留美「私の力の活かし方」 (13)

モバマスSSです。
完結済み、短いです。地の文多いです。
どうか、お付き合いくださいませ。。。

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「……ふぅ。とりあえずは一段落ね」

 年度末が済んだと思ったら、今度は新年度の諸々の書類作業。その始末に追われるプロデューサーを見かねて、和久井留美はその辣腕を振るっていた。

「ああ……ありがとう、助かった……さすが元秘書さん……」

「あなたにもそろそろ慣れてきてほしいものだけど……たしかにこの量じゃ、ねえ」

 おかげで、書類のほとんどが片付いた。残るは急ぎではない内部向けに出す領収証が少し。

「割と慣れてきてはいるんですけど、いかんせんこの物量で来られるとね……」

「わかってるわよ。あなたも大分早くなったじゃない」

「処理するこつとか、色々教えていただいたおかげですよ。しかし、前職の経験が活きるというのはよくあるけど、留美さんの場合は僕たちが大いに助かるタイプの経験なのでほんまにありがたいです……」

「ふふっ、どういたしまして……」

 転職組のアイドルたちはアイドルになった今も、否、むしろ今だからこそ、前職の経験を活かして活動している人が多い。たとえばアナウンサーの経験を活かして今や名物MCとして名を響かせている川島瑞樹。たとえばディーラーの経験を活かしてバラエティ番組でのアシスタントに引っ張りだこの兵藤レナ。たとえば整備士の経験を活かして車の魅力を少々マニアックなところまで解説するのでモーターショーのゲストによく呼ばれる原田美世。

和久井留美の場合も、ある意味では活かしていることになるだろう。
しかし、世間に御披露目することはまずないので、そのイメージを人々に持ってもらえるかというと、否定せざるを得ない。
活かしているのはもっぱら事務所内である。
「できる女」というイメージから、女優としてドラマで先生や上司、敏腕刑事などの役を演じることは多いが、前職の経験を活かしたものとはまた違う。

プロデューサーとしては、せっかくなので何かしらの形でそれを活かせる仕事を、と考えているようだが、どうにもうまく思いつかない。そういった仕事の依頼が来る気配もない。

「うーん……留美さんのその腕を活かせる仕事って、何かないかな……」

「あら……ここであなたたちの手伝いをするのが一番じゃないかしら?」

「たしかに僕たちはめっちゃ助かってますけど……そうじゃなくて、アイドルとして、のほうですよ」

「アイドルとしての活動でこれが活かせる仕事なんてあるのかしら? なんたって、裏方の仕事よ、別に趣味にするような人がいるわけでもないし……」

考えてみれば当然の話だ。
アナウンサーとMCはやることが似通っている。
カジノや車は趣味として遊びとして通っている。

では、秘書は……? 
全く留美の言った通りだ。下支えにはなるが、スポットライトが当たることはない。

しかし、前述のドラマでの役や、前職が秘書であることを公にしていたためか、いつぞやの雑誌に載った「一緒に仕事をしたいアイドルランキング」では堂々の一位に輝いた。
それを利用しない手はない、とプロデューサーは意気込んでいたのだ。

「留美さん、そういえばなんか資格取ってたりします?」

 プロデューサーがそう切り出したのは、その翌日のこと。

「簿記と秘書検定は取ってるわよ。それが、どうかしたのかしら?」

「さすがです。いやちょっとね、昨日帰ってから適当にツイッター見てたら、新田さんが簿記のイメージキャラクターをやってたのを思い出しまして」

「そういえばそうね。美波ちゃん、知的で努力家なイメージだから、そういうのにもぴったりよね……まさか」

「はい。たぶんそのまさかです。知り合いに秘書検定の運営やってる人がいて、そこでイメージキャラクターとして使ってもらえないだろうか、と」

 元秘書、秘書検定取得済、まさにうってつけだと考えたのだ。

「……私、秘書をやめた身よ? かえって悪いイメージになったりしないかしら?」

 秘書をやめた時のことを思い出す。上司の無能ぶりに嫌気が差して、逃げるようにして辞表を叩きつけてきた、そんなやめ方をしてしまったものだから、少々後ろめたい気持ちがないわけではなかった。

「そこは心配してませんよ。それに、秘書そのものが嫌でやめたわけじゃないでしょう? だから、大丈夫ですよ」

「そこまで言うなら、いいわ、乗ってあげる」

「よし、ありがとうございます! さっそく関係各所と調整だ!」

 そうしてイメージキャラクターを務めることが決まったある日。

「そうだ、検定で勉強したことってまだ覚えてたりします? ちょっと思いつきなんですが、秘書検定取得を目指す人を対象に公開授業なんていうのもどうかな、と思いまして」

「私が……教えるの……?」

「そうです! 色々教えていただいた時に留美さん教えるのうまいなーって思ってたんですよ、だからこういうのもありじゃないかなって」

 少しはしゃぎながら語るプロデューサーに気圧され気味な留美だったが。

「そんなに自信はないけど、なんだか、面白そうね。わかったわ」

こうして、和久井留美による秘書講座が開催されることとなった。

秘書とは全く縁のなさそうな人たちからまでも応募が多数寄せられたのは、また別のお話。

以上です。
ちょっと遅れたけど、留美さん誕生日おめでとう!

で、総選挙が発表されました。私は留美さんを50位以内に入れるべく邁進してまいります。

それでは皆様、お読みいただきましてありがとうございました。

そして、和久井留美をよろしくお願いします。

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