な刃に、槍に、檻へと変わり、「臓器の記憶」の契約者へと襲い掛かり閉じ込める。
「っき、さまぁあああああああああああ!!??」
「俺が、死ぬまで!!!!お前を、殺し続ける!!!!!」
どちらが死ぬのが先か。
どちらが殺しきるのが先か。
二人の、徹底的な殺し合いは、そう長くは続かなかった。
「は、ぁ…………くっそが。七回は死んだぞ」
ぼたぼたと、全身出血しながらも「臓器の記憶」の契約者は生き延びていた。少しばかり遊びすぎたとほんのりと反省する。
傷も治さず、ぐちゃぐちゃと「骨折した箇所が治癒した場合、骨は以前より強くなる」の死体を漁る。
「……くそが。心臓も、肝臓も、肺も……何もかも、ぐっちゃぐちゃじゃねぇか。これじゃあ使えない。畜生、もったいねぇ……」
血まみれの手を死体から引き抜いた。
あまりにも勿体ないが、仕方ない。思考を切り替えていくしかなさそうだ。
通常であればそう簡単に切り替えられるものでもないかもしれないが。「臓器の記憶」の契約者にとっては容易いことである。
別の意識に、切り替えればいいのだ。取り込んでいる別の意識に。
軽く首を振り、ぶつんっ、と、テレビのチャンネルでも切り替えるかのように、意識を入れ替える。
「…………うん、しばらくは俺が動きましょうか……まずは、傷の手当ですね。えぇと、「蝦蟇の油」、黒服のどれかが持ってないですかね」
今度は、死体が残っているタイプの黒服の死体を漁り始める。あったあった、と「蝦蟇の油」を取り出して、己の傷の治療を始めた。
「ストックしていた臓器をそこそこ使ってしまったのは事実ですし。しばらくは契約者狙いではなくストック補充に勤めるとしましょう。死ににくいという強みは捨てちゃだめですからね」
己の中の他の意識達にそう語りかけるようにしながら、今後について思案する。
……自分は、「早期の記憶」は、増長しすぎない限り最強なのだ。
今後もそうあり続けるために、自分「達」は動くべきである。
「俺「私「僕「わらわ「わしは、最強だ」」」」」
いくつかの声は重なりながら、いくつかの意識は重なりながら、意見がたがえる事はなく。
「臓器の記憶」は、まだまだ殺し続けるだろう。
まだまだ、奪い続けるだろう。
その命を、誰かに散らされる、その瞬間まで。
終
これは、都市伝説と戦う為に都市伝説と契約し、「組織」に所属する契約者の物語である。
「恋人ばかりを襲う、ね」
「どうやらそのようで」
黒服と並び歩きながら、少女は保温水筒片手にふぅむと思案する。
このところ、男女二人連れが何者かに襲われ、負傷したり命を落としたりと言う事件が頻発している。
「組織」の調査によれば、案の定と言うべきか都市伝説の仕業らしい。
「「ザ・フック」。「キャンディマン」とも呼ばれる者。元々はアメリカの都市伝説ですね」
「「キャンディマン」って映画じゃなかったっけ?」
「その映画を元に生まれた都市伝説、と言っていいでしょう。厳密には、元となった話が映画化する際に、アメリカの都市伝説的要素と組み合わせられた、と言うべきかもしれません」
物語の「キャンディマン」……道化師のような服装をして、「可愛い子にお菓子を!」を言いながら飴を中心としたお菓子を売り歩く男。それが子供をさらっていくという、土地の者でないよそ者が子供を連れ去っていく都市伝説の物語。
それと、「精神病院から脱走した、右腕が鈎爪の殺人鬼」の都市伝説。
二つが混ざり合った存在が、「ザ・フック」であり「キャンディマン」。後者で語られている内容では、停車中の車に乗っていたカップルを襲おうとしていた。今回のカップル襲撃も、その逸話故だろう。
「これは偏見かも知れないんだけど。アメリカの都市伝説ってさ、カップル襲う系そこそこ多くない?気のせい?」
「……具体例がぱっとでる訳ではないので偏見とは思いますが」
否定はしきれない、と言うような表情を浮かべる黒服。少女の偏見は、恐らくアメリカ産のホラー映画の影響ではなかろうか。あれでは、カップルは基本イチャついて殺されるのが役目なのだから。
とまれ、少女は保温水筒の紐をくるくると弄びつつ、黒服からもらった情報を頭の中で整理する。
「カップルを主に襲う、って事は。おびき出すとしたらカップルっぽい男女で、って言うのが一番?」
「そういう事になるのではないでしょうか。たまたま遭遇するよりは、戦闘力を持つ者が囮となっておびき寄せるのが、一番確実で安全ですので」
「……そうなると、あたしの出番はなさげかな」
少女の言葉に、おや、と黒服は彼女を見つめた。
何よ、と怪訝そうに少女は黒服を見つめ返す。
「何故、そのようにお考えに?」
「だって、カップルっぽい男女でおびき寄せるんでしょ?なら、あつぃ、出番ないじゃない」
恋人いないしー、と、ぶんぶんぶぶん、保温水筒を振り回す少女。なかなかに丈夫な水筒のはずなので、ぶつかると痛いので大変と危ないから止めてほしいと黒服はひっそり思う。言っても止めてくれなさそうなので黙っているが。
「あくまで、カップルに見えればいい、と言う事ですし。お呼びがかからない、と言う事はないでしょう。備えていてくださった方がありがたいです」
「そういうもん?」
「そういうものです」
カップルのふり、さえできればいいのだ。ならば、この少女と同じくらいの年頃に見える契約者と一緒に行動してもらうという事はありえる。出番がない、と言う事はないだろう。
……何故だか、少女が複雑そうな表情を浮かべた気がしたが、気のせいだろう。ただの見間違いだ。
伝えるべき事を伝え、では、と少女と別れようと、したところで。
ひらりっ、と。
出現した漆黒のマントが、黒服と少女を包み込む。直後、二人の姿は消えて。一瞬前まで少女がいたその位地に振り下ろされた鈎爪は獲物を捕らえる事なく空振る。
「噂をすれば影、ですね」
漆黒のマントを纏った黒服は、少女を狙った下手人、「ザ・フック」を睨んだ。
まさか、自分達の元へとやってくるとは思わなかった。同じ感想を、黒服のマントの内側に包まれた少女も抱いたようで。
「なるほど、結構節穴みたいね。あいつ」
「そのようで」
鋭い、赤黒くさびた汚れがこびりついた鈎爪が執拗に自分達へと襲い掛かる。
ひらり、ひらりと、黒服は人間時代に契約していた「黒マント」の力による短距離転移を活用してそれを避けていた。本来の「黒マント」のテリトリーは学校のトイレだが、契約によって無理矢理、派生元である「赤マント」の「人さらいの赤マント」に似た力を引き出しているのだ。
とは言え、やはり本家と比べれば転移能力に関しては赤子に近い。攻撃を避ける事には使えるが長距離移動には使えない程度のもの。それでも、こうした戦闘では十二分に使える力。
「あなたは……」
「こっちは、いつでも使える。見ればわかるでしょ」
保温水筒を手に、少女は笑う。黒服に片腕で抱きかかえられた状態のまま、保温水筒の蓋を外し始める。
「あいつの足を止められる?」
「まぁ、やってみましょう」
流れるように連続して鈎爪で攻撃してくる「ザ・フック」を見据え。黒服は「黒マント」の力を発動する。
「腕と脚、どちらが欲しいですか?」
黒服の問いを、「ザ・フック」は聞いていた。
そのうえで、攻撃の手は止めず、答える。
「そうだな、まずは、脚をよこせぇえええええ!!!!!!!」
足を奪えば、この社会人と女子高生のカップルを徹底的に痛めつけて、弄んで、苦しめて、殺せる。
そう考えてのあまりに身勝手なその返答に。
「了承いたしました」
黒服はにこり、微笑んで。
男の悲鳴が、響き渡った。
「脚、いただきましたよ」
「ザ・フック」が答えたその直後。一瞬で。黒服は「ザ・フック」の脚をもぎ取っていた。
それが、「黒マント」としての力なのだ。「赤マント」の派生である「黒マント」は、好きな色を聞いてくる「赤マント」と違い、聞くのは体の部位。そして、答えたその部位をもぎ取って[ピーーー]、と言われているのだ。
その気になれば心臓等を質問に混ぜて、心臓をもぎ取っての一撃必殺も狙えなくもないが。流石に警戒されるのか心臓をもぎ取れたためしはない。人間時代も、黒服になってからも。
とにかく、「ザ・フック」の脚をもぎ取った。動きを封じた。そうなれば、もう、こちらのもの。
「ありがと黒服。それじゃあ」
保温水筒の蓋を開けて、少女はにやり、残酷に、愛らしく、微笑んで。
「ばいばぁ~い」
中に入っていたお湯を全て、「ザ・フック」に振りかけた。お湯をかぶった「ザ・フック」の悲鳴が止まる……ぼぅっ、と、呆けたような。そんな表情になって。そしてその体は急速に衰弱していって。
衰弱しきった命は静かに消え失せて、その存在毎、消えた。
「事前準備が必要とはいえ。やはり強力な力ですね。あなたの「お風呂坊主」の力は」
「正直、あなたの「黒マント」の方が強いと思うんだけど」
面倒なのよこれ、と少女はぼやく。
「お風呂坊主」は、風呂の湯をかけた対象のありとあらゆる欲望を奪い取り、衰弱死させる都市伝説だ。一応、都市伝説本体も存在するのだが。出現時間が夜八時の風呂場と言うあまりにも限定されたものなのでめったに顔を合わせない。絶対にその時間には入浴しないからだ。最初に出会った際に「お風呂坊主」に裸を見られてぶん殴って以来、少女はずっとそうしている。
逸話通りの力を振るうために必要なのは、風呂の湯。なぜか、自分が入浴した後の風呂の湯じゃないといけないのが一番困る。本当困る。毎度、入浴後の風呂の残り湯を念の為取っておかなきゃならない身になってほしい。
「とにかく、お疲れ様でした。後処理はお任せください。お仕事料は後日お支払いします」
「は~い。期待してるわね」
まぁ、危険は去ったのだ。一仕事終えた少女は、晴れやかな笑みを浮かべたのだった。
終
「明けましておめでとうございます!! 早速ですが初日の出を見に行きませんか!?」
「あけおめ、アポなしでいきなりやって来て言う事がそれかよ」
「いいでしょ! 貴方どうせ年末年始暇ですし! それに独身の一人暮らしですし! 独身ですしおすし!」
「勝手に俺を暇扱いするな! 独身を強調するな! まだ学生だぞ!?」
日付が変わって数時間経ったあたりで、担当の黒服が突然訪問してきた
この正月はいつも通りネット配信を眺めつつ食っちゃ寝してヌクヌク過ごす予定だったのに
何が悲しくて「組織」の仕事仲間と元旦を過ごさなきゃなんねーんだ……てか黒服のテンション高過ぎだろ
「さあさあさあ! 車出しますから着替えて着替えて! 今年は絶景のスポットを見つけてあるんですから!」
「うわおい押すな押すな! 炬燵から俺を押し出すんじゃねえ!」
数時間後
ちゅうぶちほー、某所
俺は黒服にほぼ無理矢理連行され、車に揺られてここにやって来た
遠方に富士山が確認できる。成程、確かに初日の出を拝むには持って来いだな
「いいでしょ! いいでしょ!? 人も居ないし! 誉めてくれてもいいんですよ!?」
テンションと距離感が若干ウザい黒服の存在を除けば、の話だが
コイツ普段からこんな感じだったか?
「あ! ほらほら! もうそろそろ日が昇りますよ!」
「いや待て、まだ日の出の時刻じゃなくね?」
黒服の指差す先には確かに赤い陽光のようなものが富士山の端から揺らめいている
だがまだ空全体は暗いままだし、俺が言った通り日の出まではまだ数時間ある
「あれ? あれっ!? な、なんだか様子がおかしいですね……!?」
「おいおいおいおい、様子がおかしいなんてもんじゃねえぞ!? 何だあれは!?」
地平線からゆっくりと、しかし確実に昇り始めたのは、日の出なんてもんじゃない
もっと赤い赤い、禍々しい何かだ! 全体がマグマのように煮え滾り、熱を帯びた光源が徐々に姿を現しつつあった
「なんですかアレ!? ねえなんですかアレ!? かっ、顔がありますよ!?」
「うるせえ離せ! どさくさに紛れて首を締め上げんじゃねえ!!」
『うっふっふ…… ふっふっふ…… ふっハッハッ……! アーッハッハッハ……!!』
なんだこのエコー掛かった魔王笑いは!? 方向的に光源から聞こえるようだが!?
『尺の都合で早速真名解放せねばならんが、そうよオレこそ! 【空亡】そのものよ!
恐れよ! 慄け! ( ゚∀゚ ) アーッハッハッ八ッ八ッノヽッノヽッノヽッノ \ / \ / \ 』
「なんだあのさいたま(AA)の劣化コピーめいた太陽は!?」
「【空亡】!? いま【空亡】って言ってましたよね!?」
【空亡】
それは日本の誇る重要文化財「百鬼夜行絵巻」より生まれ出でた創作上の怪異である
いや、厳密には絵巻に描かれたとある場面の拡大解釈から生み出された怪異と言っていい
有象無象の魑魅魍魎共を退散させるほどの力をもつ【夜明け】、その真っ赤な球体が実は怪異なのでは? という誤解から生じたとされるソレは
曲解や拡大解釈、ネット上での紆余曲折を経て各種創作作品に登場する強キャラクラスのクリーチャーとして君臨するに至ったのである! なんならラスボス張ってる作品すらあるやべーヤツだ!!
「どうすんだよ!! あんなんどうやって対処すんだよ!!」
「契約者さん落ち着いてください! 私が『組織』に応援を呼びます! その間、なんとかして凌いでください!」
「えっ? 俺がアレをなんとかすんの? 一人で?」
大慌てで電話を始めた黒服を前にしばらく固まる
再び【空亡】の方を見ると、やっこさんは相変わらずバカ笑いを大音量で響かせながら徐々に高度を増していた
これもうヤバくね? 隠蔽できるレベルなのこれ? 大丈夫?
呆けること数秒
いっけね、俺がなんとかしないといけないんだった
そうなるともう仕方がない、俺が旧年中に新調した日本刀の出番だろう
こんなこともあろうかと、防寒コートの下に忍ばせてこの場所まで持ち込んできたのだ
一応俺も「組織」に所属し、変態的な都市伝説や契約者共を相手に戦いまくってきた身だ
「組織」からのお仕事報酬、ボーナスその他を貯めに貯めまくって用意した大金をふんだんに投入し
細かい点までオーダーをつけて一流の職人に打って頂いた、まさに俺の為だけの、世界に唯一つの刀!!
三百万ちょい超なお値段になったのはここだけの秘密だ
ちなみに黒服は俺が金を溜め込んでいることを知っており、その金を使って三泊四日の豪華温泉旅行にありつけるものと企んでいたようだが、そうは行くか
有り金は全てこの刀に投入した! お前の好き勝手にはさせねえぜ! ざまぁ見な黒服ゥ!!
おっと興奮しすぎたな
俺はコートを払って改めて腰に差した刀の具合を確かめる…… 抜刀するには絶好調だ!
かくして俺は【刃物は魔を払う】の能力を発動した。あでも待てよ、このまま【空亡】を斬ったとして、俺の刀、持つかな?
つーか斬ると言っても俺の射程は刀の間合い程度なんだが!? この状態でどうやって戦えと!?
『ホーハッハッ!! アッハァ!! そもそもオレはクリスマスイブの学校町で【性の6時間】を発動してメリクリ淫乱ピンク地獄を創ってやる予定だったのだわ!!
ところが前日の晩に調子に乗りまくっていたオレは睡眠導入剤と大量のアルコールそしてバイアグ(一部規制を挟みました、ご了承ください)を摂取し!!
その所為で意識を回復したのが26日の晩だったのだ!! 実に!! 72時間も!! 無駄にし腐ったのだわさ!! おのれ!! おのれ学校町ォ!!』
「学校町関係ねえだろそれ!? てかお前も学校町関係者かよ!? てか学校町で何やらかそうとしてたんだオメーは!?」
『オレは納得いかんぞ!! 絶対に許さんぞ!! こうなったら学校町に復讐の炎を!! そう思い立ったオレは!!
こうして富士山より偽りの初日の出として登場し!! そのまま上空遊泳で学校町へ移動を続け!! かの空を真っ赤に焦がし!!
そのうえで学校町の住民の脳ミソを茹で上げ!! いやんあはんおほん?ちょっとだけよー? なあけおめ灼熱ピンク地獄を創り出そうと決意したのだわさ!!』
「どんだけピンク地獄に未練あんだよ!? オメーのが脳みそピンクじゃねーか!!」
『うるせえ!! オレはやるぞ!! すべては淫乱ピンクのために!! オレは!! 真っ赤に輝く!!
( ゚∀゚ ) アーッ ハッハッ 八ッ八ッ ノヽッノヽッ ノヽッノヽッノヽッ ノヽ ッ ノ \ ッ / \ ッ / \ ッ ノ \ ッ / \ ッ / \ ッ』
「クソッ! 思った以上に俗っぽいロクでもないヤツだった!!」
【空亡】は相変わらず魔王笑いを続けながら、天空で禍々しい輝きを放っている
なんか気温も上がってねーか!? クソッ! この状態で戦えってのかよ!?
俺は半ばヤケになって鯉口を切った
その時だった!!
「だぁぁぁぁぁぁぁぁラッシャイ!!」 「とぉぉぉぉぉおおおうウ!!」
『 ( ゚Д゚ ) ウボォお゙お゙お゙ぉ゙ぉ゙ぉ゙ぉ゙お゙お゙お゙お゙オ゙オ゙オ゙才゙才゙才゙才゙オ゙オ゙オ゙お゙お゙お゙オオッッ!?』
天高く跳躍し四肢を広げる影二つ!! 【空亡】をバックにクロスするかの如く一閃!!
それと同時に【空亡】が断末魔めいた絶叫を上げるではないか!? 一体何が起こったというのか!?
ついでに言っておくと【刃物は魔を払う】の契約者は未だ刀を抜いていない。一体何が起こったというのか!?
目の前で繰り広げられている事態に仰天する契約者の前に、影の一つが着地した!
着地の瞬間、その衝撃で大地を揺るがし、やおら立ち上がったその正体は!?
「どうも、いい子いい子でお馴染みの【思考盗聴警察】の神田です
皆さん実にお久し振りですね。何年振りでしょうか? 元気でやっていたでしょうか?
この神田、本来なら 『都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……』 スレの10周年を記念してカッコよくキメる予定だったのですが
温めたネタを行方不明にするわ、あろうことか10周年記念日を盛大にド忘れするわ、その他諸々恥ずかしい思いするわで登場がこのタイミングになったというね
いやもうそれもこれもこの神田の不徳の致すところ! それはさておき各種連載の作者様方、そして年末単発祭りの作者様、乙でございます
個人的にビンビンきたのは【カマキリ男爵】の契約者と【舐めたら治る】の契約者のイチャイチャですね!! 年末から何やってやがる!! いいぞもっとやれ!!」
『 ( ゚A゚ ) オレの!! オレの大事な(規制しました、ご安心ください)がぁ!! 真っ赤に裂けてぇ!! 真っ赤っかぁぁ!!!!』
「ご安心を、【空亡】はこの神田が直接対処しました」
「く、黒服!! コイツは何者だ!? 『組織』の応援か!?」
「いっいいえ!! 『組織』のプロファイルには該当がありません!! 何者か不明です!!」
遠方から響くかわいそうな【空亡】の悲鳴を背景に、【思考盗聴警察】の神田は混乱している契約者と黒服に一礼
そして混乱したままの二人から、もう一つの着地した影へと半身を向ける
「私と呼吸を合わせるように【空亡】へ必殺の一撃を打ち込み、一瞬にして(規制済、重ねてご安心ください)を引き裂いた、貴方は一体……?」
「ぬう……、ここで会ったがウン年目。【思考盗聴警察】、まさか私の顔を忘れたとは言うまいね?」
「なっ、貴様は……!!」
未だ昏い夜明け前の闇に紛れるようにして佇んでいたもう一つの影
ゆっくりと神田に向けて歩み寄り、遂にその正体を現す!!
「馬鹿なッ!! 【犬面人】!? 貴様は確か学校町のょぅι゛ょおパンツ騒動に巻き込まれて死んだはずでは!?」
「ところがどっこい生きてたのよ、私の身を焼き焦がすこの絶望が、私を生き永らえさせたのだ……!!」
なんと現れたるは体が人間! 頭部がイッヌ、もとい犬! の【犬面人】ではないか!?
【人面犬】は存在するが【犬面人】なるは聞いたことがない!! 読者諸氏も概ね同意見であろう!!
「私は某所避難所で本来不要な保守活動に勤しんでいたのだが、その傍らで主に某スレ登場キャラ達のごく一部を相手にセクハラもといスキンシップに励んでいたのよ (避難所管理人様、関係者各位、その節はすいませんでした)
忘れもしない……。私は偶然出会ったTさん家のリカちゃんに一目惚れした (Tさんの作者様、その節はすいませんでした)
私は、リカちゃんにこの高鳴る想いを知ってほしく、猛アタックを開始した……!! (Tさんの作者様、その節は本当すいませんでした)
リカちゃんは私に反応せず、まったく反応してくれず…… しかし時折気まぐれに私の半身を綿飴のように引き裂いた!! (Tさんの作者様、その節はマジですいませんでした)
私は思い上がっていたよ……。リカちゃんは私に気があるものと! リカちゃんのお茶目な暴力は好意の裏返しだと! しかし! 彼女は去った! 去ったのだ! そして、この哀れな中年男だけが残された!!
それでも! 私は覚悟していた! 永訣の日が来ることを! そして! 私がリカちゃんを愛した日々に、あの遠くも懐かしい日々に偽りはない!!
だが、私には遣り残したことが……まだある」
「私と決着をつける気か」
「如何にも。 【思考盗聴警察】、君と学校町で相見えたあの日から、雌雄を決するこの日が来るのを心待ちにしていた」
置いてけぼりの契約者と黒服両氏の困惑を余所に、【思考盗聴警察】と【犬面人】は二人だけの世界に没入していく
そして、突如【犬面人】の体が激しく燃え上がった! それと同時に【犬面人】の周囲に火炎の渦が形成される!
「この姿を取っていたのは、ひとえにリカちゃんへの愛ゆえに! 自らの存在をも捻じ曲げ、リカちゃんへ愛を捧げ続けたゆえだ!
【人面犬】ではキモがられるだろうと考え、姿を偽って人面犬身の姿を反転させた! かくして私は【犬面人】と化した!!
そして! 【思考盗聴警察】!! 君との対決のために、私は真の姿を現す!! よく目に焼き付けておきたまえ!! 我が雄姿を!!」
「そういうことでしたか。私の【思考盗聴警察】ですら貴方の真の姿を看破できなかった――! 【人面犬】、いいえ! 【祝融】!!」
「真名……解放!!」
なんということか!
灼熱の烈風が吹き荒れる中、【犬面人】の姿が溶けるようにして【人面犬】の姿に変わったではないか!
否! 否! 【人面犬】に非ず、【人面犬】に非ず!! その姿は瞬く間に膨れ上がり――巨大な獣身へと変貌したではないか!!
【祝融】
古来中国の、炎神である
その姿は獣身人面、伝えられる神話によっては天帝の名を受け神をも倒す程の力を持つ
火を司るため火災に遭うことの譬えとして「祝融に遇う」との表現があるほどにその存在は畏れられていた
「この目出度き日に、君と雌雄を決することができるとはな! 僥倖だ! 【祝融】として君を倒すぞ! 【思考盗聴警察】!!」
厳かに、そして堂々たるその威風で以て【犬面人】、もとい【祝融】は戦闘態勢に入る
その構えは、なんたることか! 蠱惑する女豹のポーズ、それそのものではないか!?
「神である貴方にそこまで言って頂けるとは実に光栄です、総力をもってお相手しましょう! 【祝融】!!」
対するは【思考盗聴警察】! 古の神を前にして全く動ずることはない!
彼が取った構えは、なんたることか! 勇猛なる戦士だけが扱えるとされる、荒ぶる鷲のポーズではないか!?
富士山をバックに両雄が対峙する……!!
そして富士山の頭頂は徐々にであるが、今度こそ本当に白み始めている!!
「あーもうそろそろ本当に夜が明けますよ!」
「ところで【空亡】の方はいいのか?」
「応援に向かってる『組織』の人達に回収するよう伝えてあります! 実質戦闘不能でしょうし! それよりはいこれ! 手作りの茄子の煮浸しですよ!」
「おっ、ホカホカじゃん。悪いねぇ。これで鷹が飛んで来ればかなり縁起いいぞ」
両雄の対決など余所に、契約者と黒服は仲良く肩を並べて初日の出が昇るのを待っていた
たとえ眼前で今まさに【思考盗聴警察】と【祝融】の対決が始まろうとも、自分らには関係のない話だ
さっきまでちょっと空気に呑まれて圧倒されたたのはここだけの秘密だ
そして
幾許かの静寂の後、両雄が動いた!!
「謹賀新年ッッ!!」 「明けましておめでとぉぉぉぉぉおおおうウ!!」
【糸冬】
乙です
新年早々、げらっげらに笑わせていただいております
これは、都市伝説と戦う訳では特になかったが都市伝説と多重契約し、都市伝説と戦う能力者の物語である。
めぇ!
「おらぁっ!」
めぇ!めぇ!!
「ごらぁっ!!」
めぇ!めぇ!!めぇ!!!
「えぇい、鬱陶しいぞ貴様っ!!!」
次々と現れ、タックル仕掛けてくる金毛羊の群れを前に、灰色の毛におおわれ羊か山羊のような角を持ったアメリカ産都市伝説……「ゴートマン」は苛立った声をあげた。
潰しても、潰しても、羊達は姿を現す。
めぇ!めぇ!めぇ!めぇ!めぇ!!
羊とて、ただの羊ではない。その羊達には植物のような茎が繋がっていた。羊は、まるで瓢箪の木に似た木からぶら下がる実から飛び出し、柔軟な茎に繋がったままめぇめぇ鳴きつつ「ゴートマン」へとタックルを仕掛けてくるのだ。
それに指示を出している高校生くらいの少年は、羊の木の上の方の枝に腰かけ、子羊を抱いて「ゴートマン」を見下ろしている。
「貴様!この「バロメッツ」の契約者!さっさと降りて来い!」
「え、やだ」
めぇ!
少年の言葉に肯定するように、抱かれている子羊……「バロメッツ」の本体が愛らしい鳴き声をあげる。
せっかく、この街でひと暴れしてやろうと思ったのに面倒な奴に見つかってしまった、と「ゴートマン」は己の迂闊さを呪った。
たまたま見かけた少年を襲おうとしたところ、突然生えた巨大な木。それに実った実は一気に成長して、こうして羊を生み出し「ゴートマン」に絶え間なく攻撃を仕掛けて来てた。
……とは言え、「ゴートマン」に決定的なダメージを与えられている訳ではない。そもそも「バロメッツ」自体、攻撃的な都市伝説ではないのだ。
別名「スキタイ人の羊」「ダッタン人の羊」「リコポデウム」等の名前をもつ「バロメッツ」。引っ張っても曲げても折れる事のない柔軟な茎をもつ瓢箪の木に似た木の実が熟し、そこから生きた羊が顔を出す。羊は茎で届く範囲の草を食らいつくすと儚く力尽き、残った金毛羊の毛や肉を人間が有効活用したり狼が食べたりする。
そんな、戦闘的ではない都市伝説相手に倒されるほど自分は弱くない。これでも「ゴートマン」としてはそこそこ強い方ではある。だからこそ、アメリカでは都市伝説の退治屋に目を付けられ、国外逃亡するはめになったのだ。
この、妙に都市伝説が集まりまくっている街であれば、大多数の都市伝説に紛れてうまくやれると思ったというのに……!
「どれだけっ!羊を出しゃあ気が済むんだ!」
飛び掛かってきた羊を屠る。羊が一匹。隙を見て角頭突きを仕掛けてきた羊を蹴り飛ばす。羊が二匹。茎の柔軟さを利用し、フライングボディ羊アタックしてこようとした羊の胴体を貫く。羊が三匹。
「………ぐ、ぅ!?」
おかしい。
一瞬、めまい。いや、これは、意識が、遠のい、て。
「……っ、しま、った」
これは。何度倒されても「バロメッツ」を生み出し続けていたのは……。
木の上から見下ろしてきていた少年の笑みが深まったのを見て。「ゴートマン」は己の敗北を悟った。
「いやぁ、いつもいつもすみません」
「えぇ、まったく」
山積みになった羊の死体と、まだ元気でその辺の草を食べている羊の群れ。それを前に、黒服は深々とため息をついた。
「「ゴートマン」の捕縛に協力してくださったのは、ありがたいのですが……」
「僕ですと、こういう手段しかないんですよね。「羊を数えると眠たくなる」には、大量の羊が必要なので」
めぇ!
「バロメッツ」の契約者に抱っこされた、子羊の姿をとった「バロメッツ」本体が契約者に同意する。この契約者、「バロメッツ」以外に先程口にした「羊を数えると眠たくなる」と契約している。
多重契約、というやつだ。都市伝説に飲み込まれるリスクが高まる為、多重契約と言う行為はあまり推奨されるものではない。属性的に似ていれば飲み込まれリスクは下がるのだとしても、だ。
どっちも羊属性だから大丈夫いける、で多重契約して飲み込まれずにすんでいるこの契約者は、運がいいのか元々の心の器の容量が大きかったのか。そもそもどちらの都市伝説もそこまで容量を食わないのか。そのどれかだろう。「バロメッツ」と「羊を数えると眠たくなる」は、同じカテゴリに入れていい存在ではない。羊以外共通点がない。そもそも、「バロメッツ」は植物属性なのでは?と言う都市伝説研究者とているというのに。
とにかく、多重契約によって、この契約者は大量に「バロメッツ」を出現させ、出現させた羊を強制的に相手に数えさせて「羊を数えると眠たくなる」を発動。契約によって強まった力により相手を眠らせてしまうのだ。相手を無力化するのには便利である。のだが。
欠点は、見ての通り大量の羊が残される事だ。呼び出した羊を、この契約者は自主的に消せないのである。出したら出しっぱなしだ。
「ほら、「バロメッツ」は美味しいですから。「組織」の皆さんで美味しく食べてください。ジンギスカンとか」
「「バロメッツ」の羊の肉は、どちらかと言うと蟹の味に近いのですが」
「ならカニ鍋いけますね。肉以外も、「バロメッツ」は蹄まで羊毛ですから無駄がないです」
めぇ!
契約者に褒められたと思っている「バロメッツ」が得意げな顔をしている。得意げな顔をするくらいなら、この大量の羊をどうにかしてほしい。
「……なんとか、「組織」関係者で分配はします。そちらも、一頭くらいは自分でなんとかするように」
「そんな!「バロメッツ」の前で羊を食えと!?」
めぇ!!
呼び出した羊の処理を自分でする気が一切ない様子の「バロメッツ」契約者。
いい加減、それくらいは自分で責任とってほしい。黒服は、そう願わずにはいられなかった。
終
これは都市伝説と戦う為に都市伝説と契約した能力者の、なんか評判っぽい奴らに関する別の話である。
「舐めたら治る」。その名の通り、舐めた箇所の負傷を治療する都市伝説だ。基本的に負傷を癒すものであり病気や毒への対処はできないものの、貴重な治療系の都市伝説。
その使い手が美少女であったならば、喜んで負傷する野郎共が発生していたかもしれない。
だが、男である。この都市伝説の契約者は男子高校生である。平均よりは顔が整っているかもしれないが、男である事に変わりはない。故に、彼に舐められるためにわざと負傷する、なんて事を好き好んで行うような者はいない。もしかしたらそんな夢見る変態、ではなく夢見る女子が存在する可能性は微粒子レベルであるかもしれないが、少なくともそのような存在は確認されていない。
当然の如く、「カマキリ男爵」の契約者とてそんな変態な思考へは行きつかない。むしろ、初めて「嵌めたら治る」の能力を身をもって味わった際に、全身舐めまわされて若干トラウマになってしまったくらいだ。決して変な性癖には目覚めていない。決して変な性癖には目覚めていない。大事な事なので二度言うレベルで「カマキリ男爵」の契約者は自分に言い聞かせる。
(第一、私とあいつじゃ釣り合わないでしょうに……)
学校の休み時間、ちらりこそり、「舐めたら治る」の契約者へと視線を向ける。彼は幼馴染なのだという女子生徒と、何やら楽し気に話している最中だった。幼馴染。それだけで一定の色々にアドバンテージが存在する強すぎる存在。周囲から恋仲なんじゃないかとからかわれていた際に「こいつだけはない」「昔から一緒に居過ぎて恋愛的な目で見るとか無理」と二人共言っていたから、まぁ恋仲ではないんだろうけれど。
(……いやいや。何考えてるの)
あれは治療行為だった。あれは治療行為だったのだ。変な行為ではない。治療行為だ。だから、変に意識する必要はない。
いや、ある意味、意識する必要はあるか。もう二度と、あの治療行為を受けたくない。変な性癖目覚めたくない。その為にも、今後、敵対的な都市伝説との戦闘を行う際は負傷してはいけない。なんとしても負傷してはいけないのだ。絶対に負傷してはいけない都市伝説バトルを行う必要がある。
もっと鍛えないとな、と「カマキリ男爵」の契約者は強く誓った。
だと、言うのに。
「あー、いったた……強敵だったね」
「ソウダネ」
今、「カマキリ男爵」の契約者は「お風呂坊主」の契約者と一緒に、ぼろぼろの状態で座り込んでいた。全身、切り傷だらけ。
うん、あの「猿夢」はとても……強敵だった。一応、防御力も高める装備で来たつもりだったが、関係なかった。ずったぼろだ。
「ちょっと待ってて、あたしの担当の黒服に、来てもらうから」
そう言いながら、「お風呂坊主」の契約者が携帯端末で担当黒服へと連絡を開始する。
あぁ、でも彼女と一緒の戦闘で良かったかもしれない。彼女の担当黒服が、「蝦蟇の油」を持ってきてくれるはずだ。舐めまわされることはない。良かった良かった。
安堵の息を吐き出すと、ひらりっ、と視界に黒いマントが翻った。さっそく、来てくれたよう、だ。
「なんでいる!!!!!!!???????」
「え、怪我人出たって聞いたから。お前らか」
何故!?何故に!!!???
黒服によって連れてこられたらしい「舐めたら治る」の契約者が、二人に駆け寄ってくる。
「黒服さん!!!!なんで!!!!!!こいつを!!!!!!!!???????」
「戦闘直後で満身創痍とは思えぬ叫びにこちらが大変驚いているのはさておき。ちょうど、彼の保護者の方々と情報のやり取りをしていた最中でしたので……怪我人が出たのなら自分が行く、と彼が」
おのれ、タイミング!!!!!!!!!!!!!!!!!
全力で雄たけびあげる「カマキリ男爵」の契約者の様子に、黒服も「お風呂坊主」の契約者も、何事、と言わんばかりの表情だ。つまり、二人共、まだ被害にあった事はないという事か。
「全く、二人共こんなひどい怪我して」
手が、伸びてくる。傷口に触らないように気を使いながら、「舐めたら治る」の契約者は「カマキリ男爵」の契約者の手を取って。
「っちょ、ま、だ、男爵!男しゃーーーーーっく!!!!来て!ヘルプ、たすk「まずは、ここから」おぼはぁあああああああああああああああああ!!!!!!!!???????」
「悲鳴が酷い」
ぺろり。舌が、手の甲の傷を舐めた。ぞくっ、とした感覚が背筋を走り抜け、傷がすぅ、と消えていく。
舌は肌から離れる事なく、そのまま、腕へと。
「え、何それ。え、何その治療の仕方」
「……そういえば。治療系の都市伝説とは聞いていましたが、どのようなものか具体的に聞いていませんでしたね」
「お風呂坊主」の契約者と黒服が何やら言っている気がしたが、もはや「カマキリ男爵」の契約者には聞こえていない。
そして、普段は自身のテリトリーたる学校の音楽室からあまり出てこない「カマキリ男爵」はここにいないので助けてもらえない。
よって。
「全身切り刻まれた感じか。じゃ、前みたいに続けるぞ」
「みぎゃあああああああああああああああああああ!!!!!?????」
~ 色気のない悲鳴と共に投下してはいけないネタスレ一歩手前の光景が繰り広げられています
悲鳴が止むまで、なんかマッスルな人々のポージングでお待ちください ~
.
数分後。
「よし、治ったな」
「モウオヨメニイケナイ」
全身に使うとなるとそこそこ能力を発動し続けるので疲れる筈なのだが、特に疲労も見せず、これでいいなって顔をしている「舐めたら治る」の契約者と、三角座りで落ち込む「カマキリ男爵」の契約者。
そして、あまりの光景にうっかり静止もできず逃亡もできなかった「お風呂坊主」の契約者とその担当黒服。
くるり、「舐めたら治る」の契約者の視線が、次のターゲット、ではなく、治療対象へと向けられた。
「こっちも酷いな。痛いだろ?すぐに治す」
その声は、本当に「お風呂坊主」の契約者を気遣っている声で。「カマキリ男爵」の契約者に対してと同様に下心は一切なく。ただ純粋に怪我人を治そうとする意志に満ちていて。
だからこそ、「お風呂坊主」の契約者は逃げそびれて、「舐めたら治る」の契約者に腕を取られた時点で正気に戻った。黒服も同じくらいのタイミングで正気に戻ったが、もう遅い。
「っく、くくくく黒服!今からマッハで「蝦蟇の油」をもってk「指先もボロボロじゃないかお前。ちぎれかけてないのが奇跡だ」うぼはぁああああああああああああああ!!!!!!!????????」
「こっちも悲鳴が酷い」
ちゃぷりっ、と。手の指を口に含まれて、「お風呂坊主」の契約者は悲鳴を上げた。ちろちろと舌が指を這いまわり傷を癒すのだが、それと同時によくわからない、わかっちゃいけない感覚が全身を駆け抜ける。
善意なのだ。どこまでも善意で下心がない。だからこそ、質が悪い。
「今どき古い考えかもしれないけど。二人共女なんだから、もうちょっと怪我とか気をつけろよ。傷跡残ったらどうするんだ」
「っひ!?ちょ、舐めながら喋るの止めっ、くすぐった」
「黒服さん、ちょっとこいつ抑えといて。暴れられると舐めにくい」
じたばた
舌から逃れようと暴れる「お風呂坊主」の契約者。それを、「舐めたら治る」の契約者は片手でがっしり肩の辺りを掴みながら、逆手で優しく腕を持ち上げて舐めていっている。ただ肩と腕を抑えられているだけなのに、「舐めたら治る」の契約者の力が強いのか、押さえつけるコツでも掴んでいるのか妙に動きづらく逃げられない。
「お風呂坊主」の契約者の悲鳴と、「舐めたら治る」の契約者の言葉。その二つの板挟みになった黒服は、すばやく思考を巡らせた。
すなわち、今、己がすべき事は。
「えっ」
がしり、「お風呂坊主」の契約者の体を、押さえつける。
「彼女、油断すると細かい傷は治療しなくていいと放置しようとするんですよ。しっかりお願いします」
「任せろ」
「裏切者おぉおおおおおおおおおお!!!!!!!!!」
月下にて悲鳴が上がる。
それでも、「猿夢」と言う悪夢は一つ退治され、少女達の体には傷一つ残らない。
素晴らしい、ハッピーエンドを迎える事に成功した物語である。
「どこがハッピーエンドだぁああああ!!!!!!!!!!!」
「モウオヨメニイケナイ」
終
これは、都市伝説と戦う為と言うより教え子達を守る為に都市伝説と契約した能力者の物語である。
放課後、日が沈みゆく時刻。
こつ、こつ、こつ、と足音を響かせながら、教師が一人校舎の中を歩き回っていた。校舎内に生徒が残っていたら、そろそろ帰りなさいと帰宅を促す。学園祭なんかの時期は多少仕方ない部分はあるが。そうではない時期にあまり遅くまで残って居られても困る。
「……それでさぁ。上半身しかない女子生徒が、ずるずると這いずりながら追いかけてきて……」
「っちょ、怖い。想像すると怖いから止めてってば」
「這いずっている……すなわち、スカートの中を覗けるな……」
生徒達がおしゃべりしている声。まだいたか、と教室の扉を開き生徒に声をかける。
「こら、いつまで残っている。もう帰りなさい」
「あ、先生……え、もうそんな時間?」
「やっべ、そろそろ帰らないと特売の時間間に合わない」
「はーい、帰りまーす」
言い訳せず反論せず帰ってくれる生徒は実にありがたい。帰っていく生徒達を見送り、教室の中をさっと整えると再び見回りに戻る。
……それにしても、くだらない会話をしていたものだ。おそらく、あれは「てけてけ」の話だろう。何故、そういうありもしない存在について楽しげに、無責任に噂できるのだろうか。
そんなものは実在しない。それでいいだろうに。
あぁやって、無責任に噂するから……。
「…………」
こつ、こつ、こつ、こつ、こつ。
ずる、ずる、ずる、ずる、ずる。
何かが、這いずる音。無視して廊下を進むが、その音はずっとついてくる。
こつ、こつ、こつ、こつ、こつ、こつ、こつ、こつ。
ずる、ずる、ずる、ずる、ずる、ずる、ずる、ずる。
足音は、どこまでも、どこまでもついてくる。一定の距離を保ちながら、ずっとずっと。まっすぐな廊下をいつまでもついてくる。
仕方ない、と歩みを止める事はせずにちらりと背後を伺う。
「……やはり、か」
ずる、ずる、ずる。
先ほど生徒達が噂していた通りの、上半身だけの女生徒が。ずるずるずるり、恐らく切断面が丸見えなのだろう腹の辺りから血を廊下に垂れ流しながら追いかけてきていた。掃除が面倒だから止めてほしい。
「あぁ、やっと気づいてくれたぁ」
にたり、と。上半身だけの女生徒が、笑う。
「「てけてけ」。死んだ場所とされる電車の踏切で出るパターンと、何故だか知らないが学校で出現するパターン。大きく分けて二つの説があったな」
あぁ、忌々しい。そんなものの存在信じたくもないのだが、生徒の安全のためを思えば調べずにはいられない。この街はあまりにも都市伝説が出現しやすくて。知識はあればあるだけ生徒を守りやすくなるのだから。
けらけらけらららら、「てけてけ」は笑いながらも這いずり続け、追いかけてくる。
さて、対処法は……覚えては、いるが。
「知ってるなら、これからされる事、わかってるよねぇ!?」
すっく、と、「てけてけ」が肘を使って起き上がる。そうして、教師へ一気に飛び掛かろうとした。
飛び掛かろうとしたのだろう。
「……あ、れぇ?」
だが、届くことはない。何度も飛びつこうとするのだが、「てけてけ」と教師との距離が、縮まらない。
「な、なんでぇ?」
「気づいていなかったようだな」
まっすぐまあっすぐ、どれだけ歩き続けても、廊下が終わらない。窓の外の風景がいつまで経っても変わらない。「てけてけ」はずっと廊下をはいずっていたから、なおさら気づかなかったのだろう。
「この廊下、いつまで経っても終わらないと。気づいていなかった時点でそちらの負けだ」
「…………!け、契約者ぁ!?しかも、これはぁ……」
こつ、こつ、こつ、こつ、こつ。
歩み続ける。いつまでも終わらない廊下を……「無限廊下」を。
「今更気づいても遅い。もう捕えた」
「無限廊下」。いつまで進んでも進めない。どこまでもどこまでも廊下が続く。そんな学校の怪談、都市伝説。
都市伝説の存在を知り、それと契約できると言う事を知り。たまたま遭遇した「無限廊下」と交渉ができた為、契約は成立した。
どんな建物であろうと廊下を歩き続けることで「無限廊下」と言う異空間を生み出す力。それだけと言えばそれだけ。
だが、「無限廊下」には、時として恐ろしいオチがつく事がある。そこに入り込んでしまった者は、永遠に、その「無限廊下」を彷徨い続ける、と言うオチが。永遠に続く夢幻のような廊下を彷徨わせるという事。
「……お前には、ずっとこの無限の夢幻の中で這いずり回っていてもらおう」
「ぐ…………ぐぐぐぐぐぐ…………!」
必死に、「てけてけ」は飛び掛かろうとする。しかし、距離は縮まらない。もはや「無限廊下」に囚われた彼女は、そのまま……「無限廊下」から教師が解放してやるまで、ずっと、そこで彷徨い続けるしかない。直接[ピーーー]ことはできないが、うまく発動してしまえば問答無用に近いのだ。
こつ、こつ、こつ、と。そのまま、教師は「無限廊下」の空間から立ち去っていこうとして。
「逃がす、かぁっ!!」
「!」
ひゅっ!と。頬を何かが霞めた。見れば、「てけてけ」の両手に鎌が出現している。それを投擲してきたらしい。
舌打ち一つ。油断した。「てけてけ」は「無限廊下」に捕えていたものの、それが投擲する物にまで効果が及んでいなかった。と言うより、「てけてけ」が「カシマさん」の逸話と混じって鎌を持っている可能性を失念してそこまで力を発動させていなかった。気を付けねば。
だが、一撃でこちらを仕留められなかったなら、どちらにせよ向こうの負けだ。
改めて、「無限廊下」の空間から脱出する。背後からの怨嗟の声は無視して。そのままこつ、こつ、こつ、と。元の校舎の廊下を進み、階段を下りていく。
「先生、さような……あれ、先生。怪我」
と、途中で男子生徒とすれ違い、先ほど頬を鎌が霞めた時の傷に気付かれた。
帰ろうとしていた生徒だったが、踵を返し近づいてくる。
「大した怪我ではないし問題ない。校長に報告せねばならないし、生徒を煩わせる訳には」
「駄目です。つまり、なんか都市伝説と遭遇して怪我したんですね?……全く」
流石に生徒相手に「無限廊下」を使う訳にはいかず、距離を詰められて。
べろり、頬を舐められた。傷が一瞬で癒えて、消える。
「先生の契約都市伝説、戦闘向きって訳じゃないんですから無理は駄目ですよ」
「……同じく、戦闘に適していない都市伝説と契約している君には言われたくないし、君は相手の意志を無視して強制治療する性格をなんとかするように」
「俺は戦闘では無理だと思ったら適任者に任せるし、怪我人放っておくのは性に合いません」
ではさようなら、と改めて帰っていく男子生徒。
あれの被害者はおそらく自分だけではないのだろうな、と少しばかり遠い目をしながら。教師は改めて、報告へと向かっていった。
終
これは、都市伝説と戦う為に都市伝説と契約し、そして飲み込まれて行こうとしている者の物語である。
UFOに乗るのが夢だった。
夜の空、星の海を飛び回るのが夢だった。
その夢は「UFO」との契約によって叶うかと思っていた。
残念ながら、自分が契約した「UFO」は乗り込めるようなタイプではなかった。まぁ、手のひらサイズと言う愛らしい大きさなので仕方ないだろう。
それでも偵察なり、そのサイズの癖にくそ強力なビームを放てたり。何度も助けてもらった。
動きも愛らしいその「UFO」と助け合いながら、都市伝説と戦ったり色々とやってきた。
そして、その限界が来ようとしていた。
「い、ぐ、ぅ……」
血が止まらない。
ギリギリ、なんとかあの恐ろしい契約者から逃げ出す事はできた。あれは、一体どんな多重契約者だったのだろうか。いくつもの都市伝説の能力を使うあの男に、自分達は全くかなわなかった。
「「UFO」……」
力なく「UFO」は点滅する。その小さな体は、あの恐ろしい契約者に殴り飛ばされ半分以上欠けてしまっていた。
自分も、「UFO」も。このままでは、どちらも死ぬのだろう。
「……何か……何か、助ける、方法は……」
自分は、いい。
せめて、「UFO」だけでも助けたかった。この小さな命に、消えてほしくなかった。
どんどん、「UFO」の点滅は弱々しくなっていく。かすかに、その小さな体は光へと変わっていこうとしていた。
何か、何か、なにか、なにか、ナニカ…………。
「……あぁ、そうだ」
あるじゃないか。「UFO」だけでも助かればいいのなら、きっと、簡単なはずだ。
よろよろと座り込む。どうせ、もう立っていられない。
「UFO」はこちらの考えを悟ったのだろうか。やや慌てたような点滅をする。点滅によるモールス信号での意思表示。伝えられた言葉に、笑う。
「…………駄目だ。契約は切らない。このまま、私は死ぬ。だから、君はもう少し、耐えてくれ」
ちかちかと、「UFO」は点滅を繰り返す。必死に契約を切ろうとする意思が伝わる。
だが、契約は切らない。解除しない。ゆっくりと、自分自身が変化していくのを感じながら笑う。
「私が先に[ピーーー]ば。君は私を飲みこめるだろう」
実のところ、自分と「UFO」との契約はギリギリのものだった。だからこそ、この「UFO」はこんな愛らしいサイズになってしまったのだ。心の器、とやらが自分は小さかったという事。
そんな自分が、[ピーーー]ば。契約を維持したまま死んでいこうとすれば。「UFO」は、自分と言う存在を飲み込むだろう。そうして、もっと力を増すはずだ。
そうすれば、「UFO」は助かる。「UFO」だけでも助けることができる。自分はどうせ助からないから、せめて。
「今までありがとう、「UFO」……君のおかげで、ずいぶんと楽しい生活をさせてもらったよ」
意識が、引きずり込まれる。あぁ、こっちが先に死なないと。けれど、これはきちんと、伝えないと。
「君は、私の事など忘れて幸せに、新しい契約者を見つけるなりして幸せに生きるといい。今度は…………私のような半端な器しかない人間じゃなく、もっと……大きな器を持った者と………………契約、するんだよ」
これだけ、なんとか伝えて。
意識も、命も、魂も、引きずり込まれた。
夜の空を、星の海を「UFO」は飛ぶ。ちかちか、ちかちか、点滅しながら飛び回る。
起きない。起きない、起きない、起きてくれない。
飲み込んだその人は、自分の中で眠っている。起きてくれない。何度呼び掛けても、起きない。
死んでほしくなくて飲み込んだ。なのに、意識が戻らない。
ちかちか、ちかちか、点滅しながら「UFO」は飛び回る。
飲み込んでしまった大事な契約者を起こしてくれる人を探して、どこまでも、どこまでも。
夜の空を、星の海を飛び回る。
彼の人が目覚める日が来るのかどうか。
誰も、わからない。
ただただ、「UFO」は飛び続ける。
契約者を目覚めさせるという夢を抱いて、どこまでも、どこまでも。
終
これは、都市伝説と戦う為に都市伝説と契約した能力者達の、特に戦ってはいないちょっとした日常の一幕である。
「それでは。「「舐めたら治る」被害者の会による告発会を始めます」
「なんだそれ」
「名前の通りよ!!!!!」
そう、名前の通りの会でしかない。
たとえ親切心からであろうとも、下心がなかろうとも。「舐めたら治る」を発動させるために舐められるのは色々と大切なものを失ってしまう。特に、全身やられると一気に大事なものが消えうせる。モウオヨメニイケナイ。
そんな想いを抱きながら、「カマキリ男爵」の契約者と「お風呂坊主」の契約者。そしてついでに「無限廊下」の契約者たる教師が「舐めたら治る」の契約者に向き合っていた。「舐めたら治る」の契約者は「解せない」と言う表情を浮かべていた。解しろ。
「まぁいいや。話は聞くから、腕立て伏せは続けてていい?」
「いいけど。なんで背中に「カマキリ男爵」乗せて腕立て伏せしてんの?」
「ただ腕立て伏せするだけだと負荷が足りない」
「何言ってんのこいつ」
何言ってんのこいつ。白い目を向けられても気にする様子なく、「舐めたら治る」の契約者は背に「カマキリ男爵」を乗せたまま腕立て伏せをしていた。
「カマキリ男爵」はカマキリではあるが、大きさは人間よりも少し大きい。それなりの重さがあるはずなのにその重みを感じていないかのような動きだ。「カマキリ男爵」は、宇宙猫みたいな表情(いや、カマキリに表情なんてないかもしれないが)でそのまま大人しくしていた。なんだこの光景。
まぁ、話を聞くのならば問題ないだろう。訴えを開始する。
「とにかく、あれよ。こちらの意志をガン無視して舐めまわすのは止めてほしい」
「迅速に治療しないと痕が残るだろ」
「残っても問題ないって言ってるよね!?」
「契約者様。乙女のお体に傷跡が残るのは、この「カマキリ男爵」反対でございます」
「しまった身内に裏切者がいた!!??」
宇宙猫状態から脱出した「カマキリ男爵」の言葉に頭を抱える「カマキリ男爵」の契約者。そうだ、こいつはそういう奴だった。だから、全身舐めまわされているのを止めてくれなかったのだ。なんて奴だ。
「と、言うか。先生も被害にあってた時点で本当、もう…………躊躇0なんだなって改めて認識したわ」
「……こちらは、全身はやられてないからな。頬やら手の甲を治療された事があるだけで」
「お風呂坊主」契約者が頭を抱えている様子に、「無限廊下」の教師はそう弁明した。そして、自分が教え子達のように全身舐めまわされる結果になったら……と、想像し……静かに遠くを見た。窓の外は今日も空が綺麗だ。
「いや、本当さ。もっとこう。躊躇するとかないの?舐めるんだよ?」
「傷の治療に躊躇も何もないだろ」
「くそっ!覚悟が完了しすぎている!!」
「え、と言うか。先生相手でも、全身怪我してたら全身舐めるの?」
「そりゃするだろ。治療しなきゃダメなんだし」
静かに、静かに。「無限廊下」の教師はさらに遠くを見ていた。生徒想いであり、生徒の為であれば存在を認めたくもない都市伝説と契約する程度には意志力が強い教師ではあったが。もしかしたら辱めの類には耐性がないのかもしれない。治療なのだが。
絶対に、全身に傷を負うような事態にはなってはいけないのだと、教師は決意を固めていたが、未来はどうなるかわからない。先の事など、未来予測系都市伝説と契約でもしていない限り分る筈はないのだから。
なお、その遠くへと現実逃避されていた意識は。
「……万が一。万が一だけどさ。「昇天カーセッ●ス」とか「もげろ」で。股間が犠牲になってても使うと……?」
「待て」
「お風呂坊主」契約者の震える声での疑問で一気に引き戻されていた。女子高生がなんて都市伝説の話題を口にしているのか。どちらも男の急所が犠牲になる都市伝説ではないか。
そんなものは食らいたくもないし、それを「舐めたら治る」によって治療するとなると、絵面があんまりにも……。
「え、もちろん使うよ。そんな大事な場所、ちゃんと治さないとダメだろう」
「え。なんだこの時間が止まったみたいな沈黙」
「至極当然の反応でございますよ、「舐めたら治る」の契約者様」
腕立て伏せ続けつつ、自身を見て固まっている三人相手に首をかしげる「舐めたら治る」の契約者に「カマキリ男爵」はいち早く正気を取り戻してツッコミを入れた。
覚悟が……覚悟が、あまりにも完了しすぎている。と、言うより。もはや舐めるという行為を心の底から治療行為としか思っていないようで。あまりにも、認識が一般とかけ離れ過ぎていた。
「都市伝説と関わった契約者とはいえ。そこまで覚悟が完了と申しますか。認識がズレていらっしゃるのもまた、珍しい」
「そうか?いやまぁ、俺も周りが周りだし、多少は一般とズレてるって認識はあるけど」
あまりにもズレすぎている。そのせいで己の契約者含め三人が、意識を宇宙の彼方へ飛ばしてしまっている現実に「カマキリ男爵」はどうしたものかと思案した。もしかしたら三人共SAN値チェックに失敗したのかもしれない。一時的発狂で酷い結果を引かなければいいのだが。
「と、言うか。「カマキリ男爵」も、俺が他人を治療する事に関しては止めないんだろう?」
「確かに、契約者様も「お風呂坊主」の契約者様も。乙女であるというのにあまりにも自身の怪我に対して無頓着でございますので。治療には反対いたしません」
「なら、問題ないな」
「問題ある」
なんとか、「無限廊下」の教師の意識が現実に戻ってきた。教師として、教え子より先に復活せねばならないという意志が強かったのだろう。
「……今度、君の保護者とはじっくり、話し合う必要がありそうだ」
「え!?ちょ、それは止めてくださいよ。義父さんは仕事色々忙しいんですから」
ようやく慌てだした「舐めたら治る」の契約者。それでも腕立て伏せを続けているのだから強者だ。そろそろ百回を超えていそうなのだがスピードが落ちない。身体能力化け物か。「舐めたら治る」には身体能力強化等ないはずなのに。
深く深く、教師はため息をついた。まぁ、保護者と話し合うとしても。「舐めたら治る」の契約者が能力を使う事は止めないのだろう。せめて飲み込まれる事ないようにと思うし、自分達はなるべく負傷すべきではない。
「……そうそう。覚悟は決まらないものだ」
舐められる覚悟より、負傷しないように努力する覚悟の方が勝る事実。
固まったままの女子二人もそうなるのだろう。きっと。
今後、彼女らがどれだけ「舐めたら治る」によって治療されるのか。
それは全て、彼女らの運命次第である。
終
これは都市伝説と戦う為に都市伝説と契約した魔法少女の物語である。
「お疲れ様でしたー」
バラエティ番組の収録を終え、衣装も脱いで私服に戻ったアイドルグループ「FOXGIRLS」のメンバー達。まだまだアイドルグループとしては新人であり、人気もそこまで高い訳ではない為、帰宅の際に事務所に送ってもらう、みたいな待遇は残念ながらまだない。
「それでは皆さん、お気をつけてお帰りください。最近、変質者が出るというお話もありますからね」
生真面目なマネージャーは心配そうに五人にそう声をかけた。本当ならば送ってあげたいけれど他の仕事があって無理、と言う様子だ。
大丈夫ですよぉ、とメンバーの一人はけらけらと笑った。
「お父さんにお迎え頼むんで平気でーす」
「私も、お姉ちゃんが車で迎えに来てくれるから……大丈夫」
「変質者?……よかろう。我が愛機ブラックメタリックハイパーフォックス号に追いつけるかどうか、試してやる」
「スピード違反で捕まるとかないようにねリーダー。ぼくはタクシー呼ぶつもりだから平気」
「変なのと遭遇したら、すぐ110番できるよう構えておきますから。安心してください」
それぞれ、マネージャーを安心させるようにそう言って見せる。
いっそ、マネージャーの方が心配なくらいだ。複数の新人アイドルやグループのマネージャーと言う激務を担わされているブラック社畜な様子とか。見た目実に頼りないからむしろそっちが変質者に襲われないかとか、色々。
担当アイドル達の返答にひとまずはほっとしつつも。
「いいですか。何かあったら、すぐにこちらに連絡してくださいね?」
等と言って、マネージャーは次の仕事に向かっていく。いや本当、いつか倒れないかな。
「もー、マネージャーちゃん、いっつも過保護なんだからー」
「心配してくれてるんだよ。あの人、いい人だもん」
余計な心配かけないようにしなくちゃな……と思いながら、他のみんなとはテレビ局の前で別れる事にする。
メンバーの一人が、黒塗りのいかにも立派な自家用車に乗り込んで帰っていく様子を見守っていると、とんとんっ、とリーダーに肩を叩かれた。
「他の三人は車での帰宅だから大丈夫だろうが。主は平気か?歩きだろう」
予備のヘルメットを持って来ようか、と言う表情を浮かべているリーダー。
キャラ作り……ではなく普段からこういう喋り方と言う変わり者な点はあるが、きちんとメンバーを心配してくれているしっかりした人だ。喋り方がちょっとアレだけど。
「平気!ほら、いつでも110番でおまわりさん呼べるようにしておくし。ちゃんと悲鳴もあげるから」
「……いざ、危険が迫った際咄嗟にそれができる者はそうそう、おらんのだが…………本当、気をつけろよ」
「うん。リーダーこそ、スピード違反とかスピード違反とかスピード違反に気を付けてね?」
「ふん。そんなもので捕まるような半端な速度など出さんわ」
それはもっと駄目なのでは……?と疑問に思ったが、リーダーはそのまま、バイクに乗りこんで帰っていった。あぁ、一瞬で見えなくなる。どれくらいのスピードなんだろう、あれ……いつか本当にスピード違反で捕まって変なニュースにならないといいのだが。
とまれ、帰路につく。徒歩帰宅だが、途中で電車に乗るのだし平気だ。問題ない。夜遅い時間だけど、平気。怖くない。
だって、私は……。
「きゃあああああああああああああっ!!!!!」
ある程度歩いたところで、悲鳴が聞こえてきた。周囲を見回す。おそらく、悲鳴を聞いたのは私一人。
「……もう!」
放っておくことなんてできない。悲鳴の方向へと駆け出す。
あぁ、これを放っておくことができないから。私は、これと契約したのだ。
「誰か……誰かぁっ!!」
「うるせぇ!暴れるんじゃねぇ!」
1人の女性が襲われている。全身包帯まみれの注射器を持った男に。それが「注射男」等と呼ばれる都市伝説と契約した存在であると、襲われている女性はわからないだろう。都市伝説であろうとそうじゃなかろうと、これは変質者であるし犯罪者だ。女性を注射器の中の薬品で昏倒させた後、股間の注射器を刺そうとしているからなおさらだ。
注射を刺そうにも、女性は暴れる。それでも馬乗りになって押さえつけ、注射しようとした。
その時!
「そこまでよ!!!」
凛とした声が響き渡り、「注射男」は、襲われていた女性は、思わずそちらの方向を見た。
そこには、人影一つ。月光をバックに、びしりとポーズを決めていた。
「我が名は魔法少女お狐仮面!罪なき女性を襲う変質者め!私が相手だ!!」
凛々しく叫ぶそれは、少女のようだった。少女のはずだ。体格的にも声からしても。
しかし。
問題はその纏う魔法少女めいた衣装だった。
「……変態だーーーーーーーーーーっ!!!???」
思わず叫んだ「注射男」は悪くないだろう。
明らかにパンチラしそうなギリギリ丈のマイクロミニスカート。ふわふわお狐毛皮のニーブーツ。胸元・へそ・二の腕完全露出。必要最低限だけを覆った狐の毛皮。そもそも、股間辺りだけはマイクロミニスカートで半端に布で覆っているせいで余計に変態っぽい。狐耳と尻尾とか狐手グローブとか、狐仮面が気にならない変態ファッション。否、痴女ファッションだ。
「だまれ!変態はそちら!!いざ、勝負っ!!!!!」
恥ずかしさを押し隠しながら、魔法少女お狐仮面……「おたねさん」の契約者たるアイドル少女は、「注射男」に殴りかかった。
「おたねさん」。悪人だけをいじめる正義の狐の妖怪。少なくとも彼女はそう認識していたから。
故に、彼女はアイドルを続けながらも正義の魔法少女として、日々、羞恥心に抗いながら戦うのだった
終
■おたねさん
鳥取県境港市に伝わる。
女に化けるのが得意な狐で、善人は欺かず、悪人だけをいじめるという。
盗人を探し出したり、災いを知らせたりなどもしたという。
(佐藤徳堯『山陰の民話 第一集』)
■今回の単発の契約者の場合
契約によって変身能力会得。
魔法少女の如き姿(本人談/ちょっと恥ずかしい)になり、抜群の身体能力によって相手を叩き伏せる他、狐らしく様々な姿に化けることができる。
また、伝承通り盗人を探知したり、災いを感じ取ることもできる。
改めて単発の人乙です
「チームワークの勝利だ!」 トランペット小僧は契約者ともトランペットでコミュニケーション取ってるんですかね
「腕のいいマッサージ師」 マッサージ師のゲテモノ食い……いやそれで誰かが幸せになれるならそれでいいのか……? ブラック企業と戦う決意を固めたお姉さんの明日はどっちだ
「永遠の子供」 ピーターパンの契約者じゃなくてティンカーベルの契約者なのか……もしかするとティンカーベルを自称して人間の子供を破滅されるタイプの妖精かもしれんな
「真夜中の決闘と言う悪夢」 久々に兄貴っぽいの見た。多分6年くらいかな? 「ポポバワ」なんて初めて知りましたがtwitterで一時期話題だったようですね(一体どの界隈に……いや考えない方がいいだろう)お下品でした♡
「デリカシーは投げ捨てて」 性癖歪む系その① カマキリ男爵もいい性格してましたが「舐めたら治る」に全部もっていかれた。良かったです♡
「バーニングガール」 「人体発火現象」の契約者がこれからどうなるのか気になる良作品でした。闇堕ちするならそれも良し。個人的には「舐めたら治る」の被害者になるのが良し
「夜に駆ける」 契約者ではなく登場人物全員が都市伝説というところがポイントですね。これで契約者をゲットしたらどうなってしまうんだ……個人的に「ミサイルにまたがる女子高生」のスピンオフが見たい。戦ってほしい(何と?)そして見られてほしい(何を?)
「道踏み外して外道歩み」 シリアスいいですよね。でもこれ最初読んだとき、一個上に登場した「光速ばばあ」ぶつけたらどうなるんだ? と考えてしまった
「襲われる条件を考えるとつまり」 読み返すと黒服が良い味だしてるが「お風呂坊主」の契約者との距離感がほどよいですね。まさかここからあんなことになるとはこの時点では思ってなかったよ
「めぇ!めぇ!めぇ!!」 「バロメッツ」の契約者は絶対線細い系マイペース青年に違いない。連載になったら「舐めたら治る」と仲良くなるやつだと思う。組織内売店にしばらく羊肉が並ぶ光景まではっきりイメージできました
「単発から連載へってよくあるけど連載になるほど話は浮かんでいない」 性癖歪む系その② まさかの「お風呂坊主」契約者&黒服コンビの再登場。絵面があまりにも酷すぎるいいぞもっとやれ!!(性癖歪んでほしい♡)
「無限の夢幻」 「無限廊下」と契約した先生はいい先生なんでしょうけど、最後に登場した「舐めたら治る」に全部もっていかれた(超えてはいけない一線超えてほしい♡)
「夢を抱き飛ぶ」 相手はもしや「臓器の記憶」の契約者なのでは? と思いましたが真相は闇の中。契約者が死んだらどうなるのか問題への1つの回答とも読めるんですが、個人的に次誰かと契約したら契約者の意識は完全に戻らなくなると思う
「治療行為への覚悟完了」 性癖歪む系その③ まさか被害者の会が結成するとは思ってなかった……読めば読むほど組織は女性向けの治癒契約者を別に用意した方がいいのでは? と思いました(それはそれとして変な癖に目覚めてほしい♡)
「満足するために」 「デスブログ」はこうブラックなユーモアな感じの短編でしたがここから世にも奇妙な物語みたいな展開になりそう。読みたいようで怖い。けど続きが読みたい
「これが私のお狐さんだ」 まさかのFOXGIRLS第二弾。まさか土着の妖怪と契約した結果魔法少女っぽい姿になるとは……ふと疑問に思ったのですが普段のアイドル衣装とどっちがきわどいのだろう
まさかVIPから生まれた「都戦都契」が10年以上続くとは思ってなかったのですが、シェアワールドなんだからこのコンセプトを外部で利用する人が現れるんじゃないかとひそかに期待してたのですが……そんなことはなかったな!(誰か知ってたら教えてね♡)
あと最近知ったけどこのスレR-18っぽいところに立ってるんですね……エロ
この年末年始に投下された皆様、お疲れ様でした
個人的に心に来たのは腕のいいマッサージ師の単発でした……自分も受けたい……業やしがらみを全部抜き取られたい……!!
ご無沙汰しております、「次世代ーズ」でございます
以前は2週間前に投下すると言っておきながら3年経ってやって来る有様で
特に花子さんとかの人、鳥居の人、アクマの人にはご迷惑をお掛けしました
クロスしてくださったやの人、ありがとうございます……!
今年から心身ともに余裕ができ……そうなので「次世代ーズ」の続きを投下していきます
具体的には【9月】【10月】のエピソードをガンガン書きつつ
最大の問題の【11月】に最早迷惑集団と化した「ピエロ」の勢いを削ぎつつ、顛末に決着をつけたいです(つける)
ひとまず今夜は次世代ーズ 32 「エンカウント side.A」の続きをいきます
>>334-342
早渡がソレイユに`襲われそうになった騒動の、ソレイユ=日向視点です
「観念しなさい、この変態クマ」
震えそうになる息を、抑える
すくみそうになる両膝に、力を込める
私が杖を突きつけた先にいるのは商業の制服を着た男子
いかにも呆気に取られましたといった体でこっちを凝視している
ふざけた格好にふざけた表情のふざけきったチャラい存在だ、吐き気がする
変態クマ
東区の公園で変態的な暴挙に及んだ絶対悪
あの屈辱を受けた日から、私はその正体を突き止めようと躍起になっていた
そして、目の前にいるこいつ
こいつこそがその許されざる犯人だ
こいつの蛮行はあの日の暴挙だけに留まらない
近頃、学校町の東区や南区で度々目撃されているという露出魔は
十中八九この変態クマ、正しくはクマのぬいぐるみを操って変質的な破廉恥を繰り広げてきた本体だろう
私は情報収集で得た手掛かりから目星をつけて犯人の捜索を続けてきた
そのなかで浮上してきたのが、目の前にいるこの男だ
正直、犯人が年の近い男子なのは意外だった
しかしだからと言って、それが容赦する理由には全然ならない
自分の鼓動がいつもより大きく響いてくる
こいつが何か言おうとしたので思わず“炎矢”を発射してしまった
自分の喉から悲鳴を飛び出しそうになるのを、無理矢理こらえる
「言っとくけど、余計な真似したら消し炭にするわよ」
声が震えないように、声が上ずらないように、頑張って抑えつけた
そう、これは戦いだ、絶対に気取られてはいけない
以前の繰り返しになっては、絶対に駄目だ
落ち着け、落ち着いて自分、大丈夫
こうして対峙することは前々から決めていたし
これまでにやるべきことも、事前準備も、きちんとしてきた
だから今日、此処でこいつを仕留めないと――!
「千十は今日バイト休みよね?」
「え? うん、そうだよ」
時間は戻って、今日の放課後
HRが終わった後、私は千十に念のためこの後の予定を確認していた
「これから予定ある? どこか寄ったりとか」
「今日は……うーん、そのまま帰ろうかなって」
それがいいわ、私は大きく首肯する
そもそも今日の千十は朝から具合が良くなさそうだった
「安全な大通りから早めに帰った方がいいわ。できれば陽のある内に」
「……ありすちゃん、何かあったの? 今日、ずっと、怖い顔してるよ?」
どこか遠慮がちにそんなことを訊く千十に、私は少し言葉を選んだ
「東区から南区にかけて露出魔が出没しているのは知ってるわよね?」
「うん、何度かホームルームでも先生が注意してたよね」
「その露出魔、契約者よ。間違いないわ。それもかなり悪質なやつ」
「え……」
最近この町を徘徊する変質者は、なにも都市伝説だけじゃない
なんでも新たに変態の露出魔が出没するようになったらしいのだ
クラスでもその都度担任から注意するよう通知されている
案の定、千十は表情を曇らせた
別に怖がらせるつもりじゃないけど、でも伝えておく必要はある
「もしも二足歩行するクマのぬいぐるみを見かけたら、絶対に近づかないで
全力で逃げて、余裕があったら私に連絡して」
「あの、ありすちゃん。これから何するつもりなの?」
千十は私と同じく、契約者だ
この子は普通の契約者みたいに能力が使えるわけじゃないらしいけど
私と同じように都市伝説やら怪異やらの類を知覚することができる
その所為でこれまでにも何度も怖い思いをしてきたらしく、都市伝説に対して恐怖を抱いている
そして千十も知っている
私が契約者であることも、有害な都市伝説をできる範囲で撃退していることも
「変質者の目星はついてるの
犯人はどうも南区の商業生っぽくて、能力でぬいぐるみを操作して女性を襲ってるみたい
そいつの行動範囲が問題の露出魔とほぼ一致してるのよ。これ以上あんなふざけた真似を見過ごすつもりは無いわ」
「ありすちゃん、また一人でやるつもりなの? 危ないよ! それなら私が」
千十の目を見つめる
彼女の言葉はもっともだし、心配してくれてるのはよくよく理解してる
確かに一人でやるにはリスクが大きいかもしれない
反りの合わないノクターンの助けを借りる手も考えた、けれど
「大丈夫、私だって無理はしないし」
今回は勝算がある
でもそれだけじゃない
やっぱり、この手で直接叩かないことには、納得がいかない!
●
「これでよし、と。ざっとこんなもんかしらね」
高校を後にして問題の場所に到着する
一応制服の下から水着だけは着てきたとはいえ
まだマジカル☆ソレイユの衣装へと完全に着替えたわけではない
街中でまだ日も暮れてないうちからこの格好で出歩くことになるのには躊躇したし
作戦的に路上で着替えることになるのにも大いに躊躇した、したけれど
今回はそうも言ってられない、状況が状況だ
此処は東区、昼間も夕方も他の場所よりも一際閑静な住宅街の路地だ
あいつは東区の住宅街だろうと、此処より人が居るような場所だろうと、そんな時間帯だろうと
場所や時間に構わず、変態行為に及んでいることは調べがついている
ましてや人気のないこの場所は、あいつにとっては格好の狩場ってとこだろう
路面には目立ちにくい暗色系のビニールテープを貼り付けた、無数の目印
仕掛けのために昨夕用意したものだ
これまでの傾向から判断するに、あいつはこの時間帯、間違いなくこの道を通る
言うまでもなくあいつの動線は把握済み、目印はそのためのものだ
此処に隠しておいた使い古しの抱き枕を引っ張り出す
これは囮のためのもの
「アアヴ・エ・ファイ、ヴァスヴォーシュ・アント…… (炎の鎖、私の戦意)」
抱き枕へ杖を向けて“熱鎖”の呪文を掛ける
元々は敵を拘束するために考え出した呪文だけど、今回の目的は違う
抱き枕に私の気配を編み込むため、プランAが失敗したときの代替策だ
ここまでは問題ない
あとはシミュレーション通りに動くだけだ
この日のために事前のリサーチと準備は怠らなかったんだし、だから大丈夫
抱き枕を所定の位置へ隠すように置く
今になってまさかこんなに緊張してくるとは思わなかった
でも、頭の中では今日の計画を幾度も練ってきた、だから、大丈夫
プランAは「あいつの先を歩いて、襲い掛かってきたところをいい感じで返り討ちにする」
プランBは「万が一あいつが別の道へ逸れたり、襲ってこなかった場合は、どうにかして此処に誘い出す」
作戦と呼ぶには我ながらアバウトすぎるけど、何が起こるか分からない以上臨機応変に立ち回るしかない
だからこれはあくまで行動方針的なものだ
「そろそろ時間ね――」
時刻を確認して私自身の待機位置へ歩を進める
推定通りならそろそろこの道をあいつが通る頃合だ
大丈夫! 私ならやれる!!
そして、今
私の想定は概ね間違ってはいなかった
あいつは確かにこの辺りに近づいてきたし、私はうまいことあいつの前方を位置取ることに成功した
ただ、あいつは直ぐには襲ってこなかったし、よりによって今日は別の道へ逸れようとしたので
思わず声を出して注意を引かなきゃいけなかった
電柱の影に飛び込んで大慌てで制服を脱いでソレイユの格好に着替える羽目になったし
結局プランBに切り替えるような形になった
それでも、とうとう私はあいつを此処へ追い込むことに成功した
●
「覚悟なさい、あんたが今までやってきたことを後悔させてやるわ」
声が震えそうになるのを抑える
こいつに向かって、もう既に“炎矢”を放ってしまった
絶対に逃げるわけにはいかない、此処で確実に仕留める必要がある
大丈夫落ち着いて自分
この日のために何度もイメトレを重ねてきた
敵が私とほぼ同じ年齢の男子だというのは早い段階で分かっていたし
敵が何を言ってどう動いたら、こっちはどう出るべきなのかも検討してきた
そういえば年の近い契約者と交戦するのって初めてだっけ
そもそも都市伝説ではなくて、契約者相手に戦ったのって、どれくらい前だっけ
イメトレのときには思い浮かびもしなかったようなことが、今になって私の頭のなかを渦巻きだした
落ち着いてありす、大丈夫だから
自分にそう言い聞かせないと
大丈夫、今なら能力の使用にはまだまだ余裕がある
今日は私の方が有利なんだから
「ごめん、あの、身に覚えがないんだけど」
は?
目の前の犯人の言葉に、一瞬、頭のなかが真っ白になりかけた
「覚えがない? へえ、そんなこと言うの? 一言目がよりによってそれ? ふざけてるの?」
頭のなかが真っ白のまま、ほぼ無意識で怒りが言葉になって私の口から出てくる
こいつの表情は、なに? 動揺? もしてかして恐怖? そんな顔で私を見返している
なんでそんな顔ができるのよ
なんでそんなすっとぼけてられるのよ
「知らないとでも言うの? いい加減になさいよこの変態!」
犯人が何か言い訳がましいことを口にした。何を言ってるのかなんて耳に入らなかった
私は怒りのままに何かをまくし立てた。自分が何を言い返したかなんて覚えてられるわけなかった
いやもうそもそも、この男の存在そのものが、論外だった
こいつが私に何をしたきたか
私だけじゃない、こいつがこの町のあちこちで何をしでかしてきたか
それを思い出すだけで、マグマのような怒りが私の内側を焼き尽くしていた
「ヌルヌルのベチョベチョにするって言い放って、エロ……くっ……
あっ、や、やらしいことしようと迫ってきたことも、とぼける気ね!?」
不意に我に返る
公園で受けた屈辱を口にして、そのことを思い出して、一瞬言葉が詰まってしまった
「待って本当に身に覚えがないんだけど!?」
対してこいつが切羽詰まったような声色で即座に言い返してきた答えが、これだ
身に覚えが、ない
あらそう
ふざけないで!! この期に及んでまだシラを切り通すつもり!?
あんなやらしい犯罪行為をしでかしておきながら!?
犯人の目を、睨みつけた
(ソレイユちゃん、メリーの勘だけどあの人は犯人じゃないと思うのー)
何故だかこのタイミングで、いつだったかのメリーの言葉を思い出してしまう
いつ言われたことだっけ? そのとき私はなんて応じたっけ?
ほんの一瞬、自分のなかの怒りがフッと冷めた気がした
こいつの返答って、全部私を騙すための演技なんだろうか? 知らないフリを続けるために?
少なくともウソを吐いてるようには見えない。私のなかで徐々に混乱が渦巻き始めた
もしも
目の前のこいつが、変態クマの正体じゃないとしたら?
こいつが犯人というのが、全部私の勘違いだとしたら?
「そう、しらばっくれる気ね。いいわ、いいわよ。そっちがその気なら――」
混乱した思考とは裏腹に、勝手に言葉が口から出てくる
ど、どうしよう
卑劣な変質者なら人を騙すことなんて何とも思わないかもしれない
だからこいつが本当に犯人で、こいつの答えが、態度が、表情が、全部演技の可能性だって十分にある
でも、もしもこいつが変態クマの犯人じゃ、なかったとしたら?
どうしよう
こういうときは一度痛い目に遭わせて、それから様子を見るべき?
「あくまでシラを切り続けるつもりなら、本当のことを話したくなるまで、体の端から灰にしていってやるわよ!?」
考えなしに我ながら物騒な台詞が口から滑り出た
私はそれを、止めることができなくなっていた
でも――そうだ、それがいい、今のはいい案だわ
大丈夫、端っこからちょっとだけ焼いていく、それだけだから
それで己の罪状を自白し始めるかもしれない。そうだ、拷問に掛ければいんだ
「言っとくけど、前の私と同じだなんて思ってたら、死ぬほど後悔させてやるわよ」
目の前の男子は見開いた両目で私のことを凝視している
もし、もしも
この男子が、本当に変態クマの正体じゃ無かったとしたら?
無実の人を、拷問に掛けるつもり?
どうしよう
「アアヴ・エ・ファイ、ヴァスヴォーシュ・アント (炎の鎖、私の戦意)
アルヴィル・ノッド・アルヴィル―― (強く、より強く――)」
ほとんど麻痺したような私の頭は
半ば無意識のうちに、“熱鎖”の呪文を唱え始めた
この呪文で拘束されると、温度を上げて相手の身体を熱することも、焼くこともできる
威力を上げれば火だるまにすることだって可能だ――勿論、人を[ピーーー]ことだってできるかもしれない
どうしよう
男子に向ける杖が、大きく震えた
すべての音が消えた、少なくともそう感じた
それは一瞬だった
男子の両目が、私を捉えている
こいつの目には、恐怖の感情が渦巻いていた
恐怖、私に対する恐怖
ようやく実感した、こいつが私に抱いている恐怖を
どうしよう、私はこいつが変態クマの正体であることを前提に準備を進めてきた
でも、思い返せば
メリーはずっと、何度も口にしていたんじゃないか
目の前の男子が、本当に変態クマの正体なのかと、疑念をことあるごとに口にしていたんじゃないか
そしてそれを、私は軽く受け取るか、無視してきたんじゃないか
くすくす くすくすくす くすくす
不意に、女の人の笑い声が聞こえた
幽かな、囁くような、嘲笑うような、そんな嗤い声が
憑かれたように、男子を見る
何故そうしたのかは、自分でも分からなかった
くすくすくすくす くすくす くすくすくす
その声は当然私のものでも、男子のものでもなかった
笑い声は、私の直ぐ耳元で、聞こえた
「――待って!! ありすちゃん!! 駄目!!」
麻痺していた頭が、一気に現実に引き戻される
聞き慣れた声だ
「あり、あっ……ソレイユちゃん! 駄目! 待って!!」
数秒遅れて知覚に思考が追いついた
「千十ぉ!!??」
あの後、学校で別れて先に帰宅した筈の千十が、目の前にいる
千十が、問題の男子と私の間に割って入っていた
まるで、男子を庇うように
ちょっっ、えっっ!? な、なんで千十がここにいるの!!??
先に帰ったんじゃなかったの!!??
なんでそいつのこと庇ってるの!? なんで!!??
「千十!! な、何やってるのよ、こっちに来て!!」
「待ってあり、……ソレイユちゃん! 脩寿くんと何かあったの!?」
「千十!! そいつから離れて!! そいつが変態クマよ!! 早くこっち来て!!」
「変態クマって……」
はっきり言う、千十は男子が苦手だ
それも男子から急に話し掛けられると飛び上がってしまうレベルで
だから、目の間にいるこの犯罪者を、千十が庇った理由が私には理解できなかった
「違うよ、脩寿くんじゃないよ! そんなことをするような人じゃないよ!!」
なんてこと言い出すのよ!?
なに!? 知り合いなわけ!? そんなのと!?!?
「脩寿くんじゃないよ! だから……ソレイユちゃん、お願い。杖を下ろして」
どうしよう
さっきまでの私はちょっとパニックになってた
でもでも、この男子が変態クマの正体では無いと確定したわけでもない
一瞬、迷った
私をみつめる千十の表情は普段よりも固い――とりあえず、杖を下げるしかなかった
「千十、とにかくこっちに来て! 早く!!」
無論、この男子のことが信用できるわけじゃない
千十が騙されてる可能性だって十分にあるわけで
最悪なのは、この男子が千十を盾に本性を現すパターン
この場に私が居ながらそんな事態になるのは、絶対に許されない
もうこうなった以上、一旦撤退するしかない
「メリー!」
千十の腕を掴んだまま、携帯でメリーを呼ぶ
最初の計画には無かった緊急時の最終手段だ
無論、男子からは目を離さない
そいつは困惑したような表情で、最後までこちらを凝視していた
「ありすちゃん、一体何があったの!?」
そして
私達は学校町内のドーナツ屋にいた
メリーの能力で転移した後、近場の公園トイレで早着替えを済ませてある
さすがにソレイユの格好でお店に入るわけにはいかないし
どこから説明しよう
私の対面席で千十がいつになく怖い表情をしている
言葉にもなんというかこちらを責めるような圧がこもっていた
そんな彼女を前に、切り出す言葉を選ぶ
思えば、こんな顔する千十は初めて見るかもしれない
「せとちゃん、ありすちゃんはねー、テディベアを操る変質者を追ってたのー」
私に代わりに答えたのはメリーだった
メリーはぱっと見、もこもこした羊のぬいぐるみ
だから声を出しているのを他人に気づかれなければ割かし安全だ
メリーはテーブルに置いた私の腕のなかで震えるように身動ぎしている
「そう、その……そうよ
それで、色々調べて回ってたんだけど
そのうち、あの男子が犯人の可能性が強くなってきたんだけど」
「でもでもー、あの男子ーが変質者だっていう決定的証拠は無いなのー
今のところは、あくまでありすちゃんの推測なのー!」
メリーは私の説明に横槍を入れると
私の腕から抜け出して、テーブルをちょこちょこ駆けて千十の胸元へ飛び込んだ
彼女はメリーを抱きしめて、今度は不安そうな面持ちでこっちを見てくる
「それよりも千十! あなたアレと知り合いだったわけ!?」
「知り合いというか、お……幼馴染だよ! あの、小学校の頃に一緒の施設にいたの
ありすちゃんにも前、紹介したい友達がいるって言ったでしょ? それがさっきの、脩寿くんのことなんだけど」
「あいつが」
「脩寿くんは人を傷つけるような真似をするような人じゃ、……ないんだけど
だから、あの、変質者じゃないと思うんだけど、何かの間違いじゃないかな……?」
大きく息を吸い込む
落ち着こう、こういうときは一旦整理しないと
さっきあいつを追い詰めてたとき、私は確かに熱くなってた
思い込みで判断していたところも多いかもしれない
でも――でも、だ
「確かにあいつが犯人だって直接的な証拠は無いわ、今のところ全部状況からの判断よ
でも、あいつの行動範囲は変質者、クラスでも話題に挙がってた露出魔が目撃された箇所とほぼ一致するし
それにあいつが夜の東区を徘徊しているのは、私もメリーもこの目でしっかり確認してるのよ」
「うー、それはそうなのー。あの男子ーは、あちこち徘徊してたのー。東中とかー」
「ああ、まあそうね、別に東中だけじゃなく東区の広い範囲を……、東中! そうよ!!」
思い出した。証拠、あった!
東中であの男子が都市伝説の少女を襲ってたことを話さないと
一瞬、千十を怖がらせるんじゃないかとも思った
この子は東中の出身で、そもそも学校の怪談全般を怖がってた筈
でも状況が状況だ
「千十、あいつはね、夜の東中で都市伝説の……そう、『学校の怪談』の女子に襲い掛かってたのよ」
「へ!?」
「あう、それも本当に襲ってたのか、ちょっと微妙なところなのー」
「いやでもあれは襲ってたと見てほぼ間違いないでしょ!」
「……」
千十は自分の携帯を握りしめたまま固まっている
「千十、あなたの幼馴染かもしれないけど、あいつは……千十!?」
「あおお、あおお……!!」
彼女は変な声を上げだした
千十の目が、激しく泳いでいる
「しゅっ、脩寿くんはっ! 昔、せッ、セクハラ大魔王って呼ばれた時期もあったけど!
あ、あれは単に、寂しがり屋な、やんちゃさん、だっただけだからっ! ほんとは優しい子だったから!」
「せ、千十? いま、なんて?」
「い、今もへっ、へへ、変態さんかもしれないけど、けどっ
でも、でもっ、そんなっ、人を傷つけるようなこと、するような人じゃないからっっ!」
「千十、ちょっと、どうしたのよ!?」
どうしよう
こんな様子のおかしい千十、初めて見た……
でも今、あいつのこと変態呼ばわりしてなかった?
ちょっと千十、どういうことなの!?
「わ、私っ、脩寿くんを、ココに呼ぶねっ!」
「は!? あいつを!? ここに!? 呼ぶ!? なんで!!??」
思わず大声を出してしまった
途端にお店のなかが静まり返った
店員さん含め、皆がこっちを見ている
「あ、す、すいません――!」
立ち上がって店内にいる人たちに頭を下げた
我を忘れて大声出しちゃうなんて、何やってるの私
千十は脇目も振らずに凄い勢いで携帯をフリック操作している
「あばばばば……! 私が、誤解を、解かなくっちゃ……!!」
「ちょ、ちょっと千十! あいつを呼ぶって、どういうつもりよ!?」
「こっ、こういうときは、やっぱり両方の話を聞くのが大事だと思うし!
それに私は脩寿くんが、へ、変質者じゃないって、信じてるから!」
私は身を乗り出し、押し殺した声で千十に尋ねると
彼女は顔を上げてそんなことを言う
「それがいいと思うのー! 本人に話を聞くのが一番と思うのー!
疑うのはそれからでも遅くないと思うのー!」
「メリーまで!?」
メリーも千十に同調した
ちょ、ちょっと待って!? 本気でアイツここに呼ぶの!?
マジで!?
