軍師「包囲殲滅陣だ!」???「いかんでしょ」 (28)

???「それじゃ勝てんで」

軍師「誰だお前」

???「ワイか?ワイに名乗る名なんてないで……。ただ吹く風やで」

軍師「それでその風がなんで僕の策に口を出すんだ?」

風「何でも何もないわ!」

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軍師「何を怒っているんだ?」

風「分からんか」

軍師「大変な状況だがこの策さえうまくいけば100%勝てる。信じてくれないか」

風「ハァ…(クソデカため息)。じゃあまずは戦力のおさらいから行こうか。まず今回の相手はなんや」

軍師「相手は魔物の群れ……いや軍と言ってがいいだろうな。この世界では定期的に起こるもので、一つの意思によって統率されてる。仲間割れなんかは見込めない」

軍師「中央にはオーク。言うまでもない上級モンスターで人間の戦士でもまともにやりあったらひとたまりもない」

軍師「両翼には騎兵。しかもペガサスで機動力は普通の騎馬とは比べ物にならない」

軍師「数は5000程。すでにこっちに向かってきていて、今からできることは少ないな」

風「そんでこっちはどうするんや」

軍師「こっちの戦力は300人の冒険者。当然まともにやりあったら勝ち目はない」

軍師「そこで包囲殲滅陣だ。まずタンク系職が中央で迎え撃つ。その後両翼を抑える。ぐるっと囲んで包囲殲滅陣の完成だ」

風「キミあほなんか」

軍師「しゃーない。ワイが次のレスで問題点を指摘したるわ」


風「まずこの戦いは4つの不利がある。分かるか」

軍師「人数に戦力……、他はなんだ」

風「質と練度や」

軍師「練度?それに質と戦力差ってのは違うのか」

風「まず数や。5000対300。ありえんやろ」

風「そもそも特別な差がなけりゃ同数同士ですら勝率は五分。それを確実に勝ちに待っていけるだけで立派に指揮官や」

風「それが十倍以上や。こんな差で勝った戦なんてないやろ。相手があほな原住民とかならともかく」

軍師「分かってるよ。だから包囲して……」

風「この戦力差で包囲なんかできるか!」

風「ええか。十なれば即ちこれを囲み、五なれば即ちこれを攻め、倍なれば即ちこれを分かち、敵すれば即ちよく闘い、少なければ即ちこれを逃れ、しかざれば即ちこれを避く。故に小敵の堅は大敵の檎なり。勇気と蛮勇は違うんやで」

