神谷奈緒「迷子か……」 (15)
アイドルマスターシンデレラガールズ 神谷奈緒のSSです
アイドルそれぞれに担当Pがいます
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奈緒「んーーー!! っと、終わったなPさん」
座りっぱなしだった体をググッと伸ばす。
ラジオの収録を終わらせたあたしは、Pさんと事務所への帰路についていた。
P「お疲れ様。午後のレッスンまでだいぶ時間あるし、どこかでゆっくりご飯でも食べるか?」
奈緒「いいな~! あ、ちゃんと割り勘にしてくれよ。いつもみたいにこっそり会計するなよな!」
P「気にしなくていいのに」
奈緒「あたしが納得しないんだよ。……パ、パートナーなんだし、こういうのは分け合うもんだろ?」
P「変わった理屈だな……。じゃあ今日だけは割り勘にするか」
奈緒「今日から、だ!」
P「了解了解っと。それにしても、すっかり春らしくなったなぁ」
奈緒「話題をすり替えるなよ……。ま、確かに暖かくなってきたよな」
P「今くらいの季節が一番好きだな。ほど良い気温でのんびりしててさ」
奈緒「わかるよ。あたし、暑いの苦手だしさー」
P「あぁ……その髪だもんな。夏場にもふもふしたらカイロ触ってるみたいに熱かった」
奈緒「今度やったらぶっ飛ばすからな!」
P「でも年中もふもふしたいし……」
奈緒「アンタはバカか?」
P「いやいや……奈緒バカかもしれない。奈緒があまりにも可愛いすぎて」
奈緒「かわっ……!? ……い、いきなりそんな恥ずかしい事言うなよ……」
P「あっははは! 奈緒、顔赤いぞ。……シャッターチャンス!」
奈緒「あーもう! 見るな! 撮るな! ニヤニヤするな!!」
P「奈緒は面白いなぁ」
いっつもあたしを撮りやがって!
一体何になるってんだよ!
奈緒「……ったく、Pさんはあたしをからかって楽しいのかー?」
P「そりゃあ楽し……じゃなくて、えーと」
奈緒「今楽しいって言いかけたよな!?」
P「そうか?」
奈緒「そうだってば! …………はぁ……ばか、Pさんのばか」
P「ごめんごめん。ちょっとからかい過ぎたか」
奈緒「!!」
そう言ってPさんはあたしの頭を撫でてきた。
いきなりだったからビックリしたけど……まぁ嫌ではない、かな。
奈緒「ん……ちょ、ちょっとPさん。撫でるの終わり! 終了!」
P「お、もういいのか?」
奈緒「これ以上は恥ずかしいってば……ってか街中でそういう事するなよ」
P「街中じゃなかったら良いのか?」
奈緒「そ、そういう問題じゃないし!」
P「はははっ! 可愛いな~」
奈緒「はぁ……ほんと、アンタは出会った頃から変わらないな。初対面の時からちょっかい出してさ」
P「人間そんなに変わんないって。いや、加蓮ちゃんのプロデューサーは変わったな」
奈緒「あー……いっつも2人でイチャイチャしてる。見せつけられてるあたしと凛の気持ちになってみろよ」
P「はは……遠慮しておく。まさかあんなに加蓮ちゃんに惚れ込むとはなぁ」
奈緒「大体あの2人はさぁ…………ん? なぁPさん」
P「どうした?」
奈緒「あそこにいる女の子……どうしたんだろ」
