相葉夕美「ありすちゃんには……ニチニチソウかなっ」橘ありす「ニチニチソウ?」 (258)

――まえがき――

「にぱゆる」シリーズ、続きます。
第2話/全5話、相葉夕美編。

北条加蓮「何してんの?」相葉夕美「こっちこっちっ」
イマココ)相葉夕美「ありすちゃんには……ニチニチソウかなっ」橘ありす「ニチニチソウ?」
喜多見柚「多くは望まないカモ♪」北条加蓮「私、欲張りになったね」
橘ありす「子供扱いとか、しなくていいですから」高森藍子「ありすちゃん……」
高森藍子「今日はどこに行こうかな?」喜多見柚「遊びに行こうっ!」

※ここから読んでも楽しめます
※原作無視だらけです
※加蓮編よりは多少マシですがやはり短くはないです


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「<ニチニチソウ>橘ありす」


――事務所――

「うんっ、よく似合うよ。ニチニチソウの花飾り!」

首を振ってみた。薄桃色の可愛らしい花飾りによってまとめられた黒髪が、少し遅れてついてくる。
なんだか、楽しい。

「気に入ってくれたみたいだねっ」
「こういうのは子供っぽく見られるから、あまり使わなかったんです。……でも、私の考えすぎだったみたいですね」

手を伸ばして、鏡像がそっと造花に触れるのを見て、そんな当たり前のことが少しだけおかしくて、くすり、と破顔した。
その仕草に夕美がまた小さく笑った。気に入ってくれた~、と誰かに報告するかの如く声を弾ませる。なぜだか、くるくるくる、と回り始める。

「あの……ありがとうございます。でもいいんですか? 別に、今日は何の日って訳でもありませんよね?」
「うんっ。なんとなく、ありすちゃんに贈り物がしたくなったんだ。それだけじゃダメかな?」
「これ、結構高そうなのに……」
「あぁこれ手作りだよっ」
「……手作り!?」

改めて鏡を見た。最初よりも桃色に鮮やかさが増したような気がした。
夕美を見上げる。ん? と首を傾げられる。
継ぐ言葉が思いつかないうちに、夕美から、ずい、と迫られた。

「ニチニチソウの花言葉、知ってる?」
「え?」
「このお花、ニチニチソウだって言うの。ちょっとマイナーな花だから知らないかなぁ……」
「……む」
「あははっ、ごめんごめん。馬鹿にするつもりじゃないの。興味があるなら、後でまた詳しく教えてあげるね」
「そうですね。時間があったら教えてください」
「うんっ。それでね。ニチニチソウの花言葉は、『楽しい思い出』っていうの」

目を瞑って、夕美が言う。

「ありすちゃん、1人だけ年下だから――あっ、違うの! 子ども扱いってことじゃなくて……でもほらっ、周りが高校生の子ばっかりじゃない? だから、1人だけ浮いちゃわないかなぁ、って心配になっちゃうの」
「……」

小さな両手へと目を落とす。自分と話している間、夕美がずっとかがみこんでくれていることに、思わないところが無い訳ではない。

「ありすちゃんにも楽しい時間を過ごして欲しいんだ、私。……ちょっぴりお節介?」

覗き込んで来た彼女の顔は。
大人っぽい……か、どうかはさておき。
気を抜くと、お姉ちゃん、と呼んでしまいそうになる。
舌の先で引っかかるものを、強引に押し出すようにして。
それが、本音だと胸を張れるようにして。

「……ありがとうございます、夕美さん。いつも楽しいのは、きっと、夕美さんのお陰です」
「ほんと!?」
「でもいつも騒ぎに巻き込まれて疲れちゃいますけど」
「ふふふ、これからもいっぱい巻き込むから覚悟しててね~♪」
「それなら、しょうがないですね」

そう、本当にしょうがない。だって向こうからグイグイ来るのだもの。


……自分に言い聞かせても、顰め面を作ってみても、いつの間にかまた嬉しさを漏れ落としてしまうありすだった。

「続・がんばれ藍子ちゃん」


――事務所――

<がちゃ

藍子「あ、モバP(以下「P」)さん。こんにちは」

藍子「……夕美さんですか? 確か、1時間くらい前に、レッスンまで時間があるからって外に――」

藍子「もうレッスンの時間? あっ、ホントだ……。え? 電話に出ないんですか?」

藍子「それは心配ですね……。私、探しに行ってみます。見つかったらすぐにPさんに連絡しますねっ」

たったった……

――路上――

藍子「うん、うん。分かりましたっ。ありがとうね、ありすちゃん」ピッ

藍子「うーん……」タッタッタ





藍子「1時間くらい前に、この辺りで見たって言ってたけれど……」タッタッタ

藍子「ううっ、急いで見つけないと時間がっ」

藍子「電話にもやっぱり出ないみたいだし……まさか、夕美さんの身に何かが……!?」

藍子「夕美さーん! 夕美さん、いますかーっ」


夕美「あれ? 藍子ちゃん?」ヒョコッ


藍子「え?」

――花屋の前――

夕美「やっぱり藍子ちゃんだ。って、外で大声で呼ばれたらファンのみんなにバレちゃうよ。しーっ、しーっ」

藍子「あ、ごめんなさいっ。って……あの、夕美さん? 何をしているんですか?」

夕美「ちょっとしたおしゃべりかな? あのね、ここの店長さんすごいんだよ! 花のことにもうすっごく詳しくてっ」

夕美「私の知らない花のこともたくさん知ってて、今度入荷してくれるんだって! 楽しみだなぁ……」

藍子「夕美さんでも、知らないお花ってあるんですね……」

夕美「まだまだ勉強しなきゃねっ」

藍子「その店長さんは?」

夕美「今は、お客さんから電話があったんだって。戻ってくるのをここで待ってるんだ。もっともっと話を聞かなきゃ」

藍子「そうなんですか~。――って、そうじゃなくてー!」

夕美「?」

藍子「夕美さん、時間っ。時計を見てください!」

夕美「へ? 時間? …………わああああああ!? もう4時過ぎてる!」

藍子「そうですっ、レッスンの時間です! 夕美さんが電話に出ないからって、Pさんが心配してましたよっ」

夕美「ホントだ! Pさんからすっごい電話来てる! ……あ、あのぉ、Pさん、やっぱり怒ってた?」

藍子「怒ってはないと思いますけれど……Pさん、心配していましたよ。だから、急いで戻らなきゃ!」

夕美「うん! じゃあすぐに、…………」

藍子「……? 夕美さん?」

夕美「あ……あのね? 実は私、ここでずっと立ってておしゃべりしてたの」

藍子「は、はあ」

夕美「ずっと立ったまま、で……」

藍子「……ってことはまさか」

夕美「あ、足がすっごく疲れてて……歩けない、かも……」

藍子「えええ!?」

夕美「だから藍子ちゃんっ。私を事務所まで連れてって! 着いた頃にはきっと足も回復してるから!」

藍子「私がですか!? 無理ですっそんなの! それよりPさんに車を出してもらった方が……私、Pさんに連絡しますね!」ガサゴソ

藍子「もしもし、Pさんですか? 夕美さんを見つけましたっ。それで、夕美さんが疲れて歩けないそうなので、車を……ええっ!? 今は車をぜんぶ使ってて出せないんですか!?」

藍子「ううぅ、そこをなんとかっていう訳には……。……あうぅ、そうですよね……」ピッ

夕美「あ、足が疲れて、もう立てないかも……」ペタン

藍子「うぅ……」

――プロダクション――

夕美「ただいま戻りましたーっ」

藍子「た、ただいま、帰りました……」

夕美「ご、ごめんなさいっPさん! 今からすぐ準備して行きますねっ! じゃあね藍子ちゃん! ありがとう、とっても助かったよ!」タタタタッ

藍子「それは、よかった、です……」バタン

……。

…………。

加蓮「こんにちはー。……藍子? どしたの? そんなところに寝そべるなんて……」

藍子「ほっといてください……」

加蓮「……?」

「(その後)ゾンビ(お日様とお散歩が大好き)」


――別の日の事務所――

柚「やほーっ。柚サンのとうちゃ――うぎゃっ」ステン

藍子「ぎゃっ」

柚「あたた。……なんかぐにゅってした! ぐにゅってした! なになに!?」キョロキョロ

柚「……わーっ!? 藍子チャンが死んでる!?」

藍子「いきてますよ~」アイタタ

柚「ゾンビだ!? 藍子チャンがゾンビになった!」

藍子「お日さま大好きですよ~」グニャー

柚「お日様が大好きなゾンビっているのかな? いないならー、藍子チャンが第一号だねっ」

柚「……えと、そんで、何してんの藍子チャン? ゾンビごっこ? 床にべちゃーってなってたら怒られるよ?」

柚「アタシもよくやるけど、おかーさんに行儀が悪いってよく叱られるし。あとっ、服が汚くなるって言われちゃうっ」

藍子「や、やっぱり行儀が悪いですか? でも、これ、ちょっぴり気持ちよくて……」

柚「そなの? じゃーアタシもやる!」


<がちゃ

加蓮「こんにちは――」

藍子「加蓮ちゃん、こんにちは~」ネソベリ
柚「加蓮サンだ。やほー」ネソベリ

加蓮「…………寝たいならソファで寝たら? 行儀悪いし服が汚れるよ?」

柚「やっぱり言われた! 加蓮サン、おかーさんみたい! 加蓮サンおかーさんっ」

加蓮「ああん!?」

柚「ギャー!?」ニゲダス

加蓮「ったくもー、だーれがお母さんだって――」

藍子「ぎ、ぎゃー」

加蓮「…………」

藍子「…………」

加蓮「……………………?」ピト

藍子「別に熱はありませんっ」

「生活ノート」


――事務所――

柚「宿題すっごくムズいーっ。誰かたすけて!」

ありす「頑張ってください」

柚「そっけない!」

ありす「それ以外に言うことがありませんし」

夕美「た、助けられたらよかったんだけどねー……」(←高校生の宿題が解けなかった大学生)

柚「ぐぬぬーっ。こんな時に藍子チャンか加蓮サンがいてくれたら!」

柚「ありすチャンはいーなーいーなー、小学校の宿題なんてラクショーでしょっ?」

ありす「そんなことはないですが……」

柚「ありすチャンならきっと柚の宿題だってどーにかなるっ。ささっ、チャレンジしようっ」

ありす「中学の内容ならともかく、高校の内容はさすがに無理です」

夕美「ちゅ、中学校の内容ならいけちゃうんだ……。すごいなぁ」

ありす「来年からは私も中学生ですから。予習が早すぎるということはないと思います」

柚「アタシがありすチャンくらいの頃はー、ずっと外で走って遊んでた!」

ありす「柚さんらしいですね」

夕美「柚ちゃんって高校1年生だよね?」

柚「ン? そーだよー」

夕美「私も去年まで高校生だったんだ。まだ1年も経ってないのに、懐かしいなぁ」

柚「夕美サンは大学生だよね。大学生って宿題とかなさそう! うらやましいっ」

夕美「あははっ、そんなことないよ。レポートとかいっぱいあって大変だよ?」

柚「でもアタシ、夕美サンが勉強してるところとか見たことないぞっ」

夕美「うーん、私はもう通ってるだけって感じだからかな?」

夕美「本業アイドル、副業大学生! ってねっ」

夕美「アイドルが忙しいことはちゃんと説明してるし。たまに行って、友だちとおしゃべりして、そのまま帰るだけってくらいかもっ」

柚「それほとんど遊んでるようなものじゃん! ズルいっ、柚だってそうしたい!」

ありす「……大学って、もっと研究とかやる場所だと思ってました。でも遊んでばかりの大学生が多いって話も聞いたことがあります。日本の教育はもっと根本的に見直すべきではないでしょうか」

夕美「確かに遊んでいる人はいっぱいいあるよねー。私は……ほらっ、アイドルに全力ですから♪」カキカキ

ありす「夕美さんのその姿勢は、素直に凄いと思います。……あの、やることがないからといって私のノートに落書きをしないでください」

夕美「柚ちゃんの似顔絵ー。どう? 似てる?」

ありす「……あ、すごく似てる」

柚「どれどれ? うわー、そっくりだっ」

夕美「他の人のも書けるよ! まずは――」

ありす「って、書くなら別の紙に書いてください!」

夕美「いいじゃんっ、そのまま先生に見せようよ! これが私のアイドル仲間とプロデューサーさんです、みたいな感じでっ。お姉さんに描いてもらったって言ったら、きっと先生も笑顔になるよっ」

ありす「駄目です。これは宿題を見せる為のノートです」

夕美「むー。しょうがない、消しちゃおっか」ケシゴムッ

ありす「あ……」

夕美「?」

ありす「い、いえ、なんでもないです。その……」

ありす「……これは宿題を見せる為のノートなので、落書きをしてはいけません。でも、先生に見せる生活ノートが、別にあるんです」

柚「よーしっ。みんなでノートに落書きだーっ」

ありす「落書きじゃなくて……その……先生にも、教えてあげたくて」

ありす「先生が生徒のことを知るのは当然のことですから。当然の義務を果たすまでです」

夕美「うんうん、分かってる分かってるっ」カキカキ

ありす「だからそっちは算数のノートです!」

夕美「できたーっ。はいこれ。Pさんの似顔絵っ」

ありす「わぁ……! これもそっくり……! 夕美さんって、絵を描くのが得意なんですね」

夕美「ちょーっとだけ自信あるんだ。いっつもみんなのことを見てるからかな。ね、次は誰の似顔絵がいい? 藍子ちゃんにしよっか!」

柚「あのー。それ、宿題のノートじゃないの? だいじょぶ?」

ありす「あっ。……そ、そうです。だからこれは宿題を出す為のノートです。落書きはぜんふ消しておきますから」ケシゴムツカミ

夕美「残念っ」

ありす「落書きはぜんぶ、消して――」

ありす「……」

ありす「……あの、……こっち、生活ノート……」オズオズ

>>21 2行目のありすのセリフ、一部訂正させてください。
誤:~~~絵を描くのが得意なんですね」
正:~~~絵を描くのも得意なんですね」
(「描くのが」→「描くのも」)



夕美「よーしっ、じゃあやり直しだねっ。そうだっ、柚ちゃんも何か書いてみたらいいんじゃない?」

柚「アタシはサインを書いてみるっ。まだあんまりうまく書けないけどっ」

夕美「将来の大アイドルのサインだね! 色紙を用意しなきゃ!」

柚「あ、アハハっ。なれるといーなー。ほらほらっ、ありすチャンもせがんでいいんだよ?」

ありす「……自分を安売りするのはあまりよくないと思いますが」

柚「アタシは安い女じゃないっ。って加蓮サンなら言いそう!」

夕美「ありすちゃんが言っても似合いそうじゃない?」

柚「なるほど! さぁありすちゃん、さんにーいちごー!」

ありす「え、え? ……ごほん。"私は、安い女ではありませんから"」キリッ

夕美「似合う! すっごく似合うっ!」

柚「ありすチャンはカッコイイって前から思ってたっ」

ありす「…………別に、格好良くなんてありません」テレッ

夕美「次のセリフ行ってみよう!」

柚「じゃー次は、このマンガのこのセリフで!」スッ

ありす「これですか、分かりました」

ありす「……ごほん。"私の眼にかかればこの程度の事件、5分で片付きます"」キリッ

柚「きゃーっ!」

夕美「ありすちゃん今度そういうドラマに出てみようよっ!」

<がちゃ

加蓮「こんにちはー」

藍子「こんにちはっ」

ありす(……私は乗せられて一体何を)ズーン

藍子「……? ありすちゃん? どうしたの?」カガミコミ

ありす「はっ。こんにちは、藍子さん。加蓮さんも」

加蓮「みんなでノート広げて何してんのー?」

夕美「今ね、柚ちゃんと一緒にありすちゃんのノートに落書きしてたんだ。よかったら2人もどう?」

藍子「落書き?」

ありす「落書きではありません。先生に見せるためのものです。これ、生活ノートで……みなさんのこと、学校の先生にも教えてあげたくて……」

加蓮「教えてあげたいんだー?」

ありす「違います。私がではありません。先生がよく教えてくれってせがんでくるから、しょうがないことなんです」

藍子「なるほどー……ふふっ。じゃあ私も、猫さんの絵を描いちゃおうかなっ」

加蓮「なら私はポテトの絵でも描いちゃおー」

ありす「あの……できれば、2人だと分かるような物の方がいいかもしれません。その方が先生に分かってもらえやす……あ、アイドルのことになるとうるさい先生なんです。きっとそうです」

加蓮「そっか。ありすちゃんは先生思いなんだねー」

藍子「うーん。それなら、サインでいいんでしょうか?」

加蓮「いいんじゃない? あ、もう似顔絵が描いてある。藍子と私と……これはPさんかな?」

柚「へへっ。アタシ宿題が終わったらサイン書く練習をするんだ! 加蓮サンも一緒にやろ!」

加蓮「私もありすのノートにサイン書いちゃおー。ふふっ、加蓮ちゃん、藍子、柚、夕美のサインが揃ってるノートとか、すごい価値が出そうだね」

夕美「ダメーっ。これはありすちゃんの生活ノートだもんっ」

加蓮「分かってるってばー」

柚「確かにそれすっごくレアっぽい! そうだっ。それ、『にぱゆる』のグッズにしちゃおうよ!」

夕美「あ、それいいかもっ。みんなのサインが詰まった色紙をプレゼントしちゃおうっ」

藍子「またPさんに相談してみますね」

柚「ねえねえ見て見てーっ。こっち絵、アタシが描いたんだよ。加蓮サンと藍子チャン!」

藍子「わぁ、そっくりですっ」

加蓮「髪型までこんなに細かく……」

柚「へっへへー。あっ、これもグッズにしちゃうっ? 柚特製の似顔絵! それにそれにー、似顔絵を描いちゃう系アイドルとかもどうかなっ」

加蓮「次から次へとアイディアが浮かぶんだね」

藍子「後で一緒に、相談しに行きましょうっ」

柚「あいあいさー!」

加蓮「こっちの絵は夕美のかな?」

夕美「正解っ。ふふっ、懐かしいなぁ。私も高校時代、こうしてみんなでノートにあれこれ書いたりしたっけ」

加蓮「…………」

夕美「……? どうしたのかな、加蓮ちゃん」

加蓮「いや……あのさ、夕美」

夕美「うんうんっ」

加蓮「なんか言い方がババ臭いよ? それ」

夕美「!?」

藍子「こらっ。加蓮ちゃん、もうちょっと言い方を考えて!」

加蓮「あはは、ごめんごめんっ。でも言い方をってことは、藍子もちょっとは思ったってことでしょ?」

藍子「え? それは……えと…………」

夕美「」

柚「夕美さん、オバサン?」

藍子「だ、だめです柚ちゃん!」

夕美「」

夕美「」

夕美「」

藍子「ゆ、夕美さん……」オロオロ

夕美「…………・_・」

加蓮「できてないできてない。いつもの顔、できてない」

夕美「・ワ・;」

藍子「動揺が顔に出ちゃってますっ」

夕美「・ワ・」

柚「いつもの夕美サンになった!」

ありす(みんなの絵が……。似顔絵が2種類と、ポテトと猫、綺麗なサインで、ノートが訳の分からないことに)

ありす(でも……、……えへへっ♪)ギュッ

「(その後)気にしてた?」


夕美「花の女子大生だよね!? まだ若いよね私! みんなと一緒に制服着てても大丈夫だよね!? 1人だけ浮いたりしないよね!?!?」

藍子「大丈夫ですっ、大丈夫ですからっ」

夕美「コスプレだって思われない!?」

藍子「コスプレにはなっちゃいますけれど、夕美さんなら大丈夫ですっ」

夕美「コスプレにはなるの!?」

藍子「……とにかく大丈夫ですから!」


加蓮「わー、ありす、私の制服すっごい似合うじゃん! ちょっとぶかぶかだけど、いい感じに着こなせてない?」

柚「ありすチャン、大人モードって感じ! ありすセンパイだ!」

ありす「そ、そんなにおだてても何も出ませんよ。……えへへ」

「お花のお勉強」


――事務所――

夕美「赤色の薔薇は『愛情』や『情熱』って意味になるんだけど、黄色の薔薇だとよくない意味になっちゃうの。『嫉妬』とか、『薄れゆく愛』とか」

ありす「黄色の薔薇は、よくない意味になる……」メモメモ

夕美「同じ花でも、こんなに意味が変わっちゃうんだよ。だから、贈り物をする時は気をつけないとね」

ありす「色によって花言葉が変わるとは知りませんでした。何事も予習は重要ですね」

夕美「その時は私に相談してくれると嬉しいかなっ。贈ったありすちゃんも贈られたPさんも、どっちも笑顔になるのがいちばん大切だもん!」

ありす「はい、その時は頼りに――」

ありす「待ってください夕美さん。別に私はPさんに贈るなんて一言も」

夕美「あれ? 違ったの?」

ありす「……違いませんけど」

夕美「ふふっ、えらいえらい♪」ナデナデ

ありす「だから子供扱いはやめてください」ムッ

加蓮「やっほー。お、夕美とありすじゃん」

夕美「加蓮ちゃん! 撮影は終わったのかな? お疲れ様っ」(ありすを撫でながら)

