みほ「ガールズ&ラーメン?」 (97)
キーン コーン カーン コーン
――大洗女子学園 お昼休み
みほ(お昼ご飯、何にしよう……)
沙織「ヘイ彼女、一緒にご飯どお? な~んてね♪」
みほ「あ、沙織さん」
華「優花里さんも誘って、みんなで食べましょう」
麻子「そうだな」
みほ「うんっ」
――食堂
ワイワイ ガヤガヤ
沙織「みんなの席、取っておいたよ」
優花里「ありがとうございます!」
みほ「それじゃ、いただきます……ってあれ、華さんは?」
麻子「あそこで並んでるみたいだが……お、きたきた」
華「皆さんお待たせしました。遅くなってしまいすみません」スタスタ
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1492787078
沙織「いいよいいよ~……って、何コレ!?」
華「?」ドッサリ
麻子「ラーメンと白いご飯のセットに、チャーハンが追加されてるぞ」
優花里「それも全部大盛りですからすごい迫力です……器がトレイからこぼれ落ちそうですよ」
沙織「ご飯が2つダブってるじゃん!」
華「いえ、チャーハンは箸休めですから」
みほ「!?」
華「これはラーメンライスというひとつの主食と、チャーハンというおかずの組み合わせですから、特に問題はありません」
麻子「お、おおう……」
沙織「う~ん……見慣れた光景とはいえ、華のラーメンライスへの情熱はすごいよ……」
みほ「華さんがラーメンライス好きって、なんだか意外」
華「実は私、沙織さんたちと出会うまでラーメンを食べたことがなくて」
優花里「そうなんですか?」
華「ええ。でもこの食べ方に出会ってしまったら、それ以来夢中になってしまって」
華「麺とお米を一緒に口の中で味わえるなんて……ゾクゾクしてしまいます」
沙織「ここの学食のラーメンも結構おいしいから、みぽりんも一度食べてみたら?」
みほ「あ、うん……アハハ、そうだね」
沙織「?」
麻子「歯切れが悪いな西住さん。どうかしたのか?」
華「もしかしてみほさん、ラーメンが苦手なのですか?」
沙織「そんな子いるの? 単に猫舌ってことじゃないの?」
みほ「いや……その、私の実家ってラーメン道やってるから、それを思い出しちゃって」
華「!?」
沙織「ラーメン道!?」
優花里「ラーメン道って何ですかっ!??」
麻子「初耳にもほどがあるぞ……」
みほ「そっか。みんなには、まだ何も言ってなかったよね」
みほ「西住流は戦車だけじゃなくて、ほかにもいろんな武道(?)を修めているの」
みほ「ラーメン道もそのひとつで……」
売れば必中
並びは長く
客の姿は途絶え無し
鉄のお鍋
鋼の台所
みほ「これが西住流ラーメン道」
沙織「前半はともかく、後半はただの厨房の風景じゃん……」
優花里「鋼の台所って、つまりは単なるステンレスですよね」
華「ラーメン道って、何をするんですか?」
みほ「えっとね……おいしいラーメンの作り方とか、新しい味の材料を模索したりとか……」
沙織「うんうん」
みほ「由緒正しいラーメンの食べ方とか……」
優花里「!?」
麻子「意味が分からんぞ……」
みほ「それで、ラーメンを食べるとなるとそういう作法とかがクセになっちゃってるから、自分じゃ気軽に頼みにくくて……」
優花里「そ、そうなんですか……」
みほ「でも……みんなと出会えて、戦車道はちゃんと私の道を見つけられた」
みほ「だからラーメンも、いまは無理でもいつかきっと……私、普通の女の子みたいにラーメンを食べられる日が来るよね……?」
麻子「重い重いっ!」
沙織「ラーメンくらい自由に食べようよっ!」
杏「いや~、ラーメン道なんてものがあるなんて、世界は広いね」
みほ「会長?」
優花里「どうかしたんですか?」
桃「西住の話を小耳にはさんだものでな。会長がお前たちに話があるそうだ」
杏「ちょっと放課後に顔貸してくれるかな」
華「はあ」
沙織「生徒会室に行けばいいんですか?」
柚子「ううん。ここの食堂に集まってほしいの」
みほ「?」
杏「じゃ~よろしく~」スタスタ
――放課後 大洗女子学園 食堂
みほ「あんこうチームが集まるよう言われたけど……」
麻子「どうして食堂なんだ?」
優花里「引き継ぎのことなら、生徒会室を使えばいいのに……ヘンですよね」
華「……あら?」
沙織「どうしたの?」
華「なんだか……いままでにないお料理のにおいがします」
優花里「厨房に誰かいますね」
杏「おまたせ~」スタスタ
みほ「会長?」
優花里「おおっ! 会長がシュルツェンを装備しています!」
沙織「シュルツェン?」
華「私たちⅣ号戦車の履帯についている、あれですか?」
優花里「シュルツェンはドイツ語でエプロンの意味なんですよ。戦車のそれを日本語でいうなら『前かけ装甲』といったところでしょうか」
沙織「へえ~っ」
杏「西住ちゃんたち、ちょっとコレを試してほしいんだけど」
みほ「これって……このラーメンを?」
桃「会長が作った試作品の味見だ。率直な感想を聞かせてほしい」
杏「魚介だしにとんこつを合わせた、特製のダブルスープが決め手だよ」
華「まあっ!」
ズズッ ズルルー
杏「……で、どう?」
優花里「とんこつの味がしっかりしてますね。見た目よりも味が濃いです」
華「麺は中細で……ちぢれていないストレートですね」
みほ「普通においしいですけど……」
杏「うう~ん……やり直しかあ……」
沙織「どういうこと? おいしいのに」
桃「いいや、普通ではいけないんだ」
柚子「もっとこう……食べるのに夢中になってくれて、スープを1滴も残さずに平らげてくれるような味を目指してるんだけど……」
杏「いまひとつインパクトが足りなかったかなあ」
みほ「いったいどうしたんですか?」
柚子「この前戦車道の試合で大学選抜チームに勝って、廃校を免れたでしょ?」
優花里「はい」
桃「そのとき、役人が『私の敗北が文部科学省の敗北だとおもうなよっ!』って吐き捨てたのが気になってな……」
麻子(そんなこと言ってたか……?)
杏「で、考えたんだけど、この学園艦がまた廃校になる可能性は残っているんだ」
柚子「戦車道でも、永遠に勝ち続けることはできないものね」
優花里「そんな! 西住殿の教えを受け継がせていけば……」
杏「理想はそうだけどね。だけどさ」
柚子「大洗女子学園そのものの魅力を上げていかないと、根本的な解決にならないんじゃないかとおもうの」
華「どういう意味ですか?」
杏「たとえば聖グロ、サンダース、プラウダ……ときて大洗。なにか気がつかない?」
みほ「外国との提携がありませんね」
優花里「いわれてみればそうです!」
杏「そう。いまわかってる時点で提携のない独立校は、知波単とウチ」
柚子「ほかには楯無(たてなし)高校があるけど……ちょっとこれを見てほしいの」
< 戦国から江戸時代の雰囲気を再現、もしくは当時の建物を移築した街並みは重要な観光資源となっている。秋に行われる戦国そば祭りも人気で、特に生徒による戦国再現劇を目当てに訪れる者も多い。 >
みほ「漫画版『リボンの武者』1巻での、楯無高校についての解説ですね」
桃「つまり学園艦は単なる学校だけではなく、観光地としての側面も持つということだ」
杏「アンツィオなんか、イタリアよりもイタリアっぽいっていうのが売りだからね。入学希望者だけじゃなく、お客さんとしてやってくる人も結構いるみたいなんだよ」
優花里「確かに、外国風の街並みを色濃く表している学校は、どこも人気があります」
柚子「うちは単なるふつうの町でしょ? よそと比べたら、観光地としては弱い気がするの」
桃「それだけじゃない。『リボンの武者』2巻を見てくれ。BC自由学園の解説だ」
< 生徒たちの制服も豪華で華麗なため、それに憧れて入学してくる者も多い。 >
杏「女の子が入学を希望する理由って、案外こういうところが大きいよね」
柚子「それに比べて、うちはどこにでもあるような、ありふれたセーラー服……」
桃「とどめは3巻のボンプル高校。ここはすごいぞ」
< どの学科でも必ず複数の外国語がカリキュラムに組み込まれており、卒業までに4か国語を身につける生徒も珍しくない。…(中略)…また部活動では、馬術部が世界大会クラスのレベルで有名である。…(中略)…成績も優秀で、一流大学への進学率も高い。また意外なことに、サンダース大学へ進学する生徒が多い。 >
沙織「わあすごーい!」
柚子「ね? こういう華やかな実績がある学校と比べると、どうしても見劣り感は否めないの……」
杏「なんとかしなきゃ、っておもってね……」
みほ「でもなんでその話とラーメンが?」
桃「学校の実績と、観光客の増加。この両立にはラーメンを広告塔にするのが最適とわかった」
柚子「ラーメンは全国にグルメなマニアが大勢いるから、どの寄港先でも人がやってくるに違いないとおもって」
杏「名物になれば、生徒も来てくれるし、お客さんも来てくれる。ま、ぶっちゃけた話、学園艦が儲かっていれば廃校にはならないと踏んだんだ」
優花里「すごいです! すごい考えですよ会長!」
柚子「でも肝心のラーメン作りがなかなかうまくいかなくて……」
杏「これぞ大洗の味だ! っていえるようなラーメンがあれば、大会に堂々と打って出られるんだけどねえ」
桃「料理のコンクールで優勝できれば、まず間違いなく話題と実績になるからな」
杏「そ~いうわけで、ちょっと協力してほしいんだ。西住ちゃん」
みほ「は、はい」
杏「戦車道連盟の理事長は、ラーメン道連盟の理事長も兼任しているっていうのは知っているよね?」
みほ「!?」
優花里「初耳にもほどがあります!!」
麻子「戦車道とラーメン道はかけもちしないといけない決まりでもあるのか……?」
杏「それで、児玉さんに掛け合ったらあれよあれよと話が進んで」
杏「高校生ラーメン道の全国大会を開催してくれることになったんだよ」
沙織「!?」
杏「もちろん西住流の家元さんもラーメン道の役員だからね。快くオッケーしてくれたよ」
華「みほさんのお母様、忙しい人ですね……」
杏「だからさ~、西住ちゃ~ん」
杏「選択必修科目なんだけどさ、ラーメン道とってね」
みほ「!?」
優花里「科目として存在するんですかっ!?」
杏「乙女のたしなみとして知られる『ラーメン道』を、ここ大洗女子学園に復活させようとおもってね~」
新番組「ガールズ&ラーメン」
――ラーメンのある学園生活、始めました!
