【ガルパン】みほ「トーキョー・ウォー!」 (68)

プルルルル、プルルルル、ガチャッ


みほ《はい、大洗女子学園高校生徒会です》


杏「西住ちゃん、お疲れー、どうそっちは?」


みほ《会長ですか? 大変なんですよ、町の人たちが大学生選抜に勝ったお祝いをしたいって。生徒会のみなさんがいないから、対応とかいろいろ大変で》


杏「いいじゃんいいじゃん、お言葉に甘えておきなよ。寄港期間なら、西住ちゃんの判断で伸ばしてもいいしさ」


みほ《会長たちはいつ頃帰れるんですか?》


杏「うーん、あと1、2日は無理かなぁ。今から文科省と防衛省のお歴々と、戦車道連盟と、衆院と参院の地元の議員先生んとこ挨拶に回んなきゃいけないからなー」


みほ《そんなぁ~》


杏「ま、お土産買ってくから楽しみにしててよ。それじゃ頑張ってねー、西住生徒会長代理っ」ピッ、ツーツーツー



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杏「さってと、東京見物、続けよっか」


柚子「いいんですか、会長? 西住さんたちに全部任せちゃって」


桃「そうですよ、渉外活動はさっきので全部終わったでしょう?」


杏「いいのいいの。この生徒会ももうすぐ引退なんだし、後輩たちに経験積ませとかないと。それに、寄港期間が延びたら、船舶課の子たちも久しぶりにのんびりできるっしょ? こうやって、さり気なく後輩を気遣えなきゃねー」チーン


杏「ほら、もう展望台着いちゃったよ、早く早く」タッタッタッタ


柚子「やっぱり、会長はただ遊びたいだけなんじゃ……」

東京タワー 展望台


杏「いやー、絶景だねえ。夕日もちょうどきれいだし、これ、何だっけ。逢魔が時っての?」


桃「不吉な言い方しないでくださいよ、会長。それにしても、意外と静かですよね、ここ。もっと混んでるかと思ってました」


柚子「平日だしね。こんなものなんじゃないのかな? 近くに住んでる人からしたら、登る気にはならないだろうし」


杏「お、あれってレインボーブリッジじゃないの? こないだ映画で見たやつ」


柚子「多分そうですね、でもおかしいな。車が全く通ってないですよ。橋の両側は渋滞してるみたいだし」


桃「橋で事故でもあったんじゃないのか?」


杏「いや、違うと思うよ。橋の上にも何にもないからさ……。それにしても、おかしいと思わない?」


柚子・桃「「?」」


杏「鳥がさ、いないんだよねー、ここら辺見渡しても、一羽も……」


桃「それが何か……」

ドゴォォォオン


杏「……!」


柚子「う、嘘……」


桃「橋が、爆発した……、か会長、何ですか、何が起こったんですか! テロですか? クーデターですか?」


ピッ、ピッ、プルルルル、プルルルル、ガチャッ


杏「……、あーもしもし、西住ちゃん? 予定、変わっちゃった。やっぱ今日の夜帰るね。うん、うん、よろしくー」ピッ




『本日発生したレインボーブリッジ爆破事件について、警視庁は事件直前に犯人と思われる人物から予告電話があったことを明らかにしました。これにより、事件が大掛かりな爆破テロであるという見方がいっそう……』


『昨日、事件の現場近くを航行していた船舶の乗組員が、ミサイルのようなものを見た、と証言していることが警視庁への取材で判明、事件に軍事力を持つ何者かが関与している可能性が……』


『匿名の視聴者によって持ち込まれたこちらの映像には、ただ今ご覧いただいたように、ミサイルらしき黒い影が……』


『専門家の分析によるとこの映像に映っている影は、旧ソ連で使用された艦対艦ミサイル、P―35である可能性が高いとのことです。現在、このミサイルを所持しているのは、国内では青森県のプラウダ高校のみで、警察は確認を……』


