男「仮面浪人の道」 (301)
第7志望で入った大学で。
閉館を知らせる蛍の光の音楽が流れるまで、今日も付設の図書館にこもって勉強をしていた。
警備員の人に会釈をし、駅まで歩く10分の間に疲れ果てた頭で考える。
好きなことをすることを社会的に認められた時間と環境の中で、どうして自分は大嫌いなことに全てを注ぎ込んでいるのだろう。
こんなにも孤独なのに。
こんなにもつらいのに。
そんな思いを抱えてまで欲しいものに向かって、参考書をめくる度に1頁ずつ近づいていく。
男「俺は、俺を好きになりたい」
今日も、明日も。
誰にも見られない場所で、戦え。
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友『なんだよ昼間から電話してきて。高校3年生最後の貴重な春休みに』
男『……俺は、自分のことが大嫌いだ』
友『ネットで見飽きたような糞セリフだな。じゃあマスターベーションするなよ。あんなの自分とセクロスしてるようなもんだろ』
男『……俺は、自分のことが大好きだ』
友『いやいや訂正するなよ。どんだけしてるんだよ。なんだ、悩みあるなら言えよ』
男『学歴コンプレックスが酷いんだ』
友『日東駒専だったよな。それ世間で言うなよ。大学で上位30%に入るってネットに書いてあったぞ』
男『お前はいいよな、MARCH受かったのに予備校浪人する人生を歩めて』
友『浪人を羨ましがるなよ。なんならお前も浪人すればいいだろ」
男『現役時代に頑張れなかったやつが浪人しても頑張れる訳がないって親が許さなかった』
友『ごもっともだな』
男『でも俺は後悔してるんだ。まさか本当に、滑り止めにもことごとく落ちるとは思ってもみなかった』
友『MARCHたしかC判定取ったことあったって言ってたな。それからD、Eに落ちてたような気もするが』
男『俺は特別な存在なのに』
友『誰から言われたんだよ』
男『物心ついた時から思ってた。自分はこれからつらい過程を歩むことがあれど、最後には絶対ハッピーエンドが待ち受けてる存在なんだって』
友『じゃあまた受験勉強すればいいじゃん』
男『無理だよ。大学生になるから。第七志望の私立文系の』
友『お前の親は無意味な1年間の費用をドブにすてることが嫌なんだろ。仮面浪人なら文句言われないんじゃないか。落ちてもその大学の2年生になれるし、受かったら受かったで儲けもんだし』
男『えっ、えっ、なに、その仮面浪人って』
友『滑り止めで入った大学に通いながら、第一志望の大学目指して再受験することをいうんだよ』
男『…………』
友『どうした?』
男『切るわ』
友『はぁ?』
男『ありがとう』
友『ちょ、ちょっと!仮面浪人ってのはな……』
ツー、ツー
男「そんな発想、あったんだな。初めて仮面浪人をした日本人は天才だ」
男「あ、あのさ、お母さん」
男「おれ、仮面浪人したい!」
1ヶ月以上かけてゆっくり書きます。
実在の大学・学部・参考書名を出しますがフィクションです。
合格・不合格体験記等は一切書いたことはありません。
お母さんのお腹の中にいた頃からの記憶があるという人がいるという。
その話を聞くたびに、お腹の中で意識が芽生えてしまったら、さぞ退屈で仕方ないだろうと心配したものだった。
幸い、僕の中での最古の記憶は保育園に入園する前のものだった。
昼下がりの明るさの中、布団のなかでお母さんと寝ていた。
それが真実の記憶なのかどうか母に尋ねることは、18年間一度としてなかったけど。
たしかに、耳元でこうささやいてきたと思う。
「産まれてきてくれて、ありがとう」
3月24日 木
友達の家に遊びに行こうとしていた時だった。
母「駿台から電話かかってきたよ」
男「なんて?」
母「息子さんはどちらの大学に受かりましたかって」
男「それで?」
母「余計なお世話です、って言って切った」
男「ははっ!」
母「…………」
男「行ってきます」
母「どこ行くの?」
男「……図書館だよ」
友「仮面浪人どうだった?親は許してくれた?」
男「好きにしなさいって」
友「よかったじゃん」
男「よかった」
友「じゃあなんで俺とゲームしてんの?」
男「好きにしなさいっていったから」
友「まあ俺も人のこと言えないな」
男「高校の友だちでもさ、浪人するやつがたくさんいるんだけど、今はみんな遊んでいるみたい。スタートから飛ばして息切れしないようにって」
友「スタートというより浪人は折り返し地点なはずなんだけどな」
男「どちらにしても変な話だよ。マラソンで息切れしないようにと歩く選手がいるか。スタート地点にしろ折り返し地点にしろ」
友「よくわかんないけどさ。立ち止まってる俺らが言えることじゃねーな」
友「前遊んだときよりかなりレベルあがってない?」
男「一日中やってるからな。昼過ぎに起きて、ゲームして、昼食たべて、ゲームして、夕飯たべて、ゲームして寝る。数えたことあったけど1日10時間くらいやってた」
友「中毒過ぎ」
男「それで気づいたんだよ。受験の嘘に」
友「受験の嘘?」
男「睡眠も惜しんでやりたいほどのゲームでさえ1日10時間が限界なのに、途端に眠気に襲われるような勉強を1日10時間やれるわけがない」
男「”必死で勉強して4時間しか寝ない受験生は合格し、5時間寝てしまう受験生は落ちる”という4当5落は赤の嘘に決まってるし、1日8時間は勉強するべきっていう高校教師の言葉も嘘に違いないんだよ」
友「それでお前は何時間勉強してるの?」
男「0秒」
友「受験科目にゲームがあったらよかったのにな」
男「…………」
友「もう夜か」
男「そろそろ帰るわ」
友「ゲームのなかでレベルアップするのに反比例して、俺らのレベルは下がってる気がする」
男「さっき町の人に話しかけたら面白いセリフ言ってきたよ」
友「なんて?」
男「偶然は、準備のできていない人を助けないと言うよ」
友「ははっ。似たようなのなら俺もあった」
男「なんて?」
友「なにをいますべきか」
友「これは製作陣からの、今すぐ電源を切って勉強しろというメッセージかもしれないな」
男「努力値が足りないのは間違いない」
友「なあ、本当にするのか」
男「仮面浪人するよ」
友「予備校のガイダンスで、講師がこんなことを言ってた」
友「難易度順。1位 編入。2位 仮面浪人。3位 自宅浪人。4位 予備校浪人」
男「編入ってそんな難しいの?」
友「そこじゃないだろ」
友「大学に通いながら受験勉強するんだぜ?誘惑だっていっぱいあるだろ」
男「誘われて惑わされるような大学だったらいいよ。その時は甘んじて受け入れるよ」
男「でも俺は、MARCHにもそれ以外の大学にも落ちて、親のすすめで後期入試で出願して入ることになったこの大学を、心の底から好きだということは4年かかってもできない気がする」
男「俺も大学のガイダンスに出てさ、凄い大学だって感じたよ。公務員試験目指す人のためにかなり制度が整っててさ。財務省っていうところにも入った人も1人いるらしい」
男「だけど、そうじゃないんだよ」
友「何がそうじゃないんだよ」
男「18年間生きてきて、土粘土でしか金賞を貰ったことがないんだ」
友「土粘土?」
男「小学校4年生のときにさ。図工の時間に土粘土をつかって恐竜をつくったんだ。クラスに40人近い生徒がいて、7人が金賞だった。俺もそのうちの一人だった」
男「第三者から優秀だって評価された経験が、皆勤賞数回と、それくらいしか記憶がないんだ。壇上で表彰されている人たちを見て羨ましいとか妬ましいとか一切感じたこともなかったけど。だからこそ、何も頑張ろうとせず、評価されることがないまま今に至って」
男「今やりなおさなかったら、一生やりなおせない気がするんだ」
友「…………」
男「ちゃんと、やり直すよ」
友「誰がこの絵を描いたんですか」
男「え?」
友「英訳してみな」
男「誰が、この絵を。Who...Did who...」
男「ちょっとまって。センターの英語も8割は取れたから。ええと、Did who paint…」
友「蛍雪時代って受験生用の雑誌がある。まずは基礎をかためるのがいい」
友「一流国立大学受験者の早慶の合格率が高いのは、"一流国立を受けるほど学力が高い学生だから"という理由だけではないらしい」
友「受験科目が多い分時間をたくさんとれないから、、国語と英語と日本史世界史についても基礎をかためることに集中する。落とすべき問題で落とさないから合格するんだと。特待生にはなれないけどな」
友「お互い、金賞を取ろうな」
男「……友」
男「おう!!!」
男「…………」
男「……ああ!!!」
男「面倒くさい面倒くさい!!」
男「やる気でない!!イライラする!!」
男「ベッドから起き上がって、机に座って参考書と向き合う」
男「想像するだけで億劫になる!!」
男「明日から!!明日からやればいいんだよ!!」
3月9日
「父は会社で、母は習い事教室で、兄は友達に聞かれ恥をかく。」
仮面浪人を始めるにあたってつけ始めた365日以上に及ぶ日記の、最初の一文がこれだった。
「MARCHには興味ない」
模試の判定で明治大学C判定が出ていた俺は、自慢げにクラスメートにそういっていた。
早稲田大学文学部
早稲田大学文化構想学部
明治大学文学部
青山学院大学文学部
獨協大学外国語学部
全て不合格。
前期日程で合格したのは日東駒専の経済学部。
親のすすめで後期受験した、同じ大学の法学部への進学が決まった。
志望大学はイメージから、慶應大学ではなく早稲田大学に決めた。
第一志望学部は政治経済学部に決めた。
政治にも経済にも興味なんて全くない。
ただ、偏差値が欲しかった。
高い偏差値だけが絶対で、唯一自分の劣等感を救ってくれるものだと信じた。
今所属している学科との偏差値の差は、20あった。
仮面浪人の春 1頁目
合格者(女性)「私、浪人した時に、アドレス帳全部消したんです」
3月28日(月)
未曾有の震災により、どこの大学も入学式を延期していた。
今日も昼過ぎに起き、書店に行き、螢雪時代を買った。
年間のスケジュール帳が付録でついていた。
センター試験の日程等が記載されているので、一人で計画を立てる身としては非常に助かる。
勉強する計画を頭にぼんやりと浮かべた。
満足した。
今日は、もう寝よう。
3月29日(火)
地元の友達に誘われてラウンドワンでオール。
MARCH2人と浪人生2人。
常に頭の中で何かが引っかかってる気がする。
3月30日(水)
夕方から起きてゲーム。
1階から家族の話し声が聞こえる。
自分の名前が何度か出てきた。
3月31日(木)
「こんな時間に起きてるようじゃ早稲田も難しいんじゃない?」
こっちは大学生として自由に謳歌していい身なのに、再受験宣言をしただけでどうして怒られなければならないのか。
先日も16歳で公認会計士試験に合格した学生の記事についてうるさかった。。
やる気なくした。
今日は勉強をしない。
4月1日(金)
今日は1日15時間勉強をした。
4月8日(金)
獨協大学での受験を思い出す。
倍率は例年3倍だった。
椅子に座ってる両隣二人と自分を見比べて負けるわけがないと思っていた。
結果、一般受験も、センター利用も落ちた。
大嫌いな担任の教師が獨協大学の出身者だった。
進路調査について電話で聞かれた時は、屈辱的だった。
4月9日(土)
明治大学の受験の日を思い出す。
あれだけ神仏的なものを否定していた自分だが、ことごとく受験で痛い目を見ているうちに心細くなっていた。
母親が買ったお守りをポケットに入れていた。
受験会場での待ち時間、握りしめようとポケットに手を入れたら、地面に落としてしまった。
慌てて拾おうとした姿を隣の席の女の子に見られた。
情けなかった。
4月10日(日)
連日、過ぎ去った入試の日々を思い出している。
早稲田大学の文化構想学部の受験日に、受験会場でお守りを破った。
自分の力を信じるしか無いと思った。
結果は、不合格だった。
以前発表を受けていたところも不合格だったので、バチがあたったわけではないだろう。
受験の神様というものが存在するとして。
単に、俺を見ていなかっただけだ。
早稲田の社会科学部の受験の時も、力尽きていた。
燃え尽きた、という表現では正しくない。湿気ったマッチに火をつけようと何度も試みたが、つかずに捨てたというのに近い。
帰り道に、予備校講師の書いた受験本を読んだ。
落ちこぼれから這い上がった人だった。
途中まで読み進めていくと
『ここまで読んだ君は今すぐ勉強したいだろうが』
そうか、他人ならここまで読んだらやる気が出てるのか。
得意なこともなく、ずっと片想いしていた人からも振られた俺は、自分以外の人間を見下すことで"自尊心"を保ってきた。
だから、他人の言葉はなかなか俺の心には響かなかった。
4月11日(月)
入学式。緊張する。
さっそく、MARCHに行きたかった、という類の話題がたくさん聞こえてきた。
周囲に話しかける勇気が出ず、20人くらい座れる長いすに昼休み座っているのが自分独りとなった。
帰る前に一浪した人とアドレスを交換し、なんだかほっとした。
「一浪してこの大学って、やっぱりやばいですかね」
男「そんなことないでしょ!ニッコマは世の中の大学の上位30%に入るって聞いたことあるし」
「そ、そうですかね」
仮面浪人をするとは言えなかった。
「それじゃあ、今日は飲み会があるので」
男「飲み会?」
「SNSの大学コミュニティーで企画されてたんです。来ちゃいます?」
男「……やめときます」
取り残されそうで怖いという感情以上に、馴染めなくて携帯をいじる未来の方が恐ろしかった。
電車に1時間近く乗って地元の駅に着く。乗り換えがないのは楽だ。
そういえば、俺の大学を第一志望にしていた地元の友達がいた。
たまたま後期日程で一緒の会場になり、2人で帰った。
「ここの位置の車両に乗れば、最寄り駅の階段付近につくんだよ」
この大学を愛していた彼は、不合格だった。
名前を聞いたこともない大学に入った。
受験では、こんな皮肉が現象が起きる。
"志望度と合格率は、反比例する"
ちゃんと社会は効率的にできていて、その場所にふさわしい人が送り込まれるようになっている。
寝る前に、1つだけ印象に残った理事長の言葉を思い出す。
「皆さんはここの大学の生徒なのだから、自分の大学を好きになれないような可哀想な人にならないように」
4月12日(火)小雨
せっかくできた友達と一緒に帰る約束をしていたのに、忘れて一人で帰ってしまった。何をやっているんだ俺は。
余計なことを考えすぎていたせいだろうか。
入りたいと思えるサークルも1つもない。
サークルに入らないと所属意識がもてずつまらないと、新入生を歓迎する先輩が言っていた。
俺は、第7志望の大学に所属意識をもちたいのだろうか。
大学に対する暗い気持ちとは関係なしに、仮面浪人へのやる気が20%くらいになってきた。
裏を返したような言い方をすると、第7志望の大学に入る惨めさより、第6志望の大学に合格する学力をつけるつらさが上回ったからここにいるのだ。
勉強は、大嫌いだ。
それだけ勉強が嫌いなのに、高学歴になりたいのは、虚栄心だろうか。
家で夕飯を食べる。
食後のおなかいっぱいになってベッドに横たわる時間。この時間に意味はあるんだろうか。
何か大切なことを忘れているような気がしてならない。
のんびりしてるといつも駆られる。
これでいいんだっけ?
一時間ってぼぉーっと過ごす為に使っていいんだっけ?
4月13日(水)
満たされない。
本当の友達ができない。
心から笑ってない。
履修登録の確定を出す前に、試しに出てみた作文の授業で教授が、書く力をつけるために日記をつけることをすすめてきた。
少なくともこの教室の中に、仮面浪人としての日記を律儀に書いている優秀な生徒が一人いる。
こんな愚痴を日記に書き続けていれば、センター国語で7割だった点数ももう少し向上するんだろうか。
カセックという英語のテストを受けた。すぐに合格点が出るトーイックの簡易版のようなものだ。
周囲の学生よりも100点ほど高かった。
周囲よりも100点低ければ、むしろ仮面浪人なんてやめようと思えたかもしれない。
高校の模試を思い出す。
国語と英語の合計点で、校内11位をとったこと。
自分にとっては土粘土以来の快挙だった。
小説もよく読んだし、英文法の飲み込みも早かったし、決して勉強ができないわけではなかった。
でも何の意味もなかった。
高校受験自体も失敗して、"滑り止めの進学校"にたどり着いたのを忘れていた。
あの高校で一位を取った人も、極論、第一志望の学校ではビリにもなれなかったんだ。
4月14日 (木)
夜に地元の友達と文房具を買いにいった。
お腹を抱えて何度笑ったかわからない。
大学であわせ笑いばかりしてるからだろうか。
人生で一番笑ったのは、間違いなく高3の時だった。
今日はたくさん笑った。
笑った。
笑ったのに、虚しい。
笑えることが幸せじゃない。
今は、笑わないでも幸せでいられるような生活を切望している。
それでも、勉強はしない。
4月15日 金
気の合う友達が増えて嬉しくて日記を書くのを忘れそうになってた。
最後のガイダンスが終わって、本当に良い大学だと思った。
公認会計士、弁護士、司法書士、公務員。様々な職業へ進むための道が用意されている。
国家総合職(旧国家I種)の合格者は歴代0らしいが、東大生でさえ入るのが難しい場所なのだから仕方がない。
とある企業の会長が講演に来てくれた。
「東大生のAくんが、当時のエリート企業であった北海道炭鉱に入ったんです」
「友人の東大生Bくんが、ある無名企業に惹かれて入ったのを、Aくんは馬鹿にしていました」
「後に、北海道炭鉱は潰れて、Bくんの会社は世界のソニーと呼ばれるようになりました」
「今有名なgreeも数年前までは小さな部屋が会社だったんですよ」
ちょっと元気が出た。
希望のある話だった。
励まされる思いだった。
そうか。
俺は今、励まされる立場にいるんだ。
4月16日(土)
「大学どこ?」
同じ中学だった友達からメールが来た。
そんなに勉強をするタイプではなかった。
今の自分がそうだからわかるが、不本意な大学に入ったことから不安になり、周囲の学歴を尋ねてみたくなったんだろう。
男「東大理Ⅲ。冗談抜きで」
我ながら、全くおもしろくなかった。
センター試験の結果が返ってきた。自己採点と大して差はなかった。
現代文 69点
古文 29点
漢文 36点 計134点
リスニング30点
世界史 61点
数学IA 11点
数学ⅡB 14点
男「せめて、第5志望くらいには入れてもいい点数だと思うんだよな」
4月18日(月)
ネットで仮面浪人日記を見つけた。
目的達成のためにわざわざ自分を孤独の立場に置く女性。
仮面三浪して東大に落ちた人。
仮面失敗したあと、インドに行くという最後の記事以来更新がない人。
闇が深い。
携帯電話にはウィジェット機能を使ってセンター試験までのカウントダウンを設定した。
残り270日。
何もしないまま、前回のセンター試験から65日が経過してしていた。
4月19日(火)
男「仮面浪人の道。こんなスレあったのか」
男「……えっ。この書き込み、俺と同じ学科じゃん」
男「この人も! この人も! てか、多過ぎ!!」
男「マンモス校だしこういうこともあるのか」
男「なんか一人あれてるやつがいるな。仮面浪人の合格率は10%?ソースもなしに……」
男「仮面の10人に1人が受かることと、倍率10倍の大学に受かることの何が違うってんだ」
男「よし。俺も、今日は図書館に残って……」
友人A「あっ、男じゃん。今日の講義終わったの?」
男「おお!そう、今終わった」
友人B「さっき話してたんだけどさ、今日カラオケいかね?」
友人A「サークルの予定もないしな」
男「えっ……」
友人B「男はどういうの歌うの?」
男「あまりカラオケ得意じゃなくてさ」
友人A「気にすんなって。かえるのうたでもいいからさ!」
友人B「それはないwww」
男「あははw」
友人A「いいねー。大学生って感じだな」
男「たしかにw」
男「(明日から頑張ればいいんだ)」
4月21日(木)
自分がこの大学を見下すような態度でいるからか。
段々、人の嫌なところが目についてきた。
性格はみんな穏やかでやさしいんだけど、野心や目的意識に欠けている気がする。
冗談でいったことをまともに受け取られて、解説されたりすると怒りがこみ上げてくる。
向こうは親切に教えようとしてくれて、それがますます腹立たしい。
学力だって、俺の方が上なんだぞ。
下の中では。
4月22日(金)
高校の時に、本当は放課後早く帰って勉強したかったけれど、教室に残って雑談する輪に混じっていた。
受験期の秋までそうだった。
みんな入学時は優秀な成績だったのに、授業中に漫画を読めるくらいに自由過ぎる校風で3年間過ごすうちに、自意識は入学時のまま、偏差値は10近く落ちてしまっていた。
受験を見下したい、縛られたくないという気持ちと、自分の下がりに下がった成績への不安が混じり、群れる空気ができていた。
自分も、帰って勉強をしたいという気持ちがあったが、その輪に残った。
孤独が怖かった。
友達を置いて一人で帰る勇気がなかった。
寛大で、本当に考えることが面白いクラスメートだった。
勝手に帰ったところで、少し存在感が薄くなるくらいだったのだろう。
それでも残ることを選んだのは、自分の弱さから来る選択で。
それは、それなりに求め求められたい友情があったという証で、贅沢な悩みだったんだ。
"人に囲まれても、孤独を感じる"
それは、実はちょっと、周囲の人たちに対して失礼な気持ちなのだろう。
孤独を感じるから、人の群れに紛れたんだ。
自分を受け入れてくれた集団に所属して、半年も経つと上から目線の欲望や愚痴がでてきてしまいそうになるが。
自分の欠点に目を瞑って受け容れてくれたという初心を、忘れてはいけない。
完全な友達なんていない。
不完全な友達の隣に、不完全な自分がいる。
そう。
そういう正しい気持ちが頭の中にあっても。
この大学を受け容れてしまうこの大学の人達を、受け入れきれない自分がいる。
男「(みんなが、こんな大学大嫌いだと毎日叫んでくれてたら、少しは好きになれる気さえするのに)」
お互いの長所で短所を補い合うどころか、短所でお互いをつつきあってばかりいる。
友人B「超面白いよ!!絶対ハマるって」
男「パズル苦手だしなぁ」
友人B「そんなんじゃ馬鹿になっちゃうよw」
男「ええ~w」
なんだか、いちいち会話に疲れる。
偏差値が高い大学ならどうなんだろう。
早稲田に行きたい。
「………………」
「…………くそ」
「……くそくそ!」
「私文なんてくそ!!」
「"頭がいいのに馬鹿なことやっちゃってまーすwww"みたいな雰囲気出してるこの大学はくそ!!」
「あんたら全員数学IAとⅡBで9割取れんのか!どうせ10点くらいしか取れないやつも混じってんでしょ!」
「東大進学率ナンバーワンの実績を誇ると言われるこの早稲田大学政治経済学部政治学科を休学し、私は来春から東大生になるって言ってんの!!」
「何が門のない大学よ!私は赤門をくぐりたいの!!」
「仮面浪人サークルとかいうのに入ってるぬくいやつらを差し置いて、ひとりで戦うんだから!」
女「世界よ、私を認めなさい!!」
今日はここまでです。おやすみなさい。
4月24日(土)
英語のトップクラスに入った。
当然だと思った。
授業のレベルがなかなか高いし、先生の質問に生徒も意欲的に答えていた。
「この大学って、世間的にどうなんですかね」
前の席に座っている男子学生は、付属校からこの大学に内部進学してきたらしい。
男「上位30%に入るっていうからいいんじゃないですか。得に法学部なんて伝統もあるし」
お決まりの返答をする。
「そ、そうですかね!」
焦っていたような表情から、少しほっとしたような表情に変わる。
自分の手に入れた物が、良いのか悪いのかで迷っているなら、きっと悪い。
自分の付き合っている人が、好きなのか嫌いなのかわからないなら、きっと好きではない。
ヤフー知恵袋で仮面浪人をすべきかすべきでないか迷っている人がいた。
迷っているのは、後押ししてほしいからだろう。
他人がとめても、それでもやりたいことが、本当にやりたいことなんだ。
周囲の後押しがあったからやったことは、そのあと痛い目を見やすい。
周囲の反対を押し切ってやったことは、やっぱりそのあと痛い目をみやすい。
けれど、周囲の人間を恨む人生を歩まなくて済む。
男「だから、俺は戦うんだ」
図書館で30分だけ古文単語を覚えて、飽きて帰った。
4月25日(日)
男「今日も15時までだらだらしてしまった」
男「家だと何もやる気でないんだよな」
男「地元の図書館は19時閉館だったな」
男「今から行くのもなぁ」
男「…………」
男「いいか。どうせ30分しか勉強しないんだし」
男「うわぁ、思ったより混んでるなぁ」
男「勉強してる人がたくさんいる。寝てるお年寄りも多いけど」
男「中学と高校と大学の図書室なんていつもがらがらなのに」
男「あそこの席があいてる。女性の隣だからなんとなく座りにくいけど仕方ないか」
男「…………」
女「…………」ガリガリガリガリ…
男「(な、なんか凄いオーラを感じる)」
男「(えっ、しかも、解いてるの赤本じゃん!)」
男「(どこの大学志望なんだろ。もしかしたら俺と同じ早稲田だったりして)」
男「(こんな綺麗な子が本気で目指すような大学って一体)」
男「(こんな……きれ……)」
男「(こんな……)」
男「ひぃっ!」
女「はっ?」
女「うける!!男じゃん!!」
問・運命の人の出現元と発生条件を記述せよ
解・①今まで出会った異性の中から
②自分が生まれ変わった時に
女「大学どこ?Fラン?」
男「ごめんなさい、今日はもう帰……」
女「学生証見せろよ。ジャンプしろよ」
男「図書館ではお静かに……」
女「ねえねえ」
男「ん?」
男「(な、なんだ、じっと見つめて……)」
女「……」ニュッ!
男「ぶふぉお!!!!」
ざわざわ……
男「(急に物凄い変顔してきた。昔もやられたの忘れてた)」
男「(うわっ、しかも心底迷惑そうな顔して他人のふりしてにらみつけてきてるし)」
女「勉強するんなら邪魔しないでね」
男「あ、は、はい」
男「…………」
男「(知り合いの女性、しかも怖れている人が隣りにいると、全然頭に入ってこない。)」
女「…………」ゴォォォ…
男「(集中力えげつないな)」
男「(昔から優秀だったよなぁ。勉強だけじゃなくて、スポーツも、人間関係も)」
男「(俺とは住む世界が違っていた)」
女「…………」ジー…
男「(また見てきた。本当、顔立ちが整ってるよな)」
男「(こんな子と、俺に接点があったのは)」
女「……」ニュッ!
男「ふはっっっ!!!」
女「きもっ」ボソリ…
男「(露骨に椅子離してきた)」
先生「どうした?」
男「い、いえ、なんでも」
先生「ふざけてるのか?」
男「すいません……。昨日テレビで見たこと思い出し笑いしちゃって」
クスクス…
男「(ううう……しにたい……)」
女「…………!」クスクス
男「(めっちゃ嬉しそうな顔してる)」
女「あんたさ、今回の期末何点取る意気込みなの?」
男「全教科80点くらいは」
女「打倒女96点平均、ってテスト範囲表に書いてあったのはもう諦めたの?」
男「見えてたのっ!?」
女「引き出しに入ってたからね」
男「えっ」
女「あんた、中1の頃は馬鹿だったんでしょ」
男「ストレートな言い方だなぁ」
男「たしかに、学校の期末テストの成績が悪すぎて、親に塾に入れられたんだ。入塾テストっていうのをうけたんだけど、国語と英語と数学の偏差値が39平均だった」
男「確か国語の偏差値が41でさ。『おれ、国語得意なんだ』って純粋な独り言いって、塾の先生が笑っていた記憶がある」
男「塾で運命の先生と出会った。授業がわかりやすくて、冗談が面白い先生だった。その先生が好きで、日曜日も自習室で勉強したりしているうちに、偏差値も65平均まで上がったんだ」
女「ふわぁ…(あくび)」
男「……」ムッ
女「1番簡単な模試でそれでしょ。私の足元にも及ばないし」
女「それでも前くらいに頭のわるいあんたが都合良かったんだけどなぁ」
女「私がどんなに酷い悪口や価値観をあんたに話しても、とんでもない変顔しても、誰も信じないからね」
男「王様の耳はロバの耳に出てくる井戸だと思ってるんだろ」
女「あんたが言いふらしたところで、その井戸はでまかせを言う悪い井戸である。ってなるの」
男「性格が悪いなぁ」
女「頭は?」
男「良い」
女「容姿は?」
男「……知らない」
女「えへへ」
女「あんたさ、あの不良見てどう思う?」
男「むかつく」
女「ちょっと頭悪そうな話し方するじゃん。初対面の男には自分を優位に見せるために胸ぐら掴んだりするし。いつの時代かよって感じで」
男「うん」
女「いつも40点平均のあいつが、あんたに勝つって言ったらどう思う?」
男「無理だろ」
女「私とあんたの偏差値も同じだけ離れてるの」
男「えっ」
女「あんたが受けた模試の偏差値を、私の受けた模試の偏差値におおよそに換算して考えるとね」
女「あんたがあいつを見てるのと同じ気分で、今私はあんたを見てる。以前はその倍の距離であんたを見てたけど」
女「ありえないって思う気持ち、少しはわかってくれましたか?」
――――――
男「(結局、勉強ではいつまで経っても歯が立たず)」
男「(この女は一流の女子校にいって)」
男「(そして、今……)」
男「(浪人している?)」
女「じゃ、お先に」
男「もう帰るの?」
女「うん、ちょっと疲れた」
男「(ほんとだ。夕方の表情と違う)」
男「(とても言えないけど、少し老けたようにさえ見える)」
男「あのさ、1つ聞いてもいい?」
女「駄目」
男「…………」
女「何よ」
男「絶対話さない」
女「あっそう」
男「…………」
女「…………」
男「…………」
女「いいわよ話しても」
男「なんで浪人してるの?」
女「○ね」
女は去っていった。
通り過ぎる時に、シャンプーのいい香りがした。
4月25日(月)
「俺、仮面浪人やめるわ」
男「えっ」
高校のクラスメートと一緒に昼食を取っていた。
同じ大学の違う学科に進学していた。
卒業式の日に体育館に集まる時に、口々に出る話題はお互いの進学先についてだった。
以前同じクラスだった生徒とも聞き合う。
1番優秀なコースに所属していた生徒を除いて、早慶合格者なんて一人もいなかった。
それでも自称進学校に属するくらいには偏差値が高い高校なので
「MARCHなんかで妥協できない。仮面浪人する(この時はよく意味を知らなかった)」
「日東駒専なんかありえない。浪人する」
そういう生徒がたくさんいた。
3月までは、本当にたくさんいた。
これは5月頃にわかったことなのだが、中学時代からの全知り合いの中で、仮面浪人をしていたのは自分と女の二人だけだった。
男「大学が楽しくなってきたとか?」
「うーん……」
男「いつまでもずるずるひきずるのは可哀想な人だって、理事長も言ってたし、ネットの仮面浪人合格体験記にも書いてあった」
「お前がいうのかw」
男「だって、難関資格の勉強とか、サークル運営を頑張るとか、他にも道があるじゃん」
「たしかにな」
男「でしょ」
「じゃあなんでお前はその道選ばないの?」
男「……わからん」
本当にわからない。
ろくに勉強もしていないくせに、何故再受験にこだわっているのだろう。
これからの人生じゃなくて、今までの18年間をやり直したいから?
