一ノ瀬志希「あと10秒で」 (21)
モバマスの一ノ瀬志希SSです。
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「ねね、プロデューサー」
ソファに寝そべっていた彼女が前触れなく起き上がり、更に前触れなく話を始めた。
「どうした?」
「もしもあと10秒で世界が終わるとしたらさ、なにする?」
唐突な質問に若干面食らい、仕事の手を止める。
いつも突拍子も無い事を言い出すのには慣れてきた…とはとんだ思い上がりだったと反省する。
ソファの方へ椅子をくるっと回し、しかし今回はまだ平和に終わりそうな話題だと胸を撫で下ろす。
クスリや実験、トリップがどうしたと言い始めたらまた面倒な事態は避けられない…過去の経験が警笛を鳴らしていたがどうやら杞憂で済ませられそうだ。
「ねぇどうする?」
「あと10秒でって、どんな感じに終わるのさ」
「そこはご想像にお任せします」
「えー…痛い?」
「そこらへんは終わってみないと~」
死体にならないと分からないね、と身も蓋もない事を言い出す。
…こんな会話をしている片手間で少し考えたが特段面白い返しが思い付かずにいた。
なので頭のHDDで何と無く検索を掛けてみてヒットした事を引き出してみる…どうでもいいが誰かSSDに換装してくれないものか。きっともっと、プロデュースもスムーズにいくに違いない。
「そうだな、ひとまず紅茶でも飲み干そうかな。後はパンでも焼いてその時を待つ」
「おお~随分余裕だねぇ」
「何分上手く想像出来ないものでして」
はて、紅茶を飲み干すのは『君』だったろうか?
自分の記憶の曖昧さが引っかかる。その一瞬に気を割いた…気を取られた、その一瞬で彼女は
「あたしはね」
あと数cmで唇が触れ合いそうな程顔を近づけ
まるで蛇のようにゆっくり、けれど隙がなく俺の背中に腕を這わせる。
「キミにこうやって、触って、」
逃げられない。彼女から香る、鼻が馬鹿になりそうな程甘い匂いのせいでトリップし始めている。
意識だけが置いていかれた様に身体が言う事を聞かない。
「10秒間たっぷり、」
密着した彼女の暖かさ、柔らかさ、髪から漂うシャンプーの匂い、白衣から漂う汗の匂い全てが俺を刺激する。こんなもの劇薬だ。こんなものを経験させられたら、
「キミを堪能しようかな」
我慢が、効かなくなりそうで___
「ハイ、おしまい!」
「___えっ」
しゅるっと猫の様に離れていく。
「にゃはは、ねえ本気にした?キミがあんな顔するの初めて見たなぁ~」
つまる所、彼女にからかわれたのだった。
分かりきった事だが。
一瞬誘惑に負けそうになった自分がいるので非常にばつが悪い。
気恥ずかしくなり彼女から顔を背けると今度は後ろからしなだれかかってくる。
「ふっふ、これ以上は誰かが来て見られちゃうと困るでしょ?」
「…するつもりはありませんことよ」
にゃはにゃは、と嬉しそうに笑う。
見透かされている様な気分だ。
「そーゆー事にしときましょう~!どれ、そろそろレッスンの時間かな?」
「ん…そうだな。もう向かわないと間に合わなくなる」
パッと離れて支度を始める。
つまりはレッスンまでの暇つぶしにされた訳だった。
逃げられるよりはマシだろうと思い直す。
「いってらっしゃい」
「いってきまーす」
気を取り直して仕事を再開しよう。
頭の片隅に居座る彼女を無視して作業を始める。
と、意識をパソコンに向けたら
「あ、さっきのは嘘じゃないよ?」
また気が付かないうちに彼女が真後ろにきて囁く。
「本気だから。あと10秒でこの世界が終わるなら、」
おちゃらけた雰囲気は鳴りを潜め
妖しくて大人な、だけどどこか切実な彼女が言う。
「あたしそれ以外に、なんにもないから」
あぁ、撃ち殺された。
緩んだ脳味噌に綺麗なヘッドショットをかまされて言葉を失う。
「し、き___」
「にゃは!今度こそいってきまーす!」
ぴゅーと去って行く。
楽しげで満足そうな後ろ姿が見えなくなるまで、ただぼーっと見ている事しか出来ずにいた。
終わりです。
大分短くてすみません。
志希が持ってるどことなく危ういところと、苛つくような言い回しの地の文を書いてみたくてばーっと書いてみました。
過去作もあるので見ていただければ~
双葉杏「生活」
双葉杏「My song」
双葉杏「生還」
渋谷凛「tonight,tonight,」
よろしくお願いします。
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