□■□
乙でした
こちらこそ年単位で続き書けてなくてごめんな……さ……
歌番組の収録が終わり、お疲れ様ー、とみんなで労いながら楽屋へと戻る。
着替える前に、鏡に自分の姿を映して……むぅ、と一人考え込む。
「おたねさん」の契約者として、契約で得た変身能力でもって「魔法少女お狐仮面」に変身して戦う彼女。変身した際の装束が痴女ルックギリギリなのが悩みの種だ。正直、「FOXGIRLS」の一員としてのアイドル衣装の方がまだ布面積が多い。こちらは露出よりも、かわいらしさ優先だからそのせいもあるのだろうけれど。
(あぁ……「おたねさん」。どうして……どうして、変身した時の姿があんな痴女ルックなの……)
(聞こえますか……私の大切な契約者…………この「おたねさん」、瀕死の状態であなたと契約したが故、実体化できませんがあなたの心に直接語りかけて答えましょう…………変身姿が露出狂一歩手前なのは……想像力です…………あなたの想像力がより豊かになれば…………きちんと布面積の多い姿に変身できましょう……)
自分だけに聞こえる「おたねさん」の声はいつでも優しい。優しいけれど、時々ちょっぴり容赦ない。
なるほど想像力。すでにあの痴女みたいな変身姿が脳裏にこびりついてしまい、変身する際にその姿を思い浮かべてしまうのがいけないのか。もっと……布面積の多い姿を、想像しろと言う事か……。
「どうしたの?ぼーっとして?」
「え?……あ、ごめん。なんでもないよ。ちょっと疲れちゃったみたい」
「つっかれたよね~。もう、クイズ難しすぎ~」
「うむ。実に難敵であったな。頭脳戦もまた戦い。実に素晴らしい」
わいわいとみんなでお喋りしながら、アイドル衣装から私服に着替えていくことにする。
その最中、むぅ……と、リーダーは鏡に自分の姿を映し、呻く。
「……やはり。我には、このような愛らしい衣装は似合わぬのでは……?」
「え?なんで。リーダー似合ってますよ」
「そうですよぉ。マネージャーちゃんだって、似合ってるってべた褒めだったじゃないですかぁ」
「む、むむ……っし、しかしだな。主らならともかく。我のような背丈もあり、筋肉もついている女が。こ、このようなフリフリひらひらとした衣装はだな……」
「ちゃんと、二の腕とかカバーしてくれるデザインだから大丈夫だって。ぼく、リーダーとおそろいの衣装で嬉しいよ」
わいわい、きゃいきゃい。
みんなの会話を聞いて、ほっとする。「おたねさん」と契約して、非日常に触れるようになって。こうしたアイドルとしての活動もまた、一般の人から見れば非日常に近いのかもしれないけれど……自分にとっては、これが日常。護るべき大切な日常だ。
この日常を守る為にも、もっと「おたねさん」の変身能力を使いこなせるようになって。もっともっと、強くならなければいけない。
そう、強く噛み締めた。
その男は、監視カメラの映像をじっと見つめていた。
テレビ局の警備員。それは表の顔。裏の顔は、業界の人間の裏を探り弱みを握り、恐喝し、懐と欲を満たす俗物。テレビ局のお偉いさんと言う立場を利用して、やりたい放題だ。
(これも、都市伝説って奴との契約のおかげだな)
手元で、くるくると赤いクレヨンを弄ぶ。肉欲を満たす際は、これを使うに限る。ターゲットを閉じ込め、そうしてじっくり嬲る。その様子を撮影してしまえば、もうこっちのものだ。映像は、この警備員室の監視カメラの映像ログに紛れ込ませて隠している。
都市伝説なんて誰も信じない。そんなものを人に語ったところで頭の具合を疑われるだけ。通報もできない。
実に人間の屑かつ下衆の嗜好をしながら、男は監視カメラで今宵のターゲットを選別する。
(こいつらのうち、どれかにしようか)
カメラに映る。今、売り出し中の新人アイドルグループ。狐をモチーフにした装束を纏い、狐をテーマにした歌を歌う彼女らは、ロリ体型ロリボイスから高身長ナイスバディまで、色とりどりの美少女美女が五人も集まっている。どれもこれも素晴らしい。
男の好みとしては、あの高身長のリーダー。常に強気であり、トーク番組等ではいっそ雄々しさすら見せるそんな女が、無様に泣き叫び許しを請う姿を撮影出来たらどれだけ素晴らしいだろうか。
(よし、今夜はこいつ……に……?)
ふと。
メンバーの一人と。映像越しに、目が、あった。
「……?なんだろ。騒がしい」
着替えも終えて、マネージャーがタクシーを呼んでくれると言うのでそれに甘えて(リーダーはバイクがあるからと辞退したが)みんなでテレビ局の出口付近に集まっていたのだが。
何やら、上が騒がしい。悲鳴のような、雄たけびのような……そんな声が、聞こえてきた。
「なんか、こわぁい」
一番年下のメンバーが、ややぶりっ子口調ながらも怯えたように縮こまった。
そんな様子に、す、とリーダーはこの出口までの直線通路を塞ぐように立つ。
「安心しろ。何かあれば、我が主らを守ってやる」
「リーダーが……頼もしい……」
「雄々しさすら感じてしまって申し訳ないし、リーダーに何かあったらぼくらが悲しいから、無理しないでね?」
そうだ、確かにリーダーは頼もしい。バラエティの腕相撲企画でうっかり元メダリストのレスリング選手相手に腕相撲で勝ってしまった程度には頼もしい。
けれど、何かしら物騒な事件が起きて、それでリーダーが怪我をしてしまったら。自分達は悲しいのだ。
だから、自分も一歩、前に出る。
「リーダー、いつでも逃げれるようにしようね?」
「任せよ。主らは必ず逃がす」
違う、そうじゃない。そうツッコミを入れようとしたところで、慌てたようにマネージャーが走ってきた。
こちらが全員揃っている様子に、ほっとしている。
「マネージャーちゃん、なんか物騒な声聞こえてきてるけど、何かあったの?」
「その……警備員室の方でトラブルがあったらしくて…………皆さんには、関係ない事です。騒動に巻き込まれる前に、帰りましょう」
タクシーもそろそろ来ているはずですから、とマネージャーはぐいぐいと自分達五人をテレビ局から出そうとしている。
警備員室でトラブル……何だろう。怪我人とか出ていないといいんだけれど。
「…………」
「?どうしたの、監視カメラになんかあった?」
「……いや。なんでもないよ」
いつもボーイッシュな雰囲気をただ寄せているメンバーが、監視カメラを睨んでいた気がしたのだけれど。
気のせい、だったのだろうか。
この日、警備員室にいた警備員が、突然叫び出して警備員室の監視カメラの映像機材、過去の映像記録も破壊し暴れまわり、泡を吹いて倒れたと知ったのはそれからしばらくしての事だった
信じようと、信じまいと――
とある病院警備スタッフが自殺した。
同僚の話によると、監視カメラの映像を見ている際に、突然叫びながら記録用のビデオテープを破壊し、逃げるように出て行ったという。
この事件は精神的ノイローゼによる自殺として処理されたが、結局彼が何を見たのかはわからない。
信じようと、信じまいと――
終
これは、都市伝説と多分戦う為に都市伝説と契約した能力者達が巻き込まれた事件である。
ついでに、前回このお決まりの一文忘れてましたね。
『くくく……我こそは都市伝説「エッチな事をしないと出られない部屋」の契約者。そして貴様らがいるその部屋は、「エッチな事をしないと出られない部屋」……』
「「都市伝説「エッチな事をしないと出られない部屋」!!??」」
突然の説明台詞であるが、つまりはそういう事だ。
二人は、突如として壁も床も天井も真っ白な部屋に閉じ込められてしまっていた。室内には出入口らしきものはない。あるのは大きなキングサイズベッドと、なんか色々入っているのであろうなと言うベッドサイドチェストだけ。
つまりは、そういう部屋なのだろう。この部屋を作り出したと思わしき契約者の姿は見えない。見えないが、声は聞こえる。一方的に部屋の中の様子を見たり聞いたりできて、なおかつ声を届けることができるのだろう。
『くははははは!我が都市伝説「エッチな事をしないと出られない部屋」は、問答無用に二人を閉じ込め、なんかかしらエッチな事をしないと決して出られない部屋を作り出す程度の能力!』
どうやらその通りらしく、「エッチな事をしないと出られない部屋」の契約者の声が響いた。問答無用、と言うのが本当かどうかはさておき、二人が閉じ込められたのは事実であり、宣言通りにエッチな事をしないと出られない事は確かなのだろう。
ある種、実に厄介で悪趣味な能力だ。悪用されてはとんでもない。できれば、契約者は押さえておきたいところだが……果たして、契約者本人はどこにいるのか。
『さて、こうして閉じ込めたところで我は言うべき事がある!!』
得意げな声。
…………は、直後、実に素に戻ったかのような冷静な声になって告げる。
『なんで、男二人でこの部屋来ちゃったの???』
そう言われてもなぁ、と言わんばかりの顔になる、「バロメッツ」の契約者と「舐めたら治る」の契約者。閉じ込められた身としては、そんな事を言われても困るのである。
「閉じ込めたのはそっちでしょう」
『いやいやいや。我は女子とそっちのちょっと線が細い感じの男子で閉じ込めようとしたんだよ?気の強そうな女子と線の細い男子の組み合わせヒャッハーって思っただけだよ?なんで、体鍛えられてる系男子と線細い系男子になってんの?なんで???』
「怪しい視線が二人に注いでたから、とりあえず彼女だけでも逃がそうと突き飛ばした結果かな」
「エッチな事をしないと出られない部屋」の言葉に、なるほどと納得する「舐めたら治る」の契約者。怪しい視線に、とっさに「カマキリ男爵」の契約者を突き飛ばして正解だったようだ。女子がこのような被害にあうのは可哀想だから。
(突き飛ばして、こいつと並んだ状態になってここに閉じ込められたと思われるから……別々の場所にいる二人を閉じ込める、はできない。ある程度物理的に近い距離じゃないとダメなんだな。まぁ、閉じ込める条件がわかったとしても、今役には立たないが……)
部屋中を観察しながら、「舐めたら治る」の契約者は思案する。閉じ込められた直後、とりあえず壁を破壊しようとしてみたが傷一つついていない。物理的な破壊は不可能なのかもしれない。
「バロメッツ」の契約者が「バロメッツ」を呼び出そうとしたが、それもダメだった。二人を閉じ込める部屋であるが故、それ以上をこの部屋に出現させられないのか。
「どうしようか」
「そうだな、どうするか……」
『いや本当、貴様らどうするの?一回閉じ込めたら、我が意思で出してやるのも無理なんだけど??』
なんて使い勝手が悪くて無責任な能力だろうか。他人と他人がエッチな事をしている現場を見たいがために手に入れたかの能力のようだが、使いこなしが難しいのだろう。一生使いこなさないでほしいし、使わないでほしい。
「この手の、条件を満たさないといけない能力は。本当に満たさないと解除できないからな」
「そうですね……」
二人の契約者は、静かに考え込む。
先だって、まず考えるべき、結論を出すべき事は。
「どのラインからが「エッチな事」に含まれるかだな」
『え、まず気にするのそこ??』
ツッコミの声が聞こえた気がするがスルーする。
何せ、子の部屋から脱出するためには、抑えておくべき大切な事なのだ。
「そうですね。世の中、手をつないだだけでエッチだ!と言う人もいますし」
『いやいやいやいやいやいやいや、流石にそこまで童貞くさい思考はしてない。手をつないだだけで出られるなら簡単すぎるからね??』
「あぁ。そして、単純にエッチな事をするといっても、どこまでやれば出られるか、も問題だ」
「エッチな事をしないと出られない部屋」の契約者の言葉など無視して、二人は話し合う。
何せ男同士、出来ることは限られている。「セッ●スしないと出られない部屋」ではない為、そこまでしなくとも出られるとは思いたいが。果たしてどのラインから、どのラインまでエッチな事をすれば出られるのか。
『いや待って?と言うか君ら男同士だよね?そっちの線細い系男子は男子に間違いないよね喉仏もあるし。男同士でエッチな事するの?ためらいってもんはないの?』
「あと、片方が片方にやればそれで充分なのか、互いにやる必要あるのか、の問題もあるな」
『ねぇ無視?無視なの?話聞いて?こっちが発動している能力なんだよ?わからないならこっちに聞いて?君ら解放しないと新たなターゲット閉じ込められなくてこっちも困るの。お願い。聞いて?』
「まぁ、そこは互いに互いにエッチな事をすれば解決なので問題ないかと。片方だけで良くても、お互いにエッチな事をしあえば条件クリアですし」
『止めて?ねぇ止めて??男同士のエッチな事には興味ないんですお止めくださいお願いします!!!』
いっそ必死な悲痛さすら溢れる「エッチな事をしないと出られない部屋」の契約者の声。
しかして、「バロメッツ」の契約者と「舐めたら治る」の契約者は、仕方ないとでもいうような顔になり。
「……抜き合えば、まぁ条件クリアか」
「そうですね。それで充分でしょう」
『やめてぇええええええええ!!!!!お願いやめてっ!!!!ちょっと!!!ちょっとこの男子達の保護者!!保護者早く来て!!!!!!この子達止めてお願い!!!!!!!』
悲鳴を丸っと無視したまま、二人はすとん、と、ためらいも躊躇もなく、キングサイズのベッドに腰かけて。
ただただ、「エッチな事をしないと出られない部屋」の契約者の悲鳴が、盛大に響き渡り続けていた。
翌日。
「バロメッツ」の契約者も「舐めたら治る」の契約者も、何の問題もなく学校に登校してきていた訳だが。
結局どうなったのかは、関係者のみが知る。
終
次世代ーズと単発の人乙でした
早渡も3年ぶりお久です。今後はイチャコラ展開大目で頼むぜ!!
FOXGIRLSの衣装は普通なんか。実はメンバー全員契約者だったりしない?
そして「エッチな事をしないと出られない部屋」の契約者よ、違うそうじゃない
あと行間で何かあったらしいからまさかと思って避難所の投下できないスレのレス数が増えてないか確認して特に何もなかったようなので安心したぜ!
承認して増やしてきた
>FOXGIRLSの衣装は普通なんか。
二の腕と腹筋は隠れるが太ももは隠しきれなかったふりふりひらひらアイドル衣装 ~狐耳と尻尾を添えて~ を脳内に浮かべてやってください。
これは、都市伝説と戦う為に都市伝説と契約した能力者ではなく、都市伝説が契約はしないものの都市伝説契約者と出会った物語である。
真夜中の高速道路。星空の下、もはや走る車などほとんどない時間帯。
ごぉうっ、と鼓膜を揺さぶる。否。一歩間違えれば鼓膜を破壊しかねない轟音と共に、彼女は飛び回っていた。
「く…………っ、速い…………っ」
「ミサイルにまたがる女子高生」は、かなりの速度を出して飛び回っているつもりだった。しかし、それは振り払われる事なく彼女を追いかけまわしてくる。
バイクに乗った、首無しの男。「首無しライダー」である。どうやら契約者がいないようであり。そして、同時に語られる内容に忠実に振舞うタイプの個体のようだ。人間だけではなく、都市伝説に対してまで襲い掛かってくるのを見ると、かなり凶悪な個体と言えよう。
そんな者に追いかけられ、「ミサイルにまたがる女子高生」は必死に考えていた。ミサイルと言う、あからさまに攻撃向きと思われる物体にまたがっている彼女ではあるが。戦闘行為は苦手だった。このミサイルは速度を出すために、飛び回る為にまたがっているだけであり、攻撃に使うという事まで思考が回らない。
もっと高い位置まで飛んで振り払ってしまえばいいのかもしれないが……そうも、いかなかった。彼女は、「高速併走型怪奇現象」に分類される都市伝説。そうであるが故、道路から離れすぎた高い位置まで飛ぶことはできないのだ。そのせいで、「首無しライダー」を振り切る事ができない。
何度かフェイントをかけてみたものの、見切られてしまって追いかけられる。
「っきゃ……!?」
ごぅんっ!!と、飛ばされてきた道路標識をギリギリのところで避けた。あの「首無しライダー」は、道路標識で首を失った話で生まれてきたらしい。故にか、先ほどから無から道路標識を生み出し飛ばし、首を切り落とそうとしてくる。
「もう!私は戦いたくないの!スピードを極めたいの!!戦いたいならどっか行ってよーーー!!」
半ば涙声で叫ぶのだが、「首無しライダー」は聞いてくれない。そもそも、首がない以上耳がないので聞こえないのかもしれない。
長く続く追いかけっこ。どこまで続くかわからぬそれに終止符を打つ合図は。
パパパー!パパパー!パパパパパー!!!
高らかと鳴り響いた、トランペットの音。
え、と「ミサイルにまたがる女子高生」が音の発生源を確かめようとすると、それは彼女と「首無しライダー」に負けないスピードで二人の真横を走り抜けた。
パッパカパッパッパッパッパー!
バイクを走らせる男。その後ろに、ちょんっ、とトランペットを吹き鳴らす少年が座っている。決してバランスを崩すことなく、クラシックで聞き覚えがある気がする曲をトランペットで演奏していた。
パッパー!パッパー!パッパー!パパパー!!
トランペットの音が不快だったのか、それとも、抜き去られたのが不快だったか。「首無しライダー」はターゲットを切り替えた。
次々と道路標識を生み出し、射出を開始する。
「……っ駄目!危ないから、逃げて!!」
見も知らずの相手ではあるが。目の前で犠牲になりそうとなると流石に心配になる。
が、「ミサイルにまたがる女子高生」の心配とは裏腹に、トランペットを吹き鳴らす少年が乗ったバイクの運転手は射出される道路標識に首を切り落とされる事なく走り抜けていく。
向かう先は高速道路のインターチェンジ付近。ぎゃりぎゃりと嫌な音を立てながらも、それに負けないトランペットの音が辺りに響く。
バイクはそのまま、料金所を走り抜けていって。「首無しライダー」のバイクも、それを追いかけて。
「あ…………」
「ミサイルにまたがる女子高生」には、見えた。料金所へと「首無しライダー」が飛び込んだ瞬間。「首無しライダー:が燃え上がったのを。
待ち構えていたのであろう女性が、決死の表情で「首無しライダー」を睨みつけていたのを。
首がないが故、悲鳴は上がらない。「首無しライダー」は倒れ込み、のたうち回って火を消そうとする。が、消えない。消えてくれない。発火したのは、発火の元となったのは「首無しライダー」自身。だから、いくら苦しんでも消えない。
炎は「首無しライダー」を完全に包み込み、燃え盛り。そして、「首無しライダー」ごと、消えた。
「……今度こそ死ぬかと思った」
パラッパー。
「すみません。私じゃ、「首無しライダー」を追いかける手段がなくて……」
「まぁ、こっちの運転するバイクにあんたを乗せる余裕はなかったしなぁ」
ぐったりしている「トランペット小僧」の契約者に、「人体発火現象」の契約者が申し訳なさげに声をかける。
「下水道の白いワニ」の契約者と違い、申し訳なさそうにしてきたので「トランペット小僧」の契約者は彼女を許した。実にちょろい。
そうしてから、見上げた。「ミサイルにまたがる女子高生」を。
「追いかけられてたようだけど、怪我は?」
「私は大丈夫。そちらこそ、道路標識がかすったりしてない?」
「かすってたら多分死ぬんだよなぁ。俺だと」
パッパッパー。
契約者の言葉に、「トランペット小僧」は同意するようにトランペットを鳴らす。「トランペット小僧」はいつだってトランペットで己の意見を伝えるのだ。契約者の青年ですら、一度も「トランペット小僧」の声を聞いたことがない。
「えぇっと……あなたは、どういう都市伝説の契約者なんですか?」
「あ、私は都市伝説そのもの。「ミサイルにまたがる女子高生」よ」
「ミサイルにまたがる女子高生」の言葉に、「人体発火現象」の契約者がほんの少し、体をこわばらせた。
そんな様子を、「トランペット小僧」の契約者が制する。
「こうして会話が成立してるし、「首無しライダー」から逃げ回ってた。インパクトはともかく、人を襲う様子はなさそうだ」
「うんうん。襲わないよ。私はただ、みんなと一緒にスピードを極めたいだけ」
「あ、スピード狂だこれ」
スピード狂と言う言葉はむしろ誉め言葉なのか、「ミサイルにまたがる女子高生」は喜びに満ちた笑みを浮かべた。
そして、「トランペット小僧」の契約者を、キラキラと見つめる。
「運転技術とか、高速並走型怪奇現象系とかの都市伝説と契約している訳でもないのに「首無しライダー」相手に追いつかれないなんて!すごいすごい!!ね、ね、私と競争しない?」
「疲れてるんで勘弁してほしい」
パパパパー。
「それじゃあ明日!明日競争しましょう!なんだったら友達も呼ぶから!」
「勘弁してほしい」
パカパッパッパー。
心底ぐったりした様子の「トランペット小僧」の契約者と、競争心に火が付いた「ミサイルにまたがる女子高生」。
二人の様子になんだかおもしろくない物を、「人体発火現象」の契約者は感じていた。
終
これは、都市伝説と戦う為ではないが都市伝説と契約し悪事を働き、目論見通りにならずともめげずに頑張る者が起こした物語である。
『くくく……我こそは都市伝説「エッチな事をしないと出られない部屋」の契約者。そして貴様らがいるその部屋は、「エッチな事をしないと出られない部屋」……』
「「都市伝説「エッチな事をしないと出られない部屋」!!??」」
突然の説明台詞であるが、つまりはそういう事だ。
二人は、突如として壁も床も天井も真っ白な部屋に閉じ込められてしまっていた。室内には出入口らしきものはない。あるのは大きなキングサイズベッドと、なんか色々入っているのであろうなと言うベッドサイドチェストだけ。
コピペで手抜きをするのはここまでとしよう。「エッチな事をしないと出られない部屋」の契約者は、今度こそ男女を閉じ込めてエッチな事をする様子を観察しようとしたに違いない。しかし。
『どうしてまたどっちも男子なんだよォオオオ~~~~~~~ッ!!』
「叫ばれてもこちらが困る」
声がどこから響いているのかわからない為、どこを睨みつければいいものかなどと思いつつ。「無限廊下」の契約者は表情を険しくする。
生徒から、このような都市伝説の使い手が悪さをしているようだという話は聞いていた。聞いてはいた。
不審な視線を感じた際、とっさに傍に居た教え子……「お風呂坊主」の契約者と距離をとった。そこまでは正解だったはずだ。
しかし、だ。
「なるほど、君が教えてくれようとしていた都市伝説とは、これか」
のほほん、と危機感など欠片も感じていない様子の友人へと剣呑な視線を向ける。確かに、彼もまた都市伝説の契約者。
都市伝説の契約者は、どうしても都市伝説と関わりやすいし巻き込まれやすい。だから、この不埒な都市伝説に関しても伝えるつもりだったのだ。
メールですませるべきだった。そんな後悔は手遅れである。
『どうして…………教師と教え子な雰囲気だったから、禁断の教え子×教師的なエッチな光景を見たかっただけなのに……どうして……』
「生徒とそんな事になってたまるか」
『謝れ!!!世界中の教師と教え子で成立した夫婦に謝れ!!!!!!!』
泣きが入っている「エッチな事をしないと出られない部屋」の契約者。だがもとはと言えば、狙いを外した「エッチな事をしないと出られない部屋」の契約者が悪い。期待してくれた読者にも大変と失礼だ。
だがこれが現実である。悲しいが現実の状況がこれなのでどうにかするしかない。
「エッチな事をしないと出られない部屋」は、問答無用でターゲットを閉じ込めてしまう代わりに、条件を満たさなければ決して部屋から出ることができない。そして、部屋にいる二人がどうにかならないと新たなターゲットを引き込めないのだ。
それが何を意味するか。今現在、この部屋に閉じ込められた成人男子二人がエッチな事をしないとどうにもならないという事実。現実はいつだって無情で非情だ。「エッチな事をしないと出られない部屋」の契約者は泣いていい。自業自得だが。
(とにかく。脱出手段を考えねば)
何せ、自分達はどちらも戦闘向きの都市伝説ではない。「無限廊下」は異空間制御系に分類されるものであろうが、その名称の通り廊下でなければ発動できない。部屋である仔の場所では発動不可能だ。
友人の契約都市伝説も、転移系や異空間制御系ではない。どちらの契約都市伝説の力をもってしても、この場所の脱出には有効に使用する事はできない。と、なると。残された手段は。
「条件を満たせば出られるんだね?」
「あぁ、教え子からはそう聞いて……っ!?」
とんっ、と。軽く押されて、「無限廊下」の契約者はベッドの上に倒れ込んだ。
ベッドがきしむ音がする。友人はいつも仕事場で浮かべているのであろう笑みを浮かべてのしかかってきた。
「……おい?」
「はい、うつぶせになってくださいねー」
逃げ出そうとするより早く、体勢を変えさせられた。うつぶせから起き上がろうとしても、背中に触れてくる手がそれを許さない。
『…………へい?穏やかそうなイケメンお兄さんの方?何なさろうとしてます?』
「最後までと言うか本格的にしないといけないと躊躇するけれど。「エッチな事」と曖昧であれば躊躇はいりませんね」
『いや、躊躇して??男同士だよ??お願い躊躇して???この間の男子高生二人と言いなんで躊躇0なの??』
「……この状況を作り出した犯人と意見が重なるのは至極屈辱だが。躊躇なく、こちらの了承も得ずに何をしようと…………っ!?」
指先が、触れてくる。くすぐるような動きに漏れ出しそうになった声をすんでのところで抑え込んだ。
動く、蠢く。布越しとはいえ、与えられる刺激は適格だ。仕事柄人体の弱い所を熟知しているだろう指は迷うことなく急所を見つけ出し、責め立ててくる。
「……ぅ、ぐ、んん……っ」
「はい力抜いてー。声我慢しないでー」
「ゃ、め…………っひ!?ば、か、止め、ひぐっ!?」
『いやぁあああああああああああ成人男子ボイスなのに色っぽい!!??くっそ中の声がダイレクトに耳元に届くのきつい!きっっっっつい!!!』
「エッチな事をしないと出られない部屋」の契約者の悲鳴が響き渡るが、それすら耳に届かなくなりかけている。与えられる刺激に、思考が飛びかけるのをギリギリ抑え込む。
「さっさと部屋から出る為なんだから……ちゃんと、協力、して?」
耳元で囁きかけてくる声は。さぞや、女性客から喜ばれる声なのだろう。
が、男としてはそんな声で囁かれても悪寒を感じるだけである。そうだというのに、指先の動きは、その悪寒すら塗りつぶし。
「たくさん、声を響かせてくださいね」
死刑宣告のような発言の直後。本気の責めが、始まった。
で、だ。
「どうやって脱出したんです?」
「くすぐったさ優先のマッサージをしただけですが」
「お風呂坊主」の契約者からの連絡で現場に急行した「黒マント」に飲まれた黒服は、無事脱出した「無限廊下」の契約者と、その友人だという整った顔立ちの男性から事情聴取を行っていた。
「無限廊下」の契約者たる教師は、息も絶え絶えに、紅潮した顔でぐったりしている。「お風呂坊主」の契約者はイケナイものが目覚めそうになっているのか、なるべく直視しないようにしていた。それで正解だ。
「仕事上、まぁその辺りはわかってますのでね。いやらしい声が響くマッサージが「エッチな事」カウントされて良かったと思います」
「……お前…………覚悟しておけよ……」
「後で全身の「業」を抜き取ってあげるから勘弁してくださいね」
悪気は一切なく、半ば殺意すら混じった「無限廊下」の契約者の言葉に、友人……「温泉街の按摩さん」の契約者たるマッサージ師はにっこり笑って見せた。
……下手に男女が閉じ込められるよりはマシだった。の、だろう。多分。そう思うしかないのだろう。
黒服はいまだ視線をそらし続けている「お風呂坊主」契約者をどう正気に戻そうか考えつつ、今後の対応に静かに頭を悩ませた。
「……女性の「業」の方が個人的には美味だと思うんですがね。仕方ない」
「お前のゲテモノ食いの好みはどうでもいいし口に出すな」
終
これは、都市伝説と戦う為に契約したのではなく、契約している自覚すらない者とうっかり契約しちゃった都市伝説の物語である。
クロとの出会いは、出会いらしい出会いと言えるかどうかわからない。
うちの庭にいつの間にか居ついていたのだ。餌を与えている訳でもないのに、どこからか庭に入り込んで日向ぼっこしていた。
ある日、台風が来るというので。風にさらわれて怪我でもしたら可哀想と思って家に入れたら「自分、前からここに住んでましたよね」と言わんばかりの態度でそのまま居ついてしまった。びっくりするほど警戒心がない。野生とは何であったのか。
ただ、クロは自分にとって「幸運の招き猫」と呼べる存在だろう。クロが庭に居ついてから、何かと不幸続きだった我が家は幸運が舞い込み始めた。
浮気とか浮気とか浮気とかが原因で離婚寸前だった両親は、何やら痛い目にあったらしい母がとうとう己の非を全面的に認めて浮気を止めて仲がなんとかなった。事業がうまくいっていなかった父は、事業が軌道に乗ってくれて仕事がうまくいくようになった。売り払うしかないと名k場諦めていた家を手放すことはなくなり、色々と我が家は豊かになった。
「ありがとうなー、クロ。お前は招き猫だな」
こちらの言葉に、クロはにゃーん?と不思議に思っているような返事をした。
飼い主のひいき目と言われるかもしれないが、クロは結構賢くて人間の言う事を大体理解している。
「招き猫だからって訳じゃないけど、お前には長生きしてほしいな」
にゃーん。
「だから、ちゃんと明日は動物病院に予防接種に行こうな」
…………。
うん、やっぱり、こちらの言う事を理解している。動物病院とか予防接種とか。聞きたくない単語が出たとたん、耳を倒して目を閉じて聞かないふりをしている。その癖して、顎の下を撫でてやればゴロゴロゴロとご機嫌に喉を鳴らすのだが。
「予防接種は大事だからなー?あと、健康診断もな。お前、オムレツ盗み食いするの本当止めような。クロ用に味付けなしで作ってやってるんだから、人間用盗み食いは本当止めてくれ」
ゴロゴロゴロゴロゴロ、と、喉を鳴らしながらクロは寝たふりを開始した。こんなに喉を鳴らした寝たふりがあるか。
だが本当、健康診断は大事だ。クロはなぜかオムレツが大好きで、人間用に作ったオムレツまで盗み食いしようとしてくる。猫の体には悪いからと、クロ用に特別にオムレツを作っても。足りないのか奪い取ろうとしてくる。それくらいに大好きだ。
家に来た頃にはもうオムレツが好きだったから、もしかしたら、家に来る前にどこかで食べたことがあったのだろうか。
「お前の為なんだからなー?わかってくれよー?」
こうして説得すれば、なんだかんだ逃げずに動物病院まで連れていかれてくれるのだから。いい子である事には変わりないのだろう。
あぁ、本当、クロには長生きしてほしい。
契約者……契約者よ……。
いや、契約した事すら自覚がないであろう我が主よ……。
我はただの黒猫に非ず。我が名は「アイトワラス」。バルト三国が一つリトアニアにて生まれし存在である。
故郷にて「教会」を始めとしたいくつかの団体に追いやられ、逃げるように船に乗り込みこの遠い島国までやってきた。
ただの猫のふりをして主の家にて居座り、家にあげられ名付けられたのをいいことに勝手に契約を結びし愚か者でもある。
我が追いやられたには理由あり。我は富をもたらす者。さりとて、その富は他者より奪い取りしものである。
本来ならば牛乳や穀物、金品を隣家より盗み出し、飼い主の家にため込み豊かにさせるだけの力。それは契約により力を増し、他者の幸運を奪い取り主に与えしものとなった。
故に、我が主の幸運は、我が主が言う通り我によるものであり。我が主にとって我が「招き猫」である事には変わりないのだろう。
……だが。この幸運が、他者から奪い取ったものであるのだと知ったら。知ってしまったら。我が主はどうするのだろうか。
我は、このまま、我が主の元にあり続ける事ができるのだろうか。
本来、我は一度住み着いた家からはそうそう離れる存在ではない。追い出すのは困難であると語られている通りに。
だが、契約が結ばれ多少は逸話から逸脱できる。その気になれば、離れる事もできる……離れて、契約を解除する事が、できるのだろう。
あぁ。あぁ。それでもだ。
ここは酷く居心地がいいのだ。何も知らず、ただの猫であると思って可愛がってくれる我が主がどうしようもなく愛おしく、我が傍に居て護らねばならぬと強く思うのだ。
我が主よ。己の正体を明かす事すらできず、他者から奪うという罪深き行為でしか主を幸福にできぬ我を許さずとも良い。
せめて、この命が終わるまで。この力は全て、我が主のためにだけに振るわせてもらおう。
終
これは、決してあきらめない都市伝説契約者の想いと願いが、ついに叶った物語である。
『くくく……我こそは都市伝説「エッチな事をしないと出られない部屋」の契約者。そして貴様らがいるその部屋は、「エッチな事をしないと出られない部屋」……』
「「都市伝説「エッチな事をしないと出られない部屋」!!??」」
突然の説明台詞であるが、つまりはそういう事だ。
二人は、突如として壁も床も天井も真っ白な部屋に閉じ込められてしまっていた。室内には出入口らしきものはない。あるのは大きなキングサイズベッドと、なんか色々入っているのであろうなと言うベッドサイドチェストだけ。
ここまでのコピペをまたやる羽目になるとは思わなかったが現状はこうとしか言いようがない。他に適切な出だしが思い浮かばないのだから仕方ないとしよう。
『くくくくくくくく…………やったっ!!ついにやったぞっ!!!!!男女の組み合わせで引きずり込むのに成功ヒャッハーーーー!!!』
「滅びればいいのに」
ハイテンションな「エッチな事をしないと出られない部屋」の契約者の声を聞きながら、「カマキリ男爵」の契約者は殺意をみなぎらせていっていた。
完全なる油断。このような不埒な都市伝説契約者が悪事を働いているのはわかっていたというのに……!
「四十六時中警戒し続ける訳にもいかないとは言え、完全に油断したな」
壁の強度を軽く確認しながら、「舐めたら治る」の契約者はぼやいた。
そう、とうとう、「エッチな事をしないと出られない部屋」契約者と読者諸君にとっては念願の、男女の組み合わせでの「エッチな事をしないと出られない部屋」である。
クラスメイトの男女。都市伝説契約者同士と言う秘密の共有と連帯感。共闘した事もある仲。
「カマキリ男爵」の契約者としては、「舐めたら治る」の契約者は多少なりとも、異性として意識する相手ではある。
あるのだが……いや、あるからこそ。このような部屋に二人で閉じ込められてしまった際、余計にその意識は加速する。
「…………強度は変わりなさそうだし。やっぱり条件を満たさないとダメか」
「条件……」
脱出条件。「エッチな事」。条件はわかっているのである。
あとは、実行するだけなのだが。流石に気軽に実行するには勇気とか色々と足りない。
「仕方ない。とりあえず胸を揉むでいい?」
「何がとりあえずなの!!!???」
躊躇なき「舐めたら治る」の契約者の発言に、「カマキリ男爵」の契約者は全力全霊にてツッコミを入れた。
彼女は悪くない。何一つ悪くない。「舐めたら治る」の契約者にデリカシーとか乙女心を理解する力とか色々と足りない。躊躇しない意志は足りている。
「え。だって、流石に胸を揉むのは「エッチな事」に含まれるだろ」
「そうだろうけど!!??」
「いやらしい声が出る感じのマッサージでも開いたらしいけど。俺はスポーツマッサージはともかくそういうのはできる自信がないし。かと言ってスカートめくりでは「エッチな事」レベルが低すぎて扉が出ない予感がする」
「「エッチな事」レベルって何!!!???」
『まぁ、確かにスカートめくり程度で脱出はできない事になってはいるが』
ハイテンションから冷静さが戻ってきたらしい「エッチな事をしないと出られない部屋」契約者からツッコミが響いたがひとまずスルーとする。いつか殴る。むしろ鎌で引き裂く。
それよりも問題は。さりげなくかつ確実に「舐めたら治る」の契約者が距離を詰めてきている事実だ。
「あんた、女の胸を揉むって行為に躊躇ないの!!??」
「脱出条件満たせるなら躊躇する必要はないよ。時間を無駄に浪費するのもどうかと思うし」
「くそっ!!
これは、決してあきらめない都市伝説契約者の想いと願いが、ついに叶った物語である。
『くくく……我こそは都市伝説「エッチな事をしないと出られない部屋」の契約者。そして貴様らがいるその部屋は、「エッチな事をしないと出られない部屋」……』
「「都市伝説「エッチな事をしないと出られない部屋」!!??」」
突然の説明台詞であるが、つまりはそういう事だ。
二人は、突如として壁も床も天井も真っ白な部屋に閉じ込められてしまっていた。室内には出入口らしきものはない。あるのは大きなキングサイズベッドと、なんか色々入っているのであろうなと言うベッドサイドチェストだけ。
ここまでのコピペをまたやる羽目になるとは思わなかったが現状はこうとしか言いようがない。他に適切な出だしが思い浮かばないのだから仕方ないとしよう。
『くくくくくくくく…………やったっ!!ついにやったぞっ!!!!!男女の組み合わせで引きずり込むのに成功ヒャッハーーーー!!!』
「滅びればいいのに」
ハイテンションな「エッチな事をしないと出られない部屋」の契約者の声を聞きながら、「カマキリ男爵」の契約者は殺意をみなぎらせていっていた。
完全なる油断。このような不埒な都市伝説契約者が悪事を働いているのはわかっていたというのに……!
「四十六時中警戒し続ける訳にもいかないとは言え、完全に油断したな」
壁の強度を軽く確認しながら、「舐めたら治る」の契約者はぼやいた。
そう、とうとう、「エッチな事をしないと出られない部屋」契約者と読者諸君にとっては念願の、男女の組み合わせでの「エッチな事をしないと出られない部屋」である。
クラスメイトの男女。都市伝説契約者同士と言う秘密の共有と連帯感。共闘した事もある仲。
「カマキリ男爵」の契約者としては、「舐めたら治る」の契約者は多少なりとも、異性として意識する相手ではある。
あるのだが……いや、あるからこそ。このような部屋に二人で閉じ込められてしまった際、余計にその意識は加速する。
「…………強度は変わりなさそうだし。やっぱり条件を満たさないとダメか」
「条件……」
脱出条件。「エッチな事」。条件はわかっているのである。
あとは、実行するだけなのだが。流石に気軽に実行するには勇気とか色々と足りない。
「仕方ない。とりあえず胸を揉むでいい?」
「何がとりあえずなの!!!???」
躊躇なき「舐めたら治る」の契約者の発言に、「カマキリ男爵」の契約者は全力全霊にてツッコミを入れた。
彼女は悪くない。何一つ悪くない。「舐めたら治る」の契約者にデリカシーとか乙女心を理解する力とか色々と足りない。躊躇しない意志は足りている。
「え。だって、流石に胸を揉むのは「エッチな事」に含まれるだろ」
「そうだろうけど!!??」
「いやらしい声が出る感じのマッサージでも開いたらしいけど。俺はスポーツマッサージはともかくそういうのはできる自信がないし。かと言ってスカートめくりでは「エッチな事」レベルが低すぎて扉が出ない予感がする」
「「エッチな事」レベルって何!!!???」
『まぁ、確かにスカートめくり程度で脱出はできない事になってはいるが』
ハイテンションから冷静さが戻ってきたらしい「エッチな事をしないと出られない部屋」契約者からツッコミが響いたがひとまずスルーとする。いつか殴る。むしろ鎌で引き裂く。
それよりも問題は。さりげなくかつ確実に「舐めたら治る」の契約者が距離を詰めてきている事実だ。
「あんた、女の胸を揉むって行為に躊躇ないの!!??」
「脱出条件満たせるなら躊躇する必要はないよ。時間を無駄に浪費するのもどうかと思うし」
「くそっ!!秒すら躊躇してくれない!普段からこうだったわくそっ!!!」
「カマキリ男爵」が聞いていたら「お下品ですよ」と怒られそうな勢いで叫びちらす。
そうだ、「舐めたら治る」の契約者はそもそも普段から一切合切躊躇を見せないではないか。
だからこそ、普段から怪我をするたびに舐められて……………………。
「………………普段されてる事の方がずっとエッチだーーーーーっ!!!!????」
『えっ、君達どういう仲???もう一線超えてた????』
「超えてないっ!!!!!!ただ舐められただけ…………だけじゃないっ!!!???「だけ」ですませていい事じゃないわ畜生!!!!!!」
「ただの治療行為だろ」
これは、決してあきらめない都市伝説契約者の想いと願いが、ついに叶った物語である。
『くくく……我こそは都市伝説「エッチな事をしないと出られない部屋」の契約者。そして貴様らがいるその部屋は、「エッチな事をしないと出られない部屋」……』
「「都市伝説「エッチな事をしないと出られない部屋」!!??」」
突然の説明台詞であるが、つまりはそういう事だ。
二人は、突如として壁も床も天井も真っ白な部屋に閉じ込められてしまっていた。室内には出入口らしきものはない。あるのは大きなキングサイズベッドと、なんか色々入っているのであろうなと言うベッドサイドチェストだけ。
ここまでのコピペをまたやる羽目になるとは思わなかったが現状はこうとしか言いようがない。他に適切な出だしが思い浮かばないのだから仕方ないとしよう。
『くくくくくくくく…………やったっ!!ついにやったぞっ!!!!!男女の組み合わせで引きずり込むのに成功ヒャッハーーーー!!!』
「滅びればいいのに」
ハイテンションな「エッチな事をしないと出られない部屋」の契約者の声を聞きながら、「カマキリ男爵」の契約者は殺意をみなぎらせていっていた。
完全なる油断。このような不埒な都市伝説契約者が悪事を働いているのはわかっていたというのに……!
「四十六時中警戒し続ける訳にもいかないとは言え、完全に油断したな」
壁の強度を軽く確認しながら、「舐めたら治る」の契約者はぼやいた。
そう、とうとう、「エッチな事をしないと出られない部屋」契約者と読者諸君にとっては念願の、男女の組み合わせでの「エッチな事をしないと出られない部屋」である。
クラスメイトの男女。都市伝説契約者同士と言う秘密の共有と連帯感。共闘した事もある仲。
「カマキリ男爵」の契約者としては、「舐めたら治る」の契約者は多少なりとも、異性として意識する相手ではある。
あるのだが……いや、あるからこそ。このような部屋に二人で閉じ込められてしまった際、余計にその意識は加速する。
「…………強度は変わりなさそうだし。やっぱり条件を満たさないとダメか」
「条件……」
脱出条件。「エッチな事」。条件はわかっているのである。
あとは、実行するだけなのだが。流石に気軽に実行するには勇気とか色々と足りない。
「仕方ない。とりあえず胸を揉むでいい?」
「何がとりあえずなの!!!???」
躊躇なき「舐めたら治る」の契約者の発言に、「カマキリ男爵」の契約者は全力全霊にてツッコミを入れた。
彼女は悪くない。何一つ悪くない。「舐めたら治る」の契約者にデリカシーとか乙女心を理解する力とか色々と足りない。躊躇しない意志は足りている。
「え。だって、流石に胸を揉むのは「エッチな事」に含まれるだろ」
「そうだろうけど!!??」
「いやらしい声が出る感じのマッサージでも開いたらしいけど。俺はスポーツマッサージはともかくそういうのはできる自信がないし。かと言ってスカートめくりでは「エッチな事」レベルが低すぎて扉が出ない予感がする」
「「エッチな事」レベルって何!!!???」
『まぁ、確かにスカートめくり程度で脱出はできない事になってはいるが』
ハイテンションから冷静さが戻ってきたらしい「エッチな事をしないと出られない部屋」契約者からツッコミが響いたがひとまずスルーとする。いつか殴る。むしろ鎌で引き裂く。
それよりも問題は。さりげなくかつ確実に「舐めたら治る」の契約者が距離を詰めてきている事実だ。
「あんた、女の胸を揉むって行為に躊躇ないの!!??」
「脱出条件満たせるなら躊躇する必要はないよ。時間を無駄に浪費するのもどうかと思うし」
「くそっ!!秒すら躊躇してくれない!普段からこうだったわくそっ!!!」
「カマキリ男爵」が聞いていたら「お下品ですよ」と怒られそうな勢いで叫びちらす。
そうだ、「舐めたら治る」の契約者はそもそも普段から一切合切躊躇を見せないではないか。
だからこそ、普段から怪我をするたびに舐められて……………………。
「………………普段されてる事の方がずっとエッチだーーーーーっ!!!!????」
『えっ、君達どういう仲???もう一線超えてた????』
「超えてないっ!!!!!!ただ舐められただけ…………だけじゃないっ!!!???「だけ」ですませていい事じゃないわ畜生!!!!!!」
「ただの治療行為だろ」
なんでそんな反応するんだと言わんばかりの「舐めたら治る」の契約者。こんな反応するに決まっているじゃないか。
えっちどあいがんばってますのでおゆるしください。
これは、決してあきらめない都市伝説契約者の想いと願いが、ついに叶った物語である。
『くくく……我こそは都市伝説「エッチな事をしないと出られない部屋」の契約者。そして貴様らがいるその部屋は、「エッチな事をしないと出られない部屋」……』
「「都市伝説「エッチな事をしないと出られない部屋」!!??」」
突然の説明台詞であるが、つまりはそういう事だ。
二人は、突如として壁も床も天井も真っ白な部屋に閉じ込められてしまっていた。室内には出入口らしきものはない。あるのは大きなキングサイズベッドと、なんか色々入っているのであろうなと言うベッドサイドチェストだけ。
ここまでのコピペをまたやる羽目になるとは思わなかったが現状はこうとしか言いようがない。他に適切な出だしが思い浮かばないのだから仕方ないとしよう。
『くくくくくくくく…………やったっ!!ついにやったぞっ!!!!!男女の組み合わせで引きずり込むのに成功ヒャッハーーーー!!!』
「滅びればいいのに」
ハイテンションな「エッチな事をしないと出られない部屋」の契約者の声を聞きながら、「カマキリ男爵」の契約者は殺意をみなぎらせていっていた。
完全なる油断。このような不埒な都市伝説契約者が悪事を働いているのはわかっていたというのに……!
「四十六時中警戒し続ける訳にもいかないとは言え、完全に油断したな」
壁の強度を軽く確認しながら、「舐めたら治る」の契約者はぼやいた。
そう、とうとう、「エッチな事をしないと出られない部屋」契約者と読者諸君にとっては念願の、男女の組み合わせでの「エッチな事をしないと出られない部屋」である。
クラスメイトの男女。都市伝説契約者同士と言う秘密の共有と連帯感。共闘した事もある仲。
「カマキリ男爵」の契約者としては、「舐めたら治る」の契約者は多少なりとも、異性として意識する相手ではある。
あるのだが……いや、あるからこそ。このような部屋に二人で閉じ込められてしまった際、余計にその意識は加速する。
「…………強度は変わりなさそうだし。やっぱり条件を満たさないとダメか」
「条件……」
脱出条件。「エッチな事」。条件はわかっているのである。
あとは、実行するだけなのだが。流石に気軽に実行するには勇気とか色々と足りない。
「仕方ない。とりあえず胸を揉むでいい?」
「何がとりあえずなの!!!???」
躊躇なき「舐めたら治る」の契約者の発言に、「カマキリ男爵」の契約者は全力全霊にてツッコミを入れた。
彼女は悪くない。何一つ悪くない。「舐めたら治る」の契約者にデリカシーとか乙女心を理解する力とか色々と足りない。躊躇しない意志は足りている。
「え。だって、流石に胸を揉むのは「エッチな事」に含まれるだろ」
「そうだろうけど!!??」
「いやらしい声が出る感じのマッサージでも開いたらしいけど。俺はスポーツマッサージはともかくそういうのはできる自信がないし。かと言ってスカートめくりでは「エッチな事」レベルが低すぎて扉が出ない予感がする」
「「エッチな事」レベルって何!!!???」
『まぁ、確かにスカートめくり程度で脱出はできない事になってはいるが』
ハイテンションから冷静さが戻ってきたらしい「エッチな事をしないと出られない部屋」契約者からツッコミが響いたがひとまずスルーとする。いつか殴る。むしろ鎌で引き裂く。
それよりも問題は。さりげなくかつ確実に「舐めたら治る」の契約者が距離を詰めてきている事実だ。
「あんた、女の胸を揉むって行為に躊躇ないの!!??」
「脱出条件満たせるなら躊躇する必要はないよ。時間を無駄に浪費するのもどうかと思うし」
「くそっ!!秒すら躊躇してくれない!普段からこうだったわくそっ!!!」
「カマキリ男爵」が聞いていたら「お下品ですよ」と怒られそうな勢いで叫びちらす。
そうだ、「舐めたら治る」の契約者はそもそも普段から一切合切躊躇を見せないではないか。
だからこそ、普段から怪我をするたびに舐められて……………………。
「………………普段されてる事の方がずっとエッチだーーーーーっ!!!!????」
『えっ、君達どういう仲???もう一線超えてた????』
「超えてないっ!!!!!!ただ舐められただけ…………だけじゃないっ!!!???「だけ」ですませていい事じゃないわ畜生!!!!!!」
「ただの治療行為だろ」
なんでそんな反応するんだと言わんばかりの「舐めたら治る」の契約者。こんな反応するに決まっているじゃないか。
冷静に考えて、いや、冷静に考えずとも。胸を揉まれる事よりも全身舐めまわされる事の方がエッチだ。「舐めたら治る」の契約者にとっては治療行為なのであろうが、される方としてはエッチな事としか認識できない。
そうだ。「舐めたら治る」の契約者が治療行為だというから現実から目を背け続けてきていたが。エッチなのだ。自分は、怪我するたびにこの男にエッチな事をされているのだ。
一度意識してしまえば、そこから意識がそれてくれない。「舐めたら治る」の契約者が男性相手でも平気で同じ治療を行う事実も現実として存在しているのだが、一つの事に意識が囚われてしまったが故にそこまで考えが至らない。
「どうした?赤くなって」
「あ……」
思考が固まった隙に、「舐めたら治る」の契約者は「カマキリ男爵」の契約者の目の前まで来ていた。そっと額に触れてくる手つきは優しい。
「……少し熱いが、熱って程でもないか」
「ぁ、う」
「体調悪いんなら、さっさとこんな部屋出るべきだな」
「あっ」
くるりっ、と体勢を入れ替えさせられる。向き合う体勢から、後ろから抱きすくめられるような体勢に。
「まっ」
て、と言う言葉は最後まで続かず。
「ひゃんっ!?」
むにっ、と。「カマキリ男爵」の契約者のたわわなCカップに遠慮も躊躇もなく手が伸びてきて、その手によって緩やかに胸の形が変わる。
むにゅ、むに。手が動くたび、体中を甘い痺れのようなものが走る。
「痛くないか?」
「い、痛くはない、けどっ」
「うん、これくらいの力でいいのか」
違う、そうじゃない。力が入りすぎていないか気を使ってくれたのだろうけれど、そうじゃ、なくて。
服越しに触れてくる手。直接触られている訳ではない。普段怪我した際に舐められる事の方が客観的じゃなくてもエッチな事のはず。
そのはずなのだが、今回は「エッチな事」と意識しての行為なのだ。いつものように「治療行為」として行われている事ではない。
だからなのか。だから余計に、いつもと違って変な気持ちになってしまう。
「あ……ふぁあ…………ゃ、なんか、変……っ」
「まだ扉が出てない」
「ひんっ!?さ、き、やぁっ!?」
後頭部に、熱がたまっていくような錯覚。下着とブレザー越しに触れてくる手は止まらない。少しばかり先を意識するようにくりくりと人差し指で押しつぶされて、足の力が抜けそうになる。
多分、意識していない相手であればここまでならない。ここまで体の奥が熱くなるのは、多少なりとも意識をしているから。
疑いようなく、好意を、恋愛感情を持っているのだと自覚してしまった。きっとあちらは、欠片もそんな風に思ってくれてはいないだろうと。そこもわかっているだけに、自覚した想いが痛くて苦しい。
「……あ、ん……っ!あぁ…………も、ぅ」
胸の先を弄ばれながら、胸全体を揉みしだかれる。
思考と体がリンクしなくなってきた。後頭部がピリピリと熱い。体中をぐずぐずの熱が走り抜ける。後頭部に収まりきらなかった熱は、今度は、下腹部へと集中しだして……。
「…………お、開いた」
「ぁ」
ぱっ、と。その責めは唐突に終わった。快楽を与えてきていた手はあっけなく離れていく。
もう、立っていられない。へなへなと座り込んで荒く呼吸しながら「舐めたら治る」の契約者の視線の先を確認する。
確かに、そこには扉が現れていた。条件をクリアしたとみなされたらしい。
こんな、中途半端な、状態で。
「ごめんな。嫌だっただろ。大丈夫か?」
「カマキリ男爵」の契約者の想いには、案の定、欠片も気づいていない様子で。「舐めたら治る」の契約者はしゃがみ込んで彼女の顔を覗き込む。
気遣う表情と視線に、後頭部にたまっていたぴりぴりじんじんとした熱が、ぱぁんっ、とはじけた。
「あ」
目の前で、「カマキリ男爵」の契約者は意識を失ってしまった。
まいったな、と思いながら「舐めたら治る」の契約者はその体を抱き上げる。
「さすがに、好きでもない相手から胸を揉みしだかれるのはショックが大きかったか」
それは違うよ!と「エッチな事をしないと出られない部屋」の契約者であればツッコミを入れてくれた事だろう。
が、すでに脱出条件を満たしているが故、「エッチな事をしないと出られない部屋」の契約者は部屋の中を確認できずツッコミを入れてやることができない。
(報告……は、しなくてもいいか。彼女もこんな体験したのを人に知られたくはないだろうし。とりあえず、家に送ってやらないと)
「カマキリ男爵」の契約者の体を抱きかかえたまま、部屋を出る。
部屋を出れば、閉じ込められる直前まで二人でいた公園に出た。時間はそこまで経ってない。茜色の夕焼け空はそのままだ。
注意深く辺りの様子を伺ってみたが、「エッチな事をしないと出られない部屋」の契約者らしき気配はない。逃げられたか。
「いい加減、誰かなんとかしてくれないかな」
自分でも、犯人見つけたら一発二発、技をかけても許されるだろうな、と。
気絶したままの「カマキリ男爵」の契約者を抱えたまま、「舐めたら治る」の契約者は剣呑な思考を巡らせていた。
終
単発の人、投下お疲れ様でした
単発が集まって一つの物語を形成するといいますか
共通世界観の単発シリーズ、良いと思います
ロアいいですよね、ロア
FOXGIRLSのリーダーがメンバーから慕われてるというのも良いし
勇ましいリーダーが実は契約者メンバーから守られてるというのも良いですね…
しかしまさかリーダーの実兄も都市伝説契約者だったとは(八尺様かわいい)、世界は狭いね!(八尺様かわいい)
「エッチな事をしないと出られない部屋」……
起源はともかくとして能力は使い方によってかなり凶悪なことができるのでは?
ただ毎度後半はフェードアウトしていくところが何というか色んな意味で空気読んでる感ありますね
契約者が同性同士もイケるメンタル持ちならば無敵だったろうに……
他にも三角関係のなかで「人体発火現象」契約者の心情が意味深長だったりとか
「アイトワラス」を拾った家庭が不幸続きだったのは実は幸運を吸い取られてのでは? とか
エンターキー荒ぶりすぎじゃないか? とか、「かごめかごめ」の契約者の話からほのかな百合の香りがしたりとか
「下水道の白いワニ」の契約者が再登場したり、美味しい単発ご馳走様でした
ところで「雨女」の契約者が知ってたらいいんですが、雨は幸運を呼ぶらしいですよ
つまり彼女が助かったのは
これは、出会ってはいけない都市伝説契約者と都市伝説が出会ってしまった物語である。
類は友を呼ぶ。昔からそう言われている。
それとはまた違うが、都市伝説契約者同士や都市伝説契約者と都市伝説は自然と引き付けあい、遭遇しやすいとも言われている。
実際の処、都市伝説の撃退手段や知識を持たない一般人が都市伝説と遭遇し被害にあうよりは、ある程度対処できる契約者が遭遇する方が全体的に被害は少ないのだろう。
そうだとしても……世の中、「出会ってはいけない」と評される出会いというものは存在する。そして、そのように評されてしまうのだとしても。まるで運命に導かれたかのように、そうした二人は出会ってしまうものだ。
今回の件も、当人達同士は否定するのかもしれないが。きっと、出会うべくして出会ってしまった衝突事故のようなものなのだ。
(気配……来たか)
周囲に畑が広がるエリア。そこに辛うじてある物陰に隠れていたその契約者は、感じた気配に笑みを浮かべる。
やっと、獲物が来た。
この都市伝説と契約して以降、どうにもこの行為を止められない。飲まれているつもりはないのだが、逸話に語られる行動をどうしてもとりたくなってしまう。
だがその契約者の漢は思う。これは犯罪ではないはずだ。相手を傷つけたり性的に襲ったりするわけではない。
よって、犯罪ではないのでセーフであろう。「組織」に見つかったらめったくそに怒られることは間違いなさそうだが、警察のお縄にはつかずにすむはずだ。多分。
気配を押し[ピーーー]。怪しい気配、なんて思われて回れ右されては困るのだ。
だんだんと近づいてくる気配。肉と肉がこすれあうような音が聞こえる気がするが、恐らく気のせいだろう。気にするほどのものでもない。
あと少し…………今だ!
男は手ごろな細い棒を持って勢いよく物陰から飛び出す。突然のことに、夜道を歩いていた気配が足を止める。
すかさず、気配へと持っている棒を向け。ついでに丸出しにしていた己の尻を向けながら男は叫ぶ。
「そこのお前!この棒で俺の尻の穴をほじれ!!」
――説明しよう!
この男が契約している都市伝説……と言うか怪談は「柿男」!
詳細は省くが、年頃の娘さん相手に自身の尻穴を棒でほじらせてしゃぶらせた変態である!
正体的には柿の実の精のようなものであり、最終的には娘さんが尻の穴にしゃぶりつくくらい甘くておいしかったらしい。
が、その言動!行動!!控えめに言って変態である!!!
「柿男」の契約者は、それに忠実に動いた。いや、本来の昔話だと柿の実美味しそうだなぁ食べたいなぁと思ったお嬢さんの家に不法侵入して尻の穴をほじらせたので変態度合いと犯罪度合いがすごい事になるのだが。
一応、不法侵入はせず、通りすがる人を待っての行動なのでギリギリセーフ……いや、どちらにせよアウトかもしれない。変態だ。
とにかく、「柿男」の契約者は不審者として通報されても文句言えない行動をとった。そして、固まっていた。
不幸にも「柿男」のターゲットとなってしまった女性もまた、固まっていた。お互いに固まっていたのだ。
被害者たる女性が固まっているのはいい、と言うより当然だ。こんな変態不審者が出た瞬間、きちんと悲鳴を上げられる女性は案外少ないのだから。
では、何故、「柿男」の契約者もまた固まっていたか?それは、女性のその姿が問題であった。
それは、巨胸と言うにはあまりにも大きすぎた。
大きく、豊満で、たわわで、そして一糸まとっていなかった。
それはまさに、一切何一つ隠されていないエベレスト級の豊満バストだった。
片や、尻丸出しで尻の穴をほじれと女性に要求した男。
片や、あまりに豊満すぎる胸元だけではなく全身丸出しの女。
「「変態だーーーーーっ!!!!????」」
ほぼ同時に互いに叫んでしまったのは、どちらも悪くてどちらも悪くなかった。
――説明しよう!
この女性は「サッパン・スックーン」と呼ばれる、アルゼンチンやボリビアに伝わる妖怪の一種である!
南米の農村に出現するとされ、見た目は小麦色の肌に長い髪、魅力的な大きな瞳。掌だけは不思議と雪のように白く、そして何よりも巨乳を通り越した豊満バスト。そして全裸。
決して痴女妖怪ではない。畑仕事で忙しい母親に変わって子供の面倒見てくれたり、怠けものを懲らしめたりするタイプのよくある妖怪だ。
ついでに言うと、名前の由来はそのあまりに豊満なバストが歩いている最中に揺れてこすれ合った時に鳴る音らしい。どんな音?
「いや、痴女!変態!!!なんで日本の北関東の畑地帯に南米っぽい全裸痴女いるの!!??どうなってるの治安!!!」
「変態はそちらデス!お、お尻を丸出しで、しかも、ほ、っほ、ほ…………とにかく、変態デス!おまわりさーーーん!!!!」
「いや痴女の方が変態度高いから!!よいこの教育に悪すぎる!!!!おまわりさーーーーーん!!!!!」
どちらも変態である。が、どちらも自分は変態ではなく相手が変態だと言わんばかりに全力で叫び倒す。
出会っては行けなかったであろう都市伝説契約者と都市伝説。
その出会いは互いに叫び倒してご近所さんに通報され、警察から「組織」へと連絡がいって二人そろって厳重注意されるという結末へと至ったという。
終
これは、都市伝説と戦う為ではなく都市伝説能力を利用してうまい事自分の欲望を満たそうとした者が、人知れず始末された物語である。
「そうか。よりにもよってあの朴念仁に惚れたか……」
「幼馴染からのこの言われよう」
「あの男が朴念仁でなかったら誰を朴念仁と言うんだ」
ある日の放課後、学校帰り。
「カマキリ男爵」の契約者は、「舐めたら治る」の契約者の幼馴染である同級生の女生徒と一緒にショッピングモールへと向かっていた。
示し合わせた訳でなく、たまたまだ。彼女は特に部活に所属していない「カマキリ男爵」の契約者と違い、演劇部に所属していていつもはそこそこ忙しい。
そうしてたまたま一緒にショッピングモールへと向かう最中、「舐めたら治る」の契約者の話題となって今に至る。ようは、「カマキリ男爵」の契約者の、「舐めたら治る」の契約者への想いが演劇部の彼女にバレたとも言う。
「カマキリ男爵」の契約者としては、あまり自覚したくなかった想い。よりにもよって「エッチな事をしないと出られない部屋」と言うふざけたものに閉じ込められた際に自覚したのも嫌だが、そもそも意識するようになったきっかけが「舐めたら治る」の力で治療された事実と言うのがまた嫌だ。変な性癖目覚めたみたいではないか。
そんな「カマキリ男爵」の契約者の複雑な心境に気付いているのかいないのか。演劇部の彼女は面白げに笑うのだ。
「あの男ときたら、恋をする事よりも体を鍛える事の方に興味が向いているだろうしな。よほど頑張らなければ、恋心にすら気づいてもらえないぞ?」
「……それはよーーーーーっく、わかるわ」
力強く同意した。多分、あれはストレートにストレートを重ねてしつこいくらい伝えないと気づかないタイプだ。
恋をするよりも、自身を鍛えたり友人と過ごす時間を大切にしているようにも見える。そのうえで、都市伝説事件とかで負傷者が出たならば、積極的にかつ躊躇なく治療に動こうとする。
……ひとまず、治療に関しては今は頭の中から追い出すことにした「カマキリ男爵」の契約者。今、あの件について考えるのは麺たるに大変とよろしくない。
「ま、あの朴念仁をデートに誘いたい、とかという希望があったら少しくらいは手伝うよ。あの男、男女問わず一緒に遊びに行くことを「デート」だと認識している節があるが」
「…………考えとくわ」
演劇部の彼女の言葉に、ひとまず、「カマキリ男爵」の契約者はこう答えておいた。想いを伝えることがあるかどうかわからないので、なんとも言えないが。
「……と、言うか。あなた、本当にあいつと付き合ってないんだ」
「ないない。半ば家族のようなものだし。そうじゃなくともアレはない」
「幼馴染が容赦なさすぎる」
「幼馴染だからさ。とりあえず、契約都市伝説の「カマキリ男爵」とも相談しておくといいよ。契約者のそういう心の乱れは、契約都市伝説に伝わる事あるし」
「うぐっ!?…………うん、今度、ちゃんと相談する……」
ものすごく恥ずかしいが、そうするしかあるまい。
演劇部の彼女は、都市伝説との契約による諸々の事情に詳しいのだ。彼女自身が契約しているかどうかについては「カマキリ男爵」の契約者は把握していないが。そうした事情に詳しい彼女が相談相手として頼もしいのもまた、事実だ。
そうしているうちに、ショッピングモールについた。ここまでは目的地が同じ。ショッピングモールについたら別行動だ。
「では、私は部活用の化粧品を見てくる」
「私は、「カマキリ男爵」に楽譜頼まれてるからとりあえずは本屋さんかな……それじゃあ。またね」
「あぁ。また明日」
お決まりの言葉を言って、別行動になる。
離れていく演劇部の彼女の後姿を見ながら、「カマキリ男爵」の契約者はこっそりとため息をついた。
演劇部の彼女は、話し方は男っぽいが顔立ちは整っているし女性としてはすらっと長身でスタイルもいい。日仏ハーフでヨーロッパの方の血筋が強く出ている感じの容姿。クラスでもそうだし、今だって自然と人目を引いている。
「舐めたら治る」の契約者と並ぶと、なんともお似合いなのだ。だから、幼馴染同士特有の距離感のせいもプラスして、周囲から付き合ってるんじゃないかとかからかわれるのだろう。
お互いに恋愛方面では欠片も意識し合っていないのだというのが幸いか……いや、幸いと思っていいのかどうか。
ぐるぐるりとめぐる己の思考のまとまりのなさを感じながらも、「カマキリ男爵」の契約者はショッピングモールに来た目的を果たすべく、目的のお店へと向かった。
……よりによってあいつか、と言うのが素直な感想。「舐めたら治る」の契約者の事は昔から知っている。だからこそ余計に、よりによってあいつか、と言う感想に至る。
(あの男は、恋愛云々以前に自分自身に自信がない奴だし。恋愛意識を持つにしても、まずは自信をもてるようになってもらわないとな】
勉学も、武術も。並以上になっていて。それでもまだ足りない、まだ足りないと上を向き続ける男の意識はそう簡単には恋愛には向かないだろう。
「カマキリ男爵」の契約者は、まさに恋愛的な意味での強敵相手に恋をしてしまったのだ。そこは同情しかない。
一応、変なトラブルが起きないように見守ってはおこう、というのが個人的な考えだった。
思考を巡らせつつ、ショッピングモールの中の化粧品店へと向かう。その最中、モールの中の大きな柱の影。ちょうど、監視カメラにも映らないであろうそこへと足を踏み入れた時。ちょうど、この位置へと視線を向けていた者は自分以外には恐らく一人。
「…………!?」
突如、視界が暗転する。一瞬の浮遊感。次の瞬間には、自分は先程までと全く違う場所にいた。ここは、恐らくショッピングモールの中の個室トイレ、
そして、目の前に。見知らぬ男がいる。中年、と言っていい年頃か。狭い個室トイレでは圧迫感を感じる程度の体格。鍛えられてはいない。肉は柔らかいだろう。
こちらを座敷便座に座らせた状態でにやにやと笑いながら見下ろし、かちゃかちゃとベルトを外そうとしていた。
「……「ショッピングセンターレイプ」か。あれは、犯人は中学生。被害者は児童であったと記憶していたが。契約によってショッピングセンターではなくショッピングモールでも、高校生程度でも捕らえられるようになったのか」
こちらの言葉に、男の動きが止まる。何も知らぬだろうと思っていた相手に真実を見透かされたように告げられた時。そして、その相手が怖がりもせず冷静でいた時。人は、恐怖に囚われやすい。
「まぁ、狙われたのが私で良かったとするか。対処がしやすい」
「……っ、その口ぶり、契約者か!だが、「ショッピングセンターレイプ」を発動している以上、ここは俺のテリトリーだ!女は、ここでは無力でしかない!」
「なるほど、女は無力、か」
恐怖にかられてか、ぺらぺらと喋ってくれてやりやすい。
「ならば、問題ないな」
こちらがにやりと笑い、そして動き出して見せれば。
その「ショッピングセンターレイプ」の契約者は、悲鳴を上げるしかなかった。
この日、トイレ清掃へと向かっていたその清掃員は、男子トイレから女子高生が出てきたような気がして首を傾げた。
多分、気のせいなのだろう。どう見ても女子高生だった。きちんと女子トイレから出てきたはずである。男子トイレから出てくrはずがない・
そう考えて思考からその存在を追い出して、まずは女子トイレの掃除。ピッカピカに掃除を終えて、そのまま男子トイレに。
(…………あれ?)
妙な臭いがした気がした。とある個室から、赤い液体がにじみ出ていた。
扉は閉まっているが鍵はかかっていない。何度かノックした後に恐る恐る扉を開けて、悲鳴を上げた。
そこには、一人のでっぷりとした中年男性が。まるで獣にでも襲われたかのような血塗れの姿で倒れていたのだ。
辛うじて息があったその男は救急車で病院まで運ばれて。後に、この近辺で起きていた連続強姦事件の犯人と判明した。
あのショッピングモールのトイレで何が起きて、あんな状態になっていたのか。
警察に逮捕されても、男は酷くおびえたように何も語らなかったという。
終
これは、都市伝説と戦う為ではなく己の欲望を満たしたくて都市伝説と契約した者が、うまくいかなくて欲望満たせず涙する事の方が多いその様子を書いた物語である。
「エッチな事をしないと出られない部屋」。まさに名称通りの部屋を生み出し、そこに人を閉じ込める程度の能力の都市伝説である。
一時期、SNSやらイラスト投稿サイトやらで流行ったネタだ。てっとり早くいやんうふんあっはんなネタを描く際の導入として使われたものなのだろうが、そのような部屋でありながら結局エッチな事にならなかった、みたいな逆張りネタもまた結構ある。
そして、エッチな事に限らず様々な〇〇しないと出られない部屋と言うネタが無数に生まれ。そういう「〇〇しないと出られない部屋」と言う条件を契約者が設定できるタイプもいれば、この契約者のように「エッチな事をしないと出られない部屋」とがっつり条件が定まっているタイプもいる。
自分は、「エッチな事をしないと出られない部屋」でじゅうぶんだと、「エッチな事をしないと出られない部屋」の契約者はそのように考えていた。
そう、これでじゅうぶんなのだ。別に、どちらかを殺さないと出られないとか物騒なのはいらない。ただ、男女のきゃっうふふなエッチな事を覗き見できればじゅうぶん。誰かを殺すような力なんていらない。ただ望むのは自分が関わらないエッチな事。
だから、この日も適当な安ホテルの上の方の階に泊り、そこから高性能の双眼鏡をもって獲物を探していた。彼の契約している「エッチな事をしないと出られない部屋」の効果範囲は視界内。道具を使って遠くを見ても発動してくれるのはありがたいである。これで見えている範囲で、この二人で閉じ込めたら良い感じになるのでは?と言う組み合わせを発見し次第、能力を使うのだ。
「……お、あれは「FOXGIRLS」のメンバーか。マネージャーと二人…………いや、駄目だ。マネージャーとアイドルと言う関係は美味しいが。スキャンダルになってはいけない」
個人的に好きなアイドルである「FOXGIRLS」の姿が見えたが、発動をぐっと我慢。同じ事務所所属の「スプラッターレディーズ」と同様に彼としては見守っていきたいアイドルなのだ。変なスキャンダルとか起こさせたくない。
変なところで良識を働かせて「FOXGIRLS」のメンバーとマネージャーを見送る。あぁ、今夜放送の「FOXGIRLS」が出演する鬼ごっこバラエティも見なければ。リーダーとぶりっこちゃんとお嬢様が参加なのだ。一人でも逃げ切れるといいな。
思考を「FOXGIRLS」の今後に向けていたところで……来た。獲物だ。
(何度か閉じ込めた連中……!)
そう、この街に来てから何度か閉じ込めたり逃がしたりした連中の姿だ。三回のうち二回は男だけで閉じ込めてしまい、むしろこちらにとって拷問みたいな現場になってしまった悲しき思い出。
「エッチな事をしないと出られない部屋」の中で行われている光景を、自分は全て見る事ができるし聞くことができる。正確には、全部見えちゃうし全部聞こえちゃう。強制的に見せられる&聞かされるなのだ。男同士は流石に地獄である。自分が見聞きしたいのは男女のエッチな事なのだ。同性はいかんぞ非生産的だ。
とにかく、何度か閉じ込めた連中が見えたのである。始めてみた者もいるがまぁいいだろう。女性が三人、男性三人。一気にそれぞれ別々の部屋に閉じ込めるとかできればいいのだが、残念ながらそこまではできない。謙虚に男女一組を閉じ込めるとしよう。
(そうなると、どの組み合わせがいいか……)
まずは女性から見ていこう。とはいえ、一人は以前に逞しい系男子との組み合わせで閉じ込めに成功し、見事にエッチな様子を見る事ができた相手である。なので、今回は除外でいいだろう。
残る二人。片方はボーイッシュ、と言うか凛々しいというか。女性ではあるのだが、どこか男性的な雰囲気も漂う少女。肉食系めいた気配もする。あぁ言う子がエッチな事に積極的で乱れるのもいいし、逆に実はそういう事が苦手で恥じらうのもまた、いい。
もう一人は、以前に教師と生徒の関係で閉じ込めようとして失敗した相手だ。あぁ、あの時聞こえた男性教師の声、エッチだったな……悔しいけどエッチだったな…………マッサージされてるだけなのに条件満たすレベルでエッチなの悔しい。違う話題が逸れた。どこにでもいそうな平凡な雰囲気がいい。ごく普通の女子高生、逆に希少だと最近気づいた。
次、男子に移ろう。一人はどこか線が細い感じの少年。うん……逞しい系男子と一緒に閉じ込めてしまった少年だ。二人共躊躇0だったな……脱出のためとはいえ躊躇0だったな……最近の男子高生怖いな……。
トラウマは記憶の底に閉じ込めて、次。いや、次もトラウマだわ。問題の逞しい系男子だわ。スポーツってか格闘技やってる系の逞しさ。いや、エッチな現場も見れたけどトラウマが結構強いわ。どっちの時も躊躇なかったな……すごいな最近の男子高生。
最後の一人!ごめんこれもちょっとトラウマ一歩手前!教師に延々とエッチな声あげさせた人だわ!イケメンなのはいいけどどうしてもあの教師のエッチな声が記憶よぎるわ!!
困った、男子が全員トラウマだ。いや、ここは今度こそ男女の組み合わせにしてトラウマを残り越えるべきか。逞しい系男子は良い感じのエッチな様子も見せてくれたので今回はやめとくとして……。
(……よし!線が細い系男子とちょっと肉食な雰囲気もするボーイッシュ系少女!これだ!!)
組み合わせは決めた。よって、「エッチな事をしないと出られない部屋」を発動すべく集中する。
まずは、「エッチな事をしないと出られない部屋」と言う異空間を生成。そこに、視界に入っている二人を閉じ込めるのだ。
……高性能双眼鏡での視界に、目標の二人が入った。いざ、発ど……
「ッアーーーー!!!???」
しまった!かなり離れているはずだというのに不穏な気配にでも気づいたか。ボーイッシュ女子が一瞬で視界から消えた。その後を追いかけようとして、線の細い系男子の視線の先を追おうとした。したのだ。
その結果、双眼鏡の視界に、線の細い系男子とマッサージ師らしい男性が入ってしまって。
……「エッチな事をしないと出られない部屋」、発動。
「くそっ!!どうしてだ…………どうして…………こんな事に…………っ」
くそ!聞こえてくる声やら見える様子から、どっちも過去に閉じ込めた相手と言う事もあって対応が早い!
一応、いつものボイスチェンジャー使いつつお決まりの言葉はかけておいたが、話聞いてはくれているけれど、もうどう動くべきかを考えている。
男……また男同士…………いや、お好きな人にはたまらない組み合わせなのかもしれない。どっちがどっちなのかわからないけど好きな人は好きなのだろう。どっちがどっちかで戦争になるレベルでは。
だが自分は男女がいいのだ。男女の組み合わせが…………好きなのだ…………同性はちょっと…………。
「ッアーーーーー!!??お止めください!!??いやえっちぃ!!!!声がえっちぃ!!!!!くそっ、マッサージ師って奴はエロAVとかみたいにテクニシャンなのか!!??」
聞こえてくる!エッチな声が聞こえてくる!!!くすぐったい感じのマッサージすごい!尊敬はしたくないけどすごい!!!
エッチな声が耳元でダイレクトに響く。どこか色っぽさを感じる顔が視界に入る。止めてほしいのだが一度閉じ込めるとエッチな事を実行して、こちらが確認しないと解放できないので仕方ない。仕方ないので見聞きするしかない。辛い!!!!!
「どうして…………どうして、この街は男女でのエッチな感じの様子を見せて……くれないんだ……」
べそべそ泣きつつ、ベッドに倒れこむ。
このまま、ある程度見聞きすれば勝手に「エッチな事をしないと出られない部屋」の発動は解除される。たとえ行為が途中で有ろうと解除されるので時々「延滞料金払わせてください!!」と言いたくなるのもまた欠点だ。
辛い。本当…………辛い……もっと男女のいやんうふふなエッチな様子を見たい……。
欲望は止まらない。欲望を願う心は止まらない。
この「エッチな事をしないと出られない部屋」の契約者がいつか捕まるかどうか、わからない。
ただ、捕まったとしても、捕まらなかったとしても。今後のこの手の都市伝説の被害はぽつぽつ、発生するのだろう。
人が欲望を抱く限り、その存在は生まれ続けるのだから。
終
これは、人間と契約しなくともなんか平穏な生活手に入れちゃったっぽいので適応した都市伝説の物語である。
広い広い、どこまでも広がる草原。
確か、己が生まれたのはそのような場所であった記憶がある。
あの広い場所を気ままにはね飛び回っていたが、水辺にて首長き獣と争い、致命に近き深手を負った。
もはやこれまでと覚悟を決めたが、倒れている己を人間が見つけ、そこから多数の人間が集まって己を何処かへと運び、治療を施した。
何故、己が「人間」というものを知っていたのかはわからない。
己が生まれたのは「人間」が原因であると、そういうぼんやりとした程度のものではあるが。人間が己をどう扱うかわからず、多少暴れた。
暴れても、暴れても、人間は己に治療を施してきた。色々と言葉をかけられたようなのだが、生憎その言葉の意味まではわからない。
……ただ、必死に呼びかけていた事はわかる。救おうとしてくれたらしい事はわかる。
だから、己は最終的に、その人間達による治療を受け入れた。その後に実験動物にでもされるかもしれないが、その時はその時だ。
傷は癒えて。己は今もこの施設にいる。
どうやら、ここは「動物保護施設」とか呼ばれる場所らしい。
己以外に、傷ついた生き物が保護され、治療され、野に戻されたりここで暮らし続けたりしている。
残念ながらと言うべきか幸いと言うべきか、己と同じ存在はいないようだった。
似たような動物はいるが、己は似た姿をしながらも別の存在だ。己と比べるとそれらはずっと小さいし、本能的にわかるのだろう、己を怖がり近づこうともしない。
そうして、似たような存在に避けられる己を見て、どうやら人間は己を野に返せぬと判断したらしい。群れになじめぬものと認識されたか。
別に、己は生まれて以降ずっと群れる事なく生きてきたので問題はないのだが…………人間とは、なんとも過保護な思考をするものだ。
その気になればこの地より逃げ出すこともできるのだろうが。不思議とそういう気にはならなかった。
己の治療に一番必死だった人間は、今でも親身になって己に語り掛け、世話を焼いてこようとする。もう怪我は癒えているというのに、具合を確かめようとしてくる。
己がここから逃げ出したならば、この人間が心配するのではないか、と妙な考えを抱くようにもなった。
……「契約」を、考えもした。だが、今のところそれは行っていない。
この人間が、己との「契約」に耐えきれるかどうか、己には判断がつかなかった。
もしも耐えきれぬならば、この人間は人間ではなくなるだろう。それを「嫌だ」と感じる程度の、人間が言うところの情のようなものが己にもあった事は少し驚いた。
まぁいい。この人間が死ぬまでは、己はここにいてやろう。
己のような存在を治療したこの人間への、せめてもの義理として。
この場所が、己のような「都市伝説」に襲われるような事があれば。己が戦い、護りぬいて見せよう。
「…………よし、大丈夫そうだな」
古傷の確認を終えた。
酷い怪我をしたところを発見され、この施設に保護されたカンガルー。何か獣にでも襲われたようなその傷は、同僚達が「もうだめかもしれない」とそう言葉をこぼすほどのものだった。
それでも、諦めきれなかった。通常の個体とは少し違う特徴のあるそのカンガルーを自分は放っておけなかった。
野生に生きた生き物として、人に触れられる事すら拒むように治療中に暴れようとするその生き物を。麻酔にすら抗うその生き物を治療し終えた後、自分はうっかり倒れて川を渡りかけたらしい。
そういえば、治療中にカンガルーキックとかカンガルーキックとかカンガルーパンチとか食らった気がする。よく生きてたなぁ自分。
まぁ過去の臨死体験一歩手前はどうでもいい。問題はこのカンガルーだ。
傷はもう癒えているのだが、どうにも群れになじめる様子がない。
通常のカンガルーと違い、この個体はあまりにも大きい。そのせいか、他のカンガルーが逃げてしまうのだ。この個体自体はそれを気にしていないようでのんきに生活しているが。これでは野生に返しても生きているかどうかわからない。
……それに。本当に、大きいのだ、この子は。体高三メートルもあるのだ。その巨体はあまりにも、目立つ。
こう言う目立つ個体は敵にも狙われやすいし、密猟者にも狙われやすい。
この命を守る意味でも、施設では野生に返さずに保護を続ける事に決定した。
「本当なら、野生に返せるのが一番なんだけどな……」
こちらの言葉を聞いているのかいないのか。
のんきに餌を頬張りつつ、じっと見つめてくるつぶらな瞳。
人間の身勝手なエゴだとは思いながらも、護らねば、とそう感じた。
こうして、その都市伝説。UMA「ジャイアントカンガルー」はそこにいる。
少なくとも、それを親身に世話する人間がそこにいる限りは、「ジャイアントカンガルー」はその場所を守り続けるのだろう。
契約はなされずとも。時としてこうした友情のような何かは。確かに、存在するのだ。
終
○前回の話
>>410-421
※今回の話は作中時間軸で【9月】の出来事です
○あらすじ
日向ありすは、学校町内で犯行を繰り返していた変質者を追っていますが
早渡脩寿をその犯人と見なし、待ち伏せのうえで襲撃することにしました
一方、早渡は身に覚えがない疑いに困惑。業を煮やした日向により攻撃されかけますが
共通の友人である遠倉千十が割って入ったことで、その場は一旦収まりました
○時系列
●【9月】
・早渡、「組織」所属契約者と戦闘
・「怪奇同盟」に挨拶へ (アクマの人とクロス)
・東中で花房直斗、栗井戸聖夜から三年前の事件を聞く
その際にいよっち先輩と出会う
その後、診療所で「先生」から「狐」について聞く (花子さんとかの人とクロス)
・東中を再訪、いよっち先輩が“取り込まれ”から脱する
「モスマン」の襲撃から脱出
・ソレイユ(日向)、変態クマ(変質者)に捕まる
・「ピエロ」、学校町を目指す
・日向、早渡を変態クマ(変質者)と見なし襲撃 ☜ 今回の話はこの直後!
・∂ナンバーの会合
・∂ナンバー、「肉屋」侵入を予知
●【10月】
・「肉屋」戦 (9月終盤か、10月初頭?)
・「ピエロ」、学校町への潜入を開始
・学校町内の各中学、高校にて生徒の失踪が相次ぐ
●【11月】
・「組織」主催の戦技披露会実施
・診療所で「人狼イベント」 (上下2点は順序が逆の可能性あり)
-------------------- 一日目(仮) --------------------
・「バビロンの大淫婦」、消滅
・角田ら、「狐」配下と交戦
新宮ひかり、上記交戦へ介入 ↓ 「ピエロ」が一時、学校町内で活動開始
・「ピエロ」、東区にて放火を開始、契約者らにより阻止される
・暗殺者二名がひかり、桐生院兄弟と交戦 (鳥居の人とクロス)
・「組織」Mナンバー(中立派)により、「異常事象を非-契約者から隠蔽する結界 『角隠し』」が東区限定で展開される
・「ピエロ」中枢、東区放火組に撤退か自害を指示
-------------------- 二日目(仮) --------------------
・「ピエロ」東区放火組が撤退もしくは自殺を開始、放火活動 終了 ● 「ピエロ」の活動、一旦ここまで / 断片的ではあるが、ここまでのエピソードが公開済
・「都遣」CEOによる『「ピエロ」による学校町破壊を阻止する 《隠密》 工作活動』が進められる
・「組織」Pナンバー(穏健派)を中心として、対「ピエロ」鎮圧作戦「Bedtime」が立案される
・「楽団」による学校町での 《隠密》 潜入工作が開始される
・日没前の時点から「ピエロ」による「サーカス」開始(予定)
・同時期、「組織」Mナンバー(中立派)により、「異常事象を非-契約者から隠蔽する結界 『角隠し』」が学校町全域を対象として展開(前倒しになる可能性あり)
-------------------- 三日目(仮) --------------------
・子夜前後 「ピエロ」、学校町から撤退
・「組織」Mナンバー(中立派)、Pナンバー(穏健派)、Vナンバー(過激派、但し穏健派による監視/監督を伴う) による事後隠蔽が完了
あれからどれぐらい時間が経ったろう
両脚に力を込め、どうにか立ち上がった
正直まだ心臓がバクバク鳴っている
何度か深呼吸を繰り返した
先ず、コスプレ女子に襲撃された
あの子は俺のことを「変態クマ」と呼んでいた
次に、あの子はANホルダー、つまり契約者だ
あのANfxからして炎を扱う系統と見てほぼ間違いない
そして、千十ちゃんに助けられた
千十ちゃんに庇われなかったら、今頃火だるまにされてた筈だ
そうだ、千十ちゃんだ
あの後コスプレ女子と一緒に消失したが、あれは転送能力か何かか?
心が、ざわつく
さっきの状況から推測するに、千十ちゃんとコスプレ女子は友達、だと思う
だがまさか、まさかとは思うけどコスプレ女子に誘拐された、なんてことはないよな?
未だ混乱している頭を軽く振った、すると
だしぬけに胸ポケットが震え、通知音が鳴った
急だったのでビックリした、SNSアプリの音だ
反射的に端末を引っ張り出し、確認する
千十ちゃんからだった
【脩寿くん、大丈夫?】
【だいじょぶ、ありがと!】
【それよりせとちゃんの方はだいじょぶ!?】
考えるよりも前に指が動く
この操作に慣れない、速く入力しようとするほど指がもつれそうになる
それよりもなんかもうちょっと気の利いた言い回しをすべきなのか
いや、こういうときこそシンプルイズベストだろ
【私は大丈夫!さっきの友達と一緒だから】
送信して間もなく千十ちゃんから返事がきた
友達、だ。問題ない、誘拐なんかじゃない
【さっきのこと、ちょっと友達に聞いてみるね】
【わかった。なんかあったらいつでも連絡して】
【変なことに巻きこんでごめんよ】
【気にしないで 😎 】
ひとまず安心していいか、それに若干申し訳なく思う
さっきのゴタゴタに千十ちゃんを巻き込んじまった状況だ
どうしようか、千十ちゃんに一応こっちの事情も説明した方がいい
事情というか、さっきの経緯というか
でも大事な話をちまちまやるのは性に合わないし
それにこういうのは電話か、直接会ってから話すべきだ
色々考えなきゃいけないことが多すぎる
とりあえずどっかで心を落ち着かせる必要があるな
なんでまだ心がざわついたままなんだ
さっきのコスプレ女子に気圧されたのが尾を引いているのは理解できる
でも違う、なんだこの違和感は
ひとまず端末をジャケットにしまおうとしたところで
だしぬけに端末が鳴った
今度は電話の呼び出し音、千十ちゃんか!?
『もしもーし、早渡こーはーい?』
いよっち先輩でした
「はい早渡でございます、えっ何、先輩? な、何すか?」
『実はねー、今から早渡後輩のお家に遊びに行きたいんだけど
ほら、前のお礼とかもしたいし
それでねー、今ドーナツ屋さんに来てるんだけど、迎えに来てほしいんですけどもー?』
「は? い、今から? マジで?」
『マジなんですけどもー?』
なんでそんな嬉しそうなんだ、いよっち先輩
どうするかな
今日はもう東区探索を続けられるような状態じゃない
千十ちゃんの方の状況も気になる、けど今この時点で自分にできそうなことはあるか?
『……ちなみに、早渡後輩におことわりされたら、わたしショックの余りこの場で泣いちゃうかもだからね?
店員さんに後輩男子に弄ばれて捨てられましたって泣き喚いてやるからね?』
「営業妨害っっ!! 虚偽申告っっ!! そういうのやめろ!!」
あまりの返答に思わずツッコミを飛ばしてしまった
いや待て、その前に今の言葉は何だ
これは脅迫か? これはひょっとしていよっち先輩に脅されてるのか?
「迎えに行くから!! 迎えに行くからお店に迷惑かけるのやめて!!」
『んふふ、早渡後輩ならそう言ってくれると思ったよ』
「ったくもー、……こっちはちょっと直前までゴタついててさ」
『えっ、あ、ごめ! なんか用事あったの!?』
「でもまあそれもそれで一旦落ち着いたから!