4月26日(火)
ナポレオン「お前がいつか出会う災いは、お前がおろそかにしたある時間の報いだ」
現代文の読解力開発講座を2問解いた。
自分の集中力のなさがいやになる。
10分毎にぼぉーっと休憩してる。
ネットでやる気のでるような名言を探したり、受験の合格体験記を見たり、2chでの参考書ランキングを見たりしている。
"勉強に関わるけど勉強ではないこと"に大半の時間を注ぎ込んでいる。そのほうが楽だからだ。
男「ネットでADHD検定とかやると必ず受診すすめられるんだよな」
男「小学生の時から落ち着きが無いって、他の生徒の5倍くらい先生に注意されてたし。俺と一緒に自習室で勉強している友達からは、そわそわきょろきょろしてるってよく言われたし」
男「確か高校三年生の時だった。ある日の授業で、6限まで寝ずに先生の授業をしっかり聞いてその日が終わった。そして気づいた」
男「高校生活始まって以来、はじめて最初から最後まで授業を受けていたことに」
男「俺はそれを、エジソンや坂本龍馬のような天才の証だと思ってた」
男「でも、好きな先生のために頑張った中学時代でさえ、超えられない相手はいたし」
男「ただ単に、注意力散漫なんだろうな」
男「結局、クオリティの低い授業を真剣に受け続けていた生徒も俺と同じレベルの大学に行ってたわけだし、漫画を読んでて正解だったってことだ」
男「結局ろくに勉強しないまま5月に突入しそうだよ」
男「早稲田大学社会科学部の受験日を来年の2月22日と仮定したら、残りちょうど300日らしい」
男「1日どれだけ勉強できるのか」
男「昼寝も含めて8時間寝るとする」
男「飯や風呂で2時間。通勤ラッシュでどうしても勉強できないのが1時間」
男「講義が3コマあるとしたら4.5時間」
男「余りは8.5時間」
男「えっ、そんなに勉強する時間あるの?」
男「なのになんで俺現代文2問しか解かずに帰ろうとしてるの?」
4月27日(水)
「仮面浪人なんかやめて大学生活を楽しむべきだろ」
高校時代に1番仲がよくて、笑いのツボもあって、義理堅かった友人が説教文を送ってきた。
数学ができる男だった。
俺と同じくらいに勉強が大嫌いで、受験生の天王山と言われる8月の夏休みは、ずっとふたりでメールを送り合って、世の中への不満について語り合っていた。
多分世の中のかなり度の高いバカップルでさえ、俺達ほど頻度の高いやりとりを行ってはいなかっただろう。
そして、そいつは大東亜帝国でD判定を取り、ニッコマに前落ちし、浪人生になった。
内心、お前のどこに俺を説教する資格があるんだと言いたかった。
むかついて反論をしようとしたが、やめた。
言葉で、人は変わらない。
その証拠に相手の言葉で俺の決意は変わらない。
どうして俺の言葉だけが相手に届くなんて都合の良いことが言えるのか。
男「これは、俺の人生なのに……」
そんなことをつぶやきながら、自分で自分の人生を、とても雑に扱っていると思ったのだが。
4月28日(木)
運営サークルの飲み会に行った。
想像以上に楽しかった。
話の合う女の子もいた。
居酒屋の雰囲気で頬が赤くなっていたので、"りんごちゃんじゃん"とつい気持ち悪いセリフを言ってしまったが、ニッコリ笑ってくれた。
どうしてどこののサークルにも入らないのかみんなに聞かれた。
そういやどうして俺サークル入らないんだろう。
入ってもいいよね?運営サークル入っちゃおうかな。
21時。
帰り道、ぽかぽかした気分で、みんなに別れを告げて、ひとりになった。
男「……俺は何がしたいんだ」
大学の図書館に入った。
男「俺は受験勉強しなくちゃいけないんだろ」
カバンを探ったが、勉強道具を持ってこなかったことにそのときになって気付いた。
男「何やってんだよ」
気付いたら、あっという間に18年間終わってしまった。
10年前の幼い自分と今の自分は何かが決定的に変わっているだろうか。
1つだけ変わったとしたら、今は自分という存在が特別でもなんでもなく、ただの一般人なんだということに気付いたということだけ。
主人公でもなんでもない。脇役にすらなってない。物語にすら参加していない。
男「飲み会では楽しい顔して、ヘラヘラして」
男「じゃあねって言った後は、一人で図書館に行って、高学歴目指して勉強しようとする」
男「仮面浪人であることは、不誠実で、不正直なのだろうか。ちゃんと周囲に告げるべきなんだろうか」
男「ばらした仮面浪人って、もはや仮面被ってないとは思うけど」
男「仮面浪人の仮面って、何を隠してる仮面なんだ」
4月30日(土)
寝坊した。大学を自主休講する。
あー、何もやる気がしない。
1日じゅうアニメを見て終わる。
今日はここまでです。お疲れ様でした。
5月1日(日)
地元の図書館の椅子に座るや否や、美少女が寄ってきて耳元で囁いてきた。
女「表出ろ」
女「何しに来たの」
男「勉強しにきました」
女「何の?」
男「今日は英語」
女「トーイック?」
男「受験勉強だよ」
女「はぁ?」
男「先週言ってなかったっけ。俺、仮面浪人してるんだ」
女「どこの大学?」
男「日東駒専……」
女「ふーん」
男「馬鹿にしてる」
女「馬鹿にしないわよ。あんただって大東亜帝国馬鹿にしないでしょ」
男「俺はしてない。でも大学の連中はしてる。ニッコマはまだしも、大東亜帝国は終わりだよなって」
女「あんたの方が質悪いのよ。眼中に無いんだから。自分とは無関係だと感じているものに対して人は感情を抱かない」
男「ちなみに、MARCHに行った友人が言うには、早慶に行きたかったって話題と、ニッコマだったら終わりだったって話題に溢れてるって言ってた」
女「世の中暇人ばかりね」
男「昔の友達に時々遭遇するけど、仮面浪人してるって言って反応薄かったの、女だけかもしれない」
女「私もそうだからね。休学するか迷ってるけど」
男「どこ?」
女「早稲田の政経政治」
男「凄いな。俺の第一志望だ」
女「どうも」
男「さっきの続きだけどさ、早稲田の人は東大行きたかったとか、MARCHじゃなくてよかったって話題になるの?」
女「よく喋るわね」
男「う、うるさいな」
女「それがさ、私も驚いたんだけど……」
女「東大に行きたかったって人は一定数いる。上級生でもやっぱり引きずってる人はいる」
女「でも、上智や、MARCHを馬鹿にする人なんて、ただの一人もいないのよ」
男「それは自分らエリートには無関係だと思ってるから?」
女「満たされてるからよ。むしろ上智に落ちて早稲田に受かってる人もいるし。本当は敵意なんてもってないくせに、慶應を目の敵にしてるふりをする学生がたくさんいるくらいで」
女「性格がびっくりするくらいに良い子が多いのよ。高校の時もそうだったけど、やっぱり公立の小中と比べると段違いに相手を尊重する風潮がある」
男「なんだか嫌な話だな。それに女は小中でもうまくやってたじゃないか」
女「確かに嫌われ者だったあんたとは大違いね」
男「…………」
女「人の揚げ足取って笑い取るの上手だったもんね。それで凄い影で嫌われて。実力もないから、今度は逆にいじられるようになって」
女「その醜いプライドで早稲田生様になろうってわけ?あんたみたいな人が高学歴になることを、あんたの家族以外誰が望んでるのかな」
男「…………」
女「せいぜい頑張りなさい。形だけの仮面浪人にならないようにね」
男「…………」
男「(イライラして何も文字が頭に入ってこない)」
男「(本音でモノを言うタイプの女だったけど。あそこまで言うか普通)」
男「(俺は……)」
男「(過去を、ちゃんとやり直したいんだ)」
男「ねえ」
女「うわっ。待ち伏せきもっ」
男「ちょっと話したいことがある」
女「なに、さっき言われたこと根にもってんの?」
男「持ってる。持ってるよ」
男「確かに俺は、プライドが高くて、劣等感が強くて、人を馬鹿にしていた」
男「そのせいで人を傷つけて、復讐された時期もあった」
男「人に嫌われたまま一生懸命勉強して、良い高校に入った。中学の教師は決してそんなこと言わなかったけど、進学校は性格の良い人が驚くくらいに多かった。さっき女が言った話にも通じるところがあると思う」
男「周囲のやさしさに感化されて、俺も昔よりは人の痛みを想像するようになった。自分より弱い立場の人をからかうのを、頑張って抑えるようになった」
男「一緒の高校に入った友人がいて、面白い経過をたどっていることにも気づいた」
男「うちの学校は3つのコースに別れててさ。俺は真ん中のコース。俺の知り合いは入学時に1番下のコースに入った」
男「額の真ん中に大きなほくろがあるやつでさ。昔からあだ名が仏陀だった。そいつは高校に入ってからも仏陀って呼ばれてた。お祈りされる冗談なんかもされてたらしい」
男「物凄い勉強をして、そいつはまず真ん中のクラスにあがった。そしたらぐっと仏陀って言われる頻度が減った。気合の入ったからかいもされなくなった」
男「さらに勉強をして、一番上のクラスにあがった。そしたら、ぴったりと仏陀って呼ぶ人がいなくなったんだ」
男「影で言われてるなんてこともない。偏差値が上がるにつれて、周りに人を傷つけるという意思をもった人が驚くほどに少なくなっていったんだ」
女「私が小学生時代に1番性格悪いと思ってた女は慶應の付属に行ってたけどね。噂で経済学部に進学したって聞いた。頭が良い分とりわけ面倒くさかったわよ。やること言うこと全て残忍だった」
男「女は口は悪いしプライド高いけど、人をかばうことが多かったからね」
女「反動で中学になってストレスはあんたに全部ぶつけてたなぁ。あれでだいぶスッキリした」
男「…………」
女「それで、偏差値の高さと人格には相関関係があるっていう、世間を敵にまわす話がしたかったの?」
男「勉強を教えて欲しい」
女「はぁ?」
男「違うな。どんな風に勉強したか、勉強方法を教えてほしいんだ」
女「合格体験記買えよ」
男「合格体験記?」
女「自分の成功体験を話したい人なんてこの世に溢れてるからね。書店に売ってるわよ」
男「なるほど、その手があったか。ネットでくらいしか読んでなかったな」
男「わかった!!明日買う!!」
女「あんたまだ図書館残るの?」
男「19時まであいてるから。全然勉強してなかったし」
女「……さっきはむかつくこと言ってごめん」
男「良いよ。俺も、過去の俺が大嫌いだから」
女「かっこつけるのはちゃんと受かってからにしてよね」
男「うん。じゃあ」
女「またね。浪人生さん」
男「…………」
男「なんだか良い一日だったな」
男「いやいや。今から頑張らないと」
男「よぉーし。それじゃあ、気合を入れて」
女「ちょっと!」
男「うわっ。帰るんじゃなかったの?」
女「過去問は、解くのではなく覚え込む!!」
男「えっ?」
女「第一志望の過去問は、今のレベルじゃ歯がたたないかもしんないけど、ある程度勉強が進んだらもう解いてしまうの」
男「直前までとっておかないともったいなくない?」
女「私も最初はそう思ってた。でもそれは、航海を始めて一ヶ月経ってからコンパスを見るに等しい危険な行為なの。直前で解いて、解けなかったらゲームオーバーだし、解けてもよかったぁって安心感しか得られない」
女「時間無制限で解いてもいい。英語の読解も、電子辞書で単語を調べながら解いてもいい。それでも満点なんて取れないから。そしたら自分に足りない能力は単語力ではないなってわかって、英文法とか英文解釈やパラグラフリーディングの勉強をする必要があるって早く気付けるでしょ」
女「自分に必要な勉強は何か。それを知るためにも、一刻もはやく赤本と青本に手をつけるの」
男「青本?」
女「出版社がそれぞれ違うのよ。解説も当然異なる。解答もたまに違う時もあるけど」
男「どっち買えばいいの?」
女「両方に決まってるでしょ!!第一志望なんでしょ!!もし去年買ってても、最新の一年分のために新しく買う価値はある!!」
男「は、はい!」
女「頑張って過去10年分くらい集めちゃう人もいるけど、問題の傾向も変わってるだろうし私は直近5年分くらいでいいと思うけどな。問題作成者だって一人の大学教授なわけでしょ。直近のが来年の問題の傾向にも1番近いと考えるのは自然なこと」
女「Amazonで売ってなかったら、神保町の山口書店に行って見るのもいいかもしれないわね。あそこを毎日通る仮面浪人性は、毎日何を思うのかしらね。ちょっと羨ましいわぁ」
女「直近の過去問を毎日見るくらいでいいの。自分のメモをたくさん書き込んで」
女「あのままだと分厚いから、国語、英語、歴史で一年分破いちゃいなさい。上手にやると綺麗に抜き取れるから、ホチキスでとめて」
男「わ、わかった」
女「それから、それから……」ゼエゼエ…
男「だ、大丈夫?」
女「はぁ…はぁ…」
男「それから?」
女「そ、そんだけ……」カァアア…
女「じゃあ、また……」
男「…………」
男「すごい、生き生きしてた」
男「自分の成功体験を話したい人は溢れてる、かぁ」
男「教えたがりの性格なのか。やっぱり根は親切なんだな」
男「なんだかやる気がわいてきた。あと一時間位しか空いてないけど、勉強しよう」
この日は閉館まで勉強した。
いつもより、夜更かしをせずに寝ることができた。
おやすみなさい。
5月2日(月)
男「ほんと、内部推薦が多いよなぁうちの大学。センター七割近く取れる実力くらいはつけたのに、なんか虚しいな」
男「みんななんとなく公務員を目指そうかなという空気があるけど」
男「確かにうちの大学は公務員を目指す人のための制度が整ってるけどさ。みんなコースを受講さえすれば簡単に受かると思ってる」
男「親が必死で稼いだ受験料30万円近くをドブに捨てたことがあるのか」
男「まるで世の中の厳しさがわかっちゃいないんだ」
男「女にアドバイスされた通り、俺は戦うための武器を買おう」
男「早稲田政経の赤本と、青本と、合格体験記。買っちゃった」
男「合格体験記なんて現役生の頃は意地でも買わなかったからな。ただでさえ自惚れてて他人のアドバイスなんか興味なかったのに、載ってるのが浪人生ばっかで、浪人生のアドバイスなんか余計聞きたくないとさえ思ったし。そのくせ2chの学歴板は熱心に見てたなぁ。あー、しにたくなってきた」
男「合格体験記には凄いマニアックな勉強法を載せてる人もいるけれど、色んな人が共通してオススメしてる参考書もある」
男「俺も現役時代は『新釈 現代文』とか『国文法ちかみち』とか、親の世代にうけてたようなちょっと逸れたものばかり集めてたな」
男「この本を理解できるようになる頃には読解力がついてるだとか、例題1が東大だとか、そんな変化球のある参考書が好きだったけど」
男「無難に合格者の大多数が使ってるものを使うのが1番いいんだな。こういう本を必要としている人は、もっと次元の高い人達だろう」
男「よし、過去問も、合格体験記も、ついでに漫画も買っちゃったし。今日はやること済んだから、のんびり過ごそう」
5月4日(水)
男「……尋常じゃない」
男「親に勉強代をねだって法学部の過去問も買ったけど」
男「ちょっと中身を見たけど、というか難しすぎて解けなかったけど、問題の難易度と、合格最低点が高過ぎる。合格最低点なんて、点数調整で誤魔化して低くても合格できそうに見えるようにつくられてるって聞くのに」
男「こんなの、東大落ちの人しか受からないんじゃないか」
男「今から勉強して、来年こんなの読解できてる自分になれるのかな……」
男「あー……」
男「勉強のやる気が出ない」
男「勉強の必要性はいやというほどわかってるし、勉強したいとさえ思ってるのに、なんで勉強したくないんだ?」
男「アレルギーってやつなのか。猫が好きなのにさわれないのと似ていて。勉強をしたいのに勉強を頑固に拒否する」
男「やる気なんて待ってたら受験が終わってしまう」
男「物語だとさ、きっかけみたいなものがあるじゃん」
男「運良くそれが現れるのを願うしかないのかな。受験の神様と出会って、その日をきっかけに毎日十時間勉強し始めるとか」
男「たとえば、女との再会をきっかけに…………ないな。いると怖くて集中できないくらいだし」
男「感動する映画を観てもそうだよ。人にやさしくしようとか、弁護士になろうとか、毎日花を眺めようとか、2時間くらい激しく強く思っても、3時間後には思いは限りなく薄れてしまう」
男「習慣づけるしかないのかな。歯磨きとか入浴みたいに、勉強するのが当たり前って身体に刻みつけるしか」
男「お風呂嫌いの子供でも、いつかは一人で入るようになるのに。どうして勉強だけは、何歳になってもやらない人が大勢いるんだろうな」
男「勉強だって、やったあとはそれなりにすっきりすることもあるのに」
今日の勉強時間 50分
5月5日(木)
友:予備校の雰囲気が高校の比じゃない。悪いけど仮面浪人に勝ち目は薄い。
男「なにこのいらない情報……」
男「やばい。まじかよ。汗出てくるわ」
男「俺だって……俺だって……」
男「俺は……」
男「仮面浪人なんだろうか」
男「全然勉強をしてない。形だけの仮面浪人だったりしないのか」
男「たとえ一秒も勉強してなくても、世間的には予備校生は予備校生だし、宅浪生は宅浪生だ」
男「俺は、世間的には、ただの大学生だ」
男「俺を仮面浪人たらしめるのは、俺が俺を仮面浪人だとおもう気持ちだけで」
男「早稲田を目指して勉強しているという現実逃避をしているだけの、形だけの仮面浪人生だったりしないよな?」
5月6日(金)
男「また、今日も勉強していない。やばい」
男「18時に寝て23時起床。そしてネットサーフィン」
男「いきものがかりの水野良樹さん、明治政治経済で仮面浪人して一橋行ったのか。バイトで受験料溜めながらだし。
凄すぎる。受験料としてお小遣いをねだって漫画買ってる俺はいきものですらないのではないか」
男「どうして俺はこんなにも駄目なんだろう。自分がクズなのを知っていながら周囲の人間を否定してしまうんだろう」
男「夕方に旅行から帰ってきた親父から集中力の出るパワーストーンを貰ったけど、なんかむかついてきた」
男「はい。捨てた。プラシーボ効果も期待できない」
男「あー、滅んじまえよこんな世界」
男「早稲田に合格しても言ってやるさ。勉強なんて、大っ嫌いだってな」
5月7日(土)
とっておいとけばよかったな。
偏差値が30代だった時の成績表。
5月8日(日)
女「過去問は」
男「解くのではなく覚え込む」
女「よくできました」
男「ごめん、できなかったよ」
女「解いたの?」
男「難しすぎた。国語も日本語じゃなかったし、英語も英語じゃなかった」
女「言いたいことは伝わりました」
男「今こうして会話してくれてるけどさ、女はあの難解な記号を読み解けるわけじゃん。なんだか宇宙人が俺にあわせて日本語をつかってくれてるみたいに感じちゃうよ」
女「宇宙人なんて失礼ね。私だってギャグマンガ読む方が万倍好きよ」
男「少女漫画っていわないところが女らしくていいね」
女「殴るわよ?赤本で」
男「血痕が目立たなくていいかもね……」
おやすみなさい。続きを書くのは数日後になります。
男「あのさ、女に相談していいことなのかわかんないんだけど……」
女「なになに?勉強法くらい自分で考えなさいよもう。仕方ないわねー、英語が読めないんでしょ?早大プレで成績上位者に名前が載ったことのある私の英語の勉強法なんだけど、なんと音読なの。怪しい教材の宣伝文みたいに思うでしょ?でもやり方さえ気をつければこれが本当に効果的で……」
男「大学での悩みなんだけど」
女「Z会出版のね……え、あ、違うんだ! だよね! 聞く聞く! うん! わたし勉強ヲタクじゃないし! 学生生活の話聞くよ! うん!」
男「うちの大学、付属生が多いんだ。一生懸命勉強したのに、なんだか損だなぁって思っちゃうんだ」
女「ふーんじゃあやめれば」
男「(急に目が遠くなったな)」
女「じゃあなんでずるいと思ったそのルートをあんたも辿ろうとしなかったの?」
男「内部進学するような高校に行く選択をするってこと?考えもしなかった。それに、行けててもいかなかった」
女「自分でもやろうとしたらできた選択に文句言うものじゃないよ。ほうきについてる灰色のゴミに砂糖つけて食べさせるよ?」
男「じゃあできなかった選択に対しては?」
女「それも言うもんじゃないよ。例えば早稲田の付属に合格できずに大学の一般受験で入った人が、早稲田の付属生に文句言う筋合いなんてないよ。同じ土俵で戦って負けたんだから。ちりとりの角で膝の裏つつくよ?」
男「じゃあどうすりゃいいのさ」
女「文句言うなってことよ。ゴミ箱に頭突っ込ませるよ?いや、でも髪の毛に触れたくないなぁ」
男「…………」
女「ちなみにさ、これは一流大学に行った私の先輩複数人が、テスト期間やサークル運営を通して感じる頭の良さについて言ってたことなんだけどね」
女「浪人生より現役生の方が頭がいいんだって。まぁこれは当たり前よね」
女「それでね、一流大学に限っていえば、浪人の一般受験者よりも、内部進学の方が遥かに頭がいい。一般受験の現役生と内部進学者は人によるとしか言えないそうだけど」
女「小学校6年生、中学校3年生。人生の早い段階で成果を出していた人は、それなりの素質があるってこと。大学受験の倍率8倍と、早い時期から勝者になろうとする人たち同士の戦いでの3倍では、重みが違うのよね」
女「まぁあんたみたいに学生カースト最下位で休み時間には寝たふりをして体育の準備運動では先生ともペアにさせてもらえずに放課後に女子のうわばきのにおいを嗅ぐことにしか生きがいを感じられなかった奴はこれから何を成し遂げても卑屈に生きるんだろうけど」
男「確かに女のうわばきを嗅ぐことだけが生きがいだった」
女「 」
男「嘘に決まってるだろ」
女「とりあえず、自分の先祖様にごめんなさいを1000回言ってからこれからは寝るようにするのがおすすめよ。じゃ、私勉強するから。邪魔しないでね。あと、わからないことがあったらいつでもヤフー知恵袋に聞いていいからね」
男「俺はグーグル先生派なんだよ」
女「グーグルの検索結果に知恵袋先生がでるんでしょ。はい論破ー」
男「知恵袋先生の解答に自分で調べてぐぐってくださいって回答3件は見かけたことありますはい論破―」
女「むっかぁ……」
男「ぐぬぬ……」
男「あー、イライラする。昔っから俺のことをけなすようなことばっかり言って」
男「他の人にはめっちゃ良い性格してるのに。バレンタインデーに後輩の女の子の集団が教室までチョコレート渡しに来てたくらいだからなぁ。軽く信者化してたし」
男「"惨めで可哀想"という一言だけとともに帰り際に親指サイズのチョコをお裾分けされてたな」
男「女の偏差値が70で、俺の偏差値が50だった時も、散々馬鹿にされたし」
男「あの頃は偏差値の差が20もあったのか」
男「この前書店で河合塾の全国大学ランキング見たけど、あれもショックだった」
男「俺の大学はランク6で偏差値52.5」
男「俺の志望校であり女の所属校である早稲田大学政治経済学部政治学科は最高ランクのM1で偏差値72.5」
男「…………」
男「偏差値差20」
男「あの頃と変わらないじゃないか。というか、実質かなり差がついてるんじゃないか」
男「あー、本当むかつくやつだな!人気者で運動もできて頭もよくて、しかもモテモテだったし」
男「あの時あんな風に話しかけさえしなければ、ただのクラスメートとして良い付き合いを出来ていただろうに」
~昼休み~
チャラ男A「あーデカパイ女とやりてえ!しこたまやりてぇ!!」
チャラ男B「色んな女をとっかえひっかえしてやりてぇー!!」
女A「まじであいつらきもいよね」
女B「性欲滲み出てるし」
女「確かに逝ってよしって感じだね」
キモヲタA「貧乳は俺の嫁でござるぅうwwwしこたまやりたいでござるぅwww」
キモヲタB「色んなイベント発生させて二次中の女とやりたいでござるぅううwww」
女A「きっも!!!!!!」
女B「性欲滲み出てるし!!!」
女「きんもっーって感じだね」
女A「あっ、チャイムなった」
女B「席戻るね」
女「うむー」
男「女さんってさ」
女「えっ、起きてたの!」
男「昼休みずっと起きてたよ。会話も聞こえてた」
女「あははー、盗み聞きはだめだよぉ」
男「2ch見てるよね」
女「…………」
女「男くん、何言ってるの。砂嵐の画面でしょ。なにかの冗談かな」
男「2ch見てるよね?」
女「…………」
女「あー、ネットのやつ?聞いたことはあるけど、見たことは」
男「ぬるぽ」
女「…………」
男「…………」
女「…………」
男「…………」
女「…………」
男「ごめん、気のせいだったみたい。全然違かったみたい」
男「一般人だったみたい。普通の女の子だったみたい。まっとうな趣味しかもってなかったみたい。ごめんね。じゃっ」
女「…………」
女「………ガッ」
>>55
訂正前:女「Amazonで売ってなかったら、神保町の山口書店に行って……」
訂正後:女「もしも何年も前の過去問が欲しい場合、Amazonで売ってなかったら、神保町の山口書店に行って……」
山口書店は様々な大学の、年度の古い過去問が売っているお店です。
初めて通り過ぎる時は、思わず二度見をしてしまいそうです。
この世界で1番素敵な町、神保町に訪れた受験生はぜひお立ち寄りを。
今日はここまでです。おやすみなさい。
5月10日(火)
『家を出れば何かが変わると思ってた。
でも大学はダメ人間たちの吹き溜まりでしかなかった。
みんな僕と同じように、具体的な考えを持たずに漠然と何かを期待して集まっていた。
そんな連中が固まったところで何かが始まる道理は無い。』 絶望の世界<内界編>第一週より
睡眠不足で気持ち悪い。
昨日勉強せずに帰って夜更かししてゲームしていたせいだ。
大学に着くも、一限目をさぼって図書館で寝ることにした。出席も取らない授業だし。
一度寝て、11頃に起床した。
いくら寝ても寝た気がしない。
昼間に寝れるだけ寝る。
そして夜寝られなくなる。
昼という時間がつまらないから眠たいのかもしれない。
1限の講義で使用するはずだった、ろくに触れたこともない教科書を開いてみると、広辞苑のしおりが落ちた。
「言葉には意味がある」
この言葉に何の意味もない。
なんで、勉強しないんだろう。
理由をつけては後回しにして。
考えると汗が吹き出しそう。
だから考えない。
だらだらネットサーフィンをして時間を潰した。携帯の充電はほとんど尽きかけていた。
夕方の講義に向かう。
自分の学科の学生だけが受講できる、公務員受験ガイダンスのような講義だ。
教室に着くと、友達2人が席を取っておいてくれていた。
嬉しかった。大学にちゃんと友達がいるという安心感で喜んだ。
けれど、講師が来るまでにした雑談が恐ろしく退屈だった。
日常会話が、限りなくつまらなかった。
不満を何でも偏差値のせいにしたがる自分は、全て間違っているのだろうか。
教授が教室に入ってきた。
履修登録を提出したあと、30分で意見文を書くように指示された。
"あなたにとって理想の公務員とは"
男「(公務員って、組織を重んじ過ぎて悪い風習を変えられないイメージがあるからなぁ)」
男「(よし)」
男「(周りに流されずに自分の信念に従い行動できる者が理想の公務員である。何故なら……)」
みたいなことを書いていると、周りがどんどん提出して焦って自分も適当に区切りをつけて終わらせてしまった。
理想の公務員にはなれそうにない。
30分という時間が与えられて、15分程度で提出する学生ばかりだった。友達二人はさらに早く提出して帰っていた。
教授「ちょっと、君」
男「はい」
教授「受講申請している授業数少なすぎないか?」
周囲の人間を見てもそうだが、取得上限である52単位分(もしくは2単位の授業の都合で50単位分)の講義の申請を普通はする。
一方、俺は36単位分しか申請していなかった。
怒り気味の表情をしている教授と、水曜と木曜に5時限目しか受講の申請をしていない自分の申請表を見比べた。
吹き出してしまいたくなる気持ち以上に。
情けなかった。
本来であれば、心のなかで
(俺はこんな大学を脱出するためにその時間授業空けて勉強すんだよ!!)