風「歴史において戦力差を覆した戦いは狭いとこに誘い込むとか、奇襲とか、それやって十倍なんかなかなかお目にかかれんで」

軍師「囲むのが難しいのはわかった。次は……戦力か」

風「いっしょに質についても説明したるわ」

風「戦力については説明する必要もないやろ。相手は人間より強い魔物」

風「しかしこの世界の連中でも頭使って魔物ぐらい倒せんこともないはずや。ましてや冒険者ならな」

軍師「ああ。限定的になら抑えられると思ったからこその包囲殲滅陣だったんだが」

風「そこで質の問題や。そもそも陣とはなんやって話や」

風「陣の歴史はいわばどれだけ効率よく兵に敵を殺刺せるかって話や」

風「例えばなんやけどバットを持ったワイ。体は多少鍛えてるが一流って程やない一般的な男性。武器としてバット……金属の棍棒を持ってる。これが300」

軍師「うんうん」

風「相手はヒグマや。一匹だけ。凶暴でワイらを皆殺しにするまで帰る気はない。さあどっちが勝つ」

軍師「普通にやれば風さんたちが勝つだろうな。でも犠牲が出るだろうし、みんな前に出たがるか……」

風「それや!ていうか今まさにそういう状況やんけ!」

軍師「たしかに」

風「しかもヒグマは5000や!これで野戦するってんだからあほの極やで」

軍師「う……」

風「普通いきなり武器持たされても戦えんわけや。そのために様々な工夫をしてきた」

風「例えば武器。バットのリーチじゃ怖いやろ。でもそれが5メートルとかならどうや」

軍師「それなら何人か前に出れるだろうな」

風「ファランクスや。長い槍を持った歩兵を並べて突撃。実際同じファランクスやなかったらそんなもんの前に立ちたくないやろな」

風「加えてファランクスにはもう一つ効果がある。それは並んでるってとこや」

軍師「並んでると何か変わるのか」

風「止まれないんや。前に出たら後ろが出てくるわけやから、さらに前に出るしかない。これでヒグマ問題は解消や」

風「もっとシンプルに弓や銃なら兵も殺しやすいってもんや」

風「もっとも銃にも問題はあった。それは命中率や」

軍師「技術的な問題か?」

風「逆や。高いと問題が出んねん」

風「命中率が悪い銃は単体では使わん。銃列を敷いて面で撃つ。これはシンプルやけど協力や」

風「加えて例えば織田信長はその利点を最大限にするために野戦築城をもちいた」

風「まあ野戦築城と銃砲による騎兵封じにはスペインにゴルドバって先人がおるんやけどな」

風「話がそれたな。さっき言ったファランクス。そこに質の差のヒントがあるわけや」

風「こちらは冒険者。大変な仕事やろうが今この場で何人が戦場で死ぬ覚悟があるんや。有名なカンネーでも中央ではそれなりの死者が出てるんやで」

軍師「俺の計算だと被害はゼロなんだが……いや続けてくれ」

風「対して相手は災害として存在する魔物の軍や。人間なら二割削って指揮官とれば引いてくれるかもしれん。けどあいつらはどうや」

風「恐れ知らずの魔界物の群れ。対するは多田野冒険者。無理やろ」

軍師「町を守る戦いだ。俺の演説とかで奮ってくれないかな」

風「そもそも包囲殲滅陣はそのために生まれたようなもんやで」

軍師「?どういうことだ」

風「かつてのローマとカルタゴ。両国の国力差は歴然やった。かたやアフリカの小規模連合。かたやヨーロッパ中に勢力を広げる、帝国前夜のローマ」

風「有名な話や。戦術的勝利は戦略的勝利を覆すことはない。それでも勝つにはどうする」

風「早期決戦。からの早期講和。そのためには少ない戦いでの大勝利がいる」

軍師「なるほど。理には適ってるかな」

風「もともと金床戦術ってのがあんねん。中央が抑えて両翼が後ろに。挟み撃ちにする。ハンニバル以前からやで」

風「しかし勝つだけじゃあ足らん状況や。そこでハンニバルはこの隙間を完全に埋める包囲殲滅陣を考えた」

風「これに必要なのは陣の完全な連携。それをおこなう圧倒的指揮官。ハンニバルは天才やった」

風「カンネーの戦いでカルタゴ軍の被害はほぼゼロ。ローマ側は8万中6万が死んだ」

風「敵もあほやない。勝てんなら兵を退く。でもそれすらさせんのがハンニバルや。故の包囲《殲滅》や」

風「もう何について話したか忘れてきたけど最後は練度や」

風「冒険者たちは専門家、スペシャリストやろうけど兵ではない。普段大勢で戦うって言ってもまあ四人とか多くて十人とかやろ」

風「300って言っても烏合の衆や。対して相手は両翼に騎兵。中央に重装歩兵。基本的やが強力な陣形や」

風「加えてこいつはこの世界では定期的に起きる災害で、しかも人間側が勝ったことなんてほとんどない」

風「常勝の軍団。相手が何度も戦って経験を蓄積してるんなら厄介。そうじゃなくて無我の群れならもっと厄介。戦闘マシーンてことやから、兵としては理想形や」

風「どちらにしても最高の練度や」

軍師「まとめると……」

風「十倍の戦力差に個体の性能差、高い練度に優れた兵隊、駒としての質。くわえてこっちは専門外の烏合の衆」

軍師「……」

風「これで野戦をするんやって?あほの極、自殺志願者や」

軍師「分かったよ。言い分はもっともだ」

風「やろ?」

軍師「それでも人の命がかかってる。やらなきゃならないんだ……」

軍師「だからこうして頭を下げる。頼む!その知恵を俺たちに貸してくれ!」

風「!」

軍師「あなたが頼りだ!頼む」

風「軍師さん。頭上げてくれや、そんなことする必要ないんやで」

軍師「じゃあ……!」

風「もちろんお断りや」

軍師「ち、ちょっと待ってくれ。長々しゃべってそれだけか!?知恵を貸してくれるんじゃないのか?」

風「なんでワイが力を貸さなあかんねん……。今シーズン中やぞ」

風「ワイは別に変なこと言っとる奴がおるから論破したかっただけやで」

軍師「」

風「久々に気持ちよく語れたわ!普段おるとこやとあんま長々語れんからな。いやー楽しかったで!」

風「あ、一応確認がてらwikiチラ見ぐらいはしたけどちゃんと調べたわけやないから間違ってたらすまんな!」

こうして彼は突然現れて、そのまま風のように去っていった。

彼は何がしたかったのだろうか。手を貸すというわけでもなく、なにか改善を求めるというわけでもない。

いや考えるまでもない。彼の語った通り、ただ変なことを言ってる奴がいたから、叩きに来ただけなのだろう。

まさに風のような人だと思った。きっとああしていくつもの場所に現れては場を荒らして消えていくのだろう。

戦いは結局包囲殲滅陣で勝てた。






おわり



色々理論語ってるけど300人の屈強な膝に矢を受けてない冒険者ならたかが5000の魔物なんて余裕だよな(白目)

>>12
膝に矢を受けたは片膝をつく→プロポーズ→所帯を持ったから

とかいう真偽不明の情報

剣神がいれば余裕よ

包囲殲滅陣が書籍化やからなぁ…
金出して買う気はさらさら無いが
アマゾンやら何やらのレビューは結構楽しみではある
そーいやマサツグ様更新停止中だが
やっぱリアルのミヤモトにバレたんやろか

>>16
包囲殲滅書籍かってマジ?
ちな読んだことはない

まとめさせてやってもいいが誤字脱字はそっちで修正するんやで

見返したら軍師が猛虎弁使ってるとこあるしあーもうめちゃくちゃだよ

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