ありす「お疲れ様です、加蓮さん。……ちょうどよかったです。夕美さんをどうにかしてください」

加蓮「ん?」ナデナデ

ありす「一緒になって撫でないでください!」

加蓮「ふふっ、つい。ありすちゃんの頭ってさ、こう、撫でやすいところにあるんだよね」

ありす「むー……」プクー

加蓮「何これ、メモ帳? また勉強でも教えてもらってたの?」

ありす「いえ。学校の勉強のことで、夕美さんには教えてもらうことはありません」

加蓮「……あー、そっか。小学校の宿題すら解けないんだっけ」

夕美「そ、その憐れむ目はやめてほしいかなー? ……宿題ができなくてもアイドルはできるもんっ!」

加蓮「それはそうだろうけどさー……」

ありす「今は夕美さんに、お花について教えてもらっていたんです」

夕美「ありすちゃんがね、Pさんにプレゼントしたいんだってっ」

加蓮「へー」

ありす「別に深い意味はありません。改めて気持ちを伝えることが、良い関係を築くってよく言いますし」

ありす「良い関係といっても、アイドルとプロデューサーという意味です。含みなんてありません。……だからにやにやしながら見ないでください」

加蓮「うんうん、分かってる分かってる」ニコニコ
夕美「気持ちを伝えたいんだよねー♪」ニコニコ

ありす「……だ、だからそういうのは……」

加蓮「ねえねえ夕美。私にも何か教えてよ、お花のこと。ありすは何を教えてもらっていたの?」

ありす「薔薇の花言葉についてです。贈り物をする時には、赤色のお花が好ましいとされているみたいですね」

ありす「逆に、黄色のお花では反対の意味になってしまうので、気をつけなければいけません」

加蓮「あとは紫色とかもあんまりいい意味がないんだっけ? とりあえず赤色や白色にしておけば間違いはない……んだったかな?」

ありす「加蓮さんも知っていたんですね」

加蓮「夕美の受け売りだけどねっ」

夕美「じゃあ、こういうのは知ってる? 同じ薔薇でも、トゲのないもの、野生のもの、一重咲きのもの、それぞれで意味が違うんだよっ」

ありす「そうなんですか?」

夕美「うんうん。Pさんに贈るのなら……うーん、ありすちゃんだったらトゲのない薔薇がいいかな? 加蓮ちゃんだったら、花とつぼみのセットがいいかもっ」

ありす「トゲのない薔薇の花言葉は……」タブレット

加蓮「形でも意味が変わってくるんだ……。やっぱりお花って奥が深いね。薔薇だけでもそれだけ色々あるんだ」

夕美「贈り物といえば薔薇だもんっ。だからこそ、いろいろな意味がついちゃったのかも」

夕美「これだけ意味があったら、Pさんもきっと悩んじゃうんじゃないかなっ?」

加蓮「って言いながらすっごい楽しそうだね、夕美」

夕美「悩んでもらうのも楽しいんだよ。それに、もし意味を知らなくても、お花を贈るってだけで意味があるもん。後から気付いてもらうのも楽しそうじゃない?」

ありす「ふむふむ……」シラベチュウ

加蓮「なるほどー……後から気付いてもらう、かぁ」

夕美「その方が、毎日どきどきできちゃうかもね!」

加蓮「それとっても面白そう!」

夕美「でもね、気付かれたくないからってあんまりマイナーすぎる花を贈っちゃうのはよくないかも」

夕美「ううん、マイナーな花にはマイナーな花の魅力があるんだけど、相手に分かってもらうことも大切だから」

夕美「あっ、これってあの花だ! って気付いてもらえるくらいが、きっとちょうどいいんだよっ」

夕美「気付いてもらえるけど、その中にまた秘めたものがある。そういうのってどうかな?」

加蓮「なかなか高度なこと言うねー。さすが花マスター」

夕美「ううんっ。ちょっとだけ、ありすちゃんからの受け売りだよ」

加蓮「ありすからの?」

夕美「『にぱゆる』のユニット名会議をした時にありすちゃん言ったよね? あえて分からない意味にして興味を惹かせるのもやり方だ、って」

夕美「よく考えてみるとね。それって花にも同じことが言えると思うんだっ」

加蓮「あー……」

夕美「ふふっ。加蓮ちゃんはそういうの得意そうに見えたけど、どう?」

加蓮「……にやけちゃうかも。でも、そこをぐっと我慢するのも……」

ありす「ええと、トゲのない薔薇の花言葉は『初恋』…………」

加蓮「お」

ありす「違います。だから深い意味はないんです! そういうのではなくて、あくまで感謝の、そう、感謝の気持ちを伝えたいだけです! 初恋なんてそんな……っ!」

夕美「ありすちゃんにはまだちょっと早かったかな?」

ありす「だから子供扱いしないでください!」

加蓮「ふふっ」

「(その後)ヤンデレ予備軍?」


夕美「分かりやすいところにキョウチクソウを置くのはどう?」

加蓮「この本にある中だと……ハナミズキとかはどうかな。ほら、ずっと離れないって意味合いで」

夕美「もしPさんが別の女の子に見蕩れてたりしたら、バイモをちらつかせてみるのもいいかな」

加蓮「いや、そういう時は分かりやすくアネモネとかがいいよ。あの人鈍感だもん。皮肉だって分かりやすいくらいでよくない?」

夕美「ラベンダーはどうだろ。あれも結構……ね?」

加蓮「あとは……サフランだって。これとかもいいんじゃない? 誰にでも好かれてヘラヘラするな、みたいに……」

夕美「キンセンカと一緒に見せてみるのも……」

加蓮「ブツブツブツ…………」

夕美「ブツブツブツ…………」

<がちゃ

藍子「こんにちはっ。あ、夕美さんに加蓮ちゃん。あとありすちゃんも――」ドンッ

藍子「きゃっ。……ありすちゃん? どうしたの? いきなり飛び込んできたりして……」

ありす「藍子さん。この事務所は危険です。逃げましょう。逃げるべきです。一刻も早く離れましょう」ガタガタブルブル

藍子「へ?」

ありす「あの、あれ、あれ」プルプル

藍子「…………?」チラッ


加蓮「ブツブツブツ…………」

夕美「ブツブツブツ…………」

加蓮「ブツブツブツ…………」

夕美「ブツブツブツ…………」

加蓮「ブツブツブツ…………」

夕美「ブツブツブツ…………」


藍子「え、えぇ……」

ありす「お花の話をしていた筈なのにいつの間にかあんな風に……! きっと何か良くないものが取り憑いているんです! プラズマとかゴーストとかそんなのが!」

ありす「いやそんな非科学的な物が存在する訳ありませんありませんけどもそうでしか説明がつかなくてととととにかくここから離れましょうさあ早く!」オメメグルグル

藍子「……」

藍子「……い、いっしょにお散歩に行こっか?」

ありす「はい! 今すぐ、今すぐ行きましょう!」グイグイ


加蓮「ブツブツブツ…………」

夕美「ブツブツブツ…………」

加蓮「ブツブツブツ…………」

夕美「ブツブツブツ…………」

「<スターチス>北条加蓮」


――事務所――

「ね、加蓮ちゃん。それ、何の花か知ってるかなっ?」
「え? ……これ? んー、どこかで見たことはあるけど……」

加蓮は小首を傾げた。
ブレスレットに一輪の紫色がついていて、それが花であることはすぐに分かった。
すぐに分かったが、記憶の引き出しをいくつか空けてみたものの、該当する情報はない。

「スターチスの花だよ。乾燥させてもそのままの色や形をしてるから、よくドライフラワーなんかにも使うのっ」
「スターチス……。ごめん夕美、名前くらいは聞いたことあるけど……」
「うーん、加蓮ちゃんに当てて欲しくてそこそこメジャーなのを選んでみたんだけどな。残念♪」

その割には語尾に音符マークがついていて、加蓮も思わずつられ笑いをしてしまった。

「花言葉は"変わらない心"。ふふっ、素敵な言葉でしょ?」
「それって乾燥させてもそのままだから?」
「うん、そうみたい。いつか枯れちゃうかもしれないけど、でも、それまではずっと、この花は咲いてくれているんだよ。私たちが花を愛している間は、本当にずっと……」

スターチスを模した装飾をひと撫でする夕美が、いつになく大人びて見えた。

いつも一緒になって、ふざけあってばかりの間柄。
よく最年長だからと、みんなのまとめ役は自分などと言ってはありすや柚にそっぽを向かれているけれど、加蓮はよく知っている。
彼女の視野の広さと、他の誰も持ち合わせないほどのリーダー性を。

「なんてっ。初めて育てた時、すっごく早く枯れちゃって。いろいろと教えてくれた花屋の店長さんに呆れられちゃったけどねっ」
「…………」

半眼で見ると照れ笑いが苦笑いへと崩れていった。分かりやすく目線を逸らす様が情けなくて仕方がない。
やっぱり、たまには裏切り者になるのも悪くないかな、なんて思ってしまう。

ひとしきり笑い飛ばした後に、ねえ、と、夕美は少しだけ真剣さを帯びた声で口元を軽く緩めた。

「あのね、加蓮ちゃん。今もまだ、良くない夢って見る?」
「……もうずっと見てないよ。いつも誰かがいてくれるから」
「そっか。よかった」
「言ってくれたの、柚なんだよね。……余計なことを、なんて最初は思っちゃったけど……」
「今は?」
「……ありがと、ってこの前言ったら、すごい目をまんまるにされた」
「あははっ♪ それでね。私は昔の加蓮ちゃんのことはあんまり知らないけど……入院してた、ってことしか聞いてないけど、もしかしてって思ったんだ」
「何を?」
「スターチスにはもう1つの花言葉があるの。――"途切れぬ記憶"」

右手、出して?
囁く言葉に無意識で従う。ピッタリのサイズに、ぽかり、と、暖かさが1つ、胸の中に。

「私……ううんっ。私だけじゃないよ。私と、Pさん。それに、柚ちゃんと、藍子ちゃんと、ありすちゃんっ」

「みんなはちゃんと、今日も明日も、加蓮ちゃんの側にいます。途切れたりなんて絶対にしないよ!」

「もしまた、加蓮ちゃんが嫌な夢を見たり、不安に思ったり……何かの拍子で1人になっちゃうようなことがあったら、私の言葉を思い出して」

「あなたには、いっぱいの途切れない記憶があります」

「だから、大丈夫っ!」

詩を詠むような声だった。
うん、と子供みたいに頷く加蓮に、夕美は満足したとばかりに笑う。

「よしっ! ……うんっ、似合う似合う! そうだっ。みんなにもお披露目しちゃおっか! そろそろPさんが会議から帰ってくる頃かな? きっと可愛いって言ってくれるよっ」
「……夕美」

ありがとう、とか。
さんきゅ、とか。
テキトーでいっか、って思って。
……それは、ちょっと嫌だな、と首を横に振って。

「……これ、大切にするね」
「うんっ!」

朗らかな笑みに流される。やっぱり子供扱いされてるようでちょっぴり腹立たしいけれど、それがとても心地よかった。
小さく小さく、右腕を握る。
あたたかな想いに、微笑を1つだけ浮かべて。
……扉が開く音がしたので、からかわれない表情に変えてから、顔を上げた。

「無印のイラストがかがみこんで子供に話しかけてるみたいに見えたっていう作者談を込めた図書館でのお話」


――図書館――

加蓮「うーん……私はあんまり勉強とかしないから、本探しには役に立たないよ?」

ありす「確かに加蓮さんは実践派だと思います。ですが私は予習も大切だと思います」

加蓮「分かるけどなー……。ま、いいけど。ついてくだけでいいんだね?」

ありす「はい。柚さんにお願いしたら大騒ぎしそうですから。図書館では静かにしなければいけません」

加蓮「あー……あの子なら1分で飽きて遊びに行くから大丈夫だと思うけどなー」

ありす「そうしたら私が1人になるじゃないですか」

加蓮「え? 珍しいねー。ありすちゃんがそんな風に言うなんて。なになに? 甘えたい時期とか?」

ありす「私1人だと、高いところにある本が取れません」

加蓮「わーお合理的。ふふっ、私が藍子ちゃんじゃなくて残念だったねー」

ありす「別に残念だとは……」

加蓮「隠さなくていいんだよー? その理由なら藍子でもよかったでしょー」

加蓮「事務所に入って来た時、藍子が見つからなくてがっかりしてたとこ、ちゃんと見てたよ?」

ありす「…………そういう言い方、ずるいです」

ありす「でも、それは違います。今は残念なんて思っていません。それだけははっきりと言わせてください」

加蓮「ありがとっ。……あれ? ねえねえありす。あれってさ」

ありす「何ですか?」


夕美「~~~♪ ~~~♪」(小声での鼻歌+伊達メガネ+レディーススーツ)


加蓮「夕美だよね?」

ありす「夕美さんですね」

加蓮「……何やってんだろ?」

ありす「図書館ですから、本を探しているのでは?」

加蓮「スーツで?」

ありす「スーツで」

加蓮「……なんでスーツ?」

ありす「……そういう仕事でもあったのでは?」

夕美「~~~~♪ ~~~~~♪」サッサッ

夕美「~~♪ ~~~♪」


加蓮「あの鼻歌、ありすの『In Fact』だよね」

ありす「そうみたいですね」

加蓮「……こんなこと言うとありすにすごく悪いかもしれないけどさ」

ありす「はい」

加蓮「らしからぬ真っ黒なスーツ来てあれ歌うと、なんだかお通夜みたいじゃない?」

ありす「……だったら亡くなったのは加蓮さんですね」ムッ

加蓮「言ったなこんにゃろ」

夕美「~~~♪ よしっ」

夕美「次はこっちっ」テクテク


加蓮「あ、移動してる」

ありす「鼻歌、やめちゃいましたね」

加蓮「やめちゃったねー」

ありす「夕美さんって不思議ですよね。いつもはしゃぎまわってて鬱陶しいくらいなのに、私の歌までしっかり歌いこなすんですから」

加蓮「鬱陶しいってありすちゃん……あーうん鬱陶しいよねー。うん」

ありす「何か問題でも? 事あるごとに私を子供扱いして、頭ばかり撫でてきて。一番年上なのに騒いでばかりで」

加蓮「年齢とか関係ないって、リーダーの話をしてた時に言ったのは誰だっけ?」

ありす「それとこれとは別です。分別は大切です」

加蓮「ふふっ。あ、夕美があっち行くみたい」

ありす「! 急いで追い……いえ、急がずに追いましょう。急いでしまうと気づかれます」

加蓮「うんっ」

夕美「~~~♪ ~~~~♪」サッサッ


加蓮「『お散歩カメラ』を歌いだしたよ」

ありす「みたいですね」

加蓮「……実はちょっとだけがっかりしてる?」

ありす「そ、そういうのは気付いても言わなくていいと思います!」

加蓮「写真とか絵とかの本がいっぱいある棚だからかな」

ありす「成程。本棚によって歌う歌を変えているのかもしれません。それは盲点でした」

加蓮「ところで、アレって何してるんだろ?」

ありす「本を探している……ようには見えません。最初からやることが決まっている動きです」

加蓮「……そんで、私達も何してるんだろうね」

ありす「……、……私達は何をしているのでしょうか」

加蓮「うーん。探偵ごっこ?」

ありす「せっかくなら事務所から衣装と小道具を借りてくるべきでした」

加蓮「え、衣装?」

ありす「安心してください。加蓮さんの分もあります」

ありす「以前に衣装を作って頂いた時、少しサイズが大きい物が紛れてしまって……でも、将来着ることを考えたら保存しておくことになりました。実に合理的な考えです」

加蓮「いや問題はそこじゃなくて……っていうか、いつかありすが着る物を私が着ちゃっていいの?」

ありす「はい。加蓮さんが着た衣装なら、私が袖を通した時も気が引き締まると思いますから」

加蓮「そっか」

夕美「~~~~♪ ~~~~~♪」


加蓮「今思ったんだけどさ」

ありす「はい」

加蓮「あれ、絶対本を探してるとか借りに来たとかじゃないよね」

ありす「そうですね。夕美さんは本棚を渡り歩いています。本を借りに来たのであれば、手元に1冊くらいあってもおかしくありません」

ありす「また、本を探しに来たのであれば、もう少し本棚の前で立ち止まったり、探したりする仕草を見せる筈です」

ありす「あるいは司書に聞くという行動も考えられます。しかしその様子もない。聞くかどうか悩んでいるのであれば、それ相応の行動を取るに決まってます」

ありす「以上の点から、夕美さんは何か別の目的を持っている物だと思われます」

ありす「証明完りょ……なんでもありません」

加蓮「……、……ふむ。なかなかの名推理じゃないか。名探偵ありす君」

ありす「“ディレクティブ・タチバナ”と呼んでください」

加蓮「でぃれくてぃぶー」

ありす「この推理、どうですか?」

加蓮「でもさー、例えば色んな本棚を見てみたけど気にいる本がなかった、って可能性は?」

ありす「あ……。い、いえ。その場合も司書に聞いてみるのではないでしょうか?」

加蓮「自分で見つけたくて意地を張ってるとか、もうちょっとだけ探してからにしようって考えてるかもしれないじゃん」

ありす「夕美さんは機転の効く人ですから、それは考えにくいと思います」

加蓮「それなら、実は誰かと待ち合わせて暇つぶしをしてるだけっていうのは?」

ありす「それは『本を探す』『本を借りる』以外の行動に該当します。つまり私の推理が正しかったことになります」

加蓮「むぅー……。う、ウィンドウショッピングみたいなものかもしれないじゃん。それなら本を探してるって言えるよね!?」

ありす「ウィンドウショッピングとは本来、『商品を見て回ることを目的とした行動』という意味の筈です」

ありす「これを図書館に置き換えた場合、本を探している、本を借りる、どちらにも属さない行動だと言えます」

ありす「すなわち、やはり私の推理が正しかったことになります」

加蓮「ぐ、ぐぬぬ……」

ありす「他に反論はありますか?」キリッ

加蓮「むー……悔しいけどないよー……」

ありす「ふふん」ドヤッ

加蓮(……最初に夕美の行動を予想したのは私だけど、)チラッ

ありす「……ふふ……」ドヤッ

加蓮(ま……いっか)

<…………。


加蓮「って夕美いなくなってるじゃん!」

ありす「!? ……私としたことが、推理に気を取られ尾行対象を見失ってしまうとは……!」

加蓮「急いで探すよ探偵さんっ!」タタッ

ありす「はいっ!」タタッ

……。

…………。

加蓮「もー、見つからないしー……。ここそんなに広くないのになぁ……」

ありす「もしかしたら帰ってしまったのかもしれません。いえ、帰ったに違いありません。今日の私は冴えています。だから合っているに違いありません!」

加蓮「そうかなー……」チラッ

加蓮「……あー、ありすちゃんありすちゃん?」

ありす「何ですか。まだ論破されたいのであれば私がいくらでも、」

加蓮「ドヤってるとこ悪いんだけど、そこ。夕美」

ありす「え」


夕美「~~~♪」テクテク


ありす「…………」ショボン

加蓮「ドンマイ。ほら、探偵だって推理を外す時くらいあるでしょ」ナデナデ

ありす「……私の知る探偵は推理を外しません。あと撫でないでください」

加蓮「ふふっ、ごめんごめん」

加蓮「……ん?」


夕美「~~~~♪」テクテク

<あー、お姉さんだー!

夕美「? あっ! いつもここに来てる子だよね。こんにちはっ♪」カガミコミ

<こんちはー!

夕美「違うよっ。こんにちは、でしょ?」

<こんにちはー!

夕美「うんうんっ」


加蓮「……何? 女の子?」
ありす「知り合いでしょうか。待ち合わせ説が合っていたという可能性も――」

夕美「今日は、何のお本を探しているのかなっ?」

<えっとねー、新かんせんの本!

夕美「そうなんだっ。私も一緒に探してあげるねっ」

<やったー!

夕美「新幹線の本は、あっちだったかな。さ、行こっか♪」

<はーい!


加蓮「待ち合わせじゃなさそうだね。……保育士?」

ありす「夕美さんは大学生なのでは?」

加蓮「実はサバ読んでるとか」

ありす「さば?」

加蓮「年齢を誤魔化してるってこと」

ありす「それはありえますね。……いえ、その場合実は16歳だったという方がしっくり来ます。どちらにしても保育士ではありません」

加蓮「16歳の保育士。……なんかそういうマンガなかったっけ?」

ありす「私、漫画はあまり読みませんから」

加蓮「そっかー」

夕美「到着ーっ」

<とうちゃくーっ

夕美「新幹線の本、いっぱいあるねっ。これはどう? 絵と写真がたくさんあって、分かりやすいよっ」

<ほんとだー! いっぱい写真があるー!


