とある魔神の上条当麻II (241)
彼女は何者なのだろう
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過去を話し終えた神裂は、ただ前を向いている。悲しそうな顔で。
その視線の先は、彼女が心の底から愛するインデックスか、お互い拳を交えたオティヌスか、傍観者であった当麻か、同じ過去を歩いたステイルか、それは定かではない。
「私達は感情という余計な物を捨て去り、時に敵の追跡者を演じ、時に害するものから彼女をまもり、今日まで監視をすることに徹していました」
誰も何も言わないので、「だから……」と神裂がまた話しはじめた。
「もう時間がないんです……! 今日を含めて、あと一週間もないんです……!! だから……っ」
ついに神裂が、切羽詰まったような声を出した。それはまるで、懇願する、弱々しい少女のようだった。
「彼女を、ーーインデックスを引き渡して下さい……!」
ついに、神裂は、頭を垂れた。
「……何、戯れ言いってんだ……!!」
誰も言葉を発さない『沈黙』を破るのは、オティヌスやインデックス、ステイルでもない。
その声は、神裂にただ傍観者としてしか位置付けられていた、オティヌスより格下と判断されていた、上条当麻のものだった。
その顔はさっきまでの腑抜けたような顔ではなく、真剣で、怒気を含んだ表情(かお)だった。
「インデックスを苦しめたくない!?
余計なものは捨て去った!?
ふざけんな! ただ怯えてただけじゃねぇか!!
自分が背負い込めそうなもんだけ背負って、他こいつに押し付けただけじゃねぇか!!」
「ッ!!!」
「何でテメェらが勝手にこいつを『不幸』って決め付けて勝手にこんなことやってんだ!
気づかねぇのか!? 自分達がこいつにただ下向かせてるだけだって!!」
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その言葉に、聞いていた二人はうっ、と声を詰まらせる。
二人の様子は当麻の尋常ならざる怒気にたじろいでいるようにも見える。
「インデックスを苦しめたくないってテメェら言ったよな!? でもどこかも分からない場所に一人ぼっちの状況がどんだけ辛いのかぐらい分かるだろ!? 何でそんな馬鹿見たいな選択しちまったんだよ!?」
「ほ、他にどうしろって言うんです!?
教会の中で監禁するのも考えました! でもそうしたら彼女の目には全てが敵に……!!」
「……誤解ときゃいいだけだろ。一年で記憶なくなんならその次の一年でもっと幸せな記憶を作ってやれよ……」
二人の魔術師は何も言わない。
「記憶失っても次の一年にはもっと幸せな記憶が待ってんなら苦しまねぇだろ……。インデックスを幸せにすることくらいは貫き通せよ。それができねぇんなら……」
魔術師は顔を伏せたままだった。そして当麻は、最期の言葉を叩きつけた。
「てめぇらにインデックスの友達はつとまんねぇ」
「何……!」
その言葉に反応したのは、神裂ではなく、ステイルだった。
「お前の言ってることは最もだ。けどな、世の中は何で綺麗事だけじゃやっていけないんだ。
『必要悪の教(こちら側)』の事情もあるんだ。
そんな感情論だけじゃどうにもならない事情がな……!」
「だからいってんだろ……!」
一瞬の間も開けず、当麻が言う。
「こいつを幸せにすることくらい、貫けって!!」
「……………………」
ステイルは何も言わない。だが、代わりに彼の手には、今の心情を表すような、炎があった。
「っ! ステイルッ!」
神裂が咎めようとするが、「止めるな」、としか彼は言わなかった。
「……お前は本当に生意気で気にくわないよ、心の底からな……!」
「…………俺も同じ気持ちだよ……!」
当麻も拳を握った。
まさに一触即発の空気。少しでも刺激が加われば、また新たな争いが起こるだろう。
「……いい加減頭を冷やせお前ら」
そんな空気の中、声を出したのはオティヌスだった。はりつめた空気は消えないが、構わずオティヌスは、諭すように話しはじめた。
「……まずルーンの魔術師、ここで争って何になる?
その時の感情で動くんじゃない。そのうち自分の身を滅ぼすことになるぞ。
そして魔じ……上条……」
この二人がいるところで、『魔神』という呼びは控えた方がいい。が、不覚にも当麻は何故か揺らいだ気持ちになった。
「お得意の説教は良いが、当然何か解決策でもあるんだろうな?」
「そ、そりゃ、原典の記憶を抜き取ったり……」
「お前はイギリス清教と戦争するつもりか。勝敗云々はともかく、お前ん家の野蛮……聖人の立場が悪くなるだろ」
「そうかもしんねーけど、このままほっとけるかよ! このまま記憶を消され続けるなんて……、こいつの人生なのに……!!」
すいません。23の質問は無視して下さい。
「これ以上こいつの人生を消され続けるだけにしたくねぇよ!!」
その言葉は上条当麻の心の願いにも聞こえた。誰の支えもなく、これからも一人で、何も知らず、この街をさ迷い続ける宿命を、背負わせたくなかった。
可哀想、という言葉は見下したような言葉だ。
けれど上条当麻にはわかる。自分以外の全てのものを失った気持ちが。
「だから、頼む! 二人とも!」
当麻の声が一段と大きくなる。
「俺に、インデックスを……任せてくれ!!」
「…………」
また辺りが沈黙に包まれる。当の二人は何も言わない、いや、言えない。何を言えばいいのか分からない。
オティヌスはただ静観していた。が、口角は何故か、少し吊り上がっているようにも見える。
「……私はとうまにまかせてもいいよ」
「!?」
「インデックス……」
「とうまは助けてくれるもん。私が飢えていたら食べ物をくれたんだもん」
それは、インデックスにある思い出。
「私を飢えから救ったように、とうまは私を救ってくれるよ、きっと」
インデックスの大切な友達。
「だから、大丈夫」
それは、至極当たり前で、最も困難なこと。
「私は……、とうまを……信じるよ……」
人を心の底から信じること。
「だ、から……」
その時、インデックスの体勢がぐらりと崩れる……。
バタン! と、インデックスが倒れた。
「イ、インデックス!?」