目の前には10歳かそこらの女の子が一人、佇んでいた。
そわそわしながら辺りを見回している。その顔はどこか不安げだ。
P「……何か探してる感じだな。もしかしたら迷子とか」
奈緒「あたし、ちょっと話してくるよ」
P「お、おい奈緒!」
すぐ近くに保護者がいるならそれで良いんだけど、本当に迷子だったら大変だ。
少女「……」
奈緒「こんにちは」
少女「!……な、何?」
奈緒「1人で立ってたから気になってさ。お母さんは近くにいるの?」
少女「……関係ないでしょ」
奈緒「……そっか」
少女「ほっといて。お母さんならすぐ私を見つけてく……っ!」
奈緒「はぐれちゃったか。大変だったな」
少女「うぅ……」
P「奈緒どうだ? やっぱり……」
奈緒「ん、迷子みたい」
P「そうだったか。さてどうするかな。交番に連れて行って保護してもらうとか……」
少女「……」
奈緒「……Pさん、一緒に探してあげようぜ。この子のお母さんを」
P「えっ!?」
少女「!!」
奈緒「確かに、交番で見てもらったほうが安心だろうけどさ、この子のお母さんも今探してると思うんだ。……それに、なんかほっとけなくて」
P「……」
奈緒「ど、どうかな? Pさんに任せるけど……」
P「……そんな顔されてダメなんて言えないな。俺も一緒に探すよ」
奈緒「Pさんありがとう! へへ~♪」
P(調子良いなぁ。ま、可愛いからオッケーか)
奈緒「なぁ、いつ頃はぐれた? 結構前?」
少女「……さっきだけど」
奈緒「さっきって言うならそんなに前じゃないかな。はぐれる前はどこら辺にいたんだ?」
少女「そこの公園……」
少女は今いるビル街の向こうを指さした。
確かあの辺には大きな公園がある。
P「母親を探してここまで来たってわけか」
奈緒「みたいだな……。ねぇ、あたしたちが探してやるよ。いいかな?」
少女「……人さらいかもしれないし……」
奈緒「大丈夫! お姉さんを信じて!」
少女「そこの人は怪しい顔してるし……」
P「お、俺怪しい!?」
奈緒「……あ、怪しい……けどさ! あたしが付いてるから!」
P「否定しないのかよ……」
少女「……じゃあ、探してほしい……かも」
奈緒「うん! 任せてよ。へへっ」
P(奈緒に負けないちょろさ……)
___
奈緒「さぁて、歩きながら探そうか」
あたし達は少女が先ほどまでいた公園に来ていた。
はぐれた場所がこの公園なら、母親もここを探しているはずだ。
P「初めて来たけど、こりゃかなり広いな」
奈緒「時間もあるし、くまなく探せば見つかるさ! 頑張ろうな!」
少女「う、うん」
奈緒「あっ、まだ名前言ってなかったね。あたしは神谷奈緒って言うんだ。そっちの男の人がPさん」
P「よろしく。怪しくないからね」
少女「よ、よろしく……おねがいします」
奈緒「あははっ! 好きに呼んで構わないから。じゃあ行こう!」
___
少女「……それじゃあお姉さんはアイドルってこと? 可愛い服着て踊るやつ?」
奈緒「そう! ま、まぁあたしには可愛い衣装は似合わないけどさ」
P「いや、誰よりも似合ってるけどなー。ほら、見てごらん」
Pさんは少女にスマホの画面を見せる。
……まさか!?