沙織「何っ!? 何が始まったのっ!??」
優花里「ラーメンのある生活始めたって……じゃあいままでは存在しなかったんでしょうか?」
華「それはちょっと、さみしいですね。復活して良かったです」
みほ「ええ~っ……」
――ラーメン道全国大会 会場
ザワザワ ガヤガヤ
沙織「見覚えのある顔ばっかり……」
ケイ「ハロー! ミホ、ラーメンのコンテストだなんてナイスなイベントね!」
みほ「ケイさん!」
優花里「サンダースとラーメンって、イメージがわきませんが……」
ケイ「アラそう? でもね、サンダースの地元は長崎なの!」
ケイ「長崎といえば『リンガーハット』でも有名なちゃんぽんの本場ばい! 旨か料理ば見せるわよ!」
優花里「ケイ殿が方言を……! 貴重な瞬間をいただきましたっ!」
カチューシャ「フン、ちゃんぽん? 全国展開してる店だろうと所詮はマイナーな食べ物。ラーメン道はそんなに甘くないのよ」
みほ「カチューシャさん!?」
ノンナ「プラウダの地元は青森。とくに津軽地方では、朝食にラーメンを食べるほどのラーメン好きがたくさんいます」
ノンナ「そんな手ごわいお客さんたちを満足させるラーメンは、なかなか作れるものではありません。我が校特製の焼きみそラーメンが勝利をいただくでしょう」
華「うわあ♪ 名前からしてもうおいしそうですね♪」ワクワク
アンチョビ「ふふん、料理勝負ならウチで決まりだろう。相手がラーメンだろうと容赦はしない」
麻子「まあ、予想はしてたが……」
ペパロニ「料理にかける情熱は、どこの学園艦だろうと負ける気しないッス!」
アンチョビ「この熱意を、もう少しだけ戦車にも分けてもらえればいいんだが……ってそうじゃない! 今回はまず間違いなくうちの優勝だからな!!」
まほ「久しぶり、みほ」
みほ「お姉ちゃん……あの、お母さんがラーメン道の大会に協力するって……」
まほ「目的はおそらく、西住流の存在感を出したいがためだろう」
まほ「ラーメン道では島田流が一歩上を行っているのが現状だからな。ここらでひとつ、実力を見せつけておきたいといったところか」
みほ「お姉ちゃんも参加するの?」
まほ「ああ。私は戦車ひとすじのように見えるかもしれないが……西住流ラーメン道の教えだって、片時も忘れたことはない」
まほ「じゃあ、みほ。決勝戦で会おう」
みほ「う、うん……」
『それでは、これより第1回全国ラーメン道大会を開催します』
『開会宣言は、日本ラーメン道連盟会長、児玉七郎様です』
パチパチパチ
児玉「ゴホン! えー、……」
児玉「……」
児玉「…………」
児玉「……諸君 私はラーメンが好きだ」
みほ「!!?」
児玉「諸君 私はラーメンが好きだ」
児玉「諸君 私はラーメンが大好きだ」
児玉「しょうゆ味が好きだ みそ味が好きだ しお味が好きだ とんこつ味が好きだ 坦々麺が好きだ つけ麺が好きだ カレーラーメンが好きだ」
児玉「屋台で 社員食堂で 専門店で 海の家で 中華料理屋で ファミレスで 回転寿司屋で インスタントで」
児玉「この地上で作られる ありとあらゆるラーメンが大好きだ」
児玉「鍋の脇に並べたタイマーが一斉に鳴るとともに 麺が茹であがるのが好きだ」
児玉「空中高く放り上げられた麺が湯切りされるときなど心がおどる!」
児玉「お昼の定食セットの880円(アハト・アハト)を頼むのが好きだ」
児玉「悲鳴をあげて燃えさかる中華鍋から飛び出してきたチャーハンを一気に平らげたときなど 胸がすくような気持ちだった」
児玉「足並み揃えた団体客が一気に来店し 一気に食べ終えお会計するのが好きだ」
児玉「恐慌状態の新人バイトが レジを何度も何度も打っている様など感動すら覚える!」
児玉「赤ちょうちんのチャルメラ屋台を街頭に呼び止める様などもうたまらない」
児玉「車をひく大将が私の振り上げた手とともにやってきて いそいそとラーメンを作り始めるのも最高だ」
児玉「哀れな酔っ払いたちが雑多な小遣いで 健気にもシメの1杯を頼んで胃袋を木っ端みじんに粉砕したときなど絶頂すら覚える!」
児玉「激辛のラーメンに舌をめちゃくちゃにされるのが好きだ」
児玉「必死に守るはずだった内臓が蹂躙され 汗が吹き出し腹が下る様はとてもとても悲しいものだ」
児玉「二郎系の物量に押しつぶされて満腹になるのが好きだ」
児玉「ロットの乱れに追い回され 意気込んで頼んだ大盛りの麺を残して出ていくのは屈辱の極みだ」
児玉「諸君 私はラーメンを 地獄のようなラーメンを望んでいる」
児玉「諸君 私につき従うラーメン道連盟諸君」
児玉「君たちはいったい何を望んでいる?」
児玉「更なるラーメンを望むか?」
児玉「情け容赦ない クソのようなラーメンを望むか?」
児玉「鉄風雷火の限りを尽くし 三千世界のカラスを殺す嵐のようなラーメンを望むか?」
『 拉麺!! 拉麺!! 拉麺!! 』
児玉「よろしい ならば拉麺(ラーメン)だ」
ワー! ワー!!
児玉「あれが待ちに望んだラーメンの光だ」
児玉「私は諸君らを約束どおり連れて帰ったぞ あの懐かしのラーメン屋へ あの懐かしのラーメン屋へ」
『理事長殿!』 『理事長!』
『代行!』 『代行殿!』
『ラーメン道理事長殿!』
児玉「そしてゼーレーヴェはついに大洋を渡り丘へとのぼる」
児玉「ミレニアム大隊各員に伝達 理事長命令である」
児玉「さぁ 諸君」
児玉「 ラ ー メ ン を 作 る ぞ 」
ワー!! ワー!!
ラーメン! ラーメン!
ラーメン! ラーメン!
沙織「…………」
優花里「なんなんですか? コレ……」
柚子「ラーメン道の演説らしいわ。1度くらいは聞いたことがあるんじゃない?」
華「いえ、初耳です……」
麻子「意味が分からんぞ……」
杏「いや~、2種類あるうち、OVA版のほうを採用するとはね~」
みほ「なんの話ですかっ!?」
杏「あ、次はくじ引きでトーナメント表の決定だよ。西住ちゃんよろしく~」
みほ「は、はあ」
『大洗女子学園の代表者は、前へ』
みほ「……」ガサゴソ ガサゴソ
みほ「はいっ!」バッ!
< ① >
オオー
『大洗女子学園は、1番です』
優花里「1番ってことは……いきなり第1回戦ですね」
沙織「相手は……2番を引いた学校はいったいどこ……えっ!?」
ラーメン道全国大会 第1回戦
大洗女子学園 VS 聖グロリアーナ女学院
ダージリン「ごきげんよう、みほさん」
みほ「ダージリンさん!?」ビクッ!
麻子「いつの間に……」
ダージリン「こんな言葉を知っている?『ラーメン三銃士を連れてきたよ』」
オレンジペコ「『美味しんぼ』38巻のひとコマですね。ネット上ではこのクソコラが大量に出回っています」
沙織「ダージリンさんたちがラーメン食べてる姿が想像つかないんだけど……」
ダージリン「そうかしら? でもね、聖グロリアーナの本拠地は横浜。横浜は現在の流行の主流となりつつある家系(いえけい)ラーメン発祥の地」
ダージリン「それから、あんかけ野菜炒めが乗った独自のラーメン『サンマーメン』も横浜からよ」
ダージリン「こんな言葉を知っている?『怖いか人間よ!! 己の非力を嘆くがいい!!』」
オレンジペコ「それは……別のサンマですね。いやサンマかどうかすら怪しいですけどアレは」
アッサム「ちなみにお魚のサンマは関係なく、新鮮な野菜が具になっている意味の生馬(サンマー)という中国語からです」
ローズヒップ「お野菜のボリュームたっぷりでヘルシーでございますわ!」
優花里「へえ~っ」
ダージリン「ほかにも、新横浜にはラーメン博物館があるわね。我が聖グロリアーナの生徒たちはそうしたラーメンの激戦区に生まれ、味には少々うるさいわ」
オレンジペコ「ラーメン道の活動も盛んで、OG会も『さばぶし会』や『ソウダ会』など、味にこだわる団体が多く存在しているんですよ」
沙織「ソウダ?」
オレンジペコ「そういう種類のかつおぶしです。そうだぶしは血合いの部分が多く、より濃厚な風味のだしがとれます」
みほ「活動内容がさっぱり見えませんが……」
ダージリン「要するにアレを使えコレを使えっていろいろ口を出してくるのよ。具材ひとつとっても、派閥争いが絶えないわ」
オレンジペコ「ラーメン愛好家はこだわりがありすぎて、ともすれば融通がききませんからね」
ダージリン「だけど、そうしたこだわりは強みにもなるわ。知識と経験ならどこにも負けない自信があるもの」
アッサム「どんな対決方式で、どんなテーマだろうと、臨機応変に対応することができます」
オレンジペコ「第1回戦の対決方式は、食戟型だそうです」
麻子「しょくげきがた?」
杏「テーマに沿った料理を出しあう。要するにふつうの料理対決ってことだね」
沙織「じゃあ、ほかの対決方法もあるっていうこと?」
桃「どうやらラーメン道の勝負には、2種類あるようだ」
優花里「殲滅戦とフラッグ車戦がある戦車道みたいです!」
ローズヒップ「あっ! 対決のテーマが発表されるみたいですわよ!」
< 『既存のインスタントラーメンに工夫を加え、新たな味を生み出せ』 >
ダージリン「対決は1週間後だそうよ。それまで、お互い頑張りましょ」
みほ「うう~ん……工夫を加える……アレンジする……」
桃「簡単じゃないか。とにかく高級な具材をじゃんじゃん入れて豪華にすれば……」
みほ「いえ、それではダメです」
杏「値段や手間をかけすぎるアレンジじゃ、インスタントを食べる意味がないもんね」
優花里「センスを問われてますね。簡単なようで、難しいテーマです」
麻子「だからといって、安易にハムとか卵とか乗せてもありきたりだぞ」
沙織「どーするの? 新しい味っていわれても、インスタントなんだからどう作ったって同じだよう」
沙織「それに、具だって高級品を揃える予算なんかないし」
沙織「いっそ別の麺とスープでも持ってこない限り、味に変化なんて起こせないよ!」
みほ「別の麺……?」
みほ「そうだ、そうだよ沙織さん!」
沙織「?」
――某所 特設会場
ザワザワ ガヤガヤ
亜美「ハーイみんなー! 元気してる?」
みほ「教官! どうしてここに?」
亜美「ラーメン道の大会ってことで、私が審判を務めることになったわ! それじゃあ両者、整列して頂戴!」
ザッ
亜美「お互いに、礼!」
『 よろしくお願いします! 』
亜美「それではラーメン道第1回戦、食戟型を開始します!」
亜美「用意したのはこの袋入りインスタント麺」
亜美「お互いにこれを調理してもらい、その出来を総合的に判断して決めます!」
亜美「それでは、試合開始!」
みほ「沙織さん、お湯を沸かしてください!」
沙織「まかせて!」
カチッ ボボボ… グツグツ…
オレンジペコ「大洗は、お鍋を2つ用意しましたね」
ダージリン「個別にスープ用のお湯を用意する『別ゆで作戦』といったところかしら」
アッサム「麺をたっぷりのお湯でゆでられることと、スープに雑味が入らない利点があります」
ダージリン「だけど、方法としてはごくありふれた平凡なものよ」
みほ「……」スッ
パラパラ サラサラ
オレンジペコ「鍋の中に、何かを入れました!」
アッサム「塩……でしょうか? 麺の味はそんなことで変わるとはおもえませんが……」
――3分後
みほ「完成しました!」
ダージリン「みほさん特製のラーメン、見せていただきます……ってアラ?」
アッサム「具が……ない?」
オレンジペコ「麺とスープだけです……これじゃ新たな味を生み出せというテーマに沿わないのでは?」
ローズヒップ「スープを別に作ったくらいじゃ、大して味に変化は起きないとおもうのですけど?」
亜美「西住さんいったいどういうつもりかしら? とにかく、実食してみましょう」
ズズッ ズルルー
亜美「!!」
ダージリン「こ、これは……」
オレンジペコ「麺の食感が違います! まるで生麺のようなモチモチ感……」
ローズヒップ「特売のインスタントとは思えぬ味わいですわ! 激ウマですの!!」
アッサム「アレです! 麺をゆでるときに入れた、アレに秘密が!」
オレンジペコ「あの粉はなんだったんでしょう……?」
みほ「麺をゆでるときに入れたのは、調理用の重曹です」
みほ「小さじ1杯の重曹をお湯に入れ、ゆでることで麺に化学変化を起こしました」
ダージリン「『かん水』だわ……!」
ローズヒップ「かん水?」
アッサム「データによると、炭酸ナトリウムや炭酸カリウムを含んだアルカリ性の水。麺にコシと風味を加え、あの独特の黄色い色を生み出します」
ダージリン「重曹の主成分は炭酸水素ナトリウム。それをお湯に加えることでゆで汁はかん水の役割となり、麺にここまでのモチモチ感を与えたということ……!」
亜美「ズッ ズズッ ズルルーーッ!!」
亜美「……っぷは! こりゃたまらないわ! 思わず完食よ!!」
亜美「では評価に移ります!」
亜美「味の点、文句なし!」
亜美「真似しようとおもえば誰でも簡単にできる手軽さ、満点!」
みほ「ただし、重曹を入れたお湯は苦みやえぐみがありますから、麺の湯切りはしっかりと。それと、スープは必ず分けて作ってくださいね」
亜美「そして重曹の手に入りやすさ! コンビニには置いてないけど、スーパーのケーキ材料のコーナーですぐ見つかるとおもうわ。これも花マルものね!」
亜美「よって、大洗女子学園のラーメンは『グッジョブベリーナイス級』とします!」
ワー ワー!