『事件以来、プラウダ高校学園艦との連絡は途絶、所在も不明のままで、海上保安庁は万が一の事態に備え、船舶の航行を制限するよう指導……』




事件から2日後、大洗学園 生徒会室


コンコン、ガチャッ


柚子「会長? あ、いたいた」


杏「どしたの?」


柚子「あの、会長にお客さんです」


杏「誰?」


柚子「黒森峰女学園の、逸見エリカさんです。会長と西住さんの3人だけでお話がしたいって……」


杏「何しに? 今出港前で忙しいからさ、後にしてもらってよ」


柚子「それが、……レインボーブリッジの件で話があるとかで」(あと、忙しいのは私だけですよ。会長が何にもやらないから)ボソッ




普通科校舎内


《連絡する。普通Ⅰ科2年A組、西住みほは、直ちに生徒会室まで出頭しなさい。繰り返す……》


沙織「うわー、みぽりん生徒会の呼び出しだって、どうしたの?」


みほ「さあ、私が会長代理やってた時の業務の引き継ぎかな?」


優花里「でも、それはもう終わったはずでは?」


華「困りましたね、せっかくあんこうチームでこれから鍋パーティをするところでしたのに」


みほ「うーん、多分すぐ終わると思うから、先に行っててもらっていいかな?」


沙織「分かった、じゃあ後で私の家で合流ね」

生徒会室


杏「久しぶりだね、黒森峰の副隊長さん。何かあったの?」


エリカ「本題に入る前に、ちょっと見てほしいものがあるの。みほ、このDVDを再生してもらえる?」


みほ「……はい」


杏「何、それ」


エリカ「見てもらえばわかるわ。なかなか興奮できる代物よ」


ウィーン、ガチャッ、ピッ、ピッ
ジャン、チャチャチャチャン、チャチャチャチャーン、チャン……

https://www.youtube.com/watch?v=qEde2xBS1bE

みほ「……『おもいでのレインボーブリッジ』って、これカラオケですよね。これでいいんですか?」


エリカ「いいのよ、これで」


杏「この曲なら、私唄えるよ」


エリカ「唄う?」


杏「マイク、ないんだよね」


エリカ「じゃ、とばすわ。…………この辺よ」


杏「……行ってみようか、横浜あたり」


エリカ「いえ、その後のとこ。……『忘れられないレインボーブリッジよ』、ここよ、一時停止!」


杏「どこ!?」

エリカ「ほら、右上の! あの雲の切れ目のとこ!」


杏「んんんん~~~~ッ!!」


みほ「どこです? 私には何も見えませんよ」


エリカ「ここよ、ここ! この黒い鳥みたいな影!」


みほ「言われてみれば……、でもこれがどうしたんですか?」


エリカ「今のを踏まえたうえでこれを見て。さっきの映像を解析したものよ。改竄の余地のないよう、作業過程は全て収録してるわ」


みほ「これは……、ミサイル?」


杏「驚いたねー、どうも」


みほ「まさか、本当にプラウダが……」


杏「私もあんまり詳しくないんだけど、これって放映された例のやつとは少し形が違うような……」

エリカ「さすがに観察が細かいわね。テレビ局に持ち込まれた映像に映っていたのは、ソ連で開発された艦対艦長距離ミサイルのP―35、こっちはECCM能力を向上させるなどして改良した3M44、プログレスよ。
そしてここからが本題なのだけれど、私が今回入手した映像に映っているミサイル、即ち3M44をプラウダ高校は所持していない」


みほ「そ、それじゃレインボーブリッジを爆破したのはいったい?」


杏「ちょっと待った。その前に、どうして黒森峰がうちにその話を?」


エリカ「ほかに頼れる相手がいないのよ。消息不明になっているのはプラウダ高校だけじゃない。聖グロリアーナ、サンダース、アンツィオ、継続、知波単、そして黒森峰……、この間の対大学選抜戦に出場した全学園艦が爆破事件以来行方不明になっているの。あなたがたを除いて、ね」


みほ「まさか、そんな……」


エリカ「私も驚いたのよ、上陸して帰ろうとしたら学園艦はすでに出港していて、おまけに連絡もつかなかったから」

杏「どうして誰もそのことに気づかないのかな?」


エリカ「最初のプラウダ消息不明の声が大きすぎたせいよ。でもそろそろ、警察と自衛隊も気づき始めたようね。そして、上層部では最悪の事態が想定されているらしいわ」


みほ「最悪の事態って……」


エリカ「戦車道強豪高校の結託による、国家反逆と武力クーデター」


杏「まさか、そんな馬鹿な話」


エリカ「あり得なければあり得ないほど効果的なのよ、少なくとも心理的にはね。そしてそれを否定できる確証はない。文科省は既に全学園艦の出港を禁止し、同時に戦車の使用を禁ずる決定をした。もうすぐこの学園にも通達があるはずよ。
まったく愚かな。自分たちの作り上げた虚構の陰謀に踊らされるなんて、それこそ奴の思う壺だというのに……、こんなことをしていれば、そのうち」


杏「藪をつついて蛇を出しかねない、かな?」


エリカ「そうなる前に何としても事態をおさめたい。協力して貰えるでしょうね?」

杏「そんなこと言われてもねぇ、逸見ちゃん。面白い話だったけど、それこそ状況証拠と推測だけで確たるものは何もなし。さっきの映像にしたって、映像そのものに証拠能力がないことは逸見ちゃん自身が証明して見せてくれたわけだし、何よりそっちの目的も分からず、私たちにとって危ない橋を渡るだけの価値があるか、はなはだ疑問……。やっぱこの話、乗れないよ」


エリカ「あなたはやっぱり噂通りの人ね、角谷さん。私の人選は間違ってはいなかった……。けれど二つの映像が二つとも虚構だったとして、吹き飛んだレインボーブリッジだけは紛れもない現実よ。違う?」