突然倒れたインデックスに、当麻が駆け寄る。
インデックスの顔は赤く、体中から熱という熱を出している。
当然、インデックスは苦しそうにうめいていて、口からは僅かに、「とうま……、オティヌス……」と二人の名を呼ぶ声が。
「まさか……、これが……!」
「ああ、症状だ」
驚愕する当麻に、ステイルが平然を装いながら、忌々しげに言う。
「もう良いだろ。インデックスの記憶を……」
「待って下さい」
「神裂?」
「彼らはいわば、今のインデックスのパートナーの様なものです。彼らが何とかすると言っているのなら、我々は静観すべきでは?」
「何を言ってるんだ!? 今日、昨日会った様な奴らだぞ!? もう時間は迫っている! やるぞ!」
「記憶を消す直前、何も出来なかった私達は、彼女に泣きつき、何度も謝りました。
その時間ぐらい、与えてもいいのでは?」
神裂はステイルと違い、冷静だった。
それがステイルの怒りにさらなる拍車をかけた。
「神裂!! 正気か!? 教会精鋭の僕らでもどうにもできなかったんだぞ!? あの得体の知れない奴らが、彼女を救える訳がない!!」
「そうでしょうか? 少なくともあのオティヌスと名乗る少女は聖人でもないに関わらず、魔術なしの肉弾戦でも私と互角の力を持っていましたよ?」
「なっ……!?」
「ステイル、何より彼女が信頼しているんです。
ここはインデックスの意思を尊重すべきです。
あなたは彼女を信じた人間を、信じられないんですか?」
その一言が、ステイルを黙らせた。
やがて、ステイルは「君は信じるのか?」と神裂に聞いた。
が、彼女はただこちらをまっすぐ見つめるだけだった。
「……はぁ、分かった」
ついにステイルが折れた。
「でもいざとなったら……」
「私もそのつもりです」
「話しは終わったのか?」
わかりきったことなのに、オティヌスが言葉をかける。
「ああ、君達を信じよう」
その言葉に、オティヌスは待ってましたと言わんばかりの顔をする。当麻はインデックスをだきかかえながら安堵した笑みを浮かべていた。
「だがその前に、君達のことを知りたい。
君達は何者で、どこの国の魔術師だ?」
神裂にも聞かれたことだが、これはあまり聞かれたくなかった。
さっきの勝敗はうやむやになったから、答える必要はないのだが、
断ったら面倒になりそうなので、仕方なくオティヌスは答えることにした。
「はぁ、上条……」
「な、何でせうか……?」
まだ呼ばれなれていないからか、当麻は多少びくついた様な、裏返った様な声を出した。
「……インデックスを降ろしてこっちにこい。
こいつらに正体を話す」
「必要ねぇだろ。下、地面だぞ?
つか、何でインデックス降ろす……」
「来い。いいから降ろせ」
オティヌスの声はなぜだかいつもより威圧的に聞こえた。
「………………」
「なんだそのオッレルス似の気色悪い笑み顔は」
「いや、ひょっとしてオティちゃん、インデックスに焼きもちを……イタイ、イタイ、イタイ!!」
「オティちゃん言うなっつってんだろ!! つか、妬いてねぇしっ!!」
「蹴んなって! インデックス抱えてんだぞ!?
つか妬いてんだろ、行動からして!
あと、上条さんの笑った時の顔はあんな気色悪くないぞ!?」
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「そこまで気色悪くなんかない!!」
「うるさいわよ、オッレルス!!」
「ゴ、ゴメン、何か罵られた気がして……」
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「……で? あらためて聞くけど、君達は何者なんだ
い?」
当麻に抱えられていたインデックスの体は、四人の後ろで、オティヌスの浮遊魔術(当麻がうるさかったので)によって数10センチほど宙に浮いていた。
両腕は自由だが体はボロボロの当麻は、隣に立つオティヌスが答えるのを待った。
「まず初めに言っておく。私達はどこの国の、どこの勢力の魔術師と言うわけではない」
国はともかくとして、オティヌスには組織はあるのだが、ここではそれを隠しておいたほうがいいだろう。
「フリーの魔術師、ですか?
それだけじゃないように思えますが?」
やはり、神裂は鋭い。たまらず苦笑したオティヌスは、内心で舌を巻いた。
「もちろんそこらの魔術師ではない。
ちょっと違っていてな。お前らも聞いたことがあるんじゃないか? ーーーー『魔神』」
「!!!?」
神裂とステイルが受けた衝撃は並々ならぬものだろう。
何故ならば、自分達が相容れていた存在が、
魔術を極め、『神』の領域にまで足を踏み入れた存在だったのだから。
普通はこの瞬間、生きているだけでも何億分の一の確率の奇跡なのだから。
「もっと詳しく言うとその失敗作だ。力は到底本物には及ばんだろうが、世界を壊すぐらいは出来る」
さらりととんでも発言がでたが、ステイル達は敢えて無視する。それよりも気になったことがあった。
「……まるで本物に会った様な言い方だな」
「ふん、何を言うか」
当たり前だろう、とオティヌスは隣に立つ当麻の背を叩く。それは彼を差し出すようだった。
「こいつが『完璧』な魔神だ」
敢えて、オティヌスは当麻をただの『魔神』として紹介した。100%成功の確率を喋るより、ただの魔神としての方が、都合が良いと考えた。
ちなみに当麻にはさっき蹴っているときに「何も喋るな」と伝えておいた。
ここまではオティヌスの演出通りだった。が、
「いまいち信じられません……」
「そこのマヌケ面が魔神? そういう寝言は寝てても言うな」
さんざんな評価だった。
当の魔神は何か言おうとするが、オティヌスから余計なこと言うな、とばかりに足を踏まれる。
色々とかわいそうな神様だ。
予想外の出来事に、オティヌスははぁ、とため息をつく。
「いや、確かに、こんな中も外も腑抜けな奴が魔神とは、私は正直今でも信じられん。
まぁ、そういう結果は見えていたが」
「おい」
「……仕方ない。魔神」
オティヌスは魔神呼びに戻す。
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「……あれをやれ」