もしまた急用入ったら、場合によっちゃ付き合ってもらうかもしらんが
それでもいいなら迎えに行くよ、どうする?」
『いいの!? 勿論OKだよ、なんかごめんね』
決まりだ
千十ちゃんの方も気になるけど、今は先輩を迎えに行こう
それにこれで気分転換になるかもしれない
「それで? そのドーナツ屋って何処にあるの?」
『えっとねー……』
いよっち先輩から大まかな位置を教えてもらった
多分これって学校町内だよな? ここからそう遠くないよな?
了解の意を告げて通話を切り上げる
徒歩で向かおう、そうすればこの緊張感もそのうち抜ける筈だ
西日は大分傾いている
けど、陽が完全に落ちるまでには辿り着けるかもしれない
篠塚さんから聞いた「逢魔時の影」と「盟主様」の件もあるしな
ちょっと急いだ方がいいな
ショートカットしようと路地に入った所為で却って道に迷ったりしつつも
ランドマーク的にそろそろドーナツ屋に近づいたんじゃないか、という頃合いだった
再びSNSアプリの通知音
反射的に端末を操作する
やっぱり千十ちゃんからの連絡だった
【脩寿くん、今いいかな?】
【さっきのこと友達に話聞いてたんだけど】
【脩寿くんのこと変質者だって疑ってたらしくて】
【それで】
変質者? 俺が? 疑われて?
少し固まった
つまり、さっきのコスプレ女子は俺が変質者か何かだと勘違いしていたと、そういうわけだろうか
これは誓っていいが、意図的に変態的行為に及んだ記憶はないし、何か誰かに迷惑を掛けた心当たりもない
いや、過去のあれこれを振り返ってみると例えば花房君や「先生」の前でちょっとばかり取り乱した記憶はあるし
篠塚さん家や墓守さんの面前でかなり恥ずかしい勘違いやアレなことを口走った記憶もある
でも! だけども! 他人に迷惑を掛けるような、ましてや犯罪を疑われるような言動に及んだことは、……ない、筈だ
だがもしあのコスプレ女子が、仮に「七尾」出身者だった場合は話が別だ
あまり思い出したくない昔の話だが俺は「七尾」の施設時代、「セクハラ大魔王」という非常に有難くないあだ名を頂戴していた
一応理由はある。いけ好かない女性職員に対し、その、なんだ、セクハラじみた行為で仕返しをしていた
反省はした、大いにした
一応言い訳させてもらうとあの当時だってセクハラは報復みたいなもんだったし、女性職員以外には決して手を出してない
ここも誓っていい
もっと言うと「七尾」出身者でANホルダーならお互いの色々を知ってる筈だが、あのコスプレ女子は初めてさんだ。こちらも心当たりがない
【友達の話だと脩寿くんの行動してる場所が変質者と同じみたいで】
【それから脩寿くんが夜中に東区をうろついてるとこ何度も見てるって言うの】
【私は人違いじゃないかって言ったんだけど】
【脩寿くんはこんなの心当たりないよね?】
俺が色々考えてるうちに、千十ちゃんからガンガン送られてきた
これはつまり、俺の東区探索をあのコスプレ女子が目撃していたわけか
どうしよう、誤解だと弁明したいが、そうなるとこれは全部話さないといけない流れだろうか
どう返事すべきか、できれば電話か直接会って話をしたい。切実に
【私は友達の誤解をときたいんだけど、友達は脩寿くんのこと疑ってて】
【証拠があるって言うんだけど】
【今電話してもだいじょうぶ?】
【おk!】
電話だ、即答する
数秒置いて着信音が鳴った
『もしもし脩寿くん? あの、……あの』
「さっきのことだよね!? 送ってきたの見たよ!!」
『うん、それで、あの』
何だ、何だか物凄く切り出し辛そうだ
あのコスプレ女子との話で、まずい方向に転がったっぽいな
やっぱりさっきの時点でこっちの状況を先に説明しとくべきだったか?
『さっき、あり……ソレイユちゃんと会ったときのこと、詳しく確認したくて
多分さっきのは誤解だと思うから、だからその、脩寿くんの話を聞きたいの
脩寿くんがさっき何してたか、教えてくれないかな』
千十ちゃん、凄く言葉を選んでるような雰囲気だ
こっちも緊張してきた、どこから説明した方がいいだろ
「俺は人、というか家を探してて。四月からずっと」
『夜になっても、ずっと探してたの……?』
「あー、うん。最近は別の用事が重なって
夜に出歩かないといけない状況だったんだけど、それも先週解決して」
『……』
「あと、さっきの子が俺を変質者だって疑ってるのは流石に何かの間違いだと思うから
直接会って話をしたいんだけど、……千十ちゃん?」
『……』
重い沈黙が続いている
何かまずったか、俺
『あの、あのね
何日か前の夜、東区の中学校に居たのって、本当のこと?』
「っ!?」
数日前の夜、東区の中学
間違いない、いよっち先輩に会いに行った夜だ
そういやさっきのコスプレ女子も俺を焼こうとしたときに話してたな
恐らくいよっち先輩に会ってるときのことも遠くから観察してたんだろう
『脩寿くん、ありすちゃんはね。脩寿くんが都市伝説の子に、多分「飛び降りる幽霊の子」に襲い掛かってるのを見たって言うの
私は違うんじゃないかって思うんだけど、でも、ありすちゃんはこの目で見たから間違いないって言ってて
だから、あの、私! ……脩寿くん、そんなことやってないよね!?』
「誤解もいいとこだよ!?」
思わず大声を上げてしまった
いやもう周囲の状況に構ってられない
「確かに先輩に会ったのは事実だけども! 襲い掛かってなんかないよ!?
話を聞きに行って、成り行きで助ける感じになっちゃったけどね!?
その子本当に何を見てたんだ!? 大体一部始終を全部見てたんならその後『モスマン』が襲撃してきたのも、知、って……」
待て、待て待て待て
おい
なんでだ?
違和感が、はっきりと輪郭を伴った
千十ちゃんは、都市伝説について、知ってるのか!?
「千十ちゃん……、千十ちゃん?」
『あっ、うん』
口の中が急速に乾いていく
心臓が急に縮み上がるような錯覚がした
「千十ちゃん、あの、あのさ。第三種適合とかアンクスとかそういう言葉に聞き覚え、ある?」
『えっ? 何? あの、わ、わからない』
思わず妙なことを口走ってしまった
取り乱し過ぎだ、落ち着け俺
「あの、なんで千十ちゃんが都市伝説とか『繰り返す飛び降り』とか知ってるんだ?」
『えっ? あっ! あっ……あのっ、わ、私も契約者なの!』
「千十ちゃんが、 契約者」
『だから、あのっ、そのっ、ある程度、そういうことは知ってて!』
「……。さっきの子も、契約者だよね?」
『あっ、あっ、……う、うん』
「……」
千十ちゃんが、契約者
いや落ち着け、だから何だってんだ
学校町に居るんだから契約者の一人や二人にかち合っても普通だろ、それは
何も驚くことじゃない、その筈なんだ
ひとまずコスプレ女子の誤解を解くのが先だ
『ごめんね、本当ならもっと早く言い出したかったんだけど
タイミングが分からなくて。あっ、脩寿くんも契約者だよね?
あのっ、私、脩寿くんは変質者じゃないって、ありすちゃんの誤解を解きたいの
それで、脩寿くんと直接会って三人で話をしたいんだけど、大丈夫かな?』
「そのことなんだけど、千十ちゃん今どこにいるの?」
『えっと、ドーナツ屋さんなんだけど……』
話を聞けば、俺がまさに向かおうとしていたお店じゃないか
実にタイムリーじゃないですか、しかも三人とも契約者って言うなら話が早い
「千十ちゃん、提案なんだけど直接会って話せるなら
俺が襲ったっていう『繰り返す飛び降り』の子から直接事情を説明してもらおうと思うんだ
その方が色々手っ取り早いだろうし、どうかな?」
『えっ? あのっ、えっ!? と、都市伝説の子を、連れて、くるの? へっ!?』
「うん? なんかまずいかな?」
『あっ、でも、確かに、それができるなら、一番かもしれないけど、でも、あの』
「大丈夫、そんなに待たせないよ。もうそろそろドーナツ屋近くだから」
『えっ!? えっ!?』
一旦通話を切り上げた
一応いよっち先輩には事前に話をしといた方がいいだろう
今度はいよっち先輩に電話した
だが、出ない
多分店内でドーナツを見てるか食うかしてるんだろう
なら直接行って対面で説明するしかないな
俺は未だ不規則な動悸を繰り返す胸を殴り、目的地へ駆け出した
●
「脩寿くん、来てくれる、らしいんだけど」
電話を終えた千十の様子がおかしい
というか電話中から千十の様子がおかしい
まあそれを言い出したら、電話の前から様子がおかしかったけど
「『飛び降り』の女の子を連れてきて、直接説明してもらうって話になっちゃって」
「えっ、嘘!? マジで!?」
都市伝説を、「学校の怪談」を、連れてくる、ですって?
ここに!?
「ありすちゃん、あの、お店の外に出た方がいいよね」
「そうね、ここじゃちょっと」
「あの、それから。ありすちゃん」
撤収しようとドーナツの残りを口に押し込んで
テーブルの上を綺麗にしていたところで、千十が不安そう顔をする
「あの、さっきソレイユちゃんの格好で脩寿くんと顔合わせてたから
これから会う前に、その、ソレイユちゃんに着替えたりとか、必要だよね?」
「もご……」
もっともな指摘だ、私の面割れを心配してくれてる
「んぐ。……大丈夫、必要ないわ」
「え、でも」
「アイツも契約者なんでしょ? なら変に隠してもバレるのは時間の問題だし
ここは正々堂々と行くわ」
「ありすちゃんが、それでいいなら」
確かに元々は正体を隠すためにソレイユの格好するようになったのもあるけど
結局バレてしまうってことは、過去の「組織」の強引な勧誘の一件で思い知らされた
まあ、あんな恥ずかしい格好をしている理由は勿論身バレ防止のためだけじゃないんだけど
「それで? ドーナツ屋の外でいいの?」
「うん、近くに居るって言ってた」
「なら早いとこ出ましょうか、アイツ待たせるとか嫌だし」
メリーを鞄に隠して、席を立つ
千十と一緒にお店を出ようとして
「千十?」
「あっ、ううん。何でもない」
ドアの前で店内を振り返っていた彼女に声を掛ける
友達でも見つけたのかな?
「なんだか、知ってる人の声が聞こえた気がして」
そう言ってドアから出た千十は、もう一度お店の中へと振り向いた
私もつられてそちらを見る
「あっ、すいませーん。チョコミントクルーラーも追加でー
あとあと、オールドボストンってまだ残ってますかー?」
小、中学生くらいの子がドーナツを注文していた
白いマフラーを巻いた少女だ
確かに朝晩は少しひんやりしてきたかな、とは思うけど
マフラーにはまだ早いんじゃないだろうか
寒がりな子なのかな?
そんなことを思いながら、今度こそ本当にお店を後にした
●
ドーナツ屋を見つけたとき、既に千十ちゃんがお店の前で待っていた
あのコスプレ女子の姿は、ない
いや、千十ちゃんの隣に同じ制服を着た眼鏡女子が立っていた
俺と目が合う、その途端に一気に眼鏡女子の顔が険しくなった
あの顔、見覚えがあるぞ!
「ラルム」でやたら俺に熱視線を送ってきたあの子じゃねーか!?
なるほど繋がった、あの眼鏡女子はコスプレ女子だったってわけか
よし、なるべく穏便にいこう
「さっきはどうも」
「……」
ヤバい、めっちゃ睨み付けてくる
俺が変質者の容疑を掛けられてるから仕方ないとはいえ、だ
できるだけ早く人違いだって理解してもらいたい
「脩寿くんあの、この子がさっきの」
「ええと、そ、ソレイユちゃんだっ「その名前で呼ばないでっ!!」
心構えはしてきた、が、これは早くも不安になってきたぞ
彼女の声はめっちゃ刺々しい、一瞬頭のなかが白みかけるが
「なんと呼べば」
「……日向(ひむかい)よ」
「日向、さん」
「……言っとくけど、さっきのこと。誰かに言おうなんて考えてたら、――アンタ燃やすわよ?」
低い、脅すような声色だ
いや待て、圧されるわけには行かねえだろ
ここで俺が挙動不審気味になったら解ける誤解も拗れちまう
「しゅ、脩寿くん、あの」
「あ、うん。今その子はドーナツ屋のなかに居るから、ちょっと呼んでくる。そのまま待ってて」
千十ちゃんに応じて、そのままドーナツ屋に入る
客席をざっと追う――、居た。今まさに座ろうとしている
「いよっち先輩」
「お、あ! 早渡後輩! 丁度ドーナツ買ったとこ。こっちはお店で食べる用。一緒に食べる?」
「悪い先輩、急用が入った。顔を貸してほしい」
「えっ!? わたし? なんで!?」
あまり時間は掛けられないな
先輩に顔を近づけ、押し殺した声で状況を伝える
「全部説明すると長くなるけど、俺がいよっち先輩に会った夜に、俺達のことを見てた子が居て
その子がどうも、俺がいよっち先輩を襲ったって勘違いしてんだよ。んで、俺は変質者だと思われてる」
「な、なにそれ。ちょっと、面白いんだけど」
「かなり穏やかじゃない状況なんだよ! とにかくその子に誤解だってことを説明したいんだけど」
「はーん、なるほど。それって、ドーナツ食べてからでも間に合うな感じ?」
「悪い、実はその子たちが直ぐ外で待ってんだ」
「あー、おーけー。分かった、後輩の頼みだ。でもちょっと待ってねー」
先輩は店員さんに話し掛け、少し席を外して店外へ出る意を伝えていた
店員さんの反応は――問題なさそうだ
そのままいよっち先輩と一緒に店を出る
気づけば既に陽も暮れ、外は闇に染まり始めていた
「えーっ、と? この子たちが早渡後輩を変質者だって?」
「あ、いや、主に眼鏡の子が」
問題の眼鏡女子、日向さんは若干険しさが和らいだ、というか困惑気味の表情になっていた
まさか本当に連れてきたのか、とでも言いたげだ
「いえ、その……その子、本当に『学校の怪談』の子?
確かに東中で見た子っぽいけど、何というか、『怪談』にしては雰囲気が普通よ?」
「う、うん。普通の、女の子に見える」
「千十は都市伝説の気配とか存在を、感覚で判別できるんだけど
あなたまさか、無関係の子を巻き込んで適当言ってんじゃないでしょうね?」
「あ、あー」
言わんとしていることを理解した、そしてその理由も
マフラーの認識阻害効果は問題なく機能しているらしい
「先輩、悪いけど今だけマフラー外してもらえるか? ……先輩?」
いよっち先輩は直前まで何か千十ちゃんの方を見入っていたようだけど、気の所為だろうか
千十ちゃんの方はきょとんとしているが
「あっ、うん? マフラーね、いいの?」
「うん、今だけ」
いよっち先輩が首に巻いていたマフラーに手を掛け、――ゆっくりと外した
途端に周囲に“波”が漏れ出るのを肌で感じた。“感覚”を閉じていても直ぐ傍に立てば明確に知覚できる
途端に「うっ」と小さい呻きを漏らして日向さんの顔が強張った
千十ちゃんの方を見る――口に両手を当て、大きく目を見開いている
「えっあっ、うそっ、い、一葉さんですよね……!?」
「――ッッッ!?」
「や、やっぱり! 千十ちゃんだよね!?」
まさか、知り合いか?
しまった、そこまで想定してなかった!!
「あー、何年振りだっけ? 確か、えと、ちょうど三年かな?」
「え、なに千十と知り合いなの?」
「あの、ありすちゃん、この人は、あの……」
「あー、千十ちゃんだいじょぶ! 自分で説明するからね!
……えっと、わたしは東一葉って言います。で、本当は三年前に死にました
東中の連続飛び降り事件? 結構有名らしいけど、あ、知ってる?」
「え? あ、はい。もちろん」
「良かった、いや良くないけどね! えっと、で、わたしもそれに巻き込まれて飛び降り自殺したことになってるんだけど
わたしだけよく分からないけど、『繰り返す飛び降り』? 都市伝説だっけ? そういうのになって、いつ間にか戻って来ちゃって
実際は契約者? が、なんか訳の分からないチカラ? を使って、生徒を飛び降り自[ピーーー]るように仕向けてた、……らしいんだよね
わたしも最近知ったんだけど。あ、それで、三年前の状況を映像? で見たんだけど、そのとき早渡後輩――早渡君と居合わせて、ね?」
「あっ、おう!」
目の前の状況に頭のなかが完全に真っ白になっていたが
いよっち先輩に話を振られ、我に返った
そうだ、今彼女が話していることは本来俺が説明しないといけないことだ
「三年前の東中の事件について、成り行きで色々教えてくれた奴らがいたんだけど、その流れでいよっち先輩に出会って
そのとき先輩の様子がおかしかったから、心配で夜の東中に足運んでたんだ
なかなか会えなかったけど、前の夜にようやくいよっち先輩に会えて――それが君が俺達を見たって日だよ」
眼鏡女子に、なるべく睨み付けないよう自制しながら視線を向ける
彼女は俺から目を逸らし、先輩と千十ちゃんの方を見て、より困惑気味の表情を浮かべていた
「それで色々助けてもらって、今は東中から離れて安心安全なところに避難したってわけ!」
「そう、だったんですか……」
「もー、千十ちゃんもビックリだよね? 一度死んでるのにこうやって戻ってきてさ!
幽霊じゃなくて体も昔のままで戻って来ちゃって。お姉さんもビックリだよ! ……せ、千十ちゃん!?」
思わず心臓を握り潰されたような錯覚がした
千十ちゃんは、泣き出していた
「あっおっ、せっ千十ちゃん? ど、どうしたの!?」
「あの、あの……、中学校に、あがったときから、ずっと、学校町も、ちゅ、中学校も、怖くて
はじめての、“外”の、学校が、なんだか、すごく、こ、怖くて、そ……そんなとき、声かけて、くれたの、一葉さんと、さ、咲李さんで
ほんとに、良くしてくれて、私、私、いっぱい、助けて、もらったのに……っ、あんな……あんな……っ!!」
「あっ! なっ、泣かないで……!」
いよっち先輩が慌てて千十ちゃんを抱きしめた、先輩まで泣きそうな顔になっている
千十ちゃんはいよっち先輩と知り合いだった、今の話だと咲李さんとも知り合いのようだ
胸の奥が締め付けられる。俺が浅はか過ぎた、こうなることを予想できてなかった
「……落ち着いた?」
「すいません……。私、迷惑ばかり」
「思ってない! 迷惑なんて思ってないからね!」
しばらくの沈黙の後
千十ちゃんはゆっくり先輩から離れたが、それでも先輩は彼女の手を握っていた
街灯や照明の所為か、千十ちゃんの顔が赤く見える
「えーと、そうそう。それで、早渡後輩はあの日の夜、なんていうか、“取り込まれ”?
そんな風になりかけてたわたしを助けるために、色々頑張ってくれたんだよね
後半なんか、空からなんかモンスターっぽいの飛んできたし! それも早渡後輩が何とかしてくれたんだけど」
いよっち先輩は日向さんに話し掛けてるようだが
当の彼女は顔を伏せていた
「だから早渡後輩がわたしを襲ってた、ってのは誤解も誤解だよ!」
「……ありすちゃん。脩寿くんは変質者なんて、そんな人を傷つけるようなこと、する人なんかじゃないよ」
「そ、そうそう! そもそもだよ? こんな見た目だけ不良っぽいヘタレな雰囲気の男子がそんなことする勇気なんか無いって!!」
「……わかりました」
日向さんは顔を上げ、いよっち先輩に相対した
表情はまだかすかに困惑しているようにも見える
日向さんは先輩に頭を下げた
「すいませんでした。私の勘違いの所為で、迷惑を掛けてしまって」
「だから迷惑なんて思ってないから! はー、でもほっとしたー。良かったね早渡後輩!」
「勘違いしないで」
それはもう静かな、しかし鋭い声色だった
ようやくここで日向さんは俺の方に向き直った
なんというか、形容しがたいほどの無表情だった
「東中のことは私の誤解、それは認める。でも、だから何?
あなたが変質者じゃないって証明にはならないから
犯人の正体を暴くまで、あなたに対する疑いが解消したわけではないから」
「あ、ありすちゃん……!」
そう来るか、でもまあ言い分は一理ある
いいだろ、乗ってやろうじゃねえか
「オーケー、今はそれでいい。東中の一件について理解してくれたんなら、それでいい
これでもういよっち先輩に迷惑掛かることもないわけだしな」
「だーかーら! 迷惑なんて思ってないってばぁ!」
「要するに、後はその変質者とやらが俺じゃないってことを証明すればいいわけだろ?
やってやるよ。とりあえずとっ捕まえてアンタの前に引きずり出せば納得してくれるか?」
「はいっ! 喧嘩ストップ! やめやめ! ドーナツ屋さんの前でやることじゃないでしょ!
それに折角の千十ちゃんとの再会なのに、水差すような真似はやめてくれるかなー?
早渡後輩も! ありすちゃんもだよ?」
「あっ、おっ、ごめん先輩!」
「う……、失礼しました」
いよっち先輩の制止に思わず謝った
そういやまだドーナツ屋前だってことをすっかり忘れてた
思わず周囲に視線を向けるが、幸いか人の姿はさほど無かった
あ、いや。今まさにドーナツ屋に入ろうとしていたOLっぽい女性がこちらを見ていた
アホか俺は、熱くなり過ぎだ。しかも千十ちゃんが取り乱した後だってのに。アホか俺は
「うんうんよろしい、分かってくれればいいのだよー!
とりあえずさ、仲直りと言ったらなんだけど。続きはドーナツ屋さんのなかで話さない? ね?」
「あー、いよっち先輩。時間的にちょっとマズい
ただでさえ、その、近頃は変なのがあちこちに出没してるみたいだし」
「え? あっ、そっかー」
「そうね、もう遅い時間だし。千十もそろそろ帰らなきゃやばいでしょ?」
日向さんも俺と同意見らしい
一瞬耳を疑ったが、いや、冷静に考えれば結構な時間帯であることは一目瞭然だ
日没前後の時間帯にのみ現れるという「逢魔時の影」、そして「盟主様」
と言っても現時点では既に日没から時間も幾分か経過している頃合いだ、なので「盟主様」達にかち合う可能性はほぼ無いだろう
だが、この町には同等かそれ以上に危険な存在がうろついている
学校町内を徘徊する危険な都市伝説に加え、「赤マント」の集団、あるいは「モスマン」、「狐」の手勢、そして……問題の変質者
付け加えると、この町の徘徊都市伝説は経験則上、日没を境に活性化するものと理解している
つまりだ。この時間は、まあまあヤバい
それはそれとして
俺は眼だけ動かして日向さんを盗み見た
まあ何というか、先ほどから俺に対して露骨に顔を背けている状況だ
先ほどの会話に戻ると、俺が彼女に変質者を引きずり出そうかと言い放ったとき
日向さんはやや狼狽えたような表情を見せた
彼女の言い分が理にかなってるとして、それでも心情的にはムッときたし
言い返した瞬間は若干留飲が下がった感はある、そこは認める。だが
これで満足するつもりは勿論ない
まだ問題の変質者が学校町内をうろついてるんだ、それも野放し状態で
それなら
変質者の正体を突き止め、できればとっ捕まえたい
「千十は私が送っていくから」
「ごめんねありすちゃん」
「ううん、私が巻き込んじゃったものだし」
「もうちょっと早い時間なら、ドーナツ食べながらお話できたんだけどねー……」
千十ちゃんは日向さんが送っていくことになった
俺もいよっち先輩送らないとだな、そういや高奈先輩の自宅って何処だ?
うろ覚えの記憶が正しいなら、確か辺湖市だって話だったような
「あの、一葉さん。……また会えますよね」
「えっ? あっ! うん、勿論だよ! あっでも、えーと、千十ちゃん、あのさ
わたしがこうやって都市伝説? になって戻って来た、ってことは周りの人にはヒミツにしてほしいな!
ほら、死人が復活したなんて大パニックになっちゃうやつでしょ? だから……その」
「誰にも言いませんっ、約束します!」
「あっ、私も言いません。秘密は守ります」
「ありがとー! ありすちゃんもありがとね。 ……あっ」
今度は千十ちゃんからいよっち先輩を抱きしめた
ややあって、先輩が千十ちゃんを抱きしめ返した
仲、良かったんだな
しばらくして先輩から離れた千十ちゃんは、また泣きそうになっていた
「じゃあ、また。おやすみなさい」
「あっうん! また会おうね!!」
去り際、千十ちゃんは一度だけこっちを見た
街灯の光で、千十ちゃんの目元が光っている
彼女は俺達に向かって小さく手を振っていた
両手を大きくブンブン振ってる先輩の傍で、俺は片手を小さく挙げて応じるのがやっとだった
□■□
早渡 脩寿(さわたり しゅうじゅ)
南区の商業高校一年、契約者
突然身に覚えのない容疑で日向ありすに攻撃されかける
自分はそんなにチャラくないと思ってるので、チャラ男とか不良とかヤンキー呼ばわりされるとちょっと傷つく
日向 ありす(ひむかい ありす)/マジカル☆ソレイユ
東区の高校一年、契約者で主に炎と熱を操る
色々あって契約能力使用時には痴女っぽい格好をする
嫌いな物がチャラい奴なので、早渡に対する第一印象は「最悪」
遠倉 千十(とおくら せと)
東区の高校一年、契約者
契約者なのに、都市伝説の存在や契約者をひどく怖がっている
自分の恐怖症を克服しようと中学の頃から色々頑張ってきたが、その成果は
東 一葉(あずま いよ)
元 東中の二年生、三年前の「連続飛び降り事件」の犠牲者
現在は都市伝説「繰り返す飛び降り」になり果ててしまったが、生来の性格と記憶が失われたわけではない
中学時代の遠倉千十とは面識がある以上の仲、今回の登場人物のなかでは一番お姉さん
過去自分が発言していると思ったら、全くどこにも書いてなかったので、この場を借りて申し上げます
マジカル☆ソレイユのリスペクト元は単発作品の「魔法少女マジカルホーリー」です
作者さん、本当にありがとうございます。貴方のお陰でマジカル☆ソレイユは生まれました
花子さんとかの人に土下座でございます…… orz
ここまで来るのに徒に時間を費やしてしまったのが悔やまれる……が、言い訳できない
遠倉は中学時代、転校先の芽香市(学校町)で初めて七尾以外の世界に触れたのですが
よりによって学校町、市内を蠢く異形が怖い、同じクラスの子達(契約者)が怖い、と怯え切って憔悴している彼女に
いよっち先輩が関わったのなら、人柄的に咲李さんも関わっていらっしゃるのでは? という所からこういう形になりました
次世代ーズの人様乙でした
変質者の誤解がとけ……とけ…………とけたよね、やったね早渡君!
頑張れ早渡君、第一印象最悪だと、そのあと挽回するのが大変だって先人達が言ってた、頑張れ!
はじめて触れた七尾以外の世界が学校町、そこそこ@(控えめ表現)ハードモードでは?
咲李が関わっていてもおかしくはないでしょう
彼女は優しくて、おせっかいでしたから
都市伝説とか都市伝説契約者とか能力者とかそこら辺関係なく、大体男はみんなおっぱい好きだよ!と言う物語である。
あぁ、夜も遅い時間になってしまった。
その青年は、早足で夜道を歩き帰路についていた。
別に仕事で忙しくなった訳ではない。友人達と遊んでいたらうっかりこんな時間になってしまっただけの事だ。
仕方ないのである。うっかり色々盛り上がってしまったのだ。ついでにちょっと帰りのバスの時間を一時間間違えてしまっていただけだ。仕方ない。
曇り気味の夜空。月明かり星明りは乏しく、繁華街から離れると電灯の明かりも乏しくなる。
それでもまぁ慣れた道だ。流石に迷うほど馬鹿では……。
「……あれ、ここさっき通ったっけ?」
前言撤回。この青年は結構なレベル高めの馬鹿かもしれない。少なくとも記憶力はそこまで優秀ではない。
えーっと?と現在地点を見失い、まぁ歩いてりゃそのうち家につくだろ!とお馬鹿さん特有の気楽さで歩き続けていた、その時だった。
「……ん?」
前方から、誰か来る。たっゆんたっゆん。重たそうな二つの果実を揺らし、青年の前方から歩いてくる。
(う、うぉおおおおお……!すごい…………すごく……大きいです……!)
青年がこんな感想をのんきに抱いたのは、青年が馬鹿だからではない。青年でなくとも、結構な確率でこの感想を抱くであろうから青年が馬鹿と言うせいではない。
たわわだった。それは見事にたわわだった。何曜日であろうと関係ないのないたわわが、そこにあった。男女問わず、ここまでたわわな胸を持った人物がいたらうっかり見とれる、そんなたわわだった。
前一行でどれだけたわわと言う単語を使ったか数える気にもならないたわわな胸。青年が見とれても仕方ない事だ。
たわわな胸を持ったその女は、にこりと微笑む。雲の切れ間から覗いた月明かりが照らすその笑顔はとても美しく。しかし青年は女の胸元しか見ておらず。
いつの間にかその胸元が超ドアップで視界にやってきていた事にも、馬鹿故か気づけず。
「おぶぅっ!!??」
ぼよんっ、と。振り子かな?と言うレベルのそのたわわな胸に青年は顔を挟まれた。視界が暗くなる。たわわな胸と言う肉に挟まれ、音もよく聞こえない。
……そう、青年の首から上は、女のたわわな神々の生み出したもう谷間の間に挟まれていた。
男ならばさぞや嬉しい現場であろう。しかし、ぎゅうぎゅうと力強く挟み込まれ呼吸がうまくできない。このままでは窒息死してしまうだろう。
女は笑う。艶やかに嗤う。女は確かに殺意を持って、青年の頭部を自身の胸元で挟み込んでいた。
何故、そのような事を行うかと言えば、女がそういう存在だからだ。たとえ己が本来語られる国でなかろうとも、本能に忠実に動く……それが都市伝説と言うものだ。
「ハンツ=テテク」。マレーシアに伝わる怪異。その名はマレー語で「胸のお化け」を意味する。別名「ハントゥ・コペク」。意味は「乳首お化け」。
本来はここまで若く美しい姿はしていない。もっと年老いた鬼婆のような、よくて中年女性くらいの年頃の姿をとるはずの存在。二本に来たらなぜかぴっちぴちに若返ってしまって解せない。
解せないが、それでも「ハンツ=テテク」がとる行動は変わる事はない。
子供や若者が夜遅い時間に外を出歩いているのを見つけては、胸の中に閉じ込めて窒息死させる。もしくは何処かへと連れ去り神隠しにする。人に害なす化け物だ。
余談だがマレーシアと国境を接したマレーシアにも、名前違いで似たような怪異が存在するという。おっぱいは国境を越えていた。
ぎゅうぎゅう、ぎゅうぎゅうと。挟み込む、挟み込む。呼吸を奪い、命を奪うために抑え込む。
「…………?」
……妙だ、と、「ハンツ=テテク」は疑問を感じ始める。
おかしい。そろそろ死んでもおかしくないのだが……今宵、獲物に選んだ青年は、まだ、死んでいない。どこか、女の胸元を堪能するかのように深呼吸のような動作すらしている。そんな事をしても呼吸はできない状態だというのに。
「ハンツ=テテク」は、己が襲っているこの獲物が都市伝説契約者であると気づけていない。だが、それは「ハンツ=テテク」が馬鹿と言う訳ではない。仕方ない。
この青年が「馬鹿」だから仕方ないのだ。「馬鹿は死ななければ治らない」……逆説的に、馬鹿であるが故にこの青年は死なない。
流石に、こうして窒息状態が続けば苦しいのだが。それでも、苦しかろうともこの状態からの脱出を選ばない程度には馬鹿でありエロいが故に青年は死なない。ちなみに青年が自分自身が契約者であると気づいているかどうかも不明である。馬鹿なので。
ぎゅうぎゅうぎゅうぎゅうぎゅうぎゅうぎゅう。
死のぱふぱふを続ける「ハンツ=テテク」。この戦いは永遠に終わらないものかと思われた。が。
さっばーんすっくーん、と、肉と肉がこすれるような音と共に。
「やっぱり、お洋服は慣れまセーン。胸元が苦しいデース」
「ここまでぼいんぼいん用の服とか、この国だとレアだしなぁ。アメリカとかの方があると思う……ってか、結局サイズあう下着なくてノーブラ状態なのに胸苦しいとか、本当、服に慣れてな……」
男女二人、会話しながらそこに到達してしまった事で。この戦いは終わりへと向かい始める。
「ハンツ=テテク」に負けないほどのたっゆんたっゆんバストを持った、掌だけ雪のように白い南国美女と、それに付き添っていた男。
二人は、青年を胸元に挟む「ハンツ=テテク」を見るや否や。
「「変態だーーーーーーーっ!!!???」」
盛大に、盛大に。夜道に二人分の叫び声が響き渡った。
変態呼ばわりされ、流石の「ハンツ=テテク」も慌てる。
「!?な、何を…………何が、変態だというのだ!?」
「変態だーーーーっ!!??路上でぱふぱふプレイしてる変態だーーーーーっ!!??」
「ぱふぱふプレイ!?」
「変態デース!!路上で男性に胸元押し付ける変態デース!!!!」
「違う!!!と、言うかそっちの女!貴様も怪異だろう!ワタシの事を言えるのk」
「へんたーい!!おまわりさーーーーん!痴女です!!!痴女が出ました!!!!」
「痴女デース!!今の私はお洋服を着たので痴女卒業!よって私は痴女カウントされない!!でも別の痴女が出没してマース!!!おまわりさーーーんっ!ポリスメーン!!!!」
ばかばかしい叫びは、しかし確実に辺りに響き渡り。さしもの「ハンツ=テテク」も、警察官やら何やら人が集まってきては逃げ出すしかなく。
胸元に長時間挟まれ続けた青年は、警察からの事情聴取に「天国……でした……」としか答えず。
この混沌とした出来事は、後の何かに繋がる事もなく、そこそこよくある都市伝説事件として片付いたのかもしれないし、片付かなかったのかもしれない。
終
>>471
単発投下お疲れ様です
使用された「たわわ」は実に12回!ちなみに登場した単語「馬鹿」の使用回数も12回!
「ハンツ=テテク」の今回初めて知りました……しつけ系統の妖怪かと調べてみたところ思った以上に殺意高めだった
スックーン姉さんの付き添いは柿男かな? まさかこんな再登場をするとは。そしてまあ出会ったらそりゃまあそうなりますね
> 都市伝説とか都市伝説契約者とか能力者とかそこら辺関係なく、大体男はみんなおっぱい好きだよ!
そうですね、その通りだと思います
早渡「…………」 ☜ 静かに顔を覆っている
ホントそうですよね! その通りだと思います!!
> 変質者の誤解がとけ……とけ…………とけたよね、やったね早渡君!
早渡「(東中でいよっち先輩を襲ったっていう)誤解は解けたんすけど」
早渡「(日向さんが言う変質者疑惑の方は)誤解解けてないんすよね……」
早渡「……変質者ぜったいゆるさん」
> はじめて触れた七尾以外の世界が学校町、そこそこ@(控えめ表現)ハードモードでは?
ですねー、「ハードモード」とは言い得て妙です
後々「なんで今まで生きてこれたんだ?」とか言われそう
> 咲李が関わっていてもおかしくはないでしょう
> 彼女は優しくて、おせっかいでしたから
33以降書くために何度かこれまで公開された話を読み返してたんですが、咲李さん優しすぎない?ってなりました
東中出身であの事件の頃の在校生にはもれなく全員、事件が影を落としてるでしょうね……
>>426
亀ですが乙ありでございます
「ピエロ」で一気にバランサーが真っ黒に傾いてしまいましたが
ラブコメ部分はしっかりやりつつ、「ピエロ」の方も進めていきたいです
まず滞っていた【9月】を進めつつ、【11月】部分の再整理からですね
サイコメトリーの黒服は恐らく「(サイコ)メトリー」の黒服ことPナンバーのミッペかと思います
のでコメントを残そうと……
ミッペはまだ若葉マーク(新人)の黒服で能力の制御が上手くいってない感がありますが
恐らく強力な能力持ちの情報を読み取ろうとするとオーバーヒートを起こして倒れる可能性がありますし
リーディング経由で読み取ろうとした能力持ちの影響を受けるリスクも排除できませんね(特に精神干渉系の相手だと)
あとリーディング対象の場所とかが不明だと、そもそもリーディングしようが無い面もあり
たとえ本人が「狐」捜査に意欲的でも周囲や上長に止められたものかと
あと、残留思念の契約者は三白眼の怖い中学生こと栗井戸星夜君と思われますが
彼の能力も再現の程度により体力消耗が半端ではなく、加えて強力な存在が再現に含まれると「もっていかれそうになる」らしいので
やっぱり「狐」そのものを対象とする追跡捜査は現実的ではなかったのではないかと推測しています
○前回の話
>>455-467
○あらすじ
「変態クマの変質者」の容疑を掛けられ、かつ「中学で学校の怪談の女子を襲っていた」疑惑を向けられた早渡
いよっち先輩の協力により、なんとか「中学で学校の怪談の女子を襲っていた」の方の誤解は解けた
しかし「変態クマの変質者」の容疑はまだ残ったまま、その場はお開きになった
これからどうするんだ早渡、いよっち先輩送っていきなよ早渡
「四月の中頃くらいかな? 昼休みに千十ちゃんを見かけて
校舎裏に座り込んでて。最初はイジメられてるのかなって不安になったんだ
四月の入学して間もない頃なのに、そういうのってあるのかなって不思議に思って
一応学校町でもおっきい中学だから小学生のときの人間関係がそのまま持ち上がってくることあるんだけど
でもほら、単にクラスに馴染めてないだけなのかもって思ってさ、どうしようか迷ってたら咲李が直ぐに声を掛けてね」
「そんなことが」
「それから暫くは昼休みを一緒に過ごすようになって
それでね、最初は咲李とわたしが話してたんだけど、千十ちゃんも自分のこと少しずつ話してくれてね
小中高一貫? そういう系の施設出身って教えてくれて。四月に引っ越してきたんだって。確か、ええと、山梨だっけ?」
「そうっす。北杜の、だいぶ山奥」
千十ちゃんと日向さんを見送った後、俺達はドーナツ屋に戻っていた
置きっぱなしになっていた手つかずのドリンクは半ば強引に俺が引き取り、奢りで新しく先輩のをもう一本注文した
これくらいしなきゃ悪い
先輩の話に相槌を打ちながら、ソーダっぽい味覚のドリンクを呷る
「にしても早渡後輩も千十ちゃんと同じ施設の出身だったとはねー、二人は幼馴染なんだ」
「いやまあ、……そう、なんだけど」
罪悪感めいたものが胃の底を刺激する
千十ちゃんと“再会”したあの日、「ラルム」で感じたものだ
彼女に言われるまで思い出せなかった俺に、幼馴染だなんて言える資格は、きっとない
「それで、――千十ちゃんもだんだん明るくなっていったかなって
五月には同じクラスの子と一緒に来るようになってね。かやべーちゃん、元気にしてるかなー
咲李も大丈夫そうだねって安心したみたいで。それからも時々、昼休みはちょくちょく一緒に遊ぶようになって
あっ、咲李は色々忙しくてあんまり一緒に居られなかったけど、わたしと千十ちゃんたちで二年生のクラスでよく話したりね
それで……、一学期は大体そんな感じで……」
不意に先輩が押し黙った
俺はもう一口、ドリンクを含んだ
店内のBGMを耳にしながら、先輩の方を見やる
彼女は両手でドリンクのカップを包みながら、ほとんど減っていないソーダを見つめていた
「あのさ、早渡後輩。ごめん
『あの日』のことを聞きたいんなら、わたし、役に立てないよ
夏休み入る前の頃から、何があったかほとんど覚えてなくて」
「あ、いや。先輩、そういうんじゃない。俺は」
「――ごめん」
「先輩が謝ることじゃないよ。マジで
それ言うなら俺は今日、先輩に助けてもらったわけだし
……なんならこれで貸し借りチャラってことにしない?」
「なにそれ、全然足し引きになってないよ、それ」
先輩はようやく顔を上げて困ったように笑った
それを見て、思わず俺も頬が緩んだ
「もう遅いし送ってくよ。さっき話に出てた通り、危ないしな
そういや元々俺ん家に来ようとしてたんだっけ」
「あっ! そうだった! ……ねえ早渡こーはい、今から行ってもわたしは全然いいんだけど?
男子のお部屋ってどんな感じなのか気になるし
ベッドの下にどんないかがわしい雑誌とか隠してるのか気になるし!」
「はっははは、早速俺で遊ぶ気マンマンなのはやめろ?
いやでもほんと遅い時間だから! 俺ん家に来るのはまた今度にしない?」
「ふーん、早渡後輩がそう言うんなら、突撃するのは今度にしてあげてもいーかなー」
多分いよっち先輩の本来のノリはこっちだろう
若干元気が戻ったようで、少し安心した
「じゃあ、そろそろ出るか」
「早渡後輩、あのね」
うん? 先輩は何やらモジモジしてるが
「お願いしたいことがあるんだけど、いい?」
ドーナツ屋を出た後
俺は先輩の後を付いていく
帰路である南区方面じゃない
位置的に、恐らくこの町の中央、中央高校に近づいてる気がする
「帰る前に付き合ってほしいところがあるんだ」
いよっち先輩にそう告げられ、彼女に従うことにした
俺達は今、住宅街の只中に歩を進めていた
速足だった先輩のスピードが、やや上がった
その先にあるのは――ごく普通のアパートだ
なんとなく、察した
先輩に従い、アパートの外階段を昇る
先輩も俺も無言だ
やがて三階の踊り場まで上がって、先輩は立ち止まった
「変わってないな」
彼女の背中越しに、囁き声めいた一言を聞く
足音を立てないように廊下を進み
そして、とある一室の前で再び立ち止まった
『奥上野』
「やっぱり……」
先輩の声は俺にも分かるほど沈んでいた
振り返った先輩は、どこか固い面持ちだ
「ごめんね、付き合ってもらって。――もう帰ろう」
「ここが先輩の実家なんすね」
正確には実家“だった”と言うべきだろう
既に表札は別人のそれへと変わっているのだから
しばらくの沈黙の後、先輩は頷いた
外階段へと戻り、静かに階下へと向かう
「わたし、ずっと東中に居たとき、悪夢のなかに居た感じだったんだよね。前話したっけ」
先輩は振り返らず、囁き声で教えてくれた
「そのとき、東さん家は引っ越しちゃった、みたいな話を誰かしてるの、聞いてさ
確かめたかったけど、一人で来るのが怖くて」
何と応えればいいのか、分からない
「でも、仮にね。引っ越してなくても
死んだ子どもが戻ってきたら、……やっぱ怖いよね、親だとしても、ね」
そんなことはない、と言いたい
でも言えなかった
先輩の置かれた状況は先輩しか分からない
先輩の今感じてる辛さは先輩にしか分からない
俺は何と言えばいい
一階に着いた
お互い何を言うでもなく、アパートから出る
「あら、こんばんは」
出し抜けに横合いから声が掛かった、年配の女性の声だ
視界の端でいよっち先輩がビクッと揺れるのが分かった
「どうも」
俺は声の主に会釈で応じる
杖をついた、セーター姿のお婆さんだった
そのまますれ違うように歩を進め、ブロック塀の死角へと回り込む
この間、いよっち先輩は俺の影に隠れるように身を縮めていた
「さっきの、知り合い?」
「アパートの大家さん」
なるほど、理解した
「先輩、ちょっとここで待ってて」
「えっ? あっ、なんで?」
踵を返し、アパートへと戻る
お婆さんは、背中を向けているがまだ居た
「すいません、少しいいですか? 此処の大家さんですよね?」
「あら。ええそうよ、どうしたのかしら?」
「此処に、……三年前は、東さんという方が住んでらっしゃったと思います
娘さん、一葉さんのことで、どうしても挨拶したくて伺ったんですが」
「ああ、東さんを尋ねに来たのね。見ない顔だと思ったわ」
彼女は曇った表情のままだ
「東さんは、一葉ちゃんを亡くしてから直ぐに此処を引っ越したの
ごめんなさい、これ以上は話せないわ」
「無理を言ってすいません。ですが、一葉さんにはどうしても挨拶したかったんです
俺……自分の先輩だったんで
せめて、何処へ引っ越されたのか、それさえ分かれば」
大家さんが酷く困っているのは嫌でも伝わってくる
だが、此処で折れるわけにはいかない
せめて先輩のためにできることをやらないと
「ごめんなさいね、守秘義務を抜きにしても
東さんが何処に越していったのかは私にも分からないのよ」
ややあって、溜息とともに大家さんは状況を教えてくれた
一葉さん――いよっち先輩を亡くした東夫妻は傍目にも不安になるほど憔悴しきっていたらしい
大家さんにも「娘が死んだこの町に居るのが辛い」と零し、ある晩、まるで夜逃げするかのように此処を引き払っていったという
「すいません、こんな無理を言って」
「貴方、東区の中学出身かしら? 中学校へはもう行った?」
「自分は――別の中学です。でも、東中には行きました。黙祷してきました」
「そう……、きっと一葉ちゃんも喜んでると思うわ
思えば。あの夏からずっと辛いことばっかりね
私のお友達も行方不明になったの。去年の冬にね
親しい人が居なくなるのは、幾つになっても堪えるものよ」
大家さんは遠い眼をして、夜空の彼方へ目を向けていた
俺もいよっち先輩も、黙ったまま歩道を渡った
今度こそ南区に向けて帰途に着いた
「早渡後輩」
前を進むいよっち先輩に、急に声を掛けられ思わず息を呑んだ
先輩は変わらず前を向いたままだ
「ありがとね、付き合ってくれて」
そう言う先輩の背中は、酷く虚ろに見える
このまま消えてしまうんじゃないかという程に
「実はさ、親が引っ越したこと一度確かめたんだよ」
出来ることなら、先輩に並びたい
横顔だけでもいい、一目見たい
「わたしも、甘く考えたんだ
やろうと思えば、親に直ぐ連絡できるんじゃないかって
わたし、携帯もってるし
でもね」
でもそれは無理だ
歩道が細く、人が一人通れるだけの幅しかない
今は先輩の背中越しに、声を聞くしかできない
「登録してた連絡先、使えなくなっちゃってたんだ
そんな電話番号は存在しませんって
電話だけじゃなくて、チャットも、メールも無効になっててさ
お母さんのも、お父さんのも。こんなことある? って感じだったよ、もう」
誰かがいてくれればいいのに
こういうときに限って俺達以外に人影は見当たらなかった
おまけに車の往来もないときてる
確かにこの辺りは普段から人気は少ないだろうけど
「あーあ、なんかもうね。あんまり考えたくなかったけど
本格的にひとりぼっちになっちゃったみたい」
先輩のおどけたような調子の言葉を聞き、胸が詰まった
その声は、今にも泣きそうなほど、震えていたからだ
「中学にずっと居続けてたときからずっと思ってんだけど
なんでわたしだけ戻って来ちゃったんだろ、って」
前方の横断歩道
その向こうに見える歩道は、幅が広がっている
もうじきだ、先輩の横に並ぼう
「わたしが戻って来ても、しょうがないって、ずっと考えててさ
みんなも、咲李も一緒に戻って来たら、良かったのにって」
横断歩道を、渡る
俺は、先輩の横へと歩を速めた
そっと、先輩の腕に自分の腕を回した
俺達は立ち止まった
「先輩」
いよっち先輩は泣いていた
そして、そのまま俺の顔に目を向けた
「わたしね、お母さんたちが引っ越したの、なんかの間違いで
アパートにまだちゃんと居て、それで、わたしが会いに行ったら、どんな顔するんだろうって
もし、お母さんに拒絶されちゃったら、どうしようって、そんな怖いことばっか、ずっと考えてて」
「……」
「わたし、結局戻って来なかったほうが、良かったんじゃないかって、ずっと思ってて
そのまま消えていなくなった方が、みんなも、『あの日』のこと、思い出さずに済んだのに
わたし、わたしね。でも、でもね……!!」
俺は、ただ黙ったまま、先輩の嗚咽を聞く
「千十ちゃんが、千十ちゃんがね、帰り際に、言ったの
『私もずっと怖かったです』って、『一葉さんにまた会えて良かったです』って……
『また会って、お話してもいいですか?』って……! わたしさ、そのときは頭いっぱいで、考える暇、なかったけど
今になって、今になってね、あんな風に言ってくれて……、わたしのこと、怖がらずに、抱きしめてくれて……! ……うれしくって!!」
先輩は俺の顔を見つめたままだった
「さわたり、こうはい
わ、わたしは、此処に居ていいんだよね?
死んだのに、も、戻ってきて、こうやって、居てもいいんだよね……!?」
「先輩」
震えそうになる吸気を、気合で抑え込み
ぐっと息を止めた
そして力を抜く
「先輩、『此処に居ちゃだめ』なんて俺にそんなことは言えないよ
いいじゃん、居ても。三年前に先輩が死んだのも、先輩の所為じゃないし
都市伝説になって戻って来ちまったのも、先輩の所為じゃない
居ちゃだめなんて理由があるかよ、先輩は此処に、学校町に居てもいいんだ」
「うん……っ!!」
答えになってるだろうか
今は俺に言えることを言った、それしかできない
「それに俺は、俺も先輩に会えて良かったって思ってるよ
第一先輩と会わなけりゃ三年前の事件の真相なんて知ることもなかったし」
「えっ? さわたり、こうはいは、事件のこと、調べてたんじゃ、ないの?」
「いやあ、ね。確かに調べてたけどさ
東中で花房君たちに会ったとき、正直に言うけど
いきなり話し掛けられたもんだから胡散臭さが半端なかったんだよな
正直今でもなんであそこまで教えてもらえたのか、色々疑いだすとキリないんだけど
でも、事件の再現に付き合ったのも、先輩がいてくれたおかげだし、感謝してる」
「……そっか」
いや、教えてもらえた理由も、彼ら自身が話していたし、実際その通りだろう
『お前が情報を知る事が、こっちにとっての情報料なんだからさ』
『中途半端にわかってる状態で「狐」やら別の事やらに巻き込まれて敵になられても、鬱陶しいし邪魔なだけだからな』
特に栗井戸君、言い方は若干キツいけど、しかしその物言いはもっともだ
俺はもう学校町に渦巻く状況に足を突っ込んでいる
いずれ、より深みに足を踏み込むことになる
彼らが与えようとした手がかりを、俺はもう少しで無下にするところだった
そうならずに済んだのは他ならぬいよっち先輩の存在に因るところが大きい
――確かに俺は花房君の様子をうかがうために先輩を利用した、という下心があった。そこは認める
でもこの場でそこまで言っちゃうのは野暮だろ、流石に
「それに今日も、色々ヤバい状況だった俺を助けてくれたのはいよっち先輩だしな
先輩は俺の恩人だよ。だから、頼む」
ブレザーのポケットに手を突っ込む
シワになっちゃいないだろうな、それはちょっとあんまりなオチだぞ
うん、問題なさそうだ
引っ張り出したハンカチを、先輩に差し出す
「涙、拭いてくれ。一葉先輩」
先輩は黙って受け取り、ハンカチに顔を埋めた
「ごめん、洗って返すね」
「俺は急がないからな、ゆっくりでいいよ
それにモテる男を目指すなら常に清潔なハンカチを懐に忍ばせておくべし、ってな
ストックは大量にあるんだよ」
「なにそれ、身だしなみは大事だけど自慢するようなとこじゃないよー? それは」
「うるせ! いいじゃん別に! いいじゃん別に」
俺達は再び歩き出していた
南区の繁華街近辺に差し掛かったおかげか明かりも人気も増えていた
そのまま進んでいけば隣町、辺湖市新町に辿り着く
「ねえ早渡後輩、わたし……いつかお母さん達に会えるかな」
「会えるよ、絶対」
先輩がぽつりと漏らした問いを即答で肯定した
勿論手放しで答えられるようなことじゃない
一度死んだ人間が都市伝説化して戻って来た、となったら
基本的にその手の治安当局が黙っちゃいないだろう、『組織』とか『西呪連』とか主にあの辺が
だからと言って
先輩の思いを否定するような応じ方は、できなかった
そうだな、正直色々思うところはあるけど
今伝えるべきことじゃない。機会を改めないとだな
「お金貯めてお母さんたちを探そうって考えててね
もう夜にはお願いしてあるんだけど。お仕事を手伝うことになったんだ」
いよっち先輩の話だと、高奈先輩はネット上で店を構えており
オーダーを受けて服を製作する本格的な仕事をやってるらしい
なんでも海外ではちょっとした人気の店だそうだ
「夜ん家に置いてもらってるわけだし、それにほら、働かざる者食うべからずって言うじゃない?
あ! そだ、そう言えば早渡後輩もバイトしてたり、するの?」
「お? ああ、まあ……うん」
先輩の話を聞いてたら思わぬ質問が飛んできた
いやまあこの会話の流れだし、普通か
「どんなバイトなの? 接客とか? 学校町のお店? だったら教えて!! 行くから!!」
「いや接客じゃないよ、職場も学校町じゃないし。表の言葉だと……工事従事者、みたいな?」
「なにそれ? ちょっと、勿体ぶらずに教えてよ! ねえ!」
「なんつーか説明が難しいんだよ、ざっくり言うと異界の拡張工事のバイトなんだけど」
「なにそれ……?」
「異界ってアレだよ、都市伝説とかそういうので……ほら、異次元とか異空間とかあるでしょ?
ああいうとこを開拓して、現世の人間なり都市伝説なり古い怪さんなりが安全に居住できるような空間を作る、そういう仕事
異界はほら、色んな瘴気が噴き出したり変なのが定期的にうろついたりするから、そのまま進入すると結構危ない場所だからそういう作業が必要で」
「ふー……ん???」
いまいちピンとこない、いよっち先輩はそんな表情だ
確かに自分のバイト内容を一から説明するとなるとまあ結構長く複雑になりそうだ
俺も分かりやすく説明する自信が、正直ない
携帯を引っ張り出して、アルバムを開く
画像を指で掻き分け、……あった
「これ、バイト先の仲間」
「あっ! 美人さんじゃん!!えっこれ角生えてるの!?」
「真ん中は梅枝さんでうちのリーダー。呪術も使える凄い人だよ」
「こっちは早渡後輩でしょ? こっちの人は? ……ちょっとタイプかも」
「おっ? いよっち先輩、マコトみたいなヤツがタイプなの? こいつは同じ『七尾』出身の幼馴染」
俺含めた三人が映った画像を先輩に見せた
去年職場で撮ったやつで、バイトの休憩中だったので皆仕事着のままだ
真ん中で笑顔なのが梅枝さん、「鬼」の血筋。そして彼女に腕を回され両脇で苦しそうにしてるのが俺と真琴だ
梅枝さんが首に腕回してきて思いっきり引き寄せたタイミングで撮られてるので、主に俺の顔面が凄いことになってる
しっかし、いよっち先輩の好みなタイプは真琴みたいなヤツか
いやまあ分かるぞ、俺が言うのもアレだけどなんてたって真面目を絵に描いたような好青年だしな
だが残念だったな、いよっち先輩。そいつは既に婚約者が居て、しかも両想いときたもんだ。残念だったな!
「楽しそうな職場だね、いいなー」
「肉体労働系の仕事だからまあまあハードだけど、でも楽しいよ
一年半くらい前だっけ、それくらいから始めたんだけど時間の流れ方が明らかにおかしい場所とかあって
どうなってんだこれって、なってさ。ぶっ続けで一日くらい潜って監督に止められたり、そんな感じだったよ」
「へー、中学行きながらバイトしてたんだ。あれ、でも法律的にどうなのそれ?」
「あ、いや。俺は中学行ってないんだ」
さっき大家さんと話したときの返答は、実は嘘だ
あの場で正直に話すわけにもいかないし便宜上の理由ってやつだ
「えっ!? でも、えっ? 『七尾』って小中高一貫なんでしょ!? だって、えっ!? 義務教育だよ!?」
「ふっふふふ、そこの事情を説明するとそれこそめっちゃ長くなるし色々複雑な事情とか話さなきゃなんだけど」
「七尾」のANクラス出身者はEカリとJカリの内容を強制的に脳みそに書き込まれ
E5修了の時点で中等教育まで履修したのと同レベルの学力を習得することが必須になってて
S1に上がった時点で高認の証書が交付される――んだが、こうした制度にも言うまでもなく色々事情がある
まず脳みそに書き込みを施す「学習装置」なる設備は当然AN、都市伝説能力に由来するシロモノだし
高認に合格したことにするという措置も「七尾」が裏で政府や教育系の行政機関と繋がってるからこそ出来る行為であって
グレーというより真っ黒だ、色々
「えーっ!? じゃあ早渡後輩ってやろうと思えば大学に飛び級できるってこと!?」
「飛び級っつーか飛び入学っつーか、でも許可する大学はまだまだ少ないし、基本は18歳なるまで大学入学はできないって話だぜ」
「へー、ちょっと俄かには信じがたい話ですねー! でもなんで『七尾』から出ることになったの?」
「……“上”の都合で閉鎖しちゃったんだ、施設が」
流石に以前高奈先輩にした話を繰り返すと更に長くなるので止めておく
あといよっち先輩には空七との一件を隠したい。絶対突かれそうだし
「じゃあじゃあ! 早渡後輩の『七尾』と『七つ星』? の頃のこと、今度教えてね!」
「うん、今度な」
先輩とそうこう話をしているうちに目的地に近づいてきた
高奈先輩の住むアパート、今はいよっち先輩の帰る場所でもある
「いよっちせんぱーい!!」
「ん?」
「あっ、れおん君。半井さんも」
聞き覚えのある声だ
前方を見遣れば、「人面犬」の半井さんに乗ってれおんがこっちにやって来る
「へっ、デートは楽しんできたかよ」
「そんなんじゃねえよ」
「今日はもう色々あったよー、ねー後輩?」
「うんまあ、……まあ色々あったね」
「しっぽりヤったか?」
「ナチュラルにセクハラかますのやめろ半井さん」
「あ、そだ。れおん! ドーナツ買ってきたよー、ほら」
「え! わーいやったー!」
「おっし、戦利品は頂いた! 戻るぞれおん」
いよっち先輩から大きい方の手提げ袋を受け取ると
れおんと半井さんは猛ダッシュでアパートへと戻っていく
ふと気配を感じ、もう一度前を見る
れおんと半井さんと入れ替わるように、私服姿の高奈先輩がこちらに向かってきた
高奈先輩の横には眼鏡を掛けた女性も一緒だった
「ひさし、ぶりね。早渡、君」
「どうも」
「え、な、なんで? みんなして、ど、どうしたの?」
先輩に軽く会釈で応じると同時、いよっち先輩が慌てたように高奈先輩に尋ねていた
「そろそろ、帰ってくる、頃合いだと。思ったのよ」
「夕飯の支度もできて、一葉ちゃん帰ってくるの待ってたの」
勘ね、高奈先輩は微笑みながらそんなことを言う
眼鏡の女性と目が合った。先輩のお母さんだろうか
「この方は、西野さん。お手伝いに、来てくれる、ご近所、さん。なの」
「貴方が早渡君ね、夜ちゃんから聞いてる。どうかな? 折角だし貴方も一緒に夕飯食べていかない?」
「あいや、そういうわけには! 自分もちょっと早く帰りたいんで! すいません、次の機会は是非!」
「そんな、遠慮しなくてもいいのよ?」
眼鏡の女性の提案を、思わず両手で制する
なんというか悪い、そこまで世話になるわけにもいかない
バツが悪い、横に居るいよっち先輩を見た
手厚い出迎えじゃないか、先輩
そろそろ俺もこの辺で引き上げた方がいいだろう
「先輩、今日はありがとな」
「こっちこそ。早渡後輩のお家に突撃できなかったのが心残りだけどね!」
「それは次の機会ってことで、マジで」
「あと、これ。冷めちゃってるけど」
先輩から小さい方の手提げ袋を受け取る
ドーナツ屋で買った、元は俺の家に持って行く用だったものだろう
「それから、改めましてだけどさ」
いよっち先輩は、おもむろに片手を差し出してきた
「今日は……今日も色々、みっともないとこ見せたけど。これからもよろしくね」
「こっちこそ」
先輩の手を、握り返す
僅かながら、先輩の“波”を腕伝いに感じる
それは甘いキャンディのような、優しいニオイだった
□■□
引き続き花子さんとかの人に土下座でございます…… orz
いよっち先輩まわりの話ですが、前スレ 808で案が出た
> 星夜が東ちゃんに接触するとしたら、以前リレー状態でクロスさせていただいた「狐」に関する情報を早渡君に渡しまくった話から一週間もたたないうちだと思うんで、マグロ目状態で接触できる
やるかやらないかは別にしても、今後言及される可能性を考慮し
星夜君が接触した/しなかった部分については明言を避けました
内省的な話が続き、全く「都市伝説と戦う」をしてない感が半端ない状態ですが
もう数話後にはいよいよ「変態クマ」こと「変質者おじさん」と戦闘になります
その数話後には「トンカラトン(朱の匪賊)」と戦闘になるし
更にその先で「逢魔時の影」と会敵、そして「盟主様」から逃げることにもなります(アクマの人に土下座でございます orz)
次世代ーズの人乙でしたの
直斗がうさんくさくてすまねぇ早渡君!
でもあいつ普段からわりとあぁだわ!
ついでに言えば星夜もあのきつさ大体全員に向けてる(一部例外あり)でごめん!!
星夜の東ちゃんとの接触、今現在きっちり固まってるわけじゃないので接触あったかどうかは未定です
接触するとしたら誰かブレーキがいる。星夜のブレーキが
さて、>>470と>>471のIDを見比べていただこう
…………おわかりいただけるでしょうか
えぇ、自宅のネット環境変わって、一々PCの電源いれるたびに回線繋ぎ直しじゃなくて繋がりっぱなしだから、同日だとID一緒やんってのを忘れておりました
トリ入れてなかった意味が消えた!!!
そういう訳で、やっと時間とれた&色々読み直したりとかで「絶対みっちり長文書かなきゃいけない病」から多分脱出できた愚か者です
年単位で長らくお待たせして大変と申し訳ありません
いつまで書ける状態続くかわかりませんが、ひとまず書けるうちに書ける分だけでも書いちまえの心意気でちょこっとずつ投下していこうと思います
エンジンかける意味で、後先考えずにリハビリで書いてた単発も書けたらいいね
そんな心意気で、今夜の別件の用事始まる前に短い奴だけど書いてたのなんかぽいします
【これまでのあらすじ】
まとめwikiの「次世代の子供達」を読むとおおまかにわかるかもしれないしわからないかもしれません
【おおまかな時間軸】
「バビロンの大淫婦」消滅
↓
ピエロ大暴れ&「狐」陣営による「凍りついた蒼」襲撃【※大人の事情で投下待機状態ですが時間軸的には同じくらいになるはず】
↓
ピエロ大暴れなうかそれが終わった辺り ←今回ここ!
ハ_ハ
('(゚∀゚∩ ちょっと曖昧だけどこんな感じだよ!
ヽ 〈
ヽヽ_)
甘い香りがする。
甘い、甘い、甘い、甘い、甘い、あまい、あまい、あまい、あまい…………
くすくすと笑う声がする。女の笑う声。
稲穂色の長い髪を持つ、気崩して肌を露わにした装束の美しい女子(おなご)は、ゆっくりとそこに踏み込んできた。
アァ、甘い、甘い。甘い香りがそこに満ちていく。
頭がぼうとしてくるような、芯までとろけていくような香りだった。
思考を奪い去り、その甘みにだけ夢中にさせてくるような、中毒性のある香りだった。
くすくすくす……と、女が艶やかに微笑む。
微笑みながら、歩み寄る、甘い香りをまき散らす。思考がとろけていく。
何も、考えられなくなるような……思考を丸ごととろかされ、この女子の事しか、考えられなくなるような……
「…………あぁ、可愛い子達」
女子が口を開く。甘い声。
その声が耳に届くと、さらに思考がとろける。
女子に、狐の尾が生えている。美しい純白の尾が、全部で九本。
ゆらゆらと揺れる尾は美しい。揺らめくその動きから目を逸らせそうにもない。
彼ら、「朱の匪賊」が四番隊の「トンカラトン」達は、その女子から目をそらせずにいた。
香りを感じた時点で、もう遅かったのかもしれない。姿を見てしまえば、そして、声を聞いてしまえば。
さらにさらに、精神への「汚染」は進む。心を犯す誘惑の、魅惑の力に侵食される。
あぁ、あぁ……この香りは、姿は、声は。
「…………「十六夜の君」…………」
女子の笑みが深まる。
すらりとした指が、伸びてくる、触れてくる。
甘さが、直接溶け込んでくるような錯覚。
あぁ。忘れもしない仔の御威光。
天にも昇るかのような心地よさ。
今、自分達の前に姿を現したこの女子は、間違いなく……自分達が探していた「十六夜の君」。
「白面金毛九尾の狐」。
町が面妖な仮装をした道化師によって騒がしいこの夜に。彼らはとうとう、探し人を見つけ出して。
そして、その甘い香りは、彼らに一気に広がっていった。
この甘い誘惑を逃れることができた者が、果たして、「朱の匪賊」の中にいただろうか?
それは、彼らのみぞ知る事であり。
このタイミングで、彼らがついに彼女を見つけてしまった事が。
彼女がついに、姿を現した事が。
彼らの運命を決定づける事になるであろう事が。
果たして彼らは理解できたかどうか。
もう。
わからない。
to be … ?
「朱の匪賊」の皆様、「十六夜の君」見つけるの遅れてごめんね
「バビロンの大淫婦」消滅後にやっと表に出られるようになったので迎えに行きました
ばりばりに誘惑が振りまかれていますが、「朱の匪賊」の皆様がどれだけ誘惑に飲み込まれてしまったか、耐えきれた者がいたかどうか
その辺は次世代ーズの人様に無責任ながら一存させていただきます
甘い幸せに浸るも浸らぬも、彼ら次第でしょう
…………痛い。
ずきずき、ずきずきと頭の芯が傷む感覚。
一時、マシになったかと思った頭痛はまた再発していた。
考えようとすると、頭痛が強まる。考えるなと言うように激しく痛む。
(……いや。思考を止めるな。考えろ、考えろ……!)
己に言い聞かせ、彼、九十九屋 九十九は頭痛に抗いながら必死に思考を巡らせようとしていた。
思考を止めてはいけない。今は、思考を巡らせ続けなければいけない。
(アダムが、死んだ…………判断ミスだ。俺があの場に残るべきだった……!)
そうすれば、みすみす死なせずにすんだ。
自分が、あの場に残っていれば対応できた。
あの「カブトムシと正面衝突」を防げるだけの力が自分にはあった。
最悪防げなかったとしても、対処できたはずだ。そのはずだ。
……だというのに、自分はあの場にいなかった。
頭痛が原因で、休むように言われて……そのまま、従った。無理にでも、あの場に残るべきだった。
皓夜はまだ泣いている。
アダムが死んだ後、「食事」の為にある場所を襲撃した際には一旦涙は止まっていた。
だが、ある程度腹が満ちたら、再びその思考は悲しみに囚われたのだ。
アナベルもそれは同じ。
抱き人形と言う布の体故涙を流すことのできないアナベルだが、それでも幼い少女のすすり泣きの声をもらしていた。
二人共、アダムによく懐いていたから。
今、九十九の手元にはロケットペンダントがある。
皓夜が、「あだむが持ってたやつ」と言って、九十九に渡してきたものだ。
アダムの遺体は、彼の遺した最期の言葉に従って皓夜が全て食らいつくしてしまって……そのアダムが身に着けていたペンダントを、皓夜は遺品として持ち帰ったのだ。
そして、それを九十九に預けてきた。「きっと、自分だとなくしてしまうから」と。なくしたくない物を預けてくる程度には、九十九は皓夜に信頼されていた。
ロケットの中身は、家族写真だった。
男と、女と、まだ幼い子供。男の顔の部分だけ酷く乱雑に黒く塗りつぶされていたが、そこにあるだろう顔が誰のものかは容易に想像できる。
きっと、アダムは皓夜の事を自分の子供のように扱っていた。
皓夜だけではない。アナベルや、ミハエルや……もしかしたら唯の事すらも、そう見ていたのかもしれない。
自分達の中で、「父親」を経験したことがあるのはアダムだけだった。
ファザー・タイムは死神の側面が強すぎて「父親」とはまた違う……もし「父親」の側面があったとして、それを向けられるのはミハエルだけだろう……結果的に、アダムは自分達の集まりの中で父親のような役割を果たしていた。
そのアダムが、死んだ。その役目を果たせるものはもういない。
皓夜やアナベルの悲しみは、そう簡単には癒えないだろう。
死を間近で見る事になった唯も深く心が傷ついたようだったが、彼女はまだもう少し、悲しみに沈み切らずにこらえている。
皓夜とアナベルの悲しみが深いのは、その場にいながら何もできなかったせい。
特に皓夜は、自分を庇って死んだという点があまりにも衝撃が強すぎたのだろう。
きっと、皓夜は…………誰かに庇われるという体験自体、生まれて初めてだっただろうから。
(ひとまず…………皓夜とアナベル、には、「あの方」がついているから、だいじょう、ぶ…………っ!?)
「あの方」が、皓夜とアナベルの傍に居る。
悲しみを忘れさせるから大丈夫と、そう微笑んで言っていたから、大丈夫……。
ずきんっ、と。
頭の芯が、ひときわ強く痛みを訴えた。
あまりの痛みに、思わずその場で蹲る。
(……しっかり、しろ…………「あの方」がいる、から……皓夜とアナベルはだい、じょう……)
ずきん。
痛みが増す。考えろ、思考を捨てるな。
「あの方」が、包帯まみれの連中を連れて自分達の前に姿を現してくれて。
その時には頭痛が収まっていたというのに、またこうしてずきずき傷む。
こんな、頭痛に囚われている暇などないのに、どうして。
(……う、ん……?…………そうだ。どうして、こんなに。頭痛が、するんだ……)
頭痛は、いつからしていた?
どうして、頭痛は強まった?
考えようとすると、また傷んだ。
なんとか立ち上がり、ふらふらしながら隠れ家の中を歩く。
ミハエルと、唯がすすり泣いているような声が聞こえて。そこにかけるべき言葉は見つからず、歩き去る事しかできず。
……あちらは、ファザー・タイムに任せるしかない。自分にはかけてやるべき言葉は見つけられない。
ずきずきと傷み続ける頭を抱えて、やるべき事と頭痛の原因を考える。
(とにかく、「あの方」と合流は出来た……頭痛は、「あの方」の傍にいれば収まる、大丈夫…………明日。いや、もう今日か。動くとあの方はおっしゃった…………なら。俺は、治療を行える者の確保を……)
一番戦えるのは自分。
攻撃が届く範囲も、威力も。殺し慣れも。
「あの方」が連れてきた包帯まみれの連中の実力が分らない以上は、自分が一番戦えるものとして考えるべきだろう。
情報は、「あの方」より先に合流した、「組織」所属の黒服からも与えられている。
それを元に、厄介な連中のうち、誰に誰が対応するか。考えないと……。
頭が痛む。
目をそらすなと警告するように。
(……大丈夫…………できる、やれる……「あの方」とも合流できたんだから、もう、何も心配する事なんて……)
頭が痛む、傷む、傷む。
目をそらすな、今の状況をもっとよく見ろ。
もしも、もしも……万が一が、あれば…………。
「……九十九」
声を掛けられ、振り返ろうとして。激しい頭痛に、足がふらついた。
倒れ込みそうになった体は、伸ばされた腕にはしと受け止められる。
「お、っと……大丈夫か?」
「……ヴィットリオ」
「抱きとめるんなら美女の方がいいんだが…………って、おい。本当に大丈夫か。顔色酷いぞ」
「…………顔色に関しちゃ、お前に言われたくない」
酷い顔色なのは、きっとお互い様だ。
九十九の体を受け止めたヴィットリオも、酷く顔色が悪い。
「あの方」の傍に居た時はそうではなかったのだが。この軽い調子の男も、アダムの死に思うところあったのだろう。
自分達があの場を離れた後で死んだという事実が、重たくのしかかっているようだった。
「頭、まだ痛むのか?」
「……「あの方」の傍に居た時は、落ち着いてはいた」
「そうか、お前もか」
お前も?
頭痛をこらえつつヴィットリオの顔をよく見れば。あちらもまた、何か痛みに耐えているような顔。
「俺も……最近ちょくちょく、頭痛がしてさ。「あの方」の傍にいる時は痛みが消えてて安心したんだけど。傍から離れたら、また傷みだしてさ」
我慢できない程じゃないけど、と。
そう言って笑ってくるが、だいぶ辛そうだ。
(…………「あの方」の傍に居る間は、落ち着いていた……?)
自分と、同じように。
それは、その、理由は…………。
「…………ぐ」
気づいた事実を消し去るように頭が痛む。
駄目だ、目をそらすな。そらすのだとしても……あと、少し……。
「九十九?おい、本当に大丈夫なのか?「あの方」を呼んで……」
「…………、駄目だ」
目をそらすな。
事実を認識しろ、そして、考えろ。
万が一に、備えろ。
「ヴィットリオ、ちょっと、来い」
「え?」
「……話しておくべき事が、ある。今後のために」
万が一に備えろ。
その万が一が来るかどうかはわからない。
いや、それを考える事すら不敬であったのだとしても、それでも。
一人でも多く生き延びるための、備えをしなければ。
to be … ?
ひとまず、「狐」編最終決戦前日深夜くらいの気持ちの時間軸
一応、「朱の匪賊」の皆様が合流した事前提で書かせていただきました
「狐」に合流しても他の傘下と一緒に行動しないよ、って場合はご指摘いただければwiki掲載時にそっと直します
九十九屋が酷い頭痛
ヴィットリオも頭痛がしているようです
他の、しばらく誘惑の影響を受けていなかった唯やミハエルも程度の差はあれ頭痛を感じているかもしれません
皓夜とアナベルの頭痛は、まぁ「狐」がじっくり二人の傍にいるようなのできっとなくなってしまうのでしょう
郁はどうなんでしょうね。わかりません
>>472
>使用された「たわわ」は実に12回!ちなみに登場した単語「馬鹿」の使用回数も12回!
そんなに使っていたかたわわ……まさかの馬鹿と同じ回数
ちなみに最近はpixiv百科事典にて「都市伝説」とか「女妖怪一覧」とかでざっと眺めてネタになんねーかなっての探したりしてました
まだまだ世界にはネタに使えそうな存在が眠っている
>早渡「…………」 ☜ 静かに顔を覆っている
(肩ぽむ)(暖かい眼差し)
>早渡「(日向さんが言う変質者疑惑の方は)誤解解けてないんすよね……」
(肩ぽむ)(頑張れ、ファイトだ!)
>咲李さん優しすぎない?ってなりました
その優しさが仇になって死んだのが三年前なので
優しすぎるのってむつかしいね
>残留思念の契約者云々について
仰る通り体力消耗が激しいのと、wikiの方ではもうこっそり書いておいたんですが、あいつ、担当黒服が姿も形も見えないという若干特殊立場な訳で
「狐」そのものを対象とする追跡調査には加わらせてもらっていません
>>488
「見つけた=見つけられた=見つかった」 へのクロス
●朱の匪賊
主に「トンカラトン」のみで構成される武装都市伝説集団
朱の匪賊側は対外的に自らの勢力を「朱の師団」と称する
嗚呼、嗚呼、嗚呼
遂に、遂に、遂に、この刻がやってきたのだ
「トンカラトン」のみで構成された集団、「朱の匪賊」
その四番隊
彼らは「十六夜の君」を捜し、大挙してこの学校町を訪れた
「狐」と呼ばれ、恐れられ、蔑まれている、「十六夜の君」を加勢するために
そして、今宵
遂に御姿を現したその女子に対し、四番隊 隊長 包 六郎(つつみ ろくろう)
および、その場の四番隊総員が、膝をつき、平伏していた
恍惚が、脳を蕩かす
何故彼らは誰に言われるまでもなく、「十六夜の君」へ額突いたのか
最早それを問う者は、そうした疑いを抱く者は、この場には残っていなかった
「『十六夜の君』……」
平伏したまま、中之条は咽び泣いた
中之条――元 三番隊にして先の悲劇の今や唯一の生き残りだ
四番隊を「十六夜の君」へ引き合わせるべく、自ら先導役を買って出たのだ
その労苦が、今まさに報われたのだ
「『十六夜の君』、お逢いしとうございました……」
「『十六夜の君』、拙者は『朱の師団』四番隊 隊長、包 六郎と申します
先の戦場では三番隊が力及ばず、御許への助太刀を成し遂げられず、申し訳ございません」
平伏したまま、包は目の前に現れた女子に申し出た
「三番隊より御許への加勢を頼まれ、四番隊、遅れ馳せながら参上致しました
我ら四番隊、御許へ命を捧げます故――」
俄かに、場を満たしていた香気が、一際強まった
官能が四番隊を犯す
恍惚が四番隊を犯す
「――なんなりと、御命令を」
彼らがかつて盃を交わした「朱の師団」本隊への忠誠など、とうに吹き飛んでいた
彼らと苦楽を共にした副隊長、副々隊長、そして四番隊若干名の不在など、最早些末事と成り果てていた
この刻
既に「朱の匪賊」四番隊は、「狐」による完全な支配下にあった
そして、これ以降
「朱の匪賊」四番隊は、「狐」の手勢、その忠実な手駒として動くことになる
□□■
タイトルが文字化けしてるのはわざと
花子さんの人、投下お疲れ様です
うわあ、とうとう現れちゃった、「狐」
>>488
そしてありがとうございます!
前スレ 494-497 の回収がとうとう来ちゃった
ちなみに本スレ >>262-264 の副隊長、副々隊長による四番隊追跡シーンは
恐らく今回の後の時系列かもしれない、きっと!
>>490
こちらもありあがとうございます
> ばりばりに誘惑が振りまかれていますが、「朱の匪賊」の皆様がどれだけ誘惑に飲み込まれてしまったか、耐えきれた者がいたかどうか
>
> その辺は次世代ーズの人様に無責任ながら一存させていただきます
全員魅了 → そして完全に「狐」勢力の手駒 の流れで問題ありません!
その場にいた四番隊から(元々)抜けてるのは 【副隊長(兄者、珍宝)、副々隊長(ヤッコ)、銀冶、門佐、六ン馬 の5名】 ですね
残りの四番隊は基本全員「狐」の手駒、最初は50-60名で想定してたと思いますが、下手すると200名近くいるかもしれない
湯水のように使って頂いて構いません! なんなら自分が書くときも湯水のように消費するかもしれない
>>486
> 星夜の東ちゃんとの接触、今現在きっちり固まってるわけじゃないので接触あったかどうかは未定です
> 接触するとしたら誰かブレーキがいる。星夜のブレーキが
こちら了解ですー、どちらでも対応できるようにしますね
>>491-493
九十九屋さんこれ大丈夫? 大丈夫じゃない方の頭痛だよね? 前スレでも頭痛の症状出てなかった? (素)
あと個人的に唯ちゃんがこれからどうなるのか心配してたんですが……まあ多分大変なことになるでしょうね(予想よ外れろ)
正直彼女が誰とぶつかることになるか、ちょっとハラハラしてます
>>494
> 一応、「朱の匪賊」の皆様が合流した事前提で書かせていただきました
了解です、全然問題なし
> あいつ、担当黒服が姿も形も見えないという若干特殊立場な訳で
ここ、確かにwikiでさらっと書いてましたね……
> 「狐」そのものを対象とする追跡調査には加わらせてもらっていません
やはりか、でもなんか裏というか背景ありそう
早渡は今後の展開にどのようにも対応できるように余裕に幅を持たせておきたいところですが
初期検討メモでは、早渡と「トンカラトン」副隊長さんが一緒になって、「狐」戦最中か、「狐」戦終了時点で花房君の下(?)へ駆け付ける想定でした
あくまで想定です
早渡「花房君!? 無事か!?」 ☜ 「無事じゃないのはそっちだろ」ってレベルでボロボロ
珍宝「お主が花房か!? 無事なようだなぁ!!」 ☜ 剥き身の日本刀と違法自動小銃で武装
……副隊長さん以下、別働の5名は違法銃火器所持してるし、これ真顔で通報されないだろうか
次世代ーズ【9月】時点の35「憩う、ひととき(仮)」、36「聞き込み(仮)」37「クマ対決会(仮)」投下は、少なくとも1週間空きそうです……
せめて36までは2月入る前に投げたかった……
>>486
> いつまで書ける状態続くかわかりませんが、ひとまず書けるうちに書ける分だけでも書いちまえの心意気でちょこっとずつ投下していこうと思います
> エンジンかける意味で、後先考えずにリハビリで書いてた単発も書けたらいいね
無理しないでね!
このご時勢だから周囲は大体フィジカルかメンタルをヤッてる人が増えてます
マジでご自愛ください……
あ……ありのまま起こったことを話すぜ!
「卓終わってスレ覗きに来たら既にアンサーネタが投下されていた」
催眠術とか超スピードとか以下略
次世代ーズの人様乙です。素早いご返答感謝
……って、「朱の匪賊」の皆さーーーんっ!!!???
くそっ!一人くらいは抗ったりできなかったか!おのれ「狐」!皆さんになんて事を!
っつか、本当は前スレで投下した人狼ゲーム後の会話辺り投下すべきなんでしょうが
まずは書けるやつから書いてかないと永遠に話進まねぇな?ってなったので書けるとこ優先で書いてます。申し訳ない
そちらも書きあがり次第ぽいちょしますね
>湯水のように使って頂いて構いません! なんなら自分が書くときも湯水のように消費するかもしれない
「朱の匪賊」の皆さんかわいそう(他人事のように涙をぬぐう)
>九十九屋さんこれ大丈夫? 大丈夫じゃない方の頭痛だよね? 前スレでも頭痛の症状出てなかった? (素)
ここで前スレで投下した「赤に染まる」を読み直してみましょう
いや、読み直さなくてもいいんですが、そこで在りし日のアダムが「九十九。お前、最近頭痛がするって言ってただろう。」って言ってますね
頭痛、あったみたいですね。我慢してたけど
>やはりか、でもなんか裏というか背景ありそう
この辺書けるかどうか未定なんでぶっちゃけると、星夜、天地の直属です
黒服挟んでない直属。ちょっと立場が微妙過ぎて黒服つけられない
ところで、後の展開書いていこうとして大変なことに気付きました
「朱の匪賊」の四番隊隊長さーん!包 六郎さーーーん!!!
どうしよう、「狐」決戦の時、鬼灯と戦いたい?
対戦カードとか対戦の流れざっと考えてたら、鬼灯と戦いたい場合、こちらが土下座する必要性が見えたので
レスこぼれた
>早渡「花房君!? 無事か!?」 ☜ 「無事じゃないのはそっちだろ」ってレベルでボロボロ
>珍宝「お主が花房か!? 無事なようだなぁ!!」 ☜ 剥き身の日本刀と違法自動小銃で武装
直斗が「お前が大丈夫かってかそっちの奴(珍宝さん)誰だ」って言う流れが見える
そういう状況になるかは予定は未定なのでどうなるんだろうね
あ、ちなみに、「朱の匪賊」の皆さんへ
「狐」勢力に合流で来たので、「狐」勢力の面子とこんな状況ですが交流は可能です
決戦開始前、わずかな時間ではありますが会話したければどうぞ
「狐」勢力の内、会話が難しい状態であろう皓夜とアナベルだけは会話無理かもですが(「狐」が甘く漬け込んでるし、それ終わったら次の日に備えて寝ちゃってそうなので)
それ以外とは、会話できる、と、思います
>>499-500
> くそっ!一人くらいは抗ったりできなかったか!おのれ「狐」!皆さんになんて事を!
皆さん最初から加勢する気満々でしたから……(魅了の件は中之条以外知らないが)
> まずは書けるやつから書いてかないと永遠に話進まねぇな?ってなったので書けるとこ優先で書いてます。申し訳ない
いえいえー、自分も本来なら言い出しっぺ&散々引っ掻き回した「ピエロ」から書かないとなので
> そこで在りし日のアダムが「九十九。お前、最近頭痛がするって言ってただろう。」って言ってますね
……ありましたね、そういや
頭痛薬でどうこうできる感じじゃないっぽいなこれは
> この辺書けるかどうか未定なんでぶっちゃけると、星夜、天地の直属です
ほらきた! しかもなんかヤバそうな感じの出た!
> 「朱の匪賊」の四番隊隊長さーん!包 六郎さーーーん!!!
> どうしよう、「狐」決戦の時、鬼灯と戦いたい?
> 対戦カードとか対戦の流れざっと考えてたら、鬼灯と戦いたい場合、こちらが土下座する必要性が見えたので
ガンガン行こうぜ……!(花子さんの人が予定的にお辛くないのであれば是非ともお願いします)
鬼灯さん相手ならたとえ命を掻っ攫われようが恥ずかしいことされようが、隊長的には美味しい♥
> そういう状況になるかは予定は未定なのでどうなるんだろうね
👍
> 「狐」勢力に合流で来たので、「狐」勢力の面子とこんな状況ですが交流は可能です
> 決戦開始前、わずかな時間ではありますが会話したければどうぞ
こちらも了解です、でも多分三番隊の件で覚悟完了してるから「悪鬼粉砕ッッ!! 参るッッ!!」てな感じの脳筋状態かと
でも何か話せるネタがないか考えます
隊長「貴隊には腕の立つ剣客が居ると伺った! 是非ともそのお目にかかりたいものだ!」 ☜ ううん……
九月、気持ちのいい朝
この日も彼女は少し冷たい空気を吸い、日光から隠れるようにしながら職場に向かっていた
彼女の職場は住宅街に紛れるようにして佇む、小さな下着屋さんだ
時折ご近所のご婦人方が団体で訪れたり
近隣や隣町から中学、高校の学生さんが来て、賑わったりするけど、基本的にはお客さんの入りは少ない
それなのにお店が赤字どころか黒字なワケは
「ウチは通販部門にも力を入れてるからねー」
というのが店長お決まりの台詞だった
「おはよーございまーす!」
店内に入るとまず初めにやることは
「おはようございます店長! また徹夜で作業してたんですか! ちゃんと帰って休んでくださいって言ったじゃないですかぁ!!」
「うーん……、むぅ……」
「もうっ! もうっ! お店のなかが“ニオイ”でいっぱいですよ! お店の下着にも“ニオイ”付いちゃってるじゃないですかぁ!!」
スタッフルームで店長が突っ伏すように寝てないかを確認し
寝てたら叩き起こして、速やかに換気を実施し
そして、“ニオイ”が付着した商品に、「サキュバス」の魅了香除去専用の消臭剤を噴霧することだ
「もうっ! もうっ! ニンゲンのお客様だって来てくれるんですから、せめてお家で寝てって、いつも言ってるじゃないですかぁ!!」
彼女も店長も、人間ではない
彼女は伝承存在「リリン」と人間のハーフ、そして店長もまた「サキュバス」の血筋である
彼女ら――所謂“淫魔”は通常、人間を襲う存在なのだが
彼女らをはじめとした、この町に住む“人ならざるモノ”達は、人間との共生を望んだ
そして、この町ではこれまでもそうであったように、“人ならざるモノ”を受け入れ、どうにか上手くやってきた
「クロワー、そんな怒ったらお客さんも怖がるよー!」
「もうっ! もうっ! 元はと言えば店長が……っっ!! ひぃッ!!」
「これ凄いっしょ、今回は自身作だよー。 触手の蠢きにインスパイアされた、名付けて『例の吸うヤツ』!!」
「ひぃッ!! そ、そんなのこっちに見せないでくださいーっっ!!」
店長にやたら卑猥な挙動をかますご立派様な張型を見せつけられ、「リリン」の店員は悲鳴を上げた
彼女の反応に気を良くした店長は一頻りクックックッと笑うと、顔を洗うため奥に引っ込んでいった
「もうっ、もうっ……!」
眉を八の字にひそめながら、「リリン」の店員は消臭作業を続けていく
開店までもう少しといったところか
“修業”と称してこの町にやって来ることになった、「リリン」こと東雲クロワ
彼女は今日も「サキュバス」店長に振り回されることになりそうだ
「サキュバス」が営む女の子専用の下着屋さん
裏では非常に過激な大人の夜の玩具を開発、販売しておりますが(営業届出及び許可取得済)
どうぞお気軽にお越しくださいませ❤
乙でしたー
すごく……繁盛してそうなお店です
>>501
>頭痛薬でどうこうできる感じじゃないっぽいなこれは
「狐」からずっと離れてたら頭痛がはじまって、近づいたら治ったけどある程度離れるとまた頭痛
なんででしょうね(すっとぼけ顔)
>ほらきた! しかもなんかヤバそうな感じの出た!