杏「…………」


エリカ「それと、私が動いているのは西住流師範の意を受けてのことよ。今回の騒動による、戦車道へのマイナスイメージは計り知れない。せっかく国策としてここまで戦車道を振興してきたというのに、その全てが無駄になってしまうことは、西住流としては絶対に避けなければならない」チラッ


みほ「…………」


杏「確かに、うちがかろうじて存続できているのも戦車道あってこそ、だもんね。まあ、利害は一致するか………。何すりゃいいの?」


エリカ「とりあえず、しばらくここに泊めてもらえないかしら? 帰るところがないのよね」




武部宅


沙織「………」


華「………」


優花里「………」


麻子「………」


華「………遅いですね、みほさん」


麻子「もう来ないんじゃないか? 先に食べていても……」


沙織「だーめっ! 今まで待ったんだから待とうよ」


優花里「私、お鍋の具、冷蔵庫に入れてきます! しおれちゃいますし」


沙織「あ、ほんとだ。ゆかりんありがとう」


タッタッタッ

沙織「…………」


華「…………」


麻子「…………」


タッタッタッ


優花里「……………」


華「そういえば、この間のレインボーブリッジのことですけど……、プラウダ高校のみなさんは……、その、大丈夫なんでしょうか?」


沙織「だ、大丈夫に決まってるじゃない! カチューシャさんやノンナさん達があんなひどいことするわけないよ! すぐに学園艦も見つかるだろうし、ミサイルだって観光用の展示品でしょう?」


華「でも、ニュースではまるでプラウダ高校が犯人みたいな言い方をして……」


沙織「そんな報道、本当のことが分かればすぐになくなるって」


麻子「多分それだけじゃ済まない」


沙織「麻子! 麻子まで何言ってるの?」

麻子「もともと戦車道の普及によって、一般レベルに軍事力が分散することを苦々しく思っていた勢力は多い。自衛隊の一部、幕僚OB、国防族の議員たち、右派系のメディア……。彼らは戦車道を自分たちの既得権を侵害し、そして国防を害するものだと思ってる。
だから今回の事件をきっかけに、その真相に関わらず、学園艦や戦車道に対する圧力を強めるはず」


優花里「ちっとも知りませんでした……、馬鹿みたいです!」バンッ


麻子「ごめん、雰囲気を悪くして」


優花里「そうじゃないんです……。私、そんなふうに考えたこともありませんでした……、自分が楽しく戦車道をやることだけに夢中になって、それが世の中の何につながってるのかなんて」


沙織「いま何をしたらいいのか。……確かについこの間まで考えなくても分かってた気がしたのにね」


麻子「われ童子の時は語ることも童子のごとく、思ふことも童子の如く、論ずることも童子の如くなりしが、人と成りては童子のことを棄てたり……」


華「コリント前書ですか……」

麻子 コクッ「もう終わってしまったのかも。戦車道に明け暮れて、毎日が精一杯で……、昨日を振り返る余裕もないくらい充実していて、まるで子供の夏休みみたいな……、私たちの、夏は…………」


沙織「確かに、私、ちょっと嬉しかったんだ。全国優勝の後、廃校が決まっちゃって、それを取り消すために、大学選抜チームとの試合をすることになったとき。ああ、また戦えるんだ、また学校をかけた試合ができるんだな、って」


華「私も、そうでした」


優花里「私もです」


麻子「……私も」


沙織「でも、もう駄目なんだよね。気づいちゃったときには、どうしようもないくらい遠くに過ぎちゃってるんだよね…………」


華「…………」


優花里「…………」

麻子「…………。鍋、食べようか」


沙織「うん、そだね」


優花里「お鍋の具、取って来ます」タッタッタッ


沙織「あ、ゆかりんありがとう」


華「………遅いですね、みほさん」


沙織「そだね……」




翌日、大洗学園 上甲板


エリカ「…………はい、角谷杏の協力は得られました。……ええ、みほについてはまだ、…………時間がないことは十分承知しております。……それでは、また折を見て……」ピッ


