【モバマス】未央ちゃんオフモード (27)


気が付くと、目覚まし時計が枕元で鳴り響いている。


「ふにゅ……うるさいなあ、もう」


手を伸ばして、目覚まし時計を軽く叩く。……よし、静かになった。
これでゆっくりと眠れる。おやすみなさい、私。

……。…………。………………いや、寝ちゃ駄目だよ!


「まずっ! い、今何時?」


慌てて跳び起きて、時計を確認。…………終わった。いつも起きる時間より、1時間も過ぎてる。


「やばいやばいやばい! え、えっと、今日の仕事は確か……」


急いでカレンダーを確認。
今日の日付の所に書かれているのは……あれ? 何も書かれて、ない?


……そこで、ようやく気付いた。


「あ、そういえば……今日はオフの日だったっけ」


本田未央。今日は久しぶりの、一日丸々予定無しの日であります。



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朝ご飯を食べて自分の部屋に戻ってくると、すぐに手持ち無沙汰になって、思わずごろんとベッドに寝転がる。


「暇だなー……ここまで予定がなんにもないの、いつ振りだろ?」


アイドルになってからは、休日はほとんど仕事やレッスン。
たまにオフがあっても、友達と遊んだりしてたから……ホントに久しぶりの気がする。

今日もホントなら、友達と遊ぶつもりだったのに。
……でもみんな他に用事があるらしく、まさかの全員に振られるという悲しい事態。


「うぅー……ひーまーだーよぉー……」


手足を伸ばして、ベッドの上でゴロゴロと転がる。
まずいなー……私、暇の潰し方が分からなくなってるみたい。


ベッドから起き上がり、窓からぼうっと外の景色を見渡す。

今日はとってもいい天気。
近くの家の塀の上では、猫ちゃんがすやすやと眠っている。お日様の光がぽかぽかしてて、すごく気持ちよさそう。


「……外、行こうかな」


部屋の中で暇を嘆いていても、それこそ時間の無駄の気がする。
でも、どこに行こう……?


「うーん……いいや、まずは外行ってから考えよっと」


てなわけで、未央ちゃん外に出て来ました。
帽子と伊達メガネで、変装もバッチリ。

さっきの猫ちゃんじゃないけど、陽の光がすごく気持ちいいや。


「んんーっ……」


その場で思わず伸びをしちゃう。
やっぱりこんな日は家に籠ってるよりも、外に出たほうがいいよね。


じゃあとりあえずは、街をテキトーにぶらつこうかな。


ぶらついていたら本屋さんがあったので、入ってみた。

特に欲しい本とかないけど、好きな漫画の新刊でも出てるかもしれないし。


じゃあ、漫画コーナ―に向かうと―――ん? 今、見知った顔があったような……。


……あ、これか。

近くにあったのは、ファッション誌のコーナー。
そしてその中のとある雑誌の表紙に、見慣れた顔が2つ。珍しく姉妹一緒に載ってるみたい。

そういえばこの前、『お姉ちゃんと一緒に撮ってもらったんだー☆』とか嬉しそうに話してたっけ。……ふふっ、これは一冊買ってこっと。


私が本屋の次に目を付けたのは、雑貨屋さん。

お店の中には、可愛らしい小物がたくさん置いてある。

ちっちゃなぬいぐるみとかもあるから、少し買っていこっと。うちの事務所、こういうの喜ぶ子多そうだし。

えーと、どれにしよう……。


―――でもそこで、私は奴を見つけてしまった。


「ぴ、ぴにゃこら太?」


見つけたのは、ぴにゃこら太のぬいぐるみ。……緑のアイツが、こんなとこにまでいるなんて。

……しょうがない。見つけちゃったからには、これも買ってこうかな。
このお店のオリジナル商品みたいだから、あの子も持ってないと思うし。


今度はCDショップに来てみました。


最近の私はどうしても気になる物があって、CDショップに足を運ぶことが多い。

今日も真っ先にそれが置いてある場所を探す。……こっちかな?
それがあると思われる棚の所まで来て、そのまま探索開始。


「……あった」


私は目的のものを見つけると、ついそれを手に取る。
この間出たばかりのこのCD……『情熱ファンファンファーレ』を。

私が仲良しの2人と一緒に組んでいるユニット、ポジティブパッション初のオリジナルソング。
今こうして改めて見ても、感慨深いものがあるよ。


……さて、これどうしようかな。
流石にもうこれ以上は……い、いやでも……やっぱり……。
……。…………。


「これください」


悩んだ末、結局CDをレジの店員さんに差し出す私。

……また買っちゃった。これで何枚目だっけ?
お店で見る度に買ってるから、これもいわゆる自演ってやつになっちゃうのかな。ちょっと違うか。


とにかく、私は代金を払って、店員さんからCDを受け取ろうとする。
……でもその時、店員さんが私にしか聞こえないくらいの小さな声で呟いた。



『いつも応援してます』って。


……変装、バレてたんだ。


「あ、ありがとうございます」


そう答えてCDを受け取ると、私はそそくさと逃げるようにお店を出た。


……恥ずかしさと嬉しさが同時に押し寄せてきて、どうにかなりそうだったんだもん。


今日のお昼ご飯は、某ファーストフード店のハンバーガーセット。

アイドルなんだから、もう少し食事には気を付けたほうがいいんだろうけど……でも、今日の私はこれが食べたい気分だった。

誰の影響かは明らか。
まず間違いなく、昨日事務所でポテトの味について熱弁をふるっていた、あの子のせい。

お店ごとの味の違いや、おすすめの食べ方まで。
あれだけ美味しそうに語られたら、そりゃ食べたくもなるよ。


さらに、私のトレーには女児向け魔法少女アニメのおもちゃが乗っている。
これは子供用のセットを頼むと付いてくるやつだ。
……つまり、私はいい歳して子供用のセットを注文してしまったということ。