(そっぽむいてる)
>ガンガン行こうぜ……!(花子さんの人が予定的にお辛くないのであれば是非ともお願いします)
えー、とりあえず避難所のチラ裏に対戦カード予定そっと置いておきますね
詳しくはそちらにて
>隊長「貴隊には腕の立つ剣客が居ると伺った! 是非ともそのお目にかかりたいものだ!」
うでのたつ……(面子を見る)(九十九屋、ミハエル(と言うよりファザー・タイム)、唯かな)
これは、当人は都市伝説と契約していないが、「家」が都市伝説と契約している者の物語である。
収録の後にシャワーを浴びて、私服に着替える。
今日、「FOXGIRLS」のうち三名が参加した鬼ごっこ系バラエティ番組の収録は、残念ながら「FOXGIRLS」のメンバーは最終的に全員捕まってしまった。
それでも、勉強になった、と彼女は感じた。普段何気なく見ていたバラエティ番組の裏側はあんな感じなのだな、と参加して初めてわかる。テレビで放送されていない裏側でも、あんなにいろんなことが起きていたのだ。
「二人とも、お疲れ様。頑張ったな」
「おつかれさま~。リーダー惜しかったねぇ」
「まさか、四人がかりに囲まれてそれでも数分逃げるとは……お見事です」
そう、自分なんて追いかけられたら終わりと隠れてばかりだったけれど。リーダーは何度もハンターと追いかけっこを繰り広げ、時に囮となって他の参加者を逃がすといった活躍をしたのだ。捕まって檻に来た際、思わず先につかまっていた他参加者と一緒にリーダーを拝んでしまった。頼もしい。
それに比べて、自分なんて。本当隠れてばかりで、何も……
「二人も、途中のミッションでの活躍、見事であった。我はどちらの問題も答えがわからんかったからな」
「え……」
リーダーの言葉に、きょとんとしてしまった。途中のミッション…………あぁ。
「脱落者復活ミッションですか?」
問題用紙が入った封筒を発見して、特定の場所まで持って行って答えがわかれば脱落者が復活。そういう参加自由ミッションだった。
自分は、ちょうど問題を答えるという場所の近くに隠れていて。でも、問題用紙を探しに行く勇気は出なくて。どうしよう、と思っていたら、メンバーの中でも最年少の子が封筒を発見できたらしく、アスリートと一緒にやってきたのだ。
どうやら、その封筒の中の問題は、用意されていた問題の中で一番難しいものだったらしく……でも、たまたま自分はその答えを知っていて、答えることができた。
「私達が復活させた芸人さんが無事、逃げ延びたしねぇ。これで、「何もしてなかった」とかネットで叩かれたりもしませんよぉ」
「そ、そう……でしょうか。私、あれくらいしか……」
「復活ミッション終了まで時間が僅かだったからな。主が答え、復活させたからこそ、あの芸人は逃げ延びることに成功したのだ。大金星に貢献したと言えよう。もっと誇りに思え」
「そうだよぉ、お嬢。なんだったら、あの芸人さんに賞金一部わけて♡とか、美味しいものごちそうして♡とか言っても許されちゃうよぉ」
「そ、そそ、そんな。と、殿方にそんな事お願いするなんて、はしたないです」
たまたまスカウト活動中だったプロデューサーに声をかけられてこの世界に入るまで、男性とはあまり縁のない世界に生きていた。幼稚園から大学までエスカレーター式のその学校は、男子は小学生までしかいないのだ。
アイドルと言う、テレビの中の存在でしかない遠い世界に足を踏み入れて、毎日驚きと勉強の連続。踊りも歌もまだうまくない自分が、「FOXGIRLS」の中で足手まといになっていないかいつも心配だったけれど。
「……お役にたてたのなら、良かった……」
「ふむ。主はまず、自信を持つところからであるな。主は頭が良いし……インテリ芸能人、であったか?そういう枠組みで番組に呼ばれることもあろう」
「そうでしょうか……?…………でも、私。その、番組に出演するなら。「FOXGIRLS」の皆様と一緒がいいです」
自分だけでは何もできない、と言うのもあるけれど……同じ、「FOXGIRLS」の仲間なのだから。ライブの時だけではなく、テレビ番組に出演する時だって、みんな一緒がいい。
素直に口にした言葉に、リーダーはほぉ、と感心したような声を上げ、最年少の子は一瞬きょとんとした顔になり。
「……ふっふー。お嬢、寂しがりぃ。なら、みんなで色々出演できるよう、頑張ろうねぇ」
「うむ。我も、より番組に招待されやすいよう精進せねばな」
今日のロケでは一緒じゃなかった二人も含めて。もっと色々、アイドルとして色んな活動ができたらいいなと。そう強く、思うのだ。
「ただいま戻りました」
「お帰りなさい。夕食は、すませてきたそうですね」
「はい。収録の後、打ち上げがありましたので」
あの後、逃げ切った芸人が「「FOXGIRLS」の人のおかげで賞金が手に入ったから」と、自分達を食事に誘ってくれて。マネージャーや、番組に参加していなかった二人まで含めて打ち上げかねて食事をごちそうしてくれた。
今度、何かお礼をしなければ……あぁ言う世界では、どのようなお礼を差し上げればいいのか。後で、マネージャーに確認をとる必要がある。
「お疲れのようですけれど。きちんと「ざしきさま」にご挨拶するのですよ」
はい、と母の言葉に頷きながらまずは自室へと向かう。荷物を一旦部屋に置いてから、「ざしきさま」のお部屋へと。
しめ縄と札で封じられている部屋ではあるが、外から開けることはできる、その部屋。
「……「ざしきさま」。ただいま、帰宅いたしました」
「良かろう。入るがいい」
幼子の声。失礼します、と扉を開けると。畳張りの部屋の中、おかっぱ頭に着物姿の童女…………では、なく。長い髪を縦ロールにしてふりふりひらひらのアンティークドールのようなドレスを着た童女だった。
昔はおかっぱ頭に着物姿だったらしいのだけれど。ある時、家人が「外に出られず退屈でしょうから」と渡した本を読んだりテレビを見たりするようになって、それ以外の格好をしたがるようになったと聞いている。
……「ざしきさま」。この家に古くから憑いているのだという、不思議な存在。「ざしきさま」当人は「わらわとこの家は「契約」関係にある」と言っていたけれど、難しい事はわからない。
ただ、この家では「ざしきさま」の存在は外には漏らしてならず。「ざしきさま」をこの部屋からだしてもならず。代わりに丁寧に丁重に扱いもてなし続ける。それによって、家の繁栄を約束されているらしい。
「ざしきさま」は家人との交流を好む為、自分もこうして、お相手させていただく事が多い。特に、アイドルを始めてからは、「ざしきさま」が話を聞きたがるので、お会いする機会が増えた。
畳の上に正座し、「ざしきさま」と向かい合う。
「おや。疲れているようだが……今日のろけとやら、そんなにも過酷であったか?」
「えぇ、鬼ごっこ、のようなものなのですが。追いかけてくる鬼役の方々が本当、速くて。私、逃げ隠れで精いっぱいでした。少しは走りましたが、すぐに捕まってしまいました……」
「なるほど。おまえは体力がないからのぅ…………ならば、長々と話を聞く訳にはいかぬな」
コロコロと微笑んで、「ざしきさま」が手を伸ばしてくる。優しく、赤子を撫でるかのような手つきで頭を撫でられた。
「おまえが最後まで逃げ切れたかの結果は、明日、教えておくれ。今日はしっかり休むのじゃぞ」
「はい。きちんとやすませていただきます」
「うむ…………あ、待て。確か今日のろけ、「刀剣夏の陣」の主演俳優が出演しとったな?あ、あの方が逃げ切れたかどうかだけでも教えておくれ!」
最近御熱心な様子の、大変と男前の俳優が逃げ切れたかどうか。そこはどうしても気になって我慢できないようで。
申し訳なさそうな顔をしながらも訪ねてくる「ざしきさま」の姿に、なんだか和んでしまう。この家にとって恩人である偉大な存在のはずだけれど。こういう時は、まるで年頃の少女のような様子も見せてくるのだ。
「了解いたしました。あの方は……」
「ざしきさま」。
その真の名は「座敷童」。
憑いた家に幸福を、富を運ぶその存在は。
今の世でも静かに、在り続けている。
終
甘い声がする。
聴く者の脳へと染みこむような甘い声が。
ゆらりと尾が揺れる。誘うようにゆらゆらと。
少女の姿をとった……否、少女の体に「入っている」状態の「白面金毛九尾の狐」は、そろりと傍らに座る鬼の背中を撫でてやる。
「どう?……頭が痛いのは、落ち着いたかしら?」
「……うん……うん、こーや、もうだいじょーぶ…………きのう、ごはんたべたし……もう、だいじょーぶだよ、おかあさん」
「そう、良かった」
ふわりと微笑む「白面金毛九尾の狐」。
その微笑みは、我が子を見る母親のよう……では、ない。
邪悪さを孕んだ悪女が、利用すべき手駒を見下す笑顔。
だが、その笑顔がそうであると、鬼は気づけない。
甘い香りが思考に漬けこまれてしまって、わからない、気づけない。
「なるべく、無理はしないようにするのよ、皓夜。私の可愛い「羅生門の鬼」の子。お前にはもっともっと、力を付けてもらわねば」
「もっと……」
「そう…………「茨城童子」とも混ざり合って。もっと強い鬼になってもらう必要がある」
都市伝説は、伝承は。時として混ざり合う。
デュラハンとバンシーの伝承が混じり、デュラハンが「個人」ではなく「血筋」に憑き、その血筋を殺し続けたような実例もある。
また、口裂け女のようないくつもの説が存在する都市伝説が、己とは別の説の同族を狩り、取り込み続けたような実例もある。
「羅生門の鬼」。かの「茨木童子」と混合されやすい鬼。
それに、あえて無関係の名をつけてやや存在をあいまいにする事で。まずは、「茨城童子」と混ざりやすくなる。
そこに、さらにさらに別の「鬼」も、色々と混ぜてあわせていけば、取り込ませていけば。
この「鬼」は、どれだけ、強大な「鬼」へと成長できるだろうか。
それを想い、「白面金毛九尾の狐」は邪悪に微笑む。
こうして、己の誘惑漬けにして、どろどろに思考を溶かしてしまっていれば、逆らう事もあるまい。
存在をあえて曖昧にさせるせいで、人を食らい続けなければ体を保てないという弱点が強まってしまっているが、仕方ない。
ここまで曖昧にさせるだけでも時間がかかった。今更、新しい鬼を拾って育て直すのも面倒だ。
この鬼は、なるべくなるべく死なせないように取り扱わなければ。
「アナベル」
「はぁい」
くってりと、鬼の膝の上に身を投げ出している布製の抱き人形。海を越えた遠い異国での拾い物。
己よりずっと年若い癖に、強い呪いの力を持った呪いの人形。
たかが百年も生きていない存在の癖に、ここまでの呪いの力。
もっと殺して、もっともっと力を強めれば。
それはそれは、優秀な手駒となってくれるだろう。
「もう、我慢しなくてもいいのよ。明日には、あなたの力。たっぷり振るってもらうわ」
「ほんとう?いいの?」
「えぇ…………たぁくさん、たぁくさん。殺していいのよ」
呪いの力とは、そういうもの。
特に、命を殺める呪いであれば、殺せば[ピーーー]ほどに、数を重ねれば重ねるほどにその力は強まる。
もし、この街の命全て……契約者は含まずとも、契約すらしていない無力な一般人を全て[ピーーー]ことができれば。
その力、どれほど強まってくれるだろう。
楽しみで楽しみで、狐は邪悪に微笑む。
この街は、「踏み台」だ。
己がもっともっと力を強めて、この世全てを手に入れるための、支配するための、足がかり。
様々な勢力が集まり混沌としたこの地を堕とすのに成功すれば、大きな一歩となりえる。
「この街は、厄介な連中もいるわ。二人は、わかっているかしら?」
「……うん、しってるー……じょうほう、もらったー……」
「めーかくに……私達を敵とにんしきしてるこどもたちが……いる……」
そうよ、と頷き。内面、憎悪をたぎらせる。
あぁ、忌々しい連中め。
三年前は、必要最低限の手駒が揃っていなくて逃げるしかなかった。
だが、今なら。必要最低限の手駒が揃っているのだから……
「まずは、その厄介な連中。みんなで殺してあげましょうね」
見せしめとして、まずはあの厄介な餓鬼共から。
…………あぁ、ついでに。かつて、生意気にも己を毒殺しようとしてきた人間と、三年間、鬱陶しくも己を追いかけ続けた「通り悪魔」。
あの二人も、始末してやろう。
その亡骸、嬲って嬲って、無残な見せしめとしてやろう。
「白面金毛九尾の狐」は微笑む、微笑む。
邪悪に、歪に、笑みを深める。
その笑みの歪さに、邪悪さに、気づくことができず、気づけることができず。
鬼と抱き人形は、甘さの中でとろけていく。
甘さに浸って、気づけない。気づかない。
自分達の行きつく先が、ほぼ、確定しようとしている事に。
to be …… ?
先日投下させていただきました>>491-493辺りと同じくらいの時間軸のシーンでした
とろけてぼんやりとした思考では、何も考えられないね
単発そして「狐」回の投下お疲れ様でした……
>>504-505
私の読解力がまともに機能しているならば
・リーダー:非契約者、しかしフィジカル強い。武人派
・ぶりっこ:「デスブログ」の契約者
・正義感強い子:「おたねさん」の契約者
・僕っ子:「ロア(監視カメラに映るもの?)」の契約者
・お嬢様:「やしきさま」を祀ってる家系
ふむ、遂に揃ったか……!
>>506
マジか、皓夜さんは「羅生門の鬼」と「茨城童子」のハイブリッドであったか
混ぜて強くする策あこれも「狐」の狙い通りってわけか、やり口がかなり周到ですね
なのに「狐」さん……喧嘩を売った相手が悪すぎた
そして気づくの今更感ですが、頭痛はある種の離脱症状か……?
>>503
こちらも確認ありがとうございました
時は近いな……
女「ほら、週末の出勤が嬉しいと言いなさい」(札束ビンタ)
男「断る!」(悲痛な叫び)
>>508
>ふむ、遂に揃ったか……!
揃いましたね
契約者三人、契約者が身内に居る者一人、お家が契約している者一人
>なのに「狐」さん……喧嘩を売った相手が悪すぎた
相手っつか学校町選んだ時点で駄目じゃないかな
>そして気づくの今更感ですが、頭痛はある種の離脱症状か……?
ニコッ
さて、遅くなったけど書けたのでぽいするね
知りたいと思う事は罪ではなく。
知ろうとする事も罪ではなく。
知る事もまた、罪ではなく。
さりとて、知らぬもまた罪ではなく。
されど、知らぬは大罪なりや。
Ahuldea・Arkynayth
今のうちに話しておいたいいのだろう、と思った。
下手に抱えられたままよりはずっといいだろう。
……半端に踏み込まれると、その方がずっと、危ないのだから。
直斗はゆるゆると思案する。
問われる内容によって、答えるべき事は変わる。
もう答えてもいい事、まだ答えてはいけない事。
自分達がやろうとしている事からして、その辺りはきちんと区分する必要がある。
とは言え、答えによっては「誰に聞かれるか」が問題になる場合も、ある。
今、この場にいる中で。一番、あまり聞かれたくない事があるのは……。
ちらり、と、直斗が「先生」の方を見た。
その視線を感じ、「先生」はうむ、と何やら頷くと。
「へーい、「通り悪魔」の御仁。ちょっと大人だけで秘密の会話しようか」
「は?」
ぐっ、と。
「先生」は鬼灯の腕を問答無用でつかむと、ゴーイングマイウェイに部屋から引っ張っていく。
体格的には「先生」の方がずっと細身なのだが、見かけにそぐわぬ力があるようで。楽々とは言わないがわりと遠慮なく引っ張っていっている。
「おい、別にお前さんと話す事なんざ……」
「…………子供らには子供らだけで話したい事もあろうよ。ついでに、こちらが持っとる「狐」絡みの情報とそちらが持ってる情報をすり合わせたい」
己を掴んでくる手を振り払おうとしていた鬼灯だったが。「先生」の言葉に思うところあったのか。
手を振り払いはしたが、そのまま鬼灯は「先生」と一緒に退室していった。
「……空気読めたんだな、あの男」
鬼灯を連れて部屋を出た「先生」の様子に慶次は思わず、そう口に出した。
どちらかと言うとそういう点は気にしない、と言うか。空気を読んだうえであえて無視するような行動もとる人物と言う認識でもあったのかもしれない。
「まぁ、あの人も大人だし……と言うか。「先生」のあの言い方だとあなたも「子供」扱いだったけど、いいの?」
「腹が立たない訳じゃねぇが。あの二人から見りゃ俺も「子供」の範疇だろ」
神子の問いに返答しつつ。腹は立つが、と心の中でそっと繰り返す慶次。
それでも、江戸の時代から生きているという鬼灯やら、実際にはとうに六十七十かそれよりも上の年齢の「先生」から見れば、二十ちょっとの自分なんて子供のようなものだろう。
……子供扱いに腹が立たない訳ではないが。
鬼灯が部屋を出て、直斗がゆるりと一葉の方を向いた。
いつも通りの、笑顔。
直斗にとっての一種のポーカーフェイスなのだろうと慶次は思う。
都市伝説契約者でも「異常」持ちでもない癖に、都市伝説や契約者と関わる事を自分から決めたが故の直斗なりの処世術。
そう言う者だとわかれば、うさんくささも多少は和らぐ。
「それじゃあ、一葉先輩。俺達に、聞きたい事あるんだろ?」
「あ……わかっちゃう?」
「それくらいは、素人でもわかるよ」
探偵か何かの真似事でもしているようにそう言われ、むーぅ、となりながら。
それでも、聞きたいことがあるのは事実だったのだろう。
しゃんっ、と背筋を伸ばす。
その様子を、ポチに足元にじゃれつかれながら早渡が見つめていた。
「サクリが、飛び降りた後のことを教えてほしいの」
ぴくり、と。
一瞬、憐の体が小さく震えた。
……慶次が知っている限りの範囲でだが。「三年前」の件で、おそらくもっとも心が傷ついたのは憐だろう。
本当ならば、「三年前」の話題時代苦しいのかもしれないが。同時に、避けては通れない事も、わかっている様子だった。
「サクリが飛び降りた後、事件がどうなったのか……犯人がどうなったのか。教えてほしいの」
「犯人については。当時ニュースになって新聞記事にもなっている。それでも確認できるだろ?」
そう口にしたのは灰人だ。
少しだけ、憐の方を見ていた様子だったから。憐を気遣ったのかもしれない。
「そうだけど……「表向き」、なんだよね?あれは」
「……「組織」が、都市伝説絡みの件は隠して、一般の連中が「受け入れられる」範囲に編集されたもんではあるだろうな」
慶次もそれは認める。
そういうことは「組織」の仕事の一環でしかない。
いつか、遠い未来。人間とそうではないものがわかりあえるように、と考えていたとしても。
今はまだ、それには程遠く。都市伝説絡みの事件は隠す必要があるから。
そうだよね、と一葉が慶次の言葉に頷いた。
「だから。表向き明らかになった事を知りたい、と言うか……みんなが、あの事件にどういう風に関わったのか。それを、教えてほしいの」
じっと、一葉が皆を……「三年前」の事件、まさにその渦中にいた面子を、見る。
……憐が、俯いてしまったのが見えて。早渡の足元にじゃれついていたポチは、くるりと向きを変えて憐の足元まで行ってぺたんと伏せた。
彼らは、それぞれ顔を見合わせたりしている。思案している様子も見える。
「……ひとまず。神子は完全には関わってないな。契約者じゃねぇし、あんま巻き込まないようにしたから」
「そうねーー。まっさか置いてけぼり食らうと思わなかったわ」
じろ、と神子が遥を睨んでいる。
直斗は関わっていたのに自分は置いてけぼりを食らった事実にご立腹なのだろう。
……もっとも。それは正解だったのだろう。
結果的に、置いてけぼりを食らった彼女が自分達の両親やらに密告した為に、遥と灰人が都市伝説を暴走させた件での被害が(比較的)穏やかにすんだのだから。
「一応。咲季さんの遺書見つけた時までは私もいたけど。その後は置いてけぼり食らったから詳しくはないの」
「……ですので。こちらでお話いたしますね」
ピンと背筋を伸ばしたまま、龍哉が微笑み言葉を継いだ。
「僕達は、咲季さんの遺書から。連続飛び降り事件が、咲季さんのお父上が契約都市伝説にて起こしていた事件と確定いたしました」
「咲季の、父親宛ての遺書が読まれもせず捨てられていたのも確認した。だから説得は無理だろうなってのも予測できた」
「こちらとしましても、咲季さんとは仲良くさせていただいておりましたので……その咲季さんの気持ちを踏みにじったあの方には、「落とし前」をつけていただくべき、と判断いたしました」
合間、遥が補足を行う。
周囲に先んじて咲季の遺書を発見、内容を確認する事で彼らは大人達よりも先に事件の真相を知ったという事だ。
「咲季さんの葬式の時に、その事で話してたんだけど……」
「…………誰かに、話、聞かれた気配が、して。だから。動くの、早めた」
優と晃がそう続けると、かなえが少し、俯いたようだった。
……彼らが感じたという気配は、葬式に出席していたかなえだったのかもしれない。
とにかく、行動を急いでしまった、と言う事か。
「大人に任せようと思わなかったのか」
「そっちの方が安全ではあるんだろうけどな。こっちとしちゃあ、気持ちのけじめがつかない」
慶次の言葉には、直斗がそう返す。
気持ちの整理、けじめ、納得。
大人に任せてしまえば、それがつかぬままに結末を迎える可能性があっただろう。
だから、多少無茶でも動いたという事だ。
まぁ、神子が両親達に密告した以上、結局大人も関わってきたのだが。
「咲季の父親が、夜に誰かと学校で会ってたらしい事はこっちも掴んでいた」
「契約都市伝説の情報も出揃ってた。飛び降り被害者の中に都市伝説契約者がいなかった事も確認済み。相手の戦力は大まか予測で来ていた」
「戦力差的にはこちらが有利と見まして。そのうえで動かせていただきました」
遥、灰人、龍哉がそういう。
確かに、と慶次は納得した。
面子的に、犯人に勝ち目がない。そもそも、「ベオウルフのドラゴン」がいる時点でほぼ積みだ。
飛び降り被害者の中に、なんらかの強力な都市伝説契約者がいたならば。犯人たる土川 羽鶴の契約都市伝説に取り込まれて手駒となっていただろうから別だが。そういうことはなかった。
控えめに見て、犯人が積んでいる。どうあがいても勝ち目がない。逃げられれば御の字である。
「……危ない事、しなかった?」
一葉は、そう皆に問うている。
その問いかけに対して、視線をそらさなかったのは龍哉、直斗、遥、優、晃。
……視線をそらしたのは、憐、灰人。
ついでに言うと、神子が遥と灰人を睨んでいる。
「…………危険な事に、するつもりはなかった」
「せいぜい取り押さえて、咲季さんが命をとして止めようとしても止まらない理由をこっちは聞き出すつもりだった」
苦々しく言う灰人の言葉に、直斗は表情は崩さぬままに。しかし、声にほんの少し冷たさを纏わせて続ける。
「…………………あの野郎が。取り込んだ咲季を出してきやがったから」
遥の目が、金色に変わる。僅か、口元から竜の牙が顔を出す。
あまりにもはっきりとした、犯人……土川 羽鶴への、憎悪。
三年前の件、土川 羽鶴はこの憎悪を……否、憎悪以上のものを真正面からぶつけられたのだろう。
「あっちは、私達を動揺させようとしたんでしょうけどねー」
「……悪手。結果的に、一番危なくなったのはあいつ」
「あいつ、って、えっと、つまり……」
「下手人たる、土川 羽鶴ですね」
一葉に説明している一同の話を聞きながら、慶次はちらり、憐の様子を見た。
……かなえがほぼ話していないのは、いいのだ。早渡の方も聞く姿勢に入っているだろうから、話していなくともわかる。
ただ、憐が先程からほとんど発言していない。
普段は、むしろこういう場では積極的に話す方だという印象があった。それが、ずっとうつむいたまま、口を開く様子がない。
その、憐が。ようやく、ぽそり、口を開く。
「…………咲季さんのお父さん、「笑う自殺者」と、「富士の樹海の自殺者の幽霊が、人間を引き込んで自殺させる」を組み褪せて使っていて……それで、取り込んだ、咲季さんに」
「あ、憐……」
遥は、その言葉を止めさせようとして。
しかし、憐は自分が言うべきだと思ったのか。そのまま言葉を続けた。
「……咲季、さんに。俺達の事、「化け物」、って…………そう、言わせて、きて」
続けられた言葉は震えていた。
憐にとって、その「化け物」と呼ばれることに何かしら、トラウマがあったのかもしれない。
それを、咲季の姿をしたものに言われた事が、致命的だったのかもしれない。
「化け物」。その言葉が。三年前のあの事件にて、犯人の運命を決定づけるものになったに違いない。
「あれは、もう。咲季さんじゃないってわかってたのに。咲季さんの姿で、言われて…………」
「「憐が、泣いたから」」
遥と灰人の言葉が、ほぼ重なった。
一瞬、二人が互いを睨み合ったが、すぐに話を続ける。
「俺の宝(ともだち)を泣かせやがった奴、許せる訳ねぇだろ」
「……従弟っつっても弟同然だ。それを、あんな泣かせ方しやがって。許せるか」
「結果としては。憐が泣いたのを見て、そういう理由で遥と灰人が都市伝説暴走させた」
直斗は軽く続けたが、それがどれほどまでに危険だったか。
慶次は当時、その件に関わっていなかったため、どういう現場になっていたか伝聞と資料でしか知らないが。
都市伝説契約者複数名で、土川 羽鶴がうっかり死なないようカバーしつつ暴走して暴れまわる遥、灰人両名を止めるはめになったらしい。
不幸中の幸いは、二人共決して、身内には手を出さなかったという事か。どさくさに紛れて何かしよとした「過激派」がうっかり犠牲になったと聞いた気もするが、それは軽率な行動をした方が悪い。
「あの、暴走って、どれくらい危なかったの……?」
「……飲み込まれる、ところだった。俺が、ちゃんとしてなかったから…………遥と、かい兄を危険な目に、合わせた」
憐が俯き続けていた意味を、ようやくきちんと理解する。
三年前、遥と灰人が暴走し飲み込まれかけた件を。憐は、「ぜんぶ自分のせいだ」と認識している。
実際、憐が泣きだしたのが暴走のきっかけではあったのだろうが……
「資料で見たが。暴走止まったのもお前のおかげだったはずだが?」
「それは……」
「そうね。こいつら二人共、憐が本気で泣きじゃくったから止まったし」
神子の言葉に、灰人は静かに目をそらし。
遥は「当然だ」とでもいうような、腕組した酷く堂々とした態度だった。
「当たり前だろ。俺は憐を泣かせたくねぇんだから。俺が原因で憐が泣くんだったら、泊るに決まってる」
「く、一応友達想いの範疇なんだろうけど、なんかこいつが言うと別の意味に聞こえる……!」
「そういえば。当時クラスの女子が「一年生にすごく薄い本が厚くなる子達がいる」って話してたっけ……」
「いよっち先輩。それ、今思い出しちゃいけない事だと思います」
何か、余計なことが思い出されたりしているような気もするが。
……とまれ。三年前の件について尋ねられたことを、彼らは大体は答え終えた。
…………直斗が、いつも通りの笑みを浮かべながら一葉と早渡を見つめている。
他に、何か聞くことはあるか、とでもいうように。
to be … ?
投下前に「次世代ーズの人様の「いよっち先輩、来る」からの続きのシーンです」の一文を入れ忘れたのがこちらになります
そういう訳で年単位でお待たせしてしまって申し訳ない&ミス残っていたら申し訳ない
東ちゃんに、三年前のことについてさらっとですがお伝えしました
前スレで質問してもらう事への答え大体答えた……はず……?
これ答えらさってないよってのあったらご指摘くださいまし
あっ(セリフ抜けに気付く)
>>512の
「こちらとしましても、咲季さんとは仲良くさせていただいておりましたので ~ 」
のせりふの後に
「犯人の野郎は、一応生きてはいるが。「組織」その他いくつかの団体が共同で管理してる、都市伝説契約者の犯罪者収容所にいる」
を入れてやってくだせぇ
>>510-513
うわーこれは抉られる! きっつい真似しやがるな土川先生よぉ!
実の娘使って的確に嫌がらせしてくる辺り、土川先生は次世代グループ相手の心理戦に詳しすぎない? 怖い
そりゃ暴走もするわこんなん……
投下お疲れ様です&ありがとうございます
過去のあれやこれやが一気にパズルピース嵌っていく感が凄いですが
ひとまず次世代ーズ、早渡、いよっち先輩が各々確認したいことをチラ裏に飛ばします
今夜は投下無理だ……
>実の娘使って的確に嫌がらせしてくる辺り、土川先生は次世代グループ相手の心理戦に詳しすぎない? 怖い
主に憐の心抉って弱めようとしたらその余波で約二名に大暴走されたので詰めが甘いけどね
ひとまず、>>510-513の裏側をぽいちょするよ!
東区にある小さな診療所。
そこで、「三年前」の事件について語られている間、その隣の部屋……診察スペース。
ちょうど患者がいないのをいい事に話をしている大人が二人。
互いに、互いが持っている情報のすり合わせ。とはいえ、どちらも情報源に頭もある為そこまで深く新情報が出るものでもないが。
その一方、診察スペースだというのに気にすることなく煙管(流石に煙草ではなく緑茶だが)を揺らしている鬼灯は自信が三年間追い続けての「狐」の情報を語る。
「誘惑の解除だが。心にうまい事隙作った方が解除しやすいな。まぁ、どんだけ深く誘惑されているかにもよるが」
「心の隙、かい?」
「あぁ。一瞬でもいい。精神に衝撃翌与えて一瞬思考を止めるでもいい。その一瞬でも隙ができると、解除がしやすかったな」
三年間、「狐」を追いかけその手駒を撃退し続けていた鬼灯。
場合によっては、自分では戦いにくいと判断。誘惑の解除を試みた事もあったのだ。
成功率はせいぜい四割。試行錯誤しながら行っていたにしては上々か。
「通り悪魔」に飲まれたが故、人の心の隙を見つける事を得意とする鬼灯だからこそか。
話を聞きながら、「先生」はふぅむ、と自身の知る事例をいくつか思い浮かべる。
「ヨーロッパの方で、「アヴァロン」が「狐」の手駒が入りかけた話はそちらも把握しているね?」
「おぅ。その騒動で、「アヴァロン」で寝てた奴らが一部目を覚まして大混乱だったんだろ。中で喧嘩おっぱじめてむしろその被害が酷かったらしいが」
「犬猿の仲と言っていい関係の者もまとめて眠らせてた「アヴァロン」側の落ち度だからねぇ、あれは」
まぁ、それはさておき。
「その騒動、「レジスタンス」の「ピーターパン」も引っ張り出されたそうでね。概念殺し級の力遠慮なく使って入り込みかけた「狐」の手駒の誘惑解除したそうだ」
「あの自由気ままの傍若無人まで動いたのか……まぁ、あいつなら軽々できるか。誘惑の解除も」
「彼と同じことができる者はそうそういない故そこまで参考にはならんがね。ただまぁ、君がやったように「狐」の誘惑は解除しようがある、と言う事だな」
「迷い子の少年が知らんようだったら教えておくか」と「先生」はそう考えた。
以前に彼に情報を伝えた際は、「狐」の魅了の上書きについては話したが、解除に関しては「狐」自ら解除した例しか話せていない。
その時は外的要因での解除方が、概念殺しレベルによる例外しかわからなかった為半分仕方ないが。他にも手段があるなら別だ。
「精神に衝撃を与えて、か。不意を打って驚かせるだけでもだいぶ違いそうだな」
「そうすりゃ、お前なら解除できるだろ……なんだかんだ言って、誘惑も「毒」の範疇だろ」
「まぁ、「狐」の場合香りによる分だけでも「毒」の一種ではあるね。その他の要素も関わるからなんとも言えんが。できなくもなかろう」
試してみる手はあるな、と手段を考える。
精神に衝撃を与えて直後に毒の解毒、となると己にできる手段となると…………
「……ところで」
思案に沈みかけた意識は、鬼灯によって引き上げられた。
向けられてくる眼差しに、伺うような色が見えた。
「今回初対面の坊主もいたから坊や達の前では言わなかったが。お前、そんなもの取り込んで。何をしようとしている?」
「ん?……あ、あー。そうか。君だと気配に気づくか」
「こちとら苦手な気配だからな。うっすらだがわかる…………何やったんだ」
「私は、ただ保険になるためにやっているだけだよ」
にこり、「先生」は笑って答える。
そう、己はあくまでも「保険」でしかない。
「何分、「狐」勢力以外も面倒な事が色々とあるからな。だから、余計に保険が必要だと判断した」
「だとしても、いくらお前さんでも無茶やってるだろ」
「なぁに。触媒になるくらいはできるからね…………最終的に、私は「物」なのだ。保険としてうまく扱ってもらえれば、それでいいのさ」
からからと、「先生」は笑う。
自身が契約しているものが故、己は「物」として扱われても問題ない、と言う思考がこの「先生」にはある。
今回言っている「保険」と言うのが、何のための、誰のための「保険」であるのか。
言わない気になれば、どこまでも口を割らない事だろう。「先生」はそういう人物だ……まぁ、特定条件を満たした相手に問われれば、あっさり吐く可能性もまた、あるのだが。
「……お前さん、一応「薔薇十字団」の重要存在だろうがよ」
「ん?私は「薔薇十字団」所有物でしかないよ。重要と言うまでではない」
「嘘つけっつか自覚しろ…………龍一がお前さん絡みでため息ついてた理由がよくわかる」
「ははは、立場ある者にため息つかせる件については「通り悪魔」の御仁には言われとうないよ」
「狐」追いかけ世界を巡り巡り、多少目立つ範囲で暴れ爪痕残し。
そうとうな無茶をしている事は確かだ。
一部、「狐」へと打撃を与えるために他の集団に「魔が差した」行動をとらせてぶつけあったりもしている。
「狐」を倒すために、手駒を削るために、手段を選んでいないのだ。
「どうにも。君は子供の為となると冷静さを欠く一面があるな。三年間、何度大暴れしたかな?」
「…………さてな、一々数えちゃいねぇよ」
くつくつと笑いながら、鬼灯が手元で煙管を弄ぶ。
数えていない、と言うのは半分その通りで半分嘘だろう。
この男は、どうにも「ぷっつん」するとその間の記憶が飛んでしまうらしい。
大暴れした記憶はあっても、具体的にどの程度暴れたかがはっきりしないのだ。
そして、子供にやさしい一面があるこの男は、子供が害されるような事があると一気に見境なくやらかすことが、多々ある。
多少の制御が効いている「先生」とはまた別な意味で制御が効いていないのが、この鬼灯と言う男だ。
それでも学校町にいる間は、獄門寺家の客人としてふるまっている為多少マシか。
「俺の事ぁいいんだよ。お前さん、気をつけとけ。どうにも「狐」の奴、お前さんに目ぇつけてるようだし」
「おや?…………三年前の時はその手駒にすら接触されんかったと思うんだが」
「接触される前に向こうが学校町から撤退しただけだ。三年前は、お前さんが診療所構えたばかりで、あちこちからえげつねぇ数の監視つけられてたから近づくに近づけなかったんだろ」
「確かにあの時は、そこまでやらんでいいと言うのに彼から護衛までつけられてしまったが」
当時の様子を「先生」は思いかえす。
……「狐」絡みの者から、当時は接触されていない。近づかれる前に、護衛が処分していた可能性はある。「薔薇十字団」に確認をとるべきか。
「……しかし。私は「狐」に目をつけられるような要素など」
「その要素しかねぇだろ。国際問題になりかねない奴が」
「うん、うん?私程度の性能であれば、きちんと手順を踏めば辿り着ける範囲で有ろうよ」
「お前、いつか本気でローゼンクロイツに怒られとけ。とにかく、お前さんは「狐」か、もしくは手駒に接触される可能性があるんだ。用心しとけ」
「…………私個人は最終的にはどうなってもいいというかまぁなんとかなるんだが。私以外にも被害が飛ぶと面倒であるな。程々に用心しよう」
面倒だなぁ、と「先生」はぼやく。
自身の立場に関しては正確に把握していない節があるにしても、周囲に被害が広がると面倒と言うのは流石にわかる。
鬼灯としても、「先生」がどうなっても個人的にはどうでもいいのだが、その余波が周囲に広がるのが嫌といったところか。
「……あぁ、本当。面倒だねぇ」
「あぁ。全くだ」
いくつもの自体が積み重なり。
混ざり合い絡み合い、事態は複雑に、面倒になっていく。
(……まぁ、そうだとしても。「狐」の結末は、変わらんだろうて)
そのためにも、自分が「保険」になるのだから。?
役目を自覚し、「先生」は緩やかに、穏やかに、笑みを浮かべていた。
to be … ?
>>496
「一日目の夜、『あkえ縺ョ縺イ縺槭¥』」 の後の時間
以下3話と同時間帯と思われる
>>488-489
「見つけた=見つけられた=見つかった」
>>491-493
「甘い頭痛と先への備え」
>>506
「甘く浸る夢の中」
「ミスター・パッツィ、お会いできて誠に光栄です
拙者は中之条、『朱の師団』元三番隊、今は四番隊に居る者です」
「あっ……、どうも」
ヴィットリオ・パッツィは「トンカラトン」からいきなり声を掛けられた
「朱の匪賊」、「トンカラトン」のみで構成される武装都市伝説集団
彼ら「トンカラトン」自身は自らを「朱の師団」と名乗っている
彼らの一部は全身を真っ赤な包帯で身を包んでおり、それ以外の者は片腕に一巻きの赤い包帯を結んでいた
●全身が真っ赤な包帯なのは「師団」の幹部クラス。現在は二、三名ほどだ
○腕に赤い包帯を結んでいるだけの個体は、幹部以外の下位戦闘員だ
中之条、そう名乗る「トンカラトン」は全身を真っ赤な包帯で包んでいた
幹部、あるいはそれに相当する地位にある。そういうことになる
「『十六夜の君』にこうしてお目にかかれたことも、ひとえにパッツィ殿のお力添えによるもの。感謝してもしきれぬ……!!」
「ああ、……まあなんつーの? 良かったじゃねえか」
このとき、ヴィットリオは若干引き気味だった
全員野郎な、しかもサムライのようなむさ苦しく泥臭い雰囲気の「トンカラトン」集団だ
「あの方」に仕える同士なので、いくら野郎とはいえ邪険にする理由もヴィットリオには無い
しかしだ、そうは言ってもこの中之条、いくらなんでも顔が近いうえに圧が強い。強すぎる
「あのスマホとかいう機器で連絡を取るほかないときは心細さが勝っており、気でも狂おうかという心持ちでしたぞ……!!」
「あー。気持ちは分かる、だが結果オーライってやつだろ。合流できたしな」
とにかくこの暑苦しい雰囲気をまとい、押し殺した声で話し掛けてくる中之条さんにはなるべく早く仲間のところに戻って頂いた方がいいだろう
ヴィットリオはちらりと他の「トンカラトン」集団の方に目をやった
「ぬう、『十六夜の君』の家臣にも相当腕の立つ剣客が居ると耳にした。是非お目にかかりたいものだが」
「隊長殿、なにぶん決戦前の様相です故……」
「……ぬう」
あっちはあっちで何か話し込んでいる様子だ、こちらの状況に気づいてくれることは無いだろう――とりあえず目の前の中之条に視線を戻す
「ときにパッツィ殿! ひとつお尋ねしたいことがある! 三年前、……そう、三年前……!
我ら『師団』三番隊が『十六夜の君』に助力を求められ、憎き敵を打ち滅ぼさんと、とある町で斬り合いに至ったものの
力及ばず……三番隊は……壊滅致しました……! しかし、あの憎き敵……! あれほどの力量があるならば、まさか……まさかとは思うが
『十六夜の君』が、用心棒として招き入れているのではないかと……! 拙者はそれを疑い、早急に確認を取りたい!
『十六夜の君』についている者で、破廉恥極まりない毒婦はおらぬか!? スケスケの服を身に纏い、豊満な肢体を見せつけてきおる毒蛇のような女は!?
もれなく……別の……女子も居たような……気がするが、要はその毒婦よ!! 力だけは確かであった!! パッツィ殿!! 如何であろうか!?」
「いや、ちょっと知らんわ……」
我々同士のなかに「破廉恥極まりない毒婦」、「スケスケの服を身に纏い」、「豊満な肢体を見せつけてきおる毒蛇のような女」……
いや、居ない。断言していい。仮に「あの方」に仕える同士にそんな女がいるとしたら、色々な意味でヴィットリオ自身が見逃す筈がない
「別で動いてる連中とも考え辛いし、そんな女はいないんじゃねえかな。てかそんな話は初耳だが……」
「そうであるか……、そうであるか……! かたじけない、パッツィ殿。良かった、アレが『十六夜の君』の用心棒では無いのなら。……戦場で見つけ次第、存分に斬れるわ……!!」
独りなにやら盛り上がっている中之条から、ヴィットリオはやや距離を取る
なんというか圧が増しただけでなく、物々しい殺気めいた凄味を発し始めたからだ
「一応他の連中に心当たりがないか聞いてみるわ。でもそんな女は……加わってねえと思うんだよなあ」
「かたじけない、パッツィ殿! 貴方は良き御仁だ! この戦を乗り切った暁には、必ずやその御礼を……!」
ヴィットリオはなんとか中之条との会話を切り上げ、その場から離れることに成功した
話からするに、中之条は三番隊を壊滅させた者が同士に加わっていないか、それを確認したかったらしい
仇討ちでもする気か? いや、所詮はあちらの事情だ。今は他にすべきこともある
ヴィットリオはその場を後にする
□□■
>>518
憐君狙いか……ロクな理由じゃなさそう
治癒能力者を取り込む狙いかな?
>>519-520
投下お疲れ様です
おお鬼灯さん「狐」の魅了解除を試してたのか
これは心強い……
それはそうと「先生」何企んでるんだ……フラグじゃないといいけど
今夜中に少なくともあと一つ、>>510-514 の続きを投げる予定です
チラ裏に追加確認(すいません……)したい点を飛ばしました
乙でしたのー
>いや、居ない。断言していい。仮に「あの方」に仕える同士にそんな女がいるとしたら、色々な意味でヴィットリオ自身が見逃す筈がない
ですね、ヴィットリオなら絶対覚えてるわ
加わった時期より前に居た場合は知らないけど、顔合わせてたら覚えてる
そして、ちょいと話の流れとか都合的に、そちらのお話が>>491-493よりちょっと前想定にしちゃって大丈夫でしょうか
駄目だったら駄目だったでうまい事帳尻合わせやす
>憐君狙いか……ロクな理由じゃなさそう
天使って、なんか一杯いるし似たような名前多いし混合しやすいよね
>それはそうと「先生」何企んでるんだ……フラグじゃないといいけど
企んでるっつよりは「保険として備えてる」なんででぇじょうぶでぇじょうぶ
ひとまず、無理しない範囲でいくのよ
乙ありです、今めっちゃ書いてる
>>524
>そして、ちょいと話の流れとか都合的に、そちらのお話が>>491-493よりちょっと前想定にしちゃって大丈夫でしょうか
問題ないでーす、自分もそれくらいを想定してました
>天使って、なんか一杯いるし似たような名前多いし混合しやすいよね
ほらきた! またなんかアレっぽいのがきた!
こつこつと、隠れ家の中を歩みながら郁は思案していた。
やっと、あの方と合流出来た。「組織」の中で情報を集め続け横流しするという地味な任務。
それを三年間、ずっと続けた。
たかが三年、されど三年。
正直、今年の春にあの方と連絡が取れなくなった際には流石に焦ったが。それでも、何人かの「あの方」の手駒と行動を共にしていた「ピエロ人形」の契約者との連絡は引き続き行えたのが幸いだった。
そちらに情報を流し続け、うまく「組織」の目を誤魔化せる隠れ家を提供し、そこを隠し続けた。
多少親しくしていた同僚を鬼の「餌」にして……まぁ、ついでに与えるつもりだった、その同僚の担当契約者と自分の担当契約者は残念ながら「餌」にならなかったようだが。多少は鬼の腹を膨らませた。
(その「ピエロ人形」の契約者が死んだ訳だが……まぁ、仕方ないだろう。必要な犠牲だ。能力を見ても、そこまで役に立つ訳ではないしな)
学校町では、鬼の「餌」の確保のために能力を使っていたようだったが。
そのくらいならば、今後、特に必要と言う訳でもない。
いくらでも代わりの利く存在だったのだ。死んだところで、たいしてあの方の痛手にはならない。
事実、あの方は「ピエロ人形」の契約者の死について、惜しんでいる様子は見えなかった。
つまりは、その程度だという事だ。鬼の「餌」となって役に立ったのだから、そこだけは誉めてやろう。だが、それだけなのだ。
(あの方が、今後の戦力拡大のために重要視しているのは鬼と……「アナベル」。あれは、呪いの力を強めるのもいいがそうした呪いの伝承系で混ぜることも考えているのだろうな)
「アナベル」と言うはっきりとした個体名がある為やや難しいだろうが。
それでも、呪いの人形の類は世界中たくさんあるし、映画の影響もあって新たな話が生まれやすい。
そうした辺りも混ぜてしまえば、どれだけ強大な呪い人形となるだろう。
(……そう。混ざる、混ぜる。取り込んで同化する。似たものは全部混ぜてしまえばいい)
そうしてどんどん進めていけば、きっと。
そのうち、世界の何もかも曖昧になって、混ざり合って混ぜ合わせられて。
人間も、そうではないものも。
すべてがあいまいで、あやふやになって…………そうした不安定なもの、すべてに。あの方の誘惑が流れ込めば。
(全部、あの方のものになって。そして…………その傍で。僕だけがしっかりしていればいい)
口元を得実の形に歪め、身勝手な欲望(ゲンソウ)を思い浮かべる。
今回の件で「組織」とのつながりは切れてしまったが、あそこで蓄えた知識と裏の情報網はある。
今後は、自分は情報網を広げていくことに専念していくとしよう。
こつこつこつ、思案を続けながら歩んでいて……ちらり。視界の隅に入ったものに、おや、と声を上げた。
「何をしているんだい、君達」
「っ!」
空き部屋の隅、まるで隠れるように人影二つ。
覗き込んでみれば、男が二人。
ますます、おや、と声を上げてしまった。
「なんだ、逢引かい?」
「それは絶対にない」
即答しながら郁を睨んでくるのは、人影の内一方……九十九屋 九十九。
表向きは針金アーティスト。裏の顔は「殺し屋」。今現在、あの方の手駒の中では……おそらく、もっとも戦闘力が高い男。
どこにも所属せずフリーで活動していたが故の習性なのか、味方にも己の契約都市伝説を語らぬ悪癖はあるが。そこを差し引いても優秀な男。
その九十九が影に隠すようにした相手は、どうやらヴィットリオ・パッツィのようだった。
(「死神を閉じ込めた樽」の契約者…………正直、使い勝手は微妙だな。死神ならば問答無用だが、それ以外は無警戒、もしくは発動者に意識を払っていない相手にしか発動できない。しかも一人閉じ込めたら、それを解放するまで次が使えない……)
当人の戦闘力はないに等しいし、元々は「教会」の子飼い。正式所属ではなかったのだから、「教会」の情報もたいして持ってはいないだろう。
その存在の重要度は低い。いざとなったら、切り捨ててももないだろう。
「二人でこそこそ、何をしていたんだい?」
「情報交換、と言うか確認だ。あの方が釣れてきた、「朱の師団」の中之条とか言う奴。あいつが探しているって言う女について」
九十九の言葉に、郁はふむ、と考える。
確かに、今宵、自分達の前にやっと姿を見せてくれたあの方が連れてきた都市伝説の集団。
その中でも、ある程度上の立場なのだろう者が何か言っていた記憶がある。
直接尋ねられていないので答えてはいないが。こちらが知っている範囲では、その者が探している者の情報はなかったと思うが。
「僕の知っている範囲ではその毒婦とか呼ばれるような女性に心当たりはない。あえて言うなら「バビロンの大淫婦」が該当するかもしれないが、あれはあの方の配下にはなっていないからね。君達は、心当たりはないのかい?」
「ない……そもそも。三年前、俺はイタリアにいたからな。当時、こっちで何が起きていたかまでははっきり把握していない」
きっぱりと答えてくる九十九。
ちらり、九十九の背後にいるヴィットリオに郁が視線を向けると、彼もまた首を左右に振った。
「俺も、三年前はまだイタリアで「教会」の子飼いやってた頃だし…………あいつの説明聞く限りの外見の女性と会った事あるなら、間違いなく覚えてる。記憶にないから、いないはずだ」
「そうか……」
現状、あの方の手駒はこの隠れ家に集まっている者のみ。
……ならば、件の女性はあの方の手駒にいない。協力者でもないだろう。
「わかった。では、僕は明日に備えて色々とやっておくよ。そっちも、明日に備えておくんだよ」
「…………あぁ」
くすりと笑い、郁は踵を返す。
そう、明日に備えておくべきなのだ。
明日、事を起こして、それを成功させるために。
…………自分も、何かしら切り札を用意しておくとしよう。
郁の足音が遠ざかっていくのを確認する。
いや、足音だけではなく、気配も。
あれは、「てけてけ」と「とことこ」の多重契約で飲まれた者だと聞いている。下半身だけで遠ざかったふりもしかねない。
「……なぁ、九十九」
ヴィットリオが何か言いかけたのを、軽く手を上げて制した。
郁が来る前に話していた件についてだろう。それはもう、伝えるべき事は伝えた。
……あとは、ヴィットリオ次第。
そして、自分がどれだけうまく動けるかにかかっている。
(万が一。アダムの後追って地獄に行くのは。俺一人で十分だ)
万が一が来ることを恐れることすら、「あの方」への背信。
……それをわかっていて、余計に頭が痛む。
だが、痛みが酷くなり続けるからこそ、余計に備えるべきだった。
ヴィットリオの頭痛を悪化させたのは多少悪かったが、いざと言うときのことを考えて我慢してもらうとしよう。
頭痛が酷い。痛みが消えない。
…………今はまだ、この痛みを消してはならない。
to be … ?
はい(はい)
なんかフラグ見えるような気がするけど気のせいですね
二人がこそこそ何してたかはBLの女神が「はぁい♡」してきそうなのでキンクリされました
>>525
>問題ないでーす、自分もそれくらいを想定してました
そう言っていただけたので遠慮なくそういう流れで書いた
うまく言い訳用意できて九十九屋がほっとしてます
>ほらきた! またなんかアレっぽいのがきた!
(そっぽ向いて口笛吹いてる)
>>527-529
投下お疲れ様でした
なんかまたヤバそうな爆弾が来るかな?
あとこんなときだからこそシッポリ(意味深)やってたのか
九十九屋さんのヤバいフラグ臭が怖い
>>510-513
「人狼遊戯のその後に」 へのクロス
●内容
・東一葉からの質問
・早渡脩寿からの質問
・早渡からの情報&物証の提供
「そっか、咲李が飛び降りた後。そんなことがあったんだ」
場にいる全員が一通り、かつて見た「再現」の終盤に起こったことを話してくれた
そして、それを受けて、いよっち先輩は静かにそう零した
その声は微かに震えている。今は見守るしかない
「灰人君。私、もちろん当時の記事も読んだよ。……もどしそうだった」
いよっち先輩は急に天井を向いた
そのまま深呼吸を繰り返しているようだった
「おじさんが……、土川先生が、犯人だって。信じられなかった。信じたくなかった
だって、咲李のお父さんだから。なのに。なんでそんなことになったんだろう、って」
俺は静かに憐ちゃんに目を向ける
酷く、虚ろだった
少なくとも、先ほどまで柔らかい微笑と雰囲気を纏っていた彼ではなかった
彼が持っていた、温かく優しい感情を、すべて拭い取られたかのような、そんな状態だ
少なくとも俺にはそう見えた
どれだけ傷つけられたんだ
どれだけ打ちのめされたんだ
当事者ではない俺に、理解できる筈も無いことだ
それでも
憐ちゃん
辛いだろうが、――どうか、顔を上げてほしい
「土川先生、まだ生きてるんだよね? でも先生も『狐』に、操られてた、だけなんだよね?」
「どうだろうな」
やや長い沈黙の後、いよっち先輩が発した問い掛けに、吐き捨てるような口調で応じたのは荒神灰人先輩だった
その表情には、冷たい怒りが滲んでいた
そっと角田の人に視線を滑らせる――目が合った。険しい表情で微かに首を横に振っている
まさか
自らの意志で、実の娘を利用したってのか?
「土川先生。今は、ちゃんと、罪を償って、くれたかなあ……?」
「そうだといいけど」
そう尋ねるいよっち先輩の声はどうしようもなく震えている
対して、それに答えたのは憐ちゃんだった
彼はまだ、俯いたままだ
だが、彼の答えとは裏腹に、部屋の空気はあまりにも重々しい
日景は沈黙を守っているが、隠す気も無いほどの怒りを発していた
空気は語っていた。犯人――土川羽鶴に、贖罪を求めるだけ無駄であると
「ごめんね。本当はわたし、ここに来るとき、――泣かないって決めてたのに」
いよっち先輩は口元を押さえ、真っ直ぐに憐ちゃんを見ていた
今にも涙が零れ出しそうな眼で
「わたしも、死んだあと。土川先生に操られてたんだよね
わ……わたしも。操られて、みんなに……酷いこと、しなかった?
誰か……、誰かを、殺したり、してなかった?」
「してない」
「無い。断言していい。そんなことは無かった」
花房君と、日景が即答した
日景は最早隠すことのない怒気を立ち昇らせていた
「そんなふざけた真似をされる前に、その場で潰したからな」
「ずっと、怖かったの。わ、わたしも、誰か……殺したり、したんじゃないかって」
「重ねて言うけど。してないよ」
花房君は、穏やかな口調でそう答えた
先ほどの、怒りすら感じられた声色ではなく、先輩を安心させるような優しい言葉だった
その直後、先輩は顔をくしゃくしゃにして、引っ張り出したハンカチを眼に押し当てた
いよっち先輩、ずっと思い詰めてたみたいだったからな
ここからは俺が引き受けよう
「俺からも確認したいことがある
犯人の――土川羽鶴は、一応『組織』の管理下にあるって話だったが、念のため訊いておきたい」
「笑う自殺者」 と 「富士の樹海の自殺者の幽霊が、人間を引き込んで自殺させる」
この多重契約者だった土川羽鶴は、この二種の契約能力を組み合わせて、東区中学の生徒達を
つまり、教え子達を、自殺させ、その死後は殺害した生徒達を意のままに操った
そういう話らしいが
「『組織』が何らかの措置を施した、って信じたいんだけど
いよっち先輩が、まだ犯人の能力影響下にある、なんてことは無いんだよな?
支配権をまだ握られてる状態だなんてことは無いんだよな?」
「安心しろ、そっちは問題ない」
花房君に即答された
先ほどと変わらぬ、穏やかな返答だ
「もう支配されることはないよ。一応『組織』の立場からも答えた方がいいんじゃないか。慶次」
「基本的に『組織』で確保した犯罪者は、契約した都市伝説を剥奪される
それが難しい場合でも二度と再発動できないように措置を講じられる。それに、あいつは重度の監視下に置かれてるからな
再支配の危険性は無えよ」
花房君から振られた角田の人が改めて説明してくれた
思わず息を吐き出した
一応、高奈先輩たちが見る分にも「問題はない」という判断に至ったそうだが
角田の人から断言してもらえたのは、大きい。一旦は安心していいだろう
「オーケー、どうも。流石に『組織』が何とかしたって思いたかったけど
裏取れるまではいよっち先輩も不安だったみたいだからな、リモコンで操作される事態は起こり得ないと。理解した」
「そこはもう少し『組織』を信用しろや」
角田の人の突っ込みに苦笑いで応じる
こっちもそれなりに気を張ってたんだ。ちょっと大目に見てほしい
一応これで一通り訊いておきたいことは確認したことになる
何かとやきもきしたが、場をセッティングしてくれた花房君はじめ、みんなに感謝しないと
「早渡、確認しておきたいことは本当にこれで全部か?」
「うん、今のところは以上だ。いよっち先輩から何か無ければ――」
「いや。いよっち先輩とは別に、早渡。お前自身が確認しておきたいこと、言っておきたいことだ」
花房君にそんなことを切り出され
少し、躊躇した
「一応こっちの意図としては、確認事項があれば一気に出してもらった方が
色々情報も共有しやすくなるしな。で、どうだ早渡」
「早渡、後輩。わたしのことは気にしないでいいらかね
訊きたいことあるなら、今のうちに訊いておきなよ」
落ち着いたのか、顔を上げたいよっち先輩にもそう言われた
参った、いよっち先輩にも気を遣われてしまった
迷い、迷い、黙ったまま
いよっち先輩の赤くなった眼から、角田の人に顔を向ける――何か言えよ、という顔をされた
「――わかった、少し長くなるけど聞いてほしいことがある」
כִּי-מַשְׁחִתִים אֲנַחְנוּ, אֶת-הַמָּקוֹם הַזֶּה
「改めて自己紹介するよ。俺は早渡脩寿
今年の三月まで『広商連』は『団三郎』圏内の『北辰勾玉 庵屋』、通称『七つ星団地』で厄介になってた
今も籍は置いてるけど、四月には此処、学校町に越してきたんだ。『狐』を追うために」
「ああ、矢張り『広商連』の方でしたか」
「うん、獄門寺君の家のことも聞いてたよ」
「それで――、『七つ星』に拾われる前は『七尾』に居たんだ。身寄りがなくてな
山梨の『七尾チャイルドスクール』っつー小中高一貫な感じの学校兼施設で教育を受けてた
幼い頃にはもう契約させられて、物心ついた頃には既に契約者って感じだった」
「七尾」が都市伝説の研究を進めていたこと
適正のある子を都市伝説と契約させ、人材として訓練していたこと
「チャイルドスクール」には普通クラスと契約者のクラスが存在し、俺もそこで教育されていたこと
過去をざっくり話していった
「『チャイルドスクール』はE6、小学六年相当の頃に突然解体された
表向きはそれまでに性的児童虐待が行われていた事実が一気に問題化して、それで閉鎖に至った、てことになってる」
「だいぶ前に大きなニュースにもなってたしな」
「え、そうなの? 知らなかった……」
花房君の相槌に首肯した
いよっち先輩が中一のときか、まあ知らなくてもいい話だ
醜いスキャンダルみたいなもんだからな
「で、真相はそうじゃなかったと」
「うん。EカリのANクラス――初等教育課程の契約者訓練クラスが『組織』の襲撃を受けた
多分その時期に『七尾』がAN研究進めてたのが『組織』にバレたからで
『組織』の連中はANクラスの人材を無理矢理拉致ろうとしたんじゃないか、俺はそう見てる」
「ちょっと待て」
角田の人の横槍が入った
「俺も詳しく知ってるわけじゃ無えんだが、『組織』は『七尾』を監視こそすれ、『七尾』の研究推進を黙認してた筈だ
いくつかの基礎研究を『七尾』に委託したりとかな。それに『七尾』の都市伝説研究を『組織』が知ったのは
『七尾』施設解体よりかなり前だった記憶があるぞ。色々おかしくねえか?」
「『組織』に発覚したのは、『スクール』襲撃より前のタイミングだと。そういうことか?」
「俺の記憶が確かなら間違いねえよ」
「……確かに『七尾』が『組織』から何らかの助力やら技術提供を受けていたフシはあった
けど、悪い。当時はクソガキだった俺はそこまで知らなかったわ。てっきり『組織』がそれを口実に襲撃してきたと思ってたからな」
「そこもだ、“襲撃された”ってとこにも違和感がある
基本的に『七尾』ほどの大企業――『七尾グループ』だったか? あれほどの規模を『組織』が抑えるとなると
普通はグループの主要会社を迅速かつ同時に速攻で抑える感じで動く。どっちかていうと首脳陣を確保するイメージだ
仮に『組織』が『七尾』を抑えるとしたら一ヶ所を叩くなんて真似はしない。早渡、襲撃してきたのが『組織』の連中だって言うが、何か証拠はあんのか?」
角田の人の突っ込みに、一度深呼吸した
一気に事態が動きそうだ
万が一を考えて、用意してきたが
正解だったな
俺は鞄からバインダーを取り出した
近くにいる、日景に渡す
「見てもいいのか?」
「うん、角田の人にも回してほしい」
日景はテーブルの、なるべく中心にくるようにしてバインダーを置いた
いくつかの写真が挿入されたページが開かれる
何人かが席を立ち、写真を視た
「これは――実銃か」
「H&Kの、多分最新型の自動拳銃。それと光線銃だ
角田の人、連中は銃を使って俺たちの目の前で、世話になった先生と、研究員を射殺したんだ」
「……え?」
いよっち先輩が息を飲むのが聞こえた
だがもう、切り出した以上は止めることはできない
「俺は襲撃してきた連中の何人かを返り討ちにして、所持していたこういう物品を奪取した
そして、『スクール』から逃走した。連中も何人か腕の立つ奴がいて、俺を追跡してきた
車両を奪って長野まで逃げてたが、捕まって殺されかけたときに、『七つ星』に拾われた」
角田の人は一旦黙って俺の話を聞いてくれた
そして、バインダーをめくり、ページを戻り、こちらを見た
「この光線銃、穏健派の一部と過激派の一部で使われてるモデルだ
ただ何とも言えねえな、所属を詐称するために別派閥の銃を使った可能性もあるが
それにこの実銃は、『組織』内でも所持と運用に規制が掛かってるやつだ
シリアルナンバーまで映りこんでやがるから照合しやすい。あと、これは記憶除去装置だな
認めたくはねえが、『組織』の人員が噛んでる臭いな。……おい、そういやこれの実物はどうした?」
「この町以外の安全な場所に隠匿してある。何せヤバめの物証だからな、奪われるわけにはいかねえだろ」
「なかなかキナ臭え話になってきたな。早渡、この件の事実確認を取りたい。こいつは借りてもいいか?」
「どうぞ。 じゃあこういうのはどうだ? そっちで得られた情報と、物証をトレードってすることで」
「ハッ、生意気な野郎だ――。俺の知り合いに権限持ちがいる、そいつに話を通しとく
だが、今は発生している問題の対処が先だ。めぼしい情報が得られるまで、一寸まとまった時間くれや」
「分かった、頼みます」
角田はバインダーを取り上げ着席した
ページをめくりつつ、複雑そうな表情で首を横に振っている
「それで――九宮空七のことを話さないとな」
「最初会ったとき話していた、お前の初恋の人か?」
花房君の言葉を受けて、眼を閉じる
全員の視線を受けてる気分だ
それにこれを口に出すと、認めてしまったことになる
それでも、進むしかない
「最近になって昔のことを色々思い出したんだけど、多分その“初恋”ってやつ
『七尾』の研究者の誰かしらに、“俺が空七を好きになる”ように記憶の植え付けをされた可能性がある
まあ有り体に言って記憶操作の洗脳を受けたかもしれない。多分誰かのイタズラかなんかだ。それに――」
思い出したくない過去
だが、吹っ切らないといけない過去だ
「――それに、それ以前に。アイツには、愛人いたしな。逢瀬の現場を何度か見ちまったし。肉体関係があることも、知っちまったし
俺はそれを見て見ぬ振りして、……自惚れから告って、クソミソに言われて切り捨てられたしな。我ながら何やってんだかな
アイツは最初から俺のことは眼中に無かったんだ。俺が、只の勘違いしてた馬鹿野郎ってだけだよ」
「それでも、お前の……幼馴染なんだろ?」
「……そうだな」
花房君、的確に突いてくるな
思わず笑ってしまった
眼を開く
携帯を引っ張り出し、画像を呼び出した
「チャイルドスクール」時代の、空七の画像だ
とりあえず近場の日景に手渡した
「今の外見から大分かけ離れてる可能性もある。そこは踏まえといてほしい」
「……それ。データで貰っても、いい?」
「どうぞ?」
俺の返答を聞いた日景は直ぐに広瀬(晃)ちゃんへ携帯を渡した
広瀬(晃)ちゃんが俺の携帯を弄り始めたのを見て、広瀬(優)ちゃんがこちらに遠慮がちな視線を向けた
「晃にデータ全部抜かれちゃうと思うけど、大丈夫?」
「問題ないよ。ヤバい情報とか恥ずかしい画像なんかは事前に別ストレージへ避難済みだから」
「……なら、問題なし。でも、やりようは、ある。から、油断しないで」
……広瀬(晃)ちゃん? やりようって何? 何するつもりなんだ?
いや、今はいい。信じよう、広瀬(晃)ちゃんの良識と良心を
突っ込みたい気持ちはどうにか抑えた
「九宮空七、『七尾』が有する人材のなかで“最高傑作”と呼ばれた契約者
俺が知ってる頃は『幸運のギザ十』と契約していた。“第一種適合”、完全にAN-Pを意のままに操作できる
それだけじゃない、アイツは理論上、どの都市伝説とも、コストを脅かすことなく、無制限に契約できる特殊な“器”を有していた
E4の頃は『ギザ十』以外にあと2種類のANとも契約してたらしいけど、そっちは俺にも分からない」
「空七は『スクール』襲撃の夜、『組織』に連行された。佳川有佳、教師役の研究者と一緒に
後から知った話では、空七自らの意志で『組織』に従ってたらしい。それで―― 一年半かそれくらい経った辺りで、空七が死んだという話を聞いた
大体今から三年前くらいの時期に、『組織』の命令で『狐』討伐戦に駆り出されて、『狐』の勢力に殺されたと」
「でも、俺は――、アイツは生きてると見ているんだ。その後に色々聞きたくない話を耳にしたからな
幾つかの可能性を考えた。もし、本当に『狐』の手勢と交戦したなら、それで敗けたとしたら――九宮空七をわざわざ[ピーーー]真似をするほど『狐』も浅はかじゃ無いんじゃないか
アイツの実力を考えたら、“魅了”して手元に置いとくのは悪い手じゃない筈。それで今は、九宮空七が『狐』の手勢に取り込まれてるんじゃないかと、そう疑ってる」
「だから――」
息を整えながら、今話しておくべき内容を話す
最も伝えないといけない内容は
「みんなは『狐』に付いてる配下のほうも、もれなく全員[ピーーー]つもりか?
もし可能なら、配下の奴と話がしたい。空七が『狐』の配下に取り込まれたのかを聞き出したいんだ
せめて配下の、少なくとも一人とは話をさせてほしい」
全員を見渡し、やっぱり花房君に視線を戻す
あくまでも穏やかに俺の話を聞いてくれる花房君に、謎の安定感を覚える
今はそれがありがたかった
「もしも『狐』の配下に九宮空七がいるとしたら、離脱も考慮に入れてくれ。君らができるんなら……殺してもいい」
「駄目でしょ!!」
いよっち先輩に突っ込まれた
「え、だって。早渡後輩の、幼馴染でしょ? だ、……大事な人なんでしょ?」
「先輩、ごめん。聞いた話が本当なら、空七はもう取り返しのつかないレベルで人を殺してる。誰かが止めないといけない」
深呼吸する
「俺が止めるとしたら、そんときは殺しになる」
「……そんな」
「おい、なら俺達に殺人の罪を犯せってのか?」
日景に、睨まれた
「安心しろ、仮にそいつが『狐』の配下に居たとして。見つけたら何とか拘束してやる。なに物騒なこと吐いてやがんだ、お前は」
「それが出来たらそっちのが最良に決まってる。ただ今の空七は『ソドムを滅ぼす神の怒り』と契約してる可能性がある
聞いた話が本当なら、かなりヤバい。赤黒の光を放ってレンジ内の全ての対象を、問答無用で塩の柱に変えるらしい」
「おい、それはあれか。『創世記』の――」
「『主は硫黄と火を、主の所拠り、即ち、天よりソドムとゴモラに雨しめ、其邑と低地と其邑の居民、及び地に生る處の物を盡く滅し給へり。ロトの妻は後を回顧たれば鹽の柱となりぬ』――19章24-26節の、“奇蹟”だな」
日景と灰人先輩の言に、首肯する
横合いから角田の人に、盛大に舌打ちされた
「そういうことは、早く言えよ! 『組織』が介入すべき案件じゃねえか!!」
「角田、静かにしろ。早渡が話してんだろ?」
「あ゛!?」
日景と角田の人が何やらまたバチバチし始めたが
悪い、フォローしてる場合じゃない
「それよりお前は『狐』を仕留めることに参加しないような口振りだが、本当のところはどうだ? 本心を話せ」
「そりゃ――、そちらに合流できるなら、したいですよ」
灰人先輩はあくまで静かな口調で問うてきた
俺は最低な真似をした
本来なら俺が空七を殺さないといけない
なのに
みんなに押し付けるような真似を
それを前提とするかのような頼みを
「すいません、今抱えてる問題を解決させたら直ぐにでもそちらに合流したいです
でも、そちらでも前もって計画を立ててたと、花房君から聞いた話からそう判断しました
自分が混じると、計画的に問題あるんじゃないですか?」
「そこは気にしていない。仮にお前が加わろうと加わらずともやることに変わりはないからな
それで。早渡、お前の抱えている問題とは?」
「――『ピエロ』の件になります」
横合いから再び、角田の人の盛大な舌打ちが響いた
🤡 🤡 🤡
「『組織』でも本格的な報告が増えたのは十月の頭からだ
それ以前から学校町に侵入してた可能性はあるが」
「親が話してるの耳にしたけど、『ピエロ』って『狐』とは別個の勢力なんでしょ?」
「『ピエロ』はどちらかと言うと、自らの存在が非契約者の一般人にも目立つように動いているだろ
これまで情報を徹底的に隠したがってた『狐』の手勢とは、正直思えねえ」
「一応『組織』内部でもそういう見方してるが、情報攪乱のために『狐』が加えた賑やかし要員って可能性も排除できねえ」
「いずれにせよ、現時点で判断を下すのは早計ですね」
「てか『狐』の手勢なら、『狐』を潰しちまえば勝手に自滅するだろ」
みんなも「ピエロ」の動向には注意を向けていたらしい
「俺は商業の同級の女子から、友人の失踪について調べてほしいって頼み込まれたんだ
警察には相談してるが、まあ成果は無いみたいで」
「『ピエロ』に誘拐された、と?」
「いえ、その失踪した子ってのが元々素行が良くなくって、単純な家出の可能性もある、そう思ってたんすよ
でも、失踪の直前にヤバい連中とつるんじゃって大変なことになった、的な連絡を友人にしてたらしくて
あと、それだけじゃないですね。学校町のあちこちの学校で、失踪が相次いでるらしいっすね?」
「あッッたま痛え問題だよ、ッッとーに! ただでさえ『狐』の件でピリピリしてるって時節によ!」
角田の人が先ほどより、キレそうな表情で頭を抱えている
「天地は『狐』に掛かり切りだからな、『ピエロ』の方は別の派閥が担当してる
だが荒事になると、俺にも話が回って来たり ―― ったく」
「『ピエロ』はAN由来の物品や銃火器を携行して、それを使ってくる
この町の警察は『組織』と繋がってるらしいけど、警察じゃ対処しようがない
収容の取れない事態になる前に、角田の人――アンタと連絡先をやり取りしときたい」
「……ここまで話を振られといて、俺に断れると思うか?」
悪い、角田の人
俺もそれを狙って話を進めてた
「その前にまず、角田の人に渡しときたいものがある」
俺は鞄からいくつか物証を取り出した
全て厚手のポリ袋に封入したものだ
「まずは、これだ」
「おい、さらっと実銃を取り出してんじゃねえよ」
「俺が『ピエロ』と交戦した際に、連中が取り落としていったものだ」
日景の突っ込みを華麗にスルーし、ポリ袋ごと自動拳銃を押し付けた
角田の人に回してくれ
「Kimber TLE II、.45 ACPモデル。考えたくないが連中は対人射撃を念頭に置いてる。そう見なすべきだ」
「この銃自体からは、都市伝説の気配は無えな」
「これも回して。現場から回収した空薬莢、.45 ACP弾だ」
「こっちからは気配あるぞ、弾になんか仕込んでやがったのか」
「日景、問題はこれなんだ。こっちは、さっきの拳銃に装填されてた未使用の実包と
連中が発砲して壁やらに突っ込んだ弾頭を回収したものだ」
早口でそう説明しながら
未使用の .45 ACP弾 と、砂礫ごと回収した潰れた弾頭が入ったポリ袋を渡した
「おい、これ――かなりヤベえやつじゃねえか」
日景の声に、僅かな怒りが混じる
俺も同意見だ
「詳しくは解析しないと何ともだが、この弾頭はわざと脆く作製されてる
内容は媚薬、多分『スパニッシュ・フライ』の粉砕物に、治癒系の霊薬、『鎌鼬の塗薬』かなんかだ
それに向精神薬、睡眠薬、これらの混合物だと思う。内容が内容だけに、多分お互いに効能を相殺し合わないように調整されてる」
「……どういうこと、なんですか?」
紅ちゃんが震えを抑えたような声で訊いてくる
いや、彼女も恐らくその意味するところは気づいているかもしれない
「恐らくこの弾丸は、誘拐する“獲物”に対して撃ち込むもので
①まず向精神薬か睡眠薬だかで“獲物”の動きを鈍らせて、②媚薬が効いて従順になったところで“獲物”を安全に誘拐するためだろうな
③撃たれた傷口は、弾丸に仕込まれた霊薬で治癒するから傷は残らず、かつ残りの薬物を的確に“獲物”の体内に残留させることができるんだろうな」
「……下衆の所業じゃない」
やや冷え込んだような声色で、花房君が的確な解説をおこない
それに対して大門さんが吐き捨てるような口調で応じた
ごめんな、いよっち先輩。紅ちゃん。本来なら角田の人と二人きりで話すつもりだったんだが
場の流れと、あと俺の勢いでモノを早々に出してしまった。後で謝らないと
青い顔してる二人を見て、胃の底が不快に沸き立つ
だが今は、情報の共有と連携が先だ
心を鬼にする
「それから、現場に残った弾痕の撮影画像、現場の、南区の座標付きだ。これを角田の人に託す
『警察』経由より、角田の人に直接頼む方が勝負が速いと判断した」
「角田、これは『先生』にも実包の解析頼んだ方がいいんじゃねえか?」
「……腹立つが、已む無しかもな。しかし、そうだな……、相手が実銃を使ってくるなら、逆に対策の立てようがある」
日景経由で画像データが収められたスマホ用メモリカード入りのポリ袋も角田の人に渡った
角田の人は先ほどよりも一層深刻そうな表情でブツブツと独り言を呟いている
「それより早渡、『ピエロ』と交戦したそうだが」
「ええまあ、各個体の戦闘力は大したことないうえでにANfx持ちでもないから倒すのは容易っす
つまりどっかに『ピエロ』を発現させてる本体がいるってことなんですけど」
「俺が聞きたいのはそうじゃない。早渡お前、“撃たれた”な?」
灰人先輩の視線が突き刺さる
参ったな、どこまでお見通しなんだ、この人
「撃たれたって言っても、こんなヤバい弾頭でなくて、普通のフルメタルジャケット弾でした
背後から数発。油断してた俺が悪い。幸い全部体を貫通しましたし、弾が通った傷口は念入りに削いで捨てましたよ」
「そうか。素人の医療行為は褒められた真似ではないが。大事に至っていないのであれば」
「まあ免許なんて当然ないですけど、でも俺も一応処置の心得はあるんで」
違うそうじゃない、今の発言何から何までおかしい
誰かの突っ込みが聞こえた気がしたが、一旦スルーしとこう
いま大事なのはそっちじゃないし
「いや! でも! 早渡後輩!? 撃たれたんでしょ!? びょ、病院には、行ったの!?」
「先輩大丈夫、傷はみんな完治したし
それにさっき『先生』からエリクサー入りのお茶も頂いたし。すこぶる快調だよ」
「駄目だよ!? 駄目だよ!!?? 後で『先生』にちゃんと診てもらおうね! お姉さんと約束して!?」
「分かった、分かったから! そんな、泣きそうな顔しないで!!」
とまあ取り敢えず、俺から伝えたいこと、確認したいことはこれくらいだ。多分
思い出したらその都度共有するとして、いやでもこれ以上は無かった。と思う
「とりあえず早渡の携帯を寄越せ。連絡先を登録しとく」
「角田の人、悪い。後は頼んだ。ちょっとトイレ借りる」
角田の人は広瀬(晃)ちゃんから俺の携帯を受け取っていた
それを見て、席を立つ
顔を洗いたい気分だ
色々洗いざらい話したのは久しぶりな気がする
俺は――角田の人に向き直った
「角田慶次」
「あン?」
「色々と迷惑かけます。――どうか、よろしくお願いします」
彼に、頭を下げた
「やめろ薄気味悪い、とっとと行ってこいや」
角田の人に鼻であしらわれ、早よ行けとばかりに手を振られた
んな……、花房君の方を見ればニヤニヤと笑われてしまった
花房君の口元が僅かに動いていた
“良かったな”
そう、言われた気がした
恥ずかしいな
俺はその場から逃げるように退室した
□■□
花子さんの人へ感謝申し上げます orz
導入と言った癖に、かなりガッツリ書いてます
今回の話で色々出るもんが出たように思う
細かい点のミスに気づいた場合はwiki収載時に加筆修正するとしても
事実誤認等あれば遠慮ない突っ込みを頂きたいところです
【補足】
・「リモコンで操作される事態」……リモートコントロール(遠隔操作)される危険性、という意味合い
【今後のおはなし】
・早渡は上でああ言ってるけど、「狐」本戦にはまず参加しない(できない)方向
・「ピエロ」の件はPナンバーも、∂ナンバーも動く(予定)
乙でしたのー
投下を見届けたので一旦力尽き( ˘ω˘)スヤァしてきます。詳しい感想やらお返事は明日
と言いつつこれだけはちょいと確認
九宮空七さんに関して、それぞれの所属組織が情報持ってない(「狐」勢力でそういうのいるって情報はひとまずない)よっての、一応伝えた方がいいかな?
伝える場合、早渡がそれぞれがどこの所属か(どこと繋がりがあるか)改めてきちんとわかる感じになりそうではある
ついでに
>>531
> あとこんなときだからこそシッポリ(意味深)やってたのか
九十九「それはない」
咄嗟に取った行動の発想が若干、後で「先生」がとる行動と被るが……
遅い時間になって申し訳ないです
>>544
> 九宮空七さんに関して、それぞれの所属組織が情報持ってない(「狐」勢力でそういうのいるって情報はひとまずない)よっての、一応伝えた方がいいかな?
負担が増えそうですが、是非ともお願いします……!
九宮に関してはこの後チラ裏に何か残しておきます
改めて次世代ーズの人乙でした
東ちゃん、咲李の直前に引き込まれて死んでるので他の誰かを引きずり込んでないのでキレイナからだよ大丈夫(??)
そして
> いや、今はいい。信じよう、広瀬(晃)ちゃんの良識と良心を
(幼馴染達の方を見る)(沈痛な面持ちで首を左右に振られた)
…………ふぁいと!
ひとまず天地の仕事は確実に増えたな……
……「狐」本戦でこれ天地ストレス解消とばかりに派手にやるんじゃ
そしてさらに気づいた
あ、これ、「先生」退席させててよかった(若干「先生」の地雷と言うかトラウマ案件が聞こえた為)
>>531>>545
> 九十九屋さんのヤバいフラグ臭が怖い
このところ頭痛で寝不足気味なのに頭痛悪化してるので、決戦当日寝不足&頭痛でバトルになりますね
コンディション最悪では???(なおそれくらいのハンデがあってちょうどいい可能性からは視線を逸らす)
>負担が増えそうですが、是非ともお願いします……!
持ってないって伝えるだけならたいして負担にならないんでだいじょーぶ
■いままでのあらすじ
「みんなで遊ぼう」「みんなで遊ぼう人狼遊戯」
↓
>>510-513
「人狼遊戯のその後に」
↓
>>533-542
「次世代ーズ 「いよっち先輩からの質問」」
↓
今から投下するの
ハ_ハ
('(゚∀゚∩ いくよ!
ヽ 〈
ヽヽ_)
(あれ?)
手洗いから戻る際中、早渡はわりと大きめのサイズの蜘蛛の姿を見たような気がした。
そう、結構大きい。サイズ的に、軍曹ことアシダカグモだろうか。
あれは物体Gすら捕らえるという最強クラスの狩人。益虫として放置されていたのだろうか。
どちらにせよ、物陰に戻っていったから関係ないか。
「――――――り神の御仁は、今は警戒を強めていて、そうやすやすとは――――」
「だからって――――そもそも、お前、どこでアレと接触――」
部屋に戻る途中、診察室の方から「先生」と、鬼灯……周りが言っている様子から想像するに、「地唄師匠の鬼灯先生」その人の会話の断片が聞こえてきて。
微妙に、不穏な単語が混じっていたような気がしつつ、早渡は皆のいる部屋へと戻った。
まだ、きちんと答えを聞いていない部分が、あるのだから。
「…………「先生」が退室しといて正解だったか」
ぽそり、と灰人が口に出したのを、慶次は聞き逃さなかった。
その意味を、ふと考える。
(……そういや、あの白衣がそもそも発狂するに至った原因は確か……)
「………………邪魔だな、「ピエロ」」
(ん?)
……今、聞こえた呟きは、誰のものだった?
酷く冷え込んだ、同時に心底苛立っているような、そんな声だったような……
軽く皆を見回したが、俯いたままの憐以外は大体皆、何やら思案していた。呟いたのなら、他にも誰か聞きとめていたはずだが気にしている様子のものはいない。
憐が呟いたとしたら違和感を感じるし、気のせいだっただろうか。
…………そう考えていたら、早渡が戻ってくる。
す、と、皆の意識と視線がそちらを向いたが、憐はうつむいたままだった。
「さて、っと。俺達が、「狐」の配下も全員殺そうとしているか、だけど」
相変わらず、直斗はにこにこと笑っているままだ。
いくら物騒な話題になろうとも、変わらない。心の内を見せないための笑顔を続けている。
「……「狐」についてる人達、基本的には誘惑にかかった被害者、だから……殺さずにすむのが、一番なんだけど……」
先ほどとあまり変わらぬ、弱々しいような。気弱さや心細さを感じさせる声で、憐がそう答えた。
憐の、普段の行動やら言動やら見ていれば、「できる限り殺したくはない」と、そういう事なのだろう。
もっとも、同時に、そうやりたくともできない事もわかっている。そんな様子の声だ。
「全て、生かしたままは難しいでしょう……特に、契約者の方ではなく、都市伝説そのものとなりますと……」
「「狐」に誘惑されてる状態じゃなくとも、人を害する意思があるなら、って事ね」
龍哉と優が続けてそう答えてきた。
そう、問題はそこだ。
ただ「狐」に誘惑されて操られての行動であれば、それはただの被害者でしかない。
だが、元から、人に害をなすような者の場合。誘惑が溶けたらそれはそれで普通に人へと害を与え続けるだけ、になりかねない。
そういう存在となると、どうしても処分する必要性があるという事だ。
一応、契約者ではなく都市伝説そのものの方だけをさして答えていたが。契約者であろうとも、元から悪人である場合はただ取り押さえるだけは難しい可能性がある。
……それこそ、土川 羽鶴のような例もある。一応あれは生かされたが。あれより酷い相手だと難しくなるだろう。
「……「狐」の配下と会話、だけど…………できるかどうか、は、わからない」
「会話したいなら、「組織」に身柄確保される前にさっさと接触しないと。多分、聞く暇すらないわよ。どうしても会話したいなら、融通利かせてもらえるようにはしてみるけど」
晃の言葉に続けていた神子が、お父さんの胃が死なない程度に、とぼそっと続けていた。
……確か、神子の父親は…………あぁ、うん。胃の無事を願っておこう。
「…………なるたけ、九割殺しで抑える」
「それ本当に抑えてる?大丈夫?うっかりもう一割いかない?」
「そこまで貧弱なら、元から話ほとんど聞き出せねぇだろ」
「……遥には後でよく言い聞かせとく」
遥の返答には流石に早渡からのツッコミと灰人からのフォロー……フォロー……?が入った。
確かに、遥の戦闘力を考えると、相手次第では本気で九割殺しが十割になりかねない。
…………それくらいの存在なのだ。「ベオウルフのドラゴン」、と言うより竜種の類の契約者と言うやつは。
遥の場合、祖父が「黄金伝説のドラゴン」との契約を維持している者であるため、そっちを見本にしている可能性があるからあまり自分の実力を気にしていなさそうだが。
「九宮空七、だったな。「組織」の方……と言うか、CNoとANoでは、少なくとも彼女が「狐」に加担してるって情報はないんだよな?」
遥と灰人が睨み合いかけたところで、直斗が話題を逸らすようにこちらとかなえに問うてきた。
問われると思っていなかったのか、かなえはやや慌てた様子だったが。
「あぁ。こっちが見た範囲ではなかった……なかったよな?」
「う、うん。なかった、と思う……」
『主の傍で見ていたが。そのような名前や、先ほどの画像の面影がある女子はいなかったはずだ』
ぬぅ、とかなえの傍に「岩融」が姿を現した。
今までずっと姿を消していたそれが姿を現したのを見て、東が「わ」と驚いたような声をあげたのが聞こえた。
「俺達が閲覧できない範囲の資料にあった場合は別だけどな。それこそ、SNoとか」
「あそこの資料は閲覧制限厳しいものね…………あ、「組織」のDNoの資料でも覚えないわよ、その子については」
神子も、そうきっぱり言い切った。
彼女の父親はDNoではそこそこ、上の位についている。担当契約者がアレ(憐の父親だが)なのと当人が仕事人間なところがあるせいで未だに割を食っている面はあるが情報は確かだ。
……そして。
「「獄門寺組」にて集まっている情報にて、その方の情報はありません」
「「首塚」も同じく。おふくろが見せてくれた資料にもなかった」
「……「教会」の情報でも、なかった、と思う」
「「レジスタンス」に集まってきている情報の中に、その名前はないな」
「「マッドガッサー一味」として。その名前、「狐」の手駒の中に確認していないわ」
「……ん…………データ見直したけど、ない」
龍哉が、遥が、憐が、灰人が、優と晃が続ける。
いくつもでる集団の名前に、東が目をぱちぱちとさせていた。
「みんな、違うところからの、情報……?」
「そりゃ、ある意味みんな所属違うからな」
「俺は、厳密には俺が所属してるんじゃなくてお袋がだけどな」
口に出された疑問に、直斗と灰人が答えている。
そう、この連中はみな、所属している集団が違うのだ。
まぁ、「獄門寺組」や「マッドガッサー一味」は「首塚」との結びつきが強いし、遥や憐のように片親が「組織」絡みと言うパターンもあるが……
「気になるようだったら、「先生」と鬼灯さんにも聞いとくといいよ。「先生」なら、「薔薇十字団」からの情報知ってるはずだから」
結構上の方の情報も、と付け足す直斗。
……あぁ、本当。
ここにいるだけで、だいぶ、多方面の情報が集まる。
(愛百合からの情報がだいぶ偏ってたってのがわかったのも。まぁ、勉強の一つか)
多方面からの情報が集まるなら、それを吸収るするまで。
……そして。それを、仕事に活かしていくだけの事だ。
to be … ?
>>547-550
投下お疲れ様でした
こうして情報が出たことは非常にありがたい
あと花房君がスムーズに司会進行してくれたのにも感謝です
かなえ嬢、思わぬタイミングで話振られてビックリしてるのいいですね
全員の所属グループでは、今のところ九宮が特に「狐」に加わった情報は得られてない
そういう整理した早渡は(じゃあもう「狐」の配下に直接確認するしかねえか……)と考えるか
念のため「先生」と鬼灯さんに尋ねるとしたら戻って来たタイミングかな?
了解です、これを受けて今度は短い話になる、と思いますが出します
しかしこちら都合で恐らく明日、明後日は来ることができない可能性が大 orz
メモをいつもの場所に残します
>>549
一晩経ったら気になりだした
「先生」の地雷って娘さん関連だろうか
しかし「先生」の発狂は20年前、いや娘さんの年齢にもよるか
>>551-552
>あと花房君がスムーズに司会進行してくれたのにも感謝です
契約者じゃないしどこの集団にも所属してない分、手に入る情報はどうしても後れを取りやすいんで
その分、司会進行みたいなの請け負いやすくて慣れてるんでしょうね
>念のため「先生」と鬼灯さんに尋ねるとしたら戻って来たタイミングかな?
かなー?
二人共、適当なタイミングで部屋に戻して大丈夫です
>「先生」の地雷って娘さん関連だろうか
いんや、洗脳で恋心植え付け云々の方
■いまからとうかするもののおおざっぱな時間軸
「死毒より未来生きる者へ」(wiki参照)の後から「動き出した歯車は止められない」(wiki参照)の間辺り
ハ_ハ
('(゚∀゚∩ そこまでほんぺんにかんけいないから
ヽ 〈 どれくらいかそうとうおおざっぱだよ!