杏「エリカちゃーん、こんなとこにいたんだ。町の景色でも眺めてたの?」


エリカ「ええ……、ここから見ると、町が蜃気楼のように見えるわね」


杏「おや、見かけによらず詩的なんだね。ところで、どう、ご飯でも食べない?」

艦内食堂


杏「食べないの? ここの定食、けっこう美味しいんだよ」


エリカ「いえ、コーヒーだけでいいわ」


杏「ふーん、まいいや、いただきます」


エリカ「こんな時によく食欲がわくわね」


杏「なかなかこっちで食べるチャンスがないからね、食べないともったいないんだよ」ガツガツカッカッ


エリカ「口に物を入れてしゃべらないでよ、行儀の悪い。…………しかし結構可愛いわね、あなたたちの制服」


杏「そう? 普通のセーラー服だよ、これ。黒森峯のだって、格好良くていいじゃん」


エリカ「これはこれで苦労があるのよ。何しろ戦車道のイメージが染みついてるうえに、この制服でしょう? あまり嬉しくない眼で見られることが多くて」


杏「なるほど」

エリカ「…………ねえ角谷さん、高校生として私たちが戦っている戦車道って、一体何なのか、考えたことはある?」


杏「……」


エリカ「かつての総力戦とその敗北はもはや忘却の彼方、敗北によって実体としての戦争を忘れ、なりふり構わぬ経済成長に走ったことも、東西冷戦とその終結ももはや歴史の教科書の中の出来事に過ぎない。
そして近代的国家を支える愛国心と市民社会は、無限の経済成長と絶対的な軍事的脅威に支えられていなければ成り立たなかった。虚構に支えられた近代的国家としてのアイデンティティーを喪失したこの国にとっては、近代的権力に支えられた戦争や軍隊は、現実のものではありえない」


杏「つまり国のために戦う、という観念そのものが崩壊した……」


エリカ「ええ、そこで起こったのは軍隊の私兵化。マネジメント化と民営化、ハイテク化の波に流され、国家の管理を離れた軍事力は、さまざまな場所に拡散し、入り混じる。近年、世界中で盛んになった戦車道もそのひとつ」

エリカ「そしてスポーツとしての戦車道は、思わぬ副次的効果ももたらしたのよ。現実としての戦争を忌避しつつも、人々は虚構としての戦争を欲していた。自分たちと隣り合わせでありながらも、決して交わることのない、安全の保障された娯楽としての戦争。戦争の本来持つおぞましいまでの残虐さも、人を魅了してやまない高揚感も剥ぎとられ、それは虚構の中に押し込められた……」


杏「私たちのやっていることがどれ程キナ臭いものだろうが、少なくとも今この国に軽機関銃で穴だらけにされる人間や、地雷を踏みぬいて足がなくなる人間はいない。娯楽としての虚構の戦争のほうが、正義のための現実の戦争より、よほどマシだよ」


エリカ「あなたの言いたいことはよく判るわ。けれどいくら知らない顔をしていようが、虚構の中に押し込められた空疎な戦争は、いずれ実体として回帰する……そう思ったことはない?
それがどれだけ危険なものかも忘れて、いや忘れたふりをし続けて戦争を玩具にしていれば、いずれは大きな罰が下される、と。」

杏「罰? 誰が下すんだい、神様かな」


エリカ「この国ではだれもが神様みたいなものよ。いながらにしてその目で見、その手で触れぬことのできぬあらゆる現実を知る……、何ひとつしない神様。…………神がやらなきゃ人がやる……」


杏「だけどこの事件の黒幕が誰だろうが、そいつひとりで、いや一定の部隊がいたとしても、それで一体何を始めるつもりなのかな? 戦争でもおっ始めようっての?」


エリカ「戦争ですって!? そんなものはとっくに始まっているわ。問題なのはそれにいかにケリをつけるか……、それだけよ。
………いずれ判るわ。私たちがその時までに奴に追いつくことができなければ、ね」