と文句を言ってやりたかった。
たが、実際、今日の勉強時間は0だ。
堂々と(心のなかで)反論できない。
男「……すいません。抽選でたくさん落ちていまいました」
教授「今からでも頑張れ」
男「……はい頑張ります」
何を頑張るというのだ。
形だけの仮面浪人が、一番ださい。
放課後、図書館に4時間残り、1時間分の休憩を挟みつつ、3時間勉強をした。
いつもの三倍は勉強したんじゃないか。
よく頑張った。
閉館の音楽がなってからも、まだぎりぎりまで勉強してる人がいた。
お先に失礼します。
5月12日(木)
早稲田大学の受験日程と、大学の講義の期末試験の日程を調べた。
どうやら被らずに済みそうだった。
昨日教授が言ったことは、ずっと後になって思ったのだが、仮面浪人にとっても正しいことだった。
たとえ平均成績が下がってもいいから、講義は履修上限まで申請するべきだ。
一般教養の講義の中には、ひたすら出席をし続けて、テストでただの意見分を書けば単位が貰える授業が存在する。
一番後ろの席に座って授業中に受験勉強をし続ければ何も損することはない。
大学生としては完全に失格だが、仮面浪人生としては、失敗した時に備えて取るべき戦略というものがあるだろう。
加えて、一般教養科目の中には受験科目と内容が被るものも多い。
法学や会計学などは、これもおかしな言い方だが、受験の負担になる。
だから、受験で詰め込んだ知識をそのままテストに書けば熱心に授業を聞いていた生徒と受け取られやすいような、一般教養科目を多くとるべきであった。
男「でもまぁ、せっかく仮面浪人という身分になったのだから、法学や、芸術論なんかを取ってみよう!」
正直、こういう浅はかな考えをしてしまう自分を、未来から振り返ってみても憎みきれないのだが。
寝る前、また予備校通いの友からメールが来た。
友:山の手線内に校舎のある河合塾の早慶アドバンスコースでさえ合格率は6割…。全国から早慶に受かるためだけに上京してきた人の集まりのコースで6割…。
芸術も、法律も、経済も、哲学も学ばずに、3科目だけに特化して人生を賭している同世代がたくさんいるらしかった。
5月14日(金)
男「言いづらいことなんだよ」
「俺の秘め事も教えてやるからよ」
男「ろくでもないことなんだって」
「俺は引いたりするようなタイプじゃないから」
男「仮面浪人してるんだ、俺」
「なにそれ?」
男「大学に通いながら再受験をすること。俺はこの大学に通いながら、早稲田大学を目指してる」
「そんな概念あるのか」
男「うん」
「だから言いづらかったのか。偏差値50だった俺でさえ優等生扱いされていた荒れた高校から、一人猛勉強して第一志望のこの大学に受かったって話しちまったからな」
男「気分よくはならないだろ」
「いいや、気にしないね。むしろ、俺がやろうとしたことを、今お前がやろうとしてるんだろ。気持ちはわかるけどなぁ」
男「そう思ってくれるのか」
「それにな」
「俺の今の関心事は、AVくらいなんだよ」
男「はっ?」
髭「高校時代に100本は購入したな」
無精髭を生やした変態は、後の、親友だった。
問2:親友と最後に会ったのはいつか。
回答:覚えていないほど、昔。
↑:訂正5月13日(金)
5月14日(土)
『まじで感謝する。スッキリしたわ。今まで大学の友達に感じてた距離感も実は自分が作ってたせいかもしれないな。
大学がつまらないんじゃなくて自分がつまらなくしてたんだな。
遊びたい気持ちを抑えてずっと図書館で勉強してた。でも今日からその必要もないと思うと随分気が楽になった。
俺は再受験なんてやめる。
ちょっと今からサークル探し頑張ってみる』
高校の友達から仮面をやめろという説得があまりにもしつこいので、ついに嘘をついた。
俺のためを思って、俺のためにならないことを言ってくる。
いらつきと罪悪感が沸いて尋常じゃないほど不快な気持ちになった。
4時18分。
カラスが鳴いてる。
携帯を部屋の隅に投げつけた。
5月15日(日)
女「もう閉館だよ」
男「あと1時間ある」
女「あんたなんでいつも来るの遅いわけ?」
男「明け方に寝て、さっき起床した」
女「やる気あんの?」
男「やる気を出したい気持ちはあるのに、やる気がでない」
女「せっかく勉強法も教えてあげたのに」
男「音読は実は俺もやってたんだ。それこそ早大プレに名前載った知り合いからやり方を教えてもらって」
女「あら、そうだったの。昔から英語は好きだったもんね」
男「am,is,areとdo,doesの違いがわかった中学生から英語を好きになっていくんだ」
女「三人称単数って、ややこしいけど名前はかっこよくて好きだったわよ。薄っぺらくて根暗なあんたとは大違い」
男「ここで問題です」
女「あっ?」
男「英訳してください。誰がこの絵を描いたんですか」
女「Who painted this picture? でしょ」
男「正解」
女「中学レベルじゃん」
男「中学レベルの問題を解けないのに、大学受験レベルの勉強していいと思う?」
女「大学受験の参考書にも、中学のおさらいからはじめてるものもあるしね」
男「基礎なんて突き詰めたらキリがないと思う。冠詞のaとtheの違いについて極めるのに10年かかるってどこかのブログに書いてあった」
女「確かに、基礎を大事にしろってよくいうけど、基礎と応用の違いってよくわかんないよね。だから、こういう時はね、難しいことを考えるのはやめて、あんたを大事にしないというということだけを考えるの」パチパチ
男「シャーペンの芯を少しだけ出して親指の爪で弾いて攻撃するのやめて」
女「今日は英語の日なの?前は現代文ばっかアホみたいにやってたじゃん」
男「やっぱり、最初の時期は英文法をかためたほうがいいとかあるかな?古典と漢文は配点低いから受験期の終わりにやるとかさ」
女「あるわよ。でもそれはあなたが受験マシーンになれるならの話で」
女「好きなようにやっていいって言われて、今ろくにやる気出てないんでしょ?それを効率化なんて求めて嫌いな勉強から手を付けることになったら、結局1秒も勉強しなくなっちゃうでしょ」
男「効率化を求めるのが効率的とは限らないかぁ」
女「絶対につくる気が起きない神様の料理のレシピより、徹夜明けでもちゃっちゃとつくれるOLのレシピを大切にすることよ。できることから、好きなことから」
男「女はデザート給食の最初に食べる派だったよね。というかそんなの女と俺だけだった」
女「最初の一口に感じる味覚が一番強いって家庭科の先生が言ってたの。その言葉をきっかけにね。男はどうして?」
男「その女子生徒がやっぱり食後にも食べたいと人のデザートを強奪してきたから。その被害をきっかけにね」
女「大変だったのね。世の中甘くないのね」
男「デザートだけにとかいらないから」
女「あんたさ、合格したらやってみたいことある?」
男「ある」
女「何?」
男「今の大学生活でもさ、入試の日にしか訪れたことのない早稲田大学を頭の中に思い浮かべる時があるんだよ」
男「早稲田でできた友達と歩いてて、その友達が売店とかトイレとか行ってる間に、ふと一人になる」
男「という瞬間を妄想してるんだけど」
男「本当に早稲田生になったら、大学でその妄想を思い出してあげたい。過去の自分が願ったことを、叶えた自分が思い出してあげたい」
男「妄想で浮かべたような建物は実際にはなかったよとか、休み時間のエスカレーター付近はおもったより人混みが凄くてゆっくり感慨にふけれないよとか、未来から報告してあげたい」
女「…………」
男「きもっ」
女「思ってないわよ。相変わらず変態だなぁと思って」
男「変態なのかよ」
女「へへっ。相変わらず変態馬鹿だなぁ」
女「そこはさ、普通、親に報告するとか、ゲームやりまくるとか、友達と遊びまくるとか、そういうことじゃん」
男「じゃあ女は何がしたいんだよ」
女「私はね」
女「うーん」
女「男が今日あと5時間勉強したら教えてあげる」
男「0時まであと5時間半くらいしかないんだけど」
女「せいぜい頑張りなさい」
男「ええ」
女「じゃあまたね、大学で鬱屈としてる浪人生さん」
男「はいはい。そちらも頑張って」
俺はこの日、2時間勉強をした。
まさか本気で5時間もやるつもりはなかった。
こういう、ささいなときに、本気を出す自分であったならば。
ヒントも、SOSも、いつもそれとわからぬよう些細な言葉でしか出されない。
俺は、この日またしても。
気づかぬうちに、人生に敗北していたのだった。
おやすみなさい。GWに完了予定です。
仮面浪人の春 2頁目
不合格者(女性:偏差値55※)「高校の偏差値は70もあったんだよ。こんな大学来たくなかったって、正直思ってるんよ」
※偏差値…大学偏差値マップ2017年度版より所属大学にあてはめた数値。>>16の女の子は偏差値69。
5月19日(木)
男「悲報。男氏、早稲法の国語の問題を解くも、まるで理解できずマーク選択の正答率2割をきる」
男「ちょっと頭の良い幼稚園児に負けるじゃねえか」
男「世界史も嫌いすぎて、3月以来全くといっていいほど勉強してない。250日後の受験日に南北戦争の原因について200字で論ずることができるだろうか」
5月20日(金)
大学のいつもの二人の友達とカラオケに行って、都内のゲームセンターを遊び歩いた。
つまらない。
居場所を感じない。
話題があわない。
笑いのツボもあわない。
一緒にいても心の底から楽しめないし、遊びの誘いも断ることが多いから中途半端に距離を感じる。
ある意味、完全なぼっちよりも孤独感を味わうと思う。
今早稲田にいたなら。
性懲りもなく、また考えてしまった。
5月21日(土)
入学時に配られたクリアケースにいつも教科書と参考書を詰め込んで持ち歩いていた。
今朝、学校に行きたくないなと思いながらケースの取っ手を掴んだら取れてしまった。
男「参考書なんかで重みをつくってるやつは来んなってことか」
男「電車に乗るときなんか、大学のロゴを見えないように持ち方変えたりしてたなぁ」
男「これが一流大学のロゴでも、逆に見せびらかすような真似は恥ずかしくてしないんだろうな」
男「今日も電車に乗って、無数の人たちとすれ違ったけど、俺は一つとして他人のカバンの柄なんか覚えていない。他人も俺を見てるわけないんだよ」
男「なんか、最近疲れたな。何にもしてないのに」
人間関係もややこしかった。
仮面浪人をやめろという高校のクラスメート。
話題が噛み合わない大学の友人。
フィクションの世界では、ふっきれたことをきっかけに氷が解けるような展開があるのかもしれないが。
現実では、「何言ってるの……」という目で見られ、よりギクシャクしてしまった。
昨日も今日もノー勉。
携帯電話をひたすらいじる。
携帯。
携帯さえなければ。
友達さえいなければ。
最近よく寝れない。
短くて浅い睡眠を何度もくり返してる。
仮面浪人のせいじゃない。
大学生活のせいだ。
逆に考えるとだ。
もし仮面浪人をしていなかったら、何の希望も見いだせず、この苦しみだけを味わっていたんだ。
ちゃんと、勉強しよう。
はやく、脱出したい。
5月22日(日)
男「まじで現代文とかなんなんだよ。なんで日本語なのに解けねえんだよ」
男「小説だってたくさん読んだことあるし。2chのスレだって数え切れない読んできたし。センターでも論説と小説それぞれ30点台止まりなんだよな」
男「あー、もうわけわかんねぇよ!」
女「きんもーっ!休憩ペースで参考書片手に難解な問題にぶちあたって悩んでるアピールしてる男子とかきんもーっ!ただ壁にぶち当たってるだけなのに!!」
女「なになになに? も、もしかして勉強に行き詰まってるとか? 勉強方法知りたいとか?」
男「ちょっと現代文で行き詰まっててさ」
女「え、ま、まじ? そ、そうなのね!!知りたいのね!!勉強法聞きたいのね!!しょうがないわねぇ!!私だって忙しいんだからね!!」
男「(急に目が輝き出した)」
女「今まではどんな風に勉強してたの?」
男「中学の時は小説にはまってたら、だいたい偏差値60後半は安定するようになった。文章読解は正直フィーリングで解いてた」
男「早稲田の論説文なんてわけがわかんない。読んでて全く頭に入ってこない。センターの論説文は解答を見ても納得出来ないのが多いし、小説も読んでて楽しいのに問題としては正解できない」
男「ちなみに漢字書くのが凄い苦手でいつも点数落としてる」
男「何がいけないのかよくわからない」
女「ふむふむ」
女「ちなみにいつも使ってる参考書は?」
男「駿台講師の霜栄って人の現代文読解力の開発講座」
女「私は酒井の現代文ミラクルアイランド派だったな」
男「恥ずかしながら告白すると、俺参考書マニアでさ。色んな参考書を買っては放置してた。その本もうちにあるよ」
女「典型的なやつね」
男「読解力の開発講座とミラクルアイランドで、たまたま同じ明治大学の過去問を取り扱っててさ。どっちか迷ってたんだけど、最終的に開発講座にした」
女「解説がわかりやすかったのね」
男「この話の流れで変なこというけど、ミラクルアイランドの方が解説はわかりやすかった」
女「じゃあどうしてそっち選ばなかったの?」
男「まえがきを読んで決めた」
女「ふふっ。そういうのってあるよね。私は何も気にならなかったかな」
女「東大教授の本にね、こんな面白いことが書いてあった。
『現代文は解答も一緒に配られる唯一の教科である』」
男「それ中学の時に模試で国語満点取って偏差値74叩き出したやつも言ってた」
女「本当にそうなのかしらね」
男「えっ? 東大教授に逆らうの?」
女「私も現代文は苦手でさ。センターで9割取れても満点は絶対に取れない人間なの」
男「充分最強だろ」
女「昔ね、現代文の問題を、時間無制限で、電子辞書を使いながら解いてみたの」
女「何度も何度も読みなおして完璧なはずだった。1つの問題を三日間かけて見直して解いたの」
女「それでも、けっこう間違えてたの」
女「解説を見てみると、段落ごとの繋がりがつかめてなかったり、大きな枠で読み解けていなかったことに気付かされた」
女「サモス島のヘーラー神殿を歩いた人は古代に何人もいたと思うわ。それでも足元に敷き詰められたタイルを見て、三平方の定理を見つけ出したのはピタゴラスだけだった」
女「現代文も、現代文ができる人特有の思考パターンがあって、それらをはじめに習得しなければならないんじゃないかと思ったの」
女「まずは、自分で解いてみる。そして、解説と見比べる。自分と著者の思考の違いを把握して、著者に寄せることを繰り返す」
女「私はね、"現代文は記憶の教科"だと思った。日本史や世界史の勉強にどちらかといえば近いってね。数学はパターンを暗記しまくっても通用するのは準難関大までで、真の難関大の問題では地の論理的思考力の戦いになる。でも国語は、数学ほどには地頭に左右されないって」
女「解説の気になった部分にえんぴつで印をつけて、読み込んだ。本文も解説も覚えるくらいに読み込んだ。なんなら、解説部分だけを繰り返して読むことも多かった」
女「現代文を解くための読み方、を頭に染み込ませたの。そうしていくうちに、"感情ではこっちを選びたいけど、論理的にはこっち" っていう風に、正解を選べるようになった」
女「昨日まで知らなかったことを、今日知ることを繰り返す。そうして成績はあがっていくの」
女「はい、百万円」
男「……手差し出されても。でも、ありがとう」
男「女も勉強忙しいのに教えてくれてありがとう」
女「まったく。どうしても教えて欲しいって顔してたから」
男「もう気づいたら5月も終わりだからな。焦るなぁ」
女「今週の金曜日にね、入試までおよそ6,000時間をきったって携帯のカウントダウンが教えてくれたの」
女「1日8時間勉強できるとして、残り2,0000時間」
女「英語800時間。世界史600時間。現代文300時間。古文200時間。漢文100時間」
女「勉強できます」
男「えっ、そんなに!?」
女「まだ諦めるにははやいってこと。でも油断するには少し足りないからね」
男「希望ある話だな」
女「あー、でも」
女「女様の使い走り-250時間。女様への感謝の言葉-150時間。女様への貢物のためのアルバイトマイナス2,550時間。ごめん、50時間しか勉強できなかったみたい」
男「150時間は厳しいから10秒でいいかな」
女「は?」
男「あらためてさ、いつもありがとう」
女「えっ」
男「休憩やめて勉強する。ちゃんと難しい文章も読めるようになりたい」
女「そ、そうよ!ただでさえ空気も乙女心も読めないんだから」
男「それ受験国語と関係あるの?」
女「ないわよ!」
男「じゃあいいじゃん」
女「うるさいわね。さっさと勉強するわよ!」
今日の勉強時間 4時間30分(帰宅後はテレビ鑑賞の後就寝)
おやすみなさい。
5月25日(水)
~夜中 寝室~
男「…………」
男「…………」
男「…………」
男「うわぁああああああ!!!」
男「…………」
男「…………」
男「…………」
男「はぁぁぁーーー…………」
男「…………」
男「夜中に突然黒歴史を思い出してしにたくなるのやめたい」
今日の勉強時間 2時間
5月26日(木)
男「学校行きたくない」
男「何にもしたくない。ずっと寝てたい」
男「ああ……」
男「それにしても、幸せになりたい」
男「不幸な俺が幸せになることで、誰かの幸福につながらないだろうか」
今日の勉強時間 2時間
5月28日(土)
男「今日は大学で公務員の模擬試験かぁ」
男「この大教室で入学後のアンケートも書いたんだったな。あなたはこの大学を好きですかとか、この大学に対する好感度測定の項目がいくつかあって」
男「全部、最低のにマークしたんだった」
男「アンケートの結果を大学側は公表してないんだよな」
男「入ってみたら手厚い大学なんだけどな。特にうちの学科なんて公務員志願者の支援が手厚いし。今日の試験然り」
男「公務員は学歴一切関係ないっていうからな。面接のときにも大学名を出しちゃいけないって聞いたことあるし」
男「一般の就職だとやっぱりうちは不利なんだろうな……」
友A「よぉ。どうよ意気込みは」
男「おお。全然ない」
友B「ちゃんと対策してるか?」
男「全然してない」
友A「一般教養なら俺らでも解けるだろ」
友B「緊張する必要ないよ」
男「そうだな」
男「(むずいなやっぱ。でもパズルみたいで少しおもしろい問題もあるな)」
男「(自分に関係ない試験でも一生懸命最後まで解こうとするのは俺のいいところだ。それでセンター数学が10点代だったのはさすがに引いたけど)」
監督員「試験開始から30分が経過しました。終わった人から帰宅してかまいません」
ガヤガヤ……
男「(うわ、ぞろぞろ帰り始めた)」
男「(まあ、公務員目指してない人ならしょうがないか。だったら最初から来なくてもいいとは思うけど)」
男「(むしろ俺も今すぐ切り上げて図書館で受験勉強するべきなんだろうし)」
男「(……えっ)」
男「(えっ。えっ)」
男「(あの二人、なんで帰ってんの?)」
男「(9,000円払って課外講義まで取ってたじゃんか)」
男「(なんだよ。なんだよそのやる気)」
男「(なんだよそれ……)」
男「(…………)」
男「(俺も、一緒じゃないか)」
男「ふぅー、最後までやりきった」
男「疲れたな。もう勉強する気起きないな今日」
男「今日は家に帰ってゆっくり……あっ」
「おっ。久しぶり」
男「久しぶり、えーと」
林檎「りんごちゃんだよ。男くんだよね」
男「名前覚えててくれてありがとう……じゃなくて!あの時は浮かれてたんだって!」
林檎「私楽しいと頬が紅くなるらしいの。自分だとよくわかんないんだけどね。にしても、りんごちゃんなんて呼ばれたのは初めてだったよ。チャラいなあ」
男「全然チャラくないから!キモヲタ!キモヲタだから!」
林檎「それはそれでどうなの……。ところで試験はどうだった?」
男「結果は見たくないな。そっちは?」
林檎「私の頬真っ青になってたりしない?」
男「そういう手応えだったのか」
男「試験難しかったよね。公務員志望なの?」
林檎「今はそんなに考えてないかな。それよりも実行委員のことでいっぱいだな」
男「正式に入会したんだね」
林檎「男くんはサークル入ったんだっけ」
男「えーと……まだ見学中かな」
林檎「もう5月も終わっちゃうよ?」
男「最悪入らなくてもいいかなぁって」
林檎「入ったほうが絶対楽しいよ!実行委員来なよ!みんないい人たちばかりだよ」
男「うーん……」
林檎「こういう勧誘だと逆に身構えちゃうよね。心理学の授業で習った方法で勧誘すると」
林檎「明日と明後日、どっちに入会したい?」
男「既に肯定の選択肢並べるやつだね」
林檎「確かにあなたのおっしゃるとおりです。でも、当サークルに入ることで……」
男「イエスバット法だっけ」
林檎「当サークルに100回入会してください!!!」
男「できないよ」
林檎「なら1回だけでも」
男「ドアインザフェイスだっけ」
林檎「1円貸してくれませんか?」
男「いいけど」
林檎「ついでに当サークルに入会してくれませんか?」
男「フットインザドアでしょ」
林檎「ダメだ!全滅だ!よく知ってたね」
男「同じ授業受けてるからね」
林檎「えっ、うそ!!」
男「(もっぱら1番後ろの席で古文単語覚えたりしてるけど)」
林檎「……てな具合でね、私の妹はどんどん見た目が派手になっててさ。高校デビューだよ高校デビュー」
男「林檎ちゃんは髪真っ黒だけどね」
林檎「林檎ちゃんって呼ぶことにしたんだね」ニヤニヤ
男「じゃ、じゃあ名字で……」
林檎「いいよ、林檎ちゃんで。林檎ちゃんがいいな」
林檎「これからもよろしくね、パイナップルくん」
男「俺のどこにパイナップルの要素があるのか」
林檎「あれ、男くん駅そっちなの?」
男「定期こっちで買っちゃってさ。乗り換え少ないから便利で」
林檎「そしたら帰り道一人になりやすいね。こっち側の駅使う人多いし」
男「そうなんだよね」
林檎「私もそっちにしておけばよかったな」
男「えっ?」
林檎「みんなと一緒に帰るの疲れるじゃん」
男「あ、ああ……えっ?」
林檎「ほら、私みたいに人間好きな陽気な性格だと、一人の時間も確保したくなるんだよ」
林檎「ギャップがたまらないでしょ」
男「自分で言うのか」
林檎「男くん」
男「うん」
林檎「一緒にサークル、入ってくれると嬉しいな」
男「えっ」
林檎「あはは。えへへー。じゃ、またね」
男「テンションが高いような、低いような」
男「陽気でいて、どこか陰気な人だ」
男「入ってくれると嬉しいな、か」
男「どんな心理学を使った勧誘よりも、ストレートな言葉の方が胸に来るな」
男「それにしても」
男「最後、少し、顔が紅かったような……」
男「……う、自惚れるな。頭を冷やせ!」
男「今日はもういい!早く帰って寝る!」
今日の勉強時間 0秒
5月29日(日)
男「勉強と恋愛って両立できると思う?」
女「きんもっ!なんで私に聞くんだよ!!色気づいてんじゃねーよこのオス豚!!」
女「私があんたに勉強教えてるのは、し、親切心からで、別に私は……」
男「女は彼氏とかいるの?」
女「い、いないけど」
男「そうか、どんまい」
女「ちょっと、何上から目線の微笑み浮かべてんのよ」
女「ま、まさかあんたまた、好きな人ができたとか……」
男「純粋な疑問だよ」
女「ほんとうに?」
男「受験生だから、色々知りたいんだよ」
女「ふーん……まぁ私が思うに」
女「出来るでしょうね」
男「そうなの?」
女「毎日2時間3時間も電話するようなら別よ」
女「東大合格者がこんないやらしいこというじゃない。受験の息抜きに映画に行ったりカラオケに行ったりしてましたって。案外息抜きが上手なのよ。息抜きしても問題ないような記憶力や理解力を親から受け継いでいるっていうのも確実にあるんだろうけど」
女「部活で成果を出しながら国立の医学部に合格したり、働きながら再受験で難関大に合格してるも人がいるわけでしょ。時間がたりなさすぎたらそれこそ勉強できないけど、時間が少ないという意識があれば1日の時間を大切に使えるようになるのよ」
男「確かに。休憩の内訳が音楽鑑賞から恋人に変わるようなものか」
女「というか、その質問自体おかしいって思わない?」
男「なんで」
女「私の返答次第で付き合う付き合わないを決めるってことでしょ。受験と天秤にかけた時点で偽物よ」
女「もしも大事な大事な受験さえも無価値に思える恋に落ちてしまったとしてもさ、もうそれだけで生まれてきた意味があるってものじゃないかしら」
男「!?」
女「ん?」
男「!?」
女「なによその表情は」
男「女もそんなこと考えるんだな。胸に来た」
女「クルトガで刺し続けるわよ」
しばらく無投稿で申し訳ありません。
下書きは終わりまで書き終えているのですが、読みたい資料の都合上、投稿&完結はGW中になります。
ご容赦ください。
合格者(夫:偏差値59)「男同士の友情は、似たような学歴で成立する。小中学生時代から今でもつるんでる友達って、だいたい同じ偏差値だろ」
合格者(妻:偏差値60)「女はそんなことないわよ」
合格者(夫:偏差値59)「女は容姿が偏差値なんだろ。だから、お前の友達は美人が多い」
合格者(妻:偏差値60)「よしなさいって」
5月30日(月)
男「ついに……」
男「ついに、速読英単語の音読を最後までやり終えた!!」
男「早慶プレで名前が載ったことがある人から教わった通りにやり続けた」
男「一回目は本文の文法やSVOCの文型を理解してメモを書き込む」
男「あとは英文を音読しながら日本語が浮かぶように強く意識する」
男「アップルと聞いたら0.1秒でりんごが思い浮かぶように。0.1秒和訳の訓練を1つの長文に対して15回音読することを繰り返す」
男「自宅でしかできないからだらだらやってたけど、それでも復習をしながら最後の文までやり終えた。ハエに関するテーマだから感慨深くないけど」
男「すごいな、俺。参考書を買っては数ページやって積み上げてた俺が。1つの参考書をちゃんと1周やり終えた」
男「俺が参考書をやりきるのって、なんか凄い変な気分というか、違和感だ。あはは」
6月1日(水)
元国家一種公務員&司法試験合格者の老年の方から試験のアドバイスを聞いた。
「参考書は、少なく絞れ。過去問やって、10問に2問自分がやってるテキストに載ってないのが出たって8割あれば受かるんだから、2割を埋めるために他の参考書に手をだす必要はない」
「浮気はよくないということですな」
ちょっと笑いそうになった。
6月2日(木)
早稲田大学からの点数開示が返って来た。
文化構想 素点 (調整後点数)
英語:42/75 (39.518)
国語:53/75 (46.563)
世界史:36/50(28.509)
調整後合計点 114.59
合格最低点 124.5
文学 素点 (調整後点数)
英語:35/75 (29.435)
国語:37/75 (23.551)
世界史:41/50(34.11)
調整後合計点 87.096
合格最低点 127
社会科学 素点 調整後点数
英語:27/50 (27)
国語:14/40 (14)
世界史:素点非公表 (21.063/40)
調整後合計点62.063
合格最低点 85.9
男「あのさ」
男「調整後合計点ってなに?」
男「世界史や日本史に調整が必要なのは認めます」
男「英語に関しても、もしかしたら他の言語で受けた人との調整をしているのかもしれない」
男「ただし国語!!てめーはダメだ!!なんでお前まで点数差っ引かれてるんだよ!!社学の世界史の素点が非公表なのも意味分からない!」
男「はぁー、素点の合計なら文化構想学部131点だから合格してたんだけど」
男「赤本に載ってる合格最低点を見た受験生は、その意外に低い合格点に希望を見出して受験をし、調整後の点数に絶望するんだ」
男「はぁー。でも、そうはいっても」
男「現役の頃、60日間以上怠惰に溺れて無為に過ごした夏休みと冬休みに勉強していたら、やっぱり受かっていたんだろうか」
男「決して、超えるのが不可能な壁ではなかったんだよな」
男「くっそー!今にみてろよ早稲田大学当局!!」
今日の勉強時間 3時間
そこそこ勉強したので夕方に帰宅した。
母が洗濯物を畳みながら、ニュース番組での「幸せについて」の特集を見ていた。
母「あんたにとっての幸せって何?」
男「おほん。仮面浪人できる環境じゃないでしょうか」
母「うふふふ!!!」
嬉しそうに爆笑した。
本当に、そう思うよ。
6月4日(土)
男「明るい食堂と暗い食堂」
男「大学でも、職場でも、食堂が二種類あるところがある」
男「一つはメインの食堂。みんなお昼の時間になるとそこで集まって食べる」
男「もう一つは少し狭くて気持ち暗い食堂。メニューの種類は少ないが安い食事が多い。ワチャワチャした雰囲気が苦手な人がそこで食べる」
男「土曜日なのに俺は暗い食堂に来てる。一人でご飯食べるのって全然慣れてないんだよな」
男「夕方4時というこれまた中途半端な時間だから誰にも合う心配もない」
男「人目を気にせずご飯を食べるのってなんだか惨めだな」
食堂のおばちゃん「はい、どうぞ」
男「えっ、頼んでないですよ」
食堂のおばちゃん「この時間はお味噌汁とおやつをサービスすることがあるのよ」
男「そうなんですか、ありがとうございます!」
仮面生活を通してこういう些細なラッキーと出会えると、嬉しい。
男「ただ空間にいるだけで、だんだんこの大学が好きになってくる」
男「今日も土曜日なのに図書館で勉強している人がたくさんいる」
男「もしも第一志望の大学に受かったとしても」
男「この大学を否定するような、愚かな自分にはなりたくない」
男「それは、今ここで頑張っている、自分を否定することでもあるんだから」
6月5日(日)
男「ふぅー。今日は午後から4時間も勉強してしまった」
男「そろそろ帰ろうかな。この調子で勉強すれば俺も来年には……」
女「慶應大学」
男「あっ、女。また来てたのか」
女「早稲田大学」
男「えっ?」
女「上智大学」
女「明治大学、青山学院大学、立教大学、中央大学、法政大学」
女「獨協大学、成蹊大学、南山大学、武蔵大学」
女「そして、あんたの大学」
女「私文三科目で受けられる関東の私大だけで、こんなに上があるのよ?学部によって差はあるけどさ」
女「4時間勉強したくらいで、自惚れるんじゃないわよ」
男「やる気なくすこと言うなよ」
女「あんたが油断しないように忠告してあげてんの」
男「それにしても、よくすらすら出てくるよな。まるで学歴板に」
女「張り付いてない」
男「…………」
女「張り付いてないから」
男「……はい」
女「勉強は順調?」
男「現代文ちょっと、古文単語ちょっと、漢文ちょっと、英語ちょっと、世界史手付かず」
女「まあ二浪までは就活に影響しないって言うし」
男「不吉な前提立てるなよ。二浪する気はないし」
女「学費も凄いからね」
男「勉強のやる気でないんだよな」
女「私だって出ないわよ」
男「嘘つけ」
女「勉強したくなさすぎて親と喧嘩して流血沙汰になったことあったくらいだし」
男「想像できないわ」
女「でも今は勉強にそんな抵抗感ないかな。慣れちゃったし。それに模試受けて高い偏差値が出るのも快感だし」
男「聞き流したいセリフでました」
女「受験勉強で求められていることって、受験勉強をすることなんだと思う」
男「なにその当たり前過ぎる言葉」
女「頭の良さだけではない、ってことなのよ。頭の良さだけ図りたいならIQテストで測ればいいじゃない」
女「毎日やりたくもないことを自分に向き合わせる理性と、やりたくもないことをやってしまっている理性の無さの両方を兼ね備えた人間を選別するために受験の制度があるんじゃないかって思ってしまうわよ」
女「時々、勉強楽しいなって思うこともあるんだけどね」
男「サラリーマンとして優秀だからじゃないかな。困難な課題があって、辛抱強くその解決に取り組むところ。そのために自分のやる気も時間も注げるところ」
男「もしもその適性を確かめられてるんだとしたら、一生懸命勉強したところで、一生懸命勉強した人に求められるような忍耐力が要求される職場につかされるんだよな。なんだか疲れる話だ」
女「頭の良さだけを測りたいんじゃないのよ。IQテストによる選抜を実施している大学なんてないもの」
男「就職活動もSPIとか実施するけど、結局学歴見られるって親が言ってた。逆にIQテストと面接でダイヤモンドを探す小さい会社もあるって言ってた」
女「ねぇ、受験の制度って正しいと思う、それともおかしいと思う?」
男「採用する側の目線としては、学校の成績が優秀なやつってやっぱり真面目で頼れる奴多いし、正しいんじゃないかな。勉強する側の身としてはなんで古文や漢文の勉強しなきゃなんないんだよって思うことはあるよ。友達も言ってる。そのくせ、実際に使う機会のありそうな英語に関しても誰も勉強しないけど」
女「受験勉強が大変なのは日本の話だけじゃない。アメリカも、韓国も、インドも、日本と同じように数学や語学の勉強をしなければならない」
男「アメリカの場合は入学前よりも入学後の専門分野の勉強が大変だって話は聞くけど」
女「そういう違いもあるけどさ。ほら、さっき韓国の受験科目を調べてみたの」
女「大学修学能力試験。国語領域、数学領域、英語領域。他にも社会とか科学とか第二外国語とか、日本のセンター試験みたいでしょ」
女「人工衛星が打ち上げられていて、地球を滅亡させられる核兵器の設計図があって、携帯のゲーム機で誰もが遊んでいる。そんな頭の良い人達がいるこの世界で、受験という機能が役立っている」
女「そんな天才的な人たちがいる世界で、受験勉強に勝る選抜方法が見つかっていない」
女「みんながこの選抜方法に合意している。そのこと自体に大きな価値があるのよ。1万円札という紙切れが、大きな力を持つように」
俺が無意識のうちに。
公認会計士でも、弁護士でも、中小企業診断士でも、司法書士でもなく。
受験勉強をやってることに、繋がる話だと思った。
女「ところで、科挙って知ってる?」
男「世界史の資料集に載ってたな」
女「中国の官僚登用試験で、598年から1905年にかけて行われていたの。儒教の理解を求められて、自然科学的に対する理解は問われなかった」
女「その科挙が廃止されたんだもの。受験もそのうち、全く別のものになっちゃうかもね」
男「なるかなぁ」
女「ならないわよ。とっとと勉強再開しなさい」
男「…………」
今日の勉強時間 6時間
6月6日(月)
銀行口座の開設をしにいくことになった。
銀行印がなんなのかわからない。
ネットで探しても情報が多すぎてきりがない。
わかんない。
わかんなすぎて親に質問。
質問しすぎて結局親と行くことに。
また親。
なにかあったら親。
ストレスがたまりすぎて泣きたくなる。
俺はいつになったら自立できるんだろう。
いつから自分の頭だけで、生きていくことができるんだろう。
6月8日(水)
今日の勉強時間は1時間。
友:予備校講師曰く「この時期に第一群出てきますね」
脱落者。
お、俺は違うぞ。
6月9日(木)
10時起床。
男「もう止めようかな。読書しようかな」
男「だって、全然勉強してない」
"めんどくさい"
ただそれだけの理由で、全てが駄目になってしまう。
机に座り、参考書を取り出し、書かれていることを理解する。
それだけの作業を思うと気が重くなって、一日中携帯電話をいじくる。
勉強に対するトラウマもないし、勉強するための環境は完璧なほど整っている家庭環境に育って。
勉強をした時間に比例して成績が伸びる標準的な頭脳を持ちながら。
勉強をしたくない、という脳の切実な気持ちによって、怠惰のどん底に突き落とされていた。
もしも受験の神様が「これさえやれば絶対にその大学に最短で合格する」といった参考書のレシピを出してくれたとして、自分はちゃんとやるのか疑問だった。
根拠はないけれど、自分には成長する素質がある。
やればできる。
勉強さえすれば、良い大学に受かる。
だけど、やる気がでない。
やらないからできない。
そんな自分を、馬鹿だと思った。
6月14日(火)
女「林檎ちゃん、あんたのこと好きだって」
男「ないだろ。俺なんかに。というか、なんで知ってるんだよ!」
女「本当だって」
男「なんでそんなこと俺に言うんだよ」
女「言ってって頼まれたから」
そっぽを向いて言った。
顔がかなり赤らんでいて、目に涙が溜まっているのが見えた。
かなり不機嫌そうだった。
俺は精一杯の勇気を振り絞って、口を開いた。
男「……寝坊だ」
朝日を浴びて気づく。
必修科目の英語を3回休んでしまった。
6月17日(金)
林檎「やあ」
男「のわあ!」
林檎「のわあ」
男「り、林檎ちゃんじゃん」
林檎「この授業一緒だったんだね」
男「そうそう」
林檎「あそこらへん座る?」
男「えっ?」
林檎「私目悪いから、前の方じゃないと見えないんだ」
男「う、うん! 座ろう!」
男「(隣に女子が座ってるのって緊張する。やばい、いい匂いする)」
林檎「男君かばんパンパンじゃない?」
男「あ、ああ。勉強熱心だから色々詰め込んでるんだよ」
林檎「本当かなぁ。毎日の講義の全部入れっぱなしにしてるとかじゃないよね」
男「あれ、ばれた?」
男「(更級日記にDUOに世界史のテキスト。一般教養って言って誤魔化せるレベルじゃない)」
男「(あれ、しかも……)」
男「あの……」
林檎「どうしたの?」
男「……教科書忘れちゃったみたい」
林檎「えっ!?」
林檎「そんなに詰め込んでるのに!?」
男「昨日家で予習してたら忘れちゃったのかも」
林檎「ふーん」
男「あはは」
林檎「忘却に関わる実験で有名なドイツの心理学者の名前は?」
男「…………」
林檎「今日はエビングハウスの忘却曲線について講義で取り扱うってね」
男「ああそうそう。ジパングハウス。俺の忘却曲線が曲がりすぎててうっかり忘れちゃってたよ」
林檎「かばんの中見せて」
男「無理」
林檎「何入れてるの?」
男「ごめん、漫画とか授業に関係ないもの入ってる」
林檎「はぁ。そんなことだろうと思った」
男「(そんなことだろうと思われてしまった……)」
男「今日は良い1日だったな」
男「センターまで残り211日か」
男「明日になったらセンターまで残り5000時間を切る」
男「前回の6000時間地点からの1000時間でやったこと」
男「速読英単語の音読。DUOちょっと。更級日記の長文ちょっと。世界史の古代と中世の復習」
男「女だったら1週間で終わらせられる内容だぞ……」
男「はぁ……俺こんなんで」
男「林檎ちゃんから返信来てる」
林檎;気にしないで!これからもよろしくね。面白いマンガあったら貸して(笑
男「今日は素晴らしい1日だった」
6月17日(火)
大学の友達と話してても全く楽しくない。
最初は向こうをつまらないと思ってたけど、じゃあ自分から面白い話題を触れるかというとそうでもない。
向こうからしたら自分の方がよっぽどつまらないのだろう。
サークルも、バイトも、何もしていない男子大学生。
向こうが最近の出来事について話してくれても自分は全て「そうなんだ」としか返せない。
こちらが古文単語帳の話題を振ったらくいついてくれるだろうか。
皮肉なことに。
時々予備校に通ってる友達と会話をすると、それはそれは話が弾む。
↑訂正 6月14日(火)
6月17日(金)
林檎「今日はテキスト持ってきたんだね」
男「エビングハウスの忘却曲線の存在も忘れてない」
林檎「完璧だね」
男「まあ」
林檎「あとはサークルだけだね」
男「長い勧誘だな。本格的な活動はいつなの?」
林檎「11月に文化祭があるから、夏頃から準備が忙しいね」
男「へー……」
林檎「夏休み、なんか予定あるの?」
6月19日(日)
女「あと10点なんて、全然惜しくないわよ!!」
女「文化構想学部に補欠でぎりぎり受かった友達がいるわ。その子は過去問で国語で満点をとったこともあるし、センターで三科9割取ってた」
女「早稲田の受験生ならセンター試験で国語9割、英語は発音以外満点、歴史満点みたいな人が平気で受けてくるからね」
男「希望のない話だな」
女「希望は自分でつくるものよ。だからみんな勉強してるのよ」
女「何が夏休みちょっとくらいバイトしても大丈夫かな、よ。してもいいわよ。してもなお受かる見込みがあるのならね」
男「やっぱりきついよな……」
女「あんたお金は親が出してくれるんでしょ?」
男「そうだけど」
女「1学部の受験料なんて日雇いのバイト3日分でも少し足りないくらいよ。親孝行をしたい気持ちはわかるけど、今は勉強してればいいの」
男「う、うん。わかったよ」
女「まったく」
男「(サークルに入っても大丈夫かなんて聞けなかった)」
男「(親孝行なんて1mmも考えていなくて)」
男「(自分が幸せでいられる場所や可能性をできるだけ多く確保しておきたい、それだけなんだ)」
男「(俺の性格、仮面浪人の悪いところの寄せ集めみたいだな)」
6月30日(木)
勉強時間0
7月1日(金)
林檎ちゃんのサークルの話題が楽しそうだった。
勉強時間 0
7月2日(土)
寝坊。体育六回目の欠席。勉強三時間。
DUOをそれなりにやり終えた。
けれど。自分が覚えている速度以上に、自分が過去に覚えたものを忘れている速度が上回っている気がしてならない。
7月3日(日)
夕方に起きた。
今から図書館に行っても間に合わない。
最近受験のことを考えるの避けてる。
時々張り切って勉強しては、とたんにやる気を失って無勉強の日が続く。
現役の受験終わってから4ヶ月近く経ってるのに、世界史一周すら出来てない。
古代まあまあ、中世そこそこ、近代ちょびっと、現代手付かず。
こんな自分が早稲田に受かるか考えると思考が止まる。
ひたすらネットや面白い動画を見たりして気分を紛らわしたくなる。
センターまで残り1195日
↑訂正 センターまで残り195日
7月4日(月)
男「きっかけなんて何も無い」
男「今日変わるって決めるんだ」
男「ある日を、何かの出来事をきっかけに勉強する自分になることをいつもどこかで期待してしまっている」
男「そんな奇跡に今まで通りすがって、今まで通り裏切られ続けるのかよ!」
男「自分で自分を変えるしかないんだ……!」
今日の勉強時間 5時間
7月5日(火)
男「受験生の天王山なんて言葉に惑わされて、8月を特別視するな」
男「7月と8月とで時間の流れが異なるとでもいうのか」
男「8月に頑張ればいいと7月を捨てる人間が、8月に頑張れるかよ」
男「なあ。俺」
男「頼むから、机に座って、勉強、しろ!!」
今日の勉強時間 5時間
7月6日(水)
男「集中力が続かない。数分勉強したら携帯に手を伸ばしてる」
男「仮面浪人スレでも見るか」
618:07/06(水) 16;39 DE0Qz0No0[sage]
落ちた時のリスク考えて仮面してたけど
仮面してたほうが落ちた時のリスク高いんだな…
友達少ないわ、単位も微妙だわ、サークルも入ってない…
仮面成功させないと楽しいキャンパスライフが送れない…
男「ほんとそれ。ハイリスクローリターンだよ」
男「こんな惨めな状態で2年にあがるくらいなら」
男「もう一度、この大学に入り直したほうが、よっぽど楽しいよ」
今日の勉強時間 7時間
今日はここまでです。おやすみなさい。
[7月8日(金)]
男「やばいよやばいよやばいよやばいよまた英語逃したあわわわ」
男「早稲田落ちたらどうなるんだろう」
男「サークル2年から入るのか?」
男「友達は4人しかいない」
男「申請単位も少なすぎる。取れたとしても評価もきっとCくらい」
男「絶望的だよ。受験落ちて単位落としたら人生詰む」
男「単位を落とさなくても一生敗北感を引きずるのだろうか」
男「あぁ、こぇえ……」
[7月11日(月)]
男「お母さん。お願いがあります」
母「なに?」
男「これが俺の時間割。壁に貼っとく。朝起きられないからさ、起こしてくれない?」
母「いいわよ」
この日以降俺は、朝物凄い眠気に襲われてもちゃんと学校に行くことになった。
起こされるは一時の恥。起きぬは一生の恥。
[7月14日(木)]
高校2年の時にクラスが一緒だった浪人中のクラスメートからメールが来た。
体育会系で、勝負好きで、熱意ある性格をしていた。
浪人生:大学どこ?