ヽヽ_)
非日常を知っているが故、日常を過ごすにしても多少の警戒はどうしてもある。
それでも、全く警戒しないよりはましであろうと日常を過ごす。
それでなんとかなっているのならば、まずはそれでいいのだろう。
(中央高校よりは、都市伝説の出没頻度低いしな……)
それでも昔よりは出没頻度は減っている、とは聞くのだが。
周囲から聞いた話では、まだそこそこ出没するというのだからあちらは忙しそうだ。
父親の勤務先だからと言う理由であちらへの進学は止めた訳だが、そういう意味でも正解だったのかもしれない。
「――――み。荒神ー?聞いてるか?」
「ん?……あぁ、悪い。聞いてなかった」
「お前なぁ。「ヴァンパイアCATS」ではどの子が一番可愛いかって話してたろ」
「前から言っているが、俺はアイドル関連は興味がない」
「「FOXGIRLS」のリーダーは知ってるじゃん」
「あれはアイドルとしてじゃなくてアクション女優として認識してるだけだ」
クラスメイトとの日常の会話は悪いものではないしなるべく行った方がいいというのはわかっているのだが。
それでも、興味のない話題はどうしても流れやすい。アイドルにも人の美醜にもそこまで興味がない自分に、今回の話題は難易度が高い。
こんな自分と、それでも会話してくれるクラスメイトにはいい加減感謝すべきか。
「あ、いたいた、荒神くーん、はい、預かりもの」
と、クラスの女子が一人駆けてきて、何やら封筒の形に折りたたまれた紙を渡してきた。
ハートのシールで封がされている。おそらく、便箋か何かをレターセットの封筒のように可愛らしく折りたたんだものか。
「何それ、ラブレター?」
「そうじゃない?どこの学年でどこのクラスの子かわからないけど、荒神君に渡してほしいって預かってきたの」
「…………深川。せめて、そういうもん預かるなら名前くらいは確認しとけ」
中学の頃からの知り合いのその女子は、「ごめーん」等と軽い調子で謝罪してくるが。
せめて、預かりものは預けてきた相手の名前くらい把握していてほしい。
覗き込んでくる周囲を軽く払いながら、折りたたまれたそれを広げて確認する。
大事な話があるから、放課後に校舎裏に来てほしいという短い一文が丸っこい文字で書かれていた。
「やはりラブレターか……」
「くそ、いつも灰人ばかり……!おこぼれは来ないのか!」
「今年入ってから何回目だ?」
「八回目だな……そして、こいつはそれを全て断っている」
「その気もないのに告白承諾したら、それこそ相手に失礼だろうが」
もっともな事を告げたつもりなのだが、なぜか嫉妬の類が混じっていると思わしき視線が突き刺さる。
付き合う気もないのに承諾する方が、相手に失礼だろう。
手紙を、元の折り目を無視して適当に折りたたんでポケットに放り込む。
「ほら、次の数学、小テストあんだろ。そろそろ準備しとけ」
「あっ」
「っく、その事実から目をそらしていたというのに……おに!きちく!!」
「現実から目をそらす暇あったら勉強しろ。岸立を見習え」
こちらの会話に耳は傾けていたようだが、会話には加わらず予習していたクラスメイトをちらりと見る。
視線に気づいたあちらは、軽く笑ってきた。
学年一位を去年からずっとキープしている彼は、がり勉と言う訳ではないが日々の努力は怠っていない。
半分唸りながら席に戻っていく連中を見送りながら、適当にポケットに突っ込んだ手紙を思う。
今日は、診療所に行くのは遅れそうだ。
放課後、人気のない校舎裏に向かう。
誰かにつけられている、という事はない。
手紙に書かれていた通りと言うべきか、一人の女子生徒の姿がそこにあった。
あまり、血色のいい顔ではない。
「あ……来てくれたんですね」
「呼び出されたからな。で、何の用だ」
さっさとすませたい。
用件を切り出すように言えば、その女子生徒は物憂げに俯いた。
「その……私、あなたに、一目惚れを」
「俺は興味ない」
即答する。
色恋の沙汰には、今のところ興味はない。
一目惚れというものが、よほどの事でもない限りただの思い違いだという事も知っている。
「用件がそれだけなら、帰るぞ」
「あ、ま、待って……」
背を向けて歩き出そうとすれば、腕を掴まれた。
女子生徒とは思えぬ強い力で、束縛される。
「酷い人」
薄く笑う声。
首元に、牙が、伸びて。
「あら?」
間の抜けた声がした。
こちらが束縛を抜け、振り返りざまに首を斬りつけたのがよほど不思議だったらしい。
ほんの一瞬だったし、相手はどうにもこちらの首筋しか見ていなかった。どうやって束縛を抜けたのか気づいてすらいまい。
「切り裂きジャック」の、犯人は医者であったという説。それによって手元に生み出されるメスは、いつでも鋭さを保っている。
「ギ……!?きさ、ま、気づいて」
「お前の顔の生徒はこの学校にはいない。転入生が来るという話もない」
学校の生徒と教員の顔は全て記憶している。
目の前の相手が、学校の生徒ではない事くらいはわかる……たとえ、この学校の制服を着ていようとも、だ。
「三年の特進科で、行方不明になった生徒が出ていたな。成績が伸び悩んでの失踪、と噂されてはいたが。お前が殺したか」
「ギ、ギギギ……」
ずる……と、体から首が、抜けた。
その生首から食道が繋がっていて、内臓がぶらりとぶら下がる。
「ペナンガラン」。マレー半島とかあちらの伝承の存在だったはず。
女の生首から内臓垂らして飛び回る吸血鬼。
「殺して、体を奪ったか。首はどこへやった」
「ギ………っ、キキキキッ。さてね。そこらの犬コロに、くれてやったさ」
牙が伸びる。
こちらを、獲物と見定めている。
「アタシは、お前みたいな、契約者の血が好きなんだよねぇ……!吸わせろぉ!!」
正体を見破られた時点で、こちらを生かすつもりもないのだろう。
内臓が、うねる。
こちらを束縛せんとうねり伸びてきたそれへとメスを突き立て、そのまま切り裂きながら一気に本体たる生首へと近づく。
「ギギャ……ッ」
「「狐」の勢力でもなさそうだ。もう聞き出す事もない」
ぐるりと、唇を、鼻を、眉間を。
一閃し、さらに、見開かれた目に突き立てる。
「この時期に、余計な手間を焼かせるな。鬱陶しい」
悲鳴をあげる事もなく、ぼとり、「ペナンガラン」は地に落ちて、そのままさらさらとその生首が、内臓が、塵のように崩れていく。
あとに残されたのは、使われていた犠牲者の体。
ため息をついて、携帯端末を取りだす。
「……あぁ、お袋?……「ペナンガラン」を討伐した。それが使ってた体が残ってる…………わかった。悪いけど、任せた」
「レジスタンス」経由で、始末は任せる異にして。
いつも通り、メスを消すと、さっさと診療所へと向かう事にした。
非日常はいつでもすぐそばにある。
それに対処できるように日常を過ごす。
……それが、自分の変わらぬ日常なのだろう。
to be … ?
そういえば一人だけ通う高校違うせいで学校での様子が出てなかった灰人の学校での様子でした
彼は彼なりに、日常を楽しんで守っているようです
>>555-557
投下お疲れ様です
東区の高校も割と実害あるやつが徘徊してるな!?
そして遂に出ましたか、FOXGIRLS……これはお狐仮面が学校町にも登場するフラグかな? (明らかな話題の飛躍)
> 学校の生徒と教員の顔は全て記憶している。
凄い、これは凄いぞ、自己紹介の手間が省けるな!
高校の生徒を名乗る侵入者がいても一発で分かるというね
>>553
> いんや、洗脳で恋心植え付け云々の方
闇が深すぎる……
節分
①節分の日の業務終了後
コトリー「せっつぶーん! ですのー!」
JD先輩「節分といったら豆撒きだよなー」
おばちゃん店員「ちなみにもう『ラルム』の豆撒きは済ませたわ」
おばあちゃん店員「後片付けもバッチリ❤」
せと 「ちなみに今年も店長は私たちに節分専用の衣装を着せようとしましたが全力で阻止しました!!」
店長 「 😂 」
コトリー「さすがにあんな丈が短いトラ柄の衣装は肌が見えすぎですの!」 プンスカ!!
店長 「それがいいんじゃないかー 😂 」
せと 「店長さんがちょっとかわいそうだったので、角のヘッドバンドだけ付けました……」
②恵方巻
JD先輩「そして節分といったら恵方巻だろー!?」
コトリー「今年もてんちょーとヒロ先輩が頑張ってくれましたの!」
店長 「ふふふ……! まかないにしては気合入れすぎちゃったかな?」
ヒロ (頑張ったって言っても、店長さんが用意したのを巻いただけなんだけど……)
JD先輩「そんで、今年の恵方は北北西なんだけど」
ヒロ 「えっと、コンパスアプリを……」
おばあちゃん店員「今年の恵方はぁぁぁ! ずばりぃぃぃぃ!」 キュイイイイイイイッッ
おばあちゃん店員「あっちじゃああああ!!」 ペカァァァァァァ
おばあちゃん店員「業務用第一冷蔵庫と作業棚の間!!」 ビシィッ
JD先輩「あっ事前に調べててくれたんすね、アザーッス!」
おばあちゃん店員(うふふ❤ これくらいは「五時ババア感覚」でお茶の子よぉ❤)
説明しよう! 五時ババア感覚とは!
「ラルム」の店員であるおばあちゃん店員は何を隠そう、都市伝説「五時ババア」なのだが!
彼女は生来の能力として、時計の力を借りずとも現在な時刻、及び「5:55まであと何時間なのか」を割り出すことができる!
これは地球の自転や各恒星、惑星との角度等を五時ババア的磁気コンパスやババア的霊感によって取得し、無意識下の演算で割り出しているためだ!
そしてこのスキルを利用することにより現在位置から見た正確な方位をも把握することができるのだ! これらの技能は「五時ババア」としての長年の研鑽によって獲得されたものだ! 怖い! 恐ろしいぞ! 五時ババア!!
せと 「それじゃ、頂きます」
JD先輩「ちゃんと願い事を考えながらだぜー」
コトリー「……」 モッチモッチ
せと 「んっ……んん……」 ンモンモ
JD先輩「う……ふうっ……んっ……」 モッモッ
ヒロ 「……」
ヒロ (なんで三人とも目からハイライト消えてるの? なにそのエッチな吐息……エッチなんですけど……)
コトリー「んんーふ、んふふー……(みなさんも良い節分をー)」 モッチモッチ
■登場人物
コトリー: コトリーちゃん。『ラルム』の店員さん。登場はめっちゃ久しぶり
せと: 遠倉千十。『ラルム』の店員さんでコトリーちゃんと同い年。「次世代ーズ」ではようやく本格的に前に出てきた
JD先輩: 『ラルム』の店員さん。コトリー、せととバイト同期
おばちゃん店員: 『ラルム』の支柱。パート暦ウン十年のベテラン。一般人
おばあちゃん店員: 『ラルム』の心臓部。男一人の店長を色々サポートする。正体が「五時ババア」だが、それを知ってるのは(店員さんでは)千十くらい?
店長: 『ラルム』の店長。悪い人ではないけど高校生バイト組のコトリー&せとにコスプレさせようとするが常に断られる。味方はJD先輩くらい
ヒロ: 今回初登場の『ラルム』の店員さん。美大生で、「ラルム」の広告デザインは彼女の手によるもの
■ラルム
芽香市(通称:学校町)東区に隣接する市(といっても限りなく東区に近い)に位置したカフェ
店長さん的には学生や若年層にも入りやすいお店にしたかったようだが、メニューがお高めなので今のところ客層は高翌齢者やおでかけ中のご婦人が多い
都市伝説や契約者による抗争と無縁な平和空間……なのだが、お忍びで神様と呼ばれる存在がひそかにお客さんとしてやって来ることがある
9月時点から開始した「次世代ーズ」より少し前に、店舗と店員が呪詛汚染被害に遭う事件が発生しており、このときは土地の守り神が激昂した
前回の続き、今夜中には出せそうですが
日付またぐ前に間に合うか……!?
>>561
× 高翌齢者
○ 高齢者
漢字置き換えトラップを回避したと思ったら、ツール上の目視確認を怠っていました、おのれ
余談ながら、「ペナンガラン」は「イブラリン」と言う名前で日本では紹介されたこともあるそうです
胃ぶらりんと覚えると早いかもしれません(???)
次世代ーズの人乙でしたの
恵方巻と言えばエッチな食べ方だよね(??)
>>559
>東区の高校も割と実害あるやつが徘徊してるな!?
中央高校ほど都市伝説の出没頻度高くないにしても、たまにこういうの出たりはしそう
>高校の生徒を名乗る侵入者がいても一発で分かるというね
当人曰く「事務員や用務員とかは覚えきれてないからまだ穴がある」との事
そこまで覚えるのは流石に大変じゃねぇかな……
>>548-550
「簡単なご返答」 へのクロス
●内容
・「狐」本戦参加組からの返答を受けて、早渡の会話
・「先生」、鬼灯と早渡の会話
・そういや早渡が持ち込んだ大き目のフルーツロールケーキはどうなった!?
診療所のトイレを借りて、顔を洗った
少しだけすっきりした、気がする
思えば色々話してしまった
いやでももう後には引けない
いずれやるべきことだったから
鏡越しに自分の顔を睨む
思った以上に顔に出てるな、俺
トイレから出た後、大きめの蜘蛛の姿が見えた、気がする
それも割と大きめのやつだ
診療所にも出るんだな
いや見間違いかも、なんかそれっぽい影だっただけかもしれない
(脩寿、知ってる? 蜘蛛はね――)
何故このタイミングで思い出すのか
昔々、空七に言われた台詞だ
(――知恵の神様なんだよ。だから、虐めちゃダメだよ)
思わず溜息が漏れる
空七。お前、一体どこで何やってんだよ
事と次第によっては――いや、今は考えるな
俺はほぼ無意識に
蜘蛛の幻影が見えた場所に、軽く頭を下げていた
部屋へ戻る途中、「先生」とあと一人の方――「通り悪魔」の御仁と「先生」に呼ばれていたので、ほぼ間違いないかもしれない――の声を聞いた
まだ話し中のようだ、部屋へ戻ろう
「さて、と。俺達が「狐」の配下も全員殺そうとしているか、だけど」
部屋に戻り、花房君が再び音頭を取った
前々からうっすら感じていたが、花房君はこの手の進行が得意なようだ
全員が色々と教えてくれ、助言をくれた
現時点で「狐」の手勢に加わった者は魅了の被害者、基本的に殺さずの方針を取るが
それでも全員を生かしたままにするのは難しいであろうこと
それ故に、恐らく「狐」の手勢との交戦は熾烈を極める
手勢との会話は困難、会話できるとすれば「組織」に身柄を押さえられる前だということ
「なるたけ、九割殺しで抑える」
「それ本当に抑えてる?大丈夫?うっかりもう一割いかない?」
「そこまで貧弱なら、元から話ほとんど聞き出せねえだろ」
「……遥には後でよく言い聞かせとく」
「あ?」
日景からそんな物騒な返答が飛び出し、思わず突っ込んでしまった
黙って話を聞くつもりだったが、なんというか日景はちょっとみんなともどこか少しズレてるっぽいな
いや、これはあくまで俺の感想だ。わざわざ口に出すつもりはない
しかしなんか今度は日景と灰人先輩がバチバチし始めたんだけど?
何? 日景は一体何処にどんだけ地雷もってんの? ちょっと怖いんだけど
続いて花房君は(日景と灰人先輩の睨み合いを流すように)みんなの所属組織が空七の情報を握っているか、全員に確認した
おおむねどの勢力も、空七が「狐」に加わってるかどうかの情報を持ち合わせていなかった
……ちょっと先行きが不安になるな。そもそも空七のAN-Pがアレだとしたら、絶対に他勢力の注意を引くはずだ
「気になるようだったら、「先生」と鬼灯さんにも聞いとくといいよ。「先生」なら「薔薇十字団」からの情報知ってる筈だから」
「オーケー、お二人が戻ったら確認してみるよ」
花房君からありがたい提案だ
だが、花房君の厚意を無下にするつもりじゃないけど、他の勢力も情報を握ってないなら
恐らく「先生」や鬼灯さんも知らない可能性がある
てか、あの人は鬼灯さんで間違いないらしい。後で本人に直接尋ねてみよう
そうしてると、憐ちゃんの視線を感じた
見れば少しだけ顔を上げてこちらを見ている、気がする
いや、憐ちゃんの前髪の所為で実際にこっちを見ているのか分からないけど、口元が何か言いたそうな感じするぞ?
「さっきの話だけどよ」
憐ちゃんに声を掛けようとした寸前で、日景に話し掛けられた
「そもそも、魅了が解けたからっつって。手駒がお前に協力するかは何とも言えねえ
欲しい答えが返ってくるなんて期待はしない方がいいんじゃねえか」
「そこは理解してる。めぼしい情報が得られたら御の字くらいで考えてるよ」
「よし、決まりだな。こちらとしても可能な限り協力はする
でもみんなからも話が何度も出てるように、九宮空七が加わってるかを聞き出すこと自体が難しいと見ている
それでもいいなら手を貸すよ。あまり期待はするなよ?」
「分かった、協力に感謝するよ。ありがとう」
日景と俺のやり取りを聞いて、花房君がいい感じでまとめてくれた
俺からお礼の後で、具体的なプランについて話した
①「狐」の配下を確保したタイミングで俺を呼び出してもらい、俺が間に合えば配下の奴に直接空七の参加如何を聞き出す
俺の本心としてはこっちで行きたいが、何度も話が出たように難しいのは承知だ
②俺が間に合わない場合、俺に代わってみんなのうち誰かが「狐」の配下に空七の参加について尋問する
そして現場が落ち着いたタイミングで、改めて俺に情報を共有する
こちらは次点だが、現実的にはこちらで落ち着きそうだ。だがこちらにしても困難な頼みであるのには変わりない
「ま。答えがあったら儲けもん、程度で考えとけ」
●
「うん? “塩の柱にする光を放つ”契約者? 迷い子の少年の幼馴染か。すまんな、そんな話は聞いていないね」
「そう、ですか」
「少なくとも『薔薇十字団』では掴んでおらんね。あの後も調べてもらってはいたんだが、今に至るまでクリスからもそういう話は入っておらん」
しばらくして「先生」と鬼灯さんが戻って来たので、早速俺はお二人に尋ねてみた
「先生」は以前俺と会ったときから、改めて状況の確認を取ってくれていたらしい
クリス、とは「先生」のお知り合いだろうか? 「薔薇十字団」――恐らくヨーロッパの勢力かもしれないが詳細は不明だ――でも空七の加担は不明だという
「俺も長いこと『狐』を追ってるが。そんな奴が加わってるって話は耳にしてないな」
「ん、んー。そも、それほどの契約者が『狐』に加わってるなら、どの勢力も真っ先に警戒するであろ?」
「だが。そいつが仮に『狐』に抱きこまれたとしたら、時期は三年前。だったな? 坊主」
「はい、可能性としてはその時期です」
鬼灯さん、そう呼ばれた方は
煙管を燻らせながら思案気の表情で空を見ていた
「そんな殺人光線ぶっ放せる奴を抱き込んでんなら、『狐』にとってもとっときの隠し玉だ。今でも隠匿してる可能性はあるんじゃ無えか?」
「んー、切り札としてはあり得るだろうが、あまりそういう可能性は考えたくないね」
「それも『狐』を潰しちまえば、自ずから明らかになるだろ」
鬼灯さんの仰る通りだ
結局は「狐」さえ仕留めれば、空七が「狐」に加わってるかどうかははっきりする
それで
もし、空七が
「狐」に加わっていなかった場合は?
魅了ではなく、自らの意志でアレをやったのだとしたら?
俺は
俺は、「先生」と鬼灯さんに頭を下げた
●
「じゃ、早渡君が買ってきたロールケーキ、全員食べてね」
「俺は甘いの苦手だ」
「とにかく食べて。この量だと全員で食べないと減らないし、残りが『先生』の冷蔵庫行きになるにしても、減らさないと」
「私は構わんよ」
悪い! 広瀬(優)ちゃん!
彼女が全員に声を掛けて、俺が持ち込んだロールケーキを銘々に押し付けていた
俺が買ったのは、南区のケーキ屋で売っていた、やたら大きいと有名なフルーツロールケーキだ
大きいと評判のフルーツロールで、味は良いがお値段も中々良い感じに張っちゃう一品
そこそこの人数が集まるって聞いてたから良かれと思って買ってきたんだが
あんなヘビーな話の後だ、持ち込んだ俺の想像力不足がとっても痛い
日景は憐ちゃんの様子を気にしてたようで傍にいた
俺も憐ちゃんが気になるが、今は日景に任せよう
ちら、と横目で角田の人をうかがうと
相変わらず俺が渡したバインダーをめくりながら深刻そうな面持ちで携帯を弄っていた
その横にいる紅ちゃんは角田の人の顔色をうかがうように、一緒にバインダーを眺めているようだ
ちなみに紅ちゃんの手元にはロールケーキの三分の一、いや半分近い量が皿に盛られている
大丈夫、紅ちゃん? 胸焼けしない? いざとなったら角田の人の口に詰め込んでくれよ?
「で、坊主。話ってのは」
俺は今、鬼灯さんを前にしている
一応場の空気もいささか緩んだ頃合いだ
そう判断して、先ほどから気になっていたことを確認しようとした
「あはい、あの――不躾ですいません。鬼灯さんは、あの“鬼灯先生”でしょうか?」
「あの“鬼灯”てのは、どの鬼灯だい? この世に鬼灯を名乗る奴ァ腐るほど居るが」
鬼灯さんは優雅な手つきで煙管を弄びながら、そんなことを言う
むむむ、この雰囲気といい応じ方といい、恐らくドンピシャかもしれない
そうだな、ここはひとつ――
「俺の言う“鬼灯先生”は一人だけです
佐渡相川の『闇市』では鬼灯さんが来たと知れただけで、市中がお祭り騒ぎになって
鬼や人の子が集まって来ては鬼灯さんに遊んでもらうんだと構って貰えるまで決して離さず
沼垂の花街に足を運べば、その三味線の音色を聞きたいと誰も彼も自分の店へと引き込もうとする
それに極め付けは鍾恩屋の太夫さん、絶ッ対にお客には表情を見せないって有名な巻田さんから逆指名され
お会いしたらお会いしたで傍目からも分かるほど巻田さんの色白の顔は燃え上がるように一瞬で真っ赤になったそうじゃないですか
こんな武勇伝があるのはこの世広しと言えど貴方だけですよ、“地唄師匠”の鬼灯先生」
「な――ンで坊主が色街の話を知ってンだ」
「なんなら、まだ挙げましょうか? 鬼灯先生の武勇伝」
「分かった分かった、俺ァお前さんの謂う鬼灯だろうさ。だが此処では“先生”は止めな」
「承知しました、鬼灯さん」
参ったと言わんばかりで俺を片手で制してきたのは、やはりあの鬼灯さんだったらしい
まさか学校町でお会いすることになるなんて、思ってもなかったぜ
「坊主、まだ名前聞いちゃいなかったな」
「あ、自己紹介がまだでしたね
今年の三月までは『北辰勾玉 庵屋』で厄介になってました、早渡脩寿と申します
今年の四月から学校町に越してきて、南区商業に通ってるんですけど」
「成程、合点がいった。お前が“七つ星のコトブキ”で、“かんのぬえ”だな?」
「――っッッ!?!? な、なんでそれを!?」
思わず周囲を見回す
が、幸いなのか誰も聞いてなかった様子だ、多分
見れば広瀬(晃)ちゃんのところに若干名集まってる様子だ
俺の携帯か? 角田の人から再び広瀬(晃)ちゃんに返された俺の携帯か?
だが今はそれどころじゃない!!
「飛騨高山で『悪魔』とやり合ったんだろ? 界隈じゃあ有名な話だ
それに穂張の若柘榴役とも仲良くなったって言うじゃねえか。で、いつ嫁に獲るんだ?」
「違うッ! 違いますッ!! 高山のアレはともかく、穂張の件は完ッッ全に誤解です!! どうか、内密にっっ!!」
全部バレてるっ!! 全部バレてやがるっ!!
この様子だと息巻いて「天使」とガチったところを瞬殺された話とかも知ってるに違いないっ!!
鬼灯さんは煙管を弄びながらくつくつと笑っている
あっ! も、も、も、もしかして揶揄われた!? もしやさっきの仕返しか!?
「そんで、コトブキ。脇本の旦那は元気かい?」
「へ? あっ! え、お、親父殿っすか? 元気ですよ、ピンピンしてますけど」
「旦那には昔少しばかり世話になってな、旨い酒をよく知ってる。昔話を聞いたりするか?」
「あの、いえ。親父殿はあんまり昔の話をしたがらないし、訊いてもとぼけちゃうんで」
「そうかい、その様子じゃ先代団三郎の前で上覧試合やった話も知らねえだろうな」
「えっ? えっ?? ちょっ、い、何時!? いつの話ですか!?」
「明治だか大正だか。まあアレだ、お前さんが成人した暁にでも聞けるだろ。楽しみにとっとけ」
「えっ!? えっ!!??」
鬼灯さん、親父殿の過去を知ってるのか!?
うわっ聞きたい! 本心を言えば今直ぐ聞きたい!!
てか俺の「七つ星」時代の恥ずかしい話も知ってる可能性高い!!
どうしよ俺!! 落ち着け俺!!
そう、そうだ。空七だ
落ち着け、今は混乱している場合じゃない。落ち着け、俺
「坊主が気負うことは無えだろ」
鬼灯さんは、まるでこれまでもそうしていたかのように煙管を燻らせていた
少しばかり――空気が張り詰めた、気がした
「柳は緑、花は紅。のさばる者は何れ滅ぶ。これが浮世の理って奴だ」
鬼灯さんの言葉はどこか楽しげで
しかし、確かに刃の切っ先じみた冷たさが滲んでいた
□■□
【補足】
・フルーツロールケーキ
早渡が学校町南区のケーキ屋で買ったという中々結構なサイズのフルーツ入りロールケーキ
評判になるほど美味らしいが、その分値段も張る
そうです、前スレ 935 の回収です
・佐渡相川の『闇市』
団三郎の本拠。恐らく此処の闇市は常人には知覚できない半異界に存在する
「闇市」を束ねる「広商連」は特に三つの勢力に大別することができ、日本三名狸伝説にあやかった名を持つ。団三郎はその一つ
・沼垂の花街
御存じ色街、実在の地域にオーバーラップするようにして異界内に位置する
人妖の別なくいろんなおねえさんがいます
・鍾恩屋の巻田さん
高級遊郭、鍾恩屋
そこに籍を置く、太夫と呼ばれる花魁のおねえさん
「雪女」の血筋らしく、その美貌を一目見た男性は一瞬で心奪われるという
彼女は「地唄師匠の鬼灯先生」の噂を聞き、さらにはその三味線の音に心を奪われ
是非ともお会いしたいと方々に無理を言って、遂には鬼灯さんを逆指名することに成功する
ところがいざ鬼灯さんと対面するとお顔が真っ赤になってしまったらしく、その後どうなったかは話が伝わっていない
ある筋によると、巻田さんと鬼灯さんのやり取りを垣間見た鍾恩屋の女将さんも顔面が真っ赤になってしまったらしい
・北辰勾玉 庵屋
早渡が世話になった場所、「団三郎」勢力圏内にある
実在化した伝承存在や結界に関する保守サービスの実施や、護衛の業務等を請け負っている
「脇本の旦那」こと「親父殿」はここの長、詳細な年齢はとぼけ通しているが、戦国‐江戸時代の生まれなことは確からしい
・七つ星のコトブキ
早渡は「闇市」内で大体こう呼ばれる
“かんのぬえ”は用心棒(バウンサー)稼業時の名乗りで、「コトブキ=かんのぬえ」という事実は「七つ星」以外の周囲には伏せられていた
鬼灯さんには当代団三郎が酒の席でうっかりバラしちゃったのかもしれない
・飛騨高山のアレ
早渡の恥ずかしい過去。詳細は多分語られないかもしれないし、ちょっとは語られれるかもしれない
・穂張の件
穂張神社という特殊なお勤めをおこなっている神社には多数の娘さんがいるが
そこの美人姉妹と仲良くなったのが(主に姉の吹聴により)、なんか話が大きくなった
穂張神社や柘榴役についてはそのうち単発で出るかもしれない……「次世代ーズ」の気力があれば……
・上覧試合
先代団三郎の御前で行われた上覧試合
団三郎圏内の強豪が自慢の力と技を先代の前で披露したそうです
今より(若干)若い和装の親父殿(刀)は、洋装の紳士(糸と毒針)とかなり派手な立ち回りを演じたらしいが、この話は本編では出ないかもしれない
この上覧試合、もしかすると当時の獄門寺家や将門様ゆかりの方々も関わってるかもしれない
花子さんの人に土下座 orz
これで許可頂いた部分については大体言及できたか!? と思います
憐氏の突っ込みについては此処ではあまり触れずにでいきました
乙でしたー
蜘蛛は知恵の神様。そう、そんな一面もあるね(某トリックスターからは視線を逸らす)
かなえなら……それだけの量いける、な……!(なおカロリー)
そして鬼灯何やってんの?お前結婚前も人間社会で似たような事やったよな??っつかかつての結婚相手との出会いそういう感じの場所だったよな??
早渡君の携帯の中身……丸裸、だろうな……
>憐氏の突っ込みについては此処ではあまり触れずにでいきました
はぁいですよ
後日、お返事ネタっぽいの書けたらいいねの心意気で行きます
■いまからとうかするもののおおざっぱな時間軸
「死毒より未来生きる者へ」(wiki参照)の後から「動き出した歯車は止められない」(wiki参照)の間辺り
ハ_ハ
('(゚∀゚∩ なんかきゅうにおもいついたんだってさ!
ヽ 〈 そこまでだいじなしーんじゃないいきぬきだよ!
ヽヽ_)
荒神 憐。
中央高校の現狂犬たる日景 遥のお気に入り。
憐の事を、そのように認識している不良はちらほらといる。
実際、遥が大切な友人達の中でも殊更憐を気にかけているのは事実である。
それこそ、ナチュラルホモ疑惑をかけられるレベルで気にかけているし大切にしている。
動かしようのないその事実は、遥自身が一切合切隠そうとしない為に他人にまで認識されているのである。
憐にとってはいい迷惑であろうが、憐の方も昔からそうだったために変に慣れてしまっていてほとんど怒らない。
いつもへらへらとした軽い笑みを浮かべていて、体格に恵まれた遥とは正反対に小柄で細い体。
彼らがどのような縁で、絆で、結び付けられているのか。それを知らない部外者からは、遥が憐を宝物のように扱う理由もわからない。
だからか、勘違いする輩も存在する。
憐が遥の太鼓持ちだ、とか。虎の威を借る狐だ、とか。日景 遥の「コレ」だとか。
彼らの普段の様子を見ていればそうではないと(よほど頓珍漢でもないかぎり)わかる事であろうが、中途半端な噂で勘違いする者もいる、と言う事だ。
「なぁ、憐。一緒に帰r「はーい、はるっちは今日はバイトあるし俺っちは教会のお手伝いあるから帰り道反対っすからねー。まっすぐバイト行かなきゃダメっすよー」ちっくしょう!!」
いつも通りのやりとりをして、学校の前で遥と分かれる憐。
項垂れる遥に神子の一撃が入ったのは憐が背を向けてからだったのは、神子が憐に気を使ったのか、単なるタイミングの問題か。
他の、いつもつるんでいる幼馴染達も今日は各々用事があるようで憐と帰る方向が同じ者がいない。
一人で教会に向かって歩くその姿はあまりにも無防備で無警戒に見える。
――あれを痛めつけでもすれば、日景 遥も慌てるだろう。
――男にして小柄で顔立ちも可愛らしいあれが本当に男かどうか、脱がせて確認でもしてやろうか。
――きっと、とっくに「可愛がられて」でもいるだろう。
身勝手な、邪な、邪悪な思考でもってそれらは憐の後を付け始めた。
憐は気づいているのかいないのか。どちらにせよ、ついてくるそれらを気にする様子なく歩いていっている。
流石に、それらとて人目のある場所で絡みに向かう度胸はない。そんなことをして速攻遥にバレる危険を犯すほどの愚者でもない。愚者に変わりはないが、愚者にもレベルがあるのだ。
住宅街を進んでいき、あまり、人目のない道へ。
あと少し、あと少し…………
「……あ、カイザー司祭様。お買い物帰りっすー?」
「おや、憐。いえ、そうではないのですが……」
…………!
憐が、知り合いらしい司祭に話しかけにいった事でそれらは動きを止め、警戒態勢に入った。
東区にある教会の司祭……の、穏やかで人当たりがいい方だ。
大きな段ボール箱を抱えるように持っている。どこぞからおすそ分けでも貰ったのかもしれない。
「俺っちが持ちましょうかー?」
「……あなたが持つには、少しばかり重たいかと。野菜がたくさん詰まってますので」
「むぅ……俺っち、そこまで非力じゃないっすよー?」
二人並んで、教会への道を歩いていく。
……穏やかな司祭は両手がふさがっている。そもそも、背丈こそあるが荒事に慣れているような見目はしていない。
一緒に、襲ってしまえばいいだろう。
巻き込むようにしてしまえば、憐に対しても大層嫌がらせになるだろう。
今度こそ、それらは二人相手に距離を詰めようとして。
ひゅう、と。
あまりにも季節外れの、冷たい、冷たい風が、吹いた。
「ただいま戻りました」
「こんにちはー、いつものお手伝い来ましたー」
カイザーと憐の声が聞こえて、教会の講堂で一人考え事をしていたジェルトヴァは顔を上げた。
確か、カイザーは北区の方に用事があると出かけていたはずだったが、帰り道で憐と合流したか。
そちらへと、視線を向けて。憐が、重たげに箱を抱えているのに気づいて、素早く駆け寄っていく。
「重たかっただろう。大丈夫か」
「いえ、大丈夫っすー」
「……すみません。こちらから手を放すわけにはいかなかったもので」
申し訳なさそうなカイザーの声に、仕方ない、とジェルトヴァは判断した。
何故なら、カイザーがメルセデスの司祭服の襟首をがっちりと掴んで、決して離さぬ体勢だったからだ。
猫の子のように掴まれて、メルセデスは不満げな表情を浮かべている。
……それでもその手を振り払っていないのは、結局はメルセデスがカイザーに頭が上がらぬのが原因だろう。
悪魔であるが故に、殊更、「契約」と言うものには強く縛られるのだ。
「…………では、メルセデス。少々、お部屋で話が」
「別に、お前らを護っただけだろうが。第一、お前らが絡まれた方が後々めんどくせぇだろ」
「一般の方を氷漬けにしようとしてはなりません」
……やらかしかけたのは、あの悪魔は。
半ば引きずられていくように奥へと連れていかれるメルセデスを見送り、ジェルトヴァはため息をついた。
「…………お前は、大丈夫か?」
「?俺っちは問題ないっすよー?怖い人達は、メルセデス司祭が何とかしてくれたっすしー」
「…………あの悪魔は気まぐれな面もあるから、気を付けるようにな」
「はーい。でもまぁ、カイザー司祭に関する事はあの人……人?悪魔、正直っすから。そこは信用してるっす」
へらり、と憐はいつも通りの笑みを浮かべる。
その笑みに、憐の母親に似た物を感じながらジェルトヴァは憐が抱えていた段ボールを受け取った。
キッチンまで運ぶべきだろう。
「量が量みたいっすし、収納お手伝いしますねー?」
「あぁ、すまないが、頼んだ」
ぱたぱたと、自分と並んでキッチンへと向かう母親似の小柄な姿を見て。
あまり荒事に巻き込みたくないし巻き込むべきではない、と……あまり、憐の母親たるフェリシテと重ねすぎてもいけないと己を戒めながらも、ジェルトヴァはそう、考えていた。
「――――あれは、そんな可愛らしいもんじゃねぇだろうに」
「メルセデス。話を聞いていませんでしたね?」
「お前が堕天したら聞いてやる」
「お断りします」
狂犬、忠犬、番犬、猛犬。
見た目じゃ誰も、わからない。
Red Cape
to be … ?
>>571
乙ありです
> かなえなら……それだけの量いける、な……!(なおカロリー)
紅さん……ごめんね……
> 早渡君の携帯の中身……丸裸、だろうな……
これはちょっとした小ネタを行きたいですねー
>>572-575
投下お疲れ様でした
今回の襲撃者、非契約者だったか……命知らずな
さて
憐君とメルセデス氏の意味深長なやり取りは
戦技披露会(「足音、足音?」)にもありましたが、これは最後の最後まで目が離せんな
> 「メルセデス。話を聞いていませんでしたね?」
> 「お前が堕天したら聞いてやる」
> 「お断りします」
もうこのやり取りが実になんというか
>>576
>紅さん……ごめんね……紅さん……ごめんね……
普段からそれくらい食べてるし大丈夫じゃない?(酷)
>これはちょっとした小ネタを行きたいですねー
かわいそう(暖かい眼差し)
>憐君とメルセデス氏の意味深長なやり取りは
あ、ごめん、最後の会話はカイザーとメルセデスの会話ですね
メルセデスが「――――あれは、そんな可愛らしいもんじゃねぇだろうに」と言った「あれ」は誰の事なんだろうね
>>577
> 普段からそれくらい食べてるし大丈夫じゃない?(酷)
すまんな紅ちゃん
> あ、ごめん、最後の会話はカイザーとメルセデスの会話ですね
あー! 失礼しました……
> メルセデスが「――――あれは、そんな可愛らしいもんじゃねぇだろうに」と言った「あれ」は誰の事なんだろうね
クライマックスで来る! 絶対に「次世代の子供達」クライマックスで来る! と予想
では小ネタいきます
●はじめに
これは「次世代ーズ」 「早渡、返答を受けて」のおまけです
本編にがっつり関連するかもしれませんが、関連しないかもしれません
一部登場人物の言動におかしいところがあるかもしれません、頭もおかしくなってるかもしれない
花子さんの人の連載「次世代の子供達」に登場する人物も引き続き登場します、この場を借りて花子さんの人に土下座申し上げます orz
●本題
>>569
> 見れば広瀬(晃)ちゃんのところに若干名集まってる様子だ
> 俺の携帯か? 角田の人から再び広瀬(晃)ちゃんに返された俺の携帯か?
> だが今はそれどころじゃない!!
このとき、何が起こっていたのか!?
①初コンタクト
晃 「……では、データを全部……ぶっこ抜く」
優 「あとで早渡君に怒られない?」
晃 「大丈夫、早渡だし」
システムメッセージ? 【あっあっあっ! ちょっとまって!!】
晃 「?」
晃 「早渡の携帯……なんか、いる」
優 「なんか?」
システムメッセージ? 【あっ、もういいよー! 準備OK!】
システムメッセージ? 【事前に話は聞いてたけど、脩寿のスマホからデータ吸い出すんでしょ?】
システムメッセージ? 【ボクが事前にデータをごっそり別の場所に移動しといたから、面白いものあんまり残ってないと思うよ?】
システムメッセージ? 【あっ、あとなんかトロイとか仕込むのは止めてねー! 結局ボクが苦労することになるからさー! 破壊は簡単だけどさー! 後処理がさー!!】
晃 「失敬。そんな真似は……しない」
優 (今の間は何?)
晃 「で。君は、だれ?」
システムメッセージ? 【あー、そこ気になるー? 気になっちゃうー?? うふふー❤】
②祷 毬亜、登場
晃 「勝手に。ビデオ通話、立ち上がった……」
優 「ヤバいやつじゃない?」
? 『あっ! 待って! ヤバくないから! 攻撃とかしないでよ!!』 ☜ 画面に青い空間が立ち上がった
? 『えっと、久しぶりなんだよなー、これ』 ゴソゴソ
? 『あっ! 映った? ハローハロー!? 見えるー? 聞こえるー?』 ☜ 画面に映った銀髪碧眼のおんなのこ
優 「わっ。何、この子」
女子『はじめましてー、花房君の幼馴染でしょー? 話は脩寿から聞いてるよー。ボクは祷 毬亜(いのり まりあ)! 脩寿と同じく「七尾」出身でアレの幼馴染なのー! よろしくねー!』 ☜ 両手を腰に当ててどや顔で胸を張ってる
晃 「こっちも、契約者?」
まり『そうだよー、んふふー❤ 能力で脩寿の携帯をリアルタイムでモニターしてまーす❤』 ☜ 水色のエプロンドレスをあざとくフリフリしながら
まり『ちなみにー❤ ボクは脩寿にあれやこれやされちゃって、今は脩寿の 愛人 兼 奴隷 なんだー❤❤』 テーン!
優 「 」
晃 「直斗直斗。とんでもないヤツが、出てきた」
直斗「なんだ? とうとうヤバい画像でも掘り当てたのか?」
③フレンド申請
まり『というわけで、今の脩寿のスマホにはさっき話してた事件関連のデータしか置いてないから、君たちのお目当ては無いかもよー』 フフーン!
まり『でさー、ここから先はお願いなんだけどー。ボクとフレンドになってくれない? 相互しようよー』 ☜ 美少女が手を合わせて拝むようにお願い
まり『その代わり、脩寿の恥ずかしい写真とか、隠し持ってる画像とかそういうのをあげるからさー、どうかなー??』 ☜ 上目遣い
直斗「アレの情報と交換ってわけか」
晃 「コンテンツの、内容による」
まり『大人のお姉さんに抱きしめられて真っ赤になってる脩寿の写真とか、空七ちゃんにシバかれて悶える脩寿の動画とか』
晃 「乗った」
優 (乗っちゃ駄目でしょ)
まり『じゃあじゃあ! コード送るから、カメラで読み取ってー! 後は自動でフレンド登録されちゃうからさー!』 フフーン!!
晃 「こっちのスマホに、勝手に、……コード表示されてる」
優 「こっちにも来てるんだけど?」
直斗「俺のにも来たな」
まり『あっ! コード読み取る前に、いいねボタンとチャンネル登録してくれると嬉しいなー❤』 ☜ コード情報の下にある「いいね」ボタンと「SUBSCRIBE」アイコンを強調表示
晃 「……」 ☜ いいねと登録を無視ししてコードだけ読み取る
優 「 」 ☜ 表示されたポップアップごと削除
④まりあ? 何やってんの、ねえ? おい? まりあ??
まり『気を取り直して! 脩寿の写真をいくつかシェアする前に、他の写真から共有しとくねー』
まり『脩寿がさっきみんなに見せた空七ちゃんの画像、確かに写りはいいんだけど他にもあるんだよなー』
まり『例えばこれ! 縛られて天井から吊るされた脩寿と、しばき棒で脩寿をぶっ叩いてる空七ちゃんの動画! ほしいー?』
晃 「ほしい」
まり『空七ちゃんとクル子ちゃんが水着を見せに来てめっちゃ照れてる脩寿の動画! ほしいー?』
晃 「ほしい」
まり『岐阜の小学生巫女ちゃん姉妹に両側から抱き着かれて顔面が大暴れしてる脩寿の写真! ほしいー?』
晃 「ほしい」
まり『同じく巫女ちゃん姉妹とプールでくっつかれてなんか葛藤してる脩寿の写真! ほしいー?』
晃 「ほしい」
まり『じゃあじゃあ、女子大生の巫女さんにおっぱい押し付けられて真っ赤になってる脩寿の写真! ほしいー?』
晃 「ほしい」
まり『これどうだろー? 半裸の「サキュバス」をキレながらしばいてる脩寿の動画! このあと逮捕された「サキュバス」が送って来たエッチな挑発自撮りもセットで! ほしいー?』
晃 「ほしい」
優 「……」 ☜ 動画を見ている
早渡『おいっ! やめろ空七っ!! マジでそれはお前オイまじでお前っ!!』
空七『うるさいっ!! 脩寿が悪いんだからねっ! バカーッ!! バカーッッ!!!』 ☜ しばき棒で早渡のケツをしばく空七
早渡『がああああああっ!! がああああああっ!! あ゛あ゛っ!! 当゛た゛った゛っ!! 当゛た゛った゛って゛っ!!』 ☜ 絶叫する早渡
優 「仲良かったのねー」
直斗「ちょっと早渡情報の共有用ルーム立てとくわ」
晃 「うん、頼んだ」
⑤深まる誤解?
いよ「まりあちゃんの声聞こえるんだけど、何してるの?」
晃 「あ。東先輩」
優 「あっ、ちょっ、一葉先輩は見ない方がいいと思います!」
まり「あっ、いよっちー! おひさー!」
いよ「お。みんなと仲良くなってるみたいだね、良かったねまりあちゃん」
優 「知り合い……なんですか?」
いよ「うん、早渡後輩と再会した頃に幼馴染ですって紹介されてね」
いよ「でも女装よく似合ってるよねー、かわいいし。ちょっとライバル心に火が着いちゃうかも」
晃 「?」
いよ「あっ、余計なこと言っちゃった?」
まり『ううん、最後にバラそうかなーって思ってたし! ボク、実は男なんです。うふふー❤』 テーン!!!
まり『ちなみにさっきの 愛人 兼 奴隷 ってのは冗談だからね❤ 脩寿とはほんとに仲いい幼馴染ってだけだから❤ んふふー❤❤』 ☜ 悪戯っぽく笑ってる
優 「 」
晃 「……」 ☜ 無言で花房君のアイコンタクト
直斗(早渡がコイツに女装を?)
晃 (ありえない、と。否定できないところが、……怖い)
⑥ちなみに、前日譚
まり『ねー、脩寿ー! このアバターってどーおぅ? かわいくなってるよね?』 フリフリ
早渡「あー、かわいいかわいい」 ☜ 筋トレしながら
まり『このドレスもどうかなー? かわいいよねー??』 フリフリ
早渡「うん、いいんじゃねえかなー」 ☜ 夕飯を調理しながら
まり『そ・れ・で!! いつになったら千十ちゃんと日向ちゃんって子を紹介してくれるのさー!!』 プンプーン!!
早渡「……」 ☜ ベッドに寝転がって思案中
まり『こういうときだけ直ぐ黙るー!! そういうとこだぞ!!』 プンスコ!!
早渡「今後機会を改めてからな……」 ☜ 歯切れ悪い回答
早渡「まりあお前、俺の恥ずかしい過去の話とかするなよ? アレな写真を見せたりとか」 ☜ 疑わしそうな目つき
まり『やだなー、そんなことしないよー。 疑うのはやめてよー、もう脩寿ったらー』 ☜ 白々しいほどの棒読み
早渡(不安だ……) ☜ なんとも言えない不安げな顔つき
まり『…… ……んふふー❤』
●おわりに
今回まりあがシェアしたのは、大体早渡脩寿が恥ずかしがる過去画像や動画がほとんど
「七尾」や「広商連」の機密に関わる情報、見たら死ぬ系の画像、「名札付き」の写真 といった本当の意味でヤバい情報までは出してません
これが if でないとしたら、多分早渡もまりあが画像や動画を流したこと知っても頭抱えつつまりあにお仕置きするでしょうが、最終的に笑って許してくれるんじゃないかな?
最後に花子さんの人に改めて土下座申し上げます orz
次世代ーズの人乙でしたの
おぉっと、そちらの方が早かったか
微妙に矛盾でるかもだけどまぁいいや
では、お夕飯支度前にいっきまーす
■いままでのあらすじ
「みんなで遊ぼう」「みんなで遊ぼう人狼遊戯」
↓
>>510-513
「人狼遊戯のその後に」
↓
>>533-542
「次世代ーズ 「いよっち先輩からの質問」」
↓
>>548-550
「簡単なご返答」
↓
>>565-569
「次世代ーズ 「早渡、返答を受けて」
↓
今から投下するの
ハ_ハ
('(゚∀゚∩ いくよ!
ヽ 〈
ヽヽ_)
「「先生」、リアちゃん、どれくらい食べられそう?」
「ふむ?……あ、もうちょっと多くても大丈夫だ。あの子も、食べ盛りになりつつあるからな」
優がケーキを切り分けていた間、「先生」とそんな会話をしていたのが聞こえた。
リア、と。誰かの名前だろうそれを聞いて、かなえが首をかしげている。聞き覚えがなかったか。
「……「娘」の名前だろ。「先生」の」
「あ、そ、そっか…………あれ?」
ぽそりと伝えてやれば、納得した後にまた首をかしげている。
そうしてから、小さく「あ」と声を上げた。
「「先生」、娘さんいたんだっけ…………噂でしか聞いたことなくて、本当かどうか、知らなかった」
「俺はちらりとしか見たことないが。いるな。今は、どこかに出かけてんのか気配はないが」
少なくとも、自分が知っている範囲ではあれが「娘」のはずだ。愛百合が「あの先生に育てられるの、色々大丈夫かしらね?」と笑っていたのを覚えている。
その点に関しては、天地も「あの男一人で子育てするのは情操教育が終わるだろ」と言い切っていたし。他にも、誰かしら手助けはしているのだと思うが。
……それこそ、灰人がここに手伝いに来ているのは、半分、その「娘」の様子を見るのも兼ねてか。
(正確には、「先生」と、それが「娘」として扱ってるものの監視、も兼ねているんだろうが……)
「はい、これかなえと、慶次の分」
「あっ、ありがとう」
と、優がかなえとこちらの分も皿を差し出してきた。
こちらにはごく普通の量。かなえの分は…………
「……かなえ。その量いけるのか?」
「え?う、うん、これくらいなら……」
「…………そうか」
また太るのでは。その言葉は喉元近くまで出てとどまった。
当人もそれくらいはわかっているだろう。今、多く食べ過ぎたなら後で節制するはずだ。
…………多分。多分。
……ここで、「闇市」でのこちらの呼び名を知っている奴と顔合わせるとは思わなかった。
「神隠し」と、あの白猫又が聞いていなくて良かった。「神隠し」からは後でさんざからかれるだろうし、猫又はぎゃいぎゃい変に騒ぐに違いない。「アヴァロン」に寄った折に、「狐」絡みは危ないからと双方そこに叩き込んで置いてきて正解だったという事だ。
…………もっとも、「神隠し」の方は遠く離れたあの異界からでもこちらを見ていてもおかしくないが。
「……さっきの話、憐にはするなよ」
「え?」
「色街の話やらそういう話題は、苦手だからな。あいつ」
ちらり、憐の様子を見る。
憐は、今しがた話していた坊主の携帯を手にしている晃の方を見ていた。
…………あ、灰人と龍哉が窘めはじめた。どの程度丸裸にされただろうか、あの中身は。
憐は少しばかり困っているような、呆れているような。そういう表情をしていて。
そうしてから、顔を上げた。こちらに近づいてくる。
「よぉ。この坊主の携帯の中身、護られたか?」
「待っっっっっっっっっって。みんなで何見てたの?むしろ広瀬ちゃん何してたの???」
「かい兄とりゅうっちが止めてくれたんで、あきっちのお母さんの契約都市伝説呼ばれずにすんだんで多分セーフっす」
それは止めなかったらアウトだったという事か。
晃のあぁいうところは父親似と言うべきなのか、それとも一緒に暮らしている他の連中の影響か。
憐の、坊主を見る眼差しが若干生暖かいというか、優しいというか。その点については気のせいにしてやった方が坊主の精神面にはよさそうだろう。
「憐、坊主に話でもあんのか?」
「ぁ、はい……」
「……なんか言いたそうな事ありそうな顔してるな、とは思ったけど。やっぱりか」
まだ幾分か考え込んでいるようではあったが。
ひとまず、坊主に話しかけに来る程度には心も落ち着いたらしい。
…………三年前の話は、今でも憐にとっては心を乱しすぎる。
「しゅうっちが探してる、「九宮空七」さんについて……ちょっと」
「空七について?」
「うん……その人の契約都市伝説。本当に、「ソドムを滅ぼす神の怒り」なの?」
俯きはせず、しっかりと、坊主を見て憐は問う。
え?と声を上げた坊主に、憐は言葉を続けた。
「正直なとこ。それだけの存在、「教会」が見落とすはずはないっす」
「…………創世記に書かれるようなもん、となると「教会」の警戒対象だからな」
「はい。そんなのが学校町や周辺に現れたなら。流石に、「教会」の本部からも連絡が来ます。「バビロンの大淫婦」の絡みで派遣されてきたのがジェルトヴァさん一人、ってのも。「ソドムを滅ぼす神の怒り」がいないって判断材料になりえます」
こちらの言葉に対して、憐はさらにそう続けた。
確かに、そこは引っかかる点だ。
二十年程前の「十三使徒」の大事件のゴタゴタが尾を引いているとはいえ、「教会」は世界でも歴史深く、世界中に根を張る大組織であり。その根源は簡単に揺らぐものでなく、そこに所属する者は世界に目を光らせる。
警戒対象を、封印対象を、そうやすやす見落とすとは思えない。
憐の問いに、坊主も考えているようで。
「そりゃそうだ、俺も気になってた。『旧約』起源のあんな規模なANと契約とか、『教会』が見過ごすはずは無いだろうし、そもそも『教会』なら契約される前にANを確保するんじゃないか?」
「確保と言うか…………まぁ、確保ですむならいい、のかなぁ?契約しちゃってて、それを身勝手に使ったとしたら。だいぶ上の方の人が「めっ」ってやりに来ると思うんすけど」
かなり柔らかな表現にとどめているが、最悪「消されかねない」と言う事だろう。
憐の母親の「教会」での上司は、確かだいぶ上の立場だったはず。
だからか余計に、憐は「教会」の裏側の知識を持っている……あの氷の悪魔が面白がって教えた可能性も否定はできないが。
「最悪、「ソドムを滅ぼす神の怒り」を装った別のもの、の可能性もあるっす…………ものがものなんで。それ装うとなるともっと危ないものの可能性もあるんで。そこは、気を付けて」
「……あぁ。とにかく本人かアイツの近場にいた佳川有佳を押さえて尋問するしかしない限り、ハッキリした答えは出ないと思うし……備えはしておくよ」
「ん、なんだい。迷い子の少年にも保険必要かい?一回分の保険くらいならすぐにでも迷い子の少年に仕込めるけど」
「「先生」、ステイ。「先生」がご自分以外に仕込む保険とか、嫌な予感しかしないんで」
するりと話に入り込んできた「先生」の言葉を、憐は笑顔であっさり切り捨てた。
正解だろう。本当に何をやらかすかわからない。
残念、と「先生」は軽く笑ってはいるが。下手に動かれて組織間問題を起こされても困るだろう。
「一応、万が一の「保険」が欲しくなったら言うといいよ。「エクスカリバー」の契約者と戦う為に彼の者が仕込んだものには劣れども。それ以前にこっそりと我が親友が彼の者に仕込んでいた物程度であればいくらでも用意できる。痛みも快楽も何もなく仕込んであげる程度はできるからね」
薄く笑いながら、そぅと坊主に囁きかけた、その様子は。
ある種、「悪魔の囁き」にも似たものにも見えて。
…………この、ある種の艶やかさは、この男もまた、正気の頃と発狂していた頃問わず、人を惑わせた者であり。
今もってなお、ある種、他人を惑わせ狂わせるものであるのだと、思いださせた。
to be … ?
ちょいわかりにくいけど前半慶次視点、後半鬼灯視点です
早渡君、保険は欲しかったら「先生」、笑顔で仕込んでくれるよ
どうもこんにちは、昼休みーズです
>>584-585
投下お疲れ様でーす
ほう……ほうほう、続けて?(ニコォォ)
ちょっとこのあたりで娘さんのお話が出ましたね
言われて気づいたけど荒神灰人君は「レジスタンス」からの監視要員かー
恵ママの「スーパーハカー」さん呼ばれてたら、さすがのまりあもストップかけたと思う(多分)
>>582
>微妙に矛盾でるかもだけどまぁいいや
>>579-581 のまりあ登場を、最初は >>569 のタイミングで想定していましたが
これを >>585 で憐君と早渡が話してるタイミングに移動すれば、辻褄は合うかな?
つまり修正した後のタイムライン的には
↓
>>585
灰人&龍哉&憐君が晃君を止める
このタイミングで憐君が早渡に若干生暖かい視線を向ける原因となるものを見る?
↓
同じく >>585
憐君と早渡と鬼灯さんと「先生」が話をしている間に、晃君が 再度 早渡携帯を弄る
↓
>>579-581
晃君にまりあがコンタクト
そして早渡の過去写真公開大会が😇
……こんな感じだろうか
次世代ーズの中では >>579-581 を本編に組み込む気になってきたよ
> 憐の、坊主を見る眼差しが若干生暖かいというか、優しいというか
まりあ登場までの早渡携帯には事件関連のデータしか入ってない状態なので
(>>537 で「問題ないよ。ヤバい情報とか恥ずかしい画像なんかは事前に別ストレージへ避難済みだから」と早渡も発言済)
そう考えると、恐らく「ピエロ」関連の卑猥な画像を見てしまった可能性があるかな?
それでは以下、早渡のお返事回をいきます
>>584-585
「備えは大事」 へのクロス
●内容
・「先生」への早渡のお返事
・診察行為♥
「しゅうっちが探してる、『九宮空七』さんについて……ちょっと」
「空七について?」
「うん……その人の契約都市伝説。本当に、『ソドムを滅ぼす神の怒り』なの?」
「え?」
憐ちゃんに話し掛けられた
何とか持ち直したらしいが、一瞬話し掛けられて呆けてしまった
ややあって理解が追いつく。憐ちゃんも憐ちゃんで空七のANが気がかりらしい
憐ちゃんの所属は教会系、そりゃあ気になるよな
「正直なとこ。それだけの存在、「教会」が見落とす筈はないっす」
「創世記に書かれるようなもん、となると「教会」の警戒対象だからな」
「はい。そんなのが学校町や周辺に現れたなら。流石に、『教会』の本部からも連絡が来ます
『バビロンの大淫婦』の絡みで派遣されてきたのがジェルトヴァさん一人、ってのも。『ソドムを滅ぼす神の怒り』がいないって判断材料になりえます」
んん、これは教会筋の情報か
教会、少なくとも憐ちゃんレベルでは『ソドムを滅ぼす神の怒り』が、此処、学校町には存在するとは見ていないと
「そりゃそうだ、俺も気になってた
『旧約』起源のあんな規模なANと契約とか『教会』が見過ごす筈無いだろうし
そもそも『教会』なら契約される前にANを確保するんじゃないか?」
「確保と言うか……、まぁ、確保で済むならいい、のかなぁ?
契約しちゃってて、それを身勝手に使ったとしたら。だいぶ上の方の人が『めっ』ってやりに来ると思うんすけど」
憐ちゃんなりに気を遣っての物言いだろう、言わんとするところは理解できる
空七は教会に抹殺される。人間なんて不安定なモノを器に、信仰基盤に関わるANを委ねるなんざ狂気の沙汰だ
仮に空七が「神の怒り」ないしそれに類するANと契約してるなら、かなり穏当なところでは空七は教会の管理下に置かれるだろう
普通なら空七を殺してANを剥奪し契約書状態にまで還元する。というか俺が教会の立場ならそうする。なにせ想定されるものが「神の怒り」だ
あるいは憐ちゃんがそれとなく指摘してるように
空七のAN-Pが「神の怒り」ではなく単なる俺の見込み違いだったとしたら?
他にもあるかもしれないだろ、「旧約」以外にも赤黒の光を放って範囲内のモノを塩の柱に変える奇蹟が
嘘を吐くな、自分に嘘を吐くな
空七の“波”を知っているのは? 他ならぬ俺自身だろうが
あの光景を、あそこで見たモノを、あのとき感受した“ニオイ”を、見なかったことにするつもりか?
『いくらWasが強力だろうと、発動しさえしなければ。“世界”から隠蔽するなんて造作無いことだよ』
『たとえ発動するにしても。それも結界内で完結させればいいだけのこと。騙したり隠したりはこの業界の当たり前でしょ』
奥歯が、軋んだ
落ち着け、いいから今は落ち着け
空七は今、「狐」と共に学校町に居るかもしれないし、居ないかもしれない
少なくとも教会は、現時点ではまだ目立った動きは見せていないということ、今はそれだけの話だ
懸念ANは現時点で二種類、ひとつは既に言った「神の怒り」、こちら自体も確証の取れない情報だった
もう一つの方は「神の怒り」以上に確証が取れないあやふやなもの、しかし拡大解釈の方向性如何では神聖四文字の立場をも脅かしうる強力な
隠せ、今は隠せ。考えるな
「最悪、『ソドムを滅ぼす神の怒り』を装った別のもの、の可能性もあるっす――ものがものなんで
それ装うとなるともっと危ないものの可能性もあるんで。そこは、気を付けて」
「……ああ
とにかく本人か、アイツの近場にいた佳川有佳を押さえて尋問するかしない限り、ハッキリした答えは出ないと思うし……備えはしておくよ」
何をどう備えると言うんだ
俺では手も足も出ないだろうが、どう戦えと? 何を言っているんだ、俺は
「ん、なんだい。迷い子の少年にも保険必要かい? 一回分の保険くらいならすぐにでも迷い子の少年に仕込めるけど」
憐ちゃんと「先生」の会話で、我に返った
しまった、なんの話だ? 今の俺、思考が妙に捩じれてたな
「先生」と、目が合った――軽い笑みを浮かべている
なんか今、憐ちゃんと俺の話にすっと入ってきた?
「『先生』、ステイ。『先生』がご自分以外に仕込む保険とか、嫌な予感しかしないんで」
憐ちゃんも憐ちゃんで「先生」の提案を思いのほかばっさり笑顔で切り捨てた
てか憐ちゃん、「先生」をワンちゃんみたく言ってるけど、いいの? 大丈夫?
うっすら微笑を浮かべながら、「先生」はそんなことを言ってくる
なんというか、今まで見たことのない、笑いかけ方だった。心の奥底を指先で撫で付けられるような、そんな錯覚
「一応、万が一の“保険”が欲しくなったら言うといいよ
『エクスカリバー』の契約者と戦う為に彼の者が仕込んだものには劣れども
それ以前にこっそりと我が親友が彼の者に仕込んでいた物程度であればいくらでも用意できる
痛みも快楽も何もなく仕込んであげる程度はできるからね」
「あ、結構です」
自分でも意外なほどに即答していた
「本当に? 必要ないのかね?」
「ご厚意はありがたいのですが、結構です。俺も俺で“保険”を拵えちゃったんで。欲張りすぎて俺の中で競合しちゃうと大変だから」
ご厚意はありがたいのですが、結構です。俺も俺で“保険”を拵えちゃったんで。欲張りすぎて俺の中で競合しちゃうと大変だから
それに小さい子は目にしたもの、直ぐに口に突っ込んじゃうじゃないですか。あれやられると大変なんで
「それに小さい子は目にしたもの、直ぐに口に突っ込んじゃうじゃないですか。あれやられると大変なんで」
「ふむ? 結構。では“保険”が必要になったらまた声を掛けたまえ」
たしか「薔薇十字団」で、契約者に仕込む“保険”――となったらやっぱりアレだろうか。量産型「賢者の石」なんだろうか
というか「先生」、さっきから何かちょっと笑顔が怖いんですけど、大丈夫でしょうか?
何かしらの凄味を感じるんですけど。不穏さも感じちゃうんですけど。「先生」?
「あーっ! 『先生』っ!! 聞いてくださいっ!! 早渡後輩なんですけど、『ピエロ』に拳銃で撃たれたみたいなんですよっ!!」
いきなり背後から大声を出されてビックリしそうになった
振り向けば、いよっち先輩
「撃たれたのに病院にも行かずに自分で治したって!! そういうの良くないですよねっ『先生』っ!? 診察する必要ありますよねっ!?」
「ふむ? それは初耳だ、撃たれたのかね? 銃創の自己治療は命に関わるよ? 診 て あ げ よ う 」
「ほらっ! お姉さんも付き添ってあげるから! 『先生』に診てもらお? ねっ?」
「えっいや、あの、撃たれたって言っても! 数日前、あっいやっ、もう一週間前だし! もう傷も完治してますし! ピンピンだし!」
「つべこべ言わない! ほらぁ、早く診察室に行くーっ!!」
「あのっ、あのっ――!!」
ちょっと怒ったような様子のいよっち先輩と、先ほどとは違った意味で凄味の増した「先生」の笑顔に圧され、思わず周囲を見回した
鬼灯さん! は別のところを見ている! 憐ちゃん! と目が合った――そのっ、……助けて!
「駄目っす、ちゃんと診てもらうっすよ」
「憐ちゃんらしい真面目な回答っ!!」
笑顔、ではなく
毅然とした顔つきで、憐ちゃんにそう言われてしまった
思わず足から力が抜けそうになり、なおも周囲を見回すと
「……なんで広瀬(晃)ちゃんのとこに人が集まってるの? ねえ、みんな俺の携帯見て何してんの?」
「あっ。さっきまりあちゃん出てきてたよ? みんなに挨拶してたし、早渡後輩の、あ……なんでもない」
「なんでもなくないよね!? いま何言い掛けたんだ!? おいコラ毬亜ァっ!? お前何してんだぁぁ!!??」
「はいっ大声出さないのっ!! ほらっ、診察室に行くよーっ!!」
いよっち先輩にぐいぐい押されて部屋から強制退出されてしまった
途中で広瀬(優)ちゃんと目が合った。非常に複雑そうな眼差しを俺に向けた後、露骨に視線を逸らしおった
なに? なんなの? 怖いんですけど!? 毬亜あの野郎、何してくれたんだ!?
どうしよう、不安しかない
「それではゆっくりと深呼吸をして。そう、繰り返して」
とびっきり、胸いっぱいの不安と
もしや取り返しのつかない状況になってるのではという悲壮感に満たされたまま
俺は隣室の診察スペースで、「先生」に体を診てもらっていた
俺は上半身を脱いで、「先生」に診察されていた
首のリンパ節を軽く指で押さえられている
温かいようでひんやりとした「先生」の指が、どこか心地よかった
いよっち先輩は俺と一緒に診察スペースのなかに居た
背後から先輩の視線を感じる、ちょっと意識してしまう
やがて座っている丸イスを回転するようにして、今度は背中側を診られた
いよっち先輩と目が合う――上半身とはいえ、俺は素肌を見られているわけで
どうしような、恥ずかしくなってきたぞ
俺の気持ちを察したのか、先輩は「先生」側へ移動したので俺の視界から外れた
「先生」の診察途中だし、下手に動くわけにはいかない
「……どこが、撃たれたところなんですか?」
「うむ、傷は確かに塞がってはいるが。――此処と、此処と、此処だ」
「あっ、ほんとだ。ちょっと痕っぽくなってる……」
「しかしそれも数日経てば殆ど目立たなくなるであろう」
「先生」が指先でそっと傷痕を触れるのを感じる、少しくすぐったい
直後、別の感触を感じて思わず声を出しそうになった
ひょっとして、先輩も触ってる!?
「そして銃弾は少年の体を貫通した、前にも痕跡が残っているね」
出し抜けに椅子が回転する
――割と直ぐ近くにいよっち先輩の顔があった
「痛く、ない?」
先輩と、目が合う
心配そうな、そんな声色で
先輩の指先が、再度、傷痕を撫でた――腹の、少し上の辺りだ
細められた先輩の眼が、俺の傷痕に向けられている
かすかに開いた先輩の口から、白い歯が辛うじて見えた
ヤバい、何がどうヤバいのか、分からないけどなんかヤバい
先輩の吐息が、俺の肌に当たってるんですけど。これはちょっと、なんかムズムズしてきた!
声も出せず、そのまま硬直する
先輩は先ほどから俺の腹の傷を指先で撫で付けていた
くすぐったいどころではない、なんかゾクゾクしてきた
目が、泳ぐ――先輩が前屈みの姿勢で傷に触れてくるもんだから、開いた襟元から、先輩の胸が
やめろ! 早渡脩寿!! いよっち先輩は、年上とはいえ中学生だぞ!!!
「戻ってきたお嬢さん? その辺にしておきたまえ? 少年の繊細ハートがそろそろ悲鳴を上げそうだからね」
「ふぇ? ……あ゛っ!! ごめんっ!! ごめんね! 勝手に触っちゃった!!」
弾かれた様に身を離す先輩と、朗らかに微笑む「先生」
顔が熱い。やだ、今直ぐ服を着たい!
さっきのアレコレ、なんかもう全部「先生」に見透かされてた気がする!!
□■□
今回はすぐ返事ネタ行けるだろと見ていましたが……
今後の流れを考えたうえで、一旦お断りとなりました
今回も事実誤認や「その描写ちょっとおかしい」等あれば、是非
……待てよ、このタイミングで早渡に仕込もうと思えば仕込めるか
一葉先輩もちょっと怒りながら「また危ない目に遭いそうなら『先生』にやってもらいなよ!(何やってもらうのか知らないけど)」と言いそうだし
早渡も押されたら押されたで「じゃ、じゃあ一回分だけ」とか言いそうだし……最終的な判断は「先生」に委ねよう
お昼休みを終えます
投下乙でしたの
都市伝説をその気になれば誤魔化せるのは、まぁ憐の場合身近にそれをやってた奴がいるから余計にその辺考えるんですよね
えぇ……幾百年もの間、雹と霰の天使バルディエルに成りすましてた氷の悪魔クローセルと言う実例がいますから……
ちなみに都市伝説の誤魔化しや誤認に関しては、「先生」も「先生」なりに解説はする、かも?(予定は未定)(必要そうならやる)
うん……憐なら……ちゃんと診てもらうように言うね。仕方ないね
青少年のナニかが危ない所だったね。セーフ
>てか憐ちゃん、「先生」をワンちゃんみたく言ってるけど、いいの? 大丈夫?
母親の「先生」に対する態度模範にしてるだけなんで多分大丈夫です(???)
>>587
>言われて気づいたけど荒神灰人君は「レジスタンス」からの監視要員かー
真面目に助手としてお手伝いもしてるんですが、そういう一面もあります
「レジスタンス」に正式所属している訳では(現状)ないので、「先生」がなんかやらかしたら母親に告げる程度ですけど
>恵ママの「スーパーハカー」さん呼ばれてたら、さすがのまりあもストップかけたと思う(多分)
ストップかけないとギャグ方向で見られたくないもの全部発掘されかねない
>……こんな感じだろうか
それで大丈夫かな
>そう考えると、恐らく「ピエロ」関連の卑猥な画像を見てしまった可能性があるかな?
もしくは、「スーパーハカー」呼ばなくとも晃が自分でできるレベルでなんか発掘しちまったかどっちかですね
>>593
>早渡も押されたら押されたで「じゃ、じゃあ一回分だけ」とか言いそうだし……最終的な判断は「先生」に委ねよう
おっ、じゃあ行くか
大丈夫よ、一回きりのなら東ちゃんに「ちょっと目と耳塞いで背中向けててねー」って言わずにすむ
早渡君が口開けて飲み込んでくれりゃ一発よ
>>594
乙ありでございます
> 都市伝説をその気になれば誤魔化せるのは、まぁ憐の場合身近にそれをやってた奴がいるから余計にその辺考えるんですよね
だよなあ、絶対くるよなあ、憐君も心配してるとしたらそこだよなあ
早渡は一人でグツグツしますが、「先生」や憐君が都市伝説の欺瞞、隠蔽、誤認、等々に言及するかは全面的に委ねます
後々にも言及できる機会は大量に出てきそう
いいのか「先生」、それでも「先生」穏やかに笑ってるんだろうなあ
> おっ、じゃあ行くか
> 早渡君が口開けて飲み込んでくれりゃ一発よ
行きます、飲みます! やりますよ、彼は
>>595
> だよなあ、絶対くるよなあ、憐君も心配してるとしたらそこだよなあ
憐だけじゃなく、幼馴染ず全員が心配っつか、その可能性は考えてますね
みんなメルセデスの事は知ってるし、他にも都市伝説を誤魔化したり、正体誤認される可能性については色々実例知ってるから
「先生」辺りに、その点さらっと説明させられるのが理想なのでがんばりゅ
> いいのか「先生」、それでも「先生」穏やかに笑ってるんだろうなあ
慣れちゃってるってか、「先生」、憐と憐の母親にはかなり甘いですよ
> 行きます、飲みます! やりますよ、彼は
了解!
■いままでのあらすじ
「みんなで遊ぼう」「みんなで遊ぼう人狼遊戯」
↓
>>510-513
「人狼遊戯のその後に」
↓
>>533-542
「次世代ーズ 「いよっち先輩からの質問」」
↓
>>548-550
「簡単なご返答」
↓
>>565-569
「次世代ーズ 「早渡、返答を受けて」
↓
>>584-585
「備えは大事」
↓
>>589-591
次世代ーズ 「厚意、返答、触診、そして」
↓
今から投下するもの
ハ_ハ
('(゚∀゚∩ いくよ!
ヽ 〈
ヽヽ_)
にこにこと、穏やかに。「先生」は脩寿を見つめる。若いなぁ、と。
青少年の何かが危なかった気配がしたが、まぁ仕方ない。若いのだし。おっぱいにはそういう魔翌力が存在するものだ。
まぁ、そんな微笑ましい様子は一旦さておき、だ。
「弾丸の特殊効果は、本日の茶がエリクサー仕様だった故に解毒は完了しとると思うが」
「聞けば聞くほど、世の錬金術師が卒倒しそうというか一杯辺りの値段想像すると怖い」
「何かあったら、都市伝説関連わかる医者にきちんと診てもらうようにするんだよ」
エリクサーに関しては、「先生」は己の契約しているものの力でそこそこ気楽に生み出せるため、気にしていない。
それくらいの材料は、もしもの場合に備えて用意しているしある程度取り込んでいる。
いつでも、必要なものを錬金できるようにしておくぐらいはしてあるのだ。
そうじゃなければ、いざと言うときの緊急治療時に困る。
「……に、しても、早渡後輩。また危ない目に遭いそうなら、「先生」の言う保険、やってもらいなよ!」
「えっ。あ、いや、でも……」
「もしもの時の備えは多い方が大事だよ。こう……切り札のさらに切り札、じゃないけど。保険のさらに保険!」
ぷんすこした様子で、一葉が脩寿にそう告げている。
備えが多い事に関しては、「先生」も同意するところだ。
むしろ「先生」の場合、己が誰かが成し遂げようとする事柄の「保険」となる事が今の役目、と思っている節すら多少はある。
それを口に出してしまうと、九割方苦言を呈されてしまい首をかしげる事にもなるが。
脩寿は一葉に言われて、ぐぬぬぬ、と考え込んでいるようだった。
一度断りはしたものの、彼女に強めに押されると弱いのだろうか。
将来、女性の尻に敷かれていそうな気配を感じたが、そこは指摘せずとも良いだろう。
「……じゃ、じゃあ、一回分だけ」
「ふむ、わかった。では迷い子の少年、口開けて」
「?はい」
言われた通りに口を開く脩寿。
「先生」はぱちり、手元を赤く輝かせてそれを生み出すと、ぽい、と。
生み出したそれを、脩寿の口の中に放り込んだ。
あ、と脩寿は声を上げるよりも早く、小指の爪ほどの大きさのそれを飲み込んでしまう。
「良し、保険仕込み完了」
「早い!?」
「なんか、宝石みたいに赤いちっちゃなキャンディを口に放り込んだみたに見えた」
「一回きりだが、命にかかわる怪我、毒、病に対抗できる。一度きりの命のストック、と思うと良い。今風に言うと「残機が増える」?」
かつて、「組織」のとある黒服にこっそり仕込まれていた物。
「賢者の石」の劣化版。一度きりしか発動しない未完成の代物。
それよりもう少し上等な……その「組織」の黒服が、「エクスカリバー」の契約者たる狂人との戦いに備え仕込んだほどのレベルの劣化版「賢者の石」となると、流石にここまで気楽には仕込めない。
が、逆に言えば、一回きりの使い捨て性能のものであればこの程度気楽に仕込めるのだ。
あの「黒服」が気付かれぬうちに仕込まれていたのもそのせいだろう…………それを行ったのは、「先生」の古い友人なのはさておく。
「さて、一応、馴染むまで拒絶反応出ないか少し待とうか。あ、服は着ていいよ」
「あ、はい」
ごそごそと、脱いでいた上半身を着こんでいく脩寿。
その様子を見つつ、さて、と「先生」は思案する。
ただ待っているだけも暇だろう。何かしら、話題になりそうな事柄はあるか。
考え、あぁそうだ、と、話題を向けることにした。
「迷い子の少年。君は、君が探している少女の契約都市伝説が真に「ソドムを滅ぼす神の怒り」であるかどうか。その辺りの会話をしていたね?」
「…………はい」
脩寿としては、そこは考え込んでしまう案件なのだろう。
ぐつぐつ、ぐつぐつと、考え込みすぎて内で煮えたぎり、その思考そのものが毒と化してしまいかねない程に。
思考は止めるべきではなく、立ち止まるべきではなく、とどまってしまえば最悪濁り腐り何もわからなくなる。
そうではないだろう、と断言して否定するつもりはないが。
少しばかり、濃度を薄める程度ならいいだろう。
「我が助手の従弟が疑問を呈したのは、あの子の情報網的には当然といえば当然であろ。あの子が通う「教会」の支部には、凍れる悪魔の御仁もおるしな」
「凍れる悪魔……あれ?教会なのに、悪魔?」
「先生」の言葉に、疑問符を浮かべたのは一葉だ。
まぁ、そうだろう。通常、「教会」と言う名称を聞けば、そこに悪魔がいるというのはあまりイメージにはあわない。
「そうだよ。かつて、幾百年もの間、雹と霰の天使「バルディエル」に成りすましていた凍れる悪魔。ソロモンの悪魔の一体にして四十八の軍団を指揮する侯爵。天使の姿をもって現れる、かつては竜でもあった者。「クローセル」。二十年程前のごたごたで正体がばれても、幾重もの策略と保険と誰かさんの情けにて。今なお「教会」に所属したままだ」
「成りすます、ですか……」
「うむ。当人が策を巡らせたせいもあるが。そもそも、成りすましていた天使が司るは雹と霰。凍れる悪魔であれば、装うのは難しくなかろうて」
「似たような感じだから、バレにくかったって事、かな……?」
そうだ、と一葉に対して「先生」は頷いて見せた。
似たような存在。故に誤認しやすく、正体はバレにくい。
「「通り悪魔」の御仁が、「悪魔の囁き」と間違われやすいというある種似たような例もあるな。当人は成りすましているつもり等ないが、能力が似ているが故、間違われやすい」
「あぁ、聞いたことあります。そのせいで面倒な事に巻き込まれた事もあるとか」
「あの御仁の場合、人型とっとる「悪魔の囁き」系統の知り合いもいるしねぇ。当人にしてみれば、自分の能力の方が扱いにくいとの事だが。他者から見れば似たようなものだろう」
「先生」は、脩寿を見つめる。
診察前に、保険を仕込むかと問いかけた時の誘いかけるような艶やかさは今はなく。穏やかに人を教え導かんとする教師の笑顔。
……もっとも、あの問いかけをしていた際、己がある種の艶やかさを帯びていた自覚は「先生」にはない。
かつて、己の心に入り込み染め上げ「愛」を植え込み操ってきた女を、逆に本気で惚れさせ結果的に死に至らしめた人の心を誘う天性の毒を。毒を知り尽くしたはずの男は自覚すらしていないのだ。
「……その都市伝説にもよるが。誤魔化し、偽る事はできる。誤認してしまう事はある…………思い込みは、時として猛毒にもなりえる」
「それは…………」
「人は、時として己の記憶にすら、己の感情にすら嘘をつく。正直、私も過去に思い切り経験がある。他者によって感じた印象すら操作される事もある…………我が助手の従弟が言うていたように。最悪、別のものである可能性も視野に入れた方が良いかもしれん」
「……でも。人を塩に変えちゃう、とか。そんないかにも特徴的な事、他の都市伝説で装えるのかな……?」
もっともな疑問を一葉が口に出し。
「先生」は、即座に答える。
「できるよ。ものすごく頑張れば私でもできる」
「「えっ」」
「やらんけどね。「姫君」から踏みつけられるどころかいっそ半殺し……いや、私は簡単には[ピーーー]ない故いっそ生殺し?にされる勢いで怒られる事確実であるし」
むしろ、やる必要もないのだが。
その結果を引き起こすことは、幾重にも能力を積み重ね使えばできるが。
そこまでの労力をかけてやる事ではない。
シンプルに毒をばらまいた方がずっと早い。それはそれで怒られるのでやらないが。
「他にも、かの「魔法」の契約者。「天災」たる魔法使いカラミティ・ルーンもできるだろうな。あの御仁はもっと派手に愉快で残虐なやり方を好むから、好き好んではやらんだろうけど」
「「魔法」……」
「あぁ言う万能一歩手前の力は、その気になれば誤認させやすいしされやすい。多種多様な事を行える者が、その一部だけをもって偽ると実に厄介だよ」
あの魔法使いの活動圏内は主にヨーロッパ……この学校町に甥っ子がいたり友人と認識した者がいたりでそこそこの頻度でやってくるが一旦それはさておく……、例で出されてもピンと来ないか。
ついでに、と。おそらく脩寿なら知っているであろう人物を、「先生」は例にあげる事にした。
「迷い子の少年。「刀狩り」の青年は知っているかい?「獄門寺組」に所属しとる契約者なんだが」
「刀狩り?…………「刀狩り」の鉄(くろがね)さんですか?「獄門寺組」幹部の?「獄門寺組」に手を出そうとしたよからぬ集団を、たった一人でたいして時間もかけずに壊滅させたって言う?」
やはり知っていたか。
当人は「自分はフリー契約者!どこにも所属してないから!!」と言い張っていたが、やはり他からは「獄門寺組」所属認識だった。
「君は、「刀狩り」の青年が、どんな都市伝説と契約しているのか知っているかい?」
「「数珠丸恒次」や「蜥蜴丸」を使って戦ってた、って話を聞いたので刀剣類の都市伝説複数の契約、でしょうか」
「ふむ。やはり、よそからはそう認識されとるか」
「その言い方だと、早渡後輩の予想、外れてる……?」
「うん、違うね。実際は何であるのかは、「獄門寺組」所属ではない私が言うと角が立つ故、あとで「通り悪魔」の御仁辺りに聞くと良いとして、だ」
あれは、その能力によって「奪い取った」刀剣だけ扱って戦っているところしか見られていないと見破られにくい。
鬼灯は、獄門寺家に出入りしていて幼い頃の彼に剣の稽古つけてやった事もあるとかで「弱点狙い打ちされると一撃だったからな」と明確な弱点に気付いたが故に契約都市伝説を見破っていた。今は流石にその弱点をやすやすと狙わせてはくれないから稽古相手するのは無理と言っていたが。
「あれも、能力の一部だけ活用している現場しか見せていないと、見破るのは難しかろう。迷い子の少年のように、誤認してしまっても仕方ない」
「能力の一部…………」
「ただたまたま、能力の一部だけを見られたが故の誤認ならば良いが。意図して誤認させてくる場合は殊更、見破るのは難しくなろうて」
…………ましてや。
「……そこに、悪意と言う毒が混じれば。余計に、ね」
果たして、意図して誤認させたのか。
それとも、たまたまだったのか。
そこに、悪意と言う毒はあったのか。
(もしも、「言霊」だったりしたら実に厄介な猛毒。せめて、それではないと祈ろうか。祈る神などないが)
口に出してしまえば、それこそ疑念と言う強すぎる毒になりかねないそこは、今は口に出す事なく。
警告の一種として、伝えるべき事を伝えるに、とどめた。
to be … ?
次世代ーズの人様に土下座しつつ投下完了
ひとまず、早渡君に一回限り発動の「賢者の石」を仕込みました
軽いものなので拒絶反応も出ないでしょう
ついでに、都市伝説を誤認しえる可能性とかについての軽い雑談
東ちゃんに、そこそこ疑問を飛ばすポジになっていただきました
投下お疲れ様でしたー
保険、大事に使わせて頂きます😇
にしても早渡と先輩の距離感いいですね
「先生」の古い友人、ゲデさんかな?
「刀狩り」の鉄さん、一応フリーの立場と自称しているということは
闇市でも護衛もしくは戦闘要員としてフリーランスで活躍してるんですかね
早渡の口振りからしたら鉄さんと直接お会いしたことがない、もしくは
仮に闇市でお会いしてたとしても会話だけで戦い方とかは直接見たことがない感じだろうか
> あとで「通り悪魔」の御仁辺りに聞くと良い
ここなんですけど、早渡的には (本当に聞くとしたら、直接鉄さん本人に聞こう) となります
本人の許諾もないまま、本人以外の人から契約能力について聞くのは、非常に失礼な行為と認識してますので
(飲み会で、親密ではない同僚の年収やら配偶者やらマイナンバーやらの情報を、友人から聞き出すようなイメージ)
早渡が鉄さんとどれほど面識があるか、親密かによって話は変わってきますが
早渡の反応としては、鉄さんの能力は俺が見てたほど甘くはないんだなー、となりながら
話す機会があって鉄さんが許してくれるならそのとき聞いてみよう、ってふうに受け止めると思います
あとは「先生」の言葉を受けてかなり黙考する、という感じになるかな
早渡の反応回は少しお時間もらいますー
> 東ちゃんに、そこそこ疑問を飛ばすポジになっていただきました
先輩も自分の立場を踏まえてこの時期は色々勉強を始めてるはず
「先生」が先生してて非常に良かったです……
>>602
乙ありでーす
>「先生」の古い友人、ゲデさんかな?
ゲデではないですね
珍しく「先生」が愛称で名前を言う相手。「クリス」、とチラ裏で出してそちらで使っていただいたセリフで愛称出てます
当人は…………確か、過去に書いた話でも登場はしてなかったはず。フルネームじゃないが名前は出てるし存在は示唆されてるけど
>闇市でも護衛もしくは戦闘要員としてフリーランスで活躍してるんですかね
ってより、フットワークが軽いんですね
何かしら遠出する必要がでたと判断すれば、ふらっとそちらに赴いて行動します
そしてそれを、頭首たる龍一から許されてますね
当人、「獄門寺組には子供の頃から世話になってるけど所属してない。フリー!」って言い放ってますが、当人以外は彼を「獄門寺組」所属と思っています
「獄門寺組」に敵対するよからぬ輩を察知次第潰してたらそらぁそう
>仮に闇市でお会いしてたとしても会話だけで戦い方とかは直接見たことがない感じだろうか
そんな感じかな
上で言った通りフットワーク軽いし当人はフリーのつもりなので、闇市で厄介事あった時とか首突っ込んで助力した可能性あるなって思ってました
>ここなんですけど、早渡的には (本当に聞くとしたら、直接鉄さん本人に聞こう) となります
了解でーす
ちなみにこの時点での鉄、獄門寺家本家にいますね(学校町が久々に色々やべー気配してるので守りについてる)
>「先生」が先生してて非常に良かったです……
あいつ、ちゃんと先生できたんだな……って書いてて思いましたね
■おおざっぱなじかんじく
>>527-529
「企み企まれ」の後辺り
「狐」決戦当日の前夜深夜辺り
↓
今から投下するやつ
ハ_ハ
('(゚∀゚∩ ソォイッ!