1時間後、生徒会室


桃「会長! こんな時にどこへ行っていたんですか!?」


杏「どーした、河嶋、やけに騒がしいね? 何かあったの?」


桃「何かあったのじゃないですよ! ついさっき文科省のほうから、24時間以内に艦内の総員を退艦させるようにって……」


杏「ふ~ん、意外と早かったね。で、戦車については何も言ってきてないの?」


桃「はい、県の職員が無理矢理乗り込んできて、戦車庫を閉鎖しちゃいました!」


杏「ずいぶん荒っぽいね、蝶野一尉には連絡してみたの?」


桃「それが、今世界陸軍戦車道国際親善試合でカナダにいるようで、連絡がつかないんです!」


杏「タイミング悪いね……、いや、むしろ狙ったのかな……」


桃「会長、こんな横暴許せません! 断固抗議しましょう!」

杏「落ち着いて、河嶋。向こうは本気だ、ここはおとなしく従った方がいいよ。以前の廃校騒動の時と同じ要領で退艦させて。おそらく一時的な処置だろうから……」


桃「そんな、会長……」


杏「この件は河嶋に任せるから、いいね」


桃「……はい」


杏「大変だと思うけど、小山は小山でやってもらうことがあるからさ、頼んだよ」


桃「会長がそうおっしゃるのであれば。…………おい! 今すぐ艦内放送をかけるぞ、それから動ける人間を集められるだけ集めろ……」


杏「さて……」

柚子「会長、昨日の件、調べがつきました」


杏「お、どうだった?」


柚子「会長に言われたとおり、行方不明になっている全学園艦のお金の流れを追ってみたんです。それらしきものが出てきました」


杏「どこ?」


柚子「黒森峰です。1年半前から3回に分けて、ロシアからダミー会社を経由して大きな買い物をしてました。凄い金額でしたよ」


杏「やっぱりか……、ありがと小山。早速で悪いんだけど……」ゴニョゴニョ


柚子「分かりました、すぐに取り掛かります」


杏「西住ちゃんにも声かけてねー。
…………3回か、発射台を除けば残り1発……、間に合うかどうか……」




普通科校舎屋上


《……501…………202…………302…………538…………》


エルヴィン「むう、やはり…………」


左衛門佐「難しいな……」


おりょう「コード表なしでは、この手の暗号は厳しいぜよ」


カエサル「単純なだけにたちが悪い。何か手掛かりにでもなるかと思ったのだが……」


みほ「あれ、カバさんチームのみなさん、こんな所で何やってるんですか?」


カエサル「隊長! 実は、あのレインボーブリッジ爆破事件の時から流れ続けている怪電波があってな」


エルヴィン「それを解読できれば事件解決の糸口になるかと思ったのだが……」


おりょう「いかんせん乱数表を用いた暗号のようで、手も足も出んぜよ」

左衛門佐「継続して録音し続ければ、法則性から多少はどうにかなるが、解読とは程遠いからな」


みほ「へえ、ちょっと、見せてもらっていいですか? これは、もしかして……ちょっと待ってて!」タッタッタッ

タッタッタッ、ハァハァハァ


みほ「このCD-ROM、試しに、入れて、みてください」ハァハァ


エルヴィン「これは?」


みほ「心当たりがあるんです、お願いします……」フゥ


左衛門佐「隊長がそう言うなら、やってみるか……」


おりょう「まあ、とにかくこれを解凍してみるぜよ……できた!」


みほ「二進数の数列みたいですね」


左衛門佐「モールス信号か? それではこれは、何かのテキストかな?」


エルヴィン「変換してみればわかるさ……、これは、英文だな」

Do you suppose that I come to bring peace to the world?
No, not peace but division.
From now on a family of five will be divided,
three against two and two against three.
Fathers will be against their sons, and sons against their fathers;
mothers will be against their daughters, and daughters against their mothers;


おりょう「カエサル?」チラッ


カエサル「英語は得意じゃないんだ……、ええと、あなたたちは、地上に平和をもたらすために私が来たと思うのか……」


みほ「われ地に平和を与へんために来たると思ふか……」


4人「!?」

みほ「われ汝らに告ぐ、然らず、反って分争なり。今より後、一家に五人あらば三人は二人に、二人は三人に分れ争はん。父は子に、子は父に、母は娘に、娘は母に……。ルカ伝福音書、第12章51節」


エルヴィン「隊長、それは……」


みほ「今の、黒森峰の暗号通信で使っていた乱数表なんです。やっぱり……」


《連絡します。普通Ⅰ科2年A組、西住みほさんは、直ちに生徒会室まで来てください。繰り返します……》


みほ「あ、私行かなくちゃ。じゃあ、みなさんまた今度、ありがとうございました」タッタッタッ


エルヴィン「隊長………」




翌朝、大洗港


エリカ「どう? 引っ越しの調子は」


杏「見ての通り、順調そのものさ。あちらさんの要求より5時間早く終わったよ」


エリカ「手慣れたものね。見事だわ」


杏「そりゃ嫌味かい? ま、確かにそうなんだけどさ。それに、うちのスタッフは優秀だしね……、もうすぐ引退だけど」


エリカ「じゃあなおさら、こんなことを最後の仕事にはさせたくないでしょうね」


杏「まったく、逸見ちゃんはけしかけるのが好きだね……。大体」


役人「おや、角谷さん、こんなところにいるとは。ちょうどよかった」

杏「……どうかされましたか? 学園艦からの一時退去なら、ご覧のとおりほぼ完了していますが」


役人「いえ、その件ではありません。今回は戦車の没収に来たんですよ。こちらは、陸上自衛隊の――三佐です」


三佐「よろしく」


杏「戦車なら学園艦に残置して封鎖してありますが、それでも不満なのですか? それに学園艦の戦車は文科省管轄のはずです。なぜ自衛隊が?」


役人「事情が変わりましてね。はい、関係書類のコピーです」バサッ


杏「………大洗学園籍の戦車は以後防衛省預かりとする、期間は定めない……。どういうことです? 文科省と防衛省は犬猿の仲のはず……、私たちを売りましたね? そうまでして大洗学園を潰したいとは」

三佐「そんな低レベルの話ではない。ことは国家の緊急事態だ。省庁間の縦割りを超えて対処する必要がある。戦車を保有する学園艦による共同謀議、国家反逆の疑いがわずかでもある以上、最悪の事態を想定しなければならない」


役人「そういうことです。私たちは、公共の福祉のために奉仕する共通の義務がある。違いますか?」


プルルルル、プルルルル


エリカ「失礼、私の携帯です」


役人「……構いませんよ」


エリカ「では、お邪魔なようですし………、はい、私です………」スタスタスタ

杏「省庁間の縦割りを超えて? 機械化部隊の削減と戦車道の台頭が気に食わない防衛省タカ派と、何が何でも大洗学園を廃校に追い込みたい文科省一部勢力の利害が一致した、ただの野合でしょう? あなたがたはそれでも公務員ですか」