沙織「すっごーいっ!」
杏「これは好感触じゃな~い?」
オレンジペコ「さすがです。これが西住流の実力といったところですね」
亜美「次は、聖グロリアーナのラーメンを発表してください!」
アッサム「ねえダージリン、そろそろどんなラーメンか教えてくれてもいいんじゃない?」
みほ「?」
華「どういうことでしょうか?」
ローズヒップ「この大会に関してダージリン様ったら、『ぜんぶ自分にまかせろ』の一点張りで、わたくしたちですらどんなラーメンか知らないんですのよ!」
優花里「それだけ、自信があるということですね……!」
ダージリン「そう。今回わたくしが披露するラーメンは、日本一に輝いた伝説の味の再現」
みほ「!?」
ダージリン「それも、誰でも簡単に作れるわ。さあどうぞ」スッ
杏「インスタントから、伝説の味かあ……こりゃあ気になっちゃうねえ」
桃「ど、どうしよ~っ! やっぱり本場の人間にはかなわないんだよ柚子ちゃん!」
柚子「まだ決まったわけじゃないでしょ」
亜美「なるほど! 名店の味を再現するラーメンは、最近のカップめん業界でも積極的になっているものね」
亜美「それを袋ラーメンで試みるとは、楽しみだわ!」
亜美「では実食!」パクッ
亜美「グブフォ!!」(噴出)
アッサム「!?」
オレンジペコ「!?!?」
みほ「教官!??」
亜美「ゼエホッ! ゲホゲホッッ!!」
亜美「な゛……な゛に゛こ゛れ゛……ゲロマズなんだけど……」
亜美「これのどこが日本一なのか……説明してくれるウエッ……」
ダージリン「はい。かつてその覇を競ったという『日本一まずいラーメン決定戦』その決勝戦で出されたという一品ですわ」
亜美「」
全員『』
ダージリン「決勝でぶつかったのは、袋ラーメンをコーヒーで煮込んだコーヒーラーメン」
オレンジペコ「オエッ」
ローズヒップ「オゲエッ! 聞いただけで不整脈になりそうですわ!」
ダージリン「そしてもうひとつはこの、麺をゆでるのにお湯ではなく日本酒を100パーセント使ったお酒ラーメン」
ダージリン「沸騰させてアルコールを飛ばしてあるから、未成年でも安心よ。さあみほさんたちも召し上がって」
みほ「そ……そういう問題じゃないですオエッ! エ゛ッ!!」
沙織「な゛に゛よ゛こ゛れ゛……甘ったるいぃ……」
華「うぶっ……! スープとの相性が最悪です……においがひどくてお箸をつけられません……」
優花里「オウ……ウウ……おえええ……」
麻子「ダメな香水みたいな甘いにおいが充満して……ウグッ ウゥ……」
ダージリン「アラお気に召さなかったかしら? それじゃ、口直しにわたくし特製のチャーハンはいかが?」スッ
杏「う、うん……」
柚子「これは見た目も匂いもまとも……ふつうのチャーハンっぽいですね」
桃「助かった……あむっ」パクッ
桃「う゛べ゛え゛っ!!!!」
みほ「!?」
桃「あガ……あガガガ……あ゛あ゛……」
桃「ウオエッ……グスッ ヒック……く゛ち゛の゛な゛か゛が゛ヂャリヂャリす゛る゛う゛……」
みほ「」
アッサム「」
杏「どういうことなの……?」
オレンジペコ「だ……ダージリン様……いったい何を……」ガタガタガタ
ダージリン「わたくし、チャーハンに何か新しい味わいをプラスできないかと考えたとき、ひらめいたの」
ダージリン「チャーハンの具には、ほぼ必ずたまごを入れるでしょ?」
ダージリン「そのカラを砕いて隠し味にしているの。これで栄養と食感がプラスされ、なおかつ、ごみも減って経済的よ」
オレンジペコ「オ゛エッ」
アッサム「オエエッ!!」
ローズヒップ「結果的に生ゴミの量を増やしてるとおもいますわ!」
アッサム「あなた……どうして食べられるものから、食べられないものを生み出すの? 魔女なの?」
ダージリン「英国が優雅で保守的なのはカードの片面」
ダージリン「型破りで革新的なことをなすのも英国の一面よ」
オレンジペコ「リボンの武者6巻での、ダージリン様の発言ですね。ですが……」
アッサム「これは革新ではなくテロです……ウッ! ちょっと気分が……」ヨロヨロ
みほ「うええ……」
沙織「や、やだもう……ウエッ」
桃「うう……エグッ ウエエ……」ポロポロ
亜美「ゼエ… ゼエ… 勝負あり……」
亜美「満場一致でオウエッ……大洗女子学園の、勝利……ゲホ」
杏「長く苦しい戦いだったね……」
優花里「たしかにトーナメントの上では勝ちました。ですが、『勝利』とは『勝ち』ではないということがわかりました……」
沙織「負けたのにダージリンさん、イキイキとしてたね……」
麻子「おそらく試してみたくて仕方がなかったんだろうな……あの地獄のようなラーメンとチャーハンを……」
華「料理の腕前までイギリス風にならなくてもよろしいのに……」
杏「ま、次はだいじょうぶだよ。2回戦の相手も決定したから」
ラーメン道全国大会 第2回戦
大洗女子学園 VS 知波単学園
優花里「知波単ですか」
華「どういうラーメンを作るのか、気になりますね」
柚子「ところが2回戦の対決方式は極道型だから、ラーメンは作らなくていいらしいの」
優花里「ごくどうがた!?」
麻子「物騒な名前だ」
華「暴力で解決するんでしょうか?」
沙織「それもうお料理関係ないじゃない」
杏「名前からは想像つきにくいけど、ここでいう極道は『極道めし』のことだね」
みほ「極道めし?」
杏「そーいう名前の漫画らしいよ。刑務所が舞台の」
優花里「聞いたことがあります。ウチの床屋の本棚にあったかもしれません」
華「刑務所の中の食事がテーマなんですか?」
沙織「もしかして、そこでのごちそうのお話?」
杏「う~んちょっとちがうかもね。刑務所の食事でも、たしかに年に1度お正月には特別なおせち料理が出るんだけど……」
杏「年末になると、そこの受刑者たちがいままで生きてきていちばん美味しかった食べ物の話をする」
杏「その中でいちばん旨そうなお話をした優勝者は、みんなから1つずつ、おせちの好きな品を分けてもらえるっていう設定なんだ」
柚子「料理漫画なのにお料理をしないという、珍しいタイプの作品ね。でも面白いわよ」
みほ「へえ~」
杏「というわけで『どれだけおいしそうな話ができるか』というのが極道型らしいよ」
柚子「すでに終わった別ブロックでの試合データが手に入ったから、これを参考にしてみましょう」パッ
ラーメン道全国大会 第2回戦
継続高校 VS プラウダ高校
ミカ『……うどんのように太い麺、いかにも豚肉といったぶ厚いチャーシュー』
ミカ『暴力的な塩辛さをもったスープに、生のニンニクの刺激が舌を刺す』
ミカ『それが妙にマッチしてね。しかもこれだけ濃い味なのに、麺からは麦の風味を感じる』
ミカ『噛むのに力がいる極太自家製麺と、食べても減らない山盛りの具』
ミカ『もうだめだ、って何度もくじけそうになるけど、それでもお腹に入れるんだ』
ミカ『そして、ようやく平らげたときの達成感がたまらない』
ミカ『店を出たらすっかりハマってしまった自分がいて、今度はヤサイ多めにしてみようかなって、次はどこまで量がいけるか試してみたくなるのさ』
ミカ『何よりあのラーメンの味は、時間が経つと猛烈に食べたい騒動にかられるふしぎな魔力を持っている』
ミカ『それこそ、ほかのラーメン店では満足できなくなるような、ね』
ミカ『お話はこれでおしまい。ラーメン二郎の魅力、伝わったかな?』
パチパチパチ
クラーラ『日本には、変わったラーメン屋さんがあるんですね』
ノンナ『ええ。この手の店には熱烈な愛好家がいて、自らをジロリアンと名乗っているほどです』
ニーナ『すげえな継続の人は。おらは昼にニンニク入りのラーメンを食う度胸はねえべ』
アリーナ『んでも、うまそうに聞こえだな~』
カチューシャ『フンなによそんなもの。カチューシャの話術のほうがずっとずっと上よ』
亜美『続いて、プラウダ高校のラーメンエピソードを聞かせてください』
カチューシャ『……』
カチューシャ『……あれは、カチューシャが小学生だった頃』
カチューシャ『前の日に降った雪がにわかに吹雪となり、学校は急きょ休みになったわ』
カチューシャ『でも田舎の学校だったから連絡に行き違いがあってはいけないと、先生たちは学校に待機していたの』
カチューシャ『こんな天候の中やってくる生徒なんていないだろうと思いながらね』
カチューシャ『でもカチューシャは行ったわ』
カチューシャ『数メートル先も見えない猛吹雪の中、何キロもある道を』
カチューシャ『でも、そこで休校の知らせを聞いて力が抜けたわ』
カチューシャ『なんのためにここまでやってきたんだろうって』
カチューシャ『そしたら、先生がやってきてね』
カチューシャ『家まで送ってあげるから、その前にこれを食べてなさいって、カップめんをくれたの』
カチューシャ『どこにでもある、日清のカップヌードルよ』
カチューシャ『お湯が入れてあって、両手で持つとそのぬくもりが伝わってきて』
カチューシャ『ふたをあけると湯気がわッと広がって、しょうゆの香ばしさが鼻をくすぐって……』
カチューシャ『自分の息なのか、ラーメンの湯気なのか、分からないくらい目の前が真っ白になって』
カチューシャ『その中をかき分けるようにして顔を近づけて、スープをひと口飲んだの』
カチューシャ『冷えた身体にジワ~~ッと熱いスープが入り込んで』
カチューシャ『そしたらね、お腹の中があったかくなって安心したのかな……なぜか涙が出てきちゃってね……』
カチューシャ『グス……顔をぐちゃぐちゃにしながら、必死にラーメンをすすったわ……』
カチューシャ『手が寒さでかじかんでうまく動かせなかったから』
カチューシャ『お箸じゃなくてフォークを使って食べたの』
カチューシャ『だんだんスープの温度でフォークの先が熱くなってきて』
カチューシャ『口がやけどしそうになるんだけど、それもかまわずに食べたっけ』
カチューシャ『あったかい食べ物って、なんてありがたいんだろう……』
カチューシャ『お話はこれでおしまい。あとにも先にも、あれほどおいしいラーメンはなかったわ』
パチパチパチ
ノンナ『ウッ ウウウ……』ポロポロ
ニーナ『副隊長が泣いちゃったべ』
アリーナ『まあ……驚きはしねえけど』
ミカ『冷たい空気と暖かいラーメンの対比が秀逸だね』
ミッコ『う~んうまそうだ。フォークで食べたってとこが特に……』
亜美『では評価に移ります!』
亜美『継続高校。人の好みが分かれるであろう二郎ラーメンの魅力をわかりやすく、過不足なく伝える技術! 立派でした』
亜美『一方でプラウダ高校。なんでもないカップめんが人生最高の味となったお話、面白かったわ』
亜美『北海道のきびしい冬。その中で見出した食べものの尊さ。まさしく人間讃歌を感じました』
亜美『よって、ラーメン道第2回戦は、プラウダ高校の勝利!』
ワー ワー ハラショー!