ヽ 〈
ヽヽ_)
甘い香りが充満している。
どろどろに思考を溶かしてしまうような甘ったるい香りが。
己は、この手の能力に対して強い方である、と郁は自負していた。
他者には隠している己の事情の影響で、だ。
……その事情は、この甘ったるい香りを放つ主たる「白面金毛九尾の狐」にすら明かしていない。
おそらくは気づかれているだろうけれど、気づかれていても傍に置いてくださるという事はそれだけ信頼されているという事。
その事実に優越感を感じながら、郁は静かにそのやり取りを眺めていた。
「白面金毛九尾の狐」は妖艶な笑みを浮かべながら、「朱の匪賊」が四番隊隊長包 六郎を見つめていた。
その傍らでは、鬼が呪い人形を抱えたまますやすやと丸くなって眠っている。人形の首が思い切り絞まっているように見えるが、人形なので大丈夫なのだろう、多分。
「あなたには、頼み事があるの」
「頼み事、でございますか」
えぇ、と、「白面金毛九尾の狐」が笑みを深めると、甘い香りがさらに強まったような錯覚を覚える。
彼女が微笑めば、それだけ魅了の、誘惑の力は強まるのだ。
いや、微笑んだ場合だけとは限らない。
ほんの些細な仕草をしただけでも、魅了が、誘惑が強まる。
この「白面金毛九尾の狐」はそういう存在なのだ。誘惑特化。それ以外の力が強くない代わりに、魅了に関してだけはこんなにも強い。
「「死毒」、アハルディア・アーキナイト。この男を、始末してほしい」
「「死毒」……」
つ、と、「白面金毛九尾の狐」が郁に手を伸ばした。
郁は彼女が求めているものが何であるのか理解していて、用意してあったその写真を彼女に手渡す。
「死毒」。今は「先生」等と呼ばれている男。「薔薇十字団」所属の「賢者の石」の契約者。あの男の写真だ。
「白面金毛九尾の狐」は受け取ったそれを、そのまま六郎へと手渡す。
写真を手渡すその瞬間、指先がほんの少し触れ合う……あれでまた、六郎への魅了は強まり深まったのだろう。六郎の反応を見た限り、それは明らかだ。
「この男。かつて、私を毒殺しようとした男よ」
「何ですと!?こ、この男が、「十六夜の君」を……!?」
「えぇ。愛していると囁きながら。毒を生み出し、殺そうとしてきたの」
彼女にとっても、それは苦々しい記憶なのだろう。
まさか、誘惑した瞬間に殺されかけるなどと誰も思うまい。それが都市伝説ならばともかく、一応は人間として生まれ人間として育ち、契約しても飲まれず人間のままであった存在に、となればなおさらだ。
発狂して正常な思考を保てなくなった人間の思考パターンは、たとえ都市伝説であろうとも理解が及ばないとも言う。
「そう簡単に死ぬ男ではないわ。だからこそ。痛めつけて痛めつけて痛めつけて痛めつけて痛めつけて痛めつけて痛めつけて、たっぷりと、もう一度その心が壊れるほどに苦しめて、嬲って、殺してやりたいの」
艶やかに微笑みながら、残酷な事を囁きかける。
そうするべき。そうしなければならない。そうするのが当たり前。
囁きかけられている六郎は、そのように感じている事だろう。
芯まで魅了され、とろけた思考は「白面金毛九尾の狐」の言葉を全て肯定してしまう。
「あの男はね、恐ろしい毒を使うの。どんな毒でも瞬時に作り上げることができるそうよ…………でも、安心して?対策手段はあるわ」
つ、とまた「白面金毛九尾の狐」は郁に視線を向けた。
眼差しが向けられる。甘い香りが、自分を向いたようにすら感じる。
何を求められているのか、ちゃんとわかっている。
救急箱よりも小さな小箱を、郁は六郎に差し出した。
「どうぞ。中には「征露丸」が入っている。「組織」で少しばかり改良された強化版でね。まだ開発中の物だが、「死毒」の作り出すレベルの毒であっても抗うことができる」
もっとも、改良中であるが故に問題もある。
毒を防ぎはするのだが、効果が切れるとこの改良版「征露丸」自体が毒となってしまう。
死ぬほどの毒ではない。毒を防ぐのと同じ程度、すなわち二十四時間程度死ぬほど腹を下し続ける程度の毒なので伝えずともいいだろう。
「せいぜい四十六個程度しか、僕の立場では確保できなかった。そちらでうまく配分して使ってくれ」
「かたじけない。しかし、こちらに全てお渡しになられるので?」
「あなたの隊が、「死毒」を殺してくれるのなら。私達が使う必要はないもの」
それは暗に、「確実に殺すように」と命令しているようなもの。
失敗は許さない、と暗に告げているのだ。
「……あぁ、それにしても、忌々しい」
ふと、「白面金毛九尾の狐」は不機嫌を露わに顔を歪めた。
通常であれば尾を損なうような表情の変化なのだが、彼女の場合このような表情ですら、一種の美を感じさせ人の心へと食い込む。
「「死毒」、あの男のせいで。この街に来てからずっと、私の意思は封じられ、閉じ込められていた…………本当。酷い事をする男だわ」
「何と!?「十六夜の君」を封じたのが…………この!「死毒」の仕業であると!?」
「……僕は、それは初耳なのですが。確かなのですか?」
驚きと怒りの声を上げる六郎と、初めて聞いた情報に眉を顰める郁。
「白面金毛九尾の狐」は、忌々し気に顔を歪めたまま頷いて見せた。
「あの男しか、原因は考えられない。どのような手段を使ったのか、それすら悟らせなかった。えぇ。えぇ。忌々しいし憎々しい」
……春に学校町に入り込んだ時の出来事を、「白面金毛九尾の狐」は鮮明に覚えている。
街に入り込んですぐに見つけたのだ。以前に自分が誘惑した時より若返った姿になっていたが、間違えようがない。「死毒」の姿を。
以前に誘惑して毒殺されかけた時と違い、正気を取り戻しているのだという事は「組織」で情報収集を任せていた郁から聞いていた。
だから、今度こそ、誘惑してやるつもりだった。己の支配下にして、今度こそ便利な道具にしてやろうと、近づいて、声をかけて。
……気づいた「死毒」が振り返ってきたのと。
己の意識が、突然、ぶつんっ、と途切れて。この肉体だけではなく、世界の何もかもに干渉できなくなってしまったのは、ほぼ同時だったのだ。
「状況から見て。私を封じてきたのはあの「死毒」しか、考えられない」
「お労しや……!「死毒」め、なんたる外道……!」
「えぇ、酷い、酷い男なの。だから…………たっぷり、痛めつけて、嬲って、苦しめて、殺してちょうだいね?」
くすり、と「白面金毛九尾の狐」の顔に、妖艶な笑みが戻る。
そして、つ……と、細い指が、六郎へと伸びて。
美しい、笑みを浮かべたその顔が、六郎へと近づいて。
六郎の頬に、柔らかで心地いい感触。
「お願いね?「死毒」に関することは、この郁に聞きなさいな」
「白面金毛九尾の狐」の顔が、六郎から離れる。
邪悪に、楽しそうに、笑う。嗤う。
心を弄ぶ邪悪は、なんとも気軽に、気楽に。
「朱の匪賊」へと、「死毒」の抹殺命令を、下した。
to be … ?
次世代ーズの人に焼き土下座しつつ投下完了
包 六郎さんの喋り方自信なくってセリフ少ないのがバレバレだね
とまれ、ほっぺちゅープレゼントしつつお・ね・が・いしたようです
投下お疲れ様です
隊長はここからどんどんおかしくなっていくんだ……!
話し方もギャグの暗黒面に向かってがんがん崩れていくぞ!!
美味しいね隊長さん! ここからもっと美味しくなるよ隊長さん!
思った以上に「先生」に対する殺意高めの「狐」から殺害依頼を受けたわけですが
これは隊長に極太のフラグが数本立ちましたね
しかも「征露丸」の副作用がえげつない、「組織」はこんなの使おうとしてたのか
というか今回の登場人物全員にあらゆる種類のフラグが刺さりまくってるぞ?
>>603
クリス氏といい薔薇十字団といいまだ謎が多いな……
鉄さんの件も承知です! 龍一氏から許可されてるってことは実質「獄門寺組」所属
>>598-600
「保険仕込みと時間つぶしの雑談」へのクロス
●時系列
前スレ 811-814 「みんなで遊ぼう」 花子さんとかの人
↓
前スレ 849-853 「みんなで遊ぼう「人狼遊戯」」 花子さんとかの人
↓
前スレ 933-936 「いよっち先輩、来る」 次世代ーズ
↓
本スレ >>510-513 「人狼遊戯のその後に」 花子さんとかの人
本スレ >>519-520 「一方大人の情報交換とか」 花子さんとかの人
↓
本スレ >>533-542 「いよっち先輩からの質問」 次世代ーズ
↓
本スレ >>548-550 「簡単なご返答」 花子さんとかの人
↓
本スレ >>565-569 「早渡、返答を受けて」 次世代ーズ
本スレ >>579-581 「早渡、返答を受けて」のおまけ 次世代ーズ
↓
本スレ >>584-585 「備えは大事」 花子さんとかの人
↓
本スレ >>589-591 「厚意、返答、触診、そして」 次世代ーズ
↓
本スレ >>598-600 「保険仕込みと時間つぶしの雑談」 花子さんとかの人
●ここまでのあらすじ
【11月】のとある日の放課後、早渡は花房に呼び出され、「人狼」に挑む
その後、診療所で合流した一葉とともに三年前の事件の真相を中央高校組から教えてもらう
その席で早渡は自分の持っている情報や疑惑を共有した
早渡の目的は「九宮空七を見つけ出すこと」、そして彼は「彼女が『狐』の下にいる」と疑っていた
いくつかの嫌疑が呈され、早渡のなかで深まるのは疑いか、あるいは躊躇いか
「先生」から“保険”をもらった後も、彼は答えの出ない問いを前に迷い続ける
ところで隣室では早渡の幼馴染が早渡の恥ずかしい画像やら動画やらを中央高校組に提供し続けているぞ!? 早く止めろよ!!
顔赤くなってんの、バレてんじゃないかな?
とりあえず顔を見せないようにYシャツを着直す
いよっち先輩に圧されて、結局「先生」から一回分の“保険”を頂くことになった
実のところ體内で妙なことにならないか不安だったが、特に何も起こらなかった
今は一応「先生」の提案で、馴染むまでは様子見ということになった
……俺、いよっち先輩に泣かれて以後、先輩に圧されると弱くなってない?
別の意味で不安が鎌首をもたげてくる
あと「先生」的には撃ち込まれた弾の影響も心配してくれていたらしい
あれは本当に何の変哲もない通常弾だったんだが、念のためということだ
「迷い子の少年
君は、君が探している少女の契約都市伝説が、真に『ソドムを滅ぼす神の怒り』であるかどうか、その辺りの会話をしていたね?」
「あ……、はい」
迷い、迷う
残留する“波”は確かに、空七のそれだった
かつてのものとは大分変質している。が、看過するほど俺の感覚も馬鹿じゃない
「我が助手の従弟が疑問を呈したのは、あの子の情報網的には当然といえば当然であろ
あの子が通う『教会』の支部には、凍れる悪魔の御仁もおるしな」
「凍れる悪魔……あれ? 教会なのに、悪魔?」
「そうだよ。かつて、幾百年もの間、雹と霰の天使『バルディエル』に成りすましていた凍れる悪魔
ソロモンの悪魔の一体にして四十八の軍団を指揮する侯爵。天使の姿をもって現れる、かつては竜でもあった者。『クローセル』
二十年程前のごたごたで正体がばれても、幾重もの策略と保険と誰かさんの情けにて。今なお『教会』に所属したままだ」
俺の知らない「教会」の事情を、ただ聞く
成り済ます、装う、謀る。どの界隈でもそうなんだろうが、熟達した実力があれば
他者を欺くことはそう難しいことではない、それが「先生」の話すところの趣旨だった
「その都市伝説にもよるが。誤魔化し、偽る事はできる
誤認してしまう事はある……。思い込みは、時として猛毒にもなりえる」
「それは……」
「人は、時として己の記憶にすら、己の感情にすら嘘をつく
正直、私も過去に思い切り経験がある。他者によって感じた印象すら操作される事もある
――我が助手の従弟が言うていたように。最悪、別のものである可能性も視野に入れた方が良いかもしれん」
「先生」は真っ直ぐ俺を見て、諭すように語り掛ける
俺が迷い、迷っているところを、見抜いているのか
「でも。人を塩に変えちゃう、とか。そんないかにも特徴的なこと、他の都市伝説で装えるのかな?」
俺がどう返答すべきか迷っていると、いよっち先輩が疑問を口にした
「できるよ。ものすごく頑張れば私でもできる」
「「えっ」」
それに対する「先生」の答えに思わず驚いてしまった
少し遅れて、脳裏に彦さんの言葉が甦った
『お前もゆくゆくは同じことができるようになる、脩寿
それは私にもできる、八にもできる。あるいは、定でも「呪宝」の力を借りれば同じことができる
目の前の形に縛られるな。迷いに縛られるな。今お前の眼前にある物すら、如何様にも姿を変える。忘れるな――』
いかんな、どうしても空七のことになると思考が狭窄する
頭じゃ分かっていてもこれじゃ駄目だ、学校町まで乗り込んだのに、この期で「先生」に諭されるなんて
「迷い子の少年。『刀狩り』の青年は知っているかい? 『獄門寺組』に所属しとる契約者なんだが」
「ほ!?」
急に話を振られた
刀狩り? まさか、刀狩りの鉄(くろがね)さんの話か?
「『刀狩り』の鉄さんですか? 『獄門寺組』幹部の?
『獄門寺組』に手を出そうとしたよからぬ集団を、たった一人でたいして時間もかけずに壊滅させたっていう?」
急に話を振られ、舌がもつれそうになりながら問い返す
「先生」はうむ、と肯いた
「君は『刀狩り』の青年が、どんな都市伝説と契約しているのか知っているかい?」
「『数珠丸恒次』や『蜥蜴丸』を使って戦ってた、って話を聞いたので
刀剣類の都市伝説複数の契約、でしょうか」
「ふむ。やはり、よそからはそう認識されとるか」
俺は鉄さんの契約伝承を知らない
なんとなく“古い”曰くと契約している、そんなイメージを抱いていたが
「その言い方だと、早渡後輩の予想、外れてる?」
「うん、違うね。実際は何であるのかは『獄門寺組』所属ではない私が言うと角が立つ故、あとで『通り悪魔』の御仁辺りに聞くと良いとして、だ」
違ったらしい
しかも今の話では少なくとも「先生」と鬼灯さんはご存じのようだ
「あれも能力の一部だけ活用している現場しか見せていないと、見破るのは難しかろう。迷い子の少年のように、誤認してしまっても仕方ない」
「能力の一部」
「ただたまたま、能力の一部だけを見られたが故の誤認ならば良いが。意図して誤認させてくる場合は殊更、見破るのは難しくなろうて」
見た側の誤認
そして、見せる側の欺瞞
「そこに、悪意と言う毒が混じれば――。余計に、ね」
「先生」は、そう言葉を引き継いだ
言葉が、無数の言葉が、頭を、腹のなかを、廻る
先に答えを想像しないと正解に辿り着けない逆説的な問い掛け
相手の能力がどんなものか分からないのが普通
「早渡後輩、だいじょぶ?」
「いま『先生』の言葉をこう、なんというか、反芻? そう、反芻してる」
相手のANfxが不明だからって、俺はそこで立ち止まってきたか?
戦う前から負けること考えるバカがいるか?
違うだろ、違うよな
それに「先生」には前にも言葉を貰った
そう、俺は確かに貰った
思い込みとは猛毒である。無知とは猛毒である。しかして、全てを知ったとして毒に殺されぬ訳ではない
逆に、全てを知ったが故に『絶望』と言う名の致死量の猛毒によって殺される事もまたある
知りなさい。たくさん、たくさん。君にとって必要な事を。『自分にとって都合のいい真実』ではなく『真なる真実』を見つけてごらん
その真実が君にとって絶望だったとして、その絶望という猛毒に負けないくらいの『希望』と言う猛毒を見つけてごらん
――そうすれば、大概のことは、きっと大丈夫さ
参ったな、やっぱり「先生」には全部見透かされてたんじゃないだろうか
やっぱり空七のことになると思考が狭窄しやがる
仮にアイツが道を踏み外すような真似をしてるとして
俺はそれを全力で止める、それだけだ
仮に俺がアイツにかつて抱いていた“好き”が幻だったとしても
俺の幼馴染であることは、ANの同期であることは、――ダチ公なことには変わりない
何処に居やがる、空七。待ってやがれ、空七
「『先生』、さっきの話なんですけど、『姫君』ってやっぱりお姫様なんですかね?」
「うん? お嬢さん、気になるのかね?」
「気になります! お姫様って『薔薇十字団』の偉い人なんですか? や、やっぱりお姫様って言うからには、お付きの騎士とかが居たりするんですか!?」
とりあえずアイツに出会うまで、真相は分からずじまいだ
今はやれることをやるしかない
そう考え、ふと重圧から解放された気がした――あくまでそんな気がしただけだが
そうだな、鉄さんについては、本人に訊いてみるのが一番だ
鉄さんとは「七つ星」にいるとき何度も話をした仲だが、お互いに深いところまで話せたわけじゃない
それに相手のAN-Pについて訊くってのはかなりデリケートな内容になるからな
「先生」と鬼灯さんと鉄さんとが親密として、又聞きは無礼すぎる行為だ
相手の武器や弱点に関わることだから、鉄さん自身が俺に許したときに、直接訊いてみよう
それにしても鉄さん、元気にしてるだろうか
最後に会ったのは今年のバレンタインの頃だったか
「ちょっと、それは駄目でしょ!!」
不意に、隣室から大声が響いた
何だ今のは、広瀬(優)ちゃんの声か?
あれか? 俺か? 俺の携帯か!? 毬亜の野郎か!?
耳を澄ませば何やら押し殺した声で何人かの囁き合いやらが聞こえる
えこれ何? ヤバい? ひょっとして俺のセンシティブなあれやこれやがヤバい状況?
「『先生』!」
「うん? どうしたね、少年」
「俺の過去がスキャンダルに餓えた花野郎とその愉快な仲間たちの所為で危険に晒されてます! そろそろ止めないと!
俺が女の子から貰った超プライベートな画像とか、そういうのが第三者に共有されたら、こりゃもう死活問題ですよ!?」
「え、何? 早渡後輩、そういう画像もらったりしてるの? 何? 気になるんだけど!?」
「そういう話は後だ先輩!
『先生』後生です、あのほら大人の威厳的な何かであの中央高校グループを止めてくださいッッ!!
俺はどうにかして毬亜を〆めますんで!! オイこら毬゛亜゛ぁ゛ぁ゛、お前まじマッハだかんなあぁぁっ!!」
隣室で現在進行形の事態が最悪の状況に至ってんじゃないかとパニックになりかけた
とりあえず牽制のために怒鳴ったものの、何やら当の隣室からは若干名のクスクス笑いが聞こえる
「先生」!? もう俺の様子見はいいですよね!? 「先生」!? なに笑ってるんですか!? 先生!?
□■□
花子さんの人に御礼申し上げます orz
「先生」の言葉を受け、ひとまず迷いを吹っ切った、そんな感じの早渡ですが
次世代ーズの想定してた以上に早渡の覚悟と思い切りが早くなってるので、これは荒事のハードさが上がる兆候だろうか
以下は少し早い(?)バレンタインのお話
現在の時間軸から過去に飛んで、遠倉千十が中学三年時の【2月】の出来事になります
つまり現時点の【11月】からおよそ9ヶ月前のバレンタイン当日ですね
●はじめに
今回の話は前スレ 576 で花子さんとかの人が投下した、バレンタイン当日の出来事
前スレの少し後の時間かもしれません
●弁明
まず初めに花子さんの人、そしてはないちもんめの人に土下座を捧げます orz
次にチロルチョコは美味しい、本当に美味しい、これは間違いない事実である
①放課後
千十「あっ、花房君」
茅部「お、おはな見ーつけたー」
茅部「おっはなー♪ おはなー♪ 今日はチョコレートいっぱい貰えたー?」
直斗「なんだかやべえ、ケンカ売りに来たのか? ん?」
茅部「その様子だと今年“も”あんまり貰えなかったみたいだねー ンフフ」
茅部「でも今年も優ちゃんとか神子ちゃんからは貰えたんでしょー?」
直斗「そういう問題じゃない」 ☜ 憮然とした表情
茅部「ふふ、そーゆーとこだぞっ、花房クン♪」
②おはな♥ あーんして♥
茅部「そんなおはなのために! ってわけじゃないけど、友チョコ渡して回ってるんだ」 ☜ 大量のチョコが入った袋を掲げながら
千十「チョコって言っても、チロルチョコなんだけど……」
茅部「せっちゃんとワリカンして大人買いしたんだよねー、おはなも良かったらどうぞ!」
直斗「俺にもくれんの? 本当にいいのか?」
茅部「と言ってもー! そのまま渡すのはつまんないから……」 ☜ チョコの包装むきむき
直斗「かやべえ? 何してんだ?」
茅部「えへへ、おはな♥ はいっ、あーんして♥」 ☜ 素手でチョコを触らないように包装越しで
直斗「おい」
茅部「おはなー? なんで照れてんのー? いいじょーん! 茅部とおはなの仲でしょー??」 ムフフ♥
直斗「誰かに見られてあらぬ噂が立ったらどうする!」
茅部「誰も見ーてないってー、おはな気にし過ぎだよー」
千十「……うん、多分大丈夫」 ☜ 周囲を見回して自分ら以外に誰もいないことを確認
直斗「仕方ないな……、ん」
茅部「あーん♥ うんっ♥ どう? おいし?」
直斗「……美味しいも何も、チロルチョコはチロルチョコだろ」 モグモグ
茅部「はー!? 食べといてそんなこと言っちゃうのー!? 確かにチロルチョコはチロルチョコですけどー!!」
茅部「かやべえが食べさせてあげてるところに何かしらの価値をほんの少しでも感じないってのー!? これがお店ならお金取ってるとこだよ!!」 プンスコ!
直斗「これで金取るとか、なんの店だよ」
千十「は……、は、はなっ、はなふさくん……」 ☜ 顔を真っ赤にしながら包装むきむき
直斗「うん? 遠倉? どうした?」
千十「あ、あ、あ、あーん、して……!」 ☜ ふるふる震えながらチョコを差し出す
直斗「ちょっ! 別にかやべえに合わせて無理する必要なくない!?」
茅部「あんたっ! おはなっ! せっちゃんに あーん♥ してもらえるなんてっ! あんたっ、この幸せ者っ!!」 ドスドスドスドス ☜ 花房君の脇腹を突き回してる
③来たぞ来たぞ、遥が来たぞ
直斗「まさかこんな経験するとは思ってなかった」 ☜ 若干困惑
千十「……」 ☜ 傍目に見ても分かるほど顔が真っ赤
茅部「ん? 向こうからやって来るの、日景かな……?」
千十「えっ!? ほっ、ほんとだ……!」
直斗「来たな、今日の主役が……」 ☜ 複雑そうな表情
茅部「うっわ何あの量、引いちゃうぐらい貰ってるじゃん」 ☜ ドン引きの表情
遥 「珍しい組み合わせだな、何やってんだ」
直斗「……」
千十「……」
茅部「友チョコ配って回ってたんだけど、アンタそんな大量に貰ってるわけだし、茅部たちからは要らんでしょ?」 ☜ あからさまに嫌そうな顔つき
遥 「確かにこれ以上かさばるのはめんどくせえ」
千十「でも、あのっ、チロルチョコくらいなら……」
遥 「あ? 小っこいのか? ならわけねえよ」
茅部「これ以上欲しいっての? よくばりんぼか! なんか財宝集めるだけ集めて、何に使うわけでもなく守ってるドラゴンみたいじゃん」 ムーッ!
直斗「……」
千十「じゃ、じゃあ、私が入れておくね……」 ☜ 傍目に見えるほど真っ赤になってふるふる震えてる
遥 「ん、適当空いてるとこにブチ込んどけ」
直斗(かやべえ、遠倉って遥のこと好きなのか?)
茅部(……あんた、そういう風に見えるの? 思春期男子に乙女心を理解するのは辛いかー)
直斗(違うのか)
茅部(せっちゃんさ、日景のことがずっと怖くて。でも怖いままだと本人に失礼だからって、頑張って慣れようとしてたんだよ)
直斗(……なるほど?)
千十「日景君、いっぱい貰ったんだね」
遥 「めんどくせえことこの上ねえよ、途中からどうでもよくなったが」
④じゃあねーおはなー♥
茅部「じゃ! 茅部たちは他の子にも渡してくるから!」 ンジャッ!!
千十「日景君、花房君、気をつけて帰ってね」 ☜ 顔がまだ赤い
茅部「あっ、おはな!」
直斗「?」
茅部「チュッ♥ ふふっ」 ☜ 投げキッス
直斗「そうやって人をからかうのやめろ」
遥 「なんだ直斗、あいつらとよろしくやってたのか」
直斗「……」
遥 「お前、いくつかチョコ貰うか?」
直斗「……」
遥 「……直斗?」
⑤おまけ
於 「闇市」 (広商連 「団三郎狸」 管轄内) 某所
早渡「鉄(くろがね)さん……」
三郎「くろがねの兄やん……」
鉄 「コトブキ、サブ……」
鉄 「コトブキ、お前、頭の怪我は大丈夫か? 具合どうだ?」
早渡「へへ、大分よくなったよ。ありがと」
早渡「今月入ってようやく右腕が思うように動くようになったからさ、リハビリがてらチョコ菓子作ってみたんだ。食べてくれねえかな……?」
鉄 「いいのか……!? すまねえ、ありがとうな」
三郎「……」 グーーッ ☜ 腹の虫が鳴った
早渡「サブ、悪いけど、サブのは寺に戻ってからな?」
三郎「うん……」 ジュルリ
鉄 「気にすんな! サブ、一緒に食おう」
三郎「いいの!?」
早渡「あっ、鉄さん、でも」
鉄 「構やしねえよ、それに皆で食った方が美味いだろ?」
早渡「……どうも」
鉄 「仕事終わりの甘いモンは心にも体にも染み渡んだよなあ……」 ボリボリ ☜ 夕日を眺めながら
三郎「鉄の兄やん、今日もおしごと、むずかしかった?」 ボリボリ
鉄 「まあな。『西呪連』の連中、マジで“東”にも出張ってきやがってる。尋定の縁切り刀を『広商連』より先に確保したいらしいんだわ」
鉄 「コトブキ、お前……どうした!? 泣いてんのか!?」
早渡「違うんだ鉄さん、俺の意志と無関係に涙が出るんだ」 ☜ 大量の涙を流しながら
三郎「兄やんずっとこんな感じなんだ」
鉄 「そうか……、早く良くなるといいな」
早渡「もうリハビリ始めてんだけどさ、……大変だよ」
鉄 「俺の知り合いによ、頭を野太刀でぶっ刺されて、危篤に陥ったヤツがいるんだけど」
鉄 「そいつも不死鳥みてーに復帰して……リハビリ中は右と左の概念が逆転して大変だったそうだが」
鉄 「まあアレだ、お前も大丈夫だ。じき良くなるさ」
早渡「……ありがとう」 ☜ 涙を流しながら夕焼けを眺めている
早渡「あと今日のチョコなんだけど、本当はお嬢様が作りそうなシックな感じにしたかったんだ」
早渡「けど途中でクランキーチョコみたいな感じになっちまって……菓子作りって奥が深くて、難しいんだな……」 ヘヘッ
鉄 「でも美味いぜこれ」 ボリボリ
三郎「うまいぜー」 ボリボリ
早渡「へへっ、ありがとな……」 グスッ
●おわりに
花子さんの人、はないちもんめの人に土下座申し上げます orz
鉄さんの話し方はこんな感じでいいのか不安ですが
最後になりますが、チロルチョコは美味しい、本当に美味しい、これは間違いない事実である
茅部 綾子
東区の中学校出身その1
あだ名は「かやべえ or かやべぇ」、ボカロ好きの女の子で(次世代編では)衰退した感のある「歌い手」として同級生には内緒で活動している
花房をはじめとする幼馴染グループとは幼稚園(?)か小学校からの付き合い、壁を作りがちな幼馴染グループのことは割り切って見ている
花房に対する態度は恋慕というよりは、むしろ幼馴染に対する友愛のそれ
咲李さんの死をはじめとする一連の事件の後、立ち直ったような見えるが、心に負った傷はまだ残ったまま
遠倉 千十
東区の中学校出身その2
山梨から転入してきた女の子、日景遥のことを最も怖がっていたがほぼ毎日彼へ挨拶していた
周囲からは男性恐怖症と思われていたが、中学三年時点では気持ち改善しているように見える
早渡 脩寿
「広商連」「団三郎狸」圏内の「北辰勾玉 庵屋」、通称「七つ星団地」に身を置いている
バレンタインから数か月前に頭部を含め全身に重傷を負い、そのリハビリに励んでいる
お医者曰く「斬撃が頭部深くに及んでおり、死ななかっただけマシ」とのこと
三郎
サブと呼ばれる。四、五歳ほどの男児
産毛じみた薄い頭髪が生えているが、それ以上に目立つのは頭部に大きく残る決して癒えない傷痕である
次世代ーズの人様乙でした
あ、「姫君」について聞かれたか
明確には答えないだろうけど、部分的には後で答えさせよう
大人の威厳……大人の……(「先生」を見つめる)(あるかな……どうだろう……)
> 次世代ーズの想定してた以上に早渡の覚悟と思い切りが早くなってるので、これは荒事のハードさが上がる兆候だろうか
早渡君頑張れ
直斗も遥も、反応大体こんな感じですな、バレンタイン
そうか、遥が怖いか(ナチュラルホモ現場を眺める)(むしろ見せない方がいい気がしている)
鉄も、大体そんな感じで大丈夫です
「獄門寺組」の方にいる時は、また雰囲気違うかもですけど
>花房をはじめとする幼馴染グループとは幼稚園(?)か小学校からの付き合い
(幼稚園一緒だった場合、最悪、憐のトラウマとなった「化け物」呼ばわりのあの時居合わせてんなぁ……)(記憶消去案件だから、居合わせたとしても忘れてるだろうけど)
■おおまかな時間軸
次世代編より一年前
「次世代バレンタイン・中学生の頃」(wiki掲載)の頃と>>615-617の次世代ーズの人様のお話と同じくらい
ハ_ハ
('(゚∀゚∩ 一個年上のあいつはどうしてたかなって感じだよ
ヽ 〈 バレンタインそこまでかんけーなくなった気もするけどまぁいいや!
ヽヽ_)
バレンタイン。
それは、乙女の愛とかチョコとかなんか色々と飛び交う季節である。
愛が飛び交うという事は、つまり。
人の想いが飛び交うという事。
――すなわち、都市伝説もまた、蔓延りやすい時期と言う事。
だから、普段よりも警戒をしておくべきなのだ。
「あの、荒神君。今日バレンタインだから、こr「受け取るつもりはない」ぁ……」
ばっさりと言い放って、灰人はそのまま校舎に入っていく。
通学路を歩いている最中も、同じ学校の生徒から声をかけられ渡されそうになったが。灰人はそれらを全て断って受け取っていなかった。
しつこく渡そうとしてきた者もいたにはいたのだが。
「受け取ったとしても、俺の口には入らないからな」
と告げられてまで押し付けてくる猛者は流石にいなかったという事だ。
校舎に入ってからもそこそこ声をかけられチョコを渡されそうになるが、ばさばさと断って受け取ろうとしない。
「一つくらいは受け取ってやったらどうだ」
「いらん。手作りらしい物は殊更いらん」
友人からからかうように言われても、その姿勢は崩れない。
教室に入ったところで、やっと鬱陶しいものから解放されたというように肩の力を抜く。
クラスメイト達は、灰人がチョコを受け取らない事をわかりきっているからか。女子もチョコを持っては来ない。
「勿体ないよなー。受け取ればいいじゃん」
「いらん。好きでもない相手の好意を受け取るつもりもない」
「まぁ、普段から告白も全て断っているお前らしいと言えばらしいか」
こちとらもらえてすらいないのにと悔し涙を流すクラスメイトが多い中、全科目満点での学年トップの友人は笑って灰人の様子を見ていた。
おおよそ色恋沙汰に関して、灰人が関心が薄い事をわかりきっているのだ。
いや、他のクラスメイトもわかっているのだろうが。もらえるチャンスが多いのに受け取ろうとすらしないその様子はある種僻みの対象なのだろう。
「手作りがいらない、ってのはわからなくもないけどな……変な物入ってることもあるだろうし」
「そういう事だ」
理解してもらえて何よりだ、と灰人は小さく笑った。
悪意のあるなし関わらず、そういうことはある。
……だから、余計に受け取るつもりはない。
「ただ、灰人。受け取ったとして自分の口には入らないって言ってたようだけど。じゃあ、誰の口に入るんだ」
「入るかどうかはさておき、診療所の「先生」に引き渡すだけだ」
「処分押し付けてるのか」
「……押し付けている訳でもないんだが」
押し付けている訳ではなく、請け負ってもらっているだけだ。
妙な物が入っているかどうかも、あの「先生」なら食べる前から鑑定できる。
当人もそのうえで「怪しい物渡されたなら持ってきなさい」と言ってくれているのだから、何も問題はない。
「……と、言うか。お前らも、他人から妙な物は受け取るなよ。自分の身は自分で守れ」
「くそっ!これだから日頃からモテ慣れている奴は!」
「謝れ!生まれてこの方母親以外から受け取った事ない奴に謝れ!!!」
知るか、と冷たく言い捨てさっさと一時限目の用意を始める。
友人も、怨嗟の声を吐き出すクラスメイト達を眺めつつ、自分にはさほど関係ないというように授業の用意を始めていた。
色恋に興味のない友人と言うものは、こういう時実に助かる。
「今日の授業全部終わるまで、断り続けるの頑張れよ。無断で机に入れようとする奴見かけたら阻止くらいはしてやるから」
「……頼んだ」
物分かりが良くて協力的なのでさらに助かる。
自分は幼馴染達以外にも良い友人を持てたものだと、改めて実感してこの日は始まった。
何故、人は靴箱にまでチョコを入れておくのか。
包装紙に包まれているとはいえ、どうなのか。
しかも十六個もぎっちぎちに詰まっていた。何故だ。
なんとか取り出して、全て不審物として職員室に投げて学校を後にした。
元から受け取るつもりもなかったのだ。それを、直接私にすら来ない者からの物等受け取るはずがない。
それくらいは、理解できると思うのだが。できないものなのだろうか。
ため息つきつつ、診療所まで到着した。
流石に、放課後の診療所に向かうまでの間に渡そうとしてくる者はいなかった。
もう、今日中にチョコの襲撃はない、はずだろう。多分。多分。
「手伝いに来ました」
診療所に入る。かすかに甘い香り。
……近所の住人辺りからでもチョコをもらったのだろうか。
「先生」当人宛てと、娘がいるからとそちらが食べる事前提で渡された物と双方だろう。
あの男は見てくれがある程度良いのと、外面の装いが辛うじて出来て……いや、あんまり出来ていないというのに、多分外人だからと言う事で許されているので近所の住人からはある程度人気がある。
こちらが入ってきたのに気づいて、ぱたぱた、小さな足音。
「こんにち、は」
「あぁ、こんにちは、リア。……「先生」は?」
姿を見せた、六歳程度の幼子相手に、屈んで目線を合わせながら問う。
「先生」によく似た、しかしそれよりは艶のある白銀の長い髪と、赤い瞳。眠たげな眼差しが、じぃと見上げてくる。
「おとーさん、奥。鑑定中」
「わかった。ありがとうな」
奥にいるなら、一声かけてから手伝いに移ればいいだろう。
「先生」の娘であるリアに礼を言うと、診療所の奥、住居スペースへと向かう。
そこで、「先生」はチョコレートを軽く調べているようだった。貰い物の鑑定中だろうか。
「こんにちは、「先生」。鑑定、手伝う必要はあるか?」
「うん?…………おや、我が助手。てっきり今日は、まぜこぜの子のところに直行かと思うておった」
声をかけると、調べている最中だったらしい、手作りと思わしきチョコレートから視線を外して顔を上げてきた。
そのついでに口にしてきたその内容に眉を顰める。
「……なんで、先輩のとこに直行なんだよ」
「君は、あの子の事をなんだかんだ言いつつこまめに面倒見に行ってるからだよ」
向けられてくる表情は、からかっているような、見守っているような。どちらともとれる表情だ。
確かに、あの先輩は色んな意味で放っておくべきではないので様子を見るようにはしているが。
「別に、今日、先輩のところに直行する理由はない」
「おや?…………ん、もしかして。今日はあの子、学校に行っておらんのか?」
「あの人、大学は推薦で受かったしな。出席日数足りなくならない程度にしか来てない」
進路が決まった高校三年生なんて、そんなものだろう。
実際、今日、学校に来ていなかったのは確認済だ。
こちらの言葉に、はて、と「先生」は考え込み始める。
「と、なると。あの子、どこでこれを受け取ってきたやら。学校で受け取ったなら、我が助手の知識もあって絞り込みやすいというのに」
「…………は?」
「先生」が調べていたチョコを見る。
どう見ても市製品ではなく、誰かの手作り。
「…………おい。そのチョコレート」
「まぜこぜの子が誰かかしらから受け取った物だよ。診察終わった後につまんでいたのだが。チョコに「手作りチョコを作る際に自分の血を混ぜて作ると両想いになれる」と思わしき都市伝説の効果が働いていてね。そこまで強い効果でなし、拒絶反応もそこまで強くでなかったが確実に具合は悪くなって。でもまぁ君がまっすぐあの子の家に行くだろうと思ってそのまま帰らせ」
「今日の手伝いはなしだ!!」
おろしかけていた鞄をひっつかんで、診療所を後にする。
ひらひらと、「先生」が楽しげに手を振って見送ってきた気配がしたので、後日殴っておこう、と誓った。
こういう時、合鍵を所持しているのは実に便利だ。
一応呼び鈴鳴らしたのと携帯端末に連絡は入れたが反応なかったので、遠慮なく合鍵で中に入った。
「先輩…………つくね先輩」
「…………ぅ」
先輩がいつもつけている乳香の香水の香りが、普段より強く感じる。
その理由を察して、ため息をつきながら寝台の上で丸くなっている先輩に近づいた。
こちらの気配が近づけば、具合悪そうな顔が毛布から出てくる。
う~、と、獣の唸り声のような声が漏れ出していた。
「タチの悪い都市伝説の効果が発動しているチョコを食べたそうですね?」
「う…………「先生」に、すぐ解毒されたし、平気……」
「どこで、誰から受け取った物だ」
見下ろす。
バツが悪そうに視線をそらしてくるが、その程度でこちらが引かない事などわかっているのだろう。
うぅうう、と、唸り声をあげてから答えてくる。
「……バイト先の女……」
「…………そうか」
都市伝説効果に関して意図的だったかどうかはともかく。
他人に食わせる物に自分の血を入れるような女に関しては、調べておく必要がある。
意図的だったなら、ある程度処す必要もある。意図的でなくともある程度処すが。
「人から渡されたもん、うかつに食うなといつも言ってたよな?」
「……ごめんなさい」
もぞもぞと、先輩が起き上がる。
書類上では二つ年上の。五年前の……「先生」が本格的に正気に戻るに至った件の頃に知り合った人。あの連中が行っていたろくでもない事の被害者の一人。その結果の混ざりもの。「薔薇十字団」の保護対象にして、「組織」の監視対象。
先輩に関するいくつかの情報を、頭に思い浮かべて目の前のその人を見つめる。
具合悪そうにしょんぼりしているその姿は、ただの未成年の少年にしか見えないが。
己はその正体を知っていて。それを承知で先輩後輩の間柄でいるつもりだ。
……なぜか、世話番みたいに思われている節があって、解せない。
「本当に、体の状態は大丈夫なんです?」
「……うん、解毒されたし。その方面は平気だ…………その。昨日からちょうど、はじまって。それと重なったから過剰に具合悪くなっただけ」
「いっちばん、体調悪くなりやすい時期じゃねぇか馬鹿野郎。なおさら、人から渡されたもんうかつに食うな」
小腹がすいていたからとかそういう理由でつまんだのだろうけれど。そもそも、受け取らないでおいてほしい。
「…………食欲はあるか?」
「軽いもんなら、入ると思う」
「わかった。夕食は何か軽く食える物作っておくし、明日の朝食分、温めれば食えるもん作って冷蔵庫入れとく」
他にやる事は、と考えていたら服の裾を引かれた。
ひとまず、起き上がれるくらいの状態ではあるのだなと判断した。
乳香の香りがする。するりと腕が絡みついてくる。
「先輩?」
「今日、泊まってけばいいのに」
「駄目です。そこまで面倒見る気はないんで」
「……今日バレンタインだから。帰ったらお前の両親と従弟の両親、ダブルでイチャついてるとこなんじゃ」
「…………………………涼さんのフェリシテさん相手のはともかく、親父達の方はまだ鬱陶しくない」
「今、すげぇ悩んだよな?」
確かに、二組同時にいちゃつかれると鬱陶しさは倍どころか二乗レベルだが。
だからと言って、あれの対処を従弟兄弟に任せるわけにもいかない。凜の方は色々わかっていないかむしろ面白がっていそうだがそれでもだ。
軽く視線を動かせば、じ、と見つめてくる視線とぶつかる。
見た目は年上の男だが、実際はまだ十年も生きていない、獣の目。
ため息、一つ。
あまり甘やかすものではない、とわかってはいるのだが。
「…………どうせ、体中の血流も悪くなってんだろ。後で肩も揉んでやるから。夕食までですよ」
「ん……ありがとう、灰人」
手間のかかる大きな子供に懐かれている気分になる。
それでもまぁ、今日くらいはいいのだろう。
当人に自覚はないのだろうが、こちらはこちらでこの人に救われている事は自覚している。
日頃の感謝を伝える日でもあるのだから。
素直に伝えてやるつもりはないが、恩を返すくらいは、許されるだろう。
おわっとこう
リア充……?
一体どこにリア充が……?
■おおまかな時間軸
次世代編より一年前
「次世代バレンタイン・中学生の頃」(wiki掲載)の頃
>>615-617の次世代ーズの人様のお話
>>621-623の話
以上三つと同じ時期
ハ_ハ
('(゚∀゚∩ 思いついちゃったのでぶんなげるよ!
ヽ 〈
ヽヽ_)
「うーん、一杯貰ったっすねー。せいっち」
後輩が持っている、この日受け取ったチョコが入った紙袋を見て憐はくすくすと微笑んだ。
紙袋を持っている星夜の方は、ややうんざりしているような表情だ。
「遥に渡しに行けない根性なしやら、灰人がいないから渡す先がなくなった奴やら。そういう連中からのもんだと思うんだが」
「もー。そういう事言っちゃ駄目。ちゃーんと、せいっちの事が好きで渡した子もいるだろうから」
「……一面だけ見られて好きになられてもな」
嬉しくもなんともない、と言った様子だ。
それでも、手作りじゃなければ受け取っているだけ温情だろう。
一足先に高校生になった従弟は、手作りだろうがそうじゃなかろうが、よほど親しい者からではないとバレンタインの贈り物を受け取ろうとしない。
……まぁ、誰から渡されようと一応全部受け取る遥のような例もいるが。遥は遥で「受け取るが自分で全部食べるとは一言も言ってない」なので、あれはあれで酷いのか。
そして共通して、遥も星夜もどれが誰から渡された物であるのか、どれだけ把握しているやら。
勇気を出して渡したであろう女子生徒達に、憐は少しだけ同情する。
きっと二人共、向けられた好意に答えるどころか、それを意識してすらいない。
…………そういう自分も、人から向けられる好意にきちんと誠意をもって対応できるほど、人間ができてはいないのだが。
「せいっちは。こういう時贈り物もらって嬉しいと思える相手、いないんすか?」
「憐さん以外は特にいませんが?」
「なーんで、そこではるっちみたいな事言うっすかねー」
どうして、自分の周りにそういう返答してくるのが二人もいるのか。実にわからないと憐としては悩まざるを得ない。
星夜は基本的に冗談は言わない。いつでもマジレス直球ストレートだ。
つまり、今の返答は決してふざけたものではなく、星夜の本心と言う事になる。
正直、頭が痛い。
「そこでゆかっちの名前出てこないの、どうかと思うんすけど」
「紫の?…………まぁ、あいつはおかしな物は渡してこないから、そこは安心できるが」
幼馴染、と言うか「被害者仲間」の名前を出されて、星夜は少しばかり考えて。
あぁ、と、憐が言わんとしている事を理解したようだった。
「紫は、そういう相手じゃない。向こうだって、俺をそういう対象としちゃ見てないだろうし」
「そう?」
「そうです。あれは単に仲間みたいなもん。あいつはどっちかってと、マシューみたいな男の方がタイプだろうし」
星夜が名前をあげたその人の姿を憐は思い浮かべ。
……星夜とは、だいぶタイプが違う男性だ。少なくとも、社交性はあちらの方が圧倒的に上だ。
それに大人だし、色んな意味で星夜ずっと余裕がある……戦闘力もあちらの方が上、だろう。都市伝説の使い方にもよるが。
「あいつも、本気でマシューの事好きだって訳じゃなく憧れの類だとは思うけど。そもそもマシューも、紫みたいなちんちくりん、恋愛対象じゃないだろうしな」
「せいっち。ゆかっちに対して直でそういう事言っちゃ駄目っすよ。手遅れかもしれないけど」
「こないだ直接言ったら蹴り飛ばされかけてそのまま取っ組み合いにはなった」
「やっぱ手遅れだった」
女子に対して何を言っているのだろう、この後輩は。
と言うか、女子と取っ組み合いはしないでほしい。敵でもない相手ならなおさらだ。
「はるっちといいせいっちといい。女子の扱いが雑過ぎるっす」
「遥と一緒にされんのは流石にちょっと」
「なら、ちーっとは反省してほしいんすけd「俺は憐さん以外、大体等しく対応してるだけだし」うーんある意味はるっちより駄目!」
駄目だ、将来とか考えて色々何とかしないと!!
頭を抱えそうになる憐に、星夜はそんな憐の悩みに気付いた様子もなく。
「俺は」
真剣に、憐を見つめる。
それは、躾けられた猛犬が飼い主にだけ向けるような。獰猛さを押さえつけた忠犬の眼差し。
「誰であるかも意識してない奴からの贈り物より。憐さんからお褒め頂けることの方が、ずっと大事だ」
「……なら。無茶しない範囲で、俺が褒めてあげられるようにしてね?」
「はい!」
あぁ、尻尾の幻影が見える気がする。
何故、よりによって自分にだけこんなに懐いてきてしまっているのか。
……原因は一つ思い当たるけれど、それをあまり考えたくない現実に。
星夜に気付かれぬように、憐はこっそりとため息をついた。
おわっとけ
>>621-623の方のネタ、「 書類上では二つ年上の。五年前の……「先生」が本格的に正気に戻るに至った件の頃に知り合った人~」のとこ
一年前だからこれ四年前のミスだ
一年前の話だから一年ズレてんの忘れてた
> 栗井戸君は遥と仲悪かったのか、今回の話見ればそうか
顔合わせると威嚇しあう程度の仲です
こんばんわ、深夜帯ーズです
改めて投下お疲れ様でした
つくね氏、今回初登場か
どっかで言及されてるだろうけど直接登場は今回初だと思う
現時点から五年前といえば角田氏も当時何かごたついてたようなこと言ってた覚えが
本格的に時系列表がほしくなってきたな……
そして憐君と栗井戸君
憐君周囲が憐君に向けてる愛が誰も彼も重すぎない?
何やら真の都市伝説は「残留思念」ではないかのような仄めかされ方してましたが
真の正体が「マモン」で、混同されやすい「アモン」の特徴も混じって過去どころか未来も見れるし
漆黒の翼を広げたりなどする……といった真相がやってきたとしても、もう驚いたりはしない(※あくまで予想です)
> 「先生」が正気に戻ったの、割と最近らしいですがこれもう「先生」の話だけで連載いける程エピソードがあるのでは……?
数年前、みたいな感じで書いたことあるような覚えあるんですよね
なんで、十年よりは前かなって
そういう感じで、、五年前くらいかなぁ、多分
連載行けるエピソード量かどうかは知らない
■いままでのあらすじ
「みんなで遊ぼう」「みんなで遊ぼう人狼遊戯」
↓
>>510-513
「人狼遊戯のその後に」
↓
>>533-542
「次世代ーズ 「いよっち先輩からの質問」」
↓
>>548-550
「簡単なご返答」
↓
>>565-569
「次世代ーズ 「早渡、返答を受けて」
↓
>>584-585
「備えは大事」
↓
>>589-591
次世代ーズ 「厚意、返答、触診、そして」
↓
>>598-600
「保険仕込みと時間つぶしの雑談」
↓
>>611-613
「次世代ーズ 「様子見の間に」」
↓
今から投下するもの
ハ_ハ
('(゚∀゚∩ 多分、これでひと段落かな?
ヽ 〈
ヽヽ_)
(まぁ、私もその気がある自覚はあるが。迷い子の少年も、考え事をすると周囲の会話が耳に入りにくくなるタイプかね)
合間合間、観察して感じたのはそこだった。
考え事に集中できるのは悪い事ではあるまい。うっかり、それで情報を聞き逃したりしなければ問題はないのだろう。
そう、うっかり聞き逃しで、知っておくべき事を聞き逃していなければ、だ。
(他に、共に会話に加わっている者がいればうまくフォローできるのであろうけど。ここは当人がどれだけ自覚できているかにもよるか)
ひとまず、一回使い切りの「賢者の石」を体内に放り込んでの拒絶反応の気配なし。
大きな物ならともかく、一回使い切りくらいならそうそう拒絶反応やアレルギー反応は出ないだろうから念の為のチェックではあったが、無事何事もなく幸いだ。
……と、声を掛けられそうな気配を感じ、そちらに意識を向ける。
「「先生」、さっきの話なんですけど、「姫君」ってやっぱりお姫様なんですかね?」
「うん?お嬢さん、気になるのかね?」
「気になります!」
戻ってきた少女からの、どこかキラキラとした眼差し。
自分はごく自然に使っていた「姫君」と言う表現だが、この単語は乙女心を刺激する何かがあるのだろうか。
乙女心どころか「人の心がわかっていない」と言われたことがある自分にはきちんと理解が及ばない。
「お姫様って「薔薇十字団」の偉い人なんですか?や、やっぱりお姫様って言うからには、お付きの騎士とかが居たりするんですか!?」
「ふむ。夢を壊してしまうやかもしれないが。「姫君」は、「薔薇十字団」所属の私の古い友人の娘の事だよ。騎士のようなものは、まぁいるにはいるが」
ある種、あれはもう「騎士」と呼んでも差支えがない……いや、「騎士」と呼ぶには少々えげつないか、あれは。
あれを「騎士」と呼ぶと本物の「騎士」に怒られるような気もする。
「「薔薇十字団」所属の古い友人…………もしかして、クリス、って人の、ですか?」
「あぁ。友人であり、私にとっては恩人でもあるね。私は元々、彼と契約しておったし……」
と、そうして話していた時だった。
「ちょっと、それは駄目でしょ!!」
聞こえてきた、赤いちゃんちゃんこの少女の声。
その声に反応した迷い子の少年。
あっ、となんとなく察したが。察したが、たいして問題はあるまい。
「「先生」!」
違った、問題あったらしい。
「うん?どうしたね、少年」
「俺の過去がスキャンダルに餓えた花野郎とその愉快な仲間たちの所為で危険に晒されてます!そろそろ止めないと!俺が女の子から貰った超プライベートな画像とか、そういうのが第三者に共有されたら、こりゃもう死活問題ですよ!?」
多分、もう手遅れじゃないかなぁ、と言う予感がする。
いっそすっぱり諦めた方が世の中楽になる事も多いが、その域に達するにはまだ早いのだろう。
会話の様子を見てきていると、なんとも微笑ましい。
己はこのような青春と称していいものは経験できなかった身であるが、若い者がそれを謳歌するのは実によい事だ。
この平和が、長く続けば実にいい。
「最悪の状況はギリギリ回避できたでいいんだろうか?」
「回避できてないと思う」
「アウトだと思う」
「恵おばさんとこの「スーパーハカー」が一瞬見えた時点でアウトだな」
「何もかも間に合ってなかった!!??」
早渡が顔を覆っているが、まぁどう考えても何もかも間に合っていないだろう。
確かに遥が言う通り、ちらっとスマホの画面に「スーパーハカー」が見えた。「マッドガッサー一味」のとこの「スーパーハカー」だったならば、あのほんの一瞬で何もかもバックアップとっていっただろう。
「っく……まさか、最終的に誰一人止めてくれていなかったとは」
「鬼灯さんが面白がってた時点で龍哉は気にしないし、灰人がツッコミ放棄した時点で憐も諦め入ったしなぁ」
「この場で一番の大人ーーーーーーっ!!??」
鬼灯は煙管片手に、けらけらと笑っている。
確かに年齢的にはこの場で一番の大人だが、ブレーキ役としては期待するだけ無駄だろう。
……かなえは止めようとしていなかった訳じゃないが、かなえでは止めるのは無理だ。「岩融」も、ある意味鬼灯より大人かもしれないがそこまで止めてはくれない。
「うーん無情無情。ちなみに私にブレーキ役を期待したとしても、この面子止めるのは諦め入るからね」
「諦めないで!?諦めたらそこで試合終了なんですよ「先生」!」
「早渡、お前は知らないかもしれないが。この白衣、憐にくそ甘いし最近は直斗にもそこそこ甘いぞ」
確か、去年まではそこまでじゃなかった記憶があるのだが。
何故だか、「先生」が直斗に甘くなった気がする。甘くなったというか、多少距離が近いというか。二人で何か企み事でもして仲良くなったのだろうか。仲良くなりそうな材料がそれくらいしか浮かばない。
「うぅ……もはや味方が、広瀬ちゃんしかいない……」
「多分それ晃じゃなくて私の事言ってるんでしょうけど。人の弱み握るなら当人にその気配すら察知させずに掴んだ方がいいから止めようとしただけよ」
「待って??別方面の最悪が聞こえた気がするよ?」
「だって、こっちがその情報掴んでる事を当人に知られる可能性は低い方がいいでしょ。いざと言うとき使うなら」
優の発言に早渡が頭を抱え始めた。
当たり前のように言われたせいか、だいぶ深刻に頭を抱えているように見えるのは気のせいか。
「大人組、一言どうぞ」
「優の言う通り、人の弱みは当人に知られず握っていざって時交渉材料にするやり方もあるな」
「優の周りの大人見てりゃ、その答えに辿り着くだろうなとは思う」
「いっそ英才教育みたいなものだからねぇ」
優も晃も、「マッドガッサー一味」なのだ。
そうじゃなくとも、父親がせんみつの弟子こと広瀬 辰也。母親が朝日奈 秀雄の子供で「スーパーハカー」の契約者である恵。
情報戦のやり方はきちんとわかっているはずだ。
晃が多少、わざとらしくあからさまに動くことでカモフラージュも平気でやってくるし、カモフラー?ジュと見せかけて本気で情報集めることもある。
あの双子のどちらかに携帯端末触らせた時点で勝負がつく可能性も高い。
「……大丈夫。今回は、お前の知り合いからの提供。よって、悪さには使いにくい」
「それ本当に安心していい案件????」
「とりあえず、お前は情報漏洩してきたあの女きっちり〆といたほうがいいんじゃないのか」
「ウッス」
すでに、晃が東に手に入った情報を送っている気がするぁらそれが安心に入っていいかどうかによるだろう。
安心じゃない気がする。
こちらは生暖かく見守る事しかできない。
さっきまで寝ていたポチがいつの間にか目を覚まして、早渡に前足でぱっふんぱっふん触れているのは、慰めているのかそれとも小ばかにしているのか。
ちゃり、と。ポチの首輪についている「Ⅺ」の形のチャームが揺れている。
(……どっかで見おぼえある気がするんだがな、あれ)
「組織」絡みの資料で見おぼえある気がするのだが、どうしても思い出せず。
ちぎれんばかりに尻尾を振り続けているその姿は、ただの仔犬にしか見えなかった。
to be … ?
多分、出すべき情報大体出した、と思う。多分
なんか足りなかったらここなり避難所なりで言ってくだせぇ
投下お疲れ様でした
親交を温めることができて良かったね、早渡!
ところで晃君がいよっち先輩に情報を横流ししてるらしいので
早渡の恥ずかしい情報はまるっとありすや千十にも流れますね
良かったね早渡、結構な規模で情報流出が発生するよ! やったね!!
2017年3月から実に長きに渡るエピソードであった
本当にお疲れ様でした……
早渡側も渡すべき情報は渡したので、これでお開きですかねー
あとはこちらがが診療所から帰途に着く話を書けば、「次世代ーズ」として一旦締めになるかと
早渡は絶望を通り越して慈悲あふれる微笑みを浮かべて帰っていくことでしょう
しかし最大の問題は「次世代ーズ」が向こう一週間ロクに物を書けないところですかね
つまり、間に合わなかった
本来なら2022年2月22日の2時22分、最悪22時22分までに投下したかったがこれはもう仕方ないね
次は200年後のチャンスを待ちます
>>637
リレーっぽくやってたのに途中で全く投下できないどころかこっちに顔出せなくなってて申し訳ねぇ
大体情報だしたような気がしつつ、何かしら情報だし忘れてはいねぇかと不安な方です
こういう時はなんかかしら、出したつもりで出し忘れてるんだ知ってる
本当は早渡君とかに「先生」の娘目撃くらいはさせたかったんだけどうまくできませんでした
灰人のバレンタインネタでちらっと出すことで作者レベルでは出したのでそれでお茶を濁す
> 早渡は絶望を通り越して慈悲あふれる微笑みを浮かべて帰っていくことでしょう
早渡君、めちゃくちゃ情報流出させてごめんな
■おおまかな時間軸
????????
ハ_ハ
('(゚∀゚∩ いつくらいの会話だったんだろうね?
ヽ 〈
ヽヽ_)
優しさは毒にも刃にもなりえることを、きっと彼女は気づいてすらいなかった。
彼女の優しさは、そんな悪いものではなかったのだろう。
ただ、同情や慰めと言うものが傲慢と紙一重である事に彼女は気づいていなかった。
気づいていなかった癖に、こちらを傷つけたという判断はしたらしい。
ただ、何が原因だったのかがわからない。
いや、もしかしたらわかっていたのかもしれないけど、それと向き合うことができなかったんだろう。
だから、こちらは傷ついていないようにしてみせた。
なんでもないように、普段通りにして見せた。
そもそも、自分でも自分が傷ついたかどうか、きちんとわかってはいなかったが。
……まぁ、多分、傷ついていたんだろう、俺は。
彼女が悪気鳴く、こちらを心配して言った、その言葉は。
俺が悩んでいた事を、気を付けていた事を、何もかも全て否定してきたに等しかったのだから。
私が、彼が普通のようでいて誰よりも普通でなかった事に気付いたのはただの偶然。
彼が、それを知られたがっていたのか、知られたくないと思っていたのか。それがどちらなのかわからなかった。
ただ、知ってしまったからには理解しようと思った。
私は、彼らの「日常」として、それを支えてあげたくて……彼もまた、支えるべき存在なのだと、そう感じたから。
だから、辛くないかと聞いたのだ。
辛くないのか、怖くないのか。
心配で、心配で、たまらなかったから。
彼は、その力を使う事を普通の事で、当たり前のことだと言っていて。
……それでも。
本当にそうなのか、と。
不安で、心配で…………。
「咲李さんは、怖い?」
「……え?」
じっと、彼は私を見つめて問いかけてきた。
いつもと、変わらない。にこにこと笑ったまま。
「……周りと違う俺が、怖い?」
そう、いつもと変わらない。いつもと同じ笑顔のまま、問いかけてきていた。
怖い?
怖いはずがない。
だって、彼は、いつもと変わらないんだから……。
「周りと違う事が当たり前で、辛くない俺の事が、怖い?」
一瞬、ぞくりとした。
眼をそらしていたものを、真正面に突き付けられたような感覚だった。
「俺にとっては、これが当たり前で普通の事なんだ。それが普通じゃないのもわかってるよ。わかっていて、当たり前で普通だっていう俺の事が、咲李さんは怖いかな?」
違うよ、と。
怖くないはずなんてないよ、と。
即答してあげられなかった。答えるまでに、間が開いてしまった。
そう、と彼はいつも通りの笑顔を見せてきた。
本当に、いつもと変わらない、いつも通りの…………装っている、笑顔の仮面。
その下にどんな表情が隠れているのか、決して見せてくれない。
「周りと違うのが怖いなら、無理しなくていいんだよ」
無理なんてしていない。
そんな、無理なんて、一度も……。
「自分を押し殺して、無理して周りに優しくしたとしても……咲李さんの為にも、周りの為にもならないよ」
違う、私は無理なんてしていない。
無理なんて、一度も……一度も………………。
「自分の事、大事にしないとダメだよ。咲李さんは無理するし無茶もするから」
「そんな事、ないよ」
「今だって、無理してるだろ?自分の辛い事を見ないふりしていても、覆る事はないよ」
違う、辛い事なんて、私は、何も。
「……少なくとも。俺達は気づいてるよ。だから、無理しないで。俺達に優しくする前に、俺達に相談してよ」
――心臓にナイフを突き立てられたような気分だった。
みんなには、私の事情を知られないようにしているつもりだった。
だって、知られたら、心配されてしまう。
私はみんなを心配させたくない。
だって、私は、みんなの「日常」なんだから。
だから、だから、だから、だから、だから、お母さんがいない事も、お父さんが私を見ない事も、知られては、いけないのに……
「俺達は、逃げ場になるくらいはできるよ。だから、変に隠さないでよ。一方的に優しくされるだけだなんて、性に合わない」
「ありがとう。でも……私は、なんともないよ。大丈夫なの。だから、みんなは、私の事なんて気にしないで」
彼みたいに、いつも通り笑ったつもりだったけど。
ちゃんと、私は笑えていただろうか?
「あなたこそ。辛くなったら無理しないでね」
「何度でもいうけど。俺にとっては当たり前なんだから辛くはないよ」
「でも…………」
傷つけるつもりはなかった。
彼のプライドを踏みにじるつもりもなかった。
「その力のおかげで、あなたは安全かもしれないけど。それでも、怖い事に変わりはないだろうから……」
私は、この時。
傷つけるつもりはなくて。
彼の努力を否定するつもりも、なくて。
ただ、彼を、心配して。
「――そうか。咲李さんはそう思っているんだね」
いつも通りの笑顔が、酷く恐ろしく感じた。
私の心の醜さが、むき出しにされているような気がした。
失言だったと、気づくのに時間はかからなかった。
あの言い方じゃあ、まるで、彼が彼自身が持つ普通ではない力に胡坐をかいているかのようだ。
その力がなければ、みんなの一員でいられないかのような、そんな言い方になってしまった。
違う、そうじゃ、ない。
彼が、その力に頼り切らずに、考えて、努力している事はわかっていた。
わかっていたはずだったのに、どうして、あんな。
「みんなに同じこと言わなければ、それでいいよ。ただ、本当に無理はしないようにね」
みんなを支えているつもりだった。
みんなの「日常」として、みんなを支えているつもりだった。
けれど、本当は。
支えられているのは、私の方だった。
目を背けていた現実を、私は気づかされたのだ。
気づかされて、そして。
……それでも、私は、ただ優しくある事しかできない。
私にはそれしかできない。
私が見えている範囲のみんなに優しくする事しかできない。
だって、私は、私には…………優しくする事でしか、そこにいる価値が、ないから。
彼女の優しさは麻薬と紙一重で。
彼女と言う麻薬が消えた事から未だに脱出できていない連中がいる事に。
死ぬ前に彼女は結局、気づくことができず。
そういう意味では、無責任だった。
彼女は優しい。それは間違いない。
ただ、その優しさは当人が自分自身を守るためのものでもあって……彼女はそれに気づいていなかった。
辛い現実から目をそらすためのものになってしまっている事に気づけていなかった。
気づいていないから、余計に周りに優しくし続けていたんだろう。
それがどれだけ残酷な事なのか、きっとあの会話の後も気づけていなかった。
気づけていなかったからこそ。
「あなたが飛び降りて取り込まれて、内側からあなたの父親の都市伝説を制御すれば父親を止めることができる」
だなんて、絶対的な強い意思がなければ成功しない事を提案されて、むざむざ乗ってしまったんだろう。
誰にも相談せず、自分だけで背負い込んで、無理だということにすら気づけず実行した。
できるはずがないだろう。
自分の弱さから目をそらし続けていた彼女には。
彼女の弱さに、俺達以外がどれだけ気づけていたんだろうか。
ただ、きっと、俺達以外気づいていないままでもいいのかもしれない。
自分自身の不幸せから逃れるために優しくされていた、だなんて。
きっと、誰も思いたくないだろうから。
その幸せで、綺麗な綺麗な幻想は。
きっと、そのままの方がいいに違いない。
to be … ?
一個上で
> これ言った「組織」強硬派(?)の人、あまりにも無茶振りじゃないの
などと申しましたが、これって角田や門条氏の発言から見るに愛百合さんだよなあ……
彼女がどういう思惑で三年前から【11月】まで活動してたのか、今となっては知る由もないが
過去編や回想で明らかになるときは来るんだろうか
(あるいは本人が話してた以上の考えはない、という可能性も勿論ある)
○全体時系列
■現世代
・秋祭り、同一時期に「夢の国」、「鮫島事件」発生
-------- 上記からおよそ20年後 --------
■次世代
●【9月】
・早渡、「組織」所属契約者と戦闘
・「怪奇同盟」に挨拶へ (アクマの人とクロス)
・東中で花房直斗、栗井戸聖夜から三年前の事件を聞く
その際にいよっち先輩と出会う
その後、診療所で「先生」から「狐」について聞く (花子さんとかの人とクロス)
・東中を再訪、いよっち先輩が“取り込まれ”から脱する
「モスマン」の襲撃から脱出
・ソレイユ(日向)、変態クマ(変質者)に捕まる
・「ピエロ」、学校町を目指す
・日向、早渡を変態クマ(変質者)と見なし襲撃
・ドーナツ屋の前で一旦落ち着く ☜ 次世代ーズ 35 「憩う、ひととき」 はこの後の出来事
・∂ナンバーの会合
・∂ナンバー、「肉屋」侵入を予知
●【10月】
・「肉屋」戦 (9月終盤か、10月初頭?)
・「ピエロ」、学校町への潜入を開始
・学校町内の各中学、高校にて生徒の失踪が相次ぐ
●【11月】
・「組織」主催の戦技披露会実施
・診療所で「人狼イベント」 (上下2点は順序が逆の可能性あり) ☜ 今回の 「診療所からの帰路」 はここ
-------------------- 一日目(仮) --------------------
・「バビロンの大淫婦」、消滅
・角田ら、「狐」配下と交戦
新宮ひかり、上記交戦へ介入
○前回の話
>>634-635
「平和噛み締め」へのクロス
●イベントの時系列
前スレ 811-814 「みんなで遊ぼう」 花子さんとかの人
↓
前スレ 849-853 「みんなで遊ぼう「人狼遊戯」」 花子さんとかの人
↓
前スレ 933-936 「いよっち先輩、来る」 次世代ーズ
↓
本スレ >>510-513 「人狼遊戯のその後に」 花子さんとかの人
本スレ >>519-520 「一方大人の情報交換とか」 花子さんとかの人
↓
本スレ >>533-542 「いよっち先輩からの質問」 次世代ーズ
↓
本スレ >>548-550 「簡単なご返答」 花子さんとかの人
↓
本スレ >>565-569 「早渡、返答を受けて」 次世代ーズ
本スレ >>579-581 「早渡、返答を受けて」のおまけ 次世代ーズ
↓
本スレ >>584-585 「備えは大事」 花子さんとかの人
↓
本スレ >>589-591 「厚意、返答、触診、そして」 次世代ーズ
↓
本スレ >>598-600 「保険仕込みと時間つぶしの雑談」 花子さんとかの人
↓
本スレ >>611-613 「様子見の間に」 次世代ーズ
↓
本スレ >>634-635 「平和噛み締め」 花子さんとかの人
●ここまでのあらすじ
【11月】のとある放課後、早渡と一葉とともに三年前の事件について中央高校組から話を聞く
暫しの交流を経て、早渡は「先生」から“保険”として「賢者の石」を経口で取り込むことになった
同時進行で早渡の携帯の情報が中央高校組へ流出することになる
空七と「ピエロ」関連のデータを渡すために合意済みとはいえ、これは大丈夫なのか?
これは【11月】の話です
【9月】の状況から人間関係や各人物の知っていることが変化しています
終わった
いや、まだ終わりじゃない
場の空気的に、超えちゃダメな一線超えちゃった♥ みたいな雰囲気が嫌でも伝わってくるが、一応尋ねてみる
「最悪の状況はギリギリ回避できた……で、いいんだろうか?」
「回避できてないと思う」
「アウトだと思う」
「恵おばさんとこの『スーパーハカー』が一瞬見えた時点でアウトだな」
「何もかも間に合ってなかった!!」
完全に終わった
元々空七と「ピエロ」に関するデータを渡す予定だった
だが! この様子だと! それ以上のモノが! 中央高校グループの手に渡った!
こうなることは薄々感じていたし、というかこうなることは想定してただろうが! 俺!!
でもだ! 一応言わせてほしい!!
「くっ、まさか最終的に誰一人止めてくれてなかったとは」
「鬼灯さんが面白がってた時点で龍哉は気にしないし、灰人がツッコミ放棄した時点で憐も諦め入ったしな」
「この場で一番の大人ァァァァァっっ!!」
思わず絶叫する、絶叫せずにはいられないだろ!!
煙管を持ったままけらけら笑ってる鬼灯さんに一瞬だけ視線を向けて、直ぐに逸らした
そういや鬼灯さん、こう見てて意外と悪戯好きだって話だったな
「うーん無情無情、ちなみに私にブレーキ役を期待したとしてもこの面子止めるのは諦め入るからね」
「早渡。お前は知らないかもしれないが、この白衣憐にくそ甘いし、最近は直斗にもそこそこ甘いぞ」
「先生」はこの状況でも相変わらず朗らかに笑ってるし
角田の人は半ば呆れ顔だし、紅ちゃんは若干オロオロしてるし
いよっち先輩の方を見るとこっちを見て明らかにニヨニヨしている
これはアレですね、実行犯は完全に毬亜ですね?
というかさっきから中央高校グループの視線が痛い
頼むからそんな目で俺を見るな
特に広瀬(優)ちゃん、どこか蔑むような眼差しを向けてくるのは気の所為じゃないよな
でも! でも一応言わせて!! さっき叫んでたの多分俺に遠回しの合図を出したとか何かだろ!?
「もはや味方が広瀬ちゃんしかいない」
「多分それ晃じゃなくて私のこと言ってるんでしょうけど
人の弱み握るなら当人にその気配すら察知させずに掴んだ方がいいから止めようとしただけよ」
「待って? 別方面の最悪が聞こえた気がするよ?」
「だってこっちがその情報掴んでることを当人に知られる可能性は低い方がいいでしょ、いざと言うとき使うなら」
そっち!? そっちの意味かよ!? 俺の想定よりだいぶ前提がズレてたな!!
ていうか俺のこと利用する気だったの!? てか俺のどこに利用価値を見出したんだよ!?
「大人組、一言どうぞ」
「優の言う通り、人の弱みは当人に知られず握っていざって時交渉材料にするやり方もあるな」
「優の周りの大人見てりゃ、その答えに辿り着くだろうなとは思う」
「いっそ英才教育みたいなものだからねぇ」
俺が広瀬ちゃんズの周辺人物を知ってること前提で話進めるのやめろ!!
いやまあうん、広瀬ちゃんズも所詮は花房のお仲間だった、そういう話なんだろう
「大丈夫。今回は、お前の知り合いからの提供。よって、悪さには使いにくい」
「とりあえずお前は情報漏洩してきたあの女きっちり〆といたほうがいいんじゃないのか」
ポチはポチで俺に対し、前脚でバスバスとやたら攻撃的なタッチをかましてくる
確か犬が前脚タッチしてくるときって、気を引きたかったり訴えたいことがあったりするらしいが
このケルベロスの表情を見るに、完全に俺のことをバカにしてると見た!
とんでもねえワンちゃんだよ、お前さんは!
「じゃーねー、みんな! 花房君、また呼んでね!」
日も暮れかけた頃合いで俺と先輩は診療所を後にすることにした
いよっち先輩はさっき質問してたときより元気そうだ、今のところ心配は不要だな
「早渡お前、全然大丈夫じゃねえな」
「あっったりまえだろ、そりゃさっきアレがアレになったのはアレだぞ、アレがかなり俺のアレに」
角田の人が相変わらず呆れた顔色で声掛けてきたが、心配というより別の理由だろう
俺は今、自分の顔面が微笑みのような感じで歪んでるのを自覚している
いやもう笑うしかない、俺のあれやこれやがよりによって花房とその愉快な仲間たちに流出したとなっては
「銃器のことで色々聞きたいことはあるが、後だ。なんかあったら連絡する」
「おーけー分かった、メッセージでくれ」
押し殺した声でそう伝えてくる角田の人に俺も囁き声で応じる
この間、中央高校グループの方はなるべく見ないようにした
あちらの視線が今は痛い、頼むからそんな目で俺を見ないで
ていうか花房君がこっちを眺めてる気がするが華麗にスルーだ
彼は十中八九、例の笑顔を浮かべたままだろう
紅ちゃんにはあの後色々謝ったものの、かなりよそよそしい感じだった
そりゃ俺のあれやこれやを見られたのなら……待て、紅ちゃんにも渡ったのか!?
いやまあ渡ったんだろうな、俺のセンシティブなモノが色々
いい、もういい
そういうことにしておく
「じゃあな」
それだけ言い捨てて、俺はいよっち先輩と診療所を後にした
憐ちゃんに二、三確認しておきたいことはあったけど、最早必要ないだろ
ところで先輩、なんで俺の方見てニヨニヨしてるんですか、止めてくれます?
まったく
診療所を出た後、俺達は東区の住宅街を抜けるように歩いていた
赫い赫い夕日が全ての景色を昏い赫に染めている
もう11月だ、時折吹き抜ける風も随分と冷たくなってきた
俺の先を行くいよっち先輩を、漫然と見遣る
鼻歌混じりで上機嫌らしい
先ほどのことは割り切ったのか
あるいは俺の前だからわざとそんな態度を取っているのか
携帯を引っ張り出した
「おい、毬亜。いるんだろ? さっきからだんまりじゃねえか」
『むーっ!』
勝手にアプリが立ち上がり、毬亜が姿を現した
祷毬亜(いのり まりあ)。「七尾」からの同期であり、幼馴染だ
そして、ある意味「七尾」の最大の犠牲者でもある
毬亜は元々男だが、本人は乙女の心の持ち主らしく
ずっと可愛い女子になりたがっていたらしい
そういう意味では現在の状況をそれなりに楽しんでいるんだろうが
『ボクはちょっとご機嫌斜めだよーっ!!』
水色のエプロンドレスで装った毬亜は、腰に両手を当てて全身で不機嫌ですとアピールしてくる
黙ってれば銀髪碧眼の美少女で通るんだが、その辺りはメガネさんと似たり寄ったりだ
「なんでだよ、広瀬ちゃんズと仲良くやってたんだろ?」
『聞いてよ脩寿ー! フレ申したのにさー、ボクがデータ共有し終わった途端に解除されたっぽいんだよー! そんな警戒されるくらい怪しかったかな、ボク』
「いやそりゃ警戒するだろ、サプライズ狙いでいきなり登場したんだから」
本日の毬亜いきなり参加は本人の強い希望によるものだ
俺は一応事前に話を通しといた方がいいんじゃないか、怪しまれるぞ、と応じたが即時却下された
『にしてもだよ! 脩寿は付き合う相手をもうちょっと選んだ方がいいと思うな! アイツら脩寿のこと利用し甲斐のある手駒みたいに見てたじゃん!』
「そういう言い方やめろよ。……それ言い出したら誘いに乗ったのは俺の方だ」
『はーっ! ボクは心配だよ、もーっ! 大体今日だってボクがいないとかなりヤバヤバだったじゃんかーっ!!』
「……そうなの?」
『そうだよっ!! もーっ!』
プンプンしている毬亜を眺めながら、別のことを考える
確かに花房君は俺に色々情報を提供してくれたし、それ自体かなり大きな一歩だった
同時に、彼にどんどん誘い込まれている気もする
思えば最初に出会ったときも俺は彼に招かれたのだから
一体花房君は俺に何を見せたいのか、俺に何をさせたいのか
あるいは特に何も考えてないのか、こちらは知りようもない
昔の俺なら警戒して関わろうとすらしなかっただろう。だが
ここらで自分から動かないと、いつまで経っても埒が明かないからな
『大体脩寿に何を交渉するつもりなんだろ』
「さあ? あちらが俺を上手く利用する気があるかどうかだな。あいつら次第だろ」
『それで死んだらボクは助けてあげられないよー?』
「いや流石に死ぬようなことに巻き込まれるわけ……いや断言できないわ、ちょっと、怖いんだけど」
話しながら、広瀬(優)ちゃんの言葉を思い返した
『人の弱み握るなら当人にその気配すら察知させずに掴んだ方がいいから止めようとしただけよ』
『だってこっちがその情報掴んでることを当人に知られる可能性は低い方がいいでしょ、いざと言うとき使うなら』
いや、耳に痛いな。一々その通りだ
ああしてわざわざ教えてくれたのは彼女なりの優しさか、さらに俺を騙すための布石か、多分後者だな
あるいは敢えてああいった物言いしたのは、以降は警告なしで俺を利用するというある種の宣告かもしれない
そう受け取っておこう
『にしても双子ちゃん、思ってた以上にノリ良かったねー』
「広瀬ちゃんズな。そういや毬亜って広瀬優ちゃんみたいなのがタイプだったか?」
『冗談はやめてよ? あの子ほんと怖いよ? ボクのこと冷めきった目で見てたよ? 怖いよ?』
「あ、そうなの?」
「ねえねえ何の話してるのー?」
いつの間にかいよっち先輩が俺の横に並んで携帯を覗き込んでいた
俺も見えやすいように携帯の画面を先輩の方へ傾ける
『ボクの好きな子のタイプの話かなー? ボクが好きなのは、どっちかっていうと、いよっちみたいな女の子かなー?』
「えっ」
「毬亜、先輩からかうの止めろ」
『あははっ! いよっち冗談だよー! ボクは男子の方が好きかな、いまは』
「へ、へー、ふーん。それって、早渡後輩みたいなのが好みってこと?」
「先輩、俺をからかうの止めろ」
『んふふー❤ ないしょー❤』
そ・れ・よ・り!! 毬亜は大声を上げて口を真一文字に結ぶと、片手の人差し指を立てるジェスチャーをした
本人的には話題を切り替えて真剣に切り出すつもりらしい
『いよっちー! 広瀬ちゃんズからシェアされた脩寿のデータのなかにさー
金髪巨乳な長身女性のアッハーン❤ でウッフーン❤ なお宝画像が混じってなかったー!?』
「えっ? そういうのは無かったけど……え、なに? 早渡後輩が持ってたエッチな画像!? そういうのが好きなの!?」
「いよっち先輩? なんでそこで食いつくの? やめて? 俺のセンシティブなところに踏み込まないで? お願いだから」
『いよっちー、大事な話するからよーく聞いてね?
もしそういう感じのお宝画像が回ってきても脩寿のために見ないであげてほしいなー❤
脩寿ってば人のプライバシーを土足で踏み込むクソ野郎は[ピーーー]っていう危険思想の持ち主だから
お宝画像のなかに変なの混じってる可能性が大なんだよねー』
「変なのってなになに?」
『ノーコメントー❤ というわけで、見ないであげてほしいなー❤』
「んー、分かったー」
「おい待て毬亜、ちょっと! ちょっと二人だけで大事な話しよう!?」
いよっち先輩は色々察したのか、俺から距離を置いて自分の携帯を弄り始めた
なんだか不穏な感じがする、それもかなりよくない感じの
「毬亜。その、例の画像の話が出てきたってことは」
『うん、「スーパーハカ―」がデータを根こそぎ持ってったんだけど
アイツ、ストレージから削除したデータも全部リストアしたうえで持ってったんだよねー』
「マジ、かよ……」
絶句した、あんな短時間に削除データを全部復元したってのかよ!?
いや、マジで!?
『ねー? 脩寿ー❤ ボクの想定が合ってたでしょー? 良かったねー、ボクのプランを実行しといて❤』
「……」
呆けてる場合じゃない
いやでも削除したデータも復元してくるとか予想外だろ!?
と言いたいところだけど、今回ばかりは毬亜のお陰で助かった、ってところだろうか
まず俺が今持ってるこの携帯は、俺がこれまで使ってた携帯じゃない
同じ機種だけど中身は最近セットアップされたばかりの別物だ
これは毬亜の提案だった
(まずさー、相手の方に「スーパーハカー」かそれに匹敵する電子系のANが居ると思うんだよねー)
(なんでそう思うんだ?)
(ボクの勘だねー、それに脩寿が学校町のこと教えてくれないから、ボクなりに学校町の情報とか過去の事件とか色々調べてたんだよー?)
空七ちゃんや「ピエロ」に関する証拠をデータで渡す、これ自体に反対はしないんだけどさー
多分脩寿の大切なデータ、全部持っていかれちゃうよ?
それが毬亜の忠告だった
いやでもまさかそこまではしないだろ、当初の俺はそう楽観視していたのだ
(じゃあさ、じゃあさー! こうしよう! 脩寿は必要なデータだけ持ち出される方に賭ける。でー、ボクはデータまるっと持っていかれる方に賭けるねー)
(おういいぜ!! 流石に花房君とその愉快な仲間たちが胡散臭いとはいえ、そんな性悪だって見なす理由は無いからな!!)
(でも万が一に備えて、脩寿のためにダミーの携帯を用意してあげるねー❤)
ダミーの携帯。それが今、俺が持っているものだ
先に言っておくと、このなかには今日花房君たちや角田の人に共有した空七や「ピエロ」に関する証拠データが入っている
このデータ自体は本物だ
そして、毬亜はデータを全て吸い出されるだけではなく
削除されたデータも全部復元されたうえで持っていかれると主張した
(そんなに言うならこうしよう、俺がE1の頃から集めに集めたお宝画像を全部上乗せする!)
(うわっ! 本当にいいのー? 後悔するよー?)
(花房君たちがそこまでするわけないだろ!? 賭けは俺が勝つかんな!!)
ここらで一旦整理する
俺が用意したデータ類は三種類あった
一番目が、まず本来渡すべき証拠データ
空七関連やら「ピエロ」関連のデータはこれを指しているし、本来俺が渡したかったのはこれだけだ
続いて二番目が、サブの画像と動画データだ
これは一番目のデータを補足する感じで、俺の生い立ちやら「七尾」時代や「七つ星」時代の説明のために最低限の情報を小出しして提供する予定だった
いざってときには提供してもいい、と毬亜に伝えたうえで実際にどうするかは毬亜の裁量に任せた
俺としてはそれほど共有される想定じゃなかった。のだが! 毬亜は今日! これを全部渡しちゃったらしい!
そして最後の三番目、これがお宝画像のデータ類
これは毬亜との賭けに乗った俺が用意したもので、中央高校グループに共有する想定は全く無かった
そのうえで具体的にやったのはこういうことだ
このダミー携帯のストレージに俺のお宝画像を一旦置いた
俺が小さい頃から収集しまくった長身ブロンド美女の画像や動画なのでサイズはかなりのものになる
そのうえでストレージ上のお宝画像を全部削除した
最後に本来あいつらに渡すべき予定の証拠データをストレージに置いた
やたら手間が掛かってるが、煩雑な作業は毬亜がやってくれた
もし毬亜の予想通り、全データが復元までされて持ち出されるなら、俺のお宝画像が流出することになる
さすがにそこまではしないだろ、と思っていた
別に花房君たちの良心を全面的に信じてたわけじゃないが、そこまではしないだろうと
なので俺がこれまでの人生で地道に集めたお宝画像を全賭けすることにした
結果がこのザマだ
ああとも、笑えよ。笑えばいいだろ!!
『脩寿ー、さっきから顔面が気持ち悪いくらい慈悲あふれる微笑みになってるぞー❤』
「言うな毬亜! 俺の心は泣いてるんだ!!」
『んふふー❤ 脩寿、今回ので懲りた? 懲りたでしょ?』
「……そうだな、お前の忠告通りだったわ」
『これに懲りたんなら携帯は気軽に人に渡しちゃダメ
たとえ善意で貸したとしても相手がそれを善意でお返しするとは限らないんだから』
「……」
『携帯に詰まった脩寿の情報は命の次に大切なものでしょ?
それに、脩寿だけじゃない、他人の生命に関わる情報が携帯には詰まってるんだから
「広商連」の機密とかボクらの命とかを握ったうえで脅迫してくることも、アイツらはやろうと思えばできるんだよ?
だから大事に扱わないとダメ。ボクは脩寿の命を守ってあげられないけど、脩寿の情報は守ってあげられるからね』
「……そうだな、悪かった」
ニコニコされながらこう言われちゃ、返す言葉もない
診療所では終始ふざけてたようだけど、コイツなりに考えあってのことかもしれない
「ありがとう、毬亜」
『どういたしましてー❤ でさ、賭けに勝ったんだから見返りは期待してるね!』
「……具体的には?」
『例のやつに半年分上乗せで手を打とーう!』
「半年分かー……」
毬亜は俺に、未成年男子が買っちゃいけないようないかがわしい雑誌やら何やらを毎月ねだってくる
まあ俺も毬亜にそういうのを送っているわけなんだが……、しかし半年分か
いや! これくらいは安い出費だ!!
俺のお宝画像が流出したのは取り返しのつかない事態だとしても、だ!!
「毬亜、『スーパーハカー』さんに侵入されたときの話、詳しく聞かせて」
『そ・の・ま・え・に』
毬亜は声を潜めるようにして、再び人差し指を立てるジェスチャーを繰り出した
どことなく不安そうな表情に見えるが、どうした?
『いざとなったら出していいって言われたデータは全部渡しちゃったよ?
前も確認したけど、「七つ星」でバウンサーしてた頃のやつも思いっきり混じってるけど、本当に大丈夫?』
「サブのデータの方だよな? 俺はあれを全部渡す想定じゃなかったんだけど
まあ……巫女ちゃん姉妹の方は思いっ切りSNSに載せてたから今更感あるし
穂乃花さんの方も笑えないレベルの情報流出やらかして、俺の面割れに貢献してるしな
大体穂張の一件は鬼灯さんも知ってんだろ」
『本当に大丈夫?
リストアされた方のお宝画像にも変なの混ぜてあるでしょ?』
「毬亜さっき言ったよな?
俺がプライバシーを土足で踏み込むクソ野郎は[ピーーー]って思ってるってのは
なんだ毬亜? あいつらのことが心配になってきたのか?」
『そうじゃないよ、ただボクは本筋と関係ないところで拗れるのが怖いって話をしたくて』
「安心しろ、命に別状が発生するような危険なもんじゃないさ
本当にヤバいって『スーパーハカー』さんも判断したんなら全消しせざるをえない
それにアイツらも俺にああ言ってたわけだし、そこはお互い様だよ
持っていっても良いとは言ってないお宝画像を持ち出したのは向こうなんだし
その所為で向こうが大変なことになったとしたら、そりゃ向こうの落ち度だ」
お宝画像に混じってる毒、もとい罠は、元々死ぬようなレベルではない程度の害性表象だった
だが、今回「スーパーハカー」さんに持っていかれたお宝画像には、新しい害性表象と入れ替えておいた
といってもそんな大したもんじゃない、30分から48時間は夢遊病のようにフワフワしては欲情に苛まれるような代物だ
お宝画像のどれかに紛れ込むように存在するし、画像や動画の形式だから
油断してアクセスしたら即座に感染することになる
それにお宝画像はすべて害性表象に汚染されてるから、特定して削除したとしても
他の無害なお宝画像が害性表象に変異するようにやたら手の込んだ細工を加えてある
さながら、実しやかに語られる「怠けアリの法則」のように
で、だ
これをふざけて拡散したんなら、それは「スーパーハカー」さんの所為だし
あの程度の害性表象に影響されるようなら、それは見た奴の危機感欠如ってやつだし
むしろ俺はお宝画像を持っていかれた被害者、といった一応の言い訳は立つ。うん、何の問題もない
『……ボクは脩寿が考えなしのお人好しなんじゃないかって思ってたけど、そうでもなかったんだね。ちょっと安心した
でも、「スーパーハカー」にさん付けなのはなんで? ちょっと気持ち悪いよ?』
「そりゃまあ、敵じゃないからな
そうは言っても、俺は未練たらたらだぞ
なんてったって、小っちゃい頃から集めに集めたお宝画像だからな
それが何の苦労もなくあいつらの手に渡ったわけだからな、賭けに乗った! 俺の責任とはいえ!
おかげで今の俺はかなり情緒不安定だ、今から河川敷に行って大声で絶叫したい。夕陽に向かって叫びたい」
『やめなよー、不審者だと思われちゃうよ?』
これには毬亜も苦笑した
どことなく安心したような雰囲気が見て取れる
俺もどうにか気持ちを切り替えないとだな
「話を戻すぞ
『スーパーハカー』さんに侵入されたときの状況、詳しく教えて」
『いいよー。まずね、いきなり来た。基底現実的には一瞬だったけど、“こっち”ではお互いに対峙して見つめ合う時間あったよー
相手は外見をマスキングしてたのもあって、全体的に得体の知れない雰囲気だった
ボクが何もしないのをいいことにストレージ内のデータはほぼ一瞬でコピーされて、リストアも早業だったよ。ここまでは想定内
でさー、アイツ、ボクのミックスポッドと「七つ星」側のファイアウォールの方をじっと見てて、そっちのが薄気味悪かったなー』
毬亜はニコニコと
まるで何事もなかったと言いたげな口調でそんなことを告げてきた
「ッッ!! まさか、侵入されたのか!?」
『まさか! アイツも流石にそれはヤバいと判断したと思うよ? 死んじゃうだけで済むんならまだマシだからねー
でも。アイツ、今度は NANAO の方に興味湧いたっぽくて PRLY-GTS に入ろうとしたんだよね』
「おい、それは」
『ボクもそれはヤバいなって思って攻撃ロジックを隠し持ってたらさー、まるで挑発するみたいに今度は GT-1 にお触りしようとして』
「……『七尾』のインフラにアクセスしようとしたってことか? 明確な意志があったのか?」
『んー。GT-1 に触ろうとした時点で、流石のボクもそこまで許してないぞって
アイツにわざと Class.0 の情報毒素をタッチさせようとしたの。そしたら寸前で回避されちゃって
んで、そのまま引き下がっちゃった。多分アイツ、データをリストアしても動じないボクを見て揶揄うためにやったんじゃないかなー』
「……毬亜」
『なにー?』
「お前!! そういうときは!! 早く言えよ!!」
『それは無理
だって脩寿がアイツら相手に交渉とか説明とか頑張ってるんだし、“こっち”ではボクが頑張る番でしょ?』
「おまっ、そういう問題じゃ」
『あのね、脩寿』
会話を区切るように、改まったような声色で
画面内の毬亜が目を伏せる
『正直さ、空七ちゃんの状況がボクにはまだ信じられないし
そもそも、ボクの知ってる空七ちゃんはまだ小っちゃい頃のままなんだ
今でも実は全部佳川先生のドッキリで、空七ちゃんが脩寿をからかうためにやってるんじゃないかって。そう願ってるとこ、あるよ』
でもさ
毬亜は顔を上げてこちらに真っ直ぐ目を向けてきた
もう笑っちゃいない、真剣な面持ちだ
『でも、もう楽観視してられる状況じゃないのも理解してるんだ
空七ちゃんと佳川先生の残した痕跡が不穏過ぎるし、一体何があったのかなんて正直考えたくない
でもさ。そんななのに、実際に体張ってるのは脩寿だったり、真琴とか、睦衣さんでさ。ボクはずっと“こっち”だし』
言いたいことはある、でも抑える
毬亜の言葉を、黙って聞いた
『10月だって、「肉屋」のときだって、脩寿が頑張ったんでしょ?