加蓮「しっかり小学生用の棚に連れていってるねー」

ありす「児童用と大人用で棚が違っていたんですね。知りませんでした。私はいつも大人用しか利用したことがなかったので」

加蓮「じゃあ今から絵本とか探しに行ってみる?」

ありす「なんでそうなるんですか? 私はもうそんな歳ではありません」

加蓮「夕美ならオススメの絵本とか教えてくれるんじゃない?」

ありす「話を聞いて下さい。だから私はもう大人です。絵本からはとっくに卒業しました」

<あら、夕美ちゃん。久しぶりねー

夕美「司書さんっ。お久しぶりです!」


加蓮「おぉ、新キャラ登場?」
ありす「みたいですね」


<最近見てるわよ。大活躍じゃない!

夕美「ふふっ、ありがとうございます♪」

<おばちゃんも鼻が高いわぁ。あっ、今日も手伝いに来てくれたのねー。うちの職員が無理言ってごめんなさいね?

夕美「いえいえっ。私も楽しいですからっ」


ありす「手伝い?」

加蓮「さっきのはそれだったのかな」

ありす「それなら、スーツを着ていたというのも合点がいきますね」

<ししょさん!

<あらー、あなたも来ていたのね。今日もいっぱい本を読んでいってね

<はーいっ。あのねあのね、お姉ちゃんが本の場所を教えてくれたの!

<あらー。ありがとう夕美ちゃん

夕美「どういたしましてっ♪」


加蓮「……保育士じゃなくて司書だったみたいだね」

ありす「何でもできるんですね」

加蓮「ありすも本の場所とか夕美に聞いてみたら? 勉強用の本、探しに来たんでしょ」

ありす「そういえばそうでした。……でも、今日はもういいです」

加蓮「そうなんだ」

ありす「今は、本を読むより、ああいう風に何かをしていた方がいい気がして……。理論も大切ですが、行動も大事ですから」

加蓮「ああいうふうに、って?」

ありす「本を読んで子供との接し方を学習しても、夕美さんのようにはなれないと思います」

ありす「音楽も、それと同じような気がして……」

ありす「できないことがあるからとりあえず本を読む、という行動は、今の私には正しくないような気がしました」

ありす「加蓮さん、帰ったら時間ありますか? 自主レッスンをするので見てほしいんです」

加蓮「オッケー。そだね、色々悩むより身体を動かしてみよっかっ」

ありす「はい」

「(その後)どうぞどうぞ」


――事務所――

夕美「へ? 子どもが好きな理由?」

加蓮「ほら、夕美ってやたら面倒見がいいじゃん。だから理由とかあるのかなって」

夕美「うーん……? 特には……?」

ありす「そんな筈がありません。理由もなくあんな行動が取れるとは考えにくいです」

ありす「何か理由があるんですよね? 思い出してください。さあ」ズイ

夕美「あ、ありすちゃん? なんだか刑事さんみたいだね」

ありす「刑事ではありません。探偵です。探偵には真相を究明する義務があります。……決して好奇心ではありませんから」

加蓮「自白したねー」

夕美「刑事役が自白するなんて斬新だねっ」

ありす「だから刑事ではなくて探偵です!」

ありす「……ごほんっ。そうやって取り調べから逃れようとしても無駄です。こちらには確かな証拠があるんですから」

加蓮「取り調べって言った」ボソッ

ありす「……推理から逃れようとしても無駄です」

加蓮「あ、聞こえてた?」

夕美「証拠って?」

ありす「図書館で見ました。子供に本の場所を教えてあげている夕美さんを」

夕美「そうなんだ。あの時ありすちゃんの声がちょっとだけ聞こえたからもしかしているのかなーって思っちゃったけど、ホントにいたんだね!」

ありす「……それだけですか?」

夕美「え? 何が?」

ありす「いえ、別に……」

加蓮「探偵家業は私の方が向いてるみたいだね。ありすちゃん♪」ニマニマ

ありす「……尾行と推理では、必要な技術が違いますし」

夕美「???」

夕美「うーん。でもホントに理由なんてないんだよ? あっ、図書館にいたのは、高校生の頃によく手伝いをしてたからなんだけど……」

ありす「手伝い?」

夕美「うん、手伝い。私、高校生の頃に、何になろうかずっと悩んでた時期があったのっ」

夕美「2年生の時に、インターンシップ……って、加蓮ちゃんとありすちゃんはまだ知らないんだっけ。インターンシップっていう、会社で働かせてもらう……行事、になるのかな? があってね」

夕美「その時、ホームセンターに行かせてもらったんだけど、それがすっごく楽しくてっ」

夕美「だから高校を出たら大学に行くんじゃなくてどこかで働きたいなーって思ってたんだけど、やりたいことがなかなか見つからなかったの」

夕美「学校にも相談して、色んなところで手伝わせてもらっちゃった♪」

夕美「結局、何も決まらなかったから、なんとなく大学に進学したんだけど……」

夕美「今ではアイドルをやらせてもらってますっ♪」

加蓮「へー……」

ありす「夕美さんでも、そういうことに悩んだことがあるんですか」

夕美「私だって悩むよっ。進路は大切なことだもん!」

ありす「……夕美さんは、自分のやることに悩んだりするタイプではないと思っていました。決断力がある人という印象でしたから」

加蓮「分かるー。いつも迷ってなくて羨ましいなーって思ったこともあるんだよね」

ありす「はい。その決断力は見習うべきだと、私は思ってます」

夕美「ありすちゃん、加蓮ちゃん! ありがとっ♪ 嬉しいよ!」ナデナデ

ありす「そうやってすぐ人を子供扱いするところは何があっても見習いたくありませんっ」

加蓮「あはは……。もしかして夕美、保育園か幼稚園の手伝いとかしたことってある?」

夕美「え? うーん、それはないかな?」

加蓮「それなら結局、面倒見の良さについては理由なしなんだね」

ありす「撫でるのをやめてください、夕美さん」バッ

ありす「そっちの疑問は迷宮入りですか。まぁいいですけど。どうしても知りたいというほどではありませんし」

夕美「加蓮ちゃんもありすちゃんも、遠慮なく甘えてきていいんだよっ♪」

夕美「キツイことがあったらなんでも相談……ううんっ。何もなくてもほら、飛びついてきて大丈夫だから! いっぱい、ぎゅーってしてあげるね!」バッ

加蓮「……」
ありす「……」
加蓮「…………」チラ
ありす「…………」チラ
加蓮「………………」スッ
ありす「………………」スッ

夕美「何その『どうぞどうぞ』的なポーズ!?」

加蓮「いやほら、夕美って年上っていうより同い年って感じだし、甘えに行くとかはちょっと……」

ありす「私はもうそんな歳ではありません。でも、加蓮さんが甘えたいというのなら私は何も言いませんよ。別に、私がそういう歳ではないというだけであって、加蓮さんもそうとは限りませんから」

夕美「・ワ・」

加蓮「そんな顔で見てもヤダ」

ありす「必要ないものは必要ありません」

<がちゃ

藍子「こんにちは~」

ありす「! 藍子さん」タタタ

藍子「ありすちゃんっ。ふふ、こんにちは♪ 何をしていたの?」

ありす「こんにちは。今は、夕美さんを取り調べていたところです」

藍子「と、取り調べ?」

ありす「そうだ。藍子さんも参加しませんか? 藍子さんがいれば、どんな迷宮入りの疑問もすぐに解決できる気がします」

藍子「うーん、でも私、小説の探偵さんみたいなことはできないよ?」

ありす「いてくれるだけでいいんです。探偵には助手が必須……いえ、師匠がつきものです」

ありす「さあ行きましょう」グイグイ

藍子「い、いるだけでいいなら? あっ待ってありすちゃん、転んじゃうっ」


夕美「・ワ・」

加蓮「……うん、まあ、ドンマイ」

<がちゃ

柚「柚もいるよーっ! やっほー!」

柚「あっ加蓮サン発見!」

柚「加蓮サンは 柚に きづいていないようだ!」

柚「つまりー?」

柚「とりゃーっ!!」ダイブ

加蓮「はい回避」

柚「ぎゃふん!」

加蓮「そんだけ大きな声をあげたら気付くに決まってるでしょ……」

柚「それよりさそれよりさ!」バッ

加蓮「おぉ、復活早いね。何?」

柚「柚、今日はお仕事超頑張ったよ! スゴいでしょ!」

加蓮「うんうん、すごいすごい。最近レッスン頑張ってたもんねー」

柚「へへっ♪ あのね、最近また加蓮サンと頑張りたいモードなんだっ。だからー、ほらっ、ちらっちらっ」

加蓮「えー、さっきありすの自主練に付き合ったからちょっと疲れ――……まぁいっか」

加蓮「しょうがないなー、短めにしてね?」

柚「やたっ。早速準備してくる!」タタッ

加蓮「ホント元気だなぁ、柚は。ふふっ」

加蓮「……ん?」チラッ

夕美「・_・」

加蓮「いや、知らないわよ……」

夕美「・_・」


<そういえば、私、藍子さんのお話も聞きたかったんです
<私の? いいけれど、何のお話ですか?
<藍子さんはどうして写真を撮るのが好きになったんですか? あと、お散歩のこととかも聞いてみたいです
<うーん、うまく説明できないかもしれないけれど……ええと、まずお散歩のお話からね。私が最初に――

「(その後のその後)泣きそう・暴れそう・変わらなさそう・意外とザルっぽい気がする・見てみたい」


夕美「加蓮ちゃんのばかーっ! ありすちゃんのばかあああああーっ!!」ウワーン!

藍子「お、落ち着いてくださいっ夕美さん!」

夕美「藍子ちゃんもばかああああああああーっ!!!!」ウワーン!!

藍子「ええぇ……」



加蓮「……何アレ?」(柚のレッスンに付き合った帰り)

ありす「さあ……」


<あれっ、柚のボンボンがない! あれレアいのに! 食べたのは誰だーっ

「作りすぎちゃった」


――事務所――

夕美「昨日、久しぶりに料理をやってみたんだ。そしたらちょっと作りすぎちゃったっ」

藍子「夕美さんもなんですか? 実は、私も昨日……」

夕美「藍子ちゃんも?」

藍子「お料理番組を見てたら、最近、お菓子作りってやってなかったなぁって思いだしたんです」

藍子「お母さんがちょうど、パンケーキを作ろうとしてて……一緒に作ってたら、つい夢中になって、すごい量になっちゃいました」アハハ

夕美「料理あるあるだねっ」

藍子「ですねっ」


加蓮「……!」キュピーン
柚「……!」キュピーン!
ありす「……、……」ソワソワ,チラチラ

夕美「で、作りすぎた料理なんだけど――」

夕美「その日の晩ご飯にしたら、お父さんが喜んでくれて。ぜんぶ食べちゃったの!」

藍子「あっ、それも夕美さんと同じです! お父さんとお母さんがいっぱい食べて、ちょっぴり苦しそうになっちゃって……でも、美味しかったって笑ってくれました!」

夕美「よかったね、藍子ちゃん♪」

藍子「夕美さんこそ、よかったですね♪」

加蓮「……え、『作りすぎたからお裾分け』とかじゃないの!?」
柚「ええーっ!? ジュースまで用意したのにーっ! お菓子は? ケーキは!?」
ありす「………………別に期待なんてしていません。別に、期待なんて……」


夕美「えっ……あ、あははー……あれっ?」

藍子「……ご、ごめんなさい~っ」

「(その後)そんなに食べたかったんだね!」


――後日・事務所――

夕美「ってことで、私と藍子ちゃんでマカロンを作って来、」

加蓮「もらったああああああーっ!」バッ

ありす「なっ……! 待ってください加蓮さん! それはズルでしょう!」バッ

柚「ただい――美味しそうな匂い! あっちょっ加蓮サンありすチャン! 待て! 待つのだーっ! 柚も食べるーっ!」バッ

夕美「わああああああっ!?」

藍子(少し離れたところに避難した)「……あの~、みなさ~ん? 量はいっぱい作ってきましたから、そんなに争わなくても……」

<ゲットぉ! そして離脱!
<柚さん! そっちのイチゴ味っぽいのは私が先に目をつけたんです!
<アタシだって先に美味しそうだと思ったっ! あっありすチャン! 加蓮サンが逃げるよ! そっち回り込んでっ!
<ぐぼっ!? バスケットにいっぱい入ってるでしょうがそっち取りなさいよ! タックルしてくるな!
<柚さん奪取しまし――ってイチゴ味! それは私のです! 返してください!
<あー――うわーっ食べる直前にありすチャンに奪われた! 待てーっ!


藍子「……誰も聞いてない」アハハ

「カメラとか花屋とか、あと……レストランとか?」


――事務所――

藍子「それでこの前、カメラ屋さんにお礼を言われたんですよ。最近は、使いきりカメラがまた売れるようになった、って」

加蓮「へー、使い捨てカメラがかぁ……。すごいじゃん、藍子」

藍子「ふふっ。でも、ちょっぴり不思議な気持ちです。写真のお話をしていただけなのに、ありがとう、って言われるなんて」

加蓮「それだけ藍子は影響力のあるアイドルだってことでしょー? もっと自信持っていいんじゃない?」

藍子「ほんのちょっとだけ、自信になっちゃいました♪」

藍子「あと、公園でよくお話するおばあちゃんにも応援してもらったんですっ」

藍子「それで、ちょっと前から、がんばってスマートフォンの使い方を勉強している、って言われちゃいました。私がCMに出たのを、見てくださったみたいで……」

加蓮「それも写真?」

藍子「はい。綺麗な写真が撮りたいから、って。だから、また見せてください、って約束したんですっ」

加蓮「楽しみだね」

夕美「はいはい! そういうことなら私もあったよ!」

藍子「夕美さんっ」

夕美「この前、いつものホムセンに行ったら店員さんに話しかけられちゃった。私の影響でガーデニングをする人が増えたって!」

加蓮「夕美もなんだー。花屋じゃなくてホームセンターってあたりが夕美っぽいね」

夕美「ふっふっふー。それがなんと!」

加蓮・藍子「「それがなんと?」」

夕美「花屋さんにも言われちゃいました!」

藍子「夕美さん、すごいですっ」

加蓮「さすがにそっちも抑えてるんだね」

夕美「やっぱり花屋さんはすごいね。花のことにとっても詳しくて、つい1時間くらい喋っちゃって。……あ、藍子ちゃん、この前はごめんね?」

藍子「いえいえ」

加蓮「……? なんかあったの?」

夕美「ちょっと話し込んでて時間がすごいことになっちゃったの」

藍子「私が、夕美さんを迎えに行ったんですよ」

加蓮「…………」ジトー

夕美「だ、だからもうしないってばーっ」

加蓮「……はぁ。藍子。リーダーになりたくなったらいつでも言ってね? 柚とありすを連れてくるから」

藍子「あはは、そうしますね……」

夕美「ちょっとー!?」

夕美「あ、そうだっ。加蓮ちゃんはそういうのないの? ほら、ネイルとか、ポテトとか!」

加蓮「私? んー、そういうのはあんまり……。ネイルサロンは私に関係なく流行ってるっぽいし、ジャンクフードだってそうだしなー……」

加蓮「あ、でもさ。この前、駅前の和菓子屋の人にありがとうって言われたよ。お陰で若いお客さんが増えた、って」

藍子「和菓子、ですか? でも加蓮ちゃん、いつも洋菓子を食べていたような……」

加蓮「たまーに着物を着て撮影とかしてるからかな? その時に、お煎餅とかお団子とか食べてるシーンを撮ってもらうことがあって。それでかなぁ」

夕美「加蓮ちゃんの着物姿、とっても絵になるよねっ」

加蓮「夕美だってそうでしょー?」

藍子「そうだっ。今度、私にも撮らせてください! 加蓮ちゃんと夕美さんのツーショット!」

加蓮「おっ、いいね! いつにしよっか?」

夕美「それだったら私、今度浴衣の撮影があるから――」



柚「むむむー。アタシそーいうのぜんぜんないぞー。うらやましいぞー」

ありす「…………」

柚「ありすチャンはそーいうのあるー?」

ありす「……おかしいです」

柚「ン? 何が?」

ありす「どうして私は、レストランから声をかけられないのでしょうか」

柚「レストラン?」

ありす「橘流いちごパスタを試してみた、って話がそろそろあってもいい筈なのに」

柚「!?」

ありす「まだ知名度が足りないのでしょうか? 宣伝は色々なところでしている筈ですが」

柚「う、うん。じゅーぶんやってると思うっ。え、えとえと、け、結果は後からついてくる! って藍子チャンが言ってたよ!」

ありす「いえ。私は前のフェスで思い知りました。私の努力なんて、あの人達に比べたらまだまだだと」

ありす「そうです。進歩を止めてしまうから何も生まれないんです。もっとメニューを考え直さなければ」

柚「変なスイッチ入ってる!?」

ありす「もしかして……パスタがいけないのでしょうか。それならナポリタンとか、他にカフェでありそうなイタリアンは――」

柚「待ってありすチャン!? イチゴ! イチゴの方を考えなおそう!」

ありす「決めました」

柚「何を!?」

ありす「来月には、全国のレストランがこぞって橘流いちごパスタをやり始めるようにさせてみせます! いちごパスタブーム、生み出してみせます!」

柚「すとおーっぷ!」

ありす「その為には今から練習しなきゃ……! 柚さん!」

柚「結局アタシ!? お腹は空いてるけどせっかくならうまうまなお菓子――」

ありす「今新メニューが閃きました。すぐに用意します。柚さんはそのままお腹を空かせて待っていて下さい」

柚「ギャー!!」

「(その後)でもね、意外と。」


――事務所――

柚「む~~~~~~」ジー

柚「む~~~~~~~~~~~~」ジー


いちごパスタ<また会ったな……。


柚「また出会ってしまった……!」

ありす「…………」ドキドキ

柚「……ヨシッ」

柚「柚、いっきまーす!」

柚「ぱくーっ!」

ありす「!」

柚「…………」モグモグ

ありす「……あの……どうでしょうか」

柚「……」ゴクン

柚「うん。マズイっ!」

ありす「……!」

柚「んーと、なんかわかんないけど、マズイっ」

ありす「……そうですか。何がいけないんでしょうか」モグモグ

柚「しいていうならイチゴじゃないかな? あとはー、イチゴと、……イチゴと、…………イチゴじゃないかな!?」

ありす「次は味付けをもっと変えてみることにします。夕美さんから頂いたハーブを使ってみるのも――」

柚「イチゴをやめるっていうのはどうカナ!?」

ありす「何故ですか? ありえません。イチゴがいかに優れているかは何度も説明しました。柚さんも知っている筈です」

柚「う、うん、この前クラスでイチゴ博士とか呼ばれちゃったケド……でもっイチゴとパスタは違うんじゃないかなっ!」

ありす「決めました。次は夕美さんと藍子さんにもアドバイスを頂いてみます。おふたりは料理も得意ですから、きっといい話が聞ける筈です」

柚「柚も! 柚の話も聞こう! ……ぐぬぬー、もう聞いてくれてないっ」モグモグ

柚「そしてやっぱりマズイっ」

ありす「……そ、そんなにまずいまずいって言わなくったっていいじゃないですか!」ナミダメ

柚「なんでそこだけ聞こえてるの!? わーありすチャン泣かないでーっ!!」



加蓮「……あればっかりは助けを呼ばれても私は行かないって決めてるんだよねー」

藍子「あ、あはははは……」

加蓮「あれ、藍子でもダメなの?」

藍子「が、頑張っているありすちゃんは応援していますよ? でもその……あのパスタだけは、ちょっと……」

夕美「うん……。柚ちゃんじゃないけど、どうしたら美味しくなるんだろ……」

加蓮「……イチゴをやめるのが正解だと思う」

藍子「……き、きっと方法はあると思いますよ。たぶん……」

夕美「……ごめん。私も加蓮ちゃんに賛成かな」

加蓮「でもさ――」

藍子「……?」

加蓮「ん。なんでもない。それより巻き込まれる前に退散しなきゃ。ちょっとコンビニでも行ってこよーっと」スッ

藍子「あっ……あ、ええと、私もその、コンビニにちょっぴり用事が……」スッ

夕美「藍子ちゃんっ。イヤな物はイヤって言っていいと思うよっ。ってことで私も加蓮ちゃんについていくね!」スッ


<……本当です。今日のいちごパスタは微妙ですね。柚さんがひどく言うのも納得です。……何がいけなかったのでしょうか
<うーん。イチゴだと思うな!