「……分かったよ、いつものあれだろ?」
いまだに不機嫌な当麻は、オティヌスに言われて手のひらを前にだす。突然の事に、ステイル達は身構える。
すると魔神の手のひらから、まばゆい光を放つ魔方陣が出現した。
「どうだ? 初めて見た感想は?」
その輝きは、八年前、一人の少女と老人に見せたものと同じ光だった。
「『聖ジョージの領域』に出現した空間の亀裂から放たれる巨大な光の柱。
魔術名は"竜王の息吹"」
オティヌスが淡々とした説明口調で話す。
ステイル達は禍々しい光と魔力を感じ、驚愕としている。これが自分達に向けば、塵一つも残らないだろう。
実際、これは聖ジョージのドラゴンの一撃と同義なのだ。
「魔神級の魔術師……おっと魔神だったな。その限られた者達でしか使えん超魔術だ。
……それで、信じてくれたか?」
「…………信じましょう。あなたが魔神だと」
神裂はこれを見て信じたようだ。
「…………はぁ」
しかしステイルは、ため息をついた。
「正直、信じたくないけど、君が魔神であることを信じる……!」
不快感を隠そうともせず、ステイルはイライラ声で言った。当麻達に自分の大切な少女を委ねることが気にくわないようだ。
「で、改めて俺達にインデックスを任せてくれるよな?」
「ああ、任せたよ!」
「任せます」
二人は自分達を信じたようだ。
「しかし、私達が一年かけても見つけられなかったのに、あなた達には探す宛でもあるんですか?」
いくら魔神と言えど、後一週間でインデックスを解放する方法が見つけられるのか、神裂は疑問に思った。
しかしオティヌスはこう答えた。
「もう既に、方法は見つかった」
「!?」
「ほ、本当かよ!?」
「ああ。しかしそれにはまず、お前達の間違いを正す必要がある」
オティヌスは、ステイル達の間違いについて話しはじめた。
「最初に言っておく。人間が記憶のしすぎで死ぬことはない」
しょっぱなからオティヌスは、問題の大前提を覆した。それにステイルは勿論、神裂も「ほ、本当ですか!?」と驚いたそぶりをする。
「ほんとも何も、よく考えてみろ。インデックスの脳の八十五%は原典の記憶で、残りの十五%はたった
一年で埋まってしまうんだったら、
他の完全記憶能力者はたった七、八年しか生きられない、という理屈になるぞ」
「それに、人間の記憶したものはその種類によってそれぞれ別の部分に振り分けられる。知識は知識、エピソードはエピソード、というように。
知識である原典の記憶を消すべきなのに、何故エピソード記憶を消すんだ?」
「じ、じゃあ、一年おきに記憶を消すというのは……」
「お前らの上の人間のデマだろう。そう言えばお前らは絶対に助けようとするし、魔術どっぷりならその理屈でも信じるに決まってると踏んだんだろう」
大体、というよりほとんどの魔術師は、科学を嫌う、または苦手としている者達である。
中には一般家庭にある電化製品すらまともに扱えない者もいるので、こういった多少のこじつけでも信じてしまうのだろう。
「インデックスは天才なんだろ? 恐らく自分達へ反乱を起こされるのが怖くて、記憶を消して使いたい時だけ使えるように手近に置いたほうがいいと考えたんだ」
「…………インデックスが苦しんでいるのは?」
ステイルが静かに問う。
一見冷静に見えるステイルだが、その両拳は強く、固く握られていた。相当怒っている。
「一年周期にインデックスの記憶を消さないと死ぬ、といったような魔術でもかけられているんだろう。恐らくずっとな」
「最大主教……! あなたは……!」
ついにステイルが憤慨したかのような声をあげた。最愛の友人の命と人生、記憶すら奪われたのだ。彼は今、『最大主教』という人物に怒りを向けている。
オティヌスはステイルを敢えて無視して続ける。
「術式は恐らくインデックスの体のどこかだ。その場所さえ分かれば破壊できる」
「じゃあ、俺がそれを右手で壊せば……!」
「インデックスは晴れて自由になる」
つまり、可能なのだ。この少女の地獄を終わらせることが、自分達にはできる。このふざけた現実を、ぶち壊せる。それを実感した瞬間だった。
「だったら話しは早えな!」
「そうだな。しかしその前にもう一度聞く。お前達、本当に『私達』に任せていいのか?」
それを聞き、オティヌスの言葉の真意に気付いた神裂は、「いいえ、私達も協力させて下さい」と答える。
「インデックスの友として、あなた達に協力させて下さい」
「よし。……で、そこの神父は?」
「助けるに決まってるだろ。……彼女を救って見せる。ずっと前に、僕の魔法名に誓ったんだ」
「おお! ようやく折れてくれたか」
オティヌスのオーバーリアクションにステイルは煙草をふかすだけだ。それにオティヌスのニヤケ顔が自分の上司に似ているからか、さらにイライラが加速する。
「うるっさいな! とっととやれよ!!」
イライラが頂点に達し、ついにステイルが怒鳴った。
「分かってますって。さて、さっそくインデックスの術式を……」
急かされた当麻が軽いテンションでインデックスに駆け寄り、右手で彼女の体に触れようとする。
が、しかし、「待て! 魔神!」とオティヌスの慌てた声ですんでの所で静止する。
「な、何でせうか……?」
恐る恐る、当麻が聞く。オティヌスの顔は本気で焦っていた。
「いいか、魔神。インデックスが着ているのは、『歩く教会』だぞ?」
「ああ、そうだけど……」
当麻はまだ自分のしようとしたことが理解出来ていないようだった。
「即ち、魔術だ。お前の右手でそれに触れれば……」
「あ……」
当麻の右手は自分の幸運どころか、魔術すら消す。いや、それがこの場に置いて役に立つのだが、今その手でインデックスに触れれば、
「『歩く教会』は壊れて……」
「……インデックスの衣類はバラバラになる……」
それを聞いた神裂は横を向いて咳払いをする。
一方ステイルは幽鬼の様な表情を浮かべ、「燃やしてやる……!」といった不穏な言葉を呟いている。
「危うく上条さんの不幸の確率が働くところでした……」
もしあのまま触っていたら、一気に袋叩きだった。
「お前が完璧なのに完璧じゃない理由が分かった気がする……」
オティヌスはすでにげんなりとしていた。