華「……ジュルリ」
優花里「おいしそうでしたね~。冬のカップめん!」
麻子「対決の趣旨はわかった。だがうちはどうする?」
杏「大洗のみんなには、それぞれ好きな食べ物があるよね」
杏「それについて何か面白いエピソードがあれば、それをラーメンに当てはめて2回戦の対決で使えるかとおもったんだけど」
柚子「そういえば桃ちゃんは、どうしていなり寿司が好きなの?」
桃「よくぞ聞いてくれた。いなり寿司は『おいなりさん』とも呼ばれているだろ?」
柚子「うん」
桃「高級な寿司ネタは数あれど、さん付けで呼ばれるお寿司はおいなりさんだけだ」
桃「つまりおいなりさんは、お寿司の中でもいちばん偉いってことになる」
優花里「???」
みほ「はあ」
桃「わからないか? つまりだ、格上のお寿司を食べることで、この身をさらに向上させる原動力としてだな……」
杏「ハイ終了~。次の人いる~?」
桃「……って会長おっ! 何故ですかああっ!!」
沙織「好きな食べ物の理由として、なんか違う気がする」
麻子「そうだな。なんらかの思い出があるかとおもったんだが」
華「俗な理由でしたね……」
沙織「じゃあ、ラーメンの思い出がありそうな人を探さなきゃ」
杏「そー言うとおもって、連れてきたよ」
桂利奈「あい~っ!」(好きな食べ物:ラーメン)
ツチヤ「どもども~」(好きな食べ物:ラーメン)
華「おふたりは、ラーメンにこだわりが?」
ツチヤ「そ~だね~。袋めんのインスタントを、鯨井風で作ってみたりね」
みほ「くじらい風?」
ツチヤ「ある漫画に載ってた作り方らしいんだけどさ」
ツチヤ「袋入りのインスタント焼きそばがあるでしょ? アレと同じようにフライパンで作るんだよ」
ツチヤ「水を入れて沸かして、麺をほぐして、水気がなくなる前に粉末スープを入れて混ぜる」
ツチヤ「最後にたまごを落とせば、ちょっとした汁なし麺の完成ってとこだね」
沙織「おいしそ~っ!」
みほ「阪口さんは、何かラーメンが好きな理由ってある?」
桂利奈「えっと……こどもの頃に、屋台のラーメン屋さんが近くを通ったことがあって」
桂利奈「そこのラーメンがおいしかったから!」
優花里(かわいい)
沙織(かわいい)
桂利奈「使い捨ての発砲スチロール容器にスープがたっぷり入ってるから、お持ち帰りだとこぼれないようにそ~っと歩かないといけないんです」
桂利奈「だから家に着く頃にはちょっと冷めちゃってて、麺ものび気味なんだけど」
桂利奈「それも屋台の味みたいな特別な感じがして、逆においしいっておもいました!」
みほ「へえ~っ初めて聞いた。なんだかうらやましいな」
華「あら? みほさんは屋台の経験はないんですか?」
みほ「うん……アツアツのスープに固ゆで麺じゃないとラーメンじゃないって厳しく言われてたから、そういうのは食べさせてくれなくて」
麻子「想像以上に厳しいんだな。西住流ラーメン道」
杏「そういや西住ちゃん、あたしの試作品ラーメンを食べるときも何かしてたよね」
みほ「あ、はい。あれも西住流の作法のひとつで、ラーメンの食べ方があるんです」
優花里「どんな感じなのか、興味があります!」
みほ「えっと……まずはね、ラーメンを……」
(説明中)
杏「……いや~、さすが西住流ってとこだね」
優花里「おいしそうでした!」
華「たまりません。濡れてしまいました」
沙織「華!?」
華「よだれで口の中が、という意味ですよ?」
沙織「……あ、そっか、そうだよね。やだもー!」
杏「ま、これで勝利はいただきだね」
みほ「会長?」
杏「この話、いいねえ。使わせてもらおっかな~」
杏「それでさ西住ちゃん、さっきのお話なんだけど、ここをこうして……」
――某所会場
ザワザワ ガヤガヤ
亜美「ラーメン道第2回戦、極道型を開始します」
『よろしくお願いします!』
亜美「それでは大洗女子学園から、ラーメンのエピソードを話してください」
みほ「はい。これから私たちが話すのは、ラーメンの食べ方です」
みほ「それも、正しいラーメンの食べ方を」
絹代「おおっ! ラーメンにも作法が?」
みほ「これは私が小さいころ、お母さんから教えてもらったものです」
みほ「ある日の昼、私はお母さんに伴われてふらりとお店に入ったの」
みほ「そこで出てきたのは昔ながらのシンプルなしょうゆラーメンでした」
絹代「ふむふむ」
みほ「最初はまず……」
絹代(最初はスープからでしょうか……。それともやはり麺から?)
みほ「最初はまず、ラーメンをよく見ます」
絹代「!?」
福田「見るっ!??」
みほ「どんぶりの全体を、ラーメンの湯気をすいこみながら、じっくり観賞してください」
みほ「スープの表面にキラキラ浮かぶ、無数の脂の玉」
みほ「その脂にぬれて、光ってるメンマ」
みほ「浮いたり沈んだりをくり返すネギやモヤシたち」
みほ「そして何よりも、これらの具の主役でありながら、ひっそりと、ひかえめに、その身を沈めているチャーシュー」
みほ「ではまず、お箸の先で、ラーメンの表面をこう……ならすというか、なでるというか、そういう動作をしてください」ナデナデ ツンツン
絹代「あ、あのう……西住さん、これはどういう意味でしょうか?」
みほ「ラーメンに対する、愛情の表現です」
絹代「はぁ」
みほ「次に、箸の先をチャーシューのほうに向けてください」
絹代「あ、さっそくチャーシューから食べ始めるんですね」
みほ「いいえ。この段階では、さわるだけです」
絹代「!?」
みほ「箸の先で、チャーシューをいとおしく突っついて、つまみあげて……」
みほ「どんぶりの右上の方に、やや沈ませるよう安置するのです」
みほ「そして、ここが大事なところですが……このとき心の中で、わびるようにつぶやいてほしいのです」
みほ「『またあとでね♪』って」
絹代「……!」ゴクリ
みほ「さて、それではいよいよ麺から食べ始めます」
みほ「あ、このときですね、麺はすすりつつも、目はあくまでもしっかりとさっきのチャーシューに視線を注いでおいてください。それも、愛情のこもった視線を」
みほ「ずっ ずずっ」
みほ「ずるるるーーっっ!」
絹代(ああっ……! 西住さんがまるで落語家のように口で擬音を……)
みほ「ふぅ……」
みほ「ひと口すすったら、今度はさらに麺を食べやすくするように具をよけます」
みほ「そしてこのときもまた、心の中でそれらの具材たちに呼びかけてください」
みほ「『大丈夫だよ♪』『きみたちのことも忘れてはいないよ♪』って」
亜美「……ッ!」ゴクリ
みほ「ズズッ ズルルーッ!」
みほ「ズズズ……あむっ……」パクッ
絹代(あっ いま食べた! チャーシューを食べました!)
みほ「ずずっ ぐっ……ムグ グッ グーッ」
絹代(立て続けに3回、スープを飲んだ……!)