男:ニッコマ
浪人生:模試の成績も悪くなかったじゃん。第一志望どこだったの?
男:早稲田
浪人生:妥協するなよ。浪人しないの?
男:仮面浪人してる
浪人生:なるほどな!!大変だろうけど俺は応援してるからな!!俺も早稲田第一志望なんだ。一緒に行こうな!!
男:うん。ありがとう
男「…………」
男「嫌味もないし、向上心のある良い奴だって知ってる」
男「でも、もしも」
男「俺が仮面浪人という手段ではなく」
男「この大学で努力して、この大学で成果を出すことに日々を注いで、この大学を好きになっていたとしたら」
男「どんなに悔しかったろう」
[7月19日(火)]
男「最近勉強時間は増えてきたけど、気づいたら携帯をいじってる」
男「仮面浪人スレでも見るか」
574:07/18(月)18:04 0hQsK9lW0[sage]
来週から同志社の試験が有って。そろそろ受験勉強したくてもなかなか出来なくなってきた。今年から1週増えて、今日も祝日なのに講義やりやがる。
受験勉強できる時間が有ることがどれだけ有難いか、仮面して初めて分かった気がするよ。今思えば現役の時は甘えてた。
601:07/18(月)22:14 3MSZdAzN0[sage]
なでしこは
1試合400本のパスを成功させるために
何万本のパスを練習するのだろうか
イチローは
年間200本のヒットを打つために
何万回バットを振るのだろうか
そう考えると
俺達が本番で一問解くためにすべきことは
わかりきってるよね
[7月21日(木)]
男「休憩。仮面スレみよう。情報収集情報収集」
733:07/20(水)06:49 31RKn37/0
>>716
明治政経←マーチ最上位
日法←私立後期最上位
同志社←関西私大最上位
慶應経済←東大等の滑り止め
まぁ、この4つが多くなるのは必然だね
男「確かにこれらの大学・学部の人の書き込み多かったからな」
男「鶏口となるも牛後となるなかれ、ってみんな高校で習ってるはずなんだけどな」
男「皮肉だよな。高校で習った漢文教育を無視して、大学で高校の漢文の勉強をし直してるなんて」
男「ああ。俺も闘わなくちゃいけない」
男「闘志を燃やして牛後にならなければならない」
男「こんなことを考えながらだらだら携帯をいじってる」
[7月22日(金)]
『おめでとうございます。合格です』
男「う、うそだろ!!」
男「早稲田の政経に受かった!!!」
母「本当!!おめでとう!!」
父「凄いじゃないか!!おめでとう!!」
男「凄い、まじか。まじかよ」
男「でも、でも……」
男「そんなわけがない。受かってるわけがない」
男「だって、俺、早稲田に受かるほど勉強してない」
母「何言ってるのよ。今おめでとうございますって言われてるじゃない」
父「ははは。夢でも見てる気持ちなんだろう」
男「違うんだよ。違うんだって……」
男「俺、勉強してないんだよ!!」
林檎「わっ!」
男「……えっ」
クスクス……
林檎「……男くん。居眠りしてたでしょ」
男「あ、その」
林檎「そりゃあ、居眠りしてたら、勉強できないでしょうね」
男「ごめんなさい……」
成功する夢は吉報の印だと言われているが。
それを無意識の中で否定するほど、俺は自分のことなど信じていないんだ。
7月24日(日)
女「…………」
男「あの」
女「…………」
男「こ、こんにちは」
女「もうやめたかと思ってた。あんた最近見なかったし」
男「今更やめる仮面浪人なんていないよ」
女「私は仮面浪人をしています、っていったら誰でも仮面浪人になれるからね」
男「仮面浪人をつらいと思ったことはあるけど、やめたいと思ったことなんて1度もないよ」
女「私に言ってどうするのよ。さっさと勉強すれば?」
男「は、はい」
今日の勉強時間 5時間
男「ふぅー。閉館の時間か。今日もなかなか集中できた」
女「あんたさ、休憩挟み過ぎじゃない?ちょっと勉強しては携帯ばっかいじって。気が散るんだけど」
男「(席かなり離れてたんだけどな)」
男「集中力が続かないんだよ。というか、女だって時々いじってるじゃん」
女「なにそれ!あんたに見られてると思うと気が散るんだけど!」
男「えっ、ごめんなさい……」
女「大学の授業だって1コマ90分でしょ。まともに聞いてないんじゃない?というか、授業まともに聞いてる余裕なんかあんたにあるの?」
男「大学生が大学の講義聞いて何が悪いんだよ」
女「出た!仮面浪人の都合の良い時だけ大学生になるの術!」
男「世界史の文化史に役立ちそうだと思って芸術論の授業取ってるんだけどさ。前回の授業で聞いた、画家のセザンヌとゾラの逸話が面白かった」
男「パリから来たよそ者のエミール=ゾラはクラスの中で仲間はずれにされていた」
男「でも、セザンヌだけはゾラに話しかけた。そのせいでセザンヌはクラスメートと喧嘩になったんだけど、翌日ゾラがセザンヌに一籠のりんごを渡したんだ。二人は後に親友になった」
男「セザンヌは父の勧めで法学校に入学するんだけど、昔からの画家の夢を諦めていなかった。そんなセザンヌにゾラは一通の手紙を出す」
男「『僕が君の立場なら、アトリエと法定の間を行ったり来たりすることはしない。弁護士になってもいいし、絵描きになってもいいが、絵の具で汚れた法服を着た、骨なし人間にはなるな』」
男「結局セザンヌは大学を中退して、絵の勉強に専念するんだ」
男「ゾラが背中を後押ししたおかげでセザンヌは迷いから断ち切れたんだ。なんか、画家の友情エピドードにぐっときちゃったよ」
女「…………」
女「私達、絵の具だらけの法服を着てることになっちゃうと思うんだけど」
男「あっ……」
女「はぁー。まったく、わかってないわね。いい加減な画家もいればいい加減な法曹もいるわよ。中途半端な場所で一生懸命やってれば、その人は中途半端な人じゃないのよ」
男「はい……」
女「あんたみたいな凡人でもやる気が出るような、もっといい言葉を教えてあげるわ」
女「おほん」
女「なでしこは、1試合400本のパスを成功させるために何万本のパスを練習するのだろうか」
女「イチローは、年間200本のヒットを打つために何万回バットを振るのだろうか」
女「そう考えると、私達が本番で一問解くためにすべきことは、わかりきってるわよね」
女「どうどう!?良いセリフだと思わない?」
男「……出典とかあるの?」
女「あー、えっ、あはは。出典といえば、早稲田では古文の文化史が毎年問われる学部があるから語呂合わせかなんかで覚えておくといいわよ。古文研究法っていう緑色の参考書があるんだけど、その巻末に古文の色んな作品が年代順に記載されてるから参考になるわ。昔の世代の参考書だから通常使用はやめなさいよ」
女「ほら、とっくに閉館の時間よ。さっさと帰って勉強するわよ」
男「(……女が携帯をいじってる時にどこのサイトを見てるのかわかった気がする)」
・勝者のひとりごと
「自分がいつも変化し成長しているのが見える」
敗者のひとりごと
「違う人間になれたらなぁ」
・「あなたが、あんなふうになりたくないと思っていればその通りになるし、これだけは欲しくないと思っていればそれを得ることになる。すなわち、あなたは、自らが思い描いているものになるのである」
『成功の心理学』著 デニス・ウェイトリー(ダイヤモンド社)
7月26日(火)
去年の10月の早大プレの成績上位者を眺めていたらあることに気づいた。
出身高校に、高卒認定大検と書いてある人が少なくない。
7月27日(水)
367:07/27(水)02:42 G7anNsx30[sage]
俺らってすごいよな
不本意だったとしても今の大学に入って、
そこで普通の大学生活送る楽しさを捨ててまた受験勉強
すごいよ
まあ自分の場合今の大学じゃ楽しめないから仮面してるしみんなも同じ気持か。。。
7月28日(木)
"受験生のみなさんは、勉強に疲れたら志望校にぜひ足を運んでみてください。自分が来年から通う姿を想像すると、やる気が沸きますよ!"
男「早稲田駅につきました。雨が降っています」
男「ここに来たのは入試の日以来だな」
男「早稲田っていうと高田馬場のイメージがあったけど、最寄り駅は早稲田駅なんだよな。高田馬場駅からだと歩いて20分くらいかかるし」
男「電車から降りた時に"早稲田 早稲田"って到着駅を知らせるアナウンスが流れるけど。その時に早稲田生は内心どんな気持ちで駅を降りているんだろう。正直、今仮面浪人してなかったら、嫉妬で爆発してたと思う」
男「今ここにいるキャンパスに向かってる人達って、全員早稲田生なんだよな」
男「キャンパスについた」
男「雨の中、大量の早稲田の学生が歩いている」
男「一人のニッコマ生とすれ違う早稲男と早稲女」
男「俺は」
男「ここにいる無数の人達の」
男「ただの、一人にも勝てなかったんだ」
男「これだけ大量の学生がいて。合格最低点の人にも全く及ばないくらいに」
男「俺がダントツ、ビリなんだ」
男「…………」
男「帰ろう」
どんな難関大学に現役で合格して心理学を学んでも、この気持ちは一生解釈しきれまい。
7月31日(日)
48:07/25(月)01:49 oa6IfVJy0[sage]
完成させてから受けるってのがもう模試の意味ほとんどない
9割損
472:名無しなのに合格 07/28(木)20:11 xEjk6hfz0
浪人生 さんずい取って 良い人生
他人の人生 水差すな
俺いつもこれ見て頑張ってる
475:名無しなのに合格 07/29(金)01:14 0/Fi40yV0
>>472
浪人
涙のあとの
良い人生
もいいよ
男「(もう7月も終わりか)」
男「(勉強したような、してないような)」
男「(前期ももっと一生懸命勉強しておけばよかったな)」
女「何携帯みてんのよ」
男「わっ」
女「どうしたの。浮かない顔して」
男「浮く顔したほうがいい?」
女「うん」
男「ぷくぅ」
女「フグかよ」
男「トゲも毒もないよ」
女「ずいぶん弱気だね」
男「心が不健康になってる」
女「運動してる?」
男「してない」
女「私は朝時々走ってるよ。受験はマラソンってよく例えられるじゃん。あれって、長期戦で向き合うから、って意味だと思ってたんだけど」
女「実は本当に長距離走った方がいいからマラソンに例えられてるの。なんてね」
男「偉いな」
女「男子はいいよね、夜走れるし。かよわい女の子じゃ危ないんだもの。朝走った後シャワー浴びるの面倒くさいのよね」
男「たしかに、可憐な女の子ひとりじゃ夜危ないよね」
女「うっさい」
男「痛っ!なんで!?」
女「前期も終わったね」
男「それだよ。はぁー」
女「嫌なの?」
男「もっとちゃんと勉強しておけばよかったって」
女「今そう思う割には、帰ったらどうせすぐ寝るんでしょ?」
女「みんな過去の自分に頼り過ぎよ。過去を毎日悔やむエネルギーはあるのに、今を毎日育む気持ちはまるでない」
男「厳しいなあ」
女「入試が迫るのは怖いけど、いつまでも終わらない方がずっと大変だと思わない?医者とか、弁護士とか、数年がかりで勉強する人達ってどんなメンタルしてるんだろうって思っちゃう」
男「たしかにね」
女「ということで、前期お疲れ様でした」
男「えっ」
男「ええと、そちらこそ、お疲れ様」
女「私は友達と映画に行くのでこれにて」
男「うん」
女「じゃあね、浪人生さん」
きっかけなんてない。そう気づいたのがきっかけだった。
8月1日から俺は、様々な感情を経験する。
天王山なんてくだらないものはまやかしで、8月に魔力があるわけでもなく。
1日1日に意味があって、9月も、10月も、本気で時間を大切にすれば全ての月日は特別で。
人や本や映画との運命的な出会いが一切なかったとしても、1日1日が、自分を好きになるきっかけになる。
自分を好きになるために出会いを求めていたのに。
諦めて孤独で自分に打ち込んだ後になって。
運命的な出会いが起こるのは、とても皮肉なことだけれども。
受験に限らず、失敗から這い上がった人の体験記を読んでいると、こんな文章をよく見かける。
「勉強もできないし、スポーツも苦手で、特にモテることもなく、こんな自分を変えたいと思って……」
勉強ができなくて、絶望するだろうか。
スポーツが苦手で、絶望するだろうか。
この2つは単なる照れ隠しにしか過ぎなくて。
「好きな人と、結ばれなかった」
心の底の本音では、青春に対する後悔なんてたったこれだけなのではないか。
自分だけで自分を好きになるというのはとても難しいことで。
自分が好きな異性から自分を好きになってもらう経験を通して、初めて自分自身を認めてあげられるのだと思う。
人は自分で自分を認めるために、人生を賭す生き物だ。
生きててよかったと思うために、死に物狂いになる生き物だ。
数多くの後悔を抱える中で、自分を認めるための手段としてあえて"勉強"を選んだのは。
"知りたい"。
この気持ちが、人間の、本能だからではないか。
恋愛で後悔していても。
単に、学歴コンプレックスだけに苛まれていても。
古文単語の暗記や、英文解釈の方法や、世界史上で結ばれた条約の締結の理解等を通して。
参考書を1頁めくる度、仮面の下の自分を少しずつ許していく。
今日はここまでです。おやすみなさい。
唐突ですが、私自身の使用した参考書と勉強法を紹介します(物語の都合上読みやすくなるため)。
早慶プレ名前掲載者・早慶合格者から聞いた情報やネットから寄せ集めた情報を元にしています。
男の入試終了までに行う勉強も下記の設定とします。
参考書名(著者 出版社) 敬称略
☆マークはおすすめのもの。
※5年以上前の情報であるため、参考程度にしておいてください。
【国語】
[語句]
・語句ェ問(板野博行 星雲社):広辞苑、明鏡国語辞典に記載されている意味と微妙に異なるが、語彙の理解に役立つ。
☆漢字元(板野博行 星雲社):頻出の500語は様々な大学でよく出題される。
・現代文キーワード読解(Z会出版編集部 Z会):現代文テーマが多方面に網羅されている。
[読解]
☆現代文読解力の開発講座(霜栄 駿台文庫):解説を読んだら本文が浮かんでくるくらいに、見て構造を徹底的に覚え込む。
・ゴロゴ板野の現代文解法565パターン集(板野博行 アルス工房):接続詞の理解に役立つ。
・ゴロゴ板野のセンター現代文解法パターン集(板野博行 星雲社):センター国語の特徴の理解に役立つ。
[古文]
☆古文単語FORMULA600(富井健二 ナガセ)…例文ごと覚えれば古文に相当慣れる。古文を捨てたい人はこれだけ覚えて、傍線部の単語の意味だけで解答する戦略も可能。
・富井の古典文法をはじめからていねいに(富井健二 ナガセ)…文法理解に役立つ。
・富井の古文読解をはじめからていねいに(富井健二 ナガセ)…古文世界の雰囲気を掴める。絵も多く息抜きにもなる。
☆風呂で覚える古文文法(教学社編集部 教学社):文法慣れに最適。ホチキスを取ってばらばらにし、お風呂の鏡に貼り付けて勉強。
☆元井太郎の古文読解が面白いほどできる本(元井太郎 KADOKAWA):単語も文法も覚えたのに古文で得点できない、という人の救いの書。
[漢文]
☆漢文早覚え速答法(田中雄二 学研マーケティング):受験漢文に必要最低限の情報だけが記載されている。熟語や文法の頻出事項を詰め込んだ先生と弟子の会話文という最強のおまけつき。
・漢文速点法田中式問題集(田中雄二 学研):問題慣れに使用。
☆風呂で覚える漢文(教学社編集部 教学社):漢文の文法慣れに使用。ホチキスを取ってばらばらにし、お風呂の鏡に貼り付けて勉強。
【英語】
☆速読英単語(必修編):1長文につき1時間以上かけて15回ずつ音読(黙読でじっくり理解→理解したことを音読で覚え込む)。前半部分の長文では1長文につき最高80回(累計)、章の後半でも最低30回程度は音読。綺麗な発音などどうでもよく「0秒和訳、文構造の0秒理解」のために、英語の意味をそのまま脳で理解するために覚え込む。
☆DUO3.0/ザ・カード(鈴木陽一 アイシーピー):本よりカードが気楽で、移動中も勉強しやすい。難関大や英検準1レベルで頻出の単語と熟語を最低限の短文に詰め込んでいる(組み合わせを考えるのに著者はかなりの努力を要したのではないか)。内容にシリアスやギャグが混ぜてあって内容も面白い。
☆DUO3.0/CD復習用(鈴木陽一 アイシーピー):速いスピードのCD。徒歩中や寝る前に聴く。耳で覚える利点として、熟語を暗記できるので、熟語の穴埋め問題にかなり効果的。センターリスニングでも8割付近まで狙える。
・単語王2202 フラッシュカード(中澤一 オー・メソッド出版):言葉の意味は複数載っているが、1つ目の意味だけを覚える。速読英単語に載っていない単語の記憶のために使用。
フラッシュ!速攻英文法(中澤一 オー・メソッド):英文法の問題対策に使用。
・英文読解入門基本はここだ!(西きょうじ 代々木ライブラリー):基礎の理解に使用。
・ポレポレ英文読解(西きょうじ 代々木ライブラリー):英文解釈の本。これさえ極めれば省略・倒置が入り混じった文構造も理解できる。「単語は全てわかるのに読めない」難関大学に効果的。ただし内容が簡略的で難しく、実力がある人でも1つの長文の理解に70分要することも(逆に初期に手を出すと吸収しきれずに和訳の記憶に終わってしまう)。実力がつき、理解が出来た長文から音読し「0秒和訳、文構造の0秒理解」ができるよう脳に覚え込ませる。
【世界史】
☆世界史B一問一答(斎藤整 ナガセ):早慶を目指すならこの1冊だけで充分。MARCHも確実に合格水準に達する。
・世界史でるとこ攻略法(山口由紀子 シグマベスト):語呂合わせで世界史の内容を覚えたい人向け。
以上。その他浮気した多数の参考書を使用。
【その他本(モチベーションUP)】
・ゼッタイ!早稲田(Benesseマナビジョン編集部 ベネッセコーポレーション):早稲田大学の学生生活について記載。他にも勉強法等記載。
・強く生きる言葉(岡本太郎 イースト・プレス):太陽の塔製作者、芸術家岡本太郎の著書。「信念のためには、たとえ敗れるとわかっていても、おのれを貫く。そういう精神の高貴さがなくて、何が人間ぞとぼくはいいたいんだ」
・私の早慶大合格作戦:合格体験記が全国から寄せられる中で、選ばれた体験記であるだけに、イレギュラーな内容が多い。よくその状況で諦めなかったなとか、こんな凄い人もいるんだなとか。励みになる。多浪生の勉強法は邪道な場合があるので注意。
・「大学時代」自分のために絶対やっておきたいこと(千田琢哉 三笠書房):簡潔な言葉で本質を突く。自己啓発本は見下していたのだが、親が心配するくらいにすっかり信者になってしまった(親の気持ちはまぁわかる)。著者のウェブサイトにあるブログのテーマで「1%ノンフィクション」という恋にまつわるお話が本当に面白い。
【サイト】
☆早稲田への道
http://babayuhei.sakura.ne.jp/r2wsd/
ひきこもり状態から半年で早稲田の政経に合格した人物(u氏)が、ネット上に勉強法を投稿したもの。u氏こと馬場祐平氏は2017年5月現在、センセイプレイス株式会社の取締役を務めている。
「受験はゲーム!道塾式劇的合格法(馬場祐平 著 光文社)」に載っている「メイン・サブ・サブサブ理論」は、エビングハウスの忘却曲線を受験勉強に適応する上で非常に役立つ。確かに参考書は、毎日5頁ずつやっても無意味に等しく、1週間かけて1周終わらせるべきものだ。
・早稲田集中力研究会
http://shuchuryoku.jp/?p=2101
記事が多いためタイマー式勉強法のurlを紹介。
「勉強は60分集中するもの!」「できるだけ長く頑張るもの!」という固定観念を払拭させてくれた。
15分頑張って、休んで、15分頑張って、休んで、を繰り返してもいい。
その結果、勉強慣れしてきて、60分くらい連続で勉強したくなる自分に近づいていく。
余談だが、受験日程を3日くらい連続させると「そんなに詰め込んだら疲れちゃうよ」と親や教師から言われたことがあったが。
(国語90分+英語90分+歴史60分)×3日で疲れるというのなら。
どうして「受験生は毎日8時間勉強!」神話は否定しないのか。
そう。
実は、入試並みの集中力で勉強できている学生なんて、ろくにいないのだ。
・偏差値70からの大学受験
http://gakushublog.net/archives/223/
(本サイトが消滅?していたため、引用サイトのurl貼り付け)
仮面浪人の物語。偏差値以外の全てのものを否定して勉強していくスタイル。
以上です。
上記、紹介した本やサイトについて、私は利用者という立場以外において一切関係を持っていません。
物語も、仮面浪人スレからの引用等はありますが、作中の人物・出来事はフィクションです。
続きを投稿していきます。
仮面浪人の夏 3頁目
合格者(男性:偏差値69)「迷った時は他人を助ける。その積み重ねが、いつか自分が自分自身を助けるのに役立つ」
8月1(月)
男「初期に比べたら俺も勉強するようになってきたな」
男「勉強が好きになっていくというよりは、勉強をしてる自分が好きになっていく」
男「さてさて。そろそろ本気で志望校を絞り始めましょうか」
男「早稲田の政経、法、商、文、文化構想、社会科学、人間科学。君に決めた!」
男「国際教養は1年間の留学が必須。日本も乗りこなせないのに海外行く勇気ないわ」
男「スポーツが苦手だからスポ科もやめる」
男「教育学部も受けると受験日程が4日連続になっちゅからやめる。それに、俺は、学校の先生と良い思い出つくれなかったからな」
男「まあ!これで、7つも受けるなら1学部くらい受か……」
男「らなかった去年」
男「不合格連発で弱りきってた俺に、この世に合格が存在することを教えてくれたあの時が一番この大学を好きだったかもしれない」
103:08/02(火)22:44 qDJanhYz0
自分の部屋で長時間の勉強なんて1000%不可能だろ
マンガゲームパソコン布団なんでもあんだから
意識を変えるにはまず環境を変えることだな
図書館とかいいぜ
116:08/02(火)22:48 AVUYbvhW0
家帰ったら絶対勉強できないから自習室篭る
どうやったら家で集中してやれるんだよ
男「本当、この書き込みの通りだわ」
男「自分を信じちゃだめだ。自分を理解するんだ」
男「俺は家では絶対勉強できない人間だから、家で勉強する計画は絶対にたてない」
男「でも深夜は何故か頑張れるから、寝る前の二時間は英語の音読に捧げる」
男「勉強を通して自分の特性を理解していくのって、ちょっと楽しいな」
8月3日(水)
男「新聞に入試カレンダーが載った。去年の日程とやっぱり大して変わりないな。大学の試験ともやはり重ならなくてよかった」
男「上智と慶應も受けようかな」
男「…………」
男「素敵な難関大学だけど、滑り止めにはならないし、傾向も違うからやめておこう」
8月7日(日)
女「なんでいるのよ」
男「いつものことじゃん。勉強だよ」
女「今日って早稲田のオープンキャンパスの日よ」
男「現役女子高生が多そうで怖いから行かない」
女「引きこもりね」
男「閉ざされた学び舎(クローズド・キャンパス)」
女「技名っぽく言ってもださいわよ」
女「友達の先輩が言ってたことなんだけど」
女「オープンキャンパスの時に5円玉を大学に埋めて、受かったあとにその5円玉を拾ったんだって」
男「いい話だな」
女「私も東大にプリクラでも埋めてこようかな」
男「5円でいいでしょ」
女「王子様みたいな先輩がそのプリクラを見つけてね。赤門の前にたって被写体を探すの。でも現役東大生の中にその少女はいない」
男「模倣版シンデレラってタイトルつけていい?」
女「翌年の入学式、私は合格して、運命の出会いを果たすの」
女「ああー、勉強頑張ろう!」
男「(女が解いてる難解な参考書の知性と、目の前の女の発言の知性が一致しない)」
男「ふぅー。今日もたくさん勉強したな」
男「寝る前にネットでも見るか」
男「……大学受験浪人速報。ちょっと怖いタイトルのまとめサイトだな」
http://ro2n.blog46.fc2.com/blog-entry-261.html
240 :名無しなのに合格:2006/06/16(金) 01:55:22 (p)ID:++wIq/J60(1)
一浪地方旧帝だが、五浪の友人がいるよ。
まあ入ってしまえば、現浪は友人間ではあまり気にならない。就職はどうか知らないが。
ちなみに彼はフリーターから、一大決心をして二年間で受かったらしい。
ただその二年間は毎日8時間は休まずきっちりこなしたそうな。
俺も宅浪だったけど、毎日10時間ちゃんと勉強し続けたよ。一年を通じてそれをしなかったのは、4日だけ。
それでも京大は駄目だった。後期で第二志望に受かったからよかったものの、併願の早慶には落ちてしまった。
もちろん受かっても今の大学に行くつもりだったが、やはり私大でも早慶だけは別格であることを再認識させられた。
はっきり断言しておくが、126は今のままでは絶対に今年中のマーチ以上合格はない。早稲田など夢のまた夢。
「絶対早稲田に受かるという『確信』」ではなく、その「妄想」ではないかな。
早大模試でA判定が一度でも出ているのかい。
1教科1時間で「濃密な時間」とか何を寝ぼけているんだい。君は早稲田を馬鹿にしているのか。
君が受かるぐらいなら、俺はとっくに京大生だよ。
男「……今日は6時間勉強して、凄い満足してた」
男「脳科学や心理学の本で読んだように、寝る前早稲田に受かる妄想して喜びに浸ってる。馬鹿にしてたようなおまじないを一生懸命やっている」
男「何か間違ってるんじゃないか」
男「現役時代と変わってないんじゃないか?」
男「マーチなんて寝てても受かる、だったのが、頑張れば早稲田に受かる、程度にしか」
男「ちょっとだけ、音読してから寝よう」
今日の勉強時間 7時間
8月8日(月)
男「夏休みが始まってからは毎日大学の図書館に通っている」
男「今日は結局合計6時間」
男「もっと自覚してくれ」
男「最低でも8時間は必要だ」
8月23日(水)
父「おい、起きろ!」
男「な、なに」
父「いつまで寝てるんだ。もうな、勉強してる奴しか受からないんだぞ」
男「何を見て言ってんだよ」
父「いつも昼過ぎまで寝て。参考書代も受験料も払うのも全部親なんだぞ」
父「お前が小さい企業に入るのは目に見えてる」
子供に勉強をさせない1番の方法は。
子供に勉強を命令することだ。
夏休みは怒涛の速度で過ぎ、もう8月も終わりに近づいていた。
去年は友達と世界への不満を言い合ったり、書店でぶらぶらしているだけの夏休みを過ごしていた。
だが、今年の俺は19年間生きてきた今までの自分とは多少違っていた。
男「自分の特性にあった勉強をしよう」
その象徴として、螢雪手帳にはこう書き込んでいた。
『寝たいだけ寝る』
勉強時間=昼寝時間というように扱っていた(実際勉強時間のカウントには含んでいないが)。
眠い目をこすりながら頑張っても、何も頭に入ってこない。
どうしてこんな目に合わなければならないんだと、充血した目でストレスを抱えるような生活を送るくらいなら。
睡眠不足の一切ない状態で集中力を発揮する生活に変える。
おまけに、脳は寝ている間に記憶の整理を行う。
集中力が途切れた時に昼寝を挟むことで、脳の整理が行われるし、起きた後に再びフル気力で勉強を再開することができる。
夜型の自分は何故か夜中は家でも勉強できるので、0時から2時にかけて、家の片隅に椅子を置いて小さな声で英語の音読をした。
起きる時間も遅く、起きている時間も少ないかもしれないが、起きている時間はそれなりに集中して勉強をしていた。
もう一つ変わったのは、1日を切り捨てないということだった。
男「行ってきます」
母「どこに行くのよ」
男「大学」
母「もう夕方よ?」
午後4時までだらだら過ごしてしまった日でも、「明日から頑張ろう」と考えることをやめた。
夕方から大学に通う。
行きの電車の中で1時間。22時の閉館まで約5時間。帰りの電車で1時間。
夕方から頑張るだけで、7時間近く勉強できる。
朝から夜まで頑張った生徒にはとても追いつけやしないけど。
夕方まで無駄に過ごしてしまった受験生は、たいがいその日はやる気を失せて勉強していない。
上位20%の学生が朝から晩まで勉強し、下位79%の学生が勉強を翌日にまわすなかで。
夕方から勉強を行うと、上位と下位の間の1%の存在になれる。
夕方からでも勉強すれば。
成功した陣営に入ることはできなくとも。
失敗した陣営の、ダントツトップに立つことができるのだ。
自分が勉強できる場所についても意識をした。
家では全く勉強できない。
図書館ではそこそこ勉強できる。
電車ではかなり勉強できる(他人の目線の多い空間だから緊張が良い作用を及ぼすのだろうか?)。
ということで、電車に乗っている時間を増やすことにした。
大学からの帰りに乗る電車は、急行電車ではなく各駅停車にした。
乗客で込み入っている中を、立ったまま片手に参考書を持つよりは、空いている電車で座って集中して問題を解いた。
到着時間が遅れる分電車という環境に長くいられるので、その分勉強時間も増えた。
早く起きて満員電車に乗ることになった時でも。
必死で、片手で勉強をした。
携帯電話をいじる空間があるのなら。
その空間に、片手と小さな単語帳を置いて、必死に目で見て覚えた。
8月26日(金)
カチッ…
男「ストップウォッチで15分計って勉強しては休憩、を繰り返して。勉強した時間を紙切れにメモってたけど」
男「累計8時間40分」
男「1日でこんなに勉強したの、人生初かもしれない」
男「長距離走が苦手なのにマラソンをしろって言われたら、ずっと長く走る練習をするんじゃなくて」
男「一気に走っては休憩し、走っては休憩する走り方の訓練をすればよかったんだ」
男「自分を理解して、自分を合わせた勉強をする」
男「学校の天才キャラがあまりガリ勉してるように見えなかったのは」
男「自分にあった学習を、心得ていたからなんだ」
男「同じ参考書をただ繰り返しすすめる日々なのに、新鮮な出来事が多い」
男「一番驚いたのは、大学から出された夏休みの宿題を早々に終えてしまったことだ」
男「余計なものをちゃっちゃと終わらせて受験勉強に集中したいと思ったら、一気に集中して終わらせることができた」
男「高校時代までは最終日まで溜め込んでいたっていうのに」
男「自分の中にこんな真面目な自分がいたんだな」
男「今まで生きてきて、ずっと、気づかなかった」
9月2日(金)
263:09/02(金)19:41 gpsBfNmW0
恋愛してしまって勉強に集中できない
268:09/02(金)20:24 Ieotsb8/0
>>263
じゃあ志望校に振られても知らないよ。
9月4日(日)
男「ただいま時刻早朝5時28分」
男「昨日さすがに昼寝しすぎて生活リズム崩した」
男「6時間後に模試があるのに!」
…………
男「ふう、なんとか起きれた。午後開始で助かった」
男「……入試前には生活リズムに気をつけよう」
男「教室の右の方に制服着た学生が、左の方に私服着た人が固まってる。浪人に配慮してくれるのか河合塾」
男「よし。夏休みの成果を出すぞ!!」
…………
男「自己採点してみたら、概ね8割超えか」
男「悔しいな」
男「……ははっ」
男「8割取って、ちゃんと悔しいって思えるようになってたんだな」
9月5日(月)
男「……起床。朝の10時か。なんかうるさいぞ」
男「家族が何か話してる」
男「…………」
男「また俺の名前がたくさん出てきてる」
502:09/05(月)21:22 CTHU0QBH0[sage]
ずっと仮面浪人生を名乗ってきたけど自分は低学歴だと認めたくないだけで現実逃避をしていたのかもしれない
その証拠にろくに勉強してないし1日数時間はネットやってる
もう俺の人生滅茶苦茶だな
中学生の時に下手に勉強して良い成績取って夢見なきゃ良かった
503:09/05(月)21:24 8mD607sW0[sage]
>>502
俺と同じ状況
パソの時間長いし
けど、受けるよ
男「そうだよ。めちゃめちゃだよ、仮面浪人なんて」
男「勉強しなかったら、大学生でも、受験生でも、何でもなくなってしまうんだから」
9月8日(木)
母「マーチも受けなさい」
俺が居ぬ間に決定された家族会議の結果らしかった。
もう俺が早稲田大学に受かるなんて、ほとんど思っていないらしい。
男「(とか文句を言いながら)」
男「(俺自身、文系3科で受けられる国公立も気づいたら探している)」
9月10日(土)
男「12時に起きてから、昨日録画した高校生クイズを見た」
男「2位で終わった灘高校の人が泣いてた」
男「努力したから泣けるんだ」
男「今の俺は、早稲田に落ちても泣かないんだろうな」
男「もっと勉強しないと」
9月11日(日)
男「センターまで残り3000時間が過ぎた」
男「一昨日買った現代文キーワッド読解を一周した。以前よりスピード感増したな」
男「学校のテストも直前の12時間前から一夜漬けじゃないと勉強できなかった自分が、140日後に向けて勉強してるのって笑えるよな」
男「それにしても、日曜日はいつも地元の図書館に女いたのに、最近見ないことが多いな」
男「ネットの見すぎなら叱ってやんなきゃならんなぁ」
9月14日(水)
男「卒業証明書を貰いに高校に行った。ちゃんと今後必要になるものを準備してる俺偉いな」
男「それにしても懐かしかったな」
男「つまらない先生しかいなくて勉強できなかったなんて言って恨んでいたけど」
男「俺、馬鹿だな」
男「勉強したければどんな環境でだって勉強できるのに」
男「勉強以外のことを犠牲にさせないような校風で」
男「その上勉強をする人を応援するような校風で」
男「その高校で何も成し遂げられなかったからって高校を恨んでいた」
男「原因は、いつだって自分にあったのに」
男「さて。今日はもう電車に乗って家に帰るか」
「あれ、男?」
男「久しぶりじゃん!」
地元の女子と偶然遭遇した。
「ねえ、仮面浪人してるんでしょ?」
男「なんで知ってんの!?」
「噂になってるよ」
噂の発生元は友だった。でもそれは友が色んな人に言いふらしているという意味ではなかった。
この日以降も偶然地元の友達と遭遇することがあるのだが、その度に仮面浪人をしていることについて尋ねられた。
仮面浪人というのは、それだけ、みんなが興味を持ちやすい事柄であるということだった。
地元では決してトップ争いに参加するようなことがなかった俺みたいな一般の生徒でも。
むしろ、一般の生徒であるからこそ。
今自分にふさわしいはずの大学に通いながら、そこから抜け出すために勉強をしているということの成り行きは、みんなの関心の対象になった。
「頑張ってね!応援してるよ!」
男「うん。ありがとう」
男「はは。女子のああいう素直に男子を応援してくれる笑顔って、心臓に悪いくらい素敵なんだよな」
男「……無意味なプレッシャーを感じるな」
9月15日(木)
「あれ、男?」
男「久しぶりじゃん!」
今日も地元の女子と遭遇した。
目にクマができていた。
今は看護師試験の勉強と、キャバクラのバイトを両立しているらしい。
男「大変じゃない?」
「大変だけど、嫌じゃないかな」
女の子はこう続けた。
「あのさ、私さ、活字が大嫌いだったの。なのにさ、今、看護師以外の勉強もしてるんだ」
男「どんな?」
「池上彰さんの本を読んでるの。キャバクラってビジネスマンの人がよく来るんだけど、その時に政治とか経済の話がでることが多くて」
「池上さんの出てるテレビとか本とかを通して学んでいくうちに、話題に段々ついていけるようになったの」
「勉強って、楽しかったんだね」
俺は途端に後ろめたい気持ちになった。
男「(勉強って、楽しい……?)」
「学生時代にしなかった勉強を、キャバクラで働いてからするようになるなんて思ってもみなかったよ」
疲れていながらも笑う彼女は、魅力的だった。
中学時代に彼女の席の近くになった時に、勉強を嫌がる姿は見たことがあった。
その子が、"勉強したいからという理由で勉強している"。
男「(今の俺にとっての勉強は)」
男「(参考書を自分の足元に積み上げて、より高い偏差値と学歴に手を伸ばすだけの手段に過ぎない)」
俺は罪悪感に駆られた。
その後彼女は看護師になったと聞いた。
家に帰ると早大プレの成績表が届いていた。
父「一人で見たほうがいいんじゃない?」
自分を除いて家族みんなが笑った。
悔しさはあったが、自信がなかったので素直に従うことにした。
男「いざ」
早稲田大学 政治経済学部 政治学科 D判定
男「な、なんだよそれ……」
手が震えた。
男「なんだよこのざまは」
男「本当、なにこれ」
男「あんだけ勉強してこれかよ」
男「……ん?」
よく見ると、あと12点取っていれば成績優秀者として名前が掲載されるほどだった。
掲載者ですらC判定の人もいるらしい。
男「いや、言い訳しちゃだめだ」
男「受け止めよう成績を。勉強計画も模試の結果に合わせて修正しよう」
男「喜びも落ち込みもいらない。一時の感情に振り回される人間になるな」
模試の内容を復讐し、勉強計画に多少の修正を加え、眠った。
9月16日(金)
男「夏休みももう終わり。来週から大学か」
男「ずっと勉強してたから、大学が始まるのがそんなに憂鬱にはならないな」
男「本当、ずっと図書館で勉強してた」
男「普通の大学生が一日にする会話量を、1週間で行うくらい独りの時間が多かったな」
男「俺は、今」
Fラン大学の偏差値は40
今の大学の偏差値は52
今の模試の偏差値は62
第一志望の偏差値は72
男「どうして俺はこんなところにいるんだろう」
見下す気持ちと、虚しい気持ちに駆られていた。
この大学にいる人がよくバカにするFラン大学。
その差と同じ距離で自分もこの大学を心のなかで見下している
そんな自分と早稲田の距離も同じだけ離れている
男「どうして神様は雲の下の人を助けないか、塾の先生が面白いことを言ってたな」
男「神様は雲の上にいるから、雲の下の人が見えない」
男「人を見下すのも、手を差し伸べるのも、嫉妬するのも、全部雲の下にいる人同士でしか起こり得ないって」
男「仮面浪人をしていると性格がよくなりそうだよ」
男「だって、自分の嫌なところが、ありありと意識に浮かびあがるんだから」
9月17日(土)
男「中学生の頃、プライドだけが馬鹿に高くて周囲の人を傷つけて憎まれて嫌われたな」
男「中学時代は無為に潰した。高校時代は、中学時代の後悔で押しつぶされて潰した」
男「仮面浪人をしてから」
男「自分がいかに性格が悪かったか。現実を直視していなかったか」
男「考え方が誤っていたか」
男「独りの時間が増えたせいで、嫌でも自分のことを見つめ直していくことになった」
男「俺はさ、こんな俺にもやさしさを振りまいてくれた人達に」
男「ちゃんと、やさしさで返した時の自分の物語というものを見てみたかったよ」
男「プライドばかり高くて、本当に馬鹿だったな。今もちっとも直って無くて、偏差値をあげるためだけに日々を注いでる」
男「どうして俺は」
男「自分が発する言葉のうちの半分さえ、他人の幸せのために注ぐことができなかったんだろう」
男「ひねくれて、勇気や善を否定して良かったことなんて、何一つなかったよ」
男「俺はこのまま、ずっと自分を好きになれないのかな」
男「誰かのために自分を注げない人間のままなのかな」
9月20日(火)
「うち本当英語わかんないの。一般動詞とBe動詞の違いもわかんないくらい」
「確かにうちも正直わかってない」
付属高校あがりの学生が会話していた。
早稲田を歩いた時は、自分の偏差値だけが低くて惨めに感じたものだった。
なのに、自分の偏差値だけが高いここを歩いても奇妙な惨めさを感じる。
283:09/20(火)14:49 ig7W0qJe0[sage]
半年フルパワーでバイトして来年普通に予備校通おうかなとか一瞬考えてしまった俺を誰かブン殴ってくれ今すぐに
284:09/20(火)15:17 IzxY810t0[sage]
俺が自分から見えない壁はってるせいでもあるんだけど、大学の友達といても全然楽しくない。表面上だけ笑ってる会話。
>>283
オラっ!(ブォン!!