気を取り直して当麻は、『歩く教会』に触れないよう気をつけて、インデックスの術式を探そうとする。
が、また問題にぶち当たった。
「……どっから探せばいいんだ……」
考えて見れば、どこから探すべきかそんなもの決めていなかった。後ろではステイルが「変なところ触ったら燃やす!」とうるさい。
というかずっと燃やす、しか言ってないな。
「あの~、神裂?」
「はい?」
インデックスの体に術式っぽいものとかなかった?」
いつも一緒にいた二人なら、それらしき物を見ているかも知れないと思った。
「……いえ、私の知る限りは……」
「そうか……」
また振り出しに戻る。こうなれば泣き寝入りだ。
「オティヌ……」
「自分で考えろ」
「……ひどい」
泣き寝入りも失敗した。こうなればない知恵を振りしぼるしかない。
(神裂やステイルにも見つけられなかったんだから、普通の隠し場所じゃないよな……。他人にも、インデックス自身にも見つからない………………あ)
それは偶然だった。いや、奇跡とも呼んでもいい。
当麻に答えが下りてきた。
「な、なぁ! 体の中は!? インデックスの身体の中に術式があるんじゃないか!?」
その言葉に、三人ははっ、とする。
「例えば……口の中とか」
確かに、体内に術式があるのなら、ステイルやインデックスには発見はまず不可能だ。しかし口の中ならば、まだ術式の解除ができる。
それに納得したのか、オティヌスは「でかした!」と声をあげる。
「本当によくやった! まさかこんな的確な答えをお前が導き出すとは!」
「誉めすぎると逆に傷つくんですけど!?」
当麻が悲痛な叫びを上げる。不憫すぎるだろ。
「……で、口の中、というと……」
「もちろんお前が探せ」
「デスヨネー」
これで見つからなかったら、また振り出しだ。
そう思いながら、当麻はインデックスの口をできるだけ優しく開く。口内は温かいというより熱く、インデックスの熱い吐息が手にかかる。
そして当麻はその中を覗く。
「……あった」
見つけた。喉の奥に、魔方陣が描かれていた。
「前から思うんだが、シルビア程度、お前には赤子以下のはずだろ」
「お前はあの『お仕置き』を知らないから言えるんだ!」
すると突然、当麻の体がぶる、と震えたように見えて
「シルビア怖いシルビア怖いシルビア怖いシルビア怖いシルビア怖いシルビア怖いシルビア怖い」
と、何かのトラウマを呼び覚ましてしまったようだ。
「で、インデックスを私達に預けるのはいいとして……」
(潔いくらいにスルーしたんだよ…………)
「お前達の方はどうなんだ? インデックスを監視する任務も解かれ、実質、そっちの上司に逆らったようなことをしたんだぞ?」
形からすれば二人は、『必要悪の教会』に逆らったことになる。恐らく二人もそれを覚悟してインデックスを救おうとしたのだろう。
それ相応の罰が下るはずだとオティヌスはおもっていた。
「いえ、インデックスの件については何も言及されていません。私達に対しては、通常の勤務に戻れ、というお達しだけでした」
「それだけ?」
「教会の方もあまり表沙汰にはしたくないのでしょう。インデックスはイギリス清教の重要人物ですから」
「ま、君達が僕達にする心配事なんて、ないってことさ」
そう言うとステイルはゆっくりと振り返り、「彼女をよろしく」とだけ言って神裂と共に当麻の病室を出た。
「……ま、とりあえずよろしく。インデックス」
「とりあえずよろしくな」
「なんで『とりあえず』!?」
「「いや、急だったし」」
「だとしても扱いがひどい!」
そしてまたいつもの空気に戻る。
今の所はインデックスがいじられ役にいるようだ。まぁ、基本自由奔放なインデックスを翻弄できるのはこの二人ぐらいだろうが。
「あ、インデックス。あのお医者さんに俺の薬貰ってきてくれない? 後で取りに来るよう言われてるから」
「わ、分かったんだよ。でも代わりに、お家に帰ったらいっぱい食べさせてほしいかも!」
「ああいいぞ。当麻(こいつ)の財布が空になるくらいまでは大丈夫だ」
「何が大丈夫だ!?」
「分かったんだよ!」
「わかるなーーーーーーーー!」
前言撤回。オティヌスの方が上手であった。
「…………お前……後で覚えとけよ……」
「暇だったらな」
つまり、覚える気はない。
当麻は諦めたように、はぁ、とため息をつき、上体をベッドに寝かせる。昨日の疲れが完全に取れたわけじゃなかった。
それに後一週間は入院生活、とあのカエル顔の医者が言っていた。
「…………ふふ…………」
「?」
オティヌスが急に笑った。それを見て当麻は怪訝な顔をする。
「お前と会って、早くも八年たったか。正直、私にとって、お前と出会ったあの日は最高の日だと思っている。勿論今も」
「ああ、もう八年たつのか……」
オティヌスが唐突に他意のない話を始めるのはいつもの事なので、当麻も慣れたように返す。
「バチカンでお前とまた会ったときも、お前は私のことを覚えていてくれてたな」
「そりゃ、あんな痴……すいません、なんもない」
「……それ以上言ったらグーをとばすつもりだった。
ま、それも覚えているくらいなら問題ない。やはりお前は何の記憶も失っていないな」
「人名、用語、知識、全部問題無かったしな」
当麻が目を覚ました後、 オティヌスは自分に細かい所まで質問してきた。当麻はその全てを正確に答えていたし、オティヌスが頭の中を覗いても、脳の機能には何の問題もなかった。
つまり、上条当麻は何の記憶も失っていなかった。
次回予告
「また勝負かよ! このビリビリ中学生!」
魔神になった不幸体質を持つ少年ーー上条当麻
「ビリビリじゃなくて、名前で呼べっての!」
学園都市のビリビリ中学生ーー???
「それほどこの町は、人を狂わせるんだ」
クローン(?)の魔神の失敗作ーーオティヌス
「もう! 卵ばっかりはイヤなんだよ!」
十万三〇〇〇冊を記憶する少女ーーインデックス
「よろしくだにゃー、カミやん」
謎の金髪グラサンニャーニャー男ーー???
「ボクぁ落下型ヒロインのみならず、」
謎の青髪変態ピアス男ーー???
「―――と、ミサカはツンツン頭の少年に答えます」
学園都市のビリビリ中学生(?)ーー???