みほ「フーッ♪」
みほ「ふぅ……ふぅ……うふふ♪」ニッコリ
絹代「ごくり……!」
福田「た、隊長見てください、西住さんの顔を」
絹代「ああ……熱いスープが喉を通ったのだろう、若干上気しているようだ」
福田「それがまるで風呂上がりのような、何ともいえない色気を見せて……うぅ、辛抱たまりません……!」
みほ「ズズズズッ ズッ ズルズズーーッ!」
みほ「ずっ……ずずっ……」
みほ「ちゅるん♪」
福田「ウッ」
絹代「グッ」
みほ「チュル……グッ ググッ」
絹代「あ、ああ……どんぶりを抱えて……」
福田「ついに終わりを迎えようとしています……!」
みほ「グーッ……ふー ふー」
みほ「グーーーッッ!!」
みほ「……ふう」
みほ「……ごちそうさま」
みほ「最初にお母さんに教えてもらったのは、冷めないうちに食べることでした」
みほ「お話はこれでおしまいです。私のラーメン道、いかがでしたか」
パチパチパチ
華「……沙織さん、優花里さん、麻子さん」
沙織「……なに?」
華「この試合が終わったら……ちょっとコンビニに行きたいのですが」ハァハァ
沙織「奇遇だね。あたしもそうなっちゃった……しょうゆ味にしよ……」ハァハァ
優花里「うう……『ちゅるん♪』は反則ですよう西住殿ぉ……」ハァハァ
麻子「同感……」ハァハァ
杏「いや~大成功だね。名付けて『はなしか作戦』といったところかな?」
桃「まさか西住の話を聞いて、それをさらに具体的に再現させるとは……」
柚子「でも大した演技力。西住さんよくやってくれたわ」
亜美「ゴク……いいエピソードを聞かせてもらったわ。さすがは西住流といったところかしら」
亜美「続きまして、知波単学園」
絹代「はッ!」
絹代「これはその昔、老夫婦が経営している小さなお店に入ったときの話なんですが」
絹代「私がラーメンを注文して、カウンター越しに出てきたときに」
絹代「そのどんぶりを抱えてた店主の指が、バッチリとスープにひたっていたのです」
沙織「やだもー!」
絹代「あわてて私はそれを指摘しました」
絹代「大将! ラーメンに指が! と。すると店主は」
絹代「『ああ大丈夫、熱くないよ』」
絹代「と言って布で指をぬぐい、何事もなかったかのように次の料理に取り掛かりました」
みほ「……はあ」
絹代「あ、終わりです」
全員『!?!??』
麻子「ただの笑い話だぞコレ。それも昭和の」
優花里「ンフ……私は好きですよ」
亜美「ちょっと面白かったけど、おいしそうな話じゃなかったわね。大洗の勝ち」
みほ「ええ~っ……」
優花里「1回戦といい2回戦といい、相手の自滅が多くないですか?」
麻子「ていうかあの体たらくで、知波単はどうやって1回戦突破したんだ」
華「逆に気になりますね……」
アンチョビ「だが、次はそう簡単にはいかないぞっ!」
みほ「アンチョビさん!?」
杏「どしたのチョビ子」
アンチョビ「2回戦を突破し、準決勝に駒を進めたアンツィオが次のお前らの相手だ!!」
みほ「!」
カルパッチョ「食戟型のテーマが決まったから、それを伝えに来ました」
< 『ラーメンで戦車道を表現せよ』 >
沙織「どーいう意味?」
アンチョビ「まずソコを考えるセンスが問われてるってことだ! 戦いはすでに始まっているぞ!」
ペパロニ「悪いけど、料理対決でウチに勝てる学校なんて存在しないッス!」
アンチョビ「そーいうことだ。じゃあな! 首を洗って待っていろ!」スタスタ
杏「いや~まさかここに当たるとはね」
桃「ど、ど~しよう~っ! 勝ち目なんてないよう……おしまいだあ……」
柚子「諦めが早いよ桃ちゃん」
杏「ま、優勝を狙うんだから、遅かれ早かれこーいう強い所と当たるのは避けられないよね」
優花里「それにしても、ラーメンで戦車道ですか……」
沙織「戦車型のどんぶりを作って、それでラーメンを出すのはどう?」
麻子「安直だ。そんなんでアンツィオに勝てる気がしない」
みほ「ラーメン……戦車……」ブツブツ
優花里「共通点といえば、全国各地にそれぞれ特色のあるものが存在しています」
優花里「あっさり味の軽戦車に、どろり濃厚な重戦車。万人受けするしょうゆラーメンは、さしずめ誰でも乗れるM4シャーマンといった感じでしょうか」
沙織「じゃあ、強い戦車をモチーフにするってことで濃い味付けにしてみたら?」
麻子「重戦車イコール強い戦車と決めつけてしまっていいのか?」
華「確かに……最強の戦車は存在しない。そのときの戦況に合った戦車が強いのだと結論が出ましたよね」
(※特典DVD「朝まで生戦車!」参照)
沙織「ええ~っ!? じゃあどうすればいいのよ~っ!」
みほ「う、うう~ん……」フラリ
優花里「西住殿っ!?」
沙織「みぽりんッ!?」
みほ「……ううん、軽くめまいがしただけ。大丈夫」
みほ「ラーメンのことばっかり考えすぎちゃったから、ちょっと疲れちゃったのかな」
華「何か、気分転換になることが必要なのでは……」
杏「それならこれを使ってよ。ショーのタダ券がちょうどあるんだ」
みほ「会長……これって!」
――ボコミュージアム内
やってやる やってやる やあってやるぜ~~♪
イ~ヤな ア~イツを ボ~コボコに~~♪
ボコ『おいらボコだぜ!』
みほ「うわあ~っ! ボコ~っ!」
沙織「……まあ、こうなるよね」
華「みほさんが喜ぶといったら、ここが一番なのは疑いませんが……」
< 『 ボコられグマのボコ 定食屋でボコボコの巻 』 >
ボコ『オイお前ら!』
『ああん?』
ボコ『おいらが先に注文したのに、何でお前らの定食のほうから出てくるんだよ!』
『おれたちが知ったことかよ。店の都合だろ』
ボコ『許せねえ! 表へ出やがれ!』
『なんだとお! おら、おら!』ゲシゲシ
『こいつめ! このっ!』ボカボカ
ボコ『ウグウッ! ギャアッ!』ゴロゴローッ
優花里「相変わらず不可解な脚本ですね……」
麻子「いつもおもうが、多勢に無勢すぎるだろ……」
みほ「ボコ、がんばれっ がんばれーっ!」
愛里寿「がんばれっ がんばれーーっ!」
沙織「!?」
みほ「あ、愛里寿ちゃん。奇遇だね」
愛里寿「ボコショーの演目、新作が発表されたから見に来たの」
みほ「これ、いいよね!」
愛里寿「うん。ボコの短気さがよく表れてるし、最後は路地裏にうち捨てられる哀愁がいい」
みほ「注文が前後するっていう小さなことに怒ってるのがいいよね!」
沙織「ついていけない会話だよう……」
愛里寿「定食に麺類が交ざると、ゆで時間の関係でそうなりがち。個人でやってる小さなお店は特に」
みほ「麺……ラーメン……」シュン
愛里寿「?」
愛里寿「どうしたの、みほさん」
みほ「実はかくかくしかじかで……」
愛里寿「……そう。ラーメン道のことで」
みほ「どうしたらいいのかわからなくなっちゃって……」
愛里寿「……ねえ、みほさん」
愛里寿「ラーメンって、そんなに難しい食べ物かな」
みほ「どういう意味?」
愛里寿「私なら、もっと単純に考える」
愛里寿「ラーメンも戦車道も、どちらもいろんな流派に分かれているけど、それは何故?」
愛里寿「その本質を見抜けば、きっと答えは出るはず」
みほ「……」
愛里寿「それじゃ、また会おうね」スタスタ
優花里「どういう意味だったんでしょう?」
華「戦車道の、本質……?」
みほ「……わかった」
沙織「みぽりん?」
みほ「ちょっと寄るところができました。麻子さん戦車の操縦お願いできる?」
麻子「わかった。どこまで?」
みほ「確かめたいことがあるの」
――1週間後、特設会場
ザワザワ ガヤガヤ
亜美「それではラーメン道全国大会、準決勝を開始します」
亜美「対決のテーマは、ラーメンで戦車道を表現せよとのこと」
亜美「なお、この試食は理事長先生が直々に行うこととなります!」
児玉「よろしく」
ワー ワー
亜美「ではまず、こちらのブロックから」
ラーメン道全国大会 準決勝Aブロック
サンダース大付属高校 VS 黒森峰女学園
みほ「お姉ちゃん……」
優花里「順調に勝ち上がってきてます……!」
亜美「それでは、サンダース大付属高校のラーメンを発表してください」
ケイ「オーライ! 召し上がれ!」
亜美「おやこれは……長崎ちゃんぽんですね」
児玉「それにしては具の量が多いようだが、これは?」
ケイ「これはリンガーハットの『野菜たっぷりちゃんぽん』よ!」
ケイ「7種類の国産野菜をたっぷり480グラムも使用!」
ケイ「特にキャベツ、もやし、玉ねぎの量は通常の2倍!」
児玉「ほほう……こうしたチェーン店の商品も、ずいぶん進んだものだ」
児玉「では、いただこう」
ズズッ ズルルー
児玉「……っぷは! 野菜の量が多い。こりゃあ満足できる」
児玉「……それではケイ君。このラーメンがなぜ戦車道を表現していると?」
ケイ「食事の目的は、お腹がいっぱいになること。その点これは具がたっぷりで満腹感があるわ!」
ケイ「一方で戦車道の目的はフラッグ車戦でも殲滅戦でも、突き詰めれば戦車の撃破。そのためには強力な砲でドーンと撃つのが一番!」
ケイ「つまりどちらも『かやくの量』の多さが決め手ばい! なんてね♪」
オオー パチパチパチ
児玉「なるほどハッハッハ! こりゃ一本取られた」
亜美「続きまして、黒森峰女学園のラーメンを発表してください」
まほ「エリカ、頼む」
エリカ「は、はいっ!」
児玉「おおうっ! こりゃまた素早く出てきたね」
エリカ「熱いので、お気をつけて召し上がってください」
児玉「黒森峰は……本格的な博多とんこつラーメン」
児玉「独特のにおいがグワ~ッとただよって……白濁したスープに、ねぎと紅ショウガの色合いも美しい」
ズズッ ズルルー
児玉「うん! ツルツルしたのどごし! この細麺がたまらないね」
児玉「それも理想の固さに仕上げられている! バリカタすぎず、ちょうど良い」
児玉「……では西住まほ君教えてほしい。このラーメンが戦車道、そのこころは?」
まほ「西住流の戦車道は強さを追求します。それはラーメン道においても同じ」
まほ「ラーメンにとっての強さとは、アツアツのスープに、コシのある固麺、そして頼めばすぐさま出てくる早さ」
まほ「あつく、かたく、はやい。この三つは強い戦車の要素にそのまま通じます」
まほ「すなわち、このラーメンは我々が理想とする『最強の戦車像』にほかなりません」
オオー スゴーイ
児玉「なるほどこれもまた一理ある」
亜美「それでは、ジャッジをお願いします」
児玉「サンダース大付属。野菜の大盛りはまさしく物量で押し進むアメリカ戦車の戦法を体現したかのようだ」
児玉「一方で黒森峰。電撃戦を彷彿させる速さとスープの熱さは圧巻だった」
児玉「どちらもしかるべき考えに基づいており、甲乙つけがたい」
児玉「しかしながら、より強い戦車を表現するという点では、黒森峰の三拍子そろったラーメンに軍配が上がるだろう」
亜美「勝負あり! 決勝進出は、黒森峰女学園!!」
ワー! ワー!