加蓮(……なんだかんだ付き合ってあげる辺り……)テクテク

「<ラナンキュラス>喜多見柚」


――楽屋――

「今日は頑張ろうね、柚ちゃんっ!」

表舞台の方から、気の早いざわめきが聞こえる。

「……よ、よろしくね、夕美サン」

同系色の衣装を着た夕美の、上げた顔に浮かぶ笑みがLIVEの成功を呼んでいる。
それは柚にとって、道端の小花が大輪の集合体を見上げるかのように眩しかった。

「……? どうしたの、柚ちゃん? 緊張しちゃってるのかな?」
「そそ、そんな訳ないやいっ。アタシだってアイドルだし。ステージなんて慣れっこだよ!」
「ふふっ、そうだよね。今日も元気いっぱい、みんなに楽しんでもらおうね!」
「うんっ。……うん……」

エネルギーは勇気になる。けれど夕美は、引力を伴うほどに力強すぎる。
心の隅の隅が、疼いて疼いてしょうがない。
レッスンはたくさんやってきた。ボーカルもダンスも完成させてきた。担当プロデューサー、仲間アイドル、トレーナー、みんなからのお墨付きだ。
でも、夕美を見ていると、柚はいつの間にか胸をぎゅっと抑えこんでしまう。

「…………」

そんな柚を、夕美は少し角度を変えて見て。
反対側に、小首を傾げてから。
それから、ちょっと待っててね、と持ってきたハンドバックへ手を伸ばした。

「……うぅ」

ほんのちょっとだけ、
ほんの、ちょっとだけ。
――夕美のことは苦手だ。
グイグイ来るところ。いつも笑顔が素敵なこと。アイドルとして輝いている姿。
1つ1つが、少しずつ自分に似ていて――自分より、上回っているから。
どんな面から見ても負けてしまっているようで、自分が霞んでしまうから。

「はい、柚ちゃんっ」

艶やかな声に、はっ、と柚は我に帰った。
左腕に違う感触があった。オレンジの花飾りがついたブレスレットが、照明に反射して小さく輝いている。

「えわっ、い、いつの間に。えとっ、あっ、夕美サンはマジシャンサンだったかっ」
「違うよー。私はアイドルだよ」
「知ってるっ」
「それ、柚ちゃんにプレゼント」
「アタシに?」
「あのね。その花、ラナンキュラスって言うんだ。かっこいい名前だと思わないかなっ?」
「らなんきゅらす? ……なんだか呪文みたいっ」
「呪文……ふふっ、そうかもね」
「らなんきゅらす、らなんきゅらす」

そして不思議な言葉だった。遅れて、それが花の名前だと認識できた。

お花。
夕美が好きな物。
そして、夕美がとても詳しい物。
柚にだって好きな物はいくつもある。でも、パパっと呪文みたいな名前を連ね並べることはできないし、磁石を使ったかのようにちびっこ達を引き寄せるようなトークもできない。
それだってスゴいと思う。
自分よりも、ずっとスゴいと。

「ラナンキュラスの花言葉、知ってる?」
「……?」

顔を上げると、イタズラっぽい目とぶつかった。
この顔は、……この顔も知っている。からかう時の表情。
難しかったかな? と夕美が笑い、つん、と額を軽く突かれた。

「実はすっごくストレートなの」
「そなの?」
「ストレートすぎて、つい、他の意味はないのかな? っていろんな場所で調べちゃったくらい。ふふっ、なんて意味だと思う?」
「……うーん。分かんない。教えてっ」
「ラナンキュラスの花言葉は――」
「らなんきゅらすの花言葉は?」
「"とても魅力的"。ねっ、分かりやすいでしょ?」

……分かりやすすぎて、一瞬、首を傾げてしまった。

「柚ちゃんにはこれくらいがちょうどいいと思ったんだけど……どう?」
「とても、魅力的……?」
「うんうんっ」
「……魅力的」
「うんっ。一緒にいて楽しくて、一緒に何かやるとすっごく楽しくて! 見てるだけでみんな笑顔になれると思うんだっ」
「…………」
「柚ちゃんは、それだけ魅力的な子ですっ。これは、その証明♪」

そろそろお時間でーす、という知らせが遠くから聞こえた。分かりましたっ、と快活に答える夕美を、ぼんやりと見流す。
意味を把握する暇も与えられないままに、時計の針が動いて、迷いを抱えたままLIVEの時間が来てしまう。
まだ準備が終わっていなかったのか、ばたばたと夕美が動き始めた。

ぽつん、と立ち尽くした柚は。

「…………」

そんな夕美の様子を、瞬き多めに追って。

「…………」

小さく瞬く左腕を、そっと見て。

「……へへっ♪」

陽の光を与えてもらった蕾のように、頬を緩めた。

「そっかそっかー、アタシは魅力的かー。ま、参っちゃったナーっ。これはもう、頑張ってLIVEで盛り上がって、もっともっと褒めてもらわないとっ」
「気に入ってもらえてよかった♪ さ、柚ちゃん、LIVEの時間だよ。一緒に行こ?」
「あいあいさー! よしっ、みんなにいっぱい楽しんでもらおう!」
「うんっ!」

大輪の花に寄り添っていても、恥じることも、縮こまることもないのかもしれない。
さあ、陽の光をいっぱいに浴びて、魅力的に輝こう。
差し伸べられた手を強く握り返して、満開の笑みで柚はステージへと向かう。

「18歳の悩み事(ささやか)」


――カフェ――

夕美「――っていうことがあってね! もー、ありすちゃんがまた冷たいの!」

夕美「もちろん、ありすちゃんが藍子ちゃんのことを大好きだっていうのは知ってるよっ?」

夕美「でもさ! あんな冷たい目で見て、『それは大人としてどうかと思います』なんて言うんだよ!?」

夕美「私だってまだ大人じゃないのにーっ。大学生なの。まだまだ遊びたいのーっ」

藍子「まあまあ。落ち着いてください、夕美さん……。夕美さんも、大変なんですね」

夕美「はぁ……。あっ、ごめんね藍子ちゃん! せっかく誘ってくれたのに、つい愚痴を言っちゃったっ」

藍子「いえいえ。夕美さんのお話、聞いていて楽しかったですよ」

藍子「でも、夕美さんにとっては大切な相談なんですよね?」

夕美「そうそうっ」

藍子「ちゃんとリーダーとして見られたい……ですか」

夕美「こっそり藍子ちゃんに相談して、ありすちゃんと柚ちゃんを見返してあげたいの! あ、あと加蓮ちゃんも!」

藍子「……加蓮ちゃんは夕美さんのこと、リーダーだと思っていると思いますよ」

夕美「うんっ。でも、ほら、どうせなら加蓮ちゃんのこともびっくりさせてあげたいじゃない?」

夕美「ね、どうしたらいいかなっ。何かいい方法とかない?」

藍子「うーん……とりあえず」

夕美「とりあえず?」

藍子「夕美さんは、もっと落ち着いたらいいと思いますよ?」

夕美「うぐっ……。そ、それができたら苦労しないよ……」

藍子「分かっています。みんなを巻き込んで、楽しくやりたいんですよね?」

藍子「でも、夕美さんの場合は、ときどきやり過ぎちゃうというか……。少し控えたら、また見られ方も変わるんじゃないかなって思います」

藍子「……今日だって、また私に噛み付いてこようとしましたし」

夕美「・ワ・」

藍子「今はそれでごまかさないでくださいっ」

夕美「だってー、藍子ちゃんを見るとつい」

藍子「それを見ていたありすちゃんに、呆れられちゃったんですよね?」

夕美「……」

藍子「ですよね?」

夕美「……はい。そのとおりです」シュン

藍子「夕美さんの、楽しくやろうって考えは、私は大好きですよ」

藍子「それに……きっとその考えに、助けられている人がいると思います。ファンだけじゃなくて――」

夕美「そ、そう? ……その、どうせだからぶっちゃけちゃうけどさ。ほら、ありすちゃんとか特に……」

藍子「え? ありすちゃんに?」

夕美「嫌がられてないかなー、なんて……」

藍子「うーん……」

夕美「ありすちゃんを見てるとつい頭を撫でたくなっちゃうの。私、頑張ってる子って大好きなんだっ」

夕美「それに、ありすちゃんって1人だけちょっと年下でしょ? 同い年の子って近くにいないみたいだし……」

夕美「だから、ちょっとでも緊張をほぐしてあげたくて、色々やりたくなっちゃうのっ」

夕美「……で、でもなんか逆効果かなーって思っちゃって」

藍子「…………」ウーン

夕美「ありすちゃん、私のことで何か言ってた? 藍子ちゃんに何か話してたりしてない?」

藍子「実はあんまり……。ありすちゃん、よく私のお話を聞きたがるので、ありすちゃんからお話を聞いたことってあんまりないんです」

藍子「あったとしても、最近読んだ小説や、遊んだゲームのお話とか……それくらいですね」

夕美「そっかぁ……」

藍子「……ふふっ。夕美さんが弱気になっちゃうなんて、珍しいですねっ」

夕美「私だって気にする時には気にするよ! なんたってリーダーだもんっ」

藍子「その意気込みがあったら、大丈夫だと思いますよ」

夕美「藍子ちゃんの方がリーダーにふさわしいって何回も言われてても?」

藍子「私はやっぱり……私より、夕美さんの方がリーダーだと思っていますから」

夕美「そう……?」

藍子「色々な考え方があると思いますけれど、私はリーダーって……ありすちゃんや柚ちゃんがよく言ってくれることとは、違うと思うんです」

藍子「なんというか……。その人がいないと始まらない、というか、その人がいるからグループができあがるんだ、というか……」

藍子「うぅ。上手く説明できなくてごめんなさい」

藍子「でも、私はそういう――"その人がいるから、始めることができる人"が、リーダーなんだって思っていますよ」

夕美「始めることができる人」

藍子「そうそうっ。前に、加蓮ちゃんが1度だけ、ありすちゃんとケンカしちゃったことがあるんです」

夕美「加蓮ちゃんとありすちゃんが? 珍しいねっ」

藍子「ありすちゃんは、加蓮ちゃんのことを尊敬しているみたいですから……。あれほどの大ゲンカは、私も初めて見ました」

夕美「(それ以上に藍子ちゃんにすっごく懐いてると思うけどなー)」

藍子「その時は、いつもみたいに、リーダーは誰がいいかってお話になっていて」

藍子「いつものように、ありすちゃんが……その、私の方がリーダーに向いている、って言っていて」

藍子「色々と理論立てて説明していたんです。ちなみに、柚ちゃんは「へーっ」って顔で聞いていました」

夕美「うんうんっ」

藍子「その時、加蓮ちゃんが急に声を荒げたんです」

藍子「ありすちゃんの言うことは間違っている。そういうのはリーダーじゃなくて、もっと別の立ち位置だ、って」

藍子「その後に、加蓮ちゃん、こう続けたんですよ」

藍子「このユニットのリーダーは夕美さんしかいない」

藍子「今までは聞き流してたけど、ありすちゃんがそこまで真剣に考えるなら、自分も真剣に言わせてもらう……って」

夕美「それで、ケンカになっちゃったんだ……」

藍子「はい。……あ、でも、もう仲直りはしていますよ。柚ちゃんが、私に助けを求めてきて……とりあえずケンカはダメだって言ったら、すぐに大人しくなっちゃいました」

夕美「……うん。私もこれ、藍子ちゃんがリーダーでいいと思いはじめてきたよ……」

藍子「ふぇ?」

夕美「ううんっ。そっか、加蓮ちゃんがねー……」

藍子「……私は……ありすちゃんも、柚ちゃんも、色々言うことはありますけれど、きっと、夕美さんがリーダーだって認めていると思いますよ?」

夕美「……」

夕美「……うんっ。ありがと、藍子ちゃん」

藍子「もう、大丈夫ですか?」

夕美「大丈夫! 私、頑張ってみるよ! ありすちゃんや柚ちゃんには負けないよっ」

藍子「はい! 頑張ってくださいねっ」

夕美「もちろん、藍子ちゃんにも!」

藍子「私、ですか?」

夕美「藍子ちゃんはリーダーライバル! いつか決着をつけるからねっ」

藍子「ふふっ。その時は、お手柔らかにお願いしますね」

夕美「すみませーんっ! 私はカモミールティーで! 藍子ちゃんも何か飲む? 相談に乗ってもらったお礼だもんっ。今日は私が出すよ!」

藍子「じゃあ……甘えちゃいますね。私はハーブティーでお願いしますっ」

「憧れのシチュエーション」


――事務所――

夕美「憧れのシチュエーションかぁ……」

ありす「? 急に何ですか?」

夕美「前に雑誌の取材で聞かれたの。アイドルでも女の子だから、憧れのシチュエーションの1つ2つくらいありませんか? って」

ありす「よくある手ですね。そうやって話を盛り上げて、有りもしないスキャンダルを捏造するのが大人だってPさんが言っていました」

夕美「それ、私もPさんに言われたことあるよ」

ありす「でも、夕美さんなら大丈夫ですね。夕美さんにスキャンダルを捏造しようとする度胸がある人なんて――」

夕美「ちょうど2日前にPさんとデー……お出かけした時だったから、ちょっぴりどきどきしてたかもっ。バレなかったみたいでよかった~」

ありす「……………………」

夕美「・ワ・」

ありす「……………………」

夕美「あ、ありすちゃんはそういうのってある? ほら、ドラマで見たシーンとかさ、マネしたくならない?」

ありす「もうとっくにそういうのからは卒業しています」

夕美「ってことはちっちゃい頃は思ってたんだよね。ねえねえどんなのっ? 例えばっ?」

ありす「どうしてそんなに食いついてくるんですか? ……こっちに来ないでください、読書の邪魔です」

夕美「やっぱりプリ◯ュアごっこはみんなやるよね!」

ありす「やってません!」

夕美「あっ、そっか! ありすちゃんはミステリー小説が好きだから、探偵役になりきったりするのかな? 犯人はお前だ! なんてっ」

ありす「もうやりません!」

夕美「もうって言った!」

ありす「い、言ってません」

夕美「ねねっ、試しにやってみよっ。ありすちゃんならきっと似合うよっ」

ありす「やりませんってば!」

<がちゃ

藍子「こんにちは~」

柚「やほっ。あっ夕美サンとありすチャンだ!」

夕美「藍子ちゃん、柚ちゃんっ。こんにちは♪」

ありす「(助かった……)」

夕美「ねねっ、2人は憧れのシチュエーションとかって何かない?」

藍子「憧れのシチュエーション、ですか?」

柚「アタシはー、アレやってみるのが夢!」

夕美「なになにっ?」

柚「お菓子のお風呂! ほらっ、チョコのプール!」

柚「いつかそーゆー企画とか来ないカナ。そうだっPサンに言ってみる!」パタパタ

藍子「あ、柚ちゃん……あはは、もう行っちゃった」

ありす「あの、藍子さんは……」

藍子「私?」

ありす「何か憧れのとかありますか? 何かの参考になるかもしれませんし、その……聞いてみたくて」

藍子「ううん……やってみたいシチュエーション」

夕美「藍子ちゃんは、やりたいことぜんぶできてるって感じだよねっ」

藍子「そうかもしれません。あっ、でも――」

ありす「でも?」

藍子「その……れ、恋愛ドラマで見るような……ちょっと憧れては……あ、あはは、アイドルだからそんなの駄目ですよねっ」

夕美「わ、ちょっと意外♪ 実は私もいろいろあるの」

藍子「夕美さんもですか?」

夕美「例えば、前に見たドラマのクライマックスシーンなんだけど……夜遅く、静かな建物の中で、ゆっくりとキスをするシーンがあったの。あれは私も憧れたなぁ――」

ありす「……!」

藍子「どきどき……」

夕美「……っていうのはちょっと早いから、うーん、じゃあお姫様抱っことかどうかなっ!」

ありす「きす……き……ハッ」

ありす「ごほんっ。あ、あんなの非現実的なシチュエーションです。フィクションだからできることです」

夕美「えー、憧れたりしない? 藍子ちゃんは?」

藍子「その……それもちょっぴりだけっ」

夕美「ふふっ。現実にもあるといいね。誰かやってくれる人、いないかなぁ」

ありす「……お姫様抱っこが、現実で……な、ないです。ないない。そんなことあるはずありません」

夕美「ありすちゃん、今何を想像したのかな?」

ありす「何も想像なんてしていません」

夕美「Pさんならありすちゃんを抱っこできそうだよね」

ありす「……!!」ボフッ

ありす「だっ、だから何ですか!」

藍子「力持ちじゃないと難しそうですよね。あっ、でも、前に倉庫の整理をしていた時、Pさん、すっごく重たそうな荷物を持っていたから、Pさんならきっと――」

ありす「藍子さんまで! 別っ、別に私はそういうのは……!」

藍子「え?」

ありす「……え?」

夕美「あははっ♪」

<ぱたぱた

柚「ただいまーっ。Pサンに――」

ありす「だからPさんは関係ないんですっ!!」

柚「うきゃ。へ? へ? Pサンがどったの?」

ありす「あ……」

夕美「あちゃっ」

藍子「今、ちょっと勘違いが起きちゃってて……柚ちゃんに怒った訳じゃないんですっ」

ありす「……ごめんなさい、柚さん」

柚「ゆ、許してしんぜよう? えとっ、ドンマイありすちゃん、きっとそういうこともあるある!」

柚「……の、カナ? よく分かんないケド、うん、たぶんある!」

柚「あのさっ、それよりも! Pサンにチョコのプールのこと話したら鼻で笑われたんだけど! ひどくない!?」

夕美「うわー、Pさんひどいよ。女の子の夢を鼻で笑うなんて!」

柚「でしょでしょ!?」

ありす「……チョコレートのプール、ですか。そういうのってできるのでしょうか」

柚「ンー、やればできる! って思うっ」

ありす「本当にできるなら……見てみたいです」

柚「おおっ、ありすチャンがちょっとまるっこくなった。でしょでしょー、そう思うでしょ?」

ありす「あり得ないとは思います。でも、もしあり得たら……」

藍子「もし本当にあったら、すごいですよね。私も見てみたいなぁ」

柚「藍子チャンもこう言ってるっ。よーしっ、アタシもっかい交渉してくるね!」ビュー

藍子「あっ、柚ちゃん!」

夕美「女の子の憧れにも色々あるよねっ。叶うといいな♪」

「(その後)やる側とやられる側」


夕美「あれっ? もう6時なんだ。そういえば、加蓮ちゃんはまだ起きてこないのかなぁ……」

柚「? 加蓮サン来てるの?」

夕美「うん。昼のお仕事が長引いて疲れたからって、30分だけ寝るって言って仮眠室に行ったんだけどなぁ」

ありす「何時から寝始めたんですか?」

夕美「5時過ぎ。だから、もう30分以上は経ってるの」

藍子「あんまり寝過ぎると、夜に眠れなくなっちゃいますね」

柚「そいえば最近、加蓮サンってよくお昼寝してるよね。寝るのが楽しくなったのカナ?」

夕美「それはとってもいいことなんだけど……うん、私、ちょっと起こしてくるねっ」

てくてく・・・

――仮眠室――

<がらっ

夕美「加蓮ちゃーん……? 起きてるー?」

加蓮「……すー」zzz

夕美「やっぱりまだ寝ちゃってるねっ。ううん、どうしよっかな……?」

加蓮「くー……」zzz

夕美「……あ、そうだっ♪」


……。

…………。

<よ、っと、っと……これっ、バランス取るの、難しっ
<でも、うん、いけそう!

――事務所――

<がらっ

ありす「あ、戻ってきまし――え?」

藍子「も、もう。キスの話はいいんですっ――へ?」

柚「眠り姫って言ったらちゅーでしょ? こう、ちゅーって。むちゅーって。きゃーっきゃーっ――なんですと!?」


夕美「ただいま♪ 加蓮ちゃん、やっぱり寝てたからそのまま連れてきたよっ」(加蓮をお姫様抱っこしている)

加蓮「zzz……」(お姫様抱っこされている)


ありす「……!」

柚「えとえとっ、夕美サンが王子サマで、加蓮サンがお姫サマ?」

藍子「わぁ……なんだかお似合いですっ」

柚「藍子チャン藍子チャン、写真! 写真!」

藍子「あっ……! すぐに準備します!」

ありす「本当にお姫様抱っこをしてる……。空想だけのことじゃなかったんだ……。ドラマみたいな光景って、あるんですね」


夕美「はい、到着っ。そろっと降ろして……ふーっ。頑張ればできちゃうんだね!」

加蓮「すー…………」zzz

夕美「加蓮ちゃんはまだ寝ちゃってるね。次は家まで運んじゃおっかな?」


ありす「――あの!」


夕美「ありすちゃん?」

ありす「あの、夕美さん」

ありす「その……私の体重は、加蓮さんより軽い……筈です」

夕美「うんうんっ」

ありす「だから、その……ええと……抱えるのは、たぶん簡単だと思います」

夕美「それでそれで?」

ありす「それで……わ、分かっていますよね!? 私の言いたいこと! 分かっててからかってますよね!?」

夕美「・ワ・?」

ありす「~~~~~~!!」

藍子「あぅ……写真、撮りそこねちゃいました」ショボン

柚「もーっ何してるの藍子チャンっ。こう、ポケットにスマフォを入れて、ささっと取り出して、カシャ! ってしなきゃダメなんだぞっ」

藍子「だって、せっかくだから――」

柚「せっかくだから?」

藍子「鞄に入れていた、とっておきのカメラで撮りたくて……取り出していたら、もう、夕美さんが加蓮ちゃんをソファに寝かしているところでした」

柚「なら仕方ない! ……の、カナ? ……とっておきのカメラって?」

夕美「よいしょ、っと! うん、大丈夫!」

ありす「わぁ……! これが、お姫様抱っこなんですね。お姫様……お姫様……えへへ」


柚「藍子チャン!」

藍子「は、はい! 今度は大丈夫です。ええと、カメラカメラ……」パタパタ

柚「そーじゃなくて! スマフォで撮るのーっ。こら待てーっ」パタパタ

ありす「あの……私、重たくないですか?」

夕美「大丈夫大丈夫! ガーデニングをやってるとね、意外と力がつくんだっ」

夕美「よし、せっかくだからPさんのところまで行っちゃおっか!」

ありす「Pさんのところに……」

夕美「ありすちゃんのお姫様姿、見てもらおう♪」

ありす「お姫様の、私……」


柚「藍子チャンのカバンごと持ってきたぞーっ。さ、藍子チャン、とっておきのカメラってやつを取り出すのだ!」

藍子「はいっ。ちょっと待っていてくださいね、柚ちゃん。今、組み立てを――」

柚「組み立て!? 組み立てって何!? ……あ~っ! 夕美サンもありすチャンも行っちゃう! タンマタンマ、ちょっとタンマー!」パタパタ

「(その後のその後)いっつも我に帰ってこうなる」


加蓮「また寝ちゃってたかー。ここってつい寝心地が良くて、横になったらすぐ寝ちゃうんだ」

藍子「加蓮ちゃん、とっても気持ちよさそうに眠っていましたよ」

柚「あの加蓮サンにはイタズラできませんなー」

加蓮「にしても、お姫様抱っこって……ホント、夕美ってば……」

藍子「今度は、起きている時に頼んでみましょう! 私も、リベンジしなきゃっ」

加蓮「藍子がリベンジ?」

柚「そーそー。アタシも! 藍子チャン、一緒に頑張ろうね!」

藍子「はいっ」

加蓮「……何を?」

加蓮「ところで、」


ありす「……!」ポカポカポカポカ!
夕美「いたいっ、いたいよありすちゃんっ」


加蓮「何してんのアレ?」

藍子「Pさんに見せた後、急に恥ずかしくなっちゃったって」

柚「ありすチャン、今日も恥ずかしがり屋サンだ!」

加蓮「ああ、いつもの」

「【長め】いわゆる異能バトル的なの。」

※キャラ崩壊注意

――"それ"は唐突に、何の前触れもなく始まった。
神様の気まぐれは大地へと人々の涙を流させ、弱き者の意思と尊厳を尽く踏み躙り、世界に怨嗟の声を生み出した。
だが。
神様は知らなかったのかもしれない。己の意思は全能などではないと。
少なくとも、今ここで発生している"それの一端"においては神様の意思はほんのきっかけにすぎない。
人の感情と、想い……そして、覚悟が爆発したが故の、悲劇であり、惨劇である――

――???――

夕美「『帰忘ノ種』!」ヒュッ 藍子「『一閃』!」キンッ!