285:09/20(火)15:25 AccQCjvC0[sage]
>>283
予備校なんて行っても学力は上がらんぞ。
意思が強靭でない人が勉強するリズムをつくりにいくだけ。
仮面しながら勉強するのなんて余裕だろ。
土日10時間以上できるんだし、それで受からないなら仮面の有無にかかわらずどうせ受からない。
諦めるなよ。
286:09/20(火)15:27 XlIHG7Pn0
>>284だよな。腹を割った話を大学入ってからしてない気がするわ。
予備校生との話のほうが面白いわ。
287:09/20(火)15:27 rWkBtd/F0[sage]
>>284それわかるわ
所詮言い訳だけど、だから馴染めなくてサークル辞めたってのもある
ここの人はサークルやってんの?
288:09/20(火)15:30 4h5yv1aD0
>>284
すげー分かる
誰にでも下積み時代は必要なんだし頑張ろうぜ!
来春に懐かしく思えるように
289:09/20(火)15:34 UIcqhG9N0[sage]
>>287
サークルやってない
最初やろうか考えたけど思い止まった
下手に友達増えても遊びの誘い断るの面倒だし
290:09/20(火)15:42 rWkBtd/F0[sage]
>>289
そっか
じゃあ初めから仮面する気だったってことかー
誘い断るのもそうだし、
辞めた後顔合わせるの気まずいわ
9月22日(木)
男「いよいよ後期のキャンパスライフって感じだな」
男「夏休みあけで久々に会った大学の友達に遊びに誘われたけど、断ってしまった」
男「一人で漫画読んだりするくせに、集団の中にいると周りに流されるのが怖くなってしまう」
男「その1.周りに流されない人が仮面浪人になれる」
男「その2.自分に流されない人が仮面浪人を成功させることができる」
男「その1だけだな俺は」
大学の友達について考えると、罪悪感がのしかかってくる。
こんな付き合いの悪い俺の友達でいてくれるんだなと。
成功したら、さよならのくせに。
男「友達なんかつくらないで、惨めに一人で勉強していればよかった」
男「こんなんじゃ、失敗した時のための保険の友達みたいじゃないか。そんなの、友達じゃない」
男「何が友達だよ。俺は馬鹿か。友達づくりなんて大学生の特権で」
男「仮面浪人生に、そんな特権、ないんだよ」
9月24日(土)
先生「私は陰険です」
先生「陰険なのが嫌な人は、この授業を取らないで下さい」
ガイダンスで、その一言から始まった語学の先生の授業を取ることになった。
土曜日の語学という、ただでさえ履修希望者が少ない教室から、先生の威嚇によって履修者は6人程度まで減った。
男「(自分がひねくれてるから、なんかこういう人に興味を持ってしまうんだよな)」
男「(それにしても、隣の席のこのイケメン)」
むちゃくちゃ、記憶力の良い同学年の男子と隣の席になった。
俺は今後、この授業の先生を尊敬し、予習を一生懸命するようになるのだが。
隣の席の男子は、教科書の内容をろくに予習もしてこないで瞬時に理解・記憶した。
男「えっ、ホームステイもしたことあるの!?」
イケメン「高校のときにね。向こうにいる時はさ……」
速読英単語などで仕入れた知識をフル活用するような会話をした。
男「そうなんだ」
イケメン「色々詳しいね。あのさ、正直この大学志望してた?」
男「実は、全然。そっちは?」
イケメン「大学のランクじゃなくて、学部で絞って受験しててさ。慶應、早稲田、マーチ全部落ちて、この大学に行き着いた」
男「高校どこだったの?」
一流公立高校だった。
男「どうして浪人しなかったの?」
イケメン「親がダメだってさ。弟もいるし」
男「…………」
イケメン「そういえばさ、ピサの斜塔と交尾しようとした男性についてなんだけど」」
シモネタにも詳しかった。
俺よりも賢い人がこの大学にいることを忘れるな。
仮に、くだらないという思う会話がたくさん聞こえて来たとしても。
集団で、一括しようとするな。
9月27日(火)
男「今日もいつもの友達と一緒にいた」
男「話題が噛み合わない」
男「一緒にご飯食べても全然楽しくない」
男「たまに授業が一緒の髭や、イケメンなんかとは話してて楽しいわけだから」
男「たまたま、入学直後に仲良くなったあの二人が、気が合わなかったという話で」
男「偽りの笑いばかりしてる」
男「あの二人の友人と仲良くしてる理由はなんだろう」
男「惰性だ。じゃあ意味はあるのか」
男「…………」
男「無い」
男「無いんだ」
男「あの二人と友達でいるより」
男「ひとりぼっちでいたい」
9月28日(水)
人間関係に疲れた。
道徳論に疲れた。
いたい人とだけいたい。
理解してくれない人には理解されなくていい。
離れる人は放っておけばいい。
文化祭なんて休む。
単位なんて落とせ。
その人と話しても何も得るものがなければ手を切れ。
男「学歴」
男「俺には、これだけあればいいだろ」
男「自分を変えたいだとかかっこつけてばかりいて」
男「俺は、ただの、学歴コンプの偏差値モンスターのくせに」
自分で自分を否定する言葉は毎日絶えなかった。
仮面浪人の夏 3頁目
みじめな境遇と、努力すればそこから抜け出せるという確かな見通しほど勉強に拍車をかけるものはない。
「古代への情熱」 ハインリヒ・シュリーマン 岩波文庫
10月4日(火)
男「今日大学休みだったのか。図書館もやってないし」
男「久々に、早稲田に不法侵入でもするか」
…………
男「着いた。雨の日に鬱になった以来だな」
男「来ても、ワクワクするとか、今でもそんなにないな」
男「なんか、疲れたよな。自分はちゃんと大学の学生なのに、こうやって他大学目指して宙に浮かんでる感じが、変でしょうがない」
男「9号館。10号館。11号館。なんか迷子になりそうだ」
男「通い慣れてる学生は、どこに何の建物があるか全部把握してるのかな」
男「……ここは9号館。ちょっと裏側にまわってみよう」
ひらけた空間と、建物に繋がっている白い機械があった。
男「冷暖房機とか空調機に繋がってる機械かな?」
男「四角にコンクリートが置かれてて地面からちょっと浮き上がってる」
男「……そうだ」
財布の中身を探った。
男「女から聞いた話、俺もやってみよう。お金を置いて、合格したら取りに行こう」
男「……ははっ」
男「5円玉がない。それどころか、10円玉しかない」
男「別に、いいか」
男「ご縁がなくても。遠縁でも」
男「絶対、受かってみせる」
10円玉を置いた後、早稲田から地元の図書館に向かった。
図書館が閉まってからも、家で勉強をした。
家で勉強できる自分になりつつあった。
今日の勉強時間 8時間40分
10月5日(水)
男「今までは家で音読する時間をとるために早めに18時には帰ることもあったけど、禁止にしよう」
男「家は禁止。家で勉強できた日があったのは、毎日家以外の場所で勉強して積み重ねた習慣のおかげだ」
男「効率のよい勉強をするために、だらだら過ごす時間が増えたら本末転倒」
男「図書館も閉館まで残ろう。親には申し訳ないけど、夕飯代も貰って図書館付近で食べよう」
男「今の俺に必要なのは、効率よりも、やる気とか量とか、きっとそういう今まで馬鹿にしてきた地味なものなんだ」
政治経済学部まで残り136日
男「仮面浪人スレも最近荒れ気味だな」
362:名無しなのに合格 09/24(土)13:24 ykp/AY3Y0
本当にサッカーのできる奴は、下手なやつをバカにしないしコーチにも文句言わない。
本当に勉強のできる奴は、他人と成績を比べないし先生に反抗的な態度だって取らない。
なぜなら自分の目標が大きすぎるから、他人の事を知る時間と余裕が無いからなんだよね。
みんなも、2ちゃんでFラン否定すんのやめたら、もう十分やっただろ。
これ以上否定し続けたって、みんなの人生何も変わらないと思うよ。
254:10/06(木)01:53 yl7J9Mum0[sage]
Mixiのボイスでみんなが楽しそうにやってるのに誘われすらしてなくて悲しくなって来る
いや、誘われても実際行く余裕はないんだけど本当に悲しくなって来る…
255:10/06(木)03:53 BmP9BI410[sage]
>>254
わかる
誘われても行かないのに誘われないと寂しいよなw
256:10/06(木)04/52 9ARSpd1E0
選択の余地がないほどに自分の時間と自分を練習(勉強)に投資している
のだから、その結果を引き受けていくしかない。という選択。
それは選択肢を失うほどに、追い込まれた者のつらさではあるけれど、逆に夢を掴むため、また自分自身の自信ともなる。 マリナーズ イチロー
センターまで残り100日。この掲示板のみんなが半年後に心から笑えてますように。
10月7日(金)
482:10/06(木)22:15 S8RUQNtG0[sage]
入試直前にもう1日欲しいと思う、その1日は、
そうやって過ごしてしまった1日なのでしょう。
男「ちょっとだけ、勉強がつらいと思うようになってきたから早稲田政経の英語を解いてみた」
男「解いてよかった」
男「早稲田政経まであと134日」
結果は壊滅的。
英作文は手付かず、他も間違いだらけ。
男「直前に解いてこの難易度を知ったらパニックになっていた」
10月8日(土)
男「まじか。俺以外にも政経の過去問昨日解いてたやつがいる。国語だけど」
300:10/07(金)18:12 qToKlmrm0
早稲田政経国語6割しかとれなかった…
おまいら点数どれぐらい取れてる?
347:10/08(土)112:12 oWlwqYsI0
早稲田政経で仮面してるけど、国語は簡単だから8割5分以上取れないとまず受からないよ。
実際俺は今年は4ミスだったけど・・・
ちなみに俺は今年英語7割8分、国語4ミス、日本史9割で受かった。
早稲田政経目指す人は参考に汁
男「目から汁が出そう」
10月9日(日)
男「社学の過去問を解いた」
男「早稲田の名前にびびらず、ケアレスミスを無くせば勝てる」
698:名無しなのに合格 10/07(金)02:11o
ooIrXFHi0
みんな不安
親からのプレッシャーを抱えるお受験を控えた幼稚園児も
公立育ちなら初めての受験の中3も
浪人できない現役生も
もうあとがない浪人生も
生死に関わる手術を控えた闘病中の人も
来月から収入が途絶えるかもしれない芸能人も
みんな、みーんな不安を抱えて生きてる
みんな後悔しながら生きてる
だから甘えんな!お前はもう大人だろーが!
62:03/15(火)11:29 79qmbmaz0
大学学部は影響するが、
それよりその大学でどれだけ上手く生きるかが大事かな。
それとその在籍している大学を嫌だとは思わないほうがいい。
この大学に入れてよかったと思うだけでも気分が違う。
人はどんなきれいごとを言っても、感情には逆らえない。
だから、その感情を少しでもよくする努力をするのも、
仮面の成功の近道である。
男「2chなんか見てたらまた女に怒られちゃうか」
男「…………」
男「今日も日曜日なのに、女は来なかったな」
10月13日(木)
10時起床。
男「今日も起きるの遅れちゃったな」
男「模試の結果が届いてた。いざ、開封」
男「……おお!!」
男「おおおお!!!!」
男「私立文系3科学力S判定!!
男「なんだよSって!!俺すげえ!!偏差値も70近くある!!」
男「……えっ」
喜んだのもつかの間だった。
早稲田大学
政治経済学部 E判定
商学部 D判定
法学部 D判定
文学部 C判定
文化構想学部 C判定
人間科学部 B判定
社会科学部 D判定
男「国英世界史S判定。合格率E判定。早稲田は、そういうところなんだ」
男「昨日届いた『ゼッタイ早稲田!』に載ってるような楽しそうなキャンパスライフが、こんなにも遠くにあるのか」
男「今までにないほど好成績取ったのに、それでも政経はE判定」
男「人間科学部B判定っていうのも初めて取ったからよくわからないな」
コンコン
母「あんた、ちょっといいかしら」
母「みんなね、あんたのこと、中途半端すぎる、絶対落ちる、今の大学生活どうにか変えたほうが有意義だって言ってるよ」
母「今日も起きる時間遅かったじゃない。ちゃんと勉強してるの?早稲田には受かりそうなの?」
男「…………」
今、A判定の模試を突きつけることができたら、どんなによかったろう。
最初の履修申請で怒られた時から今に至るまで、自分が仮面浪人だと証明するものは毎日書いている日記くらいしかない。
悔しさを口で返すな。
ちゃんと、結果で示せる日まで、黙って勉強しろ。
自分が変わったって、納得できる受験生活を送るんだ。
仮面浪人を通して自分を見つめ直すことができて、最近はこう思ってるんだよ。
まぐれで現役で受からなくてよかった、って。
最近、しょっちゅう思ってるんだ。
?月?日
父「正直、どっちでもいいんだ。社会に出ると、学歴だけじゃなくなるから。お父さんも有名な高校に出ておきながら、第一志望の大学に落ちて、ずっとランクの低い大学にいった」
父「転職をして中小企業に入った。落ちこぼれはやめたし、優秀な人もやめていった。お父さんは残り続けた。今は役員で、給料もたくさん貰えている」
母「学歴は大切よ。お母さん銀行に勤めてて、凄い優秀な人がいたけど、高卒だから絶対に出世の道はなかった。その人は退職して自分で会社を立ち上げたみたい」
男「独立で成功できるなら学歴いらなくない?」
母「女はともかく、男は絶対に学歴が必要なのよ……」
なのにあなたは。そう聞こえた気がした。
仮面浪人の秋 5頁目
泣きながら、ペンを握ったことはありますか。
10月14日(金)
林檎ちゃんに告白をした。
前期では一緒に授業を受けていたけれど、後期では初回の授業から他の学生と一緒に受けていた。
申し訳無さそうな顔をしているのを見るのがつらかった。
本当は、同じサークルの人も受講していたみたいだった。
林檎ちゃんとは、夏休み時々連絡を取っていたくらいで。
向こうがこちらに惹かれる要素なんて何も思い浮かばなかったけれど。
それでも、こちらが惹かれている思いをこのままなかったことにしたくはなかった。
好きだと思っているから、好きだと伝えたいという、身勝手な理由だった。
男「生まれて初めてまともに、告白して、失恋したな」
頭の中がぐわんぐわんするような、虚ろな気分だった。
その足で図書館に向かった。
机に座りポレポレ英文読解をひろげる。
陽気な黄色の動物の絵と、失恋で真っ灰色な自分の心情との対比に苦笑しそうだった。
失恋の思いに沈もうとしている自分を奮い起こしたかった。
男「戦え。戦えよ」
男「馬鹿なんだから、勉強しろよ」
否、叩きのめしたかったのかもしれない。
電子辞書を開いて、新たな長文の理解にとりかかる。
ペンを握って参考書を睨みつけていると、涙がこぼれた。
泣いたのは小学生ぶりだった。
男「成長するって、こんなに苦しいことだったんだ」
帰り道は世界史の参考書を読みながら帰った。
家に着いたあと、いつものように音読を二時間して、眠った。
今日の勉強時間 8時間00分
10月16日(日)
男「今日は英検準1級を受けた」
男「2chの速報で自己採点したら、ギリギリ一問の差で受かってるか落ちてるかというところ」
男「リスニングは相変わらずさっぱりだけど、語彙と読解で得点できてそうで嬉しかったな」
136:10/16(日)14:25 /LoUSE170
>>134
合格して、馬場歩きしてキャンパスを闊歩してる自分をいつも思い浮かべてたよ。
合格した夢を結局8回くらい見たわwww
周りからは「馬鹿」とか「妄想族長」とかほざかれてたけど、燕雀のさえずりと思って
スルーしてたよw
受かる自分しか想像できなかった。というか、本当は落ちた自分を想像するのが恐かった。
自分の心の声が「お前に出来るのか?」っていってたけど、いつも俺は「出来る。俺は違う。この現実を変えてみせる。」って思って、只管勉強した。
でも一番きつかったのは2月の入試直前。落ちる自分を考えるのが恐かったから、何も考えず寝るようにした。ホントに恐かったよ。考えないようにしたけど、落ちたらマジで死ぬしかないと思ってたし。
でも、成るようになるから、一日一日を大事に、合格を信じて進めば結果は自ずとついてくるよ。
今、仮面が終わって俺は憧れの早大生の生活を送ってる。
仮面をしていなかったら、今の俺はいない。
今では仮面の経験がすごい自信になってる。
まだ時間はあるぞ。やるべきことをやっていこう
男「今日は女、図書館に来てたのかな」
今日の勉強時間 7時間
10月17日(月)
閉館まで残って勉強。
今日の勉強時間 8時間
10月18日(火)
ご飯の時間すら惜しい。
また友達にバイトだと嘘をついて勉強しに行く。
今日の勉強時間 8時間30分
10月20日(木)
他人が段々どうでもよくなっていく。
今日も週1で会う友達二人との授業さぼっても罪悪感全くわかなかった。
親しい間柄の友人でもそうだった。
友「おお!久しぶりだな!こんなとこで何してんだよ!」
男「模試の受験料の振込み」
友「最近連絡なかったじゃん。調子はどうなんだよ」
男「偏差値70とった。でも早稲田はE判定。勉強しなくちゃ。じゃあ」
友「……じゃあな」
今日の勉強時間 7時間
10月21日(金)
心理学の講義を、初回の時と同じように、1番後ろの席で受ける。
林檎ちゃんは前方の席で友達と座っていた。
女友達と男友達に囲まれて楽しそうだった。
俺は授業など聞かず、出席カードに名前を書く時以外、集中は全て世界史の暗記に注いだ。
今日の勉強時間 9時間10分
10月23日(日)
男「今日も女はいないのか」
気づいたら自分が物凄い速度で変化している。
半年前の自分と今の自分ではまるで違っている。
失恋は多分、ほとんど影響していない。
振られるとわかっていながら告白したからだ。
むしろ、そんな状態で告白するような自分になったことが既に大きな変化だった。
友達と会いたいという気持ちも、会った時の喜びも薄れてきた。
人と話している時も、全てが薄っぺらい友情作りのように感じる。
もしかしたら、自分の存在価値がないと認めているのかもしれない。
他人が無益な存在なんじゃなくて、自分が無益な存在だと感じているからコミュニケーションをとること自体に意味がないと思ってしまう。
男「俺、どうして勉強してるんだ」
なにかがきれた。
今日の勉強時間 20分
10月25日(火)
732:627 10/25(火)20:20 01nrs+Sv0[sage]
早稲田志望の奴、河合マーク模試だった?
この間のマーク模試
英語 192
リス 48
国語 174
日本史100
もはや誰にも俺は止められないZE
733:10/25(火)20:23 rduhErSa0[sage]
>>732
おーう・・・こんな奴と戦うのか・・・。
英語168
リスなし
日本史98
国語188
社学うけるZE
734:627 10/25(火)20:35 01nrs+Sv0[sage]
>>733
国語すごくてワロタwwwwww
俺は政経が第一志望で、法と商と教育、社学もうけるZE。
そんだけ取れてれば、結構有利だと思うZO
736:10/25(火)20:39 YCIm1G830[sage]
>>732
滑り止めに3教科受験できる国公立とか受けるん?
外大とか筑波とか広島とか首都大とか横市とかその辺
738:10/25(火)20:55 rduhErSa0[sage]
>>734
ところで英単語なにつかってる?
俺単語王1冊で若干不安なんだよなぁ。
739:10/25(火)21:01 01nrs+Sv0[sage]
>>738
俺も単語王だけ。
早稲田のオープンキャンパスで、政経、法、商、社学のリアル早大生に聞いたら、それで十分足りるって言ってたよ
740:10/25(火)21:02 zS0HU1Hx0[sage]
ハイレベル過ぎて自分なんて仮面してて良いのか不安だ…
742:10/25(火)21:04 rduhErSa0[sage]
>>739
じゃあ、もっと詰めるか。
うん、ありがとう
>>740
俺だって日法でずっと不安だ。
でも、不安を打ち消すにはペンを握るしかないと思っている。
745:10/25(火)21:21 wJUar0xJ0[sage]
古典なんて12月からでも間に合うから英語固めろよ
英語は受験を制する
746:10/25(火)21:33 rduhErSa0[sage]
>>745
そうそう国語なんかできても受験じゃ話にならん。
去年国語武器にしてても英語カスだから日法だし。
他カスでマーチ落ちたのに英語で慶應受かったやつもいるくらいだから
受験での英語はマジ重要だ。
748:10/25(火)21:53 at0mK7Si0[sage]
>>627
俺も受けたよ。早稲田だけじゃなくて慶應志望でもあるがww
英語190
国語184
世界史94
目指すは、早稲田政経、法、社学、慶応法
男「みんな凄いな」
男「頑張れ」
今日の勉強時間 0秒
?月?日(?)
男「携帯が壊れた」
男「今まで日記、全部携帯に書き込んでたのに」
男「自分で考えた世界史の語呂合わせも全部携帯に書き込んでたのに。幸いSDに保存してたけど」
男「糸が切れたようにって、まさにこのことを言うんだろうか」
男「今日も勉強しなかった」
男「自分の世界で思索に1日中ふけるくせに、難しい本を理解するのにただの1秒も割きたくない」
男「俺はさ、どうして勉強しなくなってしまったんだろうって悩んでたけどさ」
男「これが、本来の俺だったんだよ」
男「本来の俺から抜け出そうとして、無理やり自分を勉強に向き合わせて」
男「1日8時間も勉強していた俺が、イレギュラーな俺だったんだよ」
?月?日(?)
男「西洋の歴史。アジアの歴史」
男「世界史受験者の俺でさえ眠気に耐えられないようなこの講義に、毎回1番前の席で座って授業を聞いてるやつらがいる」
男「何が楽しいんだろう。俺が1番前の席に座るのって、どんな授業なんだろう」
男「俺は何の勉強が好きなんだろう」
?月?日(?)
男「バイトしてるの?って知人にキアkれるのが嫌で、今更派遣のバイトを1日だけした」
男「単純作業を8時間やった」
男「シモネタを言う親世代のおじさんばかりだった」
男「こんなことするくらいなら、古文の勉強をするほうがよっぽど有意義だって思えるくらいに」
男「それでも、勉強しないけどな」
男「働きながら勉強をした。俺は今後聞かれる度に、そう答えるんだろうな」
男「世間体の塊だ」
男「夕飯を外で食べていると、サラリーマンの会話が聞こえた。受験勉強の話だった」
男「年号を覚えるのに意味を見いだせなかった。そう言ってた」
男「30歳を超えてからも」
男「俺もそんなこと、つぶやいてしまうんだろうか」
男「ここが僕のいるべき戦場。覚悟の価値を決める場所」
男「最近英語のCDばかり聴いて、音楽なんて聴いてなかったな」
男「勉強中にながら勉強はダメって中学の時に塾の先生に言われたな」
男「仮面生活をはじめた時は試行錯誤してた。音楽を聴きながらやったり。明るい曲を聴いたりクラシックを聴いたり」
男「聴いてるうちに勉強に集中できれば、いつの間にか聴いてたことさえ忘れてしまう」
男「勉強にまつわる神話はたくさんあって、あれがいいとか、これがいいとか、意見が分かれてるけど」
男「どちらが自分にとって正しいかを判断するのも、受験勉強のうちだったんだな」
男「入試日当日に勉強するのがいいのか、友達とくっちゃべってるのがいいのか」
男「トイレは込みやすいから早めに並ぶとか、それとも空きやすいトイレの場所をあらかじめ抑えておくのか」
男「そもそも飲食物を前日から断つとか。お腹を下しやすい人なら、前日の夕飯を抜けば解決するだろ」
男「1年間という時間を通して、自分を色々実験していくのも受験勉強のうちだったんだ」
?月?日(?)