ケイ「オウ……完敗だわ。でもいい勝負だったわね」
まほ「こちらこそ。素晴らしい試合ができた」
亜美「それでは、次のブロックの試合を開始します!」
ラーメン道全国大会 準決勝Bブロック
アンツィオ高校 VS 大洗女子学園
亜美「アンツィオ高校は、ラーメンを発表してください」
アンチョビ「これがウチの最高傑作だ! 恐れ入れえ!」
児玉「おやこれは……」
亜美「非常に透明感のあるスープですね。これはいったい?」
アンチョビ「アンツィオの本拠地は栃木だからな。佐野市の名物『佐野ラーメン』だ!」
ズズッ ズルルー
児玉「ほお……スープの見た目とは裏腹に、しっかりとしたコクがあって旨い」
児玉「それに何という麺の弾力! 平たくてちぢれていて、柔らかいのにコシが強い! やみつきになりそうだ」
児玉「……して、佐野ラーメン。これがなぜ戦車道と?」
アンチョビ「戦車道はすぐれた人格形成などをはぐくむ武道。教育的な意味があるものです」
アンチョビ「そして戦車道においてすぐれた人間とは、自分の力で考えることができる者のこと」
アンチョビ「したがって、このラーメンは麺もスープもすべて自作」
アンチョビ「わたしは佐野ラーメンを作るために、青竹打ちを習得しました」
みほ「青竹打ち?」
カルパッチョ「佐野ラーメンの麺打ちは、太い竹を使うの」
アンチョビ「竹を台に置いて、こうやってヒザにはさんで、片足ではずむようにして上下に動かす。これに生地をはさんで麺を練るのさ」
みほ「へえ~っ」
アンチョビ「また、我がアンツィオの戦車道は全国大会において、砲の小さい豆戦車が主力ながらも1回戦を突破できました」
アンチョビ「これは、常に知恵をしぼって作戦を練り、考えることをあきらめなかったからです」
アンチョビ「つまりラーメンも戦車も『ねり方』『うち方』次第でここまでうまくなるというわけです!」
パチパチパチ イイゾー
児玉「納得だ。素晴らしい!」
亜美「では次、大洗女子学園の番です」
みほ「はい」スッ
児玉「?」
亜美「おや? 空のどんぶりを出して……何をするつもりかしら」
ザラザラーッ!
児玉「なっ」
亜美「な……!」
< チキンラーメン >
アンチョビ「インスタントだとおーーっ!!?」
カルパッチョ「西住さんいったいどういう……ん? 理事長さんのようすが……」
児玉「お、おお……おおう……」プルプル
児玉「何と懐かしい……私が知っている方のチキンラーメンではないか……!」プルプル
ペパロニ「どういうことッスか?」
アンチョビ「失礼……どんぶりを見せてもらいます」
< □ >
アンチョビ「!! これはっ……!!」
カルパッチョ「ドゥーチェ、何をそんなに驚いているんですか?」
ペパロニ「ふつうの即席麺ッスよ」
アンチョビ「よく見ろお前たち! このチキンラーメンは……四角い!」
アンチョビ「私たちが知っているのは、丸くてくぼみがある形をしているはずだっ!」
ペパロニ「ああ~言われてみりゃ確かに」
児玉「そう……いまから50年以上も前に発売されたチキンラーメン」
児玉「私がこどもの頃の当時は四角い形をしていたのだよ」
みほ「それじゃ、お湯を注いで、ふたをして……。3分待つあいだに、これを見ていてください」
児玉「う、うむ……これは?」
みほ「劇場版の特典映像『3分ちょっとでわかるガールズ&パンツァー』です」
アンチョビ「!?」
> みなさん、おひさしぶりです!
ぺパロニ「いや~何度見てもいいもんッスね! 映画館に足を運んだ思い出がよみがえります!」
アンチョビ「のんきだなお前……」
> ……パンツァー・フォー!
児玉「……終わったようだが」
みほ「それじゃあ……めっしあっがれ~っ!」パカッ!
児玉「!」
亜美「ラーメンの上に……ハムとねぎと……ゆで卵が乗っていますね」
児玉「いつの間に……。先ほどの映像を見ている間にこっそり入れたのか」
ペパロニ「これって、ポニョのラーメンじゃないッスか?」
アンチョビ「ポニョ?」
カルパッチョ「映画『崖の上のポニョ』に出てきたラーメンと同じですね。こっそり具を入れておいて、ふたを開けて驚かせるシーンです」
麻子「西住さんが確かめたいと言ったのは、これだったのか」
沙織「映画を借りに行ってたんだね」
みほ「熱いから、気を付けてくださいね」
児玉「わかった。では」
ズズッ ズルルー
児玉「……懐かしい」
児玉「あのときと変わらないラーメンの味だ」
児玉「お湯を入れただけでラーメンができるなんて思いもしなかった時代」
児玉「ああ思い出す……テレビドラマの合間に流れていたコマーシャルで……」
児玉「食べたくて食べたくて、母ちゃんにせがんだっけ……」
児玉「ああ懐かしさで胸がいっぱいに……!」
児玉「……ふう。食べ終わったが、いささか疑問が残ったな」
児玉「大洗女子学園に問う。このインスタント麺が、なぜ戦車道だと?」
みほ「戦車道とは何かを、私は最も簡単に考えました」
みほ「それは、人間味豊かな人格を育て、良妻賢母となる乙女のたしなみ」
みほ「それにいくつかの流派があるのは、戦車の戦術を通じ、それぞれが考える『理想の女性像』に違いがあるからではないでしょうか」
みほ「だから私は、私なりの理想、やさしいお母さんの姿を、ラーメンを通じて理事長さんに見せてあげたかったんです」
児玉「……成程。形といいパフォーマンスといい、わざわざこれを選んだのは、『母親が作ったラーメン』を再現したかったからか」
児玉「……幼い頃『ごはん、できたよ』と言われたときの、あのワクワク感を」
児玉「久しく忘れていた、素直な感情を……」
『うまいかい、七郎?』
『うん! おいしいよ、母ちゃん!』
児玉「うぅ……グスッ か、かあちゃん……」ポロポロ
みほ「私は理事長さんよりずっとずっと年下だけど」
みほ「でも、こうやって料理でなら、お母さんの代わりになれるかもしれません」
みほ「喜んでくれたら、うれしいな♪」ニッコリ
優花里「あ、ああ……西住殿の笑顔が……!」
華「まるですべてをいつくしむ聖母のような輝きを放っています……!」
アンチョビ「あれは……『バブみ』!?」
カルパッチョ「?」
ペパロニ「どーいう意味ッスか?」
アンチョビ「簡単にいえば『年下なのについ甘えたくなっちゃう母性的な魅力』といったところだろうか」
アンチョビ「もともとは、いたいけな少女に母性を求めるねじれたロリコンが使い始めた言葉だったんだが」
アンチョビ「まさかこれを、料理に応用するとは……!」
アンチョビ「なあ、人間の味覚はいくつあるか知っているか?」
ペパロニ「甘味、塩味、酸味、苦味の4つに、このごろ海外でも知られるようになった旨味。ぜんぶで5つッス」
アンチョビ「そうだ。だが、西住はさらにもうひとつの味を加えた」
カルパッチョ「それが『バブ味』……!?」
アンチョビ「ああ間違いない。ものを食べたときに思い出がよみがえって、料理がずっとずっとおいしく感じられる感情を呼び覚ましたんだ」
アンチョビ「そしてその感情が最も大きいのは、小さい頃の記憶。最初に食べさせてもらったときの記憶! すなわち母の愛の記憶だ」
アンチョビ「料理は愛情。そんな簡単なことを私は見落としていたというのか……!!」
亜美「では判定に移ります!」
児玉「アンツィオ高校と大洗女子学園。両者とも戦車道の本質を鋭く突いた作品だ」
児玉「しかし、戦車道の精神そのものを深く掘り下げた大洗女子学園のラーメンには、大いに感動させられた!」
亜美「勝負あり! 決勝進出は、大洗女子学園!!」
ワー! ワー!
桃「あ、アンツィオに、勝った……!?」
杏「すごいや西住ちゃん……あたしじゃとても思いつかなかった作戦だあ~」
アンチョビ「いや~いい試合だった! まさかそんな手でくるとはな~!」
みほ「アンチョビさん!」
アンチョビ「料理は愛情! いい言葉だな!」
アンチョビ「大切なのは腕前や材料だけじゃない。それを教えてもらったよ!」ダキッ
みほ「あ、ああう……」ギュー
カルパッチョ「わたしたちの分も、頑張ってくださいね」
ペパロニ「欲しい食材があったら言ってくれよ! 分けてやるから」
アンチョビ「お前たちは料理でこのアンツィオを破った! 決勝戦でふがいない姿を見せるんじゃないぞっ!」
みほ「はいっ!」
優花里「ですが、その決勝戦の相手が……」チラッ
まほ「みほ。やはり来たか」
みほ「お姉ちゃん……」
まほ「面白い試合だった。みほはラーメン道でも、自分の道を見つけたようだ」
まほ「だが私は西住流ラーメン道の後継者。本物の王者の戦い方を見せてやる」
みほ「……受けて立ちます」
まほ「対決は食戟型。テーマは『最高のラーメンを作れ』だそうだ」
まほ「そして決勝戦は、お母様も試合を見ていただくことになっている」
みほ「!」
まほ「大会は1週間後。それまでにお互い力を尽くそう」
まほ「……エリカ、みほの試合を見てたら少々行くところができた。帰ったらヘリを用意してくれ」
エリカ「は、はいっ」
優花里「……最高のラーメンですか」
華「漠然としていて、困りますね。相手がどんなものを作るかも分かりません」
みほ「いえ、おおよその見当はつきます」
沙織「みぽりん?」
みほ「今度の試合はお母さんが見に来るってことは、お姉ちゃんは西住流の基本にして頂点の、正統派なラーメンを作るでしょう」
みほ「つまり、鶏ガラをベースにしたシンプルなしょうゆラーメンを」
みほ「向こうがあっさりとした味なら、こちらは大洗の名産品を使って濃厚にいきたいとおもいます」
杏「なるほどね~。それなら、あんこうはぜったい外せない」
柚子「だしには、常磐かつおのかつおぶし」
桃「鹿島灘はまぐりを使えば、貝類の旨味が加わる」
華「シラスも名物ですね。ふりかければ、海の風味がよりいっそう強くなるのでは?」
みほ「はい。これらを生かし、魚介、とんこつ、鶏ガラなどのスープを混ぜてインパクトのある味を目指します」
――数日後
沙織「……も、もうダメ、うぅ」
優花里「ウップ……体力の限界であります……」
みほ「……試作品、できました」
みほ「その30……40だったかな? ……いや、いいかもう数えなくても」
ズズッ ズルル…
みほ「どうですか?」
華「……何かが足りない気がします」
みほ「華さんごめんなさい……私たちが満腹になった後も、試食役をすべてやってもらって……」
華「いえ、これくらいお安いご用です……ですがさすがの私もそろそろお腹が……」
杏「なかなかコレって味にめぐり会えないね~」
桃「どーするんだっ! 大会まで日にちが差し迫ってるというのに……」
沙織「何かが足りないっていわれても……。もうほとんどの食材は試したんでしょ~?」
華「ええ……ですが、これだといえるような何かがない気がして」
柚子「ちょっと休みましょう……。連日連夜の試食でみんな疲れているわ」
優花里「冷泉殿、寝ちゃってます」
麻子「ZZZ……むにゃ、もう食べられない……」
桃「まさかリアルでその言葉を聞くことになるとはな……それも正しい使い方で」
杏「あたしも満腹……干し芋のかけらさえ入んないや……」
みほ「……?」ピクッ
みほ「……会長? いま何と?」
杏「えっ?」
みほ「……さっきの言葉、もう一度言ってもらえませんか?」ツカツカ
杏「え? ちょ、西住ちゃん……」
杏(もしかして、いまの言葉が気に食わなくてキレちゃった……!?)
杏(あたしの試食の数が一番少ないのに、あんなこと言ったから……)
みほ「さっきの言葉をもう一度」
杏「あ、あの……満腹だよって……」
杏「で、でも待って、待ってよ……もう1杯くらいなら何とか食べられるからさ」
杏「だから、だからおねがい落ち着いて、おこらないでっ ね、ねっ!」ビクビク
みほ「その次ですっ!!」ガバッ!