「 第五話・学園都市の日常」
上条当麻と御坂美琴が出会ってから数日たった。
その日、学園都市は記録的な猛暑を観測し、今の時間帯なら平日は学生達が通学中で、その暑さに身を焦がすはずだが、その日はちょうど日曜日で、この猛暑の中では誰も外を出歩こうせず、ほとんどは冷房の効いた学生寮に引きこもっているだろう。
が、しかし、当麻らのいる学生寮は、数少ない例外だった。
「あ、暑い……んだよ………」
当麻達が住む、とある高校の学生寮の一室。純白修道服のシスターことインデックスは、そのリビングでうだるような暑さに耐えきれず、だらしなくねっころがっていた。
「そ、それに、お腹すいたよぉ……。とうま~~、朝ご飯まだ~~?」
この暑さなら食欲も失せるのが普通だが、インデックスはそんなこと関係ないようだ。
それを聞いた当麻は、テーブルの宙に浮いた卵とのにらめっこをやめ、「やかましい! 上条さんは忙しいんです!」とインデックスへ一喝した。
しかしその弾みで、宙に浮いた卵はバリリッ、という音をたてて割れてしまった。
「集中しろ! これで三十一個目だぞ!」
今度はテーブルの向かいに座っているオティヌスが、半ば涙目で当麻に一喝する。
それを聞いた当麻は「不幸だ……」とお決まりのセリフを呟く。
「お前はどんだけ卵を無駄にする! 今日と昨日を合わせて、六十個はやってるぞ!」
「せ、正確には五十三個なんだよ……」
インデックスが意味のない訂正をする。こうでもしないと気が持たない。
「ほら、まだ六十個もいってないよ!」
「やかましい、開き直んな! 六十個も五十三個も五十歩百歩じゃねぇか! インデックス、テメェがんなこと言うからこいつが屁理屈胡くんだよ!」
ついに溜まったストレスが爆発し、インデックスは「どうどう、落ち着くんだよ、オティヌス」といつかの流れのように宥める。
「私は犬じゃねーしっ!!」
(この流れどっかであったな……)
当麻がやっているのは、魔力をコントロールする訓練"卵割り"だ。八年前にオッレルスから魔力を扱うための訓練としてやらされていて、とうの昔に成功した(二百個近く無駄にしたが)はずだが、なぜ今更こんな訓練をやっているのか。
それは学園都市に着いたその日のこと、彼はインデックスを救うため、自らの身体に光の羽を受けた。
魔神級の魔術の余波だけあって、普通なら骨も残らないだろう。しかし上条当麻は魔神。身体に受けて死にはしなかったものの、魔力の生成と制御に障害が残ってしまった。
このまま魔術を使われると下手すれば世界そのものがぶっ壊れる危機を感じたオティヌスは、当麻に昔やった"卵割り"の訓練を聞き出し、早速昨日からその訓練を課していたのだが、一向に成功する気配は無かった。
「はぁー、はぁー。……すまない、取り乱した」
さっきのは取り乱したってレベルじゃ無かったけど、と当麻は思った。しかしそれを言うとまたキャラが崩壊しかねないので、黙っておこう。
「今日はこれくらいにするか。卵はもうないし」
「んじゃ、朝ご飯にするか」
「ご飯!?」
ガバッ、とインデックスが生き返る……もとい起き上がる。
「は、早く食べたいんだよ! とうま! 今日は何!?」
「あー、卵焼きと目玉焼きとスクランブルエッグにしようかな」
「ぜ、全部卵……!」
「さすがにもう飽きたぞ、魔神」
「と、おにぎりです」
「よっしゃ! …………ハッ!」
自分の好物が出て素直に喜ぶオティヌス。しかしそれを見た当麻がにやけているのに気付き、ハッとなる。
「き、貴様……! 図ったな!」
「えー、何のことでせうか? オティちゃイヤ、マジでごめんなさい!」
「もう一回"これ"で縛られたいみたいだな、魔神。いや、上条当麻……」
彼女が手に持つのは、病院で当麻を縛ったいつかの縄だった。
「もう! 卵ばっかりはイヤなんだよ! おにぎりは前も食べたし! もっと別のが食べたいんだよ!」
自分を無視する二人と空腹に耐えきれず、ついにインデックスが癇癪を起こした。しかしオティヌスと当麻はそんな事どうでもいいとばかりに、
「黙れ、インデックス! 今日という今日は、こいつのふざけた頭を刈り取ってやんだよ!」
「インデックス! そんな事言わずにたす……不幸だああぁぁぁぁーーーーー!!」
上条家は相変わらず、平和だった。
そして、一悶着あったが三人は無事朝食をむかえることができた。相変わらず卵しか並んでいなかったが、さっきの一悶着も含め、もはやそれは日常風景だった。
「やっぱり五日連続卵料理はキツイんだよ……」
と言いつつ、これで三十個目の卵焼きを口に入れるインデックス。
「そうか? まぁ、確かにコレステロールは溜まりそうだが……」
いつもはインデックスに賛同するはずのオティヌスだが、今日は好物のおにぎりが並んでるだけあって、朝から上機嫌だった。
「ステイルからの生活費がお前の食費で泡になるんだよ。文句あんなら食う量減らせ」
当麻がこれで何回目かも分からないセリフを言う。
「でも、この食欲は押さえきれないんだよ!」
「修道女にあるまじき言葉だな。禁欲じゃなかったのか?」
「オティヌスまで……! でも私はまた修行中の身であって……」
「修行中ならなおさらじゃないか? まぁ、その気になれば私と上条は食事をする必要もないのだが」
「だ、だったら……」
「かといって私達も空腹に完全に耐えきれる訳じゃないぞ? 前に一ヶ月ぐらい飲まず食わずでいたが、精神がおかしくなりそうだった」
「んで、一ヶ月ぶりの食事の感想は?」
当麻が興味本位でオティヌスに聞いた。
対して、オティヌスが答えた。
「あの時は全ての苦痛から解放されたようだった。
思えば、私がおにぎりが好きになったのはあの時からだったな……!」
「おにぎり食ったって……、二年前のあの日じゃねぇか!」
「なんだ、覚えてるのか?」
「当たりめぇだ! あん時何も言わずに姿消しやがって! 後から一ヶ月はお前が消えたとかでトール達が俺んとこに来たり、お前に恨み持った魔術師がお前探しに襲って来たりで大変だったんだぞ!?