男「久しぶりに勉強をした。それでも3時間くらい」
男「参考書を開くと脳が閉じる。拒否反応を示すみたいに」
男「もう勉強を受け付けなくなってしまったんだろうか」
男「そういえば、中学で塾に通っていて、成績がまだ低かった頃」
男「面白いオチばかり載せてる黄色の古文の教科書が家にあった」
男「でも、面白いからという理由で捨ててしまった」
男「今でも気になってネットで探すけど、見つからないまま」
男「楽しんで勉強しちゃいけないって、決めつけてた」
男「あの本を勉強に使っていれば、楽しく古文を好きになっていたかもしれなかったのに」
男「本当、昔から大の不器用だったからな」
男「恐竜の絵を描く課題を小学生の時に与えられた時も。凄く細いペンで毎日塗り続けて、俺だけ提出が遅くて昼休みを潰して何日も塗り続けて」
男「心配した先生がやってきて、太いクレヨンで一気に塗ってくれたんだよな」
男「自分では一生懸命やり続けてるつもりなのに、傍から見ると無意味に近いことをやってる、なんてのはよくある話で」
男「努力が足りないとか、自己満足とか、一言で片付けられてしまうんだよな」
男「俺は今も、細いペンで塗り続けているだけなのだろうか」
男「ボニファティウス8世は憤死した」
男「今まで何も気にも留めなかったこの説明文だけど」
男「憤死ってなんだよ!」
男「怒りすぎて死ぬってあるのかよ!」
男「馬鹿みたい。世界史なんて大嫌いだ」
男「人を好きになるのは、頭がいいかどうかじゃない」
男「何を考えているかなんだ」
男「偏差値は、人間の偏差値にはならないから」
男「学歴はすべてではない。そんなこと、俺でさえ知ってるよ」
男「だけど、偏差値55の自分よりは60の自分が。60の自分よりは65の自分が好きなはずだ」
男「人は、自分を好きになるために勉強してもいいんだ」
男「勉強が好きだから勉強するのではなく、勉強が嫌いなまま自分を好きになる1つの手段として勉強してもいいんだ」
男「スポーツも、恋愛も、図工も音楽も家庭科も苦手な僕だったけど」
男「古文単語を暗記することや、英文法を理解することは、自分を少しだけ認めさせてくれた」
男「孤独な毎日だったけれど、自分のことは自分が見てくれていた」
男「遠回りでもいいから、ちゃんと考えさせてほしいんだ」
男「勉強の計画練ってる時間あったら勉強しろだとか。勉強のやる意味考えてる時間あったら勉強しろとか」
男「それは確かに正しいことだけどさ」
男「国語や、英語や、世界史の勉強に1週間注ぐように」
男「時々でいいから、それらを勉強するということについて、考えさせてくれよ」
男「なんで生きてるのかとかさ。なんで俺は勉強するんだとかさ」
男「勉強するしか道はないって答えがすでにでているとしても」
男「自分が気になっていることについて、ちょっとくらい考えさせてくれ」
男「隣の芝生は青いし、隣の花は赤いし」
男「みんな、自分を変えたいと思っている」
男「けれど、赤の他人になりたいわけじゃない」
男「俳優になりたいわけでも、女優になりたいわけでもない」
男「みんながなりたいなは、理想の自分なんだ」
男「人生の選択肢さえ間違えなかったら、なれていたはずの自分なんだ」
?月?日(日)
父親の御見舞に行った。
数日前に怪我をして入院したが、大事には至らず、数日で退院できるそうだった。
この頃の俺の思考は停止していた。
頭の中で戦うだけで、ペンは握っていなかった。
地元の図書館にも向かわなかった。
勉強する気が起きない。ただそれだけだった。
だから、気力もなく自転車を漕いで、自宅へ向かう途中に出会ったのは偶然だった。
女「久しぶり」
男「こちらこそ」
女「手ぶらだね」
男「そっちもね」
女「元気してた?」
男「かなり勉強してた時期もあった」
女「今は?」
男「全くしてない」
女「仮面辞めたの?」
男「辞めてない」
女「勉強してないのに?」
男「やめたって言わなければ、誰でも仮面浪人で居続けられるから」
男「女は辞めたの?」
女「辞めたわよ」
男「本当に?もう早稲田でいいってこと?」
女「違うわよ。仮面浪人を辞めたの。今は、立派な予備校浪人生」
男「どうして?」
女「どうしてって。むしろ、どうして仮面浪人で居続けるか、じゃない?」
男「確かに、それはある」
女「私のお父さん、よくないの」
病院の近くで女と遭遇したのは偶然ではなかった。
女「自分の幸せを一番喜んでくれる人に、その姿を見せられないかもしれないってことが1番つらいんだって思い知ったよ」
女「時間を大切にしろって言葉の意味、誰もわかっていないまま使ってたんだってことも。寸暇を惜しんで勉強していた高校時代の私でさえね」
女「ねえ、男はさ」
女「なんで勉強してるの?」
男「…………」
男「わからない」
男「なんで、こんなに学歴に縛られてるのか、自分でもよくわからない」
男「偏差値なんて、糞みたいなものに支配されて……」
女は首を横にふった。
女「たしかに、偏差値なんてなくなったほうがいいって言ってる人もいるわよね」
女「でもね、偏差値って、ある女性の教師がね、進路に悩んでる生徒のためを思ってつくったのがはじまりだったの」
女「偏差値がなかったら、不便でしょ。自分がどの場所にふさわしいか、わからないまま道を選択してしまうでしょ」
女「自分が本来行けるはずだった素敵な場所に、気づかぬまま終わっちゃうかもしれない」
男「どうして人は高みを目指すんだろう」
女「そこがあなたにふさわしい場所なら、そこにしかあなたにふさわしい人との出会いがないからよ」
男「正直、もう頑張りたくないよ」
男「努力しないままのこの俺を、愛してくれる人と出会いたいよ」
女「…………」
女「何甘えたこと言ってんのよ」
女「自分に自信がないからって、異性まで引きずり落とそうとしないでよ」
女は見るからに怒っていた。
女「そんなんだからあんたの人生にヒロインは現れなかったのよ」
女「運命の人っていうのはね、どんな自分でも愛してくれる人ではないの。自分が自分のことを最も好きになれた時に、不意に現れる人なのよ」
女「輝くあなたの見せる影に惹かれる人は現れても、暗闇の中で引きこもっているあなたを見つけることなんて誰にもできないわ」
女「誰かに認めてもらいたかったら、正々堂々、太陽の下で戦いなさい」
女「そしたら負けても、拾ってくれる人は、きっと現れるわよ」
頭痛がした。
今、最も言われたくない。
けれど、最も本質を突いた言葉が脳に刺さった。
男「……なんかさ」
女「うん」
男「泣きそう」
女「なんでよ!」
女は急に笑顔になって、やさしそうな表情を見せた。
男「実は、ちゃんと、明日から勉強を再開させる予定だった」
女「うん」
男「だから、今日会話したことで、多分得点は1点もあがらなかったと思うんだけど」
女「うん」
男「今日が仮面浪人生活で、1番大切な日だったと思う」
女「ありがとう。でもそれは、合格発表の日でしょ」
男「頑張るよ」
女「今日勉強する気ないんなら、国語のはなしでもしましょっか」
女「蜘蛛の糸、覚えてる?芥川龍之介の作品」
男「どろぼうが地獄に落ちる。どろぼうは以前蜘蛛を助けたことがあったので釈迦が糸を地獄に垂らした。どろぼうが糸を登っている途中に、他の地獄にいる罪人が気づいて登ってしまい、重さに耐えきれず糸は切れてしまった」
女「よくできました」
男「この話が何?」
女「どうして蜘蛛の糸は切れたのでしょう?」
男「どうしてって」
男「一人で助かろうとしたから?」
女「みんなで助かろうとすればよかったってこと?」
男「交通整理して、一人ずつ登っていれば大丈夫だったんじゃないかな」
女「地獄にいた連中を、全員お釈迦様は救おうとするかしら?」
男「しないだろうなぁ……」
女「蜘蛛の糸を切らなかったからよ」
男「えっ」
女「垂らされた糸を、足の爪で切るか、身体に巻き付けて一人で登ればよかったのよ」
男「そんなことが正解って……」
女「あんたさ、人間関係苦労してるでしょ」
男「…………」
女「同じ環境にいて、悩んでるのが世界に自分だけだと思わないでよね」
女「ちゃんと、嫌われる勇気を持ちなさい。好かれるのはそれからの話よ」
男「蜘蛛の糸は、絆?」
女「私達のものはもっと浅くて薄いわよ。そうね、名付けるなら……」
女「カメレオンの糸!」
女「環境に合わせて自分の色を変える、いやらしい擬態をするカメレオン」
女「でもね、カメレオンの色はやっぱり緑色だし、仮面の下には素顔がある」
女「どんなに捨てようとしても残り続けるものはある」
女「どんなに自分を嫌おうとしても好きな自分もどこかには残り続ける」
女「いいじゃない。目的なんかなくっても。志望動機なんかなくっても」
女「やりたいから、やってるんでしょ?」
女「もう考えるのはおしまい!古文単語を暗記するほうがよっぽど愉快愉快!」
女「というわけで、じゃあね」
女「未来の早大生さん!」
きっかけなんてものは、ない。
毎日小さなものを積み重ねていって、いつか大きくなるのを待つしか無い。
だけど、きっかけなんてものが、もしもこの世に存在するのだとしたら。
それは、小さなものを積み重ねようと頑張っている自分に気づいてくれた、大きな存在との出会いだろう。
男「……戦え」
帰り道、音楽プレイヤーを耳につけた。
昔からずっと聴いている大好きな曲が流れ出した。
切り替えて、英語の読み上げの曲に切り替えた。
男「入試本番で自分を救ってくれるのは、自分を鼓舞してくれる曲じゃない」
男「確かな、知識だ」
男は一日前倒しで勉強を始めた。
移動中も、入浴中も、電車の待ち時間も、全てを勉強に注ぎ込むようになった。
そして、朝もちゃんと早い時間に起きるようになっていった。
おやすみなさい。
仮面浪人の冬 6頁目
男「……寒い」
肌寒い季節になってきた。
22時に大学の図書館が閉館してから各駅停車の電車に乗って帰宅した。
0時から家族を起こさぬよう家の片隅に椅子を持って移動し、英語の音読を始める。
蛍雪の功という話を思い出す。
今は科学が進化しているおかげで、蛍の光ではなく蛍光灯が照らしてくれる。
男「太陽の下で戦うよ」
蛍光灯は自分にとっての太陽だった。
2時になり、参考書を閉じてふとんに入る。
男「これが、成功の秘訣なんだ」
男「毎日こんな生活を送れば合格できますよって保証されたとして」
男「一体誰が、この苦痛を真似することができる」
男「こんなくそしんどい、学歴が手に入らなければ絶対にやらないような行為を」
男「あらゆる娯楽を楽しめる2時間という時間を割いて。脳みそをくたくたにして、英文に集中する行為を」
男「あと、100日近くは繰り返すんだ」
携帯電話が直った。
男「壊れていても、特に不便はなかったな」
男「英検準一級も合格点ぴったりで一次試験に受かった」
男「文化祭にも全く出なかった。林檎ちゃん、楽しくやってたかな」
男「地元の図書館で時々読書もした」
男「自分もセネカのように後世に何かを残せるだろうか。」
男「2000年の時を超えて、ローマの哲学者が書いた文章に日本の大学生が救われてる」
男「これって凄いことだよな」
11月5日(土)
中国語の先生曰く
「授業の8割は本に書いてあることです。残りの2割は教授が出し惜しみしていることです。その2割、方法論を学んでください。授業を通してその科目に対する学び方を学んで下さい」
「思い出すための努力をせずにすぐ答えを見るのは今安心したいだけです」
11月6日(日)
男「現役の時は冬休み1週間かけて富井の読解の参考書を終わらせてた」
男「本当なんだったんだろう。今日半日で終わらせちゃったよ」
16:02/24(木)00:26 qhE5/nkN[sage]
強くなる時に、あまり苦労しないで効率よく強くなった人は、弱くなるのも早いのではなかろうか。
谷川浩司
男「息抜きにネット見るの、そろそろ辞めたほうがいいな」
男「予感はしてたけど。もう女は、図書館には来ないみたいだ」
今日の勉強時間 8時間30分
男「寝ながら時々考える」
男「俺の人生に、幸せな夜ってあったっけ」
男「小学校、中学校、高校、仮面浪人、いつの時期の自分も「次」に期待をかけてたと思う」
男「今度こそ、「次」は来るのかな」
人は幸せになるために生まれてきた。君は、どうしてそんなところにとどまっているんだい?
ビートルズ ジョンレノン
11月8(火)
男「芸術の展示会でジョンレノンがはしごを登った時」
男「天井から吊るされた虫眼鏡をのぞき込むと」
男「YES」
男「と小さな文字が書かれているのが見えた」
男「その作品の作者のオノ・ヨーコとの初めての出会いだった」
男「自分を肯定してくれる存在との出会いは、立派な生きる理由になる」
男「シュリーマンも過酷な人生を送ったよな」
男「酷い環境で働きながら勉強して、帰国したら運命の相手とも言える幼馴染がいつの間にか婚約してて」
男「それでもトロイヤ・ミケーネ文明を発掘したんだ」
男「やり方があくどいなんて言われてるけど、それはシュリーマンが人生から受けた仕打ちに比べれば些細なものだったんじゃないのか」
男「もしも、トロイヤ・ミケーネの発掘と、幼馴染ミンナを天秤にかけられたとしたら、若き日のシュリーマンはどちらを選択したんだろう」
男「さてさて。答えが出ない問いはやめて、答えのある勉強を続けよう」
今日の勉強時間 7時間50分
男「大事なものは失って初めて気づくんだ」
男「携帯が壊れて、今まで書いてきた日記が失われたかもしれないと思った時、凄い喪失感だった」
男「そして日記は、日常だ」
男「俺はこの日常を、大切にしていたんだな」
11月9日(水)
男「フィルタリングをかけました」
男「これで2chをはじめとした有害サイトにアクセスできなくなった」
男「自分を自制するって、脳で頑張って我慢するとかじゃなくて、意思とは無関係に自分をコントロールする環境を構築することだ」
男「勉強に疲れたら、寝るか、本でも読めばいいんだよ」
今日の勉強時間 9時間30分
11月13日(日)
男「早大プレを受けた」
男「去年より勉強したからこそ、尋常じゃない難しさを実感」
男「いきなり英語の長文で開始直後はパニックになったけど、冷静になれと言い聞かせてから頑張って解いた」
男「世界史がやっぱり足引っ張ってるんだよなぁ」
男「膨大な世界史の文章を、全て自分で作ったゴロで覚えてるだけに、ゴロ思い出せなかったらかなり痛い」
11月15日(火)
昔のメールを見て改めて思う。
本当に、落ちて良かったと。
世界に対する不平不満を言ってばかりだった自分。
努力してる人や勇気を出している人を心の中で見下していた自分。
現役で早稲田に受かってたらどんな傲慢な人間になって、どんな不幸な人生を送っていただろう。
今は、あの頃の自分が文句をぶつけていたような、自分になっている。
男「努力した人がへんねしされる世の中なんて、へんね」
くだらない語呂合わせをつぶやいてしまった。
11月16日(水)
男「やっべ、久々に見たけど単語王ほとんど忘れかけてる」
男「大学が6連休の時に、仕方なく家にひきこもって、カードを全部ちぎって、知ってる単語のカードだけ全てはずして、知らない単語を6日間ひたすら繰り返し覚えたなぁ」
男「カードをちぎるだけで何時間もかかったのに。自宅で6日間も缶詰で単語覚えられるようになった自分には感動さえしたな」
男「参考書をやり終えては、手を広げて新しい参考書に手を伸ばしていたけど」
男「今までやってきたものを復讐して完璧することにエネルギーを注ぐべきだな」
今日の勉強時間 8時間30分
男「電車に乗っていつものように通学していると、ふと思った」
男「凄いなぁ。建物ばかりだなって」
男「これら全部人間がつくっただんだよな」
男「電力を使って鉄の固まりが無数の人を運んでいる。コンクリートが地面に敷かれていて、その上にビルが立っている」
男「俺は将来、何ができる人間になれるんだろう」
11月18日(金)
早稲田政経の英語の過去問を解いた。
設問部分に対応するところだけを読む邪道を使っても、英作文を含めて時間ぎりぎりだった。
男「それで、正答率44%か」
男「まだ。まだ時間はある」
今日の勉強時間 7時間50分
男「何か忘れている気がする」
男「これが高校までの脳内の口癖だった」
男「何かやらねばと思っているのに何もやっていない、という空虚のせいだったのかもしれない」
男「最近は思わなくなった。布団に入ったらすぐ眠れるようになった」
男「おやすみ」
11月21日(月)
こちらに向かって走ってくる学生がいると思ったら、いつもつるんでいた二人の友達だった。
遊びも全部断って、授業も俺が離れた席に座るようになって、しばらく疎遠気味だった。
俺から、縁を、切ってしまった。
もう考えたくない。
まだ夏休み明けに一緒に話していた頃。
一緒にいる友達の声が聞き取りにくいと思った瞬間が何度もあった。
ある時わかった。
俺に向かって話しかけてなかったんだ。
俺はただ、その場にいただけ。
いつも輪の外側にいた。
二時限目の授業を友達と一緒に受けていた時に。
またこのあと、一緒にお昼を食べて、昼食後の時間もだらだら過ごすのかと思うと、憂鬱に耐えきれなくなって。
授業が終わったと同時に、バイトがあるからと言って、抜け出したことがあった。
その時に心に芽生えた感情は、罪悪感、などではなく。
爽快感だった。
我慢していた人間関係から抜け出すことが、あそこまで開放感を感じさせるものだとは知らなかった。
友達と仲良くすること。
相手の嫌なところに目をつむること。
小学生、中学生、高校生の時に正義だったことを破って初めて。
ちゃんと、別解が存在していたことを思い知らされた。
男「俺って、ゴミだな」
男「もっと早く、ゴミになっておけばよかった」
1人でいる時間が、1番大切な時間になっていた。
11月22日(火)
男「夏明けに買った、後期用の蛍雪手帳」
男「第一志望を書く欄が、消しゴムの跡ですごいことになってんな」
男「第一志望の推移が、文化構想→政経→人科→政経→外大→政経→外大」
男「で、また政経志望かよ」
男「色々考えすぎて迷子になりまくってんな」
男「センターもそれなりに対策して、私大の勉強も頑張ればいいんだよ」
人は、初めての成功体験で使った手段に一生頼る。
負の気持ちなら復讐心。
正の気持ちなら感謝。
どちらでも、成功に繋がるのは間違いない。
11月25日(金)
友「落ちてもお前とは気まずくなりたくないから滑り止めを受けてくれ」
という友だちもいる一方
友B「お前が落ちたら笑って2chに書き込んでやるwww」
という友達(?)もいる。
この一年間、自分を馬鹿にする人、批判する人は少数ながらいた。
今までの自分だったら「合格したら突きつけてやる」とか「今に見てろよ」と、復讐心を燃やしていたと思う。
でも。
男「復讐心を動機にするのは、やめよう」
それは道徳論なんかじゃなくて。
一年間孤独の時間に性格の悪い自分を散々見つめ直してきて。
単に、性格が悪いことに疲れたからだった。
男「20代、30代のうちに成り上がった成功者がインタビューで、反骨心で上り詰めたって答えている人が多いし」
男「振られた悔しさ、馬鹿にされた悔しさをバネにして成功するまで耐え抜いたって話は本でもたくさん見かけるし」
男「確かに強烈な動機にはなるんだろうけどさ」
男「もう俺は、いいよ」
男「今までやってこなかった、他人を応援するという、まともな人間になりたいよ」
男「手に入れれば幸せになれると信じているものがあって。それを掴むために、その度に負の力を動機にしていたらさ」
男「幸せが見える度に、負の気持ちに駆られるわけじゃん」
男「俺はこう思うんだ」
男「人生で一番最初の大勝負に使った価値観に、人は一生頼り続ける、って」
男「俺がこの受験を、反骨心や他人への憎悪の動機で成功させてしまったら」
男「未来の俺が新しい困難にぶつかった時に、過去の成功体験を思い出して、また反骨心や憎悪をエネルギーにして困難を乗り越えようとしてしまう」
男「この受験を、自分を応援してくた人への感謝だけに目を向けて成功させたら」
男「未来の俺が新しい困難にぶつかった時に、ちゃんと自分を応援してくれる人のために頑張って、自分を批判する人にも攻撃しないで困難を乗り越えようとしてくれるだろう」
男「他人に勝っても、負けた人の気持も忘れないで、応援してくれた人に感謝するだけでいいんだ」
男「これから一生使いたい気持ちを、今使うべきなんだ」
男「どんなにひねくれていたってさ」
男「やっぱり、悪者よりも、正義の味方になりたいよ」
男「ちゃんと他人の背中を押す人間に。他人から背中を押されるような人間に。今からでも、なろう」
今日の勉強時間 8時間50分
語学の先生曰く
「バタフライは沈もうとするから高く浮き上がれる。
最初っから上にいるより、下にいたからこそ、高く、飛び上がることができます」
11月26日(土)
男「はぁー。来月はクリスマスか」
男「関係ない!俺は勉強……」
「よっ。男くん」
男「あっ、語学の授業で一緒の」
短い時間会話をして、すぐ別れた。
男「ここんところくに人間と会話してなかったから」
男「孤独を貫くとかなんだとか言ってるけど」
男「物凄く嬉しかった」
男「こんな日常を毎日送ってる大学生もたくさんいて、それを当たり前だと思っているんだよな」
男「ウケる」
センターまで残り48日。
11月27日(日)
「成績が伸び悩む」
そんなことありえないと思ってた。
だって、参考書を積み重ねたら、確実に一歩合格に近づくのだから。
男「どうして英語が解けないのかわからない」
男「文法も、英文解釈も、熟語も、単語も、人並み以上には終わってるはずなのに」
爆発的に伸びる前兆とも聞く。
伸び悩んでるのが嫌で一生懸命勉強するからだろうか。
男「83日後に読めてればいい」
男「読めなくても、解けてればいい」
今日の勉強時間 7時間20分
友「あれ、男じゃん」
男「おう久しぶりだな。何やってんの」
友「勉強だよ。それ俺のセリフだろ」
男「調子はどう?」
友「全然。そっちは」
男「だめだめ」
友「いやんなっちゃうな」
友「春に見た受験の雑誌にさ、アンケートが載ってたんだ」
友「浪人してよかったと思いますかって」
友「過半数の人が、よかったと思うって回答しててさ」
友「現役で受かるほうが良いに決まってるだろって思ってた。勉強が嫌いで浪人したくせに、その勉強が1年間延長されて嬉しいなんて論理破綻してるって」
男「今は?」
友「浪人してよかったよ」
友「お互い合格したいな」
男「しようしよう」
友「栄光を掴もうな」
男「掴み取りだ」
友「なんて言いながら、正直心の中不安でいっぱんなんだけど」
男「栄光か」
友「栄光だよ」
友「この前さ、いい年したサラリーマンが受験について会話してたんだけど」
男「(どこでもいるもんだな)」
友「俺は昔なになにの模試でA判定だったとか、名前が掲載されたことがあるとか話してた」
男「つらいな」
友「俺は思ったんだよ。人は過去の栄光にすがる生き物なんだって」
友「そういう大人にはならないようにしなきゃなって」
男「…………」
友「どうした?」
男「まだそっちの方が健全かもしれない」
男「俺が怖いのはさ。俺が思うにさ」
男「人は、過去の苦悩にすがるんだよ」
男「俺はこんなに大変な目に遭ったとか。これだけ理不尽な中を耐え抜いたとか。これだけ頑張ったのに報われなかったとか」
男「自分の中の、最悪の出来事を、正当化しようとする人も多いと思うんだ」
男「古代では奴隷がたくさんいただろう」
男「奴隷を1つの部屋に集めた時に行われる自慢合戦って」
男「いかに凄いお屋敷に住んでいるかじゃなくて。いかにご主人様に認められたかじゃなくて」
男「いかに酷い仕事をさせられているか。いかに酷い仕打ちを受けたか」
男「自分の苦悩を自慢し合うんだ」
男「王様だけなんだ。いかに素晴らしいか、成し遂げたか、成功したかを自慢し合うのは」
友「王様は嫌な奴だな」
男「そうじゃない。王様になろうっていう話だよ」
11月28日(月)
男「毎日閉館まで勉強して」
男「190分かけて政経の英語解いてみたけど、64%しかとれない」
男「速読関係なしの、今の英語の実力そのものってことだろ」
男「まだ何か参考書が必要なのか。手を広げるといけないから絞ったつもりだったのに」
男「国語も世界史もあるのに。得意な英語で何故取れない」
11月29日(火)
男「大学の友達が隣に座らなくなった」
男「会釈だけをされて離れた席に座った」
嬉しいのに、悲しい。
胸が締め付けられる。
今日の勉強時間 8時間10分
12月2日(金)
今日も閉館まで勉強。
集中力が続かない以前とは違い、集中力が尽きるくらいにまで勉強できてる。
12月5日(月)
必要な書類のために高校の事務所に電話をした。
そして今日も勉強。
勉強は将来の役に立たないなんて言われていて。
実際に役立つ、役立たないはさておき。
意味が無い方が、むしろよくないか。
受験勉強が社会人としての知識に直結していたら、義務感で余計苦しくなりそうだ。
12月6日(火)
基礎に戻った。
新しい参考書に手を伸ばすより、昔の参考書の復讐をする。
基本はここだ!を久しぶりにやった。
以前訳がわからなくてバツ印をつけてたところが、今は簡単に理解できた。
冬休み、大学の図書館がやってないことが判明。
家で何もせずに過ごした去年と同じ轍は踏まない。
12月15日(木)
男「早大プレの結果が返ってきた」
男「まだ見てないのにクソドキドキする」
男「はぁー……見るか」
男「あー緊張するあー緊張する」
男「頼む頼む頼む。せめてDDD」
ガサ
男「よっしゃDだぁああああ!!!!!!!!!」
情けない。
100点満点(偏差値)
英語65点(64.8)
国語53点(47.9)
世界史58点(55.7)
男「英作文、超急いで書いたつもりだったのに11/16点」
男「あん時は出来が糞だと思ってたくらいなのに、見返してみると案外上手くかけてる」
男「本番も諦めずに埋めるところは埋めよう」
男「さてさて。政治学科志望の中で俺の順位は……」
英語 65/1169位。
男「中2の時にbe動詞と一般動詞を一緒に使ってた俺が。今年の春にwhoを使った疑問文をつくれなかった俺が。ここまで来たとは」
D判定なのにこんなにも嬉しい。
合格したら、どんな喜びなんだろう。
12月17日(土)
男「世界史が現代まで終わってない」
男「プラス思考で考えれば、その分その他の科目を頑張ってきたってこと」
男「でいいよね?」
男「この期に及んで世界史全範囲終わってない未来は想像してなかったよ」
男「とにかく、明日もベストを尽くそう。おそらく人生最後の模試を」
男「世界ふしぎ発見を久々に見た」
男「レオナルド・ダ・ヴィンチが、やる気がない時は勉強してもあんま意味ないって言ってた」
男「去年はそれで一年終わっちゃったよ」
今日の勉強時間 7時間30分
12月18日(日)
男「終わった」
男「時間70分の英語を90分だと誤解してたし、センターのレベルを舐めていたので最後の三問をまともに解けなかった」
男「自信を持つことと調子に乗ることを履き違えた」
自己採点をした。
国語 162点
英語 154点
リスニング 36点
世界史 72点
男「決して難しくはなかったのに」
後に結果が返ってきたが。
3科偏差値 58.9
全国順位 11054/55645位
12月20日(火)
東京外国語大学と首都大学東京に願書を貰いにいった(無料だった)。
男「首都大学ひろかったなぁ。落ち着いた雰囲気でよかったなぁ」
男「外語大のキャンパスに差す夕陽なんて幻想的なくらい美しかった」
男「そこの学生になる可能性も、まだ0ではないんだよな」
12月21日(水)
男「今日は筑波大学。地図音痴だから、本番前に一度下見しておかないと気がすまない」
男「筑波もいい雰囲気だったなぁ」
男「これが帰りのバスか。今日も帰って勉強……」
男「(あれ、斜め前に座ってるのって)」
高校の秀才のクラスメートがいた。
コースこそは俺と同じ中間のクラスだったけど。
テストでは、いつも1位を取っていた。
友がめちゃめちゃ勉強して学年2位を取った時に、それでも点差をつけて1位をとっていた女の子だった。
男「(まじかよ。あの人が行くレベルの大学なのか)」
今日の勉強時間 6時間30分
12月24日(土)
男「大学の図書館から近くの駅まで、ただ考え事だけをして歩くこの帰り道が大好きだ」
男「あー楽しい」
男「明日はクリス」
男「あー勉強楽しい」
今日の勉強時間 7時間10分
12月25日(日)
男「今日は何の日か」
男「センターまで残り20日間の日だ」
今日の勉強時間 7時間
12月31日(土)
母「あんたは漢字一字で今年を表すと何になるの?」
男「忍」
1月1日(日)
男「駿台センタープレの結果」
外大中央ヨーロッパ D判定
外大北西ヨーロッパ E判定
筑波 D判定
立教(会計ファイナンス) C判定
埼玉大学 A判定
得点 378/500
男「埼大8割5分が最低ラインなのにA判定なわけねーだろ。最近埼大センター利用始めたからデータが少ないんだろ」
男「もうやすやすと目の前の情報に騙されねーからな」
男「今日は河合のセンター演習の世界史を解いた。
男「86点。ケアレスミスがなけれ97点」
男「何回解いても世界史におけるケアレスミスが最低3問は生じる」
男「小学生の時から不注意だって叱られてた末路がこれだよ」
男「文を読み飛ばしすぎて、解けるはずの問題をうっかり間違えてしまう」
男「全部語呂合わせで世界史を覚えこんでるっていう変な勉強のせいでもあるんだけど」
男「ケアレスミスも実力のうちだ」
男「俺の実力は97点じゃなくて、86点だという前提で、他の科目でカバーするんだ」
1月8日(日)
男「久々の地元の図書館だ」
男「さすがに勉強飽きてきた。ちょっと色んな本でも見てこよう」
スタスタ……
「…………」
女「私に気付きもしないで。せっかく今日はここに来てやったのに」
女「なんだ。世界史の参考書1冊しか持ってきてないじゃない」
女「あいつ世界史興味わかないって言ってたし、ぎりぎりまでやってなかったのね」
女「漢字が苦手だから日本史じゃなくて世界史選択にしたら、いきなり中国史で漢字が出てきてやられたとか。もう馬鹿かと」
女「世界史は復習だって大変なんだから。あいつちゃんと……」
女「なんだろう、このプリントの束は」
女「ちょっと見てみましょ」
アヘン無き世に香港高校廃して上司
日清修好条規ぱない
おや?青年に乗じてヘルニアか
義和団不審な日露英米どっぷつ大分北京議定書
こっちで孫文中国同盟会
フラスコ平和来い日米
カンボジア独立ござんヌーク、ラオス越し
人はパクっとパリっとナショナル
今日はこつこつアンクル=トム
ナシシのサウード家とリヤドでわっはっは王国!