誰の影響かは明らか。
まず間違いなく、昨日事務所でこのアニメについて熱弁をふるっていた、あの子のせい。

延々と聞かされるポテトの話にうんざりした彼女が、強引に変えた話題がこのアニメだった。
あれだけ面白そうに語られたら、つい気にもなるよ。

……でも冷静に考えたらいらないや。今度事務所に持って行って、あの子にあげよっと。


のんびりとポテトを食べながら、午後の予定を考える。

今日はこのまま一日、ショッピング三昧がいいかな?
でも、ここまで暇な日はもう当分ないだろうし、いつもと違うことしてみたいかも。


そうなると……うーん…………うん?

うんうんと悩んでいると、お店の窓の外に見えるある物に目が止まった。
それは、とある洋服屋さんのポスター。


『もうすぐ夏がやってくる! 夏服の準備はお早めに!』


……夏、か。
夏って言ったら、あれだよね………………よし、決ーめたっ!

ちょっと遠いかもだけど、これぞまさに私の求めていた『いつもと違うこと』だから。


そして長い時間、がたんごとんと電車に揺られて―――やって来たのは、とある海岸。



そう、未央ちゃん、海に来ちゃいました。



辺りを見渡してみても、誰もいないや。まだ海開きにはちょっと早いから。
つまり今だけは、私がこの海を独り占め。

そう思うと、なんだかテンション上がってきちゃった。


どうせ誰もいないし、持っていた荷物はその辺にポイッ。
砂浜を波打ち際の手前までダッシュして―――


「やっほ―――っ!」


なんて、海に向かって叫んでみた。


……あ、これ山で叫ぶやつじゃん。
間違えちゃったよ……あー、誰もいなくて良かった。


私が1人でちょっと恥ずかしくなってると、足元ギリギリの所にまで波が打ちつけてくる。

その様子を見たら……やっぱり、せっかくの海だしね。


その場で靴と靴下を脱いで、片手で持つ。……これで準備完了っ。

ゆっくり、ちゃぷちゃぷと音を立てて、海へと入って行く。


「……あ、なんか冷たくて気持ちいいや」


水着じゃないから、足より上は浸かれないけど……こうしてるだけでも、海って気持ちいいんだね。


私はそのまましばらく、波打ち際をまったり歩く。


歩く度に、ちゃぷちゃぷと水の跳ねる音がする。
そして、波の音がざばぁん。

耳に入るのは、その2つの音だけ。


まるで世界に、私一人だけしかいないみたい。
ふふっ、そんなはずないんだけどね。


「ふんふーん♪」


ついつい、鼻歌を口ずさむ。
誰もいない海岸だから、誰にも聞かれる心配ないしね。


……さてと。
どれくらい経ったかは分からないけど、気が済むまでちゃぷちゃぷしたし、もうそろそろ帰ろうかな。


ポイした荷物の所まで戻らないと―――あ、その前に。
私は手にしていた靴を波が届かない辺りに置いて、ポケットからスマホを取り出す。


そして、パシャっと海を撮影。次に自分を入れて、もう一枚パシャっと。
少しくらいは写真撮っておかないと、この景色が勿体ないよね。


さてさて……これ、みんなに送ったらどんな反応するんだろ?


帰りの電車に揺られていると、段々眠くなってきて……そのまま眠っちゃったみたい。

目が覚めたのは、ちょうど降りる駅の手前。
危ない危ない……危うく乗り過ごすとこだったよ。

そして下車駅に着くと、もうお日様が沈む時間。


今日のおでかけは、もうおしまいかな。
なんだか、少しだけ寂しい気分かも。


家に帰ると、もう晩御飯の時間だった。
家族みんなでわいわいとご飯を食べて、その後はお風呂。

まったりと湯船に浸かり、体ぽかぽか。


そうして心ゆくまで温まってから部屋に戻ると、スマホにみんなからの返信が来ていることに気付いた。

ごろんとベッドに寝転がりながら、返信を見てみる。



《未央ちゃん、今日は海までお出かけしたんだ。もう海開きしてるんだね》


《なんでこの時期に海になんて行ってるの? 未央、今日オフだよね?》


《とっても素敵な写真ですね。見ているだけで私も、波の音が聞こえてきそうです》


《なんだか砂浜を走りたくなってきました! 今度私も行ってみたいです!》


「ふふっ」


四者四様の文面を見て、ちょっぴり吹き出す。


あ、他にも返信たくさん来てる。
これに返事していったら、もうおやすみの時間かな。


それにしても、なんだか今日は本当にオフって感じの一日だった気がする。
仕事だけじゃなくて、私の電源もオフだったような感覚……なんか自分でも何言ってるか分かんないや。


いつもわいわい賑やかだから、今日は静かすぎて少し落ち着かなかったけど……。



「こういう日も、たまにはいいかもね」



なんて、そんなことを呟いてみたり。



……でも、明日からはまた元気いっぱいの未央ちゃん☆
スイッチオンにして、張り切っていっちゃうよ!



 おしまい

良い休日

ヤマなしオチなし何もなしの話でした

情熱ファンファンファーレのCDが出てから投下しようかとも思いましたが、総選挙の結果に感極まったのでその場の勢いで投下してみました

おつ、
ちゃんみお県だと日帰りで海いくのも楽だろうな


こんな何気ない日常も見てみたいからいい


日常ものも好きだよ

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