んな下らねぇ理由で消えてたのかよ!? 事後処理大変だったのに!」
「だ、だったら、文句あるならあの時に何してたか聞いてたら良かっただろ!?」
滅多に見せない剣幕に、オティヌスはややおののきながらも言い返す。その弱々しさから、あまり効果は無さそうだ。
しかし、当麻から返ってきた答えは、予想の斜め上をいっていた。
「珍しくお前が疲れてたから何も言えなかったんだよ。あんなに弱々しいお前は初めて見たからな。敵の魔術師に襲われたかとか、心配してたんだぞ?」
当麻の「心配してた」という言葉を聞いて、不意を突かれたオティヌスは顔を赤らめて、何やらゴニョゴニョ言い始める。僅かに聞こえたのは「べ、別にそんな…」「お前になら……」だが、当麻にはどういう意味か分からなかった。
「ご馳走さま、なんだよ」
空気を無視して食べ続けていたインデックスが両手を合わせる。当麻もそれに続いて「ごちそうさん」と言った。
「さて……。オティヌス、これから何か用でもあるか?」
今だにゴニョゴニョ言っているオティヌスが、それを聞いて「あ、ああ。そうだな」と冷静さを取り戻した。
「……とりあえず、また新しい冷房機を買うか。この前買ったのも、昨日ぶっ壊れたしな……」
また、とは、ぶっ壊れた冷房機が一つ目じゃないということだ。昨日の謎の落雷によって今の冷房機はおじゃんになってしまった。すると、オティヌスは突然何か黒いオーラを出し始めた。
「なぁ、魔神。思ったんだが、そろそろ例のビリビリ女を粛清しに行かないか? もう我慢の限界なんだが」
「しゅ、粛清って……! お前が行くと洒落になんねぇじゃねぇか! それと上条さんはそんな事に加担しません!」
当麻が
上の110のは誤投です。すいませんでした。
「チッ。なぁ、インデックス? "竜王の殺息"って知ってるか?」
断固とした態度をとる当麻に対して、オティヌスは次にインデックスに不安な言葉をかける。
これを聞いて当麻は必死に「答えるなよ!? 絶対に答えるなよ!?」と言った。
当のインデックスは、可愛らしく小首を傾げただけだが。
「ま、あの女の事は置いといて、とりあえず明日から行く高校の準備をするか」
「え? ちょ、オティヌスさん!? 今さらっと何て言いました!?」
「さーて、まずは冷房機を買いに行くぞ。準備は後だ」
「ねぇ無視? そんな怒ってんの? エアコン壊されたの俺に原因あんの? ねぇ?」
エアコンを壊されたのが原因ではなく、オティヌスは当麻が他の異性とつるんでいるのが気にくわないのだが、それに気づかない当麻はかなりの鈍感だ。
「先日あのカエルの医者からここのIDが渡されてな。私達がここに移り住んだのも、そのIDに記されてる学校の寮がここだったからさ」
「んなもん医者がやっていいのかよ……。てか、今更学校行くって」
「今の歳なら高校生だろ? 平日に外にぶらつかれると、ここの治安を守ってるっていう警備員とやらに毎回補導されるだろ。おとなしく行け」
「けど……」
「……まぁいい。お前がどうして躊躇するのかは知らんが、とりあえず冷房機は買いに行くぞ。
ほら、とっとと準備しろ」
「わかったよ…………」
しぶしぶながらも当麻が承諾した。
「ほら、インデックス。お前も準備しろ。幸い家電量販店はここから近い」
今日の分はここまでです。
次は明日か明後日に投下します。
「だったらあれを使ってみたい。丁度この前完成した物なんだが」
「完成? ひょっとして作ってた霊装かよ?」
前にオティヌスの仲間と話している時、オティヌスは何やら魔神級の霊装を作っているらしいと聞いた。
それにオティヌスは何回か家の原典を借りに来たりしていたので、あの原典を霊装を作るための参考にでもしていたのだろうかと思う。
「ん、知ってたのか。北欧神話に出てくるオーディン、別名オティヌスのみが持つ『骨船』と呼ばれる霊装だ」
そう言ってオティヌスがポケットから取り出したのは、ナイフで文字のようなものが刻まれていた何かの動物の脚の骨だった。
「自分たちを移動させているのではなく、自分たち以外の全て、惑星の方を移動させることで瞬時の移動を実現しているんだ。
動くのは地球だから、お前の右手も関係なしで移動できる」
「へーすげーな! オティヌスってこんなものも作れんのかよ」
「借りにも魔神の失敗作だ。これくらい余裕で出来なくてどうする。
この場所じゃ使えないから一旦外に出るぞ」
当麻に褒められたせいか、若干嬉しそうな表情のオティヌス。
そのまま悠々と二人を連れて外に向かえたらよかったのだが突然、「あ」とオティヌスの足が止まった。
「ど、どうしましたー? オティヌスさん?」
嫌が予感はするが、当麻は取り敢えず背を向けたまま固まっているオティヌスに声をかける。
するとオティヌスは「怒らないで聞いてくれ…」と大変申し訳なさそうな顔でこっちを見る。
「……………実はこれ、だいたい三〇〇から四〇〇キロくらいの誤差が当たり前なんだった」
「はぁ!? 三〇〇から四〇〇って、俺の誤差の百倍もあるじゃねぇか!」
「し、仕方ないだろ! 地球は一直線じゃないんだ! これくらい当たり前だ!」
「逆切ですか!? お前の『骨船』なんかを期待して損したわ!」
「つ、つまり、また…………」
ギャーギャー言い合う二人を傍目に、インデックスは絶望的な声を漏らす。
「……歩かなきゃなんねぇ……」
当麻の言葉で、ハァ、と三人分のため息がその時同時に出た。
「…………どうしてこうなった……………………」
再び歩き始めた三人。灼熱地獄のような炎天下に置かれ、その顔に最早生気というか、希望というか、そう言ったものは一切無かった。
「何でだ。私達は普通でいたはずだ。いやいれたはずなんだ。バカの卵割りの訓練にだけ時間を潰していれば…………」
(オティヌスにも限界が来やがった…………。インデックスは…………)
ちらり、と隣を歩くインデックスを見る。
「アハハ、アハハハハハハハ!!!
ねぇねぇ見てよ当麻!? 目の前に緑色の髪をした変な男の人がいるよ!? アハハハハ!!!」
「ダメだ……(緑色の髪の男?)」
正直自分も限界が来ていた。このままでは本当に死んでしまう。魔神だから、といういつもの法則はちゃんと通じてくれるのだろうか?