いーぱぱいっぱいウラービー、イギリスエジプト保護国化
…………
女「な、なによこれ!!」
女「この紙も、この紙も」
女「この紙の束全部、意味不明な文字列がびっしり打ち込んである!!」
女「何がわっはっは王国よ!!あいつ勉強しすぎておかしくなっちゃったの!?」
女「……あれ?」
女「日清修好条規ぱない。確か1871年に条約が結ばれたのよね」
女「エジプト人将校が反乱を起こしたのも1881年。そのあとイギリスはエジプトを保護国化した」
女「まさか、あいつ」
女「年代を一部語呂合わせで覚えるとかってレベルじゃなくて」
女「古代から現代まで、まるごと語呂合わせで覚えるつもりなんだわ」
~数ヶ月前~
男「世界史って教科書読んでても、頭に入ってるのか入ってないのか、覚えてるのか覚えてないのかわからない感覚が嫌なんだよ」
男「英語だったら英単語見て、その和訳を言えればいいけど」
女「何度も何度も目を通して覚えていくのよ」
男「読んでても全然頭に入ってこないんだよな。教師は流れを掴めなんて言うけど、マウリヤ朝について詳しく理解したところでクシャーナ朝の何がわかるっていうんだよ。受験の世界史に流れなんて存在しないだろ」
女「ぶつぶつ言ってる時間があったら覚えなさいよ。色んな勉強法があるわ。教科書を読む度に異なる色のマーカーで塗ってって、覚える頃には黒く塗りつぶされているとか」
男「もっとお手軽なのないの?」
女「はたくわよ。日本史に切り替えたら?1192つくろう鎌倉幕府くらい覚えてるでしょ」
男「今は1185年らしいよ。いい箱つくろう鎌倉幕府」
女「知ってるし」
女「あんたでも語呂合わせなら覚えてられるのね」
男「……語呂合わせか」
男「たしかに、1つの区間の出来事を丸暗記しやすいような文章をつくれば……」
女「学問に王道なしよ。机にすわってがんばんなさい」
女「…………」
女「学問に王道なし、か」
女「それは、簡単な抜け道なんてない、ってことを意味するんじゃなくて」
女「人それぞれ、勉強の仕方は異なるって意味なのかもしれないね」
女「男」
女「合格するのよ」
今日の男の勉強時間 7時間30分
今日の女の勉強時間 11時間20分
1月9日(月)
センター会場の下見に行く。
男「当日向かう途中にトイレに行きたくなったら、受験会場じゃなくて、この手前にある服屋さんでしよう。会場混んでるかもしれないし」
1月10日(火)
男「去年のセンター試験の英語を解いてみた。内容も覚えてなかったし」
男「5分余って、183点」
男「読解は満点だった」
男「新しい参考書に手を伸ばしかけてたけど、撤退しよう」
男「今までやってきた参考書を信じて復習し続けよう」
1月12日(木)
大学の図書館を歩いていると、人が不在の席に見覚えのある本が置かれていた。
男「565手帳に日本史」
男「公務員、ではないんだろうな」
男「近くでずっと戦っていた人がいたんだな」
男「敵なのに。なんだか、嬉しいな」
1月13日(金)
男「大学最後の英語の小テスト、1点」
男「はは。誰よりも英語を勉強してきたはずなのに」
図書館に残り。
今日一日で、世界史を一周した。
男「1年かけて1周して。1年後には1日で1周できるくらいに覚えこんでいた」
男「勉強は、加速するんだ」
明日のセンター試験頑張ろう。
1月14日(土)
男「まさかの朝お腹こわして、行く途中トイレにこもるとは思わなかった」
男「昨日一緒にセンター試験に行こうって、地元の友達何人かに誘われたけど、全部断っておいてよかった。みんないる時に抜け出すの恥ずかしいし」
男「それにまだ世界史の現代勉強したいし。友達といると結局話しちゃうからな」
男「……会場はここか」
「おい」
男「ん?」
「なにしてんだよ。ニッコマに行ったらしいじゃん?」
男「久しぶり。仮面浪人してるんだよ」
「まじかよ。きめぇ」
「帰れよ」
昔のクラスメートが俺の受験票を床に捨てた。
男「…………」
物凄く、性格の良い友達だった。
一緒に英検2級を受験しに行ったこともあった。
でも俺はそのやさしさを踏みにじるような性格だった。
そのせいで、日が経つに連れて、恨まれるようになって。
こんな大事な日にも、嫌がらせをされるくらいに。
男「俺は、腐ってたんだな」
男「今はわかるよ。一年間、見直してきたんだから」
自分が悪いとは思っていても、怒りで手が震える。
男「(恨むな)」
男「(変わるって、決めたんだろ)」
男「(仮に受験で勝っても、何も告げるな。相手が勝っても、僻むな)」
男「(俺は、変わるんだよ)」
男「(もしも、こんな俺でさえ、変わることができたんだとしたら)」
男「(ちゃんと、俺みたいな道を歩んでいる誰かの背中を押そう)」
男「(体験記を書くとか。受験指導をするとか。どんな方法かはわからないけど)」
男「(認めてあげられるような自分になって、誰かの役にきっと立とう)」
男「(仮面浪人の、道になろう)」
センター試験が開始された。
男「一緒に帰りましょ」
友「行きは断ったくせに」
男「ごめんごめん。ところでさ」
友「ああ?」
男「よく俺の友達やってくれたよね」
友「本当それ」
男「なんで?」
友「家が近かったからじゃん?」
男「なるほど」
男「去年さ、受験始める時に不安だった」
男「もしも受験に失敗したら、受験したことを後悔するんじゃないかって。素直に大学生活満喫しておけばよかったって思うんじゃないかって」
男「もしもさ。全部の大学に落ちて。このまま2年に進級することになったとしても」
男「仮面浪人をしててよかったって、100%思うよ」
男「仮面浪人をしていたらどうなってたんだろうって思いを引きずる後悔より」
男「仮面浪人をしたけれどやっぱり駄目だったなって後悔のほうが100万倍マシだよ」
男「今日、全国の受験生と一緒に、センター試験を受ける道を選んで本当によかった」
友と帰り道おしゃべりをして、帰宅した。
男「自己採点、するか」
自己採点結果
[国語]
論説文 45点
小説 42点
古文 37点
漢文 38点 計162点
[英語]
英語(文章)175点
リスニング 40点
世界史86点
素点463/550(83%)
埼玉大学換算554.5/650(84%)
男「こりゃ、駄目だな」
男「今年の埼玉大学のセンター利用は、センター試験の結果だけで決まる」
男「前期出願扱いにされるから、いちかばちかで出願してしまったら、前期に他の国公立は出願できない」
男「554点じゃ足りないだろう。埼大の出願はやめておこう」
埼玉大学アドミッションセンター
平成23年度
経済学部
センター入試枠
合格最低点 553.00点
1月17日(火)
早稲田も、明治も、多くの学部を受けることに決めた。
母「一緒に来なさい」
30万円近くの万札を取り出し、銀行の窓口に出した。
黙って隣で見ていた。
大学の図書館に行って勉強をする。
男「やってられっかよ」
男「この一年間の努力なんだったんだよ」
文化構想学部の英語の問題を解いた。
昨年1度だけ解いたことのあるう問題だった。
去年 正答数 20/38
今年 正答数 22/38
男「なんだよこれ。ふざけんなよ」
男「この一年間なんだったんだよ」
男「こんな時は……」
眠った。
二時間図書館で寝て起きた。
男「……ふぁぁ。よく寝た」
男「腐っちゃダメだ」
男「どんなときも、諦めちゃ駄目だ」
1月18日(水)
男「確かな成長を感じる」
男「春休みに解いたら正答率2割だった法学部の国語」
男「正答率3割に上昇」
1月19日(木)
センターリサーチの結果が返って来た。
筑波 D判定
外大 D判定
明治 D判定
獨協 A判定(去年はE)
埼玉 C判定
横浜市立 B判定(予備校によってはA判定)
首都大 C判定(予備校によってはB判定)
男「前期は首都大学東京。後期は筑波を受けよう」
1月21日(土)
男「中国語のテスト、いつも予習してたし勉強したおかげで中々点数取れた」
男「仮面してなかった自分だったら、逆に成績悪かったんじゃないかな」
男「髭とも授業受けて。イケメンと帰り道に色んな話をして」
男「今日の大学、普通に楽しかったな」
1月24日(火)
男「前期で首都大学受かって合格手続きしたら後期の筑波受けられないんだ。知らなかった」
男「国公立のシステムなんて最近になって知ったからな。電話で埼大に色々確認しておいてよかった」
男「首都大は英語と国語しか試験課されないんだよな。早稲田のために世界史を勉強しても、役に立たないのがつらいな」
1月28日(土)
男「俺なにやってんの」
男「アジアの歴史のテストを受け忘れていた……」
男「せっかく一年間世界史勉強したのに……」
1月31日(火)
去年は今頃焦りだして
「戦いはこれからだ」
今年はもう疲れてしまって
「もうすぐ終わりだ」
モチベーション的には去年の言葉のほうがいいんだろうけど。
2月2日(木)
母親から説教をされた。
怠けすぎだって。
起きる時間が遅い時も多かったからな。
30万円も振り込んでるのに寝てるのを見たら、多少の憎悪もわくだろうな。
1月23日(金)
チャラ男A「やべー。時間間違えたとか」
チャラ男B「あの表記わかりづれーよ」
男「(……もしや)」
アジアの歴史に加えて、西洋の歴史まで。
一番自信のあった2つの試験を、自分のうっかりによって受けなかった。
男「うっかりとか、ケアレスミスとか、めちゃめちゃ多い性格だけど」
男「それ以上に」
男「大切に思ってなかったんだ。この大学の授業のことを」
男「自分のこと、受験生だって思ってるんだ」
落ちたらどうなるかは考えないようにして、また図書館に向かった。
いつも通る道に。
見慣れたはずの、見飽きたはずの道で。
新しい発見をすることがある。
ずっと置かれていた看板の文字に、初めて注意を向けた。
『感謝は最大の気力
感謝の土台に立たない「やる気」は一回の挫折で崩れる。
「ありがたい」と思う心から困難に立ち向かう勇気が生まれる。』
男「うん」
男「そう思います。否定するところなんてない」
大学の期末テストは他にも複数あった。
男「1日だけ、勉強しよう」
今までろくに聞いていなかった授業を、前日だけ勉強するなんてきっと何の意味もない。
このまま大学に全落ちしたら、単位をぼこぼこ落としたまま進級するのだろう。
だけど1日くらい単位を取るために勉強したかった。
自分なりの、恩返しのつもりだった。
せめて一日だけは、この大学の生徒として、勉強したかった。
毎日通い続けた。
大学にも受験にもやる気が失せて、家で寝ていた時期もあったけど。
この大学に通って、英語の授業を受けて、法学の授業を受けて、憲法の授業を受けて、歴史の授業を受けて、芸術論の授業を受けて、体育の授業を受けて、中国語を学んだ。
決して多いとも、深いとも言えないけれど、人との出会いもあった。
自分が孤独で寂しい思いをしたから、グループ分けで浮いた人を仲間に入れるときだけ張り切ったけど。
俺がこの大学にしたことは、迷惑をかけることだけだった。
みんながホワイトボードを見ている時に、俺は参考書や、内職用のノートを見ていた。
英語の授業で差されて俺が答えられなかったことを、後ろの学生は答えていた。
多くの人で作り上げた学園祭にも出ず、受験勉強をしていた。
そんな自分が、この大学に対する所属意識を持つためのささやかな抵抗の手段といったら。
勉強くらいしか、なかった。
男「何も勉強しない日が続いた後に。参考書を手に持つと」
男「今から追いつけるのか、という絶望感でひらけないこともあった」
男「それでも開くしかないんだな」
今日の受験勉強時間 2時間30分
今日の期末試験対策時間 5時間30分
夕飯はフードコートで食べた。
注文していたものが出来上がり、食べに行こうと席を立った。
ラーメンを持って席に戻った時に気づいた。
男「俺、財布の入ったカバンを置いて、参考書を手に持って注文を取りに行ってた」
男「俺にとって盗まれたら困るのは、このぼろぼろの1冊の方なんだな」
仮面浪人の冬 7頁目
2月5日(土)
「試験開始」
明治大学全学部統一入試の試験が開始された。
英米文学専攻を狙っていた。
英語のテストからだった。
速読英単語の長文を毎晩音読しながら読み込み、単語王で隙間なく語彙を補充し、DUOによって無数の熟語を暗記し、ポレポレ英文読解も最後の長文まで何度も繰り返し繰り返し読み込んだ。
歯が立たなかった現役時とは違い、明らかに手応えがあった。
男「(これ、速読英単語で出た単語だ!これ、単語王で出た単語だ!これ、DUOで出た熟語だ!これ、ポレポレ英文読解で出た英文構造だ!)」
男「(読める!!読めるぞ!!)」
そのせいで、少し、油断をしていた。
男「(……やべえ。必要ねえことしてた)」
英語の解き方の順番を間違えてしまい、かなりの時間をロスしてしまった。
サワサワ…
男「(しかも)」
サワサワ…
男「(隣のJKがスカートまくりまくってて集中できん!!どんな癖だよ!!)」
男「(今日だけはやめてください!!今日以外は好きなだけやって頂いていいんで!!)」
男「(うるさいうるさい!何があろうと、一年間蓄えた実力で押し切るんだよ!!)」
続いて国語の試験が開始された。
男「(俺の鉄則は古文→漢文→現代文A→現代文B)」
男「(自分の好きなように解けばいいんだ)」
女『捨てろって言葉よくあるじゃない。あれ、うのみにしちゃ駄目よ』
女『漢字を覚えるのに分厚い漢字の参考書買って、まるまる全部覚えなくてもいいわ』
女『でも、漢字全部捨てるのはよくない。頻出の漢字だけは覚えておくの』
女『頻出の漢字を覚えてる受験生に差がつかなくて済む。細かい漢字まで覚えてる受験生には負けちゃうけど、その分の時間を他の勉強にまわして勝てばいいの』
女『コストパフォーマンスってやつよ。参考書なんて、薄すぎると売れないからね。律儀に全部やんなくていい場合もあるのよ』
男「(過去問でも、センターでも、漢字は満点か1問ミスくらいになった)」
男「(大雑把な俺が、そういう知識問題で確実に獲得してるのって変な漢字だよな)」
男「(古文と漢文は必要以上に勉強してきた。お風呂に参考書貼り付けて毎日シャンプーしながら、湯船に入りながら見続けてきた)」
男「(現代文も1冊の参考書をじっくり読み続けてきた)」
男「(イイタイコトをつかまえる)」
男「(10個の長文を知り尽くすことによって、他の100や200もの長文についても深く読解できるようになる)」
男「(自分という人間に向き合うと、結果的に他の人のことも理解できるようになるのに少し似ているな)」
男「(って、そんなこと考えてる場合じゃない!)」
男「(主観を挟まず、論理的に解く!)」
最後は世界史だった。
男「(正直、現代の範囲はまだ極められていない)」
男「(それでも無数に覚えた語呂合わせで全ての範囲をマスターしてる)」
男「(入試問題はやはり巧妙にできていて)」
男「(教科書範囲の知識があればわかる問題も、あえて難しい語句を混ぜて誤答に導く問題がある)」
男「(いつも時間ぎりぎりだからな。俺としてはけっこう緊張する科目だ)」
男「(世界史の勉強に興味が持てず、ぎりぎりまで避けてきたけど。その分英語と国語を頑張ってきただろう)」
男「(自信を持たなくていい。世界史が駄目な分、他がよくなったってことだろう?)」
男「(ケアレスミスが必ず3つは出るのがこの俺だから。最後の1秒まで見直しに使うぞ!)」
男「ふぅー、終わった」
男「このエスカレーター懐かしいな。去年登った以来だ」
男「手応え、正直なかったな」
男「どんなに勉強しても、MARCHはMARCHのまま。難しくて、余裕なんかなかったよ」
男「自分が落ち込まないように」
男「へこまないように。脳科学とか、心理学の本とかにも書いてあるように」
男「一生懸命、前向きなふりをしてきたけど」
男「本音に向き合うと、つらい」
男「正直に言ってしまうと」
男「受かる気が、しない」
男「勉強を開始するのが遅かった」
男「言葉にするとなんて馬鹿馬鹿しい。今更かよって思う」
男「受かる気がしない。早稲田なんて夢のまた夢」
男「心で思ってても、口には出さないようにしてたんだけどな」
男「疲れた。やる気が出ない」
今日の勉強時間 1時間
しばらく席を外します。
>>231
訂正前:英米文学専攻を狙っていた
訂正後:公共経営学科を狙っていた
2月6日(月)
電車の中で立ちながら参考書を読んでいると、立ちくらみがした。
気づいたら座り込んでいた。
目の前にいたサラリーマンが座席を譲ってくれた。
目をつむっていると今までのことが頭に浮かんだ。
閉館の合図を示す蛍の光が流れてからも、ぎりぎりまで勉強していたこと。
音楽プレイヤーに好きな音楽が流れても、切り替えて英語を聴くようになったこと。
インフルエンザの予防接種をしに行ったら、医者から浪人なんてしちゃいけないと言われたこと。
図書館で息抜きにセネカの本を読んだこと。
どれもこれも、色で例えるなら、灰色だったけど。
愛おしい時間だった。
大学の図書館に着いた。
男「勉強のやる気が、まるで起きない」
一年間勉強してきて、疲れていた。
春頃に友と話した、息切れ、というやつだろうか。
頭がぼぉーっとしている。
なのに。
どういうわけか。
男「手が勝手に、参考書を開く」
習慣の力は恐ろしいものだった。
あれだけやる気を出したかったのに勉強しなかった過去と違い。
やる気が欠片も残ってないのに、手が勝手に参考書を開く。
参考書を脳が読み取り始める。その時だけ集中力は高い水準まで発揮される。
男「なんだろうなこれ」
男「勉強する気がまるでないのに、勉強してるよ俺」
男「これは便利な受験マシンだ」
世界史の現代の範囲まで、全て暗記を終えた。
今日の勉強時間 10時間20分
2月7日(火)
今日の勉強時間 9時間30分
2月8日(水)
この大学への受験生が来ていた。
応援したくなる気持ちが芽生えるのは、おかしいことかもしれない。
今日の勉強時間 9時間 10分
2月9日(木)
今日も閉館まで勉強した。
帰宅の時点で既に10時間以上勉強していた。
男「昔は細切れに15分ずつやるところからはじめて」
男「でも、15分の集中力さえもたなくて、10分経ったら携帯をいじってたのに」
男「だんだん15分が短く感じて。30分に変えても、中断するのがうざったく感じて」
男「1時間も、2時間も、ぶっ続けで勉強できる自分にいつの間にかなっていた」
男「人は成長する、というよりも。変化するんだな」
帰り道だった。
男「……あれ」
億劫になった。
途中で駅を降りた。
駅のホームのベンチに座った。
男「動けない」
男「動きたくない」
男「息切れしてから勉強したせいで、反動でも来たのか」
男「明日、明治大学の試験なのに」
少しでも気分を変えながら帰ろうと、いつもと違う路線で帰宅した。
本屋にも寄って小説を買うが、1頁読んで閉じてしまった。
参考書の読解以外にエネルギーを割くことを脳が許さなかった。
男「早く、受験終わってくれ」
男「壊れてしまいそうだよ」
2月10日(金)
明治大学の試験を終えた。
男「駄目だった」
男「間違った箇所だけわかるような出来だった」
男「英語に関しては時間たりなさすぎて適当に4に2つマーク。設問部分の前後の箇所だけ読む始末」
男「国語の漢字間違えも発見」
男「世界史もどうして間違えたのかわからないようなケアレスミスを連発」
男「俺、馬鹿なのかな」
男「真面目に勉強すればするほど、やらなかったから出来なかった、という言い訳ができなくなる」
男「人生で1番のエネルギーを注いで本気で取り組んで」
男「親がすべり止めにと受けさせた大学に受からなかったら」
男「勉強以外に何の取り柄も俺は、これから何ができるんだろう」
男「…………」
男「馬鹿でもいいよ、もう」
男「というか普通に馬鹿キャラだったし。人一倍不器用だし。そんな自分だからこそ、ここまで頑張ろうと思えてきたんでしょ」
男「こういうことで悩むのは、馬鹿じゃなくて、愚かなことだ」
男「こうして過ぎていく1秒1秒に逆転のチャンスが含まれている」
男「だから最後まで戦え」
男「戦って、勝て」
今日の勉強時間 9時間10分
今日はここまでです。
日曜日完了予定です。
最初は受験生全般向けの内容にしようと思ってたのですが、仮面浪人生だけを想定して書くように変えました。
ここまで読んでくださった方がいたら幸いです。
おやすみなさい。
2月12日(日)
ついに早稲田大学最初の入試日を迎えた。
文化構想学部。
去年の第一志望だった。
男「(……体調が、悪い)」
風邪を引いたわけではない。
好きな時間に寝ていた受験生活のせいで、昨夜深夜過ぎまで寝れなかった。
早朝に起きることもあまりなかったので、身体が朝に慣れていなかった。
男「(お腹も痛いし、頭もぼぉーっとして全然集中できない)」
男「(生活リズムを治そう治そうとは思ってたけど、なんとかなるって思っちまった)」
男「(なんともならねーよ。なんとかするしかなかったんだ)」
男「(頭が働かない)」
手応えは最悪だった。
試験は呆気なく終わった。
友も文化構想を受験していた。
一緒に帰る約束をしていた。
早稲田駅のホームで友を待つ。
男「電車がひっきりなしに来るな。鉄道会社が受験日用のダイヤに変更しているんだ」
受験日用のダイヤが必要なくらい、大量の学生が絶え間なく運ばれていく。
券売機の近くの柱に立って、電車を眺める。
無数の受験生が乗車し、満杯になって、電車は発車する。
数十秒後にやってきた電車にも、無数の受験生が乗車し、満杯になって発車する。
友を待っている間その光景が繰り返された。
男「まじかよ」
男「こんなにとめどなく流れる大勢の中から、たった千人しか選ばれないのか」
「自分がその環境で上手くやっていく可能性は、その環境を手に入れるのに費やした努力の量によって決まる」
大学生A
2月15日(水)
早稲田大学法学部の入試を終えた。
男「実力不足だった。歯が立たなかった」
男「解答速報を貰って自己採点をしたら英語が4割未満だった」
男「本当にもう、どこも受からないんじゃないかって気がしてきた」
男「世界史の復習、まだ現代の範囲うろ覚えだけどやめちゃって、首都大学用の勉強しちゃおうかな」
男「弱音を吐き出したいよ。弱気になりそうだよ」
男「はぁ……」
男「まぁ、考えてもみれば」
男「仮面浪人として、1年間大学に通いながら図書館で勉強し続けるメンタル持ってるやつが弱気なんだよね」
男「そんなメンタルが強そうなやつが弱気になるなら、弱気になることこそが正常なんじゃないか」
男「もうこの俺が弱気になるなら、仕方ないだろ」
男「嘘でもいいから、頑張れ」
損得を考えて何になる。闘うんだ、尊厳のために。胸を張って、生きるために。
「最強伝説黒沢」福本伸行 小学館
2月17日(金)
文学部の入試だった。
解答速報を貰うのをやめた。
不安な気持ちを除くための道具にしか過ぎない。
男「傍観者だった頃の自分は、人に指図するのが好きだったと思う。そうやれば、こうやれば簡単じゃん、って」
男「実際に自分がやってみたら、全然うまくいかなかった」
男「自分で自分に指図することを通して、実行することがいかに難しいか痛感した」
男「いい経験をしたよ。痛い目を見る、っていうね」
男「ただいま」
母「おかえりなさい」
法学部の試験どうだった?とは聞かれない。
自室に戻らず、パソコンのある和室に向かう。
母は何も言わなかったが、そのことの意味は理解しているはずだった。
男「明治大学、公共経営。合格発表の日だ」
全学部統一入試と、一般入試の両方で出願した。
手応えは不合格、自己採点もやはり不合格、という実感だった。
憂鬱な気持ちを抱えながら結果を見た。
男「あれ、打ち間違えたか?」
男「もう一度」
男「……受かってる」
2つの方式両方で合格していた。
男「お母さん、受かった」
母が来た。
さっきまで無表情で洗濯物を畳んでいたのに、泣き崩れた。
男「ど、どうしたの!」
驚きのあまり笑ってしまった。
いつもぶつぶつ文句をうか、あまり関心のないような態度を示していた母は。
母「本当に……よかった」
当の本人よりも、本人の結果をずっと心配していたのだった。
男「(俺は、この人には、生涯をかけても恩を返しきれないんだろうな)」
自室に戻って現実を振り返る。
嬉しかった。
喜びたかった。
俺はこの先一体どうなるんだろう、という気持ちで閉館後の図書館の階段を降りる未来はこれで消えた。
嬉しさのあまり、友達に喜びを分かち合いたかった。
男「誰に……」
男「受験生活を通して、だんだん冷たい態度になって」
男「自分が合格した時だけ、喜びを、分かち合えるわけないじゃないか……」
男「今度友に会った時に言おう……」
戦っている間は孤独が心地よく感じた。
けれど、勝利した瞬間に心の底から喜びを分かち合える友達がいない。
虚しかったけれど。
これは、自分が選んだ選択だったんだ。
2月18日(土)
人間科学部健康福祉学科の入試日。
男「(長文の中に引っ張ってある傍線部の意味を選択肢から選ぶ問題)」
男「(なんだよこれ。律儀に全部読んでたけど、傍線部分だけ読めばわかるじゃん)」
制限時間を半分残したまま、全ての問題を解き終えた。
男「(時間かなりあまってるぞ。問題が軟化したのか?)」
カンニングだと思われないように大げさに顔をあげながら、周りの雰囲気を見てみるが、みんな必死で解いているようだった。
男「(全部初めから解き直してみるか)」
丁寧に全問解き直すが、ケアレスミスを発見しただけで、他は全て同じ回答になった。
国語の試験も、少し時間に余裕を残して解くことができた。
世界史の試験を見た時は驚いた。
男「(まじか。難化してるじゃん)」
昨年までの傾向と違い、明らかに難化していた。
男「(よかった。俺にとっては、得だ)」
分厚い世界史の参考書をまるまる1冊やった自分はある程度正当できる自信があった。
人間科学部を第一志望にしていた学生にとっては不幸な傾向変化だった。
男「(人間科学部の傾向を研究して、必要最低限の勉強をしてきた人は、合格が厳しいだろうな)」
男「(効率を求めても足を救われるのが入試の嫌なところだ)」
人間科学部の入試を無事終えた。
手応えはかなりよかった。
男「さて、帰るか」
男「またあの人達だ」
早稲田大学の中でも有名なサークルが、毎年入試の終わりの時間になると門の前に立って、激励をしてくれる。
男「解答速報なんか破り捨てろ!!って、解答速報配ってる人達の横で言ってたのはちょっと笑っちゃったよな」
「みんなー!!気にするな!!」
「落ちても気にするな!!」
「私達は人間科学部を早稲田とは思っていない!!」
昨日までは好感を持っていた人達に。
一気に裏切られる思いがして、冷めた。
それを、この学部を目指して1年間頑張ってきた学生に言うのか。
女「またエロサイト見てる」
男「わっ、女!早稲田について調べてたんだって!」
女「ふーん。それで?」
男「あのさ、本キャンと、文キャンと、所沢キャンパスって隔たりあるの?」
女「何を持って隔たりというかはわからないけど。就職実績は知らないからウェブサイトで調べてちょうだい。サークル活動ベースでの話をするならあるわよ」
女「本キャン(政治経済、法、教育、商、国際教養)と文キャン(文、文化構想)は早稲田駅付近にあるわよね。そして、所沢キャンパス(スポーツ科学、人間科学)は、高田馬場駅から45分くらい離れた小手指駅付近にある」
女「本&文キャンの学生主催のサークルでは、活動場所も早稲田駅や高田馬場駅付近になりやすいから、所沢キャンパス勢にとって交通の便がわるい」
女「だから、所沢キャンパスの学生は、トコキャンの学生主催のサークルに所属することが多いの」
女「ちなみに理系の所属する理工キャンパスは西早稲田駅にあるの。高田馬場駅から20分くらいの場所だから、本キャン&文キャン&理工キャンが一緒に活動するサークルは多い」
男「うちの高校のエリートクラスのやつが、早稲田の人間科学部と明治大学の商学部にW合格してどっち行くか迷ってたけど、どういう風に選べばいいの?」
女「何よそれ。校風も学ぶことも全然違うじゃない。偏差値以外の基準で自分にとって何が大切かを判断するのも受験勉強のうちでしょう」
女「あんたが心配すんのはそこじゃないでしょ。人間科学部の倍率5倍近くあるのよ。まずは受かることを考えなさい」
男「そうやって勉強して受かった後に困るんじゃ……」
女「何か?」
男「いえ、勉強します」
女「でも、そうね……」
男「ん?」
女「これは私の偏見でも、統計でもなくて。人間科学部の知り合い二人が言ってたことなんだけど」
女「やっぱり、他の学部に、引け目を感じることは、あるみたい」
男「早稲田に行っても、また偏差値か」
男「なんかもう疲れるよな。順位とか、偏差値とか」
男「俺が言えることじゃねーか」
男「そういう、グレーゾーンの話題に本音で答えてくれる人なんていないから」
男「自分で判断して、自分で解答を出すしか無いんだ」
男「少なくとも、俺にとって人間科学部は」
男「自分の人生をやり直す場所として、受験すると決めて過去問もやり込んだ場所だった」
男「雑音を聞くな」
男「早く帰ろう」
2月19日(日)
男「あと13時間と3分で、政治経済学部の入試か」
男「緊張もしないし、鬱にもならないし。いつも通りだな」
男「いつもの行いが結果となるんだったら。あの日も、この日も、毎日本番だったんだ」
男「あと30分勉強して寝よう」
2月20日(月)
「いつものことを、いつものようにやっただけです」
天野篤(外科医) 今上天皇の狭心症冠動脈バイパス手術の執刀に関して
政治経済学部の入試日。
会場に着いてから、試験開始までの時間は机に伏せて寝ていた。
試験監督が解答用紙、問題用紙を配布する。
浪人してからついた癖で、問題用紙の表紙に書かれている注意事項を読み込んだ。
極一般的なルールが書かれているそれを、読まない学生は多いのだろうが。
ちゃんと、そういう大切なことに、気を払う自分でありたかった。
自分の不注意がきっかけで、落とし穴にはまりたくなかった。
ジリリリリ。
開始の合図がされた。
男「(いくぞ!)」
英語の長文を読み始める。
男「(なんだ、なんだこれ)」
男「(難しい。確かに難しい)」
男「(だけど、読める!!)」
単語のレベルも高く、文構造も把握しにくいような、高度な学術的文章だった。
しかし、1年間培ってきた実力で、ごりごりと読み進めていくことができた。
英語自体の実力に加え、受験でよく取り扱われるような学術的なテーマに関して、英文読解や現代文の勉強を通してある程度知識が着いていた。
数か月前まで歯が立たなかったレベルの英語の長文を、積み上げてきた自分の実力を持って、はやく、正確に読み進めていった。
男「(合格するようなやつらってどんな感覚で読み進めてるんだろうっていつも妄想してたけど)」
男「(こんな感覚だったんだな)」
英語は、上出来だった。
国語の試験までの長い休み時間も机に伏せて潰した。
開始のベルが鳴り、一呼吸起き、問題用紙を開く。
緊張をほぐすためにパラパラと全体をめくって分量を確認したあと、いつものように、古文、漢文、現代文と順番に解きはじめる。
最初に取り掛かった古文の問題を見た瞬間、全身に静かな鳥肌がたった。
春休み、友と電気ねずみが出てくるゲームをしていた時、画面の中の人物に話しかけるとこんなことを言われた。
『偶然は、準備のできていない人を助けないと言うよ』
男「(準備のできている人を……偶然は助ける!!)」
やりこんだ参考書で取り上げられていた文章と、全く同じ文章が目の前にあった。
男「(これ、元井太郎で出た問題だ!)」
問題文も読まず、設問だけを読み1分程度で複数問解答することができた。
残りの問題も短時間で解き、漢文に移った。
俺はここで大きな2つのアドバンテージを得た。
一つは確実に古文で8割近くの得点を獲得したこと。
加えて、古文読解にかかるはずだった時間を論説文の読解に大きく割けるようになったこと。
男「(しかも現代文の文章……山本弘的なSFの文章じゃん!俺が大好きなジャンルだ!!)」
男「(こんな幸運あんのかよ!!)」
男「(解け!!解け切れ!!)」
偏差値20の差を超えた世界が、目前まで迫っていた。
帰り道のことだった。
男「……くそ。また間違えた」
男「あそこもだ。くそ」
混雑する駅のホームを移動するなか、宙を見ながら悪態をつぶやく。
試験中の記憶力は異様によかった。
さきほど解いた世界史について、問題文と自分の回答が自然に頭に浮かんできた。
男「あれもケアレスミスじゃん」
男「どうして帰り道の自分が何も見ずに解けるのに、本番中の俺が解けないんだよ」
友から聞いた、出典の無い単なる噂に過ぎないが。
平均点を下回った科目は、調整の際に大きく減点されるという。
男「ケアレスミスが起きないような自分、を作り出せるようなアイデアを受験終了までに思いつけなかった俺が悪い」
男「出ちまうもんは出ちまうよ」
男「英語と国語で押し切れねーかな」
家につき、パソコンのある部屋に向かう。
男「文化構想学部の入試結果の発表がされてるはずだ」
男「落ちてるだろうな」
男「ネットで受験番号を見る方法と、電話で聞く方法がある」
男「電話は緊張するな。ネットで見よう」
心臓にばぐんときた。
男「知ってたよ」
男「落ちてる」
文化構想学部得点開示結果
素点/配点(調整後)
英語 49/75 (44.033)
国語 38/75 (35.183)
世界史 36/50 (28.72)
調整後合計点 107.936
合格最低点 125.75
結果:不合格
2月21日(火)
ジリリリリリ!!