加蓮(夕美が放った弾丸のような種を、藍子が的確に撃ち落とす)
加蓮(攻撃が失敗したのは夕美の方。なのに――)

夕美「……ふふ」

藍子「……う…………」

加蓮(つらそうな顔をしているのは、藍子の方)

加蓮「っ……! 『魅手射手』!」ツッ

夕美「残念っ」ガード
夕美「そんな弱い攻撃じゃ、私の皮膚すら破れないよ」

加蓮(なんとかしようと魔弾を放ってみたけど、小さな小さな一撃は回避行動の対象にすらなってくれない)

夕美「私を傷つけられるのなんて、もう私しかいないもん――」
夕美「それが原初の特化異能(スキル)、『命削りし故意せぬ乙女(オーバーロード)』ってことなんだから!」

加蓮(私を一瞥して、笑って)

夕美「命を削って得たものは攻撃力だけじゃないよ。多少の攻撃なんかじゃびくともしないもん!」

加蓮(夕美はまた藍子の方を向く)

夕美「失いなさいっ! 『帰忘ノ種』!」ヒュッ
藍子「――ッ!」
加蓮「藍子!!」

加蓮(藍子を思いっきり突き飛ばす。紙一重のところで"種"を回避することはできた)
加蓮(けど――)

藍子「っ……ごめ……なさ――『一閃』!」ヒュッ

加蓮(転がったままの藍子から放たれた光線を、夕美はほんの僅かに身を翻して受けた)

藍子「く……!」

夕美「『清心統一(コンセントレーション)』。ほとんどノーリスクで攻撃力を底上げする、強い特化異能(スキル)だよね」
夕美「でもっ。そんなの私には効かないよっ。だって弱点、分かっちゃったもん!」

藍子「……っ……夕美さん――! なんで、こんなこと続けるんですか……!」
藍子「命を削ってまで……っ! 自分を傷つけてまで、どうして……!」

夕美「どうして? そんなの簡単だよっ」
夕美「世界が告げたから。"南瓜への乗車(イニシエーション)"同士、頂点を決めなさいって」

藍子「頂点……。夕美さんの……夕美さんは、私と違って……どんどん上を目指しているのは、知ってますけど……!」
藍子「どうしてですか! 世界中の話題になる大輪も、道端で頑張って咲いている花も、どっちも素敵だって言ったの、夕美さんじゃないですか……!」

夕美「言ったね。でも――私は世界一の花になりたいの!」
夕美「誰も見たことのないような……誰も成し遂げられなかった花を咲かせるの!」
夕美「どんな一瞬だけでもいい! その為なら命なんていくらでも削れる!」

夕美「覚悟も何もない子は――邪魔をしないでええええええーーーーっ!! 『帰忘ノ種』!!!」ヒュッ

藍子「――っ!!」

加蓮(……絶叫と共に、右手から離れた種)
加蓮(藍子は動けない。今、この場で夕美を止められる唯一の特化異能保持者(ホルダー)は、覚悟の強さに呑み込まれて立ち尽くす)

加蓮(……命なんていくらでも削れる、か)

加蓮「アアアァァ……!」

加蓮(少しだけ震える足に叱責を飛ばして、私は藍子の前に立ちふさがった)
加蓮(そして――)

<ぐっ!

加蓮「あぐっ……!」
藍子「……! 加蓮ちゃん!」
夕美「……むー。邪魔を……」

加蓮("種"が突き刺さる。痛みは……私の"能力"で、受けた先から緩和されていく。けど――)

加蓮「あ、ぐっ……なに、これ……! 気力が、なくなってく……!」

夕美「……あははっ! "南瓜への乗車(イニシエーション)"を振り払った加蓮ちゃんが、特化異能保持者(ホルダー)の私に立ちふさがってどうなるの?」
夕美「再生できるってだけの"能力"で、何ができるのかな!?」

加蓮「うるさいっ……! 神様になんて頼らないって私は決めてるの!」
加蓮「できること!? あるよ! 藍子の想いを引き継ぐこと!」
加蓮「言っとくけど私藍子ほど甘くないからっ、アンタの中にある触れられたくないところとか見たくもないところとか全部土足で踏み込んで引っ掻き回せる!」

藍子「加蓮ちゃん!」
夕美「っ……何それ!? 見たくもないところ? 今の私にはそんなのなんにもないよ!」

加蓮「あははっ……よく言うよ……!」

加蓮(ホントなにこれ……! 気力がどんどんなくなって……!)

加蓮「藍子の言う通りだよ! アンタ何がしたいの!」

加蓮(もとから私は戦闘なんてほとんどできない。だから私ができるのなんて、"口撃"だけ!)

加蓮「少なくともっ、私の知る夕美は……綺麗な花を咲かせたいからって、他の花をぜんぶ切り落とすような奴じゃなかった!」
加蓮「一番を目指したいからって周りを蹴落として、花壇を独占するような、そんな乱暴な人じゃなかった!」
加蓮「どうせ何かあるんでしょ! 目を覆って見ないようにしてる、嫌な理由が!」

夕美「うるっ……さいっ!」
夕美「あははっ、私の攻撃を受けて立っていられるなんて回復特化の能力は伊達じゃないんだねっ」
夕美「それだけ……芯が強いなら、きっといっぱい奪えるんだろうね……!」

藍子「! ダメ、やめてっ!」

夕美「ぜんぶ、ありったけ奪ってあげる! 私の糧になれっ!! 『帰忘ノ種』!」ヒュッ

加蓮(マズっ……!)
加蓮(口以外が動かせなくなる程に奪われた気力へ、抵抗する方法が見つからないまま、次の"種"が――!)

藍子「加蓮ちゃん――っ!!!」

「てやあああああああああああああああああああ―ーーーーーーーーーッ!!!!」


加蓮「……!」
夕美「……チッ……!」

加蓮(橙色が、爆裂した)
加蓮(流星のように飛び込んで、"種"を弾き飛ばしたのは――)

柚「へへっ! 間に合ったっ! 加蓮サン藍子チャンっ大丈夫!?」

藍子「柚ちゃん!」

加蓮「柚!? アンタ、さっきあっちで……」

夕美「…………」

夕美「……おかしいなぁ。柚ちゃんの方には、ありすちゃんが行ってたハズだけど」

柚「ありすチャン? さっき倒してきた! ギリギリだったけどっ――なんてウソっウソっ! よ、よゆーだったよ、ちょーよゆー!」

加蓮「……柚」

加蓮(健気に笑う柚だけど、腕や足にいくつか傷が見える。緩やかに修復されていくようだけど、痛くない訳がない。一目で分かった)
加蓮(でも、柚は両足でしっかり立っていた)

夕美「…………そう……」

加蓮(そして、夕美)
加蓮(一瞬だけ、目を伏せる。けれど次の瞬間にはもう、苛立ちと侮蔑を混ぜ込んだ笑みを浮かべていた)

夕美「まさか柚ちゃんが、『七番目の命時計(オーバーロード)』ありすちゃんを撃退するなんてね……ちょっと予想外だったよ」

柚「アタシ、もう夕美サンもありすチャンも分かっちゃったよ! ここからは柚無双のはじまりだっ」

夕美「柚ちゃんはいつも前向きだねっ。でも――」
夕美「原初の特化異能(スキル)、『命削りし故意せぬ乙女(オーバーロード)』は、そう簡単には崩れない!!」

……。

…………。

加蓮(それから10分くらい経つ)
加蓮(戦局は、夕美の言う通りだった)

柚「柚スマッシュ115号!」バッ!

夕美「効かないっ!」ヒュッ

柚「からのー、柚スマッシュ116号! 氷属性つきっ」

夕美「無駄だよ!」ヒュッ

加蓮(バドミントンのスマッシュみたいに次々と繰り出す魔弾を、夕美は避けて、時には受け止めている)
加蓮(ダメージはほぼない)

加蓮(……私だって、指を咥えてみているだけではなかった)

加蓮「ちょっとはこっちを見なさい――! 『魅手射手』!」ヒュッ

夕美「あははっ」パンッ

加蓮(私の放った矢尻状の魔弾を、夕美は見もしないではたき落とした)
加蓮(……ぜんっぜん、攻撃力が足りていない)
加蓮(気を惹かせることすらできない)

加蓮(柚だって何も考えずやっている訳ではない)

柚「今だっ藍子チャン!」

藍子「は、はいっ! ……っ……、……ごめんなさい――『強化一閃』!」キンッ!

加蓮(夕美の気を柚に向かせ、その間に藍子が仕留める)
加蓮(唇を震わせた藍子は、それでもまっすぐに一撃を放った)
加蓮(でも――)

夕美「だから、無駄だってばあっ!」スッ

加蓮(ほんの僅かに身を躱しただけで、攻撃力は激減する)

夕美「藍子ちゃんの『清心統一(コンセントレーション)』って、要は"急所に当たった時だけ爆発的な攻撃力を発揮する"ってことだよね?」
夕美「ならっ、対策は簡単! 大きく避けようとしないで、最小限に急所以外で受ければいいんだから!」

加蓮(……そう)
加蓮(夕美の『命削りし故意せぬ乙女(オーバーロード)』が、高い能力を得る代わりに命を削る必要があるように)
加蓮(藍子の『清心統一(コンセントレーション)』は、徹底した集中力がなければまともなダメージも与えられないというリスクがある)
加蓮(特化異能(スキル)というのは、そういうものなのだ)

加蓮(それでも――)

柚「もーっ! 何してんの藍子チャンー!」

藍子「う……ごめんなさいっ……次は絶対当てますから……!」

加蓮(それでも藍子はその特化異能(スキル)で戦ってきた。戦うことを選んできた。普段の穏やかな様子からは想像もつかない集中力で)
加蓮(今回、全く夕美に攻撃が通っていないのは――)

藍子「夕美さん……!」

加蓮(相手が、相手だから――)

柚「って藍子チャン! 前! 前!!」
藍子「え――」

夕美「あは♪」

加蓮「え、」


……。

…………。

加蓮(ザシュ、という生々しい音がした)

加蓮(右腕と左目付近を同時に切り裂かれた藍子は、悲鳴を上げることもできず倒れていく)

柚「あ、あ……!」
藍子「――ッ――!」バタッ

夕美「よっと」バッ
夕美「って言っても、藍子ちゃんの一撃は怖いもんねっ。でもこれで戦闘不可能。あとは――」

柚「……っ!」ゾクッ

加蓮(……マズイ)
加蓮「藍子っ!!」
加蓮(マズイ! 柚だって特化異能保持者(ホルダー)だけどこれはこれで厄介な点が――少なくとも、)

夕美「させないよ!」ヒュッ

加蓮「え……わっ!?」バッ
柚「加蓮サン!?」

加蓮(藍子に駆け寄ろうとしたらこれだ。空気をぶん殴るような魔弾が飛んでくる)

夕美「さ、始めようかっ?」

柚「うっ……!」

夕美「ねえ柚ちゃん。ありすちゃんに勝ったのは素直にすごいと思うよ。どんな奇跡が起きたのかな?」
夕美「もしかして、耐久戦とかやったの? だから来るのが遅れたとかっ」
夕美「ありすちゃん、まだ力を使いこなせてなかったのかなぁ……後でいっぱい教えなきゃ」

夕美「でも――」

夕美「柚ちゃんの特化異能(スキル)じゃ、私の――完璧に使いこなす私には、3%足りないの!」

柚「や……やってみなきゃわかんないやいっ!」

加蓮(……少なくとも、夕美の言っていることは正しい)
加蓮(柚では、夕美には勝てない)

加蓮(……)

加蓮「――柚! 時間を稼いで!!」

柚「っ!? 加蓮サンっ!?」

加蓮「私はっ……私は柚を信じてる。もっ、もしかしたら、っていうか、柚なら夕美にくらい楽勝じゃないかなーってホントは思ってる!」
加蓮「でもほらっ、そのっ、私ってけっこう慎重派っていうかなっ……それに私だけ何もできないで突っ立ってるだけとか癪だし!」
加蓮「すぐに藍子を回復させてくるから! 時間を稼いで! お願いっ!!!」

加蓮(……生まれてこのかた、こんなにウソを並べたことは、ないと思う)
加蓮(でもさ)

柚「お、オッケー! あっじゃあお決まりの一言いくよっ!」

加蓮「あははっ、なあに!?」

柚「ごほん。"別に、あれを倒しても構わないんでしょ――!"」キリッ

加蓮「あったりまえじゃん!」


夕美「~~~~~っ! させないよっ!!」

柚「夕美サンの相手はアタシだっ!! うああああああああああーーーーっ!!!」


加蓮「今のうちに……!」ダッ

……。

…………。

加蓮(3分もしないうちに、目に見えて分かる優劣が起き始めた)

柚「ぎっ、……あああああああああ――っ!」ドバッ!

夕美「何度やっても、効かない、よっ!」

加蓮(柚が放った特大魔弾へ、夕美は涼しい顔で片手を振る。一薙の風が、魔弾を消滅させる)

柚「なんでっ……!」

夕美「だから、柚ちゃんじゃ私には勝てないのっ。それだけだよ!」
夕美「柚ちゃんの特化異能(スキル)、『何者にもなれる何者でもないもの(オールラウンダー)』なんて、」
夕美「単に攻撃と回復ができるってだけなんでしょ?」
夕美「それに対して私は攻撃特化なの。柚ちゃんのどっちつかずな特化異能(スキル)じゃ、私は崩せないの!!!」

柚「ぅ、あ……! アタシ、だって……アタシだってぇ……!」

加蓮(……そんなことないよ)
加蓮(そんなことない)
加蓮(できないことばかりの私にとって、できることばかりの柚がすごく羨ましくて、そして、楽しそうだったって、言ってあげたい)
加蓮(言ってあげたいけど、今はこっちに集中――!)

加蓮「お願いっ……! 起きて、藍子!」

藍子「…………、…………」

加蓮(藍子は倒れ伏せている。ダメージが大きかったのは……分かるけど……!)
加蓮(さっきからずっと回復を施してるのに、目を開いたまま、虚空を見続けているのは何なんだろう……)
加蓮(気力をごっそり持っていかれたような、瞳に何も映さない藍子なんて……見たく、ないのにっ……!)

加蓮「お願い……!!」

柚「で、でもっ! そ、そうだよ。アタシ回復できるもんっ! 夕美サンはできない……どころか体力とかっガリガリしてるんでしょ!」
柚「なんでぜんぜん疲れてないの! おかしいよっ! ズルだっ!」

夕美「それは簡単だよ?」
夕美「だって私、」


夕美「命を削るの、慣れてるもん」


柚「は――!?」

夕美「だから言ってるよねっ。私の特化異能(スキル)は"原初"だって」

柚「そっ、そんなこと言ったらアタシだって"原初"だっ。最初に"オールラウンダー"をもらったのは、」

夕美「『何者にもなれる何者でもないもの(オールラウンダー)』、でしょ?」

柚「その言い方をするなっ!! ……最初にっ! これもらったのだってアタシだもん!」

夕美「甘いよ」
夕美「一番最初に"南瓜への乗車(イニシエーション)"を受けたのは私だよ」
夕美「もちろんそれであぐらをかいていたつもりもない」
夕美「あとから続いてきた子に負けないように、ずっと鍛えてきたんだっ」
夕美「すべては大きな花を咲かせるために!」

柚「あたっ、アタシだって……!」

夕美「ふふっ! じゃ、そろそろ終わりにしよっか!」
夕美「『命削りし故意せぬ乙女(オーバーロード)』発動!」

柚「う、う……!」

藍子「……」ビリッ


加蓮(……?)
加蓮(今、なんか、藍子の身体が……跳ねた……?)

夕美「いくよっ――『未知忘れ』!」ババババッ!

加蓮「っ!?」
加蓮(何あれ!? 夕美の身体から――あらゆるところから深緑色に血塗れが混ざった無数の棘が、柚に――!」

<ざざざざざざざざざざ!!!!

柚「――――――っ――――っ!!」
加蓮「柚!」

加蓮(棘は柚を覆いかぶさるように襲いかかる。くぐもった悲鳴のようなものが聞こえて、思わず、私は立ち上がって、)

加蓮(その瞬間だった)

夕美「これでおしま――」

<ずごががっ!

夕美「いぎいっ!?」ドタッ

加蓮「……え?」

加蓮(極太の……光線が走って、夕美を、なぎ倒した?)

柚「わ、わ、棘がぜんぶ枯れた? ふーっ助かったーっ。い、今の加蓮サン!?」

加蓮「ううん……私はこんなことできないよ……」

柚「ならっ――」

藍子「うぅ……うううぅぅぅ……!」


加蓮(――藍子)
加蓮(両目からぼろぼろ涙をこぼしながら、でも、しっかり立ち上がって)
加蓮(まだ痛む筈の傷を引きずって、でも、しっかりと前を見据えて)

夕美「ぐ、うっ……いったぁ……!」
夕美「どうして……!? なんで立てるの!? 『帰忘ノ種』は、確かに直撃してるハズなのに……!」
夕美「なんでみんな、そんなに……芯が強いの……!」

藍子「う、ぐ……私、だって……! 夕美さんの、目をっ……覚ましたいって気持ちは、夕美さんの覚悟に負けません!」

夕美「っ、目を覚ますも何もこれが私の本心だよ!」
夕美「ああもうっ、立てるのはいい! でも今のは何!?」
夕美「今の藍子ちゃんの攻撃、掠っただけ、だったのに……!」

藍子「……夕美さんは……夕美さんは、ウソをついてますっ!」

加蓮「藍子?」
柚「ウソ、って……?」

夕美「何が! 私はウソなんて何も、」

藍子「もし本当に、夕美さんが……自分以外のぜんぶを、糧としか考えてなくて!」
藍子「自分独りだけで花開こうって、考えてるなら!」
藍子「特化異能(スキル)が、私にまで……影響することなんて、ないハズです!」

夕美「っ!」

加蓮「特化異能(スキル)の……影響?」

藍子「特化異能(スキル)は、周りの人に影響することがあるんです」
藍子「夕美さんが発動した"オーバーロード"は、命を……削って……命を削って能力を高めるけれど」
藍子「意識していたら、近くの人にも影響を及ぼすんです」
藍子「能力を高めたり……"集中力を倍増させたり"……!」

加蓮「……そう、なんだ」
加蓮「あれ? もしかして、私の傷がいつもよりほんのちょっとだけ早く治ってるのって――」

藍子「それはたぶん、柚ちゃんの特化異能(スキル)のおかげだと思います」

柚「アタシのっ?」

藍子「柚ちゃんのそれ――何者にも……ううんっ」
藍子「ええと……な、なんて呼んだらいいでしょうか?」

加蓮「……『全能でなくとも万能(オールラウンダー)』って、私は勝手に呼んでるけど」

柚「いいねそれっ。かっこいい!」

加蓮「柚じゃできないことはあるかもしれない。でも、柚でできることはいっぱいある」
加蓮「全能じゃないけど、万能だよ」
加蓮「私は絶対に"南瓜への乗車(イニシエーション)"は受けないって決めてる。でも……柚のそれだけは、ちょっと羨ましいかな……」

柚「加蓮サン……!」

藍子「……加蓮ちゃん……」
藍子「えっと、それで、柚ちゃんの『全能でなくとも万能(オールラウンダー)』は、攻撃と回復を両立できる特化異能(スキル)なんですよね」
藍子「きっとそれが、加蓮ちゃんにも影響したんだと思います……」

加蓮「そか。……だってさ、柚」

柚「へへっ。アタシ、できてたんだね! できることがあったんだよねっ!」

藍子「はいっ!」

夕美「~~~~~っ! 黙ってれば言いたいばっかりっ……!」
夕美「特化異能(スキル)はそれこそ"万能ですらない"。だから変な影響を与えることくらいあるかもしれない!」
夕美「でもっ、私はあの時覚悟を決めたの!」
夕美「どんな手を使ってでも、誰よりも大きく花を咲かせるんだって!」

藍子「夕美さん、まだそんなことを――!」

夕美「だから邪魔しないで! 『帰忘ノ種』!」ヒュッヒュッ

柚「おわっとっ」藍子「きゃっ」

加蓮(2粒の種が発射される。けど明らかに精彩を欠いていた。柚と藍子が、余裕で回避する)

柚「こんのわからずやーっ! 藍子チャンの話も聞けーっ!」

夕美「嫌だっ……! 聞いたって何も変わらないもん! そんなのは邪魔なだけ!」

柚「ぐぬぬ、こうなったら! 藍子チャン、さっきのもっかいやるよ!」

藍子「はいっ! ……加蓮ちゃんも!」

加蓮「え? 私? でも、私戦闘は――」

藍子「今夕美さんを説得できるのは加蓮ちゃんだと思います! 私と柚ちゃんで押さえ込むから、加蓮ちゃんは――!」

加蓮「…………!」

加蓮(私が――)

夕美「全部引き裂くのっ――『星屑一突』!」ザッ

柚「おわっ! 夕美さんの爪がなんかでっかくなった!」
藍子「さっき私を切り裂いた爪だと思います。柚ちゃん、気をつけてっ!」
柚「おおオッケー! ううっ、でもおっかないっ! びびび、びびってなんてないけどー、ちょっとだけ距離を取ってー、柚スマッシュ! たぶん140号くらいっ」ドバッ!