すると追い討ちをかけるように、「ちょっとアンタ!」という声が聞こえ、自分の身体がビクゥッ! と跳ねた。
「その声は……ビ、ビリビリ」
目の前に仁王立ちしているのは、茶髪で常盤台の制服を着た、当麻が最近よく出くわす少女だった。その少女は「またビリビリって……!」と身体から、比喩ではなく本当に電気を放出する。
「ビリビリじゃなくて、名前で呼べっての! さ、勝負よ!」
「また勝負かよ! このビリビリ中学生! 昨日もやったじゃん!」
「だ・か・ら・名前で……!」
「ハイハイ。でも御坂、悪いけど今日はムリ! またお前のせいでぶっ壊れた我が家の家具をまた買い直しに行かないと行けないんだよ!」
「ハァ? 知らないわよそんなの。さ、とっとと行くわよ!」
相変わらずの美琴の自分勝手ぶりに、当麻はげんなりとする。こっちはそれどころじゃないのに。
しかし当麻は突然、背後からの禍々しい気配を察知した。
「………………お前が学園都市第三位、"超電磁砲(レールガン)"の御坂美琴か?」
それはオティヌスのものだった。しかしその様子はまるで宵街を徘徊する吸血鬼のようで、目はしっかりと美琴を向いていた。
今日はここまでです。
なら
上条「まずは、その幻想をぶち[ピーーー]??」
上条「まずはそのふざけた幻想をぶち[ピーーー]??」
「クッソー! 二人にはボクらが入る間もないんかー!」
「え!? いや、何でそうなんの!?」
「何でって、幼なじみ二人が揃って学園都市に来たんやろ? もう普通にカップル成立しとうやん! どんだけアツアツなんよ!」
一人勝手に盛り上がり始める青髪ピアスと呼ばれる男。このままでは重大な勘違いをされかねないと思い、一緒に否定をしてもらうため(恐らく怒ってるはずの)隣のオティヌスにチラリと目をやるが――――
「(カアァァァァ)」
「(何故に顔を赤らめているんだ、オティヌス!)」
まんざらでもなかったようだ。
「んじゃ、改めて自己紹介……と言いたいところだが、オレはもう昨日やったからいいかにゃー」
青髪から解放(未だに疑惑は残っているが)され、土御門がそれぞれの自己紹介を始める。
「なんやツッチー、もうあっとったんかいな……。
あ、ボクは青髪ピアス。みんなからは青ピって呼ばれとうでー。よろしゅうなー。カミやん、オティヌスはーん」
「あの、本名の方は………」
「……禁則事項や (キリッ)」
「(あ、こりゃダメだ)」
重大な疑問を頭に残しながら、次に青髪ピアスの隣にいる黒髪のロングヘアーのしっかりとしてそう(ついでに巨乳)な女生徒が自己紹介を始める。
「私は吹寄制理。困ったことがあったらいってちょうだい」
「あ、委員長ですか?」
彼女のこの性格なら間違いない、そう確信した当麻だったが、
「いいえ、委員長はこの青髪の変態よ」
「ブォアァッ!?」
完全に意表を突かれた。思わず吹き出す上条。
「ひどいなフッキーはん。ボクは変態とちゃうでー」
「ロリコンが何をいっている!」
変態に吹寄が凄んだ。
「だからロリコンちゃう!」
だが、身体が一回り大きくなったかのような気迫を出しながら、青髪ピアスが思いの丈をぶつけ始める。
「ボクぁ落下型ヒロインのみならず、義姉義妹義母義娘双子未亡人先輩後輩同級生女教師幼なじみお嬢様金髪黒髪茶髪金髪ロングへアセミロングショートヘアボブ縦ロールストレートツインテールポニーテール――――――――――」
「「ふんッ!!」」
「へぶしっ!」
吹寄とオティヌスの息のあった蹴りが、青髪の変態に直撃、目標を静める。
その後は特に何も問題は無かった。
上条とオティヌスは同じクラスの生徒から心よく受け入れられ、困った時は土御門や小萌先生が助けてくれた。上条の不幸体質の事も、オティヌスの言うとおり『ちょっと不幸な奴』程度にしか思われず、何の心配もなかった。
だが、一番の問題は能力開発だった。
学園都市では投薬、電極などで脳を改造し、生徒達に能力開発を行う。
しかし魔術師である上条とオティヌスがそれを受ければ、どうなってしまうか分かったものでは無かった。
が、幸い二人は既に能力開発を受けたことになっているらしく、二人は無能力者と判定された。
今日はここまでです。
絹旗「上条は超何にしますか?」
上条「そうだなあ、やっぱ定番メニューのオムライスかな。オティヌスはどうする?」
オティヌス「私も上条と同じもので良いぞ。」
絹 浜 フレ 麦 滝「!? いまどこから(超)声がした(んだ)?」
上 オティ「あ・・・・。」
麦野「上条は何か知ってるっぽいなあ?話してもらおうか?」
上条「実は・・・・、かくかくしかじかで・・・・・。」
麦野「この世にかくかくしかじかで通じる奴何ざ、居ねえよ。」
上条「ですよねー。やっぱ話さないとダメか?」キョロキョロ
絹旗「超当り前です。」 浜面「このままじゃ、気になって夜も寝られねえよ。」
フレメア「気になるから話せ。にゃあ」 滝壺「話したくないかみじょうを私はおうえんする。」
オティヌス「上条、話すしかないようだぞ?」 上条「みたいだな。」
上条「じゃあ皆、これを見てくれ。」
「いや、……正しくはあいつの娘、ってところか?」
エセの土佐弁がなくなった口調で土御門が続ける。
「あいつと一緒にするな。血縁関係すら怪しいんだぞ。で、お前は何者だ? あいつを知ってるってことは、この街の暗部とやらと関わっているのか?」
「いやいや、オレは――――――」
「ちょ、ちょっと待った!」
何かを言いかけた土御門を、状況が全く理解できない上条が大声で止める。
「俺を置いてって二人だけで話進めんなよ! 土御門、何でオティヌスの素性を知ってんだ!? あいつって誰だよ!?」
置いてけぼりを食らって頭の中クエスチョンマークだらけの上条。しかし土御門は「だからー」と上条の方を向いてまたニヤリと笑って、
「オレはイギリス清教『必要悪の教会』所属で、今は学園都市のスパイ、土御門元春ぜよ」
「え? は? えーーーーーーーー!!!?」
驚きの土御門の素性に、上条が驚愕のあまり大声を上げる。当の土御門は「ハッははー」と笑っていて、オティヌスは二人のやり取りが終わるのをただ待っていた。
「ス、スパイ!? いや、それよりも『必要悪の教会』ってことはステイル達とインデックスの同僚かよ!? いやつーかお前魔術師なの!?」
「いや、実はイギリス清教にスパイのふりしている学園都市の逆スパイってやつで、そのまた実は、逆スパイの振りをしている逆逆スパイで、そのまた実は……」
「ようは信用できねー嘘つきじゃねぇか!」
「まぁそうだにゃー。双方の勢力の間で争いを生ませないように駆け回っている、多角スパイってやつですたい」
「(うさんくせー)」
「イギリス清側からは、インデックスの監視役の監視役、学園都市統括理事長からは、お前らが暴れないように監視するようそれぞれ命じられててな、あのカエル顔の医者からIDと一緒にこの学校の学生証を渡すよう言ったのもオレなんだぜ?」
どうだすごいだろ? とでも言いたげなドヤ顔で土御門は言った。まあ、これが彼の素でもあるのだが。