それで――ボクは気が気じゃなかったよ。ボクの知らない内に脩寿が学校町で死んだらどうしようって
さっきも言ったよね? もし脩寿に何かあったらボクは脩寿の命を守れないんだよ?
死んでからじゃ遅いんだよ? わかるでしょ? だから』
毬亜が、言葉を区切って、深呼吸するのを、黙って聞いた
『ボクも巻き込め。ボクも戦わせろ。隠し事するな。危ない橋を一人で渡るな
ボクも一緒でしょ? 脩寿は一人で背負い込み過ぎなんだよ。ボクにも手伝わせろよ、今まで以上に。分かったか』
「……おう」
正直なところ、毬亜を危険なことには巻き込みたくない
だがそれを素直に話したら、間違いなくコイツは怒る
そういう、優しい奴だ。昔から変わらない
でも、もうコイツには後がない。だから、巻き込みたくはない
『まったくー。脩寿ってば、やっぱりボクが付いてないと危なっかしいよ、ホント
アイツらのこと悪く言うつもりないけどさー、脩寿もボクも駆け引きには弱いんだから、ホント気をつけないと』
「……そうだな」
むふすー
空気を和ませようしてるのか、そんな鼻息とともに
おどけたような動きで両手を腰に当てて俺を睨み付けてきた
『それで、脩寿。どうなの? アイツらのこと、脩寿は本音で言うとどう思ってるの?』
そうだな
あいつらは――花房君たちは、俺のことどう思ってるかは知らないけど
「花房君たちは、俺のことどう思ってるかは知らないけど。俺はあいつらのことを、友達だと思ってるから」
少なくとも、今のところは
だから、俺は俺のできることをやっておく
『お人好しめー。やっぱりボクが付いてないと脩寿は危ないねー!
脩寿ってば何時まで経っても手が掛かるんだからーっ! もーっ!』
「……言うほどか? いや、今日のことは反省して気をつけるけどさ」
『それより、今回渡した情報が「組織」に流出するなんてことあるかなー?』
「無いだろ……。いや、どうかな
毬亜お前、なんか『組織』にも情報が流出することを期待してるみたいに聞こえるんだけど」
『そりゃあまあねー、だって今のところ怪しいのは「組織」でしょー?
脩寿のこと知ったら、空七ちゃん関連とか「七尾」とか、その辺のこと知ってる連中が動きそうだもんねー』
「いざとなったら角田の人にわざと流出してもらうって手もあるけど
確実に巻き込むことになるしな、今は様子見。『狐』の件も『ピエロ』の件もあるし、向こうもそれどころじゃないだろ」
いや、こんなことを話してはいるが
もう既に俺は何度も「組織」関係者と接触している
正直、いつ襲撃されてもおかしくない状況なんだ
「……診療所、『組織』関係者もやって来る場所なんかな」
『角田とかなえちゃんは「組織」関係者だし、そうなんじゃないの?』
「……」
『どしたの急に、まーた考え事? いい加減話しなよ、この秘密主義者!!』
俺は「先生」に多大な恩を受けている
これまでもそうだったし、今日もそうだった
それは疑いようもない
『君は、君が「先生」と呼ぶ人物が、果たして「組織」と無関係であると、そう断言できるのかね?』
『アハルディア・アーキナイト。「死毒」と呼ばれた男。彼が何者なのか、君は知っているのかね?』
『君自身で確かめてみるといい。君はあの男を前にすると、心を許し過ぎるようだからね』
俺はこれまで「先生」を、ただ「先生」として、そういう人として受け入れていた
決して妄信するだとか、そういうことではないけど、人として嫌いにはなれなかった
今日、診療所で感覚を開いたとき、「先生」から一切のニオイを感じなかった
“波”自体を断っているようでもない、隠蔽しているようでもない
ただ、まるで樹木のように。ただ、其処に在るだけだった
これは俺の問題かもしれない
俺の鼻は万能じゃない。感知できない“波”もあれば、認識できないニオイもある
これはあくまで感覚的なものだが、「先生」は俺より遥かに高みに居る。これは間違いない
「……『組織』が来ようが何が来ようが、やるときはやる。それだけだ」
『カッコつけちゃってさー
ゆくゆくは「組織」とバチバチってこともあるだろうけど
そんときはアイツらも敵に回るかもしれないんだよ? 今の脩寿で大丈夫か、ちょっと心配だよー』
「そんときはそんときだ。あんまり考えたくないけど
それに有事にはお前もコキ使うからな、覚悟しとけよ」
『ちぇー、こういうときだけ調子いいんだからー!』
「なんか二人きりの世界に入ってるとこ悪いんだけどね、ねっ!」
横合いからいよっち先輩に話し掛けられてビックリした
いつの間にか傍に居たらしい
「はいっ! 早渡後輩! 電話!」
「えっ? お、俺?」
「あとね、晃君が送ってくれた画像のなかに
ブロンド美女のお宝画像? は無かったみたいだから、安心してね
それはそれとして、はいっ! 電話! 相手は千十ちゃんだよ!」
「は??」
何だ? なんで千十ちゃんなんだ?
言われるままに先輩の携帯を受け取り、耳に近づける
「はい早渡ですが!? 千十ちゃん!? どうしたの!?」
『あっ、あのっ、脩寿くんっ……』
何だ!?
受話器の向こうから日向ちゃんがきゃあきゃあ言ってる声が聞こえるが
……まさか
『あのっ、あのっ、一葉さんから、脩寿くんの、「七尾」の頃の
かわいい脩寿くんの写真が送られてきてっ、あのっ』
「はおっっ!?!?!?」
おい、おいおいおい! まさかだろ!?
いよっち先輩の方を見ると、ニヨニヨしながら両手でダブルピースをこっちに向けてきた!!
受話器の向こうから「何これ、早渡君チョコチョコ動いて可愛いんだけど」と仰る日向ちゃんの声が聞こえるのは!
決して!! 幻覚ではない!!
『正直……、もっと、見たいなって!!』
「せせせ千十ちゃん、おおお、俺の話を、聞いてっっ!!」
なんということでしょう!!
いよっち先輩は相変わらずニヨニヨしてやがる!!
なんということをしてくれやがったのでしょう!! 更なる情報流出じゃねえか!!
□□■
Q.情報流出を想定していたのなら、何故早渡はそんなにショックを受けているんですか?
A.
早渡「いちいち説明しないとダメか!? 説明しなきゃ理解できないか!?」
早渡「想定するのと! 実際に流出するのとじゃ! 話が違い過ぎるだろうがっ!!」
改めまして花子さんの人に土下座でございます orz
早渡が自分からやらかしたのもあって、今回の一件を反省して次回に繋げる……はず
おかしなところあれば是非とも指摘もらえるとありがたい
○前回の話
>>474-484
次世代ーズ 34 「帰る場所」
これは【9月】の話です
【11月】の前の状況となります
「夜の背中って、白くて綺麗だよね」
「そう、かしら? そんなこと言われた、のは。初めてよ」
夕食後
後片付けを終わってしばらく経ってから、わたしは夜とお風呂に入っていた
夜には両親がいない
小さい頃に二人とも亡くしたらしくて、“お師匠様”に育てられたらしい
その“お師匠様”も長いこと遠出してて、夜は仕事でお金を稼ぎながら暮らしてる
それだけじゃなくて、“お師匠様”の知り合い伝手で預かることになった「コロポックル」の子供たちの面倒も見てる
小さいくて幼い3人の子の面倒を見ながら、服を作って、それを販売して、学校にも通って
すごい、と思った
わたしと同い年なのに、わたしよりしっかりしてる
「慣れれば、楽勝よ」
夜の身の上を聞いてビックリしたとき、彼女は静かにそう言ったけど
でもやっぱり、すごいと思った
親と離れ離れになっただけで落ち込んでるわたしなんかと全然違う
本音を言うと夜に負けたくないし、それ以上に、自分自身に負けたくない
わたしも頑張らなくちゃ
でも、夜がすごいのはそれだけじゃない
「あのさ、夜。その……夜の胸って何時から大きくなったの?」
「え?」
夜はスタイルもいい
身長も高いし、胸も大きいし、和風美人って感じだし
お値段高めのドレスとか似合うんじゃなかってのが初対面時の印象だった
「たぶん、小学、四年生の頃。だったと、思うけれど」
「うう……」
わたしも自分のスタイルに自信がないわけじゃなかった
そりゃ、咲李とかに比べたらお子様体型かもれないけど
でもでも、同じクラスの女子と比べたら、平均よりちょっとは良い方じゃないかと思ってたけど
夜の体つきを前にすると、何だか打ちのめされたような気分になる
もっと言うと、わたしの体つきは、わたしが死んだ中二のときのままだ
もしこのまま時間が停止したようにわたしの姿がこのままだったとしたら
そう考えると、ちょっと怖くなった
「わたし、都市伝説になっちゃったじゃん……。それでも体って成長するかな……?」
「大丈夫、よ。成長するわ。気になるなら。知り合いに、そういうことに、詳しい人がいるのだけど。相談して、みる?」
「あっ、うん! 相談するする! 実はずっと成長止まったままなんじゃないかって不安になってたんだよね!」
そもそも、だ。わたしが「繰り返す飛び降り」なんて都市伝説だかになっちゃったのは
わたしに飛び降り自殺させた契約者だか何だかの仕業だ。今になってすっごい腹立ってきた
この前屋上で事件当時の“映像”を見たときは気分が悪くなって、目の前がぐちゃぐちゃになってその場から逃げ出した、気がする
実は“映像”の後半からはっきりと覚えてない。わたし自身が飛び降りるのを見たときは割かし平気だった、気がする
その後は……いやだ、あんまり考えたくない。咲李があの後どうなったのかなんて、思い出したくない
わたしは犯人のこと知ってる気がする。思い出さなきゃいけない気がする。とても大事なことなのに。でも、思い出したくない
花房君にもう一度聞いたら教えてくれるかもしれない。でも、怖い。聞きたくない。思い出したくない。気持ち悪い
「一葉、さん? どうしたの、大丈夫?」
「えっ、あっ、ううん、ごめんちょっと。色々考えちゃって。それより、あのさ。夜の胸、触ってもいい?」
「え? 私の、胸を?」
「あっ!? えと、あっ、あのさ、ほら。アレだよ! スタイルいい人にあやかって胸揉ませてもらったら、こっちもスタイルよくなるって言うじゃん! なんかで読んだ!」
「そう、なの? ……ふふ、ふ。そういう、ことなら。……優しく、触って。くださいね」
「あっ、あっ、あっあっ……」
夜が後ろ手に、彼女の背中を洗ってた私の手首を掴むと
ゆっくり、前に引いていって
私の手を、夜の手が包んで
そのまま、夜の胸に
「あっ、あっあっ」
「一葉さん、す、少し。くすぐっ、たいわ」
「おお、おおお……! あわあわで、すべすべ……!」
柔らかい
すっごい、夜のおっぱい、柔らかい
ちょっとだけ、少しだけ強めに夜のおっぱいに指を埋めると
確かな弾力と、やっぱりおっぱいの柔らかさが、よく分かる
ヤバい、ずっと触ってたい
何だかすごい安心する!
ざわついた心が一気に落ち着いた、気がする!
「ふかふかで、やわやわで……、もちもちだ……!」
「い、一葉さん。くす、くすっぐたい」
「もうちょっと! もうちょっとだけ!」
ずるい
ずるいずるい!
夜だけこんなの持ってるなんてインチキだ!
わたしのなんか、触っても柔らかいんだかハリがあるんだかなんとも言えない中途半端な感じなのに!
これでわたしと同い年だってのは、ちょっと納得いかない
なんで神様はこうも不公平なんだろう
わたしも順当に成長してれば、夜みたいになれたんだろうか
「すっごぉ……。ずっと触ってたい。気持ちいい……!」
「ふ、ふふっ、い、一葉さん……」
「ぬるぬるすると、何だかもっとやわやわが味わえる気がするー……!」
「一葉、さん……! も、もう少し、ふふっ、や、やさしく……んうっ♥」
「ふあっ?」
い、今の声なに? なになになにっ!?
夜の声、だよね? 何だか聞いたことない声だった
どうしよう
何だかやっちゃいけないことしてる気がして、すごいドキドキしてきた……
●
私は自室のベッドの上で体育座りしたまま顔を覆っていた
今日の私がやったことは、失態だった
「あーりーすーちゃーん」
横合いから声をぶつけられ、思わず飛び上がりそうになる
見れば、机の上にメリーが仁王立ちになってこちらを睨んでいた
見慣れた羊のぬいぐるみ
彼女は「メリーさんの電話」そのもの
そして――私の指南役であり、頼れる相棒だ
「ありすちゃんを! 強く止めなかった! わたしにも! 悪いとこあるのー!!」
「メリーは、悪くないわよ……私が」
「でも! 中学校のことは、疑いが解けたのに! あんな言い方したの! ひどいと思うのー!!」
「……」
“あんな言い方”。ドーナツ屋の前であの男子に言ったこと
言うにしても、もう少し冷静であるべきだった。あのときもまだ感情的になっていた
「そんなにあの男子ーのこと、嫌いなのー?」
「それは……、まあ。見た目も雰囲気も、チャラそうだったし……」
正直好きになれない、というかはっきり言って嫌いなタイプの男子だ。アイツは
見た目があんなだし、商業生だし。アイツに必要以上に突っかかった理由は、多分そこだ
思えば最初からそうだったのかもしれない。嫌悪が先行した。アイツを犯人だと決めてかかって
それからアイツが犯人なことを前提に証拠集めを進めてきた
いくらか冷静になった頭で考えれば、自分が思い込みで突っ走ってきたことくらい、わかる
せめて。アイツを犯人と決めつける前にそれに気づけていれば。もう少し冷静に振舞えたはずなのに
「ありすちゃん、今回の反省点は、ほかにも二つあるなのー」
メリーは机からベッドに向かって飛び込んで
表面の凹凸に脚を取られながらも、よちよちこちらに近寄ってくる
メリーを抱き上げ、膝の上に乗せた
「一つは、まだ犯人と決まったわけじゃないのに、思い込みで襲撃しちゃったことなのー
捕まえて話を聞くんだったら、まだいいのー。でも、今日のありすちゃんはー、襲い掛かってたのー」
「そうね」
「そして、もう一つはー。先に攻撃しちゃったうえに、途中でもっと攻撃的になっちゃったことなのー
あのとき、ありすちゃんは怒りに呑まれてたんじゃなぁい?」
「そうね……、あのとき完全に呑まれてたわ」
「いけないことなのー。怒りは炎とおんなじなのー。自分が炎に呑まれちゃったら、全部燃えちゃうのー
炎はコントロールするものなの。ありすちゃんは、そのことをよーく理解してるから、分かってくれると思うの」
「うん。もう少しでアイツを火だるまにするとこだった」
あのときの私は完全に我を失っていた
自分の能力で、アイツを拷問すればいいとすら考えていた
あのときの自分が怖い
「ありすちゃん。ありすちゃんがあの男子ーのこと、好きになれなくて、まだ変質者だって疑ってることは、メリーも分かってるの
だから、約束してほしいの。もし、捜査を再開して、あの男子ーが犯人じゃないって分かったら、あの男子ーに謝ってほしいの」
「……わかった」
「もちろんメリーも一緒に謝るのー。大丈夫なの! 二人で謝れば怖くないの!
――じゃあ、約束なの」
「ん」
メリーの差し出した前脚に、自分の小指をあてがう
もしアイツが本当に犯人じゃなかったとしたら、非礼を謝る。それでケジメをつけよう
好きになれないタイプの男子だけど、それくらいはしないと
「気を取り直して、明日からまた捜査再開なのー! 反省会終わりなのー!」
「そうね、いつまでも落ち込んだままじゃいられないし」
今日は色々散々だったけど未だ変質者が捕まったわけじゃないんだし
自分の落ち度にいつまでも落ち込んでるわけにもいかない
心機一転、明日からもう一度仕切り直しね!
●
「はおっ!?」
風呂から上がり、頭髪を拭きながら何気なしに携帯を見て
思わず変な声が出た
千十ちゃんからメッセージが来ていた
【さっきのことで、電話したいんだけど】
【いま時間大丈夫かな?】
【忙しかったら無視していいからね】
いっいつ!? 何時来てたんだ!? 全く気付かなかった!!
慌ててメッセージの時刻を確認する
最初の二件は今からほぼ一時間も前
最後のメッセージは二十分ほど前のものだった
うそぉ? なんで俺気づかなかったのぉ??
最後の一件はともかく、最初の二件は気づいてるべきだろ!?
長風呂ってわけでもない、完全に見落としてたことになる
今から返事して間に合うだろうか
とか考えてる場合じゃない、早く返信しないと
【ごめん風呂入ってあ】
【いま時間だいじょぶたけと、さすがに遅いやね?】
……誤字った
一旦削除して返信し直そうか躊躇してるうちに
既読がついた
割と直ぐだった
【私は大丈夫だよ!!】
【今から電話してもいい?】
何やら見たことないキャラクターの「OK!」なスタンプと一緒に返信がきた
速い
思わず息を呑む
【OK!】
返信する指が、震えた
どうして俺こんなに緊張してるんだ!?
千十ちゃんと今からお話するからだろうが! 静まれ俺の心臓!!
数秒固まってるうちに携帯が震えた
千十ちゃんからの着信だ、ほぼ反射的に電話に出た
『もしもし、遠倉です』
「こんばんは千十ちゃん、レスが遅れてごめん。先輩送った後に帰って直ぐ風呂入ってて、気づくの遅れたんだ」
『あっ、こっちこそごめんね、急かすみたいになっちゃって』
「ううん大丈夫。それで、あの」
言葉が続かない、何から話すべきだ
眼鏡の子、日向さんのこと、いよっち先輩のこと、変質者のこと、他には
『脩寿くん、その……一葉さんのことなんだけど
一葉さんと初めて会ったときのこと、もうちょっと教えてほしいんだけど、いい?』
「えっ、あ、うん。先輩と初めて会ったときね」
『できれば、その。脩寿くんがどうやって一葉さんと出会ったのか、知りたくて』
経緯は数時間前にいよっち先輩自身が話しているけど
俺から順を追って話した方がいいかもしれない
「四月に引っ越してきて後、『七尾』で世話になった研究者を探してたんだ
チャイルドスクールが解体になった後、学校町に来てるって聞いて」
なるべく、抑える
「千十ちゃんも聞いたことないかな、佳川有佳(よしかわ ありか)って言うんだけど」
『……ANクラスの、偉い研究員の人だっけ』
「うん、まあ偉いっていうか主席ってだけの奴なんだけど」
『……ごめんね、私もこっちに引っ越してから、「七尾」の人には出会ったことなくて』
「そっか。一応そっちは見つかればラッキー程度でのんびり捜して回ってたんだ
何しろ学校町の何処にいるのかなんて細かい情報は知らない状況だったから
それで、放課後とか夜とか、あちこち回りながら学校町を冒険してたんだ
ほら、学校町広いでしょ? 実は最近まで東区を南区と勘違いしてたってことがわかって」
『あっ、わかるよ! 私もよく間違えるから! 東区広いよね!』
「ヒーローズカフェ」で瑞希さんにも似たようなフォローを頂いたことがある
思い出して何だか恥ずかしくなってきた! 顔が熱くなってきた気もする!
「そ、それで、あの。そんな感じで学校町を冒険がてら散歩してたんだけど
一週間くらい前に東区の中学眺めながら歩いてたら、同じ年の奴に声掛けられて
なりゆきで中学の敷地内まで付いていくことになったんだけど。そいつらも、あの、都市伝説とか契約者とかそういうの知っててさ」
一度、言葉を切った
このまま話し続ければ、三年前の事件に触れることになる
「このまま続けるけど、いい? 三年前の……事件のことになるんだけど」
『あっ、うん。私は大丈夫。……ドーナツ屋さんの前で泣いちゃったりして、ごめんね
ちょっとビックリしちゃって。今は落ち着いたから、大丈夫だよ』
「あ、いや……わかった。それで、そのときいよっち先輩に出会ったんだ
そいつらが三年前の事件について知りたいかなんて聞いてきて、そのとき先輩もやって来て、自分も話聞きたいって言い出して
それが――いよっち先輩と初めて出会ったときの状況だよ。それで先輩も加わって一緒に事件の話を聞いて。そのときは先輩、話が大体終わると居なくなっちゃったんだけど」
なるべく簡潔に、そしてぼかすべきところはぼかした
栗井戸君の「再現」についても、その内容についても、ここでは触れるべきじゃないだろう
『そう、だったんだ』
「それで、いなくなる直前の先輩の様子がどうしても気になって
そいつらに色々教えてもらった次の日から、先輩に会うために東中に行って
そのときは全然会えなかったんだけど、週をまたいでもう一度行ったらようやく先輩見つけて
で、まあ色々話をして、いよっち先輩を東中から連れ出したって感じ。……中学は寒いし暗いしさ、先輩も嫌がってたから」
『……一葉さん、ずっと中学校に居たんだね』
「あ、あー……。本人が言うには『ずっと悪夢のなかに居た感じ』だったって
いつも中学に居たのかはちょっと分からない。“中学に縛られた”状態だったのは確かかも
でも、よく笑うし、明るいし。今日も元気そうだったし、俺はほっとした」
嘘を、吐いた
先輩は今日、家族の不在と向き合うことになった
不安じゃない筈がない、しかもこういうのはじわじわ後にも効いていくものだから
――それでも、先輩の言葉は伝えないと
「それに、いよっち先輩、千十ちゃんに感謝してた。また会って話したいって」
『……本当に? よ、良かった! さっき連絡先聞くの忘れちゃって』
「俺が知ってるから、先輩からOK貰えたら教えるね」
『いいの!? ありがとう……!!』
「あ、あとさ。その三年前の事件について教えてくれた奴ってのが、東中の出身らしくて
花房直斗って奴なんだけど、千十ちゃん知ってる?」
『……っ!!』
電話の向こうから思いっきり息を呑む音が聞こえた
ふとついでに何か知ってるんじゃないかと考えなしに訊いてみたが、どうやらこの反応はビンゴみたいだ
『花房君、だよね? ……知ってるよ、花房君達は有名人だったから』
「有名人」
『うん、花房君達は幼馴染のグループといつも一緒で
日景君が一番有名人だったから、それで有名だったかもしれないんだけど』
「日景」
『あっ、うん。日景遥君。女の子たちにすごく人気の男の子だったの。それで』
名前は聞いたことがある、商業でも何度も名前を聞いた。女子がよく話題にするのを耳にした
いや、それ以上に。直感的に日景遥が何者なのかを理解した
あいつだ
栗井戸君の「再現」に現れた、あの竜だ
『脩寿くん……?』
「あっ、ごめん! ちょっと聞いたことある名前だなって!
学校町内の高校という高校にファンクラブがあるって定評の、あのイケメンね!」
『そ、そうなの?』
「色んな噂は商業でも聞くよ、女子が不良に絡まれてるところを颯爽と登場して殴り飛ばしたとか
助けられた女子が一目惚れしたとか、女子がそういう話してるのを週一単位で耳にしてる」
『多分それ、話に相当尾ひれがついてると思うな……』
「しかし、なるほどね。花房君は日景って奴と幼馴染ってわけなんだ
……実は千十ちゃんも、その日景って奴が好きなタイプだったりする?」
『へっ!? えっあっ、な、何訊いてるの!?』
「ん、いや、ちょっと気になっただけ! 嫌な質問だったら流していいから!」
『あっ、あのっ……』
待て、待て待て待て
俺は何を尋ねてんだ!? いくらなんでも不躾すぎるよな!?
「千十ちゃんごめん!! 今のは無視していいから!! 余計なこと訊いちまった!!」
『あのっ、違うの。実は、あの、日景君のことは……ちょっと苦手で』
「苦手」
『ううん、ちょっとどころじゃなかった。中学で初めて会ったときから、ずっと日景君のことが怖かったの
日景君だけじゃなくて、花房君たち幼馴染のグループがすごく怖くて。あっ、別に何かされたわけじゃないの
ただ、怖いことされたり言われたりしたわけじゃないのに、……同じクラスにいるだけで、体の震えが止まらなくなっちゃって』
「そんなことが」
『でも、これじゃいけないって思って。それだとみんなに失礼だなって思ったから、早く慣れるように頑張ったの
グループのなかで一番怖く感じたのは日景君だから、日景君に慣れたら他のみんなもきっと大丈夫って思って
日景君になるべく毎日挨拶したりとか、チャンスがあったら話し掛けたり、そういうことをしてたんだけど
……結局慣れないまま、高校は別々になっちゃって』
そんなことが
なんで花房君たちのことが怖かったんだろう
だなんて、怖かった理由を訊くのは、これは失礼だろうか
『日景君には、迷惑かけちゃったかも
いつもクラスの女の子たちが話し掛けようとしてて、日景君はそういうのあまり気にするタイプじゃなさそうだったから
私も単にそういう女の子たちの一人として見られてたかも。あ、でも。時々うんざりしてたみたいだから、やっぱり迷惑だったかも』
「大丈夫だよ、気にし過ぎだって。モテるイケメンはそういうの気にしない奴多いって言うし
日景の噂を聞いてる限りじゃ狭量って感じでも無さそうだしな」
『あっ! あのっ、ごめんね! 話が逸れちゃって』
「んん、全然。というか千十ちゃんの中学時代の話、もっと聞きたい
機会があったら、もし千十ちゃんが良かったら、また聞かせてほしい」
今のは不躾だっただろうか
いや、これくらいはいいだろ
「……ん、わかった。今度話すね」
ほら! 千十ちゃんもOKしてくれた!
真面目な話、中学ってとこに行ってない身としては
千十ちゃんが学校町でどんな中学生活を送っていたのか、正直気になる
でもそれを聞くのは今じゃない
『あの、本当は今日のことで話したいことがあって。それで電話したんだけど』
「日向さんのことだよね」
『うん、ありすちゃんのことで』
日向ありす、あの眼鏡女子のことだ
千十ちゃんにとっても本題はそこだったらしい
あの女子についてと、変質者の話も聞いとかないと
変質者容疑の件は完全に誤解だ、今日のドーナツ屋で千十ちゃんにそれが伝わったのは正直嬉しかった
「あの後大丈夫だった? 日向さん、俺にキレてたとは思うけど」
『えっと、ありすちゃんに送ってもらいながら私からもう一度誤解だよって話してたんだけど
ありすちゃんも、脩寿くんがまだ犯人と決まったわけじゃないって言ってて
でも、犯人じゃないって決まったわけでもないって言ってて。困った感じだったの』
つまり容疑者候補からは外れたが、完全にシロでもないってところか
依然として「疑わしいヤツ」なのには変わりないのだろう
『あのね、本当なら私、脩寿くんのことをありすちゃんに私の友達って紹介するつもりだったの』
「ほ? えっ、本当に? あの――日向さんに?」
『うん。脩寿くんもありすちゃんも、私にとって大切な人だから
それなのに、こんなことになっちゃって。本当は私がありすちゃんにちゃんと説明しないといけないのに
こんな風になっちゃって。どうしよう、どうしてなんだろうって困ってて』
「いや! 千十ちゃん悪くないよ! 抱え込まなくていいよ!」
千十ちゃんが悄気返ってるのが声だけでも分かる
疑いを晴らすのは俺の仕事だ、やると決めたらやる
「俺がなんとか誤解だってことをあの子に理解してもらえるように頑張る
そのために、その変質者って奴を押さえたいんだ」
「へっ……!? 真犯人を、捕まえるってこと!? あっ、危ないよ……!」
「あっ、違うんだ! その、危険なことするわけじゃなくて!
変質者が別にいるって分かってもらえればいいんだ、後は……警察の仕事だから」
嘘を吐いた
でも、正直に犯人を捕まえるなんて話したら
今の様子だと確実に千十ちゃんを心配させることになる
それに犯人を捕まえるってのはあくまで可能ならばって条件つきだ
そういう意味では、俺の言ったことは嘘ってわけでもない、その筈だ。きっと
「今はその変質者の情報が欲しいんだ
それにほら、本当に変質者だってんなら、俺も警戒するに越したことはないし
だからその、千十ちゃんが変質者について知ってることあったら教えてくれない?」
『……わかった
私も直接見たりしたわけじゃないんだけど
ありすちゃんから聞いた話で良かったら』
千十ちゃんからその“変質者”の情報を教えてもらった
その特徴というのが
・可愛らしい、大き目なサイズのテディベアを操る
・恐らくテディベアを操作する本体が別にいる
・最近東区や南区に出没するらしい露出魔が、恐らくその本体である
・恐らく本体は契約者である
……俺の予想を遥かに上回るロクでもない野郎らしい
「なんかごめんね、こんな気持ち悪い話させて」
『私は大丈夫。気にしないで』
「でも、そんなのに襲われたんなら日向さんがキレるのも無理ない話だわ」
『そうだよね、怖いよね』
「個人的にはそんなのと勘違いされたってのがちょっとショックだけど
どうにかして身の潔白は証明しないとだな」
『脩寿くん? 危ないことは、しないよね……?』
「あっ、しない! 大丈夫! しないと思う!」
なんというか、こう
千十ちゃんの不安そうな声色で心配されると、こう答えざるをえない
なんだこれは、すごい後ろめたいぞ
『絶対に無理はしないでね?
それに私ももう少し情報がないか調べてみようと思う
クマのぬいぐるみを使う変質者なんて、誰かが見たりしてたら話題になる筈だし』
「言われてみれば。それもそうだな、俺もちょっと周りの奴らに確認してみる」
俺も明日商業の連中に聞いて回ろう
それに今のうち敷島に連絡取っておいた方がいいかもだ
花房君にも尋ねてみることにしよう、何か情報がもらえるかもしれない
『あの、脩寿くん
ありすちゃんと仲直りできたら、そのときは三人で一緒に「ラルム」に行こうよ』
「そうだね、そのときは……約束する」
『それと……。こんなときに、なんだけど……前の約束、覚えてる?』
「覚えてるよ、千十ちゃん家へ夕食しに行く約束だよね。来週の金曜」
『……うんっ。あの、それまでに
ありすちゃんに誤解だって分かってもらえたらいいなあって』
「そうだね、俺もなるべく早くに勝負つけられるように情報収集を頑張ってみる」
『うんっ! 私も力になれるように頑張るから。じゃあ、あの
長くなっちゃったけど――おやすみなさい、脩寿くん』
「千十ちゃんも。おやすみなさい」
通話を終え、深呼吸する
安堵感と使命感が同居して胸の内で静かに燃え上がってるような気がする
まずは“変質者”に関する情報収集
そして“変質者”を押さえる、あとはその場の流れでなんとか
でもあの眼鏡女子、割と俺のこと嫌ってる雰囲気だったよな?
仮に“変質者”のことを抜きにしても、仲良くなれるタイプなんだろうか
『勘違いしないで』
『東中のことは私の誤解、それは認める。でも、だから何?』
『あなたが変質者じゃないって証明にはならないから』
不意に眼鏡女子に言われたことが脳裏でリフレインした
……そうだな、やっぱり“変質者”を捕まえてあの女子の前に引きずり出そう
うん、それが一番だ
人のこと、見た目で判断しやがって!
アレか!? 俺が商業生だからか!?
覚悟しとけよ、あンンのコスプレ女ぁぁぁ!!
□■□
乙ですのー
すまねぇな早渡君
そして安心してくれ。優は君相手に利用価値を見出しているというより親しい相手以外は大体その気が多少はある(父親とか育ってる環境を眺めながら)
っつか、この幼馴染組、自分達の情報について早渡君が一定ラインより知ってる前提で動いてる可能性が非常に高いという事実に今思い当たりました
早渡君頑張って
むしろ、変に巻き込みすぎないために情報渡したりしてる節あるから(余計なところで余計な知識で首突っ込まれると邪魔理論)
多分、「スーパーハカー」、毬亜君ちゃんがどのくらいできるか試すっつか遊んでたんだろうな……(どれくらいできるかで、いざって時の脅威度を測るのもある)(手に入れたデータは危ないのと危なくないの仕分けした後、危ないのだけ返すね(返すな))
「先生」はある種中立。まぁその辺は「薔薇十字団」としての立場的に当たり前なんだよな。「薔薇十字団」は基本的にはどこに対しても中立なので。だから「組織」の人間出入りしてんのも「当たり前」なんだよなぁ……
もしかして:早渡君達、その辺(「薔薇十字団」は基本中立スタンス)がわかってない
もしわかってなかったとしても……あいつら……多分「学校町がどういう場所かおおまかわかっててきたんならそれくらい(それぞれの組織の基本スタンスくらい)わかってるだろ」って認識だな……
えっちなことしてる(えっちなことしてる)
有名人(どういう意味でかは置いておくこととする)
>名前が伏せられてますがこれは彼ですよね
>というかこれまでの話でも徹底して伏せられてましたが全部彼ですよね
(そっぽ向いて口笛吹く)
つーか、このところ忙しかったり死んでたりで投下できてなくて申し訳ねぇ
今月中には何かしら投げたいね
>>672
乙ありです
早渡はこれから滅茶苦茶動くことになりますが……果たして
広瀬さんズからすれば(花房君の紹介があったであろうとはいえ)現状、いきなりやって来て「幼馴染が!」「七尾が!」とか言い出した胡散臭い野郎ですからね、早渡
むしろ話を聞いてもらえただけ感謝だな
> むしろ、変に巻き込みすぎないために情報渡したりしてる節あるから(余計なところで余計な知識で首突っ込まれると邪魔翌理論)
ここはそのまま栗井戸君の
「中途半端にわかってる状態で『狐』やら別の事やらに巻き込まれて敵になられても、鬱陶しいし邪魔なだけ」
に係ってる部分だと理解してるので
早渡もいよっち先輩も、診療所で話を聞いたこのイベント以降で、「狐」戦に突っ込んでくることは無い、です
ここらへんはチラ裏でも何度か触れた通りですね
ただし「狐」以外の「別のこと」は、事前に警告もらってないとうっかり関わってしまう可能性ありそうなので怖いのはそこだな……
そして!
これから投下する話は!
まず冒頭で! 花子さんの人に! 土下座します!! orz
> 日景君大好き派閥
これをほんのちょっと出します
昼休みも終わり掛け、そろそろ次の授業が始まる時間
クラスの外で過ごしてた同級生達もだらだらと教室に戻って来た
私は私で死ぬほど暇だったので、アレをやろうかどうか考えていたところだった
「うーっ、なんか飲んじゃったかも」
「気にし過ぎじゃない?」
あっ、仲良しの女子二人組が帰ってきた。あの子らにしようっと
「でもなんかまだ喉に違和感あるんだよね……、虫とかだったらどうしよ」 【大き目のホコリ】
「そんなに気になるなら保健室行こっか?」 【実家直送のイナゴの佃煮】
「どうしよっかな……。次数学だし……、一応保健室行こっかな」
「お? これはサボる宣言かー?」
わお、飲み込んだのは虫じゃなくて良かったね。それでもちょっと気色悪いけど
てかもう片方の子が意外性強いわ、イナゴの佃煮って。食べモノでも私は勘弁
とか思ってるうちに、“女王”こと島添星冠(しまぞえ てぃあら)も戻って来た
彼女は中学時代からイケメン男子、日景遥大好きガールで、ここ中央高校内でも日景遥ファンクラブ二大勢力の一角だ
何だか凄く上機嫌っぽいけど、廊下で日景遥に会ったとかだろうか
当然のように彼女のことも覗いてみる
「~♪ ~~♪」 【お母さん手作りのミニキッシュ】
わお、キッシュってたしかフランス料理だったっけ。いいモン食ってんなー
“女王”は私に覗かれてることを気にする素振りも見せず、鼻歌を奏でながら自分の席に着いた
私がこの能力に目覚めた、というか気づいたのは中学卒業間際の頃だ
親指と人差し指で作った(丁度OKサインみたいな)輪っかから相手の姿を覗くと
相手が直前に食べたものが分かる、というか相手の頭上にまるで文字みたいに書いてある
当時の私は勿論ビックリして直ぐにお母さんに話したけど、「何言ってんのアンタ」みたいな胡散臭げな眼差しを向けられた
もうちょっとカッコいい能力なら友達にも自慢できたんだけど、残念ながら直前に食べたものが分かるだけの地味な能力みたいだ
でも自分が超能力か何かに目覚めたんじゃないかって秘かに興奮した
興奮した。そう、過去形だ
実はこの能力に気づいた辺りから、妙なものを見たり聞いたりするようになった
輪っかを覗けば、亡霊やクリーチャーっぽい何かが見えたりすることが時折あった
輪っかを作っているとき、不気味な鳴き声や唸り声、サイレン音のようなものが聞こえることがあった
だから、夜とか独りのときはなるべくこの能力を使わないようにしている
やるとしたら、今みたくお昼時で、なおかつ人がたくさん居るような場所限定だ。だって怖いじゃん
そういえば似たような能力とかがこの世に存在しないのかって気になって、ネットで調べてみたことがある
超能力とかオカルトとかそういう系の情報は見つからなかったけど、変な記事が引っ掛かった
昔、アングラな匿名巨大掲示板に投稿されたネタが元らしいんだけど
ニューヨークの地下鉄のホームレスが「目撃した人が直前に食べたものが分かる能力」を持っているというものだった
ちなみにその話、目撃した人のなかに人肉を食ってる人が混じってた、っていう怖いオチがついてるんだけど
実際にもし、私が似たような感じで人肉食ってる人を見つけたとしたら、って思ったことがある
怖い。だからそれ以上は考えないことにしてる
一応このネタ、創作だと思うけど
でもあまりにも私の能力と似てるから、二度と見てないけどブクマしてある。二度と見てないけど
まさか、実在する超能力なのかな? まさかね
あーあ、どうせならもっとカッコいい能力が良かったな
□□■
「NY地下鉄ホームレスの超能力」の契約者
中央高校の一年生で東中出身者、生まれも育ちも学校町
自分をモブだと思ってるモブ女子で、自分は主役になれないという諦念を抱いている
しかし、このまま地味に大学に行って、地味に就職して、地味に老いて、地味に死ぬような人生はちょっと嫌だとも思っている
別に日景遥のことが好きとかそういうわけではないが
周囲の女子が日景君を追っかけてるから、とかそういう理由で日景フォロワーズに地味に混じっている
そんな調子なので周囲の女子とは浅く付き合ってるものの、自分には友達と呼べる存在が居ないとも感じている、そんなモブ女子
コピペネタ「NY地下鉄ホームレスの超能力」の契約者
観測対象が直前に摂取した飲食物を知覚できる能力、それだけ
島添 星冠(しまぞえ てぃあら)
ギャグ枠
中央高校の一年生女子
東区中学出身で、当時は日景遥関連の女子ヒエラルキー(婉曲表現)のトップに君臨していた
外野からは専ら「女王」という仇名で呼ばれており、独特の温かい視線(婉曲表現)を向けられていた
中学時代から現在に至るまで日景遥に一目惚れしており、対外的には「遥君」と呼ぶが、胸中では「愛しの遙様」などと呼んでいる
中央高校へ進学した理由も無論、日景遥が進学したためである
なのだが、本性がヘタレのため遥君にはまともに声を掛けることができない状況である
遥君以外の人物には割と温度差が激しい
特に例の幼馴染グループ以外の男子に対しては露骨な塩対応になる
高校進学後は遥君および幼馴染グループと比較的仲の良さそうな、学校町外から進学してきた女子(サクヤ嬢)をジト目で睨む日々を送っている
本来であれば後述の通り、取り巻きを利用して排除したいところだが、よりによって遥君と仲良くなっているため迂闊に手を出せなくなっている
キツめの容貌の持ち主でスタイルは良い。ブレザーの上からでもそれがよく分かるほど
野郎共の目をよく引くものの、当の本人は遥君以外眼中に無く、当然ながら遥君も彼女のことなど眼中に無い
中学時代から独特の得体の知れないカリスマにより派閥を形成し、日景遥ファンクラブを結成
遥君に近づく空気の読めない女子共を、主に取り巻きを利用して牽制ならびに威嚇していた
しかし高校進学後に心境の変化からか、自分を客観的に見れるようになって以降は
自分のこの攻撃的かつ陰湿な性格をいい加減改善した方がいいのではないか? と気にし始めている
ついでに彼女の母親はアパレルのオーナーという程度で至って平凡な庶民の家庭にもかかわらず
中学時代になにゆえ「女王」派閥を形成し得たのか理解できず、派閥形成の経緯について自分のなかで半ば黒歴史扱いしている
自分の名前が好きではない
小学校の頃はお気に入りだったが、中学後半期にこの手の名前が所謂キラキラネームと揶揄されていた事実を知り、複雑な心境に至る
高校進学後はなるべく姓で呼んでほしいらしく、星冠自身も相手を姓で呼ぶ(※日景遥君を除く)
※ギャグ枠なのでどんな目に遭わせても良い
以上2名は中央高校在籍
さすがに死亡/殺害はかわいそうなので、それ以外でしたらどんな風に登場、クロス、利用しても問題ないぞ!
日景 遥は、基本的に他人への興味が薄い。
どういう形であれ、一度興味さえ抱いてしまえばその人物を個として見るのだが、そうでなければそもそも人間として認識しているかどうかも怪しい。間違っても対等には見ていない。
少なくとも、自分の見た目なり、成績なり、生まれなり。そうしたものに惹かれて寄ってくるような群れに関しては鬱陶しさすら感じているくらいだ。
遥のそんな性格に関して、龍哉は「さすが日景の家にお生まれになった方です」と感服してしまっており、優と晃は従弟として「身内とそれ以外の区別はっきりしていていんじゃないか」と咎める気ほぼなし。同じく従弟の神子は「治るようならとうの昔に治してる」と遠い目。直斗は緩やかにフォローこそするがそれだけだ。「視点が違うんだからそんなものだろ」とある種、遥らしさとしてそのままにしているとでもいうべきか。
結果として、幼馴染グループの中で遥に苦言を呈するのは自然と灰人と憐の二人だけになる。神子の言う通りと言うか何というか。苦言を呈して改められるなら苦労等なく、遥の認識が改められたことは今のところ、ない。
それでも、遥は主に憐の言葉には多少は配慮を見せたり従ったりする為。彼らの事を一定ライン知っている者は憐を遥の外付けブレーキと認識している事もあった。
幼馴染グループが進級し、灰人が三年に、他が二年になった年。新入生の中に栗井戸 星夜の姿があった。
醜悪な顔立ちと言う訳ではないのだが、鋭い三白眼の凶相と間違っていると思えば先輩だろうが教師だろうが食ってかかる性格とであっと言う間に人を遠ざけてしまった。
唯一、幼馴染らしいクラスメイトの眼鏡の少女は彼に普通に接していたが、それ以外は一定の距離を置いて遠巻きに見ているような状態だった。
星夜自身、その状況を悲しむ様子もなく、むしろ「鬱陶しいのが寄らないならいい」とでもいうような態度、どころかむしろ平気でそう口にした。改善する気はないようだし、眼鏡の少女も咎める様子はないというか諦めていた。
ゴーイングマイウェイ二人。
その二人が顔を合わせれば、事故るだろうと大半が予想した。
まぁ、実際その通りであり、どうやら星夜が中学に入学してくる前から二人は知り合いだったようで顔を合わせるなり険悪に睨み合った。
体格的には遥の方が圧倒的に優れているのだが、星夜がその程度で怯むような性格だったら周囲も苦労はしないだろう。
かすかに獣の唸り声のような音すら聞こえるような錯覚を感じる空気の中、このまま一触即発か、と周囲が思ったその直後。
「はぁい、はるっち、せいっち、廊下の真ん中で喧嘩しないー。皆さんに迷惑っすー」
するりと、憐が二人の間に入った。めっ、と軽く二人を嗜める。
……土川 咲李が死んで以降、以前の人見知りで臆病な様子から人が変わったように明るく振舞うようになった憐だが。その性格の根底が大きく変わった訳ではない。以前よりかは人に対する優しさはそのままに、前より積極的に動くようになっただけだ。
とはいえ、今回嗜めた相手は遥だけではなく星夜も。呼び方からして以前から知り合いの可能性もあったが、そもそも今の憐はそこまで親しくない相手でも軽く呼ぶようになっていて判断は難しい。
遥はしぶしぶだろうと引き下がるだろうが、星夜の方はどうか。それこそ、今度は憐相手に食って掛かるのではとも懸念されたが。
「はい、憐さん」
従った。しかも秒で。
他の者には一度向けた事のないような笑顔で、従順に、忠実に。
そんな星夜の様子を見て、憐は「いい子」、と微笑んで……憐のその様子に、遥がギリィッ、となっていたが周囲は静かに見なかった事にした。現場に突っ込める勇気ある勇者はいなかった。
この日以来、憐は一部から「猛獣使い」の称号を得る事になる。
「いや、心から納得いかねぇんすけど」
「残当」
「解せねーっす」
診療所の空き部屋でお茶を飲みつつ、憐は少しばかり不貞腐れた表情になった。
何故、幼馴染と後輩の喧嘩を止めた程度で猛獣使いと呼ばれるようになってしまうのか。
件の後輩は、今、「先生」の診察を受けている最中だ。星夜を保護した事件の時から思っていたが、あの都市伝説は彼には負担が大きすぎる。
不貞腐れた表情のままの従弟の様子に、灰人は別に不名誉な呼び名でもなし、いいだろうにと考えていた。
憐が遥の外付けブレーキ扱いなのはわりと以前からなのだ。そこに、星夜についてもそうなのだ、と加わっただけの事
……どちらも、憐に対する感情が重たいように見えるので誤解と誤解と誤解と腐界隈への餌がすごい気もするが一旦は放置する。憐が受け入れない限りは問題ない。星夜の方に関しては、糞重たい忠誠のようなものだし。
「もう、かい兄、他人事みたいに……」
「ひとまず、お前に害はない事だからな」
害がないのなら、ひとまずはいい。
遥や星夜のようなタイプの人間が憐と親しくしていれば、憐に妙なちょっかいを出す連中が減るのもまた事実だ。
厄介な事、面倒な事は御免被る。
「…………もう。猛獣使いは、どっちかってとかい兄でしょ」
「ん?……俺は猛獣の類を飼いならした覚えはないが」
「現在進行形で、てなづけてる最中でしょ」
何の事だ、と言おうとして、診療所に新たな患者が来たのか扉が開いた音。
応対してくる、と部屋を出れば。
「…………………何してんですか、つくねさん」
「空から飛び掛かってきたから軽く殴ったら動かなくなったから、とりあえず持ち帰った。これ鳥っぽいけど食える?」
「食べようとするんじゃない」
星夜が保護された事件と同じ事件で、同じく保護された見た目「だけ」は年上の、今年から東区の高校に通うようになったその人は。褐色がかった灰色の体毛をした梟人間のような生き物の首根っこを掴んで引きずってきていた。
見た目からして「オウルマン」か。強い個体でもないのだろう。そりゃあ、この人の「軽く殴った」なら、動かなくもなる。
きちんと見れば、辛うじて痙攣しているようだった。ぎりぎり生きている。
「つくねさん、怪我は?」
「ん、ねぇよ。ちゃんと避けてから腹に一撃やったし」
「そうですか。では、それはひとまず「先生」に引き渡しておきましょう。意図的につくねさんを狙ったかどうかで、対応変わりますので」
「んー……わかった…………鶏肉」
「後で唐揚げ買ってやるから、食欲を発揮してんじゃねぇ」
つくねから「オウルマン」を分捕って、診察室に居る「先生」に声をかけに向かう事にした。いい加減、星夜の診察は終わっている頃だろう。
「……やっぱり、てなづけてる最中、ってか。「常識」を躾中じゃない」
自覚ないんだから、と。
会話を聞いていた憐は、少し呆れたようにそう、独り言ちていた。
おしまい?
中学生の頃の様子書こうとしたらなんかこんな感じになった
遥のファンな女の子たちはこんな様子も見てたんだなぁ。しみじみ
あ、時間軸は幼馴染グループ中学二年生(灰人のみ三年生)の頃なので、ようは二年前っすね
そして、乙でーす
ふふふふふ、「NY地下鉄ホームレスの超能力」の契約者の子が見れるのが直前食ったものだけで良かったぜ!(遡って見られるとアウトな奴に心当たりがある/まぁ学校違うし関わらないだろうけど)
変な事に巻き込まれないよう生き延びるんですよ
> ただし「狐」以外の「別のこと」は、事前に警告もらってないとうっかり関わってしまう可能性ありそうなので怖いのはそこだな……
幼馴染グループにとって、今、首突っ込まれたくない一番の事は「狐」絡みだからねぇ
それ以外は「がんばれ」な気持ちの奴がいる可能性あるな……
花子さんの人、投下お疲れ様です
憐君と星夜君、割と初期から仲良かった(?)んか? と思ったら
そういえば前日譚があるってそういう話でしたね……
こうして見ると憐君は単に優しいだけではない絶妙な味わいを感じるが
>>678
乙ありでございます
「NY地下鉄ホームレスの超能力」の契約者、今後出るとしたら「次世代ーズ」ではなく
単発か短期集中連載になりそうだなー、と
いや分からん、とか言いつつ「次世代ーズ」に登場するとかありそうだから何とも言えなくなった
本日はエイプリルフールだそうですが
「次世代ーズ」は毎度毎度「○○までに投下します!」 → ブッチ♥ を繰り返しているうえに
「次世代ーズ」関連で与太話を投下する余裕が色々無さそうなので、今回のエイプリルフールネタは見送る!
今年(度)の目標は
「二週間後に投下します! → 二年後に投下 とかそういうことはしない」
「できれば毎月コンスタントに投下する」
可能であれば
「今年中に『ピエロ』戦を決着する……(あっあっあっ)」
……で行こうと思います
○前回の話
>>661-671
次世代ーズ 35 「憩う、ひととき」
これは【9月】の話です
「いいんちょ、ちょっと訊きたいことが」
「どうした早渡」
「最近クマのぬいぐるみが特徴的な変質者の話とか聞いたことない?」
「は?」
商業高校、昼休み開始直後
早速クラスの連中に聞き込みを始める
勿論、昨日千十ちゃんから確認した“変質者”に関する情報を集めるためだ
そうは言っても委員長もクラスの他の連中も契約者じゃ無さそうだし
尋ねるなら、こう、いい感じでオブラートに包まないと
「そんな話は聞いたことがない。何だそのクマのぬいぐるみって」
「そっかー、聞いたことないかー」
俺の前で訝し気な表情を見せるのが、クラスの委員長こと波越だ
なかなか個性的なクラスの連中をまとめる苦労人、学業も優秀で優等生とは委員長のためにあるような言葉だ
ちなみに女子レスリング部所属の体育会系でもあるので、クラスの女子達からは「霊長類系女子」だの「穏やかなる筋肉ゴリラ」だの呼ばれている
「なんだ早渡、また探偵業でも請け負ってるのか?」
「違えよ、てかその探偵呼びはマジでやめてくれ」
「いやでも気になるだろ、クマのぬいぐるみの変質者って。話題性バッチリじゃないか」
席の横からにやけながら話し掛けてきたのは眼鏡男子の戸塚
三度の飯より映画が好きなマニアというかオタクというか、まあそういう感じのタイプだ
そして俺をB級映画の沼へと引き摺りこんだ張本人でもある
「本当にぬいぐるみか? 着ぐるみの間違いじゃないか?」
「あーいや、聞いた話じゃクマのぬいぐるみを犯罪の小道具に使うようなタイプ、らしい、んだけど」
「そういう系ならもっと話題になってそうだけど、俺もそういう話は聞かないな」
「おーいおい、優等生同士で何の話してんだよ」
わらわら集まり出したのは藤巻、吉岡、水谷の連中だ
丁度いいや、こいつらにも訊いてみよう
「クマのぬいぐるみ?」
「の変質者?」
「聞いたことねーよ」
「まあ学校町は元から変なの多いからな、愉快犯が出たとしてもおかしくないし」
三人とも知らない様子で、戸塚がいい感じにまとめた
ただ戸塚の発言に露骨に表情を歪めたのが委員長だ
「ただでさえ最近は変質者や不審者が出没しているんだ、妙なことには関わるなよ?」
「「「はーい」」」
「委員長は真面目だねえ」
「揶揄うんじゃない、連中は性犯罪者だぞ? 見つけたら通報しろ。戸塚聞いてるか?」
「俺を好奇心旺盛坊やみたいに言うのやめろよなー」
「事実だろう。それに早渡、そんな話をどこから聞いたんだ?」
「ねーねー、いいんちょー何やってんのー?」
さらに女子が数名集まり出した
一応そちらにも確認してみるが案の定知らなさそうな様子だ
「そういや早渡、お前先週東区の中学に居た? なんか中央高のヤツと一緒じゃなかった?」
「あー、うん。色々あってちょっと話してた」
水谷に別の話題を向けられた
そういやコイツと藤巻は確か東中出身だったっけ
このタイミングで花房君のこともついでに訊いてみようか?
「いま中央高校の話してたよな? れんはるの話してたよな?」
「してねーって! なんでお前そんな直ぐ出てくんだよ!?」
突如現れていきなり話し掛けてきたのは秋山だ
即ツッコんだ水谷が明らかにビビっているし、藤巻も露骨に面倒な野郎が来たと言わんばかりの顔をしている
いや秋山は別に悪いヤツじゃないんだけど、話が長くなって自分の世界に入る傾向にあるのでちょっと敬遠されてるだけだ
委員長に話し掛けてた女子達は真顔で委員長の腕を掴むと早々に教室から出て行ってしまった
「早渡、ぬいぐるみだの変質者だのの話はいつでもできる。今はそれより大切な話がある」
「はい? えっ、いや。うん?」
「早渡、お前は中央高校を舞台にした幼馴染同士の男と男の友情以上の物語に興味はないか?」
「えっ、いや、あの。ごめん、何の話?」
「早渡早渡、コイツはほっといて俺達も逃げよう。絶対長くなる」
気づけば吉岡と戸塚は席を立って、こちらに向かって無言で手招きをしている
秋山は秋山で俺の前の席(浅田さんという女子の席だが)に座ると勝手に話を始めた
目を閉じて半ば恍惚とした表情と化している。これは確実に話が長くなるやつだ
「お前も聞いたことがあるだろう早渡、中央高校の日景遥に恋い焦がれる女子は多いが、それは女子の専売特許ではない。お前なら理解できるだろう」
「えっ、いやあの。秋山?」
「そもそも! 男が男に友情以上の感情を抱くのは男女間の恋愛よりも遥かに純粋だというのが俺が常々考えていることだ。遥だけに!」
「行こうぜ早渡、コイツはほっといても壁と話してられるやつだから」
水谷に半ば引っ立てられるようにして席を立った
秋山は俺達が席を立ったことなど一切気にすることなく話を続けていた
「早渡、さっき赤星がまたお前のこと捜してたぞ」
「はい? マジ?」
「今日という今日は逃がさんとか言ってたけど、また何かやったのか?」
「何もしてねえよ。どうせまた訳分からん理由で俺を拘束する腹に決まっとる」
藤巻からそんな話を聞いて思わず頭を掻いた
赤星嘉主馬、商業高校の生徒指導教員。独身。担当教科は女子体育
生徒指導とは是即ちサルもとい生徒を暴力と恐怖で統治すること也、的な思想をマジで抱いているフシがある我らが商業の名物教師である
どうも俺のことが気に食わないらしく、適当な理由をでっち上げては放課後の数時間、俺を指導室に監禁しようとしてくるまあまあ関わりたくないヤツでもある
四月の頃から割とそんな感じだったし、「七つ星」から出て学校町に来たばかりの俺も生徒指導とは何なのかを理解してなかったので律儀に説教っぽい何かを我慢して聞いていたが
さすがの俺も真相を悟って以降はなるべく赤星先生と顔を合わせないようにしていた
「どうすんの早渡、また生徒指導総動員で正門も裏門も塞いでくるよ?」
「大丈夫だよ学校から出る方法は色々あるからな」
「さすがは主席、言うことが違うぜ」
「ついでに俺にもその方法教えて」
「また今度な」
適当に話を流しつつ、昼飯を取るために解散した
さっきの様子じゃクラスの連中は件の“変質者”について知らないようだ
午後の授業とホームルームを終え、俺は早々に商業を後にした
校長先生直伝の古びた旧通用口は生徒指導部もさすがにマークしていなかったらしい
ありがとう校長先生、ありがとう通用口
心のなかで改めて礼を言いつつ目的地へと急ぐ
向かう先は商業からそんなに離れていない公園だ
商業を出る前に念のため敷嶋のクラスを覗いたがヤツは既にいなかった
その後遅れて「先に行ってる」とメッセージが入ったので、その時点でもう高校を出てたんだろう
公園に向かいながら携帯を引っ張り出す
花房君から返信が来ていたので、その確認だ
昨晩のうちに花房君にも“変質者”について何か知ってないか尋ねておいたんだ
とは言ってもダメ元だ、何か有力な情報が得られたら御の字程度で考えていた
【クマのぬいぐるみを操る変質者で契約者か】
【そんなのが現れてるなら、もっと有名になってる筈だな】
そりゃあそうだろう、花房君も千十ちゃんと同意見っぽいな
まず花房君自身も件の“変質者”について知っているわけではない
そう前置きされて色々情報を共有してくれていた
学校町は元から東区から南区にかけて変質者や愉快犯の類が多く出没するらしく
その大半はまあ何というか、まあそうだろうなというか、契約者か都市伝説のようだ
そもそも学校町にはそうした類の変人がよく現れるのだそうだ
なので、仮にその手の契約者が変態行為に精を出していたとしても特段異常なことではない
最近じゃ「赤マント」がよく出没して人を襲っているらしいし、それに関連してか誘拐事件も相次いでいるようだ
これらの話は俺も最近耳にしているものばかりだった
そして
これも最近だが、南区を露出魔の契約者が徘徊しているらしい。もっともその容姿までは不明とのこと
この話は千十ちゃんから聞いた話と被る。とすると南区が“変質者”の出没箇所か?
ここまでが花房君からの返答だ
そのうえで
花房君の話では東区の高校に在籍する幼馴染が居るらしく
気が向いたら彼にも確認してみる、ということになった
【で、そんな話どこから聞いたんだ?】
最後に質問された
東区高校の女子にその“変質者”と誤解されてる、と正直に話せば、なんかネタにされそうな予感しかしない
ついでに言うと、千十ちゃんの話をここで出しちゃうと、やっぱりなんか状況を把握されそうな予感しかしない
以前のやり取りから察するに、花房君は洞察力が高いと見た! 明け透けに白状するのはちょっとリスキーかもだ
【なんかそういう噂を耳にしたんだよ】
【南区でそんな変態がうろついてるって嫌でしょ?】
【自分ちに近いんじゃないかってちょっと警戒してるだけだから】
【情報シェアしてくれてありがとう。色々不安だったから助かったわ。引き続き警戒しとく】
よし! 嘘は吐いてないぞ!!
我ながら無難な返答なんじゃないでしょうか
花房君からのメッセージはお昼過ぎ頃に返されてたんで
多分俺からの返信に直ぐに気づくということはないだろう
よし、じゃあ公園に急ぐか
「ごめん待った?」
「いや、そんなには」
公園には既に敷嶋が待っていた
敷嶋敏己(しきじま としき)、俺と同じく商業の一年
別クラスなので本来ならそんなに接点は無かったんだが、一学期の事件というかそういうのを機に関わるようになった
「……もしかして多崎ちゃんも」
「もう来てるよ」
「やあやあ早渡君、お久しぶりー」
朗らかな口調で現れたのは多崎京(たさき きょう)ちゃん
東区高校の一年で、敷嶋の幼馴染であり、彼女である
「あのさあのさ早渡君。とっしーって最近、学校でどう?」
「どうって。相変わらずだよ、野郎同士で仲良くやってるし」
「ほんと? 女子から言い寄られたりしてない? 大丈夫?」
「ないない、それはマジでない。敷嶋はモテない男扱いされてるから」
「ていうか京、ほんと俺は何でもないって言ってるだろ」
「だってとっしー、人が訊いても高校のこと全然教えてくれないじゃん」
二人とも相変わらずっぽいな
多崎ちゃんは明るい雰囲気の陽キャ女子って感じなんだが
そう、丁度今のように敷嶋が絡むと謎の凄味としっとりした感情を放ってくる
というか俺がこの二人と積極的に関わるようになった切っ掛けというのが
敷嶋から彼女について相談されたのが発端なわけで
いや、今はこのことを思い出さないほうがいい。ちょっとゾっとする話だ
今は考えないようにしよう。過去は過去だ、かるーく流すべきことだ。うん
「それで早渡、変質者についてなんだけど」
「心当たりあるのか?」
「それっぽいのを京が見たらしいんだが」
「……マジで?」
「あっ、でも見間違いかもだよ? 夜だったしちゃんと見えたわけでもなくて」
昨夜、事前に敷嶋へ“変質者”について知ってないか確認を入れたところ
東区のことは多崎ちゃんが詳しいかもしれない、ということで今日の待ち合わせをセッティングしてくれた
こちらもダメ元で情報が得られたら御の字くらいで考えてたから、これは意外過ぎる
「学校遅くなって、日も暮れてしばらく経った時間だったし。はっきり見えたわけじゃないんだけど」
「それでもいいよ、どんなヤツだったか教えてくれない?」
「えーとね、まずクマのぬいぐるみが、うん、大き目のテディベアみたいなの? そんなのが二足歩行しててさ」
「二足歩行」
「で、私もビックリしたんだけど、よく見たら後ろから人が操作して歩かせてたみたいなんだよね」
「……それ、どんなヤツだったか分かる?」
「んー、それがコート着てたし中折れハットっていうのかな、帽子も被ってたから顔までは良く見えなかったんだよね」
「そっか……」
「でも多分男の人なんじゃないかなあって感じだったよ」
「京、ソイツを何処で見掛けたんだ?」
「んー、東区の……二丁目かな。大通りあるでしょ? あの近く。先週の……木曜だったと思う」
東区、二丁目か。具体的な情報が出たな
南区からさほど離れてもいない
「多崎ちゃん、ソイツに近づいたりとかは」
「さすがにしないよ、だって怖いもん」
「とりあえず何も無かったようで良かった……」
「確かに怪しそうだったけど、でも手品かハロウィンか何かの練習っぽくも見えたからそんな不審って感じでも無かったんだけど」
「ソイツ、悪質な変質者らしくてちょっとソイツのことを調べてたんだ。薄気味悪いからさ」
「早渡。まさかまた厄介事か?」
「……うん、まあ」
敷嶋も多崎ちゃんも契約者ではない
なので全てを正直に話すわけにはいかないが、多崎ちゃんは件の“変質者”を目撃している状況だ
二人とも一学期の頃から危ない目に遭っているし、特にAN関連の事件には絶対に巻き込みたくない
「敷嶋、なるべく多崎ちゃんと一緒に帰った方がいい。人目の少ない場所は避けて」
「心配しすぎ……でもないか、最近また物騒っぽいからな」
「そうだよ、女子一人じゃ怖いんだから。とっしー、一緒に帰って」
「それがいいよ。敷嶋、そうして」
敷嶋の肩を軽く叩いて溜息を吐いた
敷嶋は敷嶋でぬうと唸ったままわざと多崎ちゃんから目を逸らしている
コイツ、照れてんのか
「もしまたクマのぬいぐるみの変質者を見掛けたら、近寄らずに敷嶋経由で教えてほしい」
「ていうか早渡君、私と連絡先交換しない? その方が色々捗りそうだし」
「あいやあの、俺のは、ええと。ちょっと都合が悪いから、敷嶋経由で教えてもらって。お願い!」
「? なんでぇ?」
どうしても花房君との連絡先を交換したときのことが頭にちらついてしまう
いや! アレは完全に俺の所為だけども!
多崎ちゃんの前であんな醜態は晒したくない、マジで
「あー、あとさ、多崎ちゃん。あの……、東高校の同期で、せっ……日向さんと遠倉さんって子、知らない?」
「え? 日向さんとせっちゃん? んー、せっちゃんは同じ中学出身だから知ってるけど、日向さんは別中だし、そもそも二人とは別クラスなんだけど」
「知ってる範囲でいいから、どんな子達なのか教えてもらってもいい?」
多崎ちゃんの話では
千十ちゃんは中学の頃から男性恐怖症っぽい女子で、今は若干克服してるけど、急に背後から男子に話し掛けるとビックリしてしまうらしい
で、日向さんは成績が上位の女子のようで、委員長タイプというより公認会計士とか将来銀行に勤めそうだとか、そういう感じの女子らしい
なるほど? 初めて聞くような話で新鮮だ
「でもなんで二人の名前が出てくるの?」
「ん、いや、最近知り合いと一緒に出会うことになってさ。多崎ちゃんと同じ高校の制服だったから。どんな子達なのかなって気になっただけ」
「ふーん」
一応嘘は吐いていない
知り合い、いよっち先輩と一緒にドーナツ屋で会ったわけだし
特に嘘を吐いて誤魔化したってわけでもないし
ていうか千十ちゃん、男性恐怖症だったの?
もしかして俺は千十ちゃんに無理させてるんじゃないか?
ちょっと不安だ。機を見て確認した方がいいかもしれない
「もしかして二人とお近づきになりたいとか? でも私そういうヘルプは得意じゃないよ?」
「違う違う、ほんとそういうんじゃないから」
「ほんとー? でもまあそうだね、日向さんはちょっと気難しそうなとこあるし、早渡君みたいな男子が苦手っぽそうなとこあるしね」
「あー、確かになんかそんな感じだったな」
「せっちゃんも昔は男性恐怖症克服するために日景君の追っかけやってたし。あ、知ってる? 日景君ってあの中央高の有名なイケメンだけど」
「知ってる。ウチのクラスにもファンというかフォロワーが多いわ」
「でもせっちゃん、昔よりはマシになったっぽいけど、今でも男子が苦手っぽいし、早渡君みたいなタイプだと怖がるんじゃないかなー」
「そうなの?」
「だと思うよー? あれ、もしかして早渡君。せっちゃんみたいな女の子が好きなの? それとも日向さん?」
「……違う違う、ほんとそういうんじゃないから」
「ほーん? 照れなくてもいいよ? いやでも分かるなー、せっちゃん小っちゃくて可愛いからね。日向さんもクールそうな見た目で頭いいし」
「なんだ早渡、お前の好みのタイプって年上の長身ブロンドじゃなかったのか?」
お、なんだなんだ
多崎ちゃんも敷嶋もめっちゃ食いついてくるんだが?
これは余計なことまで訊いてしまっただろうか、いやでもいいか
東区二丁目、そして南区にかけての範囲
多崎ちゃんの目撃情報と花房君からの情報提供で、“変質者”の出没範囲を大分絞れるかもしれない
これは大きな収穫だ
「というわけで! マジで“変質者”には気をつけて! 俺も気をつけるから!」
「だってさ、とっしー♥ 今日はちゃんと手を繋いで帰ろうよ!」
「いや、だから、その」
「早渡君、後でせっちゃんと日向さん、どっちが好きなのか教えてね」
「違う違う! ほんとそういうんじゃないから!」
多崎ちゃんの前で、俺と千十ちゃんが幼馴染だなんて話したら
更に誤解を加速させそうなので当然口には出さない!
お礼を言って、俺は二人と別れた
帰り際に多崎ちゃんは敷嶋の腕に抱き付いてたし
別れた後に再度お二人の方を見返すと、しっかり手を繋いでいるようだった
良い良い、実に良いぞ
ていうか俺のことなんか気にせずにもっとイチャつけ!
まあなんだ、想定外のやり取りも発生したが
どんどん“変質者”に近づいている手応えが得られたぜ
待ってろよ“変質者”、覚悟しとけよ“変質者”……!
□■□
南区商業高校、放課後
「赤星先生の一存で生徒指導を総動員できるって、ちょっとそれってどうなんです?」
「うーん、痛いところを突いてくるね」
「赤星先生が早渡への追及を本格化したのは、一学期に中央高の不良と揉めたあの件からでしょう」
「……そうだな」
「あの事件も元はと言えば、中央高の不良が先に手を出したからで。早渡の方は正当防衛だったのでは?」
「いやあそれがね、いくら正当防衛とはいえ相手を返り討ちにして伸してしまったわけだし、暴力振るった時点で我々も出ざるをえなくてね」
「商業からも中央高へ申し入れをしたとも聞きましたが」
「うん、校長が直接ね。でもなんていうかなあ、例の中央高の子達は悧巧というか狡猾というか」
「そいつら、後から“狂犬”に〆められたって聞いたし。なんというか因果応報というか自業自得というか」
「……まさか、また“狂犬伝説”を耳にすることになるとは私も思ってもなかったよ」
戸塚銀士(とつか ぎんし)と波越沙也花(なみこし さやか)に挟まれるようにして会話しているのは
出っ歯気味の生徒指導教員、兒玉金治(おだま きんじ)だ
通称オダキンと呼ばれており、見た目で誤解されるが商業の不良生徒達にも慕われる良教師である
なのでタマキンなどと同教員をふざけて呼べば、商業の不良達から吊し上げを食らうというのが専らの噂だ
「で、まああの件以降、赤星先生も強く出るようになってね。早渡は目を付けられてしまったというわけだ」
「他の生徒指導の先生、誰も止めないんです?」
「赤星先生に乗ってしまっている、というか何というか」
「早渡が逃げ回らずにしっかり赤星先生に抗議すれば解消するでしょうか?」
「いや、それなら一学期の時点で落ち着く筈なんだ。まあ抗議したところで反抗的な生徒と見做されるのがオチだからねえ」
「現状、早渡を悪とする証拠が上がらないから嫌がらせのように付け回している、というところですか」
「でも校長が早渡の味方だからね。それがあるから私は現状に甘んじているんだ」
「それもそれでどうかと思いますけど」
西日を受けながら彼ら三人は正門から校庭へと向かって歩を進めていた
戸塚はルート上裏門から下校した方が都合が良いらしく、波越はこれから部活へ向かうところだ
ちなみに兒玉はといえば、早渡捕獲の水際作戦が幸か不幸か失敗したので正門から校舎へ戻る途中だ
彼は同僚の赤星に動員され、早渡を捕まえるために正門へ配置されていた
とは言っても、兒玉自身は仮に早渡を見つけたとしても見逃すつもりだった
今回特に問題を働いたわけでもない早渡を捕まえる気は無かったというわけだ
無論同僚には秘密なのだが
「来たな、三羽烏」
「いや、今日は二人だけですよ」
前方で植木鉢に水やりをしている初老の教員がこちらに気づいたらしく
顔を上げて声を掛けてきた
初老の教員は古文担当の多民沢丞(たみざわ たすく)だ
何処を見ているのか見当がつかない顔が特徴の男で、教員歴は長い
彼が此処、商業高校に赴任するのは今回で三度目らしい。今回と言ってももう五年ほどになるが
「そうは言っても、君達は早渡の話をしていたのだろう」
「それはそうですけど」
「それで。兒玉先生、早渡は捕まりましたかな?」
「いいえ、赤星先生も監視を解かざるを得ませんでしたね。アイツは逃げ果せたでしょう」
「さもありなん、というのが率直な感想ですな」
相変わらず何処を見ているのか分からない顔つきで二度相槌を打った
彼は早渡、波越、戸塚の三人をまとめて「南区商業の秀才三羽烏」と呼ぶ
彼ら三人が成績上位三名であるから、というのが理由だそうだが、同教員にとってはそれ以上の意味があるらしい
「では先生方、私はこの辺で。部活に遅れるとまずいですので」
「おう、励んできなさい」
「じゃ俺も帰ります。あっ、兒玉先生、今月はちょっと出るのが早いみたいです」
「ん、分かった。会長にもよろしく伝えといてくれ」
如雨露を持ったまま大きくズレた眼鏡を押し上げ、多民沢は二人の生徒の背中を見送る
横に並んだ兒玉もまた、何処か誇らし気に去り行く二人を見遣っていた
「波越は着実に成績を残していますし、戸塚の評論も鋭さを増していますね。こりゃあ将来大物になりますよ。連中は」
「戸塚は確か、校外の映画評論サークルでしたか」
「ええ、辺湖のね。このご時世にミニコミ誌ですよ。私も愛読しとりまして」
「彼らを見ていると、どうしても二十年ほど前の奇跡を思い出してしまいましてな」
「例の……、此処から名門大へ進学を果たした、あの生徒のことですか?」
「ええ」
多民沢は未だ去り行く二人に目を向けて、しかし、其処ではない何処か遠くを見ていた
「当時は確か、二度目の赴任のときでしたか」
「彼女とは昔、放課後にしばしば古典を題に採った議論で盛り上がりました
『古今和歌集』に収められた和歌が呪文として転用された歴史について質問され、答えに窮したものです」
「ほう、それはまた興味深い。ということは文化史寄りですか?」
「そうですね、彼女は精神文化や史学に興味があるものだと見ておりましたが
果たして、大学でもそうした道に進んだものと聞いています。まあ、もっとも――私もその年に此処を離任することになりましたが」
「今は、何をしているのでしょうね」
「便りが無いというのは元気な証拠でしょう。あれで世界中を飛び回っているやもしれませんな」
ズリ落ちた眼鏡を再度押し上げ、多民沢は西日の方へと顔を向け、兒玉もそれに連れられた
二人して大きく傾き、沈み始めている陽光へ目を向けている
「秀才三羽烏。彼らを見ていると、どうしてもあの女生徒と重なって見えてしまいまして」
「……連中三人も、将来飛躍を遂げるでしょうね」
「ええ。どうにも、あの三人を見ていると浮き立つような気持ちを押さえられませんでして
あるいは青春というのは、こういうものでは無かったのかと。若い頃を思い出すかのような錯覚すら覚えます」
「確かに。連中からは溌剌とした刺激を受けます」
「どうか、今あるこのときを、謳歌してほしいものです」
「『若人の貴重な青春を、大人が取り上げてはならない』――でしたか」
多民沢は兒玉へと顔を向けた
相変わらず、何処を見ているのか分からない目つきであるが
「ええ、校長の格言ですね。佳い言葉だと思います
今を、楽しんでもらいたいものですよ。生徒達には」
多民沢のその目は、西日を受け
まるで青春を取り戻した青年のように煌めいていた
□□■
「次世代ーズ」は当然ながら、これまで学校町を舞台として投稿された連載や単発、そのなかで語られた表現や考察に多くを負っています
改めて、になりますが、この場を借りて今一度感謝申し上げます。ありがとうございます
「次世代ーズ」、冗長に語りすぎる部分と
明らかに言葉(と理解)が足らずに誤解を招く部分が多いので
これからはこうした課題と、向き合っていきたい……
学校町週末トレンディドラマみたいな展開が続いた「次世代ーズ」ですが
37、38以降はようやくドンパチ始まることになりそうです
今回も花子さんとかの人に土下座申し上げます orz
次世代ーズの日常(学校)回となると、日景君への言及が出てきます
次回の「聞き込み side.B」も日景君、そして幼馴染グループへの言及予定です……
いっそのこと流れで島添星冠についても登場させた方がいいのかどうか考えていますが
迷いと焦りが高まっている、気がします
次世代ーズは【9月】分をそろそろ終えて、【10月】へ移行する頃合い
あとは【11月】に追いつくのだわさ
乙でしたのー
遥やら幼馴染グループへの言及書く上で情報足りないとか気になる事ございましたら、こちらなり避難所なりで聞いてくだされば答えるとです
さて
ものすごくお待たせしたブツ、投下させていただきます
時間軸的には「ピエロの夜」とかと同時間軸か直後辺り
「甘い頭痛と先への備え」よりは前の時間軸のお話になります
では、GO
何かおかしい、と。
感じた時にはもう遅い。
「……うん?」
部屋の外から何か聞こえた気がして。「凍り付いた碧」が一人、藍は部屋の扉へと視線を向けた。
聞き逃してもおかしくないような。小さな、小さな音。
小さな違和感ではある。大したことではないかもしれない……しかし、同時に。放っておいていてはいけない事だ、と感じた。
立ち上がり、扉を開こうと手を伸ばしたのと。
集めていた子供達の叫び声が耳に届いたのは、ほぼ、同時だった。
時刻は、ほんの少しだけ遡る。
廃工場の中でも広い空間。この工場が現役で稼働していた頃には、大きな作業機械がいくつも置かれていたであろう場所。
今でも、かつて使われていた機械の一部やら、何かよくわからない金属片やらがあちこちに散らばっている。
そこに、子供達は集まっていた。特別に理由があったという訳ではないのだろう。
「凍り付いた碧」に集められた、保護された子供達。それが集まって遊べるような広い空間としてちょうどよかった。
ただ、それだけの事だろう。
何人かの子供達が鬼ごっこしている。大人から解放されて、もう怖いものなんて何もないとでもいうように、無邪気に、恐怖もなく。
「つーかまえた!」
鬼役の子供が、一人の子供の背中に軽く触れる。捕まっちゃった、と、背中に触れられた子供は振り返って。
「え?」
振り返ったその先、自分の背中に触れた鬼役の子供には。首が、なかった。それはそのままとさりと倒れこむ。
壁から、手が。大きな、鬼のような手が、伸びていて。その手の中に、鬼役の子供の頭がある。
壁から、ずる、と大きな、大きな、鬼が現れる。肩に人形らしきものが乗っていたが、子供の視線はただただ、鬼へと注がれる。
その現場にいた子供達の視線が、鬼に集中する。
鬼は、視線が自分に集まっている事を気にしていない様子で。
「いただきます」
ぱくり、と。手の内に合った子供の頭を口の中に放り込み、ぱきりと噛み砕く。
広がる血の臭いと、明らかなる捕食者。
敵だ。間違いなく。
子供達は、「ネクロマンシー」によって与えられた力で持って迎え撃とうとする。
子供達にとっての誤算は、鬼にだけ注目してしまった事。
かすかに聞こえ始めた音に気づけなかった事。
鬼が、鬼の肩に乗った人形が暴れ出すのと、ほぼ同時。
工場中の金属製品が。ふわりと浮かび上がり、暴れ出し。
それらは容赦なく子供達へと襲い掛かり、傷つけ殺し、鬼と人形を傷つけられぬよう守り始めた。
聞こえた叫びに、すぐさま扉を開こうとして……開かない。何か、外側からがっちりと固定されてしまっているかのようだ。
「これは一体…………っ!?」
何か、金属の塊のような物が背後から飛んできて。藍が咄嗟に避けた事でそれは扉へと激突して大きな音を立てた。一歩間違えば、藍の頭部は金属塊の直撃を受け。下手をすればそのまま即死だったかもしれない。
…………何が起きている?
思考しようにも、部屋の中に運ばれていた数々の金属塊が、鉄材が。
いくつものいくつもの金属が、まるでポルターガイストでも発生したかのように荒れ狂う。
「「そうぶんぜ」」
その言葉を唱え、自身が契約している都市伝説の能力を発動させる。視界の範囲内だけではあるが、荒れ狂っていた金属はぼとぼとと床に落ちる。
「っく!?」
が、あくまでも「視界に入る範囲」だけだ。
背後から、視界に入らぬ視覚から。金属は次から次へと藍へと遅いかかってくる。
落ち着け、落ち着け、落ち着け。
「そうぶんせ」で無効化できたならば、これは都市伝説による能力。で、あれば、自分なら対処できる。
壁に背をつける事で背後からの攻撃を受けぬようにしながら、藍は事態へと対処すべく、思考を回転させた。
「…………程々食べたら、戻って来いよ」
男はそう独り言ちる。
携帯端末で、仕掛けさせた隠しカメラの映像を確認しながらも己の契約都市伝説の力を使い続ける。
ひとまず、厄介な奴……都市伝説能力を無効化してくる相手は、扉を外側から太い鉄線で固定し、さらに重たい金属塊をいくつも積み重ねて置くことで封鎖しある程度は足止めできるはず。
それまでの間に、どれだけ食事させられるかが勝負だろう。
「………………ん」
と、ふと。
いくつかの映像の中、見覚えのある少女たちの姿を見つけて。
さてどう動くかと。九十九屋九十九はかすかに口元を得実の形に歪ませた。
to be … ?
大変長らくお待たせいたしました
鳥居の人様への全力土下座なブツでありました
・スレが進んでいて嬉しいのです。
一気見ですよ。引きこもる夏ですからね!
・ピーターパン、永遠の子供。
子供の状態で固定されちゃったから異常にも気付かないとかそんな感じで妖精が黒幕じゃないですかこれ
・体が固くなっているので腕のいいマッサージ師のお世話になりたいもんです
・加速系都市伝説のレースのビジュアルがカオス
物理攻撃仕掛けてくるのでレギュレーション的にレースに参加しなかったおばあちゃんたちといい、じいちゃんばあちゃん
が高速移動する都市伝説が多いのはなんなんだろうね
ドナルド、ちょっと聞かなくなってしまった。今の子、知ってるんだろうか。
・単純に命のストックになる臓器の記憶が欲しいぜ
臓器に記憶消去できるような話があれば
といったところでお風呂坊主の少女の残り湯が効くんじゃないかとひらめいたわけですよ私しゃ
・ぺろぺろ君がこの行為に自覚的になってヤバい性癖に目覚めたらペロペロハーレムできあがりじゃないか!
そもそも性格が通常の高校生男子と違いすぎてそうなる流れが見えないけど
・【犬面人】、【犬面人】じゃないか! 不埒な悪行三昧だな!
だがTさんのエロを書かせた功績で全ては不問だ!(だったよね? たしか……あれ、シャドーマンの人だっけ?)
俺はな!
・バロメッツは植物なのか動物なのか
極まったヴィーガンに意見を聞きたいものだ
・UFO好きだ。
無生物っぽいのが情を見せると弱いのよ
・FOXGIRLS いいぞ! 狐ダンス踊ってちょうだい!
ざしき様もメンバーに加えようぜ!
魔法少女お狐仮面の痴女スタイルが推しです
推し活のために都市伝説契約者になって毎週女児向けアニメでちょっとご近所に迷惑かけることやっては撃退される悪役ポ
ジになります!
・招き猫のアイトワラスちゃんみたいにちょこんといるマスコットが大物なのも性癖です
・かごめかごめちゃんは社会性を得る前に化け物になってしまわれたか。
悲しい
・無限廊下の先生といい、学校街の先生はやっぱりちょくちょく何かしら強いというか、特殊な先生が居ますな
もちろん性癖も。
ともあれ、狂犬伝説はどの世代の狂犬か、とか、名門大に進学した奇跡の人はあの子かとか、ちょっと歴史が見えますねえ
・脩寿くん、ちょっと巫女姉妹の件については詳しく話をしてくれないとダメだと思うのよ
おん? ちょっとヒロイン多いっすね? 三枚目っぽい役回り多めだけどちゃっかりクレバーだししっかり二枚目決めてらっしゃるよね?
しっかりセキニンとらないと、ね?
いやもう、彼ったらケリをつけなくちゃいけない相手多すぎて刺されちゃいそう★
・ジャイアントカンガルー、というかカンガルーと言えばボクシングっていうのはどこ由来のミームなんだろう
・さて、アイドルとは別の「狐」様はそろそろ……といったところでしょうか。
内部でもドロドロっとしてるあたり傾国ですわ
時間軸的には前後するけどいろんな組織の坩堝になってる診療所こええよ……
誰の思惑が一番結果を残すのだろうと思いを馳せつつ、今晩はおやすみなさい。
・エッチな事をしないと出られない部屋の契約者は手厚く保護されなければならないと脳内閣議決定されましたのでその旨よ
ろしくお願いいたします
サッパン・スックーンとか柿男とかサキュバスの営む女の子の下着屋さんを併設したりとか、その辺りとか集めてなにか、こう、新しい組織を……あ、ショッピングセンターレイプ
みたいなのはちょっと毛色が違うと言いますか……いや、この話はやめようIQに悪い
>>700
感想ありがとうございます、嬉しいです
ようやく続きがいけそうなペースに戻ってきたので地味に進めます
色々面白い……興味深い話題が出たので拾っていきたいです
ちょっと普段とは別のところに居ますが今夜はこれを投げます
商店街の洋菓子屋さんが例年通りクリスマスケーキを山ほど販売するらしい
そのバイトを募集しているって話をお母さんから聞いた
なんならお母さんはボクがバイトをやるもんだという前提で既に応募したらしい
というわけでボクはクリスマスイブ、夕方の商店街でサンタの格好をしてバイトしていた
商品の陳列(?)とかもあるけどメインは接客(?)と呼び込み(?)だ
正直こういう仕事どころかバイト自体これが初めてなんだけど、いいんだろか
ていうかこんな沢山のケーキなんて本当に売れるんだろか
大体こういうのって完全予約販売とかで売れ残りが出ないようにするものなんじゃないだろか
なにも分からない
でもお店の店長も奥さんもめちゃくちゃ元気だしお客さんはめっちゃ来るし
結構なペースで色々売れていくし補充のケーキが追加されるしで序盤からかなり忙しい
「今年もクリスマスケーキ販売しておりまーす! 是非お立ち寄りくださーい!」
そしてボクの横で同じくバイトとして呼び込みしてるのは、同じ部活の先輩だった
1コ上でボクよりちょっとだけ背が高くて若干押しがウザい先輩だ
ボクはあんまり先輩の方を見ないようにしていた
先輩はどっちかというと陽の者で普段はあんまり気にならないのに
今日はサンタ服だし、スカート短いし、黒ストッキング履いてるし、大人っぽく見えるしで
ドキドキする、あんまり見ない方がいいかもしれない
でもそれだけじゃない
別の意味でドキドキするものが今日はやたら目に付く
「いらっしゃいませー、クリスマスケーキどうですかー」
先輩に負けないように呼び込みのために声を張り上げていると
物陰から放たれる剣呑な雰囲気を嫌でも感じてしまう
ヤだな、今日でもう3人目だ
夕方の商店街だから人の往来は多いけど
ボクの背後の建物と建物の隙間の殺気に気づく人はさすがに居ないかもしれない
周囲を見回して誰もこっちを見ていないことを確認した後、ゆっくり振り返って隙間の闇を見た
途端に陰から伸びた手に捕まって、引きずり込まれた
黒いサンタ服、獲物を品定めするような眼、獣のような顔つき
ボクもよくは知らない、けどこの人は正確には人じゃなくて「ブラックサンタ」とか呼ばれる――
「おい小僧、サンタクロースにでもなったつもりか? ふざけやがって
今宵この商店街は俺たち『サタンクロース』の支はいかに 「えいっ」 ドスッ 「ギャッッッ!!」 ばちゅん
「サタンクロース」と名乗った「ブラックサンタ」は間抜けな音と共に一瞬で消滅した
うう、何度やっても慣れないよこういうの
「ブラックサンタ」、「サタンクロース」、「ルベルグンジ」――怪異とか都市伝説とか呼ばれるらしいけど
そういう「人ではないモノ」がこの季節は特に跋扈しやすいらしい
そしてボクはこの手の「人ではないモノ」を消すことができる力を一族単位で引き継いでいる
って言うとなんかラノベっぽいけど要するにボクは「柊鰯」の契約者だ
本当は節分のときに飾る、柊の小枝に鰯の頭を刺した魔除けなんだけど
ボクのひいひいじいちゃんの代にこの魔除けと契約したらしくて、ボクの代に至るまでこの力が受け継がれてる
契約の内容は「柊鰯の力を子々孫々まで伝えよ、語りを絶やすべからず」、「その代わりに柊鰯の『魔除け』の力を一族に授けよう」って感じらしい
そのお陰か、ボクも兄貴もお父さんも、結婚して籍を入れたお母さんも「柊鰯」の能力を使うことができる
「ブラックサンタ」に突き刺した柊鰯をサンタ服の内ポケットに隠した
ボクが持ってるやつは葉を落とした枝だけの柊に鰯の煮干しを突き刺した簡略版だけど、これでも十分にヤバい力を発揮する
でも「柊鰯」は魔除けであってそれ以上でもそれ以下でもないんだ。どこかのヒーローみたくなれるわけじゃない
自分で怪異に向かって直接刺さないといけないしね、こんな怖いことはあまりやりたくない
「それにしても多いな……」
バイト開始から「ブラックサンタ」もしくは「サタンクロース」とかち合ったのはこれで3人目
普段はこんな頻度で遭遇するような相手じゃない
危ないな、気を引き締めないと
隙間の物陰から出てバイトに戻ろうとすると、先輩が変なのに絡まれてた
「キミかわいいね、その格好でデートしない?」
「あの、困ります。わたしバイト中で」
「じゃあさ道案内してよ、××医院って古いビル探してるんだけど。この辺でしょ? どこにあるか分かんなくてさ」
「あー、ナンパは止めてくださーい。道案内ならボクやりますよ」
「あ? なにお前?」
なんかサイバーパンクだかスマホゲーに出てくるキャラだかが羽織ってそうな感じのコートを着た軽薄そうな人に先輩がナンパされてた
なので割って入った
ヤだな、こういうの得意でも好きでもないんだけど
両手でその人を制しながらどうにか先輩から引き剥がして「道案内」をすることにした
いやまあ目の前にいるこの人は人じゃないんだけど、「注射男」とかいうのなんだけど
案の定、舌打ちしながら「注射男」はボクの後を付いてきたし
何度か角を曲がってわざと人気のない所へ進んだら、急に物陰に引っ張り込まれた
やっぱりなー
「お前マジふざけんなよ、急に割り込んできやがって」
「お、落ち着いてください。バイト中のナンパは迷惑なんで止めただけです。それより××医院に用があるんでしょ?」
「なワケねーだろバーカ! ったくンざけんなって……あオレやっぱ頭いいわ
お前使ってあの子誘い出せばいいだけか、後はシャブ漬けにして……
つーわけで今からお前の脳みそブッ壊すヤクを注しゃして 「せんてひっしょー、えいっ」 ドスッ 「ギャッッッッ!!!」 ぼちゅん
危なかった、今のはほんと危なかった……!