三佐「口を慎みなさい。私たちは君の意見を聞きに来たわけではない。自分の立場をわきまえて行動した方がいい」


エリカ「……戦線から遠のくと、楽観主義が現実にとってかわる。そして最高意思決定の段階では現実なるものはしばしば存在しない……、戦争に負けているときは特に」スタスタ


役人「また君ですか……、何の話です。少なくとも戦争などまだ起きていませんよ」


杏「……始まってますよ、とっくに……。気づくのが遅いだけで」

三佐「ええい、まったく最近の子供は。戯言はもううんざりだ。戦車の場所を教え」


ドゴォォォオン


杏「!」


役人「が、学園艦が、爆発した……?」


三佐「これは、レインボーブリッジの時と同じ……」


エリカ「………」


士長「――三佐! 本部から緊急入電です! 東京湾に黒森峰女学園学園艦が出現、艦の攻撃により、東京湾横断橋が破壊されました!」


三佐「何だと!?」


杏「だから! 遅すぎたと言ってるんだッ!!」


役人・三佐「…………」

杏「どうやら、本当に、事情が変わったらしいですね。では用件も片付いたようですし、後は好きにやらせていただきます」スタスタスタ


役人「おい、ちょっと……」


エリカ「……」スタスタスタ


エリカ「あまり驚かないのね?」


杏「……携帯を渡してもらうよ。これ以上好きにされたら、困るからさ」


エリカ「別に構わないけれど、多分無駄よ。今頃首都圏一帯は、強力な妨害電波で覆われてるはずだから。携帯なんか使えるわけないわ」


杏「いつもながら、恐ろしく速くて正確な情報だね。さすが、西住まほの共犯者なだけはある」


エリカ「同志と言ってほしいわね。その方がロマンチックだし」

杏「ほかの所在不明の艦はどこ?」


エリカ「航行不能にした上で、通信妨害をかけて無人島の島陰に隠してあるわ」


杏「さっきの電話は、ミサイル発射の指示?」


エリカ「ええ、怒らないの?」


杏「戦争してる敵に怒ったってしょうがないだろ……。私がこの事態を予測できなかったのが悪いんだから」ギリッ


エリカ「そう……、少なくとも、私たちの敵は、あなたたちじゃないけれどね」

杏「逸見ちゃん、あんたの話、面白かったよ。戦争を虚構と娯楽に押し込めて、無理矢理に成立した現実の平和。だけどあんたの言う通り、この国にとって戦争が虚構でしかないのなら、あんたたちが創り出した戦争もまた所詮は虚構に過ぎない。……この国には、リアルな戦争は似合わないんだよ」


エリカ「リアルですって? 戦争はいつだって非現実的なものよ。戦争が現実的であったためしなんか、ただの一度もありはしないわ」


杏「前言撤回……、これ以上あんたを殴らずにいられる自信がないんだ。悪いけど、次の質問に答えたら、今すぐここから消えてくれる?」


エリカ「ええ、帰るところもできたことだしね」


杏「あんたは何のためにここにいる? いや、あんたはどこにいるんだ?」


エリカ「無義。我其の処にありぬ、我常にも其の処にありぬ……、私も楽しかったわよ。さよなら、角谷さん」


杏「…………」

ブーッ、ブーッ、ブーッ、ピッ


杏「……もしもし、西住ちゃん? 上手くやってくれた?」


みほ《はい、手筈通り、戦車は小山さんたちと運び出して町に分散、隠匿してあります。ただ……、自動車部のみなさんが全力でやってくれたんですが、整備状況や足回りを考えると、すぐに使えるのはⅣ号、89式、Ⅲ突、M3、ルノー、三式の6両だけです》