加蓮(私――)


――回想・ある春の日――

夕美『こんにちはっ。今日から一緒にユニットを組む子だよね!』

夕美『私は相葉夕美! いっぱい楽しませる花になりたいんだっ。頑張って、私たちの花、咲かせようねっ♪』


――回想・ある夏の日――

夕美『うーん……なかなか上手くできないな。アイドルって難しいなぁ……』

夕美『あははっ、聞かれてた? 大丈夫大丈夫! 大きな花を咲かせる為には、たくさんの努力が必要だよね』

夕美『よーしっ、もう1回っ』

――回想・"あの日"――

夕美『――うん。"南瓜への乗車(イニシエーション)"を受けてきたの。私が"原初"の特化異能保持者(ホルダー)なんだって』

夕美『他のアイドルにはできないことが、いっぱいできるって言われちゃった。でもリスクもあるみたい』

夕美『うん。使いすぎないようにするよ。ここぞって時のとっておきっ!』

夕美『え? 名前? うーん……じゃあ、『命削りし恋せよ偶像(オーバーロード)』っていうのはどうかな!」

夕美『これから待ち受ける世界に、いっぱい恋して、いっぱい楽しむのっ』

夕美『花だって、しぼんでるものより活き活きとしてる方が見てて楽しめるでしょ? そんな私を目指すっていう、決意表明だよっ』


――回想終了――

夕美「あああああああ――!!!」

柚「ちょわっ、早い早いっ! なんで夕美さんこんなにタフなのーっ!」

藍子「うぅ……1度で仕留めたいのに……1度で仕留めたら、少し傷つくだけで終われるのに、ぜんぜん狙いが定まらない……っ!」

加蓮(……血走った目、ボロボロの身体、発動を止めない特化異能(スキル))
加蓮(なんでこうなったのよ、夕美……)
加蓮(…………)


加蓮「――夕美!」

夕美「まだ、まだっ――加蓮ちゃんっ?」

加蓮「アンタは……そうなってでも、ボロボロになってでも、やりたいことがあるって言った」
加蓮「それは本当に本当のことなの? 本当に本心なの!?」

夕美「当たり前だよ! 加蓮ちゃんにだって邪魔はさせな、」

加蓮「ヤダ。邪魔する」
加蓮「……私はその想いの強さを馬鹿にはしないよ。他の誰かが笑っても私だけは笑わせない」
加蓮「……その気持ちは、わかるもん」
加蓮「アイドルなんてできない身体だから、回復一本の能力を選んだ」
加蓮「戦いなんてできない。周りには弱っちいって笑われる。でも、私は今まで生きてきた!」

夕美「っ……だから、何っ……!」

加蓮「想いの強さは認める。でもアンタは想いを向ける方向を間違ってる!」
加蓮「だから邪魔をするよ!」

夕美「……あははっ……! 邪魔なんてっ……特化異能(スキル)も持たない加蓮ちゃんに、何ができるの!」

加蓮「特化異能(スキル)なんてなくても戦えるよ! 私だって……私だって密かに修行したことがあるから!」
加蓮「修行して、現実にぶち当たって、大泣きして……戦うことをホントに諦めて、今まで、ずっと身体の安全を優先してきた」
加蓮「でも! 夕美の考えを曲げられるなら……それで間違った想いを正せるなら!」
加蓮「弱い自分から目を背けることも、保身的な安全優先も、ぜんぶ捨ててやるっ!!」

夕美「っ……!」
夕美「やれるものならやってみなさいっ!! 私の覚悟は、そんな程度には負けないから!!!!」

加蓮「……この馬鹿……!」キッ

加蓮「――歌は人生歌は魂。夜の帳に心潜ませ、我は理に背き理を創り者――!」

藍子「……! あれって……!」
柚「藍子チャンっ知ってるの!?」

加蓮「ドレスチェンジ! ソング・フォー・ライフ!」


《ドレスチェンジ》
[煌めきの乙女]北条加蓮(Starlight.ver)
特技「輝く笑顔」
11秒毎、中確率で少しの間、PERFECTでライフ3回復

[ソング・フォー・ライフ]北条加蓮
特技「今夜だけの歌声」
4秒毎、高確率で一瞬の間、COMBOボーナス15%アップ


藍子「あの、時の……」

――回想・ある温泉街での出来事――

加蓮『ぶはっ……!』

藍子『……』

加蓮『ぁー……ダメかー……。回復以外の衣装(ドレスモード)で戦ってみたのなんてすごく久々で……こんなに気合を入れたのに……』

加蓮『やっぱり、私ってこんなもんなんだね……』

藍子『……そ、そんなことないですよ。加蓮ちゃんは頑張っ――』

加蓮『そういう慰めはいいの。藍子に負けたっていうのは事実なんだから』

藍子『加蓮ちゃん……』

加蓮『ハァ……。……いいやっ! 私はやっぱり、いつもの私のままで行くよっ!』

藍子『……いいんですか? 戦えるようになりたいっていうのは――』

加蓮『うん。やっぱりいいやっ。アイドルができてるってだけで感謝しないとね。戦いはみんなに任せちゃうよ。私は回復専門で!』

加蓮『ふふっ、キャラじゃないかな?』

藍子『……ううんっ。なら、私が加蓮ちゃんの代わりまで戦います』

藍子『もし私がダウンしちゃったら、その時は、加蓮ちゃん、回復をお願いします!』

加蓮『うん。お願い。その時は、私もちゃんと側にいるから……』

――回想終了――

藍子「…………」

柚「……藍子チャン?」

藍子「……加蓮ちゃんは……身体に無理してでも、夕美さんと向かい合うことを決めた……」
藍子「なら、私だって……」
藍子「傷つくことに恐れて、一撃で決めることにこだわることより……大切なものを、ちゃんと見なきゃいけない」
藍子「でも……戦いでボロボロにすることなんて、私には……」

柚「……」

柚「へへっ」

藍子「? 柚ちゃん?」

柚「えとねっ。藍子チャンってすっごく優しいって思う!」
柚「すっごく強いのに、特化異能(スキル)で戦って……集中するのってしんどいと思うしっ。でもそうまでして使うのって、相手をあんまり苦しませない為、だよね?」
柚「一撃で勝っちゃえば、苦しまないもんっ」

藍子「……はぃ」

柚「でもさでもさっ。今は大丈夫だと思う!」
柚「ホラ、夕美サンってすっごく覚悟を決めてたし、加蓮サンもそう!」
柚「いっぱいボロボロになっても、そんで相手を負かせちゃっても、夕美サンはたぶん大丈夫だよっ」
柚「それにー、もし夕美サンが後で藍子チャンを恨んだり、嫌なこと言ったりしたら、柚がどーにかするからっ」
柚「だから、大丈夫だと思うっ! へへっ♪」

藍子「柚ちゃん……」

藍子「……」

藍子「……お願いしちゃっても、いいですか?」

柚「あいあいさー! っていっても柚も戦うからねっ。加蓮サンと藍子チャンにいいとこだけ見せるのはヤダっ」

藍子「もちろんですっ」


藍子「いきます……っ!」

藍子「――楽園を」

藍子「――この場を、誰もが幸せで笑っていられる、心温まる楽園にしてみせる!」

藍子「ドレスチェンジ! ウォームプレイス・クリエイター!」


《ドレスチェンジ》
[情熱ファンファーレ]高森藍子
特技「ファンファンSay Yeah!」(コンセントレーション)
9秒毎、中確率でしばらくの間、PERFECTのスコア16%アップ、PERFECTのみCOMBO継続

[あたたかな居場所]高森藍子
特技「こころ癒やす風」
11秒毎、中確率でかなりの間、COMBOボーナス15%アップ

加蓮「夕美イイイイイイイイ――っ!!」
夕美「加蓮ちゃああああああああああああーーーーーんっ!!!」

藍子「加蓮ちゃん! 私も加勢します! ――目を覚ましなさいっ! 夕美さんっ!!」
柚「柚も! 今の夕美サンはぜんぜんオッケーじゃないっ! かくごーっ!!」

……。

…………。

「(その後)っていう夢を見た。」


――事務所――

加蓮「――って夢を昨日見たんだけど、ありす、どう思う?」

ありす「おかしいです」

加蓮「え?」

ありす「加蓮さんの話は、夢とは思えないほどに設定が練ってありました。そのままゲームに出てきてもいいくらいです」

ありす「ですがそれは問題ではありません。真の問題は――」

ありす「なんでその夢に私がいないんですか!!」

加蓮「え……い、いや、いたことはいた、っぽいよ?」

ありす「柚さんにやられたって情報しか出ていませんよね!? 私の活躍はどこへ行ったんですか!?」

加蓮「か、活躍って言っても――」

ありす「例えばその戦いの末に夕美さんが負けてしまい、そこを私が助けるというシナリオとか、あってもいいですよね!」

加蓮「やけに具体的だね」

ありす「最近のRPGでそういう展開を見ましたから」

加蓮「なるほど」

ありす「まだ納得できない部分があります。夕美さんが悪役というのは百歩譲って――いえ、譲らなくても構いません。むしろベストチョイスだと、」

夕美「ストーップ! そこは構ってよっ!」

ありす「夕美さん」
加蓮「あれ、いたの?」

夕美「ちょっと前に事務所に来て加蓮ちゃんとありすちゃんが面白そうな話をしているから盗み聞きをしてたんだよっ!」

加蓮「……初めて見たよ。盗み聞きしたことにこんなに胸を張ってる人」
ありす「盗聴は犯罪です。確かにこれは、夕美さんが悪役になるのは当然の流れですね」

夕美「当然にしないでっ!」

ありす「それはいいんです。問題はどうして私がその夕美さんの部下っぽいポジションになっているかということです!」

夕美「よくないんだけどーっ!?」

加蓮「あー……ほら、ありすって夕美と仲良しじゃん。だからじゃないかなー、って……」

ありす「夢を見たのは加蓮さんですよね。だから加蓮さんには説明する責任が生じています」

加蓮「責任て」

ありす「そうやってはぐらかすのは卑怯です。納得できる説明をしてください」

加蓮「そ、そんなこと言われても……夢ってほら、無意識で見るものだし」

夕美「つまり加蓮ちゃんは無意識のうちに私を悪役で見てるってことなのかなっ!?」

加蓮「……ってことじゃない?」

夕美「少しは違うって言ってよーっ!」

------------------------------作者解説------------------------------
[つぼみ]相葉夕美
特技「希望の種」(オーバーロード)
9秒毎、中確率でライフを15消費し、しばらくの間PEAFECTのスコアが16%アップ、NICE/BADでもCOMBO継続
※初の「オーバーロード」所持者であり、スターライトステージ初のネームスキル所持者

[Near To You]橘ありす
特技「手を伸ばしてギュッ」(オーバーロード)
7秒毎、中確率でライフを11消費し、少しの間PEAFECTのスコア16%アップ、NICE/BADでもCOMBO継続
※7人目の「オーバーロード」所持者

[煌めきの乙女]北条加蓮(Starlight.ver)
特技「輝く笑顔」
11秒毎、中確率で少しの間、PERFECTでライフ3回復

[情熱ファンファーレ]高森藍子
特技「ファンファンSay Yeah!」(コンセントレーション)
9秒毎、中確率でしばらくの間、PERFECTのスコア16%アップ、PERFECTのみCOMBO継続
※初の「コンセントレーション」所持者

[ハイテンションスマッシュ]喜多見柚
特技「テヘペロオッケー」(オールラウンダー)
8秒毎、高確率でわずかな間、COMBOボーナス13%アップ、PREFECTでライフ1回復
※初の「オールラウンダー」所持者

[あたたかな居場所]高森藍子
最大能力……Vo:3,879 Da:7,073 Vi:4,671
[ソング・フォー・ライフ]北条加蓮
最大能力……Vo:4,677 Da:7,059 Vi:3.889
※以上2名は同時登場

「(その後のその後)2つサバを読む12歳」


ありす「それにしても、加蓮さんがファンタジーの夢を見るなんて珍しいですね」

夕美「時々話してくれるけど、たいてい夢の中でもアイドルをやってたり、何か食べてたりするよねっ」

加蓮「そういえばそうだっけ……。なんでこんな夢を見たんだろ」

ありす「先ほど加蓮さんは言いました。夢は無意識を映像にする物だと。それがヒントになるのでは?」

夕美「ってことは――あっ」

夕美「えーっと……うんっ。そういうお年頃なんだねっ♪」ナデナデ

加蓮「違うよ!? 間違っても私そーいうキャラじゃないでしょ! こらっ、撫でるなっ」

ありす「それは分かりますが……では、どうしてでしょうか」

夕美「あっ、もしかして私が貸してあげた漫画を読んだからじゃないかな?」

加蓮「それかも。……いい加減撫でるのやめてくれない? 撫でるならありすにしなよ」

ありす「漫画? あと私を巻き込まないでください」

夕美「はーいっ」

夕美「今加蓮ちゃんが話してくれたお話に似た漫画があるの。中高生向けだから、ありすちゃんにはちょっと早いかもしれないけど……」

ありす「む。そんなことはありません。そういうのは自分の理想通りの教育をしたい大人達が勝手に言っていることに過ぎませんから」

夕美「そうかなー」

加蓮「読みたいならうちに来る? 今晩ってありすが来る予定でしょ。まだ借りたままだから、読んでいいよ?」

ありす「本当ですか!? 今日は徹夜です!」

加蓮「う、うん。……漫画は読まないって言ってたのにすごい食いついてきたね」

ありす「いえ、これはその……後学の為と言いますか……ほ、ほら、『にぱゆる』を広める為にはありとあらゆる話題を知っている必要があると感じただけです。それだけですからっ」

加蓮「いつも思うけど上手いこと言うなぁ。素直に感心しちゃう」

夕美「さすがありすちゃんだねっ」

――翌日・事務所――

加蓮「でさー、次の流行の色のデニムが品切れてて」

夕美「通販サイトも全滅なの? そういえば私も、探してるワンピースが――」

<がちゃ

ありす「…………」

加蓮「お、ありす。おはよー」
夕美「おはよう、ありすちゃんっ」

ありす「…………」

加蓮「……?」
夕美「ありすちゃん? 具合でも悪いの?」

ありす「――魔術師たる者、余計な言霊は使いません」

加蓮「は?」
夕美「へ?」

ありす「失礼します」スッ

<てくてく

加蓮「……」

夕美「……」

加蓮「……うん、まぁ、そうなる気はしてた」

夕美「私も読み直しちゃおっかな」

加蓮「って言っても、漫画は私の家にあるし、今日は藍子が来るって言ってたよ?」

夕美「えーっ! 返してよーっ。私も読みたくなっちゃった!」

加蓮「やだよ! 今いいとこまで読んだんだから!」

「(その後のその後のその後)2つサバを読む16歳」


――翌日・事務所――

藍子「――我は魔道士! 人々へ幸せをもたらすために異界より遣われし者! ですっ!」

ありす「――我は魔導を極めし者。我の言霊は絶対です……絶対だ。世を切り拓く準備はできまし……できた!」


夕美「藍子ちゃんまで!?」

加蓮「……うん、まぁ、こうなる気はして……」

加蓮「して……」

柚「ホントにしてたっ?」ヒョコッ

加蓮「……してる訳ないでしょ……。藍子? それはありすに付き合ってあげてるだけとかそういうヤツだよね? 昨日私が寝た後もなんかガサゴソしてたことと関係ないんだよね!?」

藍子「その答えは、加蓮ちゃ……ええと……」
ありす「……煌めく星の遣い、なんてどうでしょうか(ボソッ」
藍子「ありがとうっ。――煌めく星の遣いの者たるあな……そ、そなたが一番知っています!」

加蓮「うっわぁ……」

夕美「加蓮ちゃ~~~~ん?」

加蓮「いや私のせいにしないでよ」

柚「アタシもやるーっ! えとっ、われは魔法使いだぞー、崇め奉れー。これでいい?」

ありす「魔導を極めし者に貴賎はありません。ようこそ、柚さん」

藍子「共に道を極めましょう。貴女には貴女の世界が――」

加蓮「柚まで!? あーもうっ! 藍子! あとありすも! 元に戻りなさい~~~~~!」

「<カトレア>高森藍子」


――夕美の家――

「今日は手伝ってもらってありがとう、藍子ちゃん♪」
「いえいえっ。私も、楽しかったですから」

右手で左腕を撫でながら、藍子はほんわりと微笑んだ。

「ガーデニングって、大変なんですね……。肥料や栄養剤をいっぱい買って、運ぶのも重たくて」
「そうなんだよーっ。色んな人に勧めてみてるんだけど、最初で結構つまずいちゃう人も多いんだ」
「残念ですっ」
「その分、花を咲かせた時の喜びはすっごく大きいんだよ! あっそうだ。藍子ちゃん、この前あげた花の苗はどうなってるかなっ?」
「この前、ようやく芽が出たところです。私と同じで、のんびり屋みたいで」
「そっか。咲いたら見せてねっ!」
「はいっ」

ダイニングに招待されて腰を落ち着けた時、自分が意外と疲れていることに気付いた。
ハーブティー持ってくるね、と夕美が立ち上がる。同時に、がごっ、とイスが派手な音を立ててしまい、あちゃー、と藍子は苦笑した。

待っている間に、ゆっくりとダイニングを見渡す。
壁際には観葉植物がいくつか並べてあって、鉢の周りには僅かな土しか落ちていない。フローリングに跡がつかないようにクリーム色のマットが敷いてある。
今は端でくくられている薄緑のレースカーテンには鮮明な葉がプリントされている。よく見れば、テーブルマットの隅にも、こぶりなアップリケが花開いていた。
暖色系の照明も相まって、森の中にあるロッジハウスを連想させた。

「お待たせっ、藍子ちゃん」
「わぁ……。いい香りですっ」
「実はね、よく行ってるカフェの人からオススメしてもらったのっ。しかもなんとっ、1つサービスでもらっちゃった!」
「よかったですね、夕美さん♪」
「足がたく通った甲斐があったよー。なんてねっ」

口に運ぶのもちょっと勿体無いくらいの上品な香りを堪能して、一口。
少し癖の強い味だったけれど、だからこそじっくりと味わいたい。
いつもの何倍かの時間をかけて頂いて、半分ほど飲み干したところで一息ついて、ふと顔を上げれば、夕美の姿が消えていた。

「あれ? どこに行ったんだろ」

電話でも入ったのかな、と適当に予想して、藍子は軽く頬杖をついて、また部屋を見渡すことに。
じいっと見つめて、ようやく窓際、レースカーテンの下のフローリングに細かな土が挟まっているのを見つけて、もしかしたら元々はそこにも鉢植えがあったのかな? と予想した。
言われてみれば観葉植物の下のマットもやや真新しい。もしかしたら色のバランスも考えて新調したのかも?
なんて予想した辺りで、ただいまっ、と夕美が戻ってきた。

「お帰りなさい、夕美さん。どこに行っていたんですか?」
「ほったらかしにしちゃってごめんねっ。ちょっと部屋まで、ある物を取りに行ってたのっ」
「ある物?」
「はい! 藍子ちゃんに、プレゼントですっ♪」

……プレゼント?