少女「わ~~! 可愛い~!」
奈緒「あーーっ!! やっぱりあたしの写真じゃないか! 見せるなよ!! ばか!」
P「コラコラ、子供の前で大声出すんじゃないって」
奈緒「くっ……覚えとけよPさん! ……と、とにかく! あたしはそういうお仕事をやってるんだ」
少女「すごいすごい! 私、アイドル好きなんだ!」
探し始めて20分ほど。少女は少しずつ、あたし達に心を開いてきてくれた。
どうやらこの子はアイドルに興味があるみたいだな。
P「おっ、アイドルやりたい? なんなら俺がプロデュースしようか」
少女「プロデュース?」
P「えーと……アイドルが歌ったり踊ったりするだろ? それを出来るようにするのがプロデュースって事だ。そして俺がプロデューサー」
少女「じゃあ、お姉さんはお兄さんがいないとアイドル出来ないってこと?」
奈緒「……ま、まぁそういうことになるかな」
P「俺たちは2人揃ってやっと1人前になれる。大切な相棒だよ」
少女「なんかすごい……」
奈緒「あまり恥ずかしい事言うなって……。でもな、そういう割に真面目に仕事しないんだよ。この人」
P「う」
奈緒「あたしがレッスンしてるのを見もしないで居眠りするし、外回りとか言ってあたしを連れ出して遊びに行ったり」
P「うう……反省します」
少女「じゃあ……私、アイドルになったらお兄さんよりもっと真面目な人にプロデュースされたい! しかもイケメンの!」
P「けっ! どーせ不真面目でイケメンじゃないよ俺は。……意外とマセた子だな君はー!」
少女「わぷっ!? や、何するの!?」
P「このこのー!」
少女「……ふふっ! あはははは!!」
P「ようやく笑ってくれたなー! 嬉しいぞぉ!」
Pさんが少女の頭をわしゃわしゃと撫でる。
この子もいきなり撫でられて戸惑ったみたいだけど、楽しそうだ。
…………。
奈緒「ちょっとPさん! 小さい女の子にそんな事しない! セクハラだぞ!」
P「それもそうか。いやいや、ごめんな」
少女「別にいーよ。面白かったし」
P(やっぱちょろい……)
奈緒「ほ、ほら! ちゃんと探そう!」
少女「……」
ちょっとだけ胸がモヤモヤした。
あたしも大人げないなー、子供に嫉妬しちゃうなんてさ。
……はぁ……やめやめ! 今は人探しに集中だ!
___
P「んー……なかなか見つからないな」
奈緒「この公園にいると思ったんだけど……」
P「あと1周したらビル街まで戻ってみるか。すれ違いになってるかもしれないから」
少女「……」
奈緒「そうだな……ごめんな。時間掛かっちゃって」
少女「ううん、私こそごめんなさい」
奈緒「謝る事ないよ。そうだ、そこのベンチでちょっと休憩しようか?」
P「歩き疲れただろ? ジュースでも買ってくるよ」
奈緒「じゃあPさん、お願い。あたしはこの子見てるから」
P「分かった。すぐ戻る」
___
奈緒「大丈夫。ちゃんと見つけてあげるからな」
少女「……」
僅かにコクン、と頷く少女。
さっきまでの笑顔は無く、最初に見た時と同じ不安な顔をしている。
気を紛らわせないと……アイドルの話題とかが良いかな!
奈緒「そういえば……」
少女「ねぇお姉さん、聞いてもいい?」
奈緒「え? うん」
あたしの声を遮って、少女が神妙な面持ちで話しかけてきた。
少女「アイドルって笑顔じゃなきゃダメなんだよね?」
奈緒「え……」
少女「私、迷子になって……お母さんが見つからなくて……ずっと暗い顔してる。これじゃアイドル目指せないよね」
奈緒「……」
少女「いつも笑顔でいなきゃ、アイドルになれない……」
奈緒「……バカ正直だなぁ。そんな事ないよ」
少女「どうして? テレビで見るアイドルはいつも可愛い笑顔してるのに」
奈緒「そりゃあアイドルは人を笑顔にさせるのが仕事だからな。自分が暗い顔してたらダメだよ」
少女「それじゃあ……!」
奈緒「でもな」
今度はあたしが少女の声を遮る。
奈緒「でも、皆その裏では笑顔になる為に大変な思いをしているんだ。毎日倒れそうになるまでレッスンして……喉が枯れそうになるまで歌って……」