早稲田大学商学部の入試日。
問題用紙と解答師が配布された後の試験開始までの長い待ち時間、机に伏せて眠り込んでしまっていた。
試験開始の合図のベルの音が小さかったら、眠ったまま試験が終わってしまっていただろう。
男「(どんだけ疲れてるんだ俺は)」
英語の問題用紙を開く。
内容を問われる問題よりは、穴埋めの問題が多かった。
相性も悪く、難しかった。
全てを読解するのを諦めて、傍線部と選択肢部分だけを読む方法に切り替える。
国語の時間に移る。
男「(古文も手応えあったし、漢文も簡単だった。残るは現代文だけだ)」
現代文は、参考書で学んだ通り、基本的には
本文を全部読む→設問を読む
という手順をいつもとっていたが。
男「(本文を読んでいるうちに、もう設問の予測がつく)」
男「(作者の言いたいことはこれだろう。出題者が問いたい内容はこうだろう。という具合に)」
男「(ほら、やっぱり。思った通りの設問が出た)」
男「(商学部は国語の平均点高いから、できてもあんまり差がつかないんだけどな)」
国語の試験の手応えは良かった。
男「(そして、世界史)」
男「(……これは驚いた)」
男「(現代の範囲に関する語句記述問題だ。10問近くある。近代までで勉強終わりがちな現役生泣かせだな)」
男「(現代の範囲まで諦めずにやっておいてよかった。去年なんて現代まるっきり捨てたたもんな)」
男「(受験勉強をやり通した時に感じるのって、違和感なんだよな)」
男「(あんな怠惰だった俺が、まともにやってるっていう違和感)」
男「(俺、この1年間勉強してたんだな)」
…………
男「終わった」
男「今日はつかれた。明日の社学で早稲田も最後だ」
男「帰ろう」
今日の勉強時間 0秒
男「色んな資格について調べてた」
男「こんな疲れ果てた頭でも、携帯で情報を集めるのは全然苦にならなかった」
男「調べるだけって、こんなにも頭を遣わないことなんだな」
男「現役時代はそれだけで終わってしまったよ」
男「もう本当に。疲れた」
2月22日(火)
社会科学部の入試日。
英語も、国語も、世界史も。
男「全て、疲れ果てて、やる気がでなかった」
男「毎年の如く出題された英語の短文挿入なんて、やっぱり糞難しかったし」
男「世界史は例年通り冗談みたいな難易度だった。今年は教科書範囲の出題範囲が少し増えたから、易化したなんて笑える速報もあったけど」
男「しかも今日は」
男「法学部の合格発表の日」
男「落ちてるだろうな」
男「電話で聞くのは怖い。ネットの掲示板で見よう」
確認手段を変えたところで、結果に変わりはなかった。
男「……不合格。うるせーよ」
男「残る試験は前期の首都大学と後期の筑波だけ」
男「もう勉強する気なんて起きない」
男「寝よう」
今日の勉強時間 0秒
法学部得点開示結果
素点/配点(調整後)
英語 非公表/60 (28.632)
国語 非公表/50 (25.375)
世界史 非公表/40 (25.901)
調整後合計点 79.908
合格最低点 88.995
2月23日(水)
男「結果を待ってるだけの期間って嫌だな。ムズムズしてくる」
男「ミスしたとこばっか浮かんでくる」
男「久しぶりに仮面スレでも見るか」
失敗したという人がいた。
凄くつらさが伝わってきた。
大成功したという人もいた。
嫉妬心が一瞬吹き出そうになった。
男「自分より下を見て」
男「俺はまだ恵まれているな……」
男「自分より上を見て」
男「俺のざまはなんだ……」
男「俺って、他人本位の生き方だな」
男「たしかにさ。合格するまでも、不合格になってからも、仮面浪人は普通の受験生よりも遥かにつらくて」
男「仮面浪人という環境は受験生にとって劣悪な環境だったかもしれないけど」
男「仮面浪人という環境に身を置けたのは、とても恵まれていたことだったと思う」
2月24日(金)
午前中、毎日通っていた大学付設の図書館に行った。
試験期間も終わり、自分以外に誰もいなかった。
少し読書をして、無人の光景を写真で撮った後。
大学の事務所に行き、退学届けを提出した。
奇しくも、自分の属していた学科の合格発表の日だった。
男「明治大学には合格したから、もうここに残ることはない」
男「事務所のお姉さんがすすめてくれた通り、3月31日付での退学にした。そうすることでこの大学での成績が残るらしい。よくわからないけど」
男「自分の計算だと取得単位も18単位。他人の3分の1だ」
男「仮面浪人、失格だな」
大学を出て、図書館に寄らず、夕陽が差す道を歩いて帰る。
清々しい気持ちだった。
こんなに幸せな帰り道は、今までなかった。
ずっと妄想してきたような時間だった。
男「刑務所なんかとはいえないほど恵まれた環境だったけど」
男「ショーシャンクの空に、と自分を重ねてしまうな」
男「ありがとうございました。お世話になりました」
今日の勉強時間 0秒
2月25日(土)
首都大学東京の試験日。
男「(問題を出題されて、答えるっていう、この試されてるのがなんかもうムカつく)」
英語を和訳する問題に、丁寧すぎるほど詳しく和訳して解答した。
合格率C~B判定の大学で、決してすべり止めとはいえなかったけど。
1年間の疲れとか、怒りとか、蓄えた実力とか、色んなものが混じり合い。
丁寧過ぎる回答をすることで、これらの感情を返した。
男「入試を詰め込んでさすがに疲れた。ぼろぼろの自転車になって、乗り回されてる気分だ」
男「乗ってるのも、乗られてるのも自分だけど」
今日の勉強時間 0秒
2月26日(日)
寝起き直後。
ベッドの上で、電話による合格開示を行う。
「残念ながら、不合格です。音声ガイダンスを終了します」
男「文学部も落ちたか」
そのまま布団に潜り込んだ。
今となっては。
その大学に行きたいという気持ちよりも。
受かりたいという気持ちが強い。
男「過程より、結果。これに尽きるよな」
全然、今の自分が愛おしくなかった。
昼過ぎまでパジャマを着てることさえ許しがたくなってきた。
男「早稲田の合格不合格なんて、印にすぎないよ」
男「一度も授業すら受けたことのない大学に抱く思いなんて、幻想にすぎないよ」
男「ただ、ひたすら」
男「結果を出したかったんだ」
男「結果を出せるくらいに、満足できる過程を送りたかったんだ」
自室から参考書を持ち出す。
100冊はゆうに超えていた。
そのうちやりこんだものは少しだったが。
家族が笑った。
惨めだった
男「こんなにたくさんの参考書を買って」
男「本当に自分に必要だと思うものをやり続けた」
男「だから全ての知識はカバーしてるはずなんだ」
てきとうに世界史の参考書を手に取る。
男「この空欄に入るのはカノッサの屈辱。ここに入るのは西ゴート王国。ここはウィリアム3世。簡単じゃん」
英語の参考書を手に取る。
男「選択肢はBでしょ。傍線部の単語の意味を答えよって問題だけど、これ確かに珍しい単語だから前後の文を読んで答えるのが筋なんだろうけど。もうこの単語の意味自体知ってるよ」
現代文も、古文も、漢文も。今までまえがきと最初の数ページしか読まずに使わなくなった参考書を手に取り思う。
男「結局、受験の範囲なんて決まってるんだな。数冊を極めればもう他の参考書も必要ないくらいに」
男「そう考えると……」
男「俺は、ここにある参考書を、全部やったようなものなのか」
男「なのに、早稲田、受からないものなのか?」
この前向きな疑問の持ち方は、果たして、正しかった。
2月27日(月)
男「人間科学部に合格した!!」
男「明治だけの偶然じゃなかった。この一年間の勉強の成果はちゃんと出ていたんだ!!」
男「このままだったら……もしかすると」
文学部得点開示結果
素点/配点(調整後)
英語 48/75 (53.628)
国語 52/75 (36.635)
世界史 34/50 (29.064)
調整後合計点 119.327
合格最低点 127.8
人間科学部得点開示結果
素点/配点(調整後)
英語 非公表/50 (非公表)
国語 非公表/50 (非公表)
世界史 非公表/50 (非公表)
調整後合計点 非公表
合格最低点 84.4
2月29日(水)
「残念ながら不合格です。音声案内を終了します」
男「政治経済学部」
男「ここのために1年間費やしてきたけど、駄目だったか」
男「勉強の計画も全部この学部を基準にして組んできたから」
男「明日発表の商学部と社会科学部の方が、合格可能性は低いんじゃないかって思う」
男「正直、どっちの学部でも、政経に受かるぐらいに嬉しいよ。第一志望なんて曖昧なもんだなって思うけど」
男「早稲田の政経のおかげで、俺はここまで勉強を頑張ることができたんだ」
男「大嫌いって感情はしょっちゅうわいてたけど。受験があって、早稲田の政経という目標があって、本当によかった」
政治経済学部得点開示結果
素点/配点(調整後)
英語 65/90 (65)
国語 47/70 (47)
世界史 非公表/70 (33.206)
調整後合計点 145.206
合格最低点 152
素点平均点
英語 51.601
国語 41.141
世界史 42.941
2月30日(木)
男「商学部と社会科学部の合格発表の日」
男「商学部は駄目だろう。社会科学部からにするか。多分社会科学部もだめだろう」
男「はぁ……」
男「また電話で聞こう。もはやパソコンで受験番号を探すのが億劫」
試験要項の説明書を見ながら電話をかける。
音声ガイダンスに従って操作をする。
用紙には、合格した場合に流れる音声と、不合格だったの場合に流れる音声が文字で記載されている。
「残念ながら、不合格です」
男「はいはい」
社会科学部は不合格だった。
男「落ちると思ってても、苦しいよな」
男「それともこの期に及んで俺はまだ、落ちていない可能性を思いながら、電話してるんだろうか」
続いて、商学部の結果を確かめる。
音声ガイダンスにしたがって操作をする。
男「この作業、つかれたな」
用紙に書かれた不合格時のセリフを指でなぞる。
そのセリフが流れることに少しでも慣れておきたかった。
音声が流れた。
脳の中に、バグが生じた。
男「あれ」
指で指している文字と、耳に流れる音声が、一致しない。
男「まさか……」
男「うそだろ」
「おめでとうございます。合格です。音声ガイダンスを終了します」
男「受かった!!」
男「早稲田の商学部に、受かった!!」
3回かけなおしてみたが、結果は同じだった。
社会科学部得点開示結果
素点/配点(調整後)
英語 28/50 (28)
国語 20/40 (20)
世界史 非公表/40 (22.452)
調整後合計点 70.452
合格最低点 83.1
商学部得点開示結果
素点/配点(調整後)
英語 非公表/80 (非公表)
国語 非公表/60 (非公表)
世界史 非公表/60 (非公表)
調整後合計点 非公表
合格最低点 126.35
休憩。
男「う、受かった!!!」
男「早稲田の商学部に受かった!!!!」
母が台所から駆けてきた。
男「お母さん!早稲田の商学部に受かったよ!!」
母「…………」
男「お母さん?」
母「ごめん。もう明治の時に涙枯れちゃったみたい」
母「おめでとう」
自分の受験の合格を、心から喜んでくれる人が。
世界に1人でもいてくれるのは、とても幸福なことだった。
…………
男「何をしよう!!!」
男「もう何も気にしなくていいんだ!!!」
男「映画でも見ようかな!!!!」
多幸感に包まれていた。
今まで生きてきて1番幸せな1日だった。
倍率が8倍程度だとしたら、自分以外の7人は泣いているはずなのに。
そんなことはおかまいなしに、自尊心でいっぱいだった。
男「凄いよ俺。よく頑張ってきたよ俺」
男「偉いよ。本当、偉いって!!」
"仮面浪人の仮面は何を隠している仮面なのか"
春先にそんなことを考えたことがある。
プライドや、執着心や、欲望など、様々な答えがあるのだろうけど。
どん底も、絶頂も、両方の感覚を味わった今。
いずれの時も一貫して自分の中に存在する感情があった。
男「凄いよ、俺。偉いよ」
男「俺は俺を、尊敬するよ」
自尊心だった。
男「DVD6枚借りてきちゃった」
男「受験中に見たいと思ったけど、メモだけして我慢していたやつだ」
男「リビングで堂々とテレビ見ていい感覚久しぶりだな。いつもテレビ見るのも後ろめたい気持ちだったからなぁ」
男「まずはこれからみるか。賞もたくさん受賞してて、凄い話題になってるし」
…………
男「…………」
男「楽しくない」
男「他のDVDはどうだろう」
…………
男「これも外れだ」
男「DVDはいいや。久々にゲームでもするか」
…………
男「1年前にやり込んでたせいかな。楽しくない」
受験シーズンが終わり、地元の友達に遊びに誘われることも増えた。
一緒にゲームをやった。
昔話に花を咲かせた。
出かけたりもした。
けれど。
男「…………」
男「楽しくない」
男「何をやっても、楽しくない」
思えば、当然のことだった。
今まで生きてきた19年間を賭して、同世代との社会的な大勝負に勝利したばかりだった。
権威ある賞を受賞している作品を鑑賞しても、世界中で売れているゲームをやっても。
自分が手にした勝利以上に楽しい出来事など、あるわけがなかった。
男「何もしなくても、充分だよ」
他人にとってどんな嫌味な人間になったように見えたとしても。
それは俺が憧れていたような、俺自身だった。
夜の布団で苦悩することもなく、毎晩深く眠った。
だからこそ。
情けないことなのだろうが。
男「首都大学東京の都市教養学部法学系にも受かってた。早稲田の商学部を選んだけど」
友「まじかよ。すげえな。筑波はどうだったんだ?」
男「ぶっちした。疲れてたし」
友「くそうぜぇ」
友もMARCHに合格していた。
俺の合格を両手をあげて喜ぶ、なんてことはなかったけど。
おめでとう、とめんどくさそうに低いトーンで言ってくれた。
受験勉強は全くおもしろくなかったけれど。
受験勉強の話に花を咲かせるのはとてつもなく楽しかった。
男「親が手のひら返してきてさ。お前は本当に頑張ってたとか。努力してたとか。合格発表の日の前と後で対応が大違いだよ」
友「まぁまぁ。合格すると思ってたから受験料も払ってくれたんだろ」
男「そうだけどさぁ」
友「最近何やってんの?」
男「早稲田に行ってマイルストーンっていう雑誌買ってきてさ。授業の評価からサークル情報までたくさん載ってんの」
友「気が早いな」
男「遅く始めていいことなんて何もなかったからな」
男「おっと。もうこんな時間か。家族帰ってこない?」
友「お母さんは気にしない。お父さんはいつも帰ってくんの深夜だし」
男「そっか」
友「俺のお父さんさ。今は会社でも凄い出世コース歩んでるんだけど。大学は全然希望通りのところに行けなかったんだ」
友「去年だったかな。珍しく部屋に呼び出されて、変な話をされたんだ。というかちょっとイラッとしたな」
男「どんな?」
友「大事なのは、高学歴になれなかった時に、どうするかだって」
友「まず受かった場合の話をされた」
友「手に入れたいものを手に入れた人間は、次第にそのありがたみを忘れてしまうんだって」
友「だから、高学歴になった人は、高学歴であることが当たり前になる。そうなると、学歴なんか大切じゃないって平気で言い出すようになる」
友「自分たちはそれで満たされてるから。就職して、社会の厳しさを知って、『やっぱり人間学歴じゃないな。仕事の能力や人間性が大事なんだな』」
友「こんな具合に、学歴とは無関係の悩みで一杯になる」
友「続いて受からなかった場合の話」
友「お父さんは手に入れられなかった側の人だった。だから、20代のうちは学歴に執着が残ってた」
友「親父は家庭の金銭的事情で学歴を左右された人だった。頭もいいし仕事もできた。ただそれを初対面の人に紹介できる経歴だけがなかった」
友「そうすると、自分より学歴が上の歳下を見て反発心が沸いたり、自分より学歴が下の歳上を見て変な優越感が沸いたり」
友「自分でも面倒くさかったらしいよ。こんなくだらない感情かったるいって」
友「仕事にのめり込んで、周囲の人達から優秀だって認められていく過程で、自然と気づいたことがあるらしい」
友「"気にしない""人は学歴じゃない"こんな言葉を自分に投げかけても無意味だって。言葉で人は変わらないって」
友「そして俺にこう言った」
友「『勉強に関してコンプレックスがあるのなら、勉強する。これしかない。この解答に、解説はない』」
友「つっても仕事に関する勉強を仕事を通してすることになったってことらしいけどね。今は学歴を、粘りや能力を測る指標の一部、くらいにしか思っていないって」
友「お母さんが盗み聞きしてて、嫌な返しもしてきた」
友「『恋愛に関してコンプレックスがあるのなら、恋愛する。これしかない』」
男「他の得意なことに逃げてもよさそうなものだけど」
友「俺もそう思った。でも解説がないって言われてんだもん。悪問だよな。いずれにしろなんか聞いててむかついたな」
男「おじゃましました。またな」
友「1つ話し忘れてたんだけど」
男「ん?」
友「小学校同じで、イケメンでやさしかったのに家庭で色々あって、中学の時に不良になったやついたじゃん」
男「ああ、覚えてるよ」
友「青山学院大学に合格したって」
男「そうなんだ」
友「反応薄いな。言っても俺もあんまり中学に入ってから話さなかったからな。そんだけ。またな」
友の前で大きな反応はしなかったけど。
内心、何か、込み上がるものがあった。
男「戦ってたのは、俺だけじゃなかったんだ」
小学生の時に仲良く遊んでいた友達。
中学以来ずっと話していなかったけど。
この1年間何もしなかった場合の俺が、そいつから直接その1年間の苦労話を聞くよりも。
1年間、おそらく似たような思いを抱えて戦ってきた俺が、30秒で終わるような噂話を聞くほうが、ずっと深い対話をしていると思った。
独りだった人達にしかできない会話がある。
そう、深く感じたのだった。
明日少し投稿して完了です。おやすみなさい。
3月18日(日)
女「東大に落ちたの」
地元の図書館に行くと、女と遭遇した。
いつも背負っていた大きなリュックではなく、小さくおしゃれなカバンだけを持ってきていた。
女「進学先は、早稲田の政経政治。仮面浪人してから中退したところと、全く同じところに行くことになりました」
男「そうなんだ……。でも、凄いよ。俺の第一志望で……」
女「あんたならわかると思うけど、慰めの言葉なんかいらないからね」
女「毎日独りでどれだけ考え事をしてきたことか。頭の中に言葉を紡いできたことか。今あんたが10秒で考えた言葉が私を感動させることは多分ないから、気にすんな」
背中をばしばし叩かれた。
学生時代に叩かれた時より、少し力が弱い気がした。
女「商学部、受かったんだってね。地元で噂になってるよ」
男「高校の同級生も何故か知ってて驚いたよ」
女「つまんないって思ってるやつも一人くらいはいるんじゃない?」
男「つまんないって思う人には負の感情を与えられたし。希望のある話だなって思ってくれた人には正の感情を与えられたし。俺には良いことしかないよ」
女「言い返してくれるじゃないの」
女「仮面浪人成功かぁ」
男「ん?」
女「ねえ。統計なんて学術的なものに頼らず、イメージと感覚で捉えてしまうならば、こう思わない?」
女「仮面浪人の合格率は高いって」
男「どうして?」
女「何故なら、仮面浪人という形態は受験生にとって最悪で、圧倒的に不利だから」
女「言い換えれば、その状況で受験しようとするくらいに、熱意と自信、または適性がある」
女「仮面の成功率が10パーセントという噂の正体は、9人が途中でやめてしまうことを意味している。受験自体を放棄したり、勉強をほとんどしなくなって入試だけ受けたり」
女「だから、最後まで続けた人は、成功するのよ」
女「仮面浪人を続けていること自体が、仮面浪人としての才能があることの証なのよ」
女「とかいいながら、私はあんたより勉強したけど失敗しちゃったけどね」
女「よく最後までやり抜いたわね。合格おめでとう」
男「うーん、まあ。ありがとう」
女「なによ。もっと素直に喜びなさいよ」
男「自分だけの力ではなかったし、もっとがんばれたはずだって」
男「こんな生意気なこと言えるのは、受かったからなんだろうけどね。早稲田の商学部だけを受けていなかったとしたら、過程は全く同じなのに、周囲の反応も自分自身の喜びも全然違ったものになっていたと思う」
男「結果というものに自分も他人も凄く左右されるんだって改めて思い知らされた」
女「当たり前じゃない。ごちゃごちゃ考えないで結果だけ求めればいいのよ。結果が1番見えやすいんだから」
女「それに、過程なんかにこだわってると、結果が遠ざかることだってあるのよ」
女「結果っていうのは幸せが置いてある場所ってことでしょ。過程第一信者だったら、結果を得るために血の滲む努力を毎回しようとする。不必要な頑張りをして心が折れることだってある。頑張らなくたって結果を得られるような生き方を求めないと生きるのがしんどくなってくるわよ」
男「楽して幸せになっていいってこと?」
女「もちろんよ。まぁ、矛盾しているように聞こえるかもしれないけど、あんたの仮面浪人なんてまさにそうだったんじゃないの?」
男「えっ?」
女「他人が大変ですねぇって言うほど、しんどくなかったでしょ?自分自身、仮面浪人というやり方が性にあってるって感じてたんじゃないの?」
男「……お見事です」
男「実はそうなんだ。自宅浪人だったら自宅に溺れて絶対失敗してたと思う。好きなように勉強できる大学生活は、縛られていた高校時代の授業より精神的に気持ち良かったし。なんだったら、予備校で浪人するよりも、大学に通いながら仮面浪人してたほうが色々考えさせられてためになっていたと思う」
男「大学生に擬態して浪人するのが1番得意な、カメレオンだったと思う」
女「あっ、虫が飛んでる。舌ですくって食べなさい」
男「(この女性にはいつも見抜かれてしまうけど)」
女「あの日のことなんだけど」
病院の帰り道に女と会ったことを思い出す。
女「お父さんの病状が奇跡的に回復してね」
女「心配していたようなことにはならなかったみたい。東大合格してもその喜びを伝えられなかったらどんなに悲しいだろうって毎日打ちひしがれていたけど」
女「杞憂だった。浪人しても結果は変わりませんでしたって悲しい報告を、健康なお父さんにすることになった」
女「私にとって、東大に受かることよりも、当たり前だったはずの日常が、また元に戻ってきてくれたことの方が嬉しかった」
女「神仏なんて一切を否定したくなる時期もあったけど。やっぱり手を合わせて拝んでしまうのよね」
女「ありがとうございました、って」
男「…………」
女「しんみりした顔すんなって。ただでさえ根暗なんだから」
女「っていうか、あんた今日何しに来たの?」
男「べ、別に。図書館くらい来たっていいだろ」
女「相変わらず薄汚れたカバン持ってきて。何持ってきたのよ」
男「筆箱とノートくらいだよ」
女「冊子も一枚入ってるけど。緑色の薄いやつ」
男「あっ。現代文読解力開発講座の問題用紙だ。懐かしいな」
女「最近までやってたんでしょ。へえー、たくさん書き込んであるじゃん」
女「ふーん。面白そうね。第七問。レジャーとは何か。今の私たちに興味深い話題じゃない」
女「ふーん」
女「…………」
勝手に私物を手に取られてから、20分が経過した。
女「問2。3段落のBに入るふさわしい一文を入れる問題なんだけどさ。これ答え何?」
男「解答と解説持ってくるの忘れちゃった。問題冊子も復習のために答えがわからないようにしてあるし」
女「最近まで解いてたんでしょ?」
男「ええと。どれだったっけ」
女「まず、『ニ』ではないわよね。マイナスの内容が入るはずなのに『経済の伸長と国家の発展を促す』って書いてあるから」
女「『イ』も違うわよね。『生産意欲の減退』自体はマイナスの事柄だけど、ここで取り上げてる問題は、現代の余暇が”それ自身において意味と価値のある行為になっていない”ということ。余暇におけるマイナス面ではなく、仕事に関するマイナス面を取り上げてるから『イ』でもない。本文もレジャー産業の発展について言ってるくらいだから、ちゃんちゃらおかしいわ」
女「3段落だけを読むと『ロ』『ハ』『ホ』どれが入ってもおかしくないわ。他の段落との繋がりも見てみましょ」
女「4段落冒頭の『このように』という、3段落のまとめの言葉。3段落が、自由時間が量的時間的側面をあらわしていることを意味しているわね。単に仕事を離れた空き時間が真の余暇を意味することではないって内容よね。これだけだとまだわかんないなぁ」
女「6段落に大衆娯楽という言葉がでてくるわね。これは大ヒントじゃないかしら。3段落でも『大衆娯楽の質とあいまって』ってBに繋がるくらいだから」
女「『彼はますます外から規定され、無思考的無批判的となる。外から多く受けとれば受けとるほど彼はますます無内容となり空虚となる』。これが受身的性格の内容ね」
女「これに1番近い内容の『ホ』が正解じゃないかしら」
女「『そのあくなき利益追求は、B』という主述の関係なら『ハ』も違うと思う。
『そのあくなき利益追求は、(ハ)……目先の変化が求められ、……危機にひんしている』。主述が一致しないから『ハ』ではない」
女「主述に着目すると
ホの場合『そのあくなき利益追求は、(ホ)あたえることによって、……促進するかもしれないのである』
ロの場合『そのあくなき利益追求は、(ロ)になりかねず、……可能性が大である』」
女「どっちも主述は問題なさそうよね」
女「うーん……」
男「正解はやっぱり『ホ』?」
女「『ロ』かも」
男「えっ」
女「『ホ』だと『かもしれないのである』で結んでるでしょ。本文読んでると作者は”絶対そうだ!”って断定する感じで書いてるのに、ここでかもしれないなんて表現使うかしら」
女「『ロ』だと『可能性が大である』って断定口調で言ってるじゃない。私はこういう言い切る人がタイプなんだけど」
男「さっきまで論理的に解いてたのに……」
女「飯坂良明『現代社会を見る眼』」
女「……なによ、Amazonで売ってないじゃない」
男「解説写メって送ってあげようか?」
女「ついでに国立国会図書館に行って頑張って原著探して確かめてきてよ。そしたら間違いないから」
男「ついでってレベルじゃない!解説は家に置いてあるからそれ見て……」
女「あんた参考書やり込んだなら、”参考書が間違っていた”って痛い目を見た経験くらいたくさんあるでしょう?」
男「……世界史の参考書であった。現役の時にやり込んだ新発売の参考書が年号や語句間違えまくっててさ。途中で切り替えたけど、あれでかなり時間ロスした」
男「だけどさ。こういう現代文の参考書で、しかもこれ長年名著だって受験生から支持されてきた参考書で……」
女「やっぱりさ、『ホ』かも。だってさ……」
男「聞いてる?」
女「でもやっぱり『ロ』かな。どっちだろう」
男「ちょっと、聞いてる?」
女「もう一度全文読み直してみましょ」
男「もう、入試終わったんだけど!!」
今日の勉強時間 3時間
[後日談:入学後]
「また遅延かよ」
電車が遅延していた。
ということに気づかないくらい、参考書を読んでいた。
男「行政書士法における……」
習慣の力は、恐ろしいものだった。
将来行政書士を目指しているわけでもないのに、何か勉強していないと、過ぎゆく時間がもったいない気がしていた。
一問一答集を読み込み、やった回数にあわせて正の字を書き込み、暗記し終えたところには印をつけ飛ばしていく。
受験時代にそうしていたように、本一冊を効率的に暗記しいくのに通学時間を利用した。
なんとなく違和感を覚えてはいたのだが、その正体はわからなかった。
一人でしか出会えない場所があり、文字があり、時間があり、思考があり、景色があり。そして最後に、君がいた。
大学生の春 8頁目
合格者(男性:偏差値69)「俺は、俺が好きだ」
男「ただいま」
9号館の建物の裏にまわり、白い機械の下に手を伸ばす。
男「夢みたいというか。夢を毎日描きすぎていたせいで懐かしいというか。不思議な感覚だな」
男「……あれ、なんだろこの感触」
硬貨は見つからず、枯れ葉のような感触だけが手に触り、引っ張ってみる。
男「新聞紙の切れ端じゃん。丁寧に畳まれてるし」
男「って。中に10円が挟まってる。いつの間にか絡まっちゃったのかな?」
男「遠縁でも、関係なかったな」
10円玉の硬貨は置いた時のまま、変わらず自分の合格を待ち続けていてくれた。
男「これは……」
合格おめでとう。
去年の夏の日付の新聞紙に、そう書かれていた。
書店に寄った。
男「弁護士。司法書士。公認会計士」
難関資格のコーナーによる。
男「俺には無限の可能性がある」
男「どれだけ勉強が難しいかも知っていて。確実に合格する保証なんてものはないけれど」
男「俺はまた、俺の時間を、勉強に賭して……」
男「…………」
男「俺は、何がしたいんだ?」
凶行、と言っても過言ではなかったかもしれない。
男「参考書をしまえ!!」
男「漫画を!!漫画を読むんだ!!」
男「ネットを見るんだ!!」
男「堕落しろ!!昔の自分を、取り戻せ!!」
俺は、1年間かけて身に付けた勉強の習慣を、確固たる意思を持って崩壊させることに専念した。
男「老後を過ごすんだ!!老後にやりたいと思ってることを、この4年間でやり尽くすんだ!!」
それは積極的に海外に行くとか、スポーツに打ち込むとか、そんな褒められるようなことではなく。
話したい友達と話したり、のんびり本を読んだり。
気ままに過ごすことだった。
男「この四年間は戦わない」
男「身の回りにいてくれる人の、背中を押すような人間に、4年かけてなるんだ」
男「仮面浪人をしてる時に、疲れたらその本屋に寄ってた」
「私もその本屋さんよく行ってた!」
男「絵本のコーナーにさ、独特な本があったじゃん?」
「それ!私も気になってた!!」
「そういえばさ。2階のコーナーにさ……」
男「あれか!俺も読んだ!凄い好きだった」
「もしかしたら、私達さ」
「ずっと、同じ場所にいたのかもしれないね」
あまりにも偶然が過ぎると、それは運命と呼ばれる。
とにかく、行動するしか偶然はおきない
後に恋人となる人と、孤独で疲れた帰り道にすれ違っていたような偶然は、立派に起こり得ていた。
15分の会話で、二人は深い恋に落ちた。
男「君がため、惜しからざりし命さへ、長くもがなと思ひけるかな」
「藤原義孝ですね」
男「一壺の紅の酒と、一巻の歌さえあれば、それにただ命をつなぐ糧さえあれば」
男「君とともにたとえ荒屋に住まおうとも」
男「心はスルタンの映画にまさる楽しさ!!」
「ウマル・ハイヤームのルバイヤートですね」
「そんなこと恋人に言ってるんですか」
男「悪いかよ」
「やさしい恋人をお持ちで」
自分を受け入れてくれるような集団に所属した。
自分を認めてくれるような人と出会った。
ダチと馬鹿やってたあの頃も、凄く楽しかったけど。
異性と賢い会話をしている今の方が、ずっと幸せだ。
[後日談:就活]
男「社会貢献したいんです!!」
「お前、自分の言葉で話してないだろ。正直、苦しいだろ」
相手は日本を代表する大企業の課長だった。
「正直に話せ」
男「……わかりました」
男「2chの偏差値ランキングが高い企業から順に受けてます!!」
…………
男「正直に言ったのに!!」
友「落ちるに決まってんだろ」
男「二次面接まではよく進むんだよ。だけど、役員を相手にすると毎回落とされる」
男「ツッコミが深いんだ。俺が、動機とか、意思とか、持たずに生きてきたことを簡単に見抜かれる」
友「老後を過ごすとかわけわかんないこと言ってたもんな」
男「俺営業志望で就活してるけど、就活って自分という知り尽くした商品を売り込むことだろ」
男「それでこんなに失敗してるんだから売り込む才能ないのかな。それとも、単に俺という商品に魅力がないのか?」
友「難しく考えすぎだって」
男「それはある。仮面時の成功体験にとらわれ過ぎた。俺の机の上見てみろよ」
友「……凄いな。全部読んだのか?」
就活本が10冊近く積み上げられていた。
男「就活って、受験で言う入試日にあたるものだと思う」
男「就活本を読んで就活することは、勉強法の本を読んで単語を覚えていないのと同じ」
男「立派に内定貰ってるやつは、やっぱり聞きたくなるような大学生活を送っていたよ」
男「つい先日、派遣の仕事の登録で性格診断ってやつやったんだよ。そうすると結果が表示されるからな」
男「性格がクソなやつは性格診断で落とされるって聞いてたから、本を読んで対策もしまくってた。その結果のグラフがこれだよ」
友「……はは。こりゃあ」
友「ど真ん中だ」
男「努力の甲斐あって研究成果が発揮されたわけだ」
男「俺ならこんなやつ、採用したくないけどな」
友「なあ、大学生活やり直したいって思う?」
男「それがさ。強がりとか、そんなんは1mmもなくて」
男「全くそう思わない」
男「努力できる自分が、頑張って努力しなかった」
男「自分にやりたいことなんてほとんどないって確認することができた。それだけで、充分有意義な4年間だった」
[後日談:卒業式]
男「生まれ変わったら男さんになります。か」
サークルの寄せ書きを見ていた。
男「書く枠はみ出してみんなぎっしり書いてくれてる」
男「風が吹くと桶屋が儲かる。国語と英語と世界史を1年間独りで勉強すると性格がマシになる」
男「少しは周囲にいる人の役に立てるような自分になれたのかな」
男「結局、受験指導のバイトとかやらずに、飲食店とかで働いてたな」
男「今年も全国にいるんだろうなぁ。仮面浪人生」
男「でも、今思うと」
男「人は、頑張る時は頑張れる生き物なんだ」
男「周囲に止められてでもやる人が救われるのであれば」
男「俺が道標になろうなんてのは傲慢で」
男「仮面浪人の道なんて、必要なかったのかもしれない」
男「誰も歩んだことなき道を、歩もうと踏み出すことに意味があって」
男「その時身の回りにいる周囲の人の背中を押すだけで、充分立派なことなんだ」
大学に着く。
学友と出会う最後の日。
これからが楽しみだ。
どんな場所にいっても、俺は俺なりの道を作っていけるだろう。
就活では自分の苦手分野の企業に就職してしまったし。
将来の夢とか、目標とか、確固たるものもないし。
そういうものが出来ても、簡単に成し遂げられるような器用な能力はないけれど。
それでも。
この俺は、なんとかしてくれるだろう。
周囲の期待に応えるような能力はないけれど。
周囲の期待を裏切るような行動をまたしてくれるだろう。
俺は俺の人生を、楽しいものにしてくれるだろう。
俺は俺の人生に、ちゃんと、感謝してくれるだろう。
男「痛っ!!!」
女「記念撮影しましょう」
男「女!!」
女「どうせぼっちでしょ」
男「違うよ!このあとサークルのメンバーと、ゼミ生と……」
女「私が1番大事でしょ。ごめん、ちょっとこいつと撮ってくんない?」
女が携帯を友達に渡した。
女「もっと後ろからがいいな。講堂も背景に取れるように」
卒業生でごった返す中、女の友達は苦労しながら後ろに下がっていった。
女「ねえ。この四年間、ろくに会わなかったわよね」
男「そうだな」
女「どんな四年間だった?」
男「…………」
男「サークルも、ゼミも」
男「この人達と出会うために、存在していた人生だと思う四年間だった」
女「よかったわね」
男「女は?就活でも凄いとこ受かったって地元で話題になってたよ」
女「へへっ。相変わらず地元ネットワークは怖いなぁ」
女「うん。とにかく頑張ったわよ。泣いた日もあったけど、それら全部許せるくらいにね」
女「ところでさ」
男「ん?」
女「さっき二人きりで会ってた女の子は誰よ」
カメラに写った表情は、苦笑いだったと思う。
女「……叶わなかった夢も、なくはないけどね」
女の最後の独り言は、卒業生の歓喜の声にかき消された。
[前日談 中学生の季節 0ページ目]
男「泣いてんの?」
女「…………男?」
女が夕陽の沈む河原の前で、制服姿のまま座って泣いていた。
やけに情緒的な絵だなと、中学生ながらに思った。
男「今日返却された国語、86点だったから?」
男「いいじゃん!!充分すげぇって!!しかも数学は100点だったんでしょ?」
男「俺なんてどっちも60点切ってたし」
男「だから気にすることなんて……いってぇえええええ!!!!!」
慰めていると、脇腹に激痛が走った。
女「人の気も知らないで!!」
男「人の痛みも知らないで!!」
女「こっちのセリフよ!!」
男「なんで泣いてたんだよ」
女「うるさい!!」
男「天地がひっくり返るなんて、女が泣くことくらいにありえないだろ!」
女「逆よ!!」
女「逆っていうのは、つまり、天地が逆って言うんじゃなくて、言葉の前後が……」
男「それくらい知ってるわ!!ボケたんだよ!!」
女「まぎらわしいわね!!ボケなす!!」
男「ボケたからな!!」
女「いちいちうるさい!!」
今度は頭部に激痛が走った。
男「教えろって!!」
女「しつこくすると来年のバレンタインは買ってあげ……」
男「ん?」
女「と、とにかく!」
女「だれだって、仮面をかぶって生きてるの」
女「本音を内側に隠して、生きてるの」
女「生きるっていうのは立派な仮面を探すことなのよ」
女「表面を取り繕うのに時間を注ぐの!!そうでもしないと、そうでもしないと……」
女は腕に顔をうずめて泣いていた。
幾分かが経った。
女「…………」
女「男、いる?」
女「ちょっと、男?」
男「できた!!」
女「きゃっ!!」
女「手、汚なっ!!」
女「一体何して……」
それは、土で出来た小さな恐竜だった。
男「俺が得意なのって、これしかないんだよ。図工全般も苦手」
男「そんな俺だから、自分より不器用なやつ見るとからかいたくなっちゃってさ。それで色んなやつから嫌われてる」
男「女は何やらせてもピカ1で。上手く出来ない人には手を差し伸べて」
男「俺にとってはヒーローみたいな存在だよ」
男「かっこいいなって思う。尊敬するよ」
女「…………」
男「かよわいヒロインとはほど遠いけどな」
女「……一言多い!!」
男はまた背中を叩かれた。
さっきよりも、威力は小さかった。
男「女は今の自分に疑問を持ってるのか知らないけど」
男「そのままでも充分立派だよ!だから自分探しにバイクで夜の町を駆け回ったりするなよ!」
男は立ち上がった。
男「家で鬱屈するのに懲りたら外に出ろ!話はそれからだ!」
男「書を捨てよ、間違えた。書を持って町へ出よう!」
男「勉強に疲れたからって勉強を捨てる必要はない!勉強しながら走ればいいんだ!」
男「女は俺が羨む能力をもってるんだから、そんな自分を否定するなんてもったいないって」
男「だから……」
女「別に、勉強のことだけで悩んでるんじゃないっつーの」
女はカバンの中から数学の満点のテスト用紙を取り出した。
女「60点のあんたはいいわよね。70点取れば幸せになれるんだから」
女「器用な人には器用な人なりの幸せの基準があるの」
女「それを求め続けることが、どんなにしんどいことか」
女はテスト用紙を折り曲げて、紙飛行機をつくった。
女は立ち上がり、夕陽を背景に、目の前に流れる川に焦点を定めた。
女「でも、まぁ、確かにこんな紙切れに」
女「自分の感情を左右されることなんて、馬鹿馬鹿しいのかもしんないね」
男「ちょっと、女!」
女は勢いよく腕を伸ばした。
女「残念でしたー!!」
女「100点満点のテストなんて大事に決まってます―!いえーい!」
紙飛行機は手に握られたままだった。
女「帰ったらお父さんとお母さんに見せて褒めてもらいますぅー」
女は丁寧にしわをのばしはじめ、テスト用紙を元の状態に戻した。
男「…………」
男「うらやましい……」
女「あんたも勉強すればいいじゃない」
男「不器用だしな」
女「不器用だからするのよ。私みたいにね」
男「女。本当に、何があったのか……」
女「はいはい。もう私は平気だから」
女「いくら毎日自分で考え込んだつもりでも。たった10秒で馬鹿が思いついた行動に励まされることもあるのかもね」
男「ん?」
女「目障りだからもう帰んなさい!はたくよ!!」
男「痛い!もうはたいてる!!帰ります!!」
男は急いで自転車に乗って帰っていった。
…………
女「偏差値20の壁は薄いわね。想いが簡単に乗り越えるくらいに」
女「……ふふっ」
女「あんたっていうのは、本当に馬鹿ね」
女「いつか仮面を外してもいいと思えるくらいに、にっこりと素の自分で笑えるように」
女「がんばらなくっちゃね」
女「私が、私を好きになれるように」
女は、土に恋をした。
~fin~
おしまいです。
読んでくださりありがとうございました。
物語の内容・登場人物はフィクションです。
実際に体験した話、聞いた話、調べた話も混ぜていますが、大方が5年以上前の内容です。
合格体験記等は紙面上、ネット上において一切書いたことはありません(簡易な内容でウェブサイトをつくっていたことがありますが、windows10への更新をきっかけに消滅しました)。
物語の内容を参考にして、不都合やトラブル、受験への悪影響が生じた場合について、一切の責任を負いません。
参考文献
「書名」著者 出版社
・「受験生すぐにできる50のこと」中谷彰宏 PHP研究所
・「仮面浪人の教科書」仮面浪人ナビ エール出版
・大合格 参考書じゃなくてオレに聞け!」中田敦彦 KADOKAWA
・私の早慶大合格作戦
2011年度版 Part2
2013年度版 浪人・再受験生編
エール出版社 エール出版社
映画 ペーパー・チェイス
参考サイト
・成績標準化
http://seilog.hatenadiary.com/entry/2016/01/29/122942
・科挙
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A7%91%E6%8C%99
・大学修学能力試験
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%A7%E5%AD%A6%E4%BF%AE%E5%AD%A6%E8%83%BD%E5%8A%9B%E8%A9%A6%E9%A8%93
・ポール・セザンヌ
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9D%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%83%BB%E3%82%BB%E3%82%B6%E3%83%B3%E3%83%8C
・2011年度 大学受験版「仮面浪人の道」スレッド
[紹介]
・ツイッターアカウント
踏切交差点
@humikiri5310
不注意でウェブサイトが2度消滅し、(心が折れて)ツイッターで代用しています。
書き溜め中の作品もあり、フォローしてくださると励みになります。
・他作品はこちらです。
女「人様のお墓に立ちションですか」
女「また混浴に来たんですか!!」
女「こ、これは私が待ち望んでいた理想の告白っ!?」
あらためて、最後まで読んでくださりありがとうございました。
次は受験とは正反対の御伽話を書く予定です。
楽しみにしていてください。
乙
すごくよかった
色々積み重ねていく内に、いい奴とか嫌な奴とかすごい奴とかすごくない奴とか関係なくなってきて
こうやって大人になっていくんだね、みんな
書き方が似てるけど、この前ミステリーで書いてた作者さんかな?
>>295
ご感想ありがとうございます。
それぞれがそれぞれなりの成長をするというのは実際によく感じました。
作品は下記のものだけですので、別人だと思います。
(読後でお腹いっぱいだと思いますが)リンクを貼っておきますね。
女「人様のお墓に立ちションですか」
http://elephant.2chblog.jp/archives/52187618.html
女「また混浴に来たんですか!!」
http://elephant.2chblog.jp/archives/52193396.html
女「こ、これは私が待ち望んでいたの告白っ!?」
http://minnanohimatubushi.2chblog.jp/archives/1975619.html
HTML化の依頼を致しました。
ご感想ありがとうございました。
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