差し出された、縦に少し長細い箱を開けてみる。

「これは……ネックレス、ですか?」
「うん! これ、手作りなのっ。藍子ちゃんにあげるね!」
「私に? 嬉しいですっ。でも、いいんですか? 今日って別に、何の日って訳じゃ」
「あははっ、藍子ちゃん、ありすちゃんと同じこと言うんだね」
「ありすちゃんと?」
「なんとなくプレゼントをしたくなったから、今日はプレゼントをしたい日なの。ほら、つけてみてっ。きっと似合うから!」
「……じゃあ、遠慮なくっ」

まだ少し気後れしてしまうものはあるけれど、謙遜ばかりしていても逆に失礼だろうから。
箱からネックレスを取り出す。なんだかチェーンがとても細く感じられて、手作りという言葉を思い出す。
小道具を扱う時よりもずっと慎重に、バランスの危うい雑貨品を扱うような手つきで、そっと、そっと。

「これ、花飾りになっているんですね」
「うんっ。それ、何の花か分かるかなっ」
「うーん……?」

やや大きめの花飾り。角度を変えてみると、それが2つの花から成り立っていることに気付く。
波打つような紫色は高級感を漂わせ、蕾が花開いたばかりのような小さな黄色からは親近感を受ける。

「黄色いお花は……ナノハナ? ですか?」
「正解! さすが藍子ちゃんっ」
「こっちの大きなお花は……ううん、見たことは……」
「紫の花はね。カトレアをかたどってみたのっ」
「カトレア……?」
「うーん。あんまり馴染みのない花なのかな? 図鑑や本を見ても、小さくしか説明が乗ってないんだよね……」

少しだけ、寂しそうにつぶやいてから。

「カトレアってね。魔力を持った花なんだ」
「魔力……って、魔法、ってことですよね」
「うんっ。洋蘭系の中でもすっごく綺麗で、女王なんて呼ばれることもあるのっ。紫色がすっごく綺麗で、神秘的で……あとっ、大昔にすごい開花をしたこともあるんだって!」
「わぁ……! すごいお花なんですね。見てみたいなぁ……」
「ふふっ、今度実物を見せてあげるっ! それで、カトレアの花言葉は、"魔力"とか、"魅惑的"って意味なの! 調べた時に、すっごく藍子ちゃんっぽいなぁって思って……」

うっとりと語る夕美。花の話をしている時は本当に楽しそうで、つられて笑顔になる。
自分が笑顔になったのを自覚して、それから、夕美の言葉が頭の中でリフレインした。
大人っぽい女性。魅惑的な女性――

藍子は自分のことをあまり大人だとは思っていない。
高校1年生の16歳。ユニットの中では加蓮と並んで上から2番目。
確かに、周囲からは……例えばクラスメイトからは、同い年っぽくない、とたまに言われてしまうけれど。
藍子からすれば、単にのんびりしているだけだから、言われてもあんまりピンとは来ていなかった。

「私、藍子ちゃんはもっと自信を持っていいと思うのっ」
「自信、ですか」
「藍子ちゃんはとっても魅惑的な子なの。見る人みんなをうっとりさせちゃうくらいにっ」
「そ、そこまで言われると……」
「ううんっ、言わせてよ! 私、ずっと思ってたの。藍子ちゃんって不思議な魅力を持った人だなぁって。なんていうのかな……それこそ、森の奥で咲いてるお花みたいなっ! 一度見つけちゃったらずっと見ていたくなるような、そういう魔力があると思うんだっ」
「うぅ。照れちゃいますよ~、夕美さん」
「えーっ」

ずい、と夕美が迫ってくる。

「あははっ。藍子ちゃんがよく謙遜しちゃうのは知ってるけど、でもっ、私は藍子ちゃんには魔力があると思ってるよ!」

自分の体を見下ろす。
今でも、いつでも、自分があまりアイドルらしくないとは思っている。
特別美人という訳ではなくて、何かに秀でている訳でもない。ただちょっとだけ、アイドルをやりたいって気持ちが軸にあるだけの女の子。
そんな自己評価に、けれど夕美は手を伸ばしてくる。

「そんな想いを込めて、ネックレスを作ってみましたっ。気に入ってくれると嬉しいな♪」

そう言って、夕美は自分の分のコップを片付けに行った。……途中台所の方から何か大きな音と悲鳴が聞こえて、脳の端っこが微かに反応したけれど、藍子は顔を上げなかった。
じっと、自分と、夕美お手製のネックレスを見つめるばかり。

花飾りに、そっと触れる。
色鮮やかな紫色と、可愛らしい黄色。
夕美の説明を受けたからだろうか。最初に見た時よりも綺麗に見える。もしかしたら本当に魔力があるのかも? なんて、ちょっぴり思ってしまう。

「……夕美さんっ」
「ん? 何かなっ、藍子ちゃん!」
「ネックレス、ありがとうございます。とっても気に入っちゃいました!」
「ホント! やった~っ! 作った甲斐があったよっ。大切にしてあげてね」
「はいっ。それで……その、自分が魅力的……み、魅惑的? かどうかは、正直分からなくて……でも、今日の夕美さんの言葉、ずっと覚えておきますね」
「ず、ずっと!? それならもうちょっと良い感じに言っておけばよかったかも……?」
「ううんっ。いつも通りの夕美さんの話し方だからこそ、印象に残ったんだと思います……それに、夕美さんが私を思ってくれた気持ち、すっごく伝わりましたから!」

立ち上がる。
イスの音を立てないで、スカートの端を軽くつまみあげて。

「カトレアにふさわしい女性になれるよう、少しだけ、自信を持つようにしてみますね」
「うんっ♪」

ちょっとだけ、舞踏会の貴婦人になった気分、かも?

「ヒミツの相談」


――カラオケボックス――

柚「『ここで止まるの、私はっ♪』――ふうっ」

柚「いぇーいっ! どう? どう!? うまいでしょー!」

藍子「とっても上手かったですっ」パチパチ
ありす「……アップテンポな歌い方が、柚さんらしかったと思います。……次は一緒に歌ってみませんか?」
加蓮「さっすが柚ー。やっぱり柚はこういう系だよね」パチパチ

柚「たはー! ……た、たははっ」

加蓮「お、なになに。顔を真っ赤にしちゃって。柚のガチ照れなんてレアいねー」

柚「あ、アタシだって照れる時は照れるんだいっ。それよりほら、次は加蓮サンだよ! 柚と一緒に歌おうっ」

加蓮「じゃあ最近の……この辺の歌にしよっかなぁ」ポチポチ

藍子「あの、柚ちゃん?」

柚「ン?」

藍子「歌を歌うのもいいんですけれど……今日は、何か相談があったんじゃ?」

柚「あ! そうだったっ。加蓮サン歌ストップ! ストップストップ!」バッ

加蓮「わっ」

ありす「……そういえばそうでした。歌は、後にしましょう。いいですね。後で歌うんです。絶対ですよ」

柚「う、うん? いーけど」

加蓮「そういえば秘密会議とか言われて来たんだっけ。来るなり柚がガンガンに歌ってたから忘れてたよ」

ありす「部屋に入った時はびっくりしました。叫ぶように歌っていましたから、鼓膜が破れてしまうのではと心配しました」

藍子「あの時の柚ちゃん、すごい迫力でしたよね。でも目が合った時にすぐ、いつものように笑ってたから、ほっとしましたっ」

柚「だ、だってー。マイクがあったら持つっしょ? 歌うっしょ? 叫ぶっしょ!?」

藍子「叫びは……しないかな……?」
ありす「叫びはしませんね」
加蓮「叫んだら身体が死ぬし」

柚「ぐぬぬ。あっ、そんでそんで、秘密会議!」

柚「えとっ、夕美サンはいないよね?」キョロキョロ

加蓮「夕美? 誘うなって言われたから声かけてないけど。藍子とありすは?」

藍子「私も、こっそり来てほしいって言われたから……。加蓮ちゃんとありすちゃんが来た時には、少しびっくりしちゃいました。私だけに用があったのかな? って思っていましたから」

ありす「私には裏口から入ってくるようにという指示が届きました。あれはどういう意味だったんですか?」

柚「ふっふっふー。これも柚の、こ……こう、へん、な……?」

加蓮「……巧妙って言いたい?」

柚「巧妙な作戦だっ」

ありす「…………」ジトー
藍子「つ、続きを聞きましょ?」
加蓮「……アホ……」ジトー
藍子「こら、加蓮ちゃんっ」

柚「あのねっ。アタシ今やりたいことがあるの! それはーっ」

ありす「それは?」

柚「夕美サンにプレゼントがしたいっ!」

加蓮「プレゼント……?」
ありす「プレゼント、ですか?」

藍子「……あ、もしかして、お返しってこと?」

柚「藍子チャン正解っ! 1ポイントっ、の代わりに! この柚グッズを進呈するね!」スッ

藍子「ありがとうございますっ♪」ウケトル

加蓮「まーた妙なグッズが増えてる……」
ありす「『にぱゆる』の公式グッズって、大半が柚さんが作成した物ですよね」
加蓮「最近はゆるキャラ計画とか出てるんだってー。非公式で」
ありす「思っていたのとは違う方向に行ってしまっています。いつか軌道修正が必要でしょうか」

柚「でねでね。夕美サンにプレゼントがしたいんだけどー、アタシ1人じゃ、なんかこう……照れるじゃん!」

加蓮「照れる?」

柚「はいっプレゼント! って感じで、ぽんっ、って渡せたらいいけど……でも、イザってなったらなんか、緊張しそう!」

加蓮「き、緊張? 柚が? あの柚が緊張するって言った!?」

柚「そこまで大げさに言うことないんじゃないカナ!?」

ありす「いいと思います。私達、いつも夕美さんには世話になっていますから」

柚「おーっ。ありすチャンからそんな言葉が出るなんてっ」

ありす「普段から世話になっているのは事実です」

加蓮「そうだね。アイドル活動で困った時があったり、悩んだ時があったりしたら、夕美がいつも助けてくれるし」

藍子「いつも楽しく過ごせるのは、夕美さんのお陰でもありますよね」

柚「アタシはー……その、夕美サンが来てから、加蓮サン取られてばっかりでちょっぴり寂しかったりもしたケドっ」

加蓮「……そんなこと思ってたの?」

柚「でも、アタシ髪飾りもらっちゃったもん! そんで、アタシのこと、み、魅力的だって言ってくれた!」

柚「その日さ、帰ってお風呂入る時に髪飾りを外したら、お返しがしたいって思ったんだっ」

加蓮「なるほどね」

ありす「柚さんももらっていたんですか」

柚「ってことはありすチャンも?」

ありす「はい。ニチニチソウの花飾りを……これです」スッ

加蓮「あ、それ見覚えないって思ってたら夕美からのプレゼントだったんだね」

ありす「花言葉も教えてもらいました。"楽しい思い出"だそうです」

藍子「楽しい思い出……」

ありす「……私1人だけ、歳が離れていることを夕美さんは気にしていたようです」

ありす「正直余計な気遣いだって最初は思いました。でも……」

ありす「夕美さんはいつも、私達を楽しませようとしてくれています」

ありす「……いつも子供扱いするし、頭を撫でてばかりで、やめてくださいって言っても全然やめてくれませんけど」

ありす「でも……」

ありす「……」

藍子「ありすちゃん?」

ありす「柚さん。具体的なプランは決まっているんですか? 参加する以上は私も本気で考えます」

柚「やたっ。ありすチャンの知恵があれば、成功間違いなしだっ」

加蓮「ちょっとー? 私にも参加させてよ。加蓮ちゃんは役に立つよー?」

藍子「私にも参加させてください。……お、お役に立つかは分かりませんけれど、頑張って考えてみますね」

柚「もちろんっ! じゃー何にしよっか!」

ありす「はい」スッ

柚「はい! ありすチャン!」

ありす「夕美さんは手作りの髪飾りを私にくれました。おそらく、柚さんのそれも手作りかと推測されます」

ありす「だから私達も、手作りの何かでお返しするべきです」

加蓮「うんうん」
藍子「うんうん」

ありす「それも、心の篭っているとすぐに分かるような物にするべきでしょう」

ありす「気持ちは言葉で伝えられます。でもそれ以上に第一印象が大切です」

ありす「オーディションの時も、最初に悪い印象を与えてしまうと、どれだけ言葉を並べても落ちてしまうとPさんが言っていました」

ありす「すぐに見て手作りだと思う物。それは、りょ――」

柚「!? すとーっぷ!」

ありす「うり……って何ですか急にっ。ここからが大切な所なんです!」

柚「いやあの……うん。それは、えとー、やめにしないかな?」

ありす「どうしてですか? すぐに見て気持ちの篭った手作りだと分かる物として、料理は最適な物です」

柚「え、えとー……加蓮サンっ!」

加蓮「え、私?」

柚「なんかこー、うまいことありすチャンを言いくるめて! このままじゃ贈り物が悲劇を呼んじゃうっ」

加蓮「……藍子。任せた」

藍子「ええっ」

加蓮「ありすを宥めるなら藍子が一番でしょ」

藍子「うぅ~……うーん……。でも私、手作りの料理を振る舞うっていうのは、いいアイディアだと思いますよ?」

柚「出てくるのアレだよ! アレなんだよ! ずももももってしてるアレ! 藍子チャンはそれでいいの!?」

藍子「ひゃっ。そ、それは……あはは……」メヲソラス

加蓮「……しょうがないなぁ。ホント、藍子は優しいんだから」

加蓮「ねえ、ありす、はっきり言っていい?」

ありす「反論があるならどうぞ。なんだって論破してみせ、」


加蓮「今のいちごパスタはマズイからダメ。パス」


ありす「」

柚「わおバッサリ」

藍子「か、加蓮ちゃんっ。もうちょっと言い方っ……ありすちゃんがショックを受けて真っ白になったじゃないですか!」

加蓮「あのねありす。いちごパスタがダメって言ってるんじゃない、"今の"いちごパスタはダメなの」

加蓮「ありすだって、今作れる物が最高の物だって思ってないでしょ?」

ありす「」

ありす「……」

ありす「……確かに、まだまだ改善の余地はあると思います」

加蓮「夕美のくれた髪飾りはどうだった? 完璧だったでしょ」

ありす「はい。正直、最初に見た時は雑貨屋で買った物かと思いました。……いえ、それ以上に、もしかしたらオーダーメイドではないのかとすら」

加蓮「その辺は夕美の器用さとかあると思うけど、少なくとも夕美は未完成の物を投げつけてくるようなことはしなかったよね」

加蓮「じゃあ私達も、今作れる物の中でできるだけ完成度の高い物を贈るべきじゃない?」

ありす「……ですが、」

加蓮「それともありすちゃんは、ステージの本番当日に急に歌いたい歌ができて、練習も全くしてないのに、後先考えないで歌って盛り下げるような子なのかな? でも気持ちが篭ってるからって言い訳しちゃうの?」

ありす「…………っ」

藍子「加蓮ちゃん、ありすちゃん……」
柚「な、なんだか空気が重いね……」

加蓮「……ごめん、ちょっと強い言い方しちゃった」

加蓮「でもさ、いくら努力したからって言っても結果は大切だと思うんだ」

加蓮「だから今は、ありすのまだ未完成ないちごパスタ……っていうか料理は、ちょっと避けるべきじゃないかなって思う」

ありす「…………」

加蓮「それでもありすが、今の努力の成果を見せたいって言うなら、私は止めないけど……」

ありす「……いえ。加蓮さんの言う通りです。私が間違っていました」

ありす「確かに私の料理はまだまだ未完成です。それに、夕美さんは以前、完成するのを楽しみにしていると言ってくれました」

ありす「なら私は、完成した時に披露するべきです」

加蓮「うん。分かってもらえて嬉しいよ。……改めて、言い過ぎちゃってゴメンね?」

ありす「いいえ、ありがとうございました。加蓮さんは正しいです」

ありす「今は私に……私達にできるものを贈るべきですね」

加蓮「うんうんっ。いちごパスタはまた、柚相手に練習して、自分がこれで完成だって思った時に夕美に振る舞ってあげなよ」

ありす「はい!」ペコ


柚「……あ、アレ? 加蓮サンさりげなく柚を売った!? 売り飛ばした!? しかもっ最後に夕美サンまで犠牲――」
藍子「し、しーっ、しーっ! そういうつもりじゃありませんからっ! きっと!」

ありす「ですが今の私達にできる物とは何でしょうか。やはり……歌や、ステージということに?」

柚「……んー」

柚「それはちょっと……イヤかも」

加蓮「あれ、そうなんだ。意外ー。柚なら最初にそれを提案してくると思ったのに」

柚「えとねっ……なんか、……ちょっとやだっ。うまく説明できないケド!」

加蓮「そう……?」

藍子「柚ちゃんが嫌というなら、それ以外にしましょうか」

ありす「そうですね。別案を探してみます」

加蓮「最近、夕美がほしがってた物とか聞いた人いる?」

藍子「私は、特には……。買い物と言えば夕美さん、この前、気に入った家具があったから衝動買いしちゃったって、楽しそうに言っていました」

ありす「私も知りません。昨日気に入った漫画を一気買いしたと楽しそうに言っていたことは覚えています」

柚「アタシも知らなーい。そういえば一昨日に事務所にお菓子をいっぱい持ってきてたっ。見てたらつい買いたくなっちゃったんだって!」

加蓮「……い、意外と散財してるんだね」

藍子「アクセサリをもらったから、同じアクセサリでお返しを、というのはどうでしょうか?」

柚「いいかもっ。でもアタシ、アクセの作り方ほとんど知らないよ? バッヂとかなら作れるけどっ」

加蓮「……そういえば前に柚、ステージ上から手作りバッヂをばらまきまくったことあったよね」

柚「へへっ。柚のサプライズプレゼント!」

ありす「私も雑貨の作り方は……。今タブレットで調べてみましたが、手順がややこしくて簡単にはいきそうにありません」

加蓮「ネイルくらいならできるけど……」

ありす「形に残る物だけがプレゼントとは限らないのではないでしょうか」

藍子「時間をプレゼントする、ってこと?」

ありす「はい。パーティーのようなものとか……」

柚「じゃあ、また加蓮サンの家に集まってナイトパーティーだっ。柚いっぱいお菓子を持ってくよー! 藍子チャンは、晩ご飯担当!」

藍子「はいっ。バーベキューセット、取り出しておきますね」

加蓮「……それ最後に楽しんで終わるだけじゃない? 主に柚が」

柚「ぎくっ。でででででも夕美サンだってはしゃいでたじゃん! あの時!」

ありす「……よく考えてみればそれはふさわしくないかもしれません。夕美さんは私達に、形の残る物をくれました。なら、私達もそうするべきでは?」

柚「そーだそーだ! 誰だっパーティーをしようなんて言ったの!」

柚「柚だった!」

加蓮「…………」ジトー
藍子「まあまあ」

藍子「でも、そうなるとなかなか見つかりませんね」

柚「手作り、手作りかー。柚グッズじゃダメ?」

ありす「料理も、食べてしまえばなくなってしまいますよね」

加蓮「ネイルもねー、私だけがって話になっちゃいそうだし、あんまりみんなでやってる感生まれないよね……」

藍子「写真……は、でも、普段からけっこう撮っていますから。あまり特別なって感じはしませんね」

藍子「うーん」
柚「むむむ」
ありす「……」
加蓮「何かないかなぁ……」

藍子「……そういえば、ありすちゃんも、加蓮ちゃんも、柚ちゃんも、夕美さんからアクセサリをもらったんですよね?」

柚「ん? そだよー」

藍子「ちょっと気になったんですけれど、もしかして、みなさんがもらった物も何かお花がついていたんですか?」

加蓮「うん。私はこれ……ほら、ブレスレットのここのところ。スターチスって言うんだって」

柚「アタシはラナンキュラス! 呪文みたいな名前でしょっ」

ありす「さっきも言いましたがニチニチソウです。藍子さんは?」

藍子「カトレアと、ナノハナのお花って――」

柚「なにーっ。藍子サンだけ2つ!? ズルいっ!」

藍子「ええっ」


加蓮「かとれあ……って何だっけ?」
ありす「今調べてみます。……出てきました。この花みたいですね」ハイ
加蓮「ふんふん。おーホントだ。藍子用のネックレスのそれ、すごく再現されてるね」ズイ
ありす「私のニチニチソウもすごく似ています。まるで細工師の技術みたいに」
加蓮「保育士にも司書にも細工師にもなれるって……なにそれ。最強じゃん」
ありす「何をどうすればあんな風になれるのでしょうか。あの人は反則です」