少女「……」
奈緒「たくさん苦労した後に本番を迎えるんだ。そしたらさ、ステージに上がったら自然と笑顔になるんだよ」
少女「頑張ったから?」
奈緒「それもあるけど……あたしの為に応援してくれるファンがいてくれて、今からあたしと一緒に笑ってくれるんだって」
奈緒「なんか……そういう色んな想いが込み上げてきてさ、レッスンが大変だった事とか、そんなの忘れて心の底から笑顔になれるんだ」
少女「…………アイドルって、すごいね」
奈緒「うん、すごいよ。あたしもアイドルになって初めて気が付いた。応援ってのがこんなに力になるんだってね」
少女「……一番力になるのは……お兄さんの応援、とか?」
奈緒「……なんでそこでPさんが出てくる」
あー。
この子は何か察しやがったな。
少女「なんとなく。正解でしょ?」
奈緒「…………そうだよ、Pさんの応援が一番力になるよ。……だから、それに応えてあげたいんだ。あたしをアイドルにしてくれた人だから」
少女「……」
奈緒「あたしの、大切な人だから」
少女「…………決めた! 私もアイドル目指す!」
奈緒「おっ! その意気だ!」
少女「私もたくさんの人を笑顔にしたい。そしてお姉さんみたいに大切な人を喜ばせたいな」
奈緒「……最後のはアイドルになる理由としてどうなんだ……」
少女「あっははははは!」
奈緒「……まったく、さっきまで落ち込んでいたかと思えばいきなり笑い出してさ。……はははっ!」
P「おーーーい!! 奈緒ーー!!」
奈緒「ん?」
Pさんが大声であたしを呼んでる。
どうしたのかな…………あ。
少女「お母さん!!」
P「いやぁ、自販機探してる途中で心配そうな顔した人がいたからさ」
奈緒「良かった~~!」
少女と母親はお互い涙を流して抱き合っている。
な、なんだか見ているあたしまで泣きそう……。
奈緒「Pさんお手柄じゃんか!」
P「奈緒があの時声を掛けたから見つけられたんだ。偉いよ、奈緒」
奈緒「……ありがと。Pさん」
P「ほんとに優しいな、奈緒は。良い子良い子」
奈緒「な、撫でるなよ! ……ばか」
___
少女「お兄さん、お姉さん、ありがとうございました!」
奈緒「もう迷子になるんじゃないぞ」
少女「うん!」
少女の母親はお礼を言いながら何度も頭を下げていた。
Pさんはそれを必死で落ち着かせている。
少女「あ、お姉さんちょっと」
奈緒「どうかしたか?」
少女「私、絶対アイドルになるから……その時は一緒にライブしたいです!」
奈緒「!! ……わかった! 約束だよ、絶対叶えような!」
少女「えへへ~」
奈緒「あははっ!」
___
P「ふぅ~……一件落着。良かった良かった」
奈緒「ほんと、ありがとなPさん」
P「もうお礼は十分だよ。あの子のお母さんから一杯もらったから」
奈緒「何度も頭下げられてたな……」
P「それだけ心配だったって事かな。よし! 気分も良いし、改めてお昼ご飯にしようか」
奈緒「ん……でも午後のレッスンまであまり時間ないぞ?」
P「ふっふっふっ……実はな、ラジオ収録が延びた事にしてレッスンを遅らせてもらったんだ。だからゆっくり食べられるよ」
奈緒「はぁ……アンタはいつもそうやってサボろうとするんだから……。後でバレても知らないからなー」
P「トレーナーさんも今日ぐらい許してくれるって。さぁ行こうか!」
奈緒「ま、ずっと一緒だって言ったからな。どこまでも付き合うよ、Pさん!」
Pさんが手を差し出す。
あたしを導いてくれる人の手。
離れて迷子にならないように、ギュッと握りしめた。
奈緒「……そうだ! さっきの写真、全部消せよな!!」
P「了解了解~消しますよ~」
奈緒「消す気無いだろ!?」
P「当然!」
奈緒「ばかばか! なんでだよぉ!?」
いつもの調子でじゃれ合いながら、あたし達は歩いていく。
いつもと違い、手を繋ぎながら。
終わりです。
お姉さんしてる奈緒が見たかったんです。
奈緒可愛い。依頼出してきます。
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