杏「了解……、総員に非常呼集だ、隊長。私たちの戦争は、まだ終わってない」







大洗町、磯浜海防陣屋跡


エルヴィン「まさか本当に戦争をすることになるとはな……」


左衛門佐「まるで今山合戦前の、成松信勝の気分だ」


おりょう「八丁沖の戦いの、河井継之助ぜよ」


エルヴィン「いや、バルジの戦い前のパットンだな」


カエサル「ここを越えれば、人間世界の悲惨。越えなければ、我が破滅。進もう、神々の待つところへ、我々を侮辱した敵の待つところへ……」


左衛門佐・おりょう・エルヴィン「!?」


カエサル「ちょうど2066年前の私の気分だ……。alea iacta est !」


左衛門佐・おりょう・エルヴィン「「「それだ!!!」」」




同、お好み焼き 道


妙子「部長! 隊長から非常呼集です!」


典子「来たか! 皆、あと2分で食べるよ!」


忍「はい! バレー部復活のため、大洗学園のため……」


あけび「そして戦車道のために……」


典子「根性ぉーー!!」ガツガツガツガツ


妙子「みんな……、何するか分かってるの?」




同、エコス大洗店


梓「来た……。皆、本当にやるんだね?」


あゆみ「まあ、乗り掛かった舟だし」


桂利奈「先輩たちにだけ、危ない思いさせられないし」


優季「今、私たちにできることを」


あや「いつも通り、精いっぱいやるだけでしょ」


梓「分かった……、皆、行こう!」


あゆみ・桂里奈・優季・あや・紗季「「「「「おー!!!!!」」」」」




同、大洗わくわく科学館


ソド子「ほら、早くして。ゴモヨ、パゾ美」


ゴモヨ「行くって、学校が無くなっちゃったのに?」


パゾ美「風紀委員にどうにかできることじゃないよ、大人に任せようよ」


ソド子「何言ってるの!? 学校が無くなったのなら、この国の風紀を守るだけよ! 東京であんな不良学生が暴れてるのを、放っとけるわけないでしょ!?」


ゴモヨ・パゾ美「「た、確かに……」」


ソド子「行くわよ、大洗学園風紀委員!」





同、駅前通りのセブン


ねこにゃー「み、皆メール見た?」


ももがー「どうしよう? ゲームでもないし、試合でもない、本物の戦争なんだよね……」


ぴよたん「こ、怖いけど、行くっちゃ。隊長が、私たちを必要としてるんだから……」


ももがー「……私も、黒森峰にリベンジしたいナリ」


ねこにゃー「よ、よし、じゃあ、先にこのGoogle Playカード買ってから……」




同、ゆっくら健康館


沙織「皆、本当に行くの?」


麻子「どうした?」


沙織「ここから引き返してもいいんだよ。戦車道の試合とはわけが違う。行けば死んじゃうかもしれない。それに、戦車搭乗資格剥奪ってこともあり得るんだよ、ね、ゆかりん?」


優花里「何だか、私より武部殿のほうが迷ってるみたいですね」


沙織「迷うでしょ、普通!?」


優花里「……私、いつまでも戦車が好きなだけの女の子でいたくない。戦車が好きな自分に甘えていたくないんです」


沙織「……!」


華「わたくしも、これが今、やらなければいけないことだと、そう思います」


麻子「行くぞ、沙織。皆が待ってる」


沙織「……うん、分かった」




同、大洗文化センター


『……首都圏各所では、通信施設が破壊され情報が混乱していますが、現在地上波、衛星回線、インターネット回線も何者かによる電波妨害で受信が困難になっており……の被害状況は判明しているだけで…………都内の交通はJR、私鉄、地下鉄、バス等すべてが運行を中止しているほか、羽田、成田両空港も閉鎖されており…………今回の事件について政府は機械化部隊を保有する学園艦勢力によるクーデターであるとの見解を示していますが…………』


杏「で、どう思う? 西住ちゃん、河嶋、小山」


桃「どうって……」


杏「これだけの行動を起こしておきながら、中枢の占拠も政治的要求もなし。そんなクーデターがあるのかな?」

柚子「要求を出そうにも、自分たちでテレビもネットも潰してますし……」

杏「政治的要求が出ないのはそんなものがもともと存在しなかったからで、情報の独占でなく中断と混乱を選んだのは、それが手段ではなく目的だからだよ」

みほ「……」

杏「これはクーデターではなくテロだよ。それもある種の思想を実現するための確信犯の犯行だ。戦争状況を創り出すこと、いや、首都を舞台に戦争という時間を演出すること、黒森峰の、西住まほの狙いはその一点にある」

杏「だとするならば、彼女がわざわざ逸見ちゃんをここに派遣した意味は明らかになる。私たちに事態の進行をある程度把握させ、戦車を隠匿するように誘導した……。なぜそんな、自分たちに不利になるようなことを? 多分、西住ちゃんはよく分かってるはずだよね」


みほ「はい……。私たちに敗北するため、です」


杏「そうだ。首都を平凡な高校生たちが乗る戦車部隊が占領し、それを別の高校生が鎮圧する……、これが彼女にとって理想的なシナリオだろう。現実の世界の中に、自分たちが虚構だと思っていた戦争が侵入し、なすすべもないまま勝手に解決してしまう……。それが、西住まほなりの、彼らに対する罰なのかな……」


みほ「すみません、最初に橋が破壊された時から、こうなることは予想できてたのに……。私がもっと早く本当のことを言っていれば、学園艦は……」

杏「過ぎたことを言っても仕方ないよ、学園艦は沈められたけど、私たちはまだ目を瞑っちゃいない。落とし前はきっちりとつけるさ。それがたとえ、敵の思う壺でしかないとしてもね」


みほ「……はい」


杏「それに、敵の狙いが明らかなら、どう作戦を立てればいいかも分かるよね?」


みほ「はい。これまでのやり方から考えて、お姉ちゃ……西住まほは流血をあまり好んでいません。それと、テロとしての演出効果も考え合わせてみれば、主戦場は……、霞が関、永田町、皇居……。この一帯です」