>>226 8行目の柚のセリフを修正させてください。
誤:「藍子サンだけ」
正:「藍子チャンだけ」


藍子「夕美さんはきっと、私たちに似合うお花をいっぱい探してくれたんですよね」

加蓮「花言葉……に詳しいのはいつも通りだけど、なんかこう、私に合うのを探してくれたって感じがしてた」

ありす「……思えば夕美さんはいつも私達のことを見てくれていました。だからこそ……」

柚「……さすが夕美サン、って感じだよね」

藍子「逆に、夕美さんに似合うお花って何でしょうか?」

加蓮「えー……んー、ひまわり、とか? あ、でも藍子とイメージかぶるかー」
柚「わかんない!」
ありす「……急に言われても思いつきません。でも、夕美さんならこういう話でも即答してしまいそうです」

加蓮「私やありすは夕美から色々教えてもらったけど、半端に夕美の真似をしてもねー……」

ありす「花にはたくさんの花言葉があると聞きました。今からすべて調べるのは、ちょっと難しいのでは?」

柚「ならさっならさっ。絶対間違わないようにしちゃえばいいと思うっ」

藍子「間違えないように……?」

柚「さっきありすチャン言ったじゃん。パッと見て、心がこもってるのが大切だってっ。そんな感じなのがいいと思うな!」

加蓮「含みを持たせて謎解きっぽくするのは面白そうだけど、夕美ならすぐ看過しちゃいそうだし」

ありす「誤解されてしまうのは……嫌です」

藍子「……それなら、私に案がありますっ」

柚「お、なになに!?」
ありす「…………」ドキドキ
加蓮「なにー?」

藍子「誰が見ても、すぐに意味が伝わる物で……私たちの伝えたい気持ちが、ぎゅっと詰まっているプレゼント」

藍子「それは――」

「<カーネーション>相葉夕美」


――路上――

夕美「ん~~~~っ! ホットドッグ、すっごく美味しかったーっ」

藍子「甘いマーガリンのついたトーストも、とっても美味しかったです!」

夕美「藍子ちゃん美味しそうに食べてたよね。私、次に行ったら注文しちゃうね!」

藍子「それなら私は、夕美さんの食べていたホットドッグを注文しますね」

夕美「それにしても急にカフェに行きたいなんて、どうしたの?」

藍子「ど、どうしたの、って?」

夕美「ううんっ。藍子ちゃんの方から誘ってくれるのって珍しいし、何かお悩み相談とかあるのかなーって思っちゃったから」

夕美「ほら、前に私、藍子ちゃんに悩みを聞いてもらったじゃない? リーダーのこととかさっ」

夕美「だから今度は藍子ちゃんの番! って、勝手に思っちゃった。ごめんねっ」

藍子「あ、あはは。何も意味なんてありませんよ。ただちょっと、夕美さんとカフェに行きたくなっただけで……」

夕美「ホントーっ? 何か隠してない?」ズイ

藍子「や、やだなあ。隠してなんていませんよ? 何も隠してなんて……」

夕美「ホントにホントっ?」

藍子「あ、あうぅ……」ズリズリ

夕美「うーん。わかんないけど、何かあったらすぐに言ってねっ。できることがあったらなんでもやるから♪」ハナレル

藍子「(ほっ……)じゃあ、困ったことがあったら相談しちゃいますね」

夕美「うんうんっ。藍子ちゃんはあんまり頼ってくれないから、私、実はちょっぴり気になってたんだ」

藍子「そうだったんですか?」

夕美「もちろん困らないことが一番だよ! でもね、加蓮ちゃんやありすちゃんはよく、助けを求めてくれるから」

夕美「……本当はありすちゃんは私が勝手に首を突っ込んでるんだけどねっ。ああいう子ってどうも放っておけなくてっ」

夕美「柚ちゃんは……正直困ってるか困ってないか分かんないから大丈夫そうだし、藍子ちゃんもしっかりしてるけどっ」

夕美「何かあったらすぐに言ってね! 藍子ちゃんだって、私の大切な仲間なんだから!」

藍子「……はいっ! ありがとうございます、夕美さん」

夕美「あ、そろそろ事務所についちゃうね」

夕美「お昼も食べたし、午後からも頑張ろーっ! おーっ!」

藍子「おー!」


<てくてく


「……ん。そろそろ帰ってくるみたい」
「こっちは準備できています」
「ゆ、柚に任せろーっ」

夕美「到着っ。……あれ? どうしたの、藍子ちゃん。立ち止まっちゃって」

藍子「あ、いえ。どうぞ、夕美さんが先に入ってください」

夕美「? スマホに通知でも来たのかな? じゃあ遠慮なくっ」ガチャ


<ぱんぱんっ!


夕美「きゃっ! なに、なに? クラッカー?」

加蓮「お帰り、夕美っ」ありす「お帰りなさい、夕美さん」
加蓮「そして――」ありす「そして――」


加蓮・ありす「いつもありがとうございます、夕美(さん)っ!」

夕美「え、えと……どういたしまして? ……急にどうしたの?」

加蓮「ううん。どうもしてないよ。理由なんてない」

ありす「夕美さんと同じです。別に何もありませんが、夕美さんに感謝の気持ちを伝えたくなったので」

夕美「か、かんしゃ?」

加蓮「いつもありがとう、夕美。夕美がいてくれるから、私達も楽しく頑張れるんだよ」

加蓮「……いつも、見てくれるから、元気が出るんだよ」

加蓮「自分のことに一生懸命になって、なのに私のことまで見てくれてて……ありがとっ!」

ありす「夕美さんは……ときどき、調子に乗ることがあって、それに私を子供扱いばかりして……」

ありす「でも、……それっていつも、私のことを気にかけてくれているからですよね」

ありす「今日は、そのことに……今日だけは素直にお礼を言おうと思います」

ありす「いつも……」

ありす「いつもありがとうございます、夕美さん!」

夕美「加蓮ちゃん、ありすちゃん……!」

藍子「私からもっ♪」ズイ

夕美「藍子ちゃんっ」

藍子「夕美さん、いつもありがとうございますっ」

藍子「いつもお花のお話とか、ガーデニングのこと、アイドルのお話や、大学のお話……」

夕美「私たちの知らないお話は、聞いててすっごく楽しいですっ」

藍子「さっきも、カフェで色々なお話をして……夕美さんがいたから過ごせた、楽しい時間でしたっ」

藍子「レッスンの時も……しんどくなった時に、いつも助けてくれるのは夕美さんです」

藍子「時には、トレーナーさんと一緒になって、どうすればいいのか考えてくれたりもして……」

藍子「そんな夕美さんがいるから、私たち、いつも楽しく日々を過ごせるんですっ」

藍子「だから……ありがとうございます♪」

夕美「藍子ちゃん……!!」

加蓮「さてっ! そんな夕美にプレゼントがあるんだ。だよね、柚っ♪」

柚「ぅ、うん」

夕美「ほんとっ!?」

加蓮「? どしたの柚? そんな縮こまって」

柚「だ、だって……今の加蓮サンとありすチャンと藍子チャンのっ……」

藍子「私たち?」

柚「ゆ、柚、そういう風に上手く言えたりできないからどうしようか困ってるの!」

加蓮「あー……」

藍子「大丈夫ですよ、柚ちゃん。今、柚ちゃんが胸に抱いている気持ちを、そのまま言うだけでいいんです。……ねっ?」

柚「藍子チャン……!」

ありす「台本なんていらないと自信満々に言ったのは柚さんです。思ったままに言うから、と」

ありす「私もそれでいいと思います。……思ったことをそのまま言えることは、美徳ですから」

柚「ありすチャン! ……お、オッケー。もう大丈夫っ!」


加蓮「あれぇ? 私の言葉はいらないの?」
藍子「まあまあ……」
ありす「今は、柚さんの番です」

柚「えとっ……ゆ、夕美、サン!」

夕美「うんっ」

柚「えーっと、えとっ……い、つも……」

柚「……すぅー」

柚「いつもありがと、夕美サン!」

柚「……って加蓮サンとかが言ってた!」


加蓮「オイコラっ」
藍子「あはは……」
ありす「……色々と台無しですね。柚さんらしいですが」


夕美「う、うん」

柚「と、とにかくこれ、プレゼント! 受け取って! はいっ!」ザザッ

夕美「これは……カーネーションの花束だっ! わぁ、真っ赤ですっごく綺麗だねっ」

加蓮「花言葉は"感謝"――なんて、夕美には言うまでもないだろうけどさ。言うまでもないことだって、たまには改めて言わなきゃ」

藍子「夕美さんへのプレゼントって言ったら、やっぱり花束が一番だと思って」

ありす「一応、違う意味と捉えられないか調べました。色にも気を遣って……下手な工夫をするよりは、赤一色の方がより伝わると思って」

柚「アタシはそーいうのぜんぜん詳しくないけどっ、感謝って言えばやっぱりカーネーションだよね! 同じ赤でも、綺麗な赤を頑張って探してみっ」

夕美「みんな……!」

ありす「ニチニチソウの花飾り……大切にしています」

加蓮「スターチスについてちょっと調べてみたよ。こんなに素敵な花だなんて知らなかった……。夕美がこんな花を私に選んでくれたって分かったら、急にお礼を言いたくなっちゃった」

柚「ラナンキュラス! アタシ覚えたっ。魅力的って言ってくれて、ちょびっとだけドキッとしちゃったかもっ」

藍子「まだ私、カトレアに見合うほど魅惑的にはなれてないかもしれませんけれど……夕美さんの言葉は、しっかり受け止めましたっ」

「だから――」


「「「「いつもありがとうございます、夕美(さん・サン)っ!!」」」」

夕美「……うんっ……! 私の方こそありがとう! すっごく嬉しいよっ……!」グスッ

柚「わわっ。夕美サンが泣いてる!」

加蓮「おー……なにげに珍しくない?」

ありす「よかった……。上手くいった……!」

藍子「うんっ。私たちの想い、伝わったみたいだねっ」

夕美「ううぅ~~~~~~!」グスグス

柚「本気で泣いてる!」

ありす「……ぐすっ……」

藍子「ありすちゃんまで!」

夕美「だって、だってぇ~~~~~~~!!」グスグス

ありす「……こ、こんなのはただのもらい泣きです!」

加蓮「せっかくだし写真でも撮っちゃお。はい1枚ー。からのもう1枚ー。レアアイテムげっとー」

ありす「ゴシゴシ……加蓮さん。後でそれを私のスマホにも転送してください。良い武器が手に入りました」

ありす「やはり子供扱いは納得いきません。次に夕美さんがからかってきた時の反撃用に使えます」

藍子「も、もうっ、加蓮ちゃんっ、ありすちゃんっ」

藍子「……」

藍子「……か、加蓮ちゃん。私にも1枚だけ……!」

加蓮「ふふふっ」

藍子「だ、だって! ……それよりっ夕美さん、ハンカチどうぞっ」スッ

夕美「ありがどお゛藍子ぢゃん~~~! ずずずずずず~~~~~!」

藍子「お、思いっきり鼻を噛んじゃってる……」

ありす「……変な感じです。一番最年長で何でもできる人なのに、まるで子供みたいに」

加蓮「夕美が子供っぽいなんて今に始まった話じゃないでしょ?」

ありす「それもそうでしたね。私とは逆です」

加蓮「逆?」

ありす「私は実年齢は子供かもしれませんが、精神的には大人ですから。夕美さんの逆ですね」

加蓮「……うんーそーだねー」

ありす「むっ。なんですかその反応は。何が言いたいんですか」

柚「よーし! 花束のプレゼントは上手くいったから、次はパーティーの準備だ!」

夕美「ふぇ? パーティー?」グスグス

加蓮「それ結局やるんだ」

藍子「バーベキューセット、掃除しておきましたっ。いつでも使えますよ」

ありす「私も、具材を用意してきました」

柚「なにーっ!? いちごパスタは封印したんじゃ!?」

ありす「このような場での贈り物にはふさわしくないというだけの話です。それによく考えてみれば、練習しなければ上達しません」

ありす「練習されるところを見られても、別にいいです。そんなところで意地を張っているよりは、アドバイスをもらった方が有意義です」

加蓮「…………」カタポン

柚「って柚、試食係決定!? 今の話って夕美サンが試食する流れじゃなかった!?」

夕美「ち~~~~んっ……藍子ちゃん、ハンカチありがとう! 洗濯して返すねっ」

夕美「それよりパーティーって何のお話? 今日やるのっ!? ならっ、今から急いで準備しなきゃ!」

藍子「え、あの、さっきお昼ごはんを食べたばっかり――」

加蓮「花火とかどうかな。まだ早い?」

柚「柚、家に帰ってパーティーグッズ取ってくる!」

ありす「ゲームはどうでしょうか。多人数プレイできる物もすぐに持ってこれます」

夕美「クイズとかいいんじゃない! こういう時に備えて、花クイズを作ったの!」

藍子「……あはっ。いつの間にか、感謝のお礼がパーティーのお話になっちゃったっ」

柚「よーしっ! では隊員諸君! 今から作戦開始だーっ」

夕美「おーっ♪」
藍子「おーっ」
ありす「……私達はいつ隊員になったんですか?」
加蓮「いつの間にかってことでいいんじゃない?」

……。

…………。

「エピローグ:今日も笑顔を咲かせましょう」


――事務所――

夕美「完成っ! こんな感じでどうかな?」

藍子「わぁ……! すっごくおしゃれで、素敵ですっ」

夕美「やったっ♪」

藍子「それに夕美さん、作るのにすっごく慣れた手つきでした」

夕美「加蓮ちゃんの睡眠問題が解決してからも、たくさん作ったもんっ。手作りのアロマキャンドル!」

藍子「私も、おかげさまでぐっすり眠れるようになりましたっ」

加蓮「そうかなー? 藍子は何もなくてもぐっすり寝れるんじゃない?」ヒョコッ

藍子「そ、そんなにねぼすけではありませんよ~」

夕美「加蓮ちゃん! お帰りなさいっ。レッスンはどうだった?」

加蓮「つかれたー。また作ったんだね、アロマ。それは……柚用かな?」

夕美「よく分かったね! ポイントはここの装飾だよっ」

藍子「あっ。芯の根本に、小さなお花がついていますね」

加蓮「なんだっけこれ。何処かで見たことあるんだけど……」

夕美「ふっふっふー。何でしょうっ」

加蓮「うーん……。藍子、分かる?」

藍子「……ううっ、夕美さん、教えてください!」

夕美「むー。分かってほしかったなぁ……残念っ」

夕美「これはシンビジウムの花を意識してみたのっ」

加蓮「しんびじうむ? ……どんな花だっけ?」

藍子「また後で、図鑑を見てみなきゃ」

加蓮「私もありすのタブレットで調べてもらおーっと。で、夕美のことだし、花言葉とかあるんでしょ?」

夕美「お見通しだね。"純朴"とか"飾らない心"とか、そんな感じかなっ」

藍子「柚ちゃんっぽい言葉ですね」

夕美「うんうんっ。これを作ってた時、この前カーネーションを贈ってくれた時のことを思い出したの」

夕美「あの時の柚ちゃん、まっすぐに伝えてくれようとしてたから……それっぽくね!」

藍子「確かに、柚ちゃんって裏表のない子ですよね」

加蓮「……案外そうでもないかもね」ボソッ

藍子「? 加蓮ちゃん?」

加蓮「や、なんでも。そういえば夕美、アロマキャンドルの作り方を教えてくれるって言ったじゃん。あれまだー? 楽しみにしてるんだけどー」

夕美「そうだったの!? あ、あのね、加蓮ちゃんには悪いんだけど、次は別の物を作ろうって考えてて……」

加蓮「えー!?」

夕美「みんなの分は作り終えたから、別のジャンルに手を出してみたいのっ。だから……ごめんねっ、加蓮ちゃん!」

加蓮「むー。それならもっと早く確認しとけばよかったー」

藍子「次は何を作る予定なんですか?」

夕美「まだ未定だよっ。それに、しばらくは空いてる時間でガーデニングに専念しようかなーって考えてたりもするのっ」

夕美「それとも、加蓮ちゃんや藍子ちゃんに何か教えてもらうのも悪くないかなー、なんてっ」

加蓮「楽しみにしてた約束を破るような人には教えたくないなぁ」

藍子「もう、加蓮ちゃんっ」

加蓮「……あははっ。その時には、今度こそ私も混ぜてよ?」

藍子「私も、今度は夕美さんと一緒に、柚ちゃんやありすちゃん、加蓮ちゃんへのプレゼントを作ってみたいですっ」

夕美「うんっ! その時は一緒にやろうね!」

夕美「さてとっ。そろそろレッスンの時間だね。準備しなきゃ」

加蓮「そういえばそうだっけ。頑張ってねー、夕美」

藍子「次のLIVEまでもうすぐですよね。私、もうチケットを買っちゃいました♪」

夕美「ホントっ!?」

藍子「4人分。じゃんっ」

夕美「わ~……み、みんなで見に来ちゃうの? 緊張するなぁ……ううんっ。期待に応えなきゃ!」

夕美「いっぱいの笑顔を咲かせるために、今日も頑張ってくるね。じゃ、行ってきますっ。加蓮ちゃん、藍子ちゃんっ♪」

加蓮「行ってらっしゃい」
藍子「楽しみにしていますねっ」

……。

…………。

加蓮「って、夕美……完成したアロマキャンドル置きっぱじゃん」

藍子「あっ。じゃあ、私たちで柚ちゃんに渡しちゃいましょうか」

加蓮「ここに置いたままにしてても柚に見つかるだけだもんね。夕美は自分で渡したかったとか言うかもしれないけど、それは忘れた夕美が悪いってことで」

藍子「……やっぱり夕美さん、もうちょっとだけ……ほんのちょっとだけ、落ち着けばいいのに」

加蓮「ん?」

藍子「ううんっ」

<がちゃ

<やっほー! あっ、加蓮サンっ藍子チャン!

加蓮「っと、ナイスタイミング」

藍子「こんにちは、柚ちゃんっ。実は――」

柚「……えー!? 柚へのプレゼント!? なにこれスゴいっ。また手作りなのかな? やっぱりお花がついてるっ」

加蓮「柚にピッタリのお花なんだって」
藍子「シンビジウム、ってお花みたいですよ」

柚「しんびじうむ? また呪文みたいな名前が増えた! 後で聞いてみよーっと」

柚「そっかー。これを夕美サンが作ったのかー」マジマジ

柚「……ホントすごいなー、夕美サン」

加蓮「……」

柚「あ! ってことはー、またお返ししなきゃっ」

柚「加蓮サン藍子チャン、作戦会議だよ! 場所はー、この前のカラオケボックス! ありすチャンも誘って今から出発だー!」ダダッ

藍子「あっ――」

加蓮「……こっちの予定を聞くまでもなく行っちゃったよ。忙しないなぁ」

藍子「でも、また夕美さんの笑顔が見られますね」

加蓮「だねー。さ、ありすを探さなきゃ」

加蓮「笑顔を咲かせるための仲間が、いっぱい笑顔になれるように……頑張らなきゃね」

藍子「はいっ!」

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お疲れ様でした。
読んでいただき、ありがとうございました。

北条加蓮「何してんの?」相葉夕美「こっちこっちっ」
相葉夕美「ありすちゃんには……ニチニチソウかなっ」橘ありす「ニチニチソウ?」
ツギココ)喜多見柚「多くは望まないカモ♪」北条加蓮「私、欲張りになったね」
橘ありす「子供扱いとか、しなくていいですから」高森藍子「ありすちゃん……」
高森藍子「今日はどこに行こうかな?」喜多見柚「遊びに行こうっ!」

以下、今回の目次です。
もう一度読みたくなったお話はありましたか? もしあったなら、私はとても嬉しいです。

>>2 「<ニチニチソウ>橘ありす」

>>6 「続・がんばれ藍子ちゃん」
>>13 「(その後)ゾンビ(お日様とお散歩が大好き)」

>>16 「生活ノート」
>>31 「(その後)気にしてた?」

>>32 「お花のお勉強」
>>41 「(その後)ヤンデレ予備軍?」

>>44 「<スターチス>北条加蓮」

>>50 「無印のイラストがかがみこんで子供に話しかけてるみたいに見えたっていう作者談を込めた図書館でのお話」
>>72 「(その後)どうぞどうぞ」
>>83 「(その後のその後)泣きそう・暴れそう・変わらなさそう・意外とザルっぽい気がする・見てみたい」

>>84 「作りすぎちゃった」
>>87 「(その後)そんなに食べたかったんだね!」

>>89 「カメラとか花屋とか、あと……レストランとか?」
>>96 「(その後)でもね、意外と。」

>>102 「<ラナンキュラス>喜多見柚」

>>111 「18歳の悩み事(ささやか)」

>>121 「憧れのシチュエーション」
>>129 「(その後)やる側とやられる側」
>>137 「(その後のその後)いっつも我に帰ってこうなる」

>>139 「いわゆる異能バトル的なの。」
>>180 「(その後)っていう夢を見た。」
>>185 「(その後のその後)2つサバを読む12歳」
>>190 「(その後のその後のその後)2つサバを読む16歳」

>>193 「<カトレア>高森藍子」

>>207 「ヒミツの相談」

>>229 「<カーネーション>相葉夕美」

>>246 「エピローグ:今日も笑顔を咲かせましょう」

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