杏「ひッ!!」ビクッ!
柚子「西住さん!??」
桃「西住っ! 会長に何を! ……ってあれ?」
みほ「会長、ありがとうございます……!」ダキッ
杏「……!??」ムギュー
みほ「まだ試してない食材……大洗の名物……!」
みほ「これだ……! やっと見つけた……私のラーメン道!」
ラーメン道全国大会 決勝戦
黒森峰女学園 VS 大洗女子学園
亜美「1杯のラーメンを想像してください」
亜美「どんぶりに、麺とスープと具が並んでいます」
亜美「それらのバランスがどれかひとつでも崩れると、良いラーメンにはなりません」
亜美「戦車も同じ。鉄の器の中に隊員たちがいるけど、息が合っていないと戦車の性能は引き出せません」
亜美「味の修業は隊員の訓練」
亜美「時代とともに進化を続けるラーメンは、現在も進歩している戦車に通ず」
亜美「それでは第1回、ラーメン道全国大会決勝戦を行います!」
ワー! ワー!
ダージリン「始まったわ」
ケイ「これで決まるのね! 日本一のラーメンが」
ミカ「試食は、させてくれるのかな?」
カチューシャ「人が多くてミホーシャたちが見えないわ! ノンナ!」
ノンナ「はい。肩車ですね」スッ
ペパロニ「ドゥーチェ遅いッスよ! こっちこっち!」
アンチョビ「お前……戦車の試合で駆けつけたときよりも早いんじゃないか?」
絹代「突撃、となりのラーメン道! 勉強させていただきます!」
亜美「試食は日本ラーメン道連盟理事長、児玉七郎氏」
亜美「見届け人として、西住流ラーメン道家元、西住しほ氏」
亜美「同じく島田流ラーメン道からは、家元の代理として門下生の島田愛里寿氏」
亜美「そして陸上自衛隊一等陸尉、蝶野亜美が行います。では両者整列」
みほ「……」
まほ「……」
亜美「礼!」
『よろしくお願いします!』
亜美「先攻、黒森峰女学園はラーメンを発表してください」
まほ「これが私のラーメン道」
まほ「麺、スープ、具材すべてにおいて完璧なしょうゆラーメン」
まほ「最高の素材を使い、最高の技術で作り上げた西住流ラーメン」
まほ「名付けて『金獅子麺』(ゴルドネ・レーヴェ・ヌーデルン)!」
優花里「おおっ! レーヴェは生産されなかった幻のⅦ号戦車の名前!」
優花里「百獣の王の名を冠する戦車の名を付けたということは、まさしくラーメンの王様を表現といったところでしょうか!」
児玉「ほほう……これは、なんという澄み切ったスープだろう」
児玉「具はシンプルにチャーシューとねぎが美しく陣取って……おっ、煮たまごが最初から入っているのはうれしいね」
児玉「では、早速いただこう」
ズズッ ズルルー
児玉「!!」
児玉「……」
児玉「……う」
児玉「……うまい」
児玉「うまいぞオオオオーーーーーッッ!!!!!」
児玉「なんというスープの香り! 胸をすくような爽やかさ!!」
まほ「鶏は3年ものの地鶏。西住家所有の敷地で丁寧に飼われている極上の品です。具のたまごも同じくそこから」
まほ「しょうゆは二夏(ふたなつ)寝かせた本仕込み。大豆の粒ひとつひとつから厳選された本物です」
まほ「麺も北海道の契約農家からいただいた国産の小麦粉。むろん製麺専用の特注品種」
まほ「そして……麺を打つにはこの竹を使いました」スッ
アンチョビ「ああっ それは青竹打ちの……! お前も習得していたというのか!」
まほ「あのときの麺は素晴らしかった。使わせてもらったよ安斎」
まほ「もうひとつ、佐野ラーメンは水が肝心。それを思い出し、私はあのあとすぐさま熊本に飛び、地元の名水を取り寄せたのです」
エリカ「スープの仕込みも麺打ちの加水もこれを用いました」
まほ「もちろん、そのコップの水にも。最高の天然水です」
ダージリン「こんな言葉を知っている?『ラーメンの後の口直しの水って ラーメンの一部かというくらいに うまい』」
オレンジペコ「『孤独のグルメ』の、ゴローさんですね」
児玉「うおおおおっっ!!! うまああああい!!! 箸が止まらなああいっ!!!」
児玉「ぬうううううっっ!!!」ガタッ!
まほ「!?」
みほ「!?」
児玉「うまあああああい!!!! ぞおおおおーーーーーっっ!!!!」ダダダダッ
亜美「理事長が走り出したっ!??」
ダダダダッ!! スポーーン!!
みほ「ああっ! 理事長さんがカール自走臼砲の主砲の中へ!!」
ズガアアン!!
みほ「撃ったーーーーっっ!!??」
優花里「理事長殿が射出されましたーーーーっっ!?!?」
児玉「うおおおおおおっっっっ!!!」
ヒュルルル…
バゴオオ……ン!!
モクモク モクモク
優花里「カールの爆風が、形を変えて……!」
う
ま
い
エリカ「どーいう仕組みなのよ!!?」
桃「ていうか大丈夫なのか!??」
児玉「……ゲホ ゲホッ……!」ガラガラ
杏「ちょっとコゲてるだけで、無事のようだね……」
児玉「ああ死ぬかとおもった……失礼。着席するよ」スッ
児玉「それにしてもなんというラーメンだ。まるで奇跡……!」
児玉「あまりのうまさに我を忘れてしまったよ」
まほ「あ、ありがとうございます……」
みほ(何事もなかったかのように……)
亜美「では……次は大洗女子学園のラーメンを」
みほ「はいっ」
児玉「これは……みそ? とんこつ? いずれにしてもずいぶんこってりしている見た目だね」
児玉「それにいろいろと乗っていて具だくさんだ。何から何までまほ君のものとは正反対」
児玉「果たして味は……では早速」
ズズッ ズルルー
児玉「!!」
児玉「……」
児玉「……う」
児玉「……うう」プルプル
児玉「うまいぞオオオオーーーーーッッ!!!!!」
児玉「なんと濃厚な味わいだーーーーッッ!!! だがまったくくどさを感じない!!!」
児玉「ていねいに煮込まれた材料からコラーゲンが出て、何ともいえぬとろみを生み出している!!」
児玉「だがそれだけでは説明がつかない。スープからほのかな野菜の甘み……キャベツではない、香味野菜のたぐいでもない……」
児玉「この児玉七郎の舌を試そうというのか……ぬぬうっ……!?」
クワッ!
児玉「サツマイモの甘みだっ! そうだろうっ!!」
杏「当たりっ!」
みほ「大洗の名物、干し芋をちょっぴりひとかけら、溶け込ませてあるんです」
児玉「スープのふしぎな舌触りの正体はこれかっ!!」
児玉「それにこの香ばしさ!! いったいこの香りはどこから!??」
児玉「ひとしずく垂らされたマー油かな……? いや、違う。違うな。マー油はもっと、バアーッて香るもんな……」
児玉「……こ、これはまさかッ! 煮たまごからかッ!?」
児玉「なるほどただの煮たまごではない……もっと濃い色をしていて……そうか、燻製してある!! このたまごは『くんたま』なのか!!」
まほ「なッ!?」
児玉「濃厚なスープに、あんこうの味わい! それらに負けないよう燻製したということなのか!!」
児玉「それにしても、何と複雑で深みのある味わいだろう!!!」
児玉「ひと口食べるたびに魚介やとんこつ、野菜といったあらゆる旨味が次々と現れる!!」
児玉「これはまるで、個性豊かなメンバーが集まっている大洗女子学園のようだ!!」
みほ「鶏ガラ、モミジ(鶏の足)、とんこつ、豚げんこつ、長ねぎ、細ねぎ、たまねぎ、しょうが、にんにく、セロリ、にんじん」
みほ「みそ、しょうゆ、マー油、鷹の爪」
みほ「シラス、常磐かつおのかつおぶし、鹿島灘はまぐり、もやし、キャベツ、ごま、チャーシュー、煮たまご」
みほ「そしてあんこう7つの部位に、主役の中華麺! 隠し味の干し芋!」
みほ「だしから具まで、合わせて32種類の材料を使って作りました」
みほ「大洗女子学園の戦車道チームの人数と同じ。私たちの想いがこもっています」
みほ「これが私のラーメン道! 名付けて『大洗あんこうラーメン』です!!」
児玉「ぬうううううっっ!!!」ガタッ!
まほ「まさか……」
児玉「うまあああああい!!!! ぞおおおおーーーーーっっ!!!!」ダダダダッ
エリカ「また走り出したッ!??」
まほ「今度はいったいどこへ……って観覧車へ!??」
児玉「うおおおおおおっっっっ!!!」
ガゴ… ゴゴゴ…
ドッドッド……
ドッドドドドド!!
みほ「ああっ! 理事長さんが乗った観覧車の中央が外れて!!!」
沙織「絶対ヤバイよ!!!」
優花里「い、いえ、よく見てください。脱出して、理事長さんは外に出られています!!!」
華「回る観覧車さんの頂点を次々と飛び移るようにして……まるで玉乗りです……!!」
児玉「うおおおおおおっっっっ!!!」
ドドドドドッッ!!! ゴロゴローーーッ!!!
みほ「あれは……!? 観覧車が通った地面の跡が……!」
う ま い
麻子「もうツッコミきれん……」
児玉「ハァ……ハァ……うまかった……」
児玉「年甲斐もなくはしゃいでしまったよ……失礼。着席する」
エリカ(はしゃぐってレベルじゃないわよ……)
児玉「どちらもうまかった……うますぎるくらいだった」
児玉「それでは判定に入るが……その前に、ひとつ確認しておかねばならぬことがある」
まほ「?」
みほ「?」
児玉「まほ君。君は……私のために、一生懸命ラーメンを作ってくれたね」
まほ「はい。西住流ラーメン道の粋を尽くし、まごころをこめて作りました」
児玉「そうだろうそうだろう。その気持ちがラーメンを通じて伝わってきたよ」
児玉「一方で……みほ君は違う」
まほ「えっ?」
みほ「……」
ザワッ!?