桃「成る程、このあたりなら、避難できる地下施設も完備してあるだろう」


みほ「ええ、ですから私たちは、まっすぐ6号線を南下した後、京葉道路を使って一気に東京に侵入、決着をつけるつもりです」


杏「そんなところだろうね……。お、来たな」

ドヤドヤドヤドヤ


典子「アヒルさんチーム、4名」


エルヴィン「カバさんチーム、4名」


梓「ウサギさんチーム、6名」


そど子「カモさんチーム、3名」


ねこにゃー「アリクイチーム、3名」


優花里「あんこうチーム、5名、以上25名、集合しました!」


ナカジマ「Ⅳ号H型シュルツェン装備、89式中戦車甲型、Ⅲ号突撃砲F型、M3中戦車リー、ルノーB1bis、三式中戦車チヌ、以上6両整備完了! いつでもいけるよ」

杏「……よく来てくれたね、皆。今回の任務は、西住隊長とともに首都圏に展開する戦車部隊を鎮圧し、今回の事件の首謀者を捕らえることだ。これ以降はすべて西住隊長の指揮に従い、あらゆる妨害は実力でこれを排除すること!」


全員「はい!!!!!」


みほ「直ちに出発します。全員乗車してください」


杏「西住ちゃん……、必ず生きて帰ってくるんだよ。私が、皆が、ここで待ってるからね……」


みほ「…………はい。……行きます、パンツァー・フォー!」

数時間後、東京都千代田区桜田通り、官公庁街


エリカ「隊長、ただ今戻りました」


まほ「エリカか……、ご苦労だったな」


エリカ「大洗学園の戦車の隠匿には成功しました。彼女たちが乗ってくれば、おそらく2時間以内に接触するでしょう」


まほ「大丈夫だ……。みほにはメッセージを送ってある。とっくに気づいていただろう。それに、角谷杏もやられっぱなしで黙ってはいるまい」


エリカ「そうですね。…………おや、これは」


まほ「雪か……」


エリカ「朝には、積もっているかもしれませんね」


まほ「そうだな……」




80分後、江戸川区小松川橋前、荒川東岸


優花里「やっぱりいました。しかもよりによって、マウスですよ。この状況だと相当厄介な相手ですね」


華「北から迂回しましょうか? もしくは引き返して首都高に乗るか……」


みほ「いや、どちらにしても遠回りになるよ。それに多分向こうはこっちに気づいてる。敵も通信手段が使えない以上、ここで一気に撃破した方がいい」


みほ「各車、前進と後退を繰り返しながら接近、ウサギさん、アヒルさん、カモさんで頭を押さえている間に、あんこうとカバさんで回り込みます」


典子・エルヴィン・梓・そど子・ねこにゃー「「「「「了解!!!!」」」」」


みほ「ここを突破できるかが鍵です、最後の作戦、きょろきょろ作戦、開始します!」

ゴゴゴゴゴゴゴ


エルヴィン「来るぞ、気を抜くな!」


ねこにゃー「う、うわあ、大きい……」


典子「相手のアタックを絶対に受けないで、逆リベロよ!」


そど子「いつかの借りは、返してもらうわよ!」


紗季「……雪」


みほ「どけぇええええええ!!!!!!」

1時間後、国会議事堂前、大破したティーガ―の傍で


まほ「また負けてしまったか……」


みほ「いいや、お姉ちゃんは最初から勝ってるよ、この戦争に」


まほ「負けたよ、結局何も変わらない。みんなこんな事件なんかすぐに忘れて、また幻の中で生きていくだろう……。いや、そもそも何が起こったか、それにすら気づいていないかもしれない……」


みほ「じゃあ今、ここでお姉ちゃんの前に立っている私も、幻に見えるの?」


まほ「…………」


みほ「われ地に平和を与へんために来たると思ふか。われ汝らに告ぐ、然らず、反って分争なり。今より後、一家に五人あらば三人は二人に、二人は三人に分れ争はん。父は子に、子は父に、母は娘に、娘は母に……」


まほ「それは警告だったんだ、私なりの。誰も気づいてはくれなかったけど」


みほ「転校する前、お姉ちゃんがくれた手紙の中にはそれだけしか書かれていなかった……。その時は意味が分からなかったけど……」


まほ「気づいた時にはいつも遅すぎる。……だがその罪は罰せられるべきだ。違う?」

「たいちょー」、「みぽりーん」、「みほさーん」、「西住殿―」


みほ「じゃあ、みんなが待ってるから……」


まほ「うん」


みほ「……お姉ちゃん、私、大洗に帰るよ。それが現実でも、虚構でも、私の仲間が、待っていてくれる人たちが、今いるから」


まほ「うん」


みほ「さよなら、お姉ちゃん」


まほ「さよなら、みほ」




『…………破壊活動防止法などで逮捕されたテロ事件の容疑者の少女(18)は、警察の調べに対し、「もう少し、この国の未来を見ていたかった」とだけ供述し、それ以後は黙秘を続けているとの情報が…………』





終わり

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