「つか、そんなあっさりと認めて良いものじゃねぇだろ……」
「始めはこっそり監視していくつもりだったんだが、バレて下手な嘘つくより、はっきりと素性を言った方が良いと思ってだにゃー。
ま、取り敢えず問題さえ起こさなければこっちも手を出しやしない。
オティヌスは結構頭がキレてそうだから、どっちも痛い目を見たくはないはずだぜ」
「遠回しの脅迫か? あいつにでも吹かれたか?」
やや挑発気味にオティヌスが言う。
しかし土御門は大して気にもせずにヘラヘラと笑っている。
「オレが命じられたのは監視だけだ。これはオレからの頼みとして受け取ってくれ」
「頼み? なんだよそれ?」
「……近々、魔術サイドとここ科学サイドで大きな争いが起きそうだ。例え避けられたとしても、飛び火が散る。だから余り大きく動く訳にはいかんぜよ」
段々と土御門の顔が真剣になっていく。彼は自分を多角スパイと言うだけあって、様々な情報を抱えているのだろう。そしてこれからどうなるのかも、大方予想もついているはずだ。
「ま、こっちは義妹が無事ならそれでいいんだけどにゃー」
「「おい」」
そして根っからの変態でござった。
「んじゃ、オレはそろそろ本当に戻るぜ。昼休みがもうすぐ終わりそうだからにゃー」
そう言い残して、土御門はその場を去っていった。
残った上条達もまた、弁当の残りを食べて早く教室に戻る事にした。
「……なぁオティヌス。もしかして話に出てきたあいつって……」
「ああ。飛行機の中で話したあいつだ。それ以外に誰がいるというんだ?」
淡々とした口調でオティヌスが答える。対して上条は「でもなぁ……」と髪の毛をかきながら呟いた。
「未だに信じらんねぇよ。世紀の魔術師、アレイスター=クロウリーが生きてて、この街の統括理事長やってんなんて」
その頃、多重スパイという衝撃の事実をあっさりカミングアウトした土御門は、二人に別れを告げた後、教室にも行かずに階段の暗い隅で電話をしていた。
その相手は、例の『人間』だった。
「……やっぱりバレた。さすが、戦いと詐術の神の名を冠するだけある。俺をつたって、芋づる式にお前の『プラン』にたどり着いて、その妨害へと本気で乗り出そうとしている……。
……ま、ここまでは計画通りといったところか? アレイスター?」
そして、電話の向こうに居るであろうアレイスターは一瞬間を置いて、
「何とか誤差を修正仕切れた、と言ったところだな。やはり『幻想殺し』が魔神となったのが大きな痛手だったが、今はまだ、彼がここを離れると言った気は無いようだな」
「(やはり計画通りか……)」
今の時点の土御門は、一見アレイスターとは協力関係の様に見える。
しかし土御門は、この『人間』が何か世界を揺るがす程の事、例えば八年前の『魔神』の誕生の様な大事を仕出かそうとしているのを知っていて、それを阻止しようとしていた。
勿論アレイスターもまた、土御門の目論見を知っているだろう。
しかしそれを知っていても、こうして土御門を使っていると言うことは、まだ自分を手放すには早いと思っているに違いない。
しかしそれと同時に、土御門にはある考えが浮かぶ。
『こうして土御門元春が、アレイスターの目論見を挫こうとしている事すら、アレイスターのプランの一部なのでは』と。
仮にそうだとしても、土御門がアレイスターの遂行する『プラン』から目を離す訳には行かない。ただでさえ、前科を持っている危険人物なのだ。
そしてもし、その魔の手が自身が命を課して守ると決めた舞夏におよぼうとすれば、必ずや電話の向こうの相手を殺してでも止めるつもりだ。
『……ここまでは順調と言ったところか。
……おい土御門、聴いているのか?』
「ああ聴いている。じゃ、切るぞ」
もう要は済んだ、とばかりに一方的に土御門は電話を切る。
「さて……幻想殺しの魔神、上条当麻。世紀の大魔術師、アレイスター=クロウリー。
どっちに軍配が上がるか……」
その心中は、穏やかでは無かった。
二週間振りなので今日はこれくらいが限界です。
週末は多く投下できそうです。
「? どうかしましたか、とミサカはいきなり凍りついた様な顔をしたあなたに声をかけます」
「!?」
しまった、顔にまで出ていたか。すぐに凍てついた思考を元に戻そうとするが、一向に、頭は回ろうとしない。完全に冷静さを欠いていた。
何とかして取り繕おうと必死に考えていると、
「ナアァァァァニしてんだ、カミジョオ~~?」
まさしく上条にとって救世主が来た瞬間だった。
だがそれと同時に、こんな状況でも自らに襲い来る恐怖も認知せざるをえなかった。
御坂美琴にそっくりな、彼女の後ろ。神秘的なまで美しい金髪をたなびかせる少女が、その華奢な身体に、どす黒いオーラ(何故か上条には視認可能)を纏わせて仁王立ちしていた。
こんなことできるのは彼女しかいない。
「……オティヌス?」
恐る恐る声をかける。すると、オティヌスは上条と自らを挟むように立つ御坂の妹と思わしき少女を
見て、
「……………………………で」
「え?」
何故かオティヌスは顔を下にして俯いてしまった。
いつもならすぐ上条に電撃の槍やら100パーセント命中する槍やらを投げたりしてくるのに、今回は何もしてこない。言葉責めすらしてこない。
「オ、オティ……」
不自然に思いながら、初めての事だったので戸惑いもしながらもどうかしたのかと聞こうとした。
しかしそれを待たずして、オティヌスの顔がばっ、と前を向いた。
「え…………」
そのオティヌスの顔は赤かった。しかもただ白い肌に赤が浮かんでいるだけじゃない。その金色の目の目尻には、涙が浮かんでいた。
「何で……グスッ、私より、『超電磁砲』と一緒にいるんだよ…………グスッ」
「え、えええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!?」
恐らく魔神となって、というかこの世に生まれてこの方こんなにまで驚いた事は無かった。後に、伝説や神話になったとしてもおかしくないくらいの衝撃が、魔神、上条当麻に来た。
「え、い、イヤ、オティヌス!?」
「い、いつも、グスッ、外に出ると、『超電磁砲』と、グスッ、エッグ……」
「……………………………………」
泣いている。
あの冷酷非道とまで組織内で恐れられたオティヌスが、目に涙を浮かべている。普段の堂々とした態度はなくなり、上から目線の口調の影も無かった。
理由は何となく、いや、絶対の確信を持って言える。
寂しさ。学園都市に来てから数日、上条はここの複数の住人と交流をしている。カエル顔の医者を始め、ミステリアスな雰囲気の少女にツインテールの瞬間移動能力者、電気系超能力者とここ数日でかなりの人物と知り合う事ができた。
だがしかし、それを間近で見ていたオティヌスはどんな心境だったろうか。
自分のよく知る人物が、自分ではなく、他の者と楽しそうにしている。もとから愛情や友情等、人と関わると言った経験が浅く、それに餓えていた少女だ。
このSSまとめへのコメント
ほう。
やっと更新きた。
麦野達のところ
オティヌス「ここが上条当麻の部屋か・・・」上条「おう」26 にある!!