児玉「みほ君のラーメンは、私のために作ったものではないのだ」
まほ「どういう、ことでしょう……?」
児玉「みほ君の作ったラーメンは独創的で、工夫に富んでいる」
児玉「特にたまごを燻(いぶ)し、くんたまに仕上げたものは絶品だった」
児玉「しかし、なぜ煮たまごをわざわざ燻製したのか?」
児玉「また、麺は製麺所に細かく注文をつけ、やや太めのちぢれ麺にしたと聞いている。それはなぜか?」
児玉「スープもマー油が香ばしく、唐辛子の刺激が心地よい……だが、どれも微妙に万人受けするものとは外れた味付けとなっている」
児玉「そう。まるで誰か、特定の人物の好みに合わせられたような……」
みほ「……」
みほ「…………」
みほ「…………お母さんです」
みほ「私が見つけたラーメン道。その証として、これをお母さんに食べてほしいとおもったからです」
しほ「!」
まほ「!!」
児玉「……ラーメンを食べ終わったとき、私は悟った」
児玉「これは特別な人に作られたラーメンだと」
児玉「ほんとうにふさわしい人物に食べてもらわねばいけませんな。さ、西住さん」
しほ「……」ズズッ ズルルー
しほ「……初めて食べたラーメンのはずなのに」
しほ「どこかでずっとずっと前に食べたかもしれない記憶があります」
しほ「ちょっぴり辛めで、香ばしい。西住の家に伝わる家庭の味」
しほ「……忙しくてもう何年もみほたちに味わわせていない、うちの味」
しほ「それを……グスッ それを覚えていてくれたのね……」ポロポロ
まほ「な、ななっ……!!」
児玉「ラーメンも戦車も、それぞれの流儀がある」
児玉「先人たちが全国をめぐり、腕を磨き作り上げた独自の流派」
児玉「それは次の世代へと引き継がれ、伝統となる」
児玉「だがその伝統は何のためか?」
児玉「意志を継いでもらいたいからだ。生きた証がほしいからだ!」
児玉「なぜ人は人に料理を作るのか?」
児玉「それは、喜んでもらうため」
児玉「他者を幸せにしてあげたいという人間の愛情なのだ」
児玉「では戦車道は? 良き女性の育成に、なぜ戦車なのか?」
児玉「戦車で勝つことが、なぜ人間を育てることにつながるのか?」
児玉「それは『たたかって生き残る』という生き物として最も根源的な本能を呼び覚ますためだ」
児玉「他者に愛情を与える優しさと、たくましく生きる強さ」
児玉「それを知ってほしいからだ! それを受け継いでほしいからだ!」
児玉「ラーメンは人生」
児玉「戦車もまた人生」
児玉「すなわち、ラーメンとは戦車なり!!」
みほ「ラーメンとは、戦車……!」
まほ「ラーメンとは、戦車……!」
亜美「勝負あり」
亜美「第1回ラーメン道全国大会、優勝者は……」
亜美「大洗女子学園!!!」
ワー! ワー!
杏「いやったあ~~っ!!」ダキッ
みほ「むグッ……! か、会長……苦し……」ムギュー
優花里「西住殿ー!」
沙織「やったね!」
ダージリン「お見事」
絹代「なんと素晴らしい!」
ケイ「エクセレント!」
アンチョビ「ブラボー!」
ミカ「……祝福を」ポロロン♪
ノンナ「ハラショー!」
まほ「……完敗だ、みほ」
みほ「お姉ちゃん」
まほ「お母様に作ってあげたというこのラーメン、私も食べたい」
みほ「うんっ」
ズズッ ズルルー
まほ「……おいしい」
まほ「……おいしいよ、みほ。最高のラーメンだ」
みほ「……うん」
カチューシャ「あーずるーい! カチューシャにもよこしなさいよ!」
アンチョビ「ウチの学園艦でもぜひ採用したい! レシピを教えてくれっ!」
ダージリン「ウフフ……わたくしにもひと口」
オレンジペコ「ダージリン様は食べられませんよ」
ダージリン「!?」
アッサム「ダージリンはあの料理を作った責任を取っていません。したがって、罰としてしばらくラーメンを食べることを禁じます」
ダージリン「」
ザワザワ ガヤガヤ
エリカ「ちょっと静かにしなさいよ! まだ大会は終わってないんだから!」
亜美「大洗女子学園には優勝旗と副賞が贈られます」
亜美「西住流からは、アベックラーメン1年分です」
しほ「熊本といえばこの味です。皆で分けるといいわ」
みほ「お母さん……ありがとう」
アンチョビ「こっちじゃ聞いたことがないが……どういうラーメンなんだ?」
まほ「ふつうの棒ラーメンは麺が1つずつ束ねられているが、アベックラーメンは2人前の麺がそのまま入ってる。名前の由来はそこかららしい」
まほ「ちなみに味は塩ラーメンっぽい感じであっさりしている。とんこつ味もあるぞ」
亜美「島田流からは『流水麺』シリーズから、冷やし中華1年分が贈られます」
愛里寿「……」トコトコ
みほ「愛里寿ちゃん?」
愛里寿「私からの、勲章よ」スッ
< 『しょうゆ味』 『ごまだれ味』 >
みほ「2種類あるんだ……」
愛里寿「ラーメンじゃないけど、これもおいしい」
愛里寿「流水麺は水でほぐして、器に盛るだけのお手軽シリーズ」
愛里寿「火を使わないでいいから、戦車の中でも食べられるよ」
愛里寿「最近評判の、うちの主力商品」
みほ「うち?」
愛里寿「株式会社『めんのシマダヤ』は、島田流が経営に関わっている」
愛里寿「きょうお母様がいないのは、そっちの役員会議に出席してるから」
みほ「!?」
沙織「一流企業じゃん……」
優花里「ボコミュージアムのスポンサーを簡単に引き受けられた理由が分かった気がします……」
みほ「こうして、ラーメン道全国大会は終了しました」
みほ「この大会がもたらした反響は大きく、全国の学園艦でちょっとしたラーメンブームが起きたようです」
みほ「うちも学食のラーメンのメニューが大きく変更され、種類がとても増えました」
みほ「あの『大洗あんこうラーメン』も学食用にアレンジされ、簡単な形ではありますが発売されることになり、大評判を呼んでいます」
みほ「中には短期転校の手続きをしてまで、うちの学食のラーメンを食べたがっている生徒もいました」
みほ「いちばん多いのがグルメなアンツィオ生。次が味にこだわる聖グロリアーナ生といった感じでしょうか」
みほ「あ、そうそう。聖グロといえばダージリンさんの禁ラーメンがようやく解かれたらしく、彼女たちもみんなを引き連れて、来てくれました」
みほ「寄港先ではどこでも歓迎され、地元の人も学園艦のラーメンを求めて長蛇の列をなしていました」
みほ「会長は、このおかげで実績ができた、廃校の可能性がさらに減って良かったと、心の底から感謝していました」
みほ「私も、お母さんにあれを食べさせてあげられて、良かった……」
キーン コーン カーン コーン
沙織「おーい、みぽりーん」
みほ「あ、沙織さん」
華「お昼ご飯、ご一緒しませんか?」
みほ「うんっ」
沙織「きょうは何にしよっかな~。みぽりんもう決めた?」
みほ「うう~ん……そうだね、私は……」
みほ「ラーメン、かな」
おしまい
おまけ
各学校が第1回戦で発表したラーメン一覧
大洗:重曹を加えてゆで、麺の食感がモチモチになった「重曹めん」
みほ「粉末スープの味に関係なくアレンジできるのが、便利です」
聖グロ:日本酒だけで煮た「お酒ラーメン」(※不味)
ダージリン「言っておくけど、お湯にわずかに日本酒を入れると風味が増すテクニックは存在するのよ。ただ100パーセントお酒で煮たからこうなるだけのお話」
知波単:ベジブロス(野菜くずを煮て濾したもの)でゆでた「野菜だしラーメン」
絹代「知波単は節制がモットー。ものを捨てない精神が生んだ産物です!」
継続:水溶き片栗粉を加えた「とろみラーメン」
ミカ「水溶き片栗粉を入れてもすぐ消さず、少し火にかけるのが重要さ。だから麺は別にゆでた方がいいね」
サンダース:チャーシューの代わりにスライスサラミを具にした「コンビニグルメ」
ケイ「あったかいサラミ、食べたことあるかしら? イケるわよ~♪」
アンツィオ:固めにゆでた麺を、野菜と一緒にごま油で炒めて粉末スープで味付けした「焼きラーメン」
アンチョビ「ベーコンを入れると、なお良し!」
プラウダ:数種類の味のラーメンを使い、粉末スープをすべて混ぜて大鍋で作った「石ノ森章太郎式」
カチューシャ「かつてトキワ荘のみんなで食べたらしいわ。だから大勢のための料理ね」
黒森峰:スープを別に作り、麺をゆでて冷水にさらした「つけ麺」
まほ「つけ汁は濃いめに溶いた粉末スープだが、そこへラー油とごま油をたらすと旨い」
おまけ2
スピンオフ作品「ガールズ&ラーメン リボンのむしゃむしゃ」
ラーメン道連盟非公認の料理対決「強襲屋台麺屋」(ヌードラスロン)!!
そのルールはたったひとつ「麺料理を提供する」こと!
ラーメンだけでなく、そば、うどん、パスタ、ビーフンに至るまで麺類なら何でもよく参戦できるため、その人気は徐々に高まってきてるぞ!
なお、独創的な創作料理も多数出品されるため、ギャラリーは基本的に自己責任で食べている!
鶴姫しずかと松風鈴の2人はムカデ印の真っ赤なフードトラックを乗り回し、1杯のかけそばに青春をかける!
鈴「姫! 追加2つ! 1つ大盛りで!」
しずか「応ッ!! おまちどう!!」ダン! ダン!!
ペパロニ「ウチの専門はパスタだから、ラーメン道よりもヌードラスロンのほうがお似合いッスね~」
アンチョビ「言うなペパロニ!」
アウンさん「私たちは生まれ変わった! 人頼みなどせず、自分たちの味を目指す!」
アウンさん「エスニック風カレーラーメン『カオソーイ』よ!」
ヤイカ「ボンプルの地元は福井県敦賀(つるが)市! 敦賀ラーメンこそが最強!」
ヤイカ「お土産のパッケージには、あの松本零二による『銀河鉄道999』の絵が描き下ろされているのよ!」
ヤイカ「シャルジャー! シャルジャー!!」(麺をすする音)
アスパラ「うちのホルモン焼きそばを、パンにはさんで売る……? そのようなこと、経営学的に許されるはずがないざます!」
まほ「人は、組織は、変わっていくものだ。黒森峰はヌードラスロンに参戦する」
エリカ「ノンアルコールビールもセットで出すわよ」
アリサ「く、黒森峰が……! サービスランチを取り入れたのか……!!?」
小梅「ラーメンは満腹でも1杯くらいは何とかお腹に入っちゃう……あの人がそう言った!」
みほ「絶対みんな『鉄鍋のジャン』みたいな笑い方だよ……」
沙織「作る側も食べる側もすごい顔になりそう……」
優花里「顔芸っぷりは、リボンの武者本編もあまり変わりませんけどね」
ほんとにおしまい
以上です
実際にガルパンと日清がコラボしたニュースには驚きました
過去作↓
みほ「プロ戦車道1日訓練?」
みほ「未公開シーン?」
みほ「笑ってはいけない西住流?」
みほ「笑ってはいけない西住流の未公開シーン?」
みほ「○んしゃ道?」
みほ「ガンシャ・ウォー!」
みほ「逆ドッキリ?」
みほ「愛里寿ちゃんスイッチ?」
みほ「抜き打ちテスト?」
まほ「抜き打ちテストだと?」
なお、このssは過去作
みほ「愛里寿ちゃんスイッチ?」
の「め」の項で書いたラーメンのネタが元のアイデアとなっています
愛里寿ちゃんスイッチがまとめサイトでまとめられ、そこのコメント欄で「ラーメン道だけで1作お願いしたい」と書かれたのを見かけたため、試しに構想を練ってみたら思った以上のボリュームになりました
このSSまとめへのコメント
このSSまとめにはまだコメントがありません