男「今、うつ病の患者さんが増えているそうですね」
医者「はい、今の世の中は多種多様なストレスであふれ返っていますから」
医者「そういったストレスにやられてうつ病になってしまう……という患者さんが多いのです」
男「色んな生き方ができるようになった一方、新しいストレスも増えたというわけですね」
医者「あ、そうだ。せっかくですから、新しいうつ病の患者さんたちをご紹介しましょう」
男「新しいうつ病? いわゆる“新型うつ”というやつですか?」
医者「いえ、それとはまた違います」
男「違う……? となると、さらに新しいタイプのうつ病ということですか」
医者「そういうことになりますね。ではこちらへどうぞ」
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――
医者「まず……こちらの患者さんです」
男「これは……!」
患者A「打つべし! 打つべし!」ドカッドカッ
男「無我夢中でサンドバッグにパンチを打ち込んでますね」
医者「はい、眠る時と食事中以外はほとんどパンチを打っています」
男「なるほど、これはたしかに“打つ病”ですね」
患者A「打つべし! 打つべし!」ドカッドカッ
男「しかし、なぜこのような症状に?」
医者「この患者さんは、元々はプロボクサーでしてね」
医者「しかし、なかなか勝てず……このような状態になったと考えられています」
男「なるほど、これもまたストレスによるうつ病ということですね」
医者「おっしゃる通りです」
医者「では、次の患者さんのところに向かいましょう」
――
患者B「ヒャッハーッ!」パンッパンッ
男「BB弾を的に向かって、撃ちまくってますね」
医者「この方はいわゆるガンマニアでして、モデルガンの類をたくさん集めていたそうです」
医者「そのことで周囲の人々と軋轢があったんでしょうね」
医者「そういったストレスが、あのような症状を引き起こしたと思われます」
男「もう少し周囲が理解を示していれば……というわけですね」
患者B「BANG! BANG!」パンッパンッ
男「それにしても、なかなかの腕前ですね。全弾ちゃんと的に当たっています」
医者「ええ、入院したての頃は本当にヘタクソでした」
医者「しかし今やそこらの西部劇のヒーロー顔負けの腕前になっています」
男「継続は力なりってことですか」
医者「後は症状が回復してくれればいうことないんですがね」
――
女患者A「丁か半か!? 丁か半か!?」サッ
女患者A「丁だーっ!」
男「女性の患者さんもいるんですか……これは?」
医者「バクチを打っているんです」
男「なるほど」
男「この人はギャンブル依存症かなにかだったんですかね?」
医者「いえ、この人の夫がギャンブル狂いだったみたいで……」
医者「ヤケクソになってこうなってしまったようなのです」
男「そういうことですか」
医者「この方がこうなってから、旦那さんは心を入れ替え、真面目に働いているというのですから」
医者「皮肉なものです」
医者「病院にも毎日足を運んで下さってるんですよ」
――
患者C「ふんっ! ふんっ!」ブンッブンッ
男「一心不乱にバットの素振りをしていますね」
医者「この方は成績不振で引退してしまった元プロ野球選手です」
男「その挫折感からうつ病になってしまったわけですか」
男「しかし、このスイングの迫力……いくらプロの世界が厳しくても十分通用しそうですけどねえ」
医者「ええ、たまにバッティングセンターに連れていくと、ものすごい成績を叩き出しますよ」
医者「現役の時は練習不足だった、ともいわれてます」
男「うつ病によって、ようやく才能が開花した、というわけですか……」
――
患者D「右上スミ小目」パチンッ
男「あ、この人は分かります。碁の“打つ病”ですね」
医者「そうです」
男「この人もプロ棋士かなにかだったんですか? それとも囲碁愛好家?」
医者「いえ……元々は将棋が好きだったそうです」
男「えええ?」
医者「ですが、囲碁をやってみたら囲碁にもハマってしまって……」
医者「将棋に対しての申し訳なさから、こうなってしまったようなのです」
男「ううむ、難解ですね。“将棋よ、浮気した俺を嫌ってくれ!”っていうメッセージなのでしょうか」
男「なにがきっかけでうつ病になるか分かりませんね」
医者「それがこの病気の恐ろしいところです」
――
患者E「ヨウコソ病院ヘ、ワタシハ患者デス。キトクジャナイデス」
男「これは……?」
医者「電報を打っています」
男「ああ、そういうことですか……なんだかクイズみたいになってきましたね」
医者「ちなみにこの方は電報が大好きで」
医者「電報があまり使われなくなった今の世を嘆いて、こうなってしまったらしいです」
男「たしかに今は冠婚葬祭の場面でしか使われないですよね、電報って」
――
患者F「いただきます!」モグモグ
患者F「うンまい! なんておいしいんだぁっ! まさに食のユートピアァァァァァ!」
医者「舌鼓を打っています」
男「舌鼓を打つ病、ときましたか」
医者「この患者さん、元はワガママな美食家だったんですが、この症状が出てからは」
医者「どんなものでもおいしく食べられるようになったようです」
医者「病院の食事も、毎食毎食派手にリアクションしながら召し上がってくれます」
男「不謹慎かもしれませんが……ちょっと羨ましくもありますね」
――
女患者B「女王様とお呼び!」バシッビシッ
おっさん「ひいい~! もっと! もっと強く打って下さいませ!」
女患者B「このブタがっ!」バシッ
おっさん「はひいぃぃぃっ!」
男「鞭で打ってますね」
医者「鞭で打ってます」
医者「元々は地味なOLさんだったらしいのですが、長年抑圧され続けた心がついに爆発して」
医者「女王様になってしまいました」
男「ちなみに相手のあのおっさんは誰ですか?」
医者「……うちの院長です」
――
患者G「やぁ、どうも! こんにちは!」
男「おお……」ジーン
男「あれれ?」
男「ううむ、この人の言葉を聞いてると、なんだかすごく感動しますね」
医者「ええ、胸を“打つ”でしょう? この人もうつ病なんです」
男「なるほど、そういうことですか」
男「それこそ、もしこの人が独裁者にでもなったら、みんな従ってしまうかもしれませんね」
医者「その通りです。だからこの方の病室だけは警備を万全にしています」
医者「ある意味ではこの方がもっとも危険な患者さんといえるのかもしれません」
――
患者H「目立ってる奴はムカつくんだよ!!!」
男「ものすごく怒ってますね」
医者「ええ、この方は出る杭を“打つ病”なのです」
医者「目立ったり注目されてる人や物を叩かなければ気が済まないのです」
男「はぁ~……」
男「ですが、こういう人ってこの人に限らず、わりとよく見ますけどね」
医者「それはいわないお約束です」
医者「――と、こんなところですかね」
男「本日はどうもありがとうございました」
医者「こちらこそ」
男「新しいうつ病というものを、これでもかというほどに勉強させていただきました」
医者「そうおっしゃっていただけると嬉しいです」
男「千差万別な症例の患者さんたちと向き合うのは、大変なお仕事だと思いますが」
男「これからも頑張って下さい」
医者「……頑張って?」ピク…
医者「頑張ってなんていわないでくれよぉ~……」
医者「もうやだ、ホントやだ……」
医者「変な患者ばかりで……ああもう、私はお医者さん辞めたい……あぁぁ……」
男(そりゃあ、うつ病にもなるわな……)
おわり
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