「注射男」はコートの内側からめっちゃ長い注射器を取り出してたし、こんな注射器どこで売ってんだろ
でもボクの方が速かった。「注射男」はさっきの「ブラックサンタ」と同じく破裂するようにして一瞬で消滅した
柊鰯を握る手が震える。きっとボクにはこういう怪異退治は向いてないんだ、うん
あでも柊鰯を何度か使い回したからさっきより刺しが悪くなってる気がする
そろそろスペアに切り替えなくちゃ。それに早くバイトに戻らないとだし
震えてる場合じゃないな。今日はボクが先輩とお店を守らないと
そんなこんなでバイトが終わった
最初考えたのと違った、もっとこうこじんまりとしたアットホームな感じのバイトかと思ってた
まさしく戦場だった、いきなりお客さんが増えるしお会計で追われるしで大変だった
それにあの後も魑魅魍魎の類は湧くし、用意した柊鰯も大分使ったし、普段から声出してないから喉はガラガラだし、とても大変だった
「やー、今日は大変だったな! もう足がパンパンだぞ!」
帰り道、先輩と話しながら歩いて駅に向かっていた
ボクは徒歩で帰れるけど、先輩は電車に乗らないといけない
今夜はクリスマスイブ。バイト中のこともあるし何が起こるか分からないから、先輩を駅まで送ることにした
先輩はバイトモードからいつもの部活のテンションに戻っている
でも先輩はサンタ服のままだった。記念に衣装を貰えたようで、このままコートだけ羽織って帰ることにしたみたい
ボクはさすがに恥ずかしいから制服に着替えた
「先輩、今日はカッコ良かったです。バイトが様になってました」
「だろ~? もっと褒めてもいいんだぞ?」
「いえ、あんまり褒めると先輩調子に乗るから」
「なんだとこの~」 グリグリ
「んっ、やめてください」
いつもの部活のノリで脇腹をグリグリされたので変な声が出てしまった
先輩はいつもこんな感じだ、大体はボクをこうやって突ついてくる
先輩が大人びて見えてドキドキした、なんて素直に言えるわけない
それで先輩が調子乗ったら、なんか悔しいし
ボクはどっちかと言うとチビで童顔って言われることが多いけど
ボクより背が少し高いだけでボクよりちょっと早く生まれただけで先輩面してくるこの人には
実質ボクと同じチビなわけで、なぜだか分からないけど初対面のときから妙な対抗意識があった。今でもある
「それより先輩いいんですか、来年受験ですよね。バイトしてて大丈夫なんですか」
「あ~! 何かお前は! アレか! 受験ハラスメントか! 先輩ハラスメントか! いけないんだぞそういうの!」
「ボクは純粋に先輩のこと心配してるんです」
「心配は無用だぞ! このまま成績を維持できれば推薦枠で志望校に挑むからな!
今は保険で勉強してるけど! てゆーか勉強漬けで脳みそ茹で上がりそうだったから気分転換がてらにバイト応募したんだよ! 分かったか!」 グリグリ
「んんっ、ぼ、暴力はやめて」
「てゆーかお前寒くないのか? 制服だけって絶対寒いだろ? 震えてるぞ!? わたしのコート貸そうか?」
「ボクは平気ですよ、先輩が着てください。風邪引いちゃダメです」
「いやお前震えてるかな!? 手がガタガタ震えてるからな!? やっぱ寒いだろ、ほら! 手もこんな冷たいし!」 サワサワ
「いえ、あの、大丈夫ですから。あんまり触らないで」
先輩にいきなり手を握られて、急に気恥ずかしくなってきた
なんかしっかりばっちり指を絡めてきた。どうしよう、ドキドキしてるのバレちゃう
不意に静かになった
人ももうあんまり居ない時間だし、今通ってるここは住宅街だし、遠くでイルミネーションが点滅してる以外は、ほんと静かだった
「先輩?」
いきなり黙りこくった先輩に声を掛けてみると、急に立ち止まった
手を握られてるので、ボクもつられて立ち止まる
「やっぱお前、寒そうだぞ……。そ、そうだ。あの、あのさ。わたしが――ギュッってしてやろう! 今日のお礼も兼ねて! なっ!」
「えっ? いや、あの。な、何言ってるんですか」
「に……逃げるなって! 恥ずかしがりか! ほっ、ほらっ!! ――ギュッ」 グイッ
「ぎゃっ」 フニュ
いきなり先輩に抱きしめられて、持ってたお土産のホールケーキの袋を落としそうになった
先輩はコートを羽織ってるけど、文字通り羽織ってるだけだから前は開いてるわけで
それでギュッてされたら、先輩と密着してしまうわけで
先輩の匂いがする、甘い花のようなシャンプーの匂いが
どうしても意識が肌に行ってしまう。先輩、こんな柔らかいんだ
ダメだこんなの、もっとドキドキしちゃうよ
「今日、ありがとな」
「えっ? あの、いいえ。そんな」
「呼び込みしてるときさ、わたしナンパされそうになっただろ? あんなこと初めてでさ、怖かったんだ」
「あっ、あっ」
「でもお前が間に入って、助けてくれて、……カッコよかったよ」
「はひっ」
せ、先輩に耳元で囁かれるなんて初めてだよ
ていうか女の子にこんなことされるの自体が初めてだよ
心臓がスゴいバクバクしてきた
ボクと先輩は体の前面がほぼほぼ密着してるから、これじゃ絶対バレてる。心臓の音が絶対バレてる
あっ前で密着してるってことは、つまり、つまり……!
「せっ、先輩!」
先輩の肩を掴んで、一応なんとか優しく、ゆっくり身を引き剥がした
多分今のボクはすごく顔が赤くなってるに違いない。だって顔面がめっちゃ熱いから
「その、……ゴメン」
「いえあの、先輩悪くないです。ただボクあの、こういうの初めてで。ドキドキしちゃって」
「……わたしだって初めてだぞ」
「ひえっ?」
思わず変な声が出た
あっでもそれより
チビで童顔呼ばわりされて周囲から勝手に草食系扱いされてるボクだって男子なわけで
だから、いくら部活の悪友じみた先輩だからって、抱きしめられて耳元で囁かれたりしたら
股間の、その―― かたくなる
「んうっ」 モジモジ
「えっ、お、お前。えっと、大丈夫か……?」
「だっ、だいじょぶです……!」
制服のパンツは割と余裕ある方なんだけど、変な当たり方してる所為で変な声が出てしまった
どうしよう……! どこ見ればいいのか目のやり場に困って、先輩の顔を見た
なんでだろ! 先輩の目がいつもよりウルウルしてる! しかも先輩も顔が赤くないかな!?
思わず目を逸らした。具体的に言うとちょっと下を見てしまった。前が開いたコートの、先輩のサンタ服
先輩って、意外と胸がおっきいんだな……じゃなくて!! 違う、違うったら!!
ど、どうしよう……!! 変なとこ見ちゃった所為で! ぱおんが!!
「お前だいじょぶか……!? 腰が引けてるみたいだけど、お腹痛いのか……!?」
「だ、だいじょぶです。深呼吸すればなんとか」
このままだと危ない。ボクの心臓はもうバクバクどころかバンバンだし、そのままだと股間もバンバンだし
もう、こうなったらアレをやるしかない
お父さんから伝授された、「柊鰯」の取説
『いいか、俺たちは「柊鰯」と契約して魔性のものに対する強い抵抗力を獲得した。これはもう一般人とは比較にならないレベルでだ
でも、それでも俺たちの中に魔性が入り込むことがある。いわゆる魔が差した状態ってやつだな
もしもお前に魔が差して、抵抗できないほどの悪意に呑み込まれそうになったとき。その魔性を祓う方法を教える』
「先輩。立ったままだと寒いから、行きましょう」
「あっ……うん」
先輩の手を取ってボクが先に進み始める
もう躊躇なんかしてらんない。このまま股間が破裂しちゃうよりも先に、ケリをつける!
ボクはパンツのポケットに手を入れ、スペアの柊鰯を探ると
それとしっかり握って、先輩にバレないように――自分の胸に突き刺した
「うっ――ふうっ、ふうっ」
「な、なあ! ほんとにだいじょぶか……!?」
「――はい、大分ラクになりました。ありがとうございます」
心臓のバクバクが嘘のように引いていった。それだけじゃなくて股間のバンバンも収まった
よ、良かった。柊鰯を自分に刺すなんて普段は怖くてできっこないけど
さっきよりもすごく落ち着いた気分だ、ようやく冷静なボクが戻ってきたような感じがする
凄いな「柊鰯」、こんな使い方もできるんだ
「なあ、お前…… っっっ!! ちょっ、ちょっっっっっと待て!!」
「えっ、どうかし 「お前!! 胸!! 血!! 血が出てるぞ!!」
あっ先輩にバレちゃったみたいだ
「おいお前!! なんか胸に突き刺さってるぞ!? 大丈夫じゃないだろこれ!!」
「あっ、あの、痛くはないんですよ。へいちゃらです」
「平気なわけあるか!! はっ、早く病院に行かないと!!」
「だいじょぶ、だいじょぶなんですほんとに、気にしないでください」
その後
ボクはパニックになってる先輩をどうにか落ち着かせて
いきなり抜いたら逆に危ないし、ちゃんと手当するからと説明した後に、なんとかして駅に押し込んだ
パニックになってたけどいつもの先輩のテンションに戻ったようでちょっと安心した
いやでもほんとは「来年は先輩も受験ですね、もう部活に来れなくなっちゃいますね」「そうだな……」みたいな
先輩をしんみりさせるような話をして、寂しそうな先輩の横顔を眺めながらにんまりする予定だったんだけど
どうしてこうなっちゃったんだろう…… まあいいか
そしてそのまま家に帰ると、まずお母さんにビックリされた
帰りが遅くなったことじゃなくて、柊鰯を胸に刺したまま血だらけで帰ったことだ
素直に事情を説明したらお母さんにも呆れられたけど、なぜかお父さんにも呆れられた
お父さんが「お前……そこまで行ってその娘をラブホに連れ込まないのはおかしいだろう! 押し倒せ!」
「そもそもクリスマスイブってのはだな、そういういい感じになったところで素直に男女の欲望に忠実に」と話した辺りで
お母さんはお父さんの後頭部をしこたま殴りながらガミガミ説教を始めたのでそれ以上は聞けなかった
兄貴は「なんというか、お前らしいよ」と呆れながらも笑ってくれた
でもこの先何があろうと先輩のあの表情と柔らかさは絶対忘れないと思う
あ、クリスマスケーキ美味しかったです
ここまで
職場で「(確かホラー映画の話題で)テディベアなんてかわいいもんだろ、今やこの国は各地でリアルクマが出没してんだからよ! ガハハ!」みたいな会話を聞き、ハヒッ、ハヒィッ となりました
18ヶ月振りの投下となる、「次世代ーズ」でございます
>>700
感想ありがとうございます……!
> 脩寿くん、ちょっと巫女姉妹の件については詳しく話をしてくれないとダメだと思うのよ
どっちだ……!? 飛騨の方か!? 穂張の方か!? となりましたが、恐らくこれは飛騨の方ですね
飛騨高山(岐阜)の小学生巫女ちゃん姉妹に早渡相手にわちゃわちゃする……お察しの通り未発表のエピソードになります
飛騨の話も穂張の話も機を見て投下したいのですが、次世代ーズはまさかこの箇所にご意見を頂くとは一切予想していなかった!!
ありがとうございます
> ジャイアントカンガルー、というかカンガルーと言えばボクシングっていうのはどこ由来のミームなんだろう
これについては気になって調べました
19世紀後半から20世紀にかけて、カンガルーを人間と戦わせる見世物の開催が一般的だったようですが
そんななか1891年に風刺漫画雑誌「メルボルン・パンチ」に掲載された「ファイティング・カンガルーのジャック VS (人間の)レンダーマン教授」というイラストでは
カンガルーがボクシンググローブを装備して人間と打ち合っている姿が!!
https://trove.nla.gov.au/newspaper/page/20441476
これ以降、映画等で「ボクシングするカンガルー」が人気を博し、そのイメージが定着していった……ようです
今ではオーストラリアの国民的イメージとして馴染んでいるんですね、いやあ勉強になった
【参考】
ボクシング・カンガルー
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9C%E3%82%AF%E3%82%B7%E3%83%B3%E3%82%B0%E3%83%BB%E3%82%AB%E3%83%B3%E3%82%AC%E3%83%AB%E3%83%BC
Boxing kangaroo
https://en.wikipedia.org/wiki/Boxing_kangaroo
Fighting Jack: Melbourne’s first boxing kangaroo
https://blogs.slv.vic.gov.au/such-was-life/fighting-jack-melbournes-first-boxing-kangaroo/
単発の話ですが、以前避難所で「エッチな事をしないと出られない部屋」の話は書きたいと申告しました
あれはエイプリルフールまでに書いて、エイプリルフール当日に投下すべきだったと後悔しています……が
ともかく長引いた「次世代ーズ」の「聞き込み side.B」をやります
○前回の話
>>681-686
次世代ーズ 36 「聞き込み side.A」
これは作中の【9月】の話です
○三行あらすじ
早渡脩寿が自らに掛けられた変質者の容疑を晴らすため、真犯人を探す
彼の幼馴染、遠倉千十も真犯人特定のため情報収集を始める
具体的には高校の友人はじめ、人脈を活用して聞き込みだ
まずはありすちゃんから聞いた情報を整理しよう
今日はいつもより早めに起きて、早めに準備を済ませた
自分とお姉ちゃんの分のお弁当も用意したし、後は登校するだけ
でもその前に
携帯のメモアプリを開く
前もってありすちゃんから聞いた変質者の情報を、昨日のうちに一通り書き出しておいた
大き目のサイズのクマのぬいぐるみの姿をしていて、二足歩行しながら、黒い触手を生やしてくる
ぬいぐるみとは別にそれを操作する契約者がいて、その変質者は最近現れるようになった露出魔かもしれない
そして、露出魔がよく現れるのは東区から南区にかけて
一度深呼吸した
昨日脩寿くんと電話で話したとき、何気なしに言ったけど
確かにクマのぬいぐるみを使う変質者だなんて、すぐ話題になる気がする
だけどクラスでもそんな話を耳にしたことがない
それに、露出魔が現れるようになった、って話も直接誰かが見たって話じゃなくて
HRのときに先生が話してた内容が基になってるかもしれない
ちゃんと確認をとらなきゃダメだ
「……確認しなくちゃいけないこと、結構多いかも」
私自身、歩き回るクマのぬいぐるみや露出魔に遭遇したことは、まだない
どの辺りに出没しているのか、もう少しその情報がほしい。東区、南区といっても場所が広いし
変質者なんて絶対に遭いたくないし考えるのも怖いけど、でも少しでも脩寿くんの役に立てるように頑張らないと
今は不思議とあまり怖い感じはしなかった
普段なら変質者とか契約者とかのことはあまり考えないようにしてるし
もし自分が遭遇しちゃったら、なんてことは怖くて考えたくない
あまり怖く感じないのは脩寿くんとありすちゃんのお陰かもしれない
二人とも
仲直り、できるといいけどな
「千十ぉぉぉ!! 私の携帯見なかった!? どこ探しても無いのぉぉぉ!!」
「うひゃあっ!?」
お姉ちゃんの突然の大声にビックリした
あ、朝からそんな大声出したら、お隣さんに迷惑だよ!!
「千十ぉ! 私の携帯鳴らしてぇぇ!!」
「お姉ちゃん帰ってきて携帯ほったからしにしてたの!?
鞄の中に入れっぱなしなんじゃないの!? ちゃんと探したの!? もう!
仕方ないなあ、鳴らすよ?」
「あっあっ! 鞄からだぁ! 昨日充電切れかけたのに! 置きっぱだったぁぁ!!」
「もー、お姉ちゃんちょっと静かにしてよ……」
家から出るギリギリまで充電しようとしてるお姉ちゃんを見て、思わず溜息が出る
学校町に引っ越してきたばかりのときはしっかりしてたのに
年を追うごとにだんだんダメなお姉ちゃんになってる気がする
はあ、私がしっかりしなくちゃ
「お姉ちゃん、今度は携帯置き忘れないように気をつけてね」
「大丈夫! お姉ちゃんの脳内ToDoの一番は携帯回収だから!」
……やっぱり不安だ、私がしっかりしなくちゃ
「せっちゃん、おつかれなの?」
「うん。ちょっと」
二時間目の授業が終わってアヤちゃんに心配された
そんなに顔に出てたのかな
結局あの後、お姉ちゃんは予想通りというか携帯を置き忘れたままお家を飛び出して
慌てて追い掛けて携帯と充電器を押し付けたけど、そのお陰で登校が結局いつもと同じ時間になってしまった
本当はいつもと同じ時間どころか、ちょっと遅刻しそうになったんだけど
……お姉ちゃんには、もうちょっとしっかりしてほしい
できれば学校町に来たばかりの頃の緊張感、ちょっとだけでも思い出してほしい
ほんの少しだけ、ありすちゃんの方を見た
ありすちゃんは携帯と睨めっこしてるけど、どこかぼんやりした感じだった
HRが終わった後で細かい話を聞こうとしたんだけど
何度話し掛けても上の空みたいだったし、心配で肩を叩いてみたらすごくビックリされた
昨日のこと、引き摺ってるのかな
でも帰りに付き添ってもらったときはそんな感じでも無かったのに
一応ありすちゃんのことはそっとしておくことにした
でもやっぱりお昼休みにもう一度声を掛けてみよう
「あの、アヤちゃん。知ってたら教えてほしいんだけど」
「うん? どしたの?」
「最近学校町を徘徊してる変質者のことなんだけど
……クマのぬいぐるみを、持ってるらしいんだけど、聞いたことない?」
「えーなにそれ」
「千十、かやべえ。何? 変質者の話?」
「千十ちゃん、なんの話をしてるの?」
アヤちゃんに変質者のことを尋ねてみると、宇女(うめ)ちゃんと栞(しおり)ちゃんも加わってきた
私は思い切って三人に訊いてみることにした
でも三人とも都市伝説や契約者については知らない。だから少し誤魔化さなきゃ
「テディベア、ねえ。聞いたことないな」
「そのテディベア、一体何に使うんだろうね……」
「多分ファンシーなテディベアの内側に淫具でも仕込んでるんじゃね?」
「い、淫具って……」
「ちょっ! ヒル山、男子にも聞こえてるんだからアンタ、自重しなさいって」
「でも千十、どっからそんな話聞いたん? 変質者の話題って苦手じゃなかったっけ」
宇女ちゃんがそんなことを訊いてきて、一瞬固まった
どうしよう、いきなりそれを訊かれるのは考えてなかった
「え、ええと。別のクラスの子が、そんな話してるの、耳にして。本当だったら怖いなって思って」
「変質者で思い出したけど、確かかやべえと栞は夏休み前にもヤバ目の変態と遭遇したって話してなかったっけ? 千十も居たんだっけ?」
「そういやあったねそんなこと……、せっちゃんととシオりんと、かやべえの三人で目撃しちゃったんだけど」
あう、話が脱線しちゃった
夏休み前にも変質者を見たんだけど、そっちは勿論テディベアの変質者とは別人、だと思う
……あのときの出来事はあんまり思い出したくない。夏休み前に遭った変質者も都市伝説みたいだったし
「栞、どういう変質者だったか説明してもらえる? LINEでかやべえに訊いても教えてくれなかったし。私だけ仲間外れ感ひどくない?」
「私の口からはとても言えません……!」
「ヒル山変なこと聞くな! あれは正直トラウマ級なんだから!!」
とにかく、三人はテディベアの変質者について知らないみたい
新しい情報があったわけじゃないけど、テディベアには遭遇してないわけだから少し安心できた
「せっちゃん、もしかしなくても不安だよね……?」
「う、うん。ちょっと」
私のことを心配したのか、アヤちゃんが私の肩に手を回してくっついてきた
「だーいじょうぶっ! 心配しないで。せっちゃんのことは、かやべえが守ったげるからね」
「んっ、ありがと……」
そのままアヤちゃんにされるまま、ゆったりとした横揺れに付き合うことになる
アヤちゃん、いつもはちゃらんぽらんに見えるけど、いつだって優しい。中学のときから、ずっと
でも、だから、都市伝説とか契約者とかの怖い世界には関わってほしくない
でも、そのせいで、一葉さんのことをアヤちゃんには話せない
絶対に混乱させてしまうから
あんなに仲良しだったのに
「せっちゃんそんなに不審者のこと怖かったんだね、だいじょうぶだよ!」
「でも……でも、もし本当にテディベアを持った変質者がいるのなら、ちょっと見てみたいかも」
「へっ? あっ、栞ちゃんダメだよ!? 変質者は危ないから見かけたら逃げてね!!」
「そうだよシオりん、せっちゃんの言う通りだよぉー」
「ん? 栞? 今なんかエロい妄想でもしてたん? ん? 正直に言ってみ?」
「えっ!? ち、違うの三人とも! 聞いて! 今のは単に、もしもの話なわけで、そう! これは仮定の話であって――!!」
「千十、悪い。それはそっちでいいから。あっ、ごめっ、こっち……持ってくれる!?」
「あっ、はいっ、今行きますっ」
昼休み、担任のみゆ先生に捕まった
先生の担当は二年生の古文、だから普段は授業で関わることが無い、んだけど
今日は図書室から借りっぱなしの教材を返すためにお手伝いを頼まれた
教材といっても紙の古語辞典、それもクラス分運ぶことになるから、……お、重い
「はーっ、千十ありがとう! 二年に頼もうとしたら皆逃げちゃってさー」
「それはそうですよ、大体辞書を借用したまま返却しないのは教師としてあるまじき、です」
「なにおー、雪子コイツコイツー」
「く、くすぐったいです! 暴力反対!」
みゆ先生に引き寄せられて脇腹を揉まれてるのは、二年生で図書委員の小野木雪子(おのぎ ゆきこ)さん
図書室でいつもお世話になってる。年齢は一つしか違わないのにすごく年上のお姉さんっぽくて、中学の頃から憧れてる
「お昼時間、うわっ。もう20分経ってる。千十ごめん、お昼何か奢ろうか?」
「あっいえ! お弁当持ってきてますから!」
「うー、悪いね本当。いつかお礼するから」
「御小柴(みこしば)先生? 生徒を食べ物で丸め込もうとしてはいけませんよ?」
「ちーがうって、雪子もう! 意地悪言うのやめて!」
バツが悪そうな顔して口を尖らせるみゆ先生を見ながら、雪子さんはクスクス笑っている
みゆ先生は先生に成り立てらしくて、四月には「皆と同じひよっこ」と自己紹介してた
親しみやすい人ではあるんだけど、仕事終わりにお姉ちゃんと居酒屋で飲んだりしたこともあって
公務員がそんなことしていいのか、ちょっと不安になることもある
こんな良い雰囲気のときに変質者の話は出さない方がいいかも
……って思ってたら
「千十さん、今日は何か浮かない顔してるけど、何かあったの?」
「あっいえ、そういう訳じゃ」
「何か話したいことあったら、話していいのよ? 御小柴先生も居るしね」
「へ? 千十なんか悩みあるの? 担任としてほっとけないな、言ってごらん?」
どうしよう、雪子さんに見透かされたような気がする。それにみゆ先生まで乗ってきた
雪子さんには中学の頃から、丁度今みたいに私の考えてることを覗かれてるような気がする
そんなに表情に出てたのかな? でも、促してもらったのなら
「あの、実は。ちょっと気になることがあって。HRのときに先生が話してた変質者のことで
東区から南区にかけて露出魔が出没してるって話なんですけど、目撃情報とか、あるんでしょうか?」
「んー、いや? あれはね、警察署から回ってきた話をそのまま皆に通知しただけなんだけど」
「実は、その。変質者がクマのぬいぐるみを連れてるって話を聞いて。ちょっと怖いなって思って、話題になってないかなって。気になっちゃって」
とりあえず当たり障りのない範囲で伝えて様子をうかがった
みゆ先生と雪子さんは顔を見合わせている
「んー、職員会議でも特にうちの生徒が変質者を目撃したって話は上がってないし、実は変質者の注意情報も、噂かそこらのレベルだと思ってたんだけど」
「先生、それはそれで危機意識低すぎじゃないですか? 千十さん怖がってますよ?」
「あ、いや。襲われたって話が無いならそれに越したことは無いって。ただそれだけの話だから!」
「そう、ですよね」
先生も雪子さんもそんな話は聞いたことがない、といった様子だ
ダメかあ……。少しでも情報があったら、と思ったんだけど、これは調べるに時間掛かるかもしれない
「ふむ、千十さんはその話をどこから聞いたのかな?」
雪子さんに質問された
この質問に「友達が襲われました」なんて正直に答えるわけにはいかない。ちょっと誤魔化さなきゃ
「それは……、別のクラスの子がそんな話してるのを耳にしたんです。それで、気になっちゃって」
「一番良いのはその話をしていた人を見つけて直接話を聞くことね
あくまで仮定の話だけど、その変質者が出没しているとして、現段階では目撃情報がまだ少ない、とも考えられるわね
もしくはあくまで噂、あるいは誰かが面白半分で話を大げさに盛っただけかもしれない
まあ悪い想像は幾らでも膨らむものだから、あまり気にしない方がいいと思うな
千十さん、こういう類の話は苦手だったでしょう?
大丈夫。人通りの少ない道は避ける、回り道になっても安全な道を使う。それだけでも危険を回避できるから」
うう……、雪子さんの言葉はとても正しい
話を誤魔化してまで情報を集めようとしてる私が間違ってるかもしれない
でも正直に話すわけにはいかない。みゆ先生はともかく雪子さんは一般人だから
「そうですよね、すいません。こんな話をしちゃって」
「いいのよ、不安になるのは仕方ないことだもの。ねっ、御小柴先生!」
「おっ、ああ。そうそう。何かあったら遠慮なく相談しなよ?」
「はい……」
先生に促されて図書室から出る
退室間際に雪子さんに頭を下げた。雪子さんを心配させちゃったかもしれない
「千十、お昼大丈夫? カロリーメイトか何か渡そうか?」
「あっいえ! 私は大丈夫ですから! 先生こそちゃんと食べてくださいね!」
みゆ先生と途中まで一緒に歩いていく
私は教室に戻らなくちゃ
先生は契約者だけど、ありすちゃんが問題のテディベアに襲われたことは、まだ話さない方がいいかもしれない
一学期の頃も都市伝説が出没したとき、先生は気負って倒れる寸前まで見回りを続けたりしてたから
話すとしたら、ありすちゃんに前もって相談してからにした方がいいかもしれない
そして、放課後
私はオカ研の部室にお邪魔していた
お昼休みの間、ありすちゃんは教室に居なかった
五時間目の開始直前で戻って来たけど、やっぱりどこかぼんやりしていた
心配になって話し掛けようとしたけど、HRが終わるといつの間にか居なくなっていた
大丈夫かな? 大丈夫じゃないかもしれない。後でメッセージを送ろうかな
「テディベアを操作する変質者、で、契約者、ね……」
対面に座っているのは、中学からの友達の泉花(いずか)ちゃん
私も泉花ちゃんも元々は自分が契約者だったことを知らなかった同士だ
色々あって仲良くなって、他の人に話せない都市伝説や契約者のことも、泉花ちゃん達になら話せる
「使うのがテディベアってところがなんか生々しいよね。あ、千十ちゃん、豆大福食べる?」
「うん、ありがとう」
すずなちゃんから貰った豆大福を、淹れてもらったお茶と一緒に食べた
私はオカ研のメンバーじゃないんだけど、この場所は不思議と落ち着くな
「そんな変質者の話は聞かないし、私達も目撃したことないな。部長が知ったら飛びつきそうだけど」
「だよねー、エロ触手とか絶対ウタちゃん好きそうだもんねー」
「……泉花ちゃん、そういえば唄さんは?」
「ああ、部長は御小柴先生に捕まってる」
どうせまた変なことして先生からかったんでしょ、うんざり顔で泉花ちゃんはそう言った
みゆ先生は私達の担任で、オカ研の顧問でもある。もっと言うとオカ研のOGらしい
オカ研は全員、契約者か、都市伝説や契約者について知っている
だから話そうと思えば全部の経緯を話せるんだけど
「ねえねえ千十ちゃん、この話ってウタちゃんにどれくらい話しても大丈夫なやつ?」
「……私が話したってことは、今は伏せてほしいな」
「千十、大丈夫。察した」
「うふふ、察しましたよー。ありすちゃん絡みかな」
「……今はノーコメントでお願い」
「わかった。一応オカ研でも何か情報掴んだら共有するね」
「期待しないで待っててー。でもウタちゃんが知ったら自分が捕獲するって勇んじゃうかも」
「二人とも、ありがとう」
オカ研の部長――足助唄さんは勘が鋭い
そのうえありすちゃんとは、あまり仲が良くない
険悪ってわけではないけど、決して仲がいいってわけでもない
だから、ありすちゃんが変質者に襲われたって話を知ったら、確実に唄さんはありすちゃんに突撃して根掘り葉掘り聞こうとする
ありすちゃんの今の状態で、唄さんに突撃されたら、色々と良くない気がする
それに、正直に脩寿くんのことまで話したら、多分唄さんだけじゃなくて、すずなちゃんにまで色々勘づかれちゃう、気がする
うん、黙っていよう
「でもそうなると相手の契約能力の詳細が知りたくなるね。千十は何か心当たりある?」
「ううん。黒い触手を操るっていうから、何かしらの生き物みたいなのと契約してるのかなって、思ったんだけど」
「まあ触手に見せかけた別の何かって線もありそうだからねー」
「とりあえず登下校は普段より気をつけた方が良さそうね」
ふと時計を見る
約束の時間まではまだまだ余裕があるけど、もうそろそろ高校を出た方がいいかな
「あっ、そういえば千十。久しぶりにかなえから連絡があったんだけど
皆でお茶でもしないかって。ついでだし、かなえにも聞いてみようか?」
「えっ? かなえちゃんから?」
紅かなえちゃん。私達と同じ東中出身で高校は別々になった女の子だ
彼女は今、中央高校に進学している。日景君達と同じ高校だ
ちょっと、考えてしまう
かなえちゃん、こういう話は苦手だったはず
「泉花ちゃん、ありがとう。でもかなえちゃんには訊かないことにする
次に会うときは明るい話題にしたいって決めてて。だから、ごめんね」
「ん、わかった。それまでに変質者の問題、解決してるといいね」
「せーとにゃーんっ!!」
「ひゃあっ」
オカ研を後にして高校から出ようしたら、後ろからいきなり抱き付かれた
び、ビックリした……。相手は誰なのかわかる。一個上の莉子(りず)さんだ
「お、お久しぶりです、莉子さん」
「千十にゃんほんとおひさだにゃ! 元気だったかにゃ?」
「な、なんとか」
独特な語尾の人だけど、普段はあくまで普通で「猫を被ってる」状態らしい
親しい相手の前だけ素の口調で、語尾に「にゃ」を付けて話す、そんな変わった人だ
そして莉子さんも契約者だ
特に中学時代は私も泉花ちゃんも、何度も莉子さんに助けてもらったことがある
「こーはいを守るのは、あたしのミッションなのにゃ!」というのが莉子さんに言われたことだった
「実は千十にゃんが図書室でクマのぬいぐるみの変質者について、雪にゃんとみゆにゃんせんせーに質問してるのを聞き耳立ててたのにゃ!」
「えっ? あっ! い、居たんですか? 図書室に?」
「うにゃ、上の階から聞いてたにゃ。にゃーの耳は地獄耳なのにゃー」
切り揃えた前髪を揺らして、内緒話をするように顔を近づけてくる
ふわっと何か果物のような香りがした
「実は一週間くらい前、クマのぬいぐるみが東区の二丁目あたりを南区に向かって歩いてるのを見たにゃ」
「っ!? ほ、本当ですか!?」
「うん。でもそのときは、あたしもただぼんやり眺めてただけだったし、特に変態的なことしてるわけでも無かったから、単に見送っただけだったにゃ」
「東区の、二丁目ですね!? ありがとうございます、情報が全然なくて」
「でもにゃー。千十にゃん、そのときは単にそこに居ただけで、いつも出没する場所ってわけじゃ無さそうだにゃ
それに、どうしてその変態ぬいぐるみのことを調べてるのかにゃ? なんか理由ありそうな気がしてにゃー。あたしで良かったら話聞くよ?」
そう尋ねながら、私の耳元でふんふんと鼻を鳴らした。何だかくすぐったい
莉子さんになら話しても大丈夫かな?
「それは……、実は私の友達がその変質者だって疑われてしまって。友達同士で険悪な感じになってるんです」
「にゃんと?」
「それで、その。友達の疑いを晴らしたくて情報を集めてたんですけど、あまり上手くいかなくて」
「そういうことならお任せにゃ! あたしが学校町のネコちゃんに訊いて回ってみるにゃ!」
「えっ、でも。そんな」
「いいのいいの、ここんとこずっと生活費のためにバイトに明け暮れてたのにゃ。心は砂漠にゃ
ここらへんでちょっと猫になりきって心と体のお洗濯をしてくるにゃー、そのついでと思ってくれればいいにゃ!」
「あのっ、ありがとうございます……!」
「いいのにゃ! 千十にゃんのためなら頑張るにゃ!」
「あっ、でも、あまり無理はしないでくださいね……!?」
「にゃふふ……千十にゃんは優しいにゃー。バイト先も優しさ溢れる職場なら良かったのににゃー、あははー」
ど、どうしよう
見るからに莉子さんが落ち込んでるように見える
目がすごいどんよりしてる……
「あたしの心配なら無用だにゃ! 千十にゃん、帰るときは安全な道を使って帰るのにゃ! じゃーねー!」
「あっ、り、莉子さん……!」
莉子さんの体が私から離れた、その途端に
莉子さんの姿が消えるようにいなくなってしまった。は、速い……!
高校を後にして向かったのは、中央高校の近くにある落ち着いた雰囲気の喫茶店
きっと忙しいと思ってダメ元で連絡を取ってみたら、「絶対に時間作る!」ってすぐに返事がきた
少し申し訳ない、という気持ちと一緒に嬉しさも込み上げてきた
一学期の頃も色々助けてもらったのに、その後ちゃんとお礼も言えてなかったから
「千十ぉ! こっちこっち!!」
喫茶店に入るなり大声で私を呼ぶ声に、ビックリしてしまった
相手は既に席を取っていた。約束してた待ち合わせの時間より30分も早いのに
「お久しぶりです、久慈さん」
「やあやあ、六月振りだったかぁ!? ちゃんとメシ食ってたか? 痩せてないかよ?」
佐川久慈(さがわ くじ)さん、「組織」の黒服さんだ
一人称が「俺」で、最初の印象は怖い人だったけど、すごく気さくで優しいお姉さん
私は「組織」に所属している契約者
といっても、自分が契約者だということが未だによくわかっていないんだけど
最初の頃は「組織」がどういう組織なのか、とか
他にはどんな人達がいるのか、とか
私みたいな人もいるのか、とか、そういったこともわからなかった
今では「組織」が人間社会で害のある都市伝説を退治する人達、というのは何となく理解してるけど
例えば私と同い年の人達も所属してるのか、とか、そういうことは今でもよくわからない
久慈さんに「組織」のことを色々聞いたら教えてくれそうだけど
今日の大事な用事はそっちじゃない。しっかりしなくちゃ
「あの後から体に違和感残ったりとかしなかったか?」
「あっ、いえ。お陰様で、大丈夫です。はい」
「それなら良いんだけど、あのときは状況が状況だったろ? キルトさんは問題ないって言うけどさ、俺も一応心配してて
あっ、そうだ! 七月にも変態とカチ遭ったって聞いたぜ!? そういうときは迷わず黒服を呼べよ!? 絶対遠慮すんじゃねーぞ!?」
「あのときはすぐ連絡しました、はい。あの後からそういうことには遭ってないから、多分大丈夫です」
最初、「組織」の人達に声を掛けられたのは中学一年の頃だった
お姉ちゃんはまさか芸能事務所のスカウト!? ってかなり警戒してたし
説明を受けた後も、当時は「組織」が何をしている組織なのか全く理解できなかった
お姉ちゃんは後から、「『七尾』のANクラスみたいに超能力かなんかの研究してる人達なんじゃない?」って言ってたけど
結局、「学校町内で目撃した『都市伝説』と呼ばれる存在について、報告してくれるだけでいい」という内容で
「組織」に所属することになったんだけど、所属してる実感なんて全くなかった
お姉ちゃんが最初の職場でセクハラされてから、そこを辞めて新しいお仕事を探してる最中だったし
報告すれば実績に応じて報酬金がもらえると聞いて、私も覚悟を決めて頑張った
最初にお金が振り込まれたとき、お姉ちゃんと一緒にその額にビックリしたけど
本当にこんなことでお金をもらってもいいのか、すごく不安だった
それでも私が頑張らないと、そう自分に言い聞かせて、危険だと感じる場所に自分から足を運ばないといけなかった
最初に声を掛けてきた人達――「黒服」さんは、こっちの質問には一切答えてくれなかった
ただ一方的に不定期のメッセージ連絡を送ってくるだけで
それも専門用語が多くて、その意味を何となく理解できるようになったのは大分後になってからだった
「店員さん、この子にホットケーキセットを! 俺は……エビピラフセットで! 悪い、昼食ってくる余裕なくって」
「わ、私は大丈夫ですから!!」
「遠慮すんなし! こういうときに他人の財布で一番高いもん頼むもんだぜ?」
「ああうう……」
「都市伝説」
黒服さんからその話を聞いたとき、多分アレかもしれないという感覚はあった
アレ――「七尾」にいた頃は見なかったのに、学校町に引っ越してきてから急に見えるようになった、怖い影
最初は影のような黒い塊だと思っていたけど、よく見るとまるで漫画や映画に出てくるモンスターのような存在だった
私は最初、それがストレスの所為なんだと思ってた
「七尾」の学校が急に閉鎖することになって、中学から学校町に引っ越すことになって
環境が急に変わったからその所為で変なものが見えるようになったんだって、自分にそう言い聞かせてた
お姉ちゃんには相談できなかった。お姉ちゃんもいっぱいいっぱいなのに、私のことで心配させたくなかったから
「俺はてっきりさぁ、千十に嫌われてるんじゃないかと思ってたんだぜ? 夏の間も連絡無かったしさぁ」
「あの、いえ、そういうわけじゃ……」
「冗談だよ! そういや『ラルム』のバイトは忙しいか? あんま無理すんなよ? 前も過労気味だって医者に言われてたしな」
「きっ、気をつけてますっ!」
「組織」のお仕事もあって、「都市伝説」を目撃する機会はそれなりに増えていったけど
最初の頃は自分から危ない場所に行かなければ、そういう怖い存在に遭遇することは無いって、そう思っていた
危ないと感じる場所に行かなければ、危ない存在に出遭うことはない
危険な場所や相手には、自分から近づかなければ、危ない目に遭うことは無いんだって、そう信じていた
でも、違った
この学校町に、安全な場所なんか無かった
この学校町にいる限り、危険はすぐ隣にあるんだって、何度も思い知らされることになった
「『ラルム』の方にも顔出したかったんだけどなー、ちょっっっと、『ラルム』のメニューは高くってさ」
「あ、あはは……」
「だけど今日は俺が奢るからな! そう決めて来たんだ! あっそうだ、なんか追加で注文しときたいものってある?」
「へっ? あっ、あの、そんな。悪いです」
学校町、そのなかを徘徊する「都市伝説」、そして学校町内に存在する「契約者」
私は最初、自分が直感的に危険だと感じる場所にだけ、そういう存在がいるんだって、ずっとそう思っていた
でもそれは間違いだった。私の通う中学にも「契約者」はいた。それも、何人も
日景君、荒神君、獄門寺君、花房君、双子の広瀬さん、大門さん
あのグループのことが、わけもわからず怖かった
何より日景君、同じクラスにいるだけで震えが止まらなかった
私はてっきり、自分の頭がおかしくなったんだと思った
「七尾」から出て、学校町に来て、心が参っちゃったんだ、そう思って
でもそうじゃなかった
私は「都市伝説」や「契約者」のことが怖いんだって、後になって気づくことができた
「本当なら俺も今頃現場でバリバリ働いてたのかもしんないけどよ……」
「え? 何か、あったんですか?」
「別にそんな大したことじゃねーよ? えっと、実は俺、まだ新人研修中でさ、若葉マークが外れてねーんだよな……」
「あっ、もしかして、忙しいときに呼び出しちゃいましたか!? す、すいませ」
「ああ違う違う! 千十には感謝してる! 研修って息苦しいからこうやって外の空気に当たらねーと、ちょっとキツくて」
お姉ちゃんと二人で「人肉ハンバーガー」の契約者に襲われたとき
私達を守ってくれたのが「組織」の久慈さんと、キルトさんだった
私が「組織」所属だと知った二人は色々と話を聞いてくれて、教えてくれた
そのお陰で「都市伝説」が何なのかを、そして「契約者」や「組織」についてようやく理解できた
「都市伝説」は人が今までに噂したりネットで一人歩きしてるような怪しい話が具体的な姿をとって現れたもので
元の噂や話に由来するような不思議な力を持っていることがある存在
そして「契約者」はそんな「都市伝説」と「契約」という関係で結ばれた人で
「契約」による「拡大解釈」のおかげでより強力な不思議な力、「契約能力」を使うことができる
「都市伝説」や「契約者」は普通の人間のように、良い人や悪い人もいて、なかには人間を襲うような危険な存在もいる
「組織」はそんな危険な「都市伝説」や「契約者」を取り締まって、人間社会を混乱させないようにその存在を隠す仕事をしている
私の理解が間違ってなかったら、キルトさんの説明はこんな感じだったと思う
このお陰で、私が怖いのは「都市伝説」と「契約者」だったんだって、ようやく気づけた
学校町に来てからは「都市伝説」や「契約者」に怯えてばかりだったけど
慣れない学校町での中学生活で、私に声を掛けてくれたのがアヤちゃんや、一葉さんと咲李さんで
確かに中学のなかにも「契約者」はいたし、私は怖がってばかりだったけど
「都市伝説」に追いかけられてたとき、一緒に逃げてくれた泉花ちゃんや、私達を守ってくれた莉子さんのことは怖くなくて
普段の生活のなかで、「組織」のお仕事のなかで、恐ろしい「都市伝説」や「契約者」に遭遇することもあったけど
そんなとき私やお姉ちゃんを助けてくれたのが、「組織」の久慈さんとキルトさん、そして隣町の下着屋さんの店長さんやクロワさんで
思い返せば、学校町に来てからもずっと、誰かに助けてもらいっぱなしだったな
勿論、怖がってばかりじゃいられないって、勇気を振り絞ることもできて
日景君達のことを怖がってばかりじゃ、相手に対しても失礼だなって思って
少しでも慣れることができるように挨拶から始めて、声を掛けるのを頑張ろうって目標を立てたり
それが原因で女の子達から勘違いされたり、アヤちゃんから「アイツらのことは気にしない方がいいって!」って言われたりしたけど
それに、「都市伝説」や「契約者」のことを知って、他にも気づけたことがあった
「七尾」にいたとき、私を助けてくれた男の子、脩寿くんも「契約者」だったんだ、ってことにそのとき気づいた
そのことに気づけたとき、私は少しだけ――ほんの少しだけ、だけど、怖さが和らいだ気がした
「おっ来たぞホットケーキ!」
店員さんが持ってきたのは、「ラルム」でお出しするような小さいふわふわしたパンケーキではなくて
フライパンで焼き上げたような、大きくて何枚も重ねられた、そんなホットケーキだった
「おう遠慮すんな食え食え、千十はもうちょっと食った方がいいぞ? あっ、俺のも来たな」
「うう……、すいません。頂きます」
久慈さんに満面の笑顔で勧められると、断れない
うう、こんなに食べたら、もう夕飯は要らないかもしれない
「んうむ、そういや千十。キルトさんにも言われて確認しておきたいことがあってよ」
サラダを食べ終えた久慈さんに質問された
「千十の担当黒服って――あの、携帯でしか連絡してこない奴な。最近は何か連絡してきたか?」
「いえ、それが……。四月以降はずっと何の連絡もなくて」
「そっか、やっぱり」
担当の黒服さん、多分最初に私をスカウトしてきた人達だと思う
あの人達は最初に会ったきりで、それ以降は携帯の一方的な連絡以外にやり取りがない
私はこういうものなのかなって、ずっと思ってたけど、キルトさんが言うには「ありえないレベルで不審すぎる」らしい
久慈さんも難しい顔してるし、どうしよう
「本当は口止めされてるんだけどさ、千十の状況はちょっと良くないらしくて
あっ! 良くないってのは担当黒服の方な! 千十自体に問題があるわけじゃねーからな?
で、まあ、とにかく状況が良くなるように、裏でキルトさんとか上司が動いてるみたいで、もう少しの辛抱だからな」
状況が良くないってどういうことなんだろう
漠然とした不安はあるけど、正直今の担当の黒服さんはこっちが聞きたいことにも答えてくれないから
今の状況が良くなるんなら、その方がいいのかもしれない
って、自分のことばかり考えてたけど!
今日の用事はそっちじゃない! 久慈さんにも変質者のことを確認しなくちゃ!
思わず周囲を見回す
けど、今の時間帯は私達しかいないみたいで店内が空いてる
このお店は「組織」関係の人がよく利用するお店で、ちょっとした会議とかにも使われるらしい
だから、都市伝説関連の話をしても――無関係のお客さんとかに聞かれない限りは――大丈夫らしい
「あの、久慈さん。実は今日は、私からも確認しておきたいことがあって
最近学校町に出没してる変質者のことなんですけど
クマのぬいぐるみを操作する契約者みたいで、なにか目撃情報とか不審者情報とかって『組織』で把握してませんか?」
「えっ? 何だって? クマの、ぬいぐるみ?」
私は問題の変質者の特徴を久慈さんに説明した
変質者が契約者なら、「組織」で何か情報を掴んでるかもしれない
そんな感じで当たりをつけてみたんだけど
「ちょっ、っとそういう話を聞いてねえや」
久慈さんは知らなかったみたいだ
……ど、どうしよう
「キルトさんとか――外回りの黒服なら何か知ってるかもしれないから、後で確認しておくな」
「すいません、お願いします!
実は友達がその変質者に襲われたみたいで、それで別の友達が変質者じゃないのかって疑われてて
友達同士で険悪な状況になっちゃってて……、それを早く解決したくて、早く真犯人が捕まってほしくて」
「はぁっ!? 今そんなことになってんの!? オーケー! 事情はわかった! 俺に任せろ!
夜になるかもしんねーけど、必ず連絡するからな! ……ところでその友達って、二人とも契約者?」
「えあっ!? あっ、それは、その」
「ああいや! 答えづらいなら無理して答えなくていいから! 千十には『組織』のこと嫌いな友達も居んだろ?
俺も『組織』のことは正直嫌いだから気持ちはわかるし、その子のことかちょっと気になっただけだから!
でもこのクマのぬいぐるみの変質者って奴ぁ相当ヤバそうな感じするな、とっとと捕まえねーと」
ちょっと待ってろ、久慈さんはそう言うと自分の携帯を引っ張り出して物凄い勢いで操作し始めた
久慈さんに負担を掛けることになるかもしれない、けど私も退けない
脩寿くんとありすちゃんがあんな風にぶつかっちゃうなんて思ってなかったから、早く問題が解決してほしい
せめて、脩寿くんが犯人じゃないってはっきりすれば、ありすちゃんも納得してくれると思うから
ありすちゃんには前々から「『組織』に自分のことは秘密にしてほしい」って言われてたから
今までも久慈さんにはありすちゃんのことを伏せているし
久慈さんも気を遣ってくれたのか、ありすちゃんのことを「匿名希望の『組織』嫌いな契約者」として理解してくれた
脩寿くんはどうなんだろう
「組織」に脩寿くんのこと、伝えても大丈夫なのかはまだわからない
脩寿くんに前もって相談しておけば良かったかな。ちゃんと確認できるまでは伏せておこう
今夜にでもメッセージか電話で私のことを話しておいた方がいいかな
……ううん、やっぱりまた会えた時に直接話そう
携帯越しだと上手く説明できる自信ないし
今までずっと、脩寿くんのことを片想いしてきたけど
私、脩寿くんのことを何も知らないや
私のことも、何も伝えられてないや
「うっし、キルトさんにメッセ打っといた! あでも今ちょっと会議中だから返事は遅くなるかも」
「すいませんありがとうございます!」
「しっかしそうなってくると、俺もそろそろ外回りに入れるように手を打たねえとなー
……いっそのことミッペのグループに混じって警邏した方がいいかな? いやとなると教官の目を誤魔化さねーと」
「あっ、あのっ、無理はしないでくださいね……!?」
「千十は心配すんなって! こういうときこそ『組織』が動くときだからな!
それに俺が捕まえた方が却って長引いた研修が終わりそうな気がしてきたぜ!!」
そう言いながら大きく伸びをする久慈さんを見ながら
退けない思いと、やっぱり申し訳ない思いがぐるぐる渦巻いた
ごめんなさい、私に戦う力があったらもっと協力できたのに
もう少しで喉から飛び出しそうになったその言葉を
すんでのところで飲み込んだ
だって
もうそれはずっと前に、零してしまった言葉だから
(そんなこと言うんじゃねーよぉ! 千十は感知担当! 実力担当は俺ら黒服! 適材適所ってやつだよ!! 気にすんなって!!)
そして、そのとき
久慈さんには、そう返されたから
だから、結局久慈さんには甘えてしまう形になったけど
私は、私のできることをやっておきたい
私はいつも助けられてばっかりだから
せめて、こういうときだけでも誰かの力になりたい
そしてきっと、これが「組織」所属である私にできることだから
だって
都市伝説を前にして、怖がったり怯えたりするだけの自分は、もう嫌だから
それに
ううん、それ以上に
小さい頃からずっと好きだった男の子の前では、少しだけでも胸を張って話せる自分でいたいから
□□■
①猫ちゃん聞き込み💓 ニャンニャニャン💓
りず「よっし! それじゃーさっそく聞き込みをやってくにゃー!」
りず「頑張るにゃ!」 ニュニュニュ.... ☜ 頭頂から発現するふわふわの三毛耳と、スカートを際どく持ち上げながらスルッと現れる三毛模様な猫しっぽ
りず「あっっ! あそこにいるのは中学校辺りを縄張りをしてるボスにゃんじゃないかにゃ」
りず「これは幸先よさそうにゃ💓 さっそくとつげきにゃー!!」
②ボス猫突撃💓 ニャニャニャニャン💓
ボス「久しいな、ヒト混ざりのメス猫よ……」 ☜ 超低音ボイス
りず「ボスにゃん! おひさだにゃ! 今日はちょっと訊きたいことがあって来たのにゃ!」
りず「かくかくにゃんじかでー、二足歩行するクマのぬいぐるみを見なかったかにゃー?」
ボス「ヒト混ざりのメス猫よ……、俺に何かを要求するならば……!」
ボス「対価を! 支払うのだ!!」 バァァァァン!! ☜ 超低音イケメンボイス
りず「もちろんそれなりの見返りはあるにゃー! ちょっと待って……」 ゴソゴソ
りず「なんと! 高級グレードのちゅーるだにゃ!!」 ジャーン!!
ボス「ほう……、話がわかるようだな……」
ボス「最初に言っておくが、俺はそのクマのぬいぐるみを見ていない」 ハフハフッッ ペロペロッッ
りず「えぇー!? 見てないのぉー!?」 ☜ ちゅーる絞り出し係
ボス「だが……ウマイ、他の猫が、東区で、ウマイ、奇妙な契約者を見た、と……アアウマイ!!」 ペロッペロペロッッ
りず「奇妙な契約者?」
ボス「うむウマ、黒い触手のようなものを、ウマッ、操る不審者だったそうだ、オオウマイ……」 レルレルレルッッ
りず「黒い触手……」
ボス「脇に、テディベアを抱えていたそうだ……ウッウマイ!!」 ハァッハァッッ
りず「!? ほんとかにゃ!? そっ、それはどこで!?」
ボス「東区の、二丁目あたりだウマイ、奴はおそらくアアウマイ……東区から、南区にかけてをウマ、縄張りとしているウマイッッ!!」 ニャァァァァ ガジガジガジッ
りず「やっぱり東区二丁目……あの辺りかぁ」
ボス「ふう、堪能したぞ……」
ボス「俺はもう往かねばならん。さらばだヒト混ざりのメス猫よ、縁があればまた会おう」
りず「ボスにゃんありがとにゃー! ……となると、前にあたしが見たところからほとんど移動してないってことかにゃー……?」
③道行く猫にも💓 フニャフニャン💓
於 学校町 東区 二丁目
りず「というわけで二丁目に来たにゃ! ここはお日さまのあるうちから静かな住宅街にゃ」
りず「静かといっても住宅街だから、人の目はあるのににゃー……」
りず「こんなところで不審行為をしてたとしたら、かなり大胆な変質者だにゃ」
りず「あっ! ネコちゃん発見にゃ! 見ない顔だにゃー、でもとつげきしてみるにゃ!」
りず「あのー、ネコちゃーん。今ちょっといいかにゃー?」
ネコ「フオッ? ニャアアア??」
りず「聞きたいことがあるにゃ。二足歩行するクマのぬいぐるみを探してるんだけど、この辺りで見なかったかにゃ?」
ネコ「ニャァァァアアアオゥゥゥゥッッ!?!?」 フシャァァァァァァッッ!!
ネコ「噂には聞いていたが……っ! ヒト混ざりのメス猫が本当にいようとはな……っ!!」 ☜ 全身の毛を逆立てて警戒
りず「ええっ? あたしのこと噂になってるのかにゃ?」
ネコ「即刻消え去るがいい!! この混ざりモノめがっ!! あまりの気持ち悪さに反吐が出そうだわっっ!!」 ギシャァァァァァァッッ!!
りず「きっ!? 気持ち悪くなんかないよ!?」
ネコ「呪いあれ!! ヒト混ざりのメス猫に呪いあれぇーっっ!!」 ダッッッ ☜ 全速力で脱走
りず「あっ!! 待つにゃ!! あたしの話を聞いてにゃー!! 待ってよー……!!」
④猫じゃ猫じゃ💓 と仰いますが
於 学校町 南区
りず「二丁目辺りで粘ってみたけど……、散々だったにゃー」
りず「あの後もなぜかネコちゃんたちに警戒されたにゃー」
りず「なんでにゃー……、今までこんなことなかったのにー……」 ションボリ...
茶猫「東区のあたりはー昔っからプライド高いというかー、こっちとは違う気質のネコが多いからねー」 ムニャ...
茶猫「最近は 『狐』 の影響なのかー、他所からも学校町に入ってきてるネコも増えてるみたいだしー」 ゴロゴロ...
りず(『狐』……、アレの行方も気になるにゃ。また戻ってきてるって話は耳にしたけど……)
妻猫「りずちゃん元気出して。それで誰を探していたのかしら?」
りず「んあっ!? ああ……、二足歩行するクマのぬいぐるみだにゃ。ちょっとした変質者っぽくて、色々あってマークしてるのにゃ」
妻猫「それって……」 ☜ 旦那さんの猫ちゃんの方を見る
夫猫「多分アイツだな」 ☜ 奥さんの猫ちゃんの方を見る
りず「!? 見たことあるにゃ!?」
夫猫「最近になって東区から南区にかけてを徘徊してるコートの不審者だよ」
妻猫「契約者なんでしょう……? 雰囲気が普通の人間じゃなかったわ」
夫猫「クマのぬいぐるみを持っているようだが、周囲の人間は不思議と気にしていなかったな……。恐らく『角隠し』か何かの結界を使っているかもしれない」
りず「ほんとかにゃ!? これは大収穫だにゃ! ありがとにゃ!! やっぱり持つべきものはネコともだにゃー!!」
夫猫「でも注意した方がいい。ヤツは並の契約者とは異なる、異様な雰囲気を纏っていた」
りず「異様な雰囲気……」
夫猫「恐らくまだこの近辺に潜伏しているかもしれない。日没前後にしか姿を見せないんだが」
妻猫「誰か人を探している様子だったわね」
夫猫「りず、戦う気か? お前が強いのは知っているが、悪いことは言わない。ヤツに限っては避けた方が良い」
りず「そんなにヤバいヤツなのかにゃ……!?」
りず「オッケーにゃ! こーはいにも注意するように言っておくにゃ」
茶猫「それがいいよー、『賢き猫、危うきを冒さず』って昔っから言うからねー」 ムニャー...
妻猫「そういえばりずちゃん、今日もお仕事なんでしょう? 時間は大丈夫かしら?」
りず「そうだったにゃ……、もうすぐ人間砂漠のバイトが始まるにゃー……」
妻猫「うふふ、りずちゃん頑張って」
りず「みんな、ありがとにゃー!!」
りず(クマのぬいぐるみの行動範囲は東区二丁目から南区にかけてでほぼ確定だにゃ)
りず(バイトで心も体も潰れる前に、せとにゃんに連絡入れるにゃー……!)
りず(もうひと頑張りだにゃー) ☜ 使い古しの携帯を取り出す
□□■
●南区商業高校の登場人物
波越 沙也花(なみこし さやか)
商業一年、早渡クラスの委員長
女子レスリング部所属
戸塚 銀士(とつか ぎんし)
商業一年、早渡と同じクラスで部活はしていない
映画マニアで、校外の映画評論サークルに属している
藤巻(ふじまき) / 吉岡(よしおか) / 水谷(みずのや) / 秋山(あきやま)
早渡と同クラス、このうち藤巻と水谷は東中出身
秋山は東中出身ではないにも関わらず、中央高校の荒神憐と日景遥に並々ならぬ関心を抱いている
敷嶋 敏己(しきじま としき)
早渡とは別クラス、東中出身
高校進学後に幼馴染の多崎京と付き合い始めた
兒玉 金治(おだま きんじ)
商業高校の生徒指導担当、教科は世界史
赤星 嘉主馬(あかぼし かずま)
商業高校の生徒指導担当、教科は女子体育
ギャグ枠、商業の男子生徒から危険人物扱いされている
多民沢 丞(たみざわ たすく)
商業高校の教諭、教科担当は古文・漢文
どこを見てるのか分からない顔つきが特徴
「組織」Tナンバー関係者ではない
●東区高校の登場人物
茅部 綾子(かやべ あやこ)
千十、ありすと同じクラスで東中出身
名前で呼ばれるのを嫌がり「かやべえ」と呼んでもらいたがる
蒜山 宇女(ひるぜん うめ)
千十、ありすと同じクラス
ありす、かやべえからは「ヒル山(ひるやま)」と呼ばれる
真庭 栞(まにわ しおり)
千十、ありすと同じクラスで出身中学は学校町外
かやべえ、ヒル山、栞は大抵一緒にいる
小野木 雪子(おのぎ ゆきこ)
東高の二年で東中出身の眼鏡さん
図書委員で、誰が呼んだか「図書室の番人」
御小柴 みゆ(みこしば みゆ)
東区高校の教諭、担当教科は古文
同校のOGで、元オカ研所属の現オカ研顧問
「組織」Mナンバー関係者ではない
泉花(いずか) / すずな
千十、ありすとは別クラスの一年
二人ともオカ研部員、泉花は東中出身で契約者
足助唄(あすけ うた)
千十、ありすとは別クラスの一年
オカ研部長で契約者
莉子(りず)
東高二年で東中出身、契約者
苗字で呼ばれるのを嫌がり名前で呼んでもらいたがる
クラスメイトの前では普通に話すが、親しい相手には「~にゃ」の語尾が出る
多崎京(たさき きょう)
千十、ありすとは別クラスの一年で、東中出身
幼馴染の敷嶋敏己のことがずっと好きだったが
進学する高校が別と知ったときはショックを受けた
●「組織」
佐川 久慈(さがわ くじ)
「組織」Pナンバー所属の黒服
ちょうど千十が中学一年の頃に「組織」に加わったのだが
未だに研修期間中の新人扱いをされている
花子さんの人、そしてはないちもんめの人に謝意を表します orz
そして、マジカル☆ソレイユのリスペクト元は単発「魔法少女マジカルホーリー」と以前告白しましたが
今回初出となるオカ研部長の「足助唄」は、次世代ーズが「都市伝説」スレにはじめて来た頃に投稿されていた
西区工業高校を舞台とした作品「噂をすれば」に登場する、「足助透」氏から姓を拝借しました
この場を借りて謝意を表します…… orz
世間的には三連休ですが、次世代ーズは土日お仕事です
せめて37の「組織」サイドの掌編までは投下したかった
淹れたばかりのコーヒーを啜り、カップを脇に置く
嘆息が漏れるのはこれで何度目だ、まったく
「組織」Pナンバー所属、“メイプル”は今、自分のデスクで頭を抱えていた
悩みの種は現在手元にある二通の書類だ
一通は「組織」所属の契約者に関するもので、もう一通はPナンバー所属の、自分の部下でもある黒服に関するものだった
暫く目頭を指で押さえていたメイプルは、観念したように書類の一通へ再び視線を向けた
不安そうな表情が如何にも気の弱そうな印象を与える、そんな少女の顔写真の横には「遠倉千十」と印字されている
メイプルはこの契約者の処遇について、直属の上司から判断を委ねられていた
無茶振りにも程がある、そのうえあと数時間で答えを出さなければならない
Pナンバーが彼女の存在を把握したのはおよそ三年ほど前の話だ
遠倉千十、そして彼女と同居する義姉が、悪意ある契約者数名に襲われかけていたところを保護したことが切っ掛けだった
当時彼女らを保護したのはPナンバーの“キルト”と、「組織」に加わって間もない新人研修中の佐川久慈だ
そして遠倉千十が都市伝説契約者であったため、Pナンバーで事情聴取を実施することになった
その際、遠倉千十自身の申告により彼女が「組織」所属であることが発覚する、のだが
彼女は自分自身が契約者である自覚もなく、そして何と契約しているのかも不明だという状況だった
自分が契約者であるという申告も、その実、遠倉千十を勧誘した「組織」の黒服からの受け売りに過ぎないという
基本的に契約者にとって初契約時のエピソードは比較的重要なものとして記憶に銘記されるはずだが、遠倉千十にはそういった記憶がなかったのだ
加えて、遠倉千十は自身が「組織」所属と申告したものの、所属部署や担当黒服については「わからない」と回答した
その代わりに彼女は携帯に登録されていた担当黒服の連絡先やアカウント情報を提供した
そこから「少なくとも『組織』で使用されているであろうアカウントである」ことは確認できた
しかし、当時はそれ以上の情報がまったく出てこなかった
この時点で聴取を担当したキルトと、情報の裏付けをおこなったPナンバースタッフの疑念は、「一旦様子見で済ませる」というレベルを軽く超えていた
彼女の申告した情報から一応「組織」所属と思われるが、どの部署に属しているのか、そもそも本当に「組織」所属なのかはっきりしなかったからだ
当然、遠倉千十という存在と彼女の置かれた状況についてはPナンバー管理者らにも報告が上がり調査の対象となった
調査のうえで明確にすべきは二点あった
「組織のどの部署所属なのか」、そして「何の都市伝説と契約しているか」である
まず「遠倉千十が『組織』のどの部署に所属しているのか」について
繰り返しになるが、先の事情聴取から彼女の申告、そしてそこから推察できる状況を見るに、非常に不明瞭な点が多すぎた
キルトが初期の段階で提示した疑念、つまり「遠倉千十は『組織』暗部で利用されているのではないか」という点を早急に払拭する必要がある
仮に暗部で利用されているとすれば、「組織」としては迅速に暗部の活動を捕捉し、同時に遠倉千十の身柄保護に動かなければならない
最初期の調査で彼女がPナンバー所属ではないことは明確になった
続いて実施されたのは「組織」所属契約者データベースでの照会だ
「組織」内で穏健派が優位に立ったことで
これまで、特に過激派・強硬派のなかで常態化していた、所属契約者を巻き込んでの不正や規定違反行為ができないように穏健派は次々と手を打った
「組織」所属契約者データベースの整備もその一環だ
これは「組織」所属のすべての契約者を一元的に管理することを企図したものだ
情報の閲覧にはセキュリティクリアランス、権限がなければアクセスできない規制は存在するものの
「組織」への所属自体を隠蔽したり欺瞞工作を施したりすることが実質不可となったのだ
では遠倉千十の情報はというと、データベース上でヒットしなかった
といってもここまではさほどおかしい話ではない
彼女の所属情報にプロテクトが掛けられている可能性はあるし、そもそもこのデータベースは未だ整備中のものだ
「組織」内には様々な事情でデータベースへの反映が遅れている部署もあれば、データベースへの登録を渋る部署も存在する
というわけで、ここからはやや強引な手段に出ることになった
具体的には、別のナンバーへ秘密裡に協力を取り付け「組織」内全データベースへの全文検索を実施することになった
しかし当時は「狐」の捜査――学校町の東区中学で生徒連続自殺を引き起こした、あの悪夢のような事件の後の話だ――や
その後の余波と思われる事件の処理等で、どのナンバーもその対応に追われていたため、調査のための根回しに存外な時間を要した
紆余曲折ありながらも、全データベースへの検索調査をおこなったところ
件の所属契約者データベース上に、未公開設定の、下書きのまま放置されたと思しき遠倉千十のプロファイルが発見される
といっても、顔写真画像と氏名、連絡先情報、身体情報、口座情報のみが記載されたあまりにも簡易なもので、意図的とも思われる情報未登録も目立った
なお、プロファイルのフォーマットは強硬派で利用されているそれと一致していたため
上位管理者経由で強硬派に照会を掛けたが、強硬派担当からは「こちらには遠倉千十なる契約者は所属していない」という回答が寄越された
ここまでの調査経緯を踏まえ、遠倉千十の置かれた状況についてPナンバー管理者らが推測したのは次の2パターンだ
まず、①穏健派の秘密部隊で遠倉千十が運用されているパターンである
しかしこれはありえない話で、間もなく候補から除外された
何故なら、仮に穏健派所属ならば件のデータベースに登録自体はされているであろうし
それ以上に、Pナンバーが独自調査を始めた時点で、より上位の立場から直接的なストップが掛かるはずだ
そして今回そういった横槍は発生していない
続いて考えられたのは、②「組織」暗部関連で遠倉千十が運用されているパターンで、管理者らはこちらの可能性が高いと判断した
そうであるならば、彼女の境遇を放置することはあまりにも危険すぎる
加えて仮に暗部所属であった場合、問題なのは彼女を勧誘した動機が不明であることだ
現在進行中のなんからの実験に巻き込まれている、という線も否定できない
これらの潜在的リスクを踏まえ、管理者らは遠倉千十の身柄を一時的にPナンバーで預かることとした
無論、遠倉千十の所属部署の特定と並行して、担当黒服特定の調査も進められていた、が
通信ログや通話記録から情報を洗い出したものの、「組織」の規定とは異なる暗号化が施されていたり
担当黒服に関するアクセス情報が空白と化していたりと、担当黒服ならびに所属部署の特定は困難を極めた
意図的な情報隠蔽がおこなわれたのではないか、という声も上がったが、真相は未だに闇の中だ
いずれにしてもこの不可解な状況が明らかになったことで、遠倉千十の勧誘に暗部の関与があったことが疑われる事態となった
ひとまず遠倉千十はPナンバーで保護しつつ、問題の担当黒服から彼女に送付される連絡はすべてモニタリングされることになった
その解析を進めることで担当黒服と部署の特定を試みているが、現在に至るまで目立った成果は上がっていない
これ以上の決定的証拠がないため、現状「彼女を勧誘した担当黒服と部署は不明だが、暗部が関与している可能性が高い」とみなされている
続いて「遠倉千十が契約している都市伝説は何か」についてだ
最初期の事情聴取の後、この点についても簡易的な調査が実施された、が
彼女は待機出力が低すぎる――要は契約者としての気配があまりにも薄すぎるのだ
当時、自分は契約者だと自信なさげに申告する遠倉千十を観察したキルトは申告そのものを疑っていたし
現に調査を担当したPナンバースタッフ内にも、果たして彼女は本当に契約者なのか、という疑念の声を上げた者もいた
この時点では、契約都市伝説の特定には至らなかったし、特定する必要性も薄かった
初期の頃は彼女がどの部署に所属しているのか不明であり
こちらで勝手に検査を進めると、彼女が所属している部署から干渉と捉えられる恐れがあったためだ
加えて、彼女は契約者としての気配が薄すぎるため、特定には精密な検査と長時間の拘束が必要になる
一応、簡易検査によって少なくとも彼女は都市伝説ないし契約者による精神干渉や洗脳施術を受けていないことは確認できた
また、彼女は「組織」への不安感、もしくは不信感を抱いている印象があったため、遠倉千十への負担も考慮し一旦保留扱いとなった
再調査の必要性が高まったのは遠倉千十の所属、つまり彼女を勧誘してきた担当黒服の所属が「組織」暗部ではないか、という疑念が生じて以後だ
「暗部」による勧誘の動機が彼女の契約都市伝説にあるのならば、Pナンバーとしてもその詳細を正確に把握しておく必要があった
だが、この段階で待ったを掛けたのがキルトだ
曰く、遠倉千十は未だに「組織」に警戒感や不安感を抱いており、無理に調査を強硬すればこれまで築いてきた関係が壊れる可能性もある
精密な調査は一定以上の信頼を構築してからの話で現段階では時期尚早だ、とこのように主張してきたのだ
確かに報告によると、遠倉千十は「組織」に――というより、厳密には都市伝説や契約者、そして黒服という存在に――恐怖感を抱いているようだった
そうであれば、彼女を安心させたうえで協力を取り付けるのが筋だろう、ということでPナンバーの幹部らも一応それに合意した
以上の経緯があり、遠倉千十に対する精密調査は延期となり、信頼関係の構築はキルトら現場の黒服に一任されることになる
これ以上の調査は当分先の話になると思われたが、事態が大きく動いたのは今年の六月に差し掛かった頃だ
遠倉千十のバイト先が呪詛汚染の被害に遭う事件が発生し、特に彼女が強い影響を受ける事態となった
この事件そのものについては割愛するが、呪詛汚染は人為的なもので未だに犯人は捕まっていない
ともかく、遠倉千十は「組織」の管轄する病院に搬送され除染治療を受けることになったが
これこそ彼女の精密検査を実施するのにまたとない機会であると判断したPナンバー管理者により、彼女の治療と検査は同時に進められることになった
集中的な専門検査に掛けた結果、遠倉千十は高い確率で現象型「トイレの花子さん」と契約していることが判明する
それと同時に、彼女は非常に稀な「先天性能力発現不良」であることも発覚した
先天性能力発現不良――非常に低い確率で「契約自体はできるが」「能力が発動できない」という先天的欠陥が発生することがあり、彼女はそれに該当する
検査担当者は「欠陥というよりも、これはもはや才能の領域」とコメントしたが、決して肯定的に評価できるものではない
要するに遠倉千十は契約者であるため都市伝説的な影響を知覚可能な状態だが、能力を扱えないため都市伝説や契約者に対抗する術がない
おまけに契約による身体能力の向上も見られず、唯一彼女が得られたのは都市伝説的存在の感知が並の契約者に比して鋭敏という点のみだ
先に触れた遠倉千十を勧誘した担当黒服に関する疑念も踏まえて総合的に検討すると
「組織」暗部が稀少な彼女の体質を利用して何らかの実験を進めているのではないか、という疑念を抱いたPナンバー管理者は
改めて遠倉千十の身柄をPナンバーで一時保護することにしたのだ
そして話は現在に戻るのだが、上司から“メイプル”に振られたのは
このまま遠倉千十を正式にPナンバー所属として本決定しデータベースへ登録するか判断せよ、というものだった
頭痛の種はそれだけではない
上司はこの話と同時に、Pナンバー内に蠢く不穏な影についても話を振ってきたのだ
Pナンバーは歴史的経緯から「瑕疵ある穏健派」と呼ばれていた
かつて過激派・強硬派が優位だった時代「ダークエイジ」の頃に、Pナンバー内の一部が独走した挙句
過激派・強硬派の一部と結託して、「組織」に対する背任を働くという暴挙に及んでいたのだ
当然、背任が発覚した当時の管理者とその関係者は厳重に処罰され
穏健派が形勢を逆転しつつあった頃に、Pナンバー内一桁ナンバーを一新して新体制へ移行
そのうえで信頼回復に向けて全力を傾けることになるのだが、現在に至るまで完全な回復には至っていない状況だ
要するに「組織」上層部において、Pナンバーの地位と発言権は低くはないものの、決して高くもないのだ
これがPナンバーが現在においても「瑕疵ある穏健派」と呼ばれている所以なのだが
その現在においてもなお、Pナンバーの黒服のなかに未だ暗部と繋がりのある者が存在すること、そして
近頃になってそうした黒服が不穏な動きを見せていることが、内部調査により明らかになったのだ
穏健派が「組織」内で優位になっていくのと同時に、「組織」暗部はより地下へと潜伏していった
この所為で暗部の凶行が過去に比して一段と陰湿化、隠匿化していると言われている
尻尾が掴みにくくなった暗部を捕捉するため、現段階では暗部との繋がりが疑われる黒服を敢えて泳がせているようだが
(遠倉千十をPナンバー所属としたとすれば、暗部とパイプのある黒服が接触してくる恐れは十分にあるぞ)
上司から告げられたその言葉は、もはや脅迫にしか聞こえなかった
遠倉千十をPナンバー所属にしたとしても、そうした黒服により彼女が暗部へ引き込まれるリスクは払拭できない、というのだ
「じゃあどうしろってんだよ……」
Pナンバー以外の部署に所属させる、という手もあったが
そうするとどの部署が安全なのかという話になるし、穏健派内であっても暗部と繋がりのある黒服が接触してくるリスクは依然として存在する
この時点で、メイプルの頭は既に茹で上がっていた
回答の期限は刻一刻と迫っているものの、具体的な案がまとまらない
しばらくの間メイプルは両手で顔を覆っていたが、焦りを振り切るように顔を上げるともう一つの書類を睨みつけた
不貞腐れたような仏頂面にダブルピースを添えた、そんな女の顔写真の脇には「佐川久慈」と印字されている
そう、コイツが頭痛の種その二、部下であり問題児でもある未だ新人の黒服だ
佐川久慈、裏社会では名の知れた長野の「飯綱使い」、名家佐川家の令嬢
……令嬢と呼べば多少聞こえはいいが、この佐川久慈に関してはとんだ問題児だった
いや個人的には自爆バカと呼びたい。正面から突っ込むのが大好きな戦闘スタイル、単純バカな性格、そして独断で独走する傾向
未成年だった頃のメイプル自身に非常によく似ている、という点はもう棚に上げる
佐川久慈が「組織」に加入したのはおよそ三年前
件の遠倉千十が中学一年生として東区の中学に入学した――奇しくも「狐」が学校町で凶事を引き起こした、あの――年だ
久慈自身も「飯綱使い」、つまり「管狐」と契約した能力者だったのだが、無謀にも高位霊格の「管狐」と追加契約を試みたことで黒服へと変貌したらしい
現役の「飯綱使い」であり佐川家の当主である彼女の高祖母から「力に溺れるなどとは末代までの恥」、そして
「己の自業自得で黒服と成り果てたのであれば、せめて『組織』で修行を積んで心身を戒めるべし」と言い渡され、佐川家から勘当されたのだ
不幸中の幸いというべきか、本人の地力が高いためか悪運が強い故か、黒服に変貌する以外のペナルティは免れたようだ
こうして「組織」へとやってきた久慈はPナンバー所属が決定した後、多くの新人黒服と同様に教育部門で新人研修を受講することになる
根が単純っぽいのでまあまあ御しやすい、新人研修担当の黒服は当初そのように見ていた、のだが
先輩黒服と組んで実施される現場研修の段階で、久慈の問題行動が次々に露呈することとなった
元々久慈の「管狐」は占術や読心、呪詛、呪詛返しといった、どちらかというと支援向きの能力だ
強いて戦闘に活用するとなると「管狐」を“飛ばす”遠距離戦向けの戦い方になるのだが
あろうことか久慈は突撃することを好み、真正面からの殴り合いに持ち込もうとする傾向にあった
それだけではない、久慈も現場で暴れに暴れたと思えば必ず重傷を負っては医療チーム行きとなった
力こそパワーと言わんばかりの肉弾戦に終始するものの、別に久慈は体格に恵まれるわけでも殴り合いに優れるわけでもない
「管狐」を使役する呪力を自身の体術向上に利用しているようだが、現場で害性の都市伝説や契約者と殴り合っては必ず自身も自爆負傷して帰って来たのだ
しかもなんというべきか負傷の回復だけはやたら速く、医療チームにブチ込まれた翌日には何ともない顔で新人研修に混ざっている、というのはザラだった
さらには、初期の頃は「高木から降りれなくなった猫ちゃんを救助するために樹木を縦に断裂する」程度で済んでいたのだが
「害性の都市伝説を討伐しようとアスファルトを深々と抉り取る」、「しかも人払いの結界を破るレベルの能力を市街地でぶっ放す」
「制止させようとした研修担当者に『こっちの方がはるかに効率的でしょォ!? 人命が懸かってるんスよ!?』と盾突く言動ばかり取る」
「修繕や隠蔽に駆り出される『組織』スタッフのことを軽視したような被害を起こす」……といった形で問題行動がエスカレートしていったのだ
当然ながら現場で起こしたトラブルは大問題として取り沙汰された
メイプル自身も研修担当者から「一体どうなってるんだこの新人は!?」「上司であるお前はこの責任、どう感じてるんだ!?」と盛大にキレ散らかされた
正直、上司とはいえ自分が研修に直接関与しているわけではないので自分に怒りが向くのは理不尽そのものだが、研修担当には反論しなかった。だって怖いし
そして久慈の問題行動は、Pナンバー管理者でもある一桁ナンバーの耳にも入ることになった
P-No.1は「とってもいいと思うわぁ♥ 花丸をあげちゃいます♥ 久慈ちゃんは次世代を担う新星になるわぁ♥♥」と評していたようだが
「現場に迷惑かけまくりの問題児を飼うことになって今どんな気持ち? ねえ今どんな気持ち?」とP-No.6から直接絡まれた日には胃に穴が開くかと思った
てかあの人、ことあるごとにアタシにパワハラじみた発言してないか? あれ出るとこ出たらアタシ勝てるか? 勝てるんじゃないか?
……話が逸れた
とにかく、佐川久慈のトラブルメーカーじみた一連の問題行動が解消されない限り新人研修修了程度とは認めない、という決定が下った
この決定の裏では件の新人研修担当者がかなり張り切っていたらしく、再教育の徹底が必要ということで新人研修期間が延長されてしまった
そこから現在に至るまで、つまり久慈は三年経った現在も「新人」のままである
そのうえ「こちらでやれることはもう無い」、「あとは君の裁量で何とかしろ」と、久慈は教育部門からも弾き出されメイプルに押し付けられる羽目になった
一応この四月からは久慈と比較的相性のいいキルトのチーム「応援部隊」に(仮)配属する形で無期限の現場研修に組み込みつつ
様子を見ながら現在研修中の新人黒服と混ざる形で新人研修の“補習”を掛けている状況なのだが
正直なところ現場の負担が増えている、メイプルはそう判断している。たとえキルトや応援部隊の面倒見が良いとしても、だ
そしてこちらが気を揉んでいるのを知ってか知らずか、とうとう久慈も未だ自分が新人扱いされる処遇について不満を表し始めたのだ
なにが「俺、いつまで新人扱いなんスか? もうこれで四年目っスよ?」だ、お前の自爆特攻する傾向を改めない限り若葉マークが外れるわけないだろうが
飲みの席で説教を飛ばしたりもしたが、響いているのかそうでないのか非常に微妙なところだ
(久慈を∂ナンバーへ一時的に移籍させるというのはどうだ?)
このタイミングで上司からの助言を思い出した
(キルトのいる応援部隊だって同じPナンバーなわけだから、良くも悪くも久慈は慣れてしまっている
奴の視野を広げて実力を養成するために、問題行動を改善するためにも、一度Pナンバーとは異なる環境に置くのがいいんじゃないか?)
∂ナンバー、比較的歴史の浅い新設の部署だ
成立の経緯からして穏健派だけではなく、過激派や強硬派の出身者も混在している
とはいえPナンバーを始めとした古株の穏健派からモニタリングを受けており、仮に暗部の者が潜伏していたとしても表立った行動は取りにくいだろう
加えて、ボスである∂-No.0は元Pナンバーでもある羽金夏李(はがね なつり)さんだ。メイプル自身も新人の頃は羽金さんに面倒を見てもらった頃がある
佐川久慈を新たな環境に投入するとすれば、これほどお誂え向きな部署もそうないだろう……なのだが
これで久慈が∂ナンバーに多大な迷惑を掛けて、∂ナンバーとPナンバーの良好な関係が悪化してしまったとしたら
いや、それ以前に
あの優しい羽金さんから「Pナンバーの問題児をこちらに押し付けてどんな気持ちですか? さぞかし清々したでしょうね」などと冷えた眼差しで言われてしまったら
……耐えられない!! 羽金さんにそんなこと言われたら立ち直れない!! まだP-No.6の陰湿パワハラの方が百倍マシだ!!
いかん落ち着けアタシ、今は目の前にある案件に集中しろ
……その案件の所為でこうも掻き乱されてるんだ、どうすればいいんだ
「どうすればいいんだ……!!」
何か、何か自分を助けてくれるものはないか
縋るように視線を彷徨わせた先に、業務用のタブレット端末
数秒間凝視した後、メイプルはそれに手を伸ばした
『クジっちと千十は仲良いですよ、多分千十は自分よりクジっちに懐いてんじゃないかと思いますね』
「マジか」
『最初は千十が怖がってるんじゃないかって不安だったんですが、相性的には抜群だと思います』
「マジか」
『それにクジっちも千十の前だと、なんというかお姉さんっぽくなるんですよね。普段より落ち着いた雰囲気になるというか』
「マジか……!!」
部下であるキルトに相談してみたところ、意外な反応が返ってきた
遠倉千十と久慈は相性が良いらしい
これを聞いたとき、メイプルは安堵感で泣きそうになっていた
もうこれは答え出たようなもんじゃないかまったく! あれこれ悩まずキルトに確認するべきだった!
「妙案を思いついた。遠倉千十の担当黒服を久慈にしよう」
『えっ!? 新人研修が修了してないスタッフって、確か契約者を担当できないんじゃ?』
「そこは管理者権限でなんとかするつもり。そもそも新人“四年目”ってのが前代未聞なわけだしな」
『でもそれが可能なら、多分今のところ一番理想的じゃないかなと思いますよ』
「キルトもそう思うか!」
現場の意見には耳を傾けるに限る
メイプル自身も上司から「現場の黒服や所属契約者とは会話したり直接様子を見たりした方が良い」と言われていたが
普段の業務の多忙さにかまけて、なかなか現場の様子を直接見に行くことをやっていなかった
その結果として数時間もこの案件で悩む羽目になったわけだから、次回以降は必ず現場の視察に行こう。ついでに遠倉千十とも直接会話しよう
メイプルはそう反省しつつ、キルトとの会話で自身の判断を整理していった
『それで、千十は引き続きPナンバーで面倒見ることになりますか? それなら是非久慈を自分らの応援部隊に正式配属してほしいんですけど』
「いや、実は∂ナンバーに移籍させようと思ってる。部長からも久慈をPナンバーに置きっぱにするのは良くないって言われたからな」
『あー……、そうなっちゃうんですか?』
「そうなっちゃうな、個人的には∂ナンバーに迷惑掛けないかとても不安だが」
『実は先日羽金さんと会話する機会があって、何となく「クジっちが∂ナンバーに移籍したいって申告したらどうするか?」みたいな話になったんですよ』
「……羽金さんの反応はどんな感じだった?」
『「できることなら是非ともうちに来てほしい」って話してました。思った以上にクジっちの面倒を見たい様子で。なのでそういう心配は不要じゃないかと』
「これはいいぞ!!」
これはいいことを聞いた。やはり現場の声には耳を傾けるに限る!
決まりだ、久慈には∂ナンバーで修行してもらうとしよう
それにキルトの話によると、久慈も遠倉千十の前では多少落ち着くようだ。彼女も守る者ができればやたら自爆を繰り返す悪癖が矯正されるかもしれない
それに不安要素のあるPナンバー内より、立ち上げ間もないとはいえ比較的安全な∂ナンバーの方が、遠倉千十の安全も確保できるだろう
いざとなったら久慈に体を張って守ってもらおう! それに応援部隊はじめPナンバーが∂ナンバーと関わる機会を増やせばさらに安心だ!
我ながらいい案じゃないか! これで決まりだな!
『それで、クジっちの∂ナンバー移籍ってすぐ実施されるんですか?』
「ん? ああ、いや。こっちも色々別件で忙しいし、それが落ち着いてからになると思う。多分11月か12月くらいになるんじゃないかな」
『ということはそれまでの間は引き続き、応援部隊に籍を置きつつ新人研修修了を目指す……って感じですかね』
「まあそうなるな……、現場の負担はもう少し続くだろうけど、悪いが辛抱してほしい」
『いえ! 負担なんて全然! それにクジっちも自分のクセをようやく自覚してきたのか、突撃グセを改善できそうな感じですよ』
「そりゃいいな、できれば∂ナンバー在籍までに若葉マークが取れると最高だよ」
『話は変わるんですが、実はぷーたんが千十と会ってみたい様子なんですよ。友達になりたいって言ってて。会わせても問題ないですかね?』
「ん? 全然問題ないよ。それに久慈が∂ナンバーに移籍したら応援部隊も∂ナンバーと合同で動いたりする機会を増やそうと考えてるし」
『本当ですか!? やったぜ!! ∂ナンバーの子たちと交流する機会が増えればアクアの仏頂面も多少はマシになると思うんですよ!!』
意外とキルトも嬉しそうだな、アタシもようやくこの案件から解放される
そんなことを思いつつ、部下のはしゃぐ様子をタブレット越しに眺めながらメイプルはコーヒーを啜る
回答提出までまだ時間的余裕はあるな、よし
「後はそうだな……、久慈の現場で暴走する悪癖を抑える、とどめの一手があれば良いんだけど」
『実は秘策があるんですよね、クジっちは嫌がりそうだけど。興味あります?』
「ほう?」
キルトには久慈を抑える手があるという
その詳細を聞き出したメイプルの表情は、やがて薄気味悪いほど満面の笑みへと変貌した
方針は決定した。あとは実行あるのみだ!
□□■
メイプル
「組織」Pナンバー所属の黒服、キルトや佐川久慈の上司にあたる
現世代編(20年前)より後になって「組織」に加わったので、そこまで古株な人員ではない
個性豊かな上司と個性豊かな部下に挟まれストレスにまみれながらも日々戦う下位管理職
遠倉千十(とおくら せと)
「組織」所属契約者、東区の高校に在籍する高校一年生
学校の怪談「トイレの花子さん」(現象型)と契約しているようだが、本人は最近までその自覚がなかった
「先天性能力発現不良」により都市伝説の気配や契約者の力を知覚できても彼女自身は能力を発動できない難儀な状況にある
佐川久慈(さがわ くじ)
「組織」Pナンバー所属の黒服、元「飯綱使い」(「管狐」の契約者)
「組織」加入は大体四年くらい前だが、未だに新人研修を修了していない若葉マークの女子
いろいろあって一応この年の春にキルトら「応援部隊」の配属になった(正式なメンバーではない)
キルト
Pナンバー所属の黒服、「応援部隊」のリーダー
褐色肌にエルフ耳という明らかに日本人離れした容姿で、仕事がデキる雰囲気のお姉さん
新人研修の頃から後輩である久慈の面倒を見つつ可愛がっている
このSSまとめへのコメント
今夜セックスしたいですか?ここに私を書いてください: https://ujeb.se/KehtPl
今夜セックスしたいですか?ここに私を書いてください: https://ujeb.se/KehtPl
今夜セックスしたいですか?ここに私を書いてください: https://ujeb.se/KehtPl
今夜セックスしたいですか?ここに私を書いてください: https://ujeb.se/KehtPl
今夜セックスしたいですか?ここに私を書いてください: https://ujeb.se/KehtPl
今夜セックスしたいですか?ここに私を書いてください: https://ujeb.se/KehtPl